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彩来

#カクリヨファンタズム #金・宵栄 #かしまし鬼娘

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#カクリヨファンタズム
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●玻璃の村
「狐里堂の、若いのがやられたんそうだな」
「ああ。それと、あの子が作ったっていう朝顔が見つかってねえ」
「殺した上に盗るたぁな……どこのどいつだ、畜生」
「……この村にかような真似をする輩が居るとは思えぬ」
「竜の爺さん、大丈夫。みんなわかってるよ。……だからこうして行き詰まってるけど」
 蕎麦屋の隅で交わされる言葉は、村人なら誰もが知る内容だ。
 始まりはおそらく数ヶ月前。村の外れ、木々茂るそこで見つかった絞殺死体。
 二人目は川面をぷかぷか流れていく所を発見された。体中の骨が砕かれていた。
 三人目は頭がなかった。胴にめり込むようにして潰れていた。
 四人目は腰がちぎれる寸前まで折れ曲がった状態で木の枝に、高所に引っかかって。
 そして今回。首の骨を折られた化け狐の青年は、道端に捨てられていた。
「硝子市のさなかだというに……」
 老いた竜神が重い溜息をこぼせば、同席していた他の者は唸り、あるいは思案の顔を浮かべて黙ってしまう。――と、そこに「ツバキ見なかった!?」と溌剌とした声が飛び込んだ。
「エリーか。見てないけど……工房じゃないのか」
 いなかったわ、と蕎麦屋の入り口で首を振るのは真っ白な髪をした魔女の娘だ。どこ行ったのよ、と周りをじろじろ見る手には使い込まれた箒が握られている。
「それにツバキ、今回は客に徹する、馬鹿みたいに買うって言ってたもの」
「ああ、楽しみにしてたな。……狐里堂の奴が作るもんも、あいつ、楽しみに……」
「……そうよ。だから一人にするのは――あっ! いた!」
 ツバキッ!
 叱りつける声は箒と一緒に一瞬で翔け、天狗の女の眼前へ。
 一人で出歩くなんて危ないでしょ、また事件解決のお祈りをしに玻璃堂へ行ったのね、ってちょっと何買ったのよ、へえ綺麗じゃない――……。
 どんどん穏やかになっていく声のトーンに、蕎麦屋から顔を覗かせた竜神たちの表情がほろりと明るくなる。硝子の花瓶を眺める天狗と魔女の向こうには、数多の色が、輝きが、昏き事件を晴らすかのように燦々と並んでいた。

●彩来
「皆様、硝子市に興味はございませんか」
 様々な種族の硝子職人が住まう村でちょっとした市があるのですが。
 汪・皓湛(花游・f28072)は腕に黒の神剣を抱いて微笑んだ。
 種類、形、色使い。日々己の技術を磨き情熱を燃やす職人たちが生み出す硝子は、どれも心照らすようなものばかり。店が並ぶ通りを行き来すれば、たった一つの輝きと出逢えるだろう。
 ――ただし、ひとつ問題がある。
「硝子市が催されている村では、以前より連続殺妖怪事件が起きているのです。被害者は四人。そして今日、五人目の被害者が……」
 憂い顔となった花神曰く、村人全員が顔見知りで近隣の村――幸運にも、今の所は迷宮化で断たれる事なく繋がっている村とは交流があり、その村とも互いが互いをよく知って――という具合だ。
 そんな村に見知らぬ者がいれば必ず誰かしら気付く筈。連続殺妖という行動を取っていれば、どれだけ日常を演じても、何かが小さな異物となって誰かの目に映る。
 しかし村人たちの目には、感覚には、何も引っかからなかった。
 せめて次の犠牲者が出ないよう、一人にならぬよう過ごしても、見回りを強化しても、ついこの間まで普通に生きていた知り合いが死体となって見つかるばかり。
「犯人は相当狡猾なのでしょう。村人のどなたかに取り憑き、殺しへと及ぶ際に宿主の体と記憶を奪っている様子。ですが、皆様が……猟兵が現れたと察すれば尻尾を出すやもしれませぬ。或いは、」
 推理し探し当てれば。
 そうなれば、“もう何も出来ぬ”と悟り、姿を現すだろう。
 そこまで伝えたところで、皓湛はいつものようにやわらかく微笑んだ。
「とは言いましたが、硝子市を楽しまれるのが良いでしょう。猟兵が来たと知れば、事件で塞いでいた村人の気分も明るくなるかと。皆様の心を震わす品があれば、創り手たる職人の心も、また」
 事件が続く中でも硝子の輝きを絶やさぬ職人たちと、職人ではないが、硝子市を誇りに思い愛する村人たち。犯人に力及ばずとも、抗い、輝きを紡いでいく彼らの為に――どうか、と。花神はグリモアを咲かせた。


東間
 美しい硝子が生まれる村で発生する連続殺妖事件のご案内。
 東間(あずま)です。

●受付期間
 タグ、個人ページ、ツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせしております。プレイング送信前にご確認下さいませ。

●一章 日常『硝子の中の世界』
 トップ画像で犯人バレバレですが、一章開始時点では「誰に取り憑いているのか」含めて不明です。村人は皆協力的な為、聞き込みをすれば情報は増えていきます。硝子市を楽しみながらでも、捜査に集中するも自由。
 硝子市を楽しむ!のみのプレイングや、この章のみの参加も大歓迎です。
 美しい硝子との出逢いをお楽しみ下さいませ。
 OPに名前が出たNPCについてはこんな感じです。

 ツバキ:天狗の女、腕利きの職人であり腕っぷしも強い(猟兵ほどではない)
 エリー:魔女の娘、日々箒にまたがって見回りをしている。

 ちなみに『竜の爺さん』は村の古株である竜神です。他にも色んな村人がいます。プレイングでご自由に設定して下さい。あまり特殊なのはボカしたり、内容によっては不採用の可能性もあります。

●二章 ボス戦『金・宵栄』
 誰か一人でも犯人に辿り着く情報を得ていれば、それを踏まえた始まりに。
 もしもいなければ、猟兵がいたので五件目の犯行を止めたという扱いになります。
 詳細は二章開始時、導入場面にて。

●三章 集団戦『???』
 賑やかな集団との戦いになります。
 こちらも詳細は三章開始時に導入場面にて。

●グループ参加:ニ人まで
 プレイング冒頭に【グループ名】の明記、そして【プレイング送信日の統一】をお願い致します。タイミングは別々で大丈夫です(【】は不要)
 日付を跨ぎそうな場合は翌8:31以降だと失効日が延びますので、出来ればそのタイミングでお願い致します。

 以上です。
 皆様のご参加、お待ちしております。
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第1章 日常 『硝子の中の世界』

POW   :    直感で探してみる

SPD   :    よく観察して選んでみる

WIZ   :    色や形を吟味してみる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●玻璃、煌めいて

 ちりん ちりり、りん

  からん  ころん

 しゃら、ら


 軽やかに。涼やかに。清らかに。
 どこかの店先で吊り下げられて並ぶ硝子の音が聞こえる。風鈴か、虹の煌めきを降らすサンキャッチャーか。それとも。気になったなら見てみよう。
 簪屋に行けば、季節の花々や小鳥、縁起の良い神獣といった様々なものが繊細な硝子細工となって咲いている。髪を彩る煌めきは、小さなものから大きなものまで。
 UDCアースの日本を知る者なら、レトロ硝子を見て懐かしさを覚えるかもしれない。一枚硝子はどこにはめ込もうか? どう使おうか? 大皿小皿は朝・昼・夕、そして、おやつの時間に澄んだ優しさを添えてくれそうだ。
 器といえば茶器や酒器の店も当然あり、色、絵、彫り物と様々な技巧を凝らした逸品が、ささやかなひとときを彩ってくれる筈。
「こいつは見事な枝垂れ桜だ……! ああ、君が作ったのか?」
「は、はい」
 子供のように目を輝かす男が声をかけたのは、置物を専門としている店だ。照れくさそうに頷く若者の前には、流木を再利用した枝垂れ桜がひとつ。幹に寄り添い、吹いた風に揺れる淡桃の輝きは、色づいた雪の欠片めいた繊細さ。
 他のものもじっくり見始めた男の後ろ、道の向かいでは、魔女が杖から星屑の幕を生んで客寄せの真っ最中。
「おいでなさい、ご覧なさい。此処に在るのは、魔女の魔法をひと匙加えた硝子玉。両手で掬い上げた硝子に灯る色と花は、貴方次第。運試しに如何? それか――」
 自分ですら知らない自分を、知れるかも。
 蠱惑的に笑う魔女の前には大きく、けれどそう深くない白の水瓶がひとつ。中は澄んだ水で満たされ、水中には大小様々な無色透明の硝子玉が洋燈の光を浴びて煌めいていた。
「かあさん、かあさん! あれやりたい、あれ、あれっ!」
「……一回だけだよ?」
「うんっ!」
 大きな声でずっとねだっていた幼子は仕方ないねと笑った親から許しを得てすぐ、硝子玉にも負けないきらきらを瞳に宿した。水瓶に駆け寄って両手をそうっと中へ。
 水面から出た瞬間、掌に乗せた硝子玉にぽとりと色が溢れ出す。黄色、橙、紅に青。賑やかに溢れた色と共に現れた飴や手鞠はきっと、遊びたい盛りの心が映ったから。

 華麗に、または素朴な姿で、中を満たす香りを待つ香水瓶。
 果実、惑星、花、海中――様々な形のペーパーウェイト。
 そのものがひとつの花めいたもの、レリーフが施されたもの、無色、一色。活ける花はまだ無い花瓶たち。
 アクセサリーの店なら向こうに、と指されたそこにはお洒落を楽しむ老若男女の姿。
 とんぼ玉やビー玉だったらあっちだよと、ろくろ首の娘が首を伸ばして言う。

 数多の硝子と、沢山の笑顔。そして店が並ぶ通りに、ぽつりぽつりと空っぽの場所がある。そこには店を出す予定の者が“いた”――二人一組で見回っていた鬼の兄弟が告げた空間には今、休憩用の椅子と机が置かれている。
 
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎

これがガラスだなんて信じられないな
そういえば、事件が起きていると聞いた。何か被害者に共通点とか無かったか?

SPDで判定
俺は硝子市であちこちを見て回りながら、視力や聞き耳、暗視で情報収集を行う
硝子のコップ、アクセサリー、季節外れだが風鈴とかあれば見てみたい
そういう品を幾つか買いつつ店の人や近くの村人に被害者の共通点や以前と何か少しでも変わった人や物がないかも聞いてみる
改めて聞かれると思い出すこともあるかもしれないし、普通の事をしていても変わったのなら原因があると思うから聞いても損はないはず
必要なら追跡、優しさ、落ち着き、救助活動も併用する


ノヴァ・フォルモント
事件の事も気になるが
まずは数多の煌めきが並ぶ硝子市へ
光を受けてキラキラと輝く硝子の世界
密かに心躍らずには居られない

見るだけでもと思っていたが
何かひとつ、手に取りたくなった
そうして目に留まったのは
星空を閉じ込めたようなペーパーナイフ
深い瑠璃色の夜空に白い星屑を散りばめた様な
満天の星夜にも負けないくらい綺麗だ
―これ、頂けるかな?

店主が包んでくれた商品を受け取り
ありがとう、と軽く礼を

序でにと例の事件の話を切り出して
いま猟兵達で情報を集めている所なのだが
被害者に何か共通点はあったりするのだろうか
例えば見目姿
普段の習慣や行動とか

…同じ村の仲間が被害に合っている
心中穏やかでないと思うが
話せる範囲で構わない



 村全体に暗い影を落とす連続殺妖事件。それでも硝子の煌めきは絶やされることなく生まれ、キラキラと揺らめく数多の光と色はノヴァ・フォルモント(待宵月・f32296)の心に密やかな輝きを生むばかり。
 見るだけでも、と思っていた心は現物を前にほろりと解けていたノヴァは、何かひとつ、と視線を巡らせる。
 そんな黄昏空から連れてきたような朱色の目を留めたのは、ひとつのペーパーナイフだった。深い瑠璃色に浮かぶ砂粒のように細かな白色たち。星屑を散りばめた夜空から綺麗に切り取って、ペーパーナイフという形を得たかのような見目。
 満天の星夜にも負けぬくらい綺麗なそれを見つめていると、コボルトの店主に目線で“どうぞ”と促され手に取った。よく磨かれた面を、灯りの色がつるりと駆けていく。
「――これ、頂けるかな?」
 自然と告げたそれに店主が嬉しげに笑みを浮かべ、少々お待ちを、と言って数秒。綺麗に包まれた品を受け取ったノヴァは、ありがとう、と軽く礼を言い――、
「いま猟兵達で情報を集めている所なのだが、」
「そういえば、事件が起きていると聞いたんだが……」
「ん?」
 被害者に何か、と言いかけた時に聞こえた単語がノヴァの視線を引っ張った。
 連続殺妖事件のことを話している近隣の村人か。それとも、他の猟兵か。
 声の主を探したノヴァの視線の先にはひとつの店と――客らしき青年が、一人。

「あら、お兄さんたくさん買ってるのね! 良かったらうちのも見てかない?」
 こっちこっちと明るい声に招かれるルイス・グリッド(生者の盾・f26203)の手には袋がひとつ。中にはあちこちを見て回った戦果である硝子たちが、新聞紙や箱でしっかりと包まれ、守られている。
 硝子のコップ、アクセサリー。気付けば増えていたルイスの荷物は、後ろで二つに別れた猫の尾を揺らす店主にとって、“硝子市を楽しんでるひとがいる”という証であり喜び。
 そんなぴかぴか明るい笑顔の上では、硝子が音色を響かせていた。
 妖怪たちと硝子が紡ぐ心地よい硝子市の音に、ちりりん、と澄んだ音色が重なり続ける。
「風鈴か」
「そう。夏以外で楽しんだって罰は当たんないでしょ?」
「そうだな。季節外れだが、見てみたいと思っていた」
 幽世の風景を描いた風鈴や、赤から緑に変わりゆく可愛らしい林檎の風鈴などなど。見上げるそこに吊るされている風鈴は個性的であり、同時に美しい色を宿している。――トマトにカボチャ、スイカと、丸みを帯びた果実や野菜が多いのは店主の好みらしい。
「これがガラスだなんて信じられないな」
「ふふ、美味しそうでしょ?」
 じっと観察するも、楽しげに笑う猫又の店主にも風鈴にも、これといって奇妙な点は見当たらない。ルイスは気に入ったひとつを選び、それを包み始めた店主に“そういえば”と、ノヴァが拾った言葉をかけるのだった。


 硝子市の一角、比較的賑やかなそこに二人は紛れ込んでいた。
 ここなら自分たちの声は周りの音にかき消され、口元をさり気なく隠せば、周りからは何を話しているか全くわからない。――そも、気にする者がいるとすれば、それは犯人くらいか。
「どうやら、思う以上に猟兵は信頼されているらしい」
「ああ。同じ村の仲間が殺されていくなど、心中穏やかじゃないだろうに」
 答えてくれた店主の顔を思い出しながらそれぞれが得た情報を交わす。
 判ったことは二つ。
「被害者の容姿、種族に共通点は無し。被害に合う前の――普段の行動や習慣におかしな点も無かったそうだよ」
「ただし、どの遺体にも細い縄のような痕が残っていた、か」
 おそらくそれが被害者たちを殺した凶器なのだろう。しかし、村人総出で村にある縄という縄全てと痕を照合しても合致するものは見つからなかった、という話だ。
「犯人が誤魔化した。凶器を処分した。上手く隠した。……それか、」
 ルイスの銀眼が周囲へと向けられる。それを追ったノヴァは静かに頷き、硝子市を行き交う姿を眺めた。
「宿主の内に、凶器と犯人が隠れている――か」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)へェ…頑丈な妖怪を殺すたァよっぽどのチカラさ。しかも誰だかわからねェ。もしや自分かもしれねェときちゃア、こりゃアとんでも怖いハナシさ。今を生きる"いのち"どうし、殺し合うなら別にいいが。《過去》が関わるンはダメだろう。探さにゃアな。
行動)ガラス自体に興味はないが、細工を見るのは好きだよ。"いのち"の磨いた技術の結晶だ。そォさな、テキトウ高いの買おう。細工が細かいのがいい。目の前で作ってくれりゃア最高だ。カネは冥府に積もるほどある…ちと呪われてるが、妖怪ならヘイキだろ。かわりに死体見つかった場所教えてもらおう。そこ行って地面と同化し、"大地の記憶"を覗けば犯人の姿も見えるンじゃあないかい。



 逢真の気を惹いたのは置物だった。
 春に芽吹き、夏に緑の盛りを迎え、秋を過ごし、冬に全ての葉を落とし――そんな時の流れを思わす裸の木と、枝に止まる漆黒色の尾長鳥。広がる枝にかかり下へと流れ落ちていく尾羽根は、色のせいか女の髪のようだ。
 黒一色のそれをじっと仄暗い赤眼に映せば、“いのち”が磨きに磨いた末に生み出した技術の結晶が、優美なラインと共に見えてくる。
「へェ。こいつはまた、実に細かい細工だ。……なア、こいつをくれないかい」
 目玉も頼むよと言って尾長鶏の頭、そこにある筈が無いものを指せば、作務衣を着た狼男がおうともよと笑って椅子に座り直した。ことりと小箱を開け、中にしまっていた硝子の粒をピンセットで器用に摘む。
「旦那、何色がいい?」
「そこは任せる」
「そうか。ところで、作った俺が言うのも何だがかなり高いぜ? 手持ち大丈夫か?」
「それなら心配要らねェよ、カネは冥府に積もるほどある」
「何だそりゃ。あんた凄ぇとこから来てんな」
 牙を覗かせ笑った狼男に、逢真は「まァそんなとこだ」と口で弧をえがいてみせた。
 冥府と呼ばれる世界が金で狭くなるのにどれほどの時間が要るのか、さすがにそれは逢真にもわからない。しかし使わず溜めて増えゆくままにするより、こうして使った方がいい。この村の経済も回るのだから、使って喜ばれこそすれ、恨まれることはあるまい。
(「……ちと呪われてるが、妖怪ならヘイキだろ」)
 生き延びる為に元いた世界から幽世へと逃れ、生き続けている“いのち”だ。柔な子供ならまだしも、大人ならば頑丈だろう。――だからこそ、逢真はにたりと笑む。
(「頑丈な妖怪を四人も殺すたァな」)
 余程の力を持っていると見えるが、誰かはわからぬ殺妖犯。その居所を、宿主を探して今を生きる“いのち”同士が殺し合うことになっても逢真はそれだけなら別に構わないが、《過去》が関わるのであれば話は別だった。

「ほォん、此処かい」
 そうして狼男から教えられ訪れたのは、最初の被害者である絞殺死体が見つかった場所だ。
 逢真は自身をそこにとかし、大地の記憶を覗き込む。
 始まりは何かがドサリと落ちた音と影。殺された瞬間か、それとも捨てられた時か。どちらにしろ死体は緑の上に転がり、そこから離れていく黒い衣と長い金髪は、夜闇にその姿を沈めていくようにして見えなくなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レモン・セノサキ
ニュクス

道すがら合流した妖狐の姉さんと

連続殺妖事件、ね
聞込みが基本だけど、犯人が憑依するんじゃ分が悪いね
よし、んじゃ早速事件現場で聞込みだ
ふふん?支離滅裂?
生者は他に任せて、私らは死者に聞くのさ

この世界にだって残留思念は在る筈だ
視力のチャンネルを弄り、翻る思念を見つけ
「銀塊」から銀の欠片を精製、放り込む
降霊術でゴーストへ昇華させ、話を聞こう
殺された後、相手から何か抜け出るものは見なかったか?
その特徴は?
死した後のキミの目には何が映っていたのか教えて欲しい

女物の着流しを着て硝子市を見て回る
切子細工か、見事だなぁ
この「夜明けの猫」のグラス、一つ頂戴

ところでクロム
市を歩く間、結界の鳴子は鳴ったかい?


