●突然の珍事件
秋が終わり、冬が訪れる。
そう、今年もこの季節がやってきたのだ――ハロウィンである。
ここサマンの村でも、ハロウィンの準備は順調に進んでいた。悪い精霊や魔女から身を守るため(と言う建前で、実際は楽しむだけの)仮装用の布や、この村名物『ごった鍋』に使う食材。
村人全員が頑張って用意したものが、酒場の倉庫に大切に仕舞われていたのだ。
――そう、昨日までは。
「ねえ、鍋のスープの出汁に使う野菜がないんだけど……?」
「おい、ここに置いた魚介類、誰か持って行ったか?」
ハロウィンの前日。
準備のために材料を取りに来た村人は、あるはずの物がないことに気付いて首を傾げた。酒場の倉庫の食材は、何故かこつ然と消えていたのだ。残っているのは、布や飾りなどの食べられないものだけだ。
「一体どういうことだ……?」
「なあ、ここに変な黒い染みがあるぞ?」
「まさか、魔物に入られたのか……?」
村人たちは青ざめた顔を見合わせて、首を傾げるのだった。
●グリモアベースにて
「やほー、集まってくれてありがと」
グリモアベースの一角。
分厚い本を抱えたメルティスが、猟兵たちを迎えた。
「そろそろハロウィンねー。みんな仮装に興味はあるかしら?」
にこにこと笑顔を向けながら、本を広げる。そこから宙に浮かび上がった映像は、そんなハロウィンらしい飾り付けがされた村の風景だった。
「今回の依頼は、ハロウィン絡みの事件よ」
依頼の説明をするとは思えない楽しげな表情で、メルティスは語る。
「アックス&ウィザーズのサマンという村で、ハロウィンに使う食材がすべて消えてしまうという珍事件が起きたの。予知によると、これはオブリビオンの仕業みたいね」
宙に映る映像は、とある建物をクローズアップした。
「この大きな建物は酒場の倉庫ね。ここに食材を一時保管していたんだけど、一夜にしてごっそり消えてしまったらしいの。きっとオブリビオンが忍び込んで持ち去ったか、最悪食べてしまった可能性も考えられるわね」
この村には『ごった鍋』という、所謂『闇鍋』的な名物があり、ハロウィンの夜にお祭り騒ぎをしながら食べるという風習がある。
それに使われる食材ということで、野菜に魚介、肉、果物と、あらゆる食材が保管されていたらいし。
食材だけ消えて他のものは残っていたところから、オブリビオンは余程の食いしん坊かも知れない。
「それで、肝心のオブリビオンなんだけど、低木地帯へ逃げ込んだと予知で見たわ」
低木地帯。
この付近の低木地帯と言えば、ライフルベリー群生地だ。
ライフルベリーとは、近付く者に実を飛ばし、種を遠くまで運ばせようと言う風変わり(迷惑)な植物である。
「ライフルベリーって結構な勢いで実を飛ばすから、当たると酷い目にあうのよね……まぁとにかく、この群生地の奥にオブリビオンの住処があるみたいよ」
オブリビオンがどんな者なのかは不明だが、もし食材が無事であれば奪い返したいところだ。
「もし食材の回収が出来なかったら、帰り道に食材になりそうなものを採集して、村に届けてあげてほしいわね。闇鍋に使うんだから、食べられれば大丈夫よ! たぶん!」
無責任な言葉で締めくくったメルティスは、転送の準備をはじめた。
ベリー鍋って美味しいかしら、と物騒なことを考えながらも猟兵たちに満面の笑みを向ける。
「じゃあ、オブリビオンを倒して、美味しいハロウィン鍋を楽しんで来てちょうだい」
霧雨りあ
アックス&ウィザーズからこんにちは。霧雨です。
もうすぐハロウィンですね。仮装もカボチャも好きです。
さて、今回はそんなハロウィン絡みのお話をお届けします。
●第一章
ライフルベリー群生地を抜ける冒険パートです。
たかがベリー、されどベリー。服に着弾すると色が落ちないです。しかも痛い。
食べると美味しいので、余裕があれば食べてみてください。
●第二章
オブリビオンとのボス戦です。
どんな敵なのかは、断章にて解説いたします。
はたして食材は無事なのか……?
●第三章
仮装してごった鍋(闇鍋)パーティです。
仮装の内容はプレイングにご指定いただければリプレイに反映されます。
鍋は2章までの内容で決まりますが、飛び入り参加で何か突っ込んで頂いてもOKです。
この章のみのご参加も歓迎いたします。
それでは、みなさまの冒険が良きものとなりますように。
第1章 冒険
『ライフルベリー群生地』
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POW : ベリーの弾丸を必死にこらえる
SPD : ベリーの弾丸を器用に躱す
WIZ : ベリーの弾丸を理論的に防ぐ
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
新川・由紀
一刻も早く持ち去られた食材を奪い返さなきゃ
今はのんびり作戦を立てる場合じゃないんだから、ベリーの弾丸をこらえて群生地の奥へ進もう
弾丸に遠くまで打ち飛ばされないようにUCで体をオーラで覆い、何となく少しずつ進めるが、ベリー弾丸に撃たれたお腹や太ももが結構痛い
このままではオブリビオンの住処に着く前に先に身が持たない可能性もあるわ…でも少なくとも背後にいるみんなのための道を作ろう
ライフルベリー群生地。
くるくると巻いたトゲのない茨に艷やかな紅い実をつけ、自分たちの子孫を運んでくれる者が現れるのを待っている。
そう、誰でも良いのだ――移動する生き物であれば。
「ここが群生地ね」
いかにもヒーロー然とした桃色のレオタードを纏った女性が、そんな群生地にやってきたのは、まだ日の高い午後14時のこと。
茶色のショートカットをサラサラと風に揺らし、新川・由紀(ジャスティス・ユキ・f30061)は眼下に広がるライフルベリーを高台から見下ろしていた。
「一刻も早く食材を奪い返さなきゃ」
この地を攻略するための作戦を立てたいところではあるが、のんびりしていては食材が食べられてしまうかも知れない――そう考えた由紀は、颯爽と崖を駆け下りた。
ライフルベリーが生き物の気配を察知し、茨をくねらせて彼女を『見た』。
(何という威圧感……植物とは思えない)
由紀はぐっと四肢に力を込めると、地を蹴って群生地へと飛び込む。滞空中、ライフルベリーが真っ赤な実を撃ち出すのが目に映ったが、空中で躱すのは至難の技だ。
しかし元よりそう来るであろうと予測していた由紀は、事前にユーベルコードを展開し、そのオーラを纏うことでベリー弾から身を守る算段だった。
――バシュッ!
「っ!!」
太ももや腹に撃ち込まれた実は、想像以上の威力だった。
思わず零れそうになる悲鳴を飲み込み、由紀は一旦群生地の真ん中に着地すると、再び地を蹴った。
四方八方から浴びせられる、凄まじいベリー弾の嵐。桃色のレオタードは真っ赤に染まり、全身から血のように果汁を滴らせて。
それでも由紀は止まらなかった。
(――私は、皆の道を開く!)
後方から続くであろう猟兵たちのために、血路を開く決意だ。その決意は誓いになり、誓いは彼女に力を与える。
由紀を包むオーラが強固なものとなって、遂にはベリー弾を弾き返した。
正義は、勝つのだ。
「はあああ!!!」
気合の声を迸らせ、群生地を走り抜ける。
ライフルベリーを弾き返し、時に蹴り飛ばしながら、何とか出口まで辿り着く頃には――。
「はぁ……はぁ……さすがに、ボロボロね……」
肩で大きく息をつきながら、由紀はその場に座りこんだ。
大きく体力を消耗したが、彼女は道を開くことに成功したのだ。
振り返って自身が作った道を見やれば、遠くに猟兵たちがその道を辿って来るのが見えた。
「これで次へと繋がったわね……」
由紀は暫しその場で休息を取り、この後のオブリビオンとの戦いに備えるのだった。
成功
🔵🔵🔴
シーザー・ゴールドマン
ハロウィンに闇鍋とは、なかなか面白い事を考えるね。
まあ、それよりも面白いのは今回のオブリビオンだ。
わざわざ倉庫に忍び入り、食材のみを盗む。
可愛いものじゃないか。村人たちにとっては笑い事ではないがね。
それでは食材を取り戻しがてら、くだんのオブリビオンの尊顔を拝みに行こうかな。
しかし、ライフルベリーか。
オブリビオンなどには勿論、通用しないだろうが防衛、防犯に使えるかな?
