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奪憶恢思フォゲット・メモリーズ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●私を忘れないで
 少女は恐れていた。記憶の欠落。毎日毎日、何か、大切なものを失っていく恐怖に魘されて。人間の血の味も、恐怖に怯える顔も、希望を与えてから絶望に叩き落した時の快楽も。全部ぜんぶ、忘れてゆく。そのくせ戦い方や礼儀作法といったどうでも良い事は覚えているのだ。全くままならない。
 ――どうしてこんなことになってしまったの? 私が何か悪いことをした? いいえ、そんなことはどうでもいい。どうせそれもすぐに忘れてしまうんだもの。どうでもいいことをすぐに忘れるのは、悪い事じゃないけれど。
 忘れることが許されない記憶があった。そこには絶対上位者である自分が、下々の者を従えるという前提のもと成り立っている。しかし、こうも何もかも忘れてばかりでは、いつかそれすら忘れてしまうのではないかと怯えた。私は、私だ。今も昔も、例え記憶を失おうとも! それだけは少女の譲れない矜持。
 でも、素敵な思い出があったこと、それは覚えている。だったら、それをまた『再現』して、またやり直せば良い。忘れ得ぬまで何度でも、この魂に刻まれるまで。

 適当な領民の血を啜りましょう。そうすれば味も香りも思い出せる。甘い? それとも辛いかしら。
 恐怖に怯え縮こまる身体に、痛みを与えてあげましょう。そうすれば私は笑顔になれる。
 希望を与えてから絶望に落とすのは、少し手間だけど……その分素敵で愉快な思い出になる。
 そしてまだ私の知らない思い出があるのなら、それすら手に入れて私のものにしてみせる。

 さぁ、まずは人間が必要ね。そういえば、この『残影』たちはどうして私に従っているの? 分からない、何も思い出せない。でも、従っているということは、私が上位種ということね。であれば、使役することに何の疑問もない。人間をいくつか見繕ってきて頂戴。
 嗚呼、大丈夫。まだ覚えていることもあるのよ。例えばそう……人間は思い出に固執することとか。大切な記憶を失うことを恐れている。今の私の様に。でも、可哀そうに……人間は同じ時間を繰り返す事は出来ないの。失ったら二度と戻らない記憶を奪われるのは、さぞ恐ろしいでしょうね。
 ふふ、考えるだけでたまらないわ! その絶望を楽しみに、私は記憶の『再現』を開始することにしましょう。『嘘』がつけないように、確りと心の奥底まで抉り取ってあげる。

 私はモーラ、それだけは最後まで忘れない。嫌いなモノも、好きなモノも、何もかも忘れてしまう代わりに……何度でもそれを楽しむ事が出来る。こんな私を、私は大好きよ!

●グリモアベースにて
「記憶を取られる、というのはあまり気分が良いものじゃないね」
 グリモアベースに集った猟兵に、自身も記憶が曖昧なトート・レヒト(Insomnia・f19833)は話しを続ける。思い出――記憶と言うのは、人を構成する大事な一要素だ。大事な記憶が無くなるというのはその人の在り方そのものすら変えてしまう可能性すらある。
 そんな相手が今回の相手だ、とトートはグリモアを再び照射し、蒼い帽子を被った少女を映し出す。一見無害そうに見えるが、これでも強力なオブリビオンだ。何故ならこのオブリビオン・モーラの能力は『記憶を奪う』こと。人の記憶を奪い、戦意を抑え込み、命を刈り取る。一度奪われてしまったら、記憶を取り戻す覚悟と強い意思がなければ、一生失ったままになってしまうだろう。
「彼女と戦う前に、『残影』と呼ばれるモーラによって殺害された者たちが集合し構築された死霊の集団とも戦うことになる。敵も味方も無差別に攻撃したり、魂の炎を飛ばしてくる。一体に苦戦することはないだろうが、数が多い。囲まれないように注意してくれ」
 残影は記憶を取って食ったりはしないが、己の感情に機敏に反応してくる。復讐心、憐憫、悲観……そんな心で埋め尽くされた彼女らの胸の裡がどうなっているのかなど、誰も分かりはしない。分かったところで、どうせ救えやしないのだから。
「全ての仕事が終わったら、月明かりの下でのんびりしてくれて構わないよ。そのくらいの時間の余裕はある。思い出に浸るのも良いかもしれないな」
 トートは説明は以上だとグリモアで一人ずつダークセイヴァーに転送させていく。大切な記憶が決して奪われないようにと祈りながら……。


まなづる牡丹
 オープニングをご覧いただきありがとうございます。まなづる牡丹です。
 今回の舞台はダークセイヴァーにて、『忘却』のオブリビオンと戦って頂きます。

●第一章
 『残影』。
 モーラに様々な手法で殺害された人間の、魂の集合体です。一体はそれほど強くありませんが、数が多いので基本的に文字通りの集団戦になります。囲まれた時の対処法を書いておくとかっこよく活躍できるかもしれません。

●第二章
 『忘却のモーラ』。
 自分の大切なものを覚えていられないことが歯痒く、それに苦しみ、しかしそれすらも忘れてしまいそうな程、不安定なオブリビオンです。思い出を再現する為に、他者を苦しめ、更には大切な記憶を採取し、自身のものとしようとしています。

●第三章
 『月明かりの下で』。
 思い出に浸る時間くらいはとれましょう。

●特記
 2章において、PSWに関わらず敵は記憶を奪う行動を行ってきます。それに対し「何の記憶なのか」と「どう抵抗するか」を記入してください。
 (特に明記の無い場合、完全なアドリブとなりますのでオススメしません)
 MSページにもあります通り、判定そのものや攻撃・回復はキャラクター様の選んだユーベルコードを使用します。

●プレイング送信タイミングについて
 各章ごとに断章を執筆します。第一章の受付は11月10日の8時31分以降です。
 2章以降はMSページにてプレイング受付期間を告知いたしますので、お手数ですがご確認お願いします。
 (基本的に断章を投下した次の日よりプレイングを受付致します。申し訳ありませんがそれ以前に送られたプレイングは返金とさせていただきますのでご了承ください)

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
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第1章 集団戦 『残影』

POW   :    怨恨の炎
レベル×1個の【復讐に燃える炎の魂】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
SPD   :    同化への意思
【憐憫】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【異形の肉塊】から、高命中力の【絡みつく傷だらけの手】を飛ばす。
WIZ   :    潰えた希望の果て
【悲観に満ちた絶叫】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 それは、悲鳴だった。それは、嘆きだった。それは、断末魔だった。希望を摘み取られ絶望し死んでいった人間たちの魂はやがて一つとなり、オブリビオンとして復活した。
 しかし悲しいかな、それを操るのもまた、彼女ら人間を苦しめたオブリビオンの下なのだ。結局、どこまでいっても逃げられない因果が、彼らを鎖で繋いでいる。
「ハい……領主様……人間を、捕まえてマいります」
 立ち塞がるは猟兵。此処から先は彼女らの記憶に触れることになる。

 例えば、ある者は生きたまま麻酔も無く腹を引き裂かれた。
 例えば、ある者は四肢を捥ぎ取られ見世物にされた。
 例えば、ある者は物語の怪物の様に体中を継ぎ接ぎにされた。
 例えば、ある者達は地下空洞を掘り進め村から脱出しようとした先に、領主がそこに鎮座していた。

 可哀そう? いいえ、分不相応だったのです。私たちは所詮、搾取される側の者。上位者である領主様に逆らおうという思想そのものが愚の骨頂だったのです。ですから、皆様も――。
「苦しまれる前に、領主様の処へ連れて行って差し上げますね……」
肆陸・ミサキ
※絡み怪我苦戦ok

心情:
いつものことと言えばそれまでだけど、この世界ってば、全く救いがないね
だからこそ僕らが居るのだけれど、やれやれ、優しい人には向かない場所だよ、ここは
憐れみというか、情けが無い訳じゃないのだけど……君達の不幸を他人に押し付けるなよ、ってことで


戦闘:
装備した黒剣を剣、槍、斧の形態に適宜変形させながら戦うよ
か弱いからね、僕は
距離がある内はネクロオーブから光熱を放って焼くよ
ものすごい接近されたら殴り飛ばしてしまおう

囲まれたり、炎の対応がキツいときにUCを使うね
技能の怪力、範囲攻撃、焦熱、捨て身の一撃を用いて出来るだけ打ち払おう




 残影達だって、別に好きでこんなことをしているのではないのだ。しかし、死して尚領主であるモーラに逆らえないでいる。輪廻の輪を外れ、永久に過去から侵略し続けるだけの存在となってしまった彼らに、救済は無い。
 ――嗚呼もう全く。いつものことと言えばそれまでだけど、この世界ってば、全く救いがないね。そう呟いた肆陸・ミサキ(SolitusVamp・f00415)は、肩をすくめた。だからこそ僕ら猟兵が居るのだけれど、やれやれ、優しい人には向かない場所だよ、ここは。
 残影はミサキを素早く取り囲むように並んで、幾つもの復讐に燃える炎の塊を操り一気に中心に向かって投げつける! やれ、まともに喰らえば火傷では済まないけれど……黒剣を斧状に変形させぐるりと一回転。炎の群れを薙ぎ払う!
「憐れみというか、情けが無い訳じゃないのだけど……君達の不幸を他人に押し付けるなよ」
 ってことで。と締めて、ミサキは次いで黒剣を槍状に変え一点突破。囲まれた状態からまずは脱出する。か弱いからね、僕は。なんてのは、本人の弁。次々現れる残影の姿に辟易しながら、距離のある内にネクロオーブより光線を放ち焼き尽くす。
 残影の内誰かの過去がフラッシュバックする。それは、生きたまま焼かれモーラに食べられた記憶。痛い、苦しい、熱い。誰か助けて! ――誰も助けになんかこないよ。誰だって自分の命は惜しいでしょう?
 その過去を見て、ミサキは思った。彼らは考えうる何もかもやられて、それでも生き延び、しかし最後には死んでいったのだと。心に残るのは何も大切な記憶だけじゃない。恐ろしく、忘れたい記憶だってある。それを『領主様』は、彼らに刻み付けて殺したのだ。
『お待ちください、領主様……今一度私たちにチャンスを……!』
『領主様、お願いです。今回だけはお見逃し下さい……!』
「君達は……一体『誰に』赦しを乞うているんだい?」
 残影はどこにでもいるオブリビオンだ。モーラの元だけじゃない、各地で見かける存在だ。故に、本当の『領主様』なんてものはもう存在しない可能性だってある。それなのに、残影は過去に囚われ続けている。それだけこの館で執り行われていた記憶に関する追体験が恐ろしいものだったのだろうか。
 残影は館の天井からすり抜けるように落ちてきて、再びミサキを囲み炎を撒く。先程よりも数が多い。ならばこちらも本気でお相手しよう。内に秘めた二つの魂を覚醒させ、異端の吸血鬼に変身する! 渾身の怪力でもって残影ごと黒剣で炎を断ち、炎すら消し炭にする焼却を起動させたら、もう止まらない。
 ザッ、と振るう捨て身の一撃は敵にミサキを攻撃する隙も与えてしまうが、関係ない。どうせ倒すのだから。早いか、遅いかだけ。残影の操る炎がミサキを焦がす。じっくりと低温火傷のように染み入る痛みに、思わず顔を歪めた。こういう焼かれ方をして逝ったのか、君達は。
 ならば僕は、痛みを感じる暇さえ与えず君達を天へと送ろう。願わくばもう会わないことを祈って――。

成功 🔵​🔵​🔴​

春乃・結希
『with』を振るい、敵陣の奥へ突き進む
負傷は炎が補ってくれる【激痛耐性】
ひたすら前へ前へ

これがあなたの思い出…
絶望の中で、最期を迎えたんですね
つらかったね、可哀想…なんて、思わないよ
…普通の女の子を演じているけど
本当は、『with』以外の存在がどうなろうと、興味なんて無いんです
私はただ、絶望が嫌いで、それに屈する人を見るのも嫌なだけ
『with』と私の前に立つなら
誰であっても叩き潰す

