「いや、人生わかんないよね。……まさかこんなものに触る機会があろうとは」
グリモア猟兵――臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)の手指に絡んだ鎖の先には、宝石がひとつ揺れていた。飾り気の感じられないペンダントだ。
透き通った、淡い青。
その向こう側、女が浮かべるぎこちない笑顔すら見て取れるほどの、大粒のスクエア・カット。
「ひと仕事する気がない人も、ちょっと見てくといいと思うよ。……この大きさのブルーダイヤモンドなんて、本当だったら博物館行きだもの」
その表情は、純然たる緊張に引き攣っている。
数ある鉱石の中でも、古今東西人類が惹かれてやまない無垢なる輝き。そこに極僅かな不純物が加わることで生まれる奇跡の色彩。
これが公の発表の場であれば、或いは密かな好事家の集まりであれば、観衆はいくら色めき立っても足りないだろう。しかして此処に並んだ面々は皆が皆猟兵であり、――曰く付きの物品をグリモアベースに持ち込む理由について、心当たりのある者も居るかもしれない。
「お察しの人も多いかな。――これが『鍵』だよ。君たちには、『完全なる邪神』と戦ってもらうことになる」
UDCアースの何処に在るとも知れない『超次元の渦』。
その中には、完全復活を遂げた邪神が棲まうという。厳密に表現すれば、邪神より遥かに悍ましい『何か』の手によって閉じ込められている。それが何者であるのかはまだ語られるべき時ではないが――猟兵たちの使命はただ一つ。
……『鍵』を用いた転送の先で邪神と相見え、其れを討つことだ。
「渦ってやつは大抵、光輝く銀河みたいな空間なんだけど……中にいる邪神の影響なのかな。夏報さんが『視』たのは凍りついた海だった。南極とか、北極とか、そんな感じの景色が見渡す限り広がっていて、……全長三十メートルくらいの巨人の群れが、こう、うようよ居る」
群れである。
猟兵が束になって戦うべき強さの邪神が、無数の分裂体となって存在している。一度に複数を相手にすれば敗北は必至。分断して各個撃破を狙いつつ、出来る限りの数を殺さなければならない。……なぜならば。
「これはあくまで『第一形態』だ。しばらくすると、巨人たちが融合して『第二形態』に変化する。本来、勝てるような相手じゃないんだけど……融合前に数を減らしておけば、なんとか倒せるくらいには弱体化するよ」
この時点で途方もない話だが、最大の問題点はこの後に待ち受けている。
「それを倒すと、『第三形態』。邪神は脱皮による変身を遂げた直後に――先制でユーベルコードを放ってくる。こちらもユーベルコードで対応していたのでは間に合わない。必ず、事前に、対策を考えておいてくれ」
グリモアのかすかな光が、青に同化して全反射する。
「ブルーダイヤモンドは持ち主に不幸をもたらす……なんて都市伝説もあったよね。こと邪神関連においては、あの手の噂話は結構馬鹿にならないよ。夏報さんがタンスに小指ぶつける程度で済めばいいんだけど」
作り笑顔に感情を乗せて。
「君たちも、気を付けてね」
八月一日正午
今度は気温が低くて死んでるほずみ・しょーごです!
今回はボス戦×3、純戦闘をお届けします。進行はまったり、判定はきっちり。
1章・2章についてはオープニングの説明通りです。3章では、【敵のユーベルコードによる先制攻撃対策がプレイングにない場合、必ず「🔴🔴🔴失敗」になる】という特殊な判定を行います。お気をつけくださいね!
●執筆について
私生活が若干不安定な状況のため、ゆっくりと無理なく執筆していきます。プレイング募集時期については、随時MSページでアナウンス致します。
基本的に単体での描写とし、一人称風のあっさりした文体でお届けする予定です。(拙作「冬の夕陽は真昼みたいだ」を参考にどうぞ)
今回も楽しく遊んでいただければさいわいです。よろしくお願いします!
第1章 ボス戦
『海零』
|
POW : 縺薙?譏溘?逕滓擂謌代i縺ョ繧ゅ?縺ァ縺ゅk縲
単純で重い【巨体や、別次元から召喚した大量の水】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 陦ィ螻、縺ョ蝪オ闃・蜈ア繧√
【額や掌】から【強烈なサイキックエナジー】を放ち、【心身の両方への衝撃】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 窶晏卸荳匁峅縺上?∵オキ髮カ窶
【念力や別次元から生じさせた津波】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を海に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フォルティナ・シエロ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●海髮カ
其は肉で、命で、凍てつく海と細胞を隔縺ヲ繧玖р雉ェ莠碁㍾膜だ。
俯瞰する。
睥逹ィ縺吶k。
光と蜈ア縺ォ鬘輔lた小さき者共が、哀れにも氷の荳翫↓雋シ繧付いている。界髱「縺ォ在って未だに呼吸を必要とする。蜈ィ縺丈サ・て取るに足らない。
肢を諷区?莨クばす迄もなかろう――身動ぎひと縺、縺ァ蜃。繧?k蝗コ体は砕け散り、二雜ウ歩行の生物は波の底へと放り蜃コ縺輔lるに違いない。さすれば熱縺梧オ√l蜃コ縺ァ、迚ゥ雉ェ縺ッ静寂繧貞叙繧頑綾縺。
この星は生譚・謌代iのもので、こ縺ョ豬キは揺籃な縺ゥ縺ァ縺ッ蝨ィり得ない。淘汰に萓昴▲縺ヲ險シ譏弱@繧う。知性菴薙′暴力と呼縺カ繧ィ繝ウ繝医Ο繝斐?縺ョ蠅怜、ァ繧剃サ・て示そ縺。
蜑オ荳曰く、謌らは『海零』。
『陦ィ螻、縺ョ蝪オ闃・蜈ア繧√――』
蜴溷ァ九?髯ク縺ァ驟ク邏?繧貞精縺」縺溽スェ繧定エ悶>、螻取ウ・縺ィ謌舌▲縺ヲ豐域?せよ。
柊・はとり
厭な色だな
あの石を見てると曾じいさんの冷えきった眼を思い出す
だから俺は鏡を見るのが嫌いだ
この石の曰くで死んだ奴もいるだろうな…
奴らの怨念に協力を仰ぐ
第六の殺人【墓場村】
今回のトリックは『氷の密室』だ
足下の流氷で作った氷の密室に
敵を一体ずつ閉じ込めさせ分断して各個撃破
氷属性攻撃で密室内を超低温に保ち
麻痺を与えつつ水が一瞬で凍る状態を作る
俺は勿論部屋の外にいるぜ
もたもたしてる暇はない
間髪入れず密室ごと偽神兵器で切断
上記を繰り返す
元が同一個体なら恐らく行動パターンは同じだ
一体目の反応を学習力で頭に叩き込み
二体目以降に対し有利な状態で挑む
これ以上不幸になることもないだろ
バグッた事件は強制終了だ
退場しな
●第六の殺莠コ
あの石を見た瞬間に、厭な色だと直感した。
そして、その直感に後から理屈を肉付けしていく。たとえば――曾じいさんの眼を思い出す、だとか。人間を、否、この世の全てを事件としか捉えられない『名探偵』の冷え切った眼を。
だから、俺は鏡を見るのが嫌いだ。
汚れた服より、首の傷より、重い呪いがそこにあるから。
しかし。
「クローズドサークルだって此処までしねえぞ……」
視界が開けた瞬間、見渡す限り氷の海。水平線まで三百六十度、青と白とその中間――まさにその『厭な色』しか存在しない異様な景色だ。
鍵とやらを使った転送の仕組みはよく知らないが、ブルーダイヤモンドの中にそのまま入り込んだと言われたほうが納得できる。
……実際、そうなのだとすれば。
「この石の『曰く』で死んだ奴もいるだろうな」
怪しげな都市伝説を持ち出すまでもない。金持ちが目の色変えるような宝石が、表に出せないルートから見つかった時点でお察しだ。そこに邪神教団がどうとかいう話まで絡むんだから、どうせ、人が死んでいる。
「なあ」
呼び掛けてみれば案の定、凍てつく風の中に紛れて温い怨念の気配がした。うまく説明できないが、墓場の土の匂いに似ている。
「――無念ってやつを晴らしたくないか」
『位置情報を 取得できません。ロンドンの 現在の天気は』
「お前じゃねえよ」
天気でもねえよ。
……悔しいが、この状況下じゃあ、名探偵の矜持よりこいつのほうが役に立つ。
「縺薙?諠第弌縺ッ逕滓擂謌代i縺ョ繧ゅ?――」
意味不明な重低音を発する巨人がのたうって、叩きつけるような津波が来る。
壊される前に足場を蹴る。『コキュートス』はこういう時だけ静かに応える。当然のように氷が肩の骨を砕いて、皮膚を破って、翼となる。
――激痛が、伴うくらいで丁度いい。これから俺は推理もののルールを破って、殺す側へと回るんだから。
「今回のトリックは『氷の密室』だ」
さっきまで足元にあった流氷を、直方体に組み上げる。その中に一体閉じ込められた巨人は、ガラスケースに飾られた宝石に似て……ないな、別に。
被害者は脱出しようと藻掻くだろうが、この密室内は超低温。死者たちの『嘆き』を受けた『コキュートス』の最大出力なら、大量の海水を零度以下まで冷却することも可能。
理科の実験の要領だ。動けば一瞬で凍りつく。
「謌千ィ、辭ア縺ョ蜃コ蜈・繧翫r蟆√§繧九°」
『すみません 聞き取れませんでした――』
ダイイングメッセージを解読してやる必要もない。
犯人は俺で、凶器はお前。これ以上可笑しな話もないし、これ以上不幸になることもないだろう。
「バグッた事件は強制終了だ」
密室の外からもろとも叩き斬る。
「――退場しな」
密室殺人の出来はそこそこ上々、後はこれを連続密室殺人に仕立てるだけ。……と、言うだけだったら簡単なんだが。
「もたもたしてる暇はないな……」
元が同一個体なら、おそらく行動パターンは同じ。
足場を壊すことに固執しているようだから、飛び続けるより、時々着地して攻撃を誘ったほうがいいかもしれない。一体目の反応、特に攻撃後の隙については頭に叩き込んである。二体目以降はもっと有利な状態で挑めるはずだ。
次の標的はどいつにしようか。
再び見渡した氷の海は、鏡のように空の色を映していた。
成功
🔵🔵🔴
月見里・見月
アド連○
うーん、言葉の通じない相手は苦手なんですよね……会話が出来るのなら私の主観に"配慮"を求められるんですけど。だけど世界をめちゃくちゃにされるがままにしておくつもりもありませんよ! 私に被害が及ぶかもしれませんからね!
ヘェゲル曰く、『存在する物は合理的で合理的な物は存在する』……つまり、念力だとか超常現象だとかは『存在しません』。科学が証明しています、私がそうだと思っていますから! という訳で、その攻撃は止めさせて頂きますよ! 本当なら本体の存在ごと消し去りたいくらいですが。
……っと、あまり乱用は出来ませんね……私や他の人たちに危害が及びそうな瞬間を狙って打ち消していきましょうか。
●遘大ュヲ的権威論証
「窶晏卸荳匁峅縺上?∵オキ髮カ窶」
「うーん」
好意的に解釈すれば、おまじないか何かでしょうか。
「言葉の通じない相手は苦手なんですよね……」
通じてませんよね? これは流石に通じてないはず。
まあ、万が一、この可愛くない鯨みたいな巨人が日本語を理解していて、あえて異国の言葉で返事をしているのだと仮定しても――この私、月見里見月の主観においては『通じていない』。もしも会話が成立するなら、そういう主観に『配慮』を求められるんですけど。
つまり言葉が通じていたら、通じていないことにも出来てしまう訳で、これはもうどの場合においても言葉は通じてないですね。
などと論証していたら、津波で足場がひっくり返りました。
「ひゃん――!」
ぐるりと回る流氷の端に掴まって、さっきまで裏面だった新たな足場に転がり込んで、なんとか事なきを得る私。ああもう、今、絶対どこか擦りむきましたよ。許せません!
何が許せないって、こんな死に様許せません! そりゃあこの『渦』は空も海も氷も澄んだ水色で、夢の舞台にはうってつけの綺麗な場所ですけど。こうも選択権がないんじゃ駄目です。金剛石の呪いのほうが幾分浪漫主義的です。
「困りましたね」
あれを分断して各個撃破せよとのお達しなんですが、純然たる暴力の土俵で私は無力です。
「困りましたけど」
かといって。
「世界をめちゃくちゃにされるがままにしておくつもりもありませんよ!」
どんなに都合の悪い敵だとしても、見て見ぬ振りをしていては世界も主観も守れません。このまま放っておいたが最後、共感能力と配慮に欠けた巨人の皆さんがあの石から這い出て来たりするのに決まってます。そうしたら――。
「――私に被害が及ぶかもしれませんからね!」
「髮サ隗」雉ェ縺ォ萓昴▲縺ヲ謌舌&繧後k諤晉エ「縺ッ蜈先葦縺ォ遲峨@縺――」
大見栄を切ったからなのか、私へ向けて再び迫る大津波。
……ここは一旦落ち着いて、理性的に考えてみましょう。確かに敵は強大です。説得に応じてくれる影朧たちとは訳が違います。救済対象にもならない大災害の化身など、帝都には存在しませんから。
ええ、存在しないんですよ。
「ヘェゲル曰く、『存在する物は合理的で合理的な物は存在する』……」
その対偶もまた然り。
「……つまり、念力だとか超常現象だとか、非合理的なものは『存在しません』」
どんな巨体であろうとも、見上げる程の津波を腕一振りで起こすなんて物理的に不可能です。別次元? 私が話に聞いたのは三十六個の世界だけです。
「科学が証明しています、神秘は駆逐されたんです」
「辟カ讒、蝪オ闃・縺ョ諢溯ヲ壼勣縺ォ縺ッ髯千阜縺悟惠繧」
「ええ、私がそうだと思っていますから!」
月見里見月の主観において。
こんな攻撃は、気のせいです。
「……っと、あまり乱用は出来ませんね……」
人を呪わば穴二つ。――自分の主観を叶えるユーベルコヲドを、呪詛と呼ぶのも変な話ですけど。
幼く純粋な願いには理不尽が返ってくるのが世の常で、津波ひとつを打ち消しただけでもかなりの反動を感じます。おそらく、一分も保ちません。
本当なら、自重で崩壊するはずだとでも言って、本体ごと消し去りたいくらいなのですが。
私や他の人たちに危害が及びそうな瞬間を狙っていくのが堅実でしょうか。撃破とまでは行かなくとも、仲間の作戦に横槍が入るのを防ぐことができれば良し、で!
「という訳で、――その攻撃は止めさせて頂きますよ!」
成功
🔵🔵🔴
ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
成る程。異形の群れ、それに完全顕現の邪神相手との勝負。
易しくない仕事になりそうだな――結構だ。良い経験になるだろう。
ジャガーノート・ジャック、任務を開始する。オーヴァ。
(ザザッ)
巨体相手に近づく事は辞めておこう。高速機動で距離を取り熱線銃からの狙撃で牽制を放ち続ける。
(ダッシュ×スナイパー×クイックドロウ)
当然敵も焦れて遠距離攻撃を敢行してくるだろう。
大量の水を使ってきたその時こそ本機の狙い。
――使用コード:"BLITZ"。
水とて通電可能。本機から30㎝圏内に入った水に介入する。
地形を破壊する程の瀑布の如き水、有効活用させて貰う。(操作×カウンター)
水に呑まれ消えるがいい。(ザザッ)
●BL?ゥTZ
「――成る程」
視覚情報を瞬時に画像処理。
氷の海の彩度を落とし、水面を埋め尽くす異形の群れを敵《エネミー》としてハイライト。その一体一体に、異常な値の戦力予測が表示されていく。
「易しくない仕事になりそうだな」
無限に拡がる水色の戦場――肉眼で見ればさぞかし美しかっただろう。ジャガーノート・ジャックは冷酷無比の兵士だが、感傷を全く抱かない訳ではない。景色を楽しむ暇もないな、と、惜しむ程度の事はする。
数ある個体の各々が、此れ迄に対峙して来た『不完全』な邪神に相当する。これらを各個撃破せよ、という時点で難題だが、その後に息を吐く間もなく『完全』な邪神との勝負が待ち受けている。その能力は、最早未知の領域だ。
「――結構だ」
それもまた、良い経験になるだろう。
景色を楽しむ暇もないとは確かに言ったが、楽しむ処がないとは言っていない。物語抜きの連続戦闘。背景設定は仄めかすのみの味つけ程度。そして、理不尽な迄の難易度が生む緊張感――そう考えれば、中々レトロではないか。
「ジャガーノート・ジャック、任務を開始する。オーヴァ」
――ザザッ。
流氷に留まることなく飛翔を選択。
空中戦が可能である以上、限られた足場は仲間達へと譲るべきだろう。
そのまま敵影のひとつを目指し、肉薄――せずに方向転換。挑発と回避を主たる目的とする。
敵の巨体は虚仮威しではなく攻撃手段そのものだ。間合いに入って逐一動きに対応するような戦い方は非現実的と判断できる。――よって、近付く事は辞めておく。一定の距離を保つ事に徹するべきだ。
此方からの攻撃も単調過ぎる位で丁度良い。他の個体の目を引かないよう熱線銃の出力を落とし、頭部、胸部、生命体であれば致命と成り得る箇所を順に狙撃していく。
「辭ア、逕溷多縺ョ鄂ェ」
「影響軽微か」
そもそも、脳漿や循環系の存在自体が怪しいものである。
端からダメージ量に期待はしていない。これらは全て撃ちっ放しの牽制、前座の弾幕。敵一体に、確実に、鋭い殺意が伝わりさえすればそれで良い。
慎重に注意を引きつけながら、一対一の戦場を目指して駆ける。
直線的な高速軌道を幾ら続けても、空と海の境界線に陸地の現れる気配はない。流氷だけが後方へ消えていく。この海に似た空間に果ては無いのかもしれない。
二者の間にある距離は、焦れるような膠着そのものだ。
であれば当然、先に大きく動いた方が敗北するのが道理というもの。
「縺薙?譏溘?縲、縺薙?諠第弌縺ッ縲、」
さあ。
「逕滓擂謌代i縺ョ繧ゅ?縲――」
来い。
ホワイトアウト。
それは巨人の顕現させる、質量保存の法則を無視した大津波だ。吹雪のように泡立つ飛沫が、本機の飛翔位置を超える高さで迫り来る。
地形を破壊する程の瀑布の如き大質量。到達までのコンマ数秒、どの軸のどの方向に翔んだとしても回避は不可能。
羽虫を叩き潰す事を諦め、遠距離攻撃を敢行と云った趣だろうが――その浅慮と妥協が命取り、大量の『水』を使ってきた、この時こそが本機の狙い。
使用コード:"BLITZ"を指定。
発動条件( RANGE <= 30 )
待機...
避ける必要はそもそも無い。
当たると判っている以上、肝要なのはタイミング。敢えて言い替えるとすれば――。
「此処で決めボムだ」
当該ユーベルコードの射程、即ち三十センチ圏内に入った飛沫が火花を散らす。
水とて物質、しかも海水であるならば『通電可能』という発動条件は十二分。電磁力による介入は一瞬で分子を伝播して、一帯の水、地形の支配権が本機へと移る。
カウンター、攻守逆転だ。
「有効活用させて貰おう」
海が割れる。視界が拓ける。標的の姿を再び捉える。
巨大な波のうねりがもたらす情報量が、妙な高揚で脳を灼く。
「諤昴>荳翫′繧翫?蜀肴シ斐°――」
通じぬ言語の負け惜しみごと、水に呑まれて消えるがいい。
――ザザッ。
成功
🔵🔵🔴
安喰・八束
この巨体を数狩れ、ってのも随分と無茶な話だが
無茶を通さねばならんほど、切羽詰まってもいるらしい。
氷の海の上、凍った波の凹凸くらいはあるかね
伏せて動きながら気取られんうちに観察する(目立たない、追跡、情報収集)
頭がある。目がある。ありゃ何で周りを視ている?
