ちゅうもんのおおいばんさんかい
●わるいひと
――おいしそうだなあ。
紳士な狐が何かを言いました。
何か言いましたか? と問えば、狐はなんでもないよと微笑みます。
紳士的なその笑み、気品あふれる佇まい。
わたしはすっかり彼の虜です。
彼に食べられる、その瞬間まで――。
ああ、アリス。早く君をぺろりと食べてしまいたいよ。
●兎の案内
「聞いたかな聞いたかな? ハロウィンの国のお話」
興奮気味に頭上の兎耳をぴょんぴょこ揺らしたフィオレンツァ・トリルビィ(花守兎・f19728)が口を開いた。
先のアリスラビリンスでの戦いで、オウガ・オリジンは『現実改変ユーベルコード』によって沢山の不思議の国を生み出したり、改変したりしていた。そして今回、『ハロウィンの国』に改変されてしまった国がいくつもあることが解ったのだ。
「ハロウィンの国! ステキだよね、楽しそう。ずっとずっとハロウィンなんて!」
両手を組んで、夢見る乙女のように語るフィオレンツァだが、けどねと続ける。
「けどね、やっぱりそこにはオウガがいるよ。オウガ・オリジンに力を与えられた強いオウガがいるんだよ!」
今回フィオレンツァが見つけた『ハロウィンの国』は、豪奢なお屋敷になっている。正確には、お屋敷が建っている。ゲートを潜ってハロウィンの国へ行くと、森に囲まれた大きなお屋敷の前に到着するのだ。
「雰囲気のある、素敵なお屋敷だよ。ハロウィンの飾り付けもバッチリ! お屋敷の入り口では執事さんが出迎えてくれるんだ。『ご主人さまのための晩餐会へようこそ』って」
けれどこの執事もオウガだ。
この執事オウガは、アリスに対して害意を持ってはいない。おもてなししたい気持ちでいっぱいだ。しかし、彼らの持て成しを受けてしまうと醒めない眠りにつき、やがて死に至る。執事たちが望んでいなくとも、だ。けれども彼らはおもてなしすることをやめられない。アリスたちが恋しくて溜まらないのだ。
「ちょっとかわいそうだよね……。終わらせてあげてほしいな。あ、そうそう。このハロウィンの国はね、森から衣装が飛び出てくるんだ」
森から、衣装が飛び出てくる。
サラリとフィオレンツァが口にした言葉を聞き返せば、うん! と元気な頷きが返ってくる。そう、森から衣装が飛び出てくるのだ。
「この衣装を着るとね、パワーアップするよ。それでね、この国には『ドレスコード』があるんだ。晩餐会だものね! ドレスやスーツがポンっと飛んできちゃうんだ。執事さんだって着ているよ、燕尾服」
衣装を着ている執事に勝つには、衣装を着て戦うと良いだろう。
ただ、衣装は猟兵の意思とは無関係に飛んできて、選ぶことは出来ない。
「気に入らなくても、ボスを倒すまでのガマンだよっ」
執事を倒して屋敷に入り、玄関ホールから真っ直ぐに進んだ大きな扉。その奥に強いオウガがいる。このオウガは、衣装を着ていても攻撃で倒すことができない。
「無敵のオウガなんだけれど、美味しい料理を作って食べさせることで倒せるよ」
扉を抜けると、広い部屋になっている。
ハロウィン仕様に飾られた大きなテーブル。
そして所謂ライブキッチンとなるキッチン。
オウガの直ぐ側で料理をし、振る舞わねばならない。
「オウガは国の決まりで出された料理は絶対食べないといけないのだけれど……君も自分が倒されるための料理なんて食べたくないよね?」
だから、攻撃はしてくる。
料理をしながら攻撃を防ぎ、そして美味しい料理を提供できれば、君たちの勝ちだ。
美味しい料理を食べれば食べるほど、オウガは眠たくなってしまう。
そして、たくさんの猟兵から料理を振る舞われたオウガが眠りについた時――
「無敵効果はおしまい!」
人差し指で銃を作ったフィオレンツァがバンッと撃つ動作をする。
わるーいキツネを料理でたおしてきて!
壱花
アリスラビリンスでハロウィンの国!
●シナリオについて
グループでのご参加は【2名まで】。
二章構成のシナリオとなります。「【Q】アリスラビリンスでハロウィンパーティ!」の結果、出現したシナリオフレームです。
10/31までに成功した本数に応じて、ハロウィンパーティ当日、そしてやがて始まるであろう「アリスラビリンスでの猟書家戦」に、何らかの影響があるかもしれません。
ですので、10/31朝までの終了を目指すため、早めに締切予定です。締切はMSページまたはTwitterでお知らせします。
●第1章:集団戦
オウガの集団はコスプレ衣装で強化されています。猟兵も衣装を纏うことでプレイングボーナスが発生します。衣装を着て闘うことで戦闘を有利に進められます。
このシナリオには『ドレスコード』があります。
また、衣装は当人の希望とは関係なく『ランダム』です。嫌な衣装(女装とか)が森から飛んで来ることもあります。普段は当人の性格が邪魔をして着せれない衣装でも、飛んできたら仕方有りませんよね?
【第1章のプレイング受付は、10/21(水)朝8:31~でお願いします】
●第2章:ボス戦
ボスは『ほぼ無敵』、倒す方法はただひとつ、『美味しい料理を食べさせること』。
ボスの攻撃を耐えながら、美味しい料理を作ってください。この『美味しい料理』とは気持ちの籠もった料理でも大丈夫です。が、このボスさんは結構な美食家さんです。
基本的に猟兵は『美味しい料理を作ること』と『ボスの攻撃を耐える』ことしかできません。 料理が苦手な方は、料理上手な人が料理をできるようにサポートに回ってもいいかもしれませんね。
どんな料理を、どんな工程で、どんな拘りを持って作るのか。を、教えて下さい。
※日程的に、再送前提となります。
●迷子防止とお一人様希望の方
同行者が居る場合は冒頭に、魔法の言葉【団体名】or【名前(ID)】の記載をお願いします。また、送信日も同じになるようお願いいたします。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『虹色雲の獏執事』
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POW : 「邪魔が入るようですね。番兵さん、出番です」
自身が【自身や眠っているアリスに対する敵意や害意】を感じると、レベル×1体の【虹色雲の番兵羊】が召喚される。虹色雲の番兵羊は自身や眠っているアリスに対する敵意や害意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD : 「お疲れでしょう。紅茶とお菓子はいかがですか?」
【リラックス効果と眠気を誘う紅茶やお菓子】を給仕している間、戦場にいるリラックス効果と眠気を誘う紅茶やお菓子を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : 「外は危険です。こちらにお逃げください」
戦場全体に、【強い眠気と幻覚を引き起こす虹色雲の城】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
三上・チモシー
♢♡
ドレスコードかぁ。どんな服が出てくるかな?
かわいいのがいいなぁ
自分、男物の服はあんまり似合わないんだよね。スーツみたいな正装は特に
スラックスなんてほとんど履いたことないし
ドレスがいいー
出てきちゃったものはしょうがないから着るけどさー
ボスを倒すまでのがまん……!
フリルが無い
レースもリボンも無い
かわいくなーい! もー!
『熱湯注意』で範囲内の獏執事も番兵もまとめて攻撃
ゴメンね、悪いけど速攻で倒しちゃうよ!
