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猟書家の侵略~衝動と抑制のアンビバレンツ

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #ディガンマ #殺人鬼

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●アリスラビリンス・住民が避難した国
 ――住人らしき人影が何一つ見当たらぬ、不思議の国の一角で。
「お前達だな、この国の住民を逃したのは」
 ナイフや銃をちらつかせ、敵愾心を露わにする5人の少年少女たちを前に、黒髪の男はほぅ、と感心するような嘲笑するような笑みを浮かべていた。
「そうだと言ったらどうするんだよぉ?」
「俺も、お前達『殺人鬼』も、世界から捨てられた存在であることに違いは無い。生きていようが死んでいようが――」
 男は少年たちに指を突きつけながら、嘲笑うように告げる。
「――俺もお前も六六六(ダークネス)を刻まれし咎人だ」
「けっ、俺らが咎人だろうが何だろうが、てめえには関係ねえよ」
「なのに、せめて第二の故郷は守ろうという訳か。健気な忠誠心だ」
 くっくっく、とくぐもった笑いをする男に、殺人鬼たちは苛立ちを隠せない。
「ならよぉ、俺らのとっておきでテメェを斬り刻んでやろうか!!」
「衝動に身を任せた私達の殺戮技巧で、殺せないものはないわよ!」
 挑発ともとれる男の言動に殺戮衝動を露わにした少年少女たちに、目の前の男は「運がなかったな」と鼻で笑い、続ける。
「俺の名はディガンマ。お前達が初めて出会う『例外』だ……!」
「わざわざ例外と嘯くなら、その身で証明しやがれえ!1」
 殺戮の愉悦に目をぎらつかせる「殺人鬼」たちは、獲物を前に舌なめずりをし、歓喜の咆哮を上げて男に襲い掛かった。

 ――目の前の男が、彼らを蹂躙できる程の凶暴な獣を飼いならしていることを知らずに。

●グリモアベース
「アリスラビリンスで、幹部猟書家が一『ディガンマ』が活動を開始した」
 集まった猟兵達を前に、傍らで万色に明滅する丸盾のグリモアを見やりながら、グリモア猟兵館野・敬輔はゆっくりと口を開く。
「皆にはディガンマの撃破を頼みたいが、まずは話を聞いてくれないだろうか」
 一様に頷く猟兵達を前に、敬輔はゆっくりと説明を始める。

「活動を始めたディガンマは、手始めにひとつの国の住人を皆殺しにしようと乗り込んだらしい」
 だが、いざ乗り込んでみると、既に住人は全員避難した後。
 もぬけの殻となった国で、肩透かしを食らったディガンマを待ち構えていたのは……住人たちを避難させ、罠を張り巡らせていた若い殺人鬼たちの集団。
「彼らは普段から殺戮衝動を抑圧し、オブリビオンのみにその衝動を向けている。今回も殺戮衝動を全開にした上で、ディガンマとその配下のオウガを壊滅させようとする」
 だが……と敬輔はあえて声を落とし、重々しく告げた。
「殺戮衝動を全開にしたその代償は……殺人鬼たちの【オウガ化】だ」
 ――それが意味することは「生きながらのオブリビオン化」。
「しかも、ディガンマは殺戮衝動を全開にしたとしても……倒すには至らない」
 もし、ディガンマを撃破する前に殺人鬼たちがオウガ化すれば。
 その先に待っているのは、おそらく……殺戮に飢えた獣同士の凄惨な潰し合い。

 ――それはまさしく、オウガ・フォーミュラ『鉤爪の男』が望む世界、そのものだ。

「ゆえに、今回は殺人鬼たちに適度に殺戮衝動を抑えてもらいつつ、協力して配下オウガと猟書家の双方を討ってほしい」
 敬輔がグリモアで把握できた限りでは、殺人鬼の集団は、少年少女の5人組。
 いずれも年齢は10代程度のようだが、容姿や使用武器は不明のため、現地で確かめてほしい。
「彼らが殺戮衝動を抑えて戦った場合、個々の戦力は多少落ちるが、理性的な対応が取りやすくなり、猟兵や他の殺人鬼と連携しやすくなる」
 どうやって殺戮衝動を抑えればいいのか、と猟兵達から疑問の声があがるが、敬輔は冷静に指摘する。
「おそらく、手掛かりは彼らの行動にあるだろう。そもそも、彼らは何故、住人たちを逃がしたのか?」

 ――己が愉悦に存分に身を浸す為の障害を、事前に排除したのか。
 ――あるいは、何らかの目的意識があってのことだろうか。

 彼らと言葉を交わさずして、その理由がわかることはないのだけど。
 逃がした理由がわかれば、殺人鬼たちに衝動を抑えてもらいやすくなるだろう。
 だから……胸の裡に復讐と言う名の獣を潜めるグリモア猟兵は、皆に告げる。
「彼らのオウガ化を防ぎ、人として生き残らせてあげてほしい……頼む」
 頷いた猟兵達の前に、敬輔は万色に輝く丸盾のグリモアを大きく広げて転送ゲートを形成し。

 ――猟兵達を、殺戮衝動の嵐が吹き荒れる戦場へと送り出した。


北瀬沙希
 北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
 よろしくお願い致します。

 アリスラビリンスにて、オウガ・フォーミュラ『鉤爪の男』および、その『幹部猟書家』達が活動を始めました。
 猟兵の皆様には、殺人鬼たる幹部猟書家『ディガンマ』の撃破をお願いします。

●本シナリオの構造
 集団戦→ボス戦の【2章構造】です。

 第1章は『ジャブジャブ鳥』との集団戦となります。
 全ての個体が何らかの「ナンバーワン」を称する鳥たちですが、本シナリオに登場する鳥たちはいずれも「己が狂気、殺戮の腕前がナンバーワン」と称する個体揃いです。

 第2章は「猟書家『ディガンマ』」とのボス戦です。
 殺人鬼たちの衝動を抑制しながら連携できれば、勝利にぐんと近づくでしょう。

●本シナリオにおけるプレイングボーナス
 1章・2章共通で、【殺人鬼達を適度に抑えながら、共に戦う】と付与されます。
 ディガンマ撃破まで生き延びることができた殺人鬼は、戦闘終了後に徐々に己が衝動が抜けていき、再び人として生きることができるようになります。
 逆に全く殺戮衝動を抑制できなかった殺人鬼は、章終了時に【オウガ化】し、敵味方関係なく攻撃してくるようになります。
 特に1章終了時にオウガ化した殺人鬼がいた場合、2章で撃破すべき敵が増えますので、2章の難易度が上昇致します。そうならないよう最善の手を尽くしてください。

 なお、今回登場する殺人鬼の容姿と名前、使用武器は、転送後実際に目にしないとわからない状況の為、1章の導入で触れさせていただきます。

●プレイング受付開始日時について
 第1章、第2章ともに、冒頭に導入文を追加した後、受付開始。
 プレイングの受付締め切りは、マスターページ及びTwitterにて告知致します。

●【重要】プレイングの採用について
 本シナリオは戦争シナリオに準じた扱いをさせていただきますので、【プレイングの全採用は保証できません】。
 できるだけ採用させていただく予定ではいますが、執筆時間の確保が困難になった場合は、プレイングに問題がなくてもお返しさせていただくことがございますこと、予めご了承願います。

 全章通しての参加も、気になる章のみの参加も大歓迎です。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『ジャブジャブ鳥』

POW   :    My father he died
【殺戮の狂鳥モード】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    Who Killed Cock Robin
【狂気に満ちた鳴き声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    My mother has killed me
【鉤爪】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。

イラスト:猫家式ぱな子

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●アリスラビリンス・住民が避難した国
 転送された猟兵が目にしたのは、黒髪を長く背に伸ばした男と、10代程度の少年少女5人組がにらみ合っている姿。
 猟兵達の気配に先に気が付いたのは――男の方だった。
「猟兵か……六六六(ダークネス)が刻まれていない輩もいるようだが、お前達の仲間ではないな」
 猟兵達をふん、と鼻で笑う男――ディガンマに、銀髪の少年が食って掛かる。
「ったりめえだろ!! こいつらなんて知らねえよ!!」
「はっ、とりあえず……まずはオウガにお前たちの相手をしてもらうことになりそうか?」
「何ですって?」
 漆黒の刀を隙なく構える少女が、突如現れた複数のオウガの気配に眉をひそめた。

 殺人鬼たちに飛び掛かったのは、見た目がカラフルで、自己顕示欲の強い『ジャブジャブ鳥』たち。
「狂気No.1のこの俺様が、この素晴らしい声で狂気に浸してやるぜえ!」
「ヒャッホウ! 殺戮技法No.1のワタシが、この鉤爪でバラバラにしてやるぜえ!」
「ヒャハハハ! 闘争ならNo.1のわしに勝てるのかあ!?」
 各々「狂気」「闘争」「殺戮」がNo.1だと自称しながら殺人鬼たちを挑発し、襲い掛かるが、ジャブジャブ鳥同士が連携をとる様子は見られない。
 そのおかげで、殺人鬼たちはジャブジャブ鳥の初撃を難なくかわしていた。
「たくさん鳥さんが現れたね……刻みがいがありそうだ」
 巨大な裁ち切りバサミを抱えた緑髪の少年は、憂いを帯びた瞳をディガンマやジャブジャブ鳥に向けながらも、その顔からは笑みを絶やしていない。
「……罠にかければなんてことないだろ……ぼくに愉悦を感じさせてくれよ……」
 目に見えぬ程の細いワイヤーを張り巡らしながら、黒の陰湿な目をジャブジャブ鳥に向けているのは、茶髪の少年。

「さあて、六六六(ダークネス)を刻まれし咎人たちよ、お互い衝動に任せて殺し合おうか?」
 右手を少しずつ獣に変じさせながら、ディガンマが殺人鬼たちを挑発する。
「上等よ! アンタも鳥たちも全部撃ち抜いてやるんだから!!」
 右手に大型の拳銃を、左手にミニマシンガンを構えた金髪の少女が、その銃口をディガンマに向け、金の瞳に不敵な笑みを浮かべた。

 ディガンマの挑発に乗った殺人鬼たちは、徐々に殺戮衝動を解放している。
 一方、猟兵たちは、殺人鬼たちとディガンマのやり取りから、彼らの性格を凡そ把握していた。

 銀のナイフを持つ銀髪青瞳の大柄の少年は、その言動からも相当乱暴で粗野な性格のようで、殺戮衝動を全く隠そうとしない。
 漆黒の刀を持ち、セーラー服を纏う黒髪翠瞳の少女は、声音や振る舞いこそ冷静だが、その瞳や声音の裏には血に飢えた殺戮者の一面が隠れているようだ。

 目に見えないワイヤーを操る茶髪黒瞳の少年は、陰湿な目でオウガたちを睨みながら。その得物で戦場全体に何らかの罠を張り巡らせているようだ。
 大型拳銃とミニマシンガンを携えた金髪金瞳の少女は、目に好奇心を湛えつつ、今にもその引鉄を引きたくてうずうずしているようだ。

 そして、両手でかろうじて持てる程の巨大な裁ち切りバサミを抱える緑髪銀瞳の小柄な少年は、憂いを帯びた目をディガンマに向けながらも、顔には笑みを浮かべている。

 5人とも、瞳の奥に底知れぬ殺戮衝動を抱え、性格も得物も多様。
 だが、底知れぬ衝動に身を任せ、全てを解放してしまえば……待っているのは己のオウガ化。
 ――それだけは避けるべく、彼らには適度に衝動を抑えてもらわねばならない。

「さあ、六六六(ダークネス)を刻まれた咎人よ、そして猟兵たちよ」

 ――衝動のまま、殺し合おうか?