周囲を囲まれたらUC発動
薙ぎ払い【重量攻撃】、抜けてくるものがあれば『wanderer』で蹴り飛ばす

あなたの過去に何があったかなんて関係ない
今のあなたが絶望を与える存在なら、消えてください
希望へ向かう、この世界から




 超重量で防御ごと叩き斬る、漆黒の大剣『with』を振るい、敵陣の奥へと突き進む。相手の数は多く、召喚した異形の肉塊から、傷だらけの手を絡みつかせてくる。うっとおしい、でも恐れはない。負傷補は炎が補ってくれる。ひたすら前へ、前へ。
 悲鳴と共に聞こえるのは残影が見せる過去。愛しい人と文字通り引き裂かれた記憶が蘇る。
「これがあなたの思い出……絶望の中で、最期を迎えたんですね」
 つらかったね、可哀想で、頑張ったんだね……なんて、思わない。……普段は普通の女の子を演じている春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)だが、本当は『with』以外の存在がどうなろうと、興味なんてないのだから。
 ――私にとって『with』が全て。『with』が居る限り私は無敵。そう証明する為にも……私は負けられない!
 結希は絶望が嫌いで、其れに屈する人を見るのも嫌なだけだ。『with』と結希の前に立つというのなら、例え神であっても叩き潰してやるまでだ。確固たる意志が結希を振るい立たせる。
 周囲を囲い壁を作る様にしてこれ以上先へ進ませまいとする残影たちに、重量攻撃を乗せた薙ぎ払いをお見舞いする! ズシャッと斬り刻まれる霊魂は再びくっつき再生すると、地面から肉塊を出して結希の動きを封じ込めた。
「邪魔ですよ」
 『wanderer』で肉塊を思い切り蹴り飛ばし、再び灯る蒼い火に視線をやる。数の上ではこちらが圧倒的不利……であれば、それ以上の破壊力を以てして一撃のもと葬り去るしかない。『with』に力を込め、瞬時に刀身を巨大化させれば、それは残酷な処刑人の道具だ。
 ぶんっと振り回した一閃は『きゃああああ』とか『いやぁああああ』といった悲鳴に代わる。耳障りな声。でも『with』と一緒なら、心地よい響きにもなる。あなたが奏でる音楽は、とても頼りになるから。そうして次は足元の肉の塊。一度踏みつけて、脚が自由になったらぐしゃっと潰す。
 それだけでは終わらない。残影は火を操り結希の邪魔をしてくる。でも残念、炎を操る術は、結希の方が上手! 復讐の火を炎で蹴散らして、再び巨大化した『with』を3回振るう。嗚呼、悲しいかな、残影は辞世の句を残す事もなく静かに入滅していく。滅びは手にした『with』が叶える。
「もう心配する必要なんてないんですよ。全ては私たちが切り裂いて見せますから。ええ、あなた達の過去も、その原因を作ったオブリビオンも、全て」
 刀身に手を当て、覚悟を決めたら一直線に残影達を叩き斬った。まるで潰すように圧し斬るその勢いは、まさに巨大な剣に相応しい。この力には怨念も執念も関係なく逝くことが出来ただろう。オブリビオンである限り、永遠に彷徨うことになるだろうが……そんなことまでいちいち面倒はみていられないのだ。
 彼女らの過去に何があったかなんて関係ない。今の彼らが絶望を与える存在なら……消えて下さい。希望へ向かうこのダークセイヴァーから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

廻屋・たろ
残ってるのが苦しい記憶だけなんて気の毒に
それともその記憶が、お前がお前であるために必要なのかな?なんて
なんにせよ、他人まで同じ目に合わせる悪い人になってしまう前に
終わらせてしまおうか

悲観に満ちた絶叫には[狂気耐性]で耐える

集団で来るっていうならいっぺんに相手してあげる
3種のカトラリーを振るって[貫通攻撃]でまとめて[串刺し]

囲まれたのならUC【中傷】を発動
長い間逆らうこともできず――することも諦めて、辛かっただろうね
その苦しみも想いもまとめて[切断]してやろう

俺も自分自身のことはよくわからないけど
その分これからのことは覚えておきたい
だからお前たちの事を忘れたりはしないと思うよ、多分

アドリブ歓迎




 魂に刻まれたほんの僅かな、しかし当人を苛む記憶。残っているのが苦しい記憶だけなんて、お気の毒に。それに「それとも」と繋げて。
「その記憶が、お前がお前であるために必要なのかな? なんにせよ、他人まで同じ目に合わせる悪い人になってしまう前に終わらせてしまおうか」
『アアアアアア!!』
 悲観に満ちた絶叫は持ち前の狂気で受け止める。なんて声だろう、叫ぶことでしか自分を表現できないのか。可哀想だとは思うけど、共感はしない。誰かを同じ目に合わせて、自分が浮かばれるわけじゃないのだ。であれば、誰かを傷付けることは許さない。
 廻屋・たろ(黄昏の跡・f29873)の周りにふわふわと浮いて回りながら、じわじわと迫ってくる残影達。集団で来るっていうならいっぺんに相手してあげる。ざくざくさんで斬り刻み、ぶすぶすくんで串刺しに、ぐりぐりくんで身体を抉り取り、最後にひとまとめに仕上げて貫通からの串刺し!
『痛いよぉ、助けてよぉ』
『領主様……この者は私どもでは手に負えません……』
「当たり前だろう、お前達程度にやられるほど貧弱じゃないよ」
 再び絶叫を放ち敵も味方も巻き込んだ音響の無差別攻撃がたろを襲う! その技はもう見切ったけど……こうも多いと五月蠅い。鼓膜が破れて、三半規管までイカれそうだ。囲まれたところにカトラリーを枯れかけたイラクサの花びらに変え、衝撃波の様に自分を中心に放射状に展開する!
「長い間逆らうことも出来ず――することも諦めて、辛かっただろうね」
 その苦しみも想いもまとめて切断してやろう。花弁は刃のように鋭く散ると、残影達に纏わりついて傷つけていく。深く、浅く、未練も願いも断つように、奥へ。お前達だって本当は、領主なんかに従いたくないんだろう。しかし生前の遺恨が、此処に彼らを縛り付けている。
 たろは両の掌を見た。――自分自身のことはよくわからないけど、その分これからのことは覚えておきたい。嬉しい事も、楽しい事も、辛い事も、苦しい事も……そして、傷付ける誰かと、傷つけられる誰かがいることを。だから、お前たちの事も、屹度忘れたりはしないと思うよ……多分、だけどね。
 さぁ、そろそろ前菜も飽きてきた頃だ、早くメインディッシュにありつきたいな。そう思ったたろはざくざくさんを構え、囲まれていた状態から回転切りでぎゅうぎゅうと押し込んでは絶叫をあげる残影を切り裂きまくった! 血も零れない唯の影に、たろは酷く虚しい気持ちになる。
 これが彼らの末路。永遠に救われもしない、領主の意のままに操られる人形。人間だった頃、彼らの希望はどこにあったのだろうか? それを知ったところで、何も変わりやしないけど。
「最後に教えてあげる。イラクサの花言葉は――」
 領主に従順な振りをして、己の絶望を振り撒くお前達が救われることは……悲しいね、恐らく二度と無いよ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三嵩祇・要
なんでこうオブリビオンってのは胸糞悪い事しやがるんだか
はぁ…

わざわざ迎えに来てくれるとはラッキーだよ
本物の足が手に入るのはもう少し先なんでな

「残影」達と対峙すれば「気の毒に」と思っちまうだろうな
残影だろうが肉塊だろうが、囲んでくれるとは大歓迎
全部まとめて【電光雷轟】で消し炭にしてやる
近くの敵は導雷針、距離のある敵には雷電で追い打ち

おわ
やっぱ仮義足じゃオレのユベコに耐えられねぇか
完全にぶっ壊れる前に
さっさと終わらせようぜ
お互いの為に




 悲鳴、怒号、絶叫。戦場に響き渡る哀しい声。しかし彼らは決して苦しんで等いないのだ。生ある者を羨み、憎んでいるだけだ。だから其処に憐憫の情を向けてやる必要などない。三嵩祇・要(CrazyCage・f16974)は溜息を零しながらも残影達を一体ずつ屠ってゆく。
「なんでこうオブリビオンってのは胸糞悪い事しやがるんだか。はぁ……」
 彼らもなりたくてこうなったわけではないと、頭では理解している。残影を「気の毒だな」と思わないでもない。しかしこうなってしまった以上、彼らは人類の敵なのだ。葬り去るのが猟兵の役目。いっそ迎えに来てくれるとはラッキーだ、本物の脚……義足の嵌った右足では、戦うのに少し心許ない。
 ――本物が手に入るまで、あと少しの我慢だ。それまでは、持ちこたえてくれよ。
 足元から、或いは両の壁から召喚された肉塊から伸びてくる手。嗚呼いいよ、大歓迎だ! 全部まとめて【電光雷轟】で消し炭にしてやる。雷によってボロボロと崩れ落ちる肉塊に、残影はチッと舌打ちをして、くるくる要のまわりを漂い出した。まるで死者に贈る手向けの輪舞曲のように。
「さっきの奴らのお返しか? 安心しろよ、すぐおなじところに連れて行ってやる」
 近くの残影には導雷針で着火するような瞬間的な落雷を、距離のある残影には雷電で追いかけまわし仕留める。一体たりとも逃がさない。踏ん張ろうとして其処で初めて、ぐらっと身体がよろめいた。一瞬の躊躇い、その隙に残影は遠くに逃げる。
「おわっ……やっぱ仮義足じゃオレのユベコに耐えられねぇか」
 それはそうだ、普通の義足。スポーツ用でも、ましてや猟兵用でもない普通の義足が、ユーベルコードの圧倒的なショックと瞬間的な移動力に耐えられるはずもない。悔しかった。寝転んで大声をあげて、クソっと叫んでやりたい気持ちになった。
 そんな事をしてもしょうがないのは分かっているからやらないだけ。――嗚呼でも本当に、こいつらと、あとは元凶を倒せば良いだけなんだ。だからもう少し持ってくれよ。
『お前は弱そう……他の猟兵とは違う……私たちはお前を連れて行く』
「おーおーそうかい。そう見えるかい。結構。んじゃさっさと終わらせようぜ、お互いの為に」
 義足が完全にぶっ壊れてしまったら、要は一人で立つことも出来ない。そうなっては一貫の終わりだ。そうなる前に、早めにケリをつけよう。何、こいつらは所詮雑魚。大ボスの前の前座。だったら前座は前座らしく、早々にご退場願おうか。
 膝をつく要の元に再び残影が戻ってくる。そいつらに鞭のようにしなる雷電が絡みつく。そこから一気に高圧電流を流し、痺れて動けなくなったところを一体一体死に誘う電流を通した導雷針で撲殺していった。残影達は驚いてようとするがもう遅い。痺れて動けなくなった体は、まともに動いてくれない。
「ハッ、お前たちもオレと同じだな。もうマトモに動けねぇ……でもなぁ」
 オレにはまだやることがあるんだよっ! と、最後の一体を殴り倒し、要は領主館の奥に進む。残影に刻まれた死の記憶を、そして、自らの記憶と向き合う為に――。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…いいえ、それは違うわ。間違っている
…貴方達は決して搾取される為に生まれてきた訳ではない

…祝福されて生を受け、未来を紡いでいくはずだったのよ
それを奪われた怒りを、哀しみを、忘れないで

左眼の聖痕に魔力を溜め周囲の魂を暗視してUCを発動
心の傷口を抉るような呪詛を耐性と気合いで耐え、
全身を闇属性攻撃のオーラで防御して覆い敵陣に切り込み、
大鎌を乱れ撃つ早業で敵を浄化して回り、
包囲された時は大鎌を怪力任せになぎ払うカウンターで迎撃

…これ以上、貴方達が誰かを傷付ける前に終わらせる
…それが、間に合わなかった私に出来る唯一の手向けよ

戦闘後、彼らに心の中で祈りを捧げる

…もう苦しむ必要は無い。眠りなさい、安らかに




 分をわきまえていなかったのが原因なのか? 人間には自由意思があり、それを主張することが出来ると、誰が言い始めた? 結局は何も叶わなかった。ただ搾取され、踏み躙られ、惨めに死んでゆく。それが私たちの運命……。
「……いいえ、それは違うわ。間違っている。……貴方達は決して搾取される為に生まれてきた訳ではない。……祝福されて生を受け、未来を紡いでいくはずだったのよ。それを奪われた怒りを、哀しみを、忘れないで」
 それは希望であり、夢であり、そして願いだった。リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の切なる想いに応えた残影は、復讐に燃える業火を放ち、誰も彼も、何もかもを焼き尽くそうと暴れ回る。数が多い、その分火の手も。
 早めに終わらせなければ。私の為に、後に続く猟兵の為に、そして彼ら残影自身の為に。炎の魂はゆらゆらと揺らめいて、あちらこちらに飛び火した。不思議なことに館自体には燃え移らない。領主の住む館を傷付けてはいけないという制約が、心の内にまだ残っているのだろう。
 左目の聖痕に魔力を溜めるリーヴァルディは、周囲の魂を暗視し、それに死霊や怨霊の魂で覆い被せる。炎の魂は静かに消えていくものもあれば、暴れ出すものもあり様々。炎の魂が放つ心の傷口を抉るような呪詛を根性と気合で耐えて、全身を闇属性のオーラで防御して敵陣に切り込んでいく!
「……これ以上、貴方達が誰かを傷付ける前に終わらせる。……それが、間に合わなかった私に出来る唯一の手向けよ」
 身の丈程もある大鎌を早業で以て制し、ヒュンヒュンと音を切りながら乱れ撃つ。同時に敵を浄化して回り、一体ずつ確実に仕留めていく。圧倒的な戦力差に残影達はリーヴァルディを囲み、逃れられないよう次々に火を放ってゆく。
 大丈夫、包囲された時の手筈もちゃんと考えてある。大鎌を怪力任せに薙ぎ払い、炎魂を跳ね返すようにカウンターで迎撃する! 渾身の炎が返ってきたら、残影達も慌てふためき散り散りになるというもの。其処からまた一体ずつ浄化の力が残影を骸の海へと連れ去って行く。
「……貴方達の誇りも、絆も、命さえも奪ったオブリビオンを……私は決して逃がしたりはしない。だからもう、貴方達は逝きなさい」
 呻きながら、騒めきながら、残影達は大鎌の露となって消えた。もう何も恐れる事は無い、魂が繋がっているというなら、その楔、此処で断ち切ってみせる。リーヴァルディは近場の一体を狩り、館の奥へと走り出した。後ろは振り向かない。彼らに心の中で祈りを捧げる。
「(……もう苦しむ必要は無い。眠りなさい、安らかに)」
 骸の海の漣に、ただ静かに揺蕩いなさい。願わくば、もう二度とこちらの世界に戻って来ませんように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
生ある者が憎いか?妬ましいか?殺したいか?
その絶望から救われる方法はたった一つ、死だ。
UC「禍ツ凶魂」
呪獣『ソウルトーチャー』にて怨恨の魂を喰らい尽くそう。
ソウルトーチャーを前面に押し出し敵UCを受ける【盾受け】
あの炎が魂ならば我が呪獣の餌にしかならんわ!【捕食】
そしてそれは魂の塊である残影達も同じ事
抵抗するなら精神を咀嚼される拷問を味わう事になるぞ【精神攻撃】
『冥き殺戮衝動の波動』から【殺気】の【呪詛】を放ち追い込む【恐怖を与える】
絶望の因果は断ち切れる……その歪んだ命を差し出せ。
さすれば苦痛無き死の祝福を与えよう。
絶望の精神を呪獣に吸わせ人の魂を骸の海へ還すのだ【生命力吸収】




