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タナトスの抱擁

#UDCアース #星見ケ丘市

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#UDCアース
#星見ケ丘市


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●降臨
 夥しい血が、部屋全体を染め上げていた。天井からは尚、紅が滴る。
 数十秒前までそこには合わせて十数名の男女がいて、おのれらはたしかに偉業を成したのだと歓喜に満ちていたはずだった。
 だが、今そこには誰もいない。少なくとも人間を保っているものは、誰も。
 すべて、すべて血飛沫と壁や床に散乱する肉塊になって、弾け飛んでしまった。
 だから――彼らが本当は何を成したのか。
 なにを、してしまったのか。
 もはや知るものは誰も居らず――。
 『るろろろろろ、るろぉん、るろろろろろぉんん』
 呼び起こされた災厄だけが、間延びした声で鳴いていた。

●ここではないいずこか
 『……起きたのか。いま、迎えに行く』

●レッドアラート
「……――緊急事態だ」
 グリモアベースの一角。忌塚・御門(RAIMEI・f03484)は、常日頃からの陰鬱な雰囲気を尖らせて、目の下に隈のべったりを浮かせてそう告げた。集められた猟兵たちに、彼の纏う緊張が伝播する。
「UDCアースに、星見ヶ丘市という名の地方都市がある。人口・面積、そこそこに広い。そこの住宅地のど真ん中で……馬鹿どもが、邪神を復活させやがった」
 如何な手段を、儀式を、生贄を用いたものか。UDC組織が真相の解明に奔走しているが、全ては不明だ。何せ、邪神を復活させた側の者たちは全て、自分たちが呼び出した存在に、皆殺しにされている。
「そこにあったのは少なくとも表向きはまっとうな医療機関だった筈だった。だからこれは、邪教徒が邪神降臨の儀式を行ったわけじゃなく……ああ、畜生。医療の発展を目的とした人体実験が、偶然邪神を降ろす手順と重なっちまったものだと仮定する。謂わば偶発的なものだ」
 現在、現地ではUDC組織が隠蔽工作と封じ込め作戦の真っ最中だ。未だ封鎖区域の中にいるものを何とかして外に出さないように。それだけに集中している。逆を言えば、UDC組織にはそれだけしか出来ない。
「だが、本当にやばいのはそれだけじゃあ無ぇ。ここで邪神が呼び起こされたその余波を受けて……もっと危険なものが、そいつを迎えに来ようと動き出している。俺が予知したのは、その部分。既に最初の惨劇は起こった。命が失われた。此れ以上の犠牲がでねえように、踏ん張っている最中だ――お前らには、そこに行ってもらう」
 まずは偶発的に召喚された邪神の討伐を。そして次には、その邪神を迎えに来ようとしている更に強力なUDCの、その尖兵を討ち果たし。そして最後に、この中で最も強力と目されているUDCとの戦闘を――休む間は殆ど無い、三連戦となるだろうと御門は言う。
「一つでもしくじれば、その都市からこの住宅地は――いや、この都市自体が地図から消え失せる可能性もある。それだけ重大なシゴトだ。俺にはお前らを現地まで転送することしか出来ねえが……それだけは、真面目にやらせてもらうさ」
 御門が手にした万年筆で空中に何事か書き記すと、輝きとともにグリモアの門が開かれる。
「準備のできたやつから向かってくれ。……頼んだぜ」
 御門は最後に、陰鬱な声でそう言った。


遊津
 遊津です。
 舞台はUDCアース、偶発的邪神召喚シナリオをお届けします。
 当シナリオは第一章ボス戦、第二章集団戦、第三章ボス戦の構成となっております。

 「第一章 ジーリードの姉妹・三女トリア」
  住宅地にあった医療機関内で降臨した邪神です。
  現在UDC組織が封じ込め作戦を行っております。
  戦場となる場所は建物内ですが、それなりに開けており、空中戦を行うことも可能です。種族体格による有利不利は発生しません。
  戦闘に不具合をもたらすものは何もありませんが、同様に戦闘に利用できるものも特にありません。
  当シナリオでは、このUDCが何故その名前を持つのか明らかにされることはありません。

 「第二章 集団戦」
  これから現れる、邪神の尖兵です。
  詳細は第二章開始後、追記を参照下さい。
 「第三章 ボス戦」
  これから現れる強力なUDC怪物、邪神です。
  詳細は第三章開始後、追記を参照下さい。

 当シナリオのプレイング受付開始時刻は、10/9(金)午前8:31~となります。
 それ以前に送られてきたプレイングは申し訳ありませんが三日後に返却させていただきます。前もってご了承下さい。
 プレイングをお送りいただきます際には、必ずマスターページを一読下さいますようお願いいたします。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『ジーリードの姉妹・三女トリア』

POW   :    るろろろろ。るろろろろ。るろろろろおおおおんんん
【体内に埋め込まれた再現性疑似歪曲多面体】を使用する事で、【きわめて強力な呪詛を撒き散らす魔力器官】を生やした、自身の身長の3倍の【『千貌の邪神』の化身のひとつ】に変身する。
SPD   :    おねえちゃん!おねえちゃん!おねえちゃん!
【とってもやさしいおねえちゃん/姉妹機】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    わたしのおにわ。わたしのおうち。あそぼ。あそぼ。
【呪詛】を降らせる事で、戦場全体が【異界】と同じ環境に変化する。[異界]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ロスタ・ジーリードです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

空桐・清導
POWで挑むぜ!

「すまねえ、待たせちまったな。」
UDC組織に合流して現状を確認するぜ。
邪神の元に走って、会敵。
目があった瞬間、邪神が巨大化して姿を変える。
「…クソ、どうにもならなそうだな。
とにかく、これ以上犠牲は出させねえ!」
UCを発動してサンライザーから炎を生み出し、両手に炎の剣を作る。
[勇気]を持って、邪神に真っ向から挑む。

攻撃を[オーラ防御]で防ぎ、呪詛は[気合い]で抑え込む。
炎剣で邪神の身体を切り裂いて燃やす。

最後にダメージを与えて出来た隙を狙う。
高く[ジャンプ]して剣を合わせ槍にする。
「爆熱必殺!ブレイジング・ランサー!!」
全力で炎槍を投げつけ、邪神の身体についた炎と共に爆発させる。



●そこに英雄は必要なのか
「すまねぇ、待たせちまったな」
 空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は、現場を封じ込めていたUDCのエージェントらしき男に声をかける。
屈強な体つきの男がサングラス越しに浮かべた表情は複雑だった。清導のようなまだ少年の面影を残した者に頼らなければならないという遣る瀬無さ、無力感、不安。それでもこの状況を打破してくれる者が現れたのだという安堵。そのひとつも溢すことなく、エージェントの男は一回り以上も年下であろう清導に向かって礼をする。
「奴は向こうです」
 男が開けた一人分の隙間を通って清導は封鎖区域の内側に入り込んだ。びりびりと空気が震えているのがわかる。壁のそこかしこを汚す赤い染みは、つい先程ついたばかりのものだろう。
さらに奥に進むと、唐突に視界に現れたようにそれはいた。少女の姿を振り回すような真っ黒な肉塊の異形。その体表面に浮かびあがったいくつもの目のどれかと目があった瞬間、異形は高く鳴いた。
『るろぉぉぉぉん、るろろろろろろろ、ろぉぉぉぉぉぉん』
 みちみちと肉塊が膨れ上がる。その鳴き声を聞いただけで頭の中を直接かき回されたように不快感が増す。視界がぐちゃぐちゃに色づいて、血管が脈打つ音が直接聞こえてくるようで、吐き気を催す。それが呪詛によるものなのだと気づいて、清導は唾を飲み込んだ。
「……クソっ、どうにもならなそうだな。とにかく、これ以上の犠牲は出させねえ!」
 声高に叫ぶが早いか、肩部のサンライザーから炎を生み出す。燃え上がる炎は剣をかたち取り、清導の両手に収まった。
 異形の肥大化したてのひらが豪速で振るわれる。巨大なそれを躱せば、叩きつけられた
床にヒビが入るのが見えた。清導は素早く回り込み、その極端に肥大化した拳を手の中の炎の剣で斬り裂く。
『るるるるるろろろ、ろろろぉぉぉん、るろろろろろろろぉぉぉぉおおおん』
 悲鳴とも鳴き声ともつかない声が上がる。その巨躯から手がいくつもいくつも伸びてきて、清導の体を鷲掴みにした。
「っぐ……ぃっ、ぅぅう……!!」
 掴み上げられた苦しさ、痛みよりも優るのは直接触れられたことで流れ込んでくる強力な呪詛による不快感。清導の体を黒い痣のようなものが蝕んでくる。胃からせり上がってくるものを今すぐ吐き散らしてしまいたくなる、その衝動をぐっと堪える。物理的なダメージはその身に纏うオーラが軽減させている、
ならばこの、体を蝕んでくる呪詛はおのれ自身の気合で乗り越えるしかない!
奥歯を噛み砕くように軋ませて、清導は自らを蝕む呪詛に耐える、否、自身の体から退散させようと真っ向から対抗する。
無理矢理に振るった炎の剣が、自身を捕らえる無数の手を斬り裂いた。怪物が高い鳴き声を上げる。
解放され、床に落ちる直前で高く飛び上がり、両手に携えた炎の剣を合わせて槍へと変えた。爆炎迸る炎の槍が、ごうごうと音を立てる。
「爆熱必殺!ブレイジング・ランサー!」
 異形のひときわ大きく開いた眼球へと、渾身の力を込めて炎槍を投げつける。突き刺さった槍が爆発し、異形の怪物は炎に包まれた。
再び炎の剣を作り出し、清導は燃え盛る怪物へ向かって走り出していった。

成功 🔵​🔵​🔴​

浅間・墨
ロベルタ(f22361)さんと共闘。
まず呪詛耐性と破魔にオーラ防御で身体を護ります。
私の攻撃は国綱の一刀で【黄泉送り『彼岸花』】を。

刀にも破魔を籠めてただ斬ることだけを考えます。
鎧防御無視と鎧砕きの能力と技の斬れ味で断ちます。
身体に呪詛対応はしていますが長時間接近はしません。
…相手の周囲の呪詛濃度はとても厚いと思うので…。
何かを召喚した場合は優先して連携攻撃で片づけます。
回避は見切りでなんとか…。

建物の壁や床まで斬らないように注意しようと思います。
裂け目から呪詛が漏れれば想定外の被害が考えられますから。

環境の変化には地形耐性で耐えてみます。
ただ焼け石に水だと思うので早めに本体を狙って攻撃を。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨(f19200)と連携。
破魔と属性攻撃つきの【雪の女王】で連携攻撃だ!
僕は墨ねーの攻撃に合わせて追随する感じで行くよ。
攻撃箇所は僕は別のところにしておくじぇ。
もし露ねーの攻撃時に相手の体勢崩れてたらおまけ♪
懐にもう一歩踏み込んで早業の同UCで2回攻撃を。
邪神の攻撃は第六感と見切って避けてみる。
協力者が現われても邪神を攻撃する時と変わらない。

