6
飛雨に滾る

#サムライエンパイア #猟書家の侵攻 #猟書家 #今川義元 #羅刹 #武田信玄 #魔軍転生 #大本の里

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#猟書家の侵攻
🔒
#猟書家
🔒
#今川義元
🔒
#羅刹
🔒
#武田信玄
🔒
#魔軍転生
#大本の里


0




●羅刹・雨丞
 風は強い。時折猛烈に吹き荒れる。
 雨は冷たく強い。風と共に皮膚にぶち当たる雨粒は矢のようで雨丞は顔を顰めた。
 褐色の肌も、それを覆う法衣も、焦茶の短髪も、前髪を分け生える黒曜石の無骨な一角も、豪雨でぐっしょり濡れて容赦なく体温も奪いゆく。
 しかし弱音は吐かない。片手に短刀を構える。もう片方の拳で雨粒を握りしめて、金瞳を鋭利に尖らせた。
 険しい山道を登ってくるのは浪人の軍勢。雨丞は目を瞠った。
 赤鳥と武田菱が組み合わさったような見たこともない紋をはためかせる――その旗に危機感は容赦なく煽られる。
 雨丞は共にいた晴太へ、火急を報せるために里まで走れと口早に告げた。
 彼は瞬時にそれが何を意味するのかを理解し、蒼惶として震える声で、
「雨丞様、ご武運を」
 その言葉には応えず、彼の駆け行く足音を背で聞く。
「この先には、我が里しかござらん。いかような用向きか」
 警戒感を剥き出しに、殺意すら滲ませて問えども、男たちは答えない。腰に佩いた刀を抜いて、雨丞へと切っ先を向けた。
「問答無用」
「多勢に無勢は見ての通り」
「許せとは言わん。己の巡りを呪うが良い」
 身勝手極まりない口上に、雨丞は烈火の如き咆哮を上げる。彼の眼前に迫る凶刃を防げども、確かに手勢はあちらが優位。雨丞が三人に足止めされている中、他の男どもは里へと通ずる山道を駆け上がる――
「くっそ……! 貴様らァ!!」
 血を吐くような怒号が山を揺らした。


「羅刹の里が狙われてンだ。里の人たちの加勢を頼みてえ」
 紺の炯眼を更に尖らせて、彼は愛刀の柄を人差し指でとんとんと苛立たしげに叩く。
 かつてサムライエンパイアを恐怖に叩き落した織田信長。その配下・魔軍将『武田信玄』を憑装した浪人どもが現れた。
 山間、羅刹が拓いた里――万年青が群生する里へと向かっている。相当な手練れとなった浪人どもに里の羅刹たちは圧されているのだ。
 曰く、羅刹の強靱な肉体を手に入れ、剛健なる軍勢をつくるため。
「羅刹ってだけで狙われる……その里には、子どもだっている。放っておけねえ」
 地の利は里の羅刹たちに軍配が上がる。
「里の護りの筆頭が、ウジョウっつー男だ。あの人が討たれると里の士気に関わる――」
 雨丞は里の少ない警団の一人だ。腕は立つがオブリビオンの軍勢を相手に優勢を保てないのは、火を見るより明らか。
 おまけに今川義元が、どこからともなく矢を射てくる。寸分違わぬ正確さはまさに無慈悲そのもので、策を講じずに戦地に向かえば、たちまちのうちに射抜かれるだろう。
「今川は猟書家の力を発揮できねえとかで、憑装してねえ。ンなことしなくても十分な強さだっつーことだ」
 浪人どもを退けきるか、斃しきってしまうと、痺れを切らした今川は姿を現すだろう。
 だからまず、襲いくる浪人への対処が必要になる――彼は言葉を続けた。
 雨丞は里へと続く山道で三人の浪人と交戦している。その先の里までの道を浪人どもは駆けている。
「里に繋げる。駆け下りて雨丞サンを助けるか、里で浪人を迎撃するか、任せた」
 掌上に蒼いグリモアの輝きが生まれる。中核で開くのは白のアネモネ――鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)が繋ぐは、サムライエンパイア。
 吹き荒れる暴風は、凍える空気を巻き上げて、ずぶ濡れる里を震え上がらせる。

●今川義元
 抜いた刀は折れた。逆手に持ち替え、打撃の足しにする。
 打ちつける雨を吸った枯葉は、雨丞の脚を滑らせ、体力を奪う。
 斬りつけられた腕から流れ出ていく血は、雨と共に衣を染めた――雨丞は山肌の窪みへと身を隠す。
 浪人どもの力は、剣を交える前――対峙した瞬間から判っていた。己だけでは勝てない。それに加えて、狙い澄ました必中の矢が雨丞へと突き刺さるのだ。
 このままでは、まずい――晴太を帰らせておいて正解だった。

「まず天晴れ! ただ一人で立ち向かう闘争心、まさに羅刹! 貴様のその躯体、鋼の魂の器に相応しい」

 いずこかより響いた声は、傲慢で不遜。己が力の強いことを知っていて、自信となって溢れ出ている。
 そうして話すうちに声音は、鬱々と仄暗く重苦しい怒りを発露した。
「――忌々しき徳川の一族を輩出しながらも世俗を捨てたと嘯く陋劣なる種に、引導を渡してくれる」
「ふざけた、ことを……!」
 雨丞は鋭い金瞳をさらに鋭利に細め、眼前の浪人をねめつける。それが話しているわけではないのは判っているが、それでも。
「案ずるな、羅刹。貴様の骸も、貴様の家族の骸も、貴様の里の者ども、一匹残らず! すべからく! 我が手駒に仕立ててくれるわ!」
 それで寂しくはなかろう――男は不敵に哄笑を轟かせた。


藤野キワミ
このシナリオは【猟書家】の侵攻に影響をもたらし、2フラグメントで完結します。
====================
プレイングボーナス(全章共通)……羅刹達と協力して戦う。
(猟兵ほど強くはありませんが、周辺の山岳地形を熟知しています)
====================
さあ、冷たい雨の中で戦いましょう、藤野キワミです。
どうぞよろしくお願いします。

▼シナリオ概要
一章・集団戦:浪人の軍勢
超・魔軍転生により武田信玄を憑装しております。利になる言葉は持ちません。なにを聞いても、「おぬしを、斬る!」的なことしか言いません。
強めの雨が降っています。風も強いです。でも、今川の仕留めの矢は、必中です。油断なきよう。
二章・ボス戦:今川義元です。天候は変わりません。

▼お願い
どのような参加の仕方も歓迎いたします。
円滑なリプレイ作成のため【プレイング受付日時】を設定します。
受付・進捗はマスターページおよびツイッター(@kFujino_tw6)、またタグにてご案内します。
プレイング採用に関する仔細、同行プレイングのお願いはマスターページに記載しています。そちらをご一読ください。
一章プレイングは、【断章追記後】受付を開始いたします。

▼それでは
みなさまのご参加をお待ちしています。
71




第1章 集団戦 『浪人』

POW   :    侍の意地
【攻撃をわざと受け、返り血と共に反撃の一撃】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    怨念の返り血
【自身の返り血や血飛沫また意図的に放った血】が命中した対象を燃やす。放たれた【返り血や血飛沫、燃える血による】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    斬られ慣れ
対象のユーベルコードに対し【被弾したら回転し仰け反り倒れるアクション】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●羅刹の里・大本
 晴太は大慌てで里へと帰還した。
 彼の慌てた様子に、里の者は心配し、また怪訝に晴太を迎え入れた。
「なにがあった!」
「霧生様! てき、敵襲ですっ、うじょ、さまがっ、里に報せるようにと、火急であると!」
 息を切らしながらも、なんとか伝えた晴太の言葉に、護手の面々に緊張が走る。それは、すなわち、備えろということだ。
 山の中、拓いた里だ。里の切れ目は崖と木々――敵襲は想定していない。防壁も櫓もない。しかし崖側からの侵入は考え難い。
 賊は山の下手から山道を駆け上がってきている。
「賊が現れ、私が雨丞様に命を受けたのは山道にございました。賊は、見たかぎり、二十以上。数だけではなく、相当な手練と見受けられました」
 凄まじい気迫だった。
 凄まれて怯んだ。
「雨丞様が心配にございます」
 晴太の言葉に、護手の一人――五角の菊は鼻を鳴らした。
「てめえの筆頭を信じらんねえなら、家に帰って布団に包まり震えていろ、童」
「口が悪いぞ、お菊」
「だあってろ、篠。雨丞様が護れっつったんだろ、だったら、私らは命を賭してここを護る」
 褐色の頬に鋭い笑みを刻みつけ、金瞳を炯々と尖らせた。
 その眼差しは晴太に突き刺さる。彼女の自信に、霧生はからりと笑った。
「ま、菊の言う通りだわな」
 彼は甘い面立ちをふにゃりと崩し、軽薄に笑む。彼の大きく太い手が晴太の赤髪をぐしゃりとまぜた。
「晴太、よく報せた。まだ走れるな?」
 問われ、彼は赤瞳を力強く光らせ、確と首肯。
「もちろんでございます、霧生様! 伝令はお任せください」
 菊と霧生もまた頷いた。
「ならば晴太、お前は女子供と年寄りに家から出んように里を回れ。ンで、若い男どもにゃあ菊の助けにいけと伝えろ、できりだけ早くだ」
 霧生の声は低く鋭く張り詰める――それに短く返事。
「菊は、集まる若い衆と共に、里際から来るかもしれねえ賊を散らせ」
 里際――万年青(おもと)が里と山から切り取るように群生している境界線だ。
 菊は、「おう」とひとつ返事。
「篠は俺と共に賊を迎え討つ。気張れよ」
 命を下され、護手たちは奮い立つ。雨丞への応援を送れるほど、手は潤沢ではない。
 なれば、今は出来ることを――
シャルロット・クリスティア
雨の中、山間を攻め上る屈強な剣士の軍勢、後方からは正確無比な狙撃……。
まともに正面から迎え撃つのは愚策。
孤軍奮闘する彼の救援は他の猟兵に期待するとして、私は迎撃態勢を整えるとしましょうか。

里の者が地形を熟知しているのなら、仕入れておきたい情報は二つ。
『大人数が攻め上るのに適した道』
『そこを監視するのに適した地点』。
他の獲物を狙う今川の矢の一本二本程度は見れるでしょう。持ち前の視力と戦闘知識で発射地点を算出すれば、後は後者のうち、射線を切れるポイントを割り出して潜伏すればいい。
後は、待ち伏せと後退を繰り返しながら身を潜ませ、上ってくる軍勢を狙撃するのみ。
ゲリラ戦で攪乱してやるとしましょうか……!


吉備・狐珀
里に押し寄せる浪人も気になりますが、傷を負った雨丞殿が心配です。
ウカ、ウケ、急ぎ駆け下り雨丞殿の元へいきますよ!

UC【神使招来】使用
ウケ、(浄化)の力をこめた御神矢の雨を浪人どもに放っておやりなさい。
ウカ、貴方は浪人がウケの被弾した矢を相殺し始めたら神剣に封じ込められた四神の力を解き放ち追い打ちをかけるのです!

私は義元の矢をから雨丞殿や貴方達を護るために(激痛耐性)の(結界)をはり防御に徹します。
月代、(衝撃波)を放ち風の壁を作って私のお手伝いをお願いしますね。

ウカとウケが浪人を退けたら結界をはる手伝いを頼み、私は雨丞殿の手当てを。

誰一人、義元の手駒にはさせませんよ!


ナイ・デス
私は駆け下りて、雨丞さんを助けます!
きてください……「ダイウルゴス」!

彫像を無数に召喚、変形合体させて体高5m
【念動力】彫像の塊は、大地を確り【踏みつけ】
隙間から光を放ち【推力移動ダッシュ】
ただ駆け下りるというだけも【重量攻撃】
目立ち、矢が私に射られれば、その分みんなが無事でいい
【覚悟、激痛耐性、継戦能力】もし重装甲を抜けて矢が私を貫いても、仮初の肉体。死には繋がらない。止まらない
そうして辿り着いたら彫像達を分離させ、姿を晒して

加勢に、きました!
まだ戦える、ですね?一緒に、戦いましょう!

『光の加護』
癒し、再生の力を与え
疲れた分も補うように
【生命力吸収】する【レーザー射撃】
全身から【一斉発射】!


