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百花を添えて

#アリスラビリンス #【Q】 #お祭り2020 #ハロウィン

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 明らかにヒトの手が入ったと思しき森の道。
 石畳が敷かれ、南瓜の灯りが吊られ、真っ直ぐ真っ直ぐと伸ばされた道。
 その先に見えるのは大きな大きな白亜のお城。
 まるで童話のような景色であるというのに、そこから聞こえるは、そんな情緒を台無しとするかのような。
「足りない、足りないわ!」
「そうは仰られてもですねぇ、女王様。今はもう食材も何もありゃしませんよ」
「なら、集めて来なさい! それが役目でしょう!」
「えー。あたしらは女王様のための働き蟻とは違いますからね」
「なら、食材の代わりに腹の足しにしても問題はないわね?」
「はーい、食材集めに行ってきまーす!」
 そんな会話が大音声。
 その声の元を探して城の中に目をやれば、玉座の間には金銀財宝が煌き煌き。
 そこに座するは王冠被った女王蟻。怒鳴った後だからか、はたまた、その空腹を示すかのように顎をギチリギチリと動かしている。
 そして、蜘蛛の子散らすようにすたこらさっさと玉座の間から飛び出るは、道化師姿のオウガ達。女王様の機嫌をそれ以上損ねぬよう、白亜の城を囲む森の中へ食材/アリスを探しに。
「全く、躾のなっていない……」
 残された女王蟻の独り言。それとお腹のきゅるりと鳴いた声。
 ぽつりと零れたそれを、玉座の間と金銀財宝だけがそれを聞いていた。

「ハロウィンが近付いていますけれどぉ、皆さんの準備は如何ですかぁ?」
 頭に揺れる兎耳と間延び声。ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)が、集まった猟兵達の前にとひょこり。
 その問いに、準備万端と頷く者もあれば、まだと応える者も、そも準備をしていないと言う者もあることだろう。
 その様々な反応をぐるりと見まわし、そうですかぁ。とハーバニーも返事を返す。
「そんなハロウィンが近付いてくる今日この頃ですけれどもぉ、皆さんにはこちらの御依頼をお願いしたいのですよぅ」
 猟兵達の前に映し出される映像は、広大な森とその中に造られた真っ直ぐな道。その先に聳える白亜の城。
 まるで、城への行進か何かをするためにあつらえたかのようだ。
 そんな感想をすら抱かせる光景は、実際その通りのものなのだ。
「オウガ・オリジンのぉ、現実をすら改変するユーベルコード。皆さぁん、覚えていらっしゃいますですしょうかぁ?」
 アリスラビリンスを舞台に戦争が起こったことは、まだ記憶に残っている者もあるだろう。そして、そこでオウガ・オリジンの振るった力もだ。
 そう、此処はその力の一端で作られた国――ハロウィンの国なのである。
「今となってはオウガ・オリジンも居ませんけれどぉ、それの遺した負の財産とでも言いましょうかぁ」
 そこにはまだ凶悪なるオウガ達が残っているのだと言う。
 ハロウィンの国と言えば聞こえもいいけれど、かのオウガが作った国は夢は夢でも悪夢の類を見せるモノ。であれば、ここもまた同じくとであることは想像に難くない。
「なのでぇ、皆さんにはこの国に居るオウガ退治をお願いしたいのですぅ」
 それだけ聞けば、なんだ普通の討伐依頼かとも思う事だろう。
 だが、違う。これは武力だけでどうにか出来る問題でもないのだ。
「ハロウィンの国と言うのは名ばかりではなくですねぇ、仮装も必要になってきますぅ」
 ハーバニーに曰く、大敵は白亜の城に居ることは間違いない。だけれど、そこへと至るためには森の道を通らねばならず、勿論、そこにもオウガの配下達が待ち受けていることも間違いはない。
 そして、ここからが重要であるのだが、オウガ達はいずれも仮装をすることによって、この国から力を得ているのだ。それは、普通の状態の猟兵と渡り合えるほどに。
 だからこそ、ここでまず仮装という物が重要になってくるのだ。
 仮装をすることでのパワーアップというのは、なにもオウガ達だけに適用されるものではなく、猟兵達にもまた言えるもの。
 それによって条件を同じにさえしてしまえば、力量差を埋めるものは何も無い。
 気の進まない者もあるかもしれないけれど、これは必要なことなのだ。とっても必要なことなのだから、仕方がない。最初の段階から躓いていては、先には進めないのだから。
 仮装の衣装自体は自前で用意しても、森から飛んでくる――不可思議な現象――を利用してもいい。とにかく、仮装をすれば問題はない。その身を様々と彩りさえすれば。
「そしてそしてぇ、そこを越えた先ではぁ、お菓子――に限らず、料理ならなんでもいいのですけれどぉ、それが必要になりますよぅ」
 森の先、白亜の城に待ち構えるオウガは、この国に君臨するだけあり、最もこの国の加護を受けている。
 そのオウガは空腹を抱えており、その間は如何なる攻撃をも跳ねのける――曰く、無敵の力を得ているのだ。
 それを覆すには仮装の加護を持ってしても難しく、料理を持ってかの空腹を埋める以外に方法はない。身を彩った後は、オウガの食卓にアリス以外の彩りを。
「皆さんの料理でお腹さえ満てればぁ、その無敵も解除されますしぃ、お眠で隙だらけになりますのでぇ、あとはそれを叩くだけですよぅ」
 などとハーバニーは簡単に言うけれど、随分と変則的な戦いを強いられることになることは間違いないだろう。だが、これはやはり猟兵でなければ出来ない事なのだ。
「この世界ではまだまだアリスが迷い込むことは続いています。彼ら彼女らをオウガの食卓にあげないためにも」
 説明も一段落。あとは世界を跨ぐだけ。
 それを示すようにハーバニーが銀の鍵を翳して、世界を繋ぐ扉を開く。
 ――踏み出す一歩は自らの意思で。
 その背中に、どうか御願いしますね。と声が届いた。
 そして、世界は切り替わる。


ゆうそう
 オープニングへ目を通して頂き、ありがとうございます。
 ゆうそうと申します。

 まず、こちらは3章構成ではなく、集団戦とボス戦の2章構成となっており、それをこなせば終了となりますのでご了承ください。
 そして、このシナリオは「【Q】アリスラビリンスでハロウィンパーティ!」の結果を受けてのものです。このシナリオを含む関連シナリオはその成功数によって、ハロウィンパーティ当日、やがて始まるであろう「アリスラビリンスでの猟書家戦」に、何らかの影響があるかもしれません。

 以下、補足。
 ●1章
 仮装は必須ではありませんが、あれば楽に戦えます。
 仮装の内容は御自身で決めてもいいですし、決めかねる時にはこちらがランダム(仮装アイディア表など)で対応しますので、ご自由にどうぞ。

 ●2章
 腹ペコ女王蟻のお腹を満たして下さい。
 お菓子でもいいですし、料理でも構いません。
 なお、相手からの攻撃はありますが、それは皆さんを対象にしたものではなく、皆さんの作成中の料理に向けられたもの。つまるところ、つまみ食いをしてきます。
 例えば、堂々と手を出してきたり(POW)、迷路の出口を利用してこっそり手を伸ばしたり(SPD)、配下に盗ませようとしたり(WIZ)してきます。
 それでお腹を満たさせてしまった場合には無敵は解除されませんので、そのつまみ食いを防ぎながら、頑張って料理を提供してください。
 お腹が満ちてくれば、段々と眠くなって、最後には眠り、無敵が解除されて一撃で倒せるようになることでしょう。

 それでは、皆さんの活躍、プレイングを心よりお待ちしています。
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第1章 集団戦 『ジョーカー』

POW   :    ブラックレディ
【死神の大鎌】が命中した対象を切断する。
SPD   :    ドッペルコップ
自身が【食欲や怒り】を感じると、レベル×1体の【自身の魂を分割した分身体】が召喚される。自身の魂を分割した分身体は食欲や怒りを与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    レッドドッグ
【バラまかれたトランプから噴き出す灼熱の炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【灼熱の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

パトリシア・パープル
わぉ、なんかヴィランっぽい敵がたくさんいるわね
こういうのは、ノリを楽しんだ方が勝ちよね、きっと

キマフュー出身なので大騒ぎも悪乗りも大好き
コスプレは、飛び出して来たものを手当たり次第に、あれこれ取り変えて戦います
「なんか悪役っぽい衣装ね、これ。だったら、こっちもそれっぽい感じで……
「こっちはちょっと露出度高め? まあ、ヒロインコスにはこういうのもお約束って感じ?

HSフォースの力で敵の放って来た炎の熱エネルギーを全て吸収
自分の力に変えて、全身をオーラで覆った状態で高速体当たり!

戦闘中も演技は継続
非戦闘員の衣装が来ても気にしない
「今度はお姫様?悪いわね……最近のプリンセスはお転婆なのよ!(回し蹴り



 森がざわざわと騒めき、さざめき。
 それは果たして流れる風が梢を揺らしたからか。はたまた。
「お、食材はっけーん!」
「猟兵だけれど、美味しそうじゃない?」
「女王様に渡すより、あたしらで食べようよ」
「あ、それはいーねー」
 森の奥より、城への道行く猟兵達の前に現れた道化師達の群れが原因か。
「わぉ、なんかヴィランっぽい敵がたくさんいるわね」
 飛び出す、飛び出す、森の奥から次々と。
 びっくり箱をひっくり返したかのようなその光景に、青の瞳をきらりと輝かせたはパトリシア・パープル(スカンクガール・f03038)。
 その瞳に道化師の姿を数多と映しながらも、それでもそこに浮かべる輝きの曇ることない。

 ――それとも、その輝きは迫りくる炎のそれであったからか。

 道化師達の手から、はらりと舞い散ったトランプの吹雪。
 それは南瓜の灯りが照らす森の道に紅蓮の彩りを加えて、染める。
「はい、丸焼きの出来上がり~!」
「うーん、美味しそうな匂いが……あれ?」
 疑問は当然。
 仮装による加護の上乗せをされたそれは、例え猟兵であろうとも加護なきであればこんがりと燃やし尽くすには足る。
 だが、そこからは道化師達の期待していた香りはない。あるのは、そう。

「こういうのは、ノリを愉しんだ方が勝ちよね、きっと!」

 紅蓮を吹き散らす、パトリシアの弾んだ声。
 火の粉を散らし、堂々たると見せたその姿こそは――常なるには非ず。
 纏うそれはレザーはレザーでも、軍服風ボンテージのそれ。背中に伸びる黒のマントは紅蓮の風にその身をはためかせている。
「それにしても、なんか悪役っぽい衣装ね、これ」
 最後に舞い落ちてきた軍帽をはしりと掴み、紫の上に被れば仮装――悪の幹部衣装の出来上がり。
 イカした未来でハシャいで暮らす。
 それこそがキマイラフューチャーの世界であり、そこに住まうキマイラ達の特徴だ。
 故に。
「だったら、こっちもそれっぽい感じで――」
 いっそ仮装を楽しんで戦うなど、朝飯前。
「――こほん。あなた達の力はその程度?」
 腕組み、居丈高、見下すように。
 悪の幹部なら悪の幹部らしくと、精一杯の悪ぶりをしてはみるものの、そこは生来のお調子者。悪を気取っては見たものの、地の明るさが垣間見え。
「仮装になりきれてないぞー」
「そんなのでも力が流れ込んでるとか、この国のガバガバさよ」
「ええい、五月蠅ーい! 今度はこっちの番なんだから!」
 あっという間に剝げた化けの皮。ならぬ、パトリシアの演技。
 それでも、そこに宿る力はやはり猟兵としての力量に相応しいもので、加護もあるとなれば猶更。
 道化師達の紅蓮が残滓を己の力と変換して、それをその身に纏わせるのだ。
 今度はこっちの番。
 そうパトリシアが言った、それを証明するかのように。

 ――鳴り響くは、地を踏み砕く音。

 ヨーイ、ドン! の掛け声もなく、弾丸の如く飛ぶはパトリシア。道化師達の群れに突き刺さり、吹き飛ばし、きらりお空のお星様。
 力任せの体当たりであったとしても、それが彼女の放つであれば、それはもうただのとは言えない。
 衝撃にもくりもくりと土煙。
「あたしらがやられた!」
「あれ、ならここに居るあたしらは誰?」
「そりゃ決まってる、あたしらさ!」
「なら、仇を取らないとだ!」
 残る道化師達の銘々好き勝手。
 再びとその手よりトランプの吹雪と紅蓮を生じ、土煙の先に居るであろうパトリシアを焼かんとするのだ。
 だけれど。
「序盤に出てきた悪の幹部が光落ちするのも、ある種のお約束よね」
 土煙を割って飛び出す第二の弾丸――ならぬ、パトリシア。だけれど、その姿はお色直しの新衣装。
 纏うは幹部時代の意匠を残しつつも、そのカラーリングを白と青で纏めたヒロインコスチューム。セクシーさを残しているのは、ある種のお約束というもので。
「それじゃあ、もう一回!」
 悪の幹部衣装の頃よりイキイキとしているように感じるのは、そちらの方が特に演技の必要がないからか。
 それは自身がヒーローとなるではなく、その相棒足らんとするを夢見る彼女であればこそ。悪よりは善に近しいからこそであろう。

「――私に手を出したこと、後悔させてあげるわ!」

 スカンクの形をなすオーラを外にと纏い、迫りくる紅蓮を蹴散らしながら道化師達の懐へと。
 ――再びの接触は、轟音と共に。
 ならば、その結末は語るまでもないだろう。
 もくりもくりと土煙がまたあがり、まるでボーリングのピンのように道化師達の姿がはじけ飛んでいた。
 それが答え。

「今度はお姫様? ああ、でも、悪いわね」

 土煙の中から、御免遊ばせ。との言葉より早く、空を裂いて脚が出る。豪奢なお姫様ドレスのスカート奥から、似つかわしくない鋭さを持って脚が出る。
 三度のお色直しはお姫様であったようだ。だけれど、それが貞淑なるであれば、そのようなことはなかっただろう。
「最近のプリンセスはお転婆なのよ!」
 断言は力強く。千切っては投げ、千切っては投げの勢いは強く。
 脚が出て、拳が出て、体当たりが飛び出る。
 その度、その度と道化師達が撥ね飛ばされて――まだまだ戦いの時、ならぬ、仮装の時間は終わりそうにない。
 ただ、道化師達が死屍累々と積み上がる中、様々な仮装を楽しむパトリシアの顔にはどこまでも満足気な笑みが浮かんでいたそうな。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベルカ・スノードロップ
レモン(f05152)と共に

年中ハロウィンなのでしょうか

飛んできたコスプレはSSWちっくな『宇宙服』
……うん。似合わなそうですが、さくっと着替えてしまいます

「レモンさんも、大概似合わないモノを引きましたね……」
レモンは可愛いですからね。この場では、口には出しませんが

さて、では一掃するとしましょうか
《選択UC》で、聖属性ビームをレモンと一緒にハートマークを作った時に放ちます
普段なら、普通のもえキュンビームなのですが、このコスプレでやると……カオスですね。えぇ


蛇塚・レモン
ベルカさん(f10622)と一緒っ!

コスプレ衣装が飛んでくる森って常軌を逸してるね……っ!
ベルカさん、早くどれでも良いからコスプレ衣装をゲットして着替えちゃおうよっ!

あたいは……これだーっ!
(キャッチしたモノを抱えて木陰で着替える)

……なに、これ?
【ゴリラの着ぐるみ】ってなにっ!?
ここの森、あたいが脳筋ゴリラの女だと言いたいわけっ?
ね~っ、ベルカさん、酷くない??
って、ぶっふぅぅぅーっ!
(ベルカさんの仮装が笑いのツボに入る)

オウガのみんな、見て見てっ?
はい、ラブラブきゅんっ♪
(ゴリラと宇宙飛行士が互いの片手をくっつけて❤を作る)

敵を笑わして精神攻撃+呪殺弾
UCで念動力+衝撃波を乱れ撃ちだよっ!



