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薔薇園が揺れてる

#アリスラビリンス #【Q】 #お祭り2020 #ハロウィン

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●空腹
 ざわざわ。
 草木の揺れる音。
 揺れるそれは全てが茨、しかし風もないのになぜ揺れる?
「もうすぐ"あの日"が来ちゃうよ急げ急げ~」
「そうよそうよ、皆スピード上げて行かないと~」
 間延びした話し声の中に男のものは何処にもなかった。
 ぴょこぴょこと、頭上の耳が、尾が揺れる。
「薔薇園の薔薇のお手入れは迅速にって言われたも~ん」
「えっそれ誰から聞いたの"我らが愛しの女王様"~?」
「違うよ~?"とっても綺麗な薔薇からを咲かせたひと"がそういう顔をしていたの~」
「ええ~?あのひとにそういう感情あるのかなあ~」
 ざわざわという音に混ざり、どこからともなく唸り声が肯定を示す――。

●常時ハロウィン仕様にされた国
「とても良い薔薇の季節ね!……ええ、季節によっては見える色見える大きさが違うわ。そういう意味よ」
 空裂・迦楼羅(焔鳳フライヤー・f00684)は持参した紙をぺちりと叩いて示した。
 手書きで纏められたらしい資料にデカデカと『薔薇園パーティーのお知らせ』とある。
「ああ……察しが良い人は好きよ。これは予知によって導かれるものだわ」
 目的地はアリスラビリンス。
 その中でも迷宮に属さずに、『薔薇園』だけで一つの国がひっそりと誰かの訪れを待っている。誰かとは勿論、誘い込まれた無知で無垢なアリス。
 しかし、今回はアリスが迷い込む前に討ち入り訪問する、というのが迦楼羅の言葉。
「オウガ・オリジンを覚えている?うん。『はじまり』の異名通りに、彼女は『現実改変ユーベルコード』を凄まじく使っていたと思うのだけれど……薔薇園の国は、その力によって絶望的に改変された国みたいなの。ふふふ、そうよ……何故かハロウィン限定な感じにね!!」
 訪れたならば、目撃するだろうものを迦楼羅が告げる。
 予想されるもの。想像できる範囲のこと。
「……うん。ええと、続けるわね?前提としてハロウィンは普遍的に存在する国に変えられた国よ。足元頭上、至るところにハロウィン装飾が存在するの。真っ赤な薔薇を、ハロウィン色のペンキで塗りたくりながら世話する者がいれば、薔薇を咲かせ続ける主として君臨するモノもいる…………」
 世話するモノは、いわゆるバニーガールな姿をしている。
 もう一度言おう、バニーガールな姿だ。
 俊敏に跳躍力を生かしてテキパキと仕事を行う従業員。
 猟兵と出会ったならば、ノーコスプレを指摘してくる可能性がとても高い。
 この薔薇園の国では、『コスプレは基本装備』。
 コスプレ衣装を着こなして、楽しい雰囲気を出しながらお客様をもてなそう(ころそう)とするのが真実の顔。
「……バニーちゃんたちは好きで着ているわけではないの。茨の間からどこからともなく『コスプレ衣装』が飛んでくるから、掃除とか片付け作業が増えるのを嫌がって、飛来する他のコスプレ服対策に着ているの。きっと貴方たちにも『コスプレ衣装』は飛んでくると思うのよ、さあ早く着ろ、と言いたげにね」
 着ているとパワーアップする、とか小耳に挟んだ特殊なルールもあるらしい。
 敵も味方も平等に恩恵に預かれるようだが、一度着てしまえば飛んでこなくなる様子。
 肝心のコスプレ内容は、どうやら任意では選べないらしい。
 つけ耳、つけ尻尾。つけ羽根いいやそれ以外でも。部分的でも見事なコーデでもコスプレと言い張れば、兎の包囲網を通れるかも知れない。
「ああ、目のやり場に困る?じゃあ貴方もコスプレしましょ?ケモミミとかを装着するだけできっと脳内フィルター(物理)が掛かっておかしなものは見えなくなるわよ。この国はそういう国なの。ルール、みたいなものね」
 国のルールを守ったほうが、ハロウィン感を味わえるのではないだろうか。
 折角だから仮装か薔薇を楽しみながら歩くといいだろう。
「この国の王は、"薔薇を咲かせ続ける主"。道なりに、薔薇園を歩いていけば見つかると思うの。大きく開けた場所にパーティー机が並んでいるスペースがあるだろうし、主は驚異的な巨体をしているからまず見間違うことはないと思うわ。主はお喋りする口を持たないのだけど……」
 迦楼羅は少し、声を潜める。
「薔薇園へと訪れたアリスをじわじわと生命力吸収することで苦しめるタイプの知性はある子みたいよ。でも、今はそれがハロウィン仕様となったことで、うまく捕食出来ずにいるのよね……常時ハロウィンなんて出来るはずがないもの。……ずばり、――腹ペコなのよ」
 パーティー机に並ぶのは、料理前の新鮮な食材、お菓子。それからそれから。
 バニーたちがハロウィン当日までに練習する気で置いたのか、なぜか沢山の調理器具。
「主は、薔薇園そのものでもあるの。その場からはあまり大きく動くことができない。……でも、ハロウィンの不思議パワー補正で、主は【ほぼ無敵】といっても差し支えがないの。――空腹である限りは」
 空腹である限りほぼ無敵。
 ダメージはあまり通らないだろう、という。
「だから、皆にはいい感じにボスの攻撃を避けたりしながら、料理を振る舞ってほしいのよね。たとえどんなものでも、ハロウィン不思議パワー補正で『ボスは食べ物を差し出されたら食べなければならず、どんなものでも食べると眠たくなる』ようだから、無敵ではなくなると同時に、すんなり倒せるようになるんじゃないかしら。――強いのか弱いのかわからなくなる補正ね。呪いかしら」
 苦笑気味に言いながら、指を口の前に立てる。
「忘れないで。雰囲気こそ歪に愉快な国になっているけれど、この国は『悲劇を作る』ことが目的としてオウガ・オリジンに変えられたのだもの。放っておいていいことはないの。オウガが凶悪なことには変わりないんだから」


タテガミ
 少しぶりです。こんにちは、タテガミです。
 秋の薔薇は、色合いが凄く立派で、SUKI。
 ハロウィンの国?とてもハロウィン力が高いようだし、――奪ってしまおうぜ?

 このシナリオは、【2章構成のシナリオフレーム】です。
 一章ほど短くなく、三章ほどながくありません。
 ほのぼのとポップな感じが予想されます。
 もう一度記載します。このシナリオは、【2章構成のシナリオフレーム】です。

●一章の補足
 おいでよ、コスプレ薔薇園。
 植物園とか想像して貰えれば。ふんわりで大丈夫です、
 道なりでも、順路通りでも、適当にふらふらでも、目的地は最終的にボスの居る広い場所に出ます。薔薇を見て歩くついでに、コスプレはいかがですか?
 バニーガールは手入れ等の仕事をしつつ、最近薔薇の元気がないから養分にしちゃえ、みたいに戦いを挑んでくることでしょう。

 OPにも記載していると思いますが、タテガミの依頼では小物類でもOK。
 快く遊んで頂けるときっと、プレイングボーナスが付きます。
 コスプレを拒むことは可能ですが、服とか小物とか小道具とか、通り抜けるまでランダムに飛んでくるため、薔薇園内部の雰囲気が未使用の服などで荒らされることになり、バニーちゃんたちがぷんぷん起こりながら、お客様ーーーー!!!ってしにきます。
 突然純粋な戦闘みたいな事になりますが、コスプレこれなら似合うのでは!?とめちゃくちゃオススメされますのでご注意を。

●二章の補足
 空腹無敵モンスター。

 相手は喋らず猟兵自体を食べようとするかも知れませんが、おもてなしの心でお付き合いいただければ。もし、完全に眠らせれたならば、無敵状態は解除されます。
「美味しい料理を食べさせること」を目的に置いて頂けたら、嬉しい感じです。
 調理器具、具材、そこにあるお菓子などは貴方が信じればきっと、あります。

 どうやら料理の味、感想を評価してくれるようですが、ボスは喋ることが出来ないので……ボスの身体に紛れ込んでしまって絡まってる【愉快な仲間の蔦】が当たり障りなく通訳し、代弁します。ボスは喋りません、喋っていたら【愉快な仲間の蔦】が通訳しているだけです。

●???
 このシナリオは10/31までに成功したシナリオの本数に応じ、何かの影響を与える可能性があるものかもしれません。例えば、ハロウィン当日に。
 例えば――いずれはじまるだろう「アリスラビリンスでの猟書家戦」に。
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第1章 集団戦 『サーバントバニー』

POW   :    ウサキ~~ック!
単純で重い【高く跳んでからのジャンプキック 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    ウサキッス
【投げキッスをする事で放つ衝撃波 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【にハート型のマークを刻み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    ウサウサスカイジャンプ
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ざわめく薔薇園

「「薔薇園へようこそ~!」」
 ひょこひょこ揺れるうさ耳が、一斉にそう声を掛けてきた。
チル・スケイル
■コスプレ内容お任せ■

コスプレ…つまり普段と違う服で戦えと…
…(まあ、仕方ないか…)

!?こ、この服は…!
(落ち着け私…深呼吸だ…)
すー…はー…
(……落ち着いた!)

…(敵もまた個性的な容姿だ。だが戦闘に支障はない)
…(敵の足元をよく見て、ジャンプの方向を見極める。跳んだ先を狙って氷の魔法を連射、一体ずつ仕留める)

…どうあがいても締まりませんね、この服では。



●Deep sea witch

 薔薇園の国へと至るチル・スケイル(氷鱗・f27327)。
 一番はじめに見つけた薔薇の群れは手のひらよりも、赤く赤く見事に咲き誇っていた。多少の差はあるようだが、どれもがチルの顔ほどに大きな薔薇。
「程々に、手入れされているようですね」
『そうなのそうなの~、定期的にお水と肥料をあげるのが重要でぇ~』
『女の子のお肌の手入れとおんなじよ~』
 サーバントバニーたちが、口々に"お客様"への説明を口にする。
 言いながらも手入れをやめない彼女たちの頭上で揺れるうさ耳、少し露出の高いバニーガールな服装。あれがこの国での正装ではないと割り切りつつも、彼女たちはハロウィン色のペンキで赤い花を塗りつぶす。

 べしゃ、ばしゃ。

 バケツをひっくり返すように適当に花を染めるバニーがいれば、ペンキで丁寧に務めるものも居た。
 なんてまとまりのない……そう思いつつも、薔薇の咲き方はたしかに見事。
 そう思いながら、バニーたちの手入れを邪魔しないままに通り抜けていくチル。
『そういえば、お客様のコスプレはどんなテーマなのです~?』
『……ん?もしやもしやもしやー…………普段着なのでは~?』
『ダメダメダメよ、だめですよーう?!』
 ばっ、とバニーたちが振り向いて、一斉に仕事を放棄する。
 それどころじゃないのだ。
 国にコスプレ衣装ではない者が訪れたということは――。

 チルの目の前を服が右から左へ。そしてばさりと道の上におちる。
『やっぱり~!』
『大変大変、みんなあお客様を持て成さなきゃだよぉ~!』
『お客様ぁ~、私達を助けると思ってコレを着て!飛び出してきたのを纏うでもいいから!』
『素敵に着こなしてくれてたら、いい養分になるもんきっと~!』
 言ってる傍からヘアアクセサリーが、茨の向こうから飛んできてぽたりと落ちる。
 とーんとーんと空へジャンプする彼女たち。
 慌てて衣装を掴み、装飾品を捕まえるサーバントバニー。
 ――異様な光景だ。
 捕まえた服飾品でチルをどう飾ろうか。
 不思議と彼女たちの鼻息が荒くなるのも仕方がない。飾ったお客様を使ってどこの薔薇の見栄えをよくしようと使用人たちはその先までを夢に見る。
「コスプレ……つまり普段と違う服で戦えと……」
『お客様に似合うのはこれなのではー!?』
 レベル回数、ウサウサジャンプを繰り出してチルへと急接近を試みたバニーが手にしたそれ――。
 機敏な動きはチルが拒否する時間さえ与えず、楽しそうに耳を揺らして迅速な衣装チェンジが行われる。
 ――……まあ、仕方ないか……。
 寡黙に努めて国のルールに従ってはみたが、抵抗しなかった分すんなりと終えたようで彼女たちは楽しそうに笑い出した。
『やった~!これで道が汚れなくて済むねお客様~!』
『ハロウィンの魔女衣装よく似合ってるよ~!』
「!?……こ、この服は……!」
 雪のように白い手を上げると、追従するようにチルの知らない袖が揺れた。
 深海のように暗い色から明るい色へと膨らんでいくグラデーション。
 これはローブのようなものだろうか。一体、どんな魔法で着せたというのだろう。
 ピンバッチにポップなおばけ……ではなく、何故かお寿司がいち、に、さん。
 鍔広帽子を被ったチルは、ハロウィン世界に迷い込んだ氷の魔女と言われたら何人も騙せることだろう。
 ――落ち着け私……深呼吸だ……。
「すー……は……」
 ――よし、落ち着いた。
『感想をなにか教えてくれるの~?そういうの大歓迎!』
 ぴょこぴょこ跳ね回る彼女たちへの返答を、チルはあえて行わない。
 彼女たちが作業に戻ろうとしないのをみるに、会話が終わったら最後殺伐とした雰囲気で殺しに来るだろうから。
 ――……敵もまたよくみれば見るほど個性的な容姿だ。だが戦闘に支障はない。
 みぎ、ひだり。みぎ、ひだり。
 とん、とんと規則正しくジャンプするリズムは、群れへの合図をする獣がするような仕草に似ていた。
 敵に知られない仲間内の暗号。
 ――……敵の足元をよく見て、ジャンプの方向を見極める。
 魔女衣装でも変わらず、チルの宿す氷の魔力に呼応して力の込め具合で蒼さの色合いが凍りつくように変わっていく。
 ――跳んだ先を狙って氷の魔法を連射、一体ずつ仕留める。
 ――まずは、手近な一体から。
『きゃあ!?』
 打ち込まれたアイスレインの大雨にバニーの悲鳴ごとかき消える。
「……どうあがいても締まりませんね、この服では」
 アイスレインは降り止まない。兎の数だけ氷の領域がチルの歩く道を補正する。
 ――やはりいつもの服装であるほうがいい。
 チルはそう思いながら、いつの間にか静かになった晴れやかな薔薇園を行く。
 冷気に負けた薔薇の花弁がはらりと――こぼれ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
あら、あら!なんだか懐かしい香り
いばらの生まれた国に似てる気がして嬉しくなる
でも、ふしぎだわ
この衣装は何処から来てるのかしら
薔薇さん達が作っているとか?
だとしたらお揃いね
いばらもお裁縫好きよ

届く衣装は着てみるの
チグハグでも気にしないわ
いばらに選んでくれたのだから
…できれば布は多い方が良いけど
剥き出しの棘がアリスを傷付けるかもしれない、それだけが気懸りで
うーん、似合うかしら?

