10
梔子の庭園に絶望は潜む

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章 #番犬の紋章 #地底都市

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー
🔒
#辺境伯の紋章
🔒
#番犬の紋章
🔒
#地底都市


0





 ――そこは太陽はおろか、月や星の光さえ届かぬ、はるかな地の底。
 だが、地上でも滅多に見られないような、美しい希望の都市がある。

「領主さまだ!」
「ガーデニア様、本日もお美しい……!」

 綺麗に整備された町並みを彩るのはクチナシの花。そこに暮らす人々はみな健康的で清潔な身なりをしていて、飢えや貧しさに苦しむ者も、怪我や病に悩まされる者もいない。
 彼らが尊敬と敬慕の念を込めて見つめるのは、1人の女。白いクチナシの花をその身に咲かせ、長い黒髪をなびかせた儚げな印象の美女――彼女こそがこの都市の領主である。

「貴女様のおかげで、私達は今日も平和に暮らせています」
「どうかこれからも、闇の御加護がありますように……」

 感謝と敬服の言葉を口々に述べる領民に、女性はただ無言のまま優しげに微笑む。
 それだけで人々は陶然とした表情になり、この上ない幸福を感じることができる。
 当然だ。そうなるように、長い、長い年月をかけて、栽培を続けてきたのだから。

(わたしの『庭園(ガーデン)』。丁寧に、丹精込めて作り上げた大切な花畑)

 この都市にいる人々は、今日と同じ幸福な暮らしが、明日も続くと信じている。
 彼らの希望に満ちた瞳を見るたびに領主の心は踊る。収穫の時はもうじきだと。

(希望から絶望に堕ちた彼らの感情は、どんなに甘美なものかしら――)

 女の口元に狂気に満ちた笑みが浮かび、胸元に宿った「番犬の紋章」が輝く。
 彼女の名はガーデニア。地底都市に希望を撒き、絶望を収穫する者なり――。


「新たな地底都市の所在を予知しました。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「地底都市とはダークセイヴァーの各地にある広大な『地底空洞』の中に築かれた、ヴァンパイア達の大拠点です。そこにはオブリビオンだけでなく、地上との交流を絶たれ、地上の存在を知らない人々も数多く暮らしています」
 ダークセイヴァー世界を支配する上位の吸血鬼は、この地底都市のさらに地下深くに生息していると考えられている。深層への手掛かりを得るために、何より光なき世界に囚われた人々を救い出すために、これら地底都市の制圧と解放は急務であると言えるだろう。

「今回の地底都市を支配している者の名はガーデニア。元は狂気に堕ちたクチナシの精霊であり、現在は地底都市の領主を務める異端の神、そして『門番』でもあります」
 地底都市の『門番』とは「番犬の紋章」という寄生虫型オブリビオンを体のどこかにつけて強化されたオブリビオンであり、その実力は現在ダークセイヴァーで確認されているオブリビオンの中では、同じ『門番』を除いて並ぶものの居ない恐るべき手練れである。
「彼女は自らが支配する地底都市を『庭園(ガーデン)』と呼び、そこに暮らす民衆に善政を敷いています。豊かで満ち足りた――とまでは言えませんが、吸血鬼の圧政や怪物の脅威に怯える地上の人々に比べれば、よほど恵まれた暮らしができているようです」
 恐らく勘付いている者もいるだろうが、これはガーデニアが善良なオブリビオンであることを意味しない。彼女が尊ぶのは"希望"と"絶望"――相反する感情の落差から生じるエネルギーであり、そのために希望という名の幸せを運び、自分の幸福のためにそれを絶望に染める。この都市に住まう人々は収穫されるのを待つ『庭園』の花々という訳だ。

「皆の心が希望と幸福で満たされ、最も美しく咲き誇った時、ガーデニアは本性を現して人々を"絶望"に染め上げます。そうなる前に彼女を打倒しなければなりません」
 しかし前述の通り『門番』としての力を得た異端の神を討つのは容易いことではない。
 尋常の手段では、ガーデニアに対するいかなる攻撃もほとんどダメージを与えられない。唯一有効打となるのは彼女が身につけている「番犬の紋章」への攻撃のみである。
「しかしご注意を。彼女は自らの弱点である『紋章』をわざと目立ちやすい胸元にブローチのように寄生させています。狙うこと自体は容易でしょうが……」
 これは敵対する者に勝機という"希望"を与えるガーデニアの策だ。先にも述べたように彼女が尊ぶものは希望から絶望へと反転する感情の落差。猟兵達が希望を強く抱くほど、絶望を与えようとする彼女の力もさらに増す結果となるのだ。

「問題はまだあります。都市の支配者であるガーデニアが倒されれば、地底都市に残っている彼女の配下達が暴走を始める恐れがあります」
 ガーデニアの配下は収穫の時が来るまで『庭園』の住人に危害を加えることを禁じられているが、彼女がいなくなればその拘束力もなくなる。制御の失われたそれらはオブリビオンとしての本能のままに、温室の花を踏み荒らすがごとく人々を蹂躙するだろう。
「これまで危険から遠ざけられて生きてきた地底都市の人々は、何が起こったのかさえ分からないままオブリビオンの餌食になってしまうでしょう。仮に難を逃れたとしても、ガーデニアという精神的支柱を失った彼らが絶望するのは想像に難くありません」
 邪悪な企みを秘めていたとしても、それを知らない市民にとってのガーデニアは慈悲深く優しい"領主様"なのだ。それが突然いなくなった上、初めて命の危機に晒された彼らのショックはどれ程のものか。心弱い者はこの時点で生を諦めてしまってもおかしくない。

「それでも。地底都市の人々に真の"希望"をもたらす為に、諦めるわけにはいきません」
 強大な『門番』である狂気に堕ちたクチナシの精霊を倒し、暴走するオブリビオンの脅威から市民を守り、絶望する人々を励まして地底都市から脱出させる。どれか1つとっても一筋縄ではいかない難事だが、これら全てをやり遂げてこそ今回の依頼は成功となる。
「厳しい戦いにはなるでしょう。しかし無茶を言っているつもりはありません。皆様ならやれるという確信があるからこそ、リムはこの依頼をお伝えしています」
 地底都市の制圧後の住民の受け入れ先については、地上にある幾つかの『人類砦』が名乗りを上げてくれている。他の地底都市が異変を察知し援軍を送ってくる前に、彼らを新天地へと導けるか――それは猟兵達がいかに新たな"希望"となれるかにかかっている。
 説明を終えたリミティアはいつもと変わらぬ様子でグリモアを手のひらに浮かべると、『庭園』の地底都市への道を開く。静かな眼差しには揺らがぬ猟兵達への信頼を込めて。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、絶望を収穫せんとする領主を打倒し、偽りの希望に満たされた地底都市の人々を救うのが目的です。

 第一章は地底都市の支配者にして門番である『狂気に堕ちたクチナシの精霊』ガーデニアとのボス戦です。
 彼女の『庭園』の住人は幸せに暮らしていますが、オブリビオンに隷属している事は変わらず、絶望を収穫するまでの仮初の希望を与えられているに過ぎません。
 戦場は都市の入り口となる門の前、地下空洞内での戦いとなります。戦闘に十分な広さと最低限の光源はあるので、特に行動に制限はありません。
 しかし番犬の紋章を与えられたガーデニアは強大で、紋章以外への攻撃はほとんどダメージが通りません。さらに希望や絶望といった感情を糧として戦いにも利用します。どうか全力で挑んでいただければと思います。

 無事ガーデニアを撃破できれば、第二章は地底都市内での集団戦となります。
 都市内ではガーデニアの支配から外れたオブリビオン達が暴れまわっているので、住民に被害が出ないよう守りながら敵を撃滅してください。ここで人々になるべく活躍を見せつけておけば、三章での活動を有利に進められます。

 三章は地底都市に残された人々との交流や説得を行うパートです。
 信じてきたものに裏切られた人々には、絶望に打ちひしがれる者や現実を受け入れられない者もいるでしょう。彼らの心を癒やし、もう一度希望を取り戻せるような一条の光に、あなたがた猟兵がなってください。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
281




第1章 ボス戦 『狂気に堕ちたクチナシの精霊』

POW   :    アナタの感情をわたしに食べさせて?
全身を【狂気を伝播する芳香】で覆い、自身が敵から受けた【希望や絶望といった強い感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    アナタの希望を絶望に染めるには何をすれば良いの?
対象への質問と共に、【対象の影】から【大鎌を手にした対象の影人形】を召喚する。満足な答えを得るまで、大鎌を手にした対象の影人形は対象を【クチナシの大鎌】で攻撃する。
WIZ   :    収穫の時間よ。感情ごとその命をいただきましょう。
【希望】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身の影人形】から、高命中力の【絶望を与える致命の一撃】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アウレリア・ウィスタリアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

黒城・魅夜
あなたのように希望を嘲弄する愚か者は何人もいました
その全てが同じ末路を辿ったのです
骸の海に泣き喚きながら叩きこまれるという、ね
私こそは希望の依代にして希望の紡ぎ手
あなたもまた同じ最期を遂げると知りなさい

私を絶望させるには? ふふ、愉しい質問です
答えは単純
「私を滅ぼすこと」です
滅ぼされぬ限り私は希望を紡ぎ続ける
そして希望がある限り私が滅びることはない
理解できましたか? あなたの愚かさが

「闇に紛れ」回避しながら攻撃は「第六感」により最小限に「見切り」
「覚悟」をもって血を噴きださせ影を塗り潰せば
その粗末な人形は封じられます
同時にこの血は霧と化しあなたを包み
その紋章を撃ち砕くでしょう
あなたの内側からね



「あら……外からのお客様なんて珍しいわね」
 『庭園』と外の世界を隔てる門の前、いつものように番をしていた『狂気に堕ちたクチナシの精霊』ガーデニアは、地上からやって来た猟兵達を見ると冷たい笑みを浮かべた。
 昨今、他のオブリビオンが支配する地底都市が次々と陥落したとの報は耳にも入っている。何れはここにも――と、彼女は危機感を募らせると共に、大きな期待を抱いていた。
「猟兵。私の耳にも届いているわ、この世界に希望をもたらさんとする『闇の救済者達』。アナタ達の心が絶望に染まれば、いったいどんな味がするのかしら」
 死神のような黒い大鎌を現出させ、そう微笑んだ狂気の『門番』に対して、すっと前に出たのは黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)。彼女の口元にもまた、一切の好意的な感情を含まない、酷薄な冷笑が浮かんでいた。

「あなたのように希望を嘲弄する愚か者は何人もいました。その全てが同じ末路を辿ったのです、骸の海に泣き喚きながら叩きこまれるという、ね」
 じゃらり、と鈎の付いた鎖を揺らめかせながら、狂えるオブリビオンに魅夜は告げる。
 その態度は毅然としたもので、相手が『紋章』の力により超強化された門番だろうと臆するものではない。希望を弄び、猟兵を侮った時点で、かの者に与える末路は決まった。
「私こそは希望の依代にして希望の紡ぎ手。あなたもまた同じ最期を遂げると知りなさい」
「面白いことを言うわね。だったら見せて貰おうかしら、希望の紡ぎ手とやらの力を」
 ふっ、とガーデニアの姿が視界から消える。第六感が警鐘を鳴らし、反射的に魅夜が振り返った時、敵はもう彼女の背後にいた。振り下ろされる大鎌から間一髪で身をよじり――死の香りがする黒刃が、黒髪を数本掠めていった。

「さあ、アナタの希望を絶望に染めるには何をすれば良いの?」
 質問を投げかけながら、ガーデニアはなおも大鎌を振るう。闇に紛れて身を躱さんとする魅夜だったが、暗所での戦闘は地下世界の住人である敵のほうが上手。次第に追い詰められていくなかで、今度は彼女の足下の影から大鎌を持った何者かがぬうっと姿を現す。
「正直に答えてくれたら、お礼に楽に殺してあげるわ」
 それは魅夜の姿を模した影人形。ガーデニアの意のままに踊り狂い、クチナシの大鎌で影の本体を切り刻む従僕。自身の外見を写し取られたことに魅夜は不快感を露わにしたが、ガーデニア1人でも防戦一方のところに現れた新手の攻撃を、対処しきるのは不可能。

「……っ!」
 せめてダメージを最小限にするように軌道を見切り、覚悟を決めて影の大鎌を受ける。
 ざっくりと斬り裂かれた白い肌から、噴き上がるのは真紅の鮮血――それを見たガーデニアは愉悦の微笑を浮かべるが、魅夜もまた激痛を堪えながら密やかな笑みを浮かべて。
「私を絶望させるには? ふふ、愉しい質問です」
 【血に霞みし世界に祝福を捧げよ硝子の心臓】。悪夢を纏いし希望の魔性は、自らの血潮さえも武器とする術を持っていた。敢えて派手に噴き出させた鮮血はたちまち濃霧となり、闇よりも昏い真紅で戦場を覆い尽くしていく。

「答えは単純。『私を滅ぼすこと』です」
 ガーデニアの問いに答えながら、真紅の濃霧を操る魅夜。彼女の傍らにいた影人形は血に塗り潰され動きを封じられている。主に逆らいし影は、血によって再び主の元に還る。
「滅ぼされぬ限り私は希望を紡ぎ続ける。そして希望がある限り私が滅びることはない」
 己と希望は一心同体、けして分かつことなどできはしないと彼女は高らかに言い放つ。
 自らのルーツを知り、悪夢の力を希望の道標とすると決意した時から、もう何者にも屈しないと決めた、彼女の心と身体は折れはしない。

「理解できましたか? あなたの愚かさが」
「なんて傲慢。たかが猟兵を滅ぼすくらいわたしには造作も……っ?」
 魅夜の答えをせせら笑うガーデニアだったが、ふいに目や耳に違和感を覚える。魅夜の放った鮮血の濃霧はただの目眩ましにあらず、囚われた者の五感を鈍らせる魔性の霧だ。
 先程まで暗闇の中だろうと鋭敏に感じ取れていた魅夜の姿が、今はおぼろげにしか分からない。地底都市の番人がその違和感に適応する前に、希望の紡ぎ手は反撃へと転じる。
「鮮血の屍衣を纏いし呪いの鋼、喰らい尽くせ汚濁の魂」
 手元で揺らす鈎鎖「呪いと絆」が濃霧の中に消えたかと思えば、その先端は狂える精霊の内部へと転移し――標的の内側から、胸元に寄生する『番犬の紋章』を引き裂いた。

「ッ……!!」
 紋章への直接攻撃までは想定外だったか、ガーデニアの表情から初めて笑みが消えた。
 闇夜の世界に希望をもたらさんとする猟兵の力を、彼女は初めてその身に受けたのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

七那原・望
希望も絶望も全て玩具のように……下衆ですね……

【果実変性・ウィッシーズダンサー】を発動。
わかりきった弱点を狙うのに希望を抱くまでもない。
淡々と攻撃を重ねます。

【第六感】と【野生の勘】で相手や影の行動を【見切り】、【踊り】ながら回避。【カウンター】でグラツィオーソを敵の胸元にぶつけます。

敵のユーベルコードを封じても敢えてオラトリオで敵のユーベルコードの効果が持続しているように見せ掛け、隙をさらけ出した瞬間不意打ちで影による斬撃を敵の胸元へと放ちましょう。

わたしの希望を絶望に染めようというなら、わたしの大切な人達を皆殺しにするべきですね。もっとも、此処で消え失せるお前にはどうやっても不可能ですが。



「希望も絶望も全て玩具のように……下衆ですね……」
 目隠しに覆われた幼い顔立ちに硬い表情を浮かべながら、七那原・望(封印されし果実・f04836)は静かに呟く。『庭園』の地底都市を支配する精霊ガーデニアは、その問いに応えるようにまた笑みを浮かべ、たった今傷をつけられた胸元の紋章をとんと示す。
「わたしが許せない? だったらここを狙いなさい。アナタの可愛らしい魔力でも、ひょっとすればわたしを倒せるかもしれないわ」
 挑発と同時に自らの弱点をあえて相手に晒す。それは全て彼女の特性に起因している。
 敵対する者が戦いのなかで"希望"を見い出せば、"絶望"を与える彼女の力も増大するのだ。

「わかりきった弱点を狙うのに希望を抱くまでもないです」
 しかし望は敵の振舞いに惑わされることなく、心を律しながらユーベルコードを紡ぐ。
 発動するのは【果実変性・ウィッシーズダンサー】。無貌の礼装「神果・スピリチュアル」が青い踊り子の衣に形を変え、手には翼の装飾を施した2つのチャクラムが現れる。
 冷静に、敵の弱点に狙いを定めて身構えるオラトリオの少女に、ガーデニアはあら残念、とからかうように笑いながら襲い掛かってきた。
「でも、どうかしら。希望を抱かずに生きていられる生命などこの世にいるの?」
 紋章により強化されたその身のこなしは羽のように軽く、しかして振るわれるクチナシの大鎌は重く鋭い。直撃すれば一振りで猟兵の命を断つに足るであろう死の刃を、しかし望はひらりと踊りながら回避する。

「収穫の時間よ。感情ごとその命をいただきましょう」
 しかし彼女がそう宣言した瞬間、大鎌を躱した望の背後からガーデニアそっくりの影人形が現れる。希望の感情に引かれて姿を現すそれが放つのは、絶望を与える致命の一撃。
 だが、閉ざされた視界と引き換えに第六感や野生の勘が研ぎ澄まされている望は、背後からの奇襲をも直感的に先読みして見切る。舞踏のリズムに合わせてくるりと身を翻し、間一髪のところで致命の一撃から逃れた。
「わたしの希望を絶望に染めようというなら、わたしの大切な人達を皆殺しにするべきですね」
 この程度のことで絶望するものかと言い返しながら、反撃の「艶舞・グラツィオーソ」を投げ放つ。緩急のある踊りの動きと共に放たれるそれは非常に動きを読みづらく――初見であったことも災いして、ガーデニアの回避は僅かに遅れた。

「もっとも、此処で消え失せるお前にはどうやっても不可能ですが」
「ッ……ふふ、言うじゃない。少し侮っていたわ」
 ガーデニアの胸元の『紋章』を掠める2つのチャクラム。浅いとはいえまたも傷を与えられた彼女はようやく猟兵を"敵"とみなし、今度は影人形と同時に襲い掛かってくる。
 正面からのガーデニア本体からの攻撃を躱しても、背後からの影の攻撃は避けられない。一度は幻惑させられた舞踏の動きも、タネが割れてしまえばもはや通用しないだろう。

「これで終わりよ……!」
 勝利を確信したガーデニアが大鎌を振り下ろした刹那――望が感じたのは恐怖でも絶望でもなかった。敵が攻撃に意識を集中して隙をさらけ出したその瞬間に、彼女は「影園・オラトリオ」を動かす。
「終わるのはお前のほうです」
「―――なッ!?」
 動いたのは背後より挟撃するはずだった影人形。実はグラツィオーソの投擲が命中した時点で【ウィッシーズダンサー】の効果によりガーデニアのユーベルコードは封じられていた。望はそこで自らの操る影と敵の影人形をすり替え、あたかも敵のユーベルコードの効果が持続しているように見せ掛けていたのだ――全ては相手の行動の裏をかくために。

「人々を欺く側から、欺かれる立場になった気分はどうです?」
 完全に不意をついて仕掛けられた影による斬撃は、今度こそ完全に敵の紋章を捉えた。
 硬質な手応え共ににガーデニアの胸元から鮮血がしぶく。痛みと悔しさで顔をしかめる彼女とは対照的に、望自身は淡々とチャクラムを操り、さらなる追撃を重ねるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エウロペ・マリウス
悪趣味なオブリビオンだね

行動 WIZ

致命の一撃、か
万が一放たれた場合のために【オーラ防御】の上に【結界術】を施して防御を固めておく

「廻る骸。潰滅へ向かう刻の輪唱。杜絶せし氷の抱擁。刻み、停滞する生を嘲笑え。骸は刻の中で嘲笑う(スケレトゥス・テンプス)」

敢えて紋章に当たっても大した脅威にならない威力の【誘導弾】で攻撃
妙な頭蓋骨が紋章にくっついただけで、
ボクに『攻撃を当たった』という希望と、『それでもダメージを与えられない』という絶望を与えられたような【演技】を行い【時間稼ぎ】

そして、半径87m以内の距離を保ち【空中戦】

存分に愉悦に浸るといいよ
分針が進めば進むほど、キミの希望は絶望に変わるのだから



「悪趣味なオブリビオンだね」
 人々の心に希望という種を撒きながら、自らの享楽のために絶望を収穫せんと企む敵の所業に、エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)は不快感を隠そうともしない。
 かのクチナシの精霊による収穫の刻を待ってやる道理などないが、その実力は油断ならない。希望を刈り取るために振るわれる黒き大鎌は、猟兵の命も容易く摘み取るだろう。

(致命の一撃、か。万が一放たれた場合のために備えは必要かな)
 迂闊な希望を抱かないよう己を律するのが第一だが、それでもという場合に備えて、エウロペは身にまとうオーラの護りの上に結界術を施し、防御を固めながら敵と対峙する。
 これまでの攻防から猟兵を油断ならない敵だと認めたガーデニアは、すぐには仕掛けてこず出方を窺っている。その隙に彼女は氷の精霊杖「コキュートス」を手に呪文を紡ぐ。
「廻る骸。潰滅へ向かう刻の輪唱。杜絶せし氷の抱擁。刻み、停滞する生を嘲笑え。骸は刻の中で嘲笑う(スケレトゥス・テンプス)」
 杖先より放たれたのは小さな氷の弾幕。威力と引き換えに弾数を限界まで増やし、誘導性能まで付加したそれは、地下空洞に荒れ狂う吹雪となってガーデニアに襲い掛かった。

「あら、綺麗な雪景色ね」
 殺到する氷の弾幕を前にして、ガーデニアが見せたのは余裕の態度だった。誘導性を強化しているにも関わらず、軽やかな身のこなしと巧みな大鎌さばきで氷弾を躱して切り払う彼女には、たった一発の攻撃を当てることさえ容易なことではない。
「まだまだ……っ!」
 エウロペは表情を険しくしながら、魔力を振り絞ってなおも氷弾を撃ち放つ。敵の視界を白く染め上げるほどの弾幕を展開して、ようやくその1つが標的の胸元に命中するが――ガーデニアはまるで痛痒のなさそうな顔で、ぱっと氷の粒を払った。

「残念だったわね」
「そんな……?!」
 攻撃が当たった瞬間にぱっと明るくなったエウロペの顔色は、それでもダメージを与えられなかったという事実を目の当たりにして青ざめる。希望が絶望に変わる瞬間を目の当たりにしたガーデニアは愉悦の笑みを浮かべながら、大鎌を振りかざして反撃に転じた。
「当たりさえすれば勝てると思った? 地底都市の門番を甘くみないことね!」
 力や速さのみならず打たれ強さにおいても地上のオブリビオンとは一線を画す実力差。
 もはや恐れる必要もないと判断した氷の弾幕を正面から突っ切って、絶望を収穫せんと致命の一撃を振るう。エウロペは咄嗟に空に舞い上がり、攻撃を躱すので精一杯だった。

「ふふ、やはり甘美だわ! 希望に満ちあふれていた者が絶望に沈むその瞬間は!」
 背中に生やした精霊の翅を羽ばたかせ、追撃を仕掛けるガーデニア。エウロペは得意の空中戦に持ちこむことでどうにか攻撃を避け続けているが、やはり地力の差から徐々に追い詰められ、やがて大鎌の刃がオーラの結界を掠めるようになる。
「くっ……どうしたら……」
 じわじわと迫る死の予感に焦りを滲ませながら、必死に打開策を考える白き少女――だが、そうした如何にも敵が喜びそうな表情や振る舞いは、その実全て彼女の演技だった。

(存分に愉悦に浸るといいよ。分針が進めば進むほど、キミの希望は絶望に変わるのだから)
 敵は気付いているのか、あるいは気付いても大した脅威ではないと無視しているのか。エウロペの攻撃が命中した紋章には、奇妙な懐中時計を咥えた頭蓋骨がくっついている。
 音もなく時計の針が進むにつれて、一度は払われた氷が再び紋章を覆い、凍傷によるダメージをじわじわと進行させていく。それが彼女のユーベルコードの本当の効果だった。
「……? なに、これは。身体が冷たい……ッ?!」
 影人形のユーベルコードが発動していない時点で、ガーデニアはエウロペの騙りに気付くべきだった。希望が絶望へと転じるさまを見せつける迫真の演技が、彼女の嗜虐性と狂気を刺激して冷静な判断力を失わせたのだ。

「ようやく気がついたみたいだね。でも、もう遅いよ」
 演技を止めたエウロペの口元には涼やかな微笑。とはいえ彼女もさほど余裕があったわけでもない――骸時計の効果が維持される「対象の半径87メートル以内」の距離を保ちながら、狂える精霊の猛攻をひたすら避けて時間を稼がなければいけなかったのだから。
 それでも彼女は見事に苦戦を演じながらそれをやり遂げた。凍傷の進行したガーデニアは飛ぶ力を失い、凍った胸元を苦しげに押さえながら、重力に引かれて墜ちてゆく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
ガーデニアと意気投合した二人は談笑に花を咲かせていた。

「お互い苦労しますねぇ」
「ふふ。そうね」

「希望(ギャグ)と絶望(オチ)相反する感情の落差から生じる(笑)エネルギーに着目するとは」
「堕ちた彼らの感情は、どんなに甘美なものかしら」
本来は話がまるで噛み合っていないのだが、奇跡的に会話が成立している。

「ちなみに私が真の希望(ギャグ)を与える時はねぇ」
ガーデニアは勤勉で他者からの意見にも熱心であった。
【ギャグセンス皆無な雪女】
(ここにつまらないギャグが入るよ!)
時間は確かに止まった。が別の意味でも時間は完全に停止した。

「なにこのブローチ。チョベリバじゃない」
意図せず紋章をハリセンでしばき倒した。



「ふ、ふ……面白いわね猟兵。彼らの希望を絶望に堕とすのは簡単ではないようだわ」
 一時は侮り、その結果として少なからぬ痛打を負ったガーデニアは、しかしまだ余裕のある顔をしていた。地底都市の領主にして門番に任ぜられるほどの実力は伊達ではない。
「そのお話、詳しく聞かせて貰えませんか?」
「あら……誰かしら?」
 そこに現れたのはカビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)。手には愛用のハリセンのみを持った、一見して敵意を感じさせない彼女に、何のつもりだろうかとガーデニアは怪訝に感じながらも、まだ余裕があったこともあり話に応じることにする。

「お互い苦労しますねぇ」
「ふふ。そうね」
 そして数分後。何故か意気投合したカビパンとガーデニアは談笑に花を咲かせていた。
 猟兵とオブリビオン、本来なら敵対する宿命にある者同士がなぜこんなあっさり打ち解けられたのか。それは二人の間にある根本的な思い違いにあった。
「希望(ギャグ)と絶望(オチ)相反する感情の落差から生じる(笑)エネルギーに着目するとは」
「堕ちた彼らの感情は、どんなに甘美なものかしら」
 カビパンはギャグに関する持論を語っているだけなのだが、ガーデニアはそれを自分と同じ感性の持ち主が現れたと誤解している。カビパンもカビパンで相手を芸人の類だと思い込んでおり、本来はまるで噛み合っていないのだが、奇跡的に会話が成立していた。

「ちなみに私が真の希望(ギャグ)を与える時はねぇ」
 興が乗ってきたカビパンは己の渾身のギャグを特別に披露してみせようと立ち上がる。
 ガーデニアは自らの享楽に関しては勤勉で、他者からの意見にも熱心であった。より効率よく希望を与えられる――ひいては絶望との落差を大きくできる手法があると言われれば(それ自体が大いなる誤解なのだが)耳を傾けずにはいられない。
「いいわ。ぜひ聞かせて頂戴」
 もしそれが面白かったなら、特別に殺さないでおいてあげる――などと考えながら、致命の一撃をもたらす大鎌を持ったまま、様子を見守るガーデニア。一歩踏み違えば即アウトになるタイトロープな会話のなかで、カビパンが披露するギャグとは果たして。

「カレーを食べておつカレー」

 唐突に【ギャグセンス皆無な雪女】に変身したカビパンの口をついて出た迫真のギャグは、場をあっためるどころか空気を凍らせ、それどころか時間さえも完全に停止させた。
 時間は確かに止まった。が別の意味でも時間は完全に停止した。あまりにどうしようもなくつまらないギャグというかダジャレを聞かされたガーデニアは「は?」と言った表情のままピクリとも動かない。これぞまさにアブソリュートゼロ・トークである。

