●Wish upon a star。
キミは漿船というものを知っているだろうか?
もし知らないならば幸運だ。宇宙に広がるその神秘に触れることが出来るのだから。
それは宇宙に瞬く光そのもの。宝石で形作られた、遥か太古より存在し続けるクリスタニアンの生きた移民船達の事である。
そう、それは生きているのだ。住人であるクリスタリアンの意思と共に。
あるものはそれを指して宇宙の万華鏡と呼び、あるものはそれを神による驚異の部屋と感銘した。
そのように、星々を渡り征くその船達と交流した者達は口々にその不思議さ、その華麗さを言葉に残していった。
それはかの船の美麗なフォルムだけでなく、特異な環境から生まれた数々の不思議な文化が見るものを魅了してやまないからだろう。
もしこれからの人生で漿船に出会えば一度乗ってみると良い。想像だにしえない眩い光の世界がキミを待っているはずだ。
(次のページからは投稿された漿船の生活を抜粋した記事が続いている)
●という旅雑誌っぽい記事が看板に貼ってあった。
「漿船、行く?」
そういってぶんぶんと看板を振る動きと合わせてクリスタニアンの少女、雲・丹(星の目・f01692)が左右に揺れた。
まるで観光の誘いのようだが残念ながら違う。いや若干あってるかもしれないが。
ともかく君たち猟兵は今、猟書家達の襲来という危機を聞いて此処に集っている。いま説明があった漿船、クリスタルシップを猟書家が奪取するという予知があったのだ。
「奪取、阻止」
これを放っておけば猟書家による世界の浸食がすすみ、また新たなオブリビオン・フォーミュラが支配し始めるだろう。スペースシップワールドであればプリンセス・エメラルドによる銀河帝国の復活ということになる。見過ごしては置けない話だ。
訴える少女はクリスタニアンという出自の為か、ふんすと妙に張り切って続きを促す。
「行く船、説明」
その漿船の名は『アラディン』。
雑誌の切り抜き曰く"願い事を叶える船"と呼ばれるその船は、周期的に様々な形のランプを宇宙に流すという風習があるそうだ。
奇妙なことにそのランプに込められた願いは流し主に叶うものではなく、ランプがぶつかりパリンと壊れたその先で叶うという。
ともすれば何故? と問いかけたくなるが、それはそこに住むクリスタニアンに聞いてみると良いだろう。ともったいぶった文句でそのページは締めくくられていた。
「作戦内容。暫し滞在、ランプ放流、その間猟書家転移、これ撃退」
折しもランプを流すその期間に猟書家が転移し、船内の何処かに出現するのだという。
本来は不可能なはずの長距離転移だが、古くから存在する漿船の何処かに仕込まれた転送装置がそれを可能とするようだ。
その間猟兵達は漿船に搭乗し、生活を過ごす中で転移装置を捜索したり住民と交渉したり協力を得て、転移してくる猟書家を撃退するのが今回の作戦である。
勿論ランプの放流イベントに参加して漿船の住人と交流するのも良いだろう。それもまた円滑な作戦の遂行に繋がるかもしれない。
「皆が頼り、頑張って」
そういって看板を提げた少女は頭を下げた。
さぁ出撃の時だ。猟兵達の前には今、新たな脅威の迫るスペースシップワールドへの路が開かれていた。
点線円珠波
まずはOPをご覧いただき誠にありがとうございます。
今回お送りするのはスペースシップワールドにおける猟書家シナリオです。
本シナリオは二章構成となっており、
一章 漿船『アラディン』でのランプ放流イベント、
二章 転移してきた猟書家の迎撃、
という形式となっております。
一章はお気軽にご参加ください。ランプを作ってるだけでも、或いは猟書家との闘いに備えるでもどちらでも大丈夫です。ちなみにランプは儚く脆い壊れ物です。スペースデブリにはなりません。
二章は転移装置から猟書家が出現することにご注意ください。住民たちとの行動によっては有利をとれるかもしれません。
それでは、もしご興味がおありでしたらどうぞご参加ください。
プレイングの方お待ちしております。
第1章 日常
『星に願いを』
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POW : ランプと願いを宇宙に流す
SPD : ランプ以外のモノを宇宙に流す
WIZ : ランプは流さずその光景を眺めている
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
化野・花鵺
「宇宙世紀なら宙軍があってまだ見ぬせぇふくがいっぱいあってぇ、ついでに拾い放題かなぁって思ったからぁ」
狐、夢いっぱいで今日も話半分だった
「え?願いその場で叶わないの?え?え?」
狐、ランプ流しの真実を教えられ衝撃を受けた
「…世界がせぇふくでみちあふれたらカヤがせぇふく見る機会も着る機会も増えるかもしれないし、まぁいっかぁ」
狐、あっさり思い直した
「みんながもっとせぇふくに心酔して世界がせぇふくでみちあふれますように…うりゃっ」
狐、勢いよくランプを投げた
「さー、それじゃりょぉしょか?が来る前にせぇふく探しだぁ」
鍵等あっても管狐に喰わせて壊す気満々な狐、制服求めてウキウキと船内の家捜しを開始した
カーバンクル・スカルン
【WIZ】
漿船かぁ……懐かしいとは言えんのよな。私の所にはそんなの無かったし。ひょっとしたら昔は使っていたのかもしれないけど。
ランプが割れると願いが叶うんだっけ? でも起こるのは割れた先?
