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幽縁夜譚(作者 日照
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#カクリヨファンタズム 


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#カクリヨファンタズム


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●語
「情(じょう)のない世界とは、どのように見えるのでしょうかねぇ」

 しとりと言葉を溢した彼は金銀双眸をゆっくりと開いて、猟兵達へと語り出す。
 白髪頭の器物少年、廓火・鼓弦太(白骨・f13054)は静寂へ波紋を立てるように告げた。「間も無く世界が滅びます」と。
 普段のおどけた様子もなく、声色も眼差しも真剣そのもの。どうやら今回の予知は一刻を争うもののようだ。

「此度の舞台は古今東西の妖怪変化が集いたる異境、カクリヨファンタズムにございます」

 彼曰く、幽世から情――意味は多々あるが今回に限って言うと『他人を想う気持ち』が消えてしまい、誰も彼もが他人に感情を向けられない『孤独の世界』になってしまったのだ。
 しかも空には無数の骸魂。感情の向け方を失って惑う妖怪達の中には孤独に耐え兼ね、骸魂を飲みオブリビオンと化した者もいるのだという。
 先に待つのはカタストロフ、世界の終焉ただひとつだ。

「ですが!今すぐ向かえば崩壊は食い止められましょう!皆々様には道中の敵を薙ぎ払い、元凶となったオブリビオンを懲らしめていただきたい!」

 幸い、予知により元凶であるオブリビオンの大まかな居所は掴めている。転移した後まっすぐに向かい、オブリビオンを倒しさえすれば消えた概念は世界に広まり、崩壊は食い止められる。
 が、骸魂を飲んだ妖怪達はオブリビオンに転じていない者を見るや否や襲い掛かってくるらしい。元凶へと辿り着くためには多少の足止めも必要となるだろう。

「あ、ご存知とは思いやすが、オブリビオンを倒しさえすれば妖怪達は元に戻りますので!そりゃもう存分に大暴れしてくださいませ!」

 かぃん、こぃん。
 拍子木を二度鳴らせばぐにょりと大口を開ける異空間。歪んだ道の先にぼんやり映る鈍い色は、まさに今も破滅へと向かう幽世の空。鼓弦太がくるりと羽織を翻して入口の横へと着いたなら、蝋燭の先に炎一つゆらり揺らして猟兵達を送り出す。

「どうかお気をつけて。あっしは皆々様のご無事を切にお祈りしてお待ちしております」

●序
 おやおや、そこのお嬢さん。何をそんなに嬉しそうにしているんだい?
 へえへえ、ほうほう!好いた御方と祝言を!それは目出度い!
 よっぽど旦那様を大事にしているんだね。言わなくても分かるよ、お嬢さんのその顔を見れば誰だって分かるさ!

 だから、その縁(えにし)を別ってあげよう。

 ああ、可哀想に可哀想に!寄る辺が一つなくなった!
 他にはどんなご縁があるのかな?
 友人知人家族に他人。お嬢さんの大切な、大切になるかもしれない、そういうものを丁寧に切って落としてあげようか。
 蕾を落とせば落とすだけ、最後に戴く花の美しさは際立つのだから!





第2章 ボス戦 『縁切り屋』

POW ●妖刀解放
【匕首】で攻撃する。[匕首]に施された【妖気】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
SPD ●眷属召喚
【召喚した狐霊】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ ●妖焔
レベル×1個の【狐火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠馬酔木・凶十瑯です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●欺
 人の気配は遠のき、空は昏さを深めていく。
どれだけ走っただろうか、気付けば枯れ草まみれだった景色はがらりと変わり、伸びきった薄が辺りを白に真赭に染めていた。
 時に掻き分け、時に踏み均しながら逃げ続けていた男は足を止め、猟兵達へと向き直る。追い詰められた獲物のような怯えはない。此方を蔑み憐れむ不快な眼差しで、ここまで追い掛けてきた猟兵達をざらりと舐める。

