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富めるに逢うては

#サムライエンパイア #戦後

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#サムライエンパイア
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#戦後


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●悪の栄えた例はないが
「救済とは何ぞや」
 壇上に立った男は、顰めた顔の不機嫌を隠さない低い声を投げる。
「……ってカネだよカネ、ったり前だよなぁそんなことは!」
 激しく唾を飛ばす先には、一人の聞き手もいない。薄暗い穴倉の中で苛立たしげに忙しなく身じろぎしながら、怒鳴ったり呟いたりを繰り返す男は、オブリビオンである。
「それをあいつらと来たら『いかにも興味ありません、あたし等聖人君子でござい』ってな調子でよぉ……」
 裏声でもって誰も言わない言い草の口真似をして、それに自分で不機嫌になったりなど、どうやらとても忙しいようだ。
「村の連中もその気になりやがって、おかげで俺のカネヅルはなくなったのにあいつらだけは腹膨らしやがって!」
 怒鳴り声と乾いた銃声は壁に跳ね返り地面に刺さっては、僅かに反響して消え落ちる。あとは男の荒らげた息だけ――。
「まぁ、いいや」
 不意に、ふっと小さく漏らした息は。
「せっかくまるまる太ったんだ、今から俺様のもんにしたら丸儲けだよなぁ?」
 ここから先の悪だくみへの笑みである。幸いにもオブリビオンフォーミュラの潰えた世界、猟兵どもの目もきっと他所を向いていよう。
「今度は見つからないように……ってなぁ」
 悪徳商人は、厭らしい笑顔を俯けて、ひとり肩を揺らすのであった。

●悪の失せたる例もない
「見つかッたンだけどな」
 グリモア猟兵の我妻・惇は煩わしげに溜め息を吐いて、集まった猟兵に向けて説明を始めた。サムライエンパイアのとある僻地の村で、オブリビオンが潜伏して悪さの算段をしているらしい。
「なンでも、最近豊かになッてきた村でよォ、工芸品やら農産物やらの食い扶持を横取りして稼ごォッてな魂胆らしいンだわ」
 勤勉で誠実な住人達の手による、金属面の打刻や作物の蔓の編み込みなどによる繊細かつ多岐に渡る細工物は、どこに出しても恥ずかしくない精緻な品質によって村の大きな収入源となっている。作物も根菜を中心として自給自足を可能とする収穫量へと到達し、さらには牧畜にも手を伸ばすだけの余裕を生み出していた。
 それでいて純朴な性質と強固とは言えない警備体制、確かにオブリビオンにとっては恰好の標的と言えるだろう。

「今回の相手はアレだ、またあの商人のオブリビオンな。ンでまた餓鬼飼ッてる」
 以前にこのグリモア猟兵が予知し、応じてくれた猟兵たちが退治した相手の中にも、同様の相手がいたことがある。村内に潜み、村人を操り、富を吸い上げ困窮させていた商人のオブリビオン。
「隠れてンのは農具小屋の地下、積ンであるモン退かしゃすぐ見つかるから探すまでもねェ」
 過去の敵もまた、農具小屋の地下に潜み、そこで餓鬼を従えて猟兵たちと戦い、倒された。戦う姿を目の当たりにした村人たちは、諦観や罪悪感を振り切って、再び前を向いて生きるべく立ち上がったわけだが――。

「なンかな、ちょォど収穫祭ッてンで、村の方はやたらと賑やかにやッてンだわ」
 特別な催しがあるわけでもなく、ただただ飲んで騒いで、他所者であろうと巻き込んで、皆で楽しく笑い合おうという主旨のそれは、相手が猟兵であろうと例外なく巻き込んでしまうだろう――否。
「連中、なンでだか猟兵をやたらと好いててな、とにかくもてなしたがるンだと」
 村人全員が返しきれないほどの恩を受けたという彼らは、例外的に猟兵相手だとより手厚く歓待する所存であるということらしい。物や装いは質素ではあるが、それはそれは力いっぱいのおもてなしを受けることとなるだろう。
「まァ、倉のネズミも今日明日動くッて肚じゃねェらしいからな。連中がひと通り満足するまで、相手してやッてくれや」
 戦闘はそれからでも充分に間に合うということである。祭りの最中に少し抜けて、解決してから祭りに戻ることも少し頑張れば不可能ではない。惜しいことといえば、最高潮を逃すことぐらいであろう。
 ここまで話し終えると、グリモア猟兵は送り出す準備を始める。その前にと投げかけられた問い……前の場所と同じ村か、というものに対して、やや間をおいて返事をした。
「さァ、覚えてねェや」


相良飛蔓
 お世話になります、相良飛蔓です。
 ご覧いただきありがとうございます。

 久しぶりのサムライエンパイアです。ずいぶん前の「弱きに逢うては」の続きになりますが、今回からの参加ももちろん大歓迎です。ちなみに間違いなく前回と同じ村です。

 第1章は屋外で忘新年会とかやるくらいの規模を思い浮かべてもらえると。用意してあるものは基本安酒と田舎料理、持ち込みOKです。工芸体験や一発芸など、振ってもらえばやってみたいと思います。なおグリモア猟兵は来れません。

 第2章は集団戦、餓鬼です。狭めの空間でわんさか取り囲んできますので、うまいこと撃退をお願いします。

 第3章はボス戦、悪徳商人リターンズです。前回きっちり倒しているので同一個体ではありませんが、何者かに出し抜かれて苦汁を嘗めさせられた記憶は持っているらしいです。同情の余地は薄いので、念入りに倒してあげてください。

 それでは、ご検討の程よろしくお願いいたします。
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第1章 日常 『和のおもてなしを受けましょう』

POW   :    お菓子!ごはん!とにかく美味しいものを食べる。

SPD   :    文化や作法に触れることを楽しんだり、実際に体験してみたりする。

WIZ   :    仲間との歓談を楽しんだり、地元の人たちの話を聞く。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

神楽・鈴音
鈴音:零細神社の守銭奴巫女
女神:神社の祭神。酒と男が大好きな姐御で、呼ばれなくても割と勝手に出てくる


「人々を苦しめて私腹を肥やす悪徳商人ね……。こういうの、いつまで経っても減らないわよね、ほんと
「え、私? あら嫌だ。確かに私は守銭奴だけど、悪徳じゃないわよ!
「……って、なに勝手に出て来て、先に食事を楽しんでるんですか、神様!
「まあ、確かにここ最近は、ちょっとお供え物の質が悪かったけど……

その後も、女神は酒を飲みまくり、男を逆ナンし、やりたい放題
『あんた、なかなかイイ男じゃないか。どうだい? アタシと楽しまないかい?

鈴音が布教によりお布施を集める前に、好き勝手に楽しむ女神様でした



●ヲーシップ
「人々を苦しめて私腹を肥やす悪徳商人ね……。こういうの、いつまで経っても減らないわよね、ほんと」
 問題の土地へと降り立った神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)は、古典的で没個性的な予知の概要に嘆息する。額の汗より濡れ手の粟を望むのは、易きに流るが世の常なれば仕方ないとも言えようが、それで他人を苦しめるなら看過できるものではない。善神を奉ずる者なら捨て置くという選択肢はないだろう――決して、悪人の懐に入る予定の金銭を、自身の賽銭箱に納めさせることを目的としているわけでは、ない。

「え、私? あら嫌だ。確かに私は守銭奴だけど、悪徳じゃないわよ!」
 そんな鈴音の清廉な腹中を察するかのような、一抹の疑念を込めたような視線を向ける村人に、猟兵はその心証の一部を肯定する。実際として、長らく参拝客がなく困窮を経験した彼女と、過去において貧困に喘いだ住人たちとにおいては、少なからず共感的な部分はある。
「いやしかし……」
 中には、貧困の原因が信仰による寄進であった者も多くある。猟兵への信頼や感謝などを差し引いても、新たに神仏を奉じることには未だ抵抗感は小さくないようだ。言いにくそうに、申し訳なさそうに、頭を掻く住人たちは目を逸らし……
『あんた、なかなかイイ男じゃないか。どうだい? アタシと楽しまないかい?』
 ……信仰を注ぐことへの抵抗感は、彼らの苦い経歴ばかりが原因ではないらしい。逸らした視線の先、声がした先には、いかにも陽気で楽しげな“彼女”の姿があった。
「……って、なに勝手に出て来て、先に楽しんでるんですか、神様!」
鈴音が宴席に就いてからさほど経っていないというのに、その周囲には酒瓶が転がされ、村の若者が側近くに置かれ、肩を抱かれては艶っぽい声を掛けられている。巫女の悲鳴に近い叫び声にも怪訝な表情で答える女性――“女神”様は、まるで『楽しむのはこれからよ』とでも言わんばかりの様子であり、抗議を容れるつもりはないようだ。
「まあ、確かにここ最近は、ちょっとお供え物の質が悪かったけど……」
 霊験もへったくれもないような祭神の姿に恥じ入った様子で、消え入りそうな声で言い訳めいた言葉を呟く鈴音。その様子に理解を示すように、村人はどこか遠い目で言う。
「うん、悪いけど……でも、神様とかは無理だけどさ、いっぱい食べて行ってよ」
 その目にほろりと輝くものが見えたのは気のせいではないかもしれない。布教の方は不振で終わりそうではあるが、お布施に準ずるものは何とか得られそうである。とりあえずは巫女も神様も、ありがたく土地の恵みを味わうのであった――

「あ、いや、俺は、そのぅ……」
 信仰や帰依ではないにしろ、一部の純朴な若者からは強い支持を得られることとはなったのだが……それはまた別物である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御剣・刀也
POW行動

祭りなら楽しまなきゃ損だな
折角だし、思いっきり楽しませてもらおう
まずは酒と食い物の確保からだ

酒を飲みながら猪鍋や焼き鳥等の料理をバクバクと平らげていく
村の者が飲み比べしようと言ってきたら目を輝かせながら良いだろうと応じる
何杯か飲んだ後、これじゃ酔えないと自分は樽から直接飲み始め、勝負を挑んだ者たちを唖然とさせる
本人はうわばみで酒に強い
「ふう。良い米を使ってる酒だな。で、次は誰が相手だ?」



●この後に戦闘です
 以前に訪れた時には、友好的な関係ではなかった。言葉も少なく機嫌も良くはなさそうな猟兵と、虐げられて磨り減って、にこやかに迎え入れる余裕などなかった住人たちとでは、友誼を結び笑い合うなどありえない事であった。
「祭りなら楽しまなきゃ損だな。折角だし、思いっきり楽しませてもらおう」
 そして今、村には笑い騒ぐ声が賑やかに響き、住人たちは屈託もなく馴れ馴れしいまでに親しげである。御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)もそれを受けて、楽しむ気満々で笑っていた。
「まずは酒と食い物の確保からだ」
 その言葉に村人のひとりが不思議そうな表情を浮かべた。大規模な祭りではないとはいえ宴席としては小さくもないし、料理も酒もあらん限りに潤沢に用意されている。慌てなくても食事が逃げるわけでもなし、確保というのは適切ではないのでは……と、思われたのだが。

「……なるほどなぁ」
 その光景は、疑問を氷解させるに足るものであった。刀也が“確保”した大量の料理は、瞬く間に減らされていく。猪や鳥など動物性のものを中心に、あるいは貪る鬼の如くに勢いよく平らげていく。程なく刀也の手の届く範囲からは、およそ食べられるものはほとんど消えてしまった。
「兄さん、こっちもイケるんだよな」
 やや落ち着いた食事の合間に、赤ら顔の中年らしい村人がひとり、酒瓶を抱えて訪れた。併せて手に持ったやや大振りの杯ふたつと不敵な表情は、好意的な対抗心と、自らの能力に関する一定の自信を伺わせ――その求めるところは即ち、飲み比べである。
「良いだろう」
 勿論、その意図が分からない刀也ではない。酒も勝負事も好きな彼にしてみれば、至極当然の流れとも言えよう。杯を受け取り、なみなみと注がれるのを眺めてやれば、その水面には爛々と輝く猟兵自身の眼光が跳ね返った。
 互いに合図で飲み干せば、視線を合わせてにやりと笑う。まだまだ余裕の表情の男たちの前で、間もなく杯は再び満たされた。
 同様に二人が呷り、それを刀也が飲み干せば、いくらか遅れて対戦相手が器を置いた。やや苦しそうな彼の前に、再び酒が注がれ、杯を満たせば今度は刀也の方へ――
「これじゃ酔えない」
 傾けられる瓶を手で制した彼は、不意に席を離れる。供給の大元である酒樽のひとつへ向かうと、両手で抱くようにして持ち上げ、半分傾けないぐらいから喉を鳴らし始め、みるみるその角度を上げていき……息を呑んで見つめる観衆の想像の外かつ期待の通りに、刀也は逆さに返した樽を地面にやや乱暴に置いてのけた。ふう、と大きく息をつきながら、雑に口元を拭うと。
「良い米を使ってる酒だな。で、次は誰が相手だ?」
 途端、静まっていた周囲から大歓声が上がった。

 その中で、ひと際大きな快哉と、次の対戦相手としての挙手が、酒好きの女神様からあがったのは、すぐ後のことである。広場がさらに盛り上がったのは、言うまでもないことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ポノ・エトランゼ
【かんさつにっき】
(村人さんの前向きな雰囲気に、ほっと安堵した)
(頭にバディペット乗せてきた)

エート、お久しぶりデス
これね、うちの国の地酒なの。良かったら飲んでね
っておじさん達に渡してから
お菓子も差し入れ
A&Wも収穫時期だからブドウジュースの蒸しパンとか作ってきたの

んで、工芸品体験をしたいかな!
蔓の編み込みめっちゃ気になる~
はー、これがサムライエンパイアの編み……!
私もね、鞄は植物編みこんだヤツ持ってきたんだけど
ほら見て見て~って村人さん達と異文化交流でキャッキャする
(小太刀さんの女子力発言にはドヤァしよ)

工芸楽しんだらご飯頂こうかな♪
祭莉さんと海の仲間達の楽しそうな踊りをみて手拍子参戦!