琴平・琴子
♢♡
この国に落ちたばかりに服の持ち合わせはありませんし
ドレスコードに合ったものが飛んで来るのは良かったですが…
…この服、果たして似合うでしょうか
なるようになるしかないですよね…
初めて着る服は少々動きにくいですがこれで戦うと覚悟決めましょう
美味しそうな晩餐会の手前
髪に隠した糸を両手で早業で引き抜き
指先から放って番兵羊さんたちを捕縛
当たったならば彼らの足元に一本の茨を伸ばし、
糸から解放した瞬間に動き出せば躓いて転んでしまう筈
此方に来るないらっしゃい、足元にご注意を
その手は取って起こしてあげたりしませんから
●オランジェットとチョコミント
オレンジ色の木の葉に、紫色の葉陰。包帯がぐるぐると巻かれていたり、おもちゃのような蜘蛛の巣。蜘蛛の巣からぶら下がるのは、これまたおもちゃのような蜘蛛たちだ。
ハロウィンの国を訪れて最初に目にした森は、おどろおどろしさよりも、可愛らしさを感じてしまう森だった。
「わぁ、ハロウィンっぽい!」
雰囲気も楽しそうだし、可愛い! パアッと笑顔を輝かせた三上・チモシー(カラフル鉄瓶・f07057)は、次の瞬間、顔を曇らせることになる。
森からポンっと飛んできたコスチュームは、まっすぐにチモシーと琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)の腕の中へと飛び込んできた。最初から抱えていたかのように、自然とその腕の中に収まったコスチュームを、コレを着ればいいの? と広げてみれば――。
「えぇー……」
「この服を着れば良いのでしょうか?」
ふたりは同時に顔を曇らせる。
可愛いドレスがよかった、とチモシーは不服げに。
似合うでしょうか、と琴子は不安げに。
そんなふたりに、近づく存在がいる。
「ようこそおいでくださいました、お客さま。ご主人さまのための晩餐会への相応しい装いへとお着替えでしたら、あちらへどうぞ」
頭にティースタンドを載せた虹色のもこもこ――『虹色雲の獏執事』はふたりへとフィッティングルームを薦める。案内担当なのだろう。さぁさお坊ちゃまお嬢様どうぞと慣れた様子でふたりを導いた。
不服ながらも、不安ながらも、ふたりはコスチュームに身を包んでフィッティングルームを後にする。
「うーん、やっぱりかわいくない」
チョコレート色のスーツに身を包んだチモシーは、やっぱり不満いっぱいの表情だ。フリルが無い、レースもリボンも無い。スカートの膨らみや、可愛らしいものがない。せめてスラックスがバルーンショートパンツだったら……なんて、考えてしまう。ワンポイントなのか、輪切りのオレンジのピンズと、オレンジのチーフがあるくらいだ。
「……おかしくないでしょうか?」
「わー、いいなー、かわいー! いいなー!」
少しだけおずおずとフィッティングルームから出てきた琴子の装いは、膝丈Aラインのワンピース。エメラルドグリーンとチョコレート色でまとめた、腰の後ろで大きなリボンが揺れるものだ。シースルーのパフスリーブが少しだけ大人びて思えて、琴子は気になるのか二の腕にそっと触れた。
チモシーががっかりしたり、いいないいなと琴子のドレスを見ていうものだから、交換してあげればよかったかな、と思えてしまう。が、飛んできたものを着るのがこの国のルールだ。
「お着替えはお済みでしょうか? でしたら、わたくしどもがお相手を務めさせていただきます。さぁどうぞ、遠慮はいりません。おもてなしはわたくしどもの喜びですので」
まずは紅茶とお菓子で歓待を。
その後でご主人さまの元へお目通りを。
畏まった調子でそう口にする執事たちに悪気はない。彼らは本気でふたりを歓迎しているし、特にアリスの琴子には満足してもらいたいと思っており、どうぞどうぞと菓子や紅茶を勧めてくるのだ。
お菓子の甘い香りに、芳醇で豊かな茶葉の香り。
お菓子が大好きなチモシーは、可愛くて美味しそうなお菓子についつい視線を向けてしまうけれど。
(ダメダメダメ! 早くボスを倒して着替えるんだから……!)
ぶんぶんぶんと大きく頭を振って、誘惑を断ち切る。
「ゴメンね、悪いけど速攻で倒しちゃうよ!」
「歓迎してくださるのは嬉しいのですが……ごめんなさい」
何も考えずに歓待を受けられたら、どんなに良かっただろう。
アリスへ向ける気持ちは偽りのない善意だとしても、彼らはオウガ。歪んだ存在だ。お茶やお菓子を口にすれば醒めない眠りにつき、その状態で『ご主人さま』とご対面! となる。
本体の鉄瓶をブンッと回したチモシーが熱湯を執事たちへと掛ければ、「熱い!」「紅茶が!」「お菓子が!」と慌てた執事たちの周囲に番兵羊が召喚される。虹色のもこもこふわ毛をぶるんっと揺らし、希少荒く蹄を鳴らしてふたりを睨みつけた。
番兵羊たちを見て、琴子の手が素早く伸びるのは、自身の頭部。するりと髪に隠した琴の糸を両手で引き抜き放ち、めぇめぇ鳴きながら向かってくる番兵羊たちを縛り上げる。
「此方に来るないらっしゃい、足元にご注意を」
転んでしまっても、その手は取って起こしてあげたりしませんから。
縛られてジタバタする羊たち。その縛る糸を緩めれば?
バタバタ、ころん。
けれど転ぶ先には、茨の棘。ころんで済まずに、ざっくりと。
「よぉし、もう一回! そーれ、熱湯ざばー!」
番兵と執事は串刺しになったところに熱湯を掛けられ、湯気が消える頃にはその姿も消えている。顔を見合わせたふたりは、空いた場所へと歩を進めた。
「お茶のおかわりは?」
「もうじゅーぶんっ」
「美味しいお菓子はいかが?」
「また今度いただきますね」
乱れてしまった髪を手で押さえながら、声を掛けてくる執事たちを置いて進めば、すぐに屋敷の入り口へとたどり着く。
扉の前には、一体の獏執事。
倒してどかすべきだろうか。
そう考えてふたりが行動に移すよりも、執事の行動は早い。
ゲストを待たせるようなことはしないと、態度が示す。
「ようこそ、お嬢さま、お坊ちゃま。歓迎いたします」
丸い体で慇懃に辞儀をした獏執事の背後で、ギィ、と。重い音を立てて、扉が開かれた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】♢
いやー大男二人組のドレス姿なんて
放送事故ものだよねぇ
※衣装&リアクション詳細お任せ
何が出ても「あはは」と割とノリノリ
梓のリアクションを楽しんだり写真を撮ろうとしたり
わぁ、お出迎えありがとう
こういう時は「ただいま」かな?(執事喫茶なノリ
ああ、ちょうどお腹空いてたんだーありがたく頂くよ
紅茶もスコーンもとっても美味しい
美味しくて何だか眠くなってきちゃっ…
ハッ、いけないいけない
すかさず自分の手を斬りつけ
眠気覚ましと同時にUC発動
紅茶とお菓子を楽しんで速度を保ちつつ
いざという時は梓に起こしてもらうという立派な作戦さ
せっかくもてなしてくれたのにごめんね、執事さん
せめて一撃で、と高速で斬り倒す
乱獅子・梓
【不死蝶】♢
うぐぐ、この森から出てくる衣装は
ドレスかスーツの二択なのか…
まさに天と地、まさにデッドオアアライブ
己のメンタル的な意味で
あーードレスが出たら「チェンジで!」とか
言えば替えてくれるだろうか…
※衣装&リアクション詳細お任せ
スーツならノリノリ
ドレスなら思いっきり頭を抱える
おっと、執事のお出迎えか
こいつらのもてなしは眠りを誘うだとか
綾、油断せずに行くぞ…って受け取ってる!?