「何故、貴方がたは私を止めようとなさるので?」

 理解ができないと男は見下す。
 縁とは、人と人とを繋ぐに非ず、人を人にて縛るもの。
 誰かの為に心を裂いて、その報われなさに嘆いたことはございませんか?
 誰かと心が通じ合ったのに、余計な第三者にご破算にされたことは?
 信じていたはずの誰かと唐突な別れを迎えたときに、貴方の心に空いた洞の深さは如何程で?
 他にも、他にも。例え話を連ねながらも隙は無く、男は淡々舌を回す。

「所詮、死すれば皆独りです」

 されど縁は浮世へ未練を残し、死したる後をも苦しめる。
 ならば最初から求めずとも良いのだと男は嗤う。無用な縁は断ってしまえ、誰にも出逢わなければ苦しむことはないのだ、独りでいることで己を守れ、この世の終わるその日まで!
 ふと猟兵の誰かが声を上げた。「本当は誰の事もどうでもいいんじゃないか」と。
 すると、男は今まで浮かべていた薄ら笑いを崩して、嘲るように。

「あ、バレました?」

 瞬間。
 轟ッ!!とその場に集った猟兵達を囲うように炎が爆ぜた。踏み均されていた一部を除き、火の手は勢いを増して猟兵達から道を奪い、戦場を限定する。
 炎の奥で男の影が揺れる、揺れる。手には匕首、漏れるは妖気、連れて侍るは巨躯の狐霊。焔に捕らわれた獲物達を品定めしながら男は高らかに欲を吐いた。

「貴方がたを結ぶそれら、綺麗にすっぱり断ち切って差し上げましょう!!」


※備考
 戦場は炎に囲まれた薄野原。
皆様は一人ないしは一組ずつ炎の壁に囲まれた戦場へ放り込まれた状態です。炎によって仕切られてはいるものの戦場自体はそこそこ広く、薄は踏み均されております。炎に触れようとしない限り戦闘に支障は出ないものとお考え下さい。
 なお、皆様を囲う炎は複雑な結界術と組み合わせられており消すことができず、転移のユーベルコードを使用して外部に出ることもできません(同じ戦場内であれば転移可能です)。
 そのため増援不可(一章参加者様はこの戦場へ入れない)となっております。

 また、縁切り屋は炎の外側にいるものの、各戦場へ一度ずつ「大切なもの」についてを問いに出没します。
 答えが満足のいくものならば意気揚々と大切なものとの縁を断ちにきます。気に入らなければ雑に当人を狙いますのでうまく迎撃してください。


【プレイング募集開始】11月22日08時31分
杜鬼・クロウ
【兄妹】アドリブ◎
※カイトへの一方的な確執はRPで解消

その問いの感情を抱いたコトはある
愛してた人との離別(慾を抱いた女へもいずれは…
そうでなければと願ってはいた
けれど自分の選択に、己が途に悔いはねェ
悲痛な記憶以上に得たモノは大きかった
縁は俺にとっても大事なモンだ

これまでの出会いあっての俺
人とは違うヤドリガミが
人の心を総て理解出来るとは思わねェが

それを聞いてどうする

ねェよ(背向けて
お前は俺が居ねェと生きられないだろ

(永遠の平行線
側にいると約束した
片割れだけは何があろうと)

テメェ如きに断ち切れはしねェよ
愚弄するのも大概にしろや

【金蝶華】で狐火を打ち消し
意思を力に
炎属性を出力し剣真っ直ぐ振り下ろす


杜鬼・カイト
【兄妹】
「所詮、死んだら独り」っていうのにはちょっと同意するけど
でも、独りでは生きていけないでしょ?
無用な縁なんてない。オレにとっては必要なもの
オレが生きるために必要なもの

「ねぇ。兄さまはオレとの縁を切りたいと思ったこと、一度でもありますか?」
最愛の兄に問う。
望んだ答えが返ってきて一安心
「ありがとう、兄さま」
(……まあ、例え縁を切られたとしてもオレは絶対に離さないけど)

オレは兄さまとの縁が大切
この縁を断つというなら、相手がなんであれユルサナイ
防御や回避行動をしないことで【篝火花は赤く燃ゆ】を発動し、自身を強化
刀に【呪詛】をこめて敵を斬る
壊さなければ…壊される前に壊さなければ