 南瓜ランタンの照らす道。城へと続く、森の道。
 だけれど、今そこを照らすのは――。
「歓迎の花火にしては近すぎるよねっ!」
「花火と言うよりは炎そのものですし」
 ばら撒かれたトランプの紙吹雪。そこから生じた紅蓮の色。
 そして、それを跳んで躱すは二つの影。
「――年中ハロウィンだと、こういう弾けた輩が多いのでしょう」
「どうなんだろ? でもとりあえず、あたい達も早くなんでも良いからコスプレ衣装を着ないとっ!」
 紅蓮へと追い立てられるようにと森の中。それはベルカ・スノードロップ(Wandering Dream Chaser・f10622)であり、蛇塚・レモン(蛇神憑きの金色巫女・f05152)。
「待てー!」
「いやいや、待てと言われて待ちはしないよっ」
「ましてや、危害を加えようとする相手ですからね」
 下生えの草をかき分け、木の影を利用し、ひとまずの時間稼ぎ。その間に、打開の策をと。
 とは言え、その打開の策など始めから決まっている。
「森の中にコスプレ衣装がなってたり、飾ってある光景って常軌を逸してるね……っ!」
「弾けているのは道化師達だけではなく、世界そのものという訳でしたか」
「ま、まあ、現実改変の結果ってやつなんだろうけれどねっ」
 それは木の幹に飾られた衣装であり、枝に掛けられた衣装であり、中には風に舞う蝶の如くとふわふわ浮かぶ衣装。レモンが語るが如く、現実のそれとは思えぬ光景がそこには広がっていたのだ。
 だが、ここで一つの疑問。
「……これって、着て本当に大丈夫なんですかね?」
「大丈夫、だと思うけどっ。いや、でもっ?」
 果たして、そんな光景に広がる衣装は着てもいいのだろうか。
 そんな二人の常識が、目の前に並ぶ衣装へと手を伸ばすのに待ったを掛けるは当然と言えば当然。
 だが。
「どこ行った!?」
「あっちじゃない?」
「いやいや、こっちだって!」
「なら、全部探せばいいでしょ」
 まだ遠くではあるけれど、確実に近づいてくる道化師達の声。
 ――悩んでいる時間はなさそうであった。
「ええい、もう、あたいは……これだーっ!」
「では、私はこれで」
 追い立てられるようにして、とりあえず目の前にあった『ソレ』を掴み取る。
 そして、声から少しでも遠のくようにと互いに木の影へ。
 そして――。
「……なに、これ」
「レモンさんも、大概似合わないモノを引きましたね……」
「ゴリラの着ぐるみって、ゴリラの着ぐるみって……! よく見ずに掴んだのもあるけど、それにしたってじゃないかなっ!?」
 のそりと木陰から出てきた影の形は、先程までと打って変わっての。
 一人――いや、今は一体と言うべきなのだろうか――の影は、森の賢者たる姿。その中身はレモンではあったのだけれど、着ぐるみ故に外見に名残などあろう筈もない。ただ、厳めしいゴリラの姿から零れる可憐の声という違和感がそこにはあった。
「ね~っ、ベルカさん、いくら何でもこれは酷くな――ぷっふぅぅぅーっ!?」
「ああ、はい。その感想も分かります」
「それ! それ! あっははははっ!!」
 ゴリラが大笑いで指差すは――コホー、コホー。と息吐く宇宙服。潜水服もかくやの大きなヘルメットがバイザーを開けば、そこにはベルカの顔形。
 その姿がレモンの笑いのツボを的確に刺激したのだろう。ベルカの視線の先で、お腹を抱えて大地を叩くゴリラという摩訶不思議な光景が広がっていた。
「笑われるにしても、その御顔を見ながらの方が良いのですが」
「あー、もう、おかしいったら。って、ベルカさん、何か言った?」
「いいえ、何にも」
 可愛い笑顔が見れずに残念などと、この場では口が裂けても言えまいから。
 そのベルカの様子に、レモンはゴリラのマスク越しで疑問符を浮かべるばかり。
「あ、いたー! って、なんだこれ」
 そんな喜劇を繰り広げていれば、道化師達が追い付くは当然。笑い声を目当てに集まってくるは当然。
 だけれど、追い付いてきた道化師達が目にした光景は、ゴリラと宇宙服が向かい合っているという謎の光景。
 それには思わずトランプを宙にばら撒くをも忘れ、道化師達もその手を止めてしまう。

 ――空白の時間は一瞬。

 ベルカとレモンの視線がバイザーとマスク越しにではあったけれど、確かに交差する。
 ――チャンスだよっ! いけるねっ!
 ――さて、では一掃するとしましょうか。
 二人の間に、言葉は不要。
「オウガのみんな、見て見てっ?」
 道化師達の呆然とした意識を現実に引き戻すレモンの声。
 現実に戻ってきた道化師達の視界の中で、ゴリラの右手がハートの半分を形作る。だが、一つではハートには至らない。もう一つがある筈だ。ならば、もう片方を埋めるのは――。
「もえもえきゅーん♥」
「はい、ラブラブきゅんっ♪」
 ベルカのそれに他ならない。宇宙服の分厚い片手がゴリラの毛むくじゃらと合体して、そこには見事なハートマークの出来上がり。
「あたしらは……いったい何を見せられてるんでしょう?」
「分からない。分からないけれど、宇宙の根源を見ている気分」
「あ、悟りを開きそう」
 レモンとベルカの声で現実に引き戻された筈なのに、そこで繰り広げられた光景はまた現実離れの光景で、道化師達の目も再びに遠く遠く。仮装衣装が彩る森の中、宇宙服とゴリラとがハートマークを形作るなど、最早カオスとしか言いようがないのだから、致し方なくはあるのだけれど。

 ――でも、それが悪かった。

 ハートマークの中心部。ぽっかり空いた空間から生まれ出るは邪を薙ぎ払う聖なる輝き。
 それは横薙ぎに道化師達を薙ぎ払い、片っ端から骸の海に叩き戻していくのだ。視線を逸らしていなければ、まだ抵抗のしようもあったのだろうけれど。
 さて、この状況。要素だけを見たのなら、道化師達に追い立てられた二人が、そこで見定めた逆転の一手を掴み取っただけである筈なのに、十分にシリアスにも飾れる要素である筈なのに、実際にそこで繰り広げられた光景はカオスそのものとしか言いようのない。
「普段なら、普通のもえキュンビームなのですが、このコスプレでやると……」
「カオスだねっ!」
「ええ、ええ、その通りです」
 聖なる神の旋律/もえキュンビーム。
 その当て字も相当な混沌具合である気もするけれど、それを突っ込む者はこの場には居ない。
 輝きが森を照らし、邪悪を撃ち滅ぼした後には、そこに残るはハートマークの形作る宇宙飛行士とゴリラだけ。
 だけれど、城へと至る道には猟兵達の行進を妨げる道化師達がまだまだいる筈。
「いくよっ、ベルカさん!」
「勿論です。どこまでもお付き合いしましょう」
 だから、二人は駆けるのだ。その障害を打ち砕き、巨悪を討つ未来へと向けて。
 カオス/ユーベルコードを振りまく二人の戦いは、まだ始まったばかり。
 ――ドカン、ドカン。と、大爆笑ならぬ衝撃波の音が、二人の行く先々で響いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

富波・壱子
雨宮・いつき(f04568)と参加

チョーカーを指でなぞって人格を普段の人懐っこく明るいものから冷徹で機械的な戦闘用に切り替え、飛んできた衣装(綺羅びやかな王子様)に着替えて戦闘に挑みます
「なるほど。……戦闘行動に支障無し。問題ありません」
任務達成を最優先に考え男装も戸惑うことなく着こなし、慣れないドレスでの動きに手間取るいつきをお姫様抱っこの形で救出します
「怪我はありませんか」

「こちらの方が効率的です。このまま戦闘を続行します」
いつきを抱き上げた状態でUCを発動。【第六感】の予知によって敵の攻撃を【見切り】、回避します
「敵の攻撃は心配いりません。私が回避します。いつき、あなたは攻撃に集中を」


雨宮・いつき
富波さん(f01342)と

よーし、なら僕も格好良い衣装を纏いましょう!
…と思ってたんですけど、なんかこっちに飛んでくる衣装が悉く女性物では??
えぇい、選り好みしてる暇もあまり無いですしこの衣装で!

見るからにお姫様な煌びやかな衣装、着たはいいけど動き難いしちょっと恥ずかしいしで、なかなか苦戦しそう…
「わわっ!?け、怪我は無いですけど…!」

凛々しい王子様な富波さんに、お姫様抱っこで助けられてさすがに照れちゃいますけど…
ここは堪えて、狐火の【範囲攻撃】で敵を攻撃する事に集中します!
「わ、分かりました!派手にやっちゃいます!」
富波さんの格好良い姿を見れるのはいいですけど、抱えられるのは複雑な心境…!



 指先触れる革の手触り。
 慣れた手つきで首のそれをひと撫ですれば、それが意識を切り替える彼女の合図。
「……敵性体確認。討伐のため、装備の変更を求めます」
「そうですね。まずは仮装をしなければ!」
 金色の瞳はそのままに、されど、宿す輝きを無機なるへと変えたは富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)。
 それこそは温もりに満ちた彼女の内に潜む、もう一つの顔。かつての過去に得てしまった、昏い影。
 普段の姿との違いに初めこそは面食らいもするのだろうけれど、今はそれも彼女の一面なのだと雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は友のそれをそう理解する。
 故に、いつきの言葉の内に壱子の変化に対する動揺は微塵もなし。
 ただ、壱子の言う装備の変更――仮装の衣装を探して、道化師を警戒して、森より飛び出してくる影に目を走らせるのだ。
「装備の支給を確認」
「わ、格好良い衣装ですね。王子様のでしょうか?」
「そのようですね」
 飛来したそれを掴み取れば、輝き一つで瞬く間に衣装が変わる。
 白のテールコートとズボン。されど、金の縁取りや肩章、飾緒等が彩り加えてキラリキラリ。
 その立ち姿は今の壱子の凛とした佇まいと合わさって、まるで童話の世界から王子様がそのまま抜け出て来たかのような。
「なるほど……戦闘行動に支障は無さそうです。問題はありません」
 その手を包む手袋の感触を確かめるように、二度三度と手を開いては閉じ、開いては閉じ。少なくとも物を掴むに支障はなく、動くに阻害はなさそうなのは一安心か。
 そして、その仮装姿に期待を込めたは青の眼差し。
「よーし、なら僕も格好良い衣装を纏いましょう!」
 壱子が掴んだように、自身にもきっと同じような衣装が飛来するのだ、と。

 ――だが、現実は非情である。

「え、ちょっ、なんかこっちに飛んでくる衣装に偏りがありませんか!?」
「そういうものなのでしょう」
「もしかして、性別とか勘違いされていますかね!?」
 お姫様なドレスにメイド服、果てはアリスのエプロンドレス。明らかに女性のそれとわかるものばかりが大挙して。
 そして、同時――。
「お、ここにも食材はっけーん!」
「男女セットとか食べ比べも出来そうで、お得感あるね」
 まるで衣装を追いかけてきたかのように、その後ろから跳びだす道化師達。
 その目はいずれもギラギラと輝いており、当初の目的である筈の女王様のための食材を集めるなど忘れている。そう、全ては自分達のためにと。
 トランプが舞う。紅蓮が先駆けと迸る。猟兵達を燃やし尽くさんと。
 ――悩んでいる時間など、なかった。
「えぇい、選り好みしてる暇もありませんね!」
 だから、一番最初に近付いてきたそれをいつきも壱子に倣って掴むのだ。
 艶やかな光沢感ある布地は、それだけで余計な装飾を必要としない程の美しさ。纏った身体に触れる感触はふわりさらりと心地よく、動きに波打つスカートラインが足元を優しく擽る。
「え、選んだはいいですけれど、心許ないですし、動きにくいですね、これ!」
 目前に迫る紅蓮。
 いつきも躱そうとはするけれど、袴とは異なる足元の頼りなさと風通し。それが普段と違う衣装――まして、女性のそれ――を纏っているのだと認識させて、身を固める。中性的な顔立ちとはいえ、いつきも立派な男の子であり、やはりそこには恥ずかしさというものがあったのだ。
「――なら、動きの方は任されましょう」
「え、わわっ!?」
 紅蓮が到達するより早く、まるでそれを予見して動いていたとしか思えない程の滑らかさで、いつきを紅蓮の魔の手より掻っ攫ったは壱子の身のこなし。
 お姫様を救うがあるとすれば、それはやはり王子様の役目というものであろう。
 いつきと壱子。年の差にして三つばかり。
 だけれど、この年代の三つは体格を始めとして随分な差を生み出すものだ。例え、それが男女であろうとも。
「怪我はありませんか?」
「は、はい。け、怪我はないですけど……!」
 『この格好』は些かと言わずに恥ずかしい。
 そう。王子様がお姫様を救う役目であるとすれば、その抱え方もまた――。
「お姫様抱っこというのも!?」
「いえ、こちらの方が効率的です。このまま戦闘を続行します」
 照れ交じりのいつきの指摘。されど、今の壱子からすれば、それが最も効率的と判断したのであれば感情などは些細な――いつきにとっては大きな――問題。故に、その照れと抗議は即座に斬って捨てられたのである。
 ――紅蓮が空気と地面だけを焦がし、熱を名残と消えていく。
「逃げてちゃダメですよ!」
「でも、あれはあれで美味しい光景。食欲的な意味でも、別の意味でも」
「あー! もっとお腹すいちゃうじゃん!」
 ワラワラワラと雨後の筍が如く。
 明らかに、道化師達の数が先程見た時より増えている。
「少なくとも三手。そこまでは無傷を貫けます」
 壱子のそれは自信があると言うからではない。その未来を視たからこそ。
 ただし、だ。
「わ、分かりました! 攻撃はお任せを!」
 それはいつきを抱えたまま、回避のみに専念すればである。
 壱子が抱えるいつきはただのお荷物などではなく、彼もまた立派な猟兵なのだ。その腕の中で、青の瞳にあった照れと戸惑いが決意に変わる。戦いを識る者の眼に変わる。
「ええ、ならば少なくとも三手とは言わず、幾らでもです。心配はいりません」

 ――あなたに危害を加えさせなどしません。全て、私が受け持ちます。

 抱えられた腕の中でいつきが見上げる、冴え冴えとした横顔。そこから零れ出る凛とした声と台詞の王子様力のなんたるか。
 戦いの目に変わっていた筈のいつきも思わず、その胸の鼓動をトクリと一つ跳ね上げ、本当にお姫様になったかのような陶酔に――浸るより早く、そんな一瞬浮かんだ空想を慌てて消して、いつきもまた自分自身の役目へと集中をするのだ。
「どうしました?」
「いえ、なんでもありません!」
「では、火力制圧を期待します」
 跳んで、跳ねて、森の道。過ぎて、過って紅蓮の吹雪。
 身のこなし鮮やかと動き回り、敵意を凌ぐ壱子。その動きを示して目まぐるしく動く光景の中、いつきも鋭く世界を睨む。

「勿論ですよ! 道化師達が幾らでも増えるというのなら、派手にやっちゃいます!」

 炎を扱うであれば、いつきにも覚えがある。
 ――指先に、メラリと小さく狐火一つ。
「なんだ、あの小さい炎!」
「そんなもんであたしらの炎に挑むってのは、無謀じゃないかい?」
「いいえ、いいえ。この炎を見てしまっている時点で、貴女達の結末は決まっています」
「私にも見えました」
 未来を見通す眼に映った光景は一つ。
「これなるは幽幻の炎。見惚れたならば最後、火傷では済みません」
 一つは二つ、二つは三つ、三つは――瞬く間と道化師達を囲んで揺れる狐火の。
「え、え、えぇ!?」
「どんな奇術!?」
 慌てたところで、逃げ道などもうあろう筈もない。
 壱子が視た未来の如く、いつきが告げた結末の如く、群がる狐火が道化師達に喰らい付き、燃やし尽くすのだから。
 ――青白きが森を照らし、消えた。
 後に残るは南瓜ランタンの照らす森の道。道化師達の姿は、どこにもない。
「あの、もう下ろして貰っても大丈夫ですよ」
「……その提案を否定します」
「え、ええ!? どうしてですか!?」
「まだ城までの道は遠く、敵性体が存在する可能性を否定できません。また抱え直す時間を考えれば、このまま進んだ方が良いでしょう」
「う、それを言われると……」
 だけれど、もう暫くはお姫様抱っこをする王子様/壱子とお姫様抱っこをされるお姫様/いつきの姿は、続く事であろう。
 少女が敵性体のなきを確認するまで、少年の複雑な心境を抱えたままに。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

天狗火・松明丸
仮装は必須。成程。成程な
常より妖怪だと云うのに
もひとつ化けにゃあならんとは

どろんと木の葉で誂えたのは
――嗚呼?

