世界を焼く巨腕、神を砕くカラテ
●健腕、剛腕、巨腕
「オグァッ!?」
ヒーローズアースの深き土地、センターオブジアース。その中でもさらに深部の地にて、野太い男の悲鳴が響いた。
ストレートロングの金髪に細い目つき、それでいて爽やかさよりも力強さを感じさせる巨躯の美丈夫が膝をついている。彼は『神獣の番人』と呼ばれる神々の一柱であり、農耕の神と呼ばれていた。彼の屈強な健腕が大地を耕せば岩盤すらも砕かれて沃土に変わり、数百キロの野菜や穀物を一度に引っ張り上げて収穫したと言われている存在だ。
しかし今やその腕は、右はへし折られてプラプラと揺れ、左は切断されて地面に転がっている。
彼の目の前には、黒い目隠しで両目を覆った空手道着姿の男が腰を割った体勢で立っていた。
「お前は……殺す……」
「おのれ……っ! 不死の怪物、『世界を焼く巨人』の封印を解かせるわけには……」
農耕の神が立ち上がる。世界を守る神として気概のこもった瞳で道着の男を睨みつける。しかし、その気迫を武に変えて振るうための両腕は既になく──、
「お前も……殺す……」
いつの間にか、道着の男の剛腕が農耕の神の胸板にめり込んでいた。まるで胸骨など存在しないかのように農耕の神の胸板が陥没する。
そして──、
農耕の神の背中が破裂し、血と肉と骨が飛沫のように後方に撒き散らされた。
道着の男は農耕の神の背を跨ぎ、その先にある断崖絶壁に近づいていく。
崖下では赫々と燃え流れる溶岩のようなエネルギーの塊が渦巻いていた。
道着の男は再び腰を割ると、右の拳を引き絞り──、
「お、お待ちください、アズマ様ッ!?」
道着の男──アズマの耳に制止の声が入る。見えているのかいないのかアズマが振り向けば、そこには揉み手をしたスーツ姿の中年サラリーマンが数人立っていた。
「それは超巨大なエネルギー体であり、かつて神々はそこから生命を創造し、今はこの星の核となっています。それを殺すとヒーローズアースが消滅します!」
「そうだったな……。代わりに……スナーク化か」
「その通りです。アズマ様のお力で、その怪物から神話のエネルギーを吸収し、我らにお授けください。我らはスナーク化し、アズマ様のお力になりましょう」
頷くとアズマは地の底のエネルギーに向かって手の平を向けた。するとエネルギーが発する熱と輝きが弱まり、代わりにいくつかの黒ずんだ光が陽炎を生みながら浮かび上がる。
その光がサラリーマンの両腕に吸い込まれる。
瞬間、サラリーマンの両腕が丸太のような大きさに膨張し、スーツの布地を内側からひき裂いた。それに留まらず、たくまし過ぎるほどの両腕は赤黒く濁った炎を吹き上げる。
「お、おお! ありがとうございますアズマ様! 何という力だ、誰にも負ける気がしない……!」
スーツが焼けて上半身裸になったサラリーマンはみなぎる力に感動し、笑みを浮かべた。
●VSカラテ
「ついに来ました、猟書家ですよ!」
マイク代わりに火炎瓶を握った火霧・塔子(火炎瓶のヤドリガミ・f16991)が叫ぶ。
猟書家──アリスラビリンスでの『迷宮災厄戦』にて裏に暗躍し、表で猟兵とブツかった、謎多きオブリビオン集団のことだ。彼らは一時は身を潜めていたが、再び幹部集団を引き連れて各世界に姿を現し、野望を開始した。
「今回、皆さんが向かってもらうのはヒーローズアース、そして敵対する猟書家は豪傑無双のカラテマン『アズマ』です!」
ヒーローズアースを狙う猟書家にはサー・ジャバウォックと言う老紳士然とした男がいた。しかし、彼は猟兵の活躍の前に討たれ、今はその意志を継ぐ者たちが超生物スナークという恐るべき怪物を作り出そうとしている。
「アズマさんは、神々の時代に封じられて生命創造の礎となった『不死の怪物』の封印を一部のみ解いて配下にその力を与えています。そしてその強化された姿を『スナーク化』と呼称し、その暴威を見せつけることで、スナークの名を『恐怖の代名詞』として固定しようとしています!」
その果てに何が待っているのか? 詳細は不明だが、良い予感のするものでないことは確かだ。
「今回、封印が解かれたのは『世界を焼く巨人』です。燃え燃えファイヤー! な感じの巨人さんだったそうで、今はその力をサラリーマン……、あっ、そういうオブリビオンなんですけど、サラリーマンのおじさんたちが利用しています」
サラリーマンと言っても、その正体は武装した悪の企業組織戦士だ。見た目と違い中年の体力の衰えが期待できる相手ではない。
「サラリーマンさんたちは両腕を燃える巨腕に変えて、ボスのアズマさん同様にカラテで襲い掛かってきます。この腕の力がそれはもうスッゴイそうで、正面からブツかってもピーンと弾き飛ばされてしまうこと間違いなしです! ですが、今回は現地の神様が元になった怪物の弱点の情報をくださいました! これを活かせば活路を見出すことも可能だと思います!」
曰く──、
「『彼の巨腕の火勢は凄まじく、世界を焦土に返る力なり。しかし火炎は使い手もまた焼き焦がす。制御を誤らせれば、むしろ誰より炎に近い使い手こそ一番に燃え尽きるだろう』……だそうですよ!」
術で相手の力を暴走させる、堅守でもって相手に火力を上げる決断をさせる、挑発して敵が勢いにまかせて力を使うように誘導する、……やり様はいろいろと考えられるだろう。
サラリーマンを打ち倒したら、いよいよアズマとの決戦になる。彼は『世界を焼く巨人』の力は宿していないようだが、素でサラリーマンより強いので当然安心して戦える相手ではない。
「それからですね、今回の敵の目的は『スナークの名を恐怖の代名詞として固定すること』です。なので、皆さんも負けじと猟兵組織『秘密結社スナーク』を名乗れば、スナークの名を安心安全、人々の味方な団体として広め、そのネームバリューを乗っ取ることができるかもしれません! 余裕があったら挑戦してみてください!」
そう言って塔子はグリモアに炎の輝きを灯した。
待ち受けるは万能武術、カラテ! その武を己の力で打ち破れ、イエーガー!
卯山
カラテはあらゆる状況に対応できる対全方位格闘技……とどこかで聞いたことがあります。
というわけでこんにちは、卯山です。猟書家シナリオです。
1章では不死の怪物『世界を焼く巨人』の力を得たサラリーマンと戦っていただきます。
まともに戦っても勝ち目のない強敵ですが、『炎の制御を誤ると自分の身を焼いてしまう』という弱点があります。
ちなみに腕が大きくなって上手く引き金が引けないので、UC『シークレット・ガン』はアタッシュケースをブン投げることで代用してきます。
ワイルド!
2章では、猟書家アズマとの直接対決になります。
その意志はどこか虚ろですが、武に関しては殴って良し、蹴って良し、なんと組んでも良しな、凄腕カラテ使いです。
戦場は、焦げた枯れ木がまばらに生えた焦土です。
プレイングボーナス(全章共通)……神々と共に戦う(神は強いです)、もしくは猟兵組織「秘密結社スナーク」の一員であると名乗る(敵がスナークの名の元に恐怖を集める企みを妨害します)。
──農耕の神はやられてしまいしたが、その友人の自然系の神々が駆けつけてくれています。プレイングで指定すれば、彼らはUC『ゴッド・クリエイション』で支援してくれます。
それでは、よろしくお願いします。
第1章 集団戦
『サラリーマン』
|
POW : シークレット・ガン
【手に持つアタッシュケースに内蔵された兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : エンシェント・マーシャルアーツ・カラテ
【カラテ】による素早い一撃を放つ。また、【武器を捨て、スーツとネクタイを脱ぐ】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 情報解析眼鏡
【スマート・グラスで敵の情報を解析し、】対象の攻撃を予想し、回避する。
イラスト:炭水化物
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
呑龍寺・沙耶華
WIZで行動
想像以上に不粋な方々ですわね…今すぐにでも討ち取りたい所ですが、正面から迎え撃てばこちらもただでは済まぬ強敵…。
でも、ここで私達が引くわけには行かないのです…未来はまだ続いて行くのですからね。
強化サラリーマンの方々、ここはあなたの居場所ではありませんわ…だから、もうオヤスミに致しましょう…。
戦闘
少々、ヒーローらしからぬ搦め手でありますが私の『鋳薔薇の箱庭』へご招待させて頂き、たっぷりと時間をかけておもてなしと参りましょうか。
私自身が迷路内に入り、ダークネスクロークの『カゲマル』と協力して【残像】を残しつつ【挑発】の言葉で翻弄できればいいのですが…。
アレンジや他の猟兵との連携OK
ジャスパー・ドゥルジー
ハ、スナークの再来だか何だか知らねェがそりゃすでに「俺らの代名詞」だぜ
俺ら――つまりアースクライシスのヒーロー・イェーガーの、な
神々の力を借りながら敵に肉薄するぜ
多少火を食らおうが【激痛耐性】でカバー
こんなぬるい炎じゃ気持ち良くもなれねェぜ
俺の食らった傷はそのまま【ゲヘナの紅】の糧となる
多少避けられようが伝わる筈さ
俺の全身を包む焔の熱量が
何ならそのスマートグラスで分析してみるかい?
