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ウルトラマリンブルーに踊れ

#グリードオーシャン #七大海嘯

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#グリードオーシャン
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#七大海嘯


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●魔女の島
「進むのならば覚悟を決めよ。
 これより先は『七大海嘯』の縄張りであるからさ!」

 海原に響いたのは、柔らかな女の声だ。
 けれどそれだけで収まらない明朗さと快活さと異様さを、鉄甲船上の猟兵たちは察する。
 否、異様さは眼前の風景に依る処が大きい。
 猟兵らが海上を往くのを遮るようにずらり並ぶ船は、おそらく海賊船だ。何故なら、鬼火が描かれた海賊旗が掲げられているのだから。

「私は七大海嘯がひとり、鬼火の配下にして、この島の護りを預かる魔女。かかって来るなら、かかっておいで。存分にもてなしてあげよう――その覚悟が、お前達にあるならね!」

●海原を征き
 あのね、と切り出したウトラ・ブルーメトレネ(銀眸竜・f14228)は、いつも通りのたどたどしさと楽しさが綯い交ぜになった口調で語った。
 グリードオーシャンを進む猟兵たちの前に立ち塞がったのは、名乗られた通りの『七大海嘯』の配下の一人であること。
 そして猟兵たちがいままさに上陸を果たさんとしていた島に、その七大海嘯の配下に苦しめられている民がいることを。
「みんな、こまったお顔をしていたの。いやそうだったの。つらそうだったの。たすけて、あげなくちゃ」
 苦しむ民の姿は予知でみたのだろう。思い出したシーンに僅かに眉を顰めたウトラは、銀の眼を大きく見開くと、島へ通じる海面を埋め尽くす海賊船をねめつける。
「あれは、じゃま。じゃまな、ふね。いらない」
 言い放つ語気は、強い。
 一艘一艘は猟兵たちを運ぶ鉄甲船より随分小振りな船だ。
 けれど船首に据えられた像が、禍々しく、おどろおどろしく、蠢いている。それぞれがそれぞれに、鉄甲船を沈めようとする邪悪な意思を持って。
「ここは、海のうえ。ふつうにはたたかえないかもしれないけど……」
 ぱた、と自身の背中の小さな翼を羽搏かせ、ウトラはニコリと笑う。
 自分のように飛ぶ力を持つものならば、不自由はないかもしれない。しかしそうでない者は、海賊船を迎え撃つのには工夫が必要だ――でも。
 いつもと違う戦いだって、楽しもうと思えば、きっと楽しい。
 想像し、創造することは、いつだってわくわくする。
 もしかするとピンチかもしれないけれど、冒険だと思えば、どんな状況だって楽しめる。
 例え、揺れる船の上であろうと、波立つ海の上であろうと。
「がんばって!」
 転送代わりに快哉を謳い、ウトラは猟兵たちを送り出す。


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 グリードオーシャンでの物語をひとつお届けに参上しました。

●シナリオ傾向
 目指せ冒険活劇。テンポよく。
 海が舞台であることを大事にしたく。

●シナリオの流れ
 【第一章】集団戦。
 …洋上での集団戦。
 【第二章】ボス戦。
 …戦略込みのボス戦。詳細は導入部を追記します。
 【第三章】冒険。
 …詳細は導入部を追記します。

●プレイング受付・シナリオ進行状況について
 プレイング受付期間や、シナリオ進行状況は【運営中シナリオ】にて随時お知らせ致します。

●その他
 採用は少人数、できるだけ早めの完結を目指します。
 全員採用はお約束しておりません。
 状況により『プレイングの再送』をお願いする可能性があります。
 参加を検討頂く前に、個別ページの【シナリオ運営について】を必ずご一読下さい。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 集団戦 『呪われた船首像』

POW   :    まとわりつく触腕
【下半身の触腕】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    掻き毟る爪
【水かきのついた指先の爪】による素早い一撃を放つ。また、【自らの肉を削ぎ落す】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    呪われた舟唄
【恨みのこもった悲し気な歌声】を聞いて共感した対象全てを治療する。

イラスト:Kirsche

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●船のコンキスタドール
 改めて眺めてみても、異様な海賊船だ。
 美しいはずの船首像が異形なのだから。
 もちろん、ただの異形ではない。コンキスタドールだ。
 つまり海賊船そのものがコンキスタドールと言っても過言ではあるまい。
 とはいえ、船体を破壊しても、船首像は止まらない。逆に、船首像を破壊してしまえば、船は止まると言える。

 何れの海賊船も、全長は15メートルほど。御大層な船首像を備えるわりに、作りはシンプルだ。その分、小回りは効きそうだが。
 問答無用で船首像ごと海賊船を破壊しても構わない。
 船首像のみ破壊して、残った海賊船を足場に用いたり、鉄甲船への進路を阻む壁にしても構わない。
 全てはひとりひとりの遣り様次第。
 忘れてはならないことはただひとつ。
 ここが洋上であるということ。

 さぁ、繰り出そう。
 島で待つ魔女に遭いに征く為に。
清川・シャル
★F
魔女と来ましたか
是非とも手合わせ願いたいですね
まずは目の前優先なので船首像から。
泳げないので内心必死ですけどね
でも海は好きなので大丈夫です、いけます!

最低限飛べるんです私
櫻鬼のジェットと風魔法の補助で空中浮遊を行います
地形の利用とダッシュを使い分けたり、ホバリングも出来ますし大丈夫でしょう!
そーちゃんを背負って攻撃開始です
呪詛を帯びたなぎ払い攻撃です
連続して櫻鬼の仕込み刃での傷口をえぐる攻撃も仕掛けます
敵攻撃には激痛耐性と武器受けとカウンターで対応します


シグレ・ホルメス

私の体術では対応できそうにないな。ここは援護にまわろう。

剣や砲弾や鋼の破片、どこにあったのか狙撃銃の銃弾など、あらかじめ船内の「片手で掴める頑丈なもの」を十二分に用意して集めておく。
船首像が自分がいる甲板上から500mくらいまで近づき、猟兵たちが接敵したら援護開始だ。銭投げ(アイテム参照)で狙撃する。
元々走りながらでも小石で数十m先の頭部を撃ち抜くといった技だが、今回は足を止めて十分に力を込められる。【足場習熟】でバランスをしっかり取りつつ、集めた「弾」を【怪力】を込め1つずつ投擲する。味方への攻撃も【早業】の投擲で妨害するぞ。

さあ、プレイボールだ。悪党共をやっつけようじゃないか。


千波・せら


いざ、魔女に会いに!
帆を上げろー!面舵いっぱーい!
海賊船なんてなんのその!
海の上は私の得意分野!

両足を海風の属性を持つ物に変化をさせて
船から船に飛び乗る!
奇襲作戦だね!

突然現れたらびっくりすると思うんだ。
海賊船もびっくりするよね……?
ちょっと心配だけど、かっこよくやっちゃうよ!

船に辿り着いたら船首像を蹴る!
海風を纏った足は嵐みたいに強烈にもなるんだよ
最近取得したから、力加減が難しい……。

足場になるように残しながら船首像だけを蹴って壊して
次の人も来れるように道を作るよ。
海にも慣れているから私に任せて!



●海風の輪舞
 船がひしめき合う海に、水晶のさざれ石をまぶしたような煌めく風が吹いた。
「ほら、見て」
 右舷方向から不意に聞こえた声に、禍々しい船首像は首を巡らせ――血や毒を塗り固めたかの如き爪を閃かす。
 けれど驚愕の余韻が抜けぬ間の攻撃は、ひどく単純。
「ざあんねん!」
 軽やかに甲板を駆け、爪が降れる間際で千波・せら(Clione・f20106)は高く跳ねた。その動きは、波を散らす海風のよう。
 そのままいつもより青々と輝く左足を、せらは船首像めがけて降り下ろした。
 ぎぃん、と。鉱物同士が鬩ぎ合う音色が響く。勝ったのは、せらの本質が顕わになった水晶の方。
 頭頂部から走った罅は見る間に全身へ伸び、船首像はがらがらと崩れ落ちて逝く。
「私、かっこよかったかな?」
 とんっと両足を甲板につき、せらは両頬に手を当てふくふくと笑う。
 ――いざ、魔女に会いに!
 意気揚々と繰り出す海は、せらにとって馴染み深いフィールド。
 だって海がせらに「さがしてほしい」ってずっと言っているのだ。せら自身、なにを探しているのかは分からないのだけれど。
「それじゃあ、次! 帆をあげろー! 面舵いっぱーい!」
 なんてね、と楽し気に嘯き歌い、せらはまたひらりと“海”へ踏み出す。
 海風の属性をまとわせた両足は、水に沈むことなくせらを自由に駆けさせる。しかもただの自由ではなく、風の速さとしなやかさと鋭さを持って、だ。
 せらの一歩に、小さく波が弾ける。生まれた飛沫は陽光に照らされ、海上を飾る光粒になった。
 船側をよじ登る必要もない。ととととっと駆け上がり、船首像の死角からひょいっと姿を現すだけ。
(「どうかな?」)
(「うまく行くかな?」)
 緊張と心配にドキドキしていたのは初めだけ。鼓動のリズムは、わくわくのドキドキに生まれ変わる!
 数多の海賊船の間をせらは吹き渡り、華麗に船首像だけを砕いて征く。
 でも事が上手く運び出した頃が一番の用心のしどころ。海風の属性を纏わす術は、ほんの最近覚えたばかりなのだ。
「――あ」
 多分、5艘目の海賊船の側面を登っていた時。唐突にせらの視界がひっくり返った。天地が入れ替わったのではない、力加減を誤って船の側面を踏み抜いてしまったのだ。
 バランスを崩したセラは海まで真っ逆さま――なんてことには、海風の属性のおかげでならなかったけれど、余計な物音は船首像にせらの居場所を報せることになる。
「さんざん引っ掻き回してくれたようね」
「そ、そんなことない、かな?」
 海面に立ったせらを、触手の下肢を這わせた船首像が船縁から見下ろす。
 しかしその爪が閃くより早く、剛速球のように飛んできたスパナが船首像の頭部を撃ち砕く。

「上手くいったようだな」
 感覚を確かめるようにぐるりと肩を回したシグレ・ホルメス(放浪者・f29335)は、銭投げの要領で放ったスパナの行方を視界に収め、淡々とした表情のまま、「ふぅ」と安堵の息を吐いた。
 傍目には、華奢でこそないが小柄なシグレだ。されど彼女が得手とするのは体術。つまり戦場が海原である以上、その実力を如何なく発揮するには難があると、早々に判断したシグレは、鉄甲船上から他の猟兵たちの援護にまわることを決意した。
 二十歳そこらに見えても、その実シグレは五十路を越える。流離人として、そして武芸者として生きた年月は、彼女に冷静に戦況を視る力を養わせたのだろう。或いは、何事にも無頓着な性格が功を奏したのかもしれない。
 斯くしてシグレは鉄甲船の積荷を適当に漁り、片手で掴めそうなもの――剣や砲弾、鋼の破片や工具などを片っ端から集めて小山を作ると、静かに出番を待った。
 射程範囲は、渾身の怪力と裂帛の気合を加味して、おおよそ500メートル。
 飛距離としては充分過ぎるほどだ。それに此方を沈めようと獲物の方から近付いてくるのだから、入れ食い状態になるのは確か。おかげでシグレが一切の焦りを抱くことはなかった。無論、同胞が危機に陥らぬよう、眼光だけは鋭く光らせていたが。
 戦場に似つかわしくないくらいご機嫌な海風が――せらに呼応しているせいだ――、無造作にまとめた髪や、尖った耳の先を擽ってゆく。
 悪い気分ではなかった。
 今ならば、どんな球種でも投げ分けられそうな気がする。
「さあ、プレイボールだ」
 潜む熱血の魂を秘めやかに騒がせて、シグレは凪ぎながら虎視眈々と耀く青い瞳に世界を映す。
 既に島影は正面に見えている。最初に聞こえた警告の声の主は、島に巣食うコンキスタドールが魔法の力で響かせたのだろう。
 そしてそのコンキスタドールは島民たちを苦しめている――悪党だ。
「悪党共を根こそぎやっつけようじゃないか」
 眇めた瞳に、金の髪がそよいでいる。あぶなっかしく海を行く、もう一人の猟兵だ。
 狙いを定めてシグレは拳大の鉛玉を振り被る。
 走りながらも的を射抜く自信がシグレにはあった。足場が揺れる船上であるくらい、なんてことはない。
「撃ち抜かれろ」
 腕のみならず、肩、上半身、下半身。全ての筋力を効率的にしならせたフォームから放たれる鉛玉は疾く、疾く、疾く。目にも留まらぬ速度で宙を翔け、不穏に蠢く触腕を墜とす。