 とある男は目の前で腹の大きな妻を引き裂かれた。とある女は焼けた鉄の棒で処女を貫かれた。とある子供は、両親の遺体を食わされた。その時、皆思ったのだ。「憎い」と。どうして私が、あの人が、何も悪い事なんてしてないのにこんな目に! その憎悪はいつしか領主だけならず、生者全てに向かっていく。
「生ある者が憎いか? 妬ましいか? 殺したいか? その絶望から救われる方法はたった一つ、死だ」
 いっそ優しく諭すように語り掛けるナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は、自らの血を代償とし、呪獣ソウルトーチャーに命ずる。あの怨恨の魂どもを喰らい尽くせと! 偽りの生に侵略し、幻惑の力を強奪し、その力で以って蹂躙し尽くせと!
 残影達はナギに向かい、恨みや妬み、遺恨の籠った炎を投げつける。しかし、その炎が魂であるならばソウルトーチャーの餌にしかならない。呪獣を前面に出し、残影の放つ炎を次々捕食していく。喰われた魂は叫び声をあげることもなく、静かにごくりと飲み込まれていった。
 嗚呼それにしても。この残影どもの視線……なんと愉快な事だろう! 「自分は可哀想で、憐れまれて当然。だから私の恨みをその身に受けよ」という眼をしている。最早性根まで腐り果てたか。オブリビオンになってしまったからなのか、元からそうなのかは分からないが。
「何も心配することはない。死がその感情すら救い上げてくれる」
 魂で出来た炎を喰らい、更なる強化を受けたソウルトーチャー。狙うは残影そのもの。魂の塊である彼らも、呪獣からしてみれば同じにすぎない。もし抵抗するならば、精神をズタズタに咀嚼される拷問を味わうことになる。さて、餌第一号は一体誰か?
 『冥き殺戮衝動の波動』から、殺気を込めた呪詛を放ち、恐怖を与えながらじわじわとソウルトーチャーと共に追い込んでゆく。残影は呪獣から狙いを移し、ナギに向けて炎を放つが……オーラで防御しつつ逆に生命力として吸収する。相手の手の内は、もう何も通用しない。
「絶望の因果は断ち切れる……その歪んだ命を差し出せ。さすれば苦痛無き死の祝福を与えよう」
 全てに絶望した残影の精神を呪獣に吸わせ、人の魂を骸の海へと還すのだ。死ぬのは1回だけで良い。永遠に訪れない死など、地獄と同じ。ナギはソウルトーチャーを「よく頑張りましたね」なぁんて撫でて可愛がる。それは先程までの悪鬼羅刹のようなナギとは全く違う一面。
 残影の数も残り少ない。あとは残りの猟兵で始末できるだろう。ならばナギは進む。過去も未来も、生も死も、全て此の手の届く範囲を掌握する為に。そして出来ることなら、嘆いてばかりの残影がこれ以上苦しまなくて済むように……元凶を叩く!
「まぁ、ここの主は結構いい趣味してると思いますよ、ぼくは」
 最大の皮肉を口にして、館の奥へと走った。所詮人間とオブリビオンは相容れぬ存在、こちらの常識など通用しない。であれば……それを叩き込んでやるまで。それこそ魂に刻まれる程に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンリ・ボードリエ
辛い記憶しか残っていないなんて…きっと酷く苦しいですよね、痛いですよね、悲しいですよね…なんてきっとボクが想像するよりもはるかに凄惨な地獄なのでしょう。…大丈夫、もう大丈夫ですよ。

攻撃は全て[激痛耐性]で耐えます。大丈夫、この程度あなた達が感じている苦しみに比べれば…。

UCを発動し、『La décadence』から放出したツバメさんと聖なる光[属性攻撃]で包み込みます。ボクにできる精一杯の[優しさ]と[祈り]を込めて…

せめて最期は安らかに…おやすみなさい。

【アドリブ連携負傷歓迎】




 記憶が焼き付くのは、心か、脳か、魂か。少なくともこの残影たちは、思い出したくもない記憶を魂に深く刻まれたようだった。
「辛い記憶しか残っていないなんて……きっと酷く苦しいですよね、痛いですよね、悲しいですよね……なんてきっとボクが想像するよりもはるかに凄惨な地獄なのでしょう」
 ……でも、大丈夫。もう大丈夫ですよと、アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)はふわふわと集まってくる残影たちに語り掛ける。もう苦しまなくていい、悩まなくていい、憎まなくていい。アンリの言葉に残影は『嘘つき!』と罵る。
 悲観に満ちた絶叫が廊下に響き渡り、残影もアンリも纏めて攻撃する。――嗚呼、痛いな……これがあなた達が受けてきた痛みですか。ええ、でも大丈夫。この程度、あなた達が感じている苦しみに比べれば、どうってことはありません。
 激痛に耐えるアンリは、La décadenceからツバメの霊を召喚する。其れはアンリの記憶を代償に、光と神の加護を受けた聖なる力で攻撃する能力。使えば使うほどアンリは思い出を喪失し、二度と蘇ることはない。それが例え神の御業であっても……この力は、そういうものだから。
 しかし、それで戸惑ったり躊躇うことは無かった。祖国も、困っている人々も、みなこの能力で救ってきた。感謝もされた、愛しい者たちを守ることが出来た。それだけで十分な程の報酬だと、アンリは想う。
 ツバメに聖なる光を託し、残影を包み込む。天からは光が差し込み、召されるようにして残影は姿を消した。そうして次も、その次も、一体一体、ひとつひとつアンリの記憶を消しながら残影を痛みのない世界へ導いていく。
 残影たちは『そんな気休めにはのらない』と言わんばかりに、叫び続ける。鋭い斬撃となった叫び声がアンリを痛めつけた。彼らに救いの路はない。永久に骸の海を彷徨う過去の亡霊。例え此処の領主がおらずとも、別の者に死を弄ばれていただろう。
 ならば、此処では静かな死を贈ろう。悲しみに嘆くより、苦しみに耐えるより、痛みに苛まれるより、――アンリの記憶が無くなることで、それが叶うなら。
「せめて最期は安らかに……おやすみなさい」
 残影たちは姿を消した。光に消え、聖なる焔に焼かれ、あの絶叫が木霊したまま入滅した。彼らはこれからも、誰かを傷付ける為に過去から召されるのだろう。でもその時はどうか、また誰かが彼らを救って欲しいと思う。
 アンリ。心優しすぎる青年。彼の言う「大丈夫」には、一体どれだけの想いが込められているのだろう。人に優しく、なんて誰に教わったわけでもないのに。或いは其の記憶すら、遠い彼方へいってしまったのか。
 ――行こう。ボクは此処で立ち止まってはいられない――。

成功 🔵​🔵​🔴​

バルドヴィーノ・バティスタ
(アドリブ・連携歓迎)
おうおう、うじゃうじゃと湧いてやがンなァ!全部終わっちまった後で何も出来やしねェくせによォ!
…ハッ、どいつもこいつも気に食わねェって目しやがって。
奇遇じゃねえか!オレも同じ気持ちだぜ!

さぁて、周りの味方らしい味方はオレだけか…上等だ!
『ブラッディヴァルチャー』!オレの腕を裂いた血で爪になれ!
対価は払った、【生を求むる亡者の腕】!テメェらと同じ亡者の<呪詛>の<早業>だ、掻っ捌かれて死ね!
逃走脱獄の掟ってのァ単純だ!振り返るな、立ち止まりゃ死ぬってなァ!
酷ェ目にあった?不相応だァ?それを決めるのは手前だろうが、
憐れみ憐れまれようとする意思だけ立派な奴がすがりつくンじゃねえ!




「おうおう、うじゃうじゃと湧いてやがンなァ! 全部終わっちまった後で何も出来やしねェくせによォ! ……ハッ、どいつもこいつも気に食わねェって目しやがって。奇遇じゃねえか! オレも同じ気持ちだぜ!」
 威勢よく声を張ったバルドヴィーノ・バティスタ(脱獄狼・f05898)は、館中に響き渡るように吐き捨てた! 震える残影達は折り重なって膜のような壁となり、これ以上進ませまいとバルドヴィーノの行く手を阻む。――嗚呼めんどくせぇめんどくせぇ! お前ら全員ここで終わりにしてやる!
 周りの味方らしい味方は己のみ。上等だ、足手まといが居ないくらいが丁度良い。オレはオレのやり方でやらせてもらうと、バルドヴィーノは血肉を食らう生きた外套『ブラッディヴァルチャー』に、己の腕を引き裂くように命じた。
 ぐわっと外套は闇を内包したままバルドヴィーノの腕に絡みつき、深く抉り取る様に切り裂く! ブシャアっと流れ出る血……これがまた痛いわけだが、同時に其れは対価である。腕の刺青が輝き、ブラッディヴァルチャーは爪の形状へと姿を変えた。
「テメェらと同じ亡者の呪詛の早業だ、掻っ捌かれて死ね!」
 鋭利で巨大な影の爪が、残影達を引き千切り、引き裂き、引き捩じり、あらゆる方法でその中身を暴いた。所詮は過去の亡霊、中になにもいないし、生き血が溢れ出るわけでもない。それでもバルドヴィーノは攻撃の手を休めない!
 一体倒して次二体、4体目は首をへし折り、5体目は身体をひしゃげて。それでも残影達は残っている。――うぜぇうぜぇうぜぇ! どうせなら纏めてかかってこい!
 残影は憐憫の感情をバルドヴィーノに向ける。残影にとって、彼もまた『上位者に逆らった可哀想な者』なのだ。はっきり言って大きなお世話だが、お互い心通わせる事は無い。互いの感情など、知らない。召喚された異形の肉塊から、傷だらけの手がバルドヴィーノの腕――爪――に絡みつく。
「オレはお前らに共感しねぇ! 力がねぇってのはな、それだけで罪なんだよっ! 実力も勇気もねぇヤツが悲壮なツラ掲げやがって!」
 絡みつく手をばしっと叩き落す! 血と寿命、ダブルの代償をこちらは支払っているのだ。この程度の奴らに引けは取らない。じっと見つめてくる薄茶色の瞳が、いっそ恨めしそうにバルドヴィーノを見遣る。その力が羨ましい、妬ましい。その勇気が欲しかった、貫けなかった。だからこうして……今も領主に囚われている。
 闘争脱獄の掟というのは単純だ。『振り返るな、立ち止まりゃ死ぬ』、たったこれだけ。それが出来ない奴らの溜まり場。反吐が出そうだ。こいつらは、自分たちの境遇に酔っている。
「ンな明快な事も分からねェのに、酷ェ目にあった? 不相応だァ? それを決めるのは手前だろうが。憐れみ憐れまれようとする意志だけ立派な奴が、縋りつくンじゃねぇ!」
 強烈な漆黒の爪による引っ掻きが残影達を薙ぎ倒し、彼らはふわぁっとうすぼんやり透明になって消えていく。精々あの世で現世を懐かしんでろ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐々・夕辺
有頂【f22060】と


数が多いわね
私が大まかに削るから、有頂は取り逃しをどうにかしてくれる?

