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茨姫は眠れない

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #エンデリカ #プリンセス

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 眠る、眠る、不思議の国。
 普段は香り溢れる花園も、喧騒止まぬ街並みも、今は黒薔薇の香りに染められ、茨に包まれ、囚われた者は夢の中。
 ――いいや、眠りこけつつある国の中で一人だけ。
「全く、どうしたってこんなことに!」
 それは茨退ける輝きの。
 宙より雪の如くと輝きの花弁を散らしながら、己が国を彼女は見る。
 勝気に吊り上がった紅。さらり流れる銀糸。纏う衣はふわり白。
 嘆きを零すその人こそ、この国を纏めるプリンセス。そして、この茨に侵されつつあるこの国においての唯一の希望。
「まだ動ける者は城へとお逃げなさい!」
 輝き、輝き、輝き。
 彼女より零れる花弁が茨を退け、眠りに落ちつつある国の中で、まだ健在を示す城への道を示すのだ。
 一人、二人、三人――だけれど、数える程にしか動けぬ国民の姿へ、王女の顔に苦みが宿っていた。
 だが、その手を止める訳にはいかない。眠りの中へと落ちる訳にはいかない。
「だって、私はこの国のプリンセスなんですもの!」
「――アア。アナタ、トッテモ……トッテモ素敵ダワ!」
「誰!?」
 だが、希望が輝くからこそ、その輝きを奪わんと暗雲は迫る。
 伸び来たるは茨。飛び来たるは星になれなかった者達。
 宙に煌めく王女/星に手を伸ばし、自身にその輝きを宿さんとする害意が王女へと。

「はぁ~い、皆さぁん。よくぞお集り下さいましたぁ」
 頭で揺れるは兎耳。作り物のそれを揺らしながら、猟兵達の前へと姿見せたはハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)。
「知っている方々もいらっしゃるとは思いますがぁ、各世界に散らばった猟書家達が動き出したようですよぅ」
 ハーバニーの言葉の内容。それだけで、今回の依頼がどのような依頼となるか勘付く者もあることだろう。
「今回の依頼はぁ、その猟書家関連の依頼となりますよぅ」
 さらに詳しくと伝えるのであれば、猟書家『エンデリカ』に関連するものだ。
 呪われし黒薔薇の精霊であるところの彼女。それが動くはアリスラビリンスであり、狙い定めるはプリンセスという存在そのもの。
「黒薔薇を従え、配下を従え、その茨で土地を侵しながらぁ、彼女は様々な国――ひいてはぁ、その国を統治するプリンセスを狙っているようなのですよぅ」
 その動機はプリンセスのようになりたいという願望か。はたまた、それ以外のなにかがあるのか。
 だが、何にしても、その行動が世界の危機に繋がるものであることは間違いない。
 ならば、今回の依頼と言うのは――。
「皆さんにはぁ、プリンセスを守りながらぁ、彼女とその配下を討ってもらうことになりますぅ」
 国を侵すという黒の薔薇。それを唯一と祓うことができるのは、ドレスアップ・プリンセスによりプリンセスの身体から零れ落ちる花のみ。
 それがなければ、瞬く間にと黒薔薇は国を覆い、世界を覆い、その場所をオブリビオンのための世界へと染め上げてしまうことだろう。
 そうなってしまえば幹部級のオブリビオンは言うに及ばず、集団で現れるオブリビオンですら一筋縄ではいかない相手と化す。
「お送りさせて頂く先はぁ、既に国が茨に覆われつつある状況ですぅ」
 国の中心に建つ城とその周囲のみが安全圏となっており、そこではこの国のプリンセスが孤軍奮闘していることだろう。
 それを援護すると共に、彼女に代わって敵を討つ剣となるのが猟兵の役目だ。
「既に四面楚歌どころではない状況ですが、それをひっくり返せるのはやはり皆さんしかありません」
 ――どうか、よろしくお願い致します。
 動き出した猟書家達。その目的がなんであれ、止められるのは猟兵以外には居ないのだ。
 銀の鍵によって開かれた別世界への扉が、猟兵達の踏み出す一歩を待つかのようにその内へ輝きを満たして待つのであった。


ゆうそう
 オープニングを読んで頂き、ありがとうございます。
 ゆうそうと申します。

 猟書家達が一斉に動き出しましたね。
 今回の依頼はアリスラビリンスに関連するものとなり、第一章は集団戦、第二章は猟書家との戦いとなります。
 皆さんが足を踏み入れた時点で、国は既に黒薔薇で覆われつつある状態となっています。
 その中をプリンセスが一人で国の中心部である城を守っていますが、援護がなければ遠からず拿捕されるなりし、黒薔薇の侵攻を止める者がいなくなります。
 その場合、黒薔薇の力でパワーアップを果たした敵を止めることはかなり難しくなりますので、彼女がそうならないように気にかけてあげた方が良いかもしれません。

 プレイングボーナス(全章共通)……空飛ぶプリンセスを守り続ける。

 なお、敵自体もどちらかと言うとプリンセスの方を優先して狙ってきます。
 敵の前に立ち塞がるもよし、プリンセスを狙う横腹を突くもよし、どのように対処するかは皆さんの発想にお任せします。
 以下、簡単な捕捉です。

●プリンセス
 銀髪赤眼の少女。
 Lv10相当のプリンセスで、ドレスアップ・プリンセス済み。
 彼女の身より零れ落ちる花弁とプリンセスハートを駆使して、黒薔薇の侵攻を止めていましたが、今はエンデリカやその配下オブリビオンに狙われて防戦一方となっており、黒薔薇の侵攻を止められるような状況にありません。
 彼女を援護すれば、黒薔薇の侵攻を止めることに集中してくれます。また、猟兵の御願いにはできる範囲で対応してくれることでしょう。ただし、国を預かる者としての責任や黒薔薇を食い止めるため、戦場から退くことはありません。

 それでは、皆さんの活躍・プレイングを心よりお待ちしております。
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第1章 集団戦 『星屑のわたし達』

POW   :    パ・ド・ドゥをもう一度
【ソロダンスを披露する】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
SPD   :    我らがためのブーケ
いま戦っている対象に有効な【毒を潜ませた美しい花束】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    そして、わたし達は星になる
【星のような煌めきを纏う姿】に変身し、武器「【白銀のナイフ】」の威力増強と、【魔法のトウ・シューズ】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。

イラスト:伊間川九百

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

カイム・クローバー
要するにお姫様を護る正義の騎士様が役割って訳だ。
童話世界を舞台に姫様のピンチに颯爽と現れる…出来過ぎた脚本を現実にしてやろうぜ

よぉ、姫様。ご機嫌麗しゅう。助太刀に参りました。ご助力する事をお許し下さい(胸に手を当てて一礼)──なんてな?
二丁銃で飛び掛かって来た星屑に【クイックドロウ】と紫雷の【属性攻撃】で銃弾を叩き込む。
こちらはお任せを。姫様には指一本触れさせませんので。(ウインク)

ダンスの練習熱心なのは結構だが、舞踏会を開くのはこの惨事が終わってからだろうぜ。ダンスパートナーは俺だ。来な。
【挑発】掛けつつ、狙いを俺に絞らせて。集団相手にUC。
おっと…悪ぃな。刺激的なのは好みじゃなかったかい?


エドガー・ブライトマン
プリンセスの危機に王子様が現れるなんてさ
出来すぎた話だとおもうかい?でもあり得るんだ
この世界であれば、尚更ね!

よくやった!

キミの王族としての気高さ、心から讃えよう
頑張ったね、プリンセス。これからは私がキミを守る
私の名はエドガー。遠い国から参上した王子様さ

姫君と敵の間に割って入る
ここからの攻撃は絶対に通さないつもり
そのブーケは、あの姫君には不釣り合いなものだから
私の剣で叩き落としてあげよう

9倍にも渡る私の剣戟であれば
花束もオブリビオンも纏めて抑え込めるハズ
その代償は仕方ないことだから

姫君にこの場を退くようには決して言わない
彼女の国への想い、王族としての責務、決意
私も、それらが痛いほどに解るからだ



 届かぬ星に手を伸ばす。
 憧れて、焦がれて、堕ちてなお。
 だが、そこにはもうかつての純粋さはなくて、あるのはただただ妬ましさ。
 悪意であり、敵意であり、害意であるものが、この国の星/希望を墜とさんと。
 ――待って、待って、お待ちになって。
 声は彼方より響き、伸び来る手と茨が王女を捕らえんと伸びる。
「応えて差し上げたいのは山々ですが、今は忙しいのです!」
 構ってなどいられない。
 それが王女の心ではあるが、そんなものはお構いなし。
 星屑の少女達の手は、茨と共になりたかったものを追い求めるのみ。
 高度を落とし、地を滑るようにと姿隠すも多勢に無勢。四方八方より迫りくるそれらへ王女が如何に抗おうとも、その末路を覆し得るものではなかったのだ。
 現実はどこまでも非情で――。

「よぉ、姫様。ご機嫌麗しゅう。助太刀に参りました」
「頑張ったね、プリンセス。これからは私がキミを守る」

 ――だからこそ、その非情さに抗うべくと彼らはここにあるのだ。
 過去の妄執が王女の身を捉えるより早く、その手を払うべくと立ち塞がった影二つ。
「だ――」
「おおっと、誰だ。なんて無粋なことは聞くもんじゃないぜ?」
「そうさ。プリンセスの危機に誰が現れるかなんて、決まっているものだからね」
 万の言葉を尽くすより、王女を背にしたその頼もしきが語る。彼らが何者であるのかを。
「おう、お姫様を護る正義の騎士様って訳だ」
「そこは、王子様じゃないのかい?」
「んん?」
「おや?」
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)とエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)、二人して顔見合わせ、間に流れるは僅かな沈黙。
「危ないですわ!」
 その沈黙を裂くは、王女の叫び。
 それを隙と捉えたか、星屑達は王女を目指す進路の邪魔となる二人を押し退け、再びの殺到をせんと。
「――なんて、まあ、どっちでもいいか」
「キミは騎士で、私は王子様。そういったところで一つかな」
「ああ。それに、やることは一緒なんだ」
「プリンセスの危機に救いの王子様が現れるなんて出来過ぎた話を」
「姫様のピンチに正義の騎士が颯爽と現れるなんて出来過ぎた話を」

「あり得ると証明してあげよう」/「現実にしてやろうぜ」

 瞬くは刃。迸るは紫電。
 カイムとエドガーを前にして、隙が隙であろう筈もない。
 二人の間を無理矢理と押し通ろうとするは、全てその名の通りの星屑と儚く散って、消えて。
 その行為の代償に数を僅かと減らした星屑の少女達は、じりと距離を詰められずに動きを止める他になし。
「もう、どなたとは聞きませんけれど……助けの手と考えて宜しいのですわね?」
 自身を守るように動いてくれたカイムとエドガーの存在。それに対しての警戒は既にない。それは、危機を伝えたその行為から既に伝わってくる。
 だけれど、それでもと王女は彼らに最後の確認をするように問うのだ。国を背負う者として、安易にはと。
 二人を映す紅の双眸が、強く輝きを放っていた。
「勿論です。御助力する事をお許し下さいますか?」
「キミの王族としての気高さを心から讃え、今はこの剣を捧げよう」
 だからこそ、二人の紫と青もまた応えるように強く。
「……分かりましたわ。貴方達を信じましょう」
「そいつは重畳」
「なら、そんなキミは私達に何を願う?」
「国を……この国を守る為に、力をお貸し下さいませ!」
 王女として、この国を纏めるものとして、自分の力だけでは足りないと認めることは、血を吐くような想いであったことだろう。
 だが、そうしなければ立ち行かぬも事実であり、既に終わっていたことも事実。故に、王女は悲壮と共にその頭を下げるのだ。
 ――力を貸して下さい、と。
「ああ。その依頼、便利屋Black Jackが確かに受けたぜ!」
「その想いも、願いも、エドガー・ブライトマンの名に誓って、確かに受け取ったよ」
 ならば、それに応えぬではカイムの、エドガーの名が廃る。
 そして、その応の返事へと呼応するかのように、茨侵されつつある国へと広がる輝きの幾つ。それは二人に続き、猟兵達が到来したを示すものであり、反撃の狼煙そのもの。
「さあ、こちらはお任せを。姫様には指一本触れさせませんので――なんてな?」
「キミはキミの仕事を。黒薔薇はこの国には不釣り合いだからね」
 往け、と言外に伝える二人。
 顔を上げた王女の顔に悲壮は消え、そこにあるは応えてくれた者達に対する誓いと決意のみ。
「ふふ、頼みましたわ!」
「応」
「勿論さ」
 もう一度だけと頭を下げた王女が、彼女の全力でもって戦場を飛んでいく。
 輝きを散らして、黒薔薇を散らして。
 きっと、その行く先にはまた障害が立ち塞がることだろうけれど、それはまた他の猟兵達がカバーしてくれるだろう。
 だから――。
「さあ、キミ達には改めてと自己紹介をしよう。私の名はエドガー。遠い国から参上した王子様さ」
「姫様はあれで忙しいみたいでな。あんた達のダンスパートナーは俺達だ。来な」
 今は、目の前の相手を引き受けるこそが彼らの役目。
 輝けなかった者達がその目に敵意を漲らせ、二人へと殺到するのである。

 ――パ・ト・ドゥをもう一度。
 ステップを刻み、カイムとエドガーを相手に踊る。
 それはこの場を抜けるためのステップでもあり、彼女らがなし得なかったことを今度こそとなすための。
 くるりくるりと地を踏み、茨を踏み、宙を踏み、廻る彼女達はまるで宙に咲いた無数の花々。
「観客席から見るだけの分なら、綺麗なんだろうがなァ」
 飛び掛かりくる者、猛毒を散らす者、迫りくる害意を端から撃ち落とし、カイムはぼやく。
 だが、踊り続ける彼女らは、まるで自分達が散ることが前提のように、止まることなく次から次へ。
「気付いているかい?」
「ああ、段々と動きが鋭くなってきてやがる!」
 始めは余裕を持って撃ち落とせていた、斬り穿てていた星屑達。
 しかし、時間が経つほどに、後から来る者達程に、その余裕が僅かずつと削れていく。
 それは二人の体力が無数を相手とする内に削られているから――と言うには、あまりにも。
「チッ」
 掠めかけた、ナイフの一筋。躱し、返す手がその持ち主を骸の海へと叩き返す。
 余裕は――もう少ない。
 そして、その時を待っていたかのように、高みへと辿り着くを理解したかのように、宙に咲いた花々が堕ちてくる。
 カイムを、エドガーをその糧にせんとして。

「だけれど、キミ達という華は此処には不釣り合いなものなんだ」

 奔る剣閃は一つにして、九つ。
 エドガーの魂に焼き付いたそれが輝けば、その身は疾る、風より早く。
 それは埋まりつつあった彼我の差を再びと開くものであり、降り注ぐ毒の華吹雪に風穴を開けるに十分。
「やるじゃねぇか……って、おい、顔が真っ青だぜ!?」
 一つの風穴穿たれれば、それをカイムがすかさずと広げ、二人害する毒から身を遠ざけるのだ。
 そして、そのエドガーの隠し玉を称えるようにカイムが彼を向けば、そこには血の気の引いたエドガーの顔。その動きの代償を自らが払ったエドガーの顔。
「大丈夫さ。この程度、この国の痛みに比べれば」
 王女の感じていた責務も、決意も、国への想いも、痛みを覚えぬエドガーにして覚えのある痛み。
 その痛みを知ればこそ、彼もまた退けぬものがこの戦場にあるのだ。
 一閃/九閃が奔る、奔る、奔る。
 その度、エドガーの顔は白を通り越して青白く。だが、まだ――。

「ったく、自由じゃねえな。そういうのは!」

 幾度目かのそれが放たれるより早く、紫雷が華を灼いていた。
 駆け抜けるその軌跡は、カイムの双銃より放たれるとっておき。
 雷が吼えて、吼えて、吼えて、無数無限とも思える程の軌跡を描いて、毒の華を塗りつぶすのだ。
「すごいね」
「あんたが余裕を作ってくれたからな」
「なら、身を粉にした甲斐があったってものさ」
「砕け散っちまったら元も子もないぜ?」
「これは耳が痛い話だ」
「俺には分からねえが、王族ってのはこうも無茶するやつばっかなのかね」
「はは、どうだろうね?」
「まあ、いいさ。少し休んでな。残りは――俺だけでも十分だ」
 立場に縛られるは分からぬとカイムは肩竦め、しかして、それもまた一つの在り方なのだろうと認める。
 ――バチリ。
 そんな彼の手の中で、紫雷がまだ咆哮足らぬと求めるように弾けて遊んだ。

「ダンス練習に熱心なのは結構だが、こういう刺激的なのも世の中にはあるんだぜ?」
 ――あんたらの好みじゃなかったかい?
 