 そのディガンマの嘲笑を含む声とともに、殺人鬼たちが歓喜の咆哮を上げ。
 ――狂気と衝動に満たされた殺戮劇が幕を開けた。

※マスターより補足
 本シナリオに登場する5人の殺人鬼の容姿と性格は、以下の通りになります。
 断章では名前は聞いておりませんが、プレイングやリプレイ作成の便宜上、名前も記しておきますので、プレイングの字数節約にご利用ください。
 ただし、1章開始時点では「猟兵は殺人鬼たちの名前を知らない」ことにご注意ください。
 また、使用するユーベルコードは、実際に見てみないとわかりませんので現時点では不明です。

 ナツキ:銀髪青瞳の大柄な少年、粗野で乱暴な性格。
     得物は銀のナイフ(殺戮刃物相当)。
 メグミ:黒髪翠瞳の小柄なセーラー服の少女、冷静沈着。
     得物は漆黒の刀(妖刀相当)。
 アキラ:茶髪黒瞳の細身の少年、根は暗く陰湿な性格。
     得物はカーボンワイヤー(鋼糸相当)。
 リーン:金髪金瞳のスレンダーな少女、勝気で好戦的な性格。
     得物は右手に大型拳銃、左手にミニマシンガン(拳銃&サブマシンガン相当)
 カズキ:緑髪銀瞳の小柄な少年、笑顔を絶やさぬ優しい性格。
     得物は巨大な裁ち切りバサミ(首切り鋏相当)。

 第1章では、『ジャブジャブ鳥』を撃破しつつ、殺人鬼たちの殺戮衝動を抑えてもらうための試みをお願いします。
 殺戮衝動を抑える試みは、全員に同時に試みても構いませんし、特定のひとりに絞って試みても構いません。
 全員に同時に試みた場合、全員の衝動を抑えることができますが、効果を上げない場合もあります。
 特定のひとりに絞って試みる場合は、プレイングに対象の殺人鬼の名前を記してください。うまくいけば全員同時に試みるより大きな効果を上げるでしょう。
 選択状況(対象が個人か全員かも含む)はマスターページにて公開しますので、プレイング作成時の参考にして下さい。

 ――それでは、良き邂逅と戦いを。
須藤・莉亜
「とりま、彼らにはちと落ち着いてもらおうかな。」
本命の美味しそうで楽しそうな敵さんが待ってるのに、こんな所で堕ちちゃうのは勿体無いしね。

暴食蝙蝠のUCを発動し、身体を無数の蝙蝠に変化。んでもって、敵さんらを霧で覆って、殺人鬼達と分断してから殺り合う事にしよう。
急に霧とか蝙蝠が湧いて出て来たら、彼らもちっとはびっくりして、殺り合いから意識を逸らしてくれるんじゃない?たぶん。
「やぁ、後輩達。元気してる?僕はこれから食事だから、めっちゃ良い気分だけど。」

という事で、僕は霧の中の敵さんらの血と生命力を無数の牙で奪い、奪ったそれらで群れの数を増やしながらガンガン吸い殺しにかかる事にしようか。



●無数の蝙蝠は殺戮衝動すら翻弄して
「てめえら、覚悟しとけ!」
 5人の殺人鬼たちが殺戮衝動を解放し、ジャブジャブ鳥たちを切り裂こうとした、まさにその時。

 ――バサバサバサ!!
 ――ブワッ!!

 殺人鬼とジャブジャブ鳥の間に、突然無数の蝙蝠と濃い霧が割込み、お互いの視界を遮った。
「うおぅっ!?」
「何これ!?」
「キエェェ!?」
 殺人鬼たちとジャブジャブ鳥が突如現れた漆黒と純白に驚き、戸惑い、双方が一瞬足を止める中。
 蝙蝠たちは、明確な意思を持ってジャブジャブ鳥のみに殺到し、羽根の隙間や足元、胴の下に潜り込み、噛みつく。
 一方、霧はジャブジャブ鳥たちのみを囲む半球状のドームを形成し、殺人鬼たちとジャブジャブ鳥を分断していた。
「やあ、後輩たち。元気してる?」
 蝙蝠の羽根に反響するように響き渡ったのは、無数の蝙蝠に変じた須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の声。
「てっめぇ……誰だ!!」
 挑発するかのようなナツキの怒声を、莉亜はあっさり受け流し。
「僕はこれから食事だから、めっちゃ良い気分だけど」
(「とりま、彼らにはちと落ち着いてもらおうかな」)
 蝙蝠と霧で殺り合いから殺人鬼たちの意識を逸らしたのは、莉亜がガンガン吸い殺しにかかるためでもあったのだけど。
 それ以上に、強大な吸血衝動を封じ生きる者として、殺人鬼たちには殺戮衝動だけに囚われてほしくなかったからなのかもしれない。

 ――本命の美味しそうで楽しそうな敵さんが待っているのに。
 ――こんな所で堕ちちゃうのは、勿体無いしね?

 だが、莉亜の気遣いとは裏腹に、ナツキとリーンは怒りを隠さない。
「てっめぇ……どけよ!!」
 視界を妨害され怒り狂ったナツキが、銀のナイフを瞬時に九つに分裂させつつ、蝙蝠を巻き込みながらジャブジャブ鳥を滅多切りに。
「邪魔よ、この蝙蝠も霧も!!」
 リーンも右手の大型拳銃でジャブジャブ鳥を確実に撃ち抜いていくが、突然獲物を取られたように感じたのか、左手のミニマシンガンの弾丸は蝙蝠にばら撒かれている。
「うーん、殺り合いから意識を逸らしてくれると思ったんだけどなあ」
 蝙蝠を一部撃墜され、残念そうな莉亜の声が響くが、好戦的なナツキとリーンにとって、今の莉亜は「殺し合いを妨害しに来た者」に過ぎない。
 しかし一方で、莉亜の思惑通りに気を逸らせた者もいた。
「気分、うん確かにいい。……罠を仕掛けやすくなった」
 ジャブジャブ鳥の姿が見えなくなったことで少し頭が冷えたのか、アキラが蝙蝠の群れに隠れるよう移動しながら緻密で見破られづらいようワイヤーを張り巡らせ、無理やり突破しようとしたジャブジャブ鳥を引っかけてバラバラにする。
「そこの蝙蝠さん、ありがとう。少し頭が冷えたわ」
 理知的な狂気を剥き出しにしかけていたメグミは、霧と蝙蝠の群れに一瞬呆気に取られた後、目先の状況を理解して理性を取り戻し、漆黒の妖刀を大きく横薙ぎに振るい衝撃波を生み出し、ジャブジャブ鳥のみを吹き飛ばした。
「ああ可哀想な鳥さんたち……僕が切ってあげるよ」
 カズキも柔らかい笑みを浮かべながら、無理やり蝙蝠の群れを掻い潜り、ジャブジャブ鳥の羽根をざくざくと裁ち切りバサミで斬り刻んていた。
「キィエェェェェェーーー!!」
「殺戮No.1の俺様の邪魔をするなあ!」
 狂気に満ちたジャブジャブ鳥たちが、巨大化した鉤爪で霧を散らし、蝙蝠を切り裂き、押しつぶしていくが、ジャブジャブ鳥が蝙蝠を蹴散らすより、蝙蝠の牙がジャブジャブ鳥たちの血を奪い、弱らせる方が早い。
 そして、ジャブジャブ鳥から奪った血は、莉亜の傷を癒し、新たな蝙蝠を生み出す糧となる。

 ――それはまさに、敵が死ぬまで徹底的に血を吸い尽くすために完成された、無限のサイクル。

 数分後。
「うん、美味しかったね♪ ご馳走様!」
 霧が晴れ周囲が見渡せるようになった莉亜や殺人鬼たちの目の前には、血を吸い尽くされ斬り刻まれ、力尽きたジャブジャブ鳥の群れが地表を埋めていた。
 だが、ジャブジャブ鳥の気配は、まだ途切れない。

★現在の殺戮衝動★
(10段階表示、章終了時10の殺人鬼はオウガ化)

 ナツキ:10
 メグミ:8
 アキラ:8  
 リーン:10
 カズキ:9

成功 🔵​🔵​🔴​

本屋・ししみ
【リーンへ】〈コミュ力/言いくるめ〉
好戦的な様子、ブレーキ踏むよりも方向を誘導するかな。
煽りもするさ、必要なら。
粋な人達を失うのは、嫌だからね。

ねぇ、煽られるまま、敵の望み通りの展開なんて癪じゃないか?
殺戮衝動、抑えていこうよ――この程度、程々で十分さ。
見なよ、アレらは殺意を尽くすに適うかな?
はっちゃけるには相手が不足と思わないかな?
――君、そんな程度かな?
否と答えられるならば――証明しようか。

【戦闘】〈呪詛/精神攻撃/恐怖を与える/体勢を崩す〉
距離を取りつつ呪蟲全書写本を翳し、指定UC使用。
それは呪い蝕み、精神を侵し、恐怖を誘い、心から体の動きを乱す。
味方殺人鬼のフォローを優先に立ち回るよ。



