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鳥籠の国のアリス

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #マーダー・ラビット #時計ウサギ

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●双子のアリスとマーダー・ラビット
「さあさあ、こっちですよ。『アリスくんとアリスちゃん御一行様』!」
 此処はウサギ穴の最中。
 不思議の国と国を繋ぐ穴の中を進むアリス達は、時計ウサギに先導されていた。
 双子のアリスを中心としたパーティーは五名。
「待ってよ、時計ウサギくん!」
「それにしても、もうずいぶんと歩いてきましたです」
 まずは少年アリスと少女アリス。
 双子はそれぞれにアリスくん、アリスちゃんと呼ばれている。そして、愉快な仲間のちいさな花妖精と真面目なブリキのオオカミ、リス型獣と融合したオウガブラッドの少年。其処に途中から時計ウサギが入って六人になったという一行だ。
 穴の道筋はとても入り組んでいて複雑で、しかも真っ暗。
「ねぇ、まだ出口につかないの?」
「おなかすいた~……」
 案内をする時計ウサギを訝しく思った花妖精が問いかけ、オウガブラッドの少年が困ったような顔をする。ブリキのオオカミは無口だが、二人と同様に時計ウサギを妙に思っているようだ。
「みんな、時計ウサギくんを悪くいっちゃダメだよ!」
「そうです、ウサギさんはあんなに親切にわたしたちに話しかけてくれましたです」
 アリスくんとアリスちゃんは仲間達に首を振り、きっともうすぐ次の不思議の国に辿り着くはずだという話をしようとした。
 しかし、そのとき。
「いや〜花妖精ちゃん達は鋭いですね! 僕が親切心で近付いたわけじゃないと気付いていらっしゃるようで!」
 振り向いた時計ウサギ、否、マーダー・ラビットが意味深な笑みを浮かべた。
「……え?」
「ウサギさん?」
 双子のアリス達が戸惑う様子にも構わず、マーダー・ラビットは暗闇の中に消える。
 行かないで、というアリスの呼びかけを無視した彼は声だけで一行に語りかけた。

 ――ウサギ穴の真ん中で時計ウサギが居なくなったら、一体どうなると思います?

 その声と共に真っ暗だった周囲が歪みはじめた。
 色とりどりのキノコやティーカップが踊り出し、更には空中に様々な形の鳥籠が出現していく。薔薇の棘が生えたもの、虫籠めいたちいさなもの、牙のような装飾があるものや豪奢なトランプスートが飾られたものまで様々だ。
「きゃあ! 何よこの鳥籠!」
「鍵が掛かってて出られないよぉ」
「グルル……」
「みんな、僕たちがいま助けに――」
「だめ、おにいちゃん! わたしたちにも変な鳥籠が……!」
 アリス一行は奇妙な形をした鳥籠に次々と捕らえられていった。其処に再びマーダー・ラビットの声が響き渡る。

 ――そう、後は骸の海の藻屑と化すだけでした~!

●囚われの鳥籠
 そして、アリス達はどうすることも出来ずに朽ちていく。
 アリスラビリンスにて、猟書家幹部による事件が発生する。そんな未来が見えたのだと伝え、メグメル・チェスナット(渡り兎鳥・f21572)は協力を願った。
「いちおう穴の出口で待ってるから、出てこれたらご褒美に殺してあげるね〜! ……なんて言い残して、マーダー・ラビットは消えちゃったみたいなんだ」
 鍵の掛かった鳥籠に囚われたアリス達も抵抗しているが、内部からの攻撃では鳥籠は壊れない。そのため、猟兵が行って助ける必要がある。
「でも、その空間はすごく危険だって分かったんだ。二人組以上で入るとどちらか最低一人は鳥籠に捕まってしまうんだって」
 つまり、アリス達を助ける前に自分達が囚われてしまう可能性がある。
 それでも乗り込まなければ救出は叶わず、マーダー・ラビットの思う壺だ。自分達も鳥籠から脱出しつつアリス達を助けて出口に向かう。それから、一行の協力を得てマーダー・ラビットを倒す。
 それが目的だと語り、メグメルは詳しいことを説明していく。

「鳥籠は外からの攻撃と、中に閉じ込められた人の思いに呼応して鍵が開くらしい。内部からの攻撃は無意味だけど、助けてくれる人への思いが強ければ強いほど鍵が緩んでいくみたいだぜ!」
 アリス達を助ける場合は勇気の出る言葉を掛けながら攻撃を行うと、相手も強い思いを返してくれるだろう。もし自分が鳥籠に捕らえられてしまった場合は同行者に抱いている感情を言葉にしたり、攻撃の応援をしてあげればいい。
 助ける側も相手を思い、全力で攻撃をしていくことで鳥籠の呪縛を解ける。
「絆の力を試す鳥籠、って言えばいいのかな。脱出さえ出来れば後は何の危険もないから、皆はまず鳥籠への対応をしてくれ!」
 きっと皆なら何も心配はない。
 それに鳥籠は壊される数が多いほど全体の力も弱まるらしい。猟兵が猟兵を助ければ結果的にアリス達を救うことにもなるので、自分達の救出に注力するのが良い。
 仲間に信頼を抱いたメグメルは、アリス達を救って欲しいと願い、件のウサギ穴への転送準備をはじめた。
「時計ウサギとして、あんなことするなんて絶対に許せないな。アリス達はずっと自分の扉を探して旅をしていたのに、それを弄ぶなんて!」
 旅路の結末が、骸の海の藻屑だなんてことにならないように。
 頼んだぜ、と告げたメグメルは転送ゲートの入り口をアンロックする。そして――不思議の国の狭間に生まれた鳥籠世界への路がひらかれた。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『アリスラビリンス』
 此方は【二章構成】の猟書家シナリオです。

 今回は🌸『11/20の朝8時30分』🌸よりプレイングを受付致します。
 詳しい締め切りや受付状況等は都度マスターページに記載しておりますので、お手数ですがご参加前にご確認ください。

●第一章
 冒険『籠の鳥のアリス』
 外からの攻撃と強い思いでしか開かない鳥籠からの脱出・救出劇です。
 囚われた対象を見つける、または猟兵が囚われる所からリプレイが始まります。

▼お一人様でご参加の場合
 基本的にアリス達の救出側に回って頂くことになります。
 誰を助けることになるのかはランダムです。とにかく鳥籠に全力で攻撃をしてください。アリス達に勇気の出る言葉や励ましの思いを掛けると効果倍増です!
 場合によって他の猟兵さんとの共闘が発生することがあります。

▼お二人様以上でのご参加の場合
『🔑』:仲間を救出する側
『🐦』:鳥籠に囚われる側

 上記の記号をプレイング冒頭に明記してください。
 最低一人が囚われていれば、何人で助けることになっても構いません。二人が囚われて一人が助けるという配分などでも大丈夫ですので、メンバー次第でご自由に!
 助ける側は鳥籠への全力の攻撃方法や、救出への決意を。
 囚われ側は救出者への強い思いをプレイングに書いて頂けると幸いです。思いは恋慕・友情・悪態など何でも良いので、関係性に合わせてお好きにどうぞ。

 また、鳥籠の形状は囚われた人のイメージから此方で創作して設定します。ぜひお任せ頂けると幸いです。

●第二章
 ボス戦『マーダー・ラビット』
 明るく陽気にるんるん気分で全てを殺す、狂気の時計ウサギ。
 詳しい状況は二章の序文で明記致します。
 下記のアリス一行に協力を願った猟兵が居た場合、一緒に戦ってくれます。彼らはそこそこ強いので頼もしい戦力となります。

●双子のアリス御一行
『アリスくん』
 双子の兄。年齢は十二歳程度。帽子屋風の服装に飛び出す絵本装備。
 少しやんちゃですが、芯のしっかりした少年。

『アリスちゃん』
 双子の妹。年齢は十二歳程度。エプロンドレス着用・プリンセスハート装備。
 周囲にはいつもバタつきパン蝶がいます。礼儀正しく丁寧な物腰の女の子。

『花妖精ちゃん』
 お菓子の国からやってきた、ちいさなフェアリーの愉快な仲間。
 一行の中では一番お姉さんでまとめ役。魔法の豆の木と魔鍵で戦います。

『ブリキのオオカミさん』
 無口で硬派なその名の通りの愉快な仲間。自前の爪で戦います。

『リスマルくん』
 ふわふわのリス尻尾を持つオウガブラッドの男の子。8歳程度。
 ぼんやりしていて、いつもはらぺこ。スローイングカードで戦います。
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第1章 冒険 『籠の鳥のアリス』

POW   :    力ずくで籠を破壊する

SPD   :    錠前を針などで開ける

WIZ   :    鍵を探して開ける

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

戀鈴・イト
【硝華】🐦

臆、シアンも僕の傍から離れないで
君が危ない目に遭わないように

シアン!
鳥籠の中から見える君はあまりに哀しい顔をしていて
シアンのせいなんかじゃないのに
君のせいじゃないよ
だからそんな顔しないで

どうしてこんな時君の傍に居られないのだろう
僕は君の片割れなのに
シアン、僕の――――
言葉にしてはいけないから、唇だけで紡ぐ
想っているよ
可愛い弟のように
そう、それだけ
こんなに愛おしいのも、それだけ
決して――――だからじゃない

信じているよ
何よりも誰よりも
鳥籠が壊れたなら真っ先に腕を伸ばす
僕は大丈夫
シアンこそ怪我はなかったかい?
何故謝るの
君は悪くないよ
だから笑って
助けてくれてありがとう、シアン


戀鈴・シアン
【硝華】🔑

イト、俺の傍から離れるなよ

片割れの守護を最優先にしていたのに、一瞬の隙を突かれた
イト!
……俺のせいだ
どうして俺はいつも、大事なところでお前を笑顔にしてやれないんだろうか
そんな顔させたいんじゃないのに

間違ってもイトに傷を負わせないよう
なるべく鳥籠の鍵だけを狙いに
想刀を何度も振るって部位破壊を試みる
絶対に助けるから
俺のこと、信じてて
お前を救うのは、いつだって俺の役目であってほしいんだ
だってさ
お前は俺の大切な家族で、片割れで、そして――

扉が開いたなら思わず抱き寄せ、鳥籠を蹴飛ばす
イト、無事か?
俺も大丈夫だよ
お前が贈ってくれた蝶々が護ってくれた
怖い目に遭わせてごめんな
信じてくれてありがとう



●いとしはな
 ティーカップとポットが踊り、溢れた紅茶がふわりと空中に舞う。
 不思議で不可思議な様相の世界に変じたウサギ穴の内部は歪んでいた。樹々が見えたかと思えば墓石が揺らぎ、お茶会テーブルが逆さまになって飛ぶ。
 煌めく星の瞬きと燦々とした太陽の光が同時に存在している奇妙な世界。その中でひときわ目立っているのは、宙で揺れている数々の鳥籠だ。
「イト、俺の傍から離れるなよ」
 戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)は鳥籠の国と化した周囲を注意深く見渡しながら、隣に立つ戀鈴・イト(硝子の戀華・f25394)に手を伸ばした。
 まるで王子が姫にそうするように、優しく靭やかに。
「シアンも僕の傍から離れないで」
 イトも彼へ腕を伸ばし返し、君が危ない目に遭わないように、と手を差し伸べる。
 しかし、その手と手が繋がれることはなかった。
「――イト!」
「シアン!」
 二人が名を呼びあった時にはもう、不思議な鳥籠がイトを捉えていた。まるで人喰いの怪物が口を開けるようにして迫ってきた鳥籠がイトを捕らえ、その扉が固く閉じられる。
 咄嗟に掲げたシアンの腕は空を切った。
 唇を強く噛み締めたシアンは空中に浮いた青水晶の鳥籠を軽く見上げる。
 高度は低いが、安易に此方が近付けば鳥籠は離れていくようだ。
 スウィートピーを思わせる金属の花が絡みついた籠の中から、イトが見つめている。鉄格子めいた水晶の檻はきっと内部からはどうすることも出来ない。イトと自分の視線が重なったと感じたシアンの瞳が、悔しげに揺らぐ。
「ごめん……俺のせいだ」
 何よりも大切な片割れの守護を最優先にしていたのに、たった一瞬の隙を突かれてしまった。分かっていたのに止められなかった。
 言葉にされずとも、イトにはシアンの感情が分かる。
 何故なら、鳥籠の中から見える彼はあまりに哀しい顔をしていたからだ。シアンのせいなんかじゃないのに、と手の平を強く握り締めたイトの現状は、まさに籠の鳥。届けられるのが声だけであることが苦しい。
「君のせいじゃないよ。だからそんな顔しないで」
 イトの表情もまた、とても悲しそうだ。そして、その顔は自分がさせているのだということもシアンには理解できていた。
「イト……」
 シアンは届かぬ鳥籠を振り仰ぐ。
 どうしていつも、大事なところでお前を笑顔にしてやれないんだろうか。
 こんな顔をしたいわけでも、あんな顔をさせたいわけでもない。
「……シアン」
 イトは鳥籠の隙間から細腕を伸ばし、少しでも彼に近付こうとした。
 どうしてこんなとき、君の傍に居られないのだろう。
 僕は君の片割れなのに。
 悲痛な思いが巡る中、イトの動きを察知した鳥籠が更に上空に浮かんでいく。いけない、これ以上は離れたくない。そう感じたイトが腕を引くと籠の動きは止まった。
「待ってろ、イト」
 シアンは硝子細工の刀を構え、戦う意志を見せる。
 鳥籠自体は無害なものだが、いつまでもイトをあんな場所に閉じ込めてはおけない。間違ってもイトに傷を負わせないよう、シアンは鳥籠の鍵にだけ意識を向ける。
 イトも攻撃の邪魔にならぬよう水晶の格子に背を預け、彼を想った。
 地を蹴り、硝華の一閃を振るったシアン。
 スウィートピーが飾られた華硝子の刀と、同じ花を宿す水晶とが衝突することで鋭く甲高い音が響き渡った。
 されど、一撃では足りない。
 想刀を何度も振るって鍵の破壊を試みるシアンは真剣だ。鳥籠が浮遊して移動しようとも即座に追い、決してイトを見失わぬように駆ける。
 瑠璃蝶がひら、ひらりと彼の周囲に舞う中、イトはその名を呼び続けた。
「シアン、シアン……!」
「絶対に助けるから。俺のこと、信じてて」
「噫……」
 無理はしないで、とイトが視線で告げるとシアンは真っ直ぐな眼差しを返す。
「お前を救うのは、いつだって俺の役目であってほしい。だってさ、」
「わかってるよ、シアン」
「お前は俺の大切な家族で、片割れで、そして――」
「君は僕の――――」
 その先は言葉にしてはいけないから、イトは唇だけで紡ぐ。
 想っているよ。
 可愛い弟のように。
 そう、それだけ。こんなに愛おしいのも、それだけだから。
(決して――――だからじゃない)
 心の中に秘かに宿した想いは声にはしなかった。しかしその思いは鳥籠の中に巡り、不思議な光となって集っていく。
 はっとしたイトは自分の想いが鍵を開いていくのだと察した。
 それならば、次は揺るぎない言葉を紡いで確かな力に変えていけばいい。
「信じているよ。何よりも、誰よりも、君を」
 イトの声に呼応して鳥籠の様子が変わった。その一瞬の隙を見逃さず、シアンは硝子の刃を振りあげる。
「……鍵が揺れた? それなら――今だ!」
 刹那、水晶で出来た鍵が剣によって砕かれた。
 軋んだ音を立てた鳥籠の扉が僅かに開いたことで、シアンは腕を伸ばす。次は届かせるのだと決めて扉を全力で開く。
 硝子の華が収まるべきところは鳥籠ではなく、花瓶である己の元であって欲しい。
 イトもシアンの元へ戻るために手を伸ばし返した。
 今度こそ、本当にふたりの手が繋がれた瞬間。シアンによって鳥籠が蹴飛ばされる。そしてシアンは、飛び込んできたイトの身を受け止めた。
「イト、無事か?」
「僕は大丈夫。シアンこそ怪我はなかったかい?」
「俺も平気だよ。お前が贈ってくれた蝶々が護ってくれた」
 シアンの周囲には今も瑠璃蝶が飛んでいる。刃と鍵が衝突する衝撃を和らげてくれていたらしい。それでも、とシアンは俯く。掻き抱くようにイトを引き寄せたシアンの腕には力が籠もっていた。
「怖い目に遭わせてごめんな」
「何故謝るの。君は悪くないよ」
「……けど、」
 シアンは今にも泣き出しそうな雰囲気を纏っている。俯いている故に顔は見えないが、声が僅かに震えていたのでイトにはちゃんとお見通しだった。そのことには触れず、イトはそっと彼の頬に触れる。
「だから笑って。助けてくれてありがとう、シアン」
「信じてくれてありがとう」
 顔をあげたシアンとイトの眼差しが間近で重なる。互いの瞳に自分の姿だけが映っている今を確かめ、ふたりは幽かな微笑みを交わした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
🔑【揺籃】

あーらら、なんですかコレは
わたしからおじょーさんを取り上げるだなんて
いい趣味してるじゃあないですか

んー鳥籠を楽しむ姿も可愛らしいですが
それにしたって邪魔な鳥籠ですこと

聴こえてますよう。いとしのあなた
今すぐぎゅうと迎え入れたいところですが
この隔てが許してはくれないよーです
あーあなんて悲しいのでしょう

さっさと退けよ
解放しないならぶっ壊すのみです

おじょーさーん
危ないからちょーっと下がっててくださいねん
まどかちゃんの全力魔法いっきますよーう

風属性を付与した衝撃波を放ちましょう
宝石糖を食らってドーピングもバッチリですん
そーおれ!

やわい微笑みを見れば苛立ちも引いていきます
ご無事で何よりですよう


ティア・メル
🐦【揺籃】

わーっ
鳥籠の中だよ
んふふ、楽しいね
こんな体験は滅多に出来ないもん

んに
でもこれがあったら円ちゃんの所に行けないんだよ
そう考えると嫌かも
円ちゃん、円ちゃん
聞こえてるのかな?
ぼくの大好きな人がすぐそこにいる
飛び込んでいきたいのに隔たりがあって出来ない

やだっ
円ちゃんのそばにいると落ち着くの
ぼくの大切な大切なひと
鳥籠の中のかぁいい鳥にはなれそうにないよ
強い想いを込めて歌う
攻撃が効かなくても君に届けばいい
視線を重ねてふよりと笑う

ありり?円ちゃん、怒ってる?
初めて見る姿にびっくり
そんな円ちゃんも素敵だよ

円ちゃん、ありがとう!
鳥籠が壊れたら一目散に飛び付こう



●揺籃と歌
 鳥籠がふわふわと浮かび、揺れている世界。
 周囲の景色は歪んでは煌めいて、様々な色に光っていた。一目見るだけならば不思議の国らしい景色であり、純粋な興味が湧いていく。
 降り立った先にはカラフルなキノコが現れて、次々と飛んでいった。
 あれはなにかな、と一歩踏み出したティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)。その一瞬の隙を狙い、ひとつの鳥籠がティアを囚えた。
「わーっ」
 驚いたティアの声を聞き、百鳥・円(華回帰・f10932)は振り向く。
 其処には宙に浮かぶ硝子製の鳥籠と、内部に閉じ込められたティアの姿があった。
 その鳥籠は四角くて上下左右すべてが硝子。格子はなく、あるのはティアが通らされた出入り用の扉と硝子製のの鍵だけ。
「あーらら、なんですかコレは」
「あのね、気付いたら鳥籠の中だったよ。んふふ、楽しいね」
 円が片目を眇めると、ティアはゆらゆらと海月のように揺れる硝子の籠の中でふわりと笑う。透き通った硝子は光を受けて、波間のような様相を見せていた。
 まるで水のない海に揺蕩っているかのよう。
 こんな体験は滅多に出来ないね、と語るティアは危機感を覚えていない。だが、円にとっては彼女が自分の手に届かないところへ閉じ込められてしまっている状態だ。
「わたしからおじょーさんを取り上げるだなんて、いい趣味してるじゃあないですか」
「きらきら、硝子の籠は良い趣味だね」
 宙に浮く鳥籠を見上げた円が思いを言葉にすると、ティアは硝子に触れる。ひんやりとした感覚を楽しんでいるらしいティアを振り仰ぎ、円は軽く息を吐いた。
 その姿はとても可愛いと思える。
「んー鳥籠を楽しむ姿もおじょーさんらしいですが、それにしたって……」
 邪魔な鳥籠ですこと、と口にした円は海月硝子を見据えた。
 彼女が自分を見つめてくれることは悪い気分ではなく、ティアはひらひらと片手を振ってみる。しかし、ふと気が付いたことがあった。
「んに?」
 鳥籠は綺麗で素敵なものだけれどこれがあるせいで円の所に行けない。透明な煌めきが急に邪魔な壁のように思え、ティアは円を見つめ返した。
 そう考えると嫌かも、と思い直したティアは眼下の彼女に呼び掛ける。
「円ちゃん、円ちゃん。まだ聞こえてるのかな?」
「聴こえてますよう。いとしのあなた」
 声までが遮断されていくわけではないようで、ティアは一先ず安堵した。こつ、こつ、と試しに硝子の籠を叩いてみてもびくともしない。
 やはり聞いていた通り、外からの衝撃でしか太刀打ちできないらしい。
「やだっ、円ちゃん……!」
 ぼくの大好きな人がすぐそこにいるのに。
 飛び込んでいきたいのに、大きな隔たりがあって近付けない。
 円とて、今すぐ彼女をぎゅうと迎え入れたいところ。されど、あの壁が許してはくれないことは分かっていた。
「あーあなんて悲しいのでしょう。邪魔するなら――」
 さっさと退けよ。
 普段の円が紡ぐよりも低い声が落とされ、その周囲に威圧感が満ちる。しかし、硝子の壁は二人を阻み続けていた。
「解放しないならぶっ壊すのみです」
 憤りにも似た思いを抱き、円はティアを囚えるものに狙いを定める。
 内部がユーベルコードすら弾く強固で頑丈な作りである鳥籠だが、それ自体は攻撃を繰り出すようなものではない。
「おじょーさーん、危ないからちょーっと下がっててくださいねん」
「んに?」
「まどかちゃんの全力魔法いっきますよーう。そーおれ!」
 円は言葉と同時に風の力を付与した衝撃波を解き放った。だが、一撃ではやはり足りない。円は宝石糖を取り出してそっと食らう。
 其処から次々と打ち出されていく風が鳥籠の鍵を穿っていく。
 対するティアもただ見ているだけではない。離れていて欲しいと言われたが、すぐにでも円の傍に行きたかった。
 ふたりでいると落ち着くから、彼女は――。
「ぼくの大切な大切なひと。ぼくはね、鳥籠の中のかぁいい鳥にはなれそうにないよ」
 ティアは強い想いを込めて歌う。
 彼女が宝石を唇に添えるなら、此方は甘い甘い花飴の詩を。
 ――きみといたい。きみのそばに。
 ――きみにあいたい。はやく、はやく、きみに。
 たとえこの力が檻に効かなくとも君にだけ届けばいい。鳥籠越しに視線を重ね、ティアはふよりと笑う。
 しかし、感じたのは円の鋭くて真っ直ぐな視線だった。
「ありり? 円ちゃん、怒ってる?」
 その眼差しと思いが自分ではなくて、鳥籠に向けられていることは分かる。それでも初めて見る彼女の姿に驚いてしまい、ティアは瞼を瞬かせた。
「そーですねえ、確かに怒っていました。けれど、もう大丈夫ですよう」
「そうなの? でも、そんな円ちゃんも素敵だよ」
 ティアはこうしてすぐに笑ってくれる。やわい微笑みを見た円の苛立ちも徐々に引いていった。そうして、次の瞬間。
「嬉しいですねえ。でも、ほら――空きましたん」
 幾度目かの風の魔力が透明な硝子扉を割り砕き、脱出口がひらかれた。
 軋んだ音を立てて浮き上がっていく鳥籠を蹴ったティアは、ひといきに円の元へと飛び立つ。それまで海の底に囚われていた子が小鳥のように羽ばたいた。
 そう感じながら、円は飛びついてきたティアを受け止める。
「円ちゃん、ありがとう!」
「ご無事で何よりですよう」
 海を思わせる硝子の中も、閉じ込められないならばとっても素敵だった。
 ふわふわとあてもなく揺蕩う心地も悪くない。けれど――。

 いま此の瞬間の居場所は、君の傍がいい。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荊・リンゴ
🐦
ネネちゃん(f01321)と

ネネちゃんっ!
慌てて手を伸ばしましたが鳥籠に囚われてしまいました

一人は慣れているはずなのに、
久しぶりの一人ぼっちを作り出した頑丈な鳥籠に少し慄いてしまいます

はい!
頷きながらネネちゃんに言われた通り籠の端には近づかないようにします
何もできない自分に悔やみ、ごめんなさいと小さく呟きます
頑丈な鳥籠にも関わらず諦めないネネちゃんに
嬉しいや切ない、不安な気持ち、色んな感情が溢れてきます

あの時外の世界へ連れ出してもらったようにまた手をひかれたい
そして、それがネネちゃんであってほしいとギュッと手を握り締めて願います


藍崎・ネネ
🔑
リンゴちゃん(f09757)と

リンゴちゃんが大変なの……! この鳥籠すっごく硬いの……
リンゴちゃん待っててなの。私が助けてあげるの!

鳥籠に一人でいるのは寂しいのよ。例え安全でも……出られないのは自由じゃないの
それに、この鳥籠は閉じ込めているだけのものなの。壊さなくちゃいけないの

リンゴちゃん、危ないから端の方には来ないでね
『ユグル』を使って鳥籠を攻撃するの
呪詛を纏わせて黒鎖を強化し巻き付けるの
全体を攻撃するより範囲を絞って集中的に攻撃するのよ
一度で破壊出来なくても、何度でも繰り返すの

お友達になにかあったら、絶対に許さないんだから!
鳥籠なんて、壊れちゃえなの!



●外の世界は果てしなく
 かち、こち、かち。かちり。
 不意に時計の針が巡る音が聞こえた。振り向いてみても何処にも時計など見えず、踊り出したティーポットや角砂糖が舞う不思議な世界の様相が見えるだけ。
 少女達は首を傾げ、互いを見つめあった。
「あれ、今何か……」
「確かに変な音が聞こえましたね。わっ!?」
 藍崎・ネネ(音々・f01321)が問いかけ、荊・リンゴ(しらゆきひめ・f09757)が針の動いている音のようだと答えようとした、そのとき。
 リンゴの頭上で何かが揺れ、大きな鳥籠が落ちてきた。怪物の口のようにあんぐりとあけられた扉がリンゴを囚え、がしゃん、と大きな音が響く。
「ネネちゃんっ!」
「リンゴちゃん、大変なの……!」
 慌てて手を伸ばしたリンゴだったが、鳥籠から逃れることは出来なかった。囚われてしまった彼女が鳥籠と共に宙に浮かぶ様に気付き、ネネは地を蹴る。
 翼を羽ばたかせて追い縋れば、鳥籠は頭上でぴたりと止まった。その外側は緑の茨や葉で覆われており、合間には赤い果実が生っている。その天辺には、先ほど聞こえた音の主であろう大きな懐中時計が鎮座していた。
 手を伸ばせば何とか届く距離。
 けれども、少女達は果実が宿る鉄の檻で隔たれてしまっていた。
 果実は欠けており、齧られた林檎を連想させる。深い緑と赤が織り成す色彩の中にリンゴの持つ黒曜めいた髪の色が混じっていた。それから、熟れた林檎色が見えたことでリンゴ自身が籠の中で瞬きをしているのだと分かる。
「すぐにその籠を……!」
 壊してあげるの、と言葉にしたネネは鳥籠の鉄格子を叩く。しかし、ただ手が痛くなるばかりで檻がとても硬いことが分かったくらいだ。
 しかも緑の葉はリンゴを覆い隠すようにじわじわと伸びていく。
 ネネちゃん、と名を呼んだリンゴは徐々に閉ざされていく視界を確かめた。葉っぱさんごめんなさい、と言葉にした少女はその葉を千切ろうとする。だが、内部からの働きかけは出来ないらしく、茨は更に広がっていく。
(ネネちゃんが、見えなくなって――)
 声は聞こえていて、鉄格子を叩く音も響いていた。近くに居てくれているのに、まるでひとりぼっちにされていく気分だ。
 一人は慣れている。そのはずだったのに。
 久し振りの感覚は怖れにも似た感情を呼び覚ました。頑丈な鳥籠に対して、リンゴが少しばかり慄いてしまっているところにネネからの強い言葉が掛けられる。
「リンゴちゃん待っててなの。私が助けてあげるの!」
 その声にはっとしたリンゴは俯きかけていた顔をあげた。視界を覆う緑と硬い鉄格子の向こう側に、確かにネネがいる。
 ひとりぼっちになったのではなく、そんな気分させられているだけ。
「ネネちゃん……お願いします!」
 自分もこんなものに負けていられないと考え直したリンゴは、呼びかけに答えた。
 その声がちゃんといつもの彼女通りだったので、少し安堵したネネは鳥籠へと破壊のための力を紡ぎはじめる。
「リンゴちゃん、危ないから端の方には来ないでね」
「はい!」
 リンゴは気丈に返事をしてくれるが、ネネには想像できた。
 鳥籠に一人でいるのは寂しい。その鉄格子がたとえ安全を保証するものであったとしても、ずっと出られないのであれば自由を取り上げられているようなもの。
 それに、この鳥籠は彼女を閉じ込めているだけで守ってはくれない。
「絶対に壊さなくちゃいけないの」
 胸に宿った決意を黒いダイヤの連なる鎖――ユグルに込め、ネネは全力を放つ。黒鎖には呪詛を巡らせ、勢いに任せてひといきに鳥籠に巻きつけていく。
 深い森にリンゴを隠して閉ざしていく緑なんて、今は枯れてしまえばいい。
 彼女を眠りに付かせてしまうかもしれない果実など、もぎとって構わないはず。
「お友達になにかあったら、絶対に許さないんだから!」
 ネネは葉と果実を散らし、鎖の力で邪魔なものを引き剥がしていった。かちこちと時計の針が動く音がしたが今は構ってなどいられない。
 リンゴはネネが鳥籠へと攻撃をしてくれていることを感じ取り、じっと待つ。
「……ごめんなさい」
 何もできない自分に悔やむリンゴは小さく呟いた。
 頑丈な鳥籠にも拘らず諦めない少女に抱くのは、嬉しい気持ちと切ない思いが綯い交ぜになった感情。それから不安な気持ちと、信じているという想い。怖れと期待と、自分の弱さ。他にも色んな感情が溢れて止まらない。
 でも、とリンゴは両手を重ねた。
 あのとき、外の世界へ連れ出してもらったようにまた手をひかれたい。
(それからね、それはネネちゃんであってほしいから――)
 強く握り締めた掌の中にあるのは、希望の欠片。
 何も出来ないけれど、自分の裡には彼女への強い思いと信頼がある。
 その瞬間、鳥籠の中に光が射した。
「もう大丈夫なの」
 同時にネネの優しい声が聞こえ、リンゴは紅の瞳を幾度も瞬かせる。茨を蹴散らして扉をあらわにしたネネが、高度を落とされた鳥籠の前で微笑んでいた。
 あと一撃。
 そうしたら助けることが出来るから。そんな風に語るような眼差しを向けたネネは、一気に黒鎖を扉に向かわせた。そして――。
「鳥籠なんて、壊れちゃえなの!」
 凛とした言葉と共に鉄格子ごと扉の鍵が破壊される。それまで動き続けていた時計が止まり、鳥籠の扉が軋んだ音を立てながらひらいた。
「ネネちゃん……、ネネちゃんっ!」
「良かった、リンゴちゃん!」
 懸命に名前を呼んだリンゴが両腕を伸ばすと、ネネはその手を取る。そっと握られた手の熱は何よりもあたたかいものに思え、リンゴも手を握り返す。
 ふたたび外の世界へ。
 絡め取る茨も、閉じ込める檻も、今はもう何処にもない。
 鳥籠から飛び立ち、自由を手にした少女達の間に花のような微笑みが咲いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーベ・メル
【愛桜】🔑

心、怖い?
ボクが守るから、大丈夫

なんて、偉そうに言ったはずなのにな
離れていく手を掴み損ねてしまった
ダメだ、待って
手、離さないって誓ったのに――

返して、ボクの大切な人を
幼い頃のみすぼらしい自分に、唯一笑いかけてくれた、初めての友達
キミがいたから
記憶の中のキミの笑顔が、いつもボクを励ましてくれたから
どんな最低な場所でだってボクの心は折れないでいられた
返せよ!
心の咲く場所は、ボクの傍じゃなきゃダメだ!

心!
白い手を引いて、鳥籠から彼女を引っ張りだす
ごめん、ごめんね
お願いだから……もう、ボクの隣からいなくならないで……

小指を重ね、誓いと約束を
ボクも強くなるから
今度こそ絶対、キミの手を離さない


日下部・心
【愛桜】🐦



だ…大丈夫です
いきたいと申したの私ですから
はい…!リーベくんがそう仰ってくださるなら

助けを呼ぶ声が聞こえて、よそ見をしているうちに籠の中。傍に行きたくてもいけないなんて。

桜浮かぶ帝都の水槽
世を知らず、人を知らず
独りぼっちの私に初めてできた友達
彼となら、どこまででも泳いでいける
色んなものに触れて色んなことを知りたい
もう嘗ての支配された、ちいさな私たちではないから
月日が流れ、再び再会を果たしたの
どうか、私をリーベくんのお傍に。

ごめんなさい、ありがとう
いつまでも傍にいると約束します
離れないくらい、私も強くなります
咲いた想いを胸に、誓いを交して



●繋ぐこころ
 降り立ったウサギ穴は奇妙な世界に変貌していた。
 樹々が好き勝手に伸びており、頭上には幾つもの奇妙な鳥籠が浮いている。空には星が煌めいていて、けれどもすぐ傍に太陽めいた光も見えているへんてこな場所だ。
 不可思議な世界は妙に賑やかな雰囲気だが、何処か不気味でもある。
「心、怖い?」
 リーベ・メル(Anti Liebe・f27075)は隣にいる少女のちいさな不安を感じ取り、そっと問いかけた。はっとした日下部・心(うすべにの水鞠・f26266)は慌てて首を横に振り、平気だと答える。
「だ……大丈夫です」
 しかし、それもちょっとした強がり。
 この場所に置き去りにされたアリス達を救いたいと願い、リーベに同行を願ったのは心自身だ。不安など覚えてはいられないとして心は自分を律した。
「ボクが守るから、大丈夫」
「はい……! リーベくんがそう仰ってくださるなら、……あれは?」
 ――誰か助けて!
 心は遠くから誰かの声が聞こえたことに気付き、言い掛けていた言葉を止めた。リーベも周囲に意識を向けたが、その間に心が一歩先に踏み出していく。
 守ると告げたのに。
 それなのに、これまで繋いでいた彼女の手がするりと離れた。そこに生まれた一瞬の隙こそが、二人が引き離される要因となってしまった。
「……!」
 心の身体が更に宙に浮き、驚きの声があがる。
 その理由は頭上から覆い被さってきた鳥籠が彼女を捕らえたからだ。リーベはすぐに異変に気付いたが、人を捕まえることに特化している鳥籠の扉は瞬く間に締まった。
 鋭い音が響き、鍵が閉まる音がする。
 同時に鳥籠はリーベの頭上を越えてふわふわと浮いていった。
「ダメだ、待って」
 腕を高く伸ばしても鳥籠には届かない。心を捕らえたそれは、扉に黒く染まった桜の装飾がある鉄の鳥籠だ。その中に桜色を纏う心がいることで、彼女が囚われの身になったという事実がひときわ目立っている。
「リーベくん……」
 傍に行きたくてもいけないなんて。
 手を伸ばそうとした心だったが、鳥籠の鉄格子がそうすることを阻んだ。
「心……。手、離さないって誓ったのに――」
 自分を呼ぶ声が聞こえたことでリーベは悔しさを覚える。本当は鳥籠になど触れさせたくはなく、事前に防ぎたかったが、今は悔やんでいるだけではいけない。
 鳥籠を睨み付けたリーベは掌を強く握る。
 この手が届かないのならば、届かせてみせるだけだ。
「返して、ボクの大切な人を」
 凛とした声が響き渡ると同時にリーベの傍に美しいセイレーンの霊が召喚された。桜を慈しむような雨が降ったかと思うと、空に水泡が向かっていく。
 鳥籠に当たった泡は鋭く弾けて爆発した。
 己の力であの黒い檻を壊すと決めたリーベは、心への思いを抱く。
 幼い頃のみすぼらしい自分。
 其処に唯一、笑いかけてくれた初めての友達。
「心、キミがいたから」
 ボクは此処に居る。世界に存在していられる。
 記憶の中のキミの笑顔があって、いつも励ましてくれたから生きていられた。どんな最低な場所にいたってこころは折れなかった。
 裡に宿る思いが強く巡る度、リーベが放つ泡沫は次々と生まれていく。
 まるで心への思いの数を示すように、鳥籠が穿たれていった。
「リーベくん、私も――」
 鳥籠の外から聞こえる心の声に耳を澄ませ、心は瞳を潤ませる。彼が自分を大切に想ってくれていることが水泡越しに伝わってきた。
 桜の浮かぶ帝都の水槽で、世を知らず、人を知らずに揺蕩っていた。
 そんな独りぼっちの心に初めてできた友達。
 彼となら、どこまででも泳いでいける。色んなものに触れて色んなことを知りたい。彼とだからこそ、そう思える。
 独りだった自分達は二人になれた。
 きっともう嘗ての支配された、ちいさな私たちではないから。
 幼かった少年と、水槽だけが世界だった人魚。あれから月日は流れて、再会を果たしたふたりを隔てる壁。そんなものなど破ってしまえばいい。
「どうか、私をリーベくんのお傍に」
「返せよ! 心の咲く場所は、ボクの傍じゃなきゃダメだ!」
 祈るように両手を重ねる心。
 鳥籠の人魚に向けて、懸命に手を伸ばすリーベ。
 その想いが重なった瞬間。
「リーベくん!」
「心!」
 鳥籠の扉が壊れ、其処から飛び立った人魚が宙を舞うように泳いできた。リーベは彼女の白く嫋やかな手を引き、鳥籠から庇うように抱き寄せる。
 そして、黒い鉄の檻は跡形もなく崩れていった。
 握ったままの手は離さず、一歩だけ後ろに引いたリーベは心を見つめる。
「ごめん、ごめんね」
「私こそごめんなさい、ありがとう」
「お願いだから……もう、ボクの隣からいなくならないで……」
「はい、いつまでも傍にいると約束します」
 二人の視線が重なった。
 もし鳥籠が見えなくなるほどに離れてしまったら追いつけなかったかもしれない。思いが通じあわなければ、扉も鍵も壊れなかったかもしれない。
 戦いの最中に不安ばかりを抱いてしまっていたリーベは、本当に良かった、と言葉にした。そうして、自然に小指を絡ませあったリーベと心は言葉を交わしていく。
「ボクも強くなるから」
 今度こそ絶対、キミの手を離さない。
 宣言したリーベの言の葉は真剣で、心も胸の奥から溢れ出る思いを声にした。
「離れないくらい、私も強くなります」
 咲いた想いを胸に。
 切なる誓いは確かなものとなり――二人の間で、約束の花として咲いてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

安寧・肆号
🔑スミン/f25171

まあ、まあ!
スミンが鳥籠の中に入っちゃったわ。ネズミなのに、鳥籠なんておかしいこと。
ちょっと混乱してるみたいね?

―ねえ、スミン。周りをよく見て。捕まってるのはアナタのほうよ。
ちょっとじゃなかったわね。言わなきゃ良かったかしら…。

―まぎあ・むーじか・るちーふ!
ご機嫌よう、楽長さん。ネズミを救けるのを手伝ってくださる?
楽長さんには籠自体に攻撃してもらって、あたしは錠前にむけてプリンセスハートを[一斉発射]!

お茶会はもちろん、まだまだ一緒に遊びたりないわ。
ほら、頑張って!今日は脱出おめでとうのパーティができるわよ!


スミンテウス・マウスドール
🐦
アンネ(安寧)/f18025 ときた。

オーかわいそうなアリス。
待ってろ。たすけてやるぜ。のろまは置いてくよ、アンネ。

ばかだなアンネ。捕まってるじゃないか。のろまは置いていくといったよ。
えぇ?捕まったのはスミン?
何いってるかわからないよ。

ほんとだ。
ずっとここ?むり。 

一生お茶会ができないじゃないか!
たすけて!お茶はないしクッキーもない!
今日の茶菓子はアンネにあげるから!
もうちょっとアンネとお茶会したい人生だった。かも。

あ?あいた?

まったく。ひどいめにあった。
とじこめるならティーポットにしろってんだ。
さっきいったよね、今日は脱出おめでとうのパーティだよ。



●帽子の鳥籠とお祝いのお茶会
 踊るカップはしなやかに、飛び散る紅茶はたおやかに。
 奇妙な世界に変わったウサギ穴の中は、しっちゃかめっちゃかでたいへんだ。
 くるくるまわるのは不思議なキノコ。ふわふわ笑うのは次々と成長していく鮮やかな樹々や花。そのなかでも一番目立つのは、空中に浮いている鳥籠たち。
 ――助けて!
 その籠の中で少年と少女のアリスが救いを求めている。
「オーかわいそうなアリス」
 彼らの声を聞いたスミンテウス・マウスドール(だれかが視てる夢・f25171)は細身の尻尾をぺんぺんと揺らした。
 その後を追ってついていた安寧・肆号(4番目・f18025)は口許に手を当てる。
「まあ、まあ!」
「待ってろ。たすけてやるぜアリス達」
 彼なりに意気込むスミンテウスは袖口を軽く揺らしている。どうやらその中で拳を握っているらしい。
 しかし、肆号はその傍には行かない。寧ろ行くことが出来ない状態だ。
「スミン、ちょっと待って。おかしなことになっているわ」
「なんだいアンネ。のろまは置いてくよ」
 肆号がなかなか自分についてこないので、スミンテウスは肩を竦めた。
 されど肆号は冷静だ。
 ちょっと混乱してるみたいね? と言葉にして、ゆらゆらと揺れているネズミの尾を見上げた肆号は首を横に振る。
「ネズミなのに鳥籠の中にいるなんて面白いわ。ほら見て、その鉄格子は――」
 鉄格子、という言葉を聞いてスミンテウスが振り返った。其処に見えたのは檻のような鉄の棒の向こうにいる少女人形。
「ばかだなアンネ。捕まってるじゃないか。のろまは置いていくといったよ」
 肆号は先程のスミンテウスの仕草を真似して、肩を落とす。
「ねえ、スミン」
「だからなんだい、アンネ」
「周りをよく見て。捕まってるのはアナタのほうよ」
「えぇ?」
 鳥籠――それも、シルクハットの鍔のような土台と、澄んだハーブティーのような金色をした鉄格子。それらが組み合わさった帽子のような檻がスミンテウスを捕らえていた。
「捕まったのはスミン? 何いってるかわからないよ」
「ちょっとじゃなかったわね。言わなきゃ良かったかしら……」
 しかし、眠たげな目を不思議そうに眇めたスミンテウスは状況を理解していない。それが彼らしいとも感じた肆号だったが、このままではアリスを救いに行けない。
 だが、徐々にスミンテウスも分かり始めた。
「ほんとだ」
「ね、ほんとうでしょ?」
「もしかしてスミン、ずっとここがおうちになる?」
「そうね、何もしなければ!」
「むり。ぜったいむり」
 ナンセンスだといって顔を押さえたスミンテウスは緩やかな絶望をおぼえた。もう、と息を吐く仕草をしてみせた肆号は鳥籠を壊すことを決意する。
 ――まぎあ・むーじか・るちーふ!
 少女行進の掛け声と共に、肆号が呼び出した骸骨楽長が現れた。スーツにシルクハットを纏う紳士的な骸骨は軽く一礼する。
「ご機嫌よう、楽長さん。ネズミを救けるのを手伝ってくださる?」
 肆号の声に頷き、楽長は鳥籠への攻撃を始める。肆号自身は帽子型の籠を閉じている錠前に向け、プリンセスハートを一斉発射していった。
 スミンテウスはというと、飛び交うハートと骸骨楽長の攻撃を間近で感じつつ、鳥籠の中で尻尾をぶんぶんと振っている。
「これじゃ一生お茶会ができないじゃないか! たすけて!」
「助けるから待っていてね、スミン」
 これではミイラ取りがミイラになったようだと感じながらも、肆号は懸命に力を揮い続けた。鳥籠への手応えはあるがとても頑丈だ。
 一撃ではひらかず、二撃、三撃と手数を重ねていく必要がある。
 その間にもスミンテウスはぱたぱたと鳥籠内で暴れていた。ポットなら兎も角、帽子のような檻は勘弁したい気分だ。
「お茶はないしクッキーもない! 今日の茶菓子はアンネにあげるから!」
 たすけてアンネ。
 はやくはやく、と要求するスミンテウスは肆号への思いを声にしていく。ええ、と答えた肆号は更に力を巡らせた。
「お茶会はもちろん、まだまだ一緒に遊びたりないわ」
「もうだめ。もうちょっとアンネとお茶会したい人生だった。かも」
 あともう少し、と肆号が頑張っている間にスミンテウスは生を諦める段階まで進んでしまった。展開が早いわ、と告げた彼女はネズミ人生もまだまだだと励ます。
「ほら、頑張って! 今日は脱出おめでとうのパーティができるわよ!」
 そして――楽長と肆号が放った一閃が重なった瞬間。
 からん、と乾いた音がしたかと思うと鳥籠の錠前が外れ、扉がひらいた。
「あ? あいた?」
「解錠成功ね。スミン、こっちに!」
 安堵する肆号が手招いたことでスミンテウスは鳥籠から飛び降りる。攻撃の余波で散っていた籠の細かな残骸を手で払い、彼は深い溜息をついた。
「まったく。ひどいめにあった。とじこめるならティーポットにしろってんだ」
 やれやれ、と壊れた帽子鳥籠を見遣ったネズミは肆号を見遣る。その尻尾がなんだか嬉しげに揺れていることに気付き、肆号は軽く首を傾げた。
「どうかしたのかしら、スミン」
「アンネ、もう忘れた? さっきいったよね、今日は脱出おめでとうのパーティだよ」
 何でもなくない日におめでとう。
 周囲に飛んでいた不思議なティーポットとカップを手に取ったスミンテウスは、のんびりと紅茶を注いでいく。
「ええ、それじゃあ始めましょう。約束通り、お茶菓子はあたしに!」
「そんな約束したっけ」
「スミン、もう忘れちゃったの?」
 堂々巡りのようなやりとりを交わす二人の間で、へんてこなお茶会が巡りゆく。
 アリスの救出は何処へやら。
 けれども、きっと――それもまた、この世界での正解のひとつ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【狼兎】🐦

「わぁー捕まっちゃった
 どうしよう紫崎君」

鳥籠は、正直怖い
あの頃を思い出すから
僕の居場所
楽しい思い出で上書きしても、傷は消えないから
身体も無意識に震えるし
右脇腹に隠した奴隷印も痛むけれど

「僕が呑気でいられるのは、紫崎君がいるからだよ」

紫崎君なら助けてくれる
いつだってそうだったから
僕を見つけてくれた
いつも傍にいてくれた
誰よりも僕を、信じてくれた
だから僕も紫崎君を信じるだけ

「僕は後回しでもいいよ」
信じてるからこそ出た言葉
僕は全てを救いたい
紫崎君ならそれが出来るから
でも紫崎君がそう言うのなら、僕はそれを手伝うね

想いは全て【祈り】を込めた【歌唱】に乗せて
【戦場の歌姫】
お願い、彼に力を!


紫崎・宗田
【狼兎】🔑

早々に澪が囚われ思わず頭を抱え呟く
「捕まっちゃった、じゃねぇよ呑気か」
とはいえこいつが強がりな事も、過去も、知ってるから

「おかげでこっちは毎回苦労するんだがな」

澪には下がってるよう伝え
【指定UC】で力を蓄え【怪力】を込めた★破殲の【なぎ払い】で
【鎧砕き】の勢いで檻に攻撃

「バーカ、後回しにする意味が無ェだろ。
 一つでも多く壊しゃあいつらも助かるんだ。
 全員救出タイムアタックも悪かねぇが…
 どうせ同じならより大事なもん優先させろや
 距離も近いしな?」

わざと意地悪く笑ってみせ

約束したんだ
何があっても助けると
少しでもヒビが入れば炎の【属性攻撃】を重ね
割れた瞬間澪を引っ張り抱え出す



●歌と刃
 鳥籠の世界は不可思議で、くるくると様相が変わる。
 零れ落ちた飴玉が紅茶になったかと思えば、雨になって世界を揺らがせた。けれども雨の雫はすぐに消え去り、周囲があっという間に森に変わっていく。
 きっとこんな世界の移り変わりに意味はない。
 不思議な国と化したウサギ穴は奇妙であることが普通だからだろう。そんな中で、空中に浮かぶ鳥籠だけは変わらずに存在し続けていた。
「わぁー捕まっちゃった。どうしよう紫崎君」
 その中のひとつ、天使めいた真白な翼が上部に飾られた鳥籠の中に栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が囚えられている。
 ふわふわと浮く白い鳥籠を見上げ、紫崎・宗田(孤高の獣・f03527)は肩を竦めた。
「捕まっちゃった、じゃねぇよ呑気か」
 この世界に降り立った直後、早々に澪が囚われてしまったのでどうしようかと考えているところだ。思わず頭を抱えてしまったが、本人がのんびりとしているようなので、どうにも緊張感がない。
 とはいえ――宗田は澪が強がっているだけであることを理解している。
 そして、その過去も知っていた。
 囚われて、しかも見世物のように籠に飾られている。そんな現状で澪が何も思わないはずがない。されど宗田はわざわざそれを口にしたりはしなかった。
 澪は彼を見つめ、敢えて淡く微笑んでみせる。
 鳥籠に宿る羽飾りと澪自身の背にある白い翼はよく似ていた。
 自分に宛行われた鳥籠がどれほど美しくとも、正直をいえば怖い。
(ああ、あの頃を思い出しちゃうけれど……)
 僕の居場所。
 いくら楽しい思い出で上書きしても、過去の傷は消えてくれない。刻みつけられた恐怖も支配の証も、まだ澪の身を蝕んでいた。
 微笑んでいても身体は無意識に震えてしまう。
 消えない証である、右の脇腹に隠した奴隷印もずきずきと痛んでいる。それでも澪は宗田に強がってみせた。
「僕が呑気でいられるのは、紫崎君がいるからだよ」
「おかげでこっちは毎回苦労するんだがな」
 宗田は白の鳥籠を見据え、無理すんな、とだけ伝え返す。
 鉄格子越しであっても、必死に押し隠そうとしても宗田にはお見通しだ。澪の心が震えていることも、そして――本当に自分を信じてくれていることも。
「澪、下がってろ」
 破殲の名を冠する漆黒の巨大斧を振り上げ、鳥籠に狙いを定める宗田。
 力を蓄えていく彼は、天使のような籠など壊してみせると決めた。澪によく似合う装飾ではあっても、あんなものは檻でしかない。
 それならば、ただ破壊していけばいいだけだ。
 すると澪は首を横に振り、その力を捕らえられているアリス達に使って欲しいと願う。
「僕は後回しでもいいよ」
 それは信じているからこそ出た言葉だ。
 宗田ならどんなことになっても助けてくれると分かっていた。たとえこの鳥籠が遠い空に浮かんで、彼から見えなくなったとしても見つけてくれると思える。
 何故なら、いつだってそうだったから。
 僕を見つけてくれた。
 いつも傍にいてくれた。
 誰よりも僕を、信じてくれた。だから自分も、彼を信じるだけ。
 澪の思いも言葉も本気だと感じ取っていた。だが、宗田は天使の檻の前で破殲を振り続けている。
「バーカ、後回しにする意味が無ェだろ」
「でも――」
 後でいいんだよ、と告げた澪に対して宗田は首を横に振った。
「ひとつでも多く壊しゃあいつらも助かるんだ。そりゃ全員救出タイムアタックも悪かねぇが……どうせ同じならより大事なもん優先させろや」
 澪は全てを救いたいと願っている。
 宗田もその思いを理解しているが、自分の道理を曲げる心算はなかった。
「それに、距離も近いしな?」
 わざと意地悪く笑ってみせた彼の瞳には、澪しか映っていない。そっか、と笑った澪は宗田を見つめ返す。
「紫崎君がそう言うのなら、僕はそれを手伝うね」
 彼になら出来る。
 彼なら自分を救った後に、全てを救って拾い上げてくれる。それならば今の澪がすべきことは想いを彼に向け続けること。
「行くぜ!」
「――お願い、彼に力を!」
 地を蹴り上げ、破殲を振り上げた宗田は次の一撃で全てを決めるつもりだ。澪は祈りを込めた歌に乗せ、切なる思い詩として紡ぎあげていく。
 駆ける宗田。唄う澪。
 二人の想いと願いが重なり、視線が交わった刹那。
「約束したんだ。何があっても助けると――!」
 宗田が振り下ろした破壊の一撃が白の鳥籠を穿ち、確かな罅割れを刻んだ。即座に炎を巡らせた宗田は緩んだ鍵を蹴りあげ、扉を思いきり砕いた。
「澪!」
「うん、紫崎君!」
 次の瞬間には澪は宗田の胸に抱かれていた。今だけは離さないと伝えるように引き寄せてくれた彼を見上げ、澪は満面の笑みを浮かべる。
 もう身体も心も震えてない。
 いつだって、何度だって、どんなときだって――救ってくれるのは、彼だから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

🐦
目の前に現れた籠と共に囚われたアリスの姿を捉えれば、外の宵に斯様な危険があるか判らぬというに駆けつけられぬ今の状況をもどかしく思いながらもアリス達を励ましつつ宵を待とう

宵の姿を捉えれば其方に駆け寄り怪我は無いかと案ずる声と共に籠越しに宵へ【生まれながらの光】にて回復を
お前に何かあったならば俺は…と
…それはお前も同じ、か
籠を攻撃する宵の様子に己と同じ思いだろう宵の感情が伝わればついぞ表情を緩めつつ宵、愛しているとそう声を
いや、なんだ。俺も同じ心持ちだとそう伝えたくて、な…と
帰ったら、か?宵の望みを否と言うことは基本なかろうに
照れ臭いが…宵が望むのならば幾らでも言ってみせよう


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
🔑

ザッフィーロ……!
ああ、このような籠越しでしか触れ合えぬのが辛い
隣できみの存在を感じ、触れ合いたい
ザッフィーロ、待っていてくださいね
いまに僕がきみをその籠から解放します

【高速詠唱】【多重詠唱】を重ねて【全力魔法】【属性攻撃】を付加した
【天航アストロゲーション】を籠に向かって放ちましょう
もちろんザッフィーロには傷ひとつつけないように、照準の調節や角度の調整などは密に行います

籠を破壊できたなら残骸を蹴散らしつつザッフィーロのもとへ
怪我はありませんかと声をかけましょう
……ちょっと、その。いま言うのはずるいです……
……、……。……家に帰ったら、もう一度言ってください



●伝えたい言葉、伝えて欲しい想い
 宙に浮かぶ数々の鳥籠達が、遠く近くに揺れていた。
 仄かな星々の瞬きと眩い太陽の光が綯い混じる空に揺らぐ光景。零れ落ちるキャンディがお茶になり、美しい城へとその姿を変えたかと思えば、瞬きのうちに鬱蒼とした森の中に迷い込んでいく。
 不思議に不可思議に溶け合い、更なる移ろいを見せる奇妙な景色。
 それこそが鳥籠の国と化した世界。
 ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)が足を踏み出そうとした、次の瞬間――。
 網のような形の金細工が地から広がった。
 まるで大口を開けた怪物が食らいつくように、それがザッフィーロを捉える。網だったものは鳥籠の姿に変じながら宙へ浮かびあがった。
「ザッフィーロ……!」
「――宵!」
 慌てて宵がザッフィーロへと腕を伸ばすが、その手は空を切る。
 ザッフィーロも鳥籠の中から懸命に腕を伸ばし返すが、宵の指先は遠ざかるのみ。
 届かなかった掌を握りしめた宵は、息を呑んでから鳥籠の底を見上げた。そして、地を大きく蹴りながら叫ぶ。
「ザッフィーロ、待っていてくださいね。いまに僕がきみをその籠から開放してみせます……!」
「ああ。宵、……宵!」
 蒼玉と金剛石で彩られた金細工の鳥籠は、瞬く間に上空に浮かぶ。
 鬱蒼と茂る樹々の上から周りを見渡したザッフィーロは、あちこちに浮かぶ鳥籠に捕らえられた人々を銀瞳で認めた。
 囚えられたアリス達の他にも、猟兵達までもがこれ程まで囚われている。
 ちいさく頭を振ったザッフィーロは、瞳を眇めて歯噛みする。
 このようなどんな危険が在るかも判らぬ世界で、宵ひとりを残して捕らえられてしまった。内部からの干渉では決して壊れぬ籠へと、やすやすと囚えられてしまった自らの不甲斐なさを思うと胸が痛む。
 彼の許へ、自力では駆けつける事も出来ぬ現状。
「……くっ」
 格子を握りしめたザッフィーロは、祈るように彼を想い地上を見つめた。丁度その木の合間から顔を覗かせたのは宵だ。
「ザッフィーロ、怪我はありませんか?」
「ああ、俺は大丈夫だ。……それより、お前こそ……」
 宵の姿をよく見てみれば、慌てて木の合間を飛んできたのだろう。
 金装飾の鳥籠には宝飾も見えた。その煌めきを、或いはザッフィーロ自身の輝きを追って此処まで来たようだ。
 折れた枝や葉に傷つけられたのであろう宵の傷に気付き、ザッフィーロは癒やしの光を放っていった。どれほど小さな傷だろうとも、それが自らの為に彼へと負わせてしまったものだと思うと胸が締め付けられる。
 しかし、宵は気丈に答えた。
「かすり傷です……! それよりもザッフィーロ、格子から離れてください!」
 真っ直ぐに向けられた宵の瞳からは真剣な思いが見て取れた。分かった、と頷いたザッフィーロは彼の言葉に従う。
 もし囚われたのが宵であったなら、ザッフィーロも自らが傷つくことも厭わずにこうして駆けつけただろう。
「……そうだな。お前も同じ思い、か」
 ザッフィーロは眦を和らげ、ちいさな笑みを浮かべた。
 そう、彼らの気持ちはひとつ。
 同じように相手を心配して、同じように相手を想っている。ただそれだけでいい。たったそれだけで、心があたたかくなる。
「行きます!」
 樹上で杖を振りかざした宵が鳥籠を睨めつけた。
 少しでも早く、少しでも急いで。
 ――隣にきみの存在を感じたい、きみとふれあいたい。
 だからこそ。
 宵は高速かつ多重の詠唱を紡ぎ、全力の魔力を籠めて星を喚んだ。
 金細工と宝飾の鳥籠に向かって空から降り落ちたのは流星。幾つもの星が爆ぜ、星屑が零れて鳥籠を閉じている鍵を軋ませる。
 それによって浮遊していた鳥籠の高度が落ち、地上に近付いていく。
 宵は樹から飛び降り、ザッフィーロを見失わぬように駆けた。
 あともう少し。
 魔力を巡らせていった宵が、思いと魔力を重ねたとき。
「――宵、愛しているぞ」
 ザッフィーロから不意に紡がれた言葉を聞き、宵は思わず目を丸くした。
「……っ!? ……えっ、と、ちょっと、その……!?」
「いや、なんだ。今こそ伝えるべきだと想って、な……」
 それはザッフィーロの素直な気持ちだ。
 自らも彼と同じ気持ちだという事を、彼を愛しているという事をただ伝えたくて、零れてしまった言葉。
 強い想いは光となり、魔力の星屑に混ざっていく。
 二人の思いは囚われの鳥籠の中に広がり、扉をあける力となっていた。
「……ずるい、……です」
 ぽつりと宵が呟いた瞬間、降り落ちる流星。ひときわ鋭い天航の一閃によって、鍵は甲高い音を立てて割れた。
 軋むと同時にひらく鳥籠の扉。
 ザッフィーロに向かって腕を伸ばした宵は、返事の代わりにその身を引き寄せた。鳥籠は完全に壊れ、跡形もなく消えてしまう。
「…………」
「宵、ありがとう。助かった」
 無言のまま寄り添う宵の手を取り、ザッフィーロは微笑む。そんな彼を見上げた宵はもう一度、息を飲み込んでから、そっと言葉を紡いだ。
「……ザッフィーロ。先程の言葉――……家に帰ったら、もう一度言ってください」
「帰ったらでいいのか?」
 今でも何度でも、と告げそうになったが、ザッフィーロは言葉を止めておく。
 宵の望みを否と言うことはない。きっと彼自身も解っているだろうが、こうして願ってくれる宵も愛らしい。
 ザッフィーロは宵の指先に自分の指を絡めた。
「ああ、解った。照れ臭いが……、宵が望むのならば幾らでも言ってみせよう」
 もう離れない。
 たとえ二人の距離が離れたとしても、こうして近付いて、互いに求めて――。
 終わることのない想いを、伝えあおう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霞末・遵
【幽蜻蛉】🐦
竜神様がんばれー。がんばれー
うーん、だめか。判定厳しいんじゃない?

感情は食べるものであって発するものじゃないんだよ
からくりに関しては別腹だけど。あれはほら、生き甲斐だもん
それに年取るとだんだんそういうの薄れてきてね
改めてって言われると困っちゃうなあ

まあダメだったとしても既に死んだ身だし気にすることはないよ
いつの間にか消えてなくなるのが幽世ってものさ
ああでも最後だと思うと少し名残惜しいね
いろんな場所に行けて楽しかったな
ありがとね惟継さん。いい夢見せてくれて
ただできればもっと一緒に面白いもの見たかったなーなんて

えっこんなんでいいの?
判定緩すぎない? やだちょっと忘れてよ恥ずかしいから


鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】🔑
囚われの身の遵殿か
……さて、どうしたものか

雷獣ノ腕で武器を作り出して試そう
籠を大太刀の大振りで力任せに、槍の一点集中で衝撃を与えてみせようか
弓で脆そうな所狙ってみようか
いずれにせよ、全て全力でやらねばな

全く……呑気に応援している場合ではないのだぞ?
お前さんも出たいという気持ちを出すのだ

絡繰りには情熱的であろう
その生き甲斐も出られなければ楽しめんものだぞ
しかし……悪霊というものは、そのようなものなのだろうか
俺もお前さんとはまだまだ楽しめるものだと

……遵殿
そうだよな!やはりそうだ!
お前さんが霊であろうとも楽しめる限りはそれで良いのだ
今出してやる、まだまだ冒険を楽しもうではないか!



●走馬灯には未だ早い
 鳥籠が揺らめいている。
 光と闇を孕みながら歪んだ光景は、かき混ぜられたカップの中身のよう。
 刻一刻とその形を変えていく景色。鈴久名・惟継(天ノ雨竜・f27933)と霞末・遵(二分と半分・f28427)は、いつものように物珍し気に眺めていた。
 その中にひとつ、まるで虫籠のような形の鳥籠がある。
 それに視線を向けた遵は、顎に手を当てながら歩みの向きを変えた。そして、何も慌てたところのない口調で今あった出来事を報告する。
「あ、竜神様。捕まったんだけど」
「遵殿……」
 彼が鳥籠に捕まった瞬間は惟継も見ていた。
 だが、全く抵抗する様子がなかった。寧ろ自分から入っていったように見えたが? と、呆れるような視線を向ける惟継。
 同時に感心したような、複雑な思いを込めた視線を遵へ送る。
 しかし当の本人はというと、籠に付いた蓋と鍵を六本の手で弄り始めていた。機械仕掛けの虫籠のような檻は、まるで遵のために誂えられたようなものだ。
「竜神様、すごいよこれ。鍵が開く気配がない」
「聞いていた通りというわけか……」
 それならば、この扉に働きかけるのは外側に居る自分の役目だろう。
 そう考えた惟継はどうしたものかと考え、少しばかり首を傾げた。そうして彼は、自らの傍らに雷を降らせた。閃光と共に降り注いだ雷撃はそのまま宙に留まり、惟継の大太刀となって顕現する
「少し扉から離れていてくれ、遵殿」
「はーい」
 素直に返事をした遵を檻の奥に下がらせ、惟継は太刀を振り被る。刹那、先程の稲妻を超える勢いの一閃が鳥籠もとい虫籠に浴びせかけられた。
 だが、惟継の雷獣の腕を以ってしても籠の格子はびくともしない。ならば、ともう一条の雷を放った彼は太刀を槍へと変える。
 それから次は、薙ぎ払うのではなく一点を貫く形で振るった。
「――駄目か」
 予想はしていた。幾度もの刺突を受けても、籠に結わえられた鍵は揺れるだけ。
 加減した心算はないが、剣と槍で駄目ならば次は弓か。惟継が遵の脱出に手を尽くそうとしている中、本人はというと――。
「竜神様がんばれー。がんばれー」
 彼なりに、呑気とも呼べる様子で応援していた。
「全く……呑気に応援している場合ではないのだぞ? お前さんも出たいという気持ちを出すのだ」
 惟継は遵を見遣り、再び肩を竦めた。
 手応えがないわけではないが、どうやら外からの攻撃のみでは脱出を叶えるのに時間が掛かってしまうようだ。
「今のじゃダメなの? 判定厳しくない?」
 本人は何が足りないのかと首を傾げているだけ。しかし、誰がどう見ても真剣味が足りないのは明白。
 その辺りは彼が悪霊であることも無関係ではないだろう。
「難しいなあ……感情が乗ってない? でも、それって食べるものであって発するものじゃないんだよね」
「そうは言うがな、絡繰りには情熱的であろう」
 惟継は以前に共に向かった世界でのことを思う。キャバリアやガジェットを前にしたときの遵の眼の輝きようをどうにか今に転用出来ないだろうか、と。
「あれに関しては別腹だよ。だって生き甲斐だもん」
「その生き甲斐も出られなければ楽しめんものだぞ」
「それはそうなんだけどね……」
 年を取るとそういうのも薄れてくる。改めてそう言われても、と呟いた遵はおおきく溜息をついた。それから吐息と共に籠の格子にもたれかかるようにして腰を下ろす。
「まあ、ダメだったとしても私は既に死んだ身だし、気にすることはないよ」
 脈絡もなく現れて、いつの間にか消えてしまうのもまた幽世というもの。定まらぬ霊の在り方は突き詰めれば儚いもの。
「……そうか」
「ああ、でも最後だと思うと少し名残惜しいね」
 眼を細めた遵は籠の向こうを見つめ、これまで歩んできた様々な世界に思いを馳せる。まるで過去をひとつずつ振り返っているようだ。
「いろんな場所に行けて楽しかったな」
 ありがとね、惟継さん。
 いい夢を見せてくれて。束の間であっても、嬉しかったよ。
 死してなお、新鮮なものや変わったものを目にすることができた。戦いを、興味を持つことを、楽しみを体験できた。幽世に渡った儚い身であろうとも、その記憶は確かに在る。
「ただできれば、もっと一緒に面白いもの見たかったなーなんて」
「ああ、俺もお前さんとはまだまだ楽しめるものだと――」
 惟継もパジャマパーティーのことを思い返しなぞりながら俯いた。
 しかし、そのとき。
 がちゃり、と音がしたと思えば、いつの間にか扉があいていた。
「……遵殿」
「えっこんなんでいいの?」
 思いの判定はオールクリア。合格を更に越えた大合格だったらしい。
 遵が目を丸くする様子に対して惟継は僅かな苦笑いを浮かべた。されどすぐに表情を変えた彼は、楽しげに双眸を細めた。
「そうだよな! やはりそうだ! お前さんが霊であろうとも、元が何であっても楽しめる限りはそれで良いのだ」
 声を上げて笑った惟継は遵を手招く。
「判定緩すぎない? やだちょっと忘れてよ恥ずかしいから」
「何、気にすることはない。今出してやるからな」
 まだまだ冒険を楽しもうではないか。
 愉快さを感じさせる声と共に、手が伸ばされ――二人の日々は更に繋がっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

空桐・清導
POWで挑む

UCを発動して宙に浮いて高速移動しながら
探しまくって鳥籠を見つける。

待たせちまったな!もう大丈夫だ!
キミのヒーローはココにいるぜ!!
みんなもオレの仲間達が必ず見つかる。
まずはココから出ねえとな、今開けるぜ。
あの時計ウサギはどうする?
出て行っても殺されてしまうって?
言ったろ?オレはヒーロー!不可能を可能にする者だ!
キミが信じてくれる限り、また仲間達と楽しい旅をしたいと願う限り!
オレは無敵で、最強だ!!
キミ達は必ずオレが助ける!