クロム・エルフェルト
ニュクス

合流したヤドリガミの不思議な女の子、レモンと
死者への聞き込みをする
希望されれば浄化の炎で焼却
天にきちんと葬送する、ね

硝子市を散策する
刀を佩いた猟兵が歩いているのを見せれば
少しは市の妖怪たちも安心してくれるかな

まだ見習いの職人さんだろうか
若い猫又の店主さんのお店ではたと足が止まる
――綺麗。
これ、貴方が作ったの……?
透き通る海の様な、蒼い硝子の徳利を見つめる
これ、下さいな。
あと、その……金魚の切子の杯も二つ。
一応事件の情報も聞いておきたい、な。

散策中は"得られた特徴の憑き物への接近を感知する"
鳴子のような結界術を自分の周囲に纏わせる
反応が一箇所から動かなければ店主、頻繁に動くなら客……だね



 硝子市のさなかとはいえそう大規模なものではなく、市を行く道すがらに合流するのは簡単だった。
 クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)は隣を歩くレモン・セノサキ(金瞳の"偽"魔弾術士・f29870)に、ちら、と視線を向ける。
「……それで、どうするの」
「うーん、聞き込みが基本かなって。ただ犯人が憑依するんじゃ分が悪いね」
「うん……嘘をつかれたら、わからない、し」
 言葉と表情は静かに、淡々と。けれどその分、耳をぺたんとさせて“どうしよう”を無意識にこぼすクロムに、レモンは「よし」と明るい笑顔を見せた。
「んじゃ早速事件現場で聞込みだ」
「……? でも、今、」
「ふふん? 支離滅裂だって? 大丈夫。生者は他に任せて、私らは死者に聞くのさ」
 レモンは硝子市を眺めるフリをしながら周りを確認し、こっち、とクロムの手を引いていく。少女二人がじっと足を止めても変に思われない場所を見つけたら、もう一度周りを確認し、“視力のチャンネルを弄った”。
 開かれている目が見ているのは、この世界に翻る残留思念。ふわりゆらりと見えるそれらの中にお目当てを見つけた瞬間、レモンは取り出しておいた銀の塊から欠片を放り込んだ。
 思念に触れた銀がその姿形を得ていけば、出会う筈のなかった存在が――何者かに殺された妖怪が、ゴーストとなって二人の前に現れる。
 それはごくごく普通の男に見えた。簡素な洋装に身を包み、指と指の間には水かきがある。水棲の妖怪か妖精なのだろう。ゆっくりと開かれた目が数回瞬きを繰り返し、不思議そうに二人を見た。
『……誰だ?』
「猟兵というものだよ。キミを殺した相手について教えてほしいんだ」
『……』
 当時を思い出したのか、男の口は動いていないというのに空気が低く震えた。ああ、と嘆くような音にレモンは表情を引き締め、尋ねる。
「殺された後、相手から何か抜け出るものは見なかったか? その特徴は? 死した後のキミの目には何が映っていたのか教えて欲しい」
 銀色の、つるりとした目がゆっくりと伏せられた。
 唇が震え――無いよ、とこぼす。
『初めて会った男に話しかけられたんだ』
 金の装飾で蔦を描いたターコイズ色のゴブレット。見事な色だなと言われ、はて誰だろうとそう思った瞬間、視界に無数の紅が舞って視界が覆われた。
 一瞬だった。全身が砕かれる音と共に意識は途切れ――ああ、あの時に僕は殺されたのかと、力ない声がこぼれていく。
『黒色の、アジアの古い衣装を着た男だった。獣の耳と尾を生やした……きっと、猫の類だ。月のような金の毛並みだったのを、覚えてる』
「……そっか。ありがとう」
 全身が砕かれる音。つまり。
(「彼は二番目に殺された妖怪か」)
 一件目の続きが起きるとは誰も予想していなかった頃だ。故に一人で行動し――そして、何らかの理由で、どこかで目をつけられたのだろう。姿を現した犯人に殺され、川に捨てられた。宿主の姿は、見ていない。
 
 予期せぬ最期に心残りはあれど、手厚く弔われた魂は時が来れば天へ向かうと言い、クロムの気遣いに感謝を示しながら姿を消した。それを思い出しながらクロムは佩いた刀に触れる。
(「……安心、してもらえてるみたい」)
 たまに市の妖怪たちと目が合うが、そのたびに笑顔を向けられる。女物の着流しを着たレモンが明るく手を振れば、振り返されることも少なくない。
 事件に負けないという気概を感じる中、はた、と足が止まったのは若い猫又の店主が切り盛りする店の前。並ぶ色が鮮やかに見えるのは、色と透明な模様が互いを惹きたてあっているからだろう。
「切子細工か、見事だなぁ」
「――綺麗。これ、貴方が作ったの……?」
「ええ、わたし。ふふ」
 笑った店主の尾がぴこんと立つ。透き通る海色硝子の徳利を見つめるクロムを見た店主の目が、ゆるりと細められた。言葉は少ないが、嬉しい、が伝わって何だかくすぐったい。
「これ、下さいな。あと、その……金魚の切子の杯も二つ」
「私はこっち、この『夜明け猫』のグラス、一つ頂戴」
「はぁい。ちょっと待っててね」

 そうして得た煌めきは三つ、情報は複数。
 結界の鳴子は静かなまま。
 五件目の犯行は、まだ、起きていない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

すげぇ
硝子細工沢山だ
壊さねぇように見ねぇと
わりと好きなんだ?
人出も多いな
気を付けてと手差出し

瑠碧姉さんは何が気になる?
簪…はあんま使わねぇもんな
普通に小さい置物とかの方がいいんかな
それともアクセ?
あ、あれ鳥だ
花も綺麗だな
何か欲しいのある?
…そっか
少しだけ残念げに

俺は
…風鈴は一緒の時に仕立てたし
食器か何か…
ペアグラスか
アイスとかプリン入れられるような皿か
かき氷もいけそうなボウル
家に置いといて一緒に使える奴が欲しい
少し照れくさそうに食器眺め
ありがとうな
瑠碧姉さんが選んでくれるなら安心だ

おっいいな
一緒に使うんだ
淋しいはずねぇだろ

じゃあ俺はこのボウル
縁が花弁っぽくね?
色違いにする?

うん
楽しみだ


泉宮・瑠碧
【月風】

硝子ばかりの世界は
偶に見ていますが…
何度見ても、凄いです
はい、と手を繋ぎ

私は…
宿生活なので
飾る物は、買っても置く所が難しくて…
見るのも、好きなので
小さな細工が、見たいです
掌に乗る位の、小さな硝子の鳥や花を見て
目もきらきら

なので、理玖の買い物と一緒に
私は鑑賞しますね
と、買う物を聞いて、頬が少し赤く
…そ、そう、ですか…
お揃いなら、グラス…でも、器も…
…なら、私が欲しい物は、グラスで
理玖は器にして
どれも、買って行きましょう

理玖、理玖、これは?
枝葉に番の鳥模様が控えめに入るペアグラス
片方のグラスだけでも、鳥が番で寂しく無く
二つ使えば、お揃いです

では、揃いの色違いで

…今度、一緒に使いましょう、ね



 右と左。過ぎていった後ろ。これから向かう前。
 どこもかしこも、目を奪うような硝子ばかり。
 すげぇ、と思わず呟いていた陽向・理玖(夏疾風・f22773)は気になったものを近くで見るのも慎重になっていた。壊さねぇように見ねぇと――聞こえたそれも、二度目の“思わず”。優しい心が垣間見える言葉に、泉宮・瑠碧(月白・f04280)の表情がほのかにやわらいだ。
「硝子ばかりの世界は偶に見ていますが……何度見ても、凄いです」
「瑠碧姉さん、こういうのわりと好きなんだ? っと、人出も多いな」
 気をつけてと差し出した手に、はい、と細く白い手が繋がる。
「瑠碧姉さんは何が気になる?」
 簪――は、あまり使わないのを覚えている。長く淡い青の髪は、一部を結うことはあっても、今日のようにほとんどは下ろしたままだ。そういや浴衣の時はまとめてたな、なんてその姿を思い出すと、何やら少しばかり頬に熱が行く気がした。
 小さな置物の方がいいだろうか。
 それともアクセサリー?
 熱を冷やすように硝子の方に意識を向ければ、様々な輝きがきらりと輝いて。
「瑠碧姉さんは何か欲しいのある?」
「私は……宿生活なので。飾る物は、買っても置く所が難しくて……」
「……そっか」
「見るのも、好きなので。小さな細工が、見たいです」
「んじゃ、見に行こうぜ」
 少しだけ残念そうだった声は、小さな願いを聞いて明るく輝いた。
(「あ、あれ鳥だ」)
 瑠碧の好きなもの。どの命も大切に想う瑠碧が、特に愛おしく想う生命のひとつ。
 春、夏、秋、冬と、様々な花もきらきらと輝いて――それらは理玖だけでなく、瑠碧の心も惹きつけ、目を輝かせる。
 理玖は?
 ふいに尋ねられ、理玖はうーん、と考える。
「風鈴は一緒の時に仕立てたし、食器か何か……家に置いといて一緒に使える奴が欲しいな。ペアグラスか、アイスとかプリン入れられるような皿か。……あ、かき氷もいけそうなボウルもいいんじゃねぇかな?」
 瑠碧姉さんはどう思う、とこちらを見る目はいつもの理玖だ。けれど、その内容で瑠碧の頬が少しだけ赤くなる。理玖がさらっと口にしていたのは全て、一人ではなく二人で使う為のものばかりだったから。
「……そ、そう、ですか……。お揃いなら、グラス……でも、器も……」
 どちらにしようかと悩んだ時間は、そう長くなかった。
 なら、と瑠碧が提案したプランはこう。瑠碧が欲しいものはグラスに、理玖は器に。どちらも買って行けば、こっちは諦めてこっちだけ、と悩んで一つを諦めることもない。
 そんな風に出来るのは、一人ではなく二人だからこそ。
 そうと決まれば早速と、二人はグラスと器探しに向かう。
 二人で探せば、一人で探すよりもずうっと早く――あ、と瑠碧の瞳が瞬いた。
「理玖、理玖、これは?」
「おっいいな」
 くいくいと袖を引いた瑠碧が指すのはペアグラスだ。枝葉に番の鳥模様が入っているが、控えめに施されているそれはどこか優しくて心地よい印象。それに。
「片方のグラスだけでも、鳥が番で寂しく無く、二つ使えば、お揃いです」
「さっすが瑠碧姉さん。けどさ、一緒に使うんだ、淋しいはずねぇだろ」
「そ、そう、ですね……」
 かぁ、と赤くなった頬に理玖は笑い、じゃあ、と並ぶ品々を見つめ――おっ、と青い目をぱちり。視線を追っていた瑠碧に、青い眼差しが向く。
「俺はこのボウル。縁が花弁っぽくね?」
「言われてみると、確かに……」
「だろ? あ、色違いにする?」
「では、揃いの色違いで。……今度、一緒に使いましょう、ね」
「うん。楽しみだ」
 揃いの色違いを買うことも。
 買って、持って帰ることも。
 そして――二人で選んだそれを使う、ささやかなひとときも。
 全てが二人だけの、宝物。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宵と手を繋ぎ硝子市を行く
祭りの様な賑わいにはついぞ浮足立ってしまいはするが…情報収集も忘れては居らんぞ?
そう言訳じみた言の葉を宵へ向けつつ宵の笑みに僅かに表情を緩めながらも、涼やかな音を漏らす風鈴に気づけばついぞ足を止めてしまう
紫色と青の朝顔鮮やかに描かれたそれに目を奪われれば購入を
その、なんだ。俺と宵の様だと思って、な…と
…宵も考える事は同じか
そう宵の指さすそれをみればついぞ顔を見合わせる様笑みを浮かべてしまうやもしれん
序に何か変わったことはないか、又狐里堂という店の情報を尋ねつつ革袋に割れぬ様購入したそれを仕舞って行こう
これ以上被害が出ぬ様動きたいが…何処に居るのだろうな…


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

手に手を取って硝子市をめぐりましょう
どこか落ち着かない足取りのかれには
ええ、わくわくしますねとかれに微笑んで

ふと足を止めたかれに続いて店の軒先を見れば
軒下から吊り下がるように飾られた、お手玉大ほどの大きさの透明な硝子玉と
それから青と紫色がとんぼ玉のように混ざり合う意匠のガラス細工が吊られたサンキャッチャー

振り返ったなら、先に風鈴を購入していたらしいかれに気づき、その手元を見て
ええ、素敵ですね
僕もこれが気になりまして、と軒先に吊られたそれを買い求め

その後はかれとともに「情報収集」を使用して聞き取りを
ええ、被害を抑えるために、今できることをやりましょう



 手に手を取って巡る硝子市は、硝子が宿す色と洋燈や提灯の灯りが不思議と重なりとけあい、祭りのような賑わいと共に心を照らしてくる。――故に、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)はついつい浮足立ってしまうのだが。
「……情報収集も忘れては居らんぞ?」
 言い訳のような――真面目な彼らしい言葉に微笑み返した逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は、ザッフィーロの足取りが落ち着かないものになっていると当然気付いていたのだけど。
「ええ、わくわくしますね」
 そう言って向けられたやわらかな笑みに、ザッフィーロの表情が僅かに緩んだ時。りん、と射し込んだ涼やかな音色で、表情だけでなく、その足も止めてしまう。
 繋いでいた手がほんの少しだけ引っ張られ、そっと離れた。ふと足を止めたザッフィーロに続いて足を止めた宵は、どうしました、と隣を見上げ――静かに輝く銀の眼差しを追って、店の軒先へと辿り着く。
 そこから吊り下がるように飾られているのは、お手玉ほどの大きさをした透明な硝子玉だ。ザッフィーロの手ならばあれくらいの硝子玉は包めそうだなんて思いながら、その隣で煌めくサンキャッチャーに目が向かう。
 硝子の中、とんぼ玉のように混ざり合う色は青と紫。あれが朝日を浴びて揺れたなら、どんな光が、煌めきが――青と紫が、躍るだろう。
「宵」
 呼ばれて振り返る。
「その、なんだ」
 落ち着いた声に滲む表情と、その手元にあるもの。涼やかな音を紡いでいた硝子を手に、宵を映していたザッフィーロの双眸が手元の硝子へと向いた。
「俺と宵の様だと思って、な……」
 ふわりと膨らみを持ったそこに描かれている紫色と青の朝顔。鮮やかに咲くその花に一瞬で目を奪われた心には、ぴこん、と購入ボタンが浮かんでいたのだ。悩む時間なんてこれっぽっちも無かった。
「ええ、素敵ですね。僕もこれが気になりまして」
 微笑んだ宵の手がそっと指した先を見れば、風鈴とはまた違った音色を響かせるサンキャッチャー。二人は自然と顔を見合わせて、
「……宵も考える事は同じか」
「はい。きみと同じです、ザッフィーロ」
 風鈴に咲く朝顔と、サンキャッチャーの中で舞う色。愛しく大切な唯一と同じ色を宿したものに惹かれた者同士、くすりと微笑みを浮かべ合った後、購入した品は新聞紙で優しく包まれて箱の中。
「お待たせ致しました! お買い上げありがとうございます!」
 笑顔で狸尻尾を揺らす少年は、最近、接客係に抜擢されたそう。
 誇らしげな様に二人は表情をやわらげて――ひとつ尋ねたいことが、と切り出した。
「何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わったこと、ですか? うーん…………あっ!」
 まだ冬毛のせいか、ふかふかとした尻尾がぴこんっと跳ねるように揺れた。
 狸の少年は周りを気にしながら長身の二人へと背伸びをしようとして、それに気付いた二人はさり気なく身を屈め、短く頷いて続きを促す。二人の気遣いに少年が小さく礼を言い、あのですね、と囁いた。
「親方たちは気をつけてますけど、硝子膨らましてる時とか、どうしても割れちまうことがあるんです。けど、その欠片が減ってることがあって……」
「欠片、ですか……光り物に弱いどなたかが持ち帰っているという可能性は?」
「ない、とは言い切れない……光り物に弱くて、そんでもって、緑好き……?」
「緑?」
 少年が頷く。赤や青、黄色や桃。欠片の色は様々で気付けば無くなっているのだが――頻度が高いのは緑色の類だという。
「もう一ついいだろうか。狐里堂という店はどこに?」
「それならここからずっとあっちに行って……」

 狐里堂。
 化け狐の一家が営む硝子細工の店であり、最近、そこの息子がめきめきと腕を上げているらしい。師匠は当然店主である父親なのだが、息子憧れの職人は天狗のツバキなのだとか。
 店の目印は、尾を咥えて輪を描いている狐の看板。
 あれだな、と呟いたザッフィーロの声にかすかなものを感じ取った宵が見たのは、眉間にうっすらと刻まれた皺だ。
「これ以上被害が出ぬ様動きたいが……何処に居るのだろうな……」
「ザッフィーロ」
 名を呼び、手を繋ぐ。瞳は、自分を見た銀の双眸へと真っ直ぐに。
「被害を抑えるために、今できることをやりましょう」
「……ああ、そうだな」
 共に二人――今できることを、できる限りに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
【きょうたか】
ツバキさん、お勧めの品はあるっすか
こういう市を見て回るのって初めてなんっす
職人さんなのになんで今回は客専門なんっすか
何か憑かれているとかっすか(疲れているとも聞こえる音で冗談めき
俺達、酒器を探しているんっす

誉人と並び酒器選ぶ
これから冷酒が美味しい季節っすよね
なんっすか?誉人の手元覗き
良い器っす!
氷を浮かべたら沈む太陽みたいじゃないっすか
月に見えたら絶景っす、空を呑む贅沢な器っす!

わ!この器すごいっす!酒を注いだら絵が出たっす!
目を輝かせ興奮
へええ、温度が変わると絵が浮かび上がるんっすか!不思議な器っす!

いいっすね
この万年春の器なら飽きがこない酒宴になるっす
誉人の好きな物も一杯っす


鳴北・誉人
【きょうたか】
饗の後ろをついてく
彼とツバキの会話を聞きながら
様々な硝子に目移り

彼女との話は饗に任せ
酒器が並んでる店へ

折角酒が飲めるよォになったンだから買ってこォぜ
冷酒グラスがいい

切子、薄張…へえ、グラデーション
饗、コレ見て
夕日と夜空だってェ、キレイ
氷が月みたいに見えンなら、ちょっとイイかもなァ…

ん?どれ?

饗のびっくりにつられてそちらを見れば
裸の樹が描かれてるだけだったグラスに梅が満開になって
おまけに枝に鳥が止まってる
こんな仕掛けグラスを今まで見たことがなく目を丸めて

すげえ!どうなってンだろうな!