――超えてみろよ
地獄よりもアツい焔を味わわせてくれ
挑発し自滅を誘う
あーでも、味わいたかったのは割と本当
俺いたァいの大好きなんで♪
おっと、「変態」ってのは誉め言葉だぜ
まあそっちはアズマとやらのバトルに取っておくか
大豪傑・麗刃
われわれはスナックだ!
そう!秘密結社スナック!
世界中にスナック菓子のうまさをあまねく伝えるのが目的なのだ!
……
すなーく!すなーくなのだ!!
一応言っておくが、これはただおちゃらけてるわけではないのだ。
わたしのギャグ(ユーベルコードです一応)で相手に喜怒哀楽恐の感情を与えることで精神的に動揺させ、炎のコントロールをとれなくする作戦なのだ!
さあかかってきたまえサボリーマンくん!
きみの攻撃など怖くはないぞサラ金マンくん!今だと消費者金融マンくんと呼ぶべきか。
そのケースを投げてくるのかね。アタックケースということか。
聞いているのかね!ちゃらりーちゃららららーらーくん!
炎が暴走した後必要なら二刀流で斬る。
レナータ・バルダーヌ
農耕の神様を手に掛けるとは、一農業者として許せません!
由緒正しいゴボウ農家の力、思い知らせてあげます!
わたしは【ゴボウさんフィーバー!】で、謎のゴボウ生物『ゴボウさん』を呼び寄せます。
ゴボウさんはそのへんを走り回るだけで、残念ながら戦闘力はありません。
ただし圧倒的な数なので、遺憾ではありますけど敵にとっては鬱陶しいことこの上ないはずです。
その【ダッシュ】力で撹乱された敵は、手に入れた炎の力の制御を誤るかもしれませんし、他の皆さんが攻撃を仕掛ける隙を作るかもしれません。
ちなみに万が一ではありますけど、敵の攻撃で犠牲になってしまったゴボウさんがいたら、後で美味しくいただきます。なむなむ。
●箱庭への招待
「ふぅむ……、神々共は来ませんな」
「…………………………」
腕が肥大化したサラリーマンたちは辺りを見回しながら息を吐いた。彼らの目的はスナークの名を恐怖の代名詞として広めること。せっかく得た力も振う相手がいなくては意味がない。
アズマは焦土の大地に座禅の態勢で腰をおろし、なにも語らない。
「農耕の神の敵討ちにノコノコとやって来るものと思っていましたが……。アズマ様、我々は様子を見て参ります」
そう言ってサラリーマンは散開していく。
その歩みがアズマから十分離れた時だった。
「わたくしの秘密の箱庭をご堪能下さいませ……」
高貴な語調の乙女の声が一つ。
そして、大地を割って伸び出した金属の荊が空間を埋めるほどに繁茂していく。
「なっ、これは神々……いや、猟兵かっ!?」
一人残らずサラリーマンが荊の中に呑み込まれていく。
離れた位置でその光景を眺めていたアズマは、独り呟いた。
「荊の迷宮……か……」
●剣と拳の激突
「閉じ込められましたね……」
鋼色に鈍く光る荊が絡み合い形作られた左右の壁をスマートグラス越しに見聞し、サラリーマンは状況を分析する。
手持ちのアタッシュケースで荊の壁を殴りつけるが、硬い衝撃が返ってくるばかりだ。強化された巨腕でもって全力の正拳を見舞えば貫くこともできるかもしれないが、鋭い棘が無数に生えた壁を殴るのはできれば避けたい。
(これが猟兵の罠ならば、乗っかった方が敵と遭遇できる可能性は上がるでしょう)
そう考え、サラリーマンは歩き出す。
その上空から、気配がした。
艶やかな袴の袖をはためかせ、壁上から呑龍寺・沙耶華(ブシドープリンセス・f18346)が躍りかかる。その手にはサムライブレイド。後方上空からサラリーマンのうなじめがけて刃を振るう。
「セイッ!」
しかし、機敏に振り返ったサラリーマンは刃物を恐れることなく、上段受けを敢行。上腕で刃の腹を叩くようにして斬撃をそらす。
突き出した腕がそのまま鉄槌として振り下ろされる。
「なんの!」
それを後ろに飛びのいて沙耶華は回避。距離を取る。
「迷宮の壁上から奇襲とは、あなたが迷宮の造り主とお見受けしても?」
「ええ。少々、ヒーローらしからぬ搦め手でありますが、私の『鋳薔薇の箱庭』へご招待させて頂きました」
沙耶華の足元に纏わりつくように、黒犬の形を取ったミュータントのカゲマルが現れる。
「たっぷりと時間をかけておもてなしと参りましょうか」
言って、沙耶華がカゲマルと共に駆け出し、斬りかかる。
サラリーマンも半身の構えで迎え撃つ。
「お嬢さんの持て成しとは嬉しい限りですが、時間はかかりませんよ。我がスナーク化した両腕の前ではね!」
サラリーマンが下段突きを放つ。沙耶華は残像残す速度で跳び、前宙でサラリーマンの頭上を超える。カゲマルも壁に跳び、荊の側面に器用に足をつけて三角飛びで腕をかわす。
サラリーマンの拳はその巨大さから地面にまで届き、ガゴンッッッ!!! と鉄筋でも打ち付けたかのような硬質な音を鳴らして、黒い大地に亀裂を走らせた。
見も竦むような破壊の一撃。だが──、
「ここで私達が引くわけには行かないのです……。未来はまだ続いて行くのですからね」
前宙の途中でひねりを加えて、沙耶華はサラリーマンの方向を向きながら着地。今度こそ横薙ぎの斬撃を放とうとする。だが、サラリーマンは腕の重さを感じさせない足運びで反転し、剣閃が速度に乗る前に、刃に裏拳を叩きつけた。
美しい白刃の閃きが、強引な力の激突に弾かれる。
「はぁん! これがスナーク化の力ですよォ!」
「想像以上に不粋な方々ですわね……」
振り回される暴力に眉をしかめる沙耶華だが、思考では冷静に彼我の実力差を測る。
(今すぐにでも討ち取りたい所ですが、正面から迎え撃てばこちらもただでは済まぬ強敵……)
安易に踏み込めば返り討ちにあいかねない。沙耶華は攪乱するように、高速で足を動かす。
「ハッハッハッ、踊りますか! いいでしょう、この腕で払ってあげましょう!」
サラリーマンは自信に満ちた笑みで拳を唸らせた。
そして、何度となくサラリーマンの剛腕が振りまわされた。しかし、そのことごとくを沙耶華はヒラリとかわす。
「ハァ、ハァ……、おのれ、チョコマカとォ!」
慣れぬ力の代償か、肩で息をするサラリーマン。対する沙耶華はまだ体力に余裕を見せている。
「強化サラリーマンの方。ここはあなたの居場所ではありませんわ……。だから、もうオヤスミに致しましょう……」
「小娘が、侮らないでいただきたィ!!」
サラリーマンの腕に炎が灯り、その腕刀が沙耶華の胴を薙ごうと水平に振るわれた。だが──、
「ガァ!?」
サラリーマンの腕に傷がひかれる。冷静さを欠いたサラリーマンは強化前との体のサイズの違いを忘れ、壁に腕を激突させてしまった。荊が腕の筋肉を削る。
そしてさらに──、
「ヅッ! アァァ!? ほ、炎がァ!?」
腕の痛みに気を取られて、サラリーマンは炎の制御を手放してしまう。その瞬間、自らの血肉ごと燃え上がる。
のけ反るように顎をあげたサラリーマン。その一瞬を見逃さず、沙耶華の刃が走った。
「覚悟はできていますわね」
筋肉の鎧を纏う腕と比べ、あまりにもあっけなく首が両断される。
「あなたの敗因は力に溺れ、私に翻弄されたことですわ」
サラリーマンの身体が崩れ落ち、腕の炎は沈下された。
●レッドアーム・カーマインデビル
「噴ッ!!」
迷宮の別区画。荊迷宮に呑まれて孤立したサラリーマンの一人が掌底で木々を砕いていた。それらはただの植物にあらず。神々がそのユーベルコードで植物の域を超えた生命力を与えた、獰猛に動き、敵を襲う獣の如き植物生命だ。ここに閉じ込められるやいなや、迷宮の隘路を埋めるように植物群が群がってきた。
しかし、それすらも燃える巨腕を得たサラリーマンの敵ではない。植物は次々燃え滓に変えられていく。
だが、
(熱源っ!)