「きゃあっ」
 怯えたのではなく、頭上から物が落っこちてきた驚嘆に、年頃の娘らしい黄色い声を上げた清川・シャル(夢探し鬼・f01440)は、乱れかけた空中浮遊を慌てて立て直した。
 夏になれば当然のように水着で着飾るが、シャルは泳ぎが得意ではない。得意ではないどころか、極めて苦手だ。浮き輪を持たずに飛び込むと、十中八九溺れてしまうだろう。
「でも、大丈夫です!」
 どぼんと派手に水飛沫を上げて沈んでいったコンキスタドールの触腕の行方を見送り、シャルは呼吸を整える。
「邪魔が入ったか」
 振り仰いだ先には、痛みに貌を顰めた船首像がいた。
 ――大丈夫。怖くない。
 ――だって私、海は好きですから。
 ピンクの鼻緒が可愛らしい厚底高下駄の踵に意識を集中すると、仕込まれた魔力ジェットが稼働し、シャルに推進力を与える。
 あとは全力で魔法をコントロールするだけ。
 機動力に欠ける分、一気に上昇するのは分が悪い。だからシャルは、せらが無害化してくれておいた海賊船の影に回り込む。
 せらによって船首像を討たれた海賊船の数は、徐々に増えている。その分だけ、シャルも自由が効く。
 身を隠すこともできれば、足場にすることもできる。羅刹らしく、力技で粉砕すれば煙幕代わりにだってなるだろう。
 選択肢は様々だ。
 だが、迂遠な遣り口よりも、直球勝負がシャラには似合う。
「ボスは魔女と来ましたか。是非とも手合わせ願いたいですね」
 すぅと浮き上がりながら、シャルは甘やかに可愛らしく、けれど獰猛に微笑む。
 魔女と言うからには、魔法に長けた相手に違いない。きっと真っ向から切り結ぶのとは異なる手応えを味わえる。
 またひとつ強くなれる予感を胸に、シャルは海賊船の甲板に降り立つや否や、高下駄の魔力ジェットの出力を最大まで引き上げた。
「いけます!」
 僅かに浮いたシャルの身体が、洋上へ加速する。
 邪魔な積荷や手摺は、背負った桜色の鬼金棒で薙ぎ払った。
 そしてそのまま、シャルは自分を狙ってきた船首像めがけてまっしぐら!
「角度修正、右へ十度」
 聞えた声は、鉄甲船から戦場全体を視るシグレのものだ。的確なフォローに、シャルはせらの気配が残る風を操り、軌道を整える。
「お待たせ」
 飛び込む間合いは、鬼金棒のフルスウィングが届く距離。空中浮遊を解き、つんと甲板に触れた爪先を軸に、シャルは駆動音を低く唸らせる鬼金棒を構え、薙ぐ。
「地獄へWelcome」
「ちいい!」
 ことさらにっこりと笑みかけると、石像の貌が醜く歪む。けれどその顔をシャルが長く眺めることはない。
 だって呪詛まで込めた全力の一撃に、命を持った船首像は木っ端みじんになったのだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫


櫻宵!海の上だよ
僕は泳いでいくけれど、君は―そうか飛べたね
じゃあ、海と空からの挟撃だ
…僕も空からと思うけど
飛べないし、抱っこしてもらえば君が刀を振るえない
だから僕は僕の出来ることをする

飛び立つ龍を見送って
ヨル、いくぞと気合を入れて海に潜る
船首は上だけど
船は海を進むものだから
人魚らしくするのも悪くない
船の動きをとめてしまおう

近寄らせないよ

歌声で、海底へ
歪み引きずり込むように

おいで
沈め、海の底

歌う「魅惑の歌」
魂がなくてもとらえてみせる
ほら、海上に綺麗な桜が咲くように
君がよーく、狙えるように
絡めて搦めて動きをとらえる

櫻、聴こえる?
この船を狙って

ふふ
海の中に落ちても大丈夫
すぐに僕が助けるから


誘名・櫻宵
🌸櫻沫


海の上の船を狙うのね
いいわとっても滾るじゃない
私は空から行くわ
リルは…そうね、人魚は海ね
その歌声で私を導いて頂戴な
私のかぁいい人魚王子

『麗華』
枝垂桜羽ばたかせて空へ
狙う船はあれね
生命を喰らって鈍らせて
桜化の神罰の桜吹雪を吹雪かせて
海の上に咲き誇る桜にお成り
狙い定めたならば、浄化込めた衝撃波でなぎ払う

船首像ごと船を斬り壊してあげる
全部余すことなく斬って抉って蹂躙するわ

小回りがきくのは面倒だけど―心配ないわね
リルの歌が聴こえる
まるで伝説の人魚姫
捉えて離さぬ海の歌声

例え海上であろうと美しく
裂いて咲かせて魅せましょう


可愛い人魚が助けてくれるの?
それはとっても頼もしいわ

だからちっとも怖くないの



●空海一体
「櫻宵! 海の上だよ」
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)のはしゃぐ笑顔に、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は片頬に手を当て「そうねぇ」とはんなり微笑む。
 人魚のキマイラであるリルは水との相性は抜群だ。だから喜ぶのは当然。でも、木龍である櫻宵はリルのようにはいかない。むしろ泳ぎは不得手。
 けれど。
「海の上の船を狙うのね」
 作戦を反芻した櫻宵の口の端は、「いいわ」と艶やかに吊り上がる。
 定まらぬ足場も、全てを呑み込んでしまいそうな海も、櫻宵はこれっぽっちも怖くない。それどころか、常ならぬ戦場に櫻宵の心は昂り滾る。
 何故なら――。
「私は空から行くわ」
 鉄甲船内を気安く行き来する為に秘していた枝の翼を、櫻宵は音もなく顕わにする。伸びやかな海風に、咲き綻んだ桜の花弁がはらりと舞った。
「そうか。君は飛べたね」
 隣で繰り広げられた美しき変化に、一瞬だけリルの貌に陰りが帯びる。
 櫻宵は恋る人だ。その櫻宵が空から征くなら、リルだって空から征きたいと願ってしまう。
 しかしリルは麗しい尾鰭を持てど、翼は持たぬ。空を征くなら、櫻宵に抱えてもらうしかない。それでは、櫻宵が刀を振るえない。
(「僕は僕のできることを」)
 櫻宵には櫻宵の遣り方があるように、リルにだってリルの遣り方がある。
「じゃあ、海と空からの挟撃だ」
 櫻宵が喚んでくれた雛ペンギン型の式神、ヨルをきゅっと抱き締め、リルは一切の負を払拭して目を細めた。
 その真珠のように輝く笑顔に、櫻宵はゆっくりと首肯する。
「その歌声で私を導いて頂戴な――私のかぁいい人魚王子」
 愛おしむよう、慈しむよう、櫻宵の指先がリルのまろやかな頬を撫でたのは刹那。温かな触れ合いにリルがパチリと瞬く隙に、早く唱えた櫻宵は枝垂桜の翼で空へ翔けた。
 先んじて討って出た猟兵たちがいるのは把握している。
 ならばと櫻宵は、同胞の手が未だ及んでいない領域を目指した。
「狙う船はあれね――いやだわ、獲物がたくさん」
 数だけ集めたって意味はないのに、と呟きかけた唇を櫻宵は引き結び、柔らかなれど物騒な弧に変える。
 余すことなく狩ってよいのだ。いや、狩りではなく蹂躙かもしれない。超速で飛翔する櫻宵へ攻撃を届けることは出来ないだろうから。
「さあ、海の上に咲き誇る桜にお成り」
 高みへ翔けるに合わせて転じた豪奢な装いの袖をはらと振り、櫻宵は太刀の一薙ぎで衝撃波を放つ。
 浄化の力を込めた斬撃に、頭上から討ってきた相手の姿を確認しようと頭をもたげた船首像が砕けた。
 否、砕けたのは船首像だけではない。船首像――コンキスタドールが操る海賊船の船体も木っ端みじんに砕け散る。
 瞬く間に、海が割れた。櫻宵の一刀ごとに桜色が溢れかえり、海の青をも染めてゆく。
 されど船首像たちとてやられたままではない。
「――あら」
 くるりと転進した海賊船に、櫻宵は気付きを得る。機動力を活かし、櫻宵が踏み込まぬ――つまりは他の猟兵たちがいる海域に逃げ込もうとしているのだ。
「ただのおバカさんじゃなかったのね。でも――」

 舞い上がった花魁を鉄甲船の甲板から見送ったリルは、ヨルを抱き上げ視線を交わす。
「ヨル、いくぞ」
 リルの気合に、ヨルも飛べない羽をばたつかせて是を応えた。
 あとは一人と一匹、思い切りよく海へと飛び込む。
 一滴の雫がとぽりと落ちるよう、リルは一切の水飛沫を上げずに水中へと潜る。ヨルはぱしゃりと水を跳ねさせたが、その物音が余人に気付かれる前にリルが手を取った。
 賑やかな海上とは異なり、水中は静かだ。
 魚たちも逃げてしまったのだろう。自分とヨルしかいない海を、リルはどこまでも自由に征く。
 空を仰ぐ船首に設えられた像は『上』だが、何もその動向を察するのに洋上に居る必要はない。
 海賊船そのものがコンキスタドールだと言えるなら、情報は船底の影だけで十分。
 リルは人魚として、人魚らしく戦える。
 月光ヴェールの尾鰭をそよがせ、リルは征く。ヨルと一緒だから、寂しくもない。
 そして一艘の海賊船の真下で、リルは静かに佇んだ。
(「行かせないよ」)
 櫻宵の飛んだ方角と、漂流物と、海賊船の転進ぶりで、事態は十二分に理解できている。
 これ以上、逃げ込ませない。櫻宵の邪魔はさせない。
 ――おいで。
『何を見ているの どこを見ているの 何を聴いているの――』
 ――沈め、海の底。
『そんな暇があるなら、僕をみて 僕の歌を聴いて。離して、あげないから』
 水に、リルは歌を溶かす。
 戦慄は波紋のように広がって、海賊船を歪みに引きずり込むように絡めとる。
(「櫻、聞える?」)
(「この船を狙って」)

「ええ、わかったわ!」
 本来、水面より上に響くはずのない歌を確かに聞いた櫻宵は、可愛らしい人魚に囚われた海賊船めがけて急降下した。
 舞い降りるのは、これみよがしな船首像の上。
 爪先をちょんっと付け、途端、縦一文字に刃を閃かす。
 海賊船ごと真っ二つになった船首像は、そのまま沈み逝く運命(さだめ)。
 そこで、ふと。
 海中で微笑むリルと目があった。
(「大丈夫。もし君が海の中に落ちても、すぐに僕が助けるから」)
 歌と同じく伝わる声に、櫻宵はこの上なく幸せそうに笑み返す。
「ありがとう。だから私も海がちっとも怖くないのよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
グィー(f00789)と

不気味な雰囲気を纏ってはいるが、美しいことに変わりはないだろう
きっと本来は、そうなのさ
ならば、戻して差し上げないとね

化楽三重奏で白兎に変身だ
夢現の空中浮遊の力も借りながら、空をふわっと移動していこう
いやぁ、実はこれ変身するの初めてでね
でも、グィー一人乗せるくらいならきっと行けるさ
まぁいけなくても、私を踏み台に飛んでおいきよ
君の足場に位はなって見せるとも

とはいえグィーにばかり攻撃を任せるのもよろしくない
君の活躍を最前列で見られる特等席だ
肩を並べて仕事をせねばね
飛ばなくても良い時は黒熊に転じて打撃を与えていこうか
もふもふだと侮らないでいただこう
目つきの悪い熊殿は、力強いんだ


グィー・フォーサイス
エンティ(f00526)と

船首像って綺麗なイメージがあるけど
あれはちょっと不気味だね
海賊船っていうより幽霊船みたいだ

エンティ、大丈夫?
『ははは、矢張りダメだったよ』とか言わない?
ぬいぐるみになったエンティの背に乗せてもらおう
随分と可愛らしい姿になったね、君
…落っこちたら風魔法で飛ぶことにするよ

君と僕、力を合わせて頑張るぞ
僕は風魔法で君の飛行をサポート
時と場合と戦闘状況によってはジェイドの背も借りてしまうのさ
…こっそり、エンティの背に切手を貼っておこう
地の利を得るのは大事な事さ

範囲を広げて切手を飛ばすよ
僕の切手は追跡機能付き
賢い郵便屋は紛失なんてしないのさ
船首の君にだって、勿論!



●かわいいと強いの両立証明
 うわぁ、と呟いたきり、耳と尻尾を項垂れさせたグィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)の傍らへエンティ・シェア(欠片・f00526)はついと歩み寄り、船縁に立った小さき同僚の顔を覗き込む。
「どうしたんだい?」
 訊ねると、前を見ていた大きな瞳が眇められた。
「船首像って綺麗なイメージがあるけど、あれはちょっと不気味だね」
 海賊船っていうより幽霊船みたいだと語るケットシーの毛並は、ほんのり逆立っているようにもみえる。
 決して怯えているのではない――何せグィーは戦場であろうとご用命あらば軽やかに現れる運び屋だ――、頭足類を思わす下肢を持つ異容に、ちょっとばかり引いているだけだ。
 事実、「エンティ、大丈夫?」とエンティを気遣う余裕がある。
 されど気遣われたエンティの方は、いっそう余裕。
「確かに不気味な雰囲気を纏ってはいるが、美しいことに変わりはないだろう」
 海を映した眼に、赤い爪。石色の肌に髪、細部に渡って丁寧に作り込まれただろう造形そのものは、確かに在りし日の美しさを彷彿させるものだ。
「きっと本来は、そうなのさ」
「……そういうものかな」
 本質で語るエンティに、グィーは素直に頷くことができず、曖昧に笑む。だってアレは、見ていてあんまり気持ちよくない。動き方だって、うねうねくねくねしているし。
 とは言え。
「ならば、戻して差し上げないとね」
「それには激しく同意だよ」
 骸の海から現実の海へ蘇ってきたものを還すことに否やはない。
「あと、エンティ。後から『ははは、矢張りダメだったよ』とか言わないでね」
 念押すように付け足されたグィーの指摘に、エンティは薄く微笑み是を頷き。そのまま歌うように唱える。
「踊れ、踊ろう、踊りましょう?」
 途端、鮮やかな夕焼け色の髪が真っ白になった。いや真っ白になったのは髪だけではない。全身真っ白だ。そしてサイズも随分小さくなった。多分、ドワーフくらい。
「随分と可愛らしい姿になったね、君。うん、これは間違いなくかわいいよ。」
 エンティであった白兎のぬいぐるみに、グィーは相好を崩す。
 エンティが用いたUCは化楽三重奏、成る程どろんバケラーらしい化けっぷりだ。黒熊や茶猫のぬいぐるみにも姿を変えられるが、どうやら初めての白兎にも上手く転じられたらしい。
「さぁ、どうぞ。グィー」
 ぬいぐるみらしく、微かにくぐもった声でエンティはグィーへ呼びかけると、くるりとターンして背中を向けた。
 のっぺりした真っ白な背だ。けれど肩にはグィーが陣取る程度の余裕がある。
「じゃあ、遠慮なく」
 とんっと甲板を蹴ったグィーが、軽業師の身のこなしでエンティの上に乗れば、ふわりと白兎のぬいぐるみが中空へと浮き上がり、そのまま海上へと進んで行く。
 三種のぬいぐるみのうち、飛翔能力に長けたのが白兎。そう、エンティはグィーを運ぶ、空飛ぶ船になったのだ。
「……落っこちたら風魔法で飛ぶことにするよ」
 ふかふかで不安定な足場にグィーが神妙な顔つきで言えば、「その時は、私を踏み台に飛んでおいきよ」とエンティが至極真面目に返す。
「任せておいで。君の足場くらいにはなってみせるとも」
「ありがとう。なら、その時は遠慮なく」
 白兎のぬいぐるみとケットシーの組み合わせ。傍目にはとてもほのぼのでファンタジーだ。本人たちの会話が、まるで死地へ赴くそれに通じるものがあったとしても。
 しかし彼らの間に流れる空気に重さは無い。冗句や戯れを述べているつもりはないが、窮地に陥るつもりはないのだ。
(「君と僕、力を合わせて頑張るぞ」)
 微速前進。風の力を借りてエンティの空路を調整するグィーは気概を腹に据える。まぁ、いざとなったら風の精霊であるジェイドの力を借りれば良いし。こっそりふかふかの背中にグィーオリジナルの切手を貼って、『足場』の優位性をちゃっかり確保したのはご愛敬。
 地の利を得ることは、戦略的にも重要なのだ。