饗、コレにしねえ?
春から秋にならねえって?
春夏秋冬、お前と一緒にコレで飲む酒だろ?楽しいに決まってる



「ツバキさん、お勧めの品はあるっすか。こういう市を見て回るのって初めてなんっす」
「そうなの? ふむ、どんなのが欲しい?」
「そうっすねえ~」
 周りを眺めて腕を組んでと悩む香神乃・饗(東風・f00169)だが、あれっ、と目をぱちくりさせる。その視線を受けたツバキも、どうしたんだいと目をぱちりと瞬かせた。
「職人さんなのになんで今回は客専門なんっすか? 何か“憑”かれているとかっすか」
「あっはっは、そうかも。記憶が飛ぶことあって。とうとう年ってやつかなぁ。疲れてるのか、最近ちょっと調子がね。まあ、今回は思い切り買って楽しんで、次の硝子作りに生かすんだ!」
 あ、お腹は減るしご飯も食べてるよと笑うツバキの空気はからりと明るい。
 饗は「睡眠とか大事っすよ!」と笑いながら窺った。疲れているとも聞こえるよう冗談めかして言ってみたが、ツバキ自身は“疲れてる”可能性があるとは思っていても、“憑かれてる”とは思っていなさそうだ。
(「もし取り憑かれてても記憶無いっすからね、当然といえば当然なんすけど」)
 それでも何かおかしいと思うなら、それを口にしただろう。
 記憶が、という部分がそれだろうか?
 饗はちら、と視線をツバキの後ろ――鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)に向けた。ん、と頷きが返ってくる。あまり深くは突っ込まない。取り敢えずはここまでだ。
「そうだ。俺達、酒器を探しているんっす」
「酒器か。じゃあ先ずは一式揃えてるところがいいかな。こっちだよ、ついて来て」
 向かう道すがら、こういう酒器がいいならあそこが、こんな風に飲みたいならあそこの店がと語るツバキとそれに相槌を打つ饗。二人の会話は後ろをついていく誉人の耳に入り、並ぶ硝子たちは視界を彩っては目移りさせてくるばかり。
「まずはここだね。ここの店主はびっくりするくらい親切だから、何か気になったら訊いてみなよ」
「あれ、どっかご用っすか?」
「さっき通り過ぎた店に気になる硝子があってね。じゃ!」
 ぱッと手を上げたツバキが大股で去っていく。その勢いに誉人は肩を震わせ、ホント好きなんだねェと笑いながら店先に並ぶ品々を見て目を細めた。
「折角酒が飲めるよォになったンだから買ってこォぜ。冷酒グラスがいい」
「これからが美味しい季節っすよね」
「そ。切子、薄張……へえ、グラデーション」
 やわらかに移るものがあれば、淡い色から鮮やかな色へと変化を大きく見せるものまで様々。凝ってるねえと笑った誉人は、あるものを見つけ迷わず饗の名を呼んだ。
「なんっすか?」
「コレ見て。夕日と夜空だってェ、キレイ」
 硝子に宿るのは一日の終り。暮れなずむ空と、浮かび始めた夜の色。良い器だと声弾ませた饗は、そこに氷を浮かべれば沈む太陽みたいじゃないっすかと笑顔で誉人を見た。
「氷が月みたいに見えンなら、ちょっとイイかもなァ……」
 例えばだ。曇り空の日でも、この酒器なら一日の終りと月を手元に酒を味わえる。晴れの日なら本物の空と硝子に宿る空、両方を楽しめるのだ。
「月に見えたら絶景っす、空を呑む贅沢な器っす! ……ん? わ、この器すごいっすよ誉人!」
「ん? どれ?」
「酒を注いだら絵が出たっす!」
 そう言って目を輝かせ興奮する饗の手元には、聞いた言葉通りのものが存在していた。
 元々は裸の樹が描かれているだけだったグラスに満開の梅が咲き、枝には鳥が止まってと、まさに春爛漫。初めての仕掛けグラスに誉人の目はまん丸で、二人の反応に、元々は森の小動物だったという小さな妖怪が誇らしげに胸を張る。
「すげえ! どうなってンだろうな!」
「……え? ふんふん……へええ、温度が変わると絵が浮かび上がるんっすか! 不思議な器っす!」
「饗、コレにしねえ?」
「いいっすね。この万年春の器なら飽きがこない酒宴になるっす。それに、誉人の好きな物も一杯っすよ!」
 饗の言葉が含んでいる遊びに、誉人は丸めていた目をにんまりと細めて笑った。
 春から秋にならねえって? なァに言ってんだ。
「春夏秋冬、お前と一緒にコレで飲む酒だろ?」
 だったらそんなこと、飲む瞬間が来る前からわかりきっている。
 この酒器を手に、隣で笑う存在との酒盛りなのだ。
 そんなの――楽しいに決まってる!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、連続殺妖事件ですよ。
真実に近づきすぎた人は被害者になってしまうんですよ。
だから、硝子市の方に行きませんか?アヒルさん。
ふええ、やっぱりダメなんですね。
捜査は現場百篇が基本って言われても次の犯行が行われたら意味がないと思いますよ。
あの、アヒルさん、予知で被害者さんは分かっているから、こんなところにいるより、被害者さんの側にいた方がいいんじゃないですか?



 さっ。ささっ。
 右見て左見て。
 さっ。ささっ。
 ちょっと飛んで高い所から。伏せて地面をじっくりと。
 周りを熱心に観察するアヒルさんの後ろで、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)もおろおろしながら周りを気にしていた。
 この村では今、連続殺妖事件が起きている。既に四人が犠牲となっており、自分たち猟兵が現れなければ確実に起きる五件目を防ぐ為、他の猟兵が情報収集に励んでいる――のだが。
「あの、あの、アヒルさん。真実に近づきすぎた人は被害者になってしまうんですよ。だから、硝子市の方に行きませんか? アヒルさん」
『クァッ』
 ぱっと顔を上げたアヒルさんの表情が変わる。つぶらなお目々がきゅっと上がって――つまり、バツだ。ブブーッと音が聞こえそうな反応にフリルはがっくりと肩を落とす。
「ふええ、やっぱりダメなんですね」
『クア、グァグァ』
 その通りと胸を張ったアヒルさんは、再び周りの観察を始めた。
 硝子と妖怪たちで賑わう硝子市からは離れた場所だ。周りの風景は、野山に囲まれたのどかな田舎そのものといった雰囲気で、恐ろしい事件さえ起きていなければ、夜の散歩をのんびりと――なんて楽しめただろう。
「あの、アヒルさん。捜査は現場百篇が基本って言われても、次の犯行が行われたら意味がないと思いますよ」
『クアッ』
 アヒルさんが首を振った。現場にヒントが残っているかもしれない。それが次の犯行に繋がるなら調べることには意味がある! そう語る空気と動きに、「でもアヒルさん」とフリルはおずおずと話しかけた。
「予知で被害者さんは分かっているから、こんなところにいるより、被害者さんの側にいた方がいいんじゃないですか?」
『!!』
「わ、わかってもらえましたか? よかっ、」
 ばびゅんっ。
 目の前で風が起きた。アヒルさんが猛スピードで走り出したせいだ。つまり――置いて行かれた。周りに誰もいない夜空の下、フリルはハッと我に返り慌てて追いかける。
「どこ行くんですかアヒルさん、待って下さい~!」
 あわあわぱたぱた追いかける姿を、空に浮かぶ満月だけが見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シュデラ・テノーフォン
ヴィル君(f13490)同行

何だか嬉しいな
硝子はどこでも綺麗に輝いて皆の心を惹き付けるんだね
そうだねヴィル君、素敵な景色だ

是非カクリヨの硝子技術をツバキちゃんとか職人さん達から聞きたいな
形や色付の工夫とかの説明は記憶だけじゃ難しいと思うんだ
答え方曖昧なら怪しいかもね
本物なら俺の作品、飴入り硝子の南瓜も見せたりして色々勉強させて欲しいな
飴は話の礼に差し出しつつ

ストラス君はソッチ行く?
じゃエリーちゃんは不可視のハーキマーに護衛兼ねて追跡監視させよう
見回り中の彼女と周辺で気になる事は報告宜しくね

後は職人の自信作を観賞と勉強用に…ア、アレも良いなァ
ヴィル君良いのあったかい?
じゃあ後で成果を見せ合おうか


ヴィルジール・エグマリヌ
シュデラ/f13408

涼やかな音色が聴こえる
目に映るもの総てが
煌めいて居て綺麗

妖の世界も物騒なんだね
こういうレトロな場所じゃ
電脳魔術も上手く活用できないし
私は見学に徹しようか

あ、でも追跡なら役に立てるかな
――おいで、可愛いストラス

宝石みたいな硝子細工が沢山あるだろう?
あとで好きなの買ってあげるから
天狗のマドモアゼル、ツバキの動向を見守っておくれ
危険に直面した時は守っておあげ

――さて
折角だから、硝子の宝石匣を買い求めよう
私は宝石を集めるのが趣味なんだ
金細工を施したものは有るかな
きらきらした匣のなかに
美しい石を仕舞えば、もっと綺麗に見える筈

シュデラはまた、いっぱい買ったね
あとでゆっくり見せておくれ



「何だか嬉しいな」
 隣を行くシュデラ・テノーフォン(天狼パラフォニア・f13408)に、ヴィルジール・エグマリヌ(アルデバランの死神・f13490)は「何が?」とは訊かなかった。何となくわかったからだ。
「硝子はどこでも綺麗に輝いて皆の心を惹き付けるんだね」
 ああやはり、と鮮やかな緑の目が細められる。
 硝子と、それを作った職人と、硝子を買い求める妖怪たち。目の前に広がる硝子市の様は、その手から硝子細工を生み出すシュデラの心に喜びを芽吹かせるばかり。
 ヴィルジールもまた、あちこちから届く涼やかな音色に心を照らされていた。
「目に映るもの総てが煌めいて居て綺麗だね」
「そうだねヴィル君、素敵な景色だ」
 お互い浮かべる表情は穏やかだ。どこを見ても美しい煌めきと笑顔があり――そこに連続殺妖事件が絡んでいなければ、見える輝きと聞こえる音色はより美しかったろうに。
「……凄い。こんなに深い翠なのになんて透明度。一体どうやって色付けを?」
「お前がそいつを訊くのか。昇り龍の置物を忘れたとは言わせねぇぞ、ツバキ」
 ふいに聞こえた会話はとある店から。そちらに目をやってまず飛び込んだのは美しい孔雀の置物ひとつ。それを挟んで熱いやり取りをしている小柄な老人と天狗の女は、会話からして職人だ。それに『ツバキ』、と。
 シュデラは狼尾をふわりと揺らし近づいた。
「俺も混ざっていいかな? 同じ硝子細工職人なんだ」
「見ない顔だね。猟兵? つまり……」
 ツバキの目つきが真剣なものになった。
 空気がぴりっと鋭くなって――キラッ!
「私らの知らない技術を知っていたり身につけていたりするんじゃあ……!」
「!!」
 警戒されたかと思いきやツバキと店主両方から注がれる熱い視線。期待に添えられればいいけどと気さくに笑うシュデラだが、色違いの双眸に不敵な、それでいて楽しげな光が宿った。それを見たヴィルジールがくすりと笑う。
「カクリヨの硝子技術と交換でね」
「抜け目ないね! でもそういうの好きだよ!」
 カラカラと笑ったツバキの隣に店主が椅子を用意すれば、三人の間で硝子に対する情熱話が花開く。生み出す形と色、そこに注ぐ工夫と情熱。淀みなく熱く語るツバキたちから感じるのは、彼らが本物であるということだけ。
「ありがとう、楽しかったよ。これはお礼に」
「こちらこそ。楽しんでって頂戴」
 硝子南瓜から差し出された飴を手に、じゃあねと笑顔で他店へ向かうツバキの背には、他で買った硝子たちが眠る木箱を抱えた風呂敷ひとつ。硝子談義を静かに見学していたヴィルジールはそれを見送ると、腰に佩いた処刑剣の柄頭で煌めく水宝玉に手を添え、囁いた。
「――おいで、可愛いストラス」
 現れた王冠頂く梟の悪魔、その智慧をたたえた瞳に周囲の煌めきが映る。その中にある遠ざかっていく天狗の背を追うよう、ヴィルジールは告げた。
「宝石みたいな硝子細工が沢山あるだろう? あとで好きなの買ってあげるから、天狗のマドモアゼル、ツバキの動向を見守っておくれ」
 危険に直面した時は守っておあげ。
 最後の言葉と同時に梟が空へと羽ばたいていくのを見て、「じゃ、エリーちゃんはハーキマーに」と笑ったシュデラの隣には不可視の有翼狼が現れる。託す役割は、見回りに励む魔女とその周辺で気にかかったものの報告だ。
「後は職人の自信作を観賞と勉強用に……ア、アレも良いなァ。ちょっと行ってくるよ」
「また後で」
 二人はそれぞれ輝きを求め、旅立って――そしてヴィルジールは、煌めく面に金細工を可憐に纏う宝石匣と出逢った。この中に美しい石を仕舞えば、宝石と匣はその美しさで互いを照らし、より輝くことだろう。
「ヴィル君良いのあったかい?」
「ああ、シュデラはまた、いっぱい買ったね」
 ひと目見てわかる“大漁”っぷりに笑みをこぼし、ゆっくり見せておくれと願えば成果を見せ合おうかと笑う声が返る。きっと狼からの報告もあるだろう――その推測は互いが得た輝きを見せ合う場で確かなものとなった。

 狼曰く、魔女の娘は見回り中に見かけたツバキが狐里堂の裏にて若き職人と語り合う様を見て、一人じゃないならと安心していたという。若者に怪しい点は無く――彼は少し緊張した様子で、淡い翡翠色の硝子朝顔をツバキにお披露目していたそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
あぁ、懐かしいですね。私の村も工芸品として玻璃を出していたんですよね。玻璃は玻璃でも現代で言うところの水晶でしたが、不思議なご縁もあるもので、親近感を感じてしまいますね。そんなわけで事件の解決に助力をしたいところなのですけど、お祭りが気になって仕方がないので、まずはお祭りから。色とりどりの美しい硝子細工って、その光を見ているだけで気分が高揚しますよね。酒器を見繕いつつ気になった魔女の硝子玉へ。一応満足したので、竜神の方達と買ったばかりの酒器を使ってお酒を飲みつつ情報収集と参ります。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。


水鏡・陽芽
硝子市っていうのがあるの?たくさんの硝子細工が見られそうだし楽しみ!でも事件も解決しないとね。こんなに素敵な物が作れる人達を犠牲にしたくないから

とりあえず色々なお店を見て回ってみようかな。キラキラと輝く装飾品とか小物とか、お花や動物のモチーフがあったらほしいな
それとお店の人とお話したい。どんな風に作っているかとか、どんなところにこだわっているかとか。その辺りも何となく気になるなって。あたしがヤドリガミだからかな?
あと長老さんにもお話を聞いてみたいかな。村に伝わる伝承とか面白そうだし

それと硝子市を見回りつつ、コミュ力と礼儀作法を使って情報収集。何か変わったことがあったら詳しく聞くよ



 硝子市。それは沢山の硝子細工が見られる場所。
『楽しみだな、とりあえず色々なお店を見て回ってみよう!』
 ――と思い硝子市に来た水鏡・陽芽(紅鏡は楽しさを探して・f14415)は、想像以上の光景を前に大きな深緑の目を輝かす。
 目の前にあった店では、霜が貼った窓硝子のような皿に色んな模様が浮かんでいた。四角い皿には星屑のような模様、丸い更には燕がひらり。
 そこから少し進むと、今度は花をモチーフにしたアクセサリーの店と出会った。本物を小さく可愛らしくしたような硝子の花から、現実にはない色をした硝子の花。イヤリング、指輪、腕輪などなど。ブローチはどれも透き通った色をしていて、何色の服につけようか楽しく迷ってしまいそうな予感でいっぱいで――、
「あっ……!」
 店先でビーズのような硝子玉と三日月硝子と連なって揺れる兎の飾り。可愛くて綺麗! と陽芽は笑顔で駆け寄り、間近で見る愛らしさにふふっと笑う。そんな様子に店員も嬉しげに笑い、好きなだけ見てってよと飴をくれた。
「ありがとう! ねえねえ、どんな風に、どんなところにこだわって作ってるの?」
「そりゃあやっぱ、とびっきりの別嬪に……可愛くって綺麗で、素敵な硝子になりますようにって思いながら、自分の呼吸と指先にすんごい集中して作るのさ。そして出来上がったのがこの兎たち」
 店員が兎の飾りを指先でつつく。触れ方と飾りを見る目は優しくて、何となく気になって訊いた結果に、陽芽は飴の甘さで口をいっぱいにしながらにこっと笑った。
(「気になったのって、あたしがヤドリガミだからかな?」)
 そうだ、気になるといえば――。

 店先で。誰かの手の中で。きらりきらりと輝く硝子たちが、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)の記憶に射し込み懐かしき日々を思い出させる。邪神の襲撃。荒廃。信仰が薄れてもなお護っていたあの村でも、工芸品として硝子――玻璃を出していた。
(「玻璃は玻璃でも現代で言うところの水晶でしたが……」)
 不思議な縁もあるものだ。
 親近感を胸に歩く晶の目には、煌めく品々とそれを楽しむ妖怪たちだけが映っている。彼らの為にも事件解決に助力を――と思うのだが、目の前に広がる硝子市が気になって気になって仕方ない。
(「まずは硝子市から」)
 無色透明、やわらかな白、淡い桃に紅、深い藍に若葉色。色とりどりの硝子細工をただ眺めるだけでも、その形と色彩からなる美と光が気分を高揚させる。それは酒器を見繕う時も収まることはなく、吟味すればするほど心が照らされていくようだった。
 その道中に寄った魔女の硝子玉も楽しんだところで、ほう、と息を吐く。手には吟味を重ねた末に決めた酒器を包んだ木箱がひとつ。これを楽しむなら“これ”もと用意した酒を手に晶は竜神の翁のもとへと向かい――、


「んん? 村に残る伝承かね」
「うん。面白そうだから色々聞かせてよ」
「私も興味があります」
 ばったり出会った二人の向かいで竜神の翁は長い尾を揺らし、これまた長い髭を指先でつう、と撫でながら「そうさなあ」と語りだす。
「村の東に玻璃堂というお堂が在る。あれはこの村最初の硝子職人であった、とある西洋妖怪を祀ったものでの」
 その西洋妖怪が周りに硝子というものを教えた。生み出した硝子の煌めきは周囲に学びたいという願いを生み、西洋妖怪はそれに応え、古い技術と新しい技術を積極的に取り入れて――と、この村に硝子の輝きを広めたのだという。
「今の村が硝子と共に在るのは、その西洋妖怪が居たからこそといえよう」
「この村には、そんな物語があるんですね」
 中には西洋妖怪の肖像画と、毎年始めに窯に火を入れて作った最初の硝子が収められているそうだ。硝子に籠められているのは、窯と火への挨拶、そして今年も硝子作りで事故が起きぬようにという願い。
「村みんなで大事にしてるんだね。じゃあ、全員で管理してるの?」
「いいや。管理人は毎年代わっておる。村の者の中から一人選ぶ決まりでのう」
 今代は天狗のツバキだと言って竜神の翁は酒に口をつけ――殺された者も酒が好きだったと、ぽつりとこぼした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
【ミモザ】
わぁ、どれもきれい!
目移りしちゃうね
悩むなら買った方が後悔しないからいいの!
英だって花の苗、いっぱい買うじゃない
あっ、ガラスペンあるかな?(話を聞いていない!
素敵なペンを使ったら字を書くのがもっと楽しくなりそうじゃない?

これから夏だし、風鈴とかグラスもいいよね
早くないよ、春はあっという間に夏になっちゃうんだから
英もハタチを過ぎたら分かると思うの
ブレーキない?そうかな…?
まぁいいや
素敵なグラス発見!
これに冷えたソーダーがしゅわわ〜ってなって、氷がからんって鳴ったらすごく美味しそうでしょ?
というわけで、このグラス色違いでふたつください
ひとつは英のだよ、せっかく来たんだからお土産。ね?


