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花は語らず

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●絶望の色は
 それは真白い花たちだった。
 陰鬱な空の下、淀んだそよ風にさやさやと揺れる背の高いその姿は、美しく、はかなげで、けれどどこか不気味な様相を呈している。
 あたりは静寂に包まれていた。暗く閉ざされた世界、生き物の気配すら乏しいこの世界の片隅で、花たちは集い、朽ちることも知らず、ただ咲いている。

 ――よかれと、思ったのです。
 ――よかれと思い、そうしたのです。だれも、欲しくないというから。偽りなど、寂しいだけだというものですから。

「なのになぜ、あなたたちはそのような顔をするのでしょう」
 湿った土を、華奢な靴の爪先が軽やかに踏み拉いた。
 この世ならざる雰囲気を纏う、美しい娘だった。白い貌に表情はないが、声は酷く穏やかだ。長い黒髪を風に遊ばせて、翼持つその娘が振り仰ぐ先。地面にうずくまる老婆がよろよろと顔を上げて嗚咽交じりの叫びをあげた。
「嘘つきめ。この、嘘つきの悪魔め……! かえせ、あの子を返しておくれ……!」
 その痩せ木のような腕の中で、拉げた白い花が土に塗れて汚れている。老婆はそれを震える腕で娘に向けて投げつけながら、声も枯れよとばかりに叫ぶ。泣き叫ぶのだ。
「かえしておくれ」
「それはできないのです。ああ、あなたもまた、救いを求めているのですね。かわいそうに。かわいそうに。その苦しみ、悲しみ、もはや生きていても癒されぬ絶望でしょう」

 黒衣の天使はやさしげに囁いて、その二対の白き翼を広げた。

「わたくしは救世の代行者。あなたを生の苦しみから、解き放ってさしあげましょう」

●序
「お集まりいただき、ありがとうございます」
 グリモアベースの一角で、ルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)は猟兵たちを出迎えた。纏う白衣を翻し、まずはと彼らをテーブルへ誘う。自身はたっぷりとした毛皮に包まれた尾をひそりと白衣の下へ収めたまま、手元の端末に目を落として話し始めた。
「ダークセイヴァーにて、オブリビオンによる事件を確認しました。討伐をお願いします」
 楽しい話ではないので当然だが、その声は愁いを帯びていた。
 予知で見た場所は、あの世界においてはごくありふれた、搾取されるために存在を許されている貧しい領地の一角だった。いくつかの村が点在しており、統括するのはひとりのヴァンパイアだという。
 そのヴァンパイアが居とする領主館へと、ここ最近何者かが人々を攫っているのだ。老若男女問わず、出身の村もひとつではない。あちらこちらから、姉妹であったり、親子であったり、或いはひとりきりであったり、皆気づいたときには行方が知れなくなっている。
 その目的について、狐は声を落として語った。
「ひどく傲慢な術が、産み出されています。――人を、殺して花へと作り変える。聞きようによっては浪漫のある響きでしょうが、お伽噺の中であればともかく、現実となれば単なる悲劇、蛮行でしかありません」
 館の裏には花畑があり、攫われた村人たちは命を奪われたのちに、その禁術によって花へと姿を変ぜられていく。ルイーネが見たのはそのわずかな片鱗でしかなかったが、猟兵を集めるのには十分な内容だった。
「館には攫われた村人が何人も囚われているようでした。内部の様子はあまり見えなかったのですが、酷く静かで……少なくとも、見回りや警備はさほど多く敷かれてはいないはずです。まずは館へ侵入して、村人たちの救出をお願いします」
 それと同時に、禁術の始末も必要だ。
「館の一室に、研究室があります。恐らく禁術に関するデータはすべてそこに集められているのでしょう。後に残せば、再び悪しきものが利用しかねません。対処をお願いします」
 だが、事件はそれだけでは落着とはいかないだろう。
 首謀者を斃さなければならない。ただ、どうやらそれらしき姿は転送の時点では館の中にないようだった。
「ですが、現地へ赴けばおのずと居所は知れるはずです」
 逃亡を謀りはしないだろう。敵の居場所さえわかれば、そのもとへ向かうことが叶うはずだ。あとは、躯の海へと還すだけでいい。
「……失われた命を取り戻すことはできません。ですが、失われようとしている命を、救うことはできるはずです。――どうか、よろしくお願いいたします」
 静かに言葉を結び、ルイーネは丁寧に頭を垂れた。


鶏子
 初シナリオとなります。
 至らぬ点も多々あるでしょうが、お付き合いいただけましたら幸いです。

 第一章においては、囚われた人々の救出と禁術への対処がメインとなります。
 第二章で敵を追い、第三章にて戦闘を行っていただきます。
 いずれにしても、皆さまの心情をたくさん詰め込んでいただければと思います。

 皆さまのご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『私の為に花は咲く』

POW   :    研究施設の破壊など

SPD   :    囚われた人をこっそり救出するなど

WIZ   :    侵入ルート、避難経路の割り出しなど

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちが辿り着いたのは、分厚い雲間に月も隠された、夜のことだった。
 館の門は閉ざされ、窓には灯のひとつもない。
 他者の訪問をあからさまに拒絶する大きな鉄の門を、ある者は密かに乗り越え、ある者は迂回し、猟兵たちはそれぞれに館の敷地内へと足を踏み入れていく。
 夜は深く、色濃い。
 静寂もまた、うずたかく降り積もる塵のように重く落ちている。
 ――どこからか、甘い花の香りが漂っていた。
アウレリア・ウィスタリア
花は、花はとても……
ボクの花はとても悲しい
けれど、ボクの魂に刻まれた花はとても暖かい
花は誰かとの繋がりだと思うから、悲しいだけなのはダメだと思う

WIZ

腕を切り裂き流れ出る血から【血の傀儡兵団】を召喚
血人形の数の力で侵入、避難経路を探索しましょう
敵対するものと出会った場合も考慮して2体以上で行動させます
ボク自身も暗視や聞き耳で周囲の状況を観察しつつ行動
怪しい箇所には血糸レージングで探りをいれて罠などないか確認します

少しでも捕まった人たちが安全に逃げ出せるように
そして確実にボクの「敵」をみつけて屠るために

この悪夢から人々を救い出す
それがボクの目的であり、復讐すべき理由です

アドリブ歓迎


ジェイ・ドゥ
花は好きだよ、とても儚いからね
でも人を糧にした花は…素直に愛でる事は出来ないだろうな

俺は囚われた人を救出しに行こうか
館には迷い込んだ村人を装いつつ忍び込むのが良いかな?
ふらりと行った所で警戒されても何だし
【誘惑】で【おびき寄せ】つつ、保護できたら良いね
俺の友(からくり人形)を駆使しながら救出していこう、彼なら百人力さ

途中障害物や妨害するものがあるようだったら
【フォックスファイア】で燃やし尽くしてあげるさ
明かり代わりにも使えるし便利だろうさね

さぁ帰ろうか?花にされちゃ
一生根付いて動けないなんて
何てつまらない人生だろう



「……静かだね。どう思う?」
 明かり代わりの狐火が、男の姿を照らし出している。美しい毛並みの狐耳を聳て、ジェイ・ドゥ(哭声・f01196)は傍らの少女に問いかけた。
「わかりません。……でも、少し探りを入れてみます」
 少女、アウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)もまた仮面の奥から暗闇を見通す目と、耳を澄ませていた。だが、館の中は不自然なまでに静けさに満ち、気配には乏しく、陰鬱な空気に浸されている。
 そう、不自然だ、と二人ともが思った。
「我が血は力、敵を切り裂く無数の兵団。進め、そして」
 ――道を切り開け。と、アウレリアは自らの腕を裂いて数多の血人形をその場に召喚した。命を与えられた小さな人形たちが、影を縫うように館内へと散っていく。交戦も可能な戦闘用の人形ではあるが、今必要なのは情報を探る手数だった。
「ボクたちも行きましょう」
「そうだね。……花は儚くて好きだけど。人を糧にした花は……素直に愛でることは出来ないだろうな」
 いくら美しかろうとも。それを愛でるための花と呼ぶのは、あまりに酷であろう。
 揺らめく炎をちらりと見上げて、アウレリアは僅か、唇を噛んだ。無意識に動いた白い手が、やわく胸元を探るように辿って自らの鼓動へ行きあたる。
 花。花は――……。
「……ボクにとって花は、誰かとの繋がりです。だから、悲しいだけなのはダメだと思う。もっと、暖かいほうが、いい」
「繋がりか。お前さん、不思議なことを言うね」
「そう、ですか? ボクはだから、こんなことは許せなくて」
 そう、許せない。許してはいけない。
 この悪夢から人々を救い出し、必ずや元凶を屠ってみせる。少女の声はひそやかだったが、その眸には強い敵意と、そして固い意志が満ちていた。

 やがて二人は、血人形の道筋を辿るようにして、ある小部屋で囚われの人々を見つけた。扉は鍵がかけられてはいたが、腐食が進んだそれを破壊することは容易かった。
 狐火が室内を照らす。狭い部屋の隅で、寄り集まるようにして数人の女子供がこちらを見ていた。誰もかれも突然のことに状況を理解しきれていないのか、呆然と目を見開いている。
 数が少ないなと独りごちながら、男は琥珀の目を眇める。
 少女ほどの真摯で優しい決意がこの胸にあるかといえば、さて、どうだろうか。彼女のような若さは既に年月の果てに置いてきてしまった。――されど。
「――おいで。もう、大丈夫だよ」
 男の差し伸べた手を見て、ひとりの女の頬に涙が伝う。
 一生を根付いて過ごすなど、なんとつまらない人生だろうか。泣くことも怒ることもできず、喜びも何も訪れず、ただ大地に縛られ空を見るだけの一生など、ひとの生とは呼ばない。
「さあ、帰ろうか」
 ひとつめの扉は、そうして解放された。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

寧宮・澪
くっそ傲慢ですねー……腹立つの。
きっちり躯の海へ叩きつけるの。

んー……避難経路、割り出しましょかー……。
館の中、どこ通れば、見つかりにくい、とかー……助けた後、スムーズに、脱出できる経路とかー……
館の地図や、地形をー……【情報収集】して、電脳ゴーグルに、まとめてー……。
よければ、他の猟兵にもー……流し、ますねー……。