●引いてダメなら押して煽って道を示して
「ああもう、気持ちよくてたまらない!」
 愉悦に目をぎらつかせながら、新手のジャブジャブ鳥が現れるのを今か今かと待ち構える、リーン。
「待って」
 そんな彼女の肩を軽く手で叩いて制止したのは、本屋・ししみ(魔導書使いの探索者・f30374)だった。
 好戦的であれば、下手に足止めをするより、明確な道を示したほうがいい。
 先ほどからリーンを観察していたししみは「ブレーキ踏むよりも方向を誘導する」ほうが最適では、と考えていた。
 それに、何より……粋な人たちを失うのは、嫌。
 普段は良識的なししみだが、生かすために必要とあらば――煽りもする。
 観察した情報をもとに、ししみはリーンを「煽り、誘導」し始めた。
「ねぇ、煽られるまま、敵の望み通りの展開なんて癪じゃないか?」
「な、何が言いたいのよ?」
「殺戮衝動、抑えていこうよ――この程度、程々で十分さ」
 仏頂面だが整った顔立ちのししみに言いくるめられ、ぷいっと横を向くリーン。
「何よ、今気分がすっごくいいのだけど、邪魔するわけ?」
「見なよ、アレらは殺意を尽くすに適うかな?」
 ししみが呪蟲全書写本で指したのは、新手のジャブジャブ鳥の群れ。
「ひゃっほぅ! ワシが新たな殺しNo.1だぜえ?」
「うひゃひゃひゃ! 狂気No.1のわてが粋がる若者らを狂気に染めてやるで?」
 頭の痛くなるような煽り文句を吐くジャブジャブ鳥たちだが、1体だけならさほど苦戦する相手ではないし、個性が強すぎる故、おそらく連携はしない。
 観察した結果をもとに、ししみは事実を突きつけ、さらに誘導。
「はっちゃけるには相手が不足と思わないかな?」
「な、何よ!? ……確かに、そんな気はするけど」
 リーンから言質を取ったかのようにししみは頷き、さらに言の葉で誘導する。
「君、そんな程度かな?」
「そんなわけないわよ!」
「否と答えられるならば――証明しようか」
「証明してやるわよ!」
 ししみに唆され二丁の銃を構える、リーン。
 その表情からは、愉悦の色はやや抜け、目には理性の色が灯り始めていた。

 ししみは少し後ろに下がり、リーンたち殺人鬼のフォローを優先すべく、呪蟲全書写本のページを繰り、翳しながら呪を唱え始める。
「われはのぞむ、たちはだかるもののくずれおちるを」
 ししみの呪に応じて、呪蟲全書写本から意思を持った薄闇の霧が這い出し。
「くうをゆくくろのかいなよ、そのおそろしきをもって……」
 霧は殺人鬼やジャブジャブ鳥の影に溶け込み、息を潜め、その時を待つ。
 そして……。

 ――いざしょうがいをうちくだかん!

 ししみが呪を完成させるとともに、影に潜んだ霧が340本もの漆黒の腕へと変貌して次々と姿を現し、喚くジャブジャブ鳥の両足を掴み、殴りつけ、全身を縛りつける。
 拘束されたジャブジャブ鳥達は、漆黒を振りほどこうとして……身を竦ませ、怯え始めた。
「あぎゃぎゃぎゃ!! ワシが殺されるやと!?」
「ぎゃあああああ! わてより濃い狂気が、影がぁぁぁ~~~!!」
 魔力で編まれた腕から流し込まれた呪詛は全身の色を奪い、精神に狂気と言う名の楔を穿ち、さらに心の奥底に決して拭えぬ恐怖を植え付け、狂乱状態へと落とし込む。
 恐怖により露わになったジャブジャブ鳥の本性を目の当たりにし、リーンは小さく息をついた。
「……確かに、全力を出すのが馬鹿馬鹿しくなってきたわね」
 リーンは一呼吸の後、左手のミニマシンガンの銃口を手近なジャブジャブ鳥に向け、引き金を引く。
 ――ぱらららららっ。
 衝動に任せた乱射ではなく、理性を持った一斉射を確実に頭に叩き込まれたジャブジャブ鳥は、命脈を断たれ地に沈む。
「ギエェェェェェ~~!!」
「うるさいわよ!」
 さらにリーンは恐怖に身をよじる別のジャブジャブ鳥に大型拳銃を突きつけ、全弾を首筋に叩き込んで動きを止めていた。

 他の殺人鬼も、好機と見て各々の得物で連携を取りつつ、ジャブジャブ鳥を沈めていくが。
「けっ、つまんねー女になりやがって」
 歪んだ笑みを浮かべながら斬り刻み続けているナツキだけが、毒気の抜かれたリーンを見て毒を吐き捨てながらも、出鱈目に衝動を解放し続けていた。

★現在の殺戮衝動★
(10段階表示、章終了時10の殺人鬼はオウガ化)

 ナツキ:10
 メグミ:8
 アキラ:8  
 リーン:7
 カズキ:9

大成功 🔵​🔵​🔵​

メフィス・フェイスレス
対象:ナツキ それ以外でも可

衝動に身を任せることを良しとするこの気配 気に入らないわね
油断するとこっちも当てられる 手早く済ませるわよ

UCを透明、物理透過状態にし対象と敵に使用
対象の衝動を捕食して程々に抑制し連携を呼びかけつつ対話を試みる

殺しの邪魔だったから追い出した?半分は嘘っぽいわね
本当に邪険にしているなら住民も喰らってしまえばいい
避難誘導するよりも手っ取り早いし欲求も満たせる
そうしなかったのは住民に情がわいてたからじゃないの?
だったらアンタは殺人“鬼”なんかじゃない、れっきとした“人間”ね
私は好きよ、そういう奴

敵は記憶・思考・感情全てを捕食し無力化し、直後に触手を実体化させ貫通攻撃を行う



●衝動を捕食し相手を知ることで、切っ掛けを
「どいつもこいつも毒気抜かれやがってよぉ!!」
 他の殺人鬼たちが猟兵に妨害され、煽動されて殺戮衝動を抑えた中、ナツキだけが狂気の笑みと殺戮衝動を露わにジャブジャブ鳥を斬り刻み続けている。
 そんなナツキを目にしたメフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)は、心の中で小さく舌打ちしていた。
(「衝動に身を任せることを良しとするこの気配、気に入らないわね」)
 油断すると猟兵達まで巻き込まれかねないため、手早く済ませないといけないだろう。

「――悍ましい」
 メフィスの言の葉と共に、彼女の髪の毛の一部が物体の透過能力を持つ無数の透明触手の群れに変化。
 それは未だ猟兵達を喰らわんと群がるジャブジャブ鳥の瞳から体内にするりと潜り込み、脳に食らいつき。
 ――ジャブジャブ鳥の記憶を、思考を、感情を、貪欲に食らい尽くす。
「ワタシは殺戮ナンバ……あら?」
「わてこそ狂気……おろろ?」
 記憶と思考、そして感情の全てを捕食されたジャブジャブ鳥たちは、己が目的を見失い、茫然と立ち尽くす。
 一方、透明触手はナツキの首筋にも這いより、体内に潜り込んだ。
 ――ズブッ!!
「……っ!!」
 首筋に違和感を覚えたナツキが嫌悪感と共に身体を硬直させ、ナイフを取り落とすのを見届け、メフィスは彼の前に姿を晒す。
「ここは皆と連携したほうが良いから、話し合いに来たわ」
「な、何だ……てめえと話すことはねえ!!」
 身を焦がす程の衝動が体内の触手に少しずつ「喰らわれて」いることに気づいたナツキは、メフィスを拒否するように喚くが、構わずメフィスは話し続ける。
「殺しの邪魔だったから住人を追い出した? 半分は嘘っぽいわね」
 捕食したナツキの凶暴な衝動が己が理性を蝕むのを耐えながらも、メフィスは言葉を選び、突き付ける。
「本当に邪険にしているなら住民も食らってしまえばいい。避難誘導するよりも手っ取り早いし欲求も満たせる」
 だが、殺人鬼たちは住民に手出しせず、むしろ避難させている。
 ――己が衝動の糧とせず、避難させたのは、何故?
 その答えを衝動と共に捕食したナツキの記憶の一部から得たメフィスは、突き付ける。
 住民たちを避難させた本当の理由は……。
「……住民に情が湧いてたからじゃないの?」
「っ!? て、てめえ……っ!!」
 図星を突かれたか、ナツキは狼狽しながらもメフィスを睨みつけるが、触手に殺戮衝動を捕食され続けている今、瞳に宿っていた殺戮の光は徐々に弱まっている。
「く、そ、衝動が……力が抜けやがる……」
 瞳の輝きを失うと共に、力すら抜けたかのように膝をつく、ナツキ。
 衝動を強く露わにしていた分、衝動が抑えられると失う力も大きい。
 殺戮の愉悦に歪んでいない、中性的な少年の顔立ちを見たメフィスは、わずかに顔をほころばせた。
「だったらアンタは殺人“鬼”なんかじゃない。れっきとした“人間”ね」
「鬼じゃなく、人間……」
 ナツキの呟きに、獣の狂気を裡に飼うメフィスは好感を抱きつつ、頷く。

 ――私は好きよ、そういう奴。

 一方、メフィスは捕食したナツキの衝動と感情、記憶から、ひとつの疑問を抱いていた。
(「ナツキが殺戮衝動を抑えなかったのは、なぜ?」)
 メフィスが捕食した記憶と感情、衝動から読み取ったのは、記憶の一部を覆い隠す闇と、それが原因と思われる虚無感。
(「失った記憶の闇と虚無感を埋めるために、殺戮衝動に身を任せている?」)
 失った記憶の正体がわかれば、根幹的に衝動を抑えられるようになるのかもしれないが、今は衝動を捕食し続けるしかないだろう。
 メフィスは茫然と立ち尽くすジャブジャブ鳥たちの脳に宿る透明触手を、首筋を経由し心臓へと移動させる。
 全ての触手が心臓に集まった瞬間を見計らい、メフィスは触手の全てを実体化させた。

 ――ズブッ!!