 そして、俺だけでも十分という言葉が示すように、紫雷が求めたように、再びとそれが吹き荒れれば、エドガーによって毒の華に穿たれた風穴はより大きく、大きく、大きく。
 後に残るは、王女追う余裕をなくした星屑の群れ。
 まだその数はあれど、二人の戦果は確かに黒薔薇の脅威払うを後押しする力となっていたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

幻武・極
やれやれ、この国を守るために舞い続けるお姫様に群がる踊り子たちか。
その踊り子たちがバックダンサーならよかったんだけど、オウガじゃね。
舞台から退場してもらおうか。

さて、ボクは空という舞台に上がることもできないからね。
向こうも舞台に上がれない観客は無視って感じだし、観客席からの手痛い攻撃でも入れてあげようかな。
属性攻撃:重力を加えた幻武百裂拳を撃ち込んであげるよ。
ちなみに重量攻撃も加えてあるから当たればどんどん重くなるからね。
冗談ぽいけど、冗談じゃないんだよね。
お邪魔虫はライトの当たらない観客席に来ようか。



 幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)の視界の中、空を舞う星はきらりきらりと輝いて。
 右に舞い、左に舞い、それを追いかけるように流れ星の幾条も。
 白昼の空、茨這う大地より眺めるそれはとても幻想的ではあるのだろう。
 ただ――。
「その踊り子たちがバックダンサーならよかったんだけど、オウガじゃね」
 それを星の舞踊と見惚れてなどいられない。
 追いかけられる星こそがこの国を守るべくと舞う王女であり、追いかける流れ星こそがそれを捕えんとするオウガの群れであるが故に。
 オウガの、猟書家達の目論見を阻止するために、極もまた、この世界に降り立ったのだから。
 やれやれと嘆息交じりに拳を解し、足首を解し、いざや戦いへの準備は万端。

「――それじゃあ、舞台から退場してもらおうか」

 無粋なる踊り子たちを、あるべき場所へ。
 大地を踏みしめる足に力を。空へと挑む拳に力を。為すべきを為さんとする瞳に力を。
 そして、極もまた戦いの舞台へと躍り出るのだ。
「とは言っても、ボクは空という舞台に上がることは出来ないからね」
 あくまでも、極の立つ舞台はそのよって立つ大地そのもの。星屑達の舞い遊ぶ空は遠く、そこにある者達の視界に極はない。
 それはつまり、まだ相手にすらされていないということだ。良くも、悪くもと。
 悪しきというは、王女と星屑の間に身体ごと割って入るが出来ぬこと。されど、良きというのであれば――。
「キミ達が顧みない観客席から、手痛い拳を受け入れるといいよ」
 それは王女を追うに集中する星屑達の不意を突けると言う事だ。
 ――構え、集中、解放。
 それは己が姓と名を同じとする流派――幻武流が一つ、幻武百裂拳。
 腕が霞む程の速さを持って極より放たれたそれは、空と大地という距離をすら埋める百越える拳の乱打。
 星屑の意識の外――大地より機銃もかくやと放たれたそれは、王女を追うに熱中していた彼女らの身を捉え、打ち据えていく。
 だが――。
「きゃあ!? ……? 今、当たった筈なのに?」
 拳受けた星屑達の内、実際に殴打の衝撃を受けたは幾名か。それ以外は確かに拳打ち抜けた筈であるのに、その身に衝撃はなし。まるで、その拳が夢幻であったかのように。
 そう、それこそが幻武流が百裂拳。虚と実、現と幻とを掛け合わせた、極の拳。
 流石に、百を超える拳の乱打は出せないよ。とは、本人の言であればこそ。
 しかし、その虚実入り混じる拳の機銃は星屑達の意識を王女から逸らすに十分であり、彼女が星屑の囲いを抜け出す数瞬を生み出すに十分。
 その数瞬の間、互いの紅が空と地とで結ばれるを極は確かに見た。

 ――援護、感謝致しますわ!
 ――感謝で終わるにはまだ早いかな。ほら、此処は任せてキミは行って。

 言葉交わさずとも、互いの目が語った僅かな時間。
 そして、王女は極が生み出した時間があればこそと、星屑達を置き去りにその場を離脱する。
 己が役目――自身の国を蝕む黒薔薇を散らす輝きを撒きながら。
「あ、待って……!」
「いいや、キミ達の仕事はもうないよ。主役を喰らうバックダンサーだなんて、舞台の邪魔でしかないんだからね」
「違うわ! あたし達こそが主役になるの! 今度こそ!」
 囲い抜け出した輝きを追い、星屑は再びと空を踏む。
 それを遮るように拳の機銃が放たれるが、虚実の入り混じりと理解をすればこそ、幾人か堕ちようともと彼女らはそれを身に浴びながら突き進まんとするのだ。
 ――それが、悪手とも知らずに。
「あ、あれ……?」
「確かに、ボクの百裂拳は幻は幻だよ……でも、それで何も残さない訳じゃないんだ」
 星屑達の身体を突き抜ける拳の幻影。それは痛みを残しはしない。だけれど。
「身体が、重く……!」
 その言葉の如く、極の拳突き抜ける度、まるで鉛が纏わりついたかのように星屑達の身体は重く。
 それこそは、極が幻の拳に込めた重力の力。触れた者を大地に引き摺り降ろす魔法拳。
 殴打、殴打、殴打。
 幻が身体をすり抜け、その度、重くなった星屑の身体は地へと引き摺り降ろされていく。
 極が最初に言った通り、大空という舞台から退場させられるかのように。

「さあ、お邪魔虫はライトの当たらない観客席に来ようか」

 そうなっては、最早、王女を追うどころではない。
 大空を舞う力を、素早くステップを踏む力を奪われて、初めて星屑の少女達は極という存在の重要性に目を向けるのだ。
 それは、あまりにも遅きに失したけれど。
 大地という己が舞台に引き摺りこめば、それは極の独壇場。
 素早く動けぬ踊り子など、勝負をすると言うにすら能わない。
 幻影ではない、極の実体の拳が彼女らを今度こそ打ち据え、現世から骸の海へと退場させるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
◆SPD
随分とプリンセスにご執心のようだが
彼女には成すべき事がある、邪魔はさせない

プリンセスの拿捕の妨害を最優先に行動する
高所から敵の位置を確認、すぐに敵の前に姿を見せた上で、プリンセスを狙う茨や花束を片っ端からユーベルコードで狙撃して破壊する(『スナイパー』)
怯んだ所で本体へ向けて再度ユーベルコードで攻撃、撃破を狙う

狙撃の後もあえて潜伏せず、常に敵に姿をさらす
拿捕を防ぐと同時に、こちらを潰さなければプリンセスに攻撃は届かないと印象付けて注意を引き付けたい

俺の方から何かを頼む事はひとまずない
彼女が自身の役割を果たせるように、出来る限りの援護を行う
ここは任せて欲しい
国の為に、思うように動いてくれ


フィーナ・ステラガーデン
待たせたわね!よく一人で頑張ったわね!そやって一人ででも立ち向かう姿勢は嫌いじゃないわよ!
これ全部焼き払えばいいのよね?任せるといいわ!
ってな感じのことを言いながら黒薔薇とか、なんか踊ってるよくわからないのを燃やしつつ登場するわ!

最初の相手はあの空飛びながら、なぜか踊ってるやつよね?何であれ空跳びながら踊ってるのよ?よくわかんないけど隙ありよね!!
特に待つこたあ無いわ!情緒とかそんなの関係無しで踊ってるやつを片っ端からUCなり属性魔法なり制圧射撃なりで爆破していくわ!
それで避けるなら「次の行動」は「避けた」で使ったことになるから
もう一発打ち込めばいいわね!
(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


祇条・結月
「猟書家」とその配下か、厄介だね
同じような能力を持ったオブリビオンが骸の海にはまだまだいるのかな
……でも今は。できることを、する

プリンセスを追うところを側面を突くように攻撃を仕掛ける
苦無の【投擲】で【スナイパー】して、手にしたナイフを落とさせたり足を狙って攻撃
プリンセスが離脱しやすいように【援護射撃】

敵の姿が変わるのは……プリマ・ステラってこと?
なんて軽口言ってる場合じゃないよね
やばいな、と思ったら素早く切り込んで接近戦で進路を妨害していって捌きながら

……敵の技に鍵を掛けて撃破していくよ
星を奪うような真似は残酷だってわかってる
でも、君たちが現在を奪おうとしてるのを
見過ごすわけにはいかないんだ



 煌きが零れ、黒は枯れ果てる。
 されど、国を覆い、枯れた先より蠢き伸びる茨は次から次へ。
 そして、それでもと煌きが輝けば輝くほどに、その輝きを妬み、欲する星は、より一層とその手を伸ばすのだ。
「邪魔が、多い、ですわ、ね!」
 彼女に出せる全速力。飛行の力に息切らせながらの東奔西走。
 猟兵達に追い散らされながらも、その後を追って星屑と茨。
「こっち、こっちよ!」
 そんな王女の耳に響き、聞こえたは鈴の音転がる金色の。
 その声に釣られて王女が視た先にあったは、籠められた飛行の魔力に紅と輝く杖の軌跡。そして、それを誘導棒の如くと振るフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)の姿。
 最早、王女の心に、それが誰であるかなどの疑念は湧かない。今、こうして飛ぶ彼女を護る者があれば、それ即ち、猟兵/援軍であると知っているからこそ。
「ふぅっ!!」
 面舵一杯。力振り絞っての加速で、右に舵取り、フィーナの下へ。
 金糸揺れる横を駆け抜け、減速、停止。喘ぐようにと息を吸い、吐くを繰り返す。
 その姿は優雅というに程遠いかったけれど、だからこそ。

「待たせたわね! よく一人で頑張ったわ!」

 その姿にこそ、フィーナはその顔に浮かべる笑みを頼もしくと強めるのだ。
 戦場で足を止めるなど、捕捉してくれと言っているようなものであったけれど、喘ぎながら見つめたフィーナの笑みを見れば、その周囲に舞い散る火の粉を見れば、そこがひと時の休息を得るに問題はないと教えてくれる。
「これ全部焼き払えばいいのよね?」
「は、ぁ、ふぅ、御願い、でき――」
「――大丈夫よ、皆まで言わなくても」
 王女と同じ紅の瞳は鋭く、強く。弧を描く口元は好戦のそれ。
 ――遠慮など、無用。
 フィーナの周囲に舞い散る火の粉は瞬く間に酸素を、彼女の魔力を喰らい、轟々と紅蓮を育む。

 ――任せるといいわ!

 言の葉は放たれた紅蓮の轟音が掻き消して、迫りくる悪意の手も掻き消して。
 名残の黒煙と空気の揺らめきだけが、二人の面前にてもくもくと。
「あ……すご」
「ふふん、当然よね! でも、まだよ!」
「え、きゃあ!?」
 黒煙突き抜け、煤と灰に汚れた星屑の姿。それは王女の輝き欲するを諦めぬもの。
 そこには執念があったけれど、彼女らの手が星に届くことはない

「随分とプリンセスに御執心のようだが、彼女には為すべきことがある。邪魔はさせない」
「プリマ・ステラを目指すには、ちょっと努力の方向が間違ってるよね」

 何故なら、そこには猟兵と言う名の護りがあるからこそ。
 王女抱き寄せたフィーナ。されど、彼女はそこから王女と共に逃げるという選択肢を取りはしない。彼方よりソレが飛来すると知っていたから。
 王女とフィーナが重なったことで広がった空間。
 そこを駆け抜けたは空裂く二条。
 星の如くと流れ、星屑を撃ち抜いたは弾丸であり、突き刺さったは鋭き鉄爪。
 それは的確に星屑の身を、手を、脚を撃ち抜いて、王女へと伸びる茨の魔の手すらをも払うのだ。
 驚きに目を丸くした王女の紅。それが飛来した先を見れば、そこには――。
「やるな」
「できることは、するさ。それは君もだよね?」
「違いない」
 茨の国と変貌しつつある中、未だ健在を示す城。
 その尖塔が一つにヒトの姿――シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)と祇条・結月(キーメイカー・f02067)が姿はそこに。
 その手に鈍くと輝く銃が、その手が持つ苦無が、彼女らの身を守ってくれたのだろうと王女は知る。
 そして、それを証明するかのように、彼らの手が動く度、霞む度と星屑は流れて、堕ちて。
「そろそろ、呼吸は整ったか?」
「え、ええ、お陰様で!」
「なら、いい」
「ちょっと、それだけじゃないでしょ」
「……む」
「む。じゃないわよ!」
「此処は僕達が抑えるから、プリンセスは安心して行けって言いたいんだよね」
「ああ」
「それを言葉にしろって言ってんのよ!」
「まあ、落ち着いて」
 シキも結月も遠き彼方であると言うのに、先程から声の届くはシキよりフィーナへと一時的に貸与された情報端末があるがため。
 戦場の最中であるということを忘れさせる賑やかさに、王女の顔に笑みが宿る。
 その間も三人が伸びる手を退け続ければこそ、彼女の息も整い、心に余裕が戻っていた。
「ふふっ。皆様、ありがとうございますわ。この件が落ち着いた折には、是非とも恩を返させて頂きますから、御覚悟決めて置いてくださいませ」
「それ、覚悟必要なんだ?」
「いいじゃない。とっておきの美味しいモノとか用意してもらっておきましょ!」
「プリンセスからともなれば、依頼の報酬には十分だ」
 笑みと冗談めかした言葉に応じるは三者三様。そして、フィーナの腕よりふわりと離れ、王女は優雅に一礼を。
「それでは、この場はお任せ致しますわね!」
「さっきも言った通りよ。まっかせなさい!」
「この国の為に、思うように動いてくれ。出来る限りの援護は行う」
「できることは、するつもりだよ。だから、君も」
 その頼もしきを受けて、輝きは一層の輝きを放ちながら飛んでいく。国を救うため、黒薔薇を散らして猟兵達を援護するためにと。
 当然のように、その背を追わんと星屑の少女達も動くが、そうはさせじ。
「それじゃあ、こいつらをちゃっちゃとやるわよ!」
「星になりたいという希望を奪うのは酷だって分かってるけれど、これを見過ごすわけにもいかないからね」
「依頼を受けたからには、な」
 銃弾が、苦無が、爆炎が、その行先を遮るのだ。通りたければ、我らを倒していけと言うように。

 ――星屑が流れ、花弁は舞う。ステップ見事と踏みながら。

 そして、その目論見は叶う。星屑の少女達は王女を追うを断念し――せざるを得ないと言うべきか――三人を目掛けて。
「しっかし、なんでこいつら踊ってるのかしらね! 数も多いし、鬱陶しいったらないわよ!」
 跳んで、跳ねて、動き回るは理解できるが、それを踊ってするのが理解できない。だから、フィーナは構わずと爆炎の面制圧を繰り広げるのだ。
 情緒とか、鑑賞とか、そういったものはフィーナには関係ない。それ即ち、隙にしか見えなければこそと。
 それに燃え尽きる少女もあったが、依然として健在を示し続ける少女もある。
 だが、それとて――。
「実際の星には手が届かなくても、君達になら」
 爆炎の隙間を縫うように流れ、突き立つ苦無がその手足にと突き立つのだ。
 じくりとした痛みが、星屑の少女達の動きを止める。いや、それだけではない。
「……ごめんね。これ以上、好きにはさせてあげられない」
 主役になりたかった少女達。その願いを否定することへの謝罪を口に。されど、その振るう腕は容赦なく。
 突き立った苦無はそれを基点として、少女らの異能を封じる錠となるのだ。
 足止まれば星屑の輝きは堕ち、華は手折られるを待つのみでしかない。
 その華手折る手こそが、骸の海へと旅立つ餞。
「……っ」
 シキの頭の中で全ての情報が咀嚼され、最適なる弾丸の道筋が星屑の数だけ弾き出される。
 音が消え、景色が消え、残るは両の手で支えるハンドガンの重さと見据える先の星屑達が姿のみ。
 邪念も、雑念も、何もない。
 ただ、作業のように引き金掛けた指先がそれを引く。

 ――解けて、解れ、花弁と散って、地に堕ちて。

 三人の連携の嵌り様に、躱すを選択することも許さない。王女を追うことを選択するも許さない。ただ許されるのは、フィーナの爆炎に呑まれるか、はたまた、結月の苦無が露と果てるか、はたまた、シキの瞳/銃口に射抜かれるか。それだけだ。
 しかし、派手に、大々的に戦闘を繰り広げるそこには、まるで誘蛾灯のようにと星屑達が集まり、そして、また落ちていくのである。
「もう! 次から次へと!」
「だが、それだけ俺達が注目を集め、その目的の邪魔を出来ている証だ」
「望んだ光に近付けば近付くほど、燃え尽き、墜ちてしまうなんてね」
 猟兵という名の希望/輝きは、依然としてそこに。
 彼ら彼女らの輝きがある限り、星屑の悪意は決して王女に届くことはないだろう。それを示すように、また幾つもの星屑が地へと流れ落ちていくのであった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キトリ・フローエ
空中浮遊で空を飛び、プリンセスの近くへ
大丈夫よ、敵はあたし達が絶対に食い止めてみせるわ
あなたの花を枯らせはしない、絶対に

プリンセスが黒薔薇の侵攻を止めることに集中できるよう全力で戦うわ
敵が空を飛ぶのならこちらも空中戦よ
プリンセスから付かず離れずの距離を保ち
破魔と浄化の魔力を込めた空色の花嵐で攻撃を
あたしの花は黒薔薇を祓えなくても
『敵』を倒すことは出来るわ
プリンセスの花に見せかけて敵の目を惑わしつつ
敵群の間を撹乱するように飛び回りながら
高速で詠唱を重ねて何度でも放ち
敵の数を減らしていきましょう

お星様になれなかった、可愛そうな子達
なりたかったものとはきっと違うでしょうけれど
あたし達が星にしてあげる


メアリー・ベスレム
ごきげんよう、プリンセス
お手伝いが必要そうね?
猫の手? いいえ、兎の脚で良ければ貸してあげる!

