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地獄から来た奴ら

#アリスラビリンス #【Q】 #お祭り2020 #ハロウィン #一人称リレー形式 #飯テロ

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#【Q】
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#ハロウィン
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#飯テロ


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●アリスラビリンスにて
 異形の怪人たちが森の中を行く。
 いや、『怪植物』と呼ぶべきか?
 一応は人の形をしている。しかし、衣服から覗く手足は、何本もの蔓が絡み合って構成されたもの。そして、頭部は巨大なカボチャ。
 カボチャの表面には大小いくつかの亀裂があった。
 ある亀裂の奥では、不気味な光が灯っている。おそらく、目だろう。
 最も大きな亀裂には、乱杭歯が並んでいる。間違いなく、口だろう。
 その口の周りは血に染まっているが、本人(本カボチャ)の血ではなさそうだ。衣服を汚している血も。手(蔓)にした鉈に染み付いてる血も。
 しかし、それほどまでに凄惨で不気味な姿をしているにもかかわらず、彼らの行軍は滑稽なものに見えた。
 衣装に問題があるからだ。
 ある者はナース服を着ていた。
 ある者はスクール水着を着ていた。
 ある者はCAの制服を着ていた。
 ある者はチャイナドレスを着ていた。
 ある者はセーラー服を着ていた。
 当然のことながら、誰一人として似合っていない。そう、誰一人として。
 当人(当カボチャ)たちはまったく気にしていないようだが……。

●グリモアベースにて
「やっぱ、パンプキンパイにはシナモンティーだよなー」
 伊達姿のケットシーが猟兵たちの前でパンプキンパイを囓り、シナモンティーを啜っていた。
 グリモア猟兵のJJことジャスパー・ジャンブルジョルトである。
 パイの最後の一片を口に放り込み、肉球マークカップを傾けてシナモンティーをごくごくと飲み干した後、JJは本題に入った。
「迷宮災厄戦が終わって間もないっていうのに、まーたアリスラビリンスで面倒なことが起きちまった。『ハロウィンの国』ってのがいくつもの発見されたんだよ。それのなにが面倒かっていうと……どうやら、ハロウィンの国々を生み出したのはオウガ・オリジンらしいんだ。迷宮災厄戦で倒される前、強力な現実改変ユーベルコードを使って、ゼロからハロウィンの国を作ったり、既存の国をハロウィンの国に変えたりしてたらしい」
 ハロウィンの国というだけあって、そこはハロウィンのパーティーにうってつけの世界。カボチャのランタンたちがお喋りをして、仮装用の衣装が飛び出す森があり、仮装行列用の長い道が敷かれ、おかしやごちそうのための食材が完備されたキッチンまであるという。
 しかし、華やかで楽しげな雰囲気に騙されてはいけない。
 オウガ・オリジンから直に力を与えられた凶悪極まりないオウガたちがいるのだから。
「そんなハロウィンの国の一つに行って、オウガどもを退治してほしいんだ。しかし、普段とは勝手が違う戦いになるかもしれないぜ。オウガどもは仮装してるからな」
 もちろん、伊達や酔狂で仮装しているわけではない。仮装用の衣装を着ることでハロウィンの国の魔力の恩恵を受けているのだ。
「ハロウィンの国にある不思議な森――そこの木々から飛び出してくる衣装を身に着けると、戦闘力が高まるらしい。だけど、こっちが一方的に不利ってわけじゃない。おまえさんたちもその衣装を着たら、同じようにパワーアップするはずだ」
 衣装を得るのは簡単。強く念じれば、猟兵に合ったサイズの衣装が森の中から飛び出してくる。
 ただし、衣装の種類は指定できない。
「冗談にしか見えない衣装とか、年齢や性別を考慮してない衣装とか、そもそも『衣装』と呼べるのかどうか怪しい衣装とか、色々とヘンなものが飛び出してくるかもしれないけど……まあ、大丈夫だろう。うん、大丈夫だ」
 この時点で何人かの猟兵たちは確信した。これ、絶対に『大丈夫』じゃないやつだ、と……。
「厄介なことにオウガたちの中にはボスクラスの強力な奴がいる。そいつは他のオウガのように仮装はしてないが、ハロウィンの国のなんだかよく判らない法則によって、ほぼ無敵状態になってやがるんだよ。しかし、倒す方法はあるぜ。それは――」
 意味もなく、猟兵たちに指を突きつけるJJ。
「――美味しい料理を食べさせることだぁーっ!」
 前述したようにハロウィンの国には食材完備のキッチンがある。ボスの激しい攻撃に耐えつつ、そのキッチンで美味しい料理を作り、ボスに差し出すのだ。ボスはその料理を(これまた『ハロウィンの国のなんだかよく判らない法則』のせいで)食べずにいられない。そして、食べているうちに睡魔に襲われ、ついには完全に眠ってしまうだろう。
「眠っちまうと、無敵状態は解除される。そうなったら、こっちのもんだ。サクッと一撃でかたづけることができるはずさ」
 こともなげに言ってのけると、JJはグリモアを取り出し、転送の準備を始めた。
「さーて、コスプレ&クッキングの戦場にごあんなーい!」


土師三良
 土師三良(はじ・さぶろう)です。
 このシナリオは2章で完結する期間限定のシナリオです。10月31日までに成功した同種のシナリオの本数に応じて、ハロウィンパーティー当日と、やがて始まるであろうアリスラビリンスでの対猟書家戦になんらかの影響があるかもしれません。

 第1章は、カボチャ男たちとの集団戦。敵は(色々とトチ狂った)衣装を着てパワーアップしていますので、対抗するために猟兵側も仮装してパワーアップしましょう。
 衣装は森から飛び出してきますが、望みのものが出てくるとは限りません。というか、ぜっんぜん望んでいない衣装が出てきます。ほぼ確実に。
 しかし、「本当はイヤだけど、勝つためにしょうがなく着るんだからね!」というようなプレイングであれば、ボーナスがじゃんじゃんつきます。
 PCが着ることになる衣装はプレイングで指定してください(たぶん、版権的にヤバい衣装やエロい方向に振り切れてる衣装は不採用にします)。指定がない場合、PCが望んでいないであろう罰ゲームめいた衣装を私が考えます。ノークレームノーリターンでお願いしまーす。

 第2章は、強面のボスとの戦い。普通の戦い方では勝てないので、オープニングでJJが述べた方法で対処するしかありません。故にプレイングは基本的に「料理を作る」か「攻撃を堪え忍ぶ」といった感じのもになるはず。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。

 ※基本的に一度のプレイングにつき一種のユーベルコードしか描写しません。あくまでも『基本的に』であり、例外はありますが。
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第1章 集団戦 『ブギーマン』