言いながらも想像の弾丸を生成
氷を抱いた管狐と一緒に周囲に一気にばら撒く

悪いけど同情はしないわ
痛かったでしょうね、苦しかったでしょう
痛みが、死が、恐ろしかったでしょうね
でも貴方たちがやってる事は
貴方たちがかつてされた事と同じなのよ
だから哀れんだりしない
せめて私たちの一撃で痛みなく葬ってあげる

私はこの弾丸を疑わない
私の力を疑わない
私の隣にいるこの人を疑わない
私たち自身を疑わない

隣に有頂がいる
其れだけで私は無限に強くなれる
未練を食いつくして、未来へ繋ぐのよ


日東寺・有頂
夕辺(f00514)と

ああ可哀想ってのは今更ばい
俺達は そん運命ば掬い上げる事かなわんかった
アンタさんらは愚かなんかや無か
とらわれてしもうただけだ
ばってん、俺はそのザマに何の想いも抱かねえ 
未来を掴むためだ
さあもう断ち切って、いこうや

隣に在る女の気配に俺は支えられている
おう夕辺 任しとき
無念てのはしぶてえもんやね
俺の女が贈った無慈悲なる慈悲の弾丸
そいでも死にきれんかった魂たちにむけて、霊体にもアレする極小毒針を速攻で仕込んでおいた
あとは速やかに、確実に、容赦無う麻痺した個体に縛霊手を振りかざす
夕辺と二人、アンタさんらの未練ば食い尽くしてやるよ




 ああ可哀想というのは今更な話だ。日東寺・有頂(手放し・f22060)も佐々・夕辺(凍梅・f00514)も、その運命から掬い上げる事はかなわなかった。残影達は愚かなどではない、囚われてしまっただけ。だけれども、有頂はそのザマに何の想いも抱きはしない。未来を掴むために――。
「さあもう断ち切って、いこうや」
「ええ。私たちの手で!」
 悪いけど、と前置きして、夕辺は残酷で……しかし紛れもない現実を残影に言い放つ。それはまるで自分に向かって宣言するかのように。
「同情はしないわ。痛かったでしょうね、苦しかったでしょう。痛みが、死が、恐ろしかったでしょうね。でも貴方たちがやってる事は、貴方たちがかつてされた事と同じなのよ」
 だから哀れんだりしない。これで貴方たちが大人しくしていれば、少しは気の毒にとでも思えたけれど、そうにもいかないみたいだから。せめて夕辺と有頂、二人の一撃で痛みなく葬ってやろう。それが彼らに向けて出来る、最大限の譲歩。
「数が多いわね。私が大まかに削るから、有頂は取り逃しをどうにかしてくれる?」
「おう夕辺、任しとき」
 言いながら夕辺は想像の弾丸を生成し、氷を抱いた管狐と一緒に周囲に一気にばら撒いた! 瞬間的に氷つく地面と空気。それは霊なんかよりもっと恐ろしいもの。嘆きも悲しみも凍てつく二人だけの舞台! 復讐に燃える蒼炎と氷は拮抗し、やがて炎は容を保ったままごとりと地に落ちた。
『ズるい……オ前たち……自分が幸せだからって……!』
 残影は怒りを宿し、二人に召喚した傷だらけの手を向かわせる。もうそれくらいしか出来ない。この二人には敵わない。だったら、せめてこいつらの仲を引き裂いてやろう。あの時のように、私たちがそうさせられたように!
 夕辺は一体ずつ残影の眉間に弾丸を撃ち込み、倒していく。倒れた傍から天井に床に壁からに這い出てくる残影はキリがない。しかし、夕辺の隣には有頂がいる。それが信念を貫く夕辺の助け。そしてその存在、気配に、有頂は支えられている。
 互いが互いを思いやる気持ち、信じる気持ち、頼られる誇り、それらが二人の力をより強固なものとした。夕辺も有頂も、常に隣にいるべきは相手だと想っている。願っている。だから、憐憫だなんてそんなものに惑わされたり、引き裂かれたりはしない。二人が産み出す力は無限大! 何よりも強いと刃が語る!
「無念てのはしぶてえもんやね」
「ほんと! いい加減にしてほしいね」
「ま、きばってこうや」
 勿論元からその心算! とは口に出さずとも通じ合う。――私はこの弾丸を疑わない。私の力を疑わない。私の隣にいるこの人を疑わない。私たち自身を疑わない。私は……相も、逢も、愛も、私に向けられた全ての『あい』を、疑ったりはしない!! 隣に有頂がいる。其れだけで私は無限に強くなれる!
 夕辺(俺の女)が贈った無慈悲なる慈悲の弾丸。それでも死にきれなかった魂たちに向けて、霊体にもアレする極小毒針を速攻で仕込む。あとは速やかに、確実に、容赦無く麻痺した個体に縛霊手を振りかざす。中でも特に小さな個体が、揺れる瞳で有頂を見た。
 ――そがな眼で見るんじゃなか。やりにくくてたまらんわ。
 ガっと振り下ろされた手は残影の首を捥ぎ取り、ぼふんと風の様に消し去る。襲い来る手は次第に数を減らしてゆき、いつの間にか片手で数える程になった。霊力の籠った弾丸は残った残影を消すのには十分だったが、あえて夕辺はそうしなかった。
「見せ場は残しておいてあげる」
「はは、ありがとなー」
 ――夕辺と二人、アンタさんらの未練ば食い尽くしてやるよ。
 ――未練を食いつくして、未来へ繋ぐのよ。
 有頂は再び縛霊手を伸ばし、残影を掴んで握り潰した。其処には煙や血どころか、何かが存在した痕跡すら残っていない。急ごう、先には彼らをこうした元凶が待っている……――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『忘却のモーラ』

POW   :    アナタがキライ、ソレもすぐに忘れるけれど
【自身の記憶】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮捕食態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    アナタも仲間になればイイ
【嫌悪】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【沸き立つ黒い血のかたまり】から、高命中力の【大切な記憶を失う刃】を飛ばす。
WIZ   :    アナタはだあれ? どんなヒト?
対象への質問と共に、【自身の武器】から【記憶を貪る黒い薔薇】を召喚する。満足な答えを得るまで、記憶を貪る黒い薔薇は対象を【黒い花弁】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は藍崎・ネネです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 誰かが死んだ。いや、骸の海に還っていった……誰だっけ。忘れちゃった。
 それよりも! いらっしゃい、皆さん。今日は私の為に集まってくれてありがとう。ねぇ、アナタには『大切な記憶』ってある? 私はね、忘れちゃったの。あんなに楽しかった蹂躙も、殺戮も、恐怖に怯える眼も、何もかも。
 だから今度は、アナタの記憶が欲しいの。大丈夫、アナタから記憶は失われるけど、私が大事にしてあげる。嗚呼でも、愛だの友情だの、そんな醜いものはいらないわ。反吐が出そうよ。私に歯向かうというのなら、それでも構わないけれど。
 私が欲しいのは恐怖、怯え、憎悪……そういった美しいもの。そしたらせめて優しく殺してあげる。ねぇ、猟兵さん。お互い痛いのは嫌よね? これは私からの譲歩なのよ。さぁ、アナタの記憶を私に頂戴。
 それとひとつ言い忘れていたわ。私はね……『嘘』が大嫌いなの。もしあなたが嘘つきだったらなら……その時は八つ裂きにしてあげるから覚悟して。

 忘却に支配されたモーラは、最早記憶に縋りつく怪物となってしまった。こぽこぽと沸き立つ黒い血のかたまりから作り出された記憶を奪う刃を、神速の勢いで飛ばしてくる。それ自体に殺傷力はそれ程ないが、当たれば自身の『大切な記憶』が奪われてしまうだろう。
 対抗策は色々ある。まず、記憶を思い出さないこと、次いで、これは大切な記憶なんかじゃないと否定すること、大切な記憶の力で刃を圧し返す等。勿論これ以外の方法が思いつくならば、やってみると良い。幸いにしてモーラは人殺しの気分ではないようで、記憶を奪うことに集中している。倒せるのは今だけだ。
 きみは記憶(思い出)を盾としてもいいし、剣としてもいい――。

 ※補足
 『忘却のモーラ』戦においては、モーラはどのPSWを使っても記憶を奪う行動をとってきます。それに対して「何が大切な思い出」で「どう思い出を守るか」を明記してください。なお、ユーベルコードの成功値や攻撃・回復描写はそのまま指定されたもので判別するので、好きな技をお使い下さい。
廻屋・たろ
自分自身を見失う虚しさは少しだけわかるけど、再現なんて生産性のない。
どうしたって昔には戻れやしないのに。

たった一つだけある大事な記憶
この名前を貰った時のこと
誰に、何時かはよくわからないけど、俺が俺である為に必要な、確かにあった記憶。

…簡単に奪わせるつもりはないけど
それでも奪われるようだったら
バディペット、名前も知らない友人に[失せ物探し]で取り戻してもらおう
俺の知らない俺を知ってるあの子ならきっと見つけてくれる

もっと別の思い出があればあげてもよかったんだけど、残念ながら持ち合わせがないや
代わりに然るべき殺意と死を
死ねばもう忘れることもないもんね

UC【悪癖】で[蹂躙]
周囲も気にせず全てを薙ぎ払え




 過去も未来もその時その一瞬しかなく、どう頑張ったって昔には戻れやしない。自分自身を見失う虚しさは少しだけわかるけど、再現なんて生産性のない話だとたろは思った。
 だってそうだろう。他人の記憶を奪って自分のものにしたからって、それは結局偽りのものなのだ。虚しさを埋める代替品にはならない。誰かが誰かの代わりにならないように、このオブリビオンの代わりの記憶を持つ者もまた存在しえないのだ。
 泥濘の血のかたまりから、蒼黒い刃が飛んでくる。それを避けようとしても二重三重と重なる刃は受け止める他ない。シャボン玉のような膜がたろを包み込む。脳裏に記憶が駆け巡った。
 ――たったひとつだけある大事な記憶。この名前を貰ったときのこと。
 ――誰に、何時かはよくわからないけど、俺が俺である為に必要な、確かにあった記憶。
 ――何をも犠牲にして、ただただ走り続けて、俺の中に唯一残ったもの。
 たろとて簡単にこの記憶を奪わせる気はない。しかし段々と、記憶が薄れてゆく。名前の由来も、貰った時の暖かさも、ぼんやりしてきた。このままではいけないと、たろはバディペットである名前も知らない友人にお願いする。
「俺の失しもの、取り戻してくれる?」
 子犬のようなバディは「きゃう!」と声を上げてモーラの元へ駆け寄る。そして思い切り噛みついた! 可愛い見た目に反してやることは中々に激しいらしい。たろの知らないたろを知っているあの子なら、屹度見つけてくれると信じる。モーラは噛みつかれた痛みにびくっと震え、記憶を封じたシャボン玉がぱちんと割れる。
 段々と戻ってくる記憶と、それに付随する感情。そうだ、俺は……廻屋・たろ。それだけで十分すぎるくらい、俺の証明だから。戻って来たバディペットを撫でて、代わりにモーラを見つめる。彼女は垣間見たたろの記憶に打ち震えているようで、絶好の攻撃のチャンスだ!
「もっと別の思い出があればあげてもよかったんだけど、残念ながら持ち合わせがないや」
 代わりに贈るのは然るべき殺意と死を。死ねばもう忘れることも無いだろうから。ちゃぷん、と血の池を渡りモーラに近づけば、悪い癖が出る。振り上げた真っ黒なカトラリー達で、ぶすぶす、ざくざくと彼女の身体を刺していった。
『痛い! ひどいわ、どうしてこんなことをするの? 私はあなたに、何もしていないじゃない!』
「何もしていないだって? お前は言ったよね、『嘘はきらいだ』って。お前は俺の記憶を盗ろうとした。それは……許しがたい行為だよ」
 溢れ出る殺人衝動が、モーラの身体をメッタ刺しにした。青い液体が靄のような煙と共にどろりと流れ出る。蹂躙し尽くせ、周囲なんて気にせず全てを薙ぎ払え! お前がいる限り、哀しみの連鎖も記憶の奪取も止まらない。此処にお前は不要だ、忘却のモーラ。罪も罰も忘れていくお前に、救いはない――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

肆陸・ミサキ
※絡みアドリブ怪我苦戦ok

心情:
失くしたものをいくら補完したって何も変わらないだろうに
物好きなのもいたものだね
おまけに、負の感情限定だなんて、悪趣味の極みだな

戦闘:
POWで
集団の時と変わらず黒剣を適宜変形させながら接近戦だ
敵の武器もヤバそうだけど、生憎、僕ってば力押ししかしらないからね
なんとか隙を見付けてUCを撃ち込みたいな、大嫌いな嘘の魔弾は効くだろう

記憶:
大切な記憶ってなんだい?
愛だ、友情だって、そんなもの、僕が欲しいくらいなのに
だから憎しみをあげる
お前たちという存在に対する憎しみなら幾らでも持っていくといい
どれだけ思い出を失くそうと、想いまでは消えないから