「あら? ちょっと感想は?」
 瀟洒な軍服から白い着物に着替え、髪も雪女らしいアイスブルーに染まったカビパンは、ギャグを披露したにも関わらずノーリアクションの相手に不満を零す。ちなみに彼女の時を凍らせる能力はギャグの力が大きいので、雪女に変身した意味があったのかは不明。
 ちょっぴりイライラしながら詰め寄ってみると、ガーデニアの胸元に虫と宝石を組み合わせたような奇妙なブローチがくっついているのに気が付く。
「なにこのブローチ。チョベリバじゃない」
 それがオブリビオンに力を与える『番犬の紋章』だと知らぬまま、彼女はそれをハリセンでしばき倒す。あらゆる奇跡を雲散霧消させる加護の宿った「女神のハリセン」で。

「―――はぐっ?!!!」
 時間が解凍された瞬間、停まっていたガーデニアの身体は勢いよく彼方へと吹っ飛ぶ。
 女神の幸運によって意図せず紋章にダメージを与えたカビパンは「あら?」と、雪女姿のままかくんと小首を傾げるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
騎士として恥ずべきことですが…生憎、悲観主義のきらいがありまして

貴女の『収穫』が一時の狂気で、私が解決する手段を所持していたにも関わらず気づかずに殺害した時でしょうか

始めましょう、無意味な問答です

センサーの●情報収集で影人形発生と攻撃●見切り、●瞬間思考力で反応
●怪力●盾受け後に刃を柄に沿って滑らせUCで●武器落とし
大鎌奪取し●なぎ払い影人形両断

紋章の力か、とても良い武装ですね
私に誂えたようにリーチもあります

脚部スラスターでの●推力移動で一気に接近
迎撃大鎌を此方の大鎌で●武器受け相殺
●操縦するアンカーに持たせた剣で胸の紋章●串刺し

真意がどうあれ、貴女が用意した希望
私達が受け継がせていただきます



「騎士として恥ずべきことですが……生憎、悲観主義のきらいがありまして」
 門番として立ちはだかるクチナシの精霊の前で、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はかく語る。御伽噺のような幸福な結末よりも、苦い悲劇を何度も目の当たりにしてきたからだろうか。彼は現実的に最悪の事態を想定するきらいがある。
「なら、アナタにとっての希望とは? それを絶望に染めるには何をすれば良いの?」
「貴女の『収穫』が一時の狂気で、私が解決する手段を所持していたにも関わらず気づかずに殺害した時でしょうか」
 精霊ガーデニアからの問いかけに、彼は逡巡することなく答えた。ただ己の享楽のために人々を弄ぶ外道が相手ならば、迷いなく斬ることはできる。だがもしも彼女に慈悲と救済の余地がありながら、知らずに斬り捨てたとなれば――後悔と懊悩は計り知れまい。

「始めましょう、無意味な問答です」
「ええ、どうやらアナタの望む絶望はあげられそうにないわ」
 どのみち今は知るよしもないこと。剣と盾を構えるトリテレイアに対し、ここで死ぬつもりなど無いガーデニアも大鎌を構え。同時に機械騎士の足元の影から召喚されるのは、彼自身の姿を模した影人形。
「代わりにそうね。アナタはここで壊れ、救うべき者を救えない絶望はどうかしら」
「そればかりは御免被りたいものです」
 クチナシの大鎌を持った影騎士の出現と奇襲を、トリテレイアは全身に搭載されたマルチセンサーで察知し、瞬間的に対応策を導きだす。振り返りざまに掲げられた大盾と大鎌がぶつかり合い、暗闇の戦場に火花が散った。

「機械の騎士と影の騎士。勝つのは一体どちらかしら」
 地底都市の門番であるガーデニアの力によって呼び出された影人形の騎士は、外見こそトリテレイアに酷似しているがスペックにおいては凌駕する。並外れた怪力を誇る彼をさらに上回るほどの膂力で押し返し、致命をもたらす刃をじりじりと迫らせていく。
「出力負けするのは珍しい体験ですね」
 侮っていた訳ではないが、やはり『紋章』を与えられたオブリビオンの力は凄まじい。
 ならばとトリテレイアは鎌の刃を柄に沿って滑らせながら盾持つ手首を360度回転。
 相手の押し込む力を横方向に受け流して、影騎士の手から大鎌を取り落とさせた。

「紋章の力か、とても良い武装ですね。私に誂えたようにリーチもあります」
 影騎士が落としたそれを拾うよりも早く、大鎌を奪い取ったのはトリテレイア。見事な【銀河帝国所属ウォーマシン・臨時武装調達法】を披露した彼は、己の剣と盾をワイヤーアンカーで保持すると、クチナシの大鎌を勢いよく振るう。
『―――!!』
 丸腰となった影騎士はその一撃を防ぐ術を持たず、草を刈るように胴体を両断される。
 皮肉にも、敵に絶望をもたらすためにガーデニアから与えられた武器の威力が、影人形にとって仇となった。

「あら。騎士のくせに行儀が良くないのね」
「実戦です、手癖の悪さはご容赦を」
 己の影をなぎ払ったトリテレイアは脚部スラスターを吹かして即座に反転し、不快げに眉をひそめるガーデニアに急接近する。人形と同時に襲ってこなかったのは余裕か傲りか、何れにせよこの時を逃して敵を討つ好機がまた訪れるような"希望"を彼は抱かない。
「なら盗人の首をこの手で落としてあげるわ」
 迎え撃つガーデニアの大鎌を、奪取した大鎌で受けとめる。並みの剣や盾ならばそのまま機体ごと切断されていただろうが、これはガーデニア自身が生成した武器。ゆえに切れ味も強度も同等であり、致死の威力は相殺される。

「真意がどうあれ、貴女が用意した希望、私達が受け継がせていただきます」
 間髪入れずトリテレイアはワイヤーアンカーを操作し、ガーデニアに追撃を仕掛ける。
 アンカーに保持された儀礼剣の切っ先が、まるで蛇の牙のように、胸元に輝く『番犬の紋章』に突き立てられた。
「く、ぁ……ッ!? わたしの『庭園』に、手は出させないわよ……!」
 胸を刺す痛みに顔をしかめつつ、ガーデニアは騎士の言葉にそれ以上の怒りを示した。
 手塩にかけて育ててきた花々から、絶望を収穫する時間はもう間近に迫っているのだ。
 希望を絶望に堕とさんとするオブリビオンと、希望を希望のまま守り抜こうとする猟兵。両者の戦いはさらに激しさを増していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

家綿・衣更着
こんなでも絶望だけ与える領主よりましに見えるのがひどい話っす

初手【迷彩】【忍び足】からのユベコ『綿ストール・本気モード』でメダル狙い【暗殺】っす。
成功に見せ希望を与え、奇襲で絶望を与える策略があると読み油断せず追撃
「どーもガーデニアさん。いい領主のまま死んでもらうっす」

敵の餌食とならぬよう、人々を【化術】で無数の怪物の幻影を見せ【おどろかし】遠ざけるっす。
質問の答えは「ご飯が食べられなくなる事」おいらと同じく感情を食べるあんたなら理解できるっしょ?だから人々は殺させねっす

【見切り】と【結界術】で攻撃を防ぎストールで【カウンター】しつつ、手裏剣を見せ札にどろんはっぱでメダルを【だまし討ち】っす



(こんなでも絶望だけ与える領主よりましに見えるのがひどい話っす)
 悪辣な地上の領主達と眼の前にいる輩を比べて、家綿・衣更着(綿狸忍者・f28451)は独り言ちる。例えそれが絶望を収穫するための前フリに過ぎないとしても、実際にその行いで救われた人間は確かにこの都市にいるのだろう。そう考えれば複雑な気分になる。
(ここで暮らしてる人達からすれば、彼女はいい領主なんすかね)
 だとしても同情の余地があるわけではなく、ここで倒すべき敵であることもまた事実。
 彼は地下空洞の暗闇に紛れるような迷彩を身に纏い、音もなく敵に忍び寄っていく。

「どーもガーデニアさん。いい領主のまま死んでもらうっす」
 挨拶の直前に仕掛けるのは【綿ストール・本気モード】での暗殺。妖怪である彼の身体の一部でもある「打綿狸の綿ストール」を強化し放つ伸縮自在の一撃は、敵の死角から胸元にある『番犬の紋章』を見事に穿った。
「なッ、いつの間にそこに……っ?!」
 ガーデニアの表情が驚きと苦痛に染まるが、衣更着はまだ油断しない。暗殺を成功に見せて希望を与え、逆に絶望を与える策略があると読んで、手を抜かずに追撃を仕掛ける。
 ゆらりと彼の意のままに揺らめくストールは、状況に応じて槍にも盾にも鞭にもなり。ひゅんとしなる一閃は、しかし初手のように紋章に届くことはなかった。

「……残念。これで希望を抱いてくれたら絶望させ甲斐があったのに」
 ストールを受け止めたのは漆黒の大鎌。直後、背後からの殺気を感じた衣更着が飛び退くと、直前までいた場所をもう一振りの鎌が薙いでいく。それを持っているのが自分と同じ姿の影人形だと確認した時、彼はやはり油断しなくて正解だったと内心で安堵する。
「さっきの『いつの間に』っていう呟きも、質問にカウントされるんすか?」
「ええ。咄嗟のことだったからちょっぴりズルかったかしらね」
 小さく舌を出して笑いながら、影人形と共に大鎌を構えるガーデニア。茶目っ気を感じる仕草だが衣更着にとっては笑うどころではない。強力な門番と自分の影、二体を同時に相手にしなければならなくなったのだから。

「……? ガーデニア様、何かあったのですか?」
 その時、閉ざされた門の向こうから声が聞こえてくる。どうやら戦闘の騒ぎに気付いた住民の一部が集まってきてしまったようだ。彼らがガーデニアの餌食とならぬよう、衣更着は咄嗟に両手で印を組むと化術による怪物の幻影を作り出した。
「がおーっす!!」
「うわぁ?! お化けぇーー!?」
 突如現れた無数の怪物を目にして、人々は蜘蛛の子を散らしたように逃げ去っていく。
 よほど恐怖や絶望の対象から遠ざけられて育てられたのだろう、衣更着からすればちょっと驚かせたつもりが、彼らの慌てようは尋常のものではなかった。

「あらあら酷いことをするのね。後であの子たちを慰めてあげないと」
 直後に襲い掛かってくるのはガーデニアと影人形。絶望をもたらす二振りのクチナシの大鎌を、衣更着は刹那の見切りと結界術によって辛うじて凌ぐ――だが、それでも門番の一撃を完全に防ぐことはできず、切り裂かれた忍び装束の上から血飛沫が散った。
「順序が遅れたけど聞かせて。アナタの希望を絶望に染めるには何をすれば良いの?」
「その質問の答えは『ご飯が食べられなくなる事』っす」
 痛みを堪えながらカウンターを繰り出し、影人形の身体にストールを絡めて動きを封じる。再び一対一の状況を作り上げながら、彼が懐から取り出したのは数枚の忍者手裏剣。

「おいらと同じく感情を食べるあんたなら理解できるっしょ?」
「なるほど。あなたも"そう"なのね、これは奇遇だわ」
 ガーデニアが希望や絶望といった相反する強い感情を好むように、東方妖怪である衣更着も驚きや好意といった人間の感情を食糧とする。もしも世界中の人間が絶望で死に絶えてしまったら、彼ら妖怪は餓死するしかない。
「だから人々は殺させねっす」
「そう。それじゃあ死んで貰うしかないわね」
 再び大鎌が振り上げられる刹那、衣更着が手裏剣を投げつける。しかしそれを読んでいたガーデニアはひらりと身を躱しながら、今度こそ致命の一撃を彼にもたらさんと――。

「化かしあいに負けるわけにはいかねっす!」
 晒した手裏剣はただの見せ札。鎌に首を刈り落とされる間際、綿狸忍者が放った本命の一投――ありったけの妖力を注いだ「どろんはっぱ」がガーデニアの胸元に突き刺さる。
「くっ……!!」
 今度こそは驚くフリではない。番犬の紋章を捉えた葉は確実にダメージを与えている。
 有効打を食らったガーデニアの動きが硬直した瞬間、衣更着はドロンと煙を出して敵の視界から消え、辛くも危機を逃れたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロク・ザイオン
◎ロストと

(閉じた楽園に、苦い思い出がよみがえる)
……お前は、そうして、ひとを喰らうのか。

ロスト。おれはあれが、嫌だ。
手を貸してくれ。

健やかな森には光と風が必要だ。
この地の底から、ひとを、返してもらう。
人を蝕む病は、ここで灰に。地の糧になれ。

(「轟赫」八十五条を戦場に展開、炎と光で襲い来る影を振り払い
ロストが生み出す盾が纏う風で、更に炎を煽って防壁と成しながら
浮かぶ盾を【地形利用】、足掛かりに梔子の病まで【ダッシュ、ジャンプ】)
借りるよ、ロスト!
(最後の一枚は密かに己の胸に、絶命の一撃を逸らさせ
至近で刃を叩き込む)

おれたちは独りで戦わない
お前の刃たったひとつで、絶望に届くものか


ロスト・アリア
◯ロクさんと

それは人々が希望を託した花。
仮初めの希望だとして、絶望が潜むものだとして、込められた想いが芽吹いてはいけない理由にはなりません。

はい、ロクさん。
今、この身は貴女の標となりましょう。

貴女の灯が、救いとなると。
ヒトを救う事に躊躇いなど要らないと、見せてください。

だから――駆け抜けて。

攻撃は私が庇います。
UCで展開した風属性の盾で、ロクさんを護り、同時に足場とする。
ロクさんが足場とした盾から彼女へと風の加護を纏わせて、前へ。

その先へ!

希望を奪う? ならばこの灯を消して見せてください。一度は希望も絶望も亡くした身。

全霊、全力を以て、拒んでみせます。

アドリブ歓迎



「ふふ、しぶといわね。わたしの鎌でも簡単には散らせない、強く美しい希望の花……」
 だからこそ散らせ甲斐があると、狂気に満ちた凄絶な笑みを浮かべながら、クチナシの精霊ガーデニアは猟兵達の前に立ちはだかる。彼女も手負いであるはずなのに、極上の"希望"を目にした彼女の気迫はむしろ高まっているようにさえ感じられた。
「……お前は、そうして、ひとを喰らうのか」
 そんな彼女が守る『庭園』という名の閉じた楽園に、苦い思い出が蘇り。ぽつりと呟くように、あるいは咎めるように問いかけたのはロク・ザイオン(変遷の灯・f01377)。
 ざらつく鑢のような声音には、はっきりとした嫌悪の情が紛れ込み。そして彼女の隣に立つロスト・アリア(亡き国のアリア・f21938)も、怒りの眼差しで敵を睨みつける。

「それは人々が希望を託した花。仮初めの希望だとして、絶望が潜むものだとして、込められた想いが芽吹いてはいけない理由にはなりません」
 地底都市に咲くクチナシの花々に、この地の人々は無垢なる希望を抱いた。それがオブリビオンの悪意により仕向けられたものなら、自分達猟兵の手で実を結ばせてみせよう。
 ルーンの剣と盾を左右に構え、勇ましく立つ女性騎士。そんなロストの傍で囁くようにぽつりと、大振りな剣鉈を持ち上げたロクが言う。
「ロスト。おれはあれが、嫌だ。手を貸してくれ」
「はい、ロクさん。今、この身は貴女の標となりましょう」
 敵は『紋章』持ちの強大なオブリビオン。なれど二人でなれば超えられぬ壁ではない。
 その瞳に闘志と、揺らがぬ"希望"を灯した猟兵達を前にして、狂える精霊はいよいよ感極まったように叫ぶ。

「ああ、素晴らしいわ! アナタ達の希望を絶望に染めるには何をすれば良いの?!」
 地下世界を覆う闇の中から、ゆらりと現れる影人形。そのひとつはガーデニアの姿を模して、もうひとつはロストの姿に酷似して。そして全員がクチナシの大鎌を携えている。
 そのどれかひとつの直撃でも喰らえば、おそらく猟兵も致命傷は免れないだろう。三方向から同時に攻め掛かる精霊と影人形に、ルーンシールドを掲げて身構えるのはロスト。
「攻撃は私が庇います」
 【明けの空は斯くも輝いて】。盾に刻まれた守護と風属性のルーンが光り輝くと、彼女とロクの周囲に烈風をまとった半透明の盾が10枚展開される。これはロストの守護の誓いを込めた盾――絶望を阻み、希望と生命を護るための力。

「小癪ね」
 振り下ろされるクチナシの大鎌。その細腕で振るわれたものとは思えぬ重い一撃が風を切り裂き、盾に亀裂を走らせる。さらに影人形達も鎌を振るえば亀裂はさらに広がって。
 やはり今の自分ではこれが限界なのかと、ロストは内心で歯痒い思いをする。災禍により護るべき国を失い、朧げな記憶だけを残してただひとり生き延びたこの身では、かつてのような武技を十全に発揮することはできず、体も思うようには動かない。
「さあ、収穫の時間よ。アナタ達の絶望を私に味わわせて!」
 風盾を維持するので精一杯のロストを甚振るように、なおも大鎌を振るうガーデニア。
 だが、騎士の瞳から希望の光は今だ消えず。ひび割れた盾を重ね合わせてより強固な護りとして、刃を阻み続ける彼女を支えるように――ロクの赤髪に静かな炎が灯る。

「健やかな森には光と風が必要だ。この地の底から、ひとを、返してもらう」
 ロクの髪から伸びる85条の【轟赫】の炎。それはロストが生み出した盾が纏う風に煽られ、煌々と燃え盛りながら戦場に広がっていく。まるで地底から闇を駆逐するように。
「人を蝕む病は、ここで灰に。地の糧になれ」
「まあ……っ!」
 あまりにも眩い炎と光によって影人形達は振り払われ、ガーデニアも目をかばいながら距離を取る。風の盾と一体になった炎の嵐は、絶望の闇を阻むより強固な防壁と成った。

「いいわ。そうでなければ希望の刈り取りがいがないもの!」
 ガーデニアは彼女らの抵抗をむしろ楽しむかのように、再び影人形を操って攻撃を仕掛ける。しかし自らは近付いてこない様子からみて、猟兵達の力を警戒しているのは明白。
「希望を奪う? ならばこの灯を消して見せてください。一度は希望も絶望も亡くした身」
 ロクの灯した炎に後押しされて、再びロストが守護の盾を展開する。たとえひび割れ、砕かれたとしても何度でも次を喚ぶ。どれだけ敵の攻撃が苛烈になろうとも、ロクの元にだけは絶対に刃は届かせない。

「全霊、全力を以て、拒んでみせます」
「なかなか粘るじゃない……!」
 両者の攻守は拮抗し、戦いは膠着状態となる。長引けばいつかは地力の差でロストが力尽きるほうが早いだろうが――その心配はないと、彼女は傍らで刃を研ぐロクを見やる。
「貴女の灯が、救いとなると。ヒトを救う事に躊躇いなど要らないと、見せてください」
「……わかった」
 普段無口な彼女がこくりと頷いたのを確認して、ロストは浮遊する盾の配置を変える。
 彼女を護ると同時に、空を駆けるための足場として。遠方にいるガーデニア本体に、その灯と刃を届かせるための標を用意する。

「だから――駆け抜けて」

 祈りにも似た騎士の囁きに背を押され、赤髪の森番が地を蹴った。獣めいた跳躍力で浮かぶ盾の上に乗り、それを足掛かりにしてクチナシの精霊の元まで一直線に走り抜ける。
「なにっ?!」
 これまで防戦一方だった相手がこうも大胆な反撃に打って出るとは思わなかったのだろう。ガーデニアは驚きながら大鎌を振りかぶる――しかしロクの疾走はそれよりも速い。足場とした盾から伝えられた風の加護が、彼女の足を前に、さらに前へと進ませていく。
「その先へ!」
「わかってる。借りるよ、ロスト!」
 風纏う一条の炎の軌跡となり、ついにガーデニアの懐に飛び込んだロクは鉈剣を振りかぶる。しかしそれとほぼ同時にガーデニアも、致命の一撃を放つ構えを取っていて――。

「燃え盛るその希望ごと、アナタの命をいただきましょう」
 希望を刈り取り絶望を与える渾身の一閃は、しかとロクの身体を捉えたかに見えた。
 だが。裂けた森番の胸元からこぼれ落ちたのは、鮮血ではなく、一枚の盾だった。
「これは……ッ!?」
 ロストが足場として用意した最後の一枚。それをロクは密かに己の胸にしまっていた。
 絶対に護り抜くという騎士の想いと森番の機転。それが絶命の一撃を逸らさせたのだ。

「おれたちは独りで戦わない。お前の刃たったひとつで、絶望に届くものか」
 仲間と共に、友と共に、害為すものを焼き潰し、世界と未来を護るのが我らが使命。
 人を蝕む病――梔子の病の至近から、ロクが振り下ろす刃の名は悪禍裂焦«閃煌・烙»。
 火妖鋳込んだ赫灼の一斬は、落星の如く煌めいて、胸元の『紋章』に叩き込まれた。
「――――ッ!!!!!」
 轟赫を纏った刃に急所を深々と抉られて、声にならない悲鳴を上げるガーデニア。
 それは二人がかりで紡ぎ繋いだ希望の灯が、悪しき絶望を撃ち破った瞬間だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
人々に希望を与え、然る後に絶望に染めて収穫しよう……などと。
人間を家畜と同じ程度にしか捉えていないらしいな。いや、庭園だというなら観賞用の植物か?
どちらにせよ、外道を行おうというのなら全力で止めるまでだ。

敵の胸元にある紋章を狙うぞ。
当然、唯一の弱点を撃つのだから、希望を抱いた僕に対する反撃があるはずだ。
──が、攻撃手段は影人形なのだろう?
つまり光を放つ攻撃ならば、余波で影をかき消すこともできる。
精霊銃の銃口を敵に向け、『片恋の病』。
属性攻撃と神罰を組み合わせて眩い雷光を生み出し、紋章を穿つ。

刈り取られるのはお前の方だったな、オブリビオン──!!

※改変、アドリブ、絡み歓迎



「人々に希望を与え、然る後に絶望に染めて収穫しよう……などと。人間を家畜と同じ程度にしか捉えていないらしいな。いや、庭園だというなら観賞用の植物か?」
 人を人とも思わぬ所業に不快感を露わにしながら、敵を睨み付けるシェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)。希望を、絶望を、そして命を、ただ己の糧として玩弄するこの手の輩には、虫酸が走ると言わんばかりに。
「どちらにせよ、外道を行おうというのなら全力で止めるまでだ」
「ふふ……面白い。わたしを止められると本気で思っているのね」
 対する『庭園』の番人はゆらりと妖しげな笑みを浮かべて、クチナシの大鎌を構える。
 敵意を込めて此方を見つめてくる少年の目には、己が領民には決して持ちえない類の"希望"が宿っているのに気付いていたから。それを踏みにじり、刈り取ることは、彼女にとって何よりの悦びなのだ。

「"この思いのひとかけでも、あなたが感じてくれたなら。それだけでわたしは報われるのです"」
 シェーラは恋物語の一節のような詠唱を紡ぎながら二丁の精霊銃を構える。【戯作再演・片恋の病】によって込められるのはいかなる距離や障害をも飛び越える愛憎の弾丸、そして狙いを付けるのは地底都市の『番人』の力の源にして弱点である『番犬の紋章』だ。
(当然、唯一の弱点を撃つのだから、希望を抱いた僕に対する反撃があるはずだ)
 これ見よがしに分かりやすいところに弱点を装備しているのは、自分達にあえて"希望"を抱かせるため。しかし分かっていても狙わざるを得ない狡猾な策。反撃を受けることを覚悟の上で、彼は右手のトリガーを引き絞り――放たれた銃弾は過たず『紋章』を穿つ。

「ッ……ふふ、いい腕ね。地上ではさぞかし多くの領主を撃ち殺してきたのでしょう」
 愛憎の弾丸を胸に受けたガーデニアは僅かに顔をしかめたが、すぐに笑みを深める。
 シェーラに抱かせた"希望"の感情を刈り取らんと、現れるのは大鎌を携えし影人形。
「けれどもわたしは倒せない。収穫の時間よ。感情ごとその命をいただきましょう」
 放たれるのは儚き希望を絶望に変える致命の一撃。影と言えどもその実力は本体と同等、地上のオブリビオンとは一線を画す威力は、確実に猟兵の命をも奪い去るだろう。

「──が、攻撃手段は影人形なのだろう?」
 迫る絶望の一撃を前にして、しかしシェーラは口元にニヤリと強気な笑みを浮かべた。
 反撃があることは想定済み。そして手段も予想できてさえいれば、いかな強者が相手だろうと対策を打つことはできる。ガーデニアのユーベルコードが影人形の操作なら――。
「つまり光を放つ攻撃ならば、余波で影をかき消すこともできる」
 一射目から時間差を置いて、左手のもう一丁の銃口を向ける。今度の弾丸は【片恋の病】だけではなく、光と雷の精霊の力を組み合わせ、神罰の具現たる眩き雷光を生み出す。

「刈り取られるのはお前の方だったな、オブリビオン──!!」
 全霊を込めて引き金にかけた指先を引けば、弾丸と共に放たれた閃光が戦場を照らす。
 その輝きは刹那の間、闇に覆われた地下世界を真昼のように染め上げ、今まさに大鎌を振り下ろさんとしていた影人形を消し飛ばした。
「なに……ッ、あぁっ!!!?!」
 凄まじい光にガーデニアの目が眩んだ瞬間、愛憎の弾丸は再び彼女の『紋章』を穿つ。
 雷光を帯びたそれは初手よりもさらに深く標的を抉り――轟く雷鳴に紛れて敵の悲鳴が上がったのを、シェーラは聞き逃さなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレミア・レイブラッド
見た目に反して、性悪なコトね…。
良いわ、絶望が欲しければくれてあげる!