POW   :    惨劇の夜
自身の【カボチャのマスクの下の瞳 】が輝く間、【鉈】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    パンプキン・ウィップ
【どこまでも伸びるカボチャの蔦の腕 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    怨恨
自身が戦闘で瀕死になると【怨念で強化された自身の霊体 】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間
 この国のカボチャは畑ではなく、木に実る。
 しかも、誰かが手を加えたわけでもないのに、目と鼻と口を象った穴が穿たれている。
 そして、その虚ろな口でとりとめもないお喋りをするのだ。
「わー! オウガだよ! オウガだよー!」
「うん。オウガだね。おっかないね」
「だけど、格好がヘンテコだな。とっても、ヘンテコだな」
 木々の枝で言葉を交わすカボチャたち。
 その眼下をオウガの群れが行く。彼らの頭もカボチャ型だが、お喋りカボチャのそれとは違い、凶悪な顔つきをしていた。
 もっとも、お喋りカボチャが言うところの『ヘンテコ』な衣装を着ているため、凶悪さが滑稽さに負けてしまっているが。
 そんな彼らの前にいくつかの人影が現れた。
 JJによって転送された猟兵たちだ。
「わー! 誰か来たよ! 誰か来たよー!」
「うん。来たね。強そうだね」
「格好もヘンテコじゃないな。ぜんぜん、ヘンテコじゃないな」
 そう、猟兵たちは『ヘンテコ』な衣装など着ていなかった。
 この時点ではまだ……。
 
リュアン・シア
そうね、パンプキンパイにはシナモンティ。あとはバラの形の角砂糖かしら。
それにしても、オウガだけじゃなくて私達にも戦闘力の高まる衣装を提供してくれるなんて、なかなか気前の良い国なのね。……ちゃんと着られるものが出てくるんでしょうね?(一抹の不安)

いいわ、とにかく着るから、衣装を頂戴。

……何よコレ。
ただのまるごとカボチャじゃないの。
え? サイズぴったり? 言われてみればそう……、違うわよ、カボチャになってみたいとか思ってないわよ!

もう! いいわ、さっさとやっつければいいんでしょ!
【執着解放】、解放してあげるわ――カボチャから。
蔦の腕とか、随分斬りやすそうね? 高速の斬撃と衝撃波で吹き飛びなさい。



●リュアン・シア(哀情の代執行者・f24683)
 カボチャのランタンが実る木々の間をカボチャ頭の怪人たちが歩いてる。血に濡れた鉈を手にして。
 ハロウィンらしい不思議かつ不気味な光景ではあるのだけれど……怪人たちの衣装がセーラー服だのナース服だのといった代物だから、緊迫感に欠けるわね。
 とはいえ、間の抜けた格好をしているからといって、油断はできないわ。奴らは衣装のおかげでパワーアップしているらしいから。
 もっとも、条件はこちらも同じ。オウガだけじゃなくて、猟兵である私たちにまでパワーアップの衣装を用意してくれるなんて、気前の良い国だこと。ちゃんと着られるものが出てくるかどうか、ちょっと不安だけど……大丈夫よね? 大丈夫……よね?
「わー! なにか飛んできたよ! 飛んできたよー!」
「うん。飛んできたね。凄い勢いだね」
「そこのお姉さんにぶつかっちゃうな。避けないと、ぶつかっちゃうな」
 と、近くの木の枝でカボチャのランタンが騒ぎ出した。
 最初の二人(二個?)が言ったことは本当。横手から『なにか』が『凄い勢い』で飛んできた。
 でも、三人目(三個目?)の言葉は間違い。避ける必要はなかった。その『なにか』は急停止して地面に落ちたから。
「……なによ、これ?」
 私はまじまじと『なにか』を見た。
 それは大きなカボチャ……いえ、カボチャを模した着ぐるみだった。頭と手足を出すための穴が穿たれ、背面にファスナーが設けられている(というか、ファスナーが設けられているから、背面だということが判ったのだけれど)。
「もしかして、これを着ろってこと?」
 思わず天を仰ぎ、誰かに問いかけた。もちろん、答えは返ってこなかったけど。
 怪人たちに視線を移した。皆、足を止め、こちらをじっと見ている。なぜだか判らないけど、これを着込むまで待ってくれているみたい。
「わー! カボチャの衣装だよ! カボチャの衣装だよー!」
「うん。カボチャだね。僕らとお揃いだね」
「似合うだろうな。絶対、似合うだろうな」
 例のランタンたちが好き勝手なことを言ってるけど……えーい! もう判ったわよ! 着ればいいんでしょ、着れば!
 私はカボチャのファスナーを開けて中に入り、五つの穴から頭と手足を出した。オーダーメイドかと思うほどにサイズはピッタリ。それがまた妙に腹立たしい。
「ギ、ギギ、ギギギ……」
 怪人たちが呻き声とも唸り声ともつかないものを発しながら、また動き始めた。やっぱり、着ぐるみを纏うまで待ってくれていたのね。だからといって、感謝するつもりは毛頭ないけど。
「ギギッ!」
 呻き声/唸り声を叫び声に変えて、何体かの怪人が腕を突き出した。
 いえ、突き出した瞬間、それは腕ではなくなった。絡み合っていた蔓が解けたから。
 蔓は物理法則を無視して伸長し、目にもとまらぬ速さで迫ってきた。
 ただし、この場合の目というのは常人のそれ。
 ユーベルコード『執着解放』を発動させた私の目には――
「――見えた!」
 猛スピードで伸びてきた蔓を私は躱した。体が羽のように軽いのは『執着解放』がもたらした高速移動の能力のおかげだけれど、着ぐるみによるパワーアップの分も無視できない。こんな物を着てたら、普通は動き難いはずなのに……。
「解放してあげるわ。カボチャから!」
 鋭い切れ味を有する衝撃波を私は飛ばした(これも『執着解放』の能力よ)。
 不可視の刃が走り、その軌道上にある蔓が次々と断ち切られていく。
 そして――
「ギギッ!?」
 ――軌道の終着点で大きなカボチャが真っ二つになった。言うまでもなく、それは怪人の頭のカボチャ。
 少し間を置いて、別の怪人の頭も割れた。そして、また別の怪人の頭も、更に別の怪人の頭も……そう、私が放った衝撃派は一つだけじゃなかったのよ。
「わー! あのお姉さん、強いよ! とても強いよー!」
「うん。強いね。さすがだね」
「惚れ惚れしちゃうな。本当に惚れ惚れしちゃうな」
 カボチャのランタンなんかに褒められても嬉しくないんだけど……。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴北・誉人
饗f00169と

ハロウィンだからトチ狂った服ってか

そんなもん着たいワケねえだろォ!(飛んできた衣装見る)こんなもん着たいワケねえだろォ!!(二回目)
マジで、き、着るしかねえンか…仕方ねえの?マジで言ってンだよな…なあ!返事してよ!なんでいねえのJJサン!
着りゃあ良いンか!着たくねえ!着りゃ良いンだろ!着たくねええ!!

心頭滅却うんたらってアレか
知ってっけどな!時と場合によるだろォ!

めっちゃ深い溜息
落ち着け俺
恰好は心底嫌だけど考えないよう頑張る

太刀を花弁にし戦闘を
手数が増えても、物理的な量はどうにもならんだろ
掻い潜ってくるようなら脇差で応戦

どんなトチ狂った罰ゲーム衣装でも(ケモ耳しっぽ以外)歓迎★


香神乃・饗
誉人f02030と

飛んできた衣装にじたばたしてる誉人に静かに衣装を着せていく
じたばたしてるのを気にせず丁寧に着せていく
誉人!JJさんっすか?代わりに着せておいたっす!似合ってるっす!(めっちゃんこいい笑顔
へっ?俺の分っすか?(既に着てた見知らぬお任せ服
ひゃっ!半纏どこいったっすか!?
この姿じゃないとダメなんっすか…はんてん(首を横に振っている

誉人も頑張ってるっす
俺も腑抜けてる場合じゃないっす!(両頬バシッ

花嵐の地形を利用し乱戦を武器を総動員しかく乱し暗殺するっす
伸びてくる蔦はフェイントをかけ団子にして使えなくしたり
苦無でいなし誉人に向かっていく敵を盾にして片づけるっす!
誉人には近づけないっす!