昔の世界の人々の願いは、船ではなく地面に足をつけて生きること。宇宙空間に流されたランプが割れるには障害物に当たるしかない。その障害物が、もし住める環境だったとしたら……みたいな感じで始まったのかな? そこら辺どうなんでしょ?
あとは、一クリスタリアンとして漿船の見学をさせてもらいますか。私なら赤の他人が来ないよう奥まったところに置くけど、船員さんは知ってたりするかな。……あるけど使い道が分からない奴、とか
ネフラ・ノーヴァ
協力、アドリブOK。
ランプはキスをした後、流さず握りしめる。叶えるのは私自身だから。
放流の様子は眺めていよう。美しいものを眺めるのは良い。
この船のクリスタリアンがどんな暮らしをしているのか散策してみよう。
面白いものがあれば良いが。
しかし故郷もまたそうだった。か弱く、古い因習のままに生きるクリスタリアン。忌避し戦いに身を置く私は異端だと。だがそれを守るため猟兵となったのも定めと言えるか。
さあ、目的のために手段を選ばぬ猟書家ども、美しさの足りぬ奴らに引導を渡そう。
アスカ・ユークレース
アドリブ絡み歓迎
自分以外の誰かの願いを叶える……とても優しい習わしね、私もやってみようかしら?
ボトルシップ風のランプを作りましょう。ボトルの中に鉱石やグリッターで宇宙を模した装飾を施して。あら、気づきました?ええ、実は中に入れてある光源の形、この船がモデルなんです。綺麗なものを見せてもらったのでほんのお礼の気持ちに。
完成したら流しましょう、力作だしもったいない気もするので記念の一枚を撮ってから、ですが。
水晶のクリスタリアンがいたらその人に流して貰うのもいいですね。水晶には願いを叶える力があると言われていますし、きっといいおまじないになるんじゃないかしら?
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
ランプの放流、ねぇ。
まるで故郷のUDCアースで行われてる、
灯篭流しみたいだね。
……それとも海原へ流す小瓶の手紙かな?
どちらにせよ、ロマンと情緒たっぷりの良い催しだよなぁ。
指輪もランプも自前じゃ持っちゃいないけど、
勧められたランプに、ささやかな願い事でも込めとくか。
『ランプが弾けたその場所で、小さな幸せが叶いますように』ってね。
そしてその込め方を『コミュ力』で船の住人から聞きながら、
テレパスのネットワークをじわじわと広げていく。
どこに猟書家が出ても、すぐに気付いて馳せ参じれるようにね。
……本当は、そんな心配なくランプを放てればいいのにねぇ。
ままならないよ、まったくさ。
三角・錐人
・UDCアースで言うところの灯篭流しみたいなもんなのかな。
ふむ、これに願いを込めて宇宙へ、か……俺も参加してみよう。
・願いねぇ……俺自身に関わる望みでなくてもいいのなら。
そうだな、俺が今まで出会ってきた人、あるいは今ここでランプを流してる人達の願いが、その10分の1でも叶いますように、かな。
・ランプを流したらこの船の人達と話をして回ろうか。そこで猟書家との戦いで必要な情報を仕入れる。一番はこの船の構造、監視カメラがあればその死角になるような場所……転移装置の場所を誰も知らないのなら、それは誰も知らない区画がどこかにあるという予想は立つからな。予想が外れても構造を把握しておくのは有益だろうさ。
●
初めに来訪者達を迎え入れたのは、煌びやかな光景とそれを覆う布の重なりだった。
進む路から周囲を見れば、鉱石をカットしたような家屋の端から絨毯がそこかしこに伸び。上を見れば、オーロラのように光を包む天幕が幾重にも垂れ下がっている。
そしてこれほどたっぷりの生地が埋め尽くしても、なお隙間から覗く魅惑的な輝きはまったく色褪せない。おそらく丁寧に収められた宝石箱をそのまま巨大な城下町にすればこうなるのだろう。そんな印象を受ける内装だった。
此処こそは生ける宝石の船『アラディン』。クリスタニアン達が住まう古の故郷ともいうべき漿船である。
宝石で出来た移民船の内部が柔らかな布で溢れているのは、住民たちもまた同じく宝石の体を持つクリスタニアンであるが故に生まれた文化なのだろうか。
そんな奇妙な光景を目の当たりにした猟兵達。その中の一人、化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)は好奇に耳を立てて顔をほころばせる。
年相応に宝石の輝きに目を奪われているのかと思えば、彼女の関心は布と道行くクリスタニアンの方。
「宇宙世紀なら宙軍があってまだ見ぬせぇふくがいっぱいあってぇ、ついでに拾い放題かなぁって思ってたらぁ」
そう。既に蒐集欲が口から零れているように、彼女の心の中は夢(制服)いっぱいであった。
目的からして猟書家(制服)の気配を感じてやって来たのだから筋金入りだ。
今はフワフワとした柔らかな装いのフレグラント・スタイルのクリスタニアンの往来を見て思う。もしかしたらここでも他の希望(制服)が見つかるかもしれないのではないかと。
「さー、それじゃりょぉしょか? が来る前にせぇふく探しだぁ」
それにしてもこの狐、ウキウキである。
一方で同じ光景を見つつ思案する二人の猟兵がいた。どちらも同じクリスタニアンであり、しかし故郷を異にするこの船の暮らしを知らぬ者達だ。