古女房、静かに行くぞ
貫通力を増した徹甲弾での
目か…類する感覚器目掛けて「狙い撃ち」(スナイパー、クイックドロウ、鎧無視攻撃)
妖術が放たれるのは額か手の平
それを獲物に向ける知覚を奪いながら
気取られんよう、静かに急所を撃ち抜く(見切り)
それでも妖術に捕まっちまったら…気合いで切り抜けるしかねえか
立ち止まる訳にゃ行かねえんだよ(激痛耐性、咄嗟の一撃)
●迢吶>謦?■
「これじゃあどっちが狩られる側か、」
大して笑えない洒落だな、これは。皆まで言うのは止しておくか。
言葉を呑んで息だけ吐くと、伏せった身体に氷の冷たさが染みてくる。……乱戦の最中、他の連中と肩を並べて突っ込むような局面でも無し。軽口を叩く相手も居やしない。殺すべき相手に至っては、雲を衝く程の巨体と来た。
「蝪オ闃・蜈ア繧――」
……否、何か喋っている風でもあるが、声というより地揺れに近い。耳より先に腹の底に響く。
これが冬山での狩りならば雪崩が来ないか案ずるところだ。生憎此処は海だから、心配するのは大津波か。……ああ全く。こんな状況でこの巨体を数狩れ、ってのも、随分と無茶な話だが。
その無茶を通さねばならんほど、切羽詰まってもいるらしい。臥待は珍しくそんな様子だった。
まあ、石の呪いは兎も角として、此奴らを放って置けばどうなるか。もし、あの矢鱈平和な未来の世界に溢れでもしたら――それこそ、狩り損ねた熊が里に降りたような騒ぎになるだろう。
――減らせるだけ減らすに越したことはない、か。
冷えた銃身を検める。やる事は、いつもと変わらない。
我が物顔で伸し歩くのが獣の側で、息を潜めて機を伺うのが狩る側だ。
さて、氷の海の上、何処に身を隠すかが問題だが――思ったより心配は無さそうだ。凍り付いた波にはそこかしこ凹凸があるし、崩れた氷山だの、縦に突き立った流氷だのも見受けられる。先から派手に暴れてくれている猟兵たちのお陰もあるか。
しかし、此方は地味に動こう。
飛び回る翼も、不可思議な術も持たない己れが、頼みに出来るのは目鼻くらいだ。
氷の陰に伏せったまま、ぐらりと身をもたげる巨人の動きを追う。果たしてあれはだいたらぼっちか海坊主か――そうした思い込みを一旦頭の奥に仕舞って、視えるがままを観察する。頭にあたる部分がある。目のような位置の窪みがある。前脚は指があるものの鰭に似て、海面の下におそらく後肢はない。
その首が、此方を向いた。
「――――」
慌てては元も子もない。ゆっくりと横に転げて位置を取り直し、やや背の高い流氷の裏に隠れる。……この戦は、気取られる迄が勝負所だ。とすると、そろそろ決めねばならない頃合いか。
ありゃ、何で周りを視ている?
仮にあの窪みが目だとすれば、今だって十分死角に入っている計算だ。けれども澄んだ直感が、このまま長くは隠れ切れぬと告げている。――今さっき見て取れた奴の額の、妙に出っ張ったあの形は。
「鼻か」
海獣の類は、額の上に鼻がある。
……“古女房”に籠めるのは貫通力を増した徹甲弾。
静かに行くぞ、という呼び掛けは、声に出さずとも指で伝わる。あの鼻っ面――否、孔になっている箇所を狙い撃てば、如何にも分厚そうな皮も役には立たないだろう。致命傷になれば上々、感覚器を壊すだけでも次の手が打ち易くなる。
透き通った氷塊越しにその大まかな位置を掴んで。
銃口を向ける一瞬で、正確な射線を見定める。
「譛ャ閭ス縺ァ――」
銃声とともに巨体が揺らぐ。
「――諤晉エ「繧呈ー怜叙繧九↑」
咄嗟に翳された掌は、僅かに此方を逸れていた。
「――ッ、」
衝撃が来た。犬死にと隣り合わせで命を拾えるか拾えないかの一瞬を、塊にして叩きつけられるような感覚だ。
直撃ではあるまいが――ああ、くそ、この程度の妖術だったら如何とでも耐えてやる。伏せったままなら体勢も保つ。氷の地面に踵を突き立て踏み止まり、足首の痛みを無視して二発目を籠める。
「立ち止まる訳にゃ、」
静かにしておく必要もない。
「行かねえんだよ!」
吼えたほうが、気合が入る。
――もう片方の孔を壊してやれば、巨人は酔ったようによろめいて自ら海へ沈んでいく。
おそらく平衡感覚を完全に失って、左右や上下が判らんのだろう。そういう動きだ。ともあれこれでようやく一体……だとすれば。
「数は、きついな」
まあ、やれる限りは続けてやろうか。
苦戦
🔵🔴🔴
揺歌語・なびき
綺麗な宝石だったなぁ
でもああいうのほどやばいんだよね
うんうんよく知ってる
悪いけど、おれは正気だから
きみ達が何言ってんのかわかんないなぁ
わかんなくていいけど
氷の上を足場として使用
どうせ壊されちゃうだろうし固執せず都度移動
なるべく集団から漏れた一体を狙撃
意識を惹いて集団と距離を離すよう手招く
【スナイパー
ほら、おいでよ
今ならおれを殺せるよ
【誘惑、催眠術
充分引き寄せたら鞭で串刺してUC
これなら回避できないだろ
【だまし討ち、傷口をえぐる、鎧無視攻撃
一体殺せばまた同じパターンの繰り返し
とはいえ連戦だ、なるべく消耗したくない
攻撃は可能な限り己の勘で避けきる
何を考えてるかさっぱりだけど
わかりあう前に殺すさ
●終の驕化
「綺麗な宝石だったなぁ」
そして、その宝石の続きみたいな景色だった。
どこまで行っても青い海。青い空。そして時々みずいろの氷。一切の人工物が存在しない大自然は、素敵な写真を撮るためだけに造られた偽物のようにも思えてくる。そういう風に感じるおれは、考えてみれば随分とUDCアースに染まったものだなあ。
うんうん。
だからこそ、よく知ってる。
「でも、ああいうのほどやばいんだよね」
――この一見平和な世界では、綺麗なものの裏にこそ狂気が隠されてるってことも。
なーんて言ってる間にも、足場にしていた流氷が揺れる。砕ける前に隣に浮かんだちいさな氷に跳び移る。
さあ、波が来た。足裏で数度氷を転がしてからまた他へ。また次へ。すぐに壊されちゃうものに固執している暇はない。はかなく綺麗なのだって、どうせ見た目だけだもの。
「縺ェ繧峨?豌ク蜉ォ縺ォ蠖キ蠕ィ縺、蜩コ荵ウ鬘」
「悪いけど、」
この世界の狂気にまで染まりきってやるつもりはないし。
「きみ達が何言ってんのかわかんないなぁ」
わかんなくていいけどさ、と、言葉を捨ててまた跳ねる。
……この一帯は少々敵の密度が高い。だから、さっきの奴は今相手をするべき個体じゃない。このままいい具合に群れの端まで移動して、なるべく集団から漏れたやつを見つけよう。
波に掬われないよう駆けゆけば、群れはこちらを追いかけてくる様子もなかった。
ああきっと、おれのこと、いつでも殺せる羽虫みたいなものだと思っているんだろう――なんて、無難な解釈をしておくのがいい。本当の意味で理解しようとしちゃいけない。邪神ってのは、そういうものだ。
それでもまあ、気に喰わないなぁ。
可愛くもない図体で氷を遣うところとか。
「――あれが、いいかな」
はぐれ気味の一体、その太い首を狙って、言葉がわからなくても通じる『挨拶』を一発撃ち込んでやる。大して痛くはないだろうけど、意識を惹ければそれでいい。虫に刺されたところが痒いと気分が悪いでしょ。
こんにちは。
さようなら。
澄まし顔なんて似合わないから、苛立ち任せに暴れる舞台に堕ちて来いよ。
「ほら、」
手招きは一回。
「おいでよ、」
その先の誘惑は声にのる。
「――今ならおれを殺せるよ」
きみがどういう生き物なのか、そもそも生きているのかも知らないけれど、目障りなものを叩き潰すのはきっと気持ちがいい筈だ。
伸ばされてくる前肢を見る。かすかな筋肉のうねりから次の動きを読み取るのは、思考というより野生の勘の領域だ。殴り掛かってくる動きか、掃い除けてくる動きか、それとももっと力任せに――。
――違う。あれは、手のひらを只こちらへと向けるだけの妙な動きだ。
何かまずい、と判断するより先に足は氷を蹴っている。体勢を犠牲にしてでも大きく避ける。尻尾の先を、寒気を伴う衝撃が掠めて消えた。
この攻撃は辛くも避けて、しかしこれじゃあ着地が間に合わない。十中八九、宙に浮いた身体を乱暴に掴まれる。
「豐域?昴○繧」
「っ、」
それで結構。
このままおれを握り潰して終わりのつもりだろうけど――こっちとしても、充分きみを引き寄せられた。
生白い膚の比較的柔らかいところ、その太い指の付け根目掛けて棘を刺す。血潮が薄れて、意識が遠のく。くらりと甘い眩暈とともに、花霞は枝を広げていく。
指から腕へ、腕から胸へ、傷口を掻き分けてじわじわ蝕むような串刺しだ。これが突き刺さればもう、回避なんて出来やしないだろ。
――あとは。この身体を全部支払うだけだ。
残りは、桜が殺してくれる。
「……っは」
冷たい風で目が醒めた。
ゆっくりと身体を起こして見回すと、周囲には大小の白い肉片がぷかぷか浮いている。というか、おれが横たえられていた足場もそのひとつだ。……まあ、周りの氷は砕けてしまったし、海に放り出されなかっただけでも情があると思っておこう。
それを情と呼んでいいのかは、正直よくわからないけど。
「ともあれ、一体八つ裂きにできたようだから……」
あとはまた、同じパターンの繰り返しか。
……とはいえ、これは連戦だ。血の量にだって限りはあるし、この形態を相手にあまり消耗はしたくない。焦らず、確実に。敵をしっかり集団から引き離して、あの念動力みたいな攻撃には注意しないと。
おれがそんな考えを巡らせている間にも、巨人たちは仲間のバラバラ死体を無視して悠々と海面を闊歩している。全くUDCってやつは、何を考えてるんだかおれにはさっぱりだけど――。
「わかりあう前に、殺すさ」
こういう仕事で削れるのは、体力だけじゃあないからね。
成功
🔵🔵🔴
カイム・クローバー
呪われた装飾品なんざUDCじゃ大概、邪神やら化物が絡んでる話だ。俺も職業柄、そういうのには縁がある。宝石の鑑定なら別のトコに行って欲しいモンだが、『中身』の化物退治なら大歓迎だぜ。
距離を離して銃弾一発。撃ち続けると他のに気付かれちまう可能性もある。――見た目は鈍そうだが、一応な。
一匹が俺に気付いたら両手でも広げて迎えてやるか。ハグするには図体がデカすぎるが、魔剣で叩き斬るには丁度良い大きさだ。
単純な一撃を【見切り】で躱し、UCで跳躍。こうすりゃ、足場を破壊されても邪神の図体を足場に出来るだろ?
言葉は苦手のようだな。挨拶の一つでも教えてやろうか?
【挑発】を掛けながら、強化した身体能力で叩き斬るぜ
●紫雷繧纏縺者
「呪われた装飾品、ね」
他の世界ならいざ知らず、UDCアースでそんな笑い話なんざ――笑い話、だけで済むとも限らない。蓋を開けてみれば大概、邪神やら化物やらが絡んでるからな。
夏報の言っていた通り、噂ってのは馬鹿にできない情報だ。俺だって便利屋という職業柄、その手の都市伝説には縁がある。大袈裟だとか、気にしすぎだとか、そういう言葉で誤魔化した平和な世界の裏側に、どれだけの『本物』が隠れていることか。
宝石の鑑定なら別のトコに行って欲しいモンだが、そこに秘められた真実を暴くというなら俺の領分。
「――『中身』の化物退治だけなら、むしろ大歓迎だぜ?」
とびっきり楽な仕事だ。あれこれ悩む必要がない。
見苦しい邪神どもを海から一掃したら、お土産がてら景色でも撮って帰るかね。
「さーて……」
ホルスターから『オルトロス』の片割れを引き抜いて、指先でくるりと弄ぶ。
――そんな余裕を見せられるのは、巨人の群れからしっかり距離を取っているからだ。見晴らしが良すぎず、悪すぎず。遮蔽になる程度の氷山がありつつ、俺の方からは敵を観察しやすい位置。『渦』へ転送されてから、この場所を確保するまでが勝負だったと言ってもいい。
後は、此処に一匹誘い込むだけ。
「あちらのお客様から――なんてな」
群れの端あたりの個体目掛けて銃弾一発。
それで十分、むしろそれ以上は野暮ってものだ。下手に撃ち込み続けたり、特製の弾丸を使ったりしてみろ、他の奴にも気付かれちまう可能性が上がってしまう。あれが数任せに襲ってきたら、さしもの猟兵も歯が立たない、……らしい。
――見た目はいかにも鈍そうだし、集団行動ってタイプには思えないが、一応な。
狙った一体がゆっくりとこちらを向いた、気がした。あれは――俺に気付いたってことか? どうにも奴らには表情ってものがなくて読み辛い。そもそも顔っぽい部分はあるが、色々とパーツが足りていない。
「諤晁??●豁「縺」
やべえな。何か言ってるが、何か言ってるってこと以外はまるでわからん。
……けどまあ、俺は優しいし、こう見えて気も利くからな。言葉が通じないならボディランゲージ、両手でも広げて迎えてやるか。
「なんだなんだ、デートに誘われるのは生まれて初めてか?」
「逕溷多縺ェ繧玖ェ、隰ャ縺ォ蝗壹o繧後@閠?h――」
……こちらに注意を向けているようだし、きっと俺の好意は伝わっているだろう。挑発という名の好意が存分に。
ハグで応えてやるには図体がデカすぎるのが難点だが、魔剣で叩き斬るなら丁度良い大きさだ。
「じゃ、エスコートしてやらないとな。――少しばかり手荒い歓迎になるぜ?」
邪神が身体の向きを変えるだけで流氷が砕ける。
こちらへ進路を取るだけで、その後ろ側の海が割れる。
……確かに、あれをマトモに喰らえば俺だってひとたまりも無いだろう。しかし、来るのは単純な一撃だ。地形を選んだ甲斐あって見切るのも容易い。
ギリギリまで余裕の笑みで引き付けて。
「ッと!」
情熱的なハグを寸でのところで躱す。
――この距離で相対すると流石に判る。後数センチ、数ミリで避け切れなければ全身の骨がお釈迦になっていた。そういうリアルな死の感覚が、腹の奥から肌まで伝って迅る。
「いいじゃあねえか!」
この強さなら、『神殺し』の武勇伝に加えてやるのに申し分ない。
迸る紫雷を、銃弾でもなく刀身でもなく己の脚へ。
崩れる氷山を蹴って跳躍。
足場を破壊されたところで、無駄にでかい図体そのものを利用してやればいい話だ。太い手首に乗って駆け、垂直に近い上腕を爪先の力で登りきる。
「――蛟溘j迚ゥ縺」
悪いな、どうにもこの力は、そうやって苛立つ相手を見れば見る程燃えるんだ。
邪神の脳天を蹴って最後の大跳躍。――このまま上空から落下する勢いで叩き斬る。紫雷を脚から腕へ。顕現させた魔剣を握る指先へ。全身へ。
「言葉は苦手のようだな。……挨拶の一つでも教えてやろうか?」
さようなら、って言う奴をさ。
成功
🔵🔵🔴
多々良・円
これは……これがこの世界の邪神……。
わしの世界でも穢れとされる神はいるが……こやつは、解らぬ。
言葉だけでなく存在そのものが解らぬ。解ってはならんか。
鎮め祀るとはいくまい。
厳しい戦場じゃが、幸い海が在る。ならば、天候も作れよう。
天候を操り、雨風や霧で視界を妨げ孤立させるのじゃ。
狙いを定めたら、【開花芳烈】。
傘でも津波には耐えられんが、熱された白群の神風により空まで駆け上がれば良い。
飛翔したままでいれば、足場を海にされようと関係ないのじゃ。
月白の雷光を突き刺し痺れによって動きを止めて、熱されたきりまるによる斬撃。
風で傘を吹き飛ばし、より速く。
さあ次じゃ。
凍てつく海風もこの熱で吹き飛ばしてくれよう。
●開花芳烈
神と名がつくからには、一応は神なのだろう。
――そう考えていたことは否めぬ。
「これは……」
その姿かたちを見て、何かに似ていると言うこと自体は易しかった。たとえば鯨のように大きくて、人間に近い造作もある。そのふたつ以外の生き物が思い起こされないのは、つるりと白い膚ゆえか。
しかし、それをして、荒ぶる海神が鯨人として顕れているのじゃろう――などと暢気に思うには、余りにも度し難いものがそこにはあった。
「――螳夂セゥ縺帙?縺ー荳榊ョ峨°、遏・諤ァ菴」
これがこの世界の邪神、その本来の姿なのか。
わしの世界にも穢れとされる神はいる。善いとされる神でも祟ることはある。それらは表裏一体で、神と向き合う人の心に依って如何様にも変わる。黄泉の国の死の神ですら、命の営みが持ついくつもの顔のひとつ。
けれど、この海には命がない。
こやつには温もりというものがない。
「蟇セ蟲吶○繧」
「解らぬ」
言葉だけでなく、存在そのものが解らぬ。
「隗」驥医○縺壹↓豐域?昴○繧」
「――解ってはならんか」
いずれにせよ、鎮め祀るとはいくまいて。
さて、神様云々は抜きにしたってこの戦場はちょいと厳しい。
いつ大波が来るかも知れないというのに、足場は頼りない氷だけ。うかうかしていては海へと真っ逆さま。爪先を浸けただけでも痺れるくらいに水は冷たく、何より潮で本体が傷みかねない。
じゃが、幸い海が在る。
魚の気配ひとつない不気味な海だとしても、これだけの水があるならば――そう、天候も作れよう。
くるくる、くるり。
回した傘の向こうには、ちゃあんと青い空もある。
――白波の飛沫が削れて霧と成り、辺りの景色を霞ませていく。
最初は海の上だけ薄く、だんだんと渦を巻いて濃く、巨人の体躯を包むように霧が昇って、雲に転じて、雨粒を生む。
不意に、足首に温もりを感じる。……いつの間にやら擦り寄ってきた猫又が、着物を伝って肩に乗る。ぶるりと震えて水滴を払う。
「寒いか、きりまる。……なあに、すぐに暖かくなる」
冬の後には春や夏が待っているものよな。
傘と着物の渦巻き柄が、ゆるやかな波紋へと形を変える。静かな水面に梅の花弁が流れ落ち、自由気ままに泳ぐ金魚の姿が浮かび上がる。――この紅白の装いなら、みずいろばかりの世界に彩りを添えるのに丁度良いじゃろう。
さあ、咲かせてみせよう開花芳烈。
乞うのは神風、相容れぬ敵にお還り願うための嵐よ。
「謌代i縺ッ豬キ髮カ」
白く霞んだ視界の向こうから大津波が来る。
うむ、正確にこちらを狙っているわけではないな。霧の目眩ましはしっかり効いていると見た。そしてわしの方からは、孤立した巨人の影がありありと見える。
狙いを定めて、軽く跳ぶ。きりまるが肩から指先へと走り、二振りの刀に姿を変える。雷雲にきらめく稲光が、刃に熱を宿らせる。
……どんな土砂降りに耐える傘でも、流石に津波には耐えられまい。しかし何、当たらなければ良いだけの話――限界まで練り上げた白群の神風は、さっきまでの寒さが嘘のような熱をはらんだ上昇気流と化す。それを傘いっぱいに受けて、波より高く、空まで一気に駆け上る。
ほうら、相手の頭が見えた。
「天よ――」
吾に力を貸してくれ。
薙刀めいた雷光が、その脳天に突き刺さる。生気のない巨体が攣れて強張る。
それと同時に、傘を手放す。赤く熱された刀身に落下の勢いを乗せ――動かぬ敵へ斬撃を叩き込む。
「……むう」
斬り伏せた、と、思う。
確かに巨人は左右真っ二つになって、海の底へと沈んでいった。妙な幻を見せてくるような相手でもなし、倒したことには間違いない。
しかし――やはりと言うべきか、命を取ったという感覚がまるで無かった。硬い泥でも斬ったかのような、不気味な手応えばかりが尾を引いている。
……いや、考えたとて詮無いことか。考えないほうが良いのやもしれぬ。それが邪神というものを相手取る時の流儀だと聞く。郷に入っては郷に従えというやつじゃな。
「さあ次じゃ」
この霧の中にはまだまだ迷子の巨人が居よう。神風に乗って飛翔している限りは足場の心配もない。ここから先は、独壇場。
無用な憂いも、凍てつく海風も、この熱で吹き飛ばしてくれよう。
大成功
🔵🔵🔵
大紋・狩人
──【文字盤の上の逢瀬】
ラピタが凍て海に落ちないよう
十分間だけ僕の目を片方渡した
魔力溜め、交換した片義眼に魔力を通せば
視界の半分に水彩めいてぼやけた星の海
これがあの子の見ている世界か
覚悟、敵群を睨む
空中戦、上空より群れを逸れた巨人を見出し
捕縛、頭部目掛けて
炎纏った灰の鳥達を殺到させる
そちらへ衝撃を使おうとする隙に
怪力と部位破壊、両腕の切断を試みよう
切断面または届く箇所を
灼灰の刃で貫き、焼却、属性攻撃!