あとー……隠し通路とかー、ありますでしょかー。
【第六感】でぴーん、と、きたりー……謳って、風を起こしてー……通り具合でー見つけたいなー、とー……。

見回りや、警備のー……配置も、わかれば、反映をー……。

願っていようと、いなかろうと、望まぬことを押し付けるなんて。
ほんと、迷惑。



 彼女の歩みに、足音は付随しない。
 代わりにささやかな風を孕んだ漆黒の翼が、寧宮・澪(澪標・f04690)のほっそりとした体躯を緩やかに運んでいく。
 ぼんやりとした表情で澪は館の中を彷徨うかのように進んでいた。暗闇に支配された館内の詳細を把握することは難しかったが、用があるのはシャンデリアの形や絨毯の模様などではない。
「んー……こんな感じ、でしょかねー……」
 澪は自らの適所を知っていた。
 館の外観から推測される館内のおおよその造りから、他の猟兵から齎される情報や自ら調べた各部屋の配置などを付け加え、電脳世界へとマッピングしていく。それを元にして、避難経路の割り出しにかかっていた。
 これらの情報を他の猟兵と共有すれば、救出の役に立つだろう。
 それにしても、と曲がり角に身を潜め、“見回り”をやり過ごしながら首を傾げる。
「……あれ、だけなんですかねー……」
 様子を窺えば、か細い羽音は徐々に遠ざかっていく。正体は子どもの拳程度のサイズの昆虫であり、恐らくはオブリビオンの眷属なのだろう。複数体いるようだが、これだけの規模の館であればもっと警備が敷かれてしかるべきであるし、そもそも使用人姿すら見えない。
 そして、館自体の様子も何やらおかしかった。
「やっぱりこれって……廃屋、ですよねー……」
 見上げれば蜘蛛たちの張り巡らせた巣が繊細なレース模様を創り出している。足元に目をやれば、数か月は掃除をされた形跡がないほどに、埃が積もっている。どこからどう見ても、廃屋と呼んで差支えがない。
 うーん、と首をひねりながらふよふよと先へ進み。
「……あ」
 通りがかった部屋の中に、鳥籠を見つけて言葉を失った。
 少なくとも、この館にはもう長い間、管理する者がいないのだ。領主が住んでいるのかどうかはわからないが――小鳥に、餌をやる者は、もういない。
 鳥籠の中で餓死している白い鳥をしばらく見つめ、澪は静かに瞼を伏せた。
 空飛ぶ鳥を籠の中で死なせるのも。
 救いの名のもとに、ひとを殺すことも。
「くっそ傲慢で……腹が立つ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

霄・花雫
【灯くんと一緒】
まずは攫われたヒトを助けなきゃ。
荒事なら協力してくれるって言ってたし、灯くんにも手伝って貰おっと。

随分静かだけど、どっかに閉じ込められてるのかな……。
【野生の勘】と【第六感】が示す道を【忍び足】で進んでみるよ、ついでに館の経路図なんかも手に入ったらラッキーだけどどうかなー。
大丈夫、なんだかんだ最近ちょっと隠密行動も上手になって来たし!

部屋鍵とか掛かってるよねぇ、きっと。
あ、通気口とかないかな。あたしちっちゃいし入れない?
位置が高くても跳べばいいし、外の見張りは灯くんにお願い出来るし。
もし攫われたヒトを見つけたら、【コミュ力】と【情報収集】で話を聞いて、逃がしてあげなきゃ。


皐月・灯
【花雫と同行】

……覚えてたのか、それ。
しょーがねーな。アンタの背中、オレが守ってやるよ。

館の手がかりはねーけど……「禁術」は死体を花に変える術で、
その行使場所が花畑だってのは分かってる。

なら、奥を目指すぞ。
花畑、村人が殺される場所、そして村人の居場所……
この3点はそう離れてねー筈だ。

花雫の勘と合わせて進路を探りつつ、
オレは館内の移動記録をつける。
警備がいる場所や周辺の地形を紙に書き込んで、脱出地図を作るんだ。

村人を見つけたら、見張りは【先制攻撃】で排除するぜ。

「行け、花雫。外はオレが見とく」
衰弱してるヤツがいたら呼べ。
気休め程度だが、【医術】の心得もある。
……いいか、敵が出ても一人でやるなよ。


スピレイル・ナトゥア
「花の美しさのほうが大切だと思うか。ひとの命のほうが大切だと思うか。ようは、価値観の問題なのでしょうね」
とはいえ、花の美しさのほうが大切だと思う価値観は理解できませんが
まあ、それだけダークセイヴァーという世界がひとの命が軽んじられている世界だということなのでしょう
もっと楽しい世界にするために、この世界での命の価値をもっと上げなければなりませんね

「助けに来ました!」
村人さんたちを、土の精霊を宿したゴーレムさんによる人海戦術で救出します
衰弱している村人さんがいたときはゴーレムさんに担いで移動してもらうとしましょう
研究施設を破壊している猟兵さんたちが敵の注目を集めている隙に、こっそりと脱出しますよ!


蛇神・咲優
【SPD】



迷い込んでしまった場所で第六感を頼りに出口を探していたら
偶然にもなんだか囚われているらしき人達を発見した
ピタリっ、と止まり囚われた人達と見つめ合い考える
―――そうだ、助けて出口を聞こう!そうしよう!と決断した
ケガをしている人がいるかもしれないから生まれながらの光で癒しを

『大丈夫!きっと皆一緒ならココから出れるよっ!
 シュウダンコウドウは大事だって聞いたことあるもんっ
 さゆココまで誰にも会ってないから、こっそり行けば大丈夫!』

小声で少しでも不安を取り除けるようにと
説得力あるようでないのか解らないが、元気だけはあるのを理解できる仕草で励まし、出口をこっそり情報収集で聞き、皆を避難誘導する


ユア・アラマート
なんとも、歪な方法で花を咲かせようとするものだな
これ以上犠牲者を増やすわけにはいかないし、まずは囚われている人たちを助けようか

【SPD】
「追跡」「忍び足」で見張りの後をつける。もしくは回避をしながら村人たちが囚われている場所を捜索
村人たちを見つけたら、近くに見張りや警備がいないかを確認。何者かがいた場合は、それが一般人かそうでないかを確認する

一般人であれば、戯宴で喚び出した分体を背後から忍び寄らせ口を塞ぐか当て身で無力化をする等。命を奪わないように
オブリビオンであれば、分体が持つ自分と同じダガーで死角からの「暗殺」で始末

その後鍵を見張りから見つけて一般人を開放するか、なければ武器で鍵を破壊する



「ほら早く、灯くん。急いで助けにいかなきゃ」
 袖を引く手に、皐月・灯(灯牙煌々・f00069)は溜息をついた。
「慌てんな、花雫。……付き合うって言ったのはオレだしな。ちゃんとアンタの背中は守ってやるよ」
 だから落ち着いて行動しろという少年の言葉に、霄・花雫(霄を凌ぐ花・f00523)はにっこりと笑って頷いた。
「うん。なにかあったらよろしくね」
 少年と少女は足音を潜めながら、屋敷の奥を目指していた。手掛かりは少ない。だが、花畑と村人の殺害場所、そして彼らの居場所、それらはきっとそう離れてはいないはずだと、灯は自らの推測を少女に話して聞かせた。
 頼りは花雫の天性の勘と、灯の状況判断だった。
 それに加えて、
「見取り図もらえたのはラッキーだったねー」
「……まあな。おかげで手間は省けた」
 利用できるものは利用する。共同戦線は適材適所だ。花雫のスマートフォンと、灯へは直接電脳世界を通じて転送されてきた館内の詳細な見取り図のおかげで、二人の足取りはそれまでより随分と効率が良くなった。
 目的の区画も、明確に定まった。真っ赤なリンゴ型のスマートフォンを覗き込みながら、花雫がこの先の経路を確認していく。
「えっと、次の角を右で……」
「花雫」
 ストップ、と灯が制止の声をかけるより早く、夜の色をした風が少女の身を引き戻す。
「――危ないよ、お嬢さん」
 え、と花雫がたたらを踏む。風の如く音もなく駆け、少女の背を引いた人影が、外套の下から艶めいた声で密かに笑った。
「この先に見回りの虫がいる。潰すのは簡単だが、不用意に見つかってあるじに知らせられるのは面倒だろう?」
「えっ。あっ、ほんとだ……。ありがとう、止めてくれて」
 少女の素直な礼に、ユア・アラマート(セルフケージ・f00261)は深く被っていたフードを軽く持ち上げ、「どういたしまして」と淡く煌く緑の目を和らげて応える。
「アンタも来ていたのか、ユア。ここにいるってことは、目的は向こうで捕まってるヤツらの救出か?」
 灯にとっては馴染みの顔だ。廊下の奥、規則的な羽音が遠ざかっていくのを確かめながら、声だけは女へ向けて投げかけた。
「ああ、そのつもりだよ。これ以上犠牲者を増やすわけにいかないからね」
「じゃあ一緒に行こうよ。ね、いいでしょ、灯くん」
 さっくりとした少女の提案に、灯は一瞬沈黙し――「べつに、構わねえけど」と呟いた。

 一方その頃、蛇神・咲優(迷子奇譚・f05029)は正しく館を彷徨っていた。
 迷子である。
 救出に来たはずの猟兵が迷子とはいかに、と問い質す者はここにいない。齢七つの幼子が、広大な所有地に威容を持って建つこの館でだれかと逸れたが最後、迷うなと言う方に無理がある。――残念ながら彼女は方向感覚そのものに先天的な難があるわけだが。
「なんでいつも迷子になっちゃうんだろうね……」
 おとなの猟兵のうしろに、ついていったはずなのに。
 答えを与える者もおらず、子どもの声は鈴の音のように軽やかに響いては、空気に融けて消えた。幸いと言っては何だが、彼女は気配を潜めることに優れ、何だかんだと言って勘も運も良い。美しい銀色の髪は暗闇にぼうと輝き目を引くが、巡回する虫と行き会うこともなく、無事そこへ辿りついた。
 すべての灯りが落とされたかのような館だったが、その扉にだけは燭台が掲げられていた。まるで目印のようだと思いながら、咲優は下部に取り付けられた飾り窓から中を窺う。
 すると。
「……だれか、いるのか。そこに」
 しわがれた男の声に、弱々しく誰何された。――人がいる!
 これはきっと、あのグリモア猟兵が言っていた“囚われた人々”だ。助けなきゃ、と思った。助けて、もしかしたらこの人たちが出口を知っているかもしれないから、そうしたら一緒に逃げればいい。
「えっと、さゆね、あなたたちを助けにきたの」
「助け……ほ、本当か。本当に逃げられるのか」
 うん!と元気よく頷いて、はたと動きを止める。
 ……ドアノブを回す。当然ながら、施錠されている。どうしよう、この扉ってさゆの刀で壊せるのかなと首が傾いだところに、――影が差した。
 バサリと、力強い羽搏きの音。ごろり、ごろりと何がが擦れ合うような、重量のある擦過音。
「――どいてください」
 振り返った咲優の、しろがねの睫毛がぱちぱちと上下する。そのあどけない様子に笑顔を向け、スピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)が対照的な色合いの腕をまっすぐ伸ばして扉を指さした。小さなその肩の上には、悠々と翼を畳み終えた大鷲の姿がある。
「土の精霊さんで、そのドアを破壊します。中の村人さんたち、助けてあげましょう。……あなたも、猟兵さんですよね?」
 しろがねの子どもよりは、二つ三つ年の頃は上。しかし、それでも十分に幼い子どもだ。
 けれど、スピレイルはただの子どもではない。自然を奉じ、雄大な大地で数多の精霊たちとともに生きる、精霊信仰における巫女。――即ち、精霊に寄り添いその心を通わせた、契約者である。
 幼い精霊術士の背後で、土の精霊を宿した泥人形が、その剛腕を振り上げた。