花房・英
【ミモザ】
目移りしてもいいけど、買うときはよく考えてからの方がいいんじゃない?
俺はちゃんと考えて買ってるだろ、寿は無計画…聞いてねぇし
ガラスペン?あるんじゃないか?(適当な相槌
書けそうだけど、気をつけないと壊しそうだな…繊細なイメージあるし
俺は壊したり無くしたりするくらいなら仕舞っときたい

は、今から春なのに気が早くないか?
そういうもんか
寿と過ごしてると時間早く過ぎるのと同じなのかな
あんた時々ブレーキなくなるでしょ

…ほら、そういうとこだよ
でも確かに美味しそうだな

ソーダを淹れて太陽に翳したら、綺麗だろうなとも思ったから
寿の提案は素直に受け入れよう
ちょっとだけ夏が楽しみ、かも



「わぁ、どれもきれい! ね、英。目移りしちゃうね」
 歓声と一緒にふわふわ躍った髪が、振り向くのに合わせやわらかに翻る。
「目移りしてもいいけど、買うときはよく考えてからの方がいいんじゃない?」
 買って帰った後に“そんなに必要じゃなかったかも?”なんてことが起きてしまうのが、買い物というイベント後にまあまあ起きるハプニング。
 だからこそ花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)は笑顔で硝子市を行く太宰・寿(パステルペインター・f18704)へ静かに釘をさしたのだが、返ってきたのは「もう!」と叱るような声と少しだけ膨らんだ頬だった。
「悩むなら買った方が後悔しないからいいの! 英だって花の苗、いっぱい買うじゃない」
「俺はちゃんと考えて買ってるだろ、寿は無計画……」
「あっ、ガラスペンあるかな? 素敵なペンを使ったら字を書くのがもっと楽しくなりそうじゃない?」
(「……聞いてねぇし」)
 並ぶ硝子と同じくらい心も瞳も輝かせて物色する寿へ改めて釘をさそうにも、フワンッと吹いた風に持ち上げられて届かない。そんな気分だ。――まあ、
「こんだけ店があるんだしあるんじゃないか?」
 素敵なペンで字を書く、という件については。書けるだろう。と、思う。
 思うが、ペンを形作るのは繊細というイメージがつく硝子だ。気を付けなければ自分の握力で壊してしまいそうで――だから。
(「壊したり無くしたりするくらいなら、仕舞っときたい」)
 そうすればいつまでもキラキラとして綺麗なままだ。
 何かに傷つき、壊れることもない。
 寿はそういった心配を全く抱いていないのだろう。ほらほらあれ見て、と無邪気に笑い、軽やかな足取りで英より少し前を歩いている。りりん、と聞こえた音色の主を見つければ、その足取りは緩やかに止まった。
「これから夏だし、風鈴とかグラスもいいよね」
「は、今から春なのに気が早くないか?」
「早くないよ、春はあっという間に夏になっちゃうんだから」
 英もハタチを過ぎたら分かると思うの、と8つ年上の寿に言われると“そういうもんか”と不思議と思ってしまう。――あ、そうだ。そう思う理由はきっと――、
「寿と過ごしてると時間が早く過ぎるのと同じなのかな」
「え、私と?」
「そう。あんた時々ブレーキなくなるでしょ」
 ブレーキ。
 はて、と寿は首を傾げた。
「ない? そうかな……? まぁいいや。あっ、あそこ、素敵なグラス発見!」
 もっと近くで見てみようよ。英の袖を指で摘んであそこあそこと引っ張れば、寿よりずっと背の高い8つ年下の少年は、クールな表情にほんの少しの呆れを浮かべながらも付いていく。
(「……ほら、そういうとこだよ」)
 目当ての場所に到着すれば止まりはするけれど、寿の瞳は、見つけた硝子の煌めきも色彩からも目を離す気配がない。犬張子の面を着けた店主の「良ければお手にどうぞ」を受け、グラスを手にした紅茶色の瞳に透き通った光と色がきらきら映る。
「これに冷えたソーダーがしゅわわ~ってなって、氷がからんって鳴ったらすごく美味しそうでしょ?」
「確かに美味しそうだな」
「というわけで、このグラス色違いでふたつください」
 迷わず立てられた指二本。
 くるりと振り向いた笑顔が英を見上げて笑う。
「ひとつは英のだよ、せっかく来たんだからお土産。ね?」
 硝子のグラス。
 しゅわしゅわソーダ。
 夏の暑さでグラスはすぐ汗をかくだろう。持てばひんやりと冷たくて、
「夏、楽しみだね」
 太陽に翳したら綺麗だろうな。そう、思ったから――指が二本立てられた時から閉じたままだった口が開いて紡ぐのは、
「……そうだな。ちょっとだけ楽しみ、かも」
 提案への、素直な同意。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

数多な世界の欠片を集めたような美しい市場だね
空の欠片や海の雫
光や闇の結晶に雪精霊の贈り物のようなものまで全てが硝子だなんて

然りと絡められた指先が嬉しい
高鳴る鼓動を隠して歩む
私の巫女は今日も美しい

どれも美しくて悩んでしまう
きみとのとっておきを見つけたいと硝子市を巡る
笑うきみが愛しく
笑う度に春が芽吹くよう

見つけた
見事なものだと作家の因幡白兎を褒め

サヨ
きみにこれを贈りたい
薄く繊細な硝子の桜細工が爛漫桜が咲き連なる
美しい硝子桜の簪

指先で触れることさえ慎重で
何処に在れど一目でわかる
大切な宝なんだ
其れが私にとってのきみ
愛しいという想いがとまらない

次は私に?
どんな物かな
笑顔だけで十分なのに
可愛い巫女よ


誘名・櫻宵
🌸神櫻

きらきら煌めいているわ!
躍るように高まる鼓動を隠さずに満面に咲いて笑い

其れは見事な細工が施された繊細な硝子に
そしてとろけるように微笑む、私のかぁいい神様に
カムイの例えまるで物語のようで面白いわ
ひとつの物にも込められた想いや物語があるのね

愛し神の指を絡め市へ歩む
そんな物語を、私達だけの硝子(物語)を捜したくて

硝子のランプにグラスにお皿…どれも見事で悩むわ

カムイ?
呼ばれ、贈られた硝子の桜
永遠に枯れない桜の簪

照れたように花咲むあなたが愛しくて
…簪を贈る意味をしっているのかしら?なんて照れ隠しのからかいを

揺れる硝子桜が嬉しい
次はカムイのを探すわよ!
私のかぁいい神様へのとっておきを見つけなきゃ!



 洋燈や提灯の灯りと、硝子の造形と色彩。それらがひとつとなった風景が、来訪を喜ぶように誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の視界で瞬いた。
「見てカムイ、きらきら煌めいているわ!」
「噫、数多な世界の欠片を集めたような美しい市場だね」
 櫻宵は隣の神に――友に、躍るように高まる鼓動を隠さず見せる。満面に咲いて笑う美しき櫻に朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は優しく目を細めて頷くと、同じ風景を朱砂の彩宿す桜色に映した。
「空の欠片や海の雫。光や闇の結晶に、雪精霊の贈り物のようなものまで全てが硝子だなんて……」
「――ふふ、」
「サヨ?」
「カムイの例え、まるで物語のようで面白いわ」
 目に、心に煌めき映す硝子たち――それは見事な細工が施された繊細な硝子に、そしてとろけるように微笑む可愛らしい神に。櫻宵の微笑と桜枝角の花がふわりと咲いて、白く細い指がカムイの指に絡んだ。
「ひとつの物にも込められた想いや物語があるのね」
 そして同じものはひとつとして存在しない。
 そんな物語を、自分たちだけの硝子を捜したい。
 愛し神の指へと指を絡めて硝子市へ歩む櫻宵の隣、カムイの鼓動は絡められた指先に嬉しくなりながらも、とくとくと高鳴っていた。今日も美しい己の巫女に、指先からこの鼓動が伝わってしまわぬよう隠して歩まなくては。
 その心を知らぬ櫻宵はというと、硝子の洋燈をじっと見つめ――グラスを見つめ――皿を見つめ、見つめ――、
(「……どれも見事で悩むわ」)
 愛しくかぁいい神と、自分だけの物語。これかしら、それともこっちの方がと吟味するも、どれもこれも一等の物語となりそうで決められないのだ。
 故に、カムイも悩んでいた。
 硝子市を巡り求めるのは“きみのとっておき”。どれも美しいからこそ、その中でもと思う。笑う櫻宵が愛しく、笑う度に春が芽吹くよう――そう想い願う神の目がふいに留まった。
(「見つけた」)
 注ぐ視線に気付いた因幡白兎の耳がぴょこりと揺れた。緊張した面持ちで体の前で両手をもじもじさせる様は、けれど「見事なものだ」と微笑みかければ安堵と喜びの笑みに変わって――、
「サヨ」
「カムイ?」
「きみにこれを贈りたい」
 しゃらり。
 名を呼んだ声の後、神の手元から紡がれた清らかな音は硝子の桜から。
 ひとたび形と色を得て咲たその様は薄く繊細な硝子細工なれど、永遠に枯れぬ爛漫桜。咲き連なる花が揺れれば、色と光も連なって喜びを詠うように煌めいた。
 それを髪に挿したなら。
 この桜が櫻宵を彩ったなら。
 きっとその瞬間に咲く美しさは、永遠となって心に刻まれる。
「サヨ。指先で触れることさえ慎重で、何処に在れど一目でわかる。大切な宝なんだ。……其れが私にとってのきみ」
 愛しい。
 愛しいという想いが、止まらない。
 噫、歩んでいた時は高鳴る鼓動を隠していた――筈だけれど、きっと今は出来ていないのだろうとカムイは察した。己を見る櫻宵の双眸がやわらかに細められ、春が芽吹くように美しく咲っている。
 櫻宵はそんなカムイが――照れたように花咲む唯一が、愛おしくて。
「……簪を贈る意味をしっているのかしら?」
「え? 何か、意味があるのかい?」
 照れ隠しのからかいに、カムイがきょとりと目を丸くした。
 その手元で揺れる硝子桜を見ていると、嬉しい想いがどんどん膨らんでいく。簪がやわらかに包まれ箱に収められたのを見てから、櫻宵は「どうだったかしら」と咲って再び指を絡めた。
「さ、次はカムイのを探すわよ!」
「次は私に? どんな物かな。私には、サヨの笑顔だけで十分なのに」
「何言ってるのよ。私のかぁいい神様へのとっておきを見つけなきゃ!」
 互いに浮かべる笑顔は一足早く訪れた春そのもののよう。
 硝子桜の簪から始まった自分たちだけの物語。その続きを、とっておきを見つけて――そしてまた、次の物語を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【紫緑】

って、そこでオレに振るのかよ!
随分と自信満々に言ってたから何かいい案が浮かんでんのかと思った…
こうなりゃ仕方ない
一つ一つ見ていくか
そしたらその内いいもんが見つかるだろ

へぇ、硝子ってのはどれも繊細なもんだなぁ
おっことして割っちまうなよ、苺ちゃん

万華鏡か、いいねぇ
いろんな色や形が集まって彩を成す
確かに個性豊かな館の皆にぴったりだ
…どれどれ、次はオレにも覗かせてくれよ
お、すげぇ綺麗だなぁ
思わず夢中になって回しちまうよ

花?ほんとかい
中身に夢中で気付かなかったよ
ちょうど探してた色が見つかるなんて
こいつは運命的なもんを感じちまうなぁ

おう、きっと驚くさ
折角だ、もう少し硝子市を楽しんでいこうぜ


歌獣・苺
【紫緑】
大好きな館にピッタリの
硝子探しにれっつごー!!!

うぅーん、館を思わせる
硝子ってなんだろう
ときじはなにか思いついた?
……だよねぇ。
どうしよう…
みんなを驚かせちゃうぐらい
すっごい硝子見つけてくるー!
って言っちゃったよぉ…。

彩取りどりの館…まんげきょ……!万華鏡!コレだ!!(きゅぴーん)
硝子の万華鏡!これにきーめたっ!

初めての硝子の万華鏡を覗いてみる
普通の万華鏡とは一味違っていて
見る場所や景色よって彩や見え方も全然違う。
色んな彩を持ってて個性も豊かな
館のみんなみたい……!

……わ、この硝子の万華鏡…
硝子からお花が咲いてる!
緑と紫…!丁度探してる色だ!

ふふ、みんな驚くかなぁ?
楽しみだね♪



 こういう場所ならあるに違いない――ううん、絶対にある!
 ということで歌獣・苺(苺一会・f16654)の苺色の目にはやる気100%。黒猫の手もグーにして、ぶんっ! と夜空目がけ突き上げた。
「それじゃあ、大好きな館にピッタリの硝子探しにれっつごー!!!」
 鼻歌が聞こえてきそうな様子に、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)は目も口も三日月のようにして楽しげに笑ってついて行く――が、ふいに前を行く苺が立ち止まった。
「どうした?」
「うぅーん、館を思わせる硝子ってなんだろう。ときじはなにか思いついた?」
「って、そこでオレに振るのかよ! 随分と自信満々に言ってたから何かいい案が浮かんでんのかと思った……」
 まさかまさかのノープラン。予想外のことに思わず溜息をつけば、だよねぇ、と苺が兎耳をしょんぼりさせて周りを見た。
 ここにもそこにも、あそこにも。素敵な彩を輝かせる硝子でいっぱいなのに、自分の中で大好きな館とイコールでぴたっとくっつく硝子が浮かんでこない。甘い色の目が少しばかり潤んだ。
「どうしよう、ときじぃ……みんなを驚かせちゃうぐらいすっごい硝子見つけてくるー! って言っちゃったよぉ……」
 縋るように見上げてくる目に、白い男は溜息ひとつ。いきなり自分に振られた時は驚いたが、別にこの世の終わりでも無し。幽世を度々襲う滅びの危機を救ってきたように、カバーのしようはいくらでもあるだろう。
 ぐるりと周囲を確認する。
 橙の目に映る硝子は――種類も色彩も、両の手に収まらぬほど。
「こうなりゃ仕方ない、一つ一つ見ていくか。そしたらその内いいもんが見つかるだろ」
「そっか! そうだよね! よーっし、気を取り直してれっつごー!!!」
 復活した苺を先頭に硝子探しは再始動。
 大ぶり、小ぶり。日用品、装飾品。店を一つずつ見ていくほどに、十雉の中で硝子というものへの印象や想いが更新されていく。へぇ、と思わず声が出たのは、全ての花が硝子で作られている花簪だった。
 咲き誇る赤い牡丹は花弁一枚一枚の重なりでより美しく。そこから連なり揺れる鳳凰の尾羽根めいた花びらは淡い虹を宿した乳白色。手を伸ばすのも躊躇ってしまうほどの煌めきに関心せずにはいられない。
「硝子ってのはどれも繊細なもんだなぁ。おっことして割っちまうなよ、苺ちゃん」
「ふふん、そんなことしないもんねー」
 からかう声にドヤッと返した苺の目は花簪から次の店へ、そしてまた次へ。真剣な吟味は歩みと共に硝子市を行く。その間、苺はずっと彩取りどりの館を、そこに咲く笑顔をと浮かべていて――ふと目に留まった物の名を口にした時、胸に七彩が灯った気がした。
「コレだ!! 硝子の万華鏡! これにきーめたっ!」
「万華鏡か、いいねぇ。いろんな色や形が集まって彩を成す。確かに個性豊かな館の皆にぴったりだ」
「でしょでしょ~?」
 店の主人に許可を得てから覗いてみた初めての世界――硝子の華が無限に咲くそこは普通の万華鏡とは一味違っていた。見た場所や景色を映し合っていて、彩や見え方が全然違って――彩も個性も豊かな館のみんなのようだと嬉しくなる。
「どれどれ、次はオレにも覗かせてくれよ」
「はい!」
「はいどーも。……お、すげぇ綺麗だなぁ。……え、こんなになんのかい」
 煌めきながら躍っては橙の目にきらきらと展開する華の世界。どれだけ回しても飽きが来ず、思わず夢中になって回してしまう。それをニコニコ見ていた苺は、回していた時には見えなかったものの存在に気付いた。
「硝子からお花が咲いてる!」
「花? ほんとかい」
「ほら見て、緑と紫……! 丁度探してる色だ!」
「やったじゃねぇか。ちょうど探してた色が見つかるなんて、こいつは運命的なもんを感じちまうなぁ」
 運命。あの場所に、みんなに巡り逢ったような。
 ピッタリのものを見つけた二人は笑みを交わし、迷わずその万華鏡を購入した。万華鏡は和柄の紙箱に収められ、再び華開くまで暫しの眠りにつく。
「ふふ、みんな驚くかなぁ?」
「おう、きっと驚くさ」
「楽しみだね♪」
「折角だ、もう少し硝子市を楽しんでいこうぜ」
「さんせーい!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【黄青】

熱された硝子はあかい色をしているそうよ
それぞれの彩を宿して、ひとつの姿を成す
とりどりの硝子は、うつくしいわね

館を彩るふたつの彩
わたしたちは黄と青のいろ、だったかしら
もちろんよ、ルーシーさん
とびきりの黄と青を見附けてみせましょう

ひかりを映して煌めく硝子たち
なんとまばゆい光景なのかしら
ひとつ、ひとつに異なるいろがあって
どうしても惑ってしまう

幼い指さきが摘みあげる彩
指間に嵌るそのいろを、見つめて

まあ、キレイ
これはベネチアグラスと云うのね
まるでいのちを宿すかのよう
青と黄を宿すお花
ふふ、ルーシーさんのお貌が浮かぶわ

指のさきを遊ばせて
手繰り寄せるのは、二彩の香水瓶
館のお部屋に飾るのは如何かしらね


ルーシー・ブルーベル
【黄青】
ひやりキラキラの硝子
元々はとろり熱かったなんて想像つかないわ
わ、元は赤かったの?

皆と過ごす館を思わせる
黄色と青の一品を探す
今日はそのミッション中

とびきりキレイな硝子細工を見つけて
館のみんなをビックリさせましょうね、なゆさん!

でもあれもこれもステキなものばかり
とっても悩ましいわ……
だってどれも宝物のよう
……あ!そうだ
そうと手にした品をなゆさんに見える様に掲げ

黄色と青のお花が咲くベネチアグラス
ミルフィオリの宝箱!これにする
キラキラした沢山の大切な宝物が収まっている場所
ルーシーにとって宝箱みたいな場所だから!
そ、そう?えへ

なゆさんの目に留まったものはなあに?
すごくキレイ!
きっと館に似合うわ!



 青を宿した左目に映る硝子の彩は、ひやりキラキラ、囁くように。
 一つ二つと映して歩くルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)には、並ぶ全てが綺麗で――不思議だった。
「元々はとろり熱かったなんて想像つかないわ」
 ぴしっと四角い硝子。なめらかな曲線描く硝子。店に立つ妖怪に促されて触れた硝子はどれも、チョコレートのように溶けることなくその形を保っている。様々な形に変化するには想像もつかない熱が必要だということは、理屈では解っているのだけれど。
「熱された硝子はあかい色をしているそうよ」
「わ、元は赤かったの?」
 考える様子だったルーシーにもう一つの驚きを伝えた蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)はやわらかに頷き、自分たちの目に輝きを映す彼ら――灼熱の炎を浴び、熱で膨らんでそれぞれの彩を宿し、そうしてひとつの姿を成した品々を見る。
「とりどりの硝子は、うつくしいわね」
「……うん、とても綺麗だわ」
 どこまでも煌めきが続くようなこの場所に、硝子市のどこかに、自分たちの求める一品がある。二人が探し求めているのは、皆と過ごす館を彩る色のうちのふたつだ。
「とびきりキレイな硝子細工を見つけて、館のみんなをビックリさせましょうね、なゆさん!」
「もちろんよ、ルーシーさん。とびきりの黄と青を見附けてみせましょう」
 決意と共に言葉をしっかりと交わせば、互いの頼もしさでくすりと笑顔が咲く。
 からん、ころんと聞こえる涼やかな音色。宿す色や灯りを映して重ねて煌めく硝子たち。本日のミッションは実に彩り豊かで――だからこそ、二人の心を射止める一品が決まらない。
「なんとまばゆい光景なのかしら……」
 ほう、と唇から吐息をこぼした七結の目を留めた硝子たちは、ひとつひとつに異なるいろを宿して煌めいて――どうしても惑ってしまう。煌めき一つ一つがとびきりのものだから、決められないのだ。
「どうしましょう、なゆさん……とっても悩ましいわ……」
 ルーシーもだった。
 あれも、これも。ステキなものばかり。
 列を作る小さな妖精像が運ぶのは、並ぶ順に赤から紫へと虹を描くグラデーション。虹色数字が静かに煌めく硝子の時計は、赤い硝子針が時を指し示し――ああ、どれも宝物のよう。
「……あ! そうだ」
 そんな悩める心に射した彩へと幼い指先がそうと伸びた。何を見つけたのかとゆるり視線で追う七結へ、ルーシーは手にしたものが見えるように掲げる。指間に嵌る彩が金環結わえた瞳に映り、煌めいた。
「まあ、キレイ」
「このベネチアグラス、黄色と青のお花が咲いてるの」
「……ベネチアグラスと云うのね」
 少女が告げた名を辿った唇が微笑んだ。炎の熱を経た硝子を整形し、それをいくつも使って作られた花の園。黃色と青の花は愛らしく咲き誇っていて、まるでいのちを宿すかのようだった。
 七結の微笑にルーシーも瞳をやわらげ、手にしていたベネチアグラスをそうっと撫でる。千の花を意味するこの煌めきから、もう手が離せなくなっていた。
「ミルフィオリの宝箱! これにする。キラキラした沢山の大切な宝物が収まっている場所……皆と過ごす館は、ルーシーにとって宝箱みたいな場所だから!」
「まあ、嬉しい。ふふ、このお花を見る度にルーシーさんのお貌が浮かぶわ」
「そ、そう? えへ。なゆさんの目に留まったものはなあに?」
「わたし? わたしは……」
 ――すい。紅の彩に染まった指先を遊ばせ手繰り寄せた彩と煌めきは、ニ彩の香水瓶。優美な曲線と細工は勿論、今回のミッションに沿った青と黃の色彩が魔法のように宿った一品だ。
「館のお部屋に飾るのは如何かしらね」
「すごくキレイ! きっと館に似合うわ!」
 それぞれの白い指先にうすらと降るものと同じ彩。
 今宵共に見つけた、とびきりのいろ。
 嗚呼、館の皆はどんな顔をするだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
いいわねぇ、硝子市!
透明感と煌めきには惹かれない訳がない
アレもコレも見て回りたくてそわそわうろうろ