●双
 狐火は轟轟と唸りをあげて双つを囲った。燃え上がる炎の壁は一般的な人間の身長など優に超えて高く、白く。見上げた空をより黒く際立たせては滅びを煽る。
 退路は断たれ、進路も塞がれ、敵の姿は見えぬまま。炎の奥からじっとりと嫌な視線を感じとりながらも、此方からの攻撃は炎に阻まれて届かない。絶体絶命ではないが八方塞がり、何を為せばいいのか見当がついていない状況だ。
だというのに。

「ふふ、星にでもなった気分ですね、兄さま」

 杜鬼・カイト(アイビーの蔦・f12063)は二色の双眸をゆるりと細めて、弾むように笑い掛けた。実際、炎に近づきさえしなければ熱さは感じず、燃え続けているというのに息苦しさもない。どうやらこの炎はただ猟兵達を捕らえる為だけのものらしい。
 対して兄は――杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は緊張感のない「妹」の様子に渋い顔。決して無策ではないのだろうが、だからと言ってこうも平常通りであると戦意も削がれる。

「何が星だ。この状況がそんなロマンチックに見えるかよ」
「見えますよ。ほら、空があんなに遠くて暗い。他の光は何もなくて、オレと兄さまだけがこの闇の中で燃えているなんて」

 素敵じゃないですか。と両手を翳すカイトにクロウは何も返さない。代わりに反芻されるのは縁切り屋の言葉だ。

――縁とは、人と人とを繋ぐに非ず、人を人にて縛るもの。

 続けられた問い掛けは、存外クロウの胸の内へと響いていた。そうだ、そういう感情を抱いていた。
 愛していた人との細やかな平穏、最期を見届けることを拒んで選んだ離別。想いは薄れる事無く己を苛み、心底に澱を残す。今も、尚。
 それだけならばよかった。一人分の重さならば独りで抱えて生きていけるはずだった。だというのに、繰り返した。最初の幸福を追い求めたわけでない。故か、かつてとは異なる慾(いろ)を抱いた女がいた。まだ小指の一本で繋がっている程度の熱は、いずれは離れ行く。否、離してしまう。
 そうでなければ、と願ってはいた。

「ねぇ兄さま」

 思考を遮るように妹が――嘗ての主を映し取った別人が呼び掛けた。自分と同じ、けれど対なす青浅葱と夕赤が覗き込む。

「なんだ」

 短く返し、視線を外す。今巡らせたばかりの懊悩が直視を拒んだ。
 兄を悩ます原因が何か、兄を見つめ続けている妹には大方の察しはついていた。だがカイトは敢えてそれらに触れず、抱いた一欠片の不安をも感じさせない声色で最愛の兄に問う。

「兄さまはオレとの縁を切りたいと思ったこと、一度でもありますか?」
「それを聞いてどうする」
「さて、どうするでしょう」

 背を向け、沈黙。

「ねェよ。お前は俺が居ねェと生きられないだろ」

 互いを映し合う、永遠の平行線。交わることはなくとも隣り合うことはできるから。
 側にいると約束した片割れだけは何があろうと。秘めたる思いは届かせぬままにクロウは答えた。
 望んだとおりの言葉(こたえ)が兄の口から聞けたことに、カイトはほっと胸を撫で下ろす。同時に、己へと思考を向けてくれたことへの喜びに柔らかく笑みを返した。

「ありがとう、兄さま」
「いやぁ素敵ですねぇ!いいものを聴かせていただきました!」

 緩んだ空気へぬるりと滑り込んだ、異様に軽い感動の声。
 空気も読まずに割って入るは縁切り屋。丁寧に誂えた作り物の笑みで、うわべだけを見てひとり拍手喝采。

「兄弟の絆、というやつですか?いやはや、仲良き事は美しき哉とはよく言うものです」
「――でしょう?オレたち『兄妹』は双つでひとつですから」

 ちり、と棘を含ませてカイトは微笑む。
 例え縁を切られたとしてもオレは絶対に離さないけど。とは口に出さず、静かに名もなき妖刀を抜いた。構えは取らず、わざと隙を作り、攻め込ませやすく。