 モーラは足元に広がる青い血で自らの肉体を補充し、ミサキの方へ眼を向けた。嗚呼、この子はとっても素敵な感情を持っていそうねと、にんまりと笑顔を浮かべる。
 対するミサキは半ば呆れたようにモーラを見遣る。――失くしたものをいくら補完したって何も変わらないだろうに。物好きなのもいたものだね。おまけに、負の感情限定だなんて、悪趣味でゲテモノ喰いの極みだな……と。
 どろりとした血のかたまりから、殺傷力こそ低いが素早く、それでいて鈍く肉体に突き刺さる刃が飛んでくる! じくりと足にあたった其処から、染み出すように記憶が流れ出ていくのを感じた。まさにそれはモーラの望むもの、そのもので。
 ――大切な記憶ってなんだい? 愛だ、友情だって、そんなもの、僕が欲しいくらいなのに。
 ――だから憎しみをあげる。お前たちという存在に対する憎しみなら、幾らでも持っていくといい。
 ――どれだけこれまでの戦いの思い出を失くそうとも、想いまでは消えないから。
 甘美! モーラが求めていたものはこれだ。誰かに、何かに対する強い憎しみ。激しい嫌悪。その怒りと哀しみが混ざった瞳が、モーラは大好物だった。記憶を奪いシャボン玉のように宙に浮かせると、モーラはそれをつんつんと突く。ぶるるっと震えるシャボン玉。
 あれには僕の記憶が詰まってるのか。道理で、今までの戦が思い出せないわけだ。でも逆に、あれを解放したなら、また戻ってくるのか。戦いの記憶なんて戻らなくても別に困ったりはしないけど……あって損があるわけじゃない。取り戻そう、僕の歴史を。
 黒剣DeicidaManを斧状に変化させ、背を低くしながらモーラへと走り近寄る! ぶんっと振り上げた斧に、モーラは殺戮捕食態となった刃を用いて応戦してくる。ぐぐぐぐっと鍔迫り合う弐刃。
 ――嗚呼もう、見た感じからして敵の武器はヤバそうだけど……生憎、僕ってば力押ししかしらないからね。ひょっとしたら今までの戦いではそんなことは無かったのかな? 記憶を奪われている今では分からない事だけど。なんとか隙を見つけて【Silver Fraud】を撃ち込みたいな。大嫌いな嘘の魔弾は効くだろうから。
『あなたにもう用は無いわ! 此処で殺してあげる! どういう死に方がお好み?』
「死ぬのは遠慮しておくよ。まだ冥銭も無くてね」
『じゃああなたも骸の海に還ればいいわ』
「それは僕の台詞だっ!」
 渾身の怪力で以って鍔迫り合いを制し、黒剣を槍状に変えそれをモーラ目掛けて投擲した! 槍は魔を殺す概念である銀の弾丸となり、炸裂。飛び散る欠片がモーラに突き刺さり青い血が流れる。欠片は周囲に浮いていたシャボン玉にも命中し、パチンと弾けたそれからスゥーっと記憶が蘇ってくる。ミサキの心に火が灯る。
 ――僕は、屹度これからも戦い続けるだろう。この世からオブリビオンが消えない限り。
 だから、やっぱり記憶は渡せない。過去の戦いは僕のこれからの戦いに必要な経験だから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三嵩祇・要
一年前のオレなら喜んでお前に記憶をくれてやったかもな

ヴィランに全てを奪われ怒り狂って
敵の組織を灰にした
奴らにも日常や家族があっただろう
もしかしたら関係ない奴もいたかもしれない
それら全てを憎む獣になってしまった自分を
許せなかった

けど
この憎しみの記憶がどんなにしんどくても
あの日ベンチで死にかけてた俺に声をかけてくれた親友に繋がっている
ちゃんと守ってやれなかった弟分のずっと先の未来も守ってやらなきゃなんねぇって事にも

全部必要な記憶だから
お前に渡すわけにはいかねぇな

ジェベル・セテカー
憎しみの記憶の象徴よ
大事なものを守るための力をオレにくれ
オレを生かせ




 例えばの話だ。幸せな家庭があったのにそれ踏み躙られて、散らされて、もう何もかもがどうでも良くなってしまった時……人は誰かの手を取ることが出来るのだろうか。もう一度、何かを信じてみようと思えるのだろうか――。
 一年前の要なら、悦んでモーラに記憶を差し出していたかもしれない。ヴィランに全てを奪われ、敵の組織を灰にした。相手にも日常や家族や幸福があっただろう。もしかしたら関係ない者もいたかもしれない。それら全てを憎む獣になってしまった自分を許せなかった。
 けど、この憎しみの記憶がどんなにしんどくても……あの日ベンチで死にかけていた要に声をかけた親友に繋がっている。ちゃんと守ってやれなかった弟分のずっと先の未来も守ってやらなきゃなんねぇって事にも。全部ぜんぶ、必要な記憶。思い出。出来事。それを渡す訳にはいかなかった。
 要の記憶に、モーラはうっとりとした表情を返す。それはいっそ艶やかな程で、募る憎しみが友愛へと変わり……そして裏切られる想像をして悦に浸っていたのだ。勝手な妄想お疲れ様、と言いたくなる要だったが、滴る蒼の血のかたまりから放たれる刃に、ウっと腹を裂かれる。
 ――当たり前の日々はもう返ってこない。代わりに新しい日常を手に入れた。
 ――失うことが怖い。大事な彼らを傷付けることが怖い。何も出来ない自分が恐ろしい。
 ――もう一度、今度は違うかたちで……自分を認めることができたなら。
 そんな要の心を、刃はシャボン玉のように封じ込めてモーラの元へ届けた。ちゅっとシャボン玉に口付けされ、悪寒が奔る。期待しているのだ、この女は。二度目の幸福が自分を許せないせいで崩壊することを……自分の弱さが、何もかもを壊してしまうことを。
「うぜぇ……」
『私もそう思っていたところ。こんなに美味しい記憶、ちゃんと持ち帰って飾っておかなきゃ勿体ないわ。だから、持ち主のあなたには死んでもらうわね』
「言ってろ」
 腕を前に翳し、要は悪魔の召喚式を唱える。――ジェベル・セテカー、憎しみの記憶の象徴よ。大事なものを守るための力をオレにくれ。……オレを、生かせ!
 首無し悪魔のジェベル・セテカーは代償を要に問う。何でも、というわけにはいかない。今は仮の脚だし、無茶は出来ない。殺傷力が低いとはいえ刃で受けたダメージもある。であれば……。
「今日の晩飯、手作り」
 うーんと悩んだ悪魔は、その割にあっさりとそれを承諾した。影がぐっと延びてモーラまで届くと、顔をがしっと掴み床に叩きつける! 「きゃあっ!」と声をあげ彼女はひれ伏した。びしゃっと血が飛び散った衝撃でシャボン玉が割れ、記憶が戻ってくる。
 ――この記憶は誰にも奪わせない。オレがオレであるために必要なものだから。
 モーラ、奪いたがりのオブリブオン。記憶が薄れていく恐怖に、お前はとっくに狂れているんだな――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
あなたは、記憶を集めるのが好きなんですね
私も、思い出を集めるために旅をしてるんです
楽しかったこと、嬉しかったこと、
辛かったり、悲しかったりしたことも、
全部全部、ふたりで歩いた大切な思い出
他の人になんて、絶対渡さない

血を焔で焼き払い【焼却】、刃を『with』で弾く
私の心は、愛する『with』が護ってくれる【勇気】
自分の記憶ではなく、誰かの記憶に縋るあなたの力が
『with』と私で紡いだ、絆の物語を
奪えるはずがないから

…もう、あなたは覚えてないかもしれないけど
前にもあなたに会ったことがあるんだよ
『絶対に忘れない』って言ったから、ちゃんと覚えてる
今日会ったことも、私の大事な思い出になるから




「あなたは記憶を集めるのが好きなんですね」
 そう問いかけた結希に、モーラは少し唸って否定した。全く以て可愛げのない、あっけらかんとした口調で続ける。
「集めるというより、失ってしまった悦びをもう一度味わいたいの。その為に、色んな輩から記憶を貰おうってことね」
「そうですか……私も、思い出を集めるために旅をしているんです。楽しかったこと、嬉しかったこと、辛かったり、悲しかったことも、全部全部、ふたりで歩いた大切な思い出」
 だから、と結希は『with』<恋人>を構える。この記憶は、他の人になんて、絶対渡さない!
 ――怪我をしたこともあった。それをwithは自分を杖代わりにと差し出してくれた。
 ――雨に降られて泣いた夜もあった。そんな時もwithは一緒に雨に濡れてくれた。
 ――神を屠ったこともあった。どんな悍ましい風貌も、withが一緒なら怖くなかった。
 蒼血のかたまりから飛んできた俊刃を、『with』でカキィンと弾く! 結希の心は、愛する『with』が護ってくれる。いつだってそうだった。どんなに挫けそうな時も、諦めそうな時も、『with』がいたから、結希は強くいられた。
「自分の記憶ではなく、誰かの記憶に縋るあなたの力が『with』と私で紡いだ、絆の物語を奪えるはずがない」
 モーラは憤慨した。記憶を奪わせないどころか、モーラの存在そのものを否定するような言葉に、ふつふつと怒りがこみ上げる。所詮其の大剣がなければ何も出来ない小娘のくせに……と、強く結希を睨みつける。憎しみと恨みの念が籠った、魔眼だった。
『そんな記憶……全て壊してあげる! そしたらアナタ、どんな絶望の貌を浮かべるのかしら!』
「……絶望なんて、全部全部、消えてしまえばいいのに」
 結希は広げた緋色の翼から、絶望を拒絶する焔を放ち、モーラをちりちりと焦がす。同時に両手で握りしめた『with』を振り上げ、上から叩きつける! ぼふぁっとモーラの帽子が吹き飛んだ。残念、もう少しで頭ごとカチ割れたのに。
 ――……もう、あなたは覚えていないかもしれないけど。私、前にもあなたに会ったことがあるんだよ。その時の私は、辺境伯の紋章を手にしていたね。『絶対に忘れない』って言ったから、ちゃんと覚えてる。あなたの呼吸も、剣戟も、賞賛も。今日会ったことも、私の大事な思い出になるから。
「あなたこそ、誰かの思い出になるべきじゃないでしょうか」
『なんですって……?』
「未来は常に、そこを歩む者のものです」
 『with』の黒い艶めきが焔に反射して光り、モーラを照らす。それは記録に残らない記憶。絆の力をねじ伏せた結希と『with』の、新しい物語……――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
※一番大切な記憶…恋人との想い出

…確かに胸の中から"何か"が抜け落ちたのを感じる

…だけど無駄よ。私は独りだけの意志で此処にいるわけじゃない

"…人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を"

…私を救い、私を導いてくれた彼女達から受け継いだ誓い
…そして理不尽に殺され、死んでいった多くの人達の想いがある限り、
私が歩みを止める事は決して無いと知れ

敵の攻撃を受け記憶を失うも"呼符"の狂気耐性により、
記憶の一部を失うに留め気合いと殺気は失わずUCを発動
大鎌を武器改造して大剣の柄に変形させて魔力を溜め、
限界突破して長大な呪詛の刃を形成して怪力任せになぎ払う

…この札は?何かしら、とても大事な物だったような…




 蒼血のかたまりはリーヴァルディを包み込み、一等大切な記憶を奪い去った。シャボン玉はスゥーっとモーラの元へ戻り、モーラはそれを味見した。一瞬固まるが、ニヤリと笑ってリーヴァルディを見遣った。とてもとても、愉悦に満ちた表情だった。
『あなたの記憶……とても美味しそうね』
「……確かに“何か”が抜け落ちたのを感じる」
 けれど無駄よ、とリーヴァルディは続けた。二本の脚でしっかりと床を踏みしめて、宣言する。私は独りだけの意思で此処にいるわけじゃないと。
「……人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を」
 リーヴァルディを救い、導いてくれた彼女たちから受け継いだ誓い。それはどんな強固な意志より固く。……そして理不尽に殺され、死んでいった多くの人達の無念と悔恨の想いがある限り、リーヴァルディが歩みを止める事は決して無い。
 モーラにより記憶を失うも、呼符から呼応する狂気への耐性が記憶の一部を失うに留め、猛烈な気合と射るような殺気を放ちながら【代行者の羈束・過去を刻むもの】を発動する! 大きな鎌を改造して大剣の柄に変形させ魔力を溜めて、自らの限界を追い抜く。
 思い出や記憶が過ぎ去ってゆく。リーヴァルディの身体に、想いがついて行かないのだ。それでも彼女は体験を振るうことを止めない。長大な呪詛の刃を形成し、モーラに一気に近づいたら怪力任せにガッと薙ぎ払う。モーラは『あはは!』と嗤った。
「……何が可笑しい?」
『だってアナタ、記憶より私を殺そうとするのを優先するんですもの。笑ってしまうわ。しかもその記憶も……とっても面白いものときた。これが笑わずにいられましょうか!』
「……悪趣味……!」
 記憶を取り戻そうとするも、モーラは返さないとばかりに記憶を貪る黒い薔薇を召喚し、刃と化した花弁でリーヴァルディを攻撃する! 猛烈な風圧に負けそうになるが、此処で怯むわけにはいかない。必ず、このオブリビオンを倒さなければ……!
『アナタは特別に見逃してあげてもいいわよ』
「……なんですって」
『こんなに素敵な記憶、大事にとっておきたいもの。お互い譲歩しましょう? ねぇ』
 リーヴァルディにそんな気は更々無かったが、手にした呼符がじぃんとオーラを放つ。ここで逃げてはいけないと鼓舞してくる。――そう、私はヴァンパイア狩り。全てのヴァンパイアを狩りつくすまで……この使命は終わらない。
 ……でも、この札は一体何かしら? とても大事な物だったような……今はまだ、思い出せない、か――。

成功 🔵​🔵​🔴​

佐々・夕辺
有頂さん【f22060】と

気が付けばオブリビオンと戦っていた
…あら? 有頂さん?
偶然ね、私、貴方と此処に来たのかしら

その顔に浮かべる笑顔はなく
氷のころに立ち戻った私

何かがすっぽり抜け落ちて、思い出せないの
どうしてかしら? 貴方は何か知っている?

隣で戦うこの人を見る度に、胸が疼く
傷付くこの人を見る度に、牙が疼く
声が蘇る

『いつか俺が死ぬときは、あんたに食われようか』

肉の味、血の香り、貴方の胸に刻んだ私の傷跡
…雨が降り注ぐように記憶が蘇る
ああ、ああ!私!どうして忘れていたんだろう!
こんなにもこの人に、恋していたのに!

――有頂!