デモ事件も気になるからねぇ
村人に話を聞いて被害者の共通点とかから犯人の行動を予測できないかしら
勿論買い物も、ひとつずつゆっくり楽しみましょ

先ずはサンキャッチャーを探しましょ
うんと小さいの、置いてるお店はある?
小さな青髪のコに映える色のがあるとイイわ
それからそうね……花が得意な職人サンはドコかしら
店に飾れるような綺麗な硝子の花が欲しンだけど……

話は村人に嫌な思いさせないよう
ケド聞きながら手掛かりありそうって思ったら
【黒管】でくーちゃん忍ばせ置いて情報収集
怪しいヒトや場所があればソコに行くねぇ



「ふぅん……うんうん、いいわねぇ、硝子市!」
 妖怪たちが生む賑わいの中、どこを見ても目に入る透明感と煌めきは極上のものばかり。
 色、形、種類も様々と来ればコノハ・ライゼ(空々・f03130)はアレもコレもと気になって、心そわそわ足はうろうろと硝子市を行ったり来たり。
(「デモ事件も気になってるのよねぇ」)
 これまでに四件。
 今日自分たちが来なければ五件目が起きただろう、連続殺妖事件。
(「こーんなにキレーな場所でヤなことしちゃって」)
 うすらと浮かべた笑みは、レトロ硝子を使った食器専門店を捉えた瞬間にきらり。料理人としても気になったそこを覗くと、大皿小皿、底の深いボウルにグラスと各種揃っていて心が躍る。
 あぁでも先ずは、と気になったものは心の中にキープして。
「ちょっとごめんなさいネ。サンキャッチャーのお店探してるンだけど、どの辺りにあるかしら? うんと小さいのが欲しくって」
「サンキャッチャー? それならあっちだよ。小型だったら鼠の看板下げてるとこがぴったりじゃないかな。色も豊富だしいいの見つかると思うよ」
「ありがと、助かるわ。それからそうね……花が得意な職人サンはドコかしら」
 とびきり綺麗な花が欲しくってと添えたコノハは声のボリュームを落とし、「事件のコトも」と添えると、それだけで察した店員が頷き、端に寄る。
「見ない顔だから猟兵さんだと思った。それで?」
 世間話でもするような顔をしたのは、どこにいるかわからぬ犯人を警戒してのことだろう。コノハも気さくな笑みを浮かべ、明るい雰囲気のまま話を続けた。
「連続してるってコトは被害者に何かしら共通点があると思って。何か知らない?」
 そこから犯人の行動を予測出来れば、未だ明らかになっていない何かが見つかることもあるだろう。いざ“お喋り”する時の役に立つかもしれない。
 共通点、と指で顎をなぞった妖怪の目がぱちりと瞬いた。
「こいつを知ってるのはごく一部だから、まだ知らない猟兵さんもいるかも」
「何かしら」
「殺された奴は全員、持ってた硝子を盗られてる」

 小物入れ。ゴブレット。洋燈。蓮の飾り。
 盗られたものと似たものを扱う店は多いが、少しでも被害を抑えられるようコノハはそっと管狐を放つ。何かあれば管狐の『くーちゃん』が教えてくれるだろう。
 コノハはというと、硝子のダリアを抱いた小箱を腕に村の東へと足を進めていた。
 静かに冷えゆく瞳の奥、思い浮かぶのは花を迎えた店で得た情報だ。
 ――曰く、犯人が身を潜めてはいないだろうかと村中を改めたという。東にある玻璃堂も、ツバキという天狗の女と竜神の爺が中を改めた後。
(「だから異常は見つからなかった、ね……でもそれ、中を見たのはその二人だけってコトよねぇ?」)
 本当かしら。
 くつりと笑った音が、夜風にとけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天帝峰・クーラカンリ
さて、この手のものの目利きには自信がある
ゆっくり吟味させてもらおう

ほう、この硝子細工は麒麟か。毛並みといい威圧感といい、良い出来だ
いくらだ?(値段を聞いてまわりがザワつくが、気にもせず予約する)
後で買いに来る。それまで預かっていてくれ
なに、これからひと暴れするでな。割れては困る故に

聞き込みと言っても大方調べ尽くされていよう
となればあと知っていそうな者といえば…敢えての童だろうか
ああ見えて子供というのは物事の本質を見ているからな
硝子市に来ている若輩の集団に声をかける
「もし、そなたら。私は最近の事件について探っているのだが…なにか知らないか?例えば…そう、記憶が抜け落ちていると困っている者とか」



「いらっしゃい」
 にこりと笑った店主に、天帝峰・クーラカンリ(Birth by judgement・f27935)は極寒の空めいた瞳を向け頷くと、己の目を留めさせた硝子細工に視線を注いだ。
 力強く翔ける様を写したかのような四肢には、鱗と風に揺れる毛並み。凛とした眼差しには瑞獣と謳われるに相応しい空気が溢れている。
「ほう、この硝子細工は麒麟か。毛並みといい威圧感といい、良い出来だ。いくらだ?」
 途端ざわめきが起こるが、クーラカンリは意に介さない。
 遥か太古、それこそかの星が生まれた頃より生きる神の目は多くのものを見てきた。故に、こういった手のものの目利きには自信がある。己が選んだものに周りがどういった反応をしようと、一切関係ないのだ。
「後で買いに来る。それまで預かっていてくれ。それでも不安と言うのであれば、半額置いていっても構わんが」
「いえいえ、そんな! こちら、シッカリとお預かり致します!!」
「うむ。なに、これからひと暴れするでな。割れては困る故に」
「は? ひと暴れ?」
 店主だけでなく居合わせた妖怪たちの呆け顔を背に、クーラカンリはそこかしこで煌めく硝子を愛でながら思案する。事件の捜査では聞き込み――情報収集が基本だが、大方調べ尽くされているだろう。
(「となればあと知ってそうな者といえば……ああ、丁度良い」)
 市の奥から聞こえてきた無邪気な笑い声。大人というには若く、幼子というには成長していた声は複数あり、そちらへと向かえば情報源に最適と見た子供たちがいた。
 座るのに良さそうな石に腰掛け、地面に並べているのは真新しいおはじきだ。硝子市をすっかり楽しんできた後らしい。
「もし、そなたら。私は最近の事件について探っているのだが……なにか知らないか?」
「ふーん? 例えば?」
「例えば……」
 クーラカンリは子供たちの傍にしゃがみ込み、彼らの輪から飛び出していたおはじきを一つ拾い上げて戻してやる。
「記憶が抜け落ちていると困っている者とか」
「そういうウッカリしてたひと、知ってる!」
 ぱっと挙手した子供に他の子供たちが「ええー誰だよ~」やら「こういうのは小さい声で話すんだぜ」やら。はしゃぐ子の数名の頭を撫でてやれば、構ってもらえて満足したか、キャッキャと弾んでいた空気が穏やかになる。
「あのねあのね、ツバキっていう天狗の姉ちゃんがいるんだけどね、立ったまんまとか座ったまんま寝ちゃうって言ってた。気づいたらちょっと時間たってて、まいったまいったーって笑ってたんだ」
「……ほう? それは“うっかり”しているといえよう。そのツバキとやらは、普段からそうなのか」
「ううん。前はそうじゃなかったよ。あのね、喧嘩がすっごい強いんだ!」
「いつもハキハキしててカッコイイよ、ガラス作ってる時も!」
「ふむ。そなたらは実に敏い童だ」
 さとい? 顔を見合わせた子供たちは、意味がわからないなりにも役に立てたと感じて笑い合う。――と、一人が目をぱちくりさせた。 
「ツバキの姉ちゃんだ。どこ行くんだろ」
「玻璃堂だろ。エリーにしょっちゅう一人でお参りに行かないのって怒られても、毎日行ってお祈りしてるもんなー」
「エリー怒るとおっかないもんな。オレ、秘密だってくちどめされた! てか姉ちゃんいっぱい買ってるな、いいなあ……」
 夜空の下、うっすらと見えるその姿。
 背負う風呂敷が包む木箱の中を想像した子供たちが「どんなお宝が入ってるんだろうな」と楽しげに語る声を耳に、クーラカンリは静かに立ち上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『金・宵栄』

POW   :    壊魂の紅
【“己の宿願を叶える”という執念 】を籠めた【紅鞭】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【魂】のみを攻撃する。
SPD   :    「お前の宝は何だ」
対象への質問と共に、【自身の満たされない心】から【月のような金色毛並みの猫(人間大)】を召喚する。満足な答えを得るまで、月のような金色毛並みの猫(人間大)は対象を【鋭い牙や爪、金色のオーラ】で攻撃する。
WIZ   :    月禍の夢
【瞳と声、紅鞭での攻撃のいずれか又は全て】から【記憶・精神を侵す強烈な催眠術】を放ち、【“最も大切なものが奪われた”と思わせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠汪・皓湛です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●こがね、昏く
 玻璃堂は東方の寺社仏閣を思わす造りをしていた。
 引き戸を開けて中に入ればひやりとした空気が外へ溢れ出す。春が近いとはいえ、夜になればまだ冷える時期。真っ暗闇に包まれていた空気は、太陽に触れることなく朝からずっと冷やされていたのだろう。

 ――なぜそこに、鉄のような臭いが混じっているのか。

 ふいに灯った蝋燭の炎が天狗の姿を浮かび上がらせる。
 足元に風呂敷が下ろされた瞬間、ぱさりと布が広がった。風呂敷一枚で抱えていた箱の数々も炎に照らされて、ゆらゆら、ゆらりと踊り始めた影が床に――煌めく破片と赤く大きな染み、砕かれた痕が残るそこに重なった。
 天狗の女は、自分を尾行してきた猟兵たちを前にただ笑っている。
 作った笑顔を、浮かべている。
 けれど溌剌とした彩は瞳から失せ、宿すのはとけぬ冷たさばかり。
「無駄な時間を過ごしたものだ」
 唇から男の声がした瞬間、金と黒が広がった。

 一人目は、蓋に桜が描かれた青銅色の小物入れを愛おしそうに抱えていた。
 二人目は、金装飾の蔦が添うターコイズ色のゴブレットを嬉しげに持っていた。
 三人目は、シーグリーンを基調とした砂漠の国の洋燈を、安心した顔で。
 四人目は、孔雀緑に輝く蓮花を髪に挿して誇らしげに歩いていた。

「だが、いずれも俺の宝ではなかった」
 天狗の女から金華猫の男へ。
 踏み出した足が、緑を、翠を、碧を踏みつけ、ぱきりと音を立てる。
「宝の如く扱いながら、その全てが宝に値すらしない瓦落多だ。あの翡翠朝顔も――此処に在る全てが、違う」
 男が紅鞭を束ねていた左手をほんの一瞬開き、解けるようにして落ちた紅色が床に触れて音を立てた。いつの日にか砕かれた硝子たちが、しゃららと鳴く。
「この村に、もう用は無い」
 言葉と共に、飾られていた硝子が紅に薙ぎ払われ砕け散る。
 煌めきが舞い――紅の一閃が、風呂敷の上に乗ったままの木箱へと向かった。
 
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎

俺の宝、大事な物は仲間や生者と紡いだ記憶とそれに紐付けられた物品だ
確かに見る人によってはガラクタだ、でも、そこに想いがあれば何でも宝になり得る
宝とそれを愛でる者にお前は一体何をした?

SPDで判定
風呂敷の木箱は銀腕を武器改造で伸ばして守る
攻撃は銀腕を変形させた盾による盾受けやオーラ防御で防ぐ
敵UCの問いには記憶やそれに紐付けられた物品と答える
答えに満足いったなら隙ができるはず
ダッシュで近づいて、怪力、鎧無視攻撃、早業、捨て身の一撃を使いつつ指定UCを発動
敵を切断する
必要なら落ち着き、優しさ、救助活動も併用する



 砕かれた硝子が玻璃堂の床に落ちた。一瞬で湧き上がった音は石造りの床を雨音の如く叩き、堂内に生まれた残響の中、うねり躍った紅鞭が木箱へと降る。
 だが、砕かれた木箱は一つとしてなかった。
 紅が躍った瞬間と同じくして伸びた眩い銀。自身と、ぐるりと広げ盾の形を成した銀腕で木箱を守ったルイスは、自身の銀腕越しに紅鞭を戻す金華猫の男を見た。こちらを見る色濃い金眼は酷く冷たい。
「何故守る。それはお前の宝か」
「いや、俺の物じゃない」
「ならば、お前の宝は何だ」
 向けられた言葉は質問の体を取っているものの、含む音は命令と同じだった。
 ルイスはすぐには答えず、木箱を優しく押して男と木箱の間に距離を作りながら虚空より現れた月色の猫を男ごと捉える。
 猫が身を低くする。堂内が暗い為、まあるく黒い瞳孔が金で縁取られているよう。しかし巨大な金の猫の双眸に見えるのは、狩るべき獲物を前にした狩猟者のものだ。
 ぴた。
 全てが止まったような感覚が一瞬。
 直後、猫が石の床を蹴った。
 ルイスという獲物を捕らえようと一気に迫る前足。ぐわりと開かれた指先から生える爪にひとたび裂かれれば、好きなだけ肉を抉り持っていくだろう。捕まれば、指だけでなく爪までもが肉を掴み離さないだろう。
 だが銀腕の盾がそれを阻む。肉ではなく盾にぶつかった爪が硬い音を響かせて、ぐんっと力強く押し返されたそれが面白くなかったらしい。わぁうと唸るように鳴いた猫の毛が一気に逆立ち、輝きを灯す。大きく膨れ上がった金色の輝きは波となり――、
「しつこいな」
 ルイスは自身から溢れさせた守りの力で以って金色の輝きを受け流した。その向こうから飛びかかってきた猫の頭に思い切り盾を食らわせ、距離を取る。
「俺の宝、大事な物は仲間や生者と紡いだ記憶とそれに紐付けられた物品だ。確かに見る人によってはガラクタだ、でも、」
 生きる死者であり一部を除いた全てを忘れている自分にとって、誰かと共に過ごした時間と結びつく物は紛れもない宝だ。何よりも大切で、価値在るもの。たとえそれが何であれ、仲間や生者と紡いだものが宿るのならば、
「そこに想いがあれば何でも宝になり得る。宝とそれを愛でる者にお前は一体何をした?」
「“何を”? 随分とくだらぬことを問う」
 それら全てに男の性質が現れていた。
 男が紅を躍らせ猫が跳躍した瞬間、ルイスは駆けた。疾風の如く暴れる隙間を縫い、全体重をかけ飛びかかってきた猫を力籠めた拳で殴り飛ばす。
 そうして繰り出す一撃は自身の安全も厭わぬもの。至近で銀と金が交差し――男の体に刃が触れ、赤い傷が刻まれる。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱酉・逢真
心情)そうカッカしなさンなってェ。なんぞ探しているのかい。なンならハナシ聞いてくれりゃア、それが再来すっかもしれんぜ。
行動)ムチやらの攻撃には、眷属どもを盾にして。まだ壊してねェガラス細工の盾にもしよう。俺も眷属どもも結界でギチギチに守れば、攻撃も催眠術も届くまいよ。大切なものなンざァなンにもない俺に、それが効くとも思えんが念のためだ。それよかハナシさ。なァ兄さん。猫妖の兄さんよ。なにか大事なモンを探してンだろ。もしかすりゃこの世から消えたモンをさ。もし兄さんが壊したモン、化術とかで直してくれるンなら。引き換えに兄さんの"宝"をここに喚び出そう。ちゃァんとした悪魔が作る契約だよ。どうだい?



 ぐるりうねって空中を翔け、滑るようにして標的へ迫る紅色の鞭。
 そこに金華猫の男が抱く憤りが見え、逢真はくつりと笑った。
(「そうカッカしなさンなってェ」)
 声にはしていない筈だが、向こうは笑った音を拾ったらしい。一瞬で軌道を変えた紅色に、逢真は目と口に弧を描いて軽やかに堂内を行く。
「おい、眷属ども」
 一声かけた途端、足元の漆黒から異形が溢れ出した。長い三編みが真っ直ぐ上へと吹き上げられ、鳥、蛇、蟲、獣と、ありとあらゆる姿をした眷属たちが密集し、肉体による壁を作り上げる。
 逢真の視界は一瞬で眷属たちの壁で埋まった。
 まだ無事だった硝子細工も“おまけ”と、その盾の内へ。
 しかし眷属たちの肉体だけでは、いずれはあの硝子のように壊されかねない。
 逢真は片手をひらりと踊らせ、自身だけでなく眷属にも強固な結界を施した。これなら攻撃は届かないだろう。後は。
「……守るか。くだらんな。どこに守る価値がある」
 全て無駄なこと。嘲りを含んだ声が眷属たちの肉体をすり抜け、“届いた”。逢真の暗い赤眼が眷属たちの向こう――こちらを見ているだろう金華猫に向いて、笑む。
「悪ぃね、俺ぁ大切なものなンざァなンにもない。それよかハナシをしよう」
 そう、ハナシ。
 大人しく聞いてくれりゃあいいンだが。
「なァ兄さん。猫妖の兄さんよ」
 密集し蠢く異形たちの向こう側から届けられる妙に気安い声。
 長い尾がぱしりと床を叩く音だけがしたが、逢真は気にしない。
「兄さん、なにか大事なモンを探してンだろ。もしかすりゃこの世から消えたモンをさ」
「消えてなどいない」
「へェ、そいつは良かった」
 どういう根拠か知らないが本当に良かった。それに消えていないのならば都合がいい。一応ハナシを聞いてくれる点もいい。それが今にも崩れそうな気紛れだとしても、逢真は一切の焦りを抱かぬまま続ける。
「ならよ、もし兄さんが壊したモン、化術とかで直してくれるンなら。引き換えに兄さんの“宝”をここに喚び出そう」
 ちり。かすかにした音は――ああ、耳飾りか。さてはちょいとばかり反応したな?
 逢真は弧を描く口に指先を添えた。
「ちゃァんとした悪魔が作る契約だよ。どうだい?」
 ほゥら。
 囁きと共に、一枚の契約書が眷属の盾をぬるりと透けて通る。宙に浮いたまま手前でぴたりと止まったそれから漂う気配に、男が「成る程」と低く呟いた。
「悪魔に依るものならば、俺の宝が見つかる可能性も多少は在ろう」
 だが、生者ではない瓦落多がどれほど戻るかなぞ知らぬという声に逢真は笑う。提示条件に対し返ったものが100%でなくとも、示したものへ男が抱いた感情の方が重要だ。それさえあれば――、
「契約成立。ありがとよォ、兄さん」
 ちょいとばかり“縛られる”が――求むものが再来するのなら安かろう。
 それが逢真には宝と思えぬ花びらの嵐であったとしても、だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ノヴァ・フォルモント
宝、ねえ…
一体何を探しているのやら
お前が今まで壊してきた煌めきも尊い命も
全て等しく宝だよ
…なんて
こんな話に聞く耳を持つ相手では無いな