「おや、二つは二つですよ。所詮は一つの寄せ集め……ええ、試しにすっぱりと別って差し上げましょうか?」
「テメェ如きに断ち切れはしねェよ。愚弄するのも大概にしろや」
「ああ、怖い怖い」

 クロウは漆黒の大剣を手に、縁切り屋をぎんと見据える。切っ先を向け、一分の隙は無く、間合いを図って機を狙う。どちらも同じく強まる殺気。
 ぢ、ぢ、ぢ。縁切り屋の長い指の先に何処からともなく炎が集う。相対するふたり、ならば狙うべきは勿論弱く見える方。炎が爆ぜて、分かたれた狐火は構えを取らないカイト目掛けて放たれた。カイトはそれでも動かない。
 だって、分かりきったことだから。

「そう来るだろうなァ!!」

 叫ぶクロウが剣持たぬ手に忍ばせておいた着火具より魔力の籠った火の粉を放つ。カイトの前、焔は蝶となって群れ為せば襲い来る狐火全てを祓い除けて相殺する。そうだ、「兄さまならオレを他には壊(ころ)させない」。分かっていたからカイトは動かなかった。
 狐火を相殺しきればクロウは縁切り屋へと接近、カイトは兄の後に続く。此方を別つと宣言した男をその刃にて断って見せんと踏み込んだ。
 しかし、男は焦る様子もなく、薄気味悪い笑みを浮かべたまま。ひょひょいと後ろへ二歩、三歩。匕首を手にしながらも襲い掛かる様子はなく――

「っ!兄さま!!」
「なっ」

 轟っ!!
 上空より狐火群がうねり、前を走るクロウへと降り注がんとしていた。量は多いがこの程度ならば容易く見切れるとクロウは再び着火具を握りしめる。
 が、クロウが反応するよりもより早くカイトが動いていた。兄を突き飛ばし、狐火の雨へと身を投じる。「兄が標的となった」と気付いた瞬間に身体が動いて、「兄ならば全て避けられる」と知っていながらも己が身を盾とする事を選んでいた。
 炎の雨は四肢を焼く。けれどその程度の痛みなど、今のカイトには痛みにすらならなかった。

「……ユルサナイ」

 その身は壊れた鏡。何一つ映し取れず、封ずることはできないと分かっていても、唯一の激情がカイトを突き動かす。
 それは独占欲。自分以外の何者も、兄(かたわれ)を疵付けることは赦さないという劫火の如く燃え上がる嫉妬。カイトの内に膨らみ続ける愛の形だ。
 想いは呪いに。狐火の直撃を受けても揺らぐことなき感情を刃へと乗せれば、カイトは真っ直ぐに縁切り屋へと斬りかかる。

「おっと」
「オレは、兄さまとの縁が大切」

 縁切り屋は後ろへと引いて腹を真横に薙ぐ一撃を逃れる。しかし、カイトはもう一歩踏み込むと同時に身を捻り、その場で一回転。勢いを乗せた二撃目はやや下方、男の足元へと向けられた。

「この縁を断つというなら、相手がなんであれ……ユルサナイ」

 斬!!
 呪詛の満ちた一刀が白鼠の着物へ赤く染みを広げた。斬りつけられた片足からはぐちゅりと腐った肉の崩れる音、増幅し続けるカイトの呪詛は傷口を深く毒して内側から壊していく。
 そう、壊さなければ。壊される前に壊さなければ。
 次の一撃を警戒して、縁切り屋は痛む足を引きずりながらも狐火の群れをカイトへ向けて撃ち出した。宛ら焔の大津波、だからと退く気は更々ない。カイトは己を顧みず猛進し――視界をこの世で一番安心する黒に阻まれた。

「わぷっ」
「お前ばっか楽しむな」

 押し寄せる狐火は燃え盛る火精の蝶で相殺し、クロウは幾分服の焼け焦げたカイトへと己の上着を投げつけて静止する。兄の上着から顔を出せば先程まで燃え上がっていた感情は勢いを弱め、落ち着きを取り戻した。

