それでも手を差し伸べるの
●知らない。知らない。知らない。こんなの知らない。
けどわかる。覚えている。この身に刻まれている。忌々しい記憶──。
「ギャァァァアアアアアアァァァァアァァアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!」
酷いことをされた。恐ろしいことばかりだった。たくさん泣いて助けを求めた。
けど、駄目だった。誰も助けるどころか、みんなわたしを見て嫌な顔をする。
"この世界"はそれを、忘れさせてくれていたのに。
変わる。変わってゆく。生傷だらけの肌が、短く切られてしまった栗色の髪が、パキパキと硬く棘を生やして、変質してゆく。嫌になるほど喉が渇いて、周りの景色が恐ろしく見え始めて──あぁ、全部見たくない。
「……あーあ、思い出した途端、変わっちゃった」
かわいいドレス姿の女の子が、真っ白な本を手に笑っている。これから映画でも見るかのように、ワクワクしたような目で。
彼女は残念そうに、しかしどこかそれを待ち望んでいたかのように、笑いながら呟いた。
●戦いは終わっていなかった。戦争は、序章に過ぎなかったのだ。
グリモアベースに集まった猟兵たちの前へ立った、九重・玄音(アルターエリミネーター・f19572)は強く歯を食いしばって怒りを抑える。
「猟書家、『ホワイトアルバム』の討伐をあなたたちに依頼します」
玄音が予知したのは、『迷宮厄災戦』にて一切目にすることのなかった新しい猟書家の存在だった。
一見無害そうなアリスのような見た目の女性、『ホワイトアルバム』。彼女は"自分の扉"をまだ見つけていないアリス適合者の元に現れ、彼彼女らが忘れていた"忌々しい記憶"を解き放っているらしい。
"忌々しい記憶"──すなわち、本来の記憶を見せつけられたアリスは、発狂して"生きたまま"オウガになってしまう。
虐待、ネグレクト、理不尽、不条理──負で塗り固められたような記憶の持ち主こそ、アリス適合者たる所以なのだから。同じ適合者たる玄音も、"忌々しい記憶"に関しては例外ではない。
「『ホワイトアルバム』に狙われたアリス、オルテシアっていう女の子が既にオウガになってしまっているわ。あなたたちは彼女に声をかけて、オウガになりかけた心を取り戻してほしいの」
オルテシアは『紅き竜『レディ・ローズ』』というドラゴンのオウガに変容してしまったらしい。本来、『レディ・ローズ』はアリスが変容してできるオウガではないらしいが、これらも『ホワイトアルバム』の手によるものなのだろう。
変容してしまった彼女は、不思議の国をおぞましい赤色の薔薇で埋め尽くし、正気を失ったまま住民たちを貪り、新たな薔薇を咲かせている。このままでは、不思議の国は彼女の手で滅んでゆくだろう。
生きたままオウガにされたためか、皮肉なことに彼女はまだ意識がある。強く励ましたり、心を通じさせたりすることで、元に戻るかもしれないらしい。
彼女を取り戻した後に待ち受けるは、『ホワイトアルバム』の討伐だ。
「彼女はオルテシアさんに手を出して以降、暴走しているのを傍観しているわ。
恐らくだけど、私たちが奴に手を出すまで、奴も動かないつもりだと思うわ。だからまずはオルテシアさんの救出。討伐はその後よ」
『ホワイトアルバム』の能力は未知数。さらに言えば猟書家である。これまで戦ってきた幹部と同じ心構えで、相対すべきだろう。
グリモアが開き、アリスラビリンスへと繋がれる。
血を啜った薔薇が咲き乱れる、不思議の国へ。
天味
天味です。
迷宮厄災戦で平和になった、と思っていたアリスラビリンスがメインのシナリオ。しかも新しい猟書家、『ホワイトアルバム』との対決となります。
今回はオウガになってしまったアリス適合者の少女、オルテシアを救いつつ、『ホワイトアルバム』を討伐する。対ボス、対ボスの二部構成シナリオとなっております。
傾向はシリアス一直線。ギャグは一切なしです。
第一章では、生きたままオウガになったオルテシア、もとい『紅き竜『レディ・ローズ』』との対決となります。彼女にはまだ意識が残っているため、強くはげましたり、心を通じさせることができれば、攻撃が鈍ったり、幹部との戦いに参加してくれたりします。頑張って元に戻してあげましょう。
第二章では、『ホワイトアルバム』との対決です。一見人畜無害そうな少女、しかしその実態は邪悪なオウガ。そんな彼女は、無地の本を手に微笑むだけ。
今シナリオには、以下のボーナスが付与されています。
『アリス適合者と語る、あるいは共に戦う』
アリス適合者であるオルテシアは、元の記憶を見て発狂している状態です。つまるところ、自己の拒絶によって自らを見失っている状態とも言えます。これを猟兵たちの励ましや、言葉によって、乗り越えさせることが重要です。
それでは、皆さまのプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『紅き竜『レディ・ローズ』』
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POW : 『二度と忘れないで』
自身の【纏うバラの花】を代償に、【攻撃対象が失っていた記憶】を籠めた一撃を放つ。自分にとって纏うバラの花を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 『これがあなたとわたしの運命よ』
自身の【瞳から溢れる涙】が輝く間、【鋭い爪と茨】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 『この花の色は決して褪せない』
【バラの花びら】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に茨を茂らせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:キイル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「エドガー・ブライトマン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エインセル・ティアシュピス
【アドリブ連携歓迎】
にゃーん……おねえさんかわいそう……
こんなひどいことをするりょーしょかさんゆるせない!
ぷんすこぷんのぷくぷくぷーだよ!
でも、まずはおねえさんをたすけなきゃ!
【指定UC】で【鼓舞】するよ!
とげとげささってけがしても【手をつなぐ】し、おみずのみたそうだから、【属性攻撃(水)】でおみずも出して、おねえさんがすこしでもらくになるようにするよ。
こんなにとげとげになっちゃったのはそれだけつらかったんだもんね。
ぼくはうまれたばっかしだから、おねえさんのきもち、わかってあげられないかも……でもつらいのみてるとかなしいよ。
だから、ぼくはおねえさんをたすけたいの。たすけちゃダメかにゃ……?