そう言って光焔を収束。
UCの出力も[限界突破]させて拳を握り締め、
一撃で籠を粉砕する。
助け出した子は抱きかかえ、
[オーラ防御]で骸の海の影響から守って脱出する。



●勇気の証
 揺らめく鳥籠の国。
 そう呼ぶに相応しい奇妙な世界が広がっているウサギ穴の中。
 キャンディの雨が降り、唄う花が揺らめく中で、誰かが助けを呼ぶ声が聞こえた。
「ねえ、たすけて~」
「ちょっと! そこのキミ!」
「俺か?」
 微かな声だったが、空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は聞き逃さなかった。
 声の主を探した清導はすぐにそれが花妖精とオウガブラッドの少年のものであると気付く。黄金のオーラを纏って空を飛び、鳥籠の合間を巡っていた彼は、元からアリス一行を探し回っていたからだ。
「お願い! この鳥籠をあけてくれない?」
「他の仲間と離れ離れになっちゃってね……おなかもすいたし、もうだめかも」
「待たせちまったな! もう大丈夫だ!」
 手の平サイズの鳥籠に捕まっている花妖精と、ドングリ型の鳥籠に囚われている少年はそれぞれに真剣な眼差しを向ける。対する清導は妖精達の不安を感じ取り、敢えて明るく笑ってみせた。
「キミのヒーローはココにいるぜ!!」
「ヒーロー?」
「みて、リスマル。よく見れば彼ってばすっごくきらきらしているわ。何だかとっても頼り甲斐がありそうじゃない!」
 リス少年と花妖精は清導の笑顔を受け、少しの安堵を感じたようだ。
 彼女達は仲間を案じているに違いない。鳥籠をあけて欲しいと願ったのも自分が助かりたいからではなく、行方がわからなくなったアリス達を助けに行きたいからだ。
 そのように察した清導は頷き、花妖精達に語りかける。
「みんなもオレの仲間達が必ず見つける。だからまずはココから出ねえとな!」
「ええ! これね、中からじゃ全然うんともすんとも言わないの」
「だったらオレの出番だな。今開けるぜ」
 身構えた清導は全力を振るうことを心に決めた。だが、いくら自分が攻撃に専念しようとも、あの鳥籠は一筋縄ではあけられないものだ。
 花妖精とリス少年の思いの力があれば清導の力に呼応して鍵がひらく。
 何とも不思議な仕組みだが、今は利用する他ない。するとリスマルが尻尾を不安げに丸めながら清導に声をかけた。
「そういえば、時計ウサギくんがボクたちを殺すっていってたよねぇ……」
「出て行っても殺されてしまうって?」
「そう言ってたわ。……アリスくんとアリスちゃんたち、大丈夫かしら」
 花妖精もつられて俯き、どうしよう、と心配そうな顔をする。対する清導は胸を張り、不安を思い出してしまった二人に真っ直ぐな瞳を向けた。
「心配するな!」
「でも……」
「言ったろ? オレはヒーロー! 不可能を可能にする者だ! キミが信じてくれる限り、また仲間達と楽しい旅をしたいと願う限り! オレは無敵で、最強だ!!」
 清導は決して負の感情を口にしなかった。
 そうすることが彼らに勇気を与えることであり、己の正義を示す証にもなると信じているからだ。視線を交わしあった二人を見つめたまま、清導は強く宣言する。
「キミ達は必ずオレが助ける!」
 真正面から告げられた言葉は何よりも強い。
 はっとした花妖精とリスの少年は頷き、不安な気持ちを勇気へと変えた。
「ふふ、キミは強いのね。じゃあこっちも負けてられないわ!」
「ボクも、がんばる」
「その意気だ。それじゃあ――行くぜ!」
 清導は光焔を収束させ、ユーベルコードの出力を高めていく。限界すら突破していくように拳を握り締め、清導は思いっきり一撃を振るった。
 まずは花妖精。次はオウガブラッド。
 一撃で粉砕された籠から、二人が飛び出してくる。腕を伸ばした清導の手を取った少年がなんとか地面に着地し、花妖精は肩に飛び乗った。
「さあ、アリス達も探しに行こうぜ!」
「そうね、しゅっぱーつ!」
「お~……!」
 ブレイザインと花妖精、そしてリスマル。
 三人は仲間全員が無事に鳥籠世界から脱出できるよう願い、共に駆け出していった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

猫希・みい
🐦黎くん(f30331)と一緒に

鳥籠の中にひとり
いつも一緒にいる猫もそばにはいなくて
心細くて思わず名前を呼ぶ
黎くん
私の愛しい神様
みんなの優しい神様

会いたいよ
いつもみたいに撫でて欲しい
いつもみたいにその腕の中で眠りたい
黎くんのことを思い出すだけでさっきまでの怖さが薄れていく
大丈夫、黎くんが一緒だもの
花嵐が見える?これは黎くんと一緒に咲かせたい花
桜も紅葉も黎くんのお社で見てから好きになった

…怒ってるのかしら?
私のことで必死になってくれる所を見て喜ぶなんて
いけないよね
でも嬉しいの
みんなの神様が私の為に懸命になってくれてる

早く、
手を大きく伸ばす
黎くん!
触れた温度に思いきり抱きついた


月詠・黎
🔑みい(f29430)と

紡ぎは素の音に成りて

――噫、噫
鳥籠なぞで俺から愛し猫を奪うとは大層な度胸だな
みい、お前が呼ぶ声は届いているのだから
迎えに之かねばな

鳥籠の中に見える花は忘れる筈も見間違う筈も無い
共に見た桜、拾い歩いた紅葉
鳥籠の前に立ち咲って今、出してやると
俺は、お前の神様だからな

怒り狂い溢れ出た気持ちは
涅裂――月翼の黒猫達へと注いで
自身が振り下ろすは神の御手
メスの形を取った相手を傷つけ裂くもの
怒りをその侭、鳥籠に叩き付け
神の想を模した猫達を数の暴力として放つ
凡ては、取り戻す為
さあ、返してもらおうぞ
俺だけの愛し猫を

隔たりが消えたのなら此の腕の中に抱きしめて
頑張ったなと撫でる傍ら安堵ひとつ



●花と猫
 気が付けば、鳥籠の中にひとりきり。
 奇妙に歪む世界の色は移り変わっていき、笑う花の声も遠くなり、まるでちいさな世界に独りぼっちになったかのような感覚に陥る。
 此処は不思議な世界の最中で、周囲に現れる景色はでたらめばかり。
 猫希・みい(放浪猫奇譚・f29430)は、天辺に桜色と紅のリボンが結ばれた猫ちぐらのような形をした鳥籠の中で、みぃ、と一声だけ鳴いた。
 呼んでみても、いつも一緒にいる猫もそばにはいない。
 どうしようもなく心細くなって、思わず彼のひと――月詠・黎(月華宵奇譚・f30331)の名前をそっと声にした。
 私の愛しい神様。
 それから、みんなの優しい神様。
 一緒にこの場所に訪れていた彼の目の前で、みいは攫われた。猫ちぐらという見た目のものであっても、人を捕らえるという性質を持っている籠は一瞬でみいを捕らえ、格子の中に閉じ込めた。
 黎を置いて飛び立った籠はみいを知らない場所まで運んでいる。今はふわふわと空中を揺蕩っているが、またいつ猛スピードで飛ぶかもわからない。
「会いたいよ」
 みいはぎゅっと目を瞑り、彼のことをおもう。
 いつもみたいに撫でて欲しい。
 いつもみたいにその腕の中で眠りたい。いつもみたいに――。
 心細くはあるが、黎のことを思い出すだけでさっきまでの怖さが薄れていく気がした。そうして、みいは大丈夫だと呟く。
 籠の中からそうっと手を出して、みいは力を紡いでいった。
 此処に花嵐を。
 これは黎くんと一緒に咲かせたい花。桜も紅葉も彼の社で見てから好きになったものだから、きっと目印になってくれる。
 みいの思いは花となり、不思議な国の空に広がっていった。
 
 同じ頃、黎は鳥籠を追っていた。
 紡ぎは素の音に成り、噫、と声が零れ落ちる。その言葉に宿るのは憤りにも似た感情であり、黎は空を見据えた。
「鳥籠なぞで俺から愛し猫を奪うとは大層な度胸だな」
 彼の視線の先には空飛ぶ籠が浮かんでいる。
 どれほどの速さで駆けようとも神たる黎には追うことなど容易い。軌道が読みやすいということもあるが、何よりも――。
「お前が呼ぶ声は届いているのだから。迎えに之かねばな」
 黎は籠の中に見える花に目を留める。
 それは忘れる筈も見間違う筈もない、共に見た桜の色だ。それに拾い歩いた紅葉の色まで宿っている。
 そう、あの籠の中でみいが花の嵐を舞わせていた。
 黎は地上近くに高度を落とした鳥籠を追い、その前に立ち塞がる。
「待たせたか、みい」
「黎くん?」
 はっとしたみいは、想いの花が届いたことを知った。思わずみいの口許が綻んだが、黎の眼差しは鋭いままだ。
「今、出してやる」
 ――俺は、お前の神様だから。
 黎はみいを怖がらせぬように声を鎮めた。しかし、先程から抱いていたのは怒り狂うほどの敵意。隠しきれずに溢れ出た気持ちは涅裂――月翼の黒猫達へと注がれている。
 その力は満月色の翼と鋭利な爪と代わり、籠を壊すものとなっていく。
 彼が振り下ろすは神の御手。
 それはメスの形を取った相手を傷つけて裂くものだ。相手が鳥籠であろうとも黎は怒りをその侭に、全力の一閃を叩き付けた。
 更には神の想を模した猫達を数の暴力として解き放つ。
 凡ては、取り戻す為。囚われたみいを助けるためにのみ振るわれる力だ。
「さあ、返してもらおうぞ」
 俺だけの愛し猫を。
 誰にも渡さない。渡したくはないと思う、その子を。
 苛烈とすらあらわせる攻撃の数々を間近で見つめ、みいは黎の感情を思う。
「怒ってるのかしら?」
 みいの胸の裡に浮かんだのは恐怖などではない。ましてや忌避でもない。
 黎くんが私のことで必死になってくれる。
 この狭い籠の中から助け出してくれる。今は自分のことしか見ていない。そんな彼の一面を知って喜ぶなんていけないことだと分かっていた。
 それでも嬉しい。
 みんなの神様であるはずの彼が、自分の為だけに懸命になってくれていることが。
 そのとき、名前を呼ぶ声が聞こえた。
「……みい!」
「うん、黎くん!」
 祝福の御手が鍵ごと籠の扉を壊し、囚われの猫に手が差し伸べられる。
 早く。早く、彼のもとへ。
 手を大きく伸ばし返したみいは黎に触れた。そして、彼の温度を感じると同時に思いきり抱きついた。その身体を受け止めた黎は彼女を強く抱き返す。
 隔たりはもうない。
 代わりに己の腕の中に抱きしめて捕らえた黎は、みいの耳元でそっと囁いた。
「頑張ったな、みい」
 頭を撫でる傍らで、安堵をひとつ。
 その声を聞いて目を閉じたみいは、ありがとう、と伝え返す。今、この瞬間だけは私だけの神様でいてくれる。
 特別な此の心地を忘れないよう、確かめながら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎我野・リツ
🐦
ルイ(f30019)と
鳥籠に囚われているのを助けられるのって
恋する乙女の夢だよねっ♪
必死にボクのことを助けてくれようとするルイ……は
見れるかわかんないけど…っ
(多分いつものクールな感じで助けてくれるんだろうなぁ)
でもでも期待するのはタダだもんねっ

え……ウソ、ルイがあんなに必死で…
あんな熱いルイ見たことないかも…
(予想外の事に惚れ直すようにドキドキ)
る…ルイ、助けてっ
ルイと離ればなれなんてボク耐えられないよ…っ

(差し出された手を握って)
えへへ、ありがとルイ
うん、アリスたちも助けてあげないとね!
(あんなに必死にされたらますます好きになっちゃうよ…)


小鳥遊・ルイ
🔑
リツ(f30020)と
いろんな不思議の国があるんだな…
っ、俺が籠の中じゃないってことはリツが…
(リツの囚われた鳥籠を探し見つければ駆け寄り)

リツ…見つけた。
鳥籠…リツには似合わない
(自由な方がリツらしいのに)
今、助けるから
(何度か言葉を重ねるもなかなか鍵が緩まず眉を寄せ大きく息を吸って)
リツ!俺が絶対助けるからっ!
…鍵開いた。

リツ行こう。
(先程の激しさが嘘のように落ち着いてアリス達を助けに行こうと言いながらそれでもそっと手を差し出して)
ん、(手を繋ぐと満足に笑んで)



●君の傍へ
 ふわり、ふわりと不思議なティーポットが空中で回っている。
 其処から溢れ出した紅茶は黄金の川になり、更にミルクが混ざっていった。
 そんな荒唐無稽とも呼べる世界の中には様々な鳥籠が浮かんでいる。でたらめでおかしな場所になったウサギ穴の中で、兎我野・リツ(恋するうさぎ・f30020)と小鳥遊・ルイ(俺+君=?・f30019)は鳥籠に挑んでいた。
「鳥籠に囚われているのを助けられるのって、恋する乙女の夢だよねっ♪」
「いろんな不思議の国があるんだな……」
 リツは少しだけ呑気に、ルイはしみじみと感心しながら、奇妙な空間への思いを声にする。しかし、はたとしたルイはリツを見上げた。
 普段は振り仰ぐことのない彼をこうして見ているのは何だか落ち着かない。
「っ、俺が籠の中じゃないってことはリツが……」
 見上げなければいけなかった理由は、彼が浮遊する鳥籠の中にいるからだ。
 リツが囚われた鳥籠へと駆け寄ったルイは手を伸ばす。しかし、浮かんでいる鳥籠はルイから離れるように移動してしまった。
 白い球体型の鳥籠には、ぴんと立った動物の耳のような装飾部位がある。
 ウサギ鳥籠と呼ぶに相応しいそれは、どんどん高度をあげながら遠ざかっていく。
「わ、わあ!? 攫われちゃうよ、ルイ!」
「……待て、止まれ」
 閉じ込められたリツにはどうすることも出来ず、二人の距離は離れていった。このままではいけないと感じたルイは急いで後を追う。されど、待てと言われて止まるような鳥籠ではなかった。
 何度か見失いそうになったが、ルイは白いウサギ鳥籠を果敢に捉え続ける。
「リツ……見つけた」
「追いかけてきてくれたんだね、ありがとう!」
 彼の声がふたたび聞こえたことでリツは嬉しげに微笑む。
 本当を言うと揺れる鳥籠が何処に行ってしまうのか少しだけ不安だったが、ルイが見つけてくれたならもう怖くはなかった。
 きっとルイはいつものようにクールだろうけれど、それも格好良い。
 それに期待するのはタダ。乙女のピンチに颯爽と助けてくれる王子様のようなルイが見られるなら、囚われの身であっても気分が高揚してしまう。
「待ってろ……今、助けるから」
 リツの期待には気付けず、ルイは鳥籠への攻撃をはじめようとした。
 少しずつではあるが不安じみた気持ちが浮かんでいく。
 ウサギめいた可愛らしい鳥籠ではあるが、あれはリツには似合わないと思っていた。自由な方がリツらしいのに、という思いがルイの中にある。
 はやく彼処から解放したい。
 何度か言葉と攻撃を重ねるもなかなか鍵が緩まない。自分か、或いはリツか――否、きっと己の方の思いが足りないのかもしれないと考えたルイは、眉を寄せた。
 それから大きく息を吸う。
「――リツ! 俺が絶対助けるからっ!」
 それは普段の彼からは想像できないほどの強い言葉と思いの形だった。
 その声を耳にしたリツの胸が高鳴る。
「え……ウソ、ルイがあんなに必死で……」
 あんな熱いルイは見たことがない。元から好きだったけれど、あまりの予想外のことに惚れ直してしまいそうだ。寧ろ完璧に惚れ直した。
 そして、それ以上にリツの心に変化が現れる。これまでは気楽に囚われのお姫様気分でいたが、何もしなければ本当に引き裂かれてしまう。
 そんなのは嫌だと考えたとき、急に胸の奥が痛んだ。それだけでははなく、鳥籠は更に浮遊していってしまっている。
「る……ルイ、助けてっ」
「必ず追いつくから。大丈夫……!」
「うん、絶対。絶対にだよ。ルイと離ればなれなんてボク耐えられないよ……っ」
 引き離される二人は、喩えるならばまるでロミオとジュリエット。
 さながら悲劇の始まり。だったはずなのだが――。
「……あ。鍵開いた」
「開いたね!」
 二人の思いが最高に強くなったことで、鳥籠はあっけなくひらいた。ぴょんと跳ねるように飛び降りたリツはルイの隣に着地する。えへへ、と笑った顔には少しの照れがあったが、リツは嬉しさをいっぱいに伝えた。
「えへへ、ありがとルイ」
「リツが無事で良かった」
 先程までの激しさが嘘だったかのように、ルイは落ち着いていた。そうして彼はそっと手を差し出した。
「アリス達を助けに行こう」
「うん、ちゃんと助けてあげないとね!」
 リツがその手を握ると、ルイは満足そうに微笑む。その表情もまた素敵だと感じたリツはこのドキドキがばれませんように、と願った。
 思い返すのは救出劇の最中で聞いた彼の声。
(あんなに必死にされたら、ますます好きになっちゃうよ……)
 きっと好きになる気持ちに際限はない。
 だから――胸に宿ったときめきと鼓動は、もう暫くは収まりそうになかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
青/f01507と
🔑

うお、っと、早速だな
大丈夫か、青!?
今すぐ助けてやるからな!
任せておけ。兄ちゃんは強いんだ

さて遠慮なくやるとしよう
私の力が力だ
ちと怖いかもしれないが、お前を傷付けたりはしないからな

幻想展開、【悪意の切断者】
呪詛と氷の属性攻撃を制御しうる限界まで乗せて
鳥籠へ向けて爪を振り下ろす
本当は一発で破壊してやりたいが、それは流石に難しかろう
ならば壊れるまで何回でも、だ
中にいる青には怖い思いをさせてしまうかも知れないのが心苦しいが
まァ、背に腹は代えられないよな

大丈夫か?立てるか?
無理そうなら兄ちゃんが運んでってやるぞ
――私は大丈夫だとも
早くあの兎もどきを倒して、明るいところに帰ろうな


迎・青
🐦
ニルズヘッグおにーちゃん(f01811)と
(アドリブ歓迎)

気付いたら鳥籠に囚われており、軽くパニックに陥る

コワい、どうしよう、でられない
おにーちゃん、たすけて

首飾り(本体)を握りしめ、鳥籠を攻撃するおにーちゃんを【祈り】ながら見守る
…でも、つかまっちゃうようなボクは、いないほうがいいかもしれない
ボクきっとよわいから、わるいこだから、つかまっちゃったんだ

「おいていって」と言いかけて、飲み込む

…でも、そうだ
まだまだいっしょにいっぱいお話するんだ、誕生日もお祝いするんだ
だからいっしょに、ここからでなきゃ
おにーちゃんなら、たすけてくれる!

ありがと、だいじょぶ、歩けるよぅ
…おにーちゃんこそ、大丈夫?



●信じる気持ちと大切な未来
 不思議で奇妙な世界で鳥籠が大きく揺らいだ。
 ウサギ穴の最中、猛威を奮っているのは人を捕らえる檻の化身達。
「あれ? なに、これ……」
「うお、っと、早速だな」
 迎・青(アオイトリ・f01507)は気が付けば鳥籠に囚われてしまっており、軽いパニックに陥っていた。青が捕まってしまったのだと察したニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は急いで鳥籠の方に駆け寄る。
「大丈夫か、青!?」
 少年が入れられているのは細身の銀格子が美しい鳥籠。
 銀の錠前には蒼の硝子玉が飾られており、繊細な印象を受ける。しかし、いくら美しかろうとも青にとって、これは自分を閉じ込めるものだ。
 コワい。どうしよう、でられない。
 ぐるぐると頭の中に巡る思いが恐怖と不安となって心のなかに沈んでいく。
「おにーちゃん、たすけて」
 銀の格子に両手を添え、震える声でやっと紡げたのはちいさな声だった。青が不安がっていることを知ったニルズヘッグは鳥籠に手を伸ばす。
「今すぐ助けてやるからな!」
「……うん、おにーちゃん」
 格子越しに手と手が重なった。この鳥籠は低く浮かんでいるだけで、どうやら急に逃げ出したりはしないようだ。
 それが不幸中の幸いだと感じながら、ニルズヘッグは強く頷いた。
「任せておけ。兄ちゃんは強いんだ」
 青を助けるために全力を賭すことを誓い、彼は腕捲くりをする仕草をみせる。兄と慕う彼の笑みにほんの少しの勇気を貰った気がして、青もこくりと首肯した。
 そうして、ニルズヘッグは力を紡ぐ。
「さて遠慮なくやるとしよう」
「がんばってね」
「私の力が力だ。ちと怖いかもしれないが、お前を傷付けたりはしないからな」
「……わかってるよ」
 おにーちゃんはそんなことしないから。
 そう信じた青は自分の本体である首飾りを握りしめた。ニルズヘッグは怖くても少しだけ我慢をして欲しいと願い、鳥籠への攻撃を開始していく。
 幻想展開――悪意の切断者。
 ニルズヘッグは呪詛を紡ぎ、氷の力を限界まで乗せていった。其処から鳥籠へ向けて一気に爪を振り下ろす。
 そうすれば甲高い音が辺りに響き渡った。
 本当は一発で破壊してやりたいが、流石に難しいだろうことは分かっている。
 それならば壊れるまで何度でも、何回でも打ち込むのみ。
「青、怖い思いをさせて悪いな」
 思わず謝ってしまうほどに心苦しいが、背に腹は代えられない。ニルズヘッグも懸命に力を揮ってくれているのだと知り、青は更に強く首飾りを握った。
 祈りながら見守る兄の姿は凛々しい。
(……でも、つかまっちゃうようなボクは、いないほうがいいかもしれない)
 ボクはきっとよわいから、わるいこだから。
 それだから、こんな鳥籠につかまっちゃったんだ。
 不安ばかりが募り、青の心は押し潰されそうになっていく。ニルズヘッグを本当に思うなら、助けてと言わない方が良かったのかもsりえない。
 ――「おいていって」
 そう言いかけて、青は言葉と思いを飲み込む。
 今もニルズヘッグは呪詛と氷を巡らせ、青の為に戦ってくれていた。やめて、とはいえない。それに、もうひとつ思うことがあった。
(そうだ、まだおにーちゃんとやりたいことが、いっぱいあるんだ)
 まだまだいっしょにお話をしたい。
 誕生日もお祝いして、おめでとうを告げて、ありがとうを伝えたい。だから。
「いっしょに、ここからでなきゃね。おにーちゃんなら、たすけてくれる!」
「ああ、一緒に!」
 青が言葉にした思いを聞き、ニルズヘッグは更なる一閃を鳥籠に見舞っていく。
 そして――鋭い音が響いた刹那、銀の鳥籠から少年が解放された。

 やがて鳥籠は崩れ落ち、跡形もなく消えていった。
「大丈夫か? 立てるか?」
「ありがと、だいじょぶ」
 ずっと脚が竦んでいたからか少年の足元は覚束無い。ニルズヘッグが気遣う言葉をかけると、青は平気だと答えた。
「無理そうなら兄ちゃんが運んでってやるぞ」
「ううん、歩けるよぅ。おにーちゃんこそ、大丈夫?」
 青は自分の為にニルズヘッグが無茶をしたのではないかと考えたらしく、心配そうに見上げる。対する彼はこれ以上の不安を与えぬように胸を張ってみせた。
「――私は大丈夫だとも」
「それならよかった……」
 兄を信じている少年はほっとした表情を見せる。
 ニルズヘッグはそっと青の頭に手を添え、このウサギ穴での騒動を起こす要因となった存在についての思いを巡らせた。
「早くあの兎もどきを倒して、明るいところに帰ろうな」
「うん……!」
 青はちいさな決意を抱き、ニルズヘッグの言葉に頷く。
 二人が歩む先。
 其処にはこの歪んだ世界の端にあたる、昏い穴の出口が見えていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
『🔑』:アヒルさん
『🐦』:フリル
上の配役が不可でしたら流していただいて構いません。

ふええ、なんで私が鳥籠の中に入っているんですか?
アヒルさんも笑ってないで助けてください。
囚われのお姫様に憧れた時もありましたが、助けに来てくれる王子様がアヒルさんじゃ……。
ふえ?この音はアヒルさん?
そうでした、私がピンチの時はいつもアヒルさんが助けに来てくれたじゃないですか。
アヒルさん、頑張ってください。

ふえ?鳥籠が崩れる瞬間、アヒルさんが白馬に乗った王子様に見えたような。
気のせいですよね。



●王子様はすぐ傍に
 事件に巻き込まれたアリス達。
 彼らを助ける為に訪れた不思議の国。その間を繋ぐウサギ穴に降り立ったフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は――。
 現在、とても困っていた。
 ふわふわと浮かぶ鳥籠の中でひとり、誰の助けもないまま揺られている。
「ふええ、なんで私が鳥籠の中に入っているんですか?」
 フリルは泣き出しそうな顔で地上を見下ろした。四色のトランプスートが飾られた鳥籠はとても可愛いのだが、如何せん高度がすごい。高すぎるくらいだ。
 浮遊する鳥籠がこのままどんどん上空にあがってしまったら、どうなるのか。
「ふぇ、ふええええ」
 嫌な想像を巡らせてしまったフリルは本当に泣きそうになる。お空の散歩ということにすれば楽しいかもしれないが、楽しいだけでは終わらないことも想像できてしまうのだから怖すぎる。
 しかし、どうやらアヒルさんまで一緒に囚われたわけではないらしい。
 現に地上の方から笑い声のような鳴き声が聞こえてくる。
「アヒルさんも笑ってないで助けてください」
 フリルはぶんぶんと両手を振ってアヒルさんに救出を願った。
 この領域に囚われているアリス達がいるなら探しに行きたかったが、まずは自分が鳥籠から脱出しなければ始まらない。
 ふえ、と何度目かの溜息を落としたフリルは鳥籠の中で三角座りをした。
 思えば囚われのお姫様に憧れた時もあった。
 そのときは白馬の王子様が助けに来て欲しいと願ったものだが、今のフリルが頼れるのはアヒルさんだけ。
「助けに来てくれる王子様がアヒルさんじゃ……」
 しかも笑っているだけでは、と諦めそうになったそのときだった。
 地上からものすごい勢いで木の実が投げ付けられている。コツコツと鉄格子に当たっている果実が鳥籠の高度を徐々に下げていた。
「ふえ? この音はアヒルさん?」
 いつのまにか周囲のアイテムを集めてパチンコを作っていたアヒルさんが、なんと樹に生っていたリンゴを武器として鳥籠を攻撃しはじめたではないか。
 はっとしたフリルは先程まで考えていた思いを振り払う。
 王子様役がアヒルさんであることにがっかりしそうになっていたが、そんな風に考えていてはいけない。
「そうでした、ピンチの時はいつもアヒルさんが助けに来てくれたじゃないですか」
 振り回されるときもあるけれど、ずっと一緒に居てくれる。
 誰よりもフリルのことを知ってくれている。大切な相棒がアヒルさんだ。
 そんなアヒルさんがこの鳥籠を懸命に壊そうとしてくれているのだから、フリルもその思いに応えたくなった。
「アヒルさん、頑張ってください」
 フリルの応援の言葉を受け、アヒルさんの果実作戦が成功に導かれていく。
 また、彼女の思いも鍵を緩める切欠となった。
 其処から事態は好転していき、フリルを閉じ込めていた鳥籠の鍵が開かれる。その頃には籠自体も地上に近付いていた。
 フリルは思いきって地面にジャンプすることで鳥籠を脱する。
「ふえ? アヒルさん?」
 そうして、鳥籠が崩れる瞬間。アヒルさんが白馬に乗った王子様に見えたような気がして、フリルは首を傾げた。
 改めて眺めてみたが、やはりアヒルさんはガジェットのまま。
「気のせいですよね。ふぇ、はやくアリスさん達を探せ、ですか?」
 アヒルさんの指示を聞いたフリルは駆け出していく。
 その頭に飛び乗ったガジェットはいつも通り、陰ながらフリルを守るアヒル王子としての役目をしっかりと果たしていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーチェ・ムート
🐦
【蝶月】

鳥籠かー
ボクは結構馴染み深いなぁ
ずっと檻の中に居たからね

囚われの中
キミへの想いがあれば平気なんだって
それが光の道標

美しい瑠璃の蝶を想う
関係性の名前はわからない
キミのことを考えると胸が苦しくなる
ずっと昔から一緒に居たみたいな
ずっとキミを求めていたみたいな
傍に居たいって思うんだ

その気持ちを歌に込めて
誘惑蕩かせ歌う【piangendo】
伸ばした手をキミがとってくれたら
それだけで嬉しい
攻撃にならなくていいんだ

助けてくれてありがとう、華乃音
何を考えてたの?
ボクはね、キミの声が聞こえる近さに居たいって
考えてたよ
…これからもこの距離で居たいな
関係の名前がなくても落ち着く、この距離で


緋翠・華乃音
🔑【蝶月】

囚われること。
自由を奪われること。
俺にとってそれは苦痛に他ならない。
風に揺蕩う蝶を一体誰が捕まえられようか。

――歌が聴こえた。優しくて甘い、いつまでも聴いていたくなる歌。
その歌に込められた気持ちは、きっと俺には分からないけれど。

微睡みから目覚めるように、歌に導かれて彼女の待つ鳥籠へ歩む。
もしかしたらこれは一つの試練なのかも知れない。
彼女を鳥籠から救い出したいという想いが、偽物でないと証明する為の。

優しく籠の錠前に触れる。
たったそれだけ。
“指先の温もり”
これが俺の全力だから。

やっぱり君の歌は好きだ。
いつまでも聴いていたいと思う。

近すぎず、遠すぎる。
互いが手を伸ばせば届く、この距離で。



●二人の距離
 鳥籠。それは自由を奪うものの代名詞。
 羽を切られた鳥が空への憧れを歌うところ。
 きっと物語の中であれば、そのような場所だと表現されるのだろう。しかし、ルーチェ・ムート(十六夜ルミナス・f10134)にとってそれは身近なものだ。
「鳥籠かー、ボクは結構馴染み深いなぁ」
 ずっと檻の中に居たから。
 そんな風に語ったルーチェは現在、実際に鳥籠の中に囚われている。
 不思議な世界と化したウサギ穴の中。
 此処では絶対にそうなると言われていたように、ルーチェにも鳥籠が迫ってきた。そして、鳥籠は否応なしに彼女を内部に閉じ込めた。
 ルーチェを捕らえているのは蝶々の翅が飾られた鳥籠だ。
 ただし、もがれた片翅だけが無数に散っているという残酷さを感じさせるもの。
「風に揺蕩う蝶を一体誰が捕まえられようか」
 きっと、出来ない。
 そうであるのに此の鳥籠は蝶を囚えた。そのように感じた緋翠・華乃音(終奏の蝶・f03169)はルーチェに歩み寄った。
 囚われること。自由を奪われること。
 華乃音にとってそれは苦痛に他ならないのに、ルーチェはそうではないと言った。
「心配しないでいいよ」
 囚われの中でも、キミへの想いがあれば平気。
 それが光の道標だから。
 ルーチェは淡く笑み、鉄格子にそっと掌を添えた。冷たい鉄は何も応えてくれないけれど、その向こう側には華乃音がいる。
 そうして、ルーチェは美しい瑠璃の蝶を想った。
 キミとの関係。その名前はわからないし、名付けてもいない。けれどもこの想いを捧げれば鳥籠の鍵は開いてくれるはず。
 華乃音との思いが共鳴すれば、きっと――ううん、絶対に。
 ルーチェは鳥籠の中から彼を見つめ、胸の奥に潜む感情に意識を向けた。
 キミのことを考えると胸が苦しくなる。
 ずっと昔から一緒に居たみたいな、ずっとキミを求めていたみたいな。とても優しくて、それでいて切ない気持ちになっていく。
 傍に居たい。ただ、隣を歩んでいたいと思う。
 その気持ちを歌に込めて、ルーチェは謳ってゆく。心を蕩かせて歌っていくのは、あいのうた。その証明を、哀の慟哭を、逢いにゆく術を。
 ――ボクをあいして。
 歌は愛を語るけれど、求める想いに名前をつけるにはまだ少し早い。もしかすれば名前なんて付けなくても良いのかもしれない。
 伸ばした手をキミがとってくれたら、それだけで嬉しいから。
 ルーチェが歌う聲に耳を澄ませ、華乃音は瞼を閉じた。絆を試すという鳥籠に思いを向けるならば、この歌を聴いてからがいい。
 それは優しくて甘い、いつまでも聴いていたくなる歌だ。
 彼女が紡ぐ歌に込められた気持ちは、きっと自分には分からないけれど。それでも、その歌声は華乃音を微睡みから目覚めさせてくれるような響きを宿していた。
 歌に導かれて彼女の待つ鳥籠へと更に歩む。
 二人の間に言葉はない。
 されど、華乃音とルーチェの間には確かな感情と思いが巡っていた。
 もしかしたらこれもひとつの試練なのかもしれない。
 そう考えた華乃音は手を伸ばした。これはきっと、彼女を鳥籠から救い出したいという想いが、偽物でないと証明する為のもの。
 鉄格子の間で僅かに指と指が触れた。ちいさな温もりと、二人の視線が重なる。
 華乃音は籠の錠前に指先を向けた。
 想いを歌い、思いを示す為に触れる。二人が行ったのは、たったそれだけ。
 指先の熱。
 瑠璃の蝶が運ぶ白百合の歌声。
 それを聞いて伝えることが、今の華乃音にとっての全力。
 
 そして、想いに呼応した蝶の鳥籠の鍵が開く。
 いつの間にか千切られた翅の残骸は何処かに消えていた。ルーチェは歌を終え、ひらいた鳥籠の扉をそっと潜る。
「助けてくれてありがとう、華乃音。何を考えてたの?」
「やっぱり君の歌は好きだ。いつまでも聴いていたいと思っていた」
「ボクはね、キミの声が聞こえる近さに居たいって考えてたよ」
 それを歌に籠めたよ、とルーチェは花が咲くように笑む。華乃音は笑みを返すことはしなかったが、軽く目を細めてみせる。
 ルーチェは鳥籠越しに触れた指の温度を思い返し、自分の想いを彼に伝えた。
「これからもこの距離で居たいな」
「……ああ」
 それ以上は二人とも何も語らなかったが、言葉にせずとも思いは通じている。
 関係の名前がなくても落ち着く、この距離で。
 近すぎず、遠すぎず。互いが手を伸ばせば届く、この感覚で。
 願わくは、ずっと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日東寺・有頂
🔑
夕辺(f00514)と

あら〜〜あっちゅーまに俺ん女ば籠の中ばい
オイは知っとっと こいも数ある試練の一つよ
アリスしゃん達そっちのけでわりいが
試されとんばい 俺達の死と命と肉の絆
今回もまあ、お誂え向きの環境だ

なんて言うてても
夕辺の気配と声とを間近にして触れられねえ
腹の底から沸々と滾る 焦りが、怒りが
愛おしさが

余裕こいた軽口も失せて正気は絶え絶え
夕辺 夕辺 夕辺
たかが鳥籠に、たかだかオブリビオンに隔てられた寸刻が許せない 
誰を救えなくたって構わねえ
失わせるな、お前を

最適な殺戮の形で籠を屠る
虚ろな目で、それでも笑って夕辺を抱きとめよう


佐々・夕辺
🐦️
有頂【f22060】と

目が覚めれば、鳥籠の中だった
軽く支柱を掴んで揺らしてみるけど
しゃらんと鳴るだけでびくともしない
…有頂は?
私と一緒に来たあの人は……?

――有頂!
私は此処!と主張するように支柱を鳴らす
非常に情けない話ではあるんだけど!
此処から出して!

この籠が煩わしくて仕方なかった
触れたいのに
貴方に触れたいのに、其れが出来ない
相手の焦りが、怒りが伝わる
いつも楽しそうに笑っている人が
貴方と一緒にいたい
ねえ、笑って
いつもみたいに「夕辺はみじょかね」って
抱き締めてよ

……あ
壊れた鳥籠、ぐらり崩したバランス
でも平気よ
貴方が受け止めてくれるって信じているもの
もう大丈夫
私たちを邪魔するものは何もない



●壁すら越えて
 目が覚めれば鳥籠の中だった。
 いつ、どうして此処に取り込まれてしまったかの記憶はない。
「ううん……ここは?」
 佐々・夕辺(凍梅・f00514)は自分が囚われている檻を見上げてみた。形はごく普通の鳥籠だが、鉄格子は天井から足元にかけて不思議な色を宿している。
 上部は明るく眩しい太陽の色。
 下部は夕陽めいた落ち着いた橙色。
 足元の床には昼のお日様が夕陽に変わっていくような模様が描かれている。
 軽く支柱を掴んで揺らしてみたが、しゃらんと鳴るだけでびくともしなかった。ふと気付いた夕辺は自分が閉じ込められている事実よりも大事なことを思い出す。
「……有頂は?」
 自分と一緒に来たあの人は――。
 夕辺が不安のような思いを抱いたとき、彼の声が耳に届いた。
「あら~~こんなとこに。やっと見つけたばい」
 日東寺・有頂(手放し・f22060)は大きく肩を竦め、乱れそうな呼吸を整えている。現在、夕辺が囚われた鳥籠は奇妙に揺らぐ樹々の上に止まっていた。
 その樹の根元に立っている彼の様子からするに、随分と探しまわってくれたようだ。
「――有頂!」
 夕辺も自分は此処だと主張するように支柱を揺らして鳴らした。
「わかっとうよ、夕辺が籠ん中に捕らわれたときからもう、そりゃ必死に……と、細かいことはもういいか」
「待って、何があったかくらい教えてくれない?」
 何かを言い掛けて頬を掻いた有頂に対し、夕辺は何もよくないと首を振る。
 そして、語られたのは鳥籠に捕まるまでのことだ。
 夕辺と有頂は警戒しながらもこのウサギ穴の世界に降り立った。しかし、ある瞬間に鳥籠が上空から落ちてきて、夕辺にぶつかったらしい。
「頭にこう、ゴーンとな?」
「ゴーン、と……そういえば頭が痛い気がするわ。あ、たんこぶがある!」
「そいで鳥籠ば、慌てたみたいに夕辺を中に入れて飛び去って――」
 そして、今に至るというわけだ。
 つまりは鳥籠との事故があって気を失った夕辺がその場の勢いで攫われたようだ。頭を擦った夕辺は何とも言えない気持ちになりながらも彼を呼ぶ。
「非常に情けない話ではあるんだけど! 此処から出して!」
「勿論! オイは知っとっと。こいも数ある試練の一つよ」
 経緯は何であれ、自分達は試されている。俺達の死と命と肉の絆が、と語った有頂は高く跳躍した。次の瞬間には彼の身体が鳥籠の横に着地する。
 だが――。
「今回もまあ、お誂え向きの環境で……と、また逃げっと?」
「きゃ、何!?」
 夕辺を囚えたままの陽色の鳥籠がものすごい勢いで飛翔した。そのとき、夕辺は有頂が息を切らしそうになっていた理由を知る。
 この鳥籠は自分が動くスピードを制御できていないようだ。それゆえに出会い頭に夕辺とぶつかり、こうして急に動き出したりもする。内部に影響はないので夕辺は目を覚ますまで気付かなかったが、この速度は相当なものだ。
 当然、それを追い続けてきた有頂の体力は限界のはず。
「夕辺!」
 有頂は再び駆け出し、猛スピードの鳥籠を追う。
 彼女の気配と声とを間近にして触れられない。腹の底から沸々と滾るのは焦りであり、怒りでもあり、愛おしさでもあった。
 先程までは余裕めいていた軽口も失せ、正気すら絶え絶え。
 事態を把握した夕辺にも焦りがあらわれている。
 たかが鳥籠に、たかだかオブリビオンに隔てられた寸刻が許せない。このまま囚われの姫のように何も出来ないのだろうか。
 二人の思いは同じ。
 この籠が煩わしくて仕方ない。早く触れたい。
 お前に、貴方に。触れたいのに――其れが出来ない。
 互いの焦燥と憤りが伝わる。特に夕辺にとって彼はいつも楽しそうに笑っている人であり、だからこそ一緒にいたいと思えた。
「夕辺、夕辺……!」
 有頂は名を呼び続ける。
 誰を救えなくたって構わない。けれども彼女だけは失いたくない。
 籠の鳥となった夕辺は鉄格子の隙間から手を伸ばす。必死に追いかけてくれる彼へ向けて――思いよ届け、と願って。
「ねえ、笑って」
 いつもみたいに抱き締めて。
 想いが交錯する。願いが重なる。そして、鳥籠が再び何処かの樹の上で止まった。不安定な挙動であるゆえに停止も唐突だ。
 だが、有頂にとってはそれが最後のチャンスのようなものだった。
 これ以上、鳥籠に駆け回られてはもう追いつけない。それゆえに力を振り絞った。鳥籠へと駆け寄りながら、己の神経を侵食させる。
 身体に巡る鋭い痛みを封じ込めた有頂は、ひといきに全力の拳を振るった。
「――俺ん女ば……夕辺を返せッ!」
「……あ」
 その瞬間、鳥籠の扉が砕かれた。
 夕辺は鳥籠が壊れたことを察し、檻が落下していくことに気が付いた。自分の均衡まで崩れていったが、きっと平気だ。
 貴方が受け止めてくれると信じているから。
 両手を広げて落ちていく先には虚ろな目の――それでも、迎え入れるように笑って夕辺を抱きとめようとする有頂の姿があった。
「やっと捕まえた」
「もう大丈夫。私たちを邪魔するものは何もないわ」
「オイの夕辺は本当に、みじょかね」
「……ふふ」
 彼を慈しむように、その胸に飛び込んだ夕辺は心からの笑みを浮かべた。
 ごめん。それから、ありがとう。
 伝えた思いと共に、愛おしさが心に満ちていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

斬断・彩萌
【華冬】🔑
『籠の鳥』って、ヴぃっちゃんにはある意味当てはまってる感あるなー

…ヴぃっちゃんからの私の評価ってなに?
料理番?
ただの友達?
あなたの懐に私は入ってるの? 入ってないの?
それ以上の感情があるなら、是非聞いてみたいものね

あーあ、好きって言ってくれたらいいのにな
そしたらこの鍵も簡単に開くでしょうに
…あ、でも愛がないのはノーセンキューでーす

羨望。尊敬。深い友情…うむ、まぁ悪くない
それに、本当に欲しいものは自分で掴み取るからね

とりあえず鍵をぶっ壊さない事には話にならないか
鍵開けを駆使しつつ
それでも開かないようなら蝶番を狙って拳銃でバン!
思念の籠った強烈な弾丸をプレゼント

さぁ、狩りの始まりよ!


ヴィクティム・ウィンターミュート
【華冬】🐦

なるほど、囚われはちと久しぶりだな
一人じゃ出られない…マジな話らしい

愛の無い「好き」ならくれてやってもいいぜ?
品揃えは其れだけなんだ。悪いね

俺ァさ、お前の事尊敬してるんだぜ
俺に無い物を持っていて、とても勤勉だ
そして大層諦めが悪い
意志の強い奴は一目置いてるのさ…どんな形であれな
どうぞその意志で、鍵をすっぱり開けてくれ

俺からの感情は、これまでもこれからも変わらない
並の友達を越えた存在であることは間違いないが…そこにお前が望む「愛」は存在しない
ただ厚い友情と、感謝と、羨望が混じった尊敬がある
恋は出来ないが、こういうのも悪くないと思わない?

さて───開いたな
ハンティングの準備はいいかい?



●変わらない思い
 時折、電子めいた光が走る鉄格子。
 真四角の牢屋のような形をした鳥籠は奇妙な作りをしていた。
 世界の常識が通じないウサギ穴の内部に唐突に現れたそれは、不思議な雰囲気を放っている。その中と外で言葉と視線が交わされていた。
「そっか、『籠の鳥』かー」
「何だ、この状況を見ての感想か?」
 鳥籠の外で語るのは斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)。そして、内部に囚われた状態で片目を閉じたのはヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)だ。
「それしかないでしょ。ヴぃっちゃんにはある意味当てはまってる感あるからね」
「なるほどな。個人の意見として受け取っておこう」
 彩萌とヴィクティムは今、この鳥籠が通常の方法ではどうやっても開かないことを確かめていた。とはいっても、彼らの通常とはユーベルコードのことだ。
 まずはヴィクティムが内部から鳥籠の構造を書き換えようとした。
 だが、囚われた本人が行うことはすべてなかったことにされてしまう。理由を探ってみたくもあったが、不思議の国では『元からそういう風になっているもの』としてカタを付けた方が合理的だ。
「囚われはちと久しぶりだな。しかし一人じゃ出られない……マジな話らしい」
「それじゃあ試すしかないわね。私達の思いの力ってやつを」
「そうするか。別に何でもいいんだろ?」
 ヴィクティムと彩萌は鳥籠の鉄格子を挟み、真正面から向き合った。
 とはいっても、告白はもうしている。
 その想いを彩萌は伝えていて、ヴィクティムも自分なりの考えを伝え返していた。けれども改めて問いたいこともある。
「……ヴぃっちゃんからの私の評価ってなに?」
 たとえば料理番。
 或いは、ただの友達か。
 あなたの懐に自分は入っているのか、それとも入っていないのか。彩萌はそこのところはどうなのかと問い、ヴィクティムだけを瞳に映した。
「それ以上の感情があるなら、是非聞いてみたいものね」
「評価か。俺ァさ、お前の事尊敬してるんだぜ」
「疑うわけじゃないけど、本当に?」
 理由を聞きたいと彩萌が言うと、ヴィクティムは檻の中に座り込んだ。どうやら少し話が長くなると判断してのことらしい。
 つられて彩萌もその場に正座する。不思議の国の最中で座るという変な状況だが、何となく姿勢を正してしまった。
「俺に無い物を持っていて、とても勤勉だ。そして大層諦めが悪い」
 ヴィクティムは語る。
 意志の強い相手には一目置いているのだ、と。それがどんな形であれど、彩萌はヴィクティムにとっての尊敬対象だ。
 少しだけ唇を尖らせた彩萌は座り方を変える。三角座りで少しいじけた様子を見せた彼女は歳相応の少女らしい言葉を落とした。
「あーあ、好きって言ってくれたらいいのにな」
 そしたらこの鍵も簡単に開くはず。
 思いはどんなものであっても良いらしいが、やはり分かりやすいのは愛や恋だ。するとヴィクティムは薄く笑む。
「愛の無い『好き』ならくれてやってもいいぜ?」
「……あ、でも愛がないのはノーセンキューでーす」
 されど彩萌だって言葉だけが欲しいわけではない。それなら要らないと告げた少女に対して、ヴィクティムは軽く両手を広げてみせた。その仕草は、他には何も持ってないと示すような動きだ。
「品揃えは其れだけなんだ。悪いね」
「知ってる。少し私の理想を話しただけだもの。それに、本当に欲しいものは自分で掴み取るからね」
 それから彩萌は先程の言葉を思い返す。
 ヴィクティムが語ってくれた内容に大きな不満があるわけではなかった。だが、あれだけではまるで他人のようだと思ってしまう。ヴィクティムは彩萌の様子に気が付き、更に言葉を重ねる。
「俺からの感情は、これまでもこれからも変わらない」
「……うん」
「並の友達を越えた存在であることは間違いないが……そこにお前が望む『愛』は存在しない。ただ厚い友情と、感謝と、羨望が混じった尊敬がある」
「うむ、まぁ悪くないかな」
「恋は出来ないが、こういうのも悪くないと思わないか?」
 深い友情があるというヴィクティムの言葉に嘘はない。普通の恋は出来ないなんてことはもうとっくに分かっているので問題はなかった。
「及第点かしら」
 複雑な気持ちは押し込めたまま、彩萌は頷く。
 ヴィクティムは落ち着けていた腰をあげ、ほら、と鳥籠の錠前を示した。
「それじゃどうぞその意志で、鍵をすっぱり開けてくれ」
「開くといいんだけどね。でもとりあえず鍵をぶっ壊さない事には話にならないか」
 互いの思いを確かめた今、ゆっくりもしていられない。
 明滅する鳥籠を見据えた彩萌は、立ち上がってから拳銃を構える。先程に散々鍵を弄ったので、後はこの方法しかないと知っていた。
 そして、銃声が何発か響いた直後。
 ヴィクティムを囚えていた鳥籠の扉が壊れた。
「さて――開いたな」
 準備運動でもするかのように腕を回したヴィクティムは大きく伸びをする。彩萌も拳銃を手にしたまま、壊れた鳥籠に背を向けた。
 この領域の罠を解除したなら、後はこの事態を起こした張本人と対峙するのみ。
「ハンティングの準備はいいかい?」
「さぁ、狩りの始まりよ!」
 二人の声が重なり、続く戦いへの意志が紡がれていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真白・時政
🐦
カラスくん(f13124)と

カラスくん助けて~捕まっちゃったァ~
ウサギさんってばダレにでも好かれちゃうキュートでイケメンなウサギさんだからァ~、この鳥籠サンも悪いウサギさんもウサギさんのコトすきになっちゃったのかもしれない!
やん照れチャウ!

ガンバレ♥ガンバレ♥
カラスくんのアツ~イ想いでウサギさんのコト助けてェ~
ウサギさんはたァ~っくさんのラブで応援シてあげる♥
カラスくんのスキなトコは話てて楽しいトコでしょォ~、イロんな形にヘンシン出来るトコでしょォ~、ウサギさんのワガママにハイハイって付き合ってくれるトコでしょォ~、他にもたァーっくさん!
こーやってウサギさんのコト助けてくれるトコもすきダヨ


ヤニ・デミトリ
🔑
ウサギさん(f26711)と

何を抜かしてんスかねえこの糸目ウサギは…これ壊さないとダメかァ
働き者のカラスに労働手当でも出してほしいっスよ

はァ、ご声援どーも
俺はウサギさんの考えが全然知れねえっスよ…
にこにこしながら俺を肉体労働担当にしてくるし
ふわふわ喋ってると思えばすっぱり物言ってくるし
ふざけといてなんだかんだフォローはしてくれるし…
…まあ、そういう訳分かんねえとこが面白えんスけどね

片足に刃を成し、鍵を切り飛ばす
地味スけど必ず断つって意志を込められりゃ、それを叶える刃
元来情動の薄い俺に出せる全力っス

籠の中の珍獣じゃつまんねえっス
疲れたから、そろそろ出てきて貰っていいっスかね



●兎と烏と嘘の飴籠
「カラスくん助けて~捕まっちゃったァ~」
 頭上から聞こえているのは、危機感があるのかないのか曖昧な声。
 大きな樹に吊り下げられた鳥籠の中から手を振っているのは真白・時政(マーチ・ヘア・f26711)だ。
 鳥籠の国と化したウサギ穴に到着した直後、例に漏れず彼も囚われてしまっていた。
「……これ壊さないとダメかァ」
 ヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)は揺らめいている鳥籠を見遣る。
 その鳥籠はカラフルなキャンディをはじめとしたお菓子で出来ていた。クリームイエローとストロベリーピンクが絡み合った飴格子。扉はアイシングクッキーで、鍵は錠前型のミルクチョコレートだ。
 実にファンシーで可愛い鳥籠なので余計に危機感は薄い。
「ウサギさんってばダレにでも好かれちゃうキュートでイケメンなウサギさんだからァ~、このキャンディの鳥籠サンも悪いウサギさんもウサギさんのコトすきになっちゃったのかもしれない!」
「何を抜かしてんスかねえこの糸目ウサギは」
 キャンディケージの中でくるりと回ってみせた時政に対し、ヤニは肩を竦めた。
 その仕草が時政には頷いたように見えたので、そうでしょ、という声が落とされる。
「やっぱりィ~? やん照れチャウ!」
「そっスね、すごいすごい」
 時政の言葉を軽く流したヤニは時政を助け出す算段を立てていった。
 手始めに錠前を狙ってみるべきか。
 チョコレート製なので普通ならば簡単に砕けるはずだ。
「よっ、と」
 地を蹴ったヤニは熟練の動きで以て、鍵目掛けて蹴撃を放った。脚に生成した刃が見事に錠前を捉えて穿つ。しかし、響いたのは――キィン、というチョコレートからは到底出ないような鋭い音だった。
 やっぱりっスね、と納得したヤニは宙でくるりと回転してから着地する。おそらくチョコレートの鍵部分だけではなく、飴格子やクッキーの扉も同じような手応えがするのだろう。見た目は時政に合うものだが、鳥籠自体は強固なつくりだ。
「働き者のカラスに労働手当でも出してほしいっスよ」
 ちょっとした愚痴のような言葉を落とし、ヤニはもう一度跳躍した。次は傍にある樹の太い枝へと飛び移り、其処から落下する勢いに乗せてのサマーソルト。
 再び、鋭く甲高い音が響いた。
 内部にまで衝撃は伝わっていないらしく、鳥籠の中の時政は平然としている。
 むしろわくわくとした様子でヤニの行動を見守り、声援まで送っていた。
「ガンバレ♥ ガンバレ♥」
「……はァ、ご声援どーも」
 きん、と更なる音が響いて鳥籠が穿たれる。
「カラスくんのアツ~イ想いでウサギさんのコト助けてェ~」
「熱い思いっスか」
 次はもっと鋭さを増した音が鳴り、鳥籠が大きく揺れた。
「その調子! ウサギさんはたァ~っくさんのラブで応援シてあげる♥」
「俺はウサギさんの考えが全然知れねえっスよ……」
 時政を救出するために攻撃を重ねていくヤニは、駆ける勢いに乗せて蹴りを次々と見舞っていく。そして、ふと思う。
 彼はいつもにこにこしながらヤニを肉体労働担当にしてくる。さきほどのようにふわふわと喋ってると思えば、時にはすっぱりと物を言ってくる。しかもそれがとても的をえていることがあるので、感心することだってあった。
「ん~? カラスくん嫌なことでもあった?」
「いや、そんなことはないっスけど。ウサギさんはふざけといてなんだかんだフォローはしてくれるし……まあ、そういう訳分かんねえとこが面白えんスけどね」
 鳥籠から聞こえた声に対し、ヤニはそのままの思いを言葉にして返した。
 すると時政はにこにこと笑う。
 頑張ってくれているヤニがあんなことまで言ってくれたのだから、時政も彼に対しての思いを伝えようと思った。
「カラスくんのスキなトコは話してて楽しいトコでしょォ~、イロんな形にヘンシン出来るトコでしょォ~」
 ひとつずつ指折り数え、更に時政のことについて語る。
「それからね~、ウサギさんのワガママにハイハイって付き合ってくれるトコでしょォ~、他にもたァーっくさん!」
「なるほど、そっスか。それなら今回も我儘を聞くっスよ」
 にこやかに語る時政の言葉を聞いたヤニは更に鍵を蹴り飛ばした。
 その一閃にはこころなしか、先程よりも強い力が巡っている。きっと互いへの思いを言葉にしたからでもあるからだ。
 何度も、何度もヤニは鍵に刃撃を見舞っていった。
 一撃ずつは地味であっても確実に効いている。元来情動の薄いヤニではあるが、必ず断つという意志は強くなっている。
 思いを叶える刃は着実に鳥籠の鍵に罅を刻んでいった。
「いつまでも籠の中の珍獣じゃつまんねえっス」
 疲れたから、という理由を付け加えながらもヤニは木の枝へと駆け上り、狙いを定めた。そして――。
「そろそろ出てきて貰っていいっスかね……!」
 言葉と共にヤニの一撃が鍵を深く穿ち、閉ざされていた扉が開放された。
 同時に、ぴょんと軽く扉を越えた時政は地面に降り立つ。それまで樹に吊り下げられていた鳥籠は、まるで存在そのものが嘘であったかのようにどろりと融けて消えた。
 時政はヤニに向き直り、いつもの笑みを浮かべる。
「こーやってウサギさんのコト助けてくれるトコもすきダヨ」
「そりゃ光栄っスね」
 対するヤニの反応はごく普通のもの。
 けれども確かにあのとき――扉が開いた瞬間、二人の意思は重なっていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎 🐦

自分を閉じ込める籠を見て
警戒心よりも先に、安堵を覚える
以前、ライナスが囚われた時の事を思い出しては
安堵はより一層、深まっていく

大切だと、思うからこそ
これで良かった、不自由なのは俺の方で良い
寧ろ……迷惑を掛けてすまない、ライナス
思考を先読みされた様な言葉には
無意識に困ったように眉尻を下げてしまうかもしれない

仕方がないだろう
どうしようもなく大事で
お前が無事なら良かったと思ってしまうんだ
この感情をまだ、言葉に表す事は出来ないけれど

でも、嗚呼……
ずっと、ライナスと離ればなれになるのは嫌だと思うから
機械が願う事を許してくれ、ライナス


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と
🔑

転送と同時、自由な自分の身を確認すれば舌打ちと共に捜索を
…危険な目に合うのはやっぱりあんたなのかよ

捜索はリカルドの名前を呼びつつ『第六感』と『聞き耳』を使い気配を探す
見つけたならば駆け寄り【病の運び手】近くの岩や無機物を鼠に変え鳥籠の錠や脆そうな場所を齧らせ鳥籠に攻撃しつつ手のソードブレイカーを振るい追加の物理攻撃を
…俺が囚われねえでよかったとか、考えてんじゃねえだろうな?
眉を下げる相手の表情にその内心が伝われば舌打ちをしつつ攻撃を続けんぜ
あんたに何かあったら…。…
…兎に角。俺以外に囚われてんじゃねっつの
元凶倒さねえといけねえんだからよ。さっさと出て来いっつの。なあ?



●願い
 閉ざされた扉はびくともしない。
 錆びかけた鉄格子はまるで牢屋のようで、リカルド・アヴリール(機人背反・f15138)は肩を竦める。自分を閉じ込める籠はすべてが鉄で出来ており、まさに鳥籠と呼ぶに相応しい円柱状の形をしていた。
 鉄格子を見つめた彼は、警戒心よりも先に安堵を覚える。
 その理由はライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)が囚われなくてよかった、と感じたからだ。
 空中に浮かんで揺れている鳥籠。
 其処から見下ろした地上にはライナスがいて、自分を見上げている。
「リカルド……!」
「大丈夫だ、何ともない」
「そうは言うが……危険な目に合うのはやっぱりあんたなのかよ」
 ライナスは舌打ちをした。其処からは鳥籠への苛立ちが垣間見えたが、リカルドにとってはそれで良かった。
 思い浮かぶのは、以前にライナスが囚われたときのこと。
 あんなことはもう御免だ。それゆえに自分がこうして捕まっている方がいい。囚われたことが良かったと感じる奇妙な感情ではあるが、安堵はより一層、深まっていく。
 大切だと、思うからこそ。
 これで構わないと考えたリカルドは彼を見つめた。
「不自由なのは俺の方で良い。寧ろ……迷惑を掛けてすまない、ライナス」
「俺が囚われねえでよかったとか、考えてんじゃねえだろうな?」
 謝罪の言葉を落としたリカルドに対し、ライナスは問いかける。まだ何も言っていないというのに。この後も言うつもりはなかったが、彼に思考を先読みされたと感じたリカルドは眉尻を下げる。
 それは無意識だったが、困ったような表情が問いの答えであることを示していた。
「やはりか。待ってろ、今出してやる」
 ライナスは鳥籠に近付き、近くの岩や無機物を穢れた毒の牙を持つ無数の鼠へと変化させていく。周囲に生えていた樹に登った毒鼠は、浮かぶ鳥籠に突撃した。
 狙うのは鳥籠の錠や脆そうな場所。
 鼠達にそういったところを齧らせ、ライナス自身も手にしたソードブレイカーを振るうことで追加攻撃を入れていく。
「仕方がないだろう」
「……チッ」
 リカルドは先程の返答として言葉を紡いだ。それだけで彼の内心が伝わり、ライナスは再び舌打ちをした。その際も攻撃を続けることは忘れない。
 ライナスが必死に助けてくれようとしていることで、リカルドの胸も痛む。
「お前が無事なら良かったと思ってしまうんだ」
 どうしようもなく大事だからこそ。
 この感情の正体は――。まだ、言葉に表すことは出来ないけれど自覚している。
 眉を下げたまま鉄格子を握る彼を見遣り、ライナスは考えた。もし自分があの中に閉じ込められた側だったなら、リカルドはもっと苦しそうな顔を見せるのだろう。
 そんな表情は今のもの以上に見たくない。
「でも、あんたに何かあったら……。…………」
 ライナスは言いかけた言葉を止め、左右に首を振ってみせる。囚われてしまったことは変えられない。ならば今はどう救出するかだ。
「兎に角。俺以外に囚われてんじゃねっつの」
「嗚呼……」
 リカルドはただ頷くことしか出来ない。
 この鉄の鳥籠はまるで自分のようだと思えた。錆びつきかけているが、強度は落ちていない。寧ろこれからも堅牢にあろうとするだろう。
 人間としての形を失っても、強く在りたいと立ち続けるもの。
 鳥籠が己の心と在り方を示したのかとも感じたが、リカルドはそれを言葉にすることはない。その間もライナスの振るった刃が鳥籠を穿たんとして振り下ろされた。
「そろそろだ」
 もうすぐ開くはずだと告げたライナスはリカルドに視線を向ける。鼠達の活躍もあり、浮遊していた鳥籠の高度も随分と下がっていた。
 顔を上げたリカルドと、手を野差し伸べるライナスの視線が重なる。何か言いたげな様子に気付いたライナスはもう一度、問いかけた。
「どうした?」
「考えたんだ。ずっと、ライナスと離ればなれになるのは嫌だと、思うから……」
「そうか、それは俺も嫌だな」
「機械が願う事を許してくれ、ライナス」
 絞り出すような声で、しかしはっきりとした形でリカルドは願う。その言葉を聞いたライナスは頷きながら薄く笑ってみせた。
 許すも何も当然だ、と。
「元凶倒さねえといけねえんだからよ。さっさと出て来いっつの。なあ?」
 そして、ライナスは鳥籠との距離を一気に詰めた。
 次の一手で決めてみせる。
 そう語るようなソードブレイカーの一撃が鍵に向けて振り下ろされ――。
 二人を阻んでいた鳥籠の扉が、開かれた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

曾場八野・熊五郎
ほほー、兎狩りとはなかなか雅でごわすな
は?狼を騙して閉じ込めてる?……よっしゃ、駄犬を躾なおして害獣駆除でごわ

(pow・狼希望)
獣ゆえ難しいことは無しでごわす。檻を壊して情けない駄犬の尻を蹴っ飛ばして、舐め腐った草食獣の首を搔っ切りに行くでごわす

檻を鮭でぶん殴りながら説得(怪力)

オラッ!早くこんな保健所みたいなとこから出てクソ兎を狩りに行くでごわすよ!
そもそも狼のくせに何草食獣に騙されてるでごわすか駄犬!
今のお主はビーグルにも劣る畜生でごわす!
こうなった以上お主が捕食者の誇りを取り戻すにはその手でクソ兎に自然界の掟を分からせる他ないでごわ!
分かったらさっさと出てくるでごわすチクショー!!



●捕食者の誇り
 不思議なキノコが揺らめいて、飴玉の雨が降る。
 へんてこな世界の中には様々な鳥籠が浮かんでおり、荒唐無稽な景色となっていた。ウサギ穴で起こる異変を聞きつけ、やってきた曾場八野・熊五郎(ロードオブ首輪・f24420)は辺りを見渡す。
「ほほー、兎狩りとはなかなか雅でごわすな」
 不思議な国の様相を確かめながら、熊五郎は鳥籠を見上げた。
 ふわふわと浮いて移動しているそれらの中に、ブリキで出来たオオカミが囚われている姿が見えた。何度も内部から爪を振るって抵抗しているらしく、ガシャンガシャンという硬質な音が響き渡っている。
「あれが騙されて閉じ込められたという狼でごわすか。……よっしゃ、駄犬を躾なおして害獣駆除でごわ!」
 そして、熊五郎はブリキのオオカミの救出に向かっていく。
 熊五郎もオオカミも獣。
 それゆえに今は難しいことは無しだって構わないだろう。熊五郎の胸の奥で燃えているのは、対マーダー・ラビットへの思いだ。
 それにあっけなく捕まってしまったオオカミへの感情もある。
「む、ふわふわと珍妙な! あの檻を壊して情けない駄犬の尻を蹴っ飛ばして、舐め腐った草食獣の首を搔っ切りに行くでごわす!」
 浮遊している鳥籠を追いかける熊五郎は懸命に駆けた。
 その間にもオオカミは必死に抵抗していたが、中からの働きかけは全て無駄になってしまう。それがこの鳥籠の国の仕組みだ。
「追いついたでごわ!」
 熊五郎は石狩鱒之助刻有午杉――つまり、鮭で思い切り鳥籠をぶん殴る。怪力で以て振るわれた鮭はものすごい衝撃を生み出しながら檻を穿った。
 だが、鳥籠はとても強固だ。
 それでも熊五郎は二撃目を叩き込むべく体勢を整える。
「ガウ?」
 すると内部に囚われているブリキのオオカミが不思議そうな声を出した。どうやら彼は何をしても徒労に終わることを嘆いていたらしい。
「オラッ!」
 熊五郎の声と共にガシャン、と物凄い音が辺りに響き渡った。二撃目だけではなく、更に三撃目まで繰り出そうとしている熊五郎の勢いは凄い。
「早くこんな保健所みたいなとこから出てクソ兎を狩りに行くでごわすよ!」
「ガウガウ………」
 対するブリキのオオカミは尾を下げた。
 すると熊五郎は吠えるように鋭く唸り、彼へと激励の言葉を送っていく。
「そもそも狼のくせに何草食獣に騙されてるでごわすか駄犬!」
「グルル……」
「今のお主はビーグルにも劣る畜生でごわす!」
「ガウ!?」
「こうなった以上お主が捕食者の誇りを取り戻すにはその手でクソ兎に自然界の掟を分からせる他ないでごわ!」
「ウゥ……ガウ!!」
 ブリキのオオカミと熊五郎の言葉はどうやら通じているようだ。相手から返ってきた声を聞き、熊五郎は全力の一閃を解き放った。
「分かったらさっさと出てくるでごわすチクショー!!」
「ワオーン!!!」
 咆哮めいた二匹の声と思いが重なり、そして――石狩鱒之助刻有午杉の激しい衝突によって、硬い鳥籠の扉は完膚なきまでに壊された。
 それから熊五郎とブリキのオオカミは一致団結したらしく、互いに頷き合う。
「そうと決まったら行くでごわす!!」
 いざ、倒すべき草食獣のもとへ。
 彼らの行動は始まったばかり。そうして此処から、誇りの為の戦いが続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】🔑
倫太郎が捕らえられてしまいましたか
絆の力を試す鳥籠、ならば必ず助けてみせましょう

抜刀術『風斬』は攻撃力、攻撃回数重視の二種類で試す
技能は2回攻撃、鎧砕き・鎧無視を活用して、更に強く衝撃を与える
両方仕掛けた時の手応えから、どちらを重視するか決める
継戦戦力にて絶えず攻撃します

以前にも片方が捕らえられることがありましたね
あの時は私が捕らえられていて、貴方が自分から私を離さないでと
必死に周りに訴えかけていたのと思い出します
だから、今度は私が

自惚れかもしれませんが倫太郎の私に対する執着はとても強い
出る為の意思は十分ですが……それだけでは駄目なんだ
貴方の思いに、私はこの力を以て応えねば


篝・倫太郎
【華禱】🐦
……籠の鳥、な
あーんま良い気分じゃねぇな

夜彦、夜彦
俺の唯一無二
強くて優しい、最愛の花簪――

振るう刀が鳥籠へと与える衝撃が身を震わせる
気持ちを示すような攻撃が俺の身を震わせる
こんな状況なのに、それがどうしようもなく嬉しい

夜彦、あんたを信じてる
あんたの真っ直ぐな想いも
その想いの丈が籠もった一太刀も
俺は愛してるし信じてる

あんたは俺の刃だから
俺はあんたの盾だから

え?執着って言っちゃう?
……あんたは俺に執着してねぇの?俺だけ?
そんな事ないだろ?