「……ふふ、本当に、仲がよろしいようで」
「そう見えるのか?」
「ええそれはもう。……だからこそ貴方達のその縁、綺麗に引き裂いてしまいたい」

 片割れを奪った瞬間、残されたもう一人はどんな表情をしてくれるだろうか!
 呪いの浸食が激しいのか、縁切り屋はその場に片膝をついたまま薄ら笑いに脂汗。僅かに痙攣さえし始めてきた指先は、それでも匕首を握り手放さないまま機を狙う。

「縁は俺にとっても大事なモンだ」

 クロウは静かに男を見据え、想いの在処を振り返る。
 後悔はあったか。否、自分の選択に、己が途に悔いはない。進んだ先にあったものがいかに悲痛な記憶であったとしても、それ以上に得たモノは大きかったのだ。
 これまでの出会いが杜鬼・クロウという男を形作った。百の年月を経て人の容を得た器物へと、人の心を注いでくれたのは紛れもなく自分と繋がった数多の縁だ。人非ざるモノが人の心を総て理解出来るとは限らない。クロウ自身も思ってはいない。
 それでいい。総てを分かり合えずとも、人は共に在れるのだから。
意思を力に。構え直した玄夜叉・伍輝はクロウの想いを、決意を灯して刃を赤熱させたなら、宿るは夜より暗い黒の炎。
 ほんの一、二歩。クロウの身の丈ほどある大剣は振り上げるだけで相手を間合いに捉える。逃げられない漆黒が揺らめき、死の輪郭を映し出す。

「ああ」

 震えの止まった手から、匕首が零れて落ちる。
 振り下ろされた黒焔の刃は、男の姿を両断した。



●星
「――ちッ、ぎりぎり逃げられたか」
「ほんと、ああいうのに限って逃げ足だけは速いんですから」

 ふぅ、と息をつき互いに刃を収める。
 縁切り屋はいつの間にやら煙の如く消え去っていた。実際、渾身の力で振り下ろし、両断したはずなのに手ごたえも薄かった。初めから偽者であったのかもしれない。
 壁となった炎は先程と比べれば多少は弱まっているものの、まだ脱出とまでにはいかない。再びあの男が此処へと現れるか、或いは他の誰かに斃されるのか。どちらかしか抜け出す方法はないだろう。

(……無理したかなぁ)

 ようやっと痛みが蘇って来たカイトは上着を返さないまま空に手を翳す。焦げ付いた手先は爛れてこそいないが痛々しく、綺麗でも可愛くもない。元より敵の攻撃を防ぐ気も避ける気もなかった――だって兄さまが護ってくれると知っていた――のだが、ここまでの痛手を喰らうのは自分でも想定外だった。それもこれもあの敵がクロウを狙ったのが悪いのだと八つ当たりする。
 ふと、男が告げた言葉を思い出していた。「所詮、死んだら独り」との言葉にはカイトも少しばかり同意した。見てきた、知っていた。傍にいたとしても死ぬときは一人、置いて行かれるのも、ひとりだ。
 でも、独りでは生きていけないことも知っている。

(無用な縁なんてない)

 オレにとっては必要なもの。オレが生きるために必要なもの。
 勿論兄との縁は何よりも大切で絶対ではあるが、日々を重ねて増えていった友人たち、まだ顔を合わせただけの知人、日常の中ですれ違う数多の他人。巡り合い繋いできたすべてが自分を作ってくれる。きっと、隣り合う彼のように。
 だから。

「兄さま」
「あン?」
「オレ、ちゃんとここにいますよ」
「――見て分かるよ」

 双つは決して、別たれない。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

雛瑠璃・優歌
【永歌】
(開始時男装済)
大切なもの…決まっている
「母や弟、家族の笑顔…そして人の縁そのものだよ」
私はまだ孵るとも判らぬスタァの卵
けれど人々が“私”(※優詩)の名を呼び、寄せてくれる期待が『次』になる
そうして帝都に続く舞台に私は生かされている
「人の縁こそが繋ぐもの…所詮辻斬りと大差ない君にこの話が何処まで必要なのかは知らないが!」
UC発動
「此処には私の命を今に繋いだ彼も居る、易く絶てる縁など端から持ち合わせがないね」(依頼『それでも君は征くというのか』)
臆する理由も無い、輝きを増す宵海蛍雪で迎え撃つ
逢海さんの言葉は少し気になるけれど今は聞かない
この縁を放さなければいつか紐解ける日も来ると思うから