香神乃・饗
額に角はやして羅刹とフェイントかけ囮に

香神占いで他の猟兵の動きを読み少数に加勢
もし迎撃人数が少なくても里には踏み込ませない
道中撃破を狙う
里の命に触れさせはしないっす

滑り易い地形を利用し下り道でスライディングで敵の脚を払う
倒れた敵を別の敵に投げ盾に
雨が糸を隠してくれる
暗殺狙い絞め

注意を俺にひけば活路を開ける人がいるっす
香神占いで矢と敵を見て避け
周りに戦友が居るなら
その人が戦い易いよう矢や刃を払い退けかばうっす

未来を見て目潰しなど致命傷だけ避けてくっす
深手を避けられるなら多少の負傷は気にしないっす
斬られる事をフェイントに喰らって一撃くれてやるっす
好きなだけ斬ればいいっす
俺も好きなだけ斬ってやるっす


鹿村・トーゴ
地の利はあっても1対多数は心細いよなー
雨丞どのを援護

雨の山中か…
【視力/情報収集/野生の勘/激痛耐性】で常に敵と雨丞の動向・今川の矢を警戒
矢に気付けば即雨丞に告げ時には引き倒しても避けさす

山道より樹上を伝って戦戟の方へ【聞き耳】
浪人を発見次第縄を付けたクナイを【ロープワーク/投擲】
刀や手足に絡め一瞬でも動きを妨害、その隙に雨丞の背後を【武器受け/かばう】
羅刹に因縁つける連中に絡まれてんだろ?オレも同族、微力ながら助太刀するよ
敵を鈍らせ雨丞にもトドメをさして貰えるように動く
手裏剣、クナイを複数【念動力で投擲】深手は無理でも傷は与え
UC使用
敵アクション・UC効果でも隙を見てクナイで掻き切る【暗殺】


月隠・望月
浪人三人を相手取るとは、雨丞殿という羅刹はすごい、ね。尚更、死なせるわけにはいかない。
猟兵でありながら、羅刹でありながら、ここで戦わない選択肢などあり得ない。

わたしは雨丞殿を助太刀しに行こう。
【百剣写刃】で無銘刀を複製。複数の刀を念力で操り、【フェイント】を交えつつ敵を攻撃。
敵の血は燃えるという、ので返り血を浴びないよう、敵と距離を取りたい。血がかかった場合は、水の【属性攻撃】で消火。幸いの雨、水の属性を使いやすい。

今川の矢は必中、なら受けるしかない。複製した刀を周囲で回転させ、防御壁としよう。矢を止めるには不足、かもしれないが来る方向がわかれば無銘刀で受けることもできるだろう(【武器受け】)




 屋根にぶち当たる雨粒は、賊の足音を容易に消し去るだろう。
 家々を揺する強い風は、賊の接近をあやふやなものにさせるだろう。
 この状況を狙ってきたのか――確実に里を攻め落とせる機会だ。しかし、このような何もない里へと進軍して、一体なにになるというのか。
「何者なのでしょうか」
「さっぱり判らん」
「加勢します」
 思案する霧生へと声を放ったのは、シャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)だった。
 里に立ってから雨の強さを実感した。悪天候の中、山間を攻め上がる軍勢、その後ろからの正確無比な狙撃。
 迎え撃つ戦力は、腕は立つものの怪異には劣る羅刹の護手が数名――シャルロットは額に張り付く金の髪を掻き上げて、青瞳をほんの少し伏せた。
「これは、正面から迎え撃つのは得策ではないです。押し切られる」
「なんだと?」
「数を、今から減らしてきます――全部は撃ち抜けないかもしれませんが」
 ギラリと尖った赤瞳を見据えて、シャルロットは《マギテック・マシンガン》を取り出した。
「みなさんの里を守りにきたんです。ですので、教えていただきたいことが」
「待て待て、なんだお嬢さん? ここを守りにきたって、どういう――」
「お話はあとにしましょう。この里まで軍行に適した山道はありますか?」
 ぴしゃりと篠を遮ってシャルロット。楽しくおしゃべりしている時間がないのは、羅刹たちが一番知っているはずだ――そう、知っているのだ。だから霧生は篠の肩を掴み、下がらせる。
「あるぞ。里まで引いた一本道だ」
「では、そこを監視するのに適した地点は?」
「全体を見渡せる場所はない。だが、一か所――」
 シャルロットは彼の話を真剣に聞き、頭に叩き込む。
 里へ続く一本道。どうしても大きな岩があって迂回せざるを得なくなった、唯一の曲がり角。
 そこならば、岩をついて回ってきた連中を見張りやすい。
「あんたのその得物なら、樹上から狙いやすいだろう」
「常緑の樹が?」
「檜だ」
 短い言葉の応酬は、シャルロットの僅かな笑みによって終わった。
「十分です、ありがとうございます」
 言って、駆け出す。
 孤軍奮闘する雨丞の救援は、他の猟兵に任せる。
 速く疾く、迎撃点まで。
 シャルロットの足音は、激しい雨に紛れる。
「ゲリラ戦で攪乱してやるとしましょうか……!」

 ◇

 山道を長身の羅刹が駆け抜ける――否、つけ角を額に生やした香神乃・饗(東風・f00169)だった。疾風のごとく山道を駆け下りていく。梅鉢紋の背の後ろを奔るのは、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)と、ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)、さらに、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)と月隠・望月(天稟の環・f04188)の四人だった。
 シャルロットの青眼はその一団を追いかけ、彼らの行く先にいる浪人どもの軍勢を睨み据える。銃口は浪人どもに向けられ、今川が射るはずの矢の出どころへと神経を尖らせた。
 饗は、シャルロットがどこに潜んでいるか、把握している――先刻、霧生たちとの話を聞いていた。
 里の加勢にきた猟兵たちと別れ、わずかに未来を視る力を発揮して、彼は山道を駆ける。
(「里には踏み込ませないっす」)
 道中で食い止めるだけ食い止めてやる。
「頼んだっす! 吉備さん!」
「はい、香神乃殿もご無事で」
 シャルロットの潜む曲がり角で、彼らは別れた。
 饗を残し、四人は速度を上げて、浪人の間を縫うように駆け下りていく――雨丞の救援に向かったのだ。
「お前たちの相手は俺がしてやるっす!」
 ここで饗へと注意が向けば、浪人の動きは阻害される。ならば、それによって活路を見出す者もいるだろう。
 駆け下りていった四人に向くはずだった刃は、まさに今、饗へと向けられているではないか。
「貴様、羅刹の里の者か」
「だったらどうだっていうっすか」
「すべからく、斬る」
「できるものならやってみるっす」
 走り込む。泥濘に足をとられる。否、そうなることを見越しての足払い。泥水を撥ね上げて倒れ込んだ浪人は、体勢を崩しながらも無理やり抜刀――饗へとその刃を奔らせる。
「ぐうッ!?」 
 【姿なき凶手】が、饗を斬りつけかけた浪人の脚を撫でる――無慈悲に男の脚を撃ち抜いた。
「何奴!」
 突然の発砲に騒然となった浪人どもは、一斉に抜刀し構える。
 異常事態に身構える、傷ついた浪人は動かない、かわりに男の後ろから躍り出てくる男、正眼に構えられた刀は鋭い突きを繰り、饗の喉を貫こうと迫る――ところまで、視えた。
 どのような剣筋で迫ってくるかが分かっているのだ。
 苦無が刀を薙ぎ上げた。激しい金属音が刹那に鳴り合って、饗は懐へと鋭く踏み込む。体勢を崩された浪人だったが、瞬時に跳び退り、饗との間合いを取ろうとすれども、その足首へと剛糸が巻き付いた。
「なにッ!?」
「逃がさないっす!」
 引き倒して、迫りくる別の浪人へと投げつけた。団子になって転げる二人を黒瞳に映し続ける。
 その視線すら罠にして、降りしきる雨に紛れさせた剛糸は、饗を狙い来る三本目の刀を封じ込める。
「くっ!」
 手首、腕、首――ぎりぎりと肌を食い破るように剛糸は男を絞める。
「里の命に触れさせはしないっす」
 雨丞という護手の筆頭の存在は、あの里にとってひとつの柱のような存在なのだろう。それが今倒されようとしているのだ。
 防がねばならない。それだけは、なんとしてもだ。
 剛糸で雁字搦めになった浪人の額が撃ち抜かれる。
「どこに隠れておる!」
「不意打ちとは非道なり!」
「卑怯なりし! 姿を見せい!」
 激しく強い風雨の中、シャルロットの居場所は掴めない。騒然となる浪人どもに律儀に応えてやる気はさらさらない。
 睫毛を一度下ろしただけで、物音ひとつ立てない。
 どの口が、シャルロットを卑怯者呼ばわりするというのか、片腹痛い。
 ここは戦場だ。しかも、仕掛けてきたのはそちらだろう。
(「あなた方の将も、姿を見せず、こそこそしているじゃないですか」)
 命を賭した死線だ。状況、技術、経験――すべてを出し切って「生きる」ための時間だ。
 弱ければ死ぬ。そこに武士道や、騎士道はいらない。
(「知らぬまま逝ける方が幸福でしょうよ」)
 シャルロットの無慈悲な狙撃で、浪人の肩を落とした。
 彼女が戦場をざわつかせる。その混乱は、饗にとって好都合だった。苦無を手に駆ける。斬りつけた傷から迸る血潮を浴びる。薙がれた横一閃の剣先が、饗の腕を斬りつけた。痛みよりも衝撃が勝る――否、それすらも罠。
「好きなだけ斬ればいいっす」
 少し先の未来を見据える饗にだけ視えている。今受けたこの傷は「最も浅いもの」だ。
「俺も好きなだけ斬ってやるっす」
 彼の挑発に乗るほど浪人は冷静さを欠いてはいいないようだったが、浴びた血が燃え始める。
 雨では消えない炎だが、これも覚悟してきた。
 振り下ろされる刀を弾く、泥濘に足を滑らせて浪人の剣閃を凌ぐ、苦無を擲つ――それを躱した先に饗の張った剛糸があるだろう、そらみろ、体勢を崩した。
 鎮まらない炎熱に唸れども、剛糸に絞め上げられた男は、苦悶の慟哭を短く上げて、事切れる。炎が熄んだ――瞬間、ひょうっと甲高い音が空を裂いた。
 寸でのところで、剛糸を繰り射られた矢を凌ぐ。浪人に遺る血飛沫を浴びれども、それが燃え上がることはなかった。
(「あちらか!」)
 シャルロットの青眼が、矢の軌道を読み、今川の潜伏するであろうポイントを探す。
 しかし、今の一射だけではいけない。
(「……どこに隠れているんですか」)
 葉の間から、雨と風に邪魔されながらも、目を凝らす――瞬間、ひょうっと鋭い矢が空を切る。
 天高く上って、落ちる――落下先は、大本。


「雨の山中か……」
 雨足は強いままだ。加えてこの寒さと強風――雪にならないのが不思議なほどだ。
 白い息を吐きながらトーゴらは浪人の間を縫うように走る。
 一直線に、雨丞の元へと驀地に駆ける。
 狐珀は泥水を蹴り上げながらも急ぎ、主人と並走する白と黒の狐たちを一瞥。そうして、空を翔る月代の姿を捉える――大切な者たちだ。狐珀にもある。誰にでもあるだろう。
 雨丞にとって、それはきっと里だ。己の命を賭して護ろうとしたものだろう。たった一人で押し止めようとした。
(「一人じゃ、とても……限度ってもんがある」)
 雨で張り付く赤髪はそのままにトーゴの赤眼は炯々と尖った。いくら地の利があろうとも、多対一の恐怖はひたりと背に張り付くだろう。
 幾手にも分かれるのは必至の状況だ。天秤にかけることの難しさは――されど、無きに等しい。
 里に残った歴戦の猟兵たちを信じるだけだ。彼らとて、雨丞の助太刀はそちらに任すと言っていた。
 なればこそ、狐珀は傷を負ったと報された雨丞の救援を優先する――彼が討たれては、里の士気に関わるのだろう。なにがなんでも助けなければならない。
「ウカ、ウケ。雨丞殿が心配です、急ぎますよ! 月代も!」
 仔竜は玲瓏に甲高く鳴いた。
 押し寄せる軍勢を食い止めるために里に残った方が良かったか――と過らないわけではない。
(「猟兵でありながら、羅刹でありながら、ここで戦わない選択肢なんてあり得ない」)
 雨丞は、浪人――それも、ただの男ではなく、滲出したかつての血肉の塊――を相手に、負傷しながら立ち回る。仕留めの矢を受けている。それでも戦意を失わない。
 そんな人を死なせるわけにはいかない。純粋に称賛する望月は、今一度、決意を固める。
 《無銘刀》を抜いて駆け抜ける。忍装束の闇を纏って、疾駆。泥水を撥ねようが構いはしない。
 一刻も早く、孤軍奮闘する雨丞の元へ。
 ふっと吐息――ずぶ濡れの銀髪の奥に、赤瞳が燃える。
「ダイウルゴス! きてください、私もいきます!」
 《ダイウルゴス》の彫像を無数に召喚し、その身を装甲で覆いゆくナイは、大きく、更に大きく、木々の中にあって、悪目立ちを始める。否、これでいい。
 ナイの力が細部にまで伝播するダイウルゴスだ。一歩を踏み出すだけで地を揺るがし、装甲の隙間から放たれる光を推進力に変えて、いち早く山を駆け下りた。
 動くだけで圧殺させられる重量だ。その衝撃で、大地は震え上がる。そうして、なによりも背が高くなる――大いに目立つナイは、それすら覚悟の上だった。
(「私に矢が射られれば、その分みんなが無事でいい」)
 見えたのは、浪人どもがにじり寄る一角――そこにナイは容赦なく突っ込んでいく。一等大きく大地を揺るがす。雨に濡れる常緑の葉から一斉に雨水が落ちて、驟雨となった。
 その瞬間に合わせたかのように、仕留めの矢が放たれる。横風に負けないのは、射手の力が強く宿っているからだろう。
 無数の彫像を合体させた装甲だ――その矢が一本当たって貫き砕いたところで――そうして、万一ナイの体まで到達したところで、この肉体は仮初めのものだ。本体が無事である限り、何度でも蘇る。死には繋がらないし、こんなものでナイを止めることはできない。
「止まって、いられ、ない!」
 装甲に刺さった仕留めの矢を握りつぶす。腹の装甲だ――大きく損傷すれども、今すぐ止まってしまうことはない。
「加勢に、きました!」
 激震の中、ナイは彫像の装甲を解く。
 そうして生身を晒して、雨丞を見据えた。金瞳を大きく瞠って、声を凍らせ驚く彼にひとつ頷く。
「まだ戦える、ですね? 一緒に、戦いましょう!」
 ふにゃりと人懐こく笑んで、【光の加護】を発揮させる。ナイの聖性が収斂した光は、否応がなく心を奮い立たせる。
 雨丞の斬られた傷も癒えてゆく――彼の覚悟に共鳴するように、雨丞の心に火をつける。
「里の心配はいりません。私たちの仲間と、護手のみなさんが戦っています」
 ナイの言葉には、活力になる。雨丞の疲弊を癒す。
「雨丞殿の帰りを待つ方がいます。諦めないでください――あのような戯れ言に耳を貸す必要はありません。誰一人、義元の手駒にはさせませんよ!」
 狐珀の力強い言葉に、雨丞は息を飲み、しっかと頷いた。
「立てますか。新しい、剣は、ありませんが、」
「ああ、心配無用だ。それよりも、助かった」
「はい! では、いきましょう!」
 ナイの言葉で、彼は地を踏む。