(飛んできた実をキャッチして、一つ口に入れ)
なかなかいい味だよ。ステラも一つ食べると良い。
(また、飛んできた実をキャッチしてステラへ)
※基本的には身に纏った無色状態のオド(オーラ防御)で弾いています。
ステラと/アドリブ歓迎
ステラ・リデル
闇鍋、倉庫に食材を集めていたということですから食べられないものにはならないと思いますが……食事というよりは騒いで楽しむためのイベントなのでしょうね。
盗人オブリビオンは村人に犠牲がでておらずに良かったとしか言えませんが……はい、捕まえに行きましょう。
ライフルベリー、着弾した際についた色が落ちないとか。迷惑ですね。
防犯には使えそうですね。
トラブルのもとになる可能性もありますが……
あ、いただきます。ありがとうございます。
(シーザーから実を貰い)
※基本的には身に纏った無色状態のオド(オーラ防御)で弾いています。
シーザーと二人、オブリビオンの追跡というよりは散歩気分です。
シーザーと/アドリブ歓迎
「ハロウィンに闇鍋とは、なかなか面白いことを考えるね」
金の瞳を僅かに細め、普段より楽しげにそう言うと、シーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)は隣を歩く青髪の女性に視線を向けた。
時刻は16時。秋も深まるこの季節、既に蒼空は紅葉するかの如く、黄緑、黄色へと足早に移ろいでゆく。
そんな美しい空の下、美男美女が歩いていれば、絵にもなると言うものだ。
「倉庫に食材を集めていたということですから、食べられないものにはならないと思いますが……食事というよりは騒いで楽しむためのイベントなのでしょうね」
比較的穏やかだが若干肌寒く感じる風に、青い髪が揺れる。
それを手で軽く押さえながら、ステラ・リデル(ウルブス・ノウムの管理者・f13273)はシーザーの言葉に頷いた。
ごった鍋――闇鍋。
ハロウィンらしさはあまりないが、陽気にイベントを楽しむ様は、アックス&ウィザーズの冒険者たちらしい風習と言える――そう考えて、ステラの口元はふっと綻んだ。
そんな彼女の様子を満足そうに見やりながら、シーザーは更に喉の奥で笑う。
「まあ、それよりも面白いのは今回のオブリビオンだ。わざわざ倉庫に忍び入り、食材のみを盗む。可愛いものじゃないか」
どう考えても異例の珍事件だ。オブリビオンにも様々な種がいるが、食糧のみ盗んで去る事例はそうそうないだろう。
「盗人オブリビオン、ですか。村人に犠牲が出ておらずに良かったとしか言えませんが……」
「ああ、村人たちにとっては笑い事ではないね」
原因が魔物らしいと、村では大騒ぎになったらしい。それもそうだろう、次に『食糧』になるのは、自分たちかも知れないのだから。
ステラがシーザーの視線に――無論最初から気付いてはいるのだが――ゆっくりと自身の視線を重ね、少しだけ困ったように微笑んだ。
「――はい、捕まえに行きましょう」
そんな穏やかな会話をする二人に、先程から真紅の弾丸が凄まじい勢いで飛来しているのだが、まったく避ける様子はない。
しかし、二人のコートに赤黒い染みが作られることもなかった。
まるでそれを『ないもの』として扱っているかのように、ライフルベリー群生地を歩いて行く。
――そう、『散歩』という言葉が相応しいだろう。
次の話題が終わる頃になって、ようやくシーザーがライフルベリーに目を向けた。
「しかし、ライフルベリーか」
視線の先の茨には、たわわに実ったベリーが彼を睨め付けるように揺れている。
散々無視され、放った実も届かないとなれば、恨み言の一つでも言いたくなるというものだ。
「着弾した際についた色が落ちないとか……迷惑ですね」
ステラの感想に、プンッという小さな音が重なった。
どうやら茨からベリーが放たれたらしい。
数瞬でステラの元まで辿り着いたベリーは、しかし彼女の胸に飛び込むことは叶わなかった。
長くしなやかな指に挟まれ、ぽいっと放り込まれてしまったからだ――そう、シーザーの口の中に。
「うん、なかなか良い味だよ」
口いっぱいに広がる、独特の甘み。それは決して嫌な風味ではなく、むしろ癖になるような、まったりとした味わいだ。
「オブリビオンなどには勿論通用しないだろうが、防衛・防犯に使えるかな?」
もうひとつ飛来したベリーをパシッと器用に手で掴み、つまんで目の高さに持ってきたシーザーは、ふとそんな言葉をステラに投げかけた。
食べて美味しいカラーボール、と言ったところか。
「……ええ、防犯には使えそうですね」
笑みを零してそう返したステラは、少し首を傾げると先を続ける。
「とは言え、トラブルのもとになる可能性もありますが――」
「ステラも食べると良い」
思案げに言葉を紡ぐステラを遮る、大きな拳。
開いたそこには、ライフルベリーがひと粒。
「あ、いただきます。ありがとうございます」
思わず苦笑して、その手の中からベリーを摘む。意外と弾力があるそれは、濃い色の小さなトマトのようだ。
口に含んでそっと噛むと、じゅわっと溢れ出す果汁に思わず目を細めた。
「……おいしいです」
素直にそう告げる彼女の言葉に、シーザーは満足げに頷いた。
「では、もう少し楽しむとしようか」
ここに来るまでと同じように、自身の魔力に包まれた二人。
飛来したライフルベリーは、その無色のオーラに触れると、軌道を捻じ曲げられて明後日の方角へ飛んでいく。
二人の実力からすれば、この茨の道も草原同然だった。
時につかまえて口の中を楽しませながら。
空がオレンジ色に染まるまで、二人はこの優しいひとときを過ごすのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティエル・ティエリエル
WIZで判定
ハロウィンの邪魔をするなんてそんなの許せないよね!
ボクがきっちり退治して食材を取り戻してくるよ☆
むむむっ、ライフルベリーの群生地を抜けなきゃダメなんだね。
ぱこんぱこんと飛んできて抜けるの結構大変なんだよね!