【ブラッディ・フォール】で「最低極まりなき言葉」の「モルトゥス・ドミヌス」の力を使用(フレミアに魔王の翼や角、体格に合わせて外殻が形成)。

わたしの人々を救うという希望を糧に発動した敵のUCを【己の力にて滅びるがいい】で捕食。
「アナタの希望」を敢えて受け、敵に希望を持たせる事で「収穫の時間」の発動条件を満たし【我が肉体には届かぬ】で敵の攻撃を無効化。
逆に捕食した「アナタの感情」で自身を強化+「収穫の時間よ」で紋章を狙い追い込み【裁定者に仇為す者】で絶望を与えてあげる

貴女自身の絶望は糧にできないみたいね。『絶望』し、果てると良い



「見た目に反して、性悪なコトね……」
 清廉な姿に秘められた悪意に嫌悪を抱き、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は呟く。梔子の花を擬人化したような美しい姿でありながら、狂気に堕ちたかの精霊の内面は悪辣そのもの。希望を弄び絶望を収穫する邪精に他ならない。
「良いわ、絶望が欲しければくれてあげる!」
 そう宣言すると同時に【ブラッディ・フォール】を発動した彼女の身体は禍々しい漆黒の外殻に包まれ、悪魔の如き角と翼が生えてくる。それはかつて大迷宮アルダワに鎮座した大魔王が一形態『モルトゥス・ドミヌス』の力を我が身に顕現させた姿であった。

「ふふ……素敵だわ。そんな姿になっても、アナタの心には希望が満ちている」
 魔王化したフレミアにうっとりとした視線を向けるのは、クチナシの精霊ガーデニア。
 強い感情こそを糧とする彼女は、フレミアの内面にある「人々を救う」という強固な意志こそが"希望"になっていると看破していた。
「とても良いことだわ。そうでなければ刈り取る価値もないもの……!」
 自らの傍らに影人形を召喚して、地底都市の番人は「収穫の時間よ」と告げる。音もなく標的に近付き、絶望を与える致命の一撃を振り下ろさんとする彼女らに対し、フレミアは身を躱すのではなく、受け止めることを選んだ。

「"己の力にて滅びるがいい"」
 大魔王第五形態『モルトゥス・ドミヌス』の能力、それは自らが口にした言葉を現実のものとする力。すっと突き出されたフレミアの両手と影人形の大鎌が触れあった瞬間、敵はまるで彼女の手のひらに吸い込まれるように消えていく。
「これは……わたしのユーベルコードを喰らっている……?」
 さすがに一都市を任さえる器だけはあり、致命の一撃を無効化されてもガーデニアは冷静だった。目の前で起こった事実からフレミアの能力を分析し、その特性を弱点を推測。おそらくは両手で触れられることが無効化のキーだと判断すると次の手に訴える。

「一筋縄ではいかないようね。アナタの希望を絶望に染めるには何をすれば良いの?」
 質問の形を取って発動する第二のユーベルコード。捕食されたガーデニアの影人形に替わって現れたのは、フレミアによく似た外見にクチナシの大鎌を手にした影人形だった。
 姿こそ酷似していても、それは『門番』の力によって作られたもの。オリジナルさえも凌駕する驚異的な膂力と疾さで、両手の防御を避けるように背後から大鎌を振り下ろす。
 フレミアの回避は間に合わない――否。ユーベルコードの捕食ができないこのタイミングでも、やはり彼女は敢えて敵の攻撃を受ける覚悟でいた。
「ふふ、手品のタネが割れてしまえばこんなものよ……!」
 影人形の一撃が今度こそフレミアを捉える。致命にまでは達さずともその威力は十分。
 彼女の表情がどのように歪むのかと、ガーデニアは期待を込めた眼差しで様子を見ていたが――。

「"我が肉体には届かぬ"」
「……なっ!?」
 攻撃を無効化する手段が一つきりだと思い込んだのがガーデニアの誤算。再び言霊を紡いだフレミアの全身は『裁定者』のオーラに包まれて、影人形の大鎌を防ぎ止めていた。
 期待感に満ちた敵の表情が驚愕に変わったのを見て、黒と紅の吸血姫は艶やかに笑う。
「今、わたしを絶望させられるかもしれないと"希望"を持ったわね?」
 両手をすっと向けると、捕食した力が解放される。対象に"希望"の感情を与えることをトリガーとして、致命の一撃を飛ばすユーベルコード――条件を満たしさえすれば、それは本来の使い手であるガーデニアすらも対象となり得る。

「しまっ―――!!」
 策略に嵌まったのを悔やむ間もなく、フレミアの両手から放たれた影人形がガーデニアに襲い掛かる。それは先程ガーデニアが放った時よりも、速度も力も比べ物にならない。
 これも影人形と同時に喰らった能力のひとつ。ガーデニアの「絶望を喰らいたい」という希望を逆に捕食することで、フレミアは自らを強化して影人形の力を増幅させたのだ。
「言ったでしょう? "絶望が欲しければくれてあげる"と」
「まさか、このわたしに……ぐぅっ!!?」
 裁定者フレミアの宣告と同時、ガーデニアは自らの影の手で絶望の一撃を与えられる。
 振り下ろされた大鎌の刃は狙い過たず、胸元に宿る『番犬の紋章』を斬り裂いていた。

「貴女自身の絶望は糧にできないみたいね。『絶望』し、果てると良い」
 ドレスの胸元を自らの血で赤く染めた番人に、悪意と魔力に満ちた言葉が突き刺さる。
 魔王化したフレミアの言葉は現実となり、闇よりも昏い絶望の力がガーデニアを襲う。
「う、ぐううぅぅぅあああぁぁぁ―――ッ!!」
 自らが人々に与えようとしていたモノを与えられ、苦悶の叫びを上げて身をよじる。。
 因果応報の裁定を受けた地底都市の主が、真の『絶望』を味わうのはまだこれからだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

西院鬼・織久
希望も絶望も俺には分かりません
我等にあるのはただ狩るべき敵を求む怨念のみ
我等の怨念滾らす敵を狩り、血肉を啜る、それだけよ

【行動】POW
戦闘知識を活かす為五感+第六感+野生の勘を働かせ敵の行動を把握し予測
武器と自身を常に怨念の炎(殺気+呪詛+生命力吸収+各耐性)で満たし毒を以て毒を制す

先制攻撃+影面を放つと同時に夜砥を忍ばせて捕縛+麻痺毒を与え、二回攻撃+UCで芳香ごと焼き敵UCの影響を弱める
拘束が失敗してもダッシュ+残像のフェイントから二回攻撃+ダッシュで接近
し百貌の串刺し。槍伝いにUC+傷口をえぐる
接近戦では体術も活かしカウンターで体勢を崩した所にUCの炎を纏った闇焔でなぎ払う



「希望も絶望も俺には分かりません。我等にあるのはただ狩るべき敵を求む怨念のみ」
 地底都市を支配する邪精と対峙しながら、そう語ったのは西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)。淡々として物静かな言葉遣いではあるが、彼の赤い瞳はオブリビオンに対する殺意と狂気で爛々と輝いていた。
「我等の怨念滾らす敵を狩り、血肉を啜る、それだけよ」
 怨念と力を伝承し、ただオブリビオンを狩る事を至上目的とする狂気の一門、西院鬼。その今代の青年は【闇器】と総称される禍々しい武器を手に、黒い怨念の炎を滾らせる。

「アナタはまるで生きているのに死人のよう。けれどその燃える怨念は好ましいわ」
 感情を喰らう精霊であるガーデニアでなくとも、織久の魂からほとばしる怨念の激しさは見てとれるだろう。悦びも哀しみも怒りもなく、ただ敵を狩り怨念の糧とする事に全てを懸ける殺意と狂気。それは希望でも絶望でもない、彼女が味わう初めての感情だった。
「アナタの感情をわたしに食べさせて?」
 そんな西院鬼の怨念さえも喰らわんとするクチナシの精霊の身体から、花の芳香が漂いだす。それは彼女の狂気を周囲に伝播させる毒の香――だが毒を以て毒を制すということか、心身をすでに怨念の炎で満たした織久に、これ以上の狂気が入り込む余地はない。

「我等が怨念尽きる事なし。お前如きに食い尽くせはしない」
「言ったわね……それなら命ごと刈り取るだけよ!」
 殺意を込めて言い放った織久の赫眼は、飛び掛かってくる敵の動きを冷徹に見据える。
 幾多のオブリビオンを狩る中で培われた戦闘知識と、研ぎ澄まされた五感と第六感。その全てを駆使して行動を把握し予測する――そうしなければ勝てぬ敵だと直感が告げる。
「先手は頂く」
 敵が大鎌の間合いに入るよりも刹那早く、織久の足元で蠢く「影面」と、手元から忍ばせた「夜砥」が放たれる。いずれも怨念と血肉により鍛え上げられた影と糸は、ガーデニアの細い身体にくるりと絡みつき、拘束と同時に麻痺毒をもたらした。

「ああ、なんて甘美なのかしら」
 闇器と毒による二重の縛りを受け、しかしガーデニアは艶然と微笑む。西院鬼一門に伝えられた武具に宿る怨念は、皮肉にも彼女の糧となってその力を高める結果をもたらす。
 動きを止められていた時間は一秒にも満たない。拘束を引き千切った彼女は芳香纏う大鎌を振り上げ、今度は織久から直に感情を刈り取らんとするが――黒衣の青年はその一秒足らずのうちに僅かに身を引き、己の残像のみを切り裂かせた。
「まだ、終わってはいない」
 残像によるフェイントから間髪入れぬ反撃へ。どんな怪物であろうと攻撃を空かした直後には隙が生じるもの――鎌を振ったあとの開いた胸元へ、異形槍【百貌】を突き放つ。

「く……あぁぁッ!!」
 百の異形の血肉で鍛えられた呪槍が『番犬の紋章』を鋭く抉る。その穂先を伝って【殺意の炎】が傷口を焼き焦がせば、さしものガーデニアの口からも苦痛の叫びを上がった。
 同時に炎は彼女が纏う芳香を焼き、ユーベルコードの影響を弱める。やってくれる――と、狂気の精霊はそれでもなお歓喜の笑みを浮かべ、黒き炎から受ける痛みと感情をともに甘受しながら、返礼の一撃を放たんとする。
「ならば、これで……!」
「それも、読んでいる」
 洞察と直感により一手先んじたのはまたも織久だった。文字通りの間一髪――一瞬でも遅れれば首を落とされていたであろう距離で斬撃を躱し、カウンターのひと蹴りを放つ。
 西院鬼に伝わる技は武器術のみにあらず。体術にて敵の体勢を崩した所に、織久は槍に代わって取り出した漆黒の大鎌「闇焔」を、渾身の力で横一文字に振るった。

「我等が怨念尽きること無し」
 繰り返し紡がれた言葉と共に、血色と闇色の炎を纏った大鎌は、過たず敵を薙ぎ払う。
 暗黒の戦場に一条の炎の軌跡が描かれ――それに沿うように遅れて鮮血が飛散する。
 西院鬼の怨念をしかと受け取ったガーデニアは、苦悶しながらがくりと膝を突いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
梔子の花言葉は「とても幸せです」「喜びを運ぶ」…。
一見、住民にはこの花言葉の通りに見えてるかもしれない…でも、実際には真逆…。
これ以上、貴女に絶望の種を運ばせはしない…!
貴女にも見せてあげる…太陽の輝きを…!

【九尾化・天照】封印解放…!
光を集束させたレーザーの照射で敵を撃ち抜き、敵の作る影人形を光の操作で消し去り、封じるよ…。
影は光から生まれる…光を操るわたしに影は通じないよ…。

後は敵の動きを【見切り】、光速で敵の大鎌を回避したり、呪力の縛鎖で絡めとる等しながら、【呪詛】を込めた凶太刀と神太刀の二刀で紋章を連続攻撃…。
最後は光と呪力を刀身に集束させた全力の一撃を叩き込むよ…!



「梔子の花言葉は『とても幸せです』『喜びを運ぶ』……」
 地底都市に咲き誇るその花が象徴する言葉を語りながら、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は敵を見つめる。まさにクチナシの化身を思わせる楚々とした佇まいに儚くも美しい容姿、そして穏やかで優しげな微笑はさぞや民の敬慕を集めてきたことだろう。
「一見、住民にはこの花言葉の通りに見えてるかもしれない……でも、実際には真逆……」
 その微笑みで希望を振りまく裏で、かの邪精は人々に絶望をもたらす時を待っていた。
 全ては自らがより甘美な感情を味わうために――おぞましき企てを知った少女は、妖刀を握り締める手に力を込める。

「これ以上、貴女に絶望の種を運ばせはしない……!」
「ふふ……止められるのかしら、アナタ達に……?」
 決意を込めてそう言い放った璃奈に対し、ガーデニアは血の滲む口元を笑みに歪める。
 いかに強大な『門番』と言えど、弱点に何度も攻撃を受けて無事なはずは無いのだが。己を討たんとする猟兵達の強い意志が、皮肉にも彼女に立ち上がる気力を与えていた。
「ここは光差さぬ地の底。どんなに足掻こうとも全ては絶望の闇に沈むわ」
「それなら貴女にも見せてあげる……太陽の輝きを……!」
 傲然と告げる『庭園』の支配者の前で、璃奈の髪と尻尾が銀から金色に変わっていく。
 発動するのは【九尾化・天照】。星や月の光さえ届かぬ地底世界において、彼女が纏うのは天照――大いなる太陽神の力であった。

「我らに仇成す全ての敵に太陽の裁きを……封印解放……!」
 金髪金毛の九尾の妖狐に变化した璃奈は、呪詛を込めた二振りの妖刀"九尾乃凶太刀"と"九尾乃神太刀"を構え、目も眩むほどの光で戦場を照らす。これほどの明るさにお目にかかるのは、地底世界は言うに及ばず、夜闇に覆われた地上世界でもあるまい。
「ッ……これが、太陽……もう見ることは無いと思っていたわ……!」
 ヴァンパイアではないにせよ、地底の生活に慣れたオブリビオンにこの輝きは堪える。
 光を直視しないように目元をかばいながら、ガーデニアは初めて煩わしげな顔をした。

「その輝きを……アナタの希望を絶望に染めるには何をすれば良いの?」
 陽光に近付くことを嫌ったガーデニアが質問と同時に放ったのは、璃奈に瓜二つの影人形。召喚者からクチナシの大鎌を授けられたソレは、陽光の源を排除すべく襲い掛かる。
 しかし璃奈がすっと手をかざすと、その身を包む光がさらに強まる。直接戦闘においては猟兵をも凌駕する程の力を持つ影人形、しかしその性質は今の彼女とは相性が悪い。
「影は光から生まれる……光を操るわたしに影は通じないよ……」
 闇を退ける純白の輝きに、影人形は標的に近付くこともできずに消え去っていく。そのまま璃奈は集束させた光をレーザーに変えて、遠方にいるガーデニア目掛けて照射した。

「くッ……!」
 いかに強大なオブリビオンでも、光の速さを見切るのは容易いことではない。レーザーに胸元を撃ち抜かれ、敵が怯んだ一瞬の好機を突いて、璃奈は一気にその懐に斬り込む。
 天照の力を解放した彼女のスピードもまた光速に達し、その状態から繰り出される二刀の斬撃は、的確に門番の急所である『番犬の紋章』を捉えた。
「この都市にも、わたし達が希望の光を届けてみせる……」
「やれるものなら、やってみなさい……!」
 到底目では負うことのできない光速の連撃に、しかしガーデニアは驚異的な身体能力と反射で食らいつく。速度では完全に凌駕してもなお油断ならないのが『紋章』持ちの実力――剣戟の狭間に生じる隙を突いて、反撃の大鎌が璃奈の首筋目掛けて振るわれる。

「捉えた……いえ、違うッ?!」
 だが、それは天照の光が生んだ残像。一瞬早く攻撃を回避した璃奈はすかさず呪力の縛鎖を展開、放たれた漆黒の鎖がガーデニアの腕ごと大鎌を絡めとり、動きを封じ込める。
 ここが勝機とみた彼女は持てる光と呪力の全てを妖刀に集束させて刀身を眩き白光に染め上げ――太陽の力を宿したその一太刀を、渾身の力をもって振り下ろす。

「これがわたしの、全力の一撃……!」
 一条の軌跡としか捉えられぬ光速の剣は、ガーデニアの『紋章』にしかと叩き込まれ。
 胸を切り裂く鋭き刃と光に、闇の世界に生きてきた邪精はたまらず悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
胸元を狙えばいい、か
針の穴を通すような射撃になるとは思うけど
いつもしているのと同じことだ

影から形成する武器は、使い慣れた拳銃
閉鎖空間だ、射程は切り詰めて構わない
その分、攻撃力を重視する

相手の動きをよく見て射撃を重ねていくよ
こちらの攻撃に対する相手の動きやクセを掴みながら
狙いを修正していく

――生憎だけど
絶望とか希望とか、そういうの、持ってないんだ

望みどおりに事が進むなんて希望も持たない
相手がどれだけ強かろうが、絶望もしない

ただ、為すべきと決めたことをする
いつだって、そうやって生きてきた

得物が大きい分、取り回しで隙ができやすいはず
胴体が無防備になる瞬間を慎重に見極めて狙うよ
――外さないさ



「胸元を狙えばいい、か。針の穴を通すような射撃になるとは思うけど、いつもしているのと同じことだ」
 情報にあった地底都市の門番の弱点、胸に宿る『番犬の紋章』を確認した鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、何でもない事のように呟く。相手がどれだけ強大でも、的がどんなに小さかろうと、敵がいるなら撃ち倒すのが、10を数える前より続いてきた彼の日常。
(閉鎖空間だ、射程は切り詰めて構わない。その分、攻撃力を重視する)
 冷静に戦場把握を行いながら、自身の裡に在る「黒き海の深影」より取り出すのは使い慣れた拳銃。それは射程と引き換えにして火力を限界まで増大させた【影装の牙】だ。

「アナタはどんな感情をわたしに食べさせてくれるのかしら?」
 銃を構える黒髪の傭兵に、狂えるクチナシの精霊はうっとりとした口調で問いかける。
 その身体からあふれだす芳しい香気は狂気を伝播させ、その者達から受けた感情を糧にすることで彼女は力を増す。だがそんな事はどこ吹く風と、匡はいたって冷静なままで。
「――生憎だけど。絶望とか希望とか、そういうの、持ってないんだ」
 まだ二十代の若者とは思えないほど、その言葉には感情の揺らぎを一切感じられない。
 戦時も平時も変わらぬまま、ただ夥しい死を積み上げて生きてきた。生きる為に心を捨てたその有り様を、人はかつて"凪の海"と呼び、彼自身は"ひとでなし"と称する。

「望みどおりに事が進むなんて希望も持たない。相手がどれだけ強かろうが、絶望もしない」
 淡々と語りながらトリガーを引く。放たれた銃弾はひらりと躱されるが、驚きはない。
 相手の動きをよく見て、こちらの攻撃に対する動きやクセを掴みながら、射撃を重ねて狙いを修正していく。その途中でイレギュラーが発生したところで彼は動じないだろう。
「ただ、為すべきと決めたことをする。いつだって、そうやって生きてきた」
「……つまらないわ、アナタ」
 激しい感情の起伏もなく、ただ機械のように攻撃を仕掛ける匡に、ガーデニアは興が削がれたとばかりに顔をしかめ。素早い身のこなしで銃弾をくぐり抜けると、まるで雑草を刈り取るかのように、その手に持った大鎌を無造作に振るう――。

(得物が大きい分、取り回しで隙ができやすいはず)
 致命をもたらす刃が目前に迫っても、やはり匡の心の海にはさざ波すら立たなかった。
 身体能力では敵のほうが遥かに上。だが彼は傭兵として身につけた、無駄を一切削ぎ落とした体捌きで回避を間に合わせる。
「なっ……」
 今のを避けられるとは思っていなかったのだろう、ガーデニアが驚きの表情を見せる。
 度重なる負傷により本人が思っていた以上に動きが鈍っていた。感情という糧を得られなかったせいでユーベルコードの強化が失われていた。彼女が匡を仕留め損なったのには幾つか理由があるが、その全ては彼の予測と分析の範疇だった。

「――外さないさ」
 大鎌を振りきった直後、胴体が無防備になる瞬間を慎重に見極めて、トリガーを引く。
 BHG-738C[Stranger]――"異邦人"の名を冠した匡の相棒より放たれた銃弾は、ついにガーデニアの胸元に寄生する『番犬の紋章』を撃ち抜いた。
「かは……ッ!!!!」
 ブローチの様な形状をした『紋章』に風穴が開き、女の口から乾いた喘ぎ声が漏れる。
 為すべきことを為し遂げた青年は、やはり喜びや達成感を露わにすることもなく、落ち着いて拳銃のリロードを行いながら後退するのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

大町・詩乃
世界は異なれど、植物の女神として花の精霊の悪行を放置できません!

彼女の攻撃は【第六感と見切り】で予測して躱すか、【オーラ防御】を纏った天耀鏡で【盾受け】して対応。

彼女は強大で、紋章(胸元のブローチ)を誇示してます。
リムさんが示してくれた彼女の目論見を越えなければ…。

煌月に【多重詠唱】による【光と雷の属性攻撃】を籠め、【残像】で詩乃の分身を作って幻惑し、機を見て紋章を攻撃。
当然、彼女は防ぐでしょうが、雷の感電効果で彼女の動きを一瞬止め、その瞬間にUC:花嵐使用。
煌月がUC効果&【神罰・破魔・浄化】籠る花びらと化して、紋章を浄化消滅します!

「希望は人の宝物。私は神として為すべき事を為すだけです。」



「世界は異なれど、植物の女神として花の精霊の悪行を放置できません!」
 大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)――神名をアシカビヒメと名乗る英雄世界の神は、夜闇の世界で人々に絶望をもたらさんとするクチナシの精霊に激しい怒りを覚えていた。
 神として、ヒーローとして、猟兵として、人々が絶望に堕ちるさまを見過ごすまいと、神力を籠めた薙刀「煌月」の切っ先を突きつけるその姿は、凛々しくも勇ましい。
「まあ……綺麗な神様ね。きっと日の当たる場所でたくさんの人に愛され、希望を集めながら生きてきたのでしょう」
 狂気に堕ちたクチナシの精霊は、眩しそうに目を細めながら漆黒の大鎌を振りかぶる。
 その足元に落ちる影法師がぬうと立ち上がると、彼女自身と同じように大鎌を構えた。

「そのたくさんの希望、願い、感情……アナタの命と一緒にいただきましょう」
 ガーデニアの影人形は音もなく、風のような疾さで標的の元に近付くと大鎌を振るう。
 希望を抱く者に絶望を与えるためにあるその刃は、ただの一撃で致命傷をもたらすに足る。第六感により間一髪で敵の動きを予測した詩乃は、神気のオーラを纏わせた「天耀鏡」を巨大化させながら身を躱す。
「くっ……!」
 超硬質を誇るヒヒイロカネ製の神鏡は、盾としても十分な強度がある。それでも影人形の一撃は受け流すのが精一杯で、逸らされた刃の切っ先が戦巫女の装束を掠めていった。

(彼女は強大で、紋章を誇示してます)
 影人形の攻撃を辛くも凌ぎながら、詩乃は離れたところにいるガーデニア本体を見る。
 この距離からでも弱点である胸元のブローチは見えるが、敢えてそこを狙わせるのが敵の策略。目の前に希望をちらつかせた上で絶望に堕とすのが彼女の常套手段だった。
(リムさんが示してくれた彼女の目論見を越えなければ……)
 グリモアからもたらされた情報と対峙してみた結果を元にして、詩乃は一計を案じる。
 口元で静かに詠唱を紡ぎ、煌月の刀身に光と雷を籠めながら作り出すのは自らの分身。
 戦場を照らす輝きと幾つもの分身が、束の間のあいだガーデニアと影人形を幻惑する。

「目眩ましなんて、神様にしては小狡い手ね」
 ガーデニアは挑発するような笑みを浮かべながら、影人形を動かして分身を薙ぎ払う。
 しょせん雷光が作った残像に過ぎないそれは、あっさりとかき消されてしまうが――その僅かな時間稼ぎのうちに、本物の詩乃は敵の死角に回り込んでいた。
「これなら!」
 最高のタイミングで放たれた一閃。しかし門番の身体能力と反応はそれさえも上回る。
 くるりと後ろ向きに回された大鎌が、煌月の刃をガチンと受け止める。こんなものかしらとガーデニアは嘲笑うが、しかし詩乃はまだ絶望していなかった。

「この瞬間を待っていました」
「なにを……ッ!?」
 オリハルコン製の刃に纏わせた雷が、大鎌の刃を伝ってガーデニアの身体に流れ込む。
 紋章に対する攻撃ではないためダメージはほとんど無いだろう、それでも一瞬でも動きを止められれば、その瞬間に詩乃はユーベルコードを発動できる。
「今より此処を桜花舞う佳景といたしましょう」
 吹き荒れるは【花嵐】。手にした煌月を無数の桜の花びらへと変化させ、邪悪なるものを浄化する、植物の女神アシカビヒメの権能が一端。至近距離から放たれたこの攻撃に、ガーデニアは逃げる間もなく呑み込まれた。

「希望は人の宝物。私は神として為すべき事を為すだけです」
 凛として告げる詩乃の前で、桜花の嵐がガーデニアの『番犬の紋章』を浄化していく。
 破魔と浄化、そして神罰の力を籠めた全霊の技を受けては、敵も無事ではいられまい。
「く、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!!」
 紋章がピシピシと音を立ててひび割れて、桜舞う戦場にガーデニアの絶叫が木霊した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
悪いがアンタが満足する様な答えは持ち合わせていない
オレの肉体と精神は既に絶望に支配されているんでな
その絶望から生まれた武器『冥き殺戮衝動の波動』の結界展開【結界術】
触れた者を呪縛し封じる暗黒オーラの結界で影人形の攻撃を防ぐ【呪詛・捕縛・オーラ防御】
こんな人形でオレの影を具現化させたつもりか?
オレの影……いや、真の絶望を喰らってみろ!
UC「殺鬼影身」発現
分身体を特攻させる【切り込み】
この分身はオレの殺戮衝動の塊
奴がコイツを斬り裂き鮮血を浴びれば……その血肉があの番犬の紋章を侵すのだ
膨大な【殺気】の【呪詛】に蝕まれるがいい【継続ダメージ・恐怖を与える】



「悪いがアンタが満足する様な答えは持ち合わせていない。オレの肉体と精神は既に絶望に支配されているんでな」
 敵がお定まりの質問をするよりも先に、ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は冷たく言い捨てる。奴隷であった幼少期に人体改造を受け強化人間となって以来、彼の心は強烈な殺戮衝動に苛まれ、その人生は血腥い死の臭いが常に付きまとうものとなった。
「ふふ……確かに。アナタからはわたし達よりもずっと深い闇の気配がするもの」
 その絶望から生まれた「冥き殺戮衝動の波動」を纏ったナギに、狂える精霊ガーデニアは皮肉めいたことを言い放ち。しかし暗黒に潜んだ彼の心を見透かすように目を細めると、クチナシの大鎌をすうっと構えた。

「けれど、アナタはまだ"そちら側"にいる。絶望するアナタを繋ぎ止めるものがある」
 残虐な本性を心の裡に宿す彼を、ただの無差別殺人鬼にしてしまわない、最後の理性を保つものは何か。数多くの希望と絶望を味わってきた邪悪な精霊は目ざとく問いかける。
「その"縛り"さえなくなれば、アナタはまったき絶望に染まれるのじゃないかしら?」
「さて、な」
 問答に付き合ってやる気はないと、ナギは素っ気なく応じながら殺戮衝動を漲らせる。
 ガーデニアは残念ね、と笑いながらユーベルコードを発動し、そんな彼の姿を模した影人形を召喚した。

「それなら答える気になるまで、アナタ自身の影に切り刻まれるがいいわ」
 使役者より授かったクチナシの大鎌を振り上げて、瓜二つの標的に襲い掛かる影人形。
 だが、その接近はナギが放つ暗黒のオーラと触れた瞬間、それより先に進まなくなる。
「こんな人形でオレの影を具現化させたつもりか?」
 止めどなく溢れ出す殺戮衝動が具現化した呪いと殺気の波動は、あらゆる生命を蝕み、触れたものを呪縛し封じる結界となって敵の攻撃を阻む。より大きな影の中で影法師が形を保てなくなるように、より深い暗黒を前にした人形は金縛りにあったように動かない。
 いや――よく見れば少しずつ、泥沼を這うような鈍さでだが、影人形はオーラの中を進み続けている。この結界の中で動かなくならないのは流石に『門番』が使役する人形か、だが大鎌が自分の首を刈り取るよりも先に、ナギは決着をつけるつもりでいた。

「オレの影……いや、真の絶望を喰らってみろ!」
 喚び醒ますのは【殺鬼影身】。戦いの中でさらけ出した本能を、冥き波動から己の分身体として実体化させる。敵の作った影人形とは異なり、こちらは姿だけでなく強さも彼と同等――鋸のような刃を持った鉈をギラつかせ、後方に佇むガーデニアに特攻を挑む。
「あら、意趣返しのつもり? 受けて立ちましょう」
 獣のような勢いで襲い掛かる分身体に対して、ガーデニアは手にした大鎌を一閃する。
 影人形などに頼らずとも、彼女は地上の領主達とは一線を画する実力者。闇の中で閃く刃が、一目散に突っ込んできた分身体を真っ二つにする。

 ――だが。そもそも分身体を敢えて敵に討たせたのは、ナギの仕組んだ罠だった。
(この分身はオレの殺戮衝動の塊。奴がコイツを斬り裂き鮮血を浴びれば……)
 両断されたナギの分身から撒き散らされる大量の血肉。そのうちの数滴がガーデニアの胸元に寄生する『番犬の紋章』に降り掛かる。たった数滴、なれど効果は覿面に現れた。
「ぐ……ッ!?」
 まるで腐肉の塊を口に含んでしまったように、ガーデニアの顔色が変わる。分身に宿っていたナギの殺戮衝動は、どんな薬品よりも強烈な猛毒として紋章を侵し尽くしていく。

「膨大な殺気の呪詛に蝕まれるがいい」
 無限に湧き出る殺戮衝動の結界を展開したまま、冷酷な眼差しでナギは告げる。一度触れてしまったが最後、それは対象の命が尽きるまで延々とダメージを与え続ける。これまでに味わったこともない深き"絶望"に、ガーデニアは初めて恐怖という感情を知った。
「まず……い……!!」
 既に激戦により体力を消耗していた彼女は、蝕む殺意に耐え切れずがくりと膝を折る。
 『庭園』の地底都市を巡る門番との戦いにも、いよいよ決着の時が近付きつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
収穫を待つ果実……あるいは家畜ですか。
地上で常に命の危険に晒されるのと果たしてどちらが幸せなのでしょうか。