何だ此の格好、何処で見たんだ
己すら分からぬ出鱈目な姿だ
まあ良いか、勤めを果たすとしよう

此の世界も、ありすも何ぞ分からんが
美味しく頂くのが礼儀らしいな
郷に入っては郷に従え、というやつだ

めきめきと猛禽の頭に姿を変え
嘴を大きく開けりゃあ、いただきます

数も居るし食い応えがありそうだ
何なら幾つか焼いても良いか
さてさて、どいつにしよう
お前にしようか、そうしよう

逃げ惑うのもまた良し
驚かれるのが久しい気がして
妖としては微妙だが気分は良い

さて、次はどの子にしてやろう



 仮装とは、常の衣を脱ぎ捨て、変えて、非日常へと身を落とすに他ならぬ。
 ならばこそ、ヒトがそこに垣間見るのは妖怪異形のお祭りなのであろう。
 では――。
「仮装は必須。成程。成程な」
 その妖怪異形たるが己の衣を変えるとは如何なるであろうか。
「ヒトが妖怪に化けたかと思えば、妖怪は人に化けにゃあならぬ、と」
 人にとっての非日常が異界であれば、妖怪にとっての非日常はそれこそ人界であろう。
 故にこそ、天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)が頭に乗せたはお気に入りの葉の一片。
 元より人真似て人中に混じるではあるけれど、さて、決まりとあらば妖怪としてヒトを装おうではないか。
 頭に葉を乗せたまま、トンと跳んでの一回転。宙ある間にドロンと煙が沸き上がれば、着地の合間に早変わり。
 はてさて、如何なるとの変わり様か。矯めつ眇めつ、松明丸は己が衣を眺め見て。
「――嗚呼?」
 零れ出るは疑問符の。だけれど、それもまあ、無理からぬ。
 何故なら、それはどこか古き、懐かしき。
 粋に着流し、袴は要らぬ。襟元緩やかに覗く胸元の艶やかさ。
「何だ此の格好、何処で見たんだ?」
 一昔前か、ふた昔前か、ヒトと妖怪が袂を分かつよりずっと前か。だけれど、確かにどこかで見たそれは、仁義重んじる任侠のヒトのそれ。
 だが、松明丸からすれば、その衣装が何であれ、構いはしないこと。
「まあ良いか。己すら分からぬ出鱈目な姿ではあるが、勤めを果たすとしよう」
 必要であるから化けたのであって、それにと化けようとして化けた訳ではないのだから。
 肩で風切り、路を往く。城を目指して一路と往く。
 僅かに開いた胸元の、スースーとした風通しの良さが気にならないでもないけれど、それを気にするよりもと。
「此処を通りたいのかい? 止めときな止めときな」
「そうさ。この先に行ったって、業突く張りの女王様しかいやしないんだから」
 森の奥から道化師の声姿。ぞろりぞろりと現れて、松明丸の行く道を塞ぐように。
「だがなあ、この先にこそ用事があるんだ」
 止めてくれるなとは言ってみるものの、それが叶う訳もなしと期待もせず。
「そうは言わずにさ」
「あたしらにちょいとその肉を分けてくれりゃあ、見て見ぬ振りも出来るかもしれないけれど」
「普通のアリスとは違う感じもするし、珍味っぽい気もするんだよ」
 予想通りの通行止め。
 そして、立ち塞がる道化師達の誰もの目にもあるは、どこかで良く見た獣のそれ。
「ここに居る全員に一口ずつで良いんだ」
「おいおい。どんどんと増えてくお前さん達に一口ずつじゃあ、俺の身は一片も残らないんじゃないのかい?」
「良いじゃないか。挨拶みたいなもんだよ」
「ほう、挨拶か」
 視線が、刃の如くと鋭く。
「なるほど。美味しくとって食うのがこの世界の礼儀らしいな」
 松明丸にとってはアリスラビリンスという世界も、アリスという存在も良くは分からない。だけれど、ことそれにおいてであれば話は別。
 納得の言葉を零す内、刃の如くと鋭かった視線が和らぎ、笑みへと変わる。
 仮装だ何だとこの世界の流儀に合わせはしたが、なんだ、妖怪の流儀と変わらぬのか、と。
「お、食われてくれる気になった?」
「そうだな」
「本当に!? いやー、まさかとは思ったけれど、ありがた――」
「お前からにしようか」
「――へ?」
 それが流儀だと言うのなら、挨拶だと言うのなら、するばかりではなくされることもあるは当然のこと。
 郷に入っては郷に従えとはよく言ったものであるから。

「――いただきます」

 近付く間抜けの目の前で、端正なる松明丸の顔立ちがめきりと歪んだ。ヒトの姿を脱ぎ捨てて、戻り、還るは妖怪の日常。
 道化師達から驚愕の感情が伝わってくる。
 ――なんだ。他と違うと理解していたのではないのか。
 そんな感想を胸の内で零しながら、変ずるそれは燃え盛る猛禽の頭部。
 鋭き嘴がぱかりと開き、瞬きの間もなくと道化師の頭をぱくり。
 皮を裂き、肉を抉り、骨を砕く。嘴で感じるぶつりと千切れた感触は、命の終わる感触に相違なし。
 その感触と同時、頭を失った道化師の身体がとさりと崩れ落ちた。
「な、な、なあ!?」
「なんだ。これが礼儀じゃなかったのか?」
 分かっていながらと敢えての。
 猛禽類の顔だと言うのに、そこにヒトを喰った笑みが確かに浮かんでいると道化師達は理解する。
 最早、松明丸にとって目の前で囀る道化師達は獲物でしかない。
「食うのはこっちだっての!」
「嗚呼、嗚呼。また数が増えてくれたな。これは食い応えがありそうだ」
 それはきっとささやかな抵抗。怒りが怯えへとすり替わる時間を僅かと伸ばしただけの、ささやかな。
 今の道化師達が織り成す複雑な感情は、驚愕と怒りと今はまだ僅かな怯えの綾。
 ヒトが相手ではないけれど、それでもと松明丸の心が久しき妖としての高揚に震える。
「さて、次はどの子にしてやろう」
 貰って嬉しき花一匁。
 あの子、この子と選ぶに迷う。
 踊り食いが良いか、焼いて食うが良いか選ぶに迷う。
 だって、ここにはそれだけ沢山の道化師達/獲物が居るのだから。
 ――ガブリ。
 向かってくる道化師達の中から松明丸に選ばれた音が、また一つと響いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
(鶏の着ぐるみの影響で声が…)
コケッ、コケッ、コケ~!
(※残敵掃討も騎士の務め。迷宮災厄戦では着ぐるみを纏っての戦闘もありました、今更躊躇いなどありません)

脚部から●推力移動の炎の尾を引き戦場を全力疾走
そのまま跳躍し敵を●踏みつけ●地形破壊
口の覗き穴から頭部格納銃器の●乱れ撃ちで追い散らし強烈な脚撃で追撃

コケッ!
(※森によって着せられたこの衣装も見事使いこなしてみせましょう)

異形に臆せず立ち向かう敵の鎌を翼による●武器受けで刃の腹を叩き●武器落とし
頭突き…では無く嘴の一撃で地に沈め

コケ…
(※周囲は一掃出来たようですね、今の内に…)

着ぐるみ脱ぎ

…もう少し騎士として恥ずかしくない衣装を探さなければ



 森のあちらこちらで繰り広げられるは、仮装した猟兵と道化師達の戦い。
 紅蓮があがり、輝きが薙ぎ払い、土煙があがる。
 戦いは激しさを増すばかりであり、その一端を担う戦いがここにも、また一つ。
「な、なんだ、コイツ!」
 地を翔ける『ソレ』は道化師達にその影をすら踏ませない。
 弾丸の如くと距離を埋めたかと思えば、鋭い旋回を見せて迎撃にと振るわれた鎌を紙一重にて躱す。
 『ソレ』の動きに恐れというものはない。躊躇というものはない。
 紙一重の回避の動きをそのままに、片足を地へと突き立てる。
 ――急制動。
 されど、慣性はまだ生きている。故に、地へと突き立てた足を軸足として、流れるようにもう一つの足が鎌の如くと道化師達に振るい返されるのだ。
「畜生! 女王様より先に味見できる美味しい案件かと思ったのに!」
「馬鹿! そんなこと言ってる場合――ぎゃあ!?」
 突き刺さる回し蹴りは、見事と道化師が一つの身体を捉え、その身を球の如くと弾き飛ばす。
 だが、慣性の勢いを道化師に押し付けたからか、『ソレ』の動きが止まるを見せる。
「よくもやってくれたもんだね!」
「囲めば誰かしらのは届く!」
 殺到。
 今迄は影も踏めなかった相手が初めて動きを止めたからこそ、今が攻める時だと言わんばかりに。
 だが。
 ――ドン!
 回し蹴りの余韻残す足を踏みこみと変えて、『ソレ』は天高くへとその身を逃がすのだ。
 ――逆光が地に影を落とす。

「コケッ、コケッ、コケ~!」

 高らかと響くは、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の声。だけれど、『ソレ』は鶏の形をしていた。
「本当、なんなんだ!?」
 心からの賛同をここに。
 森の道を通るアリス/食材を待ち受けているだけの簡単なお仕事であった筈なのに、出てきたのはまさかの鶏。いや、道化師達も最初は喜んだのだ。人肉もいいけれど、他のも味を楽しむのも悪くはない、と。
 だと言うのに、だと言うのに、だ。
「こんな強い鶏が居てたまりますかっての!?」
 舌なめずりして襲い掛かれば、まさかの高速機動に加えて、まさかの肉弾戦の強さ。
 道化師達が思わずと涙目な事態となるのも、致し方がないことであった。
「コケッ!」
 空に跳んでいた鶏/トリテレイアの口が開く。
 嘴の奥でギラリと輝いたは緑の輝きであり、同時――。
「コッコーッ!」
 ――銃口の鈍い輝き。
 それを見て、何が起こるかなど予想しない者はいなかった。
 鶏の嘴の内より吐き出される弾丸が、まさしく雨と降り注ぐ。
「退避、退避ーッ!」
「猟兵って、あたしらより無茶苦茶じゃない!?」
 鶏/トリテレイアの眼下。道化師達が弾丸の雨に晒され、まさしく蜘蛛の子を散らすが如くと。
 だが、それで手を止める彼ではない。
 くるりと器用に宙で一回転し、翼で滑空しながらの一直線。目指すは蜘蛛の子と逃げる道化師の一人。
「なんであたし!? 他にもあたしは一杯いるでしょ!?」
 鳥がその足でミミズや虫を捕らえるように、トリテレイアも器用にその脚で道化師を踏み倒す。
 足から藻掻く道化師の動きが伝わってくるけれど、それは最早悪足掻きにしか過ぎないことは誰の目から見ても明らか。
「コケッコー!」
 その戦果を誇るように、翼広げて一鳴き。
 攻防は筆を選ばずならぬ、この衣装をすら使いこなして見せるという気概がそこにはあった。
 なんにせよ、ノリノリであったことは間違いない。
「く、くそぅ! やられっぱなしで!」
 組み敷かれたまま、それでもと無理矢理なる鎌の一閃。だが、無理矢理の一閃と言えども、その鋭さは侮れぬ。
 だけれど。
「コケッ!」
「はぁ!?」
「コー……」
「え、なんか認めてくれぎゃん!」
 それを臆するところもなく、器用に翼で刃の腹を叩き落とす。そして、最期まで諦めずに抗ったその姿勢に感銘示して――嘴の一撃を叩き込むのだ。
 ――沈黙が流れる。
 周囲に敵影はなく、というか、鶏に倒されたくはないと道化師達が逃げた結果の空白地帯がそこにはあった。
「コケ……」
 それを今のうちにと見たか、バサリと羽毛が地に落ちる。
「ん、んん……どうやら、元に戻ったようですね」
 そこから現れたは見慣れたトリテレイアのいつもの姿であり、鶏の鳴き声ではない彼の声。
 いかなる神秘か。かの着ぐるみを纏う間、彼自身は普通に発声をしていたにも関わらず、外部に漏れ出る声は影響を受けてあのようになっていたのだ。
 そう、全ては着ぐるみのせい。ノリノリなように見えたのも、全ては着ぐるみのせいなのである。
「……もう少し、騎士として恥ずかしくない衣装を探さなければ」
 かつて、着ぐるみを纏って戦った経験から選り好みせずとしたは良かったが、まさかの影響に晒されるとは思いもせずであったが故に。
 少し名残惜しい気もしたけれど、脱いだ鶏の着ぐるみを丁寧に畳んで森の傍らへ。そして、トリテレイアもまた他の猟兵達と同じくと森の先――白亜の城を目指し、森の道を往くのであった。

 ――だが、気を付けよ。
 城へと至るための道はまだまだ先へと続いており、そこには道化師達は潜んでいるのだ。
 丁寧に折りたたまれていた筈の鶏の着ぐるみがふよりと浮かぶ。
 そして、纏ってもらう機会を窺うように、ふよふよとトリテレイアのその背中を追いかけていく。
 また纏う機会があったのか。その後のそれをどうしたのか。それは彼のみぞ知る所。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハロルド・リード
(仮装お任せ)

なンだよコレ!
いつの間にか服が変わってやがる。
戦えねェ……。
クソッ!仕方ねェなァ。
さっさと終わらせてやンよ!