長いこと邪神の近くにいたら呪詛で危険なんだっけ…。
だったら一撃離脱方法で波状攻撃とか連携攻撃をするよ。
墨ねーと交互に攻撃していくって手段もよさそうだね。

そうそう。僕の身体を濃い呪詛から護らないとねぃ。
破魔とオーラ防御に狂気と呪詛の耐性で保護保護。



●咲く花をもう誰も見ない
 建物全体に渦巻く呪詛に、浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)が息を呑む。もともと魔を祓う一族に生まれた墨である。多少の呪詛には心得がある。しかしここに渦巻くのは、そんなものではすまない巨大で異質なモノ。怨嗟と言うには恨みがなく、ただただ「異質」だけがある。そのようにあれと作られた、そのように生み出された存在、蠱毒にも似た呪いがここには渦巻いている。
「う。僕にもわかるんだじぇ。何て言っていいかわかんないけど……ここは、ヤバいって」
 ロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)が墨の隣に並んだ。その手には魔法剣「プリンチペッサ・ロッソ」が既に抜かれている。
(この量の呪詛……少しでも外に漏らせば、想定外の被害が考えられますね……)
 墨は破魔の守護のまじないを自らに、そして己が持つ大刀「国綱」に施す。隣でロベルタもそれに倣った。
『るろおおおおおん、るろろろろろぉぉぉ、ろぉぉぉぉぉぉぉおお』
 耳をふさぎたくなるような、鳴き声ともなにかとても冒涜的な楽器の音色ともつかないものが聞こえてくる。息を詰めた瞬間、巨体を揺らして「それ」はもう目の前にいた。
『――あはぁ♪』
 年端もゆかぬ少女の姿をした部分の口から、笑い声ともつかぬ吐息が零れる。それを認識した時には、異形の触腕は振り回されていた。ロベルタの体が、一瞬で建物の壁に激突する。
「がっ……はっ……!」
「――ロベルタさん……!」
 蚊の鳴くような声で墨がその名を呼ばう。剣を抜く暇さえも与えられなかった。
「だ、い、じょぶ……♪保護はしてあるから、ねぃ……♪」
 大丈夫、とはとてもいい難い。触腕のただ一撃で彼女の額は割れ、赤い血が白いかんばせを伝ってドレスを汚す。それでもロベルタは立った。立たなければ、戦わなければ、ここに来た意味がない。
 墨は刀を抜く。この世のすべて――森羅万象の万物あらゆるものを断つ太刀筋を願い、望み、その手の中に握った大刀に込めてゆく。その剣技は信じ続ける限り、無限の斬れ味を保ち続けるもの。
墨は飛んだ。一気に怪物との間を詰め、そして繰り出すは【黄泉送り『彼岸花』】。怪物の黒い肉瘤が斬り飛ばされ、黒い体液を迸らせる。
『るろぉぉぉぉぉぉん』
 悲鳴だろうか、異形の怪物が鳴き声を上げた。その隙を狙って、ロベルタもまた斬りかかる。
「――“Alito congelato!”」
 斬り裂いた場所から、絶対零度の冷気がパキパキと傷口を凍らせていく。異形の巨躯がうねり、いやいやをするようにくねった。再び氷点下の斬撃が叩き込まれる。
「……っ」
 げほり、墨が咳き込む。口から黒色の液体が吐き出される、呪詛による浸蝕だと、一目で見て取れた。これ以上この空間にいては、こちらの命が危ない。ここは意地を通す場所ではない、退くべきだと理性が訴える。それでも、このままではその離脱さえできそうにないことは目の前で体をうねらせる巨躯の怪物を見れば明らかだった。
「……仕掛……ら、全力……走っ……さい……」
「墨ねーは!?」
「私……も、行……から」
 破魔のまじないが、万物を斬り裂く意志が再び「国綱」に宿っていく。自爆特攻を仕掛けるつもりはない。今は一度の離脱を行うのが懸命だ。
輝く白刃を手に、墨は突破口を開くため、異形の怪物へと刃を閃かせる――!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
――ッ!
(邪神の不可解さ、悍ましさに対する恐怖と戸惑い。それらに無理やり蓋をして)
クソッ、まだ本番は先なんだ。こんなトコで躓いてどうすんだ、おれ――!
(己を〈鼓舞〉し、邪神を震える瞳で正面から見据える)

激戦に備えて、予め自分用にユーベルコードを使っておく。もし隙があるようなら、近場にいる仲間にも。これでちょっとでもダメージを抑えてえ。
戦闘では〈スナイパー〉ばりの精度を保った射撃で〈目潰し〉や〈マヒ攻撃〉を仕掛けて相手の攻撃を挫いたり、他の仲間の攻撃に合わせて〈援護射撃〉を撃って支援したり。
向こうも連携してくるだろうから、〈第六感〉を活かして攻撃を〈見切り〉、〈オーラ防御〉も併用して凌ぎきる。


サンディ・ノックス
※アドリブ歓迎

ヒトの失敗の後始末だね
いいよ、任せて

敵が鳴いて姿を変える
どんな姿になっても見上げて(いかにもな姿だねぇ)なんて感想を持つけれど、強力な呪詛にいい気持ちはしない
俺の中の力、悪意を源とする魔力が共鳴するように、あるいは対抗するように蠢くし…困ったやつ
【呪詛耐性】は鍛えたつもりだったけどまだ足りないみたいだね

さて、せっかくだし魔力の好きにさせてやろう
UC伴星・傲慢な飛輪を発動
肉体に魔力を走らせると敵を斬り裂く飛輪に変換される
いつもより変換される量が多いけど、それだけ多く敵を斬り刻めるってことだね
敵の変化した姿にあわせて、目>内蔵を思わせるもの>突起部位 の優先順位で狙い、潰す



●何もかもすべて腹の中
「ヒトの失敗の後始末、だね。……いいよ、任せて」
 サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)と鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は、同時に封鎖区域内部、建物の中に入った。
「ちょっと待っててくれ」
「なに?」
 嵐が取り出したのは、妖怪「禍福の忠犬シロ」の描かれたメダル。それを嵐はサンディの体に固定するように貼り付け、自分にも同じようにした。
「俺のユーベルコード。【忠義貫く犬の祝福(ドッグス・ホーカス・ポーカス)】。これでちょっとでも、ダメージを抑えられればって」
「……うん、ありがとう」
 歩みを進める内、建物内部の空気が淀んでくるのがわかる。邪神の在り処は近い。物言わぬ肉片となった誰かの流した血が壁に飛び散っている。……そうして、それは彼ら二人の前に現れた。
「――――……!!」
 そのおぞましさに嵐は息を呑む、溢れ出てくる恐怖や戸惑いの感情、それに無理矢理蓋をして、嵐は異形の怪物を見上げる。
(クソッ……まだ、本番は先なんだ……こんなとこで躓いてどうするんだ、おれ!!)
『るろろろろぉぉぉぉ、ぉぉぉぉん、るろろろろろろろおおおん!!』
 間延びした鳴き声を上げた異形が体を揺すり、そこかしこに着いた眼球を輝かせながら巨躯に変じる。
(ああ、いかにもな姿だねえ)
 のんびりとした感想を得るサンディ。しかし彼の中では、濃さと重みを増した呪詛に対抗して悪意を源とする魔力が共鳴するように、あるいは対抗するように蠢いている。
(困ったやつ……まあ、だけど)
 せっかくだし、魔力の好きにさせてやろう。
肉体に魔力を走らせる。漆黒の戦輪が生み出され、巨躯の怪物へと向かっていく。
(いつもより量が多いな……まあ、それだけ多く敵を切り刻めるってことだし、良いか)
 爛々と輝く巨大な眼球めがけて戦輪を投げつける。赤く輝く目は、斬り裂かれ黒く粘ついた体液を吹き出した。
『るろぉぉん、るろろろろろろぉぉぉん』
 まるで悲鳴のように体を揺すりながら異形が鳴く。体を揺すり、うねらせ、伸び上がらせて――
『……あはっ。あはぁ♪ おねえちゃん!おねえちゃんだ、おねえちゃんがきた!!』
 少女の部分が甲高い声でそう嬉しげに歌った。雷鳴のような音が響き、一瞬の後にその場に現れるのは青い髪を靡かせた、幾ばくか年上の少女。
『おねえちゃん、おねえちゃんおねえちゃん!』
『オーケイオーケイ!待ってな可愛いマイシスターちゃん!今、こいつらを皆殺しにしてやるからさ!』
『あははははぁ♪』
『スペシャルゲストのぉっ、登場だぁー!!』
 「おねえちゃん」とよばれた存在が手にしたギターを爪弾くと、ギュイイイイン、雷鳴の如く鳴り響く。その影から巨大な腕が現れ、嵐を掴んで壁へと叩きつけた。
「ぐぅっ……が……!!」
 嵐の目の前が真っ赤に染まる。まぶたがざっくりと斬り裂かれていた。それは呪いだ。サンディが斬りつけた異形の眼球と同じ場所。サンディが異形を傷つければ、傷つけるだけ嵐が怪我を負う――それに築いたサンディは戦輪を手に躊躇する。それを見逃す邪神ではなく。肉塊から生えたいくつもの手がサンディを掴んで持ち上げる。
『あはははぁ、いっしょいっしょ、おそろいおそろい!』
「く……ぅぅっ……」
 触れた場所から呪詛が流れ込んでくる。末端の血管が侵され、敗れて黒い涙が流れる。全身を殴りつけ続けるように鈍い痛みが断続的に襲ってくる。頸を抑え込まれ、息苦しさから視界が白んでいく。そのときだった。ぱぁん、音がして、異形の肉塊の眼球が弾ける。
「まだ、だ……!」
 嵐の手にしていたのはスリングショット。そこから放たれた癇癪玉が異形の眼球の中で破裂したのだ。
「大丈夫だな、おれの攻撃じゃあ、あんたは傷つかないみたいだな……」
「うん、だけど、君は……!」
「おれは、平気だ……この程度の痛み、耐えてみせる……!だから、やってくれ……!」
「――わかった」
 サンディの体を再び凶暴で真っ黒な魔力が流れる。生み出された戦輪が彼の体を捕らえる手を斬り裂く。嵐の腕から真っ赤な血が迸る、それを嵐は奥歯を噛み締めて堪えた。
縦横無尽に踊る戦輪が長い髪の「おねえちゃん」の頸を跳ね飛ばした。
『あぁん?』
 ごろごろと床を転げた少女の頭部は眉を吊り上げる。びくびくと痙攣していた肉体が戦輪にてばらばらに切り刻まれた。二人の体が床に着地する。
「……大丈夫なの、」
「ぶっちゃけて言えば死ぬほど痛いさ、でもそんだけだ!……まだまだだ、続けていこうぜ!」
「うん……!」
『あああああ、おねえちゃん!!おねえちゃんおねえちゃんおねえちゃん!!』
 肉塊部分は呪詛を撒き散らしながらも、少女の部分が泣き喚く。その半身が異形でなかったならば、がんきゅうがにまにまとにやついていなければ、胸を打たれたかも知れない泣き声。しかし二人はそれに惑わされることはない。
 スリングショットから放たれた火薬玉が再び巨大な眼球の前で弾け、戦輪が続けてそこを切り裂く。絶妙なコンビネーションで、二人は異形に攻撃を加えていった

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

子犬丸・陽菜
POW

人体実験ね、それがまっとうなものならいいけども
犠牲は発展につきものだけど、それにしては禍々しいものだね

仮にも神と名のつくもの、気は抜けないかな

宝珠を起動し武器への動力を得るよ
ある意味これも呪詛みたいなもんだよね、うっぐ…
ヤバそうだからかなりきつめに内臓かき回して力を引き出すよ

ある意味自分が生贄、皮肉だね、ぐぷ

あれだけでかいのをならば的には困らない、刃で斬りかかるよ
相手に内臓があるかわからないけど枷も試すよ

宝珠を強く発動してる分内臓の痛みで動きは負けてるから効いてくれるといいけど

剣での攻撃は呼び出す前のあたりに目星をつける

呪詛で侵されるならその苦痛もプラス
人を呪わばなんとやらだしね

うく…



●メザメル
「人体実験、ね……それがまっとうなものならいいけども」
――犠牲は発展につきものだ。けれど、それにしては禍々しいものだ、と子犬丸・陽菜(倒錯の聖女・f24580)は封鎖区域の内側、建物内部を歩きながら思う。
この医療機関が何をしていたのか。それを語れるものは今はみな息絶えてしまった。本当に彼らが無辜であったかどうか、それはこの建物が邪神の影響下から脱した後にようやく組織によって調べ上げられることができるものだ。
けれど――今、陽菜の目の前に存在する、半身が異形に侵されぶくぶくと肥大化した怪物。その半身はまるで幼い少女のものだ。こんな幼い少女を犠牲にせざるを得なかった実験とはいかなるものだったのか――。
それについて考えつづける暇は与えられなかった。どうせ当事者は全員死んでいる。今、陽菜が出来ることはこの場を生き延び、この怪物を退けることだけだ。
(仮にも神と名のつくもの、気は抜けないかな……!)
 陽菜は自らの体内に存在する宝珠を起動させる。目覚めた宝珠は体内で陽菜の内蔵を掻き回し、彼女の苦痛をその手に持った拷問剣にリンクさせる。陽菜の苦痛が強ければ強いほど、拷問剣の力はいや増し切れ味は研ぎ澄まされる。
(ある意味、これも呪詛みたいなもんだよね……!)
「うっぐ……ぐ、ぷっ……く、はぁっ……!」
『あははははぁ♪――いらっしゃいいらっしゃい、わたしのおうち、わたしのおにわ!おきゃくさん!あそぼ、あそぼあそぼあそぼぉぉぉぉよぉおお』
 半身をおぞましく膨れ上がった肉塊に侵された少女の唇が、可憐な声できゃらきゃらと笑い声を上げる。途端、部屋の空気がひんやりとしたものになる。膨れ上がった肉塊の方についた口と思しき穴からは、黒い靄のような呪詛が吐き散らされる。
「んっう――!!」
 毛細血管がぶちぶちと裂けては真っ黒に凝ったものに侵される。口の中に鉄錆と、それよりもっと悍ましい吐き気のする味が広がって、陽菜は唾を吐き捨てた。それは赤黒く、そして黒く凝った部分はぶくぶくと泡立っていた。
内蔵をかき回され続ける痛みに加えて吐き気が勝り、その場で胃の中身を全部ひっくり返して仕舞いたくなる。寸ででそれに耐えられたのは、肉塊が無数に生えた触腕を伸ばしてきたからに他ならない。
「あっが……!」
『あはははっ、あそぼ、あそぼあそぼ!いっしょいっしょいっしょ!!いっしょにあそぼ、あそぼ、あそぼおぉ――』
 触腕が腹に突き刺さる。突き刺さった腹の内部で、未だ彼女の内蔵を掻き回し続ける宝珠をえぐり出そうとする。咄嗟に陽菜は剣を振るった。内臓につながる触腕を両断すれば、先端は黒い塵となって消え、腹部に空いた穴から血がどくどくと流れる。
陽菜の受けた苦痛をすべて、触腕に貫かれたそれをもリソースとして、腹の中に宿した宝珠は拷問剣に力を与える。痛みに体を引きずりながらも、陽菜はじゃれ突くように絡んでくる触腕を斬り裂いていく。
「人を呪わば何とやらってね……あたしの痛み、全部くれてあげるよ……!!」
 陽菜は鋭さの増した剣を肉塊に突き立てる。【知られざる枷】――陽菜と肉塊の巨大な眼球、その視線がかち合い、少女の方の唇から壮絶な叫び声が上がる。
『ううぅぅぅぁああああああああ!!いたい、いたいいたいたいいたいよぉぉぉおおおおお!!!』
「成程、あんたの内蔵はそっちにあるってわけ……どう? ハラワタをかき回される味は……うっ、く……」
 泣き叫ぶ少女の半身に呼応して動きを止め体を瘧のように震わせる肉塊に、再び陽菜は剣を振るった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