もう充分に素敵な薔薇さんに絶望も悲劇も必要ないわ
だから兎さん達にはお引き取り願いましょ

口付けは、悲しい呪いを解く魔法
素早いコにもきっと届くはず
ペンキで塗り潰すアナタ達の方が、ぷんぷんなのよ

*衣装お任せ
アドリブ・絡みも歓迎です



●ポンチョおばけの庭園

「あら、あら!」
 思わず心が弾むようで、ぽんと胸の前で手を叩く城野・いばら(茨姫・f20406)。
 ふわりと漂う気配は、どこかいばらの生まれた国を思わせる。
「なんだか懐かしい香り」
 選んだのは、赤ではなく白い薔薇が咲く道だが……違う。似ているようで異なる。
 いばらの国には美しい城が存在したが、ここには庭園しかないようである。
 所々にポタポタとペンキで色を変えられた花もあった。
 ほんとうのかおはしろいのに。
 自由意志の無いままにハロウィン装飾の飾りとさせられた、バラたちが。
「でも……ふしぎだわ?」
 わずかに目を薔薇から外すと、ひゅーん、と何かが目の前を通り過ぎた。
 ぱさりと落ちたものを確認すると、"アリス"が好みそうな可愛いハロウィン装飾が散りばめられたワンピース。どこからともなく、衣装が飛んできたと同時に、バニーたちが軽快なジャンプを駆使して駆けてくる。
『はうあ!?お客様のお召し物はコスプレではな~い?』
「この衣装は何処から来ているのかしら」
 投げかけられた問いかけに、サーバントバニーたちはお互いの顔を見合わせる。
 そういえば、このシステムは誰が用意したものだろう。
『……"とっても綺麗な薔薇からを咲かせたひと"なのかなあ。違う気がするなあ~』
『"我らが愛しの女王様"じゃないことは、一目瞭然なのだけれど~』
「誰でもないのね?じゃあ薔薇さん達が作っているとか?」
 いばらも混ざって不思議とほのぼの女子会が出来上がる。
『そう、かも~?』
『何処かの女の子が夢見た姿がこの国特有の"魔法の力"で具現化しているのかもねえ~。女の子と魔法はふたつ合わせて不思議のスパイスだもの~』
 何かを喋りだしそうにない薔薇たちが、誰かの夢や想像を具現化させて誰かに着せようとしている?
 不思議なことだが、不思議の国の薔薇園の国なら、起こり得ることかもしれない。
 "思わずアリスが着たくなり、国の内側へと行きたくなる"仕組み。
 そんな物騒な雰囲気には見えないが――いばらは、アリスではない。
 お喋りな花が手のひらよりも小ぶりな物言わぬ白い薔薇を見て、思わず笑顔になる。此処は、普段はそういう国"だった"ようだと今知った。
「……ふふふ、だとしたらお揃いね。いばらもお裁縫好きよ」
 ――おそろい。いつか、いつか覚醒したらあなたもお裁縫が好きになるのかしら。
『そんなお客様には、控えめアクセントな装飾が良いんじゃないかと思うの~!』
 ばしゅっ、と何かを掴み取るような音。
 バニーの手には、コウモリなバッジがキラリと輝いていた。
『むしろその逆、頭からすっぽりさんが良いと思う~!』
 ばさぁとシーツに飛び込むような音。
 そんな大きさの差もお構いなしに、ランダムに衣装と装飾が吐き出される庭。
「それはいばらに選んでくてたのかしら?」
 着させようとするバニーの手から、いばらは自分で着ると手をのばす。
 ふんわり羽織るのは、乳白色の大きな大きな布。どうやら、ポンチョのようだ。
 フードを被るとポップなおばけの顔が現れるようで、バニーたちがキャーキャーと喜ぶような声を上げた。
 肩辺りに、コウモリのバッジをつけてその場を軽く、くるりと回る。
「チグハグでも気にしないのだけれど……丁度いい感じなのね?」
 もし縁があるなら、布は多いほうが、と考えていたいばら。
 剥き出しの棘がアリスを傷つけるかもしれない、それがとても気掛かりで。
 しかし、この庭園で"おばけ"をするなら、似合うかもしれない。
『ぴったりだね~!』
『ひゅぅー!可愛いよ~!』
「手を留めていばらを見てくれてありがとう、兎さん達。でも、でもね?」
 微笑むいばらの、手は一度口元へ。
 なにかをしようとすると感づいたバニーたちが、空へ素早く飛び上がり臨戦態勢に入っていく。
 素敵な姿で"薔薇園"へ手出ししようものなら、養分行きを辞さない覚悟。
「この服が薔薇さんたちの不思議な魔法だというなら、絶望も悲劇も必要ないわ。十分に素敵、もう充分なのだもの」
 すぅ、と指先が唇を撫でて、素早く動くバニーへと指を向ける。
 まるで踊りの相手を指名するように。
 柔らかな動作で、悲しい呪いを解く魔法を貴方に。
 飛び上がった兎は無数の白薔薇の花弁に包まれて。
 白い耳が花弁の向こうに消えていく。
「さあもう、お引き取りを。その手のペンキはどうぞ此処へ置いていって?」
 慌てて逃げようとするバニーのことも、勿論逃さずに白薔薇の花弁は捉えて――からん、と落ちるバケツと色塗り道具の数々。
 レンガ造りの道にばしゃりと零れて広がるハロウィンカラー。
 塗られるのを免れた、薔薇の色は白に保たれたようである。
「ペンキで塗り潰すアナタ達の方がぷんぷんなのよ」
 ふわふわと、ポンチョの袖をはためかせて、深めにフードを被った。
 ――おやすみなさい、悪い兎さん達。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫野崎・結名(サポート)
音は、こころ。こころは、ちから。
今はたぶん、この音が合ってる…と思うから

音によるサポート、妨害、撹乱が好み
攻撃や運動は苦手、特に腕力はほとんど無いです
なので、キーボードも肩にかけます

ピンチは黒い天使、歩くのはセブンリーグブーツ、Float on soundをふわっと浮かべてキーボードを演奏
キーボードはスマホとつないで音源を自由に設定変更できるよ
動物の鳴き声にしたり、管楽器の音にしたり、弦楽器の音にしたり

食は細くてすぐお腹いっぱい
そして人見知り気味

他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません



●RAPID DANCE

 茨の庭の立派な赤は、見頃だという話の通り花弁を精一杯に広げて咲いている。
 そんな一角で足を止めて、思わず目を瞑ったのは、ある"アリス"の少女だった。
「……わあ。きれい」
 あまりに鮮やか過ぎる程の紅。
 品種として混ざった色は存在しない、完全無欠の赤だった。
 逆を返せば、ペンキで無理やり塗りつぶされる以外に、紅で無くなることが無いとの同じ。もしも、花が牙だらけの口を開いたりしていきなり攻撃してきたら……と想像したら少し怖かった。
「音は、こころ。こころは、ちから。……うん、あなたに嘘は、ないんですね」
 紫野崎・結名(歪な純白・f19420)が耳を澄まして聞いたのは、"薔薇"から溢れる暖かな音と、痛ましい悲痛な音。
 他の誰かに、カタチとして伝えるのは、難しい。
 きもち、おもい。そういうカタチの音だと思う、というのが、結名の主張。
 薔薇は花を揺らしているが、応える口は初めから無かった。
『お客様ぁ~!』
『追いついた~!』
 びくっ、と肩が跳ねる。
 人見知りも相まって、ほそぼそと茨がわさわさと道を覆っていた薔薇のトンネルを選んだのに。バニーガールが数人、結名の姿を見つけてにっこりと笑っていた。
 彼女たちの胸に、服が沢山抱かれている。ワンピースにコート。
 きぐるみのようなものから、用途不明の装飾品まで。
 手が塞がっている、とはこのことか。
「……え、ええと…………?」
 困惑。それはそうだろう、洗濯物を持ち運んでいるとしたら呼び止められる理由はなかった。結名が話を少しだけ、聞こうかと頭の中で話しかけるべき言葉を探している最中……かちゃり、と肩に掛けたキーボードに何かが振ってきた。
「……耳あて部分に兎の耳がついた、ヘッドホン?」
 誰のものなのかは、気になった。
 しかし、取り上げてみても名前らしいモノはなく、バニーガールたちの頭上で揺れる耳を見てから少しだけうずく気持ちがある。
 ――ちょっと、だけ……。
 頭に装着するとぴょこっと、結名の黒髪に映える白の兎耳が揺れた。
 直立する耳が揺れると、バニーたちはふんわり毛玉のようなブランケットを結名の肩に掛ける。
『うんうん、これで小兎さんだね~!』
『ナイスコスプレ!お耳、おそろいだね~!』
 口々に満足そうな感想を漏らすバニーたちが一斉に、攻撃態勢に移行する。
『じゃあ、ちょっと早いけどハッピーハロウィ~ン!』
『全力で驚かすから、お客様のお命をお譲り頂けましたら~!』
 業務だから、もてなすつもりなのか。助走もなしに、その場で高く飛び上がり、空からそんな言葉が降ってくる。
 狙いは一つ、結名の命。なんて遠慮も躊躇もない殺害予告か。
「……ううん、あげない、ですよ」
 セブンリーグブーツで跳ねるように兎の着地を慌てて躱して、ヘッドホンをわずかに首元にずらす。小型浮遊スピーカー、Float on soundを展開するのと、ヘッドホンとでは相性が悪かったのである。
 今はまだ聞かぬ自分への音ではなく、外へ聞かせるための音楽を。
「薔薇は……この光景を、望んでいないみたい、です。お世話、してても…………わからなかった、ですか?」
 感じたことを音に乗せて、キーボードを叩いて鳴らす音は、まるで鳥の鳴く声を選んだ。彼女たちもコスプレをしているモノのはずだが、兎とは――自分より翔ぶものにも、敵を作る。
「そのキックは、薔薇園を壊してしまいます……、壊してしまって、いいのですか?」
 ――此処の薔薇に悪意があっても、なくても。
 ――現状を壊されるのを、嫌がっているみたい、なのに……。
 ふわりとサーバントバニーを包み込む祈りの音色。
 蹴りの着弾で、直撃地点の周辺地域は……破壊されなかった。
 それどころか、ヒールの踵がばきりと折れて足を挫く兎たちが多発した。
『うわぁん、このヒール高いやつのなのに~!』
『え?嘘、買ってないじゃんウソはだめだよ~!』
 "アリス"の祈りで攻撃性とユーベルコードを封じられ、仲間内で言い争い出した彼女たちから少しずつ離れていく結名。
 ――もう少し、静かな道を探しましょう……。
 彼女たちのように攻撃的な足自慢の兎がいるならば。
 隠れるのと逃げる"兎"もいると、彼女たちが気がつくのは随分後の話である。

成功 🔵​🔵​🔴​

夙寐・結菜(サポート)
『大丈夫。何事も落ち着いて、筋道立てれば必ず成功する』
『うん、万事恙なくだね』
UDCアース出身の人間、16歳の女性だよ。
思考が口に出る……独り言が本体って言われるくらいには多いかな。
一方で人前では人見知り故に口数が少なくなりがちだね。
一人称は私。誰かを呼ぶときは君か呼び捨てだよ。

戦闘に於いては散弾銃「ハフトラング」による近接格闘戦。銃としての他にも鈍器のようにも扱うよ。
他にはアサルトウェポンによる中距離射撃戦・援護が主な立ち回りかな。
戦闘中であっても思考と観察は欠かさないように、ね。それが状況を変える切っ掛けになるかもしれないからさ。