確実に言えることがあるとするなら……あなた達がいない方が人は幸せに暮らすことができる。

何を言っても私が絶望するまで満足はしないでしょうし、言葉で対応はやめておきましょう。
重い上に形状も受けづらいですね。しかしその分小回りが利くものでもない。デリンジャーの『クイックドロウ』とナイフの『投擲』で威嚇し接近されないように戦いつつ、自然に私と影人形、ガーデニアが一直線に重なるタイミングを待ちます。

重なったら【凍風一陣】を。『スナイパー』の技術と強化された弾丸で影人形ごと貫き、番犬の紋章を狙います。



「収穫を待つ果実……あるいは家畜ですか。地上で常に命の危険に晒されるのと果たしてどちらが幸せなのでしょうか」
 『庭園』と称された地底都市で、オブリビオンに管理されながら見せかけの希望を与えられて生きる人々の境遇を考え、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は独り言つ。地上での苦しい生活や吸血鬼の脅威を身をもって知っている彼女には、どちらの生き方が良いかという問題には一概に答えを出すことはできなかった。
「確実に言えることがあるとするなら……あなた達がいない方が人は幸せに暮らすことができる」
 冷たいアイスブルーの双眸が見据えるのは狂気に堕ちたクチナシの精霊、ガーデニア。
 絶望の未来も偽りの希望もいらない。ほんとうの意味で人々が幸せに暮らせる明日ができるまで、彼女の戦いは終わることはない。

「ああ……素敵……なんて揺らぎのない、まっすぐな瞳なのかしら」
 セルマと対峙した時点で、ガーデニアは既に相当の深手を負っていた。純白のドレスを自らの胸元からの出血で真っ赤に染め上げながら、それでも彼女は愉しげに笑っている。
 絶望の闇に覆われたこの世界を救いうる唯一の"希望"である猟兵。その魂が放つ輝きは『庭園』の中で栽培されたまやかしの"希望"などよりも遥かに強い。
「ねえ、教えて頂戴。アナタ達の希望を絶望に染めるには何をすれば良いの?」
 問いかけが放たれるのと同時に、水面のように揺らめいた影からセルマそっくりの影人形が現れる。術者が満足する答えを得られるまで、この人形は標的を攻めたてるだろう。

(何を言っても私が絶望するまで満足はしないでしょうし、言葉で対応はやめておきましょう)
 舌戦での応答は早々に諦め、セルマは無言のまま襲い掛かってくる己の影人形を見る。
 彼女は銃器や氷の術を主な武器として戦うが、影人形が振るうのは使役主から与えられたクチナシの大鎌。身の丈を超える長柄武器だが、大きさに振り回される様子もない。
(重い上に形状も受けづらいですね。しかしその分小回りが利くものでもない)
 冷静に武器の特性を見切り、翻したスカートの中からデリンジャーを抜きざまに撃つ。
 威力は心許ないが虚を突ければ威嚇としては十分、人形の足が止まった隙に後退する。

「どうしたの? 逃げているだけなんて……そんなつもりはないわよね?」
 なおも追いすがり攻撃を仕掛ける影人形に、今度は袖口に仕込んだスローイングナイフで牽制するセルマ。まるでダンスを踊るような少女と影法師の戦いを、ガーデニアはじっと見守っている。一体これから何を見せてくれるのだろうと、期待感に満ちた眼差しで。
(その期待に応える義理はありませんが)
 セルマにも勝算はある。大鎌の間合いに近付かれないように戦いつつも、彼女は自身と影人形とガーデニアの位置関係を測っていた。敵に気取られないようできる限り自然に、この三者が一直線上に並ぶように移動しながら人形を誘導していく。

「……重なりましたね」
 デリンジャーの弾が尽き、ナイフが品切れになった頃、ついにセルマの待ち望んだタイミングは訪れた。自身の視界からふたつの敵が重なり合う瞬間、目にも止まらぬ早業で彼女が構えたのは改造マスケット銃「フィンブルヴェト」。
「『寒い』と思う暇も与えません」
 据え付けたスコープを覗き込みながら、銃弾に宿すのは絶対零度の冷気。威力、貫通力、速度を極限まで高め放つ必殺の一射――今、スコープの向こうにいるのは獲物だけだ。

「収穫されるのは、あなたの命です」
 引き金にかけた指先が動く。【凍風一陣】と共に翔け抜けた銃弾は影人形を貫通し、さらにその向こうにいるガーデニアの胸元――『番犬の紋章』を狙い過たずに撃ち抜いた。
「――――ッ!!!!」
 セルマの立ち位置からは、人形が遮蔽となって紋章の正確な位置は見えなかったはず。
 にも関わらず彼女は的を外さなかった。戦いの中で磨き上げてきたスナイパーとしての技術、それこそが地底都市の番人を打倒する最後のピースとなった。

「あぁ……口惜しい……こんなにも世界は、希望で満ち溢れているのに……」

 風穴の開いた『番犬の紋章』が砕け散り、ガーデニアの身体が急速に凍りついていく。
 唇まで凍りつく最期の瞬間に、彼女が口にしたのは悔しさに滲む微かな満足感――『庭園』に咲かせた希望を収穫する時を迎えることなく、狂えるクチナシの精霊は息絶えた。
 闇を救済する真の希望――猟兵達の輝かしき勇姿を、その眼にしかと焼き付けながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『もく』

POW   :    じめじめ、うつうつ
【闇】【湿気】【周囲の幸福】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    もくー
全身を【ふわふわとした雲】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ   :    おいしいー
【不安】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身の分体】から、高命中力の【幸福を喰らう雲】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「なんだろう、町の外が騒がしい……?」

 地底都市に暮らす人々は、城門を隔てて繰り広げられる戦いの喧騒を、まるで対岸の火事のように感じていた。安全な『庭園』の中で庇護されて生きてきた彼らは"脅威"を知らず、ましてや自分達の未来がその戦いにかかっているとは想像すらできないだろう。

「あれ……空に何か浮かんでる……」
「あんなのさっきまであったっけ?」

 彼らよりも先に戦いの決着を察したのは、この都市に潜んでいたオブリビオンだった。
 ふわりふわりと宙に漂うそれを見ても地底の住民はピンとこなかったが、地上の人間なら「雲」と呼ぶだろう。しかしてその正体は「もく」という意思ある怪異の一種である。

『がーでにあ、しんだ』
『しあわせ、いっぱい』
『おいしそうー』

 この雲は人から幸せな気持ちを喰らい、周囲の幸福を糧に力を増していく生態を持つ。
 おそらくガーデニアは収穫の時が来れば、このオブリビオンを使って民を絶望に叩き落とすつもりだったのだろう。逆に言えばそれまでは民の幸福を喰らうことを禁じていた。

『がまん、できない』
『たべるー』
『もくー』

 しかし猟兵という予定外の因子によってガーデニアが倒された今、もく達の食欲を制するものはいない。希望と幸せに満ちたごちそうの山を眼下にして、我慢できる訳もない。
 ゆらりゆらりと揺らめきながら降下してくる未知の存在を目にして、住民達の間には不安が広がっていく。

「なにあれ? ひょっとして良くないものなんじゃないの?」
「だ、大丈夫さ、俺達にはガーデニア様がいるんだから……」

 状況を把握できない人々は、この期に及んでもただ戸惑うだけで逃げようとはしない。
 何かあればガーデニア様が助けてくれる。閉鎖された都市の中でそう信じ込まされて生きてきた無垢な子羊達は、他者からの悪意に対してあまりにも無防備だった。

 クチナシの花が咲き誇る美しい町に、幸福を喰らう暗雲が立ち込める。
 今、この地の人々を災いから救い、真の希望を与えられるのは猟兵しかいない。
 『庭園』の支配者を撃ち破った猟兵達の戦いは、次の段階に突入するのだった。
七那原・望
アマービレでねこさん達を呼び出し、【多重詠唱】【全力魔法】【結界術】【オーラ防御】。住人を護る為に大量展開。

皆さん、落ち着いて聞いてください。決して取り乱してはいけません。あの物体はあなた達に害を成そうとする敵です。そして、ガーデニアがあなた達を助けに来る事はありません。
けれど、わたし達があなた達を必ず護ります。
だから絶望しなくていいのです。
希望を抱き続けてください。
そしてその希望をわたし達に託してください。

【果実変性・ウィッシーズホープ】を発動。
【第六感】と【野生の勘】で敵の動きを【見切り】回避しつつ【全力魔法】やセプテットによる【一斉発射】【範囲攻撃】【乱れ撃ち】で敵を【蹂躙】しましょう。


大町・詩乃
この後の地底都市の人々への説得を考慮し、真の姿、植物の女神アシカビヒメとしてUC使用しつつ降臨。

人々に「ガーデニアは死にました。今の貴方達は私達が護ります。だから家族を連れて家屋の中に避難して下さい。」と【威厳と優しさ】をもって指示。
人々に聞かれたら「私はガーデニアの上位存在、アシカビヒメです。」と言い切ります。

もく達は【光の属性攻撃・全力魔法・高速詠唱・範囲攻撃】で消滅か、煌月による【炎の属性攻撃・神罰・衝撃波・なぎ払い】で焼き尽くすかする。

敵攻撃は【第六感と見切り】で読み、天耀鏡の【盾受け】と【オーラ防御】で対応。

「不安?これだけ頼もしい猟兵の皆様がいますのに感じる筈ありませんよ」と笑顔で



「ねこさん達、さぁ、開演なのですよ!」
 暗雲と共に立ち込めていく人々の不安を裂いたのは、白翼のオラトリオの宣言だった。
 鈴のついた白いタクト「共達・アマービレ」を望が振ると、どこからともなく白い魔法猫の群れが現れ、上空に漂う『もく』に襲い掛かる。傍目には猫が雲にじゃれついているようなファンシーな光景だが、相手は人の幸福を喰らう恐るべきオブリビオンである。
「絶対に住人には手を出させないのです」
 彼女はねこさん達を指揮しながら、持てる技能の数々を駆使して町を覆う結界を張る。
 白く輝くオーラの光が広がっていくのを、住民達は目を丸くしながら見上げていた。

「これは……?!」
 事態の変化に理解が追いつかずにいる『庭園』の住人を驚かせるような事はまだ続く。
 望のそれとも異なる神々しいオーラを纏って、真の姿――植物の女神アシカビヒメとしての姿を顕現させた詩乃が地底都市に降臨したのだ。
「なっ……あ、貴女は一体……?」
「私はガーデニアの上位存在、アシカビヒメです」
 何も知らずとも一目で只者ではないと分かる威厳に、人々は思わず膝を屈してしまう。
 【神威発出】を発動した詩乃の足元からは草花が萌芽し地面を緑に染めていき。神の威光を示した彼女は人々の問いに臆面もなくそう言い切った。

「皆さん、落ち着いて聞いてください。決して取り乱してはいけません」
 周囲の注目が集まってきたところで、望が厳しくも静かなトーンで人々に呼びかける。
 まずはパニックが起きないように制し、それから上空にいるオブリビオンの群れを指差す。今はねこさん達と結界によって押し止められているが、じきに降下してくるだろう。
「あの物体はあなた達に害を成そうとする敵です。そして、ガーデニアがあなた達を助けに来る事はありません」
「え……っ、そんな、ガーデニア様はどちらに……」
「ガーデニアは死にました」
 戸惑う人々にぴしりと事実を突きつけたのは詩乃。『庭園』の支配者にして守護者であったクチナシの精霊はもう居ない――はっきりとそう告げられては、取り乱すなと言われても、人々は動揺せずにはいられなかった。

「ガーデニア様が死んだ?」
「まさか、そんなことが」
「私達はこれからどうなるの……?!」
 住民達の間に広がる困惑と不安。それに反応してもく達が自身の分体を召喚し始める。
 このまま不安なままにさせてはいけない。望は小さな体で人々の前に進み出ると、精いっぱい胸を張りながら呼びかけた。
「けれど、わたし達があなた達を必ず護ります。だから絶望しなくていいのです」
「今の貴方達は私達が護ります。だから家族を連れて家屋の中に避難して下さい」
 詩乃――アシカビヒメも威厳と優しさをもって指示を出しながら、煌月の切っ先を上に向ける。すると刀身に集束した神気が光線となって放たれ、もくの群れを消し飛ばした。

「あのような者達は私達の敵ではありません。どうか安心して下さい」
 実際に力を示してみせれば、言葉にはより説得力が増す。どうやら彼女達に敵意がなく、その言葉に偽りがないと理解した人々は一転して安堵の表情を浮かべるようになった。
「私達を助けにきてくださったのですね……」
「どなたかは存じませんが、感謝いたします!」
 悪意や不幸のない環境で暮らしてきた温室育ちの住人は、良くも悪くも素直な人柄だ。
 詩乃の「ガーデニアの上位存在」というハッタリも、信頼を得られる一因となったらしい。事実、花の精霊に過ぎないガーデニアよりも植物を司る彼女のほうが神格では上だ。

「希望を抱き続けてください。そしてその希望をわたし達に託してください」
 人々にもう一度呼びかけながら、望は【果実変性・ウィッシーズホープ】を発動する。
 虚空より召喚されるのは黄金色に輝く果実。それは人々の願いや希望を集めて力に変える、勝利の果実だ。
「あなた達がそう願ってくれる限り、わたし達は絶対に負けません」
 ひらりと空に舞い上がった少女は、滞空する7つの魔銃「銃奏・セプテット」を従えて敵に立ち向かう。音楽を奏でるようにリズミカルな銃声が響き渡れば、風穴を開けられたもく達が雲散霧消する。その可憐にして美しい戦い方は、人々の心を惹き付けるのに十分。
「きれい……」
 見惚れた誰かがぽつりと呟いた言葉が、勝利の果実に力を与える。それに伴ってセプテットの銃弾も強化され、より苛烈さを増した弾幕がもくの群れを蹂躙していくのだった。

『てき、いぇーがー』
『ふあん、かんじてない』
『じゃまー』

 もく達にしてみれば、ご馳走を前にして思わぬ邪魔に入られて愉快なはずが無かった。
 雲状の身体をぶるぶると震わせて怒りを表現し、まずはそちらから先に食べてやろうと襲い掛かってくるが――無力な『庭園』の住民達と違い、猟兵達は一向に怖気付かない。
「不安? これだけ頼もしい猟兵の皆様がいますのに感じる筈ありませんよ」
 詩乃は笑顔でそう言い切ると、近付いてくるもくの動きを読んで天耀鏡の盾をかざす。
 強大な『門番』であったガーデニアすら倒してみせた自分達が、今更この程度に遅れを取るものか。神鏡に跳ね返されたもくを、炎を帯びた薙刀のひと振りが焼き尽くした。
「あなた達に食べさせる希望は無いのです」
 そして望も盲目とは思えない鮮やかな身のこなしで、空中でひらりと敵の攻撃を躱し。
 群れが一箇所に集まった所で7つの銃を合体させると、超大型銃の砲撃で吹き飛ばす。

『うわー』
『つよいー』

 どこか間延びした断末魔の悲鳴を上げながら、跡形もなく消え去っていくもくの群れ。
 『庭園』の地底都市で育てられた人々の命と希望を守るために、猟兵達は戦い続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
敵が雲だけに魔法的な遠距離攻撃が有効と見て、【虜の軍勢】で雪花、「エビルウィッチ」「光の断罪者」「狐魅命婦」「神龍教派のクレリック」の遠距離部隊を召喚。

【吸血姫の契り】で皆を強化し、それぞれ
【とにかくふぶいてみる】【ファイアー・ボール】【光の断罪者】
【フォックスファイアフィーバー】【神罰の吐息】による遠距離攻撃で吹き飛ばし、住民達を助けさせる事で自分達が味方である事を住民達にアピール。

自身も【念動力】の防御壁で住民を守ったり魔力弾【高速詠唱、誘導弾】で敵を迎撃しつつ、アレがガーデニアの配下であり、実はあんな化物を飼っていて皆を餌にするつもりだったのだ、と主張し、住民達を守りつつ説得するわ。



「敵が雲だけに魔法的な遠距離攻撃が有効かしら?」
 出現した『もく』達に効く手段を考えたフレミアは、対応した眷属を【虜の軍勢】で呼び出す。世界の隔たりを超えて現れるのは、雪女見習いの「雪花」に、エビルウィッチ、光の断罪者、狐魅命婦、神龍教派のクレリック――いずれも遠距離攻撃に長けた者達だ。
「フレミア・レイブラッドが血の契約を交わします。汝等、我が剣となるならば、吸血姫の名において我が力を与えましょう」
 呼びつけた者と【吸血姫の契り】を交わせば、彼女ら主従の力は何倍にも強化される。
 幼艶で気まぐれな吸血姫に率いられた眷属の遠距離部隊は、個性豊かながらも統率の取れた動きで、『庭園』に満ちる希望を狙うオブリビオンの迎撃を開始した。

「それぞれ、得意な遠距離攻撃であの雲を吹き飛ばしなさい」
「はいなの、おねぇさまー」
 主君の血を受けて一時的に吸血鬼化した雪花が【とにかくふぶいてみる】と、見習い雪女のものとは思えない猛吹雪が辺りに吹き荒れる。外見通りにふわふわとした雲の性質を持つもく達は、冷たい風に押し流されるか、全身の水分を凍結させられて墜落していく。
「雲なんて吹き飛ばしてやるわ」
「邪魔よ、邪魔邪魔っ」
 その一方では杖を構えたエビルウィッチが【ファイアー・ボール】を放ち、黒狐に変身した狐魅命婦が【フォックスファイアフィーバー】を展開している。火球の魔法と青い炎の弾幕が地底都市の闇を照らし、ゆらゆらと漂うもくの群れを一網打尽に焼き尽くした。

「あ、あの女の子たちは……?」
 地底都市の住民達は、自分達を守りながら怪物と戦う少女達に戸惑いを隠せずにいた。
 危機を把握できていない人々の逃げ足は遅く、その隙を狙うように敵はにじり寄る。だが、そうはさせじとフレミアの張った念動力の防御壁が、もくの食欲から人々を守った。
「アレはガーデニアの配下。彼女は実はあんな化物を飼っていて、皆を餌にするつもりだったのよ」
 彼女は防壁を張ったまま近付いてくる敵を魔力弾で迎撃し、同時に人々に真実を語る。
 これまでガーデニアを善人と信じて疑っていなかった人々には受け入れがたい事かもしれないが、とにかく今は危険だということを分かって貰わなければいけない。

「ガーデニア様が……あの怪物を? そんな、まさか……」
「じゃあ、どうしてガーデニアは貴方達を助けに来ないの?」
 彼女が健在であればこの程度の化物はすぐに追い払えたはず。なのに姿を見せないということは、この都市はすでに彼女の庇護下には無いということ――フレミアの主張は次第に人々に受け入れられていく。否、正確には受け入れざるを得なくなったと言うべきか。

『きらきら、ぴかぴか』
『おいしそー』

 希望を求めて襲い掛かってくる敵の群れ。それを近付けさせまいと戦う吸血姫の眷属。
「主よ、その威光を示したまえ」
「神龍よ、悪しき者共に裁きを!」
 光芒を纏った【光の断罪者】と神龍教派のクレリックが、祈りを捧げながら放つ破壊の光と【神罰の吐息が】、幸福を喰らう暗雲を退散させる。そうした戦いの様子を見せつけられれば、どちらが味方でどちらが敵かなど一目瞭然というものだ。

「本当に、ガーデニア様は私達をお見捨てに?」
「僕たちはこれから一体どうすればいいんだ?」
「落ち着いて。まずは安全な所に避難してて頂戴」
 すがる者を失った人々の心に、凛として気高いフレミアの言葉は染み入るように響く。
 悪く言えば主体性に乏しいが、少なくとも反抗的な態度を見せる者がいないのは幸いだろう。吸血姫と虜の軍勢がもくとの戦いを繰り広げる中で、住民達の避難は進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】で広域の敵を一気に吹き飛ばしつつ、敵と市民達の間に立ちはだかる様にして市民を守りながら戦闘…。
特に未来への希望が強く、弱い子供達に惹かれて集まって来るもく達を優先的に排除…。

仔竜達を呼んでブレスによる支援と子供達の護衛をお願いし、自身は黒桜と【狐九屠雛】による広域一斉攻撃で一気に敵を殲滅するよ…。

偽りとはいえ、脅威を知らずに幸福と希望を抱いて生きて来たみんなの心…。
希望の火を貴方達に消させはしない…!
市民達はわたし達が守ってみせる…!

周囲の敵を一掃したら呪力の結界【結界術、高速詠唱、呪詛】を張って市民達の安全を確保…。
次の救出に向かうよ…。



「偽りとはいえ、脅威を知らずに幸福と希望を抱いて生きて来たみんなの心……」
 クチナシの花が咲き乱れる『庭園』の地底都市を駆けながら、璃奈はぽつりと呟いた。
 例えそれが絶望を収穫するまでの手入れに過ぎなかったとしても、闇に包まれたダークセイヴァーにおいて、この都市の住民達が稀有なほど希望に満ちているのは事実だった。
「希望の火を貴方達に消させはしない……!」
 その希望は彼ら自身のもの。断じてオブリビオンに食い散らされて良いものではない。
 握りしめた呪槍・黒桜を一閃すると、白いクチナシの花びらとは対照的な漆黒の花びらが舞い上がり、巨大な呪力の衝撃波となって『もく』の群れを吹き飛ばした。

「わわわっ、なにっ?!」
「真っ黒で、なにも見えない……!」
 今まさに怪物の餌食になりかけていた人々は、吹きすさぶ黒い桜吹雪に目を丸くする。
 嵐が収まった時、彼らと怪物達の間に立ちはだかっていたのは銀髪銀尾の妖狐の少女。
「市民達はわたし達が守ってみせる……!」
 璃奈はなおも押し寄せて来るもくの群れを睨み付けながら、九尾炎・最終地獄【狐九屠雛】を発動。熱ではなく冷気を発する地獄の霊火が彼女の周りに出現し、近付く敵を牽制するようにゆらゆらと辺りを漂う。

『おなか、すいた』
『たべたいー』

 人の幸福を糧とするもく達は、璃奈の後ろで縮こまる人々の不安を敏感に感じ取っていた。それに惹かれるように分体が現れ、まるで真夏の入道雲のような巨大な群体となる。
 だが。どんなに数が増えようが璃奈には関係ない。呪槍を構えながら一歩前に出た彼女は、呼びよせた仔竜のミラ、クリュウ、アイに指示を出す。
「ミラ達はその子達の護衛とブレスの支援をお願い……」
「「「きゅ~!」」」
 可愛らしく鳴いた3匹の仔竜は、護衛対象の周りをくるりと取り巻きながら、口を大きく開けてブレスを放つ。まだ幼体とはいえれっきとしたドラゴンの吐息、その威力は決して侮れるものではない。

「魂をも凍てつかせる地獄の霊火……」
 璃奈は仔竜達のブレスに合わせて【狐九屠雛】を放ち、さらに黒桜の呪力を解き放つ。
 触れるモノ全てを凍てつかせる絶対零度の炎と、呪槍に宿りし呪いの桜吹雪。そして竜の吐息が合わさることで、彼女達の攻撃は敵を殲滅する大嵐となる。
『もくー……!?』
 その嵐に巻き込まれたもく達は芯まで凍りつくか、あるいは焼き尽くされるか。さもなくば呪詛に蝕まれて、いずれも消滅する。魔剣の巫女達による一斉攻撃が止んだ後、あれだけ膨大な数がいたオブリビオンの群れは、跡形もなく彼女の視界から消え去っていた。

「もう大丈夫だよ……」
「うぅっ、こわかったよぉ」
 周囲の敵を一掃できたのを確認した後で、璃奈は助けた地底都市の住民達に向き直る。
 もくの群れに襲われていたのは、まだ年端もいかない子供達だ。大人よりも特に未来への希望が強く、力も弱いために格好の標的となったのだろう。悪意というよりは単純な食欲から獲物を選んでいるようだが、だからこそタチが悪いとも言える。
「ここに居れば安全だから、しばらくじっとしてて……」
 璃奈は子供達の周りに呪力の結界を張って安全を確保すると、すぐに次の救出に向かう。敵がか弱い子供に惹かれて集まって来るとすれば、一刻も早く優先的な排除が必要だ。
 まだ少し不安げにしている子らの頭をそっと撫でて、魔剣の巫女は再び地底都市を駆ける。怪異に侵食される『庭園』の幼き花々を、これ以上踏み躙らせないために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
芸人のガーデニアが死んだ。
彼女が最後に口にした悔しさを鎮魂歌としてカビパン歌う。

「聞いて、このハングリーハート!梔子の庭園に迷い込んだロックンローラーが叫ぶ!飢えと乾きに満ちたシャウトを。ノッているかお前達!目的もって生きてるか!今こそ歌うんだ、魂の鼓動にのせて、叫べ!胸の奥から!」
エアギターをロックに弾きながらタカハシ・ヨウイチックに歌い出すカビパン。その音痴歌を聞いた庭園の中の人々は一気に不幸になった。

もく達も苦しむが、一人幸せそうに歌うカビパンに食らいついた。
感情を食べた瞬間にもくは音痴歌以上に苦しみ出し爆散。ツッコミどころ満載な感情と、ギャグに満ちた世界には適用できなかったのである。



「そう、ガーデニアは死んだのね……いい芸人だったのに」
 一時は意気投合した(と本人は思っている)掛け替えのない仲間の死を悼むカビパン。
 耳に残っているのはガーデニアの最期の言葉。『口惜しい……こんなにも世界は、希望で満ち溢れているのに』と、悔しさを口にした彼女の無念を鎮魂歌として、クチナシの花咲く地底都市をステージに【ハリセンで叩かずにはいられない女】が歌いだす。

「聞いて、このハングリーハート! 梔子の庭園に迷い込んだロックンローラーが叫ぶ!」

 エアギターをロックに弾きながら、タカハシ・ヨウイチックにノリノリで歌いまくる。
 レクイエムにしては余りに激しいビートに、死体も起き上がりそうなハイテンション。
 ついでに言うとタカハシ氏チックなのはあくまでノリであり歌唱力は及ぶべくもない。
 手のつけられないレベルの音痴歌による【カビパンリサイタル】を聞かされた近隣住民は、これまでの幸せ気分はどこかに吹っ飛び、一気に不幸になった。

「うええ……なにこの歌……」
「頭にガンガン響く……」
「うるさーーーいっ!!!」
 まるで花畑に除草剤をぶっかけたが如く、みるみるうちにしおれて元気を失う住民達。
 これはこれで恐るべき音楽の(負の)力だが、人々が不幸のどん底に沈んでいくのに一番動揺したのは、敵であるもく達の方だった。
『ごはんないー』
『おなかすいたー』
『うるさいー』
 彼らもカビパンに歌を聞いて苦しんでいるが、それ以上に糧となる幸福な感情をカビパンが消し去ってしまったほうが大問題だった。長い間ガーデニアに『庭園』の住民達から感情を食べるのを禁止されていたもく達の空腹は、もはや限界である。

「飢えと乾きに満ちたシャウトを。ノッているかお前達! 目的もって生きてるか!」

 そんな誰も幸せになれない状況下で、カビパンだけは一人幸せそうに歌い続けている。
 砂漠に生えた一輪のサボテンの花のように、唯一残った幸福にもく達は食らいついた。
 歌うことに熱中しているカビパンは当然のように避けられず、たちまち雲に包まれる。
『もくー……』
『おいしー……?!』
 だが。その瞬間に苦しみだしたのは何故かもく達のほうだった。ぶるぶると小刻みに震えながら身をよじり、そして爆散――文字通りに雲散霧消した敵の真っ只中で、カビパンは相変わらずガーデニアに捧げる鎮魂歌を熱唱している。

「今こそ歌うんだ、魂の鼓動にのせて、叫べ! 胸の奥から!」

 敵はカビパンを甘く見ていた。これまでに食ってきたどんな幸福な感情とも異なる、あまりにもツッコミどころ満載な彼女の感情は、とても食えたものではなかったのである。
 ただ己の食欲のままに行動し、ボケやツッコミというものを理解しないもく達には、彼女のユーベルコードが作り出したギャグに満ちた世界に適応できなかったのも痛かった。
 音痴歌を聞いた時以上の苦痛と悶絶を味わって、もく達は絶望の中で息絶えていった。