叢雲・源次
【煉鴉】
UDC職員達の努力を無に帰すわけにもいかん…何より
邪神は討ち滅ぼす。
行くぞ、グウェンドリン・グレンジャー…仕事の時間だ

邪神を確認…アナライザー、インターセプター起動…
戦闘モードに移行、目標を捕捉。並びに動体反応検知を最大知覚に設定。

(現出する邪神の姉妹を確認…打刀の柄に手をかける)
本体を討ち滅ぼせば消えるか…あるいは残存するか…どちらにせよ、残しておいて良い代物ではあるまい…
(アナライザーとインターセプターで相手の動きを分析、攻撃を見切ると同時に三十式特殊戦靴起動。一気に踏み込み早業の抜刀から七閃絶刀。姉とやらを14分割に切り刻まんとする)
「…邪神が姉妹愛になど興じるな。」


グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】
(周囲を見回し、かすかに顔を顰め)
こんな、ところで……しかも、医療機関……
(フッと脳裏を過るのは己の過去)
源次、急ごう

……居た
(視界に入れるや否や、鈴鹿御前を鞘から抜き放ち先制で斬りかかる)
身体に、埋め込まれた、モノ
ますます、似てる

鈴鹿御前、あいつに、刺さるよう、全力で投げる
念動力で、加速し、斬るか、刺すかしたら、手元へ呼び戻す

……このままじゃ、埒、あかない
(腰から生えるのは黒い翼。否、堕ちた女神、UDC由来の捕食器官)
空中戦、で、奴の頭、狙って……Angel's Hammer
ありったけの、怪力込めた、跳び蹴り

いくら、大きくなったり、邪神に変身、したって、無駄
……私達が、全部、殺すから



●次なる災いの足音
 封鎖区域の内側に足を踏み入れたグウェンドリン・グレンジャー(Pathetic delicate・f00712)は、建物をぐるりと見回して眉をひそめる。
「こんな、ところで……しかも、医療機関……」
 脳裏をよぎるのは己の過去。幼き日の自分は、いつ呼吸が止まってもおかしくないほどの虚弱体質で。父親が病院経営者でなかったならば、きっと己の心臓はもっとずっと早くに鼓動を止めていただろう。あるいは、そうであれば、父は「奇跡の生体素材」などに手を出しはしなかっただろうか。両親が姿を消すことも、もしかしたら――
 自己の内側に沈みかけたグウェンドリンの思考を引き上げたのは、同行者である叢雲・源次(DEAD SET・f14403)の声。
「UDC職員たちの努力を無に帰すわけにもいかん。……何より、邪神は討ち滅ぼす。行くぞ、グウェンドリン・グレンジャー」
 ――仕事の、時間だ。
「……うん。源次、急ごう」
 カツカツと靴音を鳴らし、二人は建物の奥へと足を進める――目に入ったのは、少女の半身を引きずって徘徊する、ぶくぶくと肥大化した黒い異形の肉塊。
(――居た……!)
 それを目にするや否や、グウェンドリンは腰から刀「鈴鹿御前」を抜き放ち、飛翔するような速度で駆けた。ひといきに刃を振るい、肉塊の一部を切り飛ばす。真っ黒な肉塊は切り落とされて、黒い液体をまるで血のように噴き出しながら床で跳ねた。ぶくぶくと床の液体溜まりにあぶくが立つ。醜悪な臭いがその場に立ち込める。
『あああああああ!!』
 少女の側の喉から耳をつんざくような悲鳴があがった。肉塊は震え、触腕をめちゃくちゃに振り回す。
(身体に、埋め込まれた、モノ。……ますます、似てる)
 少女を「少女」という個体として見れば見るほど、己との相似点を見つけてしまう。グウェンドリンは下唇を噛んだ。
「飲まれるな、グレンジャー。精神まで持っていかれるぞ」
「わかっ、てる」
 源次は左目の高速演算デバイスを起動させる。同時に戦闘補助デバイスの起動も確認。
「アナライザー、インターセプター起動。戦闘モードに移行、目標を捕捉。並びに動体反応検知を最大知覚に設定」
『うああああああん、おねえちゃああああん、おねえちゃんおねえちゃんおねえちゃああああん!!!!』
 少女の口が泣き叫んだ。途端、現れるは青く長い髪を靡かせた、この場には不似合いなパンクな格好をした少しだけ歳上の少女――「おねえちゃん」。
『あたしが来たぜ、マイスイートシスター!可愛いアンタを泣かせたのはどこのどいつだ?』
『おねえちゃんおねえちゃんおねえちゃああん!!おねえちゃんがきた!あいつらが、あいつらが、あいつらが、うあああああ!!』
『ヘイシスター、泣くなよ!これからあたしがそいつらを、全殺しにしてやるからさぁ!』
『うん、うん!おねえちゃんおねえちゃん、だいすきだいすきだいすき!』
 喜びに満ちた声を上げると、異形はその体を大きくゆすり、くねらせて、そして異形の口から周囲に黒い靄のような呪詛を撒き散らしながらその体を肥大化させていく。たちまちに三倍にまで伸び上がると、肉塊は出鱈目に触腕を振るった。槍のように鋭い触腕が、グウェンドリンの肩に突き刺さり、そのまま壁に縫い止める。
「うっ……ぐぁ……っ!!」
 空いた片手で、グウェンドリンは鈴鹿御前を全力で肉塊へと投擲する。念動力で限界まで加速、加速、加速。豪速で飛ぶ刃は、肉塊に刺さるその直前で場違いに突き出された少女のギターに突き刺さった。
『おおっと、あぶねーなぁ!こんなもんビュンビュンぶっ飛ばしてんじゃあねぇーよ!首都高か、ここはよぉ!!』
 少女はグウェンドリンに向かって鈴鹿御前を投げ返してきた。急いで念力操作でコントロール権を取り戻し、手元に呼び戻し――自らを貫き壁に縫い止める触腕を切り落とす。切断は容易く、切り取られグウェンドリンの身体から抜かれた異形の肉塊の一部はしばらく床でびちびちと跳ねながら黒い液体を吐き出していたが、そのうちに動かなくなり、そして塵のようになって消えていった。
「……このままじゃ、埒、あかない」
「グレンジャー。姉妹機はこちらで片を付ける。一気に仕留めろ」
「わかっ、た」
 ――源次は出現した少女に対峙し、打刀の柄に手をかける。猫の耳を模したフードつきのパーカー、抱えたギター。長く蒼い髪。その全てがこの場には不釣り合いで、不似合いで、――故にここにいることが、どこまでも異端だった。
『ははっ、なんだよ、オッサンがあたしの相手してくれるってんのかよ? あたしはそうそう安かないぜぇ?』
「その口を噤め。不愉快だ」
(本体を討ち滅ぼせば消えるか……或いは、残存するか。どちらにせよ、残しておいて良い代物ではあるまい)
 故に、この場で迅速に始末しなければならない。
『あたしの可愛いリトルシスターを泣かせてくれたんだ、十六分割されて泣き入れる準備は出来てるんだろうな?』
「……邪神が姉妹愛になど興じるな」
『失礼だな、あたしたち姉妹は全員大の仲良しっ……なんだ、ぜぇっ!』
 派手にギターがかき鳴らされる。少女の足元から現れたのはまるで一般人のように見えるニンゲン……否、人間は、床をすり抜けて移動することなど出来ない。それは彼女に呼び出された召喚物で、それ以下でも以上でもない。
『よーし、あたしに血を捧げろー!!』
 ごぱり、呼び出されたモノが臓腑を弾けさせ、少女の頭から足元まで赤く染める。ぺろりと唇についたそれを舐め取ると、少女の足元から現れたニンゲンの手が無数に現れ、源次を拘束しようと迫りくる。
源次は二つのデバイス、アナライザーとインターセプターでその動きを即座に分析し、そして解析すると同時に突破口を見出す。対神打刀「灰ノ災厄」にて迫る手どもを微塵に切り捨てると、鞘に収め――少女へと向かって一飛びに駆ける。神速の踏み込みと同時に電磁誘導で刀身を高速射出する鞘「三十式刀身加速装置」から打刀を高速で抜き放ち、【七閃絶刀】――連続で斬撃を放つ!!
『え……っ?』
 少女が声を発したときにはもう遅かった。ずるり、少女の頭部がずれ、ぐしゃりと床に落ちる。そこからはあぶくをたてる漆黒の液体しか漏れては来なかった。
「ひぃ、ふぅ、み……すまんな。こちらも十六分割とは行かなかったようだ。二つほど足りないようだが。何、謝罪しろとは言わん」
 ばらり、「姉」の身体が十四の断片に切り刻まれ、結合を解除してびちゃびちゃと床にこぼれ落ちていく。
「消え失せろ、永遠に。それだけで十分だ」
 びしゃりと刀を振るって刃に付着した黒い異色の液体を落とし、源次は「灰の厄災」を鞘へと収めた。

 グウェンドリンの腰から、ばさりと黒い翼が生える。否、それは堕ちた女神、UDC由来の『捕食器官』だ。
空中に羽ばたいたグウェンドリンは考える。狙うべきはどこか。黒い肉瘤に覆われた肉塊、否、あれは鳴いて暴れるだけの器官。「おねえちゃん」との会話を思い返すだに、本体と呼ぶべきは――少女の方。なんてわかりやすい弱点。否、たとえ狙おうとも、並の相手では肉塊の方に遮られて終わりだろう。
ごぱあ、肉塊が口らしき大穴をあける。そこから撒き散らされる黒い靄、呪詛。粘膜がそれを吸収して痛みを訴える。息苦しい、腹の奥底から吐き気がこみ上げてくる……それらを全部ねじ伏せて、唇をちぎれんほどに噛んで耐え――グウェンドリンは、落下する。少女の頭部めがけて。
「いくら、大きくなったり、邪神に変身、したって、無駄」
 ――私達が、全部、殺すから。
脳髄を護る頭蓋が砕ける感触が脚に伝わってくる。建物の床が破壊される。撒き散らされるのは脳漿ではなく、真っ黒な液体。それらはまるで血のように噴き出し、眼下から口から流れ落ち、異臭を撒き散らしてあぶくを立てる。少女の体ははびくびくと痙攣し、肉塊は支えを失ってどうと倒れ――そのまま、黒い粘液に溶けるように消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『パープルテンタクルズ』

POW   :    押し寄せる狂気の触手
【触手群】が命中した対象に対し、高威力高命中の【太い触手による刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    束縛する恍惚の触手
【身体部位に絡みつく触手】【脱力をもたらす触手】【恍惚を与える触手】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    増殖する触手の嬰児
レベル×5体の、小型の戦闘用【触手塊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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 どどど……どどどどどど……
重いものが押し寄せる音がする。
医療機関だったという建物内部に、「それ」はいつの間にか出現していた。
外側から侵入したのではない。UDC組織による封じ込め作戦は未だ続いている。
こんな怪物を見逃すようなことが、あるはずがない。
あるとするならば、それはもう建物の外も地獄と化しているということになるのだから。
――それは、触手の大群だった。
濁った紫色をした禍々しいそれらは、先ほど猟兵たちが倒したばかりの異形を迎えに来た、邪神の尖兵。
単純にして大量、巨大なそれらは、無秩序に建物内部をのたうち回る。
休んではいられない。これもまた、この建物の外に出してはならない存在であるのだから。
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第二章 「パープル・テンタクルズ」が現れました。

 第二章は集団戦となります。
封鎖作戦中の医療機関内部に発生した触手の群れを全滅させて下さい。
戦場は引き続き建物の内部となり、天井が高いため、空中戦などを行うことも可能です。
引き続き、戦闘を邪魔するものは何もありませんが、逆に利用できそうなものもありません。(第一章にて倒したUDC怪物によりすべて破壊されています)

 第一章から休憩なしの連戦となります。
猟兵は第一章のリプレイで負った傷が未だ癒えていない可能性があります。
或いは、生命体の埒外たるその身体能力によって、全回復しているかもしれません。
第一章で負傷しており、その状態を回復したいと望まれる方は、プレイングの最初に「傷無」と記入下さい。負傷描写のなかった方はそのまま無傷、あるいは軽傷で戦闘続行となります。
第一章内にて負傷描写があり、何も記入がなかった場合は、リプレイ内で負った傷がそのまま残っている状態での戦闘となります。

また、この第二章に置いても成功・大成功判定であってもアドリブの範囲内で傷を負う可能性があります。負傷度合いは第一章とそれほど変わりありません。
怪我したくないという方はそのように書いていただければ、そのようにいたします。

第二章のプレイング受付開始は10/15(木)8:31~となります。
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空桐・清導
「次は触手の群れか…、上等だぜ!」
先ほどの傷の程度を確認して、迫りくる触手に意識を向ける。
単純に数が多く、絡めとられれば質量で潰される。
「なら、まずは距離をとる!」
ブレイジング・レザーで触手を[なぎ払い]ながら後退。
切り払えない分は[気合い]で避ける。
あれに飲まれちゃマズイ!