赤い。全てが赤色に染まり、それ以外の色はどこにもない。これのどこが"不思議の国”など言えようか。辺り一面に茎さえも赤い薔薇が咲き乱れ、空は深紅に覆われ、吹き荒れる風は生温かい。巨大生物の腹の中、もしくは地獄──そう言わざるを得ない場所だった。
そんな場所に、神の童子、エインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)は一足先に降り立つ。
「にゃーん……」
彼の目の前には、一体の竜が苦しげに呻いていた。
鱗が薔薇でできた、深紅色の表皮を持つ竜。これが変容してしまったオルテシア──『紅き竜『レディ・ローズ』』なのだろう。
「ギギュ、ガ……ァァア゛ア゛ァァアア゛ア゛ァ゛アアアアアアアアッッッ!!!!!!!」
喉をすり潰し、絞りだしたかのような咆哮。それが行われた後、レディ・ローズはエインセルへ鎌首をもたげた。
少女が変容した、というにはあまりにも大きい。全長二十メートルを超える竜を前に、エインセルは立ったまま見据える。
オウガになった苦しみに悶えているのだろう。彼女は今にも漏れ出しそうな涙をこらえ、止められない暴走を抑えようと必死になっていた。だが、それでも奪ってしまった命が、辺りに散る薔薇だ。
あまりにも刺々しい姿と、その棘に覆われてしまった心。オウガになった苦しみも、オルテシアの本心も、まだ六歳の少年には理解できない。だが、出来ることはある。
「……おねえさん、いまからたすけてあげるよ!」
小さな子猫は、その手を差し伸べる。
大きすぎる竜の前足に、エインセルは小さな手を当てた。触れた途端、表皮から生えた棘が突き刺さり、思わず手を離したくなるほどの痛みが襲い掛かる。だがその手を離さない。
「ギュガァ゛ァッ!!アガァ゛ア゛ァアッ!!」
「こんなにとげとげになっちゃったのは、それだけつらかったんだもんね」
拒絶と言わんばかりに、レディ・ローズの表皮から薔薇の花びらが吹き荒れる。無防備なエインセルはそれを浴び、全身が切り刻まれるのを感じた。足元を茨が覆い、体から命が吸い取られてゆくのを感じる。それでも、手を離さない。
「ぼくはうまれたばっかしだから、おねえさんのきもち、わかってあげられないかも……」
彼女の過去はわからない。どれだけ苦しんだかさえも。「苦しかったね」と励ますのは簡単だ。だが、そんな言葉だけで苦しみが取れるのなら、オウガになることも、アリス適合者に選ばれることだってなかっただろう。
「でも、つらいのをみているとかなしいよ」
だからエインセルは手を離さない。
今は偽善を押し付けることしかできずとも、わずかでも痛みを抑えることができるのなら、ユーべルコードを使ってでも助けたい。
祈りを糧に。心からの励ましを傷薬に。
「だから、ぼくはおねえさんをたすけたいの……!!」
「ア゛ガ……ギッ!?」
『存在寿ぐ祝福の言霊(ソステニトーレ・ファイエルン) 』。
薔薇をはじき返すように、エインセルを中心に水まじりの風が吹き荒れる。風に乗せられた水滴は薔薇を溶かし、レディ・ローズの棘を優しくまろやかに鋭さを失わせてゆく。
開いていた口の中に入った水滴の味は、悲しみを感じさせるようなしょっぱさがあった。
「ァ゛……ぐ、ァ……!」
棘で傷ついた体が、乾ききっていた喉が、潤いを取り戻してゆく。
フラッシュバックする"忌々しい記憶”の檻に、涙を浮かべて手を差し伸べてくれる子猫の姿が映る。もしもあの時。誰も助けてくれなかったその時に、手を差し伸べてくれていたのなら。こんな小さな子が、「助けたい」と言ってくれたのなら。
希望の光明が、彼女の心を照らし始めた。
成功
🔵🔵🔴
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
オルテシアさん オルテシアさん
少女が恐慌状態であれば、名前を呼び続けましょう。私を意識してもらうために。
対話を目的とし、更なる苦痛を少女に与えるのは本望ではありません。攻撃は極力行いたくありませんね。
しかして自分を見失っている少女にそもそも私の声さえ届かない可能性が高いです。
私の『存在感』が薄いのであれば『属性攻撃』ホワイトファングを放ち、凍結による無力化、又は拘束を狙います。
オルテシアさん、ここに貴方を傷つけるものは何もいません。
逆に今のままでは貴方が与える側になってしまう。どうか冷静に、難しいかもしれませんが自分を保って欲しい。
傷つく痛みを知る貴方だからこそそうなって欲しくない
未だ苦しみ続ける紅き竜。赤色の薔薇を辺りに咲かせ、地獄は苦しみに比例して広がり続ける。だが、その苦しみに一本のメスが入れられた。
今、オルテシアという名の少女は苦悶と自己否定の果てにいる。その先にあるものは虚無、オウガとしての生だけだ。それを許してはならない。
だからこそ、一筋の光を絶やさないよう、広げていかなければならない。
「オルテシアさん」
人間の男性、アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)は紅き竜の前に立ち、名前で呼びかける。
異形の竜となったとはいえ、彼女の意識はまだ残っている。たとえ囁くような慈しみある声でも、オルテシアの耳にはその声は届く。
「オルテシアさん──ッ!」
「グギ、ギゥ……ガ、ァ゛アア゛ッ!!」
アリウムの呼びかけを拒絶するように、彼女は尻尾を振るい彼がいた場所へ叩きつける。すぐさま動きを見切ったアリウムはそれを回避し、叫ぶ。
「オルテシアさんッ!」
「ア゛ァ゛アァァア゛ァアアアアアァァ゛ッ!!!!」
だが声は届かない。否、届いてはいる。。先の猟兵のおかげか、彼女は理性を取り戻していた。しかし痛みに苦しみ、それどころではないのだろう。涙を流し続ける竜の目はしっかりとこちらを向いているが、体が制御できていない。
アリスを喰らい、弄べ。住民たちを貪り、国を自らの手中に収めよ。猟兵は滅ぼせ。猟兵だけは許してはならない。猟兵は根絶やしにしなければならない。
──オウガとしての本能。意識と無意識が別離してしまっており、オルテシアの意思とは関係なく体が猟兵を殺さんと動くのだろう。それが、紅き竜が暴走する原因だった。
「……申し訳ありません。私は今から、あなたの体の自由を奪います」
アリウムは腰に携えた一振りの剣、"氷華”を抜刀し、先端を紅き竜へと向ける。
先端に魔力が集合し、それは氷のつぶてを作り出す。大きさにして手のひらほどのものだが、アリウムは氷華を突き出すように振るった。直後、氷のつぶては弾丸の如く紅き竜に飛来する。