 海風に心地よく乗りながら、ふわふわ白い兎のぬいぐるみが中空を漂う。
「戻してあげるためにも、まずは切手を貼らないと、ね」
 その上にすっくと立って、両手を空へと掲げているのはケットシーだ。そして小さな運び屋を中心に、肉球と王冠が描かれた切手の嵐が渦巻く。
 まるで蝶の大軍を操っているようだ。
 飛んだ一片は、意思を持つみたいにひらひら飛んで、ぺしりと船首像の額に張り付いたかと思うと、小気味よい発破音をたてて爆ぜ、コンキスタドールを骸の海へ送り出す。
「逃げようとしたって無駄だよ、賢い郵便屋は紛失なんてしないのさ」
 事態を察して転進を試みた海賊船へ、グィーはすかさず切手を差し向ける。ひらひら風に踊らされているだけのようでありながら、グィーが操る切手には追跡機能も搭載済み。
(「ふふ、最前列の特等席だね」)
 空飛ぶ船の役目をしっかり担いつつ、エンティはエンティで状況を楽しむ。
 かわいらしくて、かっこよくて、賢くて、強い。そんな友人の活躍を間近で拝めるのだ。心浮き立たぬはずがない。
(「とはいえ、ちゃんと肩を並べて仕事もせねばね」)
 海の上を移動している限り、エンティが白兎のぬいぐるみから姿を変えることは出来ない――が、時には海賊船の甲板に降りることもあるだろう。
 そんな時こそ、エンティの――ではなく、黒熊ぬいぐるみの出番。
(「目つきの悪い熊殿は、力強いんだ」)
 グィーの切手包囲網を辛うじて躱し、迫る一隻の海賊船を視界に収めてエンティはほくそ笑む。
 もふもふだと侮るなかれ。
 かわいいと強い(あと、かっこいい)が両立することは、既にグィーが証明してくれているのだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
島の護り、ですか…
相手にとっては、そうなるのでしょう
けれど、民が苦しんでいるのなら…討ちます

私は杖を手に精霊羽翼で飛行
空から確認して
足場が離れていたり、誰も向かっていない海賊船から
狙いに行きます

主は浄化を乗せた氷の槍による属性攻撃
顔や心臓に当たる部分や
船首との接触部位を優先して撃ちます

相手の歌声は風を乱して響かない様に
遠くへ届かない様に妨害を

討つ事でしか解放出来ないのは、辛く悲しいけれど
どうか最期は、恨みを手放し、安らかでありますよう
…おやすみなさい

船首像を討った船は足場用に残しますが
空から見て
風と水の精霊達に願って残った船を動かし
敵船の妨害にしたり
鉄甲船が進む際に邪魔になれば退ける様にします


菱川・彌三八
空を行けねえ訳じゃねェが、領分てのがあらあな
要は届きゃ良いんだろ

筆は六
呼び出すは千鳥の群れ
さぁ行きな、其の羽ばたきでもって、歌なんざ遮っちめえ
おっと、総てをまん前からぶつけるンじゃ芸がねェ
波にちいと忍ばせて、上に気をやった所へ横ッ面突っついてやる
マ、此れも定石みてえなモンだけどな

波に千鳥って知ってるかい
水鳥にとっちゃ波は味方も同義
其れに千鳥は勝利の紋、負ける道理もねェよ

消されても書き、四方から群れを繰り嬲り、揺すり
時に味方の陰から、時に奇襲の壁となり、悪路を打ち消し
遮る物が無ェなァ楽しいモンだ

最後は群れをひと纏めた飛び切り大きな千鳥で叩く
船を襲うか大波起こすかは其の場次第
伊達に画工してねェよ



●海を飲む
 島影は既にはっきり見えている。
 ――私は七大海嘯がひとり、鬼火の配下にして、この島の護りを預かる魔女。
(「確かに、七大海嘯の立場からは、そうなるのでしょう……」)
 泉宮・瑠碧(月白・f04280)は伏せていた瞼をゆっくりと押し上げ、目的地を正面に見据えた。
 魔女の宣戦布告は、朗々たるものであった。だからこそ、踏み躙られる誰かの悲鳴が聞こえる気がして、瑠碧の眉間はきつく寄る。
(「……民が苦しんでいるようなら……討ちます、必ず」)
「我は願う、力を翼と成し、我が意と共に在ることを」
 おそらく魔女にも魔女の謂れがあろう。けれど彼女を憐れむ心を今は押し留め、瑠碧は決意のままに静かに唱えた。
「……力を貸して」
 請う結びに、瑠碧の周囲の大気が柔らかくざわめく。精霊たちの息吹だ。そしてそれは、瑠碧の背に幻の翼となって顕現する。
「ありがとう」
 精霊術士である瑠碧にとって、精霊は操る対象だ。だが瑠碧は精霊たちを『力を借りる』存在として敬い、当然のように感謝を述べる。だからだろうか、精霊たちも気持ちよく瑠碧に従うのは。
 ふわり、と。重力を感じさせぬ動きで瑠碧の身体が宙へ浮く。あとは呼吸をするように羽搏くだけ。
 瞬く間に空の人となった瑠碧は、高みから戦場の全容を眺め遣った。
 鉄甲戦に同乗した猟兵ら各々の働きの甲斐あって、島までの道行きを阻んでいた海賊船は随分少なくなっている。未だ原型を留め洋上に浮いているものも、船首像を失ったものが大半だ。
 だが島からも新手が続々と繰り出している。
(「これでは埒が明かない――それなら」)
 敵の資材も有限だろう。されど尽きるのを待つのは分が悪い。故に瑠碧はまっすぐに島影を目指して飛んだ。
 道行きの最中も、眼下を征く海賊船へは氷の槍をけしかけた。浄化の加護も乗せた凍てた尖刃は、船首像を氷らせ砕く。
 すぐさま歌って同族を癒そうとする船首像の周囲では、風の精霊に踊ってもらった。風の波が、音の波を打ち消し、歌の波及を留めるために。
(「……ごめんなさい」)
 討つことでしか解放できぬ悲しみは、ずっと瑠碧の胸に在る。
 申し訳なさと辛さに、心臓はいつだって軋んでいる――でも。
「――おやすみなさ、い」
 どうか最期は。最期くらいは。恨みを手放せるよう、安らかでいられるよう。凝りが雪がれることを瑠碧は只管に祈り、その祈りを浄化の力に換えてコンキスタドールたちを穿ち貫く。
 瑠碧が飛んだ軌跡は、島までの最短距離の直線。
 両脇から余剰戦力が押し寄せて来れないよう、残した海賊船本体を壁と成す。
 鉄甲船から島へ、徐々に青い道が伸びる。
 とは言え、増援があるせいで最後の一歩が押し切れない。
「っ、あと少し――」
「よぉし、任されたぜ」
 瑠碧の首筋を汗が伝った時、一陣の千鳥が翔けた――。

「空も海も青。好いねぇ好いねぇ」
 鉄甲船に仁王立ち、六本の筆を構えた菱川・彌三八(彌栄・f12195)はニカリと笑っていた。
 絵筆で仮初めの命を描く彌三八だ。鳥を描いて飛ぶことも、自らが鳳凰と化すことも不可能ではない。
「でもまぁ、領分ってもんはあらあな」
 飛び征く誰かを否定するつもりは、剃り上げた月代ほどサラサラないが、今日は『人は人』の領分を守ることを粋とした彌三八は、器用に指の股に挟んだ筆を鮮やかに繰る。
「要は届きゃ良いんだろ!」
 ――鍔迫りの打ちいづる戦場の千鳥。
 ――勝を千取るしるべなるらむ。
 一振り、二振り、三振り、四振り、五振り、六振り。
「さぁ行きな」
 中空に捌かれた筆が、千鳥の群れを生む。ちちち、ちちち、最初は小さな鳴き声が、やがて海嘯のように海を遡る。
 ちちち、ちちち、ちちちちち。
 ちち、ちちち、ちち、ちちち。
 羽搏きが、海上を埋め尽くす。
 構えが間に合ったとしても、波のように数で押し寄せられれば、船首像になすすべはない。
 触腕が捥げ、下肢が欠け、眉間にだって容赦なく罅が入る。慌てて歌って癒そうにも、千鳥たちの啼き聲があらゆる音を上回る。
「波に千鳥って知ってるかい」
 猟兵たちの姿を避け、コンキスタドールを的確に啄んで征く千鳥たちが消えてしまわぬよう、術の維持に精神を割きながら彌三八はクツと喉を鳴らす。
 波に千鳥――古くからある文様だ。海の景観の定石中の定石であり、それが故に調和のよいものの喩えとされる。
 つまり。
「水鳥にとっちゃ波は味方も同然。其れに千鳥は勝利の紋、負ける道理もねェよ」
 ぐ、と。彌三八は筆を握る手に力を込めた。六もある、一くらいは――などと甘いことは考えない。余裕を嘯くなら徹頭徹尾、一切の非の打ちどころがないように。
 コンキスタドールも無力ではない。間合いに入る前に爪の一閃で千鳥を墜とす者もいる。
(「構やしねぇぜ。墜とされたら、堕とされただけ描きゃいいだけの話だ」)
 描いて、描いて、描きまくる。
 彌三八の頬から伝った汗が顎から滴り落ち、甲板に雨でも降った様な水玉文様が咲かす。
 気迫が乗り移った千鳥たちも、よく翔けた。海賊船の影に回って後続のコンキスタドールの不意を突き、一群を囮に三群で三方から強襲をかけ、飛翔する同胞を狙おうとする輩へは壁となって立ち塞がる。
 そして――。
 彌三八は瑠碧が開いた海路の奥を見据え、狙い定めた機に大きく筆を振り上げた。
 途端、海面が大きく盛り上がる。
 編んだ六群のうち、二群を伏兵として水中に潜めていたのだ。
「遮る物が無ェなァ楽しいモンだ」
 千鳥の二群れが起こした波に、四群れが追いついて、大波を起こす。数多の船の残骸をも飲み込んだそれは、さらにコンキスタドールを平らげ勢いを増して征く。

 千鳥の大波が、新手を生み出す浜辺を洗い尽くすまで今暫し。
 波の余韻が鎮まる頃、彌三八は「伊達に画工はしてねェよ」と、滝の様な汗を吹きながら笑うだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『災厄になれなかった魔女』ニュンペー』

POW   :    はは、失敗作だから無理に食べなくて良いよ
【周囲に気まずい空気が漂うほど下手な手料理】を給仕している間、戦場にいる周囲に気まずい空気が漂うほど下手な手料理を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD   :    それじゃあ、甘いケーキはどうかな?
【此処から去って欲しくないと言う切ない思い】を籠めた【鍋型メガリス『魔女の大鍋』によるケーキ】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【闘争心や冒険心、何より故郷への郷愁】のみを攻撃する。
WIZ   :    ささ、遠慮なくキュケオーンをお食べ?
【鍋型メガリス『魔女の大鍋』による麦粥】を披露した指定の全対象に【使用者と一緒に毎日食べ続けたいと言う強い】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。

イラスト:キイル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は黒玻璃・ミコです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●島の中の海の魔女
 波に洗われた浜辺に降り立った猟兵たちは、防砂林も兼ねると思しき木々の茂みを抜け、さらにしばらく行ったところで目を見開いた。
 そこにはまた海があったのだ。
 池や湖でないのは、鼻腔を擽る潮の香から明らかだ。おそらく地下で海と繋がっているのだろう。
「へぇ、ここまで辿り着いたのかい。ならもっと丁重にもてなしてあげないと、だね」
 そして目的の魔女は、新たに目にした海の中央に居た。
 ドーナツ状の陸地の内に抱え込まれた海には、船の成れの果てらしきものが無数に顔を覗かせている。
 その残骸を搔き集めて作った小島こそ、魔女のテリトリー。
「おっと。安易に踏み込まないことをお勧めするよ。この海は流れが複雑だからまともに泳げやしない。空も無理だよ。私の魔法がかかっているからね」
 ご親切にネタ晴らししてくれるのは、気紛れか、絶対的な自信からか。
 おそらく後者であろうことは、魔女の軽すぎる口調から想像に難くない。
 泳いでは行けない、飛んでも行けない。
 ならばどうすればと思案を巡らす猟兵が、異臭を捉えたのはその時だ。
「ひとまず到着の労いに、これでも食べるといいさ」
 魔女の小島の方から漂ってくる匂いは、おおよそ人が食せるものとは思えぬ強烈な匂いだった。