十分距離を離せたら、UCを発動してサンライザーを巨大化。
胸部からは大型バスターを展開し、腰部装甲はキャノン砲へ変形させる。
「お前らの数か、俺の[勇気]か!勝負だ!!
超必殺!!ギガノブレイズ・フルバースト!!」
全砲門から無数の[誘導弾]やビームを[一斉射撃]!
近づく相手が焼けちまうほど熱くブチかます!
根気比べだ、触手ヤロー!



●賛辞なく、称賛なく、せめて報いはあるのだろうか?
「へっ……次は触手の群れか……、上等だぜ!」
 清導はこれまでの戦闘で負ったダメージを確認する。掴み上げられた際の痣が肩や首に黒々と残っているが、四肢を動かすぶんには支障はない。装甲が厚かったのが幸いしてか、その下には痛みはない。どのみち異常を感じたとしても、この局面においてスーツを脱ぐことは愚行だ。痛みを我慢しながら戦うことにならなくてよかったと言えるだろう。
 あとは、今も残る呪詛の残滓――収まらない吐き気、不快感だけだ。喉奥から今にもせり上がってこようとするそれを無理矢理飲み下して、清導は立ち上がった。
 迫りくるは、濁った紫色をした触手の群れ。巨大なそれは単純に数が多く、一度それに絡め取られれば簡単に質量で潰されてしまうだろう。
「なら、まずは距離を取る!」
 腕部に取り付けられたブレードを長く伸ばし、鞭のように撓らせて触手の群れを薙ぎ払い切り払いながら、自分に向かって押し寄せてくるそれらから出来る限り離れようとする。腕を伸ばしてくる触手を、気合だけで躱していく。あれに飲まれては終わりだと、頭は十分に理解していた。
 しかし、相手は兎にも角にも――数が多かった。一斉に伸ばされた触手の一本が清導の脚に絡みつく。それをブレイジングレザーで切り捨てるも、それに費やした時間の分だけ他の触手が押し寄せてくる。
「が、はっ……!!」
 太い触手の刺突によって腹部装甲を破壊され、腹を強かに殴られる。それだけではない、十分な強度を持った槍のようなそれは清導の腹を突き抜け、壁に突き刺さって縫い留められる。
「がぁっ……!!ぐ、ぅぅ……!!」
 腹に刺さった触手は太く、斬り裂くのに時間がかかる。幸い内臓は傷ついていないようで、うまい具合に背中まで貫通しているようだった。せり上がってくる鉄錆の味。抑えきれないそれを口端から滴らせ、縫い留められた状態から逃れようと足掻く。そうしているうちにも、他の触手塊が次々と群がってくるのが見えるのだ。
「ぎぃぃ……っ!」
 ややあって、ブレイジングレザーによる触手の切断が成功した。背中まで突き抜けていたそれは切り離された瞬間に液状になってどろりと溶け落ちる。破壊された装甲部を抑えながら、追いかけてくる触手から清導はさらに距離を取る。
「はっ、は……はぁっ……こんなもんで、いいだろ……」
 十分な距離を取ったことを確認し、【ヘビーアームド・ウェポナイズ】発動――重武装モードに変形する。移動速度は極端に落ちるが、これだけ距離が取れていれば問題ないだろうと判断。肩部に搭載された超兵器サンライザーを巨大化させ、胸部から大型バスターを展開。腰部装甲をキャノン砲へと変形させる。まさに重武装、全身が武器の塊だ。
「お前らの数か、俺の勇気か!勝負だ!!」
 物言わぬ触手塊どもにむかって、清導は叫ぶ。それは自身を鼓舞するための雄叫び。
「超必殺!ギガノブレイズ・フルバースト!!」
 キュイィィィィィィ…………砲門へと集まった光が一気に解放される。無数の弾丸、レーザー砲、ビーム、すべての武装を一斉に触手塊たちへとぶつける、近づけば焼けてしまうほど、熱く、熱く!
「熱く、ブチかます!……根気比べだ、触手ヤロー!」
 清導は喉の奥から声の限りに叫び、全砲門からの一斉射撃を続けていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

子犬丸・陽菜
く…うっく!
邪神に貫かれた傷が深い、内臓まで届いてる

って、新手!?
もう、治療位させてよ、って泣き言を言ってる場合じゃないよね
力を得るために宝珠を起動…うぐ!?

な、内臓をかき回すと腸が飛び出してきそう、うぁっ!
でもその分威力時は十分、かな

…まともじゃないのが出るとは思っていたよ
数が多い、枷で封じられればいいけれど

弱気になちゃダメ、外には出さないよ!

片っ端から触手を切り飛ばす
切られた触手がこちらを攻撃するか確かめるよ

でもこっちはお腹を抑えて剣一本
枷にも限界があるし

数で来られればさすがに捌ききれないかも
傷口から入られれば直接お腹の中を…
触手が中で絡まれば引き抜かれたら一緒に…

意識が真っ赤に染まる…



●イノ血ノ高マリ
「く……うぅ、っくぅぅ……!!」
 陽菜の腹には異形の肉塊に貫かれた孔が開いていた。ぼたぼたと血が溢れ出し、床に赤黒い染みを残していく。これは駄目な色だとわかった。えぐり出そうと弄くり回されたぶんだけ、内臓に大きなダメージが届いている。
「……新手、ね……!」
 治療ぐらいさせてよ、と、泣き言を言っている場合じゃないのは百も承知だ。手にした剣に力を与えるために体内の宝珠を起動させようとして、陽菜は口からごぱりと血の塊を吐いた。
「げほ、ぇほっ……く、うぐ……」
 激痛――気が遠くなりそうだった。宝珠が内蔵をかき回そうとするたび、傷口からハラワタが飛び出して来そうになる。けれど、白む頭、ブレる視界の中で、力を与えられた剣はその鋭さをいや増していく。
(その分――威力は、十分、かな……!)
 意識を霧散させないために唇を噛み締めて立つ。両足に力を入れる、それでも膝はがくがくと笑い、その場にへたり込んでしまいそうだった。ごぼり、再びこみ上げた血の塊を、今度は躊躇なくその場に吐き捨てる。血で窒息するよりはそちらのほうがまだマシだった。
 押し寄せてくるのは大型の触手塊から小型の触手塊。それらは数が多く、そして素早い。立つのもやっとな陽菜へと、一目散に向かってくる。
「マトモじゃないのが来るとは思ってたけど……!」
 視線を合わせようにも目がない、枷によって内臓の痛みを共有しようにもこの触手共のどこに内臓があるのかわからない。それでも。
(弱気になっちゃ駄目……こいつらを、外には出さない、よ……!)
 磨り潰すほどに奥歯を噛み締め、苦痛を代償に磨き抜かれた剣を振るい、片端から触手を斬り飛ばしていく。幸い小型な触手塊たちは一撃を喰らえば無力化されるほどに貧弱だった。紫色をした液体に変わり、床に、そして陽菜の体にと滴り落ちる。
――だが。
「くっ……」
 数が、多い。どれだけ斬り裂き潰そうとも、一撃で無に帰ろうとも、小さな触手塊は数を確実に減らしているはずなのに費える兆しを見せない。陽菜の身体に酔ってたかった触手塊たちは両足から上り来て、陽菜の傷口に纏わりつく。
「があああ……!」
 腹に空いた孔の中へと触手が入り込む。宝珠を抉りぬこうと内臓に絡みつき、引き抜こうとする。ずるりと身体の中で内臓が動く。動かされる。触手に絡まって、陽菜のハラワタが引きずり出されようとしている――
「うっぐううぅぅぅ……!!」
 歯を食いしばる陽菜。背筋にぞくぞくとしたものが走り、視界が白み――眼球が一度ぐるんと回った。
 ――意識が真っ赤に染まる。
咄嗟、陽菜は剣で自らの腹を刺した。赤黒い血が傷口と口、両方から飛び散る。陽菜の体内で内蔵に絡みついていた触手は、貫かれて消える。
「悪い……けど、これを持ってかれるわけにはいかないの……げほっ、ごほ……!!」
 血反吐を吐きながら震える脚を踏み鳴らせば、踏み潰されただけで脚に絡まっていた触手塊が液状化して散る。陽菜は自ら吐いた血に塗れ、自分の血で剣を染めながら、触手塊たちを斬り散らしていった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

鏡島・嵐
痛ってて……。
正直そこまで大したダメージじゃねえけど、この後のことを考えると放ってもおけねえよな。
この後治す暇があるかどうかもわかんねーし、なんとかここで立て直しておかねえとだ。
怖ぇけど、ここが正念場だよな。

ユーベルコードでここまで受けた傷や現在進行形で負ってる傷を癒しながら、味方に〈援護射撃〉を飛ばしたり〈マヒ攻撃〉で敵を足止めしたりして粘り強く敵の数を減らすんに専念する。
折角治したのにまたケガ増えたら堪んねえから、向こうの攻撃は〈第六感〉を交えつつ〈見切り〉、〈オーラ防御〉も使って極力喰らわねえように。
……まあ、それでも無傷とはいかねえだろうけど、その分しっかり治療はするさ。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)と共闘。
僕よりも墨ねーのダメージが大きいねぃ…なら。
墨ねーは後方に居て貰って今度は僕が前で戦う番だ!
オーラ防御と呪詛と狂気耐性と破魔を身体に纏って。
指でぴっ…って目元の血を拭い払っていくじょ!

『身体』も『部位』も触手だから判らないけど…。
うねうね無数あるから構わないじぇ!片っ端に蹴る!
【悔い改めよ】で目についた触手から連続蹴りする。
触手に強度があるかもだから蹴りに色々付与するよ。
鎧砕きとか鎧無視攻撃とか破魔とかだねぃ~。
触手とは超近接戦闘になるから蹴りに付与の追加を。
早業と零距離射撃とクイックドローを増やすよ。
回避は触手の動きを見切ったり第六感で。
油断せずに墨ねーと連携。


浅間・墨
ロベルタさん(f22361)と。
私の身体の心配をしてくださるのは嬉しいですが。
ロベルタさんにも負担をかけるわけにはいきません。
なので後方から仕留めそこなった触手を斬ります。
前回と同じ『国綱』で技は【鍔鳴】に変えます。
身体にオーラ防御と狂気と呪詛耐性をして…いざ。

不本意ですがロベルタさんを盾にする形をとります。
触手の動きを見切りと第六感で把握しつつ進みます。
刃に破魔の力を宿し鎧砕きと鎧防御無視を籠め斬撃。
今の身体に負担をかけないように工夫し早業の抜刀を。
状況によっては2回攻撃と野生の勘を用います。