巨体に着弾したそれは、圧縮された氷の魔力を爆散させ、周囲を凍結させる。紅き竜の下半身は瞬く間に地面と繋ぎ留められ、氷の塊に埋もれるようにして拘束された。
『ホワイトファング』。さしずめ氷のトラバサミに紅き竜を捕え、アリウムは一歩近づく。
「オルテシアさん」
「ア゛ァァ……ッぐ、がゥ、ウゥ゛ぅ……!」
「……ここに、貴方を傷つけるものは何もいません」
助けを乞うように、オルテシアは涙を流し続ける瞳をアリウムに向ける。
しかし、アリウムは首を横に振った。今はまだ、苦しみを拭うことしかできない、と。
「今のままでは、貴方が与える側になってしまう。体が思うように動かないのは察しましたが、か弱い私にはこれが精一杯です」
このまま体の主導権を取り返せ、など無理難題を少女には押し付けられない。
しかし声にならずとも、彼女が「助けて」と言っているのは痛いほど理解できる。だが、これ以上の仕事はより彼女に寄り添うことができる相手が適任だろう。
「難しいかもしれませんが、自分を保って欲しい」
"忌々しい記憶”──オルテシア自身が歩んできた人生。それがどれだけ悲惨か、どれだけの痛みを受けてきたのか、アリウムが知ることはないだろう。見たとして、同情できるかも怪しい。彼はそれに"似たような光景”を何度も見たことがあるからだ。
しかしそれがオルテシアという人間を築き上げた人生であるならば、オルテシア本人がそれを否定してはならない。たとえ狂気の渦に囚われたとしても、見ることすら拒絶したくなるほどのものでも、結局自分自身が向き合わなければならない。
「傷つく痛みを知ってしまった貴方だからこそ、そうなって欲しくない」
──だからこそ、アリウムは希望を望む。
"忌々しい記憶”を乗り越え、オウガとなった体を少女自身が取り戻すことを。ホワイトアルバムが起こしたシナリオに、叛逆する光景を。彼は望む。
大成功
🔵🔵🔵
ミア・ミュラー
生きたままオウガになって周りの人たちを傷付けちゃうなんて、とっても辛い、ね……。わたしが絶対助けてあげる、から。
ん、とりあえずオルテシアさんを落ち着かせないとだめ、ね。【ドレスアップ・プリンセス】で空を飛んで、バラの花びらと伸びてくる茨をかいくぐってなんとか顔の近くまで行って、やすらぎフルートを演奏する、よ。これで少しは話を聞いてくれる、かな?オルテシアさんの目をちゃんと見て話しかける、よ。
わたしはあなたと同じアリスの、ミア。過去の記憶はないけど、苦しくても諦めなければきっと、どんなことでも乗り越えられるって知ってる、よ。だから、わたしもそばにいるから、あなたもどうか諦めないで、頑張って……!
アリス適合者の少女、ミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)は走る。『ドレスアップ・プリンセス』の力で王女らしい可憐なドレス姿に変わり、この世界に漂う薔薇の花びらを踏んで空を翔ける。
螺旋階段を駆け抜けるように、紅き竜の周りを走る。
「グぎ、ギィ゛……!」
「オルテシアさん……っ!」
紅き竜の足元は氷のトラバサミで拘束されたままで、彼女は首を動かし呻くことしかできなかった。だが油断せず、ミアは彼女の首元まで近づこうと走る。
だが、深紅と梢色の翼を開き、紅き竜はオルテシアの意思に反して動く。漂う薔薇の花びらに干渉し、そこから種が芽吹くように茨がミアを捕えんと先端を伸ばした。
「っと、んっ!」
急に足元から茨が生えたことでミアは一瞬バランスを崩すが、逆にそれを足場に利用した。棘だらけの茨の道を踏むことに、今更躊躇いはない。これ以上オルテシアを苦しませないためにも、ミアは最後の一歩を踏み出し、"やすらぎフルート”を口に添えた。
「静まって、お願い──」
茨がミアを拘束せんとする寸前、フルートからソプラノ音域の音色が流れ出す。
彼女は子守歌を奏で、音色に乗せて紅の竜に囁く。心安らぐ音色は耳に届き、紅の竜が抱えていた戦意を鎮めていった。眠るように、あるべき姿へと戻ってゆくように──オルテシアの意識がより強く表面に現れる。
「ぐ、ぅ……ぁ゛ぁ……」
「……オルテシアさん」
未だ紅き竜の姿、苦しみに囚われたままのオルテシアは、ミアと向き合う。
今ならしっかりと対話ができるだろう。彼女は効果の切れない内に切り出した。
「わたしはあなたと同じアリスの、ミア」
同じアリス。その単語に驚愕したのか、オルテシアは目を見開く。
「ぁ、あ……わた、し」
「オルテシアさん、でしょ。もう一人同じアリスがいて、その人が教えてくれた」
こくんとオルテシアは頷き、そして理解する。「助けたい」と言ってくれていた子猫。傷つける者はいないと諭してくれた青年。──彼ら猟兵の言葉は、偽りではなかったと。
「おね、がい……くる゛しい、の。あたま、いだぐてぇ……いやなこと、ばっかり……」
それなら今すぐ、助けて欲しい。記憶に囚われた自分を、どうか引き上げて欲しい。あふれ出す涙が止まらず、オルテシアは彼女に救いを求めた。
──物心がついた時、両親はわたしを嫌っていると知った。
笑顔を振りまくわたしが嫌いだったらしい。おねだりするわたしを、子供らしく振る舞うわたしを、怖い目で見ていた。
わたしは聡い子供だから、すぐに大人のフリをすることにした。
──学校に行けば、大人のフリをしていられなくなった。
留学生のわたしには、社会はわからないことだらけだった。けど、大人のフリをしていたわたしは、誰にも助けを求められなかった。何事も求めず、一人ですべてをこなし、言われた通りにする。それがわたし。
──無理だった。耐えられなかった。
大人のフリなんて馬鹿らしくて止めたかった。もっとわがままを言いたかったし、怖い目でずっと見られたくなかった。友達も作りたかったし、もっといっぱい、もっと遊んで、そして……。
「たずけテ……たすゲてよ゛ぉ……!」
それが、高貴な竜の姿。薔薇に覆われ、茨に体を縛られた少女の異形。
「助けて」と言うことができても、この記憶はミアの元へ届かない。苦しみを分かち合うことは、無理だろう。こうして喋るだけでも、喉奥から伸びる茨の棘が器官を傷つけ、耐えがたい息苦しさと喉の渇きが襲いかかる。
だからこそ、これで終わりにしてほしかった。
「──わたしは、過去の記憶がないの」
しかしミアが言った言葉は、オルテシアの声を止める。
「ここで迷っている中で、猟兵になったから。自分の扉を見つけれてないの」
ふと、オルテシアは思い返す。突如この世界に目覚め、迷っていたこと。童話のような世界の箱庭を渡り歩いてきたことを。記憶がなく、自分の出自もわからず、どうしてこんな場所に訪れてしまったのかもわからなくなった。