「あがっ!?」
「ぐわ……っ!!」
 実体化した触手は、鋼鉄の針の如くジャブジャブ鳥の心臓を貫きつつ皮膚を突き破り、一瞬でその命を刈り取っていた。

★現在の殺戮衝動★
(10段階表示、章終了時10の殺人鬼はオウガ化)

 ナツキ:6
 メグミ:8
 アキラ:8  
 リーン:7
 カズキ:9

大成功 🔵​🔵​🔵​

アカネ・リアーブル
全員に
皆様方は殺人衝動がおありですよね?
アカネもです
とはいえアカネが持つのはそう

モフ衝動

とでも言いましょうか
モフはどうしようもなくモフりたくなるのです
例え相手がオブリビオンでも

衝動に身を委ね存分にモフるのは心地よいものですが
触れるもの全てがモフになったなら
モフは日常になりやがて習慣となります
皆様はモ…殺戮習慣を持ちたい訳では無いのでしょう?

殺戮の魅力は歯磨きと同じではない筈です
皆様は解き放つべき時に衝動を解き放てる
立派な殺人鬼だと信じております

敵を空中戦でおびき寄せ
ダンスと演技で撹乱し敵UCを同士討ちに導きます
攻撃は武器受けで防御
一箇所に誘導し指定UCで一網打尽に
纏めて倒して差し上げましょう!



●衝動は習慣化すべきか、否か
 殺人鬼たちの抑制を試みた猟兵達の努力の甲斐あり、皆、多少なりとも殺戮衝動は抑えられている。
 ならば、さらに抑えるためには何をすべきか。
 アカネ・リアーブル(ひとりでふたりのアカネと茜・f05355)は、ジャブジャブ鳥が集まるまでの間を利用して、殺人鬼達に優雅に一礼してから話しかける。
「皆様方は殺人衝動がおありですよね?」
「うん、ものすごくこの鋏でちょん切りたい」
 巨大な裁ち切りバサミをカチカチと鳴らすカズキの瞳は、依然として殺戮の暗き炎に支配され。
「そうね……あの鳥たちは斬り刻みたいけど」
 あの甲高い狂気の声を聞いていると衝動が刺激されるのよ……と瞳の奥に狂気をちらつかせながらぼやくメグミに、同意するようにアキラも頷いている。
 とはいえ、殺人鬼たちの目には、アカネが殺戮衝動を持っているようには見えない。
「あんたも……何か持っているのか」
「アカネもです……とはいえ、アカネが持つのはそう」
 アキラの問いに、アカネは大真面目な顔をして答えた。

 ――モフ衝動、とでもいいましょうか。

 瞬間、カズキが足を滑らせスッ転び、メグミとリーンが吹き出しそうになる。
「突然何言うかなお姉さん?」
「モフモフした生物はどうしようもなくモフりたくなるのです。たとえ相手がオブリビオン……オウガでも」
「それ殺しじゃないわよね!?」
 モフの感触を思い出しながらモフ衝動について熱く語るアカネに、メグミが反射的に突っ込むが、彼女の瞳はモフへの期待に揺らぎ始めていた。
「そう、モフはいい。触り心地は最っ高っだし!!」
 リーンもメグミに同意するかのように、目をキラキラさせながら力いっぱい頷き。
 お互いの顔を見合わせ「ねー♪」と頷き合いながら、モフの素晴らしさを語り合うメグミとリーン、そしてアカネ。
「女ってわかんねぇ……」
 別の猟兵に衝動を捕食され一時的に大人しくなっているナツキが、女性陣を目にしつつ、額に手を当て呆れていた。げに女心は複雑なものなり?

 一頻りモフについて語り合った後、真面目な顔に戻るアカネ。
「衝動に身を委ね、存分にモフるのは心地よいものですが……触れるもの全てがモフになったら、モフは日常になり、やがて習慣となります」
「なってもいいじゃないのよ?」
 リーンの指摘に、アカネは首を軽く横に振る。
「皆様はモ……こほん、殺戮習慣を持ちたい訳では無いのでしょう?」
「今、モフって言いかけたよな?」
 ナツキのツッコミをスルーし、説き続けるアカネ。
「殺戮の魅力は歯磨きと同じではない筈です。皆様は解き放つべき時に衝動を解き放てる、立派な殺人鬼だと信じております」
 六六六(ダークネス)ではなく、人として生きるのであれば。
 ――殺戮衝動は、習慣化してはいけないものだから。
 アカネの呼びかけに納得した殺人鬼たちの目からは、殺戮の光はかなり薄れつつあった。

 再び集結し始めたジャブジャブ鳥たちが、統制もなく殺人鬼たちを襲う。
「ごちゃごちゃしているうちに、殺戮No.1のオレサマが喰ってやるぜぇ~?」
「そうはさせません!」
 アカネは背中の翼を羽ばたかせ、ジャブジャブ鳥の上空へ舞い上がりながら華麗な舞いを披露しつつ、舞薙刀を群れの中へと投げつける。
「まとめて倒して差し上げましょう!」
 舞薙刀は空中で無数の茜の花びらと化し、儚くも激しく舞い荒れる。
 ――ザアアアアァッ……。
 七色に煌めきながら吹き荒れる花嵐は、ジャブジャブ鳥達の認識と思考を激しく搔き乱し、敵味方の区別を曖昧にした。
「ケ、ケェ~!!」
 混乱したジャブジャブ鳥が振るった巨大な鉤爪の暴風が、花嵐とともに他のジャブジャブ鳥たちをなぎ倒し、押し潰していった。
「リーン、合わせて!」
「ええ!」
 同士討ちで混乱する鳥たちの合間にメグミが切り込み、漆黒の妖刀を横薙ぎに振るって衝撃波を乱打。
 足や翼を斬られたジャブジャブ鳥は、リーンが1体1体確実に大型拳銃で撃ち抜いていく。
「やってられるかぁ……ぎゃああああ!」
 女性陣の猛攻を逃れようと踵を返したジャブジャブ鳥は、いつの間にかアキラが張り巡らせていたワイヤーに引っ掛かり、バラバラに。
 ワイヤーの存在に気づいたジャブジャブ鳥が巨大な鉤爪でまとめて叩き落としている間に、カズキの巨大断ち切りバサミとナツキのナイフが次々とその首を落としていった。

★現在の殺戮衝動★
(10段階表示、章終了時10の殺人鬼はオウガ化)

 ナツキ:6
 メグミ:6
 アキラ:7
 リーン:6
 カズキ:7

成功 🔵​🔵​🔴​

幽遠・那桜
WIZ
うるさい鳥さん達だなぁ。私、今不機嫌なの。

鳥さんを「全力魔法、限界突破」したUCで縛って、殺人鬼の人達と連携して倒そうかなって思ったんだけど……
ちょっと、ナツキさんって人には優先的に「恐怖を与える」も兼ねて、少しだけ落ち着いてもらおうかな。
ねぇ、危ないよ。武器、振り回し過ぎてない?
周り見てる? 敵はちゃんと見てる? 自分の事しか考えてないんじゃない?
冷静じゃないと……あなたをこのまま縛りつけ続けるよ? そうだなぁ、死ぬまでとか?(にっこり。)
他の人も衝動が加速してるなら、少しお説教♪
あ、勿論死ぬまで縛るのは冗談♪

鳥さん、邪魔。落ち着いてる殺人鬼の人達と一緒に、葬るね。バイバイ。



●時を止めし鎖は、狂気と衝動すら凍り付かせて
「いやっふぅぅ!! オレサマの狂気がNo.1であることを知らしめてやるぅぅ!!」
「キャッハハハハハハ!! いまや殺戮No.1は俺だああああ!」
 花嵐と鉤爪の暴風から生き残ったジャブジャブ鳥達が正気(?)を取り戻したか、再び甲高い笑い声と叫び声、さらにNo.1自慢の入り交じった狂気の空間を形成しようとした、その時。
 突如、ジャブジャブ鳥達の前に翳された灰簾石の短杖の先に、ローマ数字が刻まれた時計盤が現れる。
「……うるさい鳥さん達だなぁ」
 不機嫌さを露わにする幽遠・那桜(微睡みの桜・f27078)が杖に力を籠めると、時計盤に刻まれたローマ数字は漆黒の時の鎖へと変貌し、ジャブジャブ鳥達の嘴や頭を強く縛り上げていた。
 ――ギュゥゥゥ……ッ!
「~~~~~~~!!」
 嘴を縛られたジャブジャブ鳥達は、酸素を求めて喘ぎ始め。
 たまたま高笑いしていた時に縛られたのか、猿轡を噛まされたかのように嘴を開けたまま縛られたジャブジャブ鳥は、涙目に。
 一方、鎖のうちの2本は、ジャブジャブ鳥ではなく……殺人鬼達へ向かっていた。
 そのうちの1本に胴と両腕を縛られたのは、ナツキ。
「な、何すんだ!?」
 突然腕を封じられたナツキは、怒りを露わに那桜を睨みつける。
 だが、那桜は構わずお説教を始めた。
「ねえ、危ないよ? 武器、振り回し過ぎてない?」
「そんなことねえ……っ!」
「周り見てる? 敵はちゃんと見てる?」
「うるせえ! 見ている!」
「冷静じゃないと……あなたをこのまま縛り付け続けるよ? そうだなぁ……」
 那桜は考え込む素振りを見せつつ、にこやかな笑顔とともに一言。

 ――死ぬまでとか?

 那桜はナツキに恐怖を与えるつもりで「死ぬまで」と言ったのだけど。
「死ぬまでは、勘弁」
 それに反応したのは、怒りを治めないナツキではなく、カズキ。
 鎖の最後の1本は、カズキの巨大裁ち切りバサミを縛り、完全に封じていた。
 鋏が開閉できず困ったな、と眉を寄せるカズキだが、決して笑顔は崩していない。
「ねえ、この鎖、邪魔なんだけど」
「あなたもだよ。自分の事しか考えてないんじゃない?」
 カズキの狂気を含む笑顔に、那桜も同じく笑みで返すが。
 彼女の笑みの裏にそこはかとなく漂う怒りの気配を察し、黙り込む、カズキ。
「カズキ、女の子は怒らせると怖いわよ?」
「リーンに……言われたくな……」
 ――ガツッ!
 余計なことを口走ったアキラがリーンに大型拳銃のグリップで殴られるが、2人とも目立つ形で殺戮衝動は見せていない。
 それを見た那桜は、少し笑顔を緩めた。
「もちろん、死ぬまで縛るのは冗談♪」
「本気に聞こえたけど……」
 ぼそり、と小声でつぶやくメグミの目からも、殺戮の狂気は薄れつつあった。

「むぐ~~~~~~っ!!」
「もが……ガァ……」
 嘴を鎖で縛られた鳥は、いつしか胴も足もしっかり縛られ、そのまま地に転がされている。
 猿轡を噛ませるかのように鎖で縛られたジャブジャブ鳥は、時を止める鎖に呼吸すら止められたのか、白目を剥いていた。
 だが、那桜は容赦しない。
 ――さわ……っ。
 周囲の空気が冷たい色を帯び、ジャブジャブ鳥たちを不安と恐怖という名の見えない鎖で縛り上げる。
「鳥さん、邪魔。……バイバイ」
 那桜の声と共に、一瞬、時の鎖がふわりと緩やかに解ける。
 ジャブジャブ鳥達が恐怖に喘ぎながらも大きく息を吸い込もうとした、刹那。

 ――ギンッ!!