案の定寝そうになってるし!
起きろ!と引っ叩き起こし
何だこのコントみたいな流れ
作戦って本当だろうな…
綾の攻撃を合図に番兵が召喚されたか
悪いが俺たちは奥に用があるんだ
零を呼び出しUC発動
執事も番兵羊もまとめて眠りにつかせる
●ベストドレッサー
オレンジ色の葉と紫の影を持つ木々たちの中から、ポォンと飛び出してきたコスチュームをキャッチした時、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)とともにゲートを潜ったことをこの上なく後悔した。
「わぁ、もしかして梓、それって」
「チェンジで!」
「いやー、まさか本当にドレスがくるなんてねぇ」
「チェンジで!!」
楽しげな綾とは対象的に、梓はうぐぐと顔を顰め、頭を抱えながら大きな声で森に向かって叫ぶ。けれど、ふたりへコスチュームを投げて寄越した森は『もうやることは終わった』と言わんばかりに新しくコスチュームを飛ばしてくることもない。
「く……」
「ほらほら梓、諦めよう?」
出発前、『大男二人組のドレス姿なんて放送事故ものだよねぇ』とケラケラ笑った綾のせいではないのか? フラグとやらを立てたのではないのか?
綾にはどうにも出来ない現象だと理解はしているのだが、隣で笑っている顔が無性に憎たらしく思えてきた。
「ようこそおいでくださいました、お客さま。ご主人さまのための晩餐会への相応しい装いへとお着替えでしたら、あちらへどうぞ」
頭にティースタンドを載せた虹色のもこもこ――『虹色雲の獏執事』に薦められると、綾はありがとねと礼を言い、自分へと飛んできたコスチュームを抱えてスタスタと着替えにいってしまう。
その背中が消えても暫く頭を抱えていた梓だったが、「お着替えにならないのでしたら、お茶とお菓子でもいかがです?」と執事に尋ねられ、ようやくフィッティングルームへと足を向けた。
ああ……足が、とても重い……。
「なんでだ!?」
「あははー、なんでだろうねぇ」
死にそうな顔(いっそ殺してくれ)でフィッティングルームを出てきた梓の第一声に、綾は笑いながら応じる。
梓は今日ほど綾に裏切られたと思ったことはないだろう。多分、きっとない。
そう、何故なら綾は――。
「なんで綾はスーツなんだ!?」
「飛んできたから?」
首を傾げて笑う綾。その手にはちゃっかりスマートフォンが握られ、再度梓が頭を抱えているのをいいことにこっそり撮影なんてしてしまっている。
白いマーメイドラインのドレスの梓は、一緒に飛んできた装飾品もちゃんとつけている。そういうところ律儀だよねぇなんて綾は思うけれど、今は余計な口を挟まない。ギロリと視線が向けられたら、スマートフォンに気付いて取り上げ――いや、もしかしたら破壊されてしまうかも知れないから。
内ポケットへとしまい込む綾は、黒いスーツ姿。胸元に赤いチーフが飾られたスリーピーススーツだ。青い花を頭に飾り、胸元には赤い宝石のネックレスをした梓とは違い、綾の格好はシンプルだ。磨き上げられた革靴が、少し窮屈かなとつま先で地面をトントンと叩いた。
「お着替えはお済みでしょうか?」
フィッティングルームへ案内してくれた執事とは別の個体だろう。着替え終えたふたりに気付いた獏執事が、とってもお似合いですよと柔和に笑いかけてきたため、梓は自身の耳と相手の目を疑った。本当に? 本当に似合ってる???
「わぁ、お出迎えありがとう。こういう時は『ただいま』かな?」
「いいえ、お客さま。お客さまはゲストですので、帰宅のご挨拶は不要です。さあ、お着替えもお済みのご様子ですし、お茶とお菓子はいかがでしょう? 旅の疲れも癒えますよ」
卒なく応え、執事は頭上のお菓子と手にした紅茶を勧めてくる。可愛らしい洋菓子はどれも美味しそうだし、淹れたての紅茶もとても良い茶葉を使っているのだろう。心がホッと落ち着くような優しい香りが漂ってくる。
「ああ、ちょうどお腹空いてたんだーありがたく頂くよ」
梓が『本当に?』の気持ちで心を悩ませている間に、綾はひょいっと菓子と紅茶へと手を伸ばす。
「これ美味しいねぇなんてお菓子?」
「わたくしが作ったマルモアクーゲルフプフです」
「プフ……?」
ぱくっと食べて感想を口にすれば、嬉しげに執事が微笑む。善意そのもので、綾が喜んでくれて心底嬉しいという顔だ。
けれど彼のもてなしを受けた者は、執事の意思とは関係なく、醒めない眠りへと落ちてしまうのだ。
「綾、油断せずに行くぞ……って受け取ってる!?」
「うん、紅茶も美味しい。すっごく飲みやすくて……あれ?」
グリモア猟兵の言葉を思い出した梓は綾へと注意を促すが、綾は既に口にしてしまった後だ。
ぐらり、揺れた頭の後を長めの黒髪が追いかける。
「起きろ!」
傾く身体を支え――いや、胸ぐらを引っ掴んだ梓は、盛大にその頬を張った。
「――ハッ」
閉じかけた綾の視線が梓を見て。
けれど、とろりと瞳が溶けてしまいそうになる。
けれど。
「いけないいけない」
すかさず自身の手を『Jack』で斬りつけ、痛みで眠気を追いやる。この眠気は、目の前の獏執事を倒さなければ何度も襲いかかってくるのだろう。気を抜けばすぐに意識を刈り取られるであろうことは、今この場では綾が一番理解している。
――早く、倒さないと。
お疲れですか? と心配そうに声を掛けてくれる獏執事から菓子を受け取って口へ放り込み、綾はJackを振り抜いた。
「せっかくもてなしてくれたのにごめんね、執事さん」
もう聞こえていないかも知れないけれど。
綾の相手をしていた獏執事は、痛みを感じることすらなかった。
笑顔を保ったまま斬られ、そして消えていく。
「番兵さん、番兵さん! 来てください!」
「梓に起こしてもらうという立派な作戦だったのさ」
「作戦って本当だろうな……」
「成功でしょ? ほら、次来たよ」
めぇめぇ鳴く番兵羊の前へと梓を押し出せば、何か言いたげな視線だけを残して。
「――零」
喚ぶは、麗しき歌声の氷晶の歌姫。
氷竜『零』の神秘的な咆哮で、ふたりへと向かっていた執事も番兵もふらふらぱたりと眠りに落ちた。
「うん、邪魔する執事はいないみたいだね」
「それじゃあいくか」
眠っている獏執事と番兵羊の間をすたすたと歩いていく梓の背中を綾は追いかける。
――ドレスにはもう慣れたのかな?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴォルフガング・ディーツェ
♢♡
章(f03255)と
あー。章は綺麗な衣装多いからどれかでイケる気もするね
俺は女装…例えばチャイナドレス何かが飛んでこなければ何でもイイ…と嫌がったらホントに飛んでくるとか逆空気読み要らないし!?