●香神乃・饗(東風・f00169)
「わー! 次はあのお兄さんたちの番だよ! あのお兄さんたちの番だよー!」
「うん。おの兄さんたちの番だね。どんな衣装を着るんだろうね」
「本人たちも楽しみにしてるんだろうな。心の底から楽しみにしてるんだろうな」
 木の枝に実っているカボチャのランタンさんたちが期待の眼差しをこっちに向けてるっす。
 だけど、『おの兄さんたち』の一人であるところ(もう一人は俺っすよ)の誉人は――
「いやいやいやいや! ぜっんぜん、楽しみじゃねえよォ!」
 ――ぶんぶんとかぶりを振って、ランタンさんたちの言葉を否定してるっす。それはもう全力で否定してるっす。
「あんなトチ狂った服なんか、着たいワケねえだろォ!」
 チャイナドレスだのスクール水着だのといった衣装(確かにトチ狂ってるっすね)を着たカボチャ怪人たちを指さす誉人。カボチャ姿のリュアンさんを指ささなかったのは武士の情けならぬ猟兵の情けっすかね。
 指をさされた怪人たちはまた動きを止めて立ち尽くしてるっすよ。リュアンさんの時と同じように着替えるまで待ってくれるみたいっす。親切心からの行為なのか、敵にもトチ狂った格好をさせて嗤いたいだけなのか……。
 とはいえ、あまりにもヒドすぎる衣装が飛んでくることはないと思うっすよ。少なくとも、人間用の衣装が飛んでくることだけは保証されてると思うっす。誉人は耳や尻尾を出してないから、人狼には見えないし、俺もヤドリガミの御多分に漏れず、外見は普通の人間と変わらないっすからね。
 ……と、思ってる間に衣装が飛んできたっすよ。ぴゅーん、と。
 誉人は、足下に落ちたそれを暫し見つめた後――
「こんなトチ狂った服なんか、着たいワケねえだろォーッ!」
 ――さっきと同じような叫びをさっきよりも大きな声で響かせたっす。
 嫌がるのも無理はないっすね。それは女の子用の衣装だったっすから。たぶん、UDCアースに伝わる『赤ずきんちゃん』という童話の主人公の衣装だと思うっす。赤い頭巾やスカートだけじゃなくて、バスケットまでついてるという凝りよう。
「なんで、よりにもよって、赤頭巾なんだァ!?」
「狼っぽいケモ耳や尻尾を忌避する誉人の心に反応して、狼の対極的存在ともいえる赤頭巾の衣装が飛んできたのかもしれないっすねー」
「適当なこと言ってンじゃねえよォ……」
 誉人は眉を八の字にして、ヘナヘナとくずおれるように体を屈め、赤頭巾の衣装を手に取ったっす。
 そして、それに袖を――
「マジで……き、着るしかねえンか……着りゃあ、良いンか! よーし、着てやンよ! ……でも、着たくねえ! でも、着なきゃいけねえンだよなぁ? でも、やっぱり着たくねぇぇぇーっ!」
 ――なかなか通さないっすね。意外と往生際が悪いっす。
「ねえ! これ、仕方ねえの? 着るしかねえの? なあ、返事してよ、JJさーん! なんでいねえのぉ!?」
 ついには、ここにいないJJさんに助けを求め始めたっすよ。
 怪人たちのほうはイライラと足踏みしながら、『早く着ろや』とばかりに睨んできてるっす(それでも攻撃してこないのは律儀というかなんというか……)。
 しょうがないっすね。俺がお手伝いするっす。
「落ち着いて、誉人。心を空っぽにするっすよ。そしたら、衣装のことなんてもう気にならなくなるっす」
「心頭滅却うんたらってアレか? そんなもん、時と場合によるだろォ!」
「今こそがその時と場合なんすよー」
 じたばたと暴れる誉人を宥めつつ、俺は赤頭巾の衣装を着せてあげたっす。なんだか、小さい子供を持った親の気分っすね。
「はい、できあがりー! うんうん。よく似合ってるすよ」
 と、俺がにっこり笑顔を披露したっていうのに赤頭巾な誉人はげんなり顔っすよ。
「よく笑っていられるよなぁ。自分だって、そんな格好してンのに……」
「そんな格好?」
 誉人の言葉に釣られて、自分の体を思わず見下ろしてみたら……えーっ!? いつの間にか、ヘンな衣装に変わってるっすよ!
 どういうことっすかぁーっ!?

●鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)
 本人も気付かぬうちに服装が変わっちまうとは……これがハロウィンの魔力ってヤツ? いやー、おっかねえなァ。
 で、その魔力の犠牲(?)になった饗はといえば――
「半纏! 半纏、どこいったっすか!?」
 ――いつも着てる赤い半纏が見当たらなくなったもんだから、パニくってるよォ。
「落ち着け、饗。心を空っぽにしろって。ほら、心頭滅却、心頭滅却」
「いやいや、今はシントーメッキャクしてる時でも場合でもないっすよー」
 とかなんとか言いながらも、饗はほんのちょっとだけ冷静になって、半纏に代わって体を覆ってる服を改めて見下ろした。
「なんすか、この白い服は?」
「割烹着に見えるけどぉ……いや、ちょっと違うか」
「頭がムズムズするっすよ。俺、もしかして帽子かなにか被ってるするんか?」
「気付いてなかったンか? 白い三角巾が巻かれてンだよォ」
 ……ってな具合に二人で頭を捻ってると、木の上のランタンたちのお喋りが聞こえてきた。
「わー! 給食着だよ! 給食着だよー!」
「うん。給食着だね。懐かしいね」
「給食の揚げパンが食べたくなってきたな。無性に食べたくなってきたな」
 キュウショクギ? あー、はいはい。UDCアースの学校で子供たちが配膳する時に着る服かァ(『懐かしい』ってことはランランたちも学校に通ってたのか?)。
「きゅ、給食着って……」
 衣装の正体を知った饗はなんとも情けない顔をしている。
「なんで、よりにもよって、給食着なんすか?」
「さあ? 饗は給食当番とかになると、張り切りそうなタイプだからじゃねぇの」
「俺、給食当番よりも飼育係のほうがいいっすぅ」
 いや、知らねえから。
「これって、配色が逆じゃないっすか? 普段は誉人が白で、俺が赤なのにぃ」
 気にするポイントがズレてねェ?
「あー! やっぱり、半纏じゃないとダメっす。半纏……半纏……」
 まぁーた、きょろきょろと半纏を探し始めたよぉ。
 しっかし、俺の赤頭巾といい、饗の給食着といい、芸人的視点ではそんなに美味しい衣装じゃねえよな(いや、そういう意味で美味しい衣装なんか着たかねぇけどォ)。爆笑を取るんじゃなくて失笑を買うタイプつーか、ボディブローや低温火傷みたにじわじわと精神的ダメージが溜まってく感じ。あー、こんなものを寄越した天の意思ってヤツをブン殴ってやりてぇ……いやいや。落ち着け、俺。心頭滅却、心頭滅却。これ以上、衣装のことは考えない。うん、考えない。
「ギギギ、ギギ……」
 お? 怪人どもが唸ってるよォ。こっちの戦闘準備(?)が整ったと判断して、動き出したか。
「ギギッ!」
 何体かの怪人が鉈を振り上げて、襲いかかってきた。カボチャの割れ目の向こうにある不気味な目が輝きを増してっけど、きっとパワーやスピードも普段より増してンだろうな。
 でも、俺のパワーやスピードも増してンだぜ。認めたくないけど、この赤頭巾の衣装のおかげだ。
 次々と繰り出されてくる鉈を俺は紙一重で避けて――
「舞い狂え」
 ――愛刀『唯華月代』を抜いた。斬り返すためじゃねえし、斬り返すまでもねえ。鞘から姿を現した途端、『唯花月代』の銀色の刀身は数え切れないほどの白い花片に変わったかと思うと、風に巻かれるようにして怪人たちにまとわりつき、体のそこかしこを傷つけた。
「俺も腑抜けてる場合じゃないっす」
 饗の声が後ろから聞こえた。それから、ぴしゃりという音も。たぶん、気合いを入れるために自分の頬を叩いたんだろう。
 俺が振り返るよりも先に饗は真横に並び、怪人どもめがけて苦無を投げた。でも、ただ投げたわけじゃねえ。手から離れた苦無は一つきりだったのに、怪人どもに飛んでった苦無は何十個もあったんだから。
「ユーベルコードでコピーしたンか?」
「そうっす」
 苦無の飛行編隊のうちの半分ほどは、俺の放った白い花々(ちなみに言っとくと、アネモネだ)の間を縫うようにして飛び回り、次々と怪人たちに突き刺さった。
 怪人たちも負けじと反撃。こっちに向かって、何本もの蔓を伸ばしてきたけど――
「誉人には近づけないっす!」
 ――饗が苦無の残りの半分を巧みに操って対処してくれた。
 伸びてきた蔓は苦無にフェイントをかけられて迷走した末に絡み合い、団子状になって地面に落下。
 さすが、饗だ。頼りになる。でも、どんなに勇ましく戦おうと、給食着姿じゃあ決まらないよな。
 まあ、赤いスカートをヒラヒラさせて戦ってる俺も人のことは言えなねえけどォ。
 でも、普通の衣服の上に着込んでいる状態だから、スカートから生足を覗かせるなんて見苦しい絵面になってないのは唯一の救い……おっと、いけねぇ。衣装のことは考えないって決めたんだった。もう考えないぞ。絶対、考えない。
「わー! 二人とも似合ってるよ! とっても似合ってるよー!」
「うん。似合ってるね。とても似合ってるね」
「似合ってるんだな。とぉーっても、似合ってるんだな」
 外野、うるさいよォ!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鐘馬・エリオ
定(f06581)ときた。

ここが地獄。阿鼻叫喚と断末魔がすごい。
素敵な衣装って本気で言ってる?
どう見ても素敵な衣装が出てくる気しない。

ボロボロの衣装にカブ頭。
可愛くないのは確かだけど…衣装汚ッ!
カブも腐ってない?本物の野菜…。
このボクが…これ被るの?
被るだけで正気失いそう。臭…

定さんは正気失ったからって攻撃するのやめてください。臭いのは我慢してよ…。
前線は定に任せて、遠距離からUCで攻撃。
大鎌を鈴蘭に変えてカボチャ頭を攻撃しよう。

これが本物のジャック・オー・ランタンだよ。
臭いだろ。


千頭・定
エリオくん(f16068)と!

なんだか皆さま素敵な衣装で!
申し訳ありませんがどんな衣装も着こなす自信しかありません。
どんとこいです。
エリオくんは衣装見る前からイヤイヤするのやめてください!やる気をだして!

エリオくん、衣装ありました?
え……かわいくない。ボロボロの衣装に…なんか臭いです。カボチャ頭ではなくカブ?
え?かわいくないですね…?
チェンジ…ダメですか…?

視界の悪さと臭さと可愛さマイナスに萎え萎えです。
ブギーさん達でさえカボチャ頭なのに!
萎え萎えで思わず1回はエリオくんを攻撃してしまいそうです…
アンハッピーハロウィン!!!



●鐘馬・エリオ(イディオット・f16068)
 ズボンとチョッキの上にキャビンアテンダントの制服やUDCアースの有名なファミリーレストランの制服(胸のあたりを強調しているやつです)を無理に着込んだカボチャ頭たち。
 それらと激闘を繰り広げているのは、赤頭巾と給食着という紅白コンビネーションな仮装をした誉人さんと饗さん。
 そして、カボチャの着ぐるみ姿のリュアンさん。
 なんというか……地獄と呼ぶに相応しい光景ですね。聞こえてくるようですよ。意にそぐわぬ衣装を着ざるを得なかった皆さんの心の阿鼻叫喚が……。
「あらあら」
 と、従姉妹の定さんがボクの横で声をあげました。従姉妹といっても、種族は違いますよ。ボクはオラトリオで彼女は人間です。
 人間にしては(あるいは人間の常として?)浮き世離れしている定さんですが、さすがにこの『地獄』には呆れ返っているようですね。
「皆様、素敵な衣装で!」
 ……いえ、ちっとも呆れていませんでした。むしろ、楽しんでいます。あのお喋りなジャック・オー・ランタンたちと同じくらいに。
「ねえ、定さん。本気で『素敵な衣装』とか言ってます?」
「もちろんです。仮に素敵な衣装でなかったとしても、私が着た時点で素敵に見えることは間違いありません。故に、どのような衣装でもどんと来いですよ」
「どんな衣装でもって……フラグを立てないでくださいよ。ボクまで巻き込まれるじゃないですか」
 ボクは横歩きして距離を置こうとしましたが、一歩半しか動けませんでした。定さんが『逃がさん!』とばかりにがっしと腕を掴んできたので。
「衣装を見る前からイヤイヤするのやめてください、エリオくん。ほら、やる気を出して!」
「やる気を出せる要素が一つも見つからないんですが……」
 絶望に打ちひしがれていると、ジャック・オー・ランタンたちがまた騒ぎ出しました。
「わー! 新しい衣装が飛んできたよ! 新しい衣装が飛んできたよー!」
「うん。飛んできたね。あちらの少年少女のための衣装だね」
「少女のほうが言ってたとおり、素敵な衣装だな。すごぉーく素敵な衣装だな」
『少年少女』というのはボクと定さんのことなのでしょう。
 で、ボクらのために飛んできた衣装は……。
「わー! カブだよ! カブだよー!」
「うん。カブだね。実に大きなカブだね」
「目と鼻と口が掘ってあるんだな。きっと、カブだけに頭にカブるってことなんだな」
 そう、カブの仮面です。ボロボロの衣服もついています。いえ、ボロボロというか、襤褸そのものです。汚い上にちょっと臭い。
 カブのほうは『ちょっと』どころじゃありません。耐え難い刺激臭を漂わせています。なぜ、こんなににも臭いんでしょう……あ!? よく見ると、これは本物のカブだ! しかも、腐ってる! ひどい……ひどすぎる……やっぱり、ここは地獄だった……。
「『どのような衣装でもどんと来い』とか言ってましたけど――」
 ボクは視線をカブから定さんに移しました。
「――どんと来たこの衣装を見ても、まだ素敵に着こなせる自信がありますか?」
「……」
 定さんは無言。
 目が死んでいます。
 というか、本当に死んでいるのかもしれません。