 鎖が再びジャブジャブ鳥たちの全身をより強く締め上げ、その時を止めながら骨を砕き、命を折り取る。
 ――ベキベキボキッ!!
「ガ、ガアアッ……」
 鎖に全身の骨を砕かれた挙句、時すら止められたジャブジャブ鳥達は、虫の息。
 この機を逃す殺人鬼達では、ない。
「行くわよ!」
 メグミが漆黒の妖刀で動けぬジャブジャブ鳥たちの喉を次々と斬って止めをさし。
「このワイヤーは……罠だけじゃない……」
 アキラが鎖の上からさらに強くワイヤーで締め上げ、一気にズタズタに。
「むぐ~~~っ!! もが~~~~っ!」
 鎖の猿轡を噛まされたジャブジャブ鳥が意識を取り戻し、鉤爪を振り回そうとするが。
「うるさいのよね」
 リーンが鳥の額に大型拳銃の銃口を押し付け、頭を撃ち抜いた。

 ――それが、ジャブジャブ鳥の狂気と殺戮からこの国を解放する、最後の銃声となった。

●復讐者を名乗る殺戮者の登場
「さて、次はあなた?」
 メグミが少し離れたところで見守るディガンマに、漆黒の妖刀の刃先を突きつけ、挑発する。
「少しは楽しませてもらったが……毒気を抜かれたか」
 ディガンマは挑発に応えながらも、猟兵達をつまらない瞳で見つめつつ。

 ――ゆらり、と殺人鬼たちの前に歩み寄った。

★現在の殺戮衝動★
(10段階表示、章終了時10の殺人鬼はオウガ化)

 ナツキ:6
 メグミ:5
 アキラ:6
 リーン:5
 カズキ:6

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ディガンマ』

POW   :    引き裂く獣腕
単純で重い【獣腕】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    恩讐の獣霊
【周囲の廃品や不用品と融合する】事で【獣性を露わにした姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    縫い留める獣爪
命中した【獣腕】の【爪】が【怯えや劣等感を掻き立てる「恨みの針」】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。

イラスト:シャル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠虚空蔵・クジャクです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●殺戮衝動と目的意識の狭間にて
「あの群れを全滅させたのは見事だが……すっかり毒を抜かれたか」
 片腕を獣に変えたディガンマが、半ば失望したような目を殺人鬼たちに向け、宣言する。
「毒を抜かれたお前たちに、勝ち目はない」
 ディガンマがその紅き瞳でぎらり、と殺人鬼たちを射抜くように睨みつけ。
「たとえ猟兵を味方につけようが、今のお前たちは烏合の衆にすぎん」
 さらに獣の腕に変貌した右腕を殺人鬼たちに突き付け、挑発するかのように手のひらを動かし。
「六六六(ダークネス)を刻まれし咎人なら、もっと内なる声に耳を傾けろ。ころしたくてころしたくてたまらない、その声にな」
 穏やかな声で、殺人鬼たちの耳に言の葉の毒を流し込む、ディガンマ。

 ――己が欲望に忠実に。
 ――内なる獣に身をゆだね。
 ――我ら咎人は、闘争(ころしあい)に興じるのみ。

 ディガンマの挑発は、1度は抑えたはずの殺戮衝動を誘発する蟲毒となり、殺人鬼たちの理性を少しずつ蝕み始める。
 精神に毒が回ったか、再び瞳をぎらつかせ始めたナツキが、銀のナイフを突きつけ、吼えた。
「ふざけんじゃねえぞてめえ!!」
「そうよ、その目にたっぷり弾丸を叩き込んでやるから!!」
 ナツキの横では、リーンが狂気を目に宿しながら二丁の銃を構え、ディガンマに突き付けていた。
「……ナツキ、リーン、落ち着いて。私達はなぜ、私達だけが残ることを選んだの?」
 メグミが冷静にナツキとリーンを諭すも、殺戮衝動を刺激されたリーンは、喚くように言葉を吐き捨てる。
「メグミ、わかっているわよ! 私たちを受け入れてくれたこの国の人たちを、この戦いに巻き込まないために逃がしたんだもの!」
「うん、彼らに情が移ったからね」
「……ころししか知らない僕たちを、怖がらなかったし」
 リーンの言に頷くアキラとカズキは、やや落ち着いた様子。
 そうね、と頷いたメグミは、ディガンマに向き直った。

 ――この国の人たちは、殺人鬼を怖がらず、受け入れてくれた。
 ――記憶の彼方にあるはずの故郷から流れてきた私たちだけど。
 ――温かく迎えてくれた人々のいるこの国を、第二の故郷にしようと決めた。
 ――だから……こんな奴にこの国も人も踏み荒らされたくない。

「私は、この国をこいつから守り抜くために戦うわよ」
 漆黒の妖刀を正眼に構え、ディガンマから目をそらさぬよう睨みつけるメグミの横に、カーボンワイヤーを手にしたアキラと、巨大裁ち切りバサミを抱えたカズキが並び立つ。
「アキラとカズキも、同じ?」
「僕も……メグミと同じ……みんなに恩返ししたいから……」
「うん。こいつをさっさと追い出したいから、手伝ってくれる?」
 巨大裁ち切りバサミを構えながら、カズキは猟兵達に軽く頭を下げ、協力を求めてきた。

 ディガンマは、相変わらず殺人鬼たちを、猟兵たちを侮っている。
 確かに、今の殺人鬼達では、たとえ連携したとしても撃破には至らない。
 仮に猟兵達だけでディガンマに挑んだとしても……わずかに手は届かない。
 しかし、殺人鬼たちと猟兵達が連携すれば、撃破は決して不可能ではないはずだ。

「ああくそ、俺は殺したくて仕方ねえんだ……ココロに空いた穴を埋めたいんだよ」
 ディガンマに近しい獣の気配を露わにしながら、ナイフをペロリ、と舐めるナツキ。
「忘れるところだったわ……もっともっと撃ちたい、もっともっと生を感じたい!」
 空中にミニマシンガンの弾丸を一斉射したリーンが、大型拳銃の銃口をディガンマの頭に向けつつ、その金の瞳をさらに狂気に歪ませる。
 ディガンマは、再び殺戮衝動が高まっているナツキとリーンを見て、口元に獣の笑みを浮かべた。
「さあ、ここからが本番だ。殺人鬼同士、殺戮に興じようじゃないか」
 精々楽しませてくれよ、と不敵に笑うディガンマに、猟兵達は得物を向け。
「上等だ! 徹底的に斬り刻んでやるからよぉ!!」
「私達の故郷を、これ以上踏み荒らさせないから!」
 殺人鬼たちは目的意識を持った覚悟の叫びを、あるいは殺戮の悦楽に興じるための咆哮をあげていた。

 ――殺戮衝動の嵐が、再び吹き荒れようとしていた。


※マスターより補足

 第2章開始時点における、殺人鬼たちの殺戮衝動の高まり具合、及び使用武器と使用UCは以下の通りです。(殺戮衝動は10段階表示)
※断章におけるディガンマの煽り(挑発)の影響で、1章終了時点から全員殺戮衝動が1ずつ上昇しております。

 ナツキ:殺戮衝動7、銀のナイフ(殺戮刃物相当)
     使用UC【九死殺戮刃】※味方の誰かを斬らない場合、殺戮衝動+1
 メグミ:殺戮衝動6、漆黒の刀(妖刀相当)
     使用UC【妖剣解放】
 アキラ:殺戮衝動7、カーボンワイヤー(鋼糸相当)
     使用UC【レプリカクラフト】(仕掛け罠→ワイヤートラップに変更)
 リーン:殺戮衝動6、大型拳銃&ミニマシンガン(拳銃&サブマシンガン相当)
     使用UC【クイックドロウ】(熱線銃→拳銃&サブマシンガンに変更)
 カズキ:殺戮衝動7、巨大な裁ち切りバサミ(首切り鋏相当)
     使用UC【剣刃一閃】

 ディガンマ撃破に必要なのは【猟兵と殺人鬼たちの連携】です。
 連携を組み込んだプレイングは、プレイングボーナス付与の対象となります。

 メグミ、アキラ、カズキの殺戮衝動はこれ以上高まりませんが、殺戮衝動が弱まり戦力が低下した分、他者と連携することを重視した戦い方をします。
 ナツキとリーンは好戦的な性格だからか、章途中で殺戮衝動が高まる可能性が高いです。また、2人は殺戮衝動が抑えられない限り、連携には応じないため、殺戮衝動を抑制するためのアプローチが継続して必要となります。

 ディガンマ撃破時点で「殺戮衝動10」に達した殺人鬼は、戦闘終了後に理性を失いオウガ化しますが、オウガ化しなかった殺人鬼たちがその場で即座に撃破します。
 また、猟兵が殺人鬼たちと連携しなかった場合、殺人鬼たちがディガンマに攻撃される可能性が跳ね上がります。何度も攻撃されるとディガンマに撃破されるかもしれません。
 何れの場合も、撃破された殺人鬼は、章終了時に「死亡」しますので、ご注意ください。

 ちなみに、殺人鬼たちの名前は、断章で各々の名を口にしているところを聞き、知ったものとしていただいて構いません。

 ――それでは、良き闘争を。
本屋・ししみ
・ナツキ・リーンへ〈コミュ力/言いくるめ〉

何の為の戦いか。
今君達が吠えたんだ。
ならば、勝利の条件を間違えないで欲しい。
その心には殺意だけじゃないんだろう?
この戦いは、心底のソレに唾を吐きかけ失わせんとする相手との戦争だ。
衝動に塗り潰されてしまったら、きっと君達は君達じゃなくなるよ。
それこそ、殺意以外に何も無い――空っぽでつまらない鬼になるだけだ。
――それは、負けだよね。
勝とうよ――負ける気はないだろう?