せめてもの抵抗に下着は男物で…章は…いや俺より需要あるでしょ絶対
しゅっとした細身だし色白だから危うい感じの色気があるな…
あ、貰う貰う、食べなきゃやってらんないしねー。ところでソレ、どっから出したの?強奪?
気は進まないけど、ちゃーんと戦いもしようか
【指定UC】で獏を掴んでは投げ…ると思うか!抱え込んでバックドロップだ!
喰らえ、やり場のない怒り!
ふう、悪は滅びた
章はだいじょ…寝てる!パンダ大活躍だ!?
鵜飼・章
♢♡ヴォルフガングさんf09192と
ドレスコード…僕普段着で大丈夫じゃないかな
だめ?だめか…
僕もチャイナドレスは進んでは着ないかな…
大丈夫フラグじゃない筈だ
何でも着こなせるようにがんばる
少し目を離した隙にヴォルフガングさんが大変
その…
逞しいお兄さんの女装需要はある所にはあるよ(【慰め】)
寧ろ僕が着るより喜ばれるのではないだろうか
執事さんその辺りどう?
UC【百獣の王】でパンダを呼びチャイナ空間を作ろう
お菓子はいただくけど月餅あるかな
お茶も烏龍茶がいいな
ヴォルフガングさんも食べる?
動くとお腹がすくよね…強奪じゃないよおねだりだよ
僕が寝ている間にパンダとヴォルフガングさんが戦ってくれるよね
おやすみ…
●チャイニーズ
「ドレスコード……僕普段着で大丈夫じゃないかな」
「あー。章は綺麗な衣装多いからどれかでイケる気もするね」
ドレスコードって、どこまでの衣装が来るのだろう。豪華なものかな。それとも洗練された、落ち着いた雰囲気になれるくらいのかな。あまり堅苦しくないものが良いのだけれど、と鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が眉を下げ、そんな彼を見たヴォルフガング・ディーツェ(誓願の獣・f09192)はゆるく首を傾げた。
「俺は女装……例えばチャイナドレス何かが飛んでこなければ何でもイイ……」
「僕もチャイナドレスは進んでは着ないかな……」
まあ来るわけないよね。と、笑いながらふたりはゲートを潜った。
なんて、フラグというものを立ててしまったのがいけなかったのだろう。
オレンジの葉と紫色の影を持つハロウィンカラーの森から、ポォンと飛んできたコスチューム。それぞれの手元に綺麗に飛び込んできたそれを、ヴォルフガングはワクワクと弾む気持ちで広げてみた。
「……」
「わあ」
ヴォルフガングが広げたコスチュームは、深いスリットの入った黒のチャイナドレスだった。金糸で刺繍された大輪の牡丹と舞う鳳凰の羽根が美しく、彼の手元を覗き込んだ章は綺麗だねと穏やかに微笑んだ。
「なにこれ」
チャイナです。
グッと眉間に皺を刻みながら目を閉じて、もう一度確かめてみる。
「なにこれ」
チャイナドレスです。
やはり現実は変わらない。変わってくれない。返品も交換も、森は許してくれない。現実とはかくも非常なものなのだ。
「ようこそおいでくださいました、お客さま。ご主人さまのための晩餐会への相応しい装いへとお着替えでしたら、あちらへどうぞ」
もこもこの虹を纏った獏執事がトットコとふたりへ近付いてきて、フィッティングルームはあちらですよと案内してくれる。
どうするの? 着るの?
章の視線を受けたヴォルフガングは渋い顔のまま、手元の黒地の布――チャイナドレスと認識したくない――を見下ろす。お着替えはなさいませんかと獏執事が首を傾げた頃、ようやく深いため息とともにフィッティングルームへと足を向けるのだった。
章は衣装を広げてはいないけれど、彼の腕に収まっている布地は白。そして鳳凰の羽根が見える。きっと彼と色違いなのだ。
(ひとりでチャイナドレス着るわけでもなし、俺が渋ったら章がひとりで着ることになるしね……)
ふたりで着れば、思い出二倍、羞恥ははんぶんこだ。
「……なんで?」
「わ……」
フィッティングルームから出たふたりの声が重なった。
双方とも、驚きの色を表してはいるが、その先の気持ちは全くと言っていいほど違うもの。章の紫の瞳は丸くなっているし、ヴォルフガングの赤い瞳は困惑の色が濃かった。
章の視線は、思わずヴォルフガングの胸元へと向かう。男性であるヴォルフガングには女性のような豊かな胸はないのだが――無いのだが!
パツーン!
逞しい胸筋が、その主張を隠そうとしない。隠してはくれない。
ヴォルフガングへ飛んできた黒のチャイナドレスは、彼の筋肉を配慮したのかノースリーブのもの。正直そんな配慮をするぐらいなら男性用が欲しかったヴォルフガングではあるが、仕方がない。思いは一方通行なのだ。
そしてスリットから覗く、矢張り男らしい筋肉質の脚。――と、チラリと見える黒のボクサーパンツ。ご丁寧にもスリットでも見えないような下着がセットでついていたのだが、ヴォルフガングは「履くか!」とフィッティングルームで地面に叩きつけてやったのだ。それがヴォルフガングの出来るせめてもの抵抗だ。下着の自尊心(?)だけは死守したのであった。
「その……逞しいお兄さんの女装需要はある所にはあるよ」
似合っているねとも言えずに、そんな慰めを口にしてみるが、その気持がヴォルフガングへ届いたかは解らない。
何故なら。
「章が着たほうが需要あるでしょ絶対……」
なのに、なんで?
ヴォルフガングの視線が、章の頭の先から下まで行き来をする。
素肌が、見えない。ヴォルフガングは色々と――そう、色々と曝け出しているのに!
なんということでしょう! 章はチャイナドレスを着ていなかったのである!
章の衣装は、白の長袍。肩口に雄々しく顔を出した鳳凰が、背中へと尾羽根を下ろしている優美なもの。しゅっとした細身で色白な章によく似合っている。女装であろうとなかろうと、普段と違った装いは色気を感じてしまうものなのかもしれない。
「僕が着るよりはヴォルフガングさんの方が喜ばれるかと」
執事さんはどう思う?