●千頭・定(惹かれ者の小唄・f06581)
「定さーん。現実逃避しないでー」
「……え?」
 気が付くと、エリオくんが私の肩をゆさぶっていました。いけない、いけない。いつの間にか、意識を失っていたようですね。
「戦場で失神してしまうとは、我ながら情けないです。それにしても……おかしな夢を見ましたよ。腐ったカボチャの仮面とボロ雑巾も同然の衣装が飛んでくるという悪夢なんですけど」
「定さん。それ、夢じゃありませんから」
 エリオくんが地面を指さしました。
 そこにあるのは腐ったカボチャの仮面とボロ雑巾も同然の衣装。
 いえ、これは幻覚です。幻覚に決まっています。
 私は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をしました。
 そして、再び目を開けました。

 そこにあるのは腐ったカボチャの仮面とボロ雑巾も同然の衣装。

「……チェンジで」
「ダメです」
 私の切なる願いをエリオくんは即座に却下しました。
「正直、ボクだってチェンジしてほしいですけどね」
 不平を漏らしながら、ボロ雑巾な服を着て、カブの仮面を被るエリオくん。一分と経たぬうちに華やかな金髪を有したオラトリオの姿は私の視界から消え去り、代わりにカブ頭の案山子が現れ出ました。
「くさっ!? 正気、失いそう……」
 腐ったカブの口からエリオくんの苦しげな声が聞こえてきます……などと人事のように言ってますけど、私も同じものを着ないといけないんですよね。着ないと……いけないんです……よね。
「萎え萎えです……本当に萎え萎えですよ……」
 エリオくんと同じように不平を漏らしながら、私もボロ雑巾な服を着て、カブの仮面を被りました。艶やかな黒髪を有した少女の姿がエリオくんの視界から消え去り、代わりにカブ頭の案山子二号が現れ出るわけですね。
「わー! 腐ったカブのにおいがこっちにまで漂ってきたよ! こっちにまで漂ってきたよー!」
「うん。漂ってきたね。ものすごく臭いね」
「カボチャ怪人たちもドン退きしてるんだな。さすがにドン退きしてるんだな」
 木になっているランタンさんの言うとおり、カボチャ頭のブギーさんたちも腐臭に閉口しているようです(腐臭の発生源を被っている私とエリオくんは閉口どころじゃありませんが)。
 とはいえ、戦いを投げ出すつもりはないらしく、こちらに向かってきました。不愉快な唸り声を発しながら。
「ギギギ……」
 もちろん、私も投げ出すつもりはありません。愛用の黒い三叉槍――『虎鶫の槍』を構え、迎え撃ちました。半ばやけくその心境で。
「アンハッピーハロウィーン!」
 攻撃回数が通常の九倍になるユーベルコード『千噛遊技(チガミアソビ)』を発動! ブギーさんたちが伸ばしてくる蔓を躱しつつ、『虎鶫の槍』を刺して刺して刺しまくりまくる! ああ、一突きするごとに怒りと苛立ちの炎が激しく燃え上がります!
「ブギーさんたちでさえ、カボチャ頭なのに! なぜ、こっちはカブ頭なんですか! 可愛くない上に臭いです! 臭すぎますっ!」
『千噛遊技』を使う際には一度でも味方を攻撃しないと寿命が減ってしまうのですが、そんなことを気にしてはいられません。この怒りと苛立ちはすべてブギーさんたちにぶつけさせてもらいましょう。
「ちょ……ボクのカブにまで槍を刺さないでくださいよ、定さん!」
 あら? ブギーさんたちだけを攻撃しているつもりでしたが、我を見失ってエリオくんまで巻き込んでしまっていたようです。
 しかし、そこは心の広い(と思いたいです)エリオくんのこと。私に敵意を向けることなく、ブギーさんたちに攻撃を仕掛けました。
「聞いたところによると、ジャック・オー・ランタンのルーツはカボチャじゃなくて、カブなんだそうですよ。つまり――」
 死神の得物のごとき大鎌を一振りすると、斑点に彩られた刃が無数の鈴蘭の花片へと変わりました。
「――ボクたちこそが本物のジャック・オー・ランタン!」
 花片の嵐に巻き込まれ、次々と倒れていくブギーさんたち。
 それを見届けると、エリオくんは柄だけになった大鎌の石突きを地面に突き立て、口調を変えて静かに問いかけました。
「臭いだろ?」
 答えを返すブギーさんはいません。全員、息絶えたようです。カブの腐臭……じゃなくて、鈴蘭の花片によって。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『牛頭の屠殺者』

POW   :    心を喰らう
【アリスが抱えた恐怖や苦痛】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD   :    喰い意地の張った剣
【高速回転する異形の刃】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【身体をぐちゃぐちゃの挽肉にする事に愉悦】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    屠殺迷宮
戦場全体に、【暗く死角が多い内部構造と悪意に満ちた罠】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメアリー・ベスレムです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間
 森のそこかしこに累々と転がるカボチャ怪人たちの死骸。
 それらが煙のように消え去った。
 そして、新たな敵が現れた。
 激しいながらもどこか情けない怒号を響かせながら。
「はらへった! はらへった! はらへったよぉーっ!」
 それは牛頭人身の怪人――ミノタウロスであった。鉈とも包丁ともつかぬ武器を右手に持ち、ドリルのごとき武器を左手に持って、肉屋のエプロンをかけている。おそらく、武器もエプロンもハロウィンの仮装ではないだろう。
「わー! ミノタウロスだよ! ミノタウロスだよー!」
「うん。ミノタウロスだね。強そうだね」
「だけど、頭は悪そうだな。とても悪そうだな」
 頭の悪そうなミノタウロスに続いて、別のものが猟兵たちの後方に現れた。
 今度のそれは怪人ではない。
 生物ですらない。
 キッチンである。
 それも、最新のモデル住宅の一部分を切り取ってきたかのようなコンパクトかつ多機能なシステムキッチンだ。
 地面から迫り出してきたのか、空から降下してきたのか、無から生じたのか……出現のプロセスは不明だが、ハロウィンの魔力によって生み出されたものであることは間違いないだろう。
「わー! キッチンだよ! キッチンだよー!」
「うん。キッチンだね。美味しい料理が作れそうだね」
「食材もあるな。いっぱいあるな」
 確かにそのキッチンの傍らには沢山の食材が並べられ、あるいは積み上げられていた。数だけでなく、種類も豊富。肉も魚も野菜も果物も酒も調味料もある。
 しかし、空腹を訴えているはずのミノタウロスはそれらに見向きもしない。
 彼の胃を満足させるためには、生のままの食材ではなく――
「はんばーぐ! はんばーぐ! はんばーぐがたべたいよぉーっ!」
 ――ちゃんとした料理が必要なのだ。


========================================
●JJからのお知らせ
 グリモアベースで伝えた通り、ボスを倒すためには料理を食わせなくちゃいけないんだ。敵はハンバーグを御所望のようだが、別の料理でも構わないぜ。
 あと、仮装は脱いでもいいし、そのままでもいい。なんなら、新しい仮装に着替えてもいいぜ。ボーナスとかはとくにないけどー。
========================================
香神乃・饗
【きょうたか】
へっ?ここでは着るんじゃないんっすか
(拾った衣装をそっと静かに誉人に着せてた
へへへ、俺の衣装もいつの間にか変わってたっす!