サラリーマンのスマートグラスに超高温の熱反応に対するアラートが表示される。その反応は植物群の向こう。
「喝ッ!」
敵と判じて植物ごと拳で穿つ。それで植物は木っ端に吹き飛んだ。しかし、巨腕が伸び切って正拳の威力が死んだ瞬間、拳の前面にこつん、と額が当たった。
拳を引いてみれば、そこに立っていたのは悪魔の如き風体のやせ細った男──ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)が立っていた。
「猟兵でしょうか? スナーク化した我を討ち滅ぼそうと?」
勤め人然とした営業スマイルからわずかに獰猛さを漏らした笑みで、サラリーマンは問う。
「ハ」
問いに返ってきたのは、小馬鹿にしたような嗤いだった。
「スナーク化だか何だか知らねェがそりゃすでに『俺らの代名詞』だぜ。俺ら――つまりアースクライシスのヒーロー・イェーガーの、な」
「ほう、貴方もスナークを騙ると?」
──笑止、と。
瞬間、サラリーマンが吠えた。
同時、放たれる燃える拳の連撃。
右で顔面への上げ突き、左で脇腹への鉤突き、腹に貫手突きを入れて前に傾いた頭に外手刀打ち。いちいち急所など狙わない。人の胴を丸ごと捉えられるような巨腕があれば、その膂力と火炎を叩きつけた方が早い。
四撃すべてがジャスパーの身体にクリーンヒットした。そのままジャスパーの身体が後ろに倒れていく。
「ハイィッ!」
残心は不要。サラリーマンは拳の炎を消して両腕を腰の横に持っていき、礼の姿勢を取った。
──そこでサラリーマンは気付いた。
(拳が……、焦げている?)
違和感。出力を誤らなければ、己の炎で己を焼くことはない。
であるとすれば──、
「こんなぬるい炎じゃ気持ち良くもなれねェぜ」
余裕を隠そうともしない声が、サラリーマンの耳に入る。倒れたと思ったジャスパーの上体が逆再生のように起き上がっていく。元より倒れていたのは上半身のみ。その両の足の裏は大地からわずかにも離れていなかった。
拳撃で割れた額から血を流しながらも痛みに悦び笑う姿はまさしく悪魔的。
流れる血をジャスパーはその長い舌で舐めた。すると、舌に触れた血液が沸騰。口から血煙があがる。それを皮切りに、表皮を流れていた血もプツプツと音を立てて気化していく。
「やはり、熱ですか!?」
「ゲヘナの紅。俺の食らった傷はそのまま糧となるのさ」
友愛を求めるかのように、ジャスパーは構えられたサラリーマンの拳に己の拳を当てた。
それを合図に互いの熱エネルギーがぶつかり合う!
「つゥッ!?」
「フハっ!」
双方の熱が相手の熱に塗りつぶされることなく、互いの腕を焼き焦がす。
サラリーマンは肉の焼かれる感覚に、反射的に腕を引く。されど、ジャスパーは──、
「焼かれてなお、笑みますか……、この変態め!?」
「おっと、『変態』ってのは誉め言葉だぜ」
サラリーマンが一歩引いた。
退かぬジャスパーを気味の悪いモノのように見ながら、サラリーマンは体を捻じって思いきり力を溜める。相手にかわす気がないならテレフォンパンチで良い。あたりの酸素を根こそぎ消費せんばかりの勢いで巨腕が赤々と燃え盛る。
対するジャスパーは、あくまで楽し気にその一歩を詰める。
「伝わるだろう?」
熱波が至近に渦巻く中で、まるで穏やかな散歩道を歩くように、軽やかにまた一歩。
「俺の全身を包む焔の熱量が」
腕を伸ばせば抱き合えるほどまで、接近。ジャスパーの血潮の熱がサラリーマンの肌に灼熱と悪寒を与える。
(この男、並の一撃では沈みませんね……。もっと、もっと!)
対抗するように、サラリーマンも腕の熱量を上げていく。
「──超えてみろよ」
「もっと……、もっと、もっとですッ!」
際限なく上がる熱と熱が混ざり合い、二人のそばの金属荊が融解して崩れていく。
「──地獄よりもアツい焔を味わわせてくれ」
「もっともっともっともっとォォォォォォッッッ!!!」
ジャスパーが両腕を広げる。その晒された腹部を突き破らんと、サラリーマンは溜めた力を解き放つ!
──その直前、
「もォォォォォォォトァァァァァァァァッ!!?」
腕に留まらずサラリーマンの全身が燃え上がり、彼の身体は真っ黒に炭化した。
「おーおー燃え尽きちまったァ」
燃やすモノもなくなり沈火した後に残った歪な人型を、ジャスパーは拳で小突く。ぽろぽろとこぼれた炭が地面の土に混ざっていった。
「あーあ、味わいたかったのは割と本当だったのに。俺いたァいの大好きなんで♪」
悪魔は嗤う。倒錯した快楽はここでは満足に得られなかった。だが、この地にはまだ強敵が残っている。
「まあそっちはアズマとやらのバトルに取っておくか」
おあずけを次への期待を高めさせるスパイスとして、ジャスパーは炭の塊を置いて歩みを進めた。
●秘密結社ゴボウスナック
荊迷宮の中、体育館程度の開けたスペースの中央にサラリーマンの一人が立っていた。彼の目は正面の迷路の道に向いている。その道の曲がり角から強大な気配が近づいてきていることをサラリーマンは感じていた。
「……フッ、来ましたか、出てきなさい、猟兵よ!」
己は逃げも隠れもしないぞ、さあかかってこい、というサラリーマンの呼びかけ。その言葉に応えるように『それ』は現れた。
細長くも堅さを感じさせる土色の体。
人に近い直立二足歩行での走り姿。
体のあちこちからピョロリと生える細い毛。
そう! ご存じ、ゴボウさんだ! 数百を超えるゴボウさんがセンターオブジアースの危機に駆けつけてきてくれたぞ!
「イヤイヤイヤイヤ、なんですかこの不思議生物共は!?」
ゴボウのゆるキャラたちが迷宮のスペース内を所狭しと駆けまわる姿についていけないサラリーマンは目を白黒させ、口から泡を飛ばしながら叫ぶ。
「われわれはスナックだ! そう! 秘密結社スナック!」
その疑問に答える影あり! この時点で嫌な予感しかしねぇ!! だって名前間違っているもん!!
「世界中にスナック菓子のうまさをあまねく伝えることが目的! すなーく! すなーくなのだ!!」
「スナーク!! パクるなら、ちゃんとパクってくださいよ!?」
そこにいたのは、三本指ピースポーズのジャージ和装三白眼下まつ毛、大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)だ!
ドダバタ走り回るゴボウさんに右から左からブツかられてユラユラしながら名乗りを上げる彼の手には、ゴボウチップスが握られている!
「農耕の神様を手に掛けるとは、一農業者として許せません!」
その後ろには頭や腕に包帯を巻き、片方だけの炎翼を背で燃やすオラトリオの少女がいた。レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)。見るからに重い過去のありそうな外見をしているが、残念ながら彼女こそがこのゴボウさんフィーバーを巻き起こした張本人だぞ!
「由緒正しいゴボウ農家の力、思い知らせてあげます!」
そもそもこれをゴボウと呼んで良いものなのか? 残念ながらその疑問に答えてくれる者はいない。嗚呼、農耕の神が生きていてくれらなら……。
「ゴボウ……、聞いたことがありますよ。我らがカラテの発祥の地では、戦時下、嫌がる捕虜に無理矢理食べさせていたという植物だと。しかし、まさかこのような化物だったとは、聞きしに勝る恐ろしさですね……」
そして、ヒーローズアース人のサラリーマンはそもそもゴボウに対する知識が乏しかった。誤った認識が広まっていく!
「さあかかってきたまえサボリーマンくん!」
「由緒正しいゴボウ農園領主の血筋が為せる業を見せましょう」
麗刃が二刀を抜き放ち、レナータの指揮のもとゴボウさんはサラリーマンの周囲を走り回る。
(くっ、この生き物たち、さながら闘牛のような荒々しい走り……、私が炎腕を持ってしても捉えるのは困難ですね……)
打破、突破の隙はないかと巴受けの構えで機を窺うサラリーマン。たぶんそのゴボウさんに対する評価は、どこかで目にしたのだろう『牛蒡』という字面に引かれたのだろう。実際は鬱陶しいだけで、戦闘力は皆無だぞ!