まだ破壊されていない木箱は身を挺して守る
なに、自分が受ける少しの傷は大した事ではない
これ以上、何も奪わせはしないさ
お望み通りこの村から出ていってもらおう

三日月の竪琴を手に
月夜の旋律を奏でる
聴手によりその音色を変える
さあ、お前にはどう聴こえるだろうか

旋律の向こう側
返る何かに視界が揺らぐ
懐かしき故郷、住まう人々、家族や仲間達…
夢現つの中でそれらが塵の様に消えていく
嗚呼、忘れはしないよ
―けれど

全て置いてきてしまったんだ
だから、悪いね
空っぽの今の俺には
過去の残滓は響かない



 色も形も様々な花びらが契約書の形をしたものから次々と現れ、玻璃堂の中を舞う。蝋燭の火にうすらと照らされ舞う様は幻想的で美しく、しかし金華猫の男は目を瞠るばかり。
「どういう意味だ」
 ぎり、と握り締められた紅鞭が鋭く舞った。一瞬の後に断たれた花びらがざあっと激しく舞い、その中心に生まれた無が紅鞭の軌跡を見せる。
(「一体何を探しているのやら」)
 男が傷付けた花びらは悪魔の契約で招かれたもの、望む宝の筈。
 だというのに、当人には現れたものを“宝”と定めた覚えがないかのよう。
「違う」
 この色ではない。
 この形ではない。
 否定し、拒絶し、違ったことに怒りを滲ませて――今までもそうやって壊してきた煌めきや、会ったことも話したこともない誰かの命も、全てが尊く等しい宝だというのに。
(「……なんて」)
 こんな話に聞く耳を持つ相手では無いと既に解っている。
 舞う花びらを睨む金華猫の男が再び紅鞭をしならせた瞬間、ノヴァは迷わず地面を蹴って飛び出した。顔の前で交差させた腕で狙われた木箱の代わりに紅鞭を受ける。
 鋭い音が炸裂し熱い痛みに感覚を支配されるが、構わず木箱を庇い立つ。理不尽に命を奪われることと比べれば、これくらいの“少し”の傷、大したことはないのだから。
 腕に三日月の竪琴を抱き、高く舞った紅鞭が男の傍に戻るのを見据えたまま弦へと指を添え――まろやかに紡いだ音色ひとつ。向けられる冷えた黄金色を正面から受け止め、告げる。
「これ以上、何も奪わせはしないさ。お望み通りこの村から出ていってもらおう」
 弦を爪弾き奏でるは月夜の旋律。見た者によって月の顔が変わるように、宵より現れたようなこの音色もまた音色を変える。他者を思わず、省みず、求むものを得ようと奪い続けてきた男には――闇へいざなう深き音色へと。
「……耳障りだ」
 低く唸るような声。眉間に刻まれた皺。低く伏せられた耳に毛羽立つ尾。
 苛立ちを滲ませた色濃い金眼にじわりと光が宿って、
「夢に、堕ちろ」
 瞳と声に射抜かれた瞬間、紡いでいた旋律の向こう側が水面の如く揺らいだ。


 ――おおい、ノヴァ。

 声が、した。
 朧だった輪郭がはっきりとした形を得る。
 友人、知人、仲間、――家族。
 懐かしき故郷だ。共に過ごし、生きた存在が次々と自分を呼び、笑いかけてくる。何ともない姿で当たり前のように笑って、ノヴァ、と言う。胸に光が満ちていくようだった。
「みんな」
 駆け寄り、手をのばす。
 しかし指先が触れる前に、彼らは皆、塵のように細かくほどけた。
「あ――、」
 掌を、指先を、乾いた質感が滑り落ちて、ちりちりと粒になって消えていく。
 手には何も残らない。在るのは、失ったという事実だけ。
「嗚呼、」
 そうだ。失った。忘れはしない。
 ――けれど。


 揺らいだ視界が戻る。夢から現へ。過去から今へ。空気を裂いて躍った紅を何と認識するよりも先に、ノヴァは竪琴と木箱を抱え横に飛んだ。
「戻ったか」
「……俺は、全て置いてきてしまったんだ」
 頷く代わりにそう答え、木箱を懐に押し込み竪琴を構える。
「だから、悪いね。空っぽの今の俺には、過去の残滓は響かない」
 そして紡ぐは三日月の歌声。
 響く変幻の音色が黄金を苛むものとなり、響いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、やっぱり、アヒルさんはこっちに来ていないみたいです。
私はたまたま他の猟兵に出会ったから、こちらに来ましたが、アヒルさんは狐里堂の方に行ってしまったみたいです。
どうしま・・・、いえ、違います。
アヒルさんは狐里堂に行ったのではなくあの人に殺されてしまったんです。
そんなのはあんまりですよ。
せめて、アヒルさんの魂だけでも取り戻さないと。
恋?物語でアヒルさんの霊をって、あなたは誰ですか?
ふえぇ、あの殺妖犯さんに取り憑かれたツバキさんですか。
殺妖犯さんが表に出ているからツバキさんは気絶してことになって、恋?物語の対象になってしまったんですね。
ということは、アヒルさんは無事なんですね、よかったです。



「そ、そんな……」
 勇気を出して入り込んだ先でフリルが見たのは、血痕と破壊が残る床と、きらきら輝く破片の数々。こちらを冷たく見る黄金の双眸に――アヒルさんのいない、玻璃堂だった。
(「やっぱり、アヒルさんは狐里堂の方に行ってしまったんですか……?」)
 ふええ、とこぼして後退る。
 どうしましょう。
 どうしたらいいでしょうか。
 声だけでなく足も震える。止まらない。なのに、立っていられることが不思議だ。
(「アヒルさん、早く来て下さい。でないと私、どうしたら――」)
 いや、違う。
 アヒルさんは狐里堂に行ったのではない。
「……嗚呼。あの五月蝿い瓦落多なら、」
 すい、と黄金の眼差しが一点を示す。
 フリルの大きな目がそれを追い――ひゅ、と息を呑んだ。歯車やボルトと共に散らばる破片は白や黄色。かろうじて残る形が、翼や嘴、頭部だと教えてくれる。
 アヒルさんが金華猫の男に殺されたという物的証拠の数々に、フリルの呼吸が乱れ、震える。こんなのはあんまりだ。アヒルさんは自分にばかり厳しくて、時々理不尽だけれど――だからといって殺されるなんて酷すぎる。
「せめて、アヒルさんの魂だけでも……」
 このまま失くしたくない。フリルが願いと共に発動させたユーベルコードが、玻璃堂に残るものとの邂逅を果たさせる。それは可愛らしいアヒル――ではなく、すらりとした体躯をした有翼の女だった。
「ふええ? あ、あなたは誰ですか?」
『……ツバキ。天狗のツバキ。これ、何? 一体どういう……』
「ふえぇ、あの殺妖犯さんに取り憑かれたツバキさんですか? で、でもどうして……あっ」
 フリルは気付いた。
 殺妖犯が面に出ている今、宿主であるツバキは気絶していることとなり、結果、ユーベルコードの対象になってしまったのだろう。
 ということはあれはアヒルさんじゃない――!
 なんて喜んだのも束の間。フリルは今の状況を思い出し、破片を薙いで散らして迫る紅鞭から必死に逃げながら、ツバキに自分の体を使ってほしいと頼み込むのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

己の宝を探し人の宝を奪う…か
宝とはその物に対する思いから為る物だろうに
…それが解らぬ者に、宝など持てる訳がなかろう
そう眉を寄せつつも宵へ視線を向ければふと、口元を緩めその手を一度握ろう
…大丈夫だ、俺の宝は奪わせん故に

敵の猫から紡がれる問いには宵を『かば』い立ちつつ何にも替わる事など出来ぬ己よりも大事な者だと
例えお前に解らずとも己にとって変わらぬ唯一なのだとそう応え『盾受け』にて攻撃を受け流しつつ
宵の答えと結界を見れば目元を緩め視線を交わしながら【stella della sera】にて攻撃をして行こう
宝を奪われ殺された者達の無念を思えば手加減は出来ん
大人しく骸の海に還ると良い


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

宝とは個々のいきものの要となすもののことを指し
それを奪ったとしても、奪った者は他人の宝に思い入れも価値も感じることはできません

それからかれの視線を受けて、柔らかく笑まれれば同じように返し
問いにはかれが僕の宝であると答えましょう
なによりも愛しく、尊く希う唯一の宝物です

それから「高速詠唱」「全力魔法」「属性攻撃」を付加した
【天響アストロノミカル】で敵を攻撃しましょう
敵からの攻撃には「オーラ防御」を付加した「結界」を発動させ
僕とかれの身を守りましょう

真なる宝を持ちうる者は、他の宝など奪わずに己のそれを大切にするのです
それがわからぬ貴殿には、宝など持てるはずもありません



 “みどり”を成す色だけを集め、散りばめたらこうなるのだろう。
 それぞれが持つ色をとけ合わせた硝子の欠片が彩る床は、蝋燭の炎が揺れると、それに合わせてきらきらと色の漣を起こすようだった。
 宝を求む男によって、本来の持ち主より奪われ砕かれた末の光景でなければ、美しいと言えたかもしれない。
 ザッフィーロは物言えぬ彼らの様に胸を痛めながら、硝子だけでなく現れた花びらまでも「違う」と拒絶した金華猫を見据え、眉を寄せる。
「宝とはその物に対する思いから為る物だろうに。……それが解らぬ者に、宝など持てる訳がなかろう」
「……」
「そう怖い目をしても事実は変わりませんよ」
 長い尾の先が低くゆらゆらりと動くのを見て、宵は涼しげに微笑んだ。
「宝とは個々のいきものの要となすもののことを指します。それを奪ったとしても、奪った者は他人の宝に思い入れも価値も感じることはできません」
 ヤドリガミである宵とザッフィーロは、ものであった頃から多くの者を見てきた。“もの”としての価値だけを求められたことはあるが、自分たちを“美しい”と、愛し慈しんだ者もいた。
 そして100年の時を経て人の身を得た今、自分たちは、“宝”と呼べるものと共に在る。
 ザッフィーロの視線が自然と隣へ向く。ふいに一文字に結ばれていた口元を緩め、宵の手を握った。やわらかな微笑みが手の温もりと共に交わっていく。
「……大丈夫だ、俺の宝は奪わせん故に」
「ええ」
 いつの間にか、自分とは違う存在が日々に、これからの生に輝きを生む要となっていた。その幸運と巡り逢いが途切れず続いていることもまた、自分たちの――。
「では、それがお前の宝か」
 金華猫の男の黄金色は冷え切ったまま。問いかけと共に現れた二体の月色猫は既に二人を獲物と定めており、瞳孔をきゅう、と丸くさせながらゆっくりと前に出てくる。人とは違う獣特有の“標的を狩る”という一点のみを純粋に浮かべた目に、宵を映させはしまい。ザッフィーロは宵を庇うように立ち、二体の猫と金華猫の男を睨む。
「宵を“それ”呼ばわりとは許しがたいが……そうだ。宵が、俺の宝だ」
 どんな宝も、奇跡も。何にも替わる事など出来ぬ己よりも大事な者。
 ザッフィーロはハッキリと言葉にし、一体の猫がとんっと地を蹴る様を見ながら星の名冠するメイスを強く握りしめた。
「例えお前に解らずとも、」
 一瞬で駆けてきた猫の跳躍をメイスで受け止め、伸し掛かってくる重みに逆らわぬまま左手の力を弱めて受け流す。バランスを崩された猫が、彼方で咲いた花火の如き着地音をどんっと立て――、
「宵は、己にとって変わらぬ唯一なのだ」
「そしてそんな彼が、僕の宝です」
 もう一体が動いた瞬間、断言したザッフィーロの目の前に守護を抱いた力の幕が広がった。暗闇に星空を淡く流すように煌めくその内で、宵は守護に弾かれて石の床に爪を立てこちらを窺う猫と――その主を見て、浮かべていた微笑を深める。
「彼は……ザッフィーロはなによりも愛しく、尊く希う唯一の宝物です」
 これからも、ずっと。
 言葉と共に高い高い天井――真っ暗にしか見えぬそこに煌めきの列が生まれた。ぽう、と灯った煌めきは一瞬で圧と眩さを放ち、ごう、と空気を震わせていく。
 宵が月色の猫と男へ送るべく招いたそれは隕石だった。次々にやって来た隕石が震わせたものは空気だけにとどまらず、堂内に響き渡ったそれが屋根や壁までも震わせる。
「真なる宝を持ちうる者は、他の宝など奪わずに己のそれを大切にするのです」
 降り注ぐ隕石は月色の猫たちの行く手を阻み、金華猫の男にも降り注ぐ。
 右へ、左へ。上へ、下へ。猫たちが凄まじい速度で隕石を躱し続け二人へ迫ろうとする様は、返答に対し不満足であるという証。男が満足するまで執拗に追ってくるだろう猫たちに、しかし宵はさらりと微笑んだ。
 一度に全てを招くと満杯になってしまうから、あの量で済んでいるのだ。猫たちがどれだけ躱そうと、男が紅鞭で捕らえた隕石を振り回して隕石を砕き、弾こうとも隕石は尽きないだろう。それは決して覆らぬ事実であり、そして。
「それがわからぬ貴殿には、宝など持てるはずもありません」
「――は、」
 求め、奪い、違うと壊し続け、溢れた花びらも否定した金華猫が嗤った。嘲りを含んだ黄金が周囲に散るみどりを映し、二人に戻る。
「真なる宝か。生憎だが一度手に――、」
 言葉が薄れ、僅かな間の後、定めた筈だと呟きがこぼれた。
「故に俺は俺の宝を探す。俺の宝を、必ず見つけ出す」
 そして手に入れれば、長きに渡り抱え続けた宿願が漸く叶う。その為なら誰の何が犠牲になろうが構わないと男は嗤い、鞭で捕らえた隕石を振り回し、隕石同士をぶつけて砕いていく。
 そうやって作られた空間に猫たちが飛び込み迫るが、宵の展開した守護が鋭い爪も金色の輝きをも弾き、その隙をザッフィーロが確りと繋いだ。前に出る直前、やわらいだ眼差しは宵の微笑と交わって――敵を捉えた瞬間、苛烈なものへと変わる。
 宝を奪われ殺された妖怪たちの無念を思えば、手加減など出来ない。猫の脳天に一撃見舞い、メイスをぐるんと回転させもう一体の脳天にも。次に狙うは当然、
「大人しく骸の海に還ると良い」
 鈍い音が一度。
 みどりの煌めきが散るそこに、ぱたた、と鮮血が滴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シュデラ・テノーフォン
ヴィル君(f13490)同行

あァ君が獲物か…うん?
ねェ、今何踏んだ?

俺前行くね。ヴィル君はストラス?
じゃコレ食べるかいと硝子弾をひとつ差し出して
ん。喜んでくれて何より
にこり笑う

あのね。お前が何だか俺知らないけどね
宝は人の心と一緒なんだよ。千差万別って言うのかな
お前が壊した硝子は同じ様に踏み躙った命が大事にしてたモンなんだよ
お前が気に入らないからって軽く壊してイイモンじゃないんだよ
解る?獲物じゃわからないか

氷の精霊銃複製
金毛猫は邪魔と獲物ごと凍らせ動きを阻害
ソレでも来る攻撃は指輪の盾展開で弾きつつ敵へ向かう

そのまま拳を握り込み全力でぶん殴る
ごめんねいつもは銃や剣なんだけどね

お前は殴りたかったんだ


ヴィルジール・エグマリヌ
シュデラ/f13408

君はふたつ、勘違いをしていたんだね
ひとつは、硝子細工を金銀財宝と見誤ったこと
もうひとつは、宝物を「我楽多」と一蹴したこと

おいでよ、ストラス
力を貸しておくれ、先ほど求めた硝子玉が……
あ、シュデラが硝子の弾丸をくれるの?
ふふ、水晶みたいで綺麗だね
梟の嘴にそろりと咥えさせて

ストラスも気に入ったみたいだ
それじゃあ、今回も宜しくね
賢くて可愛い、私の大王

彼の天体魔法で降らせるのは
きらきら煌めく流星群
冷気を纏うそれを敵にぶつけてシュデラの援護

幻覚に惑っても大丈夫
ストラスさえ無事なら、戦況は維持できる筈

宝石を愛する我が王も
硝子は宝物に視えるみたいだよ

――君、見る目が無いんじゃない?



 漸く犯人の――獲物のお出ましに、シュデラは微笑を浮かべたまま少しだけ首を傾けた。ぱきりと聞こえた音、亀裂を刻まれたみどりが、ひどく視界に焼き付いた気がして。
「ねェ、今何踏んだ?」
 血で前髪の一部を濡らし、顔の左端に血の帯をつけた金華猫の男は無言だ。答える気はないらしい。見ればわかるだろうと思っているのか、それとも――。
 何であれ、ヴィルジールはふう、と息を吐いた。
「君はふたつ、勘違いをしていたんだね。ひとつは、硝子細工を金銀財宝と見誤ったこと。もうひとつは、宝物を『我楽多』と一蹴したこと」
 シュデラの目の前できらきら輝く宝の名残を踏みつけたことは。あれは、これまで宝を奪い殺した村人にしたことと同じ。誰かの命も、想いも、一切を思わぬ心が成す行為だ。
「おいでよ、ストラス」
 水宝玉の表面を指先で撫でれば、そこを扉として王冠戴く梟が再び幽世へと顕現する。
 立派な翼を広げこちらを見下ろす梟――天文魔法の使い手たる大王の眼差し、願うものへの対価はあれがいい。
 硝子市で求めた硝子玉をと懐を探ったヴィルジールは、きん、と澄んだ音を立てて飛び込んできた煌めきに瞳を瞬かせた。
「俺前行くね。ヴィル君はストラス? じゃコレ食べるかい」
 ぱしりと受け取った視界でシュデラがスタスタと前に出ていく。
 美しいかんばせに笑みを浮かべてはいるが――その胸中を感じ取ったヴィルジールは礼を言いながら受け取ったものを掌に転がした。ストラスがすぐに顔を寄せ、器用に咥える。
「ふふ、水晶みたいで綺麗だね。ストラスも気に入ったみたいだ」
「ん。喜んでくれて何より」