 ◇

「ウケ、御神矢の雨を!」
 浄化の力を込めた無数の矢を浪人どもへと浴びせろ――狐珀の言葉の通りに、白狐に宿る近衛兵たちの魂を喚び覚ます。
 すべてを浄化する聖なる矢の雨は、今、山を凍らせんとする飛雨よりも容赦がない。
 己の身が泥塗れになるのも厭わず、地を転げて致命傷を避ける。血を流しながらも浪人は、抜き放つ刀と体捌きで矢雨を凌ぎ始め――狐珀は濃紺の双眸を、黒狐へと滑らせた。
 その身に内包された魂を――四神の力を喚び起こす。
「ウカ、今です、追い打ちを! 解き放て!」
 命は下った。黒狐の鋭い視線は浪人を捉え続ける。
 神剣が空中を奔る。触れられてもいない剣は、まっすぐに矢雨を凌ぐ浪人の心臓を刺し貫く。どうっと仰向けに斃れた男の上を、月代がひゅうっと翔る。
「ありがとう、月代」
 狐珀の術を後押しする風が吹く。
 どこから射られるか判然としない今川義元の仕留めの矢――それの勢いを削ぐことができれば、あるいは。
(「雨丞殿も、貴方達も、穿たせません」)
 堅牢な結界を練り上げていく。狐珀の聖性が織り込まれていく。
 張り巡らされた結界の中、刀を抜いて構えた浪人へクナイを擲つ――持ち手に縄を括り付けた刃は、分銅の役目を果たし、手足の自由を奪う。素早く引き倒して、生じた隙を見逃さず、トーゴは、未だふらつく雨丞を背に庇う。
「羅刹に因縁つける連中に絡まれてんだろ? オレも同族」
 よく見えるように、トーゴが額の羅刹角を見せる。
「微力ながら、助太刀するよ」
「同じ羅刹のよしみだ。わたしも力になる」
 言って、望月は雨丞を背にして、浪人との間に体を滑り込ませた。手には頑丈な《無銘刀》が握られている。それは次第に、みっつよっつと姿を増やしていく。やがて――百に満たなくとも、夥しい刃の群れと成す。
 そのすべてに彼女の意志が宿る。よろめく雨丞を守るように展開させて、その実、浪人の目を欺くように巡らせる。
 望月と対峙する浪人との間合いの詰め合い――息の詰まる攻防だが、望月の一閃は鋭く疾く浪人を傷つける。
「くうっ! ぬうぅ……!」
 獣の唸るような低い声が喉から絞り出される。その傷を押して、浪人は一足跳びに無合いに持ち込む――望月の刃は、男の肩へと突き刺さる。
「しまっ……」
 声を上げたときには、すでに血は燃える。剣を伝う血糊も、頬を染めた血飛沫も、炎熱を撒き散らす。
 しかし、望月が纏うのは焔だけではない。冷たくもある雨だ。全身がずぶ濡れている。水を操るに、これほど適した環境はない。
 素早く消火。ひりつく肌に、雨粒が痛い。
「おなごの顔を焼くか、外道め!」
 手負いの雨丞が激烈に怒る。彼は折れた刀を構えて、肩を貫かれた浪人へと斬りかかる。
「待て、雨丞どの!」
 トーゴは慌てて雨丞を引き倒し、樹の根元へと押し戻した。トーゴの耳が、僅かな違和感を聞き取って、赤瞳が見つめる虚空。
「なにをするか!」
「死にたいのか――ちょっと、大人しくしてな」
「しかし!」
 雨丞の金瞳が瞠られる。
 《無銘刀》が望月の体の前にずらりと並び、間断なく廻る壁となる。複製された刀の頑健さは、オリジナルと比べても劣らない。
 必中の今川の仕留めの矢に対して、どこまでやれるかは判らない――否、やらねばこちらが斃される。
「――刃圏拡大」
 口の中でぼそりと呟く。先刻、ナイの装甲が射抜かれた瞬間を見た。その軌跡は覚えている。
 ひょうっ――
 風雨を切り裂く音が耳に新鮮だった。
 望月を射抜かんと放たれた矢を目視、狐珀の張った結界の一層目はずぶりと貫かれ、二層目は見事に砕かれ、月代の生み出した風の防壁は霧散――勢いは僅かに衰えれども、受ける他ない矢は、《無銘刀》の一つに突き刺さった。射砕き、千々に斬り刻まれた。すべての刃に望月の意志が宿っているのだ。一瞬でも止めることができたなら、それは、矢の隙だ。
 望月は息を吐いた。冷たい空気に晒されて、もわりと白く濁った。
「あー、わりかったな、泥塗れにさせた」
 言いながらトーゴは、雨丞を一瞥――驚きに言葉を失っているようだった。
「大丈夫、です?」
 彼を見上げるナイの声に、はっとして何度も頷く。そうして、折れた刀を構え直し、拳を固めた。
 それを見届け、素早く体を返す――トーゴから擲たれる数々の暗器が、浪人の体に細かな傷を刻み付ける。
 肌が裂け血は流れる。されど襲い来る痛みが来ない。怪訝に眉を寄せた男はトーゴをねめつけた。
「面妖な術ばかり使いよって――いま、……そ、はっ」
 上体がぐらりと大きく傾いだ。どさりと泥濘に倒れ伏す。
「どーした、おっさん。些細な、かすり傷だろ?」
 泥濘の中に仕込まれた撒菱がその身に突き刺さるのだろう、苦悶に喘ぐ。その痛みはのたうつほどに体を侵し、男をさらに焦燥させる。
 師ほど上手く毒を使いこなせずとも、トーゴの毒牙は男を蝕んだ。三半規管が侵されればまっすぐ立つこともままならない。歩行は困難を極め、容易に転倒する。
「くそ、くそが! ……ふふ、いい気になるなよ羅刹! 我が同胞が貴様の里を焼き払うぞ。このようなところで、我らと遊んでいて良いのか」
「――姑息な」
 奥歯がぎりっと鳴った音がトーゴに耳に届く。
 雨丞はのたうつ浪人の喉へ、折れた刀を突き立てた。
「斬る」
「覚悟いたせ」
 いつの間にやら増えていた浪人へ、望月の《無銘刀》が振り下ろされ、月代の衝撃波が凍てる空気を掻き混ぜて、そうしてトーゴの暗器は男どもの自由を奪う。戦地を駆けるトーゴに背後を許した浪人の首が掻き斬られた。
「――っ!」
 烈気を噴く雨丞。
「援護は、任せて、です!」
 ナイの言葉は彼の心を奮い立たせる。護るという矜持は覚悟を纏い、強く烈しく燃えた。


 静寂は訪れない。
 冬の凍える山は、強い寒風に煽られ、いよいよ氷が混じり始めた雨に打たれ続ける。
 雨丞は瞠目する。あの手練れを、この子たちの加勢で捻じ伏せたのだ。
 自然と笑いが込み上げる。歓喜と驚嘆と、僅かな嫉妬と、惜しみない称賛だ。
 礼を言いかけた口が凍る。
 視界の端に、光が奔った。
 次いで、先刻も聞いた、空を裂く音。あの矢だ――アレが、射られた。
「戻りましょう、やるべきことは、まだ、」
「ええ、里へ」
 ナイの言葉に、望月は首肯し、三人も肯いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

護堂・結城
清々しいほど外道で結構
外道狩り、始めるぞ

【POW】

「手を貸すから知識をくれ」

羅刹と協力して周辺の地形を把握し【地形の利用】できる場所を選ぶ
さぁ楽しい楽しい乱戦だ!

「氷牙、吹雪、背後任せる」

死角の敵にはお供竜の歌に【衝撃波】をのせ【吹き飛ばし】つつ
自分も近くの浪人を【怪力】で他の奴に投げつける【投擲】
返り血と共に反撃する速さは脅威だが、超近接限定だしな

「てめえの土俵に立つ気はねぇ」
「潰せ、黒き鳳」

緑月を抜刀しUCを発動、周囲の敵に超重力をかける【範囲・重量攻撃】
追撃に緑月から雷の【属性攻撃・誘導弾】を放つ【乱れ撃ち】でトドメだ

「星の鎖に繋がれて、地獄の底まで堕ちていけ!!」




「俺も手を貸そう」
 大本に立ち、代わりに羅刹の知を要求し、護堂・結城(雪見九尾・f00944)は名乗った。
「外道を狩りに来た」
 銀糸のごとき長い髪も、その中でぴくりと動く狐の耳も、左右で違う彩の眼も、褐色の頬に刻み込まれた獰猛な笑みも――激しい雨に濡れていく。乾いている部分なんぞ最初からなかったかのように、急速に雨を吸っていく。
「俺の間合いは広い――里まで近づけさせずに食い止められるならそれに越したこともない、あるか?」
「ああ」
 霧生の視線は、先に駆け下りていった猟兵たちの背を映す。
「やっぱり下か」
 無愛想な羅刹は、雨水で張り付く赤髪を後ろに撫でつけ、首肯。
「無理に食い止める必要はない。俺たちの里だ。俺たちで護る」
「はッ、もちろんだ! おんぶにだっこは辛い! 討ち漏らしたら、里まで上がってくるだろう? そんときは、護手の出番だ」
 大層な槍を構える篠に、笑む。彼には霧生のような羅刹角がない。事情は知らないし、結城の興味は迫りくる外道にのみ絞られた。
「氷牙ッ、吹雪ッ」
 お供竜の名を呼び、驀地に駆け出す。
「さぁ楽しい楽しい乱戦だ!」
 主人に呼応するように、吹雪は一鳴き。雨足は弱まらない。

 ◇

 大きな岩がを迂回するように拓かれた道――そこが、暴れるに一等適している。
 そこに駆け込む結城の眼には、赤い梅鉢紋を背負った男と、彼と間合いを取る浪人の群れ――時折、狙い澄ました狙撃が浪人を撃ち抜く。
 それでも数は多い。
 多勢に無勢とはまさにこのことか。それでも打開せねば、人が死ぬ。
 結城は鋭く笑声を上げて、咆哮する。
「清々しいほど外道で結構」
 それでこそ狩り甲斐があるというもの。
「氷牙、吹雪、背後任せる! 気張れよ!」
 嫉妬の銘を冠した《緑月の尾》を抜刀――凍雨に濡れる刀が真横に薙がれる。
 白竜の放つ不思議な音色が山路に響く。木々を揺する音撃は、浪人どもを退かせる。
 それを気概で吹き飛ばし、結城へと凶刃を向ける浪人が一人。振り下ろされる刀を《緑月》で力任せに弾き飛ばし、開いた胸倉を掴み上げる。
「それがてめえの意地だかなんだか知らねぇが、てめえの土俵に立つ気はねぇ」
 膂力に任せて、男を投げ飛ばす。刀を振り上げていた浪人を巻き込んで、もんどりうって倒れていく。
「ぐあっ」
「儂の邪魔をするな!」
「致し方なし!」
 些細ないざこざも、吹雪の歌の波動を受けて、押し黙る。
 返り血と共に反撃する速さは、なるほど脅威になりうるが、それも超接近している時に限られる。
 わざと斬られにくるならば、斬ってやらず。物理的に距離を取ってしまうだけだ。
「氷牙!」
 黒竜の名を叫んだ。
 抜き身の刀身が、氷牙の翼で打たれた風を纏う。

「潰せ、黒き鳳」

 結城の肩に降り立った氷牙の翼が二度三度と、羽ばたいて、結城の総身は黒翼に覆われる。
 結城はその場に縫い留められてしまえども、生じた重圧は、浪人どもに足枷をつけた。
「なんだ、刀が、重い……!」
 がらん、がしゃんっと刀を落とした。そのまま地に這いつくばる。
 赤い方の瞳を眇めて、獰猛に笑う。
「お似合いだな、外道」
 吐き棄てる。正眼に構えたままの刀が雷光を放つ。ばちばちと、閃光。満開に咲き乱れる雷花が、重力に逆らえず地に這う浪人どもへと解き放たれる。
「星の鎖に繋がれて、地獄の底まで堕ちていけ!!」
 炸裂した雷撃――山を揺るがすその激震の中、結城の眼の端に、突如として現れたのは、研ぎ澄まされた鏃。
 瞬間、吹雪の音撃、氷牙の黒翼が結城を守る――あらゆる衝撃を、ほぼ防ぐ【黒天鳳奏】だが、必中の仕留めの矢に翼を砕かれた。
 瓦解していく装甲――その衝撃に咳き込んで、続く発砲音――それすらもとともせず、仲間の屍を踏み越えながら、男どもは野太い吶喊を上げる。
「くっ!」
 数は減らした。
 今、雨に打たれ、放置された浪人の屍の数もさることながら、それを越えていく男どもは。
「死して屍拾う者なし――」
「外道がァ!!」
 鳳奏が解けた結城は、お供竜の名を叫び、《緑月》は抜いたままに、駆ける浪人どもを追う。

