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星見る鯨は夢を見る

#スペースシップワールド #猟書家の侵攻 #猟書家 #バトラー・サファイア #クリスタリアン #漿船

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●星見る鯨は夢を見る
 微睡む鯨はおねぼうクジラ。
 蒼い星の夢を見て、赤い星の金平糖を探して。
 一緒に泳ぐ誰かを探して、今日もおねぼうクジラは夢を見る。キラキラ光る星の海を、誰かと泳ぐ為に。
「さぁ、描こう」
「君が独りきりにならないように。一人で泳ぐ宇宙が寂しくないように」
「君と共に泳ぐものを」
 星の海を行くクジラの為に、数多描くのがこの漿船の習わし。とびきり良い星が見えた日に、展望デッキでクジラの仲間を描くのだ。
 きらり、ひらり。
 泳ぐのは宝石のサカナ。煌めきをふぅ、と吹き替えて描かれる幻影の友。
「——そのようなものの為に、漿船を使うとは。プリンセス・エメラルドの所有物であったあなたも、零落したものですね」
 或いは、と『バトラー・サファイア』は息を落とす。
「仕事はしやすいのでしょう。あなたの中の異物を、全て排除します。私達は漿船の力を必要としているのですから」

●星の零落
「猟書家の幹部達が動き出したという話は、届いているでしょうか」
 静かな調子でそう告げたのはリオ・フェンブロー(鈍色の鷹・f14030)であった。
「幹部「バトラー・サファイア」がプリンセス・エメラルドの目論む「帝国継承軍の誕生」を実現すべく行動を開始しました」
 プリンセス・エメラルドと言えば、先の戦争——迷宮災厄戦にて姿を見せたクリスタリアンの最長老だ。バトラー・サファイアはプリンセス・エメラルドに仕える女性執事にして、暗殺者にあたる。
「主人の求めるものの為、動くのが務めか矜持か。彼女の行動原理は分かりませんが……、バトラー・サファイアが「漿船(クリスタルシップ)」に忽然と現れるのは分かりました」
 漿船は全てが宝石で出来た神秘の古代宇宙船だ。
「漿船内には「転送装置」を利用して、入り込んで来るようです」
 かつての最長老たるプリンセス・エメラルドだけが知る「転送装置」が漿船の何処かに仕込まれているのだ。
「かの船が、クリスタリアンが太古より使用している旧式の移民船と思えば不思議も無いのでしょう」
 現状では、何処に転送されてくるかは分からない。
「ですが、探す方法はあります。漿船は、失われた技術で建造された船です。微弱ですが「意思」を持ち、住人であるクリスタリアンとのみテレパシーで意思疎通が出来ると聞きます」
 彼等に協力してもらいながら、転送場所を探すしか無いだろう。丁度、船内では星渡りの儀式が行われているという。
「儀式、という程仰々しいものではないようですが……、漿船を星の海を行くクジラに見立て、共に泳ぐ魚たちを宝石を用いて投影するようです」
 魚は感情に反応するという。漿船にも届け、共に遊ぶというアクアリウムは、嘗ては弔いであったという。
「何時しかそれが航海の友となり、儀式の名を持つ楽しみともなったのです」
 夢を見るよりも、数多やることがあった。
 弔いよりも前に進み、生きることより進むべき道があった。
「安穏たるゆりかごで眠ることなど許されぬように。——ですが、漿船に住まう彼等は「漿船」のことを、意思を持つかれのことを忘れてはいなかった」
 彼等の儀式に参加してください、とリオは告げた。
「共に魚を泳がせ、クジラと言われる彼等の漿船に友を描いてください。いきなりのことで、クリスタリアン達も驚いているでしょうから」
 彼等と共に過ごし、遊び——その中で、常と違う変化のある場所があればきっとクリスタリアンは気がつくことだろう。
「そうして教えてくれるはずです。猟兵である私達にも。——では、貴方たちを漿船へと運びましょう。レディ、ミスタ。どうか、お気を付けて」
 グリモアの灯りが淡く灯り、星々の煌めきに似た光を零した。


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。

こちらは、猟書家幹部シナリオです。
2章立てとなっております。

*プレイングボーナス(全章共通)……クリスタリアンや漿船の協力を仰ぐ。

▼各章について
 1章:スペースアクアリウム
 2章:バトラー・サファイア

 各章、導入追加後、プレイング受付告知致します。
 プレイング受付期間はマスターページ、告知ツイッターでご案内いたします。

 状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。

▼第一章について
 星渡りの儀式。
 漿船内で行われる「星見る鯨」と遊ぶと言われている儀式です。
 船内をアクアリウムに見立て、特殊な宝石を使い、様々な幻影の魚を泳がせることができます。
 感情に反応して、色を変えたりするようです。

 漿船内クリスタリアン達は猟兵を認知はしていますが、突然のことに驚き、ある程度警戒しています。

*1章の行動により、2章でクリスタリアン達の行動(援護)に変化があります。
*ボスと接触できるのは2章のみです。

▼お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。

それでは皆様、御武運を。
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第1章 日常 『スペースアクアリウム』

POW   :    歩き回って楽しむ

SPD   :    自分のデザインした生き物を泳がせる

WIZ   :    音楽などで雰囲気を演出する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●星見る鯨は夢を見る
 微睡む鯨はおねぼうクジラ。
 蒼い星の夢を見て、赤い星の金平糖を探して。くるりと緑の星を回ったら、次はどこに泳ぎに行こう?
「さぁ、描こう」
「うん、招こう。君が独りきりで行かないように。一人で泳ぐ宇宙が寂しくないように」
「君と共に泳ぐものを。君と共に歌うものを」
 巨大なドーム状の展望デッキには、多くのクリスタリアンが集まっていた。漿船に住まう彼らにとっては猟兵という突然の来訪者に驚き、警戒しようとも——だからこそ、共に旅する鯨を大切にした。
「君との旅路を忘れない度に」
「幾度砕けても、その度繋いでも——全て、覚えてくれている君のために」
 琥珀に似た宝石の粉に息を吹きかければ、ふわりと幻の魚が泳ぐ。リリリ、と鈴の音に似た声を残して、ぱしゃん、ぱしゃりと遊ぶように踊る。
 ——長い航海の中で生まれたささやかな儀式がこの星渡りの儀であった。意思を持つ漿船との、ささやかな交流。かれの心を癒やし、挨拶を、時に別れを告げるための煌めきの刻。
「僕らのおねぼうクジラ」
 夢を見るよりも今を生き、明日に残す何かを選ばなければならない時もあった。置いていったものなど、数知れず。弔いに慣れ、その暇さえもと思う戦火もあった。
「また星渡りの頃になったよ」
 旅路の友として。
 長き戦いの果てに寄り添う相棒として。
 クリスタリアン達は漿船を、意思を持つかれと共にあり続けた。
「明日生きていればまた明日、今日で砕ければ——さよならの挨拶の代わりに」
 掌から一匹、きらきら光る幻の魚を見送ってクリスタリアンは告げた。
「君の、この煌めきを送ろう」


◆―――――――――――――――――――――◆
第1章受付期間
1月10日(日)8時31分〜13日(水)20時

*プレイングボーナス(全章共通)……クリスタリアンや漿船の協力を仰ぐ
*1章のみの参加も歓迎です。


◆―――――――――――――――――――――◆
黒鵺・瑞樹
アドリブOK
POW

…こんなに多くのクリスタリアン見るの初めてかもしれん。
猟兵でもあまり見かけないんだよな。俺の行動圏内に少ないだけかもしれんが。

しばしぼんやりその光景を眺める。
大勢のクリスタリアンも含め、宝石で何かするっていうもの自体、あまり見慣れない光景だってのもある。
これどうやって投影してるんだろう?コツでもあるのかな?なんで感情に感応するんだろう?
見れば見れるほど不思議で疑問が湧いて。
答えて貰えそうなら聞いてみたいが…なくとも構わない。
だってとても綺麗だ。
できるならずっと眺めてたいけど、猟書家を何とかしないとこの儀式も途絶えてしまうかもしれないんだよな。