「あの時は猟兵が助けてくれた。だから、今度はわたしの番」
そんな状態でも、助けてくれた人たちがいた。愉快な仲間たち、先導してくれた時計ウサギ、そして──今、猟兵たちがいる。
「記憶が無くたって、思い出して苦しんだとしても、助けてくれる人はいる。諦めずに「助けて」って言ってくれたから、わたしはここに来れた」
風に乗せられた音色が薄れていき、肉体の主導権を握るオウガの本能がまた目覚めかける。
だが、目の前にミアがいる限り、それを呼び起こさせない。
記憶に立ち向かい、これまでの自分を見つめ、歯を食いしばる。また暴走し、オウガとなる前に、オルテシアは自らの記憶に立ち向かう。
──ここに、記憶が無くとも助けてくれる人がいるのだから。彼女の手を取って、立ち上がる程度は自分でこなそう。
「──ぐ、ぅぅ゛ううう……ガァアア゛ァ゛アア゛ア゛ァ゛ァァアアアアアァァァアァァッッッ!!!!!!!」
氷のトラバサミを力ずくで破壊し、痛みを無視して咆哮を放つ。目の前の少女にはうるさいかもしれないが、ほんのちょっとだから我慢してほしい。
白いアリス──ホワイトアルバムが、元の記憶をくれた。その内容はかなり酷くて、残念で、とても見れたものではなかった。それが自分の記憶という真実が、とても辛かった。否定し続けて、いつの間にかドラゴンに変わっていて、ずっと泣いていた。けどもうそれも終わりだ。
「ミア、さ……ン゛、ッ……!」
まだしゃべりにくい。喉はずっと渇いている。涙の一滴も欲しいくらいに。
それでも立ち上がるために、オルテシアは叫んだ。
「わタし、を゛、タずゲ、テ、っ!!」
──叛逆するべきは自分ではなく、あの白いアリス。
今こそこの紅き竜の体から、解き放ってください。猟兵さん。
大成功
🔵🔵🔵
リーゼロッテ・エアクラフト
やれやれ…ここは救援するか
でもまぁ色々と面倒だからその花びらごと焼き尽くすことにする
花の色は色褪せないだろうが悲しいかな。散華の時間だ。
避けて地形を変えるほどに茨を茂らすならば最大火力で茨ごと焼ききるまでよ
ま、相手がここまで弱ってるからやれることではあるんだが
慈悲はない。憐憫もない。時には無情も必要ってこったな
シエル・カーネリアン
POW対抗 アドリブアレンジ歓迎
おおぅ…これは漫画やアニメとかで見かける展開。なんとおかわいそうなことに…助けてやりまさーよ!
さすがに強力な相手、こっちも全力で行くしかないですね!チェンジアップ、モードZ!からのー極限解放!!
本気で相手するとはいえ、ガチで倒すわけにはいかないですね。急所は避けつつ一時的行動不能程度に抑えるように立ち回りますよ。飛んでくるバラは剣技見切って凌いできます。多少のダメージは気合でカバー
痛いですがちょっと我慢してくださいよ。大丈夫、あんたならこの苦境を乗り越えられるはず。これでもヒーローの端くれ、助けるためならボロボロになってでも救ってやりますっての!!
「ガァ゛ア゛ァ゛アアア゛ァ゛ァ゛ア゛アアアアアッッッ!!!!!」
ついに、鎮静化していたオウガの本能が目覚めた。紅の竜は再度この地を赤色の薔薇で染めんと動くだろう。しかし体の動きは鈍っており、瞳にはしっかりとオルテシアの意思があった。
鱗粉のごとく薔薇の花びらを放ち、地面、空中──あらゆるところから茨が生え、棘の地獄を作り出す。
「やれやれ……」
しかしそれらは突如燃え、黒い塵となって消える。
生暖かかった風は熱を帯び、火の粉を散らし周囲の温度を上げてゆく。血のように染まっていた大地は黒く、空は紅色から朱色へ。すべてが塗り替えられてゆく。
もう一人のアリス適合者の存在によって。
「色々と面倒だから、その花びらごと焼き尽くすことにする」
宝石のついた杖、"フレイムハーツ”を手にしたゴスロリの女性、リーゼロッテ・エアクラフト(混ざりものの『アリス』・f30314)は、救援に来た猟兵だ。当然、事前の概要説明も受けている。
しかし彼女が起こそうとしている行動は、少女を助けるものではない。『燃え盛る心火(フレイムハーツ・インフェルノ)』によってすべてを燃やし、焦がし、喰らいつくす──討滅を行う気満々であった。
「ガァグッ゛!?」
「今更怖じ気づいたか?」
弱っているからこその高出力、最大火力で火葬する。慈悲はなく、憐憫すらない。相手が助けるべきアリス、だからなんだというのだ。救いの手を差し伸べるだけが、"救い”ではない。情け無用の介錯もまた、罪の清算の一つである。
──実際は面倒だからすべて燃やしているだけだ。
青色の宝石が赤色へと変色する。リーゼロッテの心が映し出され、それは炎を生み出す薪へと変わってゆく。一切の慈悲無く、彼女を燃やすという一点のみ。
炎は分散して小さな火球を作り、さらに火球が分裂し同じものを生み出す。さながら細胞分裂の如く火球は数を増し、約八十ほどの火球が紅の竜の前に佇んだ。
「散華の時間だ……贖え!!」
全ての火球が動き、紅の竜へと飛来する。彼女は回避しようと翼をはためかせたが、それを拒んだ者がいた。オルテシアだ。
情け無用の介錯──これは、この国を地獄へと変えてしまった罪の清算だ。オルテシアはその罪を甘んじて受け入れたのだろう。心身を焦がす火球が全身を包み、薔薇で覆われた体表を自ら燃やしてゆく。
「────~~~~~~~~~!!!?」
全身が削られるような、砂で固められてゆくような矛盾した感覚に襲われ、紅の竜は声にもならない悲鳴を上げる。瞬時に灼熱の炎が喉を焼き焦がし、血を炙られて泳ぐように体をジタバタと動かす。それで火が消えるわけがないが、紅の竜は必死だった。
火葬──そんな生ぬるいものではない。これは火刑だ。
「ちょっとー!何本当に殺そうとしてんの!?」
そんな死刑執行中に、彼方から飛来してくる光があった。
紫電と白金の鎧を纏った少女、シエル・カーネリアン(通りすがりのぐうたらひぃろぉ・f28162)は空中降下しながら叫ぶ。真の姿である白金の鎧、モードZを纏っているのは、『極限開放!(リミットブラスト)』によるもの。さながら彗星の如く、彼女は"超速攻でオルテシアを救う”誓いを立てたことで、素の状態から真の姿へと変身できたのだ。
「危なかったな、もう少しで本当に黒焦げにするところだった」
「もう黒焦げになってる!!──っと!」
だが、業火の中でも紅の竜は健在らしい。リーゼロッテとシエル、二人に向けて茨が超高速で伸びていた。
地面から伸びたものをリーゼロッテは余った火球で燃やし、シエルは手にした"フォトンセイバーZ”で一閃した後、腰のバーニアで姿勢制御を行い、紅の竜へ向かって飛来していたのを止める。