「あいつに居座られてから、散々なんです」
 木々の狭間にひっそりと佇む集落では、人々がひっそりと息を潜めて暮らしている。
「食料は根こそぎ奪われて、喰わされるのは変なものばっかりだ。拒めば心をいじくられて、いいように働かされる」
 どれくらいまともな食事を摂っていないのか、人々は痩せ細り、明日への希望を持てない状態だ。
 しかし、元よりこの島に住む彼ら彼女らなら、魔女の小島に辿り着く方法を知っているに違いない。
 とはいえ、今の彼ら彼女らに動く余裕と気概はない。
 励ますか、希望を抱せるか、はたまた美味い食べ物を分け与えることが出来たなら、活路を見い出すことも出来るだろう。
 或いは、身体能力に自信がある者なら、島内の海に突き出す残骸を跳びはね渡ることも不可能ではなさそうだ。
 協力をとりつけるか、自ら突破を試みるか。
 選択は二つに一つ。
シグレ・ホルメス
犬も食わないような代物を押しつけるとは迷惑な奴がいたものだ
食べ物の恨み、私が晴らしてやろう

【足場習熟】の技と【ダッシュ】で残骸を足場に素早く跳び移りながら小島にたどり着き、体術で応戦する

料理の魔力で戦意を削がれるが、心のどこかで戦いを止めることを拒んでいる(アイテム修羅の兆し)
覚えのある感覚。死闘の中、死の恐怖を感じてなお戦いを命じるあの衝動が微かに首をもたげ、私に拳を握らせる

腕を下ろしたまま間合いに踏み込み、顔への刻み突き…踏み込む足と同じ側の拳の突き…からの連撃、無刀風月を魔女に叩き込む

急所に刺した貫手から手応えと血の感触が伝わる
戦うことしか能が無い根なし草には、こんなことしかできないのさ


菱川・彌三八
村の奴等見るに、見目も臭いも味も悪いらしい
一体何がしてェんだか
ちょいと黙らせて、近くの島から食うもん取って来てやるヨ
向こうに余ってりゃ夫れも善しってな
マ、見てな

道がねェなら創るまで
あすこに行く術ってなァ何か知れねえが、使えそうならそいつも使おう

千鳥を一つ、一つと飛島が如くの木屑にぶつけ、悪路を均して道とする
水も然り、当たりゃ潮目も関係ねェさ
夫れに俺ァ身のこなしにはちいと覚えがある
彼奴がまともに戦わねェなァ僥倖だな

此の世には俺の見慣れねェ飯は多いが…
食わねェ
食わねェ(二回)
其の辺は気合いでひとつ
食い物無駄にしやがってよ
手前ェで食ってみろってんだ

さて
鳥に吹っ飛ばされるか
拳で吹っ飛ぶか
何方にする?



●『貫』
 よほど腹を空かせているのだろう。
 菱川・彌三八(彌栄・f12195)は膝を折り、おずおずと近付いて来た子供と視線の高さを合わせた。
 余所者への警戒心より好奇心が勝つ年頃の童なら、住まいの長屋界隈でもよく見かける。
 独楽だ凧だと駆け廻って遊びたい盛りに違いないのに、痩せ細った腕や足ではそうもいくまい。
(「一体全体、何がしてェんだか」)
 魔女の供する料理が、酷い見た目や臭い通りに味も最悪だということを把握し、彌三八は子どもの髪を励ます強さで掻き混ぜた。
「心配要らねェよ。ちょいとアイツを黙らせて、近くの島から食うもん取って来てやるヨ」
「ほんと!?」
 食い気味に前のめりになった子どもへ、彌三八はにっかりと笑む。
「応、任せナ。向こうに余ってりゃ夫れも善しってな――ん? 魔女ンとこに食料がありゃあ、奪い返して来るってェ手もあんな」
 彌三八が案を口にする度、昏かった子どもの眼に光が戻る。
 猟兵にとってオブリビオンを狩るのは義務や使命のようなものだが、こうして純度の高い期待を向けられるのも悪くない。自然と、腹の底から気概が湧いてくる心地だ。
「マ、見てな」
 子どもの頭で掌を軽く弾ませ、彌三八は立ち上がる。
 目を征く先へ向けると、既に一人の女が跳ねていた。

 現在の状況を物陰から語ってくれた島民の怯えた様子をシグレ・ホルメス(放浪者・f29335)は思い出す。
 自分たちの前に上陸した魔女に酷い仕打ちを受けているのだ、余所者の事を容易に信じることは出来ないだろう。
 それでも「気を付けて」と震える声で送り出してくれた勇気に報いてやりたいと、シグレは心から思う。
(「犬も食わないような代物を押しつけるとは迷惑な奴がいたものだ」)
 浮遊していた船の側面らしき残骸から、シグレは力強く踏み出す。次の目当ては、高く顔を出している船首像だ。着地面積に余裕はないが、バランスを崩しさえしなければ足場に出来る。
 スペースシップワールド出身のシグレだ。無重力移動の延長線だと思えば、不安定さは恐れるに足らない。落水して潮に流されようが、溺れる前には何とかできるだろう。
「食べ物の恨み、私が晴らしてやろう」
 思惑通り、船首像に左足をつけたシグレは、右足を振り子のように押し出し、更なる跳躍へ繋げる。
 一直線には進めないが、順調な道行きだった。
 けれど魔女の小島まで三分の一まで至った時、シグレの身体が大きく傾ぐ。
「やはり懐近くは流れが速い、かっ」
 浮具と思しきものに着地したが、次歩を繰り出す前に足元が攫われるように揺らいだ。このままでは運が良くても半端な踏み込みしか出来ない。
 足場を選る余裕の喪失は、落水までのカウントダウンの始まりだ。
 しかし。
 沈みかけたシグレの足元を、無数の千鳥が埋め尽くして補った。無論、野生の千鳥ではない。彌三八が、描いて生み出したものだ。
「道がねェなら創るまでってナ!」
 千鳥を敷き詰めて道にするまでは流石にできないが、一瞬を補うぐらいは充分にできる。それに足場に出来ないような高く聳えたものも、千鳥たちに砕かせてしまえば良い。
 己と変わらぬくらいの身のこなしで海を渡ってくる彌三八を、シグレは振り返った。
「助かった」
 シグレが謝意を述べると、彌三八からも「こっちこそ」と返る。
「追いかけさせてもらったお陰で、こっちもここまで楽が出来たからな。御相子、ってヤツだ」
「はぁ、なんだいそれ。反則じゃないか!」
 肩を並べたシグレと彌三八の間に割って入ったのは、魔女の不満の叫び。
 だがどれだけ訴えようと、一般的な戦士の戦い方をせぬコンキスタドールに二人の道行きを阻むことはできない。
(「僥倖、僥倖」)
 痛くも痒くもない不満へ、彌三八は余裕綽々の目線を斜めに送る。
「ざまぁねェな。こいつらが当たりゃ、潮目も関係ねェ。今すぐ其処へ征くから、首を洗って待ってナ」

「それじゃあ、甘いケーキはどうかな?」
 確かに香りだけは甘い。だが味の方は分ったものではない――とは言え、見た目にも戦意を削ぐ魔女の一撃に、シグレは短く息を吐く。
 精神の内側にクる攻撃だ。今すぐ、何もかも放棄したい欲望が湧き上がる。だがそれらをシグレの中の獣が凌駕する。
 ――覚えのある感覚だ。
 ドクリと高鳴った心音に、咽そうになる。しかしこれは死闘の中にこそ花開く本能。
 例え死の恐怖を感じようが、――否、死の恐怖を感じてこそ首を擡げる衝動。
「月読みの、玉散る影の消ゆるとき」
「はぁ? なんだいそれ」
 空気を読まぬ魔女の問い掛けは耳にも入れず、シグレは肩から力を抜いて両腕をだらりと垂らした。
 そのまましなやかな柳の動きで魔女の懐へ踏み込む。
「死ぬも生きるも、無刀風月!」
 まずは右足で魔女の左足を封じた。そうして後退れぬようにし、右拳を魔女の顔面に叩き込む。
「――くぁっ」
 首の捻りで魔女が直撃を躱そうと、シグレには関係ない。残った体(たい)へ繰り出す左の貫手で臓を抉る。
「こン、のぉお!」
 泡を吹いた魔女が、鍋を鈍器のように振り被り、投げ放つ。
「七大海嘯配下を名乗っているだけはある、か」
 が、問答無用で圧し潰そうとする一撃からバックステップで逃れたシグレは、手に残る感触を噛み締める。
 さすがに簡単には倒れてくれぬ相手だが、肉の柔らかさと生温い血の温度はシグレの五感に焼き付いた。
 残酷な感覚だ。されどこの感覚こそ、シグレを煽る。
(「戦うことしか能の無い根なし草には、こんなことしかできないのさ」)
 自嘲は胸裡へのみ。青い瞳に赤々と闘志を燃やし、シグレは大鍋の影からまた魔女へ迫った。
 小島に上陸直後から始まったシグレと魔女の打ち合いは、苛烈を極める。
 ともすれば、気迫負けを誘いそうだ。でも、彌三八は違う。
 千鳥たちをけしかけるか、或いは自ら打って出るか――そんな迷いは秒で払拭された。
 感化された心臓は早く高く歌い、シグレが拳を握らざるを得ないのと同じに、彌三八の拳も難く握り込まれる。
「ああ、もう。そっちまで邪魔しないでおくれよ」
「はァ? そりゃあ俺の台詞だ」
 シグレを相手どりながらも彌三八の牽制に手を割ける魔女の強さは、肌で知れた。だからこそ、猛る。
「っち、しょうがないな。ならキミはこのキュケオーンをお食べ?」
「はあああああ??」
 どろりと披露された麦粥に、彌三八は間の抜けて聞える叫びを敢えて返す。
(「確かに。確かに、此の世には俺の見慣れねェ飯は多いが……」)
「遠慮はしないでいいんだよ」
「食わねェ」
「そういわずに」
「食わねェ、食わねェつったら、食わねェ!」
 奇妙な引力のある麦粥だ。それでも彌三八は全力で抗う。魔力に気力で反旗を翻す。
「そも、食いものを無駄にしやがってよ。手前ェで食ってみろってんだ」
「はぁ? 馬鹿をお言いでないよ。私は勿論食べるさ……食べ……」
「言い澱んでんじゃねェか!」
 舌鋒と、足捌きは鋭く。彌三八は飄々と、シグレの雨霰の猛攻に加担する。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

むう……ここからは飛んでも泳いでもいけないようだよ、櫻
……櫻?どうしたの?具合悪い?

くさい
ヨルも臭いってさ
……あれは食べ物の匂いではないね
え?!僕の作るごはんをアレと一緒にしないでよっ
僕のが美味しいんだから!
あんなの食べたらお腹壊しちゃうよ
それに
ごはんを独り占めなんてダメだ

よし皆を励まして元気を取り戻して協力してもらおう!
歌うのは「ヨルの歌」
ぽぽんと増えたヨル達と歌って踊って鼓舞
希望を取り戻してもらうんだ
魔女から食べ物を取り返したら
櫻宵に美味しいのを作ってもらおう
皆で美味しいご飯のぱてぃをするのだと励ます

甘いのは櫻のちょこれえとが一番だ
ヨル達と協力して魔女を防ぐよ

皆の笑顔を取り戻すんだ


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

あら…泳いでも飛んでもいけないなんて、お邪魔な魔法―うっ、くさっ
臭いわーー!どうしたらこんな料理になるのかしら?
食材が可哀想
リルの作る料理のがまだ全然食べられるわ
なんて言えば頬を膨らせる人魚がかぁいらしいこと
うふふ
リルの全部でっかい男の料理の方が美味しいわよ

彼らに案内して貰えないかしら
そうだわ!リル&ヨルオンステージで励まして元気になってもらいましょ!
私、桜吹雪係
差し入れ代わりにチョコレートを振舞って
食材があれば簡単な料理をするわ

大丈夫、皆の明日を取り返してくるわ!

魔女の気持ちもわからないでもないけど
私はその臭いのを何とかしたいわ
なぎ払い斬り裂いて―「喰華」
喰うて綺麗な桜にしてあげる!