オブリビオンの通った後がないか「情報収集」しながら「追跡」するよ。
飛んでくる種は【フェアリーランド】で全部吸い込んじゃうね♪
安全な場所まで移動できたらせっかくだし、吸い込んだベリーをつまみ食いしちゃおうかな♪
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
フリル・インレアン
ふえぇ、これが生存競争というものなんですね。
ここは一気に駆け抜けるしかありませんね。
ふえええ、ど、どうにか駆け抜けることができました。
あれ?そういえば、私一回もライフルベリーさんの弾に当たっていないような。
運がよかったんですね。
くるんと宙返りした小さな妖精は、ライフルベリー群生地を見やって歓声を上げた。
「おー、なかなかの絶景だね!」
水色の瞳に映るは、夕日に照らされたいばらの森に、そこかしこで揺れる大きな赤い果実。フェアリーの小さな体には、それはそれは壮大な景色に映るのだろう。
珍しそうに辺りを見渡すティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)とは対照的に、隣に立つ銀髪の少女、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は眉を潜め、今にも泣きそうな声を上げた。
「ふえぇ、ここを抜けるのですか?」
腕の中のアヒル型ガジェット『アヒルさん』を目線の高さまで持ち上げ、どうしましょうと首を傾げる。
「大丈夫だよ! ボクと一緒なら、きっと抜けられるから!」
ティエルはアヒルさんの上にぽふんと飛び乗ると、フリルに笑顔を向ける。
そして視線を再びライフルベリー群生地へと向けると、むむむと唸った。
「しかし、どうやって抜けようかなぁ……」
ティエルは羽ばたいて再びアヒルさんから宙へ戻ると、そのままゆっくりとライフルベリーに近付いてみた。
ある程度の距離まで近付くと、茨がぐいんとしなってベリーが撃ち出される――それはもう、凄まじい速度で。
「うわわっ!」
ティエルは身を翻して何とか躱すと、フリルの元まで慌てて戻って来た。
「あーびっくりした。あれは避けるの結構大変だなぁ……でも、オブリビオンが通った跡も探しながら進みたいし……うーん」
「避けながら痕跡探しは、難しそうですね」
フリルも一緒に思案するが、やはり一気に駆け抜ける案が有力だった。
そんな彼女の腕の中で、アヒルさんがカタカタと揺れる。
「アヒルさん、どうしました? ……ふ、ふえぇー、それはダメですよー」
アヒルさんの無謀な提案にぷるぷると首を振って、フリルは仕方なく群生地を一気に駆け抜ける決心をした。
「ティエルさん、わ、わたしは……ここを駆け抜けようと思います」
語尾が小さくなりつつも、ティエルに自身の気持ちを告げるフリル。
まだ考え込んでいたティエルは、そうだねと言いかけたところで目を見開いた。
「そうだ! ボクの『壺』で吸い込んじゃおう♪」
「ふぇ? 壺……ですか?」
「そう、ユーベルコードの壺だよ!」
ティエルはふふんと自信あり気に宙返りすると、辺りを見渡す。
「茨が不自然なカタチになっている場所は……あそこかな?」
何か大きなものが通ったような跡を見つけて飛んで行くと、ティエルはフリルを手招きした。
「ここを進もう。よーし、吸い込んじゃうからね!」
そう告げてユーベルコードを展開すれば、小さな壺が宙にポンと出現する。
ティエルが獣道へ入って行くと、ライフルベリーが撃ち出され――彼女の前に浮かぶ壺へと吸い込まれていった。
「わ、わ、すごいです!」
フリルとアヒルさんがぱちぱちと拍手する。
「これで安全に進めるね!」
くるりと振り返ったティエルは嬉しそうにそう言うと、先導して茨の森を進んで行った。
その後方から、フリルが恐る恐る着いて行く。
「この這ったような跡が、きっとオブリビオンの通った場所なんじゃないかな」
ティエルの指摘通り、二人が進む地面には黒い染みがついていた。
「ふええ、一体どんな敵なのでしょう……?」
黒い染みから想像する姿は、フリルの中で様々なカタチを描く。
「ふ、ふえええー」
恐ろしくなって思わず情けない声を上げれば、ティエルがぷっと吹き出した。
「ティエルさん、笑いごとじゃないですよー」
涙目になってフリルが抗議の声を上げた、その時だった。
何故か壺に吸い込まれなかったベリーが、フリルの頭上に座るアヒルさんにクリーンヒットしたのだ。
『グワーッ!!』
弾けたベリーでお尻を真っ赤に染めたアヒルさんは、凄まじい勢いで飛び出した。
「ふえええ、アヒルさぁん!」
フリルも慌ててアヒルさんを追い掛ける。
「フリル、危ない!」
ティエルが叫んでも、フリルは一心にアヒルさんを追い掛けて行く。
そしてあっと言う間に、ティエルのユーベルコードの効力が及ばない場所まで行ってしまった。
しかし、彼女にベリーがヒットする様子はない。
「……あれ?」
ティエルが首を傾げる。
偶然にしては、本当に、まったく、かすりもしないのだ。
「うーん……ま、いっか♪」
ティエルは深く考えるのをやめると、まるで追いかけっこでもするかのように、楽しそうに飛んで行くのだった。
「ふ、ふええええ……ど、どうにか……抜ける、ことが、できましたぁ」
ライフルベリー群生地を抜けたところで、フリルが地べたに座り込んだ。
ぜーはーと肩で息をついていると、何事もなかったかのようにアヒルさんが飛んできて、フリルの腕の中に収まる。
「ア、アヒルさぁん……って、そういえば、私一回もライフルベリーさんの弾に当たっていないような……?」
自身を見渡してみても、赤い染みはついていない。
「なるほど、運がよかったんですね」
フリルはほっと安堵の息を吐きだすと、後方から壺を伴って飛んできたティエルを迎えた。
「あ、ティエルさん、ご無事で何よりです」
「あはは、びっくりしたよ! すごいスピードで走って行くんだもん」
楽しげに笑うティエル。
そんな彼女は、悪戯っぽい笑みをフリルに向けた。
「……せっかくだし、つまみ食いしちゃおうか♪」
そう言って、壺からライフルベリーを取り出す。
「え、食べて大丈夫なのですか?」
フリルがそう尋ねた時には、ティエルは既にかぶりついていた。
「ん……んん! これは美味しいよ!」
ジューシーな果汁をごくんと飲み干し、フリルにも壺から取り出したベリーを渡す。
「そ、そうなのですか? では、わたしも……」
意を決して小さなトマトのような実を口に入れれば、甘くてまったりとした味わいに、思わず顔が綻ぶ。
「た、たしかに美味しいです」
「でしょ♪」
二人は顔を見合わせると、くすくすと笑い合った。
ライフルベリー。
厄介な植物だが、実は素敵なデザートになるのかも知れない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アンナ・フランツウェイ
当たると痛いし、色が落ちないって何その危険植物…。まあいいや、さっさと食材奪い返して、夕飯(闇鍋)にありつける様頑張ろう。
武器を全力で振るい【呪詛】を乗せた【衝撃波】を何回も発生させ、実を破壊しながら新路上のライフルベリーを枯死させながら進んでいこう。…流石に全部は枯れさせはしない、後々何言われるか怖いし。
もし着弾しても私の服は黒いからそこまで目立たないはず。痛みは【激痛耐性】で耐える。…痛いものは痛いけど。ベリーなんて食べてる余裕なんてないよ。
夕方特有の少し帰りたい気持ちになるような、風。
そこにオレンジの優しい光が相まって、何とも言えない空気を作り出している。
そんな中で揺れる茨と、真っ赤な果実という幻想的な光景は、ため息がでるほど美しかった。
――しかしそれは、遠くから見た場合である。
「思ったより広いな……」
アンナ・フランツウェイ(怪物である事を受け入れた天使・f03717)は、少しだけ肌寒い風を感じながら、眼下に広がる景色を眺めていた。
ライフルベリー群生地。
小高い丘の上に位置するそこは、飛んで超えるには危険を伴う場所だった。と言うのも、高度を上げて飛んだとしても、凄まじい勢いで飛来したベリーが直撃したという話があるからだ。
当たると勿論痛いし、果汁が真っ赤なせいで衣服に付着すると落ちない。何とも厄介な代物なのだ。
「横に広がってるから、どうしてもこの中を進むしかないってことだよね」
アンナは高度を下げながら、はぁ、とため息をついた。
「当たると痛いし、色が落ちないって何その危険植物……。まあいいや、さっさと食材奪い返して、夕飯にありつけるよう頑張ろう」
夕飯――ごった鍋。
グリモアベースで聞いた説明によると闇鍋らしいが、果たして。
アンナは断罪剣・エグゼキューターを手にすると、手近なライフルベリーに向けて無造作に凪いだ。放たれた斬撃は呪詛を纏い、衝撃波となって茨の間を抜けていく。
途端に、ライフルベリーはしおっと枯れ果て、灰色の粉を散らして崩れ去った。
アンナはひとつ頷くと、目を細める。
「次は全力で――って言っても、流石に全部は枯れさせないけど」
そんなことをしたら、後々何を言われるかわかったものではない。面倒事は避けるに越したことはないのだ。
アンナは断罪剣を構え、地を蹴った。
先程枯らした場所から群生地に侵入すると、一気に呪詛を解放する。
呪詛の衝撃波を受けた茨と、そこに実った真っ赤な果実は、次々に枯れていった。
