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みずいろ(作者 八月一日正午
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#UDCアース  #【Q】 


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#UDCアース
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#【Q】


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「いや、人生わかんないよね。……まさかこんなものに触る機会があろうとは」
 グリモア猟兵――臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)の手指に絡んだ鎖の先には、宝石がひとつ揺れていた。飾り気の感じられないペンダントだ。
 透き通った、淡い青。
 その向こう側、女が浮かべるぎこちない笑顔すら見て取れるほどの、大粒のスクエア・カット。
「ひと仕事する気がない人も、ちょっと見てくといいと思うよ。……この大きさのブルーダイヤモンドなんて、本当だったら博物館行きだもの」
 その表情は、純然たる緊張に引き攣っている。
 数ある鉱石の中でも、古今東西人類が惹かれてやまない無垢なる輝き。そこに極僅かな不純物が加わることで生まれる奇跡の色彩。
 これが公の発表の場であれば、或いは密かな好事家の集まりであれば、観衆はいくら色めき立っても足りないだろう。しかして此処に並んだ面々は皆が皆猟兵であり、――曰く付きの物品をグリモアベースに持ち込む理由について、心当たりのある者も居るかもしれない。
「お察しの人も多いかな。――これが『鍵』だよ。君たちには、『完全なる邪神』と戦ってもらうことになる」

 UDCアースの何処に在るとも知れない『超次元の渦』。
 その中には、完全復活を遂げた邪神が棲まうという。厳密に表現すれば、邪神より遥かに悍ましい『何か』の手によって閉じ込められている。それが何者であるのかはまだ語られるべき時ではないが――猟兵たちの使命はただ一つ。
 ……『鍵』を用いた転送の先で邪神と相見え、其れを討つことだ。

「渦ってやつは大抵、光輝く銀河みたいな空間なんだけど……中にいる邪神の影響なのかな。夏報さんが『視』たのは凍りついた海だった。南極とか、北極とか、そんな感じの景色が見渡す限り広がっていて、……全長三十メートルくらいの巨人の群れが、こう、うようよ居る」
 群れである。
 猟兵が束になって戦うべき強さの邪神が、無数の分裂体となって存在している。一度に複数を相手にすれば敗北は必至。分断して各個撃破を狙いつつ、出来る限りの数を殺さなければならない。……なぜならば。
「これはあくまで『第一形態』だ。しばらくすると、巨人たちが融合して『第二形態』に変化する。本来、勝てるような相手じゃないんだけど……融合前に数を減らしておけば、なんとか倒せるくらいには弱体化するよ」
 この時点で途方もない話だが、最大の問題点はこの後に待ち受けている。
「それを倒すと、『第三形態』。邪神は脱皮による変身を遂げた直後に――先制でユーベルコードを放ってくる。こちらもユーベルコードで対応していたのでは間に合わない。必ず、事前に、対策を考えておいてくれ」

 グリモアのかすかな光が、青に同化して全反射する。
「ブルーダイヤモンドは持ち主に不幸をもたらす……なんて都市伝説もあったよね。こと邪神関連においては、あの手の噂話は結構馬鹿にならないよ。夏報さんがタンスに小指ぶつける程度で済めばいいんだけど」
 作り笑顔に感情を乗せて。
「君たちも、気を付けてね」





第3章 ボス戦 『『閉鎖機構』ヴァーリ』

POW ●一緒にいようよ。
戦場全体に、【段々水が注がれていく水槽】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD ●きみが欲しいよ。
【随伴硝子球】から【水槽に引き込む不思議な水】を放ち、【鹵獲】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ ●さよなら。
自身が【さみしさ】を感じると、レベル×1体の【骨になった魚たち】が召喚される。骨になった魚たちはさみしさを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はエンゲージ・ウェストエンドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一人遊びの空論は前提からして閉じている
 灼けて、砕けて、沈んでいく。
 殻が破れて、皮が剥がれて、蛹が孵る。
 凍てつく海のいちばん底で、ぼくは透明な四肢《はね》をひろげる。
 ――瞼をひらいたその瞬間、独りぼっちじゃなかったことは、少しだけ嬉しかったんだ。