「よし! それじゃノッてきたところで二曲目いくぞ!」
 自分以外の全てを不幸にしつつカビパンは歌う。結果的に人々を救い敵を倒しながら。
 この光景をガーデニアが見ればどう思うだろうか――案外、面白がったかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メフィス・フェイスレス
戦闘の跡を尻目に地底都市に急行

「飢渇」で周囲の民衆を包み込んで拉致し
戦闘終了まで外が見えない屋内に突っ込んで拘束しておく

危機感のない奴らね
いや、そういう風に育てられたのか
希望で肥え太らされた家畜、胸糞悪いわね
出遅れなければこれをやった奴を喰い殺してやったのに

コートを脱ぎ捨て、目に見える敵全てを対象にUC使用

私の希望を喰いたいの?じゃあアンタ達が私の餌になりなさい
食いではなさそうだけど、纏めて吸えば味くらいは感じられるかしらね
アンタ達が育てた希望とやらを利用させてもらうわ
雲から吸収したPOWUCで自身をさらに強化、周囲の敵を根こそぎにする

空気を飲み込んだようなもんだったわね
腹の足しにもならないわ



(危機感のない奴らね。いや、そういう風に育てられたのか)
 猟兵と門番との激闘の跡を尻目に、地底都市に急行したメフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)の目に入ってきたのは、緩慢にうろたえる人々の姿だった。
 身なりはよく、地上でよく見るようなガリガリに痩せこけた人間も、ボロボロで傷だらけの人間もいない。よほど安全で恵まれた生活を送っていたのだろう――今は亡き領主はこの地を『庭園』と呼んでいたそうだが、それも納得だと彼女は皮肉げに悪態を吐いた。

(希望で肥え太らされた家畜、胸糞悪いわね。出遅れなければこれをやった奴を喰い殺してやったのに)
 似たような事を考える輩はどこにでもいる。メフィスを"造った"のも人間を都合の良い家畜に品種改良しようと目論む、死肉を継ぎ合わせるのが趣味のオブリビオンだった。
 この『庭園』の主は精神的に民を依存させ家畜化していたようだが、いずれにせよ気に入らない。これを仕組んだ輩も、抗いもせずに支配と束縛を受け入れる住民達のことも。
(まあ、見捨てるつもりはないけれど)
 彼女は今だに避難の遅れている連中のもとに駆け寄ると、身体から滲みだした「飢渇に喘ぐ」タール状の粘液を操作して包み込む。いきなりの事に人々は「ふえっ?!」「なにこれ?!」と仰天するが、そんなことはお構いなしに手当り次第にとっ捕まえる。

「戦いが終わるまで、そこで大人しくしてなさい」
 人々を確保したメフィスは外が見えない屋内に彼らを突っ込んで、飢渇の粘液でそのまま拘束しておく。傍目には完全に拉致監禁としか映らない所業だが、いちいち「アンタ達のご主人サマは実は悪いやつだった」と説得するよりもこの方が手っ取り早くて済む。
「面倒かけさせるんじゃないわよ」
 悪態を吐きながら何だかんだで民衆を見捨てないところに、彼女の人情が垣間見える。
 ともあれ、周辺住民の避難を完了させたメフィスはコートを脱ぎ捨てると、継ぎ接ぎの跡が目立つ身体を晒しながら敵の前に立ちはだかった。

『もくー』
『おなか、すいた』
『しあわせ、たべたい』

 人の幸福を喰らうという、単純な衝動のもとに行動するオブリビオン『もく』の群れ。
 近隣の住民がいなくなったことで、彼らの食欲は全てメフィス一人に向けられていた。
「私の希望を喰いたいの? じゃあアンタ達が私の餌になりなさい」
 食うか食われるかの弱肉強食の理を彼女は否定しない。自分から何かを食うつもりなら、逆に食われる覚悟はしてもらう――痩せた身体のあちこちから形成されるのは、ぎらつく牙を生やした捕食器官。
「食いではなさそうだけど、纏めて吸えば味くらいは感じられるかしらね」
 【貪】を発動した牙口が開かれ、彼女の目に見える範囲にいたもくが吸い寄せられる。
 それが喰らうのは血肉のみにあらず。捕食対象が有していたユーベルコードさえも吸収し我がものとする、まさに彼女の飢餓衝動を具現化させたが如きユーベルコードだ。

「アンタ達が育てた希望とやらを利用させてもらうわ」
 吸引した敵からメフィスが取り込んだのは、もくというオブリビオンの特性そのもの。
 【じめじめ、うつうつ】とした闇と湿気、そして周囲の幸福によって彼らは力を得る。
 地底に造られた幸福を養殖する都市は、まさに彼らが生きるうえで最高の環境だったわけだ――己の力が際限知らずに高まっていくのを感じて、メフィスはそれを実感する。
『きけん、きけん』
『こわい、こわい』
 食欲以外にほとんどの感情を持たないもく達が、その時感じたのは捕食される恐怖。
 自分達よりも遥か上位の捕食者と出会ってしまった、その本能が警鐘を訴えていた。

「逃げようったって、もう遅いわ」
 慌てふためくもく達に全身の牙口を向けて、メフィスは【貪】を再発動。先程よりも吸引力・捕食力ともに大幅に強化されたユーベルコードが、周囲の敵を根こそぎにする。
「空気を飲み込んだようなもんだったわね。腹の足しにもならないわ」
 誰もいなくなった戦場の片隅で、彼女はそう呟きながら捕食器官を閉じるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
悪いけれど、させるわけにはいかないよ

行動 WIZ

【空中浮遊】を用いて【空中戦】
まずは、自身が不安の感情を持たないように常に【鼓舞】
住人達も【鼓舞】して、【覇気】を使用して【威厳】ある態度で1箇所に集まるように指示
それから【結界術】で防御しておく

「闇穿つ射手。無窮に連なる氷葬の魔弾。白き薔薇を持たぬ愚者を射貫く顎となれ。射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)」

【誘導弾】で命中率を上げて、住人へ被害を抑える
戦闘中には、相手を【挑発】して【言いくるめ】、
ガーデニアの正体について喋らせることが出来たらいいかな
じゃないと、倒した後の住人の説得も難しくなりそうだから



「悪いけれど、させるわけにはいかないよ」
 餌を求めてふわふわと宙を漂う『もく』達を眺めて、そう呟いたのはエウロペだった。
 あのオブリビオンが喰らうのは人の幸福。まずは標的に不安の感情を与えて、それから自らの分体を召喚して捕食するのが彼らの行動パターンのようだ。
(だったらまずは、不安の感情を持たないようにしないと)
 立ち込める暗雲に心乱さないよう己を鼓舞する。もっともガーデニアという強敵を撃破した今、その配下程度に不安を覚えるようなことはないだろう。問題は市民達のほうだ。
 今だ状況を把握できていない人々の中には、未知なる怪物の出現に不安がっている者は多い。彼らが敵の標的となる前に、エウロペはひらりと宙に浮かんで彼らの前に現れる。

「心配はいらない。ボクがキミ達を守るよ」
「あ、貴女は……?」
 氷杖を手にして怪物との間に立ちはだかるオラトリオの少女に、人々の注目が集まる。
 エウロペは彼らを鼓舞するために普段より語気を強め、威厳のある態度で呼びかける。
「説明は後でする。今はボクの指示通りに動いてほしい」
 戦場においては常に冷静沈着で、出自を紐解けば亡国の姫にあたる彼女が相応の振る舞いを見せれば、ある種の覇気を感じさせる佇まいとなる。主体性に乏しい面のある『庭園』の住民達はそれを受けてどこか安心した様子で、彼女に言われるままに動き始めた。

「よし。しばらくそこでじっとしていて。大して時間はかけないよ」
 人々を一箇所に集めたところで、エウロペは結界術による防壁を張る。氷姫の魔力から作られた氷の護りは硝子のよう透き通っているが、多少の攻撃は通さないほどに強固だ。
 住民の安全を確保したところで、改めて彼女は敵に向きなおると、皆の注目を背負いながら呪文を唱える。冷たい白の魔力があふれ出し、生成されるのは数百本もの氷の魔弾。

「闇穿つ射手。無窮に連なる氷葬の魔弾。白き薔薇を持たぬ愚者を射貫く顎となれ。射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)」

 誘導効果を付与することで命中精度を高めた魔弾は、吸い込まれるように敵を捉える。
 ふわふわとしたもくの身体は氷の弾丸に風穴を開けられ、またたく間に凍りつきながら地上に落下していく。幸福を喰らう力こそ面倒ではあるが、もくの戦闘力は高くはない。
「手応えのない相手だね。キミ達のご主人様を連れてきたらどうかな?」
『もくー……しゅじん、がーでにあ、もうしんだ』
 涼やかな笑みを浮かべながらエウロペが挑発すると、もく達は淡々と言い返してきた。
 その言葉に驚いたのは、結界の中から戦いを見守っていた住人達である。地底都市の領主ガーデニアがあの怪物の主人であり、もう死んでいる事実を彼らは初めて知ったのだ。

『がーでにあ、めいれい、した』
『こうふく、そだつまで、たべては、いけない』
『でも"しゅうかく"の、ときがくれば』
「すきなだけ、たべていいと』

 もくの口から語られたガーデニアの目的と正体。それは猟兵のエウロペにとっては既知の事だったが、住民達にとっては驚愕の真実だろう。自分の口よりも敵に喋らせたほうが真実味が増すだろうと、彼女はわざともく達を挑発したのだ。
(じゃないと、倒した後の住人の説得も難しくなりそうだから)
 ちらりと眼下にいる人々の様子を見れば、どうやら相当ショックを受けているようだ。
 しかし現に怪物が都市を襲っている現状でもガーデニアは救援に現れない。すぐに受け入れられるかどうかは別として、彼らの多くはそれを"真実"として受け取ったらしい。

(あとは彼らをどう立ち直らせるかだね)
 目論みを果たしたエウロペは今後の事を考えながら、用済みとなった敵に白銀の魔弾を再度放つ。容赦なく降りしきる氷の豪雨は、初撃を生き延びた標的を今度こそ逃さない。
 その弾幕が止んだとき、空中に佇むものは、白装束を纏いしエウロペただ一人だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西院鬼・織久
血肉を備えぬ怪異は狩った所で物足りぬ
人を文字通り喰らって来たなら名残はあるだろうが、さてどなのか
数を喰らえば多少はましか

【行動】POW
戦闘知識を活かす為五感+第六感+野生の勘を働かせ敵の行動を把握し予測
武器と自身を常に怨念の炎(殺気+呪詛+生命力吸収+各耐性)で満たす

先制攻撃+影面で一体を捕らえ爆破。空いた空間にダッシュ+残像でフェイントをかけ引っ掛かった敵に範囲攻撃+なぎ払い
その時点で生き残っている敵に二回攻撃+UCでとどめを刺し次に移る

敵の防御は呪詛+生命力吸収+継続ダメージで弱らせる。攻撃は残像+フェイントか武器受け+体術で受け流しカウンター、状態異常は怨念の炎の毒を以て毒を制す事で対処



「血肉を備えぬ怪異は狩った所で物足りぬ」
 外見は雲そのものである『もく』を見て、興が乗らぬと言いたげな態度で織久が呟く。
 いかにも歯ごたえがなさそうな敵ではあるが、オブリビオンとあらば狩るのが西院鬼一門の宿命。食いでがあろうと無かろうと選り好みをする訳にもいくまい。
「人を文字通り喰らって来たなら名残はあるだろうが、さてどうなのか。数を喰らえば多少はましか」
 幸い、数だけは飽きるほどにいる暗雲の群れを見上げながら、その身と闇器を再び怨念の炎で満たし。まずは挨拶代わりとばかりに適当な一体に狙いをつけて【影面】を放つ。

「何人たりとも死の影より逃れる事能わず」
 ぎゅるりと雲に絡みついた黒い影は、闇色の炎を噴き上げて大規模な爆発を起こした。
 直撃の対象となった一体は悲鳴を上げる間もなく蒸発し、周囲にいた仲間も爆風と衝撃によるダメージを負う。そうして群雲の中に生じた空間に、炎を連れて織久が飛び込む。
『もくー、てきだ』
『あつくて、くろい』
 先制攻撃を生き延びたもく達は反射的に襲い掛かるが、そこに居たのは陽炎が生じさせた残像。数歩ずれた位置にいた織久の本体は、まんまと引っ掛かった敵に闇焔を振るう。

「やはり薄い。この程度では怨念に焚べる薪にもならん」
 血色の炎を纏った大鎌が敵群を薙ぎ、ばっさりと斬り捨てられたもくが消滅していく。
 刃を刺しても手応えはなく、炎で焼いても焦げる匂いさえない。まったく無味無臭な手合いにもはや興味は失せたとばかりに、【影面】による間断なき追撃を仕掛ける。
『ぐわー……』
 食欲以外の感情に乏しいもく達は断末魔さえも希薄であり。絡みつく影と怨念の爆発から逃れられる者は無く、織久の周囲にいた敵はかくして一匹残らず駆逐されたのだった。

「次だ」
 敵の一群にとどめを刺すと織久はすぐさま次に移る。地底都市を覆う暗雲は今だ大きく、住民の危機は続いている。彼は人々の保護や説得に当たるよりも、迅速に敵を排除する事のみに専念していた。それが最大の得手であると自認しているが故に。
『こいつ、こわい』
『しあわせ、かんじない』
 希望も絶望も知らず、ただ敵を狩る事に全てを懸ける織久。彼の操る怨念の炎は闇を照らし、湿気を散らす。それらを糧して成長するもく達にとって彼はまさに天敵であった。
 密度を高めて防御力を強化する者は、呪詛で生命力を蝕み弱らせる。攻撃力を強化して襲い掛かってくる者は、先程と同じように残像で避けるか、闇焔の柄で受け流せばいい。
 そして隙を作り出した所に振り下ろされる怨念の刃は、確実に標的の生命を刈り取る。

『もくー……こいつ、こころ、くえない』
 最後の抵抗として織久の感情を喰らおうとしたもくも、彼が纏う怨念の炎に阻まれる。
 あのガーデニアの狂気も受け付けなかった彼が、今更この程度で異常をきたすものか。
「糧にすらならぬのなら、疾く消えろ」
 影面と闇焔を戦場を薙ぎ払う度に、地底都市を覆う暗雲は少しずつ晴らされていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
ふふ、ふわふわした外見に相応しく頭の中身もふわふわしているようですね

無敵になる? それはそれは結構なこと
でもそれはあなたたち本体の話です
大地に映る影まで無敵ではありませんよね
動かないでいるのならなおさら容易い話です……
私の呪われたカードたちがあなたたちの影を縫い止めるにはね
「範囲攻撃」「投擲」「スナイパー」によって
あなたたちの群れの影悉くを縫い付けます

私のカードに影を縫われた者のUCは封じられます
つまり、もう無敵ではなく、しかも影を縫われ相変らず動けない
何か言い遺すことは?
いえ、ただの間抜けな標的に聞いても仕方のないことでしたね、ふふ
鎖を舞わせ「衝撃波」と共にすべて「なぎ払って」あげましょう



「ふふ、ふわふわした外見に相応しく頭の中身もふわふわしているようですね」
 艷やかな微笑を浮かべながら、空中を漂う『もく』達を挑発するように言い放つ魅夜。
 言葉を話す程度の知能はあるとはいえ、あの怪異にあるのは人の幸福を喰らうという単純な行動原理のみ。あとは自己防衛の本能程度――つまりは野生の獣と何ら変わりない。
『もくー』
『もくー』
 今のもく達はガーデニアを倒した猟兵の存在を脅威に感じ、守りを固めているようだ。
 ユーベルコードで全身を完全に雲化してしまえば、あらゆる攻撃をほぼ無敵化できる。

「無敵になる? それはそれは結構なこと」
 しかし魅夜は一向に困った様子もなく、雲化したもくからつうと視線を下げていく。
 確かに、締め上げる鎖も、引き裂く鈎も、ただの雲を捉えることはできないだろう。
「でもそれはあなたたち本体の話です。大地に映る影まで無敵ではありませんよね」
 住民達の幸福を喰らう為に現れたもくの群れは、都市全体に大きな影を落としている。
 悪夢と血と影を武器とする魅夜にとって、それは心臓をさらけ出しているのと同じだ。
 呪いと絆の鎖に代わって、彼女が取り出したのは「53枚の死神札」。全ての札がジョーカーのみで構成されたトランプが次々に投じられる。

「動かないでいるのならなおさら容易い話です……私の呪われたカードたちがあなたたちの影を縫い止めるにはね」
 無敵化中で身動きが取れない隙に、魅夜の放った死神札は敵群の影を悉く縫い付ける。
 【背徳の媚態を示せ裏切りの影】――怨念の宿るカードに影を縫われた者は、その箇所に応じた行動阻害を受け、さらにユーベルコードを封じられる。
『もくー……?』
 希薄化していたもく達の身体が再び実体をまとう。なぜ無敵化が解除されたのか彼らはまるで理解していない。しかもユーベルコードが解除されても依然として影を縫われたままの彼らは相変わらず身動きできず、空中の同じところでピタリと止まったままだ。

「何か言い遺すことは?」
 魅夜は53枚の手札全てを投げ終えると、また鈎鎖を手に取ってもく達に問いかける。
 もぞもぞと空でもがく暗雲の群れは「もくー……」と間抜けな声を上げるばかりで、まともな返答はこない。死神札に影を縫われた影響で思考力もさらに低下しているようだ。
「いえ、ただの間抜けな標的に聞いても仕方のないことでしたね、ふふ」
 その無様なありさまに冷たい笑いを浮かべながら、黒き娘は呪いと絆の鎖を舞わせる。
 宙を踊る鎖の軌跡に沿って衝撃波が吹き荒れ、縫い止められた敵のすべてを薙ぎ払う。
 逃走も回避も防御も禁じられたもく達は、為す術もなく猛威に消し飛ばされていった。

「呆気なかったですね」
 役目を果たしたカードと鎖を手元に回収して、微笑んだまま独り言つる魅夜。彼女が見上げる視線の先に、先程まで立ち込めていた暗雲はもはや一欠片さえも残ってはいない。
 希望の紡ぎ手たる彼女の目の届くところで、幸福をつまみ食いできるはずがない。愚かなオブリビオンは住民達に触れることさえできぬまま、悪夢の鎖に駆逐されていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
また厄介ものが出てきたな……。
幸福を喰らうという食性もそうだが。降下してきているとはいえ上空にいる間は手を出しにくいし、雲のような形状ならば、普通に殴ってもダメージを与えることは難しそうだ。
が、まぁ僕ならば問題あるまい。
いつものように、堂々と迎え撃とうじゃないか!

不安を威厳で持って笑い飛ばし、銃口を敵に向け『片恋の病』。
放つ弾丸に浄化の炎を纏わせ、頭上に浮かぶ雲を焼き尽くしてしまおう。
見た目は愛らしくとも、振舞いは怪異そのものだろう?
容赦なく燃やしていくぞ。

ほら、おかわりは山ほどある。遠慮なく食らえ!

※改変、アドリブ、絡み歓迎



「また厄介ものが出てきたな……」
 精霊ガーデニアに続いて面倒な手合いの出現に、シェーラはひっそりと顔をしかめた。
 領主の配下だった『もく』達は、ふよふよと宙を漂いながら民達の幸福を狙っている。
(幸福を喰らうという食性もそうだが、降下してきているとはいえ上空にいる間は手を出しにくいし、雲のような形状ならば普通に殴ってもダメージを与えることは難しそうだ)
 強さだけで言えばさほど強力なオブリビオンという訳ではない。だが何重にもなる特異性がそれを容易ならざる障害に変える。都市を覆う暗雲をじぃっと睨みつけ――それからふっ、と少年は笑みを浮かべた。

「が、まぁ僕ならば問題あるまい。いつものように、堂々と迎え撃とうじゃないか!」
 不安を威厳でもって笑い飛ばし、銃口を敵に向け【戯作再演・片恋の病】を撃ち放つ。
 かのガーデニアを討つ際には神罰の雷光を付与し、影人形をかき消した愛憎の弾丸。此度のシェーラはそれに浄化の炎を纏わせて、頭上に浮かぶ雲を焼き尽くしてしまおうと。
『もくー……!?』
『あつい、あつい』
 もく達は人の幸福な感情の他にも闇や湿気を好み、それをかき消してしまう炎を嫌う。
 炎の弾丸を受けた彼らはまるで綿のように燃え上がり、苦しげにもがきながら消えた。

「見た目は愛らしくとも、振舞いは怪異そのものだろう?」
 一見無害そうな姿形にも惑わされることなく、容赦なくもくを燃やしていくシェーラ。
 あれを放置すれば、この地底都市に暮らす住民全員が餌食にされかねない。いくら命までは奪われないとは言っても、幸福感を奪われた人々が辿る未来は明るくはないだろう。
『おなか、すいた』
『はやく、たべさせて』
 そしてもく達の行動は強い幸福感を抱く人間に引きつけられる、飢えた獣そのものだ。
 悪意ではなく本能に基づいた行動であるがゆえに容赦もなく、喰らった感情を糧にして成長と増殖を繰り返す。餌場から幸福が消えるまでそのループは止まることを知らない。

「あのガーデニアという女も、よくこんな連中を飼い慣らしていたものだ」
 いずれ人々を絶望させる為の手段だったとはいえ、己が死ぬまで配下の暴走を押さえていた領主の力はやはり絶大だったのだろう。皮肉げに笑いながらシェーラは銃把を握る。
 擲果満車、花鳥風月、千紫万紅、紫電清霜――それぞれに名を与えられた複数の精霊銃を同時に操る、シェーラ独自の戦闘技法『彩色銃技』。曲芸めいた手さばきから放たれる銃撃は決して的を違えることはなく、彼の驚嘆すべき技量の高さを物語っている。
『ぐわー……』
 彼の感情を喰らおうと迂闊に近付いた敵は、たちまちの内に火達磨となって焼却され。
 脅威を感じて逃げ出そうとも、一度銃口を向けられたが最後、逃れることは叶わない。

「ほら、おかわりは山ほどある。遠慮なく食らえ!」
 自らの魔力と精霊の力を弾丸に変えて、途切れることなく浄化の炎の弾幕を展開する。
 シェーラの戦いぶりは踊るように華麗で、口元には自信に満ちた微笑みを絶やさない。
 優雅かつ容赦のない彼の攻勢に、もく達は為す術もなく害獣として駆除されていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
先ずは住人達に『あれ』が危険な存在であると認知してもらわねばなりませんね
雲の付近でポジティブな感情が減衰する現象
直ちに致命的影響がないのは不幸中の幸い…説得材料として使える筈

脚部スラスター●推力移動で街を滑走しセンサーで●情報収集
住人襲う雲の所在を把握し●かばう為に急行

●怪力●盾受けでの弾き飛ばしや盾の●なぎ払いの風圧による吹き飛ばしで引き剥がしUC●スナイパー射撃で焼却

ご無事ですか?
あの雲は今の様に精神を蝕み命に関わります
どうか広場などに篝火を焚いて避難所を作ってください
暗所や湿気を好むあの雲には有効ですし、私達の仲間が直ぐに救援に向かえます

自己●ハッキングで音量拡大
これ以降も住人へ呼び掛け



「先ずは住人達に『あれ』が危険な存在であると認知してもらわねばなりませんね」
 漂うもくの群れを見上げながら、トリテレイアは住民を説得するプランを考えていた。
 幸福感のみを与えられて育った『庭園』の人々は、危機意識というものが希薄である。
 不気味ではあっても直接的な脅威を感じにくい、ふわふわとした敵の外見も危機感を鈍らせる一因となっているのだろう。
(雲の付近でポジティブな感情が減衰する現象。直ちに致命的影響がないのは不幸中の幸い……説得材料として使える筈)
 脚部スラスターによる推力移動で都市を滑走し、搭載したセンサー群で状況を把握し。
 機械仕掛けの騎士は窮地に陥る住人と敵の所在を確認すると、直ちに救援に急行する。

『じめじめ、うつうつ』
「な、なんなのこれ……?」
 雲を見たことがない地底都市の住民は、もやもやと辺りを漂う謎の物体にただただ不安を感じるばかり。それを見ていたり近付かれたりすると、いつも心に満ちていた喜びや幸せな気持ちが萎えていき、これまでに感じたことのない鬱々とした気分になってくる。
「なんだか体が重いような……」
「うぅ……こわい、こわいよぉ」
 ただそこに居るだけで周囲の幸福を奪うもく達の力は、徐々に人々の心を蝕んでいた。
 だが、それが深刻な影響を及ぼし始めるよりも早く、駆けつけた騎士が人々を庇うように立ちはだかった。

「これ以上、この方達の幸福を捕食するのは看過できません」
 人々を安心させるために堂々と言い放つと、トリテレイアは重質量大型シールドを構える。せっかくの食事を妨害されたもく達は、苛立ちに身体を震わせて襲い掛かってきた。
『じゃまー』
 幸福を喰らって成長したもくの体当たり。しかしそれは騎士からすれば余りにも軽い。
 怪力任せに盾を振りかざせば、突っ込んできた敵は逆に弾き返され、生じた風圧が周囲の暗雲を吹き飛ばしていく。敵を十分に住民から引き剥がしたところで、彼は腕部と肩部の格納銃器を展開し、装填した【超高温化学燃焼弾頭】を発射した。

「そちらの耐熱、冷却機能は十分ですか?」
 放たれた弾丸は目標に着弾すると直ちに燃焼し、激しい炎と高熱で目標物を焼却する。
 その火力は有機物であれば瞬時に炭化するほどで、炎熱に弱い敵には致命的な攻撃だ。
『あつい、あつい、あつい……』
 真綿の塊に火を点けたように、ぼうっと燃え上がったもく達は悲鳴を上げてチリと化す。都市や住民にまで炎が燃え広がらないよう、延焼範囲はトリテレイアが制御している。
 薬剤の火は周辺に被害を及ぼすことなく、都市の脅威のみを綺麗さっぱり焼き払った。

「ご無事ですか? あの雲は今の様に精神を蝕み命に関わります」
 敵群の焼却を終えたトリテレイアは住民達に向き直ると、改めて現状の危険性を説く。
 それまで実感の無かった人々も、実際に幸福を食われる感覚を味わえば反応も変わる。
 助けてくれた騎士の言葉にも素直に耳を傾け、どうすればいいのかと助けを求める。
「どうか広場などに篝火を焚いて避難所を作ってください。暗所や湿気を好むあの雲には有効ですし、私達の仲間が直ぐに救援に向かえます」
 トリテレイアは自分自身をハッキングしてスピーカーの音量を拡大し、周囲の人間全員に伝わるよう大きな声で呼びかける。もく達は食欲のまま行動するだけで知能はそれほど高くはない、よほど飢えていない限り苦手な炎に自分から近付こうとはしないはずだ。

「お知り合いの方にもこの事を伝えて、皆で避難してください」
「わ、わかりました! ありがとうございます!」
 アドバイスを受けた住民はこくこくと何度も頷き、お礼を言うと急いで避難を始める。
 トリテレイアはその背中を見送ると再びセンサーを作動させ、まだ救援を必要とする者はいないかと探しながら、拡大した音声で避難を呼びかけ続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

家綿・衣更着
「闇の救済者達参上っす!」
人々を【結界術】と【化術】の幻影で守り、手裏剣【乱れ撃ち】で敵をけん制。●もくーで動けないならありがたいと避難を優先し【救助活動】。

堂々たる【演技】と【コミュ力】で、【地形の利用】できる所まで避難指示に従うよう要請
「おいら達は人々を助ける組織でここの住民の危機を察知して助けに来たっす!今は雲の化物から助かるため疑問は後回しで、守りやすい場所に集まって!っす」
不審や疑問は勢いで押し切る。

「おいら達なら皆さんを守れる!信じてっす!」
人々を集め【結界術】で守りつつ『魔剣憑依・神斬りの一閃』発動。全てを切り裂く力で雲化しようが一気に【なぎ払い】!
活躍を見せつけ頼らせるっす!