勢いはそのままに、剣を構えなおし──誓いを履行する。
「大丈夫、あんたならこの苦境を乗り越えられるはず──だから、もうちょっと、痛いの我慢してねッ!!」
超速攻、その言葉に噓偽り無く。
シエルの姿が紅の竜の眼前で消えた、そのコンマ一秒後には、彼女は竜の背後にいた。同時に消える、炎と風。時が止まったかのようにシエル以外が停止し、彼女が剣を収めた瞬間、紅の竜の体が薄紫色の光を放ち爆散した。
衝撃波と閃光が辺りを包み、赤と紫色の花びらが散ってゆく。余波で空を覆う雲が払われ、そこに青空と日の光が差し込んだ。
爆発の中心、そこは美しい花畑となっており、ドレス姿の少女が横たわっていた。茶髪のショートヘアの少女、オルテシアはオウガの呪いから切り離されたのだ。
「……あんたの苦しみを斬った。だからもう大丈夫、っぉ……~~~~~っ!」
「締まらないな。だが、お見事」
モードZが解け、学生服姿に戻ったシエルだが、ユーべルコードの反動か全身に筋肉痛が襲いかかった。特に両腕、おそらく剣を振ったからだろう。概念を斬った代償は重かったらしい。
そんな彼女の元に悠々と歩み寄るリーゼロッテは、花畑で眠ったままのオルテシアを一瞥する。
これまでの記憶(じんせい)、そしてオウガ化という苦痛。二重苦に喘いでいた少女は救われた。己の生を否定し、醜悪だと目を背けながらも、彼女は負けじと見つめたのだ。
手で拭いきれない涙を流しきったのだろう。毒が抜けたように、彼女は晴れ晴れとした表情で眠っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ホワイトアルバム』
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POW : デリシャス・アリス
戦闘中に食べた【少女の肉】の量と質に応じて【自身の侵略蔵書の記述が増え】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : イマジナリィ・アリス
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【虚像のアリス】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : イミテイション・アリス
戦闘力が増加する【「アリス」】、飛翔力が増加する【「アリス」】、驚かせ力が増加する【「アリス」】のいずれかに変身する。
イラスト:ち4
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ライカ・リコリス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
くすくすと笑い声が聞こえる。
青空の下。花々が並ぶその地に、白色の邪悪が足を踏み入れる。
「すごぉい♪乗り越えたんだね」
白い本を手にした、エプロンドレス姿の少女、『ホワイトアルバム』は心の底からオルテシアの帰還を喜んでいた。柔和に微笑む彼女は本のページを開きながら、「んー」と考え込む。
「食べられなくなったのは残念だけど、記憶が戻ったアリスはしっかりと自分の扉を見つけ出せれるはずだよ!頑張って──」
刹那、ホワイトアルバムの頬を、何かが掠めた。
突風と共に吹雪くのは、紫色の花びら。苦無(クナイ)の如く舞い散る紫陽花の花びらは、彼女の頬に一筋の赤い線を描いた。
「…………?おかしいなぁ、あなたは恩を仇で返すタイプだったっけ?」
「ううん、記憶を取り戻してくれたことには感謝してるよ。けど」
花びらを撃ったのは、同じくエプロンドレスを身にまとった少女。ホワイトアルバムと違いうなじ辺りで切りそろえられた茶髪の彼女、オルテシアは睨む。
「あなたのやり方だけは、受け入れられない!」
エプロンドレスの色が鮮やかな青紫色へと変わり、オルテシアの両腕に竜を思わせる籠手が装着される。記憶を取り戻し、『レディ・ローズ』の力をユーべルコードに変化させたらしい。"オルテシア"意匠の籠手は、叛逆の意思を抱えつつも冷静にホワイトアルバムを捉えていた。
一人のアリス適合者が、オウガへと立ち向かう。
「……「あなたが真実を解き明かす時、闘争が生まれる」。そっか、そういうことだったんだね」
勇ましく爪を向ける少女に、本を手にした少女は至極残念そうに呟いた。
彼女には、少しも幸せな記憶がなかった。それでも乗り越えたのは、猟兵の活躍あってのものだろう。
そう、猟兵がいたから。無くとも乗り越えられた。
アリスとオウガ。互いに対立する関係であるように、猟兵とオブリビオンは対立する。すなわち、少女が猟兵に救われた時点で、闘争は生まれてしまったのだろう。
忌むべきはグリモアか、それとも……だが今はどうでもいい。
「じゃあ聞かせて!あなたが、"あなたの記憶"で何を見たのか!」
ホワイトアルバムは知りたいのだ。アリスにだって、幸せな記憶があるかもしれない。──ゼロに等しい可能性に。
[プレイングは2020/11/12の9:00から募集します]
リーゼロッテ・エアクラフト
…ま、乗り越えたならそれでよしとしよう。こっからは猟兵の仕事ってな
(こいつは助けもせずにただ躊躇いなく焼き尽くそうとしただけだが)
さてさて…ここにもアリス適合者がいるわけだが
食えるもんなら食ってみろよ。
もっともただで食わせる気もないが
戦う前に事前にアリスナイト・イマジネイションを発動して鎧を身にまとっておきます(といっても見た目変わるわけではないけど)
そのうえで至近距離からの殴り合いに移行します。防御手段は無敵の戦闘服の強度だけ。あとはもうひたすら倒れるまでやりあうしか手はない
仮に食われても混ざりものだから『不味いぞ』
ミア・ミュラー
ん、オルテシアさんが無事で、よかった。後は、アリスを苦しめるあのオウガを、倒すだけ。
敵が変身したら、戦闘力を高めるなら傘とソリッドダイヤで防御に専念して、飛翔力を高めるなら傘で空を飛んでグリッターハートを光らせて目潰しして、驚かせ力を高めるなら勝手に動くコンパスで不意打ちを防いで、対処するね。そのまま見えないところに隠したアーデントクラブで攻撃してユーベルコードを、使うよ。
わたしはされてないけど、あなたがしてきたことは絶対に許されない、こと。そこに見えてる、あなたの犠牲になったアリスたちが教えて、くれるよ。最後はオルテシアさんの、番。あのオウガにあなたの怒りを、想いを思いっきり、ぶつけて……!