 きみたちみんなが、ぼくを見ている。
 飛べない誰かは、流氷が全部なくなったらそのまま溺れ死ぬだろう。飛んでいる誰かは、空の上から一方的にぼくを殺せるつもりだろう。そんなのどっちもつまらないよ。この宇宙の片隅で、せっかく、出逢えたぼくたちなのに。
「ねえ、ともだちになってよ」
 そして一緒に遊ぼうよ。
「ここにおいでよ。やさしい言葉だけ使ってよ。傷付いたり、傷付けたりしないで、きれいな骨になるまでぼくのともだちで居てよ」 けれど、本当はもう知っている。ぼくの想いにきみたちがどんな答えを返すのか。――『さっきまで』、『ずっと』、ぼくはきみたちの言葉を聴いていたんだもの。
「……そっか」
 嫌なんだよね。
 さみしいな。
 だったらいいよ。言葉なんて人間の鋭い鳴き声だ。陸の動物が手に入れた、牙や爪を使わないだけの暴力だ。きみたちが何にも言わない魚だったら良かったのに。

 一瞬で、世界は願った通りに書き換わる。
 水晶のかけらが枝葉を伸ばし、空も海も一緒くたにして硝子の迷路へと変えていく。ひたひたと注がれる水が、骨になった魚たちが、見渡す限りのアクアリウムを描き出す。
 みんな水槽に閉じ込めてあげる。
 肺なんて海水で満たしてあげる。
 ――それが嫌なら、ぼくのところまで会いに来てよ。
安喰・八束
空を飛ぶ術を持たぬ俺は、とうとう氷の浮く水に放り込まれるのだろう
この狼の皮でどれだけ保つか

ところで
銃手ってのは火薬炸薬、色々持ち歩いているもんでな(毒使い、戦闘知識)
中にゃ水を被ると爆発するものもある
体の動きを封じられようが、ただの反応は止められまい
水槽、奴の眼前に叩き込まれる頃が、薬入れに水が回り切る頃合い
拘束する水を吹き飛ばし爆発を推進力に肉薄、"悪童"を叩き込む(だまし討ち)
その為の片腕使えりゃ十分だ(激痛耐性)

餓鬼みてえなツラで悟ったような態度で下らん我儘垂れてんじゃねえ
水で言葉を封じたなら牙も爪も飛んでくるのが道理だろ

狼を、呼んじまったな。


●声を失くして人も獣もあるものか
 海面が揺れた。
 それは波のように見えたが、只の水では在り得なかった。足を取られた瞬間に異様な気配が肌を伝う。……喩えば蛇が舌を伸ばして、獲物を丸呑みにする時のような。明確な意思を感じる動きだ。
「……こりゃあ、」
 逃れられんな。
 最早この戦場に、大の男が足場に出来るような氷は残っていない。今だって一抱えの氷を頼みに浮いているだけの体勢だ。それすら敵が許さないなら、俺はとうとう昏い水へと放り込まれる事になるのだろう。
 まあ、いい。むしろ此処まで良く立ち回ったものだと満足しさえする。空を飛ぶ術など持たぬ俺は、――この段に至っても尚、そんな術を欲しいとも思わない。思わないから、得ないのだろうよ。
 軽く吸う。
 適度に吐く。
 重要なのは肺腑に残す気息の量と、相方を決して手放さぬ事。
 ――鉄筒を腹に寄せると同時に、見えない蛇が獲物を呑み下す。

 瀑布の如き轟音がまず耳を打つ。くぐもった静けさがその後に残る。
 沈んでいく。その独特の感覚が、いくつかの記憶を呼び起こす。身を隠す為に堀に飛び込んだ時だとか、……否、むしろ此れは簀巻きにされた時に近いな。うねる水が四肢を捉えて、指の一本もまともに動かせないときた。
 心の臓が止まらなかっただけでも良しとするべきか。氷水の冷たさは浸かってしまえば意外と慣れるし、狼の皮は脂を含んで水気を弾く。激戦を抜けたばかりの“古女房”も、熱された銃身が微かに温い。
 ……凍えるよりも、溺れる方が先だろう。何方にせよ、この身ひとつでどれだけ保つか。
 ゆっくりと瞼を開く。
 塩水の刺し込む痛みに無理やり慣らして、ぼんやり光る水底を睨む。
「――それで、終わり? なんだか普通の人なんだね」
 人形めいた童子が一人、哀しそうな表情を作って此方を見上げている。
 水中に漂う静寂に、その声だけがはっきり響く。潮の流れなど無いかのようにぽつりと砂上に佇んでいる。透き通った身体を見て取る迄も無い――あれは、魔性だ。
 その魔性の姿が次第に近付いてくる。傍らの水晶玉に、溺れる鼠のような己が映り込む。
「ああ、だから最初に溺れてしまうのか。ひどいな、話しても遊んでもくれないなんて」
 悪かったな。埒外と云えども俺はしがない銃手に過ぎん。それ以外の何かになって存える心算もさらさら無い。
「でも、いいよ、なんにも言わないで」
 言葉を発する息の余裕も在りやしないが――ところで、だ。