フィッティングルームへと誘った獏執事とは違う執事が近寄ってきた為、章は話を振ってみる。おもてなしをしようと熱々の紅茶をカップに注ぎ出した執事は、きょとんとふたりを見上げて。
「そうですねぇ……」
「正直に答えて」
「わたくしどもはご主人さまと違い無学ですので、あまりそう言った物事には詳しくなく……しかしなしながら、森がお客さまへと選んだドレスですので、この場にそぐわぬものであるはずがありません」
茶器を手にしながらも器用に辞儀をする。
「お着替えもお済みのようですし、お茶とお菓子はいかがでしょう?」
「月餅あるかな? お茶はお茶も烏龍茶がいいな」
こんな格好だしねと袖を上げて見せれば、獏執事は「やや!」と声を上げて。
違う獏執事が手招かれる間に、章は――ヴォルフガングからどうやってだしたのという視線を浴びながら――袖から動物図鑑を取り出し、パンダを喚び出した。
チャイナドレスと長袍のふたり。そしてパンダ。
そうして中華風のティースタンドを頭に載せた獏執事が来れば、見事にチャイナ空間の出来上がりだ。
「ありがとう、いただくよ。ヴォルフガングさんも食べる?」
「あ、貰う貰う、食べなきゃやってらんないしねー」
強奪? と問う声に、おねだりだよと笑って応え、章はさっそく月餅をぱくり。
もぐもぐ、ごっくん。うん、美味しい。それじゃあもう一口。
美味しそうに食べる章の顔を見ながら、ヴォルフガングも月餅を食べようと口を開いたその時。ぐらりと、章の身体が大きく傾いた。
「章――……って、寝てる!」
傾く章の身体を、紳士的な優しさでふかりと抱きとめたパンダが、そっと彼を横たわらせる。そうなのだ、ヴォルフガングは忘れているかも知れないが、獏執事の持て成しを受けた者は皆眠ってしまう。勿論章は自分が寝ている間にパンダとヴォルフガングさんがなんとかしてくれるよね、と思っての行動だ。彼らならきっとなんとかしてくれる。そう信じてる。
「手厚い歓迎をして油断を誘う作戦か……?」
「番兵さーん! 来てくださいっ」
ヴォルフガングが凄む。チャイナドレスで。
わらわらと喚ばれて現れた番兵羊へ素早く近付いては、掴んでは投げる。チャイナドレスで。
「ひぃ、わわわわわたくしどもは、何も」
「喰らえ、やり場のない怒り!」
獏執事たちはただ厚意でもてなしているので、本当に悪いところなんてない。悪いのは甘味の誘惑にホイと乗ってしまった章なのだが、ヴォルフガングには関係ない。だってヴォルフガングは、この衣装への鬱憤をただ晴らしたいだけなのだから!
掴んで投げると見せかけて、からの抱え込んで――チャイナドレスから筋肉質な足を覗かせてバックドロップ!
決まった! カンカンカンカンカン!
ヴォルフガングが獏執事へと技を決めている間に他の番兵羊たちへタックルを決めていたパンダへ、直に目醒めるであろう章を載せてヴォルフガングはチャイナドレスの裾を閃かせてその場を後にする。
悪は、滅びたのだ……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『わるい狐さん』
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POW : おいしそうだなあ
【恐ろしく尖った爪や牙で 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : なにもしないさ
【嘘を吐く 】事で【親切そうな紳士のふりをした姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 大人しくしたまえ
【魔法の力を持つ不思議なパイプの煙 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ジャム・ドラドス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●いざない
「ようこそおいでくださいました、お客さま」
屋敷の扉の前に佇んでいた獏執事に誘われ、猟兵たちは屋敷の中へと入っていく。
扉の奥――広い玄関ホールには大きなシャンデリア。
2階からふたつに別れてゆるいカーブを描きながら降りてくる、リボンのような階段の、その間。
そこにある、これまた大きく分厚い扉の前へ、獏執事はトコトコと歩いていくと慇懃に頭を下げる。
「ご主人さまのための晩餐会の会場は、こちらになります」
――どうぞ、おなかにおはいりください。
●ばんさんかい
扉を開けば、ボウ――酸素が悲鳴を上げて、火が灯る。
大きなテーブルの上の燭台に。
壁にかけられた燭台に。
そして大きな大きな竈に。
室内には、沢山の香りが満ちていた。
大きなテーブルには沢山の料理。それからまだ手が加えられていないたくさんの食材たち。山の幸、海の幸、果物。食材たちはどれも瑞々しく、屋敷の主の好みが伺える。
普通の晩餐会の会場と違うのは、キッチンが併設されているところだろうか。
人ひとり、軽く入ってしまいそうな火の入った竈。
火力の微調整が効く最新のコンロ。
調理器具も、どれも最新の物が取り揃えられ、調理を行うには充分すぎる環境だ。
「やあ、お客人。私のための晩餐会へようこそ」
大きなテーブルの隅、食材たちのその向こうでワイングラスを傾けていた狐が席を立つ。優しげな笑みを見せ、さあどうぞと席を勧めてくる。
「君は、ワインは好きかな? ワインはいい。肉を柔らかくする」
こつり、こつり。杖をついてゆっくりと狐が歩み寄る。
「それとも果実が好きかな? 果実も肉を柔らかくしてくれるね」
ヨーグルトもいいね。それから臭み取りの香草も欠かせない。
狐の紳士は柔らかな笑みを崩さずに、君たちへ相対する。
――ああ、それにしても。
――おいしそうだなあ。
心の奥底で、鋭い爪と牙を研いで。
調理を申し出れば、狐は断るだろう。
けれど気にせず、調理をしてしまえばいい。
邪魔をしてくる攻撃を防ぎ、料理を完成させれば、狐はルールに則っておいしさについて事細かに批評、称賛しながら食べなくてはならないのだ。
このルールは、絶対である。
三上・チモシー
♢♡
お腹にお入りください?
うーん、鉄瓶は食べないほうがいいと思うなぁ。お腹壊しちゃうよ
巨大熱帯魚のライ麦ちゃんと、『猫行進曲』で呼び出した猫のるーさんたちに攻撃から守ってもらうよ
みんな、お願いね
今の季節なら、やっぱりリンゴのおやつがいいかなー
リンゴを半分に切って芯を取ったら、バター、グラニュー糖、シナモンを散らしてオーブンへ
焼き上がりに合わせて、お茶も淹れようかな
紅茶を温めたカップに注いで、たっぷりのリンゴジャムとちょっとのラム酒を加えれば
できたよー、焼きリンゴとアップルティー!
どうぞ召し上がれ!
灰神楽・綾
【不死蝶】♢
俺はオウガの相手をしてくるから
料理は梓に任せたよ
それじゃあ頑張ってね、梓お嬢様
素敵なお料理期待しているよ
「俺にもお土産宜しくー」という意味も込め
さぁて、それじゃあ遊ぼうか狐さん
まずは紅い蝶・Phantomを自身の周りに飛ばす
これは何の意味も無いただの蝶ですよ
そう思わせる為に暫くは普通に戦う
ナイフを投げてもEmperorで斬りつけても
何の手応えも無いのが面白くないなぁ
無敵なんて何が楽しいんだろうね?
そしてオウガが俺に攻撃を仕掛けてきたら
敢えて喰らって痛みを耐えつつ、身体を掴む
その瞬間、UC発動
紅き蝶が変化した鎖で捕縛
ご主人様、もうすぐお料理が完成します
お静かにお待ちくださいね
乱獅子・梓
【不死蝶】♢
はいはい、任せろ……って
お嬢様って言うのはやめぃ!
もうこのドレス脱いでいいだろうか…
あっ、更衣室に着替え置いたままだ…
仕方ないのでドレスの上からエプロンかけて料理開始
紳士にぴったりな、スコーンをご馳走してやろう
粉類とバターをフードプロセッサーで
ガーッと粉砕して時短
卵と牛乳を混ぜて形をまとめ
綿棒で伸ばして一口サイズに切り分けて焼けば完成
更に、焼いている間、スコーンに合うジャムを作る!
瑞々しい果物も沢山あるしな
王道の苺ジャム、ブルーベリージャム、ママレード、
ハロウィンらしい南瓜ジャムも良いな
シンプルなプレーンスコーンもこんなに華やかに
綾と焔と零への土産の分も
こっそりキープしておこう
琴平・琴子
♦️❤️
美味しそうなお料理はいらないのですか?
残念、私これでもお料理は微弱ながら頑張っていたのに
彼らとダンスでも踊ってお腹を減らしてくださる?