無意味でも、ただ待つのは性分じゃねぇ
華焔刀に想いの丈を乗せて一撃

悪あがきだってなんだってするさ
あんたの元へ帰るためなら
俺の居場所はあんたの隣なんだから



●執着と信頼
「……籠の鳥、な」
 鬱蒼と生い茂る不思議な森の中、鳥籠が揺れている。
 朱で描かれた焔が舞い踊るような柄が刻まれた、華焔刀を思わせるような模様の鉄格子。それが囚えているのは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)だ。
 彼の足元は畳敷き。
 まるで和の廓を思わせる鳥籠には、木の戸が扉として付いている。その扉は鎖によって雁字搦めになっており、何をしても動かなった。
「倫太郎、大丈夫ですか?」
 樹から下がっている鳥籠を見上げ、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は彼の様子を窺った。唐突に彼が囚われてしまい困惑はしたが、今は慎重になるべきときだ。
「あーんま良い気分じゃねぇな」
「少し我慢していてください。必ず助け出します」
 聞いていた話通りなら、これは絆の力を試す鳥籠だという。
 それならば太刀打ち出来ないようなものではない、というのが夜彦の見解だ。倫太郎も自分が抵抗しても何にもならないと理解している。
 暴れても仕方がないなら、大人しく鳥籠に捕まっている方が賢明だろう。
「参ります」
 夜彦は腰に下げた鞘から霞瑞刀を抜き放った。
 抜刀と同時に振るわれたのは風斬の一閃。まずは攻撃力。居合の一撃が鳥籠の鍵に向けて放たれたことで、甲高い音が辺りに響き渡った。
 しかし、一撃では扉も鍵もびくともしない。
 そうであれば何度も斬撃を打ち込む必要がある。夜彦は攻撃回数を増やすべきだと察し、次は手数で攻める策に出る。
 込める力は最大限に。二回目の攻撃には鎧を砕く力と防御すら無視出来る力を活用していき、更に強く衝撃を与えた。
 だが、鳥籠は傷ひとつ負わない。おそらくは人を閉じ込めるということに特化しており、かなり強固なつくりになっているのだろう。
 されど夜彦にも継戦の力がある。何かの手応えがあるまで絶えず攻撃するのだと決め、夜彦は刃を振るっていった。
 懸命なその姿を鳥籠の中から見つめ、倫太郎は彼の名を呼ぶ。
「夜彦、夜彦」
「……倫太郎」
 互いを呼びあう声が重なった。
 思いが力になるというのならば、倫太郎は何度でも呼び続けようと心に決めた。それだけではなく、言葉でも思いを伝えよう。
「俺の唯一無二。強くて優しい、最愛の花簪――」
 倫太郎の声を聞き、夜彦は更に激しく刃を振るった。彼の刀が鳥籠へと与える衝撃が体と心を震わせる。気持ちを示すような一撃は倫太郎自身に痛みを与えたりはしないが、別の意味で身を震わせていた。
 こんな状況なのに。助けてもらうしかない現状だというのに。
 彼がこんなにも真剣でいてくれることが、どうしようもなく嬉しかった。
「以前にも片方が捕らえられることがありましたね」
「ああ」
「あの時は私が捕らえられていて……貴方が自分から私を離さないで、と」
「今は立場が逆だな」
「……はい。だから、今度は私が」
 倫太郎と夜彦は視線を交わすと同時に言葉を重ねる。あのときから、或いはもっと前から思いは似通っていると知っていた。
「夜彦、あんたを信じてる」
 対する倫太郎も己が抱く思いを声にする。
 真っ直ぐな想いも、その想いの丈が籠もった一太刀も――。
「俺は愛してるし、信じてる」
 あんたは俺の刃だから。
 俺はあんたの盾だから。
 この思いが揺らぐことはない。どれほどに鳥籠が揺れようとも、確固たる信頼も想いも、愛情だって此処に在り続けるから。
「自惚れかもしれませんが倫太郎の私に対する執着はとても強いですね」
「え? 執着って言っちゃう?」
「出る為の意思は十分ですが……それだけでは駄目なのですね」
「……あんたは俺に執着してねぇの? 俺だけ? そんな事ないだろ?」
「はい。貴方の思いに、私はこの力を以て応えねば」
 夜彦は決意を抱き、霞瑞刀を大きく振りあげた。自分は物であるから、執着して貰えることはあっても執着する側ではない。
 それでも今の夜彦は人に等しい。倫太郎への思いは似て――否、同じであるはず。
 夜彦が全力の一閃を振るうつもりだと気付いた倫太郎は、華焔刀を構えた。
「無意味でも、ただ待つのは性分じゃねぇ」
「倫太郎らしいですね」
 夜彦が刃を下ろすと同時に、倫太郎も自分の想いの丈を乗せて一撃を与える。先程までは大人しくしようとしていたが、悪あがきだってなんだってしたかった。
 あんたの元へ帰るためなら。
 俺の居場所はあんたの隣なんだから。
 刹那、倫太郎を閉じ込めていた鳥籠に罅が入っていった。炎が巻き起こるような熱が弾け、それまで其処にあった鳥籠は跡形もなくとけきえていく。
 後は彼を其処から取り戻すだけだとして、夜彦は手を伸ばす。
「倫太郎!」
「ああ、夜彦!」
 そして――互いを求めあう二人の、手と手が確りと重なった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハイドラ・モリアーティ
🐦
【BAD】
趣味悪い世界だなッつーのは前々から知ってたけどさぁ
俺こーいうのNGなんだよ
ヤダ~ご褒美に殺されるとかも無理
つか――エコーは……?
ウワッめちゃくちゃ元気そうで何より
熱烈なアピールもどうも
めちゃくちゃ照れるほんと……アー
……すきだな

一応試してみたんだけど
内側からじゃ開かねえみてえ
俺が貧弱軟弱っつうのもあるが
はーあ、アリス助けるどころかって感じ
……エコー。【AISEN】だ
お前の手ならブチ破れるだろ
――お願いだ。「俺をここから出してくれ」
出来れば、安全に。それから、穏便に
俺を鳥籠に取られていいの?
ワオ。……なんかすんごい、ほんと、お前って
わかったわかった。お前の俺だよ
持ってけ、「海賊」め


エコー・クラストフ
🔑
【BAD】
まったく、ふざけてるな。鳥籠だと?
どういう理由であれ、どういう存在であれ。ハイドラの自由を奪おうという輩を、ボクは決して許さない
ハイドラ、今助けるよ。絶対に

まずは檻に剣で斬りつける
……単純な攻撃じゃ流石に効果が薄いか。時間をかければ多分破れるけど、今はそれどころじゃない
内側からは無理、か。なら……やっぱりボクが破るしかないな

これは……ハイドラの強化能力か。なるほど、その手があったね
お願いとあらば、聞かないわけにはいかないな。全身全霊で破壊する――
――鳥籠に取られる? ははは。……許すわけ無いだろ
鳥籠を今度こそ斬り壊す
ちょっと安全さと穏便さは欠けたかもしれないけど、とにかく助けたよ



●絆と刃
 無数の蛇が絡み付いている。
 妙な心地を感じさせる鳥籠は狭くて閉塞感があった。しなやかな鱗に覆われたような不思議な模様の鉄格子に触れて、溜息をひとつ。
「趣味悪い世界だなッつーのは前々から知ってたけどさぁ」
 ハイドラ・モリアーティ(Hydra・f19307)は自分を捕らえている鳥籠を見上げる。蛇と蛇が絡まるが如く組まれた鳥籠の構造はずっと見ていたいものではない。
 もう一度、溜息をついたハイドラは視線を外に向ける。
「俺こーいうのNGなんだよ。ヤダ~ご褒美に殺されるとかも無理。絶対に無理」
 この事態を引き起こしているマーダー・ラビットを思い、ハイドラは辺りを見渡してみる。周囲に広がる世界は奇妙奇天烈で正に不思議の国といった様相だ。
「つか――エコーは……?」
 ハイドラが同行者の名を呼ぶと、揺らめく木々の影から当人が現れた。
 やっと見つけた、と言葉にしたエコー・クラストフ(死海より・f27542)はハイドラが捕まってる鳥籠を見据える。
 動く鳥籠に囚われた彼女を追って此処まで駆けてきたが、やはり気に入らない。
「まったく、ふざけてるな。鳥籠だと?」
 話には聞いていたが悪趣味だと感じ、エコーは頭を振る。
 どういう理由であれ、どういう存在であれど許せない。ハイドラの自由がこうして奪われているのだ。許す選択肢などなかった。
「こんなことをした輩を、ボクは決して許さない」
「ウワッめちゃくちゃ元気そうで何より」
 エコーの言葉を聞き、思わず声をあげたハイドラは片手で顔を覆う。
 それは一見すると呆れたような仕草にも見えたが、違う。単に照れくさかった。
 熱烈なアピールもどうも、と呟いたハイドラは指の隙間からエコーを見遣った。鳥籠の鉄格子の向こうには、本気で憤っているらしいエコーの姿がある。
「めちゃくちゃ照れるほんと……アー」
 ――すきだな。
 感じた思いは言の葉になり、蛇めいた鳥籠の中に響いた。
 エコーは呪剣を構え、鳥籠の中の彼女に向けて真っ直ぐに宣言する。
「ハイドラ、今助けるよ。絶対に」
 まずは小手調べ。気持ちの上では一刻もはやく助け出したかったが、急いては事を仕損じるというのも分かっていた。彼女を閉ざす檻に刃を向け、エコーは地を蹴る。
 赤い雷を纏う黒い刀剣が鋭く振り下ろされた。
 甲高い音が響き、剣が押し返される。
「……単純な攻撃じゃ流石に効果が薄いか。時間をかければ多分破れるけど、今はそれどころじゃないかな」
 見て、とエコーは鳥籠を示す。
 今は地上から見て少し浮いているだけだが、徐々に高度が上がっていた。放っておけばハイドラを乗せた鳥籠は遥か上空にいってしまうだろう。
 頷いたハイドラは鉄格子を握る。
「一応試してみたんだけど、内側からじゃ開かねえみてえ」
「そちらからは無理、か」
「俺が貧弱軟弱っつうのもあるが、そういう仕組みみたいだな。はーあ、アリス助けるどころかって感じ」
「なら……やっぱりボクが破るしかないな」
 ハイドラと言葉を交わしたエコーはさらなる決意を抱いた。しかし、ハイドラには分かっている。ただ攻撃を重ねるだけでは相当な時間がかかるだろう。
「……エコー」
 その名を呼んだハイドラは力を廻らせ、母なるヒュドラに適合していく。
 ――AISEN。
「これは……ハイドラ?」
「お前の手ならブチ破れるだろ。お願いだ。『俺をここから出してくれ』」
 出来れば、安全に。それから、穏便に。
 そう願った彼女の言葉を聞き、エコーは頷いた。
「なるほど、その手があったね」
 ハイドラの願いとあらば聞かないわけにはいかない。全身全霊で破壊する、と答えたエコーは再び呪剣を握った。
 すっと身構え、刃の切っ先を鳥籠に向けたエコー。その姿を瞳に映したハイドラはもう一言、そっと問いかけてみる。
「俺を鳥籠に取られていいの?」
「――取られる? ははは。……許すわけ無いだろ」
 エコーは笑ってみせたが、その瞳はまったく笑っていなかった。そして、次の瞬間。
 絆の力を得たエコーによる鋭い斬撃が鳥籠を穿った。
 先程の一撃とは比べ物にならないほどの一閃は、思いを受けて凄まじい威力となって巡っていた。当然、鳥籠の鍵は一撃で切り払われている。
「ワオ。……なんかすんごい、ほんと、お前って」
「ちょっと安全さと穏便さは欠けたかもしれないけど、とにかく助けたよ」
 ハイドラが真っ二つにされた扉を見下ろしていると、エコーは腕を伸ばした。鳥籠などから早く出してしまいたいらしく、その手はハイドラを少しだけ強引に引き寄せる。
 その行動はまるで、ハイドラが自分のものだと主張しているようだ。
「行こう、ハイドラ」
「わかったわかった。お前の俺だよ」
 持ってけ、『海賊』め。
 そんな風に告げたハイドラは思う。やっぱり、すごくすきだ、と――。
 敢えてそれを言葉にはしなかったが、二人の手と手が重なった。囚えるものも阻むものもなくなった鳥籠の国の中で、想いは確かな形となっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディール・コルメ
【水月】
アドリブ歓迎、🔑

どうにもまァ、コイツは厄介だね
ユアが攻撃を仕掛けても壊れない檻を見て、ぽつり

外からブチ壊すしかないかねぇ、こりゃ
改造戦車:キューに乗り込もうとして
檻の中で震えているユアの様子に、思わず檻に近付こうと

ちょいと諦めるのが早過ぎやしないかい、ユア?
俯き続けていても、ソコから出られる訳じゃない
顔を上げな、アンタは心のままに聲を出していいんだよ
――任せときな、相棒ッ!

UC発動
戦車に乗り込み、即座に紅蓮を纏わせる
移動力を代償にして、攻撃力を最大限高めようと
更に【リミッター解除】による【限界突破】を試みる
後は――病原をブチ壊すだけ

なァに言ってんだい
弱さも、生きてる実感に繋がるモンさ


月守・ユア
🐦【水月】
アドリブ歓迎

鳥籠の中
閉じ込められた窮屈な閉塞感に無意識に息が一瞬詰まった

閉塞感は嫌い

閉じ込められる事に心傷がある
ここは過去に自分が閉じ込められていた場所じゃないと分かってる
でも自由を奪われる事を恐れる

焦燥感に駆られた
ムダと分かっても内から刃を振るうが出られない

手が震えて心臓の音が煩い
――出られない

俯きかけた己に
顔を上げさせたのは相棒の声

もう二度と閉じ込められたくない
自由を奪われたら
君とも誰とも一緒にいられなくなる…!

そんなのは嫌だ…
だから
助けてほしい
僕を捕えるモノから

心から信頼している彼女に願う
閉ざされたくないんだ
君といる世界から――!

お願いだ
君だから見せるこの弱い自分を
どうか…!



●隔たれた月
 鈍く光る満月を思わせる天井。
 銀の鉄格子に囲まれた円柱状の鳥籠の中は夜のように暗くて、とても狭い。
 月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)は内部を見渡す。
 ――怖い。嫌い。
 窮屈な閉塞感など意識しまいとしたが、あふれていく感情は抑えられない。
 息が詰まり、うまく呼吸が出来なかった。
 俯いたユアを囚えている鳥籠は僅かに浮遊しており、胸の内に宿っていく不安を表すかのようにゆらゆらと動いている。
「大丈夫かい、ユア」
 其処へ落とされたのはディール・コルメ(淀澱・f26390)の声だ。
 はっとしたユアは顔をあげ、此処から出なくてはいけないと考え直す。
「平気……じゃないけど、色々やってみる」
 囚われることにはトラウマがあった。しかし、ここは過去に自分が閉じ込められていた場所ではないことは分かっている。
 自由を。早く自由が欲しい。
 一時的とはいえ、奪われてしまったものを思うユアは、奇妙な焦燥感に駆られた。
 呪われた刃を振るい、鉄格子を穿つ。いつも通りであるならば、こんな鉄など斬れたはずだ。しかし、どれだけ刃を振るっても鉄格子はびくともしない。
 出られない、と思った瞬間に手が震えた。
 心臓の音が煩い。動悸が激しくなっていくことにすら焦りを覚えてしまう。
「どうにもまァ、コイツは厄介だね」
 ディールはユアが攻撃を仕掛けても壊れない檻を見遣り、ぽつりと零す。これは自分が働きかけていかなければならない事態だと知り、ディールは改造戦車に向かう。
「外からブチ壊すしかないかねぇ、こりゃ」
 キューに乗り込もうとしたとき、ユアが檻の中で蹲った姿が見えた。
 ひとまず踵を返し、鳥籠に近付いたディールは手を伸ばす。檻の中までは届かないが、少しでもユアの傍に居てやりたいと思った故だ。
「ちょいと諦めるのが早過ぎやしないかい、ユア?」
「諦めて、なんか……」
 ユアも手を伸ばし返し、ディールに触れようとする。
 だが、先に冷たい鉄格子に指先が当たった。俯きかけた己の顔を上げさせたのは相棒の声だが、鳥籠という壁が全てを阻んでいるように思える。
 もう二度と閉じ込められたくない。
 恐怖にも似た感覚がユアの思考を支配していく。
「駄目。自由を奪われたら、君とも誰とも一緒にいられなくなる……!」
「待ちな。嘆いて俯き続けていても、ソコから出られる訳じゃない。もっと顔を上げて、それから手を出してみな」
 ほら、とディールが鉄格子越しにユアの手に触れた。
 それは僅かだったが、確かな熱を感じさせてくれるものだ。
「…………」
「アンタは心のままに聲を出していいんだよ。さあ、どうしたい?」
 必死に恐怖に耐えている様子のユアに向け、ディールは問いかけてみる。力強い声を聞いていると、先程までの焦燥感が少しだけ晴れた気がした。
 頷いたユアは花唇をひらく。
「ここから出して。助けてほしい。僕を捕えるモノから」
「――任せときな、相棒ッ!」
 切なる願いを聞き届けたディールは頼もしい笑みと声を返した。そして、ディールは改造戦車に乗り込んでいく。
 成すべきはただひとつ。全力を揮うこと。
 両手を重ねたユアはディールのキューを真っ直ぐに見つめた。即座に紅蓮を纏わせたディールは、その移動力を代償にして攻撃力を最大限に高めていく。
 リミッター解除。機体と己の限界突破。
 最大出力で以て、一瞬で終わらせる気概でディールは狙いを定めていった。
「後は――病原をブチ壊すだけ」
 すぐに出してやるから、とユアに伝えた彼女は力を紡いでいく。その姿を見守るユアは、心から信頼している彼女に願う。
 聲を出して良いと伝えてくれた。願いは叶えられると笑顔で語ってくれた。
 そんな彼女と共に自由を謳歌したい。
 だからこそ、と口にしたユアは更なる思いを言の葉に乗せていく。
「閉ざされたくないんだ。君といる世界から――!」
「アタシだってそうさ。アンタを閉じ込めるものなんて要らない」
 纏わせた紅蓮の力が巡る。
 その光景は希望を齎してくれる。ユアは鳥籠から外に出る自分をイメージしながら、ディールに心からの信頼を寄せた。
「お願いだ。君だから見せるこの弱い自分を、どうか……!」
「なァに言ってんだい」
 弱さを悔やむような、それでいて認めているようにも感じられるユアの言葉を聞き、ディールは明るく笑ってみせた。
 弱いことがなんだというのか。それこそ尊いものではないだろうか。
「弱さも、生きてる実感に繋がるモンさ!」
 そう思うのだと示したディールは、一気に力を解き放った。そして――。
 一瞬後、月の鳥籠の扉がひらいた。
 キューによる最大まで力を高めた一閃。それから、ユアとディールがそれぞれに抱く強い思い。全てが重なることで顕現した力によって、鍵が壊されたのだ。
 戦車から降りたディールは鳥籠のもとへ駆け寄っていく。
 扉を潜ったユアも彼女の傍に行くために、一歩を踏み出す。次に伸ばした手と手はそっと触れ合わされ、二人の間に微笑みが咲いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
『自由でありたいと思うなら
 自らの意志で進むべきなのだ』

そんな教訓を伝える為であっても
ひとつも、納得いかない展開だね
そも、僕は“教訓”が好きじゃない
こどもは甘やかされるべきだもの

兎を追ってはいけない、と聞いた?
此処では、追うことが正しいはずさ
であれば、これは、紛れもなく理不尽
君は翻弄されずに、先ず怒るべきだ

札も、盤も、引っ繰り返しにいこう
君にはその権利、――勇気もある
僕は“手伝う”だけ、君がやるんだ
つまらない教訓話は終わりにして
楽しい冒険物語を始めよう?

穏やかに紡ぎ乍ら、筆先は止めず
物語を書き替えるよう、全力でと
何度も、何度も、鳥籠に黒線引こう

――教訓話は勿論のこと、
バッドエンドは許せないから


ユヴェン・ポシェット
閉じ込められるのは辛いよな…

…なあ、鳥籠から出たら、したいことあるか。できることがたくさんあるんだ。こんなところで立ち止まってなどいられない、だろ?
今の状況ではできることは少ないかもしれない。だが何も出来ない訳じゃない。必ず、助ける。だから、信じて欲しい。俺達がこの鳥籠から出すと。

タイヴァス、あれを破壊したいんだ。力を貸してくれるか?
…なんて訊くまでもなかったな、頼むぞ。
タイヴァスに掴まり、一度空中へと高く高く距離をとる。そこから、辺りを軽く飛び、勢いをつけ急降下。そのままタイヴァスから離れ鳥籠へと突撃。
ミヌレ…っ!
手にした槍は黒く極熱を帯びた姿へ。

テュット、中にいる者を守ってくれ。頼んだぞ



●ラビットホールの向こう側
 ――『自由でありたいと思うなら、自らの意志で進むべきなのだ』
 たとえ、彼の時計ウサギの行動がそういった教訓を伝える為であったとしても。
「ひとつも、納得いかない展開だね」
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は頭上を見上げる。ウサギ穴の中には狂ったお茶会のような世界が広がっている。
 宙に踊る紅茶とティーカップ。ふわふわと笑う帽子が揺れ動き、その間には不思議な鳥籠が幾つも浮いている。
「そも、僕は“教訓”が好きじゃない。こどもは甘やかされるべきだもの」
「その通りだ。辛いことや苦しいことは、世界を歩けば自ずと知るからな」
 ライラックが落とした言葉に答えたのは、ユヴェン・ポシェット(opaalikivi・f01669)だ。二人は現在、浮遊している鳥籠を見上げていた。
 あの何処かにアリス達が囚われている。
 無数の鳥籠の形は様々で、どれに誰が囚われているかを探しているのだ。四種類それぞれのトランプスートが飾られた鳥籠が流れていく。
 ティーポットの形をしたものや、裁判台を思わせる鳥籠もあった。そして、数々の檻を見回った彼らはやっとアリスを見つける。
「お兄さんたち、こっちだよ!」
「ひっく、ぅ……よかったです。誰かがきてくれましたです……!」
 夕焼け色の空が落ちてきそうな空間で、大きなキノコが生えていた。その上に金と銀の鳥籠が置かれておりそれぞれにアリスが閉じ込められている。
「閉じ込められるのは辛いよな。大丈夫だったか?」
「さあ、もう心配はないよ」
 ユヴェンは泣いている少女アリスへ、ライラックは助けを求める少年アリスの傍に向かった。隣りあって置かれている鳥籠にはクッキー型の錠前と、糖蜜瓶めいた形をした硝子製の錠前が結わえられていた。
 これを壊せばアリス達を助けられるが、簡単に壊せるものではないことも分かる。それに少年と少女は酷く心細そうだ。
 自分達が囚われていることもそうだが、仲間の行方と無事が気になっているらしい。
 ライラックは一先ずアリス達を励まそうと決めた。
「兎を追ってはいけない、と聞いた?」
「……ううん」
「此処では、追うことが正しいはずさ。であれば、これは、紛れもなく理不尽だよ」
 アリスくんはふるふると首を振る。
 彼らは自分達がマーダー・ラビットを信じたことを悔いているかもしれない。これから先、善良な時計ウサギに会っても疑ってしまうだろう。
 ライラックは、それは間違いだということを伝えたかった。
「君たちは翻弄されずに、先ず怒るべきだ」
「でも、でも私たちはみんなを危険に……っ、う、うぅ……」
 すると次はアリスちゃんの方から嗚咽が聞こえる。いくら戦う力を持っているからといっても彼女達はまだ幼い。
 不安と後悔に押し潰されそうになっていることが分かった。
 ユヴェンは少女の鳥籠に歩み寄り、
「……なあ、鳥籠から出たら、したいことはあるか」
「え? えっと、お菓子のおうちでのんびりしたい、です……」
「そうだ、そこで皆でお茶会をするんだ!」
 アリスちゃんがおずおずと答えると、アリスくんもやりたいことを語った。ユヴェンはそっと微笑み、少女達を励ましていった。
「それはいいな。他にもあるだろう。そんな風にできることがたくさんあるんだ。こんなところで立ち止まってなどいられない、だろ?」
 今の状況ではできることは少ないかもしれない。だが、現在の状態であっても何も出来ないわけではないはずだ。
「必ず、助ける。だから、信じて欲しい」
「お茶会の席には僕たちも入れてもらいたいものだね。いいかな?」
「ふふ、それはすてきなのです」
 ユヴェンが思いを伝え、ライラックもアリス達に問う。そうすれば、エプロンドレスの袖口でごしごしと涙を拭いたアリスちゃんが頷いた。ユヴェンも首肯して、鳥籠への攻撃を始める準備を整えていく。
「俺達がこの鳥籠から出してやる」
「それじゃあ札も、盤も、引っ繰り返しにいこう」
 君達にはその権利がり、勇気だってたくさん秘めているはずだから。
 ライラックは身構え、ユヴェンが上空に飛んでいた大鷲を呼ぶ。
「タイヴァス!」
 ひゅう、と風を切る音と共に鷲が地上に滑空してくる。あれを破壊したいのだとしてユヴェンが鳥籠を示した瞬間、猛禽の爪が檻を引き裂いた。
「力を貸してくれるか……なんて訊くまでもなかったな。テュットはアリス達を守ってくれ。頼んだぞ」
 ユヴェンはタイヴァスに掴まり、空中に飛びあがる。高く高く舞い上がっていく彼が落下の勢いに乗せた力を振るうのだと知り、ライラックも自分の力を巡らせた。
 その際にアリス達に呼び掛けることも忘れない。
「僕は“手伝う”だけ、君達がやるんだ」
 つまらない教訓話は終わりにして、楽しい冒険物語を始める為に。
 穏やかな言葉を紡ぐライラックは黒いインクを躍らせていった。筆先は決して止めず、悲劇の物語を書き替えるように全力で。
 一撃では足りぬから、何度も何度も、鳥籠に黒線を引く。
「わかったよ、僕たちもめいっぱい頑張る!」
「おじさま……はい、わかりましたです」
「厳しい教訓話は勿論のこと、バッドエンドは許せないからね」
 特に君達のような可愛いアリスには。
 辿るなら楽しく仲良く、揃って目指す場所を見つけられる結末がいい。ライラックがインクを更に重ねたとき、頭上から鋭い音が聞こえた。
 彼だ、と気が付いたライラックは身を翻す。
 次の瞬間。
 タイヴァスから手を離したらしいユヴェンが重力に従って落ちてくる。
 手にした槍は黒く、極熱を帯びた姿に変化していた。
「ミヌレ……っ!」
 竜槍を構えたユヴェンがその名を呼び、全力を籠めた一閃を鳥籠に見舞った。
 激しい音が響き渡り、鳥籠と槍の間に火花が散る。そして、空中で身体を回転させたユヴェンが地面に着地した。
 ギィ、と軋んだ音がしたかと思うとアリス達を囚えていた鳥籠がひらく。
「やったあ!」
「すごいです。おふたりともかっこよかったです!」
 アリスくんとアリスちゃんが鳥籠から飛び出してくる。
 わあわあ、とはしゃぐ少年はユヴェンの槍が気になるらしく、興味津々な瞳を向けていた。少女はというと、バタつきパン蝶を連れてライラックの元に駆け寄ってくる。
 蝶達もアリスを心配していたらしく、彼の周囲でぱたぱたとパンの翅を揺らした。
「お兄様、おじさま……」
「分かっているよ、仲間やマーダー・ラビットを探しに行きたいんだね」
「うん! ねえ、二人ともいっしょに来てくれる?」
「ああ、勿論だ。次は四人で挑もうぜ」
 少女からの切実な眼差しと、少年からの願いが二人に届く。ライラックとユヴェンはそっと頷き、次なる戦いへの思いを抱いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
🔑
ヴァーリャちゃん(f01757)と

変わったことがある
誰かが夢見た世界の片隅で
大切だと思える人たちが出来たこと

でも変わらないこともある
それは例えば閉じられた世界への嫌悪感

それでも
離れる君の名を呼んで
伸ばす指先は届かなくとも

君の強さを知ってる
自分よりずっと強い君を助けようだなんて烏滸がましいから

「今、行く」

それだけを
約束するように一言だけ紡ぎ

千変万化ノ鍵
そこに行く
手にするのは君への想いひとつを込めた鍵

君にあの鳥籠は似合わないと
怪我がないことを確認するように背に柔く手をまわし髪を撫で

さらけ出せることすら強さをだと思うのだ
うん
とらわれるなら
「俺の腕の中がいいよな」
冗談めかしながらも安心できるようにと


ヴァーリャ・スネシュコヴァ
🐦
綾華(f01194)と

綾華…?わっ!
尻餅をついてしまう
閉じ込められたことなんて初めてだ
初めて…なのか?
こんなにもこわいだなんて、今まで思ったことなかったのに

あや、か
俺のことを想ってくれる人
雨降る日に、初めてあんなに心を通わせることができた人
大好きな人

伸ばされる指、例え届かなくとも
俺もそっと応えるように手を伸ばす

短く紡がれる約束に
涙を堪えながら、こくりと頷いて
綾華は俺を信じてる
だから俺も綾華を信じる

想いの丈を冷気に乗せて
鳥籠全体に冷気を伝わせ、脆くさせ

開いた瞬間に
綾華に抱きついて、腕にギュッと力を入れる
伝わる体温に安心する

顔を埋めたまま
…もう硬くて冷たいのはやだ
俺のこと、もう暫く閉じ込めてて



●鳥籠の鍵
 世界は揺らいでいて、不安定だ。
 それは不思議の国に限らず、何処だって同じ。
 これまで歩んできた世界のみちゆきのなかで、変わったことがある。そして、変わらなかったこともある。ウサギ穴の中に巡った眩む光に包まれたとき、浮世・綾華(千日紅・f01194)の裡に思いが浮かんでいった。
 変わったこと。
 誰かが夢見た世界の片隅で、大切だと思える人たちが出来たこと。
 変わらないこと。
 それは例えば――閉じられた世界への嫌悪感。
 嫌な予感がする。はっとして目をあけたとき、眼前には奇妙な鳥籠が現れていた。長方形のランタンを思わせるかたちをしたそれの中に、少女が囚われている。
「ヴァーリャちゃん!」
 綾華はヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)が閉じ込められていることに気付き、其方に駆け寄った。
 凍てつく氷を思わせる硝子がふたりを阻んでいる。
 鳥籠の天辺には雪の結晶が輝いていた。光を受けてプリズムを作り出す硝子の鳥籠はとても美しく、内部も冬のような冷たい空気が満ちていた。
「綾華……? わっ!」
 あまりにも透き通った硝子なので、阻まれていることに気付けなかったヴァーリャは壁にあたって尻餅をついてしまう。
 慌てて立ち上がった少女は状況を理解する。此処は鳥籠だと分かったが、この檻には鉄格子などはない。声すら阻む壁に閉じ込められたことは初めてで――。
「初めて……なのか?」
 すごく怖い。
 ヴァーリャの心の裡には奇妙な思いが浮かんでいた。こんなにも恐ろしいだなんて、今まで思ったことなかったのに。何だか以前にもこのようなことがあった気がした。
 俯きそうになったが、氷硝子の向こうには綾華がいる。
「――、――」
 彼が何かを語りかけてくれていた。
 しかし、内部に声は届いていない。きっと大丈夫かと聞いてくれているのだろう。心配する言葉を掛けてくれているのかもしれない。
「あや、か」
 ヴァーリャはゆっくりと唇を動かした。
 此方の声も届かないのは分かっていた。だからこそ余計なことは言わず、彼に分かるように名前だけを呼んだ。
 少し平気じゃないけれど、綾華がいるから大丈夫。そう伝えるように。
 彼はヴァーリャを想ってくれる人だ。
 雨降る日に、初めてあんなに心を通わせることができた人で、それから。
 大好きな人。
 精一杯の笑みを向けたヴァーリャへと、綾華は手を伸ばした。
 冷たい硝子に指先が触れる。離れてしまった君の名を呼んでも、伸ばす指すら届かなくて。隔てるものはたった一枚の硝子でしかないのに、もどかしい。
 伸ばされた指に気付き、ヴァーリャも綾華の手に自分の掌を重ねる。
 硝子の感触しか感じられないが、想いに応えたかった。
 こんなにも近くにいるのに、これほどに傍にいるというのに。硝子はただ冷たいばかりで互いの熱は少しも感じられない。
「ヴァーリャちゃん」
「……綾華」
 ふたりは名前を呼びあう。何も聞こえなくても、それだけは分かった。
 薄い陽光が雪の結晶を照らす。地面に落ちたひかりの影は虚しく揺らめいた。綾華は少女の瞳を見つめ、ヴァーリャも彼の眼差しを受け止める。
 君の強さを知っている。
 自分よりずっと強い君を助けようだなんて烏滸がましいけれど、それでも。
「今、行く」
 ヴァーリャに伝わるように、約束を一言だけ紡いだ。
 彼が何を言ったか、はっきりと分かった。短く紡がれる約束を受けたヴァーリャは涙を堪えながら、こくりと頷いた。
 綾華は自分を信じてくれる。だから自分も、綾華を信じるだけでいい。
 ヴァーリャからの眼差しを感じ取り、綾華は掌を広げた。
 そこに行く。
 ただそれだけを思って手にするのは、君への想いひとつを込めた鍵。
 燃え上がる黒い炎の形を取った鍵は、阻む氷を解かすもの。氷雪はヴァーリャが纏う力そのものであるが、この硝子壁は違う。
 たとえ綾華が激しい炎を放とうとも、ヴァーリャならば問題ないだろう。
 綾華が彼女を傷つけることは絶対にない。彼女も綾華の思いや炎を受け止められるだけの意志と力を持っている。
 綾華が持つ鍵に橙と緋色の炎が重なった。どうやら彼を慕う炎の精霊も力を貸してくれるようだ。ヴァーリャは氷めいた硝子に手を乗せたまま、想いの丈を声にする。
「綾華、あのな……」
 好き。大好き。
 誰よりも、何よりも想って、信じているから。
 声は聞こえないと知っているから、恥ずかしさも忘れて言の葉を紡ぐ。
 ヴァーリャは己の力を鳥籠全体に巡らせ、硝子を冷気を伝わせていった。綾華が炎を放つなら此方は氷。熱と冷気が衝突しあえば硝子は脆く崩れ去るはず。
 そして、黒の焔と青の氷が一気に解き放たれた。
 甲高い音が響き、鍵が緩む。
 硝子の扉が軋んだ次の瞬間、内部から一陣の氷雪が飛び出してくる。あやか、と自分を呼ぶ声がして、綾華は両腕を差し伸べた。
「――!」
「おかえり、ヴァーリャちゃん」
 白い冷気が晴れると同時に、少女は綾華の腕の中に飛び込んだ。
 綾華に抱きついたヴァーリャは抱き締めてくれる腕のぬくもりを確かめた。自分からもぎゅっと力を入れた少女は伝わってくる体温に安心を覚える。
 君にあの鳥籠は似合わない。
 氷は君自身が纏うものであって、閉じ込められる為にあるものではないから。
 綾華はヴァーリャにひとつも怪我がないことを確認して、ちいさな背に柔く手をまわした。ゆるゆると髪を撫でつつ、彼女の腕の感覚を心地よく思う。
「綾華、もう少しこうしてていいか?」
 彼に顔を埋めたまま、ヴァーリャはそっと問いかけた。勿論、と答えた綾華はやはり彼女は決して弱くないと感じていた。
 何故なら、さらけ出せることすら強さだと思うから。
「……もう硬くて冷たいのはやだ」
「うん」
「俺のこと、もう暫く閉じ込めてて」
 ヴァーリャが精一杯の思いを言葉にすると、綾華は更に強く抱き締めた。ヴァーリャの耳元に口許を寄せた綾華は、彼女だけに聞こえる声で囁く。
 とらわれるなら。
「俺の腕の中がいいよな」
「……っ」
 ヴァーリャの頬が赤く染まり、耳まで熱が伝わっていく。
 冗談めかしながらも告げた言葉は実は本気。もう少しだけ。否、もっと、ずっと彼女をとらえていたいと思った。
 鍵がなくても、閉じ込めなくとも、逃げない鳥がいる。
 自由に飛べるはずの子が自分のもとに居てくれること。
 その意味と証は、きっと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荻原・志桜
🔑
🌸⭐
幾つか光を失う魔石
易々と奪われて不甲斐なくて
早くと急かす気持ちを抑えて光の粒子は陣を描く

キミはまだ幼いけど魔法の知識に長けていて自信家で
でも弱くて少し不器用な子
教えられる事が多くて、教えたい事もたくさんある
魔法の事だけじゃないの。キミがまだ知らない場所へ連れて行きたい
拗ねた顔も笑う顔も大好きよ
わたしの大切な友人。妹みたいな子
同じ魔法を極めんとする仲間
そんな子を自由のない鳥籠に閉じ込めておくわけにはいかない

祈里ちゃん、早く出ておいで
そんな狭い場所にずっといるキミじゃないでしょ?
――おかえりなさい、祈里ちゃん

確り離さないと抱きしめてほっぺをむにむに
これでも心配で不安だったんだから許してね


朝日奈・祈里
🌸⭐️
🐦

繋いでいたはずの手が離れていく
繋いでくれていた手が、温もりが
何人もいないんだ、繋いでくれるヒトは
教えてくれたのはキミだったんだ

出せよ!ハルモニア!籠を壊せ!
……駄目かぁ

こんなにぼくのことを想ってくれるヒト
他には居なかった
なにもできない自分が不甲斐ない
貰う声に、言葉に、感謝を
ありがとう、だいすき、ぼくもキミが大好きだ
やりたいこと、行きたい場所、たっくさんあるんだ
ちゃんと、キミのこと、名前で呼びたいんだ

だって、友達だから

壊れた鳥籠から飛び出して、駆けだして、飛び込んで
――ただいま、志桜。

他人にされたら不快でしかないスキンシップも
キミだから心地よい
もちろんだ。出してくれてありがとうな?



●キミだから
 不可思議に歪む不思議なウサギ穴の中。
 吹き抜けた強風によって繋いでいた手が解け、抗えないまま二人は引き離される。
「祈里ちゃん!」
 荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)はその手を取ろうとして、限界まで腕を伸ばす。しかし、それが届くことはなかった。
 瞬く間に朝日奈・祈里(天才魔法使い・f21545)は、籠の床にある魔方陣から放たれる光の格子で出来た檻に囚われてしまう。
 魔法で制御されているらしいそれには、様々な封印符が貼り付けられている。
 幾つか、魔石の光が失われた。
 こんなにも易々と奪われてしまったことが不甲斐なく、志桜は唇を噛み締める。
 幸せを語ったあの日の夜、奪われたりなんてしないと宣言したはずなのに。早くと急かす気持ちを抑え、志桜は光の粒子で陣を描く。
 同様に鳥籠の中にいる祈里も焦燥めいた思いを抱いていた。
 繋いでいたはずの手が離れた。
 繋いでくれていた手が、温もりが消えた。自分の手はすぐに冷たくなっていって、先程までの熱が思い出せなかった。
 ああして手を繋いでくれるヒトは何人もいない。
 ただ手と手が触れ合っているだけで、あんなにも安心する。そのことを教えてくれたのは彼女だったのに。
「出せよ! 此処から――そうだ、ハルモニア! 籠を壊せ!」
 鳥籠の格子には触れられない。
 魔力で出来たそれを握れば、何らかの力が巡るだろう。そう思って精霊を呼ぼうとした祈里だが、召喚時に浮かびあがるはずの桃色のメッシュが反応しない。
「……駄目かぁ。成程、封印されてるのか」
「このお札があるからかな。でも大丈夫、すぐに助けるよ!」
 苦虫を噛み潰したような表情をしてから、肩を落とした祈里。その様子に気付いた志桜は励ましの言葉を送った。
 本当は志桜も焦りを覚えているが、助け出す側の自分が慌ててはいけない。
 それに自分は少しだけお姉さんでもある。
 少女を子供扱いしているわけではない。彼女はまだ幼いけれど、魔法の知識に長けていて自信家で、でも――弱くて少し不器用な子だから。
「……裁きの剣を此処に」
 すぐにそんな鳥籠から解放してみせる。
 志桜は抱いた思いと共に詠唱を紡ぎ、剣星の力を巡らせていった。
 祈里には教えられることも多くて、同時に教えたいこともいっぱいある。ねえ、と祈里に呼びかけた志桜は青い光を纏う剣を鳥籠の扉にぶつけていく。
「わたしと祈里ちゃんが会ったのは、一年くらい前だけど……あれから色んなことをしてきたよね。だからこれからもね、たくさんお話をしたいな」
 魔法のことだけじゃない。日常の話も、何気ない会話だっていい。キミがまだ知らない場所へ連れて行ってあげて、怒った顔や笑った顔をみてみたい。
「桜髪の少女……」
「わたしね、祈里ちゃんの拗ねた顔も得意げにしている顔も、大好きよ」
 大切な友人で、妹みたいな子。
 同じ魔法を極めんとする仲間で、とても凄い魔法力のせいで天才と呼ばれている子。はじめは才能のなかった自分は彼女のことが羨ましかったが、きっと天才であることは孤独と同義でもある。
 それなのに頑張って、自分を削って、天才の責務だなんて思いを抱いていて――。
 そんな子を、自由のない鳥籠に閉じ込めておくわけにはいかない。
 祈里を救出するために、志桜は更に剣を解き放つ。
 ただ鳥籠の中で待っていることしか出来ぬ現状をもどかしく思いながら、祈里は志桜をじっと見つめた。
「……そっか」
 こんなにも、ぼくのことを想ってくれるヒト。
 他には居なかった。キミだけだ。なにもできない自分が不甲斐ないけれど、思ってくれている感情が伝わってきて、とても嬉しかった。
「幸せの意味、またわかった気がする」
 以前に聞いた幸福論を改めて思う。志桜が話してくれたことは本当で、これまでに貰ってきた声に、言葉に、感謝を抱いた。
 大好き。
 そう伝えられた言葉のあたたかさが分かる。触れていないのに、あったかい。
「ありがとう、だいすき、ぼくもキミが大好きだ」
 やりたいこと、行きたい場所。
 見たいもの、しりたいこと。そして今、言葉にしたいこと。
 いつかこの感情が消えてしまったとしても、今この瞬間の自分は識っている。
「伝えたいことも、話したいことも、たっくさんあるんだ。ちゃんと、キミのこと、名前で呼びたいんだ。だって――」
 友達だから。
 幼い声がはっきりと紡がれた瞬間、星の剣が鳥籠の錠前を貫いた。
 きん、と星が散るような音がしたかと思うと鍵は崩れ去る。思いを受けた鳥籠が大きく揺れ、その扉が軋みながらひらいた。
 志桜は微笑み、封印符が剥がれた鳥籠へ視線を向ける。
 その中では少しだけ不安そうな顔をしている祈里が立っていた。もう出れるんだよ、と笑いかけた志桜は手を伸ばす。
「祈里ちゃん、早く出ておいで。そんな狭い場所にずっといるキミじゃないでしょ?」
「……うん」
 祈里は頷き、そして――壊れた鳥籠から飛び出して、駆けだして、飛び込んだ。
 差し伸べてくれる手を取り、その胸に縋るように。
「――おかえりなさい、祈里ちゃん」
「――ただいま、志桜」
 そうして祈里は、はじめて桜髪の少女の名前を呼んだ。
 かわいいなあ、と口にした志桜は祈里を抱き締め返した。そして、暫くは離さないと宣言する。それから祈里の頬に触れて、むにっと摘んでみた。
 勿論、痛くないようにそっと。
「これでも心配で不安だったんだから許してね」
「もちろんだ。出してくれてありがとうな?」
 こんなことは他人にされたら不快でしかないけれど、キミだから心地よい。
 二人は暫し互いの温度を感じあう。
 大切な友達だから。
 ゆっくりと瞼を閉じた少女達は、同じ思いを抱いていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】🔑

瑠碧姉さん!
手を伸ばし
って
意外と平気そう?
首傾げ

何か…この籠
妙に似合うし
閉じ込めたまんまなら
どこにも逃げられたりしねぇのかな
…なんてらしくもねぇ事考えちまうぜ
首を左右に振り

側に居る
…側に居たい
色んな事一緒にしてみたい
共有したい
この先もっとずっと
未来も

たとえこの先
この人を追い抜いて
…置いて行く事になるって分かってても
それが俺のエゴでも

これからも
一緒に居たい

だから
立ち止まってなんていられねぇ

深く息を吐いて
下がってて
…一発勝負だ

変身しダッシュで助走つけて限界突破
全力で籠にUC
たとえ拳が砕けてもぶっ壊す!
心配すんな
治してくれんだろ?
手を伸ばし繋ごうと

俺が居る限り独りになんか絶対してやんねぇ


泉宮・瑠碧
【月風】🐦

鳥籠は
出現には少し驚きますが
囚われる事は、特には
その、多少慣れてます、ので…

周りを見て
過去、私が幽閉された場所を思い浮かべ
…籠は狭いけれど、殆どお外で…明るいです
ただ、暮らすには不向きでしょうか
そんな事をぼんやり考え

昔と似た場所は、未だ
自分の命が終わる、その望みが過ぎりますが…

視線には、一つの揃いの指輪
姉とは違う、でもお日様のような人が居る

望みは消えない
それでも…
私が存在しているのなら、一番、近くに居たい
…籠の中では、会いに行けません、からね

声に
籠の中で下がります

いえ、拳が砕けては駄目です…
…治します、けれど
伸びた手を取り
…自分も大事に、してくださいね

理玖の傍に、居られたら…良いな



●隣に、傍に
 緑の蔦に覆われた鳥籠があった。
 所々に花が咲き、精霊を模した飾りが結わえられた鳥籠だ。蔦が絡まっている、少し古びた鉄の扉がギィ、と音を立てて開いた。
 不思議な鳥籠だ、と陽向・理玖(夏疾風・f22773)が感じた瞬間。
 泉宮・瑠碧(月白・f04280)をぱくりと食べてしまうかのように鳥籠が覆い被さり、その扉が瞬く間に閉じられた。
「瑠碧姉さん!」
 理玖は咄嗟に手を伸ばしたが、人を捕らえることに特化している鳥籠には敵わない。姉さん大丈夫か、と問う理玖だが、瑠碧本人は割と落ち着いていた。
「少し驚きましたが、なんとも、ありません……」
「って、意外と平気そう?」
 首を傾げた理玖はちょこんと鳥籠に収まっている瑠碧を覗き込む。捕獲のときは激しい動きをした籠だが、今は地上に降りている。
 瑠碧は動かない鳥籠の中に座っていた。
「囚われる事は、特には。その、多少慣れてます、ので……」
「何かこの籠、姉さんに妙に似合うし」
「籠は狭いけれど、殆どお外で……明るいです」
 理玖は鉄格子に触れる。遠くの空中に浮いている他の鳥籠は、強固で感情な壁しかないものもあった。言葉も届かず、姿も見えないようなものではなくてよかった、という安堵が少しだけ浮かぶ。
(閉じ込めたまんまなら、どこにも逃げられたりしねぇのかな)
 理玖の裡にそんな思いが浮かんだ。
 いけない、と我に返った理玖は首を左右に振って考えを振り払った。
「居心地も悪くない、です。ただ、暮らすには不向きでしょうか……」
「いや、暮らすことまで考えなくていいって」
「そう、でした」
「絶対に開けてみせるから待っててくれ、瑠碧姉さん」
 ぼんやりと違うことを考えていたのは瑠碧も同じだったらしい。ちいさく笑ってみせた理玖に頷き、瑠碧は蔦に触れる。
 巡る精霊の力が教えてくれた。この鳥籠は外からしかあけられない、と。
 そして、この鳥籠は思いに呼応する。
 瑠碧は目を閉じ、自分の心に浮かんだ場所について考える。今は彼処にいるのではない。少しだけ昔と似た場所だけれど、あのときの感情は要らない。
 自分の命が終わる、そんな望みが過ぎるが――今は理玖が傍に居てくれる。
 ほっとした瑠碧は視線を落とす。
 其処には揃いの指輪が見えた。彼と同じ、過ごした日々の証でもある花綵。
 その片割れを持つ少年は、姉とは違う。それでも彼はお日様のような人で、日に日に大切だと感じる想いが強くなっていた。
「理玖、無理は……」
「まだ全然、何も無理はしてねぇ。やっぱ、思いを投げ掛けないと駄目なんだよな」
 瑠碧の声をそっと遮り、理玖は鳥籠の扉に触れる。
 これが思いを感じ取るというのならば、やってみればいい。瑠碧が指輪に視線を向けていたのは分かっている。
 理玖も自分が持つ指輪に意識を向け、思いを声にしていく。
「姉さん、俺さ。側に居るから。いや……側に居たい」
 これから色んなことを一緒にしてみたい。
 何だって共有したい。許してくれるなら、同じものを見て感じていきたい。
 この先も、もっとずっと。
 まだ想像できないほど先の未来でも共に居られたら。
「……瑠碧姉さん」
 理玖が次に紡いだ言葉はたったそれだけ。少年は扉に触れたまま、心の中で思いを並べていく。
 たとえこの先、この人を追い抜いてしまっても。
 いつか、置いて行くことになると分かっていても、それが自分のエゴでも、諦めて去ることはしたくない。
「これからも一緒に居たいんだ。だから、立ち止まってなんていられねぇ」
「私、も……」
 理玖の真っ直ぐな思いを聞いた瑠碧は言葉に詰まってしまう。自分などが、自分なんかと、という思いが本音を隠してしまう。
 終わってしまいたいという望みは、彼といても消えてくれない。
 それでも自ら命を断つ選択だけは出来ないし、自然に任せるだけ。それにまだ自分は此処に存在しているから。
「一番、近くに居たいです」
「……俺もだ」
 瑠碧が扉に手を伸ばすと、蔦と鉄格子の間から理玖の手が伸ばされた。瑠碧はその手をそっと取って、ゆるく握る。
 そうして、深く被っているフードを脱いでささやかに微笑む。
「このまま、籠の中では、会いに行けません、からね」
「姉さんは、やっぱり笑ってるほうが……や、なんでもねぇ」
 可愛い、と言い掛けた理玖は妙に照れくさくなった。気を取り直した彼は少し名残惜しくなりながらも瑠碧と繋いだ手を離す。
「下がってて。一発勝負だ」
「はい、お願い、します」
 凛とした理玖の声を聴き、瑠碧は扉から一歩だけ下がった。
 助けるという気持ちを抱いた理玖は鳥籠から距離をとってから、深く息を吐く。そして、龍珠を弾いて変身すると同時に勢いよく駆けた。
「たとえ拳が砕けてもぶっ壊す!」
「いえ、砕けては駄目です……」
 振り被りながら宣言した理玖に対し、瑠碧はぱたぱたと両手を振って慌てる。しかし理玖は薄く笑み、平気だと答えた。
「心配すんな、治してくれんだろ?」
「……治します、けれど」
「それじゃ、決まりだ。――行くぜッ!」
 刹那、鋭く力強い声と共に理玖の全力が振るわれた。キィン、と響いた硬質な音と共に鳥籠の鍵が外れる。
 蔦と花の籠扉がひらき、囚われの娘は解放された。
「よし、結構痛かったけど成功だな」
「もう……自分も大事に、してくださいね」
 姉さん、と瑠碧を呼んだ理玖は微かに笑み、鳥籠から出てきた彼女に腕を伸ばす。
 鉄格子越しではなく、直に触れる感覚。それを求めた瑠碧は彼の手を取る。囚われていたときに聞いた理玖の思いは嬉しかった。
 たくさんの不安がある。懸念だって、終わりへの思いも抱いたまま。
 けれど――。
「理玖の傍に、居られたら……良いな」
 瑠碧は先程に言えなかった言葉を紡ぐ。繋がれた手の熱を感じ取りながら、理玖は彼女と自分の指先を絡めた。
「俺が居る限り独りになんか絶対してやんねぇ」
 大切な想いと言葉を交わす二人。
 彼らの感情の行方を見守っていくように、陽を受けた花綵が幽かに光った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
🐦【桜雨】
あっ!お兄様!
鳥籠の中から力を籠めてみるものの開くはずもなく
籠の鳥…ここは昔のことを思い出して嫌…
家に縛られていた日々も
攫われた先で座敷牢に幽閉されていた日々も
過去のことであるはずなのに
未だに私は囚われて――

お兄様…
戸惑う彼をじっと見つめる
ここから出て彼の傍に行きたい
けれどお兄様にしてみれば
私はついこの間出会ったばかりの他人
今生は血の繋がりなんてなくて
私とお兄様を繋ぐ絆ってなにかしら…?
考えないようにしていた現実を突きつけられる
いつの間にか頬に熱いものが流れて――
お兄様…?今、なんて?

今はただの兄妹ごっこかもしれないけれど
あなたと離れたくない
ずっと一緒にいたい
もうひとりにしないで…


千桜・ルカ
🔑【桜雨】
エリシャ!囚われた彼女へ駆け寄って
何故でしょう…この子が自由を奪われていると
悲しそうな目で私を見つめていると
歯痒い気持ちになるのは…
この子には出逢ったばかりだと言うのに
今すぐ抱きしめて頬を伝う涙を拭ってあげたい

…返してもらいますよ
その子は私の大切な――妹、ですから
不思議と手に馴染むこの刀
刀の振り方も身体が憶えている
けれども奮う力は、きっと以前とは違うもの
嗚呼、でもこちらのほうが私には合っているのだろう
心の赴くまま刀を振るって鳥籠を破壊しましょう

エリシャ、お前に兄と呼ばれると胸が温かくなるんです
昔のことはまだ思い出せませんが
私の心がお前を大切だと言っている
今はそれだけではいけませんか



●常夜の桜と花菖蒲
 はらはらと桜が散っていた。
 暗い闇に囚われたかのような漆黒の檻が桜鬼を囚えている。不思議な国の中、深い森の中に浮かぶ鳥花籠は宛もなく彷徨っていた。
「エリシャ!」
 其処に駆け付けたのは千桜・ルカ(紫雨・f30828)だ。
 このウサギ穴に訪れるやいなや、桜花を散らしていく鳥籠に捕らわれてしまった千桜・エリシャ(春宵・f02565)を追ってきたのだ。
「あっ! お兄様!」
「大丈夫ですか。どこか怪我は?」
「いいえ、何にも。ですが、この鳥籠……まったく開く気配がありませんの」
 エリシャもルカが到着するまで様々な抵抗をしていた。内部から渾身の力を籠めてみるものの、捕らえることに特化した檻が開くはずもなく――。
 まさに籠の鳥。
 窮屈な鳥籠から出られないと知った今、暗い気持ちばかりが浮かんでくる。
「ここは昔のことを思い出して嫌……」
 胸裏に浮かぶのは家に縛られていた日々。
 そして、攫われた先で座敷牢に幽閉されていた日々。どちらも既に過ぎ去っており、終わったことだというのに恐ろしさが消えてくれない。
 もう二度と起こらない過去のことであるはずなのに、思いは深く沈むばかり。
「未だに私は囚われて――」
「エリシャ、顔をあげてください」
「……お兄様?」
 ルカは移動している鳥籠に追いつき、強い眼差しをエリシャに向けた。
 囚われた彼女を見ていると胸がざわつく。何故か、彼女が自由を奪われていることが苦しい。返された視線は悲しそうで、そんな瞳など見ていたくないと感じた。
 エリシャは悲痛な面持ちで此方を見つめる。
 救いたい。
 自分が救わなければ、と思う気持ちが強くなっていく。それと同時に歯痒い気持ちになるのは過去が関係しているのだろうか。
 今のルカは紫雨桜が覚醒めただけの存在だというのに。
 どうしてか、エリシャに抱く思いは深い。
 これは恋などの感情ではないはず。そうではないと自覚しているのだが、今すぐ抱きしめて頬を伝う涙を拭ってあげたくなった。
 ルカは己の中にある感情に戸惑っているように思える。
「お兄様……」
 エリシャはもう一度、ルカを呼んだ。
 ルカは覚えていないが、エリシャは知っている。大切な兄の魂が、こうして巡って還ってきてくれたときはどれほど嬉しかったか。
 ここから出て彼の傍に行きたい。兄に助けて欲しい。
 しかし、エリシャにも複雑な思いがあった。ルカからすればエリシャはついこの間に出会ったばかりの他人。
 魂は彼だとしても、今生では血の繋がりなどない。
(私とお兄様を繋ぐ絆ってなにかしら……?)
 転生を願ったことか。
 それとも――と、考えないようにしていた現実を突きつけられてしまった。魂は同じでも、彼は別の人生を歩むべきなのかもしれない。
 前世の妹だからといって、いつまでも甘えていてはいけないのだろうか。
 胸が締め付けられ、考えたくない思いが満ちた。そうしていると、いつの間にか頬に熱い雫が流れていく。
 は、と息を呑む音がエリシャの耳に届いた。
 それは自分の涙を見たルカが発した声の欠片であり、その瞳は見開かれている。
 次の瞬間、ルカの身体は無意識に動いていた。
「返してもらいますよ」
 不思議と手に馴染む彩匁の刀が鞘から抜き放たれる。刀の振り方も身体が憶えており、鳥籠に鋭い一閃が振るわれた。
 これはおそらく過去に得ていた力。
 けれども今のルカが奮う力は、きっと以前とは違うものだ。されど、此方の方が自分には合っていると感じられた。
 そして、ルカは凛とした口調で宣言する。
「その子は私の大切な――妹、ですから」
「お兄様……? 今、なんて?」
 エリシャはルカから零れ落ちた言葉に驚いた。お兄様と呼んではいても、向こうからは妹とは思われていない。そう感じていたからだ。
「エリシャ、お前に兄と呼ばれると胸が温かくなるんです」
 ルカは心の赴くままに刀を振るい、次の一撃で以て鳥籠を破壊した。黒い鉄の扉は真っ二つに斬り裂かれ、エリシャの自由は取り戻される。
 おいで、と微笑んだルカは手を伸ばした。
 彼は無意識だっただろうが、その声には嘗ての兄の面影があった。
「昔のことはまだ思い出せませんが、私の心がお前を大切だと言っているんです。今は、それだけではいけませんか。……エリシャ」
 ルカは今の自分が紡ぐことが出来るめいっぱいの言葉を妹に向ける。頷いたエリシャは彼の手を取り、もう片手で涙を拭った。
「いけないことなんて、ひとつもありませんわ」
 今はただの兄妹ごっこかもしれないけれど、魂は響きあっている。
 あなたと離れたくない。幾度も別れを重ねて、やっとまた逢えたのだから。これからはずっと一緒にいたい。
 それから、エリシャは心からの思いを兄に告げた。
「もうひとりにしないで……」
 ひらり、ひらりと、壊れた鳥花籠から桜が舞う。
 ふたつの魂を包み込むかの如く、そっと。自由は此処にあると示すように――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トキワ・ホワード
【魔桜】🔑
アリス達が囚われていると聞いていたが…
どう見てもアリスではないな

おい、お前
一応聞くがそこから出る気はあるか?
出る気があるのなら俺が手伝ってやろう
その代わり、脱出したら俺に協力してもらおうか

返答を聞き、意思の確認と脱出の同意を取った上でUCを発動
単純故に強力で無慈悲な魔術。その身に受けろ
炎と雷の砲弾を限界数まで生成
籠を囲むように全ての魔弾を籠へと向け一斉に放つ

存在するかもわからん鍵を探すよりもよっぽど現実的だろう?
初対面のお前へ大した感情は抱けんが、協力者が欲しいのは本心だ
俺はその想いを全て乗せよう

さて、出してやったら約束は守ってもらおうか
法廷でと言わず道中でいくらでも話は聞いてやる


芥子鴉・芙蓉
【魔桜】🐦
阿片キメとったらいつの間に籠の中におったんじゃけどさ
なんか頭おかしい男がクソ全力でわらわの籠をぶっ壊しに来てるんじゃよね
コレ中のわらわも死んじゃう勢いでは?
いや、わらわ「籠から出たい」とは言ったよ?言ったんじゃけどね?
コイツくすりキメとらん?

くっ!外には出たい!じゃが死にたくはない!
このままでは籠と一緒にわらわも死にそう!
頑張れ籠!おぬしの力はきっとそんなもんではない筈じゃ!
気張れ籠!負けるな籠!いやほどよく負けろ籠!わらわを出せ!
籠も外の男も同時に力尽きろ!

……助けてもらったことには感謝しよう。
じゃが次に会う時は法廷なんじゃよ!ケッ!楽しみにしておれ!
(トキワに連れていかれます)



●法廷バトルはお預けです
 カタカタと踊る木々やキノコが激しく揺らめいている。
 ティーカップとポットが紅茶と共に宙に舞い、世界はぐらぐらと歪む。
 合法阿片をキメていたはずだったのに、何だか周囲の様子がおかしい。芥子鴉・芙蓉(ラリBBA・f24763)はいつもとは違う感覚をおぼえ、辺りを見渡した。
 世界はおかしな様相だが、どうやら普段のトリップとは違うらしい。
「ここはどこじゃ? 籠の中か?」
 お茶会テーブルが逆さまになって飛んでいるが、芙蓉の意識は自分を包み込んでいるものに向けられていた。宙で揺れている鳥籠は桜の枝で出来ている。
 枝分かれした格子の先に桜花が咲いているという、どうにも珍妙な鳥籠のようだ。
「あっ、そこのお主!!」
 芙蓉は其処に偶然、通りかかった男――トキワ・ホワード(旅する魔術師・f30747)に声を掛けた。顔を上げたトキワは芙蓉が囚われている桜の鳥籠に気付き、訝しげな表情を浮かべる。
「アリス達が囚われていると聞いていたが……どう見てもアリスではないな」
「よくわからんが何故か閉じ込められたのじゃ!」
「おい、お前。一応聞くがそこから出る気はあるか?」
「む? もちろんじゃ。狭いし暗いし変な座り心地じゃし、出られるなら早く出たいのじゃが……」
 トキワからの問いかけに頷いた芙蓉は、ぺたんと座り込んでいた体勢を変える。
 そうか、と答えたトキワは鳥籠に向けて魔銃を向けた。
「出る気があるのなら俺が手伝ってやろう。その代わり、脱出したら俺に協力してもらおうか。いいか?」
「なんじゃ、それは脅しか?」
「いいや、正当な取引だ。それで手伝いはいるのか。いらないのか」
「それなら……欲しいのじゃ」
「分かった」
 刹那、轟音が響く。
 複合された魔法の砲弾が鳥籠に解き放たれ、物凄い衝撃音となったのだ。
「え? え?? 脱出ってそういう? わらわごと籠を葬ってこの世界と人生から脱出とかいう頭おかしい論?」
 コレ中のわらわも死んじゃう勢いでは?
 いや、わらわ「籠から出たい」とは言ったよ? 言ったんじゃけどね?
 コイツくすりキメとらん?
 疑問が次々と浮かんでくる。芙蓉には籠を壊しに掛かったトキワの行動が理解できなかった。何せ阿片を使っていた記憶しかないゆえ、この世界の状況はさっぱりだ。
「くっ! 外には出たい! じゃが死にたくはない!」
「落ち着くといい。そういう鳥籠だ」
 鳥籠の中で抗議しはじめた芙蓉に対し、トキワは極めて冷静だった。
 彼としては芙蓉の返答はちゃんと聞いており、意思の確認と脱出の同意は取っている。そのうえで単純ゆえに強力で無慈悲な魔術を放ったのだ。
「このままでは籠と一緒にわらわも死にそう! 頑張れ籠! おぬしの力はきっとそんなもんではない筈じゃ!」
「本当は出たくないのか? いいから、その身に受けろ」
 籠を応援していく芙蓉に向け、トキワは炎と雷の砲弾を限界数まで生成していく。
 それらを籠を囲むように配置した彼は全ての魔弾を一斉に放った。
 恐ろしい攻撃に芙蓉が蒼白になる。
「ひえ! 気張れ籠! 負けるな籠! いやほどよく負けろ籠! わらわを外に出せ! 籠も外の男も同時に力尽きろ!」
 芙蓉にとってトキワは敵も同然のようだ。
 だが、トキワは次の魔弾を用意しながら芙蓉の周囲を示す。
「さりげなく俺の破滅を願うな。それによく見ろ」
「……?」
 指摘されたことで気が付いたが、鳥籠の内部にいる芙蓉はまったくの無傷。中からはどうやっても開かないが、代わりに外の危険からは守ってくれるらしい。
 なるほど、と納得した芙蓉は抗議を止めた。
「存在するかもわからん鍵を探すよりもよっぽど現実的だろう?」
「そうじゃが、もうちょっと加減をじゃな」
「それはすまなかった。初対面のお前へ大した感情は抱けんが、協力者が欲しいのは本心だ。さあ、もうすぐ開くぞ」
 そういってトキワは全力のエレメント・バレットを解放した。
 そして――。
 炎が迸り、雷撃が籠を貫いていく。
 トキワへの抗議、協力者への思いは鳥籠をあける力となり、その鍵が開いた。
 桜の花鳥籠はトキワの見事な連撃によって壊され、芙蓉は無事に助け出されることとなった。少しばかり気まずさを感じつつ、芙蓉はトキワを見上げる。
「……助けてもらったことには感謝しよう」
「さて、出してやったんだから約束は守ってもらおうか」
「協力者が欲しいとか言っていたようじゃが、次に会う時は法廷なんじゃよ! ケッ! 楽しみに待って――」
「法廷でと言わず道中でいくらでも話は聞いてやる」
 行くぞ、と行く先を示したトキワは芙蓉を逃さぬ勢いだ。待て、まだ心の準備が、と慌て始めた芙蓉だったがトキワは構うことはなかった。
「ああー、そんな……せめて合法阿片をもう一度じゃな、もう一度――!」
 芙蓉の悲痛な声がウサギ穴の中に響き渡っていく。
 きっと彼らは道中で名前などを告げ合い、主に法廷の話などをしながら進んでいくのだろう。無論、トキワは法廷まで出る気など更々ないのだが。
 こうして、なんだかんだで魔術師と桜の精の凸凹コンビが結成された。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
🐦マコ(f13813)と

囚われの身になった事に
自身で呆れて溜め息ひとつ

籠の外から
攻撃を続けるマコが見える

本当に一生懸命な奴だよ

何時だって他人の為
自分が死にそうな怪我してる時に
オレやナイトの怪我を心配する、とか
全く理解できなくて
戸惑ったこともあったか

自分の事は省みない奴だから
目が離せなくなって困る

無理すんなって言っても
どうせ、コイツは無理するし、
それが分かってるから止めはしねえよ

だから、せめて、守らせろ

双眸を細めて不敵に笑う
そして、ようやく口を開いた

なあ、マコ、早く助けろよ

口から出るのは悪態ばかり
けれど言葉の節々に滲む信頼

やがて、鳥籠は壊される
差し出された手を取り

さあ、一緒に暴れようか!


明日知・理
🔑ルース(f06629)と
アレンジ、マスタリング歓迎

_

拳で殴る。頑丈で、傷一つつきやしない。
ギリ、と奥歯を噛んで鳥籠を睨んだ。

…彼が敵の掌中にいるようで、否が応にも頭に血が上る
彼が心配でならない
刃を以てしても弾かれるばかり
焦れば精度が落ちる
分かっているのに、彼が捕われている事実に平静を失う

俺は貴方に護ってもらうに相応しい奴じゃない
けれど誇り高く燃る紅蓮の焔を、俺は護りたくて

不意に彼の声が聴こえてハッと顔をあげる。
炎のように荒れていた胸中が水を打ったように静まりかえり、常の平静を思い出す。
フと笑う。
「ああ、」
納刀し、柄に手を添える。

「今、助ける」

振り抜く一閃

彼に、手を伸ばす


「──待たせたな!」



●護る意志
 不思議なことばかりが巡るウサギ穴の狭間。
 キノコが笑い、ティーカップが逆さまのまま紅茶が注がれる。そんな奇妙な世界の中で、黒曜の鉄格子が視界を阻んでいた。
 オニキスの宝石を思わせる黒い鳥籠は空中に浮き、不規則に揺らめいている。
 周囲には花入いの透明なポットがふわふわと泳いでおり、ニヤニヤと笑う猫が木の枝の上で現れては消えていた。不思議で奇妙な世界の中、浮遊する黒の鳥籠の内部には――ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)が囚われていた。
「落ち着かねえ」
 此処に訪れてすぐ、抵抗する間もなく捕らえられた鳥籠の中。
 自分が囚われの身になっている現状に呆れたルーファスは、溜め息を落とした。丸い床に胡座をかいている彼の頭上には槍竜のナイトが乗っている。
 それは別に良いのだが、先程からずっと籠の外から重い音が響いていた。
「マコ」
「駄目だ、傷一つ付きやしない」
 その音は明日知・理(月影・f13813)が鳥籠を殴っている音だ。
 拳で黒曜の檻を穿ち続けている彼は実に懸命だ。呼びかけても反応がなかったので、ルーファスはもう一度、彼を呼ぶ。
「おい、マコ」
「――次こそ」
 ギリ、と奥歯を噛んで鳥籠を睨んだ彼は真剣過ぎる。はあ、と息をついたルーファスは双眸を細め、彼への評価を口にした。
「本当に一生懸命な奴だよ」
「……と、ルース。すまない、なかなかに頑丈なようだ」
 やっと此方に気付いた理はルーファスに目を向ける。今のように、彼は何時だって他人の為に動く男だ。
 例えば、自分が死にそうな怪我を負ったとき。
 彼はルーファスやナイトの傷の方を心配した。危ないのは自分の方だというのに、他者を優先する精神。それが全く理解できず、戸惑ったこともあった。
 まったく、と独り言ちて黙ったルーファスは理を見つめる。
「今すぐに、いや、あと少し時間をくれ」
 理はというと、更に拳を握り締めた。次は刀での一閃だ。今の状況はルーファスが敵の掌中にいるようで落ち着かない。閉じ込める以外の力はない鳥籠だと分かっているが、否が応にも頭に血が上っていく。
 理にとっては、ルーファスが心配でならない。
「くっ……」
 見た目以上に硬い鳥籠に刃が弾かれ、理の体勢が僅かに崩れた。刃を以てしても手応えはなく、焦れば焦るほどに精度が落ちるだけだというのに。
 分かっているが、ルーファスが捕われている事実が平静を奪っていく。
(俺は貴方に護ってもらうに相応しい奴じゃない――けれど、)
 理は思う。
 誇り高く燃る紅蓮の焔を、護りたい。だからこそ少しばかり無茶でも成し遂げたい。拳は痛み、腕も痺れかけているが構わない。
 攻撃を続ける理は心配になるほどに力を重ねていった。
 そんな理の姿を見つめるナイトは不安そうだ。大丈夫だ、と黒竜に告げたルーファスは理を見守っていた。
 彼は自分のことは省みない奴だから、目が離せなくなって困る。
 きっと無理をするなと言っても、理は無理し続けるだろう。それゆえに理を止めるようなことはしない。
 火に油を注ぐだけだと分かっているから敢えて何も言わないでいた。
 だから、せめて。
 ――守らせろ。
 双眸を細めたルーファスは不敵に笑い、それまで黙っていた分を埋めるように口をひらいた。ただ一言、真っ直ぐに理に告げる。
「なあ、マコ、早く助けろよ」
 攻撃に専念していた理は、不意に聴こえてきたルーファスの声にハッとする。其処で顔をあげた彼はふと気付く。
 今まで炎のように荒れていた胸中が、水を打ったように静まりかえった。彼の言葉のお陰だと察した理は常に抱いていた平静を思い出す。
 フ、と笑った理は納刀した。そして、改めて柄に手を添え――鯉口を切った。
 闇色を纏う花驟雨が瞬時に抜き放たれる。
「今、助ける」
 首肯する言葉と共に不可視の斬撃が鳥籠を切り裂いていった。華仙の一閃は何度も、何度も同じ箇所を狙って繰り返し重ねられる。
 焦りがあってこんな簡単なことも分からなかった。強固であるならば一点集中で檻を脆くしていけばいい。
「ほら、遅い。お前はこんなもんじゃないだろ」
 もっと早く。急げ。
 ルーファスの口から出るのは悪態ばかりだが、言葉の節々に信頼が滲んでいる。
 やがて――振り抜く一閃によって錠前が弾き飛ばされた。
 宙を舞うそれを視線で追ったルーファスは、それが見えなくなるまで見送った。それもただ一瞬のこと。それから、彼は理へと眼差しを向けた。
 扉はひらかれ、理の腕がルーファスに差し伸べられる。
「――待たせたな!」
 ルーファスは差し出された手を取り、嬉しげな笑みを浮かべて見せた。そうして、彼は鳥籠の先に続くウサギ穴の出口を示す。
「さあ、一緒に暴れようか!」
「ああ、行こう」
 重なったのは視線や手だけではなく、抱く思いも。
 ナイトも其処に鳴き声を響かせ、一行は次の戦いの場へ向かっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
🔑
コトコ君(f27172)?どうしたんだ、…っ!
振り返ればキミは鳥籠の中

ヘンな鳥籠に、つい視線を奪われてしまった結果
やれやれ、私もまだまだらしい
聞こえているよ、コトコ君!
キミの声はよく通る。良いトコロのひとつさ

早速だけど助けよう
大丈夫、そんな鳥籠からすぐに出してあげる
“Hの叡智” 攻撃力を重視
上げた力を剣に乗せ、狙いは鍵一点へ

ひとつ間違えているね
コトコ君は私のようになる必要も、近づく必要もない
キミはキミらしい王子様になるんだ

真面目な努力家で、ハッキリとものを言うけれど
自分の弱さも知っている
キミの色と同じ、これからグンと伸びる若葉のようだよ

姫じゃなく、王子様になるんだろう
鳥籠なんて似合わないよ


琴平・琴子
🐦
エドガーさん(f21503)危ないっ
身を挺して庇うとエドガーさんが無事で良かった

すうっと息を吸って
お腹の底から吐き出す大きな声
エドガーさん!お耳に届いておりますか!