・戦闘〈不意討ち/投擲/捕縛/体勢を崩す〉
味方殺人鬼と連携、お膳立てに徹するよ。
ワイヤーを絡ませ、レンチをぶん投げ、指定UCを駆使。
不意討ち上等で牽制と妨害だ。
ナツキのUCで一発貰うのも上等さ。



●誰がための戦いか――それは何のための勝利か
 ディガンマに煽られ、1度は抑えたはずの殺戮衝動に再び囚われかけている、ナツキとリーン。
 一刻も早く衝動を抑えてもらわねば、彼らを待つのは――理性を失いオウガ化する未来。
 抑えるために先に進み出たのは、本屋・ししみだった。
「ナツキ、リーン。これは何の為の戦いか」
 思い出せ、との想いを籠めながら、ししみは衝動に囚われるふたりに訴える。
「何のため、だと?」
「今、君達が吠えたんだ」
 ――この国の人たちを、この戦いに巻き込まぬために逃がした、と。
 リーンの叫びは、衝動に煽られ歪められたそれではなく、純粋に心からの願い。
 まだ彼らに理性はあると察したししみは、ナツキとリーンに諭すよう呼びかける。
「ならば、勝利の条件を間違えないでほしい」

 ――その心にあるのは、殺意だけじゃないんだろう?

 殺意と理性、衝動と目的の間で揺らぐ殺人鬼たちに、その一言は鋭く突き刺さり、しかし彼らの目的意識と理性には柔らかく沁み渡る。
 彼らの瞳の奥に揺らぐ衝動がわずかに弱まったのを見て、さらにししみは畳みかけた。
「この戦いは、心底のそれに唾を吐きかけ失わせんとする相手との『戦争』だ」
「戦争だと!?」
「ああ、戦争だ」
 目の前のディガンマは、濃密な殺戮衝動を全開にし、ナツキ達を感化し殺戮に興じようとする殺人鬼……否、殺戮と言う名の享楽に飢える獣。
 ――ソレを討つのは、もはや『戦争』だろう。
 それに、と前置きし、ししみはさらに訴える。
「衝動に塗りつぶされてしまったら、きっと君達は君達じゃなくなるよ」
「私達じゃ、なくなるですって?」
「ああ、それこそ、殺意以外に何も無い――空っぽでつまらない鬼になるだけだ」

 ――それは、負けだよね。

 この戦いは、鬼ではなく人として勝って、初めて意味がある。
 そう諭されたリーンの瞳から、明らかに狂気が薄まった。
「勝とうよ――負ける気はないんだろう?」
「ないわよ! 負けられないんだから!」
 リーンが狂気の色を薄めた瞳をディガンマに向け、叫ぶ。
「そうね、この戦いは負けられない――忘れないで」
 深呼吸をして漆黒の妖刀を構え直すメグミに頷いたリーンは、いったん大型拳銃とミニマシンガンを下ろし、ゆっくりと大きく息を吸い込む。
「私が私でなくなったら、この国の人たちに顔向けできないじゃない……」
 己に言い聞かせるよう呟きながら顔を上げたリーンは、鋭くディガンマを睨みつけ、再度二丁の銃を構えた。

 殺人鬼たちが目的意識を持ったならば、ししみの仕事は彼らのお膳立て。
 ししみは袖口に仕込んだフック付きワイヤー、ハイド・オン・スリーヴスを右手に絡ませ、魔力を付与したパイプやレンチを投げつけ、殺人鬼たちが配置につく時間を稼ぐ。
「ああくそっ、俺は……俺はただ斬りてえだけなんだ!!」
 目的意識と己が衝動で揺らぐナツキが咆えながらディガンマに突撃し、あっさり弾き飛ばされるのを横目に、ししみは呪蟲全書写本のページを繰り、開いたページに記された呪を読み上げる。

 ――われがねがうままにそれはあり。
 ――それはむしょくなるもの、それはむぎょうなるもの。

 ししみの呪に合わせて、ディガンマを囲むように顕現するのは、禍々しい魔力。
 それは禍々しい気配を漂わせ、しかし色も形も匂いも一切ない、無色透明の魔力の塊。
「この気配……禍々しすぎる」
「なにこれ、怖い」
 気配を察したアキラとカズキが、根源たる恐怖を刺激され軽く震えるも、気にせずししみは呪を完成させた。

 ――じざいなるちから、ここにもとめたるをなさん!

 ししみの呪が完成すると共に、無色透明の魔力の塊がディガンマの右腕を絡め取り、一気に動きを鈍らせる。
「くっ……」
「今よ!」
 ディガンマが無理やり振り払おうとしたその隙に、高速移動で背後を取ったメグミが前傾姿勢で突撃し、両脚に斬りつけた。
 ディガンマは痛みに顔を軽くしかめながらも、獣腕をメグミの背中に叩き込もうとするが、後頭部を禍々しい魔力の塊に殴られ、一瞬動きを止めた。
「私は私なんだから!」
 魔力の塊と連携するように、リーンは獣腕に二丁の銃の弾丸を全弾叩き込む。
 獣すら止める大型拳銃とミニマシンガンの弾丸の嵐を浴びたディガンマは、獣腕の行く先を大きく逸らされ、体勢を崩していた。

★現在の殺戮衝動★
(10段階表示、章終了時10の殺人鬼はオウガ化)
【!】リーンの殺戮衝動の上昇が抑制されました!

 ナツキ:7
 メグミ:6
 アキラ:7
 リーン:6
 カズキ:7

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「さて、僕も僕の目的の為に動くかな。」
美味しそうな血を逃すのは勿体無いしね。

先ずはUCで狼化し、更に周囲に狼の群れを召喚。
景気付けに雄叫びでもあげとくかねぇ。

群れの狼達には殺人鬼達のサポートを頼んどく。
攻撃から庇う、囮になって攻撃のチャンスを作る、背中に乗せて移動を助けたりとかかな?

僕は悪魔の見えざる手に二振りの大鎌を持って貰い、狼達と殺人鬼達の攻撃に合わせて敵さんを噛み砕きにかかるとしよう。
殺気を感じ取り動きを見切って、的確に牙と爪と大鎌でバラして噛み砕いてあげる。
足場を崩された時は空を走って離脱。仕切り直して上空から急降下して攻撃もあり。

「同じ殺人鬼だけど、吸血鬼でもあるんでね、僕は。」



●誰のための戦いか――それは己の目的のための戦い
 殺人鬼たちが己が目的のために、あるいは衝動に突き動かされるようにディガンマと対峙し始めたのを見て、須藤・莉亜も動き始めた。
「さて、僕も僕の目的の為に動くかな」
 莉亜はあえて、意識して殺人鬼たちと連携を取ることはないのだけど。
 その代わり、彼らには良きサポート役にフォローを任せるつもり。
「存分に噛み砕け」
 全身を狼の姿に変えた莉亜は、同時に狼の大群を召喚。
 それは獣性を剥き出しにしつつも、莉亜の命を待つように佇んでいる。
「えっ?」
「なっ?」
「狼、すげー」
 突然現れた狼の大群に、リーンとナツキが呆気に取られ、カズキが目を輝かせ。
 目にしたアキラが何か考えたか無言で姿を消し、メグミも黙ったまま目を細めていた。
「じゃあ、あの後輩たちは任せたよ……っとその前に」
 莉亜は手近な狼の首を撫でてから、狼の群れとともに、景気づけに雄叫びを上げる。

 ――ワオォーーーーン!!

 莉亜と狼の口から一斉に発せられるのは、ディガンマへの敵意を含んだ雄叫び。
 圧すら伴う雄叫びに、一瞬だけ怯んだディガンマだが。
「数を揃えれば良いとでも思ったか」
 直ぐに気を取り直し、分厚い毛皮に覆われ鋭い爪を生やした左の獣腕を無造作に振り下ろす。
 狙いは――ワイヤートラップを張り巡らせるために姿を消していた、アキラ。
「あ……」
 まさか自分が狙われるとは思わず、アキラは身を固くする。
 しかし、アキラの頭上から罠と存在を全て踏み躙るために振り下ろされた左腕は、突然飛び込んだ狼が割込み、代わりに受け止めた。
 獲物を仕留めれぬこと以外は死すら恐れぬ狼たちは、守るべき相手を庇うためなら一切躊躇いを見せない。
「キャウッ!!」
 アキラを庇った狼は、鋭い爪でズタズタに斬り裂かれ、あっという間にこと切れたが、アキラは無傷。
「ありがとう……」
 己を庇って鋭い爪で切り裂かれた狼に礼を述べ、アキラは再びトラップを張り巡らせるために姿を消した。
「ギャウッ!!」
 その気配を搔き乱すために、別の狼が飛び掛かるが。
「数に意味はなさない、そう言ったはずだ」
 振り上げられた腕で狼を軽々と吹き飛ばし、事切れる狼をつまらなそうに見つめる、ディガンマ。
 だが、その間に別の狼にまたがり急接近したカズキが右足を狙い、大きく鋏を広げていた。

