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さばく

#UDCアース #UDC-HUMAN #『対猟兵用生物兵器』フォーラーオブレリア #青の従者

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#UDCアース
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#UDC-HUMAN
#『対猟兵用生物兵器』フォーラーオブレリア
#青の従者


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 ――……娘が死んだ。
 自殺だった。

 中学二年生だった。成績は悪くはないが良くもなく、運動はあまり得意じゃない、ごくごく普通の女の子だった。死んだ妻に目元がそっくりだった。
 男手ひとつで至らない所も沢山あっただろうが、娘は優しく育ってくれた。年頃の娘なのに、あまり父親に対して不平を云ったり拒絶したりということがなかった。俺はバカだから、「最近の子供はあまり反抗期がないらしい」というネットの情報を鵜呑みにして勝手に納得していた。仕事が忙しくて、帰ってきた時には娘が寝ていたことも珍しくなかった。
 何でもっと話を聞かなかったのか。
 いや、逆なのだろうか。俺はあまり娘と関われなかったと思っているが、娘にしてみれば過干渉だったのだろうか。二人きりの家で逃げ場がなかったのだろうか。
 やっぱり、俺のせいなのだろうか。
 いくら自問自答を繰り返しても、答えてくれる娘は、もういない。

 遺書も何もなかった。
 空虚な時間だけが流れていった。

 家に居ると娘の面影が多すぎて、俺は今まで以上に仕事に打ち込む日々を送っていた。転機が訪れたのはある休日の事だった。
 溜まり切った郵便受けを億劫な気持ちで開ける。どうせ殆どがチラシや何かだ。まとめて屑籠に突っ込もうとして、明らかに企業のものではない封筒を見つけた。裏返しても差出人の名前はない。消印は近所の郵便局だった。
 中にはパソコンでプリントしたのだろうA4の紙が折り畳まれて入っていた。

「アユのお父さんへ。メッセとかだと誰が送ったかバレそうだから、手紙で失礼します」

 アユというのは、娘の愛称だ。本名が歩美だから、アユ。
「送ったのが誰なのか、絶対に探らないでください。私が標的にされてしまいますから」
 何が云いたいのかよくわからない書き出しだった。はやる気持ちを抑えて読み続けた。

「アユの死因はいじめなんだと思います」

 ――いじめ、の三文字を冷静に見つめている自分に、かえって驚いた。歩美は内気で人見知りなところがあったから、もしかして、と心のどこかで想っていたのかもしれない。

「同じクラスのミホとリコがいじめのリーダーでした。それ以上は言えません。私も二人が怖くてアユを無視していたから、私もいじめていたようなものです。もっとたくさんの人が関わってしまっていたんだと思います。いきなりこんな手紙を送ってごめんなさい。本当の事、黙っておけませんでした。でも私が書けるのはここまでです。本当にごめんなさい」

 記憶が嵐のように蘇ってくる。
「ごめん、制服汚しちゃった。急いでて転んじゃって」と泥だらけで帰ってきた時。
 珍しく内申が悪かった時は、「数学のノート提出し忘れた」と云っていた。
 あんなことも。あんなことも。
 全部、そうだったのだろう。

 ああ、俺は父親失格だ。
 そんな兆候にさえ、気づけなかった。


「――その父も、学校等に掛け合ってはみたらしいんだがな。結局確固たる証拠というものはなく、うやむやにされてしまった、らしい」
 リリー・リャナンシー(ましろ・f20368)と名乗るグリモア猟兵は淡々と説明を続ける。
「それだけならば悲劇ではあるが、緩やかな狂気が蔓延するこの世界ではよくある事だ。だが狂気は、時として常識では考えられぬ事態を引き起こす。過去から産まれる怪物でしかない筈のUDCに、人間が変貌してしまうという事件を知っているか」
 UDC-HUMANと呼ばれるそれが最初に起きてから、既に数か月が経っている。しかしその原因は未だはっきりしていない。

「二日前の夕方、父親――須藤が、とうとう主犯とされるミホとリコの二人を下校中に呼び止めて問い詰めたようだ。彼女達は事実を認めたが、須藤がその内容をスマホで録音している事に気づいて激昂し、スマホを奪って口汚く罵った。おそらくその中には娘の歩美への罵倒もあったのだろう。心の箍が外れてしまった須藤は、化物へと変貌してしまった」
 今、須藤はある廃ビルにて少女達を監禁している。殺してはおらず、どころか傷付けてすらもいない。
「おそらくこのまま何もせず、じわじわと苦しませた上で衰弱死させるつもりなのだろう。だがその為幸いに――ああ、皮肉な言葉だな。幸いに、今突入すれば屑どもを無事に救出することができる。衰弱はしているが、命に別状はないだろう」
 問題は、とリリーは云う。

「問題は須藤の方だ。怪物になったばかりの須藤はUDCを斃せば人間に戻せるが、心まではそうもいかない。彼を救出しただけでは、今度は『人として』過ちを犯してしまうだろう。――UDCが人を殺めてもUDC組織や猟兵が揉み消せるが、人が人を殺めたものは別だ。わかるな?」
 その為に策を講じる必要があるのだ、と。

 たとえば最も常識的な方法としては、唯一の証拠である録音データだ。あれを用いて法に訴えかける手助けをする。
「……だが、『いじめ』を立件させるのは絶望的と聞く。屑どもを懲らしめるには程遠いだろう。それでも何もしないよりはましだ」
 或いは、とリリーは聲を顰める。

「UDC事件として、猟兵が原因となった加害者に制裁を加える事が赦されている。その中には普段ならば犯罪になるものも含まれている」
 暴力を振るう。何かを奪う。心に傷を刻む。そのような事が。全てはUDC組織の後ろ盾の元に行われ、表沙汰になる事は一切ない。

「これは私の予知と推測が半々で、確実なものではないが。このまま放置しておけば、彼女達が悔い改める事は未来永劫ないだろう。どころか怪物に囚われても無事だったという経験が、彼女達の攻撃性を冗長してしまう可能性すらある。放置しておけば第二、第三のUDC-HUMANの因子となる可能性が極めて高い。それが半年後かもしれないし、数十年後かもしれない。それだけの差だ」
 今回は予知が及び、須藤を救出する事が可能ではあるが。
 次に新たなUDC-HUMANが発生した時、助けられるとも限らないのだ。

「無論、気の進まぬ者もいるだろう。その場合後処理は他の者に任せ、怪物退治だけを担ってくれればいい。猟兵としての極めてシンプルな任務だ」
 幸い、とリリーは云う。
「幸い、屑と云っても只の人間だ。懲らしめるのにUDC退治程の人員は必要としない」


「では、その『怪物』退治の話をしよう。廃ビルの周りには新たなUDCに引き寄せられるようにして雑魚UDC達が集まっている。その群れを掻き分け、UDC-HUMANを討ち取る。須藤の意識は深く沈んでいるが、不完全だ。何度も呼びかければ一時的に目覚め、攻撃の手が緩む可能性がある」
 そこを突けば討伐は容易になるだろう、ということだった。

「――ああ。最後にひとつだけ。屑どもを殺すなよ。いくらUDC組織といえ、命が消えたという事実を隠す事は出来ない」
 仮面で表情を隠した少女は、最後まで淡々と告げるのだった。

「屑どもがいくら死のうが構わないが、生きている者がその業を背負う必要もないだろう。それはあの男もそうだし、お前達もだ」


ion
●お世話になっております。ionです。
 人によっては勧善懲悪なのかもしれないし、後味の悪いお話かもしれません。
 リリーも云っている通り戦後処理は人を選ぶものなので、参加したいところだけ参加するというのも大歓迎です(勿論このシナリオに限った話ではありません)。

 一章では、廃ビルに集まった雑魚UDCの群れを退治します。
 二章では、父親の変貌してしまったUDCを退治します。ただ斃すだけでも救出できますが、説得も可能です。うまくいけば攻撃の手が緩むかもしれません。

 三章は反省する事のない少女達を懲らしめます。
 方法はお好きになさってください。多少、良識を逸脱していても問題になりません。
 殴る・蹴るなどの暴力すら許されていますが、ionの実力的にあまり加虐趣味を強調したりグロテスクな描写にはならないと思います。
 かなりあくどい事をしても大丈夫ですが、命を奪う事だけは出来ません。
 継続参加したいけれど、一般人を制裁するのは躊躇われる……という方は、人間に戻った父親(須藤)のケアに回って頂けると幸いです。

●プレイングについて
 各章、追加OPと共にプレイング受付日をお知らせする予定です。
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第1章 集団戦 『『対猟兵用生物兵器』フォーラーオブレリア』

POW   :    【常時発動型UC】オブリビアン・パンデミック
【空気中を浮遊した後、接触した対象に感染】【する。同時に、接触した対象の体内に侵入、】【増殖するのに最適な肉体構造に変化する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    【常時発動型UC】バイタル・ゼロ
【感染した対象の肉体(有機物以外も対象)】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【感染した対象を破壊するのに最適な肉体構造】に変化させ、殺傷力を増す。
WIZ   :    【常時発動型UC】デビル・エボリューション
戦闘中に食べた【感染した対象の肉体(有機物以外も対象)】の量と質に応じて【自己増殖、自己進化、自己再生する事で】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 最初は、彼女達は認めたがらなかった。
「あなたが歩美のパパ? 正直先生たちからあれこれ訊かれて迷惑してるんだよね」
「なんでわざわざあたし達に逢いに来たんですか」
 学校に話をつけても埒があかなかったからだと云った。君たちと直接話をする事さえ許しては貰えなかったと。
「そりゃそうですよ。あたし達無実ですもん」
「それでこんな待ち伏せみたいな真似を? 親子そろってインケン……あっ」
 いかにも口を滑らせてしまったという調子だったが、演技の匂いがした。こちらを攻撃したくてたまらないという調子だった。
 その証拠に、問い詰めるといやにあっさりと口を割ったのだから。

「元はと云えば、仕掛けてきたのは歩美の方なんだよ。あいつがうちらのことを先生にちくったんだ」
「たかが数千円のアクセサリーを万引きしただけなのにね」
「あの時もしおらしく泣いてしらばっくれて、なんとか誤魔化したけど、むちゃくちゃ大変だったんだから」
「もう最悪だよねー。クラスメイト売ったんですよ、あいつ」
「ほんとほんと。被害訴えたいのはうちらの方だって」

 キイキイと、少女特有の甲高い聲で彼女達は喋り続けた。死人に口なし。制裁をちらつかせればクラスメートたちは従うし、しょげたふりをしていれば大人たちは丸め込める。そんな自信が、彼女たちを際限なく攻撃的にしているのだろう。まるでお喋り上手の鳥か、金切り声の宇宙人が人間の言葉を真似ているようだと俺は思った。言葉はわかるはずなのに、理解がおいつかない。いや、耳鳴りがひどくて会話の半分も聞き取れていない気もする。――ああ、うるさい、うるさいうるさい。黙らせてしまいたい。いや、まだ駄目だ。

「それで? どうするんですか。学校はもういじめはなかったって結論出してるんですよね?」
 彼女達の嘲笑が凍り付いたのは、俺のスマートフォンがその様子を録音している事に気づいたからだった。
「……何くだらない真似してんだよ、オッサン」
 二人がかりで奪い取られた。地面に叩きつけられ、踏みつけられ、川に捨てられた。

「ほんっとオッサン歩美そっくりだね。うちらのこと踏み躙って楽しい?」
「カエルの子はカエルっていうけど、逆バージョンのことわざってあるのかな」
「今度うちらに接触してきたら、オッサンに暴力振るわれそうになったって訴えるから」
「チカンとかのがいいんじゃない?」
「ぶっ。娘の同級生にチカンとか、『人として終わり』だね」
 けらけらと彼女達は笑う。ああ、耳鳴りがひどい。頭が割れそうだ。割れてしまう前に耳鳴りをどうにかしなければ。きっと頭がおかしくなってしまう。どうすれば、どうすれば、どうすれば――。

 ふと振り返った少女達が、俺を見て顔をこわばらせていたのは覚えている。
 それを見て、彼女達は何でそんな顔をするんだろうと――こんな時だというのに妙に冷静に――疑問に思ったことも覚えている。

「ばけも、の」

 そのあとのことは、わからない。


 猟兵達が赴いた廃ビルには、一面に黒い霧のようなものが満ちていた。
 ――否。それこそが蹴散らすべき敵。霧に見えるものは、極小のオブリビオン達の集まりだ。
 時折霧が揺らいでは人の貌のような形をとっては消えていく。その『瘴気』を吸い込めば、猟兵すらも蝕む病魔が牙を剥く。
 辛うじて目に見える程の微細なそれらを、全て斃す必要はない。だがこれらが満ちた空間を無防備に駆け回るのは命取りだ。
 ある程度蹴散らしながら、目的地へ――『少女』と『怪物』の待つ最上階へ急ぐのが得策だろう。

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 第一章プレイング受付:11日(日)朝8:31~
 終了日時は後日MSページにてお知らせいたします。
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百鬼・智夢
いじめ……自殺……

自分の過去を重ね
きゅ…っと、父の形見である★リアムを抱き締める

命を大切に出来ない人は嫌い
だからこそ、止めなきゃいけない

リアム…それから皆…
お願い、力を貸して…

リアムの力で呼び出した善霊達に
周囲に【破魔】を宿した【オーラ防御】を張ってもらい
瘴気を【浄化】する事で被害を軽減しながら進む

あまりにも行く手の邪魔になるなら
【流聖の煌めき】で出来る限り一掃して

…私にも、止められるかな
あの子達も、お父さんも…救えるかな
恨みや憎しみは連鎖するだけ…誰も幸せにはなれない
身を持って知ってるからこそ、私は…

貴方達も…わかってくれる…?
周囲の霊達と心を通わせながら、少しでも早く辿り着けるように




 ――似ている、と思った。
 事故で父を亡くし、巫女の血を強く継いだゆえの霊感の高さでいじめを受け続けていた自分に。
 UDCで生まれ育った時の地獄を思い出せば、テディベアを抱く百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)の手に自然と力が籠る。父が遺してくれた大切な存在、リアム。
(「命を大切に出来ない人は嫌い。だからこそ、止めなきゃいけない」)
 予知者の説明を聞いている間、何度も過去の映像が蘇り、聲にならない叫びが漏れ出しそうになった。『異端者』には何をしてもいいと信じきっている少年少女たち。智夢は命こそ絶たなかったが、ずっと自分を殺し続けてきた。己の心を。
 硬い殻に閉じこもらなければ、罅割れてしまうのはきっと自分のほうだったから。
 ただ、彼女には力があった。それが救いだった。
「リアム……それから皆。お願い、力を貸して……」
 リアムの眸が優しい青に輝けば、どこからか善霊たちが呼び出される。智夢を護るように囲んで、破魔の力を周囲に張り巡らせてくれる。
「ありがとう」
 善なる彼らは、自らと性質の違うものを敏感に感じ取っては其れを阻んでいく。同級生から拒絶された智夢が心を通わせられる存在。
 無論、智夢もただ護られているばかりではない。侵食した個体から増殖と再生を繰り返すのだというオブリビオンが自らに牙を剥く気配を察すれば、眩いばかりの星々を降らせては撃破していく。
「先を、急がなきゃ……」
 こんなところで立ち止まるわけにはいかない。小さな体躯をものともせず、数段飛ばしで階段を駆け上がっていく。荒くなった息が瘴気を深く吸い込んでしまうことのないよう、霊たちがより一層護りを手厚くしてくれた。
 ふと、想いが言葉となって零れ落ちる。
「……私にも、止められるかな」
 ――救えるかな。あの子達も、お父さんも。
 智夢はいやというほど知っている。恨みや憎しみは連鎖するだけ。それらが拡がって蔓延するだけで、誰も幸せになんかなれない。だから止めなきゃいけない。たとえそれがどれほど困難だとしても。
「貴方達も……わかってくれる……?」
 霊たちに問いかけると、彼らが行使する破魔の力がより鋭く、厚く、研ぎ澄まされていくのを感じた。
 それが彼ら流の励ましなのだと感じ、智夢も頷いた。
 向かうは上へ。かつて人だった者が待ち受ける場所へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
ああ、ニンゲンですね。
人間臭い。彼女たちは正しく人間だ。
その器に醜美を詰め込んだ生き物
救いがなくて、だからこそいとおしい

イヤーな気に満ちた場所ですこと
身体に毒だって野生の勘が告げてるよーです
時折見えるよーな表情は何でしょーね
ぱぱっと終わらせて先を目指しましょ

走るよりも翔けるほーが上手く躱せそーです
低空飛行で飛び回りましょ
風属性の全力魔法で霧を纏められたらバッチリですん
一箇所に集まれば手を加えやすいでしょ

宿す爪と双翼をもって真空波の刃を放ちます
上手にしゅばっと切れたなら良ーんですけれど
ある程度散らしたならば先へと行きましょーね

第一に優先すべき目的
わたしの“仕事”は、最上階にて待っているんですから




 妖狐も夢魔も、ひとがいなければ困るという点では似たようなもの。
 だからそれらのまじりである百鳥・円(華回帰・f10932)はひとをアイしている。そして、実に正しくひとを理解している。きっと純然たるひとよりも、よほど。
「ああ、ニンゲンですね。とっても」
 呟く声はどこか間延びしていて、とろりと甘やかだった。
 ――人間臭い。彼女たちは、正しく人間だ。
 十代の女の子。一番美しい頃だという人もいる発展途上の器には、むせ返るほどの醜美がぎっしり詰まっているのだろう。ああ、なんて――。
「救いがなくて、だからこそいとおしい」
 そんな彼女たちに、円がすべきことは。
「ま、とりあえずはこのイヤーな気に満ちたところをぱぱっと抜け出すコトでしょ」
 そうと決まれば円の行動は早かった。夢魔の翼がはためけば、その身は地を這うように低空を翔ける。
 時折ゆらめくように表情のようなものを浮かべる瘴気。毒をはらんだ彼らを吸い込まないように飛翔するだけでなく、時折翼の向きを変えて風を繰り出していく。あの霧を一か所にまとめてしまえば蹴散らすのも容易だろう。
「こんなところでだらだら時間かけるの、勿体ないですからねー」
 意思があるのかさえも判別のつかぬ霧たちは、時折条件反射のように円へと迫って来る。ただし風の魔法を繰り出せば、ほんものの気体のように容易に吹き飛ばされていく。
 やがて霧は円の狙い通り、フロアの中央に集められていった。更に手を加えやすくなるように、全方位から取り囲むように風属性の魔力を放てば、圧縮されるようにして更に密度を高めていく。こうなってしまえば、あとは駆られるのを待つだけの獲物に等しい。
「そろそろ仕上げですねん」
 爪と双翼がひらめけば、凝縮され繰り出された風が真空の刃となって霧を刻んでいく。蹴散らされた霧はそのまま空気に溶け込むようにして消えていった。妖狐の勘が、既にそれらが害のないレベルまで希釈されているのを感じ取った。
 振り返らずに円は翼を翻し、ビルの上を目指していく。
「わたしの"仕事"はまだまだこれから、ですからね」
 ――最上階で待っている、『ニンゲン』たち。
 そのココロに、はやく逢いにいかなければ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小雉子・吉備
キビも事情は聞いたけど
幾らなんでも胸糞悪すぎる
何としても父親の方を止めなくちゃっ!