●甘い約束
 ――ここからは、飛んでも泳いでもいけないなんて。
 直面したお邪魔な妨害に、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は「むう」と眉間を寄せる。
 とんだ意地悪な魔法だ。いや、意地の悪い魔女だ。そういえば、声からも意地の悪さがぷんぷんしている気がする。
「どうしようか、櫻……櫻?」
 対策を考えようとリルは傍へ尋ね、首を傾げた。
「櫻? どうしたの?」
 先ほどまでは今すぐにでも斬り込んで征きそうな勢いだった誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が、いからせた肩をふるふる震わせている。
「……」
「櫻?」
 何か呟いているようだけれど、小さな声過ぎて上手く聞き取れない。
「……さっ」
「さ? 櫻、櫻? 具合、悪いの?」
「……くさくさくさくさくさっ、臭いわーーー!!!!!!」
 我慢の限界を突破したのか、唐突に櫻宵が吼えた。そう、櫻宵は漂う臭気に怒っていたのだ。
「うん、くさいね。ヨルも臭いってさ」
 櫻宵の気持ちはリルも十二分に理解できる。ヨルまでもが、小さなお手手(翼)で嘴のあたりを押さえて、ぷるぷる涙目になっているくらいだ。本当に臭い。
 だが、パティシエでもある櫻宵の怒りは、不快な臭気そのものに対してではない。
「これは食材に対する冒涜よっ。どうしたらこんな料理になるのかしら?」
 食材とは、美味しく調理されて然るべきもの。間違っても、こんな悪臭を放つブッタイに変容させられてよいものではない。
「食材が可哀想よ」
 食材たちの無念を思い、櫻宵は胸を痛める。自分だったら、こんな事態にはさせないのに。
 それに――。
「リルの作る料理のがまだ全然食べられるわ」
 櫻宵、とてつもなく分かり易い対比のド直球を放った。ちなみにぐうの音も出ないくらいの超正論だ。外見は美しく繊細なリルだが、料理の腕はからっきし。まともに作れるお菓子は琥珀糖くらい。
 とは言え、とは言え、とは言え、だ。
「え!? 僕の作るごはんをアレと一緒にしないでよっ」
 思わぬ被弾に、リルの頬が抗議に膨らむ。この場合、リルの導線に火を点けたのは櫻宵だ。しかし櫻宵は僅かも焦らず、むしろ「かぁいらしい人魚だこと」と心の中でほくそ笑む。
「うふふ、そうね。確かにリルの全部でっかい男の料理の方が美味しいわよ」
「だろう? あんな食べたらお腹壊しちゃいそうなのとは違うんだ。それに、あんな風にごはんを独り占めなんて僕はしない。あれはダメだ」
「ええ、そうよ。その通りだわ」
 木龍と人魚の夫婦漫才は、賑やかで、華やかだ。おかげで、息を潜めていた島民が、あちらこちらの物陰から顔を出している。
 魔女の料理を悪し様にけなしていることから、二人が魔女の手下でないことは気付いているのだろう。むしろ助けにきてくれたのかも、という期待が昏い目の奥に微かに灯っている。
「よし!」
 ――ね、櫻。
「ええ」
 ――分かったわ、リル。
 視線を交わし、頷き合うだけで事は足りた。
「一緒に歌おう、ヨル。春の宵を、夏の日差しを、秋の実りを、冬の眠りを」
「!!!!」
 リルが歌い出した、ただそれだけで一帯の重い空気が晴れる。だってそれほど、リルの歌声は美しい。一瞬で、人の心を掴む。
「巡る万華鏡、時の輪廻を、一緒に」
 しかも紡いだのはただの歌ではなく、力のある歌。一句ごとにヨルが増え、あっという間に90のヨル群舞が始まる。
 ちいさな雛ペンギンが尻尾をふりふり踊り、輪を作った。その輪の中心で、リルが高らかに謳う。
 そこへさらに櫻宵が角や翼の桜をそよぎ吹かせると、鬱蒼としていた茂みは常世の春へ変貌を遂げる。
 見たことも無い景色に惹かれ、島民たちが物陰から歩み出したら、櫻宵はひとりひとりへチョコレートを振る舞った。
 小さな子どもへは、甘いミルクチョコレートを。女性たちへは、フルーツのフレーバーをつけたものを。甘いものを好まなそうな男性たちへは、ビターなものや、アルコールをしのばせたものを。
 いずれも櫻宵お手製の逸品たちだ。それに何より、しばらくぶりに口にしたまとも――どころか、かなり上質――な食べ物に、島民たちの顔は次々綻んでいく。
「櫻のちょこれえと、甘くておいしいでしょう? 櫻は他の料理も上手なんだ。だから、魔女から食べ物を取り戻したら、美味しいのをたくさん作ってもらおう」
「美味しいの、たくさん??」
 ヨルたちのステップが刻むリズムに身体を揺らすリルが明るい未来を告げると、島民たちは両目をぱちりと見開き、信じられないような、信じたいような貌になった。
「ええ、いくらでも作ってあげるわ。大丈夫、皆の明日を取り戻して来るわ!」
 ――だからあの小島へ誰か案内して頂戴。
 櫻宵とリルの求めに、島民たちは否やを唱えようはずがない。

 島は、本来は元から住んでいた人らのものだ。魔女なんかよりずっと島に詳しい彼ら彼女らは、内側の海の潮目を読むことができた。
 つまり彼らに案内して貰えれば、難解な海も泳ぎ切れる。
 泳げない櫻宵は、リルがしっかり抱えた。サポートに幾人かついてもくれた。
 小島に辿り着いてしまえば、あとはいつも通り。
「皆の笑顔を取り戻すんだ!」
「ちょっ、これ邪魔だな!?」
 歌い歌って、リルはヨルたちを魔女の脚を封じるように配置した。
 その隙に、櫻宵は一直線に直走る。
 おかしな攻撃ばかりするが、島を託されただけのことはある魔女は、容易に倒すことは出来ない。実際、先んじて小島に到達した猟兵たちも今は疲弊しきっているし、櫻宵とリルの二人がかりでも削り切ることは出来ないだろう。
 でも、まだ仲間はいる。
 必ず倒す為に、美味しい料理をつくってあげると交わした約束を守る為に、櫻宵とリルは為すべき事を為す。
「想愛絢爛に戀ひ綴る――」
 魔女の気持ちも理解できないでもない櫻宵は、しかし一切の手心は加えず刃を抜き、払う。
 剣戟の間に距離を詰められたら、こちらのもの。
「私の桜にお成りなさい」
 うっそりと微笑み、櫻宵は蠱惑の龍眼で魔女を捉え、魔女の髪を、翼を桜へ変える。
「さあ、喰うて綺麗に咲かせてあげるわ――何より、その臭いものをどうにかする為にね!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グィー・フォーサイス
エンティ(f00526)と行くよ
島民に協力を取り付けよう

美味しいものが食べたくないかい?
僕の秘蔵のおやつを分けてあげてもいい
どうだい?
見てご覧、このマシュマロの弾力
おいしそうだろう?

うっ(鼻を抑える
うっわぁ…(泣きそう

食べるの大好き
日替わりランチが毎日楽しみ
残さず食べるし、食後のケーキだってペロリ
でも、これは頂けないよ
食べ物への冒涜だ
食材を無駄にして…生産者に謝れ!
絶対食べない、断固拒否

鼻を押さえるのに忙しいから
軍鳩くんたちにお願いするよ
爆弾でゲキマズ飯と悪臭の源の鍋を破壊しよう
破壊できなくても粥は蒸発するかな
魔女が邪魔をするなら嘴や趾で攻撃さ
いけー、軍鳩くんたち!
僕の鼻と胃腸を守っておくれ!


エンティ・シェア
グィー(f00789)と

島民に協力をしてもらえるよう、せめておやつを振る舞おう
くちどめにSweetをまぶした物を配るよ
小さな飴だけれど、気持ちが軽くなれば良い
この島の健やかな食事の為にも努めたい。どうか我々に託しておくれ

魔女殿の前に、強烈な匂いの歓迎か
…グィー、大丈夫かい?
あ、なんか前にもこのやり取りしたような…(たまねぎ)
君の鼻を守るためにも、橘の香りを舞わせようか
かく言う私も、あまりに強い匂いは得意ではないからね
一石二鳥…に、なれば良いな

麗しい魔女殿と囲む食卓は目には優しいだろうね
だけれど私は舌も満足したいのさ
今は、飴を含んでもいるしね
もう少し人類向けの料理を覚えてから、出直しておいで



●cute→sweet
「ねこさんと、うさぎさんじゃない……」
「ねこさんと、くまさんでもない……」
「ねこさんはいるけど、うささんとくまさんいない……」
「あああ、えと。ごめんね? ごめんね??」
 さて、どのようにして島民たちの協力を得ようか――と、エンティ・シェア(欠片・f00526)が考えていられたのは、上陸を果たした後の僅かの間だけ。
 気が付いた時には幼い少女たちに取り囲まれ、がっかり肩を落とされたり、さめざめと泣き始められた。
「あーあ。エンティったら小さなお嬢さん達を泣かせてしまって」
 挙句、同じく輪の中心にいるグィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)にも茶化される始末。
 いったい彼女たちが何時からエンティやグィーの存在を把握していたかは分からない。だが状況的に、この島に至る道中のあれこれを少なからず見られていたのは事実だろう。
 だって少女たちが言う「うさぎさん」や「くまさん」は、エンティが化けていたぬいぐるみのことで間違いない(ちなみに「ねこさん」はグィーのことだ)。
 短くない時間、魔女によって苦痛を強いられた彼女らにとって、『可愛い』の発見と出逢いは、心躍る出来事だったはずだ。
 しかし駆け寄ってみたら、うさぎさんもくまさんもいないではないか。
 さぞかしがっかりだったろう。しょんぼりしたろう――例え、エンティには一片の非はなかったとしても!
 ――けれど。
 彼女たちに笑顔を取り戻す為には前に進まねばならず。進む為にも、彼女たちの協力をとりつけなければならない。
 そんな時こそ、運び屋グィーの出番。
「ねえ、君たち。美味しいものを食べたくないかい?」
「え?」
「美味しい?」
 演技めかしてエンティの周囲を名探偵の歩調でぐるりと歩き、少女たちの瞳を惹き付けたグィーは、お髭をご機嫌にぴんと伸ばして鞄の中からとっておきを取り出す。
「そうだよ。僕の秘蔵のおやつを分けてあげてもいい――どうだい?」
 少女たちの眼前に差し出したふにりとした肉球の手には、透明なフィルムでラッピングされたパステルカラー。
「見てご覧、このマシュマロの弾力。おいしそうだろう?」
 つんっと爪先で押すと、ふにゅりと押し返す弾力を見せつけると、少女たちの貌がパァと耀く。
「すごい、すごい!」
「これおいしいの? もらっていいの?」
 憂いた空間へ、幸いが運ばれた。こけた頬に朱をのぼらせ、少女たちはグィーに痩せ細った手を伸ばす。
 たどたどしく包みを開けて、可愛らしいマシュマロを頬張ると、少女らは感極まった。
「……おいしい」
「もきゅってしてる」
 泣き出す間際の感動は、ようやくエンティを理不尽な不憫から解き放つ。同時に、エンティの裡にいっそうの想いを育てた。
「こちらもどうぞ」
「!!」
 エンティが取り出した可愛らしい小瓶に、マシュマロに夢中だった少女たちの目が集まる。
 可愛らしくリボンで飾られた蓋を開けると、お目見えするのはロリポップ。そこへエンティは幸せな夢をみられる魔法の粉をふりまぶす。
 小さな飴だ。でも、これで少しでも気持ちが楽になってくれれば良い。
 込めた想いは、キラキラと年相応の光を瞳に取り戻した少女たちの中で花開く。
「この島の健やかな食事の為にも努めたい――どうか我々に託しておくれ」
 難しい言葉は分らなかったかもしれない。が、少女たちは確かにエンティとグィーの決意と心を受け取った。

 ないしょだよ、と少女たちが海に漕ぎ出したのは真っ青な小舟。
 お祭の時にしか使わないというそれは、少女たちしか動かせず、少女たちの意のままに海を走る。
 海上を往くのは不安も大きかったが、幸い魔女は他の猟兵たちと遣り合うのに夢中なようで。自分たちを運んだらすぐさま引き返すこと、を条件にエンティとグィーは舟上の人となった――ところまでは良かったのだが。
「うっ」
 近付くにつれ強烈になる悪臭に、グィーは鼻を押さえて身悶える。
「……うっ、わぁ……」
「……グィー、大丈夫かい?」
 泣きそうになっているグィーの様子を覗き込み、そういえば以前もこんなやり取りがあったようなとエンティは思い出す。
 あれは猫の天敵、たまねぎな異形と遭遇した時だったか。
「……僕は、ね」
「うん」
 ふるふるしているグィーが、腹の底から絞り出す声にエンティは耳を傾ける。
「日替わりランチを毎日楽しみにしているし。全部残さず食べるし、食後のケーキだってペロリと平らげるんだ」
「そうだね」
「でも、でも。これだけは、頂けないよ……! 食への冒涜だ!! 食材を無駄にして……生産者に謝れ!!!」
 舟が接岸したのと、グィーが飛び出し烈火の怒りを迸らせたのがほぼ同時。
「はぁ?」
「追憶よ、来たれ」
 そこでようやく二人に気付いた魔女へ、エンティは橘の花弁を舞わす。
 刃ともなる小振りな白は、反転する少女の舟を魔女から隠し、さらに爽やかな香りでグィーの鼻も守る。
(「かく言う私も、あまり強い匂いは得意ではないからね」)
「ちょっ、いきなりの御挨拶だな。だが私は礼儀がなっていない君たちへも振る舞うぞ!」
「その心遣いは謹んでお断りさせて頂くよ。麗しい魔女殿と囲む食卓は目には優しいだろう――だけれど私は舌も満足したいのさ」
 含んだ飴の存在を明らかにするよう、エンティが口の中で飴を転がせば、頬に現れる動きに魔女の顔色が変わる。
「……そんな、馬鹿なことが許されるはずはない!」
「許されるんだよ。言っておくけど、僕は絶対食べないからね。断固拒否だ!」
 ――いざ、進め!
 ――お届けは戦場のど真ん中さ!
 鼻を押さえるのに忙しいグィーは、胸中で高らかに唱えて軍鳩隊を召喚すると、魔女の大鍋向けてけしかけた。
 諸悪の根源は魔女だけれど、まずは妖しさいっぱいの大鍋を破壊するのが急務。魔女を嘴でつっつかせたり、趾で引っ掻かせたりするのはついでのついで。その『ついで』が随分痛くて、功を奏するわけだが。
「頼んだよ、僕の鼻と胃腸を守っておくれ!」
 くるるっぽー。
 ややくぐもり気味のグィーのエールに、軍鳩たちは一丸となって闇鍋殲滅に渾身を尽くす。
「ああ、ああ、私の大鍋が。いいけどね、いいけどね、何度だって幾度だって作るから――」
「チャレンジ精神は評価しよう。でも、もう少し人類向けの料理を覚えてから、出直しておいで」
 抗う魔女へは、エンティが見目も香りも美しい花の舞を飽いるまで嗾ける。

「ああああ、もう。此処は、私の島、なのに――っ」
 終わりは近い。
 少しずつクールダウンしていく魔女のテンションに、グィーとエンティは勝利を確信するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千波・せら
お腹が空いているのかな?
私のご飯で良ければあげるよ!
冒険をする時に食べる物だから
豪華じゃないけど美味しいよ!