逢海・夾
【永歌】
脳裡に浮かぶ顔を振り払う
誰にも気付かせる気はねぇ。…こんな奴には、特にな
「そうだな、人間。…と、その笑顔だ」
嘘でもねぇが核心でもねぇ
人間は綺麗な世界で笑っているべきだ
穏やかに幸せに生きていてくれるなら、オレはそれで十分だ
元々人間を守る為の命だからな。正しい使い道、って奴だ
「ま、お前には分からねぇよな。こんな世界を作り出すくらいだ、心なんていらねぇんだろ」
執拗に切ろうとする辺り、逆に拘ってそうだからな。少しくらいつついてみるさ
気が逸れりゃそれでいい。【狐火】で死角を叩きながら、斬りに行く
…どっちも囮だが、本気だぜ。さ、どうする?

誰が教えてやるかよ
オレ達が触っていいもんじゃねぇんだ、あれは


●憬
 手を引いたのはどちらが先だったのか。
 咄嗟に手を伸ばし合い引き寄せた結果、ふたりはひとところへと鎖された。
 白く、赤く。
 炎の壁をすり抜けてきたそれは狐の面で顔を隠し、指先で狐火を遊ばせながら問い掛ける。

「さて、まずはひとつ。貴方達の大切なものは、何方に?」

 視線は遮られているというのに、酷く不快な視線を感じた。直ぐにでも斬り込んでやればよかったというのに、男の問いにふと、逢海・夾(反照・f10226)は脳裡へひとりの顔を過らせた。
 それは時に穏やかで、微睡のように心を緩く解いていった柔らかな笑みだった。それは時に鋭く、冷水のように心を引き締めて奮い立たせる凛々しい笑みだった。それは時に弱く、真珠貝のように己を堅く閉ざしながらも誰かの為にと作る笑みだった。
 嗚呼、誰にも気付かせるものか。こんな奴には特に。

「そうだな、人間。……と、その笑顔だ」

 だから、真実を伝えた。本当に大切な部分だけを秘めて、嘘ではないが核心でもない夾の本心(こころ)を。
 人間は綺麗な世界で笑っているべきだ。穏やかに幸せに、生きていてくれるのならばそれでいい。それで十分だ。元々人間を守る為の命なのだからと、白狐は願望を現実にすべく行動する。それが己の正しい使い道であるのだと。

「ま、お前には分からねぇよな」
「そんなことはありません。大切なものの笑顔を護りたいというその心、私にも理解はできますとも」

 怒る様子もなく、男は夾の言葉の表面にだけ反応だけしてさらりと流す。どうにも在り来りな答えに心惹かれなかったのだろう。変わり、興味の矛先は彼の隣で沈黙を守る男装の麗人へと向けられた。

「其方の貴方は如何で?」

 閉じた瞼の裏に映る姿達を丁寧に見つめ返して、雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)――否、小鳥遊・優詩は胸へ手を当て凛と答えた。

「大切なもの……決まっている。母や弟、家族の笑顔……そして人の縁そのものだよ」

 告げる答えは夾と類似して、しかし秘するものなき目映さで男を射貫く。
優詩は未だ雛鳥未満、スタァの卵である。うまく飛び立てるかどころかいつ孵るかさえも不明瞭な彼女は舞台の上に在るだけで必死だ。
 けれど人々が自分の、“優詩”の名を呼んでくれるのならば、寄せてくれる期待が『次』に繋いでくれる。光を浴びせ、温もりを与え、いずれ殻へと罅を入れるための力を分けてくれるのだ。そうして帝都に続く舞台に、彼女は生かされている。
 人の縁こそが人を繋ぐものだと、今を未来へ繋ぐものだと謳う。

「所詮辻斬りと大差ない君にこの話が何処まで必要なのかは知らないが!」
「勿論。貴方の口にした全ては、私に必要な情報(モノ)ですとも」

 面の奥から響く声が僅か、歪んだ。
 表情が見えずとも声に乗せられた感情から男が何を思っているのかは解った。男は嗤っている。己を辻斬りなどと呼ばれた事など気にも留めず、優詩の囀る一欠片の疑心もない、輝かしいほど光に満ちた言葉へと悦びを深めている。