木元・杏
【かんさつにっき】
…皆笑ってる
村を見渡し、ふふ、と微笑んで
 
あ、いた。一年と少し前、わたしに最初に声を掛けてくれたおじさん
(たたと駆け寄り)
こんにちは。ん、約束通り来た
こっちは小太刀、つんでれ美少女(こくり)
ポノとまつりんも一緒
お土産はたまこ(飼い鶏)のたまご
ふふ、ここのたまごと味比べ(負けないって顔)

ん!ポノのお酒は絶対美味しい
わたし、お酌していい?
おじさんが承諾得ればきゅっと手を引き酒盛りの場へ

む、お酌だけでなく料理もどうぞ、と?いえそんな是非頂きます
おいもの煮っころがしに天ぷら
蒸かし芋にさつま芋のお味噌汁
村の人達の努力の証をしっかり味わう

踊りに村の子供達も誘って
この一時が何よりの実り


木元・祭莉
【かんさつにっき】だよー。

やほー、久しぶりー!
おっちゃん、元気してたー?(両手ぶんぶん)
うん。みんな笑ってる。よかった!(振り向いて、へへへー♪)

あ、動物が増えてる!
ニワトリいるの? 牛も?
たまごや牛乳、手に入るんだね、すごーい♪

今日はお祭り!
あ、その小鳥さんの細工、動くんだ?
ぴゅるりら~って、いい音がした。笛なんだね?

ん、それじゃおいらも一肌脱ごうっと!
くるりと回って、舞妓姿。
瀟洒な舞台はなくっても、手拍子足拍子で十分!

こくりと首を傾げたら、海の仲間がゆらゆらり。
ん、コダちゃんも踊る?(手を取り)
そうそう。リズムは気にしないで。
合わせるからねー♪

うん。
ホントに、よかったね!(にぱり)


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

へえ、ここが杏達の言ってた村なのね
鈍小太刀、宜しくね
って、誰がツンデレよ!?

ふふふ、お酒といえばおつまみでしょ?
ご挨拶のお土産に
アルダワ産ソーセージも付けちゃうよ♪

お芋めっちゃ美味しい!
食欲の秋だしね…って、杏の食欲はいつもの事だった(笑

工芸品も気になる所
これおじさんが作ったの?めっちゃ綺麗!
(磨かれた技術の陰に並々ならぬ努力の跡を感じるよ
そしてポノも、女子力高!?

祭莉んの踊りに合わせ
かわいい海の仲間達召喚
タイやヒラメの舞い踊りってね♪

え?私も?
いやいやいやいや、歌も踊りも苦手だし…って、わぁ!?(手を取られ
仕方ないなぁ、ちょっとだけだからね?(わたわたしつつも楽しくて笑顔に



●嵐の後
 以前訪れた時には、オブリビオンの悪意ある言葉を受け止め、村人たちによる悪意の言葉すらも甘んじて受ける覚悟をして戦いに臨んだポノ・エトランゼ(エルフのアーチャー・f00385)。結果としては糾弾ではなく感謝を受けることとなったのだが、そうして前を向いた彼らが、今なお前を向いて笑うその姿に、彼女は安堵の息を漏らした。伝わる緊張感の和らぎからか、頭に乗ったバディペットの鶏も、軽く羽ばたくと柔らかく座りなおした。
「…皆笑ってる」
「うん。みんな笑ってる。よかった!」
 木元・杏(マスター縁日・f16565)もまた同様に、柔らかい表情を見せる。彼女はより近くに、苦しむ人の言葉を受け取ったために、気懸りも決して小さなものではなかった。オブリビオンが現れずとも、また訪ねるつもりであった杏にしてみれば、ある意味良い機会とも言えたかもしれない。それは、別れ際に交わした約束のために――笑い返した木元・祭莉(まつりんではない別の何か・f16554)が、俄かに駆け出した。

「やほー、久しぶりー!」
 両手をぶんぶん振りながら、遠目に捉えた見知った顔を目掛けて駆けた少年は、あっという間に目指す男にたどり着き、満面の笑みで挨拶をする。
「こんにちは」
 いつものように控えめに駆け、いくらか遅れて足を止めた杏も、その村人に笑顔を向けた。彼はかつて、オブリビオンのために心を殺され、その姿により杏の心を奮い立たせ、さらにその少女の姿によって自らの心を奮い立たせた人である。
「おっちゃん、元気してたー?」
 底抜けに明るい声に目を細める男は、僅かに影はあれども、危うさは感じさせない。
「ああ、おかげ様でな。しかし、いや、本当に……よく来たなあ」
「ん、約束通り来た」
 必ずまた来るという彼との約束は、こうして良い形で果たされた。悪いものにしないためにも、地下に潜むという悪意は確実に倒さなくてはなるまい。

「へえ、ここが杏達の言ってた村なのね」
 鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)にとっては、初めて訪れる村だ。同行する皆から聞いている内容と実情とを比較して同定するかのように、周囲を物珍しそうに見回していた。その最後に杏たちと話す男の姿を見とめる。
「こっちは小太刀」
「鈍小太刀、宜しくね」
 杏の紹介を受け、澄ました様子で挨拶を返し
「つんでれ美少女」
「え、つん…?」
「って、誰がツンデレよ!?」
 追加された余計な紹介に、少女は声をいくらか荒らげる。当の本人は否定しているが、説明を受けた相手には言葉自体が伝わらず首をかしげるばかりで、そのうち気にするのをやめてしまったらしく、やり取りに改めて目を細めるばかりとなった
 んで、“美少女”の方はつっこまないんですね。

「エート、お久しぶりデス」
 改めて、挨拶をするポノの口調は少しばかりぎこちない。互いに思うところも含むところもあろう相手であれば無理からぬことであろうが、心配する必要もないほどに住人たちの表情は柔らかいものである。むしろポノの様子に感化されて少し背筋が伸びたくらい。
「これね、うちの国の地酒なの。良かったら飲んでね」
そういって渡す彼女を皮切りに、小太刀と杏も携えたお土産をずいと差し出した。
「お酒といえばおつまみでしょ?」
「ここのたまごと味比べ」
 それぞれ小太刀はアルダワ産のソーセージ、杏は自身の世話する鶏の産んだ卵を持参している。どちらも味に自信の品であるようで、両者ともが不敵にふふと笑っていた。
 あと、とさらにポノから追加されたのは手作りの蒸しパン。アックス&ウィザーズでも収穫の時期であるブドウの果汁を使って作られたそれは、風味も豊かで美味しそうなものだ。飲酒に堪えない者たちへの気遣いもばっちりの、抜かりのない布陣である。
「あ、動物が増えてる! ニワトリいるの? 牛も? たまごや牛乳、手に入るんだね、すごーい♪」
 それに対し、ひとり提示するお土産もなく、飼育される動物たちを見て跳ね回りはしゃぎ回る少年がいるが――妹との連名のお土産、あるいは溢れる元気のおすそ分けがお土産、という解釈で良いのだろう。きっと。

●嵐の中
「これおじさんが作ったの?めっちゃ綺麗!」
「はー、これがサムライエンパイアの編み……!」
 勧められた席では、賑やかしの装飾や敷物の類などに、村で作られた蔓編みの工芸品が使われていた。小太刀が目敏く捉えて誉めたてると、ポノも続くように感心の声をあげる。構造や工程が気になるらしく熱心に観察するふたりを見ながら、男はくすぐったそうにしていた。
「いや俺はあんまり器用じゃねえもんで、あんまり手の込んだやつはできねえんだけどよ」
 言いながら用意し、要望に応えて技術を披露する手元は迷いのない軽快さで、見る間に小さな飾り物を拵えてしまった。丁寧で細やかな仕事で一輪花の形を作って見せた彼は、やはり照れ臭そうにしながら、猟兵の少女たちの目の前にそれを乗せた無骨な手のひらを差し出してくる。女の子だからと単純に思いついた意匠であったらしいが。
(磨かれた技術の陰に並々ならぬ努力の跡を感じるよ)
 出来た品物もさることながら、その技術に感心するポノと小太刀は、およそ想像された少女らしからぬ真剣な眼差しでもって、しばらく見つめていたのだった。

「私もね、鞄は植物編みこんだヤツ持ってきたんだけど」
 杏による卵の味比べに続くのは、ポノによる技術交流である。自身がお土産を入れてきた鞄すらも交流の種となるような品であり、本当に抜け目がない。
 見せれば今度は男の方が感嘆の声をあげ、手に取って回したりかざしたり、気付けば周囲にも他の住人が集まり、物珍しそうに鞄を眺めまわしている。そもそもこの土地には鞄そのものが普及していないために、その形状の利便性からして皆が注目しているのだが――いずれにしてもポノの製作技術に対する関心は、非常に強く波及し、彼らの職人魂を大いに刺激していた。
 そして、少し違った感心の声も、ひとつ。
「女子力高!?」
 村人からの質問攻めを土台とした技術交換の合間に聞こえた小太刀の声を、賑々しい喧騒の中でもポノの耳は逃すことなく、的確に声の方に向かって『ドヤァ』という顔をした。

 一角は、作業をしながら飲食を行うという特殊な様相を呈していた。その端の方では、知己の村人を再び捕まえた杏が、その杯へ酒瓶を傾けていた。
「ポノのお酒は絶対美味しい」
 得意げに頷きながら、全幅の信頼を置くそれを注ぐ少女の姿に、男は一瞬、きゅっと力の篭った表情をした。懐古的に、僅かに思うところのあったらしい彼はすぐに笑顔を作ると、礼を言ってゆっくりと口をつける。少女にとっては懐かしい時に、男にとっては失った時に、それぞれよく似た優しい時間が流れ――
「嬢ちゃんもどうだい、いっぱいあるから、いっぱい食えよ」
「いえそんな是非頂きます」
 男が身体を伸ばして引き寄せた器に一瞬もたずに吹き飛んだ杏の遠慮を見ると、彼は噴き出して笑ってしまった。さらにその後、丹精込めた自慢の作物を元気によく食べる少女の様子に、再び堪えきれず破顔するのだった。

●嵐の前
「お芋めっちゃ美味しい!」
 舌鼓を打つ小太刀がその感動を共有せんと向いた先では、杏がうんうんと頷いていた。もともと口数の多い方ではない彼女だが、今はさらに口いっぱいに美味しい芋料理を頬張っているので、なおさら喋れない。
「食欲の秋だしね…って、杏の食欲はいつもの事だった」
 やや苦笑気味の小太刀に対してさらに頷く杏が、揶揄を肯定しているのか料理の味への満足感を示しているのかは彼女がそれを飲み込むまでは分からないが、多彩な滋味溢れる料理を非常に楽しんでいるのは間違いない。杏でなくても美味しいのは間違いなく、小太刀もポノも食事を存分に楽しんでいるのだから。