 ユアたち三人が駆け付けたのは、丁度その直後だった。
 ゴーレムによって破壊された扉の向こうには、十人以上もの村人たちが押し込められていた。彼らは予知の通り近隣の村から攫われた村人たちで、辛うじて水や食事は与えられてはいたものの、衰弱している者も多かった。
 怪我を負った村人の治療に当たる灯と咲優の傍らで、花雫が彼らから話を聞いていく。人懐っこい少女の話術に、村人たちはほっと安堵の息を漏らしてぽつぽつと事情を語っていた。
 扉の外では、ユアとスピレイルが見張りに立ちながら情報交換を行う。
「何人かは別の場所に囚われていたようだが、そちらは既に救助が済んでいる。恐らく、これで全員だろう」
「そうですね。この人たちはゴーレムさんで安全な場所まで運ぶとして……あとは、術と、黒幕を倒すだけですが。……けれど、そもそもこの世界の状況を変えなければ、同じような事件は何度でも起きます」
「禁術のほうも別の猟兵が向かってはいるが、蜥蜴の尾を切るだけ、か」
 だが、決して無意味ではない。千の命を助けるためには、一の命からまずは掬い上げていかねばならない。ユアはそう呟いて、しかし、と柳眉を潜める。
「歪に咲かせた花、か。花は私も好きだが、花の生き方と人の生き方を同じにしてもらっては困る」
「それがオブリビオンの価値観なのでしょうね。私には理解できませんが。……そろそろ運び出せそうです。今のうちに、こっそり脱出させましょう」
「ああ」
 猟兵たちは、同じ思いでその目を見交わし頷いた。
 
 ふたつ目の扉も、そうして解放がされたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ノワール・コルネイユ
狂気の沙汰としか思えん所業だな
領民の惨めな死を美化しているつもりか?

兎角、その禁術とやらはさっさと始末しよう

【POW】
研究施設の破壊に専念する
書物やら実験道具やら目に付く物を片っ端から破壊しよう
物理的に破壊出来る物は剣で壊し
紙製のものは集めて焼き捨てるか

慎重な奴である可能性も鑑みて研究室内をくまなく調べておく
不自然な色やらの壁や床が無いか、仕掛けがないかとかな
真っ当な隠し場所に仕舞われていたなんてことがあれば目も当てられん
探索・破壊した箇所は周囲の猟兵と情報を共有しておこう

どこまでも悍ましい、ふざけた魔術だが
これは創り上げた当人はそうは思ってはいないのだろう
嗚呼、それがまた…腹立たしいものだな


伍島・是清
真白い花はうつくしい
花で在ることを望むのなら、ある種の救いかもしンないね
まァ、俺は望まねェけど

人を救うとは、至極難しい
そう思う

研究室へ
必要なら「鍵開け」「ハッキング」を適宜
幸いながらサイボーグの身、目と耳は良い
敵が居るようなら遠くに折紙飛ばして「如何様師」で敵を其方にひきつけ
館内様子を伺いながら極力騒動を避けて移動する

禁術の方に来たのは内容への興味が強い
単純な知識欲
からくり人形に「誰か来たら教えろ」と命じて
自分は禁術のデータの中身を見る

見るだけ見たら後は用無し
研究室の中のものを鋼糸で切り刻む
どこにどういう形でデータが有るかは解らないので全部刻んどく

仕事は終い、さァ次は首領の首取りと参ろうかね


ユハナ・ハルヴァリ
ルイーネの代わり、には。力不足だけど。
がんばる。

館の外周を窺い見て、人の気配のないところを探って侵入
避難経路を確認しながら、館の奥まで進んでみる
研究室を、探すよ
禁術。だいじなもの、のはず。
それなら奥の方とか、えらいひとの部屋のそばとか。
静かな部屋…
あとは、地下…は、僕が好きなだけか。
人を花に変えるなら、様子を見やすい、庭に面した部屋。
そういうところ、見てみるね

見つけたら、壊すのが一番、早そう
長杖解いて花へ変じて
跡形もなく

花になったひとは、もう戻らないんだね
ねえ、このまま咲き続けるのと、終わらせるの
どっちがしあわせ、なのかな
禁術をもし、紐解いて
人に戻す方法を、編み出せたら
…それは、いけないこと?



 村人たちの救助が進む頃、館の二階では最後の始末をつけるべく、三人の猟兵が動いていた。
 ひとの命脈を断ち切り、ひととしての道程を奪う、禁断の術。ひとの身を美しい花へと変容させるというその禁断の術のすべては、館の最奥、主寝室のすぐ隣の部屋に集められていた。恐らくは、領主自らの手で行われていた研究なのだろう。
「狂気の沙汰としか思えん所業だな」
 吐き捨てて、ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)は疎まし気にその血のように赤い眸を険しく眇めた。睨み据えるその先には、ホルマリンに漬けられた人体の一部たちが棚の中で埃を被っている。
「……。燃やせるものは、全部あつめれば、いい?」
 赤い眼差しを辿って、ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)がそっと目を伏せる。瓶の中には、胎の中から無理矢理引きずり出されたものか、少年の掌を広げた程度の小さな小さな胎児もいる。生まれる前に、断たれた命。
 ――この部屋で眠る悍ましき叡智のすべては、そうした犠牲の上で培われた。
「あァ。個別に焼くより、纏めて燃やし尽くした方が手っ取り早い。……其方の瓶詰やら道具やらは御前たちに任せる」
 黒衣の娘と冬纏う魔術師を横目にして、領主が書き付けた紙束をじっと読み解いていくのは、伍島・是清(骸の主・f00473)。異国の装いに身を包み、右の眼をゴーグルで閉ざした機械混じりの人形遣いだ。
 彼が始末の役目を選んだのは、一言で言えばその知識欲のためだった。知的好奇心というものは時に厄介で、抗うのは難しいものだ。娘の訝し気な視線を感じながらも、書物から紙片から片っ端に目を通していく。
「そンな目で見なくても、別に持ち帰りはしねェよ。少し、興味があるだけだ」
「……悪用するなよ」
「あァ」
「遊んでいる暇はない。さっさと働け」
 一回りも年下の娘に叱咤されて、男は肩を竦めて手の中の書物を籠へ投げ捨てた。
 焼却できそうなものはすべて一箇所に集め、実験に使われた器具などは確実に破壊していく。対処に迷う薬品については、後々相談し合うとして今は別に避けて置いた。
「仕掛けがないかも調べておこう。真っ当な隠し場所に仕舞われていたなんてことがあれば目も当てられん」
「かくしばしょ。じゃあ僕、むこうの部屋も、見てきます」
「施錠されたものがあれば呼べ。俺はもう少し、此処を調べる」
 役割を分担し、三人は静かにことを進めていった。
 やがて、隣の寝室を調べに行ったはずのユハナが、困惑したような声で二人を呼ばう。見てほしいものが、あるという。
「これって、もしかして……」
 少年が指し示したのは、豪奢な調度品に囲まれた寝台の上だった。黴臭い垂れ布には夜目にも精緻な文様が刻まれ、成人男性が三人以上は余裕をもって横たわれるほど大きな寝台を覆い隠している。促され、ノワールが垂れ布をかき分ける。
 その背中に、少なくとも見てわかるほどの動揺は現れなかった。
 探るような仕草、思案する沈黙を経て、娘は一言断言する。
「――ヴァンパイアの、灰だ」
 寝台には、ひとの形にも似た輪郭で、灰が積もっていたのだ。

 三人は短く話し合い、本来の作業へと戻った。
 場所から判断して、あの灰が領主であるというヴァンパイアの遺体であることは間違いないだろう。さほど新しいものではなかった。だが、現時点で事件が起きているということは、領主ではない別のオブリビオンがいることも、確かな事実である。
 なれば、今すべきはヴァンパイアの謎の死に思いを馳せ、探ることではない。

「……もし、禁術を紐解いて、花になったひとを戻せるのなら」
 それは、いけないこと?
 ユハナがちいさな声で、どちらにともなく尋ねた。
 花へ変容させられた人間は、元には戻せない。あの人はそう言った。失われた命は、戻らないと。けれど。
「さァな。俺には其の善悪の判断はつかねェよ。ただ、――そう容易い術を、禁術とは呼ばねェ気はする」
 是清は窓辺のレースを手繰り寄せ、眼下を見下ろした。
 裏庭。――白い花が、そよそよと風に揺れて咲いているのが、見える。
 なるほど、遠目にも鮮やかなほど無垢な色をしたその姿は、美しい。
「人を救うとは、至極難しい。――救うなンて云い方自体が、烏滸がましいのかもな」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『まどろみの花畑』

POW   :    息を止めて突っ切る

SPD   :    素早く走り抜ける

WIZ   :    対策を取って切り抜ける

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 村人たちの話は、どれも似たようなものだった。
 何かしらの絶望を抱えていたところに天使が現れ、救いを餌に誘う。誘われついていけば不穏な館に閉じ込められ、やがて、一人また一人と殺されては、死骸を元にして白い綺麗な花が芽吹いていく。
「一緒に攫われたやつがいると、それを見せつけるんだ。ほら、これでこの人は安らかになれましたよってな。……あいつは天使なんかじゃねえ。悪魔だ。人殺しの、悪魔だ」
 そうして親しい相手の死を、その尊厳を踏みにじられた者が今度は絶望を知り、殺される。
 それこそが救いだと、告げられながら。
「さっき、婆さんとガキが一人、ここから出されていった。連れていかれる先はわかってる。あの庭だよ。けど、気をつけてくれ。あの花は死骸でできてる。――ただの花じゃねえ」
 ひとの身を痺れさせ、身動きを封じるような類の毒素を放っているのだと、村人は語った。
 毒の花を抜けた先で、すべては行われる。
「あの扉を、あの女以外が開ける日が来るなんて、思わなかった。ありがとう……ありがとう……」
 泣きながら何度も礼を述べる男に他の村人たちを任せ、猟兵たちは裏庭へと向かう。
 