 術も無ければ翼も無い、しがない銃手の武器といったら何だと思う。
 銃だと思うか。その通りだ。しかし一口に銃と云っても千差万別、籠める弾も違えば用いる小道具も違ってくる。火薬、炸薬、目眩ましに毒煙、色々揃えて持ち歩いた上で、一つたりと扱いを間違えてはならん。
 ――中にゃ、水を被ると爆発するような代物もあるからな。
 薬入れは、左腰のあたりに隠してある。無論、湿気らぬように用心した造りのものだが、それでも水はゆっくりと染み渡る。生じた熱が火薬に回れば一丁上がりという訳だ。
 体の動きを封じようが、ただの反応は止められまい。
 奴は眼前。
 水槽に叩き込まれるその時こそが頃合いだ。

「――えっ、」
 爆音は低く、鈍い。上がった筈の水柱は、俺の視界には入らない。
 脇腹と左手指の様子も確かめないでおく。一応、臓腑が無闇に飛び散らぬよう押さえつけては居たんだが。纏う飛沫には朱が混じり、水には鉄の臭いが広がっていく。
 ……十分だ。兎に角今は、残った片腕さえ使えればそれでいい。
 術を帯びた水を吹き飛ばし、その勢いで敵へと迫る。肉薄する。――あの肩の継ぎ目を狙えば、“悪童”の刃も通るだろう。
「嫌っ……、なに!」
 なんだ、それらしい驚き顔もできるじゃねえか。
 だったら餓鬼みてえなツラをして、そのくせ悟ったような顔で、下らん我儘を垂れてんじゃねえよ。邪神だか何だか知らんが、子供と年寄りの良いとこ取りをしようって寸法か。
 みっともない、甘えた性根が透けて見える。言葉で傷付け合うのは厭だと水で呼吸を封じたのなら、牙も、爪も、飛んでくるのが道理だろうが。
 同情も、怒りも然して感じない。――残った一息を吐くついでに、俺が告げるのは単なる事実だ。
「狼を、」
 問答なんぞ通じぬ獣の性を、
「――呼んじまったな」
 捻じ込んだ刃の手応えは、石でも割るように硬かった。
成功 🔵🔵🔴

柊・はとり
臆面もなく不幸な被害者面ができる殺人鬼は
時に純粋な悪党より厄介に思う
こいつが魔性の宝石たる所以を視た気がして
気持ちは一層冷めていくばかりだ

ここで態度変えんの最悪にだせえわ
そんなつまんねえ奴と仲良くしたいか?
だから断るし全力で潰す
俺とお前にそれ以外の正解はない

先制は避けずに受けカウンターに活かす
水槽に引き摺りこまれても継戦能力で息を止め
一時的な硬直が解けるまで苦痛に耐える
術が解けたら瞬間思考を働かせ空中浮遊で脱出
偽翼の痛みもUCに乗る
すべてはコキュートスの水槽の中…か

別に仲良くしなくてもよくね
薄っすい友情よりクソデカな憎しみの方が
かえって根深く残るもんだろ

UC発動
友達欲しけりゃまず死ねよ
じゃあな


●彫像は首があっても死んでいる
 愉快犯には最低なことをしているという自覚があるし、異常者には当人なりのルールや判断基準がある。
 だから良い、なんて話はしちゃいない。覚悟や美学が人を殺してもいい理由になるもんか。けれどその手の連中は、真実を暴いてしまえばそれで終わりだ。
 ……ああいう奴は。
 全てが明かされた後にすら、臆面もなく不幸を嘆き、被害者面をしてみせる殺人鬼は――時に、純粋な悪党よりも厄介に思う。

「友達に、なろうよ――」
 海の底から声が聴こえる。
 あの子供みたいな姿が完全なる邪神の正体で、呪われたブルーダイヤモンドの本質だ。今回の謎解きはとっくに済んでいて、犯人の語る動機は呆れるほどに下らない。
『連絡先に 登録しますか?』
「絶対やめろ」
 寂しいだとか、哀しいだとか。そうやって聞こえのいい言葉で周囲の気を惹いて、理解を示した相手から順番に食い物にするんだろうよ。悪びれもせず弄んで、思い通りにならなかったら殺すんだろうよ。いつかどこかで視たようなそいつの表情は、魔性の宝石たる所以そのものとしか思えなかった。
 この場所に来てから下がりっぱなしの気持ちは一層冷めるばかりで、いよいよ微動だにしなくなってくる。
「ねえ、そんな怖い顔しないでよ」
「うるせえ」
 顔は元々こうだっての。
「ってか、ここで態度変えんの最悪にだせえわ」
 暴力で脅して、上から目線で餌吊って、それでも駄目なら泣き落としかよ。
「そんなつまんねえ奴と仲良くしたいか? これは推理でも何でもないが――お前、友達居ないだろ」
 ――突き付けた真実を遮るように、横殴りの水流が口を塞いだ。
 ガキ丸出しだな。同情してほしいんだったら大正時代でやってろよ。もしくは他の心優しい猟兵を当たれ。俺は目の前の事件を無慈悲に解くか、そもそも誰も殺させないかのどっちかだ。今回が後者で本当に良かった。
 他人の都合も考えないで自分の話するんじゃねえよ。友達ってのはお互いに楽しい相手を言うもんだろ。だから断るし、全力で潰す。
 俺とお前の間には、それ以外の正解なんてない。