「闇の救済者達参上っす!」
 人々のピンチに駆けつけるヒーローの様に、名乗りを上げて颯爽と現れるのは衣更着。
 かつて『庭園』と呼ばれた地底都市は、今やオブリビオンが人々の幸福を喰らう餌場と化した。何も知らない住民達に襲い掛かる『もく』の群れを見た彼は、どろんはっぱを取り出し化術と結界術を行使する。
『……?』
 今まさに人々を取り込もうとしていたもく達の身体が、妖力の結界によって阻まれる。
 同時に辺りには化術によって作られた人々の幻影が次々と現れ、どれが本物か分からないように敵を幻惑する。

「な、なにが起きてるの……?」
 驚いたのは人々も同じだった。狐につままれたような(実際は狸だが)顔をして目をぱちくりさせる彼らに、衣更着は心配はいらないと堂々たる演技と振る舞いで話しかける。
「おいら達は人々を助ける組織でここの住民の危機を察知して助けに来たっす! 今は雲の化物から助かるため疑問は後回しで、守りやすい場所に集まって! っす」
 もろもろ不審や疑問はあるだろうが、悠長に話している暇はないと若干強引にでも避難を促す。ただでさえ状況の変化に頭が追いつかず不安がっていた人々は、彼のコミュ力の高さと勢いに押し切られる形でその指示に従うこととなった。

「こっちっすよ! 急いで!」
 防衛しやすい地形まで人々を誘導しながら、衣更着はもく達のほうをちらりと見やる。
 結界と幻影でしばらく足止めできるだろうが、それでも連中が簡単に餌を諦めるとは思えない。牽制として手裏剣を乱れ撃つと、危機を感じた敵はユーベルコードを発動する。
『もくー』
『もくー』
 全身を完全にふわふらとした雲に変える。確かにこれなら手裏剣が当たってもすり抜けるだけだろうが、この無敵能力には発動中は一切行動できないというデメリットもある。
「動けないならありがたいっすね」
 敵の足が止まっている隙に、衣更着は住民の避難を優先する。移動中に追いつかれることもなく、彼の指示に従った人々はみな欠けることなく避難を完了することができた。

「おいら達なら皆さんを守れる! 信じてっす!」
 避難所に人々を集めた衣更着は力強い語調で、猟兵の頼もしさを改めてアピールする。
 人々の周りは結界術でしっかりと固めて守りは万全。再びもくの群れがやって来たのを見れば、彼は悪友から送られた試作魔剣『空亡・蒼』を手にして意識を集中させる。
「劒さん、その力借り受けるっす!」
 魔剣からほとばしる妖力を我が身に纏い、立ち込める暗雲怪異に向けて刃をひと振り。
 全てを切り裂く妖力を込めた【魔剣憑依・神斬りの一閃】――それは実体のあるなしに関わらず、神も、時空さえも斬る。ましてや雲ごときを斬れないはずがあるものか。

『もくー……!?』
 咄嗟に雲化したもく達の体を、妖力の刃がなぎ払っていく。真っ二つに切り裂かれた彼らは唖然とするように小さく身を震わせたのち、文字通りに雲散霧消して骸の海に還る。
 効果の程を確認した衣更着はそのまま魔剣を振りかざし、敵を次々に斬り伏せていく。
「とりゃーっす!」
「す、すごい……!」
 その勇姿を見せつけられた人々は、結界の中からキラキラした視線を衣更着に送る。
 人々に活躍を示して頼らせようという彼の目論みは、どうやら上手くいったようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロスト・アリア
私が守ります。

だからロクさん。あなたは導いて。
救いの灯火を照らして。

――ああ、声が聞こえる。己に傷をつけるような、爪痕の音。

盾で人々を守り、弓矢で牽制を繰り返し、殿を務めます。【盾受け】【かばう】

もし、私だけでは留められなくとも、一人ではないことは知っています。

『この世界は希望に満ち溢れている』
貴方達の救いであるガーデニアの言葉です。ガーデニアだけではない、花だけではない。この世界でこの花園を造った貴方達も、ガーデニアが希望だと信を置く存在なのです。

故に彼女はそれを刈り取ろうとした。

だというのなら、声に従って進んで。
貴方達が見たガーデニアの姿を思い出して。

貴方達が、希望になるのです!


ロク・ザイオン
◎ロストと

導くのは、ロストの方が向いてると思うけど…
……わかった。
やってみるから、ロスト。
おれたちの背中、任せた。

――あああァァアアア!!!

(「惨喝」
【大声】を張り上げ敵を足止め、人々には走り出す契機を)

――走れ!!!

(咆哮で閃煌、雷華の二刀を更に燃え上がらせ
動きを鈍らせた雲を、闇も湿気も巻き込み【早業】で【焼却】しながら逃げ道を斬り開く)

事情を呑み込むのはあとでいい
不安に駆られるならそのまま躊躇うな、足を止めるな
今は逃げてくれ、生きるために

(――――ひとの逃げる背中を見ないのは、
呼吸を背中に庇いながら戦うのは、はじめてかも知れない)



「私が守ります。だからロクさん。あなたは導いて」
「導くのは、ロストの方が向いてると思うけど……」
 ガーデニアとの戦いを終えたロストとロクの2人は、地底都市の住民の救援に向かう。
 そこでロストから提案された役割分担に、ロクはそれでいいのだろうかと首を傾げる。
 自分よりも騎士であるロストのほうが、人を導く役目には適任のように思えたから――しかし騎士はふるふると首を横に振って、こう言った。
「救いの灯火を照らして」
 行く手を阻む絶望を切り裂いた時のように、また皆を助けるために駆けてほしいと。
 まっすぐな信頼と期待を込めた眼差しで見つめられれば、ロクも応えたいと思った。

「……わかった。やってみるから、ロスト。おれたちの背中、任せた」
 ぎこちなく頷いた赤毛の森番は、剣鉈と剣銃を左右に持つと姿勢を低くして駆け出す。
 幸福を喰らう暗雲が立ち込める場所へ。今だ危機を知らない人々が、ただ戸惑いながら立ち尽くす人々がいる場所へ。最短かつ最速で一直線に駆け込みながら、叫ぶ。

「――あああァァアアア!!!」

 今まさに襲いかからんとした怪物共は思わず身を竦ませ、人々はぶるりと震え上がる。
 それは警報を告げる【惨喝】の叫び。焦げた鑢のようにざらついた耳に障る咆哮は、いやが上にも敵味方の注意を引きつけ――人々に向けてロクはもう一度声を張り上げた。
「――走れ!」
「……うっ、うわああぁあっ!?」
 その瞬間、放心から覚めた人々は、背中を突き飛ばされたように一目散に逃げだした。
 ロクの大声が走り出す契機になったのだろう、ようやく危機を理解した人々と一緒に彼女も走り出す。手にした二刀がまとう炎は咆哮によって更に燃え上がり、松明の灯のように煌々と地底都市を照らしていた。

『けもの? ひと?』
『じゃま、しないで』

 幸福に飢えたもく達は逃げていく人々とロクを追いかけようとするが、そうはさせじと立ちはだかるのはロスト。相方が人々を照らし導くのならば、殿となるのは自身の努め。
「背中は任されました」
 飛び掛かってくる雲の塊を盾で受け止め、人々をかばい。宙に浮かぶ敵に弓矢で牽制を繰り返しながら少しずつ後退する。あの門番に比べればこの程度のオブリビオンは比較にもならない雑兵とはいえ、人々を守りながらこれだけの数を相手取るのは容易くはない。

「――こっちだ!」
 ロストのいる所とは反対の方では、行く手を塞ぐもくの群れをロクが斬り伏せていた。
 炎を纏った"閃煌"と"雷華"の二刀は咆哮で更に燃え上がり、地底にただよう闇や空気も巻き込んで敵を焼却する。惨喝の叫びを恐れ、動きの鈍ったもく達に避けるすべは無い。
 目にも止まらぬ早業で道を斬り開きながら疾走する彼女の後ろには、大勢の避難民達が続く。急き立てるような叫びと、刃が放つ灯火が、彼らに逃げ道を示してくれていた。
「事情を呑み込むのはあとでいい。不安に駆られるならそのまま躊躇うな、足を止めるな」
 今はただ逃げることだけを考えてくれれば良いと、淡々とした口調に必死さを込めて。
 道は自分が作るからただ走り続けてくれと、切に叫びながら森番は二刀を振りかざす。

(――ああ、声が聞こえる。己に傷をつけるような、爪痕の音)
 群衆の先頭で戦っているロクの咆哮と剣戟は、殿にいるロストの元にも聞こえてきた。
 獣のように叫ぶかの"人"の心情に思いを馳せ、しかし物思いに耽る余裕は彼女にも無い。食欲のタガが外れているもくの群れは、一度目をつけた獲物をどこまでも付け狙う。
『しあわせ、いっぱい』
『しあわせ、たべたい』
 周囲の闇と湿気と幸福を糧にして成長するもく達の攻撃は、徐々に激しくなっている。
 だが、盾を構えるロストの表情に不安はない。もし、自分だけでは留められなくとも、一人ではないことを知っているから。

「あの……大丈夫、ですか?」
 何体目かの敵を退けたロストに、様子を見ていた住民の一人が心配そうに声をかける。事情は分からなくとも、彼女が命を張って自分達を守ろうとしているのは分かるだろう。
 その言葉に騎士は「心配いりません」と返し、再び盾を構えながら彼らに語りだした。
「『この世界は希望に満ち溢れている』。貴方達の救いであるガーデニアの言葉です」
 その名を聞いた住民達の反応は顕著だった。この都市に住まう多くの人々にとって、ガーデニアは今だに敬愛する領主にして"希望"の象徴である。だからこそ彼女が遺した言葉を引用することで、ロストは人々の心にもう一度希望を芽吹かせようとする。

「ガーデニアだけではない、花だけではない。この世界でこの花園を造った貴方達も、ガーデニアが希望だと信を置く存在なのです」
 故に彼女はそれを刈り取ろうとした――この『庭園』も怪物達も全てそのための道具。
 今はまだ全ての真実を知らせる余裕はない。立ち止まって考えるのは後からもできる。
 ここにいる一人一人が掛け替えのない希望なのだと、それを知ってもらうことが最善。
「だというのなら、声に従って進んで。貴方達が見たガーデニアの姿を思い出して」
 今も叫び続けている仲間のいる方角を、闇の中で煌々と燃え続けている灯を指差して。
 切々と訴えかける彼女の言葉は人々の心を揺さぶり、火と水の精霊の加護を与える。

「貴方達が、希望になるのです!」

 【火猛りて盾とならん、水捻りて槍とならん】――激励を受けた人々の瞳に灯が宿る。
 今まではただ不安と恐怖に動かされるだけだった足取りに確かな意思が宿る。同じ"逃げる"でもその前後にある差はとても大きい。
「今は逃げてくれ、生きるために」
 生き延びてこそ希望は明日に繋がれる。ロクの呟きと同じことを人々は心で理解する。
 もう彼らは惨喝の叫びを恐れることもない。それが自分たちを導いてくれる声だと分かる。ここにいるのはもう、刈り取られるのを待つだけの"弱きもの"ではないのだから。

(――――ひとの逃げる背中を見ないのは、呼吸を背中に庇いながら戦うのは、はじめてかも知れない)
 邪魔な雲を焼き払いながら、ロクの心に例えようのない想いがふと湧き上がってくる。
 常ならば彼女の叫びは警咆――ほのおとやまいがここにある、にげろ、にげてくれと伝えるためのものだった。けれど今、ひとは炎である自分の後を追ってきている。
(ふしぎだ。でも、わるくは、ない)
 或いはロストが導き手を任せてくれたのは、これを教えるためでもあったのだろうか?
 今は離れて殿を務めているはずの騎士の存在を、不思議と背中越しにはっきりと感じながら。先導者となった森番は灯を絶やすことなく、皆の進む道を斬り開いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
彼らを見ていると少しだけ胸の奥が痛むのは
同情や憐憫じゃなくて
自分を重ねているからなんだろう

幼い頃の自分は、守られてあることを疑いもせず
それを当たり前のことだと思ってた

……一番大切なものを失う瞬間まで、ずっと

だから、これは正義感や義憤じゃない
“そんな結末は見たくない”――なんていう
ただの自分勝手な、利己的な感傷だ

幸福を喰らって強くなるのなら解決策はシンプルだ
“喰わせなければいい”――だろ

【黒蝕の影】を使うよ
影を纏った一射で、幸福を喰らう権能ごと敵を射抜く
よく観察して一射で片付けられるよう努めるよ

何を思っていようとこの手が敵を仕損じることはない
何があろうとすべきことを見失うなと
そう、教えられたから



(彼らを見ていると少しだけ胸の奥が痛むのは、同情や憐憫じゃなくて、自分を重ねているからなんだろう)
 花の手入れをするように育てられた『庭園』の住人達を眺めながら、匡はちくりと刺すような痛みを感じていた。外の世界の争いも危険も知らぬまま生きてきた人々は、純粋無垢で、哀れなほどに無防備で。だから今も目の前の脅威にどうすればいいか分からない。

(幼い頃の自分は、守られてあることを疑いもせず、それを当たり前のことだと思ってた……一番大切なものを失う瞬間まで、ずっと)

 今日と同じ明日がいつまでも続くはずだと、この都市の人々も、かつての匡も、無邪気に信じ切っていた。大切なものがすぐ側にある"特別"を"当然"だと勘違いしたまま。
 気付いた時には手遅れで、失ってしまったものは二度と取り返せない。世界はどうしようもなく残酷で、彼が心を凪の海に沈めたのも、きっとそれが理由の一つなのだろう。

「だから、これは正義感や義憤じゃない」
 銃を構え、トリガーを引く。狙うのは人々の幸福を糧とする忌まわしきオブリビオン。
 放つ弾丸は【黒蝕の影】。彼の裡に潜む"全てを滅ぼす影"を宿したかの魔弾は、要さえ射抜けば視えざるものも、ユーベルコードそのものすらも滅ぼす。
「"そんな結末は見たくない"――なんていう、ただの自分勝手な、利己的な感傷だ」
 影纏う一射に射抜かれた標的は、開いた風穴をぶるりと震わせて跡形もなく消失する。
 深き凪の水底に沈めたはずの"こころ"の片鱗が、彼の水面で静かな波紋を立て始めた。

『もくー……?』
『なに、あれ』
『くろい、かげ?』

 黒蝕の影が射抜くものは命だけにあらず。幸福を喰らう権能さえも起点から破壊する。
 捕食能力を失ったもく達は困惑するが、疑問を抱いていられる時間も僅かだった。冷静な観察に基づいた匡の射撃は極めて正確で、一射一殺という射手の理想像を体現する。
「幸福を喰らって強くなるのなら解決策はシンプルだ。"喰わせなければいい"――だろ」
 元より、厄介なのは人の幸福を食うという能力の特異性であって、もくそのものはさほど強力なオブリビオンではない。あの門番――ガーデニアほどの実力者ならばともかく、力の源を断たれたうえで歴戦の戦場傭兵に立ち向かえる術は持ち合わせていなかった。

「そいつは、"無し"だな」
 今は亡き師より贈られた愛銃[Resonance]のトリガーを引き、黒き影の魔弾で標的を葬り去る。たとえ心の裡で何を思っていようと、彼の手が敵を仕損じることはない。
(何があろうとすべきことを見失うなと、そう、教えられたから)
 響く銃声は生への渇望を叫び、かつて託された祈りを、想いを、言葉を思い出させる。
 感情も、感傷も、もう一度凪の海の中にしまい込んで。平然に徹する匡の銃撃は、逃げまどう標的を着実に撃ち抜いていく。それはもはや戦いにすらなっていなかった。



 ――やがて、銃声が鳴り止んだ時。地底都市を覆った暗雲は、完全に消え去っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『一条の光になるのはあなた』

POW   :    肉体や体力自慢を活用して癒す

SPD   :    技術や器用さを活用して癒す

WIZ   :    魔法や知識を活用して癒す

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 『庭園』の支配者だったガーデニアは斃れ、その配下である幸福を喰らう者も散った。
 この地底都市に潜んでいたオブリビオンが一掃されたことで、住民達も自由の身となった――あくまで物質的な意味では、だが。

「本当に、ガーデニア様はもういないのか……?」
「私たち、これから一体どうすれば……」

 一難去ったとはいえ、住民達の中にはこれからの生活に不安を抱く者がまだ大勢いた。
 全ての住民がガーデニアの本性を含めた『庭園』の真実を知ったわけでもない。これまでの平穏で幸せな暮らしに未練を抱き、状況の変化に心が追いつかない者も少なくない。

「俺は……この人達の話をもっとよく聞いてみたい」
「さっきも助けてくれたし、悪い人じゃないよね?」

 一方で、彼らはオブリビオンから自分達を守るために戦った猟兵達のことも見ている。
 その活躍や説得に勇気付けられた者、新たな希望を感じた者もまた少なくはなかった。

 ガーデニアという精神的支柱を失った今、人々の心は左右に大きく揺れ動いている。
 それが良い方向に傾けば彼らは自立を果たせるだろうが、悪い方向に傾けば依存から脱しきれなかった心は絶望に堕ちるだろう。それは奇しくもガーデニアが望んだ通りに。
 いずれは他の地底都市からも、異変を察知したオブリビオンが様子を見にやって来るはずだ。それまでに彼らを地底から脱出させなければ、ここまでの奮闘も水の泡となる。

 ――人々を導く"希望"という一条の光になれるのは、ここにいるあなた達しかいない。
 真の意味で『庭園』の住民を梔子の支配から解放するために、猟兵達は行動を始めた。
七那原・望
まだまだ動揺している人も多そうですね。

アマービレでねこさんを呼び出したら【望み集いし花園】の空間の中から果物を採ってきてもらいましょう。

歌を【歌って】注目を集めつつ動揺を和らげ、その上で果物を食べてもらえば少しは気持ちも落ち着きますか。

何もせず与えられる物をただ享受するだけの生き方では与えてくれる人がいなくなった時、今回のようにどうすれば良いかもわからないまま全てを失う事になってしまいます。

幸いあなた達は幸福な日常という概念を知っています。だからあなた達は不幸や理不尽を当たり前と受け入れずに以前のような幸福を模索する事が出来るのです。

もう一度幸福になりましょう。今度は自分達の力で。



「まだまだ動揺している人も多そうですね」
 幸福を奪う雲との戦いを終えた望は、白い翼を広げて都市の様子を見渡す。戦いと説得を通じて人々の希望を守ることはできたが、今だ不安を抱えたままの人々も多いようだ。
 手にした白いタクトをひと振りすると、白猫の使い魔がやって来る。少女は【望み集いし花園】に通じる黄金の林檎を取り出すと、このねこさん達にお使いを頼むことにした。

「ここは皆さんの動揺を和らげましょう」
 ふわりと皆の前に降り立ったオラトリオの少女は、細い喉を震わせて静かに歌い出す。
 優しくも希望にあふれた清らかな歌声は、聴く者の心を宥めつつ注目を集める。目まぐるしい状況の変化で精神的に疲弊していた人々にとって、それは大きな癒やしとなった。
「きれいな歌……」
「心が洗われるようだ……」
 群衆の中に蔓延していた動揺が消えて、次第に人々は望の歌に聞き惚れるようになる。
 そこに「にゃあ」と鳴きながら、ねこさん達が色とりどりの果物をくわえて花園から戻ってくる。望のユーベルコードが作り上げた異空間で育ったその果実は、どれも瑞々しく食べ頃に熟れていた。

「何もせず与えられる物をただ享受するだけの生き方では与えてくれる人がいなくなった時、今回のようにどうすれば良いかもわからないまま全てを失う事になってしまいます」
 歌を奏で終えた望は、ねこさん達と一緒に果物を配りながら、人々にそう語りかけた。
 何もかもを与えられる『庭園』での暮らしはさぞかし楽だったろう。しかし庭園の主ガーデニアは悪しき企みとともにこの世を去った。それによる混乱と不安を身に沁みるほどに思い知った人々は、果物を手にしたまま神妙な表情で望の言葉に耳を傾けている。
「今回はわたし達が来ました。でも次もまた同じように助けられるかは分かりません」
 人々を地底から地上に脱出させ「人類砦」に送り届けるまでは猟兵達も力になれる。しかしそこから先の生活は自分達の手で基盤を整え、自分の身は自分で守らなくてはならない、今だ多くの脅威が蔓延る地上世界で生き延びるために、望は人々に自立を促した。

「幸いあなた達は幸福な日常という概念を知っています。だからあなた達は不幸や理不尽を当たり前と受け入れずに、以前のような幸福を模索する事が出来るのです」
 絶望を知らずに生きてきたこの都市の住民とは対照的に、地上には希望を知らずにヴァンパイアの圧政に苦しみ続ける者達が大勢いることを望は知っている。幸福とは何たるかを知らない彼らは、抗うということにさえ思い至らぬまま甘んじて絶望に沈むしかない。
 けれど、ここにいる人々は違う。幸福を知るからこそ絶望により強く打ちのめされることもあるだろう。けれどそれは絶望に抗う意思の源にもなる。理想とするヴィジョンが明確に存在することは、彼らにとって掛け替えのない財産になるはずだから――。

「もう一度幸福になりましょう。今度は自分達の力で」

 優しくも厳しく、そして力強い少女の言葉が、その場に集められたた人々の胸を打つ。
 かつての『庭園』の住民達は、しばし沈黙を保っていたが――やがて、瞳に煌々と希望の灯を輝かせ、手にした果実にしゃくりと齧りつく。
「……ガーデニア様はもういないんだ。いつまでも甘えてられないよな」
「このお嬢さんの言う通りだ。俺達の力で、俺達の未来を切り開こう」
 それは安らかだった過去との決別であり、再び幸福を掴んでみせるという意志の表明。
 悪しき企てによるものだったとしても、彼らに与えられた希望は消えたわけではない。より良き未来を求めようとする強い意志が人々の間で高まっていくのを望は感じた。

「La~♪ La la la~♪ La la la la la~♪」
 望はふわりと優しく微笑むと、彼らの門出を祝福するように、もう一度歌を奏でだす。
 希望を紡ぐ愛唱は、解放された地底都市の隅々にまで、伸びやかに響き渡っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
みんななんとか無事みたいだね…。
わたしは雛菊璃奈…。
この子達はわたしの家族でミラ、クリュウ、アイだよ…。

「キュイ!」(二章で護った子供達の周りをパタパタ飛んで遊びながら挨拶)

それじゃ、改めてわたし達の事とガーデニアやこの場所の事。そして、地上の事を説明するよ…。
ただ、みんなにはショックな事が多いから、心して欲しい…。

前置きした上で集まった市民達に上記の内容を説明…。
ここが決して安全ではない事を伝えた上で、みんなを受け入れてくれる場所がある事を伝えて一緒に向かう様説得…。

突然の事で不安なのも解る…だけど、ここに居ても未来は無いから…。
人類砦なら、みんなが希望を持って暮らす事ができるから…。



「みんななんとか無事みたいだね……」
 地底都市から敵の気配が消えたのを感じた璃奈は、住民達に死傷者がいないのを確認すると安堵の息を吐く。これでもうここに居る人々の希望や幸福が搾取されることは無い。
 彼女は自身の手で守り抜いた人々の元に向かうと、まずは一緒にいる仔竜達と一緒に自己紹介を始めた。
「わたしは雛菊璃奈……。この子達はわたしの家族でミラ、クリュウ、アイだよ……」
 丁寧な物腰で一礼すると、先程の戦いで護った子供達の周りをパタパタと飛び回っていた仔竜達も「キュイ!」と元気に挨拶する。皆を守るために都市中を駆け回った彼女達の奮戦は多くの者が目にしており、向けられる眼差しも好意的なものがほとんどだった。

「それじゃ、改めてわたし達の事とガーデニアやこの場所の事。そして、地上の事を説明するよ……。ただ、みんなにはショックな事が多いから、心して欲しい……」
 璃奈はそう前置きした上で、集まった住民達にこの都市の真実と外の世界の事を語る。
 慈悲深い領主として敬愛されていたガーデニアがずっと皆を騙していたこと。都市の外にも世界はあり、そこには恐ろしい脅威に苦しめられながらも、懸命に抗いながら日々を生き延びる人々がいること。そんな人々を救うために自分達猟兵は戦っていること――。
「まさか……」
「そんなことが……」
 これまで巧妙に秘されてきた残酷な真実を、突き付けられた人々の動揺は大きかった。
 だが、知らせない訳にはいかない。『庭園』という揺りかごは崩壊し、安寧を過ごしてきた人々の未来は白紙となった。現実と向き合えなければ待っているのは破滅しかない。

「その、怪物はもうここにはいないんですよね? だったらこのまま暮らすことは……」
「それは無理……。もたもたしていたら、また次の敵がやって来てしまう……」
 どうにかこれまで通りの暮らしができないかと問う人々に、璃奈は首を横に振って、ここが決して安全ではない事を伝える。ここに居たオブリビオンは地底世界全体から見ればほんの一部でしかなく、連絡が途絶えればいずれ他都市から増援が送られてくるだろう。
「地上にみんなを受け入れてくれる場所があるから……わたし達と一緒に向かおう……」
 ダークセイヴァーにおいてオブリビオンの支配下にない数少ない生存圏『人類砦』。そこまで辿り着くことができれば一先ずの安全は保証される。だが地上への脱出を呼びかける璃奈に対して、人々の反応は芳しいものとは言えなかった。

「地上って、危険な場所なんですよね……」
「本当にそんな所で暮らしていけるのかな……」
 これまで当たり前にあった庇護を失い、慣れ親しんだ居場所を捨てて新天地で暮らせと言われて、即座に決断ができる人間はそうは居ないだろう。璃奈も彼らの気持ちを理解しているからこそ、繰り返し地上への移住を訴える。
「突然の事で不安なのも解る……だけど、ここに居ても未来は無いから……」
 次にここにやって来るオブリビオンは恐らくガーデニアほど"慈悲深く"はないだろう。圧政の下で生かされるならまだマシなほうで、即座に皆殺しにされても不思議はない。
 人々の未来と希望を守ろうと思うのなら、人類砦への移住こそが唯一の選択肢だった。

「人類砦なら、みんなが希望を持って暮らす事ができるから……」
 砦での生活についても事細かに説明しながら、真剣な表情で人々の説得を続ける璃奈。
 彼女の想いに心動かされ、群衆からは次第に前向きな意見も聞こえてくるようになる。
「……ぼくたち、いくよ。地上ってところに」
 最初に名乗りを上げたのは、璃奈と仔竜達に敵から守られた、あの時の子供達だった。
 今も戯れる仔竜と一緒に遊んでいた彼らは、子供らしい前向きさと未知への好奇心で人類砦への移住を決める。それに触発されて、大人達の中からも次々と手が挙がり始めた。

「そこしか行く宛が無いなら仕方ないか……」
「こうなったら覚悟を決めるしかないよな!」
 まだ不安を覚える者、空元気を振り絞る者など態度は様々だが、ここに居ても未来はないという事実は人々も納得したらしい。最終的に彼らが人類砦への移住を決断できたのは、実際に脅威から自分達を護ってくれた璃奈達に対する信頼があったからだろう。
「みんな、ありがとう……」
 璃奈はほっと安心した様子で表情を緩め、仔竜達も嬉しそうに「キュイ!」と鳴く。
 この様子なら大きなトラブルや抵抗はなく、人類砦への移住準備は進められそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
「カビパン様、本日もナウい…!」
「私達は今日もチョベリグです」
「この世はカビパン様によって救われます。カビパン様こそが真の邪神です!」
「「カビパン様万歳!私たちを導いて!」」
「どうかあのデスメタルを!」
凶悪な生死を彷徨う音痴歌からカルト的な人気を誇っており、ギャグ世界に毒された住民達から圧倒的なカリスマとデスメタル邪神として崇拝されていた。

「燃えているかお前達、今こそ心の枷を吹き飛ばせ!」
「飢えた心さハングリ~↑ハート↓↓ウォウォウ!」

「うぅ…流石だこの歌」
強烈な音痴歌はあらゆる感情を彼らに与えた。今この瞬間を生きていることへの感謝、有難み等。死にかかわる体験をしたからこそ実感したのである。



「カビパン様、本日もナウい……!」
「私達は今日もチョベリグです」
 人類砦への移住に向けて、今だ不安を訴える地底都市の住民達の説得が行われる最中。
 一部の住民はカビパンの周りに群がって、熱狂的な視線とエールを送りまくっていた。
 彼らは先刻の戦いで【カビパンリサイタル】を聞いてしまった住民の一部である。ほとんどの人間には受け入れられなかったものの、カビパンの熱唱は凶悪な生死を彷徨う音痴歌からカルト的な人気を誇っており、さらに本人の圧倒的なカリスマ性もあって、ギャグ世界に毒された住民達からはデスメタル邪神として崇拝を受けていた。