 急げば、まだ掬い取れる命があるかもしれない。
 花たちをどうするかを決めるのもまた、猟兵たちの判断に委ねられる。
寧宮・澪
とりあえずー……手早く、抜けましょー……。

毒、ですかー……。
花粉や、何らかの粒子……と考えてー……謳って、風を猟兵の、周りにバリアみたいに……巡らせられ、ますかねー……。
【オーラ防御】、や、【毒耐性】もあります、しー……。

みなさん、も、倒れない、ようにー……【謳函】、で、【鼓舞】、試みつつー……。
ここは、必ず、ぬけます、よー……。
天使、倒す。
そんな【覚悟】、思い、のせて、【歌唱】しましょー……。

花を、戻せるか、はー……。
今やる、という方を、止めません、し……助けもしません、が。
あとでなら……縁(躯)が帰ってくるかも、と紐解く、のも。
悪く、ないですよー……。

アドリブ連携、歓迎ですよー……。


ノワール・コルネイユ
この世界で起きるコト
それは大体がどこまでも陰惨で、悲惨で胸が悪くなる様なことばかり
…もう慣れた物だと、思っていたのだがな

この花の大半…いや、全てが元は人間なのだというなら
…眩暈がする光景だ

【SPD】
兎角、素早く駆け抜けるのみ
どうせ人間じゃない身だ。幾らかは耐えられるさ
掬い取れる物があるのなら、賭けてみるのも良いだろう
これを企てた奴の思惑を台無しに出来るのであれば、それだけでも価値がある

眼前のこれを燃やし尽くすべきか、否か
それは賢い奴に任せればいい

救いなんて高尚な言葉に自らを当て嵌めるつもりはないさ。
だが…こんな、吐き気を催す悪党を放っておくことも出来はしない
それは、私が剣を取るには充分な理由だ



 先陣を切ったのはノワールだった。
 館の裏口を蹴り倒すようにして開け放ち、その身はあたかも弾丸のように飛び出した。視界の先で白花が風に揺れる。だが、狩人の脚は一瞬たりとも止まらない。
 対策など講じている暇があれば、一歩でも先へ。
 束ねた長い黒髪を置き去りにするかのように、彼女は駆ける。
「毒。危ないです、よー……」
 頭上からそんな、微睡むように呑気な女の声が降ってきた。
 風に乗って空を並走する、澪だ。こちらを覗き込むその白い貌を見上げ、ノワールは簡潔に首を振る。
「構わん。どうせ人ならざる身だ。幾らかは耐えてみせるさ」
「はあ……すごいです、ねー……。でも……」
 少しだけ首を傾げてから、澪は一度その翼を羽搏かせた。唇をひらいて、謳う。その声はどこか夢見るようにやさしく、澄んだ音で、ノワールの耳を擽った。走る彼女の体を、風が包み込んでいく。
 生まれた風はくるりくるりと舞いながらその身を覆い、花の放つ神経毒――これは澪の推測通り、花粉に多く含まれているもので、季節を問わず空中に散布される――が、呼吸により体内へ吸収されるのを防ぐ役割を果たした。
 ああ、先ほどより呼吸が楽に感じる。
 ノワールは喉元を軽く擦り、短く礼を言った。
「助かる」
「いえー……お気に、なさらず。手早く抜けてー……あの天使、倒しちゃい、ましょー……」
「ああ。……予想以上に、広い。この花の大半…いや、全てが元は人間なのだというなら」
 眩暈がする、と落とされた声音は低い。
 事件がこうして発覚するまでの長い間に、一体どれほどの人間が犠牲になったのか。眼前の花の群れたちがその数を如実に物語っている。
 この世界がいかに陰惨で、悲惨で、暗澹たるものなのか、自分は身に染みてよく理解している。そんな世界で今も足掻き、生き続けている。だが、――こうした現実を目の当たりにするたび、この心がまだ摩耗していないことを思い知るのだ。
「……つらい、ですかー……?」
 それは、労わる声だった。あるいは、澪自身が感じるなにかを、ノワールの目に見出したからかもしれない。澪は再び羽へと風を送り出し、空を仰いだ。
 ――雲は、今だ重く圧し掛かる。
 この空は、この世界の象徴だ。美しい月を愛でる余裕すら与えられず、すべては闇に閉ざされる。歪んだ花とて容易に咲く。
 だが、その雲間を切り開く存在こそが猟兵だった。
 ノワールの目は鋭く行く手を見据えていた。手には二本一対、闇夜を切り拓き、得物を屠る狩人のつるぎ。
「いいや。吐き気がするほど、腹立たしいと思ってな」
 澪もまた、同意するように深く頷いて、翼を強く羽搏かせた。
「じゃあ……急ぎましょっかー……」

 ――さあ、猟兵よ。暗雲を切り裂け。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スピレイル・ナトゥア
「毒の花が咲いている庭に連れていかれているとなると、そのお婆さんと子供の容体が不安ですね」
一刻も早く救助しなければなりません
花畑をすべて燃やしてしまうという案も考えましたが、それをしてしまうとお婆さんや子供も炎に巻き込んでしまうかもしれません
しかたがないので、ここは花を燃やさないで済む方法を考えるとしましょう
とはいえ、私も猟兵です
このような状況で役に立つ奇手奇策のひとつくらいはお手のものです
バトルドロイドさんに担いでもらって、私のことをヴァンパイアさんのところまで運んでもらいます
え……担いでもらったとしても、麻痺することに変わりはないんじゃないかって?
……確かにその通りですね
困ってしまいました


蛇神・咲優
【WIZ】



毒耐性あるとはいえ、油断してたらダメだ
だが、このまま花を放っておくことも出来ない
(―――このお花たちシガイで出来てるって言ってた…火でカソウしたあげた方がいい気がするけど、けむりにもドクとかあったらキケンだし…んんー、こおらす?)

『―――おねがい、光景』

もう一つの愛刀に呼び掛け
自身に出来る範囲で凍らせた花を散らすように歩く

『もっと早くに見つけてあげれればよかったのに、ね…助けられなくて、ごめんね』

最後に一言”おやすみなさい”と助けれなかった人だった花に別れを告げ、敵の元へと歩みを進めるのを止めない
目立たないように忍び足で近づき、先制攻撃の機会を伺うのを忘れずに

…ユダンタイテキだもんね


アウレリア・ウィスタリア
毒の花……ロベリアにも毒はありますが、
無視して進むのは危険ですよね

ボクは空を舞って進みましょう
【空想音盤:追憶】で花弁を身に纏い
花の嵐で毒気を防御しながら進みましょう
空からの侵入では相手に気づかれて迎撃される可能性もありますが
花に執着するのなら多少の目眩ましになるでしょうし
攻撃されても花弁で防げます

ここの花を燃やすことも考えましたが、
救いになら無くても花に思いを寄せる人もいるかもしれません
燃やすのは、そうした思いを吐き出してからでも出来ます
今は「敵」のもとに進むことを優先しましょう……

同行者がいればひとりくらいは運べるかもしれませんね
そこはアドリブ歓迎です



「毒の花が咲いている庭に連れていかれたとなると、そのお婆さんと子供の容体が不安ですね」
 スピレイルは考え込んでいた。
 連れていかれた人たちの安否は酷く案じられる。一刻も早く助けに行かなければならないが、あの毒の花畑をどうクリアするべきか。
 その隣で咲優もまた首を傾げる。
 多少は毒への耐性もあるけれど、果たして完全に防げるかといえば、あんまり自信がない。やっぱりダメでした、ではいけないのだ。
(――このお花たちシガイで出来てるって言ってた…火でカソウしたあげた方がいい気がするけど、けむりにもドクとかあったらキケンだし)
 悩ましげな子ども二人を、黒猫の仮面が見下ろしていた。
 ぱたり、とその背中で白と黒の翼が羽搏く。アウレリア自身はこの翼があるので、空を飛べば花畑の中を無理に突っ切る必要がない。空中の毒を防ぐ案も講じてある。状況を鑑みれば、さっさと単身で乗り込んでしまってもいいのだが――子ども二人をそのままにも、できず。
「ひとりくらいなら一緒に運べるかもしれませんけど……」
 子どもといえど二人は厳しい。
「いえ、大丈夫です。私も猟兵ですから、このような状況で役に立つ奇手奇策のひとつくらいは――あ! バトルドロイドさんに担いで連れて行ってもらえば」
 妙案だ、とばかりにスピレイルが顔を輝かせる。
「……担いでもらっても、毒は吸い込んでしまうんじゃないですか?」
「……あ」
 そうですね、と肩を落とす。
 不安なところはあるが、あまりのんびりと考え込んでもいられない。咲優はよし、と頷いて、腰に差していた脇差を抜き払った。黒蛇の意匠もうつくしい、端正な刀が現れる。
「決めた。さゆ、あのお花をこおらせるね。そうしたら、スピレイルもいっしょに行けるよ」

「――おねがい、光景」
 少女のささやく声に、刀が応える。
 折しも雲間から姿を垣間見せた細い月が、しろがねの刀身を仄かに照らし出す。ささやかに宿った冷気は瞬時に冷徹さを増し、周囲の空気を冷やしていき――冷たく透き通るその息吹が、風に乗ってまず、一輪の花を凍らせた。
 刀から放たれた絶対零度の冷気が、花を、空気を、目にも見えぬその毒を、一瞬のうちに凍てつかせていく。咲優が瞬きをひとつする頃には、その歩む先には氷の世界が広がっていた。
「これでだいじょうぶ。ちょっとさむいけど、ドクもぜんぶ、こおらせたよ」
「本当ですね。空気が澄んで感じられます。これなら……」
 ふるりと肩をすぼめながら、スピレイルが薄氷を踏み、その手を眼前に掲げる。
 白く凝る息を吐いて、
「帝国のゴーレムさん。起動!」
 足元の氷がぱきん、と砕けた。スピレイルによってその場に召喚されたバトルドロイドに、まず彼女の供である大鷲が空から舞い降りる。丁寧に翼を畳む精霊に続いて、スピレイルもまたドロイドの大きな掌へ足を乗せた。
「よかったら乗っていきませんか? 歩くよりは早く着けますよ」
「いいの?」
 あんまり乗り心地は良くないかもしれませんが、と言いながら、銀の髪の巫女姫は咲優に手を差し伸べた。自分よりも小さなその掌を掴む。
「では、ボクは空から後をついていきましょう」
 静かにそう告げて、アウレリアは今少し高度を保つべく舞い上がった。
「あとで、弔いの時間をとれるでしょうか」
「うん。……もっと早くに見つけてあげれればよかったのに、ね」
 子どもたちの声が、聞こえる。
 かつて人であった花たち。人にはもう戻れない、花たち。彼らに寄せられる思いが、いつか、どういった形であっても、届くことはあるのだろうか。
 微かな月光が淡く照らす花畑を見下ろす。果ては闇に沈んで見通せない。だが、あの闇の中に確実にいる敵の姿を求めて、アウレリアは大きく羽搏いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霄・花雫
【SSFM‪α‬】
花はもっと優しいものだと思ってる。ヒトの気持ちを明るくして、寄り添ってくれるものだと思いたいの。
だから、……こんなの、間違ってる。あたしは、こんなの絶対に認めないから!