「漿船かぁ……懐かしいとは言えんのよな。私の所にはそんなの無かったし。ひょっとしたら昔は使っていたのかもしれないけど」
そういって漿船の住人たちの様子を窺うのはカーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)だ。
行き交う会話を小耳に挟めば、これから来る脅威などまるで想像していないのだろうということが良くわかる。少なくとも、己の持つ"得物"とは程遠いところに彼らのは生きている。少女の透き通る赤き瞳で見る限りでは。
もう一人はここと異なる船を知る者だ。穏やかな種族故にか弱きクリスタニアン。その古い因習のままに生きる事を良しとせず、異端となりて戦いに身を置くことを選んだ者、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)。
自身の気性とまるで違う安穏の日常。それを目の前にしては数奇な因果を感じざるを得ない。
「だが、それを守るため猟兵となったのも定めと言えるか」
これもまた巡り合わせの妙か、と白きその身に漿船の光を通してネフラは艶やかな笑みを見せた。
所変わって、街の上部を臨む鉱石の高台にも猟兵達が集まっていた。
一際大きく吊られた横断幕とそこに編まれた開催回数に、この催しに長い歴史があるのだということをしみじみと感じ入るのは、編み込みの黒髪を垂らした電子の少女。
「自分以外の誰かの願いを叶える……とても優しい習わしね、私もやってみようかしら?」
そんな風にバイカラーの目をぱっちりとさせて、ふむふむと絵図の意匠を眺めているのはアスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)だ。
その隣に同じく天井を見上げ、やや荒っぽくも気風の良い女が立つ。
「ランプの放流、ねぇ。まるでUDCアースで行われてるアレみたいだね」
川に小舟を流すようなものかな、と呟くのは数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)。異なる世界、異なる国、異なる人種とて営みは似通うという事だろうか。
「UDCアースというと灯篭流しかな。ふむ、これに願いを込めて宇宙へ、か……」
確かに似たような風習だったな、と言葉を継いで共に並んだのはがっしりとした荒事の雰囲気を漂わせる男、三角・錐人(ロケットスパイダー・f08517)。男は腕を組んで、ただの人ならざる眼光を幾つかのランプを流す手の描かれた横断幕に向けていた。
そんな男に話が通じたことに関心を向けた多喜は、ふさふさとした手すりに寄りかかりそのまま錐人に話を振る。
「そうそれ。それとも……海原へ流す小瓶の手紙かな? どちらにせよ、ロマンと情緒たっぷりの良い催しだよなぁ。なぁ、どんな願いにしようか?」
振られた男はふむ、と思考に一呼吸置いた後。
「そうだな、俺自身に関わる望みでなくてもいいのなら、俺が今まで出会ってきた人あるいは今ここでランプを流してる人達の願いが、その10分の1でも叶いますように、だな」
なるほどなぁと相槌を打った多喜。そこにアスカがじゃあと思い付き。
「水晶のクリスタリアンがいたらその人に流して貰うのもいいですね。水晶には願いを叶える力があると言われていますし、きっといいおまじないになるんじゃないかしら?」
せっかくだし一緒にやってもらって、ついでに記念の一枚を撮りましょう。と撮影のジェスチャーをしながら明るくアスカは二人に話しかける。
そんなジェスチャーの越しに電子の少女を見てふっと相好を崩し、しかし本題も忘れないようにと錐人はアスカへ向けて。
「ついでにこの船の人達と話をして回ろうか。そこで猟書家との戦いで必要な情報を仕入れる」
「船の形とかも、聞いておきたいですね」
他にもあるさ、と多喜も二人の会話に入ってこの漿船のそれと同様に扱えるテレパスの力を明かし。
「その時にテレパスのネットワークもじわじわと広げていく。どこに出てもすぐに気付いて馳せ参じれるようにね」
と迎え撃つべき猟書家の襲来に備えることに余念がない。
徐々にするべきことが決まってゆくことに頼もしさを覚える反面、そんな荒事の備えをすればするほど、この船と不釣り合いな雰囲気で自分たちが浮いているようにも感じて。
「……本当は、そんな心配なくランプを放てればいいのにねぇ」
ままならないよ、まったくさ。という言葉は柔らかな光の中に溶けていった。
●
それは此方から彼方へのミルキーウェイ。船の舳先から伸びる光の粒は、不可視の流れに乗って虚空の宙を割ってゆく。
果て無き闇を抱える宇宙の中で、それに塗り潰されない確かな輝きを放っているように見えるのは、そこに想いが乗っていると知っているが故か。
広大な甲板とも言うべきその場所で、猟兵達は宙に放流されゆくランプの群れを見送っていた。
「え? 願いその場で叶わないの? え? え?」
そんな風にランプ流しの真実を教えられ、衝撃を受けた狐が居たのも今は昔のちょっと前。名残惜しそうに花鵺は管狐に持たせた行燈型のランプを見つめていた。
「……世界がせぇふくでみちあふれたらカヤがせぇふく見る機会も着る機会も増えるかもしれないし、まぁいっかぁ」