「この世はカビパン様によって救われます。カビパン様こそが真の邪神です!」
 崇拝者からも堂々と邪神扱いされる神とはどうなんだという気もするが。熱の籠もった狂信的声援を浴びまくるカビパンは満更でもない様子。押し寄せる人々の握手に応じたり、服にサインを書いてやったり、時にはハリセンでしばいたりファンサに余念がない。
「あの鎮魂歌が皆の心を動かしたなら、ガーデニアも草葉の陰で喜んでいるでしょう」
 キリッとした厳かな表情でそう言いながら、相手の脳天をハリセンでスパーン。世が世なら問題になりそうな行為だが、完全にカビパン信者と化した人々にはご褒美だった。

「「カビパン様万歳! 私たちを導いて!」」
「どうかあのデスメタルを!」
 口々にそう訴える人々に応えて、広場の真ん中に立ったカビパンは再びマイクを握る。
 アンプもBGMもないステージだが問題ない。胸の奥から湧き上がるソウルがあれば、後はその場のノリと勢いでなんとかなる。そういう意味では彼女は割とロックである。
「燃えているかお前達、今こそ心の枷を吹き飛ばせ!」
 大声で叫ぶと、人々は大きなウェーブを描きながら歓声を上げる。熱狂が最高潮に達した舞台に満を持して放たれるのは、先刻よりキレを増した【カビパンリサイタル】だ。

「飢えた心さハングリ~↑ハート↓↓ウォウォウ!」

 あいも変わらず絶望的に酷い。一度聞いたが最後頭にこびりついて離れないデスソングは、所々の音程が絶妙に外れていて不愉快さをMAXに煽り立ててくる。まともな人間なら直ちに耳を塞ぐレベルの精神攻撃だが、周囲にいる人々はうっとりと聞き惚れていた。

「うぅ……流石だこの歌」
 カビパンの強烈な音痴歌はあらゆる感情を彼らに与えた。死にかかわる体験をしたからこそ実感できる、今この瞬間を生きていることへの感謝や有難み。かりそめの希望を吹き飛ばす歴然とした不幸と絶望が、彼らのメンタルに決定的な変化をもたらしたのである。
「カビパン様ー! 最高ー!」
「イエェェェェェェェイ!」
 不幸を味わうことで、ささやかな幸福をより深く味わえる。すっかりデスメタル邪神の中毒となった人々は喉も裂けんばかりにエールを送って、次々と失神、昏倒していく。
 地底都市に木霊する音痴デスメタル、歌い手の周りには死屍累々。傍目には地獄めいた光景が広がっていくが、カビパンとファン達はとても満足そうだったという――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西院鬼・織久
希望も救いも我等が捨てたものばかり
それを享受していると信じていた人々をどうすればいいかなど俺には分かりません
仕方ありません、強引な方法でいきましょう

【行動】
自分自身が救いを望まず希望も持たないために、それらを他者に与える事も知識としては持っているが感覚的には理解できていない

催眠+誘惑など精神面に作用する音色を奏でる闇寧を使う
楽器演奏で戸惑う住人の精神を揺さぶり他の猟兵のフォローが効きやすいようにしておく
更に言いくるめを使い揺さぶられている精神にこのままここに留まっていても危険な事、今自ら動かなければ希望を掴む機会を逃す事などを吹き込んでおく



(希望も救いも我等が捨てたものばかり。それを享受していると信じていた人々をどうすればいいかなど俺には分かりません)
 一門の宿命を果たす事にただ邁進し続けてきた織久は、どこか無機質な眼差しで不安そうな人々の様子を眺めていた。彼は自分自身が救いを望まず希望も持たないために、それらを他者に与える事も知識としては持っているが、感覚的には理解できていなかった。
「仕方ありません、強引な方法でいきましょう」
 そんな自分が正攻法で臨んでも人々の心を動かすのは難しいだろう。そう考えた彼はおもむろに「闇寧」と名付けられた漆黒の竪琴を取り出す。これもまた闇器の一つだが、音の刃で敵を切り刻む本来の使い方とは別に、心揺さぶる魔の音色を奏でることもできる。

「まずはお聞きください」
 蝋のように白い指が闇寧の弦を爪弾くと、どこか物悲しい調べが地底都市に鳴り響く。
 それはかの闇器の犠牲となった者達の魂の無念を表すかのような。この世のものとは思えぬ玄妙な音色を耳にした人々は、催眠に掛かったように呆と演奏に聞き惚れてしまう。
「なんだろう、この音……」
「きれい……でもなんだか悲しい……」
 状況の変化や指導者の不在に不安や心細さを感じていた人々の精神は、この音色に大きな影響を受けた。ただ戸惑ってばかりだった者達もこれで話に耳を傾ける余裕ができるだろう――一曲弾き終えたところで、織久は竪琴を抱えたままゆらりと彼らに歩み寄った。

「このままここに留まっていては危険です」
 闇寧の調べに心揺さぶられた人々の前で、淡々とした口調で織久は語る。主なき都市にいつまでも残っていれば、いずれ新たな怪物がやって来る。新しい領主はガーデニアのような手心を加えることなく、より直接的な暴力と圧政で人々に絶望をもたらすだろう。
「今自ら動かなければ、希望を掴む機会を逃すでしょう」
 もはや救いを待つだけでは未来は拓かれない。限られた時間の中で何かを為さねば、待っているのは破滅のみ。その赫眼に幾度となく焼き付けてきた厳しい現実を突きつける。

「ここにいては危険……」
「自ら動いて、希望を掴む……」
 催眠に近い状態にある人々の心に、織久が吹き込んだ言葉はある種の刷り込みとなる。
 まだ少し呆とした表情のまま言われたことを何度も反芻していた彼らは、やがて自らの足で地底脱出のために動き始めた。その足取りにこれまでのような戸惑いや不安は無い。

「上手くいったようですね」
 本人が言ったように強引な手法だが、結果的には迅速に人々を説得することができた。
 動き出した人の波を平静な眼差しで眺めながら、織久は再び闇寧による演奏を始める。
 都市中の人々にこの音を聞かせておけば、他の猟兵の説得やフォローも効きやすくなるだろう。心揺さぶる漆黒の音色が、静かに地底都市を包み込んでいく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
私は希望の依代にして希望の紡ぎ手
けれど私の手は自らの脚で歩む者に、自らの瞳で前を向くものに、
自らの想いで未来を望む者に差し伸べられます
誰彼構わず軽薄に救って回るほど、私も希望もお人好しではないのです
あなたたちはどうでしょうね

軽い夢をご覧に入れましょう
本来は敵の心を破壊するUCですがもちろん威力は抑え
ほんの一瞬の夢を

それは地上に在って日々苦しみ悩みながらそれでも闇に立ち向かう人々の姿
決して勇者でも英雄でもなく無様で不格好
けれどそれゆえにこそ尊い、名もなき人々の生き様

あなた方は彼らのように生きられますか?
そのように在りたいと望みますか?
そうであるなら我が胡蝶は地底を穿ち地上へと導くでしょう



「私は希望の依代にして希望の紡ぎ手。けれど私の手は自らの脚で歩む者に、自らの瞳で前を向くものに、自らの想いで未来を望む者に差し伸べられます」
 支配者の死と情勢の変化に不安がる人々の前で、魅夜は毅然とした態度でそう告げた。
 悪夢を引き裂き希望を繋ぐのが彼女の使命。なれど彼女は万能にして分け隔てのない救いの神などではなく、助力を与える相手には明確な線引きがある。
「誰彼構わず軽薄に救って回るほど、私も希望もお人好しではないのです」
 あなたたちはどうでしょうね、と見定めるような鋭い視線を向けられて、人々はびくりと気圧される。安全な『庭園』の中でぬくぬくと育てられてきた地底都市の住民――彼らが真に導くに値する者かは、外面を見ているだけでは推し量れまい。

「軽い夢をご覧に入れましょう」
 魅夜は人々を自分の周りに集めると、おもむろにユーベルコードで紅い蝶を召喚する。
 【滅びの日、最期に舞うもの、紅き翅】。ひらりひらりと優雅に舞い踊る胡蝶の群れを見ているうちに、人々の精神は夢の世界へと誘われていく。
「ぅ……ぁれ……?」
 突如として押し寄せる睡魔に抗えず、眠りに落ちていく人々を、黒い乙女は静かに微笑んだまま見下ろしていた。本来これは悪夢によって敵の心を破壊するためのユーベルコードだが、威力はもちろん抑えてある――彼らに見せるのはほんの一瞬の夢だ。

 ――それは、地上に在って日々苦しみ悩みながら、それでも闇に立ち向かう人々の姿。
 決して勇者でも英雄でもなく猟兵のような特別な力も持たない、無様で不格好で、けれどそれゆえにこそ尊い、名もなき人々の生き様を『庭園』の住民達は見た。
(これは…………)
 親を亡くした子がいた。子を殺された親がいた。生きるために、明日のために、時には辛い決断を強いられながら、先の見えない闇の中で必死にあがき続ける者がそこにいた。
 勇者でも英雄でもないか弱き人々は、それでも誇りをもって自らをこう名乗る――闇の救済者(ダークセイヴァー)と。この絶望に満ちた世界で、希望を絶やさぬ象徴として。

「あなた方は彼らのように生きられますか? そのように在りたいと望みますか?」
 現では1秒にも満たない刹那の夢から人々が帰ってくると、魅夜は改めて問いかける。
 過酷な世界の現実を突き付けられながら、それでも希望を絶やさない彼らのように――新たな闇の救済者の一員となって、絶望の闇に立ち向かうことはできるのかと。
「そうであるなら我が胡蝶は地底を穿ち地上へと導くでしょう」
 100年に及ぶヴァンパイアの支配から脱しようとする闇の救済者達の活動は、地上においては『人類砦』という形で実を結びつつある。しかしそこに加わるためには、ただ庇護される立場ではいられない。闇の救済者として相応の役割と覚悟が求められるだろう。

「……僕は望むよ」
 突き付けられた厳しい問いかけに沈黙が降りる中、やがて一人の若者が答えを出した。
 彼の目には『庭園』での安寧を貪っていた時とは違う、鮮烈な意志の灯が宿っている。
「だって……あの人達は、格好良かった。自分の力で未来を切り開こうとしていた」
 僕もそんな風になりたいと、力強い語調で言い切った彼に続いて、続々と声が上がる。
 容易でないことは理解している。それでも彼らは自らの意志で希望へと手を伸ばした。
 その光景を目にした魅夜は――それまでとは趣の違う、優しい微笑を口元に浮かべた。

「良いでしょう」
 幻夢を見せた真紅の胡蝶がひらりと高く舞い、その軌跡が地上へと至る道を指し示す。
 その標に沿って人々は歩き始めた。拙く小さな一歩でも、望んだ未来に近付くために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
領主を特に信奉する住人達への説得…
荒療治でも、誰かが為すべきことです

領主の住居に隠し扉など無いか●情報収集
周辺の同族の介入防ぐ為の計画等の裏の顔に繋がる手掛かり捜索
同時に表の振舞いに繋がる情報入手

これが彼女の…いえ、世界の真実の一端です
絶望するなとは申しません

ですが、彼女の言葉を思い出してください
(UCで「表」の言動想起させる例出し)

語られた理想、目標、貴ぶべきモノ
それらを実現する為に地上で大勢の方が戦っています

皆様は彼女に守られ美徳の花を咲かせました
花が種を付けるように…次は皆様がガーデニアとなる番です

領主の葬儀を行いましょう
区切りの為に
彼女が慕われ、この地を護っていたことは確かなのですから



「この部屋には何も無いようですね……」
 そこは地底都市の中央に建てられた、クチナシの花が咲き誇る領主ガーデニアの屋敷。
 今は主人のいなくなったその住居で、トリテレイアは領主の遺した痕跡を探っていた。
(領主を特に信奉する住人達への説得……荒療治でも、誰かが為すべきことです)
 表向きは慈悲深い領主として民の敬愛を一身に集めていたガーデニア。特に敬慕の深い者は、猟兵の口からその正体を伝えられても簡単には信じないだろう。彼らの心を動かすには厳然とした証拠が要る――その結果が苦いものになると分かっているなら、なおの事自分が行うべきだろうと、機械仕掛けの騎士は率先してこの役目を買って出ていた。

「ここは領主の書斎ですか」
 領主館の調査を行うトリテレイアは、どんな些細な手掛かりも見逃さないようにセンサーをフル稼働させる。探索を続けるうちに彼は、建物の間取りの中にどの部屋とも通路が繋がっていない不自然な空白があることに気付いていた。
「空白領域に接しているのはこちらの壁……設置されているのはクローゼット、と」
 いかにも怪しい家具を横にのけてみれば案の定、その裏から現れたのは小さな隠し扉。
 この向こうに領主の正体にまつわる何かが隠されている。そう確信を抱いた騎士が扉を開いてみると、あったのは素朴な書き物机とペン、それに綺麗に整頓された本棚だった。

「これは……」
 まさにそこは、領主ガーデニアの陰謀と計画の全てが収められた、秘密の書斎だった。
 本棚に仕舞われた書類には、領民の様子を事細かに記録したものの他に、周辺都市にいる同族とのやり取りを記した書簡もある。収穫の時が訪れるまでここを安全な『箱庭』とするために、自分以外のオブリビオンの介入を防ごうとあれこれ手を回していたようだ。
 領主の裏の顔を暴くための証拠としては十分だろう。トリテレイアは特に核心に繋がる幾つかの書類を選んで回収すると、速やかに領主館を後にした。

「これが彼女の……いえ、世界の真実の一端です」
 情報収集を終えたトリテレイアは、その結果を包み隠さず地底都市の住民に公開する。
 皆から愛されていたガーデニアの忌まわしき裏の顔。彼女が領民の絶望を刈り取るために今日まで善人を演じていたという動かぬ証拠を突き付けられ、人々は衝撃を受けた。
「そんな……まさか……」
「ガーデニア様が……」
 わななく手で書類を確認する人々。そこに記されている文字は紛れもなく領主のもの。
 どんなに信じたくなくても事実は残酷だった。ガーデニアの邪悪性を受け入れざるを得なくなった彼らは、全身の力が抜けてしまったようにへなへなとその場に崩れ落ちた。

「絶望するなとは申しません。ですが、彼女の言葉を思い出してください」
 悲痛な表情で打ちひしがれる人々の前で、トリテレイアは穏やかな調子で語り始めた。
 屋敷で領主の裏の顔を探るのと同時に、彼はガーデニアの表の振る舞いに繋がる情報も入手していた。そのうちの一冊である領主本人の日記帳を片手に、ひとつの例を出す。
「"どんなに暗い地の底でも草木は育つ。希望という水がある限り花は咲く"」
「それは……ガーデニア様が言っていた……」
 聞き覚えのあるフレーズを耳にして、住民達がはっと顔を上げる。けして豊かとまでは言えない地底での生活において、人々を励まし慈しみ続けたガーデニアの言葉――それは絶望をより大きく実らせるための方便だったとしても、虚言には収まらぬ説得力がある。

「語られた理想、目標、貴ぶべきモノ。それらを実現する為に地上で大勢の方が戦っています」
 希望を絶望で終わらせないために、幸福な未来を掴むために奮戦する闇の救済者達。トリテレイアは地底都市の人々に地上に脱出し、その一員として加わらないかと提案する。
「皆様は彼女に守られ美徳の花を咲かせました。花が種を付けるように……次は皆様がガーデニアとなる番です」
 ここで人々が絶望に打ちひしがれたままでいれば、ガーデニアの語った言葉は本当にただの虚言になってしまう。かの人から与えられたものが、かの人を敬愛する想い虚構ではなかったとしたいなら――ここに居る者達が"ガーデニア様"の希望を繋いでいくのだ。

「……たとえ領主様がどんなお方でも、俺達はあのお方に救われた。それが真実だ」
 一度は絶望に崩折れた庭園の住民達が、涙を拭い立ち上がる。その瞳に希望を宿して。
 その様子を見たトリテレイアは深々と頷くと、傍の花壇から一輪のクチナシを摘んだ。
「領主の葬儀を行いましょう。彼女が慕われ、この地を護っていたことは確かなのですから」
 区切りの為にという彼の提案に、人々は無言のまま静かに頷き、弔いの準備を始める。
 後ほど行われたそれは、生前の彼女を思わせる慎ましやかなものであったが。葬儀の場には多くのクチナシの花が手向けられ、故人を偲ぶものが絶えなかったという――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
今まで幸せに生きてきた人々。
その暮らしが虚構で、これからは地上の人々と同様に過酷な暮らしが待っています。
人々が不安と恐怖に打ち克ち、希望を持てるよう、引き続き真の姿のまま人々に語り掛けます。

「猟兵の方々が仰る事は真実です。
放っておけば、ある日、突然理不尽に皆さんは殺されたでしょう。
悲劇を防ぐ事ができました。

これから皆さんは地上で、他の人々と生きていく事になります。
正直言って今よりは苦しい生活になるでしょう。

ですが、魔物達の玩具では無く、自分達の本当の人生を送る事が出来ます。
私も時々ですがお手伝いに来ます。
皆さんが生き抜いて幸せになる事を祈っています。」
と、優しく慈しむ微笑みと共に語り掛けます。



「今まで幸せに生きてきた人々。その暮らしが虚構で、これからは地上の人々と同様に過酷な暮らしが待っています」
 崩壊した『庭園』の住民達に向けて、詩乃は厳かにはっきりと偽らざる事実を伝える。
 その容姿は今だ女神アシカビヒメとしての真の姿のまま。彼女の纏う神々しい雰囲気にあてられた人々は、ひれ伏しながらおずおずと問いかける。
「やはり他の皆さんが言っていた事は本当なのですね……」
 彼らにとっては信じがたい事実だろう。だが信じて貰わなければその先には進めない。
 皆が不安と恐怖に打ち克ち、希望を持てるよう、植物を司る女神はこくりと頷くと人々に語り掛ける。

「猟兵の方々が仰る事は真実です。放っておけば、ある日、突然理不尽に皆さんは殺されたでしょう。悲劇を防ぐ事ができました」
 清廉な領主として知られていたガーデニアの恐るべき本性。"希望"を育て上げて"絶望"を収穫するという計画の全容を詩乃は語る。女神の姿で語られる言葉には自然と人の心を打つ説得力があり、当初は疑っていた者達もやがては信じざるを得なくなっていく。
「これから皆さんは地上で、他の人々と生きていく事になります。正直言って今よりは苦しい生活になるでしょう」
 謀のためとは言え安全が保たれていた『庭園』とは異なり、地上は危険に満ちている。
 人類を虐げる邪悪な吸血鬼に、狂乱する異端の神々、闇夜に蠢く怪物の群れ――それらの支配が及ばない人類砦とて脅威と隣合わせであることは変わらず、生活は貧しいもの。
 聞けば聞くほどに過酷な地上の現実を突き付けられて、人々の顔色はみるみる青ざめていく。しかし詩乃はあえて厳しい現実を先に伝えてから、ふと優しい微笑みを浮かべた。

「ですが、魔物達の玩具では無く、自分達の本当の人生を送る事が出来ます」
「本当の、人生……?」
 表情を曇らせていた人々が顔を上げる。これまで領主の言いなりのままに生きてきた彼らにとっては考えもしない事だっただろう、自分の意思と選択を頼りに生きていく事は。
 しかし本来はそれが人生なのだ。首輪を付けて飼われるのではない、自由と尊厳をもって生きていく。人類砦に暮らす人々はそんな人生を守るために困難と立ち向かっている。
「私達も、そんな風に生きられるのでしょうか?」
「ずっと騙されたままだった愚かな私達に……」
 人々の間には憧れと不安が同時に渦巻いている。それまでの安穏とした暮らしを捨て、未知の世界を踏み出していくのは恐ろしくて当然だろう。だが何も見えない無明の闇は恐怖と同時に、強い期待や好奇心をも抱かせるのだ。

「私も時々ですがお手伝いに来ます。皆さんが生き抜いて幸せになる事を祈っています」
 と、優しく慈しむ微笑みと共に詩乃が語りかけると、人々の不安は希望へと変わった。
 直接手を差し伸べるだけが神のなす事ではない。"見守られている"という事実だけでも、人はそれを心の支えにして励むことができるのだと、女神アシカビヒメは知っている。
「……よし。頑張ろう、皆!」
「女神様が見てくださっているんだ、きっと大丈夫さ!」
 まるで種が芽吹き花が咲くように、人々の心から希望があふれ出すのを見て、草花を愛し人を愛する女神は心地よく目を細めながら、いつまでもその様子を見守っていたーー。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
地下でしか生きる術を知らない彼らを地上へ送るのは酷ではありますが……

すぐにも先ほど暴れていたオブリビオンやガーデニアと同等の力を持ったオブリビオンがここに来る可能性があります。
そしてそれらは、ガーデニアと違い一時的にすらあなた達を守るつもりはないでしょう。

新たなオブリビオンがここに来ない可能性、新たなオブリビオンがあなた達に手をださない可能性もなくはないでしょう。
ですが、今回のことで分かったはず。誰かに命を預けて生きる……生かしてもらう人間は、その誰かの気まぐれによって全てを奪われることになる……かつては私もそうでした。

生かしてもらうのではなく、自分で生きるため、地上へと行きましょう。



(地下でしか生きる術を知らない彼らを地上へ送るのは酷ではありますが……)
 ダークセイヴァー出身者として地上の情勢をよく知るセルマは、悪鬼と魑魅魍魎が跋扈するかの地に『庭園』の人々を連れ出すことに、小さくはない不安と葛藤を抱いていた。
 住民達も生まれてからずっと暮らしてきた地底都市を離れるのには不安と抵抗があるだろう。しかしここに留まっていても待つのは破滅だけ――せめて希望の持てる未来を彼らに選ばせるために、少女はクールな表情のままで人々に語りかける。

「すぐにも先ほど暴れていたオブリビオンやガーデニアと同等の力を持ったオブリビオンがここに来る可能性があります」
「あ……あのもくもくした怪物みたいな奴らが、他にも?」
 セルマの警告にさっと青ざめたのは、先刻危ういところで猟兵に救われた者達だった。
 地下世界に存在する都市はここ1つだけではなく数多あり、それらは全て『門番』を擁するオブリビオンに支配されている。この『庭園』の支配者だったガーデニアが倒された事が伝われば、他都市のオブリビオンは間を置かずこの都市の再占領に乗り出すだろう。
「そしてそれらは、ガーデニアと違い一時的にすらあなた達を守るつもりはないでしょう」
 大概のオブリビオンは彼女のように"希望"を与えてから"絶望"させるという面倒な手順は踏まない。理不尽な圧政と不条理な暴虐によって徹底的に民を苦しめるのが常だ。
 猟兵として連中の引き起こした事件に関わり、その悍ましき所業を何度も見てきたセルマの言葉には実感が篭もっている。彼女の訴える危機感はやがて周囲の人々にも伝播し、曖昧な不安の中にいた『庭園』の住民達はようやく明確な危機感を抱きはじめた。

「で、でも、もしかしたら見逃されるってことも」
「ガーデニア様のような方がまた新しい領主になることだってあるだろう?」
 恐怖に駆られた人々が口にしたのは希望的観測。オブリビオンの悪辣さを知る者であれば蜘蛛の糸よりも頼りない依るべだが、何も知らぬ彼らの気持ちも理解できなくはない。
「新たなオブリビオンがここに来ない可能性、新たなオブリビオンがあなた達に手をださない可能性もなくはないでしょう」
 セルマはあえて彼らの言葉を頭ごなしに否定しようはせず――ですが、と話を続ける。

「今回のことで分かったはず。誰かに命を預けて生きる……生かしてもらう人間は、その誰かの気まぐれによって全てを奪われることになる……かつては私もそうでした」
 吸血鬼に支配された街で生まれ育ったセルマは、そこで幼い頃に両親を亡くし、十歳前後までは育ての親と暮らしていた。猟兵として活動を始めたのはここ1年程のことだが、それまでに痛感させられた苦い体験の数々を、彼女が忘れることは決して無いだろう。
 今のセルマは無力な子供ではなく、銃を取り、吸血鬼を討ち、過酷な戦場を生き抜く強さを得た。しかしそれは降って湧いたものではなく、彼女自身が臨んで身につけた技だ。

「生かしてもらうのではなく、自分で生きるため、地上へと行きましょう」
 冷たい蒼氷の瞳に揺るがぬ意志の灯を宿し、絶対零度の射手はそっと手を差し伸べる。
 もう自分の大切なものを、自分以外の者の好きにさせないために――それは過酷だが尊い生き様だ。彼女や、猟兵や、地上でオブリビオンの支配に抗う闇の救済者達のように。
「……私達も、貴女みたいに強く生きられるのかな」
 まだ年若い一人の町娘が、おずおずとセルマの手を取った。その顔はまだ不安げだが、拙いながらも覚悟は決まっている。奪われたくないのなら、地上に行くしかないのだと。
 自分の人生を、自分の力で生きる――『庭園』の住民は新たな一歩を踏み出し始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
行動 WIZ

地上も完全な安全圏になったわけじゃない
ましてや、そうやって希望を抱いた相手を絶望させる事が好きなオブリビオンが多い世界だから
熟考してもらって、人々に選んで貰うよ

家畜の安寧か、死と隣り合わせの自由か

どちらを選ぶとしても、人として正しいと思ってしまうのは、
ボクが薄情なのか、それとも、この世界の絶望に染められてしまっているのか

どちらを選んだとしても、ボクは救うためにこの手を伸ばし続けることには変わりはないよ

「豊穣の調律者。繰り返す死への拒絶、盲愛の癒し、訪れる生命の凱歌。謳い、咲き誇れ。清浄なる魔力の調和(クラルス・コンコルディア)」

せめて、この桜花の如く、人々が生を謳歌出来るように



(地上も完全な安全圏になったわけじゃない。ましてや、そうやって希望を抱いた相手を絶望させる事が好きなオブリビオンが多い世界だから)
 地底都市の住民にこれから待ち受けるであろう苦難を知るエウロペは、暫し黙考する。
 彼らの受け入れ先となる『人類砦』は、地上においてヴァンパイアの支配が及ばない貴重な生存圏。だがそこも敵襲を受けないという保障はなく、ガーデニアのような『門番』が居るわけでもない。これまでのような安全で安穏とした生活はとても望めないだろう。
「屠殺されるのを待つ今までの生活とどちらが良いかなんて、ボクには決められないね」
 考えたすえに彼女は全ての真実と選択肢を提示し、住民達に判断を任せることにした。

「熟考してから選んで欲しい。家畜の安寧か、死と隣り合わせの自由か」
 地上へ向かうことのメリットもリスクも知った上で、自らの意志で未来に踏み出す――その覚悟がなければ地上の生活は余りにも過酷だ。軽々に決断できるものではなかろう。
 一方で、ここに留まることを選ぶのなら、じきに他の都市からやって来たオブリビオンが新たな領主の座に収まるだろう。恐らくガーデニアのように"慈悲深く"は無いだろうが、ひたすらに平伏し隷従を誓えば今後も生きていく事だけは許されるかもしれない。
(どちらを選ぶとしても、人として正しいと思ってしまうのは、ボクが薄情なのか、それとも、この世界の絶望に染められてしまっているのか)
 二つの選択肢を示すエウロペの心の中には、冷たい風が吹いていた。自由と誇りのために危険を犯すのも、希望や尊厳を捨ててでも生き延びようとするのも、人間らしい選択ではある。どちらかを頭ごなしに否定するような熱を、揺り籠の氷姫は持っていなかった。

「貴女は……どちらが良いと思いますか?」
「みんなと地上に行くべきでしょうか……」
 選択を任され、それでも決められない優柔不断な者は他者に判断を委ねようとするが。
 エウロペはそれを咎めるのでなく、穏やかな微笑を浮かべてゆるやかに首を横に振る。
「どちらを選んだとしても、ボクは救うためにこの手を伸ばし続けることには変わりはないよ」
 家畜の安寧も、死と隣り合わせの自由も、人として正しい選択ならば、それを尊重しながら少しでも彼らの生が健やかなものとなるように尽力する。少女は自らの決意を示さんと「コキュートス」を掲げ、詠うように呪文を紡ぐ。