成功 🔵​🔵​🔴​

リゼ・フランメ
【剣旋】
◆心情
アネットとは初めての連携と共闘ね
不安などなく信じているわ
信頼と思いに背く人ではないと、知っているから

罪なき民を救う為
私は今、夢に燃えるこの剣を振えばいいのだとも


◆戦闘
郷の人に見晴らしと足場のよい場所を聞いてそこで迎撃

まずは私がUC使用
高速飛翔を以て、切り込むわ
劫火剣には破魔と焼却で炎を宿し、速度を乗せた斬撃にて
縦横無尽に翔ける剣舞として斬り抜ける

発生する敵の反撃を潰すのはアネットに任せ
その為に彼の流水戟の間合いからは離れず

「常に駆ける刃、必ず辿り着く武人の剣、ね」
理想へと駆ける私と、強さを追うアネット
二つの刃の元に、断てぬものはない

矢はオーラ防御を乗せた戦蝶の風雅を身に纏って防御


アネット・レインフォール
【剣旋】

▼静
さて…リゼと連携するのは初だな。
過剰な評価を頂いている気もするが
今回は互いの手を知る機会となれば…と言った所か

リゼの技量に疑いは無い。
だが、飛翔中は恰好の的となる気もする。
ここは一つ保険をかけておくか

救助に動きたい思いもあるが
里を蔑ろにする訳にもいかないしな

▼動
予め里の者に開けた足場の良い場所を聞き誘導を頼む。
葬剣は鎖帷子にし防御策としてコート下に

接敵時は戦場全体に結界術を2~3重に展開し
矢の察知と時間稼ぎに利用

主軸は霽刀と式刀。
リゼの攻撃に合わせ【流水戟】で高速戦を仕掛け
早業と貫通攻撃で反撃ごと両断する形で掃討を行う

矢は皎剣の刀身を使いUCで叩き落とすか
暗糸を念動力で操り絡ませる




「見晴らしがよくて、足場が良い?――この雨でか?」
「出来れば、でいいわ。そこで迎撃する」
 リゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)は霧生と話すが、彼は、大槍を構える篠と目を合わせ、
「この里だ」
 リゼは僅かに眉を動かす。
 双眸をぐるりと巡らせても、里には高い建物はない。屋根に乗ることは可能になるだろうが、それでは足場は悪くなる。踏ん張りが利くとなれば、地だ。
 視線は低いが、山路を駆け上ってくる浪人どもを見渡せる。
 アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は、口の中で「そうか」と呟いた。コートの下に仕込んだ《葬剣》は、これからの迎撃戦に備えて鎖帷子にしてある。
 先刻、共に大本へと転移した猟兵たちは雨丞の元へ、そうして軍勢の数を減らしに駆け下りていった。
 彼らと共に雨丞の救助に動きたいと、足の指先は疼けども、戦力が偏るわけにはいかない。浪人どもの多くは、今、里まで繋がる山道を進んできている。
「では、ここで迎え討ちましょう――罪なき民を救う為」
「ああ、里を蔑ろにする訳にもいかないしな」
 アネットは、雨でけぶる里へと黒瞳を巡らせる。民はいない。家に隠れているのだ。外で雨に打たれるのは、護手と猟兵のみだ。
「……そうだ、伝えておくわ、アネット」
 リゼはちらと彼を流し見る。
「初めての連携と共闘になるけど、不安などなく信じているわ」
「……なにを急に」
「言っておかないといけない気がして」
「過剰な評価を頂いている気もするが……まあ、今回は互いの手を知る機会となれば……といったところか」
「観察するのかしら?」
「まあ、状況によっては?」
「だとしても、あなたは信頼と思いに背く人ではないでしょう? 私、知っているわ」
「やはり、過大評価しているようだが……」
 苦笑を一つ。アネットとて、リゼの技量に疑うところはない。気概、器量、技術――今回、初めての共闘とはいえ、彼女に不安はひとつとてない。
 しかし。
(「さすがに飛行中は恰好の的となる気もするからな……保険をかけておいてもいいだろう」)
 そう易々とリゼを穿たれるわけにはいかない。

 ◇

 その野太い吶喊は唐突というには、ゆっくりと――次第に大きく、うねりを伴って里へと雪崩れ込んできた。
 白き天使へと変じたリゼが、【熾天使の舞踏】を踏む。雨とともに純白の羽が降り注ぐ。
 不躾に侵入してきた浪人どもの姿を確認、アネットは結界術にて防壁を展開――練り上げられた術式は緻密で濃密な堅壁と成り、二重、三重と折り重なる。
 そろりと、細く長く吐息。
(「今川の矢の察知に使えるだろうか――僅かでも時間稼ぎになればいい」)
 煌く傘の下にあっても、雨と共に降りくる白い羽を踏んだ浪人どもの脚が燃え上がる。しかし弱い。降り続ける雨がその炎を更に弱める。
 だからどうした。リゼの手には、《劫火剣》――聖なる破魔の煉獄が宿る白き長剣が燃える。
 翔るだけではない、この猛スピードとともに放たれる剣閃でもって、浪人を斬る。
 リゼは今、夢に燃えるこの剣を振えばいいのだ。さすれば、この里を脅威から救うことができる。
 縦横無尽に翔る剣舞に翻弄され、返り血と共に放たれるはずの浪人の剣撃すら、一瞬後には届かない。
 それだけではない。リゼが舞うに合わせて、アネットの《霽刀》の青の漣が寄せる大波となる【流水戟】の淀みない斬撃は、リゼへ返す剣のことごとくを打ち弾いていく。それだけにとどまらず、焔の波紋が揺らめく大太刀が、足元の発火に慌てる浪人を斬り捨てる。
「常に駆ける刃、必ず辿り着く武人の剣、ね」
 止まることをしらないアネットの剣の閃きは、豪雨をも切り裂いて、浪人と丁々発止を繰り広げる。
(「理想へと駆ける私と、強さを追うアネット――私たちの繰る刃の元に、断てぬものはない」)
 凄まじい剣閃の応酬が繰り広げられる。
 空から奔る焔の刃、地を這うように飲み込む流水の剣。
 二人の剣鬼たる奮闘に、思わず距離を置いた傷まみれの浪人の腹に、突然、槍が生えた。
「なっ」
「出ていかねえンなら、屠るだけだ」
 篠の大槍が浪人を刺突し、息の根を止めてしまった。
「いいぞ篠! 討ち漏らすなよ!」
 叫んだ霧生の言葉に、返す篠の力強さ――アネットはこくりと頷く。致命傷となりうる深い傷を負わせば、逃げられても里の護手の援護がある。
 リゼの落とした羽根の罠は、あちらこちらで炎上する――くるりと《劫火剣》を回し、空を切る。薙がれた雨は蒸発して霧散して。
 浪人の視界からリゼが消えたことだろう。
 超高速の衝撃を乗せた斬撃を放つ寸前、はっと息を飲む。
 リゼの紅玉のごとき双眼が、雨雲犇めく空を撫でた――くる。仕留めの矢がくる。
 アネットの結界がある。これを破ってくることを想定しておかなければならない。でなければ準備に遅れが生じるだろう。
 鏃は、まっすぐにリゼを狙っている。
「来るぞ、リゼ!」
「ええ!」
 短く確認を取り合えば、リゼはその身に優雅に煌く焔の蝶を纏わせる。
 いかな戦場にいようとも、リゼの色褪せぬ想いは鱗粉を散らして燃え上がり、オーラとなって纏繞されていく。
 刹那、鏃はアネットの張り巡らせた結界に衝突――激しく光を発し、砕ける結界――三重に張った堅牢な結界だったが、全てが一瞬で砕け散る。
 だが、その一瞬があった。
 必中の矢を無理やり押し付けられたリゼに、防御を固める時間を。
 アネットの意志が満遍なく通う極黒の《暗糸》を、矢に絡みつくように射出する時間を。
 結界は捻出した。
 万端だ。
 《暗糸》によって更に勢いを殺された仕留めの矢は、リゼの纏う煌く焔に触れてごおっと燃えた。
「――余所見をするとは、感心せんな」
 耳を打つ、冷たい男の声。アネットの黒瞳が、声の主を映す。直後、奔る銀の剣閃。アネットの手はその剣を弾き、男を斬りつけていた。繁吹く鮮血と共に、浪人の矜持は意地となって、アネットの腹を斬らんと振られた。
「それでも俺は、倒れはしない」
 《霽刀》が閃く。斬られたコートの下にあるのは、形を変えた《葬剣》の鎖帷子。
 見開かれた浪人の眼が、凄絶な剣閃を見つめて光を失っていく。どうっと斃れていく姿を見届け――雨に氷が混じり始める。
「また――」
 リゼの声は、激しくなった雨音に圧し潰されども。
 無慈悲に放たれた必中の矢は、リゼとアネットを飛び越えて奔った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

陽向・理玖
里で迎撃

武田ね
人を大切にしてた将が羅刹を駒のように…
所詮オブリビオン
いや単なる憑装か

好きにはさせねぇ
覚悟決め

龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
飛べば雨も関係ねぇ
UC起動
衝撃波飛ばし残像纏いダッシュで間合い詰めグラップル
拳で殴る

迎撃し易い場所矢を受け難い場所羅刹に問い
地の利はあんた達にある
戦い易い場所でやろうぜ
撃ち漏らしは任せる
協力し倒す

敵の攻撃よく見て見切り
返り血は衝撃波で吹き飛ばし
間に合わぬ時はジャストガードで瞬時にオーラ防御
多少の炎は火炎耐性
矢も見切り間に合わなければ激痛耐性
痛み無視
加速し更に踏み込み武器受け
力込め部位破壊で刀壊す
そんなに血流しといて
受け切れると思うな
拳の乱れ撃ち




 いよいよ雨に氷が混じり始める。
「篠! 討ち漏らすな!」
「はい!」
「霧生様! 俺も戦います! ご指示を!」
「よく言った晴太! しかしお前にはもう一仕事頼みたい! 菊に! 菊に備えろと!」
 正面から来た軍勢――すべての戦力をこの一点において、進んでくるか――判然としない今、気を緩ませるわけにはいかない。
「菊様のところへ、行って参ります!」
「ああ、晴太! それから、あれの側でいろ! 菊の側にいて、学べ!」
「承知!」
 返事をするや否や、晴太は息を飲んだ。
 ひょうっ――
 肩で息をしていた晴太が、喘ぐように呼吸を取り戻す。その音を聞いたとき、これから向かう先の里際の情景が浮かんだ。
「菊様ァ!」
 駆けながら晴太は声を張り上げる。瞬間、背を押された――否、雨粒を巻き上げて、空気の塊となった風が、晴太の背後で生まれて、それが打ち出された――いや、駆け抜けた。
 泥濘に倒れ込んで泥に塗れた晴太の赤瞳に映ったのは、一人の男の背。


 龍珠を弾く。ドライバーへセット、その身に漲るのは、義勇の炎。
「変身ッ」
 虹色の光は陽向・理玖(夏疾風・ff22773)を包む。
 爆発的に跳ね上がる瞬発力――無理やりに四肢のリミットを打ち壊して地を蹴る。
 ふざけるな。
 空を飛翔する矢の行き先は、理玖の元でも、霧生たちの側で戦う猟兵の元でもない。
 誰を仕留める気だ――怒りが力へと変換されていくのを感じる。
 晴太の背を一瞬で追い抜き、一呼吸のままに地を蹴って跳び上がり見れば、羅刹たちが濃い緑の畝の前で警戒心を剥き出して、山に向け得物を構えている――戦うことを知らない、突然戦火に巻かれた人たちだ。
(「やらせて、たまるか!」)
 渾身の力を込めた拳を硬め、吹き飛ばす――衝撃波を放てども靡かない。負傷は覚悟の上だ。更に加速、鏃の前に理玖は手を咄嗟に伸ばす。
 それでも急所は外させる。《龍掌》へと当たり、凄まじい衝撃は四肢に突き抜けるようで、瞬時に思考を支配した激痛に、気合で耐え抜く。痛みをなかったことにしようと思い込もうと、鋭く息を吐く。
 とんっ、と着地。足元には濡れた万年青の濃緑の葉――踏みつけてしまったが、今この一瞬はそれを気にしてやる余裕はない。
「好きにはさせねぇ」
 ぼつりと呟けば――里の際の低木を揺らして、浪人どもが現れた。
「貴様は羅刹ではないな。何奴」
「関係ないだろ」
「ふん。それもそうか、童――我らの邪魔立てをするならば斬る」
「そこな羅刹に用がある」
「俺だってあんたらに用がある」
「儂らにはあらず。羅刹を斬るのみ、去れ童」
 理玖の青瞳が細く尖る。人を大切にしていた将が羅刹をまるで駒のように扱うその姿が、無性に腹立たしくもあれど――所詮はオブリビオン。否、それは単なる奇妙な術式たる憑装か。
「……たとえ、武田であっても……」
 罪なき民まで斬るという宣言は、到底聞き逃せるものではない。
 左手の痛みはまだ消えないが、それでも覚悟を決め、両の拳を握り、退かぬことを言外に叫ぶ。
 それに気づかぬ浪人ではない。
 すらりと抜刀する男ども、その全ての切っ先が理玖を向いた。今にも斬りかかってきそうな気迫の中、
「地の利はあんた達にある! 戦い易い場所でやろうぜ、あるか?」
 拳を固めながら、理玖が背に守る羅刹に問う――先の矢の威力は見ただろう。あれを受けにくいような場所で、この人数をいっぺんに相手せずに済みそうなところは――
「ないな。山の中に入ってしまえば、判らんが。この浪人どもにも隠れる場を与えることになるだろうて!」
 厳然たる女が、口惜し気に怒鳴る。
「先の矢はなんだ、どこから放たれた」
「わかんねぇ、けど、あれが一番厄介だ」
 あの仕留めの矢は、必ず命中するように射られる。
「おしゃべりはあの世で楽しむことだ、童」
「わっぱ、わっぱってな……人を見た目で判断すると、痛い目みるぞ」
 【閃光烈破】が炸裂する。
 繰り出される連打を、わざと受けた男の返り血がかかる瞬間に打ち込む拳に衝撃波をのせて、底上げされた拳打は血を吹き飛ばし、さらなるラッシュはとどまることを知らず、それでも閃く剣を《龍掌》で受け砕く。衝撃は肩へと突き刺さる。されど意に介することもなく、理玖の拳撃はその男を沈めるまで続いた。
「撃ち漏らしは任せる!」
 浪人一人にこれほど力を使うなら、彼女らの手を借りることも視野に入れずにはいられない。
 羅刹の女は、鬨の声を上げる。それは、男たちにも伝わって、大きなうねりとなる。
 流れを淀ませるわけにはいかない。理玖は更なる敵へと挑みかかる。一発目は、簡単に入る――当たり前だ。だからその一発で、どれほど揺さぶるかだ。
 頬を殴りつければ、返り血を浴びた。瞬間、返される刀が迫りくる――判ってはいても見切り躱すタイミングが遅れれば、切っ先は理玖の頬を裂いた。
「上手く躱したな」
 それを褒められたところで、理玖に応えてやるつもりはない。
 一時的に、理玖の体は制御を忘れる。己の身が壊れないように制御される力は、機能を忘れる。
 烈声。咆哮。渾身の力が込められた、重く速く凄絶な拳打が、理玖の頬を裂いた刀へと放たれる。びしびしっと罅が入り、木っ端に砕けた刀は、鍔も落ち、柄すら砕けかかって、男は呆然となる。
「なんたる力……!」
 刀を砕かれて蒼惶と驚く男は、濃緑の上にぼたりと血を落とした。
「そんなに血流しといて、受け切れると思うな」
 激痛に喘ごうが、理玖は容赦しない。
 これを見逃せば、羅刹であるというだけで、襲われた彼らを助けることは出来ない。
 男が骸の海へと還るまで、理玖の拳の乱撃は止まらなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​



「菊様!」
 晴太の声が響く。
 ようよう追いついた。浪人相手に小太刀を振るう菊の形相に、晴太の血の気は引いていく。
 その姿、まさに鬼。万緑の叢の中にある柘榴が如き姿であっても、彼女の身に宿るは烈火の猛毒。
 菊の戦うさまを見て学べと言われたが、これは到底真似できるものではない。
 しかし、彼女は雨でぐしょ濡れになりながら、血を浴び、また血を流し戦う。
 傷を負って、なお立つ男へ一切の容赦を捨てた刺突――菊の小太刀が胸を穿った。
 燃え上がるような赤い髪は結い上げ、その間から生える黒曜石の角は無骨に五本、秀でた額に雨粒が流れ落ちていく。ぎらりと炯る金色の双眼は、この上なく好戦的。彼女の褐色の頬に、それを隠しきれない獣じみた笑みが刻まれる。
 紅は既に落ちても唇は未だ赤く、濃紅の綾襷でたくし上げられた赤い袖の着物、股立を取った赤黒い袴――黒い足袋は泥水でぐしょ濡れている。
 紅の鼻緒の草履はなおさらな有様で、その下に繁るのは濃緑の万年青の葉。
「おう晴太! 尻尾を巻いて逃げたかと思ったが、ははっ! 来たか!」
 赤い鬼人は笑う。
「霧生様に、菊様のお側にいろと、貴女様を見て学べと!」
「はっ! なら見とけ!」
 菊は、総身から烈気を噴き、血振るい。素早く納刀――腰を落とし、今にも抜き放ち両断せんと浪人を睨み据えた。
ヴィクティム・ウィンターミュート
【冬と凪】

やれやれ、どこもかしこも妙に気張る奴が多いな
特にクルセイダーと無能な仲間たちは、能無しなくせにやる気ばかりある
匡、今川の矢はお前に任せる
撃ち落とすのを期待しても構わんだろ?