鞄の中に詰め込んだ味噌汁とおにぎりを分けるよ。
少ししかなくてごめんね。
これね、手作りなんだ!
材料があればここでも作れるけど
魔女が全部持って行ったのかな。

どうにかして魔女のもとに辿り着く方法を知ってる?
私が食料を取り返しに行ってくるよ!

上手く聞き出せなかったら、瓦礫の上を飛び移って先に進むよ。
海属性の足なら難なく飛び越えれる。
何なら海も味方に付けちゃうよ!

恐ろしい魔女!覚悟!


泉宮・瑠碧
魔女は…
寂しくも、あるのでしょうか…
けれど
討たねば、飢えた人々がもちません
…ごめんなさい

肉や魚は無理でも…農作物なら…
奪われる前の状態に近付け
生活が続けられるよう

地、水、植物の精霊達に願います
畑等に残った根や樹、種から
此の地でこの時季に生ったり貯蔵に向く作物が
一気に食べ頃や収穫間近まで育つ様に

すぐ食べられる作物も、ある筈ですから
人心地が付けると良いのですが…
少しでも人々に元気が出れば
小島へ辿り着く方法を尋ねて向かいます

対峙すれば
私は浄化と祈りを籠めた歌で清祓道標
郷愁を誘う様な唄を
惑わされても範囲に近寄れば我に返るので
また歌い続けます

帰りましょう、躯の海へ
そして、ゆっくり穏やかに…おやすみなさい



●災厄の魔女にさよならを
 魔女も寂しさがあるのだろうと、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は想いを馳せる。
 しかし目にする現実に、いっそう胸が痛む。
 魔女以来の来訪者であろう猟兵たちを迎える島民たちの目には、最初は――一部の例外を除いて――怯えが浮かぶ。
 物陰から様子を窺う彼ら彼女らは痩せ細り、海の荒波に飲まれてしまいそうだ。
(「……討たねば、この方々がもちません――だから、ごめんなさい」)
 終わらせる未来を思うと、瑠碧の心はどうしたって沈んでしまう。
 けれどそんな哀に濡れかけた瑠碧を、わぁっと上がった歓声が風となって撫でた。
 声のした方を振り向くと、千波・せら(Clione・f20106)に島民たちが駆け寄っている。
「ごめんね、あんまりたくさんはないんだ」
 詫びながら、せらは荷物の中から目当ての物を引っ張り出す。
「ねえ、温めるお鍋はある?」
「あるわ」
「取り分ける小さなお皿もあるといいんだけど」
「分かった!」
 ――お腹が空いてるのかな?
 ――私のご飯で良ければあげるよ!
 朗らかに、溌剌と、そして衒いなく。笑ったせらに、島民たちは希望を視たのか。求めに応じて女たちは家の中へ踵を返し、小鍋と子ども用の器を手に舞い戻る。
「竈ならあっちにあるよ」
「そうなの? ありがとう」
 袖を引く子どもに、せらはいっそう目を細め、「はい」と三角の包みを手渡す。
「これなぁに?」
 見た事のない形状に目をまん丸くする子供の耳へ、内緒話を打ち明けるみたいにせらは唇を寄せる。
「おにぎり、っていうんだよ」
「おにぎり?」
「そう、おにぎり。包みをむいて……そうそう上手。うん、そのままがぶっと食べるの」
 世界を探索してまわるせらだ。冒険に出るときの備えはばっちり。持ち運ぶことが大前提だから、決して豪華ではないけれど。味は折り紙付きの自信がある。
「しろい! きれい! おいしい!!」
 子どもの顔が笑顔ではちきれそうになったのが、せらは嬉しくて。もっともっと喜ばせたくて、案内された野外の竈にいそいそと小鍋をセットすると、水筒の中身をとぽとぽ注ぐ。
 そこから良い香りが周囲に漂うまで、あっという間。
「これは、お味噌汁っていうんだよ。熱いから、やけどしないよう気を付けて」
 とてもではないけれど、全員へ行き渡らせることは不可能だ。分かっているのだろう、親たちは子ども達の背を押すばかりで、受け取りに出てこようとはしない。
 ――優しい島だ。
 ――コンキスタドールに蹂躙されてよい島ではない。
 温かさに頬を弛め、瑠碧は胸の前で両手を組んだ。
 肉や魚を準備することは瑠碧には出来ないが、農作物なら手助けできる可能性がある。
(「お願い……力を貸して」)
 まずは地の精霊に、助力を祈った。
 今すぐ種子から始めるような奇跡は起こせないけれど、花に実をつけさせることは不可能ではない。
 次いで水の精霊に巡りを祈れば、生育は加速する。
 どこまでも尾を引く異臭を、せらの味噌汁の香りで目隠しし、瑠碧が結ばせた果実の甘い匂いが払拭していく。
 いつの間にか、一帯の木々が赤い小さな実をたわわにつけていた。
「まぁ、すごい!」
 これならば大人達も遠慮なく手にすることができる。腹を満たすには事足りないかもしれないが、それでも人心地つくには十分だ。
 それに精霊の加護を得た地面なら、今後の作物の育ちは約束されたようなもの。
「稲を植えるのもいいかも! そしたらおにぎりが作れるようになるよ。このお味噌汁を作れるようにするには……麦も必要だね」
 はぐはぐとおにぎりと少しの味噌汁を幸せそうに頬張る子供たちの様子にせらが提案すると、大人たちが顔色を変える。
「これ、私たちも作れるようになるのですか?」
「うん。だってこれ全部私の手作りだもん。材料さえあれば、簡単だよ」
 絶望に塗り込められていた島に、明るさが兆す。
 彼ら彼女ら自身の手で希望が紡がれるようになるまで、きっとあと少し。
 でもその為にも、魔女を骸の海へ還さねば――。

 得た親愛は、二人の道を拓いた。
 渡れない海を泳いで往けるようになったのだ――潮目を読める島民が先導するという方法で以て。
 此処が生活の場である島民ならば、魔女も持たぬ知識があって当然。
 海風の属性を足にまとったセラは、人魚のよう。水の精霊の加護を受けた瑠碧を、海は拒まない。
 然して二人はついに魔女の小島へと降り立つ。

「まったくもう。次から次へと懲りもせずに――」
 先んじた猟兵たちと遣り合った魔女は、目に見えて疲弊していた。
 砕かれた大鍋では碌に麦粥も炊けず、鼻をつく異臭もある程度は引いている。
「我は願う、時の迷い子に、還り道が示されん事を……」
 島の内側の海は、かなりの水深があるのだろう。色はマリンブルーより紫を帯びたウルトラマリンブルー。そこから吹く海風に瑠碧は淡い水の色の髪を揺らして祈った。
「……導は此処に」
「っ、なんだい……これ、は」
 己が魔法が浄められて逝く気配に、魔女が慄く。伸ばしかけた指先が、うっすらと透けて消えかけていた。
「帰りましょう。そして、ゆっくり穏やかに……おやすみなさい」
「いやだ、私は。私は鬼火の配下! この島の主――」
「違うよ、この島は島のみんなのもの!」
 魔女の勝手な言い分を、せらは全力で駆け乍ら否定する。
 此処は魔女の島ではない。おにぎりやお味噌汁に喜んで、いつか稲や麦も育てたいと願った人々のもの。
「恐ろしい魔女! 覚悟!」
 波をそのまま閉じ込めたかの如き髪を陽光に光らせ、剥き出しの水晶を鋭くし。時に船をも沈める海風と化してせらは跳ぶ。
 繰り出す蹴撃は、苛烈に、しなやかに。
「そ、んな……そんな――……」
 元より力尽きる間際であった魔女は、砂の城が波に洗われ消えるように、静かに崩れ去って逝った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 冒険 『海賊船サルベージ』

POW   :    重量のある船体部分などを中心に、力任せで引き上げる

SPD   :    海底を探索し、飛び散った価値のある破片などを探し出して引き上げる

WIZ   :    海底の状況や海流なども計算し、最適な引き上げ計画を立てて実行する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ブルーブルー
「魔女が海賊旗を幾つか、魔法で海に沈めたのを見ました」
 人々を苦しめていた魔女を倒し、これでこの島も安泰だ――と、胸を撫でおろそうとしたのも束の間。
 新たな情報が、冒険の終わりが『今』でないことを告げる。
 鬼火が描かれた海賊旗はメガリスだ。これを焼き払ってしまわないと、新たなコンキスタドールが現れてしまう。
 しかしその海賊旗は、魔女の小島があった海の中。
 『ブルーホール』と呼ばれる内海は、繋がる外海から沈没船や遺跡の残骸などが流れ着いているらしい。
 おかげで海流は複雑怪奇。潮目を読める島民でも、探索として潜って泳ぎ続けるのは難易度が高すぎる。
 けれど。
「ちょっと待っててくれ。多分もう戻ってくると思うんだ」
 困惑に頭を悩ます猟兵に、そう声をかけてきたのは一人の男。
 彼はブルーホールの縁へと歩み出ると、膝をついて指笛を吹いた。
 何が起きるのかと見守っていると、ブルーホールの中から真っ青なイルカが「キュイ」と顔を出す。
「ああ、よかった。こいつらはとても臆病で、魔女が住みついて以来、すっかり姿を隠してしまっていたんだよ。でも、あんた達が魔女を倒してくれたから、大丈夫なんじゃないかと思ったが、大正解だったな」
 嬉しそうに男が青い頭を撫でると、イルカも目を細める。
「こいつらの名は、ブルーウイング。海の魔法がかかっているイルカでな、触っているだけで人間も海の中にいて息苦しくならない」
 非常に賢い彼らは、海中探索のサポーターとして最適だと島民たちは口々に言う。
 なるほど、ブルーウイングならばどんな流れにも負けず、猟兵たちが願う通りに導いてくれるだろう。
 猟兵が泳げなくても大丈夫。彼らに捕まってさえいれば、溺れることは絶対にない。
「何から何まで、お任せしてすみません」
 魔女がしこたま貯め込んでいた食料を奪い返したとはいえ、長く餓えていた島民たちは探索の手伝いに加われるほどの体力がなく、託すしかないことを心から詫びる。
 だが捜索物がメガリスである以上、ここから先は猟兵たちの領分だ。
「旗の数は、最初は一旗でした。でも魔女が魔法で分裂させてしまって。今はちょうど皆さんと同じ数だと思います」
 お願いします、と、いってらっしゃい、に見送られ、猟兵たちはブルーホールへ泳ぎ出る。
 様々が流れ着いた青い洞は、きっと色々な表情を見せてくれるはず。
 仕事の〆である冒険は、大変なばかりだけではなく、楽しいものにもなるに違いない。

 ブルーホールと、ブルーウイング。
 象徴たるふたつを合わせた島の名は『ブルーブルー』。
 遠い昔にアックス&ウィザーズより落ちて来た島。
シグレ・ホルメス
メガリスを分裂させるとは、とことん迷惑な奴だったな
だがまあ…こんな綺麗な景色が見れるなら、海の冒険も悪くはないな。沈没船に財宝が眠っていたりしないだろうか。(のんびりと海中探索を行う)

ふとポケットに入れてあった首鎖のちぎれているネックレスが波にさらわれそうになり、咄嗟に掴む(アイテム放浪者の物語)
私が「初めて人を殺した」証。戦い、殺した戦士が持っていたネックレス
その男はこの首飾りを私に差し出すときに一言、俺を覚えていてくれ、と最期に言った。だから私はその男の事を、戦士と戦った事を覚えている