初めて見掛けた時から
なんて王子様を理想にした形なのだろうと思いました
私の憧れはあの日助けてくれた王子様であれど
それによく似ておりました

咲き誇る花の様な
明るく照らす太陽の様な
貴方の様に眩い姿に私はなれないけれど
それでも貴方の様な王子様に近付けておりますでしょうか!
貴方の目には私はどういう風に映っておりますか!

花になれなくてもいい
それを引き立たせる葉に、支える蕚になりたい

囚われの姫なんて柄じゃないですからね
飛び立つ所を見てて下さいね



●王子への道
 ウサギ穴の空間は不思議な世界に変化していた。
 鳥籠がふわふわと浮かび、揺れながらあちらこちらに飛び交っている。
 森の隣は崖で、そうだったかと思うと湖が現れたりもする。紅茶はポットから飛び出して自由にくるくると回っているし、お茶会の椅子は逆さまだ。
 そんな不思議の国らしい景色には、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)も琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)も慣れきっていた。
 この世界ではへんてこな不思議が普通であり、平凡な普通が不思議だからだ。
 二人はウサギ穴の狭間に囚われたアリスを探すべく、此処に訪れていたのだが――。
「エドガーさん、危ないっ」
 コトコ君? どうしたんだ、……っ!」
 どん、という何かと何かがぶつかると同時に急に琴子の声が聞こえたことで、エドガーは振り返った。其処には鳥籠の中に囚われた琴子の姿がある。何かを言う暇もなく、それは高い空へと登っていってしまう。
「やれやれ、私もまだまだらしい」
 それはたった一瞬のこと。違う方向にあったフラミンゴとイチゴパフェが融合した鳥籠に気を取られてしまっていた結果がこれだ。肩を竦めたエドガーは浮遊していく鳥籠を追い、全力で駆け出していく。
 その頃、鳥籠に囚われた琴子は安堵を覚えていた。
 自分が捕まってしまったが、身を挺して庇ったことでエドガーは無事だった。良かった、と呟いた琴子は浮かぶ籠から地上を見下ろす。
 見えないほどではないが、鳥籠とエドガーの距離はそれなりにあった。
 琴子はゆっくりと辺りを見渡し、自分が捕まった籠を確かめる。かたちは普通の円柱状の鳥籠だが、上部には色とりどりの風船が結わえられていた。
 その根本、つまり天辺には長くてしなやかなリボンが幾つも伸びている。ひらひらと風に揺れるリボンも風船も可愛らしい。
 すうっと息を吸った琴子は彼に呼びかけようと決める。そして、少女が腹の底から吐き出した声が不思議な森に響いた。
「エドガーさん! お耳に届いておりますか!」
「聞こえているよ、コトコ君!」
「私は今からあの枝にリボンを結びます!」
 琴子は鳥籠が動いていく先にある、大きな樹を指差した。このままでは籠が風に流されていくだけだが、通りかかったときにリボンで固定すれば其処で止まるはずだ。
「ウンウン、なるほどね」
「申し訳ありませんが! それから先はお願いします!」
「分かったよ! キミの声はよく通る。良いトコロのひとつさ」
 エドガーは納得し、懸命に声を張り上げてくれた少女に笑みを向けた。そうして暫し後、宣言通りに枝とリボンが繋がれる。
 樹の上で揺らめく鳥籠に近付くべく、エドガーは枝に向けて跳躍した。
 此処からは自分の出番だ。
「大丈夫、そんな鳥籠からすぐに出してあげる」
 大きな枝から琴子を見つめたエドガーは深呼吸をした。まずはひとつ。それから瞬きをしてふたつ。最後、みっつめは祖国の名を心の内で唱えて――。
「助けてみせるよ!」
 狙いは鍵の部分。増幅させた力を剣に乗せたエドガーの一閃が鋭く放たれた。
 刹那、鳥籠がふわりと揺れる。
 わ、と琴子が声をあげたのは怖かったからではない。エドガーの王子然とした剣戟と振る舞いに憧れたからだ。
 彼を初めて見掛けた時から、ずっと思っていた。
 なんて素敵なひとなのだろうと。エドガーこそまさに王子様を理想にした形であり、紛うことなき紳士だ。
(私の憧れは、あの日に助けてくれた王子様ですが――)
 エドガーはあのひとによく似ている。
 琴子は懸命に剣を振るうエドガーを瞳に映した。彼も真っ直ぐな眼差しを向けてくれている。囚われた琴子を助ける為に全力を出してくれていた。
 まるで咲き誇る花のような。
 明るく照らす太陽のようなひと。
 琴子は胸に宿る思いの丈を言葉にしていく。
「貴方の様に眩い姿に私はなれないけれど、それでも。貴方の様な王子様に近付けておりますでしょうか! 貴方の目に私はどういう風に映っておりますか!」
 するとエドガーは少しだけ手を止め、琴子に答える。
「ひとつ間違えているね」
「私が、ですか?」
「そうさ。コトコ君は私のようになる必要も、近づく必要もないんだよ」
 エドガーは刺突剣を振り上げ、再び鳥籠に刃を振るった。その仕草も動きも優雅であり、紡ぐ言葉も優しい。
 琴子がレイピアの切っ先を見つめると、エドガーは言葉の続きを伝えた。
「キミはキミらしい王子様になるんだ」
 真面目な努力家で、ハッキリとものを言う子。
 しかし高慢ではなくて自分の弱さも知っている少女、それが琴子だ。
「私らしい、王子に……」
「キミはその瞳の色と同じ、これからグンと伸びる若葉のようだよ」
 若葉という言葉はしっくりときた。琴子は自分が完璧だとは思っていないし、寧ろエドガーが思うように弱いところを自覚している。
 そっか、と独り言ちた琴子は新たな思いを胸に抱いた。
 花になれなくてもいい。
 それを引き立たせる葉に、支える蕚になりたい、と。
 そうして、エドガーは更に剣を振るいあげた。運命はこの刃で切り拓く。そう示していくように剣を檻の扉に向けた。
「姫じゃなく、王子様になるんだろう?」
 ――鳥籠なんて似合わないよ。
 その声が響いた刹那、閉ざされていた扉の鍵は壊された。そのことに気付いた琴子は自ら扉をひらき、エドガーが立っている地上を見つめる。
「囚われの姫なんて柄じゃないですからね。どうか……!」
 飛び立つ所を見ていてください。
 えい、と踏み出した鳥籠の外。其処にあるのは何処までも自由な世界。
 そうして並び立った二人の王子は、視線と微笑みを交わしあった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宮前・紅
戎崎・蒼(f04968)と行動
【🐦POW】
うーん、俺が囚われちゃったか……でも、まあこうゆうのは蒼くんが適任かもね?
彼は利害の一致がある限りは──俺に有用性がある限りは助けてくれる筈、まあ俺もだけど
早く救出する事位出来なきゃ手を組んだ意味はないよね♪︎
失望させないでね?

というかそれ位も達成出来ないなら、俺は蒼くんの一番嫌な事をしてしまうかもね!

…………みーんな惨殺とか、嫌だよね?

だったら早く助けろよ──相棒
お前が助けなきゃ死ぬのはこの子達も一緒なんだ、だったらやる事は一つだけ
利用し利用されるもの同士ここは協力しよう、ね?

宮前は胡乱げな目を向けつつ何処か楽しそうに笑う


戎崎・蒼
宮前・紅(f04970)と行動
【🔑POW】
………成程ね、紅が囚われたか
なら、勝手知ったる所で失望されても不服だし、さっさと鳥籠を壊させて貰うよ

UCを発動
その後は籠のウィークポイントを見極めて、そこを重点的に一斉射撃で攻撃する(見切り+スナイパー)
それでもし壊れなかったら、テルミット弾のSyan bulletで籠を融解or燃やしてから、魔女の錐でこじ開けてみようと思う(鎧砕き)

───殺戮なんてさせる訳ないだろ
僕は君を利用価値があるから助けるだけだ
それ以上でもそれ以下でもない
"助けてあげる"だなんて、そんな陳腐な言葉は要らない………そうだろ?



●胡乱に哂う
 鋭い槍が重なったような、不思議な鳥籠が宙に浮いている。
 銀の鉄格子に絡まっているのは赤い薔薇。まるでそれは血が散っているかのようで、奇妙な印象を抱かせた。
 空中でゆっくりと揺らぐ鳥籠の中。
 其処に囚われているのは宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)だ。
「うーん、俺が囚われちゃったか……」
「………成程ね、紅が囚われたか」
 捕まっている紅を振り仰ぎ、戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)は双眸を鋭く細めた。ウサギ穴は不可思議な世界に変わっており、薄い陽も射している。
 銀と薔薇の鳥籠はその光を反射して鈍く煌めいていた。
 人ひとりが座れるくらいしかない狭い場所に囚われているというのに、紅本人には特に焦った様子はない。
「でも、まあこうゆうのは蒼くんが適任かもね?」
「助ける側として、かな」
「そうそう、その通り」
 紅にとって、彼は利害の一致がある限りは――即ち、有用性がある限りは助けてくれる存在だ。まあ俺もだけど、と呟いた紅は蒼を見下ろす。
「早く救出する事位出来なきゃ手を組んだ意味はないよね♪︎」
 失望させないでね? と紅は薄く笑む。
 対する蒼はユーベルコードを解き放つ準備を整えた。
「なら、勝手知ったる所で失望されても不服だし、さっさと鳥籠を壊させて貰うよ」
 蒼が身構えると同時に放ったのは魔弾の一斉射撃。
 鋭い魔弾が次々と鳥籠の鍵や扉を穿っていく。だが、頑丈に作られている鳥籠はまだびくともしていない。
 されど内部には何の被害もなく、紅は興味深そうに瞳を緩めた。
 中からの干渉は全く受けないが、その代わりに籠の中にいるものはどんなことがあっても傷付けられない。これはそういった仕組みのものらしい。
 されど蒼の力はまだまだ巡ったばかり。
 胸に抱く期待は言葉にはせず、紅は眼下の彼を軽く煽りはじめる。
「それだけで終わらないでしょ? というかそれ位も達成出来ないなら、俺は蒼くんの一番嫌な事をしてしまうかもね!」
「嫌なこと、か」
「…………みーんな惨殺とか、嫌だよね?」
「――殺戮なんてさせる訳ないだろ」
 蒼は籠のウィークポイントを見極めるべく、次々と魔弾を放った。
 何度か攻撃をしてみて分かったのは、やはり扉の辺りだ。其処を重点的に一斉射撃で攻めていこうと決め、蒼はユーベルコードを放ち続ける。
「だったら早く助けろよ――相棒」
 対する紅は高みの見物をするかのように、蒼に呼びかけた。
 集中していく蒼に向け、紅は言葉を続ける。
「お前が助けなきゃ死ぬのはこの子達も一緒なんだ、だったらやる事は一つだけ」
 そうだろ、と問いかけた紅を再び見上げ、蒼は頷いた。その視線を感じ取った紅は返答など待たず、更に思いを言葉にする。
「利用し利用されるもの同士ここは協力しよう、ね?」
「僕は君を利用価値があるから助けるだけだ」
 それ以上でもそれ以下でもない、と淡々と答えた蒼はテルミット弾を用意した。そのままそれを解き放ち、籠を融解させるように攻撃していく。
 刹那、鳥籠が大きく揺れた。
 炎があがり薔薇の装飾が燃えていく。其処から処刑器具である魔女の錐を取り出した蒼は、緩んだ扉をこじ開けるべく、紅の元に近付いた。
 鋭い一閃が蝶番の部分に突き刺される。
 ギィ、という軋んだ音が響いたかと思うと、扉はあっけなくひらいた。
「合格だよ。ちょっと時間が掛かりすぎかな?」
「そんなに長くは待たせなかったはずだけど」
 開いた扉から優雅に、ゆっくりと踏み出してきた紅は軽く地面に着地する。それを迎え入れた蒼は首を横に振り、おかえり、とだけ伝えた。
 利用するもの、されるもの。
 お互いが同じ立場である二人に、お礼や感謝などの言葉や感情はない。しかし、紅は敢えて心の籠もっていない言葉を送った。
「助けてくれてありがとね」
「……別にいい。助けてあげるとか、あげただなんて、そんな陳腐な言葉は要らない……そうだろ?」
「まあね!」
 蒼が返した言葉に対して紅は胡乱げな目を向けた。それでも彼の声は妙に明るくて、何処か楽しそうな笑い声が響き、蒼の耳に届く。
 これでまたひとつ鳥籠が壊された。
 そうして少しずつ、奇妙奇天烈な鳥籠の国の瓦解が進んでいく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛砂・煉月
🐦有珠(f06286)と

あーあ、また檻の中かー
まるで昔みたい
でも捕まってるのに怖さは微塵も
だって、来るのは有珠だよ
オレの安心、強い青が来てくれるんだ

駆けつけたキミの方が何だか不安そうで
有珠の名前を呼ぶ
キミが好きで落ち着くって言ってくれた
オレのあかい眸を見つけて

キミはもうオレの特別で
依存しかけてるのも気付いてるんだ
それは音にしない想い
けれど酷く大きな

有珠、キミを信じてる
ううん疑ったことすら無いや
此処からオレを出してまた一緒に星巡りしてくれるって
あっは、
オレも早く出て自由がイイや
キミ一緒がイイよと手を伸ばして

鳥籠が壊れたら、ありがとってへらり笑って
実感させて?って手を差し出せば
噫、『  』だなぁ


尭海・有珠
🔑レン(f00719)と

傍からいなくなることが、こんなにも
不安…不安と感じているのか、私は
レンの強さは知ってるけれど心は焦る

駆けつけ、レンが呼ぶ声に苦笑が零れる
レンは思いの外余裕綽々に見える
鳥籠の外にいる私の方が不安そうな顔をしている気がするな
片手で自分の頬軽く叩いて気を取り直し
外套を翻し颯爽と助けに行こう

憂戚の楔で鍵部分を集中的に攻撃
怪我をさせたくはないから狙いを絞らないとな
視線を合わせて「勿論だとも」と。
星巡りの為だけではないが
君が自由でないのは私の本意でもない
私も、レンと一緒がいい

どういたしまして…かな
レンの手をとろう
実感したのは私の方だ
繋がった温もりに、私の方がほっとしているだなんて



●繋がりの証
「あーあ、また檻の中かー」
 漆黒の檻の中で、何処か呑気にも聞こえる声が落とされた。
 呪詛のような文字が所狭しと記された鳥籠の中で佇んでいるのは、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)だ。
 まるで昔みたいだ、と考える煉月の裡には恐怖などない。
 まず自分はたったひとりではないこと。傍には白銀竜のハクがいる。それにきっと、いますぐにでもあの子が来てくれると知っている。
「ハク、心配ないからな。だって、来るのは有珠だよ」
 彼女はオレの安心。
 強い青が来てくれるんだ、と語った煉月の瞳には揺るぎない信頼が宿っていた。
 一方、その頃。
 尭海・有珠(殲蒼・f06286)は深い森を駆けていた。
 不思議な国と化したウサギ穴に降り立ってすぐ、共に訪れた煉月が真っ黒な檻の中に閉じ込められてしまった。その名を呼ぼうとした時にはもう、鳥籠は遥か彼方へと飛び去った後だった。
「……レン」
 有珠は彼の名を呼んだ。
 彼の強さは知っているが心は焦るばかり。煉月が自分の傍からいなくなることが、こんなにも不安だとは。そう考えたとき、有珠ははたとした。
「不安と感じているのか、私は」
 レン。レン、と煉月を呼び続ける有珠は焦燥を抑え、森の先を目指していく。
 そうして、あの漆黒の鳥籠を見つけた。
「有珠?」
「ああ、良かった。レンに……」
 やっと追いついた、と言葉にした有珠は鳥籠の元に近付く。鉄格子は強固であり、其処に書かれた呪詛は禍々しかった。
 煉月は有珠が不安そうだと感じ取り、格子の間から手を伸ばす。
「大丈夫? 疲れてない?」
 閉じ込められている自分よりも、駆けつけた彼女の方が何だか震えている。そのことを悟られてしまったと気付き、有珠は苦笑した。
 煉月は思いの外、余裕綽々に見える。これでは自分だけが必要以上に焦っていて、おそれを抱いているかのようだ。
 自分は鳥籠の外にいるのに、と有珠は己を律した。
 彼女は片手で自分の頬軽く叩いて気を取り直し、煉月の問いかけに答える。
「鳥籠を追うのは骨が折れたよ」
 でも、大丈夫。外套を翻した有珠は凛とした表情を見せ、颯爽と魔力を紡いだ。
 鉄格子越しに二人の視線が交差する。
 海のような深い青の眼。
 真紅と呼ぶに相応しいあかい眸。
 対極めいた色彩であっても、二人の眼差しはやさしく重ね合わされた。
「有珠、有珠」
 ――キミを信じてる。
 キミが好きで落ち着くと言ってくれた、この瞳で見つめているから。今はキミだけしか映したくはないから。
 名を呼ばれた有珠は彼からの眼差しと声を受け止めた。
 有珠は憂戚の楔で以て、煉月が囚われている籠の鍵部分を狙った。とても頑丈なものらしいが、集中的に攻撃を重ねていけばいつかは壊れる。
 此方の攻撃が内部にまで浸透しないことが不幸中の幸いだ。
 煉月は彼女が懸命に力を揮ってくれていることを感じ取り、思いを向ける。
 キミはもうオレの特別。
 自分が彼女に依存しかけていることも、とっくに気が付いてる。そんなことは思うだけにとどめて、音にはしないけれど。
 酷く大きな存在になっていることだけは確かだ。
 煉月は先程、有珠を信じていると語った。けれども思い返してみれば疑ったことすらないというのが真実だ。
「此処からオレを出してまた一緒に星巡りしてくれるよね、有珠」
「勿論だとも」
 有珠は彼と視線を合わせ、心からの思いを返す。そうやって約束をしたから、これからもたくさんの言葉と願いを紡いでいきたい。
 煉月に笑みを向けた有珠は、更に魔法の杭を鳥籠に打ち込んでいく。
「星巡りの為だけではないが、君が自由でないのは私の本意でもない」
「あっは、オレも早く出て自由がイイや」
 キミと一緒がイイ。
 もう一度、煉月は手を伸ばした。この扉さえ開ければこの手で触れ合える。
「私も、レンと一緒がいい」
 はやく一緒に、と願った有珠は渾身の力を籠め、新たな楔を解放した。そして、次の瞬間。きん、と甲高い音が響き渡ると同時に扉の鍵が壊れる。
 煉月は有珠の頑張りと、自分達の思いが作用したのだと知って穏やかに笑う。
「ありがと」
「どういたしまして……かな」
 へらりといつも通りの表情を浮かべた彼は、有珠の傍へ急いだ。
 一緒に居たいと望んだ気持ちを、それから触れた熱の確かさを。
「実感させて?」
「……ああ」
 二人の手と手が重ねられ、あたたかな心地が巡った。
 ――噫、『  』だなぁ。
 煉月は彼女の掌をそっと握り締め、このうえない気持ちを抱く。有珠もまた、熱に宿る感情を実感していた。
 助けられたのは此方かもしれない。
 繋がった温もりに、自分の方がほっとしているだなんて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸迎櫻🐦

リル!カムイ!囚われたわ!
うっかりしていたのよう!

妻?夫??二人ともなんの話してるの?

あら
カラスも一緒
私を守ってくれるの?嬉しいわ
ヒィ!カグラが怖い

思い切り想いを咲かせて囚う鍵も綻ばせる

鎖した心さえ開いてくれた
鎖した未来を拓いてくれた

いとしこいし愛をあなたへ!

ずっとそばに居てくれて
どんな時だって寄り添い光導き歌ってくれた
この手を離さず私の隣を泳いでいてくれてありがとう

私と出逢ってくれた
どうしようも無い私を見捨てずに待っていてくれた
ずっと前から結ばれた絆繋いでいてくれてありがとう

私を咲かせてくれた
大好きな人魚と神様へ

だいすき
あいしている

共にいきたい
咲いていたい
ずっと一緒にあなた達と!


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻🔑

なんてことだ
リル、私の巫女(妻)が囚われている
サヨを閉じこめるなんていけない子もいるものだ
お仕置しないとね
あ、カラスまで籠の中n…カグラ!落ち着いて!
…え、カラス?
カラスなど放っておいていい
サヨが先だ!

私の力を振り絞り、きみを囚う籠を破壊して解放してみせる…何としても
私のいとしい巫女をこんな籠の中に居させはしない

り、リル!尾鰭が裂けてしまう
そなたの武器は歌だよ
心を動かし世界を動かす
闇呪の奥にすらも光を灯し響く
リルだけの歌声

サヨ…私も、私だってきみを!
ずっと待っていた

想い重ね放つ人魚の歌と神の斬撃
あとカグラの符術

咲かせて繋いで生きていこう
何時だって待っている
迎えにいくよ
愛しい、私の君よ


リル・ルリ
🐟迎櫻🔑

あー!カムイ!大変だっ
僕の夫が籠に囚われている!
カラスまで…ヨルは無事だね
またカグラに抱っこされ……カムイ、カグラが籠を叩きまくってご乱心だよ!
そんなにもカラスを……大切なんだね

僕らのサヨを閉じこめるなんてな…許せん
僕最大の攻撃をするぞ!(尾鰭でぺちぺち
ビクともしないよカムイ!

歌?
嗚呼、僕の歌
これが僕の剣であり、いのちだよ
ありがとうカムイ
かあさんがくれた歌声で
とうさんがくれた歌を合わせて
僕自身の歌を謳うんだ!

ヨル
応援していて
僕はやるよ

合わせていこう
君の斬撃と、僕の歌
あわせて咲かせて、
愛しい人を解放する!

僕達の路は鎖させなどしない
何時だって寄り添って歌いきる
僕の櫻をかえしてもらおう!



●愛し恋し
 気が付けば、朱塗り格子の四角い鳥籠の中にいた。
 楼閣か、或いは遊郭の廓か。そういったものを思わせる畳敷きの籠の中に、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は佇んでいた。
 足元には蛇が這ったような跡があり、櫻宵は思わずあの名を言葉にする。
 ――美珠?
 しかし櫻宵は、はっとして振り向く。
 此処は彼処ではない。不思議の国の最中にある奇妙なウサギ穴の中。降り立った瞬間に囚われた鳥籠は自分の精神を反映してこんな形になっただけ。
 それに、と櫻宵はいとしい者達の名を呼ぶ。
「リル! カムイ! うっかり囚われたちゃったのよう!」
 一瞬だけぞくりとした気持ちは押し込め、櫻宵はリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)と朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)を手招く。
「あー! カムイ! 大変だっ」
「なんてことだ」
「僕の夫が鳥籠に捕まっている!」
「リル、私の巫女……妻が囚われているよ」
 人魚と硃桜の神は朱塗り格子の向こう側に居る櫻宵に気が付いた。二人の視線は囚われの姫君を見るようなものだった。
「妻? 夫?? 二人ともなんの話をしているの?」
 困惑する櫻宵を他所に話は進む。
 彼は妻であり夫なのだから他に表しようがない。そして、リルとカムイはどうやって助けるかの算段を立てはじめる。
「サヨを閉じこめるなんていけない子もいるものだ。お仕置しないとね」
「わあ、カラスまで捕まってる。ヨルは……無事だね」
「きゅきゅ!」
 二人の言葉にはたとした櫻宵は鳥籠の上部を見やる。其処には目を光らせるカラスがいて、何かから櫻宵を守っているかのようだ。
「あら、カラスも一緒なのね」
 自分を守護してくれているカラスに微笑み、櫻宵は少し安堵する。しかし大切な姫、もとい櫻宵が囚われたことで色々と大変な事態になりつつあった。
 ヨルはいつも通りカグラに抱かれているのだが――、そのカグラが急に何かを察して鳥籠を物凄い勢いで叩き始めたのだ。
「カムイ、カグラが籠を叩きまくってご乱心だよ!」
「カグラ! 落ち着いて!」
「ヒィ! カグラが怖い!」
 リルとカムイが慌てて宥めようとするが、カグラは止まらない。特に鳥籠内部にいる櫻宵にとっては叩く音が直に響いてきている。
「カグラはそんなにもカラスを……大切なんだね」
「え、カラス? カラスなど放っておいていい。サヨが先だ!」
「きゅきゅー!」
 リルはカグラの想いを感じ取り、カムイは何だか違う気がすると首を傾げる。そして、どうしてかヨルも怒った様子で鳥籠をぺちんと殴り始めた。
 カグラにカラス、ヨル。どうしてかれらこれほどに騒いでいるのか。そのときの櫻宵達には分からなかった。どうやらカグラ達は鳥籠の中にある蛇が這った跡を気にしているようなのだが――。
 そのことに気付けなかったリルは、ぐっと両手を握った。
「そうか、僕らのサヨを閉じこめることに怒ってるんだ。僕だって……許せん!」
 リルは尾鰭でぺちっと檻を叩く。
 ぺち、ぺちぺち。ぺたん……。人魚としての最大の全力攻撃だ。
「ビクともしないよカムイ!」
「り、リル! 尾鰭が裂けてしまうからお止め。そなたの武器は歌だよ」
「歌? 嗚呼、僕の歌か」
 カムイはリルの尾鰭をそっと引いてやり、いつもの武器を使えばいいと語った。
 心を動かし世界を動かす。
 闇呪の奥にすらも光を灯し響く、リルだけの歌声。
「私もサヨを囚う籠を破壊して解放してみせるよ。……何としても。私のいとしい巫女をこんな籠の中に居させはしないから」
「ありがとうカムイ。一緒に頑張ろう!」
 歌はリルにとっての剣であり、いのち。
 大切なかあさんがくれた歌声。其処に大好きなとうさんがくれた曲を合わせれば、リル自身が歌になる。謳うよ、と言葉にしたリルの傍に幽世蝶が舞った。
 ヨルは応援していて、と告げられたことで仔ペンギンもきゅっきゅと歌い出す。
「リル、カムイ……」
 響きはじめる詩と、神の鮮烈な斬撃。
 二人が真剣に自分を助け出そうとしてくれていると知り、櫻宵は想いを向け返す。
 彼らは何よりも大切なひと。
 だから、思い切り想いを咲かせて囚う鍵も綻ばせてみせよう。
 鎖した心さえ開いてくれた。
 鎖した未来を拓いてくれた。
 ――いとしこいし愛を、あなたへ。あなた達へ。
「ねえ、私の大好きな人魚」
 ずっとそばに居てくれて、どんな時だって寄り添って光を導いて、歌ってくれた。
 どんな私でも好いてくれる。
 この手を離さずに、隣を泳いでいてくれてありがとう。
「私の神様。たったひとりの、あなた」
 出逢ってくれた。
 助けてくれた。どうしようも無い私を見捨てずに、ずっと待っていてくれた。
 遥か前から結ばれた絆を、繋いでいてくれてありがとう。
 二人はただ堕ちていくだけだった龍をひととして認め、桜を咲かせてくれた。
 だいすき。
 あいしている。
 櫻宵の思いが鳥籠の中から伝わってくる。リルはその心に答えるように春の桜を讃える歌を紡ぎ続ける。
 カムイは自分達を阻む鳥籠に何度も、幾度も刃を向けて扉を破ろうとしていた。
「サヨ……私も、私だってきみを!」
 ずっと待っていた。
 心の奥から湧きあがる思いを刀に籠め、カムイは更なる斬撃を振り下ろす。三人で妻と夫だなんて、傍から見れば少し歪な形をしているけれど此れが自分達の形だ。
 想いを重ねて、放つは人魚の歌と神の一閃。
 あわせて、咲かせて、巡らせて。
 愛しい人を解放する為の力は、不思議の世界に広がってゆく。
 櫻宵は二人を見つめ続け、いとおしさが胸を満たしていくことを感じ取っていた。
 共にいきたい。
 咲いていたいと思うのは、二人がいるから。
「ずっと一緒にあなた達と!」
「噫、咲かせて繋いで生きていこう」
「僕達の路は鎖させなどしない」
 何時だって待っている。何時だって寄り添って歌いきる。
 迎えにいくよ。導いていくよ。
 愛しい、愛おしい――私の、僕の、君。誰よりも君を求めて、あいしているから。
「さあ、終わりだ」
「僕達の櫻をかえしてもらおう!」
 カムイが剣戟を放つと同時に泡と桜の花吹雪が鳥籠を穿った。その一瞬後、カラスの羽撃きが聞こえたかと思うと、朱塗り格子の扉がひらく。
「櫻!」
「サヨ!」
 其処から解放された櫻宵の姿を認め、リルとカムイは腕を伸ばす。
 その手は櫻宵を引き寄せ、彼の身体は二人に抱き竦められることとなった。強く抱いてくれる二人に微笑んだ櫻宵は、其々の腕をリルとカムイの背に回す。
「ありがとう、ふたりとも」
 幸せよ、と囁いた櫻宵の声が二人の耳に届く。
 カムイもリルも言葉には出来なかったが、途中から朱塗り格子が不穏なものに思えていた。何故だか、櫻宵が永遠に囚われてしまう気がして――。
 しかし今、あの鳥籠は消滅している。
 安堵を覚えたリルとカムイは、櫻宵が抱き寄せてくれる温もりを確かめていた。
 もし、いつか。
 櫻宵が何かに囚われたとしても今のように救ってみせる。
 ひそかに決意した彼らの姿を、カグラとヨルとカラスが静かに見守っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
💎🐰🔑
アドリブ歓迎

やだ…
囚われるのがボクじゃなくて兎乃くんだなんて
姫じゃん?
姫なの?兎乃くん

だけどボクは未来の誘七の奥方様
親友を助けるのは当たり前さ

来たんだ!兎乃くん
ご機嫌に捕まってるね

ぶちかまして出してあげるのさ!

応援したまえ
ボクはできるアーティストなのさ!
こちらこそいつも遊んでくれてありがと
ボクの大事なマブ
キミと切り開く未来は極彩色のパレットのよう
最強魔法使いに檻なんて似合わない

最大の感謝をこめて
ハートの女王の城さえも吹き飛ばすレベルの、思いっきりの全力魔法!
その檻を破壊工作してやるのさ!!
兎乃くん、硬いから平気さ!

くらえー!これが、ボクらの友情パワァァーーー!
これからもよろしく!


兎乃・零時
💎🐰🐦
アドリブ歓迎

捕まるとは聞いてたけど俺様かぁ…抵抗する間もないとは…くっ!

ふっふーん
だがフレズが来てくれる事は分かってるし大丈夫だろ!

…確か思ってる事言葉にしたり応援すりゃいいんだよな
んー、でも他にもなんか…攻撃じゃ無けりゃいいだろ、うん

籠の中
魔導書や杖を取り出し
君が来るのを待ちながら魔力を練る

フレズが見えたら目を輝かせつつ

フーレーズ―!こっちだぞー!

頑張れー!!頑張れフレズ―!
大好きな俺様の友達!!親友ー!!
何時も遊んだりとかいろいろありがと~!!
これからも遊ぼうな~!!
そして此れも受け取れ―!!!

練りに練った光の魔力の加護を君へと応援の言葉と共に届かせる!

やっちまえー!フレズー!



●君は親友
 夜明けの海を思わせる深い色が揺らいでいる。
 深い森の中で、きらきらとした光を反射しているのは宝石の鳥籠だ。アクアマリンの装飾が美しいそれは、大きな樹にランプのように吊り下げられている。
「ちくしょー……」
「やだ……」
 兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と フレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)の声が同時に落とされた。
 その声の片方は鳥籠から。
 もう片方は地上から響いており、二人が別々の場所にいることがわかる。
 通常であれば、囚われの少女を勇気ある少年が助ける、というのが王道であり往々にして求められる展開ではあるが――。
「囚われるのがボクじゃなくて兎乃くんだなんて、姫じゃん?」
「捕まるとは聞いてたけど俺様かぁ……。抵抗する間もないとは……」
 そう、逆だ。
 鳥籠に捕まってしまったのは零時。その救出役を担うことになったのはフレズローゼとなっている。
 少女は楽しげに瞳を輝かせ、煌めく鳥籠を見上げていた。
「姫なの? 兎乃くん、ねえねえ!」
「くっ! 姫じゃねえ! けどフレズが捕まってないなら大丈夫だ!」
 零時は気持ちを切り替える。もしフレズローゼが囚われてしまったなら、いつかと同じになってしまう。姫かそうではないかは置いておいて、友達が幽閉されるよりは自分が囚われていたほうがいい。
「ご機嫌に捕まってるね。今すぐ、ぶちかまして出してあげるのさ!」
「おう、頼んだぜフレズ!」
 少女に向け、少年は信頼を向けた。
 任せて、と答えたフレズローゼは自信満々。なんていったって自分は未来の誘七の奥方様なのだから、美しく逞しく時にはしたたかに振る舞わねばならない。
「親友を助けるのは当たり前さ……ってあれ!?」
 両腕を組んだ状態で幸せ満喫の結婚生活を想像していたフレズローゼだが、頭上にあったはずの鳥籠がいつの間にか綺麗さっぱりなくなっている。
「フーレーズ―! こっちだぞー!」
「あんなところに!」
 どうやらこの奇妙な世界の鳥籠は自力で勝手に動くらしい。浮遊している宝石鳥籠から大きく手を振る零時を見つけ、フレズローゼは急いで駆けていく。
 何とか追いついた少女は、次は見逃したりしないと決意する。そうしてフレズローゼは鳥籠を見据えた。
 零時を思わせる綺麗な鳥籠を破壊するのは少し気が引けるが、こんな世界にずっと彼を閉じ込めておくわけにはいかない。
「行くよ、兎乃くん。応援したまえ!」
「確か思ってることを言葉にしたり応援すりゃいいんだよな。分かった!」
「ボクはできるアーティストなのさ! 声援があれば凄いものが描けるよ!」
「んー、でも他にもなんか……攻撃じゃ無けりゃいいだろ、うん」
 フレズローゼが意気揚々と力を振るいはじめる中、零時は籠の中で魔導書や杖を取り出していく。内部からの攻撃は鳥籠が無効化してしまう。それゆえに零時は攻撃ではない魔力を練ろうとして、同時に少女への応援を声にしていく。
「頑張れー!! 頑張れフレズ―! 大好きな俺様の友達!! 親友ー!!」
「ふふーん、親友さ!」
 気分を良くしたフレズローゼはハンプティダンプティめいたものを弾けさせ、鳥籠だけを押し潰すイメージを描いていく。
「何時も遊んだりとかいろいろありがと~!! これからも遊ぼうな~!!」
 零時はというと、浮かんだ素直な思いを言葉として紡いだ。
 その声が何だか面白くて、フレズローゼは楽しい気持ちになる。彼があんなに応援してくれるなら、自分も思いを返したいと思えた。
「こちらこそいつも遊んでくれてありがと。キミはボクの大事なマブだよ!」
 キミと切り開く未来は極彩色のパレットのよう。
 煌めいた世界を今も見ていられるのは、支えてくれたキミのおかげ。苦しい戦いもあったけれど、それ以上に楽しいことがたくさんあった。
 だから、未来の最強魔法使いに狭い檻なんて似合わない。
「フレズ!」
「なんだい、まだあるのかい?」
「此れも受け取れー!!!」
 零時は応援に乗せ、練りに練った光の魔力の加護をフレズローゼに解き放った。宝石の鳥籠がその光を最大限に反射したことで、周囲に色が広がる。
 フレズローゼの苺月の瞳に様々な彩が映った。それはまさに先程に思った極彩色のパレットそのもので――。
「ありがとう! それじゃあ一番すごいのいくよ!」
 彼の気持ちに最大の感謝をこめて、フレズローゼは心に思い描く。
 ハートの女王の城さえも吹き飛ばすほどの思いっきりの、めいっぱいを宿した全力の魔法を。その檻を破壊して、本当の宝石を取り戻すために。
「兎乃くん、硬いから平気だよね!」
「俺様が砕ける心配なんていらねぇ! やっちまえー! フレズー!」
「くらえー! これが、ボクらの!」
「「――友情パワァァーーー!!!」」
 これからもよろしく、という思いを宿して。零時とフレズローゼの力は重なり、鳥籠が大きな音を立てて崩れ落ちた。
「うわっ!」
「兎乃くん、大丈夫!?」
「痛かったが、こんなの何ともねえ!」
 脱出しようとした零時じゃ勢い余って地面に転がった。そんな彼に向けて、フレズローゼが掌を差し伸べる。少年は少しばかり照れくさそうに笑い、それから――。
 二人の手と手が、そっと重なった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
🔑
ムーくん(f09868)と

ひゃーっ!ムーくんが囚われてしまいましたーっ!
待っていてくださいねムーくん!
ばきばきに砕いて助け出してみせます!(むんっ)

でもこういうシチュエーションって本で読んだことがあるのですよね
鳥籠に囚われたお姫様を王子様が助け出す……みたいな
さながらムーくんはお姫様、私は王子様ってところでしょうか!
なんだかやる気がみなぎってきました!
ムーくんがしっかり応援してくれたらもっと頑張れそうなので
お姫様らしく応援してくださいね~!

さあ気合いを入れていきましょう!
漲るやる気はパワーに変えて!
鳥籠を殴って殴って殴り倒します

え?なんですかムーくん!
私、鳥籠を殴っているので聞こえません!


ムルヘルベル・アーキロギア
同行:織愛/f01585
🐦

ワガハイ思うのであるがな
この状況、あやつはめちゃめちゃやる気にはなると思うのであるが、そのせいで逆に鳥籠吹っ飛ばしてワガハイまで吹っ飛ぶみたいなことにならんであろうか?
ないと言い切れないのが実に怖い。しかし救助してもらわぬとめちゃめちゃ困るゆえ応援はするのであるが……は? 姫のように? やっぱりオヌシ色々勘違いしておるなってひいい! 怖い!! 助けようとしてくれておるというのは分かっていても、この距離で織愛の打撃を向けられるのはスリリングすぎるのである!!
織愛、よいか、吹っ飛ばすのは籠だけであるからな!
やりすぎて力込めるでないぞ! よいな絶対であるぞ!!!



●王子様とお姫様
 円形の本棚。
 例えるならばその鳥籠は、そんな形をしていた。
 上部と床は硬質な金属。其処にフォースを秘めたオパールのような遊色が宿っており、ときおり煌めく。ぐるりと周囲を囲む本棚には疎らにしか書が収められておらず、合間から外の様子が見えるといった様相だ。
 そして、現在の様子を一言で表すとすれば――。
「ひゃーっ! ムーくんが囚われてしまいましたーっ!」
 三咲・織愛(綾綴・f01585)の言葉がすべてを説明してくれている。
 本の鳥籠の内部にはムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)が閉じ込められている。このウサギ穴の世界に訪れ、一瞬でこの状態だ。
 抵抗する暇もなければ、景色を確かめる時間さえ与えられなかった。
 囚われの姫、もとい賢者は空中に浮かぶ鳥籠と一緒にゆらゆらと揺れている。
「待っていてくださいねムーくん!」
「わかっていたが、わかっていたのであるが……」
「ばきばきに砕いて助け出してみせます!」
 ムルヘルベルが肩を落とす中、むんっ、と織愛が気合を入れた。或る意味で予想通りの展開でしかない。
 彼女が囚われの身になる想像は出来ず、絶対にこうなると思っていた。
 寧ろ織愛が鳥籠に捕まった場合、ムルヘルベルは何が出来ただろうか。今や想像でしかないが、あっという間に彼女は自分で出てきたのではないか。
 そんなことを考えながら、ムルヘルベルは彼女の拳を見つめた。
「ワガハイ思うのであるがな」
「こういうシチュエーションって本で読んだことがあるのですよね」
「この状況、オヌシはめちゃめちゃやる気にはなると思う、というか既にもうかなりやる気であるな。そのせいで逆に鳥籠吹っ飛ばしてワガハイまで吹っ飛ぶみたいなことにならんであろうか?」
「鳥籠に囚われたお姫様を王子様が助け出す……みたいな。さながらムーくんはお姫様、私は王子様ってところでしょうか!」
 駄目だ。
 既に二人の会話は噛み合っていない。
 お互いに思うことを言葉にするだけ。というよりも織愛が目の前のことに真剣過ぎてムルヘルベルの声が耳に入っていないのかもしれない。
 しかし、それが二人らしさだ。
 ムルヘルベルが吹っ飛ぶ懸念など織愛にはなく、鳥籠を破壊しないという選択肢を彼女が選ぶことはない。
 やはりな、と諦め気味だったムルヘルベルだったが、ふと気が付いた。
 姫と王子。
 先程に聞いた織愛の言葉が引っかかった。
「……は? 姫のように? やっぱりオヌシ色々勘違いしておるな」
「なんだかやる気がみなぎってきました!」
 ――ずん。
 強い言葉と共に気迫のようなものが織愛の周囲に満ちた。
「って怖い!!」
 同時にずんずんと近付いてくる織愛の表情は明るい。だが、だからこそムルヘルベルにとっては怖い。恐ろしすぎる。
 ムルヘルベルごとぺしゃんこ、という可能性がないと言い切れない。しかし、彼女に救助してもらわなければ、ずっと籠の鳥だ。
 この鳥籠に本があることは好ましいが、冊数が少ないのですぐに読み終わるだろう。かといって周囲の全てが本で囲まれていると外が見えないので更に怖い。八方塞がりとはこのことだ。
「ムーくんがしっかり応援してくれたらもっと頑張れそうなので、お姫様らしく応援してくださいね~!」
 腕を振り被った織愛は笑顔で願う。
「応援はするのであるが、助けようとしてくれておるというのは分かるが……」
 姫らしく?
 そもそも、と考える間に拳が鳥籠越しに迫ってきており――。
「ひいい!」
 間近で轟音が響いた。人を閉じ込めて護ることに特化した鳥籠の性質によって、内部にまで衝撃は届かないようだ。だが、怖い。純粋に素直に破茶滅茶に恐怖しかない。
 いつも見ているとはいえ、こんな距離で織愛の打撃を向けられるのはスリリングかつデンジャラスかつ、と考えた次の瞬間。
 ――ドゴォ!
「もっともっと、気合いを入れていきますよ!」
 漲る気をパワーに変えた織愛が次の一撃を放つ。更にもう一撃。此れで駄目ならもう一撃、もう一閃。ゴッゴッ、ゴゴゴ、と打撃音が重なっていく。
 鳥籠を殴って殴って、更に殴って殴り倒して潰す勢いで連撃が放たれた。
「ムーくん! 待っていてくださいね、絶対に助けます!」
 真剣な織愛の思いは真っ直ぐに伝わっている。
 ムルヘルベルはその視線を真正面から受け、じっと信じて待って――否、ただ放心しているだけのようだ。
 はっとしたムルヘルベルは我に返る。
 応援を。応援をしなければこの恐怖の時間が長引いてしまう。それに強固過ぎるほどに作られた鳥籠を殴る織愛の手が傷つくだろう。
 いくら相手が織愛であり、心配はしていないとはいえど彼女も女の子。
 ムルヘルベルは意を決し、思いを言葉にする。
「織愛、よいか、吹っ飛ばすのは籠だけであるからな! やりすぎて力込めるでないぞ! よいな絶対であるぞ!!!」
 これが彼なりの応援であり、全力の思いだ。
 対する織愛はというと。
「え? なんですかムーくん!」
「いいからワガハイごと吹っ飛ばすなという意味で、ああ、ああああ!!」
 鳥籠が凹んでいく。
 めきめきと軋んで破壊されている。ムルヘルベルがさっと頭を下げなければ吹き飛んだ本が衝突していただろう。
「私、鳥籠を殴っているので聞こえません! でも、もうすぐです!」
 織愛には、自らが発する打撃音でムルヘルベルの言葉が聞こえていないらしかった。しかし、彼も応援してくれているのだと考えた織愛は更に力を込める。
 そして――。
「もういいのである! その隙間からワガハイ出られ――」
「鳥籠さん! ムーくんを、返してください!!」
 最大限の力とムルヘルベルへの思いを籠めた織愛の一閃が、鳥籠を穿った。
 轟音。散らばる本と遊色の光。
 一瞬後、鳥籠は圧縮されたゴミの残骸のようになっていた。その少し傍には命からがら籠から飛び出したムルヘルベルが蹲っている。
「怪我はありませんね。よかった!」
「オヌシは相変わらず……まあ、良かったということにするのである……」
 ぷるぷると震えるムルヘルベルは九死に一生を得た。
「大丈夫ですよ、ムーくん!」
 彼が立てないらしいと気が付いた織愛は両手を差し伸べて屈んでから、すっくと立ち上がる。こうしてムルヘルベル姫を抱く織愛王子――という構図が完成した。
「…………!!」
 姫抱きされたムルヘルベルは何も言えず、ただ彼女に身を任せるしかなかった。
 そうして、その後にどうなったのかはご想像におまかせしよう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】🔑

な、なつめ!?
そんな、オレのせいで…どうしよう

オレがなつめを…?
分かった、頑張る
こんなオレなんか信じてくれてるんだ
期待に応えなきゃ

折り紙を媒介に赤鬼と青鬼を呼び出す
いくよ、力技なら得意でしょう
邪魔な鳥籠を壊そう
オレも霊力を送ってもっと力を分けるから

鳥籠を攻撃する間、なつめの声が届く
自分では何でもないと思ってたことも、なつめは褒めてくれる
なつめの声が勇気と自信と、それから力を与えてくれるみたいで
絶望の中でも生きていける気がするんだ

人に力をあげられるなつめよりオレの方が強いなんて
そんなことないのに…

ご褒美に飴を貰ったなら思わず笑顔
けどね、飴よりなつめが無事だったことの方が嬉しいよ


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】🐦

…!ときじどけ!!(尾で十雉を突き飛ばす)
チッ。ドジ踏んだかァ…!

落ち着けときじ
お前のせいだと思うなら
お前が俺を助けてみろォ

…大丈夫だ
俺ァお前なら出来るって
信じてる

お前が死にてェほど
辛いことがあっても
しっかり歩んできたこと。
死のうと思えば死ねるのに
死なずに地に足ついて
ちゃァんと生きてきたこと。
…やな事がある度死んで
生まれ変わってきた
俺よりよっぽど

ーーー強いこと

ッはは!
やりゃあできんじゃねーか
偉いぞォ。ご褒美の飴だ
さ、ありすってのを助けんぞ
ヘソ隠して俺に捕まってなァ!

『終焉らせてやる』

夏雨と雷を轟かせ
完全竜体になれば他の鳥籠へ
攻撃し救ったアリスを
背に乗せる

そォら!いっちょあがりィ!



●勇気と飴と夏色の雨
「――!」
 ウサギ穴に降り立った瞬間、此方に迫る何かが見えた。
 唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)は周囲を確かめることなく、咄嗟に宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)を尾で突き飛ばす。
「ときじどけ!!」
「な、なつめ!?」
 鈍い痛みを感じると同時に、何かが激しく衝突する音が十雉の耳に届いた。
 突き飛ばされた勢いで地面に倒れ込んだ十雉が慌てて顔を上げると、其処には銀の鳥籠に囚われたなつめの姿が見えた。
「チッ。ドジ踏んだかァ……!」
 舌打ちをする彼が、十雉の代わりに鳥籠に捕まったことは明白だ。
 土を払って立ち上がった十雉は、なつめを取り囲む檻が姿を変えていく様を見つめることしか出来ない。銀の鳥籠の鉄格子が白の鱗に覆われていく。
 絡まるのは夏草。
 名前の分からない蔦が檻を覆う様を瞳に映し、十雉は鉄格子に手を伸ばす。だが、本当はこの鳥籠に自分が囚われるはずだったのだと思うと、自然に腕が下がった。
「そんな、オレのせいで……どうしよう」
「落ち着けときじ」
 困惑している様子の十雉に向け、なつめは首を振った。結果的にドジは踏んだがこれで良かった。もしあのまま十雉が囚われてしまう方がなつめには我慢ならない。
 それゆえになつめは落ち着いている。
「お前のせいだと思うなら、お前が俺を助けてみろォ」
「オレがなつめを……?」
「囚われの俺を開放できるんだ。悪くないだろ?」
 敢えて不敵に笑ってみせたなつめは、十雉の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「分かった、頑張る」
 頷いて答えた十雉は、彼からの信頼を感じた。こんな自分なんかを信じてくれているのなら、その期待に応えることが助けて貰ったことへの返礼になるはず。
 身構えた十雉は折り紙を取り出す。
 それを媒介にして呼び出したのは赤鬼と青鬼だ。
「いくよ、力技なら得意でしょう」
 なつめと自分を阻む邪魔な鳥籠。あれを壊そう、と十雉が呼びかければ神織の双鬼達が動き出す。白銀鱗の鳥籠を穿つ鬼達に向け、十雉自身も霊力を送っていった。
「……大丈夫だ」
「うん、頑張るから」
 なつめは内部から彼らの姿を見つめ、じっと待っている。
 内に巡る魔力の流れから、なつめ自身が何かをしても無駄だということは分かっていた。それゆえに今は信じて待つだけだ。
 その思いを十雉に伝えるべく、なつめは更に言の葉を並べていく。
「俺ァお前なら出来るって信じてる」
 なつめは少しずつ、ひとつずつ考えを声にしていった。
 たとえば、そう。
「お前は凄い。死にてェほど辛いことがあっても、しっかり歩んできたこと。俺は知ってる。お前は――」
 死のうと思えば死ねるのに。
 けれども、死なずに地に足をついてちゃんと生きてきたこと。
 自分を奮い立たせながら懸命に歩いてきたことを、解っている。
(やな事がある度に死んで、生まれ変わってきた俺よりよっぽど……)
 裡に巡った思いは胸の中に秘め、なつめは十雉に告げる。
「――強いことを、知ってる」
「……!」
 鳥籠を攻撃する間に、なつめの声が届いてきた。
 十雉が自分では何でもないと思ってたことも、なつめは褒めてくれる。なつめの声は自分になかった勇気と自信、それから力を与えてくれるみたいであたたかい。
 彼の言葉を聞くと、絶望の中でも生きていける気がする。
 強い、と彼は言ってくれた。しかしこうやって人に力をあげられるなつめより、十雉の方が強いなんてことは思えなかった。
「そんなことないのに……でも、」
「今くらいは信じてくれよ。俺を信じれば、お前自身を信じることにもなる」
 だろ? となつめは鳥籠内で笑う。
 彼からの言葉と視線を受け、十雉はゆっくりと頷いた。もっと、もっと霊力を。果敢に鳥籠を穿ち続ける双鬼に力を分け与え、十雉は扉の鍵を見据える。
 見れば、鍵は徐々に緩んできている。あれが外れるのも時間の問題だ。
「ッはは! やりゃあできんじゃねーか」
 もうすぐだ、となつめが語る声を聞き、十雉は全意識を集中させた。
「待ってて。今、助ける――!」
 そして、一瞬後。
 十雉が解き放った力を受けた青鬼と赤鬼が扉を鍵ごと突き破った。よし、と笑ったなつめは自分を囚える鳥籠から抜け出す。
 同時に籠は崩れ落ち、跡形もなく消えていった。
「偉いぞォ。ご褒美の飴だ」
「ありがとう。なつめのお陰で頑張れたよ」
 褒美だといいう飴玉を受け取り、十雉は笑顔になる。けれどもそれは飴を貰ったことではなく、なつめがこうしてすぐ隣にいることへの笑みだ。
「なんだ、もっと欲しいのか?」
「ううん、飴も嬉しいけれど……なつめが無事だったことの方が嬉しいんだ」
「はは、そうか」
 なつめは屈託のない十雉の言葉を受け、気分が高揚していくことを感じていた。そうして、なつめは次は自分の番だと告げるように力を解放する。
「行くぜときじ。ヘソ隠して俺に捕まってなァ!」
 ――終焉らせてやる。
 夏雨と雷を轟かせたなつめは完全竜体へと変化した。周囲に浮かぶ他の鳥籠は、放っておけば人を囚え続けるのだろう。
 そうはさせないとして、なつめは雷撃を撒き散らしていった。
 十雉を乗せたなつめは飛び立っていく。次の戦場を目指して――高く、高く。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
きら(f26138)と🐦

夢見鳥が籠の周りを舞い、足音と共に君の訪れを告げる
おや見つかった

間抜けに籠に囚われて
君の助けを待つだけで仕事の半分が終えられるなんて
随分と役得だと思わない?

なんて

僕が待ってあげてるんだ
これ以上が必要とでも?

繰り返される君の脚撃にビクともしない頑丈さに息吐き
――嗚呼、この檻は随分と欲しがりさんだ事
それじゃあお望み通り口にしてあげようか

あきら
君を信じているよ
僕を此処から救い出して、くれるでしょう?

この僕が赤の他人である君を“信じて”いるんだ
これ以上の想いなんて、何処を探したって見付からないよ

嗚呼、手を繋ごう
伸ばされた手に引かれ檻から放たれるんだ
君の隣を歩んでいけるように


天音・亮
まどか(f18469)と🔑

まどかみーつけた
花彩纏った翅で探し出したきみの籠
試しに扉を引いてみてもびくともしない
やっぱだめか

あ、今楽だなとか思ったでしょ
サボり禁止ー
ふふ

よっしそれじゃあ
ちょっと手荒になっちゃうけど、壊すか!
大きく伸びを
深呼吸をすれば生まれる蝶達
とりどりの花彩が脚を彩っていく

聴こえたきみの声に満面に咲い
親指立てたハンドサイン
もちろん
私はきみを助けに来たヒーローだもの
助けるよ、何があっても
そして一緒にアリス達を助けに行こう

その信頼が嬉しくて力強く駆けた先
空へ足跡残しながら振り下ろした脚撃
籠の扉が開いたなら、さあ

まどか!行こう!
きみに手を伸ばそう
その手をしっかり繋ぐために



●灰に花彩
 風すら届かない、深い深い森の景色が広がっている。
 ウサギ穴の中に現れた一角は不気味なほどに暗く静まり返っていた。其処にあるのはたったひとつの鳥籠。
 周囲は昏くとも、夢見鳥が籠の周りを舞う。
 星飾りのガーランドめいた鎖が淡い光を放っていた。しゃらりと揺れる細身の鎖の合間から、少年の瞳が覗いている。
 鉄格子に絡まるのは鎖と星。円形の床には血のような痕があり、その中に旭・まどか(MementoMori・f18469)が閉じ込められていた。
 深い森の中。揺れる鳥籠。
 僅かに浮遊している檻の傍へ、足音が近付いている。
「まどかみーつけた」
 其処に現れたのは天音・亮(手をのばそう・f26138)だ。囚われた彼を見つけても、いつもの明るい調子で微笑んでいる。
「おや見つかった」
 誰が訪れたかはまどかにも分かっていた。それゆえに彼も普段通りの視線を返す。
 花彩を纏った蝶々の羽ばたきが、此処まで導いてくれた。様々に色彩を変える蝶々達は星と鎖の鳥籠の周囲をひらひらと舞っている。
「んー、とりあえず開くか試してみるね」
 そういった亮は扉を引いてみるが、やはりびくともしない。やっぱだめか、と肩を落とす亮に対し、まどかは双眸を薄く細めた。
「間抜けに籠に囚われて、君の助けを待つだけで仕事の半分が終えられるなんて、随分と役得だと思わない?」
 なんてね、と語るまどかは鳥籠の中に座っている。
 しなやかな足から腰元、そして彼の顔を見遣った亮はくすりと笑んだ。慌ててもいなければ怯えてもいないのは、自分を信じてくれているからだと思えたからだ。
「あ、今楽だなとか思ったでしょ。サボり禁止ー」
「僕が待ってあげてるんだ。これ以上が必要とでも?」
 亮とまどかの視線が重なった。
 まどかの表情は変わらないが、亮の双眸は柔らかく緩められる。
「よっしそれじゃあちょっと手荒になっちゃうけど、壊すか!」
 大きく伸びをした亮は、続けて深呼吸する。
 そうすれば蝶達が新たに生まれ、とりどりの花彩が亮の脚を彩っていった。そのまま地を蹴れば、鳥籠の上部にまで亮の身体が浮き上がる。否、浮遊したかのようにふわりと跳躍したのだろう。
 そして――鋭い蹴撃が星の鎖を穿つ。
 甲高い衝突音が響き渡り、きぃん、と衝撃が鳥籠の中に残響する。まどかはその姿を見つめ、ただじっと待っていた。
「もう一回!」
 鳥籠上部を足場にして跳んだ亮は空中で回転を入れ、二撃目を打ち込む。
 繰り返される脚撃。
 相当な力が籠められているというのに、びくともしない鳥籠は頑丈だ。すぐに壊れてしまえばいいのに、と考えながら息を吐いたまどかは視線を巡らせる。
「――嗚呼、この檻は随分と欲しがりさんだこと」
 攻撃だけでは足りない。
 思いを、と求められているように感じたまどかは片目を眇めた。それじゃあお望み通り口にしてあげよう、と考えて、そして――。
「あきら」
「まどか?」
 蹴りを打ち込み続ける亮は、不意に呼ばれたことで首を傾げた。よく聞いてるといいと視線で伝えたまどかは言葉を続ける。
「君を信じているよ。僕を此処から救い出して、くれるでしょう?」
 この僕が赤の他人である君を“信じて”いる。
 陳腐な、音だけで綴るものなんかじゃない。
 この思いを言葉にしたことがその証だ。これ以上の想いなんて、何処を探したって見付からないはず。
「もちろん!」
 亮は満面に咲く花のように笑う。それまでも明るく咲いていた花が、それまで以上に世界を満たしていくような笑みだった。
 言葉と共に親指を立てたハンドサインにも、喜色が宿っている。
「私はきみを助けに来たヒーローだもの。助けるよ、何があっても」
 それから一緒にアリス達を助けに行って、二人で歩いて行こう。その先に何があるかなんて今は分からないけれど、此処に留まっている理由などない。
 まどかが向けてくれた言葉。
 伝えてくれた想い。その信頼が嬉しくて、亮は力強く駆けた。彼を閉じ込める鳥籠も、縛る鎖も要らない。
 亮は蝶の導きに従い、空へ足跡を残しながら翔ける。
 鋭く放った蹴りの一閃で扉に繋がれた鎖を断ち切って、更に脚撃を振り下ろす。
 そうすれば、ほら――。
「開いた!」
 巡った思いは力となって鍵を開けるものとなったらしい。きん、と響いた音を聞き、亮はくるりと宙で回ってから着地した。
 軋んだ音を立ててゆっくりと開いていく鳥籠の扉。
 星飾りの光は灰色から金色に代わり、奇妙な血の痕も薄れていく。亮は檻から出てくるまどかに手を伸ばした。それと同時に鳥籠は光だけを残しながら消えていった。
「まどか! 行こう!」
「嗚呼、君と――」
 亮の手を取り、そっと繋いだまどかは其処で言葉を止める。
 檻から放たれた今、言葉は要らない。その必要もないでしょ、と語るように向けられた眼差しを受け止め、亮は手を握り返す。
 大切なことは繋いだ手が伝えてくれるから。
 しっかりと握りあう掌が語る思いは、たったひとつ。

 ――君の隣を歩んでいけるように。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
【警咆】
🔑

(【野性の勘】で咄嗟に逃れるも)
ユキ!!
(つめたい檻に叩きつける剣鉈)
…歌で応援してくれるのかい
待ってて、すぐに、
…ユキ?
(何故いつもの元気が、余裕が、ないのだろう
けれども、それなら
やることはひとつだ)

――聞け!!!
(おんぼろギターを喚び出し「彗告」
弦の声で乱れた旋律を引き寄せ
籠を砕かんばかりにざらついた【大声】を叩きつけよう)
こんな檻はキミを縛れない
キミがしたいことを、この向こうを、見ろ!!
(檻の向こうのキミへ、届け)

応えよう――
――当然だ!!!
(ギターを剣鉈に持ち替え
茨を導火に【焼却】の一撃を)

…大丈夫。
おれたちは、ちゃんと間に合うよ。


ユキ・パンザマスト
🐦【警咆】
ドジっちまったすね
(一拍、遅れて
窖の如く錆びて冷えた鉄格子の中
檻に良い思い出はないが
打音へ、強引に笑む)
ユキにとっちゃステージだ
ええ、応援させて下さいな
対バンと洒落こみましょ

楽器演奏、大声、歌唱
(六弦を鳴らすも音ブレに歯噛み
只人の子等が囚われているのに!)

ロク、さん

(瞠目
格子の向こうへ
弾かれたよう顔を上げ、括目)
ああ、そうだ、その通りですとも、
【花舟】
鉄の茨が、心乱す嵐が何だ
その刃の輝きは、灼炎は、たった今
檻の彼方を照らす一閃でしょうか!
応えを!!

(咆哮のコール&レスポンス
茨が集い、助力へ
鮮やかな納得の一撃が響く)

全く、心強いことを仰って
有難うございます、ロクさん
行きましょう!



●咆哮の詩
 ウサギ穴の景色は不思議に変貌していく。
 妙な色をしたキノコが現れては消え、宙に浮かぶティーカップが逆さまのまま紅茶を受けれて、くるくると回っている。
 そんな光景の中を、ロク・ザイオン(変遷の灯・f01377)とユキ・パンザマスト(八百繚乱・f02035)は歩いてきていた。周囲では顔のある花がふわふわと揺れている。
 それは不思議の国では割と当たり前の景色でもあるのだが――。
「!?」
 不意に奇妙な予感がして、ロクは素早く跳躍した。
 ガシャン、という音が響いたかと思うと、ユキの声が続けて聞こえた。
「ドジっちまったすね」
 其処に見えたのは鳥籠に囚われたユキだ。ロクは咄嗟に避けたが、ユキの方は対応しきれずに捕まってしまったらしい。
 鉄の鳥籠には白い椿が絡まっている。その花々は徐々に黒く染まっていた。
「ユキ!!」
 酷く冷たい印象を受ける檻に向け、ロクは剣鉈を叩き付ける。しかし刃は跳ね返されるばかりで鉄格子はおろか花にさえ傷が付けられなかった。
 どうやら魔法で見た目より強固になっているらしく、簡単には壊せないらしい。
 ロクが自分を助けてくれようとしているだと察した、一拍後。
 ユキの裡に冷えた感情が巡る。
 窖の如く錆びた鉄格子。それはまさに檻を連想させる。檻など良い思い出はなくて、このままでは心が過去に引き摺られそうだ。
 その間にも赫灼の一斬が鳥籠を穿つ。
 何度も、何度も籠を壊そうとして響く打音。其方に意識を向けたユキは半ば強引に心を奮い立たせ、ロクに笑みを向けた。
「心配ないっすよ」
「……ユキ?」
 その笑みがいつもとは違うことに気付き、ロクは剣を下ろす。
「こんな場所でも、ユキにとっちゃステージだ」
 ユキは紅橙のアコースティックギターと白椿のピックを取り出して構えた。その様子にはっとしたロクはユキの行動の意味を悟る。
「歌で応援してくれるのかい」
「ええ、応援させて下さいな。対バンと洒落こみましょ」
「分かった。待ってて、すぐに、」
 助けるから。
 ユキにはいつもの元気も余裕もないように思えたが、こうして楽器を出してくれたならば、そして歌を紡いでくれると言うなら応えなければならない。
 そう、やることはひとつ。
「――聞け!!!」
 ロクもおんぼろギターを喚び出し、弦に触れる。
 響かせるのは彗告。弦の声で乱れた旋律を引き寄せて、籠を砕かんばかりにざらついた声を叩きつけて、そして――ユキを救い出す。
 そんな気持ちを向けたロクが音を掻き鳴らしていく。ユキも六弦を鳴らしたが、鳥籠内にいる故の音ブレに歯噛みする。
(只人の子等が囚われているのに!)
 囚われているからか、焦りが募った。しかし、ロクはその様子にも気付いている。
 音を、声を、響かせ続ける。
 それが今の自分がすべきことだと解っていた。
「こんな檻はキミを縛れない」
「ロク、さん」
 はっとしたユキは彼女の名を呼んだ。頷いたロクは更に呼び掛ける。
「キミがしたいことを、この向こうを、見ろ!!」
 檻の向こう側を。自由な外への道筋を。
 キミへ、届け。
 気付かぬうちに瞠目していたユキは弾かれたよう顔を上げ、括目した。告げられた言葉に従うように、格子の向こうへしかと視線を向けたユキは強く応えた。
「ああ、そうだ、その通りですとも、」
 花舟の歌が響き渡る。
 鉄の茨が、心乱す嵐が何だ。その刃の輝きは、灼炎は、たった今――。
 檻の彼方を照らす一閃。それが希望の光となる。
 渾身の歌唱で応えを求め、ユキはロクに真っ直ぐな眼差しを向けた。その視線を受け止めたロクは自分の全力を以てして応える。
 歌は問いかけのように巡っている。だから、ロクも思いを告げていくだけ。
「――当然だ!!!」
 爪弾いていたギターをふたたび剣鉈に持ち替え、ロクは身構えた。
 それはまさに咆哮のコール&レスポンス。
 吼える。猛る。ユキは歌と旋律で紡いだ花蔦を巡らせる。その茨を導火したロクは、すべての思いを籠めた焼却の一撃を鳥籠に与えに駆けた。
 同時に茨が集い、彼女の助力になっていく。
 刹那。
 鮮やかな紅い一閃が鳥籠を深く穿つ。そして、鍵が壊れたことを示す甲高い音が終曲を飾るように響き渡った。
 扉がひらき、鉄格子に絡まっていた椿はゆっくりと消えていく。
 其処からそっと顔を出したユキはロクのもとに駆けていった。剣鉈を手にしたロクは息を切らせているが、それも全力を賭した結果だ。
 鳥籠から出た今、感じていた不安や懸念などは綺麗に消え去っていた。
「全く、心強いことを仰って。大丈夫ですか?」
「……大丈夫」
 ユキから問われた言葉に確りと頷き、ロクは手を伸ばす。
 行こう、と示す視線と掌を受け、ユキは微笑む。そうしてロクは思いを言葉にする。
「おれたちは、ちゃんと間に合うよ」
「有難うございます、ロクさん。行きましょう!」
 重ね合わせた手と手は思いの証。
 演奏と歌に込めた想いも感情も、確かに此処に宿っている。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
🔑

菫(f14101)と

暗い昏い穴の中
囚われるは理解っているけれど
君の手を繋ぐ力は自然と強く
――軋む金属音、眼前に落ちる格子
一瞬のこと

…すみれ?
先程まで掌に感じた温もりは既に無く
唯、呆然と鳥籠に囚われた彼女の眸と視線交わり
冷たく重い格子を揺さぶって
…、っ…くそ、
こんな檻に菫を入れたくない
囚われ捨てられ死んでいく惨めさを
知る必要はない

ねえ、俺の可愛い雛鳥
きみは自由に羽撃いて
俺が何度だって、籠から逃してあげる
だから、せめて俺の隣で笑って
彼女の落涙を今度こそ拭うから

月が燿う刃を振るい
花を舞わせて鳥籠ごと覆うように

離れすり抜けた手を伸ばして
あの日菫を失くす夢を見た結末を覆そう

――噫、おかえり


君影・菫
🐦
ちぃ(f00683)と

強く握られた手を握り返し
大丈夫やと

瞬間、囚われたのは――

…ちぃ?
一瞬で断ち切られたぬくもり
鳥籠のなか
交わった眸に映ったのは自身の困惑
寒気が奔る
ちぃ、なん、で
いつしか見たキミと離れる夢が浮かべば
いとも簡単に泪が床をはたりと濡らす
持ち主たちはみんな籠の鳥やった
うちも…?