「坊主はこっちの方が好みかね」
 工芸品談義と食事の合間に祭莉を訪ねたのは、少年にとって特別馴染みの村人というわけでもない。しかし相手にしてみれば知った顔の猟兵であり、親しみを持って絡んでくることに不自然はない。そんな彼が差し出したのは、木製の鳥の玩具である。小さな部品を組み合わせた精巧なそれは、やはり住人である彼が作った自慢の品であるらしい。
「あ、その小鳥さんの細工、動くんだ?」
 動く仕掛けと言えば少年の心をくすぐるもの、動物らしさを強く持つ祭莉であれば尚更であろう。まんまと興味を引かれた少年は、小鳥と作り手とを交互に見比べ、作り手はそこに得意げな顔で頷いて見せる。
「それだけじゃないぜ、こいつはな……」
 言いつつそれを徐に口につけると。
「ぴゅるりら~って、いい音がした。笛なんだね?」
 応えた音色は、高く軽やかに、姿の通り小鳥の声音のように涼やかに、軽快な音楽を奏で始めた。こうなればもう、少年の身体が動かないはずはない。

 くるりと回れば纏える衣装は舞妓のそれへと早変わり、手拍子ひとつ視線を集め、ひらりと優雅に舞い始め。
「私も……おいでおいでー」
 小太刀も合わせてユーベルコードを行使すれば、ばしゃりと湧いた飛沫の中からタイやヒラメが躍り出て、小さな乙姫の動きに合わせて元気に周囲を踊り回る。目に鮮やかな出し物に住人たちも歓声を上げ、先立つポノの手拍子に合わせて手に手に拍子を合わせ、歌い騒いで盛り上がり。

「え?私も?」
 と、ここで今度は小太刀が“おいでおいで”とされる番である。召喚された海の仲間たちと一緒に手招きしながら近づく祭莉に、目を泳がせながら手を振り遠慮を示す少女だが。
「いやいやいやいや、歌も踊りも苦手だし…って、わぁ!?」
 伸ばした手は当然のように取って握られ、賑わう輪へと引き込まれ。
「リズムは気にしないで。合わせるからねー♪」
「仕方ないなぁ、ちょっとだけだからね?」
 もはや抜け出る余地もなく、慌てつつも覚悟を決めたらしい小太刀も、たどたどしくもステップを踏む。言葉に反し、その表情は楽しげで。

 杏もまた、村の子ども達を誘い巻き込み、賑やかにその魚群へと突撃した。笛の音に、手拍子に、唄う声に笑い声。猟兵たちが守ったもの、住む人たちが実らせたものがこの光景であるのだろう。そんな風に感慨深く思いながら、子どもらの手を取り回り踊る中で、ふと目が合った少年もまた、思うは同じというように、眩しい笑顔で応じてくれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シリン・カービン
「そんなわけは無いでしょう」
出発前、惇に詰め寄っておきます。
詳細は記録を読んで把握していますが、
「覚えてない」なんて、一言言っておかないと。
…まあ、はぐらかされるくらいが
丁度良いのかもしれませんが。

私にとっては初めて訪れる村。
でも、かつて村を救った者にとっては、
きっと言い尽くせぬ思いがある村。
なんとなく邪魔をしたくなくて、
村外れの木の梢から村の様子を眺めています。

二度の悲劇に襲われ、漸く立ち直った人々。
どれほどの悲しみと苦しみを乗り越えた笑顔なのか、
思いを馳せれば自然と心は決まる。

三度目には、遭わせない。

祭の喧騒を他所に、件の農具小屋の下調べ。
万が一にでも餓鬼が村に迷い込むことの無いように。



●業
『そんなわけは無いでしょう』
 シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)が、グリモア猟兵に詰め寄った言葉である。事件の内容も、村の様子も、人々がどのように苦しめられ、どのように救われたかも。予知も含めてその男が誰より詳細に知っているはずだ。
 勿論シリンも記録を読んで把握しているし、どう考えたって同じ村である。間違いなく知っているはずの情報を隠してごまかすなんて、いい加減なこと。
「…まあ、はぐらかされるくらいが丁度良いのかもしれませんが」
 結局認めもせずに目を逸らしたまま、強引にシリンの転送を敢行した彼は、どう言ったって白状するつもりはないのだろう。それなりにその人となりを知る彼女は、後で追加の尋問を行うかどうかの問題をとりあえず脇に置いて、眼前の村の今ある脅威へと集中を切り替えることとした。

 シリンがあるのは、村のはずれの木立の中。梢に腰掛け賑わう人々の笑顔を眺めていた。彼女が記録で知るだけの村人はきっと、会えば猟兵の仲間として彼女を歓迎してくれるだろう。しかし村を救ったのは自分ではない猟兵であり、当事者たる両者の間には薄くとも細くとも絆のようなもの――言い尽くせぬ思いがあることだろう。
 そう思うとなんとなく邪魔になることが憚られて潜むようにするシリンだが、彼女の狩人としての鋭敏な感覚は、皆の楽しげな表情を精細に捉え、その笑う声を明瞭に聞き届けていた。彼らは確かに救われ、今こうして立ち直り、ささやかなれども幸福を勝ち取っている。その光景は、シリンの口元を綻ばせるに充分なものであった。
 それだけもらえば、豊穣の施しは充分だ。それだけあれば、戦う理由は充分だ。

 ひらりと飛び降りると、賑わいを背に猟兵はひとり農具小屋へと向かう。建物の周囲を一回りして小さな進出入経路でもないかを検め、地下に潜むという餓鬼の、知らぬうちの侵攻の可能性を確かめる。
 結果として、それらしい足跡も、地下への通路を通過する何らかの痕跡も、僅かも見当たることはなく、現時点での地上へのオブリビオンによる被害は心配しなくて良さそうである。それならばあとは、戦闘開始の時まで唯一の出入り口を完璧に守り、一切の出入りを封殺するばかり。
「三度目には、遭わせない」
 その銃口と眼光は、鋭く闇を狙い睨む。もしも姿を現したなら、一瞬のうちに撃ち抜かんとする峻厳な意志を込めて、ただただ弛まず、真直ぐに。
 その背に耳に、届く喧騒は変わらない。その身に携える、堅守の一念は変わらない。村に満ちたるその幸福を、変わらぬものとするために。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『餓鬼』

POW   :    共喰い
戦闘中に食べた【弱った仲間の身体の一部】の量と質に応じて【自身の傷が癒え】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    飢餓の極地
【究極の飢餓状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    満たされぬ満腹感
予め【腹を空かせておく】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑7
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ひとしきり、村に流れる楽しい時間を思い思いの形で過ごした猟兵たちは、地下の暗がりへと足を向ける。あるいは見覚えのある、あるいは初めてのそれは、しばらく人通りのない、冷たい闇へとつながっている。
 確保されたその通路を降り行き、少し開けた空間につけば、暗きに隠れたあたりから、次々に餓鬼が姿を見せて、小さなそれらはあっという間に猟兵たちを取り囲んだ。
「コロセ!クエ!」
 何かを言い含められたものでもなく、運ばれる食事を待つものでもなく、今回は明確な指示なく使役されている風の餓鬼たち。ただその闇に屯し、ただ獲物を待つ小怪たちは、ただただ飢えと渇きを満たすべく、躊躇なく猟兵たちに襲い掛かった。
御剣・刀也
餓鬼ごときで、俺らが止められると思ってんのかね?
だとしたら、随分なめられたもんだ
行き掛けの駄賃だ。相手をしてやる

共食いで傷が癒え、戦闘力が増大すると厄介なので、捨て身の一撃で確実に斬り捨てる
回復、戦闘力が増大しても、焦ることなく第六感、見切り、残像で相手の攻撃を避けて、カウンターで斬り捨てる
「やれやれ。行き掛けの駄賃とはいえ、数が多いと面倒だ。まぁ、あの村の連中には酒と食い物もらったし、その礼として、きっちり片付けるか」



●戦鬼ふたたび
 御剣・刀也は、以前にもこの場所で多くの餓鬼と戦い、そして多くの餓鬼を討滅せしめた。そんな彼にしてみれば、相手にとっては不足に過ぎる。この程度が充分な防備であると思っているのなら、この程度で自分たちを止められると思っているのなら。
「だとしたら、随分なめられたもんだ」
 眉根を寄せて煩わしげに、嘆息しながら投げる言葉に、応えるものは此度はいない――否、不快を表すその表情を威嚇と捉えた餓鬼どもは、威を振る咆哮で答えてのける。それに刀也は、ずらりと長い刀を構えて、宣した。
「行き掛けの駄賃だ。相手をしてやる」
 今度は勘違いでも気のせいでもない、本物の覇気が噴き出した。
 永劫の飢餓感のために危機など疾うに慣れきった餓鬼たちには、猟兵の威圧は既に恐るに足るものではないのかもしれない。構うことなく近くの数体が刀也に向けて躊躇なく足を踏み出す。
 と、それより遥かに躊躇なく、男は踏み出した。鼓膜を揺らし、遂には地を揺らすかというほどの強烈な踏み込みでもって低い構えのままに敵前へ跳びこみ、渾身の横薙ぎを一閃させその剛剣を振り抜いた。餓鬼の数体はその一太刀でもって首を刎ねられ、落ちて、倒れて、塵と消えた。
 続く一歩で伸びあがるように袈裟に斬り上げ、胴をふたつに切り分ける、さらに続けてもう一歩、大上段から斬り下ろして縦真っ二つに両断し――自ら囲みに飛び込むように斬り進みながら、それぞれの個体を確実に一刀に仕留める彼こそ、道行の上のすべてのものを余さず喰らう、飢えた獣のようでもあり。

 傷付いた仲間を喰らって強化する敵の性質を鑑みれば、多少の危険を冒してでも間違いなくとどめを刺せる攻撃を繰り出し続ける刀也の戦術は非常に有効である。ただしそれは、一つの過誤なく確実に実践できることが前提だ。取りこぼし、虫の息でも永らえさせれば――それは致命の糧となる。
「ガァ、アアアアアアアアア!」
 手負いの一体に我先と群がり、貪る餓鬼たち。体力を使い切って速やかな絶命を望むような凄絶なる断末魔。それが収まれば小怪たちは、しっかりと次の獲物を見定め、血で汚れたいびつな口元をさらに歪め、笑った。
 瞬間に跳び出した餓鬼たちは、先の刀也の踏み込みもかくやという速度で襲い掛かる。視界を覆うそれらを、獲物たる男は見切り、躱し、避けきれないものは急所を外して受けながらも、一体を狙いすました切先で刺し貫くと、返した刃を振うついでにその身を引き裂き振り飛ばし、その一刀でまた一体。
 相手が強化しようと自身が傷を負おうと、結局のところ、獲物は餓鬼どもの方なのだ。刀也の刃は止まるべくもなく、敵の渦中を旋風のように切り刻み、見る間に数を減じていく。
「やれやれ。行き掛けの駄賃とはいえ、数が多いと面倒だ。まぁ、あの村の連中には酒と食い物もらったし、その礼として、きっちり片付けるか」
 たとえ雑魚でもこれほどの数なら多少は張り合いがあるのか、あるいは先ほどの旨い酒を思い出したか。猛攻に少しだけ息を乱しながらも、男はうっすらと、笑った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ポノ・エトランゼ
【かんさつにっき】
(頭に乗せてる)
コタマさん
戦闘時は美味しそうなお肉っぽくジューシーに鳴いて敵を誘惑してね

小太刀さんのソーセージは美味しかったかしら?
私達は飲み食いしてここに来たけれど、尽きることの無い飢餓は辛いわ…
骸の海へと還ってはしまうけれども、ほんの一時かもしれないけれども、彼らは夢を見てくれるかしら?