 しゅるり。かつ、から、ら――しゃらら。

 ふいに生まれた音が二人の会話を途切れさせた。
 始めのものは、紅鞭が欠片彩る床を滑った音。二つ目は、百合に似た飾りが石の表面を擦りながら僅かに跳ねた音。三つ目は――いつ砕かれたかもわからないものが混じった、様々なみどりから成る欠片の音。
 紅鞭を繰る男の目が硝子弾を咥えるストラスを映す。
 蝋燭の炎をきらきらと映す美しい硝子弾。それを、じっ、と見た男は違うと呟いた。
「それが梟の宝か」
 それ。
 短い言葉に宿っていた嘲りに、白銀色の狼尾がぶん、と揺れて空気を叩く。
(「“それが”? 自分の宝もわかっていないのに」)
 歩みを進めるシュデラの足音がカツン、と高く響いた。駆け始めた音を追うようにヴィルジールは視線を向け、宙の海を思わす髪を揺らしてストラスを見る。
「それじゃあ、今回も宜しくね。賢くて可愛い、私の大王」
 連続殺妖事件の犯人に見せるには勿体ないものだけれど。
 残念そうに言って笑ったその頭上。翼広げたストラスが一声響かせて現した流星群が凍てつく空気と共に降り注ぐ。きらきらと描く軌跡は――前を行く、白銀の友の為。
「煩わしい」
 金華猫の男が一言口にした瞬間、見えぬ何かが駆けてきた。ヴィルジールの体に触れ、その更に奥、精神に触れたそれが視界を歪ませる。
「っ……」
 途端現れた幻覚のせいか、頭の中、保たれていたバランスが一気に崩された気がした。
 自分の手元から遠くへと奪われゆくものへの想いが、頭の中を激しく揺さぶり四肢を硬直させる。
(「大丈夫、大丈夫だ」)
 自分が囚われようとも、ストラスさえ無事なら戦い続けられる。
 交渉は既に終えた後。かの大王は硝子弾をいたく気に入っている。
 ストラスが起こす天体魔法は、ヴィルジールの予想通り駆けるシュデラを守っていた。襲い来る紅鞭を弾き、叩き、金華猫の問いかけを合図に現れた巨大な猫にも容赦なく降り注ぐ。
「俺の宝、ね」
 問われた内容を繰り返したシュデラは、自分だけを避けて降り注ぐ流星群の中でにっこりと笑った。
「あのね。お前が何だか俺知らないけどね、宝は人の心と一緒なんだよ」
 そして人の心とは人それぞれ。
 千差万別と言うのだろうか。人の数だけ心が在り、それぞれの宝が在る。
「お前が壊した硝子は同じ様に踏み躙った命が大事にしてたモンなんだよ」
 桜咲く青銅色の小物入れ。
 金装飾の蔦が添うターコイズ色のゴブレット。
 シーグリーンを基調とした砂漠の国の洋燈。
 孔雀緑に輝く蓮花。
「お前が気に入らないからって軽く壊してイイモンじゃないんだよ」
 ここに奉納された硝子たち。
 ツバキが迎えた、木箱の内に眠る硝子。
 その全てに誰かの心が宿って――そうして、宝となる。
「解る? 獲物じゃわからないか」
「好きに言え。お前がどう思おうと、俺は変わらない」
「だろうね。――邪魔」
 シュデラの声が低くなる。降り注ぐ星々の隙間を縫って飛び出した来た猫、紅鞭を躍らせた金華猫の男。その二つを一瞬で捉えた銃口の数は86。
 男は鞭を操りながら飛び退いた。しかし空を切って鳴く紅色を守りの壁として扱えど、それは鉄壁ではない。一瞬ともいえる穴をついて届いた流星と煌めく弾が男のバランスを崩し、ざざざと冷たい床の上を滑らせる。
 だ、だ、だんっと響いたそれは全力で床を蹴る音。
「ごめんね」
 いつもは銃や剣なんだけどね。
 そう言ったシュデラの手はきつく拳を握っていた。
「お前は殴りたかったんだ」
「っ!」
 男が腕を交差させる。だが構わない。シュデラはそのままそこへ拳を叩き込み、ぐんっと更に力を、体重をかけ――骨を鳴かせた。そこへ迫る輝きはストラスからの贈り物。
「宝石を愛する我が王も硝子は宝物に視えるみたいだよ」
 破片に降る光は数秒と待たず輝きを増していく。闇が薄れ、本来の色が浮かび上がる。それらはどれも美しく――けれど、砕かれる前は誰か一人の心を照らす宝として存分に煌めいていた筈。
 それを、この男は奪い、壊した。
「――君、見る目が無いんじゃない?」
 そんな目で、定めた宝とやらは見つけられるのかな。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロム・エルフェルト
ニュクス

金の毛並みの、猫
水の妖精の彼が言っていた犯人
彼が帰る事は無いけれど
せめて奴を討ち果たして墓前に報告しなくては
レモンが木箱を奪うのに合わせ、縮地で駆け抜け木箱を奪取

何を勝手なことばかり。
お前が戯言を繰ろうとも、作り手の心が篭ったこの子達は宝物。
無念を晴らせとばかりに砕けた硝子片を敵の顔目掛けて蹴り上げ
同時に踏み込み斬りかかる

敵のUCの猫を刀で受け止めつつ、問答に何と答えよう
太刀筋に篭められたお師様の想い
――この剣技こそが、私の宝
「憑紅摸」の刀身に焼却の焔纏わせ
喰らい付く猫を両断するようカウンター
レモンが稼いだ数瞬で気配を殺し、死角から一気に距離を詰め
敵の切り札を縛る抜刀術(UC)を放つ


レモン・セノサキ
ニュクス

そうか。なら私が貰っても構わないだろう?
「仕掛鋼糸」を高速で射出・巻上げ
早業のロープワークを披露し鞭が閃く前に木箱を回収

欲しいと無理やり奪っておいて
思ってたのと違うから癇癪起こして壊すと
オイタする精神幼児の坊やには躾が必要だね
「ブルースフィアビット」を展開、レーザー射撃と
両手に持つ「KURZ.6」を乱射し牽制

敵UC、鞭ならまだしも視線や声は避けられない
私の大事なものは学園、結社、かつての想い人
奪われた衝撃に敢えて隙を晒そう
……この世界に無い物をどうやって奪うのやら

UCで姿を消し、虚を突いて背面零距離から蒼の魔弾を撃ち込む
強烈な呪詛付きの魔弾だ、並みの敵なら数瞬は動く事も儘ならないだろう



 細く固く撚り集めたような音。蝋燭の火で炎色に浮かび上がった線。
 暗闇の内からふいに現れ走ったそれが紅鞭の先を行く。ひゅひゅんと鮮やかな弧を描きながら木箱に巻き付き――くんっ。飛び上がった木箱がレモンの腕の中へと収まった。
 それと同時。た、た、たんっと短い音が数回。
 僅かな蹴りだけで一気に駆けたクロムの手が木箱を掴む。そのまま駆ける後ろ姿を追うように閃いた紅鞭を、鞘に収めたままの刀が弾いた。
「どれも要らないのなら、私が貰っても構わないだろう?」
 不敵に笑うレモンに金華猫の男は無言で尾を揺らす。ゆるり、ゆらり。右に揺れ、そして左へ。閉じられていた口が開く。
「何の為にその瓦落多を求める」
「何を勝手なことばかり」
 奪取した木箱を懐に押し込んだクロムの声は冷えていた。
 あの男は、木箱へと大切に収められた硝子の色と形を――ツバキの心を打った煌めくそれの姿を見ているというのに。
「お前が戯言を繰ろうとも、作り手の心が篭ったこの子達は宝物」
 今日よりも前に壊された硝子も、等しく宝だ。
 殺された被害者たちと奪われ砕かれた硝子の無念は強いだろう。出逢いを経て新たな輝きが日々に宿る筈だった未来は、二度とやって来ない。
「これは、瓦落多じゃない」
 口にした瞬間、クロムは顔目掛け硝子片を蹴り上げ抜刀した。
 二人目の被害者である水妖も彼が見つけたゴブレットも帰ることはないが、この男を討ち果たしたと墓前に報告しなければ、いつまでも眠れないだろう。
 緑、翠、碧とあらゆる“みどり”を一つとした破片が炎に照らされ、しゃらしゃら鳴りながら美しい波を作る。その彩が存分に降るのを見た黄金の双眸が、ほんの僅か見開かれた。唇が開き、何かをこぼそうとして、
「違う」
 黄金に浮かび上がった強い拒絶が波向こうから迫るクロムを映す。
「お前の宝は何だ」
 紅鞭は少女の身を傷付けんと蛇の如き躍動を見せ――だがそこに加わった星々のような蒼い輝きが、キィンと細く高い音を紡いですぐに真っ直ぐな光を放った。
「欲しいと無理やり奪っておいて、思ってたのと違うと壊す」
 癇癪起こしてるみたいだね。
 レモンの展開した蒼球が風のように飛び回りながら光を放ち続ける。現れてすぐに跳躍した月色の猫にも即座に反応した蒼はまるで、獲物を追い詰めていく群れた鳥のよう。
「オイタする猫の坊やには躾が必要じゃない?」
 レモンが乱れ撃つ銃弾と蒼い光、二重の牽制に男が紅鞭を烈しく揮う。そこかしこで鞭と銃弾がぶつかり、真っ赤な火花が何度も咲いた。
 そのすぐ傍を凄まじい速さで駆けた月色の猫が、毛を逆立て唸りながらクロムに飛びかかる。体はクロムよりも遥かに大きく、湾曲した爪は掌以上。しかし刀で受け止めたクロムの心は冷静だった。
 男の問に何と答えよう。
 宝とは心が篭められたものであり、心が宿るもの。
 ――ならば、自分の宝はこれしかない。
 クロムの双眸が猫を射抜いた瞬間、刀身に焼却の焔が走った。焔はぶわりと溢れ鋼の上を翔け、クロムも猫も眩い色で一気に彩り――ひゅ、と一閃。
 喰らいついていた猫はその状態のまま両断された。月色の体が左と右の二つへと分かれながら倒れていく。床に届く直前、光の欠片となってはらはらと散れば、焔とこぼれる火花が照らすのはクロムだけ。
「――この剣技こそが、私の宝」
「剣技が、だと?」
「お前に解らなくても構わない」
 太刀筋に篭められた師の想い、この宝は自分だけのものだ。
(「流石だね」)
 鮮やかな太刀筋に笑みを浮かべたレモンの意識は、即座に金華猫の男へと向く。
 蒼い光と銃弾、二つを見舞い続けるその手際は慣れたもの。
「さあさあ、逃げっぱなしでどうするのかな」
 挑発めいた言葉をかけながら、その心は男が操るユーベルコードへの警戒を抱いていた。実体を持つ鞭ならいくらでも対応のしようがあるが――視線と声だけは避けられない。
(「だったら、奪われる衝撃に敢えて隙を晒してあげようか」)
 銃声を止め、銃弾の雨のお次はこれだと二丁を構え直す。素早い動きにわざとらしさはなく、は、と嗤った男の双眸にゆらりと妖しい光が宿った。冷たい眼差しと共に唇が何かを紡ぎ――レモンの足が、止まる。
 大勢が日々集い、あらゆる日常と青春を過ごした学園。
 手を取り笑顔を交わし合う仲間がいた空間。
 そして――かつての想い人。
 大切で大事な全てが地底より滲み出した真っ黒な何かの中に――奪われるのだろう。今ここに居る自分が、彼女であるのならば。
 レモンの足が止まったのは一瞬。溌剌とした瞳は少しだけ遠くを見て、笑った。
「……この世界に無い物をどうやって奪うのやら」
「無い、だと?」
「そうさ。残念だったね」
 瞬間レモンは姿をかき消し――空間を超え男の死角に飛ぶ。
 現れた気配へ即座に気付き振り向いた男の髪がなびく。しかしレモンは既に銃口を男に合わせていた。
 響いた銃声二発。爆ぜて弾けた蒼雷の魔弾。痛みだけでなく呪詛にも蝕まれれば動きは鈍り、その数瞬のうちに死角から一気に攻め込んだクロムが刃を抜く。
 長い髪ごと背中を逆袈裟に。そのまま流れるように左右の胴を薙ぐ。そして宝への執着宿して輝く黄金を正面から捉え――紅の鞭と激突した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

水鏡・陽芽
あなたがこの事件の犯人だね。人の命を奪うのは当然許せないし、これ以上職人さん達の思いが込められた作品を壊させるわけにはいかないから!

箱を守りにいくよ。誘きよせやフェイント、ダッシュや残像を使って、囮として敵の注意をあたしに引き付けて箱から気を逸らさせるよ。危なくなったら逃げ足で敵の攻撃範囲からさっさと逃げる。回避には第六感も使うよ
敵の隙をついて、だまし討ちや咄嗟の一撃、【鏡からの閃光】を発動

あなたにとって価値がないとしても、他の人にとって価値がある、大切な物だとしたらそれは間違いなく宝物なんだよ!自分勝手な理由で壊させはしないよ!

他の人との絡み・アドリブ歓迎


豊水・晶
あなたの価値観を押し付けないでいただけますか?

品物の見てくれだけで宝かどうか判断するなんて、可哀想な方ですね。品物には必ず歴史があり、それに関わった様々な想いや思い出が、その品物に味を出します。その味が品物を宝と言われるまでに昇華させるのです。形など幾らでも真似が出来ます。それが分からない内は、あなたは宝を語る資格はありません。
時に命さえ宿る想いのこもった品物は、真似の使用がない唯一無二の輝きですよ。
戦闘は結界術、オーラ防御で防御を固めて木箱を守りつつ指定UCで攻撃します。絡みやアドリブなどは自由にしていただいて大丈夫です。



 ざくりと切られた金糸の髪が床に散る。その上にぽたりぽたりと血が落ちて――頭が少し軽くなったと呟いた男の尾が、ゆらりと空気を撫でた。
 犠牲となった妖怪たちはその尾を。髪を。そして。
「あなたがこの事件の犯人なんだね」
「もう逃げられませんよ」
 すい、と向けられた黄金の目も見たのだろう。
 晶と並び立つ陽芽は、冷えた眼差しを向けられても怯みはしなかった。堂々と立ち、大きな瞳に決意をしっかりと宿して告げる。
「人の命を奪うのは当然許せないし、これ以上職人さん達の思いが込められた作品を壊させるわけにはいかないから!」
 風呂敷の上に箱はまだ残っている。紅鞭が揮われたら? 男が近づいたら? そうなれば、あっという間に全て壊されるだろう。箱も中身も砕け、血の代わりに破片がこぼれて広がって――なんて、そんなこと!
 飛び出した陽芽の姿が震え、揺らぎ、増えていく。
 一人、二人、三人四人。駆けながら見せる残像に男が黄金の目を向け、ぎこちなさの残る動きで鞭を操る。
「理解し難いな。いや、到底理解出来ぬ」
 他人の物。他人の命。
 己の宝でもないものの為によくやるものだと語る声は冷たい。
「あなたの価値観を押し付けないでいただけますか?」
 職人である村人が心血を注いで創った硝子。
 犠牲となった村人が惹かれ、迎えた硝子。
 彼らの想いも命も無価値のように扱う言動に、晶の色違いの瞳に静かな怒りが宿る。凛と紡いだ声にもそれは滲み、しかし金華猫の男はくだらぬとだけ呟いた。
 その間に最小の動きで輪を描き始めた鞭がひゅんひゅんと空気を裂く。それの軌道と範囲を見ていた陽芽たちが「あっ」と驚きを浮かべた時、一気に輪の範囲が広がって――ぱしんッ! 紅鞭が石の床を叩く。
「そっちじゃないよ!」
「下手っぴ!」
 ぞわりと来た感覚に従ってささっと鞭の領域から逃れた陽芽たちが、仲良く“あっかんべー”をする。その隙に晶は残る小箱を背に立ち、清らかな守りを自身と木箱に施した。
「お前も、それを宝と呼ぶのか」
「ええ。品物の見てくれだけで宝かどうか判断するなんて、可哀想な方ですね」
 作られたものには必ず歴史がある。そこに様々な想いと思い出が関わり、重ねゆく時と共に作られたものに味を出し、その味で作られたものが“宝”といわれる由縁の種となる。
 形などいくらでも真似が出来る。
 本物そっくりにすることも可能だ。
 しかし――宿るものには形がない。
「それが分からない内は、あなたは宝を語る資格はありません。時に命さえ宿る想いのこもった品物は、真似のしようがない唯一無二の輝きですよ」
 手にした宝珠がじゃらりと音を奏でる。宝珠の持つ煌めきに男の視線が注がれるのを感じた。すぐに宝珠への興味をなくしたことも。そして――冷えた眼差しに尚も宿る宝への執着と、自分たち猟兵に対する殺意も。
「俺が一度定めた宝か否かは、見れば解る」
 故に奪い、見て、判断する。
 これがそうなのか。そうでないのか。
 そこに必要なのは己の直感のみ。持っていた者の想いといった無形のものは必要ない。
 そう言い切った男の考えは、何度骸の海に還っても変わらないのだろう。
「天におられる竜王よ――!」
 晶は凛と声を響かせた。続けた言葉は先に紡いだ言葉に重なり響き、大いなる存在の力がプレッシャーと共に場に満ちる。
 ふいに落ちた静寂。
 一瞬の後に天からの雷が暗闇をつんざき、男を貫いた。
「っ……!」
 一気に全身を駆けた雷撃に男が呻く。だが膝はつかない。真っ白に灼かれた視界に目を凝らし――己へと疾風のように迫る存在を捉え、鞭を揮う。
「そんな状態じゃ当たんないよ!」
 響いた幼い少女の声はやや遠く。しかしその距離が一気に縮められたと男は感じただろう。紅鞭の躍る範囲がぐっと狭められた。
 それでも陽芽は止まらない。
 木箱は晶が守ってくれている。その安心感がスピードに、攻撃に繋がっていく。
 隙をついて、まずは「えいっ」と一撃。しかし本命は別だ。
「もっと眩しいのをあげる!」
 大きな瞳を輝かせ、しっかりと鏡で捉えたのは男の顔だ。雷の眩さと痛みで僅かに歪めた顔が写った瞬間、鏡が峻烈な光を放つ口となる。
 どうっと溢れた光が男を吹き飛ばし、壁に叩きつけた。強い衝撃で生まれた音には短く呻いた声も含まれていて。それを痛そう、可哀想、とは晶も陽芽も思わない。
「あなたにとって価値がないとしても、他の人にとって価値がある、大切な物だとしたらそれは間違いなく宝物なんだよ! だからもう、自分勝手な理由で壊させはしないよ!」
 真っ直ぐな想いをぶつけられた男が、静かに身を起こす。
 顔にかかっていた金髪がさらさらと流れ落ち――見えた顔は、嗤っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

香神乃・饗
【きょうたか】
ツバキさん!いい酒器見つかったっす!案内有難うっす!
(緑の盃をちらりとみせ
値踏みさせないうちに懐にしまい狙わせ)

いいじゃないっすか、誉人
教えても減るもんじゃないっす

お前にとって緑が宝と決めた出来事があるんっすよね
何があったんっすか

好奇心っすかね

理由を聞いてもくれてやらないっすけど

俺の宝は誉人――俺の主っす!
がらくた?価値は俺が決めるっす!

お前もそうじゃないっすか

ツバキさんの箱から遠ざかる様に引付け自身を囮にして守る
香神写しで武器増やし
誉人の姿を隠す様苦無の幕を張りフェイント

誉人!
緑の盃を誉人に投げる
たたき斬れるように
つられて相手が動くなら隙ができるっす
誉人が斬られないよう糸で絞め


鳴北・誉人
【きょうたか】

ツバキの持ってきた風呂敷の中身は護ってやる
背に庇うように立ちはだかり
警戒は解かず
さっきめっちゃキレイな酒器が買えたのォ
いいトコ教えてくれてありがとな

俺の宝物、だァ?
てめえに教えてやるほど安かねえンだよ

ヤだよ、俺はヒミツ主義なのォ

なんでてめえを満足させてやんなきゃなんねえ
なんでてめえのモノサシで計られなきゃなんねえ
てめえの満足なんざ関係ねえ
来いよ
いつまでも相手してやっからァ!