あとは……うん、アドリブかな。戦場に合わせて、色々ね。



●兎狩り

 棘が鋭い茨の影で息を潜めて、少し遠くの様子を覗き込む――誰か。
「この道なら平和そうな気はするね。両サイドに兎の耳が、ええと?」
 夙寐・結菜(そこにいるのは・f28973)が持ち前の洞察力で恐らく敵対してくるだろうバニーガールの数を判別する。
 薔薇の花をハロウィン色に塗り潰す集団、3人から4人といった……いや4羽、というのが正しいか?
「見える数だけに転がされるのは良くないね。この茨道を抜けたところに別の順路が存在するみたいだし」
 UDCアース出身の結菜の独り言を聞くものは特にいない。
 そのかわりに、聞いているとでもいうように、薔薇が花弁を揺らしている。
「此処は国だそうだけど、大人数に絡まれるのは……」
 人見知りな少女は、避けたかった。
 衝突するにしても、事前に思考を凝らし、観察を欠かさない状態を維持しなければならない。主に、心の準備を整える事を怠らないようにしなければならないが、先程から周囲にばさばさと落下してくる衣服の群れはなんだろう。
「誰かの服が、風に遊ばれて此処へ?」
 そんなはずがない、と首を振って、現状の思考から追い出す。
 これは重要というにはあまりに小さなことだ。
 愛用の散弾銃、ハフトラングを握る手に熱が籠もる。
「バニーガールに気づかれたならば、一体どう対応するべきか」
 考える点に至る、最初の難関。
 遠目から見える範囲では、あまり攻撃的な様子を見て取れないが薔薇の花に無慈悲なペンキを掛けているあの行動が、通常であると誰が言えるだろう。
 楽しそうに働いているが、あれこそが"罠"、または話しかけた時点で"デストラップ不可避"なのではないか。
「大丈夫。何事も落ち着いて、筋道立てれば必ず成功する」
 罠だとしても、その場で一番最善を選び取ればいい。
「私なら出来るし、……うん、万事恙なくだね」
 陣取り合戦、敵から逃げるシュミュレーション。
 ゲームから影響を受けたことは数しれず、しかしそれ故に結菜は自信があった。
 ポニーテールを揺らして、なるべく"ただの観光客"を装って通りかかり――通り過ぎれば何事も問題は発生しない。

「……」
 胸の中で暴れるおとは、緊張で高鳴る早鐘。
『こんにちは、お客様~。薔薇、綺麗でしょ~』
『お手入れ完璧だもの。これは満開だしバッチリ満点よね~?』
 通り過ぎるだけ、そう考えていた結菜の目論見はすぐさま崩れ去ることになる。
 嫌な予感を感じ、軽くその場をバックステップで飛び退くとサーバントバニーと目が遭った。
『だあれ、コスプレしていないのは~』
『……だんまりしてもだめよ、お客様~?貴方のいる場所には、衣服が散乱しているんだから~』
「……」
 ハフトラングは手中のままだ、普通の観光客を装うには物騒な代物だった。
 目を瞑り、次に行うべき行動を思考する。

 バニーはなんと言った?
 ――コスプレしていないのは――――。
 ――貴方のいる場所には、衣服が散乱している――――。
「成程。これは、そういう意味の衣服だったんだね」
 茨の間から、小さなカボチャのピンバッチが飛んできたのを見つけて捕まえて。
 ヘアアクセとして、前髪を留めた。
「全てを着用する必要は、ないよね?」
 結菜への返答は、空高く飛んだ単純なジャンプ。
『装飾品を付けたら貴方は恰好の"生贄"だよ~!』
「生贄?まさか」
 次の成功の為の調整は既に行われた。
 コスプレしてなければ彼女たちはさせるために誘き出せて、コスプレをワンポイントでも行えば薔薇園の糧にしようとする。
 そのためには、結菜へ急激な攻撃を加えるために――近づかなければならない。
「兎狩りは経験ないけど」
 軽く手を添えて、散弾銃を打ち放つ。
 飛ぶ鳥堕とすにふさわしい、射撃ギミックの反動で腕が少しだけ痺れる。
「誰かを楽しまないハロウィンの、何がハロウィン?」
 自分が楽しくないハロウィンの、どこがハロウィン?
「準備もいいだろうけど、楽しむ心がないなら勉強からやりなおしたほうがいいね。私なら、そうするかな」
 ふぅ、と銃口から上がる煙を吹いて散らすと、別の意味で熱がこもったハフトラングを手に結菜は誰かに出くわさないようにその場を早足に去っていった。
 観察を続けながらほのぼのと薔薇園を楽しみながら歩くのだった。せっかく訪れた秋の薔薇が咲く国なのだし――楽しまなければ損だと、思ったから。

成功 🔵​🔵​🔴​

吉備・狐珀
綺麗な薔薇にハロウィンの装飾も加わって、アリスが誘い込まれても危険な場所とは思わないでしょう
それこそ危険で『悲劇を作る』ということですね

降ってくる衣装を着るのは構いませんが…バニーと同じ服が降って来た時は断固拒否します!
散らかすのは忍びないですが布地の多い衣装が降ってくるまで薔薇園をうろうろ
コスプレ衣装に着替えたら、自分が散らかした衣装や小物を片付けないといけませんね

UC【協心戮力】使用
ウカ、月代、お片づけのお手伝いをお願いします
風を起こしてもらい巨大な竜巻を発生させ、お掃除開始
片付けるのは衣装だけではありません
バニーも一緒に吹き飛ばしてしまいましょう

…ところでこの衣装、どなたにお返しすれば…



●自然現象実証実験

 薔薇園の国、足元はレンガの道で舗装されていて。
 薔薇の棘への対策に小柄な作が規則正しく並べられていた。
 茨に掛かるハロウィン仕様のコウモリやカボチャ、おばけのワッペン。
 こちらは不規則で『こちらへお進みください』と言わんばかりに、不揃いなワッペンで遠目から見たらやっとわかる矢印が作られていたりもした。誰かの意図がそれを作り出していて、丁寧であるようで違和感の塊だと吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)はわずかに思う。しかし明確に、奥へと誘う罠であると誰もに思わさせる。変な意味で、適当なのだ罠の作り方が。
「綺麗な薔薇にハロウィンの装飾も加わって、なかなかお洒落な感じです」
 ――アリスが誘い込まれても危険な場所とは思わないでしょう。
 ――怖いものから守られていて、でも、進む道がわかるなんて、不自然です。
「それこそ危険で『悲劇を作る』ということですね」
 ぴょっこぴょっこと跳ねるバニーの後ろ姿。
 耳も跳ねるが、肩も身体も文字通り空へと跳ねあがる。
 仕事道具を取りに行くもの、仕事場所を交代するもの。
 あれがこの国の住人であるのだとしたら、いささか目のやり場に困る狐珀。
「降ってくる衣装を着るのは構いませんが……」
 今目の前にひらりと舞い降りてきたのは、噂をしたからなのか。
 見るからに、サーバントバニーたちが身につけているモノと相違ない、と思う。
 くしゃりとした道の上に無造作に落ちた服の質感が触らなくてもなんとなく――わかる。そんな気がした。お洒落な私服に袖を通す機会を多く持つ、狐珀の日常には存在しないのだ、あれは。いつかの運命として交わるものでは、ない。
 ――あんなに殆ど同一の服装はコスプレというのでしょうか。
 ――まさか、この国特有の制服……?
 ――断固拒否します!
 そんなはずはないだろう、と頭を振って可能性と降ってきた衣装から目を逸した。
 見なかったことにすれば、それはなかったことになるだろう。
 後ろめたい気持ちはあるが、自由意志は尊重されて然るべき――。
 ゆっくり灯るように咲く無害そうな薔薇を眺めて歩くのもいいが、時々茨が投げつけてくる装飾品の数々で、未コスプレだとサーバントバニーに気づかれるのも時間の問題。その場から逃げるように駆け出すがどこもが薔薇園の国の内部ということもあり、装飾品の数々が狐珀の通る道に残される。
『お客様ーーーーー!!』
 遠くから怒号が追いかけてくる。空中を蹴るジャンプを利用して、器用に拾い上げておすすめコーデを押し付けるために。
「……ち、散らかすのは忍びないとは思っているんですよ!」
 うろうろと薔薇園の中を早足に移動した分だけ、全く異なる衣装や小物を目にした。ベレー帽。探偵衣装。パッチワークで色々チグハグな和装だったり。
「ですから、こちらお借りします」
 あたりさわりないだろうと掴み取って羽織りそれとなく着飾るのは、真新しい生地の手触りなのにボロボロの白衣。
 狐珀は単なる医者が愛用するは白衣のようなものだと思ったが、よく見てみるとマッドな研究を行う者が愛用しそうな実験の結果とでもいうような意図の不明な色とりどりの汚れが付着している。それに、ポケットの一つが膨らんでいて調べてみると何も入っていない試験管の姿と、ぐるぐる模様の丸眼鏡。
 これもまた、――みなかったことにした。
「少々普段とは勝手が違いますが……ウカ、月代、お片づけのお手伝いをお願いします」
 ひょこっと躍り出た月代が、ウカを乗せて風の力を高め、放つのは吹き荒れる大嵐。巨大な竜巻に変化するのにそう時間が掛かるものではなく、ぶわああ、と風に流されるように衣服が空中に攫われていく。
「片付けるのは、衣装だけではありません」
 カッ、と気合の籠もったレンガを蹴る音を聞き逃さない。
 狐珀の藍色の瞳は次に、飛び上がる姿を幾つか映していた。
 飛び上がった黒い服装、揺れる耳と控えめなふわふわの尾。
 敏捷性を活かし、空で翻弄しようと連携を組んでいるようだが、無駄なこと。
「空域にも風があります。そしてそれは――私の掌の上と、同じです」
 竜巻の通り道を、バニーの群れの方へと切り替えてバニーも吹き飛ばしてしまえば狐珀の作戦勝ちだ。
『あ~れ~、目が回るよぉ~~~!!』
 そんな悲鳴が吹き飛んでいった気もするが、聞かなかった事にした。
「……ところで」
 風を起こして、いろいろを吹き飛ばしたまでは考えついたが今着ているこの服。
「この衣装、どなたにお返しすれば……」
 茨に返して受け取って貰えるものなんだろうか。
 そもそもコレは誰の所有するものなのか?
 実は、ウカや月代にもコスプレは必要だったんだろうか?
 狐珀の疑問は、尽きない。
 答えそうな兎は空の星となってしまった以上、と数分その場で悩んで出した結論は袖を通した"その場に"きっちり畳んで置いていく、だった。

 薔薇の匂いも一緒に風で吹き飛ばしてしまったが、少しすればふわりと再び香りだすことだろう。秋の薔薇は風を受けて"是非私を見て"と主張するものだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎
コスプレお任せ
女装NG

一人で南瓜祭を楽しむのはつまンねェなァ
そうだ、こんな時こそ喚ぶっきゃねェ!(目キラン

【血染めに嗤う猟犬】使用

フィッダ先輩、一緒に遊ぼうぜ…じゃねェわ
敵いるらしいからついでに倒すの手伝え
命令っつーより”お願い”だな
言うコト聞いてくれたらご褒美ヤるよ何でも(ん?
あと仮装必須らしくてなァ
分かってるよな?お前も着るンだよ
答えはイエスかハイだ
異論あるなら…(恫喝+笑顔

薔薇園を眺め適当に歩く
衣装や小物などキャッチ
鬣犬へも勝手に着せて振り回す
格好良く仕立てる
薔薇を一輪貰う

鬣犬の背に乗り駆ける
まだ使いこなせてない新しい剣に火属性の炎宿し薙ぐ
鬣犬と連携

助かったぜ、フィッダ(もふる



●ハロウィン散歩

 カボチャランタンが頭上にずらあと並ぶ道。
 ぼんやりと光るカボチャ。
 ランタンの明かりに照らされる厳格な茨に、秘された薔薇の妙な艶めかしさ。
 不思議の国にあっておかしな光景と、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は思う。
「改変されたって聞いたが結構、それなりの南瓜祭の準備だと思うがなァ」
 しかし、この時間がこの国にとって仮初で。
 つかの間の平和な光景だろうと足りないものはあると思わないこともない。
「……そうだそうだ、丁度いいしこんな時こそ喚ぶっきゃねェ!」
 今すごくいいこと思いついた、と言わんばかりに目が輝いたがそれを見たものは残念ながら、いなかった。
 善は急げと"必要なら喚べ"と渡されたとある妖怪を喚ぶストラップに軽く触れる。
『わずかでいいから魔力を通して、ただ普通に話しかけるように喚べばいい』
 "バス停の少年"は、そう控えめに説明していた。
 それだけで"客の声は確かに届くから"と。
「フィッダ先輩、一緒に遊ぼうぜ?……じゃねェわ」
 時間の隙間からこぼれ落ちるように、どこからともなく召喚に応じ降り立った妖怪鬣犬。魔法でサイズを調整した黒革製の鞍と手網を背中に付けており、その姿はどうも騎獣のようだ。
 最後の訂正までちゃんと聞こえていたのか、首を傾げた赤い相貌がじ、っとクロウを覗き込む。身の丈がクロウの倍もあるせいで、それだけでも充分威圧的だ。
「……遊ぶでもいいんだぜ?クロウが"喚んだ"んだからなァ?」
「訂正訂正。此処にも敵いるらしいからついでに倒すの手伝えよ」
「ええと?それは……命令でいいかよ、俺様を"使う"方面の」
「結果的にはそうともいうが、命令ッつーより"お願い"だよバーカ」
 鼻面をつん、と押して生真面目に仕事をしようとする猟犬の緊張を解く。ぷつりと仕事意識が途切れた可能性があるが、クロウはそれでも全く構わなかった。
「言うこと聞いてくれたらご褒美ヤるよ何でも。どーだ?いい条件だろ?」
「なんでも?へえ、今度は訂正するなよ聞いたぞ?俺様でもタダ働きはゴメンだ」
 鼻息をわずかに荒くして、舌を出した鬣犬の尾がとても揺れた。
 恐らくは、良いという返事であるのだろう、これは。全く返答が素直じゃない。
「あとなあ、言い忘れてたがこの国仮装必須らしくてなァ……わかってるよな?お前も着るンだよ」
「は?アンタマジ眼科行ッた方がいいんじャねえか今すぐ連れてッてやるよ。ヒト姿の俺ならともかく今の俺様の図体で」
「……フィッダ。答えはイエスかハイだ」
 このときの顔を、後にバス停の少年は語る。
 あれは、完全にそのミチのインテリ系ヤクザがする手口のそれだった、と。
「異論があるなら……なあ?」
 見事なまでの笑顔に隠された、言葉の恫喝。いいから従えという威圧さえ感じて、鬣がなかったら毛並みが逆だってたのばれるところだった、と。
「……ないデス、イエスボス」