「豊穣の調律者。繰り返す死への拒絶、盲愛の癒し、訪れる生命の凱歌。謳い、咲き誇れ。清浄なる魔力の調和(クラルス・コンコルディア)」

 ひんやりとした魔力の風が吹き、氷で創造された桜の樹が地底都市の一角に顕現する。
 かの氷樹がもたらすのは豊穣と癒やし。驚く住民達の頭上からひらりと舞い落ちる桜の花弁は、籠められた清浄なる魔力によって彼らの心身を癒やしていく。
「冷たい……けどなんだか心地いい……」
 硝子のように儚く繊細で、術者からの魔力が途切れればじきに溶けてしまうであろう氷の桜。しかし人々はその僅かな時を咲き誇る様子に、今を謳歌する生命の輝きを見た。

「せめて、この桜花の如く、人々が生を謳歌出来るように」
 皆がどんな選択をしようとも、それだけがエウロペの願いにして祈り。彼女の想いを受け取った人々は氷の花弁をぎゅっと握りしめ、改めて熟考を重ね――そして、決断する。
「……僕たちも地上に行きます。どんな危険があったとしても後悔はしません」
 彼らが選んだのは死と隣り合わせの自由。一条の希望を求めて闇夜へと踏み出す一歩。
 悩みに悩みぬいた末であろうその選択を、エウロペは微笑みと共に受け入れ――彼らを祝福するように、氷の桜はひらりひらりと花弁を散らすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メフィス・フェイスレス
さて、どうしたもんかしら
人類砦は地上じゃ幾分マシだけど彼等にとってはつらいだろうし
人類砦も過酷な環境に慣れてない奴を何人もかかえられる程地盤が整いきってない
ここの主がその点まで考えてたなら質が悪いことこの上ナシね

先頭に立って手を引くのは他の奴に任せる。影から尻を叩く事にしましょう
時間がないから、綺麗事並べ立てるだけじゃ間に合わない
オブリビオン以外には使いたくなかったけど、なんとかやハサミは使いようってね
心を弄ぶような汚い仕事は私がやる

・髪を変異させ透明化したUCでネガティブ気味な住民達に触れて、希望の感情を与え、元の人格を壊さない程度にネガティブな感情を「捕食」して前向きな精神性に改竄する



「さて、どうしたもんかしら」
 幸福を喰らう雲を喰らい尽くしたメフィスは、戸惑う『庭園』の住民達に目を向ける。
 地底都市内のオブリビオンが全て駆逐された今、喫緊の課題はガーデニアという脅威にして庇護を失った彼らの身の振り方をどうさせるかだ。
(人類砦は地上じゃ幾分マシだけど彼等にとってはつらいだろうし、人類砦も過酷な環境に慣れてない奴を何人もかかえられる程地盤が整いきってない)
 人類を取り巻くダークセイヴァーの厳しい現状は彼女も把握している。希望と幸福だけを与えられて育った人々が、絶望渦巻く地上の暮らしに適応できるかどうか。最悪の場合、受け入れ先となった人類砦の体制にまで悪い影響を及ぼすかもしれない。

「ここの主がその点まで考えてたなら質が悪いことこの上ナシね」
 ガーデニアの思惑に反する事があったとしても、この都市の住民はどのみち絶望するようになっていたわけだ。吐き気がするわと顔をしかめながら、メフィスは長い黒髪を揺らめかせ、現状を好転させるための方策を考える。
「先頭に立って手を引くのは他の奴に任せる。影から尻を叩く事にしましょう」
 ゆらりゆらりと揺らめく髪は、娘の足元に届く長さとなってもさらに伸び、透明な触手へと変化する。これは彼女が最も忌み嫌うユーベルコード――名を【弄】。一般人に対してこれを使うのは気が引けるが、急を要する事態となれば仕方がない。

「時間がないから、綺麗事並べ立てるだけじゃ間に合わない」
 すうと色が抜け落ちたように透明になったメフィスの触手は、落ち込んでいたり不安や恐怖を抱えている住民の元にすうっと伸びていくと、気付かれることなく身体に触れた。
 かの触手が「捕食」するのは肉体ではなく精神。任意の感情を与えるだけでなく、思考や感情すら改竄することが可能な、使いようによっては暗殺にも応用できる危険な力だ。
「オブリビオン以外には使いたくなかったけど、なんとかやハサミは使いようってね」
 心弄ぶ触手を通じてメフィスが与えるのは希望の感情。次いで人々の心に渦巻くネガティブな感情を「捕食」して前向きな精神性に改竄する。もし万一にも「食べ過ぎて」しまえば元の人格が壊れてしまう恐れもある――干渉は最新の注意を払いつつ最小限にだ。

「……うん? なんだか気分がスッキリしたような」
「不安がってばかりいても仕方ないわよね。これからの事を考えなきゃ!」
 メフィスの精神干渉を受けた人々はそれまでの暗い気持ちから立ち直り、見違えるほどの明るさを取り戻す。本人達はそれが見えない触手によるものだとは気付いていないし、よもや自らの心が知らぬ間に他人に弄られていたとは考えもしないだろう。
「――悍ましい」
 忌み嫌う力を一般人に振るってしまったメフィスは、誰もいない物陰でぽつりと呟く。
 ほんの少し使い方を変えれば、これは人の心を隷属させ支配することも出来る力だ――もちろん束縛を嫌う彼女が新たな「ガーデニア」になる事はないだろうが。

「心を弄ぶような汚い仕事は私がやる」
 少々の困難や絶望にも挫けないポジティブな精神を形成させれば、他の猟兵達の説得も通じやすくなり、過酷な地上の環境にも適応しやすくなるだろう。非常の手段であっても、それで彼らの未来が拓けるならばと、メフィスは他者の心に触手を伸ばし続ける。
 影から為される彼女の行動が誰かの目に留まる事はなく、称賛を送らられる事もない。
 しかし泥を被る覚悟をもって彼女が与えた希望は、間違いなく多くの人々の心を救ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

家綿・衣更着
連携歓迎

【コミュ力】と【演技】フル回転。絶望する人達を【化術】で【おどろかし】て注目を集め、オブリビオンを知らずともいいよう演説し励ますっす

皆さんが幸せに暮らせたのは間違いなくガーデニアさんのおかげっす。でも「番犬の紋章」という寄生虫をつけられ、この庭園が終わるのは不可避だったんす!

しかし絶望させるにも他のやり方もあった。ガーデニアさんも、本当は梔子の花言葉どおり「とても幸せ」でいてほしかったんす!

だからガーデニアさんの為にも。吸血鬼に支配されない新しい場所で、おいら達が守るから、希望を持って生きてほしいっす!


『収納鏡』に持ち出せる物や動けない人をできるだけ詰め込み、人類砦に避難させるっす



「さて皆さん、お耳を拝借!」
 『庭園』の地底都市の一角でどろんと煙が立ち上り、鳥獣の群れや花吹雪が姿を現す。
 なんだなんだと吃驚仰天しながら振り返った人々は、煙の中心にいる綿狸忍者の姿を見る。上手い具合に注目を集めたところで、衣更着は絶望する人達に向けた演説を始めた。

「皆さんが幸せに暮らせたのは間違いなくガーデニアさんのおかげっす。でも『番犬の紋章』という寄生虫をつけられ、この庭園が終わるのは不可避だったんす!」
 オブリビオンという概念を知らずとも理解ができるよう、専門的な語彙はなるべく使わず。持ち前のコミュ力と演技力をフル回転させて、人々に伝わりやすい説得を心がける。
 まだ状況を把握しきれていなかった者にも、彼の言葉はすんなりと頭に入ってきた。まだ幼い子供達などは、どちらかというと彼が操る化術のほうに興味津々のようだったが。
「ガーデニア様は、最初から俺達を騙していた……」
「私たちを絶望させるために保護していたなんて……」
 優しい笑顔の裏に隠された領主の真実を聞かされた住民達のショックはやはり大きい。
 寄る辺を失いかけて心揺さぶられる彼らを励ますために、衣更着はさらに話を続けた。

「しかし絶望させるにも他のやり方もあった。ガーデニアさんも、本当は梔子の花言葉どおり『とても幸せ』でいてほしかったんす!」
 諸悪の元凶はこの都市のさらに地下深くに潜む吸血鬼達。「番犬の紋章」を与えられたガーデニアは狂気に陥って悪事を企んでいたのだと、真実の中に少しの虚偽を混ぜ込む。
 死人に口なし――あくまでガーデニアには「いい領主」のまま死んでもらい、人々には事実を伝えながら真実とは異なる印象を与える。そうすることで彼らの希望は守られる。
「そ、そうだったのか……?」
「そうっす!」
 弁士のように声を張り上げ、小気味のよい調子で、時には強引に話を展開する衣更着。
 九割の真実の中に紛れ込んだ一割の嘘に気が付ける者はいない。何より、それが本当に嘘だとは限らないではないか――あの狂気に堕ちたクチナシの精霊も、狂ってしまう前は皆を「とても幸せ」にしようとする心優しい花の精だったかもしれないのだから。

「だからガーデニアさんの為にも。吸血鬼に支配されない新しい場所で、おいら達が守るから、希望を持って生きてほしいっす!」
 遠からずここには新たな領主がやって来る。ガーデニアとは違う邪悪で残酷な領主が。
 その前にここを脱出し、地上という新天地で新しい生活を始めようという衣更着の説得に、人々はおう! と威勢のいい声で応じてくれた。
「それがガーデニア様の本当の願いだって言うなら」
「どんな場所だって俺達は希望を捨てたりしない!」
 死して尚ガーデニアの名はこの都市の住民に強い影響を持っている。それをポジティブな方向性のまま利用したのは正解だったようで、多くの人々の賛同を得ることができた。

「それじゃあ、持ち出す荷物や動けない人はこの中に入ってくださいっす!」
 衣更着はマヨヒガの収納空間に繋がる【収納鏡】を取り出し、衣類や食料等の移住における必需品、それに老人やケガ人をできるだけ詰め込んでいく。人類砦までの道のりはけして短いものではない、彼らにはできるだけ身軽で体力を温存してもらったほうが良い。
「もう戻っては来れないっすから、忘れ物はないようにっす!」
 思い入れのある小物や愛用品、そしてこの都市と領主の象徴だったクチナシの花――。
 たくさんの荷物を想いごと受け取りながら、衣更着は移住の準備を指揮するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
2章で召喚したメンバーに加え、【虜の軍勢】で「万能派遣ヴィラン隊」「ヴァンパイアナース」を召喚。

2章で召喚した戦闘系メンバーは町全体の戦闘被害の状況確認や町を脱出するにあたり、ガーデニアの残党や障害物の排除等を指示。

他の吸血鬼に知られるわけにはいかないしね…小物だろうと逃がすわけにはいかないわ。

ヴィラン隊とナース達は先の戦闘による負傷者の治療やこれから話す事に対する人々の為に気付け薬や鎮静剤等の処方を指示。

後は町の人々を集め、言葉に魔力を込め【催眠術】で「気をしっかり持ちなさい」と人々に伝えた後、この世界の事や「庭園」の真実等、闇の救済者や人類砦の事等を伝え、平和に生きられると伝えて説得するわ



「光の断罪者とクレリックは町全体の被害状況の確認を。雪花と狐魅命婦とエビルウィッチは、ガーデニアの残党や障害物の排除を任せるわ」
 大規模な戦闘の終了後、フレミアはまだ戦いの余韻も冷めやらぬうちに【虜の軍勢】のメンバーに戦後処理の指示を出していた。領主もその配下も殆どが駆逐されたとは言え、町を脱出するにあたり、住民の安全を保障するためにやっておくべき事柄は幾つもある。
「他の吸血鬼に知られるわけにはいかないしね……小物だろうと逃がすわけにはいかないわ」
 逃げた敵から状況が他の地底都市に伝われば、敵はすぐにでも増援を送ってくるだろう。住民の避難が完了するまでは、この都市が陥ちた事実を広めさせる訳にはいかない。

「貴女達にもしっかり働いてもらうわよ」
 都市の各方面に散っていく戦闘系メンバーを見送った後、フレミアは新たに召喚した眷属の「万能派遣ヴィラン隊」と「ヴァンパイアナース」のほうに振り向く。彼女達は先の戦闘による負傷者の治療等、住民達をサポートする要因として呼ばれたメンバーだった。
「これから話す事はここにいる人々にはショックが大きいはずよ。気付け薬や鎮静剤等の処方もしておいて」
「お任せください」
「は~い♪」
 あらゆるニーズへの対応力を誇るヴィラン隊は、メイド服を翻しながらてきぱきと町の人々を集め。吸血鬼としては珍しく医療の技に秀でたヴァンパイアナース達が、薬品の詰まった注射器を片手に適切な治療を施していく。

「ガーデニア様はもういない……」
「私たち、これから一体どうすれば……」
 眷属達の尽力によって人々の外傷は癒やされるが、しかし心に負った傷まではそう簡単には治らない。ガーデニアという大きな精神的支柱を失った直後となれば当然のことだ。
 しかし彼らが自然に立ち直るのを待っている時間は無い。フレミアはナース達が気付け薬を処方したのを確認すると、すうと小さく息を吸ってから大きな声で一喝した。
「"気をしっかり持ちなさい"」
 魔力を込めて放たれたその言葉は、ある種の催眠術のように聴く者の精神に浸透する。
 冷水を浴びせられたようにハッとした顔で振り返った人々は、厳しくも真剣な眼差しを自分達に送る吸血姫を見た。

「これから話すことは、全て本当のことよ」
 人々が多少気を持ち直した所で、フレミアはこの世界の事や『庭園』の真実を伝える。
 心優しい領主だと信じていたガーデニアの本性。都市の外に広がる残酷で危険な世界。
 薬と催眠術の効果があっても、聴衆の顔色がみるみるうちに青ざめていくのが分かる。
「そんな……じゃあ、私達はこれからどうすれば……?」
「希望はあるわ。わたし達はそのために来たのだから」
 悪しきヴァンパイアの支配に抗う『闇の救済者』の手で築かれた人類砦。そこに行けば平和に生きられると伝え、この町を脱出するよう説得する。未知なる新天地への移住に不安を抱く者も少なからずいたが、大勢は彼女の言葉を真実として受け止めているようだ。

「おねぇさま、こっちは終わったの~」
 フレミアが説得を続けていると、雪花を始めとした戦闘系眷属が各地から戻ってくる。
 都市の各地に潜んでいたオブリビオンの残党は全て駆逐し、脱出にあたっての障害物も軒並み撤去は完了したらしい。その頃にはちょうど住民達の意見も纏まりだしていた。
「……分かりました。貴女方の仰る通りにします」
 住み慣れた都市を去ってでも、彼らは明日を生きるために人類砦への移住を決断した。
 それを聞いたフレミアは安心したように微笑を浮かべると、さっそく町を脱出するための準備を眷属達に指示するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロスト・アリア
◎ロクさんと

私は彼らへ問いかけます。
希望の花の香りを、色を、柔らかさを。

彼らが生きた証を忘れてほしくないから、亡くしてはいけないと思うから。
どうかその花を覚えていて。
変わらなくても良いものがあるのだと。

あの声が、歌が聞こえますか?
私は、――あの灯を見たいと思ったのです。

あの灯火が、道を照らしてくれる。夜が明けるまで、陽が上るまで、光へと進む道を指し示す声。

不安。
危機が去っていないと、きっと気付いている。

(指の震えが消える、光がそこにある)

どうか希望になってください。

私たちが誰かの救いになっていると。この手が誰かを護れているのだと。
そう思わせて。

だから踏み出して。

生きて、ください。

アドリブ歓迎。


ロク・ザイオン
◎ロストと

休憩。
キミたちも、少し座るといいよ。
(座り込み、おんぼろギターを引っ張り出して爪弾く
そんなに上手いわけじゃないけど、それで気が緩むなら
緊張しっぱなしはよくないから)
聴いたことない歌?
…そうだね。
遠い世界で、ともだちがくれた歌だから。

なあ
キミたちは、おれの声に竦まずに
あの雲から逃げ切った。
生き残った。
それは、強いことだ。

自分の足で。
梔子の花を探しに行きたいって、思わないかい?

おれたちは、キミたちに。
地上にそれを見つけてほしい。


(ロストの手が震えていたことを知っている)
(誰か子供に、内緒話)
…ロストにさ。
ありがとって、頭撫でてあげてくれないかな。
多分、すごく、ほっとすると思うから。



「終わりましたね……」
「そうだね。お疲れ様」
 波が引くように町の喧騒が静まり返り、ロストとロクは戦いの終結を肌で感じていた。
 彼女達が身を張って避難させた人々は全員が無事だ。その勇姿をすぐ傍で見ていたゆえか、地底都市にいる他の住民と比べれば比較的動揺も少ないように見える。とはいえ命の瀬戸際にいたのは変わりなく、心身ともに少なからぬ疲労が見受けられた。

「休憩。キミたちも、少し座るといいよ」
 ロクは適当なところに腰を下ろすと、荷物の中から一本のギターを引っ張り出す。
 随分と使い込まれた印象のある古物だが、爪弾けばぼろんと深みのある音が鳴る。
(そんなに上手いわけじゃないけど、それで気が緩むなら。緊張しっぱなしはよくないから)
 おんぼろギターの音色に合わせて、彼女は歌いだす。獣の遠吠えのように、あるいは風に揺れる木々の梢のように。優しく穏やかに、そして時には遠雷のように激しく力強く。

「なんだか不思議な歌……こんなの聞いたことないです」
「……そうだね。遠い世界で、ともだちがくれた歌だから」
 マイペースで食欲旺盛で娯楽好きな、一見似ていないようでいて親近感のある友人の顔を思い浮かべて、ロクは優しく微笑む。国や世界が違っても歌がもたらす力は全世界共通、異界の歌に耳を傾ける人々の表情は穏やかで、旋律に合わせて身体を揺らしている。
「うん、いい歌だね」
「なんだか心が落ち着くよ」
 まだ不安の種が消えたわけでは無いが、ほっと一息つく安心感が皆を包み込んでいく。
 それはロクと共に戦った仲間――ロストにとっても同じ。心身の疲労がすっと抜けていくのを感じながら、彼女はおもむろに人々に向けて問いかけた。

「貴方達は覚えていますか? 希望の花の香りを、色を、柔らかさを」
 ロストの問いに人々は少し戸惑っていたが、すぐに「もちろん」と答えが返ってきた。
 彼らが指差したのは町に咲くクチナシの花。この都市と領主ガーデニアを象徴するその白い花こそが『庭園』の住民達にとっての希望の花だった。
「この花を見れば、いつでも領主様が見守ってくれてる気がしたんだ」
 戦いが終わり、彼らもまた『庭園』の真実を知った。それでも領主に対する敬愛を消し去ってしまうのは難しく、花を見つめる人々の表情も複雑だった。ロストはそんな彼らに向けて、無理に気持ちを変えてしまう必要はないと語った。

「どうかその花を覚えていて。変わらなくても良いものがあるのだと」
 彼らが生きた証を忘れてほしくないから、亡くしてはいけないと思うから。たとえこの都市を離れることになっても、ここで過ごした希望に満ちた日々を否定してほしくない。
 慈しむようなロストの言葉に、朽ちた庭園の住民達が浮かべたのは安堵の笑みだった。
「そっか……そうだよな。ありがとう」
 都市から人が去り、手入れをする者がいなくなれば、いずれ花も枯れてしまうだろう。
 しかし人々が希望を捨てさえしなけば、クチナシの花は彼らの心で咲き続けるはずだ。

「なあ。キミたちは、おれの声に竦まずに、あの雲から逃げ切った。生き残った」
 白い花を眺める人々に、おんぼろギターを奏でながらロクも言う。わけのわからない不安にも恐怖にも負けず、勇気をもって彼らは逃げ延びた――「それは、強いことだ」と。
 そんな強い彼らなら、きっとここを出て、もっと大きな森で暮らすこともできる、と。
「自分の足で。梔子の花を探しに行きたいって、思わないかい?」
 ガーデニアから与えられた希望の花。今度はそれを誰でもない自分の力で見つけ出す。
 簡単なことではないだろう。けれども不可能でもないと信じているからこそ、彼女はここを出る提案を人々に持ちかける。

「おれたちは、キミたちに。地上にそれを見つけてほしい」
 最初、それを聞いた人々の表情はやはり不安げだった。しかしロクが爪弾く弦の声による歌は、優しくも力強く彼らの背中を後押しする。聴く者への問いかけと背を押す感情を籠めた歌で、聴衆の弱気や諦念、塞ぐ心を和らげる――それが【彗告】の歌の力だった。
「キミの心を推し、敲き、問おう。――道の先に、光はあるか?」
 音楽に乗せた真摯な問いかけに胸を打たれ、人々はじっと考え込むようになる。ここを出て、希望を探す――その覚悟をさらに揺り起こすように、ロストの問いかけが続いた。

「あの声が、歌が聞こえますか?」
 亡き国の女騎士は、森番が奏でる歌と声にもう一度耳を傾ける。それは灯だ。あの灯火が、道を照らしてくれる。夜が明けるまで、陽が上るまで、光へと進む道を指し示す声。
「私は、――あの灯を見たいと思ったのです」
 希望を探していたのは自分も同じだった。過去の記憶をなくし、ただ一人さまよう自分の躊躇いや不安を晴らしてくれる、生き方への迷いをかき消してくれる灯を探していた。
 ロクはそれを見せてくれた。人々を救う灯火となり、ロストの道をも照らしてくれた。
 今度は、彼らにも――そんな自分だけの灯を見つけてほしいと、彼女は切に祈り願う。

(……まだ危機は去っていない)
 人々に語りかけながら、ロストは自分の手がまだ微かに震えているのを自覚していた。
 ガーデニアが倒れても地下世界のオブリビオンが一掃されたわけではない。いずれ他の都市から増援がやって来るだろう。それまでに人々を安全な地上まで避難させなければ。
 気丈に振る舞っていても不安はにじみ出る。最もそれは普通の人には分からない程度のもの――気付くとすればそう、同じ危機感を共有できる仲間だけだろう。

「ね、おねーちゃん」
「ん、なんでしょう……?」
 その時、ふいにロストの目の前にやってきた一人の子供が、そっと彼女の頭を撫でた。
 小さくて柔らかい手で、ぎこちなく。その温かみがじんわりと身体に伝わってくる。
「たすけてくれて、ありがとう。……あっちのお姉ちゃんに、こうしてあげてって」
 内緒だよ、と耳元でひそひそと囁いたその子は、はにかむように笑って去っていった。
 誰がそうするように頼んだのか――聞くまでもなくロストには分かっていた。ついと視線を動かせば、わざとらしく演奏に没頭する赤毛の森番がそこにいる。
『……ロストにさ。ありがとって、頭撫でてあげてくれないかな。多分、すごく、ほっとすると思うから』
 内緒話をバラされてしまったのはロクには誤算だったが。まあいいかと肩をすくめる。
 彼女はロストの手が震えていたことを知っている。そして今、震えが消えたことも。

「どうか希望になってください」
 そこにある光を掴むようにぎゅっと両手を握って、改めてロストは人々に呼びかける。
 今日、自分達がこの都市にとっての希望の灯になれたのだとしたら。今度は彼らにも。
「私たちが誰かの救いになっていると。この手が誰かを護れているのだと。そう思わせて」
 自分勝手かもしれない。これから過酷な生を歩むであろう彼らには酷な話かもしれない。それでもロストは彼らと己自身のために、彼らが希望になることを願ってやまない。

「だから踏み出して。生きて、ください」

 その願いと祈りには、魂の奥底から絞り出したような、切実な想いが籠められていた。
 それ以上の言葉は出てこなかった。ロクも奏でられる曲を奏で尽くして、歌を終える。
 そして、人々から返ってきた答えは――割れんばかりの拍手と、優しい満面の笑顔。
「――そうだな。休憩はもう十分済んだし」
「行こうか。何が待っているかは分からないけど」
「あんたたちから貰った希望を、無駄にはしないよ」
 庭園という名の揺りかごを出て、自分だけの花と灯を探しにいく道を彼らは選んだ。
 それは苦難の道だ。けれどもう彼らは迷わないだろう。標はすでに示されたのだから。
 それを見たロクとロストは互いの顔を見合わせて――そして朗らかに微笑みあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
同じ、いつ終わりが来るかわからない世界なら
傷つかず、苦しくないままでいたいと思う気持ちだって
わからなくは、ないんだ

(だから、自分だって)
(こころを殺して、痛みや苦しみから目を背けて)
(――擦り切れて、終わってしまえたら、なんて思ってた)

地上での暮らしは、いいことばかりじゃないと思う
苦しいことだって、痛みだってあるかもしれない

……それでも
自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じた世界で
自分のこころで、行く道を決めて
自分の足で踏みだして、歩いていくのは
きっと、それ以上に多くの喜びと、幸せがあると思う

……大丈夫だよ
怖いなら、いつでも呼んでくれ
あんたらが胸を張って踏み出せるまで
手くらいなら、貸せるから



(同じ、いつ終わりが来るかわからない世界なら。傷つかず、苦しくないままでいたいと思う気持ちだって、わからなくは、ないんだ)
 戦いを終えた匡は、硝煙のたなびく愛銃をしまいながら、この地に住まう人々を見る。
 今日は、彼らが絶望の結末を迎えるのを阻止することはできた。しかし明日はどうなるのかはわからない――ここはそういう世界だ。個々人の運命だけではない、世界の命運さえもいつ終末(カタストロフ)を迎えても不思議ではない、ここは夜と闇と絶望の世界。
「ガーデニア様は……わたし達を守ってくれる人はもういない……」
「この町を離れて、いったいどうやって生きろっていうの……?」
 だから世界の真実を知ってしまった『庭園』の住人達が、光の見えない未来に絶望するのを愚かだの軟弱だのと批難することはできなかった。彼の生きてきた世界もまた、いつ自分や大切な人たちが居なくなってもおかしくない、死と隣り合わせの戦場だったから。

(だから、自分だって)

(こころを殺して、痛みや苦しみから目を背けて)

(――擦り切れて、終わってしまえたら、なんて思ってた)

 何もかも奪っていく残酷な世界が、希望もなく絶望もない"凪の海"の心を形作った。
 けれど幸か不幸か、匡はそこでは終われなかった。世界の枠を超えてオブリビオンと戦う現在の彼は、気のおけない友人達や、かわいい弟分や妹分、頼れる相棒や同志に、約束を交わした相手――様々な人間に囲まれていて、彼らと一緒に過ごす"日常"があった。
 だから現在の匡はかつての匡とは違う。凪いだ海の底に沈んだ心はなかなか元には戻らないけれど、「ひとでなし」でもここにいる人達の背中を押してやることはできる。

「地上での暮らしは、いいことばかりじゃないと思う。苦しいことだって、痛みだってあるかもしれない」
 匡は打ちひしがれる人々の傍に近寄ると、穏やかなトーンで語り始めた。これから彼らの未来に待つものは多くの困難と試練――人類砦に受け入れられたとしても、邪悪な領主や危険な怪物が蔓延る地上で、か弱い人間が生き抜くのはけして容易いことではない。
「……それでも。自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じた世界で。自分のこころで、行く道を決めて。自分の足で踏みだして、歩いていくのは」
 どんなに困難で、危険で、辛くて、時には後悔するようなことが待っていたとしても。
 暗い絶望の闇夜の中で、自分だけの希望を探し、自分の意志で選択した明日には――。
「きっと、それ以上に多くの喜びと、幸せがあると思う」
 だから、と彼は手を差し伸べる。人当たりのいい笑みを浮かべ、どこにでもいる普通の人のように。悩んでいる人や困っている人がいれば面倒を見る、当たり前の人のように。

「ぁ……」
 庭園の住人達は差し伸べられた手をじっと見つめる。不安と恐れで濁ったままの目で。
 すぐには信じきれないのも、勇気を出せないのも無理はない。だから匡はこう言った。
「……大丈夫だよ。怖いなら、いつでも呼んでくれ。あんたらが胸を張って踏み出せるまで、手くらいなら、貸せるから」
 絶望が彼らに牙を剥いても、けして一人にはさせないと、必ず駆けつけると約束する。
 静かだが頼りげのある声に絆されて――蹲っていた一人がその手を取り、立ち上がる。


「……ありがとう。わたし達を、救ってくれて」


 ――『庭園』という希望の揺りかごを出た人々は、絶望に満ちた世界に足を踏み出す。
 その先に何が待っているのかは分からないが、少なくとももう後戻りはしないだろう。
 猟兵という一条の光に導かれた彼らが、いかなる明日をその手に掴むのか――今はただ、猟兵達の健闘に称賛を。そして彼らの道行きに、幸多からんことを。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月29日


挿絵イラスト