ともあれ、ズレた過大評価で攻めるに攻められないサラリーマン。
さらに厄介なことに、ゴボウさんたちに紛れて、麗刃もその中を一緒に走っている。
「きみの攻撃など怖くはないぞサラ金マンくん!」
「サラ金のサラは確かにサラリーマンですけどねぇ!?」
なんだかんだ、ちゃんとツッコんでくれるサラリーマン。そのこめかみには青筋が浮かんでいる。
「今だと消費者金融マンくんと呼ぶべきか」
「私は企業での表の顔は『経理』! 健全な社の資産管理を担っておりますよォ!!」
企業戦士、怒りのアタッシュケース投擲! 火薬の詰まったケースはゴボウさんにブツかるや爆発を引き起こし、煙と炎を巻き起こす。
(ふぅ、これであのウザ……うっとおしい、男も木っ端微塵でしょう)
「ケースを投げてくるかね。アタックケースということか」
「なにッ!?」
ダジャレと共に黒く煙る空中に人影が浮かび上がる。その人影の周囲ではスーパーナントカ人っぽい感じのオーラがシュインシュイン言っている。
「なっ、あの男、飛翔して……っ」
煙が晴れる。姿を現した麗刃は腕を組み堂々たる姿で宙に浮かんでいる──ように見えたが、実はその下で騎馬戦のようにゴボウさんに支えられていた。
「聞いているのかね! ちゃらりーちゃららららーらーくん!」
「もはやサラリーマンの原型留めてねぇじゃねぇかよォォォォォォッッッ!!?」
言葉を身だし天に吠える、ちゃらりーマン──ではなく、サラリーマン。
その両腕が感情の乱れ昂りに呼応したかのように大炎上する。それも、本人の意図の外で。
なんと驚くべきことに、これも麗刃の策の内。彼のギャグは相手の平常心を奪うユーベルコードでもあるのだ。……ユーベルコードなしでもその自由奔放ぶりを前に平常心を保つのは難しいだろうけど。
「しまっ、あがががががががつつつつつ、熱ィッッッ!!」
所詮は借り物の力か。ひとたび暴走してしまえば、火勢の制御を取り戻すことはサラリーマンには不可能だった。
「今です、ゴボウさん!」
自らの骨肉を焼く炎の熱痛にその場でバタバタと足を動かして回転するサラリーマンを、レナータが指さした。
主の指示に従い、麗刃を乗せたゴボウさんがダッシュし、その勢いで麗刃をサラリーマン目掛けて放り投げる。
人間砲弾と化した麗刃の手が腰の二刀の柄に伸びる。すれ違いざま、影だけ残すような高速の太刀筋がサラリーマンの身体を通り抜けた。
「熱ゥッ! アガ、つ、アアアッ!! 熱ッ、熱…………くない?」
喉を割らんばかりの悲鳴をあげていたサラリーマンだったが、突然その苦しみから解放された。見れば視界の中で炎をあげていた腕が己から離れていっていた。ふざけたダジャレ男に両腕を斬り落されたか。しかし、それすらも炎に苦しむサラリーマンにとっては救いだった。
だが、そうではなかった。
両腕は胴体としっかりとくっついていた。しかし、それでもサラリーマンの視界から腕が離れていったのは──、
サラリーマンの首が飛んでいたからだった。
意識を失う時まで、サラリーマンはそのことに気が付くことはなかった。
「ありがとうございました、ゴボウさん。なむなむ」
爆発炎上に巻き込まれて幾人(人?)かのゴボウさんは尊い犠牲になった。麗刃に迷宮の壁である金属の荊を切断してもらい、それを鉄板代わりにして『世界を焼く炎』の上に乗せ、薄くスライスしたゴボウをカリカリ焼きにする。
「「いただきます」」
二人は手を合わせ、命に感謝し、香ばしく焼けたパリパリのゴボウで戦闘後の空いた腹を満たす。
食べることもまた供養。
きっと天に昇ったゴボウさんも、農耕の神もこの光景を見て笑っているだろう……。
(芳ばしい香りと、畑の匂いに釣られてやってきましたが、私の箱庭の中で、変な生き物と変態な猟兵がたむろしていますわ……。無理矢理、感動的な雰囲気を出しながら)
その様子を迷宮の曲がり角から窺う猟兵あり。呑龍寺・沙耶華だ。
(仲間と落ち合えたことを喜ぶべきなのかもしれませんが……、あそこに入ると私も残念な扱いを受けそうですわ)
なんだか、包帯姿の良識的そうな雰囲気の猟兵もいるが、あそこになじんでいる時点で油断ならない。
そうして、迷宮の主は静かにその場を去った。
「ところでこの迷宮、わたしたちはどうやってアズマのところに行けば良いのだ?」
「道とか分からないですしね。ゴボウさんに走り回ってもらって見つけてきてもらいますか? 出口か、造り手の猟兵の人を」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陰白・幽
よーし、よく分かんないけど取り敢えず燃えているサラリーマンの人をボコボコにすればいいんだよね、「秘密結社スナーク」出撃〜だね。
取り敢えず、距離をとって棘付き鉄球でゴーン、と攻撃しつつ敵の攻撃をのらりくらりと躱していくよー。
敵の動きに合わせて距離をとりつつ鎖と鋼糸を敵の周りにまとわりつかせて、最後の仕上げにドラゴニアンチェインで完全に敵の動きを封じるよー。
そうしたらきっと敵も火力を上げなくちゃいけないから自爆してくれない、かな。
上手くいったら最後は思いっきり飛び蹴りをしていくよ……今日はこれで、ゆっくり休んでいいんだよー。
……寒くなる時期だから、暖かくなるのはいいけど、自分が燃えるのは嫌だな〜
●神殺せても龍殺しは──
「脱出できましたが、同僚たちと連絡が付きませんね……」
金属の荊迷宮、出入り口からサラリーマンの一人が脱出した。道を選ぶ運が良かったのだろう。捉えるための迷宮とはいえ、やはり迷路には出口があるものだ。
しかし、それでこのサラリーマンの幸運かと言われれば、そうとは限らない。そこにはのんびりした調子で歩いて戦場にやってきた白龍の少年がいた。
「う~ん、あんまり暖かくない……」
陰白・幽(無限の可能性を持つ永眠龍・f00662)は眠たげな眼をこすりながら、伸びをする。
大地こそ焦土になっているが、この地の気温はけして高くない。炎宿す巨人の力が簒奪されてしまっているからか。
「よく分からないけど取り敢えず燃えているサラリーマンの人をボコボコにすればいいんだよね」
「……その物言い、あなたも猟兵ですか。まあ、その格好でただの迷子と言われたら、そちらの方が驚きですが」
拘束服にも囚人服にも見える幽のファッションを一瞥しながら、サラリーマンは両手を開手で構え、その腕に劫火を灯す。
「名乗りましょう、我らはスナーク。やがて生まれる超生物の先駆けです」
「僕たちも……『秘密結社スナーク』。出撃~だね」
──幽は距離を詰められる前にと、ブカブカの袖から衣服の下に隠すには不自然に大きいトゲ付き鉄球を撃ち出した。
鎖がこすれる音を鳴らしながら、鋭さを伴う重撃がサラリーマンに迫る。
しかし、サラリーマンはそれをかわすではなく、両手を上下に構えて迎え撃つ。巨大な手の平はそれだけで大盾のようだ。さらに、その両手を正面に円を描くように動かした。
火災旋風のような炎の渦が鉄球を受け止め、回転の動作でその重量をハジき飛ばす。
斜め下に飛ばされた鉄球が焦土を深々と抉り、土煙を巻き上げる。
「回し受け──基本の受けですら、この巨腕で行えば金城鉄壁となります。そして攻めに転じれば気炎万丈の猛攻に──ッ!」
猛炎をあげる両腕で、サラリーマンが幽に迫る。
「……寒くなる時期だから、暖かくなるのはいいけど、自分が燃えるのは嫌だな~」
ましてや、燃やされるなど。──素早く鎖を引いて鉄球を袖に収納した幽は、続き、先端が龍の爪のようになった鎖を垂らした。
幽の頭部めがけて、まるで龍殺しの大剣だとでも言わんばかりの手刀が振り下ろされる。
「のら~り、くらりと」
揺れるように横にかわした幽は、そこから跳躍し、炎の生む上昇気流に乗っかってフワリと空へ。龍翼で体勢をコントロールしながら鎖をしならせ叩きつける。
「むんっ!」
その鎖をサラリーマンは腕を盾として防ぐ。鎖の先の爪が皮膚をひっかくが、かすり傷にしかならない。
着地した幽は横に跳ね、一拍遅れて、幽の立っていた場所を拳が空を切る。反撃の鎖をサラリーマンの裏拳が受け止める。
夢の世界に浮かぶかのような捉えどころのない幽の動きをサラリーマンは補足しきれず、されど幽の鎖もサラリーマンの守りを超えられない。
技量は拮抗。──だが、そこで幽が足を止めた。
「好きあり、チェストォ──ッ!」
好機とばかりに、サラリーマンはすり足で距離を詰めながら、指を束ねた抜き手を幽に突き込む。
だが、その指先が幽に届く前に、サラリーマンの前進が止まった。
「なんッ!?」
「やっと絡まってくれた~」
サラリーマンが目をこらせば、キラキラと光を反射する鋼糸が己の肉体にまとわりついているのが認識できた。物理的な捕縛の他に、『力』そのものが封じられるのを感じる。
幽はさらに右の手で龍爪の鎖を、左の手で白いオーラの鎖を放ってサラリーマンを雁字搦めにする。
「これで完全に確保~」
「おのれ、少年!」
対抗するようにサラリーマンは意思の力で両腕をパンプアップ。炎もよりいっそう猛らせる。
(コントロールです……ッ! この捕縛を解くだけの豪炎を! 己を焼かぬ程度に繊細に!)