あんなの為に手を汚す必要なんて
あって良い筈が無いんだからっ!

〔WlZ〕
ここはヒーローズアースで仕立てて貰ったテクターのテストも兼ね

UDCを蹴散らして正面突破

【オーラ防御】を【結界術】で全身に覆い【激痛耐性】で備え

【早業】でUCを発動し【空中戦】で駆けながら〈体を退化させる霊力の翼〉に【属性攻撃(殺菌)】と【浄化】を込めて【範囲攻撃】で広げ【2回攻撃】の【切り込み】で一掃しつつ

〈なまり〉ちゃんに【動物使い】で【範囲攻撃】の〈虹色狛犬「虹色息吹きのレインボースパーク」〉を指示しお手伝いを

〔アドリブ掛け合い絡み大歓迎〕


地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
ああ、クソがつく程腹立つなあ畜生!聞くだけで苛々する!
家族を奪われることがどれだけ苦しいと思ってんだ!!
だがだからってUDC-HUMANにするワケにはいかねえ、とにかく急がねえと……親父さんの手が血塗れになるのは娘さんは望んでねえだろうし。

霧状なのが鬱陶しいな……UDCだから毒というよりは呪詛なのか?
まあどっちだろうが【毒耐性・呪詛耐性】がある程度あるから、
多少吸っちまっても強引に突破だ突破!
感染防止になるかはわからねえが【火炎耐性】を利用して
【指定UC】の炎を身に纏って、ひたすら【ダッシュ】で突っ走るぜ!
おらそこどけUDC共!(※霧状なのでどくどかないの話ではない)




 何よりも大切なものを奪われて、踏み躙られてしまった。
「キビも事情は聞いたけど、幾らなんでも胸糞悪すぎる……」
 それを想うだけで、ヒーローの物語の追憶に触れ正義の味方を志した少女、小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)の心が義憤に満ちる。
「ああ、クソがつく程腹立つなあ畜生! 聞くだけで苛々する!」
 だん、と地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)が床を強く踏みしめた。本当は瓦礫のひとつでも蹴り飛ばしてやりたい気分だった。
「家族を奪われる事がどれだけ苦しいと思ってんだ!」
 吉備が憧れを原動力に猟兵へと覚醒した存在なら、凌牙の力の糧は怒りそのものだった。家族の命と、心を奪った存在への怒り。
 感情豊かだった兄の心は、今や恐怖が支配するばかり。喪失に怯える兄の眸を見るたびに、凌牙の地獄の焔がふつふつと湧き上がる。
「何としても父親の方を止めなくちゃっ! ……あんなのの為に手を汚す必要なんて、あって良い筈が無いんだからっ!」
「そうだな。どんな理由があったってUDC-HUMANにするワケにはいかねえんだ。……親父さんの手が血塗れになるのは、娘さんも望んでねえだろうし」
「うん。キビもそう思う!」
 力強く頷く吉備に、凌牙も頷き返す。
 ふと、俺の家族もだろうか、という問いが頭をよぎる。死んだ家族も、共に生き延びた兄も、俺が復讐者となることは『望んでねえ』のだろうか。
(「それでも構わねえ。人を、命を弄んだ罪は受けてしかるべきだ」)
 誰かがやらねばならないのなら、俺がやる。それまでだ、と。
 人に近い形態をとるドラゴニアンの、その黒い鱗が剥がれ落ちていく。裡より噴出するのは地獄の焔。憤怒を具現化したかのような高熱が、凌牙の周囲でとぐろを巻く。
「ヒーローズアースで仕立てて貰ったこれ、うまく使いこなせるかな?」
 吉備の手の中にあるのは、妖怪の世界では何の変哲もない一枚のあやかしメダル――と見せかけた、吉備の新たな力の媒介となるものである。
「いくよっ……テクターアップッ! ………刻動、鎧貨「九頭雉鶏精変化」っ!」
 召喚した九頭雉鶏精テクターを纏えば、みるみるうちに吉備の姿が変わっていく。雉の翼は霊力の光翼に。赤い目元と緑の膚が、彼女の正体を如実に物語っている。
「正面突破するよっ!」
「ああ、とにかく急ぐぜ!」
 駆ける二人の頬を何かが掠めていく。ともすれば薄黒い霧のような何か。息を吸うたびに胸が締め付けられるような感覚がする。じわじわと侵食する毒の様な――。
(「いや、UDCだから毒というより呪詛に近いのか?」)
 凌牙は思案するが、それについて深く考察するつもりはなかった。どちらにせよ、大した影響ではない。
 鱗が更に剥がれ落ちていく。その頬から、腕から、憤怒を放出し続けるさまは、まるで怒りを糧に脱皮と成長を繰り返す竜のようだった。
 焔に焼かれた霧が効力を失ったように消えていく。それでも霧はどこからか沸き上がり、二人に迫って来る。
「おら、どけェっ! 毒だろうが呪詛だろうが、俺を蝕めるってんならやってみやがれッ!! まとめて蹴散らしてやる!!」
 霧を振り払うように大きく両手を振るう。怒りをくべてより一層燃え上がる焔が霧を灼き払っていった。
「無茶するね。でもそういうの、キビは嫌いじゃないよ」
 あの桃太郎だって、人間と動物だけで鬼を斃すなんて無茶を成し遂げたんだもん、と吉備は笑う。古今東西、ヒーローってそういうものだよね、と。
「キビも負けていられないよね!」
 その吉備は、光の翼で宙を舞っていた。真の姿を解放した吉備の光翼は、触れるものを徐々に退化させる霊力が宿っている。更に殺菌と浄化の力を付与して飛び回れば、たとえ大量に吸い込んだとしても猟兵ならば問題ないレベルまで敵の効力を弱める事が可能だろう。
「なまりちゃんもお願いね」
 青色狛犬のなまりちゃんにビームカードで指示を出せば、虹色息吹が火花のように炸裂する。虹色ビームが蹴散らした先には上階へと続く階段が見えた。
「行くぜ!」
 凌牙の焔がしつこく付きまとう霧を焼き払う。一人はその脚で、もう一人はその翼で、怪物と被害者の待ち受ける最上階へと駆け上がった。

 ――ああだけれど、待ち受けている男と少女、果たしてどちらが『怪物』なのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
「やることは変わらない」

私に少女二人を裁く意思はない
敵を倒して一般人を救出する

影を滑るように疾駆して【先制攻撃】
斬るよりも【怪力】任せに吹き飛ばす

【暗黒】を発動

「闇は闇に」

瘴気のダメージは【肌】の機能で痛覚を遮断
【継戦能力】を発揮して敵を負の力で削り続ける

戦闘を機械的に続けながら、私の意識は思考に沈む

歩美ちゃんはどんな気持ちだったんだろう?
現実から逃げることもできず、助けを求めることもできない
気づかない父親、見て見ぬフリをする友人たち
その事実を自覚して、絶望を深めたのかもしれない
あるいは巻き込めないと全てに口をつぐんだのか
この『世界』でも死者は蘇らない
会ったこともない少女を想い、私は剣を振るう




 日下部・舞(BansheeII・f25907)が現場に到達した時には、二人の少年少女が上階への階段を駆け上がっているところだった。
 ちらりと見えた横顔が己の身をも焦がしかねないほどの怒り――恐らく二人の女子中学生への――で満ちているのを、どこか遠いもののように舞は認識した。
「他の人がどうであれ、私のやることは変わらない」
 いつもと同じ事だと呟いた。敵を斃し、一般人を救出する。極めてシンプルなオーダー。
 少年少女に続こうとした舞の行く手を、霧状のオブリビオンが阻む。駆けだした舞はまるで影を滑るように静かな動きだったが、繰り出される一撃は細腕からは想像もつかぬ力業だった。破壊不能の長剣を、斬るというよりもその重さで蹴散らすように振り回す。極めて人間に近い見た目の隅々までオーバーテクノロジーを搭載した舞だからこそ成せる業だ。
「――闇は闇に」
 そしてひとたび舞の剣が触れた部分から、死の刻印が瘴気たちを侵食していく。舞をおびやかそうと近づく限り、霧はその生命活動を蝕まれ続ける事となる。
 そしてその中に身をさらし続ける舞の方は、汗ひとつさえも滲んでいない涼しい顔だ。瘴気に身を蝕まれようと、雪のように白い膚は一切の痛覚をそうと認識する前に遮断している。こうなれば、あとは機械的に瘴気を祓い続けるだけだ。
(「――歩美ちゃんはどんな気持ちだったんだろう?」)
 流れ作業のように戦闘をこなす舞の意識は、殆ど霧たちを見据えていない。内側へ内側へ、思考へと沈んでいく。
(「現実から逃げることもできず、助けを求めることもできない。気づかない父親、見て見ぬフリをする友人たち……その事実を自覚して、絶望を深めたのかもしれない。あるいは巻き込めないと全てに口をつぐんだのか……」)
 わからない。或いは上階にいる者達に話を聞ければ、推測の幅は広がるかもしれないが――それでも、推測は推測でしかない。真実を知る術は、未来永劫失われてしまった。
「確かなのはひとつだけ、ね。この『世界』でも死者は蘇らない」
 ゆるゆると首を振り、舞は剣を振るい続ける。会ったこともない少女を想いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小犬丸・太郎
(アドリブ、マスタリング歓迎)

_

心が、痛い。

…彼の気持ちが分かる、などとは決して言えない。
その人の悲しみは、痛みは、その人にしかわからないからだ。共感は出来ても同じ痛みを抱く事は出来ない。

けれど、俺も、

俺も、妹を護れなかった。

いじめだった。あの子の苦しみに気づけなかった。
行方をくらませてからようやく気付いたんだ。
仕事の忙しさにかまけて、たった一人の妹の苦しみにさえ気付いてやれなかった。
俺たちに無関心だった両親の代わりに護っていかなくてはと必死になって──このザマだ。

でもだからこそ俺は、貴方に会わなくてはならない。止めなくてはいけない。
貴方が怪物に身を堕とす前に。




 まるで俺みたいじゃないか、とは決して云えなかった。
 たとえ境遇が似ていても、人の痛みは千差万別。共感こそ出来てもそっくり同じ痛みを抱いているわけではない。
 それでも小犬丸・太郎(鞘無・f29028)の胸の奥、片時も忘れた事のない痛みがいつもに増してずきずきとあらぶっている。もう二度と見る事の出来ない笑顔が、脳裏を掠めては消えていく。
 ――俺も、妹を護れなかった。
 無関心だった両親の代わりに、俺ががむしゃらに働いて護っていかなくてはと必死になって……なりすぎて、彼女の苦しみに、それが爆発してしまう兆候に、気づくことができなかった。
 たったひとりの大切な妹。彼女がずっと独りで理不尽に耐えてきた事を知ったのは、彼女が行方をくらませてからだった。何もかもが遅かった。
 ――妹が命を落としたのも、いじめが原因だった。
「……巡り合わせが違ったら、俺が怪物として討伐されていたかもしれないな」
 熱血漢でお人好し、真面目を絵に描いたような太郎は、今も昔も人を護る職に就いている。かつては警察官、現在はUDC機関員。武装した凶悪犯にも、常識の埒外である邪神にも怯まず立ち向かう剛健な男。その実力と誠実さで慕われてきた裏で、何よりも護りたかったものを護れなかった男。
 無力感も、怒りも、絶望も、いつも心のどこかで渦巻いていた。その心が綻びてしまったら、ほんの小さな孔から濁流となって流れ出てしまっても、きっとおかしくはなかった。
 空気がざわめいている。首筋をぞっと撫で上げるような悪寒に、太郎は己の獲物を握りしめた。
「でも、」
 携えたクランケヴァッフェは刀の形をとる。闇を切り裂く稲光のような一閃が、ゆらめく瘴気たちを一振りで打ち払っていた。迫りくる霧たちの勢いが衰えたのを肌で感じ取った太郎は、そのまま振り返る事無く歩みを進めていく。
「だからこそ俺は、貴方に会わなくてはならない。止めなくてはいけない」
 心が痛い。引き裂かれそうな痛み。
 いやというほど味わったそれは、決して瘴気によるものではない。太郎が持ち続けてきた痛みそのもの。
「貴方が怪物に身を堕とす前に」
 今ならば、彼だけでも救うことができる。だから往かねばならない。
 UDCに立ち向かう者として。人を、命を救う者として。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【五万円】
病魔か…あー、嫌だな。
こういうのが一番嫌いなんだよ…。
天敵だから真より前に出たくない

煽る様子には慣れたもの
不服そうに顔を顰めつつ
突っかかるのも面倒だからされるまま
ホント腹立つなお前…。

…7:3だと?バカ、持って行き過ぎだ。
相応の働きしてくれるんだろうな?
俺はお前が囮にでもなってくれたら嬉しいんだが。
口を開けば悪態ばかり

なんだ、お姫様気分で待ってりゃイイのかと思ったぜ。
軽口混じりに鼻で笑って

体内の刻印(ドライバー)を作動させ
血を媒体に猟犬型血液生物を二体生成
五感を共有することで視野を広げ
自らの回避力を上げると同時に
猟犬達に微細な敵を捕食させ道を作る

あとは駆けるのみ
汚染された猟犬は回収✕


久澄・真
【五万円】

クハッ
んだよ駄々こねてんのか?
突然手伝えとか声かけるから何かと思えばそーゆー事か
おーよしよし怖いですねー
なんて後ろに引っ込む頭に手を伸ばす
煽る様に撫でてやろうかと

取り分7:3な
尚悪態つく連れの言い分を嗤って流しながら
さて、仕事といきますか
ほぉら新鮮な成人男性の肉体だぜ
感染したいだろ?