片手に護符、片手に短剣
基本、敵の動きを見切ってからの攻撃
向かってくる餓鬼に『お腹いっぱい』っていう符を貼っていく
……まやかしで、瞬間的なものだけどお腹いっぱいになるといいわね
隙ができたり、怯んだ餓鬼へ短剣を突き立てる
符を貼った敵への対処は仲間に任せることも

囲まれ過ぎたらUCを放射するわね


木元・杏
【かんにき】
村は少しずつ復興し
わたしは、以前は独りで来て、周りの人達と一緒に戦い
今日は皆と来て、皆と戦う

けれど、この子達はまだ飢えてる
これが過去に囚われるということ、なのかな

幅広の大剣にした灯る陽光からのオーラを照明代わりにして視界確保
囲まれそう?任せて
【うさみみメイドさんΩ】
メイドさんズ、壁や地を蹴り、素早く逃げるようにジャンプし、早業と数で敵を撹乱して?
惑わされず向かってくる敵は大剣で武器受けし、そのまま怪力で押し返して叩き斬る

お腹空いてる時の力はやはり芯がぶれるもの
宴会でわたし達が得たおいもパワーをとくと見よ

あなた達もきっといつの日か、過去から解放される
その時にはおいも山盛り食べてね


木元・祭莉
【かんさつにっき】だい!

あー、食べた食べた♪
楽しかったねー。
さあ、ついでに一仕事しに行ってこようー!(こそこそ)

えーと、こっちだっけ?(くんくん)
道具がいっぱい置いてあった……あ、ココだ!
……後でココも埋めて帰ろうね。(先頭に立ち)

あ。また居付いちゃったのかー。
仕方ないなあ、倒しておこっか。

あー、コダちゃんは食べないでー。
美味しくないし、つんでれ感染るかも。

白楼炎、発動。
さっきのご馳走をそのまま再現するよ。
どう? おいしそうでしょ?

動きが止まったところを、苦しまないように一撃必殺で。

昔、母ちゃんがマッチ売りの少女って絵本を読んでくれたっけ。
美味しそうな料理に囲まれて、お逝きなさいな?


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

主のオブリビオンは変わっても
配下は決まって餓鬼なんだね
何処から寄って来るんだろう
この地と余程関係が深いのかな

今回は主の指示も特にないらしいし
少しは話せる余地があるといいけども

とりあえず餌付け…お土産をお供えしてみよう
村に持って行ったのと同じ
沢山のアルダワ産ソーセージ
水筒にはお茶も
共食いよりはこっちの方が美味しいよ、きっと

戦闘の緊張感はどこへやら
まるで宴会の続きの様に
一緒に座ってお茶を飲み
餓鬼達の身の上話を聞いてみる
主の悪徳商人の事も
ほら、愚痴りたい事もあるかもだしさ

とはいっても最後は倒さないとなんだけどね
改めて対峙
飢餓の過去に囚われた邪心を斬って
成仏を願って
骸の海へ送り出すよ



●救済とは

 木元・杏が過去に訪れた時、彼女は独りで、村はとても貧しかった。現れた仲間は不安や恐怖を見る間に取り除き、湧き上がるような勇気をくれた。餓鬼たちはその時もバラバラで、皆が自分の飢えだけしか気に留めず、動けなくなればすぐにその身を食べられた。もはや感じる心も麻痺するほどの、それは恐怖だったかもしれない。
 今回は、杏には共に訪れた皆がいる。村人だって笑っていて、楽しく笑える豊かさもある。餓鬼たちは、今もやはり飢えばかりに支配され、ただ目の前の相手より糧を得んと、痩せた身体に目ばかりぎらぎらと輝かせてこちらを睨む。その姿に少女が思うのは、怖いでも許せないでもなく
「これが過去に囚われるということ、なのかな」
悲しさや、寂しさ。

「また居付いちゃったのかー。仕方ないなあ、倒しておかなきゃ」
 木元・祭莉には、どうやらそんな感傷は先行するものではないらしい。あくまで相手は過去の残滓であるオブリビオン、終わったそれに、悲しんでやる義理もない。加えて同行するは女の子たち、自分は男の子で、兄である。守らなきゃいけないし、カッコつけなきゃいけないのだ。
 そんなわけで少年は怖気を振って前に立ち、先頭切って仲間の前で敵を迎え撃たんとする。後でお祭りに戻るためにも、みんな元気で、みんな笑顔で帰らなくては。
「……後で埋めて帰ろ」
 とはいえ、ちっとも怖くないわけではないのだろう。ぽそりと小さく呟くそれは、なんとなく気を紛らわせようとしているようにも聞こえたりも、する。なお地下室は村の備蓄用の施設となっているので、埋めれば住人が困るため、その決意が果たされることはない。

「何処から寄って来るんだろう、この地と余程縁が深いのかな」
 この地に、この地下の室に餓鬼が現れるのは、同じグリモア猟兵の予知だけで三度目となる。従える親玉は変われども、毎度のように同じ怪物が配下として立ちはだかるとなれば、鈍・小太刀の疑問はもっともだ。
 といっても、それを確かめるすべはない。日々を真面目に、必死に生きてきたばかりの普通の村人にしてみれば、怪異の出現自体があり得ない事件であり、そこに理由を見出すことなど思いもしない。地史などもあるはずもなく、想像するしかないのだが――いずれにせよ、此方か彼方か知れずとも、飢えに渇きに苦しんだものがいたのだろう。それは、少女に憐憫の情を起こさせるに足る。
「少しは話せる余地があるといいけども」
 その感情は、あるいは倒すべき判断を鈍らせるものかもしれない。

 気を取られた隙を狙うように、餓鬼が飛び出し小太刀を襲う。武器も構えぬ少女の身には、爪牙は些か鋭きに過ぎる。
「あー、コダちゃんは食べないでー。美味しくないし、つんでれ感染るかも」
 届かば切り裂くその攻撃は、届くことなく阻まれた。祭莉はその目論見通り、連れ立つ仲間を守るため、小さな身体で立ち塞がっている。
「って誰がツンデレよ!?」
と、そんな具合で、皆がいればいつも通り、怖くても平気でいられるものだ。

「とりあえず餌付け…お土産を」
 反撃とばかりに小太刀が取り出したのは刀ではなく、村人へのお土産と同じく、アルダワ産のソーセージであった。沢山のそれは広げた包みにさらに広げるように置かれ、大振りの水筒からはお茶まで用意され……
「共食いよりはこっちの方が美味しいよ、きっと」
 自慢の品を差し出しながら、小太刀はにっと笑ってみせた。


 それからしばらく後には、洞穴の中は小さな宴会場……というより、ピクニックか何かのようになっていた。敷物の上に展開されたたくさんのソーセージを次々に口に運ぶ餓鬼たちは一心不乱に、喉に詰まったような苦悶を見せても構わず口に押し込むようにする。目に余るようならそこにすかさず水筒のお茶も差し出され、至れり尽くせりの様相であった。ちなみに給仕はうさみみの小さなメイドさんたち、人数も多く細やかな仕事でティータイムを彩っている。
「ほら、愚痴りたい事もあるかもだしさ」
 一緒に座を囲みながら、小太刀はそれら――彼らの言葉を促した。餓鬼を従える親玉のこと、彼らの把握する現状など、今後の手掛かり足掛かりにでもなりそうなことを、尋ねてみる。もっとも彼女の場合は情報収集よりも、敵ながらも常に苦しみ続ける餓鬼たちの辛さを、ほんの少しでも慰めたい思いによる部分もあるのかもしれないが、真偽は問わず、少女はきっと問えば否定するだろう。

「食イモノ……ハジメテ、食ッタ……足リナイ、ケド」
「アイツ、ナニモ、クレナイ」
 咀嚼した欠片を時折口から飛ばしながら、少ない語彙で端的に語りだした餓鬼たちの言葉からは、悪徳商人からの待遇の悪さが伺えた。従えて閉じ込めておきながら何も与えないのだから、以前この村に現れた餓鬼の就労環境よりさらに悪いと言える。そしてその言葉からは同時に、差し入れの不足も分かってしまう。死ぬほどに飢えた彼らの腹を満たすには、たくさんのソーセージでも足りなかったようである。もっとも彼らの性質上、本当に胃袋まで落ちているかも怪しいところだが――

「少しは腹も膨れたかな」
 きれいさっぱり片付いてしまった包みをしまうと、小太刀は立ち上がった。飢えを抱え、その衝動に抗えぬ餓鬼たちもまた、刀を抜こうとする少女に向かい、飛び掛かるべく膝を僅かに撓ませる。互いに構えた臨戦態勢を見れば、問いの答えも自ずと分かるというものだ。あるいは、最初から。
 結局は倒すしかないことに、僅かに寂しげな表情を浮かべた小太刀の前に、庇うように立つ祭莉。やや離れて、灯る陽光を手に掲げ立つ杏と、護符と短剣を構えるポノ。そしてその頭上の鶏、コタマさんが一声大きく、鳴いた。同じくして陽光がひと際大きく光を放ち、それを合図に、猟兵たちと“それら”が動き出す。


「小太刀さんのソーセージは美味しかったかしら?」
 鶏の声は威勢がよく、張りのある肉感を想起させて効果的に餓鬼たちの注意を引いた。問いの答えは小太刀のそれと同じく返ってくることはなかったが、僅かでも満たされた様子の者がいないところを見ると、やはり肯定的な感想は期待できなさそうである。
 地上では今なお賑やかな宴が続いている。飲んで食べて楽しんできたポノにしてみれば、餓鬼たちが今まさに感じている飢餓感は推し量れるものではない。それが無尽に続くとなれば、想像を絶する耐え難さであろう。分からずとも、分かり切れずとも、その辛さを思うだけでも。
(骸の海へと還ってはしまうけれども、ほんの一時かもしれないけれども、彼らは夢を見てくれるかしら?)
 救えずとも、せめて苦しみを和らげるだけでも。

 鶏の声に注目させられた餓鬼たちは、さらに続けて杏の周囲より駆け出した小さなメイドさんの群れによって、注意を拡散させられることとなる。広間の壁へと駆け、天井近くへと跳び、縦横無尽に撹乱する。目で追い実際に駆けても追い、一旦成りかけた包囲はばらりと容易くほどけてしまった。
 背を向けたそれを後回しに、惑わされずに襲ってきた者を迎え撃つ。ポノの頭の鶏めがけて不意に飛び掛かる餓鬼の一体を、杏が持った大剣で受け、その細腕に見合わぬほどの怪力でもって押し返す。そうして転がった小怪が見上げる杏は、両手に光を振り上げて、一刀両断に切り伏せる。
「宴会でわたし達が得たおいもパワーをとくと見よ」
 空腹のまま向かい来る餓鬼など恐れるに足らずと言わんばかりの息巻きようである。確かに芋は炭水化物の摂取源としては優秀であり、活動の力を得るための糧となる。そしてかつての悪徳商人も、ある意味では芋の力によって打倒され、ことほどさように芋のパワーは疑うべくもなく実際に大きなものだ。それはそれとしてこの攻撃力は杏自身の怪力によるものなのだが。

 それでも多くの数が迫れば、さしものおいもパワーでも弾き返すには難しくもなる。光剣すらも糧にせんと齧り付く餓鬼を振り払えずに拮抗すれば、そこにはすかさずポノが滑り込み、手早く符を貼り付けてやる。記された文字は『お腹いっぱい』――敵の力は途端に鈍り、押す勢いが弱まった。見逃すことなく杏がその手に力を込めて、三体の餓鬼を振り飛ばし、一体に追い縋り切り倒し、その間にポノが二体の頚を腕を、深く鋭く斬り裂いて行き。
「……まやかしで、瞬間的なものだけど」
 彼らの腹が、実際に満たされたのではない。感覚を惑わし、一瞬そうと錯覚させただけである。渇望してやまないその衝動を利用して、彼らを滅ぼすそのために。彼らがただのオブリビオンでも、そうするしかないと分かっていても、思うところがまったくないわけではない。その苦味と、彼らに救いを求める思いはまやかしではない。
「あなた達もきっといつの日か、過去から解放される」
 杏からは躊躇いなど感じられない。少女の胸には、確信に近いような祈りがある。
「その時にはおいも山盛り食べてね」
きっと今度は、陽光のもとで一緒に美味しいお芋の食卓を囲めるように。立ち上がり前を向いた村人たちのように、また前に向かって生きられるように。