切っ先から炎で肉の内側を焼け
残り時間は幾許?
きみは無事だろうか
炎に、父の遺灰ダイヤが輝いて
(不幸の証
流言に眉を寄せれば彼方に
健闘を示す一等星の光
安堵、ああ、そうだ)
青も、ダイヤも
僕にとっては幸いだ
ラピタ・カンパネルラ
ーー出し惜しみできない。視界に魔力を迸らせて六感全部で戦場を視ーー
……そうせずとも、僕の視力を滾らせる熱が走る。鮮明な、真白い視界。
ああ、カロンの目。
ありがとう。おかげで、精一杯やれるーー
借りるね
環境耐性氷結耐性
氷海が砕けて水が噴いたって大丈夫、だって見えてる、きらきら綺麗な冬の海。
【かなた】、邪神を掴んでーー孤立させるには、上へ!
重力を操り軽量化、放り投げーー重量化。肉塊を鉄塊以上に重く、どんな星よりも強い重力を伴わせ落とす
海に沈めばそれでいい、
下にいる邪神を潰してくれたら尚、良い
炎を灯して己を暖め、戦う
この目の持ち主にも、見えるだろうか。ありがとう、ちゃんとやれてるよって、一等星みたいに。
●縺なた
つめたい風が頬を撫でると、瘡蓋の痕がかすかに攣れた。
こうして感覚を研ぎ澄ませれば、世界はちゃんとその在り様を伝えてくれる。それはたとえば遠い小鳥のさえずりであったり、燻る煙と血のにおいであったり。此処が一体どういう場所で、僕が何を為すべきなのか、その道標が必ずある。
そして今、五感のすべてが訴えてくる。
これでは足りない。この『渦』の内を進むのに、出し惜しんでなんかいられない。
――六つめの感覚が必要だ、と。
「謖ッ蜍輔r豁「繧、莉雁?縺ウ髮カ蠎ヲ縺ォ閾ウ繧」
足元が揺れる。途方もなく重い水が揺蕩う感触がする。――攻撃を喰らってから炎で灼く、なんて手が通じる相手じゃないのは確かだった。言葉も通じない、とまで決めてしまいたくはないけれど、話せるようになるまでの時間はきっと与えて貰えない。
氷の下には凍て海が広がっているのだという。このまま暗い水底に落ちでもしたら、ほんとうにもう何も視えなくなってしまうだろう。
それは、いやだな。
僕の瞳――生まれ持った最初の青色は、誰かの幸いのために支払ってしまった。それ以上の光を望むのならば対価が要る。体の奥の熱をとらえて、星のように燃える炎を願う。そうして魔力を紅の義眼に滾らせれば、朧でも戦場を視透せる筈――。
「え?」
そうせずとも、僕のものではない熱が頬に走った。
鮮明な白。
見慣れた炎によく似た青。
「……ああ」
カロンの目、貸してくれたんだ。
僕が立っている氷のかたち。立ち向かうべき邪神の輪郭。空と海の青の違いと、そのふたつが分かれる線がはっきり判る。あんまりに突然だから、これが『視えている』ということなのだと一瞬わからないくらいだった。不器用だなあ、いつも、君は。
うん、ありがとう。おかげで、精一杯やれる。――これはほんの短い逢引だから、触れてお礼を言えるのは戦いの後になるだろうけど。
「借りるね」
ちゃんと返すよ。
凍えるのには慣れている。
だから大丈夫。足場にしていた氷は思っていたより大きいから、砕かれたってその欠片を飛び石にして往けばいい。水柱が噴き上がったって、巨人の腕が降り下ろされたって、ちゃんとこの目に視えている。
そして何より、世界がきらきら輝いている。――炎の熱も花の命も、此処には見つからないけれど。何もかもが死に絶えた冬の海だって、君の見せてくれる景色なら、綺麗だ。
「縺昴?辭ア縺ッ隱、蟾ョ縺?」
邪神たちの群れだって、醜いなんてことはなかった。
「縺薙?諠第弌縺ッ逕滓擂謌代i縺ョ繧ゅ?縺?――」
けれど、やっぱり数が多いのは困るな。巨体の間を縫わないとまともに飛べないくらいだ。これを一体遠くへと誘って孤立させるのは、……不可能じゃないだろうけど、たぶん一回二回で終わってしまう。この魔法は、そんなに永く保たないから。
だったら、もっと近い場所へ。
ほんの一瞬で辿りつける、誰の手も届かない場所へ。
この惑星の外へ。
――そう、空の上へ!
振り回される邪神の手を、その指を、両の腕――否、全身で掴む。たとえばこの指が誰かを不幸にするより前に、どうか、かなたへ。
持ち上げる、迄もなく、巨体がバランスを崩して揺らぐ。おそらく重力を奪ったと同時、海に浸かった下半身が浮力を得たんだろう。転げる勢いを利用して、そのまま真上へ放り投げる。
手応えがない。
泡みたいに軽い。
軽いままでは意味がないから、一番高いところで奪った重力を返して、さらに、注ぐ。鉄より重く。鉛より重く、どんな原子より重くなるように。宇宙のどんな星よりも、この海の底へ引かれるように。
――落とす。
「謌代i、」
海から顔を出したばかりの邪神が、ちょうどその落下を受けた。骨のない肉塊が潰れる厭な音がして、二体まとめて再び海へと沈んでいく。
「おやすみ」
彼らの言葉でなんと言うのかは知らないけれど――せめて静かな眠りであればいい。その水底が、故郷のようなものだろうから。
深呼吸。
青い炎を己に灯して、冷えた肌と肺腑を暖める。十二時の鐘が鳴るまではこうして戦える。
……さっきのは、運が良かったな。狙ってできれば尚良いけれど、あまり拘らずに動きを繰り返したほうが時間を活かせるとも思う。折角借りた目なんだから、よく考えて使わないと。
燃えながら飛べば、持ち主の君、そのもう片方の目にも見えるだろうか。一等星みたいに。流れ星みたいに。
ありがとう、僕なら大丈夫。
――ちゃんとやれてるよ、って。
●文字盤の上の騾「瀬
つめたい風が頬を撫でると、瘡蓋の痕がかすかに攣れた。
目に映る氷の世界は息を呑むほど程美しかった。空も海も何処までも透き通っていて、その合間に浮かぶ氷はひとつひとつが宝石のようで。
……けれど、この景色には欠けているものがある。拭いきれない違和感がある。
「太陽が、ないな」
ラピタがいつも探している、この惑星で一番強く輝く星だ。それが何処にも見当たらない。光源が存在しないっていうのに、あらゆるものが絵に描いたような淡い色彩を放っている。これが邪神の棲む世界、『超次元の渦』か。
感心している場合じゃないな。
これでは――ラピタの道標が少なすぎる。
「――交換こ、しようか」
となえると、頭の奥に冷たさが走った。刺さるような氷の温度とはまた違う、濡れた石に似た感触だ。
……中指で瞼を持ち上げて、薬指でそうっと左眼の表面に触れてみる。あるべき鋭い痛みの代わりに、鈍い異物感がじわりと広がる。
そして何より、文字通り眼前にある筈の己の指先が全く見えていない。……間違いなく、彼女の瞳だ。奪われた本物の代わりに与えられた紅い義眼だ。
意識して己の魔力を通してみても、水彩めいてぼやけた星の海が映るだけ。
これが、あの子の見ている世界か。
綺麗だと思う。綺麗だと思うだけで終われたら良いのにとも思う。きみは、怖くはないんだろうか。少なくとも僕は、きみがこの暗闇の中で凍て海に落ちてしまうことが怖い。凍えるのには慣れている、なんて言って笑ってみせるだろう、きみは。
だから、僕の目を片方渡した。
交換こ、と呼ぶには少し一方的かもしれないけれど。
……魔法がとけてしまうまで十分間。余計な心配はやめにして、戦うきみを信じよう。ちゃんとやれるさ。きみはきっと、僕よりずっと強いのだから。
「蝪オ闃・繧√′――」
何ごとか呻く敵群を睨む。
言葉が通じる相手でもない。覚悟は、疾うに決まっている。
玻璃のくつで氷を蹴る。
挑むべきは空中戦だ。足場について気に病む必要がなくなるし、上空からなら巨人の位置を見て取りやすい。海を地図のように見下ろせば、遠近感のない片目の視界でも事足りる。
乱戦の最中、群れから逸れた個体も居る筈だ。
「――あれか」
見出した巨人の頭部目掛けて、炎纏った灰の鳥達を殺到させる。
かれらの爪や嘴は、厚い皮膚に傷を付けられるような造りをしていない。炎の熱にも肉まで灼ききる火力はない。巨人がかぶりを振るだけで千々になる様は儚い砂絵のようだ。けれど、鳥達は何度でも灰から生まれ直して、同じ軌道で円を描く。
――不愉快そうに掌を翳した、その動きこそがお前の隙だ。
強い衝撃に灰が散る。
その灰をかぶって僕は跳ぶ。
がら空きになった逆の腕に、この世で最も硬い灰――ダイヤの刀身を叩きつける。
怪力任せの大切断、骨ごと砕くつもりの一撃だ。
その割に手応えはぬるりとしていて、腸詰の皮を歯で破った時のような心地がした。
「…………?」
訝しむ思考を置き去りにして戦い慣れた身体は踊る。……左腕を斬られたと敵が気付いたその瞬間、最も疎かになるのは残った右腕だ。間髪入れずに其方も斬る。
――その真新しい切断面に、骨が無いのが見て取れた。
異様だとか、不気味だとか、そんな感想を抱いているような暇はなかった。剥き出しになった肩の肉に灼灰の刃を突き立てる。きっと、こいつには心臓もない。であれば刃で貫くだけでは足りない。
赤が脈打つ。
切っ先に炎を注ぎ込む。
単なる肉の塊ならば、内側から焼き尽くしてやればいい――!
……煤が、灰が、はらはら遠い水面へ落ちていく。何も遺さずに消えていく。
それを最期まで見届けてやる余裕は無かった。砂時計が落ちるのを見ているようで気が逸る。
残り時間は幾許だ? きみは、無事だろうか。もう一度義眼に魔力を通してみるべきか。でも、それでもし暗い水底が視えたりしたら、僕はどうすると言うのだろう。
「……駄目だな」
余計な心配は一旦止めだと決めたばかりじゃないか。
燻る炎を映して輝く刀身が、焦るな、と諭してくれているように思えた。
このダイヤは、父の遺灰だ。この鮮血の赤も受け継いだ誇りの証だ。……あの青いダイヤの由縁は詳しく語られなかったけれど、色付きのダイヤが不幸の証だなんて聞いたこともない。
酷い流言もあったものだ。眉を寄せて空を仰ぐと、――ひときわ綺麗な宝石が視えた。
「あ、」
青く輝く一等星が、落ちることなく流れていく。
「――ああ、……そうだ」
安堵が、胸に染みていく。恐れることなく往くきみの姿がやっぱり一番綺麗だ。彼女がこうして健闘を示してくれているっていうのに、僕が呼吸を乱していてどうする。
「青も、ダイヤも、僕にとっては幸いだ」
それを視る、僕の想いがすべてのはずだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
まーったく毎度忘れたころにへばりついた石の下から這い出てくるなんてこまりものだよね!
あ、ところでこれって何語?えすぺらんと?
●戦場構築!
おーけー!一匹ずつだね!
じゃあ超クソデカ球体くんたちをわっ!と戦場に降り注がせて壁役になって分断・攪乱してもらうよ!
時間稼ぎよろしくー!あ、あとスムーズに倒せるようにできるだけ押さえててね!
さーてじゃあタイムアタックだ!
●質量には質量!
クソデカ球体くんで巨体や大量の水を受けてそのまま押し返すよ!
サイズは…まあ彼?彼女?の10倍はあれば大丈夫?それとももっと大きいのにする?
そのままー球体くんに押さえてもらってるところをUCでドーンッ!!
●神拳
「まーったく、毎度忘れたころにへばりついた石の下から這い出てくるなんて」
うーん、忘れたっていうか、こいつらについて何か知ってたんだっけ?
まあいっか。
それも忘れた。
「本っ当こまりものだよね!」
今この時、気に喰わないと感じてるボクが神様だ。
こまりものって言ったって、こんなの相手に本当に困るのなんて人間くらいのものだけど。こんな海、始まりの水たまりに比べたらぬるま湯みたいなものだし。ボクからすればへっちゃらだし。気持ちいいかは、別として。
「辭ア繧。豎昴b逕溷多縺ェ繧区が螟「縺ォ鬲倥&繧後k縺ョ縺」
「あ、ところでそれって何語? えすぺらんと? えすじす?」
ボク知ってるぞ。通じない言葉で一方的にぺらぺら喋って、自分は頭いいんですよーって顔する割に実際大したことないやつだ。そういうのマウンティングって言うんだ。
ま、ボクくらい可愛かったらそれでも許されるだろうけど、キミたちはぱっと見全然ダメ。ていうか、見れば見るほどダメ。時代に合わせて親しみやすさを搭載しようとか思わなかったのかなあ。
「諤昴>蜃コ縺」
「そんな昔にこだわる意味ある?」
邪神だか完全体だか知らないけどさ。
絶対零度に引きこもって変わろうとしない神様なんて、崇めてもらえる訳がないじゃん。
タラリア、もといキマイラフューチャー最先端のスニーカーで空中を歩く。氷の上は冷たいし、崩されちゃう度に跳ぶのも面倒くさい。地に足なんて着かないほうが身軽だった。
見下ろせるのは、嘘っぽいぐらいに青い海。そこかしこでのっぺりとした白い身体が蠢いて、ゼリーのお菓子に蛆虫が湧いたみたいな感じになっている。もう、快か不快かで言ったら間違いなく不快。
「えーと、それで、どう戦えって言われたんだっけ……」
こんな偽物の景色より、宝石のほうがキレイだったなあ。四角いダイヤモンドって珍しいよね――じゃなくって、それよりちょっと後の話だ。確か、猟兵の力じゃ邪神の群れには敵わないとか言ってたっけ。囲まれないよう上手い具合に孤立させて……とか、なんとか。
「……おーけー! つまり一匹ずつだね!」
こんなの正直上空からまとめて余裕でしょって感じに見えるんだけど、これは多分、守ったほうが楽しいルールだ。おねーさんとのお約束ってやつだ。
「というわけで戦場構築!」
両手を広げて号令すれば、神様の影から球体が溢れ出す。……この時点では体積も質量もゼロのまま。
そうだな、体積をどうしよう。球体くんたちには壁役になってもらうつもりだから、邪神が思わず見上げるくらいの直径がほしい。ともかく彼、……ひょっとして彼女? 性別はわかんないけど身長は大体三十メートルだって聞いた。その二倍、いや三倍として、雑に百メートルくらいでいいや。
ボクにしてはよく考えた。
「あとは時間稼ぎよろしくー!」
一斉に体積を得た球体が空を埋め尽くす。次の一瞬で質量を得て、わっ、と戦場に降り注ぐ。
水柱が次々に上がって、海上に飛沫の迷路を組み上げていく。これで分断は完了、特製超クソデカ球体くんたちがバラバラに動き始めて攪乱を開始。
「さーて」
守るかどうかはともかくとして、ゲームは一日一時間。
「じゃあタイムアタックだ!」
適当な邪神をひとつ見定めて、近くの球体の上まで降りる。
「縺薙?諠第弌縺ッ逕滓擂――」
こいつはさっきの絨毯爆撃で、ボクが今乗っている球体の直撃を喰らってたはずだ。うーん、普通に生きてるなあ。ま、あれだけで殺せるんだったら世話ないもんね。
仕方ないから、神様じきじきの暴力を授けてあげなくちゃ。
「謌代i縺ョ繧ゅ?。蠢倥l譫懊※縺溘°」
「そういうのキョーミないってば」
テキトーにあしらうと、癇癪でも起こしたみたいに海面がうねる。質量保存の法則を無視した大量の水が、足場ごとボクを呑み込もうとして押し寄せる。
「もー、――できるだけ押さえて!」
だったらボクも更なる質量を。
超クソデカ球体くんの直径、三倍じゃちょっと足りなかったかもな。飛んで十倍くらいにしておく。これだけあれば流石に大丈夫でしょ。もしもダメならもっと超絶クソデカ球体くんにする。単位をメートルからキロにする。
受けて、そのまま押し返す。そっくりそのまま波をぶつける。バランスを崩した巨体を、いくつかの球体で挟み込む。
動きは封じた。
あとは地形も何も気にせず、思いっきり拳を叩き込んだらこれで一匹目。
「勝ち確! だね! ……なんなら崇めてもいいよ!」
神様気取りに信心なんてないだろうけど。
――最後くらいは、信者目線ってやつを理解してみるのもいいんじゃない?
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『巨蟹卿』キャンサー』
|
POW : 輝き守って、私のアクベンス
【水晶本体に触れた人間】を向けた対象に、【変形させた水晶による貫通攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : 輝き守って、私のプレセぺ達
【影から放たれる光の集合体】が命中した対象に対し、高威力高命中の【超高速の光のレーザー】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : 輝き守って、私の蒼白銀光
質問と共に【月光を水晶で屈折、増大化させた光】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠アルム・サフィレット」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●蟾ィ陝ケ蜊ソ
――譁ッ縺上@縺ヲ螻取ウ・縺ッ豐域?昴☆繧。
肉繧呈ィ。縺た肉は遯堤エ?繧貞瑞縺榊?縺励↑縺後i邵偵j合わされ、圧縺玲スー縺れ、いつしか螺旋構造の險俶?繧ょ、アうだろう。忘謌代?蠖シ譁ケで、豎コして砕けぬ輝きとなる。
よ繧頑ーク遠に。
より純粋に。
だからこそ、人は炭素の結晶に愛なる夢を見るのでしょう?
白い身体が集まって、青く輝く鉱石へ。
白い真昼が移ろって、星の瞬く宵闇へ。
さあ、ここから先は私の時間――けれど、ああ、少しばかり『足りない』ようですね。
この硬い殻に触れずとも、貴方がたは私の中に影を見るでしょう。最も愛しいもの、最も守るべきものの姿を認めることでしょう。
――本当なら、その一瞬で隷属させて差し上げることができたのですよ。
今の私には純度が足りない。理性という不幸から救ってはあげられない。私がいくら星辰の『輝き』を魅せようと、貴方がたは『そんなものは幻だ』とでも言って刃を向けるだけ。きっと、私のことを護っては下さらない。
悲しいことです。
この夢を拒んだところで、貴方がたを待つのは味気ない現実――『死』と呼ばれる結果以外に何もないのに。
水も、氷も、その肉体も、融けるまで灼いてしまいましょう。それで全部、それでお仕舞い。
熱力学の法則は、あらゆる命をいずれ原子へと還す。遅いか早いかの違いです。
ねえ、いつか燃え尽きて消える想いを、大事に抱えているくらいなら――永遠を石に託したほうが、しあわせなのではないですか?
月見里・見月
今。否定しましたね?
私を……私の希う美しい『死』を。月見里見月という物語の終わりを。現実ですって? あはは、ちゃんちゃらですよ!
ああ、もう良いです。貴方は生きていい存在ではありません、早く私の世界から出て行ってください。早く死ね!
【暗殺】の技法で死角に潜り込んで、万年筆で呪印を刻んで差し上げます。水晶に直接……私が貴方の物語を書き換えてあげましょう! 永遠を嘯く愚者には、永遠なる至上の苦痛を。最も痛ましい瞬間の追想を以て、何度でも【傷口をえぐる】【呪詛】を!
貴方の中には私が居ますね。けど私はここにいる私だけです。そして、私は自分の意志で美しい理想……『死』という結末へ進むのですよ!
●幼き彼女の悩み
炭素の結晶に愛という夢を見るのは良しとしましょう。それが貴方の主観である限りにおいて。
輝く宝石に想いを託すのも、まあ、良しとしましょう。それが他人の選択である限りにおいて。
ですけれど。
「今。否定しましたね? 私を――」
――だったらもう、黙ってなんて居られません。
巨人たちが寄り集まって次なる邪神になるならば、おそらく其処に最大の隙が生じるはず。
喩えるなら、幼虫が蛹となる過程の無防備な一瞬。認識の死角。……よって、私が最初に潜り込んだのは、産まれたての水晶のすぐ傍らでした。良い選択だと自負しています。
暗殺という技法に教科書通り従うのなら、このまま無言で万年筆を突き立ててやるべきだったんでしょうね。
しかし、問われてしまったからには全否定せねばなりません。
普く駄文というものには、赤線を引いてやらねばなりません。
「私を、……私の希う美しい『死』を、月見里見月という『物語』の終わりを」
よりにもよって、
「――『現実』ですって?」
正しくカタルシスへと向かう完成された脚本と、理不尽な展開を並べただけの悪趣味な茶番。……その区別すら付けられない、と?