それにそう
アリスを守ってオウガを殺す
それっていつも事でしょう?

【ジャンプ】【足場習熟】跳び跳ねながら
プリンセス狙うオウガの前へと身を晒し
【胡椒挽きの短銃】曲芸めいて撃ち込んで
敵同士で喰い合うように仕向けてあげる
それだけでは足りないというのなら
メアリ自身にも撃ち込んで更なる【誘惑】
自分自身への食欲には【狂気耐性】抗って
見た目は煌めく星のようなあなた達
だけれど人喰いのオウガである以上
食欲に抗うのは難しい筈でしょう?
【逃げ足】活かして立ち回りながら
ナイフで切りかかってきたところに
【咄嗟の一撃】合わせてみせる



 跳べ、飛べ、とべ。
 天により近くとどこまでも。
 跳べ、飛べ、とべ。
 地をすれすれと滑るように。
 茨の悪意が絡みつこうとすれども、星屑の羨望がその手を伸ばそうとも、王女はその飛翔を止めはしない。
 だって――。
「大丈夫よ、敵はあたし達が絶対に食い止めてみせるわ」
「ごきげんよう、プリンセス。お手伝いが必要そうね?」
 天と地の合間にて流れ飛ぶ王女の傍ら、ふわりと並んだはキトリ・フローエ(星導・f02354)。
 地を蹴り、茨を蹴り、屋根を、樹上をトンと跳ねるはメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)。
 彼女飛翔を後押ししてくれる頼もしきが傍に居てくれるのだから、囚われ、眠るなど出来よう筈もだ。
 今現在、猟兵達と王女との共同戦線にて国を蝕む黒薔薇はその勢いを落とし、蝕みは少しずつだが払われつつある。
 だが、囲いが広がれば広がる程に、護るべき場所もまた増えていく。動かねばならぬ範囲も増えていく。
 動けば動くほどに王女の狙われる機会は増えるが、動かねば動かぬ程に黒薔薇の侵食を許すことになる。
 ならばこそ、動いてもらいながら王女を守る他になく、そのために二人もまた王女の護りにと随伴していたのだ。
「ええ、ええ! 最早、あなた方の力を、心を疑うものなど御座いません!」
 そして、猟兵を疑う心は王女にはもうなく、共にと飛ぶ/跳ぶ二人に信頼の笑みをすら浮かべて。
「花のような笑顔ね。ええ、あなたのそれを枯らせはしない、絶対によ」
「猫の手ならぬ、兎の脚。それで良ければ貸してあげる!」
「ありがとうございますわ! なんと心強きことでしょう!」
 飛び跳ね、ふわり。王女が零す、眩き花弁の道筋を。
「まるで星を追いかけているかのよう」
「きらきら、きらきら。でも、星に手を伸ばしたいのは、やっぱりメアリ達だけではなさそうよ」
「そうね。お星様になれなかった、可哀想な子達」
「地に足をつけて生きれば、地の底へ落ちて鬼になんてならなくて良かったのにね?」
 だけれど、いつまでもとその優雅な景色を眺めてはいられない。
 その眩きに魅せられて、招かれざるが迫りくるからこそ。
「それじゃあ、ここは任せて貰おうかしら!」
「地上からはメアリ。空中からはあなた。黒薔薇は引続きプリンセス。それでいいかしら?」
「否などあろう筈もですわ! ……あの」
「どうかしたの?」
「なにかしら」
「ありがとうございますわね。皆様のお陰で、この国にも光明が」
「ふふ、感謝は受け取っておくけれど、それは全部が片付いてからまたにね!」
「そう。それに、アリスを守ってオウガを殺す。いつもの事だもの。感謝は……少し面映いわ」
「うふふ。ならば、全てが片付いた時には、また盛大に」
「楽しみにしているわね。……さあ、これ以上は時間が惜しいわ」
「食い意地の張った鬼が来る前に行って頂戴」
「頼みましたわ!」
 その言葉と同時、王女の輝きはぐんと速度をあげ、黒薔薇の這える彼方へと。
 だが、その背をキトリとメアリーが見ることはない。
「此処から先のお相手は私達」
「招待状なきはお通しできないの。ごめんなさいね?」
 王女の輝きの代わり、星屑の煌きをその瞳に映しだせばこそ。
 そして、その二人の瞳がなによりも雄弁に語るのだ。誰一人とて通すつもりはない、と。
 それでも押し通らんとする意思見せる白銀を、花蔦絡む杖とスパイシーな香り漂う短銃とが迎え撃つのだ。

「あたしの花は黒薔薇を祓えない。でも、あなた達を倒すことは出来るわ」
 きらきらと舞い散るそれは輝きの花弁。されど、王女のそれに非ず。

「――ベル、あなたの花を見せてあげて!」

 空色の、キトリの花弁。
 ふわり、はらりと舞い遊び、黒薔薇枯らすかのようにとそれへと纏わりつき、その色で塗り潰す。
 その様は、まるでキトリの花弁も黒薔薇を退けるが叶う力を持っているかのようにも見え、星屑の少女達の羨望を集める。
 あの輝きが欲しい。私達こそがあの輝きになりたい、と。
 トントンタンと軽やかに、星屑のトゥシューズが空を踏む。キトリを目掛けて、空を踏む。
「でも、残念。空ばかりを見上げては、その足元が疎かよ?」
 トントンタンに混じった足音。樹の幹駆け上がり、梢がさりと突き抜け、跳び出る姿は獣の俊敏さ。
 空を、キトリを目掛けて突き進まんとする星屑達の前に跳び出て、その手に握ったそれを突き付けるのだ。

「――見た目は煌く星のよう。でも、あなた達の本性はどうなのかしら?」

 メアリーの手の内で、パフッと弾ける胡椒粉。
 弾丸と言うにはあまりにも緩やかなそれは、香り豊かに宙へ広がり、突き進む星屑の少女達に纏わりつく。
 だけれどそれだけ。だけれど、それだけだ。
 身を貫く訳でもない。痛みを齎す訳でもない。強いて言うのであれば――。
「くしゅん! うぅ、鼻がムズムズするわ。仕方のないことだけれど」
 鼻腔を擽られてくしゃみをするのみ。
 だと言うのに、だ。
「ふふ、ほら、目が離せないでしょう? 輝いてみえるでしょう?」
 宙を踏んでいた星屑達の脚が止まる。
 今迄は輝けなかった者としての意識の下で一個の集団となっていた筈なのに、メアリーのそれに包まれた彼女達は初めて互いを、それぞれとして意識し合うのだ。
 メアリーが言うように、見知らぬ誰かが輝いて見える。
 メアリーが言うように、見知らぬ誰かが魅力的に見える。
 メアリーが言うように、見知らぬ誰かが――美味しそうに見える。
 それこそが、彼女の放った胡椒の力。とあるオウガが愛用したという調味料の力。
 食欲を掻き立て、心を掻き乱し、平静を奪う、魔性の。

「さあ、あなた達が追うべきなのは、だあれ?」

 決まっている。自分よりもより輝く、見知らぬ誰か!
 白銀の煌き猟兵達へと向けられる脅威から、互いを喰らい合うための食器へと早変わり。
 繰り広げられるは、食欲と妬みとが複雑に絡み合う晩惨会。
 我こそが皿の上の主役なのだ、と。
 それが如何に可笑しな主張であるのかなどと、思考を掻き乱された彼女達にはもう理解はできない。
 出来ないからこそ――。
「妬みって言うのは怖いわね」
「仕方がないわ。オウガは、やっぱりオウガでしかなかったということだから」
「でもちょっと刺激が強い光景!」
「なら、あなたはどうするのかしら?」
「そうね、こうするわ」
 その修羅の巷を吹き抜けた風。はらりはらり、青と白の花弁を連れて。
 くるり、はらり、ひらり。
 星屑の舞踊の間をキトリも舞い動き、連れた花弁が黒薔薇を包んだかのようにと星屑の少女達を包み込む。
 手を、脚を、胴を、全身を。
 傷つけ合い、血を流し続けるそれを塞ぐように。

「なりたかったものとはきっと違うでしょうけれど、あたしが星にしてあげる」

 心救われなかった星屑の少女達に導きを。
 覆い尽くすキトリの花弁は、柔らかくと彼女達を包むことで、その心のささくれを癒すのだ。
 メアリーのそれにより互いの心離れあっていたが故に、孤独の心へキトリの輝きは目指すべき希望と一層に輝いて映って。
 花弁に包まれた手が伸びた。
 最早、全身を包まれ、何も見えぬであろう少女達であるけれど、その伸ばした先に温かなものがあるのだと言うように。
 ――はらり。
 花の包みが解けて、散って、そこにはもう何もない。花びらの輝きに導かれ、骸の海へと還っていったから。
「そういうやり方もあるのね」
「これが正解なのかどうかは、分からないけれどね」
「そうね。メアリにはメアリのやり方が」
「あたしにはあたしのやり方が、それぞれあるのだもの」
 どちらが正しいというものではない。
 どちらも、この国を、王女を脅威から守るという点においては同じなのだから。
 だから、二人は互いを否定することもなく、目的のためにと力を振るう。
 そして、少なくとも彼女らがそこにある限りは、その二つの背を抜けて星が流れていくことは終ぞなかったのである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルトリウス・セレスタイト
片付いた筈だが
また騒がしくなったものだな


破界で掃討
対象はオブリビオン、及びそれ由来の全て
黒薔薇も当然含まれ対象外のものは「障害」故に無視され影響皆無

高速詠唱を幾重にも重ね『刻真』『再帰』で無限に加速・循環
瞬刻で天を覆う数の魔弾を生成、周囲全方向へ無差別に斉射
戦域を魔弾の軌跡で埋め尽くす

更に斉射の瞬間を『再帰』にて間断なく無限循環、討滅まで攻撃を継続
回避の余地なく反撃も呑み込む飽和攻撃
遅滞も容赦も絶無とし物量で全て圧殺する
プリンセスを狙う余裕など与えない

自身への攻撃は『絶理』『刻真』に常時魔力供給し触れた瞬間終わらせ影響を回避
必要魔力は『超克』で常に“世界の外”から汲み上げる

※アドリブ歓迎



 黒薔薇に包まれ、眠りに落ちた街並み。
 だが、まだ彼方では抵抗が、そして、反撃が行われていることだろう。
 その騒がしくも、静寂が響く国の中で黒のコートがはためき揺れた。
「片付いた筈だが、また騒がしくなったものだな」
 茨這う国の大地より空見上げるは、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)。
 見上げた空にはひと際輝く綺羅星一つ。きっと、それがこの国の王女なのであろう。
 そして、それを追いかける小さな輝きの無数はきっとオブリビン。綺羅星を守るように動き回るは、猟兵と言う名の御同輩か。
「ならば、俺もまた力を貸そう」
 アルトリウスが呟いた瞬間、浮かび上がるは泡沫の輝き。
 今、この国にあるであろう誰の輝きとも違うそれは、アルトリウスだけの。
 くるり、くるり、ぐるり。
 己に宿るを加速して、世界の彼方よりの力を汲む。この世界の法則を塗り替えるために。
 ぐるり、ぐるり、ぐるん。
 加速の粒子はその速度を最早目にも止まらぬとし、泡沫の輝きは確かなるとして一つの輪を形成するのだ。
 それは循環する転輪であり、完全を示す輪。
「さあ、此処はもう行き止まりだ」
 輪の彼方より流れ込む力を討滅の力と変え、転輪を空へと放つ。
 そして、空へと昇ったそれは、天にて弾ける。
 力の増幅に耐えきれなかったのか。
 ――否。
 それはアルトリウスの言葉をこの世界へと顕現させるために。
 弾けた転輪は再び無数の輝きとなり、地へと向かって降り注ぐのだ。それこそ、光の雨の如くと。
 戦場の一部を覆うように降りしきるそれは、ざあざあと音も立てず、しとしとと音も立てず、ただ無音のままに。
 されど、その一つ一つに内包された力は増幅を重ねただけあり、触れただけで星屑の一つを崩壊させるに余りあるもの。
 それを証明するかのように、光の雨なぞ何するものぞと傘もささずに往かんとした星屑が、弾けて、消えた。
 骸の海へと還ったのか。それとも、また別の場所へと堕ちていったのか。それは分からない。だけれど、確かに、消えたのだ。

「ここを通れるなどと思わない事だ。お前達に、プリンセスを狙う余地など、一つとして与えはしないのだから」

 音もなくと降りしきる光の雨。
 その光に照らされながら、アルトリウスは淡々と空を見上げて事実のみを告げる。
 彼を前にすれば、星の輝きであろうが、星屑の淡きであろうが、適わぬに等しく。
 ただ、彼によって生み出された光の雨は不可侵の壁となり、王女へと向かう筈であった星屑を遮る壁となるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
護衛対象の飛行を鑑み機械飛竜ロシナンテⅢに●騎乗し●空中戦
プリンセスへの攻撃を●盾受け●かばいつつ、飛竜口部砲の●乱れ撃ちで反撃

この国には少々無粋の身ではありますが…
騎士としてこの国と御身を護る為、馳せ参じました
オウガへの対処はお任せを

地上で踊る敵群に●推力移動加速乗せた馬上槍を●怪力で●投擲
●地形破壊でダンスを中断
直後に馬上槍の鍔の裏に潜ませたUCの妖精ロボ達を発進
レーザーの●スナイパー射撃、飛竜と自身の格納銃器も合わせ撃ち抜き
射出したワイヤーアンカーで妖精ごと馬上槍回収
空中の敵を掃討しつつ第二波に備え

私達が到着するまでよくぞお一人で…
その気高き勇気に敬意を
お名前を伺っても宜しいでしょうか?