「それほど大切であるならば、一つとして手放したくないでしょう?」

 言葉を全て告げるより早く男の指先に止まった炎が熱を増し、優詩目掛けて撃ち出された。速くはないが揺らめきながら接近してくる狐火は軌道が読みにくい上に数も多い。

「させるかよ」

 皓々と揺らいだのは夾の繰る狐火だ。男の放った焔の群れ一つ一つへぶつけるように放ち、前進。優詩の身支度が整う僅か一秒の隙を護るべくダガーを握った。
 が、動きが読まれていたのか。狐面の男は前へと踏み込んだばかりの夾の前へと滑り込み、匕首を握った手を肩先目掛けて真っ直ぐと伸ばす。刃が迫りくる一瞬のスローモーション、纏い付いた妖気はぞわりと肌を撫で、この次にやって来るであろう死のイメージを鮮明に夾に抱かせる。差し伸ばされた手は肩を貫かずに空を抜け、そのまま、首筋へ。
 避けなければ。

「させないよ!!」

 切っ先を弾いたのは夾のダガーではなかった。
 軽やかに振るわれた蒼の細剣が横から匕首を跳ね飛ばしたなら男は反撃される前に後退。夾の前に立つのは装いを新たに整えたスタァの原石、歌い鳥を纏いし優詩の姿。間合いを取られた敵を見据えて、細剣を構え直す。

「貴方がたは随分と強い縁に結ばれているようで」

 狐面の男は仲睦まじいふたりの姿にくく、と笑いを押し殺して次なる焔群をふたりへと送り出した。ならばと、夾は迫る焔よりも多く、狐火を走らせる。正面には敵の狐火を打ち消す群れ、左右には逃げ道を塞ぎつつ優詩を護るための群れ。炎が衝突し、燃え尽き合って消えていくその先に――匕首を手に自分を狙う男の姿。

「だろうな」
「隙ありっ!!」

 一閃。優詩の繰り出した細剣の一撃は男の胸元に一筋の赤を引き、体勢を崩す。
よろめきながらも男は至近距離、目暗ましの炎を優詩へと飛ばしたが夾の狐火で相殺される。深追いはしない。優詩は男が立ち上がるまでに間合いを取って一呼吸。

「こんな世界を作り出すくらいだ、心なんていらねぇんだろ」
「それは誤解ですよ。心がなければヒトはヒトではなくなってしまう」

 追撃がないと分かれば男は匕首へ施された封印を一段階解除。ぞぷりと何かが奪われていく感覚と共に妖気が強まれば、己を見下すように睨めつける夾へと切っ先を向けた。

「なら態々心を壊すような真似をするのはどうしてだ?」
「壊すつもりは毛頭ありませんとも。そうなってしまうヒトがいるというだけ」

 より深まった妖気は近づくだけで怖気を呼び、無自覚のまま武器を握る手を震わせる。が、耐えられないわけではない。せり上がる恐怖心を捻じ伏せて押し殺し、夾は男の固執するそれをさらにつついてみせる。

「じゃあ何が狙いだ」
「狙い……というほどではありませんがねぇ。二つを別つこと。それを味わいたい」
「味わう?」
「ええ、極上の美味ですよ」

 にたりと、面の奥で哂った気がして。

「……オレ達が触っていいもんじゃねぇんだ、あれは」

 低く、殺気を籠めて呟いた。
 奥底へと秘めてきた感情の輪郭が浮き上がったことに、男は面の下で口角を吊り上げる。嗚呼、間違えていたと。狙うべき獲物を違えていたのだと。理解と同時、男は夾のダガーを匕首で受け止めて力一杯にかちあげて至近距離、狐火を爆ぜさせて一瞬を奪う。
 好機。であるはずなのに、男はぐるりと反転し、距離を取って機を狙っていた優詩へと男が標的を変えた。驚きはするも、その程度で優詩は狼狽えない。直ぐ様冷静に、相手へと細剣を構えたならば花色衣をはためかせて薄氷を滑るような低空飛翔。男よりも早く間合いへと飛び込めば匕首を払い上げ、細剣の柄頭で面を強打した。
 よろめきながらも男は顔を上げ、己を凛と見据える優詩へと視線を返した。