ステルス【迷彩】で隠れるとしよう
この雨、この風…そして浪人を撃ち抜く匡
さらに羅刹の軍勢も使って戦わせる
音を隠す環境も、ミスディレクションも揃ってる
浪人の群れの端を、順番に【暗殺】していく
返り血で燃える?勿論対策済みさ──『Mercy Hand』
羅刹、そして匡と俺に降りかかる血は、俺達を傷つけない
却って賦活させちまうだろうぜ
だから遠慮なく、殺し尽くそう
何も恐れなくていい

早いとこ降りてこいよ、今川
死ぬには最高の日だぜ?


鳴宮・匡
【冬と凪】


敵を蹴散らしながら、向こうの支援射撃も封殺しろって?
またそうやって無茶振りを……なんてな
当然、それくらいならお安い御用だ

敵全体の動きを頭に入れておく
必要に応じて羅刹の面々にも声をかけて
里のほうに入られないように戦闘を運ぶよ

……ああ、警戒しなくていいよ
あんたらの加勢に来たんだ
手放しで信用しろとは言わないけど、邪魔はしないさ

矢の迎撃が第一
特に俺とヴィクティムより、羅刹を狙う攻撃を優先して落とす
間隙を縫って浪人を狙撃するのが第二
特にこちらに気を払っていない無防備な敵を
落とせそうな相手から落とすのが定石だ
数の利をとらせたくはないしな

いい加減降りてきたらどうだ?
高見の見物は飽きただろ




「やれやれ……」
 思わず口をついた嘆息に、隣に立つ男も白い息を吐いた。
 なかなかの混戦だが、打開できないわけではない――猛烈な力でねじ伏せていく猟兵の熱に煽られて、殺意を高めた女羅刹のこの上ない獰猛な吶喊に、それに士気を上げられる羅刹たち。
「どこもかしこも妙に気張る奴が多いな――いや、彼らにすれば、当然か」
 己の里が襲撃されているのだから、戦わぬ理由はない。
 耳ざとく聞きつけた二角の男がむっと顔を顰め、なにやら文句を言いかけたが、
「……違う違う。そうじゃなくて。警戒しなくていいよ。あんたらの加勢に来たんだ」
 彼はその言葉に、一瞬、女羅刹――菊と呼ばれる鬼人のごとき羅刹だ――へと視線をやった。
「手放しで信用しろとは言わないけど、邪魔はしないさ」
「ああ、お前たちのこと言ったわけじゃないぜ」
 ゴーグルの奥の双眼にわずかな笑みが宿る。
 こうして、幾度も敗戦を喫しても諦めないタフネスに、飽きれと僅かばかりの嘲りと、征服欲求が掻き立てられる――特に、クルセイダーと無能な仲間たちは、能無しなくせにやる気ばかりある――潰し甲斐もあるというものだ。
「そういうことだから。この連中を、これ以上里に入れさせない」
「ぬけぬけと。どいつもこいつも言わせておけば、大口ばかり叩きよって」
 未だ快活と動き回る浪人がいる。
 雨水が伝う刀身を羅刹に向け、斬り殺すこと以外を考えていないような、まっすぐに突き出された刃と共に、
「南無」
 それで赦されるわけがないだろう――鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、構えた《BHG-738C [Stranger]》の銃口を素早くポイント、トリガーを引くまでの躊躇いはない。
「匡、今川の矢はお前に任せる。撃ち落とすのを期待しても構わんだろ?」
「敵を蹴散らしながら? 向こうの支援射撃も封殺しろって?」
「出来るだろう?」
「またそうやって……」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)の言った無茶振りに、匡はわずかに笑んだ。
「なんてな――当然、それくらいならお安い御用だ」
「それでこそ、匡だ」
 二人の男は、軽口を叩きあい、混戦の中へと身を投じた。

 ◇

 ヴィクティムは現在の状況下で最大のパフォーマンスをするための計算を終えた。
 止まない雨、熄まない風、混戦たらしめる羅刹たちの統率のとれていないてんでバラバラな動き、侮りながらも殺すことを最優先に斬りかかる浪人――人の動きも、環境も、そのすべてがヴィクティムを隠す。浪人の視界の外へ、意識の外へ。それを容易にさせるのが、匡の狙撃だ。
 戦場を的確に精確に見極める、【千篇万禍】の瞳に映り込む急所へ、寸分も狂わない銃弾を撃ち込んでいく。
 ヴィクティムが、隠密に徹するために陽動は引き受けた。
 優先順位は違えない。隠れることのない匡は、浪人に一足のうちに間合いを詰められても、特段慌てず、トリガーを引き続ける。反動は肩に刺さり、男からは血が繁吹く。男の怨念が凝り固まったヘドロのような炎を噴く。
 しかし、匡は笑った。
 ヴィクティムの左腕が輝いているのだから。
「返り血で燃える? 勿論対策済みさ──抜かるわけがないだろう?」
 慈悲深き手が差し伸べられる。破滅の炎は、慈愛の熱へ。燃える怨嗟を浴びれば浴びるほどに、却って賦活となるだろう。
「だから遠慮はいらない。殺し尽くそうか」
「面妖な術を!」
「それはお互い様だろう、血が燃えるお前に言われる筋合いはない」
「こしゃくな、」
 ヴィクティムとのおしゃべりに夢中になった浪人へ、正確無比な狙撃。匡からの無遠慮な手向けだ。
「卑劣なりし!」
「定石だろ、こんなもん――当たり前だ」
 落とせそうな相手から落とす。匡に注目していない無警戒な者を優先に狙う。数で有利を取らせるわけにはいかない。
 着実に勝ちを奪いにいかねばならない。
 その一撃で、再び匡へと注意が向いた――ステルスのタイミングだ。浪人どもの意識からヴィクティムが消える。
 そうなれば、彼の独壇場となる。
 匡は、戦場を見続け、浪人の急所を正確無比に撃ち抜いて。
 その混乱に乗じて、ヴィクティムは一人ずつ頸を割いて暗殺する。
 息も絶え絶えに、男は己の血を燃やす。繁吹いた血を浴びた羅刹が蒼惶と震えていたが、
「何も恐れなくていい――その炎は誰も傷つけない」
 ヴィクティムの平然とした声音は、慌てふためく男を落ち着かせた。
「視えた」
 匡の声。
 言外に、ヴィクティムへの援護を頼み、彼は銃口を空へと向ける。
 飛来する矢は、今川の放った仕留めの矢。鏃は猛スピードで落ちてくる。
 二人がここにいるのは、冷やかしでもなんでもない。
 あれは、なによりも優先して止めるべき矢だ。
 匡が矢に集中する――その間だけ、ヴィクティムはナイフを手にステルスを解除し、駆けた。
 向けた銃口は、ターゲットをロック。次の瞬間には、弾丸は発射されて、矢は木っ端に砕け散る。
 雨と混じって欠片が降る――それに気をとられることもなく、匡は次の標的へと銃口を向けた。


 雨音に混じって聞こえていた、あちらの剣戟はいつの間にやら止んでいる。
 己の里を守らんと決死に戦った里の男たちは、その場に座り込んだ。晴太も、菊も、得物を地に突き立て、杖にしてやっとのことで立ってる。
 トリガーを絞る。タンっと一発の正確無比な発砲。眉間を撃ち抜かれた男は、どさりと地に伏して動かなくなる。
 それが、最後の一人だった。
「終わったぞ、いい加減出てきたらどうだ? 高みの見物は飽きただろ」
「早いとこ降りてこいよ、今川」
 濡れて額に張り付く髪を掻き上げて、里際の山を見上げ、どこにともなしに匡が声を上げる。
 どうせ聞こえているのだろう。
 視えることはなかったが、強大な気配が消えることはなかった。
 隠れることをやめ、存在感を明らかに濃くしたヴィクティムも続けて呼ぶ――ゴーグルの奥で、切れ長の双眸が挑発的に細くなる。
「死ぬには最高の日だぜ?」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『今川義元』

POW   :    仕留めの矢
【大弓の一矢】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    鷹の目
【大弓】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【癖】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    飛鳥墜とし
対象のユーベルコードに対し【、蹴鞠の要領で体勢を崩すほどに強烈な蹴り】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ケーレス・ネメシアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 体は嘘のように軽くなった。折れた刀の重みのみならず、足が軽く感じられるのだ。
 しかし、あの空を裂いた矢が、不吉でならない。一人で帰らせた晴太も心配だ――軽い足取りとは裏腹に、気は急き不安は募る。
 氷混じりの雨は、容赦なく雨丞を凍えさせる。
 共に走る者たちの天下自在符がちらりと見えた――徳川の紋が刻まれたものだ。泥に塗れ、血に染まり、見るも無残な、赤鳥と武田菱が綯い交ぜになった旗とは、違う。
 討ち捨てられた屍を、踏みつけぬように山路を駆け上る。
 あの尊大な男の声が蘇る。いずこかより届いた男の声に、雨丞の背筋は凍り付く。
 羅刹の躰を欲していた。命はいらぬと、その躰が目的であると。だから羅刹の里たる、大本を狙うと。
(「いかな大義があろうとも、我が里を、同胞を……! 赦すまじ!」)
 必中の矢だ――あれは、誰かに当たったか――無事でいろ――後生だからみな無事でいろ――雨丞は祈りながら駆け、激しい戦闘痕の残る曲がり角を抜けて、雨丞は里へと走り入った。
 そこを見て、愕然となった。そこには多くの、焼け焦げた血と、抉られた地に溜まる血で汚されていた。
 すっかり様変わりした里に愕然としたが、誰の姿もない――否、名も知らぬ浪人どもの屍だけがそこにある。
「霧生殿! 篠! おらぬか! 晴太!」
 大音声で呼んだが返事はない。
 金色の炯眼は、揺れる。唇は引き結ばれ、褐色の頬は緊張で強張った。
 それでも彼の足は止まらない。里の際――万年青が切り取る境へと走る。

「ほう、生きておったか、死に損ないめ」

 驚異的な腕の射手。先刻、雨丞へと矢を放った声。その矢を里へと射た男だ。
「雨丞様!」
 異口同音に雨丞の名が叫ばれる。一等耳に刺さるのは、晴太の嬉し泣きか――その中で、菊の安堵した声が聞こえた。
「感動の再会か――案ずるな、貴様らは骸になったとて我が傀儡となり、共にいることとなる」
 言い草に心底腹が立つ。怒髪天を突く憤怒に、双つの金瞳は烈々と燃えた。
 氷雨に濡れる黒の烏帽子が黒髪を隠している。
 瞋恚と怨嗟を捏ね固めた昏き猛毒が埋め込まれる、眼窩。
 冷えて白む酷薄な頬に笑みが刻まれることはないだろうと容易に推察できる、薄い唇は硬く引き結ばれた。
 男の身を包む黒衣も黙してただただ雨に濡れる――禍々しい大弓だけが、雄弁にすべてを物語った。
 首謀者だと。あの矢を放った射手は、これであると。
「いやはや、天晴! 我が盟友の英霊を宿した兵どもを退けるか! 猟兵とは、羅刹とは! 我が腸を煮え繰り返す達人とみた。愚かで憎たらしいほどに、実に頑健! それでいて、我に牙を剥き楯突く能無し! 陋劣よの」
 万年青の葉を踏み躙り、木立の奥より現れた男へと、意識は集中する。
 護手たちの声が、里の男たちの声が、耳を劈くようだった。発声されずとも殺気が噴き上がる。喧々囂々と渦巻いた。
「我が必中の矢は健在なるぞ――射殺してくれよう」
鳴宮・匡
【冬と凪】


ま、吠えさせておけばいいだろ
弱いやつほどなんとやら、って言うしな

ともあれ、お前の手が成るまでの時間は稼ぐよ
そんなにはかからないだろ?

さっきまで散々撃ち落とした矢だ
おおよその性質や狙いの癖は把握できてる
後出しで悪いけど、目に慣れたものに対処するのは得意なんだ
目がいいからな
まして、射る瞬間が見えているなら【見切り】も簡単だ
目線の動き、体勢、弓を向けた先、引き絞る力の強さ
判断材料には事欠かない

何より、凌ぐ時間はそう長くなくていいしな

オーケー、仕込みが終わったなら反撃といこう
もう矢を気にする必要はないんだろ
本体を確実に狙って撃つよ

“過去”に、今を奪う権利はない
もう一度、骸の海に墜ちてもらうぜ


ヴィクティム・ウィンターミュート
【冬と凪】

おい聞いたかチューマ?
俺達の事『能無し』だってよ
まったく、まさかこんなにも綺麗なブーメランを宣うとはな!
羅刹にいいようにされて?クルセイダーってカスに従ってる愚か者で?しかもオブリビオンだから?一度敗北して惨めに死んだ無能がだぜ?
はーぁ、大道芸人にでも転職したら?