どことなく箱が制服を着たような印象を受ける図柄は、込められた願いの強さを表しているようで、手伝っていた船の住人も届いた先で必ず叶うと太鼓判を押す出来栄えだ。
それを勢いよく振りかぶって、目指すは飛び征くランプの群れの中。
「みんながもっとせぇふくに心酔して世界がせぇふくでみちあふれますように……うりゃっ」
そんな狐耳の少女の遠投の傍で、じっと握りしめた涙滴型のランプにキスをしているのは異端のクリスタニアンの女史、ネフラだ。
だがランプを送る気配はない。ただ一人、誰にも渡さぬよう大切に大切に、その両の手で儚きその輝きを抱え込む。
「叶えるのは私自身だから、な」
そういって数々の流されてゆくランプを見送るばかり。己の願いは己の物。さりとて願いが宙を往くのもまた美しき。
付き添っていた住人は困ったように笑っていたが。ネフラの意志の強さを見れば致し方ないとそう思わせるほどに純粋で高貴の様であった。
そんな振舞いを許す住人に興味をひかれたカーバンクルが、傍で来訪者の付き添いをしていたクリスタニアンの一人にこのランプ流しに問いを投げかけた。
「昔の世界の人々の願いは、船ではなく地面に足をつけて生きること。宇宙空間に流されたランプが割れるには障害物に当たるしかない。その障害物が、もし住める環境だったとしたら……みたいな感じで始まったのかな?」
そこら辺どうなんでしょ? という質問に対して、よくある事なのか住人はああ、と淀みなく答えを述べた。
とはいえ確かなことは定かではなく、様々な説がありますがと前置きして。
「一番確かなものとして伝わっているのは、昔々にいと貴き方の"汝願いを叶えるものたれ"という言葉があり、それを我々は今も守っている。というのですね」
昔々のいと貴き方。返答の礼と共にその言葉をふぅんと口の中で転がして、なお興味の尽きないカーバンクルはそのまま船尾後方に目をやる。
ランプ作りに参加しなかった分色々と歩き回った結果、カーバンクルが見つけた怪しい区画。ランプの流れに背いて見上げれば、ネフラも同じく後方を見ていたようだ。
十中八九"あそこ"に猟書家が居るに違いない。
静かに、だが確かな戦意に高ぶるネフラはそっとランプの代わりに声を送る。
「さあ、目的のために手段を選ばぬ猟書家ども。美しさの足りぬ奴らに引導を渡そう」
それと同じくして。三人の猟兵もまたランプを手に立っていた。
一人の男は雄々しく固く慎重に円錐型のランプを抱え、一人の女は平らに掌に乗った封の閉じたビンのようなランプをしげしげを眺め、一人の少女は装飾の多いボトルシップ風のランプを持ったままピタリと微動だに出来ず静止している。
そんな姿を、水晶のクリスタニアンがカメラを持ってパシャリパシャリパシャリ――。
電子の少女が息を吸えたのは、それからランプを代わりに持ってもらいカメラを返してもらってからの事であった。
力作のあまり当人の不注意で割れないかという心労から解き放たれて、ほっと胸を撫でおろすアスカ。
送るための明りが灯り、ふわりとランプの群れに放たれていく様を眺める水晶のクリスタニアンがおや? と何かに気づくと、アスカはふふんと得意げになって。
「あら、気づきました?ええ、実は中に入れてある光源の形、この船がモデルなんです。綺麗なものを見せてもらったのでほんのお礼の気持ちに」
この船の形、水差し型或いはソースポット状の光源はまるで宙を航行するような姿を見せて去ってゆく。そんな工夫が成功したことに心の中でガッツポーズをとり、自然と実際の自分の拳も握っていたアスカ。
そんな微笑ましい姿を横目に、錐人は船の形の話題を続ける。
「船の形と言えばあの区画。あの後ろの方にある"取っ手"みたいな部分。あまり人が行かないんだっけか」
と指さすそこは多喜と共に錐人が製作中に色々と聞いて回った結果浮かび上がった区画だった。
そこは航行に必要なものもないので人の出入りも全くなく、多くの住人にとっては単なる装飾部と思われていて聞き込みでは中に入れる事を知らない者さえいた。
実際問いかけた水晶のクリスタニアンにもその事は初耳だったという。
転移装置の場所を誰も知らないのなら、それは誰も知らない区画。すなわちあそこだろう。念のために他の区画も調べて確認し、当てが外れた場合も多喜のテレパスで予防線は構築済みだ。
「さて、それじゃぁ後は猟書家だけだね」
そういってランプを送った緊張をほぐすように背伸びする多喜。そのまま宙を見ればもう点となってしまった小瓶のランプがあった。
住民直伝の方法で中に込められたのは『ランプが弾けたその場所で、小さな幸せが叶いますように』というささやかな願い。
それが叶うかは定かではないが、少なくとも襲来を防がねば始まらないだろう。
そうして猟兵達は各々猟書家の企みが眠るその場所へ足を進めて行く。
そして暫し後、漿船『アラディン』がその微かな意志を震わせた。
ランプ送りの賑わいの中で、テレパシーに感応した住民たちは何かに備えるように、無意識にその体を溢れる布の海の傍に寄せていく。それは久しくなかった危機への防衛本能か、或いは全く別の何かによるものだろうか。
それが分かるのはもうしばらく後のことだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第2章 ボス戦
『バトラー・サファイア』