「貴方は人の縁すべてが大切であると、そう言っていましたね」

 割れた仮面がぱらりぱらりと崩れ落ち、その奥に――ずっと見えてなどいなかったのに異様なまでに覚えのある狂気に歪んだ金色が優詩へ向けられた。
 手元では妖気を増した匕首。つい、と撫ぜた指の腹には赤の一筋。

「ならば彼との繋がりも、断ってしまうのは恐ろしいのでしょうねぇ」
「――そうだね、失うことは恐ろしいよ」

 それでも、此処に夾はいる。
 かつて惨劇と譬えることすら赦せない戦場で出会い、命を繋いでくれた人だ。こころ移ろわせる花の迷宮で手を引いてくれた人であり、夜と朝に輝くはじめての海を隣で見つめていた人だ。偶然か、必然か。幾度となく縁は結ばれ、その度に絆を紡いだ。
 小鳥遊・優詩を――否、雛瑠璃・優歌を“今”に繋いでくれたこの人がいるのだ。

「だけど、易く絶てる縁など端から持ち合わせがないね!!」

――臆する理由などひとつと無い!

 煌めく蒼の奥に鈴蘭水仙を宿す刃は穢れなき光で優詩を包みこみ、想いを受け止めたかのように輝きを増した。
 これは、いけない。
 男は何らかを察したのだろう。たじろぎ、この場から退散して体勢を立て直そうと一歩退いた。が、男の真横、間合い外から夾が急速接近。防御の為にと咄嗟に構えた匕首でダガーの一撃は防いだがその間に逃げ道すべてを狐火が塞ぐ。
 ダガーを躱せても距離は取れない。かと思えば死角から狐火が飛び跳ねて思うように動けない。本命はどちらか、逃げ道は何方かと見極めようとする男の目に焦りの色を見出せば、夾は問われずとも答えた。

「どっちも囮だが、本気だぜ」

 ぎぃん!と匕首を弾き飛ばした夾がにぃっと笑んだ。唯一の逃げ道――彼の背後にはスタァの卵が蒼の刃を構えて突撃体勢を整えていた。

「さ、どうする?」

 逃げられない。
 輝きに満ちた勝利の直線路を狐火がさらに目映く照らす。助演を務めきった白狐がひらりと主演(スタァ)道を譲れば、優詩は男へと一直線に飛翔突撃。
 逃げられるはずもない。
 その目映さから目を逸らせず、息もできず。男は清き閃光へと呑み込まれていった。



●夢
 ひらり。
 穿ち貫いたはずの男の身体が一枚の葉に変わり、燃え尽きた。

「……逃げられたのかな。それとも最初から」
「いや、手ごたえはあった。ぎりぎり逃げたんだろうよ」

 残ったのは焼け焦げ、吹き散らかされた薄と戦いの爪痕。壁為す焔は勢いは落としたものの、飛翔して飛び越えようと試みた優詩に反応して燃え上がり拒む様子から結界としての効果自体は消えていないようだった。
 またいつ縁切り屋が攻めてくるかもわからないからと警戒はしつつも、ふと、戦いの最中で聞こえてしまった夾の言葉を優歌は思い出していた。

『――オレ達が触っていいもんじゃねぇんだ、あれは』

 炎の燃える音と刃の交わる音に掻き消されそうだった言葉の真意も、殺意を隠しきれない程に気を昂らせていた夾の事も気にならないと言えば嘘になる。でも踏み込んではならない事は分かる程度には子どもではなかった。
 ちらりと横目に夾を見る。優歌の知る「いつも」の彼がそこにいる。

「どうした?」
「……いえ!何でもないです!」

 この縁を放さなければ、いつか紐解ける日も来ると思うから。
 今は未だ唇を閉ざして、この場所から離れないでいよう。思いを胸の内へと秘めると優歌は再び“優詩”を装い、少しでも目線を近づけようと背筋を伸ばした。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