もしロベルタさんの動作に疲労の色を感じたら。
即座に彼女の身体を抱きかかえて後ろへ飛び退いて後退です。



●どうせ舞う花嵐
「痛っ、ててて……」
 一人になった嵐は建物の廊下を歩いていく。先程巨大な腕に締め上げられた身体の節々が軋む音を立てた。
(正直、そこまで大したダメージじゃねえけど……この後のことを考えるなら、放ってもおけねえんだよな……この後治す暇があるかもわかんねーし。なんとかここで立て直しておかねーと……)
 怖い。先程の異形と戦ったときのことを思い出せば、未だに膝ががくがくと笑い出しそうになる。それでも歩みを止めないのは、ここが正念場だと嵐が自分でわかっているからだ。
 と、嵐の向かう先から、少女の声が聞こえてきた。
「墨ねー、やっぱり墨ね―は一旦後ろに下るべきとおもうじぇ」
「そ……な!……ロベルタさん……そ……血……それ……壁……ぶつ……て、」
「僕は激突のダメージだけだけど、墨ねーはさっき黒いの吐いたじゃんか!それって呪いによるものなんでしょ? 体の内側のダメージのほうがヤバいって」
 小声ながらまだ前に立てると主張する墨を、ロベルタは諭す。彼女たちの背後にも、触手塊は密かに迫っていた。
「…………!」
 ずるりとロベルタの背に近づく小さな触手塊に気づいた墨が国綱を抜いた、それと同時にその小さな触手は爆ぜ、それだけで床にべちゃりとこぼれ落ちる。もう動かないようだ。
それが第三者による攻撃によるものだと気づいた二人の前に、スリングショットを手にした嵐が現れる。
「よぉ、お二人さん、無事か?」
「サンキュー、助かったんだじぇ」
「あ……とう、ご……ま、す……」
 礼を言う二人。ロベルタの額に伝う赤い血を嵐は見逃さなかった。
「なあ、怪我したんだろ。よかったら、治させてくれねーか?」
「治せるの? お願いするんだじぇ!僕だけじゃなくて、墨ねーの分も!さっきのやつの呪いに当てられたみたいなんだ」
「あ……その……」
「そうなのか? わかった。すぐに呼ぶ」
 嵐のユーベルコード、【大海の姫の恋歌(シレネッタ・アリア)】によって呼び出された人魚は高らかに美しい歌声で歌う。それは勇気を呼び起こす戦いの歌。歌詞の意味などわからなかったけれど――建物中に、響き渡る。どこか違う場所で戦う猟兵の耳にも、その歌声は耳に入ったことだろう。
「あ、傷が消えてるねぃ」
 ぴっと未だ目元に残る血を指で拭い去って、ロベルタはにっかりと笑う。
「私……随分……良……なり……た」
 具合が良くなった、と小さな声と身振り手振りで知らせる墨。
「俺の目の傷も消えたみたいだ。この声量なら、この歌を効いた誰かの傷も癒えたかもしれないな。というか、それを願うぜ……けど、悪いな。歌のせいでコイツの親玉格も呼び寄せちまったらしい」
 ぞろり、嵐の目線の先には巨大な触手塊が幾体も控えている。
「ぜーんぜん、平気なんだじぇ!気にしないで!」
 次は自分が前で戦う番、というのは譲る気がないらしい。己から一歩前に立つロベルタに、墨は刀を抜いたまま黙って後ろに下る。嵐もスリングショットを構えている。
ロベルタは呪詛と狂気に耐える為、神聖なオーラの防護膜を自身の体に纏った。
「でぇりゃぁっ!」
 ロベルタの蹴りが最前線に居た触手塊を吹き飛ばす。そのまま重ねて蹴りの連打。壁に弾き飛ばされた触手がしゅうと煙を上げ、どろりととろけながら消えていく。
「まだまだいくじぇー!」
 目についた触手から次々と蹴りを放っては、それに追撃を仕掛けていくロベルタ。周囲の触手塊には、嵐の火薬玉や麻痺効果のある癇癪玉が炸裂する。動きの止まった触手はロベルタの良い的だ。蹴りの連撃を受けて、大ぶりな触手塊がじゅうと液状化して消えた。
「そりゃそりゃそりゃあああああ!!!」
「“鳴り響け”……!」
 ロベルタの打ち漏らした敵を墨が斬り捨ててゆく。一度刀を鞘に戻してからの高速の抜刀術。ばらばらに断ち切られた触手塊たちがその場でじゅうじゅうと煙を上げていく。
「こいつは、すげぇな……!」
 ロベルタの蹴術と墨の剣技に内心拍手を送る嵐、と、その視界の隅で、一際大きな触手塊が体をぶるぶると震わせるのが見えた。悪寒が背筋を走り抜ける。自然、嵐の口から叫び声が飛び出していた。
「――避けろっ!!」
 触手塊がその体のすべてを――己の体を構成する触手の一本一本を、ウニのように尖らせて最前線にしたロベルタを狙う。墨は小柄な彼女の体を抱え、攻撃射程圏外へと飛び退く。
「ぐ、うぅぅっ……!」
「にーちゃん!」
 ロベルタを庇おうとして、咄嗟に前に出た嵐の肩が鋭利な触手に突き刺され、貫通していた。突き刺さったそれの根本から墨が斬り落とせば、液状化して煙を上げて消える。
「痛っ……てぇ~~~……!」
「にーちゃん、なんで、僕なんか庇って!!」
「はは、つい体が動いちまったんだよな……くっそ、かっこ悪りぃな、俺……!」
「そんな、そんなことないんだじぇ……」
「大丈夫だ、まだ……まだ治せるからさ、俺のことは気にしないで、戦ってくれよ」
「うん、うん。わかった、わかったから……!」
 人魚の歌が高らかに響く。すっと痛みが消え、傷が消えていくのを嵐は感じる。
その視界の中で、二人の少女が触手塊へと向かっていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
アドリブ歓迎
傷無

回復できるほどの傷で済んだのはさっきの同業者が突入前に力をくれたのと
負傷を顧みず攻撃するよう言ってくれたからだよね
…あとでお礼言わなきゃな

こいつら、斬ってもまだ動きそうな形だ
なら塗り潰そう
UC解放・夜陰を発動、水晶を撃ち込んでそこから増殖、飲み込ませていく
俺自身も休んでいる余裕はない、黒剣で触手を斬る

触手に貫かれても痛みを感じない
【激痛耐性】のおかげか、戦闘に必死で感じてる余裕もないのか
でも消耗はしているだろうから攻撃は可能な限り避けたい
魔力を高めて【オーラ防御】でしのぎ、弾いた攻撃を【見切】って躱す

大きな負傷時には呪われた武器が体の支配権を寄越せと囁く
お断りだよ
俺はまだ戦える



●蠢く闇を押し留めて
 サンディが負った傷は、彼自身の迅速な手当によって消えていた。或いは先程聞こえてきた、高らかな癒しの歌が力をくれたのかもしれない、それに。
(さっきの彼が突入前に力を分けてくれたこと。それから自分の負傷を顧みずに攻撃するよう言ってくれたからだよね……)
 ――あとで、お礼言わなきゃな。
「そのためには……今目の前にいるお前らを、斃さないと、だね……」
 サンディはきっと前を見据える。ぞろりと並んでいるのは大型の触手から放たれた、小さな触手の群れ。一つ一つは小さいが、いくつもいくつもが蠢き、通路をみっちりと塞いでいた。
(斬っても、まだ動きそうな形状だな――なら、“塗り潰す”か)
 サンディの心の奥の奥、厳重に蓋をして鍵をかけた奥底で、封じられた悪意がどろりと渦を巻く。渇望する悪意が彼に力を与える。滴り落ちるような闇が凝り、漆黒の水晶となる。その数四百を超える鋭利な水晶が、次から次から触手の群れに雨のように降り注ぎ、小さなものはそれに掠っただけで一瞬で蒸発していった。
サンディ自身も暗夜の剣を手に。次々と触手の群れを斬り伏せていく。その二段重ねの攻撃を免れた大振りな触手がその先端を槍のように尖らせ、長く伸ばしてサンディの脇腹を貫いた。
「――っ、」
 衝撃は感じる。だが、痛みは感じない。施しておいた痛みを和らげる呪いのおかげか、それとも痛覚がまともに働いていないのか。どちらにせよ、これ以上の消耗は避けたいところだった。暗夜の剣を振るえば触手の槍は断たれ、どろりと液体化して煙を上げながら消滅する。紫色の液体とともに、脇腹から流れた血がぼとぼとと床に落ちた。
サンディは自身の中に流れる魔力を高める。防護膜が彼の体を包み込むように張られる。再び振るわれた触手の紫色の槍は躱され、ざくりと斬り落とされた。
「……っげほっ、げほ、ごほっ……」
 脇腹を抉られたそのダメージからか、咳き込むと同時に手の甲に赤い血が零れた。まだ床に滴り落ちる血は赤く、大事な内臓は傷ついていないとわかる。けれども己の血を目にして、腹の奥底に錠をかけたはずの大きな闇が蠢く。呪われた武器が、この体の支配権を寄越せとサンディに囁く。そうすれば、ひとところのうちにこのような尖兵ども、塵に返してくれる……そんな甘言で。
「……お断りだよ」
 痛みはなくとも。失血のせいで時々意識が霞みそうになる。それでも、駄目だ。嫌だ。渡しはしない。
「俺はまだ――戦える」
 はっきりと拒絶の言葉を口にして、サンディは目の前に広がる触手の群れを睨み据え、暗夜の剣を握りしめるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】
(研ぎ澄ますは野鳥の第六感。進路の奥から感じるのは何やらうねうねした気配がいっぱい)
……なんか、数も、気配も、うじゃうじゃしてる

女の勘、当たった
(ちらりと源次を見上げ)
……勿論。いける

(腰の辺りから皮膚を突き破って生えてくるのは黒い翼と長い尾羽。実のところ、見てくれ通りの翼ではなくグールドライバーとしての『捕食器官』)
(近い触手はブレードと化した翼で叩き斬り、少し離れた奴は鞭のように伸ばした尾羽で強かに殴る)

燃え残り、片付ける。任せて
(翼を大きく広げ、猛禽類じみて輝く金色の目は一瞬だけ捕食者の目付きに。降り注ぐのは黒い羽根のオールレンジガトリング)
だいじょーぶ、食べてない

……たぶんね


叢雲・源次
【煉鴉】
(グウェンドリンと共に建物内を進む。インターセプターは【索敵】モード維持。敵性反応に対してマーカーし動きを監視しているものの…構内に対して敵性動体反応が多すぎる。視界の端に映るコンソールめいたレーダーマップは赤い点で埋め尽くされようとしていた)
「…よもや此処まで増えるとはな…グウェンドリン、対集団戦闘用意。先程とは勝手が違うが、いけるか?」

(返答に対して小さく頷き)
ならば、良し。行くとしよう。

(触手の群れに対し刀は抜かず。日常でそうしている足取りで歩みを進め…一歩立ち止まる。右義眼から蒼炎が溢れ周囲に展開、近付く物を焼き尽くさんと嵐の如く荒れ狂う)
…狙いをつける必要が無いのは楽でいい。



●黒翼×蒼焔
 グウェンドリンと源次は警戒を緩めぬままに建物内部を歩んでいた。
――どこからか、高らかな歌が聞こえてくる。その歌を美しいと思えば、グウェンドリンの肩に開いた傷口が塞がっていった。誰か別の場所で、猟兵が負傷回復のユーベルコードを使ったのであろうと察することが出来る。
 痛みが安らぐのを感じながらも、グウェンドリンは野鳥の如き感覚を張り巡らせる。これから向かわんとする通路の先に感じるのは、うねうねとうねる異形の気配。
「……なんか、数も、気配も、うじゃうじゃしてる」
「ああ。こちらの索敵にも、しっかりと引っかかっている。覆い隠せるほど知性の高い存在ではないようだ」
 源次の視界の端に映るコンソールめいたレーダーマップは、敵性動体反応を示す赤い点で埋め尽くされている。建物の構内に対して、あまりにも多すぎる数だ。
 角を曲がれば、紫色の触手塊の群れが蠢きひしめいているのがわかる。
「女の勘、当たった」
 ちらりと源次を見上げるグウェンドリン。両者の視線が一瞬交差する。
「……よもや此処まで増えるとはな……グウェンドリン、対集団戦闘用意。先程とは勝手が違うが、いけるか?」
「……勿論。いける」
 ぽつりと答える女に、男は小さく頷いて。
「ならば、良し。行くとしよう」
 グウェンドリンの腰部から、皮膚を突き破って黒い翼と長い尾羽根が生えてくる。それは見てくれ通りの器官ではなく――実のところ、グールドライバーとしての捕食器官だ。
近くにあった触手をブレードと化した翼で叩き斬る。斬られた部位は紫色の液体とかしてぐじゅりと溶け、しゅうと煙を上げて消滅した。遠間から、槍のように先端の尖った触手が鞭のように撓って襲い来る。それを翼のブレードで切断すると、同じく鞭のように伸ばした尾羽根でもって強かに殴りつけた。
 源次はグウェンドリンに背を向ける。その視界の先にもまた、押し寄せてくる大量の触手塊の群れの姿があったからだ。腰に下げた刀を抜くことはなく、ただ、日常の延長線のように一歩、二歩……敵の姿など見えていないかのように悠々と足を進めて。そのまま一歩、立ち止まる。途端、彼の赤い右の義眼から溢れ出すのは蒼い炎。ぼうっ、と酸素を燃焼させる音がして、そのまま蒼炎は彼の周囲に展開する。
「……狙いをつける必要がないのは、楽でいい」
 蒼い炎は荒れ狂い、天井まで噴き上がってそのまま押し寄せてくる触手塊の群れに対して向かってゆく。源次に近づくものを悉く焼き尽くさんと、嵐のごとく荒れ狂い、その炎に炙られた触手塊は真夏の氷菓子のようにどろどろと、紫色の液体を流しながら溶け、それもまた炎に炙られて蒸発していく。
それでも尚、煉獄の炎に耐え残った触手塊がわずかにうねりながら向かってくる。グウェンドリンは黒い翼を羽ばたかせながら、源次に言った。
「燃え残り、片付ける。任せて」
「……ああ。任せた」
 二人の間には短い言葉の遣り取りで十分だった。
腰の翼を大きく広げる。グウェンドリンの、その金色の目が猛禽類じみて輝き、刹那捕食者の目つきに変わり――そして降り注ぐは、翼から放たれた黒い羽根のオールレンジガトリング。
触手塊たちは蒼い炎に焼かれ、それを乗り越えたモノも黒い羽根の雨に降られ、貫かれ斬り裂かれて紫の液体となって消えていく。
「……グウェンドリン?」
「だいじょーぶ、食べてない……たぶんね」
 やがて、源次の視界端のモニターに映る赤い点が一つ残らず消滅すると同時に。
館内に満ちあふれていた筈の紫の触手塊たちは、すべて焼き尽くされ貫かれ斬られてその姿を消していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『封じられし妖刀の影』