●天色の魚
「——」
 見上げれば円形のドームが深い藍色を映していた。外の光景をこの一時、見えるようにしているのだろう。何処までも続く宇宙に、星々が煌めいていた。
「今日はとびきり良い星が見えたから」
 それが星渡りの儀式の始まりの合図。
 漿船の展望デッキには、船員の多くが姿を見せていた。囁き合う声に、笑い合う声、そこに混じってひとつ、二つと鋭く感じた視線は今日のこの日、漿船に姿を見せた猟兵にあるのだろう。猟兵の存在そのものを警戒しているというよりは——突然の訪れに驚いたのだろう。星渡りの儀式は、この船のクリスタリアンにとって大切なものだ。
(「その当日にいきなり客があったら驚くし、何事かとは思うか」)
 訝しむ瞳は無いのを見る限り、彼らは星渡りの儀式を優先し、猟兵立ちの存在もびっくりした、で終わったのだろう。
「それにしても……」
 薄く唇を開き、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は青い瞳を瞬かせた。
(「……こんなに多くのクリスタリアン見るの初めてかもしれん。猟兵でもあまり見かけないんだよな。俺の行動圏内に少ないだけかもしれんが」)
 指先に見えるのはアメジストか、囁き合う娘達はアメジストか、タンザナイトか。濃い赤の、ガーネットにも似た長い髪を揺らした青年は、籠を手に展望台に立つ。美しいレースに包まれた瓶の中に眠っていたのが、儀式に使われる特殊な宝石だろう。粉末状になっているそれは、色彩は琥珀に似ているだろうか。
「……」
 きらきらと光り、影さえも淡く色づく。そんな不思議な光景を瑞樹はぼんやりと眺めていた。大勢のクリスタリアンも含め、宝石で何かするっていうもの自体、あまり見慣れない光景だったのだ。
「さぁ、描こう」
「さぁ、泳ごう」
 歌うように囁くようにして、クリスタリアン達は宝石の粉に息を吹きかける。ふわりと舞い上がれば煌めきの中から、幻の魚たちが生まれる。ぴしゃんと跳ねて、くるりと回って。煌めきの粉は床に落ちる事も無いまま、宝石のような輝きを持つ魚になる。
「これどうやって投影してるんだろう? コツでもあるのかな?」
 小さな魚に大きな魚。見れば、赤く色づく魚もいれば、揺蕩うように揺れる緑の魚もいる。あれが、話に聞いた感情での色づき、だろうか。
「……」
 その色彩に目を瞠る。二度、三度と瞬いて、変化する色に、気がつけば、ぽつりと呟いていた。
「なんで……」
 感情に感応するんだろう?
 見れば見るほど不思議で疑問が沸いて。興味深いより、不思議だと思う方が強くて手を伸ばすより魅入ってしまう。
(「だってとても綺麗だ」)
 できるならずっと眺めていたい。けれど、猟書家を何とかしないとこの儀式も途絶えてしまうかもしれないのだ。
「……」
 つ、と最後にと、手を伸ばしたところで「まぁ」と声が届いた。
「お客人、星の魚に興味が? ——あぁ、すまないね。声が聞こえたものだから」
 シトリンの髪を揺らす長身のクリスタリアンだ。口元に笑みを浮かべた彼女は、リリ、と魚たちの紡ぐ音を一つ真似てみせる。
「魚たちを誘う時は、掌を見せた方が良い。あまりに熱心に見てるから、気になっているのかと思ってね」
 どうしてあの魚たちが色を持つのかは、私達にとっても不思議なのさ、とクリスタリアンは告げた。
「あぁ、いや。きっとちゃんと紐解けば分かるのさ。この輝石は、私達の漿船に伝わるものだし、こうして触れる吐息に、熱に意味があるのかもしれない、と。——けれど……」
 だってほら、綺麗だろう?
 口元、笑みを浮かべて告げた長身の彼女に瑞樹は吐息を零すようにして、頷いた。
「あぁ。とても綺麗だ」
「ふふ、ならば良かった。——じゃぁ、君も試してみないか? 気分が乗っていれば、そう我らがおねぼうクジラが気が乗れば、返事をしてくれるかもしれない」
 飛び立った魚の色が変わるのさ、とクリスタリアンは告げた。掌、受け取った宝石の粉に吐息を吹きかければふわり、と踊るは可愛らしい魚が一匹。瑞樹の瞳と似た色彩から金色を見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神咲・七十
アドリブ・連携お任せ

とっても綺麗な内容の催し物ですね。(お菓子もぐもぐ)
確かに、綺麗な色のお魚たちがひらひらクジラに寄り添うように泳いでるようですね。

う~ん、絵はそんなに得意な方ではないですけどこういう内容の催し物だとやっぱり一回くらいは自分で描いてみたいですね。
(そんな感じで描いてみたが、赤っぽい魚のような何かが出来上がって)
うぅ~、何でしょうこの生き物は~?

あの~、どんな風にしたらもっと綺麗な感じの魚さんを描けるのか教えて欲しいのですが・・・
(周りの魚を描いていたクリスタリアン達にお願いして綺麗な魚を描くアドバイスを貰いながら一緒に描いて、その前の不格好な魚と一緒に浮かべてみて)



●茜の魚
 くるりと宙で身を回して、舞い踊る宝石の子なの間を飛び越えるようにトビウオに似た魚がぴょん、と飛ぶ。色とりどり——澄み渡った青に、木々の緑、淡いピンクに黄色に紫。魚の大きさも種類もまるで違う。ご機嫌な魚たちが展望デッキに泳いでいた。
「とっても綺麗な内容の催し物ですね」
 お菓子をもぐもぐと食べながら神咲・七十(まだ迷子中の狂食者・f21248)は丸い天井を見上げていた。展望デッキの名が示す通り、今は漿船の外——宇宙空間も見えるようにしているのだろう。宇宙の海を共に泳ぐように、と。クリスタリアン達は祈りと願いを込めて、星を渡る魚を描き出す。
「確かに、綺麗な色のお魚たちがひらひらクジラに寄り添うように泳いでるようですね」
 赤い瞳を瞬かせて、七十はキャンディーを口に放り込む。甘いものが好きなのだ。好き以上の何かは、今は七十の奥にその身を潜めたまま、くるり、くるりと飛ぶ幻の魚たちが気まぐれに七十の肩に触れ、手を伸ばせばぴしょん、と飛び越すように飛んでいく。
「う~ん、絵はそんなに得意な方ではないですけどこういう内容の催し物だとやっぱり一回くらいは自分で描いてみたいですね」
 アマルディンの髪を揺らすクリスタリアンの青年から、小さな包みを受け取れば中に見えたのはキラキラとした不思議な宝石の粉だった。色彩は琥珀に似ているだろうか。つんつん、とつついて——変化の無いそれに、七十は僅かに眉を寄せる。描く、と彼らは言っていた。描くというのならばやっぱりそれっぽく描くのが必要な訳で。とはいえ、描くと言われてみても——……。
「う〜ん、どう、しましょうね……」
 とりあえず、ふぅ、と一つ息を吹きかける。舞い踊る宝石の粉がキラキラと光を零し、伸ばした指先で描いてみたのだが——何かが、違う。
「……」
 ふわり、ふらり、よろろと右に揺れて、でもやっぱり立ち上がったのは赤っぽい魚のような何か。
「うぅ~、何でしょうこの生き物は~?」
 魚なのか、一応魚っぽく泳ごうとしてみている辺りは頑張ってる魚と言っておくベきなのか。
「あの~、どんな風にしたらもっと綺麗な感じの魚さんを描けるのか教えて欲しいのですが」
 緑色の宝石の髪を揺らし、魚たちを泳がせていた少年達が、ぱ、と振り返る。一緒になって振り返った魚はキラキラと輝く羽を見せるトビウオだ。
「おねえさん、そうかお客さんだもんね。うん、僕達と一緒にやろう」
「アークは今でもそんなに上手じゃないけどねぇ」
「ヴィート」
 低く、唸るように告げた少年が気を取り直したように両の手を広げてみせる。掌に少し残った宝石の粉。きらきら、と光るそれに指先が招かれる。
「最初は、イメージするんだ。魚の姿。漿船に伝わる僕たちの宝石が、おねぼうクジラと一緒に姿を思い出してくれる」
「幻の魚は、僕らが昔……船長の、ずっとずっと前の船長がどこかの惑星で見た姿を真似ているからね」
 展望デッキそのものにも、漿船のシステムを利用した術式が展開されているということなのだろう。彼らが儀式と言っているのであれば不思議も無く、それをきっと詳らかにする必要も無いのだろう。
(「とっても不思議で、とっても綺麗ですからね〜」)
 少年たちにアドバイスを貰いながら七十はゆっくりと宝石の魚を描いていく。ふぅ、と吐息を最初に、次にゆっくりと魚の形を。心に思い描いて指先を滑らせれば、ぱしゃん、と一匹あかね色の魚が宙を泳いだ。
「できました」
 一つ、零れた笑みと共に七十は泳ぐ魚を見上げる。ぴしゃん、ぱしゃん、踊る魚は最初に作った不格好な魚と一緒に戯れるように泳いでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f11024/花世