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POW : ナイブスストーム
【サファイアでできた無数の暗器】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : アカンプリッシュメント・オブ・アサシン
レベル分の1秒で【麻酔針】を発射できる。
WIZ : サファイア・フラッシュ
【サファイアの肌】から【蒼く眩い閃光】を放ち、【目を眩ませること】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠エリル・メアリアル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
その部屋は船の如何なる所よりも上にあり、絢爛たる煌めきを覆う布の一枚もなく、広大な空間は荘厳な雰囲気で満たされていた。
それまで誰も座る者のなかった仮初めの玉座。しかして時は来たれりと来訪者は告げる。
「アラディン。どうやら、まだ私と主の事は忘れてはいないようですね」
語り掛けるようにして現れたのは、冷たい気配を漂わせるクリスタニアン。
転送装置により出現した猟書家の目的は、主の為に漿船を献上する事。
「ですが年数を経て忘れてしまったようですね。願いを叶える。それはプリンセスのみに向けられねばならないもの。必要なのはあなただけであり"汚れ"は不要です。拭い掃って差し上げましょう」
そこに飛び込むのは宙を征く幾つもの光の群れのイメージ。猟書家は眉をひそめ、そして冷酷に言葉を続ける。
「そう、抵抗を? 無意味ね」
そんな無慈悲な通告は、しかし閉ざされし扉が開く事により覆される。
己以外に現われるものが居ると思っていなかった猟書家は虚を突かれ、何事かと扉に視線を向けた。
そこに現れたのは君たち猟兵だ。この瞬間、漿船を巡っての戦いの火ぶたが切って落とされた。
三角・錐人
・何ともまあ、暗殺者の「強み」が薄れる状況だな……が、彼女の実力は本物だろう。いつも以上に気を引き締めていくぜ。
・暗器による範囲攻撃か。一つ一つの威力は低目かもしれないが被弾はできるだけ避けるべきだな。「早業」と「フェイント」を駆使して狙いを絞らせず、「第六感」と「見切り」で躱し、「オーラ防御」と【サイコキネシス】で作った障壁で弾けるものは弾く。
またカードセイバーを振るうことでの「範囲攻撃」で暗器を叩き落としつつ「だまし討ち」で防戦一方状態を演出。うまく行けば一気に肉薄してニューワルサーでの「零距離射撃」を敢行だ。
・後で役に立つかもしれねえし、彼女の欠片を「盗み攻撃」でGETしておくかねぇ?
ネフラ・ノーヴァ
共闘、アドリブOK。真の姿は赤く輝く瞳の開眼。
汚れか、緑柱石のご隠居こそ汚れというもの。貴公もろとも排してやろう。
速さには速さを。UC電激血壊の高速戦闘を仕掛ける。
覆い無き室内はハイヒールの音が良く響きそうだ。少しダンスといこうか。
もし麻酔針を当てられたとしても即座に超電磁放射で反撃する。
クリスタリアンを貫いても血の花は期待できないが。
●
大開きの扉から飛び込む幾人もの猟兵達。太古から人が絶えて久しい輝煌の間が俄かに騒乱に包まれ始める。
だがそれを咎める声も、誰何の声もない。刹那生まれたのは青白き猟書家から放たれた幾つもの閃き。
そして殺意だ。
三角・錐人(ロケットスパイダー・f08517)の複数の瞳が捉えたのは、氷の様な無数の宝石の欠片、そしてそれと同じ色を持つ猟書家の冷え切った表情だった。
数瞬前は突然の強襲に固まっていた筈のそれは、既に己の持つ暗器を展開してこちらの品定めを始めている。
複合生物の因子による優れた知覚力は雄弁に語る。不意を打ったこちらの有利であろうと、気を抜いて良い相手ではないと。
(何ともまあ、暗殺者の『強み』が薄れる状況というのにだ)
彼女の実力は本物に違いない。
見よ、あの鋭利な暗器の軌道を。既に空間を舞うその一つ一つの切っ先が、いずれも猟兵一人一人に照準を合わせているではないか。
そして、それだけではない。
「気を引き締めろ! 見せかけと本命があるぞ!」
リアルファイトの経験と、なにより自身の勘が告げる。
数で攻め立て余裕をなくした上で、隠し刃で瞬時にグサリ。そういう手合いだと。
その声に猟書家は眉一つ動かさない。狙いを定め終わったコランダム刃の第一陣が錐人の声を皮切りとして猟兵達へと殺到し始めていた。
そんな最中に静かな、しかし宝石片よりも鋭く突き刺すように通る声があった。
「汚れか、それをいうならば緑柱石のご隠居こそ汚れというもの」
声の主、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)はプリンセス・エメラルドへの挑発と嘲笑の意を込めて更に続ける。
「光輝の船に伸びる老醜の手。その手垢で汚そうとしているのはそちらであろう」
『血棘の刺剣』を優雅に突き出すネフラ。その切っ先が跳ねた次の瞬間、女史を狙うサファイアの輝きは微塵に砕けた。
その結果を目の当たりにした猟書家は、ついに明らかな侮蔑の嘆息を一つ吐く。
「安い挑発。ですが、見せしめをご希望とあれば致し方ありません」
この漿船の民の末路となりなさい。そういうが否や、放たれるは二重三重の厚みを増した暗器の群れ、群れ、群れ。