 狼の群れと殺人鬼たちの連携に翻弄され続け、手も足も出ないディガンマは、狙いを狼の召喚主たる莉亜に定める。
「お前も獣なら、六六六(ダークネス)を裡に抱える者なら、もっと……」
「確かに、僕は同じ殺人鬼だけど……」
 莉亜の頭を力技でかち割ろうと真っ直ぐ縦に振り下ろされるディガンマの獣腕を、莉亜が背中に携える悪魔の見えざる手が、莉亜を守るように手にした二振りの大鎌をふるって逸らす。
 獣性に囚われている今、その一撃は重いが、動き自体は至極単純明快。
 故に、躱したり逸らしたりするのは、狼化し戦闘能力を向上させた莉亜にとっては、さほど難しくない。
「……吸血鬼でもあるんでね」
 半人半魔の少女は、愉快そうに告げながら紫の瞳を向け。
 あくまでも楽しそうに、かつディガンマの血を逃さぬ狼と化し、その一瞬を逃さぬよう目を光らせる。
「なるほど、六六六(ダークネス)でもあり、ヴァンパイアでもあるか」
「そういうこと……おっと」
 ディガンマが楽しそうに左の獣腕を振り下ろし、地面ごと莉亜を押しつぶそうとするが、莉亜は大振りなそれを見切り、狼の脚力を持って跳躍して回避。
 結果として獣腕の振り下ろしは、地面を陥没させるに留まった。
 地面に爪が深く突き刺さったのを見て、莉亜は素早く獣腕に飛び掛かり、四肢で確りとしがみ付き大きく口を開けた。
「な……っ!?」
「いただきまーす♪」
 莉亜は獣腕に噛みつき、わざと大きな音を立てて血を啜り始める。
 ――ジュルッ、ズズッ……。
 それは己が吸血衝動を誤魔化すための行為ではあるけれど。
 同時に、ディガンマの獣腕から血を奪い……膂力を削ぐための行為でもある。
「ぐ、お、お……!!」
「おおっと……危ない」
 ディガンマが莉亜を離すために獣腕を振り上げるが、地面に叩きつけられる直前に莉亜は口を離し、爪と二振りの鎌で獣腕を斬り裂きながら飛ぶように離れた。
「ぐぅぅ……お前……」
 斬り刻まれてさらに血の気を失い、だらりと垂れ下がった獣腕を右手で押さえながら、ディガンマは殺戮を欲する目で莉亜を、殺人鬼たちを睨みつけていた。

★現在の殺戮衝動★
(10段階表示、章終了時10の殺人鬼はオウガ化)
※リーンの殺戮衝動の上昇が抑制されています。

 ナツキ:7
 メグミ:6
 アキラ:7
 リーン:6
 カズキ:7

大成功 🔵​🔵​🔵​

幽遠・那桜
WIZ
はい、ストップ。強敵相手に作戦無しに突貫するお馬鹿な人っているかな?
ナツキさん、味方を斬るなら私を切ってね。
私、ナイフと血が一番嫌いだから、私以外斬ったら殺すね。足手まといが増えたら困るんだもん。
でも、代わりに最前線を頼みたいな。
リーンさんも、ディガンマの動きと爪がナツキさんに届かないように気をつけてあげてね。
他の人とも連携を意識して。私もあなた達に合わせるけど……殺戮衝動を今以上身を任せたら、わかるよね?
(恐怖を与える)

彼らに少し任せて「存在感」をあえて消す。「目立たない」ようにして、ディガンマだけ対象にUC詠唱。
この技は、毛先が墨色に変わる。「限界突破」、殺人鬼さん達と一気に倒す!



●誰が為の戦いか――それは己が衝動を御するため
「てっめぇ……」
 銀のナイフを手にして立ち上がったナツキは、瞳を殺戮衝動と怒り、そして目的意識で激しく揺らがせたまま、再度突貫しようとした。
「はい、ストップ」
 ナツキの腕を後ろから掴んで止めたのは、幽遠・那桜だった。
「っ、てっめぇ……離せ!」
「強敵相手に作戦無しに突貫するお馬鹿な人っているかな?」
「馬鹿じゃねえよ!!」
 己が欲と衝動、目的意識で揺らぐナツキは、那桜の手を振り払おうとするが。
「そういえば私、ナイフと血が一番嫌いだから、私以外斬ったら殺すね」
「殺す」と語尾に圧を籠めて告げられ、ナツキは二の句が告げなくなる。
 那桜がナイフと血が嫌いな理由は、未だ朧げなる記憶の彼方にしかないけど。
 それ以上に、足手間といが増えるのも困るから。
「でも、代わりに最前線を頼みたいな」
 那桜の頼みに、上等じゃねえか、とナツキがナイフを構え。
「リーンさんも、他の人との連携を意識して、ディガンマの動きと爪がナツキさんに届かないように気を付けてあげて」
「わかっているわよ」
 その瞳から狂気を払拭したリーンも、ディガンマの獣腕から目を離さず、頷いた。
「私もあなた達に合わせるけど……」

 ――殺戮衝動に今以上に身を任せたら、わかるよね?

 那桜が見せた笑顔は、アキラとカズキをわずかに怯えさせる。
 身を任せることはないにしても、刷り込まれた記憶は払拭できないから。

「そろそろ本気で殺し合おうぜ!」
 ナツキが那桜の腕をわずかに傷付け、その勢いのまま真正面からディガンマに神速でナイフを振りかざし。
 ナツキの攻撃を囮に回り込んだメグミは獣腕を狙い漆黒の妖刀を斬り上げ、アキラが足元にワイヤーを張り巡らせて動きを制約。
 ディガンマもワイヤーを爪で引っ張り上げようとするが、カズキが巨大裁ち切りバサミを突き出し、その動きを阻止する。
「毒を抜かれた分、協力するようになったか」
 だが、とディガンマは鼻を鳴らし、殺人鬼たちに更なる言の葉の毒を注ぎ込む。
「言ったはずだ。毒を抜かれたお前達に勝ち目はない、と」
 ――それは協力しようが、決して変わらぬ事実だ、と。
 ディガンマは無造作に獣腕を突き出し、恨み込めた爪でナツキを貫こうとするが。
「危ないよ」
 カズキが鋏を広げてその爪を挟み込み、触れたもの全てを断ち切る力を宿して一気に切り落とす。
 切り落とされた爪は地を跳ね、リーンの足に触れた。
「――――っ!?」
 刹那、雷に打たれたかのように身を固くする、リーン。
 爪に籠められた恨みの力が、リーンの記憶を刺激する。
(「このいのちは……「時限式」。時が来たら尽きるいのち」)
 ――それは銃を手に取り引き金を引くことで、紛らわせてきた恐怖。
 だが、仲間がいる今は……怖くない。
「関係……ないわ。今を生きていれば、未来だって……!」
 歯を食いしばり恐怖を打ち消しつつ、リーンは大型拳銃とミニマシンガンを乱射。
 指向性なくばら撒かれる弾丸に、ディガンマが目を細めた。
「そうだ、もっと撃て。撃てば撃つほどお前は六六六(ダークネス)に近づいてゆく」
 獣の笑みを見せながら、至近距離でナイフを突き出すナツキに獣の腕を叩き込もうとした、その時。
 何処かで諳んじられている歌が、風に乗ってディガンマの耳に入った。

 ――さくら、さくら、咲き乱れ
 ――宵に招いて狂い咲く
 ――墨染舞い散る夢のあと

 それは、いつの間にか姿を隠していた那桜の言の葉。
 那桜の声に応じるように、桜の花びらがひらひらと舞い始める。
 ただしその色は、桜色ではなく……薄墨。

 ――言の葉紡ぐ、桜詩(さくらうた)
 ――墨染桜、咲きにけり……

 周囲を見回すディガンマの目に入ったのは、高まる森羅万象の力でふわりと浮き上がる毛先を墨色に染め、表情を消した那桜の姿。
「ちっ……このためか!」
 先程の乱射を含めた殺人鬼たちの意を察し、舌打ちして咆えるディガンマ。
 リーンの乱射は、那桜の詠唱の時間を稼ぐための連携の一環。
 殺人鬼たちが動きを封じるかのように手を止めなかったのは、那桜から気を逸らす為。 
「バイバイ」
 そして、詠唱を完成させた那桜が、軽く手を振った。

 ――ゴウゥゥゥッ!!

 墨染桜の無数の花弁が薄墨の奔流と化し、ディガンマを呑み込む。
 時と空、地と桜、その他あらゆる万象は、那桜の意を受けて獣性剥き出しの殺人鬼をこの世界から拒絶し、その全身を徹底的に蹂躙していた。
「ぐぅ、うぅぅぅ……!!」
 異物を排除するかのような振る舞いをする花吹雪は、あらゆる隙間に潜り込んでディガンマの全身に徹底的に傷をつけ、左の獣腕に残された銃創から潜り込んだ墨染桜の花弁が毛皮ごと腕をズタズタに裂いていた。

★現在の殺戮衝動★
(10段階表示、章終了時10の殺人鬼はオウガ化)
※リーンの殺戮衝動の上昇が抑制されています。

 ナツキ:7
 メグミ:6
 アキラ:7
 リーン:6
 カズキ:7

成功 🔵​🔵​🔴​

アカネ・リアーブル
アカネは感激です
モフについて語り合えて

メグミ様
リーン様
共に参りましょう!
愛すべきモフを存分にモフる明日のために!
そして戦いが終わりましたらモフについて語り合い
モフをモフしてモフしましょう!

メグミ様とリーン様と連携を
敵はスピードと反応速度が爆発的に上がる様子
ならばそれを削げば良いのです
耐久力や攻撃力はそのままなのですから

ダンスとコミュ力【指定UC】
称えるのはもちろんモフです
アカネ達を繋いでくれたモフを讃えましょう
お二人も共感してくださるはずです

行動速度が弱まりましたらお二人は攻撃を
心の内の殺戮衝動を
思う存分解放してくださいませ
敵の攻撃はオーラ防御とダンスで回避
攻撃を受けても激痛耐性で舞い続けます



●誰が為の戦いか――それはモフを存分に語るため……?
(「アカネは感激です……モフについて語り合えて」)
 アカネ・リアーブルは、無数の切り傷に覆われたディガンマを前に、モフ衝動を語り合えた感激に浸っていた。
「メグミ様、リーン様、共に参りましょう!」
 先ほどモフについて存分に語り合ったメグミとリーンの手を取り、笑顔で呼びかけると。
「ええ、愛すべきモフを存分にモフる明日のために!」
「終わったら思う存分もっふもふするわよ!」
 メグミとリーンもアカネに同意し、手を力強く握り合う。
 一方、女性陣がきゃっきゃと手を取り合う光景を見て、男性陣は目を点に。
「……どこから突っ込めばいいの、これ」
「同感」
「女って本当にわかんねぇ……」
 アキラとカズキが投げやり気味に呟き、ナツキは理解できぬと呆れていたが、アカネ含めた女性陣は気にすることなく、モフへの愛を軸に意思統一。
「そして戦いが終わりましたらモフについて語り合い、モフをモフしてモフしましょう!」
「ええ! でもそのためにも……」
 メグミが漆黒の妖刀をディガンマに三度突き付け。
「さっさとこの薄気味悪い殺人鬼を追い出すわよ?」
 リーンも二丁の銃の銃口をディガンマに突き付けていた。