鯨さんの微睡みに
私達も一緒に揺蕩わせて頂いても良いかしら

クリスタリアンさん達が大切に愛しんできた漿船を
ふくふく笑って労って
そぅっと幻想の魚を游がせよう

手の平から零れし宝玉の粉が
尾鰭の描く漣に揺らめいて
枝垂れる花火の余韻みたいに
煌きながら消えていく

魚は
いつしか
どこまでも透き通り
ただただ此のうつくしい幻に
揺蕩う心地を彩り映す

傍らへ微笑み向ければ
花世の解き放った魚は
澄んだ薄紅の耀き

ね、
あなたも――、

言い掛けども
首を振る

言葉にするのも
声をかけるのも
今はきっと無粋だろうから
呟きは胸の裡に柔らかく落として

鯨と人々が紡いだ歴史を、
意思を受け継いで続いていく未来を、
想っていらっしゃるのかしら


境・花世
綾(f01786)と

長い永い時の流れを泳いできたの
微睡む夢はどんな色をしているの

ねえ、星の鯨、教えてよ

手のひらから煌めきゆく魚は、
まるで水面に散った花びらのよう
時の流れに儚く過ぎ去るばかりの、
淡くてきれいな、薄紅に染まる

やがて消え失せ、二度と戻らなくても
次の季節にはまた咲いて散る花の色だ
砕けても受け継がれてきた宝石たちの想いは、
きっとどこか似ているんだろう

時の流れに終われない旅のなかでも
それならきみは、淋しくないね

清かに澄んだ透明な魚は綾のだろうか
花の魚と並んで泳いでゆくのが見えたなら
どうしてか胸が詰まって何も言えずに

詞にはしないまま、悠々と手を振ろう
さよならの代わりに――どうぞ、よい旅を



●水色に紅を差し
 一歩、足を踏み入れればそこには深い青があった。真昼に地に足を付けて見る空の色とも、朝焼けの色とも違う。夜の空とも違うだろうか。カツン、と一歩足を進めて、二歩目は軽やかに展望デッキへと踏み込んだ境・花世(f11024)がくるりと振り返った。
「――綾」
 ほら、こっちに、と誘うように唇に乗せた娘の頭上、ぴょこんと跳ねるのは宝石の魚。頭の上にちょこんと座って、ぱち、と瞬いた花世の名をやわく都槻・綾(f01786)が呼ぶ。
「頭に」
「あ、本当だ……」
 指先を伸ばせば、するりと遊ぶように尾で触れて去って行くのはインディゴライトの金魚だろうか。きらきらと舞い踊る宝石の粉を波に見立ててふわりと飛んで、丸く作った輪っかを気まぐれに通り抜ける。泳ぐ魚の色彩が、ひとつ、二つと変わったらそれは漿船の応え。共に泳ぐように宙に不思議な波が描かれる。
 これが星渡りの儀。
「さぁ描こう」
「さぁ、紡ごう。君のために。君と行くために」
 お寝坊クジラとクリスタリアン達の言う漿船と、寄り添い語らう為の儀式。キラキラ輝く星の光を閉じ込めた不思議な宝石を、今日のこの日の為に砕いて光る道を作る。
「鯨さんの微睡みに、私達も一緒に揺蕩わせて頂いても良いかしら」
「えぇ、えぇ。どうぞ、お客人」
「僕らのクジラはお寝坊クジラなのですから」
 とっておきの夢を。
 とっておきの旅路を。
 そうして願うように星渡りを紡いで来た。
 賑わうクリスタリアン達に手渡されたのはレースのハンカチに包まれた宝石の粉。金色とも星の光とも似た煌めきが手の中に座る。
「……」
 さぁ、と唇で形をつくって、クリスタリアン達が大切に慈しんできた漿船をふくふくと笑って労って、綾は吐息で宝玉の粉に触れる。指先から零れるように、ふわり舞い上がるようにそぅっと吹きかけた吐息に煌めきが形を成していく。
 ぴしゃん、ぴしゃり、と。
 白い指先から飛び立って、くるりと回ってみせるのは美しい幻想の魚。ふわり舞う煌めきは尾鰭の描く漣に揺らめいて、枝垂れる花火の余韻のように煌きながら消えていく。
 そう、と手を伸ばす。消えゆく煌めきは触れられぬままに――けれど、指先が触れる程のその距離で軌跡を描く。ふいに見えた藍色は、鯨の瞬きだろうか。虹に似た色彩が不意に現れて、綾の紡いだ魚と共に泳いでいく。
「虹色は――……」
 薄く唇で音を紡ぎ――ふ、と小さく綾は笑う。口元を衣で隠すようにして、指先でばかり色彩と戯れていれば、ぴしゃん、と跳ねた自分の魚が色彩を変えていくのが見えた。魚はいつしかどこまでも透き通り――……。
「――」
 ただただ此のうつくしい幻に揺蕩う心地を彩り映していた。
 その色彩に、吐息を零すようにして綾は笑う。傍らの彼女へと微笑みを向ければ、ちょうど、花世の解き放った魚が見えたところだった。
「ね、あなたも――」
 言いかけて、綾は首を振った。言葉にするのも、声をかけるのも今はきっと無粋だろうから。呟きはただ、胸の裡に柔らかく落として。
(「鯨と人々が紡いだ歴史を、意思を受け継いで続いていく未来を、想っていらっしゃるのかしら」)
 リリ、と歌う魚の声を聞く。
「ねえ、星の鯨、教えてよ」
 唄うように囁くように唇に乗せて、花世は両の手と共に煌めきを解き放つ。
(「長い永い時の流れを泳いできたの。微睡む夢はどんな色をしているの」)
 この船にいるどのクリスタリアンよりも長い時を生きてきたのだという。そう、生きてきたのだとクリスタリアン達は告げた。
『僕らの誰よりも長く生きて、僕らの誰よりも長く見送ってきたから――……』
 その見送りが望むものでも望まぬものでも――最後は、星の鯨が共にあり、彼に別れを告げた。
『だから僕らは砕けるときも、生まれる時も挨拶をするのさ』
『星を渡り、君に会いに来たよって。――それがさよならでも、また明日でも。――君の元に来たよという言葉でも』
 漿船は星渡りの儀を以て、クリスタリアン達に言葉を返すのだという。さよならの時は、涙のように青い魚たちを。時に砕けたひとの夢見た晴れ渡る空に似た魚たちを。リリリ、と唄う魚は、けれどお寝坊クジラの見る夢のように、ふわふわと明るくやわらかなものもあって。
(「――あ、花の色」)
 桜の花に、似ていただろうか。
 小さな魚のぴょんと跳ねる姿を視界に、花世は顔を綻ばせた。
「ねえ」
 唇に小さく、内緒話をするように星の鯨を呼んで掌から煌めきゆく魚はまるで水面に散った花びらのようだ。きらきらと美しく、けれど時の流れに儚く過ぎ去るばかりの――淡くてきれいな薄紅に染まる。
 ――ぴしゃり、と美しい魚が跳ねた。
(「やがて消え失せ、二度と戻らなくても、次の季節にはまた咲いて散る花の色だ」)
 砕けても受け継がれてきた宝石たちの想いは、きっとどこか似ているんだろう。
「時の流れに終われない旅のなかでも、それならきみは、淋しくないね」
 囁くようにそう、と告げて花世は飛び立つ魚を見上げる。まだ、指先は届くだろうか。ふいに、花世の瞳に一匹の魚が見えた。
(「あれは――……」)
 清かに澄んだ透明な魚は綾のだろうか。花の魚と並んで泳いでゆくのが見えれば――ふいに、言葉に詰まった。
「——」
 どうしてか分からない。ただただ胸が詰まって何も言えずに。薄くひらいた唇は言の葉を紡ぐ事は出来ないまま、ただ一度娘は息を吸う。ふわりと花の色彩を映す髪を靡かせて。詞にはしないまま、悠々と手を振った。
(「さよならの代わりに――どうぞ、よい旅を」)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
星々の世界に宝石、プラネタリウムのようにも見えるけどこれならアクアリウムというのも納得。
厄介事も舞い込んでるけどまずはこの儀式を共に楽しみたいね。

さて、来客にびっくりしてるクリスタリアンさんに気さくに挨拶。
はろーはろー、星のさかなと遊びに来たんだけども良ければ教えてくれないかな。
宇宙は広く、だからこそ繋がった縁は大切に。
興味津々、積極的に話しかけて聞いてみる。
儀式は彼等にとって歴史のような物、それを知るのはきっと大切だし何より興味深い。
一通り聞きながら白の宝石で浮かべる魚は白矢のような細長い魚の群。
竜巻のようにぐるぐる踊る姿はどうかな?
できるなら白黒なイルカも合わせたり。