天狗火・松明丸
国を守る心意気やよし
援護は慣れん事だが
為せるを成さねばな

さて、姫君の傷やら疲労やら
此方に引き受けさせて貰おう
疲れたとしても眠るには早い
多少粗いが大目に見てくれよ

灯火を点し、痛みが消えれば
本来の仕事に集中くれりゃあ良い
あの黒い、薔薇?とか云う花も
焼いてしまえるなら楽なんだが
俺の手には余るらしいので
頑張ってもらわにゃならん

つれない横槍はいなして
姫御前の疲れといたみは都度払う

星屑の娘が高く空を翔ける前に
祟り縄でも絡ませておけりゃあ良い
踊る脚にも、翳す腕にも
呪の類が足止めにでもなるなら
しっかりと結び止ておこうな

美しい舞も悪くはないが
刃物を手にとは物騒なことだ
星には焼け落ちてもらわねば



 空舞う王女に影が差す。
 雲か。はたまた、敵なる存在か。いいや、違う。
「この国には少々無粋の身ではありますが……騎士としてこの国と御身を護る為、馳せ参じました」
「国を守る心意気やよし。援護は慣れん事だが、為せるを成さねばな」
 逆光の中、目を細めて王女が見上げた先には、鋼鉄の飛竜と焔の翼。
 その姿がするりと高度を下げれば、その姿はいよいよと王女の瞳にはっきりと。
 それはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)であり、それは天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)。
 轟の音か、ばさりの音か、それぞれの音を奏でながら、王女が元へと世界跨いで駆けつけた者達の姿であったのだ。
「嗚呼、こうも助けの手を差し伸べて頂けるだなんて、わたし、御恩を返しきれるか分かりませんわ!」
「いいえ、いいえ。私達が到着するまで、お一人で戦い続けたその気高き勇気に感銘を受けたからこそというもの」
「折角の綺麗な召し物も傷みだらけの傷だらけ。ついでに姫君は汗だらけ。ここまでの苦労が偲ばれるってもんさ」
「まあ、お恥ずかしい限りですわ」
 猟兵達の援護により、王女へと掛かる負担は随分と減っていた。だけれど、眠る暇などはあろう筈もなければ、休む暇もなきは変わらず。
 故に、猟兵へと晒す姿は優雅とは程遠く、それを直すことも出来ぬままに王女はその頬を染める。
「恥ずかしがることは何もないと思うがね」
「そうです。女性の方に申し上げるに適切かは分かりませんが、その姿こそは貴女の勲」
「それでも恥ずかしいと言うのなら、そうさな」
 ちょいと一つ、妖怪変化からの贈り物。
 何をと王女が問うより早く、松明丸の翼よりはらりと一枚羽根が舞い落ちる。
 それはまるで意思あるかのようにひらりと王女に近付いて――ボゥと突然燃えるのだ。
「きゃあ!? ……あ、あら、熱く、ない? むしろ、温かい?」
「はは、驚いてくれたようで重畳重畳。だが、眠気もこれで吹っ飛んだろう」
「え、ええ。心なしか身体も軽い様な」
「これは……バイタルも安定をして。それが目的でしたか」
「本来の仕事を続けて、なおかつ集中もし続けなければとありゃあ、こういう事も必要だろう?」
 松明丸の顔にくつりと浮かぶは、ヒトの悪い笑み。
 王女の驚きの感情を代価として受け取りながら、彼の行ったそれこそは荒療治。
 彼の灯火を媒介として、彼女の負った悪しきを癒すための。
 勿論、そこにはまた別の代償――代わりに、王女のそれを代わりにと引き受けなければならぬ――もあるけれど、松明丸はそれをおくびも出さぬ。
 折角と驚いてくれたのだ。それを心配の感情で塗り潰すなど、勿体なくて、とてもとても。
 機械の身、様々なセンサーを搭載するトリテレイアはそれに気づきもするけれど、松明丸が言わぬのならと敢えてと口を噤むのみ。代わりに――。
「手からすっぽ抜けでもしましたでしょうか」
 鋼鉄の飛竜を繰り、動かし、立ち塞がるは地上より飛来する害意の刃に。
 掲げた大楯が、飛竜の鋼鉄が射線を遮り、白銀とそれとがぶつかり合う甲高い音を響かせるのだ。
「刃物を投げるとは物騒なことをするもんだ」
「踊りの一環にしても、これでは落第点でしょうね」
 だから、抗議の声をあげようではないか。
 トリテレイアが手綱を引けば、応じて飛竜が口を開く。その奥に、力場の渦を湛えて。
「ブレス……と言うよりは、機銃のようなものですが」
 たんと受け取って下さいね。
 そう言わんばかりに、雨の如くと力場の渦は弾丸とその身を変えて地へと降り注ぐのだ。そこにある星屑の少女達を目掛けて。
 それには彼女らも堪らぬとばかりに身を散り散り。蜘蛛の子を散らすかのように、身を翻して躱していく。
 打倒出来たのは一つか二つ。だが、それはあくまでも牽制であればこそ。問題などはないのだ。
「さあ、オウガへの対処はお任せを」
「あの黒い、薔薇? とか云う花は、俺達の手ではどうにもこうにもでな」
 星屑の少女達が集団を散らし、王女の身が万全となった今こそがこの場を離脱するに最善の時。
「ええ、私のすべき本分を務めさせてもらいますわね! 一度で返しきれずとも、この御恩は必ず!」
「その意気で頑張ってもらわにゃだ」
「……では、先に褒美を頂いても?」
「おや、お前さんがそう言うとは意外だな」
「今は大した持ち合わせもありませんが、出来る事でしたら」
 意外な発言はトリテレイア。誰もが目を彼へと向ける。
「プリンセスの、貴女様のお名前を頂戴しても宜しいでしょうか?」
 その提案に王女は目をぱちくりと瞬かせて。
「――私はグラニテ。グラニテ・ロイスバレーと申します。騎士様方、どうかこの名をお受け取り下さいませ」
 ちょこんと傷だらけのスカートを摘み、淑女のご挨拶。
 その時ばかりは、薄れていた優雅さもそろりと顔出し、彼女が王族なのだと思い起こさせるものがあった。
「確かに、頂戴致しました」
「ふふ、良かった。それでは、皆様方、わたし、行ってまいります!」
 破顔一笑。その瞬間には、もう淑女の顔は台無しで、くるりと身を翻して、彼女は飛ぶ。
 見る見るうちにと彼方へ。点となりゆくその姿。
「俺も貰って良かったのかね?」
「騎士様方とグラニテ様も仰っていましたし、問題ないかと」
「そうかい。なら一つ、グラニテ姫御前への横やりを払うとしようか」
「ええ、無粋なダンスを止めねばなりませんね」
 その姿を見送って、二人はそれぞれの得物を持つ。あの後ろ姿に、悪意の手を伸ばさせまいと。

 ――散り散りとなっていた星屑が、また一つの塊を為す。

 それは王女を追わんとして、誰か一人でも目の前の障害/猟兵を潜り抜けとして。
 トンタッタッ、トンタッタッ。
 華麗に大地を踏みしめて、流麗に大地を踏みしめて。
 それは自らを、集団としての力を高める舞踊。舞い踊れば踊る程に、彼女らの力を高めるそれ。
 だが、だ。
「悠長に待つ訳にいかないのですよ」
 それがなんであるかはトリテレイアには分からずとも、星屑の少女達にとって何かしらの意味を持つであろうことは推察できる。
 ならば、その言葉の通りとただ眺めているだけではいられないは当然。
 鋼鉄の重量を支えるだけの推進力。飛竜のそれを持って、彼は槍持ち、突撃を敢行するのだ。一塊の踊り子たちへと向けて。
 だが、トリテレイアが対策を講じるように、星屑達もそれをただ見つめるの身であろう筈もない。
 その踊りのステップのまま、避け、逃げ、図る時間稼ぎ。
「いいえ、もう貴方達は手の内です」
 いきますよ、とは誰に言った言葉か。
 トリテレイアは宿すその怪力を持って、槍投げとばかりにそれを撃ちだすのだ。
 ――轟音と共に、地が砕けた。
 射出され、大地に突き立った槍は、その衝撃を余すことなく大地に伝え、割り、砕き、踊るに相応しき舞台を壊すのだ。
 そして、よって立つべき大地がなければ、彼女らがどう動くかなど、想像するまでも無きこと。

「飛んで逃げるとは、ちぃとつれねえんじゃないかい?」

 どろんと煙の馬上槍。詐術謀術化術の、槍に変わりて、槍が変わりて、松明丸。
 トリテレイアの投げたそれこそは、松明丸が変化したものであったのだ。
 突き立ったそれをただの武器と思っていた星屑達は、ただ無防備にその空へと駆け上がらんとする背中を彼へと晒すのみ。
 ――驚きに振り返ろうとも、もう遅い。
「さあて、頼んだぜ妖精さん方。踊る脚にも、翳す腕にも、しっかりと結びつけておいておくれ」
 その懐より飛び出るは、松明丸が運んだトリテレイアの妖精群。
 それが手に手に縄持って、松明丸と星屑達とを結びつけるのだ。
 その縄こそは祟り縄。呪を結び、搦めて、留める松明丸の。
 びくんと、それを結び付けられた星屑の身体が跳ね、その動きは強制的に金縛り。
「美しい舞も悪くはないが、星には焼け落ちてもらわねば」
 それじゃあ仕上げをお一つどうぞ、と地上からの言葉。
 了解致しましたとは空からのお返事。
 解き放たれるは力場の雨、火薬の咆哮。
 牽制で放った時とは違う、確かに相手を捉えた上でのそれが、星屑達を呑み込んでいく。
 もう、二人の間を通り抜けていこうなどと考える者はありはしない。
「お見事お見事」
「ありがとうございます。松明丸様も、見事な手腕でした」
「お前さんのお蔭で、手も足りたしなぁ」
「心強い味方ですから」
「おや、てっきりと動かしているのはお前さんだとばかり」
「ええ、その通りです」
「はは。ああ、こいつは騙されちまったか」
 星屑燃え尽きる中で会話の花が軽やかに咲いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花降・かなた
リュカf02586と!
お姫様と敵との間に割り込むわ
ごきげんよう、私はかなた。そっちの無愛想なのがリュカよ
あなたのお名前は?

今まで、頑張ったのね、すごいわ!
そして少し遅くなっちゃったけど、この最強のヒロインである私が来たならもう安心よ
この国だって守れるし、
こんな敵、たちどころになぎ倒しちゃうんだから! …リュカがね!!
勿論、私だって頑張るわよ。だから一緒に戦いましょう!

と、いうわけでサウンド・オブ・パワーで戦闘力を上昇させる
歌う歌は戦えとか守れとかそういう力強いの
で、お姫様と敵の間に割って入って、後はできるだけ時間を稼ぐわ
……そこ、何か言った?
ほらほら、私とお姫様はか弱い少女なんだから、頑張って


リュカ・エンキアンサス
かなたf12235と
……
喋るのは、かなたに任せておく
相変わらず喧しいなって思うけど、俺に喋れと言われても困るからね
と、いうわけで、かなたの援護を受けながら取りあえず近づく敵を片っ端から撃っていく。優先順位はお姫様、かなた、俺の順番
…そういう仕事だからね(でないと一番自分を優先するし
向かってくる敵を制圧射撃で優先して叩き落として、一気に距離を詰められたらうたいの鼠でマヒ&気絶攻撃を使う
お姫様が飛び出さないように彼女が倒しきれるくらいの敵は残す
後は何とか手早く数を減らしていきたい
かなたもあれでうっかりだから、気を付けないと
いやなにも
だから何も言ってないって
…ほら、右から来たよ
お姫様、あっちは頼んだ



 猟兵達の後押しを受けて、王女は飛ぶ。
 茨の手を抜け、星屑の手を抜け、その勢力図を塗り替えて。
「あと少し、あと少し、あと少し!」
 城の周囲からは完全に、街並みから殆どと黒薔薇の色は退けられた。あとは城下町の外に広がる花園にではあるけれど、まずは城下を完全に解放しなければ。
 逸る気持ちを示すかのように、彼女の飛行はその最高速度を維持し続ける。
 だが同時、普段は戦いから遠い場所にある彼女であればこそ、その動きはどうしても単純なそれとなってしまう。
 それでは、如何に速くとも先読みされる可能性を秘めるは当然で――。
「この、邪魔をしないで下さいまし!」
 茨がぞろりと壁と伸び、空往くを遮るのだ。
 致し方なしと高度を下げ、躱せば、その先に待ち受けるは星屑の。
「ここまで背中を押し続けて貰ったのです! ならば、この程度は押し通らせてもらいますわ!」
 ぐっと丹田に力を籠めて、悪意の妨げを突き抜けんと覚悟を決める。
 それを星屑の少女達は嗤って待ち受けるのだ。獲物が自ら飛び込んでくる、と。
 だがしかし――。

「少し遅くなっちゃったけど、この最強のヒロインである私が来たからもう安心よ!」

 覚悟に応える救いの手は、必ず訪れるのだ。
 王女と星屑達との間に開いた世界を跨ぐ扉。その輝きの内より飛び出すは桃色の。
 それは嫋やかな容姿とは裏腹、むんと胸張りその背中でもって王女の吶喊を止めるのだ。
「ごきげんよう、お姫様。私はかなた。こっちの不愛想なのがリュカよ」
「……どうも」
 いや、とび出した色は一人だけではなかった。
 薄桃色に目を惹かれてしまいそうになるけれど、その傍らにて言葉少なにと立つは静寂の夜空。
 そう、花降・かなた(雨上がりに見た幻・f12235)とリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)が、ここへ最後の一押しとばかりに駆けつけたのである。
「ご、ごきげんよう!」
 その登場に、思わずと力んだ王女の肩からも力が抜ける。
「ふふ、いいご挨拶! あなたのお名前は?」
「申し遅れました。わたしはグラニテ。グラニテ・ロイスバレーと申しますわ」
「ちょっと美味しそうなお名前ね」
「……そろそろ、こっちもいいかな」
「分かってるってば!」
 リュカからすれば相変わらずのかなたのお喋り。だけれど、今は敵陣の中であればこそ、その銃口で敵を牽制はしているけれど、いつまでも睨めっことはいくまいと。
 それにぷんすかしつつも、かなたも道理は理解している。故に、これからの言葉は必要な物として言うのだ。
「グラニテ、今まで頑張ったわね、すごいわ! でも、もう大丈夫。こんな敵、たちどころになぎ倒しちゃうんだから! ……リュカがね!」
「いや、間違ってはいないけれど、そこは自分も含めたら?」
「勿論、私だって頑張るわよ。だから――」

 ―― 一緒に戦いましょう!

 パシンと背中に喝を入れるかのような一言は、確かに王女の心を奮い立たせる。
「はい、微力ではありますけれど、力を尽くさせてもらいますわ!」
「……僕はそういう仕事として受けたからね」
「いい事言ったんだから、お口チャック!」
「……」
「ふふ、仲が良いのですわね」
 王女の言葉にかなたとリュカが顔見合わせれば、なんとも言えぬ互いの顔。
 それがまた可笑しかったのだろう、くすりくすりと王女は笑う。そして、並び立つは二人の傍へと。
「さって、それじゃあこの国を救いましょう!」
「向こうさんも痺れを切らしたみたいだしね」
「いきますわよ!」
 トントンと大地を踏みしめるトゥシューズ。星の如くときらりきらり煌いて、星屑の少女は待ち構えるを止めて動き出すのだ。三人へと向けて。
 それを迎え撃つはリュカの銃弾――ではなく、それより早くと響いたかなたの歌声。
「私は謳い、アナタは奮う。声に願いを、四肢に誓いを」
 勇壮なるを、精悍なるを高らかと。
 それは聞く者の心を心を強くと揺さぶり、その心に焔を灯すもの。
 ――サウンド・オブ・パワー。
 かなたの歌声が力を、今、リュカと王女の心に宿す。
「すごい! お腹の底から熱いものが湧いてくるかのようですわ!」
「うん。でも、飛び出しすぎないようにね」
「わかっておりますわ!」
 舞い散る花びらの輝きも、振りまくハートの輝きも、いずれもと王女の昂ぶりを示すかのようにと力強く。
 だが、そのまま飛び出したでは足並みも揃わぬからとリュカも致し方なしに口を開くのだ。その銃口から、砲火の轟きをも上げさせながら。
 その咆哮向けられた先で、星屑の少女がぱたりぱたり。星に手を伸ばせど、願いを果たせずに燃え尽き、散っていく。
 距離はつめさせない。その手も伸ばさせはしない。
 それが此度のリュカの仕事であればこそ。
「ふふ、何度も言うけれど心配しなくていいわ。いざとなったら、私が跳びだしてでも時間を稼いであげるから!」
「いいえ、それはなりませんわ! あなた自身の身体も大事にしなければ!」
 きゃっきゃと隣で黄色い声。
 いや、確かに彼女らもその歌声で、ハートの輝きで、星屑の近付くを防ぎはしているのだけれど。

 ――かなたもあれでうっかりだから、気を付けないと。お姫さまも、なんだか似た様な匂いを感じるし。

 寡黙な彼の保護者目線。
 年齢で言えば、かなたの方が僅かにお姉さんで、王女もそう違いはしないのだけれど。
「なんだか生温かな目線を感じますわね」
「……そこ、何か言った?」
「いやなにも?」
「嘘。目がなんだか怪しいわ!」
「だから、何も言ってないって」
 思いはしたけれど、それはそっとリュカの胸の内。
 それ以上の詰問をされてはかわぬとばかり、空を踏みしめて中天からの急降下を試みる影を撃ち貫く。
 さくり。どさり。
 リュカの隣に白銀が突き立ち、遅れて堕ちてきた彼女はもう動かない。
「……そっちは右からも来てるよ」
 戦い慣れぬ二人の分、しっかり視野を確保して、第六感の囁きを聞き逃さぬように。
「頼りになりますわね!」
「そうでしょう?」
「どうして、そこでかなたが胸を張るかな」
「私の歌で力でいつもより力が漲ってるでしょう? なら、私の力はリュカの力。リュカの力は私の力ということよ!」
「どういうことなんだか」
 交わし合う軽口はあるけれど、かなたの歌声から伝わってくる想いは確かなもの。ヒトを愛し、癒し、支えんとするもの。
 だから、リュカも軽口程にはそこに険はない。
 ただ、その願いに応えんとして、引き金を引き絞り続けるのだ。時に銃火の連続で、時に空色のきらりと振りかざし、星屑の少女らを撃ち落としながら。