日東寺・有頂
夕辺(f00514)と

女の顔で遡るように氷が張った
なるほど やはりこうなるのか
俺のよすがはいつも
こうして毟りとられ手放される

だから、俺の肉と生命を頒かち
俺と運命を分け合うてもらう
そうしてお前を手に入れる
もう一度、何が如何なろうと手に入れる
手放されん人生を俺は生きるんだ
お前が どうなろうと

…違う
違う 俺は
「ほんとうに君を見ること」をするんだ
君を「大事にすることをする」んだ
無尽の飢えに涎ば垂らす、いつかの俺を振り払おう

おう待っとったよ
戻ってきたその手を取って
あの日お前が喰うた胸の痕に触れさせる
おかえり、

「はてまで生きるわ。はてまであなたを連れていく」

――夕辺




 ふわりと浮遊する蒼虹のシャボン玉の中に、夕辺の記憶は封じられた。だから、何時から此処に居たのかも分からない。気が付けばオブリビオンと戦っていた。
「……あら? 有頂さん? 偶然ね、私、貴方と此処に来たのかしら」
 その顔に笑顔が浮かぶことはなく、氷の頃に戻ったかのよう。ひやりと冷たいような、どこか他人行儀な雰囲気が有頂との間に流れた。有頂はそれを見て怒るでもなく、逆に同じように湖面に氷が張った。――なるほど、やはりこうなるのか。俺のよすがはいつも、こうして毟りとられ手放される。
「何かがすっぽり抜け落ちていて、思い出せないの。どうしてかしら? 貴方は何か知っている?」
「そうさなぁ……」
 何処から話せば良いものか。モーラのこと、記憶のこと、有頂のこと……どこまでを覚えていて、どこまでを忘れた? この調子では、大事なもの全部持ってかれたか。噫、どうせなら全部忘れてくれた方が幸せだったかもしれないのに。そうすれば。
「お前は俺から逃げられた」
「逃げる? なんのこと?」
「もう遅い。俺は自分のものを簡単に手放したりはしない。――なぁ夕辺、俺の肉と生命を頒かち、俺と運命を分け合うてもらう。そうして、お前を手に入れる。もう一度、何が如何なろうと手に入れる。手放されん人生を俺は生きるんだ。……お前が、どうなろうと」
 ……違う、違うと。頭痛がする、こんなことを考えたいんじゃない。――俺は「ほんとうに君をみること」をするんだ。君を「大事にすることをする」んだ。無尽の上に涎を垂らす、いつかの己を振り払って……愛する者の為に身を削ると誓ったんだ。嘘じゃない、でも、こんなことを言ったら……君はまた笑ってくれるかい?
 懇々と語る有頂の言葉に、夕辺は混乱した。隣で敵の攻撃を捌き、夕辺を守るこの人を見る度に、胸が疼く。傷つきながらも立ち上がることを諦めないこの人を見る度に、牙が疼く。――声が、蘇る。
『いつか俺が死ぬときは、あんたに食われようか』
「!!」
 遠くから響くような、心の奥底から湧いて出るような聲が、夕辺の心に突き刺さり、じわりと広がる。
 肉の味、血の香り、貴方の胸に刻んだ私の傷跡。……梅雨の長雨が降り注ぐようにザーっと雑音混じりに記憶が蘇る。
 ――ああ、ああ! 私! どうして忘れていたんだろう! こんなにもこの人に、恋していたのに! こんなにもこんなにも、この人を想っていたのに!
「――有頂!」
「――夕辺」
 おう、待っとったよと、戻ってきたその手を取って、有頂はあの日夕辺が喰うた胸の痕に触れさせる。おかえり。
「はてまで生きるわ。はてまであなたを連れていく」
 どくんと鼓動する有頂の心音に、夕辺は身を預けた。生きている。あなたも、私も……だからもう、氷の頬は雪解けた。
 瞬間、シャボン玉は弾け飛ぶ! モーラは驚き、弾けたシャボン玉からふわふわと還ってゆく記憶の靄を見送った。どうして、今までこんな事、なかったのに!
 失いかけていたものが一気に戻ってきて、泣きそうになりながらも気丈に夕辺は臨戦態勢に入る。有頂は夕辺を護っていた時のまま、ゆるりと身を起こした。
「有頂、心配かけたわね」
「そげんこと。可愛い女の為なら人肌脱ぐくらいどうってことなかね」
「もう!」
『…… ……』
 モーラは悟った。……絆、か。人の言う心と心の結びつき。愛し愛され、信頼し合う関係。それが私の術式を打ち破った。悔しい、憎い、苛つく! そんなもの、所詮はまやかし。人は最後には絶望して、何もかも失って死んでいくものなのに!
『アナタ達の思い出……折角面白そうだったのに』
「お生憎様、私は――私たちが紡いだ記憶の纏いは」
「そんなモンじゃ破れねぇよ」
 精霊の囁きを身につけ、『囁き』そのものを蹴り上げて起こす衝撃波がモーラに吹き付けた! このくらいの風なら……! と耐えるモーラに、有頂の封印の解かれた武器が追い風を受けて次々に刺さる。これにはモーラも堪らないと、手にした武器でそれらを叩き落す。
『アナタ達の記憶、もういらないわ。面白そうだったけど……甘ったるくてお腹いっぱいになりそうだもの』
「言われずともあげたりせんわ」
 二人並ぶ姿は頼もしく、心強い。隣にあなたが/お前がいる限り――思い出はこれからも増えてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

洞木・夏来
【アンリさんと・f29255】
―怖い、記憶を奪われるのが怖い。旅団のみんなとの思い出も、一緒に戦ってくれているアンリさんのことも忘れてしまうかもしれないのが怖い
でも、アンリさんが記憶を忘れるのは嫌だから
アンリさんに私の髪留めを渡します。「忘れないためのお守りです。後で、ちゃんと返してくださいね。」そう言って少しぎこちないかもしれないけど、冗談めかした笑みを浮かべます
そしたら私の恐怖心に反応してUCが勝手に発動します
ごめんなさい、私は弱いからこの呪いに頼るしかないんです

UCで生まれたバロックレギオンと共にナイフでの〈捨て身の一撃〉で攻撃します
私にできるのはこれくらいしかないから
負傷等々全て歓迎


アンリ・ボードリエ
【夏来ちゃんと(f29248)】
ボクの大切な記憶…何だろう。
過去を思ってもここ数年の事すら朧げで、それより前の事は…。

夏来ちゃんこれ…君の…
彼女は怯えながらもボクと共に戦おうとしてくれている。
お守りを腕に結ぶ。
そうだ、ボクには心から信頼できる仲間達がいる。
皆の事を忘れたくないと心からそう思っている!

なるべく夏来ちゃんへの攻撃は[かばう]。
レイピアを抜き[覚悟]を決めてUCを使用。
大切な記憶さえ守れるのだったらボクは怖くない!

モーラ、ボクも多くの記憶を失ってきました。だからこそボクは貴方を許せない。
どんな理由があったとしても、それが人の記憶を奪っていい理由にはならない!

【アドリブ苦戦負傷歓迎】




 ――怖い、記憶を奪われるのが怖い。旅団のみんなとの思い出も、一緒に戦ってくれているアンリさんのことも忘れてしまうかもしれないのが怖い。そのせいで誰かを傷付けてしまうのも、私が傷つくのも、何もかもが怖い。洞木・夏来(恐怖に怯える神器遣い・f29248)は唯々怯えた。
 でも、アンリがこれ以上記憶を忘れるのは嫌だからと、彼へ髪留めを差し出した。夏来がいつも身に着けている、大切なもの。
「夏来ちゃんこれ……君の……」
「忘れないためのお守りです。後で、ちゃんと返して下さいね」
 そう言って少しぎこちなく、冗談めかした笑みを浮かべる夏来。アンリは髪留めを腕に結び、決意を固めた。夏来は怯えながらも共に戦おうとしてくれている。――そうだ、ボクには心から信頼できる仲間達がいる。皆の事を忘れたくないと、心からそう思っている!
 地を這って蒼血が二人の足元に伸びる。その血に向かって夏来の恐怖が具現化したバロックレギオンが立ち塞がり、二人を護った。ごめんなさい、と。私は弱いからこの呪いに頼るしかないんです、と。震える声で身を縮める夏来。
 だが、今やそれは十分な戦力。アンリと共に二人から記憶を奪わんとする蒼血を必死で捌く! アンリはレイピアを抜き放ち、夏来へ向かう攻撃を庇う。ビチャッと服が蒼血で濡れるが、それでも構わない。夏来に向かってアンリは囁くように耳元で呟いた。
「彼女の……モーラの元まで走れますか?」
「大丈夫、です。一人じゃないから」
 レイピアを握りしめ冷たくなったアンリの手を取り、困った顔で笑う夏来その応えに、笑顔を浮かべたアンリは、行こう! と叫び二人、モーラの元へ走った。
 一方のモーラは苛つきを隠すこともせず、貧乏ゆすりが止まらない。――私に記憶をくれないばかりか、真っ向から戦おうですって? 生意気! いいから私に――。
『その記憶、寄こしなさいな!』
「させない!」
 キィンとレイピアでモーラの豪剣を弾くアンリ。背中は夏来とバロックレギオンが守ってくれている。今出来ることは、この刃でモーラを貫くことだけだ!
 覚悟を決めたアンリは、この世で最も純粋な希望と祈りの力を籠めた強烈な一撃をモーラに向かって叩き込む! 大切な記憶さえ守れるのだったら、アンリは最早何も怖くは無かった。例えそれが記憶を失うことを代償にしようとも、一等大切なものさえ守れるのならば――。
「ボクは恐れない。楽しかったこと、嬉しかったこと、苦しかったこと、悪夢でさえも……僕の大切な記憶。失う前に……あなたを倒します」
『くぁっ……っ、アナタたち如きが私を倒す? 笑わせないで!』
「ボクは冗談があまり得意じゃないんだけどな」
 レイピアを振るうアンリの後ろで、夏来が長い髪を靡かせながらぽつり。滴るような一言を告げる。
「アンリさん……結構面白いです」
「えっ、そうなんですか?」
 その返答は無かったが、夏来の後光が虹色に輝いているのが何よりの証拠だ。彼女はもう、恐れてはいない。アンリを信頼し、バロックレギオンを従える小さな勇者。その姿は勇ましく、何よりも頼もしい。仲間とは、かくも安心できる存在かとアンリは心を振るわせる。
 ――ボクの大切な記憶。何だろう。過去を思ってもここ数年の事すら朧げで、それより前のことはまるで抜け落ちたように無いけれど……。
「アンリさん。私が、私たちがいます。だから……過去よりも未来を見て下さい」
『五月蠅いお嬢さんね、先に斬り刻んであげる!』
 黒い花弁が刃となって舞い、夏来に襲い掛かる。それを一枚一枚貫き落とし、アンリはモーラへさよならの一言を放つ。
「モーラ、ボクも多くの記憶を失ってきました。だからこそボクは貴方を許せない。どんな理由があったとしても、それが人の記憶を奪っていい理由にはならない!」
 ですから、ここであなたは滅びるべきです! アンリの言葉にカッと頬を赤くし、睨みつけるモーラだったが、ふと、自分の鼓動が弱まっているのを感じた。背中に突き刺さる一本のナイフから、蒼い血がどくどくと染み出していく。
『あ、あ……?』
「モーラさん、あなたの負けです」
『……どうして』
「記憶を再現しようだなんて、無理なんです。だって、人は、今その時……一瞬を生きているんですから」
 過去は巻き戻らない。再現も出来ない。だからこそ尊い。それを奪おうとする者には、必ず制裁が下されるだろう。ぐしゃっとモーラは血の滴る地面に伏せた。じわっと広がる血が、彼女の最期の証。
「――夏来さん、ありがとうございました」
「い、いえ……こちらこそ。ずっと守ってもらってばかりでしたね」
「そんなことありません。ボクはずっと君に勇気を貰っていた」
 これ、お返ししますね。と、腕に巻いた髪留めをアンリは夏来に返す。少し血で汚れてしまったが、洗えば取れるだろう。夏来はそれで再び髪を結い、また拙く笑うのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『月明かりの下で』

POW   :    語らい合って過ごす

SPD   :    空を見上げて過ごす

WIZ   :    もの思いにふけり過ごす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 あの月は何を見ていたのだろう。モーラが行った残虐な記憶も、猟兵が行った粛清も、ただ何も言わずじっとみつめていた。
 かの月がもし喋ることがあったなら、屹度こう言うのだろう。
『記憶が消えても、記録が残らずとも。罪も罰も、栄光も蛮勇も消えはしない』と。
 それでも月は何も言わない。ただじっと、何処まで行っても追いかけてくる。嗚呼、その一言がモーラに届いていたならば、また違った結末もあっただろうに。

 まん丸に光る銀の月、あなたに届ける/見届けられる想いは――。
春乃・結希
もし、貴方との思い出を忘れてしまったとしたら…ううん、絶対そんなことはないけど
でも、もしそうなったら、凄く悲しいけど…きっと心は折れたりしない
あなたが側にいてくれるなら、またひとつひとつ
集めていけばいいから

だけど、もし貴方の事を忘れてしまったら…
もう、私は生きられない
貴方の居ない世界なんて、生きる意味もない
私は独りで生きられらない弱い人間なのに
裏切り、別れが怖くて、人を愛することが出来ない
私が想い続ける限り、変わらず側にいてくれるのは
貴方だけだから