※アドリブ絡み等お任せ



●星のさかなと戯れて
 そこは、深い夜の空に似ていた。深く何処までも続く青。藍色に似て、どこか海に映る夜の星々に似る。ひとつ、ふたつ、三つと灯るのは外に見える星々だろう。展望デッキの名の通り、此処からは漿船の外を見ることができる。
(「星々の世界に宝石、プラネタリウムのようにも見えるけどこれならアクアリウムというのも納得」)
 ほう、と息をついてヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は、まるい天井を見上げる。ぴしゃん、ぴちょんと煌めきを残して泳ぐのはキラキラと光る魚達だ。宙を泳ぎながら色彩を変え、ふいに煌めきの波からもう一匹が姿を見せる。
「お寝坊クジラ、気に入ったかい?」
 笑うように告げたクリスタリアンが手を伸ばす。あれが漿船からの応えなのだろう。
「厄介事も舞い込んでるけどまずはこの儀式を共に楽しみたいね」
 吐息一つ、零すようにして笑ったヴィクトルはひとつ、二つと感じていた視線に足を止める。来客にびっくりしているのは、大分前から分かっていたのだ。
(「まぁ、いきなりだからね」)
 事情があるとはいえ、そこはそこ。星渡りの儀は彼らの中で大切な行事であることは、今、少し見ただけでもよく分かっていた。
「はろーはろー、星のさかなと遊びに来たんだけども良ければ教えてくれないかな」
 だからこそ、ヴィクトルは気さくに声をかける。ひらひらと手を振って、南の海を――宇宙に似た深く、だが美しいまでに澄んだ色彩を知る術士は笑みを見せた。
 宇宙は広く、だからこそ繋がって縁は大切に。
 興味津々、積極的に話しかけたヴィクトルに、始めこそ驚きを見せていたクリスタリアン達も話の輪に加わりだす。
「最初にね、姿を思い浮かべるの。どんな魚が良いか、心の中に」
「小さなおさかなでも、おっきなお魚でも。心に思い浮かべて、そうして吐息で触れるんだ。――想いを込めるようにして」
 だから不思議なさかなだっていっぱい姿を見せるのだと、ヘリオドールの髪を揺らした少年は告げた。
「このおさかなも、ずっとずっと前の船長がどこかの惑星で見たものなんだ」
「きらきらしていて、ふわふわしててって。おねぼう鯨にそっくりだっていうの」
「それはきっとおおきなさかなだったんだろうね」
 目をぱちくり、とさせてヴィクトルは頷いた。巨大な魚であったか、それともきらきらと輝く身を寄せ合っておおきな姿を映したのだろうか。星の海を渡り歩くクリスタリアンの描くさかなは、どれも幻想的だ。
(「あれはトビウオに似ていて、あっちは虹色の金魚かな。むこうのはイッカクに似ていてすこし違うね」)
 伝わってきたのだろうか、それとも今の猟兵と同じようにこの船に客人があったのだろうか。その全てを、漿船は知っている。共に歩み、共に行き――そして別れも、知ってきたのだろう。 星渡りの儀式は、彼らにとって歴史のようなものだ。それを知るのはきっと大切だし、何より興味深い。
「星の海にも、さかなは泳ぐんだね」
「うん。僕らは生まれた時も、さよならの時もこうして僕らのクジラに言うんだ」
 出会いの挨拶を。別れの挨拶を。
 そして――なんてことはない、今日一日の挨拶を、想いを告げるようにして吐息で触れる。
「クジラは答えてくれるよ。さよならの時は、涙みたいな青い魚で」
「嬉しいときは、星のようにあたたかな色で」
 遠くにみる星のあかりように。
「あの色みたいだね?」
 ふわり、ぴしゃんと跳ねて踊るさかなを見つけてひとつ笑って、ヴィクトルは手にした白い宝石に吐息で触れた。そうして浮かべるのは白矢のような細長い魚の群。
「わぁああ、すごい!」
「くるくるするの? くるくるするのね?」
 ぱちぱちと瞬いたクリスタリアンの二人は、そんな動きをする魚の群れを見たことが無かったのだろう。
「竜巻のようにぐるぐる踊る姿はどうかな?」
 目を輝かせる二人に、悪戯っぽくひとつ笑ってヴィクトルは白黒なイルカも描き上げて、一緒に踊らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
はあい、突然ゴメンねぇ
驚かさないよう両手を軽く上げ

とても綺麗な儀式をしてると聞いたンだけど
良ければ混ぜてもらえないかしら?
ね、やり方教えて頂戴

ん~単刀直入に言うとちょっとヤバイ事が迫ってるンだけど
オレらはソレを阻止したいワケ
でもその為にはあなた達の手助けと、この船をよく知る必要があるのよ
ナンて遊びながら事情も説明しようか

所でシャチみたいなおっきいお魚も描ける?
ぐわーって泳がせたら賑やかになるかしら
ソレともきらきら鮮やかな群れを泳がせるのがイイかしら
どんな色になるか楽しみネ

船が生きてる、ってナンだか不思議だけど
長い間こんな素敵な時間を守ってきたンだもの
危険に晒すワケにゃいかないデショ?



●星見る鯨は夢をみる――きみの、夢を
 一歩、足を踏み入れれば夜の空に似た暗がりに出会う。指先まで染めるには足りず、賑わいの中、視線を上げれば見えるのは夜空に似た――もっと深く濃い色彩。展望デッキは、その名の通り外の景色が見れるようになっていた。
「……」
 宇宙。遠く見える煌めきは星々のものだろう。青、緑、それからオレンジに似たものを見つけた所で、コノハ・ライゼ(空々・f03130)の目の端にキラ、と光るものが横切った。宝石で出来たようにきらきらと光る魚だ。ぴしゃん、ぴちょんと戯れるようにコノハの前を横切って、気まぐれに指先までやってきてはひょい、と逃げる。
(「かわいいのネ」)
 ふ、と一つ、笑みを唇に乗せてコノハは一心に視線を集める背と交代する。振り返れば、クリスタリアン達と目があった。
「――ぁ」
「はあい、突然ゴメンねぇ」
 驚かせないように両手を軽く挙げて、コノハは笑みを見せた。
「とても綺麗な儀式をしてると聞いたンだけど、良ければ混ぜてもらえないかしら?」
「星渡りに、興味が……あるの?」
 瞬きひとつ、口を開いたのはモルガナイトの髪を揺らす少年だった。たどたどしく作る言葉が揺れるのは、コノハを客と見たからだろう。
「綺麗……だと、思う?」
「リィン、そんな風に聞いたら困ると思う」
「そうかな、そうかも?」
 リィン、と呼ばれた少年よりは幾分か年嵩だろうか。ユークレースの髪を揺らし、ゆっくりと歩いてきた少年が、小さくコノハに問うた。
「ようこそ、お客人。そう言ってもらえて嬉しいです。オレも、リィンも。星渡りに興味が?」
「えぇ。ね、やり方教えて頂戴」
 綺麗、と言われたことがきっと嬉しかったのだろう。コノハの指先でふらふらとしていた魚がふわりと戻ってくる。戯れるように遊び、くるりと回ってみせるのは、感情に呼応してのことだという。
「オレたちも最初はちゃんとした形にはならなかったんです。うまく行かなくて」
 そういう時は、いつの間にか小さな煌めきの波が寄り添ってくれているという。波は気まぐれの魚の姿をもち、一緒に泳ぎ、時に色彩を寄せる。
「それが、ぼくらの鯨のことば」
「くじらが喜んでいると、こう、胸があたたかくなるんです。その心を、想いを取りこぼさないようにこうして話をするんです」
 生まれたときの挨拶も、別れの挨拶も。なんてことはない1日の報告も。
「――お客人が来たのには、何か深い理由があるんですか?」
 ゆっくりと息を吸い、問いかけられた言葉にコノハは視線を上げる。
「ん~単刀直入に言うとちょっとヤバイ事が迫ってるンだけど、オレらはソレを阻止したいワケ」
「やばい、こと……」
 小さく息を飲んだ少年に頷く。モルガナイトの少年の魚がぴしゃん、と跳ねた。
「でもその為にはあなた達の手助けと、この船をよく知る必要があるのよ」
「ぼくたちを……知ると、やばいのは、大丈夫にできそう?」
「そうね、きっと」
 宝石の魚を手元に、見上げた少年にコノハは隠すこと無くそう告げた。
 バトラー・サファイアは転移してくる。その事実は変えられなくとも、その場所が、少しでも異常があればその事実を感じ取れれば、先に動くことはできる。
「そうか、お寝坊鯨に聞かないと分からないことなら……うん、きっとここが良い」
「ぼくらのくじらは、ねむねむするけど。ちゃんと声は届くから。……ぼくらは、ときどき取り損ねちゃうけど」
 そのために、とモルガナイトの少年はつげた。
「おさかなをおよがせるんだ」
 特殊な宝石を使って行われる儀式は、随分と昔から行われていたという。吐息で触れて、宝石の粉と共に煌めきを描くのだ。
「所でシャチみたいなおっきいお魚も描ける? ぐわーって泳がせたら賑やかになるかしら」
「おっきいの……? うん、できるとおもう。いっぱい、いっぱい頭にえがいて、ふぅってすれば……どーんて、でる?」
 首を傾げたモルガナイトの少年は、シャチがどういうものか分からないのだろう。どんな形? とそわそわする少年にひとつ笑って、内緒の言葉を紡ぐようにコノハはふぅ、と宝石の粉へと吐息で触れる。
 リリリ、とうたうような音がした。
「わぁああ、おおきい……!」
「これが、シャチ……」
 目をぱちくりとした少年ふたりの横で、飛び立った煌めきが形を成していくのをコノハは見る。軽いジャンプに見えた水飛沫は煌めきの残りか、それとも漿船の応えだろうか。
(「どんな色になるか楽しみネ」)
 てのりのおさかなにはちょうっと大きすぎるから、視線だけ見送れば、二度のジャンプの後でシャチはきらきらと輝く青の色彩を得る。
「あおは、なみだのいろだけど……うん、あれは星の海のいろだから」
「いつかみた惑星の海の色ですね。オレも詳しく知っている訳じゃ無いんですが」
 そう伝わっている色があるという。それは、コノハの知る空の青に似ていた。晴れ渡った日に見る青空。雲一つないそれを、どこかで漿船は見たのだろうか。
(「船が生きてる、ってナンだか不思議だけど、長い間こんな素敵な時間を守ってきたンだもの」)
 指先におちた、青い影にひとつ笑みを零して、コノハは視線を上げた。
「危険に晒すワケにゃいかないデショ?」
 唇に小さく、そう言葉を乗せたのと、あ、と落ちた声は同時だった。
「色が――沈んでいく」
 ぴしゃん、ぴしゃんとシャチと戯れるように跳ねていた魚の色が変わる。深い青、黒に似たそれに、展望デッキに集まっていたクリスタリアン達がざわめく。
 魚の色が変わるのは、漿船との交流もあるが船の修理にも使われるのだという。不調を知るにも役立つのだ、と。
「不安なの? こわいの? くじら、ぼくらのくじら……」
 見逃さないように、瞬きの内に消えてしまいそうなその黒を、見失わないように煌めく魚が寄り添い、やがて――一点へと向かい、黒魚は跳ねた。
「――あそこ」
「うん。第二船橋だ」
 お客人、と少年が声を上げる。煌めくシャチを見送って、コノハは頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『バトラー・サファイア』