しかし、枯れた向こうの茨からベリー弾がアンナへと飛来する。
「あーもう、ほんとに面倒だ」
一閃、また一閃と、武器を振るう手にも力が籠もる。
時折、死角から迫りくるベリーが憎たらしい。植物なのに、まるで悪意ある者――そう、オブリビオンのようだ。
そんなことを考えていると、右肩にバシュッとベリー弾がヒットした。
――確かに、思った以上に痛い。
意識をそちらに取られそうになるのを堪え、アンナは進み続けた。
一度でも立ち止まれば、あっという間にベリーまみれ(しかも痛い)。
それだけは御免だ。
アンナは進路上の茨だけを枯らして、確実に群生地を攻略していった。
そして、空がオレンジから水色へのグラデーションを描く頃。
アンナは遂に群生地を抜けた。
「うわ、顔についてる」
数発食らったベリー弾のひとつが弾けた時に、果汁が顔にもかかったようだった。
まるで返り血でも浴びたかのように、アンナの顔が赤く汚れている。
服は黒いためか、目立つ染みはないようだった。
しかし、むせ返るような香りが、全身から立ち上っていた。
「甘ったるい……でもベリーなんて食べてる余裕なんてないよ」
手の甲で顔を拭いながら、群生地を振り返る。
彼女が通り抜けた跡は、灰色の道だ。そこに茨が影を落として、まるで森の中の獣道の様相を醸し出している。
彼女は再び視線を前に向けた。
巨大な岩が転がり、その先に山がそびえている。
きっと、この先に件のオブリビオンの巣があるのだろう。
アンナは何の感慨も抱かないまま、岩場へ足を踏み入れるのだった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『黒龍細胞片』
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POW : 過食
戦闘中に食べた【有機物や生き物】の量と質に応じて【細胞分裂の速度が増して肥大化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 飽食
攻撃が命中した対象に【自身の細胞の一つ】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【付着した箇所から細胞が増殖、取り込み】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ : 食物連鎖
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【侵食し、細胞群で覆わせ眷属】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ライフルベリー群生地を抜けた先の岩場の奥に、目立たない洞窟がある。
そこは比較的浅い洞窟だが、中からは絶えず何かの声が聞こえていた。
――ウルオオオ……。
悲しいような、懐かしいような、声。
思わず中に引き寄せられるような、危うい声。
ひとたび洞窟に足を踏み入れてしまえば、それが罠だと気付く間もなく捕食されるだろう。
声の主――黒い、細胞群に。
それは過去にこの地で猛威を奮っていた『黒龍』が死した後、散り散りになった肉片の成れの果て。
ある細胞は獣を取り込み、ある細胞は花を取り込む。
ありとあらゆる『食材』を取り込むことが、彼らの使命なのだ。
――そう、いつの日にか、再び黒龍となるために。
今回、この黒龍細胞片のひとつが、偶然サマンの村の様々な食物の香りに誘われて倉庫に入り込み、すべてを喰らい尽くしたというわけだ。
これが夜だったから良かったものの、もし昼間だったら――今頃村の人々は、黒龍細胞片の一部となっていたに違いない。
猟兵たちが辿り着いたのは、空が青に染まる時刻。
暗い洞窟の中で、悪食のオブリビオンとの戦いが始まろうとしていた。
新川・由紀
その口に捕食されたらおしまいわね…
でもこのままでは食材が喰らい尽くされるわ…今こそ攻め込むチャンス!
一気に距離を詰めて攻撃を仕掛けるわ!
相手の動きをよく見て、隙を突いて速いパンチを連打してみる
※後はお任せします
ティエル・ティエリエル
WIZで判定
うわっ、ぶよぶよして気持ち悪いっ!
これ……食材はきっと残ってないよねってしょんぼりしちゃうよ。
でも、こんなのが残ってたら村も大変だから気持ちを切り替えてきっちりやっつけていっちゃうよ!
とはいえ、近づきたくない相手には変わらないわけで!
遠くから【お姫様ビーム】をどっかんどっかんと打ち込んでやっつけてやるよ♪
ふふん、ドラゴンにも負けないボクだからね!残りかすの汚物なんてこのまま消毒だー☆
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
暗闇に温かな光が灯る。
ティエルが発する聖なる光によって、洞窟内は薄暗いながらも、どこに何があるかは把握できるだけの明るさとなっていた。
だからこそ、見たくないものも見えてしまうわけで――。
「うわっ」
由紀の肩に乗ったティエルは、思い切り引きましたと言わんばかりの声を上げた。
「ぶよぶよして気持ち悪いっ!」
「これは……何て禍々しい」
由紀も嫌悪を顕にする。
二人が目にしたのは、大量の黒い粘液が折り重なって蠢く、不気味な光景だった。
洞窟は思ったより奥へと続いているらしく、先は見通せない。しかし、床を埋め尽くさんばかりの粘液は、その奥へ向かって延々と続いているように見えた。
『喰ろうてくれる……我々が黒龍として復活するためにも……』
『すべてを……喰らい尽くすのだ……』
口のない粘液から、ひび割れた音が聞こえる。それはまるで歌うかのように、『喰らう』と繰り返していた。
「黒龍……?」
脳内を掻き回されるような嫌な感触に顔をしかめながら、由紀は声を漏らした。
「ドラゴンだったってこと? こいつが?」
ティエルも目を丸くする。
どう見ても、ただの粘液だ。
「つまり、死にきれない黒龍の残骸といったところかしら」
「うわっ、残りかすってことか!」
二人は更に嫌悪感を募らせた。
「元の姿に戻るために、たくさん食べてるってことは――食材はきっと残ってないよね……」
ティエルはふとごった鍋の材料のことを思い出し、しょんぼりと肩を落とす。
「そうね……倉庫の中身は既に食べられてしまったのでしょう。でも、ここでこの残骸を滅ぼさなければ、村の食材は更に食い散らかされてしまうわ」
由紀はそう言うと、拳を握り締めた。
「そうだね、こんなのが残っていたら村も大変だ!」
ティエルも気持ちを切り替え、強く頷く。
二人は猟兵らしく、心の戦闘準備を整えたのだ。
「まだ気付いていないようね。今が攻め込むチャンスだわ!」
由紀が今にも飛び出しそうな勢いでそう言うと、ティエルは喉の奥でうーんと唸った。スラリと抜いたレイピアをくるくると回しながら、視線は由紀に向ける。
「やっつけるにしても、ボクは近付きたくないんだな!」
「つまり……遠距離攻撃ということね?」
彼女の意向を察した由紀に、ティエルは嬉しそうに頷く。
「そう! だから、由紀が1、2って攻撃したら、ボクが3でどかーんってするから!」
「わかったわ」
すごーくわかりにくいティエルの説明にも、由紀はまさかの二つ返事で答えた。
ティエルが肩から飛び立ったのを合図に、彼女は地を蹴って瞬時に残骸へと肉薄する。
突如出現した人間に驚いたのか、蠢いていた彼らの動きが止まった。
「イチッ!!」
気合を乗せた回し蹴りは衝撃波を伴い、辺り一帯の粘液を宙へ浮かび上がらせた。
「ニッ!」
そこへ鋭いパンチを繰り出せば、まるで叩きつけられたトマトのようぐしゃりと凹み、後方の粘液を巻き込んで飛んでいく。
その直後、由紀はバネのように体をしならせたかと思うと、大きく横へと跳躍した。
「ナイスだ由紀! さあ、ボクの『サン』の出番だー!」
ティエルが叫んでレイピアを残骸へと向ける。
桜色の光が刀身から切っ先へと流れたかと思えば、一箇所に集められた残骸へ向かって、一筋の閃光が放たれた。
桜色のプラズマが、辺りを真昼のように明るく照らす。
これが、お姫様ビームだ。
実はとある国のお姫様であるティエルの、気合の一撃。
「す、すごい……」
由紀が感嘆の声を上げた。
光に貫かれた細胞は泡のように蒸発し、役目を終えたビームが桜色の残滓を散らして消えていった。
再び、暗闇と静寂に包まれる洞窟。
「やったね! ボクたちの連携プレイの勝利だ!」
ティエルが宙返りすると、ふわっと風が巻き起こり――何やら香ばしい美味しそうな匂いが二人の鼻孔をくすぐった。
「これは……残骸たちが取り込んだ食材の焦げる匂い……?」
由紀がそう言うと同時に、彼女とティエルのお腹が『クゥ』と可愛らしい音を立てた。
二人は思わず顔を見合わせると、照れるように笑い合うのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フリル・インレアン
ふええ、あれが食べ物泥棒さんの正体なんですね。
あれでは奪われた食べ物を少しでも取り返すのは無理そうですね。
ところで、アヒルさんどうしましょうか?
私、魔法と言っていろいろユーベルコードを使ってますけど、魔法攻撃のユーベルコードはひとつもないんですよ。
アヒルさんもどう見ても物理攻撃ですし、打つ手がないんじゃないですか?