考えただけで涙が溢れそうになるのを、空の月を見上げて溢れないように
愛しい恋人を抱きしめる

ねぇ、『with』…月が、綺麗だね
ずっと、私のそばに居てね




「もし、貴方との思い出を忘れてしまったとしたら……ううん、絶対そんなことないけど。でも、もしそうなったら。ええ、もしもの話よ。……すごく悲しいけど……きっと心は折れたりしない」
 『with』が側にいてくれるなら、またひとつひとつ、思い出を集めていけばいいだけだから。――記憶が無くなっても、あなたさえ忘れなければ、私は頑張ることが出来る。諦めないでいることが出来る。けれどもし、『with』の事を忘れてしまったら……結希はもう耐えられない。もう、生きていられない。
 『with』の居ない世界なんて、生きる意味が無い。価値もない。結希は独りで生きられないか弱い人間で、裏切り、別れ、期待、嫉妬が怖くて、人を愛することが出来ない。でも、結希が想い続ける限り、変わらず『with』だけは側にいてくれるのだ。
 考えただけで涙が溢れそうになるのを、空の月を見上げて零れないように愛おしい恋人を抱きしめる。鋼の身体はひやりと冷たいはずなのに、それは不思議と温もりさえ感じた。
「ねぇ、『with』……月が、綺麗だね」
 ずっと私のそばに居てね。私も、あなたを想い続けるから。そう呟いた結希の瞳から、堪えきれなかった雫がひとつ零れ落ちた。
 『with』。結希を強くし、奮い立たせるもの。同時に脆く、依存させるもの。どちらが本物の『with』なのかは、誰にも――恐らく結希本人でさえ分かっていない。でも、間違いないことがひとつだけある。この恋人と一緒なら、何をも乗り越えられるということ!
 それは強烈な自己暗示だった。人を愛せないが故に物へ固執する結希の、想いの結晶とも言える。誰かに命令されたわけでもない、結希の自由意思。だからこそ此処まで強くなれた。人に言われての恋なんてまっぴら御免!
 ――それは、『with』と共に歩んだ物語。辛いこともあった、苦しいこともあった。形にしたのは結希だけど、紡いだのは『with』。私の最愛。愛しい愛しい、絶対に裏切らない理想のカタチ。私の夢見た、完璧なる姿!
 誰に否定されようとも、結希が其の大剣を手放すことはないだろう。オブリビオンにすら引き裂けなかった仲を、そんじょそこらの人間風情が切り離せるわけもない。そして結希自身に、手放す気が全くないのだから。愛するものの柄をどうして離す事が出来ようか。
「『with』……何があっても、ずっと一緒だよ」
 キィンと月明かりに照らし返された刀身が、美しく輝いていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

日東寺・有頂
夕辺(f00514)と

月が …そうやね
ばってん、そいつが如何に輝いているのか
俺には分からない ひたとお前を見てるから
またいつお前に氷膜が戻るともしれない
いやそがんことは二度とねえ、きっと

怒ってないよ 笑いかけて手を伸ばす
俺の声はなんや 情けなかね
いじらしい娘の藍色と、儚い影に目を凝らす
なあ、いかんで 何処にも
置いていかないでくれ 連れていってくれ
約束ば何度となく交わし合う けどそれは一瞬で過る痛みと同じだ
月光が拾ったものはいつだって、明ければ失われてしまうんだ

それでも
飛び込んできた夕辺の背中を掻き抱く
ああ、わかってる
欲と命と血肉をもって
死をふたりが分かつまで


佐々・夕辺
有頂【f22060】と

部屋の窓から空を見上げる
照らされる石畳は冷ややかで

月が綺麗ね、有頂
…って、なあに。私ばっかり見て
笑う顔に氷の影はない

……その
…大事な事、忘れちゃってごめんなさい
怒ってる?
…怒ってないなら、良いんだけど…
頬に触れる手に視線を上げる
相手の琥珀色は寂しそうで
…うん
置いて行ったりしないわ、ずうっとどこまでも連れていく
貴方が此処にいる間も、――私のお腹に、収まっても
何度だって約束する
何度でも だからそんな顔しないで

寂しい顔をさせたくなくて、思わず相手の胸に跳びこむ
月の光が艶やかで、其れだけひやりとしているから
…もう忘れない 忘れないよ
ずうっと持っていくの 果ての涯まで




 領主館のひと部屋、ふかふかのベッドに座りながら静かな時が流れてゆく。窓の外にはまん丸のお月様。照らされる光で石畳は冷ややかで、それなのに隣のぬくもりが暖かい。
「月が綺麗ね、有頂」
「月が、……そうやね」
 かの文豪が言った一節に倣ったのか、あるいは素直な感想なのか。有頂には夕辺の言葉をいまいち図りかねたが、そんなことは関係なかった。月が如何に輝いているのか、有頂には分からない。ひたと、瞬きすら惜しい程に夕辺を見ているから。
 その視線に流石の夕辺も気付いて、くすくすと笑いながら声をあげる。
「……って、なあに。私ばっかり見て」
 笑う顔に氷の影はない。仮にまたいつ氷膜が戻るとしても、有頂が必ず助け出す。だからそんなこと、二度とない。屹度、いや絶対に。
 夕辺は隣の有頂の方に頭を預け、もじもじとしながら何か言いたげな様子。有頂はそれに気付いたが、何も言わずただ話してくれるのを待った。二人の間に『時間』というお邪魔虫がいるとしても、それは優しい時に置き換わる。
「……その。……大事な事、忘れちゃってごめんなさい。怒ってる?」
「怒ってないよ」
「本当? ……怒ってないなら、良いんだけど……」
 有頂は笑いかけて夕辺の頬に手を伸ばす。暖かい、生きている証だ。その手に視線を上げれば、有頂の琥珀色の瞳は酷く寂しそうで。有頂は自分でも困惑していた。――なんや、情けなかね。いじらしい娘の藍色と儚い影に目を凝らす。
 頬を滑る手は首から胸に下がり、有頂だったら其処にあたるあの場所へ。くしゃっと潰してしまいそうな程儚いようで、煌めく意思は太陽より眩く。そんな彼女に……有頂は縋った。
「なぁ、いかんで。何処にも。置いていかないでくれ。連れていってくれ」
「……うん。置いていったりしないわ、ずうっとどこまでも連れていく。貴方が此処に居る間も、――私のお腹に、収まっても」
 何度だって、約束を幾度となく交し合う。けどそれは一瞬で過る痛みと同じ。月光が拾ったものはいつだって、明ければ失われてしまうんだ。――嗚呼でも、そんな顔しないで。此処はダークセイヴァー、明けない夜の世界だから……約束は永遠よ。
 寂しい顔をさせたくなくて、夕辺は思わず有頂の胸に跳びこむ! 月の光が艶やかで、其れだけひやりとしているから。驚いた有頂は夕辺を掻き抱きつつ、背中をさする。こうしていると安心する。胸に刻まれた痕がしくしく悼む。
 ――嗚、嗚呼。夕辺。俺の夕辺。どうしてこんなに俺を魅了する。お前が此処にこうしているだけで、俺の心はかき乱される。
 ――有頂、忘れないで。私は貴方のことをきっといつか『食べて』しまう。でも、だからこそ共にありましょう。永遠に。身体は循環されても、脳裏に焼き付いた思い出が私を強くするから。
「もう忘れない。忘れないよ、ずうっと持っていくの、果ての涯まで」
「ああ、わかってる。欲と命と血肉をもって、死が二人を分かつまで」
 それ以上の言葉はいらない。二人は抱き着いたままボフっとベッドに倒れ込んで、くしゃっと笑った。「死んでもいいわ」と返す有頂に、夕辺は怒ったように口を尖らせて「今此処で食べちゃおうか?」なんて答える。有頂は困って頭を撫でた。
「今は困るなぁ」
「死んでもいいわ、なんて――」
 OKって意味じゃない……と、夕辺は頬を赤らめて有頂の首筋に顔を埋めた。勿論有頂もそういう意味で言ったのだが……可愛らしい娘に免じて、今日のところはこの辺で勘弁してやろうと、グリモア猟兵が呼びに来るまでそうしていたとかなんとか――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三嵩祇・要
続きはいらないと思っていた一年前のオレと
一年生きてしまった今のオレと
きっとまた言い訳しながら生きてしまうオレ
何てくだらないロクデナシ

でもこの一年で積み重なった記憶を思い返せば
この先がもう少し続くのも悪くない、気もしている

生きる為のものなんか欲しくなかったが
生きる為のものが必要になったらしい
いつの間にかそう思うようになってた様だ

壊れかけの仮義足も「続き」の為の大事な記憶かもな
セテカーのお陰で今回も親友との約束は守れたみたいだし

文句言いたげな顔で転送されたのを思い出した
…さてと、怒られてやるとするか




 続きはいらないと思っていた一年前の要と、一年生きてしまった今の要と、きっとまた言い訳しながらも生きてしまう要。どれもが要であり、否定できない過去と未来。何てくだらないロクデナシ。歩みを止めるのは自分の意思でやれるのに、それが出来ない。
 しかし、この一年で積み重なった記憶を思い返せば、この先がもう少し続くのも悪くない、なんて気もしている。生きる為のものなんか欲しくなかったが、生きる為のものが必要になったらしい。いつの間にか、そう思うようになってたって様だ。
 ――親友は心配性だ。自分は弱っちいくせに、いつでも、すぐに俺のことを気に掛ける。弟分は気に病まなすぎだ。それが強がりなのか生来のものなのかはわからないけれど、俺を支える一つの要素だ。他にも俺を支える人がいる。今は……自分勝手に行動するべきではない。
 壊れかけの仮義足も『続き』の為の大事な記憶かもしれない。あの時したことに後悔は微塵もないし、これからだってどんなトラウマにも耐えてみせる。これから先、まだまだ未来は続いていく。その為に――記憶を取り戻した。
 セテカーのお陰で今回も親友との約束――無事に帰ってくること――は守れたみたいだし。と言っても、セテカーは屹度何も変わっちゃいないんだろう。変わったのは要自身だ。過去を抱きながらも、偽りの脚でこれからを踏み出す。
 其処に恐怖がないと言えば嘘になる。これから強大な敵を前にすることもあるだろう。恐ろしい化け物に、大切な人を奪われるかもしれない。そうなったとき、自分がどうするか……考えたくもない事が色々と頭を擡げる。
 それでも良い。要は自分の出来ることをするだけだ。まだまだ半人前にも満たない身なれど、心は明日へと向かって歩き出している。恐怖と困難に立ち向かうだけの勇気を、改めて実感した。認めるんじゃない、信じるんだ。自分じゃなくたっていい、大切な誰かを。
 ロクデナシにはロクデナシなりのやり方がある。誰かを傷付けないなんて無理だ、全てを守るなんて出来やしない。その結果がこの脚。でも、その義足が今は要の、文字通り大地を蹴る為のものになったのだ。結果オーライと言うには少し代償が大きすぎたけど、それでも構わない。今は、まだ。
 ダークセイヴァーに送り出されるとき、親友に怪訝な顔をされたのを思い出して、少ししたり顔になってしまう。――あいつ、絶対怒ってる。いや、そのくせ転送はちゃんとするんだから、もしかしたらそれ程怒ってないのかもしれない。真相はこれから分かる。
「……さてと、怒られてやるとするか」
 ボロボロになった仮の脚を引き摺って、要は月を見上げた。其処に輝く月はいつまでも辺りを照らし、光なき世界を祝福しているようだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
……不覚ね。まさか彼との想い出を奪われるなんて…

…さっきの私は、哀しみも苦しみも感じないよう心の底に沈め、
ただ救世の誓いを果たす事だけを追い求めていた私

…彼と出逢う前の私なら、こんな事で思い悩まなかった?