地形を利用して隠れる。
なるべくならコノ衣装の目立たねェ場所に隠れてェ。
たくよォ。コノ世界はなンだ!
初めて足を踏み入れたが、戦い難いったらありゃしねェ。

【ヘッドショット】で隠れたまま狙い撃つ。
狙うのはもちろん頭だ。
魂を分割すンのかよ。
キャバリアの世界も変なヤツラがうじゃうじゃいるケド
コノ世界も変なヤツだらけじゃねェか。
追跡されンのは厄介だなァ。
その前にやっちまうか。



 ここはアリスラビリンス。不思議の国。ならばこそ。
「なンだよコレ!」
 衣装の一つや二つ、国に入った途端と変わる不思議があってもおかしくはない。
 ハロルド・リード(scrap・f30129)が見下ろす自身の服は、見慣れたいつものジャケットに迷彩柄のズボン――ではない。
 ファー付きコートに柄は違えど長ズボン。そこまではまだいいけれど、靴の代わりにもふりとした感触が足へと伝わる。変わった衣装を確かめるためと動かした手にも同じくもふり。そして、極めつけは頭にひょこりととび出した犬耳に腰から伸びるふさふさの尻尾。
 狼男。ああ、まさしく狼男の仮装をしたハロルドの姿がそこにはあった。
「いつの間にか服が変わってやがる……クソッ! こんなんで戦えってンのかよ」
 もふりとした手は銃を持つのも難しそうに見える。それに思わずと悪態をついてしまうのは致し方のないことであろう。
 だが。
「お、居た居た」
「しかも一人! あたしは腕!」
「何を勝手に決めてんの。あたしは頭!」
「人の事言えないから、それ」
「だって、全員あたしらじゃん」
「それもそうね」
 ガヤリガヤリと森の中、道化師達が鎌を片手に跳びだしてくる。
 銘々が好き勝手なことを言ってはいるが、ハロルドを食材として見做しているという点においては意志の統一がなされている。
「チッ! 文句も言ってられねェか」
 仮装姿に戸惑いはあれど、敵を前にしてそれを脱ぐという隙を見せるなどという愚をハロルドは犯さない。
 今何をするべきか。
 瞬時にその思考を弾き出し、その身をひらりと躍らせる。
「あ、逃げた!」
「見事な一目散」
「褒めてる場合!? 追うんだよ!」
 ――森の中へと向けて。
 藪の枝葉が身体を撫で、擦る。それに多少の擦り傷、切り傷も出来たかもしれないけれど、これが今の最善と判断しての。
 背後からハロルドを追うように、道化師達もまた枝葉をかき分けて森の中へと。
 だが、勘違いをしてはいけない。
 ハロルドは逃げるために森の中へ飛び込んだのではない。
 ――戦うために、戦いの場を変えただけなのだ。

「たくよォ。コノ世界はなンだ!」

 もふりとした感触に覆われた手は変わらず。だと言うのに、そのままでは持てぬと思っていた銃が普通に持てている。更には、薄暗い森の中であっても道化師達の動きが視える、擦れる葉の音が聞こえる、血の臭いが分かる。
 仮装をすることで楽に戦えるようになるとは聞いていたけれど、それが本当であろうとは。
 初めて踏み入れたアリスラビリンスの不可思議に、その経験に、ハロルドの戸惑いは強まるばかり。
「戦い難いったらありゃしねェ」
 だが、戦えない訳ではない。ならば、そこに問題などありはしない。
 さあ、教えてやるべきだろう。自分達が未だ追跡者であるという勘違いをしている道化師達に。
 自分達こそが獲物であるということを。
 森は狼の狩猟場であるということを。

 ――道化師の頭が、弾けた。

「……は?」
 道化師の忘我も当然だろう。
 自分達が攻める側とばかりに気を良くしながら進んでいたら、突然、隣に居た仲間がドサリと物言わぬ骸と姿を変えれば。
 だが、その忘我もまた一瞬のこと。
 その動き止めた道化師もまた頭を弾けさせ、同じ道を辿ることとなったのだから。
「戦場で足を、思考を止めるなンざ、素人かよ」
 その手の内で燻る硝煙。
 それはハロルドがそれを為した証拠。狙い違わず、道化師達の頭を射抜いた証拠。
「あたしがやられた!」
「気を付けろ! あっちの方向から飛んできてた!」
「よくもあたしを!」
 ガサリガサリガサリ。
 枝葉かき分け進む音。怒声交じりに近付く音。
 だけれど、仮装を通してこの国の加護を受けているハロルドにはそれこそ筒抜けだ。
 それに、彼が今、言った通りに。
「いつまでも同じ場所に居る訳ねェだろ」
 森の中、時にわざと音立て移動して、時に音立てることもなくと移動して、意識引き付け、逸らし、戦場巧みと動き回る。
 そして、それに翻弄される度、道化師達はその数を減らすのだ。
 例え、魂の分割を持って数を補填したとしても、それ以上の速度でもって。
「キャバリアの世界も変なヤツラがうじゃうじゃいるケド、コノ世界も変なヤツだらけじゃねェか」
 それを苦も無くと一蹴するハロルドもまた、恐らくは道化師達から見れば十分に。
 だが、それを指摘する者はなく、ただハロルドの銃火だけが主に応え、命を刈り取っていくのである。
 追跡を受け続けるでは厄介だから。
 その理由でもって、道化師達が全滅するまで、何度でも何度でもと。
 そして、森に静けさが戻ってくる。
 薄暗き森の中を辞したハロルドの視界に、拓けた森の道が戻ってくる。
 白亜の城は、この道の先に。

成功 🔵​🔵​🔴​

エドガー・ブライトマン
さて、愉快な旅の始まりだね
あの白い城を目指して行くよ。レディ、オスカー!
王子として、アリスとして、頑張らなくっちゃ

私のきょうだいには一人一人特技がある
第二王子は剣技、第三王子は叡智とか
そして私の特技かつ長所は、――この顔立ちだね
いやあ、何を着ても似合ってしまうんだなコレが……
ふたりとも聞いてる?

というワケで、どこかから飛んできた衣装を着て戦おう
大丈夫さ、きっと何とでもなるよね
◆衣装お任せ

ジョーカー君、ごきげんよう
これ以上好き勝手にはさせられないな
衣装をまとった身なら、十分に渡り合えるだろう
脱ぎ捨てるマントもないかもしれないが、“Jの勇躍”

私、簡単にキミらのご飯になってやるつもりは無いんだよねえ



「さて、愉快な旅の始まりだね」
 それは遠く、森の先に見える白亜の城を目指す旅路。
 遠く彼方を指し示すエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)の指先は、そこに今回の運命が待ち受けているのだと理解しての。
「あの白い白を目指して行くよ。レディ、オスカー!」
 共にと歩むは左腕に宿った淑女。そして、その肩に止まった燕の相棒。
 それはいつもの面子ではあるのだけれど、いつもと違う場所が一つだけ。
「なにかもの言いたげだね、キミ達!」
 エドガーの左腕がもぞり。肩が肩を軽いて突く。まさしく、その通りだと言わんばかりに。
 それもそうであろう。何故なら――。
「ハハ、そんなに見つめられると照れてしまうよ」
 ――その姿は王子様としての装束ではなく、まるでその真逆とのパンクファッションなのだから。
 スタッズで縁を飾る黒のレザージャケット。胸元は大胆に開け放ち、アンダーがチラリ。ズボンはこれまたダメージをわざと入れたジーンズで、腰を引き絞るベルトにも衣装と同じく金属の輝きが鈍く。
 このハロウィンの国において、仮装をすることは力を得ることだ。
 だが、だからといって王子様がこのファッションを選んでいいのだろうか。いや、いいのだ。王子様であればこそ、弾けたい時だってある。
 ――とまでは言い過ぎかもしれないけれど、それでも、現地で仮装を得ようとして、このファッション(ダイス結果とも言う)と出会ったのは、ある種の運命でもあったのだ。規律を重んじ、国を重んじる王子様であればこそ、規律よりも自由を尊び、体制に反する者の衣装を纏うことがより一層と仮装として成り立つのだから。
「だがね、知っているかいキミ達? 私のきょうだいには一人一人特徴があるんだ」
 第二王子は剣技。第三王子は叡智。
 在りし日の彼らの姿は、今もエドガーのその胸の奥に宿っている。
「そして、当然、私にも特技かつ長所がある」
 それは――。
「この顔立ちこそがだね!」
 陽を弾いて輝く金糸。あどけなさを見せる甘いマスクは確かに万人を魅了するだろう。
 ふぁさりと金糸を靡かせて、自信満々に言うだけのことはある。初めて纏うパンクファッションだと言うのに、着られるではなく着こなしていればこそ。
 ただし。
「イタ!? ちょっ、別にキミ達に不都合なことを言った訳じゃな痛いって!?」
 淑女はそれを他人に見せるなと嫉妬するかのように。オスカーは高く伸びた鼻を諫めるように。
 突き刺し、突かれ、その刺激にエドガーの表情も崩れ去る。
 それに満足したのか刺激もようようと途絶え、エドガーもようやくと一息。
「ああ、全く。二人を嫉妬させてしまうだなんて、私も罪作り……いや、なんでもないよ。うん」
 余計な一言にざわりと不穏。慌てて口閉じ、貝の如く。沈黙は金なのだ。
「……さて、ごきげんよう、ジョーカー君。待たせてしまって悪かったね」
「なんだ。気付いてたの?」
「勿論だとも」
 ガサリと道の傍らで藪が揺れて、森の奥から道化師が顔を覗かせる。
 一人、二人、三人――その敵意を示すかのように、食欲の多きさを示すかのように多くと。
 ぴぃと鳴いた相棒を、これからへ巻き込まれぬように空へと逃がす。
「それじゃあ、あたしらに食べられてくれるつもりなのかな?」
 先程とは違う不穏の空気が、エドガーの左腕から放たれる。
 ――お前達にくれてやるものは肉の一片、血の一滴もない。
 そう言わんばかりに。
「はは、レディに先んじられてしまったが、そうだね。私からも改めてと告げよう」

 ――私は、簡単にキミらの御飯になってやるつもりは無いんだよねえ。

 張り詰めた風船が弾けるように、互いが同時にと地を蹴った。
「なら、首を刎ねてから美味しく料理させてもらうよ!」
 風切り音。
 道化師達の振りかざす鎌がギロチンの刃のように。
 この国の加護を受けるそれは、最短最速をしてエドガーの頸筋目掛けて。
 だが、だ。
「君達がこの国を支配しているというのなら、この衣装が私の下に来たのも、あながち間違いではないのかもしれないね」
 体制への反抗を纏うエドガーにも、その加護はあるのだ。
 立ち塞がるというのであれば、ぶち破るのみ。諦めて腹の中に納まる気など、毛頭ないのだから。

「――さあ、御照覧あれ」

 脱ぎ捨てるマントの代わり、ジャケットを宙へと放り投げて小さな一歩。されど、害意に晒されてなおと前へ歩む一歩は勇ある者の証。
 ――迫りくる頸断ちの刃に潜り込むは、鋼の音色。
 受け止め、躱し、逸らして、流し。その度、鋼の音色は高く、低くと木霊する。
 そして、その手に握り込んだ刃から伝わる衝撃は、まだここが倒れ伏す運命の場ではないと伝え来るかのよう。
「お腹を満たさせてはあげられないけれど」
 代わりに馳走するは、鋭き剣閃。躱され、弾かれ、身体の泳ぐ道化師達。その懐へと踏みこんで。

 ――交差し、断ち抜ければ、空に逃がしていたオスカーがエドガーの肩へと戻ってくる。

 ドサリと倒れ伏す音は、道化師達の。
 それを待っていたかのように、ぴぃぴぃとオスガーが鳴く。
「ああ、ありがとう。見てきてくれたんだね」
 空へと逃がしたのは、周辺にそれ以上の敵が居ないかを確かめるために。
 だから、オスカーはその役割を果たして言うのだ。少なくとも、この目が見る限りにおいて、周辺にはもう道化師達の姿はない、と。
 戦いの気配が遠のき、刃が鞘へと戻される。
「それじゃあ、旅を再開しようか!」
 放ったジャケットを拾い上げ、それを纏って再びと旅の空。
 鼻歌小さく口ずさみながら、目指す彼方の白亜を目指し、森の道にまた一歩とエドガーの足跡が刻まれた。

成功 🔵​🔵​🔴​

夏目・晴夜
リュカさんf02586と
自分の身長に合わせたリュカさんの衣装を着て挑みます
青いジャケットのいつもの衣装、ボタン多くて大変でしたが着てみたかったんですよね
見てください、高身長のハレルヤがマフラーを靡かせ颯爽と歩く至高の姿を…って、耳は引っ張っても取れませんよ!

リュカさんっぽく戦おうにも銃の腕前はイマイチなので、戦闘特化からくり人形の弾丸パンチを代わりとします
リュカさんを狙う輩は可愛い可愛いニッキーくんの暴力でなぎ払ってタコ殴りにしていきますよ

ええ、自分の事は自分で何とかしますけどリュカさんはハレルヤを頼って下さってもいいですよ!
ところで先程恥ずかしい台詞って言いました?え、恥ずかしいってどこが?


リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と
俺はお兄さんの仮装をする、ということで
自分の身長に合わせたお兄さんの衣装(黒い軍服衣装)を準備
さて、その耳も一緒に、よこせや
とれない?…(ちっ)冗談だよ

お兄さんの仮装をするということはお兄さんっぽく振舞うことだろうか…
じゃ、久しぶりに散梅を手に突っ込む。早業で接近して絶望の福音も交えて攻撃をよけながら、背後に回り込んで暗殺で倒す。
…はっ
お兄さんのまねをするということは、なんかあの恥ずかしい台詞を吐いて囮にならなきゃいけないのか…
……(それは、恥ずかしい
お兄さん、自分のことは、自分で何とかして
何がってあの褒めてわんこ全開な長台詞で…
…お兄さんって、何着てもお兄さんだなあ



 目の前の人物が手を上げれば、自分も一緒に手をあげて。
 それとも、自分が手を上げたから、目の前の人物も一緒に手を上げたのか。
「まるで鏡を見ているかのようですね!」
「いや、それは衣装だけよね」
 城へと続く森の道。その最中、互いの目の前にある姿は、見慣れた筈の見慣れない姿。
 それは夏目・晴夜(不夜狼・f00145)であり、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)。
 だが、その姿はいつものそれと異なり、この国のルールに則った――つまり、仮装をした姿。
「リュカさんのいつもの衣装、ボタン多くて大変でしたが着てみたかったんですよね」
「そうなんだ」
「そうなんですよ! さあ、存分に見て下さい。高身長のハレルヤがマフラーを靡かせ颯爽と歩く至高の姿を!」
 この国が力を貸すルールは、仮装であればなんでも良い。仮装と言うのが普段と違う姿ということであるのなら、それは互いの衣装を交換するのだって立派なそれだ。だから、互いに互いの衣装を仕立て直し、リュカの衣装を晴夜が、晴夜の衣装をリュカが身に纏っているのだ。
 そんな普段とは違う――ともすれば友とも言えるリュカの衣装を身に纏えた晴夜の気分は有頂天。本人がかく語るが如くと夜更けの彩を靡かせて颯爽と。
 そんな晴夜の姿をリュカはじっと見つめる。
「どうです? どうです?」
「……」
「リュカさん? おやおや? どうして何も言わず、その手をハレルヤの頭に伸ばして……はっ、まさか頭を撫でようと? いやいや、あまりに似合っているからと言って――」
「その耳も一緒に、よこせや」
「――ですよねー。ってハレルヤの耳は引っ張っても取れませんよ!」
「とれない? ……チッ」
「舌打ち! まさかの舌打ち!?」
「なんて、冗談だよ」
「割と目が本気のように見えたのですが!」
「はは」
「否定をされない!」
 折角と晴夜の軍服姿を借りるのだ。ならば、そのピンと尖った耳もと思うのは不思議ではないだろう。ええ、不思議ではない。
 だけれど、それは晴夜生来のモノであり、衣装のように取り付け自在とは流石にいかぬ。
 故にこそ、伸ばされるリュカの手に千切られてはならぬとばかりに、慌てて晴夜も自分の手でそれを抑えて守るのである。
 ――とは言え、それが互いにじゃれ合う一環であると理解しているが故にこそ、晴夜のそれは大仰にであったけれど。

 ――遠く、道の彼方で戦いの音が始まりを告げる。

「それじゃあ」
「行きましょうか!」
 二人もまた猟兵として、この国を、世界を守る為に。

 そこのけそこのけ、二人が通る。
「いやあ、こうしてリュカさんと並べるとは!」
「あんまりないかもね」
 普段であれば晴夜が前、リュカが後ろ。しかし、今は衣装を交換したように役割も――とはいかず、前に出るは二人して。
「お兄さん、銃は?」
「いやあ、そちらの腕前はハレルヤをもってしてもイマイチですので」
 代わりのモノをご用意しました。馴染みの刃の出番はお預け。代わりと動くは――。
「なんだ、この人形!?」
「あんまり近づかない方がいい! 距離を取って!」
 優しく可愛いニッキーくん。継ぎ接ぎの顔にボタンの眼は無機質と。
 だけれど、その一見して柔らかそうに見える手から繰り出される拳の乱打は、機関銃もかくやと暴力をばら撒き、道化師達を穿つのだ。
「まあまあ、折角の可愛い可愛いニッキーくんなんですから、逃げないで相手をしてあげてくださいよ」
 距離を取り、その腕の外から鎌を振るわんとする道化師達。
 だけれど、それを許さじとばかりに晴夜もまた、ニッキーくんに距離を詰めさせる。
 ――剛腕が、道化師達の中で吹き荒れた。
「あたしがやられた! 早く、次のあたしを!」
「ははあ、倒しても倒してもというやつですか」
 吹き飛ばし、吹き飛ばし、群れの中に間隙を生む。
 しかし、その間隙が広がりきる前に、まるで水がその形を戻すかのようにと、同じで違う道化師がそこを埋めるのだ。
 晴夜――ニッキーくん――の突出した暴力と、道化師達の数の暴力とが拮抗していた。