 薔薇園を適当に眺めて歩くクロウの傍。
 ちゃっちゃっと常時飛び出した爪を鳴らしてついてくる鬣犬。
 舗装された道通りに歩いてみたが、薔薇の成長にばらつきなどなく。
 どれもがふっくらと咲き誇っていて、見事なものだった。
 流血でも被ったような真紅を見たときには、そんな色の薔薇まであるのかと、思わず唸ったほど。
「……いて」
 ノーコスプレの二人に時々衣装や小物が飛んでくる。髑髏のお面や、物々しいタトゥーシールとか。それらの殆どを野生の勘をフルで働かせてフィッダがぶつかりに行く為、おかしなものをクロウはついぞ見なかった。
「今のはどんなのよ?」
「アンタに似合わないやつ。クソだせえの」
 大きな図体でわざと踏みつけて、クロウの目に入れないようにするのを、わずかに抵抗だと睨んだ男の行動は早い。
「都合の悪いモン隠しただろ、見えてんだぞ」
 鬣犬が隠すために動かなかった次の小物の飛来は、クロウを見切って取れる。
 キャッチしたものは……人が被るには少し大きなひだのついた黒い胸元飾り。ジャボ、と呼ばれるようなモノのようだが、それを素知らぬ顔で鬣犬の胸元につける。
「ん。鞍と手綱の黒革製にも合うし、あとお前の足元のそれも!」
 抵抗しない鬣犬の一瞬の油断を制して、クロウが取り上げたのは、白を僅かなアクセントとする黒いボンネット。
 ひらひらとレースとフリルが使われたとても可愛らしい婦人が好みそうな帽子だ。
 これもまた、皮肉なことに――人が飾るものより一回り以上大きなもの。
「さてはお前……」
「絶対やられると思ッたから隠した悪いかよ!!」
「はいはい、いい子いい子」
 手綱を引いて観念を促し、獣耳が外に飛び出すようにして頭の周りを覆うように飾り立てる。ぴょん、と飛び出す彼の鬣はどうしようもないので、トドメにあご紐をリボン結びにして、完成。
「流石俺。格好良く仕立てられたと思うわ。どうよ感想は」
「最悪」
 くすくすと笑うクロウに対して、可愛く飾り付けられた鬣犬はそう返す。
「アンタは着飾ッてねェけど?とびきりな奴選んでやろうか」
 ケラケラと軽く笑い出す鬣犬の悪魔の問いかけには、首を振る。
「俺はこれで充分。恰好には自信ありだ」
 いつの間にか薔薇が一定の長さごと手折れていた。
 バニーの誰かが不注意で折ったのだろう、あとは死して散るばかりの花を、服の隙間に添えるように飾る。
「さあ散歩はこれで一通り……お?」
「なんだ注意する前に気づいちまッたのかよ」
 遠く、空を疾走る兎の襲撃。
 薔薇より高い空、ハロウィンかぼちゃを足場と踏んでそう掛からないうちに此処まで到達する敵影。
「あれの殲滅は楽そうだがなあ、アンタの剣が届くトコまで連れてッてやるよ」
「ああ。頼むわ先輩」
 人を背に乗せるは容易いこと。
 少し屈む鬣犬に乗り、わずかに腹を蹴って作戦行動を開始する。
「ハハハハ楽しくなッてきたァ!スピードを上げて俺様派手に跳ぶぜ?キッチリ落とせよなあ!!」
 足の裏に茨が刺さるのを気にせずに、足場として炎を身体に纏うハイエナが加速の勢いのまま飛び上がった。まだまだ高い位置にある敵へ届かせるために、途中のバニーは無残に踏みつけて叩き落とす。
「――まだ使いこなせてない新しい剣だが」
 夏が去ってまだ浅い日々の残り火を、爆発さえ生じさせて、此処に起こす。
「それ炎属性か?……なら今は俺様が居る。絶対アンタの攻撃はァ……ッ!」
 燃える鬣犬の上ならば、火属性の炎宿す大剣に余計に火炎が燃え広がる。
 剣へと鬣犬の炎も移る。
 燃え広がるのを導くように、勝手に別の火種がまとわりついて炎上させる。
「いッそ倍にして、届けてやるよ!!ハハハハ!!!」
 喧しく嗤うハイエナと連携して、空を跳び周りこちらの撹乱を狙っていたバニーたちを凪いで燃して形から世界からの脱落を唯一の選択肢として、世界の外へ堕とす。
 身の丈もある刀身を炎のちからは何倍にも燃えて一太刀の凪に炎上の波を齎した。
「……一応聞くけど、先輩飛べるヒト?」
「アンタなあ……ハイエナが飛べると思うか?」
 空に火炎地獄を展開し、飛び回る白い羽が見えなくなった時。
 飾りのハロウィンかぼちゃが燃える様を見ながら、落ちていく二人の猟兵。
「まあ……そのまま掴まッてろよ。乗り手に怪我させるわけないだろ」
 衝突の迫る間際に背に乗ったクロウごと影の世界に潜り込み、よくわからないうちに難なく地上に降りる。
 妖怪ゆえの特性だ。不思議の抜け道を、彼は知っていた。
「静かになッたッぽいな?……なあ、クロウ?」
「あ?」
「約束の報酬どんだけくれるよ」
 にまにまと獣顔でもよく分かるニヤケ面。
 頼まれた仕事をしたと、クロウに鬣犬がそういうのだ。
 帽子は燃えたようだが、胸の飾りは残ッていてドヤ顔が何故か立派に見える。
「助かったぜ、フィッダ」
 ひらりと背から降りてひとしきり頭を撫でて。報酬分に見合うくらい火の粉の中でも変わらなかった毛並みを文句を言われるまでもふもふと撫でて労った。
「……ん。そんなに撫でてくれるならお安い御用だ。おもしれえ散歩だッたよ」
 ぐるぐるぐるぐる。
 ハイエナの喉から言葉以上に満足げな音が鳴っていた。
 クロウは勿論、その音を耳にしていて――可愛い仕草に思わず笑ってしまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎
※最終的に衣装お任せ

仮装は慣れていないのだが…いや、装いが変ろうとも心は騎士
どんな衣装だろうと着てみせ…って、チェンジ!?
君が選ぶのか?
「僕の」衣装を厳選しだすセリオスに戸惑いあり…少し嬉しさもあり…
というか、君は?
…確かに、君ならどんな服でも着こなせるのは知っている
けど、
(彼が拾った少し際どい衣装をそっと茨へ返す)
僕は、あっちの服がいいと思うな
…いけないかい?

彼が納得した衣装なら着替えよう
…君がそう言ってくれるなら
うん、仮装も悪くないと思えてきた
君もよく似合ってるよ
とても、素敵だ

着替えたものの…敵が穏やかではなさそうなら【天廻聖盾】で防ぎ、撃ち返す
養分になるのはお断りしよう


セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
コスプレお任せ

アレスに飛んできた衣装を拾い上げ
んー…チェンジで
ぽいっと投げ捨てる
ばっかお前、こんな中途半端な格好でいいわけないだろ
一番かっこいいアレスは俺が一番知ってるんだから俺に任せろよ
厳選しチェンジを繰り返す
俺?俺は適当でいいよどれでも似合うだろ
ほら、これとか
適当なものを拾い
え?アレスもチェックすんのか…?(チェンジされる少し際どい衣装)

今いいとこなんだから邪魔すんな
ちょっと待ってろ!!
敵が来たら【相手の警戒を解く簡単な方法】で動きを止めて
アレスの服を選ぶ

おっ、これなんかいいんじゃねぇか!
着てみろよアレス!
ん、かっこいい

着替えたら歌で強化して
炎の全力魔法を剣に
ぶったぎる!



●星々は仮装を興じる

 ドォオオォォン――。
 遠く。他の猟兵が、薔薇園の中を歩いた音が、何処からともなく聞こえて。
 茨から飛び出して足元に残されたままの服装が、少しどこか艶めかしい。
 無造作に放置されている誰かの私物、ではないようだが……まだ誰にも回収されていないところをみると、サーバントバニーたちは総出で薔薇をより良いものにするために躍起になっているのだろう。
 久々のお客様(いけにえ)だ。
 アリスじゃなくとも、確保できるならたくさん欲しい。ハロウィンな流れに乗じて、訪れた訪問者なら痕跡から絶ってしまえば何処にも足は出ない一石二鳥の国。
「とか、殺人集団思考だったらどうする?」
「……想像しにくい話だ。仮装か……慣れていないのだが……」
 セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)のが顔を見ながらそう言ってくる。
 装いが変わろうとも心はそのままに騎士であるアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は、仮装に身を包まなければならないらしいこの国を遠巻きに見ていた。
 キッチリ内側をくり抜かれたハロウィン南瓜が、道なりに点々と並び、薔薇の花にポップな"落書きの瞳"を貼り付けて人面花に変えていたり。
 道に転がる仮装にふさわしいのだろう異色でおかしな様相はいくらでもある。
 コウモリの羽の飾り羽から、天使の輪や、鼻眼鏡……。
「こうも無秩序に飛んでくるとは、相当のハロウィン貯蔵があるのだろうか」
 アレクシスは真面目に考えだす始末。
 そんなに固く考えなくても大丈夫、なんて空気を読んだのは茨の間から飛来する装飾。ノーコスプレのアレクシスに飛んできた衣装を、セリオスはなんとなく叩き落としては拾い上げ、ざっと流し見て――。
「んー……チェンジで」
「どんな衣装だろうと着てみせ……って、チェンジ!?」
 セリオスは言うなり、ぽいっと服を投げ捨てて、道端の装飾にとくれてやる。
 背の低い茨が豪奢そうなハロウィン色のマントの影に隠れてしまったが、あれはあれでお似合いだ。
「ばっかお前、こんな中途半端な格好でいいわけないだろ」
「君が選ぶのか?」
「一番かっこいいアレスは俺が一番知ってるんだから俺に任せろよ」
「……というか、君は?」
「ん?俺?俺は適当でいいよどれでも似合うだろ」
 控えめに笑いかけてくるセリオスの言葉の意味を、アレクシスはよく知っている。
 ――うん。……確かに、君ならどんな服でも着こなせるだろうけど…………。
「例えばさ、これとか」
「…………」
 アレクシスが無言でセリオスの手にあった服を、茨の間に押し込む。
「え?アレスもチェックすんのか……?」
 さあしまってしまおうね。これは此処には、いらないからね。
 彼にそんな雰囲気すらあったのは、それもそのはずだ。セリオスが手にしていたのは、結果的に少し際どい衣装になる未来が――想像できたから。
 露出度が見るからに高くなりそうな、ボロボロの包帯が数巻あっただけだ。
 仮装の意図はすぐに理解したが、着る難易度の高さは異様に高い。
「はは……僕はあっちの服がいいとおもうな。…………いけないかい?」
「いけなかねぇけど……」
 二人の視線の先に見えたのは、露出の難易度がとても下がったもこもことした、落ち着いた金色のフード付きパーカーのようだ。
「お?ぴこっと犬耳がついてら。狼か?」
 すぐに拾い上げたセリオスが躊躇なく衣装を身につける。
 フードを被ると遠巻きにはリアルな狼に齧られたように見えるのがとても不思議な光景だった。
 質感の萌え袖で、背中側にはくるりんと丸まった尻尾まであって。
 服自体がだぼっとしていたがお構いなし。
「がお、がおーう」
 アレクシスに鳴いて見せたのもつかの間――。
『ぴぴー!(口で笛を吹く真似)ちょっとちょっとお客様ぁあああ!』
『ノーコスプレ副処理班の仕事をこれ以上増やさないでよぉ~~!!』
 可愛いらしい従業員の兎たちが、叫びながら空中を蹴って急激に猟兵達との間を詰める。刻一刻と荒らされていく庭園を掃除しなくては。
 彼女たちの思いはそちらが優先されたようで、ハロウィン装飾を蹴り飛ばしてでも猟兵達の気を引こうとなんでもけしかける。
『可愛いウサちゃん達が到着ぅ~!』
『此処一帯を更地にしたって後処理は私達なんだから……全力でいくよ~!』
 唇に指を触れて、軽いリップ音が響いたかと思えば吹き荒れる衝撃波。
 茨が根こそぎ倒されて。これ以上の衣服が増えるないように、破壊する。勢いが激しすぎて逸れたエネルギーが暴発してその場にハート型の赤いマークを地形に刻み、カッ、とハイヒールを鳴らして仁王立ちで陣取った兎たち。
 次弾の衝撃は更に上る。
 リップ音とおまけのウインクだけで地表ごと吹き飛ばしてしまうかも知れない。
『キッスゾーンから全方一斉に掃除しちゃおうね~』
「今いいところなんだから邪魔すんなよ……」
 キッス爆撃警報を聞いて尚、セリオスはひるまず謳うように。
 綺麗だと誰もが思える純粋そうな、微笑みを讃えて兎たちの頭に響かせるのだ。
「とりあえず…………ちょっと待ってろ!!」」
 叩き込むのは言葉の強い静止のお願い(めいれい)。
 顔の良さからは想像できない拒絶が今、此処に発布されなかったか?
 相手の警戒網の一時的な混乱を……いや派手な困惑を招いた。
 サーバント(召使い)という通り名が、仇となったのである。主人は言葉を発しないモノだが、今敵にとはいえ明確な命令を……?といった具合に。
「……おっ?これなんかいいんじゃねぇか?着てみろよアレス!」
 セリオスから投げて寄越されるのは黒いフード付きパーカー。
 妙にもこもことしていて、それは何故かと袖を通して理解する。
 広げてみるとおかしなほど細かく仕込まれた大小羽を重ね合わせた二枚羽が畳まれていた。フードを被ると黒く尖ったクチバシのようなモノが視界に入る。
「鳥……カラス……?」
 長身なアレクシスが着てみても、だぼっとしているそれは腕が羽のようになる構造だった。
「やっぱりアレスに似合う!かっこいい」
 納得したように笑ったセリオスにつられて、思わず笑いを零すアレクシス。
 どうやら、狼パーカーはお気に召したようだと察した。
「……君がそう言ってくれるなら。うん、不思議と仮装も悪くないと思えてきた」
「だろ。がおがお」
「君もよく似合ってるよ。とても、素敵だ」
 ほのぼのとした空気が漂って、双星のハロウィンダンスが此処に始まる。
「そういうことだ、もう此処を破壊する必要は何処にもないし」
「破壊活動を再開するなら勿論僕より後ろへは通さないよ。我が盾は、守るべき者の為にあるからね」
 黒い羽毛に装飾された腕で、燐光纏う白銀の大盾を構えると、バニーたちの攻撃は再開した。
『掃除しなくていいならそれでいいんだけど~もう少し壊しちゃったから、結果的には同じことなのよね~』
『そういうわけだから、新しい薔薇育成のための養分になって貰っちゃいま~す~』
 ちゅっ、と軽い音を立てた全てを巻き込む大量破壊のふんわりハートな衝撃波を、アレクシアの大盾は通さない。
 盾より展開された聖なる暁光の守護防壁に阻まれ、破壊も侵略もその場止まり。
「養分になるのはお断りしよう。折角の夜羽が埃に汚れてしまう」
 ぐぐ、っと力を込めて押し返すように力の流れを跳ね返せば対象から反れて外れた力が勢いよく暴発し、地面にハート型を大きく刻みつける。
「汚れる?それは大変だ、埃なんで燃やし尽くして浄化しねぇとな」
 セリオスが紡ぐ歌に力が籠もる。純白の剣が共鳴して、震えるような気がした。
 青星が煌めくのは、赤星が傍にあってこそ。輝きは此処に。
「……ま。兎なんておーかみに喰われるもんだよなあ!」
 炎の全力魔法を剣に、ハート型のマークが刻まれたステージで仮装の狼が獲物を燃やし借り尽くす。
 四肢をぶった切って、その次へ。幾つも歌に紛れて燃えて溶け落ちて。
 名もなき星となって去っていく。
 死人あるところに鴉あり。狼と鴉。
 どちらもの目が、獲物を見ていて。悲鳴のコーラスは演舞の盛り上がりをアレクシスに譲る。
「今日出会ったことが、君たちの災難だった。次会うときはお菓子を用意しておいで」
 すぅ、と音が途絶えると、からりと足元に彼女たちの忘れ物が転がった。
 ペンキと、数々の撤去予定の仮装衣装たち。
 そう時間の掛からないうちに無言空間を耐えられなくなって、目が合うなり猟兵たちは笑い出した。
「でもまーだハロウィン当日じゃないんだよなあこれが」
「気が早いとは、このことだよね」
 誰もがいうタイミングを控えた魔法の言葉。
 トリックオアトリート。跳ねる賢き従者たち。
 ――このパーカーは、面白いからこの不思議の国の思い出に貰っておくね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『魔導植物『エーリカ・クアッド』』