POW   :    お前たちには、封印を解くための贄になってもらう
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【斬撃波で描き出した『人身供儀の魔法陣」】で包囲攻撃する。
SPD   :    ああ……もっと、血肉を!
自身に【命を喰らう妖刀の怨念】をまとい、高速移動と【生命力吸収】【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    畏れ続けろ捧げ続けろ、この封印が解かれる日まで!
攻撃が命中した対象に【癒えることなく七代先まで遺伝する刀傷】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【技能名「生命力吸収」】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠田抜・ユウナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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『……ああ、なんだ』
『折角迎えに来たんだが』
『どうやら“もういない”らしい』
 その場に立っていたのはただ一人の少年だ。刀を一振り、無造作に抜身で手にしている。
それだけで――ただそれだけで――その場に居た全員が、立っていられない程の重圧を感じていた。
『仕方がないな』
『もういないというのなら、仕方がない』
『……お前たちを斬って』
『ついでに、外にいる奴らも一通り膾斬りにして――……』
『それなら、来た甲斐もあるってものか』
『そうしようか。それから、“帰る”としよう』
 一体どこへ帰るというのか――それはわからない。少年はただ誰に語りかけるでもなく述べ、それから猟兵たちに向かって刀を向けた。
 猟兵たちはみな、連戦に消耗した体に鞭打って身構える。
彼は、ここで倒さなければならない。
そうでなければ、はじめにグリモア猟兵の行ったとおり、この住宅街が。あるいは、この都市が地図上から消えかねない存在だと、ひしひしと感じることができた。
最後の戦いが始まる。
……どうか、武運を。
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第三章 『封じられし妖刀の影』が現れました。

 第三章はボス戦となっております。
引き続き、封鎖作戦中の医療機関内部が戦場となります。

■戦場について■
・天井が高いため、空中戦を行うことが可能です。
・種族由来のサイズ差に有利不利は発生しません。
・戦闘を邪魔するものは何もありませんが、逆に利用できそうなものも何一つ残っておりません。

 第一章、第二章に引き続き、休憩なしの連戦となっております。
ただし、猟兵の一人が広範囲に作用する治癒のユーベルコードを使用したため、第一章第二章にて負った傷を回復することに成功しました。
この回復は第一章及び第二章に登場した猟兵全員に作用したものとして扱います。
よって、全快またはそれに近い状態で第三章の敵に挑むことが可能です。
※一部の負傷を残しておきたいという方がいらっしゃいました場合、プレイング冒頭に「傷有」と記入下さい。回復自体は行われたものの全快には至らなかったとして扱います。
この負傷は判定に作用するものではありません。

また、この第三章に置いても引き続き、成功度合いに関わらずアドリブの範囲内で負傷する可能性がございます。負傷度合いは第一章/第二章よりやや深いものとなります。
※怪我したくないという方はそのように書いていただければそのように致します。

マスターページにも追記いたしましたが、当シナリオは「ひどい目に会いたい方向けシナリオ」ではありません。どうかお間違い、勘違いなさらないようお願いいたします。

第三章のプレイング受付開始は10/22(木)8:31~となります。

それでは、全力の闘いを。
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サンディ・ノックス
重圧の発信源、本体は刀…かな

攻撃回数を重視して『解放・宵』を発動
魔力を高めて【オーラ防御】を行いつつ【ダッシュ】で敵に接近
敵の攻撃は可能な限り【見切】って最小限の動きで回避しながら、暗夜の剣の射程圏内直前で【フェイント】、横に進路を逸らし体勢も下げ、敵の横側低位置から全身のバネを使い全力で斬る
狙いは男の腕、刀を僅かでも使いづらくさせたい
その後はUCで攻めたてて刀を防御に使わせ同業者への攻撃を抑えたい

…無事じゃ済まないだろうね
でも俺も、皆を癒してくれたヒトのようにこの場の誰かのためにできることをしたくなった
こんなこと考えるのははじめてだよ
戦う事しかできない俺の借りの返しが誰かの役に立ちますように


鏡島・嵐
負傷の状態:かすり傷少々

皆ある程度は持ち直したと思うけど、それでも真打相手にどこまでやれるかはわかんねえ。
今までより深いケガする可能性もあるし、ある程度はしょうがねえけど。
やっぱ戦って傷つくってのは怖ぇし、慣れられねえや。
それでも……いや、だからこそ、生きて還らねえとな。

クゥを呼び出して〈騎乗〉しつつ、〈スナイパー〉ばりの精度で射撃攻撃を試みる。
仲間が近くに居るんなら〈援護射撃〉でサポートをしたり、逆に敵の攻撃を〈武器落とし〉や〈目潰し〉〈マヒ攻撃〉で妨害したりを中心に。
それでも防ぎきれねえ攻撃は〈第六感〉を活かして〈見切る〉なり、〈オーラ防御〉で耐えるなりして、戦闘続行に支障が無ぇように。



●闇の淵から引き上げて、涅槃へ続く蜘蛛の糸
 現れた少年がただそこにいるだけで、足を踏ん張らなければ立っていられないような心地に陥る。
びりびりと手が震える。腹を貫いた傷はもう殆ど治って、かすり傷程度にしか残っていない。これなら十分に戦える。けれども嵐の足は、気を抜けば笑い出してしまいそうだった。
 自身のユーベルコードの力で、ここに居る皆がある程度は持ち直しているようだったけれど、それでも現れたこの真打ち相手に、どこまで通用するかわからない。
今までよりももっと深い傷を負う可能性も十分にある。ある程度は仕方がないと割り切っていても――。
(ああ、ちくしょう……やっぱり怖いな、怖い、怖い、怖い)
 戦って傷つくのは怖い。何度直面しても、慣れられない。
(それでも……いや、だからこそ)
 嵐は震える手を握り込む。爪を立てても、その震えをおさめようとする。
(生きて、還らねえとな――……!)

(この重圧の発信源……“彼”の本体は、手にしている刀の方か)
 サンディは冷静に解析する。彼の読みはほぼ正答に近かった。故に、狙うべき「箇所」も正しく把握することが可能となる。
「“さぁ”“宴の時間だよ”――」
 静かに呟けば。魂が闇の奥底に引きずり込まれるような感覚とともに、けれどもその奥底から全身に力が漲ってくる。暗夜の剣を握る手に力が籠もる、高まった魔力によって全身に防護壁を張り、サンディは少年へと向かって床を蹴った。
『……来るか』
 少年の手にする刃に暗澹たる闇が纏わりつく。少年の姿がブレる。瞬きの後には、彼はサンディの目の前で刃を振るっていた。紙一重で避けた先に、緻密に描き出された斬撃波による魔法陣が迫る。
『斬り刻まれろ。そして、その血を俺に捧げるといい』
「……だっ、れが……!!」
 全身を掻き毟るように斬り裂く魔法陣の中から転がり出るように抜け出す。サンディから流れ落ちた血の赤い飛沫が細かく床に散った。そのまま真っ直ぐ少年に突っ込む――ように見せかけて、横に進路を逸らす。体勢を下げ、回り込んで、全身のバネを使い全力で斬りつけるは少年の――刃を握るその腕。
(刀を僅かでも扱い難くさせる……!!)
 斬り込む暗夜の剣を、しかし少年はサンディの考えを読んでいたかのようにくるりと体を回転させてその刃で防ごうとして――その眼前で、火薬玉が立て続けに爆ぜた。衝撃でぶれる少年の腕に、暗夜の剣が食い込む。
「はっ……全弾、命中だ、この野郎っ……!」
 サンディの後ろでは、呼び出した炎を纏う金色の獅子に跨る嵐がスリングショットを構えていた。
(足が震えて動かないくらいがなんだ……そんなら、誰かに支えて貰えばいい。クゥ、頼んだぜ)
 嵐の思いを汲んだかのように、獅子が高らかに咆哮する。
「きみは」
「よう、さっきぶり。見ての通り援護しかできねーけど……力になるぜ」
「まさか。さっきの歌声、傷が治ったのは、君の力だろう?」
「歌声って、なんで、気づいて」
「やっぱり。そうだと思ったんだ……さっき、僕に力を施してくれたように、君だったらもしかしたら、ってね」
「そっか。じゃあ、アンタも怪我、治ったんだな。……良かった」
(それを良かったと喜べる、その心が)
 サンディの背中を押し、脚を前へと進ませるのだ。
暗夜の剣を手に、再び少年へと駆け出していく。サンディの姿を認めた少年の体が再びぶれて、気づいたときにはより近くにいる。高速で移動している――そう理解できても、それを止める術も、発動のタイミングも読めない。
『二人纏めて斬ってやる――血肉を捧げろ』
「「お断りだ!!」」
 嵐とサンディの声が重なった。
衝撃波に胸を大きく斬り裂かれながらも、サンディは突っ込む。暗夜の剣による無数の太刀筋が、少年の刃を抑え込む。後ろで狙撃に集中する嵐には、未だ少年の刀は届いていない。そして、それこそがサンディの狙いでもあった。
(……こんな戦い方、無事じゃ済まないのはわかってるけど……)
 それでも、あの歌声を聞いたとき。自身だけで処置しようとしていた傷が、歌声によって癒やされるのがわかった時。自分も、と思ったのだ。
(この場の誰かのために、できることをしたくなった)
 それが、歌声を齎してくれたその張本人が後ろにいるのであれば、尚更だ。
(こんな事を考えるのは、はじめてだよ)
 昏い魂を身に宿したあの日からずっと、自分には戦うことしかできないと思っていた。いつかそうして戦い抜いて、闇に落ちる運命なのだろうと。だから、はじめてだ。
(戦うことしかできない俺でも、借りを返して――それが、誰かの役に立つのなら)
 後ろにいる彼を、護ることができるのなら!
傷つくことを厭わないサンディの猛攻に、少年はやり難さを覚えたかのように剣筋を鈍らせる。それを見逃す嵐でも、サンディでもない。嵐のスリングショットから放たれた、麻痺の効果を込めた火薬玉が炸裂する。サンディに刃を振り下ろそうとしていた、そのがら空きの胴体が一瞬凍りついたかのように晒された。
「……やっちまえ!」
「はぁああああああっ!!」
 にやりと嵐が無理矢理に頬を釣り上げて笑い、サンディが咆哮する。
振り上げられた暗夜の剣が少年の身体に突き刺さり、逆袈裟に斬り上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浅間・墨
ロベルタさん(f22361)と。
【地擦り一閃『伏雷』】を『兼元』で使用します。
限界突破と多重詠唱で斬撃の威力を底上げします。
鎧無視攻撃と鎧砕きと破魔の力を刀に籠めて一撃を。
ただただ無心に相手に一撃を入れることだけに集中です。
目を瞑り。全身の力を抜いて。全ての雑念を払って…。
身体への負担や交戦の音…血の匂いなど考えずに無心で。
自身の防御も考えずにただ一撃を相手に加えることのみ。
相手を捕捉してふわり羽毛が舞うように仕掛けます。
「…『伏雷』…霹靂、一点…」
一直線に駆けて相手をそのまま斬ります!

ぷぎゅ!(思い切り激突)
…痛い…壁のことすら忘れていました…。
あぅ、お気に入りの下駄がぼろぼろ…。あぅ…。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)と。
おー♪身体の痛みが消えてる。う。いけるじぇ!
オーラ防御と呪詛狂気耐性をしっかりして準備OK。
墨ねーの精神統一中に僕のできることしておくよ。
破魔と鎧防御無視と鎧砕き付きの【錠前】~♪

最初の蹴りが完全に受け止められても問題ない!
受けられた状態から素早く身体を捻って二回攻撃だじぇ。
早業と零距離射撃の【錠前】蹴りを相手に喰らわせるよ。
呪詛とかの影響あるから攻撃したらすぐに相手から離れる。
他の人との連携も可だよ。

今回。墨ねーの攻撃の時は下手に連携とかしないよ。
だって…僕の目で追えなくて暇なんてないと思うし。
すっごい音した!?…墨ねー壁に倒れてる!
フォローに入らないと!ダッシュ!