ふえ?ひとつだけあるって、どうすればいいんですか?
まず、美白の魔法で摩擦をなくして、細胞さんの付着を防ぐと。
そして、フォースセイバーに属性攻撃を付けて・・・。
いえ、もう分かりました。
攻撃は美白の魔法で防げないので、とにかく必死に避けるしかないんですね。
ふえええ、結局は突撃なんですね。
暗い洞窟の中で猟兵たちが黒龍の細胞片と戦う中、フリルは鍾乳石のような大きな岩陰に隠れ、出方を伺っていた。
戦火に照らされた細胞たちの表面は、ぬらぬらと不気味に光り、より一層恐怖を駆り立てる。
口もないのに『喰わせろ』という声が聞こえる気がするのは――気のせいではないようだ。
「ふええ、あれが食べ物泥棒さんの正体なんですね」
ぶるりと身震いすると、フリルは泣きそうな表情で細胞たちを見つめた。
彼らは戦う最中、自身の細胞を相手に飛ばして取り込もうとしているようだった。
そんな彼らの細胞内に見え隠れする赤や緑のものは、サマンの村で取り込んだ野菜や果物だろうか。
「あれでは、奪われた食べ物を少しでも取り返すのは……無理そうですね」
残念そうにそう呟くと、アヒルさんがぐわっと鳴いた。
「……ところで、アヒルさんどうしましょうか? 私、魔法と言っていろいろユーベルコードを使ってますけど、魔法攻撃のユーベルコードはひとつもないんですよ」
そう。フリルの操る魔法は、ちょっと変わったものが多い。しかし、どれも癖がある分、ここぞと言う時に凄まじい効果を発揮するのだ。
例えば『身嗜みを整えるお洗濯の魔法』は、どんな汚れや効果もはたき落としてしまう魔法――つまり、敵の強化などをあっさり消し去ることが出来る。
しかし、先程フリルが言った通り、炎や氷の嵐を発生させたり、爆発を起こしたりする魔法は、一切覚えていないのだ。
「アヒルさんはどう見ても物理攻撃ですし……打つ手がないんじゃないですか?」
赤い瞳が不安げにアヒルさんを見る。
アヒルさんのつぶらな瞳には――何と、勝機が見えていた。
ぐわっぐわっと鳴くアヒルさんに、フリルはきょとんと目を丸くする。
「ふえ? ひとつだけあるって、どうすればいいんですか?」
アヒルさんは自信たっぷり、フリルに説明した。
「ふむふむ……まず美白の魔法で摩擦をなくして、細胞さんの付着を防ぐと」
確かに『しっとり艶々なお肌を守る美白の魔法』は、敵との摩擦抵抗を極限まで減らすことができる。飛んできた細胞の被害に合うことはないだろう。
「そして、フォースセイバーに属性攻撃をつけて……いえ、もうわかりました」
フリルはガクッと首をうなだれた。
その頭の上にアヒルさんが飛び乗ってぐわぐわと鳴く。
「細胞を防げても、攻撃は防げないじゃないですか……結局は必死に避けるしかないんですね」
諦めながらも、ユーベルコードを展開する。
つるっとすべったアヒルさんを、フリルは手で受け止めて、そっと足元に降ろす。
そしてフォースセイバーを出現させると、そこに炎属性を付与した。
あとは、意を決して飛び出すだけだ。
「ふえええ、結局は突撃なんですね」
鬨の声を上げるアヒルさんに、フリルはしぶしぶフォースセイバーを構えて岩陰から飛び出して行くのだった。
――何だかんだで、フリルもアヒルさんも細胞片を薙ぎ倒し、勝利を収めることに成功した。
成功
🔵🔵🔴
火土金水・明
「下手に炎系の攻撃をして洞窟内を大変なことにしてもいけないので、ここは氷系の攻撃でいきましょうか。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃方法は、【高速詠唱】で【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【コキュートス・ブリザード】を【範囲攻撃】にして、『黒龍細胞片』達を纏めて【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【見切り】【残像】【オーラ防御】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。
洞窟内の戦闘は続く――。
どこに潜んでいたかと言いたくなる程、次から次へと湧き続ける細胞。彼らは互いに結合し、人よりも大きな塊となって猟兵たちに襲いかかる。
――そこへ放たれた煌めく吹雪。
漆黒のウィザードローブにハット、瞳も髪も黒一色の火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)は、得意の高速詠唱で凍てつく衝撃波を次々に撃ち出していた。
細胞たちは反撃しようと粘液を飛ばしても、それらは等しく宙で凍りつき、その後に訪れる猛吹雪の風によって粉々に砕け散っていく。
もし彼女が炎系の魔法を放っていれば、この洞窟という空間は大変なことになっていただろう。それを避けて選んだのが、この氷の地獄というわけだ。他の猟兵に影響を与えず、また足止めにも使えるのが氷魔法の利点でもある。
洞窟が比較的浅いとは言え、道は奥へと続いている。
入り口に近い場所は他の猟兵に任せ、明は奥へと進んで行った。
そこに猟兵の気配がないことを察すると、そっと口を開く。
「我、求めるは、冷たき力」
彼女の周りの気温が、瞬時に下がる。
ユーベルコード『コキュートス・ブリザード』が発動し、それによって生み出された500近い氷の矢が彼女の命に従い、洞窟の奥目掛けて一気に飛翔した。
洞窟の奥で蠢く細胞たちは、彼女の姿を見ることも叶わず、あっと言う間に氷塊と化していく。
しかし明は止まらない。
二撃目を発動させると、再び出現した氷の矢が飛翔し、凍りついた細胞たちに突き刺さった。シャリンという小気味好い音を響かせ、氷塊は次々に砕けていく。
――と、その時だ。
入り口付近で分裂を繰り返していた細胞が、いつの間にか明の背後まで忍び寄っていた。細胞は体を大きく広げ、彼女を捕食しようと――。
「……残念、それは残像です」
確実に捉えたと思わせたのは、彼女が残した残像で。
何もない空間に広がった隙だらけの細胞に、明は至近距離からの火炎球を見舞った。細胞はじゅわっと蒸発し、辺りには何故か美味しい匂い――たぶん細胞が取り込んだ食材が焦げた匂いだろう――が漂ったのだった。
「この辺りは片付きましたね」
明は一息つくと、後方を見やった。
残された最期の細胞は――きっと、すぐに葬られることだろう。
大成功
🔵🔵🔵
シーザー・ゴールドマン
おやおや、どんな食材泥棒がいるかと思えば、意外と物騒なモノが出てきたね。サマンの村人達は運が良かったようだ。
しかし、食材は絶望的だね。まあ、適当に用意してあげよう。
――さて、どの様に倒すか。やはり、細胞の一片も残さずに消滅させるべきだろうね。
そう、軽くステラに言って『ウルクの黎明』を発動。
高めた戦闘能力で『絶対零度』の魔法を放って黒龍細胞片を凍結して固めます。(属性攻撃:冷気×範囲攻撃×全力魔法)
では、ステラ。仕上げにこれを消したまえ。
ステラと/アドリブ歓迎
ステラ・リデル
これは――龍のなれの果てですか。
知性なく本能のままに捕食する。これを繰り返していつの日か龍に戻れる日を夢見ているのでしょうか?