 ――だが、それにばかりと気を取られてはいけない。

「お兄さんには、敵わないや」
 銃の代わりにと握り込んだ無骨な刃。今回は同じくと前に出たけれど、やはり、目立ち、敵の目を惹くのは晴夜であるのだ。
 そこには性格や天性のものがあるとは言え、やはり衣装を代えた程度では、あの輝きの代わりにはなれそうにない。
 真似ようとも思いはしたけれど、リュカの元来の性格を考えれば、それは宜なるかなというものでもあった。
 だからこそ。
「背中、がら空きだよ」
 晴夜の暴れるに乗じて、するり音無く影の如く。
 行動は最小にして、目標の命断つには十二分。
 トスリと小さな音立てて、ドサリと大きく崩れる音。
 道化師の一人を、背後からリュカがその命を断ったのである。

 ――暴れる、暴れる、暴れる。
 ――トスリ、ドサリ。トスリ、ドサリ。トスリ、ドサリ。

 暴力と暴力とが拮抗する中、静かなる刃が鋭くと数の利を削ぎ落していくのだ。
 道化師達とて数を減らされていけば、リュカの存在に気付きもしよう。
 だが、その影を理解していても、掴むことは決して出来ない。
「私ばかりを見てもいけません。ですが、リュカさんばかりを見てもいけません。板挟みですね?」
 それを追おうと思えば、ここが暴れ時とばかりに晴夜とニッキーくんが大暴れ。その間に、まるでそれを知っていたかのようにと、リュカは道化師達の手が届くより早く、するりと乱戦の影の中へと消えていく。
「ぐぬぬ……!」
「やばい、やばいって! これ、あたしら押されてる!」
「あんたもあたしなんだから、そんなこと知ってるって!」
 群体であれども、所詮は個。
 道化師達の数は多くとも、誰もが同じであるが故に、採れる手段に限りがある。その点において、様々な個が力を合わせる猟兵に適う筈などないのだ。仮装による力の差があれば別であったかもしれないが、それも埋められている今、彼女らの勝利は遠い幻でしかない。
「慌てていますね。流石、ハレルヤ。流石、リュカさんです!」
 傾き始めた形勢は、もうその流れ引き戻すは不可能であろう。
 遠からずと訪れるであろう勝利に、油断はなくとも、晴夜は流石はと己とリュカを褒めるのだ。
「お兄さんって、何着てもお兄さんだなあ」
「例え、リュカさんの衣装でもハレルヤを隠し通せないとは!」
「うん、流石。真似ようと思ったけれど、恥ずかしくて俺には難しい」
「ははは、褒めても何も……って、え? 恥ずかしいって言いました?」
「さあ、お兄さん。このまま一気にいこう。そっちのことはそっちでお願いね」
「ええ、それは勿論ですし、リュカさんはハレルヤを頼って下さっていいのですよ! それより、恥ずかしいってどこがです?」
「頼んだよ」
「リュカさん? リュカさーん!?」
 会話のキャッチボールは虚しく大地を転がるのみ。そして、乱戦の中に身を躍らせるリュカの姿を追うように、晴夜がリュカの名を呼ぶ声もまた虚しく戦場に木霊するのみ。
 だけれど、そんな会話の間でも二人の手は止まっておらず、道化師達の数は蹂躙により減る一方であったのだ。それ故に、晴夜がリュカに再びと疑問を問いかけるのも、もう僅か後の事であろう。その時に何と答えるかは、彼らのみぞ知るところ。
 決着の時は、もう目前。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『よくばりさま』

POW   :    味見をしてあげましょう。光栄に思いなさい
自身の身体部位ひとつを【巨大な蟻】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    美しきわたくしの庭で迷いなさい!価値なき者共が!
戦場全体に、【悪趣味な金銀財宝】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    わたくしは女王でしてよ無礼者が!かみ殺されよ!
自身が【見下された屈辱感】を感じると、レベル×1体の【金貨を背負った手下蟻】が召喚される。金貨を背負った手下蟻は見下された屈辱感を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アンバー・スペッサルティンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 駆け抜けて、蹴散らして、辿り着いたは白亜のお城。
 そこがお城であるならば、その奥で待ち受けるは当然――。
「控えなさい、女王の御前ですよ」
 この国を治める王の姿であろう。
 歩み進めた猟兵達の前、その姿を見せるは巨大な女王蟻。金銀財宝散りばめた玉座の中央にて、それは猟兵達を待ち受けていた。
「どうやら、道化師共は食材を集める役にも立たなかったようですね」
 こんなことなら、やはり腹の足しにでもするべきであったか。などと、嘆息交じりが聞こえ来る。
 ――きゅるり。
 女王蟻の腹の虫。それが満たされぬを訴えて、小さく鳴いた。
「いえ、この際であればアナタ達でも……」
 女王蟻はそうも言うが、その身が玉座より動く様子はない。
 不思議と、戦闘への意欲というものが、かの女王蟻からは伝わってこないのだ。
 それもそうであろう。
 このハロウィンの国からの加護篤き彼女からすれば、この国の中において彼女の身を害するは不可能であればこそ。それより、動くことによって更に刺激される空腹感の方が、余程耐えかねるものでもあったのだ。
 ギチリと、今度は女王蟻の顎が鳴った。まるで、その思案を示すかのように。
「……このまま戦っても良いですが、そうですね。猟兵達よ、アナタ達に一つばかり、私を討つ機会を与えましょう」
 それは無敵が故の油断でもあり、女王蟻なりの思索――己が身を苛む空腹感を紛らわせるための解決策。
「――私に相応しい料理を用意して御覧なさい」
 その言葉と共に、玉座の間に変化が訪れた。
 金銀財宝が形を変え、姿を変え――はたまた、空間自体が切り替わったか――キッチンと食材の山へと早変わり。
「私の腹をアナタ達の料理で満たすことが出来れば、もしかすれば、万に一つと、私を打倒することも出来るかもしれませんよ」
 無敵を覆せる可能性の提示。そこに嘘はないのだろうけれど、だが、その言葉を鵜呑みにも出来ない。
 女王蟻の腹を料理で満たすことが出来ればとは言うけれど、元来が我儘な気質の彼女だ。その料理の完成を待ち切れず、調理最中、盛り付け最中のそれへと手を出し、勝手に腹を満たそうとすることだろう。
 猟兵達に求められるのは、その手癖の悪さを如何に防ぎ、完成した料理を女王蟻に提供できるかに掛かっている。
 普段の戦場とは随分と赴きも異なるけれど、そうしなければこの国のルールを越えられないのであれば、そうする他にない。
 城に、腹にとに金銀財宝詰め込んで、価値あるものだけ詰め込んで、だけれど、腹の一つとて満足に満たすことの出来ない女王蟻。
 その腹を満たし、打倒すべく、猟兵達は調理場という戦場に足を踏み入れるのである。
パトリシア・パープル
ここはひとつ、人海戦術ならぬ獣海戦術で行くわよ!
MOF小隊を呼び出し調理を手伝わせるわ
作るものは以下の3つ

・パウンドケーキ
・ジェラート風バナナアイス
・高級フルーツゼリー

「A班はタマゴを溶いて!B班はバナナを潰すのよ!
「C班、バターと砂糖と小麦粉を、D班はヨーグルトとミールを混ぜて!

スカンク兵に簡単な作業を指示しつつ自分は密かにフルーツをカット
実は、ケーキとアイスは摘まみ食いで駄目になることを想定したフェイク
本命はスカンク兵の陰でこっそり作っておいた高級フルーツゼリーの方
「さてお待ちかね、本日のメインスイーツ登場!

首尾よく相手が寝たら、スカンク兵を合体させて重火器による一斉射撃で吹っ飛ばすわ



 ぐうぐうきゅるきゅると腹の虫。
 大層と腹を空かせた女王蟻であるならば、ちょっとやそっとの料理の量では腹も満たせまい。
「人海戦術……ならぬ、獣海戦術で行くわよ!」
 呼びだせ、飛びだせ、スクランブル!
 だだっ広いキッチンを前にして、パトリシア・パープル(スカンクガール・f03038)がフィンガースナップの一つも奏でれば、虚空からぞろり。
 現れたそれは軍用ヘルメットを被り、二足歩行をする武装したスカンク兵の集団。
 だけれど、そこには軍隊のような鋭さは見られず、どこかゆるっとした雰囲気であるのは呼び出した張本人がパトリシアであるからか。
「整列、せいれーつ!」
 その数は小隊を軽く超える程の。
 戦いは数でもあるけれど、それは統率が取れてこそだ。
 だからこそ、パトリシアも声を張り上げ、ゆるゆるとした彼らを纏め上げんと。
 だが、料理一つを作るのに、八十余名も必要なのであろうか。いや、必要なのである。
「では、これよりグループを3班に分けます!」
 何故なら、パトリシアが作らんとするのは料理一つではないのだから。
「ほう、何を作るつもりなのでしょうか」
「ふふ、期待しててもいいよ。あなたの舌を、きっと満足させるから!」
「随分な大言壮語ですね」
「まあ、大人しく見ててよ!」
 そうは言っても、大人しく見ててくれることなんてないだろうけれど。
 内心の想いはさておき、パトリシアの準備はテキパキと進む。
「A班はタマゴの準備! しっかりと溶いて! B班はバナナを潰すのよ!」
 班分け、手分け、賑やかに。
 パトリシアに指揮されたスカンク兵達がカチャカチャと調理器具をかき鳴す。
 するとたちまち、二つのボウルの中で円らな黄身もバナナの長きも瞬く間とその形を失っていく。
「それじゃあ、次!」
 C班がバターに薄力粉、砂糖を振りまいて、D班はヨーグルトとミールを混ぜ込んで。
 黄身とバナナと二つのボウルにそれぞれと入れ込まれたそれら。また、カチャリカチャリと調理器具が音を奏で、しっかり混ざったかをいざ確認。
「良い感じ、良い感じ♪ どんどん行こう!」
 粉っぽくなりすぎないように、水っぽくなりすぎないように。慌てず、急がず、用量守って確実にと。
 次々と投入されていく材料達と混ぜ合わせられるそれら。
 その一方で、別のスカンク兵達もオーブンや型、冷蔵庫の準備に大わらわ。
 ここは銃弾飛び交う戦場ではないけれど、それでもその喧騒はまるで戦場そのものだ。
 焼いて、寝かせて、その後には盛り付けが待っている。
 女王蟻の舌――あるのかどうかは分からないけれど――を満足させると言い切ったのだ。ならば、下手な物など出せる筈もなく、それ故に気の休まる時はひと時とてなかっただろう。
 だから、スカンク兵達は気付かなかった。
 ――こそりと空間を跳んでいた節の腕に。
「さあ、取り出すよ!」
 パトリシアの声に、ようようの完成の時に、わー。とスカンク兵達の盛り上がり。
 期待と共に冷蔵庫を、オーブンを開けて――。

「あれ?」

 ――そこにべきものはない。あるのは、ただ空の容器だけ。
 先程の歓声はどこへやら、沈黙の帳が舞い降りた。
「完成したのではないのですか?」
 それを打ち破る声は愉悦。
 パトリシアとスカンク兵達とが声の方向――女王蟻を見上げれば、口元に見慣れぬ食べかす。
「……つまみ食い?」
「はて、なんのことでしょう?」
 惚けてはいるけれど、僅かと空腹を満たせたこととパトリシアの努力を崩せたことへの愉悦は隠しきれぬ。
 ――失敗なのか。
 完成まで至った料理でなければ、女王蟻の腹を満たしたところで無敵を解除することは出来ない。
 主の役に立てなかったと、つまみ食いに気付けなかったと、スカンク兵達が項垂れる。
 だが、だ。

「――さてお待ちかね、本日のメインスイーツ登場!」

 パトリシアの顔には笑顔。曇りなき笑顔。
 その手に持った容器を自信満々と取り出して、ふぁさりと払った布の下、現れ出でるはぷるぷるの内に果肉孕んだフルーツゼリー!
 あり得ざる三品目が、そこにはあった。
「……いつの間に?」
「ふふふ、指揮するだけが能じゃないのよね」
 スカンク兵達を大量に召喚したのも、音賑やかと料理させていたのも、全てはそれらを隠れ蓑とするため。自身が、猟兵たるパトリシアが手ずから作ったフルーツゼリーを女王蟻に気取らせないためのであったのだ。
 用意されてしまったのなら、提示されてしまったのなら、約定の下、それを女王蟻も食さねばなるまい。
 それが自身を破滅へと導く甘い毒であったとしても、料理を用意しろと言ったのは彼女であるのだから。
「さあ、どうぞ!」
 最早、避けては通れまい。
 節の手足を器用に用い、ゼリーをスプーンで軽く突く。
 ぷるぷると揺れながら光を弾く透明なゼラチンとその奥で彩りを見せるカットされた果物達は、それだけで食欲をそそる。
 ぷつりと抵抗を押し破り、果実の欠片と共にぷるぷるのそれを口に頬張れば――。
「ま、不味くは……ありませんね」
 ――果実の酸味と甘い甘いシロップの見事な調和。
「美味しいでしょ?」
「不味くはないと今、言った筈……いえ、認めましょう。私の腹に収めるだけの価値ある味であったと」
 口惜し気に、二口、三口――瞬く間にと平らげて。
 止まらぬ匙捌きを見せてしまえば、それが不味くはなかったの感想で済むものではないのは火を見るより明らか。故に、女王蟻も自身の言葉を偽り切れなかったのだ。
「ですが、まだまだこれだけでは私の腹を満たすには足りませんよ」
 その言葉が証明するように、ゼリーだけでは女王蟻に纏わりつく満腹感からの睡魔はまだまだ弱い。
「言ったね? なら、覚悟して」
 ――おかわりはまだまだ沢山あるんだから。
 それはパトリシアの用意するデザートでもあると同時、他の猟兵達が用意する料理の数々である。
 これはまだほんの序の口。それを示すかのように、女王蟻の前へと他の猟兵達の怒涛の料理/攻撃が続かんと完成の時を待ちわびていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

富波・壱子
雨宮・いつき君(f04568)と参加

今は、あなたの方が適任でしょう。出番ですよ『わたし』
再びチョーカーを指でなぞり人格を戦闘用から元に戻すよ
おっけおっけ、任せて!

別れる前にいつき君と拳と拳を軽くぶつけ合ってからキッチンへ
女王蟻への対処はいつき君に全て任せて、わたしは【料理】に集中するよ
頼りにしてるからね、いつき君

女王蟻の攻撃がどれだけ激しくても、決して動揺したりせず【落ち着き】、お菓子作りという自分の役割を全うするよ
信じること。いつだってそれが、戦えない『わたし』の戦いだから

お待たせ!さぁ出来たよ、財宝大好きなあなたにぴったりの黄金色したスイートパンプキンパイ、召し上がれ!


雨宮・いつき
富波さん(f01342)と

むむ、不遜な蟻さんですね
けれど富波さんの料理を前にしたら、そんな尊大な態度は続けられませんよ
とっても美味しいんですからね!

えっと、手を握り拳にして…こう、ですか?
…『仲間!』って感じがして、なんだか胸が暖かくなりますね、えへへ
よーし、こちらこそ任せて下さい!
…頼りにしてもらえるって、すっごく嬉しい
だから何があっても、どんな事でも、その期待には絶対に応えます!