「昔、母ちゃんがマッチ売りの少女って絵本を読んでくれたっけ」
 祭莉が思い返したのは、小さい頃の物語。雪の夜に困窮した少女が、燐寸の火中に夢幻を見出す話。飢えに苛まれる点は似ているのかもしれないし、清廉にあらんとする点は大いに異なると言えるだろう。そしてそれを思い出した少年がこうするのは、ごく自然なこと。
「どう? おいしそうでしょ?」
祭莉はその手に、ユーベルコードの白楼炎により、湯気を立ち上らせる料理を現出させる。地上の宴席にて饗された、温かく美味しいご馳走を再現した――幻である。当然ながら餓鬼たちの腹を満たすことはなく、食めば恐らく味もしないことだろう。
 それでも、彼らにとっては、ひどく魅力的に見えることだろう。注意を引かれ、動きを止め、ともすれば危険を伴うことなく食べられるのではないかと、躊躇を引き起こすほどに、悲しいほどに魅力的に。
 そうして動きを止めた餓鬼に、少年は容赦をしない。料理を……否、白狼の力たるそれを、敵の口へと与えるように、纏わせた拳で撃ち抜いた。灰燼を為す拳によって叩き込まれた白炎は、一撃でもって怪物の頭を吹き飛ばす。
 あるいは、容赦をしないのは同情があるからこそ、なのかもしれない。死すれば終わりのはずなのに、死しても尚も衝き動かされ、終わったはずの苦しみを、感じるためだけ在る餓鬼たち。その苦しみを終えさせるため、たった一瞬でも長引かせぬため、躊躇なく、容赦なく、ほんの一撃で。
「美味しそうな料理に囲まれて、お逝きなさいな?」
 それは、どこまで行っても“美味しそう”なのだ。食べられないし、たとえ食べられてもきっと彼らにはその“美味しい”が分からない。口に入って焼け消えるだけの、とても残酷な、暖かさ。

 少年と背を合わせ、自らの前の敵たちと対峙する小太刀もやはり、容赦なく斬り伏せんと刀を構える。刃は手元でかちゃりと鳴いた。
「願いよ、届け」
努めて平静に、駆けて、斬る。肉体を傷つけずに相手の邪心のみを斬る、桜花纏ろう清浄の剣は、確かに餓鬼の身を貫いた。当然ながらひとつの傷を負わないままのそれは、しかし。

 果たして、飢えや渇きは、邪心であるか。生きる為に何かを喰らい、苦しみから逃れるために他の生き物を糧とするは、邪悪なるか。たとえば、それしか生き方を知らねば――。

 斬り抜けられつつも無傷の餓鬼は、振り向き小太刀の背を目掛け、牙を剥いては飛び掛からんとし、周りの敵も我先に、食らいつかんと狙いを定め。
「射よ!」
と、小さく狼狽する彼女の傍をかすめる様にして、烈風を帯びた無数の魔箭が幾らかの敵を貫き、多くの敵を牽制する。もっとも肉薄した一体などは、額を魔弾に撃ち抜かれ、見る間に霞と消え去った。
 速やかに立て直した小太刀もまた、改めて刃を構え直し、迷いの揺れの消えたその目で迫り来る敵を睨み直し、駆ける。願いと祈りはそのままに、救いを願う心のままに、振るう刃は躯を割きて、飢えたる餓鬼を骸の海へと送り返すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

シリン・カービン
【WIZ】

永遠に癒されない飢えに苛まれる者。
哀れな存在ではありますが、
絶対に地上に出すわけには行きません。

地下に向かう猟兵はそれなりの数になるようですが、
念のため、私は万が一に備えます。

夜目が利くので暗がりは問題ありません。
【スプライト・ハイド】で闇に紛れ、尚且つ透明化。
敵にも味方にも気づかれぬように物陰に潜み、
仲間を死角から襲わんとする餓鬼を、
風の精霊に音を消させた精霊弾で、
文字通り音もなく倒します。

敵に気づかれたら引きつけつつ誘導し、
皆の視界から外れたところで光の精霊を弾けさせ、
目を灼き無力化します。

村を守るのが大前提ですが、
敵への思いはそれぞれ違ってよい。
冷徹であっても。優しくあっても。



●視線・射線・防衛線
 暗がりに潜むは餓鬼ばかりではない。彼女は姿を隠し、足音を消し、明かりを介さず自身のよく利く夜目をして、敵にも味方にも気付かせることなく戦場へと忍び込んだ。その全てを見通すのは、シリン・カービンである。
(永遠に癒されない飢えに苛まれる者)
 人のほとんどは、何らかの形で他者の命の上に立っている。直接間接の違いはあれど、その点で人と餓鬼とに大差はないだろう。そう思い至ったとき、あるいは思い出したとき、人はしばしば呵責に囚われ、そのために判断を鈍らせることもある。
 狩人であるシリンには、その命題はより身近で、だからこそ答えは単純だ。命は犠牲によって繋がれるものであり、それがたとえ誰かにとって罪科であろうと、間違いなく必要なことである。躊躇を挟む必要もなければ、獰猛な獲物を相手にそんな余裕も猶予もない。
(哀れな存在ではありますが、絶対に地上に出すわけには行きません)
 だから彼女は、苦しみ続ける餓鬼たちに対し憐憫はあれども冷徹に、多くの猟兵が戦場にある中で優位に思えようとも全力で臨むのだろう。

 ユーベルコード、スプライト・ハイドは妖精の力を借りて姿を透明に隠すものである。侵入さえ認識されていない彼女を、闇にあって発見するのは難しかろう。そうして伏した猟兵は、仲間たちが入ってきた出入り口を餓鬼が一体でも抜け出ぬよう警戒し、並行して戦況を確認し、自らに注意の向かない射撃のタイミングを虎視眈々と狙い、皆がこちらに背を向ける瞬間に、風の精霊の力を借りた音無き魔弾で的確に撃ち抜く。目にも耳にも捉われぬ攻撃は、撃たれた餓鬼にしか気付かせず、静かに敵を減らして行った。

 とある瞬間、視線の先で銀髪の少女が一瞬揺らぐ。何かに躊躇うその一瞬に、咆哮しながら飛び掛かる餓鬼、振り向く少女は対応が間に合わないように思えた。
 内心僅かに湧き立つ焦りを精神力で抑え込み、迅速に冷静に装填した弾丸を、精緻に正確に狙いを定めて発射した。その弾は寸分の狂いも寸毫の音もなく、狙った餓鬼の脳天を撃ち抜き、猟兵への攻撃を止めさせた。立て直した少女は得物を構え直し、別の餓鬼へと駆けていく。その様子を見て小さく小さく安堵の息を吐いたシリンだが――今度は自分自身にちょっとした問題が起きていた。

 速やかに撃つに、周囲の視線を確認する暇はない。そのために暗闇の中の発射炎を見つけた餓鬼がいくらかいたのだろう、大まかに取り囲むように、見えない猟兵を追い詰めようとし始めたのだ。
 勿論そういった場合の策はある。小さく音の鳴るように踵を地面に落としてやれば、数体の餓鬼が一斉に向いた。続けて音もなく跳び、斜めに退がって靴を鳴らし、さらに方向を変えて跳び退り、また靴音をひとつ。そうやって、獲物の気配に昂揚しながら追い立て追い詰める餓鬼たちは、当然ながら気付いていない。“獲物”の狙いも、正体も。

 入り組んだ物陰にまんまと誘導された餓鬼たちは、途絶えた足音をもう一度捉えんと耳を澄ます。必死で辺りを探す彼らには、間近に弾けた光の精霊はさぞや眩しかったことだろう。陽光よりも強いそれは、広い洞穴の狭い一角に逃げ場なく広がり跳ね返り、餓鬼たちの目をしたたかに灼いた。痛みに悶え、不意の衝撃に狼狽する敵――今や“獲物”となったそれらに、狩人は銃口を差し向けた。
 冷徹に粛々と敵を倒す者も、優しさゆえに躊躇する者も、思いはそれぞれ違っても良い。それで危うきに窮すれば、自身が、仲間が、守り助け、補えば良いだろう。それぞれをやはり静かに撃ち倒すと、ひとつ息を整えてからシリンは再び姿を隠す。今なお戦う仲間の善戦を見守り、危機を遠ざけるそのために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神楽・鈴音
餓鬼、ね……
飢えの辛さは知ってるけど、ここまで堕ちるつもりはないわ

さて、これだけの数、相手にするのは面倒ね
それに、この手の連中の除霊って、ちょっとコツが要るのよね

UCを使って襲って来る餓鬼を迷宮に閉じ込め、その認識を『目の前の同族こそが最高の食糧である』と歪ませる
これで共食いを誘発させて、後は数が減るのを待つだけね
錯乱してこっちに襲い掛かって来るやつは、ハンマーで容赦なく吹っ飛ばすけど

共食いして力を増すこともあるって聞くけど、今はそんな余裕もなさそうね
最後の一匹になったところで、渾身の【怪力】を込めた賽銭箱ハンマーを頭に叩き込んでやるわ
「あなたが最後の優勝? それじゃ……これは私からの祝福よ!



●かみは、おもい
「餓鬼、ね……」
 神楽・鈴音はその空間に犇めく、何体ものあさましきものの姿を見やり、眉を顰める。確かに彼女には、その苦しみを幾許かは理解できるし、共感だってしてやれるが。
「飢えの辛さは知ってるけど、ここまで堕ちるつもりはないわ」
 さもなくば、その身もまた人ならざるものへ変じるのかもしれない。堕ちた先にそれがあるのなら、あるいはそれは、大した違いのないものなのだろう。
「さて、これだけの数、相手にするのは面倒ね」
 数もさることながら、祓う手法そのものもコツが要るのだそうで、やはり面倒であるらしい。どうにつけても、時間稼ぎや下準備やら、大掛かりなものが必要なようであり。

「絶対に逃がさないわよ……あなたがお賽銭を入れるまでね!」
 言えば俄かに、周囲に無数の賽銭箱が現れはじめた。見るからに大きく重く頑丈なそれは、見る間に山と積み上がり、不規則かつ整然と空間を占有していく。
 そういうことに、鈴音の能力はある意味非常に向きである。ユーベルコード『御寄進神隠しの魔窟』は、敵対する者の思考を歪め、閉じ込め迷わせる賽銭箱の山によって構成された迷路を生み出すものである。その中で分断され、散り散りに隔てられた餓鬼たちはさぞや戸惑ったことだろう。噛みつこうとも歯が立たず、押し退けようにもびくともせず、空腹を抱え道なりに歩き、おとなしく出口を探すしかない、そんな中で――出会った同族が、何よりうまそうに見えるなんて。

 迷宮内に叫喚が響く。飢えを満たすことを何より優先する怪物たちは、ほかの個体に会うたびすぐさま飛び掛かり、先に噛みつくことができたものが相手を食らいつくし、僅かなりとも空腹を凌ぐ。時には激しい抵抗を受け、互いに食い合い傷を負ったり、争う中に現れた新たな餓鬼が両者を食らい漁夫の利をさらったり。それは血で血を洗うような、あまつさえその血の一滴に至るまで余さず掬い舐めとるような、そんな凄惨な在りようだった。結局おいしいかどうかなど分からぬままに、餓鬼たちは喰える限りを貪り尽くしていった。

 しばらく待って耳を済ませれば、聞こえる絶叫は少なくなり、小さくなり、弱くなり――そうして残響すらもなくなったころに、鈴音の展開した迷宮は、彼女の意思に呼応して解除され、姿を消した。現れたのは……あるいは残ったのは、たった一体の餓鬼の姿。
「あなたが最後の優勝者?」
 猟兵が声を掛ければ、小怪は驚いたように振り返る。歪められた認識は元に戻り、近くに他の餓鬼はいない。迷宮に取り込まれたすべての同族を食べ尽くし、それによって力を得つつも、抵抗によって傷つき、消耗し、力を削られたそれには、結果として目覚ましい強化効果は得られなかったようである。
 多くを喰らい、なお満たされぬ餓鬼は、鈴音に向かい、さらに喰らおうと満身の力で地を蹴って跳び。
「それじゃ……これは私からの祝福よ!」
鈴音の“祝福”――霊験あらたかなる賽銭箱の大槌によって、向かい来るその頭部を打たれ、箱の重みと彼女の怪力、そして餓鬼自身のいくらか強まった脚力によって、砕けて潰れ、姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エン・アウァールス
▼アレンジ歓迎
唄が聞こえる。
大人の声。子どもの声。分け隔てなく、混じり合った声が届いている。

そうそう。
そうやって騒いでいる方が、ずっと“ヒト”らしいよ。
…エンはお祭り、というものはよく分からないけれど。

▼心情
やあ、キミ達も懲りないね。
此処はそんなに住み心地がいいのかい?実はここの土が美味しいとか?
ああ、変わらず簡単な言葉は分かるんだね。なら主人に会わせておくれよ。
そうしたら、キミだけは助けよう。

一一ほら。
まだ、腕と目を1つずつ無くしただけだろう?