エインセル・ティアシュピス
【アドリブ連携歓迎】
にゃーん。
つらいつらいでいっぱいなときはむりやりめをむけさせたら、もっといたいことになるってぼくのかいぬしはいってた。
むりしてすぐにむきあわなくていいっていってた!
おるてしあおねえさんはがんばったからもどれたけど、アリスのひとたちがみんなそうじゃないのにむりやりみさせるのはめーだよ!
おねえさんすっごくつらそうだったもん!ないてたもん!
ぼくおこったよ、ぜったいにゆるさないんだから!
おねえさんがけがしないように【オーラ防御】してから、
【破魔】の【指定UC】でこうげきするにゃーん!
よけられないよーに、【結界術】でかべつくってとーせんぼして【時間稼ぎ】してなんかいでもうつよ!
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
ホワイトアルバム。貴方はアリスに可能性を見出そうとしたのですね
私が人に可能性を感じるように、貴方はアリスへ
それでも可能性を理由に無為にアリスを犠牲にする事は見過ごせません
『属性攻撃』ホワイトマーチを発動し、一太刀でも傷を作れる様に立ち回りましょう。
致命傷の必要はありません。隙を作れるよう次へ繋がる剣戟を仕掛けます。
私の攻撃を危ないと認識させれば、オルテシアさんのUCも無視できないものになるはずです。
『見切り』躱し、『落ち着き』払いのければ勝機は自ずとこちらに。
動きが鈍った所に『全力魔法』にて威力を引き上げたUCで決着を付けましょう
白紙のページに穿ちましょう。終わりとなるピリオドを。
リーゼロッテ・エアクラフト(混ざりものの『アリス』・f30314)は、改めて『ホワイトアルバム』の姿を見る。アリスらしいドレス姿の少女は、白色の本を手にこちらを見ていた。
「あら、あなたもアリス?」
「ご明察。ここにもアリス適合者がいるわけだが……」
くいっと煽るように手招きをし、リーゼロッテは彼女を誘う。
オルテシアを助ける……のではなくただ躊躇いなく焼き尽くそうとした彼女は、ホワイトアルバムを誘いつつ『アリスナイト・イマジネイション』で鎧を作り出す。といっても、彼女の姿は変わらない。透明なイメージの結晶を、鎧へと削りそのまま身にまとっただけだ。
「食えるもんなら食ってみろよ」
「あらやだ。乱暴な方……でも嫌いじゃないわ」
ぐにゃりと、白い本から包帯のようなものが伸びる。"侵略蔵書”と呼ばれるソレから伸びるものは、アリスを喰らう手。"忌々しい記憶”を与え、オウガ化を果たしてしまったアリスたちを喰らいつくしてきた、魔の触手だ。
「先にあなたを食べて、紫色のアリスも食べましょう」
白い触手がリーゼロッテに迫る。投げられた槍の如く、先端は彼女の手へと伸びたが、それは風を切る音と共に枝分かれし、勢いを失って彼女から逸れてゆく。
舞い散るのは紫陽花の花びら。リーゼロッテと同じく、『アリスナイト・イマジネイション』で生み出した籠手から放ったのだろう。オルテシアは、彼女の後ろで右拳を突き出していた。
「花びら……落ちてゆく方向に、かまいたちを飛ばすのね」
「──観察してる場合か?」
「ッ!」
ホワイトアルバムが関心している間に、リーゼロッテは既に彼女の側面へと移動していた。透明な無敵の鎧を纏ったリーゼロッテの右フックは、咄嗟に放たれた白い触手に阻まれるが、リーゼロッテもまた間髪いれず左フックを放つ。
弾丸の如くホワイトアルバムに浴びせられるデンプシーロール。彼女はそれを触手で止めるのが精いっぱいで、苦し気に顔を歪ませながら一歩、一歩と下がってゆく。拳は止まる気配がなく、リーゼロッテは至極楽しそうに湧き出てくる触手を潰していた。
「俺をッ、止められたら!いくらでも食わせてやるよッ!」
「っ、ぐ……かはッ!!」
救助対象に容赦しなかったアリスだ。当然、オウガにだって容赦はしない。
止まる気配のないデンプシーロールに耐え切れなかったのか、右の一発がホワイトアルバムの喉元へ入った。地面に叩きつけられ、そのまま体がバウンドする。しかし彼女はこれを好機と考えた。
「イミテイション……!」
「あっ、待て!!」
リーゼロッテから離れたのを見て、ホワイトアルバムは飛翔力を持つアリスへと変身する。淡いコバルト色のエプロンドレスからリボンが伸び、それは翼のようにはためいて、リーゼロッテが追いかける前に空へと飛ぶ。
上空を取れば、自分のものだ。地の理を得た彼女は、閉じてしまった侵略蔵書を再度開く。
「んもう、ドレスが泥だらけ!黒いアリスは食べるだけで済ませないわ!」
「させな、ぁっ!?」
宙に浮いたホワイトアルバムに対し、オルテシアは籠手を空へと向ける。だが、彼女が見たのは侵略蔵書から湧き出す、おぞましいほどの量の触手。ホワイトアルバムの上半身が見えなくなるほどのソレに、オルテシアの攻撃では対処できない。
あまりの量に驚愕するオルテシアだが、触手はそんな彼女に狙いを付けたらしい。先端の全てがオルテシアに向けられる。
だが、
「みんな、目を瞑って!」
無数の触手は、オルテシアに伸びる寸前で止まる。
宙に浮くもう一つの影、"丈夫な魔法の傘”を片手に空を飛ぶミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)は、ハートのスート型のステッキをホワイトアルバムへと掲げた。瞬間、ステッキの先端が赤色の閃光を放ち、辺りを包んだ。
「きゃぁっ!?」
「うぉ!?」
「っ!?」
ミアの乱入、そして閃光により、三人は咄嗟に目を瞑る。だが、間近で光を目にしたホワイトアルバムは、閃光に目を焼かれたらしい。両目を手で覆い、ふらふらと宙に漂う。