「あはは、」
お笑い種です。
「ちゃんちゃらですよ!」
――ああ、また、何やら声が聴こえますね。思えばさっきもこうやって、私の頭の中に、勝手に。その時点で最低に最悪ですよ。もう良いです。どうせ月光なんて単なる眩しい光ですし、質問の意味が解ってしまうより前に意識を外して無視しておきます。上辺だけの言葉をどんなに重ねられようと、私にとっての真実は微塵も揺るがない。
貴方は生きていていい存在ではありません。
だって、此処は私の世界ですよ?
異世界だとか、令和だとか、超次元の渦だとか、そんなことは問題じゃありません。この私こそが観測する、この私だけが解釈する、唯一無二の世界から――早く出て行ってください。
早急に。迅速に。可能な限りすみやかに。
「――早く死ね!」
万年筆を握る右手を逆手から順手へ。中指を添えて、物を書くための本来のかたちへ。
こうなったら書くしかありません。この怒りは、屈辱は、暴力等では到底表現できやしませんから!
さあ、呪印を刻んで差し上げます。
水晶に直接――硬い表面に傷を付けられないのなら、その上に洋墨を乗せて記すまで。私が、貴方の陳腐な物語を書き換えてあげましょう!
「永遠を嘯く愚者には、永遠なる至上の苦痛を!」
最も、一番、最高に痛ましい瞬間を――浮世に在ってはならないものが浮世に生を享ける不幸を、『生誕』の追想を繰り返せ!
ええ、これは紛う方なき呪詛です。私の世界から消えてくださらない限り、貴方の時間は何度でも、致命的な瞬間――最大の隙を晒す一瞬へと巻き戻ることになるでしょう。産まれるたびに罵声を浴びせられ、傷口をえぐるように打ち砕かれ、徹底的に否定されるでしょう。
そんな喜劇を書き終えると、水晶に映った私の顔がぴしりと割れました。
……いえ、違いますね。これは光が反射しているのではなく、貴方の中に私が居る。まるで眠っているような、安らかな顔の私の死体が其処に在る。
愛おしいもの、守るべきもの、でしたっけ? 確かに概ね合っていますよ。何よりも美しくあらねばならない私の『死』を、貴方なりに表現してみたつもりでしょうか。まあ、見てくれだけなら綺麗なのは認めますけど。
「……私は、ここにいる私だけです」
そして私は、こんな死を選択した覚えはありません。
自ら決めたものではない死に一片の価値も感じません。
「私は自分の意志で美しい理想――『死』という結末へ進むのですよ!」
貴方はせいぜい、面白みもない他者の模倣を続けてくださいな。
成功
🔵🔵🔴
揺歌語・なびき
あの子の姿を、声を、涙を模るな
彼女はおれが守る必要があるほど弱くない
弱いのは、
更に崩れる足場を飛び越え血桜を零す
海面に咲く桜と溺れる蟲を
一時の踏み台にしてでも
おれは
あの偽物のみずいろを、真っ赤に真っ黒に穢さなくては
【呪詛、恐怖を与える
血桜を零した後も銃撃で水晶を削る
なるべく幻が見えなくなるまで
形を留めなくなるまで
【スナイパー、鎧無視攻撃、呪殺弾、傷口をえぐる
痛みも呪詛も耐えられる
そうじゃなければ勘で避ければいいだけのこと
本当の幸せなんて、お前に問われる必要ない
なんにも知らないくせに
泣くみたいに笑いやがって
あの子の幸福は
あの子がただしく決めるのであって
おれがそこに
介入できるわけ、ないだろ!!
●春怨
楽な仕事だと思った。
敵が強いか弱いかなんて、おれにとっては元々大した問題じゃあないもの。どれだけ頑張るか、いくら支払うかが変わるだけ。削れきった命が尽きるならその時はその時で、出来ることなら暖かな家に帰りたいなと願うだけ。
いつだってそうだ。
邪神なんて連中は、強いだけの奴が一番ましなんだ。
ぐずぐずと融合していく肉塊が『それ』の形をとった瞬間、肌から冷たさが吹き飛んだ。
自分の内側に生じる音と熱以外の何も分からなくなる。そのまま五感の全てを拒絶してしまいたい衝動に襲われる。
澄み切った水晶の中に、震えるちいさな唇を見る。
雪色の大きな瞳が、みぞれみたいに潤むのを見る。
「あの子の姿を、声を、」
剰え、
「涙を、模るな」
月の光が流氷を灼く。その暴力に照らされた肌が熱いのか、それとも腹の底から煮える血潮が熱いのか、ああもうそんなことは如何だっていい、何よりも赦せないものが目の前にあるだろう。
「……彼女は、おれが守る必要があるほど弱くない」
少なくとも、助けを求めて泣いたりはしない。自分は手を伸べる側の存在であると定義して、その手が届かぬ歯痒さにすら静かに耐えているような子だ。今頃きっとひとりの部屋で、弱音のひとつも吐かないで、温かい飲み物を用意したりしているんだろう。……おれだって、本当は、帰れないかもしれないだなんて考えたくもないんだ。
「弱いのは、」
その先の真実を言えばお前は満足か?
崩れる足場を飛び越えて、波立つ海面を花霞で打つ。しなる棘鞭をつたってはたはた血が落ちる。爪先に零す飛沫が花弁のかたちをとって、次第に溶け、崩れ、流れていく。
……この赫だけを踏み台にしても、立っていられる時間はほんの僅かだ。
綺麗な花では足りなくて、次に喚ぶのは蟲の群れ。
湧き出た黒が、凍てつく海に犇めいて一時の道を作る。それ以上もそれ以下も期待していない。彼らは六つから百つの脚で藻掻きながら、夜露の代わりに塩水を飲む。悲鳴もあげずに溺れて沈む。
命が散って、桜が咲いて、死が一面を埋め尽くす。
その上を、這うようにして駆けてゆく。どんな無様を晒してでも、おれは、――あの偽物のみずいろを、真っ赤に、真っ黒に、春の彩で穢さなくては。
血桜が水晶までは届かなくとも、為すべき怒りは終わらない。
挨拶抜きの銃弾に有りっ丈の呪詛を籠めて放つ。削る。削る。この世で最も硬い石でも、同じところに寸分違わず撃ち続ければいつかは砕けるだろう。
さあ、恐怖して見せろよ。ああでも、あの子の顔でやるのは駄目だ。猿真似以外の姿かたちを持ち合わせないって言うなら、もう黙って消え失せろ。
戸惑う振りの幻が、ぴしりと鳴って斜めに割れる。造り物の映像らしく上下がずれる。……射撃は効いているようだけど、多分、『次』の攻撃には間に合わない。
一度放たれた月光が再び水晶に集まって、ひび入った面を真白く照らす。
また、さっきの問いが来る。頭の奥に直接響く。
「くそ、」
……本当の幸せなんて、お前に問われる必要ない。
「なんにも、知らないくせに」
彼女の悲しみも、寂しさも、理解しうる価値観すら持ち合わせない異物のくせに――泣くみたいに笑うその顔だけ、どうしようもなく似せやがって。
迫る光条を避けようという考えは捨てた。熱だろうと、痛みだろうと、耐えればいいだけの話だ。ただ、撃つことを優先する。なるべく、一分一秒でも早く、形を留めなくなるまで『あれ』を破壊しなければ。
「あの子の幸福は、あの子がただしく決めるのであって」
彼女は確かにそういう顔で、痛みも苦しみも受け止めて、何かを選んで、誰かを捨てて、けれど何処までだって往くだろう。本当に尊いものは氷漬けになったりしない。柔らかい雪に刻まれる足跡こそが美しい。春が来れば消えてしまうような、儚い輝きのほうが、ずっと。
「おれがそこに……介入できるわけ、ないだろ!!」
それが全てだ。
おれの全てだ。
だからもう、――おれの幸福の所在について問うのは止めろ。
苦戦
🔵🔴🔴
カイム・クローバー
能面に比べりゃ言葉が通じるだけマシか?
――いや、違うか。むしろ、意味が分かるだけ胸糞悪さが増してる。石コロ相手に隷属?生憎と俺は誰の所有物にもならねぇよ
二丁銃を向けた水晶の中に影を見る。それは――俺の良く知る少女だった。
白金の髪、二本の角。表情は俯いているように見えるせいで伺い知る事は出来なかったが。
それが、俺の愛する『輝き』って訳だ。言葉と引き換えに銃弾を叩き込む。
当たりだ。それは確かに俺の愛する『輝き』だよ。――けど、残念だったな。俺達はどっちかが道を踏み外したなら、殺し合う事も訳ねぇんだよ。
立場が逆ならアイツも俺に遠慮はしねぇだろう。
アンタは俺の『愛する者』の事を何も分かっちゃいないのさ
●Black Jack
「は、能面に比べりゃ言葉が通じるだけマシか?」
開口一番の皮肉ってのはとりあえず言っておくもんだ。こうやって余裕を示せば自然と気分も上がってくるし、相手が挑発に乗ってくれれば一石二鳥。派手にかまして損はない。心にもないジョークぐらいがちょうど良い。
「――いや」
それを差し引いたとしても、今のセリフはちょっと違うか。
さっきの巨人連中は耳障りな声を発するばかりで、だからこそ無視をするのは簡単だった。ま、どうせ愚かな人類がどうこうみたいな決まり文句でも言ってたんだろう。
しかしこの水晶だかダイヤモンドだか分からん第二形態は――頭の中に直接『意味』を響かせてきやがる。理解できてしまう分だけ胸糞悪さが増している。
その幻声が、徐々に明瞭になっていく。愛しいものだの、守りたいものだの、聞こえの良い言葉ばかりを並べ立てて――けれどその内容は、どうしようもなく歪み切った邪神の価値観そのものだ。
「石コロ相手に隷属?」
その上、それが幸福だって?
人を不幸にして喜ぶ奴はそりゃ最低だが、人を不幸だと決めつける奴だっていい勝負だろ。その傲慢さが何より気に障る。……かといって、ここで無闇に怒ったところで、それこそ挑発に乗るようなもんだ。
「はっ」
鼻で笑う。
「信者の募集なら他を当たりな。――生憎と、俺は誰の所有物にもならねぇよ」
憐れむような邪神の思念は、俺自身の言葉で掻き消してやる。
ホルスターから銃を引き抜く。
出し惜しみなし、弾丸は銀の特別製。この第二ラウンドに備えて左右両方装填済みだ。敵が仕掛けて来るより先、足場を壊される前に決める。
二丁揃えた銃口を突き付け、引鉄に指をかけて、……それでも、敵は微動だにする様子がない。
これじゃあ早撃ちを披露してやる甲斐がねえな、と、いう気分にもなるが――油断する訳にもいかないか。こういうじれったい手合いは、大抵、嫌な搦め手を使ってくる。
コンマ数秒にも満たない速度の思考の合間、水晶の中に影を見る。
それは――俺の良く知る少女の形をしていた。
月夜の海に一際映える白金の長い髪。小さいながらに漆黒の光沢が目を惹く二本の角。
俯いているように見えるせいか、それともぼんやりと光を湛えているせいか――その表情は伺い知れないが、十分すぎる幻だ。色彩も、輪郭も、写し取ったように瓜二つ。この俺がそう思うくらいなんだから、世界中の誰が見たって彼女と見間違えるだろう。
成程。それがアンタの言っていた、俺の愛する『輝き』って訳だ。
「当たりだ」
でも、当たっているだけだな。
短い言葉と引き換えに銃弾を叩き込む。銃撃の協奏曲のテンポは全く乱れない。
「それは確かに俺の愛する『輝き』だよ。――けど、残念だったな」
透き通った表面に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。幻影が揺らぎ、光が散る。ダイヤモンドがどれだけ硬いか正確なところは知らないが、銀の弾丸ってやつは、邪悪なものを貫くように出来ている。
ああ、折角言葉が通じるんだから、サービスで惚気話も付けてやろうか。少なくともアンタが思っているような――『そんなものは幻だ』、なんてちゃちな理由て撃ったんじゃねえさ。
「俺達はどっちかが道を踏み外したなら、殺し合う事も訳ねぇんだよ」
本物だろうと躊躇わず撃つ。
加えて言うなら、本物だったら難なく避けてみせる筈。箱の中に閉じこもるより、戦場を跳ね踊ることを選ぶような奴だ。銃弾を躱した次の瞬間、俺の鼻先に刃を突き付けてくる姿が目に浮かぶ。――そう、もしも立場が逆だったら、アイツだって俺に遠慮はしねぇだろう。
上から目線の邪神様には、『対等』だなんて逆立ちしても理解不可能かね。そりゃ足首へのキスは忠誠の証だなんて話もあるが、それは所有でも隷属でもない。
「……要するにアンタは、俺の『愛する者』の事を何も分かっちゃいないのさ」
俺達の交わした誓いを、侮るんじゃねえよ。
大成功
🔵🔵🔵
大紋・狩人
【仄か】
(強く硬い青の中、澄んだ柔らかな色が微笑む
愛しむ全てがあるようで、間違いようがある筈もなく
炭素の塊を握る)
遺されたものは夢や永遠じゃあない
結果で現実で、だからこそ
鮮やかに想いを繋ぎ、生きる為の動力たりえるんだ
すぐ無茶して気が抜けないなきみ!
ほら貸して
覚悟、【春と灼嘴】代償共有
幻とはいえその姿だ
極力苦しませない最大火力
焼却、限界突破の炎による奔流を
ダイヤにも沸点はある──永遠じゃない
当たり前だろう
……どちらも、僕以外には譲りたくないな
巨蟹卿
欲に飲まれ過ぎずに生く為の理性を
不幸と謗るお前に同意できない
消えると決めつけさせるものか
僕の心を灼く光も
見つめていたい星も
ともに生きるあの子だけなんだ
ラピタ・カンパネルラ
【仄か】
(朧にかえった視野にうつる、ひとのかたち)
(その灰色も、宝石の反射も、長い三つ編みも背丈もーー知ってる。でも、幻。だから、その名前を呼んではあげない、想ってもあげない。)
【オウガ・ゴースト】、肉をくべろ。水晶に貫かれた箇所は、もう炎にくれてやった。
焼却、怪力、部位破壊。冷えた海と僕らの炎の温度差でーー脆く崩れれば良い。
……ふふ、ごめん。幻相手じゃできないような事、したくって。
分け合えるのも、叱ってくれるのも、君が君(本物)、だから。
だから。
永遠に幻を見るのは、きっと物足りないよ。
君のいうしあわせは寂しすぎるもの。
ねえ
燃え尽きた後に残る灰にも
熱も意味もあるって、知っていた?
●黒鉛
魔法がとけてみれば真夜中。
醒めて朧にかえった視野に、ぽっかり浮かぶ月がひとつ。真円を描いているのであろう輪郭は、融けたように崩れている。
そう、――これでも随分、視えるようになった。
……月があるなら、この義眼でも十分戦える。
多くの人は宵闇を恐れて惑うものだけれど、僕には元より進む以外の道がない。茫洋とまばゆい昼よりも、道標の輝く夜が快いこともある。
敵の姿も先よりずっと捉えやすい。ぼんやりと白い肉だったものが、段々とひとつに縒り合わさって――光沢を得た表面が、月灯りを受けて反射する。グリモアベースの片隅で見た宝石の輝きに似る。そしてその光の中に、揺らめくひとのかたちがうつって。
朗々と、語り掛けるような声が聴こえた。
愛おしいもの。
守るべきもの。
その甘い言葉から描き出された絵姿は、いつもの君より妙にくっきりとして視えた。
虹の色を全部混ぜたような灰の髪。足まで届く長い三つ編み、抱きつきやすい背丈も皆――知ってる。知らないところがひとつもない。
でも、だからこそ、幻だ。これは多分、僕の持つ君の思い出を繋ぎ合わせて造られた夢だ。
名前を呼んではあげないし、想ってもあげない。見つめたいとも触れたいとも思わない。だって、そんなことしたって一人遊びと変わらないもの。
「――っ、」
第一、今は傍らに、本物の君の呼吸の気配がある。
「遺されたものは夢や永遠じゃあない。結果で、現実で、……だからこそ」
その息遣いを聴くだけで大体わかる。きっと君は大切な『炭素の塊』を握り締めて、それを愚弄した邪神を睨みつけていることだろう。そうやっていつも美しく怒ってみせるのが君だ。けれど、ひょっとしたら笑っていたりするのかもしれない。時々わからないくらいが丁度良いんだ。
帰ったら答え合わせをしよう。温かい寝床で毛布にくるまって、また、お互いの話をしよう。だから、今は訊かないよ。――君がその宝石の中に何を視たのかなんて。
「だからこそ、鮮やかに想いを繋ぎ、生きる為の動力たりえるんだ」
「うん、……カロンの言う通り」
人は『永遠』に憧れたりもするけれど、それでも、宝石にささやかな夢を見て、宝石になれない炭素を燃やして今日を生きるんだ。
「だったら、僕らは燃えなくちゃ」
――さあ、肉という名の炭素をくべろ。
月光の示すほうへと真っ直ぐ駆ける。愛おしむ為でも守る為でもなく、焼き尽くすために右手を伸ばす。
水色の表面に届いた瞬間、鋭く貫かれた掌は――もう同じ色の炎にくれてやった後だ。流れるまでもなく血が乾き、傷が固まる。痛みなんて無いのと同じだ。そのまま炎を全身に巡らせて、抱きしめるように腕を回す。
「って、すぐ無茶して気が抜けないなきみ!」
ああ、その声色は間違いなく焦っているな。
「……ほら貸して」
「ん」
そして僕は今、たぶん、幸せそうに笑っている。
遠のいた痛みの代わりに、手と手が重なる感触がする。半分になった炎の熱が、春のように暖かく身体を包む。
……ああ。
君がこうしてくれるって承知の上で燃えるんだから、僕も贅沢をおぼえたものだ。
●連星
強く硬い青の中、澄んだ柔らかな色がある。青と白のあいだ、みずいろと呼ばれる全てのうち、僕の心を捉えてやまないたった一色。
それ以外を視る訳がなかった。
痛みを分け合う、身体を寄せ合う、それが僕のしてやれることの限界だ。
――たとえば、もしもの、こんな話を夢想する。きみが傷つくことのない道を選んでくれたなら。きみが擦り減ることのない世界がどこかに在るのなら。果てまでも共に往こうと誓いはしても、そうした迷いが消えてなくなることはない。
邪神の思念が囁きかける。その逡巡に身を委ねれば、眼前に浮かぶ穏やかな微笑みも『永遠』になるのだと。
「違う」