「では、アカネは皆様のために舞をひとさし舞いましょう。あなたとモフに光があらんことを」
 アカネが舞薙刀を手に、徐にふわりと舞い始める。
 それは、メグミとリーン、そしてアカネを繋いでくれたモフを称える舞い。
 存在そのものが癒しとなるモフを称えながら舞うアカネにモフ要素を見出したか、メグミとリーンの頬が緩み始めた。
「六六六(ダークネス)より、愛すべきものを取るか」
 毒気を抜かれたメグミとリーンをつまらなそうに眺めつつ、鼻を鳴らすディガンマ。
 殺戮に興じようとするディガンマにとって、これほど面白くない光景はない。
「ならば、二度と愛すべきものを見られないようにしてやろう」
 ディガンマは周囲に散らばったジャブジャブ鳥の羽根や切断されたワイヤーの欠片などを己が身体に融合させ、己が獣の一面を露わにしてゆく。
 左の獣腕を覆う毛皮は、より硬さを増し。
 先程切断された爪は、鋭さも固さも増した状態で元通りの長さに伸び。
 そして瞳は……飢えた肉食獣のように血走り始め。
 思考すら凶暴な獣に近づけたディガンマの表情は――猛獣そのもの。
「ああもう! めんどくせぇ!」
 アカネの不可解な行動とディガンマの変貌に苛立ったナツキが、ディガンマにナイフを叩き込もうとするが、行動速度が落ちていたためあっさりと避けられ。
「モフを称える……うん、理解できない」
「お姉さん、他に称える対象、ないの」
 同じく行動速度を落とされたアキラとカズキは、それを察するやワイヤーを張り巡らせたり鋏を突き出したりして牽制に終始する。
「敵を前にして舞うとは、愚かな」
 カズキの牽制を獣腕の爪で逸らしつつ、ディガンマはアカネの首を絞めるために右手を伸ばそうとして、己が身体に異変に気づいた。
 ――舞いに共感していないせいか、動きが不自然に緩慢になっている。
「む……」
 行動速度が落ちていないアカネにひらりと躱され、うなるディガンマ。
 己が獣腕を覆う毛皮と、腰につけているマスコットがモフであることに気づけば、ディガンマも共感し、行動速度を落とされることはなかったかもしれないが、殺戮衝動の塊とも言えるディガンマがそれに気づく余地はない。
「さあ、お二方とも、心の内の殺戮衝動を思う存分解放してくださいませ」
 伸ばした手を容易に回避できたことで、ディガンマの行動速度が落ちたことを見切ったアカネが、メグミとリーンに呼びかける。
「今は殺戮衝動よりモフ衝動を解放したい気分ね!」
 リーンが引き付けと牽制も兼ねてディガンマの両脚を狙い、ミニマシンガンの3点バーストを繰り返す。
 不規則な間隔を置いて3発ずつ撃ち込まれる弾丸に、ディガンマが足を止めた、その時。
「モフの為にさっさと退場してもらうわよ!!」

 ――斬ッ!!

 姿勢を低くし一瞬で間を詰めたメグミが漆黒の妖刀を斬り上げ衝撃波を生み出し、ディガンマの左わき腹から右肩を深く斬り裂き。
 追撃とばかりに振り下ろされた妖刀が、今度は右肩から左わき腹をさらに深く抉っていた。

★現在の殺戮衝動★
(10段階表示、章終了時10の殺人鬼はオウガ化)
※リーンの殺戮衝動の上昇が抑制されています。

 ナツキ:6
 メグミ:5
 アキラ:7
 リーン:5
 カズキ:7

成功 🔵​🔵​🔴​

メフィス・フェイスレス
連携:メグミ

【心情】
フォーミュラがいなくなってこの世界も変わる兆しが見え始めた
殺人鬼達もヒトとして自分の中の獣と折り合いを付け始めている
まだそれができてないやつもいるけれど
周りの助けがあれば機会はいくらでもあるでしょ。でもそのためには
とりあえずあの鉤爪野郎やアンタのようなケダモノ共がジャマなのよね
【戦術】
アイツはもう殺人鬼達を警戒していない。付け入るならそこね
私がやれと言ったら、躊躇わないで

私が飢渇を散布し闇に紛れ微塵で攪乱しながら肉薄する
メグミには私の体で出来る死角を突いて捨て身の一撃で私ごと敵を貫かせる
メグミの刃に付着した私の血潮のマヒ攻撃で敵の動きを止め
骨身で捕縛してUCを確実に叩き込む



●誰が為の戦いか――それは変わりゆく世界のため
 メフィス・フェイスレスは、傷だらけの幹部猟書家『ディガンマ』を前に、妙な感慨にふけっていた。
 オブリビオン・フォーミュラたるオウガ・オリジンがいなくなり、この世界も変わる兆しが見え始め。
 殺人鬼たちもまた、ヒトとして自分の中の六六六(ダークネス)と言う名の獣と折り合いをつけ、つきあっていく方法を探し始めている。
(「もっとも……まだそれができていない奴もいるけれど」)
 未だ殺戮衝動と目的意識の狭間で揺れ動いているのか、苛立つナツキを見ながら、メフィスはそっと息を吐く。
 ――結局、彼が殺戮衝動に身を委ね続ける理由はわからずじまい。
 だが、周りの助けがあれば、今後獣と折り合う機会はいくらでもあるだろう。
 しかし、彼らが折り合いをつける機会を増やすためには、先にやらねばいけないことがある。
 ――それは、オウガ・オリジンの力を奪い取った猟書家たちの駆逐。
「とりあえず、あの鉤爪野郎やアンタのようなケダモノ共が邪魔なのよね」
 この世界に地獄の如き超弩級の闘争を引き起こそうとしているオウガ・フォーミュラと、目の前で獣性と殺戮衝動を露わにしている幹部猟書家への敵意を露わに。
 メフィスは、ディガンマの前にその姿を晒した。

「飢えを持つ猟兵とは、俺を食いにきたか」
 ディガンマは一目でメフィスの抱える飢餓衝動を見抜いたのか、メフィスに向けられる視線は興味のそれ。
「しかしそこで牙を剥いているお前も、そろそろ我慢の限界だろう」
「ぐ……てっめぇ……」
 その一方、ディガンマは未だ衝動と理性の狭間で揺らぐナツキを殺戮衝動に飢えた獣に変えるべく煽り続ける。
 だが、ナツキ以外の殺戮衝動を抑えた殺人鬼達に注意を払っている様子はなく、ナツキを煽り続けるのも警戒心からではなく、ただころしあいに興じる駒を増やしたいだけ。
(「あのケダモノに付け入るなら、そこね」)
 付け入る隙を見出したメフィスは、メグミを呼び寄せる。
「メグミ、ちょっと付き合ってほしいの」
 メフィスはメグミにそっと作戦を耳打ち。
 その作戦の意外さにメグミの目が驚きで見開かれるが、メフィスの目は本気。
「私がやれ、といったら躊躇わないで」
「じゃあ……遠慮なくやらせてもらうわ」
 猟兵を囮にするような作戦に躊躇いはあるが、不意を討ち、引導を渡せるなら悪くはない。
 メグミはメフィスの提案に、首を縦に振って頷いていた。

 メフィスの飢餓の衝動の具現化たるタール状の液体「飢渇」が、ディガンマの周囲に散布される。
 罠か牽制かは判断できないが、放っておいてよさそうなものでもなく。
「その程度で止まると思うな?」
 獣腕を大きく振り上げ、飢渇ごと地面を叩き潰した瞬間。
 ――ボムッ!!
 衝撃に反応し、ディガンマの拳に張り付いた飢渇……が爆弾に変化した「微塵」が、そしてディガンマの周囲にばら撒かれた飢渇が連鎖的に爆発して足元を揺らがせ、爆音と煙が視界を奪う。
「ぐっ……」
「メグミ!」
 思いもよらぬ罠にディガンマの足が止まった瞬間、メフィスが煙を突っ切りディガンマの真正面から肉薄するが、ディガンマの右腕で首を掴まれ、止められた。
「真っ向から来る豪胆さは褒めてやろう。だが……っ!?」
 ディガンマがそのまま獣腕の爪でメフィスの胸を貫こうとした、その時。

 ――ズブッ!!

「ぐっ……!?」
 鈍い音が響き、ディガンマの瞳が突然驚きに凍り付く。

 ――ぽた、ぽた。

 鈍い音と共にディガンマの腹に突き刺さったのは……漆黒の妖刀。
 メグミの得物たるそれは、メフィスの背から腹を貫きながらディガンマの腹に刺さり、何方のものか知れぬ血潮が地面に零れていた。

 ――漆黒の妖刀は、メフィスの身体ごとディガンマの腹を貫いていた。

「まさ、か……」
 会心の笑みに満ちるメフィスの顔を見て、呻くディガンマの顔は、ひどく歪み。
「あ、が……」
 漆黒の妖刀を通して注ぎ込まれたメフィスの血潮に含まれる麻痺毒が、ディガンマの身体の自由を奪う。
 メフィスは刀を引き抜き後退するメグミとともに下がりつつ、己が腕や胴から生やした骨の刃――骨身で、ディガンマの四肢と胴を拘束。
「……お前、美味しそう」
 理性の減退と引き換えに膨れ上がる飢餓の衝動に目を輝かせながらメフィスが差し出したのは、乱雑な歯を並べ、捕食器官と化した骨身の大きな咢。
 それは、拘束されたディガンマの頭上から涎を垂らしながら襲い掛かった。

 ――バグッ!!!

 ただ在るだけで生命力を喰らう大きな咢は、ディガンマの周囲の空間ごと全身をひと呑みに。
 茫然とする殺人鬼たちの目の前で、捕食器官たる大きな咢は、ディガンマの悲鳴すら零すことなく、幹部猟書家の全身をかみ砕き呑み込んでいた。

「あ……」
 襲撃者の気配がなくなったからか、ナツキの全身から殺戮衝動が霧散するかのように抜け落ちてゆく。
 他の殺人鬼たちも、己が身からゆっくりと殺戮衝動が抜け落ちるのを感じているのか、安堵のため息を漏らしていた。

 こうして、殺人鬼たちは誰一人オウガに堕ちることなく、猟兵たちとともに不思議の国を守り切った。
 ――それは、骸の月の侵略からこの世界を守る、小さな1歩となる。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月25日
宿敵 『ディガンマ』 を撃破!


挿絵イラスト