引き付けた攻撃を喰らう直前で
操るマネキン人形を壁に武器受け
ノーガードで吸収した攻撃は上手くいけば反動するはず
へぇ、肉体構造ってなぁ意外と使えそうだな
今度似たUC出来るか試してみるか

ま、失敗しても引き続き人形を盾にするだけだ
ほら駄々っ子
ぼーっと見てねぇで働け
取り分全部貰ってもいいなら別だがな、ククッ




「病魔か……あー、嫌だな。こういうのが一番嫌いなんだよ……」
「クハッ、んだよ駄々こねてんのか?」
「天敵だからな、匿っててくれ。前に出たくない」
「おーよしよし怖いですねー。優しくてデカい兄ちゃんがこわーいお化けからすっぽり覆い隠してあげましょうねー」
「云うほど違わないだろ、10cmも差ァ無いぞ」
 煽るように上からがしがしと撫でてくる褐色の手に、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は不服そうに眉を顰めつつも、その手を撥ね退ける事はしなかった。
「……ホント腹立つなお前」
 態々抵抗して息を荒げれば、空気を吸い込む量が増える分病魔に侵される可能性も増える、気がする。吐き棄てるだけのジェイに、おやァと久澄・真(○●○・f13102)は眉を持ち上げた。
「マジで顔色悪いな。おうちかえってねんねするか?」
「馬鹿云え、元々だ」
 虚弱、だなんて通り名も、何も侮蔑的な意味だけではないと思えばまあそれなりに気に入っているものだ。そんないつも通りの言葉の応酬に、クッと真が喉を鳴らした。
「取り分7:3な」
「……7:3だと? バカ、持って行き過ぎだ。相応の働きしてくれるんだろうな?」
「なぁに、終わる頃には認識を改めてるだろうさ、破格だったってな」
「そこまで云うなら、囮にでもなってくれたら嬉しいんだが」
「囮ねぇ、まあ前線に出たくないカワイコちゃんを護るってんだからそうなるか」
 ひらひらと受け流すように手を振りながら、褐色の青年は渦巻く瘴気の中に無防備めかしてぷらぷらと歩み寄っていく。
「ほぉら新鮮な成人男性の肉体だぜ。――感染したいだろ?」
 ぶわっ、と空気が蠢いたようだった。
 黒い瘴気が一斉に真めがけて立ち込め、呼吸に乗じて内部に侵入しようとする。その直前、その呼吸を持たぬ者に阻まれる。真の操るマネキン人形に。
「へぇ」
 真が愉快そうに唇の端を吊り上げたのは、受け止め切った人形が衝撃波を放ち、瘴気たちを掻き消していったからだ。元々この人形が持ち合わせている力ではない。オブリビオンの用いる力――『感染した対象を破壊するのに最適な肉体構造』を入手するという特性を、そっくりそのまま排出した結果だ。
 何せ真は『双子の賢いほう』を自称している。兄とは弟より理知的なものであり、思考を武器に立ち回るものなのだ。効率よければ何のその、正面からぶつかるのは己の仕事ではない。今日の獲物は卑怯だと罵ってくることもない。別に罵られようと良心は欠片も痛まないが。
「意外と使えそうだな。今度似たUC出来るか試してみるか」
「悪くねェな、それ」
「というか俺を囮にした駄々っ子は何してんの? 少しは働け」
「なんだ、お姫様気分で待ってりゃイイのかと思ったぜ」
 軽口混じりに鼻で嗤いつつも、ジェイもまた、体内の刻印を作動させている。鮮血を代償に生成されるのは、猟犬型の血液生物。
「取り分全部貰ってもいいなら別だがな、ククッ」
「あァ? そもそも誰が仕事掴んできたと思ってんだ」
 軽口には互いに慣れたものだが、それとこれとは別の話だ。生きていくには金が要る。
 五感を共有する猟犬達をジェイは放つ。微細な怪物たちも、血の身体を持つ彼らの牙は決して逃がさない。体内に取り込み、肉体に付着させ、フォーラーオブレリア達を無力化させていく。
 そしてジェイはといえば、共有し広がった視野を元に安全な場所を探り、自らが侵食される事を避け続けた。
「やるじゃん、お姫様」
「粗方片付いたか、さっさと上行くぞ」
 ヒュウ、と口をすぼめる真に、ジェイは顎で階段の方を示す。二人が階段を登り、その足音も聞こえなくなったころ、尚もオブリビオン達の残り滓を食らっていた猟犬たちの躰が痙攣し出す。汚染物質を食らい尽くした彼らの躰が崩れ、元の血液となって崩れ落ちる。
 一旦は極端に勢いの衰えた瘴気は、またもや新たな獲物を迎え撃つ為に分裂と増殖を繰り返していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬
ヒトが関わってはならない領分、そこは俺達猟兵の出番だ
そしてひとりのヒトの命を奪った罪、それに対する報いを与えるのは獄卒の役目でもある

【POW】
[結界術]で己の周囲に障壁を張り敵の体内への侵入を極力防ごう
全ては無理だろうがそれは仕方がない
纏わりつきが多い部分は身体から冥府の炎を噴き出させ駆除
後続の猟兵のことも考えると出来るだけ数は減らしておきたいな

目的地が近づいたら障壁を一旦解除、顔は腕や手で覆いながら立ち止まりオブリビオンを体内に侵入させる
急ぎ結界術で障壁をオブリビオンごと包むように己の周囲に張り直しUC発動
障壁ごと全て[焼却]する

回る因果、彼女らにそれを解らせるいい機会だ

※連携・アドリブ歓迎


セフィリカ・ランブレイ
こいつより自分が上だと錯覚して
上だから何をしてもいいって勘違いして
勘違いが際限なく膨れ上がる……嫌な話

『復讐だけでも遂げさせてやる?放っておけばセリカの言う勘違い女達は殺される』
シェル姉……相棒の魔剣は興味がなさそう

正直それもアリかな……
でもそれを選んだ後の自分が胸を張れるかは、ね

まずはお父さんを助けよう、その後はその時考える!
それ以前にこいつらを倒さないと
シェル姉、やるよ!

『同じ人間でも、どうしてこう違うのかしらね』
クズの利になる事したくはないとばかリに剣が重い
やる気出してってば!
…しゃーない、じゃあこっちだ!

【赤杖の魔女】を呼ぶよ
熱量操作をプラス方向に最大限
増殖する先から燃やし尽くす!




「こいつより自分が上だと錯覚して、上だから何をしてもいいって勘違いして、勘違いが際限なく膨れ上がる……」
 嫌な話だ、とセフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)がゆるくかぶりを振った。本当に嫌な話だ。
『復讐だけでも遂げさせてやる?』
 物憂げな聲は、鞘の中から。意志ある魔剣がさして興味もなさそうに呟いていた。
『放っておけばセリカの言う勘違い女達は殺される』
「シェル姉……」
 彼女がセフィリカを愛称で呼ぶように、セフィリカもまたその魔剣――シェルファを、親愛を込めてそう呼ぶ。
「正直それもアリかなって思う。けど、それを選んだ後の自分が胸を張れるかは、ね」
 やれやれ、と嘆息するような気配が剣から漂ってきた。
「ヒトが関わってはならない領分、そこは俺達猟兵の出番だ」
 眉一本動かさぬ鉄面皮で鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は云いながら、己の周囲に障壁を張り巡らせている。
「そしてひとりのヒトの命を奪った罪、それに対する報いを与えるのは獄卒の役目でもある」
「適材適所って感じだね、お兄さん」
 長身の相馬を見上げながら、セフィリカはふと問いかける。
「獄卒さんか……。閻魔様だったら、彼女たちにどんなお仕置きを命令するのかな」
「さて、な」
 相馬は肩を竦めるだけだった。己が獄卒と呼ばれるものだと認識はあれど、閻羅王に仕えたなどという記憶はないのだ。
「だが、彼女たちに解らせる必要はある。回る因果というものを」
「……うん、まずはお父さんを助けよう、その後はその時考える!」
 早速集まってきた瘴気たちを見据えながら、セフィリカは魔剣の柄に手を触れる。
「シェル姉、やるよ!」
 赤き宝玉をはめ込んだ魔剣は、ひとたび振るえばあらゆる敵を斬り捨てる――筈なのだが。
「……シェル姉?」
 引き抜く時からして剣が引っ掛かるような感覚。どうにかこうにか抜剣しても、普段はセフィリカの才も相俟って腕の延長上のように鮮やかに振るえる筈の剣が、今日はいやに重い。
 認めた相手にのみその身を委ねる魔剣シェルファ。彼女自身が気が乗らない任務なら、当然その力も十二分には発揮されない。
「シャル姉、やる気出してってば! お父さんを助けなきゃ!」
『同じ人間でも、どうしてこう違うのかしらね』
 自らがその身をセフィリカに委ねれば、辺りに蔓延している瘴気など一瞬で祓ってしまえるだろう。それは上で捕らえられている『クズ』が素早く救助されることに他ならない。セフィリカを窮地に陥れたいわけではないが、わざわざ彼女たちの利になる事はしたくないとばかりに魔剣は気だるげな声を返すのみだ。
「しゃーない、じゃあこっちだ!」
 魔剣を振るうのではなく、次元格納庫の鍵として用いる。呼び寄せられた赤杖の魔女――悪魔のコア持つ魔導ゴーレムは、その熱量操作の術を一気に最大限に作用させる。
 一気に熱を高められた瘴気たちが、増殖する先から燃えていく。辺りが白熱に染まり、そして燃やし尽くされて消えていく。
「よし、こんなもんでしょ……あれ、さっきのお兄さんは?」
 一方その頃、相馬は障壁を巡らせたまま、悠々と階段を登ろうとしているところだった。その周囲に未だ瘴気たちが蔓延しているのを見、セフィリカはそちらにも熱量操作を向けようとするが。
「問題ない」
 肩越しに振り返りながら短く告げ、相馬は瘴気を引き連れたまま上階へと上がっていく。
(「……そろそろ頃合いか」)
 ふと立ち止まった相馬は、己を護る障壁をいったん全て解除し尽くしてしまう。
 腕や手で顔を覆うものの、獲物を見つけた瘴気たちはその隙間を縫うようにして相馬の内部へと侵入していく。まるで獰猛な蟲が、巨大な獣にも臆さず群れを成して襲い掛かるような光景だった。
 それを受けて尚、相馬の表情は微塵も揺るがなかった。再度巡らせた結界は、今度はオブリビオンごと外部に漏れぬ様包みなおして、そして。
「ああ、よく燃えそうだ」
 ぶわっ、と相馬の槍から、身体のあちこちから、冥府の炎が噴出する。紺青に燃える炎は凄まじい熱量で瘴気たちを焼き焦がしていった。
 ――この悪意が侵食だとしても、制御し利用しきれるのならばこの上ない武器となる。ゆえに相馬は嗜虐の性分を仮面めいた無表情に覆い隠し、ただ手段として放出し続ける。
 最後の階段を登りきった相馬の見据える先には、異形と化した怪物と、立った姿勢のまま柱に括り付けられた少女達がいた。
 相馬の周りで未だ燻る紺青の炎を見た少女達の目が揺れる。
 まるで新たな化物の登場に怯えるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『青の従者』

POW   :    魔兵咆哮
【動きを封じる程の破壊力を持った咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    魔兵装甲
【自己学習能力によって、戦闘中に敵から得た】【知識や技を取り込み、適応進化を行うという】【特性】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    魔兵覚醒
【本能のままに得た負】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナハト・ダァトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 饐えた臭いが漂っている。
 巨大な肉塊のような怪物がそこに立っていた。くすんだピンク色の躰には体毛はなく、無数の血管のようなものが常にそこかしこで脈打っている。
 目のある筈の場所はつるりとしていて、代わりにやたら大きな口にぎざぎざと鋭い歯が生えている。片方だけの翼のようなもの。長さがちぐはぐの脚も、片方だけが恐竜のような造形をとっている。まるで粘土か何かでおとぎ話のドラゴンを作ろうとして、途中で飽きて放り投げてしまったかのような姿だった。
『シュウ……フシュウウウウウウ……』
 吐息とも鳴き声ともつかぬものを漏らしながら、侵入者へと両腕を構える。片方は鋭い刃物。片方は銃火器。どちらも只の人間に用いれば一瞬でその首を刎ね、頭を吹き飛ばす事が出来るであろう代物だ。
 だがそのどちらもが、人間を殺めてはいなかった。
 二人の少女は立った姿勢のまま柱に括り付けられ、濁った眸を虚空に向けていた。やつれた貌に涙の痕。両脚の間に、恐怖と時間経過で零したものがそのまま取り残されていた。ひどい臭いは怪物から発せられるものだけではないらしい。
 猟兵達を見た少女の眸にはっと光が宿る。だがそれは助けが来たという希望よりも、新たな怪物を見つけた恐怖に近いものだった。必死に何かをわめこうとしているが、口にはテープが張られていてくぐもった声が漏れるだけだった。

 少女達の姿はすぐに見えなくなる。
 邪魔をするなとばかりに、怪物が少女と猟兵の間に立ちはだかったからだ。

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※お知らせ※
 現在2シナリオ同時進行しており、プレイング募集期間を交互に設けさせていただく予定です。両方一気に受け付けられればいいのですが、キャパシティが少なくてすみません……。
 向こうの第一章を書き終える目途がついた段階で、こちらの第二章のプレイング期間をお伝えする予定です。おそらく20日~22日辺りに募集開始になると思います。こちらと、MSページにてお知らせする予定です。宜しくお願いします。
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※お知らせ※
 二章のプレイング募集期間:
 10/21(水)朝8:31~10/23(金)夜23:59
 お待たせいたしました。上記のタイミングで送って頂ければ幸いです。
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百鬼・智夢
貴方にも、奪う権利はある
私は…否定しません

でも…貴方の復讐が果たされる時
同じ悲しみを…恨みを背負う誰かが生まれてしまう
どんなに最低な人間でも…一人には、なれないから

だから、私が…
私達が、その連鎖…断ち切ります…

★リアムの力で呼び寄せた霊達に【オーラ防御】を張ってもらい
【破魔】を宿した★薙刀を華麗に操り【なぎ払い】攻撃
死角からの反撃も【聞き耳】で音を聞き分け回避し
【動物使い】による★クロの噛みつきを囮に【指定UC】

私のお父さんも、もし生きてたなら…
私がいじめられた時…怒ってくれたのかな…

出来るなら、一瞬でもいい
彼の手に、頬に触れたい
私じゃ娘の代わりにはなれないけど

ありがとう、お父さん…


地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
不本意だが親父さんの射線上に立って女子共を【かばう】姿勢に入るぜ。
【指定UC】で親父さんの不運を喰いつつ攻撃を受けながら話をする!

復讐を止めているのは悪いと思う。
俺だって本当は遂げさせてやりてえ――けど!

それは"人間として"だ!

娘さんだって化け物になることを望むと思うか!?
本当に復讐して欲しいと思っていたとしても、人としての形を望んでいるハズだ!
だからここでさせるワケにはいかねえ……!
今ここでやったら本当に戻れなくなっちまうんだよ!
あんたの無念を晴らすのはもちろん手伝う……だが頼む、ここだけは踏みとどまってくれ!
俺の全身全霊を懸けて、絶対にこいつらに報いは受けさせるから!!


中小路・楓椛
(アドリヴ連携歓迎します)
喚ばれた狐に人の世の倫理や法律の遵守を期待されても正直なんとも…なのですが、ニンゲンの無駄な殺生を避けることをお望みのようなのでどうにかしてみます。

不殺かつ負の感情が邪魔ということで三界概念浄化の炎のUC、【跳躍揚力転換術式: こる・ばるぷす】を叩き込みます。

【空中浮遊】【空中戦】を主体とし空間機動を行い、こちらに向かってきた攻撃は【カウンター】と【残像】で相殺しながら当方のUCの影響範囲まで可及的速やかに接近し実力行使です。

他の猟兵の方も居られるでしょうし絡め手は不要でしょうから、UCに【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】も乗せておきましょうか。