●たとえ底/其処にも花は舞う、紅く
「おー♪」
 体の痛みが消えていることを確認して、ロベルタは墨を見上げる。
「う。いけるじぇ!」
「……は、……お……い、……ます……」
 ――では、仔細お願いします。
小さな小さな墨の声が、ロベルタの耳朶を打つ。
その剣を「国綱」から「兼元」に持ち替えた墨は、長い前髪の下から覗く目を見開き、自らの剣技を高めることに集中している。その精神統一の最中に、できる限りのことをしておく……それが、此度のロベルタの役割だ。
自らの周囲に防護膜を張り巡らせ、ロベルタは少年へと駆け出す。
「――“Schiaccia e apri!”」
 一度目の蹴りは刃の背によって弾かれ受けられる。しかし、それは織り込み済み。
身を捻り、翻し、フィギュアスケートのようにくるりと一回転して、ロベルタは少年の背へと二回目の蹴りを食らわせる。少年は弾くのをやめ、刃をまっすぐに突き出してきた。
「おっと、あっぶないあぶないっ」
 バックステップで避け、更に距離を取るロベルタ。少年からは先程のようには呪詛の淀みは感じないが、それでも用心して近寄らないに限る。
『……鬱陶しい。小蝿は叩き潰しておくに限るな』
「う、失礼なんだじぇー」
 少年が顔を歪ませる。それに口先で返し、ロベルタは強気に笑んでみせる。墨の用意は、まだ整っていない。ならば、自分の役目はまだまだ終わっていない!動けない墨を標的にさせないように、自分が全力で動き回るまで!
 少年がとん、と床を蹴った。その一瞬で、十分にとった間合いを一気に詰められる。躱そうと捻った身体、その顔のすぐ横から、少年の声がロベルタの耳に這入りこんでくる。
『見抜けないと思ったか。お前、あの女を庇っているだろう』
 少年の刃は墨に向かう。墨に動く気配はない。墨が使う剣技は時間をかけなければならないものだと予め聞かされている。だからこそ、ロベルタは更に床を蹴って、墨の前に――少年の振るう刃の前に飛び出した。
「っ、うあああっ!!」
 ロベルタのドレスが切り裂かれ、傷口が黒く、痣の様な紋様が刻まれる。それは七代続くとされる呪いの刻印。勿論この場の誰も、七代などという途方も無い時間を駆けるつもりはない。しかし傷は傷で、そしてこの傷は癒えない。血は自然に凝固することなく、流れ続ける。
「うう……っくうううぅぅぅ……!!」
 傷が疼き続ける。鋭い痛みが続く。傷口から、力を吸い取られていると感じる。それでも駄目だ、まだ立ち上がらなければ。がくがくと膝が笑い、震え、力が入らない。床に座り込んでしまいそうになる。駄目だ。まだ――
 少年の刃の切っ先が、ロベルタの首にぴたりと当てられる。

 墨は暗闇の中に居た。物理的な闇ではない、ただ墨自身が目を閉じているに過ぎない。
全身の力を抜き、全ての雑念を払う。最後に現れた強敵を前にして、それは危ういほどに無防備だった。けれど墨はロベルタを信頼している。自分が動けない間、彼女が上手く立ち回ってくれると誰よりも信じている。だからこそ、外界と自らの五感を切り離して集中することに専念する。
 幾度も幾度も繰り返し気を練り、技の精度を高める、自らの身体の限界を無視し、身体のどこかの脆い血管が切れた音すら聞こえてくる。それすらも遮断、遮断、遮断。
 そうして目を開けた先には――地に伏せ、血に塗れ、首にぴったりと刃を当てられたロベルタの姿があった。呻き声を上げる彼女の目はまだ死んではいない。何も、何一つ、諦めていない。少年が刃を振り上げる。あとは振り下ろし、その細い頸を切り落とすのみ――誰の? ロベルタ・ヴェルディアナの。
 墨は下駄をカランと鳴らし、床を蹴った。――すべての準備は、整った!
「……『伏雷』……霹靂、」
 ふわりと羽毛が舞うように墨の体が舞い、
「一点……!」
 雷を纏った兼元の一撃が、少年の胴へと叩き込まれる。
墨の勢いは止まらない。そのままざざ、と下駄が壊れながら床を滑り――
「ぷぎゅ!」
「す、墨ねー!」
 集中のあまりに空間の広さすら忘れていた墨が、壁へと激突する。くるくると目を回す墨に、ロベルタが駆け寄る。
「あ、あぅぅ……」
 その背後で、ゆらり、立ち上がる影がある。少年は刃を未だ手にしたまま、それを天高く振り翳す……!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

子犬丸・陽菜
「傷有」

治療ありがとう、なんとか動けるまでに回復できたよ
切腹まがいなことしちゃったからね…あのままだと腹圧でひどいことになってた
とはいえ腹の中までは治らないか…

威圧感をひしひしと伝わるよ

けれどどこか虚無な部分を感じるのは気の所為?
命に対する考え方の違いかな

あまり使わないけど今回は覚醒するよ、瞳が赤く染まる
傷が痛むけど死ぬよりは、ね

宝珠で傷ついた内臓をかき回す、手にした刃に相手と同じくらいオーラがまとうくらい激しく

相手の痛みを知ってこそあたしはあたしでいられる
何も感じず命をモノとしか考えないあなたには負けられない

相打ち覚悟で剣を振るうよ

今更怪我しても気にしない、はらわたぶちまけてでも止めてみせる



●カクゴ
「はっ、は、はぁ……」
 先程聞こえてきた歌声のおかげで、なんとか動けるまでに回復している。腹の傷も、何とか傷口自体は塞がっていた。切腹まがいに自分の腹を斬り裂いたのだ、そのままだったらどうなっていた事か。
 とはいえ、自ら掻き回し、さらに敵に食い込まれた腹の中までは無事とはいい難い。戦いのたびに覚える腹部の違和感からくる吐き気を懸命に堪えながら、陽菜は眼前に迫った脅威に剣を構える。
無造作に刀を掴む少年からひしひしと伝わってくるのは、凄まじいまでの威圧感。けれど――。
(どこか、虚無な部分を感じるのは、あたしの気の所為? ……命に対する考え方の違いかな)
 どれだけ人にしか見えない姿をしていても、相手はUDCの怪物だ。それこそUDC-Pでもない限りは、その精神構造はニンゲンとは全く異なっている事が多いだろう。
少年の赤い目が陽菜を捕らえた。手にした刃が振るわれる、陽菜には届かない距離、けれど斬撃は波を生む。複雑に緻密に織り上げられたように描かれた幾何学模様の魔法陣、その全てが触れたもの全てを傷つける斬撃波。陣の内側に取り込まれた破壊されたガラスが砕け散り、拉げ、バラバラに分割されながら崩れていくのを陽菜は見た。
 陽菜は自らの力を解放する。【血統覚醒】――自らの血管の内側に脈々と流れる吸血鬼の血を引き出して、黒かった瞳が血の紅に染め上げられる。
体内に埋め込まれた宝珠が陽菜の臓腑をぐちゃぐちゃと掻き回す、傷ついたままのそれは塞がった傷の内側で血を流し、皮膚の表面に青黒い痣のように浮かび上がる。そうすればそうするほど手にした刃は斬れ味を増し――少年が持つ刃がそうであるのと同じ様に、けれど内在するものは全く異なる、霧と化した血のようなオーラが陽菜の剣に纏わりつく。
 ヴァンパイアの膂力を以て床を蹴り、壁を蹴り、全てを斬り裂く斬撃波の魔法陣に圧し潰される事態を避けると、まだ斬撃の波が残っている中を陽菜は少年へと向かって駆けた。
がきん、鍛え上げられた鉄同士がぶつかる音がする。振り下ろした刃は弾かれ、返す刀が肩を斬り裂いた。
「うぅっぐ……ぁあ……!」
 それでも奥歯を軋むほど噛み締めて、陽菜は再び刃を突き出す。少年はそれを刃で受けた。刃同士が軋り合い、火花が散る。
『自らを虐めて力を得るとは、余程いい趣味を持っているようだ。解せんな』
「うるさい……ってーの……!相手の痛みを知ってこそ、あたしはあたしでいられる……!あなたみたいに、何も感じない……命をモノとしか考えない、あなたには負けられない……っ!」
 力を増した陽菜の刃を少年はいなし、そして手の中の刃が閃く。半歩後ろに下がったのは直感だった。刃が薙がれ、胸元を切り裂かれる。下がっていなければ、胸部を両断されていただろう。
「っああああッ!!」
『何も感じない訳じゃあないさ。血は俺の力になる。お前たちを斬ればそれは僅かなりとも力を増すということだ。そこに喜びくらいは感じるとも。モノは血を流さないからな』
 陽菜はごほりと血を吐く。一度、二度逆流してきた血の塊を吐いて、それから唇を強引に手の甲で拭う。
「やっぱり、あなたなんかには負けられない……!」
 振るわれた刃を体勢を低くして避け、突進し少年を貫く。陽菜と同じ赤い色の血が少年の体からも飛沫いた。ぱちぱちと瞬きをして、少年が愉快そうに笑う。
(相打ちになっても、ここで止めてみせる……!)
 たとえハラワタをぶちまけてでも構うものか。
歯を食いしばり、紅に塗れながら、陽菜は再び刃を構えて少年へ向かって床を蹴る――。

成功 🔵​🔵​🔴​

空桐・清導
SPDで挑みます
怪我は回復したことにします。

回復してくれた人にお礼を言って立ち上がる。
あの少女を迎えに来たのかと聞く。
2度とこんなことが起きないよう、ヒントがありゃいんだけど。

高速移動する少年を[誘導弾]の[一斉掃射]で牽制。
ダメージは[オーラ防御]で軽減。
くそ痛え…。けど、[覚悟]のうえだ!
生命力を吸われるたびに訪れる喪失感は[気合い]で埋める!
倒れるわけにはいかねえ!もう誰も死なせねえ!

間合いに入った邪神に一歩踏み込む。
ずっと[力溜め]していた炎を右腕に収束、UC発動。
ボロボロだ、体が動かねえ?
だったら、[限界突破]するまでだ!
剣で防ごうが[怪力]で押し込み、[勇気]を込めた拳を叩き込む!



●束ねて放つは、燃える炎の証明
 腹の痛みが消えていた。破壊された装甲はそのままだけれど、貫かれていたはずの腹の傷、そして背中に抜けた傷も綺麗にに塞がっている。異形に掴まれて軋んでいた体の痛みも引いている――誰のものかはわからないけれど、それは先程建物の中に響き渡った歌声のおかげで、この場にいる猟兵のユーベルコードなのだろうと清導にはわかった。
「ありがとうな……おかげで、楽に戦えそうだぜ」
 黄金の獅子に跨った青年がその言葉に反応したのが見えた。きっと彼のおかげなのだろうと清導は思って、もう一度「ありがとな」と繰り返し、そして立ち上がる。
清導は少年へと向き直った。
「……アンタは、あの少女を迎えに来たのか?」
『そうだ。もういないようだがな……お前たちの仕業だろう?』
「……そうだ。なんで、アンタはそんな事をしてるんだ。アンタに何かの得でもあるのかよ?」
 清導の問いに、少年は押し黙り、そしてややあって、ぽつりと口を開いた。
『……――至る――いずれ星辰揃いし時に――大いなる――……』
「…………?」
『――いいや。どうせ俺の推測だ。それに、ここで死ぬお前たちが知る必要はないことだったな……だから、これは――俺が勝手にやっていることなんだろうよ』
 そこまで言うと、少年の姿が清導の目の前でぶれた。一瞬の後、目の前に光る刃に大きく飛び退けば、それまで清導の頭のあった位置を刃が薙いでいく。そのままであったなら、今頃頭蓋を両断されて脳漿を撒き散らしていただろう。背筋に寒いものが走る。
 清導は腕部のブレード、ブレイジング・レザーを振るう。鞭のように撓らせ、残像を残しながら高速移動を繰り返す少年の動きを牽制していく。ブレードが弾かれ、少年の刃が持ち上がる。襲い来るのは、それそのものが刃と同じ斬れ味を持つ衝撃波。
体に纏っていた炎のオーラによる防護膜が斬撃による創傷を打ち消す、しかし衝撃は殆ど減らせない。強かに鉄の棒で殴られたのと同じ激痛が清導の胴体に幾度も幾度も、連続して走る。
「く……ぐぅっ、がッ……!」
 痛みを覚悟で凌駕する。よろめきながらも立ち続ける清導を、再び刃が襲う。咄嗟にブレイジングレザーで弾き、急所への攻撃は防げたが、肩部の装甲が破壊され、刃が肩の付け根に食い込んだ。続き、生命の存在する力そのものを奪われるような激しい喪失感、立っていられなくなるほどの虚脱感が襲う。
「ぎ……ぃぃぃっ……!」
 床に血をぼたぼたと溢しながら、それでも清導は倒れない。倒れるわけには行かない。
(くっそ、痛え……っけど……!)
 無傷ですまないことなど覚悟の上でここにきた。激闘になるだろうとわかっていてここに来た!いいや、今までのどの戦いだって、楽勝で終わらせられるなんて慢心して挑んだつもりなんて微塵もない!!だから……これは、今までと同じだ。戦って勝つ、そのために、清導はこの場所に来たのだから!
(もう、これ以上……誰も――誰一人だって死なせねえッ!!)
 突き出された少年の刃を首をひねって躱し、一歩踏み込んだ。
腕部装甲ブレイヴ・ガントレットから、溜め込み続けてきた炎を右腕に宿す。
「くぅ……ぐ……っ」
(体が――動かねえ……!)
 全身に激痛が走る。倦怠感で体が重い。倒れまいと踏ん張り続けた気力を持ってしても、右腕を持ち上げることができない。
清導は唇を噛み締め、そして噛みちぎる。赤い血の筋が一筋顎を流れて。ぶちぶちと末端の脆い血管が千切れていく音が耳の奥で聞こえた。全身の血流を、全身の力を右腕一本に集め、その拳を目の前の少年へと叩き込む。突き立てられた刃が拳に食い込もうと、知ったことか!!
炎を纏った拳が少年の左頬を強かに殴りつけた。骨が拉げる音がして、少年は強か吹き飛ばされる。
「どう……だ……!」
 ぷつり、少年が唇から血の塊を床に吐き出す。同時に歯の二三本が床へと転がった。
少年が笑うのが見えた。清導を好敵手と認めたような、そんな笑みだった。再び少年の姿がブレる。高速移動で突っ込んでくる刃に、清導は再び燃える拳で立ち向かう――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