あの魔女を記憶にとどめる者はいるだろうか。いや…私が、記憶の片隅に覚えておくとしよう



●余韻の青
 シグレ・ホルメス(放浪者・f29335)の長い髪が、優雅な熱帯魚の尾鰭のように揺らめいている。
 水の中は、つい先ほどまでの喧騒が嘘みたいに静かだ。
 青いイルカの背びれに捕まっていれば、複雑な潮の流れもゆりかごの如く。吐いた息が気泡となって昇って往く様を見上げ、シグレもブルーブルーの青に染まる。
(「メガリスを分裂させるとは――」)
 島民の迫害に、不味い飯。それらだけでも迷惑このうえない輩だが、置き土産への仕掛けに至ってはうんざりを通り越す。
 だが、まぁ。
(「……こんな綺麗な景色を見られるなら」)
 ――海の冒険も悪くない。
 視界を右から左へ流れていった海月らしきものをシグレは見送り、改めて一帯へ目を向けた。
 そこには様式も、朽ち方も千差万別な船が沈んでいる。所々に引っ掛かったり、渦目に嵌って漂っている石の瓦礫も、曰くが有りそうなものばかりだ。
(「沈没船に財宝が眠っていたりしないだろうか」)
 子供心を擽る冒険譚もかくやの出逢いに期待し、シグレの胸もほんのりと高鳴る。
 しかし探さねばならないのは、財宝ではなく海賊旗。
 これが古の王国の紋章や、交わる剣に髑髏が描かれたものだったのなら浪漫も感じられただろうに。
 舞い戻って来てしまった現実に、けれどシグレは気を忙しなくさせることなく海中をのんびりと往く。
 どうせこの海から流れ出て行かぬモノだ。それに探し物をする時は余裕を持つことこそ肝要。必死になればなるほど、視界は狭まるものだから。
 そんな鷹揚さが功を奏したのか、件の海賊旗との邂逅は存外にすんなりと果たされた。
 興味本位で覗いた、二艘の船が織り成す暗がり。そこで鬼火の紋が輝いていたのだ。
 とんっと指先で背びれへ意思を送ると、青いイルカはシグレを望んだ箇所へ運んでくれる。
 手を伸ばせば、拍子抜けするほどあっさり取ることが出来た。
 あとは陸上に戻って燃してしまうだけだ。
 帰り道で取り落としてしまわぬよう、シグレは海賊旗を折り畳み、懐に仕舞おうとして――こふっと多くの気泡を吐く。
 生地がたわんだせいか、ポケットに仕舞ってあったチェーンの千切れたネックレスが滑り出してしまったのだ。
「  」
 音にならぬ呼びかけと共に、慌てて追う。
 大人しく指先に触れてくれたそれに、シグレは胸を撫でおろした。
 引き寄せて、握り込む。紋章のような意匠が施されたネックレスだ。
(「……私が、『初めて人を殺した』証」)
 戦い、殺した戦士は、名も知らぬ誰か。
 その誰かがこと切れる前にこの首飾りを差し出して言ったのだ――俺を覚えていてくれ、と。
(「だから私はその男の事を……いや、戦士の事を覚えている」)
 例え、愚直過ぎると揶揄する第三者がいても、シグレは構わない。覚えていてくれと遺されたのだから、覚えておくのだ。
 ――否。遺されたからだけではなく。
 ゆら、ゆら、と。
 時を刻む振り子時計のように髪を揺らしながら、シグレは暗がりより泳ぎ出て天を仰いだ。
 そこには魔女の居た小島の影もある。
(「あの魔女のことも覚えていよう――記憶の片隅に」)
 ――他の誰が留めることがなかったとしても、私は。
 戦い討った者への想いを胸に、暫しシグレは余韻の青に佇む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
へェ……此奴が案内してくれるって?
面白ェ、すんなら早速行こうゼ
着物放って海ん中…に行く前に、網貸してくれねぇナ

此の辺りに来る度思っちゃいたんだが、海てなァこんねェに青いものかね
何か溶かしたかの様だが、不思議と見えるものだなァ
其れに息が出来るてなァ有難ェ、折角なんでちいと巡ろうか

巨大な鱗や光る木屑があるが…此奴ァ四方や竜の居た処の物か
何に使えるかしれねェが、持って行こう
他にも沈んだ船なんかにある小さな物は集めて網へ
序でに魚も
其れにしても…外と繋がってりゃキリがねえが、ちいと辺りを片付けて良いかしれねえな
旗拾った後にでも引き揚げるか、海で壊して木屑だけ集めようかね
燃やすも使うも、好きにしたら良いサ



●青また青
「へェ……此奴が案内してくれるって?」
 青いイルカの登場に色めき立った菱川・彌三八(彌栄・f12195)は、ほつれた鬢を撫でつけ、袖を通していた着物を肩から落とす。
「面白ェ、すんなら早速行こうゼ」
 あとはえいやと飛び込むだけだ。
 けれど彌三八は片足を踏み出しかけたところでピタリと静止し、やおら見守る姿勢の島民らを振り返る。
「なァ、誰か網貸してくんねぇナ」
 良い事を思い付いた子供の笑顔を満面に描いた彌三八の求めに、凡そを察して走ったのは何れも同年代の男たちばかりであった。

 好きなのを使ってくれとばかりに差し出された複数の網と、其々の男たちの目の輝きは、思い出すだけで彌三八の片頬を吊り上げさせる。
(「世に同類は多しってナ――俺ァ、あんなに分かり易いガキじゃねぇケドよ」)
 くつと鳴った彌三八の喉に、呼ばれたと思ったのか青いイルカが振り返った。
 目が合った瑠璃色の円らな瞳へ、彌三八は「なんでもねェよ」と目線だけで返す。すると青いイルカは、彌三八を連れてまたブルーホールを自在に泳ぎ始める。
 鼻の天辺から、尾ひれの先まで、真っ青なイルカだ。
 そして泳ぎ往く水の中も、また青い。
(「此の辺りに来る度思っちゃいたんだが、海てなァこんねェに青いものかね」)
 何時如何なる時も肌身離さぬ筆へ、彌三八は何とはなしに手を伸ばす。
 穂先に含ませたなら、鮮やかな青が引けそうだと海を見る度に思う。
 ありったけの瑠碧や藍銅鉱、孔雀石を砕いて溶かしたとしても、この彩は出せないだろう。
(「不思議なもんだ」)
 どれだけ首を捻っても、色の出処は知れない。
 ならばと彌三八は興味を色から景色へ切り替える。
 船の残骸の合間に、石柱やら、正体どころか用途さえ想像できない物が浮いていた。暗い海の底まで沈んでいかないのは、潮の流れの悪戯か、気紛れか。
 どっちにせよ近付けるもんならと、彌三八はブルーウイングに先導されて泳ぎ寄る。
 と、目の前を巨大な鱗が過った。
(「虹色? 竜か? こいつァ、掘り出しモンだ」)
 急ぎ網を振るうと、木片まで引っ掛かっている。
 摘まみ取って頭上の水面に翳すと、磨き上げた珊瑚にも似た光を透かす。
(「此奴ァ、四方や竜の居た処の物かねェ?」)
 竜の鱗は薬として重用されることもある――効果の程は定かではないが――し、珍しい品は持っているだけで縁起が好い気がする。
 取り落としてしまわぬよう、腰に結わい付けた縄でそれらをまとめて縛ると、彌三八は次の発見を求めて視線を泳がす。
 水中で息が出来るなんていう稀な機会だ。目当ての海賊旗探しは二の次にして、気儘に廻った処で罰は当たるまい。
 当て所なく彷徨う金や銀、銅の銭は海賊船の積荷だろう。
 瀟洒な彫が施された鋼の台座は、西洋式行灯の一部に見える。
 惹かれるに任せて網を振るって搔き集めた。
 運悪く、か、運良くか。近付いて来た魚は、遠慮なく捕まえさせてもらった。
(「ちったァ、腹の足しになるだろう」)
 火を起こして釣れたての魚を焼く様を思い浮かべたら、いい加減、地上が恋しくなってくる。
 不味い料理の臭いを「これでもか!」と嗅がされたばかりだ、想像の中の香ばしさにも腹の虫が騒ぎ出す。
 それに、ブルーホールは外海と繋がるお陰でキリがない。
(「ちいと辺りを片付けて良いかもしれねえな」)
 腹がくちくなって、力が満ちたら。残骸を引き揚げるよう提言してみるのもいいかもしれない。或いは、海で壊して木屑だけを集めるとか。
 何れにせよ、多くを奪われた島では、明日への貴重な糧になるはずだ。
(「その辺は、好きにしたら良いとして」)
 ――せっかくだ。
 往けるとこまで往ってみようと、彌三八は青いイルカを深みへ向かわせる。
 光が遠くなるにつれ、青は藍に近付き、さらに色を濃くしてゆく。そうして潜った青と黒の境界で、彌三八は水泡に包まれた鬼火の海賊旗を見つけた。
(「此れは、確実に炊いちまわねェとナ」)
 戦利品を数多引き連れ、彌三八は海の底の青から、空の青を目指す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

ぶるぶる…可愛い名前の島だね

臭いがなくなってよかったね
これで一安心
櫻はいい匂いだよ
イルカの鳴き声に合わせてヨルも歌う
さぁ、旗を取りに行くよ!
イルカと泳げるなんて楽しみだね、櫻

武者震いなんてしちゃって可愛い
大丈夫
30メートルも泳げるようになったんだし、それに
僕もヨルもそばに居るから

君の手を握って游ぐ
青い海の中は何処までも心地いい
慣れてきた?
ほら見て!青い空の様だよ
青に薄紅が舞い游ぐ
僕は空は飛べないけど海の中は飛べるんだ!
櫻宵と見る世界はいつだって特別で
何時だって、何より美しくて愛しい
僕の宝物だよ

旗、あった!あれだね
さぁ燃やしてしまおう
歌うのは「恋の歌」
泡にならなかった人魚の、叶った恋の歌


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

ブルーブルーね
その名の通り青に祝されたような美しい場所

臭から解放されて絶好調よ!
私に匂い移ってない?
イルカに乗って海の中を…海の中を!
ふふ、やるじゃん…
武者震いよ!
私はこの夏
30メートル泳げるようになった乙女
やってやろうじゃない
イルカにしがみつき片手は人魚へ
これで完璧よ!

着いたら教えて頂戴なと瞳閉じていれば
リルの明るい声がふってくる
恐る恐るみやれば……噫、きれい
こんな世界があったのね
つられて笑う
この景色がみられてよかったわ
私だって、リルの笑う毎日が特別よ
大切な守りたい日々なんだから!

あれが旗ね!
桜花飛ばし斬りさき
リルの恋の中にくべて燃やすわ
何だか照れくさいけれど

こんなドキドキは大歓迎よ



●幸福の青
「ブルーブルー、ね」
 青に祝された美しい場所に相応しい名だと、確かめるように誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が呟くと、雛鳥みたいにリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)も繰り返す。
「ぶるぶる……可愛い名前だね」
 可愛いのは、島の名よりむしろリルの方だ。
 リルの舌っ足らずさに思わず「きゅんっ」となった櫻宵だが、荒ぶる心は裡に秘し、「ええ、そうね」とまろやかに微笑む。
 その華やかな笑顔に、リルは砂糖菓子みたいに目を細めた。
「臭いがなくなって、よかったね」
 櫻宵が元気を取り戻したのが、リルは嬉しかった。一安心だと胸を撫でおろせる。
 そしてそんなリルの気遣いが、櫻宵を嬉しくするし、幸せにもする。
「ふふ、ありがと。臭いから解放されて絶好調よ! ねぇ、私に匂い移ってない?」
 念の為にと、蝶の羽搏きめかして袖を櫻宵は振り。くんと鼻を鳴らしたリルは、「櫻はいい匂いだよ」と太鼓判を押す。
 これでようやく本当に魔女とのお別れだ。
 いや、微に入り細に入ってお別れするには、置き土産の海賊旗をお焚き上げする必要がある。
 その為には――。
「イルカに乗って海の中を……海の、中を!」
 ――きゅい。
 ――ぴゅい。
 ――きゅいい。
 ――ぴいい。
 ブルーホールの縁で、片や海から顔を出し、片や水際で。ブルーウイングとヨルが仲良く歌っている。
 青いイルカがリズムを取って頭を振れば、ヨルはそれに合わせて飛べない翼をばたばたぱた。
 気が合いそうな二匹だ。
「……ふふ、やるじゃん……」
 ぶるり、と櫻宵の肩が震え始める。
 ヨルは式神とは言え、模ったのは海の生き物。つまり、海には強い。雛だけどこれっぽっちも心配いらない。
「そうよ、何も心配いらないわ」
 ぶるり、ぶるり。一度が大きかった震えが、ぶるぶると小刻みに、そして早くなる。
「これはっ、武者震いっ。だって私は、私は、この夏っ。30メートル泳げるようになった乙女、だものっ!!!」
 ぐぐっと両の拳を握って海を睨みつける櫻宵を、リルは可愛らしいなぁ、とほえほえ眺めた。
 どんな戦場でも真っ直ぐに突っ込んで征く櫻宵が、武者震い。
(「うん、やっぱり可愛い」)
「ええええ、やってやろうじゃないっ」
「そうだよ、櫻。大丈夫。30メートルも泳げるようになったんだし、僕もヨルもそばに居るから」
 30メートルというと、UDCアースの日本の学校によくあるプールの距離より、少し長い。つまり成績表で最低評価を貰うことはない。
 間違いない、櫻宵は、泳げる。泳げるが、海へ足をつける時はそろりと。そのままがしりと青いイルカにしがみつき、気付くと傍らにぷかりと浮いてくれていたリルへ片手は伸ばす。
「これで、完璧よ! 着いたら、教えて頂戴な」
 目をぎゅうっと瞑って、游ぐ準備はいよいよ万端。

 いつも戦いの最中は太刀を握っている櫻宵の手をリルは握り、青いイルカと並んで游ぐ。
 様々なものが漂ってはいるけれど、濁りのない澄んだ海の中は、何処までも心地よい。
 沈没船が折り重なる様は、どことなく水没都市の景色にも似て。深く深く潜ってみたい衝動にリルは駆られながら、ふと月光ヴェールの尾ひれを泳がせるのを止めた。
 ――慣れて来た?
 ゆっくりと櫻宵の手を握る手に力を込めると、やんわりと握り返される。
 これなら平気そうだ。
 呼びかける代わりに、櫻宵の手の甲でリルは指先を弾ませる。
 ――ほら、見て。
 ――?
 悪戯な誘いにおそるおそる瞼を押し上げた櫻宵が、リルの目線を追って水の天井を見上げ――目を、見開く。
(「……噫、きれい」)
 ゆらゆらと光の波紋が躍っている。それはまるで、薄く雲が引かれた青い空のよう。
(「こんな世界があったのね」)
 感動に酔い乍ら、櫻宵はリルを見た。
 美しい人魚が、月の女神のように微笑んでいる。微笑んで、櫻宵を招いている。
 こくり。櫻宵が小さく頷くと、リルは櫻宵をイルカの上から自由な海へ連れ出した。
(「僕は空は飛べないけれど、海の中では飛べるんだ!」)
 櫻宵を連れて、リルは飛ぶ。
 櫻宵の角に咲き綻ぶ桜が波に攫われ、二人の軌跡を薄紅に彩る。
 その鮮やかな波を、ヨルがブルーウイングと連れ立ち追いかける。
 奇跡みたいな光景に、櫻宵、リルの胸は熱を帯び、どちらともなく両手を結び、額をこつりと寄せ合った。
 ――櫻宵と見る世界は、いつだって特別で。何時だって、何より美しくて愛おしい。
 ――私だって、リルの笑う毎日が特別よ。
 この景色を、一緒に見られてよかったと思う。
 また新しい宝物がひとつ増えたと思う。
 大切な守りたい日々が、また色付いたと思う。