 青年の喉が低く唸る。何もかもをぶちまけてしまいたい想いを堪えるように。
 真っ先に飛び出した地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)は、怪物の攻撃からいつでも女子高生たちを護れる位置に立ちはだかっていた。
 余計な事を、と心のどこかで聲がする。庇う価値などありはしない、命と心を奪った者が、同じように奪われるだけではないかと。
(「でも、駄目だ――それは、それじゃ、親父さんが不幸にしかならねえ」)
 穢れを喰らえる自分がそれを赦すわけには、いかないのだ。
「……助けに来たぜ」
 怪物が凌牙を見下ろし、破壊力のこもった雄叫びをあげる。脆くなった窓枠が軋み、罅の入った硝子が弾ける。
「リアム、みんな……!」
 すがるような聲は百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)のものだ。大切なテディベアを抱きしめれば、呼び寄せた霊達が防御壁を張り巡らせ、猟兵や少女達を護ってくれる。
 怪物が歯をかちかちと鳴らしながら深く息を吐いた。口だけの顔面は『彼』の感情を推し量る事を困難にする。それとも本当にそのようなものがあるのかさえも。
「貴方にも、奪う権利はある。私は……否定しません」
 言葉を選びながら、智夢はその貌を真っ向から見据えた。
「でも……貴方の復讐が果たされる時、同じ悲しみを…恨みを背負う誰かが生まれてしまう。どんなに最低な人間でも……一人には、なれないから。だから、私が……」
 しゃらん、と鈴の音がして、破魔の薙刀が構えられる。直後、巨大な鉄塊の如き刃が智夢に襲い掛かった。間一髪、躱した智夢の傍で地面がひしゃげていた。
 脆弱な少女など、たったの一撃で潰してしまえそうな得物だ。いつ気が変わって、矛先があの少女たちに向かないとも限らない。
「――私達が、その連鎖……断ち切ります」
 響く音は破魔。鋭い斬撃が怪物を薙ぎ払い、耳障りな悲鳴を辺りに響かせる。
(「ごめんなさい、今は……今は、耐えてください」)
「よっ……と。間に合いましたかね?」
 大きな耳をぴょこりと揺らし、今しがた転送されてきた新たな猟兵が地に降り立たった。小柄な智夢よりも更に小さい妖狐の女性、中小路・楓椛(流しの家事手伝い狐・f29038)だ。
 怪物が新たな獲物へと銃口を向ける。楓椛の柔和な貌に少しだけ困惑が浮かんだ。
「戦いに巻き込まれるのも、狐に人の世の倫理や法律の遵守を期待されるのも、正直なんとも……なのですが」
 銃口がけたたましい音とともに火を噴くと同時、楓椛の周りにもまた、三界概念浄化の炎が幾重にも巻き起こっていた。繰り出されるそれは物理的なもののみならず、情報・霊子をも灼く彼方の炎『こる・ばるぷす』。
 銃弾の雨を溶かす炎と、狙いを狂わせる残像とで往なしながら、楓椛は残る焔を怪物へと向ける。
「ニンゲンの無駄な殺生を避けることをお望みのようなので、わたしもどうにかしてみます。……思いっきりぶつけてしまって、大丈夫ですよね?」
「ああ、頼む……俺は説得はしてみるが『攻撃』までは手が回らねえ」
 凌牙が云い、智夢も遠慮がちに、けれど力強く頷いた。
「適材適所ですね。では、遠慮なく」
 空を翔けながら、楓椛は行使した炎全てを束ねていく。彼らが説得や防御も担ってくれるのであれば、搦め手も事後処理も不要だろう。
 今できる全力での魔法を叩き込む。それで十分だ。
(「争いは苦手ですが、ニンゲンが不当に数を減らしてしまうのは避けたいですからね」)
 人々がいなければ、妖狐はその若さを保つことができない。それにあてもなく彷徨う楓椛が良い職にありつく機会も減ってしまうとあれば、縁があった時くらいは身体を張るのも悪くはないと思えるのだ。
(「それに、旅費の足しくらいにはなりますし」)
「覚悟してくださいね……!」
 真っ向から放たれた炎が、まるで巨大な槍のように、怪物を貫いた。負の感情ごと焼き払うように。
『グァァ……!』
 苦悶の聲を上げた怪物が、その憎しみを糧に身体を肥大化させようとする。
「待て!」
 凌牙が聲を張り上げて制止した。
「復讐を止めているのは悪いと思う。俺だって本当は遂げさせてやりてえ――けど! それは"人間として"だ!」
 怪物は反応しない。振り翳された刃を阻むように、不可視の猟犬『クロ』が腕に噛みついた。
「数多に煌めく星の精よ、我が声に答え、導きの標となれ――!!」
 畳みかけるように放たれるのは破魔の流星群。智夢が見上げる怪物の顔は、抗うような苦悶のようであり、復讐を遂げられぬ自分に憤るようでもあった。
(「私のお父さんも、もし生きてたなら……私がいじめられた時……怒ってくれたのかな……」)
 醜く歪む怪物の貌も、智夢には彼の優しさのように思えてならなかった。
「娘さんだって化け物になることを望むと思うか!? 本当に復讐して欲しいと思っていたとしても、人としての形を望んでいるハズだ!」
 懸命に投げかける凌牙の言葉に、ほんの微かに怪物が動きを止めた。
『――グ、ウ、エ』
「ああ、そうだよ……娘さんだよ」
 ただの呻き声のようなそれから、確かに凌牙はその言葉を拾い取った。
「本当に復讐して欲しいと思っていたとしても、人としての形を望んでいるハズだ! だからここでさせるワケにはいかねえ……! 今ここでやったら本当に戻れなくなっちまうんだよ!」
 動きを止める怪物へ、智夢が歩み寄る。無防備とも見える足取りだが、無数の霊たちがいつでも護れるように支えている。後方に控える楓椛も、すぐにでも炎を放てるように構えていた。
 ――そっと、小さな手が怪物の手に、頬に触れる。
(「私じゃ、娘の代わりにはなれないけれど」)
 でも少しでも、思い出せるように、と。
「お願い、お父さん」
「あんたの無念を晴らすのはもちろん手伝う……だが頼む、ここだけは踏みとどまってくれ! 俺の全身全霊を懸けて、絶対にこいつらに報いは受けさせるから!!」
 凌牙はただ説得をしているのではない。言葉を聞き入れてくれた者へ吉兆を齎す祝福の標、穢れを喰らう力を行使し続けている。喰らう者が穢れに侵食される危険を孕むが、そこに一切の躊躇はない。
 怪物が猟兵達の顔を順に見下ろし、そして――咆哮を放った。
「く……ッ!」
 炎で衝撃を和らげながら、楓椛が眉根を寄せる。
「声は……届かなかったのでしょうか」
「いや――大丈夫だ」
 凌牙の眼は捉えていた。怪物の躰に、凌牙の聲に同意したことを示す吉兆の刻印が確りと浮かび上がっていることに。
「……ありがとう、お父さん」
 智夢が安堵の息を漏らす。
 今すぐは取り戻せずとも、確かに内部には、彼の心が眠っている。
 ――戦いは始まったばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蒼・霓虹
〔チーム名:蛟〕

現世も久しぶりですが
ここに来るまでに事情を
【情報収集】したモノの

原因の方々は、わたしの知ってる最も嫌悪する人種に似てますね……救い様の無い偽善者達と言う部分は違えど

貴方の気持ちは痛い程解りますが、自分をしっかり持ってっ!本当に復讐したいのなら、手を掛けて同じ所まで落ちちゃ駄目ですっ!

〔POW〕
【早業】でUCを発動しその上で【激痛耐性】と【オーラ防御&結界術】で備えて

【騎乗】してる〈彩虹(戦車龍モード)〉さんを【操縦】し【推力移動&悪路走破】で駆け回りつつ【高速詠唱】で〈虹水宝玉「ネオンアクアストライク」〉の【砲撃】の【弾幕】の【範囲攻撃】を浴びせる

〔アドリブ絡み掛け合い大歓迎〕


小雉子・吉備
〔チーム名:蛟〕
娘さんは、あの人でなし達を恨んでるかも知れないけど……あの人でなしの為に手を汚す価値無いし

それを娘さんは望んでいない筈だよ

本当に復讐するなら、あの人でなし達には……生き地獄を味合わせるべきだからっ!

〔POW〕
白ちゃん(スーパーロボット)をUCで召喚(装甲5倍、射程半分)し、乗り込み【動物使い】で【操縦】して【オーラ防御&激痛耐性&結界術】で備え、等身大に大きくなった【偽御神刀・吉備男】を【怪力】で【2回攻撃】で【属性攻撃(鎮静剤)&浄化】込め【切り込み】

父親の攻撃は直接攻撃は【第六感】で【見切り】回避または【武器受け】

UCは備えた技能群で【盾受け】

〔アドリブ絡み掛け合い大歓迎〕




「吉備ちゃん」
 階段を登る小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)を呼び止める聲。まさかこの『現世』で耳にするとは思わなかった響きに吉備は一瞬目を丸くして、それからすぐに安堵の笑みを浮かべる。
「竜神さ……じゃなかった、霓虹ちゃん」
 虹色龍な猟機人『彩虹』に騎乗したその人は、見た目こそ吉備より幼い少女のようだが、実は二柱の虹龍の想いを継ぐ竜神。名を蒼・霓虹(彩虹駆る日陰者の虹龍・f29441)という。
「来てくれてたんだね、助かるよ」
「吉備ちゃんが身体を張ってるって思ったら、心配でいてもたってもいられなくなりまして」
 保護者らしい物言いで頷いた霓虹の表情が、ふと曇る。
「来る前に事情を聞きました。……原因の方々は、わたしの知ってる最も嫌悪する人種に似てますね」
「……うん」
「救い様の無い偽善者達という部分は、異なりますが」
 夢や理想を壊され、組織を追われた少女。もし虹龍と出逢っていなかったら。力と想いを継ぐことがなかったら。幽世に辿り着くこともなく、絶望のままに力尽きていたかもしれない。
「そう思ったら、あの人のことも吉備ちゃんと同じくらい放っておけないなと思ったんです」
「猟兵になっても変わらないね、霓虹ちゃんは」
 幽世のことを思い出すように、吉備が淡く微笑んだ。
「……止めよう。キビが救ってもらったみたいに、手の届く範囲でも助けたい」
「ええ。力を合わせましょう」


「白ちゃん! 行くよ!」
『誰が白ちゃんだ! 俺にはなあ、白皇雉っつーれっきとした名前が……』
「もう、そんな事云ってる場合じゃないったら!」
 召喚した猟機人に騎乗する吉備の横で、戦車龍モードの彩虹に乗る霓虹もまた、幸運の鱗装甲を想像から創造し纏っていく。
 怪物が振り返る。眼球の消え失せた貌が、それでも自分たちを虚ろに見つめてきている気がして吉備は息を呑んだ。
(「こんなになってまで……」)
「お父さん、娘さんは……」
 懸命に振り絞った聲は、怪物の咆哮に掻き消された。床が震え、地面が震え、スーパーロボットの装甲すら軋む音がする。
『何つー声量だよ』
「大丈夫? 白ちゃん」
『俺を誰だと思ってやがる。びくともしねえぜ』
 射程を犠牲に、限界まで装甲を強化した白皇雉はあくまで不敵に言葉を返してきた。これならば、霊刀の届く範囲まで距離を詰めても問題がないだろう。
「貴方の気持ちは痛い程解りますが、自分をしっかり持ってっ!」
 吉備を助けるように、虹色の水流を宝玉のように圧縮した魔弾が放たれる。光と、水と、氷の性質を持つ砲撃が、まるで弾幕のように降り注いだ。
 身を躍らせたのは霓虹。虹の光持つ鱗装甲の『幸運』は今だ健在で、その身には傷ひとつ、罅ひとつ入っていない。
(「わたしの運気は貫かせない。それに――あの人だって、こんな凶行で運気を使い果たすべきではないはずです」)
「本当に復讐したいのなら、手を掛けて同じ所まで落ちちゃ駄目ですっ!」
 咆哮で弾幕を打ち破ろうとした怪物の動きが止まった。そのまま爆ぜる光に呑み込まれていく。
「そう――そうだよ! 娘さんを想っているなら、そしてあの人でなしたちを恨んでいるなら、なおさら!」
 吉備が振り翳すのは偽御神刀・吉備男。鬼を斬ったとの説もある偽御神刀のレプリカだが、今の吉備が振るえば本物にも劣らぬほどの鋭さを持って斬りかかる。
 霓虹の砲撃を受けて体勢を崩した怪物が、それでも間一髪、銃身の手を翳して霊刀を受け止めた。散る火花の向こう、吉備はなおも呼びかけ続ける。
「あの人でなしの為に手を汚す価値無いし、それを娘さんは望んでいない筈だよ」
 怪物はじっと吉備を見据えていた。
「本当に復讐するなら、あの人でなし達には……生き地獄を味合わせるべきだからっ!」
 ここでただ彼女たちを殺めて、それで本当に貴方は満足なのか、と。
 怪物は何も云わなかった。ただ刀をはね返す腕の力が緩むのを、吉備ははっきりと感じ取った。
(「待っててね、必ず――吉備たちが、助けるから!」)
 流れるような動作で繰り出された斬撃が、怪物の躰に深く傷を刻み込む。
 刀に乗せた力には、魔を祓うだけではなく――鎮静の効果も込められていた。
 救助のためには倒さねばならぬ怪物だが、少しでもその苦痛も苦悶も和らぐように、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
影を滑るように疾駆して【先制攻撃】
受けられても【怪力】任せに吹き飛ばす

【幻影】を発動

景色に溶け込む私の姿はもう映らない
少女の頬に触れて、

「少しだけ我慢して」

囁きは冷たく響き【恐怖を与える】

「復讐すら怪物任せ?」

今のあなたなら容易いでしょう
でも、それは怪物の力であって、あなた自身のものじゃない
力に溺れて願望のままに、また歩美ちゃんは置いてきぼりね

感情は揺れなかった
普段通りに、憤りや哀れみもなく

「けど、あなたが『人として』過ちを犯すなら、私は止められない」

猟兵の相手はオブリビオンだから
須藤さん、あなたを取り戻す

「死にたくないなら抗うしかないわ」

命の重さ、あまりにも重すぎる命
知らない頃には戻れない


百鳥・円
あーあー悲惨ですねえ
かわいそうに
あの人たちも、あなたも

辛いですね、悲しいですね
許せないのでしょうね
許さなくていいんですよ
わたしはあなたを否定しない

けれど、彼女らのことも否定しない
わたしはあくまでも中立なんです
傍観出来ない仕事人Aってとこですかね

わたしは夢を喰らう人でなし
人の心など欠片も理解出来ないんです
添える言葉だって何もありません
あなたの感じたものはあなただけのものだ
だからでしょうか
ちょっぴり気になってしまうんです

醜い姿に変貌をしまったあなた
その、心
それを変換した宝石糖が何色なのかと
見せて下さいよ

あなたを救ってあげることが出来る
わたしも知りたいことを得られる
なあんだ、一石二鳥じゃあないですか




 そこに一切の遠慮はなかった。
 影を滑るように疾駆した日下部・舞(BansheeII・f25907)が、出合頭に片端の長剣を叩き込む。
 ぶよぶよと肉塊がうねり、その先にある刃が夜帷を受け止める。それすらも予測していたように、舞は力任せに長剣を薙いだ。巨体がいともたやすく吹き飛ばされ、壁に激突する。
 怪物が立ち上がる頃にはもう、舞の姿は幻影のように掻き消えていた。景色に溶け込んでしまった舞がゆっくりと少女達へ歩んで行く。滑るような動きは足音さえも放たない。
 だから急に頬に触れたぬくもりに、少女達はまるでお化け屋敷で驚かされた子供のようにひっと呻いて身体を強張らせた。
「少しだけ我慢して」
 囁いて、舞は少女達から離れる。その聲を、怪物が聞き漏らしていたとは思えない。だが姿を見せぬ敵の位置が判別できる絶好の機会にも関わらず、怪物は手を下してこなかった。
(「この子達を巻き込まないように、か。そこまでしてじわじわと嬲り殺したいのね。それにしては」)
 見上げる巨体はどこまでも醜悪で、いびつだった。
「――復讐すら力任せ?」
 冷ややかな聲に、怪物はあらゆる負の感情を乗せた咆哮で応える。爆発させたそれらがそのまま形となるように、怪物の躰が膨れ上がっていく。
 銃口が火を噴いた。聲の方目掛けて放たれた銃弾は、しかし何も捉える事が出来ない。焦れたように怪物は辺りを見回して唸る。
「誰かお探しですかーぁ?」
 緊迫した現状には不釣り合いの、甘やかで間延びした聲。振り向きざまに放たれた銃撃を躱しながら、百鳥・円(華回帰・f10932)は尚もクスクスと微笑んだ。
「あーあー悲惨ですねえ、かわいそうに」
 少女達と怪物に順に視線を巡らせて、またふふっと笑みを零す。いろちがいの眸に浮かぶ感情は、嘲りとは程遠かった。
「辛いですね、悲しいですね。許せないのでしょうね――許さなくていいんですよ。わたしはあなたを否定しない」
 ちら、と舞が円を見た。だが同意も否定も示さず、舞は再び剣を振るった。今度は届いた。肉が裂け、腐った血が飛び散る。それを浴びて姿が露呈する事の無いように飛び退いて距離を置く。
 僅かな手がかりを追いかけて怪物が武骨な刃を振るうが、掠りすらしない。一方的だった。戦いとすら呼べないほどに。円はそれを眺めながら、ただ言葉を連ねていた。
「けれど、彼女らのことも否定しない」
 ――だってどちらも『ひと』だもの、と笑う。
「わたしはあくまでも中立なんです」
「私たちがいなければ、今のあなたなら復讐は容易いでしょうね」
 ぽつり、と舞も呟いた。
「でも、それは怪物の力であって、あなた自身のものじゃない。力に溺れて願望のままに、また歩美ちゃんは置いてきぼりね」
 歩美の名を出されたと同時、怪物が手を止めた。敢えて舞はその隙をつかなかった。躊躇うように唸った怪物は直後、逡巡を振り払うように吼えてはその身体をいびつに肥大化させていく。
 舞がちいさく息を吐いた。怪物に相対しても何も感じなかった。憤りや哀れみも。それを確かめるような様子だった。
 成すべきことははっきりしていた。猟兵とはオブリビオンを討つものだから。
「須藤さん、あなたを取り戻す。――けど」
 ――あなたが『人として』過ちを犯すなら、私は止められない。
 呟きは、咆哮に掻き消えて。怪物の耳に届いたかは分からなかった。ただ、叩き斬るように剣を振り翳した胴体へと逆に飛び込んだ舞が、その肉塊を叩き斬った。
「死にたくないなら。抗うしかないわ」
 苦悶し、のたうち回る怪物を見下ろしながら、舞は云った。
「そーですねえ。中立なら中立らしく傍観に徹するべきなんでしょうけど」
 まあ今からのわたしのことは仕事人Aくらいに思ってくださいよ、なんて云いながら近づく円の周囲には、いつの間にかふわふわと幻想の蝶が漂っていた。
 戦況を興味深そうに眺め、楽しげに笑う円は、本当は。
「わたしは夢を喰らう人でなし。人の心など欠片も理解出来ないんです。添える言葉だって何もありません」
 でも、だからこそ――ちょっぴりだけ気になっちゃうんですよね。
 夢を喰らう夢魔のように、享楽を喰らう妖狐のように、蠱惑的な舌なめずりをひとつ。
 肉塊にとまった蝶たちはそのココロを吸い上げる。醜い姿に変貌してしまったひとは、心も醜いの?
 ころん、と零れ落ちた宝石菓子は、オパールみたいにいろんな色が混ざり合っていた。かなしいもつらいもにくしみも、ぶつかり合って主張し合っているように。
 怪物がそれを取り返そうと手を伸ばす。ダメですよう、と円はそれを奪い取った。
 興味深そうにしげしげ眺め、なあんだ、と笑う。
「一石二鳥じゃないですか」
 あなたを救ってあげられて、わたしも知りたいことを得られる。
「随分といい事をした気分です」
 ――ね。
「知らない頃には戻れない……か」
 舞が独りごちた。命の重さを。あまりにも重すぎる命を、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

久澄・真
【五万円】

クハッ見事に化け物に成り果ててんな
糸で絞ったらボンレスハムになるんじゃね?
やってみるか?