丹精込めて作られる料理を摘み食いしようだなんて、失礼千万というもの
そんな方達には彼岸の花弁を浴びせて幻惑しちゃいましょう
飛んで逃げるお菓子の幻を見せて、しばらくそれを追いかけて頂きます
食前の運動でもして来て下さいな



 それに触れるのはこの国では二度目。
 一度目は戦闘のための彼女へと代わるため。二度目は――。
「今は、あなたの方が適任でしょう。出番ですよ『わたし』」
 ――日常のための富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)へと変わるために。
 革に触れた感触を指先が壱子へと伝えれば、パチリ瞳も瞬いて、橙色の輝きも硬質なそれから柔らかきへと。
「おっけおっけ、任せて!」
 適材適所。
 違う人格であれど、どちらも切り離せぬ自分であればこそ。
 にこりと『彼女』では浮かべぬ笑顔を彼女は浮かべる。
「いつき君、そっちの準備はいいかな?」
「勿論ですよ、富波さん。あの不遜な蟻さんに、存分と味わってもらいましょう!」
 そう息巻くは雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)。
 その舌を必ず唸らせようとする意気もまた強く、グッと握り込んだ拳がそれを示す。
「不遜とは言ってくれますね。女王たるわたしのことを」
「言っていられるのも今の内です! 富波さんの料理はとっても美味しいんですからね!」
「その言葉が真実であるかは、これから分かることです」
「はは、そこまで言われたら一層頑張らないとだね」
 火花散るはいつきと女王蟻との視線。
 料理を作る当人たる壱子は、その会話の中にあるいつきからの信頼に心擽られて。
「じゃあ、これから取り掛かるとしようかな……あ、そうだ!」
「? どうされました?」
「手、出して」
「手ですか?」
「そうそう。それで、その手をそのままそのまま」
「あ……」
 こつんとぶつかり合う拳骨二つ。
 意気示していたいつきの握り拳と壱子からの軽い握り拳。
 思わぬそれにいつきの視線が不可思議から驚きに染まり、その青に映し出されるはにこりと悪戯な笑み。

「頼りにしてるからね、いつき君」
 ――わたしは料理に集中するから、そっちはお願いね。

 料理において、女王蟻からの妨害――つまみ食いと言う名の邪魔が入ることは知っている。
 だが、壱子は敢えてとそれに意識割かず、料理にのみ全神経を尖らせようと言うのだ。
 いつきが居てくれるから。彼ならばそれを防いでくれると信じているから。
 その全幅の信頼が、拳の衝撃からいつきの心へと伝わってくる。

「こちらこそお任せください!」
 ――何があっても、どんな事でも、その期待には絶対に応えます!

 お姫様抱っこをされていた先程とは、また違う種類の胸の鼓動。
 トクリトクリと胸温かく、全身に広がる熱は一人の仲間として認められた、頼られたことへの喜びなのであろう。
 ともすれば、先程の戦場でのことが己知らずと心に残っていたのかもしれない。それが強い意気として表れていたのか。
 ――だが、もう心配は要るまい。
 今や肩に籠っていた力はその熱に溶かされ、残るは程よい緊張感のみであるから。
 そして、二人の戦いが、今、幕を開ける。

 クラッシュ、クラッシュ、クラッシュ。
 ボウルの中で、黄金色が形を崩す。
 それは皮向かれた南瓜の中身。過熱して、柔らかくしたそれを壱子は丁寧にと。
 潰して、潰して、潰して、熱冷めきる前にはバターと砂糖を投入。
「ん、牛乳も、ちょっと入れておこうかな」
 纏まりを生み出すため、繋ぎの補助にと一匙、二匙。
 混ぜて、混ぜて、その間にチラリ見たオーブンの中の真っ赤な火。余熱は十分、問題なし。
 なら、ボウルを置いて、今度は急いでパイ生地の準備だ。
 少し隣が騒がしくなってきたけれど、それに意識は露とも向けない。いつきへと語ったように、その意識は全て料理の作業へと。
 ――大丈夫。いつき君なら、きっと大丈夫。
 信じること。それが、彼女に出来る『わたし』なりの戦いだから。
「♪~」
 鼻歌交じり、パイ生地のシートへと踊るはフォークに包丁。
 穴あけ、切り込み、南瓜を包み、さらりと刷毛で卵黄の化粧。
 艶やかに光を弾くそれをオーブンに案内すれば、あとは焼き上がっての出来上がり。
「お待たせ!」
 オーブンを開けば、その内に込められた熱と共に広がる甘い香り。
「さぁ出来たよ! 財宝大好きなあなたにぴったりの黄金色したスイーツパンプキンパイ!」
 パイ生地に施された卵黄の薄化粧は、今やこんがり黄金色。甘い香りと相まって、それは見ているだけでも空腹を誘う。
 喧騒を押し退けて、壱子の声が響き渡った。

 時間は僅かと巻き戻る。それは壱子がパイの中身を作り終えた頃へと。
 ――こそり、こっそり。
 物陰進む、黒の列。
 規律正しく――物陰に隠れながらだが――進む彼らは女王蟻の配下達。今は目立つ背中の金貨も置いて、隠密仕様。
 その目指すべきは場所はどこなのか。決まっている。甘い香りを漂わせ始めたボウル――パイ生地の中身たる南瓜へとだ。
 既にそれだけでも美味しそうな気配を漂わせ始めたそれに、女王蟻が料理の完成まで我慢出来るだろうか。いや、出来ない。だからこそ、彼らが派遣されたのだから。
「どこへと行かれるおつもりですか?」
 その歩みを止める声一つ。
 それは質問の態を取っていたけれど、その内に、それ以上進むな。と、明確なる意図を乗せた言葉。
 ギチリと彼らの顎が警戒に鳴く。
「丹精込めて作られる料理を摘み食いしようだなんて、失礼千万というもの」
 配下の蟻達の前に姿を現した者こそは、妨害防ぐを己の役割と課したいつきの姿。
 その背後には壱子が料理へと集中する姿があり、これ以上は決して先には進ませぬという意思が鋭き視線と共に蟻達へと投げ掛けられていた。
 だが、蟻達とて女王蟻の命令がある以上は退くことはできない。
 視線が絡み合い、そして、蟻達が一斉に動き出す。
 そこに先程までの隠れるような動きはなく、誰か一匹でも辿り着けばという意思があった。
 波のように押し寄せるそれに対し、立ち塞がるいつきはただ一人。手は二つあれども、蟻の数に対して足りよう筈もない。
 ならば、押し留められぬのではないか。いいや、押し留めるのだ。留めねばならぬのだ。
「押し通らんとする無粋者達には、これを追いかけるがお似合いです」
 ――狐の沙汰も艶次第。
 その言ノ葉と共に乱れるは、規律正しき蟻の進軍。
 波のように押し寄せていたそれが、突如として列を乱し、隊を乱し、ともすれば互いにぶつかり合い、齧り合い、騒乱をかき立てる。
「ふふ、美味しい美味しいお菓子の幻。しばらくはそれを追いかけて、食前の運動代わりにでもして下さいな」
 騒乱の奥で狐が艶やかにと微笑む。
 そう、その騒乱こそはいつき/狐の仕業。
 言の葉を介し、かの者達の意識に幻を見せて攪乱させたのだ。

 ――そして、騒乱の内に時計の針がようようと追い付くのだ。

「ありがとね、いつき君」
「はい! 約束通りに!」
 壱子の用意したパンキンパイ。それを女王蟻の前にと置けば、視線交えあって笑い合う二人。
「あなたも、待たせたね」
「ええ、ええ、待ちましたとも」
「ふふ、しっかりとお腹を空かせてくださっていたようで」
「……ふん。そうさせたのは、お前達でしょう」
 待っていたと言うよりは、待たざるを得なかった女王蟻。
 思い通りにならなかったことへの口惜しさと遂に空腹を満たせることへの期待交じり。
「召し上がれ!」
「言われずとも、そうするつもりです」
 さあ、どうぞ。
 促しに応え、他の猟兵が用意した料理と同様に、女王蟻はパンプキンパイにも手を付ける。
 見栄えは良い。黄金色というのがとても女王蟻の心を擽る。
 ――サクリ。
 それを切るのは勿体ない気もしたけれど、まずは一口にとナイフを入れれば、小気味良い音と感触が切り分けたナイフに伝わった。
 それだけでも、そのパイの焼き加減の見事さが女王蟻には理解出来た。
 だが、肝心なのは味であり、口の中に入れた時。
 まだ美味しいと決まった訳ではないと、胸中にて零しながら、フォーク突き刺してそれを口の中へ――。
「……はぁ」
 サクリ、サクリ、サクリ。
 砕けて、解けて、心地よく。そして、広がる南瓜の甘みに、思わずと息もまろび出る。
 癒されていく。満たされぬ想いが、口の中から、呑み下した腹の中から、満たされていく。
「どう……かな?」
「言った通りだったでしょう?」
 窺うように、結末を確信しているように。
「……おかわりを……」
「え?」
「おかわりを持ってきなさいと言ったのです! 今すぐに!」
 その答えこそが、何よりも雄弁なる。
 見目からして女王蟻の心を射止め、食感も、味も申し分ないそれ。認めぬわけには、いかなかったのだ。
 おかわり、おかわり、おかわり。
 次々と腹に詰め込んで、満たされ、癒える、腹の虫。
「ふぁ……っと、いけませんね」
 そして、二人の用意したそれにより、睡魔の囁きは確かにその声をより一層と強くさせたのだ。
 その成功を目にして、再びと二人の拳がコツンと音を立てていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
女王よ、寛大なご厚情に感謝いたします
必ずや満足していただける一品をご用意いたしましょう

料理に縁遠い身
素材の味と精密動作で実現する見栄えを活かします

チョコを溶かして固め彫刻刀で削り出すようUCで高速加工
ビター、ミルク、ホワイト
多種のチョコで形作るは女王の自尊心擽る様々な財宝を献上する働きアリ達
目で楽しみ舌で味わうジオラマ制作

さて、料理を味わう以上、味覚があるならば

センサーの●情報収集と●世界知識で探し出し懐に忍ばせた激辛デスソース「ザ・ソース」をUCで●投擲と同時、スナイパー射撃で口内「のみ」ばら撒かれるように容赦無く破壊

暫しのご辛抱を

さあ、お召し上がりください!

…その前に、口直しの牛乳をどうぞ



 その身にヒトのような舌はないけれど。
「女王よ、寛大なご厚情に感謝いたします」
「あなたは……礼儀という物を弁えているようですね」
「はい。必ずや満足していただける一品をご用意いたしましょう」
 それでも、味覚と似せたセンサーはある。
 ならば、例え料理とは縁遠いトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の身ではあれども、やってやれないことはあるまい。
 ――検索、該当、理解。
 己の内に眠る数多の情報から、必要なモノだけを抽出する。
 ソレの作成が簡単であるとは言うまい。だが、こと製造法通りにと作るにおいて、機械の己に出来ぬ筈はないのだ。
 騎士は白銀の背中にて語り、戦場/キッチンにて立つ。
 その手に握るは刃であれども、命奪うではなく生み出すために。

「――素材の味と見栄え、その実現をご覧あれ」

 そして、トリテレイアの戦いもまた、他の猟兵達と同じくと幕をあげた。

 ――トロリ、トロリ、トロリ。
 砕き、刻んだチョコを容器越しの湯で融かす。
 テンパリングの間、温度の高くなりすぎないよう、低くなりすぎないよう、ムラの出来ぬようにと。
 種類は3つ。
 大人のビターに優しきミルク、彩り豊かに白も共にと。
 その3つを同時に、しかして、いずれも均等に。
 それをなし得るのは、トリテレイアの誇る各種センサー群が拾い上げる情報であり、それを活かせるだけの身体があればこそ。
 ――甘く、甘く、香りは広がり揺蕩う。
 ギチリと鳴った音は誰の――と言うまでもなく、空腹刺激された女王蟻の待ちきれぬ顎の音であろう。
 背中に感じる舐めるような視線とその音に、緑の光に苦笑が混じる。
「いけませんよ、女王。王たるならば、献上を待つ度量もなければ」
「……なんのことでしょう」
「いえ、余計な諫言でしたね」
 まだ、まだ言葉だけで止まれるだけの余裕はあるか。
 後ろを見もせず、作業の手を止めもせずに投げ掛けられたトリテレイアからの言葉に、女王蟻の顎の音色が止まる。
 ――型に流し込み、固め、部品を次々と。
 ずらり並ぶは、精緻なるチョコレート細工の数々。だが、まだそれだけでは完成図を知るトリテレイア以外には想像も出来ぬ。
「何を、作っているのです?」
「それは出来上がってからのお楽しみというものです」
「……ぬぅ」
 そう言われてしまえば、それ以上を聞くのも野暮であろう。
 故に、女王蟻は再びと口を閉ざすのではあるけれど。
 ――あれだけあれば、一つぐらい。
 トロリ溶けたチョコレートを流し喰らうは窘められたが、小さな部品の一つぐらいであれば、と。
「では、それ自体がきちんと食えるものであるのか、味見をしてあげましょう」
 光栄に思いなさい。なんて、口では言うけれど、実際には空腹に負けただけ。
 そして、女王蟻の手が伸び、その指先が顎と変われば――。
「先程申し上げた通り、暫しの御辛抱を」
「が、あがぁ!?」
 ――その顎の内に跳び込む、トリテレイアから放たれた真紅の弾丸。
 攻撃か。いいや、違う。鉛の弾丸であれば、国の加護を受ける女王蟻を害することは出来ぬ。これは――。
「か、辛!? なにを!?」
「ザ・ソースというものです。味覚はしっかりとあるようで何よりでした」
「心配するところが違、辛ッ!」
 ただの味覚の刺激だ。
 トリテレイアが撃ち放ったそれは、彼が様々な世界を股にかけ、その内にて集めた情報の一つ――激辛ソースであったのだ。
 何のためにそんな情報を集めたのか。なんてのは気にしてはいけない。様々な世界の知識を深めていけば、そういった類の一つや二つ、集まるのは致し方のない事なのである。
 閑話休題。
 そんな様々な世界でも指折りの激辛ソースを口の中――手の先に生じさせたとは言え、実際の顎と相違ない――に直接撃ち込まれたとあれば、女王蟻も最早悶絶する他にない。
 痛みにも似た辛さに舌を灼かれた女王蟻。それが背後でドッタンバッタンと身を捩る音が聞こえてくる。
 だがしかし、トリテレイアは自身の生み出した結果を少しも見ることはなく、チョコレート細工の仕上げにこそ集中するのだ。
 そして――。
「さあ、完成です! お召し上がりください!」
「わたしに無体をしておきながら、よくも……まあ!」
 最後の言葉は非難のそれではなく、感嘆のそれ。
 それもそうであろう。トリテレイアの手が示す先、そこに並べられたのはチョコレートで生み出された働き蟻のジオラマであるのだから。
 草花生い茂る大地の上、女王蟻へと献上する品を掲げた蟻達が巣穴へと凱旋する、その光景。
 草花を含め、丁寧にチョコレート用の着色料で塗り固められたそれは、本物と見紛うばかり。
「ほ、本当にこれがチョコレートだと言うのですか?」
「信じられぬのなら、お一つ……という前に、口直しの牛乳を」
「……気が利きますね」
「それは勿論。折角の作品、心から楽しんで頂いてこそですから」
 トリテレイアから渡されたミルクをごくり。
 女王蟻の口の中に残っていた辛さが洗い流されたなら、準備は万端。
 そろりとジオラマの中にと器用に指先を伸ばし、女王蟻は蟻の一つを掴み取る。
「……匂いは、確かに」
 では、味は。
 ガリッと噛砕く音が響けば、女王蟻の口の中へと広がるは苦味と一抹の甘み。
 だけれど、それはぼそぼそとした食感でもなく、口の中の温度にトロリ。
 もう一つと摘まんで口の中に導けば、今度は甘く口当たりの優しき味。
「一つ一つ、違うのですね」
「はい。幾つか味をご用意させて頂きました」
「ふん……小癪な」
「お気に召しませんでしたか?」
「……気に入らなければ、そも、再びと手を伸ばしはしません」
 三匹目、四匹目、五匹目、時に趣向を変えて草花に手を伸ばす。
 その度、ジオラマが欠けていく。女王蟻の腹の中に溶けていく。
 それを勿体ないという思いが女王蟻の中にもあったけれど、その手を止めることは彼女には出来なかったのだ。
 それはつまり――。
「存分に楽しんで頂けたようですね」
「……けぷっ」
 女王蟻を夢へと誘う甘さが、その役割を遺憾なくと発揮されたことを示すものだ。
 うつらうつら。
 まだ夢の世界に飛び立ちこそはせぬが、僅かずつとその頭が揺らいでいく。
 猟兵達の料理が、トリテレイアのチョコレート細工が、確かに女王蟻を追い詰めつつある証拠であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

蛇塚・レモン
ベルカさん(f10622)と!

どうやら配下が調理中の料理や食材を盗み出そうとしてるっぽいねっ?
お互い、ガードしながらお菓子作りを頑張ろうねっ!