ブチブチと鋼糸が焼き切られていく。しかし、サラリーマンは失敗をした。自己の内に意識を向けるあまり、幽から意識を外してしまっていた。
幽は直上にジャンプした。そして、両手の鎖を引っ張って空中から敵の顔面目掛けて自分の身体を引き寄せる。
「今日はこれでゆっくり休んでいいんだよ」
カラテ家のお株を奪う幽の飛び足刀蹴りがサラリーマンの顎を蹴り抜く。
「あ────ッ」
脳が揺れ、サラリーマンの意識がスッ飛んだ。
直後、制御の意思をなくし、巨腕の炎がサラリーマンの全身に延焼する。
「おやすみなさい」
炎に巻かれないように素早く鎖を回収した幽は、さようならの代わりに、安眠を願う一言を告げた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『アズマ』』
|
POW : 決別拳
【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : 瞬断脚
【神速の蹴り】が命中した対象を切断する。
WIZ : 捨身投
【自身に近接攻撃】を向けた対象に、【投げ技によるカウンター】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:箱ノ山かすむ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ナイアルテ・ブーゾヴァ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●破壊が、来る
鉄と鉄を激突させたが如き、鈍くも激しい衝突音が響いた。
大型クレーン車で振り回した鉄球をビルの壁にブツける解体工事の音に近いか。大音量は迷宮内の猟兵の耳にも届く。
続けてベキベキと物体に亀裂が広がる耳障りな響き。さらには土砂崩れのように次々と物が落下し、重なり、流れていく、幾重にも重なる硬質な騒音。
猟兵の誰かが言った。
「アズマが動き出した……」
腰を落とす。
拳を引く。
そして、最大速度で拳を前へ。
たったそれだけの、シンプルな正拳突きだった。
拳は迷宮の壁である荊の棘の先端に一ミリのブレもない『真っ直ぐ』で叩き込まれる。
その拳は巨大な岩塊を圧縮し、圧縮し、圧縮することでようやく人の手の形に整えたような、絶対的な頑健さを誇っていた。
ぐしゃり、と。
鋼鉄を越える堅硬さを持つ拳に、鋭利な棘は平べったく圧された。
そして、再びの崩壊音。
迷宮の壁が崩れていく音。
アズマが迷宮の中に踏みいった。
「猟兵を殺す……猟兵も殺す」
うわ言のような言葉が、低い声で呟かれる。
その意思はどこか虚ろ。
しかし、それは意識が朦朧としているためとは思えない。
むしろ、闘うこと、殺すことにのみ精神を特化させているがために、他の部分が抜け落ちてしまっているのではないかと思われる。
「人も……神も……怪物も……殺す…………殺す」
アズマが猟兵に向けて、進撃を開始した。
ティファーナ・テイル
SPDで判定を
*アドリブ歓迎
「正義と勇気でキミを倒す!」と拳を向けます!
『ガディスプリンセス・レディース』で従属神群を召喚して『ガディス・ブースト・マキシマム』を強化して『スカイステッパー』で縦横無尽に動き回り『セクシィアップ・ガディスプリンセス』で♥ビーム攻撃をして敵の攻撃に『神代世界の天空神』で空間飛翔して避けて敵のUCに『天空神ノ威光・黄昏』で封印/弱体化をします!
『ジェットストリーム・ラヴハート』でSPDを更に強化し『ガディスプリンセス・グラップルストライカー』で髪の毛/蛇尾脚/拳で攻撃を仕掛けて『ゴッド・クリエイション』で“拳を極めし者”を創造して気を引いたり一緒に戦闘を仕掛けます!
ジャスパー・ドゥルジー
格闘術の心得がねェ俺にでもわかるぜ
ありゃァまともに喰らったら「死ななきゃ御の字」ってレベルだ
奴の拳を食らいそうになったら指定UC
身体を炎に変換させて回避&熱での攻撃
もっとも見切りが間に合えばの話だ
あのバケモノの拳を避け続けられるとは限らねえ
もしもの時は【激痛耐性】で耐え凌ぐぜ
―つーか、ご褒美なんだけどね俺にとっちゃ
腹が抉れようが腕がイカれようが笑い飛ばしてやるぜ
俺の武器は炎とちっちゃなナイフだけ
こいつ相手に近接戦仕掛けるしかねェのさ
文字通り骨が折れるねェ、シシシ
ところで俺の技名、聞いてた?
そ、「バンダースナッチ」の影
云っただろ
そいつも「スナーク」も、今じゃ猟兵のモンだってな
●スカイライト・スモーキーフレイム
「おっ、来やがったかァ」
迷宮内を歩いていたジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)がピタリと足を止めた。
直後、歩を進めていたら彼がいたであろう位置に、横から鉄片の暴風が吹き荒れた。それらの出どころは迷宮の壁。拳で砕かれた壁の破片が飛んできたのだ。
鉄荊の破片を素足で踏み砕きながら、壁面に空いた大穴からヌッとアズマが体を出す。
「いた……猟兵……殺す」
小さく飾り気のない言葉は、しかし、ビリビリとジャスパーを圧してくる。一見無造作に、されど隙のない歩き方で、アズマはジャスパーに踏み込んだ。
「オイオイ、知らねぇのかァ? 燻り狂えるバンダースナッチとジャスパードゥルジーに近寄ってはならない、ってな」
ジャスパーは右手に手のひらサイズのナイフを握り、その輪郭を影に溶かして揺らめかせる。その視点は圧縮した巌のようなアズマの拳に。
(格闘術の心得がねェ俺にでもわかるぜ。ありゃァまともに喰らったら『死ななきゃ御の字』ってレベルだ)
だから、ジャスパーは捉えどころのない炎に成る。炎自体が焦げ付いているかのような黒い魔炎に。
「……分からない。が……殺せば……同じことか」
人型の破壊が動き出した。
アズマは緩やかに踏みこんだ──、と見えた瞬間には真剣にも勝る足刀がジャスパーの頭部を 斬り払っていた。
しかし、その足の指先は何も切断していない。ジャスパーの頭は瞳の位置で横に真っ二つになっていたが、すぐにくっついて元通り。炎は斬れない。混ざり、集まり、また燃える。
(しかし、何回、見切りが間に合うかね──)
ジャスパーがそう考えた時だった。上段に蹴り放たれたアズマの脚が地に還り、踏みしめの力の反作用で音速越えの拳が飛んだ。
(──ア)
拳がジャスパーの薄い胸板に届いた。
打楽器を目一杯に打ち鳴らしたような内臓を揺する音と共にジャスパーは殴り飛ばされ、地面を抉りながら転がっていった。
「決別拳。この拳を受ければ……死に別れは必定だ」
正拳を放ったままの態勢でアズマは固まっていた。それからゆっくりと首を傾げる。
「バンダースナッチ……どこかで聞いたことがある…………」
数秒の後、その首も元に戻る。自分の疑問にもさして興味がないのだろう。七~八十メートルは吹き飛んだジャスパーの生死を確認しようと、アズマは人が地面を転がって刻んだ轍を辿ろうとする。
その途中で、アズマの意識が上空に向けられた。
空に、翼持つ大蛇がいた。
「猟兵、増えても……殺す」
「ならばボクは、正義と勇気でキミを倒す!」
ティファーナ・テイル(ケトゥアルコワトゥル神のスカイダンサー・f24123)。天空神の系譜である彼女は迷宮の壁を無視して、飛来した。
大蛇の下半身から生えた人の上半身で、アズマに拳を向ける。その意思と覚悟に呼応するように、彼女のそばにケトゥアルコワトゥルの従属神たちが現れる。
「相手が神殺しだって! 闘神の本気と勇姿を見せるよ!」
輝く闘志を光線に変えて。
ティファーナ本人と従属神群がビームを雨と降らせる。
「神は殺す……」
己を貫き、灼き尽くさんと迫る閃光を前にしてもアズマは変わらない。最初に届いた光線の一本を強引に"掴み取り"、力の流れを引き込みながら"投げ飛ばす"ッッッ!!!
鋭角に起動を変えられた光線は続く光線群に衝突し、光の爆発が起きる。
打撃に終始する印象のあるカラテだが、UDCアースで『古流』と言われるカラテ術には投げ技も存在する。
視界を塗り潰す白光が晴れる。しかしアズマが空を見ることはなかった。
「プリンセスガディスハーーートっ!!」
迷宮内から見上げる細い空はピンクで覆いつくされた。鳴動する巨大なハートの波動がアズマめがけて落下する!