え、やだクセェもん
さっき壁してやったしお前行って来いよ
手をひらり見送りの姿勢
自身は距離を保ったままに操るマネキン人形を向かわせて
聞こえる福音が垣間見せる未来で知り得た相手の出方
回避するのでなくわざと攻撃を引き付ける壁としてマネキンを踊らせる

操り糸が繋がる右手の指を動かすのみで傍観決め込んで
盛大に血を浴びる連れを見ながら優雅に喫煙
壊すつもりで使うわけねーだろ
壊れねぇならそっちのがありがてぇわ

はいはいわかったからアピんな
5:5で構わねぇよ
ヘマした分だけ報酬没収な

そら、がんばれがんばれー
なんて棒読みで


ジェイ・バグショット
【五万円】
……うーわ、キモ。
すっかりバケモノじゃねぇか。
ふは、全く食欲湧かねぇハムだな。

ったくクセェな。
…真、このデカブツさっさとバラすぞ。
宙に召喚した7つの拷問具『荊棘王ワポゼ』
高速回転しながら敵を自動追尾
傷口を抉り、部位を切り飛ばす

ワポゼで捕縛し動きを鈍らせた所を
一撃の重さ特化の黒剣『絶叫のザラド』片手に斬り込む
真の操るマネキンの陰を利用し闇に紛れての騙し討ち

マネキン代が必要か?
どうせ壊す気で使ってるんだから経費で処理しろよ。
愛着が無いと知っているから遠慮も無い

派手に血を撒き散らしながら
汚れることも気にせず働きぶりをアピール
報酬5:5でいいよな。
ハッ、誰がヘマするって?
寝言は寝て言えよ。




「……うーわ、キモ。すっかりバケモノじゃねぇか」
 心底げんなりしたように吐き棄てるジェイ・バグショット(幕引き・f01070)の横で、久澄・真(○●○・f13102)がクハッと喉を鳴らした。
「本当だな。見事に化け物に成り果ててやがる。糸で釣ったらボンレスハムになるんじゃね? やってみるか?」
「ふは、全く食欲湧かねぇハムだな」
 四つの眸が冷ややかに見上げるのは、かつて人間だったもの。巨大な肉塊が、そこだけやたら白い歯を覗かせてこちらに向かって来る。
「ったくクセェな。……真、このデカブツさっさとバラすぞ」
「え、やだクセェもん。さっき壁してやったしお前行って来いよ」
 眼鏡の奥の目線をわざとらしく逸らして手をひらひら振るばかり。冷ややかに一瞥し、ジェイは七つの拷問具を宙に召喚する。この状態のこいつを『説得』するよりは、黙って化物を斬り捨てる方が楽そうだ――そんな風に納得しかけたところで。
「説得だっけか」
「……あ?」
 今しがた頭をよぎった単語と同じことを真が云う。眉間に皺を寄せて振り返ったジェイに、真は裂創の浮かぶ貌で意地悪く笑って見せた。
「『説得』したら斃しやすくなるとか云ってただろ。試してみるか? 化物の心を打ち抜くジェイ先生の感動演説、聞かせてくれよ」
「……本気か?」
「いや全く」
「だろうな」
 怪物に向き直るジェイの後ろで、真もマネキン人形を向かわせていた。
「アレを理解しろなんざ、斃すよりよっぽど重労働だろ」


 棘の刺さった鉄輪が怪物へと飛び掛かる。高速回転する荊棘王ワポゼが、まずは銃の生えた腕へと狙いを定めた。肉に喰い込んではチェーンソーのように疵を広げていく。怪物が唸りながら腕を払い、跳ねのけようとするが、敵を自動追尾する七つの輪はすぐにその傷めがけて飛び掛かり、抉りかかる。まるで血に群がるピラニアだ。
『グギャアア……!』
 耳障りな絶叫がこだまする。だがそれよりも、血と共に撒き散らされる臭いの方にジェイはうんざりした。ダンピールですら――いや、ダンピールだからこそ辟易する腐った血の匂い。
 肉塊は表面こそ柔らかそうだが、触手を束ねたような造形のそれはすぐに内部から蠢くようにして修復される。切断までは困難と判断し、ワポゼは敵を切り裂く動作から、その形状で四肢を捕縛する動作へと移行する。当然棘が深々と喰い込み、怪物が涎を垂らしながら吼えた。
 負傷した腕でなお刃を振るう。それがジェイの頸を撥ね飛ばすより先に、物陰から現れた何かが怪物の視界を塞ぐように躍り出た。
『ギ……!』
 人型をしているが、人には不可能なでたらめな動きで踊り狂うように立ち回る。その背後からジェイが斬撃を浴びせかけた。
 重さ特化の黒剣での一撃は、ワポゼのそれとは比べ物にならないほどの重傷を敵に与え、当然流れ出る血液もそれに比例して増える。それこそ人形を盾に出来るならしていたところだったが、そんなときに限って人形はジェイから離れている。
「……わざとか?」
 盛大に返り血を浴びる事になったジェイが呆れたように呟いた。その後方、操り糸を右手で動かしながら優雅に真が煙草をふかしている。
 実際、それは真が持つ力の一端なのだ。聞こえる福音が垣間見せる未来。敵の出方を知り、避けるのではなくわざとぶつけて引き付け役にする。当然血を避けるくらいはわけもない。
「マネキン代でもケチってんのか? どうせ壊す気で使ってるんだから経費で処理しろよ」
「壊すつもりで使うわけねーだろ。壊れねぇならそっちのがありがてぇわ」
 真の言葉には、金がかかる道具として以上のニュアンスは含まれなかった。道具だからといって、ましてや人型だからといって愛着が湧くものでもない。そんな真を知っているからこそ、ジェイの物言いもいつもに増して遠慮がない。
 一旦血まみれになったジェイからは、今まで以上に躊躇というものが消え失せていた。マネキンの動きを巧みに利用し、至近距離から絶叫のザラドを叩き込む。濁り切った血よりも余程紅い月が瞬いていた。まるで重さという概念が消え失せたかのような連撃。
「おーおー、やるじゃん」
 揶揄うような真の言葉にも、薄く笑みを返してやった。
「これで報酬は5:5でいいよな」
「はいはいわかったから。血まみれで勤勉アピールしやがって」
 ふは、と愉快そうに紫煙が吐き出される。
「ヘマした分だけ報酬没収な」
「ハッ、誰がヘマするって? 寝言は寝て言えよ」
 ジェイが大きく動く。また血飛沫が炸裂した。ぬかるんだ足元で転ぶようなヘマは、確かにこの男はしないだろう。わかっているからこそ。
「そら、がんばれがんばれー」
 くいくいと動く右手の指は止めぬまま、実にやる気のない棒読みで真は煽り続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小犬丸・太郎
(アドリブ、マスタリング歓迎)

_

まだ間に合う。助けられる。
ならば迷いはない!

いじめの主犯格たる彼女たちは一般人だ。戦闘に巻き込んでいい相手じゃない。
故に俺は彼女たちを最優先に庇おう。

「……須藤さん」
彼女たちに降りかかりそうな攻撃は刃で弾くが
俺へのものは全て受け止める
彼の慟哭を、彼の悲哀を
無かったことにしてはならない。誰かが受け止めねばならないと思うから。

「貴方はまだ戻れる。まだ間に合います。
どうかその手を下ろしてください」

何度でも名を呼ぶ。呼びかける。

「殺せばもう後には退けない。
まだ他に道がある筈です。俺も共に探します。
だから、その手を、かつて歩美さんを抱きしめたその手を」

穢しては、駄目です。


セフィリカ・ランブレイ
邪魔はさせてもらうよ
その子達の為じゃない、あなたの為に

誰かの策略で、私の両親は覚めない昏睡状態に陥った
望みがある私でさえ、誰かへの昏い感情を否定できない

子供を失って望みが絶たれた彼の中の昏い感情は、私の想像よりずっと深くて重いんだ

シェル姉
私、どう呼びかければいいか、わかんないや
何を言っても軽い気がする
『セリカは、アホの癖に考えすぎるのよ』
手にした相棒の感触は、どこか暖かく感じた

しかし、酷いことを言われてる
でも、うん。確かにできる事は多くはない
その昏い感情を、私にぶつけてもらう位しかできること、無いものね
……そのうえで、止めさせてもらう!

【蒼剣姫】を発動
行くよ、シェル姉! 全力で、ぶつかり合う!


鬼桐・相馬
【POW】
装備へ感情を流しUC発動
成功率を上げるのは「呼びかけによる須藤の意識の明確な浮上」

俺は所詮は他人
お前の辛苦が全て解るとは言わない

その上で言わせて貰うならば
己が欲望に従い二人を殺せば、お前の娘と親族は「犯罪者の身内」という消えない烙印を押される
娘は死の間際までお前を思いやり逝った
父親だろ、娘と親族の為に踏み留まれ

それに二人の命をここで絶ったら
冥府で鉢合わせるかもしれないじゃないか

須藤の咆哮は慟哭を思わせる
止めず[結界術]で障壁を張り少女達への攻撃は[冥府の槍で武器受け]しよう
二人の鼓膜が若干損傷するかもしれないがそれ位はいいだろ

死者を裁くのは閻羅王、獄卒は付き従うのみ
――流石に歯痒いな




 泥濘に沈み切ったかのように見える意識のどこかで、怪物は自分に終わりが近い事を悟っていた。
 修復しては斬り刻まれる身体。血と腐肉、自分の一部だったもので辺りはぬかるみ、耐え難い饐えた臭いが漂っている。
 視線を降ろせば、あんなに憎らしかった少女達がすっかりすくみきっていて、自分の視線に気づいて慌てて逸らしていた。
 なんてちっぽけなんだろう。
 なんでこんなちっぽけなものを憎んでいるんだろう。
 なんでこんなちっぽけなものをあいつらは救おうとするのだろう。

 不意に、もういいんじゃないか、と怪物は想った。
 正確には、それを自覚する程の知性は残っていなかったかもしれない。ただ迫りくる脅威と、脆弱な命を比べた結果、苦しめて殺すなどというよりも本能的な、生物らしい原点へと立ち返った。
 ――ころして、たべる。
 目的は果たされるし、脅威へと立ち向かう力も得る事ができよう。ひょっとしたら生き延びられるかもしれない。
 それがいい。それでいい。

 刃が振り翳される。見開かれた四つの眸が、怪物にいいようのない快楽を伝えてきた。ああ、なのに――。


 痛みはない。ただ焼けるように肩が熱かった。
 咄嗟に飛び出して立ちはだかった小犬丸・太郎(鞘無・f29028)が、少女達を凶刃から庇っていた。咄嗟にあてがった刀『零式』が致命傷だけは避けていたが、その傷からは噴水のように血が溢れている。
 ――構わない。太郎は歯を食いしばる。
 少女達は間に合った。そして彼についても。
 怪物が唸った。邪魔をするのかと。
「そうだよ」
 いつの間にか太郎の他に、二人の猟兵が立ちはだかっていた。
 意志ある魔剣を携えた少女、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)。
 冥府の炎を燻らせ続ける獄卒、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)。
「邪魔はさせてもらうよ。その子達の為じゃない、あなたの為に」
「ああ」
 精神拘束の装備へと、相馬は能動的に感情を伝えていく。殺傷力へも変換できるそれらを、今は糸口をつかむ手段として。
「俺は所詮は他人。お前の辛苦が全て解るとは言わない」
 ――その上で言わせて貰うならば、と。相馬もゆっくりと歩み寄っていく。太郎の隣、少女達を庇える位置に。
「己が欲望に従い二人を殺せば、お前の娘と親族は「犯罪者の身内」という消えない烙印を押される」
 全く、世間体だのというものは地獄の裁きよりも時に余程重いものなのだ。死者の受ける罰はある意味では平等だが、生者は罪など犯さずとも容易く『裁かれる』。
「娘は死の間際までお前を思いやり逝った。父親だろ、娘と親族の為に踏み留まれ」
 そんな目に遭わせたいのかと、静かな金色の眸が告げていた。
 ――きゅ、とセフィリカが魔剣の柄を握った。縋るような手つきだった。いつもは溌溂と笑顔の絶えない貌が、今では強張って蒼ざめている。
 自分も何かを言わなければ。口を開きかけて、すぐにつぐんでしまう。――何を? 何を云えばいい?
 怪物が動いた。咆哮を撒き散らし、刃を振るう。
 咆哮は相馬の結界術が和らげた。完全ではない。びりびりと震える空気に、耳を塞ぐこともできない少女達の顔が歪む。
 それくらいはいいだろう、と相馬は目を伏せた。完全に聴力を破壊される程のものではない。慟哭のような咆哮に少しばかり鼓膜を傷付けられるくらいは、赦されていいはずだ。
 代わりに致命傷と成り得る武器での攻撃の方は、確りと太郎の刃が弾いていた。怪物が唸り、今度は邪魔者めがけて武器を振るう。ふっと全身の力を抜いた太郎が、それを真っ向から受け止める。
(「無かったことにしては、いけないんだ」)
 彼の慟哭を。彼の悲哀を。
 彼女たちに向ける事が赦されないなら、誰かが受け止めてやらねばならない。
 ならば俺にぶつければいい。丈夫さだけが取り柄のようなものだ。護りたかったものを喪って、それでもなお生き延びている命だ。
「須藤さん」
 血だらけのまま、太郎は男をその名で呼んだ。彼が思いだせるまで、何度でも。
「貴方はまだ戻れる。まだ間に合います。どうかその手を下ろしてください」
 彼の娘は間に合わなかったけれど、彼はまだ間に合う。
 ――それなら、とセフィリカは魔剣を見下ろした。それなら私の両親は?
 誰かの策略で、セフィリカの両親は覚めない昏睡状態に陥った。軍事国家の中において穏健派だった王――セフィリカの父は、対立する派閥からすればさぞ邪魔な存在だったに違いない。疑わしい者はいくらでもいる。セフィリカはあくまで気丈に振る舞い、旅の傍らで父の呪いを解く方法を探し続けてきた。
 きっと世界のどこかに方法がある筈だと、セフィリカは信じて疑わない。けれどそんな彼女自身も、己の中に昏い感情がくすぶっている事を否定しきることはできない。
(「私でもそうなのに。死んだ命は二度と蘇らないんだ。あの人は――私よりずっと深くて重いものを抱えているんだ」)
 なまじその一端を知っているだけに、全容の途方もなさを敏感に感じ取ってしまう。
「……シェル姉。私、どう呼びかければいいか、わかんないや……」
 何を云っても軽い気がする。響かないのならまだしも、傷付けてしまったら。
「本当に、私に出来る事なんてあるのかな」
 いつも元気に振る舞う少女。その隣に居続けた意思ある魔剣シェルファは、ぽつりと呟く。
『セリカは、アホの癖に考えすぎるのよ』
 言葉はそれだけだった。彼女が乗り気でなかったことをセフィリカは思い出していたが、それにしては相棒の感触はあたたかかった。
「……それ、ずいぶんひどくない?」
 噴き出すように笑って、そして気づく。相棒を引き抜く時の軽さに。先程の戦いと違って、魔剣はセフィリカにその身を委ねきってくれている。
 魔剣に選ばれた少女。セフィリカにしかできないこと。
「……でも、そっか。うん、やれることをやるしかないよね」
 抑えきれない昏い感情があるのなら、今ここでぶつけてくれればいい。言葉に出来ないなら、それを全力で受け止める。その上で――。
「止めさせてもらう! 行くよ、シェル姉!」
 青い刀身が光り輝き、セフィリカもまた、蒼きオーラを身に纏っていく。振り翳された武骨な刃を、真っ向から受け止めていた。
「全力で、ぶつかり合う!!」
 宝玉と同じ色の眸が、怪物の奥にあるものを見透かすように燃えていた。同調するようにオーラが輝きを増し、怪物を撥ね飛ばす。
「須藤さん。殺せばもう後には退けない。まだ他に道がある筈です。見つけるのは大変かもしれません。でも、俺も共に探します」
 言葉にならないセフィリカの想いも継ぐように、太郎が懸命に話し続ける。それを静かに支えるのは、相馬の静かな呼びかけだ。
「ああ。それに二人の命をここで絶ったら、冥府で鉢合わせるかもしれないじゃないか」
 考えたくもないほどの、文字通りの地獄だ。
 引き金を引くのは、閻魔王でも獄卒でも、狂気に陥った怪物でもない。考える事を放棄した、ひとりの男だ。
 どちらにせよ死者を裁くのは閻羅王。獄卒は付き従うのみ。
(「――流石に歯痒いな」)
 聲に出せぬ想いは、相馬の中で彷徨っていた。