 ――願いの重さに負けない強さを。

 その弾丸に、貫けぬものなど何もない。
 歌声が、銃声が、輝きが、戦場に瞬き、響き渡る。
 そして、幕を引くように、一つの終わりを告げるように、パンッと、眠りに落ちたこの国の目を覚まさせる最後の銃声が響き渡った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『エンデリカ』

POW   :    咲キ誇リナサイ
自身の【体を茨に侵蝕させること】を代償に、【機械の翅から召喚する黒薔薇蝶々の群れ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【黒薔薇に体の自由を奪われる呪いの鱗粉】で戦う。
SPD   :    コレガ「自由」ノ形
【機械に侵蝕された姿】に変身し、武器「【機械仕掛けの翅】」の威力増強と、【羽ばたき】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ   :    ドウゾオ静カニ
自身の装備武器を無数の【戦意と生命力を奪う黒薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:ろまやす

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠メリー・アールイーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ざわりざわりと街の声。
 それは猟兵達の協力によって、少なくとも街の中からは黒薔薇の気配が遠のいたを示すもの。
 だが、まだ油断は出来ない。
 街の外――広がる花園には茨と黒薔薇が未だ健在を示し、侵攻の機会を窺っているのだから。
「アア、ドウシテ拒絶ヲスルノカシラ?」
 茨が蠢き、その奥より猟兵と王女の前へ進み出るは黒衣の精霊。機械との融合の果て、黄金の翼を得た呪われし黒薔薇の。
 猟書家エンデリカ。
 それが彼女の名前であった。
「これだけのことをしておいて、どうして拒絶されないと思うのでしょう!?」
「ソウナノ?」
「当り前ですわ!」
 己の国を、そこに住まうヒトビトを蹂躙された王女は、怒り心頭を身体全体で示す。
「分カラナイワ」
 だが、エンデリカはコテンと首を傾げるばかりで、彼女の感情を理解出来た素振りもない。
「――分カラナイカラ、私ガアナタヲ理解スルマデ、肉ノ一片ニ至ルマデ調ベ尽クサセテ?」
「なにを……言っているんですの?」

「アナタノ言葉ヲ理解スルタメニ、ソノ喉ヲ。アナタノ見テイルモノヲ理解スルタメニ、ソノ瞳を。アタノ触レテイルモノヲ理解スルタメニ、ソノ手足ヲ」
 ――徹底的ニ分解サセテ頂戴ネ。

 ニコリと笑う、黒薔薇の精。
 そこに宿るは、無邪気という名の自覚なき悪意そのもの。
 エンデリカは心の底から王女を、プリンセスというものを理解しようとしているのだろう。
 だけれど、その思考はとうの昔に壊れていて。
「サア、糸紡ギノ針ヲ伸バシマショウ。触レテ、眠ッテ、目覚メレバ、ソコハモウ私達ダケノ幸セナ世界ヨ」
 エンデリカの言葉へと応えるかのように、茨と黒薔薇が再びと蠢く。

 ――痛ミモ、苦シミモナイママニ、連レテ行ッテアゲルワ。

 無邪気な悪意が、王女を捕らえるためにその脚を一歩と踏み出した。
アルトリウス・セレスタイト
勝手なものだ
相手の都合を斟酌しないという点ではこちらも変わらんが

会敵次第行動開始

『刻真』により自身を無限加速、エンデリカへ接敵
天印を乗せた打撃で一撃加える

高速詠唱を幾重にも重ね『刻真』『再帰』で無限に加速・循環
静止の原理を無数に蓄積させ触れた瞬間撃ち込み拘束
更に触れた瞬間を『再帰』で無限に循環させ、拘束とダメージを無数に重複させ討滅を図る


行動と能力発露を封じられればユーベルコードも霧散する
翅も蝶も花びらも残らず消え失せよう
動けねばプリンセスにも危険は及ばん

自身へ及ぶ攻撃は『絶理』『無現』で否定し影響を回避
必要魔力は『超克』で“世界の外”から汲み上げる



 無邪気な悪意が一歩と踏みこめば、合わせて茨もうぞりと進む。
 王女とエンデリカの間を縮めるたったの一歩。
 されど、無意識に王女の脚が一歩と下がったは、向けられる悪意に中てられたからか。
「アア、怖ガラナクテモイイノヨ?」
「だ、誰がですの!」
 その言葉に無意識と下がった一歩を意識してしまい、王女は己の脚に喝を入れる。
 それ以上呑まれぬようにと、下がらぬようにと。
 それに、だ。
「……勝手なものだ」
 ここには、その背を、心を支えてくれる者達があるのだから。無様は見せられまい。
 王女の背より響いたは、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)の静かな声。
 王女の隣へ並ぶと共に、その肩をポンと一つ。
「相手の都合を斟酌もせず、そちらの都合を押し付けてばかりでは拒絶されても当然だろう」
 青の瞳はエンデリカを捉えたまま。だが、その言葉は王女にも同意を求めるかのように。
「その通りですわ! わたしはこの国のプリンセスであり、あなたのための玩具ではありませんの!」
「だ、そうだ」
 残念だったな。なんて、言外に。
「私ガオ話ヲシテイルノハ、プリンセスニヨ。アナタデハナイワ」
 だけれど、それをエンデリカが理解する筈もなく、理解するともアルトリウスは思っていない。
 だから、そこから先のことは必然。
 ――瞬き一つも許さぬコマ落とし。
 王女の隣にあった筈のアルトリウスの身が、気付けばエンデリカの目前。その拳は無造作に振り上げられて。

「――下せ」

 そして、振り下ろされるそれ。
「――ッ!」
 受けるはエンデリカのその身――ではなく、その黄金の翼が盾の如くと。
 突き立つ拳が翼を軋ませ、ミシリと音を奏でる。
「止めたか」
「折角、プリンセストオ話ヲシテイタトイウノニ、無粋ナコトヲスルノネ」
「お前が彼女の都合を斟酌しないように、こちらもお前の都合など知らんということだ」
 その点についてはお互い様なのかもしれないけれど。
「ソウ……ナラ、静カニシテイテクダサル?」
 ニコリと笑いかけるエンデリカの姿は可憐であれど、その瞳の奥に笑みはない。
 その笑みから透けて見えた意思に、アルトリウスの身体が考えるより早くと下がる。エンデリカの懐へと踏み込んだ速さと同じをもって。
 ――空白の空間に殺到したは、茨と黒薔薇。
 エンデリカの言葉と意思に呼応したそれらが、アルトリウスの身を縊り殺さんとして、彼の居た空間を埋め尽くしたのだ。
「怖い、怖い」
「思ッテモナイコトヲ口ニスルノハ、失礼ジャナイカシラ」
「そうだな。だが、それを向ける相手にもよる」
 下がったアルトリウスを追うように、茨と黒薔薇が雪崩の如く。
 だが、アルトリウスとてただ下がった訳ではない。必要な時間であったからこそ。
「――廻れ」
 アルトリウスの前にて浮かび上がるは淡き輝き。奔らせ、廻して、転輪をここに。そして、中空にて大きく輪を描くそれを盾と翳すのだ。
 輪である以上、盾としたところで、中は空洞なのではないのか。
 それを証明するかのように、転輪は茨と黒薔薇を受け止めることなく素通りさせ――。
「静止せよ」
 ――その輪の内で、その動きをひたりと止めさせた。
 それこそがアルトリウスの狙い。
 転輪に付与した静止の原理を用い、茨と黒薔薇を一網打尽とするための。
 そして、宙へ縫い留められたかのようにと、ぴくりとも動かなくなったは茨。
「――む?」
 だと言うのに、ぐらりと揺れたアルトリウスの視界。茨はかの身に触れることもなかった筈なのに。
 ――茨だけ? 黒薔薇は?
「私ノ黒薔薇ヲ枯ラセルノハ、プリンセスダケ」
 茨止まろうとも、黒薔薇の花弁は健在。故に、その香りだけはアルトリウスの身に届き、僅かとその身を揺らすのだ。
 転輪の輝きは明滅し、淡く揺れる。それに伴い、茨もまたその動きを活性化させんと。
 止められないのか。いいや――。
「なら、私が散らすのみですわ!」
 ――そのプリンセスは、ここに居る。
 アルトリウスとエンデリカの戦闘は目で追うがやっとではあるけれど、それでも、王女は自らの役割を見失ってはいない。
 肩に置かれた手の温かさが、呑まれそうになった心を救いあげてくれた温かさがあればこそ、彼女はその役割を果たすべくと動けたのだ。
 黒薔薇の香りを、花弁を塗りつぶすは、輝きの。
「助かる」
「いいえ、こちらこそ!」
 揺れる視界は遠のき、転輪はその力を取り戻す。

「――消えろ」

 ならば、仕上げをここに。
 目の前に翳した掌。ぐっと握り込めば、連動して転輪もまたその形を縮小させる。
 収縮して、収束して、輝きは虚空へと還っていく。その内に抱いたそれと共に。
 アルトリウスによってなされたそれにより、エンデリカがその一部――彼女の手足ともなり得るそれを取り返すことは、最早とできまい。
 戦いの天秤が揺れた瞬間であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィーナ・ステラガーデン
あんたどんだけ物騒なのよ!?
相手のことを知って自分のことを知って欲しいなら
ちゃんとオトモダチから始めなさい!!(ビシッ!)
あ、こいつ全然わかってないわ!

そーねえ。出来れば仲間猟兵と共に戦いたいわね!
私はサポートに徹するわ!
【属性攻撃、制圧射撃】で広がる黒薔薇やら蝶々やらを焼き焦がしつつ
姫を守り、仲間猟兵が進む道を作るとするわ!
エンデリカの攻撃が苛烈になってきたり、黒薔薇の侵食速度が上がってきたら
対抗する為にUCを使用して全部吹き飛ばして(敵が空を飛んでるならバランスを崩させ)
その風にて仲間や姫が勢いよく前進する為の追い風とするわ!

(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


エドガー・ブライトマン
いいや、プリンセスは渡さない
キミは気高い彼女に触れることすら許されない
私は王子として彼女を守る

ねえ、エンデリカ君
私の国でも、美しいバラがたくさん咲いていてね
でも黒バラは無かったし
こんなふうに覆いつくすような咲き方はしていなかった

ひとを想って咲く花は、それは美しいものさ
私は、この花を美しいとはおもわない

私はもっと美しいバラを知っているよ。見せてあげる
黒薔薇蝶々の群れなんかに負けやしない強かな花さ
“Eの献身”

花と茨で蝶々を薙ぎ払う
鱗粉で体が動かなくなろうと、レディさえ動ければ良い
茨をエンデリカ君まで届かせてくれ

レディ、必ず勝つんだ
国の懸かった戦いで私が負けることは許されない
王族としてのプライドだ!



 虚空に削り取られた茨。ただ斬られただけとは異なる茨。
 それはまだ多くと這う茨の一部ではあるけれど、それでも確かに喪った感覚と言うのはあるのだろう。
 エンデリカは僅かな喪失感と違和感に、その眉を顰める。
「プリンセスヲ抱キトメルタメノ茨ガ、減ッテシマッタワ」
「その茨で抱き留めるつもり?」
「ソウヨ。素敵デショウ? 茨ト黒薔薇ニ包マレテ、プリンセスハ私ノ手ノ中デ眠ルノ」
「言葉面は綺麗かもだけれど、実際のそれって傷だらけになるどころじゃないわよ!?」
「ウフフ。ソノ肌ニ触レテ、私ノ付ケタ傷ガ刻マレテ、マタ一ツオ互イノ理解ガ進ムノヨ?」
「そんな相互理解、お断りですわ!」
「ほら、この子もそう言ってる……っていうか、あんたどんだけ物騒なのよ!?」
 あなたは私のモノ。
 それが黒薔薇の花言葉ではあるけれど、エンデリカのそれは傍若無人に過ぎる。
 そして、その思想から、視線から王女を隠すようと進み出るはフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)。王女と同じ紅の瞳に烈火を宿し、その無自覚の悪意と火花を散らすのだ。
「安心シテ? 流レ落チル血ノ一滴ダッテ無駄ニハシナイカラ。全部、全部ヲ掬イ取ッテアゲルワ」
「それの何に安心しろって言うのかしら!?」
「? アナタ達ハ、傷カラ零レ落チル血ガ大地ニ零レテ、理解サレナイコトヲ心配シテイルノデショウ?」
「あ、こいつ全然わかってないわ!」
 フィーナと王女からの拒絶の意味を、エンデリカは理解しない。できない。
 だから、幾らとフィーナが指を突き付け、相互理解の理を説こうとも、それが彼女の心に響くことは無いのだ。いや、むしろ、既に響くべき心はその身を機械と融合させた時に壊れ果ててしまっていたと言うべきなのか。
 その価値観の絶対的な相違に、フィーナも思わずと天を仰がざるを得なかった。
「そうだね。そんなキミであればこそ、プリンセスは渡さない。渡せはしない」
 話の平行線。それを断ち切る新たなる声。
 サクリと大地を踏みしめる音も軽やかに、気負いなく、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)もまた物語の舞台へと。
「プリンセスハ、アナタノモノデハナイデショウ?」
「そうだね。彼女は僕のモノではない」
「ナラ、渡スモ渡サナイモ、アナタニハ関係ナイワ」
「だけれど、それを言うのなら、キミのモノですらないんだ」
 自分を棚にあげてのエンデリカ。その言葉を受けてなお、澄んだ青は一つも揺るがない。その瞳の奥に一本の芯を、信念を据えればこそ。
 そして、その青の瞳がエンデリカから王女へと移り、ねえ。と問うのだ。
「キミは、彼女と一緒に行きたいかい?」
「いいえ! これっぽっちも!」
「ああ、だろうね。これがプリンセスの答えだよ、エンデリカ君」
 それは分かり切っていた問答で、それを理解出来ぬはエンデリカだけで。
「知ッテイルワ。デモ、ソレモ、私ガプリンセスヲ理解スレバ、消エ去ルワ」
「いいや、キミは気高い彼女に触れる事すら許されない」
「何故?」
「だって――」

 ――私は王子として彼女を守るから。

 抜き放たれる刃の音と蠢く茨の這う音は同時。
 茨の緑に奔った白銀。その軌跡に沿ってばらりと茨が解ければ、次いで飛び交う紅蓮が焦がす。
「格好いいこと言うじゃない!」
「ハハ、王子様だからね」
 その紅蓮こそはフィーナの焔に相違なく。
 揺れる空気の向こう側で、突きつけるを指から愛杖に変えて堂々たる立ち姿。
 幾らでも来ると良い。片っ端から燃やし尽くす。
 そんな気概がその姿からは垣間見え、その雄々しさに、頼もしさにエドガーの口元へも笑みが浮かんでいた。
「黒薔薇の方はわたしにお任せ下さいませ!」
「私の炎でも燃えないとか、どんな薔薇なんだか。そっちはお願いするわね!」
 だが、銀閃であろうとも、紅蓮であろうとも、黒薔薇だけは枯らすまで至れない。
 それを出来るはプリンセスだけだと、エンデリカの侵した世界が定めてしまっているがために。
 だからこそ、彼女はここに立つ。戦いの中枢には立てずとも、それが猟兵達の援護になると信じて。
 フィーナの背より王女が飛び立ち、その輝きの花弁をもって黒薔薇の鱗粉を届かせまいと。
「アア、素敵……モット、モット見セテ頂戴!」
 だが、世界を侵食し、壊す己の黒薔薇を唯一と枯らすその姿にこそ、エンデリカはその気を昂らせるのだ。
 もっと、まだもっと。
 そう言わんとばかりに、その身のヒトとしての形を僅かずつ茨と機械に捧げ、彼女は世界を侵食していく。その身より生じる茨と黒薔薇の波で、飛び立つ蝶々の渦で。
「幾らでも燃やし尽くしてやるけれど、なに? 物量で来るのが流行ってんのかしら!?」
「奔放に咲く野薔薇なら愛で甲斐もあるんだけれどね」
 切り裂かれ、燃えて、枯れ果てて。されど、その物量はエンデリカへの道を閉ざすに十分。
 ――踏み込み切れない。
 それが猟兵達の現状であった。

「ねえ、エンデリカ君」

 不意に響いた、エドガーの声。
 それは剣戟と爆音の中、不思議と響いてエンデリカの耳へと届く。
 王女ばかりを追っていた目が、エドガーを見た。
「私の国でも、美しいバラがたくさん咲いていてね。でも、黒バラは無かったし、こんな風に覆い尽くすような咲き方はしていなかった」
 だが、エドガーの瞳は遠い昔を見るかのよう。
「ひとを想って咲く花は、それは美しいものさ」
 その瞳が、遠ききから今へと戻ってくる。
「だから、私はここにこう言おう」