けれど聞こえるのは
キミの、ちぃの
――親鳥の聲

あんな、ちぃが居るならうちは大丈夫
親は迎えに来てくれはるんやろ?
ええ子にしとうから
…キミの隣に、行かせて

手え繋いで、頭撫でてもろて
いっしょに咲いたい、よ
本体を預ける程にこころを渡せるキミと
ずっと

夢で覚えた泪は刻まれど
潰えたぬくもりは取り戻して

――ただいま
おとーさん



●君の花
 暗い昏い穴の中。
 ウサギが導くはずの世界は今、暗闇を経て不可思議な世界に変貌している。
 ふわふわと浮かぶ鳥籠。奇妙に揺らいでは変わっていく光景。此処で何方かが囚われることは理解っていたが、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は、隣を歩く君影・菫(ゆびさき・f14101)の手をしかと握っていた。
 君の手と自分の手。繋ぐ力は自然と強くなる。
 菫も千鶴の手を握り返し、大丈夫や、とそっと言葉にした。
 しかし――。
 それはたった一瞬のことだった。
 不意に聞こえたのは軋む金属音。繋いでいた手は吹き抜けた強い風によって離れ、菫の身体が何かに攫われた。
 千鶴の瞳に映ったのは、眼前に落ちる格子。
「……すみれ?」
「ちぃ?」
 鉄格子に隔たれたふたりの間に、互いを呼ぶ声が響いた。
 先程まで掌に感じていた温もりは既に無く、あるのは錆びた鉄格子が奇妙に歪んでいる鳥籠だけ。其処には菫の名に相応しい、君影草とスミレの花が絡みついている。
 それは酷く不釣り合いで、囚われた彼女の瞳が灰色の鉄の中で不安気に揺らいだ。
 唯、呆然としていた。
 されどすぐにはっとした千鶴は冷たく重い格子を揺さぶる。
「……、っ……くそ、びくともしない」
 無駄だと解っていてもそうするしかなかった。千鶴は顔をあげ、菫を見つめる。
 断ち切られたぬくもりの名残はもうない。
 鳥籠の内から、菫も彼を見つめ返した。交わった眸に映ったのは自身の困惑する顔で、菫はそっと手を伸ばそうとする。
 その瞬間、寒気が奔った。
「ちぃ、なん、で……」
 いつしか見た、彼と離れる夢が菫の裡に思い浮かぶ。泪が溢れ、その雫がはたりと色のない床を濡らした。
「持ち主たちはみんな籠の鳥やった。うちも……?」
「違う……違う、菫」
 泪が伝う頬に手を伸ばし、千鶴は首を横に振る。距離は近いというのに檻越しでは妙に遠く感じてしまい、彼の中に巡る思いにも焦燥めいたものが宿っていった。
 こんな檻に菫を入れていたくない。
 囚われ捨てられ、死んでいく惨めさを、彼女が知る必要はないから。
 鉄格子の隙間から触れられるのは指先だけ。それでも千鶴は菫から零れ落ちる雫を指先ですくい、そっと囁く。
「ねえ、俺の可愛い雛鳥」
「……ちぃ」
「きみは自由に羽撃いて。俺が何度だって、籠から逃してあげる」
 だから、せめて俺の隣で笑って。
 今の不安ごとこの檻を壊してみせる。落つる涙を今度こそ、こうやって拭って笑顔に変えるから。
 聞こえた声に顔を上げた菫はちいさく頷く。
 キミの、ちぃの――親鳥の聲。
 心が不思議と穏やかになっていくのは、やさしい言葉が聞こえるから。
 下がって、と告げて燿夜の刃を抜き放った千鶴。ほんの少しだけ彼との距離が離れてしまうが、菫の心には希望の光が射していた。
 千鶴は月が燿う刃を振るい、花を舞わせてゆく。
 世界を閉ざす鳥籠ごと、菫を覆うように。錆付きかけた偽りの花になど囚われないよう、何度も、何度も刃を振り下ろす。
 菫はその姿を眸に映し、抱く思いを言の葉に変えていった。
「あんな、ちぃが居るならうちは大丈夫」
「……ああ」
「親は迎えに来てくれはるんやろ? 絶対に、絶対に。信じて、ええ子にしとうから」
 ――キミの隣に、行かせて。
 手を繋いで、頭を撫でて貰って。たったそれだけで幸せ。
 そうして、いつものように。いつも通りに、変わらずに。
「いっしょに咲いたい、よ」
 己自身を預ける程に、こころを渡せるキミと。ずっといっしょに。
 菫の思いは鳥籠の呪縛を解いていく。
 夢で覚えた泪は刻まれど、潰えたぬくもりは取り戻してみせる。ただ囚われているだけではないのだと示す菫の思いは強い。
 月華を映す刃は振るわれ続け、鳥籠の鍵を穿っていく。
 はらりと舞う桜を見上げた菫は千鶴を信じ続けた。もう一度、手と手を繋ぎたい。そのぬくもりを確かめて、微笑みを咲かせたい。
 あの桜のように。傍で咲く菫のように――。
 そうして、ふたりの思いが重なり、ふたたび視線が交わった瞬間。
「開いた……!」
 鋭く甲高い音を耳にした千鶴は、鍵が崩れ落ちたことを悟る。剣を下ろした千鶴は菫を救い出すために手を伸ばし、扉をひらいた。
 鳥籠から抜け出した菫は両手を伸ばし、千鶴も彼女を迎え入れるように腕を広げた。
 もう、ふたりを阻むものは何もない。
 離れてすり抜けてしまったものを、此処に取り戻す。
 そんな思いを抱いた千鶴は菫を抱き留めた。
 あの日、菫を失くす夢を見た結末を覆すため。そうして、此処からまだ視えぬ未来と幸福を繋げていくために。これはきっと、幸せへの一歩目。
「――噫、おかえり」
「――ただいま、おとーさん」
 互いが宿すあたたかさと感情の熱を確かめ、ふたりは咲った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波紫・焔璃
🔑

彩灯(f28003)と

うわあ…ほんとに暗いね
いいの?ん、繋ぐ!

…え?
繋ごうとした掌が空を切る

あ、彩灯!?大丈夫!?
あたしは大丈夫だけど…もう、何なのこの籠!
押しても引いても開かぬ扉

は?海の藻屑?
ちょっと、彩灯!惜しくないとか言わないで!
あんな兎の思い通りにはさせない!と鍵の破壊を試みて
伸ばされた手が自分に触れれば、その手に自分の手を重ねる

~っ!
ぜったい!ぜーったい、彩灯を此処から出す!!
あたしといてくれるって約束、守ってもらうんだから!!

この温もりを無くしたりしない
気付いたらまた一人だなんてもう嫌
焼いて砕こうと爍華を振り下ろす

約束守ってくれれば、それでいいよ
んで、色んなとこ遊びに行こ、ね?


壱織・彩灯
🐦

焔璃(f28226)と

…ほう、意外と穴は暗い
焔璃、逸れぬ様に俺と手でも繋ごうか?

差し出そうとした掌は
寸前で遮られ檻が落ちてくる

……噫、鳥と見做すは此の俺か
其方は怪我は無いか?
焔璃をこのような場所に捕らわれる位ならば
この身など惜しくは無いし、些事で在るが

だがな、俺もずうと孤独の中に身を投じている故
鳥籠の隙間からゆうるり指先だけを彼女へ伸ばして

当たり前に在る温もりを絶たれることは
――寂しくて、恋しいものじゃ
告げるおとは掠れ小さきもの
彼女が重ねる掌に縋り
ああ、約束したものな

其方の鮮やかな籠の破壊を見守り
飛び立つことが叶うなら
そうだな、褒美は……
欲の無い仔だ、約束は無論
共に遊ぶは俺にも褒美だな?



●約束への路
 様々に変化するウサギ穴の内部。
 踊るキノコに笑う花。浮かぶティーカップやお茶会テーブル。明るい光が射し込む箇所もあれば、星が瞬く場所もあり、夜のように暗いところもある。
 壱織・彩灯(無燭メランコリィ・f28003)と波紫・焔璃(彩を羨む迷霧・f28226)は、その中でもひときわ暗い場所に降り立っていた。
「……ほう、意外と穴は暗い」
「うわあ……ほんとに暗いね」
 一寸先は闇。そんな言葉が相応しくもある世界には、淡く光る鳥籠が幾つもふわふわと浮かんでいる。
 彩灯は頭上の鳥籠を見上げた後、焔璃の方に手を伸ばした。
「焔璃、逸れぬ様に俺と手でも繋ごうか?」
「いいの? ん、繋ぐ!」
 焔璃もこのままでははぐれてしまうと感じて、隣を歩く彼に手を差し伸べた。
 だが――。
「え?」
 繋ごうとした掌が空を切り、代わりに硬質な音が響き渡る。
 彩灯の腕を遮るようにして落ちてきた檻は、手が繋がれる前に彼を閉じ込めた。鉄格子が落ちてきた、と感じたときにはもう彩灯は鳥籠の中にいた。
「……噫」
 自分が閉じ込められたのだと察した彼は微かに頷く。
 焔璃も今の状態がどんなものなのか気付き、急いで鳥籠に駆け寄った。
「あ、彩灯!? 大丈夫!?」
「鳥と見做すは此の俺か。其方は怪我は無いか?」
「あたしは大丈夫だけど……もう、何なのこの籠!」
 その鳥籠は瞬く間に姿を変え、内部に鴉の羽のようなものが散っていく。鉄格子には植物の鬼灯が絡まり、怪しい光を放っていた。
 扉には漆黒の錠前が見えており、一筋縄では開かない雰囲気が満ちている。
 無意味だと解っていても、焔璃は扉を揺らしてみた。しかし押しても引いても開かぬ扉は動きすらしない。
 彩灯は焔璃がどうにかして自分を出そうとしてくれているのだと察する。
 しかし、これでいいとも思えた。彼女の方がこのような場所に捕らわれるくらいならば、自分が捕まっていたほうが幾分もマシだ。
「ふむ。この身など惜しくは無いし、些事で在るが……」
「は?」
 彩灯が落とした言葉を聞き、焔璃は顔を上げた。鳥籠に囚われ続けてもいいと言っているような彼の言葉は聞き捨てならない。
「ちょっと、彩灯! 惜しくないとか言わないで!」
「そうは云うがな、俺もずうと孤独の中に身を投じている故だ」
「だからって、あんな兎の思い通りにはさせない! 見てて、すぐに開けるから」
「待て、焔璃」
「どうしたの?」
 焔璃が鉄格子から離れようとしたとき、彩灯は少しだけ彼女を呼び止めた。そうして鳥籠の隙間からゆうるりと、指先だけを伸ばす。
 そうすれば、先程は繋げなかった手と手が重なった。
「当たり前に在る温もりを絶たれることは――寂しくて、恋しいものじゃ」
 彩灯が告げるおとは掠れていて、とてもちいさなものだった。しかし手を重ねられる距離にいる焔璃にはしかと聞こえている。
 全てを諦めたような彼が落とした、寂しい、恋しいという言葉。
 それを聞いて奮い立たないはずがない。
「~っ! あたし、ぜったい! ぜーったいに、彩灯を此処から出す!!」
「おや、図らずも焚き付けてしまったか」
 そのつもりではなかったとして彩灯は何処か申し訳無さそうな顔をした。対する焔璃はぐっと片手を握ってみせる。
「あたしといてくれるって約束、守ってもらうんだから!!」
 触れ合っている手。
 この温もりを無くしたりしない。気が付いたらまた一人だなんてもう嫌だから。
「ああ、約束したものな」
 彩灯は彼女が重ねてくれた掌に縋るように、そっと双眸を細めた。
 そして、手を離した焔璃は鉄格子を見つめる。いくらこの鳥籠が彼を象徴するような色や形をしているとしても、自分達の約束を阻むものだ。
 そんなものなら焼いて砕いて、最初から無かったくらいに壊せばいい。
 焔璃は一度籠から離れ、爍華を振り上げた。勢いを乗せるように駆けて、ロッドを一気に振り下ろす。
 紅玉髄と橄欖石が煌めき、鬼灯が絡まる鉄格子を穿った。
 思いはもう受け取っている。
 彩灯は鮮やかと称せる彼女の一撃のひとつひとつを見守り、徐々に鳥籠が破壊されていく様を瞳に映した。
 約束を果たす。これだけはなかったことになんてさせない。
 やがて、焔璃の思いは確かな力へと変わり――彩灯を閉じ込める扉が破壊された。
 錠前が地面に落ち、彩灯は解放される。
 開いた扉から飛び立つように降りた彼は、息を切らせている焔璃に歩み寄った。これほどに頑張ってくれた彼女には何か礼をしたいと思えた。
「そうだな、褒美は……」
「約束守ってくれれば、それでいいよ」
 呼吸を整えた焔璃は薄く笑み、ご褒美なんていらないと話す。彩灯は彼女らしい答えだと感じつつ頷いた。
「欲の無い仔だ、約束は無論」
「んで、色んなとこ遊びに行こ、ね?」
「そうか。共に遊ぶは俺にも褒美だな?」
 そして、焔璃と彩灯の間に微笑みが宿る。約束は、きっと――この先で巡るから。
 もう一度、改めて手を取り合ったふたりは暗闇の先へと歩き出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】🐦
アドリブ◎
ある意味見馴れた籠の内側の風景
そんなものより気になるのはアレスの様子だ

アレス、ちゃぁんと助けてくれるんだろ?
わざと軽い調子で笑って言葉をかけて
いや…こんな余裕で笑ってられるのはアレスが近くにいてくれるからだ
そこまで、正直に口にはしないけど
信じてるぜって言葉は真っ直ぐに伝えよう

ああ、アレス
それがお前の力になるのなら
何度だってその名を呼んでやる

「愛してるぜ、アレス」

俺の盾、俺の光
何時だって俺の自由は
俺の未来はお前が照してくれる
言葉じゃうまく言えない気持ちを名前に込めて
何度だって呼ぶから
だから、こんな檻
とっととぶち壊して先に行こうぜ!
【赤星の盟約】
思いを込めてアレスに届かせる!


アレクシス・ミラ
【双星】🔑
アドリブ◎

思い起こすのは故郷で戦っていた頃
辿り着いた先、セリオスを攫った吸血鬼の城で見た…空っぽの鳥籠
籠の中の彼も一瞬攫われた頃の姿に見えてしまって
心は穏やかにはいられない―

彼の声にハッとする
―あの時とは違う
ああ…絶対に

…セリオス
僕の名前を呼んでくれないか
君に名前を呼ばれる事
それだけでも僕の力になると分かったから

必ず助ける意志と共に
光纏う剣で斬ろう

…彼の言葉に思わず少しだけ驚く、けど
きっと彼の中では1番の言葉で
名を呼ぶ声に込められた想いも見えた気がして
その想いに、歌に応えたい
彼を…僕の剣を
…大切な、僕の光を
守りたいと強く思う
自然と笑みが零れた

開けられたら手を差し出そう
―迎えに来たよ



●君の声
 美しく囀る黒い鳥。
 それこそが彼をあらわすに相応しい言葉だ。
 セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)を見つめるアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)の胸裏には、故郷で戦っていた頃の記憶が浮かんでいた。
 確か、あのときは――。
 辿り着いた先、セリオスを攫った吸血鬼の城で見た空っぽの鳥籠。
 あの日の光景と今の景色が重なる。
 現在、セリオスは漆黒の鳥籠に囚われている。剣を思わせる鋭利な形をした鉄格子に阻まれた彼の姿は、アレクシスにとってよくないものだ。
 アレクシスには、籠の中にいる彼が攫われた頃の姿に見えてしまっている。
 心は穏やかにはいられない。
 そんな彼の思いを感じ取ったセリオスは敢えて薄く笑ってみせる。
「なんて顔してるんだ、アレス」
 自分にとってはある意味で見馴れた籠の内側からの風景。世界が閉ざされた感覚などよりも、気になるのは彼の様子。
「……セリオス」
 アレクシスは聞こえた声にハッとして、意識を今に引き戻す。
「アレス、ちゃぁんと助けてくれるんだろ?」
 わざと軽い調子で笑って言葉をかけてくれたセリオス。その瞳にはアレクシスにだけ向ける揺るぎない信頼が宿っている。
 ――あの時とは違う。
 今と過去の違いをしかと確かめたアレクシスは深く頷いた。
「ああ……絶対に」
「それなら俺は此処で待ってる」
 頼むぜ、と告げたセリオスは普段と変わらぬ笑みを浮かべる。こんなに余裕で笑っていられるのは、他でもないアレクシスが近くにいてくれるから。
 もしたったひとりで囚われたなら、自分だって過去を思い出してしまうだろう。
 そんなことまでは決して口にはしないが、アレクシスにだって伝わっているはず。
「信じてるぜ、だから――」
 セリオスは真っ直ぐに伝える。此処から出して、助けてくれ、と。
 白銀の騎士剣を構えたアレクシスは勿論だと答える。そして、必ず彼を救うことを剣に誓った。暁光に閃く剣の切っ先を鳥籠に向け、アレクシスはそっと願う。
「……セリオス、僕の名前を呼んでくれないか」
 君に名前を呼ばれること。
 たったそれだけで自分の力になると分かったから。
 君の声があれば、もっと強くなれる。この名が彼の声で紡がれるだけで幸福が満ち、勇気と力も湧いてくる。
「ああ、アレス」
 セリオスは願われた通りに、はっきりと名を声にした。
 それが力になるのなら、何度だって、幾度でも呼んでやるだけだ。
 暁の星は剣に。
 彼の声はこの胸に。
 アレクシスは己の裡にあたたかな心地が宿っていくことを感じながら、光を纏う剣を振り上げた。必ず助ける意志と共に下ろした剣は鳥籠を穿つ。
 刃が弾き返されようとも、傷一つ付けられずとも、扉を開けられるまで、何度も。
 剣と檻が衝突する音が響き続ける。
 懸命に、真剣に刃を振るっていくアレクシスをセリオスの瞳が映していた。
 俺の盾、俺の光。
 自分だけの、と彼を見つめ続けるセリオスはそうっと花唇をひらく。
 伝える思いは一言でいい。今、彼に伝えるべき言の葉は――。
「愛してるぜ、アレス」
「……!」
 アレクシスは彼の言葉に思わず少しだけ驚いたが、剣を握る手に力を込めた。
 きっとこれは彼の中では一番の言葉。自分が願った通りに、名を呼んでくれた声に込められた想いも見えた気がする。
 セリオスは何度も、アレス、アレスと彼を呼んだ。
 何時だって、自由や未来はお前が照してくれるから。言葉ではうまく言えない気持ちを名前に込め、呼び続けるから。
「だから、こんな檻。とっととぶち壊して先に行こうぜ!」
 赤星の盟約――オース・オブ・ナイト。
 呼びかけと共に巡らせるのは想いを込めた歌。失った故郷の音楽を奏でる歌声は確かにアレクシスに届き、更なる力となっていく。
 その想いに、歌に応えたい。
「……僕の剣を……大切な、僕の光を」
 守りたいと強く思う。
 鳥籠の中で歌うセリオスの微笑みを見れば、アレクシスの口許にも自然に笑みが浮かんだ。そして、彼だけの騎士は刃を大きく振るいあげる。
 その剣から放つ意念の光刃――光閃は、青星と共にあればより強く耀く。
「返して貰おう。僕の星を!」
 アレクシスは大切なひとを閉じ込める檻に向け、光の一閃を見舞った。
 刹那、閉ざされていた扉が崩れ落ちる。
 軋んだ音を立てて開いた鳥籠に向け、アレクシスは手を差し伸べた。セリオスが扉をくぐると黒の鳥籠は霧散するように消えていく。
「――迎えに来たよ」
「ああ、アレス……」
 ありがとう、と告げる言葉の代わりにセリオスはその名を声にした。それだけで伝わる想いを確かめるように――。
 二人を阻むものが無くなった世界で、互いの手と手が重ねられた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『マーダー・ラビット』

POW   :    きす・おぶ・ざ・です
【なんとなく選んだ武器】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    ふぁんとむ・きらー
【糸や鋏、ナイフ等】による素早い一撃を放つ。また、【使わない武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    まさくーる・ぱーてぃ
自身の【殺戮への喜びによって瞳】が輝く間、【自身の全て】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠終夜・嵐吾です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●マーダー・スクランブル
 アリス達は鳥籠から救い出され、囚われた者達も無事に脱出できた。
 後は不可思議に揺らぐウサギ穴の出口に向かうだけ。猟兵達は気を引き締め、マーダー・ラビットが待つという次の戦場へ急いだ。
 穴の出口に近付く度に辺りが暗くなり、不穏な空気が満ちていく。
 やがて、真っ暗闇とも呼べる空間に辿り着いたとき。

「おやおや、やっぱり出てきちゃいました~?」
 猟兵とアリス達を迎えたのは、穏やかに笑う時計ウサギだった。
 口許は笑っており、口調も軽いものだが、その目だけは笑っていない。しゃき、と片手に持った鋏を鳴らしたマーダー・ラビットは猟兵達を見遣る。
「アリス達ではないですが、ご褒美に殺してあげましょうね! うんうん、なかなかに解体しがいがありそうです!」
 まるで遊びの延長のように殺人ウサギは軽く語った。
 彼とはまともには話が通じないだろう。何故なら、彼は殺戮に喜びを感じる狂気の時計ウサギだ。戦いが始まるからこそテンションが高いようが、それ以外の話や物事になれば興味などまったく示さない。
 アリス達を殺そうとする以上、必ず倒さなければならない存在だ。
 そして、マーダー・ラビットは殺戮への意志を見せる。
「それじゃあ始めましょうか。誰が一番に死ぬかな? とっても楽しみですね~!」
 
スミンテウス・マウスドール
アンネ/f18025 と乾杯。

狂気の時計ウサギ!
狂ってるうえにウサギなんて…イカれてるどころじゃないね。こりゃあ、大変だよ。
愉快な仲間はアリスのため。
アリスのためにお仕事しよう。

今日の紅茶はマーダーなウサギ。茶菓子はアンネのタルト。
アンネ、タルト好きだね。
ノロマは嫌だから、1ピースいただくよ。

お仕事。
早業で移動、ウサギには近づかないようにね。
アンネとの連携で隙を付いて、フェイントで足をひっかけるぜ。
毒使いで淹れた、巨大ティーポットに落とす。

いけ、カトラリー。目指せ、串刺し。
うーん、いい香り。

脱出おめでとうの日だったね。
せっかくだから乾杯しよう。


安寧・肆号
スミン/f25171

あら、まあ。
三月じゃなくて、血に酔ったウサギなんてナンセンスね。
ここは素敵な不思議の国。アリスたちを傷物にしてはいけないわ。

まずはワルツカードの[弾幕]を展開ね。彼が自由に動きづらいようにするの。
彼の攻撃に注意しつつ【女王のタルト】を発動!
―She made some tarts!

スミンには先にひとかけら。
あたしの茶菓子は用意できたわよ。
お茶はアナタに任せていいかしら?

スミンのフェイントに加勢して、彼の近くに弾幕を放つわ。
ウサギ入りの紅茶なんて、飲んだら狂っちゃいそう。
でも、良い香りね!
鳥かごと、ウサギと、アリスにも乾杯を!



●はじまりの乾杯
 真っ暗闇としか言えない穴の端。
 すぐ其処は外だと言うのに、脱出できない出口には敵が立ち塞がっていた。
 誰が一番に死ぬかと笑って語る時計ウサギ。マーダー・ラビットが鋏を鳴らす中、スミンテウスと肆号は身構える。
「あら、まあ」
「狂気の時計ウサギ!」
「おやおや、可愛いらしいネズミさんとお人形さんですね~。これは壊し甲斐がありそうで素敵ですよ、っと!」
 へらりと笑ったマーダー・ラビットは二人を見て笑った。
 次の瞬間、白く光る何かが見えたかと思うと、相手から鋭い糸の一閃が放たれた。はっとした二人は即座に後方に下がる。それまでスミンテウス達が居たところに鋭利な糸が通り、ひゅ、と風が鳴る音がした。
「三月じゃなくて、血に酔ったウサギなんてナンセンスね」
「狂ってるうえにウサギなんて……イカれてるどころじゃないね。こりゃあ、大変だよ」
 敵の攻撃が厄介だと感じた肆号は首を横に振り、スミンテウスは軽く肩を竦める。
 今はまだマーダー・ラビットの意識は此方に向いているが、いつ双子のアリス達に向くとも限らない。あんなにへんてこな鳥籠に閉じ込められた後は糸でぐるぐる巻きなんて勘弁願いたいものだ。
「ここは素敵な不思議の国」
「愉快な仲間はアリスのため」
 肆号はウサギ穴の向こうに続く不思議の国を思い、スミンテウスは猟兵と共に闘おうとしているアリス達を思う。
 そして――。
「アリスたちを傷物にしてはいけないわ」
「アリスのためにお仕事しよう」
 二人の声が重なった瞬間、マーダー・ラビットへの反撃が始まった。
 肆号がこれまで拾い集めてきた楽譜が周囲に舞い、音符の弾幕が時計ウサギに向かって飛んでいく。それはまるで戦いの序曲を奏でているかのようだ。
 ――She made some tarts!
 更に肆号はハートのクイーンのタルトを用意していく。マーダー・ラビットは素早く、何とかして動きを封じなければ太刀打ちできなさそうだ。
 されど相手はタルトを出せば受け取り、簡単に楽しんでしまうだろう。それゆえに弾幕を張ることで彼が自由に動けないようにしている。
「スミン、あたしの茶菓子は用意できたわよ。お茶はアナタに任せていいかしら?」
「アンネ、タルト好きだね。ノロマは嫌だから、ひとついただくよ」
 その様子を眠たげな眼で見遣ったスミンテウスは、手を伸ばしてタルトを一口。そうして彼は想像を巡らせていった。
「今日の紅茶はマーダーなウサギ。茶菓子はアンネのタルト。似合うティーセットは……うん、ああいうのがいいな」
 スミンテウスの頭上に現れたのはウサギの耳がついた巨大ティーポットをはじめとした茶器だ。踊るように宙を舞うそれらは彼の周りをぐるぐる回った。
「おっと、僕を除け者にするなんてずるいなあ! ひとつ頂きますよ!」
 しかしそのとき、音符の弾幕を越えてきたマーダー・ラビットがひょいと肆号のタルトを手に取った。攻撃が来る、と思って身構えた肆号だったが、時計ウサギはさっと女王のタルトを食べるだけに留めて身を引く。
 口許と指先をぺろりと舐めたマーダー・ラビットは余裕綽々だ。
 もし彼が肆号を斬る心算であれば、そう出来ていた距離。スミンテウスは耳をぴんと立て、尾を不機嫌そうに揺らした。
「アンネ、もうウサギには近づかないようにね」
「ええ!」
 肆号自身も危機を察していたらしく、自分の代わりに前に出たスミンテウスに頷く。そして、スミンテウスは辺りに浮かぶティーセットと共に敵に向かっていった。
 ふふ、と笑ったマーダー・ラビットが鋏を振るってきたが、飛び出したソーサーが盾代わりとなって一撃を防ぐ。
 刹那、肆号が後方から飛ばした音符が敵を包み込んでいった。
 今だと感じたスミンテウスはマーダー・ラビットへとフェイントの足払いを放った。
「くらえ、イカれウサギ」
「うわっと、危ないですね~!」
 弾幕に気を取られていた敵はスミンテウスの足に引っかかり、バランスを崩す。その隙を見てスミンテウスは毒を淹れた紅茶が並々と入った巨大ティーポットに落とした。
 流石のマーダー・ラビットも対処しきれずに、辺りはお茶の海。
「……なかなか。やりますね!」
 ふるふると首を振った時計ウサギの耳や髪から、お茶の雫が飛び散った。その間にスミンテウスと肆号は次々と攻撃を仕掛けていく。
「いけ、カトラリー。目指せ、串刺し」
「良い格好ね。けれどウサギ入りの紅茶なんて、飲んだら狂っちゃいそう」
 食器と茶器の進軍。
 ワルツを奏でるような運びで飛び交う音符達。
 攻撃を中断して、それらを避けることに専念しているマーダー・ラビットからはふんわりとしたお茶の香りが漂ってきていた。
「うーん、いい香り」
「でも、良い香りね!」
 スミンテウスと肆号の声がふたたび重なる。
 それからスミンテウスは毒の入っていないネズミ型ティーポットから二人分の紅茶を注いだ。まだままだマーダー・ラビットとの戦いは巡るが、タルトもまだ食べ終わっていないので急ぎすぎる必要もない。
 そうして、二人は手に取ったカップを掲げた。
「脱出おめでとうの日だったね。せっかくだから乾杯しよう」
「鳥かごと、ウサギと、アリスにも乾杯を!」
 視線と共に交わされた乾杯。
 それはこの戦いの勝利を称える前祝いのように、快い音を響かせた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【狼兎】
楽しそうにしちゃって
同じ好戦的でも紫崎君とは大違い

接近戦を避け遠距離攻撃に絞るため
翼の【空中戦】で敵から距離を取り

アリスくん手伝って!

お願いしたいのは足止めと敵のPOWUCの誘い出し
【彩音】発動
大声を出す事で具現化した巨大文字をウサギさんに飛ばし
遠攻撃は弾きながら一時的に視界を奪いつつ回避行動を取らせる
そのタイミングで魔法の絵本で攻撃してほしい
ダメージより、気を引いて隙を作る事優先で

僕は兎の聴力を逆手に
【催眠術】を乗せた【歌唱】で敵の思考を乱しながら
具現化したメロディラインをロープ代わりに放ち敵を捕縛
後は紫崎君達に任せる!

アリスくんも狼さんも怪我はない?
終わったら回復してあげるからね!


紫崎・宗田
【狼兎】
はっ、潔い程の屑野郎だな
殺りがいあって嫌いじゃねぇぜ

★剛壊刃~龍~を用いて
敵が澪に近づく隙を与えぬよう接近戦

そこの狼!テメェも手伝え!

特に指示は与えない
騙された悔しさも囚われた怒りも
全てぶつけるつもりで自由にさせる
狼同士…動きも合わせやすいしな?

危ない時は【庇う】覚悟で
攻撃には【カウンター】として武器の【なぎ払い】を叩き込み【吹き飛ばし】
時には【怪力】を乗せる事で【衝撃波】の鎌鼬を作り遠攻撃を
俺が攻撃すると見せかけた【フェイント】で狼に仕掛けさせ
怪我の痛みは【気合い】で対処

澪達が隙を作ってくれたと同時に【炎狼】を発動
炎の【属性攻撃】を操りながら、ブリキ狼との連携で喰らいついてやる



●信念は此処に
 マーダー・ラビットが笑っている。
 アリスの命など、ただの玩具であるかのように軽く、高らかに。
「はっ、潔い程の屑野郎だな」
「楽しそうにしちゃって、呆れちゃうね」
 宗田は剛壊刃を構え、澪は翼を幾度かはためかせた。彼の巨大剣に宿る赤い龍の紋様が鈍く反射する様を横目で眺め、澪はそっと呟く。
「同じ好戦的でも紫崎君とは大違いだね」
 対する宗田はというと、澪が好戦的だと示したように強い闘気を宿していた。
「殺りがいあって嫌いじゃねぇぜ」
「ちょっとそこの人、殺られがいの間違いでは?」
 すると宗田の声を聞いたマーダー・ラビットが可笑しそうに告げてくる。此方を殺す相手としてしか見ていないことが分かる言動だ。
 きっと、気を抜けば手痛い攻撃が向かってくるはず。そのように察した澪と宗田は救出されたアリス達に声をかけることにした。
 澪は自身が接近戦を避けて遠距離攻撃に絞るため、翼を広げる。
 飛ぶと同時に後方に下がった澪は、敵の出方を窺っていたアリスに声を掛けた。
「アリスくん手伝って!」
「そこの狼! テメェも手伝え!」
 宗田も澪を守るように立ち回りながら、ブリキのオオカミに呼び掛ける。
「わ、なあに?」
「……?」
 アリスくんとオオカミは澪と宗田に振り返り、どうしたのかと問いかけた。澪は協力して欲しいと願い、宗田も「来い!」と示す。
「あのね、アリスくんにお願いしたいのは足止めと敵の誘い出しだよ」
「おびき寄せるってこと? うん、わかった!」
 気合を入れるように帽子を被り直したアリスくんは、飛び出す絵本を構えた。お願い、と告げた澪は彩音を発動させていく。
「――教えてあげる。世界に溢れる鮮やかな音!」
 其処から大声を出す事で具現化した巨大文字をマーダー・ラビットに飛ばし、澪は宗田に視線を送る。その機を狙って動いた宗田はブリキのオオカミと並走し、時計ウサギへの一閃を叩き込みに向かった。
 アリスは絵本から飛び出す花や蔦で敵を引き寄せている。
 それは澪の指示のもとに行われているが、宗田は特にオオカミに指示は与えない。
 騙された悔しさ、囚われた怒り。
 敵へ抱いている思いを全てぶつけさせるつもりで自由にさせる。それが宗田の狙いであり、互いに最大の力を出せる連携だと思っていた。
「狼同士……動きも合わせやすいしな?」
「……ガウ」
 宗田の声を拾ったオオカミは短く答え、マーダー・ラビットへ鋭い爪を振り下ろす。其処にフォローを入れるようにして宗田が剛壊刃を薙ぎ払った。
 更に澪がマーダー・ラビットからの糸攻撃を弾き、巨大文字で一時的に視界を奪っていく。そうすれば敵に回避行動を取らせることができ、アリスくんもそのタイミングで魔法の絵本で攻撃し続けられる。
 狙いはダメージよりも、気を引いて隙を作ること。
 さながら司令官めいた動きをしている澪。澪に敵が接近する隙を与えぬよう、宗田は可能な限りの近接位置をキープしている。
 それはさりげない動きではあったが、澪にはちゃんと分かっている。
(紫崎君はやっぱりすごいな……)
 僕を守ってくれている、と確かに実感している澪はそっと笑った。それならば自分も彼に報いることの出来る動きをしたい。
 そう感じた澪は次の一手に移っていく。
 オオカミと宗田が同時に斬り込んだ瞬間を狙い、澪は催眠術を乗せた歌を響かせた。
 兎の聴力を逆手に取った作戦だ。
「おやおや~? 妙に調子が狂いますね……!」
 マーダー・ラビットは攻撃を止め、澪の歌が原因であることを悟る。宗田は敵の意識が彼に向いたと知り、怪力を込めた衝撃波を解き放った。
「お前の相手はこっちだ!」
 鎌鼬となったそれは敵を穿ち、決して澪には触れさせないという意志を示す。
 敵の側面に回り込んだ宗田はオオカミに目配せをした。自分が攻撃する、と見せかけたフェイントでオオカミに仕掛けさせる。
 その間に澪は具現化したメロディラインをロープ代わりにして、敵を捕縛しようと試みた。されど、マーダー・ラビットもまだ体力が有り余っている。
 ひらりと避けた時計ウサギはメロディの上に跳躍した。
 しかし、すぐに宗田とオオカミ、アリスくんがその後を追っていく。
「後は紫崎君達に任せる!」
「おう!」
 絶対的な信頼を向けた澪は援護に回っていった。宗田は炎を操る黒狼に変異しながら、オオカミ達と共にマーダー・ラビットを一気に攻撃していく。
「へぇ、それなりにやりますね!」
 敵は痛みを負ったが、素早く身を翻すことで此方との距離を大きく離していった。アリスくんは悔しげに息を吐き、呼吸を整える。
「うう……攻撃があたらなかった」
「アリスくんも狼さんも怪我はない? 終わったら回復してあげるからね!」
「だいじょうぶ! まだ戦えるよ!」
「……ワウ」
 アリスくんは澪が励ましてくれたのだと気付いて微笑み、オオカミも宗田と共に前線で戦っていくことを背中で示した。
「逃げたって、躱したって構わねぇ。何度だって喰らいついてやる」
 宗田は炎を揺らめかせ、マーダー・ラビットを見据えた。
 そして、戦いは此処からも更に巡ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、あの、アヒルさん、アリスさん達を助けに行くはずが出口に着いてしまいました。
でも、アリスさん達の救出も無事に済んでいるみたいですし、マーダーラビットさんを倒してここから脱出しましょうね。

ふええ、マーダーラビットさんの攻撃が速すぎます。
今はどうにか躱せていますが、もっと速いと無理ですよ。
ふえ?もっと速くできるんですか。
いらない武器を捨てて、もっと速くなるのでしたら、
今持っているそれも捨てちゃってください。
美白の魔法で摩擦をなくして武器が滑って持てないようにしてしまいます。
私も同じ効果を受けますが、フォースセイバーは実体がないので摩擦は関係ありません。



●魔法と斬撃
「ふぇ! ふええ……!」
 戦いが始まったウサギ穴の出口に悲鳴が響く。
 それはマーダー・ラビットから放たれた糸の斬撃を、とっさに屈むことで避けたフリルの声だ。間一髪、アヒルさんが帽子の上で飛び跳ねなければ危なかった。
 時計ウサギが別の猟兵の攻撃に向かった隙を突き、フリルは身を翻す。
「あの、アヒルさん、アリスさん達を助けに行くはずが出口に着いてしまいました」
 なんとか状況を把握したフリルはアヒルさんと共にマーダー・ラビットの様子を窺っていく。戦い始めた猟兵に切り込んでいく敵は素早かった。
 しかし、フリルはすぐにほっとする。
 何故なら巡らせた視線の先に、身構えているアリス一行がいたからだ。
 アリスくんにアリスちゃん、ブリキのオオカミや花妖精、リス獣人の少年。誰も欠けずに戦いにまで辿り着けているので一安心。
「アリスさん達の救出も無事に済んでいるみたいですし、マーダーラビットさんを倒してここから脱出しましょうね」
 アヒルさん、とガジェットを呼ぶと同意するような仕草が返ってきた。
 強く掌を握ったフリルは自分もアリス達と共に戦おうと決める。そして、構えたフリルの元にマーダー・ラビットがやってくる。
「君もアリスかな? ご褒美に殺してあげるね~!」
「ふええ……殺してくれなくても大丈夫です」
 腰からナイフを抜き取ったマーダー・ラビットはフリルに刃を振り下ろした。急いで駆けたフリルはその軌道から逸れる。
 だが、マーダー・ラビットは更に斬撃を振るってきた。
「何だかすばしっこいですね。それに何だか君は豪運そうです!」
「ふええ、マーダーラビットさんの攻撃が速すぎます」
 今はどうにか躱せているが、あのナイフや他の武器を捨てて更に速くなってしまったら避けきれるものではない。
 どうしようか、と考えたフリルへと時計ウサギが語りかけてくる。
「はいはい、更に切り込んで素早くできますよ!」
「ふえ? もっと速くできるんですか」
 されどその瞬間、フリルに逆転の発想が生まれた。いらない武器を捨てることで敵が素早くなるのなら――。
「今持っているそれも捨てちゃってください」
「んん?」
 フリルは言葉と同時に、しっとり艶々なお肌を守る美白の魔法をマーダー・ラビットに掛けていった。それは対象の摩擦抵抗を極限まで減らすという効果がある。
 美白の魔法は敵の手からナイフを取り落とさた。首を傾げたマーダー・ラビットはつまり、武器が滑って持てないようになっている。
「今です!」
 フリルはフォースセイバーを手にして、一気に敵に切り込んだ。
 わあ、という声がマーダー・ラビットから上がったことで手応えを感じたフリルは更にもう一撃を与えに駆ける。
 されど敵も危うさを感じたらしく、回避行動に専念することで躱した。
「これは厄介ですね! だったら!」
「ふええ、逃げる気ですか?」
「三十六計逃げるに如かず、ですよ~!」
 マーダー・ラビットは身を翻してフリルの前から駆けていく。おそらくは魔法の効果が切れるまで此方には近付かない作戦を取るのだろう。
 追いかけるフリルは慌てている。
 だが、彼女の帽子の上にいるアヒルさんだけは知っていた。この後、マーダー・ラビットは武器の扱いにかなり苦労していくだろうということを――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

空桐・清導
POWで挑む

よっしゃ外だ!アリス達もいるぜ2人共!
さ、会いに行ってきな

この間も猟書家に意識は向けている
アリス達に攻撃するようなら、カバーに入る

アンタがマーダー・ラビットか…
いたずらに命を弄ぶ奴を、俺は許さねえ!
[覚悟]と守護の意志による光焔を展開
アリス達が手伝ってくれるようなら、ニッと笑う
頼もしいぜ!さあ、アイツをぶっ飛ばすぞ!

拳でぶん殴り、[零距離射撃]で牽制を行う
相手の攻撃は[気合い]で避ける

天高く在る太陽の光が清導に収束していく
そして、明日へ仲間と進もうとするアリス達の[勇気]が
彼の心に更なる火を、否、炎を滾らせてUCを発動!
なんとなくで選んだ魂のねえ武器じゃあ、この一撃は止められねえ!



●戦いは続く
 清導が鳥籠を開いた直後。
「よっしゃ外だ! アリス達もいるぜ二人共!」
「やったあ、ありがとう~」
「本当ね、アリスくんとアリスちゃんが……オオカミさんもいるわ!」
 助け出したリスマルくんと花妖精ちゃんを連れた清導は、アリス一行が全員無事に鳥籠から解放されたことを確かめる。誰にも傷一つなく救出は大成功だ。
「さ、会いに行ってきな」
「うん……行くね」
「本当に助かったわ。キミの名前は?」
「俺か? 俺の名前は――」
 名を告げ、視線を交わして笑顔を向けあう。そんなやりとりを交わした後、清導達はそれぞれの行動に入った。
 花妖精とオウガブラッドはアリス達の元へ。
 清導は穴の出口で待ち受けていたマーダー・ラビットへと意識を向け、そして――。

「また新しい死にたがりさんが来ましたね! なかなか活きが良さそうでです」
 手にした鋏を鳴らしながら、時計ウサギは清導を見遣る。
 その笑みからは狂気が見て取れた。不思議の国の中には狂ったお茶会をするウサギもいるというが、あの殺人ウサギはきっとそれ以上だ。
「アンタがマーダー・ラビットか……。ここに死にたがりなんて一人もいねえ!」
 清導は身構え、敵を見据えた。
 視線が交差した途端に相手からの殺気が増えていく。花妖精をはじめとしたアリス達の様子を窺った清導は、皆も戦おうとしているのだと悟った。
 幸いにも今、マーダー・ラビットの意識は清導に向いている。好都合だと感じた彼は一気に攻撃に入っていく。
「いたずらに命を弄ぶ奴を、俺は許さねえ!」
 抱くのは覚悟。
 そして、守護の意志を示すかの如き光焔が瞬く間に展開されていった。その炎は暗闇でしかなかった周囲を明るく照らし、道標のように燃えて耀く。
「清導! 私達も一緒に戦わせて!」
「助けてもらってばかりじゃ、いけないからね~」
 其処に加勢に訪れたのは花妖精とリスマルだ。アリス達と言葉を交わした後、恩人である清導の元に戻ってきたらしい。
 アリス達もそれぞれの猟兵と一緒に戦っているらしく心配はなさそうだ。
「頼もしいぜ! さあ、アイツをぶっ飛ばすぞ!」
 ニッと笑った清導は二人に援護を頼んだ。花妖精は魔鍵を振り上げて魔力を紡ぎ、リスマルはスローイングカードを敵に放っていく。
 その中を一直線に駆けた清導は拳を握った。マーダー・ラビットとの距離が最大限まで縮まった瞬間、腕部装甲による打撃が相手を穿つ。
「あれあれ、その程度ですか?」
 だが、マーダー・ラビットはにこやかに笑っていた。そして、なんとなく選んだナイフで以て清導を斬り裂こうと狙う。
 清導は即座に地を蹴り、後方に下がった。
 目の前にナイフの軌跡が刻まれたことで、彼は一閃を避けられたのだと判断する。されど流石は猟書家だろうか。敵は清導の一撃を受けても平然としている。
 しかし清導は次の一手に移る。
 強力な敵であったとしても、挫けることも諦めることもない。
「まだまだ行くぜ!」
 太陽の光を思わせる煌めきが清導に収束していく。この戦場では自分ひとりが戦っているわけではない。花妖精やリスマル、アリス達が。そして、猟兵達がいる。
 明日へ仲間と進もうとする皆の勇気。
 その思いが清導の心に更なる火を――否、炎を滾らせていく。
「なんとなくで選んだ魂のねえ武器じゃあ、この一撃は止められねえ!」
 咆え猛る言葉と共に清導は全力を叩き込んだ。
 その拳と焔の一閃は熱く、倒すべき時計ウサギの身を大きく穿つ。花妖精達と頷きあった清導は更に強く拳を握り、此処から巡る戦いへの思いを胸に抱いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宵と繋いだ手は其の侭に出口へと進むも敵の姿を捉えれば宵を護る様前に出よう
…殺しを好む気狂いか…どの世にも居るのだな
宵、怪我をせぬよう前には…、…否、共に怪我をせぬ様背は頼む

戦闘と同時に【穢れの影】を敵へと放ち行動を阻害せんとしつつ敵へ間合いを詰めんと試みる
その後は手にしたメイスにて『怪力』を乗せた攻撃を続けつつ敵の攻撃は左手袋から光の盾を展開し『盾受け』
背後の宵を『かば』いながら宵が後衛から攻撃をし易い様【穢れの影】にてなるべく動きを封じ行動できればとそう思う
宵の美しい星と聞こえくる声には微かな笑みを
ああ、宵との約束を護らんといかんのでな
疾く倒し、疾く帰らせて貰うとしよう


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

確りと握りしめたかれの手を握りなおし
ええ、ですが僕たちのやることは変わりません
骸の海へとお帰り願いましょう

もちろんですよ
きみの背を守り、きみを援け、共に戦うことこそお互いが怪我なく戦える手段でありましょうとも
前は頼みましたよ、ザッフィーロ

敵へと斬り込むザッフィーロを援護するように
「衝撃波」で敵を「吹き飛ばし」体勢を崩すのを狙いながら
「高速詠唱」「多重詠唱」をかけ「属性攻撃」「全力魔法」を付加した
【天航アストロゲーション】にて敵を狙い撃ちましょう

かれや僕を狙う攻撃は出来うる限り「オーラ防御」の「結界」にて阻めれば
かれと過ごす時間のためにも、
早く帰らねばなりませんので



●重なる心
 互いに繋ぎあった手。
 其処に宿る熱が消えてしまわぬよう、其の侭に出口へと進む。
 ザッフィーロが握り締めてくれる掌を確りと握り返し、宵も前を見据えた。彼らの目の前に現れたのは殺人ウサギ。
「おやおや~、なるほど。貴方達もご褒美に殺されにきたんですね!」
 身勝手なことを語るマーダー・ラビット。
 その声を聞き、ザッフィーロは宵を敵の視線から護るように一歩前に出た。
「……殺しを好む気狂いか……どの世にも居るのだな」
「ええ、ですが僕たちのやることは変わりません」
 戦いのために手を離した二人は殺気を受け止め、それぞれに身構える。ザッフィーロの裡にはどんな形であれ、宵と引き離されたくないという思いが強く宿っていた。
 先程にあった鳥籠の救出劇。
 あのときに傷を負ってまで助けてくれた宵への想いは更に深くなる。
「宵、怪我をせぬよう前には……、……否、共に怪我をせぬ様背は頼む」
「分かりました。あの方には、骸の海へとお帰り願いましょう」
 宵は頷き、前に出たザッフィーロに信頼の眼差しを向けた。それと同時にザッフィーロは駆け出し、敵との距離を詰める。
 穢れの影を敵へと放ち、まずは行動の阻害を試みる。
 罪と穢れが具現化した影はマーダー・ラビットに絡みつくように巡った。敵は軽い身のこなしで以てそれらを避け、拘束から逃れていく。
 敵の強さを其の動きから感じ取ったザッフィーロは宵に呼び掛けた。
「無理はするなよ、宵」
「もちろんです」
 しかと答えた宵は敵に向けて、衝撃波を放つ。
 きみの背を守り、きみを援け、共に戦うこと。それこそお互いが怪我なく戦える手段であるのだと告げ、宵は敵を吹き飛ばしにかかった。
「前は頼みましたよ、ザッフィーロ」
「ああ」
 返す言葉は短くとも、声には信頼を込めて。
 更に敵へ斬り込むザッフィーロを援護するように、宵は更なる力を紡ぐ。
 すると影や衝撃波をひらりと避けたマーダー・ラビットが可笑しそうに笑った。
「絆の力とやらですか? ちゃんちゃらおかしいですね~!」
 此方を茶化すような視線と言葉が落とされた瞬間、時計ウサギの瞳が輝く。殺戮への意志が巡っているのか、ひときわ素早く動いたマーダー・ラビットは糸の一閃や鋏撃、投げナイフなどの様々な攻撃を放ってきた。
 わざとそういった言動をしていると分かっているゆえに、宵もザッフィーロも特に大きな反応は見せない。
 代わりにザッフィーロは手にしたメイスに怪力を乗せ、素早い斬撃を受け止めては弾き返していった。
 そのまま攻撃を続けつつ、更に左手袋から光の盾を展開して受ける。
「決して宵まで攻撃は通さん……!」
 背後で援護を続けてくれている宵を庇いながら、ザッフィーロは更なる穢れを解き放ち返していく。それもすべて宵を守り、彼が後衛から攻撃し易いようにするため。
 敵の動きを封じる。
 そう思いながら、ザッフィーロは果敢に戦い続ける。
 宵はそんなかれの背を見つめながら、詠唱を重ねていった。いつものように高速かつ多重の詠唱をかけ、属性攻撃と全力魔法を付加した力だ。
「彗星からの使者は空より墜つる時、時には地平に災いをもたらす。それでもその美しさは、人々を魅了するのです」
 星降る夜を、あなたに――天航アストロゲーション。
 宵が武器の先端を敵を差し向けた瞬間、隕石が飛来してくる。マーダー・ラビットを狙い撃っていく中、宵はオーラ防御の結界を張り巡らせていた。
 ザッフィーロは薄く笑む。
 その理由は宵紡ぐ声と美しい星が感じられたからだ。メイスを振るい、影を巡らせていくザッフィーロの手にも力が入った。
 そして、宵は敵に凛と宣言する。
「かれと過ごす時間のためにも、早く帰らねばなりませんので」
「ああ、宵との約束を護らんといかんのでな」
 疾く倒して疾く帰る。宵とザッフィーロが抱く気持ちも想いも同じ。星が降る最中に振るわれるメイスは影を纏いながら、鋭い軌跡を描いていった。
 こうして、ウサギ穴の戦いは更に激しくなっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霞末・遵
【幽蜻蛉】
……惟継さん、おじさんアレ触りたくない
抜けていい?

だってアレ絶対ひとを散らかすタイプだもん
刻んで遊んでポイでしょ。嫌いなんだよねそういうの

ああ怨めしい怨めしい
今後のために祟り尽くしておくべきだ
そうだろう。ああそうさ
ちょっとやる気出ちゃったな
いいよ降りない。やってやろう
全力で怨んで憎んで呪って祟ってやる

まあ頑張るのは湧いて出た蜘蛛たちだけど
兎とかけっこしても無意味でしょ。蜘蛛は静かに待つものなの
防御なんていらないね
悪霊が刺されたくらいで死ぬと思ってるの
痛いよ死ぬほど痛いけど。これも怨みに繋げよう
増えなよ蜘蛛たち。脚からバリバリ食ってやれ
跡形も残すんじゃないよ
ああ、怨めしい怨めしい……


鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】
触りたくなくとも、あちらさんは逃がしてはくれないようだぞ
今回ばかりは腹を括れ

そうだな……あやつは遵殿達のように感情を食い物にしておらん
己が楽しむ為だけに、あのようなことをしているのだからな

……遵殿
珍しくやる気が……いや、怨みか?それとも何かを思い出したのか
いずれにせよ、彼の何かに火を点けたのだろう
口には出さず、得物を構える
ただ
――応、と

敵の攻撃は槍にて武器受けと武器落としにて弾き、距離を詰めさせない
槍を振りながら蜘蛛達の方へと誘導しよう
そぉら、早く逃げねば喰われてしまうぞ?
敵が蜘蛛に気を取られている隙を見て雷帝ノ槍

俺も何も思っていない訳ではない、寛大なだけだ
神罰の雷槍で勘弁してやろう



●神罰と怨恨
 時計ウサギが殺気を放ちながら笑っている。
 その声と言動を察知した遵は首を横に振り、隣の惟継に声を掛けた。
「……惟継さん、おじさんアレ触りたくない」
「触りたくなくとも、あちらさんは逃がしてはくれないようだぞ」
 マーダー・ラビットは此方を殺す気しかない。遵は拒否感をかなり漂わせているが、惟継は真っ向から相手からの殺気を受け止めている。
「抜けていい?」
「今回ばかりは腹を括れ」
 冗談と本気とが半々の問いに対し、惟継は頭を振り返した。えー、と不満げに唇を尖らせた遵はマーダー・ラビットを指差す。
「だってアレ絶対ひとを散らかすタイプだもん」
「そうだな……あやつは遵殿達のように感情を食い物にしておらん」
「刻んで遊んでポイでしょ。嫌いなんだよねそういうの」
「己が楽しむ為だけに、あのようなことをしているのだからな」
 惟継は溜息をつき、遵も肩を落とした。そうしている間にマーダー・ラビットからの攻撃は猟兵達に向かってくる。
 敵が何処からか取り出した糸が空中に舞った。
 刹那、鋭い全周囲斬撃が遵と惟継に襲いかかる。鋭利な刃のように巡った糸に気付いた二人は咄嗟に後方に跳んだが、遵の髪の一部が切断されてしまった。
 はたとした遵は、はらりと散った一房の髪の行方を目で追う。これでも割と気を使っているんだよ、とか整えるのが難しくなるじゃないか、とか。そういった思いが裡に湧いてくる。
「ああ怨めしい怨めしい」
「……遵殿」
 ぶつぶつと呟き始めた彼に気付き、惟継はマーダー・ラビットと遵を見比べた。
 敵からは変わらぬ殺気。遵からは妙な恨み節。
「今後のために祟り尽くしておくべきだ。そうだろう。ああそうさ。ちょっとやる気出ちゃったな」
「珍しくやる気が……いや、怨みか?」
 それとも何かを思い出したのか。惟継が小首を傾げながら問うと、彼からはっきりとした言葉が返ってきた。
「いいよ降りない。やってやろう」
 全力で怨んで憎んで呪って祟って、終わりにしてやるだけ。
 遵が怨恨を滲ませると、足の欠けた大型の毒蜘蛛が周囲に召喚されていく。なるほど、と頷いた惟継は納得する。
 いずれにせよ、今の一閃が彼の何かに火を点けたのだろう。
 惟継は口には出さず、得物を構えることで答えた。
 ――応、と。
 呪詛と祟りを乗せた蜘蛛達が敵に群がって行く中、惟継は雷から形成した槍を振るいあげていく。遵は彼が前に出ていく様を見遣り、蜘蛛達にその援護を願う。
「まあ頑張るのは湧いて出た蜘蛛たちだけど」
 遵としては、兎とかけっこなんてしても無意味でしかない。蜘蛛は静かに待つものであり、飛び込んでくるのは向こうの方だ。
 ゆえに防御なんていらない。
 惟継はマーダー・ラビットが再び振るった糸斬撃を槍で受け、振り抜いた刃で以て糸を切り払った。何が来ようとも弾き、距離を詰めさせないと決めている惟継は敵に敢えて近付かず、必要以上の言葉も交わさない。
 どうせ相手は此方を殺すことしか頭にないのだろうし、まともな会話が出来るとも思えなかった。
 惟継は槍を振りながら、蜘蛛達の方へと敵を誘導するべく雷撃を響かせる。
「そぉら、早く逃げねば喰われてしまうぞ?」
「そんな蜘蛛ちゃん達なんて、こうですよ! ほら、真っ二つです」
 マーダー・ラビットは華麗なナイフ捌きで遵の蜘蛛を切り裂いていった。されど、惟継は敵が蜘蛛に気を取られている隙を見て雷帝ノ槍を放つ。
 その様子を見つめながら、遵は恨みを更に募らせていった。それこそが戦う力となり、遵が放つ蜘蛛を増殖させる根源となる。
「悪霊が刺されたくらいで死ぬと思ってるの。確かに刺されたら痛いよ死ぬほど痛いし、蜘蛛達もかなり散らされたけど。そうだ、これも怨みに繋げよう」
 片手を掲げた遵は呪詛を紡ぐ。
「増えなよ蜘蛛たち。脚からバリバリ食ってやれ」
 跡形も残すんじゃない。
 殺意も敵意も斬撃もすべて押し込めて、なかったことにしてやれ。
 その命じる遵の声を聞き、欠けた蜘蛛達はマーダー・ラビットに向かっていく。相手の四肢すら自分達と同じように欠けさせるかの如き勢いだ。
「ああ、怨めしい怨めしい……」
「遵殿も気張っているな。よし、俺も――」
 惟継は雷帝の一閃を幾重も重ねるように槍を振るった。そして、彼はマーダー・ラビットへと己の思いを告げていく。
「俺も何も思っていない訳ではない、寛大なだけだ」
 神罰の雷槍で勘弁してやろう。
 不敵に口の端を吊り上げた惟継の一撃が、狂った時計ウサギを貫いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
彼等を捕らえていたのは奴だったのですね
……アリスラビリンスの猟書家
この世界の猟書家も、確実に倒していかなければ

攻撃は倫太郎と連携して同時に仕掛け、隙を無くす
距離を詰めた際の敵の攻撃に警戒
視力にて武器を確認、得物が大きいものであれば残像にて回避
小さいものであれば武器受けにて防御した後、武器落とし
凌いだ後に納刀、倫太郎が前に出て貰って精神を集中
そして倫太郎と入れ替わるように早業の抜刀術『静風』

貴方の性質なのかもしれませんが、容易に私達を殺せるとでも
捕らわれていた者と、猟兵である私達は同じではありません
貴方達のような、人の脅威に対抗するべく存在しているのが猟兵
私達を、余り甘く見ないで頂きたい


篝・倫太郎
【華禱】
ご褒美はいらねぇし、ぜんっぜん楽しみじゃないデスケド?!
この世界特有なのか、こいつがトクベツなんだろか
考えたって仕方ないな……往こうぜ、夜彦

始神界帰使用
失せ物探しの技能を代償に封印解除した華焔刀に
吹き飛ばしと鎧無視攻撃を乗せて先制攻撃
距離を詰めてなぎ払い

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時は直撃回避を優先し、武器受けからの咄嗟の一撃
負傷は以降の攻撃に乗せた生命力吸収で補う
近接距離は不利過ぎるからある程度距離は置く形で戦闘

但し、夜彦が静風使用の為に納刀したら
吹き飛ばしとなぎ払い重視で夜彦から引き離して時間稼ぎ

支度が整ったなら夜彦と入れ替わる

誰かを殺す望みを叶えないまま、骸の海に還りな



●剣閃は響く
 マーダー・ラビットの放つ糸斬撃が周囲に巡り、鋭い音が短く響いた。
 未だ射程距離に入っていなかった故に何ともなかったが、倫太郎と夜彦は相手が秘めている殺人の力の強さを知った。
 彼こそがアリスラビリンスの猟書家のひとり。
 そう認識した夜彦は、この世界の猟書家も確実に倒していかなければならないと実感して、倫太郎と一緒に身構えた。
「彼等を捕らえていたのは奴だったのですね」
「ご褒美はいらねぇし、ぜんっぜん楽しみじゃないデスケド?!」
 倫太郎は先程にマーダー・ラビットが語っていた言葉を思い返し、全力で否定の意志を示した。これはこの世界特有なのか、と考えた彼は首を振る。
「こいつがトクベツなんだろか。考えたって仕方ないな……往こうぜ、夜彦」
「はい、倫太郎」
 踏み出した二人はマーダー・ラビットに狙いを定める。相手はたったひとりでこれだけの人数を相手取る実力者だが、自分達がやるべきことは変わらない。
 敵を倒す。ただそれだけ。
 呼吸を整えた倫太郎は己の能力を発動させていく。
 ――今ここに戻れ、カミの力。
 言葉と共に彼の中に宿る力が代償とされ、華焔刀の封印が解かれていった。吹き飛ばしと鎧無視攻撃を乗せた一撃で以て、倫太郎は敵に斬りかかっていく。
「合わせられるか、夜彦」
「勿論です」
 呼びかけられた言葉に対し、夜彦は行動で示す。
 自分が振るう攻撃を倫太郎と連携することで同時に仕掛け、相手の隙を無くそうと試みていく。二人分の斬撃が重なり、マーダー・ラビットを切り裂いた。
 されど夜彦は気を緩めない。距離を詰めた際の敵の攻撃にも警戒を向け、持ち前の視力にて武器を確認していく。
 マーダー・ラビットが次に手にしたのは鋏だ。
 糸とは違う斬撃が来るのだと察し、夜彦は残像を纏うことで回避に移った。
 その間に倫太郎は距離を詰め、鋏ごと相手を薙ぎ払おうとする。夜彦はマーダー・ラビットからの反撃が来ると察知し、二人の間に割り込んだ。
「させません」
「おっと! これは一本取られましたね!」
 霞瑞刀で一閃を受け止めた夜彦は防御をした後、相手の武器を落とした。
 だが、鋏は腰元にまだまだ装備されている。マーダー・ラビットが余裕なのも一本の武器が落とされても予備があるからだろう。
 夜彦はそちらにも警戒すべきだとして、気を張り巡らせる。
「ここからは任せてくれ」
 庇ってくれたことに礼を告げた倫太郎は前に出る。彼に前線を担ってもらっている間に、夜彦は精神を集中させる。
 華焔刀を振るい続ける彼はマーダー・ラビットと切り合っていた。
 敵の攻撃は見切りと残像で回避し、回避不能時は直撃回避を優先する。武器受けからの咄嗟の一撃で攻撃を凌ぎ、倫太郎は相手と渡り合っていた。
 負傷しようとも、以降の攻撃に乗せた生命力吸収で補って立ち続ける。
 されど、やはり近接距離は不利過ぎる。それゆえに倫太郎はある程度の距離を置くようにして戦闘を続行していく。
 その中で夜彦が納刀した瞬間を感じ取り、倫太郎は出方を変える。
 倫太郎は吹き飛ばし攻撃を繰り出した。薙ぎ払いを重視することで敵を夜彦から引き離して時間稼ぎする心算だ。
 そして、準備を整えた夜彦は倫太郎と入れ替わるようにして駆け、早業の抜刀術・静風を解き放った。
「――狙うは、刹那」
 夜彦の声が響くと同時に、鋭い斬撃がマーダー・ラビットを穿つ。
 痛たた、という声が相手からあがった。軽い調子の言葉であり、まだ敵が倒れる気配はないが、相当な痛みを与えられたことは間違いない。
 あの軽さは大打撃を受けていることを隠しているものだろう。そのように察した夜彦は言葉でも揺さぶりをかけていく。
「貴方の性質なのかもしれませんが、容易に私達を殺せるとでも?」
「簡単に死ぬのもいいですが、張り合いがあるのも殺しがいがあっていいですね!」
 するとマーダー・ラビットはからからと笑った。
 対する夜彦は相手に視線を向け、頭を振る。完全に見下されている言動だと感じた夜彦はマーダー・ラビットに対抗していく。
「貴方達のような、人の脅威に対抗するべく存在しているのが猟兵です。私達を、余り甘く見ないで頂きたい」
 冷たい眼差しを返した夜彦は更なる斬撃を見舞った。
 彼に合わせ、倫太郎も華焔刀を振り下ろす。そして、其処に鋭い言の葉が落とされた。
「――誰かを殺す望みを叶えないまま、骸の海に還りな」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小鳥遊・ルイ
リツ(f30020)と
兎は兎でも随分と悪趣味な兎だな…
兎と言うのはみんな可愛いものだと思っていたが認識を改めるべきか…やはり一番可愛いのは(隣のリツをチラリとみて)

この空間には少々不釣り合いかも知れないが…俺達が全力で戦うのには必要だからなキャバリアを召喚する。【Bluebird】

俺は(リツ)のサポートに回る。
UC【攻撃展開α】
リツに敵攻撃が及ぶなら【念動力】によって敵の武器を弾く。
【援護射撃】【スナイパー】で一撃を確実に決める。

あぁ、童話はハッピーエンドが一番だ。


兎我野・リツ
ルイ(f30019)と
兎は好きだけど、君みたいな悪い子はボク嫌いっ
それにルイやアリスたちを解体なんてさせないから
…うん?ルイ、どうかしたの?

ボクの愛機『ネザーランド』に搭乗して戦うよっ
ルイ、サポートよろしくね!
RSヴァーミリオンで近づいて
RSゼラニウムデスサイズの【念動力】の刃で斬りかかるよっ
敵の攻撃は素早く動いて【残像】で回避
UCは【瞬間思考力】で敵の攻撃速度を計算して避けるよ

今度はこっちから行くよっ
ルイが攻撃したタイミングに合わせて
相手の体制が崩れたところに【リミッター解除】して
UC『ネザーランド・フルバースト』を叩き込むよっ!

童話はやっぱりハッピーエンドじゃないとねっ♪



●フルバースト・キャバリア
 殺人ウサギは双眸を細め、此方を品定めしている。
 向けられた視線には殺気が宿っており、しゃきりと鳴らされた鋏の音は耳障りだ。
「兎は兎でも随分と悪趣味な兎だな……」
 ルイはマーダー・ラビットを見遣ってから、隣をちらりと見る。
 其処にはリツが立っており、殺人ウサギへの嫌悪をあらわにしていた。相手から血の匂いがして、可愛いところなどひとつも見えやしないので当然だ。
「兎は好きだけど、君みたいな悪い子はボク嫌いっ。それにルイやアリスたちを解体なんてさせないから!」
 意気込むリツは時計ウサギと張り合う気概でいる。
 自分も含めてくれているリツの言葉を聞きつつ、ルイは敵に意識を向けた。
「兎と言うのはみんな可愛いものだと思っていたが認識を改めるべきか……」
 やはり一番可愛いのは、とルイは呟く。
 リツとマーダー・ラビットを見比べる彼は最後まで言葉を紡がず、自分の中で納得するだけに留めた。
「……うん? ルイ、どうかしたの?」
 彼からの視線と思いを感じたリツはきょとんとしていたが、ルイは何でもないという雰囲気で首を振る。
 そして、二人はキャバリアを召喚していく。
「来て、ネザーランド!」
「Bluebird、搭乗するよ」
 リツはウサギを思わせる愛機を、ルイは青い鳥の名を冠したサイキックキャバリアに乗り込み、臨戦態勢を取る。
 ウサギ穴に広がる暗がりの空間は巨躯のキャバリアでも自由に動ける。
 自分と機体を接続した二人は隣に並び、マーダー・ラビットへの狙いを定めた。
「ルイ、サポートよろしくね!」
「分かった、リツは自由にしてくれていい」
 ネザーランドを操り、飛び出していったリツ。その補助をするように動き出したルイの機体から青く光輝くサイキックエナジーの翼が機動する。
 リツはというと、RSヴァーミリオンを全出力を込め、目にも留まらぬ速さで突撃していくネザーランドはRSゼラニウムデスサイズを振り上げた。
 其処に生まれた念動力の刃がマーダー・ラビットを捉え、一気に斬り下ろされる。
「うわ、っと! 大きいうえに速いなんて反則ですよ~!」
「躱しておいて反則なんて、なかなかいうねっ」
 今の一閃は避けられてしまったが、リツは次の行動に移った。自分ひとりで太刀打ち出来ないのならば、ふたりで向かえばいい。
「悪い、少し遅れたか」
「大丈夫! 今のは小手調べみたいなものだからね」
 リツの援護に回ったルイは周囲に電脳空間めいた揺らぎを展開していく。暗闇に電子が走る壁めいたものが現れたかと思うと、光の矢が次々と生み出されていった。
 マーダー・ラビットに向かって飛翔していく矢。それらを鋏で弾いた殺人ウサギはにこにこと笑っていた。
「いいですね! これは張り合いがありそうですよ!」
「余裕でいられるのも今のうちだ」
 ルイは更に光矢を展開していき、マーダー・ラビットの余裕と体力を削ごうと狙う。其処に翼を翻したリツが翔け、薄紅色の刃を振り下ろした。
 時計ウサギを矢が貫き、刃が穿つ。
 確実に当たったことでダメージは与えられているようだが――。
「あれを受けてまだ立ってられるなんて……!」
「残念でしたね~。こう見えて僕は見かけ以上に頑丈でして!」
「それなら、何度だって喰らわせるだけだ」
 リツは驚いたが、すぐに察する。どうやらマーダー・ラビットは魔力を巡らせることで受けた攻撃の衝撃を最小にしているようだ。
 ルイも同じことに気付いており、更なる攻撃をするだけだと決めた。
 しかし、次の瞬間。
 時計ウサギの魔力が宿った鋏がネザーランドとBluebirdに解き放たれる。ちいさな鋏ではあるが、銃弾並みの威力と速さを以て翔ける鋏は鋭い。
「ルイ! 散開しようっ」
「無理はするなよ、リツ」
 互いの名を呼びあったふたりは鋏を避けるべく飛び立った。
 そして、リツ達は一瞬で敵の攻撃速度を計算していく。残像を纏うネザーランドは見事に攻撃を交わし、高く飛翔したBluebirdも鋏を弾き返しながら体制を整える。
 ルイは念動力を巡らせ、これ以上リツに攻撃が向かわぬよう鋏を抑えた。彼が自分を守ってくれていると感じながら、リツは反撃に入る。
「今度はこっちから行くよっ」
 リツはルイが光の矢を撃ち込んだタイミングに合わせ、リミッターを解除した。
 それこそが彼の必殺技。
 ――ネザーランド・フルバースト!
 全搭載武装が一斉に起動していき、マーダー・ラビットを撃ち貫いていく。相手もまだまだ耐えているようだが、自分達も戦い続けることができる。
 真っ暗な穴の中ではなく明るい外で冒険をする。アリス達にはその方が相応しい。そう感じたリツは思いを言葉にしていく。
「童話はやっぱりハッピーエンドじゃないとねっ♪」
「あぁ、童話はハッピーエンドが一番だ」
 その声を受けたルイも頷く。
 最後をめでたしめでたしで終わらせる為に、キャバリア達は更に高く飛翔していく。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トキワ・ホワード
【魔桜】
さて、ここからが本番だ
助け出してやった分、十二分に働いてもらうぞ芙蓉
渋るのは構わんが、動かなければ死ぬのはお前だ

UCを発動、炎と氷の魔法弾を展開

前衛がいるというのは楽でいいな
敵への攻撃に専念できる

炎の砲弾を敵へと向け発射
今回は火力勝負じゃない、以下にして奴を仕留めるかだ
斉射はせず隙を突いて必要に応じた弾数を放つ
全体を見渡せ、思考を重ね敵の意表を突け
その為に芙蓉の際を狙おうと…奴なら避けるだろう

氷の砲弾は敵の攻撃から芙蓉を護るよう敵との間を目掛け放つ
とはいえ近接距離だからな…当たらないとも限らん、避けてみせろよ猟兵
これにより敵の体制をわずかにでも崩せればそれは芙蓉にとっての好機にもなろう


芥子鴉・芙蓉
【魔桜】

流れでトキワと共に戦うことになったんじゃよ
前衛としてまぁそれなりには働いてやろう

ゆくぞ兎よ!戦いにおいて、最も有効なのは数の暴力!
ひとりで複数に勝てると思ったら大間違いじゃ!
我が毒功手、受けてみ──ほげぇぇえ!?
わらわに攻撃がかすったんじゃけど!?