『――』
 これしか残されていないと思っていた。何もできなかった自分には、残りの全部を賭して報いを受けさせることくらいしか。
『――おれ、は』
 怪物の裂けた口元から、ひとのことばが漏れ出していた。静かに行使し続けてきた相馬の力、太郎をはじめとする呼びかけの数々が引きずり出した男の意識だった。
『おれが一番、歩美を傷付けていた?』
「……歩美さんも、分かってくれると思う。お父さんは自分の為に頑張りすぎちゃったんだって」
「その優しい手を、かつて歩美さんを抱きしめたその手を」
 ――穢しては、駄目です。
「待ってて、今――助けるから」
 最後の仕上げは、魔を祓う傷の数々。『猟兵』が『怪物』へ刻んできたもの、その全てを広げるように、光り輝く魔剣が振るわれた。

 そして――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『人間の屑に制裁を』

POW   :    殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る

SPD   :    証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる

WIZ   :    事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 怪物の姿は消え、後に残ったのはどこにでもいそうな中年男と、囚われの少女達だった。
 猟兵達は或いは少女の拘束を解き、或いは男性に駆け寄り、そして或いは自分の仕事は済んだとその様子を静かに眺めていた。
 男性は憔悴しきっており、煤と泥だらけだったが、怪物だった時に刻まれていた傷はどこにもない。適切な休養と処置を施せばすぐに回復するだろう。その点に関しては、UDC組織に任せておけば問題はない。
「……これで、良かったんだよな」
 ぽつりと、男性が呟いた。晴れ晴れとはいかないが、それでも娘の為に踏みとどまった男が、その決断の正しさを確かめるように紡いだ言葉だった。
 猟兵がその言葉に頷きかけた時。

「あのまま殺してくれればよかったのに、こんな男」
 少女が吐き棄てた。

「な、ん――……」
 あまりのふてぶてしさに、猟兵の誰かが言葉を失う。今まで未知の怪物への脅威に怯えていた少女達は、その怪物をも上回る力を持つ『人間』たちの姿にすっかり気を大きくしたらしい。或いは自分たちの常識を逸脱した事柄があまりに連続しているこの状況で、正気を保とうと彼女達なりに懸命になっているのかもしれない。それでも紡がれる言葉たちは、善良とはあまりにもかけ離れていた。

「お姉さんやお兄さんたちは、化物の肩を持つんですか?」
「あたしたち、殺されかけたんですよ?」
「そいつがまた化物にならないって保証はどこにあるんですか?」
「そりゃ、あたし達だってよくないことしたかもしれないけど、でも」
「そうですよ、そいつみたいに直接暴力なんて振るってません。ちょっとお金を『分けて貰う』のにカッターちらつかせるのと、最初っから傷付けるつもりででっかいナイフ振り回すのとじゃ、全然話が違いますよ」
「……めろ」
 言葉は止まらない。死の危機に瀕した少女達もまた、箍が外れきっている。
「あたしたち、本当に助かったんですか。こいつがもう二度とあたしたちにこういうことしないように、ちゃんと見張っててくれるんですか」
「やめろよ」
「やめるわけないでしょ! 先に手ェ出したのはそっちだっつーの!」
「そうだよ。あの女だって――あの女こそ、生きていたらこいつみたいになっていたかも」
「ッ……!」
 娘を侮辱された怒りに須藤が目を見開くが、最早自ら殴りに行くほどの体力さえも残ってはいない。
 あとは、ここに集った者達に委ねられる。
『未来の悲劇の芽を予め摘んでおく、大切な仕事』という大義名分のもとに。

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 三章の詳細はMSコメント通り。猟兵らしい「正義像」に限らない行動が許されています。
 きっと皆様の数だけ思いや意見があると思うので、三章は全体を通して読むと矛盾しているリプレイになるかもしれません(たとえばですが、暴力での解決は反対というリプレイの直後に、少女に暴行を加えるリプレイが投稿されるとか)。
 私としては全体の流れよりも、「個々のキャラクターさんらしさ」を優先したいと思っています。多少目を瞑って頂けるとありがたいです、はい。

 大変申し訳ないのですが「Q」シナリオの10月中完結を目指しているため、三章プレイング受付は11月からになってしまいそうです。また後日追記します。お手数おかけします。
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 10.29 追記
 第3章のプレイングは11/3(火)朝8:31~受付開始とさせていただきます。
 今から連休にかけて、集中してリプレイを書けそうな状況が作れないため、申し訳ありません。
 お待たせしてしまった分、よいリプレイを書けるよう努めます。
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中小路・楓椛
(アドリブ連携お任せします)
「私の取り分を全て須藤氏一家の社会的救済費用へと廻して下さい」
その書き付けを他の猟兵に託して狐はその場を退去した。
召喚したグリモア猟兵に気取られず 、自力で世界を跳躍して。

――正義の執行者を自認している方が他に複数居るのなら、私の必然性は最早ありませんしねえ。それよりも…あちこちの世界で厄介事の気配がします。これ以上悪目立する前に立ち去って備えませんと…ええ、色々と…。


地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
はっ!ここまでくるといっそ清々しいなァ?
【怪力】で腕の一本軽く折っとくか。
これがビルから飛び降りて、もし生きていたら感じたであろう痛みだ。

――誰のせいでその子が死んだと思ってやがる?
その子は自分から死を選んだが、きっかけを作ったのはてめえらだ。
てめえらが殺したも同然なんだよ。
人殺しも万引も立派な犯罪だ、逃げられるとか思ってんじゃねえぞ?
女子共が吠え始めたら【指定UC】。

てめえらみたいな屑、殺したところで報いにすらならねえ。
いつまた今日みたいなことになるかわからない恐怖に苛まれて生き続けろ。
死んで逃げるなんざ許さねえ……一生かけて地獄を味わえ。
それが受けるべき"報い"だ!!


セフィリカ・ランブレイ
それじゃ払うもの払って貰おうかな
このくらい(法外な額

まさかタダで助けて貰えるって?
私達命張ったんだよ?

魔剣の腹で頬をぴたぴたと叩く

無理?
何でもできるでしょ?
得意な事あるって聞いたよ?

あ、脅されたと駆け込んでもいいよ?
何もしてくれない
貴女達の言葉より、私達の方が信用されてるの
そうなってるの

あなた達が楽しんでたみたいにさ
私も楽しむよ

今日の素敵な姿の数々、写真に納めておくね
定期的にお家に送ってあげる
お支払い、忘れないでね?

あー気分悪すぎる
何でこういう事、平気で相手に出来ちゃうかな
自分だけが絶対に捕食されないなんて思い上がらなくなればいいけど
お金は須藤さんに
そんなのは、なんの慰めにもならないだろうけど




「――はっ」
 地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)の口元から、嘲るような笑みが漏れだしていた。
 鋭い目つきと生来の警戒心の強さゆえ誤解されがちだが、本質は誠実で人の好い凌牙がそのような表情を浮かべる事は滅多にない。
 半分は本心で、半分は意識して行っていた。嘲笑というクッションを挟む事によって怒りをコントロールしようとしていた。そうでなければ――『やりすぎて』しまうかもしれない。
(「それじゃ駄目だ。こいつらが償えねえ」)
「何よ、何か文句でも……」
 二人の少女が睨み返してくる。構わず凌牙はずかずかと近づいて、片方の右腕を掴んでやった。
「触んないで、――ァ、ぎ……!!」
 汚らしいものでも払いのけるように少女が腕を振ろうとしたが、凌牙に掴まれている腕はびくともしない。口から濁った悲鳴が零れ、少女が目を見開く。やや遅れて、ぼきりと嫌な音がした。
「リコ……! ちょっと、あんた何して……や、やだ……」
 事態を悟ったもう一人が後ずさるが、凌牙から逃れられるわけもない。すぐに今度は左腕をへし折ってやった。
「いやァ! 痛い、痛いよぉ……!」
「腕、うで、あたしの、うで……!」
 おかしな方角に捻じ曲がった腕を見て少女達が泣き叫ぶ。
 このぐらいしてやれば少しは胸がすくかと思ったが、凌牙の心には昏いものが溜まっていくばかりだった。――ああ、こいつらはどこまでも自分が可愛いだけだ。悲鳴すらもうるさくてかなわねえ。
「これがビルから飛び降りて、もし生きていたら感じたであろう痛みだ」
 いっそ一思いに黙らせてやりたい想いをぐっと堪え、凌牙は聲を絞り出した。
「こんなもんじゃねえぞ。全身が痛くて苦しくて仕方がねえ筈だ。――あの子だってこんな思いはしたくなかった筈だ。誰のせいでその子が死んだと思ってやがる?」
「それは、あいつが勝手に……っ」
「きっかけを作ったのはてめえらだ。てめえらが殺したも同然なんだよ。人殺しも万引きも立派な犯罪だ、逃げられるとか思ってんじゃねえぞ?」
「あんただって」
 苦痛と恐怖の涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、それでも少女たちは喚いた。
「あんただって、暴力は犯罪でしょうが!」
「俺は、」
 凌牙の背後に黒い瘴気のようなものがとぐろを巻いている。それは先程交戦したオブリビオンではなく――……。
「俺は、穢れを受ける覚悟なんざとっくに出来てる」
「は? 穢れ? 何言って……。……!」
 とぐろはやがて黒き竜となる。穢れを糧とする者。凌牙の幸せと引き換えに、絶大なる力を齎す者。
 更なる化物の出現に少女達が流石に息を呑む。そこへ凌牙は畳みかける。
「てめえらみたいな屑、殺したところで報いにすらならねえ。いつまた今日みたいなことになるかわからない恐怖に苛まれて生き続けろ。死んで逃げるなんざ許さねえ……一生かけて地獄を味わえ」
 竜が、吼える。何もかもを呑み込むように。
「それが受けるべき"報い"だ!!」


「や、やだぁ……」
「助けて、たすけて……!」
「ん? 助けてほしいの?」
「!」
 怪物に怯える二人には、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)の聲はまさに救世主のように聞こえた事だろう。
「お、おねえさん、お願い……なんでも、しますから……」
 片方だけの腕ですがりついてくる少女たちに、セフィリカはそうねえ、と視線を巡らせた。
「さっき助けたのと、今回のとで、二回分だもんね。じゃあこのくらいかな」
 さらさらと紙に何かを書きつけて、ぴっと少女達の目の前に押し付ける。
 一瞬、こんな時だというのに少女達はぽかんと口を開けて固まっていた。0のやたら多い数字が示しているのが金額なのだと遅れて気づき、ようやくほとんど痙攣しているかのような動作で頸を横に振った。
「む、無理、です」
「あたしたち、ただの中学生で」
「そうだよね、まだ若いもんね」
「そ、そうですよぉ……」
 こくこくと頷く少女達に、セフィリカは容赦なく畳みかける。
「若いから、これからたっぷり時間かけて払っていけるよね」
「は……」
「ん? まさか無理とか言わないよね? 何でもできるでしょ?」
 得意なこと、あるって聞いたよ? ぴたぴたと魔剣の腹で少女の頬を叩いてやる。シェルファは無言だった。どうせ少女たちに彼女の言葉は届かないが、それでも何ひとつ話したくもないというように。
「まさかタダで助けて貰えるって? ひどいなあ、私達命張ったんだよ?」
「……脅す、つもりですか、こんな、」
「お金、……払えなかったら、死ね、って?」
「そう取ってくれて構わないし、なんなら脅されたって駆けこんでもいいよ? 学校も警察も、何にもしてくれないから」
 きっぱりと、セフィリカは云い放った。
「貴女達の言葉より、私達の方が信用されてるの。そうなってるの」
 少女達は口をはくはくとさせたが、言葉は出てこなかった。
 自分たちに立ちはだかる者たちが何者なのか、彼女たちは知らない。それでも超常的な力を振るうセフィリカ達の言葉には、理屈を超えた真実味を感じ取ったのだろう。
「あなた達、楽しかったんでしょう? 弱い者いじめてさ。なら、私も同じように楽しんでいいよね」
 ぱしゃり、フラッシュが瞬いて。
 セフィリカが写真に収めたのは、泥だらけで片腕を折られて、無様に怯えるだけのみじめな虫けらたち。
「あは、可愛く撮れた。ドラゴンに睨まれたウサギみたいに震えちゃって」
 満足そうに眺めて、少女達を見下ろした。
「ひ……っ」
「定期的にお家に送ってあげる。お支払い、忘れないでね?」
 じゃあねえ、とひらひら手を振って背を向ける。その途端、セフィリカの表情からサディスティックな笑みが消え失せた。
(「あー……気分悪すぎる」)
 きっと犠牲者が受けた心の傷は、こんなものではなかった筈だ。どうしてそんな事が平気で出来るのだろう。
 ――自分だけが絶対に捕食されないなんて思い上がり、なくなればいいけど。
 立ち去る前に、セフィリカはうなだれたままの男性に近寄り、そっと耳打ちする。
「彼女たちのお金は全部貴方に……それと私の他にももう一人、寄付をしたいって申し出があったの」
 ゆるゆると貌を上げた須藤は、しばらく黙ったままだった。セフィリカは続ける。
「お礼とか、役立てなきゃって気負ったりとか、そういうのは要らない。貴方が少しでも穏やかに生きられるお手伝いが出来たら、体張って良かったなって、私たちも思えるから」
「……ありがとう……」
 今にも消え入りそうな、か細い声だった。
 何にも慰めにはならないかもしれない。それでもほんの少しでも、未来を繋いでほしいとセフィリカは願った。


 どこかの世界、どこかの場所を、旅の狐が歩いている。中小路・楓椛(流しの家事手伝い狐・f29038)という名の狐だ。
「さて、言伝はきちんと届いているでしょうか」
 UDC-HUMANと銘打たれた怪物が力尽き、須藤という名の男性に戻る頃、楓椛は魔剣を携えた少女に書付を託してその場を去っていたのだった。

『私の取り分を、全て須藤氏一家の社会的救済費用へと廻して下さい』

 救出できる可能性が高い――事実救出は間に合った――とはいえ、ヒトだったものを手に掛けろという任務だ。報酬はそれなりに弾み、楓椛もしばらくは宿に困らない生活が出来そうな程のまとまった金が手に入る筈だった。
「いいえ。それは分不相応というものでしょう。わたしは結局、いつものように争いに巻き込まれてしまっただけですから」
 全く、猟兵というものは望む望まないに関わらず戦渦に放り込まれる宿命であるらしい。楓椛にしてみれば超常の力と引き換えに争いの絶えない日々を送るよりも、安心して宛ての無い旅を続けられる日常の方が己に合っていると感じるのに。金銭はまあ、今日の宿に困らない程度にあればいい。雨風が凌げる場所と、もう少し贅沢を云っていいのなら温かい食事があれば充分すぎるというものだ。
 だから彼女は、今回彼女を召喚したグリモア猟兵に気取られる事のないように、真っ先に現場を後にしたのだ。
「正義の執行者を自認している方が他に複数居るのなら、私の必然性は最早ありませんしねえ」
 あのドラゴニアンの青年も、エルフの女性も、ひりつくほどの怒りを全身から発散させていた。楓椛も思わず全身の毛がよだつような思いをしたものだ。あの少女の立場にはなりたくないものだ、と。
 彼らに任せておけば、脅迫は十二分に担ってくれる事だろう。

 楓椛が今どの世界を彷徨っているのか、今回の事件に携わった者達は知らない。
 或いは彼女ですら、正確にはわかっていないのかもしれない。旅というのは、そういうものだ。
「それよりも……あちこちの世界で厄介事の気配がします。なかなかに困った事態になってしまいましたね」
 猟書家だかオウガ・フォーミュラだか知らないが、随分と面倒な事をしてくれたものだ。今までは戦禍の去った世界ならばそれなりに平和な旅路を歩めたのに、奴らはまさにそんな世界めがけて侵略を企てているというのだから。
「これ以上悪目立ちする前に立ち去って備えませんと……ええ、色々と……」
 そそくさと歩み出す楓椛。
 幼い狐が何故行く宛てもなく彷徨っているのか、知る者はいない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小雉子・吉備
[チーム名:蛟]

[POW]
方針はSPD+父親のフォローなんだけど、UCの関係上

先ずあの二人
父親のスマホ壊したよね
その事実改変を

最小限に手加減する為【属性攻撃(手加減)&気絶攻撃&精神攻撃】を込めUCを仕掛け因果を弄る

改変内容は『父親のスマホは見た目以外は、辛うじてちゃんと機能する程度に生きていた(木の枝とかに引っ掛かり川に入らず)』

大ダメージの内容?
それによって社会的にだよ

●父親に対して
霓虹ちゃんに探して貰ったスマホを渡し、報復するなら法的に勧めるよ

父親が前に進める切っ掛けに
これがなるなら

キビも家族を失ったから気持ちは解るし出来る範囲で精神的に寄り添いフォローを

[アドリブ絡み掛け合い大歓迎]


蒼・霓虹
[チーム名:蛟]