【挑発】はこんなんでいいだろ
自慢の一矢──撃ってみな
だがその前に、【先制攻撃】で…『運命転換』
矢が与えるはずのダメージをひっくり返り、『治癒』に変わり
癖を覚えるは──相手のことを余計に分からなくさせる

それじゃあ匡──無能にお別れを
おまけで羅刹どももやっちまえ
歴史は繰り返すのさ
今川は、羅刹にも猟兵にも…結局勝てやしねえのさ!




「オイオイオイ、なあ聞いたかチューマ? 俺達の事『能無し』だってよ」
 はっ! と鼻で笑い飛ばし、ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は、鳴宮・匡(凪の海・f01612)の隣に立ち、
「まったく、まさかこんなにも綺麗なブーメランを宣うとはな!」
 恐れ入ったぜ――彼の口からはスラングが垂れ流される。
「羅刹にいいようにされて? クルセイダーってカスに従ってる愚か者で? しかもオブリビオンだから? 一度敗北して惨めに死んだ無能がだぜ? 新手のジョークかよ、それか自虐ネタか? 笑えねえ!」
 指折り数えながら、最後には掌をぱっと開く。ヴィクティムは隠すこともなく、冷笑を頬に浮かべた。
「ま、吠えさせておけばいいだろ」
 白い息はもわりと盛大に拡がって、匡の溜息を可視化させる。
「弱いやつほどなんとやら、って言うしな」
(「挑発にはのるのか……まあ、あまり熱くさせすぎんのも面倒だ」)
 ほどほどに、匡がヴィクティムに向くはずの鏃を引き受けてくれるだろう。
 ヴィクティムは、喉の奥でくつくつと笑う。
「はーぁ、大道芸人にでも転職したら?」
「ああ、頭の上に乗せたりんごを射抜く芸で一儲けできそう」
 二人に出会い頭にこき下ろされた今川といえば、青筋を立て、頬を引き攣らせ、弓を持つ手を怒りに震わせている――瞬時に矢を番え、放つ――瞬間、匡はトリガーを絞る。躊躇いなく飛び出す弾丸は、今川の矢を打ち砕いた。
「それ、さっきまで散々撃ち落としたんだ」
 瞠目する今川をよそに、匡の深い青の双眸は、精確に視続ける――おおよその性質は把握できている。
 まして、先刻の突如として射られ飛来する必中の矢とは違い、射るモーションが見えている。
 今川の眼球の動き、体勢、弓を向けた先、鏃の角度、引き絞る力の強さ、取り巻く環境――匡には、次に誰を狙い射るか手に取るようにわかる。判断材料には事欠かない。
「後出しで悪いけど、俺、目がいいから」
 ことさら、すでに目が慣れているものに関して、対処することは容易でしかない。
「では、その癖を見極めるまでよ」
「無理だろう」
 さらりと言い返して、匡。
「凌ぐ時間はそう長くなくていいしな――お前にそんな時間をくれてはやらない」
「小癪な!」
 《鷹の目》がぎらりと炯り、海道一の弓取りと名を轟かせた通り、寸分たりとも無駄のない所作でもって矢を射る。
「もう、視えてんだって」
 鋭い発砲音は里を震撼させる。
 木っ端に砕ける矢は、氷雨に打たれて地に伏した。
 その神技じみた撃ち抜きも、匡の《千篇万禍》が成った今なら、動かぬ的を撃つように見切れる。
 冷厳と睨み据える匡。それを忌々しげに睨み返す今川――刹那的に風が猛烈に吹いた。匡の目に雨粒がぶち当たる。僅かに悪くなる視界、瞼が落ちた一瞬、今川は即座に矢を番え、放った――しかし、彼にとっては不運か。
 ヴィクティムの演算は完了する。
 破魔の水弾が、すべてをひっくり返す。
 射られた矢は今川の元には帰らない。そうして鏃はヴィクティムの掌へと突き刺さった。
「これが、ご自慢の一矢か」
 起こるはずだった事象の意味は反転――運命は、転換された。
「なに!?」
 匡の稼いだ時間は、それほど長くない。浪人どもを相手にしながらの防衛より易い。それでもヴィクティムの策は成った。
 掌に突き刺さった矢は痛みどころが活力を与えるものとなる――すなわち、癒しの矢と化したのだ。
「それじゃあ匡──無能にお別れを」
「オーケー、仕込みが終わったなら反撃といこう」
 凌ぎ守る時間は終わった。
 理が反転する――今川は、ヴィクティムに向けて矢を射ろうと弦を絞る――しかし、止まる。己に起こった変化に気づけず目を白黒させていた。
「俺のことが分からないか? 俺の癖を見切ったつもりでいたか?」
 問えども今川は混乱し、言葉を失う。
「脆いな――」
 匡は呟く。ヴィクティムの展開した策の中、矢は脅威ではなくなった。
「“過去”に、今を奪う権利はない」
 撃ち出される弾丸は、精確に今川の頭へと奔る。もう一発、立て続けにもう一発――肩を、そして脚を狙った弾丸は、今川の四肢へと突き刺さる。
「歴史は繰り返すのさ――お前は、羅刹にも猟兵にも……結局勝てやしねえのさ!」
 ヴィクティムが羅刹を嗾ける。菊と共に浪人と戦い傷つく羅刹も、二人の立ち回りぶりを目の当たりにし、吶喊を上げる。
 ヴィクティムの言葉は力強く、傷ついていようとも己が里のためにと羅刹たちを奮い立たせる。その熱は、菊へも伝わり、彼女の喊声は一等士気を高める。
「もう一度、骸の海に墜ちてもらうぜ」
 匡の発砲音は高らかに山間を駆け抜けた。
「猪口才な!!」
 肩を貫き、太腿を掠め、頬を掠め、脇腹を抉り取っていった匡の弾丸に齎された激痛に、今川は脂汗を垂らす。
「調子にのるな、我が力を、反転するなど……生意気な! そんな羅刹、何匹束になって走り込んでこようが、射殺すのみ!! 憎たらしい! なんと憎たらしい!」
 大弓を構え、弦を絞る。
「この煮える腸をどうしてくれよう!」
 怒号と共に放たれた矢は、羅刹に到達する前にヴィクティムによって阻止される。
「それこそ、俺達の知ったことじゃあねえ――骸の海の中で考えてこい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

護堂・結城
死してなお共に?死なせねぇよ
黒天破りは驚いたが…腸煮えくり返ってるのが自分だけと思うなよ

【POW】

死後も利用する外道以下の恥知らずは力づくで喰い殺す!

UC発動
自分に【精神攻撃】をかけ、疑問を封じる

「来たれ、海竜…本当の無敵を見せてやれ」
「俺に殺せない外道はいない、俺が無敵と信じるから無敵、単純でいいだろ?」

竜奏の力で地中を【高速泳法】、足元から無敵の装甲任せに【捨て身の一撃】
大弓を持つ手や蹴り足を狙い【マヒ・属性攻撃】を込め【怪力】の噛み砕きを仕掛ける
追撃に【衝撃波】で【傷口をえぐる】

反撃の手を削りつつ羅刹に向けて【大声】で追撃要請

「おんぶに抱っこで終わらねぇよな?手でも刃でも貸せ!」


吉備・狐珀
腸を煮え繰り返されたのはこちらの方です!

真の姿になりて引き続きUC【神使招来】使用
ウケ、私と共に弓を引き御神矢を義元に向けて一斉発射して下さい
蹴りで相殺されようとも何度でも矢継ぎ早に矢を放ち続けますよ

たとえ蹴鞠を蹴るような軽い動きでも、蹴りを出している間は自由に動けない。加えて蹴る瞬間は片足になり、その場に留まってしまうことになる
ウカ、その隙を見逃さず踏み込み、その神剣で突きをお見舞いしておやりなさい!月代、衝撃波をウカに全力で放ち、蹴りより早くウカが懐に飛び込めるように義元の元まで吹き飛ばして援護を!

仲間を想い里を大切にする彼らの、そして私たち猟兵の逆鱗に触れた貴方の方こそ愚かで能無しです!


鹿村・トーゴ
里へ向かう間にUCで強化
代償の流血は目に入らぬよう拭い
以降常時警戒【情報収集/聞き耳/激痛耐性】

雨丞どの
奴の挑発に乗せられんな
まー羅刹嫌いだから死体を木偶に仕立てるって…なァ?
オレも怒ってるが今はアレを倒す

あの矢は即死モンだ
速さを活かし敵視覚外から攻撃狙い

里で今川を目視次第【忍び足/闇に紛れる】で雨や人物を隠れ蓑に走り接近
同時に手裏剣を顔足弓へ【念動力/投擲】し負傷無くても気を引き
【だまし討ち/スライディング】で姿勢低く背後や懐に入り出来れば足を蹴って体勢崩しか隙を作る
反撃には【カウンター/武器受け】クナイで弾いて衝撃減らす
最接近時、強化した膂力を載せクナイで刺し斬る【暗殺/串刺し】

アドリブ可




「ただただ肉体の丈夫なことが取柄の木偶どもめ……調子にのりよって!」
「貴様が討てなかった男がここにいるぞ!」
 改められることのない物言いに頭に血が昇った。憤怒の形相で雨丞は怒鳴る。怒号は山を揺るがした。
「雨丞どの、奴の挑発に乗せられんな」
「承服し兼ねる! アレは我が同胞を脅かす存在ぞ!」
「まーまー、落ち着けって」
 鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は、雨丞を諫める。彼の怒るところは判る。今川の尊大な態度も、他を見下し続ける物言いも、すべてが腹立たしい。
「羅刹嫌いだから死体を木偶に仕立てる……なァ?」
 トーゴとて、とても承服できない。
 逸り走る雨丞を追う山路で、百鬼夜行をその身に降ろし、躯体の能力を底上げしてきた。トーゴの力は普段よりも格段に強くなっているが、その代償は重い。
 どこからともなく、断続的に血が噴き出してくる――否、怒る頭にこれ以上血が昇っていくよりも、ずっと冷静でいられる。
「大丈夫だ。オレもアレは気に入らねえ」
 トーゴは言って、雨丞を振り返る。雨濡れの同族の男は、怒りに瞳を燃やしてトーゴを見返していた。
「オレも怒ってんだ……だから、アレを斃してくる」
 言ってトーゴは掻き消える。雨音と喧噪を隠れ蓑として、雨丞の制止の声を聞かずに、姿を隠してしまった。
「ああ、腸が煮えくり返ってんのが、てめぇだけだと思うなよ」
 左右で彩の違う双眸を炯らせて、護堂・結城(雪見九尾・f00944)は、雨丞の隣に立つ。
 黒天を貫き砕かれ破られたことに驚いたが、それだけの矢をあの大弓から放つことのできる相手だ。
 警戒が過ぎて、体が縮こまらぬよう疑心を封じ込める。懐疑を捨て、猜疑を殺し、結城は笑った。
「俺に殺せない外道はいない。俺が、俺は無敵だと信じるから無敵、単純でいいだろ?」
「愚かな」
「試してみろよ――来たれ、海竜……本当の無敵を見せてやれ」
 【大海竜奏】――結城の疑念を代償にした海竜を模した竜装を纏う。陸海空不問の竜装だ。
 とぷんっ――泥濘に触れ、地中へと落ちる。疑うことはない。地中といえど雨音は轟々と響き、もはや爆音に近づくのは、結城の鼓動の音も相まったせいか。それでも座標は見失わない。突然眼前から姿を消した結城に心底驚いているだろう。
 複数の足音が頭上でする。
 あまり動かずとも、踏み込む音は重い。
 ならば、この軽やかに駆ける足音は、猟兵の誰かか。

 ◇

(「あの矢は即死モンだ……」)
 あれが、装甲を、結界を、いくつもの刃を打ち砕いてなお牙を剥いていたのを、その眼で見てきた。
 猟兵の影、羅刹たちの影、そうして土砂降りの雨を纏い走る。足音を殺せば、雨音に紛れる。
(「気づかれねえように近づく……のは難しい、けどっ!」)
 トーゴは手裏剣を擲つ。今川の弓を引く手に、その軸となる脚へ、そうして羅刹や猟兵を射殺さんと狙う黒瞳へと。今川の必中の矢には劣りはするが、それでもトーゴの念力の糸に引かれて今川へと肉薄。
 それを躱すために大弓を薙いで、跳び退る。しかし顔を狙った一投は、躱しきれずに頬を裂いた。
 隙が生じる。それを見逃すトーゴではなく。雨に隠れていた彼は、一直線に今川の背へと距離を詰める。
 死角からの蹴りは、今川の足を払う。泥濘では踏ん張りはなかなか効かないだろう。大きく体勢を崩す。
 泥に塗れようが、トーゴは地を転がって立ち上がりざま――鋭く呼気。降ろした怪どもの力は、彼の中で未だのたうっている。
 膂力に裏付けされた尖閃の軌跡は、今川の腹へと続く――はずだった。
「死せよ、羅刹。我が駒となれ」
 いつ番えた。トーゴの橙の瞳が瞠られる。眼前に突きつけられた鏃に、息を飲んだ。