来て、姫ねぇさま!
風の姫ねぇさまを喚んで、シャルちゃんが起こした火に酸素を送り込んで大きくして、風で火の粉を散らしてより広く延焼させるの。
元に戻せないなら、みんな燃やして、空高く送ってあげよう。……だって、こんなのあんまりだもん。仇は、取るよ。

ユアさんと灯くんが道を切り拓いてくれたら、【ダッシュ、早業】でその道を駆け抜けるよ。……かっこいいなあ、ふたりとも。
あ、火が広がりすぎたら姫ねぇさまに鎮火して貰おっと。


皐月・灯
【SSFMα】

人の死骸を花に変える……何が救いだよ。
ここの花はみんな、殺された連中の血と悲鳴だ。
……オレの目には、泥の色にしか見えねー。


挨拶は後だ。道を拓くから手伝え。

空気中にある毒素は炎で焼いて無害化して、気流で押し流しゃ良い。
シャルの炎と花雫の風で十分片付くだろ……思ったよりやるな、あいつら。
甘く見てたわけでもねーけど。
じゃ、後は残った花から新しく出る毒素だが――。

斬り込むユアに合わせて、【属性攻撃】で《焼尽ス炎舌》を発動するぞ。
燃え残りは、オレが纏めて焼いてやる。
世話焼かすなよな。アンタの剣速が鈍っちゃ、困るんだ。

灰を、少しだけ握っていく。
……「連れてけ」って、言われた気がしたんでな。


ユア・アラマート
【SSFMα】

花というのは、人を癒やしたり死者への手向けになるっていうのにな
まさか、散らすことが手向けになるなんて事があるとは思わなかった
シャルも来てくれて助かったよ
急ごう。これ以上、咲かせるわけにはいかない

進むなら花をどうにかしないといけないね…シャル、花雫。すまないが任せたよ
二人が火を放ち炎を煽る間に術式を作動
「属性攻撃」「全力魔法」で風の術式を高めて纏い、速度を底上げした体で「ダッシュ」を駆使して突撃
呼吸をできるだけ止め、毒素を吸わないように留意
花を、それを燃やす炎ごと切り払いながら道を切り拓く
ああ、ありがとう灯。私も、お前がサポートしてくれるなら前を見ていられる
一気にいくぞ、ついてこい


シャルロット・クリスティア
【SSFMα】

…あぁ、皆さん。お待ちしてました。
そうですね、挨拶は後で。まずは先を急ぎましょう。
皆さんが調査している間、ここで目立たないように張っていたのですが……流石に一人ではここを抜けられても敵の相手は厳しかったもので。
そちらの首尾は心配してませんでしたよ。信じてましたので。


あの花は毒素を放っていますが、基本的に吸わなければ大丈夫そうですね。
離れて処理すれば安全の筈。
少々心苦しいですが…炎爆弾を使って、まとめて焼き掃いましょう。
奥への道を開くように撃ち込みます。大丈夫、お任せください。
これでも風向き次第では安心はしきれませんが…続きは皆さんにお任せしますね。皆さんに追従します。



 灯と花雫、ユアはその後も行動を共にしていた。
 館の東側、花畑と裏口とを同時に見通すことのできる一角。身を潜めて様子を窺っていた金髪の少女が、ユアたちに気づいてするりとその身を現した。
「ああ、皆さん。お待ちしていました」
「すまない、遅くなった」
 小銃を携えたシャルロット・クリスティア(マージガンナー・f00330)は、ユアの背後に佇む二人組に向け軽く頭を下げる。口を開こうとするそれを制し、灯は鋭い眼差しを花畑へと差し向けた。
「挨拶は後だ。道を拓くから手伝え」
「ちょっと灯くん!」
 簡潔な物言いは場に相応しいが、言い方というものがある。咎める花雫に、しかし当のシャルロットは静かに首を横に振る。
「いえ。そうですね、挨拶は後で。まずは先を急がなければ」
 シャルロットにも状況のすべては伝えてある。
 村人たちの救助、禁術の対処は一通り済んだこと。敵は毒の花を越えたその向こうで、今も二人との村人をその手にかけようとしている。一刻も早く駆けつけなければならないが、ひとつ、問題があること。
 だが、シャルロットからも有用な情報が齎された。
「少し、調べてみました。あの花は花粉として毒素を放っているようですが、基本的に吸わなければ大丈夫そうです。離れて処理すれば安全の筈です」
 現に、風上に当たるこの場所では毒の影響がない。
「そうか。だったら手はあるな」
「ああ。シャルも来てくれて助かった」
 四人は目を見交わし、即座にその後の方針を決めた。

 時刻は既に深夜に差し掛かっている。
 歩み寄れば、その花たちの姿が四人の目にも明らかとなった。花弁のつくりや葉の形は必ずしも一様ではなく、同種とは言い難い。だが、押しなべてその色は白く――あたかも元の人間の背丈をそのまま写し取ったかのように、背が高かった。
「では頼んだ、シャル。口火はお前が切ってくれ」
「ええ、お任せを。少々心苦しいですが……まとめて焼き掃いましょう」
 シャルロットがライフルを構える。
 スコープ越しに、物言わぬ花が静かに揺れる景色を見た。オブリビオンの身勝手さで殺され弄ばれた無辜の民の亡骸だ。あれは、……死者たちの花。
「終わらせます。――花雫さん」
 準備はいいかと問う青い瞳に、花雫は「いつでも!」と強く拳を握って応えた。
 ――そして、シャルロットのライフルから、一発の弾丸が放たれた。闇夜を裂いて花たちの渦中に着弾した弾がその瞬間、激しい炎爆となって炸裂する。爆風が花を薙ぎ、猟兵たちの髪を搔き乱す。
「来て、姫ねぇさま!」
 少女の呼び声に応えて召喚された風の精霊が、炎の元へと吹きつける。
 それは送り火だった。風が炎の進む道を示せば、火焔が地面を舐めるかのようにして花たちを焼いていく。舞う火の粉が、空気中の毒素を焼却して清めていく。
「空へ、送ってあげるから」
 その命を取り戻すことはできないけれど、その声を聞いてあげることもできないけれど。せめて、空高くへと送ってあげよう。舞い上がる火の粉たちを見上げる花雫の肩を、灯が軽く叩いた。よくやった、とでも言うように。
 花の群れに、炎で彩られた一筋の道が作られていた。
「次は、オレらの番だ」
「ああ。一気にいくぞ、ついてこい」
 炎に照らされながら不敵に笑い、ユアの脚が強く大地を蹴る。
 後を追う灯の目には、女の全身を風の魔術が渦巻いているのが見えた。まるで、ひとの身に押し込められた暴風の嵐のようだ。
 シャルロットの術式刻印弾・炎爆(ルーンバレット・ブラスト)と、花雫の姫ねぇさまの助力によってルートは凡そ確保できた。だが、すべてではない。取りこぼされた花が行く手を阻むのを切り払わんとして――横合いから、少年が一歩先んじる。
「アンタの剣速が鈍っちゃ、困るからな!」
 一呼吸。業火の術式を纏う拳が、空を穿つ。酸素を貪りながら、それは紅蓮の蛇のごとく空中を駆け抜けていく。ユアがからりと笑った。
「ああ、ありがとう、灯。お前のサポートがあるなら、私はこちらに集中できるな。――先に行くぞ、花雫、シャルロット!」
 更なる魔力を回路へ流し、押し込めてあったそれを開放する。銀色の妖狐の体躯が、一陣の突風となって駆けていった。

「……かっこいいなあ、ふたりとも」
「あれにはちょっと、追いつけませんね。とはいえ、私たちものんびりはしていられません。急ぎましょう」
「うん!」
 シャルロットと花雫もまた、後を追い駆けだした。
 姫ねぇさまが背を押してくれる。だから花雫は、ただ自らの逸る気持ちに従って真っ直ぐに直走った。
 ――こんな悲しいばかりの花、間違ってる。あたしは絶対に認めない!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユハナ・ハルヴァリ
毒。
それなら、毒の粒子を凍らせて、地に落としながら
先に進むよ

…天使
それから、天使の作る人の花
どこにでもあるのか、こんな事が
暗がりで揺れる白い花。
何処までもましろの、立ちこめる甘い香りと、死の──
目眩がするよ、ルイーネ
その手の代わりに、赤の守り石を掌に握って

急がないといけないのはわかっているから
今はただ此処を駆け抜けて
叶うなら、全て終わったら
この花達を凡て燃やして、弔おうと思うよ
もう戻れないのなら、終わらせて
祈るから
口を上るのは春の歌、送る歌
せめてせめて、その花を揺らすのが、冷たい風ばかりでないように。



 甘い花の香りが漂っていた。
 何も知らないままであれば、佳い香りだと思えたのだろうか。嫋やかに揺れる花頸を、透き通るような葉脈を、奇麗だと思えたのだろうか。
 今はもう、ここが死の寝床だと知っている。
「…………」
 混迷の闇に覆われた世界、ダークセイヴァー。魔獣と異端の神々が跋扈し、オブリビオンに支配された希望なき世界で、人々は常に怯えている。今日死ぬのは己か、明日死ぬのは愛する人か、と。
 この世界において、ひとの命など塵に等しい。誰もその価値を知らず、尊さを語らない。
 ――そう、こんな悲劇はこの世界ではありふれている。
「……眩暈が、」
 するよと、言葉は形にもならなかった。
 つなぐ先を探して彷徨う手が、胸元の赤い石を固く握りしめる。彼の名を呼ぶ声が、幸いを希う声が、聞こえただろうか。
 ただ、こどもはその一歩を踏み出した。

 冬の魔力を帯びた魔杖を、その場に静かに突く。
 ただそれだけで、杖の足元からその冱えたしろがねの息吹がさやと音を成して舞い上がった。空中を伝い、周囲を瞬く真に冬の色へと染め上げていく。
 そして小さな魔術師は大地を蹴った。
 彼が駆けるのと同時に、はらはらと凍てついた毒の粒子たちがあたかも白い粉雪のように舞い、砕け、散っていく。氷片を巻き上げ、爪先で蹴散らしながら、ユハナはひたむきに走った。走り、歌った。
 それは見送る歌。いつの日かこの世界にも訪れるはずの、柔らかな光の季節。死者たちへ手向ける、春の歌声だった。