 ――私は、この花を美しいとはおもわない。

 幸福の王子様は、その身に宿す黄金より貴きを捧ぐ。彼の知る、美しきバラの彼女へと。
 そして、狂気/狂喜が揺れ動いた。
「アンタ、それ……!」
「ああ、何にも負けやしない、私が知る美しきバラ。強かな彼女さ」
 エドガーの左腕より生じたは、薔薇の淑女。そこに宿す力の強大さをフィーナは視るが、同時、それが決して善性だけのものではないとも理解をする。
「ああもう! サポートが必要な状況を増やすんじゃないわよ!」
「ハハ、済まないね」
「謝るんなら、アンタの思うことをきちんとやり切りなさい! いいわね!?」
「……勿論だとも」
 フィーナ・ステラガーデンはお姉さん。生来の世話焼き。ならばこそ、己が身を犠牲にしてでもとする者を、放ってなどおけない。
 空を舞う王女を守るだけではなく、エドガーのなすべきを援護すべきと、その身に宿る魔力を感情と共に練り上げるのだ。
 そして、エドガーもまた、その心遣いを理解出来ぬ程にヒトの心が分からぬではない。ただ、此度の記憶の如何ほどが彼の中に残るだろうかという一抹の寂しさを抱えながら、フィーナへの応を返す。

 ――ちらりちらりと舞い散る黒薔薇蝶々達。這う茨は壁の如く。

「だから、なんだっての!」
 そんなもの、紅の内にて燃ゆる烈火の前には障害としてすら最早映らない。
 道を拓けるか、拓けないかではない。フィーナが拓くと決めたのだから。
 感情を膨らませ、零れ出る魔力/火の粉を紅蓮と変える。
 それはフィーナの意思の下で宙に尾を引き、軌跡を描き、彼方から此方への扉を描く。
 いざや来たれ、嵐を呼ぶ翼。遍くを灰燼へと帰す焔の――。

「出なさい誇り高き竜!」

 そして、世界が繋がった。
 紅蓮にて描かれた扉――魔法陣より身を捩り、現れ出でるは棘持つ巨竜。ガチリガチリと鳴らす顎からは、白に染まる炎がチロリ。
「な、なななな、なんですの!?」
「私も大概かもしれないけれど、キミもだね」
「大丈夫よ! ちゃんと何を吹き飛ばすかは分かってるから!」
 空の王女から突然の竜の出現に驚く声。茨の淑女と共にあるエドガーも、若干の驚きと共に。それにむふんと胸張って、フィーナが指し示すは変わらずのエンデリカ。

「全部、ぶっ飛ばすのよ!」

 応の声はない代わり、応えたそれは白炎の。
 竜の顎より放たれたそれは、立ち塞がる蝶も、聳え立つ茨も、全てを灰燼と帰しながら、その中へ直線を描くのだ。
「いきなさい!」
 言われるより早く、エドガーの脚は動いていた。
 まだ熱が残る道を、パチリパチリと火の粉が弾ける道を、駆け抜けて。

「とんだ後押しだ。これは、一層と負けることは許されないね」

 白炎が灼き、拓いた道。王女の輝き祝福する道。
 だが、熱に攪拌される空気へ、僅かと残った黒薔薇の鱗粉は混じる。
 でも、それの齎す呪いになど、負けていられよう筈もない。僅かでも力の抜けるを許さぬとばかりに四肢を動かし、体躯を動かし、エドガーは迫る、エンデリカの喉元。
「レディ、必ず勝つんだ!」
「私ガ受ケ入レルノハ、プリンセスダケヨ」
 その刃を、茨の淑女が一撃を受けては堪らぬと、機械の翼が羽ばたき、エンデリカを浮かす。
 だが、そんな緊急的な回避など、浅知恵など。
「させるかっての!」
「――ッ!?」
 フィーナが許す筈もない。
 エンデリカの至近で紅蓮が弾け、彼女が蝶の如くと羽ばたくを許しはしない。
 不用意に浮かんだそこに加えられた衝撃へ、エンデリカは姿勢を崩す。
「なんとも、彼女には頭が上がらなくなってしまいそうだね」
 この後も覚えていられたのなら、礼の一つもせねばなるまいか。
 だが、ひとまずはそれを未来の自分に託し、今の自分は今の自分に出来ることをするのみ。

「国の懸かった戦いで私が負けることは許されない!」

 王族としての、エドガーをエドガー足らしめる矜持をここに。
 鱗粉の呪いで霞みそうになる視界の中、淑女の茨がエンデリカの身体を捉えるを、エドガーは見た。
 ――美しきバラが茨を押し退け、飲み込んでいく。
 それはフィーナが拓き、エドガーが確保した橋頭保として、エンデリカの広げる黒薔薇の世界に確かなる道筋を刻み込んだ証拠でもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キトリ・フローエ
エンデリカ、可愛そうな精霊の子
過去に囚われてしまったあなたは
決してプリンセスにはなれないわ
あなたが世界を奪うよりも先に、あたし達がここで止めてみせる

プリンセスには引き続き黒薔薇への対処をお願い
あたしもさっきと同じように空中浮遊で空を飛び、空中戦を
プリンセスが黒薔薇を退けることに集中できるよう
全力でエンデリカと戦いましょう

あたしは破魔と浄化の力を込めた黎明の花彩で
エンデリカ自身よりも機械仕掛けの翅を集中的に狙って攻撃するわ
…大丈夫よ、ベル
あなたの花は絶対に、オウガの花になんて負けたりはしない
戦意を奪われないよう、己自身と花精霊を鼓舞しながら
眠らされてしまった皆がおはようを言えるように
力を尽くすわ


シキ・ジルモント
◆SPD
そんな方法で理解など…と、もはや言っても届かないのだろうな
ユーベルコードを発動、一切手は抜かず交戦する

プリンセスの護りを重視する
増大した反応速度で彼女を狙う茨を射撃で撃ち落とし、敵との間に割って入って接近を防ぐ
…言葉にしろと言われた事を思い出し
「大丈夫だ、必ず守る」とプリンセスへ伝える
敵の言動に惑わされず、前を向けるように

敵は本体を狙う為、まず動きを止める
増大した速度で回り込み、機械仕掛けの翅へできるだけ多く銃弾を撃ち込む
破壊が困難でも撃ち込んだ銃弾を翅の駆動部へ食い込ませ、羽ばたく動きを阻害したい

羽ばたきを阻害する弾丸を取り除く間は速度が落ちる筈だ
その隙を利用して本体へ攻撃を仕掛ける



 道は拓かれた。
 エンデリカと猟兵達との間を阻む茨の壁は最早なく、新たにそれが這ったところで、黒薔薇のそれが機能しない限り、茨程度のみであれば猟兵達の歩みを止めるには至るまい。
「エンデリカ、可愛そうな精霊の子」
 キトリ・フローエ(星導・f02354)の視界の先には、ヒトの形を崩し始めたエンデリカ。
 それでも、それでもなおと彼女はきっと求めるのだろう。その先にある輝きを、プリンセスと言う名の存在を。例え、自分自身という形を喪ったとしても。
 だけれど、だからこそ、キトリは告げるのだ。
「過去に囚われてしまったあなたは、決してプリンセスにはなれないわ」
「ソレハ、アナタ達ガ邪魔ヲスルカラデショウ? アナタ達ガイナケレバ……」
「いいえ、それは違うわ。あたし達が居なかったとしても、あなたの願いはきっと叶わなかった」
 壊れた願いは、歪んだ実りしか生むことはあるまい。
 故にこそ、キトリはその瞳に決意と言う名の光を浮かべ、エンデリカへと向かい合う。
「分カラナイワ」
「あなたは、きっとそうなのでしょうね」
 その価値観が交わることは、決してない。
「あなたがこれ以上世界を奪うよりも先に、あたし達がここで止めて見せる」
 毅然としたその姿は、エンデリカにとって取るに足らない大きさである筈なのに、今は不思議と大きく見えていた。
 ――あの小さきに気圧されているとでも言うのであろうか。否、否、否!
 見えたモノを否定するかのように、エンデリカは小さく頭を振る。
「違ウワ。私ガ理解スルベキハ、アナタジャナイ。プリンセスヲ、彼女ヲ……!」
「ふん……あんたの言うやり方で、何を理解するつもりなんだか」
 宙を往く王女へ伸ばそうとした茨の手は、無情にも伸びる先から撃ち砕かれる。
 燻る硝煙を吐き出す銃口。その手の先にあるこそは、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)。
 常よりなおと鋭き眼差しは仕事人のそれか。はたまた、内に秘めたるモノの発露か。
 だが、その眼差しが何よりも強く語っていた。
 ――その目の黒い内は、王女へと届く全てを撃ち落とす、と。
「……いや、違うな。そこのお嬢さんに倣って、はっきりと言うべきか」
「あたし?」
「ああ。それに、言葉にしろと言われたばかりもあってな」
 視線を標的から外すような真似を、シキはしない。
 だが、鋭敏化された五感は、王女が茨撃ち落としてくれたシキを見ていることを告げている。
 ならばこそ、シキもまた言葉を紡ごう。

「――大丈夫だ、必ず守る」

 伝えるべき言葉を。
 その言葉を受け、花のように笑ったのは、さて、誰であっただろうか。宙にある王女か。はたまた、妖精の彼女か。それとも、その両方か。
「ふふっ、いいわね。なら、あたしも言葉にしておきましょう。プリンセス、ここは任せて!」
 黒薔薇を枯らすは、プリンセスならざる猟兵には難しい。
 故に、シキも、キトリも、それを王女には王女にしか出来ないことをと言うのだ。代わりに、二人は二人にしか出来ない事――王女を守る、と。
「はい! 信じておりますわ!」
 宙より届く声の明るきに、キトリの顔は勿論、シキの顔にですら薄く笑み。
 大丈夫。その様子であれば、悪意には呑まれまい、と。そも、届かせはしないのだけれど。
「マタ……マタ、立チ塞ガルト言ウノネ」
「またではない。何度であろうともだ」
「まだ眠りから覚めていない皆が、またおはようを言えるように、力を尽くすわ」
 立ち塞がる猟兵を排除しなければ、望む輝きに手は届かない。
 彼ら彼女らの何がそうさせるかをエンデリカは理解出来ないけれど、それでも、猟兵という存在がある限りは自分の目的が叶わないことは理解出来た。
「黒薔薇ヲ抱イテ、茨ニ抱カレテ、眠ルトイイワ」
 黄金と機械の翼を広げて、無自覚の悪意は動く。
 ガチリガチリと翼の歯車鳴り響き、羽ばたきを始めるそれはエンデリカを宙へと運ぶための。
 だが、飛び立つ瞬間こそが最も隙生じるもの。
 為させはせぬとシキの弾丸がその翼を目掛けて放たれる。
「――チッ」
 しかし、それもまたエンデリカは理解するところ。
 その身より溢れ出る茨を盾に、王女へと伸ばした茨を撃ち抜かれた意趣返しとでも言わんとするかのように、その弾丸を防いでみせるのだ。そして、盾の茨をそのまま溢れさせ、波と変えて猟兵を呑み込まんと。
 溢れるが茨だけであれば、シキもその身のこなしでもってやり過ごし、反撃にすら繋げたことだろう。だが、その茨には黒の花弁が咲き乱れ、紙一重で躱すを許さない。大きく跳び退り、迂回し、その影響範囲から脱しながら、今は反撃の糸口を探すのみ。
「……大丈夫。大丈夫よ、ベル」
 常は柔和な瞳を鋭くとし、宙に身を逃してその様子を見据えるはキトリ。
 王女は周囲の黒薔薇へと対応するに手一杯。こちらに辿り着くには、時間を要することだろう。
 ならば、今、ここで反撃の糸口を生み出せるのは、キトリを置いて他にはない。
 自分に言い聞かせるように、星の道行を共にする精霊に言い聞かせるように、彼女は強くと花蔦絡む杖を握る。
 黒薔薇枯らすを出来はしない。でも――。

「あなたの花は絶対に、オウガの花になんて負けたりはしない!」

 その呪いに拮抗させることは出来る筈。
 胸に宿すを強くと燃やし、放つは黎明の彩。
 ふわりと風に乗った小さな青の花色は、黒薔薇の花弁が零れ出ぬようにと茨ごとその身を包むのだ。
 ぴたり、ぴたり、ぴたり。
 まるで、シールで封をするように。護符で悪しきを封じるように。
 宵の黒は、今や明けの青に染められて。
「少しは見やすくなったかしら!」
「ああ、十分過ぎるぐらいに視える」
 キトリによって動き封じられた茨。影響封じ込められた黒薔薇。
 最早、躱すために動きを視る必要はなく、茨と茨の隙間の先にシキは標的を視る。
 黄金の翼。機械仕掛けの翼。エンデリカの翼。茨の盾で稼いだ時間を糧に、今にも飛び立とうとするその姿を。

「本当に、十分すぎる」

 茨と茨の隙間は針を通すような細さではあるけれど、引き金へ指掛けるに気負いなどあろう筈もない。
 ――ガチン。
 撃鉄が落ち、火薬が燃焼し、弾丸を撃ちだした反動が手に返る。
 そして、明けの青に導かれた弾丸は、吸い込まれるように機構の翅へと食い込むのだ。
 ガキリと異物を食んだ音奏で、歯車が止まった。
 それ即ち、空羽ばたくための機構が強制的に止められた音であり。
「――アァッ」
 羽ばたく蝶は宙へと届かず、その態勢を崩す音でもあった。
 花びらが散るように、エンデリカの身体がはらりと大地に墜ちていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花降・かなた
リュカf02586とグラニテと!

わからないものを理解しようとする、そのことは素敵よ!
でも、バラバラにしてしまってはダメかしら
どうしてそういう思考になるのかしら
わからないわ…
…相変わらず殺伐とした意見ね…あら
確かに、役割は果たしましょう
それは大事ね
ヒロインの役割は可憐に美しく誰かを助けること
因みに女王様の役割は、私、後ろでふんぞり返ってることだと思うわ!

と、いうわけで歌を継続しながらも空中に舞い上がってオーラ防御をかけた花筏をぶん回す。黒薔薇を薙ぎ払って、戦意が奪われるようなら負けないように声を張る
いざとなったらグラニテを庇って、近くに来たらこの傘で殴ってやるから!でもそうならないことを祈るわ!


リュカ・エンキアンサス
かなたf12235と、グラニテお姉さんと

まあ、俺達も、あれを理解できないまま俺達の目的のために殺すんだから、
別に、いいんじゃない?
…女王様もヒロインも、自分の役割を果たしてから、好きなだけ悩めばいいと思う
ふんぞり…ああ、うん
つまりはあんまり前に出るなってこと
王が死んだら民草は路頭に迷うでしょ
国のためを思うなら生きなきゃ。勝手に死んじゃだめだよ

まあそれは置いておいて、俺は地上から上空の敵に向かって撃つ
黒薔薇の花びらはある程度は無視するけど、存外邪魔になりそうなら撃ち落とす
守りは可能な限りかなたに任せて攻撃に集中して、手早く撃ち落として制圧しよう。消耗戦は避けたい
…なんか今日は二倍疲れたからね



 分からないから理解しようとする。
 それはきっと大切なことなのだろう。
 だけれど、だ。
「バラバラにしてしまってはダメかしら」
 頬に手を当て、困ったようにと思案するは花降・かなた(雨上がりに見た幻・f12235)。
 何故、どうして。と、エンデリカの思考を、行動を理解しようとするけれど、やっぱり理解する行為とヒトを分解する行為とが繋がらない。
「うーん、やっぱりわからないわ……」
「そうだと思いますわ! 正直、私も何故、そういう想いを投げ掛けられているのか理解できませんもの!」
 素敵だと言ってくれるのは悪い気もしないけれど、それでも、国を蹂躙された怒りの方が王女には強い。
 まして、だ。
「私よりも頼もしく、輝かしい方々がこの場に沢山いらっしゃるというのに!」
「あら、そう言われると照れるわね」
「……」
「何かすごく言いたそうね!」
「いや、あの悪意に呑まれそうになくて何よりだよ」
 変わらぬ黄色い声に、それこそ理解出来ぬとばかりの瞳を向けるはリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)。
 詰問の桃色に、何でもないと夜明けの色はのらりくらり。
「……まあ、俺達も、あれを理解できないまま、俺達の目的のために殺すんだから、お相子なんじゃない?」
「相変わらず殺伐とした意見ね。私やグラニテを見習って、もう少し柔らかくなれないものかしら」
「俺がかなた達みたいに?」
 モクモクと浮かぶ空想の雲。
 三者三様のそれが合わさる中で、輝かんばかりの笑みを浮かべるリュカの姿。演者もかくやと滑らかに口を開いて。
「……ないわね」
「ないね」
「そうですの?」
 哀れ、想像の雲は瞬く間に散り消える。
「でも、うん」
「どうしたの?」
「女王様も、ヒロインも、自分の役割を果たしてから、好きなだけ悩めばいいと思うよ」
 リュカの指し示す先、エンデリカから溢れ出す茨の波。黒薔薇の波飛沫。
 あれを止められるのは猟兵たるかなたとリュカであり、この国のプリンセスたる王女に他ならない。
「そうね。それは大事だわ。確かに、役割を果たすとしましょう」
「はい! リュカ様とかなた様に負けないよう、他の猟兵の皆様方に顔向けできるよう、私もなすべきを!」
 ヒロイン/かなたに与えられた役割はヒロイン。
 その言葉に、役割に思うモノはヒト様々であろうけれど、かなたは自身に与えられたそれをこう思っているのだ。
 ――可憐に、美しく、誰かを助ける事。
 それこそが、己の生まれた役割りなのだ、と。
 ならば、今、またここでそれを為そう。
 