「ウケ! 私と共に!」

 鮮烈な声。
 厳然と響き、呪縛が解けるトーゴは無理やり体を反転させ、一瞬だけでも矢の射程から外れる――突如吹き荒れる清浄な風は、氷雨を掻き混ぜた。
 純白に輝くのは、《破浄の明弓》。それから射られた御神矢は、今川の腕を穿つ。
「何奴!」
「貴方に腸を煮え繰り返された一人です」
 吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)だ。顔のほとんどを狐の面で覆い隠す――真なる姿にて、声高に叫んだ。
 狐珀の霊力で顕現する矢を番えた《破浄の明弓》は、更に純度を増して白く輝く。御神矢は、清浄なる風を喚んで射られた。
「何度も通用すると思うな!」
「思っていません――ウケ、続けてください」
 氷雨にとってかわる勢いで、御神矢は射られ続ける。
 蹴鞠が如き足さばきで射られる矢を墜としていく――それこそ狐珀の狙い。
「ウカ! 月代!」
 名を呼んで、口早に彼らを的確に嗾ける。
 蹴り出しているときは、いかな今川でさえ自由に動けはしないだろう。加えて片足立ちになる瞬間があり、その場から動けない隙が生まれる。
 その隙は大きな流れを生む。
「貴方の風でウカの援護を! 神剣で突きをお見舞いしておやりなさい!」
 狐珀は矢を番え、弦を引く――絶え間なく射られる矢に、今川は防戦を強いられる。
「仲間を想い里を大切にする彼らの、そして私たち猟兵の逆鱗に触れた貴方の方こそ、愚かで能無しです!」
 先刻今川が言ったセリフをまるっとそのまま投げ返した狐珀は、面の奥で藍瞳を尖らせ、今一度矢を放つ。
 雨丞の激怒を傍で見た。鏖殺を阻止する。まして骸を渡してなるものか――誰一人殺させやしない、彼の覚悟を思い知った。
 それが、狐珀を奮い立たせる。猟兵の心を奮い立たせた。しっかと燃える怒りは、狐珀の霊力を帯びて、幽然と月白に揺蕩う。
 白は矢となって放たれた。
 苛烈な聖性を浴びて、月代が凛乎と吼える。白狐も神剣を繰り今川へと驀地に駆ける。その背を、猛烈な衝撃波が後押しするのだ。
 颶風がごとき衝撃波は矢を吹き飛ばし、今川の体勢をさらに崩して、ウカは懐に飛び込む。狙いは一つ。人型であるが故に、弱点であろう心臓――その刺突は、寸でのところで大弓の装甲に阻まれた。
「我が心の臓を狙うなぞ、笑止千万!」
 ウカを神剣ごと蹴り飛ばし――今川は、驚きと衝撃に、鋭い目を見開く。
 熾烈に今川を攻め立てた狐珀へと意識が向いたことで、隠密に徹しやすかった。完全に狐珀以外を映さなくなったその一瞬を――トーゴは見逃さなかった。
 クナイは、深々と今川の脇腹へと突き刺さる。
「せめて、オレを殺してから目を離すべきだったな」
 クナイを伝って、熱い血潮がトーゴの手を汚す。否、トーゴとて、すでに多量に出血し、ふらふらとふらつく。
 それでも、その腹に刺さるクナイはそのままに、彼から距離をとった。
「そうだな! ならば望み通りに、殺してやろう!――我が傀儡となれよ、羅刹」
「死してなお共に? 死なせねぇよ。冗談も休み休み言えや」
 獰猛な声が、耳に新鮮だった。

 ◇

 今川の踏み出した先の地が陥没。大きく体勢を崩して転倒しかける。傾いだ先から現れたのは、竜装を纏った結城。
 捨て身の一撃になるだろう。獲物を見つけた海竜が、頑丈で鋭い大顎を開きかぶりつく。食らいついたのは、左足。食いちぎらんと、一層力は増した。
 鋭利な牙が衣を破り、肉を刺し、血が流れ出す。
「死後も利用する外道以下の恥知らずは、力づくで喰い殺す!」
「忌々しい!」
 激昂。今川は、目にもとまらぬ速さで弓を引く。即座に打ち出された【仕留めの矢】は、結城の翠の目へと射られた。
 それでも、その動作は奇襲には向かない。多くの所作を経てからの一撃だ。結城に次の一手を考えさせる時間になる。
 凄まじい烈声が爆発――大音声は衝撃波となって放出されて、矢の威力を削ぐ――同時に体を傾げて軌道から外れ回避――衝撃は海竜の牙へと伝わって、今川の足へ、そうして体中で暴れ回った。
「おんぶに抱っこで終わらねぇよな? 手でも刃でも貸せ!」
 結城の言下、烈火が奔る。
 女にして鬼人――ぎらぎらと闘争心に燃える金の双眼を尖らせた菊が小太刀を振るった。
「言われんでも!」
「上等だ!」
 結城は獰悪に笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナイ・デス
この状況でも、そう言える。流石は戦国武将、なのでしょうね
オブリビオンでなければ、その人柄はまた、違ったのでしょうけれど……
今は、世界の敵、です

誰も、殺させはしません

『光の加護』を、ここに
【覚悟、激痛耐性、継戦能力】射貫かれても、蹴られても、私は消えない

戦える人は、一緒に
世界を、守りましょう

【集団戦術】「ダイウルゴス」を分離させ、無数の彫像達【念動力】で操ってみんなを【かばう】ように
機をみれば彫像達、矢のように突撃させて【援護射撃】や
【生命力吸収】する光(【レーザー射撃】)を、黒い宝石製の彫像達で反射してあて、疲労から動き鈍らせたり【目潰し】したりする

光は、消えない。消させは、しません!


月隠・望月
今川義元、戦国の武将。昔は偉大な武将、だったのだろうが今となってはオブリビオン。世界の敵。
わたしはここの羅刹を守る。過去が今を害することは許さない。

今川義元に接近し、無銘刀による【剣刃一閃】で攻撃しよう。
だが、奴が易々と接近を許すとは思えない。
今川が弓を射るのを阻害して隙を作るため、氷の【属性攻撃】で敵を凍結させたい。これだけ濡れていればよく凍るだろう。

この里の羅刹にとって最も安全なのは、下がって身を隠すこと。
だが、可能なら今川との戦いへの助力を願う。一瞬でいい、奴に攻撃を入れる隙を作ってほしい。
危険な頼み事だ。ゆえにここの羅刹に攻撃が向かうことがあれば、わたしが全霊で以て【かばう】。必ず。




 単身駆けてゆく赤い髪の羅刹の名を、雨丞は蒼惶として叫んだ。
 ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)の赤瞳もそちらに向く。
 いくら腕に覚えがあったところで、彼女ではオブリビオンに太刀打ちできない――彼の心に呼応するのは、《ダイウルゴス》の彫像たちだ。
「誰も、殺させはしません」
 ナイの力を纏って羅刹たちへ、今川の標的になりうる者すべてを護るために、黒き宝石は輝く。
 きたる攻撃から身を呈して庇うよう、ナイの意志は伝播した。
 今川へと走りこんでいく菊の元にも遣わせ、戦意をむく彼女を護る。
「じゃじゃ馬は好かん、黙っておれ!」
「てめえに好かれるぐらいなら腹切る方がましだ!」
 射られる矢は菊を穿てない。
 《ダイウルゴス》の装甲に突き刺さり、そこを破壊したのだ。菊の刀が振り下ろされ――否、今川によって蹴り上げられた。
「ぬるいわ、そんなものは届かん。己の力も判らんか、情けない」
 足に傷を負ってなお、厳然と立つ今川の蹴撃は、未だ鈍らない。
 しかし、そこからはとめどなく血は流れ続ける。
 多勢に無勢のこの状況にあって、すでに負わされた傷の深さを自覚していないわけではあるまい。
「なのに、そう言える。流石は戦国武将、なのでしょうね……オブリビオンでなければ、その人柄はまた、違ったのでしょうけれど……」
 ナイの呟きに、頷く者がひとり。彼女の漆黒の双眸は、戦闘態勢を崩さない今川を見つめ続けている。
「昔は偉大な武将、だったのだろうが――」
 黒の忍び装束は月隠・望月(天稟の環・f04188)の気迫を閉じ込め、吸った雨で蓋をする。
 烈々と漲る義憤に、《無銘刀》を構えた。
 今は、世界の、敵だ。
「わたしはここの羅刹を守る。過去が今を害することは許さない」
「やってみせよ、容易いと思うな」
「菊、下がれ!」
 雨丞が叫ぶ。菊ははっとして駆け出す――遅い。番えられた矢は、菊へと放たれる――否、菊が事態に気づくよりも先に駆けた望月の《無銘刀》が一閃させる。
「させないと、わたしは言ったはずだが」
 両断された矢が落ちる。続けざまに射られた矢の、精確で無慈悲なこと。それでも望月は凄絶に剣を閃かせる。
「射貫かれても、蹴られても、私は消えない」
 《光の加護》を纏うのは、ナイの視覚にいる者たちすべてだ。
 ナイが守ると決めた人たちへと、光が宿る。それが一時的なものであることは、ナイが一番よく知っているが、それでも真なる覚悟を引き出すために。
「戦える人は、一緒に」
 覚悟の炎は轟々と燃え盛る。
「里を、世界を、守りましょう」
 内包されたエネルギーは、ナイの言葉によって爆発した。
 みなを守る《ダイウルゴス》が、今川の隙をついて、一斉に飛翔する。黒い閃光が何本も奔る――四方八方から射られる矢のようで、今川はたたらを踏んで後退る。
 その好機を逃さず、生気を奪い取る光が、彫像たちに反射し合って眩く輝く。
 光を浴びただけ――しかし今川は、その身から噴き上げる覇気を衰えさせていった。
「貴様、なにをした!」
 《ダイウルゴス》の一つを蹴り落とせども、その光は弱まらない。
「光は、消えない。消させは、しません!」

 ◇

 大本に生きる羅刹にとって、最も安全なのは、前線から下がり、戦場から遠のき、身を隠すことだ。
 しかしそれは、護手の面々も、それに触発される男たちにとっても、本望ではないだろう。
 怒りに任せて単身斬り込んでいった菊が、雨丞の元にまで下がってくる。
「お菊、怪我は?」
「ない、篠は?」
「俺はなんも――あまり雨丞様を怒らせるな」
 よく見れば似ている面立ちの二人が話す言葉を聞きながら、望月は声を上げた。
「一瞬で良い、奴を斬る隙を作ってほしい」
 ぱたりと会話が止む。烈気を漲らせた望月の黒瞳は、今川を睨み据える。
「危険な頼み事だ、わかっている。ゆえに菊殿や篠殿――羅刹のみなに攻撃が向かうことがあれば、わたしが全霊で以て、かばう。必ず」
 今ならば、ナイの加護もある。黒い宝石製の《ダイウルゴス》の盾もある。
「庇うか……俺らもなめられたもんだなァ! 篠!」
 篠は、欠け落ちた角の根元を掻きながら、背を叩く霧生へと笑み返す。
「視て分かる、アレにゃあ俺らの誰もが敵いやしねえ。お嬢さん方の助力になるなら、協力は惜しまん。かばってもらわんでも死にはせん!」
 甘い面立ちを引き締め、今川を睨み据える。
「よかろう、雨丞様?」
「貴方の決めたことに、私が口を出すとお思いか」
 言いながら差し出された霧生の刀を受け取って、雨丞は苦笑した。折れた刀は鞘ごと投げ捨て、新たなそれを帯に差した。
「だとよ菊、暴れてこい。死ぬなよ」
「無論! 続けよ、篠! 晴太!」
 ナイの齎した加護は、護手の心を強くさせる。それに混じり望月も共に走る。
 雨に濡れて、薄く氷を張った《陰陽呪符》――一枚一枚に望月の力が籠められた呪符を飛ばした。空中を飛ぶ僅かな時間にあって、雨粒は氷となって、ばらばらと地に落ちた。
 篠の槍が一等最初に突き込まれる。それを跳び退って躱した今川へ迫るは、菊の小太刀による剣閃。しかし大弓の硬い装甲がそれを弾き飛ばす。それでも剣刃は止まらない。晴太の踏み込みとともに抜き放った刀の閃き、それとタイミングを合わせて擲たれた無数の棒手裏剣は、霧生のものだった。
 躱すタイミングは分かった――望月の呪符が、今川の弓を持つ手に張り付いた。
「それだけ濡れていれば、いやでも凍るだろう」
 ひょうひょうと冷気を纏って、周囲は氷結していく――氷霧がもわりと生まれ、望月の姿を隠す。
 羅刹たちの息の合った連携に、ダイウルゴスの生奪の光の中、泥濘をものともしない望月の剣が、閃く。
 苦悶に呻く声と、繁吹く血が凍結して、落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
未来をよむ癖を見抜かれるなら
あえて無謀に飛び込んでみるっす
きっとフェイントにもなるっす
警戒してくれるっす

癖をよむんっすか
なら好きなだけよめばいいっす
幾らよまれても
幾ら攻撃が当たろうとも勝てばいいんっす
弓も矢も掻い潜って肉薄し
その首に死につながる一撃をお見舞いしてやるっす

それに戦っているのは俺一人じゃないっす
報復する権利は大本の村人にあるっす
俺自身がフェイント
この地の地形、村人という存在を利用するっす
村人に向かう攻撃をかばい
俺に気を取られてくれるなら
煮え滾る怒りをぶちまける隙ができるっす
糸を使って縫い留めてやるっす
相手は世界を狙う敵とはいえ
戦に巻き込んで騒がせてしまったせめてもの詫びになるっすか