[SPD]
先ずあの人でなしがスマホを壊し
投げ捨てた川の付近まで行って
その周辺を【第六感】と【情報収集】で【策敵】掛けて

彩虹さんと一緒に探しましょうか

見付けたら回収し

吉備ちゃんが仕掛けのが
もし余り効果が無くわたしにも直せる範囲だったらスマホの仕組みを【情報収集】し【メカニック】で修理を

見た目はある程度残した方が良いですね
証拠能力は上がりますし

●父親さん
スマホを持ち込み父親さんへ
わたしも父親さんを慰め
もし本当に復讐したいなら
娘さんの為に法的にもそうなんですが

幸せになる事が最大の復讐だと言う事を
助言を

まぁ……中々難しいのは
わたしも身を持って知っていますが

[アドリブ絡み掛け合い大歓迎]




「いやだぁ、もう、いやだよぉ……」
「こんなの……っ、こんなの、あたしたち、ここまでされる筋合い、ないでしょ……?」
 被害者の躰に刻まれた痛みのほんの一部を味わって。
 ただの少女たちにしてみれば大金、けれど名うての猟兵を何人も『雇った』にしては破格の借金を背負わされた。
 未だ、彼女たちへの制裁は『この程度』だ。『この程度』で我を忘れて泣きじゃくるほどに弱い存在が、ひとりの善良な少女を殺めたというのか。

 社会的に、合法に、制裁を与える事は難しいだろうと。
 そんな話を、小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)はこの地を訪れる前に聞かされていた。
 けれどそれはあくまで『普通ならば』の話。今回は決定的な証拠があったではないか。
 投げ捨てられ、壊されてしまったスマートフォン。あの中に少女達が罪を認め、逆上する有様が録音されていた筈なのだ。
 吉備は雉鶏精だが、伝説上の同一存在のように凄い霊力を宿しているわけではない。ほんの少し時間を操ったり、起こってしまった事実を改変できる、その程度。
「でも、そのほんの少しが、のちにすごい影響を与えるって事もあるんだよ」
 だから吉備は、この力を全力で用いたりはしない。事実改変は最小限でいいのだから。


 一方その頃、蒼・霓虹(彩虹駆る日陰者の虹龍・f29441)は現場を離れ、須藤が怪物と化してしまったあの川に足を運んでいた。
「この辺りに、あの方のスマートフォンが捨てられているはずです。スマートフォン、わかりますか?」
「この世界で一般的な通信ユニットですよね。僕も探します」
「頼りにしていますよ、彩虹さん」
 虹龍型スーパーロボット『彩虹』と一緒に、霓虹は辺りを探し回る。
「霓虹さん、見つけました!」
「! 本当ですか!?」
 彩虹がスマホを回収したのは、川の水の中ではない。茂みの中に、ひっそりと隠れるように打ち捨てられていた。
「吉備ちゃんの力がうまく働いたようですね」
 そう。吉備の行使した改変は、『スマホは木の枝などに引っ掛かり着水せず、辛うじて機能を保っていた』という事実。
「電源も入りますね。録音データというのはこれでしょうか」
 きちんと会話が聞き取れるほどに録音されているのを確かめ、霓虹が満足そうに頷いた。
「データは無事ですが、画面が割れてしまっていますね」
 覗き込む彩虹が指摘したのは、落下の衝撃なのだろうか、蜘蛛の巣のように無数の亀裂が入り、ところどころ欠けも見られる画面。
「修理していきますか?」
「このままで大丈夫ですよ」
 大切に仕舞いながら、霓虹は微笑んだ。
「見た目の損傷がひどい方が、彼女たちが壊したという証明にもなります。その方が証拠能力も上がるはずですから」
「なるほど。では、彼らの元に急ぎましょう」
 肩に乗せてくれる彩虹を頼もしく思いながら、霓虹はふと想いを巡らせる。
(「ヒトというのは、不思議なものですね」)
 神や妖怪には、ヒトの信仰や感情といったものが欠かせない。かつての虹龍は人々の信仰を失ったことで窮地に陥っていた。名も無き雉鶏精はヒーローの物語の追憶に触れて、少女らしい純粋な憧れを抱き今の道を選んだ。人の想いというのはかくも強大な力を秘めているのだ。
 ――けれど、霓虹の夢や理想を奪ったのも、そして歩美という罪もなき少女の命を奪ったのも、またヒトというものだ。
(「だからこそ、間違った想いを野放しにしていたら、きっと大変な事になってしまいます」)
 その為に、夢破れた少女は再び立ち上がったのだ。本当の夢を隠してでも、ヒーローとして理想を貫くために。


「霓虹ちゃん!」
 廃ビルに戻ってきた霓虹たちを見、吉備が顔を綻ばせる。
「どうだった?」
「勿論、ばっちりでしたよ」
 不思議な機械のようなものに乗った少女がこちらに近づいてくるのを、須藤は疲れ切った視線でぼんやりと見つめていた。
「須藤さん」
 霓虹はその手を優しく取り、スマホを握らせる。ぼろぼろの画面が灯ったのに須藤が目を見張り、泣きじゃくっていた少女達がぎくりと身体を強張らせた。
「……とっくに壊れてしまったと思っていたよ」
「ダメもとで探してみたんです。『運』が良かったですね」
 吉備の力である事は隠したまま、霓虹は柔らかく笑んだ。
「……報復するなら、これがきっと役に立つよ」
 吉備もその隣に並んだ。
「キビは……これが使われても、使われなくても、どっちでもいいって思ってる。ただあなたが前に進む切っ掛けに復讐がどうしても必要なら、ちゃんと法的にやって欲しいんだ」
「前に……進む、か」
 震える手がスマホを握りしめ、その眸が吉備を見上げていた。
 家族を失った者。吉備にどこか自分と似たようなものを感じたのだろうか。見つめる眸が揺れ、何かを云いかけて口をつぐんだ。
「それも良い手段ですが、もっと有効な復讐もありますよ」
 代わりに口を開いたのは霓虹だ。須藤がゆるゆると視線を向ける。
「幸せになる事が最大の復讐だ――なんて、よく云いますよね」
 月並みな言葉ではあるのかもしれない。だからこそ率直で、切実な真実だ。
「歩美さんだって、お父さんに幸せになって欲しいはずだよ」
「……歩美は、俺を赦してくれるだろうか」
「うん、きっとね」
 キビは信じてるよ。生き延びた少女の言葉に、須藤はほんの少しだけ笑みを見せた。
(「まぁ……中々難しいですけどね、そんな風に割り切るのは」)
 罪を憎んで人を憎まず――などという次元に到達するのは、竜神でさえも困難なものだ。
 でも、と霓虹は想う。
 だからこそ、彼にはほんとうに幸せになって欲しい、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鬼・智夢
震える手でリアムを抱きしめて
【指定UC】で攻撃の代わりにビンタを

自殺や強要…絶望を抱えてこの世を去った被害者達を【降霊】
いじめで受けた体の…心の痛み
恐怖、孤独感
救いを求める声
全部共有させます

生き地獄って…ご存じですか
身体の傷はいつかは治る
けれど心は…簡単には修復出来ないんです

勝手に、重みを決め付けないで
卒業すれば終わるとも限らない
逃れるためには死ぬしかない
追い詰められた彼女の恐怖…貴方達に、わかるの…?

霊は頃合いを見て【破魔】で祓ってあげるけど…

少しでも、反省してくれたなら…
貴方達の償いは、その記憶を…痛みを背負って生きる事です
お願いします…どうか、これ以上
私、を…彼らを…苦しめないで……


小犬丸・太郎
アドリブ、マスタリング歓迎

_

「この人は、化物なんかじゃない」

彼女らを振り返り、真っ直ぐ眼を射抜いてそう言う。
……怒りが湧くのは、理解出来るさ
けれど俺の手の届く範囲では、この子たちへの暴力は俺が庇おうと試る
でも
「覚えておいてくれ。君たちが、何をしてしまったのか。
君たちが彼と彼の娘さんの人生を変えてしまったこと、決して忘れないでくれ」

それだけ言って俺は須藤さんの元へ
いじめとして立件するのは難しいと言われたが、それでも俺は諦めたくない
彼に真実を明かしてくれた子や学校、俺のツテの弁護士等々あたってみよう
須藤さんの元へも、拒まれない限りこまめに足を運び気にかけたい

貴方は独りではない。
…須藤さん。




 彼女たちの罵声を聞くたびに、百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)の中で何かが弾けそうになる。
 自分に手酷い事をしてきたあの子たちに、よく似た人。
 信じられないくらい悪辣で、どんな悪霊よりも性質(たち)の悪い――普通の人。
 縋るようにテディベアのリアムを抱きしめると、愛くるしい眸が赤々と輝く。
 その光に呼び寄せられるように、智夢の周りに霊たちが召喚されていく。戦闘中、彼女を護ってくれた善なるものではない。自殺や強要、絶望を抱えてこの世を去っていった被害者達の怨念。
「な、なに……」
「またこいつみたいな化物が……?」
 気づけば、彼女たちの頬を打っていた。ぴしゃりと鋭い音がして、彼女たちが押し黙る。痛みというよりも、驚きの方が強そうな表情だった。ぬいぐるみを抱えた気弱そうな少女が自分たちに暴力を振るった事への驚きだろうか。いかにも自分たちが標的に選びそうな少女が。
「……黙って、ください」
 怒りだろうか。哀しみだろうか。智夢の小さな体はかたかたと震えている。その手がもう一人の少女を打つよりも先に、小犬丸・太郎(鞘無・f29028)が間に割り行った。
「……!」
「この人は、化物なんかじゃない」
 二人の少女の眼を順番に真っ直ぐ見ながら、太郎は静かに云った。そして智夢に向けたままの背中が語っていた。自分の手の届く範囲では、この子達への暴力は自分が止める、と。
「……太郎さん」
 振り翳した手を戻しながら、智夢は呟いた。
「これ以上、彼女たちに暴力は振るいません……。けど、ひとつだけ……。心を傷付けられたらどうなるか、それだけ、彼女たちに知ってて欲しいんです……」
「……」
「知らないままで、同じ悲劇が起きてしまうのは……それだけは、絶対に……」
 ぎゅ、とリアムを抱く手に力が籠る。辺りに渦巻く怨念たちに太郎は目を遣った。その気になれば、彼らが少女達を呪い殺す事など造作もないのだろう。けれど震えながら懸命に言葉を紡ぐ智夢が嘘を云っているとは、太郎には思えなかった。
「……やりすぎだと感じたら、すぐに止める。俺の判断で」
 小さく息を吐いて、道を開ける。けれど宣言通り、いつでも智夢を止められる距離に立ち続けた。
「なんなのよ、……何をするつもりなの?」
『イ……アツ、イ』
『タスケテ……死ニタクナンテ無イ……!』
「やだ……なにこの聲、気持ち悪い」
 辺りを彷徨うように漂っていた霊たちが、少女の聲に反応するようにぴくりと動きをとめ、そしてゆっくり近づいていく。
「……来んな、よ……来ないで……」
『痛イヨォ、寂シイヨォ……』
『裏切ラレタノ……。味方ガ誰モイナイママ、独リデ死ヌシカナカッタ』
『少シグライ、俺ラノ辛サヲ味ワエヨナァ』
 びくん、と少女たちの躰が強張った。
「あ、……あ……あたしの、脚が……」
「顔が、溶けて、く」
 目を見開く少女たち。実際はその身体には傷一つついていないが、智夢の力が齎す共有と共感が、悪霊たちの過去を追体験させているかのような幻覚を視せているのだ。
「や……痛い、痛いイタイイタイイタイ……!!」
「やめて、こんな顔でずっと生きてくなんて、やだ、やだ、やだ……!」
 発狂したかのような絶叫。太郎が唇を噛みしめ、止めに入ろうとした時、突然ふっと悪霊たちが消え、少女達が静かになった。
「あ、あ……?」
 度を越えた恐怖に晒され、彼女たちはすぐさま自分の身体の無事を確かめる事さえ出来なかった。脱力し、へたりこんだままの二人に、智夢は悲しそうに眼を伏せながら語りかける。
「……生き地獄って、ご存知ですか。身体の傷はいつかは治る。けれど心は……簡単には修復出来ないんです」
 ただのぬいぐるみに戻った大切な形見を、強くつよく抱く。
「勝手に、重みを決め付けないで。卒業すれば終わるとも限らない、逃れるためには死ぬしかない……追い詰められた彼女の恐怖……貴方達に、わかるの……?」
 今しがた恐ろしい霊たちを使役したとは思えない、今にも消え入りそうな聲だった。太郎の脳裡に、何故か妹の姿が浮かんで消えていった。
(「……ひょっとして、この子は」)
 妹と同じような目に遭ったのだろうか。だとしたら、止めるべきではなかったのだろうか。
(「……いや」)
「……覚えておいてくれ。君たちが、何をしてしまったのか」
 黙ったままだった青年の言葉に、少女達がゆるゆると目を向ける。
 いじめの加害者。太郎自身も、全く怒りを覚えないといえば嘘になる。理解も出来る。それでも太郎は最後まで手を下す事はなかった。正しい者として在り続けようと努めた。己の信じる正しさで。
「君たちが彼と彼の娘さんの人生を変えてしまったこと、決して忘れないでくれ」
 それだけを云って、太郎は背を向けた。自分の成すべき事は、まだ残っているから。
「お願いします……。どうか、これ以上……私、を……彼らを……苦しめないで……」
 背後から聞こえる悲痛な聲に、太郎の精悍な顔立ちが翳りを帯びるけれど。
 うなだれたままの須藤に近づき、目を見て話せるように膝を折る。姿を変えて復讐を望んでしまった男は、今では少女達の悲鳴にも貌を強張らせるだけだった。
 ふと、迷子の子供の様だと太郎は想った。自分よりも一回り以上年上だというのに。どこに向かえばいいのか分からず、途方に暮れている子供のようだと。
「須藤さん」
 貌を上げた須藤に、太郎はゆっくりと言葉を続ける。
「いじめとして立件するのは難しいと言われたが、それでも俺は諦めたくない。彼に真実を明かしてくれた子や学校、俺のツテの弁護士等々あたってみよう。……俺に出来る事なら、何でも協力する。いや、させてくれ」
 元警察官らしい真摯な眼差し。須藤がふと視線を落とした。拒まれてしまったのかと思い、太郎は付け加える。
「勿論須藤さんが望まないということであれば、無理強いはしないが……」
「ああ、違うんだ。スマホをね」
「……スマホ?」
「拾ってくれた子がいたんだ。壊れてなくて運が良かったですねって云っていたけど……少し違う気がする。水の中に落ちたの、俺は確かに見たから。多分、直してくれたんじゃないかな」
 須藤が取り出したのは、証拠の音声を録ったために壊されてしまったというスマホだった。画面は割れているが電源は入っており、録音データも無事だった。
「これがあれば、少しは望みが生まれるだろうか」
「……最善を尽くそう」
 前職柄、絶対に大丈夫だと云いきる事は出来なかった。この世界は一般人の眼に晒されている部分も、秘匿されている部分も、あまりに理不尽が多い。それでも太郎は太郎の云える言葉のうち、最大限に希望を感じさせる言葉を選んだ。
「貴方は独りではない。……須藤さん」
 静かで力強い、言葉だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
なーんだまだまだ元気じゃあないですか
助けてあげたと言うのに減らず口ですねえ
もういっぺん味わってみます?
なーんて、んふふ

うんうん、良いですよ良いですとも
人間はこうだからいとおしい!
やだなあ、そんな目で見ないでくださいよ

怖かったですねえ、怖かったでしょう?
ぜーんぶ忘れて日常に戻りたくはないですか?
まるっと無くして何時もどーりです
魅力的でしょう?

わたしの夢へと堕ちてくださいな

あなたの希望はなんですか?
あなたの夢はなんですか?
あなたの心はなんですか?
まるっと纏めて宝石糖にしてあげます

ねえ、あなたの心はどんな色?