 偽翼で飛ぶこともできただろうが、水流はあえて避けずに受けた。
 どうせ簡単には死なない。意識さえ手放さなければ戦える。状況を見ろ。思考を続けろ。あの水に触れた途端に異常な力で引き摺り込まれて――此処はおそらく海中だ。身体は全く動かせない。じたばたせずに呼吸を止める。
 死体に酸素が必要なのか。縫い合わせた首の内側で、気管は機能しているのか。浮かぶ疑問に答えはないが、息が出来ないと苦しいと感じることは確かだった。
 薄目を開ける。海水が突き刺さるような痛みに耐える。暗く揺れる視界の向こうに、ガラス板に似た反射が見えた。俺を囲って組み上げられる直方体、さながら観賞用の水槽といったところか。
 ……もしかして、巨人の時の仕返しのつもりかよ。
「うん、これでおそろい。仲良くしようね」
 密室殺人が完成し、満足そうに、ほっとしたように犯人が笑う――今、この瞬間だ。『コキュートス』。
『了解』
 背中の肉の裂け目が再び凍りつく。ガラスが割れる感触が、偽翼の先端から骨まで響く。
『障害物を 撤去しました。 空中戦に 移行します』
 垂直に飛ぶ。まずは脱出が最優先だ。
 ……あれだけ強力な拘束が、永遠に保つ筈がない。水槽に入れるまでの過程で溺死する前提の術だと踏んだ。ならばその硬直が解ける一瞬に、どれだけ大きく動けるかこそが勝負だった。お前の態度が解りやすくて助かったよ。
 海面を抜ける。濡れ鼠の身体を飛沫混じりの風が打つ。必要なんて無かろうが、叫ぶ為だけに息を吸う。
「全部持ってけ!」
 痛みも、苦しみも、胸糞悪さも、頭のおかしい偽神兵器にとってはエネルギー源だ。直方体の中でかすかに疼いた記憶でさえも、……すべてはコキュートスの水槽の中、か。
『――第五の殺人 解放。 出力は 最大に 設定しますか?』
「決まってんだろ!」
『エネルギー変換 開始します――』

 大剣の放つ青い光が増していく。
 これだけの威力が乗れば、細かく狙いを定めるまでもないだろう。あいつと周囲のガラスやら何やらを纏めて叩く。海ごと割れば後続のための射線も通る。
「――どうして。ぼくは、喋らないきみが欲しいだけなのに」
「喋りたいから俺は喋るし、別に仲良くしなくてもよくね」
 仲良くするのが目的ってのがそもそも気持ち悪い。
「そんな薄っすい友情より、クソデカな憎しみの方が、かえって根深く残るもんだろ」
『変換 完了しました』
 ……少なくとも、俺とこいつを繋いでいるのは友情なんかじゃないもんな。
 お前もまずは、ロクでもない現実を受け止めるところから始めてみればいい。とりあえず、俺をここまで怒らせたという現実からだ。
「友達欲しけりゃまず死ねよ。――じゃあな」
成功 🔵🔵🔴

カイム・クローバー
水槽の中の金魚にでもなった気分だ。
だが――俺を殺すには少し悠長過ぎるぜ?迷路が満たされるまで待つと思うか?