料理っすか?(目をぱちぱち
解ったっす!
きょうたかのはんばーぐくっきんぐっす!
しゃきしゃき作るっす!
新鮮なひき肉に塩コショウふって
玉ねぎみじんに
パンを手で米粒に砕き
卵入れこねこね

たーかとー!パスっす!
ハンバーグ球をパス
打返された球を掴む
良い感じに空気を抜き丸め軽く熱した鉄板にのせ
じゅっといい音がしたら蓋して弱火
肉の匂いしたらひっくり返し
じゅわっと焼上げ
たーかとー!できたっす!
焼いた肉汁でソース
誉人の分あるっす

(ミノタウロス見て
そいつの肉
使えないんっすか
ステーキ…


鳴北・誉人
【きょうたか】

脱ぐ!すぐ脱ぐ!叩きつける!
っせえ!ンなもん着てられっかよ!
俺、我慢したし!

ハンバーグだあ!?俺も食いてえわ!なん…饗?なにしてン…仮装は終わったのォ!次は料理だって!
はよ作って饗、ぺちぺちって成形は手伝うからァ!
その間、俺はこいつをなんとかしとく

饗のはんばーぐタイムは、UCと脇差で耐える
痛えンは我慢する…腹減ってンだってなァ、お前も
饗のハンバーグうめえのよ
めっちゃうめえの
ひっくりかえっちまえ!
ちょっ、饗、それマジで美味そォ…
ううう!俺も食いたかった!
羨ましさのあまり全力で斬りに行く

え、俺のもあんの!?饗スキ!!

コレ食えンのか?
いくらなんでも…硬そォ…
ステーキは食いたいけどなァ!


千頭・定
エリオくん(f16068)と!

ハンバーグ!お任せください。可愛い女子高生は[料理]だって出来ますとも。
材料のお調べありがとうございますよう。
共食いとは非道。ナイスアイデアです。
レッツクッキング!

まずは玉ねぎをミンチ、お肉もミンチです。
寄生UDCの触手に、それぞれ包丁を持たせて一気にめった切りです!
エリオくんは愛情込めて捏ねててください!

仕上げは良い感じになるまでファイヤーです。
野菜も追加とは名案です。
非常に惜しいですが私のカブもあげることにしますよう…。

リッチな牛肉ハンバーグ!カブ添えの完成です!
私もハンバーグはいただきますよう。ええ、カブはいりません!


鐘馬・エリオ
定(f06581)と料理。
僕だってハンバーグ食べたいよ。

スマートなフォンで材料を情報収集しよう。
肉。玉ねぎ。パン粉と牛乳。にんにく。
せっかく牛頭さんなんだから牛肉にしようか。

材料を切るのは任せて、ボクはこねる役。
美味しくなれ美味しくなれ美味しくなれ。
…良い感じのファイヤーは怖すぎるから、焦がさないよう見張り続けるつもり。

彩りが足りない…このカブも添えようか。
定の分と合わせて、衣装のカブを乱切りにして炒めよう。ハンバーグに添えて完成。
火通せば大体食べれるはず。

牛頭さんの分だけ特別にカブ添えです。
カブ?僕らいりませんので。
遠慮なくどうぞ。



●千頭・定(惹かれ者の小唄・f06581)
「はらへったよぉーっ!」
 両手の武器を振り回して吠え猛るミノタウロスさん。
 その頭上では、枝から下がったランタンさんたちが揺れています。ミノタウロスさんの声量が大きいので木そのものが揺れているのかと思ったのですが、さにあらず。どうやら、ランタンさんたちは恐怖に身を(この場合は『実を』と言うべきでしょうか?)震わせているようですね。
「わー! 怖いよ! ミノタウロス、怖いよー!」
「うん。怖いね。身の毛もよだつね」
「カボチャ怪人を全滅させたあの連中もさすがに逃げ出すだろうな。恐れをなして逃げ出すだろうな」
 いえ、逃げ出しませんけど? そもそも、怖がっていませんよう。
 私だけでなく、エリオくんも怖がっていないみたいです。カブの仮面をつけているので、表情は見えませんが。
 誉人さんに至っては、怖がるとか怖がらないとかいう以前に、ミノタウロスさんの存在が視界にも意識にも入っていないと思われます。
 なぜなら――
「よし! もう脱いでいいよな? いいよなァ?」
 ――可愛らしい赤ずきんの衣装を脱ぐことに集中していますから。
「あー! すっきりした!」
 衣装を地面に叩きつける誉人さん。
 そして、それを拾い上げ、そっと着せてあげる饗さん。
「サンキュー、饗……って、なにやってんだ!? また着せなくていいから! 仮装は終わったのォ!」
「え? 終わったんすか?」
「そうだよ! もう必要ねえの! いや、必要だとしても――」
 誉人さんは赤ずきんの衣装を脱ぎ、またもや地面に叩きつけました。
「――ンなもん、着てられっかー! 俺、我慢したし! これ以上はないってくらい、我慢したし!」

●鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)
「そうっすか。もう着ないっすか……」
 饗は指先を口元にあて、赤ずきんの衣装をじっと見つめている。なんで、おまえが名残り惜しそうにしてんのォ?
「わー! あの人、赤ずきんをやめちゃったよ。やめちゃったよー」
「うん。やめちゃったね。似合ってたのにね」
「確かに似合ってたな。めちゃくちゃ似合ってたな」
「似合ってたっすよねー。写真を撮っておけばよかったす」
 ランタンどものお喋りに違和感なく溶け込んでるし……。
「そう言う饗こそ、給食着が似合ってたんじゃね。今はもう着てねえけど」
「へっ?」
 饗は素っ頓狂な声をあげて視線を下ろし、自分が着ているものを確認した。そう、おなじみの赤い半纏だ。いつの間にやら、給食着は消えていた。
「ホントだ! 元に戻ってるっす! やっぱり、この格好がいちばん落ち着くっすね。へへへ」
「ボクたちも脱ぎましょうか、定さん」
「そうですね。こんなに臭いものを被っていては美味しい料理など作れません」
 無邪気に笑う饗の後ろで定とエリオがカブの仮面を脱ぎ捨てたけど……美味しい料理って、なんのこと?
「はらへった! はらへったぁー!」
 あー、はいはい。あの騒がしい牛野郎になんか食わせなくちゃいけないんだっけかァ。
「はんばーぐがたべたぁーい!」
「ハンバーグだあ!? 俺も食いてえわ!」
 俺が牛野郎に負けじと声を張り上げると――
「ハンバーグ?」
 ――饗が目をぱちくりさせた。
 そして、すぐに笑顔に戻り、『任せろ!』とばかりに自分の胸をどんと叩いた。
「判ったっす! きょうたかのはんばーぐくっきんぐっす!」