 すべてを終えたその時には、きっと相応しき弔いを。静かな眠りを。
 そのために今は、ただ祈りを。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『救済の代行者・プレアグレイス』

POW   :    黒死天使
【漆黒の翼】に覚醒して【黒死天使】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    鏡像の魔剣・反射
対象のユーベルコードを防御すると、それを【魔剣の刃に映しとり】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    鏡像の魔剣・投影
【魔剣の刃に姿が映った対象の偽物】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリーヴァルディ・カーライルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●みっつめの扉
「――ようこそ、招かれざる客人たちよ。あなた方も救いをお求めですか?」

 駆けつけた君たちの目に映ったものは、白き翼持つオブリビオンと、その足元に倒れる老婆の姿だった。
 よもや、と猟兵たちの間に緊張感が走る。
 だが、老婆はまだ命の灯を消してはいなかった。喘ぎ、土に爪を立てながら、滂沱の涙を流して食い入るようにオブリビオンを睨みつけている。花の毒で身動きもままならぬようではあるが、まだ、生きていた。

 ……ああ、けれども。
 地面でひしゃげた白い花に、気づいた者はいるだろうか。老婆とともに連れ出されたはずの、こどもの姿がどこにもないことに。
 うめく老婆の怨嗟の声を、聴き留めた者はいるだろうか。
 ――たった今踏み躙られた、ちいさな命の名を呼ぶ声を。


 残すは敵オブリビオンの撃破のみ。
 老婆はだれかが安全な場所へと避難させたものとして扱っていただいて構いません。
ノワール・コルネイユ
花は最早、何も語らない
痛みに呻くことも、喪失の悲しみに嘆くことすらも
お前はそれこそが救いだと言うのだろう

敵への【殺気】は隠すことなく
気を惹くことを目的に果敢に仕掛ける
周囲の猟兵からの致命の一撃が入る機会を作るよう善処する

偽物からの攻撃は【第六感】を頼りに対処

UCは攻撃回数重視で発動し
【2回攻撃】で手数を増やして休む隙を与えない様に連続攻撃
相手を捉える事が出来たなら【傷口をえぐる】痛みで動きを止めるのも狙う

花は何も語れないんだ
今を生きる喜びも、誰かを慈しむ想いも

確かに苦痛からは解放されただろうな
だが、お前は彼女らの希望まで一緒に摘み取り、踏み躙ったんだ
…思い上がるのも大概にしろよ、この阿呆め



「花は最早、何も語らない」
 彼らはもう、痛みに呻くことも喪失を嘆き悲しむこともない。
「お前はそれを救いと言うのだろう」
 この世界においては、それは確かに一種の安寧ではあるのだろう。闇の貴族を片親に持ち、産まれ堕ちてこの方をこの世界で生きてきたノワールはそう呟き、銀の剣を抜き払った。
 二本一対、血の贖いによってこの世の災厄を打ち祓う、夜の狩人たる彼女の愛剣の片割れだ。
 冴え冴えと月を照らすその双剣を手に、ノワールは研ぎ澄まされた殺気を纏い、オブリビオン――救世を騙る天の遣い、プレアグレイスへと斬りかかった。甲高い音を立て、魔剣が斬撃を一度は防ぐ。だが、攻勢は一撃では終わらない。
「――……!」
 二度、三度、――いいや、目にも止まらぬほどの速さで彼女は剣を振った。まさに縦横無尽、闇夜に幾筋もの剣筋が閃く。
「どうした、この程度で防ぐのも精一杯か!」
 鮮血の眸を眇め、ノワールが嗤う。
 ク、と目元を引き攣らせながら、プレアグレイスもまた華奢な体躯に見合わぬその長剣で攻勢を受けるが、勢いに飲まれたかのように徐々にその足元は土を踏み、後退していく。それを見逃すノワールではない。更に勢いを増し、斜上から鋭く剣を振り下ろし――。
「小癪なことを……!」
 プレアグレイスの剣が、ノワールの剣を重く跳ね上げた。空中へ弾き飛ばされた己が長剣に息を呑んだ瞬間、ノワールの肩口を剣の切っ先が掠める。かすかに血飛沫が飛び、狩人の体制が揺らぐ。
 危ない!と、付近にいた猟兵の誰かの声が響く。だが――。
「ふ、ざけるな……!」
 崩れかけた体勢のまま、ノワールは低く片足で踏切り、前方へと突っ込んだ。プレアグレイスへ向けて体当たりをする勢いで肩からその身を押し倒す。二人して地面へと縺れ込んだかと思えば、酷く乱雑な動作でノワールが右手を振り上げ。
「あああああっ」
 プレアグレイスの咽喉から、悲鳴が迸る。その薄い腹に、銀色の短剣が深々と突き立てられていた。臓腑をぎちぎちと抉るように、ノワールは握りしめた手に力を籠める。
「花は、何も語れないんだ」
 捻る。
 プレアグレイスの躰が、びくんと反射で跳ねた。
 まるで手弱女のようなその白い咽喉を間近に、ノワールは荒く息をつく。
 花は語れない。痛みや喪失を忘れる代わりに、些細な喜びやいつかの希望すら、失うのだ。それは違うことなき、永劫の牢獄だろう。
「……思い上がるのも、大概にしろよ、この阿呆め」
 燃える目で、吐き捨てた。

 腹部から血を滴らせながら、プレアグレイスはよろめき立ち上がった。
 その全身を、漆黒の靄が覆っていく。
 作り物めいていた青い眸は、爛々と輝く異形の色を成し。その真白き翼も、瞬く間に闇へ染まっていく。
 これこそが彼女の真の姿なのだろう。禍々しきその姿に、天の御遣いを思わせる面影は最早欠片もなかった。
 救世の代行者、その名は――黒死天使、プレアグレイス。

成功 🔵​🔵​🔴​

アウレリア・ウィスタリア
老婆の嘆き、怨嗟の声に
ボクは、私は私を思い出す
「なぜ?どうして?」
そう嘆いた日々を

【蒼く凍てつく復讐の火焔】
拷問具である鞭剣の刀身に炎を纏わせ斬りかかる

すべてを凍てつかせる真冬の風のように地を駆け抜け
「敵」の防御の上から、映し取ろうとする魔剣を凍りつかせて
何も映すことが出来なくなるほどの氷で縛り付ける

映し出されたニセモノがいれば
血糸レージングで縛り上げ
一瞬の隙でもあれば鞭剣を振るい凍てつかせ焼き尽くす

私が復讐すべき「敵」
理不尽を振りかざし己の利のみで他者を傷付ける「敵」
私の刃は、私の焔は、私の敵を滅するためにある

老婆を助け出すことが出来れば
花々に向けて鎮魂歌を
せめて安らかな眠りを…

アドリブ歓迎


寧宮・澪
……腹が立つ。

嘆きが、怨みが、救いを求める、声が、聞こえてて。
そういうことをするというのなら。
それを背負って、躯の海へ、沈むがいい。

謳って、【謳函】。
撫でれば流れるのは、勲しの詩。
あいつを倒す。
死者の花々に安寧を。
【覚悟】、【鼓舞】、【祈り】。
すべて込めて、【歌唱】、する。

何が、他者への救い。
そんなことは、お前にはできない。
お前しか救えない。
綿津見に沈め。
二度と上がってくるな。

(アドリブ、連携、歓迎)



「ああ、なんてことでしょう」
 天使は嘆息した。
 ぼとりと落ちた腸の代わりに、凝った靄がその穴を埋めていく。血塗れの手にだらりと魔剣を下げて、憎々しげに眦を吊り上げる。
「おまえたちには、か弱き者どもの嘆きの声が。――救いを求める声が、聞こえぬのですか」
 嘆かわしいと告げる死の天使を、空からふたつの声がぴしゃりと打った。
「――きこえています」
「――きこえるよ」
 風を連れて、澪とアウレリアはその場へ静かに降り立った。
 それぞれの翼でふわりと空を撫で、ふたりのオラトリオは黒死天使と相対する。
「ボクはその声を、よく知っています」
「嘆き、怨み、……救いを、求める声。そんなのは全部、全部」
「どうして、ボクが。どうして、私が。どうして、何故、と」
「お前が生み出した声ばかりが聞こえる」
「敵を殺せと、復讐を乞う声が聞こえるんです」
 アウレリアは携えた鞭剣に焔を纏わせ、敵を見据えた。傍らで、澪は小さな箱型のガジェットに指を這わせて再び舞い上がる。
 ああ、こんな嘆きの歌は、もうたくさんだ。
 互いの意思を通わせる僅かな一拍。――オラトリオたちは、同時に動いた。
「お前には、なにも救えない。救えるのは、お前自身のみだ。……謳って、謳函」
 澪がその細腕を空へ差し伸べる。小さな匣を介して、その喉から細く高らかに詩が響き渡った。それは、人知れず失われていった数多の死者たちへの弔いと――いいや、死者たちの怒りの声をも忘れるなと、その嘆き、苦しみ、悲しみを生み出した者を撃ち滅ぼせと、猟兵たちの覚悟を掻き立てる、猛々しき勲しの詩だ。
「私の刃は、私の焔は、私の敵を滅するために!」
 澪の支援を受けて、アウレリアはすべてを凍てつかせる真冬の風となって地を駆けた。
 鞭のようにしなる剣――ソード・グレイプニルを手首の一動作で撓ませ、ぴしりと鋭く伸ばす。刃には冷たく滾る火焔をゆうらりと宿し、剣の動きを精緻に支配しながらプレアグレイスの攻撃を捌いては払う。
 やがて、黒死天使は大きく湾曲して迫りくる鞭剣を避けるため、黒翼を広げて空へ上がった。すかさずアウレリアもそれを追う。
「逃がしません」
「逃げはいたしません。まあ、あなたは素直な子なのですね。わたくしには見えるのです。あなたの心の中にも、ほら……癒されぬ痛みがあるのでしょう」
 プレアグレイスが上空で剣を掲げた。
 月が白く照らし出す刀身に、ひたと敵を追う紫水晶の煌めきが映り込む。
 夜が揺らぎ、月に波紋が広がった。映し出した幻影が偽りの姿を結んで呼び出されようとしているのだ。
 だが、そのような間隙を与えるつもりはない。
「――捕らえました」
 その仮面の下で、果たして彼女はどんな表情を浮かべただろう。
 魔剣を鏡象と成すために動きを止めていたプレアグレイスを、瞬間、血の糸が絡めとった。揺らぐ幻影が霧散する。驚きに目を見開く天使を、絶対零度の蒼き火焔纏うつるぎが、蛇の如く打ち据えた。

 ――失墜。

 落下していく黒死天使を見下ろしながら、澪は静かに瞼を伏せた。
 ああ、まだ、死者の声は止まない。
 なにか救いだ。なにがか弱き者の求める声だ。そんなものは狂った妄信者の戯れ言に過ぎず、傲慢なる異端の神々は結局だれも救わない。
 電子の函から歌声が無情に響く。
 結びの一節、最後のフレーズは――。

「――綿津見に沈め」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


 漸う翼をはためかせたプレアグレイスは、地面への墜落を寸前で回避した。
 既にその傷は深い。だが、再び沸き起こる靄がその躰の不足を埋めていく。完全なる修復には足りないが、易々と討たせてはくれないようだ。
「なぜ、おまえたちは抗うのです」
 心底不可解そうに、天使は血塗れの首を傾げた。
 ぶら下げた長剣が、地面を擦り石を削る。ゆるゆると歩を進めて、ふ、と淡い笑みを口許に浮かべる。くすりと嗤った。
「まあ、よいでしょう。この程度でわたくしは斃せませんもの」
スピレイル・ナトゥア
「間に……合わなかった。私は間に合わなかったんですね」
凄く……凄くショックです
ひとを殺して花に変える禁術。そのひとの亡骸――その存在さえも遺さないその術は、いざ目にするとこんなにも残酷で物悲しいものだったのですね
「あなたのことは絶対に許しません!」
本来の私の力量だと1度に1種類の精霊しか扱うことができませんが、精霊の力を時間をかけて暴走させることで複数の精霊の力を扱うことを可能にします
防がれてしまったとしても、どうなってしまったとしても、もう関係ありません
「とりあえず、死んでください!」
怒りの感情のままに、その防御ごと正面から力任せに捻じ伏せてみせます!