お姫様、わがままで王子様を翻弄する様に煙を撒いてくださいね
やる気満々のお姫様はそう、いつだって自信満々でないと
王子様、御転婆なお姫様のエスコートをお願いしても?
困った様に微笑みながら頷く貴方に私も笑みが溢れる
さて
お料理しないと
狐は肉食でしたっけ
お野菜を食べてくださる?
微塵切りの玉葱人参セロリにキャベツやエリンギ
ベーコンと食欲唆るニンニクと一緒に混ぜて炒めましょう
フォカッチャを添え、踊り疲れた彼らと入れ替わりに差し出し
さあ、たんと召し上がってくださる?
ヴォルフガング・ディーツェ
♢♡
章(f03255)と
次はエキノコックス紳士か…(黒のチャイナドレスの下に強奪したズボンを履きながらきりっと)
無駄毛処理してないから筋肉はお預けだよ…いや、別に毛深くはないけど!
狐の抑えは章に任せて調理開始だ
刻んだ長葱を胡麻油で炒めて香り付け
上から調理酒とすり大蒜を揉み込んだ豚挽肉を入れ更に炒める
豆板醤、豆鼓醬、味噌に酒醤油鶏オイスターを合わせたガラ顆粒出汁をin
煮立ったら絹豆腐を入れ優しくかき混ぜ完成!
王道麻婆豆腐だね
白米と若布の中華スープは付けよう
わあ章、良い食べっぷりだね!運動するとご飯が進むよね、集中して見れないのが残念な良い剣舞だったよ(お代わりよそいながら)
さ、狐の評価は如何かな
鵜飼・章
♢♡ヴォルフガングさんf09192と
よく寝た
うん?紳士服のエキノコックス…?
楽しみだなあ…なんだ狐か
あれヴォルフガングさんドレスやめるの
恥ずかしがることないのに…いい筋肉だったよ
座って待っていれば料理が出てくる
そんな甘い話はなかった
料理完成まで僕が余興の演武をするね
【ダモクレスの剣】で衣装に合わせた青竜刀を作り不意討ちで敵へ斬りかかる
一度当たればきみの心が読める
嘘はいいよ
人肉より麻婆豆腐食べない
すごくいい匂いしてるし…
僕辛い物大好きなんだ
大盛り麻婆丼にしていただきます
お米との相性最高だね…どんどんご飯が進むよ
ネギの食感、スープのさっぱり感百点だ
食レポの尺が足りない
後は狐先生よろしくお願いします
●めしあがれ!
…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…
🍴 本日のお料理 🍴
一皿目:野菜炒め
フォカッチャ
二皿目:丸ごと焼きりんご
アップルティー
料理人:琴平・琴子
三上・チモシー
…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…
「お腹にお入りください?」
獏執事へ聞き返しながら、チモシーは扉を潜って晩餐会の会場へと足を踏み入れた。鉄瓶が本体であるチモシーを食べたら、きっとお腹を壊してしまう。食べないほうがいいよと忠告してあげたほうが良いのかな、なんて考えながら。
「ようこそ、可愛らしいお客人」
杖をついた狐が、琴子とチモシーの前へと歩み出る。
優しげな笑顔を浮かべる――その瞳の奥。昏い色がふたりを舐めるように見つめるも、態度には出さずにふたりを晩餐会の席へとつかせようとする。
「さあお客人、腹が減っているだろう? プディングはどうだい?」
「うーん、お菓子。お菓子は気になるけれど――」
「今日はお料理に来たので、ご遠慮させていただきます」
「私の誘いを断るのかね?」
年齢よりも大人びた様子で琴子が断れば、優しげだった狐の声音が寒々しいものとなる。けれどそれも、ほんの一瞬のこと。すぐに彼は、他の菓子もおいしいよと勧めながらふたりへと近づいてくる。
「ライ麦ちゃん、るーさんたち、来て!」
「どうか私に力を貸して下さいませ」
狐が間合いへと入る前。チモシーは巨大熱帯魚のライ麦ちゃんと灰色の猫『るーさん』を喚び出して、琴子は肩にお姫様を乗せた王子様と足が無い顔を隠したお姫様を喚び出した。
「彼らとダンスでも踊ってお腹を減らしてくださる?」
お姫様、わがままで王子様を翻弄する様に煙を撒いてくださいね。
やる気満々のお姫様はそう、いつだって自信満々でないと。
王子様、御転婆なお姫様のエスコートをお願いしても?
琴子のお願いに困ったように微笑んで了承の意を示した王子様が、狐へと肉薄する。琴子を捕縛しようとぷかりと浮かんだ煙から、彼女を守ろうとするように。
ふたりの足元を小さな灰色の猫たちが駆けていき、狐の足元でうろつけば、狐紳士はダンスを踊るような足取りとなった。
――この間に。
チモシーと琴子は、顔を見合わせて。
それぞれの料理をすべく、調理器具の前へ。
(狐は肉食でしたっけ)
琴子を見る、あの視線。獲物を狙うような、舌舐めずりをするような視線を思い出す。
湧き上がる悪感情を、瞳を伏して抑え込み、琴子は野菜へと手を伸ばした。
まな板の上に並べるのは、玉ねぎ人参セロリにキャベツ。それからエリンギ。野菜をみじん切りにしたらフライパンに油を入れて温めて、野菜を放り込む。火の通り具合を確認しながらベーコンとニンニクも食べやすく切って投入し、均一になるようフライパンを揺らした。
(今の季節なら、やっぱりリンゴのおやつがいいかなー)
琴子が野菜を切るのを見たチモシーは、うんと頷いて。沢山の食材の中から、真っ赤でツヤツヤな林檎を見つけてきた。
空いたまな板へ林檎を乗せると、ざっくりと半分に切って芯を取り、バターとグラニュー糖、シナモンを散らしてオーブンへと持っていく。
「先にお出ししますね」
熱々の内に皿へと盛り付けた野菜炒めに、置いてあったフォカッチャを添えて、踊り疲れた姫と王子にお疲れ様でしたと声を掛けた琴子がキッチンスペースからテーブルへと皿を運んでいく。
「さあ、たんと召し上がってくださる?」
テーブルの上へ提供されれば、狐は猫たちと踊ってはいられない。
眉を潜めながらも席へとつき、ナイフとフォークを手に取った。
「君、私は肉のほうが好きなのだがね」
「ええ、ですから」
にっこりと微笑めば、渋々と言った様子で狐が野菜を口へと運んだ。
「ふむ。うむ。悪くはないな。彩りも悪くはない。私としては物足りないが、一応肉もあるのも良しとしよう。不満な点を上げるとしたらセロリだな。手間ではあるが、セロリの筋取りをしたほうが良かっただろう」
しかし矢張り肉がだなぁ。
不満を口にしながらもフォカッチャまで綺麗に食べきり、ナイフとフォークを纏めて置けば、ごちそうさまと口にしてナプキンの端で口を拭った。
「はーい、できたよー、焼きリンゴとアップルティー!」
そのタイミングを測っていたかのように、チモシーが甘い香りを纏って駆けてくる。
「どうぞ召し上がれ!」
トン、トン。林檎の載ったお皿と紅茶のソーサーとカップを置き、にっこり。
「ん。良い香りだね。これは……ラムかね?」
「そう、紅茶にたっぷりのリンゴジャムとラム酒をちょっといれてあるよー」
「良い香りだ。けれど先に焼きリンゴを頂いてしまおう」