▼戦闘
【肉剥】【黒鳶】で応戦。数を減らし、負傷した餓鬼の1体をわざと生かし主人までの道案内に使う。
「羅刹旋風」の動きを見せて【恫喝】【恐怖を与える】。



●いずれの鬼を畏れるや
 祭りの声を輪の外から楽しむ者が、もうひとり。
 洞穴へ最後に足を踏み入れたエン・アウァールス(蟷螂・f04426)は、外の喧騒に耳を澄ます。聴こえるは唄、賑やかに騒ぐ声。子どもの笑いに紛れて時に途切れ、大人の酔った銅鑼声が調子を崩し、正確な旋律を辿ることは容易ではないが、確かに皆が歌っている声である。
「そうそう。そうやって騒いでいる方が、ずっと“ヒト”らしいよ」
 彼はかつて、二度に亘って村を訪れた。オブリビオンによって心を苛まれ、他者に依ってしか立つことができなくなっていた彼らは、見るに堪えず痛ましい姿をしていた。それがエンを含む猟兵たちによって助けられ、自ら立ち、今ではこうも笑うことができるようになっているのは、実に感慨深いものと言えるだろう。
「…エンはお祭り、というものはよく分からないけれど」
 しかし、欠けた鬼には分からない。見るに堪えない痛ましさも、それを払拭した感慨も――きっと、その悲しさも、寂しさも。

「やあ、キミ達も懲りないね」
 旧知の友人に挨拶でもするように、馴染んだ様子、警戒も侮りも感じさせない声音で、エンは餓鬼たちに呼びかけた。既に戦闘状態に入っている連中からしてみれば、新たな敵、もしくは餌が現れたのだからすぐさま襲い掛かるのは道理である。そして実際に、餓鬼たちはその猟兵へと一斉に飛び掛かった。
「此処はそんなに住み心地がいいのかい? 実はここの土が美味しいとか?」
 そんな言葉を他愛もない調子で話し掛けるエンの肩には、いびつな牙が深々と突き刺さっていた。肩だけでなく、脚や腕にも同様である。そんな中でも彼は、敵意も恐怖も宿さない目で、その餓鬼たちを見返してやる。そんな尊い献身に、さしもの怪物も僅かに鼻白み――
「ああ、変わらず簡単な言葉は分かるんだね。なら主人に会わせておくれよ。そうしたら」
不意に、腕に噛みついた一体の視界から、別の一体……肩に噛みついた餓鬼の姿が消え失せた。手の中に収まった黒鳶に首元を刺し貫かれ、頭蓋の裡を抉られたものである。
 続いて足元の一体が崩れて落ちた。餓鬼が噛みついたままの手に持った、鋸刃の刀・肉剥の刃を受け、背を大きくこそがれたそれも、形を保てず塵となった。
 そうする間にもエンは餓鬼へと視線を投げている。その瞳は一切揺れることもなく、一切の慈愛や情けも感じられず――そして、身を差し出して喰らいつかせたそれも、決して献身などでは、ない。
「そうしたら、キミだけは助けよう」
 彼には、致命となりえない傷を忌む理由も、ひいては餓鬼の牙を避ける理由もない。受けて動きを止められるなら、積極的に噛まれる理由すらある。
 手の中の小さな刃を残った一体の眼窩へと刺し入れ、そのまま奥へと力を籠めれば、小さな体は圧力により引き剥がされ、それ以上に身の危険から飛び退って距離を取ろうとする。そうして着地したその先に、肉剥の歯が襲い掛かった。
 回避の間に合いようもないところに振り下ろされ、ぞん、と滑らかでない切断音をもって餓鬼の片腕を奪い去る。気圧されて更に後退る怪異へ、血をもて伸びたる長柄の鉈を、風を切らせて振り回しつつ、羅刹は見下ろし歩み寄る。
「――ほら。まだ、腕と目を1つずつ無くしただけだろう?」
にっこりと嗤うその口元は、僅かに開き引き上げられて――鋸刃のような鋭い歯が、覗いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『悪徳商人』

POW   :    先生、お願いします!
【オブリビオンの浪人の先生】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD   :    短筒での発砲
【短筒】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    か、金ならいくらでもやる!
【懐】から【黄金の最中】を放ち、【魅了】により対象の動きを一時的に封じる。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「げえっ、猟兵!?」
 手負いの餓鬼に先導されて部屋に突入した時には、忙しなくうろついていたオブリビオンの悪徳商人がちょうど突き当たりで振り向いているところであった。
 その表情は本当に信じられないように慌てたもので、奸計を巡らせて人々を陥れようとする狡猾さは微塵も感じられなかった。
 言うなれば……そう、小悪党、というのが適切だろう。

「え、えぇい仕方ねえ! 先生、やっちまえ!」
 商人はユーベルコードで用心棒の“先生”を呼び出すと、なりふり構わず短筒を入り口に向かって乱射し始めた。
 狙いもつけずに撃たれた弾に、案内の餓鬼が運悪く被弾し、倒れて消えたのが、戦闘開始の合図である。
御剣・刀也
真の姿、いしはま絵師のJC参照

よう。小悪党
お前ごときを斬るのは俺の相棒も本意じゃないが、見つかった以上悪党らしく散れ
死に花は咲かせてやる

先生、お願いします!で用心棒を出されても慌てず第六感、見切り、残像で用心棒の攻撃と商人の射撃を避け、カウンターで用心棒を倒しつつ、商人に近づいて、捨て身の一撃で斬り捨てる
「悪党にも矜持ってもんがあるだろう?いや、お前にそんなこと言ってもしょうがねぇか。じゃあな。三流」


神楽・鈴音
この期に及んで浪人頼みの他力本願とはね
浪人を相手するのは面倒だし、UCでさっさと仕留めるわ
ハンマーで殴り掛かるふりをしつつ、擦れ違い様に護符を貼り付ける
一枚でも命中したら、その時点で私の好きな事象を拒絶することができるから

拒絶する事象は浪人の身体を作っている物体の『結合力』よ
つまり……何もしなくても、身体が真っ二つに裂けて二度とくっつかない
大概の生き物ならこれで即死ね

傷付いた味方がいる場合は護符を貼って『負傷』の事象を拒絶し『負傷がなかったこと』にしてあげるわ
勿論、自分の負傷にも有効よ

悪徳商人は……護符が勿体ないし、普通に【怪力】込めたハンマーで頭を殴っておくわ
「悪銭身に付かずよ! 死ねぇ!!


エン・アウァールス
▼アレンジ歓迎
以前も思ったのだけれど。
鉛玉の挨拶なんて野暮一一、
おや。姿形は同じでも雰囲気が違うね?
まあ、でも。
見つけてしまったからには、ね。

ここには。
同族を殺すヒトも、
人形のように言いなりになるヒトも。
もう、いないよ。

だからキミの餌はないし一一エンも、仕事が終われば御役御免さ。
いらないもの同士、仲良く消えようじゃないか。

▼戦闘
商人を逃がさないことを第一に「用心棒」の相手をする。【激痛耐性】【戦闘知識】を用いて戦闘。商人が逃走しそうな動きをした場合は、他の猟兵に追随して集中攻撃。

▼村人
「謝ってくれた村人」の様子を遠くから見る。もしもこちらに気づいたなら、軽く手を振って去る。


ポノ・エトランゼ
【かんさつにっき】
>太った? に
え、えと、女の子はふくよかな方が…(フォローになってない

悪徳商人に向かって、UC発動!
コタマさん! 頭を狙っていくのよ!
部位破壊でチョンマゲもぎ取れたらいいな
禿げ散らかそうと思ったけど、もう禿げてるのね、おじさん
体当たりで銃撃も逸らしてってね

なるべく周囲を見ながら
私はエルフボウで援護メイン
牽制くわえて浪人の先生を相手にするわ
詰められないように一定距離を保つよう移動しつつ、一の矢二の矢と放つ

よしやっちゃえ小太刀さんー!

また別のあなたが発生しても、もうここには来たくないって思うレベルまでフルボッコにしてあげる!


木元・杏
【かんさつにっき】
お久しぶり、悪いおじさん
わたしの事憶えてる?
気付かないやも
そう、おじさん曰く村の人達が丸々太ったように、わたしも昨年より丸々ふと…
(自分の頬をむにっとして)
…ポ、ポノ、わたし太った?

おじさん許すまじ(←八つ当たり)

【うさみみメイドさんΩ】
攻撃力はジャンプ&逃げ足回避で、命中率には庇いあいダメージ分散、回数には人数でそれぞれ対抗
うさみん☆はコタマさんのちょんまげゲットをアシストしてね

わたしは後方からオーラ飛ばして皆を防御

んむ?そうやって動かないからふくよかになるって顔した?
おじさん許すまじ
ダッシュで近接し幅広の大剣にした灯る陽光で殴り斬る

この村に貴方の居場所はない
骸の海に帰って


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

こんなのが上司じゃ餓鬼もやってらんないわよね
怒りっぽくなっちゃって
アンタもご飯足りてないんじゃない?

小さく…小悪党なだけに

丸々…育ち盛りだし?(丸くない胸を見て
おっちゃん許すまじ(←杏と並んで八つ当たり

雨の先の未来を見切り
短筒の発砲回避して
カウンターで武器落とし

これは!?
ちょんまげのなくなった頭を前に、うずうず
そっと構えたマジックで
早業でおっちゃんの頭に線を引く
ふふふ、見事なバーコード
なかなか似合うじゃないの
草臥れたスーツでもあれば完璧なんだけど

最後はちゃんと〆なきゃね
疫病神は退散退散
破魔の願い込め刀で斬る

この村にはもう悪徳商人の付け入る隙なんて無いよ
さっさと骸の海に還んなね


木元・祭莉
【かんさつにっき】だぞっと。

あ、いた。
どーん!(体当たりから拳)

おっちゃん、懲りないよねー。
何回来ても、毎回おいらたちがやっつけるのになあ?

コダちゃん、おっちゃん邪心しかないから、ざくざく斬っちゃっていいよ?
きっと、小さくなるよ!(にぱ)

小さく……(ちらり)
ん、ふくふくしてる方がカワイイ!
あ、おっちゃんじゃないから。(真顔)

コタマはお行儀いいな……あ。
と思ったのに、やっぱ狂暴だったー!?(若干腰引け)

ねー、おっちゃん。
そろそろ成仏したらどうかなあ?
なんていうか、こう、きっぱりさっぱり!