●鐘馬・エリオ(イディオット・f16068)
 饗さんと誉人さんが『きょうたかのはんばーぐくっきんぐ』とやらを始めました。
「さあ、しゃきしゃき作るっす!」
 うきうきと料理の準備をする『きょうたか』の『きょう』こと饗さん。
「じゃあ、俺はこいつをなんとかしとく」
 牛頭さんの相手をする『きょうたか』の『たか』こと誉人さん。
「はらへった! はらへった! はらへったぁーっ!」
「そっか、そっか。腹が減ってンのか、おまえも」
 牛頭さんが突き出してきたドリル状の武器を誉人さんは紙一重で回避。赤ずきんの衣装を脱ぐ際に鞘に戻していた刀を再び抜き放ち、幾千もの白い花を生み出すあのユーベルコードを発動させました。
 たちまちのうちに牛頭さんは花吹雪に包まれました……が、傷一つ負いませんでした。グリモアベースでJJさんが言っていたとおり、ハロウィンの魔力で無敵モードになっているんですね。
「は、ら、へっ、たぁーっ!」
 無敵の牛頭さんは包丁のような武器を振り下ろしました。
 誉人さんは脇差しを素早く抜いて受け流したものの、かなりの衝撃を受けたらしく、顔をしかめています。もっとも、怯んでいるようには見えません。
 一方、饗さんは挽き肉に塩コショウふってます。楽しそうに鼻歌まじりで。
「はらへったー! はんばーくがたべたーい!」
「食わせてやんよ。今、饗がつくってっからァ」
 牛頭さんが二つの武器で同時攻撃。誉人さんは横っ飛びで避け、側面から脇差しでまた斬りつけました。例によって、ノーダメージですが。
 一方、饗さんはタマネギを手際よく微塵切りにしています。包丁のトントントンというリズミカルな音が耳に心地良いですね。
「饗のハンバーグ、うめえのよ。めっちゃ、うめえの」
「うめえの? うめえのー? はらへったー!」
「そう、うめえんだよ。覚悟しとけ。うますぎて、ひっくり返るかんなァ」
「ひっくりかえるぅーん! はらへったー!」
 言葉を交わしながら(意思の疎通ができてるかどうかは疑問ですが)、剣戟を繰り広げる誉人さんと牛頭さん。
 一方、饗さんは挽き肉にタマネギとパン粉と生卵を加え、せっせと捏ねています。
「あー、こうやってこねこねしていると、『今、自分はハンバーグを作ってるんだなぁ』っていう実感が湧いてくるっすねー」

●香神乃・饗(東風・f00169)
 牛の頭をしたあの怪人は、相手の恐怖や苦痛を自分の力に変えて体をでっかくさせたりできる……とかいう話を聞いたことがあるんすけど、体の大きさは変化してないっすね。つまり、誉人は『怖い』とも『痛い』とも思ってないってことっすか。さすがっすー。
「ボクもハンバークが食べたくなってきましたよ」
 と、エリオさんが呟いたっす。
 それを聞いて、さっきの俺と同じように胸をどんと叩いたのは定さん。
「お任せください! 可愛い女子高生の私は料理だってできますとも!」
 おー。じょしこーせーって、なんか凄いんすね。
 もっとも、エリオさんは定さんに丸投げするつもりはないらしく、スマートフォンをいじり始めたっす。
「ちょっと待ってください、定さん。このスマートなフォンを使って、ハンバーグの材料についての情報を収集しますから」
 わざわざ、スマートフォンで……いや、スマートなフォンで調べる必要あるっすか?
「肉、タマネギ、パン粉と牛乳、ニンニク、か……振る舞う相手が牛頭さんなんだから、お肉は牛肉にしましょうか」
「まあ! 共食いとは非道! ナイスアイデアですよう!」
 目をキラキラさせながら、定さんはエリオさんの提案を受け入れました。
 そして、包丁を手に取り、空を突き刺すかのように勢いよく掲げたっす。
「では、レッツ・クッキング!」
 俺も釣られて『くっきーんぐ』と復唱しそうになったすけど――
「えーっ!?」
 ――口から飛び出したのは驚きの叫びっす。
 だって、とんでもない生き物が定さんの背後から現れたんすよ。一つきりの大きな目と何本もの触手を持った、奇っ怪な肉塊……もしかしたら、『生き物』の範疇には入らないのかもしれないっすけど。
「この子は私の可愛い邪神さまですよう。『ヴェー』って呼んであげてくださいね」
 と、生き物だかなんだか判らないものの名前を告げて、定さんはにっこり笑ったっす。
「あー、こうやって邪神さまを召喚すると、『今、自分はハンバーグを作ってるんだなぁ』っていう実感が湧いてきますねー」

●再び、定
 ヴェーの触手が伸び、私が掲げた包丁に絡みついてきました(ちなみにヴェーの本名は判りません。判ったとしても、人類には発音できないでしょうけれど)。
 触手が包丁をしっかりと保持したことを確認して、私はキッチンから新たな包丁を取り出しました。それをまたヴェーに渡し、第三の包丁を取り、ヴェーに渡し、第四の包丁を……といったことを何度か繰り返した結果、すべての触手に包丁が行き渡りましたよう。
「さあ、ヴェー。めった切りにしてください」
 私がお願いすると、ヴェーはキッチンの前に移動して、包丁を縦横無尽に振るい始めました。機械のように素早くて正確な動き。タマネギは無数の欠片に分かたれ、お肉はミンチに変わっていきます。
「凄いっすね、ヴェーさん。鮮やかなお手並み……もとい、お触手並みっす」
 饗さんがべちゃべちゃと拍手をしてくれました。何故に『ぱちぱち』じゃなくて『べちゃべちゃ』なのかというと、ハンバーグの種を捏ねる作業をしていたからです。
「たーかとー!」
 饗さんは拍手を終えると、肉&その他諸々まみれの両手を口の横にやり、誉人さんに呼びかけました。
「こねこねパートは終わったっすよ」
「おう」
 と、ミノタウロスさんの攻撃を躱しながら、誉人さんが答えました。
「ぺちぺちパートは俺も手伝うよォ」
「お願いするっす。はい、パース!」
 ボール状に丸めたハンバーグの種を投げる饗さん。
「そぉーれ、っと!」
 誉人さんは脇差しを軽く振り、刀身の側面でハンバーグ・ボールを打ち返しました。これが本当のジャストミートですね。
「へへへ。次は変化球でいくっすよ」
 饗さんは華麗にキャッチし、すぐさま投球。
「あんま、ヘンな投げ方すんなってぇ」
 誉人さん、再びジャストミート。
 そうやって和気藹々と調理(?)を進めている二人に毒気を抜かれたのか、ミノタウロスさんは攻撃の手を取め、ハンバーグ・ボールを目で追い、首を左右に動かしています。
 しかし、我に返ったらしく――
「はらへったー!」
 ――泣き声じみた怒声をまた響かせました。