上品にナイフで一口大に切り、大きな口で咀嚼する。
「――ふむ。味も焼き加減も申し分ない。旬の果実を使うというのは良い選択だ。私個人としてはワイン入りのものを好むが――紅茶にラムが垂らされているため、申し分ない」
冷めたら味が落ちてしまう。と、狐は野菜炒めも焼きリンゴもパクパクと大きな口で食べたが、紅茶は香りを存分に楽しんで味わった。
ふたりの料理を食べ終えると、ふわあ。
「おや、失敬」
狐は大きな欠伸を零すのだった。
…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…
三皿目:麻婆豆腐定食
料理人:ヴォルフガング・ディーツェ
鵜飼・章(ダンサー)
…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…
――次はエキノコックス紳士か……。
友好的な笑みを浮かべる狐紳士を前にして、ヴォルフガングは眉間に皺をひとつ刻んだ。しかしその表情は先程よりも幾らかマシなもの。それは屋敷に入る前に少しだけ衣装を改良したからだ。
狐の視線が、下へと降ろされる。あまりジロジロと見るのは失礼だと思ったのだろうか、また上へと戻り……けれど矢張り気になるのか、下へと降りていく。物言いたげに何度か開きかけた口が意を決するのが先か、ヴォルフガングが問うのが先か。それももはや秒読みと言ってもいいくらいの時、気の抜けた声が晩餐会の会場へと響いた。
「うーん、よく寝た」
声の主は、パンダのふかふか毛皮の上。
両腕を大きく持ち上げて伸びをして起き上がると、きょとり、視線をふたりへと向けるのはぐっすりすやすやと眠りについていた章だ。
チャイナドレスのヴォルフガングを見て、紳士服の狐を見て、再度ヴォルフガングへと視線を向けると、ことりと首を傾げて口を開く。
「あれヴォルフガングさんドレスやめたの」
深いスリットから生足とボクサーパンツを覗かせていたヴォルフガングだが、そこにボクサーパンツが覗いていない。あれ? と首を傾げた章とともに狐が大きく頷いたことから、狐もそこを指摘したかったようだ。
途中でズボンを強奪したのだと告げるが、ここに至るまでに居たのは獏執事だけだ。ヴォルフガングよりも背丈も足も短い――そう、当然これまた割とピチピチ膝上ズボンのようになってしまっている。しかし、しかしだ。不格好だけれど、生足を曝け出すよりずっといい。うん、いいはずだ。スパッツだと思ってしまえば良いのだ。『お客さまお戯れはおやめください~~~』と執事が泣いていたような気もするけれど、良いのだ。うん。
なんとも締まりのない微妙な空気が流れているけれど、狐紳士がパンパンと手を打ち鳴らして話を戻そうとする。席について一緒に食事はどうだろうと誘ってくるのだ。
「ああ、僕も食べていいの? うれしいな」
寝起きだから朝ごはんかな、なんて料理がたくさん並ぶテーブルへと足を向ける章の肩を、パンダがそっと止める。ちょっと前にもてなしを受けて眠ったのを忘れてしまったのかと言いたげな顔で。
「章が食べても大丈夫な料理は俺が作るから、少し待っていて」
その代わり、狐の相手を任せたよ。
「余興の演武をすればいいんだね」
キッチンスペースへと向かうヴォルフガングへ任せてと頷いて、章は知性ある闇の『闇くん』を青竜刀の姿へと変える。
片手に青竜刀、残る片手を前へと突き出し、片足を上げてポーズを取れば、狐もおやと眉を上げ、手にしたステッキをコツンと床へついた。
「お客人に余興を、だなどと。そんなことをさせはしまいよ。客をもてなすのはホストの役目だ。さあお客人、席へ着いてともに料理を楽しもうじゃないか。うちの執事の料理はどれも逸品でね、きっと君の舌にも合うことだろうさ」
紳士的な姿勢を崩さない狐へ青竜刀を振るえば、狐はそのままステップを踏むように避けて、さあさあと食事へ誘う。ひとつのダンスのように、お互いに付かず離れず、晩餐会の会場をくるりと回って。
そんなふたりを視界の端に捉えながら、ヴォルフガングはまな板の上で具材を切っていた。
大きな中華鍋に胡麻油と刻んだ長葱を落とし、火を付ける。良い香りが漂ってきたら調理酒と摩り下ろした大蒜を揉み込んだ豚挽肉を入れ更に炒めれば、更に良い香りが室内を満たしていく。
(すごくいい匂い……ヴォルフガングさん、何を作っているのかな)
章の振るう青竜刀が、狐を斬りつける。――が、狐は傷を負わない。
けれど、狐のついている『嘘』が解る。
食事をしないかと誘うが、本当は客人たちこそが狐の食事だと言うこと。
紳士的な笑みや態度に隠して、本当は早く新鮮な人肉を食べたいこと。
振るった青竜刀が当たるたびに流れ込んでくる情報。そして――。
ジュワーッと響く良い音と、美味しそうな香りを章の五感が拾う。
「さあ出来たよ、お待ち遠様」
お盆にふたり分の麻婆豆腐とご飯とワカメの中華スープを載せたヴォルフガングが、テーブルの上に配膳していく。その姿を見た章は青竜刀を下ろすと、いそいそと席についた。
「わあ、麻婆豆腐。うれしいな、僕辛い物大好きなんだ」
麻婆豆腐の皿の上にお茶碗のご飯をひっくり返して麻婆丼にすると、いただきますと笑顔で頬張った。あまりの食べっぷりに『君も食べるのかい』と声を掛け損ねた狐も、嫌々ながらも席につく。ゲストに調理された料理を拒否るすことはできないのだ。
「お米との相性最高だね……どんどんご飯が進むよ」
「わあ章、良い食べっぷりだね!」
「ネギの食感、スープのさっぱり感百点だ」
心底おいしそうに章が食べてくれるから、ヴォルフガングも笑顔を見せる。
おかわりをよそって差し出せば、笑顔で受け取って食べてもらえる喜び。
「僕はこの料理に集中したい。後は狐先生よろしくお願いします」
「何故私が……いや、仕方ない。ルールだ」
上品にレンゲで掬って口に運んだ狐は、ふむと小さくひとつ頷いて。
「……ふむ。片栗粉を使用してはいないのかな。さらりとしている。いくつも調味料を加えたようだね。豆板醤、豆鼓醬……ん? 甜麺醤を使わなかったのは、君の友人が辛いものが好きだからかね? 豆板醤で辛味、甜麺醤で甘味、豆鼓醬で塩味、オイスターソースでコクを出すものが私は好きだが、これはこれで嫌いではないよ。私には少し辛いが、ワカメスープと白米が和らげてくれる。麻婆豆腐のみを供されるよりはありがたい」
一口食べるたびにふむふむと頷いた狐はゆっくりとすべてを平らげ、ごちそうさまと口にしてナプキンの端で口を拭いた。
顔を上げればこぼれてしまう欠伸は止めたくとも止められない。
「ああ、肉がたべたいのになあ」
目尻に溜まった涙を拭って、つい、本音までも零れ落ちてしまう。
狐が眠りに落ちるまで、後少し。
…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…
四皿目:スコーン
料理人:乱獅子・梓
灰神楽・綾(ウェイター?)