あ、あの冷血眼鏡、本気かえ……!
前にも敵、後ろにも敵(トキワ)……!

なるほど。わらわはこの戦場において最も孤独
兎よ、先ほど貴様は言ったな。“誰が一番に死ぬかな?”と

答えを教えてやろう。
それは多分──わらわじゃよ(ヤケクソ気味にニヒルに笑う)

(《桜の祝福》を自身に使い、身体強化と回復で回避と耐久に専念しながら敵の攻撃を引き付けつつ好機を狙う)



●桜精戦線、異常有り
 殺人宣言をしたマーダー・ラビットが宙に跳ぶ。
 まさにウサギの跳躍めいたしなやかな動き。既に戦いは始まっており、時計ウサギの放った糸が戦場に舞っていた。それを眼で追い、トキワは傍らの協力者に呼び掛ける。
「さて、ここからが本番だ」
「あれを相手取れということじゃな」
「助け出してやった分、十二分に働いてもらうぞ芙蓉。渋るのは構わんが、動かなければ死ぬのはお前だ」
「分かっておるのじゃ、トキワ。まぁそれなりには働いてやろう」
 芙蓉は名を呼ばれ、彼の名を少し皮肉交じりに呼び返す。
 色々あって流れでトキワと共に戦うことになったことには微妙に納得がいっていないが、現状は彼の言う通りだ。マーダー・ラビットの実力は相当なものであり、前衛としての協力者が欲しいと願ったトキワの言い分は尤もだと思えた。
「おやおや~? そっちにも殺されたがりが来ましたね!」
 マーダー・ラビットは芙蓉とトキワの存在に気付いたらしく、不気味なほどにニコニコとした明るい笑みを浮かべる。その視線は殺意に満ちており、気を抜けばやられると感じられるほど。
 身構えた芙蓉は視線を敵に向け返す。
「ゆくぞ兎よ! 戦いにおいて、最も有効なのは数の暴力!」
「頼んだぞ。前衛がいるというのは楽でいいな」
 芙蓉は敵に向けて指先を突き付けた。トキワは彼女に前を任せ、魔力を紡いでいく。ああして芙蓉が前線に立ってくれているゆえにトキワは敵への攻撃に専念できる。
 炎と氷の魔法弾を展開したトキワは確りと後衛の役目を果たすことを決めた。
 刹那。炎が迸り、氷が弾けた。
 芙蓉はマーダー・ラビットの気を引きながら駆けていく。
「ひとりで複数に勝てると思ったら大間違いじゃ! 我が毒功手、受けてみ――」
「その前に僕の一撃を受けてくださいね~!」
 芙蓉の華奢な両手が差し向けられた刹那、マーダー・ラビットが解き放った糸の斬撃が猟兵達に巡った。
 一閃は芙蓉の髪を掠り、はらはらと毛が散る。
 しかもその際にトキワが発動させた氷の弾が芙蓉の横を擦り抜けていた。
「ほげぇぇえ!? わらわに攻撃がかすったんじゃけど!?」
 乙女らしからぬ悲鳴をあげた芙蓉は慄く。そんなの聞いてなかったのじゃ、と言いたげな視線がトキワに向けられたが、彼は次の魔法弾を紡いでいる途中だ。
「避けろ。お前なら出来る」
 トキワは信頼、もといほぼ放置にも近い言葉を芙蓉に送った。そうして炎の砲弾を敵へと向けて発射した彼は本気で攻撃のみに集中している。
 今回は火力勝負ではなく、いかにして敵を仕留めるかが重要だ。一斉射撃はせずに隙を突いて必要に応じた弾数を放つのが勝利への道。
 全体を見渡し、思考を重ねて敵の意表を突け。
 己に言い聞かせたトキワは芙蓉すら利用して――というと人聞きが悪いのでやはり信頼という言葉に置き換えておくが――とにかく上手く立ち回ることを意識していた。
「あ、あの冷血眼鏡、本気かえ……!」
 前にも敵。後ろにも敵(トキワ)状態だと察した芙蓉は奥歯を噛み締める。
 悔しいが死にたくはない。
 なるほど、と頷く芙蓉は自分がこの戦場において最も孤独なのだと判断した。
「あれあれ、仲間割れですか?」
「いいや。兎よ、先ほど貴様は言ったな。“誰が一番に死ぬかな?”と」
「はい、いいましたね! それがどうかしましたか?」
 マーダー・ラビットが誂い気味に問いかけてくる。芙蓉は覚悟を決め、不敵な笑みを相手に見せた。
「答えを教えてやろう。それは多分――わらわじゃよ」
「なるほど! 潔く死ぬ気になったんですね!」
「ふ、それはおぬしの次第じゃ!」
 半ばヤケクソなのだが、芙蓉の笑みはニヒルさを宿していた。そして、芙蓉は桜の祝福を自身に纏わせていく。フィトンチッドの効果が巡り、身体が強化されていった。
 それまでの痛みも忘れ、芙蓉は耐久戦へと移行していく。
 トキワは周囲の仲間にも気を巡らせながら、好機を見計らって魔法の砲弾をマーダー・ラビットに叩きつけていく。
 相手は余裕を見せているが、それが崩れるのも時間の問題だろう。
「トキワ!」
 そのとき、敵の攻撃を受け止めた芙蓉がマーダー・ラビットの腕を掴んだ。今のうちに攻撃をしろ、という意味だと察したトキワは用意していた炎の弾を放出した。
「ああ、芙蓉。良いタイミングだ」
 炎の巡りで芙蓉を護るように、時計ウサギだけを狙ったトキワ。
 当たらないとも限らないが、彼女なら避けられるはず。本気で信じたトキワの期待に応えるように芙蓉が着弾寸前でマーダー・ラビットの手を離した。
「なっ……!?」
 何だと、と言う暇すら与えられずに敵は炎に包まれる。それは相手の体勢を揺らがせる一手となり、手痛い衝撃となったようだった。
 このまま戦いの展開が進めば勝てる。
 そう感じ取った芙蓉とトキワは視線を交わし、それぞれの力を発揮していく。
「まだまだ行けるじゃろう?」
「ああ、勿論だ」
 こうして戦いは巡り――少しずつ、マーダー・ラビットの体力が削られていった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
青/f01507と

そう簡単に殺せるものなら、さァ――殺してみるが良い

青は下がっていてくれな
全ての攻撃は私が前に立って受け止める
どうせ九倍の攻撃速度なぞ見切れたものではない
致命となるものを蛇竜の黒槍で受け流すことを優先しよう

青に無理をさせたくはないが……ま、速攻と言っていられる相手でもあるまい
幻想展開、【済生】
黒槍による攻撃はなるべく急所へ
この身の重量を乗せて全力で叩き込んでくれる

悪いがこの命の預け先は別にあってな
煙草は……子供の前では止めておくか
代わりに青に手を差し伸べる
ありがとうよ、助かった
帰りは兄ちゃんが抱っこしてやろうか
抱き上げれば眠る体に笑って
さ、ゆっくり帰ろう。ケーキでも買って


迎・青
ニルズヘッグおにーちゃん(f01811)と
(アドリブ歓迎)

コワい、けど、コワくない
おにーちゃんがいっしょだもん
おにーちゃんはつよいんだ!

後方で【C.C.C.】使用
傷の治療は自分よりおにーちゃんを優先
おにーちゃんの無傷をキープするぐらいの心構え
「あうあう、だいじょぶ、治すのはまかせて!だよぅ!」

ボクはたすけてもらったり、まもってもらってばっかりだ
だからせめて、おにーちゃんに痛いおもいはさせないよぅ
ユベコ使用による疲労は気にしない、というより戦闘中は忘れている

戦闘後、治療を終えたところでようやく疲労を自覚
抱っこの提案に「だいじょうぶだよぅ」と強がるが
抱え上げられると安心と疲労でそのまま寝てしまう



●思い合う力
 殺戮。ただそれだけを愉しみとする時計ウサギが立ち塞がっている。
 軽い調子の笑みの裏に隠された、否――隠そうともしていない殺意が今、青とニルズヘッグに向けられていた。
 突き刺すような視線を受け、青は震えている。
(コワい、けど、コワくない)
 しかし少年はすぐに震えを振り払った。確かに恐怖は感じているが、すぐ傍にはニルズヘッグが居てくれる。
 ニルズヘッグは青の感情を知りながらも、敢えて時計ウサギへ不敵に語りかけた。
「そう簡単に殺せるものなら、さァ――殺してみるが良い」
 その言葉は挑発的ではあるが、或る自信に裏打ちされたものでもある。
 決して殺されはしない、という意志だ。
 ニルズヘッグに巡る気迫を感じ、青はぐっと掌を握り締めた。先程の鳥籠からだって助け出してくれた。怖くても、怖くないと教えてくれた。
 だから、絶対に大丈夫。
 そのように思った青は精一杯の声を紡いでいった。
「おにーちゃんがいっしょだもん。おにーちゃんはつよいんだ!」
「へぇ、なかなかの信頼ですね。それじゃあ、そのお兄ちゃんとやらが殺されるところをじっくりみせてあげましょうね!」
「……っ!」
 対するマーダー・ラビットは笑顔のままニルズヘッグと青を見比べる。青は言葉に詰まってしまったが、ニルズヘッグは敵から青を隠すように前に出た。
「青は下がっていてくれな」
 その背からは、大丈夫だという思いが伝わってくる。
 ニルズヘッグは全ての攻撃を自分で受ける気概でいた。必死に奮い立ってくれた青の分まで、痛みを背負うつもりだ。
 マーダー・ラビットも宣言通り、先にニルズヘッグを殺そうと向かってくる。回復は頼んだ、と彼が告げたことで青はしっかりと頷いた。
「あうあう、だいじょぶ、治すのはまかせて! だよぅ!」
 青は語気を強くして答える。
 ニルズヘッグが自分を守ってくれることは分かっていた。それならば心配するだけではなく自分が癒やしを担うことで彼を守ればいい。
 戦う形は違っても、守り守られるならそれが一番だと思えた。
「いきますよ~!」
 えい、と軽い調子で鋏を振り上げたマーダー・ラビット。その瞳が怪しく光り輝き、目にも留まらぬ速さの斬撃が放たれた。
 ニルズヘッグは傷を負うことなど厭っていない。どうせ九倍の攻撃速度なぞ見切れたものではないと知っているゆえ、致命となるもの以外は受けていく。しかし、流石に急所を狙われれば彼も黙っていない。
「全てを喰らうと思うなよ、時計ウサギ」
 鋭い眼差しで相手を睨み付けたニルズヘッグは、蛇竜の黒槍で鋭い一閃を受け流す。やりますねえ、と笑うマーダー・ラビットはまだ余裕だ。
 その間に青は自分の本体である青い宝石の首飾りに触れる。
「あうあう、いたいのとんでけー!」
 ――キュアリング・クリア・シアン。
 青き煌めきが周囲を満たしたかと思うと、ニルズヘッグが先程に受けた傷が癒やされた。其処からは癒やしと攻撃の攻防とも呼べる展開が巡った。マーダー・ラビットの攻撃が彼を傷つけようとも、青が放った光が瞬時に回復させていく。
「青、無理は……」
「ううん、おにーちゃんのちからになりたいから! まだへいき!」
 ニルズヘッグは青に無理をさせたくはなかったが、懸念を言葉にする前に力強い声が返ってきた。平気だと言うならば信じたいと思い、ニルズヘッグは頷く。
 それにマーダー・ラビットもかなりの強敵だと分かっていた。
「……ま、速攻と言っていられる相手でもあるまい」
 幻想展開――済生。
 殺し殺されが巡る世界は残酷だが、それでも世界は愛と希望に満ちている。
 背を支えてくれる少年がその証だ。
 ニルズヘッグは鱗を持つ竜人の姿に変じ、黒槍を大きく振り上げた。マーダー・ラビットは正にウサギの如くすばしっこいが彼は着実に急所を狙っていく。
 この身の重量を乗せて、全力で叩き込む。そんな姿勢のニルズヘッグに対して、マーダー・ラビットは揶揄うように笑った。
「なるほど、本気を出してきたんですね! かっこいいなぁ!」
 未だ余裕綽々であるらしいが、あんな態度などいずれ突き崩せるだろう。
「悪いがこの命の預け先は別にあってな」
 ニルズヘッグは果敢に斬り込み、槍の一撃を当てていく。どうやらマーダー・ラビットは魔力で傷を最小限に抑えているようだが、それでも構わない。
 何度でも、何撃であっても打ち込んでいくだけだ。
 青もニルズヘッグを見つめ、癒やしの光を解き放ち続けていた。
(ボクはたすけてもらったり、まもってもらってばっかりだ。だから、せめて――)
「おにーちゃんに痛いおもいはさせないよぅ」
 思っていたことが自然と言の葉になり、青は疲弊も忘れて力を揮う。その後押しを受けているニルズヘッグは、必ず彼と一緒に帰ることを心に誓った。
「……青」
「おにーちゃん?」
「ありがとうよ、もう少しだけ頑張ってくれ」
「うん、だいじょぶだよぅ」
 二人は視線を交わし、笑みを重ねる。互いへの思いは更なる力になっていった。
 この戦いが終わったら、青に手を差し伸べよう。きっと青は疲れているだろうから帰りは抱き上げてやって、しっかりと休ませたい。
「帰ったらケーキでも買ってゆっくりしよう」
「やった、うれしいな。楽しみだよぅ」
 ニルズヘッグがこの後の事を話すと、青はふんわりと笑った。
 絶対に絶対、二人で帰還する。
 そう思えば巡りゆく戦いにも力が入り――そして、戦闘は更に続いてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荊・リンゴ
ネネちゃん(f01321)と

時計ウサギが鳴らす鋏の音と興奮気味な声色が酷く不快で、思わず耳を塞ぎます

ネネちゃんがユグルに呪詛を纏わせる間は全力でサポートします
【荊棘の夢】で王(パパ)と王妃(ママ)を呼び出して、時計ウサギの猛攻になんとか耐えます
「手数では負けてしまうかもしれないけれど、私のパパとママはとっても強いんですよ……!」
ユグルで呪いを付与できたら、勝負はこちらのものです!
ネネちゃんが私の方に振り向き相槌を打ったらそれが合図
攻撃の手を止め防御に徹します

ネネちゃんがピンチの時はすかさずパパをそばへ
傷の一つも付けないよう、必ず守ります

アリス達の邪魔をする悪いウサギさんはお家に帰ってください!


藍崎・ネネ
リンゴちゃん(f09757)と

殺してあげる、なんてそんなの全然ご褒美じゃないの
アリス達を傷付けるのは許さないのよ
しっかりお仕置きしてあげるの

私が前に出るの。リンゴちゃんは後ろからサポートしてくれるとうれしいの
ユグルに呪詛を纏わせて展開させるの
リンゴちゃんと連携しながらスピード重視で連撃を繰り出して、一撃でもいいから時計ウサギに喰らわせるの
【黒鎖の祝福】で呪いを付与出来たら、あとは防御に徹するの
どんなに早い攻撃でも、鎖で絡めて弾いてあげる
その場に縛りつけて動けなくしてあげるのよ

リンゴちゃんには手を出させないの。何かあったら庇うの

呪いの味はどうかしら? 少しずつ少しずつ、苦しんでしまうといいの



●祝福の後に
 血塗れの鋏が鳴らされている。
 ただ刃と刃が擦れあう音だというのに、それは酷く不快に思えた。
「……!」
 リンゴは時計ウサギが鳴らす鋏の音と、興奮気味な声色を聞きたくないと感じる。思わず耳を塞いでしまったが、しゃき、しゃきり、という音は未だ聞こえてきた。
 怖い。この身が、繋がった縁が。繋いだ手まで斬り裂かれてしまいそうで――。
 そのとき、リンゴの前にネネが立ち塞がった。
 ネネは鋏の音を防ぐが如く、或いはリンゴを護るかのように凛と立っている。
「殺してあげる、なんてそんなの全然ご褒美じゃないの」
 ねえ、リンゴちゃん。
 ネネからそう呼びかけられたことで、リンゴは顔を上げた。耳を塞いでいた両手をそっと離し、こくりと頷く。
「……はい」
 リンゴはネネの瞳が真剣そのものであることに気付き、自分も気を引き締めた。
 ネネは一度だけ振り返り、大丈夫、と静かに笑う。リンゴが傍に付いてくれたことを確かめ、ネネはマーダー・ラビットに言い放ってゆく。
「アリス達を傷付けるのは許さないのよ」
「許さない? 一体どうやってそれを示すつもりですか?」
「しっかりお仕置きしてあげるの!」
 不気味なほどにこにこと笑っている時計ウサギが問いかけると、ネネは身構えながらしっかりと答えた。
 リンゴもマーダー・ラビットを見つめ、負けてはいられないと気合いを入れる。
「私が前に出るの。リンゴちゃんは後ろをお願いしていい?」
「わかりました! ネネちゃん、無理はしないでくださいね」
「大丈夫なの!」
 援護を頼まれたリンゴはぐっと掌を握り締め、ユグルの鎖に呪詛を纏わせていくネネを護る覚悟を抱いた。
 黒いダイヤの連なる鎖に力が満ちていく中、リンゴは荊棘の夢を巡らせる。
 それは王と王妃、即ちリンゴのパパとママを召喚する力。
「時計ウサギさんの手数では負けてしまうかもしれないけれど、私のパパとママはとっても強いんですよ……!」
 だから、絶対に負けない。
 そんな思いを込めて解き放った思いは王と王妃の力にもなっていく。
 荊棘の魔力を纏う王と王妃はマーダー・ラビットが振るう糸の斬撃や、鋏の一閃による猛攻に耐えていた。
 そして、その間にネネはユグルに纏わせた呪を展開させる。
 踏み込んだネネは時計ウサギを狙い、速度重視の連撃を繰り出していった。相手は次々と攻撃を躱していくが、当たるのはたった一撃で良い。この呪詛を相手に与えられたら勝機を掴むことが出来るはず。
「甘いですね! その程度の攻撃なんて、喰らうはずがありません!」
 対するマーダー・ラビットは此方を嘲笑っている。
 それでもネネも、リンゴも諦めずに攻撃を放っていった。そして、或る一瞬。
「今です……!」
「くらえ、なの!」
 黒鎖の祝福――ユグルリムルシカ。
 リンゴのパパとママが作った隙を突き、横薙ぎに払われたネネの鎖が殺人ウサギを穿った。痛みはあまり与えられていないが、ネネの攻撃には更なる力がある。
「やりましたね!」
 わあ、と両手を合わせて笑むリンゴ。其処にネネが振り向き、そうっと頷いた。
 ユグルで呪いを付与できたならば勝負はこちらのもの。
 ネネがこうしてリンゴの方に振り向いて、相槌を打ったらそれが合図だ。二人は攻撃の手を止めて防御に徹していく。
「何ですか? あんな一撃なんて、何と、も……?」
 あれあれ、とマーダー・ラビットが首を傾げた。鎖自体に攻撃力はなくとも、巡った呪いが侵食することで相手の調子を崩させている。
 何をしたんですか、と睨み付けてくるマーダー・ラビット。その視線を受け止めながら、リンゴは王をネネの傍に向かわせた。
 おそらく敵は呪詛を宿したネネを狙うだろう。
 それならば彼女に傷の一つも付けないよう、必ず守りたいと思った。
「ネネちゃんには触れさせませんです!」
「私だって、リンゴちゃんには手を出させないの」
 互いを想い、守りあう二人はマーダー・ラビットからの攻撃を注視した。彼が腕を振るうと、鋭く細い糸がふわりと宙に舞う。
 あれが斬撃になるのだと察したリンゴはネネに呼びかけ、身構えた。
 ネネは咄嗟に黒鎖を放ち返し、糸を弾いて直撃を防ぐ。どんなに素早い攻撃あっても、ユグルで絡めて弾いていくのみ。
 マーダー・ラビットなど、その場に縛りつけて動けなくしたっていい。
 リンゴも全力を込め、敵に宣言する。
「アリス達の邪魔をする悪いウサギさんはお家に帰ってください!」
「ふ、ふふ……。お家なんてものがあれば良かったのですけど、ね!」
 対する時計ウサギは口の端を歪めた。
 どうやら呪いに耐えているらしく、彼は少しよろめいている。
「呪いの味はどうかしら?」
 少しずつ少しずつ、徐々に苦しんでいくといい。これは即効性ではないゆえに相手を長く苦しめ、終わりに追い詰めていく呪詛なのだと語り、ネネは更に鎖を振るう。
 時計ウサギが殺人を好む理由。
 家がないと暗に語った背景。それを知ることは出来ず、彼の行動も看過できないが、ネネとリンゴはただひとつの結末を目指している。
 それは――アリス達と共に、二人で外の世界に出て新たに歩む道を探すこと。
 未来を見つめ、少女達は戦い続けていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戎崎・蒼
宮前・紅(f04970)と行動
【POW】
遂にマーダーラビットのお出ましか……けれど彼は殺戮にしか目がない
そう考えればこう言っては何だけど、滑稽だと感じるよ
いっそ可哀想だと思う程に

ともあれ敵はどうやら遠距離には向かないらしい
なら此方の土俵で思う存分攻撃が出来るというもの
隙を見計らえたのなら、僕の弾丸を打ち込んで様子を見よう(スナイパー+暗殺)

紅、君が僕に花を持たせてくれると言うのなら、有難く頂戴させて貰おうか
1分もあれば十分だろって?……今日は随分と買い被ってくれるな、槍でも降るのか?
……冗談はここまでにして置くとしてだ
これで終わりにしようか
君も、この狂った世界も全部──ね
(UC発動)


宮前・紅
戎崎・蒼(f04968)と行動
【WIZ】
随分と愉快なヤツみたいだね♪︎俺と気が合いそうじゃない?
俺も力比べだ〜〜〜いすきなんだ!
どっちが先に死ぬか楽しみだね♪︎
俺とお話でもしながら戦おうよ
(UCを発動)
こんな奴に心的外傷なんか与えられるか分かんないけど
足止め位はさせて貰おうかな
移動範囲が制限されれば動きやすくなる筈、コイツからの遠距離攻撃の心配も無くなるから撃ちやすいよね?
まあ、俺も攻撃するけどね♪︎
さ、Elsie、Lacie、Tillieも手伝って(フェイント+貫通攻撃)
俺が奴と交戦していても、君ならその隙間を縫ってコイツを撃ち抜くことくらい容易いでしょ?
俺が花を持たせてあげるよ───蒼くん



●咎と聖
 ウサギ穴の出口。
 其処で待ち受けていた時計ウサギを見遣り、蒼は首を軽く横に振る。
「遂にマーダー・ラビットのお出ましか……」
 左胸に飾られた青薔薇のコサージュに無意識に触れながら、蒼は敵の様子を窺った。その隣には、蒼の肩口からひょこっと顔を覗かせた紅がいる。
 マーダー・ラビットは先程に殺戮についての言葉を語っていた。それらを思い出しながら、紅は小さく笑う。
「随分と愉快なヤツみたいだね♪︎ 俺と気が合いそうじゃない?」
「彼は殺戮にしか目がないようだね。そう考えれば――こう言っては何だけど、滑稽だと感じるよ」
 いっそ可哀想だと思う程に、と蒼が口にすると紅が横目でじろりと視線を向けた。気が合いそうだと言っている相手をそう称することに対して、紅は問いかけてみる。
「それって俺のことも含めてる?」
「いいや、マーダー・ラビットに対してだけだよ」
 紅からの眼差しを受け流した蒼は肩を竦めた。どうやら紅はそれで納得したらしく、そっか、と頷いて笑みを浮かべ直した。
 そして紅は殺人時計ウサギへと意識を向け、声を掛ける。
「ねぇ、ウサギ!」
「はい? お呼びでしょうか!」
 するとマーダー・ラビットは身を翻し、血塗れの鋏を鳴らしながら振り返った。こんにちは、と皮肉交じりに挨拶をした紅はトランクケースを掲げる。
「俺も力比べだ~~~いすきなんだ! どっちが先に死ぬか楽しみだね♪︎」
「なるほど! それはそれは結構なことですね。けれど、そういう台詞は一番に死ぬ人が言うって知ってました?」
「へぇ。本当かどうか、俺とお話でもしながら戦おうよ」
 両者の視線が重なる。
 どちらも口が達者であることはよく似ており、在る意味で気が合いそうだ。
 時計ウサギと紅の間で会話が交わされていく中、蒼は敵の出方を分析していた。紅と仲が良さげなのはさておき、敵はどうやら糸を使うらしい。
 遠距離攻撃があるのは厄介だが、その他は鋏やナイフの武器ばかりだ。
 糸にだけ気をつければ、後は此方の土俵で思う存分攻撃が出来るというもの。蒼は構えを取り、狙いをマーダー・ラビットに定める。
 同時に紅もトランクケースをひらいた。蒼が動き始めたことを察したからだ。
「さて、足止めくらいはさせて貰おうかな」
 殺戮しか頭にない相手に心的外傷など与えられるかは分からないが、物は試しだ。無数の腕がケースから飛び出し、マーダー・ラビットを捉えていく。
「これは見事ですね! 僕もそんな武器が欲しいですよ!」
 ナイフや鋏で腕を切り落としていく時計ウサギは平気そうだった。しかし、移動範囲が制限されれば此方が動きやすくなる。
 紅が一瞬だけ向けた視線に気付き、素早く動いた蒼は弾丸を撃ち込んでいく。
 魔弾の一斉射撃が放たれていく最中、紅はくすりと笑む。
「ほら、もっとだよ。コイツからの攻撃の心配も無くなるから撃ちやすいよね?」
「……ふぅん。そういうつもりでしたか!」
 対するマーダー・ラビットは紅と蒼の連携に感心していた。魔弾から逃れるように跳躍した敵は双眸を細める。
 其処から蒼の元に降り立ったマーダー・ラビットはナイフの一閃を振るった。
 鋭い斬撃が蒼を貫かんと迫ったが、紅が放った腕の一本がそれを防ぐ。紅の方に振り向いた時計ウサギは舌打ちをした。
「ち、厄介な小僧ですね」
「余裕がなくなったのかな? 随分と口が悪くなってるよ。まあ、どんなことになってても俺も攻撃するけどね♪︎」
 明るい調子で語った紅は人形達を呼ぶ。
 その間に蒼が次の魔弾を放つべく、体勢を整えていった。
「さ、Elsie、Lacie、Tillieも手伝って」
「――貫くよ」
 人形達が踊るように敵に向かっていく中、狙い澄ました弾丸が解き放たれていく。
 いい調子だと口にした紅もマーダー・ラビットを狙っていった。自分が敵と交戦していても、蒼なら隙間を縫って撃ち抜くことくらい容易い。
 そうでしょ、と問うような視線が再び向けられ、蒼は頷きで以て応える。
 それでこそだと感じた紅は蒼に語りかけた。
「俺が花を持たせてあげるよ、蒼くん」
「それなら、有難く頂戴させて貰おうか。花を無下に捨てる趣味はないからね」
「期待してるよ?」
 蒼に対して、一分もあれば十分だろう、なんて思いも向けられている。魔弾で敵を穿ちながら、頭を振った蒼は溜息を零した。
「……今日は随分と買い被ってくれるな、槍でも降るのか?」
「その槍が奴を貫いてくれればいいのにね!」
 蒼の皮肉を冗談で返し、紅は可笑しそうに口許を押さえる。蒼はというと更に深い息を吐き、マーダー・ラビットを見据えた。
「……冗談はここまでにして置くとしてだ。終わりにしていこうか」
 時計ウサギを瞳に映した蒼は冷たく告げる。
 発動されるのは第二楽章、無言歌――リーダオーネウォルテ・ティロ・ボレー。
「君も、この狂った世界も全部――ね」
 言葉と共に放たれた魔弾は暗闇の世界を貫くが如く、激しく巡っていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子
エドガーさん(f21503)、やりました!
私に花丸?
わ、有難うございます
ご協力合ってのことでしたからエドガーさんにも花丸ですよ

御機嫌よう、兎さん
よくも籠の中に閉じ込めて
私達の足取りを邪魔しましたね
このお礼はたっぷりお返しを
今の私は容赦なんてしませんから
どうぞお覚悟を

エドガーさんの後ろから銃で撃つと見せ掛けて兎さんへ向かい
柄の角を彼の頭にぶつけ、銃の先端で体勢を崩す様に彼の足元を払う(2回攻撃
これ(頭)は鳥籠の中で閉じ込められて
怯えていた子供たちの分!
こっち(足元)は足止めされた私の分!

お任せ下さいエドガーさん
少々お転婆が過ぎたかもしれませんが
それだけの事をしたんですよ貴方は
悪く思わないで下さい


エドガー・ブライトマン
コトコ君(f27172)、よくやったね
籠から出られたのはキミの王子様たらんとする意志あればこそ
強く高い志に花丸をあげる

さて、元凶のかれを罰しなくっちゃ
今回私はコトコ君の補助を務めるつもりなんだ
彼女の“お返し”が存分に出来ればさいわいだよ

ごきげんよう、マーダーラビット君
歪んだ物語を正すのは王子様って相場が決まっているんだよ
ウンウン、よくわからないがご機嫌なコトだねえ

剣を抜き、私が戦うと見せかける
かれの興味をこちらへ引き付けたところで、剣は左手へ
右手の指先を向けて“Sの御諚”

悪いけど戦うのは私じゃない
キミはそのままじっとしていればいい

それじゃ、後は頼むよ。コトコ君
キミの王子様としての矜持を見せてね



●王子の矜持
 それは、閉じ込められた鳥籠から出てすぐのこと。
「コトコ君、よくやったね」
「エドガーさん、やりました!」
 脱出を果たした琴子はエドガーと視線を交わし、互いに頷きあっていた。
「鳥籠から出られたのはキミの王子様たらんとする意志あればこそ。強く高い志に花丸をあげよう」
「私に花丸? わ、有難うございます。ですが、ご協力あってのことでしたからエドガーさんにも花丸ですよ」
「そうか、じゃあ二重花丸だね」
「ふたつの花丸が仲良く並んでいる丸かもしれませんね」
 そのような遣り取りを交わした二人の間に笑みが咲く。そうして、エドガーと琴子はウサギ穴の出口までやってきた。
 其処にはマーダー・ラビットが待ち受けており、戦いが巡りはじめた。

「さて、元凶のかれを罰しなくっちゃ」
「御機嫌よう、兎さん」
「ごきげんよう、マーダー・ラビット君」
 エドガーはレイピアを抜き、琴子と一緒に礼儀正しく一礼してみせる。
 恭しく振る舞っていても琴子からマーダー・ラビットに抱く思いは強い。おやおや、と口にして笑っている時計ウサギに向け、琴子は鋭い眼差しを向けた。
「よくも籠の中に閉じ込めて、私達の足取りを邪魔しましたね」
「これがこの穴のルールでしたからね! 文句なら鳥籠に言ってください」
 対するマーダー・ラビットは自分は悪くないとでも語るように笑い、手にしている鋏をしゃきしゃきと鳴らした。
 しかし、琴子はそんな言葉になど惑わされない。
 ウサギ穴をあんな風にしたのは間違いなくあの時計ウサギだ。
「このお礼はたっぷりお返しを。今の私は容赦なんてしませんから……!」
 どうぞ、お覚悟を。
 身構えた琴子に頷き、エドガーは一歩前に歩み出した。とはいっても彼は今回、琴子の補助を務める気でいる。
 彼女の“お返し”が存分に出来ればさいわい。
 琴子が目指す王子への道を見届ける為、敢えて補佐に回るのだ。しかし、エドガーはわざわざ敵にそれを知らせるようなことはしない。
「いいかい、ウサギくん」
「はいはい。聞いていますよ~!」
 エドガーが声を掛けると、マーダー・ラビットはにこやかに答えた。
「歪んだ物語を正すのは王子様って相場が決まっているんだよ。知っていたかい?」
「王子様ですか、残念ですが趣味じゃないんですよね。殺戮とは無縁でしょう?」
 からからと笑った時計ウサギ。
 その姿を見ていたエドガーは刺突剣を差し向け、攻撃の姿勢を見せた。
「ウンウン、よくわからないがご機嫌なコトだねえ」
 そして、エドガーは強く地を蹴る。琴子はというと彼の後方に立っており、銃を構えていた。レイピアが振り上げられ、銃口が向けられたことでマーダー・ラビットは二人の役割を察知する。
 エドガーが前衛、琴子が後衛――だが。
 時計ウサギの視線がエドガーに向いた瞬間、剣が左手に持ちかえられた。てっきり剣が振るわれると思っていたマーダー・ラビットは警戒を強める。
 刹那、エドガーは右の指先を敵に向けた。同時に琴子がマーダー・ラビットに向けて素早く駆けていく。
「それでフェイントのつもりです、か……っと?」
「悪いけど戦うのは私じゃない。キミはそのままじっとしていればいい」
 相手はすぐに琴子に対抗しようとしたが、エドガーがそうはさせなかった。
 瞳から放たれる威光がマーダー・ラビットを捉える。その瞬間、まるで王族に敬意を払わなければいけないという畏怖めいた心が与えられた。
「それじゃ、後は頼むよ。コトコ君」
「お任せ下さいエドガーさん」
 その隙を狙い、琴子は一気に距離を詰める。
 柄の角をウサギの頭にぶつけ、更に銃の先端で体勢を崩すように足元を払った。
「これは鳥籠の中で閉じ込められて、怯えていた子供たちの分! こっちは足止めされた私の分です!」
 頭と足元。両方の攻撃が見事に敵を穿った。
 わ、と声を上げてよろめいたマーダー・ラビットは何とか体勢を整える。
「キミの王子様としての矜持、しっかり見せてもらったよ」
 ウンウン、と頷いたエドガーは満足気だ。
 お返しが無事に終わった今、エドガーの役目も果たされた。マーダー・ラビットは肩を竦め、完全にやられたと呟く。
「まさか、ああやって来られるとは! 面白くなってきましたね!」
「少々お転婆が過ぎたかもしれませんが、それだけの事をしたんですよ貴方は」
「それじゃあ次は僕の番ですね!」
「悪く思わないで下さ……いいえ、そんなことはさせません」
 琴子が敵を見据えると、彼は次は自分が殺す番だと語った。はたとした琴子は、彼とは話が通じないのだと実感する。
「遠慮は要らないみたいだね。さあ、やろうかコトコくん」
「はい!」
 エドガーがレイピアを華麗に掲げたことに気付き、琴子も銃を構えた。そして、二人の王子は次の一手に移るべく駆けていく。
 目指すは明るいみちゆき。
 アリス達が胸を張って次の世界に向かえる、正しい未来だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハイドラ・モリアーティ
【BAD】
ウーそーいうプレイはノーサンキューだ
俺たちの間に入るのもNGね
もうちょっとマシなご褒美を考えろや
こーいうのは俺たちから注文をつけるのがセオリー
――ウサギの肉っておいしかったりすると思う?
俺はケッコーイケるんじゃないかなって思ってンだよね

【SACRIFICE】
よくも閉じ込めてくれたな
俺はよく電気で殺されたことがあってさァ
カタナにビリビリ、電気通してやって
おッとぉ、斬るのが俺の目的じゃないぜ
――電磁力でお前の武器取り上げる
俺はS。お前の武器はNってとこ
本当のサディスティックを魅せてやるよ、よく味わいな!
さぁエコー、復讐の時間といこう
気に入らねェんだ
こういうサイコ気取りのイカレ野郎はよ!


エコー・クラストフ
【BAD】
殺す殺すと、出来もしないことを得意げに口にするものじゃない
ボクらはどちらも不死。そう殺せるものじゃない
見せてやろう。死なないということの強さを
……ウサギの肉は美味しいかもしれないけど、こいつの肉はマズそうだなぁ

【罪人よ、血を流せ】。お前がどんな武器を使おうが、ボクはその傷を糧に力を増す
ハイドラに近付かせないように斬り結び、適度に自らのダメージも増やしていく
そうしてハイドラが敵の武器を回収する時間を稼ごう

あぁ、いいねハイドラ。君の怒りを見せてやれ
恐れ、憎しんだ相手に存分に刃を振るう。これがボクを動かす原動力!
慣れているんだろうな、人を殺すことに
だから今度は、お前が斬り刻まれてみる番だ



●復讐と意志の刃
 誰が一番に死ぬか、という問い。
 時計ウサギはその答えを自らが持つ殺人技巧と刃で確かめる心算らしい。
 ハイドラは肩を竦め、エコーはゆっくりと首を横に振る。二人は相手から放たれる殺気に慄きなどせず、真っ直ぐにマーダー・ラビットを見据えていた。
「ウーそーいうプレイはノーサンキューだ」
「殺す殺すと、出来もしないことを得意げに口にするものじゃない」
 二人は拒絶の意思を見せる。
 するとマーダー・ラビットは可笑しげに笑い、ハイドラとエコーを品定めするように視線を巡らせた。
「これはこれは、殺しても死ななそうな方々ですね! それに絆も強そうだ!」
「ボクらはどちらも不死。そう殺せるものじゃない」
「それなりの評価どうも。けど、俺たちの間に入るのもNGね」
 どうやって引き裂こうかの算段を立てはじめた時計ウサギに対し、エコーは冷静に答えた。ハイドラは、もうちょっとマシなご褒美を考えろや、と告げて身構える。
 更に笑ったマーダー・ラビットは双眸を鋭く細めた。
「不死? それがどうしたんですか。死なないなら殺して殺して殺して殺して殺して、ずっと殺し続けられますよ! ああ素晴らしい!」
 敵は高らかに笑っている。
 やはり話が通じないのだと察したエコーは、殺されないと証明することを決めた。
「見せてやろう。死なないということの強さを」
 呪剣を握ったエコーが地を蹴る。
 其処に続いたハイドラは魔術式を展開していった。対するマーダー・ラビットは腰から取り出した鋭利な糸を、エコーの首元を狙って解き放つ。
 身を逸したエコーは首に糸が掛けられることを避けた。
 されど、糸が頬に掠ったことで傷が刻まれる。身を翻したエコーの様子に気付き、ハイドラは銀の方の片目を不機嫌そうに眇めた。
 言葉にはしないが、彼女が傷付けられたことで不愉快になっているようだ。
 溜息だけで不快感を示したハイドラは、ふと呟く。
「こーいうのは俺たちから注文をつけるのがセオリーだろうが。――ウサギの肉っておいしかったりすると思う?」
 ハイドラの問いかけを聞き、エコーは軽く首を傾げた。
「……ウサギの肉は美味しいかもしれないけど、こいつの肉はマズそうだなぁ」
「俺はケッコーイケるんじゃないかなって思ってンだよね」
「ほらほら、おしゃべりなんてしている暇はありませんよ!」
 言葉を交わす二人の間に割り込むようにして、マーダー・ラビットがナイフを振るってくる。エコーが黒剣で刃を受け止める中、ハイドラは頭を振った。
「俺たちの間に入るなって言っただろ。ああそうだ、それにお返しもしなきゃいけないんだったなァ。よくも閉じ込めてくれたな」
 口の端を僅かに緩め、ハイドラは復讐の一手を解き放つ。
 それは自分が殺された殺人技法を具現化するもの。そう、たとえば。ハイドラはよく電気で殺されたことがあった。
「こうやってさァ。刀にビリビリッと電気を通して、同じ目に遭わせてやる」
「あはは! そんな一撃なんて効かな……」
「――とでも思ったか?」
 顕現させた電撃の一閃が振るわれる、と思ったマーダー・ラビットに対して、ハイドラは不敵な表情と言葉を返した。
「何ですか?」
 一瞬、敵が不思議そうな顔を見せる。その瞬間に事は起こった。
「おッとぉ、斬るのが俺の目的じゃないぜ」
 ハイドラの狙いは電磁力でマーダー・ラビットの武器を取り上げること。
 例えるならば自分はS極。時計ウサギの武器はN極。
 鋏やナイフがハイドラの方に引き寄せられていく中、好機を感じ取ったエコーが素早く斬り込んでいった。相手の武器は電磁力の関係ない糸だけ。
 しかし、とっさに糸を掴めなかったマーダー・ラビットは後れを取る。
「お前がどんな武器を使おうが、ボクはその傷を糧に力を増すだけ」
「く……!」
 エコーは彼をハイドラに決して近付かせないように立ち回り、一瞬でウサギの身を斬り結ぶ。遅れて放たれた糸が己の身を斬り裂こうとも構わなかった。その分だけ、次の一手への力が強くなっていくのみ。
 敵の武器はまだ腰元のポーチに入っているようだ。
 先程に回収しきれなかった刃を取り出したマーダー・ラビットは、新たな斬撃を放とうとしているらしい。
「本当のサディスティックを魅せてやるよ、よく味わいな!」
 だが、ハイドラは更に電磁力を放ち、エコーはその時間を稼ぐための一撃を与えに駆ける。息のあった二人の行動は徐々にマーダー・ラビットを追い詰めていった。
 巡る攻防の中で瞳を細め、ハイドラはエコーを呼ぶ。
「さぁエコー、復讐の時間といこう」
「あぁ、いいねハイドラ。君の怒りを見せてやれ」
「気に入らねェんだ。こういうサイコ気取りのイカレ野郎はよ!」
 其処からハイドラとエコーは更なる力を紡ぎ、殺人ウサギを斬り刻んでいく。
 その際にエコーは思う。
 恐れ、憎しんだ相手に存分に刃を振るう。これこそが自分を動かす原動力であり、揺るぎない意志の証。
 時計ウサギを瞳に映したエコーはハイドラを護りながら、静かに語りかける。
「慣れているんだろうな、人を殺すことに」
「そりゃあもう! 何人殺したかなんて数えられないほどですね!」
「自慢することじゃねェだろ」
 軽く息を吐き、ハイドラはマーダー・ラビットに呆れ混じりの視線を寄越す。そうか、と興味なさそうに頷いたエコーは赤い雷を纏う剣の切っ先を敵に差し向けた。
「――だから今度は、お前が斬り刻まれてみる番だ」
 そして、これまで以上に鋭く鋭利な剣一閃が倒すべき存在へと叩き込まれる。
 戦いは未だ続くだろう。
 されど二人は自分達の勝利を疑うことなく、其々の力を揮い続けていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戀鈴・シアン
【硝華】

嗚呼、全くだ
まるで理解できない

さっきは奪われてしまったけど
そう何度も奪わせやしないさ
花は鳥籠に入れるものじゃないし
硝子の花は鋏で切るものじゃない

イト、力を貸してほしい
その七彩で背を押してくれないか
もう少しだけ、俺に守らせて

敵の攻撃は想刀で受け流し
創造した複数の硝子剣と共に駆ける
あいつが後ろにいてくれるから、花弁が舞い守ってくれるから、安心して敵へと向かえる
十分に接近すれば一箇所目掛けて剣を一斉発射、串刺しに
そのまま其処に想刀を振り下ろす

片割れの元へと戻れたなら、安心させるために笑ってみせて
し、触診…?
彼の気が済むまでなすがままに
俺よりもイトの方こそ!
今度こそ守れたかな
何より大切な俺の華


戀鈴・イト
【硝華】

なんて悪趣味な奴だ
ご褒美なんて欲しくないよ

君のせいでシアンにあんな顔をさせた
僕がうっかりしたのもあるけれど
花瓶は割れやすいんだ
もっと優しく丁寧に扱ってくれないと困る

もちろん、僕の力は君の力だよ
七彩の光でシアンの戦闘力増強を
守られてばかりは嫌だから
僕にも守らせておくれ

支援しながら硝子細工の花弁で
シアンの周りや自分の周りを防御しよう
シアンを後押しするように祈る
君はとても強いよ
美しくて格好良い、硝子細工
どうか怪我ひとつしないで

シアンが帰って来たら駆け寄って
シアン、おかえり
怪我はないかい?
問いかけながらぺたぺたと確認

良かった…
僕も無事だから安心して
守ってくれてありがとう
僕の愛しい片割れ



●光と想い
「なんて悪趣味な奴だ」
「嗚呼、全くだ。まるで理解できない」
 イトとシアンは同じ思いを抱き、マーダー・ラビットを瞳に映している。
 血塗れの鋏やナイフを手にしている彼は、ご褒美に殺してあげる、と語っていた。そんなもの要らない、と頭を振ったシアンに頷き、イトは静かに言い放つ。
「ご褒美なんて欲しくないよ」
「おやおや、遠慮しなくても良いんですよ。離れ離れで死ぬよりも、一緒に殺された方が幸せでしょうからね!」
 マーダー・ラビットはイト達の言葉を聞き、揶揄いの言葉を返した。
 シアンとイトは呆れ混じりの表情を浮かべる。この時計ウサギとは話が合わない。殺戮のことしか考えていない相手には言葉も思いも通じないようだ。
「さっきは奪われてしまったけど、そう何度も奪わせやしないさ」
「君のせいでシアンにあんな顔をさせた。僕がうっかりしたのもあるけれど、こんな状況を作った君のせいだよ」
 シアンが強く宣言すると、イトも抱いている思いを声にした。そして、二人は互いを想う言葉を紡いでゆく。
「花は鳥籠に入れるものじゃないし、硝子の花は鋏で切るものじゃない」
「花瓶は割れやすいんだ。もっと優しく丁寧に扱ってくれないと困るな」
 自分を満たす存在。己になくてはならないもの。
 それが花と花瓶。
 二人の思いを聞いても、マーダー・ラビットは興味がなさそうに頷くだけ。興味津々でも困るけれど、と呟いたシアンはイトに呼びかけた。
「イト、力を貸してほしい」
「もちろん、僕の力は君の力だよ」
 その七彩で背を押してくれないか、とシアンが願えば、イトはそっと応える。
 次の瞬間、虹の戀華が周囲に広がる。
 聖なる光は七つの煌めきを宿してシアンの身をやさしく包み込んでいった。その力からイトのやさしい思いを感じ取り、シアンは身構える。
 ――もう少しだけ、俺に守らせて。
 ――守られてばかりは嫌だから、僕にも守らせておくれ。
 交わした視線だけで互いの思いが分かった。
 守り、守られている。気持ちは伝わっているのだと実感しながら、二人はマーダー・ラビットへの攻撃を開始していく。
 前へ踏み込んだシアンは、敵が振るった鋏を想刀で受け流した。鋭い衝撃が腕に伝わってきたが、イトの力があれば何ともない。
「お返しだ」
 其処からシアンは創造した複数の硝子剣と共に斬り込む。
 同時にイトが解き放った硝子細工の花弁が剣と一緒にマーダー・ラビットを穿った。
「シアン、……シアン」
 気付けばイトは祈るように彼の名を呼んでいた。
 その声はシアンの確かな力となっていく。あいつが後ろにいてくれるから、花弁が舞い守ってくれるから、安心して敵へと向かえる。
 イトもシアンが前に居てくれるから、こうして背を押せると思っていた。
「君はとても強いよ」
 美しくて格好良い、硝子細工。どうか怪我ひとつしないで。
 僕が守るから、といとおしげに囁いたイトは更に硝子の花を巡らせていった。シアンもマーダー・ラビットからの猛攻を受け続け、一気に懐まで入る。
 狙うは敵の胸元。一箇所目掛けて剣を一斉発射したシアンは、そのままひといきに想刀を振り下ろした。
 刹那、敵の胸に深い刀傷が刻まれる。
「うわ、っと! かなりいい一閃ですね~!」
「減らず口を。かなりの手応えはあったから、もう随分と疲弊しているはずだ」
「どうでしょうかね! そちらの勘違いかもしれませんよ?」
 だが、マーダー・ラビットは曖昧な笑みを浮かべていた。どちらにせよ、深い傷を与えたことは間違いない。
 されど安心するのは早いとして、シアンが身構え直した刹那。
 時計ウサギは高く跳躍して二人の前から大きく距離を取った。おそらく押されてしまった形勢を立て直す心算だと察したシアンは冷静な判断をする。
 イトを置いてひとりで追ってしまえば、敵の思う壺。
 シアンはイトの元に戻り、自分達も体勢を整えることにした。
「手強いやつだね。深追いは危ないよ」
「シアン、おかえり」
 片割れの元へ戻ったシアンは、安心させるために笑ってみせる。駆け寄ったイトは彼が傷付いていないか確かめるために手を伸ばした。
「怪我はないかい?」
「し、触診……?」
 ぺたぺたと触ってくるイトの行動は心配からくるものだ。シアンは少しだけ落ち着かない気分を覚えたが、彼の気が済むまでなすがまま。
「良かった……」
 安堵したらしいイトにそっと触れ返し、シアンはその顔を覗き込む。
「俺よりもイトの方こそ!」
「僕も無事だから安心して。守ってくれてありがとう」
 君のおかげで、と伝えたイトは微笑みを浮かべた。シアンはその手を取り、再びマーダー・ラビットと戦うための力を貸して欲しいと願う。
「今度こそ守れたかな。ううん、守るよ」
「僕だって、同じ気持ちだよ」
 言葉を重ねあった二人は、倒すべき敵が向かった方に視線を向けた。
 そうして、想う。

 ――何より大切な俺の華。
 ――僕の愛しい片割れ。

 何よりも、誰よりも大事なひとを。守り抜くという想いと誓いが、此処に在る。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティア・メル
【揺籃】

わわわっ
円ちゃんが怒ってるんだよ
こんな風にかっちーんしてる円ちゃん初めて見たっ
円ちゃんがむっきーするならぼくもむっきーしちゃおう

んふふ
初めて見る円ちゃんを記憶に刻み付ける
うさぎさんにはちょっぴり感謝しなくもないよ
でもね、いつもと違う円ちゃんを君に見せるのも癪だなあ
だからここでやっつけさせてね

例の特殊能力だー?
どんな色をしてるのかな?
おめめと同じ綺麗な赤い色かもしれないね!
もちろんだよん
鼓舞を込めてステップを踏みながら音色を奏でよう
敵を円ちゃんに近付けないように

円ちゃん、頑張って
そこのうさぎさん、円ちゃんに何かしたら
――わかってるよね?
白い肌に一つでも付けたら許さないよ


百鳥・円
【揺籃】

かっちーんときましたようかっちーんと
あのイカれウサギ好きじゃあありません!
なんだかこう!むっきー!とするんです!

ぱっと倒しておじょーさんと遊びにいきましょ
かわいいおじょーさんを閉じ込められ
いけ好かないヤツが目の前に現れ
まどかちゃんとーってもおこおこですよう!

あ、あのウサギの宝石糖って何色なんでしょ
なんだかすっごく気になってきましたん
おじょーさん、わたしを応援してくれますか?
んふふ、なんだかとーっても頑張れる気がしますの

いろーんな意味でばっちり元気です!
それでは張り切って参りましょーっと
あなたの宝石糖は何色でしょーか!

ばびゅんと飛ばした蝶たちに風属性付与です
そのまま追いかけっこですよう!



●甘い色
 人の命を戯れに弄ぶ姿勢。
 自分が上位に立っているという勘違い。彼が浮かべる笑みや表情も、血塗れの鋏やナイフも――何よりも、あの所業が許せない。
「かっちーんときましたよう、かっちーんと」
「わわわっ、円ちゃんが怒ってるんだよ」
 率直な言葉と思いをあらわした円の声を聞き、ティアは驚きと不思議が入り混じった表情を浮かべた。
 物語を導く時計ウサギらしからぬ案内放棄。それに加えてティアまで巻き込む鳥籠の世界が現れた原因は彼にある。そう思うと苛立ちめいた感情が浮かんできた。
「あのイカれウサギ好きじゃあありません!」
「ぼくも、あんまり好きじゃないなあ」
「なんだかこう! むっきー! とするんです!」
「円ちゃんがむっきーするならぼくもむっきーしちゃおう」
 思いのままに言葉を落とす円を見て、ティアはにこにこしている。こんな風に円が怒っているのはティアを思ってくれているからでもあった。そのことをなんとなく理解しているティアは、嬉しい気持ちと一緒に彼女に同調する感情を抱く。
 斯くして、二人分の怒りを向けられたマーダー・ラビットはというと――。
「あれあれ? 怒りながら殺されたいっていう不思議なお客さんですね!」
 状況を都合よく解釈して笑っていた。
 彼はしゃきりと鋏を鳴らし、今にも此方に向かってきそうだ。危険が迫っていると解っていてもティアの口許には笑みが宿っている。
 初めて見る円の様子を記憶に刻み付け、ティアは時計ウサギに語りかけた。
「んふふ、うさぎさんにはちょっぴり感謝しなくもないよ」
「殺される感謝ですか?」
「そんなわけがないでしょーに。かわいいおじょーさんを閉じ込められ、いけ好かないヤツが目の前に現れて、まどかちゃんとーってもおこおこですよう!」
 ティアに視線を向けたマーダー・ラビットに対し、円は怒りをあらわにした。
 その様子を見たティアから、一瞬だけ笑みが消える。
「でもね、いつもと違う円ちゃんを君にずっと見せておくままも癪だなあ。だからここでやっつけさせてね」
 感謝の次に見せたのは緩やかな敵意。
 ティアからも自分への思いがあるのだと察し、円はそっと微笑んだ。
「ぱっと倒しておじょーさんと遊びにいきましょ」
「んに、遊びにいこう!」
「随分と余裕ですね。それもいつまで続きますかね、と!」
 するろマーダー・ラビットは瞳を妖しく輝かせ、糸を解き放った。ただの糸ではないことは二人にも分かっており、円達は身を翻す。
 空気まで切り裂くように疾走っていった糸が当たればひとたまりもない。
 しかしマーダー・ラビットは次々と糸を宙に走らせ、此方を斬り裂こうとしている。警戒を強めながらも円はふと思い立った。
「あのウサギの宝石糖って何色なんでしょ。なんだかすっごく気になってきましたん」
「それって例の特殊能力だー? どんな色をしてるのかな? おめめと同じ綺麗な赤い色かもしれないね!」
 ぱっと反応したティアもマーダー・ラビットを見つめる。
 一度、気になってしまえば実行に移してみたくなるというもの。敵からの攻撃を掻い潜った円はティアに問う。
「おじょーさん、わたしを応援してくれますか?」
「もちろんだよん」
 ティアは快く頷きを返し、鼓舞を込めてステップを踏む。其処から奏でる音色は円に敵を近付けないようにする一手。
 甘く惑わせる力は死毒の雨を呼び、マーダー・ラビットを包み込む。
 彼女の応援に嬉しさを覚えた円も力を解き放っていく。
「んふふ、なんだかとーっても頑張れる気がしますの」
 先程までの怒りも何処へやら。いろんな意味でばっちり元気だと示し、円は指先をマーダー・ラビットに差し向けた。
「おや、何をする心算です?」
「それでは張り切って参りましょーっと。あなたの宝石糖は何色でしょーか!」
 ――惑え、惑え。廻り還るまで。
 ひらりと舞うのは夢を吸い上げ、宝石菓子に変じさせる蝶。時計ウサギの周囲に纏わり付いた蝶々は彼の色を写し取っていく。
「円ちゃん、頑張って。そこのうさぎさん、今のきらきらしてて綺麗な円ちゃんに何かしたら――わかってるよね?」
 あの白い肌に一つでも傷を付けたら、絶対に許さない。
 笑顔の裏に隠された冷たい思いを突き付け、ティアは敵を見据えた。
 その瞬間、ころりと赤い何かが転がる。それはマーダー・ラビットの鋏やナイフから変じた宝石糖だ。血の色を映したそれを拾い上げ、円は双眸を細めた。
「なんだか代わり映えしませんねえ」
「やっぱりおめめの色だったね!」
 ティアは円の傍に駆け寄り、出来上がった宝石糖を覗き込む。流石にマーダー・ラビット本人までは変じられなかったが、一部の力を削いだことは確か。
「なかなかに癖の強い方々ですね! こういうときは!」
 ――三十六計逃げるに如かず!
 そういうとマーダー・ラビットは身を翻し、円とティアの前から逃げ去った。殺戮を効率的にするためなら手段を選ばない。そのように感じた円はティアと視線を交わす。
「このまま追いかけっこですよう!」
「んにっ、うさぎさんを追うお話みたいにね!」
 蝶と共に風を纏う円は、ティアにも優しい風を巡らせた。
 手を取り合った二人は駆けていく。この戦いの終わりが続く場所へ。そして、共に踏み出せる外の世界を目指して――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
💎🐰
アドリブ歓迎

姫を助けた、ボクはナイト……むむ!
邪悪な兎の気配がする
やだ…兎なの?
同じ兎として許せん

兎乃くんと遊びに行く!
そしてボクはこれから奥方様になって愛し愛され子宝にも恵まれ、薔薇色もとい桜色の人生をおくる
邪魔するんじゃないよ

兎乃くん、殺される前に殺るんだ
ボクらならできる
誰も殺させないよ

キミの詠唱時間をボクが稼ぐ!
兎と云えばこれだよね!
描くはトランプのスートに赤い薔薇、触れれば爆発する全力魔法の絵画たち
バタつき蝶のオーラ絵で兎乃くんを守りながら、バーンと破壊工作してやるのさ!
そろそろお茶会の時間だよ!
「黄金色の昼下がり」ピタリと動きをとめるから
ぶちかましてやるんだ!

さぁ、くらえー!


兎乃・零時
💎🐰
アドリブ歓迎

そんなご褒美お断りだね!
…俺はまだまだ
フレズと行きたい場所もやりたい事もあるんだ!

だから死なないし殺させない!

あぁ
やられる前に!
ぶっ倒す!

時に【激痛耐性×挑発】で攻撃向けさせ
【援護射撃】で攻撃弾く

詠唱し魔術重ね力紡ぐ
物体変質〖輝光〗で全身を光に変え辺りの空気や攻撃も光魔力に変え〖生命力吸収〗
過剰付与〖輝光〗
属性付与【水】で体や杖に【オーラ防御×ドーピング】強化

〖光線+光の道〗魔術も重ね

ありがとうフレズ…!

積み重ねた今までの想い
経験
その全てを!この一撃に捧ぐ!

UC!
光〖属性攻撃×全力攻撃×限界突破×貫通攻撃×覚悟〗

極・輝光一閃《リミテッドオーバー・グリッターレイ》!!!



●薔薇色と光のみちゆき
 足取りも軽く、鳥籠から出口へと向かった先。
 其処に待ち受けていたのは殺戮を好む、血塗れのマーダー・ラビットだ。
「姫を助けた、ボクはナイト……むむ!」
 騎士気分でいたフレズローゼは邪悪な兎の気配を察し、さっと身構える。時計ウサギは栗色の耳を揺らしながら、鋏をしゃきしゃきと鳴らしていた。
「君も、貴方も、そっちの貴女も、ご褒美に殺してあげましょうね!」
「そんなご褒美お断りだね!」
 マーダー・ラビットの声に反応した零時は大きく頭を振る。殺すことが褒美などというウサギとは絶対に意見が合いそうになかった。
 フレズローゼも首をふるふると横に振り、血のウサギを否定する。
「やだ……あれで兎なの?」
 同じ兎として許せない、と感じたフレズローゼは七彩の絵筆を握った。零時も藍玉の杖を構え、殺されるわけにはいかないと宣言していく。
「俺はまだまだ、フレズと行きたい場所もやりたい事もあるんだ!」
「そうだよ、兎乃くんと遊びに行く!」
 フレズローゼも此処から続く未来を諦めたくないのだと語っていく。
 そう、たとえば。
「ボクはこれから未来の旦那様の奥方様になって素敵な結婚生活を送って愛して愛されて子宝にも恵まれてパパとママみたいな幸せな家族になってたまに二人きりの夫婦水入らずでお出かけして綺麗な景色をたくさん見てそんな日々や皆を像や絵にして描いて、薔薇色もとい桜色の人生をおくるんだ! 邪魔するんじゃないよ!」
 ほぼひといきで言い切ったフレズローゼは真剣だ。
 零時は夢に貪欲な親友を好ましく思いながら、魔力を紡いでいく。
「ああ! だから死なないし殺させない!」
「それは素敵な理想ですね。死にながら叶わぬ夢を馳せて逝くといいですよ!」
 フレズローゼと零時を見遣ったマーダー・ラビットは尚も鋏を鳴らしながら、にこにことした笑みを浮かべる。
 その目だけが笑っていないことは零時にも分かっていた。
「させるか! やられる前に! ぶっ倒す!」
 言葉と同時に敵に狙いを定め、零時は魔力を顕現させる。それは自分に攻撃が向いても攻撃を弾く陣だ。ひとたびマーダー・ラビットが刃や糸を振るえば、それを魔弾の射撃で跳ね返すものでもある。
 フレズローゼは零時が詠唱を始めたことに気付き、援護に入った。
「兎乃くん、殺される前に殺るんだ。ボクらならできるよ!」
 決して誰も殺させない。
 猟兵も、アリスも。誰ひとりだってこんな暗い場所に置いていったりしない。
 キミの詠唱時間をボクが稼ぐのだと告げ、フレズローゼは絵筆を宙に躍らせた。
「兎と云えばこれだよね!」
 其処から描いていくのはトランプのスートに赤い薔薇。それらは触れれば爆発する全力魔法の絵画達だ。
 同時にふわふわと舞うバタつきパン蝶が零時の周囲に舞う。
 彼自身も攻撃を弾けるが、フレズローゼからも守りの力を巡らせたかった。甘やかなバターの香りが満ちさせていくのはやさしい護り。
「――、――!」
 その間に零時は詠唱を続け、魔術を重ねて紡ぎ続ける。
 物体変質、輝光。その力で全身を光に変え、辺りの空気や攻撃すらも光の魔力に変えていく零時はすべてを吸収していく。
 過剰付与――輝光。
 水の属性を纏いはじめた零時は、自分の体や杖に力を集わせていた。更には光線と光の道をつくる魔術も重ね、着実に準備を整えている。
「いけるかい、兎乃くん。まだならボクがバーンと破壊工作してやるのさ!」
 全力を振るうフレズローゼは、自分に任せて欲しいと告げて胸を張った。パン蝶がふわり、ふわりと舞うことで更に良い香りが漂っていく。
 ふふ、とちいさく笑ったフレズローゼは筆を更に掲げた。
「そろそろお茶会の時間だよ!」
 其処に描かれたのは、黄金色の昼下がり。
 永遠のお茶会を描いたキャンバスからきらきら光る蝙蝠が飛び立ち、紅茶と砂糖の乱舞が嵐となって時計ウサギを穿った。
「おや、楽しそうなお茶会……う、これ、は――!?」
 それは対象の時間を奪うもの。
 マーダー・ラビットはピタリと動きをとめられ、それまで猛攻として巡っていた攻撃が一瞬だけ止む。その瞬間、零時の準備が完了した。
「ありがとうフレズ……!」
「ぶちかましてやるんだ!」
「おう!!」
 フレズローゼの声を聞き、零時は力を全開放していく。
 積み重ねた今までの想い。経験と軌跡。それは光の道の如く、自分のみちゆきを輝かせてくれたから。
「その全てを! この一撃に捧ぐ!」

 極・輝光一閃――リミテッドオーバー・グリッターレイ!

 それは零時が今出来る最高の一撃。覚悟と意志を乗せた眩い光の魔力は限界すら越え、マーダー・ラビットへと迫り――其処にフレズローゼが描いた薔薇が重なる。
「さぁ、くらえー!」
「この先に続く未来は、奪わせねえッ!!」
 光と薔薇。
 二人を示す目映い彩はひたすらなほど真っ直ぐに血塗れ時計ウサギを貫いた。
 そして、戦いは佳境に入っていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日下部・心
【愛桜】

故郷に帰るために、長い旅をしてきた
アリス様達を弄ぶ様なことは許せません

ここには守りたいものがたくさんあります
だから私もリーベくんと共に全力を尽くします

はい、リーベくんは必ず私がお守りします
リーベくんも、私も無事に帰れます
ずっとそばに居ると、強くなると約束しました

大地に、桜に祈る
いつでも桜は私の傍に
大木は私達を攻撃から護り
花弁は悪魔の攻撃をより大きいものへ

見ることしか出来なかった桜
でもこうして役に立てている
ただ綺麗なだけじゃない
儚く美しく、強い存在
気づかせてくれたのはあなた。

リーベくん…?リーベくん
…よかった。もう大丈夫ですよ。
もう少しこのまま、桜の木で体を休ませましょう。


リーベ・メル
【愛桜】

あの人は自分の快楽のためだけに他者の命を搾取してる
そんなの許せない
そうだね、全力で
二人で力を合わせて守ろう

この技を使うと暫く動けなくなる
けど代償が大きな分、彼らの力も強くなる
あの相手にはこれぐらいしなきゃ勝てなさそうだ

ねえ、心
少しの間、ボクの身体を預けてもいい?
キミのことはボクが絶対守る
だからボクのこと、守って
二人で強くなるために
はは、頼もしいや
キミはやっぱりすごいね

身体を彼女に預けて桜吹雪を仰ぐ
本当は自分の能力が嫌いだ
悪魔や霊を使役する不気味な能力
けれど彼女の桜と共に舞う姿を見てると――この能力も悪くないなって、初めて思えた

……心
ありがと
穢れなき桜色に安堵する
もう少しだけ、このままで



●桜の安らぎ
 双子のアリス達はきっと長い旅をしてきた。
 自分達の故郷に繋がる扉を探して、懸命に道を辿ってきたはずであるのに――。
 マーダー・ラビットは今、それを滅茶苦茶に壊そうとしている。心はウサギ穴の出口に立ち塞がった敵を見つめ、思いを言葉に変えていく。
「アリス様達を弄ぶ様なことは許せません」
「あの人は自分の快楽のためだけに他者の命を搾取してる。そんなの許せないよ」
 リーベも心に頷きを返し、マーダー・ラビットへの敵意を滲ませた。
 殺人時計ウサギはアリス達だけではなく猟兵達にも死を与えようとしている。リーベは心を守るかたちで一歩前に踏み出し、敵を見据えた。
 彼の気持ちを感じ取り、心は双眸を緩める。
「ここには守りたいものも、失いたくないものもたくさんあります。だから私もリーベくんと共に全力を尽くします」
「そうだね、全力で。二人で力を合わせて守ろう」
「はい!」
 リーベから優しく心強い言葉が紡がれ、心は掌を握り締めた。すると二人の様子に気が付いたマーダー・ラビットが可笑しそうに笑う。
「これは見事な想いですね! どうやって引き裂いていくか楽しみです!」
 身勝手なことを語る時計ウサギ。
 その瞳が輝いたと思った瞬間、目にも留まらぬ速さの斬撃が繰り出された。彼が手にした鋏だけではなく、解き放った糸が周囲に巡る。
 咄嗟に心を庇ったリーベは痛みを堪え、自分達に絡まりかけた糸を引き剥がした。
「代償は重いけど……やるしかないかな」
 リーベは七匹の悪魔を召喚していく。この力を使うと暫く動けなくなるが、代償が大きな分だけ悪魔の力も強くなる。
 あの相手にはこれぐらいしなければ勝てなさそうだと感じた故、こうするしかない。
「リーベくん……」
「ねえ、心。少しの間、ボクの身体を預けてもいい?」
 心が心配そうな声を紡いだことに気付き、リーベはそっと問いかけた。こくりと頷いた心は勿論だと答える。
「リーベくんは必ず私がお守りします」
「ありがとう。キミのことはボクが絶対守る。だからボクのこと、守って」
「リーベくんも、私も無事に帰れます。ずっとそばに居ると、強くなると約束しましたから、絶対に――」
「二人で強くなるために、頑張ろう」
 心は大地に、桜に祈る。
 いつでも桜は自分の傍にあるから。思いと共に巡った大木は心達を攻撃から護り、舞い散る花弁は悪魔の攻撃をより大きいものへと変えていく。
 リーベの悪魔達もその力を受け、マーダー・ラビットへと攻撃を仕掛けていく。
 その間に心の力も強く巡り、リーベは信頼を抱いた。そして、リーベは身体を彼女に預けて桜吹雪を仰ぐ。
「はは、頼もしいや。キミはやっぱりすごいね」
「いいえ、リーベくんこそ」
 互いに支え合うように戦い続ける二人の間には確かな想いがある。心にとってはこうして、彼の傍に居られることが何よりも嬉しかった。
 移ろう景色をただ見ていることしか出来なかった桜。
 何かをしたくても、手を伸ばしたくても伸ばせなかった過去。
 けれども今はこうやって誰かの、他でもないあなたの役に立てている。ただ綺麗なだけではない、儚く美しく、強い存在。
 それを気づかせてくれたのは――あなた。
 心の感情が触れる掌越しに伝わってくる気がした。リーベは双眸を細め、彼女を守ることが出来ている今を実感する。
 本当は、リーベは自分の能力が嫌いだ。
 悪魔や霊を使役する不気味な能力だと思っている。しかし、彼女の桜と共に舞う悪魔の姿を見ていると、そんな考えも払拭されていく。
「――この能力も、悪くないな」
 そんな風に初めて思えたのも、きみのおかげ。
 悪魔達に攻撃を任せながら、リーベは身体から力が抜けていく感覚をおぼえる。代償の重さを確かめつつリーベは心を呼んだ。
「……心」
「リーベくん……? リーベくん」
 その声が弱々しかったので、心は急に不安になって名を呼び返す。しかし、次に浮かんだのは淡い笑顔。安堵しているようなリーベの表情が見えた。
「ありがと」
「よかった。大丈夫ですよ」
 リーベは心が宿す穢れなき桜色に安心しきっている。
 マーダー・ラビットは未だ余力を残しているが、悪魔と桜吹雪は着実に相手を追い詰めていっている。後は共に戦うアリスや仲間に任せておけば大丈夫だと感じ、二人はそっと寄り添いあった。
 もう少しこのまま。
 もう少しだけ、このままで。
 桜の木で体を休ませる二人の想いと視線が、重なった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

人の大事なもん閉じ込めといて
タダで済むと思っちゃいねぇよな?
クソ兎

再変身しUC
衝撃波飛ばし残像纏いダッシュで距離詰めグラップル
拳で殴る

瞬時に間合い詰めれる位置確保しつつヒット&アウェイ
俺が相手してれば
瑠碧姉さんには届かない
いや届かせねぇ
牽制に衝撃波飛ばし紛れる様にUCとダッシュ駆使し
見切られぬ様蹴り
これなら殴るより間合い長いしな
瑠碧姉さんの作ってくれた隙
俺が見逃すか

背後まで神経尖らせ
対処出来んのは分かってる
けど守りたい

隙無く観察し
戦闘知識や暗殺も用い何使われても対応出来る様
あっぶねぇ兎だな
目輝くんならよく見ときゃ対処できる
攻撃見切りカウンター
拳の乱れ撃ち
寿命減ってんだろ?
削り切ってやる


泉宮・瑠碧
【月風】

…命の奪い方は、様々ですが…

…君に何があって、殺戮へ走ったのか
それは分かりません、けれど…
赦す訳にはいきません…ごめんなさい

私は静穏帰向で祈り、願います

猟書家の傍の風や空気が、枷の様に纏い付き
思う様に動けない、重石になる様に
威力や攻撃回数が増えても、当てられなければ…
理玖の助けになる様に

…君も、囚われてみますか?