「いやっ、何が……!」
「みんな、あなたを許さない、って」
そんな彼女の肩に、ミアは手を置く。記憶に刷り込むように、呪詛を植え付けるように、ミアは呟いた。
『己が罪を思い知れ(ドゥンケルガイスト)』。真っ赤に塗りつぶされた網膜に、これまで喰らってきたアリスの姿が浮かび上がる。"忌々しい記憶”を手にし、苦しんだ少女たち。自己否定の末にオウガへと堕ち、苦しみが絶えることなく糧になった彼女たちが、ホワイトアルバムの手足にすがる。
「っ、なに……これはぁ……!」
アリスたちの後悔、怨念、呪詛……それらは骸の海に沈んでも消えることのない、負の塊だ。全てホワイトアルバムが生み出したものであり、生み出した親の元へ還るように、死したアリスたちは彼女に絡みつく。
「わたしはされてないけど、あなたがしてきたことは絶対に許されない、こと」
「許され?……そんな」
「そこに見えてる、あなたの犠牲になったアリスたちが教えて、くれるよ」
「……そんなこと、だって……ッぐぅ!」
ミアの手によって、目を塞ぎながらもがくホワイトアルバム。そこに、オルテシアは狙いをつけてかまいたちを飛ばした。狙った場所は翼の代わりとなっていた、スカートから伸びるリボン。それらが切られたことで、ホワイトアルバムは落下し、また地べたに打ち付けられた。
これで終わり、ではない。ミアが宙から地面へと降り立った途端、ホワイトアルバムは倒れたまま本のページを彼女に向けた。
「!?」
「そんなこと、あるわけがないわ!」
果てしなく眩い、善意にあふれた笑みを浮かべながら。
ページから伸びる白い触手。それはミアを喰らわんと束を作り、巨大なミミズのような姿へと変わる。大口を開き丸呑みしようと迫るが、それは透明な壁に阻まれた。
「にゃーん!」
「……まだいたのね」
アリス適合者が出すものとはことなる、輝かしい白色の透明な壁。いわゆる神のオーラが、ミアを守った。
そのオーラの持ち主、エインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)はオルテシアの前に立っていた。ここからは通さんぞと言わんばかりに、両手を掲げながら。
「ぼくおこったよ、ぜったいにゆるさないんだから!!」
「──!!」
エインセルは猛烈に起こっていた。それはもう、天変地異を起こすほどに。
辛いことで限界になっている時、無理やりそれに目を向けさせると、もっと痛い思いをさせてしまう。エインセルの飼い主から教わったことらしい。
"忌々しい記憶”に限らず、自己とは無理してすぐ向き合わず、時間を通じてようやく理解できるものだ。醜い己を一目見て、そうそう改められる人間はいない。元からある顔や骨格のように、すぐに変えられるものではないからだ。
だが、ホワイトアルバムはそれを踏みにじった。
オルテシアは頑張った方だ。猟兵がいたから頑張れたのが大きいが、オウガ化に関しては己の人生、記憶を認めてからようやく治る兆しが見えていた。しかし、他のアリスたちはそうもいかなかったのだろう。"忌々しい記憶”を見て涙を流し、苦しんでいた。オルテシアもまた、その一人。
彼女が善意で"忌々しい記憶”を差し出したとしても、到底許されることではない。
だからこその猫 拳 制 裁。『邪霊を廃せし聖なる猫拳(インクイジット・キャットハンド)』。視線を向けられた罪人は、それを回避する術はない。
ズドンッ!!と、ホワイトアルバムを中心に土煙が立った。彼女から出されたものではない。彼女に向かって、何か重いものが落ち、その衝撃でたったものだ。浄化の光で生み出された巨大な猫の手。それは質量と怒りと正義と若干のぷにもふ要素を圧縮し、ぶつけたものだ。
まさしくフルパワーとも言える一撃。だが、土煙が晴れたそこに、ホワイトアルバムはまだ立っていた。
「むぅ、まだ足りない……?」
「……足りない?いいえ、あなたたちの思い、よーく知ったわ」
ボロボロで、瀕死の姿。しかし瞳は力強く猟兵たちを見据えており、相手が猟書家であることを思い出させる。
「確かに、アリスたちに記憶を授けても、失敗続きだったわ。記憶を取り戻したい思いに応えただけなのに。わたしのように、記憶がなくたって楽しい日々があるって、教えてあげてたのに」
自分を正当化、しているわけではないのだろう。どこか反省した様子でうつむき、自らを語る姿に、ミアは警戒したままステッキを向ける。記憶がない、という事柄に同情を覚えそうになったが、相手はオウガ。そして許さないと公言したばかりだ。
「……それでも知りたいと言ったアリスに、記憶を授けた」
透明な鎧を再構成し、リーゼロッテは拳を構える。今更何を言おうが、彼女はぶん殴る。容赦なくだ。
「いいえ、要らないといったアリスにもあげちゃった。だって、見たいんですもの。
アリスが泣いて、叫んで、嗤って、喘ぐ姿──それがとてもいとおしいの」
エインセルの怒りは、限界を超えた。
純度百パーセントの善意。ではなく、好奇心。たとえば、子供がアリを踏んづけて遊ぶような無邪気さ。それが"アリスを発狂させること”に向けられていたことを理解した途端、彼は無言で片手を天に向けた。
質量を持った光の一撃が、再度ホワイトアルバムに降りかかる。もはや二度だけでは足りないほどの怒りだが、周囲に猟兵とオルテシアがいることを鑑みて、二発で留めた。
しかし、それでもホワイトアルバムは立っていた。
「けど。一度は見てみたかったわ。幸せな記憶な記憶を持つアリス……ほんの一握りの安全地帯に縋って、オウガにならないまま立ち上がる……出会ったことは一度もないけれど、わたしはそんなアリスがいるって、信じてる!