「歌を、想いを届けるわ!」

 声に想いを乗せて、聴く者の心を震わせて。
「あ、でも、グラニテ!」
「はい?」
「女王様の役割は、私、後ろでふんぞり返ってることだとも思ってるわ!」
「ふんぞり? でも、それでは……」
「ああ、うん。かなたが言いたいのは、多分、あんまり前に出るなってことだと思う」
 チェスにせよ、将棋にせよ、何にせよ、王が前に出過ぎて取られたら意味がないのだから。
「グラニテお姉さん。つまりは、王が死んだら民草は路頭に迷うでしょ? だから、国のためを思うなら生きなきゃ。勝手に死んじゃだめだよ」
「そう、それ! それが言いたかったの!」
「そうでしたのね……ええ、分かりましたわ! ふんぞり返りながら、皆様と一緒に戦いますの!」
 無理はしないと王女は約束を口にする。一人で逸らないと口にする。
 それにかなたはニコリと笑い合い、リュカはやれやれと溜息一つ。
「さ、早く終わらせよう。なんか、今日は二倍疲れるからね」
 溢れ来る茨と黒薔薇に、冴えた銃口/眼差しが向けられていた。

 ――茨の手が四方に伸びる。黒薔薇の花弁が四方に散る。

 それはまるで水が溢れるように、輝きを探し求めるかのように。
 しかし、それを放置するでは、再びと国が黒薔薇と茨に侵されるは火を見るより明らか。
 故に、三人はそれを食い止めんと東奔西走に駆け回る。
「右翼側、茨が溢れそうよ!」
「ん。視えた」
 王女と共に空飛ぶかなたを司令塔。
 地を掛けるリュカが花鋏となり、要らぬ茨を切り裂き、穿ち、その侵食を食い止めんと。
 また一つ、銃弾に貫かれた茨がパンと弾け、その先端を大地に落とした。
 ――はらり。
 その衝撃に花びらも散れば、眠りの呪い宿すそれはリュカへと向かう。
「任せるよ」
「任されますわ!」
 それを防ぐは王女の輝き。きらりきらりと零れ、輝きの壁とリュカの前を塞げば、宵闇の色は輝きの中に溶け消える。まるで、灯りに照らし出された影が消えるかのように。
 だが、輝きを見せれば、そこに居たのかとばかりに茨の手は王女を求めて、真っ直ぐにと伸び来たるのだ。その速度は、そのままであれば王女が刺し穿たれる程の。
「真っ直ぐと求めるのもいいけれど、加減ってものがあるでしょ!」
 しかし、それはそうとはならないのだ。
 パッと閃いたは美しき傘の一閃。されど、奏でる音は鈍く、重く、茨をその重さでへしゃげさせた音。
 誰がやったのか。決まっている。
「かなた様、すごいですわ!」
「かなた、それでよく自分をか弱いって……」
「何言ってるのよ。こんな可憐なヒロインを捕まえて、馬鹿力って言いたいのかしら?」
「いや、でも、その傘は明らかに……」
 それ以上は口を開くまい。
 ヘテロクロミアの瞳が、リュカに笑いかけていたから。その目の奥は、笑っていなかったから。
「ほらほら、そんなことより、今度は反対側よ!」
「こき使うなあ」
「戦意が奪われていない証拠よ!」
「士気高揚の手腕、武術の腕前、私も見習わねばなりませんわね!」
「そこはあんまり見習わない方がいいかも」
「リュカ!」
「はいはい」
 賑やかに彩られる戦いの時。
 されど、そうして駆け回る三人の行動により、黒薔薇と茨がそれ以上を広がるは許されず、その領域は削り落とされていくのだ。
 戦いの時はまだ続く。だが、また一歩、エンデリカを討つための道が踏み進められたことは間違いない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

メアリー・ベスレム
メアリにも分からないわ、あなたの事
だって、食べるでもなく弄ぶでもなく
ただ理解して、そうなりたいから殺してしまうだなんて
おかしなオウガ……いえ、オウガですらないのかしら?

だから、ね
メアリにもあなたを教えてくれる?
あなたがしたいのとおんなじように
あなたを分解(バラ)して、殺して
理解(わから)せてくれるかしら!

機械に侵食された部分はつまらないわ
血も出ないし硬くて切りにくいし
接近に合わせて【咄嗟の一撃】狙い
あるいは【ジャンプ】で喰い付いて
元の生身の部分を【部位破壊】
【傷口をえぐって】その中身をさらけ出してあげるから

メアリは殺す為に知りたい
あなたは知る為に殺したい
似ているようで、なんてあべこべなのかしら


幻武・極
やれやれ、厄介なのが現れたね。
無自覚の悪意は正しようがないからね。

さて、またしても空中戦とはね。
だけど、あの機械の体は磁力に弱いはずだよね。
マイクロチップとかは使ってないだろうけど、歯車同士が磁力を帯びることで動作不良を起こすだろうからね。
さて、どうやって『磁場形成』の射程に持ってくるかだけど、さっきの戦いがポイントになるかな。さんざん飛べないようなアピールをしてきたけど、少しなら空中浮遊ができるんだよね。
意表を突いた空中浮遊で射程に入り、『磁場形成』を使うよ。



 地に堕とされた蝶は泥だらけ。
 その顔も、衣服も、黄金の翼も。
 だけれど、それをエンデリカは気にしない。
 そんなものより、そんなことより、目指すべき輝きがそこにあると知っているから。
 だが、その前に。
「分カラナイワ。ドウシテ、ソンナニモ私ノ邪魔ヲスルノ?」
 それを阻む猟兵がいることもまた、彼女は知っている。
「あら、奇遇ね。メアリにも分からないわ、あなたの事」
 オウガであるのならオウガらしくすれば良いものを、と。
 兎の耳の下、銀髪に紅という王女と同じ色――メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)が、不思議そうな眼差しをエンデリカを見つめていた。
 その手の内で、分厚い包丁がくるりくるりと廻って、遊ぶ。
「だって、食べるでもなく、弄ぶでもなく、ただ理解して、そうなりたいから殺してしまうだなんて」
 不思議で不思議でたまらない。
 嗚呼、どうして、どうして、どうして。
 メアリーの中で疑問が疑問を呼び、狂おしさが胸を焦がす。
「殺シタイ訳ジャナイワ。理解ヲシタイダケ」
「それの何が違うのかしら。知らないの? ヒトってあなたの言う程に分解したら、死んでしまうものよ?」
 そんな筈はないだろう。と、不思議そうに小首を傾げたエンデリカの瞳が語る。
 だから、メアリーは理解する。
 アレはオウガではないけれど、オウガと同じくヒトの倫理に当てはまるものでもないのだ、と。
 故にこそ、メアリーの内を焦がす焔は、より一層とその強く。
「やれやれ、厄介なのが現れたね。無自覚の悪意は正しようがないとはこのことだ」
 静かに二人の話に耳を傾けていた幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)は、肩をすくめて処置なしと匙を投げる。
 投げた匙の代わりに握り込むは、己の拳。
 捻じ曲がっただけであれば、直せるのであれば、直接と叩いて直すだけであったけれど、それはもう遅いようだ。ならば、叩き壊すのみだとばかりに。
「ええ、あれは正せるものじゃないわ。会話だけで理解できるものでもない」
 くるんとまたメアリーの手の内で肉切り包丁が一回転。

「だから、ね?」
 ――メアリにも、あなたがしたいのとおんなじようにさせてくれる?

 回転の慣性をハシリと止めて、胸焦がす炎を――恋焦がれるにも似た炎を瞳に映す。
「分解して、殺して、理解させてくれるかしら!」
 返事を聞かぬはエンデリカと同じ。いや、返事があったとしても、お構いなしであっただろうけれど。
 土を蹴り抉り、メアリーの身体はエンデリカの懐目掛けて矢の如く。
「……どうやら、厄介なのは身内にも居たらしいね」
 ただ一つ、救いがあるとすればそれは目的を同じとしていることだろうか。
 その事実を冷静に捉えながら、極もまたエンデリカの懐へと踏み込んでいく。その脳裏で、如何に動くべきかと淡々と計算を弾き出しながら。

 ――ガチンガチンと鋼の音。

 それは歯車軋む、黄金の翼が発する音。
 他の猟兵の手によって異物を食んだそれは、飛ぶを封じられぬまでも速度を幾分と殺されていた。
「飛んで逃げようだなんて、つれないじゃない」
「私ハ、アナタ達ヲ理解シタイ訳ジャナイモノ」
「まあ! メアリはこんなにもあなたが恋しいのに」
 狙うべき先はエンデリカの身を宙へと運ぶ黄金の翼――ではなく、あくまでも、血肉を宿す身体。
 機械の分解をしたって、構造を理解したって、メアリーにとっては何一つとて意味はない。
 欲しいのは血肉。
 溢れ出る温かな血液であり、柔らかな肉の感触であり、それらに包まれた中身なのだから。
 だが、無情にも蝶は羽ばたき、空へとその身を逃がすのだ。屠殺兎の手が届かぬ、大空へと。

「――でも、飛べるのはキミだけじゃないだよね」

 自由の空は、決してエンデリカだけのモノではない。
 空舞ったエンデリカの頭上に影が差す。
 声の主を、影の正体を見極めんと見上げた先には、拳固めた極の姿。
「ドウシテ……」
「翼もない身なら飛べないと思ってた? それとも、さっきまでの戦いでそう思ったのかな? でも、残念だったね」
 先の星屑の少女達との戦いの中、地上からの迎撃へと専念したのには理由がある。
 ゲームにしても何にしても、手札を易々と晒す者はいない。普段は素知らぬ顔で隠し、最も有効な時に切るからこそ意味があるのだ。
 そして、それが極にとっての今。飛べないと思って油断する相手に、鉄槌を喰らわせるための今こそが、その時。
「クッ!」
「思うように動けないでしょ、その翼じゃ」
 エンデリカの翼が十全であれば、極の手から逃れるも可能であったかもしれない。だが、今の彼女の翼は異物を食み、十全のそれには遠く、極から逃れる術はない。
 そして、翼から鳴り響く異音は高らかと、不調を訴える。極の拳――磁場を与える拳に、その機能をねじれ狂わされて。

「その翼はボクが貰い受けるよ。身体は……キミの方が欲しいよね?」
「あら、親切なのね」

 空に繋ぎ留める翅を喪えば、蝶は二度目と無残に墜ちるのみ。
 完全に機能を狂わされた今、三度目の浮上はないだろう。
 だから、それを待ち構える兎がニコリと嗤った。
「メアリは殺すために知りたい。あなたは知る為に殺したい。嗚呼、似ているようで、なんてあべこべなのかしら!」
 メアリーとエンデリカ。
 その行動の結果は同じだと言うのに、決定的な違いが両者の間には横たわっている。

「――さあ、ごっこ遊びをしましょう? メアリが屠殺屋さん、あなたが家畜の役ね」

 墜ちてくる獲物に向かって、メアリーが跳んだ。
 その手は肉を食い破り、柔らかな感触を反芻する。獲物から零れ出た命の滴を避けるでもなく浴びれば、その身を包むはとても暖かな。
 ドサリと土煙をあげてエンデリカが大地に伏す。遅れて、軽やかに降り立つはメアリーの足音
 まだエンデリカの心は分からぬままではあるけれど、まずは一つ、解体出来ぬではないと理解出来たと、幼き獣が艶やかに嗤う。
 まだまだ時間はある。さあ、次は何を理解できるだろうか。
 獣の手の内で、武骨な刃が血に濡れ、鈍く輝いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

祇条・結月
戦いっぱなしだよね。
プリンセスの疲れが見えて来たら、「鍵」で空間を開いて飛び込む。
盾になりに。盾を造りに。

「外」と「内」を分けるもの。「門」
結界、っていうと難しくきこえるけれど壁とか家とか、それ自体が結界なんだよって笑って。
ちょっと休んでて。黒薔薇を倒せるのがプリンセスだけなら、必殺を期すのも務めでしょ?
その間は、僕が門番。戦うよ

他人のために怪我しに来るの、確かに敵の目には変に見えるのかな
でも、人間ってそうでしょ?
考えたこと、感じたこと。そのために出来ることを、その瞬間、瞬間に探してる。
似た場面でも、絶対同じことを考えるとは限らない。
バラバラにしたなにかを調べて、そんな人間がわかるもんか



 生ある者である限り、積み重なる疲労からは逃れられない。
 まして、ここは命のやり取りを行う場。その圧に慣れぬ者には、それは何倍にもなって襲い掛かってくることだろう。
「大丈夫?」
「ええ、問題ありませんわ」
 祇条・結月(キーメイカー・f02067)の問い掛けに、王女は応と返事をする。
 されど、そこには僅かの翳り。額浮かぶ汗と張り付く銀糸は隠しきれない。
 猟兵達の助力があればこそ、ここまで動き続けた彼女であるけれど、やはり限界というものはある。
「戦いっぱなしだよね」
「ですが、それは皆様も同じですわ」
「否定はしないだ」
「うっ……」
「ううん。誰もそれを責めている訳じゃないよ」
 ある意味、分かり易いと言えば分かり易い反応。
 結月からすれば、下手に否定をされて話が拗れるよりもやりやすい。
「少し休んで。それくらいは、もたせるから」
 迫る茨を退けるも、蝶の羽ばたきを退けるも、自身が引き受けるから、と。
「で、ですが……」
「言おうとすることは分かるよ。でも、黒薔薇を枯らすことが出来るのはアナタだけなら、必殺を期すのも務めでしょ?」
 戦いの流れは既に猟兵有利に傾いている。
 ならば、最後の時に王女が動けず、黒薔薇にその時を妨げられるがあってはならない。
 故に、結月は暫しの休息を王女に提案するのである。
「大丈夫。この結界の中なら、そんなに長い事は待たせないと思うから」
「本当に、ですの?」
「嘘は言わない。だって、プリンセスがこの戦いの鍵なんだから」
「……分かりましたわ。少しだけ、少しだけ休ませて貰いますわね」
「うん、安心して休むといいよ」
 結月携えるは銀の鍵。空間と空間を開き、繋ぎ、閉じるを自在とする鍵。
 それをもって展開するは内に抱きたるを癒す、安寧の揺り籠。結界――結月がそう伝えた空間は、王女を柔らかと包み込み、その身に澱むを洗い流すのだ。
「温かいのですわね」
「ふふ。結界、っていうと難しく聞こえるけれど、壁とか言えとか、それ自体だって結界なんだ」
 彼方と此方を隔てる境界こそがそうである、と結月は笑って伝える。
 本来であれば、王女の護らんとする国もそうであったのだろう。だが、今はその機能を侵されている。かの茨により、黒薔薇により。
 だから、取り戻さなければならない。安寧の場所を、誰かが帰るための居場所を。それを永劫と失わせる訳にはいかないから。
 境界を跨ぎ、揺蕩う結月であればこそ、もしかすればその想いが誰よりも強かったのかもしれない。
「さ、少しの間だけど、閉じるね」
「……暫し、頼みますわね」
「勿論さ」
 扉が閉じる。王女の姿が、彼方に消える。
 きっと、次に会う時にはまた力一杯の姿を見せてくれることだろう。
 そのためにも。
「約束を守ろうか。ここから先は、通さないよ」
 結月は門番として、そこに立つのだ。絶対に通さぬという誓いと共に。

 ――茨が迫る。蝶が羽ばたく。

 扉の向こうに隠された王女を求めるかのように、その扉を食い破らんとするかのように。
 だがしかし、だ。
「プリンセスは少しだけ休憩中。扉を叩いて邪魔をしようだなんて、無粋ってものじゃないかな」
 それを門番/結月は許さない。
 手にした鍵を今は剣と変えて、弓と変えて、近付く端から斬り落とし、穿ち落とす。
 ばらり、はらり、茨も蝶も儚くと。
 だが、雪崩くるそれを止める代償に、結月の身体へこそ疲労は、強化された鱗粉の呪いは、澱のように溜まっていく。

 ――くらりと揺れるは意識か、それとも身体か。

 断てば断ち、穿てば穿つ。
 数はとおの昔に数えるを止め、甘く痺れる感覚は時間の感覚すらをも狂わせる。
 どれぐらい葬った。どれぐらい時間が経った。
 いや、そんなものは関係ない。
「他人のために怪我しに来るの、変に見えてるかもね」
 独り言は自分を保つ為。
「でも、人間ってそうでしょ?」
 途絶えそうになる意識を凌駕して、信念が身体を突き動かす。
「考えたこと、感じたこと。そのために出来ることを、その瞬間、瞬間に探してる」
 手の感覚は遠い。されど、茨がばらりと散ったが視えた。大丈夫、まだ身体は動いている。
「似た場面でも、絶対に同じことを考えるとは限らない」
 黒薔薇の蝶が、矢に貫かれて墜ちていく。鱗粉を撒き散らして、墜ちていく。
 名残りのように漂う鱗粉が風に乗り、結月の身体に纏わりつく。
 また、ぐらりと身体が揺れた。
 だけれど、だけれど。

「――バラバラにしたなにかを調べて、そんなんで人間がわかるもんか!」
「その通りですわ!」

 遠くなりかける意識を繋ぎ留める声は溌溂。
 やりきったのだ、と。霞みがかった結月の頭がそれをぼんやりと理解する。
 ――否、意識が急速に覚醒へと導かれる。
「お待たせしましたわね!」
「はは、頑張った甲斐もあったかな?」
「お蔭様で、疲れなど微塵もですわ!」
 王女より零れる輝きが結月を包み、纏わりつく呪いを祓ったのだろう。
 そして、覚醒した意識で結月が改めてと王女を見れば、そこにはもう元の輝きを取り戻した姿。
「これなら、最後を任せられるね」
「はい!」
「行ってらっしゃい」
「行ってきますわ!」
 二人の視界の先、猟兵達の手により血を零して墜ちるエンデリカの姿があった。
 ならば、これより先こそが結月の語った必殺を期すべき時となるのであろう。
 その予感を現実へと為す為に、結月は王女を送り出すのだ。最後の、決戦の場へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
残念ながら姫様はお忙しい身さ。代わりにイケメン騎士であるこの俺が相手を務めるってのでどうだい?