POW   :    ナイブスストーム
【サファイアでできた無数の暗器】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    アカンプリッシュメント・オブ・アサシン
レベル分の1秒で【麻酔針】を発射できる。
WIZ   :    サファイア・フラッシュ
【サファイアの肌】から【蒼く眩い閃光】を放ち、【目を眩ませること】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エリル・メアリアルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●宇宙に星は沈み
 ——煌めきが、消えていく。
「色が——沈んでいく」
 ぴしゃん、ぴしゃんとシャチと戯れるように跳ねていた魚の色が変わる。深い青、黒に似たそれに、展望デッキに集まっていたクリスタリアン達がざわめく。
 魚の色が変わるのは、漿船との交流もあるが船の修理にも使われるのだという。不調を知るにも役立つのだ、と。
「不安なの? こわいの? くじら、ぼくらのくじら……」
 見逃さないように、瞬きの内に消えてしまいそうなその黒を、見失わないように煌めく魚が寄り添い、やがて——一点へと向かい、黒魚は跳ねた。
「——あそこ」
「うん。第二船橋だ」
 お客人、とクリスタリアンが声を上げる。同時に、高く謳うように鯨の声が響いた。

●バトラー・サファイア
「——声、ですか?」
 カツン、と足音を一つ響かせて、姿を見せたのは幹部「バトラー・サファイア」であった。
「ですが、只の鳴き声であれば不要です。あなたは、プリンセス・エメラルドの所有物であることを自覚し、喜ぶべきです」
 真なる所有者の名を忘れる事はありえない。
 それは、漿船がクリスタリアンが太古より使用している旧式の移民船であるが故か。
「全てを外に捨てなさい。あなたがこれまで育んだ、愛しきクリスタリアン達を。——えぇ、あなたの中の異物、全てをです」
 リリリリリ、と漿船が甲高く鳴く。困惑の中、それでも威嚇を——同時に警告を飛ばす。響かせる。どうか、どうか、と謳うように。この船で長く、共に生き、砕けるまでを見守ってきた彼らに。

 何かがいる、とクリスタリアン達が告げる。第二船橋への移動の途中、顔を上げた彼らが虚空を見据えながら猟兵達に告げた。
「——そいつの提案を否定するって」
「ぼくらの鯨が、ぼくらを守るために全てをかけるなら」
「断って、一暴れするって言うなら、私たちだって戦います」
 鯨の声が響く。高く、強いその音に展望デッキで泳がせていた魚達が追いつき——クリスタリアン達を、猟兵たちを乗せて第二船橋へと運ぶ。 
「——あぁ、あの声は呼び立てだったのね。まぁ、探し回る手間が省けたという点では評価しましょう」
 そこにいたのは、幹部「バトラー・サファイア」であった。展望デッキで儀式が行われていた関係で、第二船橋に住人達の姿は無い。此処に、辿りついた者だけだ。
 猟兵と、共に戦うと告げたクリスタリアン達。その数を眺め、ふ、とバトラー・サファイアは笑う。
「まずはこの異物を片付け、砕き、あなたが否定した結果を見せます。漿船『アステリア』」
 その愚かさを悔やんだとてもう遅い。
 口元、笑み一つ浮かべぬままにバトラー・サファイアは告げた。
「では、あなたたちを排除します。せめて、わたしの仕事を邪魔することなく首を差し出してください」
 或いは、別れの挨拶をした後にでも自ら砕けてください。


◆―――――――――――――――――――――◆
第2章受付期間
1月23日(土)8時31分〜26日(火)

*プレイングボーナス(全章共通)……クリスタリアンや漿船の協力を仰ぐ
 クリスタリアン達は援護射撃を、漿船は倒れそうになれば回復を行います

*2章のみの参加も歓迎です。

*戦場となっている第二船橋は広く、戦闘により計器類が傷つくなどのことはありません(漿船くんが頑張ってガードしてるので大丈夫です)

◆―――――――――――――――――――――◆
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

アステリアって名前、確か「星座」って意味だったか。
あの儀式と合う良い名前だな。
なおさら退けないと。

援護射撃に紛れ、存在感を消し目立たない様に立ち回る。そしてマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC五月雨で攻撃。
同時に投げられるだけのマヒを乗せた飛刀も投擲、なるべく多方面からの攻撃を仕掛け回避の目を減らす。
麻酔針は第六感で感知してからの回避か直接二刀ではじく。
それでも喰らうものは激痛耐性で耐える。
麻酔の種類にもよるだろうが、針に麻酔毒が塗ってるものだと仮定して毒耐性で耐える。
針麻酔の類だと毒耐性は意味ないだろうが、あれは静止状態でないと難しいから状況的に違うだろう。