「心の臓の……象形か」
両拳を立てて、アズマはハートを受け止める。大地とハート型の波動に挟み圧される態勢になるアズマ。しかし、彼はその状態で寸打での拳撃を敢行し、ハートを霧散させようとする。
だが、畳みかけるように、ティファーナは──、
「クリエイション! 『拳を極めし者』!」
崩れた壁の破片が一人でに積み重なって、引き締まった体の人型に組みあがる。神の被造物が神殺しに拳を向ける。
「アレは……できる」
アズマはハートから自ら拳を離した。抵抗を失い落ちたピンクの波動がアズマの身体を焦がす。有象無象のオブリビオンならそれで消滅する一撃だが、アズマはそれをシンプルに“耐える”。
「フッ……、カッ!!」
交差する『拳を極めし者』の正拳とアズマの諸手。正拳がアズマの胸に叩きこまれる直前、アズマの左手が『拳を極めし者』の肩を、右手が突きこまれる拳を叩き、力のベクトルを捻じ巻くことで、その腕をヘシ折った。
ベギンッ!! と金属が破断する壊音が響く。
しかし──、しかしだ。
「これはボク達の“超神武闘必殺技”!」
黄金の輝きが目隠し越しのアズマの瞳に届く。いつの間にか接近していたティファーナの拳から溢れる輝きだ。
「空間を……飛んだか」
気づいた時にはもう遅い。
「勇気と正義と神業で、この好機に決めます!」
闘いの神としての面を持つティファーナの大振りな拳がアズマの頬骨を捉える。
鈍い激突音が鳴り響き、アズマの身体が飛ばされて地面を跳ねた。
「決別なんて、寂しいこと……言ってくれるぜ……ッ」
乱打戦を仕掛けるティファーナの光に当てられ、意識を覚醒させたジャスパーが立ち上がった。
ゴボリと、血塊が臓腑から喉に逆流する。胸骨が折れ、内臓にまでダメージは達したか。せり上がってきた血を吐き捨てて、ジャスパーは笑った。
胴の前面がドロドロに溶け落ちたようにも、何本もの鉄杭を打ち込まれたようにも感じる、痛み。ドロドロなのは自分の血肉で、杭は折れた骨か。だけど、死んではいない。死んでいないなら、どれだけ身体が痛くてもジャスパー・ドゥルジーは笑える。
こんなものは美味しい美味しいご褒美だ。なら、楽しんで、笑い飛ばしてやれ。
「さて、も一度……行くかァ」
街の不良でも所持していそうなサイズ感のナイフだけを手に、再び肉を炎に変える。ジャスパーにはこの戦い方しかない。
「文字通り骨が折れるねェ、シシシ」
「天空神の庇護と加護と祝福の威光を!」
拳を、髪を、大蛇の尾を打つ。打つ、打つ、打つ。ティファーナの勇猛果敢なラッシュがアズマを襲う。
アズマはそれを捌きつつ違和感に眉を曲げていた。膂力も技巧も勝っているハズの己が攻めきれぬ状況に不審を感じていた。
「ああ……、その光か……」
ことの原因は、ティファーナの放つ黄昏色の後光。天空神の威光は敵対者の気勢を沈ませる。
ティファーナの何発かがアズマの鋼の肉体を浅く打つ。アズマの脚撃を装飾具を揺らしながらティファーナがかわす。
打ち合えている。しかし、決め手に欠ける。
だが、黄昏れ、日が沈むのならば、そこからは悪魔の時間だ。
「よっ、帰ってきたぜ」
踏む大地からも煙を上げながら、ジャスパーが舞い戻った。
「煙に……先の名乗り、聞き覚えがあると思ったが、……我らが頭目の名を、騙っていたのか……」
「そ、俺の技名、『バンダースナッチ』の影ってね」
「自分たちのフォーミュラの名前を忘れていたのですか!?」
細くまとめ固めたティファーナの超長髪が、アズマの顎を横殴りにする。それで、ごく僅かにアズマの脚が揺れた。
そこにジャスパーがゆらり突撃──。
「今一度……だ」
されど、アズマもすぐに意識を定めて拳を引いた。次に来るのは豪速の正拳だ。これでは先の二の舞になる。
だが、その前に光が流れた。
「勇気! 正義! 神愛! 神様パワーを爆発だ!」
光と化してアズマの後ろに回り込んだティファーナが、髪と尾でアズマを締め上げる。
捕縛はほんの一瞬、すぐにアズマは筋力で拘束を振りほどき、必殺の正拳を打った。その拳はジャスパーの脇腹に刺さる──ハズだった。
だが既に、彼の身体は炎。ジャスパーは魔炎を揺らして体に三日月の“欠け”のような穴をあけ、アズマの拳を透かす。
アズマの拳のその先へ、ジャスパーは歩み寄る。
人の懐に入るのは悪魔の得意技だろう。
「それじゃあな」
ガラ空きになったアズマの胴体にズブリとナイフの刃先が沈む。
「『スナーク』の名は猟兵がいただくぜ」
そして、ジャスパーはドアノブでも回すように、突き刺さったナイフの柄をグルンと捻った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
呑龍寺・沙耶華
犠牲となった神々に黙祷を捧げ、心を落ち着かせます。
何故、戦の果てに命を奪い続けるのかなんて…貴方にとっては愚問なのでしょうね…。
でも、すべてを殺める事を前提とした精進は終わりにさせて頂きますわ。
戦闘
【POW】
神をも殺す達人相手の正念場、わたくしは練度ではまだ及ばない未熟者ですがここで負けるわけには参りませんわ。
正攻法から少々ズラした力押しの策でございますがたとえ勝てぬとしてもアズマ様の拳を全力で止めさせて頂きます。
技能をいかして【存在感】ある【残像】であえて気配を感じさせ、【見切り】で翻弄し、隙を作った所で武器はサムライブレイドに【剣刃一閃】込めた斬撃でダメージを狙います。
アドリブ共闘OKです
大豪傑・麗刃
よもやきみは素手でわたしと戦おうというのかね。こちとら剣士だよ。剣道三倍段という名セリフも知らないのかね。
うん知ってる。そんな言葉が通用する相手じゃないことぐらいは。でも戦う前から負けるわけにはいかないのだ。気合だ。
剣士としてやることは斬る事だけ。でも真正面からはなあ。
なのでここは神様ヘルプ。助けてくれなきゃわたしは地面とキスしてしまうのだ。使ってくれるのはゴッドクリエイションか。硬度を人間以上にしてもらって、わたしは創造物と同時に突っ込む。で。
創造物くんがやられている間に一撃入れる
せっかく生まれたのに、すまんな、本当にすまん。
相手の拳がこっちにきたならカウンターで拳を斬れるか試すしかないか。
レナータ・バルダーヌ
農耕の神様の仇、取らせてもらいます!
……とはいったものの、言葉通り相手は神様を倒すほどの実力です。
自分への攻撃あるいは味方を【庇い】、サイキック【オーラで防御】しますが、敵の強力な一撃を受けて窮地に陥ってしまうかもしれません。
しかしこのヒーローズアースには、ゴボウの危機に駆けつけるゴボウさん界のヒーローがいます。
「あ、あなたはゴボウーマン!秘密結社スナークの救援ですか!