 海賊旗は、遊覧游行の合間にみつかった。
 櫻宵とリルを待っていたみたいに、船の見張り台に仲良く二つ。
 それらを二人と一匹と、今日の協力者の一匹。合計四人で陸まで持ち帰り、今度こそ正真正銘完璧に魔女とさよならすべく、火にくべる。
 見送りに、リルは恋の歌を歌う。
 泡にならなかった人魚の、叶った恋の幸せな歌。
 ただの火が、恋の炎と化す。櫻宵とリルの、恋の炎だ。
 そう思うと、櫻宵の胸はまたドキドキ高鳴り始めたが、今度のドキドキは歓迎すべきものだから。
 櫻宵は照れくささと至福が綯い交ぜになった微笑みを浮かべつつ、春の桜吹雪で灰に消え逝く海賊旗を斬り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
グィー(f00789)と

可愛い子達を寂しい気持ちにさせてしまったからね
黒熊と白兎を、遊び相手に置いていこうか
おいで、仕事だ
怪我をさせないよう加減をして、遊んでおいで

さて、グィー
私は怪我の出来ない身になったけれど、探索は任せておくれ
得意ではないが楽しんでいこう
イルカ殿にご助力頂いて、海中探索に繰り出そうか
もふもふ復活のため、後で日向ぼっこでもしようよ

一先ずは潮の流れに乗って揺蕩ってみよう
どんな景色が見えるのか、楽しみたい
頼んだよ、イルカ殿
はは、ご覧の通り楽しんでるよ
嫌いなもの?今は思いつかないねぇ

旗の一部と思しきものはきちんと回収して
ついでに見た目の綺麗なものも拾いたい
お土産って、大事だろう?


グィー・フォーサイス
エンティ(f00526)と
イルカくんの通訳はお任せあれ、さ

君は存外優しんだねぇ
ぬいぐるみたちを見送って
島の子供たちに大きく手を振ろう
ねこさんの冒険譚を期待していておくれ!

わあ
開いた口から溢れる泡が楽しい
賢いイルカくんたちが居るから迷子は大丈夫だろうし
久しぶりの海中を楽しむよ
配達途中の夕立は嫌いだけれど
濡れるぞーって心の準備がしっかり出来ている時は平気さ
日向ぼっこもいいけれど、ある程度は風魔法で乾かすよ
じゃないと君と僕での乾き度が違う

綺麗な海って好きさ
エンティ、君は?
…聞かなくても君は何でも好きそうだ
逆に嫌いなものって何?

旗を回収
君が寄り道しすぎないように連れ帰るよ
待っている子達がいるからね



●ウルトラマリンブルーの戯れ
「え?」
「いいの?」
「ほんとうに?」
 黒熊と白兎。
 エンティ・シェア(欠片・f00526)が差し出したふたつのぬいぐるみに、幼い少女たちの顔がキラキラと輝く。
 陽光を目いっぱい受けた水面みたいな彼女らが、口々に囀る確認の言葉へエンティは是の頷きを返すと、やんわりとぬいぐるみ達の背を少女達むけて押しやる。
「怪我をさせないよう加減をして、遊んでおいで」
 ――おいで、仕事だ。
 囁くように唱えて喚んだぬいぐるみは、『空室の住人』。有す力はエンティと同等。つまり用途は戦闘中であることが圧倒的に多い。
 けれど可愛らしい子らの期待を――エンティ本人に一切の非は無いが――裏切り、寂しい気持ちにさせてしまった事を払拭する用い方だって出来る。
 ぬいぐるみ達はさっそく両の手を左右それぞれの少女に取られているが、大人しく振る舞っているようだ。
 去った懸念と、『俺』と『僕』からの恨み節が聴こえる前にと、エンティは踵を返す。
「さて、グィー」
「君は存外、優しんだねぇ」
 だが待っていたのは、これまた不用意に温かなグィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)の視線。しかしそれさえエンティはさらと受け止める。
「優しいかどうかはさておき。これで『私』は怪我の出来ない身になったわけだ。けれど探索は任せておくれ」
 得意ではないが楽しんで行こう。
 余裕と期待が、エンティの瞳に端にチラついている。ならば、とグィーはどんっと胸を叩いた。
「そういうことなら、イルカくんの通訳は僕にお任せ在れ、さ。じゃあ、いってくるね。ねこさんの冒険譚を期待していておくれ」
 ぶうんぶうんとグィーが大きく手を振ると、「いってらっしゃい」「きをつけて」と少女たちも手を振り送り出してくれる。
 今か今かと待ち侘びている青いイルカは二頭。
 お待たせ、とグィーが額を撫でると、嬉しそうにぴいと鳴く。
 爪先から浸した海水は、真夏の温度。身体が冷え切ってしまう心配はなさそうだ――でも。
「もふもふ復活のため、上がったら日向ぼっこでもしようよ」
 今度はエンティが繰り出す気遣いに、グィーは注釈を付け足す。
「日向ぼっこもいいけれど、ある程度は風魔法で乾かすよ。じゃないと君と僕とでの乾き度が違う」
 ぬいぐるみの君だったら、乾く速度もおんなじだったかもね!
 愉快に嘯きながら、一人と一匹は二頭に導かれて青へ潜る。

 ――わあ。
 ぶくぶくぶく。
 開いた口からぽこぽこ生まれた泡が、上へ上へと昇っていく。口を閉じていても、端っこからは小さな気泡がぷくぷくぷく。
 捕まえようとグィーは手を伸ばす。でも気儘な泡は肉球の掌をつるりと逃げて、やっぱり上へ上へ、上へ。
 追いかけようと背伸びをしたら、「これ以上は危ないよ」と尻尾の先を青いイルカに啄まれた。
(「えへへ、ごめんね。ありがとう」)
 賢いイルカへお礼代わりのウィンクを飛ばし、グィーはブルーウイングの背びれを操縦桿のように握り直す。
 配達途中の夕立は好きではない。身構える間もなく、びしょ濡れにされてしまうからだ。
 けど今日みたいに「濡れるぞ!」って最初から分かって飛び込むのは嫌いじゃない。
 ゆらゆら毛が揺れる感触は、ちょっぴりくすぐったい。
 それ以上に、海の中の景色の方がグィーの顔をもっともっと綻ばせる。
 手が届きそうなところを泳ぐ魚は、色も種類も様々だ。それらが群れを成して、沈没船の間を行ったり来たり。
(「綺麗な海って、好きさ」)
 ――エンティ、君は?
 訊ねようと首を巡らせたら、青いイルカの背中にエンティは寝そべり、光る水面を掴もうとするみたいに両手を伸ばしていた。
 一番遠くにある黒い影は、魔女がいた小島。そこから下は、朽ちかけた船に、石像、石柱、まるでまだ生きているような樹に、眠る竜を思わすフォルムの岩など、名付け易いものから形容しがたいものまで積み重なっている。
 例えるなら、忘れられた歴史を描く青いタペストリーか。
 見飽きる先が見当たらない。それはそれで困るとエンティが細く息を吐くと、泡が真珠のネックレスのように連なっていく――しかし全てが届かぬ距離まで羽搏く前に、ぬうっと猫の影がエンティの目の前に現れた。
 ――た、の、し、そ、う、だ、ね?
 唇の形で投げられたグィーの問いに、エンティは揺蕩いに毛先を遊ばせながら含み笑む。
 ――ご覧の通り、だよ。
 予想通りの答に、グィーは目を細めた。
 一度、気になってしまったから尋ねてみはしたけれど。答はそうなると思っていたのだ。
 何でも好きそうに見えるエンティ。むしろ嫌いなものはあるのだろうか?
 新たに浮かんだ疑問は、地上まで持ち越すことにする。
 でも、多分。
 寄越されるのは掴みどころのない笑みと――。
『嫌いなもの? 今は思いつかないねぇ』
 ――そんな感じの、応え。

 海藻が這った女神像の冠に、触覚みたいにくっつけられていた二本の海賊旗を回収し、グィーとエンティは地上を目指す。
(「あ」)
(「こっちもきれい」)
(「まって、あっちも」)
(「ごめん、向こうも――」)
 ……目指していた筈だったが、エンティには未だ帰る気が見当たらない。
 せっかくの海の中だ。古い金貨や、船室の奥に隠れていた宝石、漂っていた金が施された陶器の欠片など。目に留まる「綺麗なもの」がいつまでもエンティの後ろ髪を引いてはなさないのだ。
 本人としてはお土産のつもりだけれど、いつまでもそうしていたら幼子たちはすっかり寝入る夜が来てしまうし、日向ぼっこだって出来なくなる。
 然してグィーはエンティを乗せた青いイルカへごにょごにょごにょ。
 ――頃合いは、僕に合わせて。寄り道のし過ぎも、よくないからね。
 動物会話で伝えたのはおおよそそんなこと。
 エンティが読み解けぬ高いホイッスルみたいなイルカの返事は、『任せて』の意。
 終わりの手綱を確りグィーが握った海中散歩の残り時間は、あと少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
鬼火と言っていましたが
描かれた海賊旗まで…
きちんと処理しなくては

島の方々はどうか気にせず
養生してくださいね

ブルーウイング、可愛いです…
目が輝いて、初めまして、と
あの、私も撫でて良いでしょうか…
一緒の探索、よろしくお願いします

応えてくれた子に掴まらせて貰い、一緒に探索
彼らの泳ぐ負担にならない様に
水の精霊にも呼吸や動きの助けを願っておきます

暗い所があれば光の精霊へ願い
光の玉を作れば明かりにして
青い洞を見てみましょう

探索中
もしブルーウイングが吃驚や怖がる事があれば
大丈夫と寄り添います

あの島は…
故郷の世界と縁のある島なのですか
ブルーブルー…素敵な名前

…ブルーウイングも
彼らと共に生きてくれて、ありがとう



●青の謝恩
 匂いも、気配も、余韻も。
 余すところなく消え逝った魔女の置き土産は、海賊旗というメガリス。
「鬼火と言っていましたが……」
 象徴たる遺産を思うと、遣り切れなさと、未来への憂いが泉宮・瑠碧(月白・f04280)の心に雨を含んだ曇を忍ばせる。
 ――でも。
(「きちんと処理をしなくては」)
 果たさねばならない役目に唇をきゅっと引き結んだ瑠碧は、前を見つめるために顔を上げたところで、目元を和らげた。
「……まぁ」
 ブルーホールの縁で、一頭のブルーウイングが瑠碧を呼ぶよう「きゅーい、ぴい」と高く鳴き、円らな瞳をまるめている。
「初め、まして?」
 瑠碧が挨拶をすると、海よりも青い眼がくるりと煌めき、口角がクイと上がった。
 人間の様な表情の豊かさに、瑠碧の表情も心も柔らかく溶け、暗雲が遠ざかる。
「あの、撫でても良いでしょうか……?」
 おずおずと近付いた瑠碧がそっと膝を折ると、「ぴいい」と青いイルカは一際高く鳴いて、上半身を陸へと乗り上げさせた。
 ――どうぞ。
 ――なでて、なでて?
 理知の宿る眼が訴える甘えに、瑠碧はいよいよ本格的に囚われる。
(「可愛いです……」)
 そろり、撫でた。つるりとした感触が不思議で、もう一度そろり。
 イルカの笑顔につられたように、瑠碧の貌にもまろやかな笑みが浮かぶ。
「一緒の探索、よろしくお願いします」
 瑠碧の丁寧なあいさつに、ブルーウイングが一度頭を擡げたかと思うと、くるりと身を反転させて海へと戻った。
 そして「さぁ、どうぞ」と言わんばかりに瑠碧へと身を寄せてくる。
 本当に、随分と。島民にとって、頼もしい隣人のようだ。
「では、行ってきます。皆さんはゆっくり養生していてくださいね」
 見送る島民らへ律儀に一礼し、瑠碧は人懐っこい青いイルカと共に海中へ泳ぎ出る。

 災厄が去った事を知っているのだろうブルーウイングは、どこまでも自由に青い世界を往く。
 安住の地が取り戻されたのが、嬉しくて仕方ないのだろう。
 暗がりを照らす為にと瑠碧が灯した精霊の光には、少しだけ驚いたが、あっという間にご機嫌になって鼻先でつついて遊び始めたりもした。
(「ブルーブルー……」)
 零した息が泡となって昇っていく以外、これといって不自由することなく過ごせる奇跡を楽しみながら、瑠碧は知ったばかりの島の名を胸裡で反芻する。
 海と、イルカと。二つが連なった、素敵な名だ。
(「この島は……故郷の世界と縁のある島なのですか?」)
 問いを思い浮かべつつイルカの青い背を撫でると、ブルーウイングは瑠碧を連れたまま、身をぐるりと捩って回転させる。
 それは是を頷く代わりのダンス。
 渦巻いた水流に髪を遊ばせ、瑠碧も入れ替わる天地を楽しみ――もう一度、撫でた。
 ――彼らと共に生きてくれて、ありがとう。
 込めた謝意は、きっと伝わった。
 だって沈没船の影にちらりと見えた鬼火の海賊旗めがけ、ブルーウイングがぎゅんっと加速したから。
 それは心を寄せてくれた瑠碧への、青い海の相棒からの『達成』という贈り物。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月21日
宿敵 『『災厄になれなかった魔女』ニュンペー』 を撃破!


挿絵イラスト