●巡る星の船と旅する青年
 船橋に、無数の銃声が響き渡った。光銃を構えたクリスタリアンが迷い無く、猟書家『バトラー・サファイア』へと銃口を向けた。
「私達のクジラを泣かせたのは君だね」
「さぁ、お相手しよう!」
 派手に声を上げたのは、踏み込む黒鵺・瑞樹(f17491)の姿を見ていたからだろう。身を低め、跳ぶように前に出ればサファイアの視線がこちらに向く。
「抗いますか。構いませんが、邪魔であることは変わりませんね。猟兵、その首を——……」
「落とさせると思うかい? 君に!」
 踏み込みに、瑞樹へと向けられたサファイアの視線が射撃によって遮られた。甲高い音を響かせ、真っ直ぐにバトラー・サファイアに届いたのはレーザー銃だ。
 ——行ってくれ、と。送られた視線に前に出ることで瑞樹は応じる。援護射撃に紛れるように、爆発の狭間を抜け、その影を踏むようにして弧を描いていく。
(「アステリアって名前、確か「星座」って意味だったか。あの儀式と合う良い名前だな」)
 船の名は、星々を旅するクジラと儀式の名によく似合っていた。
(「なおさら退けないと」)
 バトラー・サファイアは、この船のクリスタリアン達を異物と告げて、排除すると言った。そこに一人の例外も無い。
「そんなこと……」
 薄く、息を吸うように言葉を作る。形だけを唇に乗せる。船橋の最後の階段を飛び降りるようにして、瑞樹は射線を得る。抜き払うは己の本体たる器物。左手に構えた黒鵺に力を込め——術を紡ぐ。手に構えた一振りを軸に、空を薙ぎ払うと同時に——刃は複製される。
「喰らえ!」
「——貴方、いつの間に」
 僅か息を飲んだサファイアへと瑞樹は無数の黒鵺を放った。穿つように一撃、払われても二振り目が。キン、と鈍く聞こえたのは、サファイアの構えた針だろう。
「この程度で、私の足を止めようとは。愚かですね」
「そうかな」
 吐息一つ零すように告げて、瑞樹は前に出る。刃を持つ踏み込みに、サファイアが牽制を放つ。浅く、腕を掠っていった針にある痛みに、だが構わず瑞樹は腕を振るった。
「その間合いで届くつもりですか」
「——あぁ」
 これなら、と告げる言葉の代わりに腕を振るう。指先絡めるようにして、持てる限りの飛刀を放った。投擲用の、ナイフだ。縦にそれを放てば、複製した刀より早く届いた一撃をサファイアが防ぐ。針で弾き、だが、全ては躱しきれずに当たれば——一拍、動きが止まった。
「これは——」
「そこだ」
 麻痺、だ。一瞬、動きが鈍ればそれで構わない。残る己の分身を、複製した刃を一気にバトラー・サファイアへと放った。
「——そう、そうね」
 息を詰める代わりに、肩口をサファイアは染める。カキン、キン、と欠け落ちた宝玉が床を叩く。血の代わりに、その身に罅をいれたサファイアは息をつき——瑞樹を見据えた。
「私の仕事の障害であると認めましょう。それ故に、眠って貰います。然るべき排除は……」
 突き刺さった刃を、サファイアが抜く。捕まれるより早く、複製した刃を構え直した瑞樹へとサファイアが素早く針を放った。
「その後に、ゆっくりと行いましょう。猟兵」
「——」
 身を、飛ばす。左に跳んだのは半ば、勘だ。胡を払うように振るって、鈍く見えた光を払う。キン、と刃の上を針が滑り——だが、次々と放たれる針が瑞樹の腕に突き刺さる。
(「——これは」)
 は、と息を吐く。
 痛みと同時に僅かに歪む視界は、意識を閉じようとするそれだ。毒の類いはつけていないのか。麻酔針であるならば、毒に耐性のある身でも厳しいだろうが——全てを受けた訳では無い。両の脚で、床を踏みしめるようにして瑞樹は視線を上げる。保つ意識と共に、二振りの刃を構え直した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
うん、有難うね。皆が手伝ってくれるなら心強いよ。
バトラーには途方もない年月放置しといて今更所有権主張するってご無体じゃない?とか煽ったり。
何より今ここにいる皆をこの漿船は望んでいるんだしね。
出ていくのはキミの方、お土産もなしでね。

基本クリスタリアン達を守るよう立ち回り支援。
UCで空シャチ達召喚、その大きな体でバトラーの攻撃から皆を守ってあげてねとお願い。
俺の方は水の魔法を高速で展開、空シャチ達含め味方側に水の壁を作り出してダメージを軽減させる。
抜け目なさそうだから油断なく、本当に押し切れると判断した時に空シャチの残り半数を合体させ突撃、その尾鰭を叩きつけ跳ね上げてやろう。

※アドリブ絡み等お任せ



●宇宙を知る彼らと空と海を知る者
 ——キン、と堅い音を立てて、破片が落ちた。相応の硬度を持つ蒼玉の身は、突き刺さった刃を受けて罅を見せる。
「アステリアの抵抗も、あなた達がいるからかしら」
 腕を払うようにして猟書家『バトラー・サファイア』は破片を落とす。
「どちらにしろ、最後は全て排除するのだけど」
「——はいじょ、されると思うの? 思い通りに」
 応じたのはヘリオドールの髪を揺らす、少年だった。見目の通りの幼さでは無く、戦う術を持っているのだろう。
「ごめんね、今、僕らは反抗期なんだ。——お客さん、手伝って欲しい」
「うん、有難うね。皆が手伝ってくれるなら心強いよ」
 長銃を構える少年に、ヴィクトル・サリヴァン(f06661)はそう言って頷いた。射るほどに強い視線はバトラー・サファイアからだろう。警戒されている、と思う。
(「まぁ、こっちを見ててくれるなら丁度良い、かな」)
 クリスタリアン達に怪我をさせたい訳じゃ無い。彼らがそれを構わないと言っても、ここはやっぱり年上の意地と、猟兵としての想いがある。
「所有権主張するってご無体じゃない? 何より今ここにいる皆をこの漿船は望んでいるんだしね」
 だからこそ、三又銛の鋒を下げて、ヴィクトルは煽るように告げる。不敵に、口の端を上げるようにしてシャチは——笑う。
「出ていくのはキミの方、お土産もなしでね」
「無粋なことです。——あなたこそ、出て行ってもらいましょう」
 ヒュン、と鋭く放たれた暗器に三又銛を掲げる。パシャン、と跳ねるようにヴィクトルの前に展開されたのは水の魔法。一撃を受け止めた球体の中が、二度、三度と揺れて——声が、した。
「海ばかりと思ってたら痛い目見るよ」
 水球から飛び出すように、召喚されたのは空を泳ぐシャチたちだった。尾びれの腹側に数字の刻まれたシャチたちはくるり、と空中で身を舞わしてみせる。
「その大きな体でバトラーの攻撃から皆を守ってあげてね」
 高く、鳴き声を響かせて応じた空シャチたちに頷けば、は、と落とす息が響いた。
「そうして、私の邪魔をするというのですね」
 ではそれを、とサファイアは詰めた唇に緩く弧を描くようにして告げる。
「許すと思いますか」
 カン、と強く踏み込みと同時にサファイアが腕を振るった。展開した水が針を吸い込む。一撃、二撃。止まること無く届くそれが、ふいに——止む。
(「——行ける」)
 瞬間そう思い、掲げた三又銛を——ヴィクトルは、払った。
「違う」
 声に出して告げて、体を動かす。瞬間、キン、と三又銛が何かを弾き——防ぎ切れなかった『それ』がヴィクトルの体に届く。水の守りを貫き届いたのは、雨のように降り注いだサファイアの麻酔針だ。
「あら、気がつきましたの」
「——生憎、ね」
 は、と息を吐く。全部は受けてはいない。流した血は確かにあるのに痛みより、感覚が曖昧になっていく。意識が引きずり込まれるような感覚に、ヴィクトルはもう一度息を吐き——顔を、上げる。
「きこえる?」
 呼びかける先は残った空シャチたち。守りについた子たちではない、共に駈けてきた空シャチたちへと呼びかけてヴィクトルは三又銛に水を招く。
(「予想通り、抜け目のない相手だね」
 だからこそ今——本当に押し切れるこのタイミングで、敵がこちらが麻酔にやられていると思っているこの瞬間に、全てを、賭ける。
「行こう」
 招く水をくぐり抜けるようにしてシャチの群れが行く。水飛沫の先、キュィイイ、と鳴いた空シャチはその大きな姿で猟書家『バトラー・サファイア』に突撃した。
「な——……!」
 僅かサファイアが息を飲む。衝撃に、身を振るには間に合わない。叩き付けられた尾鰭に、宝石の体が欠け——、その身が、浮いた。
「この、ような……!」
 ——ギ、と軋むような音がサファイアの体から響き、麻酔針が床に落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒金・鈊
長らく放置した挙げ句、今更の所有権を主張されてもな。
どんな世界でも、住居より即刻退去など非常識にも程がある――
少なからず……彼らを砕かせはせん。

さて、立ち合って貰おうか、レディ。

クリスタリアン達に援護射撃は自由にしてもらおう。
俺は多少の負傷は目を瞑り、距離を詰めるために、愚直に仕掛ける。
此方は接近せねば攻撃できないという刷り込みをしておこう。