ここには愛しむ全てがあるようでいて、その実、拒むべき陳腐な結末がひとつあるだけだ。間違いようがある筈もない。こんな冷たい棺の中にきみの幸せが見つかるものか。満ち足りた顔で眠れるものか。めでたしめでたしで絵本が終わるものか。
だからこれは、僕の見た夢の話だ。きみの願いは、きみの命はきみのものだ。
「……ふふ」
「きみなあ」
本物のきみはといえば、何故だかとても幸せそうに笑っている。
右手には灼灰の熱があり、左手には重ねた肌の温もりがある。本当に守るべきものの所在は確かだ。
しかし、いくら幻とはいえ、敵は彼女の姿を象っている。極力苦しませたくはない。大体きみ、痛かろうと熱かろうと同じ顔で笑うんだものな。見ていられるか。
「最大火力だ」
遺灰から誂えた刃、鮮血、その脈打つ熱が黒銀の炎に注がれて、青白の炎と肩を並べる奔流となる。僕一人では届きようもないこの高温は――父が力を貸してくれているのだと、そう思ってもよいだろうか。
……この刀身を大切に扱ってきた僕だからこそ、知ることもある。
「ダイヤにも沸点はある──永遠じゃない」
他より硬い、熱に強いというだけで、決して砕けない訳ではない。海の底に隠したところで、いつかはこの惑星ごと燃え尽きる。僕も、あの子も、――お前も同じだ、『巨蟹卿』。
冷えた海と僕らの炎の温度差に晒された上、そこに強い衝撃が加われば――。
「脆く、」
「崩れろ!」
同時に蹴り上げた瞬間、水晶が剥がれるように左右に割れた。
……受け身も取らずにふらつくラピタを、左腕だけで抱きかかえる。右手の先は、代償の共有で灼いてしまった。
「ごめん」
「なにがさ」
「幻相手じゃできないような事、したくって」
甘えるように体重を預けてきたのはほんの数秒、また、ゆっくりと立ち上がる。進むことしか選ばない彼女は、しかし嬉しそうに僕を振り返る。
「分け合えるのも、叱ってくれるのも、君が君、だから」
「当たり前だろう」
けれどもそんな当たり前を、きみが僕に願ってくれるなら。
「……どちらも、僕以外には譲りたくないな」
それ以上の幸せなんてありやしないんだ。
「だから。……永遠に幻を見るのは、きっと物足りないよ」
言葉の続きは僕ではなく、ひび割れた宝石に向いていた。
「君のいう『しあわせ』は寂しすぎるもの」
「……巨蟹卿」
最早幻を映さない、石礫と化した『敵』の姿に向き直る。たとえ相容れなかろうと、言葉が通じる敵には語り掛けるべきだろう。それがラピタの優しさで、僕の礼節だ。
「欲に飲まれ過ぎずに生く為の理性を、不幸と謗るお前に同意できない」
自分の願いだけでなく、誰かの願いを重んじるために理性がある。
僕の勝手な独りよがりで『永遠』なんかを叶えても、そこに本当の幸福はない。僕の心を焼く光も、見つめていたい星も、ともに生きるあの子だけ。互いに願い、欲し合うことのできるあの子だけだ。
「それを、消えると決めつけさせるものか」
「うん、……ねえ、巨蟹卿」
あれ程水晶に貫かれた後だというのに、ラピタはまるで躊躇うことなく劈開面に優しく触れる。危なっかしいが、それが、きみだ。
「燃え尽きた後に残る灰にも、――熱も意味もあるって、知っていた?」
返事はない。
何か戸惑うような邪神の思念が、頭の奥に響く気がした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
安喰・八束
流石に、堪えた
真の姿、黒い狼人の皮を被る
此方の方が、まだ戦える
死ねば終い、と思っていたならば、
此処まで存える事も無かったろうよ。
二段構えで光を放つ、ニ撃で必殺とあれば
「狙い撃ち」
籠める弾はまずは煙幕弾
光を弱め、道筋を見えやすく(追跡)
初撃に当たらんように立ち回りながら、光の出処へ
石を砕く貫通弾で「狙い撃ち」を重ねる(見切り、スナイパー、鎧無視攻撃)
煙幕を放つ前、見えた影の奥
そんな冷たい処が、妻子の待つ浄土であるものかよ
なあ。
●銃声は遠く
流石に、堪えた。
そうと眼に映るものへと銃口を向けたのも。引鉄に指を掛けたまま、其れが砕かれるのを見ていた事も。
二つに割れた水晶に、細い影と小さな影がひとつずつ。
……無論、一目で只の幻と判る。術や薬で夢見心地にされる訳でもなく、正気のままに騙し絵を見せられているだけだ。腹の底は吐き気がするほど煮えているのに、頭は妙に冷えている。寝姿が縦に浮いているのが奇妙だとすら思う。
だからこそ、猟師の勘も確り仕事をしてみせる。――『敵』に綻びが入った今こそ好機、迷わず撃てと告げてくる。
「……ち」
舌打ちが空々しくて敵わない。
此れならいっそ、狂えた方が幾らかましだ。
月光も、狼の血も、然程酔わせては呉れなくなった。
――酔えないことは承知の上で、狼人の皮を被る。
黒い毛並みは闇夜に紛れ、伏せた氷の冷たさを防ぐ役にも立つ。そして何より――人の身で、黙ってあれを撃つ訳には行かぬ。撃ててしまう訳には行かぬ。人としての一線なぞ今更語る資格も無いが、此方の方が、まだ戦える。
それとも何か。あの石の前で血気盛んに啖呵を切れとでも云うか。こんなものは幻だとか、俺の知る二人こそが本物だとか。――そう出来る奴が一番正しいのだろう。いい歳をして甘いのは、甘くなったのは己れの方だ。
心の隙に囁きかける邪神の声を、喉を鳴らして振り払う。
永遠を謳う邪法が何だ。肉が朽ちるのは当然だ。本物の妻子の亡骸は、もう、疾っくに。
「死ねば終い、と思っていたならば、……此処まで存える事も無かったろうよ」
戯言相手に惑う様では、それこそ死の後に合わせる顔が無い。
傍らの“古女房”に弾を籠める。
敵の遣り口は十分見切った。初手で影から光を放ち、それで捉えた対象を更なる光熱で焼く二段構えだ。二撃目の必殺を凌ぐのは無理筋と見て良いだろう。ならば初撃を散らすことが肝要か。
故に、まず選んだのは煙幕弾だ。
――少し離れた流氷に、浅く斜めに刺すように撃つ。弾の勢いを受けた氷塊はゆっくり海面を滑り、煙を撒きながら戦場を横切っていく。
居場所を悟られぬうちにすかさず位置取りを変える。ひとつ、ふたつと流氷を移る頃にはすっかり煙が拡がっている。こうなれば此方からも敵の姿は見えないが、代わりに光が弱まって、その道筋が見え易くなる。
あの光に、真正面から当たれば終わりだ。
横から軌道を読んで避け、その出処を見定める。
しかし今、氷海の上に残された足場は極僅か。この立ち回りを長くは続けられないし、同じ手を繰り返す猶予もあるまい。宙を跳ね回る芸当を持たない自分にとって、おそらく此処が最初で最後の出番。
確実に。
出来る限りの大技を。
此方も二撃で必殺と行こう。未だ冷めない銃身を握り、次なる弾を手早く籠める。――山の岩肌、砦の石壁をも砕く貫通弾だ。これを水晶の割れた処に叩き込む。
いつものように伏せて眼を凝らす暇はない。一瞬で、思い描いて狙い撃つ。
――この煙幕を放つ前、確かに見えたあの影の奥を。
嗚呼、こんなものは幻だ。俺の知る二人こそが本物だ。
そしてその本物を、――あんな安らかな顔で行かせてはやれなんだ。其れが罰で、其れこそが罪で、喩えこの身が燃え尽きようと消える事のない真実だ。
こんな男と何故連れ添ってくれたのか、こんな父の下に生まれて倖せだったのか、尋ねなけば解りやしない。顔を合わせる機会もなく、問答無用で地獄行きやも知れないが――だとしても、贖う罪が、聞きたい答えが、ほんの一筋の希望が無ければ、こうして一人生きている意味も無いだろう。
少なくとも。
そんな冷たい処が、妻子の待つ浄土であるものかよ。
「――なあ!」
咆哮も、銃声も、矢張り啖呵には成らなかった。
成功
🔵🔵🔴
多々良・円
胸に抱く想いは、死ねば消える。
月日が経てば、残された想いも想い出も薄れていく。
しかし、水が空と海を廻り廻るように、命も想いも廻り廻るもの。
新たな風が吹く。命が芽吹く。
それが人。それが世じゃ。
再び天候を操り、雨や霧を降らす。
水は光を折り曲げるものじゃ。
しかし相手は神。
更に【錬成カミヤドリ】で複製した本体を念動力で展開するのじゃ。
ひとつひとつが囮であり、壁であり、更には。
それらをくるくると回せば、雨を纏い霧を震わす。
光の一閃を防いだら、月白の雷光を敵めがけて吹き飛ばすのじゃ。
大切な者、か。
たくさんいる。たくさんいた。
それ故か影にしか見えんのう。
わしは朽ち果てるまで、皆の温もりも祈りも抱えていこう。
●くるくる、くるり
「――胸に抱く想いは、死ねば消える」
と言っても、わし自身に死んだ経験がある訳ではないが。
それは誰しも同じこと。ただ見送って、手を合わせて、死とはそういうものなのだと次第に覚えていく。少しばかり長く生きておる故に、人の身よりはそうした機会が多かった。
月日が経てば、友や家族に残された想いも薄れていく。そうやって、彼らもまた、想い出を胸に抱いて死んでいく。
「ならばその想いを器物に託そうと、そう願う者も居るじゃろうの」
他でもないこのわしが、それを否定することはできまい。
――夜空に向けて広げた傘は、すっかり常の装いに戻っている。よく手入れされた臙脂の和紙が、ほんのりと月灯りを透かす。
この身は傘で在りながら、ただ雨風を凌ぐ道具に非ず。明日の天気を乞うための祭具のお役目を賜った。百年余、多くの者の願いを受け止めてきたものだ。あの青い宝石も、始まりは似たようなものだったのやも知れぬ。
「しかしな、人の幸せをわしら器物が決めてはならん」
それは領分を超えておる。
「形あるものはいずれ壊れる。わしも。おぬしも。……そうじゃろう?」
問いかけた先の石柱には、既に無数の亀裂があった。
――月に叢雲の喩え通りになってしまうが、凪の刻限はそろそろ終わりじゃな。
白群の神風に、今ひとたびの雨を乞う。
まずは海面から真白い霞が立ち昇り、雲の高さで雫となって降り注ぐ。その繰り返しが天気を造る。嵐と呼ぶほど激しくはないが、一寸先も見通せぬほどに濃い霧となる。
水は光を折り曲げるもの。
雲が白いのも、海が青いのも、雨粒の向こうの景色が少し大きく見えるのも、光が曲がるからなのだと云う。……敵が影と光を用いるならば、この霧が何よりの盾になるじゃろう。
しかし、相手は神。それも得体の知れぬ異形の神じゃ。自然の摂理というものが何処まで通用するかは分からん。念には念を入れておく。
くるくる、くるりと傘を回す。露先の鈴が奏でる音が、二つ、四つと重なっていく。
そうやって複製した傘を、夜空いっぱいに展開する。円い影のひとつひとつが敵を惑わす囮となり、いくつか重ねれば壁となる。更にそれらは本体の動きに呼応して、雨を纏い、霧を震わせ、月の光を朧に散らす。
――誘われたかのように、光の一閃が大気を打った。
「む……!」
霧に風穴がひとつ空いて、囮となった傘がいくつも弾け飛ぶ。
なんとか逸らして防ぎ切った。……これだけの熱で焼かれたら、本体も多少傷むやも知れぬ。なに、ならばまた手入れをすれば良いだけのこと。生きるというのは、そういうものじゃ。
「水が空と海を廻り廻るように、命も想いも廻り廻るもの」
いよいよ濃さを増した霧は、やがて雷雲へと姿を変える。
「新たな風が吹く。命が芽吹く」
さあ、寸分違わずお返しと行こう。先程の風穴、雲の切れ間に突き刺すように、――月白の雷光が一直線に敵へと走る。
「それが人。それが世じゃ」
ほんの一瞬、その向こう側に影が見えた。
愛おしいもの。守りたいもの。――大切な者、か。
たくさんいる。たくさんいた。そしてこれからもたくさん出会うのじゃろう。
村人たち、猟兵たち、旅すがら縁を結んだ多くの人々。皆等しく大切で、一人だけ選ぼうという気には到底なれぬ。あえて云うなら、傘にとってはその時に手を繋いでいる相手が全て。腕を広げて守ってやれる相手のことが全てじゃ。
そう思う故じゃろうか、石の中には何者とも判じ難い影があるばかり。
「……わしは朽ち果てるまで、皆の温もりも祈りも抱えていこう」
そうしてわしが遺した想いも、いつか誰かが拾うのじゃろうか。
――未だ形を得ない影を、白い光が貫いた。
苦戦
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ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
やあ、キミか!そこにいたんだね
いやそれともキミだった?ああいや、もしかしてあのときのキミ?
と、浮かべた球体くんに腰掛けながら、くるくると変わる影を眺めてみよう
最後にキミのなかにキミを浮かべたら、そのさらに中のキミには何が写り込むんだろうね?
すぱっと生えてきた勘に任せて水晶攻撃を避けて
UCでドーンッ!
すべてのものは時間とともに傷つき
最後には死にゆく
って?そうだね!
でも
生きている状態から死んでいる状態になることも
形があるものから形の無いものになってしまうことも
ただ変わるだけ、無くなるわけじゃない
一々キミにスクラップを頼まなくったってちゃんと残ってるさ
●神様
気持ちには、良いと悪いの二種類しかない。
カッコつけた言い方にするなら快と不快ってやつだ。つまり、気持ち良ければそれでいい。愛おしいとか、守りたいとか、そんな細かい感情を持ちださなくたって、ボクの世界は回っていく。これまでずっと回ってきた。
「――やあ、キミか! そこにいたんだね」
水晶の中に映ったのは、惑星の最初に生まれた小さな命の影だった。ほんの一粒から始まって、二つ、四つ、増えられるからってだけの理由で増えていく。
「……いや、それともキミだった?」
角度を変えれば、光合成を覚えたばかりの緑のようにも見えてくる。キミたちが大気を酸素だらけにしちゃったから、環境が変わりまくって誰も彼もが大騒ぎだったっけ。
「ああいや、もしかしてあのときのキミ? わかんないな……」
それは友達を助けるために戦った勇敢な蟹のようでいて、死者の国から奥さんを連れ去り損ねたうかつな神様のようでもあって。戦場で泣きながら歌っていたあの娘のようでいて、独房で死ぬまで本を読んでいたおじいさんのようでもあった。
「いっか、わかんなくても」
ぷらぷらと足を揺らしながら、くるくると変わる影を眺めてみる。
みんなが戦っている場所からちょっと離れて、腰掛けるのにちょうどいい球体くんをひとつ浮かべて、文字通り高みの見物だ。あの幻に精神をどーこーする力はないらしいし、まさに見ているだけならタダ。
どうせこのまま放っておいても他の猟兵が壊しちゃうんだし、それまで走馬灯を楽しむのも正直アリじゃないかなあ。
そんな事を目論んでいる間にも、影はあやふやな記憶を巡る。それは見知った猟兵たちの姿を経て、――最後に、青い宝石の形を作った。
うん、そうそう。さっきの巨人は見苦しい上にうるさくて最悪だったけど、このみずいろの幻はけっこう綺麗だ。『キミ』のことは嫌いじゃないかもな。
じゃあこうやって、キミの中にキミを浮かべたら、そのさらに中のキミには何が写り込むんだろうね?
もっと近付いてみたくなった。そう思い立った瞬間、さっきまで考えていたことなんて全部忘れていた。ひとっ跳びに宙を蹴る。あ、触ったら何かまずいんだっけ? まあいいや、何とかなるでしょ。
天辺の尖ったところに着地する。いくつかにヒビ割れたキミの中に、その数だけのキミがいる。そのキミも全部ヒビ割れていて、その中のキミを数えきる前に――ボクを目掛けてキミが溢れ出す。
「わっと!」
生えてきた水晶をすぱっと避けて、その側面を蹴って一回転。するとちょうど目の前に、いかにも脆そうなヒビがある。
「――キミも崇めていいんだよ」
せっかくだから、神撃《ゴッドブロー》を叩き込む。
「ボクだって神様だからね!」
キミの破片が、数えられないくらいに増えていく。一斉に何かを問い掛ける。永遠だとか、幸福だとか。声や言葉というよりも、歌に似た音色で響いてくる。
――すべてのものは時間とともに傷つき、最後には死にゆく……って?
「ま、そうだね!」
でもさ、それは別に悲しいことでも何でもなくない?
確かにキミを嫌いじゃないとは思ったけど。じゃあ壊さないよう気を付けよう、押し花みたいに取って置こう、だなんて全然考えなかった。ボクのやりたい事なんて一秒一秒で変わるんだから。そもそも、守るってそういうことじゃなくない?
生きている状態から死んでいる状態になることも、形があるものから形のないものになってしまうことも、ただ変わるだけ。熱が流れ出したって、固体が気体になったって、消えて無くなるわけじゃない。原子と原子は何回だって手を繋ぐ。
「一々キミにスクラップを頼まなくたって、ちゃんと、全部、残ってるさ」
そりゃ、なんとなくボンヤリと、って感じではあるけれど。
――風は案外、色んなことを憶えてるんだ。
成功
🔵🔵🔴
柊・はとり
…
は?
おい待てよ
何でよりによってあいつの姿が見え…
とか言うと思ったか?
『そんなものは幻だ』。
憎い奴なら腐るほどいるし
守りたい奴は大勢いたよ
十六年しか生きてない俺のリアルなんかそんなもんで
死にたいだなんて今でも全然思ってない
だから首千切られても生きてんだよ
これが理性か?これが不幸か?
だったらあんたも今から憎い奴だ
丁度いい
最初からずっと気に入らなかった
融けるのはお前だよ
【第三の殺人】
灼かれるまでもなく燃えてやるし
地形なんかこっちが破壊してやる
沈め、そして凍れ
その躯じゃどうせ自力で這い上がれねえだろ?
まあ不幸にも理性の塊が味方なんでな…
…いや敵か?