…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…🦊…🎃…
「それじゃあ頑張ってね、梓お嬢様」
「お嬢様って言うのはやめぃ!」
それじゃあオウガの相手をしてくるからーっと、ひらりと手を振った後ろ姿を見送ろうとしたら、これである。何事にも得手不得手というものがある。料理は梓が担当し、その間に綾が狐のオウガの相手をする点に置いては異論ない。ない……のだが、『お嬢様』などと言われれば突っ込みたくもなる。
(もうこのドレス脱いでいいだろうか……)
獏執事との戦いももう無いし、料理を担当する梓への攻撃も綾が守ってくれるはずだ。必要ないと言えば必要ないが、何となくあの狐は晩餐会の衣装にうるさそうだ。
でもなぁ。ドレスはなぁ……。
大いに悩みながらも、梓はドレスの上にエプロンを装着する。ドレスを嫌がりつつも、何となく汚さないように配慮してしまう。綾が背中を向けていなかったら『そういうところだよ』と言われそうだが、梓は気が付かない。
(紳士にぴったりな、スコーンをご馳走してやろう)
衣装のことは仕方がない、諦めよう。
けれどせっかく作るのだ。美味しそうな物を作って、唸らせてみせる。
思案する気持ちを少し横へ置き、薄力粉とベーキングパウダーや砂糖に塩。それからバターをフードプロセッサーに投入する。本来ならばコルヌを使用してバターを切ったり、バターを溶かさないように手を冷やしながらサブラージュするのだが、フードプロセッサーを使用することによって作業を楽にすることが出来る。
フードプロセッサーから取り出した粉チーズ状の粉へ溶き卵と牛乳を加えてコルヌで切り混ぜ、打ち粉を振ったまな板で生地を広げては折り畳む。
作業を始めれば、気持ちはドレスのことよりも目の前の生地に集中する。綾と焔と零への土産分も作ってやろう。せっかくのスコーンを、狐だけに食べさせるなんて勿体ない。
「素敵なお料理期待しているよ」
あははーっと笑いながら梓へと背中を向けた綾は、狐の元へと足を向ける。梓のことだ、自分の分も作ってくれることは解っている。何を作るのか、楽しみだ、
綾にとっての楽しみはもうひとつある。
「さぁて、それじゃあ遊ぼうか狐さん」
梓が作業をする音を背に、狐紳士の前に立った綾は赤いサングラスの下で瞳を細める。
「私は君たちと『普通』に食事をしたいだけなのだよ」
「冗談が上手だね」
きっとそれは、狐にとっての普通の食事であって、綾たちにとっての普通の食事ではない。何となく解るよと言いたげに、紅い蝶『Phantom』を周りに飛ばしながら、『Emperor』で斬りつけた。
ナイフを投げても、Emperorで斬りつけても、なんの手応えもなくて、『お楽しみ』に弾んだ気持ちが萎えていく。煩わしそうに爪で紅い蝶を払ったり大鎌を受けたりする狐は何が楽しいのだろう? 命の遣り合いがないなんて、飽きてしまわないのだろうか。
(――おかしな狐さん)
攻撃の手応えが無くとも、攻撃を受ければ綾は怪我を負う。致命傷は受けないように、相手の視線を追って、躱して庇って――けれど致命傷とはならない攻撃を見極めたら、綾は敢えて喰らうことを選択する。
狐の瞳が、開かれる。
避けることが出来たはずなのに、前へ出た。
爪を喰らい、食いしばった歯が、唇が、笑みの形に歪む。
伸ばされる手、掴まれる身体。
「離してあげないから、覚悟してね」
紅い蝶が鎖へと変じて、鎖となり――。
「ありゃ」
「少し、驚いたよ」
無敵の狐は傷つかない。紅い鎖が突き刺さる事は、なかった。
けどまあ、余興にはなったでしょ?
綾はへらりと笑って、数歩退く。
いつの間にか、室内にはバターの良い香りが満ちている。梓の料理の完成が近いことを知り、綾は慇懃に頭を垂れた。
「ご主人様、もうすぐお料理が完成します。お静かにお待ちくださいね」
料理は、完成してしまう。そうと決まれば、狐が妨害をしても無駄だ。諦めた顔つきで動き回った服装の乱れを整えると、狐は綾の言葉に従うように席へと戻っていく。
「出来たぞ」
「わあ、いい匂い。梓、梓、俺の分は?」
「ちゃんとあるから、後からな」
自身の傷の応急処置をしながらも諸手を上げる綾と入れ替わりに、梓は狐の傍へと行く。その手には、暖かな湯気を放つスコーンの載った盆。オーブンでスコーンを焼いている間に拵えたのだろう、いくつもの鮮やかなジャムたちがスコーンを取り囲み彩りを添えている。
コトン。眼前に供された皿を目にした狐はもうずっと眠気と戦っている。諦めなのか眠気からなのか、判断のつかぬ長い吐息とともに手を伸ばしてスコーンを掴んだ。
「ふむ」
ふたつに割れば、新たな湯気と香りが生まれる。匂いを存分に楽しんでから、最初の一口は何も付けずに、そのまま。その後は気分を変え、梓が用意したジャムをひとつひとつ楽しんでいく。
「赤は苺ジャム、紫はブルーベリージャム、オレンジ色はママレード。ママレードとは少し違うこれは……うん、南瓜か。ハロウィンらしくて良い。それからクロテッドクリームは鉄板だね。スコーンは味に飽きることが多いが、こうも沢山ジャムがあるのは良いなあ。飽きが来ず、最後までおいしく頂ける。ひとつ希望を上げるのならば――」
紅茶がほしいなあ。
口内の水分が奪われてしまうと嘆いた狐に望み通りの紅茶を淹れてやると、「私は肉を食べたいのだが」等と口にしながらも狐はジャムも残さずスコーンを食べきり、最後に紅茶を飲んでカップを置いた。
「ああ、本当に……」
ごちそうさまと言いたかったのだろうか、美味だったと言いたかったのだろうか。
言葉を最後まで言い切ることはなく狐の身体は前方へ傾ぎ、食べ終えたばかりの皿へと突っ伏すのだった。
●おなかいっぱい!
リボンにフリル、ふくらむスカート。
美味しそうに頬張る薔薇色の頬。
果実に香草、何でも嫌がらずに食べる良い子はお腹が膨れて夢の中。
いけないよ、いけないよ、アリス。ちゃんとお風呂に入ってから寝なくては。
君のためだけに摘んだ薔薇花弁を浮かばせた、一級品のワイン風呂。
芳しい香りに包まれた、きめ細やかで弾力のある肌。
ああ、おいしそうだなあ。
褥が硬いことだけは、どうか目を瞑って欲しい。
――おっと。君の瞳は、もう開かないのだったね。
「ふふ。ああ、アリス。君の肉はなんて甘やかなんだ……」
テーブルへと突っ伏して眠る狐は、とても幸せな夢を見ているのだろう。
むにゃむにゃと溢れる言葉を耳にした琴子は気持ち悪いと眉を潜めると、傍らに立つ猟兵たちへと視線を向けた。それぞれ調理器具や愛用の武器を手にした猟兵たちは視線を合わせると、静かに頷き合う。ルールに縛られて眠りについた狐は、ちょっとやそっとでは起きないかも知れない。けれど、念には念を。起こさない方が賢い選択だ。
むっつの頭が縦に動いて。
むっつの得物が持ち上がる。
むっつの得物は、悪いお顔を幸せそうに綻ばせた獲物へと。
おやすみなさい、永遠に醒めない、好い夢を。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