麻酔針による攻撃に関しては、剣と右腕で受ける。
全回避は不可能だろうが、即時昏倒しなければ、十分だ。

こちらも厄介な主がいてな。
あのオーダーに答えるために、何かと骨が折れる。

距離をあけて、天墜を発動。反撃させて貰う。
――曰く、蒼は……冥府に連なるらしいぞ。



●暗がりの炎
 堅く、高い音を立ててその体は浮いていた。巨大なシャチを叩き付けられ、尾で強かに打ち据えられれば宝石の身は蒼玉の欠片を散らす。腕に罅を走らせ、は、と荒く、ただ一度だけ息を零した猟書家『バトラー・サファイア』は、乱れた髪を正すように一度、かき上げる。
「これが猟兵の手腕というものですか。ですが、これは私達の問題とは思わないのかしら?」
 衣の上、落ちた己の欠片さえ払うようにしてサファイアは冷えた視線をこちらへと向けた。
「漿船の全ては、嘗てクリスタリアンの最長老たる私の主、プリンセス・エメラルドの所有物でした」
 腕に、肩に既に罅を入れながらもバトラー・サファイアは表情を一つ変えぬまま、強い殺意も滲ませることさえ無いままに告げる。
「これは正当な所有者による行動です。あなた達が口を挟み、剰え邪魔をする理由など無いでしょう」
「長らく放置した挙げ句、今更の所有権を主張されてもな」
 返す青年の言葉もまた、静かに響いていた。僅か、口の端を上げるようにして――やがて落ちた息は、笑みよりは零す吐息に似る。
「どんな世界でも、住居より即刻退去など非常識にも程がある――」
 この船で生まれ、この船で死んでいくかれらにとって、この漿船は家であり揺籃たるのだろう。長銃を構えたクリスタリアンは、その銃口を迷わずサファイアへと向けている。これが、戦いであることを理解した上で。
「少なからず……彼らを砕かせはせん」
 静かに紡ぐ言の葉と共に黒金・鈊(crepuscolo・f19001)は刃を抜く。黒曜の一振りは無骨なれど鈍く光り、鋒を下げた鈊の頬を映す。
「さて、立ち合って貰おうか、レディ」
「まずあなたから排除致しましょう」
 応じる言葉を聞き終わるその前に、鈊は身を前に飛ばした。ダン、と一歩目は粗く、二歩目から身を低めて跳ぶ。一歩を大きく行ったのは、腕を振るうサファイアの姿を見たからだ。
「膝を折り、恭順なさい」
 暗器だ。メスに似たそれに、右腕を振るう。鋼の焰が刃を飲み込み――だが、二撃目が頬を掠る。三本目に船橋の手すりを飛び越える。肩に突き刺さった一振りを抜いて捨てれば、は、と小さな笑みのような吐息が戦場に響き渡った。
「愚直なことね。前に進むことしか知らぬよう」
「そうか」
 息をつくように紡いだ言葉と共に、真闇を振り上げる。ギン、と厚い刃が最後のメスを叩き落とす。右手に構えて見せた暗器は使い切らせたか。
(「――もっとも」)
 振り上げた刃を緩く下げる。弧を描くようにして構えを取り、踏み込む。前へ、愚直に仕掛けるそれには意味があった。斬るよりは凡そ叩き割るに近い鈍器めいた刀であっても、間合いとされるのは『刀の間合い』だ。刀身と踏み込みを足した所で、隠しきれぬ距離がある。
 ――そう、誰の目にも明らかなそれこそが、鈊の牙だ。
「あなたに追われるのも飽きました。この程度であれば、早々に終わりにしましょう」
 吐息一つ零すようにしてバトラー・サファイアが手を振るう。瞬間、展開された麻酔針が鈍い光を残して――来る。
「――」
 光を頼りに鈊は剣を振り上げる。分厚い刃の上、滑らせるようにして払い、僅か、手に返った感覚から向かい来る先を予想する。剣で防げば、当たり前に次は根たる腕を狙うだろう。拳を握るように、右腕の鋼の焔を滾らせた。
「――そう、でも」
 針が溶けるようにして床に落ち、だが続けざまに放たれた針が、鈊の足に刺さった。
「あなたの戦い方は、十分見させてもらったわ。その炎、随分と厄介ね」
「そうか」
 薄く笑うように、息をつくように鈊は告げる。一本、二本目は掠り――三本目を払えば、痛みより意識を引きずり落とすような感覚に視線を上げる。即時昏倒しないのであれば、それで充分だ。
「こちらも厄介な主がいてな。あのオーダーに答えるために、何かと骨が折れる」
 零す息はため息じみたか、それとも僅か不敵に似た笑みを浮かべる形であったか。サファイアの姿を視界に収め、鋒を僅かに上げた鈊は後ろに、跳んだ。
「何を――……」
「視認さえできていれば――なんの問題も、ない」
 音も無く、鈊の右腕が燃え上がった。鋼の焰が吹き上がるように白皙を照らす。髪に、肩に、首にと触れている筈だが焼けはしない。それは鈊の地獄の炎だからこそ。
「――曰く、蒼は……冥府に連なるらしいぞ」
 飴色の瞳がサファイアを捉え――瞬間、仄蒼く燃える無数の刃が、襲いかかった。
「な……」
 ひゅ、と息を飲む。構えた腕では足りない。ギリギリと軋ませ、やがて滑るように仄蒼い炎が猟書家『バトラー・サファイア』の腕を、砕いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
やれやれ、お仕事熱心なお姉さんさねぇ
近頃の執事は地上げ屋紛いな事する訳?
いや、シップジャックと言う方が正しいか
いきなり大家ツラして来られても居住権侵害~

とまぁ適度に煽りつつ
鉱石の頭脳じゃ冷めてるかな
宙に舞い飛び、両手首より放つ炎の鎖を立体的に鞭みたいにぶん回して向こうの暗器は撃ち落とし
住民の皆に当たらないように立ち回るかねぇ
あわよくば鎖の隙間に挟まった分をお返し
炎で焼いて色鮮やかに処理しといたさよ

援護受けつつ空中から今度は執事さんに向けて鎖撃ち込み
恐怖政治は民が付いて来れないさよ、とアンタが仕える年増のBBA…失敬、行き遅れの姫さんに伝えてくれるかねぇ
一気に接近、サーベルで斬りつけもしとくか



●頳き使徒
 ――炎が、走る。
 舞うのではなく、刃の如く走る様を青年は見る。仄蒼く燃える無数の刃が、ギ、と鈍い音を零して猟書家『バトラー・サファイア』の腕に触れ――やがて、滑るように腕を、落とす。
「――まさか」
 ガシャン、と派手な音が船橋に響き渡った。堅い床に鈍い音を立て、落ちた腕が掛ける。指先は失われたか。欠け落ちた蒼玉を見据えたサファイアは、唇を噛むようにして息を吐く。
「猟兵がこれほどのものとは。そこまでして、障害となるのね。これは、私達が正しく権利を主張しているだけだというのに」
 体に入った罅は、腕から首まで辿ったのか。吐息一つ零し、煌めきを残す肌を晒しながらサファイアはこちらに視線を向けてきた。
「もう一度言って差し上げましょう。漿船から退去なさい」
「やれやれ、お仕事熱心なお姉さんさねぇ」
 カツン、とヒールが音を立てる。軽く広げた翼に、サファイアが眉を寄せたのはこの瞬間まで早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)が足音を消していたからだろう。
「近頃の執事は地上げ屋紛いな事する訳?」
 軽く肩を竦めるようにして告げて、ゆるり、と視線を上げた。
「いや、シップジャックと言う方が正しいか。いきなり大家ツラして来られても居住権侵害~」
 軽口めいた言葉を唇に乗せて、トン、と階段を降りる。煽るように唇に乗せた言葉に、サファイアがため息を返した。
「えぇ、侵害も甚だしいのはあなた達の方です。この船の所有者が誰であったかを、意思こそ弱まっていますが、漿船は覚えていたのですから」
 では、問いましょう、とサファイアは静かに口の端を上げた。
「権利を侵害している異物はどちらで?」
 告げる言葉と同時に、サファイアの踏み込みが来た。応えなど、元より聞くつもりは無いのか。ヒュン、と放たれたそれに翼は床を蹴り上げる。広げた翼と共に、一気に天井近くへと舞い上がり、追うように放たれた暗器に壁を蹴る。
「居住を侵害してるのは普通にそっちさね」
 足元、僅かか掠るように来た一撃は、チリ、と痛むだけだ。
(「本命はまださね。……まぁ、煽っちゃみたが鉱石の頭脳じゃ冷めてるかな」)
 プリンセス・エメラルドの優秀な執事であれば、主の命と望みを果たすべくその心を容易く揺らしはしないか――或いは、あれでいて煽り返していたつもりか。
「宙を取りますか。――早々に、その羽根ごと撃ち落としましょう」
 あなた、とサファイアが告げる。指先が空を撫で、さっきまでとは違う光が翼の瞳に映った。
「あれは……宝石さね」
「来ます! お客人!」
 翼が瞳を細めたのと、援護射撃を放つクリスタリアンが声を上げたのは同時だった。ヒュン、と鋭く空を切り裂く音と同時にバトラー・サファイアの手から無数の暗器が放たれた。上空へと、一気に振り上げた手から一列に、薙ぎ払う指先から真横に来た暗器に翼は背の羽根を広げ、手袋を――外す。
「――主よ」
 口で噛むようにして外した先、晒すのは手首の傷跡。深く残る傷跡から、零れるように炎が世界に影を残る。
「罪深き者に裁きと戒めの業火を」
 掲げるようにして――赤き御使いは告げた。
 瞬間、じゃらり、と鎖が舞い上がった。炎を纏った鎖で翼は一気に暗器を薙ぎ払う。キン、と堅く響いた音共に落ちたそれは、想像通りの宝石――サファイアだ。
「随分と派手な仕事さね」
「あなたが撃ち落とされてくれれば、すぐに終わるのよ」
 ヒュンと来た蒼玉の暗器が、羽根を散らす。鈍い痛みに、だが、構わず鎖を振るい、かち合ったそこに、翼は身をサファイアへと向ける。血に濡れ、落ちる羽根と共に――跳ぶ。
「お返しさよ」
 鎖に絡めた暗器を、サファイアへと打ち返す。ヒュ、と鋭く響いた音に、バトラー・サファイアが身を後ろに飛ばす。だが、それだけでは足りない。絡め取った全て、打ち返せば足元を穿つように届き――やがて、サファイアの頬に赤い影が落ちた。
「あなた……」
 翼、だ。
 炎にて色鮮やかに染め上げた暗器がサファイアの腕に届き、打ち据える鎖が胴を穿つ。
「――っく」
 衝撃にバトラー・サファイアが息を詰める。ぐらり、と揺れた身が、既に片腕を失った身で砕け落ちた破片を眺めたサファイアが息を吐く。己の心ひとつ、落ち着けるように。
「猟兵。どこまでも邪魔をして……」
「恐怖政治は民が付いて来れないさよ、とアンタが仕える年増のBBA……失敬、行き遅れの姫さんに伝えてくれるかねぇ」
 唇にひとつ笑みを浮かべたまま、煽るように作った翼の言葉にサファイアの表情が変わる。ひび割れた身を構わず、援護射撃を行うクリスタリアン達よりも真っ直ぐに翼を見て――来た。
「――今、なんと言った」
 踏み込みと同時に、突き出された暗器を抜き払った剣で受け止める。ギチギチ、と鈍い音と共に火花が散る。
「もう一回聞きたいさね?」
 は、とその重さに息を吐くようにして翼は告げる。冷えた瞳に限りない敵意を浮かべた猟書家『バトラー・サファイア』は言い切った。
「あなたから、必ず排除します。私の主を侮辱した罪、思い知って死になさい」