ということは、あの赤いマントの影は…………ゴボウマン!」
ゴボウマン&ゴボウーマンはこの世界のユニーク個体なので、自然の神様の中にはきっとお友達もいるでしょう。
神様たちの力も借りて、わたしの代わりに大活躍してくれるはずです。
●その拳を殺す時
戦いの合間、呑龍寺・沙耶華(ブシドープリンセス・f18346)は一人静かに瞑目する。
(農耕の神様、どうか安らかに……)
犠牲になった者に捧げる黙祷。戦下にあっては散る命もある。生きている者として、彼女は彼らの安寧を祈る。
それは彼女にとっても心落ち着けるために必要な所作でもあった。これから挑まねばならない敵は神をも殺害する無双の武人。己を練度及ばぬ未熟者と自覚するからこそ、せめて精神は万全の状態で臨みたい。
「あー! 見つけました! そこの人、迷宮を作った猟兵の人ですね!」
ドタドタと大量の足音が沙耶華の背に近づいてくる。やってきたのは大量のゴボウ生物と、その後ろにゴボウたちの主、レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)。さらに、大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)もいる。
「強敵に挑むのに、仲間が増えるのは心強いのだ。三人寄ればなんとやら、ゴボウさんたちもいるからそれ以上なのだ」
「は、はぁ……。では共に行きましょうか」
奇怪な生物と共にやってきた猟兵たちの姿に顔を引きつらせる沙耶華だったが、戦力が多いに越したことがないのは確かだ。とくに同じサムライブレイドを扱う麗刃からは、その(見た目に反した)実力のほどを沙耶華も感じることができた。
沙耶華の先導で三人(+ゴボウさんズ)は連れ立って迷宮を進む。
多くの道が通じている広間のような空間にアズマはいた。
「来たか……猟兵。探す手間が省けた…………」
アズマの身に着ける道着の腹部はドス黒い地で染まっている。ここまでくる道中でも他の猟兵と交戦したのだろう。その傷が癒える前に、決着をつけたい。
「農耕の神様の仇、取らせてもらいます!」
圧倒的な武力を“暴”として振るって神を殺し、本人にどれほどの意識がなくても世界に危害を与え続けるであろうアズマを、逃がすわけにはいかない。レナータは宣告の指先を突きつける。
「仇討ち……詮無きこと。俺は、殺す……、敵を、殺す……」
アズマはいちいちレナータの言葉に取り合わない。しかし、その闘志にだけは確かに反応し、拳を構える。
「よもやきみは素手でわたしと戦おうというのかね。こちとら剣士だよ。剣道三倍段という名セリフも知らないのかね」
いつになく剣士然といた佇まいで刀を構えた麗刃が告げる。
『剣道三倍段』。
一般に、徒手空拳で剣術に挑むならば三倍の段位が必要、という意味である。
「(な~んて言っても、うん知ってる。そんな言葉が通用する相手じゃないことぐらいは。なので、レナータちゃん。“アレ”はどうなっているのだ?)」
「(今、ゴボウさんたちが向かっているところです。もう少しかかるかと)」
「ならば、剣士としてやることは斬る事だけ。戦う前から負けるわけにはいかないのだ。気合だ」
言葉通りに刀を上段に構えて、麗刃は正面から駆け出す。
同時に、沙耶華もその凛然とした存在感を全開にして、アズマに対して弧を描くような動きで向かっていく。
「お覚悟を!」
「…………」
沙耶華が気を吐き、白塗りの鞘から抜いた刃を見せつけるように掲げる。だが、アズマはそれを無視して麗刃に正面突撃をかけた。刃を振り降ろされる前に先手必勝を決めようと、最短最速の直突きが放たれる。
「させません!」
しかし、その腕を伸ばす動きが正面から“見えない何か”に押さえつけられる。ゴボウさんを下がらせて己の力を開放したレナータの念動力だ。
「ふんっ!」
その隙をついて、麗刃のサムライブレイドの剣閃が走る。アズマは正面からかかる念動力の圧力を逆手にとって後ろに跳び退り回避しようとするが、振り切られた豪傑の刃は衝撃波を生み、アズマを呑み込んだ。
「むぅ……っ」
土埃と共に勢いよく吹き飛ばされるアズマ。地に足を叩きつけて制動をかけると、そのタイミングを狙って斜めから跳びかかるように、今度は沙耶華の剣撃が打ち込まれる。
「あなたの暴虐、止めさせていただきますわ!」
「瞬きの間に……断つ」
アズマは地面を滑りながら左脚で蹴撃を放つ。
沙耶華の刃とアズマの脛がブツかり、キィン──ッと澄んだ音が響いて、互いの武器が思いきりハジかれる。
「無手で日本刀と斬り合いますか!?」
人の体では普通、出し得ない金属音。サラリーマンも拳で刃を受けたが、そうした力づくとはまた一線を画している。
沙耶華の腕がビリビリと痺れる。そして、ハジかれたのはお互い様だが、長い日本刀を蹴り上げられて腕ごと引かれた沙耶華よりも、己の意志一つで制御の利く肉体をハジかれただけのアズマの方が晒す隙は小さい。
「死別を……、決める」
素早く体勢を立て直したアズマが、ガラ空きになった沙耶華の腹部にカノン砲の如き威力の正拳を突き放つッ!!!
「危ないっ!?」
その瞬間、沙耶華の体を身に纏ったサイキックで横から突き飛ばす影があった。
レナータ・バルダーヌ。
受難に満ちた生を歩んできた少女は、それでも致命の拳に身を跳び込ませた。
ゴグアンッッッ!!! と、打撃というよりは大型車両の交通事故に近い音が鳴り、殴打されたレナータはゴムボールのように大地を跳ねながら迷宮の壁を貫いて彼方にまで消えた。
「レナータちゃん!?」
駆け寄るよりもまずアズマを止めなくてはと、麗刃が小手斬りを打つ。アズマは右の裏拳で受けるが、全霊の正拳突きの後の一瞬の弛緩をつかれたために完全には止められず、刀傷を刻まれる。
自分の手から鳴る血飛沫の水音を無視して、アズマは回し蹴りであたりを薙ぐ。だが、その前に沙耶華も麗刃も徒手の届く領域の外にまで距離をとった。
しかし──、
「まずは……一人だ」
「うぅ……、痛っあ…………」
砕け散った壁の瓦礫で戦場が見えないほど遠くまで飛ばされたレナータが口から零れる血と共に呻きが漏れた。呻くことができた。
本来なら致命の一撃を耐えられたのはサイキックオーラの防御が功を奏したか、果てなき苦痛をその身に受けた経験の賜物か。
とはいえ、戦場に戻るだけの余力があるかと言われたら、それは否だ。どころか、適切な治療が受けられなければ命の安全は確保できない瀕死状態である。
しかし、そんな彼女の血が抜けて体温の下がった体に、優しく赤い布がかけられた。
「あなたは……」
「何故、戦の果てに命を奪い続けるのかなんて……貴方にとっては愚問なのでしょうね……」
残像を残す歩法で攪乱しながら、沙耶華はアズマの周囲を走る。
迂闊に踏み込めば先のような痛撃が待っている。それ故に、今は動きで拳を打たせず、止める。
アズマは両手を前に出した前羽の構えで、攻めてくるところを切り返そうと待ちの姿勢を見せる。
「“なぜ”などない……殺す」
『殺す』という、そこらのチンピラが言えば安いだけの言葉も、拳が兵器に匹敵し、殺害に躊躇のない意志なき意識を持つアズマが口にすれば、それだけで聞く者の神経を炙る響きを持つ。
それでも沙耶華は、言葉に圧され折れるようではヒーローは名乗れないと、対話ではなく己の意気を返す。こんなところで屈しては自分を庇ってくれたレナータに顔向けができない。
「すべてを殺める事を前提とした精進は終わりにさせて頂きますわ」
「……戦えば、どちらかが死に……止まる…………当たり前だ」
アズマは何を当たり前のことを、という疑問を抱いているようだった。つくづく会話が通じない。
「斬る事しかできないとはいえ、真正面からはなぁ」
沙耶華がアズマの視線を寄せている中で、斜め後方から麗刃が突貫。胴を斬り払う中段の斬撃がアズマを襲う。
「身を捨て……」
が、アズマはその斬撃を読んでいたように、体を捻って麗刃の方に向きながら仰向けに倒れ込んだ。
刃がアズマの体の上を通り抜ける。その刀を握る麗刃の腕を、下から伸びてきたアズマの手が掴む。
「ぬっ!?」
「投げる」
麗刃の腕が引かれ、入れ替わるようにアズマは勢いよく身を起こす。互いの位置の上下が反転し、麗刃は顔面から地面に向かって落とされる。
このままいけば、地にめり込むほどの勢い。
「────────」
──しかし、その直前、声なき声が駆けた。地との激突の寸前で何者かが麗刃の身体を攫う。
「まだ、増援がいたか……」
また一人、敵を屠れると思った瞬間に飛び込んできた“ソレ”の方を、アズマは見る。
そこにいたのは、雄々しい佇まいの──ゴボウだった。
「あ、あなたはゴボウマン、なのだ!」
ゆっくりと足から地面に降ろされながら、麗刃は自分のことを窮地から救ってくれた者の名を呼んだ。
ゴボウマンと呼ばれた生物は言葉の代わりにサムズアップっぽく手の先を立てる。
そう、現れたのはゴボウと言っても、彼のただのゴボウさんではない。身に帯びるは英傑の風格、このヒーロー世界のユニーク個体であるゴボウのマンドラゴラ(マンドラゴラ!?)、ゴボウマンだった!
「ほう……。栄養価が高そうだ……」
武と闘いに生きるアズマは独自の視点で、新たな破壊対象を見定める。
「ゴボウマンが来てくれたということは……、間に合ったのだ! あと少し遅かったら、わたしは地面とキスしてしまっていたのだ」
「間に合った……?」
麗刃の言葉に、アズマは疑問符を浮かべた。
そして、その言葉の真意はゴボウさんが示した。彼の指先がアズマの背後にあるこの広場へ通じる道の一本を指した。
そこにいたのは、まず先頭にゴボウマンのサイドキックであるゴボウーマン。
そしてその後ろには──、様々な植物でできた数十の人型が立っていた。
「あれは……、ゴッド・クリエイションで創られた生命たちですか!?」
「ふっふっふっ、こんなこともあろうかとゴボウさんに神様へのヘルプを送ってもらっていたんだ」
驚く沙耶華に種明かしを楽しむように麗刃が答える。ゴボウマンはこのヒーローズアースの存在なので、自然の神々ともツテがあった。
そして、鬨の声が唸りをあげた。
「──────────────ッッッ!!!」
人の可聴域の外の声で雄叫び、植物生命たちがアズマに向かって雪崩れ込む!