氷の精霊へ願い
猟書家の足元から氷の蔦を伸ばし
手足に絡む様にして、また枷に

相手の動きや武器を見て
可能な限り
水の矢で弾いたり、体勢を崩したりを狙います
…自らのやり方で、私も守ります

私の元へ来るなら
相手の様子や視線で第六感にて察し
枷を増すと共に見切り

躯の海で…
ゆっくり、おやすみなさい



●祷りと闘志
 捧げるもの、捧げられるもの。
 瑠碧にとっては命とはそういうものであり、一概に死が悪いものとは思えない。尊き死、覚悟ある死、定められた刻限に従って訪れる死。様々なものがある。
「……命の奪い方は、様々ですが……」
 それでも、今この場所に立ち塞がっている敵が与える死は尊いものではない。その証拠に、瑠碧の隣に立っている理玖が怒りをあらわにしている。
「人の大事なもん閉じ込めといて、タダで済むと思っちゃいねぇよな?」
「お代でも払えばいいですか? このナイフで、とか!」
 対するマーダー・ラビットは冗談めかした言葉と笑い声を返した。そういうことじゃねぇ、と頭を振った理玖は地を蹴った。
「クソ兎!」
 悪態と共に再変身した理玖は衝撃波を飛ばす。マーダー・ラビットがそれらを避けようとも止まらず、拳を握った理玖は一気に距離を詰めた。
 振るった拳で殴り抜けば敵が握ったナイフが弾け飛ぶ。やりますね、と不敵に双眸を細めたマーダー・ラビットは新たな武器、鋏を取り出した。
 瑠碧は一瞬で始まった攻防を見つめ、両手をそっと重ねていく。
「……君に何があって、殺戮へ走ったのか。それは分かりません、けれど――」
 アリスを殺す気であるなら。
 そして、理玖を傷付けるなら、赦すわけにはいかない。ごめんなさい、と思いを言葉にした瑠碧は小さな精霊達に呼びかけていく。
 ――帰ろう、還ろう。どうか、在るべき場所へ。
 その願いと祈りは生きるを守り、悲しき過去の残滓を帰すこと。
 彼女の思いが力となって戦場に巡っていく中、理玖はマーダー・ラビットを相手取り続けていた。敵の斬撃が振るわれれば素早く後方に飛び退き、攻撃時はほとんど零距離で喰らいつくように時計ウサギを拳で穿つ。
 危険な距離であるが、理玖には自分なりの考えがあった。
 自分がこうして敵の相手をしていれば、瑠碧に攻撃は届かない。否、届かせない。
「君はなかなかガッツがありますね。あの子を想うからこそでしょうか?」
「うるせぇ!」
 茶化すなら黙れ、とマーダー・ラビットに告げた理玖は牽制として拳から衝撃波を飛ばした。時計ウサギはからからと笑って鋏で波動をいなす。
 相手からも鋭い斬撃が繰り出され、理玖は腕で受け止めた。其処から放つ蹴りで以て間合いを取りながら反撃に入る。
 両者の攻防は激しく、打撃音と刃が風を切る音が交互に響き渡った。
 されど、理玖は一人で戦っているわけではない。瑠碧の願いは精霊を動かし、マーダー・ラビットの周囲の風や空気を変えていく。
 それは枷の如く敵に纏わり付き、重石のように相手の動きを阻んだ。
「なるほど、それが貴女の力ですか。小癪ですね!」
 マーダー・ラビットは瑠碧を見遣り、楽しげに笑っている。余裕があるように見えるのは彼が魔力で瑠碧の力を軽減しているからだ。
 しかし瑠碧とて負けてはいない。
 敵が放つ攻撃の威力や攻撃回数が増えても、当てられなければそれでいい。僅かでも敵の動きが鈍れば、理玖ならやり遂げてくれるはず。
 瑠碧が信じた通り、理玖は瞬時にマーダー・ラビットの背後に回り込んでいた。
 それまでは相手に隙がなかった為に移動できなかった位置につけたのは、瑠碧の援護があったからこそ。
「しまった――!」
「姉さんの作ってくれた隙、俺が見逃すか!」
 はっとしたマーダー・ラビットに向け、理玖は渾身の一撃を解き放った。
 これまでは躱されるか受け止められていた攻撃がまともに敵を貫く。理玖が与えた大打撃によって敵がよろめいた刹那、瑠碧も次の一手に入る。
「……君も、囚われてみますか?」
 先程の鳥籠を思い返しながら、瑠碧は氷の精霊に攻撃を願った。
 マーダー・ラビットの足元から伸びていく氷の蔦はその手足に絡むように巡り、新たな枷となっていく。
 こうなれば後は力を削っていくだけ。
 此方側に余裕が生まれているが、理玖は決して気を緩めない。背後まで神経を尖らせているのは決して瑠碧を傷付けられたくないからだ。
 ――守りたい。絶対に。
 瑠碧への想いは胸に秘め、理玖はマーダー・ラビットに挑んでいく。すると氷を払った彼が理玖に鋭利な糸を解き放った。
「やられてばかりも癪ですからね!」
「あっぶねぇ兎だな」
 油断も隙もねぇ、と呟いた理玖は糸を避けて身を翻した。その際に瑠碧と視線が重なり、二人は頷きあう。
 彼が自分を守ろうとしてくれていることが分かり、瑠碧も心を決める。
「理玖……自らのやり方で、私も守ります、から」
 傷はいくらでも直せるけれど、本当は最初から傷付いて欲しくはない。それでも、果敢に戦う彼を止めることはその自由を奪うことになる。
 それゆえに瑠碧は理玖を見つめ、自分なりに守護していく。
 理玖は拳の乱れ撃ちで以てマーダー・ラビットを穿ち、少しずつ追い詰めていた。
「いやはや、若いって良いですね!」
 敵は余裕が削られていることを隠すために冗談めかした言葉を並べる。だが、理玖とて相手の現状は分かっていた。
「減らず口はやめろよ。それより寿命減ってんだろ? それ、全部削り切ってやる」
 容赦も遠慮もない一撃を見舞い、理玖は宣言する。
 その背を見つめ続ける瑠碧は、マーダー・ラビットにも良い終わりが訪れるようそうっと祈っていく。
「いつか、骸の海で……ゆっくり、おやすみなさい」
 瑠碧のやさしい声を聞き、理玖は更なる闘志と決意を抱いた。
 アリス達が歩むみちゆき。
 猟書家の侵略が収まった平和な世界。
 その未来を手繰るのは他でもない、自分達なのだから――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
【華冬】

随分とまぁ、はしゃぎ倒してやがるな
殺しってそんなに楽しいか?後始末が多くて面倒なだけだろう
まぁ、別にどうでもいいかな
それしか楽しみが無い…哀れな奴なんてな

そんじゃあ彩萌、前はよろしく
向こうは相当やる気みてーだけど、まぁ大丈夫さ
一かけらも傷つくことは無いだろうよ
セット、『Dirty Edit』
9倍とは中々恐ろしい。でもその事実は本当に不変かな?
俺が書き換えてやる───9分の1に、な
おやおや、随分と鈍いねぇ…解除しとくかい?マイナスが0に戻るだけだがな

悪いが楽しむつもりは無い
ただの駆除…作業と同じだ
さっさと根絶やしにしてくれたまえ
やることが山積みなんだ……『雑魚』に構う時間は無いんだよ


斬断・彩萌
【華冬】

ほ~んと、楽しみすぎて笑っちゃいそう
ええそう、一番最初に倒れるのも、最後に倒れるのも
アンタ以外居ないわよ
悪いけど、さっさと骸の海にお帰りなさい

後方支援はヴぃっちゃんに任せて、私は前に出る!
応ともお任せあれー!

問題は敵の攻撃ね
9回連続攻撃は流石のクロちゃんも飲み込み切れるか…
てコトで任せたわよヴぃっちゃん!

ヴぃっちゃんのサポを受けて二挺拳銃から『陰楼』を放つ
少しくらい憂鬱になってそのハイテンションを少し落ち着けたら?
一欠けらも傷つくことはないという彼の言葉を信じて、距離を詰める
一発ずつ注意しながら急所を狙う

悪いけど殺し合いを楽しむような悪趣味ぢゃないの
その破壊衝動には付き合いきれなくてよ



●勝機と道標
 時計ウサギの笑い声が戦場に響いている。
 耳障りな鋏が鳴る音も、その声も随分と癪に障るものだ。おそらく、そう思わせるようにマーダー・ラビット自身も振る舞っているのだろう。
 しかしヴィクティムも彩萌も、そのような安い挑発に乗ったりはしない。
「随分とまぁ、はしゃぎ倒してやがるな」
「ほ~んと、楽しみすぎて笑っちゃいそう」
 ヴィクティムは時計ウサギを見遣り、彩萌も何の感情も宿っていない視線を向けた。
 笑うマーダー・ラビットはしゃきしゃきと鋏を鳴らしている。其処に付着した血は、これまでに彼が行ってきた殺しの痕だ。
 は、と軽く息を吐いたヴィクティムはふと思い立ち、問いかけてみる。
「殺しってそんなに楽しいか? 後始末が多くて面倒なだけだろう」
「後始末? そんなものをするから面倒くさいんですよ」
 するとマーダー・ラビットは軽く笑い飛ばした。その言葉から、これまであったであろう惨状を想像した彩萌は溜息をつく。
「後片付けも出来ないなんて身勝手ね」
「まぁ、別にどうでもいいかな。それしか楽しみが無い……哀れな奴なんてな」
「あはは! 別に理解してもらえなくてもいいですよ~!」
 彩萌とヴィクティムの感想を聞いても殺人ウサギの態度は変わらなかった。そして、敵は一気に地を蹴り上げて跳躍する。
 まさにウサギのような素早い動きに警戒を強め、彩萌は二挺拳銃を構えた。
「さて、誰が先に死ぬかな?」
「ええそう、一番最初に倒れるのも、最後に倒れるのもアンタ以外居ないわよ」
「違いないな」
「悪いけど、さっさと骸の海にお帰りなさい」
 マーダー・ラビットの斬撃を躱し、彩萌は前に出る。彼女に同意したヴィクティムは反対に後方に下がることで戦場全体を確かめた。
「ヴぃっちゃん、支援お願いね!」
「そんじゃあ彩萌、前はよろしく」
「応ともお任せあれー!」
 果敢に敵に向かっていく彩萌の背を見つめ、ヴィクティムは右腕を掲げる。
 マーダー・ラビットは相当にやる気のようだが、懸念などひとつもなかった。何故ならこれから自分の力に加え、彩萌の攻撃だって巡るのだから。
「まぁ大丈夫さ、一欠片も傷つくことは無いだろうよ」
 セット――Dirty Edit.
 それはユーベルコードの発動を予知して、効果を書き換えていくウィルスだ。背後でヴィクティムが動いた感覚を察知した彩萌は、マーダー・ラビットとの距離を詰める。
「やあや、自ら死にに来ましたか!」
「そう思えるアンタの頭はおめでたいわね」
 敵の瞳が妖しく輝き、其処に彩萌の視線が重なった。鋭すぎるほどに素早く振るわれた鋏が彩萌に迫る。それは目にも留まらぬ速さではあるが彩萌には追えた。
 だが、問題はその鋭利さだ。
「流石のクロちゃんも飲み込み切れるか……てコトで任せたわよヴぃっちゃん!」
「勿論だ」
 彩萌の声に応え、ヴィクティムは力を発動させた。
 本来なら敵の攻撃は九撃。だが、その事実は本当に不変だろうか?
「俺が書き換えてやる――九分の一に、な」
 ヴィクティムの右腕がマーダー・ラビットに向けられた刹那、その動きはたった一撃のみに留められてしまった。
「あれ?」
「おやおや、随分と鈍いねぇ。解除しとくかい? マイナスがゼロに戻るだけだがな」
 首を傾げた時計ウサギに対し、ヴィクティムは不敵に双眸を細めてみせる。彩萌は一撃を避けるのみとなり、即座に反撃に移ることができた。
 ありがと、と告げた彩萌は身を翻しながら銃口を敵に向ける。
 其処から解き放たれたのは超能力によるオーラを纏った弾丸だ。陰楼の弾が次々と撃ち込まれ、マーダー・ラビットの身を穿つ。
「少しくらい憂鬱になってそのハイテンションを少し落ち着けたら?」
「これは、これは。はあ、怠いな……」
 対する時計ウサギはそれまでの口調を押し込められ、がっくりと肩を落とした。彩萌の力が憂鬱を引き起こしたこともあるが、殺戮に移れない現状に飽き飽きしてきた理由もあり、あのようになったようだ。
 ヴィクティムは好機を察し、自らも攻勢に入っていく。
 彩萌も先程に聞いた、一欠片も傷つくことはないという彼の言葉を信じて、敵との距離を開かせぬように立ち回った。
 一発ずつ注意しながら急所を狙い、徐々にマーダー・ラビットの体力を削る
 敵もはっとして、ナイフを構えることで銃弾を弾いた。
「ああ、いけません! せっかくの殺戮チャンスなのですから楽しまないと!」
「悪いが楽しむつもりは無い」
「悪いけど殺し合いを楽しむような悪趣味ぢゃないの」
 マーダー・ラビットに対し、二人は同時に首を横に振る。ヴィクティムにとっては時計ウサギとの戦いはただの駆除であり作業と同じ。
 彩萌も殺人ウサギになど興味はなく、立ち塞がる障害としてしか見ていない。
「さっさと根絶やしにしてくれたまえ。生憎、俺達猟兵にはやることが山積みなんだ……『雑魚』に構う時間は無いんだよ」
「そうそう、その破壊衝動には付き合いきれなくてよ」
 ヴィクティムと彩萌は容赦ない攻撃を放ち、マーダー・ラビットを追い詰めていった。
 飛び交う銃弾。力を書き換えるウィルス。
 それらは深く巡り――そして、彼らの力によって戦いは勝利へと導かれていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

面倒を掛けた、と呟こうとするも
引き寄せられると同時に掛けられた言葉には、ただいまと返す
……ただいま、なんて口にしたのは何時ぶりだろう

腕を引かれるままに進んだ先に
敵の姿を捉えて、即座に『鏖』を手にする
ライナス、後ろは任せるぞ

ライナスへの攻撃は【かばう】事を最優先に
接近戦を仕掛けて、後ろへ向かわせない様に立ち回る
そう簡単に、機械を解体出来ると思うな
……此処から先へ向かわせるつもりはない、砕け散れ

ライナスの銃撃やユーベルコードに合わせて
敵の【体勢を崩す】事を試みる
機を見て、即座に【リミッター解除】
【重量攻撃】のUC:虐を放つ


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

開いた扉に手を伸ばしリカルドの腕を掴み引き寄せんぜ
…おかえりさん。じゃ、さっさと元凶倒して帰るとすっかね

リカルドの言葉には笑みで応えつつその腕を引き出口へ向かうも
敵の姿を捉えれば【這い寄る毒虫】を敵へと放ちながらリボルバーを構えんぜ
あいにく殺されて喜ぶ趣味は無えんだわ
ま、殺されるのがご褒美っつうなら望みどおりにしてやるよ

敵へ向かうリカルドの背を見れば『クイックドロウ・制圧射撃』にて敵の脚を止めんと試みんぜ

はは、言われねえでも、ってな
リカルド、あんたこそ怪我すんなよ?
その後はリカルドに向けられる敵の攻撃を邪魔するよう【這いよる毒虫】とリボルバーの弾丸を敵へと放ちつつ行動を



●交わす言葉
 ――面倒を掛けた。
 先程までの鳥籠での攻防と遣り取りを思い返したリカルドが呟こうとしたとき。その身体はライナスによって引き寄せられた。そして、同時に言葉が掛けられる。
「おかえりさん」
 ライナスから告げられたのは、リカルドにとって予想外のものだった。
「……ただいま」
 思わず返した言葉は随分と久し振りに紡いだ。ただいま、なんて口にしたのは何時ぶりだろうとリカルドが考えていると、ライナスが静かに微笑んだ。
「じゃ、さっさと元凶倒して帰るとすっかね」
 掴んでいた腕を引き、ライナスが先を示す。まだ離れていないものの互いのこの距離が何だかもどかしくて、それでいて心地良い気がしてリカルドは頷いた。
 そして、引かれるままに進んだウサギ穴の果て――。

「いやぁ、こんなにも殺されたがりが来るなんて素晴らしいですね!」
 マーダー・ラビットの明るい言葉を聞き、ライナスとリカルドは戦闘態勢を取る。猟兵を迎え撃った殺人時計ウサギとの戦いは既に巡りはじめており、ライナスはリボルバーを構え、リカルドは鏖を手にした。
「ライナス、後ろは任せるぞ」
「ああ、わかった」
 掛けられた声に笑顔で応え、ライナスは敵の姿を捉える。
 それと同時に彼は力を発動させた。
 ――這い寄る毒虫。
 マーダー・ラビットの動きは素早いようだが、それならば数で太刀打ちしていけばいいはずだ。ライナスが影から生じさせたのは鉄の鎖に変ずる百足と、銀の鎖に変ずる馬陸、更には金の鎖に変ずる蛇達だ。
 それらを敵へと放ちながら、リボルバーの銃爪を引く。
「おっと、数の暴力で来るつもりですか? それはそれは厄介ですね!」
「あいにく殺されて喜ぶ趣味は無えんだわ」
 マーダー・ラビットはリカルドからの攻撃を軽く受け止め、或いは避けながら楽しそうに笑っていた。
「そりゃあそうでしょうね。今まで殺した子達も苦しみながら死にましたから!」
「ま、殺されるのがご褒美っつうなら望みどおりにしてやるよ」
「残念、僕だって殺される気はありませんので!」
 噛み合わない会話を交わしながら、マーダー・ラビットとライナスは撃ち合う。其処に駆けたリカルドは鏖を振り上げた。
 マーダー・ラビットは糸を解き放ってきたが、リカルドはライナスへの攻撃を全て庇う心算で動いている。
 先程は彼に助けてもらったのだから次は自分の番だ。
 それに――おかえり、ただいまと紡ぎあった言葉と思いの心地をなくしたくない。自分を迎えてくれた彼を傷付けさせはしないと誓い、リカルドは果敢に立ち向かう。
 マーダー・ラビットへと接近戦を仕掛けたリカルドは激しい斬撃を放っていく。そうすることによって敵を絶対に後ろへ向かわせない算段だ。
「そう簡単に、機械を解体出来ると思うな」
「機械? ああ、あなたはそうなんですね! 面白いなあ!」
「……此処から先へ向かわせるつもりはない、砕け散れ」
 へぇ、と感心したマーダー・ラビットに対し、リカルドは鋭い言葉と視線を向けた。
 彼が自分を守ってくれているのだと察したライナスは、その背を見つめる。
 リカルドだけに無理はさせられない。ただでさえ自らを顧みない彼なのだから、ライナスとしても支えたいと思えた。
 ライナスは銃弾を次々と撃ち込み、マーダー・ラビット脚を止めようと試みていく。リカルドはというとライナスの銃撃やユーベルコードに合わせて、敵の体勢を崩すことを狙っていった。
「おおっと、これは厳しいですね」
「――今だ」
 そして、リカルドは機を見て即座にリミッターを解除する。自身の全機能を一時制限解除することで重さを増した一撃がマーダー・ラビットを襲った。
 敵を切り裂きながら、リカルドはライナスに呼びかける。
「無理せず行くぞ、ライナス」
「はは、言われねえでも、ってな。リカルド、あんたこそ怪我すんなよ?」
 視線と言の葉を重ねた二人は素早く立ち回っていく。
 リカルドはライナスへの攻撃を弾き、ライナスはリカルドに向けられる敵の攻撃を邪魔するように這いよる毒虫を放っていった。
 互いに支えて支えられ、護りながら守られている。
 その実感を強く抱きながら二人は敵を確りと見据え、戦い続けてゆく。
 鏖の鋭く重い一閃とリボルバーから放たれる弾丸。彼らの力は着実にマーダー・ラビットを貫き、戦いを終わらせる一助となって巡っていった。
 そうして、マーダー・ラビットとの戦闘は更に激しくなっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
テュットはアリス達を守ってくれ。タイヴァスも、周囲に警戒しつつ2人の仲間を見つけたら知らせてくれるか?

次は鳥籠を壊すのではなく、狙うは兎だ。
アリス達は殺させないし俺達も殺されない。
相手の攻撃を受けそうになれば、布盾で致命傷を防ぎつつ、UC「halu」を使用し、自身の身体を柔らかい蔓へと変化させ衝撃を和らげる。
そしてそのままマーダー・ラビットに絡みつき動きを抑える。
あまり危険な目に遭わせたくない気持ちもあるが、アリス達があの兎に言いたい事ややりたいことがあるならば、その隙にと促す。
もし危なくなればテュットが庇いタイヴァスが空へと逃し俺が前に出る
逃げられたのなら槍を手に追う。行くぞ、ミヌレ!



●アリスと時計兎
 ウサギ穴の果てにて、続いていく戦いは激しい。
 アリス達が果敢に戦う姿を見つめたユヴェンは仲間に願う。
「テュットは引き続きアリス達を守ってくれ。タイヴァスも周囲を警戒しながら、異変があったら知らせてくれるか?」
 双子のアリス達の仲間も猟兵と共に必死に戦っている。
 花妖精にブリキのオオカミ、リスのオウガブラッド。誰かひとりでも欠けてはいけないとして、ユヴェンは注意を払っていく。
 次は鳥籠を壊すのではない。狙うは時計ウサギ、ただひとり。
「おや? さっきから鳥が煩いと思ったら、貴方が主ですか」
 対するマーダー・ラビットはタイヴァスが指示を受けて動いていると悟り、ユヴェンがその主であることを見抜いた。
 邪魔なんですよ、と告げたマーダー・ラビットはユヴェンを睨み付ける。
 ミヌレの槍を握った彼は視線を返し、敵へ宣言していく。
「アリス達は殺させないし俺達も殺されない」
「それは良い心掛けですね。多少は抵抗してくれた方がこちらも楽しいですから!」
 にこやかに笑った殺人ウサギは地を蹴った。
 跳躍からの鋭利なナイフ捌きは厄介だ。そう感じたユヴェンは布盾を振るい、解き放たれる斬撃を受け止めて流した。
 敵は素早いが、こうして対峙すれば致命傷は防げる。
 もしアリス達に攻撃が向いたとしてもユヴェン自らが庇うことも出来るだろう。
「次はこちらから行くぞ」
 ユヴェンは自身の身体を柔らかい蔓へと変化させた。それは受けた一閃の衝撃を和らげると同時に、マーダー・ラビットに絡みついていく。
「へぇ、面白い技を使いますね!」
「そんなことを言っていられる暇があるなら、抵抗でもしたらどうだ」
 動きを抑えられた時計ウサギを蔓で締め付け、ユヴェンは静かな言葉を送る。そして、彼はアリス達に呼びかけた。
 彼らをあまり危険な目に遭わせたくない気持ちもあったが、アリス達もマーダー・ラビットに言いたいことがあるだろう。
 今のうちだ、と告げたユヴェンに頷き、双子のアリスは身構えた。
「ニセ時計ウサギめ、よくもだましたな!」
「誰かを傷つけるのはよくないって、おしえてもらわなかったのです?」
 二人が思いを告げると、マーダー・ラビットは不敵に笑う。
「そうですね、あいにく誰にも教えて貰えませんでしたからね。だから僕は、僕が正しいと思ったことをしますよ!」
 たとえば、こういう風に――。
 敵がそう語ったかと思うと、ユヴェンの蔓が刃で斬り裂かれた。拘束から逃れたマーダー・ラビットはアリス達に斬撃を見舞うつもりらしい。
 だが、ユヴェンが即座に体勢を立て直しながら駆けた。
「テュット! タイヴァス!」
 仲間の名を呼べば、瞬時にテュットが動く。彼女がアリス達を庇う中、タイヴァスはユヴェンを掴んで飛翔した。鋭く飛ぶユヴェンはマーダー・ラビットに狙いを定め、竜槍ミヌレを強く握り締める。
「――行くぞ、ミヌレ!」
 手の中から確かな答えが返ってきたことでユヴェンは頷いた。
 そして、マーダー・ラビットに向けてひといきに槍を突き放つ。それによってアリス達は守られ、時計ウサギは背から貫かれることになる。痛みを受けた相手は槍から逃れ、ユヴェン達と距離を取る。
「ふふ……。なかなかやるじゃあないですか」
 殺人ウサギは笑っているが、その表情の裏には酷く暗い感情が見て取れた。
 ユヴェンは身構え直し、敵を強く見つめる。
 きっと戦いの終わりはもうすぐだ。アリス達と共に戦い抜くことを誓い、ユヴェンは竜槍の切っ先を倒すべき存在へと差し向けた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・スミス
他のアリス(猟兵)と共闘OK
アドリブ大歓迎

嗚呼、いけないねぇ
ウサギは時間に追われて走っているものだよ
それを破るのはいけないことだ
そんな悪いウサギの首は刎ねてしまわないとねぇ
……おっと、これは猫の役割じゃなかったかな

猫は猫らしく、居眠りでもさせてもらおうかな
大きく欠伸をして、ぐーんと背筋を伸ばそう
色々終わったら起こしておくれ
……なんてね?
手首に結んだリボンをしならせて、突き刺してやろうね

嗚呼、無事かい、アリスたち
アリスは扉を探すものだからねぇ
さあ存分に探しておいで
ヒント?さあ、猫は気紛れだからね
正解を言うかもしれないし、違うかもしれない
彼方へお行き、アリス
猫はニヤニヤ笑って消えるだけさ



●猫の役割
「――嗚呼、いけないねぇ」
 暗闇が広がるウサギ穴の果てに、言葉と共に降り立つ影がひとつ。
 殺人ウサギがナイフや糸、鋏を振るう戦場を見渡し、ウィリアム・スミス(嗤う猫・f29566)は髪に隠れた片目を軽く細めた。
 マーダー・ラビットは殺戮のために走り回っている。
 しかし、ウィリアムからすればあんなことはウサギの役割などではない。
「ウサギは時間に追われて走っているものだよ」
 それを破るのはいけないことだ、と言葉にしたウィリアムはニヤニヤと笑う。
 戦場に飛び交う糸の攻撃をひらりと躱し、彼は地を蹴った。戦いに加わるべく猫が目指すのはウサギの元。
「そんな悪いウサギの首は刎ねてしまわないとねぇ」
 そのように自分で言葉にしてから、ウィリアムはふと気付いた。
 首を刎ねよと命じるのはいつだって女王の役割。そして、実際に首を飛ばすのは処刑人の役目であって――。
「……おっと、これは猫の役割じゃなかったかな」
 薄く口許を緩めたウィリアムは足を止め、ふわぁ、と大きく欠伸をする。
 猫は猫らしく居眠りでもさせてもらうのがいい。そうすればウサギに役割違いだと注意することだって罷り通る。
 本物の猫がそうするように、ウィリアムは背筋を伸ばした。
「色々終わったら起こしておくれ」
「役割、役割とつまらないですね。物語の通りが面白いとは限らないんですよ!」
 するとウィリアムの気の抜けようを察知したマーダー・ラビットがナイフを手にして襲いかかってきた。未だ誰も殺せていないので殺しやすそうな相手を探していたらしい。
 だが、ウィリアムの行動は全て計算尽くだ。
「……なんてね?」
「――!」
 彼はマーダー・ラビットが近付いた瞬間に手首に結んだリボンをしならせ、ひといきに突き刺した。ナイフで弾こうとした時計ウサギだったが、逆に得物がリボンによって弾き飛ばされてしまった。
 油断をすればするほど、気紛れ猫の行動は鋭く強いものになる。
 それこそがウィリアムの力であり、マーダー・ラビットも察せなかったものだ。ち、と舌打ちをした殺人ウサギは身を翻して距離を取る。
 それを追うことなく、ひらひらと片手を振ったウィリアムはアリス達の元に向かう。
 先程、油断を誘って自分に敵を引き付けたのは双子のアリス一行から敵の気を逸らすためでもあった。
「嗚呼、無事かい、アリスたち」
「はい、大丈夫です。皆さんがまもってくれていますから」
「だから平気だよ。きみ、何だかとってもつよいんだね!」
 ウィリアムの呼びかけに双子のアリス達が答え、それぞれに笑みを見せる。よかった、と口許を緩めたウィリアムはウサギ穴の向こう側を見遣った。
「もうすぐ終わるからね。そうしたら、扉を存分に探しておいで」
 アリスは扉を探すもの。
 当たり前の未来に導くために、ウィリアムは此処に来たといっても過言ではない。
「扉……見つかるかな」
「私たち、何のヒントもなくて困ってますです」
「猫さんは何かしってる?」
 肩を落とす双子に対して、ウィリアムは首を横に振った。
「ヒント? さあ、猫は気紛れだからね。正解を言うかもしれないし、違うかもしれないから信じちゃいけないよ、アリス」
 だから思うままに彼方へお行き。
 ウィリアムは普段通りのニヤニヤ笑いを浮かべて告げた。
 事が終われば猫は笑って消えるだけ。それまではアリス達を密かに守り、共に戦おうと決め、ウィリアムはマーダー・ラビットを見据えた。
 そして、其処から戦いは巡っていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ライラック・エアルオウルズ
御生憎様だね、殺人兎さん
僕の御褒美は先約済みだ
今度こそアリス御一行様を
ハッピーエンドに御案内しよう

ああ、勿論、貴方にだって
特別な終わりを綴ってあげる
『謀るものは、叩かれる』何て
とっておきの“教訓”を添えてね

《属性攻撃:氷》で剣を形成し
仲間に紛れ、攻撃は薙いで
踏み込めれば、身を裂いて
叶わずとも、投擲で刺して

これで、作家の役目は終わり
エンドマークは、ひとつでいい

頁が『おしまい』に近付くよう
以降は攻撃を避けながら
ただ、ただ、降り注ぐ氷剣を
意志届く場で見届けてやろう

過保護も良くないだろうが
危うければ、アリスは身庇い
茶会の為に無事でなくてはね

茶会は満席、貴方の席はないよ
骸の海へと、御退場願おうか



●終幕の先触れ
「御生憎様だね、殺人兎さん。僕の御褒美は先約済みだ」
 マーダー・ラビットの言葉に対し、ライラックは首を振って告げる。
 そもそも赤の他人に殺されることを褒美だとは思わないし、懸命に戦っているアリス達だって、そんなことは望んでいないはずだ。
 ライラックは万年筆を握り、同じ戦場に立つアリス達を見遣る。
「今度こそアリス御一行様をハッピーエンドに御案内しよう」
 綴られかけていたものがたとえ悲劇の物語であっても、終わりが描かれていないのならば幾らでも書き換えられる。
 それが作家の特権だ。
「ああ、勿論、貴方にだって特別な終わりを綴ってあげる」
 ――『謀るものは、叩かれる』
 なんて、ライラックが嫌うはずのとっておきの“教訓”を添えて。
「そうですか、出来るものならご勝手に!」
 対するマーダー・ラビットはにこやかに笑い、糸の一閃を解き放った。全周囲に広がったそれらは猟兵を襲っていくが、ライラックは即座に氷を操って剣を形成した。
 糸を氷剣で切り裂いた彼は一気に踏み込む。
 敵の攻撃は薙ぎ、その身を裂く為に刃を振り下ろす。一撃目は避けられてしまったが、これで駄目なら投擲で刺し貫くだけ。
 刹那、時計ウサギに一筋の傷が刻まれた。
「おやおや、たったそれだけですか?」
「いいや。これで、作家の役目は終わりさ」
 ペン代わりの剣で示すのは物語の指標。
 エンドマークは、ひとつでいい。ライラックはマーダー・ラビットを見つめ、頁が『おしまい』に近付く様を見届けようと決めた。
 其処から巡り始めるのは物語を終わらせる絶対的な意志。
 後は攻撃を避けながら、ただ、ただ、降り注ぐ氷剣を観測していくだけでいい。
「おじさま!」
「作家のおじさん! すごいな!」
 その華麗な剣捌きを見た双子のアリス達が歓声をあげる。自分が物語の導き手だとしたら、彼らはきっと登場人物兼読者のようなもの。
 きっと良い結末になるよ、と視線で告げたライラックは片目を閉じてみせた。
 しかしそのとき、マーダー・ラビットの一閃がアリスに向く。それを逸早く察したライラックは地を蹴り、少女アリスの前に立ち塞がった。
「きゃ……!」
「大丈夫だったかい。茶会の為に無事でなくてはね」
 糸の攻撃から彼女を守ったライラックは、そっと手を差し出した。
 過保護も良くないだろうが、おじさまと慕ってくれる少女にはこれくらいのエスコートも許されるだろう。そっと彼の手を取った少女はぺこりと頭を下げた。
「おじさまは素敵な方なのです」
「妹を助けてくれてありがとな!」
 少年アリスからも礼が告げられ、ライラックは優しく微笑んだ。
 そうして、彼はマーダー・ラビットに向き直る。糸の一撃は鋭かったが、此方から放ち続ける氷剣とて相手の力をかなり削っているはず。
「随分と余裕がありますね! 作家ってのは僕が一番嫌いな類です」
 マーダー・ラビットは唇を噛み締めた。まあそうはいっても一番と名のつく嫌いなものはたくさんありますが、なんて言葉を付け加えた時計ウサギはナイフを握る。
 斬り掛かってくる心算だと気付いたライラックは再び氷の剣を握った。
「茶会は満席、貴方の席はないよ」
 おしまいの時は間もなく。
 それまでは戯れに、或いは真剣に殺人ウサギと幕間を綴るのもいいだろう。
「――骸の海へと、御退場願おうか」
 ライラックの声が戦場に響いた刹那、鋭い斬撃が振り下ろされた。
 アリスが進むみちゆき。
 その先を示すことが今の自分達の役目だと信じて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ムルヘルベル・アーキロギア
同行:織愛/f01585

やれやれ、猟書家はギャグでは済ましてくれぬか
しかもこの敵、伊達に幹部級ではないようだ
織愛よ、油断するなよ。と、言うまでもないであろうが
後衛とはいえ、気を抜けばワガハイもやられかねぬ……!

織愛のことだ、負傷は織り込んで足止めするはず
なればワガハイの仕事は、絶好の機会に最大の一撃を叩き込むこと
あの狂気こそが利用できるかもしれぬ
織愛との戦いをつぶさに観察し、織愛に合わせて攻撃に転じる
彼奴が落とした武器のひとつを拾い上げ、【贋作のススメ】でPOWをコピーだ
ワガハイ一人では、スピードで敵うまい
しかし織愛と協力すれば、因果応報を叩き込めるはず……!
オヌシの愉しみはここまでであるぞ!


三咲・織愛
ムーくん(f09868)と

ふふん。随分と殴りがいのありそうなウサギさんですね
あなたに無為に殺される者を作る訳にはいかないんですよ
話の通じ無さそうな人には拳が一番
わからせてあげましょう、ムーくん!

先ずは槍を構えます
先に立ち、見切りと武器受けで敵の攻撃を打ち落としていきましょう
いくらかの負傷は覚悟のうえ
怪力を籠めて攻撃手を叩き落とし、次撃を正常に繰り出せなくなるよう狙います

【覚悟】を決めましょうか。動きを止められたらノクティスで串刺し、
力を溜めて身体のどこかに一発拳を叩き込みましょう
時間稼ぎは十分ですよね
ムーくん、あとはやっちゃってください!



●覚悟と反撃
 マーダー・ラビットから放たれたのは鋭い糸の一閃。
 薄く煌めいた一筋の線は戦場の空気ごと切り裂くように巡った。咄嗟に後方に下がることで糸撃を避けたムルヘルベルと織愛は、哂う殺人ウサギを瞳に映す。
「さあ! 誰が一番に死にたいですか?」
 時計ウサギはまるで遊びの延長のように死を語っていた。
 その言動からは不気味さも感じられたが、二人は少しも怯んでなどいない。
「やれやれ、流石に猟書家相手ではただでは済ましてくれぬか」
「ふふん。随分と殴りがいのありそうなウサギさんですね。あなたに無為に殺される者を作る訳にはいかないんですよ」
 ムルヘルベルはマーダー・ラビットの出方を窺い、織愛は強く言い放つ。
 すると時計ウサギの瞳が光り、更に鋭い斬撃が周囲に繰り出された。ムーくん、と織愛に呼びかけられたことでムルヘルベルは更に後退する。
 刹那、それまで二人が居たところに糸が疾走っていった。
 警戒を強めていたからこそ避けられたようなものだが、これでは近付くことすら出来ない。相手の実力を確かめたムルヘルベルは、織愛と共に距離を計った。
「しかもこの敵、伊達に幹部級ではないようだ」
「褒めてくださるんですか? それは光栄ですね!」
 対するマーダー・ラビットは楽しげに微笑み続ける。その瞳だけは笑っていないことが何だか奇妙であり、ムルヘルベルは頭を振った。
「織愛よ、油断するなよ。と、言うまでもないであろうが」
「話の通じ無さそうな人には拳が一番ですね」
 織愛は先程まで鳥籠を殴っていたときと同じように拳を強く握る。その手には星夜を彩る竜槍があった。話の通じなさで評価するのならば織愛も負けてはいないが、という感想は裡に秘め、ムルヘルベルも身構え直す。
 その間にもマーダー・ラビットからの殺気が向けられていた。
「気を抜けばワガハイもやられかねぬ……!」
「大丈夫です! わからせてあげましょう、ムーくん!」
 私が守りますから、と告げると同時に織愛は地面を蹴って駆けた。その背を見送るムルヘルベルは織愛に信頼を抱く。
 いつも少し、いや、かなり困らせられている怪力ではあるが、戦いとなれば彼女は頼もしすぎるほどの相棒になる。
 されど織愛のことだ、負傷も織り込んで戦うはずだ。
(なればワガハイの仕事は――)
 瞬時に状況を判断したムルヘルベルは心に決めた。自分が出来ること、すべきことは絶好の機会に最大の一撃を叩き込むこと。
「あはは! 突っ込んでくるとは威勢の良い死にたがりさんですね!」
「死ぬ気なんて少しもありません!」
 織愛は鋭く振るわれた鋏の一撃をノクティスの槍で受ける。それだけではなく、切り返した刃の切っ先で以て鋏を弾き飛ばした。
 だが、マーダー・ラビットも新たな鋏を取り出して織愛を切り裂く。
 腕に掠った刃が血を吸った。されど、織愛は負傷など無視して戦い続ける。間髪容れずに怪力を籠めた一撃を振るい、敵が次撃を正常に繰り出せなくなるよう狙っていく。
 マーダー・ラビットはというと、本当に楽しそうに笑んでいた。
 時計ウサギは殺戮に繋がる行動が好きで堪らないのだろう。激しく巡る二人の攻防をつぶさに観察していたムルヘルベルはふと思い立つ。
「あの狂気こそが利用できるかもしれぬ」
 丁度、織愛が弾いた鋏がムルヘルベルの足元にまで転がってきていた。
 ムルヘルベルはそれを拾い上げ、己の力を発動させていく。同時に彼が取り出したのは禁書――文化遺伝子劣化論。
 自分ひとりではマーダー・ラビットのスピードに追いつけないだろう。
 しかし、前線で戦う織愛と協力するなら話は別。
「織愛!」
「はい、ムーくん!」
 ムルヘルベルの声を聞き、織愛はノクティスを軸にして一歩後ろに下がった。其処に飛び込んできたのはムルヘルベルだ。
 彼の準備が整ったと感じた織愛はぐっと掌を握り、信頼を宿した言葉を送った。
「ムーくん、あとはやっちゃってください!」
 鋏を手にしたムルヘルベルは先程のマーダー・ラビットと同じ動きで以て、お返しの斬撃を見舞っていく。そう、これこそが因果応報というものだ。
「オヌシの愉しみはここまでであるぞ!」
「く……!」
「まだまだ、私達の反撃は終わりませんよ!」
 鋏が時計ウサギを貫いた瞬間、相手が呻く。更には織愛が放ったノクティスの槍がマーダー・ラビットの腕を貫く。
 織愛が宣言した通り、攻撃はまだ続いた。
 敵を串刺しにした槍から手を離した織愛は深く踏み込み、拳を全力で付き放つ。
 ムルヘルベルが振るった斬撃の間に力を溜めていた彼女は、覚悟と共にマーダー・ラビットの鳩尾を激しく穿ち――。
「か、は……っ! すごい、すごいですね! ちいさな子供と華奢な女の子からこれほどの攻撃を受けるなんて!」
 マーダー・ラビットは血を吐きながら、ムルヘルベルと織愛を見つめる。
 身を翻した敵は一度距離を取ることを決めたらしく、負った怪我など感じさせない動きで二人から遠ざかった。
「ワガハイ、いま子供と言われたであるか?」
「私は華奢って褒められました! ……じゃなくて、ムーくん!」
「ひとまず置いておいて、追うぞ織愛」
「はい!」
 視線を交わした二人はマーダー・ラビットが逃げていった方へ駆けていった。
 そうして此処から、戦いは終局に向かっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
【桜雨】
嗚呼、夢見たい
こうしてお兄様と戦場に並び立つことができるだなんて!
ごめんなさい、私ったら…
でも、はしたないだなんて仰らないで
私のこの昂揚…あなたならばわかってくださるでしょう?
ふふ、ふふふふ!そう仰ってくださると思ってましたわ!
参りましょう!狙うは大将首ですわ!

ねぇ!兎さん!
あなたも愉しいのね!私もとっても愉しいわ!
共に愉しみましょう…あなたの首が落ちるまで

お兄様とお互いを護り合うように斬り結んで
昔は見上げるばかりでしたが
今はこうして同じ目線で…
ええ、任されましたわ
雨は桜を散らすだけじゃない
草木を潤し育て慈しむ雨でもあるの
桜花の嵐を目眩ましに雨宵を駆け抜けて
その御首、頂戴致しますわね


千桜・ルカ
【桜雨】
嗚呼、なぜでしょう
どうしてこうも胸が高鳴るのか
これが戦場での昂揚…
この感覚は憶えがある
馴染み深く心地よくて…
はしたない?…はは!まさか!
私がお前をそう言うと思いますか?
…不思議ですね
私はこのときを待ち望んでいたような…そんな気がするんです
ええ、参りましょう
お前とならどんな強敵にも負ける気がしません

彼の瞳の喜びの色には憶えがある
私と似ているようで…けれど決定的に違う
何があなたを狂わせたのか
殺意も邪念も
すべて洗い流して差し上げます
私の刃は殺すためではない
大切な者を護るためにある
あなたにエリシャはやらせませんよ
彼女を庇うように
私が彼の攻撃を相殺している間に
さあ、エリシャ
仕上げは頼みましたよ



●紫雨と桜彩
 戦場に疾走るのは殺戮のウサギが解き放つ糸撃。
 鋭い線を描いて巡る鋭利な糸を避けるべく、エリシャとルカは後方に跳ぶ。
 一瞬でも気を抜けば押し潰されてしまいそうな緊迫感の中。其処に宿っているのは敵への畏怖や警戒ではなく、戦いへの昂揚だ。
「嗚呼、夢みたい」
「嗚呼、なぜでしょう」
 エリシャとルカの声が重なり、それぞれの裡に思いが巡っていく。
 こうして兄と戦場に並び立つことができる。墨染を構えたエリシャの胸の中には嬉しさと、一緒に刃を振るえることへの期待が満ちていた。
 ルカが思うのは、どうしてこうも胸が高鳴るのかという疑問。
 知らないけれど識っている。憶えがある感覚は馴染み深く心地よいものだ。
「胸が高鳴りますわ!」
「エリシャ?」
 ルカは妹から紡がれた言葉を聞き、軽く首を傾げた。はっとしたエリシャは片手で口許を押さえ恥ずかしそうに俯く。
「ごめんなさい、私ったら……でも、はしたないだなんて仰らないで」
「はしたない?」
「ええ。私のこの昂揚……あなたならばわかってくださるでしょう?」
 今は血が繋がっておらずとも、魂は兄と妹。
 羅刹として、同じ千桜の名を持つ者として通じるものはあるはず。エリシャの予想通り、ルカは今の状態を厭ってなどいない。
「……はは! まさか! 私がお前をそう言うと思いますか?」
「ふふ、ふふふふ! そう仰ってくださると思ってましたわ!」
 雨夜に滲んだ花のような紫の瞳と、常夜に咲く桜めいた瞳に互いの姿が映った。それだけで二人は理解しあえる。
 ルカにとっては不思議で仕方ないが、揺るぎない思いが胸に宿っていた。彩匁の名を抱く妖刀を抜き、ルカは敵を見遣る。
「私はこのときを待ち望んでいたような……そんな気がするんです」
 それでいいと語るようにエリシャが頷く。
 これまではマーダー・ラビットの攻撃を見切って避けるだけだったが、此処からは反撃と猛攻を繰り出す刻だ。
 エリシャは兄を呼び、殺戮のウサギに刃を差し向けた。
「参りましょう! 狙うは大将首ですわ!」
「ええ、参りましょう」
 エリシャとならばどんな強敵にも負ける気がしない。
 糸による遠距離攻撃を仕掛けてきていたマーダー・ラビットに向け、二人はひといきに踏み込んでいく。相手は素早いが此方は二人で向こうは一人。それも、兄妹という魂の絆を宿した二人だ。
「ねぇ! 兎さん!」
「これはこれは、可憐なお嬢さんですね。切り裂きがいがありますよ!」
 エリシャを見遣ったマーダー・ラビットの瞳が妖しく輝いた。おそらくは次の標的を彼女に定めたのだろう。
 しかし、エリシャは怯みなどせずに楽しげに敵に語りかけた。
「あなたも愉しいのね! 私もとっても愉しいわ! 共に愉しみましょう……」
 ――あなたの首が落ちるまで。
 一見は無邪気に思える言葉の後、蠱惑的な視線と共に桜鬼の言葉が落とされる。その瞬間、エリシャが振り下ろした刃から桜花の嵐が舞い上がった。
 ルカもそれに合わせて刀を振りあげ、浄化と破魔の斬撃を放つ。
 対するマーダー・ラビットはルカ達の一閃を受け止め、愉しそうに笑っていた。
「良い筋ですね! これはお強い二人だ」
「あの瞳の色……」
 ルカは彼の瞳に宿る喜びの色を確かめ、遠い記憶に思いを馳せる。あの狂喜にも何だか憶えがある。
 自分と似ているようでいて――けれども、決定的に違うものだ。
 狂気に落ちたウサギは穴の底に自ら落ちているように思えた。されど今のルカはエリシャという唯一の存在と再会することで変わっている。
「何があなたを狂わせたのか、私達には知り得ないことでしょうが……」
 ルカは花時雨の剣閃で以て鋭い攻撃を見舞っていく。
 この力で彼の殺意も邪念もすべて洗い流す。そんなルカの意志を感じ取ったエリシャは双眸を淡く細め、彼の隣を保ちながら立ち回っていった。
 エリシャ達はお互いを護り合うように斬り結び、徐々に敵を追い詰めていく。
 その中でエリシャは過去を懐う。
 幼い頃、昔は兄を見上げるばかりだった。様々なことがあり、時は過ぎゆき、こうして巡った今という時間。
 あの頃とは違う、同じ目線で彼と共に居られる。
 ルカも彼女が傍にいるということを快く思いながら、刃を揮い続ける。
「貴方達の剣は何だか血の香りがしますね! 人を殺したことのある匂いですよ!」
 此方の様子を見ていたマーダー・ラビットが不敵に笑った。されどルカはそのような言葉になど惑わされない。
「私の刃は殺すためではない。大切な者を護るためにある」
「貴方にとってはその娘が大切な人ですか。いいでしょう、殺してあげます!」
「あなたにエリシャはやらせません」
 マーダー・ラビットが踏み込んできたことを察し、ルカは即座に敵の前に割り込む。振り下ろされたナイフを彩匁で受け、鋭く弾き返した。
 それによって時計ウサギの体勢が大きく揺らぐ。
「さあ、エリシャ。仕上げは頼みましたよ」
「ええ、任されましたわ」
 敵を抑えているルカの声に応え、エリシャは雨宵を駆け抜けていく。
 彼の雨は桜を散らすだけではない。
 草木を潤し育て、慈しむ雨でもあるからとても優しい。
 そして、エリシャは舞わせた桜花の嵐を目眩ましにしながら一気に刃を振り下ろした。
「その御首、頂戴致しますわね」
「……!!」
 鋭い斬撃がマーダー・ラビットの首に深い傷を刻む。
 声無き悲鳴をあげた敵はルカから逃れ、血が噴き出す首元を押さえて身を翻した。
「逃げるつもりのようですね」
「お兄様、すぐに追いましょう!」
 そうして、頷きあった二人は標的を追い掛ける為に駆け出す。
 重なる夜桜と紫雨の彩。
 この想いも、戦いに抱く昂揚も――すべて、共に居られるからこそ抱ける心地だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディール・コルメ
【水月】
アドリブ歓迎

さっきまでの儚げな姿は何処へやら
殺意がぶつかり合う様を見て
それと……普段よりも良い笑顔の相棒を見て、噴き出す様に笑う
まァ、この様子なら大丈夫そうだねぇ

はいよ、ユア!
海は海でも星の海
アンタの好きな様に、望むままに踊って魅せな!

UC:絵空事
舞台を整えたら、次は時間稼ぎ
キューに乗り込んだら即座に敵へ向けて
【一斉発射】【乱れ撃ち】で弾幕を張るとするさ
目くらまし程度になりゃ幸い
それでも無理なら戦車から飛び降りて
医療ノコギリ手に、タイマン仕掛けるさ

殺戮しか興味がない兎
成程、確かにコレは狂ってるねぇ
こりゃあ、手の施しようもない患者だ
だからこそ……後はアンタに任せたよ、ユア


月守・ユア
【水月】
アドリブ歓迎

はっは♪
出てきちゃったよ、嬉しいでしょ?ウサギさん

ああ、ご褒美?
それならこっちもお礼に殺してあげないとな

話の通じない奴にまともな事を言うつもりはない
殺戮に喜びを感じる狂気
それはこちらとて同じ事

楽しく殺し合おうよ
もちろん死ぬのは君だけど

”ディール”!
盛大に彩っちゃいなよ!

属性攻撃:夜闇
相棒の描く星空に降り立ち
全てを食い潰す夜闇の力を呪花に纏わせる
あの兎を喰い潰せ、切り砕け
刃に生命力吸収の呪詛を練り込む

UC発動:命喰鬼

閉じ込められた事が悪い事ばかりじゃなかったさ
おかげで掴めた光もあった

君に刃を向けるのは細やかなお礼
君はただじゃ殺さない
僕が君を食い潰し
優しくこの身で壊してやるよ



●星夜に煌めく刃
「はっは♪ 出てきちゃったよ、嬉しいでしょ?」
 ねえ、ウサギさん。
 そのようにマーダー・ラビットに声を掛けたユアの声は弾んでいた。目の前で巡る殺戮への光景を見つめる彼女は実に楽しげだ。
 先程までの儚げな姿は何処へやら。きっと殺意がぶつかりあう様を見てああなったのだろう。ユアの様子を見遣ったディールは薄く笑う。
「まァ、この様子なら大丈夫そうだねぇ」
 鳥籠に閉じ込められていたときのことを思うと心配もあった。だが、戦いを前にした今のユアは普段よりも良い笑顔を浮かべている。
 ふ、と噴き出すように笑ったディールは相棒を見つめた。そして、ディールは視線をマーダー・ラビットへと向け直す。
「ご機嫌でよろしいことです! 貴女も嬉しいでしょうね。鳥籠の中で朽ちて死ぬよりも、ご褒美として僕に殺される方が楽しいですから!」
 時計ウサギは鋏を鳴らしながらニコニコと笑っていた。
 その言動は彼独自の思考回路と言い回しで構成されている。事前に聞いていた通り、まともな会話はできなさそうだ。
 対するユアも負けじと笑みを向け返す。
「ああ、ご褒美? それならこっちもお礼に殺してあげないとな」
 だが、話の通じない奴にまともなことなど言うつもりはない。彼が殺人に喜びを感じるのと同じように、ユアとて敵を葬れることが喜びでもあった。
 殺戮を通じて感じられる狂気。
 似て非なる者同士の視線が重なり、ユアとマーダー・ラビットの間に不思議な雰囲気が満ちていく。その中で身構えたユアは時計ウサギに語りかけた。
「楽しく殺し合おうよ。もちろん死ぬのは君だけど」
「大口を叩いて吠え面をかくことにならないといいですね!」
 鋭い眼差しが交錯する中、ユアは双眸を鋭く細めた。そして、彼女を呼ぶ。
「それはこっちの台詞だよ。――“ディール”!」
「はいよ、ユア!」
「盛大に彩っちゃいなよ!」
 その声に答えたディールは暗闇の中で力を解き放った。
 途端にウサギ穴の中に黒と白のソーダ水の雨が降り注ぎ、真っ暗だった頭上に星夜の光景が広がっていった。
 それは海の如く。されど海は海でも煌めく光が満ちる星の海だ。
「ユア! アンタの好きな様に、望むままに踊って魅せな!」
 絵空事の天が周囲を彩る中、ディールは改造戦車のキューに乗り込んでいく。彼女の為の舞台を整えたならば、次にすべきことは時間稼ぎだ。
 ディールは即座に敵の側面に回り込み、弾幕を一斉発射していった。素早い敵に見切られぬように乱れ撃つことで緩急をつけ、戦場中に弾幕を張り続ける。
 されど、これは本命ではない。
 目眩まし程度になればいいとディール本人も思っていた。その理由は勿論、共に戦うユアがいるからだ。
 夜闇の最中に降り立ったユアの瞳はただ一点を捉えている。
「あの兎を喰い潰せ、切り砕け」
 全てを食い潰す夜闇の力を呪花に纏わせ、ユアはひといきに力を解き放った。幾ら時計ウサギが速かろうともこの領域は既にユアとディールのもの。
 放つ刃に生命力を吸い取るの呪詛を練り込み、攻撃を繰り出すユアの力は圧倒的だ。
「ふふっ、その程度ですか?」
 しかし相手は余裕を見せている。否、押されていても余裕があるように振る舞っているのだろう。弾幕がナイフや鋏で弾かれていると察したディールは戦車から飛び降り、ユアの横に並び立った。
「その程度じゃない攻撃も見せてやるよ」
 医療ノコギリを振り上げたディールはマーダー・ラビットに鋭く仕掛けていく。
 相手からも斬撃が浴びせかけられたが、未だ耐えられるものだ。
 其処にユアが巡らせた呪刃が巡り、敵を斬り刻んでいった。ユアはディールの背を見つめ、先程の出来事を思い返していく。
 囚われたことに不安を覚えたことは確かだが、初めて知ったこともある。
「閉じ込められた事が悪い事ばかりじゃなかったさ」
 おかげで掴めた光。
 それこそが彼女――ディールの存在だ。
 信頼と想いが宿った眼差しを受け、ディールもユアを思う。そんな二人の雰囲気を察したのか、マーダー・ラビットはニヤニヤと笑った。
「いいですね、その絆。どうやって引き裂くか考えるだけで楽しいですよ!」
「成程、確かにコレは狂ってるねぇ」
「本当に。ま、考えるだけで終わるんだけど」
 殺人ウサギの声を聞いたディールとユアは肩を竦めてみせる。
 殺戮しか興味がないウサギとはやはり何も分かち合えない。元々その気もなかったが、治療の手立てすら見えないのだから厄介だ。
「こりゃあ、手の施しようもない患者だ」
「医者でもお手上げ? それじゃあ仕方ないね」
 ディール達は言葉を交わし、同時に視線を重ねた。其処からディールは援護にまわり、ユアに次の一手を託す。
「だからこそ……後はアンタに任せたよ、ユア」
 彼女に頷きを返したユアは鋭く身構え、命喰鬼の力を更に巡らせていく。
 マーダー・ラビットに刃を向けるのは細やかなお礼。彼が絆と語ったものはきっと、確かに自分達の間に生まれているのだから。
「君はただじゃ殺さない。僕が君を食い潰して、優しく……」
 ――この身で壊してやるよ。
 凛と響いた宣言と共に、呪われた刃が解き放たれた。
 そうして攻防は激しく巡り、徐々に戦いの終わりが近付いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟迎櫻

もう!櫻はうっかりなんだから
カムイとは反対の櫻宵の手をしっかり握り泳いでくよ
握った手に安堵する
離さないんだ
何でだろう…櫻は閉じ込められるといけない気がするんだ

確かな熱が愛しい存在を示してくれる
もちろんだよ!二人とも匣舟に乗せちゃうんだから

そうだよ
君にあげられるものなんて何もないんだから

ヨルは安全な所に隠れてて
応援ありがとう
嗚呼、守ろう
2人に歌うよ『月の歌』
僕だって!
妻は夫を守るもの
同志もね!
鼓舞を込めて歌い
漣のオーラで皆を守るんだ

櫻宵…前より呪が強くなってる?
衝動を共に抑えて歌に破魔を重ね
歌で2人の背を押し道を拓く

皆で一緒に笑いあっていきていくんだから
ここで途絶えさせたりなんて
させない


誘名・櫻宵
🌸迎櫻

一人と一柱の手を握り
歩む心地はいとうれし

私を籠からすくいだし
私を選んでくれた
まるで身請けされたかのよう
二人は私を抱きとめて
共に往こうと手を繋いでくれる

あたたかい
私を充たす満ちる愛

カムイ、リル
困った兎さんがいるわ
だめよ
私はもう私だけの私ではない
あなたにはあげない

アリス達も
リルとカムイも傷つけさせない
二人を守るのも私の役目
夫で妻なのでしょ?

リルの歌に踊り
カムイの剣戟と舞う
武器ごと衝撃波と共になぎ払い斬り裂き
傷を重ね抉り斬った所から美しい桜と咲かせるわ!

殺し愛も愉しくて
胸が躍るよう
殺気も殺意も心地よくて―噫いけない
蛇這う衝動も歌と朱の熱にとけていく

往く路を壊させなどしない
あなたにも
私自身にも


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻

きみを囚う朱の枠は
何処か見覚えがあるものだった
あの蛇の跡だって
アレを私はしっているはずなのに

サヨ
よかった
握る手に力を篭める
決して離しはしないと心に誓う
例えどんな暗闇の中でだって離さない
渡さない
何時だって笑っていて欲しい
大切な巫女(妻)…きみに災などないように守る

…気をつけて
二人庇う様に前へ
カグラ、アリス達守るための結界を
疾く駆けなぎ払い、切断する
第六感で攻撃を察すれば見切り躱し切り込む
リルの歌の何と頼もしい
サヨの斬撃と合わせ斬る
殺させなどしない

…殺し愉むその気
サヨの障りにならないか心配だ
―サヨッ
肌に這う蛇と気配にゾッとし抱きとめ引き戻す

そなたの存在は毒だ
神罰を下そう
枯れ落ちてしまいなさい



●闇の兆候
 一人と一柱。その手を握り、先へと進む。
 次第に暗くなるみちゆきでも、彼らが傍にいれば何も怖いことなどなかった。
「もう! 櫻はうっかりなんだから」
「ごめんなさいね、心配をかけたかしら」
「無事にすくいだせたからね、平気だよ」
 右手をリルに、左手をカムイに握られた櫻宵は淡く笑む。リルは握り返された掌に熱が宿っていることを確かめて安堵を抱く。
 離さないと決めた彼の手が離れていかないように。リルも更にぎゅっと手を握る。どうしてか、櫻宵は檻めいたものに閉じ込められてはいけない気がしていた。
 同様にカムイも先程の朱の枠を思い出していた。己の巫女が囚えられていたあれは、何処か見覚えがあるものだ。
(あの蛇の跡だって……アレを私はしっているはずなのに)
「カムイ?」
「いいや。何でもないよ、サヨ」
 櫻宵から名を呼ばれたことでカムイは思考を振り払った。
 共に歩む心地を喜んでくれている櫻宵に今は余計な心配は掛けたくない。それなら良いの、と微笑んだ櫻宵は二人の存在をより大切に感じていた。
 自分を籠からすくいだして、選んでくれたこと。
 たとえるならば、まるで身請けされたときのようで――過去を思い出すことでもあるが、そのことは櫻宵にとってはとても嬉しいことだ。
 あのとき、二人は櫻宵を抱きとめてくれた。
 今だって共に往こうと手を繋いでくれる。あたたかい想いと心が、櫻宵を充たす満ちる愛となっていく。
 確かな熱が、愛しい存在を示してくれる。
「行きましょう、リル、カムイ。私達は三人でひとつよね」
「もちろんだよ! 二人とも匣舟に乗せちゃうんだから」
「それは嬉しいな。噫、よかった」
 三人は握りあう手に力を篭めた。カムイもリルと同じく、決して離しはしないと心に誓っている。たとえどんな暗闇の中でだって、ずっと。
 離さない。渡さない。
 何時だって笑っていて欲しいのはきみだけで、三人の誰が欠けてもいけない。
 大切な巫女であり妻である櫻宵と、同志のリルに災いなどないように守るのがカムイの役目だと感じられた。
 やがて、リル達はマーダー・ラビットが待ち受けるウサギ穴の出口に辿り着く。
「これは仲の寄さそうな人達だ。どうやって壊しましょうかね~!」
 楽しげに語るウサギは自分達を引き裂く心算らしい。
 繋いでいたそっと手を離し、身構えた櫻宵は鋭い視線を敵に差し向けた。
「カムイ、リル。困った兎さんがいるわ」
「……気をつけて」
 喰桜を構えたカムイは二人を庇うように前に出ると、カグラにアリス達や仲間を守る結界を張るように願う。
 櫻宵も屠桜を抜き放ち、マーダー・ラビットに宣言していく。
「だめよ。私はもう私だけの私ではない。あなたにはあげないわ」
「そうだよ、君にあげられるものなんて何もないよ」
 櫻宵の傍を游ぎ、ふわりと尾鰭をなびかせたリルも敵意を受け止めた。リルがヨルを安全なところに避難させると、其処にカラスが付いていく。
「どんな関係かは知りませんが、貴方達の誰かが死んだらきっと楽しいことになるでしょうね! 嘆く姿が目に見えるようです!」
 対するマーダー・ラビットは誰を殺そうかと品定めしている。
 あのような目で見られたくないと首を振り、櫻宵は殺気を満ちさせていく。鳥籠に閉じ込められたこともそうだが、二人を殺そうとするなら櫻宵とて容赦は出来ない。
「リルもカムイも傷つけさせないわ。二人を守るのも私の役目だもの」
 夫で妻なのだから。
 そうでしょう、と櫻宵が呼び掛けるとリルはそうっと頷いた。妻は夫を守るものであり、夫の夫、つまり同志だって守るべきひとだ。
「嗚呼、守ろう。みんなでこの先に行くんだ」
 そして、リルは花唇をひらく。
 かけがえのない二人に向けて歌うのは月の歌。それは才を覚醒させる幽玄の歌声だ。響き渡る人魚の声には、大切な者への鼓舞と愛情が込められている。
 漣の守りが広がる最中、櫻宵とカムイはマーダー・ラビットとの距離を詰めた。
 駆ける機は態々合わせずともぴったりだ。
 カムイは疾く駆け、先んじて時計ウサギに斬り込む。
 櫻宵はリルの歌に併せて舞い、桜獄の大蛇としての力を顕現させていった。
「あははっ! これは見事な剣戟と舞だ。それに歌も素敵です。そうですね。殺すなら、そっちの大蛇みたいな子がいいはずです!」
「大蛇……私?」
 マーダー・ラビットは櫻宵に狙いを定め、素早い斬撃を放った。
 鋭い一撃が屠桜を押す。何とか耐えた櫻宵だが、殺人ウサギの力は予想以上に強いものだった。しかし、櫻宵は押し負けまいと地を踏みしめる。
 其処に割り入ったのはカムイだ。
「私の巫女に触れるな」
 落とされたのは普段の彼からは想像出来ぬ、ぞっとするほどの冷たい言葉。殺させなどしない、と宣言したカムイはマーダー・ラビットの腕に刃を振り下ろした。
 敵から逃れた櫻宵も身を翻して反撃に入る。
 リルは今の遣り取りに少しだけ不安を覚えていたが、自分が出来ないことはカムイが担ってくれることを改めて知った。
 それならば、リルはただ懸命に歌い続けるだけ。
 櫻宵とカムイは剣戟を舞として、衝撃波と共に敵を薙ぎ払って斬り裂いていく。敵から散る血を美しい桜と咲かせていく櫻宵の口許に笑みが宿った。
 殺し愛も愉しくて、胸が躍るようだ。
 殺気も殺意も心地よくて思わず屠桜を握る手に力が籠もる。
「ふふ……」
「櫻宵、前より呪が強くなってる?」
「――サヨッ」
 蛇が這うような衝動が裡に巡った。だが、それを抑えるように響き渡ったリルの歌とカムイが紡いだ声、朱の熱が衝動をとかしてくれた。
「噫、いけない」
「おいで、サヨ」
 カムイは我に返った櫻宵を抱きとめ、引き戻す。殺しを愉むその気配はきっと彼の障りになる。不安が焦燥に変わる前に戦いを終わらせなければならないと感じた。
「そなたの存在は毒だ。神罰を下そう」
 マーダー・ラビットはニヤニヤと笑っている。どうやら殺戮の気配に当てられた櫻宵を見て楽しんでいたようだ。
 敵を睨み付けたリルは、だいじょうぶだよ、とカムイに告げた。
 リルは歌声に破魔を重ねる。
「皆で一緒に笑いあっていきていくんだから」
 ここで途絶えさせたりなんてさせない。絶対に、と想いを紡いだリルの声は更に高らかに、戦場に満ちていく。
「往く路を壊させなどしないわ」
 あなたにも、私自身にも。
 櫻宵は二人の想いを感じ取り、凛とした声で敵に告げた。
 カムイはリルと櫻宵を交互に見つめ、彼らと共に決着をつけようと誓う。
「枯れ落ちてしまいなさい」
 そうして、地を蹴ったカムイは櫻宵と共に斬り込む。歌声と剣戟の音に混じって桜が舞った時、マーダー・ラビットに深い傷が刻まれていた。
 この戦いとは別に何かの予兆が感じられる。
 しかし未だ其れは視えていない。宛ら存在が揺らぐような感覚をおぼえながらも、櫻宵達はこの戦いの終わりを見据えていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明日知・理
ルース(f06629)と
アレンジ、マスタリング歓迎

_

誰も死なせない。
お前の手をこれ以上赤くなんて染めさせない。

アリス達、そしてルースとナイトを最優先に庇う。
刀で捌けるものは捌くが、この身が傷付こうが全く構わない。
自分を犠牲にしてでも庇い、カウンターを狙う。
一気に間合いを詰め、捨て身の一撃にて放つのは【buddy】
宿るUDC──巨躯たる黒妖の凶犬と一つになり、
その牙にて、骸の海へと誘う一助とする。

どれだけ傷を負っても、血が己から流れても、膝をつき倒れるようなマネだけはしない。気合で耐える。
俺には護るべきものがある。倒れてる暇などない。

「──眠れ。骸の海にて」


ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と

さあさあ、派手に殺り合おうか!
死ぬのはお前だろ、兎ちゃん

ちらりと横目でマコを気にするが
アイツはどうせ自分の身を犠牲にするからな
庇えるところは、オレが庇ってやるよ
アリスを守る事に興味はねえけど
マコに傷付いてほしくねえから
身体的にも、精神的にもな
こんなこと口に出さないけど

ナイト、と名前を呼んで
黒炎の槍に変じた悪友を構える
戦いに身を投じる者として
血塗れになるのは大歓迎だけどな
そのほうが生きてる
その血を浴びて生き長らえてる

だから、

鋭い眼差しで兎ちゃんを一瞥
嗚呼、愉しい、此処で生きてる、
口角が上がる、歪んだ口許

兎ちゃん、お前を殺してやるよ
オレが守りてえものは、ちゃんと、此処にある



●生きる証
 マーダー・ラビットが宣言したのは殺戮。
 この中の誰が一番に死ぬか、殺されるかと語る彼を見据え、理は強く宣言した。
「誰も死なせない」
 短くも凛とした言葉を聞き、マーダー・ラビットは片目を細める。
「へぇ、随分な自信ですね。貴方が最初に死ぬかもしれないのに!」
「お前の手をこれ以上赤くなんて染めさせない」
 理は身構え、アリス達を背に庇うようにして布陣した。その隣にはルーファスが立っており、理と同様にマーダー・ラビットを見据えている。
「さあさあ、派手に殺り合おうか!」
「そちらの人は威勢がいいですね。嫌いじゃありませんよ、そういうのも!」
「そりゃどうも。けど死ぬのはお前だろ、兎ちゃん」
 両者の視線が交錯して、殺気が満ちていく。ルーファスはちらりと横目で理を見遣り、彼から感じられる闘志を確かめた。
 言葉で語られなくてもこれまでの行動で分かる。どうせ彼は自分の身を犠牲にする戦い方をするのだろう。
 誰かが殺されるなら自分が、という方向に走るかもしれない彼だ。
 無論、自分から死にに行くようなことはないだろうが――。
「オレのことも信用しろよな」
「ルース?」
 ルーファスが小さく呟いた言葉がよく聞き取れなかったらしく、理は首を傾げる。首を振ったルーファスは構えを取り、マーダー・ラビットを視線で示した。
「いや、何でもねえ。やるぞマコ」
「分かった」
 その言葉を聞いた理は深く頷き、地を蹴る。時計ウサギも理達の動きに気付いてナイフを構えた。花驟雨の刃を振りあげた理は一気に攻勢に入る。
「ナイト!」
 ルーファスが傍の悪友を呼べば竜が黒炎の槍に変じた。竜槍を構えた彼は理に続き、マーダー・ラビットに狙いを定める。
 刹那、敵の刃と理の刀が衝突する甲高い音が響き渡った。
 妖刀を擦り抜けたマーダー・ラビットは二撃目を放つ。その刃が身を抉ったが、彼は怯まずに反撃に移った。
「ほら、やっぱり貴方が最初に殺されそうですよ!」
 楽しげに哂う殺人ウサギは次々と斬撃を放ってくる。理は刀で一閃ずつを捌きながら、自らが負う痛みなど気にせずに相対していく。
 身体が傷付こうが全く構いなどしない。己を犠牲にしてでもアリスを庇い、カウンターを狙う勢いだ。
 しかし、彼だけに敵の相手を任せるわけにはいかない。
 そう感じたルーファスはマーダー・ラビットと理の間に割って入った。
「させねえよ」
「おっと! 助っ人さんですか!」
 自己犠牲にも似た理の姿勢を否定するわけではないが、庇えるところはルーファスが庇う。それが彼の理に向ける思いだ。
 ルーファス自身はアリスを守ることに興味はないが、理には傷付いて欲しくない。
 身体的にも、もちろん精神的にも。
 その思いは言葉には出さないが、ルーファスは果敢に戦っていく。
 マーダー・ラビットと彼らの攻防は鋭く激しい。
 理もルーファスの意志を感じていた。だが、そうなると余計に彼には怪我を負わせたくなくなってしまう。
 視線で礼を告げた理は呼吸を整え、一気に間合いを詰める。
 其処から捨て身の勢いで解き放つのは鋭い連撃。理は己に宿るUDC――黒妖の凶犬と一つになり、牙を解放した。
 その巨躯は新月の夜の色。燃えるような緋色の双眸の犬の怪。
 鋭い牙はウサギを捉え、食い込むような傷を与えた。それは相手を骸の海へと誘う一助となり、深く巡っていく。
「なかなかやりますね……!」
 だが、マーダー・ラビットもナイフを斬り返すことで理とルーファスを穿った。
 血が散り、戦場に赤い軌跡が躍る。
 されどルーファスも理も痛みになど屈しなかった。戦いに身を投じる者として血塗れになるのは寧ろ大歓迎。
 その方が生きていると実感できる、というのがルーファスの持論だ。
 血を浴びて生き長らえているという事実が己を形作っているとすら思える。
 理もどれだけ傷を負っても、血が流れても、膝をついたりはしなかった。倒れるようなマネだけはしたくないという思いと気合いが理を支えている。
 そんな二人の様子を見遣ったマーダー・ラビットは本当に愉しそうに笑った。
「お二人は面白いですね! はやく殺したいくらいですよ!」
「俺には護るべきものがある。倒れてる暇などない」
「嗚呼、嬉しそうだな。オレも愉しいよ」
 理は淡々と真っ直ぐに、ルーファスは口角をあげて答える。
 此処で生きてるから、と言葉にしたルーファスは黒炎の槍を大きく振るいあげた。鋭い眼差しで以て兎を一瞥した瞬間、彼の槍閃が相手の足を貫いた。
 大きすぎる衝撃に対して、流石のマーダー・ラビットもよろめく。
 今だ、と声にしたルーファスの合図を聞き、駆けた理は花驟雨を振り下ろした。
「――眠れ。骸の海にて」
「兎ちゃん、お前を殺してやるよ」
 理が放った高速の一撃に続けて、ルーファスが更なる槍撃を見舞う。二人の連撃に押されたマーダー・ラビットは舌打ちをしながら痛みに耐えた。
 次の瞬間、敵は脱兎の如く駆け出す。
 不利を悟った相手が逃げたのだと察し、視線を交わした二人はその後を負っていく。
「行くぞ、マコ」
「……ああ」
 今の二人の間にそれ以上の言葉は要らない。
 理にも、ルーファスにも。守りたいものは、ちゃんと、此処にある。
 此の戦いの終わりが近付いていることを感じながら、彼らは疾く駆けていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】

ダーーッハッハ!
聞いたかときじ!
ご褒美に殺してくれるってよォ!
殺せるもんなら殺して欲しーぜ!
ったくよォ!
死にたがりの俺らにはありがてー話だけどよォ、俺ァ『生きる』ことに興味持ち始めた所だし、コイツは俺が殺させねェ…!わりーなァ!