生憎、水の中で呼吸できるようなUCは持ってないんだ。それにこの寒空の下で水浸しなんざ風邪引いちまう。
迷路を破壊する必要はねぇさ。UCで大きく跳躍(飛翔)すりゃ良い。空から一足飛びで迷路を脱出し、会いに行ってやるよ。
空から一方的?下らねぇ。わざわざこうやって面と向かって下りてやったんだ。ま、【挑発】の意図もあるが。
降り立ったら、魔剣を突き付ける。
夏報から、アンタの始末を依頼されてる。とはいえ、一方的には趣味じゃない。分かるだろ?
暴力的な誘いはNGだっけ?悪いな、こういう遊びでしか誘えなくてね


●便利屋と只の道具を分ける一線について
 目の前の透明な壁に触れてみる。
 なるほど、見た目は水槽だ。それが単なる直方体では終わらずに、複雑な迷路を組み上げながら増殖していく。……こういう変わった形の水槽を沢山並べて、金魚ばかりを大量に入れた水族館があったよな。写真で見かけたことがある。ちょうど、それによく似ている。
 あの中で飼われる金魚の一匹にでもなった気分だ。
 何重にも張り巡らされたガラスの向こう側には、展示品を見上げる観客の姿が――いや、この悪趣味なアクアリウムを作り上げた張本人の姿がある。
「捕まえた。きみも、ここでずっと一緒にいようよ」
 そいつはまるで、寂しがり屋の子供みたいな顔をしていた。

 生憎と言うべきか、幸か不幸かと言うべきか。少なくとも俺は金魚じゃないし、水の中で呼吸できるようなユーベルコードも持ち合わせちゃあいない。
「……つまり、この迷路が満たされたらゲームオーバーって訳だ」
 なんて余裕で笑ってみせる間にも、水位は足首のあたりを越えて膝まで迫ってくる。これが戦場全体――『超次元の渦』全体に拡がれば、空も海も区別なく、冷たい水の底へと沈むことになるだろう。
「だが――」
 それはあくまで仮の話だ。
「俺を殺すには少し悠長過ぎるぜ?」
 こっちがアンタのお望み通り、何も言わずに指をくわえて死ぬまで待つと思うのか。大体、この寒空の下で水浸しなんざ風邪引いちまう。帰った後に熱でも出たら色々面倒くさいんだぞ、時節柄。
「それにアクアリウムにしちゃあ――ライトアップが足りねえな!」
 紫雷が迅る。
 海水を伝って一帯を照らし、俺自身へと再び集中する。武器だけではなく、纏う者の肉体そのものを強化《エンハンス》する魔力の光だ。
 さて、この身体能力をどう使うかだ。迷路の壁は薄いガラスのように見えて、水晶か、ダイヤモンドか、……そのいずれでも説明が付かない硬度がある。何せ、相手は完全復活を遂げた邪神の最終形態。この物質を破壊するには、こっちも同等以上の力を出さなきゃ足りないが――ま、その必要はねぇだろう。
 見せる力はほんの一端。翼を広げるまでもない。
 まだ塞がりきっていない空へと一足飛びに跳躍する。上方向への脱出はルール違反かもしれないが、アンタの所へ辿りつくには結局これが一番速い。
 ――ああ、会いに行ってやるよ。
 空から一方的? 下らねぇ。確かに相手は狩るべき邪神で、やり口も相当汚かったが。だとしても、ちゃんと言葉で話しかけてくる奴を無視したりするもんか。
 初撃はあくまで挑発込みの牽制だ。
 素早く魔剣を顕現させ、落下の勢いを乗せて振り下ろす。大きく割れた海の底へと降り立って、その鼻先に刃を突き付ける。
 ……敵であるはずの人形は、さほど動じる様子を見せない。落ち着いているというよりも、諦めているような表情だ。
「きみも……ぼくを傷付けようとするの?」
「これでも手加減してるんだぜ? 本気を出したらお喋りの時間も無くなるからな」
 わざわざこうやって面と向かって下りてやったんだ。そっちが話に乗って来ないってのは流石に無いだろう。
「ヴァーリ、だったか。夏報からアンタの始末を依頼されてる」
「かほ?」
「とはいえ、一方的にってのは俺も趣味じゃない。……分かるだろ?」
 怯えるように後退り、ヴァーリは随伴する硝子球へと身を寄せる。すぐには攻撃されないことを察すると、おずおずと、こちらに目を合わせて。
「その子は、きみのともだちなの?」
「ん?」
 予想外のポイントに突っ込まれたな。
 此処には居ない奴の名前に反応したのか。まあ、毎度馴染みのグリモア猟兵でもあるし、プライベート込みでも友達と呼んで差し支えないだろう。しかし、どうにも引っかかる。
「それって気にするトコなのか?」
「……その子が、ともだちだから。ぼくじゃなくて、その子の言うことを聞くの?」
「ああ、――そりゃ違うな」
 だったら俺の答えはこうだ。
「アンタの思ってるような『ともだち』じゃあねえよ。そんなもんなら要らないし、なりたくもない」
「――そっか」