指の幅の避け間すらない、その輝きは死の青さにも見えて。
だが。
「覆い無き室内はハイヒールの音が良く響く」
それらは軽妙な固い足音を残した床に突き刺さるのみであった。
なにが起こったか? それは明白。
ダンスのように大きくネフラがステップを踏み避けた、それだけのことだ。
――ウィスク、ウィスク、ウィスク。
色とりどりの反射に照らされて、宝石の床がヒールを甲高く跳ね返す。それらを追いかけるように、降り注ぐのは更なる青い輝き。
いかに死の色を宿そうと、届かねば美しいだけのものだろう。
――ナチュラル・スピンターン。
緩急をつけたステップは降り注ぐ暗器の雨を見切り、致死エリアをくるりくるりとすり抜ける。
いまや業を煮やしたか、他の猟兵への暗器すらもネフラを狙わんと集まり揃い、ついには暗器の群れは巨大な華を思わせる程となり。
なれど、ネフラの構えは既に終わっていた。
「クリスタリアンを貫いても血の花は期待できないが」
ネフラの乳白色の肌に朱き紋様が浮き上がり、放電と共に茨の蔓のような蒼雷が隆起する。
それは異端なる己のその粋の一つにして、それは尋常の域を超えた超越の結晶。
ユーベルコード≪電激血壊≫。その身は音を、光を、命を置き去りにして跳ぶ。
――ブリッツ・シャッセ。
猟書家とネフラの間合いが失せた。
その間に置かれた隠されし眠りの針は、肌を這う電磁の茨のしなりに歪み弾ける。
血に染まった瞳が一際赤き輝き、一閃。
音を、光を、命を引き裂いて。
「雷電の如き神速こそ力……」
そして『血棘の刺剣』の刀身は弾丸の如く放たれ、猟書家の右肩を射抜いて突き刺し、穴から青き結漿を飛び散らせて穿って貫いた。
何が、何が起こったのか。
猟書家の頭を疑問と共に痛苦が蝕む。その逡巡は稲妻の一撃を受けて、たたらを踏むその僅かの間の事。
だが、戦場においては埋めがたい隙だ。
それを好機と見て、ナイフを躱す事に注力していた錐人は踏み込む。
「腕を使えないからと、甘く見て」
垂れ下がる猟書家の右腕とは裏腹に、青い暗器の群れは寒気を伴う程に鋭く、冷たく。
そんな群れの薙ぎを迎え撃つは一枚のカード。
それはただのカードではない、UDCを封印したテラーカード、そのデッキから引いた起死回生の一枚だ。
それは錐人の振り被りと共に、その力の片鱗を垣間見せる。
「打ち消せ、カードセイバー!」
声と共に現われたのは光の大剣。男一人を呑み込んで余りある暗器の群れを、膂力と共に気合の大振りで空間ごと振り払う。
そのまま勢いに乗じて更に距離を詰めんとする錐人。
だが暗器は無数。ただ一振りが打ち払った所で、空を埋め尽くす輝きの波が更に押し寄せるだけ。
それを男は無理やりにでも行かんとしているのか、可能な限り体を縮めてすり抜けて進もうとしているが、誰の目にもそんな隙間が無いのは明らかだ。
「甘い、といいました。愚策の代償を払いなさい」
冷えた声がサファイアの青い光を通して男に届く。
それを聞いた男の口元が歪む。
絶望にではなく、手札が通った事への獰猛な笑みとして。
「やはり一つ一つの威力は低目。被弾をできるだけ避ければ、≪サイコキネシス≫の障壁で弾ける程度だな」
降り注ぐサファイアの群れはその声のみを殺した。そう、その身を超能のユーベルコードに守られた男は暗器の波を割って立っていた。
一度打ち払ったが故に暗器の群れの厚みは減じている。集中して叩きつけられていれば危なかったが、他の猟兵もいる中無策の盲進に割く余力もなかったのだ。
そしてサファイアの輝きが途絶える。
もはや肉塊しかない筈の、その輝きの跡地に立つ男とその銃口、ニューワルサーの鈍色を目の当たりにして猟書家は己の失策を悟る。
「甘くみたな。ダイレクトアタックだ」
撃発音と共に咄嗟に身を翻す猟書家。銃口から芯を外すその反応速度は流石といえど、それでも逃れきることは能わず。
彼女の左の肩には、甘さの代償として貫通した弾痕が刻み込まれるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カーバンクル・スカルン
お初にお目にかかります……かな? クリスタリアンの評判を落とさぬため、あなたにはここで落ちてもらうわ。
……と言いつつも、結構仕込んであるなあの服。そんでクリスタリアンとなれば、消えるか目晦ます間に接近してブスリ……といったところか。
なら、そういうのが効かない奴で攻めるのが定石! 噛み付いてこい機械仕掛けのワニ!
サファイアは電気を通さないんだったか、でも同時に行われる高速回転に耐え切れるかな? はたから見ればエレクトリカルパレードかミラーボールか。キレー……とは言えないな、外の景色と比べたら。
汝願いを叶えるものたれ……あんたの主人が任命したかもしれないけど、叶える物を選ぶ権利はこの船にあんだよ
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
よーういらっしゃい。
随分の間、この船につれなくしてたんじゃねぇの?
そんなんじゃ愛想を尽かされちまうぜ。
経た年月の間に積み上がったのは汚れじゃねぇ。
ヒトとヒトのつながり、心の絆って奴さ。
残念だねぇ、アンタもクリスタリアンなら、
その思念のネットワークを少しは感じられるだろうによ!