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
飼い犬だって扱いが悪けりゃ飼い主を噛むモノよ
そんな身勝手を通そうだナンて、おめでたいわねぇ

敵前へ躍り出て此方へ意識を向け、攻撃を誘うわ
自分や住民達の周囲に【彩雨】降らせオーラ防御乗せた氷の盾を形成
直接の光を阻み攻撃も防いでいきましょ
2回攻撃でカウンター狙いもう一度雨降らせたなら
今度は敵へと集中させ撃ち込んで
生命力吸収させてもらうわねぇ

イイモノ見せてもらったお礼がまだだもの、任せて頂戴
でもそうネ、手を借りれるなら
逆にアイツの目を眩ませたり出来るかしら
ほら、反射材はあり余る程あるし?

動き見きり氷利用し反撃を避け
次のチャンスではしっかり傷口抉っていくねぇ

残念、オレ嫌なヤツの邪魔するの大好きなの



●彼方の星に告げて
 炎を纏う鎖が、蒼玉の暗器を絡め取り――崩す。返すように放たれたそれを払う頃には、踏み込んだ一人の鎖が猟書家『バトラー・サファイア』を打ち据えていた。
「――そう、これが。この力が猟兵というものですか」
 既に片腕を失い、胴に入った罅は頬に辿りついていたか。欠け落ちた破片が音を立て、腕を滑り落ち、キン、と硬い音を残した。
「随分と邪魔をするのがお好きなようですね。あなたもです、漿船アステリア」
 呼びかけに、高く音が返る。キュィイイ、とクジラの鳴き声に似たそれは、方舟アステリアの威嚇の声だろう。高く、強く、揺れながらも「否」を告げる。
「わたしは言ったはずです。あなたの中の異物を、あれらを排除すると」
「飼い犬だって扱いが悪けりゃ飼い主を噛むモノよ」
 冷えた瞳でこちらを――クリスタリアン達を見据えるサファイアにコノハ・ライゼ(f03130)は息をつく。吐息一つ、零すように告げてカツンと響かせた足音が響く。
「そんな身勝手を通そうだナンて、おめでたいわねぇ」
「勝手など。あなた達の方が余程――……」
 その先に、続く言葉を聞き終わる前にコノハは床を蹴る。低く、跳ぶように前に出た。カン、と叩くように鋼鉄の床を踏み、艦橋の手すりに足を掛ける。計器類には鈍い光が灯っていた。あれが漿船アステリアの加護だろう。
(「ヨロシクネ」)
 小さな笑みを一つ送り、ウインクして横を抜ける。手をついて飛び越せば、チカ、と何かが光った。
「アラ」
「話は、最後まで聞くものです」
 サファイアの放つ暗器だ。低く、立て続けに放たれたナイフにコノハは身を横に振る。踏み込みを斜めに、壁に手をつくようにして軌道を逸らす。チリ、と腕に、腰に掠り届いたそれに痛み以外の違和感は無い。
 元より、攻撃を受けるのは想定通りだ。サファイアの意識は完全にこちらに向いている。
「やはり、先にあなたたちに膝を折ってもらいます。猟兵」
 カツン、と足を響かせる。踵を鳴らすように立ったサファイアの足元、集まっていく光にコノハは静かに笑って、身を前に飛ばす。
「煌めくアメを、ドウゾ」
 壁を撫でるように指先で触れて、掲げるようにして振り上げる。瞬間、降り注ぐのは氷の属性を持つ水晶の針。映すのは――その光景か、その情景か。煌めきと共に展開された氷の盾が立ち上がるのと、サファイアが声を上げるのは同時であった。
「ひれ伏しなさい」
「――」
 光が、溢れる。サフィアの肌から放たれた蒼く眩い閃光は――だが、コノハの展開した氷の盾に阻まれる。コノハとクリスタリアン達を直接の光から阻むように作り上げられた氷の盾に、光は本来の力を見失う。乱反射するだけの光であれば――そこに、目映さは、無い。
「これは……ふ、はは。流石はお客人!」
 長銃を構え、驚いたように告げたのはユークレースの髪を揺らす少年だった。あの時、一緒にいた少年と共に漿船の守りにつく彼は、銃口を向ける先に迷いは無いまま、声を上げた。
「援護はお任せください。こう見えて、射撃は結構得意なんです」
 デブリとか色々ありますし、と告げた彼の横、おー、とモルガナイトの髪を揺らす少年が頷く。「ぼくも、お手伝いできるよ。多分」
「イイモノ見せてもらったお礼がまだだもの、任せて頂戴」
 ふ、と一つ笑ってコノハは告げる。
「でもそうネ、手を借りれるなら、逆にアイツの目を眩ませたり出来るかしら。ほら、反射材はあり余る程あるし?」
「――うん、任せて。歌おう、ぼくらのクジラ」」
「えぇ、お任せください! 行こう、おねぼうクジラ!」
 道を開く時だ、と二人の声が重なったのと同時に船橋の照明が、その全てがスポットライトのように真っ直ぐにサファイアへと向けられた。
「――な」
 ヒュ、と僅かサファイアが息を飲む。コノハが展開した氷の盾も利用するように、全ての光が一点に集中していけばバトラー・サファイアも眩しさに一瞬、腕を前に出す。暗器を放つ指先を、ただ庇うだけに出す。――動きが、鈍る。
「――」
 その一瞬を、コノハは逃さない。残る距離を一気に詰めるように前に飛ぶ。行く背を見守るように灯りはコノハを避けていく。
「――煌めくアメを」
 もう一度。
 唄うように唇に乗せて、今度は真っ直ぐ、前に立つサファイアへと向けて放つ。接近に、サファイアが気がついたところで、庇うように荒く腕を振ったところで――身を沈めれば、躱せる。
「――なた、は……!」
「残念、オレ嫌なヤツの邪魔するの大好きなの」
 深く、沈めた身から懐へとナイフを突き立てる。磨いた鉱石の貌の一対のナイフ――柘榴がサファイアの身の深く、その硬度さえ砕き、核へと届いた。
「私が……そんな、この漿船を。異物を、排除、して――主、申し訳――……」
 放つ筈の暗器は床に落ち、カランと音を立てるのと同時にぐらり、と身を倒すようにして猟書家『バトラー・サファイア』は光の中へと消えていった。
 脅威が消え去った事実を、高く鳴くようにして漿船アステリアは告げる。星渡りに見た魚たちのように、きらきらと光る幻影を紡ぎ上げながら――ふいに、猟兵たちの耳に歌うように囁くように、感謝を告げる声が聞こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月29日


挿絵イラスト