空っぽになっても平気でしょ?
普段通りの日常に戻れるんですから

ずーっと大切に保存してあげますよ


鬼桐・相馬
彼女達は間接的な暴力で須藤の娘を死に追いやった
ならば俺もそうしよう

放っていた[軍用鞄]へ声をかける
お前が決めてみるか
物陰から成竜体の[ヘキサドラゴン]のモモを歩み寄らせよう
須藤の血と肉だったものを手や足、口に付着させるよう目で合図
併せてUC発動、黒隼に只管彼女達を凝視させる

モモに猫が獲物を弄ぶように二人を追い詰めさせ[恐怖を与え]ながら言う

お前達の行いは既に閻羅王の知るところとなっているだろう
気付いているか
暗闇や物陰からこの世ならざるモノがお前達を死ぬ迄窺っている、今もだ
嘘だと思うならそれでいい
俺達「化物」を見た後でもそう言えるのならな

一時の痛みより終わらない恐怖を
須藤には会釈しその場を去る


日下部・舞
煙草が欲しいと思った
けど、私は吸わないから持ってないし、誰かに求める気にもなれない

「ミホちゃん、リコちゃん、あなたたちの危機はまだ去っていない」

どれほど大義名分を並べても、法律とか正義を語っても意味はないわ

「そんなもので命は守れない」

たしかに須藤さんがまた『そうなる』かもしれないし
歩美ちゃんが怪物として蘇る可能性だってある

「もっとも、それ以前の問題として」

暴力を振るうことにためらわない人たちもいるかもしれないから
視線は他の猟兵たちに

私に彼らを止める意思はない
だから、二人は自分で自分を守らないといけない

「須藤さん、帰りませんか?」

歩美ちゃんが待つ家に
よければ送ります
私ができるのはもうそれくらい




 煙草が欲しいと思った。あの緩やかな毒を味わい、煙と共に吐き出してしまえば、少しは気分も張れる気がした。
 けれど日下部・舞(BansheeII・f25907)に喫煙習慣はなかったし、誰かに求める気にもなれなかった。
「ミホちゃん、リコちゃん、あなたたちの危機はまだ去っていない」
 舞は『加害者』たちの名を呼んだ。この地を訪れた猟兵達の中で、彼女たちを名前で呼ぶ者は初めてだった。
 ゆるゆると貌を上げる二人の少女は、名を呼ばれた事に却って怯えているようだった。
 その通りなのだろう、と舞は想う。本人たちが認識しているかはさておき。
 個として扱われる事には責任が伴う。彼女達は、加害者というレッテルの前に二人の人間。只の少女だ。だから。
「どれほど大義名分を並べても、法律とか正義を語っても意味はないわ。そんなもので命は守れない」
 例えば父親が衝動に抗いきれず、また『そうなる』可能性もある。そして彼女達は知らないだろうが、死んで過去の存在になってしまった歩美の方が怪物として蘇る可能性も。むしろ後者の方が、舞たちにしてみれば珍しくもない現象だ。
 ――いや、それ以前に。
 見下ろす彼女達の貌に、以前の威勢は微塵も感じられない。外傷でいえば腕があらぬ方角を向いている程度だが、瞳に刻まれた恐怖はもっと深い。トラウマでも負わされたか、借金でも背負わされたか、罪に問われる可能性が上がったか――或いは、その全部、だろうか。
 まだこの地を去っていない猟兵もいる。彼らがまだまだ少女たちに何かを仕掛ける可能性もあるだろう。
 加担するつもりもなかったが、同時に止めるつもりもなかった。『やりすぎる』者がいるとは思えないが、もし仮にいたとしても、彼女たちは自分で自分を護らなければならない。
 それよりも、と舞は小さく肩を竦めた。
『オブリビオン』が去ったのだから、自分にできる事は大して多くはない。舞は踵を返し、須藤の元へ歩み寄る。彼の貌がほんの少しだけ生気を取り戻しているのだけが救いだろうか。
(「こちらはこちらで、先は長いと思うけれど、ね」)
「須藤さん、帰りませんか?」
 舞を見上げる男は、ゆっくりと瞬きをした。
「……俺は、まっすぐ帰っていいのか? その、警察とか、事情聴取とか、そういったものは……」
 罪に問われるのではないのか、と訝しむ男へ、舞はゆっくりと首を振った。
「その心配は無用です。事後処理まで含めて、私達の仕事ですから」
 実際は舞たちが担う必要はないが、敢えて安心させるようにそう告げた。
「よければ送ります。……歩美ちゃんの待つ家まで」
「……歩美が、か……そうだな。ありがとう。君にも、他の人にも、何とお礼を言ったらいいか」
 少しふらつきながらも、舞の手を借りながら男は立ち上がった。


 何度も頭を下げる須藤に会釈で応え、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は少女たちに向き直る。
「彼の眼が無ければ、遠慮をする必要も無いな」
「……どうして」
 すっかりか細くなってしまった聲で少女が泣いた。須藤が帰ってしまえば、ひとまず直接的な暴力に晒される危機は去ったと思っていたのに、と。
 その言葉には答えず、相馬は放っていた軍用鞄に聲をかける。
「お前が決めてみるか」
 隙間から黒っぽい何かが這い出て、すぐに闇に溶け込んでいった。少女達はその動きを追う事は出来ず、得体の知れない恐怖に身を竦ませる。
 すぐに相馬は無数の黒い隼を召喚する。黒光りする鳥の群れは、本来は恩を忘れない忠実な者たちだが、今の彼女たちにしてみれば地獄への使いのようですらあった。
「どうして、と云ったな。それは、お前達の行いが既に閻羅王の知るところとなっているからだ」
 そして被せられる相馬の聲が、まさしくそう宣告する。
「……気付いているか。暗闇や物陰からこの世ならざるモノがお前達を死ぬ迄窺っている、今もだ」
「えん、まおう……? 閻魔様ってやつ?」
「そんなの、作り話でしょ……?」
「嘘だと思うならそれでいい。俺達「化物」を見た後でもそう言えるのならな」
 隼たちが何かを仕掛けてくるのかと目で追い続けていた彼女達は、ひたひたと歩み寄って来るもっと巨大なものに暫く気づかなかった。あまりに巨大すぎて、そしてずっと『この場』にあったものだったので。
「なに、あれ……」
 一瞬だけ光が差して、その姿が浮き彫りになる。先程斃された筈の『化物』によく似た肉塊だった。龍のようなフォルムのあちこちから、腐った肉や血が垂れ、腐臭を撒き散らしている。
 冷静に見つめれば、それは相馬の使役するヘキサドラゴンのモモが須藤の血と肉だったものを纏っているだけだと気づいたことだろう。しかし少女たちにそんな理性は残されていなかった。
「うそ……まだ、化物がいるの……?」
「ひぃっ」
 逃げようとした少女がバランスを崩して転倒する。折れた方の腕を下敷きにしてしまい、ぐえ、と潰された蛙のような悲鳴が漏れた。
「あ……あ……」
 殺される、と思ったのに、化物は手出しをしてこなかった。
 ただこちらを見下ろして、顔は覚えたとばかりに去っていく。
 いつの間にか隼も消えていて、あの背の高い男も去っていた。辺りには静寂が満ちていた。それでも少女は暗がりの中に何かがいる気がして、がたがたと震えていることしか出来なかった。
 
「いや、いや、たす、たすけ、て」
「いたい、こわい、いたい、いたいよぉ……」
 悲鳴すら上げられず、少女はただひたすら譫言のように繰り返していた。
 死ぬまで化物につけ狙われるという恐怖。
 その時ようやく、彼女たちは何故歩美が自ら死んだのかをぼんやりと感じ取ったのかもしれない。
 ――死んだ方が余程ましな事が、あるのだと。


「なーんだまだまだ元気じゃあないですか」
 ころころと百鳥・円(華回帰・f10932)は笑う。小さな仔猫でも眺めているかのような微笑ましさで。
「さすがにちょーっぴり減らず口は勢いが落ちちゃったみたいですけど。みんな頑張り屋さんですねえ」
 何てったって化物に襲われても命さえ助かればケロッとしていた少女たちが、今ではここまで震えて虚ろな眼差しをしているのだ。これはなかなかに興味深い『変化』だ。
「うんうん、威勢がいいのも疲れ切ってぐったりしちゃってるのも、どっちも良いですよ良いですとも。ちょっと転がすとくるくる変わる、人間はこうだからいとおしい! やだなあ、そんな目で見ないでくださいよ」
 すこうしばかり風変わり、けれど殆ど人間と変わらない姿の円の言葉に、少女達は意味もわからず翻弄される。
 ――この子も怪物なのだろうか? あの肉塊のような? また怖い目に遭わされるのだろうか?
「怖かったですねえ、怖かったでしょう? ぜーんぶ忘れて日常に戻りたくはないですか?」
 ねえ、と誘うように伸ばされた手は、とびきり甘やかだった。
「まるっと無くして何時もどーりです。魅力的でしょう?」
「……いつも、どおり?」
「そう。あなた達の信じる何時もどーり。忘れちゃえば、戻れるかもですよ」

 だから。
「わたしの夢へと堕ちてくださいな」
 ――あなたの希望はなんですか?
 ――あなたの夢はなんですか?
 ――あなたの心はなんですか?
 まるっと纏めて宝石糖にしてあげます。

 受け入れるように差し伸ばされたと思った手は、逆だった。心の裡のどこかから、何かが奪われて抜け落ちていくのを少女たちは感じた。何か。何だろう。抜け落ちてしまったら、もうそれは自分のものじゃない。だから、わからない。
「ねえ、あなたの心はどんな色?」
 こころ? こころは生きていくのに大事なのだろうか。わからない。だってさっきは、何かにすごく怯えていた気がする。心がなかったら、怖がらなくて済むのかもしれない。
「空っぽになっても平気でしょ? 普段通りの日常に戻れるんですから」
 ――ずーっと大切に保存してあげますよ。綺麗な瓶に仕舞ってあげる。

 円は知っていただろうか。彼女たちは決して『元』になどは戻れない。
 体の傷が癒えても、心の傷を忘れても、現段階で多額の借金を背負わされ、法的な処置も進んでいる。猟兵達の事後処理は的確で適切だった。生きている限り逃れる事など決してできない。

 ――けれどココロが無かったら、そんな悲惨も認識は出来ないのかもしれない。
 じゃあ、このお話は、彼女たちにとっても『めでたしめでたし』?
 いいえ、このお話は……もう少しだけ、続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
【五万円】
罪には罰が必要だと言うだろう?
だが俺が与えるのは罰ではなく人の怨みそのものだ
あの男の怨みは深いだろうなァ

終始淡々とそこに俺自身の感情は特にない
これもただの仕事の内だ

俺は代行なんだよ。
金次第でアイツの怨みを返してやるってこと
なァに、心配するな。
爪は剥いでも再生するし、骨は折れても元に戻る
食われた箇所はちと悲惨かもしれないが

手にした厄災の匣ハヌヱが青い光と共に砕ける
宙に漂う砕けた破片、青い光に混じりウゾウゾと夥しい数の蟲が蠢く
拷問具の中でもとびきり凶悪

問いに満足する答えはない
甲高く喚く耳障りな声にも慣れたもの
元に戻った匣と消えた蟲
残ったのは凄惨のみ

…あぁ、行こうぜ。
それじゃあ良い人生を。


久澄・真
【五万円】

ククッ
こえーこえー
ジェイ先生は容赦ないねぇ?
お前らの言う通り
ちらつかせるのと“その気”で振り回すんじゃ全く話が違う
良い見本がいて良かったな

おーおー
ボロボロで震えちまって可哀想に
苦しいか?そうかそうか
ならいっそ死ぬか?
糸を両方の首に巻き付け愉しげに
なーんで嫌がるんだよ
折角の優しい提案なのになぁ

クズ同士のよしみで教えてやるよ
今回偶々お前らを助けることになった俺もあいつも
おんなじ「化物」、正義の味方じゃねぇの
あの男が死のうがお前らが死のうが金が入ればそれでいい
残念だったなぁ?
煙草の灰を女の頭に降らせにっこり手を振った

ククッ半端なクズは可愛げがあっていいねぇ
おーっし仕事終わりっと
帰んぞジェイ




「んな虫のいい話があるかよ」
 響く聲はひどく冷ややかで、投げやりだった。
「どんな原理の技だか知らねえが、心なんざ電気信号だろ。一時的に奪われようが、強くノックでもすりゃ復活する」
「ククッ、そのノックとやらをしてやるわけだ? わざわざ? 優しいねェ。無くしたまんまじゃ痛ェのも辛ェのもわからないもんな」
 愉快そうな笑いがそれに続く。最後に残った二人組。ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)と、久澄・真(○●○・f13102)だ。
「罪には罰が必要だと言うだろう? だが俺が与えるのは罰ではなく人の怨みそのものだ。あの男の怨みは深いだろうなァ」
「しっかしあいつなら、イイ子ちゃん共に諭されて暴力ひとつ振るわず帰って行ったぜ」
「一度振るった拳はそう簡単にゃしまえねえ。呑み込んだ筈の恨みが忘れた頃に現れるくらいなら、今日全部発散しちまった方がいいだろ」
「こえーこえー。仕事熱心だこって」
 かわいそーになァ、と真は虚ろな眼差しの少女達を見下ろして嗤うのだった。


 ジェイの手の中で、匣に刻まれた紋様がひときわ青く輝き、砕け散る。
 砕けた破片の青い光に混じり、何かが無数に蠢いている――厄災の匣ハヌヱ。ジェイの持つ拷問道具の中でも、とびきり凶悪な代物だ。
 蠢いていたのは夥しい量の黒燐虫。何故蟲なのか。動くから。『入り込める』からだ。人体の『隙間』から。その気になれば、どんな鋭利な刃物よりも手っ取り早い。内外から喰いつぶせるのだから。
「あ、ぎ、い――……」
 最初のうちは。蟲が全身を這い回っても、柔らかな皮膚に牙を立てても、その動きに合わせて少女達はゆるやかに揺れ、空気が漏れただけのような聲を発するにとどまっていた。やがて爪の隙間から、耳から口から、そして食い破った傷から、蟲たちの侵食が進んでいき、激痛が少女達を覚醒させる。
「―――ッ、い、がぁ、ッ!?」
「い、だァ……い、たずげ、て、おねがァ、ああっ」
 爪が剥がれる。侵入した蟲が骨をも砕く。赤く泡だった唾液が口の端から漏れる。女特有の甲高い耳障りな悲鳴にも、ジェイは眉ひとつ顰める事はなかった。咎める良心も無ければ、人間の屑をいたぶって悦ぶ趣味もない。これは只の代行なのだから。
「お前らも云ってたよなァ、ちらつかせるのと"その気"で振り回すんじゃ全く話が違うって」
 真は対照的に嘲るような笑みを浮かべ続けたまま、少女達の悲鳴が心地よい音楽でもあるかのように耳を澄ませていた。
「良い見本がいて良かったな、なァジェイ先生?」
 ジェイがほんの少しだけ片眉を上げた。加減はしていると云いたげに。実際、爪を剥いでも骨を折っても人間というのは再生するものだ。取り返しのつかない傷は負わせていない。今のところは。
「やめ、とべ、でぇっ――も、おわら、」
 あちこちを喰われている反動なのか、痛みに身を捩っているのか、判別のつかぬ身体の跳ね方をさせながら、少女が焦点の合わぬ眸で必死に訴えている。
「おーおー、ボロボロに震えちまって可哀想に」
 ちっともそうは想っていなそうな声音で云い、真が少女達に歩み寄る。
「苦しいか? 終わらせて欲しいか?」
 二人とも必死で頸を立てに振った。にやにやと得体の知れない男だが、今は彼に縋るしかない。
「そうかそうか」
 だが少女の微かな期待は、直後に裏切られる事になる。
「――なら、いっそ死ぬか?」
 しゅる、と二人の頸に巻き付いたのは細い糸。皮膚に微かに食い込む苦痛は、蟲のそれとは比べ物にならないほどささやかだったけれど。
「いやっ、いやぁっ……!」
「死にたくないっ……!」
「なーんで嫌がるんだよ、折角の優しい提案なのになぁ」
 途端にじたばた暴れ出すものだから、却って喰い込みそうになった。糸を引っ込め、今のが最後の機会だったのになァと放(ほう)った。
 本来尋問に使われる蟲たちは、答えを引き出すまで獲物を食らい続ける。今の彼女たちに蟲を納得させられる答えがある筈もなく、頃合いを見たジェイが匣を元に戻すまで、悲鳴が辺りを満たしていた。

 静寂の戻ったそこには、凄惨としかいいようのない光景が広がっていた。濁った眼窩から涙と血が零れ、少女たちは脱力した口元からあーとかうーとか意味を成さない呻き声を漏らすだけだった。しかし恐らくジェイの事、その精神を完全はに破壊していないのだろうと真は推測した。
「本当に運が良いなァ、ククッ」
 あの傷が癒えてくる頃、彼女たちの意識も覚醒するだろう。絶え間ない恐怖に苛まれ続けるかもしれないが、完全に狂って楽になってしまうまでは至らない。
 ――俺の『提案』を選べなかった彼女たちにはお似合いじゃないか?
「もうひとつ、クズ同士のよしみで教えてやるよ」
 俺やさしーからさァ、と煙草片手に歩み寄った。
「今回偶々お前らを助けることになった俺もあいつもおんなじ「化物」、正義の味方じゃねぇの」
 ――あの男が死のうがお前らが死のうが金が入ればそれでいい。
 真のいうところの正義の味方らしく、真っ当な手段で更生を訴えている猟兵もいたのだ。自分の身を顧みず、彼女たちを庇おうとした者さえもいた。その聲を軽視し、突っぱね続けた結果が――これだ。一番性質(たち)の悪い男の手にかかる事になった。
「残念だったなぁ?」
 煙草の灰を女の頭に振らせてやった。何の反応もなかった。にっこり手を振って、真はジェイに聲をかける。
「ククッ、半端なクズは可愛げがあっていいねぇ」
「かもな」
 全く興味のなさそうな返答。
「んで、そのクズどもはどうすんだ?」
「とっくにUDC組織に救護を要請している。死んでほしくなきゃ十分以内に迎えに来いってな」
「クハ、さっすが。じゃあ俺らのすることはもう何もねえわけだ。帰るぞ」
「……あぁ、行こうぜ」
 踵を返しながら、ジェイは最後に一度だけ、肩越しに振り返った。
「それじゃあ、良い人生を」
 今日の事は二人にとって札束の厚さとして記憶され、それ以上の事は顧みられないだろう。
 けれど彼女たちは――……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月07日


挿絵イラスト