だから、それでも手を差し伸べるの!」
恐ろしいほどの狂気と執念に、オルテシアは顔を青ざめさせていた。
それだけのために、記憶を与えていたのか。そんな怒りが沸き立つが、彼女の理解はそこで留まった。到底、理解していいものではない。特に、喰われようとしていたアリスには、到底たまったものではないだろう。
糧にするのではなく、観賞するために。さらにその奥で、自身が与えた試練に乗り越えられるアリスを求める。これに悪意も善意も無い……マッドサイエンティストじみた性根を見せつけられ、茫然とするしかできなかった。
「──なるほど、だから貴方はアリスに可能性を見出そうとしたのですね」
突如、土煙が突風で払われ、男の声と共に冷気が辺りに漂う。
音もなく現れ、そしてホワイトアルバムに斬りかかる影。それに向けて、ホワイトアルバムは侵略蔵書のページを向けた。
本から出たものとは思えない、鈍い音が響く。白い触手はブロック状に変わっており、アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)が持つレイピア、"氷華”の一撃を止めていた。
「私が人に可能性を感じるように、貴方はアリスへ」
「そう──あなたも?」
「いいえ、私はあなたと同じ道は歩まない」
鍔迫り合いはほんの数秒で終わり、互いに弾き合って離れた。
途端に、ホワイトアルバムに三度目の猫拳制裁が降りかかる。しかし三度目となると読まれたのか、侵略蔵書が生み出した白い大樹が拳を受け止めた。
その隙に、リーゼロッテは踏み込む。
「ッおらァ!!」
「ふふっ!」
渾身の右ストレートが、ホワイトアルバムの顔面を穿とうとする。しかし大樹から伸びる枝が壁となり、コンマ一秒の隙に彼女はかがんでリーゼロッテから距離を取る。
本を手にし、大樹から触手を伸ばす。狙いは──ミアだ。
「わたしはあなたを食べて、また探求する!」
狙いがこちらに向いていることに気づいたミアは、咄嗟にダイヤのスート型の盾、"ソリッドダイヤ”を掲げる。だが、それよりも早く触手が到達し、それは彼女の腕を絡め──なかった。
紫陽花の花びらが舞い、触手を寸断する。
「オルテシアさん──!」
「お願い、しますっ!」
オルテシアが手を伸ばし、ミアは両手に盾を持った。そしてホワイトアルバムが次弾を放つほんのひと時に、冬は訪れた。
「──我が魔力を代償に、自らの冬を呼び起こせ」
全身全霊を込めた一閃。長槍、"叫喚者(スクリーマー)”を手にしたアリウムは、ホワイトアルバムの体を薙いだ。
切り捨てた後に吹雪く風はアリスの断末魔を思わせる音色を奏で、刻まれた切り口からは血ではなく、霜が降りかかる。『ホワイトマーチ』による一撃で、ホワイトアルバムの全身が凍り付き始めたのだ。
「…………ふ、ふ……ふふっ……あははは……!」
ホワイトアルバムの手から侵略蔵書が滑り落ち、大樹は大量の白紙に変わって、花びらの如く舞い散る。彼女の体は最初から何色でもなかったかのように、腹部から首へ、つま先へと白色に変色してゆく。
「貴方は、求めすぎた。それ以前に、無為にアリスを犠牲にすることは見過ごせない……だから、ここで終わりにしましょう」
アリウムの言葉を最後に、オルテシアはホワイトアルバムの前へと立つ。
残るは顔のみ、目だけ動かせる状態のホワイトアルバムに、オルテシアは籠手を向けた。だが、最初に撃ったように、花びらを出せない。
「…………おわりに、しないの?」
「……悔しいけど、わたしは……あなたに」
結果としてオウガ化し、ホワイトアルバムの趣味に付き合わされた。だが、記憶を取り戻せたきっかけは、彼女だ。そこには確かに、感謝の思いがあったのだ。
きっともう、探さずとも扉を見つけることはできるのだろう。永遠にここを彷徨うことだって、オウガに追われることだってもうない。だが、
「なら、俺が終わりにしてやるよッ!!」
「ぇ」
思いを馳せるその前に、リーゼロッテは思いっきりホワイトアルバムをぶん殴った。
凍結していた体は粉々に砕け、雪にも思えるほど小さな粒となって辺りに散らばる。本当に、彼女は白色に変わってしまったのだ。白紙の本のように、彼女の体もまた、白に還っていったのだろう。
「こういうのは猟兵の仕事ってな。さ、お前はさっさと扉を見つけに行け」
「で、でも……」
「怒れないのなら、無理にする必要、ない……と思う」
「そーだよー。びみょーなきもちなら、おもいとどまってもいいもん」
ミアとエインセルにも言われ、オルテシアはさらに困惑する。
「そもそも、相手がオウガであれ、姿は人でした。それを直接殺めるのは、貴方がするべきではないでしょう」
「……!」
オルテシアが振り向くと、そこにはどこか疲れた様子のアリウムがいた。先ほどのユーべルコードで魔力を使い果たしたのか、立っているのがやっとのように見える。
「敵に感謝の意を示すのは、貴方らしい寛容さの表れです。しかし、それを抱えたまま相手を傷つけようなどすれば、先ほどの狂人のようになってしまいます。
そんな時こそ、助けを求めればいいと思いますよ」
ふと気づいて、オルテシアは両手を見る。そこには竜を模した籠手はなく、華奢な自身の手があった。
そして見上げる。助けに来てくれた猟兵たちを。
「……ありがとう、ございました」
ぺこりと頭を下げて、オルテシアは踵を返した。
あの籠手をもう一度出せるのか。そんな不安が過ったが、すぐに首を横に振る。リーゼロッテに言われた通り、なんとなくだが自分の扉はすぐそこにあると感じていた。
もう迷うことなく、ためらうこともなく、彼女は次へ歩むことができるだろう。
次に目覚めた時には白紙から。貰った勇気をインクにして、今度は"忌々しい”なんて思えない人生を描くために、手を伸ばす。
大成功
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