はい。少しでも残れば、同じことを繰り返すでしょうから。
――承りました。『魔力解放』で消し去りますのでお下がりを。
シーザーが射程範囲外に移動するのを確認してから凍結した黒龍細胞片に近づいて『魔力解放』を発動。消滅の魔力で氷ごと黒龍細胞片をこの世から消し去ります。
シーザーと/アドリブ歓迎
最後に足を踏み入れたのは、紅と蒼の美しい二人組。
既に猟兵たちがひと仕事終えた後の洞窟内――壁はえぐられ、焦げた跡もあれば、洞窟の奥は氷によって閉ざされている。『生き物はいません』といった様相だが、異様な気配が漂っていた。
「かなり暴れたようですね」
表情を変えず呟いたのは、蒼髪のステラだ。
そう言いながらも、自身の魔力を辺りに『流し』て、状況把握につとめる。
異様な気配は、確実にオブリビオンが残っていることを告げている――と、意外にもあっさりと、天井や壁から黒い物体がボタボタと落ちて来た。
「おやおや、どんな食材泥棒がいるかと思えば、意外と物騒なモノが出てきたね」
ステラの隣で、金の瞳を細めたシーザーが楽しげに言った。
地面に落ちた黒い物体は、何かの細胞のようだった。
「これは――龍のなれの果てですか」
僅かに首を傾げたステラは、それが放つ気配で正体を察する。
纏った波動は黒龍のもの。そして、纏わりつくような粘質な『負の感情』は、死にきれずオブリビオンとなり果てた龍の意思だ。
「知性なく本能のままに捕食する――これを繰り返して、いつの日か龍に戻れる日を夢見ているのでしょうか?」
ステラは短く嘆息した。
捕食するだけで龍になれれば、何も苦労はしない。
「ハハハ、黒龍も堕ちたものだ。サマンの村人たちは運が良かったね。こんなものに取り込まれては、彼らまでオブリビオンにでもなりそうなものだ」
誇り高い龍にも、様々な想いがあったのかも知れない。
しかし、それを御せないのであれば、末路は決まったも同然だ。このアックス&ウィザーズという、数多の生物が縄張り争いに生存競争を繰り広げる中ならば尚のこと。
「しかし、食材は絶望的だね。まあ、適当に用意してあげよう」
ここに来るまでに見た食材は、ライフルベリーのみだったが――少し足を伸ばせば、湖や森もある。
シーザーは先のことは一旦置いておいて、周りに蠢く細胞片をみやった。
まだ二人を警戒しているのか、それともどちらから食べようか考えているのか――何にしても、動く気配はない。
「さて、どの様に倒すか」
シーザーの一言で、ステラの纏う気配が変わった。
所謂、戦闘態勢に入ったというやつだ。
「やはり、細胞の一片も残さずに消滅させるべきだろうね」
にこやかに言い放つシーザーに、ステラは頷く。
師の言葉は絶対だ。それは彼と『契約』してから、後にも先にも不変のものなのだから。
まずはシーザーが前に出る。
細胞たちはまるで何かに怯えるかのように、その漆黒の表面にさざなみが立った。
「それは怯えという感情だよ」
細胞たちの意思を汲み取ったシーザーが、諭すように告げれば。
細胞たちがざわりざわりと音を立てる――喰わせろ、だとか、黒龍になる、だとか。そんな言葉が、口もない体から発せられることには驚きだ。
「ハハハ、黒龍は芸達者のようだ」
そんな感想を述べながら。
シーザーはユーベルコードを発動させた。
全身は紅に輝き、その両の手には、きらきらと輝く光が集う。
そのまま手を振るえば、そこから放たれるは――絶対零度。一息に広がった『氷の手』が、細胞片の表面を撫でる。たちまち原子の振動は限りなく零に等しくなり、細胞の動きは停止した。
「では、ステラ。仕上げにこれを消したまえ」
「――承りました。『魔力解放』で消し去りますのでお下がりを」
踵を返すシーザーと入れ替わり、ステラが前に出る。
細胞片たちに囲まれるかたちで立ち止まると、ちらりと後方を見やった。シーザーは洞窟の入り口まで下がり、まるで祭りでも見物するような表情でこちらを見ている。
ステラの口端が僅かに上がった。
同時に、全身から凄まじい魔力が立ち昇る。それは動くことをやめた原子を揺り動かす程で。
十分に高まった魔力を、
「消え去りなさい」
というたった一言で解放した。
それは『消滅』の魔力。彼女を中心とした球状の空間を、文字通り『なかったこと』にする技だ。
そう、彼女の奥の手の一つでもある。
蒼い魔力の波動が辺りを飲み込み、そしてふわっと消える。
そこに残るものは、何もない。
巨大な細胞片も、地面に落ちた粘液も、通りすがったトカゲも、僅かに生えていた苔も――何もかもが消失した。
――ウルオオオ……。
消える瞬間、黒龍の悲しげな声が聞こえた気がした。
ステラは何もなくなった空間を見つめていたが、くるりと踵を返した。
自身のやるべきことは遂げたのだ。
あとは――。
「良い出来だったよ」
「……ありがとうございます」
洞窟の入り口でステラを待つシーザーの言葉に、礼を返すステラの表情は――たぶん、誰にも見せない『奥の手』……なのかも知れない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『お鍋の美味しい季節ですね』
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POW : 肉や魚を調達。新鮮なお肉やお魚、狩ったるどー!
SPD : 野菜やキノコ等を調達。森や洞窟から、手早く収穫してきます。
WIZ : 調味料や加工品を調達。村で家人や商人に交渉し、入手します。
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
星々が瞬き、冷たい風が吹き抜けていく。
猟兵たちは村への帰路の途中、食材になりそうなものを探していた。
ライフルベリー群生地を抜けると、右手には湖が、左手には森が広がっている。湖では様々な魚介類が採れるだろうし、森では変わったハーブやきのこ、木の実や果実が採れるらしい。
村の周りには、動物――どちらかと言うと魔獣――も生息しているので、食材には事欠かない。
猟兵のような力があれば、そして夜目が効くならば、望んだ食材を手に入れることは難しくはないだろう。
今晩食材を集めることが出来れば、明日の朝からハロウィンの準備を始められる。
さて、どんな食材を土産にしようか。
---
●補足
オブリビオンの討伐お疲れさまでした。
第三章は、祭りがはじまったところからスタートします。
皆さんが集めた食材を元に作られる『ごった鍋』は、一体どんなものになるでしょうか。
鍋以外にも、ハロウィンらしい料理が用意されているようです。
プレイングには必ず『提供する食材』を記載ください。
どうやって手に入れたかも記載して頂くと、村人たちとの交流で語られるかも知れません(武勇伝はアックス&ウィザーズの冒険者が好きそうですよね)。
祭りはお昼から夜までやっているので、好きな時間帯で楽しんで頂ければと思います。
フリル・インレアン
『完熟ライフルベリー』
ふええ、私達が持っていく鍋の材料はぬしにするんですか。
こういう時はぬしを持ち帰って盛大に祝うって、
アヒルさん、さっきも言いましたが私は直接攻撃するようなユーベルコードがあまりないから無理ですよ。
あ、でしたらライフルベリーさんのぬしにしませんか?
ライフルベリーさんの性質から飛んでくる実はまだちゃんと熟してないと思うんです。
ですが、人や動物が入り込まない奥地なら完熟した実があるんじゃないでしょうか?
それを取りに行きましょうね。
お菓子の魔法でライフルベリーさんの動きを遅くしつつ、気づかれないように奥地に行ってみましょう。
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
ハロウィンだー!おまつりだー!
朝から仮装用の布を被って飛び回って遊んでたらお腹が空いてきたよ!
仲良くなった村のおじさん達に『ごった鍋』の準備が出来たと聞いたら飛んで食べに行くよ♪
ボクの採ってきたキノコも入ってるかな?