POW   :    鳴動スル大地
【植物の常識を超越した速度での突進】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に自らの根を張り巡らせることで】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    生存ヘノ渇望
全身を【青白い雷光を放つ高出力の魔力】で覆い、自身が敵から受けた【損傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ   :    永遠ノ薔薇
自身の装備武器を無数の【魔力を帯びた赤・白・青・黒の四色の薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はイヴ・シュプリームです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●"薔薇を咲かせ続ける主"

 ――ォオオオオオオオォ――――。
 大気を揺るがす唸り声が聞こえたか。
 茨が身じろぎをするように不自然に揺れて、薔薇園の道を組み替える。
 ぞろぞろと茨たちが根ごとその場から抜け出して移動し、猟兵を迎えるように広いスペースが作り出されていく。
『ようこそおいでくださいました皆様方。どうぞこちらへ、必要でしたらどぞどうぞお席に』
 パーティー用の長机が並べられ、何処からともなく淹れたての紅茶の匂いが鼻をくすぐった。まるでお洒落なカフェテラス。
 この匂いはきっとローズティー。誰が入れたものだろう。
 来園人数よりも圧倒的多さのティーカップから湯気がふわふわと、上がっている。
『全ての茨は主の身体、その手足のようなものに過ぎませぬ。この国全てが主とでも言えまして、薔薇は主の存在で維持されるものです。国全域に根を伸ばし、元々生えていた薔薇にも容赦なく絡みつき、生き方から支配していると申しましょうか』
 茨の一区画が消滅したとしてもそれは薔薇園そのものに擬態する魔導植物『エーリカ・クアッド』に対した損害を齎さない。
 植物として別の結びつきを得ればいくらでも換えが効き、死と必ずしも直結しないのだ。滅びるのはこの国にはじめからあったもの。品種改良のための死。
 種の存続のためには必要なことかも知れない。
『いかに大きくとも、知性の核はこの場所に。きっとよく見えていらっしゃいますでしょう?』
 驚異的な国を形成する超巨体の連なり……その一部に白と赤、青よりも黒に近い呪いの薔薇を侍らせてワニのような口と魔力を灯す場所がある。唸り声は、その部分から発せられていて、時折バチバチと雷光を呼び爆ぜさせた。あの部分が可能な範囲で動き回り、物理的な捕食で栄養を補給する部分なのだろう。
『主は至ってシンプルに。ずっと長い間空腹でいらっしゃいます。もう極限なのでございまして常に激怒を表していらっしゃるのです』
 半ば無差別に攻撃を繰り出す根が広いスペースを殴って壊し、破壊する。
 全ては魔導植物に支配された庭。壊すも直すも、薔薇の咲き方も。
 エリーカ・クアッドの采配で決まる。
『不眠不休の大暴れなのです。ハロウィン当日にお料理を振る舞われる方などいらっしゃいませんか?いっそのこと主など、練習台にしてさしあげればよろしいかと』
 此処まで流暢に話しているのは愉快な仲間の"蔦"。
 茨のどこかに絡みついていて、猟兵達へ説明口調を大いに振るう。
『捕食は主の喜びです。満たさればきっと、このような暴力的振る舞いも収めてくださることでしょう。皆様方が申したことへの言葉の翻訳はこの私が。代理にて失礼いたします』
 事細かに批評、称賛した上で翻訳までつく薔薇のハロウィン前哨祭。
『……私ですか?主が物言わぬものになるのでしたら、やっと自由に『蔓』を伸ばせますから困ることはありません』
 ハラペコモンスターを前にして臆せず仕掛けろ、トリックアンドトリート!
 ハロウィンフードファイトinナイトメアグラトニー。
トゥーリ・レイヴォネン(サポート)
ああ、全く…嫌だ、嫌だな。お前みたいなのが居るから、本当に…

行動指針
・他に行動指示等を行う猟兵が居る場合、「人を助ける」行為から外れるもの以外には従う
・真っすぐ歩いて目標に向かう
・攻撃を躱す運動性は無く、必中の技も無い。ただ、デッドマン、ゾンビとしての耐久性を持って、当たるまで殴る、死ぬまで切り潰す、それを繰り返す
・基本的に敵の境遇、存在そのものにそれほど興味を持っていない。ただ、唾棄すべき人格の相手であれば、皮肉の一つも言うかもしれない

見た目と性格
基本的にはゾンビの女の子。肌を見せたがらない為常にコートとブーツを履いている
大雑把でがさつ。物事に頓着しない
人並みの痛覚を持つ


七星・龍厳(サポート)
『俺に挑むには10年早いな。』
 羅刹の剣豪×マジックナイト、46歳の男です。
 普段の口調は「男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)」、仲間には「フレンドリー(俺、呼び捨て、言い捨て)」です。

行動の基準は戦闘が楽しめるか又は興味を持った事柄に積極的に関わります。
戦闘に関しては戦場で敵の技術を盗み自身が扱えるものに昇華させて戦場を探してる竜殺しです。
 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●猛攻という名の攻めの"料理"

「言葉の翻訳?ううん、別に構わないよ。いらない」
 継ぎ接ぎだらけのその体。
 いつか何処かで赤黒い汚れを付けたコートをきっちり着込んで歩くデッドマンのトゥーリ・レイヴォネン(タナトスのオートマトン・f26117)は愉快な仲間の言葉をバッサリと切り捨てる。
「……ああ。勘違いしないで。少なくても、"ぼくは"いらない」
 軍用ブーツが向くのは、標的の頭脳部位、ただ一つ。
「ほかのひと、いるから。ぼくは自分が、出来ることをする」
 大きな刃こぼれこそある手入れの足りない肉切り包丁の木製の握りをしっかりと確かめるが、彼女は立ち止まろうとしない。
 すり減った刃でも。赤黒く汚れた錆色の付着があっても。
 今更気にすることではないのだ、彼女にとっては。
「もう苦しんでるんでしょ。じゃあもうそれ以上苦しまなくて、いいんじゃない?」
「同感だ。無敵に等しい強敵だっていっていうなら、戦闘がそう簡単に終わるわけじゃない……そうだな?」
 七星・龍厳(紅蓮の竜殺し・f14830)が緩慢な動作で歩みを続ける少女を追い越し走り抜ける。
 料理を作るための机?パーティー用の机?
 大人しく座したら、何が起こるかなんて想像は容易い。
『グアァアアアアアアアア!!!!』
 あの叫び声と、同時に大量の魔力を帯びた赤・白・青・黒の四色の薔薇が一斉にその存在を散り散りにさせてる状態が、普通だろうか。
 花びらに変じた薔薇たちが、猟兵たちに桜吹雪のように襲ってこようとするのが歓迎だと誰が言う。
「自身の咲かせた花だとしても、そうして武装とするんだったらこの薔薇園は凶器だらけだ、――面白い」
 ――使えるものは、何でも使う。
 ――ああ、良い戦術だな。犠牲さえ、強いていなければ。
 上下ともに真っ黒の龍厳が花びらの群れの中に臆さず飛び込んで、呼吸を整える。
 ドラゴンブレードを盾のように扱って、逆の手に握る解体用ナイフで凶器と同じ鋭さを付与された花びらを切り刻む。
 歴戦の男には、それくらい容易い。ドラゴンをもし相手にするならば戦略がもっと無ければ打ち負けてしまうから。
 彼の戦闘には、これまでの戦いの経験が活かされている。
 軽く吐き出す息の数が徐々に、間隔が減っていき――。
 花びらの猛攻をもろに受けるのも構わず、盾としていたドラゴンブレードで気合の一閃。頬や腕、切り傷を作り出したが龍厳に構う様子はない。
『……!?』
 無数の凶器が薔薇の花へと戻ること無くひらひら落ちて、沈黙した。魔導植物が魔力で操作を試みようとしても、花びらは再び飛翔することはないようだ。
「なんだなんだ、気付かなかったか?」
 ニヤリと笑う羅刹の男は、相手が理解するもしないも関係なく無音稲妻による制圧を完了していた。花びらが花へと戻らなかったのは、武装は感電していて動く術を持たなかったから。
「俺に挑むには10年早いな。竜のような顔をしてるんだ、竜殺しに討たれていけ」
「なんだ。攻撃なんて、放っておけば……良かったのに」
 最前線での戦闘に、ようやく徒歩で追いついたトゥーリ。
 はじめから躱す事を考えていなかった彼女は、明確な攻撃が致命的な攻撃が通るまで殴り続けるつもりだった。
 ほぼ無敵だからといって、手を止めようとは考えていなかったのだ。
「ああでも……」
『……!!お気をつけください!』
 愉快な仲間の蔦からの、警告。
 言葉はトゥーリに届いたが、彼女に実行するほどの速度はなかった。
 魔導植物が薔薇の攻撃では埒が明かないと、頭脳部位そのもので突進をしてきたのだ。
 根を限界まで伸ばし、ワニの口のような部分で喰らいつけばこの戦いに明確で単純な終止符が討たれると。
「怒る意志はあるんだっけ。そっちまで歩いていく手間が、省けたね」
 肩口を噛まれても気にせず、肉切り包丁を振り上げて斬りつける。蔦に良く似た茨な身体を切り裂いて見るが、痛みを感じている様子が見て取れない。
「痛くないって、どんな気分?ぼくはこうだけど、痛いは、わかるよ」
 切り裂くよりも刃を押し付けて切り潰す、そんな好意を執拗に続ける。
 何度も、何度も。そう、何度でも。
「どうせ何を言っても理解のことばなんぞ返ってこないだろ、……そーら!」
 トゥーリへと食らいつく魔導植物が、更に力を加えようと大口を開ける瞬間。
 龍厳は小さな小さな、飴玉を投げ入れる。
「空腹時には飴でも貴重な食だぜ?」
「ちょっとでもお腹何かが入ったら……もうこの部位、いらないよね」
 執拗な力技で、トゥーリは魔導植物の身体を抉って明確に破壊する。
 足のように伸ばしていた根が、ぼたりと落ちて悲鳴が上がる。
「無敵な時間なんて、長く続かないよ」
「おうとも。竜殺しの前に、竜が如き顔で立ち塞がった事を悔いろよ?」
 叫ぶ魔導植物を顎までを、ドラゴンブレードで切り上げてのけぞったところを龍厳は蹴り飛ばす。蹴られて吹き飛んだ状態のまま勢いを利用してずるずると交代していく魔導植物が、新たに根を地に張り巡らせる。
 この場で最強である主が。
 たった一つの飴玉に、気圧されるなどあってはならない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

チル・スケイル
美味しい料理を作るのですね
…(料理…ほとんどしない…難しい)

…(とりあえず攻撃対策。【ラケート・ランティーロ】から大型の氷弾を放ち、氷の壁を作る。ダメージはなくともある程度固める事はできると思いたい)

…(例え相手がオウガで、目的がだまし討ちだろうと、料理するからには不味い物を出したくはない)
…(特に訓練を積んだわけではないが、スシを作るしかない!)