叢雲・源次
【煉鴉】
グウェンドリン、お前が研鑽を積んで来た証明を示すにはアレぐらいが丁度良い。斬ってみせろ、ヒトたる者の剣でな。
(先んじるグウェンドリンの背を、そして敵の動きを注視する。それから遅れて、一歩、また一歩踏み出す。アナライザーとインターセプターで描かれる魔法陣の『合間』をゆっくりと着実に見切りながら歩を進め、それから一気に眼にもとまらぬ早業で間合いを詰める。『左手』で手にかけるは対神打刀の柄。逆手抜きの抜刀にてUDCの身を斬らんとする)

人を模したUDCは珍しくも無いが…ヒト由来の剣と技を模倣するとはな。
……『笑わせる』
(表情は一切変わらず、淡々と、斬ったそれを一瞥し)


グウェンドリン・グレンジャー
【煉鴉】
……貴方が、邪神なのか、刀が、妖刀……なのか。どっちでも、いい
両方、斬るだけ、だから

(源次の言葉に小さく頷き)
……分かった。やる

(鈴鹿御前を抜き放ち、構える。三匹の蝶がグウェンドリンの周囲を舞い飛ぶ。Butterfly kissで強化するのは攻撃力)
……命、喰らったり、呪い、かけないと、いけない、なんて……ホントは、自信、ないの?
本当に、強かった……ら、そんなこと、しなくて、いいじゃない

(切っ先を向け、研ぎ澄ます第六感。飛び込むように距離を詰め、妖刀を握る手、あるいは腕や肩を狙って斬りかかる)
……取った。

(少年の手から離れた妖刀を一瞥し、踏み付ける)
結構、脆いんだね



●無明長夜に揚羽のくちづけ
 少年が刃を振るう。無造作に見えるその太刀筋は強く、斬撃による衝撃波が生まれ複雑にして緻密に、空間に織物を織り上げるように魔法陣の紋様が描かれる。その紋様一筋一筋が刃そのものに等しき鋭利な斬撃。触れた建設物の残骸がずたずたに斬られ、拉げ、砕ける。
 そのさまを前にして、グウェンドリンは少年をまっすぐに見てぽつり、言った。
「……貴方が、邪神なのか、刀が、妖刀……なのか」
『…………』
 少年は答えない。ただ赤い瞳でグウェンドリンを見返す。グウェンドリンもまた、少年の答えを望んではいない。
「どっちでも、いい。……両方、斬るだけ、だから」
「グウェンドリン――」
 源次が女の名を呼ばう。
「お前が研鑽を積んで来た証明を示すにはアレぐらいが丁度良い。斬ってみせろ、ヒトたる者の剣でな」
 まるで教師のごとく、けれどその声に温度なく、源次は冷淡にそう告げた。聞き分けのいい生徒のように、その声に小さく頷いて。
「……分かった。やる」
 「鈴鹿御前」を抜き放ち、グウェンドリンは構える。どこからか――否、彼女が宿すUDC細胞の超能力によって虚数物質で創られた、三匹の蝶々が彼女の周りを舞い遊ぶ。
「……命、喰らったり、呪い、かけないと、いけない、なんて……ホントは、自信、ないの?」
 かたちのよい唇を開いて、挑発のように問いかける。
「本当に、強かった……ら、そんなこと、しなくて、いいじゃない」
『さぁて、な。――確かにただ斬るだけなら容易いが』
 研ぎ澄ませる第六感。少年に鈴鹿御前の鋒を向け、飛び込むように距離を詰め、グウェンドリンは少年の刀を握る手を、そして腕を、肩を狙って次々と斬り込む。
きん、きん、きんきんきん――金属同士が打ち合わさる音が鳴る。グウェンドリンの斬撃を弾いて、少年は刃を振るった。一振り、それだけが見えただけなのに、グウェンドリンの刃を握る腕に三たび斬られた跡がつく。ぼたり、床に新たな赤い染みが出来た。
「――っ、ぅ……」
 骨に至る深さではない。まだ刃を握っていられる。
源次はその背中を、そして敵の動きを視ていた。それから遅れて一歩、踏み出す。源次へ向けて、少年が刃を振るう。再び描かれるのは斬撃波による魔法陣。
源次は眉一つ動かさぬまま、アナライザーとインターセプター、二重のデバイスで魔法陣の『合間』を見切り、ゆっくりと着実に歩を進めてゆく。けれど魔法陣は一筆書きでも迷路でもない、故に行き止まりが必ず発生する。故に源次は、そこから先を躊躇わなかった。
斬撃の波によって斬り裂かれるをそのままに床を蹴る。世界の時が止まったように、落ちていく拉げた破片をも止まるような一息の間に間合いを詰め、左手で手にかけるは対神打刀「灰ノ厄災」。逆手抜きの抜刀、鞘の電磁誘導にて刀身を高速射出された超超超高速の刃が、少年の胴を両断せんとする。
一度、二度、鉄がぶつかる音がした。振るわれた超高速の刃を刃でいなして、少年は源次の斬撃を避ける。その目がぱちぱちと瞬かれ、次の瞬間、その唇からごぼりと血の塊が溢れ出した。背中から突きこまれ、胸から生えていたのはグウェンドリンの――「鈴鹿御前」。
「……取った」
 少年の目が、背後のグウェンドリンへと注がれる。
「人を模したUDCは珍しくも無いが……ヒト由来の剣と技を模倣するとはな――『笑わせる』」
 裏腹に一切の笑みを零すことなく、返された源次の刃が少年の体をもう一度斬り伏せた。
『あ……っ?』
 まるで意味がわからないと言ったような。少年の唇から、そんな声が漏れた。膝が床につく。その手からからんと、刃が床に滑り落ちる。
 その刀を一瞥し、踏みつけ――グウェンドリンは一言、蝶々を遊ばせながら言った。
「結構、脆いんだね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宴・段三郎
我こそは妖刀刀鍛冶、宴段三郎地国。
妖刀、号と銘を名乗られい。

【行動】
見たところ、あの妖刀は憑依型かの。

あの妖刀は潰すに惜しい
故にやる事は一つ、おぶりびおん化を止めて一度ただの妖刀へと返す。そして新たな力を我が鍛治で与える。以上

使う妖刀は三振り
号『化生炉』
号『戎』
あと一振りはお任せじゃ

まずは妖刀殺しの戎で敵の妖刀を絡めとり、ガリガリと敵の妖刀に【生命力吸収】を行う。

攻撃に対しては【武器受け】で更に妖力を吸い尽くしたいのう。場合によっては【見切り】も使う。

良い感じに仕上がったら化生炉のUC、地国炉開闢で新たな妖刀へと変えるのじゃ。【衝撃波】を与えながら【二回攻撃】じゃ。



●鉄と炎、在るべき場所へ
『く……っ……まだ、まだだ……!』
 猟兵の猛攻を浴び続けた少年が、血を吐きながら立ち上がる。床を探り、刃を探し当て、震える手でそれを握り直す。            おれ
『まだだ。まだこの体は『使える』。まだ『俺』は、『己』は動ける――』
 少年の姿がぶれた。一番近くにいた猟兵――宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)へと、その刃が迫る。
『――その血を、寄越せ……!』
「否、限界じゃ。今から血肉を喰らおうとての……しかし、それでは惜しい」
 故に、わしが来た。
ふわり、段三郎が舞うように少年の刃を躱し、その刃を美麗なる刀で弾き返した。
「……我こそは妖刀刀鍛冶、宴段三郎地国。妖刀、号と銘とを名乗られい」
 剣呑な目が段三郎を睨めつける。
『号は“朧”。銘は国春、月山の――朧国春。号など大層なもの、ただ一度だけ呼ばれただけのことだがな』
「ふぅむ。よし。覚えた」
『それを聞いて、どうする気だ』
「うむ、なぁに……わしは刀鍛冶。故にやることは一つよ」
『……まさか、そんな事が、出来ると』
「できるとも」
 ぎらり、輝いた段三郎の目に、少年は奥歯を軋らせる。
『やらせる、ものか――!!』
 少年が姿を消す、否、流れる時間が変わったのだ。こちら側の世界には超高速としか見えない速度の世界から、衝撃波を伴う斬撃を繰り出してくる。
「やれやれ、その体でどうにもやんちゃよの」
 がきり、妖刀殺しの妖刀、その刀身についた釣針の返しが国春の刃を絡め取る。がりがり、がりがりと釣り針は軋み合うたびに国春の刀身を掻き抱くように動き、絡みつく。
「して、その人の身はどうした? 見た所只人のものであろう。殺して奪ったか……否、その身のこなし。才のあるもの。生きたまま奪ったか」
『黙れ、お前に、これ以上話すことは一言も無い……!!』
「ふふ。つれぬのう。まあよし、これからたんと躾けてやる」
 少年の動きが焦ったものへと変わる。段三郎の目論見に完全に気がついている。けれどそれから逃れるには、少年には――否、朧国春、そう名乗った妖刀には段三郎を殺すしか手段がない、故の猛攻、しかし攻めれば攻めるほど、力を奪い取られていくのは妖刀の方だ。ぺろり、段三郎が唇を舐めた。
『ああああああァァ!!』
「くく、愛いことよ、実に愛い」
 高速移動を繰り返す少年の動きに――段三郎が追いついた。否、両者は同じ速度で移動していた。段三郎の手には、大太刀「化生炉」が握られている。
「さて、そろそろよいかの――」
 【地国炉開闢】(ちのくにほどのかいびゃく)。化生炉の炎が吹き上がり、轟々と燃え盛り、妖刀を包み込む。
『う、あ、ああ、あああ……!!』
 少年の目が怯えに染まる。
互いに放たれる衝撃波。一度、二度、化生炉から眩しいほどの炎が噴き上がって、少年ごと妖刀を完全に覆い尽くした――。

 少年が倒れている。その手のひらの先から、さらさらと灰に変わって崩れていく。薄く開いたその目には、もはや光はなく。段三郎の手が、そっとその目を閉じさせた。
「わしは刀鍛冶ゆえ。おんしのほうには、これくらいのことしかしてやれぬでな。あいすまぬ」
 段三郎の手には、一振りの刀――それは先程までの少年の体を支配していた妖刀では既に無い。刀鍛冶たる段三郎の手で完全に新たな妖刀へと生まれ変わった――生まれ変わらされた、もうオブリビオンではない一振りの妖刀だ。
そして、妖刀が支配していた少年の体は主権を失い、されどもはや少年の自我はとうになく、オブリビオンであったその体は崩れていく。そう言う意味では、既に死んでいた体が今にしてようやく解放されたとも言える。
 この医療施設で生まれた災厄は既に無い。それを迎えに来たものは、尖兵も親玉も猟兵により滅ぼされ、絶たれた。

 ――ひとつの街を、都市を消し去ろうとしていた災厄は、こうして終わりを告げたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月27日


挿絵イラスト