まずは周囲の空間へ向けて、移動先を塞ぐように
『マヒ攻撃』を込めた電撃の『属性攻撃』を矢継ぎ早に放つ。
なるべく船の設備には当てないように気を付けながらね。
その内に業を煮やして目を眩ませてきても遅いのさ。
この船の中でアタシらへの敵意を持つのは一人だけ。
皆と紡ぎ上げた【超感覚領域】が自動で撃ち貫くよ!
化野・花鵺
「宇宙世紀執事っぽいせぇふくのような気がしなくもないぃ?」
狐、うーんと唸った
「せぇふくっぽい気はするからいっかぁ。宇宙世紀ツンデレ執事、アリだと思うぅ」
狐、親指立てた
「抵抗ぉ?あんまり関係ないかなぁ。発動しちゃえば視界なんて関係ないしぃ」
「狐の呪詛」で敵に不幸の連続プレゼント
突然ブーツの踵が折れて転び余裕で避けられたはずの猟兵の攻撃がクリティカルヒットする
猟兵に投げたサファイアの暗器が跳ね返って自分に刺さる
猟兵のみ目眩ましさせる筈が戦闘で割れた室内のガラクタに反射して自分の目も眩む
何故か隔壁が降りて来て挟まれ動けなくなる等々
あり得ない不幸が連続し仲間の攻撃補助する
「ばいばーい♪」
狐、手を振った
●
ああ、なんて忌々しい。
そんな声が聞こえそうな程に、猟兵達に向けるその目は冷たく鋭かった。
使えなくされた両腕はぶらりと垂れ下がり、しかしその身と同じ青き宝石の暗器を浮かべて立っている。猟書家の闘志が衰えた様子は、未だ無い。
逃げ出す事もなくその身を支えるのは己が職分としての矜持か、あるいはプリンセスへの忠義か。
「随分の間、この船につれなくしてたんじゃねぇの? そんなんじゃ愛想を尽かされちまうぜ」
満身創痍、されど追い詰められたオブリビオンを前にして粗っぽくも気安く、しかし油断なく拳を構えて数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は声を掛けた。
「残念だねぇ。アンタもクリスタリアンなら、その思念のネットワークを少しは感じられるだろうに、よっ!」
その言葉の終わりと同時にショートジャブで『サイキックナックル』を振るう多喜。そこから打ち出されたのは牽制の雷撃の矢だ。
更に避けられぬよう二の矢、三の矢と電撃は続々と飛ぶ。その間も多喜は思う。オブリビオンであれども彼女もまたクリスタニアンの一人。サイキッカーとしての自分のように、テレパシーを介して感じ取れるものはあるだろうに、と。
だが横っ跳びで躱し続ける猟書家から帰って来たのは、感情の無い通告のようなもの。
「プリンセスの命は絶対。それも分からぬ有象無象は余分であり不要です」
なんとも、ため息の一つも吐きたくなる返答だ。そう思いながらも多喜は攻撃の手を緩めることはない。
そんな一方的ともいえる攻勢にバラックスクラップと共に割って入り、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)が告げる
「サファイアは電気を通さないんだったか」
えっ? と怪訝な顔をして慌てて態勢を立て直す多喜にカーバンクルは続ける。
電気抵抗が高いサファイアの特性による無効化、恐らく相手はそれによる反撃を狙っていると。
その説明を聞いて多喜がしまったなと言いつつ、カーバンクルはジャンクパーツの塊を構えて告げる。
「お初にお目にかかります……かな? クリスタリアンの評判を落とさぬため、あなたにはここで落ちてもらうわ」
だが、カーバンクルはそう簡単にいかない事を熟知していた。
先ほどの不利に見せかけた戦い方一つとってもそうだ。クリスタニアンの特性やあの服の仕込みを見るに、他にも油断を誘う手段が豊富にあるのだろう。他ならぬ自身もまた同じクリスタニアンなのだから。
そんなカーバンクルの警戒を見て大きく距離を離す猟書家。ああ、まずい一手遅かった。距離を空けてきたのならば――!