…(食材を凍らせない程度の凍気を放ち、魚の鮮度を保ちながら調理する)

…お待たせしました、お客様。不思議の国産の鮮魚とコメを使った、スシでございます
生命の書片でとったダシを使った、具無しのシンプルなミソスープもどうぞ



●スシはいいもの(いいね?)

 チル・スケイルの視界に広がるのは空腹に暴れるこの国の主の無差別な突進。
 山のように茨の群れがずぉおお、と雪崩れるように動き、ぶつかる。
 尋常じゃない轟音は、薔薇園に相応しいものではなく破壊行為は、国を治めるような者のするべきことではない。
 ハロウィン装飾だらけの庭園にも全く合わない。
 驚かすでは済まない破壊行為を野放しにできようものか。
 ――とりあえずは……。
 目が遭った、などと刹那の時間に構える大砲型の魔法の杖。
 ラケート・ランティーロから大型の氷弾を勢いよく打ち込み、ぴしゃりと激しく地面に叩きつけることで氷が弾丸という形状を急激に変えて天空へ向けて牙を剥く。
 曰く、魔導植物とチルの間に大きな氷の壁を作り出して波打つ。エーリカ・クアッドが結びつく茨ごと氷で足止めしてしまえば、破壊行為は行えまい。
『おお、冷たい!主の馬鹿力でも、足元ごと凍らせられてしまっては突進行為は怒号を響かせるばかりですねぇ』
 愉快な仲間の蔦がどこかで冷気にさらされているのか、少し聞き取りにくい声で話しかけてくる。
『主は……そうですねえ、美味しいものが食べたい!満たされたい!満たされない!!此処へ料理を持て!!みたいな気配がとてもします』
 蔦の声を聞いて数々の食材が集められた中で、水槽が置かれた机を見つけてチルはどことなく安堵する。
「ここで……"美味しい"料理を作るのですね?」
 水槽の内側で、色とりどりの魚が鱗を煌めかせていた。
 ――料理は……ほとんどしない……難しい。
 食べられないモノがこの場にあるはずがない。大丈夫だ。
 ――たとえ相手がオウガで、この国の王を名乗る存在だとして。
 ――目的が騙し討ちだろうと料理をするからには……不味い物を出したくはない。
 表情に出さないようにしつつ、寡黙なドラゴニアンは決意を固める。
 ――このように生き生きとした魚が。つまりこれはもう、アレしかない。
 きらん。輝く青は希望を見た。
 一体どんな工程で炊かれたものかわからないが、キラリと輝く白米があるのだ。
 ――特に訓練を積んだわけではないが、スシを作るしかない!
 チルはできたての味を知っている。
 できたての見た目を、美味しいシャリの味を知っている。
 しゃもじの角度は見様見真似。職人の繊麗された技にはきっと届かないが、それでも知ってる事を反芻し、実行する。
 ――見た目があっていれば、……スシのハズ。
 ――食材を完全に凍てつかせない程度の冷気で、支えて……鮮度を保ち、一思いに捌く。
 すぅう、と走らせる専用の刃で覚えのある一口サイズへ整える。
「……静かにお待ちくださったようですね。おまたせしました」
 静かに並べたスシの種類は、思いつく限りで自身の好むものばかりを選んだ。
 魚の名前が合っているかどうかは不安が残るが、魔法の調味料、醤油が全て解決するだろう。
「お客様。不思議の国産の鮮魚とコメを使った、スシでございます」
 完成品の料理を並べて、動く手段を失っている魔導植物に歩み寄る。
 ふわりと漂う暖かの香りが鼻孔をくすぐった。
「具無しのミソスープではありますが、こちらも」
 チルの私物である"生命の書片"でとったダシで作られた、味噌汁を添えて料理として、提供する。

 ――『グアァア!!』――――。
 大口を開けて、提出された料理を器用に根を伸ばしてひょい、っと口に放り込む。
 野性的な声と釣り合わず、そして体格差を感じさせない妙に丁寧な所作だとチルは思った。この植物は、実はグルメにうるさいタイプだったりするのか?
『……おっと?主が黙々と食べ始めましたね。ふむ、…………では感じたままに通訳しましょう』
 愉快な仲間の蔦が、言葉を紡ぐ。
『新鮮さを優先して造られた刺し身が不思議の国産のコメの上で調和していて、お互いのいい部分活かし合って共存している!醤油というこの液体は、魔導植物たる身に妙に調和性がある。これは一体何処で製造されたものなのか……。スシというのか、ハロウィンにはスシを食べるのか?貴方の故郷では、そういうこともあるのかもしれない。ハロウィンとは、地方によって姿形が違う場合もあるだろうからな……』
 魔導植物が身体を揺すると、氷壁として存在していたそれを激しく崩壊させる。
がしゃああんと激しく音を立てて、氷の破片が足元に散らばった。
『ミソスープ。これもまた魚に類するものを使っているな?甲殻を持つもの。風味がとても、優しい。コレほどまでに魚とスープは合うものであったか……。何度も作ったことのある作品か?これには相応の思い入れのようなものを感じる。おいしい』
 評価を聞く限り、どうやら満足げのようだ。
 ずしゃり。地から足たる根を抜き、チルの前に躍り出ようとするが……しかし、チルの前に脅威は手を伸びてこない。
『……主?そのような少量でも、満たされてしまうのですか?』
 人の言葉を認識しない魔導植物に睡魔が生まれてわずかに船を、漕ぎ出しのだ。
 うとうとしている、とチルは思った。まるで寝るのを拒む子供がするような、それに欲にいていると。まだまだ空腹が満たされるには足りないだろうが、無敵な主の鎧はまた一つ、確実に――崩される。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
―そう。懐かしい香りはアナタだったのね
ごきげんよう、似ているアナタ
白夜の城の国の守花で、薔薇さん達の化身のいばらよ
ふわふわポンチョの裾を抓んでご挨拶
そうして。パーティーの飾りに、異議を申し立てるわ!
充分に素敵なおかおを、ムリに変えるなんて…
皆をいじめるのはダメよ、ぷんぷんなの!
お祭りは皆で楽しむものだわ

伸ばすのは両手
回数重視でアナタの攻撃を弾くのが目的
怪力や捕縛籠めて、蔓で出来る事でお邪魔虫しちゃう
皆のお料理の時間稼ぎに、
茨で武器受けたりかばうで盾になれたら
煩い?いばらは茨でおしゃべり花なんだもの、御免遊ばせ

物語を喜劇へ導くアリス達のお手伝いができたなら
蔦の仲間さんは自分で屈んで避けて頂戴ね!



●薔薇の顔を見て欲しい

 ――そう。
 見上げるほどに大きな茨の折り重なった壁かと思った。
 白、黒。赤に青。
 薔薇園内部に見掛けた色より、一際威圧感を主張するその存在。
 ――懐かしい香りは、アナタだったのね。
 城野・いばらの思い描く風景に近い匂いの出処は此処に。
 心は不思議と近いような気がして。
 でもおそらく、本当はとても遠く異なるのだろう。
 何もかもが鮮やかで色濃く存在感のある王へ、いばらは言葉を掛ける。
「ごきげんよう、似ているアナタ」
 例え言葉を認識できなくとも。いばらの姿が見えていないはずがない。
「白夜の城の国の守花で、薔薇さん達の化身のいばらよ?」
 仮装姿のポンチョの裾を抓んでご挨拶。
 ふわりと膨らむ布地が、風に揺れる。
「此処へたどり着いたの。でも……」
 いばらの緑の瞳はじぃ、と魔導植物を見つめた。
 穏やかな口調柔らかな雰囲気であったが、頬を膨らませて別の表情を見せ始める。
「パーティーの飾りに、異議を申し立てるわ!」
 彼女の指摘は、たった一つ。
 コウモリの飾りも、お化け南瓜のランタンも可愛らしい。特徴的な紫やオレンジ色。ハロウィンにはこの色がよく映える――これに指摘は特になかった。
「充分に素敵な"おかお"を、ムリに変えるなんて……皆をいじめるのはダメよ、ぷんぷんなの!」
 ぽた、ぽたと生乾きの液体が垂れる"かお"を幾つも見た。
 すっかり乾いてしまった、塗りムラの存在する”かお”を幾つも見た。窒息したりすることはないだろうが、自分の"手"で"かお"を拭えないかれらの色は。

 どのかおも、"しろ"かった。

 ペンキに染め切られてしまっては、もう白には戻れない可能性がある。
 ――とてもきれいな"おかお"なのに。
 自分のことのように指摘するいばらの"感情"が届いたか、わさわさと魔導植物が揺れて示す。
「お祭りは皆で楽しむものだわ。いばらたちだけ楽しんではいけない、なんてことはないのよね?」
 王の頭へ向けて、いばらは両手を伸ばす。
『……ええ。皆様が楽しめなければならない催しですね。塗られた薔薇たちも今頃心の涙を拭っていることでしょう』
 愉快な仲間の蔦の声が聞こえて、同時に吼え叫ぶ植物の頭と目が遭った。
 敵対者――彼がそう認識したエーリカ・クアッドが動くことで、大地が激しく鳴動し、響く地鳴り。茨の群れの中から滑り込むように、常識を超越した速度で問答無用に突っ込んでくる!
『ええと、主は"楽しさだけでは腹は膨れない"……と考えているようですね。綺麗に魅せる為には"養分"が必要で。でもこの国にはあまりなくて。取捨選択は常に迫られており……、"このような事"をすることで、迷い込んだものを誘い込むように仕組んでいたような気配を感じます』
「あら。いばらは術中にハマったアリスと同じなのかしら。あら、あら……」
 いばらの両の掌は、するすると"茨"に変異させて魔導植物に絡みつかせて、推進力を奪い取りタイミイングよく手放す。
 力技で突進を留めたわけではない。
 それは、怪力と捕縛で力の向きを籠めて見事に受け流している守りの戦術。
 それ以上どこへも進ませない、他の場所を壊させない。
 ただ、いばらに狙いを定めてくれればいい。
「アナタの攻撃を弾くのが目的よ?いばらのぷんぷんは、簡単には消えないの」
 突進を外し、地形により深く根を張り巡らせている気配が色濃く沸き立つ。戦闘力をより高め、張り倒して捕食しようというのか。
 いばらの背中にわずかに悪寒のようなものを、感じたくらいだ。
「蔦で出来る事なら、何度でも試してみて?お邪魔虫、しちゃうから」
 二度目の進撃、三度目の進撃を繰り返されてもいばらの受け流しの姿勢は変わらなかった。存在する場所からあまり動かないというのは魔導植物と同じ方法を選んだが、こうすれば走ったりして折角の衣装を乱してしまうことがなく。
 お祭りの催しの一部として、……より広く庭園の様子がよく見えた。
 他の猟兵の姿があることも、よく見えるのだ。
 ――お料理優先な皆の時間稼ぎよ。
 ――茨の生垣を相手にする気分はいかが?
 ――アナタの思い通りにならない子は、どうかしら。
『グァアアアアアアア!!!!!!』
『"煩い花だ"……でしょうか。抵抗し、手折れるような素振りのない貴方様に、そう苛立っているようです』
「煩い?」
 ふふふ、といばらは此処でようやく雰囲気が緩んだ。
 雰囲気なら、どことなく伝わったようだと分かったから。
「いばらは茨で、おしゃべり花なんだもの」
『おしゃべりなことは、良きことですよ』
「ありがとう。……蔦の仲間さんは自分で屈んで避けて頂戴ね!」
 四度目の進撃を今度は真っ向から両手の茨で捕縛し、拮抗する。
『おっと?了解いたしました。存分にやってくださいませ』
 ――物語を喜劇へ導くアリス達のお手伝いが出来るのなら。
 "おかお"をオレンジ色に染められた子たちに、見えるだろうか。
 "みえていたらいいな"と願わずにはいられない。
「――御免遊ばせ?」
 軽く息を吸って怪力で思い切り巨体の一部を引っ張って、レンガな石畳に魔導植物を叩きつける。例え無敵に近い身体であろうとぶつかったならば痛いだろう。茨の鞭は、そういう痛さが本来あるものだ。
 無敵の王だろうと、――花の痛みや悲しみを知らなければならない。
 特殊な薔薇を咲かせる王であろうとも。
 薔薇の棘に不注意に刺されることだって、あるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【宿神】
フィッダ召喚済

今度は美味い料理食わせろって?
この世界はやたら美食家な敵が集ってるンだなァ
さァて何作ろ

悩み中に狐珀達と遭遇

お前らも来てたンだな!
丁度イイ
一緒に作ろうぜ
簡単なモンなら作れるが、料理が凄ェ得意って訳でもねェし助かったわ

和食好き
ヒジキの煮物とみそ汁作る
人参、ヒジキ、油揚げを手際良く炒める
豆腐や長ネギを切り鍋で加熱
最後にワカメ入れる
器によそる

狐珀は本当料理上手だなァ(作り方眺め
イイ嫁さんになるンじゃねェの(ニヤ

多めに作り互いに味見
結構食べる

ン!炊き込みご飯美味いな
きんとんは食ったコトなかったケド、甘さ控えめで俺でも食える
敵サンも満足だろうよ

俺達の自信作、どうぞご賞味あれ

お持て成し


落浜・語
【宿神】3人

手伝い要員に呼ばれた気がして(ふざけて居る)
あぁ、杜鬼さんも来ていたんだ。
あんまり料理は得意じゃないが、何かやることあれば言ってもらえれば手伝うよ。
とりあえずはさんまが焦げないように見つつ、しめじを小分けにほぐしていく。こんな感じでいいかな?
あと何手伝えばいいかな。
色々やりつつ、聞こえた杜鬼さんの言葉に自分の事ではないけれど、少し動揺したり。
味見にかこつけてなんだかんだ結構つまんでいく。
狐珀のも、杜鬼さんのもおいしいな。

せっかくだから和食に合わせて、緑茶とかどうだ?
近づきついでにUC【紫紺の防禦】発動。植物みたいだしよく燃えてくれそうなぁ。


吉備・狐珀
【宿神】3人

クロウ殿も来ていたのですね
もちろん是非ご一緒させて下さい!