まずはゴボウマンがアズマに殴りかかる。迎撃するアズマと拳が交差し、強烈なクロスカウンターが互いの顔面を抉る。
「むぅ……っ」
ゴボウマンは殴り飛ばされるが、アズマも脳を揺らされてよろめく。
そこに大量の植物生命が群がる。アズマはそれらを斬撃の域に達した脚撃の乱舞で蹴り飛ばしていく。生まれたばかりの植物生命たちは体をくの字に折り曲げられ、絶命していくが──、
(殺せてはいる……が断てはしない、か……)
それらは元は植物でありながら、鋼鉄よりもなお堅い。
「硬度を人間以上にしてもらっているからな」
植物生命に紛れて接近する麗刃。
(せっかく生まれたのに、すまんな、本当にすまん)
命を消費し、一緒に戦ってくれている植物生命たちへの謝意を胸に、麗刃は武人の家系の次期当主の顔で高々と刀を持ち上げる。
「む」
アズマは麗刃も植物生命同様に蹴り殺そうとする。だが、連続して切断不能の硬度の植物を蹴り抜いた負荷と、ゴボウマンパンチの威力の残滓で足を重い。猟兵相手には機能不全と、咄嗟に放つ技を決別の正拳に切り替えようとする。
しかし、その初動の遅れは致命的だった。
「その拳、断ち斬ろう!」
出遅れたアズマの右拳に叩きこまれる麗刃の剣刃一閃!!
サムライブレイドの刃がハジかれることなく拳を通り抜ける。
「ぐぅ……!」
初めて、アズマの眉が痛覚に歪む。やはりアズマの拳は岩塊に近いのか、斬られた手の甲に刀傷の罅が広がり、岩から沁み出す湧き水のように血が流れる。
そこに、今度はゴボウーマンが追撃を与えんと駆けてくる。
「…………いくら力強くとも、ゴボウは食材に……過ぎん」
傷つく拳でも、再び心を落ち着けて正拳の構えを取る。
敵を死ぬまで、何度でも全力で打てば良い。そうすればどんな敵も殺せる。殺し尽くせる。その行為にどんな意味があるかなど考えず、しかし、意味がなくとも拳が鈍ることはない。
音よりも早くアズマの正拳がゴボウーマンの体躯に着弾し、今は遠くで休む呼び出し主同様に、ゴボウーマンの体が砲弾のように撃ち飛ばされる。
しかし──、フッ飛んだゴボウーマンの陰から、現れるのは、
「ここが正念場!」
サムライブレイドを片手に持った沙耶華! その登場にアズマは驚愕の表情を見せた。
「先の存在感に囚われて……翻弄されたか…………、紛れ来るとは」
そこにある感情は後悔か、関心か。だが、何を思っても、正拳直後のアズマの腕は伸び切っているところだ。これ以上は伸ばせない、突きこめない。
明確な隙を見せたひび割れた右拳へ、沙耶華の横振りの一閃が届く。
「正攻法から少々ズラした力押しの策でございましたが……、終わりです!」
剣刃一閃、麗刃と合わせて、剣刃──二閃!!
ピキピキと硬い音がアズマの右拳から鳴った。
「…………俺の拳を、殺すとは」
アズマが拳を自分の顔の前に持っていく。固めていた拳を解くように、その手ゆっくりと開いた。
その動作を最後に、アズマの右拳が砕けて間欠泉のように血煙が噴き出した。
「……見事なり」
「これが私たち、人々を守る」
「秘密結社スナック……じゃなくてスナークの力なのだ!」
高々と名乗りを上げる沙耶華と麗刃。
その後ろでは、レナータに変わりゴボウマンがキメポーズを取っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陰白・幽
うーん、怖い人〜だね。なんかすごいね〜一つのことにのめり込みすぎるとあんな感じになっちゃうのかな……ボクも気をつけないと、だね。
まあ、取り敢えず「秘密結社スナーク」、いくよ〜
基本は今回も距離をとりながら鎖や鉄球で牽制をしていくよ〜近づいたりするとこわいからね、しっかりと鉄球もぶつけていくよー
……距離を詰められ始めたから、最後は鉄球を正面からぶつけていく時に鉄球で敵の目線を邪魔して、ボクの方から距離を詰めていくよ〜。
距離を詰めたら猫眠拳でアタックだね。
……あんまり一つのことにのめり込むのも、良くないんだと、思うよ〜
●眠らせる者、眠る者
「……………………」
道着をはだけさせ、解いた黒帯で右拳を固めたアズマが迷宮の出口から脱出をした。
「這う這うの体で……敗走を余儀なくされるとは…………」
思ってもみなかった、とアズマは呟く。
利き腕を断ち割られ、完全に”殺されて”しまった。だが、敗北に対する無念も憤懣もない。殺されても甦るのはオブリビオンの十八番だ。何らかの手で傷を癒して、また戦えば良い。
そんな風に考えながら、この地を去ろうとするアズマの前に最後の猟兵が立ち塞がった。
彼にとっての死神は、白い龍の姿をしていた。
「うわぁ、もうボロボロだねぇ。でもまあ、取り敢えず『秘密結社スナーク』、いくよ〜」
開いた腹の傷から血を零すアズマを見て、陰白・幽(無限の可能性を持つ永眠龍・f00662)が片袖からトゲ付き鉄球を落とす。
「ああ……猟兵か……。鎖に……糸も仕込んでいるか…………、撤退困難なら……、殺す」
拳の死んだ右腕は垂らしたまま、アズマは左拳を構える。
「うーん、怖い人〜だね。なんかすごいね」
事ここに来ても屈することなくただ相手を殺すことのみを考え続けるアズマに、幽は畏怖を込めて言った。
「一つのことにのめり込みすぎるとあんな感じになっちゃうのかな……ボクも気をつけないと、だね」
すごいとは思う。だが、こうなりたいとは思わない。戦うことも嫌いではないが、それだけの存在にはなりたくはない。食べて、寝ることが幸福だが、それらを楽しむためなら色々なことをやる。それが幽の生き方だった。
幽は鎖を引き、一度鉄球を後ろへ。それから鎖のしなりを制してアズマめがけて投げ放つ。
「……殺す、だけだ」
空を鳴らしながら迫る鉄球に、アズマは人差し指と中指を立てた二本貫き手を突きこむ。指は正確に鉄球の棘の一本と正面衝突し、宙で鉄球が制止する。棘の先端がへこみ、一方でアズマの中指も折れ曲がり、紫に変色する。
「指で止めるって、すごい力。やっぱり、近づいたりするとこわいね~」
幽は鉄球を引き戻すと、反対の手で龍爪の鎖を振るう。中指のダメージには目もくれず進撃しようとしたアズマだが、爪だけでなく龍の体躯全身を表すようにうねる鎖が前進を妨げる。
足を止めてアズマは鎖を蹴り斬ろうとするが、たわむ鎖は切断を逃れて先端の爪がアズマに向く。
だがそれをアズマはあろうことか右腕を掲げて、砕けた拳で受けてみせた。
そして、また進む。
「武器にならずとも……盾にならばなる」
「そんなに戦うこと……殺すことに、のめり込んで楽しいの?」
会話をしながらも、幽は叩き潰す軌道で鉄球をアズマに落とす。
「…………」
返答はなかった。
再び足を止め、アズマは左手を直上に突き上げる。掌底が鉄球を受け止めるが、全身にかかる圧力に耐えきれずに、プシッと炭酸の栓を抜いたような音を鳴らして腹の傷から血が噴き出す。
幽が鎖を操って牽制の攻撃を放てば、それでアズマの血肉が削られていく。
それでも、“殺”の心だけで、アズマは一歩一歩、幽に近づいていく。
「……詰められ始めたきたね。じゃあ──」
幽が鉄球を蹴り、アズマの顔面めがけてシュートした。鎖の自在さを捨てて、あえての一直線。鉄色がアズマの視界いっぱいを埋める。
「捌き、殺す」
しかし、棘が顔の皮膚に刺さる寸前に、アズマは左手で鉄球を掴んで、はたくように投げ捨てた。
そのまま、アズマは駆けようと脚に力をためた。次、鎖が幽の手元に引き戻される前にケリをつける腹だ。
だが──
「やあ」
鉄球がどかされたその先に、自ら踏み込み近づいてきていた幽がいた。牽制から近接に切り替えるその柔軟な動きに、アズマは意表をつかれる。
幽の手には鎖を捨て、胴がだらんと伸びた猫型枕。その枕がアズマの肉体に叩きつけられる。
「そして──、おやすみ」
まず聞こえたギギギッ──ッいう音は、とアズマの鋼の肉体から鳴ったのか、それとも空間そのものがあげた悲鳴か──。
直後、超威力の猫枕の一撃で、アズマそのものが暴風と化したように、衝撃波をあげながら飛ばさた。
勢いよく迷宮の壁に叩きつけられたアズマ。彼は最期、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
「ああ、これが……俺の、”殺される”か……」
そして彼は満足も後悔も見せず、ただ淡々と絶命した。
その死に様は、幽には不幸には見えなかったが、幸福にも見えなかった。
「……あんまり一つのことにのめり込むのも、良くないんだと、思うよ〜」
数多の強者を永遠の眠りにつかせてきたのであろう武人は、永眠龍の手で自身もまた永遠の眠りに落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年11月16日
宿敵
『『アズマ』』
を撃破!
|