…それとも、あの残影達の姿に怒りに囚われる事も無く、
冷静に対象して不覚自体取らなかった…かも

…確かに、彼と出逢って弱くなった
だけど、弱くて良いと気付いたのも彼のおかげ

…だからやっぱり、彼との想い出だけは、一つ残らず返してもらうわ

限界突破した"呼符"の狂気耐性で一時的に記憶を取り戻した後、
モーラが倒れた場所に赴きUCを発動

彼女の魂を降霊して浄化を施し闇の精霊化として召喚
全ての記憶を返してもらうわ




 不覚だった。まさか、彼との思い出を奪われるとは。あんなに大切だったはずの思い出たちが、今はすっぽりと抜け落ちている。先程までのリーヴァルディは、哀しみも苦しみも感じないように心の底に沈め、ただ救世の誓いを果たす事だけを追い求めていた。
 ――……彼と出会う前の私なら、こんな事で思い悩まなかった?
 ――……それとも、あの残影達の姿に怒りに囚われる事も無く、冷静に対象して不覚自体取らなかった……かも。
 リーヴァルディの心は揺れた。湖面に投げた石のようにさざめき立つ、彼との思い出。バレンタインもクリスマスも、それ以外の時だって、二人一緒だった。そのピースが欠けていくようで、なんだか虚しい気分になる。
 ――……確かに、彼と出会って弱くなった。だけど、弱くて良いと気付いたのも彼のおかげ。
 ――……だからやっぱり、彼との想い出だけは、一つ残らず返してもらうわ。
 呼符の性能を限界まで突き破り、狂気に触れながらもモーラが倒れた場所まで赴く。其処にはモーラの死骸が転がっていた。真っ青な血を広げ、ただ伏せっている。あんなにも記憶に執着していた者の末路がこれだなんて、なんだか哀れだ。
 でも、同情なんてしてやらない。モーラはリーヴァルディの大切なものを奪った。それは許せることじゃない。だから――……私の全ての記憶を返してもらうわ。
 モーラの魂を降霊し、浄化を施して闇の精霊と化して召喚する。モーラは自分の状況を掴めずにいたが、リーヴァルディの言葉に自らの行いを『思い出した』。
「……返して。あなたが奪った記憶の全て」
『……いいわ、返してあげる。じゃないとあなた』
 崩れてしまいそうだものね。とモーラは続けた。何のことだろうとリーヴァルディは考える。――私は確かに弱いけど、オブリビオンに情けを掛けられるほどじゃない。彼との想い出のお陰で、私は強くなれたこと、それだけは失わずに済んだから。
 これでもし、彼の存在そのものの記憶を奪われていたかと思うと恐ろしい。もう二度と彼を思い出す事が出来ないなんて、恐怖すら感じる。いや、その場合もはや他人なのだから、知る由もないのだろうか。どちらにせよ、失われずに済んだのは運が良かった。
「……あと24時間。精々思い出探しに奔走すればいい」
『え?』
「お前が再び骸の海に還るまで時間がある。それまで……己の行いを悔いなさい」
 リーヴァルディはそう言い放ち、取り戻した記憶と共にその場を去った。この記憶の温もりは、誰にだって奪わせはしない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

廻屋・たろ
忘れることを恐れていた奴が、そのうち忘れられていく存在になるんだろうと思うと、少し気の毒に感じる
まあ、因果応報ってやつだろうけど。

月をぼんやり眺めながらふと思ったのは、アイツが俺の記憶に何を見たのか
失くしてはいけないものだとは分かっている。だけどこの記憶の根源をもう覚えていない
そんな曖昧なまま、僅かに残された自分を頼りにするしかないって事では、俺も似たようなものだったのかも知れない
…それでも他人の記憶を欲しいとは思わないけど

俺の記憶を取り戻してくれた友人を労って暫くモフモフした後、ゆっくりと帰ろう
今までを失くした分、これからを積み重ねていけばいい
俺にはまだそれが許されているんだから




 人は忘れていく生き物だ。それは一見悪いことのように感じるが、良く働く時もある。逃げ出したい記憶、思い出したくもない記憶が段々と薄れていくのは、ある種の防衛本能なのだろう。
 そして忘れること・忘れられることを恐れていた彼女が、そのうち忘れられていく存在になるんだろうと思うと、たろは少し気の毒に感じる。まぁ、因果応報。自業自得というやつではあるけれど。
 月をぼんやりと眺めながらふと思ったのは、モーラがたろの記憶に何を見たのかだ。失くしてはいけないものだとは分かっている。だけどこの記憶の根源を、もう覚えていない。そんな自分の裡から、一体何を覗き見て、奪おうとしたのか。
 そんな曖昧なまま、僅かに残された自分の頼りにするしかないって事では、たろも似たようなものだったのかもしれない。……それでも、他人の記憶を欲しいとは思わないけど。
 だって、他人の記憶は所詮『他人のもの』なのだ。いくら奪ったところで、自分のものになるわけじゃない。再現しようとしたって、時間も場所も相手もいなければ成立しない。モーラは解っていなかった。記憶とは、思い出とは、一人一人の心にあるからこそ尊いのだと。
 それはたろにも同じ事が言える。唯一残された名前と、この身体が、たろの証。たろを勇気づける、己を確立するもの。思い出はまだまだ少ないけれど、増えたなら増えた分だけ、たろの存在ははっきりとするのだから。
 記憶を取り戻してくれた名も無き友人を労って、暫くモフモフする。茶色の毛に埋もれるこの時間は至福だ。ほんのりと暖かいその身が、逆にこちらを労ってくれているようで安心する。
「ありがとな……」
 友人は大きく尻尾を振り返事を返す。可愛い。さぁ、もう此処でやることは終わった。あとはゆっくりと帰ろう。今までを失くした分、これからを積み重ねていけばいい。たろにはまだ、それが許されているんだから。嗚呼、でも。可笑しいな。なんだか少し、悲しい。
 誰かに呼ばれたような気がした。誰かに願われたような気がした。それなのに何も思い出せない。本当にそうなのかも定かじゃない。でもたろを求める声は、確かにあったのだ。
 「帰ろう」と差し伸べられた手を取った。長い長い、帰り道の始まり。それが本当に帰り道なのか、或いは未来への旅路なのか、今となっては何も分からないけれど。その答えは、きっとこの帰り道の先にある。其処には誰かが待っているかもしれないし、何もない虚空かもしれない。
 どんな結末が待ち受けていようとも、たろは引き返したりはしない。月明かりが照らす路には、銀色に輝くたろだけの思い出がたろを待っている。
 たろはバディペットと共に、競争する様に走り出した! 行こう、まだ見ぬ思い出の先へ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルドヴィーノ・バティスタ
(アドリブ・連携歓迎)
どうやら片付いたようだな…っと。ここなら影になって月光も見えにくいだろ。
…アレが満ちた月なら休憩どころじゃなくなるしな。

記憶を奪うオブリビオン、か…余計な感傷だの記憶だのは足を鈍らせる。
気をとられた瞬間を狙って絡み付いて、道連れにしようとしてきやがるんだ、あの亡霊どもみてえに。
…いっそ全部忘れられたら憂いも気負いもなくなるか?
無念だと妬ましそうに見つめる亡霊の目も、省みられずあの監獄の中で朽ちていった奴らの声も。


…ハッ。無いな。
抱く記憶も向けられる感情も、オレをオレたらしめるものだ。
止まって振り返るなざ、こういう時以外はしてやんねえが…抱えて落とさず生きてやらァ。




「どうやら片付いたようだな……っと」
 木陰に身を潜め、月光を遮るようにして歩く。満ちた月はバルドヴィーノを狂わせる、とても休憩どころの話ではなくなってしまう。それだけ彼に植え付けられた人狼病は重い。もうまともに月光浴も出来ない体。ぎゅっとその身を抱きしめる。
 ――記憶を奪うオブリビオン、か……。余計な感傷だの記憶だのは足を鈍らせる。気をとられた瞬間を狙って絡みついて、道連れにしようとしてくるのだ。あの亡霊どものように。彼らは共に骸の海へと還っていったが、染み付いた怨恨は消えないままだろう。
 いっそ全部忘れられたら、憂いも気負いもなくなるか。無念だと妬ましそうに見つめる亡霊の目も、省みられずあの監獄の中で朽ちていった奴らの声も。誰にも看取られることなく、唯のモノのように捨てられていったあいつらの物言わぬ声が響く。
「……ハッ。無いな」
 抱く記憶も向けられる感情も、全部がぜんぶバルドヴィーノたらしめるものだ。止まって振り返るなざ、こういう時以外はしてやらないが……抱えて落とさず、生きてやると心に誓う。
 過去の過ちも、悼みも、本当はどうでも良かった。でも、それに縋って生きる者もいる。そういう奴らのことを蔑む気は更々無いが、バルドヴィーノには出来そうもない生き方だ。だってそうだろう、捕まえられては逃げの繰り返しだった人生。命がけの追いかけっこだけ。
 生きた、捕らえられた、逃げた、また反旗を翻した。ずっとずっと、そういうやり方しかしてこなかったから、今更生き方を変えることなんて出来ない。変えようとも思わない。人狼病はさっさと治して、苦痛から解放されたいとは思うけど。
 思い出が霞んだように蘇る。そんなお綺麗なものじゃない、辛い事ばかりだった。嗚呼それでも――オレは過去に生かされていると感じる。自分の中のちっぽけな野望が消えない限り、バルドヴィーノはあくまでも小悪党で。
「思い出なんざくだらねぇ。そんなモンで飯が食えるわけでもなし」
 ぼそりと零した言葉は本心だ。だからこそ、人は思い出を大事にするのだろう。飯にも娯楽にも代えがたい、大事なものとして。
 月明かりから逃れるようにその場を去るバルドヴィーノ。このまま此処に居たら本当に狂ってしまいそうだ。いつもより体が重い。考え方もなんだか悲観的だ。こんなこと、まるでバルドヴィーノらしくない。一歩、踏み出した。これから先も増え続ける記憶の先へ向かって――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

洞木・夏来
【アンリさんと・f29255】

あうぅ、今回はアンリさんに迷惑ばかりかけちゃった
呪いも発動させちゃったし、ちゃんと謝らないとなぁ

UCで蜂比礼の魔を封じる能力を使い、呪いが発動しないようにしながらアンリさんに話かけます。「アンリさん、あの、お疲れさまでした。ケガとか大丈夫でしたか?」

あっ、いえいえ、そんなお礼なんて大丈夫です。むしろあの、謝りたいぐらいなんです。
でもアンリさんが記憶を失わずに済んでよかったです。
え、初対……面?
えっと、じゃあその…、初めまして洞木夏来です。

泣きたい、逃げたい。でもやっちゃダメだ。私が泣いたらアンリさんを傷つけるだけだから
少しでも気丈に振舞わないと

負傷等々全て歓迎です


アンリ・ボードリエ
【夏来さんと(f29248)】

守ることが出来た、ボクはボクの記憶を...。
普段失ってばかりだから...ふふ、なんだかとても嬉しいな。

ああ、夏来さん。お疲れ様でした。ボクは大丈夫ですよ。
貴方に怪我がなくてよかった。

そうだ、彼女にお礼を言わなければ。

君の協力があったからこそ、ボクは大切な記憶を守ることが出来ました。本当にありがとうございました。

初対面のボクにここまで協力して、お守りまで貸していただいて...。
…あぁ、うっかりしていました。まだきちんと自己紹介もしていませんでしたね。

「初めまして。ボクはアンリ・ボードリエと申します。」

あれ、彼女はどこでボクの名を?

【アドリブ等々歓迎】




 普段失ってばかりのアンリの記憶。それを守ることが出来た。それはとても素晴らしいことで、喜ばしいことで、美しいことだ。でも、それは本当に?
 蜂比礼の魔を封じる能力で呪いが発動しないようにしながら、アンリに話しかける夏来。
「アンリさん、あの、お疲れ様でした。ケガとか大丈夫でしたか?」
「ああ、夏来さん。お疲れ様でした。ボクは大丈夫ですよ。貴方に怪我がなくてよかった」
 そう言われて縮こまってしまう。迷惑ばかりかけてしまった。呪いも発動させてしまったし、ちゃんと謝らないとなぁと思っていたところにそんな言葉を投げかけられたら、どう反応していいか分からない。おどおどしながらも夏来はアンリに礼を言わなくてはと顔をあげる。
「あっ、いえいえ、そんなお礼なんて大丈夫です。むしろあの、謝りたいぐらいなんです」
「どうして? ボクはこの通り、元気ですよ」
「だって……呪い、使ってしまったから」
 アンリはにこやかに笑んで、「それが貴方の戦術なら、ボクは受け入れます」と元気づけた。夏来はホっとしたように肩を撫でおろす。アンリの方こそ、夏来に礼を言わなければと恭しく腰を折り。
「君の協力があったからこそ、ボクは大切な記憶を守ることが出来ました。本当にありがとうございました」
「はい、アンリさんが記憶を失わずに済んでよかったです」
「初対面のボクにここまで協力して、お守りまで貸していただいて……。……あぁ、うっかりしていました。まだきちんと自己紹介もしていませんでしたね」
 夏来の背筋が凍る。いやだ、うそ、どうして。お守りを貸したはずなのに。祈りを捧げたはずなのに。また彼は……。
「初めまして。ボクはアンリ・ボードリエと申します」
「え、初対……面? えっと、じゃあその……、初めまして。洞木夏来です」
 ――泣きたい、逃げたい、無かったことにしたい。でもやっちゃダメだ。私が泣いたらアンリさんを傷付けるだけだから。少しでも気丈に振舞わないと。
 夏来は困った笑みを浮かべ自己紹介を交わす。一方のアンリも何だか違和感を覚えた。
 ――彼女はどこでボクの名前を? 名乗る前から知っていた。これは……失われた記憶? 分からない、ボクは大切な記憶を守ったはずなのに、目の前の彼女の事すら知らない。
 記憶の欠落。またひとつ、アンリの記憶が剥がれ落ちた。もう元には戻らない。共に紡いだ一瞬の攻防しか、彼女との接点は無かったかのように。……お守りを、夏来は貸してくれた。それは一体何を守ってくれたのか。
 潤んだ瞳でアンリを見上げる夏来は、アンリの手を取り、何も知らぬ子ども言い聞かせるように囁く。――可笑しいの、アンリさんの方が、ずっと年上なのに。
「アンリさん、こちらこそ、初めてなのに一緒に戦って下さってありがとうございました。でも、これ以上無茶はしないでください……」
「しかし、困っている人は見過ごせない」
「はい。だから……その時は、また一緒に戦いましょう。もう初めましてじゃないんですから」
 アンリは夏来の様子を見下ろした。小さな肩に、自分は一体どれだけのものを背負わせてしまったのか嫌になる。でも、同時に嬉しくもあった。こんな自分を受け入れてくれる、支えてくれる人がいる。それは記憶を失っても変わらない……絆。
 まるで王子様のような涼やかな笑みで、アンリは「ありがとうございます」と返した。大丈夫、何度記憶が失われようと……己が築いた記録は消せやしないのだから。だから、胸を張って生きていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月30日


挿絵イラスト