誰が1番だァ…?
クク、てめーだよ
俺らを殺せねーお詫びに
1番に殺してやンよォ!!!

…っと危ねェ!(尻尾で十雉に襲いかかる敵や武器を弾く)
こいつァ殺させねぇッてんだろ!

さー、相棒!
今日はお前のかっけーとこ、
たっくさん、
魅せてくれよなァ!!!

『終焉らない輪舞曲を』

ッ!やば…!
ときじ!助かった!

ーーーさァ、ありのままのお前を、ここにいるヤツらに認めさせてやれ!!!


宵雛花・十雉
【蛇十雉】

提示されたご褒美に少しだけ期待するけれど
喧しい笑い声に現実に引き戻される
殺させないって?
なに勝手なこと言ってるの
そこまで言うなら、ちゃんと守ってくれるんだよね

カッコいいところ…見せられるかな
頑張る、けど
期待はしないで
相棒って呼ばれたのが嬉しかったのは内緒

でもアイツが1番最初っていうのは大賛成
2番目なんていないけどね

アリスたちを騙して裏切るなんて、許せないよ
【八つ咲き】で生み出した大鎌で切り裂いてあげる
真っ赤な花が開くかな

守られっぱなしは性に合わないんだ
なつめが余所見してたら『結界術』でバリアを張ってあげる
別に…ここで死なれたら寝覚め悪いし



●死への望みは奥底に
 殺して貰える。
 此処でただじっと立っていれば、何の心配もなく死が迎えられる。
 そんな思考に囚われていた十雉を現実に引き戻したのは喧しい笑い声だった。
「ダーーッハッハ! 聞いたかときじ! ご褒美に殺してくれるってよォ!」
「……うん、聞いた」
「殺せるもんなら殺して欲しーぜ! ったくよォ!」
 なつめの声に答えた十雉はほんの少しだけ残念な気持ちを覚える。もし彼が隣に居なければ、マーダー・ラビットが語った最初の犠牲者は自分だったかもしれない。
 抵抗もせず、望むままに――。
 しかし、その考えすらも続くなつめの声に掻き消される。
「死にたがりの俺らにはありがてー話だけどよォ、俺ァ『生きる』ことに興味持ち始めた所だし、コイツは俺が殺させねェ……! わりーなァ!」
「それはそれは、ご丁寧にどうも!」
 マーダー・ラビットに対して宣言したなつめは身構える。
 十雉はというと、なつめの言い分に対して少しばかり訝しげな表情を浮かべた。
「殺させないって? なに勝手なこと言ってるの」
「俺がそうしたいんだ。良いだろ」
 なつめは悪びれもせずに喉を鳴らして笑い、当然だと答える。肩を竦めた十雉だったが、その口許には微かな笑みも宿っていた。
「そこまで言うなら、ちゃんと守ってくれるんだよね」
「あったりまえだろォ」
 視線を重ねた二人は敵に向き直る。其処には血塗れの鋏をしゃきしゃきと鳴らしているマーダー・ラビットの姿があった。
 そして、なつめは敵が語っていた先程の言葉を思い出す。
「誰が一番だァ……? クク、てめーだよ」
「随分と自信満々で結構なことです。後で吠え面をかかないでくださいね!」
「ざっけんな、俺らを殺せねーお詫びに一番に殺してやンよォ!!!」
 なつめとマーダー・ラビットの啖呵の切り合いは激しい。ニコニコと語る時計ウサギと思いのままに叫ぶ竜神。双方を見比べ、十雉は霊力の鎌を構えた。
 その動きを察したなつめも妖力を紡いでいく。
「さー、相棒! 今日はお前のかっけーとこ、たっくさん、魅せてくれよなァ!!」
「カッコいいところ……見せられるかな。頑張る、けど」
 期待はしないで、と告げた十雉の頬がほんのりと赤く染まっていた。恥ずかしいので言葉にはしないが、なつめが相棒と呼んでくれたことが嬉しかったのだ。
「相棒ですか、美しいですね。ですがそれも今日で終わりですよ!」
 するとマーダー・ラビットが腰元から何かを取り出し、腕を大きく振るった。一瞬遅れて戦場に一筋の線が疾走る。
 鋭利な糸が放たれたと気付いたなつめは咄嗟に尾を振るった。
「……っと危ねェ!」
「あ、ありがと……なつめ」
 彼の尻尾に庇われた十雉は僅かに滲んだ血を見た。はたとした十雉は拳を強く握り締めた。僅かとはいえ、なつめが怪我をした。それも自分のせいで。
 なつめは吼えるように牙を見せ、マーダー・ラビットに抗議の声をあげる。
「こいつァ殺させねぇッてんだろ!」
「ああ、大切なようでしたから最初に葬ってあげようと思いまして」
「アイツ、やっぱり悪いやつだね」
 マーダー・ラビットから返ってきた言葉を聞き、十雉は恨みの感情を向けた。元はと言えば彼がアリス達を騙して裏切ったから鳥籠の騒動が起こったのだ。
 許せない、と言葉にした十雉は反撃に移る。
「アイツが一番最初っていうのは大賛成。ニ番目なんていないけどね」
「そうだ! さァて、お返しを見舞いに行こうぜ!!」
 駆け出した十雉に続き、なつめはその場で輪舞曲を刻む。霊力の鎌が敵に振るわれる中、歌声が戦場に響き渡っていく。
 だが、十雉の霊鎌を受け止めたマーダー・ラビットも更なる攻撃を繰り出した。
 その矛先が次はなつめに向かっていると察し、十雉は力を紡ぐ。
「ッ! やば……!」
「守られっぱなしは性に合わないんだ」
「ときじ! 助かった!」
「別に……ここで死なれたら寝覚め悪いし」
 彼が結界術で自分を守ってくれたと知ったなつめは快い笑みを向けた。十雉はそっけない返答をしたが、彼がこれ以上傷つかなかったことにひっそりと安堵している。
 そして、彼は更なる八つ咲きの力を揮っていった。
 なつめも終焉らない輪舞曲を紡ぎながら、十雉に強く呼びかける、
「――さァ、ありのままのお前を、ここにいるヤツらに認めさせてやれ!!!」
「……ほら、真っ赤な花が開くかな」
「しまった……!」
 十雉の大鎌による一撃がマーダー・ラビットを見事に切り裂いた。そして、其処から戦いは激しく巡っていき――いよいよ、終わりが近付いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天音・亮
まどか(f18469)と

まどか、私を信じてくれてありがとう
信じてくれる心が何より私を強くしてくれる
何より私を、前向きにさせてくれるんだよ
心の中でそんな事を思いながら
ちょっと不機嫌な様子のきみを見る

鉢合わせた目にはにこり笑って
なんでもないよ、なんて

さあウサギさん!もうきみの思い通りにはさせないよ!
普段は口数の多くないまどかの言葉を貰った私は
これまで以上に全力全快なんだから!

纏ったままだった花彩で飛び立って
星空の中駆ける青灰の彼を追いかけて
強く高く飛ぶんだ

誰も殺させたりなんかさせない
繋いだ手を離したりはしない
それが私がヒーローである理由だから

ふふ、覚悟してね?
想いを乗せた脚撃は、強いよ


旭・まどか
あきら(f26138)と

嗚呼、本当に――、鬱陶しくて敵わない

その嗤い声も立ち姿も何もかもが不愉快だ
疾く僕の前から消えてくれ

裡を埋めるのは嫌悪の情一色で
君の視線の含みを理解する事は無い

けれど
物言いたげなまそらの青に
訝しみながら短く、何、と

躱す声を皮切りに、隣の君が空へと飛舞し
花彩と共に此の地に青灰の軌跡を奔らせる

満る月の魔力を宿したお前の足跡は
星空を駆ける彗星の様

随分と久しぶりに感じる“お前”の背中
近くて遠い、その毛並みに
やはりとても頼もしくて――、安堵する

そんなこと
決して口にはしてやらないけれど

お前も負けじと渾身の一撃をかましておやり
沸々と湧くモノは、怒りだけでは無いでしょう?



●想いの力
 語られた言葉は陳腐でくだらない。
 そんな風に思えるほど、マーダー・ラビットが語ることは受け入れられなかった。
 誰が一番に死ぬのか。殺されることがご褒美だとか。そのようなことばかり声にする殺人ウサギの声は耳障りで仕方がなかった。
「嗚呼、本当に――」
 鬱陶しくて敵わない、と言葉にしたまどかは殺人ウサギを見据えている。
 殺しを至高とすることも、殺戮のことしか頭にない思考も、その嗤い声も立ち姿も何もかもが不愉快で仕方ない。
「疾く僕の前から消えてくれ」
 遠慮も何もなく告げたまどかは、普段通りに静かな視線を敵に向けている。
 裡を埋めるのは嫌悪の情一色。
 その傍らで、彼の横顔を見つめているのは亮だ。
 ――私を信じてくれてありがとう。
 まどかが抱く嫌悪とは別に、亮の裡には感謝が宿っていた。思い返すのは先程の鳥籠での遣り取り。
 信じてくれる心があったからこそ、扉はひらいた。その思いが何より亮を強くしてくれるものだったから。
(何よりも私を、前向きにさせてくれるんだよ)
 心の中でそう思いながら、亮は不機嫌な様子のまどかを見ていた。彼女の視線に気が付いたまどかだったが、その含みを理解はしていない。
「何」
「なんでもないよ、なんて」
 鉢合わせた目と目。訝しみながら短く問う彼の声に対し、亮はにこりと笑うだけに留めた。何か言いたいことがあったのだろう。しかし、彼女がそういうのだから構わないと感じたまどかは、それ以上を問うことはなかった。
 そして、亮はマーダー・ラビットに意識を向ける。まどかが厭っているのならば亮にとっても彼は倒すべき存在だ。
 何よりもアリスを騙して鳥籠に囚えた罪だって重い。
「さあウサギさん! もうきみの思い通りにはさせないよ!」
 亮は普段以上に張り切っている。なんていったって、普段は口数の多くないまどかの言葉を貰った亮はこれまで以上に全力全快。
「随分と威勢がいいですね! けれどいつまで続くでしょうか」
 マーダー・ラビットが迎撃体勢を取った刹那、亮は纏ったままだった花彩で飛び立つ。きっと相手が狙うのはまどかだろうから、その前に自分が止める。そんな意志を持って突撃した亮は高く飛ぶ。
 まどかは彼女が残していった花彩を目で追う。其処に青灰の軌跡を重ねたまどかは、月光の力を巡らせていった。
 満る月の魔力を宿した“お前”の足跡。
 それは宛ら、星空を駆ける彗星のように亮と共に迸っていく。
 亮も星空の中を駆ける青灰の彼を追いかけ、マーダー・ラビットに迫った。
「誰も殺させたりなんかさせない!」
 宣言と同時に亮が脚撃を放てば青灰の一閃が其処に続く。亮はまどかの力が傍にあるということに頼もしさを感じながら、更なる一撃を見舞うために宙を蹴った。
 対するマーダー・ラビットは糸を全周囲に張り巡らせることで、亮達を穿とうと狙ってくる。まるで自分達を引き裂く一閃のように思え、まどかは眉を顰めた。
 だが、亮達はそんなものになど怯まない。
 今は離れていても、あのときに繋いだ手を離したりはしない。勿論、誰かに引き離されるようなことだってない。
 ――それが私がヒーローである理由だから。
 亮は果敢に敵に立ち向かい、次々と蹴撃を叩き込んでいく。
 く、という呻き声がマーダー・ラビットから零れ落ちた。どうやら彼は続く戦いの中で徐々に疲弊していっているらしい。
 其処に好機を見出し、まどかも彼女の援護に入るように力を巡らせていった。そのときにふと、まどかは青灰の背を見つめる。
 随分と久しぶりに感じる“お前”の背中。
 近くて遠い、その毛並み。それはやはりとても頼もしくて――安堵するものだ。
(そんなこと、決して口にはしてやらないけれど)
 ふ、と息を吐いたまどかは更なる月の力を戦場に満ちさせていった。そして、彼に呼びかけていく。
「お前も負けじと渾身の一撃をかましておやり」
 沸々と湧くモノは、怒りだけでは無いはずだから。
 まどかの声に応えるように彼は疾走った。その軌跡を追いかけ、一緒に月と星の狭間を巡っていくかのように亮も続く。
 其処から亮達は素早く駆けていくマーダー・ラビットに追いついた。
「残念、追いつかれてしまいましたか」
 このまま撒こうと思ったのに、と呟いた時計ウサギから笑みが消える。それは自分達が勝機を掴んでいる証だと知り、亮は薄く笑む。
「ふふ、覚悟してね?」
 想いを乗せた脚撃は、かなり強いから。
 そして、振り下ろされた脚撃は真横からマーダー・ラビットを貫き――またひとつ、戦いを終わりに導く一撃が叩き込まれた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
【警咆】

お前には誰も見えていない
殺すことしか、見えていないんだな
……お前は、何も紡げない、繋げない、生み出さない
病だ。

(灼熱する閃煌、雷華の二刀【早業】
相手の連撃を【武器受け】の度、敵の武器を【焼却】灰にしながら
「栄灰」
散り積もる灰を糧に、此処をおれの森とする
蔦で縛り、木立を檻とし閉じ込める
武器を使い果たして動きを封じられても、お前は殺しを楽しめるか?)

…ただの、草食むうさぎだったら良かったろうにな。
じゃあ、ユキ。
……仕返しの時間だ。

おれだって怒ってるし
ユキは、きっと、もっとだし
こころに従うのが人間、だろ
それにおれ、いい人間じゃないんだぜ


ユキ・パンザマスト
【警咆】
……兎、お前を殺そうとした子らは
お前を信じていたらしいじゃねえですか
ええ!道も紡がず扉まで繋がず、安堵も生み出さず!
先導役を名乗るんじゃあねえ

(マヒ攻撃、早業
百舌の枝根を使役して加速や機動、逃走を妨げる
兎狩りだ)

サンキュ、ロクさん
……全くです、可愛げもない
悪い兎は打ち上げ前の一皿になってもらいましょ
(生命力吸収に捕食、【杯盤狼藉】
森の領域に、分離増殖した藪椿の赤が咲き乱れ
枝を蔦を伝い殺到、咀嚼
閉じ込められて脅かされる気分は、如何?)

そういやロクさん
仕返し、アリなんです?
(目を瞠り、少し笑む)……、そっか
いい心にも、そうでない心にも従うなら
普通の人間、ですねえ
ロクさんも
ユキも、きっと



●ひとであること
 相対するは殺戮と死を語る時計ウサギ。
 誰を最初に殺すのか、誰が一番に死ぬのか。そんなことばかり語っているマーダー・ラビットに対して、ロクは鋭い眼差しを向けていた。
「お前には誰も見えていない」
「うん? いいえ、貴方達のことはちゃーんと見えていますよ!」
「違う。殺すことしか、見えていないんだな」
 ロクが呟いた言葉を聞きつけ、マーダー・ラビットは笑いながら答えた。しかし、首を横に振ったロクはそういうことではないと否定する。その隣に佇み、身構えているユキも同様に強い視線を敵に差し向けていた。
「……兎、お前を殺そうとした子らはお前を信じていたらしいじゃねえですか」
「そうですね、まんまと引っ掛かってくれましたよ!」
 マーダー・ラビットは悪びれもせずに、ユキの言葉を肯定した。その態度と言動はロクとユキに憤りを覚えさせるに十分なものだ。
「ええ! 道も紡がず扉まで繋がず、安堵も生み出さず! 時計ウサギを騙って先導役を名乗るんじゃあねえ」
 強く言い放ったユキの刻印が鈍く光る。
 彼女の言葉をひとつずつ確かめながら、ロクもマーダー・ラビットを睨み付けた。
「……お前は、何も紡げない、繋げない、生み出さない」
 病だ。
 そのように宣言したロクはユキと共に頷きあう。
 相手とは話が通じない。向こうが此方やアリスを殺す気で来るならば、自分達だって最初から容赦など出来やしない。
 地を蹴ったロクの手には剣鉈と剣銃が握られている。
 其処から灼熱する閃煌、雷華を迸らせ、ロクはひといきに敵へと駆けた。対するマーダー・ラビットもナイフを構えて彼女を迎え撃つ。
 振るわれる刃。
 それを剣戟で弾き返すロク。烙の印が揺らぐ中、焼却の力が巡った。触れるものを灰にする力は敵のナイフを無残な姿に変える。
 其処に生まれた隙を狙い、ユキは麻痺を乗せた百舌の枝根を使役していく。
 そうすることによって相手の加速や機動、逃走を妨げる目的だ。
「――兎狩りだ」
「ただの、草食むうさぎだったら良かったろうにな」
「……全くです、可愛げもない」
 ユキが言葉にしたことを聞き、ロクはマーダー・ラビットへの思いを呟いた。その声を聞いた本人は可笑しそうに笑っているだけだ。
「そこらのウサギと一緒にしないで頂きたいですね!」
 それだけを告げたマーダー・ラビットは更なる一撃をロクに振り下ろした。見切ることすら出来ない一閃がロクを貫いたが、彼女は果敢に耐える。
 その代わりに、散り積もる灰を糧にして戦場を己の森として変えていく。
「じゃあ、ユキ。……仕返しの時間だ」
「サンキュ、ロクさん」
 ロクは敵を蔦で縛り、木立を檻とし閉じ込めようと試みていった。それを好機として受け取ったユキは己の刻印を増殖させ、マーダー・ラビットを狙う。
 森の領域に分離した藪椿の赤が咲き乱れた。
 枝を、蔦を、森のすべてを伝っていくように殺到するそれらは殺人ウサギを咀嚼するかのように食んでいった。
 果たして、彼は武器を使い果たして動きを封じられても、殺しを楽しめるのか。
 閉じ込められて脅かされる気分は、如何なものか。
 ロクとユキが向け続ける視線を受け止め、時計ウサギはにこにこと笑っていた。確かに身体を蝕まれ、傷付けられているというのに――。
「随分と余裕なもんですね」
「そりゃあ、お二人がこれだけ本気で向かってきてくれているんですから!」
 ユキが問うと、マーダー・ラビットは腰元から新たに取り出した鋏で以て、木立の檻を切り裂いていく。敵は魔力で痛みや傷の衝撃を軽減している。そう気付いたロクは閃煌と雷華の一閃で以て殺人ウサギの武器を穿ちに向かった。
「すばしっこいのは、まさにうさぎだな」
「悪い兎は打ち上げ前の一皿になってもらいましょ」
 まだまだいけます、と告げたユキもロクの援護に回った。狩りと称したように時計ウサギとの追走と攻防は未だ続いていくようだ。
 その際、ユキはふとロクが言っていた言葉を思い返した。
「そういやロクさん。仕返し、アリなんです?」
「おれだって怒ってるし、ユキは、きっと、もっとだし、それに……」
 こころに従うのが人間、だから。
 ロクが返した言葉に対してユキは目を瞠り、少しだけ笑んで見せる。ユキの様子を見遣ったロクは更に言葉を続ける。
「それにおれ、いい人間じゃないんだぜ」
「……、そっか。いい心にも、そうでない心にも従うなら、普通の人間、ですねえ」
 ――ロクさんも。ユキも、きっと。
 続く思いは敢えて言葉にはせず、ユキはマーダー・ラビットを見据えた。
 追い詰められたウサギ。
 彼との戦いも間もなく終わりを迎えるのだろうと感じながら、二人は最後まで力を揮い続けることを決めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真白・時政
カラスくん(f13124)と

ヤンヤン美味しそうな籠だったのにィ~無くなっちゃってザンネン、ザンネン
ウサギさんはイケてるウサギさんだけどォ~、とォ~~ってもヤサシーウサギさんだからあんなおっかないウサギさんは知らなァい
んフフそォだよォ~。知ってるクセにィ~

ナイフやハサミがいっぱい飛んで来て、ウサギさんこわァ~い!
助けてアリスちゃん!
ピョンピョン跳ねながら投擲を避けて、カラスくんの声を合図にパン蝶と一緒に反撃だァ~!

ネ、ネ、コッチのウサギさんとアッチのウサギさん、ドッチが好き~?
んフフ~ダヨネ、ダヨネ。アリガトォ~ウサギさんもカワイーアリスちゃんのコト、スキだよ
もォ~カラスくんには聞いてない!


ヤニ・デミトリ
ウサギさん(f26711)と

まァだそんな事言ってんスか
ホラ、イケメンだけどなンだかおっかないのが待ってるっスよ
向こうもウサギ…もしかしてウサギさんの知り合いだったりします?
ヒヒ、まあそうっスよねえ

身軽さには折り紙付きって感じっスか
じゃあ俺の獣達とも追いかけっこしましょう
屑鉄の獣群は切り捨てても尽きず、肉の味を覚えます
武器を捨てても、四肢に食らいついて逃がさないっスよ

獣の声を聞いたら共有を、アリス達と…
ウサギさァん!狙うならあの辺っスよ

また何か面倒臭い事聞いてら…
まァ殺人兎よかはマシかもっスけどね
アリスさん達真面目に答えなくていいっスよ
このウサギ優しいの態度だけっスからね、騙されちゃダメっス



●脱兎の先
「ヤンヤン美味しそうな籠だったのにィ~無くなっちゃってザンネン、ザンネン」
「まァだそんな事言ってんスか」
 先程の鳥籠を思い出して、悔しがる――というよりも名残惜しむ時政。
 彼が語る言葉を聞き流しながらヤニは軽く身構えた。彼が視線を向けた先には鋏を構えたマーダー・ラビットがいる。
 相手からの敵意と笑みを受け止め、ヤニは時政を呼ぶ。
「ホラ、イケメンだけどなンだかおっかないのが待ってるっスよ」
 え~? と口にして振り返り、ヤニと同じ方向を見遣った時政もマーダー・ラビットの存在を意識していく。対する時計ウサギはというと時政を見つめ返した。
「これはこれは、アリスなのにウサギ? なかなか面白い子ですね!」
 どうやら妙な親近感が生まれたようだ。
 あれ、と首を傾げたヤニは一応、時政に問いかけてみる。
「向こうもウサギ……もしかしてウサギさんの知り合いだったりします?」
「ウサギさんはイケてるウサギさんだけどォ~、とォ~~ってもヤサシーウサギさんだからあんなおっかないウサギさんは知らなァい」
「ヒヒ、まあそうっスよねえ」
「んフフそォだよォ~。知ってるクセにィ~」
 時政とヤニは互いに視線を交わし、軽く笑いあった。向こうはどうか知らないが、殺人ウサギなど赤の他人。
 そのうえで進む先を阻んでくるなら容赦などいらない。
 それぞれに戦う意志を見せた時政とヤニに対し、マーダー・ラビットも敵意を向け返した。ふ、と笑ったウサギの瞳が妖しく輝く。
「まずはニセウサギさんを一匹狩りましょうか!」
 次の瞬間、幾つもの鋭利な刃物や糸が物凄い速さで此方に迫ってきた。時政は解き放たれた刃の軌道をさりげなく見切り、跳ねることで避けていく。
「ナイフやハサミがいっぱい飛んで来て、ウサギさんこわァ~い!」
「うわっ、身軽さには折り紙付きって感じっスか」
 ヤニが零した感想はマーダー・ラビットと時政の両方に向けられていた。時計ウサギの武器捌きもそうだが、時政もなかなかのものだ。
 ヤニも空気ごと裂いてくるかのような糸の動きを見極め、直撃を避けた。
 されどヤニとて、ただ攻撃を受けるだけでは留まらない。
「じゃあ俺の獣達とも追いかけっこしましょう」
 生物型バラックスクラップの群を放ったヤニはマーダー・ラビットに視線を向ける。戦場を駆ける屑鉄の獣群は切り捨てられようとも尽きることはない。ひとたび喰らいつけば、ウサギの肉の味を覚えるだろう。
「おおっと、肉食獣は少しばかり苦手です。これは厄介ですね!」
「逃がさないっスよ」
 マーダー・ラビットは身を翻して屑鉄の獣達から逃れようとした。だが、ヤニがそうはさせない。その間に時政は同じ戦場に立っているアリスの元に向かった。
「助けてアリスちゃん!」
「ふわぁっ!? は、はい! 助けますです!」
 少女アリスは最初こそ驚いていたが、すぐにプリンセスハートを飛ばすことで援護に入っていく。時政はピョンピョンと跳ねながらマーダー・ラビットからの投擲武器を避け、時にはアリスへの攻撃を弾いた。
 そして、時政は時計ウサギを獣達と共に追うヤニに声を掛けていく。
「カラスくん、行ける~?」
「後ちょっと……よし、ウサギさァん! 狙うならあの辺っスよ!」
 ヤニの返答を聞いた時政は少女アリスを傍に呼び、マーダー・ラビットの進行方向に指先を向けた。
「アリスちゃん、パン蝶と一緒に反撃だァ~!」
「わかりましたです!」
 その瞬間、バタつきパン蝶が敵に向かって飛翔する。同時に時政も三月兎の力を振るい、らぶらぶびーむで以てマーダー・ラビットを穿った。
「……! うわ、っと! これはかなり拙い状況ですよね。そうですよね!」
 獣に追い掛けられながら蝶とビームの直撃を食らった殺人ウサギは、流石に不利を感じているようだ。先程の時政のように、ウサギの如く跳ねたマーダー・ラビットはヤニ達との距離を一気に開いていく。
 逃げられる形となったが、ヤニも時政も無理に追ったりはしない。
 何故なら、その先には別の猟兵が待ち受けていることを知っているからだ。アリスちゃんも少しほっとしたらしく、プリンセスハートを自分の元に戻した。
 彼女を落ち着かせるため、時政は問いかける。
「ネ、ネ、コッチのウサギさんとアッチのウサギさん、ドッチが好き~?」
「また何か面倒臭い事聞いてら……」
 時政の言動に慣れきっているヤニは、困った様子のアリスちゃんを気の毒に思った。けれども害はない質問なのでそのままにしておく。
「えっと、こっちのウサギさんです!」
「んフフ~ダヨネ、ダヨネ。アリガトォ~ウサギさんもカワイーアリスちゃんのコト、スキだよ。勿論、パン蝶ちゃんもね」
 アリスがはにかみならが答えると、時政は更に笑みを深めた。
 ヤニは肩を竦め、半眼状態でぽつりと呟く。
「まァ殺人兎よかはマシかもっスけどね」
「カラスくんには聞いてない! じゃあアリスちゃん、次はウサギさんのネェ~」
 時政は尚もアリスに何かを問おうとしていた。
 流石に可哀想だと思ったヤニはその間に入り、こっちへ、とアリスの手を引く。彼らが敵を追わなかったのはもうひとつ訳があった。
 戦いで疲弊している様子のアリスに無理をさせないという理由だ。
「アリスさん、真面目に答えなくていいっスよ。このウサギ優しいの態度だけっスからね、騙されちゃダメっス」
「え? ええ? えっと……わたし、カラスさん? の方がすきです」
「ちょっとカラスくんってば、もォ~」
 そんなこんなでウサギとカラスとアリスのちいさなひとときが巡っていく。
 彼らは信じている。
 仲間達が必ず、マーダー・ラビットを倒してくれる未来を――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーチェ・ムート
【蝶月】

ボクも生き物を殺すことの何が楽しいのか
さっぱりわからないや
否定も肯定もせずに息を吸い込む

任せて
こっちは大丈夫
後ろは気にせずにキミのしたいことをして

鼓舞を込めて歌う『夢幻イノセント』
当たらなかったとしても構わない
一番の目的は彼の支援
一面に白百合の花を咲き誇らせよう

戦場でひらりひらりと舞う姿は蝶のように
キミに歌声が届けばいいと思う
傷ひとつなく無事でありますように

もっと大きな声で歌おう
ボクが出来る事なんてこれくらいだもん
桃色の蝶がふわり浮いて瑠璃の蝶の元へ
色違いの蝶が仲良く羽ばたいて、
キミも美しく羽ばたいていて

それがちょっと羨ましい
歌を終えたらキミの元へ駆けていこう
おかえり!お疲れ様!


緋翠・華乃音
【蝶月】

……生き物を殺すことの何が楽しい?
いや、皮肉でも何でもなく、ただ教えて欲しいだけだ。
俺は一度として、人を殺す時にそういう感情を抱いたことが無くてな。

ルーチェ、君は援護を頼む。
殺しに遊びを持ち込む奴は何を為出かすか読みにくい。

選択した武装はダガーナイフと拳銃。
踏み出した一足目の反響定位を利用して周囲の地形を把握。
常に戦術的有利な立ち位置を意識して戦闘を行う。

敵の一挙手一投足や攻撃の兆候を見切り、研ぎ澄ませた合理性が導く最適解に従って攻撃を仕掛ける。
近距離ではダガーナイフを用いて敵を間合いの内側で翻弄し、距離を離れれば拳銃で狙撃するヒット&アウェイ。
それは宛ら、蝶の羽搏きのように。



●唄に蝶々
「……生き物を殺すことの何が楽しい?」
 マーダー・ラビットに対し、華乃音は純粋な疑問を投げかけた。
 其処には皮肉や否定の意志は混じっておらず、単純な問いかけでしかない。
「どうして、ですか。その質問に意図はあるんですか?」
「いや、ただ教えて欲しいだけだ」
 鋏をしゃきしゃきと鳴らしたマーダー・ラビットは逆に華乃音に問い返した。対する華乃音は、自分は一度として人を殺す時にそういった感情を抱いたことが無いのだと語り、マーダー・ラビットの返答を待つ。
 勿論、その際にダガーナイフと拳銃を構えることも忘れていない。
「ボクも生き物を殺すことの何が楽しいのか、さっぱりわからないや」
 ルーチェも不思議そうな表情でマーダー・ラビットを見つめた。すると時計ウサギは更に鋏を煩く鳴らし、意味深に笑う。
「好きなことを好きだと思う、ただそれだけですよ!」
 果たしてそれが本心であるのか、本当の答えであるのかどうかは本人にしか知り得ないことだ。そうか、と答えた華乃音は身構えた。
 ルーチェも殺人ウサギの答えを否定も肯定もせずに、息を吸い込む。
 会話は出来るが、話が通じない。
 それが、敵の言動を確かめた華乃音とルーチェが感じた答えだ。
「ルーチェ、君は援護を頼む」
「任せて。こっちは大丈夫」
 華乃音の呼びかけに応えるように微笑み、ルーチェは歌声を紡いでいく。
 どうか、後ろは気にせずにキミのしたいことをして。
 そんな思いを込めて歌いあげていくのは鼓舞を込めた――夢幻イノセント。
 その声は水面を漂う花のように淡く、優しくて甘い無垢な歌を奏でていった。敵はウサギらしく素早いようだが、たとえ当たらなかったとしても構わない。
 援護に、と頼まれたようにルーチェの一番の目的は彼の支援だ。歌声と共に戦場一面に白百合の花を咲き誇っていく。
 その声を背にして駆けた華乃音は白百合の中を進み、敵との距離を詰めた。
 経験則からして、殺しに遊びを持ち込む相手はやり辛い。
 何を為出かすか読みにくいからだ。
 華乃音は手始めに、踏み出した一足目の反響定位を利用していた。暗闇が広がる地形を把握しながら銃口をマーダー・ラビットに向け、銃爪を引く。
 相手が避けた方向に進路を定め、ひといきに接敵した華乃音はダガーを振り抜いた。その気配を察知した時計ウサギも鋏を振り上げる。
 双方に言葉はなく、代わりに金属同士が衝突しあう音が戦場に鳴り響いた。
 ウサギ穴の果ては昏い。
 しかし、其処に紡がれていくルーチェの歌は白き光を齎すように、花を咲かせていた。
 声に合わせるように立ち回る華乃音の姿を、ルーチェは確りと見つめている。
 戦場でひらりひらりと舞う姿は蝶のよう。
 蝶々は掴み所がなくて、儚いけれど――。
 キミにこの歌声が届きますように。
 傷ひとつなく無事でありますように。涸れ堕ちたボクのようには、ならないで。
 裡に秘めた思いもそっと歌に織り込み、ルーチェは謳い続けた。
 ダガーが空気ごと敵を切り裂く。
 鋏が鈍く煌めき、蝶の翅を破るかのように振るわれる。
 華乃音とマーダー・ラビットの攻防は激しく、それを見つめるルーチェはぎゅっと掌を握り締めた。
 もっと、もっと大きな声で歌おう。
(ボクが出来る事なんてこれくらいだもん。だから……)
 祈るように歌を紡いでいくルーチェの傍から、桃色の蝶がふわり浮いて瑠璃の蝶の元へ翔けた。色違いの蝶が仲良く羽ばたいていく様は希望の道標のように見える。
 ――キミも美しく羽ばたいていて。
 ルーチェから届く聲を聞き続け、華乃音も果敢に攻撃を続けた。
 彼は敵の一挙手一投足を見切り、今や鋏を弾き返すまでの反応速度を見せている。そして、極限まで研ぎ澄ませた合理性が導く最適解に従って仕掛けていく。
 刃と刃の衝突音。
 響きゆく可憐な歌声。
 世界にはそれだけしか無くなってしまったような錯覚まで感じられた。華乃音は敵との距離を確かめ、ダガーナイフを用いることで敵を間合いの内側で翻弄していく。
 流石に拙いと感じたのか、マーダー・ラビットは身を翻した。
「三十六計逃げるに如かず、です! ああ、今日だけで何回これを言ったでしょうか。ちょっとばかりいけない状況ですねえ」
 見れば時計ウサギは随分と疲弊しはじめている。
 華乃音は退こうとする相手に拳銃を向け、そのまま狙撃していく。
 それは宛ら、蝶の羽搏きのようで――。
 ルーチェは彼と舞う蝶々達を見つめ、少しの羨望を覚えた。けれども今は歌を唄い続けるべきとき。
 それに、此の戦いが終わったらやりたいことだってある。
 おかえり。お疲れ様。
 華乃音に駆けていき、誰よりも最初にその言葉を掛けたい。そっと願うルーチェの想いは夢幻に揺蕩う無垢な歌声となって、戦場を満たしていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朝日奈・祈里
🌸⭐️
志桜と一緒に
繋いだ手を名残惜しそうに離す
うん、繋いで帰ろう。無事に終わらせよう。

……なるほど?おまえは所謂【サイコキラー】ってやつだな?
そんなヤツを野放しには出来ないし、それを止めるのも天才の責務だよ
……行こう、志桜。許されるものじゃない。
大事なヒトたちを閉じ込めて、離れ離れにして
やっと出られたら惨殺?
倫理観というものを嫌と言うほど教えてやろう

志桜と声を掛け合い連携を取って
ルーンソードに炎を乗せて振るう
攻撃力に全振りだ
イフリート!チカラを貸せ
最大火力で行くぞ!

でもありがとう。おまえのおかげでかけがえのないモノを手に入れられたよ


荻原・志桜
🌸⭐️
名残惜しく離した手は次第に温度を失うはずなのに温かいと感じる
何度だって繋ぐよ。そして必ず祈里ちゃんと帰るんだ。

危険な存在だと警鐘を鳴らすが退くわけにはいかない
倒れるのはアナタだけだよ。
それに怒ってるんだから。わたしだって。
大切な子を閉じ込めるなんて。しかもご褒美が死?
どれだけ人を…っ、許せない!

うん、祈里ちゃんいこう!
わたし達の魔法で狂った兎を懲らしめてやろう。

遍く天に雷光の兆し在りて。
希うのは悪意あるものに裁きの光を――

祈里と合わせ乍ら雷の矢を降らし
確りと握りしめた大鎌を振るっていく
気付いたの、
手を伸ばせば届く、繋げば握り返してくれる守りたい存在を。
絶対に奪わせたりしないんだから…!



●守りたいもの
 繋いだ手を離すのは名残惜しい。
 しかし今、外の世界に続く道を塞ぐ存在が目の前に立っている。そのことを理解している志桜と祈里は、どちらともなくそっと身構えた。
 離した手は次第に温度を失うはずなのに、どうしてか温かいと感じる。
「祈里ちゃん、ここを出たらまた手を繋いで帰ろうね」
「うん、一緒に帰ろう。無事に終わらせよう」
 掛けられた声に頷き、祈里はルーンソードを抜いた。志桜も月影の鎌を握ることで殺戮ウサギへの思いを強める。
 戦いが終わったら、何度だってこの手を繋ごう。
 相手は危険な存在だと心が警鐘を鳴らしているが、此処で退くわけにはいかない。マーダー・ラビットは祈里と志桜を見遣り、愉しそうに嗤った。
「肉の柔らかそうな子達ですね。これは斬り刻み甲斐がありそうです!」
 相手の言動にぞくりとする感覚をおぼえながら、志桜は首を横に振った。
「倒れるのはアナタだけだよ」
「……なるほど? おまえは所謂サイコキラーってやつだな?」
 祈里は志桜の隣に踏み出し、冷めた視線を向ける。そうと分かればこんな相手を野放しには出来ない。凶行を止めることもまた、天才の責務だ。
 魔力を紡ぎ、敵の出方を窺う志桜は少しだけ感じた怯えを振り払う。たとえ切り刻まれたとしても耐えてみせると決めた。
 志桜は敵が手にしている血塗れの鋏を瞳に映した。あの血がマーダー・ラビットのものではないことは一目で分かる。
「それにわたしだって怒ってるんだから。大切な子を閉じ込めるなんて……しかもご褒美が死? その鋏やナイフで、どれだけ人を……っ!」
 祈里は憤る志桜に呼びかけ、剣を握り締めた。
「行こう、志桜。あれは決して許されるものじゃない」
 大事なヒトたちを閉じ込めて、離れ離れにして――やっと出られたら惨殺だなんて所業は決して看過していいものではない。
「うん。わたし達の魔法で狂った兎を懲らしめてやろう!」
「いくぞ、マーダー・ラビット。倫理観というものを嫌と言うほど教えてやろう」
 そして少女達は左右に跳んだ。
 そうした理由は時計ウサギから鋭利な糸の一閃が振るわれたからだ。二人の間を裂くように一撃を巡らせた相手は残念そうに肩を竦める。
 当たらなかった、と悔しがる言葉が落とされたが、その口許は笑ったままだ。
「志桜!」
 名を呼ぶことで合図を送った祈里はルーンソードに炎の魔力を乗せた。
 刃の上で燃え盛る炎は精霊イフリートによるもの。祈里によって赤い軌跡が描かれていく中、志桜も詠唱を始めた。
「――遍く天に雷光の兆し在りて」
 希うのは悪意あるものに齎す裁き。光を、と言葉にした志桜の大鎌から雷撃が疾走っていった。魔力は天に昇り、雷の矢となって降り注いでいく。
 それは祈里が振るう炎の一閃と重なり、マーダー・ラビットを穿っていった。
「イフリート!」
 祈里が精霊に呼び掛けると、その声に応えるようにして焔が巡る。志桜も祈里に続き、弾ける雷撃を纏った刃を振り下ろしに駆けた。
「威勢の良いお嬢さん達だ。でも、僕の方が殺しに慣れていますよ!」
 マーダー・ラビットは祈里の一閃をナイフで弾き、志桜の一撃を蹴撃で以て凌いだ。言葉通りに相手は強い。そして、次の瞬間。
「まずはそっちのちいさな子から殺してあげましょう! そうすれば桜色のお嬢さんの嘆く顔が見られますからね!」
 殺人ウサギは祈里に狙いを定め、ひときわ鋭利なナイフを振り上げた。
 その動きに気付いた志桜は咄嗟に飛び出す。一瞬だけ、あの刃が祈里の胸を貫く想像が巡ってしまい、気付けば彼女を庇うように敵の前に踏み込んでいたのだ。
「祈里ちゃん!」
「志桜――!」
 少女の目の前で志桜の腕が斬り裂かれ、赤い血が散る。志桜も大鎌で受け止めた故に重傷ではないが、マーダー・ラビットによって傷付けられたことは確かだ。
 よくも、と呟いた祈里は精霊の魔力を更に解放した。
「もっとチカラを貸せ。最大火力で行くぞ!」
 お返しだ、と告げた祈里は証明の一閃を振り下ろす。炎を滾らせて斬り放つ一撃は深く、感情のままにマーダー・ラビットを貫いた。
「おっと、予想外の展開でしたが悪くないものが見れましたね!」
「人を傷付けて、楽しむなんて……っ!」
 やっぱり許せない、と奮い立った志桜も反撃に入る。痛みは鋭いが動けないほどではなかった。天雷の矢を解き放った少女は憤りで震える掌を握り締める。
「……気付いたの」
 志桜は知った。手を伸ばせば届く、繋げば握り返してくれる守りたい存在を。
 だから、絶対に。絶対に。
「何も奪わせたりしないんだから……!」
 最大限に魔力を乗せた大鎌の一撃がマーダー・ラビットを切り裂いた。祈里も其処に続き、更なる連撃を叩き込んでいく。
 志桜を傷付けられたことは許せないが、少しだけ感謝もある。
「一度だけ、ありがとう、と言っておくか。おまえのおかげでかけがえのないモノを手に入れられたよ」
 お礼に今回の生を終わらせてやる。
 そう告げた祈里は殺人ウサギを確りと見つめ、志桜と共に魔力を紡ぎあげていき――。
 刹那、炎と雷の協奏が戦場を鋭く彩った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

さっき暴れられなかったぶんの鬱憤をぶつけてやる!

歌で身体強化
素早くても間合いが短いなら近寄りすぎないようにすりゃいいんだろ
距離をとりつつ衝撃波…光閃で斬りつける
しかし…くっそ、ちょこまか動きやがって
遠距離ばっかじゃやりづれぇ
ぐっと強く踏み込んで、もっと前へ

アレス!
攻撃を肩代わりする姿に悲鳴じみた声がもれる
けど…庇われて、それで終わりじゃねぇだろう
今すべきことは、剣としての役割は
アレス
今度は隙を作るのは任せたぞって
絶対の信頼を込めて短く名前を呼んで
全力の炎の魔力を拳に込める
動きが止まればスピードなんざ関係ねぇよな
食らえよ、二人分のお返しだ!
敵のどてっぱらに【星球撃】を叩き込む!


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

皆を、セリオスを閉じ込めた礼を…ここで返させてもらうよ

初めは光の属性魔法で先制を
その後は防御重視で引きつけつつ、彼を援護
だが素早いのは少々厄介だな…っ

セリオス!あまり前に出ては…!
させるか、と彼を庇い
盾からオーラ…『閃壁』展開
激痛耐性と後ろには通さない覚悟で受け止め続けよう
悲鳴のような声に、大丈夫と答えようとしたけれど
その後に聞こえた声は…嗚呼、力が湧いてくる
それとは別に…祈りのような力も感じて
一瞬、星の鳥が見えた気がした

―やっぱり、
君は僕の光だ。セリオス
(【貴方の青い鳥】発動)

攻撃を盾で受け流し
麻痺を込めた雷属性の剣によるカウンターを叩き込む
隙を突くのは任せたよ…セリオス!



●羽撃く翼
 死を語る時計ウサギが刃を鳴らす。
 殺戮を至高とするマーダー・ラビットは此方に鋭い視線を向けていた。
 おそらくは猟兵を狩る獲物とでも見ているのだろう。鋏が擦れあう耳障りな音を聞き流し、セリオスは拳を握った。彼の傍に立つアレクシスも白銀の騎士剣を握り、マーダー・ラビットを見据える。
「いいぜ、やってやる」
 鳥籠に閉じ込められた鬱憤をぶつけるべくセリオスは意気込む。先程に暴れられなかった分だけ、この戦いで憂さを晴らす心算だ。
 歌を紡ぎ、己に強化の力を巡らせたセリオスは随分とやる気らしい。アレクシスは引き続き彼を守る誓いを立て、マーダー・ラビットへと光を解き放った。
「おっと、そちらにも死にたがりがいましたか!」
「皆を、セリオスを閉じ込めた礼を……ここで返させてもらうよ」
 アレクシスは向けられた視線を受け止め、相手を自分に引きつけようとする。だが、それと同時にセリオスが一気に前に踏み込んだ。
「セリオス! あまり前に出ては……!」
「大丈夫だ! 近寄りすぎないようにすりゃいいんだろ」
 素早くても間合いが短いなら戦いようがある。少し過保護だ、と冗談めかして軽く笑ってみせたセリオスは、アレクシスだけに前を任せるわけにはいかないと示す。
 先程は助け出して貰ったのだから、次は自分の番。
 不公平なのは嫌だとセリオスが語ると、アレクシスは頷く。
 わかった、と答えたアレクシスはマーダー・ラビットに白銀の大盾を向けた。
 その間にセリオスは敵との距離を取りながら、衝撃波――光閃で斬りつけていく。だが、マーダー・ラビットは予想以上に素早かった。
 流石はウサギだな、と感心しつつもセリオスは次の一手を考える。
 アレクシスも敵が跳ねる動きに警戒を強め、相手の強さを実感していた。
「素早いのは少々厄介だな……っ」
「……くっそ、ちょこまか動きやがって」
 遠距離ばかりではやり辛いと感じたセリオスはぐっと強く踏み込み、もっと前へ飛び出した。されど迎え撃つマーダー・ラビットは不敵に笑う。
「ふふ、自らやられに来ましたか!」
「させるか!」
 構えた盾から閃壁を展開したアレクシスはセリオスを庇った。振るわれたナイフから放たれる衝撃波が盾ごとアレクシスを貫いたが、そんな痛みなど耐えられる。
 自分の役目はセリオスを傷付けさせないこと。
 だから負けない、と言葉にした彼はマーダー・ラビットの攻撃を受け続けていく。
「アレス!」
 攻撃を肩代わりするアレクシスの姿に対し、セリオスから悲鳴じみた声が零れ落ちた。アレクシスがその声に大丈夫だと答えようとしたとき。
 首を横に振ったセリオスが、強く唇を噛み締める姿が見えた。
 彼が何かを思っているのだと察したアレクシスの言葉が止まった。そうして、セリオスは拳に炎を纏わせる。
(……庇われて、それで終わりじゃねぇだろう)
 彼が盾として立つなら。
 今すべきことは、剣としての役割は――。そうだ、もう決まっている。
「――アレス」
「……セリオス」
 その後に聞こえた声を聞き、アレクシスは静かに微笑んだ。
 嗚呼、力が湧いてくる。
 そうして、それとは別に祈りのような力も感じられて、たった一瞬だけではあるが星の鳥が見えた気がした。
 彼の声には信頼が宿っていた。多くを語らずとも、今度は隙を作るのは任せたぞ、と告げてくれている。絶対の信頼を込めて名前を呼んでくれたゆえに、アレクシスの胸裏にもいとおしい思いが湧いてくる。
 そして、セリオスは一気に地面を蹴り上げた。
 駆けると同時に炎を強く滾らせたセリオスは其処に全力を込める。
 アレクシスも託されたことを成し遂げるためにマーダー・ラビットに向かっていく。
「――やっぱり、君は僕の光だ」
 セリオス、ともう一度名前を呼んだとき、指輪の祈りが深く巡った。アレクシスは敵からの攻撃を盾で受け流し、そのまま麻痺を込めた雷撃を叩き込む。
 振るわれた剣の直撃を受けたマーダー・ラビットは思わず仰け反った。
「うわ、っと! しまった――!」
 それまでの余裕を崩された時計ウサギは動きを阻まれている。即座に身を引いたアレクシスはセリオスを見つめた。
「後はすべて託すよ……セリオス!」
「任された!」
 セリオスはひといきに駆けた。こうしてアレクシスが作ってくれた最大の好機を逃すはずがない。動きが止まればスピードなど関係ないのだから、後はただ一撃を繰り出せば良い。これこそが自分達の戦い方だと示すように、セリオスは拳を突き放った。
「食らえよ、二人分のお返しだ!」
 流星を思わせる程の勢いを乗せた一閃。
 それは真正面からマーダー・ラビットを捉え、そして――星球撃は敵の体を深く抉り、言葉通りの反撃となって打ち込まれる。
 セリオスとアレクシスは其処に終わりの気配を感じ取った。
 視線と想いを重ねた二人はマーダー・ラビットから決して意識を逸らさず、最後まで共に戦うことを誓いあった。
 そうして、戦局は一気に終幕に近付いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

壱織・彩灯
焔璃(f28226)と

ふたり目指した出口の先
おやおや、血腥い兎が歓迎してくれておる
鳥籠は確かに俺好みではあったなぁと袖口で口元隠し
ころりと暢気に笑む
ふふ、相方が大層激昂してくれているから
俺からの恨み言は控えるが、
……
だがな、焔璃に悲しき想いをさせたのは、

…………絶対に赦さぬよ

爍華の業火に重ねるように
銀月纏う紅影を引き抜いて
お前に真っ赫な椿を咲かせてやろう、
そうだな、焔璃
極上のすいーつが俺達を待っておる

奪うならば奪われても文句は云えぬぞ、兎
そのよく廻る巫山戯た舌を地獄で切ってしまおうか

噫、焔璃よ
もう光の中に在るから
心配するなと柔い髪をくしゃり撫ぜて
……優しい仔、さあ、
約束じゃ、存分に遊びにゆこう


波紫・焔璃
彩灯(f28003)と

出てくるに決まってるだろ!
よくも彩灯をあんな趣味の悪…や、デザインは良かったけど
って、そうじゃない!あんなとこに閉じ込めたな!!
アリス達へ結界術を施し
爍華には破魔を込めた地獄の業火が燃え上がる

そんな褒美いらない、さっさと還れ!
アリス達守ってアンタ還したら、彩灯とスイーツ食べに行くんだから!!!
暗視と第六感で攻撃を受け流し、逆に闇に紛れて反撃を

誰も死なないし…死ぬとしたらアンタが最初!
アタシから彩灯を奪うなんてさせない
アタシの友達を傷付けるなんて許さない
嘘をつき、ひとを傷付ける奴は閻魔様の御前に跪け!!
防御も何もかもを無視し、爍華を振り下ろす

彩灯が無事で良かった
ん、行こっか



●光の向こう側
 二人で目指した出口の前。
 其処で待ち受けていたマーダー・ラビットに向け、焔璃は憤りをあらわにする。
「おやおや、やっぱり出てきちゃいました~?」
「出てくるに決まってるだろ!」
「なるほど、血腥い兎が歓迎してくれておる」
 焔璃が強い言葉を向ける中、彩灯は感心したようなのんびりとした声を紡いだ。戦闘態勢を取り、身構えた焔璃は指先をマーダー・ラビットに突きつける。
「よくも彩灯をあんな趣味の悪……や、デザインは良かったけど。って、そうじゃない! あんなとこに閉じ込めたな!!」
 怒りを抱く焔璃の傍ら、彩灯はころりと暢気に笑む。
「鳥籠は確かに俺好みではあったなぁ」
 袖で口元を隠した彩灯に憤りの感情はなかった。ふふ、と笑えるほどに彼が落ち着いているのは相方である焔璃が代わりに激昂してくれているからだ。
「何とも対照的なお二人ですねえ」
 マーダー・ラビットはというと、まさに正反対の反応をみせる二人を見て楽しんでいるようだ。焔璃は余裕綽々な時計ウサギに睨みをきかせる。彩灯は軽く首肯しながら、そうだろう、と答えた。
 だが――。
「俺からの恨み言は控えるが、……しかしな、焔璃に悲しき想いをさせたのは、…………絶対に赦さぬよ」
 沈黙から続いたのは彩灯の本当の思い。
 それでもマーダー・ラビットは同じ調子で笑っていた。
「そうですか、赦されなくてもいいですよ! ほら、出てきたご褒美をあげます!」
「そんな褒美いらない、さっさと還れ!」
 焔璃は投げ掛けられた言葉を完全に拒絶しながら、アリス達へ結界術を施した。それと同時に爍華には地獄の業火が燃え上がり、煌々と煌めく。
 彩灯は彼女が持つ爍華の焔に重ねるようにして、銀月を纏う紅影を引き抜いた。
「お前に真っ赫な椿を咲かせてやろう」
「でしたら、僕からは真紅の血を滴らせてあげましょう!」
 彩灯とマーダー・ラビットの視線が重なり、敵意が交錯する。その瞬間、焔璃が燃やした破魔の炎が戦場に舞った。
 其処に合わせて動いた彩灯も敵に狙いを定めた。
「アリス達を守ってアンタ還したら、彩灯とスイーツ食べに行くんだから!!!」
「そうだな、焔璃。極上のすいーつが俺達を待っておる」
 二人が放つのは閻魔断罪撃。
 爍華と紅影。
 間髪容れずに打ち込まれた連撃がマーダー・ラビットを穿つ。されど相手もナイフを振りかざして反撃に入ってきた。
 焔璃はその攻撃を受け流し、身を暗闇に潜ませる。闇に紛れた彼女は更なる打撃を見舞うために腕を振り上げた。
 時計ウサギは素早いが、此方は二人ならではの連携ができる。
 彩灯も次の一手に移っていくことで焔璃の動きの一助と成っていった。
「奪うならば奪われても文句は云えぬぞ、兎」
 そのよく廻る巫山戯た舌を地獄で切ってしまおうか。なんてな、と片目を閉じてみせた彩灯は次々と打撃を放っていった。
 対するマーダー・ラビットは唇を噛み締めている。
 おそらくは舌に違和を覚えているのだろう。焔璃はその隙を逃さず、容赦のない一閃を見舞っていった。
「誰も死なないし……死ぬとしたらアンタが最初!」
 焔璃は思いの丈を一撃ずつに込めていく。
 アタシから彩灯を奪うなんてさせない。アタシの友達を傷付けるなんて許さない。
 どれだけの人が傷付いて、どんなに心を痛めたか。
 焔璃の強い思いは力へと変わり、マーダー・ラビットの力を削っていく。
「う……く、ぅ……!」
 相手が怯んで呻こうとも焔璃の猛攻は止まらない。遠慮も何もない。防御も何もかも無視して、焔璃は爍華を振り下ろし――。
「嘘をついて、ひとを傷付ける奴は閻魔様の御前に跪け!!」
「噫、焔璃よ。俺も参ろう」
 其処に彩灯の一撃が加わり、マーダー・ラビットの身体が深く穿たれた。うわ、という声が敵から漏れたかと思うと、彼は一目散に二人から遠ざかっていく。
 逃したことになるが、相手もかなりの痛みを負っていた。彩灯は彼を追うことはしない。何故なら、全力を出し切った焔璃が荒い息を吐いていたからだ。
 後は他の仲間に任せておけばいい。自分達の役目は果たしたと告げ、彩灯は焔璃の柔い髪をくしゃりと撫ぜた。
「焔璃、もうすぐ光の中に戻れる。心配するな」
「彩灯が無事で良かった」
「……優しい仔。さあ、約束じゃ、存分に遊びにゆこう」
「ん、行こっか」
 言葉を交わした二人はそっと微笑みあう。
 二人で進んで見届ける先。其処には勝利が待っているのだと信じて――彼らは共に踏み出し、並んで歩きはじめた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
綾華(f01194)と

あれから随分と落ち着いてる
綾華が抱き締めてくれたから、もう大丈夫

くしゃりと髪を撫でられ
綾華…?と首を傾げ

前に出る綾華の広い背中に驚いて
止めようとするけど、やっぱり堪える

綾華が前に出ようとしている
その意思を尊重したい
俺も頑張って支えないと

いつもとは違って逆だけど
お互いを信頼する気持ちは変わらない

胸が痛む
けど綾華が命を削っているんだ
俺も支えなきゃ!

綾華が炎を出し終えた瞬間
すぐに斬りつけ、『悪魔の鏡』で敵の身体をじわじわと凍らせ
動きを止めてやる

ああ勿論だ、綾華!
頷いて、彼の鍵刀の刃に合わせて動き、絶え間ない攻撃を

俺たちが戦ってる以上、お前の手番は永遠に来ない
これからずっと、だ!


浮世・綾華
ヴァーリャちゃん(f01757)と

ほんと、やり方が気にいらねぇ
笑う兎に、此方も笑みを向けて

強い君が恐れを抱いていたのが分かった
もう落ち着いたかもしれないが無理はさせたくなかったから
いつもは君の動きを優先し、補佐に回るけれど
今日はと君の前へ出て

大丈夫とくしゃり
君の髪を撫でた

笑う。君に背を向けて
久々だ。こんなにも、イラついたのは
ふつふつと零れ落ちる炎のゆく先を見据え

どんなに手数が増えても
燃え広がる炎がそれらを止めるだろう
大丈夫、理性は保っている
数十秒だけだ。その後は刃を振るわせろ

行くよ、ヴァーリャちゃん
柔らかな声で紡ぎ、鍵刀を手に駆ける
彼女の攻撃の隙間を縫うように

一番に死ぬのは
――なぁ、お前だよ



●怖れと憤り
 閉じ込められ、囚われたことへの恐怖が巡った。
 あの感情は覚えていないものでありながらも、よく知っているものだ。しかし鳥籠から助け出された今、ヴァーリャの心は随分と落ち着いている。
 それは綾華がヴァーリャをやさしく抱き締めてくれたおかげだ。
「綾華、もう大丈夫だ」
「良かった。けど……ほんと、やり方が気にいらねぇ」
 ヴァーリャの声が穏やかであることを確かめ、綾華は頷く。それから首を横に振った彼はマーダー・ラビットに敢えて笑みを向け返した。
 強いと信じていた少女が恐れを抱いていたことが分かった。今も気丈に振る舞っている彼女だが、無理はさせたくない。
 普段であれば綾華が補佐にまわるが、此度だけは違う。
「綾華……?」
 ヴァーリャは自分の前に出た彼の名を呼ぶ。
 すると綾華はくしゃりと少女の髪を撫で、大丈夫だと伝え返した。そして、彼はヴァーリャを庇うように立つ。
 その背を見つめるヴァーリャは少しだけ驚いた。
 綾華の広い背中がとても頼もしく思えたからだ。いつもみたいに俺が前に、と告げかけたヴァーリャは思い留まる。
 彼がこうして自分を気遣ってくれている。その意思を尊重したかった。
「わかった、俺も頑張って支える」
「頼んだよ」
 綾華は笑う。彼女に背を向けて、何でもないことのように笑っている。
 しかし、その胸裏には苛立ちと憤りが隠されていた。機微に聡いヴァーリャならば気付いているだろうかと思ったが、ばれていたって構わない。
 彼女を想うゆえの気持ちがこれほどまでに溢れているのだから――。
(久々だ。こんなにも、イラついたのは)
 ふつふつと滾っては零れ落ちる炎。そのゆく先を見据えた綾華はマーダー・ラビットに宣戦布告代わりの一撃を解き放った。
「おおっと! 何処からの攻撃かと思えば……!」
 時計ウサギは横合いから迫ってきた炎をナイフで弾き、綾華達を認識する。
 既にマーダー・ラビットは疲弊している。されど、少女を守る青年の姿を見たことで殺戮への喜びが湧き上がってきたようだ。
「引き裂くに相応しい二人ですね。さあ、さあ! どっちから死にますか?」
 どちらが先に殺されても悲劇のはじまりだ。
 そのように語ったマーダー・ラビットは実に楽しそうだ。人の命を何とも思っていないことが言動から感じ取れる。
 その姿勢が綾華の心に更に棘を生む。ヴァーリャもまた、絶対に思い通りにはさせないという意志を抱いた。
「俺も綾華も、死ぬ気も、殺される気もない!」
 ヴァーリャは精一杯の声を張り上げて対抗する。彼と自分の立場はいつもとは違って逆だが、互いを信頼する気持ちは変わらない。
 血の匂いを感じ取ったヴァーリャの胸は軋むように痛んだ。
 しかし、炎を紡ぎ続ける綾華は命を削るほどの力を放っている。支えたい、支えなきゃ、と感じて拳を握ったヴァーリャはスノードームの剣を構えた。
「綾華!」
「平気だよ、心配要らない」
 綾華とて理性は保っている。数十秒だけだとして、ヴァーリャに視線を送った綾華は己の身をも溶かすほどの炎を迸らせた。
「――!?」
 狂炎をまともに受けたマーダー・ラビットは声すら紡げないまま焔に包まれた。
 たとえ相手がどれほど手数を増やそうとも、燃え広がる炎がそれらを止める。即座に黒鍵刀を構えた綾華の様子を確かめ、ヴァーリャも剣を振るいに駆けた。
 それは一瞬の出来事。
 彼女は刃を振り下ろし、マーダー・ラビットの身体に砕けた氷の欠片を埋め込んだ。
 其処から猛攻が巡る。
 狂い咲くように燃える炎は外から。悪魔の鏡が齎す氷は内から。
 燃やしながら凍らせるという相反した力であっても、二人の力は見事に重なりあい、敵を追い詰めていった。
「行くよ、ヴァーリャちゃん」
「ああ勿論だ、綾華!」
 綾華からの柔らかな呼びかけに答えたヴァーリャは力強い言葉を返す。
 絶え間ない氷の斬撃を与えていく彼女の隙間を縫うように、綾華が鍵刀から黒き波動を散らせてゆく。
 轟音と共にマーダー・ラビットの身が燃える。
 絶対零度めいた寒さを感じながら、容赦ない熱に包まれている彼は動くことすらままならないでいた。
 次の攻撃が最後になると察したヴァーリャと綾華は頷きあう。
 そして――。
「俺たちが戦ってる以上、お前の手番は永遠に来ない。これからずっと、だ!」
「一番に死ぬのは――なぁ、お前だよ」
 二人の言葉が其々に落とされた刹那、ふたつの鋭い斬撃が時計ウサギを貫いた。
 廻る焔と氷。
 想いあう少女と青年が宿す力は、戦いの終わりを齎した。


●アリスの旅路
「――そんな……僕が一人も殺せない、なんて……」
 猟兵達の攻撃を受け続けたマーダー・ラビットはその場に膝をついた。
 血塗れの鋏やナイフが地面に散らばり、時計ウサギ自身の血が滴っている。仕方ないか、と呟いたマーダー・ラビットは顔をあげた。
「今回は貴方達の方が一枚上手だったようですね。流石に、僕も数の暴力には勝てなかったというわけだ……」
 此度の死を向かえる間際だというのに、殺人ウサギは笑っている。
 しかし、殺戮が出来ないと分かった途端にそれまでのテンションが崩れた。
「あ~あ……何もかも面倒だ。あのアリスも、そこのアリスも、妖精も潰して斬り刻んでおきたかったのにな……」
 気怠げに呟いたマーダー・ラビットの姿が徐々に薄れていく。
 その存在は骸の海に還っていくのだろう。そうして、時計ウサギが消えゆく寸前。彼は不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ。またお会いしましょう。いつか、どこかで」
 ――別の僕と。
 不穏なことを言い遺したマーダー・ラビットは跡形もなく消失していった。

 こうして一先ず、猟書家の起こした騒動は収まった。
 まだ完全に滅せたわけではないが、殺される運命だったアリス達は全員無事だ。
「みんな、本当にありがとう!」
「おかげさまで私たち、これからも旅を続けられますです」
 双子のアリスは心からの礼を猟兵達に告げる。
 ブリキのオオカミも礼儀正しく頭を下げ、花妖精とリスマルも感謝を述べた。聞けばアリス一行はこのまま次の世界に向かう予定らしい。
「さあ、アリスくん、アリスちゃん! あなた達の扉を探しに行きましょ!」
「……ガウ」
「それより、おなかすいた~」
「あはは! じゃあ美味しい果物が生ってる森でも探そっか」
「さんせいなのです! お茶会の準備もしておきましょう!」
 アリス一行は和気藹々とした様子でウサギ穴の外へ踏み出していく。その後ろ姿を見送り、猟兵達は彼らの無事と幸いを願った。

 そうして、またひとつ――猟兵達によって守られたアリスの物語が続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月04日
宿敵 『マーダー・ラビット』 を撃破!


挿絵イラスト