ボクは森の奥の切り立った斜面に生えていた見るからに毒キノコっぽいキノコを持って帰ってきてたよ☆
村のキノコ博士な人に聞いたらとっても珍しくてすっごく美味しいキノコなんだって!楽しみだね!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
シーザー・ゴールドマン
提供食材:ワイバーン1匹(シーザー&ステラから)
シーザーが食材をウルブスから持ってくるか、創造の魔力で作り出すか等と考えているところにたまたま(空を)通りかかったワイバーン。
ドラゴンの肉には劣るが、高級牛肉にも劣らないと『魔弾』(属性攻撃)で撃ち落されます。後は『念動力』で運ばれ村人たちへのお土産に。
お祭りは適当にステラと楽しんで帰還します。
ステラと/アドリブ歓迎
ステラ・リデル
提供食材:ワイバーン1匹(シーザー&ステラから)
シーザーからワイバーンが引き渡された際に、鱗も堅く、猛毒ももつ存在を料理するのは難しいでしょうから、解体を申し出ます。
手際よく鱗を落とし、毒の部分を摘出食べられる部位にして提供。
残った鱗や牙、爪は素材として売れるでしょうから、臨時収入にすればいいですよ、と。
お祭りはシーザーと楽しみます。
シーザーと/アドリブ歓迎
早朝であるにも関わらず、サマンの村は賑やかだった。
猟兵たちの活躍により、ハロウィンの食材は無事揃ったのだ。予定より一日遅い祭りではあるが、その気合の入り方は例年以上だろう。老若男女、皆協力して祭りの準備を進めていた。
「しかし黒龍の生き残りとは、俺たち生きてて良かったよなぁ」
村人たちは飾り付けや料理をしながら、互いの無事を喜んでいた。
猟兵たちから知らされた事件の真相は、予想以上の『恐ろしい事件』――細胞の集まりとは言え、あの恐ろしい黒龍の一部が、この村までやって来ていたと聞けば、誰もが震え上がると言うものだ。
「ハロウィンだー! おまつりだー!」
そんな村人たちの間を、布を被った小さなナニカが飛び回っている。
「ははは、ティエルちゃんは元気だなぁ」
おじさんたちが朗らかに笑ってその正体を当てた。まだ出会って間もないというのに、ティエルはすっかり彼らの人気者だ。この辺りにはあまりフェアリーが住んでいないこともあるが、やはり彼女の人柄に起因するところが大きい。
「あー、お腹が空いてきたよ! ごった鍋、楽しみだなー♪」
「ティエルちゃんも何か入れたのかい?」
布から顔を出したティエルに、村人が尋ねる。
「ふふん、もちろんだよ! ボクが採ってきたのは……もしかして、ボクの英雄譚ききたい?」
目を輝かせるティエルに、おじさんたちは嬉しそうに頷いた。
ティエルはまるで勇者のように剣を構えると、身振り手振りを交えて皆に語った。
~ティエルの冒険譚~
そこは、深い森の中。
ティエルは食材を求め、道なき道を進んでいた。
「うーん、だいぶ深いところまで来ちゃった気がするよ」
月明かりが照らしてくれているとは言え、森の中は暗い。あまり街道から離れてしまうと、戻るのが困難になってしまうかも知れない。
しかしティエルは進む――そう、まだ見ぬ食材のために!
「あ、森を抜けちゃった」
唐突に森が開け、そこでティエルが見たものは切り立った崖だった。
天を衝くような崖の上部は、夜の暗闇に覆い隠されている。
「すごく高いなぁ……ん? なんだかあそこだけカラフルだけど、なんだろう?」
ティエルの小さな瞳が見つけたのは、崖を少し上った場所に点在する七色の物体だった。この距離では正体不明である。
「よし、行ってみよう!」
ティエルは目を輝かせて飛翔すると、あっと言う間に目的の場所まで辿り着いた。
そこにあったものは――。
「これは……見るからに毒キノコだね☆」
そう。
七色の、触るのも憚られるようなキノコがはえていたのだ。
しかしティエルの直感は告げていた。これは最高の食材である、と。
――決して興味本位とかではない。たぶん。
ティエルは鼻歌混じりにキノコを引っこ抜くと、颯爽と森へ引き返して行った。
~ティエルの冒険譚 完~
「ってな感じで、七色のキノコを鍋に入れて貰ったんだ♪」
ティエルの話を聞いて、おじさんたちは顔色を変えた。
いや、どう考えても食べたらヤバイよね?
「あ、でも安心して! 村のキノコ博士な人に聞いたら、とっても珍しくてすっごく美味しいキノコだって言ってたから♪」
――キノコ博士なんてこの村にいただろうか?
おじさんたちは首を傾げつつも、ティエルの笑顔につられて破顔した。
「あー、早くお昼にならないかなぁ」
ティエルは待ち遠しそうに、その時を待つのだった。
「聞きましたか、アヒルさん。ティエルさんは七色のキノコを提供したそうですよ」
飾り付けを手伝いながら、ティエルはアヒルさんに話しかけた。
アヒルさんは、飾り付けに使う三角の色紙を器用に折っているところだった。
「ふええ、アヒルさん凄いです! もうそんなに作ったのですか?」
少し目を離した隙に、大量の飾り紙が積み重ねられている。
一体どうやって作っているのだろうか……。
「おや、だいぶ綺麗になったじゃないか」
突然背後から声をかけられ、フリルが驚いて振り返ると、そこには大きな女性が立っていた。
30分ほど前に、飾りの作り方を教えてくれたクレアだ。
「これで大丈夫でしょうか」
フリルが恐る恐る尋ねると、クレアは野性味のある笑顔でサムズアップした。
「ああ、バッチリだよ。ホント、人手はいくらあっても足りやしない。アンタたちが手伝ってくれて助かるよ」
クレアがそう言うと、彼女の後ろからゾロゾロと村人たちがやって来た。
「少し休憩しようか」
クレアはフリルを手近な椅子に座らせ、温かい紅茶を用意してくれた。
「そういえば、フリルも食材を提供してくれたんだって?」
お礼を言ってふうふうと紅茶を冷ましていたフリルに、クレアがそんな話題を振ってきた。
「あ、はい。色々考えたのですけど、わたしとアヒルさんで持って来れるものは限られていましたから――」
フリルは休憩する村人たちにせがまれ、食材を手に入れるまでの経緯を語ることになった。
~フリルとアヒルさんの冒険譚~
暗い細道を歩きながら、フリルはアヒルさんと食材の相談をしていた。
「ふええ、わたしたちが持っていく鍋の材料は『ぬし』にするんですか?」
最初から涙目のフリルの腕の中で、アヒルさんが誇らしげに鳴いている。
「こういう時はぬしを持ち帰って盛大に祝う――って、アヒルさん。さっきも言いましたが、わたしは直接攻撃するようなユーベルコードがあまりないから、ぬしを狩るなんて無理ですよ」
フリルが諭すように言っても、アヒルさんは断固として『ぬし』を狩る気のようだ。
「アヒルさぁああん」
フリルが半泣きになったその時。
彼女の脳裏にピコーンと電球の光が灯った。
「あ、でしたら、ライフルベリーさんの『ぬし』にしませんか?」
黒龍の細胞が潜む洞窟に辿り着く前に通った、あの恐ろしい群生地。
再び行きたいかと言われればNOだが、『ぬし』を狩るよりは遥かにマシである。
「ライフルベリーさんの性質から、飛んでくる実はまだちゃんと熟してないと思うんです。ですが、人や動物が入り込まない奥地なら、完熟した実があるんじゃないでしょうか?」
フリルの説明に考え込んでいたアヒルさんは、遂にグワッと賛成した。
「では取りに行きましょうね」
にこりと笑ったフリルは、ライフルベリーの群生地へ向かう。まだそんなに離れた場所まで来ていなかったため、あっと言う間に辿り着いた。
「では、お菓子の魔法で動きを遅くしつつ、気付かれないように注意して奥地まで行ってみましょうか」
アヒルさんが頷いたのを確認すると、フリルはユーベルコードを展開した。そして、持ってきたお菓子をアヒルさんに食べさせながら、群生地へと入って行く。ライフルベリーが撃ち出す実の速度は、お菓子の魔法の効果で5分の1まで現象している。猟兵にとっては余裕で避けられるスピードだ。
まだ誰も分け入ったことのない様な奥地までやって来ると、今まで以上の甘い芳香が鼻孔をくすぐった。
「見てくださいアヒルさん、こんなに大きな実がなってますよ」
フリルが言うよりも早く、アヒルさんがライフルベリーに向かって飛んで行った。
「あ、ダメですよアヒルさん。ライフルベリーさんに近付いたら実が――」
フリルが慌てて止めようとしたが、時既に遅し。バシュっとアヒルさん目掛けて大きな実が撃ち出されてしまった。
「ああ、ライフルベリーさんの『ぬし』が……」
せっかく見つけた『ぬし』も、これでは回収できないではないか。
フリルががっくしと肩を落とした、その時。
アヒルさんのふわっふわの羽毛にぶつかったベリーは、勢いを落としてクルクルと宙を舞い、フリルの手の中にスポンと収まったのだった。
奇跡なのか、アヒルさんの思惑通りなのか――。
一人と一羽は、無事に食材を抱えて村へ向かったのだった。
~フリルとアヒルさんの冒険譚 完~
「そんなわけで、わたしとアヒルさんは、ライフルベリーさんの『ぬし』をお渡ししました」
フリルの話に、村人たちは目を丸くしていたが。
次の瞬間、どっと笑い声が上がった。
「凄いじゃないか! そんなラッキーベリーが入った鍋だ、うまいに決まってるよ!」
クレアが笑ってフリルの肩を叩けば、彼女は少し怯えながらも『良かったです』と小さな声を上げた。
――果たして、鍋はどんな仕上がりになるのだろうか。
●
猟兵たちの冒険譚が語られる中、シーザーとステラは野外に出ていた。
元より新鮮な食材を提供する予定だった二人は、昨夜はすぐに村へ戻り、待っていた村人たちに説明して回ったのだ。
おかげで、今日の準備は混乱もなく、つつがなく進んでいる。
「皆さん、色々な食材を用意していましたね」
ステラは昨夜から今朝にかけて村に運ばれた食材を思い出し、苦笑を漏らす。
「そうだね、謎のキノコにライフルベリーの『ぬし』……一体どんな味になるか楽しみだ」
シーザーはいつもの笑みを浮かべてそう返すと、さて、と立ち止まった。
ステラも同様に止まって、シーザーの様子を伺う。
「食材は何が良いかな、ステラ?」
「そうですね、ウルブスから持って来るのが確実かつ味の保証もあります……が、面白みには欠けるかと」
ステラがそう返すと、シーザーは満足そうに頷いた。
「そうだね。では……創造の魔力で創り出す方が面白いかな?」
二人がアレコレ考えていると――。
――シギャアアア!!!