魔剣を顕現。此処まで固執してりゃあ、姫様狙いは変わらず…だろ?
――野郎はお呼びじゃないって?そりゃ、残念だ。(肩竦め)
姫様へと迫る黒薔薇蝶を魔剣の黒銀の炎の【属性攻撃】で焼き払う。
そうすりゃ、『ウザイ存在』ぐらいには認識してくれるか?
ハッ、ようやく目が合ったな。自己紹介は必要か?【挑発】。

茨の化物に成り果ててくれて良かったぜ!人間の姿だと苛めてるようで気が引けるからよ!
魔剣を【怪力】で振るい、UC。
『私達だけ』の幸せな世界?…んなツレねぇ事言わねぇで、俺も混ぜてくれ。土産の菓子ぐらいは持参してやるぜ?


トリテレイア・ゼロナイン
グラニテ様、理解し得ぬ脅威に臆することはありません
国を、ヒトビト護るは王族の務め
そして災い退ける力は貴女の裡にあるのですから

私と共に機竜の背にお乗りください
黒薔薇の縛め振りほどく為に

騎乗機竜ハッキングし機体制御限界突破
空中戦の運動性と同乗者振り落とさぬ安定性両立
槍や銃器で黒薔薇蝶々をなぎ払い

(機械の翅…憧れの模倣…何故、私があの精霊と違い『情』を得たのか。『過去』に堕ちた数多の同型機との違いは一体…)

いえ、姫君を背に駆ける騎士の誉れに比べれば今は些事

確かこの世界の姫君は魔法をお持ちだとか
どうかこの無骨な槍をこの国に似合う形に変えて頂きたいのです
さすれば、貴女の敵を打ち砕いて御覧に入れましょう!


天狗火・松明丸
輝きを物にしたとして
その心までは、如何か


此度は手に届かないものばかり
欲しがる童のような相手が続くな
養分にして一つになれば
何を咲かすと思ったのか

…然し、グラニテ姫御前は人気者だこと
好みとは違ったようだが

笑う間にも火の粉を散らして機を待つ
黒薔薇こそ焼けはしないが
触れられるだけで僥倖よ
あんなにも望み焦がれるとは、全く
熱に浮かされたようじゃあないか

これは愛憎とも違うのかねえ
俺には終ぞ解らんことだが
策に嵌って夢見心地の幻影でも
見てくれりゃあ目眩しにはなろうか

さて、誰の幻を見てくれる?

グラニテの輝きには劣るだろうが
それは本人からの眩さに焼かれるが良い



 輝きは飛ぶ、最後の時へと向けて。
 黒薔薇は倒れ伏す、最後の時へと向けて。
 だが、まだこの物語は終わりを迎えた訳ではない。終わりが語られぬ以上、まだ――。

「グラニテ様。どうぞ、機竜の背へ。お運び致しましょう」
「はは、ナンパならもうちっと言葉を飾らねえとな!」
「いやいや、もしかすれば、そういう礼儀正しき方が案外にかもしれん」
「いえ、私はナンパのつもりでは……それに、この機竜にはカイム様も乗られているではありませんか」
「冗談さ」
「冗談だとも」
 女三人寄らずとも、姦しきは変わらぬもの。
 終わりへと向けて飛ぶ王女の傍ら、するりと横付けされたはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の鋼竜。その背には、彼だけでなく、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)も乗せて。そして、鋼竜に追随して、揶揄うカイムに追随しては、天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)が姿。
「ふふ。皆様、流石にお強いですわね」
 私など、幾度もと休息を挟まねば、ここまで至れませんでしたのに。などと、王女もまた冗談めかして言葉を紡ぐ。
 そこに最初の頃の固さはなく、エンデリカに気圧されていた姿はない。
「おや、無用なお誘いでしたでしょうか」
「いいえ、折角のお誘いなのですもの。かの者へ辿り着く僅かな間、お願い致しますわ」
「お、見て見ろ。やはり、俺の言葉の方が正しかったらしい」
「あー、やっぱりお姫様とかだと、そういう風なのがいいのかね?」
「……冗談だったのでは?」
「ああ、冗談であったとも」
「そうそう。ささ、お姫様はこちらに」
「ありがとうございますわね」
 緑の灯火は釈然としない思いを表すように明滅していたが、飄々としたカイムと松明丸へ観念したかのように溜息――吐き出すものはないけれど――を一つ。
 そのやりとりが可笑しかったのだろう、王女からもくすりと微笑みが零れていた。
「肩の力は抜けているようで何より」
「ま、後は倒れ伏すあいつを終わらせるだけだからな。力の入れようもないか?」
「ええ、皆様のお蔭で、ようやくと――」
「いえ、お待ちください。まだ、感謝には幾分と早いようです」
 それを最初に把握できたのは、様々なセンサーを搭載していたトリテレイアであった。
 四人の視界の先、倒れ伏すはエンデリカ。
 その姿に変化はないというのに、その内部の熱量が増大して――。

「ァァァァァアアアアアア!!」

 茨の怪物が、機械の怪物が、そこにはあった。
 それは自身を茨と機械に食ませた黒薔薇の精霊が末路。
 トリテレイアをして見上げる必要があるであろう大きさになったソレは、嗚咽とも、悲鳴とも、咆哮とも取れぬ複雑な雄叫びを上げ、世界を震わせるのだ。
「はあ、なんともな。だが、あの姿で居られるよりは、やりやすくはなってくれたか」
「ふむ、キャバリア程度の大きさですね。雲を突くほどになってはどうしようかとも思いましたが」
「溢れ出す感情がぐちゃぐちゃで、こりゃ些か不味かろうな」
「み、皆様、流石ですわね。誰も驚いていらっしゃらないだなんて」
 三者三様、顔見合わせて破顔一笑。
 だが、それもそうだろう。彼らが今迄に歩んできた歴史を見れば、あれは異形であるだけ。そこに宿す力は確かに厄介であるのかもしれないが、そんなものはいつものことなのだから。
「プリンセス。ドコニイルノ、プリンセス。一緒ニ、イキマショウ?」
 茨が伸びる、黒薔薇の蝶が浮かぶ。四方世界の全てを覆い尽くさんと。
 たった一つ、王女を求めるためだけに。
「何が……何が彼女をここまで突き動かすのでしょう?」
「分からんな。手に届かぬ輝きであるからこそ、童のように欲しいと願うのか。しかし、心までもと欲しているようにも思えんが」
 エンデリカを突き動かすが何であるかは分からない。だけれど、ただ一つ、それが世界の脅威に繋がるということだけは理解が出来る。
 故に、彼らはそれをさせじと動き出すのだ。

「そいじゃ、お先に」
 いの一番。先鋒の誉れを勲と語るつもりはないが、カイムは飛び降りる機竜の外。
 重力がその身を引いて、瞬く間に大地の上へとご案内。
 ズダンと大きな音立て、土煙をあげて、目を惹かせるは茨の異形の視界。

「よお、残念ながら姫様はお忙しい身さ。代わりに、イケメン騎士であるこの俺が相手を務めるってのでどうだい?」

 その視界の中で不敵に笑うは、Black Jack。その手にいつの間にかと燃ゆる炎の魔剣を掲げ、ナンパのようにと気負いなく。
 だが。
「違ウ。アナタハ、違ウノ」
「はは、野郎はお呼びじゃないって? そりゃ、残念だ」
 返る答えは拒絶のそれ。とは言え、それも最初から織り込み済み。
 世界を震わせるだけの大声を上げて王女を求めていたのだ、応の返事がある方が驚きであろう。
 とは言っても、はいそうですか。では終われない。
 そう。振り向かぬのなら、振り向かせるだけのこと。
 ――燃ゆる黒銀の炎が空気を喰らって、一層と燃え猛る。
 その熱量を、脅威を見て、初めて異形の瞳にカイムへの敵意が浮かんだ気がした。
「ハッ、ようやく目が合ったな。自己紹介は必要か?」
「イラナイ! アナタナンカ、イラナイ!」
「そいつは何よりだ! 俺にだって、選ぶ権利ってもんがあるからな!」
 何より、カイムには既に心へと住まうダレカが居るのだから。

 ――そして、ぶつかり合うは黒銀の炎と黒薔薇蝶の渦。

 爆炎が黒薔薇蝶を呑み込み、黒薔薇蝶の鱗粉が爆炎を抑え込む。
 拮抗により生じた衝撃が、また世界を震わせた。

「すさまじい……ですわね」
 繰り広げられる理外の領域に、ごくりと唾呑む王女の声。
「グラニテ様、臆することはありません。貴女は貴女の為すべきを為さればよいのです。その力が、災い退ける力は貴女の裡にあるのですから」
「ええ、ありがとうございますわ」
「実直であるなあ」
「かくあれかしというものです」
 茨と黒薔薇蝶の大半はカイムが抑えてはいるものの、それでも流れ来ぬ訳ではない。
 それをトリテレイアは機竜の騎乗も見事にと繰り、その身に宿す機銃でもって撃ち落とす。そして、松明丸もまた、機を図るように、何かを探るように、その翼より零す火の粉を撒き散らすのだ。
「……然し、グラニテ姫御前は人気者だこと」
「求められることに悪い気はありませんが、この国を蹂躙したことは許されるものではありませんわ!」
「はは、そりゃあそうだろうなあ。自らを養分にしようとする者を好みと言えるような変わり者は、そうはあるまいよ」
 ぐるり、くるり。
 会話の間も王女が舌を噛まぬで済むは、トリテレイアの手腕があればこそ。
「いやはや、だがしかしというもの」
 ちらりちらりと火の粉雪。
 黒銀と黒薔薇が舞い散る中を彩り添えて、異形の身体に触れ、積もる。
 その熱さが異形の身を焼きはするけれど、機構を融かしはするけれど、端からその傷を黒薔薇が埋めていく。
 むしろ、その熱さが降り積もる度、まるで狂乱のように異形の動きは激しさを増していくばかり。
 暖簾に腕押し、糠に釘。
 だが、それでも松明丸の笑みは変わらない。
 いや、それよりも――。
「人の悪い笑みをお浮かべになりますね」
「応とも。あんなにも望み焦れるとは、全く、熱に浮かされたようじゃあないか」
 不味かろうと語った異形の感情。その味は確かに複雑すぎて、松明丸の口には合わぬ。だが、その舌にのる熱さは悪いものではない。利用できる、という一点においては。

「ほれ、我慢するなよ」

 プツンと焼き切るは感情の緒。
 松明丸とて、ただ火の粉を撒き散らしていただけではない。
 それを媒介として、かの心に薪をくべ続けていたのだ。
 愛憎の炎を、心を狂わせるに最も適した炎を煽るために。
「さて、お前さんは誰の幻を見てくれる?」
 異形/エンデリカの動きが、まるで糸切れた人形のようにとひたりと止まった。
「プリンセス、アァ、プリンセス……ヤット、手ヲ取ッテクレルノネ? サア、私達ダケノ幸セナ世界ニ……」
「驚いた。俺には終ぞ解らんことだが、どうやらグラニテ姫御前への想いは確かにあったらしい」
 その心の炎が見せるは、愛憎の幻。最も心に焼き付けた者を幻と見せるのだ。
 そして、異形は、その視界に確かに王女の姿を見ていた。それが宿すは歪み果てたモノではあったけれど、それでも、確かな情ではあったかもしれない。

「機械の翅……憧れの模倣……私とあの精霊とが抱いた『情』の違いは、過去に堕ちた同型機達との違いは一体……」

 その光景は一人の騎士の心を揺さぶる。
 騎士――トリテレイアは機械の身体持つ者である。それはエンデリカと同じでもあり、違う世界で時折姿を見せる彼の同僚と同じ。
 だが、エンデリカは歪み果て、同型機達は過去の骸と世界の脅威になり果てた。しかし、トリテレイアは違う。彼は未だをもって歪み果てるでもなく、骸の海に浮かぶでもなく、トリテレイアとして此処にあるのだ。
 それはきっと僅かな違い。白紙となった自身の中で、寄る辺となるべきを持っていたかどうかの違いであったのかもしれない。
「トリテレイア様?」
「ぁ……いえ、姫君を背に駆ける騎士の誉れに打ち震えておりました。それよりも、これは千載一遇の機会ですね!」
「ああ、そうだろうな。今のうちに、焼いてやるが本望だろう」
 トリテレイアの悩み、迷うを松明丸とて読み取るが、先の戦闘の折、代償と引き受けたモノを黙ってくれていたトリテレイアに借りを返すように、それには触れぬ。
 答えを示すは出来るのかもしれないが、それでは意味も無かろうと心の裡で零しながら。
「では、グラニテ様。どうかお力添えを頂けますか? 風聞ではありますが、この世界の姫君は魔法をお持ちだと」
「プリンセス魔法のことですわね!」
「……プリンセス魔法という名付けもすごいな」
「はい! どうか、それによりこの武骨な槍へこの国の祝福を頂きたいのです! さすれば、貴女の敵を打ち砕いて御覧に入れましょう!」
「お、いいな! 俺にもそいつを一つよこしてくれよ」
「私にどこまでが出来るかは分かりませんけれど、輝きの祝福を皆様に!」
 トリテレイアの掲げる槍に、カイムの魔剣に、陽の如き輝きが宿る。
 それは王女の力を、権威を、一時的にせよ譲渡された証。この国を正しきへと戻すための力。
 さあ、眠り誘う宵の色へ、その終わりを告げようではないか!

「どんな夢幻を見てるかは知らねえが、『私達だけ』の幸せな世界だぁ? んなツレねぇ事言わねぇで、俺も混ぜてくれよ。菓子ぐらいは持参してやるぜ?」
「姫君より祝福を受けし我が槍にて、その歪みを正しましょう!」

 轟と響いたは二つ。
 一つは無慈悲なる斬撃と共に放たれたカイムの炎。
 一つは機竜より昇る太陽の如くと飛び出したトリテレイアの炎。
 カイムの刃が唐竹割りと茨を、黒薔薇を断ち、その核/エンデリカを白日に晒し出す。そして、その核をトリテレイアの槍が貫き、抜けた。
「ア、アア、ァ……ワタシ、ハ……」
 それが黒薔薇の精霊の、最後の言葉。灰も残さず、ぐずりと崩れ消えた者の最後の言葉であった。

 眠りが消えていく。騒がしくも賑やかな時間が戻ってくる。
 ただ、暫くは国を挙げての感謝祭――猟兵に対する恩返しと王女主催で開かれたそれ――により、いつも以上の喧騒が支配をしていることだろう。
 三日三晩と続いたそれがどんなものであったかはまた別のお話。しかし、それが明るきものであったことは、間違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月10日
宿敵 『エンデリカ』 を撃破!


挿絵イラスト