成程、和食…
それなら私は秋刀魚の炊き込みご飯と食後用に秋の味覚を使った金団を作ります
語さん、お手伝いお願いしますね

まずは炊き込みご飯
焼いた秋刀魚にささがきにした牛蒡と人参、小房に分けたしめじ
それらをお米とお出汁の入った土鍋に入れて隠し味に梅干を一つ
酸味が良いアクセントになるのですよ

次に金団
事前に蒸しておいた栗とさつま芋、南瓜を裏ごしして砂糖と一緒に火にかける
素材が甘いので砂糖は少なめに
布巾に包んで形成したら秋の味覚三種の金団の完成です

最高のおもてなしの為に味見も必要ですよね
というのは建前で
クロウ殿が作ったお料理食べたいです!



●かみさまのいうとおり

「……で?今度は美味い料理食わせろって?」
 ふーん?と面白がる杜鬼・クロウ。
「この世界はやたら美食家な敵が集ってるンだなァ」
「良い意味で摩訶不思議なモンは確かに多いな」
 散歩するまま、引き連れられたままの鬣犬がケラケラ控えめに笑った。例えば、愉快な仲間と呼ばれる者たちの姿形の千差万別な感じなど、例にあげればきりがない。
「さァて、何作ろ。先輩、何が良いと思うよ」
「俺様には超不向きな問いだ。……あいであも、ネコの手も貸せねェよ?」
 料理のメニューに悩みながら、フィッダの言うことにも理解はあった。
 爪の飛び出したままの獣姿では当然無理だろうとクロウも思う。なんだか……こころなしか鬣犬が拗ねている気配を出しているような気がしないでもない。確かに彼はあまり食べようとしないし、料理するような事を聞いた覚えがなかった。
「んー……」
 一人で考えるには限界というものがある。
 何が良いか、何を作ろうか。
 何か一つでも方向性が定まると想像しやすい事なのだが――。
「……おや?クロウ殿も来ていたのですね」
「おお、杜鬼さんも来ていたんだ」
 2つの声が一緒に掛かる。
「お前らも来てたンだな!」
「手伝い要員に呼ばれた気がして」
 吉備・狐珀は遠巻きに愉快なやり取りを眺めていたようで笑っていたし、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)はふざけて笑っていた。
「丁度いい、一緒に作ろうぜ?」
「もちろん是非ご一緒させて下さい!」
 クロウの提案に狐珀のぱぁ、と明るい声が返った。
 とても心地よい返事。
 では何がいいだろうか、と今度は3人同時に互いが出来そうな事を思案する。
「あんまり料理は得意じゃないが、何か指示があれば手伝うから。ふむ……例えば、和食とかは?」
「和食なら得意なほうだな、俺」
「成程、和食……それなら、私は秋刀魚の炊き込みご飯と食後用に秋の味覚を使った金団を作ります。語さん、お手伝いお願いしますね」
「わかった。じゃあ、はじめていこう」
 語がいうか早いか、秋刀魚を七輪を利用して焼き始める。
 都合よく七輪も、秋刀魚も直ぐ側にあったのだ。ああおかしいこともあるものだ。
 更におかしなことは連鎖して、着火剤が見当たらないのに炭は既に燃えていたというのが語の話。誰かが既に火を付けていた?明確な敵はいないようだから、誰かが手を貸しただけだろうが……それでは一体誰が。炭火の準備は万端だったので、網の上に新鮮な魚を並べて焼くだけという構図が完成していた。
 これこそ、三人寄れば文殊の知恵、というだろう。
 ポンポンとこうするのはどうか、という次の一手が思いつく。
「簡単なモンなら作れるが、料理が凄ェ得意って訳でもねェし助かったわ。……じゃあ俺、味噌汁ともう一品な」
 狐珀とクロウの手元には長机の上に包丁と、まな板。
 考えながら見ていた誰もが、必要とした食材は不思議とそこに存在した。
「牛蒡と人参はささがきに。あとは、しめじは小分けに……」
「ああ、しめじは俺が。小分けっていうと、こんな感じでいいかな?……おっと」
 手伝う、の言葉通りに秋刀魚が焦げないように様子を見つつ、しめじは語が担当した。時折ぱたぱたと風を送って程よく焼けるように器用に両方を熟して務める。
「ありがとうございます。それくらいが丁度いい大きさです。私の方もささがきが今完了しましたが、焼いた秋刀魚の方は……」
「ん。丁度よく焼けたっぽい」
「ではそれらを、お米とお出汁の入った土鍋へ」
 テキパキと慣れた手付きで土鍋に入れて、梅干しをぽつんとひとつ隠し味に。
 蒸らすまでに強火弱火と火加減を見る必要はあるが、蒸らすまで持っていけば完成はもう間近である。
「それは?」
「ああ、酸味が良いアクセントになるのですよ」
「成程?あと何手伝えばいいかな」
「あとはー……金団の、事前に蒸しておいた栗とさつま芋、南瓜を裏ごしを」
 この場において事前に蒸して置ける時間があったのか、という点はわりと些末なことだ。既に蒸してあるという謎の現象すらおこる。
 ハロウィン好きの愉快な仲間による悪戯である。きっと。
「砂糖といっしょに一緒に火にかけるです。あ、でも素材自体も甘いですから、砂糖の量は少なめに」
「……狐珀は本当に料理上手だなァ」
 二人の料理するさまを、興味深く作り方を眺めていたクロウの手元には、手際よく炒められた人参と、ヒジキ、油揚げ。
 料理工程の終わりの見えた鍋に、落し蓋をして。
 弱火で煮汁が無くなるまで、弱火で煮続ける工程をたどるそれはおそらく……ヒジキの煮物を作ろうというのだろう。食べやすい大きさに細切り切られた野菜を油で熱し、炒めて行く間に足されたものはクロウの好む調味料。調味料の内訳を二人が見て取る前に完了させていた為、何が入っているかは本人のみぞ知る。
 醤油や水、それら以外にもなんらかの隠し味が存在することだろう。
「イイ嫁さんになるンじゃねェの?」
 おもわずニヤリとしたくなる行動を見て、それは言の葉に乗った。
 手元は淡々と料理を作り出していくクロウの手助けに鬣犬が声一つ掛けてこないことをわずかに不思議に思いつつ、思った事を口にする。
 よく見ると周囲と背後、目の届く近場にはどこにもいない。
 みそ汁用に熱していた鍋に味噌を慎重に解き、おもむろに混ぜる。
 そこへ形を整えた豆腐と長ねぎを加えてぐつぐつと。
 最後にワカメを加えて、もうすこしぐつぐつと。
「……」
 色々率先して手伝いながら、クロウの言葉は不思議と語に刺さっていた。
 目に見えてはいないが、手元の作業が止まっている。
 自分のことではないけれど。少しの動揺が、はっきりと手元に出た。
 つんつん、と狐珀が語をつついてきた事で動揺は何処かへ息を潜める。
「布巾に包んで形成するんです、手頃な大きさに整えるといい感じになります」
 お手本、というように一つ狐珀が作ったモノをみながら、語も一つ作成を完了させた。少しだけ、動揺が映ったように歪んで見えたのは、気の迷いだろう。
「秋の味覚三種の金団の完成です!」
「お見事お見事。俺の方も完成っと。多少多めに作りあったことだし?」
「じゃあちょっと少しだけ」
 男二人の先制攻撃、持て成す前にまずは味の確認を。そうだな、重要だよな?
 パーティー机に座して良いという声は予め聞いていたことだし、と器によそいあって秋の味覚に舌鼓を。土鍋の蓋を開けてみれば、香る匂いに思わず頬が緩む。
「狐珀のも、杜鬼さんのもおいしいな」
 味見にかこつけて、なんだかんだ結構つまむ語。
「クロウ殿が作ったお料理、食べたいです!」
 最高のおもてなしの為の味見は必要不可欠、と狐珀も便乗してハロウィンパーティーは秋の味覚体験会へと変わる。
「……!」
 思わず言葉を失うくらい、おいしいものを食べると思わず食が進んでしまうのはよくあること。
「ン!炊き込みご飯うまいな。それにこれ、きんとんは食ったコトなかったケド……甘さ控えめで俺でも食える」
 味の好みにうるさいなら御の字。
 味覚バカでも思わずうなりだす、味だと太鼓判をおさざるおえない。
「これなら敵サンも満足だろうよ」
 三者三様、自分たちの料理の出来具合に満足して思わずニッコリ。
 勢いよく、穏やかな空気が漂いだした。

●一方、その裏側の獅子奮迅(笑)
 3人が話している間に、どたどたと鬣犬は魔導植物に向かって走っていった。
 近くで寝そべって、完成まで待つのもいいかと思っていたフィッダ。
 貸せる手は狐珀と語の料理準備にさりげなく手を出したが、あれが正しいかは、正直よくわからない。
 しかし、それとは別に、クロウの"手伝え"という頼みはまだ遂行中と密かに彼は考えていたのである。
 やはりそこは召喚に応じた分、真面目に仕事をしようとする心積もりだった。
 報酬を別途追加でふんだくればいいと勝手な結論をだして、役割分担として進んで標的になりにいったのが真相のようである。
 鬣犬の仕事はこの場における召喚主、クロウの邪魔をさせないこと――。
「俺様のなんとも言えない気分の腹いせに、てめェは派手に燃えて貰う!」
 色とりどりの永遠ノ薔薇が盛大に舞い踊り、魔力のあふれるそれらが攻撃の手が届く範囲を切り刻まんとするがフィッダは大きく息を吸い込んで、一気に吐き出す火炎で注意を引く。
 花びらが向かう先にわざと飛び込んで、燃やして黙らせる。燃やし残って多少の切り傷を負うことなど、致命傷でなければ気にするには及ばない。
 ――さあさあ、全戦力で俺様を狙え!
「ハイエナよりハイエナ根性出してんじャねえよ、腹立つわ」
 花弁は囮だった。大地を鳴動させて超速度で突進してくる魔導植物の姿。
 鬣犬は足に怪力を籠めて、その場のまま頭突で返礼してやった。
 速度の早いものを躱すだけ無駄。だからあえて、迎え撃った。
 ――目印なら此処で吼えているだろう。
 戦闘力アップなんて小賢しい事をされても困るというのが、野生の勘を元に行動した本当の理由だが、流石に反動でちょっと、視界が揺れた。
「……どうせ多少燃えたところで別に痛かねェんだろ?じャあ良いよなァ?」
 口角を上げて喧しい笑い声をあげて、魔導の植物をじわじわと攻め立てる。
 派手に炎を吐き散らした火炎攻めと、凍らせるには圧倒的に未熟過ぎる雑な氷の魔法を織り交ぜて薔薇園の国を相手に喧嘩を売り続け、果敢に挑む犬の姿がこの舞台の裏にあった。


「……いいにおい」
 毛並みを派手めにボロボロにしながら戻ってきた鬣犬フィッダが見たものは。
 味見し合う3人の姿だった。どうやら無事に完成したようである。
 狐珀もちゃっかり一緒に、味見の席について、実に満足そうな気配を感じ取った。
 時間稼ぎがちゃんと出来ていたことは誇らしいことだが、これは一体……。
「「「……あ」」」
「ヒトのこと忘れんなァ!!!!」
「いやいや、忘れてねえから」
 雰囲気ブレイカーの犬をクロウがそれとなく頭を撫でることで落ち着かせる。
「……クロウ?あとで俺様にも何か寄越せ、トリックオアトリートォ」
「あとでいいのか?健気だねえ」
 無言で服に噛み付いてくる犬をさり気なく無視して、欲しがりの魔導植物の前に持て成しの料理を並べていく。
「ウチの猟犬がじゃれついてたようで?待たせたな。俺達の自信作、どうぞご賞味あれ」
「味は俺たちで確認済み。当然悪いところはありゃしない……ああそうだ」
 語が、さり気なく飲み物をプラスする。
「和食に合わせて緑茶とかもどうだ?」
 近づくついでに語を護る紫紺の花びらが、揺れて踊る。
「程々な渋みがいい味をだすとおもうんだよな、これが」
『……!?』
 花びらがひらひらと魔導植物の身体の上に舞い降りて、勢いよく燃え始めた。
 燃え盛る色はBrodiaea。触れた者を燃やす、守護の花の彩りも此処につけよう。
「思った以上に派手に燃えてるなこれ!?」
「あんま痛がらねェわりによく燃える。燃やした。俺様散々試した」
「……どうりで焦げ臭いと…………」

『お見事です。まさか燃える飲み物(蔦の角度からはそうとしか思えなかった)まで出るとは……これには浴びるように炎ごと飲み込んだとしても、流石の主も無傷とはいきますまい』
 燃える身体を気にしていないようで、魔導植物エーリカ・クアッドは差し出されたもてなしを受ける。
 ぐぅううと喉を鳴らす獣のような音が、聞こえるものの。
 根を手のように使って料理を楽しむように食べている。
『主の言葉を翻訳いたしましょう。……秋!!!!!!!!実に良い着眼点をしている、和というものか。
 他者を持て成すことに趣をおく、優しい味がする。秋に豊かになる魚を主とする炊き込み飯の中に酸味を密かに包み隠し。隠し味の添えられた煮物……大豆を使った飲み物を、揃えたか。……バランスのとり方を熟ししている者のワザとみた。それに…………』
 かくん。話の途中で、魔導植物は頭を垂れた。
 一時的にとはいえ、話の途中で眠りに落ちかけたのだろう。
 燃え続けている炎を消去し、辺りには、真新しい焦げ臭い匂いが薔薇に混じって広がった。
『甘さを控えた、秋の味覚を詰め込みし金団を作りしはさては男どもではないな。……ふむ、実に…………』
 かくん。もう一度派手に、船を漕いだ。
『……お聞きになりましたか?主、ご満悦のようですよ。流石皆様方、様々な味と知識をお持ちなのですね』
 小声で囁くような愉快な仲間の蔦の声。
 大きな声で話そうものなら、簡単に起きてしまうほどの眠り。
『大食いで美食家というにはお粗末な生き方をしている主は、言葉を持ちませんが……。蔦に絡む私にはわかります』
 此処最近、薔薇を咲かせる反面。
 破壊活動だけをしていた主は――苛立つ気配を、完全に眠りの淵に収めようとしている、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
アレスの手伝いでクッキーを作る
型抜き?任せろ!
狼と鳥は…絶対作る
ふふん、見ろアレス!うまくできたぞ!