「そんな……私の攻撃が防がれるだなんて」


エウトティア・ナトゥア
妹のスピレイル・ナトゥア(f06014)への攻撃を防ぎ、鏡像の魔剣・投影の偽物に反撃を行います。

スピレイルの攻撃が防がれたのかの?いかんのう反撃が来そうじゃ。
「全力魔法」使用。
秒間24回防げる風の障壁を連続発射して敵の攻撃を撃ち落とし、狼のマニトゥを使ってスピレイルを避難させるのじゃ。
これ、落ち着くのじゃ。戦場では常に冷静に…じゃよ。

「援護射撃」使用
風の障壁発射後、攻撃に紛れて視認しづらいうちに間髪入れずに手製の短弓で反撃じゃ。
わしの妹を可愛がってくれた礼じゃ。受け取るがよいわ。



 自然と祖霊への信仰に生きる部族の幼い子どもの目に、すべてはあまりに惨く映った。
 立ち尽くすスピレイルの青い瞳は、ただ、泥だらけにひしゃげた白い花を呆然と見つめている。胸の奥からなにか、痛いような気持ちばかりが込み上げてくる。
 ――こども、だと言っていた。
 あの老婆の家族なのだろう。孫だろうか。いくつくらいの子だったんだろう。私よりも年上か、それとももっと幼い子か。男の子か、女の子か。どんな性格の子だったのだろう。
 ――なにを、思っただろう。最期の、そのときに。
 もうわからない。ひしゃげた花は何も語らず、ひととしての骸さえ遺すことを許されず残酷に散らされた。
「間に……合わなかった。私は間に合わなかったんですね」
 ごうと、風が鳴った。
 スピレイルの周囲を、複数の精霊の力が渦を巻いて吹き荒れていた。通常のことではない。なぜなら、本来彼女は一度にひとつの精霊の力しか扱うことができない。正しく制御をし、正しく操ることが可能な範囲を知り抑制することもまた、精霊術士として重要なことだ。
 衝撃が強すぎたのだろう。心の枷から解き放たれた力が、荒々しき炎と、隆起する大地と、そして轟く雷鳴となってスピレイルの元から迸った。
「許さない。――許さない! あなたのことは絶対に許しません!」
 怒りのままに彼女はその力を振う。
「――いかん、スピレイル!」
 その怒りは猛々しくも、愚直だった。
 黒死天使の纏う闇の靄が、ぶわりと嵩を増す。身長の二倍三倍近くまでも膨れ上がった靄が、その中心に掲げられた黒剣が、スピレイルの撃ち出す精霊たちの猛威を余さず受け止め――跳ね返した。
 愕然とする少女を、押し戻された三種の濁流が飲み込もうと迫りくる。逃げることすら忘れたスピレイルの耳に、高らかな詠唱が聞こえたのはその時だった。
「風の精よ、全ての悪意から彼の者を護れ!」
 少女の眼前に、瞬時、淡く輝く風の障壁が幾重にも張り巡らされる。それらは凄まじい勢いで押し寄せた轟砲と鬩ぎあい、いくらかはその勢いを弱めさせはしたものの――防ぎきれず。
 風の壁を突き抜けた力の刃が、スピレイルを、いや、その身を守らんと立ちはだかった小さな体を切り刻んだ。
 鮮血が舞う。
「おいたが過ぎますよ、お嬢さんたち」
 プレアグレイスのやさしげな声など、耳に届いてはいなかった。スピレイルは倒れ込んできた“彼女”の体を受け止め、わななく唇で叫んだ。
「――お姉様!!」

「まったく……いつも、言っておるじゃろう。戦場では常に冷静に…じゃよ」
 妹とは異なる金の髪が、はらりと零れる。同じ赤茶けた肌の細腕が胸を押さえ、軽く血を吐いた。
 エウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)。スピレイルの双子の姉姫である少女はその緋色の瞳を痛みに眇めながら、苦々しげに黒死天使を睨んだ。
「わしの障壁を打ち砕くとはのう。咄嗟のこととはいえ、ちと甘く見過ぎたかの」
「お姉様、怪我が……」
「なに、これくらい平気じゃ。かすり傷じゃよ!」
 何が掠り傷なものか。案じる妹に向け、エウトティアはそれよりも、と注意を促す。
 プレアグレイスの黒剣が、静かに姉妹へ向けられていた。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

蛇神・咲優
おばあさんは助けれた事に安堵するも
もう一人の命を助けれなかった事に胸が痛む
愛刀を握り、一呼吸し整える

さあ、行こう。毒には毒使いを―――

毒に麻痺した人たちの苦しみ悲しみ恐怖を知らずに救いだと言う
目の前の天使を見て悲し気に表情をゆがめる先制攻撃

『人はまちがう生き物だって、だから…まちがっても生きていれば何度だってやりなおせる。ゼツボウしたから死して救おうってのが、まちがってるって―――さゆでもわかるコトをおしつけないでっ…!』

(―――おねがい、光景)

目立たないように死角へ
光景に祈るように握りUC発動してからカウンターを狙う
もしバレても残像などで攻撃を躱して少しでも傷口をえぐる
痛くても激痛耐性耐える


ユハナ・ハルヴァリ
救いは。
……それは、救いではないよ
この世界に光を射すなら
それは少なくとも、君の行いじゃない

連れ出された子の姿の代わりに、白い花
わかってる、わかってる
それがただ一筋の闇を払うだけの事だったとしても
この世界の何が変わる訳じゃなくても
それでも君を、殺します。

【フェイント、時間稼ぎ、誘惑、かばう】で相手を引きつける
ひとつ、息を吐いて短刀を一振り
魔術で編んだ氷はそれに纏わり大剣を成す
天使が剣を振るうなら交え、鏡像を撒くなら斬り伏せて
邪魔しないで。
斬撃と振りまく六花で動きを縛るよ
痛みも苦しみも感じないけど、代わりに渦巻くもやもやした気持ち
ああきっと、君を海に還しても
これが消えることはないんだろうな。



「僕が相手を、します。その間に、うしろへ」
 歩み出たのは冬の魔術師だった。
 手にした短刀を一振り、冱えし夜のもとに星と雪にて研磨された白銀の鉤が、氷を纏い凍てつく大剣と化す。凍気を放つそれを構え、ユハナは黒死天使の前に立ちはだかった。
「僕は。……死の痛みを、ほんとうには知らない。喪うかなしみも、知らない。でも、」
 氷の大剣とともに駆けだす少年の眸は、静謐だった。
 自分はどうやら、欠けたところがたくさんあるらしい。それでも。だれかがこの世から失われることで、べつのだれかが“あんな顔”をするのなら、それは。
「……君のそれは、救いではないよ」
 少年の振るう銀閃が、プレアグレイスの闇を打つ。金属の合わさる悲鳴が夜を裂き、氷の粉があたりに散った。大剣と氷の息吹をもって敵を翻弄していく。
 視界の隅に、こちらを窺いながら低く花影へ潜むしろがねが見えた。
 冬を編む。あえて避けられるだろうこと予測しながら形成す六花を放ち、同時に剣を横薙いだ。彼我の立ち位置を少しだけずらして、その視野を操っていく。
 耳元を裂く斬撃を気にも留めず、大きく踏み込んだ。
 この世界に射すべき光がどのような色かなんて、ユハナは知らない。世界を遍く蔽い尽くす、この闇の払い方なんて知りはしない。彼にできることはただ目前の敵を、ちっぽけな闇の欠片を、この身が纏う冬の息吹で白く塗りこめていくことだけで。
 それが、暗雲の空へとささやかな切れ込みを入れるに過ぎないとしても。なにを変えることにもつながらないとしても。
「それでも君を、殺します」
 迷いのないつめたい言葉を吐いて、ユハナは六花とともに敵の懐へと跳んだ。

 一際大きな白い花弁の袂で、咲優は機を窺っていた。
もう知っている。彼らの毒は、彼女を傷つけない。
 闇を祓うひと、つるぎを手に立ちはだかるひと、詩や炎を操り空を駆けるひと、猟兵の戦い方は様々で、ならばそれらを邪魔しないように自分にできることは何かあるだろうかと考えて、身を潜めた。天使は気にも留めなかった。
「もうすこしだけ、待ってて」
 打ちひしがれていた老婆へ、そして今も物言わず揺れる花たちへそう告げて、咲優は大切な脇差をぎゅっと握る。これがちいさな自分の、ちいさな牙だ。
 ――ちいさな牙とて、蛇の毒は毒。なにものをも、屠る毒。
 目の前に、ひとひらの雪が降ってきた。あの少年は咲優の存在に気がついている。恐らく、なにを狙っているかも見当をつけてくれているのだろう。常にこちらが天使の死角になるような戦い方を見れば、幼い咲優にもそれは伝わる。
 ――きっと、すぐだ。もうすぐ、その時がくる。