お供に、メカたまこたち付けてあげるから。
ね?
(短筒をガキンガキン跳ね返しながら 集中攻撃)

南無。(合掌)



●出ぬ杭が打たれる
「よう。小悪党」
 瞳に退屈そうな色を湛えた御剣・刀也は、その色を隠すことなく声にも乗せて、期待外れの首魁へと呼びかけた。刀を抜いて構える動きも、どこか億劫そうである。そんな感情を映してか、向けた刃の煌めきもいくらか鈍いようにも見えた。
「この期に及んで浪人頼みの他力本願とはね」
 神楽・鈴音も同様に、而してより積極的に、呆れた声を突き刺してやる。いかに窮しても自分の足で信心や寄付を集め歩き、自分の腕で神敵を殴り倒す彼女にしてみればその商人の姿は、哀れな悪人なれば憐憫であろうが、あるべからざるオブリビオンなれば怒りであろうが――その情けなさ愚かしさにはただただ呆れるばかりであり。
「以前も思ったのだけれど。鉛玉の挨拶なんて野暮――おや。姿形は同じでも雰囲気が違うね?」
 エン・アウァールスに至っては、緊張感も感じさせない、のんびりとした調子である。倒れて消えた餓鬼を一瞥しながら、以前に出合い頭の悪徳商人より受けた銃弾を思い出し、その時には言わなかった苦言を伝えてやる。その途中でエンが気付いた通り、別の個体であるため別段の反省は促すことはできないのだが……というより、それ以前に。

「う、うるせえうるせえ! お前らいっつも俺の邪魔ばっかりしやがって! こちとら商売でやってんだ、正義面して偉そうに綺麗ごと述べてんじゃねえよ!」
 顔を真っ赤にして喚きたてる商人には、苦言も諫言も勿論雑言も、すべて自らを糾弾する悪口に聞こえるらしい。改めて銃口を猟兵たちに向け、今度は僅かばかりには狙いを定める動きを見せて、本気で戦うつもりのようだ。
 思った以上に小物でも、人に害なすオブリビオン、見つけたからには斬らざるを得ないだろう。刀也にとって非常に遺憾ではあるのだが
「死に花は咲かせてやる」
剣豪は、咆哮するように纏った蒼炎を迸らせ、真の姿を解放した。獅子は小さな獲物に対しても、全力を尽くすものである。
「見つけてしまったからには、ね」
 仕方ないように言いながらも、鋸刃を提げたエンの目が鈍く光る。商人を守るように立つオブリビオンの用心棒の、微かな笑みに応えるように。たとえ雰囲気は違ってもそれは人斬りに相違なく、斬って削いで喰らい合う、佳き時を愉しめるかもしれない――今度こそは。

 ……などと、そういう矜持や愉楽に興味を示さぬ鈴音は、斬り甲斐や斬り心地など知ったことであるはずがなく、大槌を水平に振りかぶりながら、敵も味方も出し抜くようにさっさと駆けだした。彼女の重視するものは今ひとつ、合理である。カネにもならなきゃ手間だけかかる、オブリビオンなど手早く片をつけるに限るというものだ。

●鎧袖一触
 浪人の振り下ろす殺人剣は、滑り込む少女を両断せんと襲いかかるも、燃える軌跡を残像とした刀也の刃にいとも容易く止められた。顎で獲物に噛み付くように、剛剣は相手の力をびくともせずに押しとどめ、その手応えはなおも青年を落胆させる。
「ええい、使えねえな! おら、こっちの先生も出番だぜ!」
 するりと脇を抜けられた浪人に地団駄を踏むようにして悪態をつきながら、悪徳商人はさらにもうひとり、自らを守るようにオブリビオンを呼び出した。進路を遮るように現れた用心棒は、やはり鈴音に向けて刃を走らせ牽制し、今度こそ彼女の足を止めさせる。さらに踏み出し斬り込む敵と合わせて僅かに退る猟兵、さらに一歩と詰める魔性に、替わり対するはエンである。
 朱塗り血塗りの長刀を構え、差し込むように刀を受けては鋸歯で捉え、留めた間に乗り出して、庇い立つように対峙した。それはしかし、庇い守ることを目的としたものかどうかは疑わしい。
「さあ」
 動いた口の紡ぐ言葉を構うことなく、浪人は噛み合った刃を引いて、素早く振るったそれでもって、今度はエンの身に引いた。袈裟に斬られた羅刹の体は一条血色の線を描き……構うことなく立っていた。

 地下のこの室に出口はひとつしかない。鈴音の進路を防ぐということは、悪徳商人自身の退路を塞ぐことでもある。エンの長刀ひとつとって、戦う彼の脇をすり抜けることは安全とは言い難く、逃走の防止を優先事項とするその猟兵にとっては理想的な状況であるとも言える。どこか安心感を持って戦闘――削ぎ合いに集中するエンの瞳の輝きを、用心棒の肩越しに見てしまった商人は怖気を覚えた。我が身を顧みず、破滅を孕む享楽を貪る、その鬼らしき昂揚に。人にあらざる我が身より、人らしからぬその顔貌に。
 刀傷を多く受けながら、短筒による援護射撃による銃創をも増やしながら、羅刹は楽しげに斬り結ぶ。その身に降ろした幽鬼によって呪いの縛鎖を受け、動きを遮るそれをして、なおも速く重い攻撃を振るい用心棒と斬り結ぶ。斬り、斬られ、抉り、抉られ、殺し……もはや二人ともが見るからに致命の傷を負い、たじろぎつつも、あるいは嗤いつつも、向かい合っていた。
 寸での所を受け止めた浪人、押し切るように力を籠める猟兵。徐々に圧し潰し刀身ごと折り斬ろうとする迫り合いを制するのは
『我、其の事象を拒絶する!』
動きの止まった隙を突き、隣をすり抜けるように滑り込んだ鈴音のユーベルコード、絶符・事界抗壁である。エンと浪人の両者に貼り付けられた護符は、神力によりて鈴音の望む通りに特定の事象を拒絶することができるものだ。符は瞬時に楔へと変じ、二人の身体に潜り込み――その瞬間に、分子間の“結合力”を拒絶された敵の身体は形を保てず穿たれた場所からふたつに分かたれ、“負傷”した事実を拒絶された猟兵の身体はすべての傷を失った。敵も傷も消え去ったその場は、血生臭い殺し合いなど無かったかのように綺麗さっぱりしたものである。少し眉尻を下げた表情の羅刹を背に、鈴音はそのまま敵の首魁へと突撃していくのだった。

●鳴いても鳴かずとも撃たれる雉
「お久しぶり、悪いおじさん。わたしの事憶えてる?」
 別個体であるため記憶としてはないのだが、相手は憎い猟兵であり、悪意を向けるに吝かではない。木元・杏の言葉に瞬発的に悪態を怒鳴り返す悪徳商人。
「あぁん!? 知るかよてめえみてえな餓鬼! ころころしやがってよお!」
 一般的に『ころころ』という副詞は、小さくて可愛らしいもの、そして丸っこく転がるものについて使われるものである。そう、丸っこく……
「そう、おじさん曰く村の人達が丸々太ったように、わたしも昨年より丸々ふと……ポ、ポノ、わたし太った?」
 大人ぶりながら、もしくは余裕ぶりながら悠然と言いかけた杏だが、少女らしい不安感が勝ってしまったようだ。自身の頬をむにっと引っ張って見ながら、傍らのポノへと振り返る。その肉感もまた飽くまで少女らしいものであって、余剰な贅肉というわけでもないのだが……
「え、えと、女の子はふくよかな方が」
 縋るような目を向けられたポノ・エトランゼも慌ててしまったのか、なんかうっすらと肯定しながら目を僅かに泳がせてしまっている。加えて言えば、彼女自身細身の体型なのでとてもとても、説得力がない。そしてさらなる流れ弾。
「ころころ……小さくて……丸……」
 小さく低い声で呟きながら、鈍・小太刀は視線を落としている。自身の胸元を眺めているようだが、伏せた瞳がどこを見ているかは定かではない。どこをどうとって見ても、育ち盛りの彼女に何らかの衝撃を与えるような言葉はなかったはずである……あるが。
「「おじさん許すまじ」」
迫力を伴ったその声が、ふたつ重なり不穏な調和を醸す中。

「どーん!」
 と重たい空気を割るように、木元・祭莉が飛び出した。少年の小さな身体は、刀也に刃を受け止められて苦闘する用心棒の腹部へと真直ぐに突き刺さり、さらに出された拳によって、勢い良く壁へと叩きつけられた。そこから反動を付けて立ち上がった祭莉は、商人へと向き直り、言う。
「おっちゃん、懲りないよねー。何回来ても、毎回おいらたちがやっつけるのになあ?」
 続け反論のために口を開く敵を顧みず、背後の少女たちへと向き直り、にっと笑う。見比べたわけでも、見回したわけでもなく、笑顔にも屈託も邪心もない。
「ん、ふくふくしてる方がカワイイ!」
勿論、少年にはまったく他意はない。本当にそれを可愛いと思っているのは紛れもない真実である。そしてそれが、『太ったかもしれない』という杏の懸念を否定するものではなく、逆に体積の小ささを気にしている――のかもしれない――小太刀にとって複雑な心境を惹起するものであることも、紛れもない真実であり……

「クソガキどもが、ふざけてんじゃねぇぞ!」
 背を向け無視したままで感情を逆撫でし続ける少年の背に向け、オブリビオンは隙とばかりに発砲するが、杏が腹を立てつつも防御のオーラを展開し、兄へと迫る鉛玉を弾いてのける。見事な防御に言葉も出ずに目を見開く悪徳商人であるが。
「そうやって動かないからふくよかになるって顔した? おじさん許すまじ」
禁句とか逆鱗とか言うものは誰にでもあったりするもので――どうやら商人は、知らずのうちに杏のそれに触れてしまったようである。援護に対し礼を言う祭莉の脇を擦り抜けて、ずんずん進む杏の手には、灯る陽光がひと際強い光を放って握られていた。
 勿論素直にスムーズにとは行かず、殴り飛ばされた浪人がすぐさま立ち上がっては少女の行く手を遮った。一撃の不覚を取ったとはいえ決して弱いわけではない、剛剣の剣豪を僅かでも迫り合いを演じる程度には腕が立つものである。
 オブリビオンの浪人は、少女に向かい容赦なく刃を向ける。憎き“おじさん”への道を邪魔され歯噛みしながらも防戦に構える杏の脇を、正確な狙いの矢が飛んだ。咄嗟に躱せばその先へ次の矢、刃で弾けば更なる矢……間断なく襲うポノの射矢は、確実に敵を翻弄している。そうなれば自然、隙は生まれ、徐々に大きくなり、杏の光の大剣が、切り裂くことも難しくはなくなっていた。

●届かない
 雇われ浪人は敢えなく倒され、既に間合いは心許ない。新たな先生を呼び出そうにも先駆けた鈴音がそれを許さない。
「くそっ、くそっ……くそがぁっ! お前ら関係ねえじゃねえか! カネもらったわけでも恩があるわけでもねえくせにっ!」
 彼にとっては理解に難い偽善性を罵りながら必死で銃口を弾ませる悪徳商人。しかし視線や指の動きから射線を見切る刀也や、そもそも痛みや怪我によって怯まないエンに対しては、単独で、正面からの発砲は全く無意味である。
「ここには。同族を殺すヒトも、人形のように言いなりになるヒトも。もう、いないよ。」
 噛んで含めるように、ゆっくりと告げるエンの言葉が、オブリビオンの思考にねじ込まれる。それはかつて、この村が受けた不幸。人々が抱え、乗り越えた不幸。それをまた踏み躙ろうとするのなら。
 ――許せない、のだろうか。あるいは。
「だからキミの餌はないし――エンも、仕事が終われば御役御免さ。いらないもの同士、仲良く消えようじゃないか。」
 ――寂しい、のだろうか。人ならざるに親近感を憶え、消え行くそれに寄り添って……否、エンに怒りも悲しみも、理解はできない。所詮はきっと、ただ貪欲に、命を望んでいるのだろう。

「悪党にも矜持ってもんがあるだろう?」
 刀也が戦うのには、確固たる理由がある。宴席において誰よりも大量に飲み食いしたのは恐らく彼である。これで村に恩がないなどと言っては罰があたるというものだろう。
 勿論それも理由のひとつだが、それだけではない。武人としてあり、卑怯であることを嫌う青年が、オブリビオンに襲われんとする村を、人々を、背を向け捨て置くことなど、できようはずもないのだ。
「いや、お前にそんなこと言ってもしょうがねぇか」
 そんな“矜持”を問いかけて、しかしやめた。これまでの商人の行い――癇癪を起こして短筒を乱射したり、猟兵を前にしてすぐさま取り乱したり、そしてさらには今この時の往生際の悪さ――を見れば、言ったところで理解できる気がしなかったのだ。
 憐みすら見えそうなその態度は、さらに悪徳商人の癇癪を誘った。