作る料理は『南瓜アップルパイ』!
……とその前に、蛇神様、行くよっ!
蛇神様を召喚して、麻酔催眠念動波を半径90m内に展開
これで、近付いてきた配下はその場で眠って動けなくなるはずっ!

肝心の料理は、電子レンジで加熱した南瓜を丁寧に裏ごししてから生クリームとバターを加えてよく練り上げ、そこへ林檎のコンポートを加えて合えた後、解凍したパイ生地に塗って包み込んで、卵黄を塗ってからオーブンで焼けば完成♪

ベルカさんのも美味しそうだねっ!

あとは蛇腹剣で女王蟻をバラバラに!


ベルカ・スノードロップ
レモン(f05152)と共に

「絶対につまみ食いはさせませんし、美味しいって言わせますから!」
そんな対抗心を燃やしつつ、《選択UC》発動して、お菓子を作ります

レモンは、カボチャを使ったお菓子だそうなので
私は、ナッツを水と砂糖でキャラメリゼして、蜂蜜と共に固めたお菓子

「妨害になんて負けません。レモンのお菓子も、つまみ食いはさせませんから」
手下蟻をいなしつつ、着実に完成させます

甘く香ばしい香りが、人にはもちろん
蟻たちにも食欲を誘うでしょう

「お菓子に使った蜂蜜は百花蜜ですよ」

女王蟻が寝たら、蟻らしく、プチっと
やってしまいましょうか



「そっちの様子はどうかなっ」
「ふふ、どうだと思います?」
「自信ありげな感じだねっ!」
「ええ、そうですとも。美味しいって言わせるつもりですから」
「むむ、ならあたいも負けてられないよっ」
 キッチンにて動き回る色は、金と緑――蛇塚・レモン(蛇神憑きの金色巫女・f05152)とベルカ・スノードロップ(淫魔をも蕩けさせる救済の夜王・f10622)。
 それぞれがそれぞれに己が思う料理と向かい合い、その完成を目指して手を動かす。
「ちなみに、何を作ろうとしているのかなっ?」
「そうですね……ええ、隠す程でもありませんか。私はトフィーナッツを」
「わっ、美味しそうなっ!」
「そうなるように尽力したいところですが。ちなみに、レモンの方は?」
「あたいは南瓜アップルパイ!」
「なるほど。その髪の色にも似て、とてもらしく感じますね」
「焦がさないように気を付けないとだねっ」
 ――くすり。
 互いが作ろうとする料理を思い浮かべ、美味しそうだと笑い合う。
「話してばかりではなく、手も動かしなさい。待ちくたびれてしまいます」
 女王蟻の視線がじとり。
 だけれど、他の猟兵達にもちょっかいを掛けているその姿は、待ちくたびれている姿には見えはしない。
「はいはい、待っててねっ」
「そう言われるのでしたら、大人しく待っていることです」
 女王蟻の方には一瞥もくれず、視線を交わし合うは互いの間にのみ。
 ――それじゃあ、互いの健闘を。
 キーキーと後ろから聞こえる気もするけれど、レモンもベルカも女王の存在など歯牙にもかけぬ。
 ただ、互いの健闘を祈って、その手の動きを加速させていくのであった。

 ――コトリ、コトリ。

 煮詰まる音は心地よく。そして、広がるは甘い、甘い。
 それは林檎の香りであり、砂糖と蜂蜜の混じり合う香り。
 焦がさぬように、焦がさぬように。
 二つの鍋で軽快にヘラが踊り、その内に抱きたるを優しくかき混ぜるのだ。
 レモンとベルカ。互いに作らんとする物は違っても、今は同じ作業を進める。
 その奇妙なシンクロに、知らずと二人の口元にも微笑み。
 混ぜて、返し、音奏で、聞こえ来る音は相手もまた順調であると教えてくれるから。
 だけれど。
 ――忍び寄るは不穏の影。
 甘い香りに、美味を生み出す光景に、女王蟻が我慢出来よう筈もなし。
「気付いたかなっ?」
「つまらない妨害です」
「つまみ食いは厳禁だって教えてあげないとだねっ」
「その通りです。絶対につまみ食いなんてさせませんよ。私のも、レモンのお菓子も」
 そして同時、そんな浅はかな行動を二人が気付かぬ訳もなし。
 キッチンの死角から、調理器具の影から、こそりこそりと忍び寄るそれに熱いお灸をすえてやらねばなるまいと。

「蛇神様、行くよっ!」
「負けていらせませんね」

 レモンの背後に浮かぶは、神々しさをすら宿す白き蛇。
 ベルカの内にて燃ゆるは、何者にも負けぬ静かなる炎。
 甘き空気が、ふわりと波打つ。
 揺らしたそれは、レモンとその背に負うた母の念。甘い甘い香りに潜み、密やかに脳髄の奥へと至る、優しく甘い毒。
 彼女を中心として広がったそれは、その内にて抱かれた者を眠りの底へと誘い込むのだ。
 ぱたり、ぱたり、ぱたり。
 視えぬけれど、死角の先で、陰の中で、倒れ伏す音が小さく聞こえた。
 だが、当然ながら女王蟻の手先はレモンのみへと近づいていた訳ではない。
 その念の及ぶ外よりベルカへも迫る影とてある。いや、あったと言うべきか。
 甘きを煮詰める傍ら、素知らぬ顔でその手は動く。近付く敵意を払わらんとして。
 レモンのそれが優しき毒であるのなら、ベルカのそれは冷厳の風。
 纏う覇気をレモンのそれに負けじと広げ、その懐にと納める者の心を砕くのだ。
 ばたり、ばたり、ばたり。
 心を砕かれた者達が、その脚を折って歩みを止める。その脚は、二度とその先へと踏み出すことは無いだろう。
 眠り誘われた者、前に進む心を砕かれた者、如何にせよ、もう二人の下へと届く害意はないことだけは確か。
「つまりませんね。対抗心を燃やすだけのこともありませんでしたか」
「まあ、その余力の分だけ、料理に集中できるって考えればいいかなっ」
「それもそうですね」
 そして、なんでもないようにと二人の手は動き続ける。その料理の完成へと向けて。

「はい、お待たせっ」
「おぉ、こんがり綺麗で……これは私以外に食べさせようというのが勿体ないですね」
「ありがとっ! でも、ベルカさんのも宝石みたいで美味しそうだねっ!」
「お一つ、如何です?」
「いいのかな?」
「良い訳がないでしょう。そのどちらも、わたしへと献上するためのものでしょう」
 いいですよ。と言わんとしたベルカに被さり、響くは女王蟻の。
 それに、ああ、そうでした。とレモンとの逢瀬を邪魔されたベルカの眉間に皺が寄る。
 だが、それを目的として作ったのも確かであって、それ以上は何も言わぬを選ぶのだ。
「それで、それらがそうなのですね?」
 尋ねる先には二人の料理。
 片や、こんがり黄金色。ふっくらと膨らんだパイ生地に、切れ込みから漂う香りの強き。
 片や、きれきらつやつや飴色の。ナッツが纏う蜂蜜と砂糖の衣は、まるで宝石のような輝き。
 両者ともに、その見目だけでも女王蟻を惹きつけるに十分な魅力があった。
 そして、掴み口に入れるは、はぐりと一口。
「サクリとして、ふわりとして、ただ甘いだけなく深みがあるような……」
「そうだよっ。なんたって、南瓜とリンゴのだからねっ!」
「成程。ただのアップルパイかとも思えば、違う味を混ぜ込むことで、深みを……面白いですね」
 はぐり、はぐり、はぐり、瞬く間。
 口の中を開けるを厭うように、次いでベルカの。
 カリカリ、ポリポリ、小気味良くと噛砕き。
「癖になりそうな……ん、こほん。複雑な甘さとそれを纏める塩気がなんとも」
「複雑な甘さですか。それがなんだか、あなたに分かりますか?」
「……勿体ぶりますね」
「それは百花蜜ですよ」
「これが……」
 香り風味の咲き誇る。一つの花からではない、数多の花の蜜を用いたが故の奥行がそこに。
 さくり、ふわりを食べ進め、飽いたならカリカリポリポリと。
 交互、交互、交互。
 女王蟻がその口に持っていく手の動きは止まるを知らず、瞬く間にと皿の上には何もなし。
「あともう少しな感じかなっ」
「ええ、もう少しもすれば、蟻のようにプチっとやってしまいましょう」
 満腹近付くにつれてぐらぐら揺れる女王蟻の身体。
 二人が語るが如くとなる未来は、そう遠くはないだろう。
 そのための積み重ねがまた一つ二つ、レモンとベルカの手によって積まれたのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

天狗火・松明丸
さて、参ったな
料理なぞ、したことねえや

昔の菓子など、蒸した芋や焼いた栗ぐらいのものだが
まあ、鱈腹食って収めてしまえば皆同じ
…だと、良いんだがなあ

蒸したさつまいもに、焼き栗を潰して
餡に仕立てりゃ軽目焼でも作ってみようか
蟻は甘いもの、砂糖が好きじゃあなかったか
否、此れは甘さを控えめにして芋と栗の餡を挟んでおく
あれだ、ほら、…まか、ろん?
和風のやつ。多分。恐らく
卵黄を塗って艶めかせりゃあ
金貨にでも見えんか、うん?
花も飾っておこう。適当じゃあねぇさ

女王の大きな顎が横切れば
摘み食い禁止と火を放つ
まあまあ、待てよ
空腹こそ何でも美味に感じるもんさ
……例え、出来が悪くともな

焦げを隠しておいたのは、言わぬが花



 さて、菓子と言えば何があろうか。
 今の世であれば、指折り数えてなお足らず、まさしく星の数と言えるほどにあろう。
 だが。
「さて、参ったな。料理なぞ、したことねえや」
 かつての世であれば、それは数えられる程しか。
 もし、天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)がそう問われて思い浮かべるものがあるとすれば、蒸した芋や焼いた栗、はたまた、干した柿等の類であろう。
 そんな彼に今世の料理を作れと言ったところで、返る言葉はそれこそが漏らした言葉の通りというもので。
「であれば、その身をもってわたしの腹の足しとでもなりますか?」
「はは、そいつは御免被ろう」
 松明丸の腹の中で先客が蠢いた気もしたけれど、それはきっと気のせいだろう。
 そんなことよりも、今はかの女王蟻を満たさねばならぬのだ。
「まあ、鱈腹食って収めてしまえば皆同じ……だと、良いんだがなあ」
 兎にも角にも、作ってみねば感想も何もあるまいて。
 煌びやかなキッチンに背を向けて、今はひとまず食材をその手に。
 ――選び取ったそれは、さつまいもに栗の粒。
「こんなものでもあるとはなあ」
「当然です。この世の全てはわたしの下にあるべきなのですから」
「それで空腹が満たせないなら世話もねえ気はするが」
「なにか?」
「いいや、こちらの話だ。そんで、これが此処にあることはこっちにとっても不都合はないってな」
「なら、早く手を動かすべきですね」
「どろんと出される食い物は木の葉の変化と相場が決まってるもんだが」
 それでもいいか。いや、やっぱり良くないか。
 せっつく女王蟻をのらりくらり。ゆるりゆるりと松明丸の調理の手。
 茹で蒸し、潰して、練り込んで、餡子と仕立てりゃ、自然が醸す甘き香り。
 ふわり、ふわり、ふわり。
 広がるそれに、女王蟻の触覚もぴくり。
 決して派手派手しくはなく、金銀財宝のような光り輝くものではない。だと言うのに、女王蟻から見れば地味で素朴なそれから目を離せぬ。
 ――ぎちり。
 呑み込む唾の音か、軋む顎の音か。
 だが、その自然の香りはまるで誘蛾灯の如くと女王蟻を誘うのだ。
「……味見を」
「ん?」
「光栄に思いなさい。味見をして差し上げましょう」
 言うが早いか、言うより早いか。
 その顎がはしたなくも芋と栗の餡を目掛けて一直線。

「――仕様がねぇな」

 されど、その顎が捉えたは期待の甘きではなく、口内燃ゆる。
「――っ!!!」
「言っただろう? どろんと出されたものは、木の葉の変化と相場が決まっているってなぁ」
 つまみ食いを予期し、松明丸が目に見える場所へと置いたそれこそ、期待裏切る天邪鬼。
 女王蟻が食んでしまったその炎の味は、甘きの逆をいくもので、そのなんとも言い難い味に七転八倒繰り返すのみ。
 他の猟兵に対しての直接的なつまみ食いでも痛い目を見たであろうに、その反省がなきは女王蟻の傲慢さ故か。はたまた、腹満ちるに従っての思考能力の低下か。
「まあまあ、待てよ。慌てなさんな。空腹こそ何でも美味に感じる調味料ってなもんだ」
 化かし、騙すは妖怪の本懐。
 先に手を出してきた女王蟻に対してなら、その苦悶と驚愕の感情を松明丸も楽しむぐらいは許されよう。
 くつりとヒトを喰った笑み浮かべながら、松明丸は己が菓子作りの纏めと入る。
 カラメル見事と焼き焦がし、間に挟むは用意の餡子。ちょちょいと卵黄の化粧を施せば、艶めく彩が黄金と変わる。
「ほら、ええとなんて言ったか。あー……そう、まか、ろん? そんな名前だったか。その和風のやつ。多分。恐らく。きっと」
 皿に盛り付け、花添えて、見目も鮮やか食欲そそる一品の出来上がり。
 それに伴い、パンと出来上がりの柏手を打てば、女王蟻の口の中を支配していた炎も嘘のようにと立ち消える。
 のそりのそり。ようようと起き上がるは七転八倒の女王蟻。
「あ、あんな不味いものをよくも!」
「確認もせずに食おうとするからさ。あれが食い物だなんて、俺は一言も言ってはいないと思うがな」
「ぐ、ぬぅ」
「まあ、そんなことより。折角と出来たんだ。温かいうちに」
「……今度は食べられるのですね?」
「そうそう、確認は大事だ。ああ、食えるとも。これは適当な言葉じゃあねぇさ」
 流石に懲りたか、女王蟻も松明丸のまかろんを手に取りながら、矯めつ眇めつ様子を見る。だが、空腹には抗えぬもので、遂にとぱくり。
 ――さくり。じゅわり。ふわり。
 焼いたカラメルが口の中で砕け、ほんのりとした甘さを残して溶け消える。
「食べれないではないですが……少々味として物足りな――!?」
 物足りない。と言い切るより先に、その控えめな甘さを上書きするように、芋と栗の素朴な甘みが口いっぱいに。
 ほんのりとした甘さだけと油断していたが故に、それは素朴な甘みであろうともより引き立って女王蟻の脳を刺激するのだ。
 ――瞬く間に、一つ目が消え去った。
 溶け、解け、衝撃を残してさらりと消える。
 一口サイズであるが故に、長くその味を口内で楽しみたいと思っても、過ぎさるが早い。
 だからこそ。
「……」
「黙々と食ってくれるのはいいが、食べ過ぎは身体に毒……と言っても聴きやしねぇか」
 二個目、三個目、四個目、次々と。幸福の瞬間を求めて、次々と。
「この分じゃあ、気付いてもいねぇな」
 松明丸が料理に慣れぬは最初に言った通り。
 故に、カラメルの焼き加減を揃えるは難しく、中には焦げのあるものもあった。
 だけれど、黙々と食べ続ける女王蟻の姿を見れば、それに気付いている様子はなし。
 そして、きっと、その言葉はもう女王蟻には届いていない。松明丸の術中に囚われた女王蟻には、もう。
 女王蟻も気付かぬまま、睡魔はひたりひたりと確実に忍び寄ってきていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
晴夜f00145お兄さんと

グラタンとプリン?
グラタンかなあ。…レシピ?なぜ?
ほら、ここにカボチャ100gって書いてるけど、このカボチャは100gじゃない
だから、レシピなんて見るだけ無駄だよ
(面倒なので塩を一袋カボチャと一緒にぶち込もうとしつつ
お兄さん、誰が書いたともしれない文字と俺とどっちを信用するの?