ご覧の通り俺は偽翼で浮く
この痛みは不幸なんかじゃない
●死に損ないのニケ
面倒だから最初に飛んだ。
どうせ足場を崩されるなら、考える事は端から少ない方が良かった。
そこから先は一瞬だった。近距離戦を選んだ猟兵たちの攻撃が重なって、あの馬鹿でかい水晶は『生まれると同時に二つに割れた』。上空からはそう見えた。
……続く猛攻の最中にも、邪神とやらは変わらず問いを投げ掛けてくる。余裕ぶった声色が、頭蓋の奥に直接響く。
要約すれば、――ダイヤモンドに永遠の愛を誓わないか、と。
「胡散臭え……」
まるで宗教勧誘じゃねえかと言ってやりたくもなるが、実際にその通りだからタチが悪い。無駄に科学用語っぽいのを混ぜるのが最近の流行りなのか? しいて評価できるとしたら、村をあげて襲い掛かってくる信者集団が居ないところだな。
まあいい、つまり地味な精神攻撃を好むタイプのオブリビオンか。怪電波なんか飛ばしてる暇があるんなら、問答無用で俺達を灼き尽くした方が早いだろうに。
見下ろす先、水晶は殆ど砕けかけていた。
「…………」
決着がつく前に一度、幻とやらを覗いてみるか。
この中に映った影の形が、貴方にとっての『輝き』です――という訳だ。その辺の占いや心理テストよりは当たるんだろう。俺だって人並みくらいに興味はある。
「――は?」
戦場に満ちた煙や霧の向こうへと、眼を凝らして、――見開いて。
「おい待てよ。……何で、よりによって、あいつの姿が見え……」
なんて。
久しぶりに『普通の男子高校生』をやるのも、割と楽しくはあるんだが。
「とか言うと思ったか? ――『そんなものは幻だ』」
どうして俺は、真実を答えないと気が済まないんだろうな。
『あいつ とは 誰ですか? 柊はとり』
「知らん」
空気を読め、なんて言ったらまた天気予報を聞かされかねない。質問に答える代わりに、『コキュートス』の切っ先を水晶に向けてやる。
その中に映る水色の影は誰の姿もしていない。おおまかに人の形を保って、ゆらゆらと揺れているだけだ。
『では 連絡先から 検索します――』
――憎い奴なら腐るほどいるし、守りたい奴は大勢いたよ。
毎日顔を合わせるクラスメイトも、会ったこともない芸能人も、同じぐらいに好きだったり嫌いだったりするのが普通だろう。十六年しか生きてない俺のリアルなんかそんなもんで、七十億人から誰か一人を選ぶなんて想像も出来やしない。
ああ、もう七十億人も居ないんだったか。
守りたいものを選ぶとしたら、守るだなんて大袈裟な言葉を使わなくて済む日常だった。
『あいつ は 見つかりませんでした』
「何でもいいから力は貸せよ」
蒼い炎が身体を包む。
氷の大剣が生む光は熱くもなく、かといって冷たくもなく、ただただ痛い。肌という肌がひりついて、縫い目から内側の肉に突き刺さる。ああ、こんな様になっても俺は、――死にたいだなんて、今でも全然思ってないんだ。
何かひとつ失くしたからって、全部を諦められるような潔い人間じゃねえんだよ。
だからこそ、首千切られても平気な振りして生きてるんだろうが。
「これが理性か?」
そんなものに縛られているつもりはないし、
「これが不幸か?」
そんなものに酔っているつもりもない。
「――だったらあんたも今から憎い奴だ」
丁度いい。最初からずっと気に入らなかった。人殺しにありがちな押し付けがましいその態度。そういう奴の言葉はな、大体最期に自分に跳ね返って終わるんだ。
「融けるのはお前だよ、『巨蟹卿』」
第三の殺人に、斬撃なんて上品な攻撃手段は登場しない。
落下する。この肉体と鉄塊を暴力として叩きつける。撲殺を通り越した圧死を喰らえ。――水晶を伝った衝撃が、根元の氷を諸共砕く。その勢いを殺すことなく海面下へと突き落とす。
灼かれるまでもなく燃えてやるし、地形なんかこっちが破壊してやる。黙って沈め、そのまま凍れ。その躯じゃどうせ、文字通り手足も出ないだろ。
――炎に触れた海水が凍りつけば、密室殺人の完成だ。
氷を蹴って、再び飛ぶ。敵の真上に長居をしても他の猟兵の邪魔になる。……痛み度外視の状況判断にも随分慣れてきたもんだ。
「まあ、不幸にも理性の塊が味方なんでな……」
『感情表現が 必要ですか? わーい』
「喜ぶんじゃねえよ」
そりゃあ苦痛が供給されればお前は嬉しいだろうがな。
――ご覧の通り、足場なんてなくたって俺は偽翼で浮くことが出来る。どんな代償を払うにしても、氷の中で不貞寝するよりずっと自由だ。
このポンコツが敵か味方かはひとまず置いておくとして。
……この痛みは、決して『不幸』なんかじゃない。
大成功
🔵🔵🔵
ジャガーノート・ジャック
(愛しきもの。守るべきもの。いずれの面影をみるか。
一度泣かせてしまった"姫"か
多くの戦場を共にした"相棒"か 守れなかった一番の友、"ハル"か
――或いはそれら全てか。)
(いつか消える思いなら石に託して永遠にすれば良い。
死は永遠と幻声が唄う。
光が溢れ鎧を貫く。
頷いてしまえば「永遠」になれるのだろうか。)
――『糞食らえ』だ。(ザザッ)
(過去に囚われ続ける"忘却"らしい陳腐な物言いに
真っ向から否定を吐いてやる。
九割は真、一割は強がりだろう。――その一割で貰うダメージも、学習し吸収し、反骨心と共に熱線銃に込めて撃ち出してやる。【カウンター×スナイパー】)
停滞と停止を
永遠とすり替えるなよ。
(ザザッ)
●愚者の切り札
愛しきもの。
守るべきもの。
……何も知らなかった『僕』であれば、或いは全てを忘れ果てた『何か』であれば、御大層な言葉だと一笑に付して終わるのだろう。
幸いなことに、現在《いま》の本機はその何方でも無い。
それが眼前の敵へと晒す隙に成るのだとしても――幸いなことに違いなかった。
……外観こそ南極の海に似ているが、『超次元の渦』の内部は酷く不安定だ。
誕生と致命を繰り返す呪いの中で、時系列が幾重にも分岐するのを観測する。その事象に取り込まれた猟兵たちが、独立した時空の中で各々が描く幻と対峙する。
誰かが怒り、誰かが笑う。『そんなものは幻だ』と口を揃える。それら全てを知覚する。客観的な並列処理が可能なのは、この身が現実から切り離された電脳体である故か。
では自分は、如何なる感情をもって、いずれの面影を見るのだろうか。
例えば一度泣かせてしまった“姫”を見る。
守るべき対象だ。あの涙に報いなければ最低だ。そういった判断や罪悪感ではなく――ただ、彼女が傷付く姿をもう見たくない。単純で素朴な感情が湧くことにまず安堵する。手放しかけてしまった誓いを、胸の内に確かめる。
例えば多くの戦場を共にした“相棒”を見る。
あの肉食獣に関して言えば、守るという表現は少々そぐわない。在らぬ方向へ突っ走らぬよう注意するのは『守る』のうちに入るだろうか。まあ、そうせねばならない機会も、この頃は随分少なくなった。
そして、守れなかった一番の友の姿を見る。
……キミには結局最後まで、守られてばかりだったからな。守りたいと願った時には全てが遅く、果たすべき約束だけが遺された。
“ハル”。
大切なものが、こんなにも増えた。ほんの少し前の僕だったら、この水晶の中にはキミしか居なかっただろうにな。
重ね合わせの幻影が、砂嵐に呑まれて崩壊する。
――それは、まるで、『欲張りすぎだ』と告げるかのようだった。
果たして本当に、今ある幸い全てを守り切れると思うのか。
己の浅はかさの所為で誰かを傷付けるかも知れない。この手の届かない場所で誰かが傷付くかも知れない。かつて抱いた鮮烈な思いも、時間と共に色褪せていく。そうやっていつか全てが消えるなら、いっそ何かに託して永遠にすれば良い。
生命と云う演算も吐き出す熱も放棄して、最も美しい状態を石に彫り刻んで、絶対零度の世界に保存すれば良い。
さすれば死こそが永遠と、澄んだ幻声が唄っている。
結晶体から光が溢れ、漆黒の鎧を鋭く貫く。
否、貫かれた訳ではない。あの光は端から鎧と干渉していない。問いも、幻も、役割《ロール》の内側に直接響いている。
――本当の貴方は、そんなに強くないでしょう。
それに頷いてしまえば、このまま『永遠』になれるのだろうか。
「――『糞食らえ』だ」
論理も不要。反証も不要。相手が陳腐な物言いで煽ってくるならば、此方も使い古された罵倒を吐くのが定石《セオリー》だ。過去に囚われ続ける“忘却”の化身に、真っ向から否定を叩きつけてやる。
己が答えを出した瞬間、別たれていた時系列が収束する。
猟兵たちの総意がある一時点に集中し、――『巨蟹卿』の身体は『生まれると同時に二つに割れた』。
――ザザッ。
電脳体再構成開始。
****************************____ (88.5 %)
MODE: FEED-BACK
貰ったダメージが文字列として視界に走り、無味乾燥な情報となって流れ込む。それを再び感情論で解釈すれば、先程の答えは九割が真。……残り一割は、強がりということになるのだろう。
――望むところだ。
その一割が己の弱さであるならば、得られる痛みも過ちも糧とするまでだ。学習し、吸収し、経験値として数え上げる。熱戦銃の威力に加算し、倍以上にして返してやろう。この胸の内に燃える反骨心は――演技などでは、決して無い。
燃えて、砕けて、海へと沈め。熱力学の法則とやらを自身で体現するがいい。
再構成完了。
――改めて、本機の答えを、此処に在る猟兵皆の総意を喰らえ。
「停滞と停止を、『永遠』とすり替えるなよ」
――ザザッ。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『『閉鎖機構』ヴァーリ』
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POW : 一緒にいようよ。
戦場全体に、【段々水が注がれていく水槽】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD : きみが欲しいよ。
【随伴硝子球】から【水槽に引き込む不思議な水】を放ち、【鹵獲】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : さよなら。
自身が【さみしさ】を感じると、レベル×1体の【骨になった魚たち】が召喚される。骨になった魚たちはさみしさを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「エンゲージ・ウェストエンド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●一人遊びの空論は前提からして閉じている
灼けて、砕けて、沈んでいく。
殻が破れて、皮が剥がれて、蛹が孵る。
凍てつく海のいちばん底で、ぼくは透明な四肢《はね》をひろげる。
――瞼をひらいたその瞬間、独りぼっちじゃなかったことは、少しだけ嬉しかったんだ。
きみたちみんなが、ぼくを見ている。
飛べない誰かは、流氷が全部なくなったらそのまま溺れ死ぬだろう。飛んでいる誰かは、空の上から一方的にぼくを殺せるつもりだろう。そんなのどっちもつまらないよ。この宇宙の片隅で、せっかく、出逢えたぼくたちなのに。
「ねえ、ともだちになってよ」
そして一緒に遊ぼうよ。
「ここにおいでよ。やさしい言葉だけ使ってよ。傷付いたり、傷付けたりしないで、きれいな骨になるまでぼくのともだちで居てよ」 けれど、本当はもう知っている。ぼくの想いにきみたちがどんな答えを返すのか。――『さっきまで』、『ずっと』、ぼくはきみたちの言葉を聴いていたんだもの。
「……そっか」
嫌なんだよね。
さみしいな。
だったらいいよ。言葉なんて人間の鋭い鳴き声だ。陸の動物が手に入れた、牙や爪を使わないだけの暴力だ。きみたちが何にも言わない魚だったら良かったのに。
一瞬で、世界は願った通りに書き換わる。
水晶のかけらが枝葉を伸ばし、空も海も一緒くたにして硝子の迷路へと変えていく。ひたひたと注がれる水が、骨になった魚たちが、見渡す限りのアクアリウムを描き出す。
みんな水槽に閉じ込めてあげる。
肺なんて海水で満たしてあげる。
――それが嫌なら、ぼくのところまで会いに来てよ。
安喰・八束
空を飛ぶ術を持たぬ俺は、とうとう氷の浮く水に放り込まれるのだろう
この狼の皮でどれだけ保つか
ところで
銃手ってのは火薬炸薬、色々持ち歩いているもんでな(毒使い、戦闘知識)
中にゃ水を被ると爆発するものもある
体の動きを封じられようが、ただの反応は止められまい
水槽、奴の眼前に叩き込まれる頃が、薬入れに水が回り切る頃合い
拘束する水を吹き飛ばし爆発を推進力に肉薄、"悪童"を叩き込む(だまし討ち)
その為の片腕使えりゃ十分だ(激痛耐性)
餓鬼みてえなツラで悟ったような態度で下らん我儘垂れてんじゃねえ
水で言葉を封じたなら牙も爪も飛んでくるのが道理だろ
狼を、呼んじまったな。
●声を失くして人も獣もあるものか
海面が揺れた。
それは波のように見えたが、只の水では在り得なかった。足を取られた瞬間に異様な気配が肌を伝う。……喩えば蛇が舌を伸ばして、獲物を丸呑みにする時のような。明確な意思を感じる動きだ。
「……こりゃあ、」
逃れられんな。
最早この戦場に、大の男が足場に出来るような氷は残っていない。今だって一抱えの氷を頼みに浮いているだけの体勢だ。それすら敵が許さないなら、俺はとうとう昏い水へと放り込まれる事になるのだろう。
まあ、いい。むしろ此処まで良く立ち回ったものだと満足しさえする。空を飛ぶ術など持たぬ俺は、――この段に至っても尚、そんな術を欲しいとも思わない。思わないから、得ないのだろうよ。
軽く吸う。
適度に吐く。
重要なのは肺腑に残す気息の量と、相方を決して手放さぬ事。
――鉄筒を腹に寄せると同時に、見えない蛇が獲物を呑み下す。
瀑布の如き轟音がまず耳を打つ。くぐもった静けさがその後に残る。
沈んでいく。その独特の感覚が、いくつかの記憶を呼び起こす。身を隠す為に堀に飛び込んだ時だとか、……否、むしろ此れは簀巻きにされた時に近いな。うねる水が四肢を捉えて、指の一本もまともに動かせないときた。
心の臓が止まらなかっただけでも良しとするべきか。氷水の冷たさは浸かってしまえば意外と慣れるし、狼の皮は脂を含んで水気を弾く。激戦を抜けたばかりの“古女房”も、熱された銃身が微かに温い。
……凍えるよりも、溺れる方が先だろう。何方にせよ、この身ひとつでどれだけ保つか。
ゆっくりと瞼を開く。
塩水の刺し込む痛みに無理やり慣らして、ぼんやり光る水底を睨む。
「――それで、終わり? なんだか普通の人なんだね」
人形めいた童子が一人、哀しそうな表情を作って此方を見上げている。
水中に漂う静寂に、その声だけがはっきり響く。潮の流れなど無いかのようにぽつりと砂上に佇んでいる。透き通った身体を見て取る迄も無い――あれは、魔性だ。
その魔性の姿が次第に近付いてくる。傍らの水晶玉に、溺れる鼠のような己が映り込む。
「ああ、だから最初に溺れてしまうのか。ひどいな、話しても遊んでもくれないなんて」
悪かったな。埒外と云えども俺はしがない銃手に過ぎん。それ以外の何かになって存える心算もさらさら無い。
「でも、いいよ、なんにも言わないで」
言葉を発する息の余裕も在りやしないが――ところで、だ。
術も無ければ翼も無い、しがない銃手の武器といったら何だと思う。
銃だと思うか。その通りだ。しかし一口に銃と云っても千差万別、籠める弾も違えば用いる小道具も違ってくる。火薬、炸薬、目眩ましに毒煙、色々揃えて持ち歩いた上で、一つたりと扱いを間違えてはならん。
――中にゃ、水を被ると爆発するような代物もあるからな。
薬入れは、左腰のあたりに隠してある。無論、湿気らぬように用心した造りのものだが、それでも水はゆっくりと染み渡る。生じた熱が火薬に回れば一丁上がりという訳だ。
体の動きを封じようが、ただの反応は止められまい。
奴は眼前。
水槽に叩き込まれるその時こそが頃合いだ。
「――えっ、」
爆音は低く、鈍い。上がった筈の水柱は、俺の視界には入らない。
脇腹と左手指の様子も確かめないでおく。一応、臓腑が無闇に飛び散らぬよう押さえつけては居たんだが。纏う飛沫には朱が混じり、水には鉄の臭いが広がっていく。
……十分だ。兎に角今は、残った片腕さえ使えればそれでいい。
術を帯びた水を吹き飛ばし、その勢いで敵へと迫る。肉薄する。――あの肩の継ぎ目を狙えば、“悪童”の刃も通るだろう。
「嫌っ……、なに!」
なんだ、それらしい驚き顔もできるじゃねえか。
だったら餓鬼みてえなツラをして、そのくせ悟ったような顔で、下らん我儘を垂れてんじゃねえよ。邪神だか何だか知らんが、子供と年寄りの良いとこ取りをしようって寸法か。
みっともない、甘えた性根が透けて見える。言葉で傷付け合うのは厭だと水で呼吸を封じたのなら、牙も、爪も、飛んでくるのが道理だろうが。
同情も、怒りも然して感じない。――残った一息を吐くついでに、俺が告げるのは単なる事実だ。
「狼を、」
問答なんぞ通じぬ獣の性を、
「――呼んじまったな」
捻じ込んだ刃の手応えは、石でも割るように硬かった。
成功
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柊・はとり
臆面もなく不幸な被害者面ができる殺人鬼は
時に純粋な悪党より厄介に思う
こいつが魔性の宝石たる所以を視た気がして
気持ちは一層冷めていくばかりだ
ここで態度変えんの最悪にだせえわ
そんなつまんねえ奴と仲良くしたいか?
だから断るし全力で潰す
俺とお前にそれ以外の正解はない
先制は避けずに受けカウンターに活かす
水槽に引き摺りこまれても継戦能力で息を止め
一時的な硬直が解けるまで苦痛に耐える
術が解けたら瞬間思考を働かせ空中浮遊で脱出
偽翼の痛みもUCに乗る
すべてはコキュートスの水槽の中…か
別に仲良くしなくてもよくね
薄っすい友情よりクソデカな憎しみの方が
かえって根深く残るもんだろ
UC発動
友達欲しけりゃまず死ねよ
じゃあな
●彫像は首があっても死んでいる
愉快犯には最低なことをしているという自覚があるし、異常者には当人なりのルールや判断基準がある。
だから良い、なんて話はしちゃいない。覚悟や美学が人を殺してもいい理由になるもんか。けれどその手の連中は、真実を暴いてしまえばそれで終わりだ。
……ああいう奴は。
全てが明かされた後にすら、臆面もなく不幸を嘆き、被害者面をしてみせる殺人鬼は――時に、純粋な悪党よりも厄介に思う。
「友達に、なろうよ――」
海の底から声が聴こえる。
あの子供みたいな姿が完全なる邪神の正体で、呪われたブルーダイヤモンドの本質だ。今回の謎解きはとっくに済んでいて、犯人の語る動機は呆れるほどに下らない。
『連絡先に 登録しますか?』
「絶対やめろ」
寂しいだとか、哀しいだとか。そうやって聞こえのいい言葉で周囲の気を惹いて、理解を示した相手から順番に食い物にするんだろうよ。悪びれもせず弄んで、思い通りにならなかったら殺すんだろうよ。いつかどこかで視たようなそいつの表情は、魔性の宝石たる所以そのものとしか思えなかった。
この場所に来てから下がりっぱなしの気持ちは一層冷めるばかりで、いよいよ微動だにしなくなってくる。
「ねえ、そんな怖い顔しないでよ」
「うるせえ」
顔は元々こうだっての。
「ってか、ここで態度変えんの最悪にだせえわ」
暴力で脅して、上から目線で餌吊って、それでも駄目なら泣き落としかよ。
「そんなつまんねえ奴と仲良くしたいか? これは推理でも何でもないが――お前、友達居ないだろ」
――突き付けた真実を遮るように、横殴りの水流が口を塞いだ。
ガキ丸出しだな。同情してほしいんだったら大正時代でやってろよ。もしくは他の心優しい猟兵を当たれ。俺は目の前の事件を無慈悲に解くか、そもそも誰も殺させないかのどっちかだ。今回が後者で本当に良かった。
他人の都合も考えないで自分の話するんじゃねえよ。友達ってのはお互いに楽しい相手を言うもんだろ。だから断るし、全力で潰す。
俺とお前の間には、それ以外の正解なんてない。
偽翼で飛ぶこともできただろうが、水流はあえて避けずに受けた。
どうせ簡単には死なない。意識さえ手放さなければ戦える。状況を見ろ。思考を続けろ。あの水に触れた途端に異常な力で引き摺り込まれて――此処はおそらく海中だ。身体は全く動かせない。じたばたせずに呼吸を止める。
死体に酸素が必要なのか。縫い合わせた首の内側で、気管は機能しているのか。浮かぶ疑問に答えはないが、息が出来ないと苦しいと感じることは確かだった。
薄目を開ける。海水が突き刺さるような痛みに耐える。暗く揺れる視界の向こうに、ガラス板に似た反射が見えた。俺を囲って組み上げられる直方体、さながら観賞用の水槽といったところか。
……もしかして、巨人の時の仕返しのつもりかよ。
「うん、これでおそろい。仲良くしようね」
密室殺人が完成し、満足そうに、ほっとしたように犯人が笑う――今、この瞬間だ。『コキュートス』。
『了解』
背中の肉の裂け目が再び凍りつく。ガラスが割れる感触が、偽翼の先端から骨まで響く。
『障害物を 撤去しました。 空中戦に 移行します』
垂直に飛ぶ。まずは脱出が最優先だ。
……あれだけ強力な拘束が、永遠に保つ筈がない。水槽に入れるまでの過程で溺死する前提の術だと踏んだ。ならばその硬直が解ける一瞬に、どれだけ大きく動けるかこそが勝負だった。お前の態度が解りやすくて助かったよ。
海面を抜ける。濡れ鼠の身体を飛沫混じりの風が打つ。必要なんて無かろうが、叫ぶ為だけに息を吸う。
「全部持ってけ!」
痛みも、苦しみも、胸糞悪さも、頭のおかしい偽神兵器にとってはエネルギー源だ。直方体の中でかすかに疼いた記憶でさえも、……すべてはコキュートスの水槽の中、か。
『――第五の殺人 解放。 出力は 最大に 設定しますか?』
「決まってんだろ!」
『エネルギー変換 開始します――』
大剣の放つ青い光が増していく。
これだけの威力が乗れば、細かく狙いを定めるまでもないだろう。あいつと周囲のガラスやら何やらを纏めて叩く。海ごと割れば後続のための射線も通る。
「――どうして。ぼくは、喋らないきみが欲しいだけなのに」
「喋りたいから俺は喋るし、別に仲良くしなくてもよくね」
仲良くするのが目的ってのがそもそも気持ち悪い。
「そんな薄っすい友情より、クソデカな憎しみの方が、かえって根深く残るもんだろ」
『変換 完了しました』
……少なくとも、俺とこいつを繋いでいるのは友情なんかじゃないもんな。
お前もまずは、ロクでもない現実を受け止めるところから始めてみればいい。とりあえず、俺をここまで怒らせたという現実からだ。
「友達欲しけりゃまず死ねよ。――じゃあな」
成功
🔵🔵🔴
カイム・クローバー
水槽の中の金魚にでもなった気分だ。
だが――俺を殺すには少し悠長過ぎるぜ?迷路が満たされるまで待つと思うか?
生憎、水の中で呼吸できるようなUCは持ってないんだ。それにこの寒空の下で水浸しなんざ風邪引いちまう。
迷路を破壊する必要はねぇさ。UCで大きく跳躍(飛翔)すりゃ良い。空から一足飛びで迷路を脱出し、会いに行ってやるよ。
空から一方的?下らねぇ。わざわざこうやって面と向かって下りてやったんだ。ま、【挑発】の意図もあるが。
降り立ったら、魔剣を突き付ける。
夏報から、アンタの始末を依頼されてる。とはいえ、一方的には趣味じゃない。分かるだろ?