「皆気を付けて! 仕掛けて来る!」
瞬間、輝煌の間は蒼となった。
咄嗟に目を閉じても瞼を貫き侵す蒼は、まさに色と光の暴力というに相応しい。
猟書家の肌身から放たれたサファイアの光は、更にこの場に存在する宝石の乱反射により際限無く光量を増して、いまや恒星の如き輝きと化していた。
クリスタニアンのカーバンクルをして目を開けられないのだ。他の、それも生身の人間ならばどうなるか。
これがバトラー・サファイアの戦い方。満身創痍とて常に冷静に、敵の弱みを狙う仕事人。
浮かぶ宝石片は主の如く無慈悲に、動けぬ猟兵達の急所に狙いを定めて放たれるのを待つのみ。
だが、それを越える執念があった。
蒼光の世界で驚愕と共に有り得ぬものが猟書家に生まれたのだ。
それは、管狐による噛み傷だった。
しばし時は戻り。
化野・花鵺(制服フェチの妖狐・f25740)は戦いを見ながらこんこんと悩んでいた。
「宇宙世紀執事っぽいせぇふくのような気がしなくもないぃ?」
どこまでも欲望に忠実な狐、うーんと唸った。
「せぇふくっぽい気はするからいっかぁ。宇宙世紀ツンデレ執事、アリだと思うぅ」
グッドスマイル狐、親指立てた。恐ろしい事に、それがこの一戦の勝敗を分けた決断であった。
そして現在。
「ヌシは狐の恐ろしさを知らんようじゃ。とくとその身で味わえ!」
人知を超えるユーベルコード≪狐の呪詛≫が今、青き閃光の間に放たれる。
目が見えないはずにも拘わらす正確に『竹筒』から放たれる管狐。それは野生の勘による制服サーチであったと後に狐は語ったという。蒐集欲こわいなぁ。
あまりにも予想外の一撃。だが瞬時に噛みついた管狐を引き抜いて猟書家はサファイアの光輝の中を移動する。
そんな姿を見えてもいないはずの花鵺は、眩さから目を覆いながらも不敵に笑う。
「抵抗ぉ? あんまり関係ないかなぁ。発動しちゃえば視界なんて関係ないしぃ」
そんな言葉と同時に、突如として"不運"にも猟書家のブーツの踵が折れて転び、そこに死角からの電撃が刺さる。
効かないとはいえ、次々と当たる雷撃の槍はユーベルコード≪超感覚領域≫による多喜の攻撃だった。
「目を眩ませてきても遅いのさ。この船の中でアタシらへの敵意を持つのは一人だけ。漿船で皆と紡ぎ上げたサイキネティック・テリトリーが自動で打ち抜くよ!」
そう、これは漿船と猟兵達の交流で築きあげた結実。見えずとも敵意に反応するこの超常能力の標的は常に一人、変わる事は決してない。
「アンタの運の尽きさ!」
折り悪く、なぜか足を踏み外すなどの"不幸"は続いて雷撃を受け続ける猟書家。業を煮やして暗器を放つも、なぜか"不幸"にも態勢が崩れる位置からの雷撃に邪魔され、軌道が乱れて当たらない。
そんな"不幸"が起きる度に、猟書家の耳に届く不敵な狐の笑い声が更に苛立ちを募らせる。
だが、"不幸"はそれだけにとどまらない。
「確かにサファイアは電気抵抗は高い。けどそれって受け続けると発熱もするってことで」
「……? ッッッ!!!」
そんなカーバンクルの声の後に続くように、猟書家の両肩が突如耐えられないほどの激痛と共に腕が外れて落ちる。
普段は熱伝導率の高さも相まってすぐに放熱されるはずの熱。そんな熱の逃げ場もない程電気を浴び続け、更に"不運"にも熱が肩の方に集まって膨張をしたとしたら。
その答えが結晶の床に転がる猟書家の腕だ。
それは度重なる"不幸"の果て、ではない。いまや激痛により既にサファイアの光は途絶え、猟書家の姿は無防備に曝け出されてしまっている。
そこに接近したるはカーバンクルとスクラップの塊たる『機械仕掛けのワニ』。
「更なる電流と同時に行われる高速回転に耐え切れるかな?」
その言葉と共に"不幸"の果て、ギザギザの咢がガキンッと落ち猟書家の胴に食い込んだ。
Code:Electrical, approved.
ユーベルコード≪迅雷一喝≫。それはカーバンクルの作り上げた殺戮のスクリュー。獲物を捕らえたワニのデス・ロールは喰らい付いたものが動きを止めるまで離す事はない。
情け容赦のない高速回転。されど負傷をしてなおあれ程の脅威を見たのだ。最後の最後まで、制服がボロボロになってでも止めることはできない。
何か猟兵側からも悲鳴が聞こえたような気がするが振り返る余裕もない。
「はたから見ればエレクトリカルパレードかミラーボールか。キレー……とは言えないな、外の景色と比べたら」
そして、いつしか蓄熱は体組成全てを崩壊させ、衝撃と過熱により猟書家、バトラー・サファイアは破片を方々に飛び散らせながら消滅した。
「汝願いを叶えるものたれ……あんたの主人が任命したかもしれないけど、叶える物を選ぶ権利はこの船にあんだよ」
●
それは遥か遠くに過ぎ去った記憶。
かつてプリンセス無き漿船があった
その漿船には、主を失くした後の先には何もなかった。
ただ虚空に浮かび、ただ宙を征く歳月だけがあった。
だが、ある時名もなきクリスタニアンが辿り着き、己に願いを託して移民船となった。
その時漿船は知ったのだ。
己という意識が生まれ、『アラディン』である事が出来るようになったのだと。
そうして、いつしか己もまた願いを送ることを望むようになった。
プリンセスの命ではなく、己の意志で。
己が生まれたように虚空の闇の遥かな向こうに願いを託すことで、この世界の先が生まれて広がってゆくようになるのではないかと。
――。
あるいはそれがこの漿船なりの感謝の言葉だったのかもしれない。
猟兵達が転移装置の動作を止めている中、多喜は遥か遠い時の流れを追体験をしていた。
「ヒトとヒトのつながり、心の絆って奴かね」
そういって体の強張りを解すように背伸びをする多喜。その前には猟書家の残滓と穴と焼け焦げだらけの制服を前に佇む狐が居たが、とりあえず目を逸らす。
「さて、外でも見てくるかな」
住民たちに脅威が去ったことを知らせた方が良いだろうし、ついでに自分のランプが去ったいった宙の方も見て置こうか。そんな風に、ささやかな願いを乗せたランプに多喜は思いを馳せる。
何もなき虚空に送るランプの明り。
ああ、煌めく宙の星は誰の手に渡るのだろう。
成功
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