唐突に凄まじい音が空いっぱいに響き渡った。
「あれは――」
ステラが見上げて目を細めると、そこにはワイバーンが悠々と羽ばたいているではないか。
猟兵にとっては手こずるような相手でもないが、村の人々にとっては恐ろしい存在だ。何と言っても、竜の眷属なのだから。
案の定、後方の村方面が騒がしい。声を聞いて不安になった子供たちの泣き声だろうか。
「ふむ、ワイバーンか」
シーザーが不敵な笑みを浮かべる。
「ドラゴンの肉には劣るが、高級な牛肉にも劣らない味だったね」
食べたことがあるのか、そんなことを呟きながらシーザーは右手の掌を上に向けて持ち上げた。
そこに現れる蒼い光。
溢れる魔力にワイバーンが気付き、宙で方向転換してこちらへ向かって来る。
「そのまま飛んでいれば、何も感じないまま逝けたというのに」
シーザーの声に合わせて蒼い光は球体となり、一瞬でワイバーンへ肉薄する。ワイバーンが炎を吐こうと口を開けるよりも早く、魔弾はワイバーンの胴体を穿った。
弱点を突かれたワイバーンは、一瞬で絶命して地面へ激突する――寸前で、シーザーの念動力が受け止めた。
「折角の手土産だ、綺麗なままでいてくれないと困るからね」
シーザーはそう言ってステラの方を向いた。
「さて――」
「はい、承ります」
シーザーが言うまでもなく、ステラは彼の意思を汲んでワイバーンを引き取った。
念動力でふわふわと宙に浮かんだワイバーンは、そのまま村へと運ばれて行くのだった。
「ひ、ひいい!!!」
突然運び込まれたワイバーンに、村人たちが悲鳴を上げる。
運んできたステラは、涼しい顔でそれを広場に下ろした。
「大丈夫です、もう息絶えていますよ」
ステラは微笑んでそう告げると、村人たちを見回しながら後を続ける。
「ワイバーンはとても美味しい食材となりますが、鱗は硬く、猛毒も持っています。これを捌くのは至難の技ですから、こちらで解体しようかと思いますが、如何でしょう?」
ステラの問い掛けに、村人は皆一様に頷いた。
驚愕に見開いた表情のままコクコクと頷く様が、なかなかに滑稽だ。ステラの後ろでシーザーが静かに笑っている。
「では、捌くのでお下がりください」
「……え? ステラさん、ここで捌くんですか?」
一瞬ぽかんとした村人たちは、慌てて広場から出ていく。
それを見送ったのち、ステラは振り返った。
「街を見て回って頂いても宜しいのですが」
「いや、それは後でステラと行こう。折角なので、お手並み拝見といこうか」
シーザーの言葉に、ステラは僅かに微笑んだ。だがその裏には、僅かな緊張も含まれている。
――それは実に心地良い緊張感だった。
そこからは『鮮やか』の一言に尽きる。
オーラセイバーと魔力を用いたワイバーン解体ショーは、広場の外から見守る村人たちにとって、忘れられないものとなっただろう。
ステラの無駄のない美しい動きは、まるで演舞でも見ているかのようなで。
たちまちワイバーンは『ただのお肉』と『素材』に分けられてしまった。
「こちらの鱗や牙、爪などは、売ればそれなりの値がつくでしょう。私たちには不要のものですので、臨時収入にすればいいですよ」
汚れひとつ付いていないステラは、まるで何事もなかったかのようにサラリとそう告げると、『ただのお肉』をごった鍋へ入れるために広場を後にした。
「しかし先程の彼等の顔は、なかなかに良い表情だったね」
「珍しいワイバーンに加え、それの解体を間近で見れば、ああもなるのかも知れません」
ふんわりと微笑んでステラはそう言うと、大きな葉で包んだ肉を鍋を作る女性に手渡した。
「おやまあ、立派な肉だねぇ」
女性は嬉しそうに受け取ると、ある程度切り分けられた肉を豪快に鍋へ放り込んでいく。
――鍋の色は何故か赤かった。
●
そして、時刻は16時。
遂に『ごった鍋』は完成し、猟兵たちも呼ばれて広場へ集った。
巨大な鍋から丸い器に並々と注がれる汁は、ほんのり赤みがかった乳白色。
(あの赤から、何をどうしたらこの色に……?)
ステラが怪訝な表情で器を見つめる。
「やったー! ボクが最初だね♪ いただきまーす!」
その後方でティエルがフェアリー専用の食器に盛られたごった鍋を、何の躊躇もなく口へと運んだ。
「……ん? んん!?」
目を白黒させて、ティエルがふわぁ~っと地面へ降りていく。
「ふええ、ティエルさんどうしたんですか」
フリルが駆け寄ると、ティエルは俯いていた顔を上げた。
その表情は――何故か号泣していた。
「ふえええー!?」
フリルが慌てふためき、それを眺めるシーザーがハハハと楽しそうに笑う。そんな彼の手にも器が握られている――が、中身は何故かもうない。
ステラは周りを見渡した。
談笑しながら鍋を食べ始めた村人たちが、会話をやめて恍惚とした表情で鍋を貪り食らっている。
「ふ、ふえええ」
どうやらフリルもごった鍋を食べたようだ、泣きそうな顔で一生懸命に口を動かしている。アヒルさんは――器にダイブしていた。
「……」
ステラは自分が受け取った器をみつめた。
別に何の変哲もない、クリームシチューのような色のごった鍋。
香りは複雑だ。食欲をそそるデミグラスソースのような、甘い果実のような――不思議な香り。無論、危険な魔力的なものは感じないし、毒もない。
ステラはそっと口に運んだ。
そして――。
●
「いやあ、すっごい美味しかったね!」
村の帰り道、ティエルがくるくると宙を舞いながら上機嫌で話す。
「そうですね。食べたことのない……形容し難い味でしたが、とても美味しかったです」
フリルは同意しながら、未だにペトペトするアヒルさんの羽毛を拭いてやっている。
「闇鍋的なものを想像していたが、あれ程の味になるとは驚いたね」
シーザーも満足そうに頷いた。
「ええ、最初は一体何が起きたかと思いましたが。それにしても、何があの味を出させたのでしょうね?」
ステラが首を傾げれば、フリルやティエルもうーんと考え込んだ。
しかしそういった疑問は、シーザーの一言で解決した。
「今回提供した食材を合体させた味――そうだろう?」
確かに――どれかひとつでも欠ければ、あの味にはならなかった。
そう考えれば、皆苦労して持ち寄った甲斐があったというものだ。
いくつものレア食材によって生まれた『ごった鍋』。
それはもう作ることは出来ないかも知れないが、食べた者はこの味を忘れることはないだろう。
大成功
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