2台あるオーブンの前でうろうろ
焼くの時間かかるな…
俺の(型を抜いた)クッキーだけでも…
ちょっと温度あげたらさっさとできるんじゃねぇか?
炎の魔力を流し込み…炭を錬成

だって…アレスのクッキーおいしかったんだ
つまみ食いで空にした皿の前でしょーんと反省
アレスの料理敵にやるのは悔しかったとは直接言えはしないけど
俺の愛情こもった炭は残ってんだからいいじゃん
って…!アレス、そんなん食ったら腹壊すぞ!
…炭だからうまくねえだろ

敵が炭を渋ったら
良いからとっとと食いやがれ!
ダイレクト実食【星球撃】


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

攻撃には盾を地面に突き刺しオーラ防御…『閃壁』を展開
作ってあげるから、待ってくれるかい?

南瓜とココアのクッキーを作ろうか
これならセリオスも手伝いやすいだろう
うん、よく型抜けてる
あとは焼くだけ、その間守りを堅めに…

…行ってる間にセリオスのが炭になっていて
僕はもう一品作っているのだけど
…確かに待ってる間にと「君もどうぞ」とは言ったが…
…全部食べてしまうのはよくないな
…失礼
残ったクッキーを食べる
「セリオスが」作った料理だから。僕も食べたかったんだ
頑張って作ったのは伝わるよ、と頭を軽く撫でる

敵には【蒼穹眼】で近づこう
もう一品は林檎を薔薇のようにしたローズアップルパイだ
どうぞ召し上がれ



●食わせたもの勝ち

「作るなら……うん。僕は南瓜とココアのクッキーを提案しようか」
 机の上に広がる沢山の材料を流し見て。
 ハロウィンの様相を、アレクシス・ミラは重視した。
 本格的料理もいいだろうが、此処は一つ、ふわりとした悪戯で趣向を返そうと。
 クッキー生地が既に準備されていた食材の一つとして並んでいたことにだいぶ驚いたが、ありがたく使わせてもらってしまおう。
「攻撃的トリックオアトリートだ、顔面に叩きつけたらいい」
「そういうわけにもいかないだろう」
 セリオス・アリスの攻め急ぐ言葉に思わず笑ってしまう。
 そんなに焦らなくても、瞬間的寝落ちしている魔導植物の敵意は今は感じられなかった。むしろ、すうすう、と寝息が聞こえてくる気がするくらい。
 いつもう一度起き出すかわからない虎の子を無理に突く必要はないだろう、とアレクシスは首を振った。
「星型や丸いの、簡単な形状の型が準備されているようだ」
 ――これなら、セリオスも手伝いやすいだろう。
 アレクシスなりにそう考えて用意したしたものだ。
 予め見つけていてた型を手元に寄せて、クッキー生地の傍に置く。
「型抜きか?任せろ!それはそれとして、……鳥と狼のはないか?」
「んー……」
 緊急注文発生。これは果たしてあるのだろうか。
 がさがさと机の上で調理器具を動かしてみると、アルファベットのがあった。ちがう。ひらがな、カタカナ、文字のものがあった。ちがう。
 ――どこか、別の場所で違う型のみたような……。
 軽く温め済みのオーブンの横にあった型を確かめた覚えがなかったアレクシスが確かめると……動物型の型抜きセットが奇跡的に発見された。
 単純な形の枠組みとは異なって、妙に細かく、型抜きする難易度は高そうだったが見つけたと知るなりセリオスがそれをひったくる。
「絶対作る」
 強い言葉だったが、アレクシスの手伝いに進んで協力する姿勢のセリオスなら、きっと出来るだろうと太鼓判が押せる……気がした。
「うん。出来ると信じてる」
 クッキー生地を相手に、型を押し付けてくり抜く。
 そう、此処までは簡単に誰でも出来るだろう。
 あとは型からうまく剥がして……トレーに載せられれば……。
「ふふん、どーだ見ろアレス!うまく出来たぞ!」
 自信満々なセリオス。
 よく見るとちょっぴり角が丸くなっていて、後から生地が足されたような痕跡が見て取れた。
「ああ、よく型抜けているよ。あとはそう、焼くだけ……」

 ――ウォオオオオオオオン――――!
 大地を鳴動させるように、吼え叫ぶ声。
 うとうとするのを強引に振り払うように、大気ごと震わせる。
 耳を覆いたくなるほどバカでかい絶叫で、びりびりと肌で感じるほどの音圧。
 自身を眠らせ、打ち倒す存在だと主は確かに理解した。
 このまま眠りの海に堕ちたならば、知性が再び目覚めることはないのだと。

「とは言ってられないようだ。待ちきれない様子。あとはオーブンに入れておいてくれるかい?2つのトレーを、別々にいれるだけだ。時間は僕が設定してあるから」
「おう!」
「無事に焼き上がったら、君もどうぞ?」
 オーブンを見ればあとは作動させるだけ、まで準備は済ませてあった。
 これならば、失敗する可能性は殆どないはずだ。
『このまま眠らない、堕ちない!落とされる前に、喰らってやる……!』
 愉快な仲間の蔦の通訳が料理番を任されたセリオスの耳へと届く前に。
 捨て身にしか思えない魔導植物の頭脳が、猟兵二人の元へ強引な突進となって接近していた。
 常識はずれな速度は声の速さすら――越えた。
「おっと」
 アレクシスは巨大な力の動きを察知した。
 突進してくる頭部の標的がセリオスである気がして自身の後ろに隠して、アレクシスが機敏に、脅威を相手に立ちふさがる。
 魔導植物の攻撃は、地面に突き刺した盾から放つ光り輝く閃光の輝かしい壁で頑なに――阻む。
 ずしり、と衝撃が手に訪れる。重い。
 力比べの防衛ならば、少し分が悪い予感がした。
 だからこそ、進撃を明確に阻み、アレクシスはニコリと笑う。
「今作ってあげるから、待ってくれるかい?」
「……そ、そうだぞ、大人しく"待て"だ。待ちきれないなんて、行儀が悪いぞ」
 オーブンにトレーを突っ込んでから、焼き上がるまでそわそわと歩き回って落ち着かないのは誰だろうセリオスだ。
 待てが出来ていない。小窓から覗き込んで、焼き上がりをチェックするがイマイチよくわからなかった。
 ――焼くの、時間掛かるな……。
 うろうろ強いながら、セリオスは料理をするに浅い考えを口にする。
 物理的に解決するには、それが単純で時間短縮に繋がると思ったのである。
「俺のクッキーだけでも……」
 くぃ、と大胆にひねる温度調節のレバー。
 数字などきにするものか、ガッと回してしまおう。
「ちょっと温度あげたらさっさとできるんじゃねぇか?」
 じわぁあと急速に高温が上がるオーブン。
 ――炭火焼きとか、色合い見た目も合わせてこんがりいくもんな。
 それでもだ足りないと思うセリオスは、内部に魔力を流し込んで炭を錬成して、本人的には満足げ。
 こんがりだけでは済まない火力が、目に見えてゴォオオオオと内部を焼くのだが。
 セリオスはそれがおかしいものとは思わなかったようだ。
 ぴぴぴと良い音がして。焼き上がった音が鳴り響いたのは、ほぼ同時。
「よぉし!」
 ミトンを嵌めて、意気揚々と取り出したトレーの上にセリオスが見たものは作り上げたクッキーという名の炭。
 自分の作った炭と、アレクシスの綺麗にこんがり焼けたクッキーとの差が激しく。
 おいしそう、と思うのは勿論――。

「……成程、僕が行ってる間にセリオスのが炭になっているね?」
 少し目を離していた間に、起こった不思議の事件。アレクシスのクッキーは、皿の上に移されていたが……その全てがなくなっていた。
「だって……アレスのクッキー超おいしかったんだ」
 つまみ食いの気持ちは大いにあったセリオス。
 視線はだいぶ寂しくなった皿にばかりいってしまう。
 ――アレスの料理敵にやるのはなんか悔しかったし。
 ――ひとりじめ、は悪いコトとは、思ったけどさ……。
 手が止まらなくなるくらい、美味しいクッキーの前で大人しくアレクシスを待てなかった。皿の前にしょんぼりとした雰囲気が漂っている。
「そうか……確かに、僕は待っている間に『君にもどうぞ』とは言ったが……」
 そのままの意味で、つまみ食いは起こるものと予想はしていた。
 ただ、量が違ったので、別にもう一品仕立て上げ、オーブンにトレーを入れて苦笑を浮かべる。
 ふんわりと漂う薄く切られたりんごの香り。
 手を拭きながら、後はもう一品の出来上がりを待つばかり。
「全部食べてしまうのは、よくないな」
「俺の愛情こもった炭は残ってんだからいいじゃん!」
 一緒に作った"全部"ではないと主張するセリオスが、視線を上げてアレクシスを見た時。
「……失礼」
 セリオスが生成した炭をつまみ、口に運ぶのが見えた。
 目に見えて真っ黒のそれを、躊躇なく。
「って……!アレス、そんなん食ったら腹壊すぞ!そんなん……炭だからうまくねえだろ」
「これは"セリオスが"作った料理だからね、僕も食べてみたかったんだ」
 味の感想は……なんて、不安そうな表情を見て取ったのか。
 アレクシスは笑うのだ。
「大丈夫。頑張って作ったのは伝わるよ」
 軽く頭を撫でて、怒っていないという気持ちも一緒に伝えるように。

「さぁて。そろそろ良さそう……かな、うん。大丈夫そうだ」
 急ぎの加熱ではあったが、アップルパイはこんがりと見事に焼き上がっている。
 渾身の出来栄えだ。
「……セリオス?これは流石にダメだよ」
「わ、分かってる!」
「運命も未来も。……もう見えてる。だいぶ待たせた。さあ、どうぞ召し上がれ」

 ――グアァアアアア!!!――――。

 蒼穹眼を向けたアレクシスには、差し出されたものを食べるという行動が見て取れた。更にその先で、セリオスがなにを仕掛けるのかも。
 それが最適な結末を迎えることも。
 だからこそ、持て成しのパイを与えることに躊躇はなかった。大きなワニ口を揺らして。宙へと舞い上げられたローズアップルパイに喰らいつく。
『待った!これほどまでに充満した優しい匂いの中で我慢を強いるとは、ハラペコな者への拷問か?いい性格をしている。さすれば、更に美味しく感じるとでも思ったのだろう?……悔しいが、これは薔薇の勲章でも送ってやりたいくらいだ。だれかこの者たちに形ばかりの勲章を与えろ!』
 魔導植物の感情を通釈する蔦の言葉からは、賞賛の言葉ばかりがならんでいた。もぐもぐと、咀嚼する音がずっと聞こえている。
 食べ終わるのを、惜しんでいるかのような長さだ。
「アレクのパイがうまくないわけ無いだろ。じゃあ俺のクッキー(炭)も食べようぜ?」
 ぴたり。
『ぐあ?』
 空気が止まったような、そんな気がした。
 今の鳴き声はなんだか通訳されなくても分かった気がする猟兵の二人。
『おや?食べたくない気配があったかと思ったら、主はもう、寝落ちている……?』
 ローズアップルパイのもてなしに、これまでの料理の蓄積がとどめを刺したのだ。
 敵意は眠気に負けて、思考はもう攻撃性を持たず沈黙している。
 セリオスの狂気的なクッキーの毒々しさに、薔薇の花びらでの攻撃で抵抗しようとしたようだが、永遠の薔薇は攻撃に転ずることなくひらひらと、散って終わった。
 特に、セリオスはニッコリ笑って渋った魔導植物へ向かって軽く助走をつけた、跳躍を――。
 もう完全に眠ってる?そんなの関係ねぇ!!!

「いいからとっとと――喰 い や が れ !!」

 渋った客への制裁は、魔力を集中させた手に携えた炭の数々。
 超高速かつ、狙いすました一撃は。
 ダイレクトに顔面に叩き込まれる。差し出された者は食う。
 眠りを妨げる前衛的、強制イートイン。
 皿ごとぶつける打撃攻撃に、勿論感想の言葉は返ってこない。
 勢い良く、後ろへと倒れて魔導植物『エーリカ・クアッド』は完全に沈黙した。
 頭脳は昏睡し、薔薇を咲かせるだけの機構としてこの国を活かすだけの歯車となるだろう。

 この国は薔薇園の国。
 作業員も薔薇を咲かせるモノも居なくなってしまえば、何も残らない。
『お見事。ハロウィンとは最終的に物理で攻めるのですねえ勉強になりました』
 愉快な仲間の蔦からそんな言葉を言われては、苦笑しか返せない猟兵達。
 ハロウィンの国に改竄されたこの国だが、アリスを陥れるような罠はもうこの国に存在しない。
『感謝を言葉でしか言い表せないのが悔しいのですが。もし入用ならどうぞどうぞ、ご自由にご来園くだされば。ほかの仲間の蔦一同、歓迎しましょう。……わずかには早いですが皆様方、ハッピーハロウィン。よき、休日を過ごされますように』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月27日


挿絵イラスト