 ぼたり。今川から血が落ちる。
 それを香神乃・饗(東風・f00169)は、冷厳と見つめる。この男は、どうしたって許すことはできない。羅刹であるというだけで、平穏に生を紡いでいる里を混沌の戦場(いくさば)に叩き落したのだ。
 饗が未来を視ながら立ち回っているということが、今川に見抜かれればどうなるか――その厄介さに警戒をし、余計な頭を回すことになるのではないだろうか。
 無謀に攻め立てるのも、策として使えるのではないだろうか――否、そうでなくとも、大いに罠となる。疑心は今川の弓を鈍らせやしないか。
 饗は、もろ手に苦無を握る。一直線に駆け、今川の【鷹の目】を躱さず――それでも、視えた軌道上にあった急所の喉だけは避けて、肉薄した。僅かに首の皮が裂けたが、饗は気をやらず苦無を振るう。しかし、その一閃は、大弓の装甲に阻まれた。僅かに散った火花は、雨に流される。
「貴様は……!」
「癖をよむんっすか。なら好きなだけよめばいいっす」
 いくらでも饗の癖を見つければいい。その矢がいくら饗を貫こうとも、この戦に勝てばいいのだ。
 戦っているのは、饗だけではない。多くの猟兵がこの戦場に立った。なによりも、大本の民が蜂起した。
 近寄った饗を嫌がって大弓を振るい、間合いを開けさせる。饗の跳んだ瞬間を狙って矢が射られる――それも視えていた。体を逸らし直撃だけは避ける。上腕が裂けた。雨とともに、紅半纏に血が浸みていく。
(「俺に気を取られるといいっす」)
 間断なく攻め立てる。
 羅刹たちに向かう攻撃は、すべて饗が引き受ける。
 距離をとり、苦無を擲ち、距離を詰めざま、弾かれた苦無を回収し、矢を弾く。
「村の人たちには、手を出させないっす」
 言って饗は、鋲のついた剛糸を投げた。
 苦無ばかりを振るってきた饗が新たに取り出し、繰り出す糸に今川は驚き、対処が遅れた。今川の頸に鋼の糸は容赦なく巻き付いて、それは足をも絡ませ、地に引き倒す。
 これは確かに、世界の敵だ。猟兵が介入せねばどうにもならない敵だ。これを事前に止める術はなかった。だからこそ、饗には渦巻く悔恨がある。
「戦に巻き込んで騒がせてしまった、せめてもの詫びになるっすか」
 この機が、煮え滾る怒りをぶちまける隙になればと、剛糸を締め上げる。
 この機が、報復の一助になればこそ――饗は手を緩めない。
「詫びる必要があるか!」
 雨丞の怒号に、横っ面を張られた気がした――それを追いかけるように、棒手裏剣がとととっと今川に突き刺さる。雨丞が饗の剛糸に絡まって動けない今川へと、霧生から受け取っていた刀を突きたてた。
「忌々しい羅刹め……!」
「そっくりそのまま返すぞ、腐れ野郎めが!」
 致命傷にならずとも、僅かであったとしても、大本の憤怒が今川へと届く。
 今川の頸に巻き付いた糸と、刺さる手裏剣と刀傷は、確実に彼の死に繋がる一撃だ。
「むしろ礼を言わせてくれ――この戦に勝利したときに、必ず」
 彼の強い金瞳が饗を一瞥した。
「礼を……」
「みなまで言わせなさんな、旦那――俺らは、今、旦那らに助けられてる」
 霧生の飄然とした言葉に、里の男たちの喊声が上がる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リゼ・フランメ
【剣旋】
◆心情
今川、貴方を見れば敗北は必定と判るわ
逆恨みにて罪なき民を殺し、その卑劣さを口上で誤魔化すは士ならざる醜悪さ
天に誇れぬ陋劣なるはその身こそ

「故に此処で灰と消える。違うというのなら、己が武で見せなさい」

さあ、武士たる矜持失いし者へ、断罪の剣を

◆戦闘
接近までアネットの後ろに
戦蝶の風雅を纏わせ矢の対処支援

本命を任せられるは光栄
全霊を燃やす一刀にて応えるのみね

剣へと破魔の炎を宿し
態勢が崩れた瞬間の隙を見切り、アネットの肩を借り前へ跳躍
勢い乗せ、矢より迅くと早業で放つは【焔蝶の剣舞】の剣閃
伴う火炎の蝶と共に、復讐という罪咎に濁りし瞳を焼き尽くすべく

「骸の月が零した飛雨の惨劇に、終幕の炎を」


アネット・レインフォール
【剣旋】

▼静
先の戦術は兎も角、
今川もまた敵を倒す為に全力と言った所か。
だが先に技を見せたのは失策だったな

―宣言しよう。武人に一度見せた技は二度と通用しない―

最も…リゼは思う所があるようだが、な
そして戦局のキーを握るのは彼女でもある。

ならば俺の役割は活路を開くのみだ

▼動
羅刹には弓矢で牽制を依頼

自分とリゼの周囲に結界術を多重展開し
更に刀剣を念動力で旋回させ矢の時間稼ぎに

―大切なのは間合い。踏み込み過ぎは、危険だな―

【雷刃六連舞】で矢を破壊しながら前進。
早業の六連撃は2発目の間を与えず
四肢や弓矢を斬り体勢崩しの為に使う

折を見て肩を貸す形でシフト

反撃防止用に限界突破で式刀を構え
七発目の片手平突きを放つ




 里の士気は高まる。それは猟兵たちの追い風となる。
「弓矢を扱える者はいるか?」
 アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)が、興奮気味の羅刹たちに問えば、何人かの男が自前の弓を掲げて見せた。
「頼みたいことがある。いいだろうか」
「それで、あれを追い払うことができるなら、いくらでも」
 大きく頷き、彼と約束をひとつ。無論だ。そのためにアネットはここに立っている。
 先刻、三重に張り巡らせた結界を今一度展開――それだけではなく、アネットの持つすべての刀剣へ念力を纏わせた。
 手は二本しかなくとも、幾本もの刀剣は、アネットの意識が途切れるまで刀へと纏わりつき、主の思うままに動くだろう。
(「先の戦術は兎も角、今川もまた敵を倒す為に全力と言ったところか……」)
 多くの血を失い、生気を奪われた今川は、青白い顔をして、それでも炯々と爛々と黒瞳を尖らせる。
 手の内をさらけ出したのは、今川の失策だったろう。あの弩級の必中の矢の性質は、こちらに対抗策を考える時間を与えた。
「宣言しよう。武人に一度見せた技は、二度と通用しない」
「その言葉、そっくりそのまま貴様に返してやろうぞ――我が矢でもって、射殺してくれる」
「今川、今の貴方を見れば、敗北は必定と判るわ」
 凛然とした声音は、リゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)だ。しとどに濡れる赤い髪はそのままに、
「逆恨みにて罪なき民を殺し、その卑劣さを口上で誤魔化すは士ならざる醜悪さ――天に誇れぬ陋劣なるはその身こそ」
 《戦蝶の風雅》を纏う。リゼの心に呼応し、薄く淡い焔の鱗粉は、彼女を煌かせる。
「故に此処で灰と消える。違うというのなら、己が武で示して見せなさい」
 敢然たる宣言に、今川の怒りは最高潮に膨れ上がる。しかし、そんなものは、今のリゼにとって、とるに足らない小さな火の粉。
 今こそ、武士たる矜持を失いし者へ、断罪の剣を振るうときだ。
「活路は俺と、彼らが拓く――リゼ、頼んだぞ」
 策の要となるリゼは、アネットの言葉に、笑み返し頷いた。

 ◇

 刀剣の壁と、結界、そうして羅刹たちが放つ鏃の雨。
(「大切なのは、間合い――踏み込み過ぎは、危険だな」)
 風雨は些末なことと言わんばかりの、弓捌きはやはり武人か――僅かに感心すれど、アネットは《月祈滄溟》を抜き放つ。青の漣を帯びた滄溟晶が刻まれた愛刀は、氷雨に濡れてなお一層美しく妖しく光る。
 射られた矢の一本は、投じた策に阻まれ、勢いを殺されて、両断。アネットに到達する前に墜ちた。
それだけで今川の攻め手が収まることはないが、羅刹たちの矢が、絶妙に今川の気を逸らし続けた。
(「ああ、動きやすい――!」)
 濡れた地でも体勢を崩すことなく、彼の足はしっかと地を掴む。
「捌式・雷刃六連舞」
 厳然たる宣言。抜いた《月祈滄溟》は、鞘に納め――
 一閃――放たれた矢を斬り放つは、迅雷の居合斬り。次の矢が放たれる前に間合いを詰める。
 二閃――刃を返して斬り上げ、今川の弓を弾き上げる。
 三閃――上段からの袈裟懸けで弓を叩き落す。
 四閃――瞠目した今川が一瞬硬直した隙に、その頬を裂いた。
 ばちばちと雷電が走り続ける中、五閃――咄嗟に構えられた矢を横一文字に斬り捨てる。
 六閃――毒づき大弓の下弭へと指をひっかけ、なんとか遠間へ逃げようとする今川の足へ刺突――刹那、雷花が満開に咲き乱れる。
 息をつく間もない六連撃は、まさに霹靂のごとく今川を追い詰める。アネットの肩にふわりと加重がかかったのは、苦悶に満ち、忌々しげにこちらを睨み据える今川が、その口を開いたときだった。ただ、彼の言葉は聞えなかったが。
「光栄ね」
 この剣士に本命を任せられるとこが。ならば、リゼは、この一瞬に全霊を燃やし応えるのみだ。
 アネットの背後で機を待ったリゼが、彼の肩を借り跳躍。その勢いを殺さず、手にした《エリーゼ》が劫火を噴く。
 蝶がひらりひらりと憩う場を求めるように、リゼは焔の羽衣を纏い今川へと肉薄。
 無理やりな体勢からでも弓を引けるのもまた、彼が弓を極めた名手だからか――それでも今は、リゼの焔の前になす術がない。
 駄目押しに、アネットの七閃目――廻る《阿修羅道》の柄を握り、無自覚の制御を一時破壊した片手平突き――放たれた瞬間、矢は、焔揺らめく剣刃に木っ端に砕かれる。
 その欠片が泥濘に落ちる前に、迅く疾く閃く焔剣が煌いた。
(「復讐という罪咎に濁りし、その瞳を焼き尽くす……!」)
 轟々と燃え雨を焦がす純白の剣先が、今川の肩へ深く刺さる。
「ぐううっ!」
 喉を引き絞るような声を上げ、苦痛に歯を食いしばった今川の炯眼を、リゼは睨み返す。
 斬傷から巻き起こる炎渦に、舞い踊る火炎の蝶は歓び、火の粉を撒いて、ふわりふわりと、断罪に遊ぶ。
「骸の月が零した飛雨の惨劇に、終幕の炎を」
 今川の慟哭が響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
変身状態維持

海道一の弓取りがお出ましか
でもいかに名射手でも
距離詰められたらどうよ
UC起動し目晦ましに衝撃波飛ばしつつ残像纏い加速し接敵
拳で殴る
俺に試させてくれよ

足止めず常に自分の間合いで攻める
開けたところへ誘い出し
羅刹の人らが射られないように
常に接敵しとけば他所へ射つ暇はねぇだろ
でも援護頼んだ
攻撃に緩急付け敵の意識引き付け

雨だろうと空にいれば体勢は崩さねぇ
致命は受けねぇな
ましてや弓だ
射る時ゃ分かるだろ
射れるもんなら射ってみろ
暗殺用い射る瞬間見切り死角から飛び込み片手で武器受け
矢は払い更に踏み込みカウンター
拳の乱れ撃ち

雨ってさ
嫌な事思い出したりしねぇの?
戻って来ようと同じだ
もう一度
還れ
骸の海へ




 陽向・理玖(夏疾風・f22773)のフォームは解かれない。
 そんなことをしている時間が惜しかった。
(「海道一の弓取りがお出ましか――」)
 男の尊大な態度とは裏腹に、その身はひどく傷つき、立っているこの瞬間すら不思議でならない。
 しかし、温情をかけてやる相手ではない。理玖がそれをしてやることもない。
 拳を握る。溢れ出る力。沸き起こる力。それをすべて、余すことなく手の中に閉じ込める。
「でもさ、いかに名射手でも、距離詰められたら、どうにもなんねぇだろ」
 固めた拳で空を殴る。生じた衝撃は烈波となって今川の視界を奪った。
 理玖の輪郭がぶれ、その場に焼き付く――現れた残像は、今川の気を逸らせ照準を鈍らせる。
 その間、二呼吸もなかった。
 地を蹴って、飛翔――一挙に距離を詰める豪速が、拳撃に威力を乗せる。
「俺に試させてくれよ」
 言うが速いか、理玖の拳は、体前で構えられた大弓を躱し、頬へと炸裂した。
 眩い龍が空を翔けまわる。光が炸裂するたびに、今川の上体は傾いだ。
 雨で地がぬかるんでいるならば、地に降り立たなければいい――空中を神速で翔ければ、体勢を崩すことはなく致命傷を受けることもないだろう。
(「それに、相手は弓だ。モーションは大きいからな、射るときゃ分かるだろ、ほらな!」)
 オーラで足場を創り出し、その場でそれを踏みつけ跳び方向転換。
 それでも理玖は逃げすぎないように、今川から離れずにいた。理玖が距離をとりすぎて、今川の狙いが里の羅刹たちに向かうことだけは避けたいのだ。
 常に理玖が、今川の標的になり続ければ、他を狙う隙なぞないだろう。
 攻めすぎて逃げられるのも困る――緩急をつけながら、逃がさず理玖を狙い続けるように頭を回す。
「俺を射れるもんなら射ってみろ」
 分かりやすい挑発にすら、今川は唇を歪ませ弦を引く。
「貴様らなんぞに……! 貴様らさえおらねば!!」
 射られる――筈から指は離れた瞬間を、理玖は視た――刹那、爆発的に加速――今川には、理玖が消えたように見えたことだろう。瞬時に死角へと入り込んだ彼は、宙を蹴って邪魔な矢を払い落とし、懐へと踏み込んだ。
 七色の光が強くなる。理玖の覚悟に呼応して輝く。
 固めた拳の一発一発に込められた力が、男の身を穿ち続けた。凄まじいラッシュに、さしもの今川も、膝を折る。
「雨ってさ、嫌な事、思い出したりしねぇの?」
 過去はどうだった。雹が混じるほどの大雨に打たれたのは、今日ばかりではないのではないか。その記憶はあるのか――それは、死の記憶にならないのか。
 理玖の問いに答えることはない――否、もはや声を紡ぐことが出来ないのだ。
「……何度戻って来ようと同じだ」
 理玖の拳撃が腹へと突き刺さって、大きく息を詰まらせた今川は、どおっと崩れ落ちた。
 泥濘に額をつけ、激しく咳く。息はうまく吸えていないし、吐けていない。
「何度でも突き堕としてやるさ。もう一度還れ、骸の海へ」
 青眼が細まって、突かれた別れの一撃は、里に静寂と、歓声を齎した。


 ぐしゃぐしゃに踏み潰された万年青の里庭。
 戦の痕が、深い傷となっている。
 それでも、雨丞の褐色の頬には笑みが刻まれ、金瞳は優しく細まったままだ。
 晴太と菊に抱き着かれ泥だまりに押し倒されても、焦茶の髪を霧生にかき混ぜられようとも、篠に泣かれようとも。
 緩んだ空気は、再び引き締まるまで、時間はかかるだろう。それでも、この空気こそ、本来のものなのかもしれない。
 雨は止まない。
 冷たく冷たく体を凍えさせる。それでも、大本に響く声は、軽やかに温かかった。
「さあ、晴太。みなに、勝利を報せてきてくれ――走れるか?」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月03日


挿絵イラスト