暴力的な誘いはNGだっけ?悪いな、こういう遊びでしか誘えなくてね
●便利屋と只の道具を分ける一線について
目の前の透明な壁に触れてみる。
なるほど、見た目は水槽だ。それが単なる直方体では終わらずに、複雑な迷路を組み上げながら増殖していく。……こういう変わった形の水槽を沢山並べて、金魚ばかりを大量に入れた水族館があったよな。写真で見かけたことがある。ちょうど、それによく似ている。
あの中で飼われる金魚の一匹にでもなった気分だ。
何重にも張り巡らされたガラスの向こう側には、展示品を見上げる観客の姿が――いや、この悪趣味なアクアリウムを作り上げた張本人の姿がある。
「捕まえた。きみも、ここでずっと一緒にいようよ」
そいつはまるで、寂しがり屋の子供みたいな顔をしていた。
生憎と言うべきか、幸か不幸かと言うべきか。少なくとも俺は金魚じゃないし、水の中で呼吸できるようなユーベルコードも持ち合わせちゃあいない。
「……つまり、この迷路が満たされたらゲームオーバーって訳だ」
なんて余裕で笑ってみせる間にも、水位は足首のあたりを越えて膝まで迫ってくる。これが戦場全体――『超次元の渦』全体に拡がれば、空も海も区別なく、冷たい水の底へと沈むことになるだろう。
「だが――」
それはあくまで仮の話だ。
「俺を殺すには少し悠長過ぎるぜ?」
こっちがアンタのお望み通り、何も言わずに指をくわえて死ぬまで待つと思うのか。大体、この寒空の下で水浸しなんざ風邪引いちまう。帰った後に熱でも出たら色々面倒くさいんだぞ、時節柄。
「それにアクアリウムにしちゃあ――ライトアップが足りねえな!」
紫雷が迅る。
海水を伝って一帯を照らし、俺自身へと再び集中する。武器だけではなく、纏う者の肉体そのものを強化《エンハンス》する魔力の光だ。
さて、この身体能力をどう使うかだ。迷路の壁は薄いガラスのように見えて、水晶か、ダイヤモンドか、……そのいずれでも説明が付かない硬度がある。何せ、相手は完全復活を遂げた邪神の最終形態。この物質を破壊するには、こっちも同等以上の力を出さなきゃ足りないが――ま、その必要はねぇだろう。
見せる力はほんの一端。翼を広げるまでもない。
まだ塞がりきっていない空へと一足飛びに跳躍する。上方向への脱出はルール違反かもしれないが、アンタの所へ辿りつくには結局これが一番速い。
――ああ、会いに行ってやるよ。
空から一方的? 下らねぇ。確かに相手は狩るべき邪神で、やり口も相当汚かったが。だとしても、ちゃんと言葉で話しかけてくる奴を無視したりするもんか。
初撃はあくまで挑発込みの牽制だ。
素早く魔剣を顕現させ、落下の勢いを乗せて振り下ろす。大きく割れた海の底へと降り立って、その鼻先に刃を突き付ける。
……敵であるはずの人形は、さほど動じる様子を見せない。落ち着いているというよりも、諦めているような表情だ。
「きみも……ぼくを傷付けようとするの?」
「これでも手加減してるんだぜ? 本気を出したらお喋りの時間も無くなるからな」
わざわざこうやって面と向かって下りてやったんだ。そっちが話に乗って来ないってのは流石に無いだろう。
「ヴァーリ、だったか。夏報からアンタの始末を依頼されてる」
「かほ?」
「とはいえ、一方的にってのは俺も趣味じゃない。……分かるだろ?」
怯えるように後退り、ヴァーリは随伴する硝子球へと身を寄せる。すぐには攻撃されないことを察すると、おずおずと、こちらに目を合わせて。
「その子は、きみのともだちなの?」
「ん?」
予想外のポイントに突っ込まれたな。
此処には居ない奴の名前に反応したのか。まあ、毎度馴染みのグリモア猟兵でもあるし、プライベート込みでも友達と呼んで差し支えないだろう。しかし、どうにも引っかかる。
「それって気にするトコなのか?」
「……その子が、ともだちだから。ぼくじゃなくて、その子の言うことを聞くの?」
「ああ、――そりゃ違うな」
だったら俺の答えはこうだ。
「アンタの思ってるような『ともだち』じゃあねえよ。そんなもんなら要らないし、なりたくもない」
「――そっか」
結論が出たのと同時、海水が雪崩れるように迫ってきた。
問題ない。波に呑まれるより先に斬撃を決めればいい。この魔剣の名前はお誂え向きの『神殺し』だ。最小限の動きで首を狙った太刀筋を――ヴァーリは咄嗟に左手首で阻む。
「痛、いっ」
「暴力的な誘いはNGだっけ?」
その割には中々いい判断をするじゃあねえか。肩が外れて使い物にならない左腕を犠牲にした訳だな。致命傷になり損ねたのは残念だが――全力で振り抜けば、肩から指先まで粉々に砕け散る。陶磁器に似た肌色の破片が俺の頬を切る。
「悪いな、こういう遊びでしか誘えなくてね」
「……ひどいよ、さみしいよ」
寂しいだろうな。ずっと独りで。
でもそれは、俺の側だけが原因じゃないと思うぜ。
苦戦
🔵🔴🔴
ジャガーノート・ジャック
――さっきよりはずっと素直じゃないか。(ザザッ)
("寂しさ"。
偽りの永遠などという詭弁を吐かれるよりずっと共感できる。)
だが所詮
我々は忘却の化身と猟兵
相入れる事なく寄添う事もない。
最終任務を開始する。
(数多現れ殺到する骨魚一匹毎に複製した熱線銃を一発ずつ放つ【一斉発射×範囲攻撃×狙撃】。
一発では削りきれまいが――)
"Redo".
(攻撃再演。能力射程内に入った骨達を穿ち続け削り殺す。
そして望み通りお前に"会いに行く"。
海豚擬きも水晶も等しく"お前"なのだろう?
則ち能力射程内に入れば
「行った"攻撃"が再演される」【再演→1・2章攻撃】。
水に呑まれつつ
我々の総意を身に受けろ。
則ち)
"さよなら"だ。
●肩書をいくつ変えても君は君
……『ともだちになってよ』、か。
無論、此処はあくまで戦場だ。敵の発する甘言として黙殺しても構わなかった。正論で斬り捨てることも可能だろう。友人にしろ何にしろ、為ろうとして為るものでは無い、と。
だとしても。
「――さっきよりは、ずっと素直じゃないか」
零れた声は、これまでのような独白ではなかった。役割を固めるための演技ではなく、相手へと向けた会話だった。
ザザッ、と喉にノイズが走る。
遥か眼下の水底に、討伐対象の姿があった。
識別名、『閉鎖機構』ヴァーリ――より正確に表現すれば、当該UDCの外見と特質を反映した、『完全なる邪神』の第三相。視界に走る大仰な解析結果とは裏腹に、『それ』は俯きがちな表情で、傷だらけの身体を抱いて佇んでいる。
消え入りそうに細い声が、物理的距離を無視して響く。
「うん、本当はさみしかった」
――“寂しさ”。
最も嫌いな単語のひとつではあるが、さりとて誰もが抱く感情だ。少なくとも、偽りの永遠などという詭弁を吐かれるよりずっと共感できる。そして、おそらくこの邪神は、きっと本気でその“寂しさ”を訴えているのだろう。
大質量の暴力で他者を拒絶し、幻影で己を塗り固め――しかしその内側に在るのは、寂しがり屋のか弱い子供。彼の見せた三つの貌は、どこか奇妙に一貫している。
「わかってくれる?」
「多少はな」
心とは、そういうものだと思ってしまった。
「――だが所詮、我々は忘却の化身《オブリビオン》と猟兵《イェーガー》」
思ったけれども、思っただけだ。感想を抱いただけだ。既に綴られた『過去』というシナリオに、納得できる整合性を見出しただけだ。
其処でこの話は終わらせねばならない。奴の語る悲劇にこれ以上付き合えば、結末は絶対零度の齎す死でしかないのだから。
決して相容れる事はなく、互いの心が寄り添う事もない。
「最終任務を開始する」
「……そっか」
明確な敵意を告げた瞬間、海水が歪に波打った。
「さよなら」
――ザザッ。
数多現れた『何か』の総数を把握する。数フレームの位置変化からその後の軌道を試算する。どの物体も、本機へと向かう緩い曲線を描いている――つまりは大量の追尾弾《ホーミング》か。初手で大きく動くのは得策ではないな。
最優先の判断を終えて、その形状を観察する。
骨だ。
青白く透き通る骨の集合体が、巨魚の形を成している。一匹一匹が人ひとり丸呑み出来る大きさだ。
古代生物の標本めいた骨魚を数え、正確に同数の熱戦銃を複製《Ctrl + C》。各々の銃口を頭骨に向け、予測した軌道上に設置《Ctrl + V》。
「――Fire.」
一斉発射。
赫光が、不揃いに交差しながら夜空を埋め尽くす。
一発ずつの火力は精々足止め程度であろう。削りきれまい。しかし、先制攻撃さえ凌げば――手番は此方に回ってくる。
攻撃の命中を確認。
複製実行状態の付与を確認。
領域展開。
事象再演《Ctrl + Y》――実行。
海水も大気も区別なく、本機座標を中心とした半径九十一メートル。その球状範囲が"Redo"の演算可能領域だ。
骨達が愚直に殺到すれば、各々が射程内に入った瞬間に赫光の熱を再び受ける。攻撃された、という確定した事象を無限に再演する。
……火葬で遺骨が燃え残るのは、火加減を調整しているからに過ぎない。真の業火に灼かれれば、骨など容易に灰へと還る。ダイヤモンドも水晶も、完全なる邪神の身とて結果は同じ。それがお前の夢見た永遠とやらの現実だ。
穿ち続け、削り殺す。そして慎重に海の底へと降下する。あくまで本機を追尾する骨魚達の軌道が散らぬよう、ゆっくりと、確実に、――望み通り、お前に"会いに行く"。
「やっ、来ない、で」
「なんだ、今度は天邪鬼に逆戻りか」
「きみは、ともだちになってくれないんでしょう。また酷いことを言うんでしょう」
「そう、“また”だ。――あの海豚擬きも水晶も、等しく"お前"なのだろう?」
『海零』も、『巨蟹卿』も、『閉鎖機構』も、あくまで個別のUDCの姿を借りた同一個体。壁も、鎧も、脆弱な本質を護るための空論も、お前自身の一側面に違いない。
即ちこの能力射程内に入れば、等しく『今まで行った攻撃が再演される』。
さあ、彼我の距離まで後少し。
巨人どもにぶつけた大瀑布と、幻影の問いを受けての熱線。どちらもお前のユーベルコードに対する意趣返しだった。ならば最後も、受けた言葉をそのまま返そうか。
ともだちが欲しいと言いながら、何よりも他者を恐れるお前に似合いの挨拶だ。己が意のままにならない海に呑まれつつ、我々の総意を身に受けろ。
即ち――。
「"さよなら"だ」
――ザザッ。
成功
🔵🔵🔴
多々良・円
水に浸かってしまっては、傘に塗られた油の意味もないな
さほど猶予はあるまい
わしは神ではない
永久ではない(竹の骨なぞろくに残らんじゃろうな)
友にはなれん……しかし、おぬしがそうやって手を伸ばすなら
その手をとって、遊んでいくとしよう
――それでも骨魚は向かってくるじゃろうな
浮遊したまま風で水を巻き上げ魚の動きを妨げる
きりまるで断ち切り、月白の雷光で貫く
あとは念動力で直に骨を外してやるか
【開花芳烈】(同時に真の姿となる)
さ、遊ぼうか
この姿なら、雨燕の速さで飛ぶことができる
海が満ちる前に金魚鉢を飛び出して、汝に会いに行く
吾の熱、受けとめてくれるかい
それでも海が止まらなければ
遊び足りないけど、帰るしかないな
●良いことも悪いことも等しく廻るもの
もう、まともな足場はひとつもない。
海へと落ちた皆は果たして無事じゃろうか。わしは妖力を用いて浮いていられるから良いが。まあ、この戦に集った面々は強者揃いと信じる他になかろうな。
そもそも空を飛べれば安泰という訳でもない。
皆の心配をしている間にも、だんだんと潮が満ちて来る。ほんの少しでも気を抜けば、さっきまで宙に浮いていた筈の足が荒波に掬われる。何度か履物を流されかけたし、着物も裾の辺りが濡れてしまった。
……これが本物の空ならば、上へ上へと逃れ続ければ命は拾えるじゃろう。しかし、此処はあくまで『超次元の渦』なる異郷の地。おそらく、いずれは空も行き止まりになって、金魚鉢の迷路の中に囚われて、遅かれ早かれ溺れさせられる羽目になる。
「溺れる、か」
こうして息をすることも、肌を刺す夜風の冷たさも、思えば器物であった頃には知り得なかった感覚じゃな。わしの場合は、人の身が凍え溺れることよりも――本体が耐えられるかが問題か。
濡れないように高く掲げた傘ひとつ。
わしの命は、こちらの方じゃ。
無論、傘である以上、雨風を凌げるように造られておる。多少の吹雪ぐらいなら弾いてみせる自信もある。とはいっても、流石に真冬の荒海に放り込まれては敵わない。重ねた和紙も、丁寧に塗られた油も、丸ごと水に浸かってしまえば大した意味もなかろうな。
「……さほど猶予はあるまい」
第一、我が身を護るばかりでは傘の名折れじゃ。
足指に力をこめて鼻緒を掴む。行くべき処は、決まっておる。
暗い海、透き通った水の底には、ぼんやり光る人影がある。
十かそこらの、わしと変わらぬ童子の姿。……継ぎ目だらけの手指を見るに、あの身体はからくり人形か。削ぎ落された片腕からも血は一滴も流れておらぬ。残った右手をこちらへ伸ばして微笑む顔は――本当に寂しそうに見えるけれども。
「きみは、少しだけ、ぼくに似ているね」
「そうかも知れぬな」
年恰好の話ではないじゃろう。……宝石として人の想いを受け止め続けてきた『何か』が、彼岸へと誘うように手招いてくる。
「じゃが、わしは神ではない。――永久ではない」
傘以外の、なにものでもない。普通であれば人より儚い。竹の骨なぞ焼ければ灰になり、朽ちれば土になるだけじゃ。何にせよ、色も形もろくに残らんじゃろうな。それが百年も永らえたのは、手入れをしてくれた人が居たからじゃ。
「ともだちには、なってくれない?」
「悪いが、の。……しかし、おぬしがそうやって手を伸ばすなら」
誰かの手で生かされてきた傘に、誰かの手を振りほどく道理はないな。
「その手をとって、遊んでいくとしよう」
一斉に海が波立つ。冷え切った身体を飛沫が打つ。
――おぬしの抱える寂しさを、口約束で埋められるとは思っておらん。何を言おうと骨魚は向かってくるのじゃろうな。わしもこれ以上は退けぬ。空がまだ残っているうちに終わらせよう。
神風が、骨魚ごと水を巻き上げる。一度に全部は斬れずとも、動きを妨げて群れを散らせばぐんと戦いやすくなろう。
「きりまる――」
……猫らしく寒さと水を嫌ったか、日本刀の姿のままじゃな。話が早い。
まずは目前、大きく開いた空っぽの口に向かって一閃。その下顎を踏み台に、踵を返してもう一閃。
そうやって何匹か断ち切った後、散らばる骨をまとめて――天からの雷、薙刀を象った光で貫く。その熱に焼かれた骨は細かな灰となり、風に消えていく。
繰り返す。斬って、斬って、それでも追い付かない時は念動力を使って直に骨を外す。何度目かの月白の雷光を放つ頃には――きりまるの刀身が、あかあかと灼熱に染まっている。
「開花芳烈」
邪魔者はみんな片付けたかな。
「――さ、遊ぼうか」
金魚を描いた装いと、少しばかり大人びた背丈。この姿なら――熱持つ神風を纏って、雨燕の速さで飛ぶことができる。この海が満ちる前に、金魚鉢を飛び出して、汝《キミ》に会いに行く。
紅白に染まった本体を神風に乗せる。――この傘が、波に呑まれるまでの間。
「吾《ボク》の熱、受けとめてくれるかい」
ゆっくりと、降りる。熱風が凍てつく水を押し退けて、水底への道を開いてくれる。
吾から手を伸ばすと――汝は、怯えたように手を引っ込めた。
……村にも居たな、こういう子供が。本当は友達が欲しいのに、いざ誘われると逃げ出して、神社の裏で一人遊びをしているような子だ。
そんな時は、――多少無理やりにでも、手を繋いであげるといい。
「あ」
「ほら、大丈夫」
こうして近くで見てみれば、顔にも、身体にも、ところどころにひび割れがある。傷付けないようそっと触れると、汝は瞼を瞬かせて。
「――でも!」
泣きそうな顔で首を振る。
「きみもいつの間にか壊れるんでしょう。ずっと傍に居てくれないんでしょう。そんなの、ぼくを、傷付けるのとおんなじだ。そんなのはともだちじゃない――」
「そうか」
汝がそう思うなら、きっとこの海は止まらない。誰も彼もを拒絶して氷の底に沈めてしまう。吾の命が本当に危険になれば、グリモア猟兵が転移を解く。……ああ、多分、そろそろだ。
心を開いてもらうには、時間が少なすぎるんだろうか――まだまだ遊び足りないけど、帰るしかないのかな。
「さみしいな」
汝と同じ言葉が、思わず口から零れた瞬間。
みずいろの瞳が、はっとしたように吾を見上げた、ような気がした。
成功
🔵🔵🔴
大紋・狩人
【仄か】
(【隣人】が凍えぬよう、手をつなぐ
氷結耐性と水中機動
僕らの駆ける凍て水を和らげて)
ヴァーリ
言葉は時に痛いものだけど
精一杯に生きる僕らには必要なんだ
相手と噛み合わず
擦れて、心に傷がついても、
想う相手だからこそ生まれる
ひとり分の言葉じゃ見つからない
新たな道を照らす痛みの火を、
僕は寂しいと思えないんだ
(鹵獲の水にカウンター
限界突破の焼却が生む、蒸発と烈しい奔流
真摯な我儘が齎した
気泡と伝達に声を乗せる
覚悟
最後まで、伝えるさ)
僕もラピタもあげられないけど
ヴァーリ、口喧嘩だってきっと悪くないよ
(灰に遺る意味
胸元のダイヤを握りしめて)
な、仲良しみたいに交換こしよう
僕らの痕は、水底のきみを凍えさせない
ラピタ・カンパネルラ
【仄か】
(隣人と、手を繋ぐ。君の先導が、命を護り泳いでいける)
ヴァーリ
僕、優しくするのは得意だ
求められたら与えて、枷をつけさせてあげればいい
でも、それを優しいと呼ぶのは寂しいって識ってしまった
僕ら、君と話をするね
焼却、水の酸素さえ求める強欲な炎。
これは僕の【わがまま】。『僕達と君が交わした言葉が、お互いの胸に、やさしく爪痕を残して。穏やかに眠れますように』
(幸運にも海の気泡は僕らの息を繋ぐ、声の震えは水流を縫い君まで届く
僕らを殺める君の水は、不運にも言う事を聞かない事もある)
僕ら、君と、いられない
でも灰にも遺る意味を、僕ら連れていくから
ヴァーリもどうか、海の底で、僕達との口喧嘩を覚えていて
●路銀は触れあう膚でいい
ラピタは往くと言うだろうから、尋ねる必要はないと思った。
きみが海に落ちるのと、水底を行き先として選ぶのとでは、全く意味が違うんだ。
手を繋ぐ。きみが肯く気配がする。僕ら二人を諸共に攫おうとする凍て水を――目を逸らさずに、受け止める。僕が前に立つことで、ぶつかる波の冷たさがほんの少しでも和らげばいい。
そのまま潜る。重さに任せて沈むのではなく、下へ下へと駆けてゆく。
かけがえのない隣人を護りながらも、その命を燃やす場所へと導く矛盾を――互いが傷付くことを認める関係を、彼は『ともだち』と呼ぶのだろうか。
呼ばないのだろうな。
――ヴァーリ。
唇にのせた名前は、音のない泡となって消えた。
……邪神は、少年のかたちをしている。
ぼろぼろに砕けた四肢で、ひびわれた硝子の身体を抱いて、水底に蹲っている。
最初のように此方へと語り掛けてくる様子はない。頭の奥に響いてくる声もない。むしろ、思い通りにならない全てを無視して、何もかも拒絶するかのような佇まいだ。そうだな、少年というより子供といったほうがしっくりと来るか。
すっかり俯いてしまった顔の、表情を伺い知ることは出来ないけれど――震えて、泣いているように見えた。まあ、錯覚だとして構わなかった。どうせ優しく手を差し伸べてやれる訳じゃあないのだから。ラピタなら僕よりか優しくするだろうけど、きみはそれすらも拒むのだろうし。
だから、喧嘩をしに行こう。
きみが言葉を否定するからこそ、僕らは言葉を以って戦うべきだ。その営みは時に痛みを伴うもので、暴力といえばそれまでだけれど――精一杯に今を生きる僕らには、必要なものだと思うから。
「――――、」
なあ。
こちらの声は変わらず泡になるばかりだけれど、ほんとうは聴こえているんじゃないのか。
……そのまま黙って、硝子匣へと引き摺り込んで、話を終わらせてしまうつもりなら。
きみが口をひらくまで、僕らは必死に抗うだけだ。
空いた片手で水の流れを払い除ける。銀の炎が手甲となって、振り切った腕、冷え切った肌を覆ってゆく。水中に在って尚消えない――否、水すらも物質のひとつと見做して灼く炎。