 結論が出たのと同時、海水が雪崩れるように迫ってきた。
 問題ない。波に呑まれるより先に斬撃を決めればいい。この魔剣の名前はお誂え向きの『神殺し』だ。最小限の動きで首を狙った太刀筋を――ヴァーリは咄嗟に左手首で阻む。
「痛、いっ」
「暴力的な誘いはNGだっけ?」
 その割には中々いい判断をするじゃあねえか。肩が外れて使い物にならない左腕を犠牲にした訳だな。致命傷になり損ねたのは残念だが――全力で振り抜けば、肩から指先まで粉々に砕け散る。陶磁器に似た肌色の破片が俺の頬を切る。
「悪いな、こういう遊びでしか誘えなくてね」
「……ひどいよ、さみしいよ」
 寂しいだろうな。ずっと独りで。
 でもそれは、俺の側だけが原因じゃないと思うぜ。
苦戦 🔵🔴🔴

ジャガーノート・ジャック
――さっきよりはずっと素直じゃないか。(ザザッ)

("寂しさ"。
偽りの永遠などという詭弁を吐かれるよりずっと共感できる。)

だが所詮
我々は忘却の化身と猟兵
相入れる事なく寄添う事もない。

最終任務を開始する。

(数多現れ殺到する骨魚一匹毎に複製した熱線銃を一発ずつ放つ【一斉発射×範囲攻撃×狙撃】。
一発では削りきれまいが――)

"Redo".
(攻撃再演。能力射程内に入った骨達を穿ち続け削り殺す。

そして望み通りお前に"会いに行く"。

海豚擬きも水晶も等しく"お前"なのだろう?
則ち能力射程内に入れば
「行った"攻撃"が再演される」【再演→1・2章攻撃】。

水に呑まれつつ
我々の総意を身に受けろ。
則ち)

"さよなら"だ。


●肩書をいくつ変えても君は君
 ……『ともだちになってよ』、か。
 無論、此処はあくまで戦場だ。敵の発する甘言として黙殺しても構わなかった。正論で斬り捨てることも可能だろう。友人にしろ何にしろ、為ろうとして為るものでは無い、と。
 だとしても。
「――さっきよりは、ずっと素直じゃないか」
 零れた声は、これまでのような独白ではなかった。役割を固めるための演技ではなく、相手へと向けた会話だった。
 ザザッ、と喉にノイズが走る。

 遥か眼下の水底に、討伐対象の姿があった。
 識別名、『閉鎖機構』ヴァーリ――より正確に表現すれば、当該UDCの外見と特質を反映した、『完全なる邪神』の第三相。視界に走る大仰な解析結果とは裏腹に、『それ』は俯きがちな表情で、傷だらけの身体を抱いて佇んでいる。
 消え入りそうに細い声が、物理的距離を無視して響く。
「うん、本当はさみしかった」
 ――“寂しさ”。
 最も嫌いな単語のひとつではあるが、さりとて誰もが抱く感情だ。少なくとも、偽りの永遠などという詭弁を吐かれるよりずっと共感できる。そして、おそらくこの邪神は、きっと本気でその“寂しさ”を訴えているのだろう。
 大質量の暴力で他者を拒絶し、幻影で己を塗り固め――しかしその内側に在るのは、寂しがり屋のか弱い子供。彼の見せた三つの貌は、どこか奇妙に一貫している。
「わかってくれる?」
「多少はな」
 心とは、そういうものだと思ってしまった。
「――だが所詮、我々は忘却の化身《オブリビオン》と猟兵《イェーガー》」
 思ったけれども、思っただけだ。感想を抱いただけだ。既に綴られた『過去』というシナリオに、納得できる整合性を見出しただけだ。
 其処でこの話は終わらせねばならない。奴の語る悲劇にこれ以上付き合えば、結末は絶対零度の齎す死でしかないのだから。
 決して相容れる事はなく、互いの心が寄り添う事もない。
「最終任務を開始する」
「……そっか」
 明確な敵意を告げた瞬間、海水が歪に波打った。
「さよなら」

 ――ザザッ。
 数多現れた『何か』の総数を把握する。数フレームの位置変化からその後の軌道を試算する。どの物体も、本機へと向かう緩い曲線を描いている――つまりは大量の追尾弾《ホーミング》か。初手で大きく動くのは得策ではないな。
 最優先の判断を終えて、その形状を観察する。
 骨だ。
 青白く透き通る骨の集合体が、巨魚の形を成している。一匹一匹が人ひとり丸呑み出来る大きさだ。
 古代生物の標本めいた骨魚を数え、正確に同数の熱戦銃を複製《Ctrl + C》。各々の銃口を頭骨に向け、予測した軌道上に設置《Ctrl + V》。
「――Fire.」
 一斉発射。
 赫光が、不揃いに交差しながら夜空を埋め尽くす。
 一発ずつの火力は精々足止め程度であろう。削りきれまい。しかし、先制攻撃さえ凌げば――手番は此方に回ってくる。