……
わかった。わかったよ。これ見ながら一緒に作ろう
(偉そうなこと言ってるけど料理の腕前はレシピ通り作るときちっと作れるが、独自性を出すと壊滅的
はいはい。抑えてます
俺がやったら確実にお兄さんの鼻をそぐからね

そしてちょっかいかけてくる女王様はダガーで応戦
そしてそのダガーをそのまま料理に使う適当さ


夏目・晴夜
リュカさんf02586と

丸ごと南瓜のグラタンとプリン、どちらにします?
はい、ではレシピを見て…え?
無駄どころか必要不可欠…いやいや待って塩が多い!
この通りに作りましょうよ、絶対に美味いですから!
勿論リュカさんを信用しますけどレシピ無しは私が不安なんですよね
なので一緒に!レシピの通りに!アレンジせずに!レシピ通りに!

よし、まず南瓜をぶち割りましょう!南瓜を押さえてて下さいね
リュカさんに割らせたら切り傷を負いそうなので
切り傷どころか鼻ですかあ。取り戻せない部位を的確に狙ってきますよね

摘み食いは人形に守らせます
今めっちゃ集中してるので邪魔しないで下さい
(目を離した隙に独自性を出されないかの警戒に必死



「さあ、リュカさん! 準備はよろしいですか!」
「ん、料理を作ればいいんだよね」
 問いかけるは夏目・晴夜(不夜狼・f00145)。応えるはリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)。
 その会話はこれから始まるキッチンでの料理に向けたものではあるが、しかして、その両者には絶対的な隔たりがある。
 晴夜はかつての涙の味を忘れてはいない。
 リュカはかつてのハレルヤの涙の意味を誤解したまま。
 その違いこそが、今回の調理に対する姿勢の違いへと繋がっているのだ。
 片や悲壮の思いを強くとして、片や気負わぬ態度として。
「それで、丸ごと南瓜のグラタンとプリン、どちらにします?」
「グラタンとプリンなの? んー、なら、グラタンかなあ」
「そうですかそうですか! では、はい、このハレルヤめが料理本から拝借したレシピを見て――」
「? ……レシピ? なぜ?」
「――え?」
 耳を疑う。否、ある意味では予期していた筈の。
 だが、その言葉を放ったリュカは平然としたもの。むしろ、本当にそれが何故必要なのかと疑問を呈するように首を傾げるのだ。
「だって、ほら、このレシピにはカボチャ100gって書いてるけど、ここにあるカボチャはきっちり100gのものじゃない」
「いや、まあ、それは目安と言いますか……」
「だから、レシピなんて見るだけ無駄だよ」
 Q.E.D.
 リュカの中でもって、完全な形で証明が完了されてしまった。
 どうだ。と言わんばかりのリュカの姿に、思わず晴夜も片手で目を覆い隠して天を仰ぐ。
 ――ガシリ。
「どうして止めるのかな?」
「いやいや待って。流石に、流石に塩が多い! そして、南瓜は皮を剥いたり、中身だけを!」
 もう一方の片手でリュカの蛮行――塩の一袋と生の南瓜をボウルにぶち込もうとしていた動きを止める。
 見逃しはしない。見逃しはしないのだ。それが今回の晴夜の役目と心得るからこそ。む。とリュカの眉間に小さな皺も寄るけれど、ここばかりは退けはしない。
 晴夜は塩を見るたびに思い出すのだ。あの口の中のじゃりじゃり感を。だと言うのに、虚無の味を。だから――。
「ね、リュカさん。この通りに作りましょうよ、絶対に美味いですから!」
「お兄さんがレシピを用意してくれたのは嬉しいけれど、その誰が書いたともしれないのと俺とどっちを信用するの?」
 とんでもない天秤である。
 ここで思わずリュカの名をあげたいところではあるが、今日の晴夜は心を鬼にせねばならぬのだ。
「勿論リュカさんを信用しますけど、レシピ無しでは私が不安なんですよね」
 あー、困ったなー。目安がないと出来ないなー。
 普段の自信満々な姿からは想像しないような言葉を漏らす晴夜を、リュカはその澄んだ青でじぃっと見つめる。
 見つめて、見つめて、見つめて。
 その内に晴夜の背中に冷たい汗の一滴。無言の圧に気圧される。いや、気圧されてはならぬ!
「――なので一緒に! レシピ通りに! アレンジせずに! レシピ通りに!」
 攻めの姿勢こそが大事。伝えたい言葉は何度でも。
「……わかった。わかったよ。これ見ながら一緒に作ろう」
 その熱意に負けたとでも言わんばかり。不承不承と言わんばかり。
 だが、晴夜の勝利の瞬間。
「――ィヨシッ!」
「そんなに喜んで……お兄さん、そこまで不安だったんだ」
「それはもう! ですが、リュカさんのお蔭でその不安も大分軽減されますよ!」
 ガッツポーズ。
 かつて神は晴夜を見放したが故に、晴夜は己の力のみでこの勝利をもぎ取ったのだ。そも、彼は神を信じてもいなかったけれど。
 その喜びように、リュカも眉間の皺を緩ませる。
 そんなに不安だったのなら、仕方がないか、と。その不安の種が何に起因するかを勘違いしたままに。
 だが、それはもう些細な事。両者の間ですり合わされぬことがあろうとも、目指すべき場所が同じであれば、何も問題はないのだから。
 なお、女王蟻がその無機質な瞳ながらも不安そうに二人を見ていたことはまた別の話。
 ということで――。
「よし、まず南瓜をぶち割りましょう! 南瓜を押さえてて下さいね」
「はいはい。押さえてます」
 スッと武骨な刃を片手に前へと出ようとするリュカを制し、晴夜の見事なセービング。
「――俺がやったら、確実にお兄さんの鼻を削ぐからね」
 守ったのは料理の味だけでなく、どうやら晴夜自身でもあったようだ。本当は、リュカ自身が切り傷を作らないようにという気遣いでもあったのだけれど。
「あー、切り傷どころか鼻ですかあ。取り戻せない部位を的確に狙ってきますよね」
「だから、お願いするよ」
 リュカが手渡すはその無骨なる刃。
 手入れバッチリで、切れ味はきっと保証されてはいるけれど。
「これ、使っていいんですか?」
「うん、いいよ」
「……そうですかあ」
 今迄、それで命――具体的に言うと、オブリビオン――を微塵としてきた筈の。
 だが、まあ、今回は自分達が食べるでもなし、いいか。と晴夜も敢えてと触れずにサクリ、サクリ。
 しかし、心のメモ帳にこう書き記しておく。自分達用のを作る時は調理器具も万端としておこう、とは。

 ――トントン、ジュウジュウ、薫りがふわり。

 レシピ通りに動きさえすれば、リュカの手腕も決して問題はないのだ。
「ホワイトソース作りの牛乳は、回数を分けて練り混ぜるそうですね」
「面倒だし、全部一回でいいんじゃない?」
「バターもまだ溶けきっていない内から!? リュカさん、待って、待ってください!?」
 ただ、時々出そうとするオリジナリティがありさえしなければ。
 それを懸命にと止め続ける晴夜の尽力もあり、料理自体は恙なく――恙なく? ええ、多分、きっと。

 だから、女王蟻から意識が外れるのは致し方のない事。そも、そんな余裕は彼にはない。
 ――にょきり。
 空間を割って飛び出す蟻の手。
 ごそりごそりと下拵えのされた南瓜に手を伸ばして。
 ――モフリ。
 なんだか柔らかいものに触れる。南瓜のそれとは違う、まるで布と綿のような。
 モフリ、モフリ、ガシッ、ギュウ。
「きゃー!?」
「もう、騒がしいですね! 今めっちゃ集中してるので邪魔しないで欲しいですよ」
「お兄さん、次は?」
「はいはい、ええとですね――」
 視界の向こうで、女王蟻の悲鳴が響く。
 はて、他の猟兵に何かをされたのか。
 だが、とりあえず、ニッキーくんが掴んでぶんぶんと振り回す黒い何かに連動して、女王蟻の身体が上下に揺さぶられているように見えるのは、きっと気のせいだろう。
 そんな些事に、晴夜もリュカも気を割いてなどいられないのだから。
 閑話休題。

「でき……でき、ました!」
「やっとだね」
「あ、ああ……できた……のですね」
 満身創痍は一人と一体。リュカだけが平然と。
 だが、何にしても、遂にとそれ――南瓜のグラタンは此処に完成を見たのだ。
 白が満たす器の表面。スプーンで穴を穿てば、中からは南瓜の黄色が顔を出す。
 熱々、ほくほく、出来立ての内に召し上がれ。
 達成感と共に、そう言わんばかりのそれが、女王蟻の前に差し出されていた。
 のそりと緩慢な動き――睡魔の影響か、はたまた、揺らされた影響か――で、その口内へとそれを運ぶ。
「柔らかな口当たりですね」
 チーズとホワイトソースのトロリ。広がる南瓜の甘みと相まって、優しき口触りが女王蟻に伝わる。
 時折、玉ねぎのしゃきりとした食感や、海老かはたまた鶏肉かのぷつりとした食感も食べるに飽きさせない。
 カランとスプーンが空の器に鳴り響くも、そう時間は掛からなかった。
「ふぅ、なかなかに……良い味でした」
 余計な言葉で覆い隠さず、素直にそう告げるはそれだけの満足感を与えた証拠。そして、一層の睡魔の力で飾るを忘れていた証拠。
 この様子であれば、女王蟻が陥落するまで、もうそこまでの時間は必要ないだろう。
「あと一押しですか」
「そうみたいだ。そっちの準備もしとかないと」
 こそりこそりの会話。それを理解するだけの思考力も女王蟻には残っていない。
 だから、リュカの手の内で、晴夜の手の内で、それぞれの刃が突き立てられる時の来るを今か今かと待ちわびるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エドガー・ブライトマン
レディやオスカーの眼差しはさておき、パンクな衣装にも慣れてきた
こういうものも着こなせるなんて、流石私だな……
と、いうのは心の中にしまっておこう。怒られるので

ごきげんよう。女王アリ君
お待ちかねの料理をしてあげよう

剣を舞う花びらに変えて
女王アリ君や配下の諸君の動きを牽制
彼女が不審な動きをしたら教えてね、オスカー

私は料理はほとんどしない
先日の戦争で少々やってみたくらい
まあ何とかなるだろう

目につく野菜を切って大鍋に入れ
勘で選んだ調味料をふりかけて煮込む
おいしくなあれ…
フフ、魔法の呪文さ

はい、王子3分クッキングは終了
野菜のポトフ?だよ
野菜も食べなきゃいい子になれないからね

眠ったら元に戻した剣で攻撃しよう



「ごきげんよう、女王アリ君」
 睡魔に蝕まれつつある胡乱気な視線が、その言葉の先を見る。
 そこにあるこそはエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)。
 だが、その衣装は常のそれではない。
 金属鳴らして、革衣装を揺らして、先の戦いからの衣装を引き継ぎ、パンクな衣装の出で立ちで、エドガーは堂々たるとそこに立つのだ。
 ――こういうのも着こなせるなんて、流石私だな……。
 なんて、言葉には出しはしないけれど、その立ち姿から見て取れる自信の表れがそこに。
 肩に止まる燕の彼も、左腕に宿る茨の彼女も、なんとも言い難い視線――淑女には目があるのかはさておきとしても――をチラリ。
 怒られない。怒られてはいない。ならば、良し。
 エドガーも学習をしっかりとしているのである。
「この場に、似つかわしくない格好ですね」
「はは、確かに。女王への謁見を願うにしてはかもしれないけれど、ハロウィンの国でそれは言いっこなしさ」
「そうでしたね。そのような国に、あの方がされたのでした」
「さあ、そんなことより、お待ちかねの料理をしてあげよう」
 それこそが、この場に両者がある本題なのだから。
 くるりと謁見の場から踵を返し、エドガーが向かうはキッチンと言う名の戦場。
 かの女王を討ち取る為の料理/剣を、これから生み出さねばならないのだから。

「と、言ったはいいが、私は料理をほとんどしたことがないんだよねえ」

 今は流浪の身なれども、鯛は鯛であるように、王子様はやはり王子様。
 その舌に料理の味の覚え――穴だらけかもしれないけれど――はあれども、その手で作った記憶は指の手で足りる程。
 さて、何を作るべきか、何を作ろうか。思案はすれども答えは出ず。ならば、このような時にこそ――。
「耳を傾けるべきなのかもしれないね」
 耳を澄まして、食材の声を聞いて。
 動物のそれに比べれば小さな小さな囁きではあるけれど、確かに息づくそれを逃さぬようにと。
「――キミとキミとキミ」
 キャベツにじゃがいも、玉ねぎと選んで手に取る野菜達。
 ざくりざくりと切り込んで、自分が食べるならと想像しながら切り込んで。
 下拵えも終われば、コトリコトリと水を湛えた鍋揺らす。火を点け、沸々、食材と一緒に鍋揺らす。
「ん、んー、もう少し何かあったよね」
 勘で選んだ塩コショウ。だけれど、まだ何かあった筈と穴だらけの記憶が囁く。
 そして、ぐるり見渡す食材の中、知らずと手が伸びた先の生姜の一欠けら。そろりとすりおろせば、ああきっとこれなのだ。と、記憶の彼方が頷いた。
 在りし日の記憶。茨の迷宮のそれは穴の中に落ちたけれど、その後に出会ったポットの記憶は如何なるか。そこで味わったスープの味は――。
「おいしくなあれ……」
 そっと唱える魔法の呪文。
 想いを籠めて、想いを籠めて、想いを籠めて。
 威令ではないが、確かにそのスープはエドガーの想いへと応えるかのように、温かな香りを周囲へと広げていた。

 ――ぴぃ。

 完成を間近とした時、その声は聞こえた。
「ああ、そろそろだと思ってた」
 味が染みわたり始めれば、具材が柔らかく煮込まれれば、それだけ美味しそうな香りは強く。
 故に、手癖の悪い女王様の手足が、そろりそろり近づいてくるのだろう、と。
 空からの――オスカーの声を聞いて、引き抜くそれは鋭き刃。如何に衣装を変えようとも、彼が手放すこと無き運命。
「ここで先に空腹を満たしてしまうと、折角の食事も色褪せてしまうからね」
 はらりと花びらの如くと解けた鋭きは、ゆるりゆるりと香りと共に広がっていく。
 それは忍び寄る配下の蟻達を包んで、そっとその歩みを止めるのだ。その蟻達が直接的な危害を加えるものであったのなら、包むだけに留まらなかっただろうけれど、つまみ食い程度であればこそ。

「はい、王子3分クッキングは終了。野菜のポトフ? の完成だよ」

 コトコト煮込んで美味しいポトフ。皿に盛り付ければ、ふわりと上がる湯気の温かき。
「これを、わたしに出すとは」
「野菜も食べなきゃ、いい子になれないからね」
「……いいでしょう。料理をと言ったのは、わたしでしたからね」
 だけれど、料理として出されたのなら喰わねばなるまい。
 一匙掬い、具材を食む。
 ほろり。
 温かく、柔らかなじゃがいもが口の中で解け、その内に吸いこんでいた出汁を零す。
 勘で仕込んだにしては絶妙な塩加減。ほんの少しの生姜の辛味が味わいを深く、深く。そして、胃に落ちたそれは腹の底からぽかぽかと女王蟻の身体を温めるのだ。
「ああ、この味こそが……わたし、の……」
 金銀財宝。その豪華絢爛を極めんとする女王蟻とは程遠い素朴なる一皿。
 だが、それこそが彼女の腹を、満たされぬをよく満たすもの。金銀財宝だけでは得られぬものが宿っていたのだ。
 皿が空になると同時、カランと匙が落ちる。
 その一言を最後として、女王蟻がくたりとその意識を手放したから。
 そう、遂にとその時が訪れたのだ。

「少し、忍びない気もするけれどね」

 眠る子に手をあげるではないけれど、満たされて眠る女王蟻にとエドガーは刃と戻した切っ先を向ける。
 ――見る者の目も覚めるような一閃。
 だが、この結末は必要なものなのだ。この国はやはりオウガの国であり、夢は夢でも悪夢の国であればこそ。
 静かに、ただ静かにと蟻の頸が断ち落とされる。初めての満足感のまま、醒めぬ夢の中へと。
 それが、この国を支配していたオウガの終わり。
 悪夢齎す体制の、崩壊の時であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月25日


挿絵イラスト