燃える手のひらを前へと翳せば、ラピタの蒼が手指を伝って重ねるように注がれる。声もなく、合図もなく、炎は鮮やかな二色となって。
――蒸発。
ありったけの熱を圧へと変えて、烈しく逆巻く奔流が生じる。鹵獲の水は見る間に喰らい尽くされ、無数の気泡が視界を真白く染める。
……ラピタが肉をどれだけ焚べたのか、確かめるのは帰った後になるのだろうな。
ひとり分の炎で済む時だってあるんだから、当たり前みたいに無茶ばかりするのはどうかと思わなくもないのだけれど。そんな願いを伝えたところで、きっときみは笑うだけだ。僕はお揃いが好きだから、なんて、言って。
目に浮かぶ。振り返らずとも思い描ける。やわらかで、ほんの少し酷な笑顔をよく知っている。きみが今、どんな我儘を望んでいるかもぼんやり分かる。沢山の言葉を交わしてきたからこそ、だ。
――歯車が噛み合わず空回ることがあっても、擦れて、心に傷が付いても。それが想い合う相手であればやさしい爪痕になる。たとえ憎み合う相手であっても、やがて新たな心の形になるだろう。
だからこそ生まれる物語を、ひとり分の言葉じゃ見つからない、未だ見ぬ道を照らす痛みの火を――。
「僕は」
気泡に声が乗る。
「寂しいと、思えないんだ」
口をひらいた瞬間に、吸えるところに泡がある。空気の震えが水流を纏って響く。真摯な我儘が齎す奇跡を、肺腑に灯る僅かな酸素を、言葉を紡ぐためだけに使い果たすことになろうとも。
――最後まで、伝えるさ。
●幸福は分け合う瑕でいい
――ヴァーリ。
僕、優しくするのはきっと得意だ。少なくとも、そういう言葉に飾り立てられて生きてきた。
簡単だ、求められたら与えればいい。肉も、肌も、幸福を示す青い宝石も、ぜんぶ渡して身軽でいればいい。それを繰り返していると、求められずとも何をすれば『善い』のか解るようになる。たとえば不安げな誰かの手をとって、僕は何処にも行かないと約束すればいい。言って信じてもらえないなら、彼らの目に見える枷をつけさせてあげればいい。
君が、今、僕らにやろうとしていることと一緒だよ。
硝子匣の迷宮が砕け散る。
……視える訳ではないけれど、硬いものが割れる冷たい音がする。いくつかの破片が肌を切る。僕らふたりの炎熱が、度重なった攻撃の最後の一押しになったのだろう。
ごめんね。君の傍には行けても、水槽の中に囚われる訳にはいかないんだ。僕はもう、それを『優しい』と呼ぶのは『寂しい』んだって識ってしまった。わがままを聞いてもらえる喜びの味を覚えてしまった。見たいもの。燃えていたい場所。それを叶えてくれるひと。手放していいとは、思えないから。
「その代わり」
これも、僕のわがままだけど。
「僕ら、君と話をするね」
願わくば――『僕達と君が交わした言葉が、お互いの胸に、やさしく爪痕を残して。穏やかに眠れますように』。
海水がぴりぴりと傷口に染みる。灼いて塞ぐというにはちょっと雑だけど、周囲の肉を加えて焚べる。水にとけた酸素、水を形づくる酸素さえも求めて、強欲な炎は更に勢いを増していく。
幸運にも、生じた気泡は僕らの呼吸を繋ぐ。
零れる吐息に声を乗せれば、それは確かな振動となり、言葉としての輪郭を持つ。
「ヴァーリ、聞いて」
僕らを拒み、殺めようとする水は――君の操るこの海は、不運にも言う事を聞かない事もあるだろう。
幸運も、不運も、然して特別な偶然じゃない。生きているのなんて最初から最後まで奇跡の連なりで、世界には思い通りにならない事のほうが多いに決まってる。
「僕ら、君と、いられない」
「――知ってる」
拗ねたように答えた君は、こちらを向いてくれただろうか。
「だって『さっき』聞いたもの。きみたちは、燃えてしまいたいんでしょ」
「ううん、燃えていたいんだ」
「同じじゃないか」
溜息に似た声色で、君もまた傷付けるための言葉を遣う。
「灰になって終わりだよ。ぼくなら、きみたちを綺麗な化石にしてあげられるのに――」
「――その化石だって、ダイヤだって、永遠じゃない」
それこそ『さっき』言っただろう、と、遮ってみせるのはカロンの声だ。当人なりに、冷たく告げているつもりなんだろうな。
「きみは、それ以外のやり方を識らないだけだ」
「……っ」
そうやって優しく告げる真実のほうが、突き刺さるものではあるけれど。
――永遠も、幸福も、口約束のまぼろしで。彼はただ、閉じ込めて飾る以外に誰かと接する術を識らないんだ。こんな海の底に閉じ込められて、宝石のように飾られていたんだから。
「ともだちがほしい。永遠がほしい。それが、悪いことだって言うの」
「ううん」
「善くったって悪くったって、僕もラピタもあげられない。けど――」
ヴァーリ、と呼ぶ声が重なった。
「こんな口喧嘩だって、きっと悪くないよ」
炎が、ほどけて消えていく。水の中の酸素が、僕らの呼吸が尽きる瞬間が迫ってくる。気泡の嵐が過ぎ去って、君の放つみずいろの光が朧に視えた。
今を生きる僕らは、過去より来る君とは一緒にいられない。これ以上のわがままは世界の摂理を壊してしまう。そろそろ、次の旅路に往かなくちゃ。
――でも。
「灰にも遺る意味を、僕ら連れていくから」
「灰の、意味?」
「きみと話して、気付けたことを覚えているから」
つないだ手に籠められた力が強くなる。きっと、カロンが、空いた手で胸元のダイヤを握りしめたのだろう。そっと身体を寄せて応える。最後の声色は、さっきより幾分柔らかになって。
「な、仲良しみたいに交換こしよう」
灰になるまで、本当の仲良しになれるまで、喧嘩を続けることはできないけれど。
「僕らの炎が遺した痕は、水底のきみを凍えさせない」
「知らない……、そんなの痛いだけだよ。灰に意味があるのなら、きみたちの方が教えてよ」
精一杯に伝えたよ。
だから、後は君が考えるだけ。
「ヴァーリもどうか、海の底で、――僕達との口喧嘩を覚えていて」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
揺歌語・なびき
その眼が感情を吐露してた
なんだ、わかってるじゃないか
きみと遊ぶ暇が有ったら
とっとと家に帰りたいんだよね
なんて正直に口に出せば
魚の攻撃を勘で避けつつマントで防ぐ
まぁ無傷とはいかないだろうけど
嫌と言うほど慣れてるし
【第六感、野生の勘、激痛耐性
流氷が随分少ない
これじゃこのあとの足場も期待できないや
貴重な流氷で思いっきり跳躍
棘鞭をひとりぼっちの手足に絡めて飛び掛かる
中性的な顔の間近まで
やさしい(ひどい)言葉なら
いくらだってくれてやる
たとえば
やわらかい桜の花弁みたいな
もう、こどもは眠る時間だよ
おうちに帰りなよ
【呪詛、鎧無視攻撃
帰る家なんてないだろう
しいて言えば
温度の保たれた水槽よりも冷たい骸の海
じゃあね
●春はだれかを大人にする
その眼が、感情を吐露していた。
硝子細工の眼球が、人形じみた全身が、確かな感情を表現していた。
「さみしいよ」
海の底から、鈴鳴るような声がする。
「誰も……ぼくに永遠を見せてくれない。ずっと一緒にいてくれない。勝手に閉じ込めて、勝手に飾って――」
――まあ、おれだって、UDCのふるまいが全部にせものだなんて思わない。
やつらにも、心と呼べるものはある。『寂しさ』だなんて原始的な衝動であれば尚更のこと。呆気なく言い換えてしまえば、それは足りないものを埋めたいという欲望の名前なんだもの。
けれど、彼らの思考は人間のそれとは根本的に仕組みが違う。似ているだけで同じじゃあない。此の花を宿すおれの身体は、そのこともよく知っている。
……何処の世界の話だったけな、もの悲しい歌で船を誘って沈める海魔が居たなよあ。こいつの嘆きも結局はその神話類型だ。最もこの氷海には、船どころか足場もほとんど残ってやしないのだけど。
「ねえ。ともだちになれないのは、」
今にも砕けそうな脚で、『閉鎖機構』はふらりと立ち上がる。みずいろに輝く瞳でおれを睨む。
「――ぼくが邪神で、きみたちが人間だから?」
「なんだ、わかってるじゃないか」
どんなに綺麗な言葉で取り繕ったところで、これは単なる殺し合いだよ。
さて。
邪神との戦いにおける鉄則そのいち、見た目に騙されてはいけない。可愛らしい子供を象ってはいても、中身はさっきまでの巨人や水晶と変わらず――なんてのは、今更語るほどのことでもなくて。
ここで問題になってくるのは、ところどころひび割れたその体躯。
深刻なダメージを受けているのは確かだろう。腕は片方削ぎ落されて、脚は今にも縦に割れそうだ。胸のあたりの水槽もすっかり歪んでしまっていて、はらはらと内側の星海を溢し続けている。……まともに戦えそうもない、痛々しい有様のように見えるけれども。
奴はそもそも最初から、『四肢を使って戦う訳じゃあない』。
つまり、攻撃力は落ちていない。むしろこうして追い詰められた状態でこそ、決死の全力を晒してくると見るべきだ。……水流も、骨魚も、おそらく油断ならない猛攻になる。
「ぼくが邪神だっていうだけで、きみたちは、ぼくを殺すの?」
「どの口で言うんだか」
たとえば。
「当たり前だろ。……きみと遊ぶ暇が有ったら、とっとと家に帰りたいんだよね」
――なんて、正直に口に出そうものなら。
「そっか、」
短い相槌と。
「だったらぼくも、」
諦めたような、呑み込んだような、さみしい笑顔と。
「――きみを殺すだけだ」
これまでで一番素直な言葉と共に、数えきれない骨魚の群れが放たれる。
文字通り、怒涛だった。
海が、その中を泳ぐ半透明の骨格が、ひとかたまりと言っていいくらいの密度で押し寄せてくる。月光が乱反射して、魚のかたちを見分けることすらできそうもない。これはもう、骨を含んだ津波だな――勘で避けるよりほかないか。
魚ではなく骨のひとつひとつを見ればいい。そう割り切れば、正面から突っ込んだって潜れる隙間はある。
……それよりも、流氷が随分少ないことを気にするべきかな。これじゃ、このあとの足場も期待できないや――『このあと』なんて、無いつもりで。
うん、一発勝負だ。
大きく開かれた顎、その歯並びをまず躱す。……かたちは覚えた。この噛み付きさえ喰らわなければ何とかなる。細かな小骨の切っ先をいちいち避けてはいられない。外套の布地を首に引き寄せて、黒と赤で素肌を覆う。
「まぁ、無傷とはいかないだろうけど――」
血を流すのも、血で血を洗うのも、嫌と言うほど慣れてるし。
貴重な流氷を蹴り捨てて跳躍。巨大な肋骨のあいまを抜けて、その向こう側を目指して駆ける。
足首と、耳の先と、下腹の右のあたりと……今のは瞼の皮が浅めに切れたかな。心臓と眼球が無事なら上々だ。肉体からこぼれた朱は、海水に溶ける間もなく花霞へ注がれてゆく。海の底、ひとりぼっちの魔物に狙いを定めて――血肉を持たぬ白い手足に、咲き誇る華を絡ませる。
両脚は、力を籠めたら砕けてしまった。残る片腕を丁寧に捉えて固定、棘鞭を手繰る勢いで飛び掛かる。一瞬で間合いを詰めて、戸惑う表情の間近まで。
男だか、女だか、どっちつかずの綺麗な顔だ。……でも、大人か子供かといったら答えはひとつだろう。きみは幼すぎるんだ。自分自身さえ見えてないようなやつに、友達なんてできるわけないのにね。
「もう、こどもは眠る時間だよ」
酷《やさし》い言葉なら、いくらだってくれてやる。
「おうちに帰りなよ」
たとえば、やわらかい桜の花弁みたいな。
その下に眠るこどもの死体に手向けるような。
海底に溢れた花嵐が、少年の白い肌を埋め尽くす。水を吸って、透けて、貼りついて、まるで傷口を隠すように。
「ぼくに、帰る家なんてないよ」
「だろうさ」
しいて言えば、温度の保たれた水槽よりも冷たい停滞、永遠に大人になれないきみに相応しい場所――骸の海に還るくらいだ。受容しても、拒絶しても、結果は同じ。
……寂しがりやの邪神は、最後までどちらの答えも返さなかった。
「じゃあね」
帰るべき、あたたかい家があるうちは――おれは、きみとは違うんだ。
成功
🔵🔵🔴
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
ぷくぷくぷく(んもー)
ぷくぷくぷくぷく(お話がしたいなら水槽に入れるのはやめてほーしーなー)
●対策
UCの発動による耐性獲得
ついでに一瞬の間に永遠の時間を折りたたんでおしゃべり
じゃあお話しようか!
それとも遊ぶ?テレビゲームって知ってる?映画は?音楽は何が好き?
まあトピックはなんでもいいよ時間だけはたっくさんあるからね
ボクらには一瞬のまどろみも永遠の眠りも大差は無い
キミが満足するまで…いやボクが飽きるまでならいくらでも付き合ってあげるよ!
…あ、そうだそうだ
まずはこれから始めよってよく言われるんだよね
ボクはロニ!…キミは?
もういいの?そ
それじゃあお休み!ボクのおともだち!
●終幕
硝子のかけらと、桜のはなびらが、暗い水の中をきらきら舞っている。
……『超次元の渦』の映し出す、深海の景色が崩れていく。転移を解かれた猟兵たちは次々と姿を消していく。すっかり砕けてしまった身体を骸の海の泥に浸して、アクアリウムの少年は――長い長い戦いの終わりを、ひとり静かに見上げていた。
「ともだちが、ほしかった」
ううん、と首を左右に振って。
「ともだちに、なれたらよかったな……」
ふたつの言葉の意味するものは、同じようでいて全く違う。
そんな簡単なことに今更気付いたって、もう何もかも遅いのに――なんて呟いて、ゆっくりと、みずいろの眼は閉じていく。
…………。
いや、あのさ。
なんかお開きみたいな雰囲気のところ悪いんだけど、もしかしてボク、忘れられてる?
「ぷくぷくぷく……」
んもー。自分で閉じ込めておいて忘れてるのは酷くない?
呆気なく捕まったのは、我ながらちょっとどうかと思うけど。でもでもだってさ、いきなりだったし。ぴゃっと顔面に水がかかって、次の瞬間目を開いたら水槽の中なんだもん。ビームとか、傘とか、いつもの燃えてる人たちとか。ずっとこの中で観戦してたわけなんだけど……誰もこっちに気付いてくれないし。
いや、みんな強敵相手で余裕がなかったんだ。ボクって神様だし、だから当然とっても強いし、自力でどうにかするって思ってもらえたんでしょ。そーゆーことにしておこう。
「ぷく……ぷく……」
で、これ、結局どうしようかな。
「――ぷくぷくぷくぷく!」
とにかく。お話がしたいんなら、水槽に入れるのはやめてほーしーなー。聞いてる? 絶対聞いてなさそう。だからそういうのツンデレって言わないぞ、アマノジャクって言うんだぞ。
あの子は今にも骸の海に還ろうとしてるみたいだけど、ボクを閉じ込めた水槽はいまだに壊れる気配がない。……このまま道連れ、なんて展開はさすがにないよね? 多分、あの子が完全に消えたら術みたいなのが解けるんじゃないかと思う。そしたら他のみんなみたいに脱出させてもらえるはず。
でも、それじゃあダメだ。つまんないんだ。
そもそも最初の変な水だって、ズバっと勘で避けちゃえばよかっただけの話なんだ。ボクがそうしなかったってことは――こっちのほうが楽しいって、きっと本能で知っていたんだ。キミが『さみしい』って言った瞬間、こうすることは決まってたんだ。
「……ぷく」
しっかたないなあ。
ボクのほうから、おしゃべりに行ってあげなきゃね。
●幕間
これは……歪みが大きすぎる。
というより、わざと歪ませたように見えるな。堂々と『ついで』の注文まで付けてある始末だ。
まあ良かろう。――いつも通りに、修正する。
●この星が始まってから終わるまでの短い話
突然のまばゆい光に眼をひらくと、あたりは真昼の明るさだった。
……おかしいな、骸の海ってこんなにきれいな場所だったっけ。確かにぼくは、気が狂うほど永い時間を『渦』の中に閉じ込められて過ごしてきたけど――だからって、流石にこれは憶え違いじゃ説明がつかない。
はるかな頭上に、ひときわ輝く球体がひとつ浮かんでいる。
透明な水がいっぱいに照らされて、南の海の珊瑚礁みたいに鮮やかな青に染まっている。
「ぷはー!」
背中のほうから能天気すぎるぐらいの声がした。驚いて咄嗟に振り向くと、ぼくとよく似た子供のかたちの暴風だけがそこにいた。空間に満たされている海水なんてまるで気にせず、干渉せず、深呼吸して伸びをする。
硝子も、桜も、縫い留めたように動かない。彼以外の世界のすべてがぴたりと停まっている。
一瞬の間に折りたたまれた永遠みたいな夢の中で、片方だけの瞳がこっちを覗き込む。
「じゃあ、お話しようか!」
その金色に映り込んでいるぼくの顔が、呆けた様子で瞬いた。
「お話したいんだったよね? それとも遊ぶ?」
「遊ぶって……」
「テレビゲームって知ってる?」
そう言いながら彼がポケットをひとつ叩くと、銀色のお菓子の袋が浮かぶ。封を切った瞬間にポテトチップスが飛び散って、水中だから即座に湿気る。……どうしよう、きみが一体何をしたいのか、ぼくには全然わからないんだけど。
「テレビゲームは……暴力的だから好きじゃない」
「うわっ、おじいちゃんの意見そのものじゃん」
「おじいちゃんじゃないよ。大体、存在している時間でいったらきみの方が――」
「あ、だったら映画は? 音楽は何が好き?」
「ええ……」
なんだか勝手に隣に座ってくるけれど、ぼくの当惑は置き去りのままだ。拒む手も、逃げる足も残っていないから、ぼくは必死に言葉を選ぶ。
「消えてしまうものはきらいだ。さみしくなってしまうから」
「セーブデータとかさー、油断してると消えちゃうもんね」
まるで星でも探すみたいに、きみは揺蕩うポテトチップスのひとつにそっと指を伸ばした。はかない炭水化物の塊が、ぐずぐず崩れて溶けていく。
「でもそれは、キミだって、ボクだって同じでしょ」
「……テレビゲームが好きなの?」
「映画も音楽も好きだよ!」
いつか消えちゃうとしてもね、なんて言って、きみはどうしてかぼくを見る。
「まあ、トピックはなんでもいいよ。時間だけはたっくさんあるからね。――ボクらには、一瞬のまどろみも永遠の眠りも大差は無い」
……その気になれば、そうだろう。ダイヤモンドでも手の届かない、この星が燃え尽きるまでの百億年だって夢を見ていられる。そんな無意味な永遠を、きみが望んでくれるなら。
「キミが満足するまで……、いや、ボクが飽きるまでならいくらでも付き合ってあげるよ!」
「そういうの、」
ふふ、と零れた吐息の名前が、何だったのかも知らないけれど。
「アマノジャクって言うんじゃないの?」
それからも、おしゃべりは途切れることなく続いていく。きみはふと、大事なことに気付いたように視線を上げる。
「……あ、そうだそうだ。まずはこれから始めよって、よく言われるんだよね」
「遅すぎない?」
まあいいじゃん、と、いくつめか数えきれないお菓子袋を開けながら。
「ボクはロニ! ……キミは?」
「ぼくは」
……ヴァーリ、というのが今の姿の名前だけれど。もしも、きみが、巨人だったり水晶だったりした『ぼく』の名前を聞いているのなら。
「――――」
おそるおそる、水中でしか発音できない単語を告げてみる。
「――――」
そうするときみも、酸素だらけの大気には出せない音で返してくれる。
「じゃあ――――、えーと、何の話だったっけ? 銃とか火薬とか出てこないテレビゲームの……」
「ううん、もういい」
「……そ。満足した?」
「うん」
消えてしまうんだったら今がいい。
「それじゃあお休み! ボクのおともだち!」
永遠よりも、ほんの一瞬がきれいだって、初めて思えた今がいい。
●とあるUDC職員いわく
完全なる邪神というと確かに一大事なんだけど、この手の案件は報告書に記すべきことが意外と少ない。
猟兵たちの協力により討伐はつつがなく完了。『鍵』はオブジェクト指定の上で厳重保管。その程度だ。博物館に飾れないのが残念、なんて書いたら怒られるし。
回収経緯を鑑みて、精神汚染などの異常作用を有していないかは精査する必要があるだろうな。……あのピンクの子、やけに自信満々の笑顔で「もう大丈夫!」なんて太鼓判を捺して行ったけど、根拠は丸っきりゼロなわけで。
そこはまあ。
神のみぞ知る、ってやつなのかもしれないけどね。
大成功
🔵🔵🔵