 攻撃の命中を確認。
 複製実行状態の付与を確認。
 領域展開。
 事象再演《Ctrl + Y》――実行。

 海水も大気も区別なく、本機座標を中心とした半径九十一メートル。その球状範囲が"Redo"の演算可能領域だ。
 骨達が愚直に殺到すれば、各々が射程内に入った瞬間に赫光の熱を再び受ける。攻撃された、という確定した事象を無限に再演する。
 ……火葬で遺骨が燃え残るのは、火加減を調整しているからに過ぎない。真の業火に灼かれれば、骨など容易に灰へと還る。ダイヤモンドも水晶も、完全なる邪神の身とて結果は同じ。それがお前の夢見た永遠とやらの現実だ。
 穿ち続け、削り殺す。そして慎重に海の底へと降下する。あくまで本機を追尾する骨魚達の軌道が散らぬよう、ゆっくりと、確実に、――望み通り、お前に"会いに行く"。
「やっ、来ない、で」
「なんだ、今度は天邪鬼に逆戻りか」
「きみは、ともだちになってくれないんでしょう。また酷いことを言うんでしょう」
「そう、“また”だ。――あの海豚擬きも水晶も、等しく"お前"なのだろう?」
 『海零』も、『巨蟹卿』も、『閉鎖機構』も、あくまで個別のUDCの姿を借りた同一個体。壁も、鎧も、脆弱な本質を護るための空論も、お前自身の一側面に違いない。
 即ちこの能力射程内に入れば、等しく『今まで行った攻撃が再演される』。

 さあ、彼我の距離まで後少し。
 巨人どもにぶつけた大瀑布と、幻影の問いを受けての熱線。どちらもお前のユーベルコードに対する意趣返しだった。ならば最後も、受けた言葉をそのまま返そうか。
 ともだちが欲しいと言いながら、何よりも他者を恐れるお前に似合いの挨拶だ。己が意のままにならない海に呑まれつつ、我々の総意を身に受けろ。
 即ち――。
「"さよなら"だ」

 ――ザザッ。
成功 🔵🔵🔴

多々良・円
水に浸かってしまっては、傘に塗られた油の意味もないな
さほど猶予はあるまい

わしは神ではない
永久ではない(竹の骨なぞろくに残らんじゃろうな)
友にはなれん……しかし、おぬしがそうやって手を伸ばすなら
その手をとって、遊んでいくとしよう

――それでも骨魚は向かってくるじゃろうな
浮遊したまま風で水を巻き上げ魚の動きを妨げる
きりまるで断ち切り、月白の雷光で貫く
あとは念動力で直に骨を外してやるか

【開花芳烈】(同時に真の姿となる)
さ、遊ぼうか
この姿なら、雨燕の速さで飛ぶことができる
海が満ちる前に金魚鉢を飛び出して、汝に会いに行く
吾の熱、受けとめてくれるかい

それでも海が止まらなければ
遊び足りないけど、帰るしかないな


●良いことも悪いことも等しく廻るもの
 もう、まともな足場はひとつもない。
 海へと落ちた皆は果たして無事じゃろうか。わしは妖力を用いて浮いていられるから良いが。まあ、この戦に集った面々は強者揃いと信じる他になかろうな。
 そもそも空を飛べれば安泰という訳でもない。
 皆の心配をしている間にも、だんだんと潮が満ちて来る。ほんの少しでも気を抜けば、さっきまで宙に浮いていた筈の足が荒波に掬われる。何度か履物を流されかけたし、着物も裾の辺りが濡れてしまった。
 ……これが本物の空ならば、上へ上へと逃れ続ければ命は拾えるじゃろう。しかし、此処はあくまで『超次元の渦』なる異郷の地。おそらく、いずれは空も行き止まりになって、金魚鉢の迷路の中に囚われて、遅かれ早かれ溺れさせられる羽目になる。
「溺れる、か」
 こうして息をすることも、肌を刺す夜風の冷たさも、思えば器物であった頃には知り得なかった感覚じゃな。わしの場合は、人の身が凍え溺れることよりも――本体が耐えられるかが問題か。
 濡れないように高く掲げた傘ひとつ。
 わしの命は、こちらの方じゃ。
 無論、傘である以上、雨風を凌げるように造られておる。多少の吹雪ぐらいなら弾いてみせる自信もある。とはいっても、流石に真冬の荒海に放り込まれては敵わない。重ねた和紙も、丁寧に塗られた油も、丸ごと水に浸かってしまえば大した意味もなかろうな。
「……さほど猶予はあるまい」
 第一、我が身を護るばかりでは傘の名折れじゃ。
 足指に力をこめて鼻緒を掴む。行くべき処は、決まっておる。