●再び、エリオ
 饗さんと誉人さんが投げたり打ったりをしている間に定さんとヴェーは下拵えを終えました。
「捏ねる役はボクがやりますよ、定さん」
「では、お願いします。しっかり愛情を込めて捏ねててくださいね」
「了解です」
 ハンバーグの種が入ったボウルにボクは手を突っ込み、捏ねくり回しました。もちろん、お料理に必須の呪文を唱えることも忘れてはいません。
「美味しくなあれ、美味しくなあれ、美味しくなあれ……」
 すると、木になっているジャック・オー・ランタンたちも一斉に呪文を唱え始めました。
「美味しくなあれ♪」
「美味しくなあれ♪」
「美味しくなあれ♪」
「うんうん。ほどよく空気が抜けたっすね」
 と、呪文にまぎれて聞こえてきたのは饗さんの満足げな声。彼らが言うところの『ぺちぺちパート』が完了したようですね。
「さあ、焼くとするっすか」
「私たちのハンバーグも――」
 定さんがボウルを覗き込んできました。
「――仕上げに入りましょう。良い感じになるまでファイアーです」
 良い感じ……ですか。この工程は定さんに任せっきりにせず、しっかりと見張っておくべきですね。彼女の『良い感じのファイヤー』は怖すぎますから。アサルトライフルだの手榴弾だのを使われたら、目も当てられません。
 だけど、上手く焼けたとしても、それだけではなにかが足りないような気がします。
 焼き上がったハンバーグの図を頭の中に思い描いてみると……その『なにか』の正体が判りました。
 彩りです。彩りが足りないんですよ。

●再び、誉人
「ちょっと彩りが足りませんね」
 んー? エリオがなんか言ってんよ。
 牛野郎が振り下ろしてきた武器を『絶花蒼天』(俺が使ってる脇差しのことね)で受け流しながら、ちょいと横目で見てみると――
「これを添えてみましょう」
 ――エリオの奴、あの腐ったカブを拾い上げやがった。そんなもんを添えた日にゃあ、彩りとは別のもんがプラスされちまうぞォ。
 まあ、さすがに定が却下するだろうけど。
「名案ですね、エリオくん」
 ……って、却下しねえのかよォ!? それどころか、めっちゃイイ笑顔でサムズアップしてる! なんなの、あの二人?
「非常に惜しいですが、私のカブもあげますよう」
「太っ腹ですね、定さん」
 あれよあれよという間にエリオは二つの大きなカブを乱切りにして(手早く切り刻んだから、今回はヴェーとかいう奴の出る幕はなかった)、フライパンで炒め始めた。
「こうやって火を通せば、だいたい食べられるはずです」
 いやいやいやいや。火の力を過信しすぎだってェ。
 だけど、ものが腐ってるとはいえ、じゅうじゅうと炒める音は胃袋に来るもんがあるよな。
 しかも、そこに新たな『じゅうじゅう』が混じってきた。饗が鉄板でハンバーグを焼いてる音だ。
「ここで蓋をして弱火にするっす」
 じゅうじゅういってるハンバーグたちに蓋を被せる饗。
 美味そうな音がくぐもったけども、その代わりに美味そうな香りが蓋の隙間から漂ってきた。
「はらへったー!」
 おなじみの叫びを牛野郎が吐き出した。もっとも、おなじみなのは言葉だけで、表情は今までと違う。鼻をひくつかせて、目を期待に輝かせてやがる。
「ようやく、その怪人も気付いたみたいっすね。俺たちがハンバーグを作ってることを……」
 饗は蓋をどけて、ハンバーグを一つずつひっくり返した。じゅうじゅう音が復活。香りのほうも『漂ってる』ってレベルじゃなくなった。鼻孔にガンガン攻めてくるよォ。ヤベえ、腹が鳴りそう……。
「わー! いい香りがするよ! いい香りがするよー!」
「うん。いい香りがするね。美味しそうだね」
「俺たちもご相伴にあずかりたいな。あずかりたいな」
 外野のランタンたちのテンションも上がってる。てか、あいつらはものを食べたり、香りを嗅いだりできるの?
 まあ、それはさておき――
「たーかとー! できたっす!」
 ――ハンバーグがついに完成!
「はんばぁーぐぅぅぅーっ!」
 牛野郎も大喜びしてるよォ。

●再び、饗
 ハンバーグを皿に移して、焼いた肉汁で作ったソースをぶわぁーっとかけて……うん! 我ながら、なかなかの出来っす!
 定さんとエリオさんのハンバーグもできあがったみたいっすね。俺のに負けず劣らず美味しそうっす。
 例のカブが添えらているのはいただけないっすけど……。
「リッチな牛肉ハンバーグ! 酸味の利いたカブ炒め添えですよう!」
「遠慮なくどうぞー」
 誉人とちゃんちゃんばらばらしていた怪人に向かって、定さんとエリオさんは皿を差し出しました。
 すると、怪人は武器を投げ捨て――
「はぁーらぁーへぇーったぁーっ!」
 ――土煙をあげて突進してきたかと思うと、膝で滑り込むようにして地面に正座し、皿の上のハンバーグを手掴みで食べ始めました。酸味が利いている(おえっ!)というカブの炒めものも躊躇うことなく貪っているっす。
 俺も怪人の前にハンバーグの皿を置きました。
「こっちも食ってください。俺の自信作っすよ」
「ちょっ……饗、それマジで美味そォ……」
 正座している怪人の肩越しにハンバーグを覗き込む誉人。半開きになった口から涎が垂れ落ちそうになってるっすよ。
 怪人のほうはハンバーグを食べ続けてるっす。咀嚼の合間に叫んだりしてるっすけど、その言葉は『はらへった』じゃなくなってるすっよ。
「うまい! うまい! うまーい!」
 だけど、それもやがて聞こえなくなったっす。
 なぜかというと――
「ZZZ……」
 ――皿が空になったと同時に眠り込んでしまったから。
 そして、誉人が予言した通り、どてーんとひっくり返ってしまったす。
「お気に召していただけたようでなによりですよう」
「『美味しくなあれ』の呪文が利いたのかもしれませんね」
 定さんとエリオさんが会心の笑みを浮かべてるっす。ハンバーグに舌鼓を打ちながら。そう、お二人は自分用のハンバーグもちゃっかり作ってたんすよ。
 まあ、その点については俺も抜かりはないっすけどねー。
「ううう……」
 と、悔しそうに呻きながら、誉人が脇差しを上段に構えました。
「この牛野郎、肉片一つ残さず食らいやがって……饗のハンバーグ、俺も食いたかったよォーっ!」
 脇差しが振り下ろされ、怪人の首がすぽーんと飛んでいったす。
「わー! 怖いミノタウロスが退治されたよ! 退治されたよー!」
「うん。退治されたね。これで心置きなくハロウィンを楽しむことができるね」
「だけど、あいつは楽しめそうにないんだな。ハンバーグを食べられなかったもんだから、落ち込んでいるんだな」
 ランタンさんが言うところの『あいつ』は誉人のことっすよ。がっくりと肩を落としてるっす。
 その肩を俺は優しく叩いて、背中に隠していたとっておきのものを見せてあげました。
「元気を出すっすよ。ほら、誉人の分のハンバーグも作っておいたっす!」
「マジでぇ!? 饗、スキ!!」
 へへへー。

 皆が美味しいハンバーグにありつけて、めでたしめでたし……と、思いきや、エリオさんが申し訳なさそうな顔をして、誉人に声をかけったす。
「すいません、誉人さん。饗さんのハンバーグだけで我慢してください」
「は? 『だけ』って、どういうこと?」
「誉人さんと饗さんの分のカブ炒めはないんですよ」
「いや、いらねーし!」
 いらないっすよねー。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月01日


挿絵イラスト