 空中を翻る六花の集いが、一斉に天使の身へ降り注いだ。
 黒死天使の髪を断ち、肩を裂き、乱舞する。黒きつるぎへと触れれば、忽ちその刀身を白き凍らせ封じ込めた。プレアグレイスは鬱陶しげに髪を振り乱し、剣から立ち上る靄で氷を剥がしにかかるが――遅い。
 ちいさな竜の子の牙が、さらなる凍土を呼び込んだ。
(―――おねがい、光景)
 違わずその瞬間を掴み取った咲優が疾駆する。気配に気づいたプレアグレイスが振り向きざまに薙いだ剣を、小柄な銀の影はわずかに身を伏せるだけで容易く回避した。祈りに呼応した蛇切光景がその絶対零度の冷気で敵の身を封ずるのに、瞬きひとつとて必要ない。
 ママたちが言っていた。ひとは間違う生き物だと。でも、間違うたびに何度でもやり直せる、それが人なのだと。
「ゼツボウしたから死して救おうってのが、まちがってるって―――さゆでもわかるコトをおしつけないでっ…!」
 天使の両脚は凍てついた氷で縛られている。避けられない。
 咲優は逆手に握った光景で、プレアグレイスの片腕を下から上へ、斬り払った。血飛沫が脇差のしろがねを、そのあるじのしろがねを、真っ赤に染める。肘下の半ばまでを斬られ天使はよろめき、すかさず靄たちがその腕へ集約されていく。
 それを、ユハナの大剣がずぱんと斬り落とした。
 雪花の上に、ほとりと赤い腕が落ちる。

 どうしてだろう。痛みも苦しみも感じないのに、なぜだかもやもやとした気持ちが渦を巻く。彼女を骸の海へと還してもきっと消えないこの感情を――呼び表わす名前を、ユハナはまだ知らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霄・花雫
【SSFMα】

……救い?これが?
っ、バカにしないでよ!あたしたちは!人は!苦しくったって生きてるの!自分で考えて、自分の足で歩いてるの!
アンタが一方的に与えたつもりになってる悪趣味な救済なんて、誰も必要としてない!

来て、姫ねぇさま!
風の精霊姫を喚んで、風の道を架けるよ。あたしの空の舞台。それに、……此処にも花があるなら、みんなに毒を吸わせちゃいけない。散らさなきゃ。
レガリアスシューズで風の道を蹴って、足元で大気を爆発させてより速く!全力で蹴り抜いてやらなきゃ気が済まない!【空中戦、パフォーマンス、全力魔法、ダッシュ、早業、見切り、第六感、野生の勘】

あたしが派手に動けばきっと隙が出来る。狙って。


シャルロット・クリスティア
【SSFMα】

……救い、と言いましたか。
えぇ、確かにこの世界で生きるのは苦しいものでしょう。
その結果の死が、安らぎとなることもあるでしょう。
しかし……その安らかな死は、苦しみに耐えて生き抜いたが故のもの。
生を全うすることすらできずに迎えた死が、救済だなどと……私は認めませんよ……!

後方より射撃攻撃。迅雷弾を使います。
雷『属性』の超高速弾……刀身程度で捉えられると思わないことです。
致命傷にならずとも、警戒させて私に注意を惹くことが出来れば、皆さんの『援護』になりましょう。
誰かが仕留めるための『時間を稼げ』れば、それでいいのです。
当然、隙を見せるようならその心臓、『狙い』撃ちますがね……!


ユア・アラマート
【SSFMα】

そうか。なら、私がお前にしてやることはこれだけだ
――救ってやろう。理不尽に与えられる死が救いであると、お前自身が体現してみせろ
心配しなくても、苦しめてやる

「高速詠唱」で風の術式を詠唱破棄で発動。仲間が気を引いている間に敵の視線外から背後を狙い接近
「属性攻撃」と「全力魔法」で風の力を高め、「ダッシュ」「忍び足」を駆使して
意識するのは花畑を突っ切った時よりも速く、静かに
麻痺に気をつけて呼吸は浅く、「暗殺」「先制攻撃」で至近距離まで迫り首に一閃
攻撃を防がれても「2回攻撃」で弾いた直後の隙を狙いカウンター

ほら、前は空けておいてあげるよ
お前も見ておけ、これがお前を救う連中の顔だからな


皐月・灯
【SSFMα】
そうだよな。
……この世界は、「そういう」場所だ。
どれだけ必死に生きようが、嗤ってそれを踏み躙る屑がいる。
絶望して、追い詰められて。
どうしようもなくなって……縋っちまうんだよな。
それが、絶対に触れちゃならねーヤツの手だとしても。

わかるよ、婆さん。わかるよ、死んでったヤツら。

……だから、あとはオレがやる。

【全力魔法】を発動。全身の魔力を両拳に回す。
息を止め、ヤツの懐へ突き進む。

偽物だ?
オレ達の誰を映そうが、手の内は知ってるぜ。
――そのために組んでんだよ。
邪魔者は、【カウンター】からの【衝撃波】でブッ飛ばす。

届かせろ、オレのアザレア・プロトコル。
この拳だけは、何があっても外さねー。



 花雫が風の精霊を召喚する。いいや、召喚なんて大仰な言葉は似つかわしくない。花雫が呼べば彼女はそこにいる。花雫が乞えば彼女は望みを叶えてくれる。彼女は風の精霊姫、姫ねぇさまと呼び慕う少女のこころに応えて、その架け橋となる者。
「全力でいけよ、花雫」
「灯くんこそ。こんなやつ、この脚で思い切り蹴りぬいてやらなきゃ気が済まないよ!」
 少女が空へ跳ぶ。
 少年は後に続くように地を蹴った。
 ――ああ、わかってるさ。わかってたさ。この世界が“そういう場所”だということは。
 薄青と橙、二色の眸が堪え難いほどの怒りを秘めて、昏く静かに輝いた。
全身を巡るすべての魔力を両の拳へと集約していく。彼の魔力を受け、ガントレットを彩る魔導塗料が熱く凍てつく光を放ち始める。
「だからって、許していいわけがねえだろ」
 絶望して、追い詰められて、どうしようもなく縋る手を。それが決して触れてはならない、更なる絶望の鎌だと知っていても縋らざるを得ないその気持ちを。
 ――わかるよ、婆さん。わかるよ、死んでったヤツら。
「……だから、あとはオレがやる」
 空を駆ける花雫の脚が、やわく透き通る翅を連れて縦横無尽にステップを踏む。片腕を失いただでさえバランスを欠いた天使の体躯を、鋭く蹴りつけ、すかさず背後へ跳び反撃を逸らす。
「この、世界の理も知らぬこどもが、虫けらのように!」
「うるせえ、虫けらはテメエの方だ――!」
 少年の拳打がプレアグレイスの胸を撃つ。呻き振り下ろされた斬撃が、灯の額を斜めに割いた。返す刃が襲い来る。
「避けてくださいね、灯さん」
 その声が鼓膜に届いたはずもないが、少年の体躯は素早く後退した。その瞬間、射線上の花を射抜きながら一筋の紫電がプレアグレイスの左の肩を穿った。劈く轟音があたかもスパークの如く響く。後方よりの狙撃――シャルロットだ。
「命中。……ですが、少し外しましたね。次は心臓を狙います」
 静かに呟き、再び狙撃の構えをとる。
 主なる意図は灯たちの支援だった。敵の攻撃を阻害できれば、それだけ彼らが仕掛けやすくなるだろう。だが、隙さえあれば無論、その心臓に弾丸の花を咲かせてみせよう。
 ――確かにこの世界で生きるのは苦しいものでしょう。
 シャルロットは戦況を見定めながら、心中で呟く。
 彼女とて、この世界においては時に死こそが安らぎとなることを知っている。それ程に生きるは難く、辛く、苦難の連続だ。だが、そうして得られる先の安らかな死とは、苦しみに耐えて生き抜いたが故のものであるべきだと思う。
「生を全うすることすらできずに迎えた死が、救済だなどと……私は認めませんよ……!」
 至近からは灯と花雫が、激昂しようとも刃も届かぬ遠距離からはシャルロットの魔導銃がプレアグレイスの身を狙う。
 だが、黒死天使もまた必死だった。その救済をこの場の誰もが否定しようとも、御遣いたる身は、命は、ただ世界の救済のためにある。少なくとも、彼女自身はそう信じているのだ。
「なのに何故、おまえたちは認めないのです!」
 爛と煌く眸で、プレアグレイスは剣を掲げた。
 再び放たれた雷鳴の弾を刀身が弾く。――弾き、その力を写し取った。ぼうと災厄の色に輝く刃を一振りすれば、反射されたシャルロットの迅雷は仲間の身を撃ち据えた。
「きゃああっ」
 奔るスパークが花雫の華奢な体を撃ち抜き、彼女は花畑の只中へと放り出された。その光景を目にして、シャルロットもまた悲鳴を上げる。
「花雫さん!」

「そうか。お前がそう信じ抜くのなら、応えてやろう」
 ユア・アラマートは駆けた。
 そう、彼らの布陣にはいてしかるべき人物を一人欠いていた。銀色の狐は、プレアグレイスが仲間たちとの攻防に気を取られている隙に闇へと身を潜め、花から花へと影を縫うようにその背後をとっていた。
 周囲の花たちの咽かえるような匂いは、彼女の纏う特徴的な花の香を混じり合わせ、気配をも掻き消してくれただろう。天使の意識が完全に逸れた、と確信した瞬間。ユアは最後の加速により一足飛びでその至近距離へと迫った。
「――救ってやろう。理不尽に与えられる死が救いであると、お前自身が体現してみせろ」
 プレアグレイスが気づいた時には、もう遅い。
 夜の花はもう、影の中に。
「――……!」
 しゅるりと巻きついた白い腕が、天使の細頸を捕らえる。女の吐息が耳を擽った瞬間、その首をダガーが掻き切った。
 血が飛沫となる。だが、ユアは捕らえた腕を決して放さなかった。
「ほら、見ておけ。これがお前を救う連中の顔だからな」
 女がうっそりと哂う。
 自らの首から噴き出す鮮血の中、黒死天使が最期に見たものは。

 ――その命脈を穿ち、救うだろう、灯の滾る拳だった。

●花は語らず
 すべては終わった。
 雲間から細く射す月明かりが、無言の花を静かに照らしている。
 猟兵たちは傷ついた身を簡易に癒し、老婆の手当てをし、あるいは彼女になにがしかの言葉をかけ――最後の弔いを、行った。
 村人たちの望むように、花を弔い、ひとを弔った。
 手向けの言葉を残す者もいただろう。歌を捧げた者もいるだろう。なにも告げず、ただ背を向けた者もいただろう。
 残されたひとびとは、また苦難の明日を生きねばならない。
 たったひとりの孫を失った老婆とて、明日が訪れることを拒めはしない。

 暗雲は昏く、夜毎の悪夢は何度でも訪れる。
 それでも朝日が昇ることを、切に願った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月08日
宿敵 『救済の代行者・プレアグレイス』 を撃破!


挿絵イラスト