 暗い海、透き通った水の底には、ぼんやり光る人影がある。
 十かそこらの、わしと変わらぬ童子の姿。……継ぎ目だらけの手指を見るに、あの身体はからくり人形か。削ぎ落された片腕からも血は一滴も流れておらぬ。残った右手をこちらへ伸ばして微笑む顔は――本当に寂しそうに見えるけれども。
「きみは、少しだけ、ぼくに似ているね」
「そうかも知れぬな」
 年恰好の話ではないじゃろう。……宝石として人の想いを受け止め続けてきた『何か』が、彼岸へと誘うように手招いてくる。
「じゃが、わしは神ではない。――永久ではない」
 傘以外の、なにものでもない。普通であれば人より儚い。竹の骨なぞ焼ければ灰になり、朽ちれば土になるだけじゃ。何にせよ、色も形もろくに残らんじゃろうな。それが百年も永らえたのは、手入れをしてくれた人が居たからじゃ。
「ともだちには、なってくれない?」
「悪いが、の。……しかし、おぬしがそうやって手を伸ばすなら」
 誰かの手で生かされてきた傘に、誰かの手を振りほどく道理はないな。
「その手をとって、遊んでいくとしよう」

 一斉に海が波立つ。冷え切った身体を飛沫が打つ。
 ――おぬしの抱える寂しさを、口約束で埋められるとは思っておらん。何を言おうと骨魚は向かってくるのじゃろうな。わしもこれ以上は退けぬ。空がまだ残っているうちに終わらせよう。
 神風が、骨魚ごと水を巻き上げる。一度に全部は斬れずとも、動きを妨げて群れを散らせばぐんと戦いやすくなろう。
「きりまる――」
 ……猫らしく寒さと水を嫌ったか、日本刀の姿のままじゃな。話が早い。
 まずは目前、大きく開いた空っぽの口に向かって一閃。その下顎を踏み台に、踵を返してもう一閃。
 そうやって何匹か断ち切った後、散らばる骨をまとめて――天からの雷、薙刀を象った光で貫く。その熱に焼かれた骨は細かな灰となり、風に消えていく。
 繰り返す。斬って、斬って、それでも追い付かない時は念動力を使って直に骨を外す。何度目かの月白の雷光を放つ頃には――きりまるの刀身が、あかあかと灼熱に染まっている。
「開花芳烈」
 邪魔者はみんな片付けたかな。
「――さ、遊ぼうか」
 金魚を描いた装いと、少しばかり大人びた背丈。この姿なら――熱持つ神風を纏って、雨燕の速さで飛ぶことができる。この海が満ちる前に、金魚鉢を飛び出して、汝《キミ》に会いに行く。
 紅白に染まった本体を神風に乗せる。――この傘が、波に呑まれるまでの間。
「吾《ボク》の熱、受けとめてくれるかい」

 ゆっくりと、降りる。熱風が凍てつく水を押し退けて、水底への道を開いてくれる。
 吾から手を伸ばすと――汝は、怯えたように手を引っ込めた。
 ……村にも居たな、こういう子供が。本当は友達が欲しいのに、いざ誘われると逃げ出して、神社の裏で一人遊びをしているような子だ。
 そんな時は、――多少無理やりにでも、手を繋いであげるといい。
「あ」
「ほら、大丈夫」
 こうして近くで見てみれば、顔にも、身体にも、ところどころにひび割れがある。傷付けないようそっと触れると、汝は瞼を瞬かせて。
「――でも!」
 泣きそうな顔で首を振る。
「きみもいつの間にか壊れるんでしょう。ずっと傍に居てくれないんでしょう。そんなの、ぼくを、傷付けるのとおんなじだ。そんなのはともだちじゃない――」
「そうか」
 汝がそう思うなら、きっとこの海は止まらない。誰も彼もを拒絶して氷の底に沈めてしまう。吾の命が本当に危険になれば、グリモア猟兵が転移を解く。……ああ、多分、そろそろだ。
 心を開いてもらうには、時間が少なすぎるんだろうか――まだまだ遊び足りないけど、帰るしかないのかな。
「さみしいな」
 汝と同じ言葉が、思わず口から零れた瞬間。
 みずいろの瞳が、はっとしたように吾を見上げた、ような気がした。
成功 🔵🔵🔴