●届かない
「この村に貴方の居場所はない。骸の海に帰って」
「また別のあなたが発生しても、もうここには来たくないって思うレベルまでフルボッコにしてあげる!」
 確実にこれを最後にせんと堅い意志を込めながら、ポノと杏は敵を指し示しながらユーベルコードを発動する。ポノの意に随ったバディペットの鶏・コタマさんが主人の頭から飛び、火の鳥のように闘気を放ちながら一直線に敵へ向かい――祭莉が雄々しく宙を翔ける雌鶏の雄姿に終始腰を引けさせていたのは置いておく――その周囲を、ある者は追従するように、ある者は護衛するように、数十のうさみみメイドさんが杏の操作のもと駆け、飛ぶ。本命は見た通りの羽撃く弾丸、守り導く人形たちは、射出される商人の弾丸を、残らずその身で防いでのけ。
「コタマさん! 頭を狙っていくのよ!」
 ポノの指示を正確に理解した相棒は、回転を加えながら敵の頭頂部を射抜き……
「俺の髪ぃ!?」
 ぶちぶちぶちっと厭な音を立てながら、悪徳商人の髷をむしり取ってしまった。解けただけならいざ知らず、千切られてしまっては修復のしようもなく、ざんばら髪はとても目も当てられないような有様となり。
「これは!?」
「禿げ散らかそうと思ったけど、もう禿げてるのね、おじさん」
「ハゲじゃない、剃ってんだよ!」
 実際頭頂部の肌色はさかやきによるものである。剃るのを止めた所で、どのくらいの面積が黒くなるかは当人にしか分からないが……。そしてそんな会話の中で、目を輝かせながらうずうずしているのは小太刀であった。吠え合う横でその欲求はどうやら限界に達したようである。手元の得物の鞘、またの名を『キャップ』を外し、同時に箍も外れて弾け出るように、駆けた。
 出し抜くような動きに気付いて咄嗟に撃たれた弾丸は、しかし驚くほど正確に小太刀に狙いが定められていた。それでも猟兵は危なげもなく躱し、肉薄し、次弾を向けるその手元を、得物の底部で強かにつき、握った短筒を取り落とさせた。
『そう簡単に当てられるとは思わない事ね』
 衝撃に痺れる手首を押さえて屈み込む商人を見下ろす小太刀。その位置関係はまるで、斬刑に処す刑吏の如く。抜き身が、頭に、閃いた。
「よしやっちゃえ小太刀さんー!」
 ポノの声援に応えるように振り下ろされたそれは、男の頭の上を軽快に、縦横無尽に、きゅっきゅきゅっきゅと駆け回る。目にも止まらぬ早業でもって振るわれた得物が静かに仕舞われると……小太刀とポノが噴き出した。
「ふふふ、見事なバーコード……なかなか似合うじゃないの」
「バー…!? な、何しやがった!?」
 少女の振るった武器は、油性のマーキングペンであった。縦横無尽に見えたその軌跡は確実に規則性を持って、即ち平行に、およそ等間隔で直線を引かれていた。何をされたか分からず、そしてバーコードの概念を分からず、頭を撫でさすりながら不明の脅威に焦り声を荒らげる彼に、先ほどまで悪徳商人による体型への揶揄――濡れ衣かもしれない――に怒っていたペン豪、鈍・小太刀はいくらか留飲を下げたようである。
「こんなのが上司じゃ餓鬼もやってらんないわよね。怒りっぽくなっちゃって、アンタもご飯足りてないんじゃない?」
 煽る余裕すら取り戻していた。そして襷を受け継ぐように、祭莉も声に呆れを滲ませながら続ける。
「ねー、おっちゃん。そろそろ成仏したらどうかなあ? なんていうか、こう、きっぱりさっぱり!」
 諭すような言い草だが、提案内容はざっくり言えば存在の消滅である。よっぽどでなければ受け入れられるものではない。そしてこの商人、先述の通りに往生際が悪い。
「だからうるせえんだよ! ここまで来て、こんなことまでされて、今更はいそうですかって引き下がれるわけねえだろ!」
 猟兵の勝手な理屈にまた息を荒くしながら這うようにして転がった短筒を拾い上げ、祭莉の顔に差し向けて、力尽くで黙らせようとする。人々を苦しめながら我が利益を追求しようとするオブリビオンの行動も大概に勝手なものなのだが、彼にとってはそれが正当であり、相容れないとはつまり、そういうことなのだろう。だから、自ら受け容れて退去してもらうのが、猟兵側の、人間側の最大限の譲歩であろう。あと、考えられるとすれば――
「お供に、メカたまこたち付けてあげるから。ね?」
 殉葬。古代においてあった、高貴な人間を葬る際にともに家臣や近親者を葬るもの。考えられるとすれば、ほかにできることは、独りで逝かせないことくらいだろう。発砲された弾丸を機械鶏の金属の身体で弾かせながら、祭莉はやはり笑みを見せながら、言い聞かせるのだった。

●悪の栄えた例なし
「最後はちゃんと〆なきゃね」
 ペンをしまい、こらえた笑いもきっちりしまいつつ、小太刀は刀に持ち替えた。いたずらも悪ふざけもおしまいだ。自身も、オブリビオンも。
「この村にはもう悪徳商人の付け入る隙なんて無いよ。さっさと骸の海に還んなね」
 真面目に生きる村人たちには、悪徳商人は邪魔でしかない。たじろぐそれに、小太刀は刃を振り抜いた。それはやはり、肉体を傷つけず邪心を殺す破魔の剣。利己と奸智にまみれた心は、一刀のもとに両断される。
 大悪の邪心となれば、しぶとくあるのも道理であろう。なおも改心などはなく、罵る言葉は変わらないが、それでも心の多くを占める、邪なるが傷つけば、意識の隙が生まれることも、また道理であるだろう。

「ぎゃっ!?」
 知らず心が折れたのか、後退りながら出口へちらと目をやった動きは、逃走を最大限警戒するエンを引き寄せた。刃を迷いなく敵の片足に添え、容赦なく引き抜けば、深く、きれいではない傷が生まれ、悪徳商人は膝をついた。もはや駆けて逃げる事は絶対にできないだろう。
 見上げる猟兵たちの顔も、当然慈悲など掛けてくれそうな様子は見えない。呆れや、怒りや、僅かに憐みや。どれも付け込みやすい感情である。うまくやれば、まだなんとか……
「なぁ、これでなんとか、見逃してくれよ……なぁ?」
媚びるような笑みを浮かべながら、彼は懐より金塊を取り出し、手の上でそれを差し上げて見せる。金額にすれば大層なものだろう。哀れらしさと欲を刺激してやれば、ひとりくらいは突き崩せるかも――
 以前村に訪れたオブリビオンと、もしも記憶を共有しているものならば、決してこういった手段は取らなかっただろう。
「悪銭身に付かずよ! 死ねぇ!!」
「じゃあな。三流」
 矜持や信念と共にあり、そうして戦う猟兵であれば、見逃す選択肢などあろうはずもないのだから。
 鈴音の大槌は最高速でぶん回され、敵の側頭部を撃ち抜き大いに変形させた。転がりふらふらと立ち上がった商人の頭上からは、刀也の乾坤一擲の大上段が、地を割らんばかりの豪速で、無慈悲に振り下ろされたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●晴れの日 褻の日 続く日々
 戦いが終わった時にはすっかり日は暮れ、地下の闇と夜空の闇とはほとんど変わりのないものとなっていた。そんな中でも人々が住む地上に視線の高さを落とせば、今なお煌々と灯が点り、人々の賑わいは続いていた。本当に食べるもの飲むものがなくなるまで騒ぐつもりかと言うくらい、終わる気配すら感じさせない。また、そうして続けることを可能とするくらいに、村は豊かになったらしい。

 いつの間にかどこへか消え、どこからか再び現れた猟兵たちを、酔漢たちは何も問うことなく再び座へと迎え入れていく。飲み潰されても懲りずに再戦を望む者、陽気な酒呑みの御相伴を求める者、自慢の逸品を見てもらおうと集まる者、一緒に歌って踊って底抜けに明るく笑い騒ぐ者。どこの輪でも中心に猟兵を求め、どこまでも楽しそうである。

 青年は、飲食もそこそこに周囲を見回していた。以前に二度も自分たちを救ってくれた猟兵。もう一度会ってお礼ができれば、立ち直った姿を見てもらえれば。だけど賑やかなのが得意な性質にも見えなかったし、いないのかも――諦めを交えつつ賑わいから目を離してみると。
 村のはずれの柵のそば、求める姿が立っていた。じっと見ていたらしい彼は、視線が合うと軽く手をあげ、こちらに向かって手を振った。目を疑いつつ瞬くうちに、その人は不意に姿を消した。

 村は救われ、立ち直った。胸を張って誇れるほどに。
シリン・カービン
今回は、万が一に備えるのが私の役目。
下で片付けばそれはそれで良し。
もし、悪徳商人が這々の体で逃げ出して来るのなら。
「後の始末は、お任せを」

農具小屋から村外れに向かう通り沿い。
サムライエンパイアの着物に身を包み、
路肩で足を休める旅の女性の風体で待ちます。

他の猟兵が全て片付けて上がって来るなら、
笠に顔を隠し、す、と一礼してすれ違い。

悪徳商人が逃げ出してくるのなら、
「もし、どうかなされましたか」と呼び止めます。
反応はけんもほろろでしょうが、
「骸の海への渡賃、お受け取りなさい」と六文銭を足元に放ります。
黄金の最中には目もくれず、商人の影から私の分身が伸び上がり、
背後から頸に精霊猟刀を突き立てます。



●始末に負えない 始末の終え方
「なーんて、めでたしめでたしで終わると思ってんじゃねえぞ、くそっ!」
 髪はばらばらに乱れ、身体には無数の痛々しい傷を持ち、足を引きずり、頭を変形させ、肩ごと落ちそうな腕を押さえながら、どうにか人の形を保って歩くのは、オブリビオンの悪徳商人である。
「人間なんか何処にだっているんだ、今にまた搾り上げて――」
逸刀により両断されて、どうして死を免れ、どうして死を偽装したのかは分からないが、とにかくオブリビオンは猟兵と村人の目を盗み、地下より這い出し村から逃れ出るところであった。

 必死で足を引きずりながら少し行けば、ぼんやりと光る灯火の中に腰掛ける人の姿が目に留まった。編み笠を深く被っていて顔はよく見えないが、風体や居住まいからして若い女の旅中であるようだ。
「もし、どうかなされましたか」
横目で見ていたところに突然声をかけられ、肩を跳ねさせて驚く商人。やや顔を上げたような動きは見えたが、やはり表情は見えない。旅でやや汚れを得ながらも洒脱な着物姿や、気遣わしく控えめで涼やかな声音は、その笠に隠れた美しい容貌を想像させる、あるいは期待させるに充分であった。
「え、いや、へへ……なんでもねえですよ」
 ばつ悪そうに笑いながら目をそらし、歩き去ろうとするが、そこでふと、思う。

 悪徳の商人にとっては……人もまた、商材である。
 血みどろに傷だらけで、どう見ても“訳あり”の人間に対して気遣う声をかけるようなお人よしであれば、簡単に騙せることだろう。うまく言いくるめて売り飛ばしてやれば、悪くない稼ぎになるだろう。自分が騙す側であるため、騙されることも常に念頭に置き、人を選ぶ嗅覚に自信を持っているらしい商人は、皮算用の値踏みをする。
 そうして考えを纏めて立ち止まり、振り返ると、元の路肩に女はおらず、道の中へと立っていた。血の匂いに汚染されていた彼の嗅覚は、そこでようやく機能を取り戻したらしい。ちゃりんと小気味よい銭の音が、六つ。
「骸の海への渡賃、お受け取りなさい」

 死出の餞の六文銭。その意味は男にも分かった。そして相手の正体も。
 慄き後退りつつも、取れそうな腕を支えることも忘れて、懐に手を差し入れ、今度は必死に笑みを貼り付けながら言う。
「か、カネなら充分にあるから間に合ってるよ、それよりほら、アンタの方がこれ、必要なんじゃねえかい」
取り出したそれは、小さな灯火を照り返し、ぎらぎらと眩しい光を放っている。そんな光に目をくらませることもなく、女は一歩あゆみ寄り、男は同じく後退り。
「なあ、頼むよ、もう悪さしねえからさ、な、な?」
 手の中の黄金も、媚び諂う笑みも、改心を誓う言葉も、全ては猟兵――シリン・カービンの心を動かしはしない。商人の背後には照らされぬ闇が影としてあり、それは形をなして起き上がり、なおもへらへらと薄寒い笑みを浮かべ続ける悪徳商人の頚へと、その手の黒い猟刀の先を突き立て、突き入れ、貫いた。
 小さなうめきを上げたきり、男の身体は動きを止めて、塵へと返り影も消え、辺りは小さな灯ひとつ。それから間もなく灯も失せて、後には闇があるばかり――逃げたオブリビオンなどを見たものもなく、ただひとりの狩人が、獲物を狩り遂せたばかりである。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月30日


挿絵イラスト