質問には明確に答えず
饗の言葉にも特段反応しない――判りきっていることだから

UCで金猫を牽制
爪は刃で受け、牙を剥くなら喉を刺突

饗の擲った盃に気を取られれば
太刀を抜き素早く間合いを詰め斬り込む
負傷顧みず二度の斬撃を



「っとォ、俺らも壊させやしねえよ」
 端正な顔でにししと笑う誉人は木箱の前でくるり。背に庇うように立ちつつ、親しげな笑みの下では男への警戒を怠らない。
「さっきめっちゃキレイな酒器が買えたのォ。いいトコ教えてくれてありがとな」
「ツバキさん! いい酒器見つかったっす! 案内有難うっす!」
 ぴくっ。饗が報告しながら見せた盃――蝋燭の炎を映した緑に男の目が向いた瞬間、饗はそれをサッと懐にしまった。
「駄目っすよ、これは俺が誉人と呑む時のとっておきなんっすから!」
「……随分と市を楽しんだようだ。ならば見つけたのだろう。得たのだろう」
 止まり、乾いた赤色になったそれを顔に残したままの男が問う。
 お前の宝は何だという問いと共に現れた猫は、男の背丈と同じくらいあるか。さらさらとした金色の毛並みが、ゆるりと前に出る動きに合わせてやわらかに光の帯を泳がせる。
 ――それが、二体。
 自分と饗それぞれへの問いかけから現れた二体を前に、誉人は「はン」と笑った。
「俺の宝物、だァ? てめえに教えてやるほど安かねえンだよ」
「いいじゃないっすか、誉人。教えても減るもんじゃないっす」
「ヤだよ、俺はヒミツ主義なのォ」
 なんてやりとりは明るく軽快に。
 一歩、ニ歩。じわじわと距離を詰めてくる猫たちを真っ直ぐ捉えれば、大きな月の金色が二つともぴたりと止まる。だるまさんが転んだじゃねえんだけどォ、と誉人がニヤリと笑む間、饗の黒い双眸が男に向けられた。
「お前にとって緑が宝と決めた出来事があるんっすよね。何があったんっすか」
 途端睨まれるが、饗は好奇心っすかねと笑顔で返す。
(「理由を聞いてもくれてやらないっすけど」)
 ツバキが案内してくれた店で得たこの出逢いは、春夏秋冬と、これからもずっと自分たち二人の思い出に添う逸品なのだから。
「知らん」
 男の返答に饗の目が丸くなる。
 え、しらん? 知らないって言ったっすか?
 ぱちぱち瞬きをする隣で、誉人が「はァ?」と声を上げた。
「知らねえだ?」
 宝のことなのに覚えていないだと。四人殺して、奪って、壊して――煌めく硝子を次々と生み出す村に、不吉な影を被せておいて。それで、知らん、だと。
 誉人の足が石の床をざりっと擦る。
「なんで、そんなてめえを満足させてやんなきゃなんねえ。なんでてめえのモノサシで計られなきゃなんねえ」
 てめえの満足なんざ関係ねえ。
 荒々しくなる言葉と共に誉人の目がぎらりと光った。その手がすらりと得物を抜けば、澄んだ銀の刀身を蝋燭の炎が通過していく。
「来いよ、いつまでも相手してやっからァ!」
 明確とは言い難い返答に男が紅鞭を躍らすことで応じ、戦いの先陣を月色の猫が切る。
 だが誉人は構わなかった。言った通り明確に答える気などないし――それに、
「俺の宝は誉人――俺の主っす!」
 饗が誇らしげに響かせた言葉にも、敵を捉えたまま刀を構えてとこれといった反応はしない。共に生き、共に過ごし――あきの来ない酒盛りを楽しみだと笑う顔。全て全て、判りきっていることだから。
「タカト……嗚呼、そこの男か」
「あっ、誉人のこともがらくたって言うんすか? 価値は俺が決めるっす!」

 お前もそうじゃないっすか

 添えた言葉は恐ろしく真っ直ぐ。黒い双眸が無垢にすとんっと突き刺すような表情をして――唸り跳躍した猫たちを笑顔で捉えた。
「ほらほら、こっちっすよ!」
 懐に手を突っ込み、木箱から遠ざかりながら指と指の間に挟んで取り出したるは黒い苦無。ばっ! と一気に広がった様は傘や扇のよう。黒き鋼色たちは饗の意のままに展開する幕となり、誉人の姿を玻璃堂と苦無が持つ黒色の内に隠していく。
 ゔゔゔ、わぁう!
 饗を追いかけていた一体が思わず足を止め、毛を逆立て鼻をひくつかせた。見えないのなら臭いで辿るだけという選択は正しいだろう。しかしそれを呑気に見守るほど饗も誉人も甘くはない。
「ほらよォ!」
 苦無の傘から咲いた仄青い彩。ばっと後ろに飛んだ猫が着地と同時に床を蹴って刀を叩き落とそうとする。しかし誉人が操る仄青い彩を見せる刃もまた、誉人の意のままに飛んで閃いてと大立ち回り。
 叩こうとしにきた爪は刃で受ける。ならばと猫が牙を剥けば、その瞬間ぐるんっと縦に回転して――どすっ。喉を貫き脳天から血塗れの刃先を覗かせれば、大きな体がずるりと力をなくしていく。
 その体が石の床に横たわるのを捉えていた視界の中、ゆるりと動き出した金色は今屠ったばかりの猫の主。――そういや名前知らねえなァ、とふと思った誉人が身構え、男も紅鞭を持つ手に力を入れて。
「誉人!」
 もう一体の猫を飛び回る苦無の嵐で歓迎していた饗が、きらきら輝く笑顔で緑の盃を誉人へと投げた。遊んでるわけじゃない。“誉人なら絶対に大丈夫っす”という、揺るぎない信頼があるからこその笑顔。
 そして、もう一つ。
「……!」
 宙を舞った緑の盃に金華猫の男が目を瞠る。
 緑の色。形。
 つられて動く目と足。そして、伸ばされる手。
 だが男が触れたのは――否、触れてきたのは糸の檻。盃はしっかりと受け取った誉人が懐へとしまい込み、目の前にありながら届かぬ宝と化す。
「見せろ」
「誉人は俺の宝っす。やらせないっすよ」
 絞めつける糸がぎりりと音を立てる。
 その時にはもう誉人は太刀を抜き、間合いを詰めた後。
「目移りしてんじゃねえよ」
 強い眼差しが男を射抜き、刃が閃いて――血が舞った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

そりゃあ
他人様の宝奪ったって
満足出来る訳ねぇんじゃねぇの?
それはあんたの宝じゃないんだから
木箱守るように立ち回りつつ

首から下げてる指輪軽く握り
俺が猟兵になってから増えた宝物
それが大事なのは
付随する人あってのもの

だから
成り代わり人ごと奪おうと
殺しちまうあんたに分かる訳がねぇ

大丈夫
側に居る
瑠碧姉さんの手に触れようとし
庇う様前へ
衝撃波で召喚された猫攻撃
ダッシュで距離詰めグラップル
蹴り飛ばし敵に向けて吹き飛ばし
そのまま追い打ちしUC

猫は暗殺用い急所攻撃手早く無力化

鞭で広範囲攻撃されない様
距離詰め自分の間合いで攻める
弾いて貰えば
ありがとうな
間髪入れず見切りカウンター
拳の乱れ撃ち
その人
返して貰うぜ


泉宮・瑠碧
【月風】

ツバキは…
彼を祓えば、戻る気はします
…彼こそ
得られずとか、失ったのでしょうか

まず招致小精で精霊を招き
大半を結界で木箱を護るように願い

催眠で動けない間は
傍の小さな精霊達に防護の結界と共に
実際の状態を囁いて貰います

失う事は、慣れてますから、大丈夫
…私の手には、何も残らない、ので
…それでも、理玖の姿を目で探し
私も自身の中指を見、指輪が有る事も確認し…
理玖の掌の温度に、安堵

鞭は空気音や手の様子で
動きを第六感で予測し見切ります

可能な限り
鞭の軌道上に氷の盾を作って
理玖への攻撃も弾ける様に
…命まで奪われない様、守ります

浄化を籠めた水の槍を撃ち
ツバキの無事と…
君はどうか、執着が薄れ、安らかにと祈ります



 奪って、違うと言って、壊して。
 目の前で見せられた緑の盃には、思わず手を伸ばそうとして。
 金華猫の男を倒すことで祓えば、ツバキは戻るだろう。
 しかし、尚も“みどり”を追う金華猫の男は――、
(「……彼こそ、得られずとか、失ったのでしょうか」)
 憂いを浮かべた瑠碧は、色濃い黄金に睨みつけられ突き刺さるような殺気に僅かに後退した。その姿を木箱ごと守るように理玖が立ち、男の視界から瑠碧と木箱を隠す。
「違う、違うってよ……そりゃあ、他人様の宝奪ったって満足出来る訳ねぇんじゃねぇの? それはあんたの宝じゃないんだから」
「……嗚呼、そうだ。あれらは全て俺の宝ではなかった」
 故に心は未だ満たされず、宿願は叶わぬまま。
 そう語った男の両目に悲嘆の色はない。あるのはひとつ。
「だがこの世界の何処かに俺の宝は在る」
 どれだけ傷を負わされようとも薄れぬ執着。
「……つまり、今回の村みたいなこと続けるってことか」
 理玖の声に男が息だけで嗤う。
 幽世のどこか――縁もゆかりもない場所で誰かや何かの為に動く。その行為と想いを嘲る気配に理玖が静かに拳を握った時、男が問いかけてきた。
「小僧。お前の宝は何だ」
 男の後ろ、闇の中からじわりと滲み出た明るく淡い金。男の心を入り口に喚ばれた巨大な猫が放つ純粋な殺気が後ろに守っている瑠碧と木箱へ向かわないよう、理玖は猫の視線を堂々と見つめ返す。
「俺の宝は……」
 首から下げている指輪を軽く握った。うすらと感じたへこみは掘られた魔術文字。そのまま辿れば、文字とは違う感触を覚える。
 銀の環に宿る瑠璃石。
 この指輪が持つ、掛け替えのない片割れが思い浮かぶ。
「俺が猟兵になってから増えた宝物だ。それが大事なのは、付随する人あってのもの。だから、成り代わり人ごと奪おうと殺しちまうあんたに分かる訳がねぇ」
「……どの猟兵も同じような事ばかり言うのだな。実に――無駄だ」
 黄金の双眸が冷える。
 猫が吼える。
 ぶわわと毛を逆立て臨戦態勢を取る姿は、大きさにさえ目を瞑れば何とか――と思うも、漂う気配はそんな思いを無慈悲に切り裂くような激しさだ。
 それでも。それでも、自分を守ってくれる背中の為に。
 瑠碧の控えめで清らかな声が、事件の現場であり戦いの場となった玻璃堂に流れていく。ふわりと増えた気配は今にも飛びかからんとしていた猫も感じただろう。だが、見る事は叶わない。
「木箱を、お願いします」
 どうか、護って。
 願いと共に優しい気配が後ろに集まれば、自分と木箱を庇い立つ理玖はだいぶ自由に動ける筈。理玖、とそうっと名を呼ぶのとほぼ同時、ありがとなと優しい声がした。
 タイミングが少し被ったことに理玖の肩が揺れる。笑ったのだとわかって、瑠碧の表情がほんの少し綻んで――同じように、理玖も瑠碧の気配がやわらいだことにほっとするような笑みを浮かべた。
「連続殺妖事件は今日で終わりだ。もう誰も殺させねぇ」
「好きに励め。お前達の都合は俺には関係無い」
 俺は何度でも甦る。
 宝を見つけ、手に入れるまで。何度も、何度も。

「それが猟兵の宝でだとしても、構うものか」

 男がそう告げた瞬間、瑠碧の世界が炎にのまれた。
 動物たちが。大地が。森が。――姉が。
 寄り添い続けてくれた宝物が根こそぎ奪われていく。悲鳴も涙も出ないほどの衝撃に瑠碧は思わず胸を抑えた。前を見られない。顔を、上げられない。動けない。
 だが傍らにいる小さな精霊たちが、防護の結界を張りながら、さらさらとした優しい声で今の本当の状態を教えてくれる。
 視界に焼き付いた世界の向こうで戦う彼のこと。
 無数に分かれて向かってくる風のように躍る紅鞭に時折打たれながらも、決して足を止めず、怯まずに。追いかけてくる猫にも負けず、動けぬこちらをいつでも守れるよう、距離と様子を気にかけながら戦い続ける姿のことを。
 ああ、と息がこぼれる。
 大丈夫なのに。自分は、失う事は慣れているのに。
(「……私の手には、何も残らない」)
 そう思って――いるのに。思っていたのに。それでも探してしまう。指輪はちゃんとあるだろうかと中指を見て、確認して。いつでも優しく、あたたかく傍にいてくれる存在は。あの優しい夕焼け空のような髪の色は、今、どうして――、
「大丈夫。側に居る」
 すぐ近くで声がした。世界が晴れていく。
 伝わる掌の温度が広がって、動けなかった心がとけていく。
 やわらかに咲いた安堵の表情に理玖は笑いかけ――行ってくる、とだけ告げて前に出た。わわぁうと大きく鳴いた猫を真正面から捉え、ッパァン! と弾けるように迸らせた衝撃波で吹き飛ばし、落下地点へ一気に駆ける。
 そこを狙い繰り出された紅の一閃は、急所に拳を沈めてから動かなくなった猫の体で受け止めて。ごめんなと一言添えながら、鞭の射程外へと跳ぶ。
 強く叩きつけるような紅色の狙いは瑠碧にも及ぶが、戦いを好まぬ瑠碧も猟兵の一人として数多の戦場を訪れては戻ってきた一人。
 培ってきた経験と磨いた感覚で紅鞭の一撃を躱し、嵐のように繰り出される紅鞭の軌道には氷盾を。軌道上に理玖を認めたなら、即座に氷盾を生んで紅を弾いた。
「! ありがとうな、瑠碧姉さん」
 そして二人の攻撃はひとつとなって金華猫の男へと向かう。
 ツバキの無事。――執着が薄れ、安らかなる時をと祈りも籠めた浄化の水槍と。
「その人、返して貰うぜ」
 弾かれた紅鞭の先。一瞬を取られ目を瞠る男の身へと、拳の嵐が沈み込む。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

──よかった
サヨが喜んでくれた
華咲む巫女のかんばせに、胸が柔な春に染まる
うたう鼓動に頬に昇る浮かれた熱…之が幸の彩なのだろう
私のたからは
サヨ
きみだ

砕かれた硝子と共に、物に込められた縁すらも踏み躙られたようで眉を顰める
それでも祈るよ
そなたの宝物が見つかるといいね
見つかり、其れが踏み躙られないといい
私の宝は穢させぬ
美しく咲く櫻を散らせばしないと誓ったのだから

疾く駆け切り込み─血桜が舞う
サヨ!
私を庇うなんて、何故
大切だと幾度重ねればわかってくれるかな
きみを傷つけていいのだって私だ

冀う探し物が見つからぬのは辛かろう
何時か叶うといいね
けれど──サヨのことだけは傷つけさせはしない
覚悟と共に、切断する


誘名・櫻宵
🌸神櫻

しゃらり、愛しい神がくれた硝子の桜簪がうたう
櫻冀──咲き零れる幸いに、ふふりと笑う
私の神様がくれた大切な大切な宝物

これは私の宝物であってあなたのものではない
あなたの宝物は
あなたにしか価値のないもの
ひとにとってもそれは同じ

カムイ!
咄嗟にカムイをかばう
私の宝者を傷つけさせないわ
…触れていいのも壊していいのも私だけだもの
欲望の一雫を隠し笑って、生命を喰らい咲く桜化の神罰と共に薙ぎ払う
満たされないってかぁいそう
飢えるのは辛いわよね
わかるわ

─朱華
衝撃波に破魔かさね斬り祓う

ひとから奪おうだなんて見つかるわけが無い
心にも等しいものをガタクタと断じるなど傲慢の極み

私のたからものは
眸に見えないアイなのよ



 しゃらり、しゃらり。玻璃の桜が揺れては奏でるうたは、とびきり優しくて愛情深い。
 愛しい神がくれた硝子の桜簪――櫻冀、と名付けられた春は咲きこぼれる幸いとなって、櫻宵の唇からふふりと笑みを紡がせる。
(「私の神様がくれた大切な大切な宝物」)
 瞳を細め微笑みかけてくる姿は春爛漫。幸いを双眸に宿し華咲む巫女の微笑に、カムイの心もやわらかな春に染まって満たされていた。
(「──よかった。サヨが喜んでくれた」)
 永遠に枯れぬ春が似合うことは勿論嬉しいのだけれど、それ以上に、目の前で咲き誇る巫女の笑みがカムイの鼓動をうたわせ、頬にふわふわ浮かれる熱を昇らせるのだ。
(「之が幸の彩なのだろう」)
「それがお前の宝だというのか」
 あたたかに広がる思いにひたりと落ちた冷たい冬。
 巫女と神、二人の視線が、傷ついても尚立ち続ける金華猫の男に向いた。
「だが、その桜も違う」
 月色の猫を現した男の声に櫻宵はくすりと笑う。
 違う? 何を当たり前のことを。
「これは私の宝物であってあなたのものではない。あなたの宝物は、あなたにしか価値のないもの。ひとにとってもそれは同じよ」
 こういう言葉は、もう耳にタコが出来るくらい聞いてるかしら。そう言って微笑む櫻宵の鮮やかな春彩秘めた視線がカムイに注がれれば、桜の龍瞳がやわく咲む。
「私のたからは……サヨ、きみだ」
「ふふ、知ってるわ。私のかぁいい神様」
 噫、なんて愛おしい。
 ――そんな想いを、砕かれた硝子の主たちも抱いたのだろうか。
 散らばる“みどり”が無言で煌めく。本来の形を砕かれ欠片となった様に、そこに籠められた縁すらも踏み躙られたようで、カムイの秀眉は自然顰められた。それでも、カムイは祈る。
「そなたの宝物が見つかるといいね」
 金色の耳が伏せられる。あからさまな反応にカムイは溜息をこぼした。
「そのように警戒するものではないよ。これは、私の本心なのだから」
 金華猫の男がいつか宝を見つけ、そしてその宝が踏み躙られないといい。
 その想いもまた真のものであり――、
「私の宝は穢させぬ」
 もう二度と、美しく咲く櫻を散らせはしない。
 幾度も重ねた誓いに新たにひとつ重ね、カムイは石の床を蹴って疾く駆けた。内に漆黒を抱いた銀朱の髪が鮮やかに翻る。朱砂の太刀を抜いた男を爪と牙、月光の揺らめきで屠ろうと猫が跳躍して――、
「カムイ!」
 目の前で血桜が舞った。
「サヨ! 私を庇うなんて、何故……!」
 咄嗟に動いてしまったのだろうか。倒れかけた体をカムイはすぐさま抱きとめ支える。
 噫、きみが大切だと幾度重ねれば愛しい巫女はそれをわかってくれるのだろう。
(「きみを傷つけていいのだって私だけだ」)
 言葉を秘めた分だけ強く籠められた力に、櫻宵は痛みを浮かべながらも微笑んだ。
「だってカムイは私の宝者よ。私の宝者を傷つけさせないわ」
 ――触れていいのも壊していいのも私だけだもの。
 欲望の一雫は愛しの神の目が届かぬよう胸の内に隠して笑う。この愛は自分だけのもの。ぽっと出の猫にだって、その愛をやらせはしない。
「悪戯が過ぎる猫ちゃんね」
 微笑み抜き払うは業火の如く鮮やかな血桜の太刀。月色の猫を薙ぎ払った瞬間、生命を喰らい咲く桜化の神罰が強く、鮮やかに咲き誇る。
「満たされないってかぁいそう」
 ずうっとかしら。いつからかしら。
 櫻の巫女の眼差しに返るのは苛烈な黄金色だけ。宿る執着はきっと、今宵ここで敗れようとも薄れないのだろう。
「飢えるのは辛いわよね。わかるわ」
 愛を識るまでは自分もそうだった。どれだけ飢えたかわからない。傍らを游ぎ歌う人魚と、巡り廻って再会した神がいなければ、ぽかりと出来た穴は底なしのままだったろう。
「冀う探し物が見つからぬのは辛かろう。何時か叶うといいね」
 確かな言葉として祈りを結んだ神へと桜龍の微笑が咲き、玻璃の桜がしゃらりとうたって――しん、と静寂が一瞬。直後、全員が動いた。
「俺は俺の宝を見つけ出し、手に入れる。邪魔をするなら全てを滅ぼすまで」
 揮われた紅鞭が荒れ狂う。大蛇のような動きで縦横無尽に翔け、二人をいつかの犠牲者と同じように叩き潰そうとする。
 その激しさに桜簪がしゃららと泣いた一瞬。櫻宵の太刀筋に破魔が重なり、ひゅん、と弧を描くように揮われた。そこからどうっと溢れた衝撃波が紅鞭を払い除け、刃が男に届いた瞬間、花びらの如く血が舞って。
「ひとから奪おうだなんて見つかるわけが無い。心にも等しいものをガラクタと断じるなど傲慢の極み」
「ぐ、っ……!」
 がくりと崩しかけた態勢を金華猫の男はすぐさま立て直した。とはいえ、足に力を入れ無理矢理やったに等しい。諦めを見せない様は、かの魂は、宝を得ればようやく安らぐのだろうか。
 カムイは繰り出される紅を低く駆けることで躱しながら刀を強く握りしめ――けれど、と唇からこぼし、男を捉える。
「サヨのことだけは傷つけさせはしない」
 空間ごと抉り断つ斬撃は、何度重ねても足りぬ覚悟と共に。
 抗う魂を黄泉へといざなう一撃が、玻璃堂全体をびりびりと震わせる。
 その音に櫻宵はゆるりと瞼を閉じて、微笑んだ。

 ――私のたからものは、眸に見えないアイなのよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天帝峰・クーラカンリ
お前の宝でなければ、他者の宝を踏み躙って良いとでも?
なんたる傲慢、なんたる邪悪
その性根を叩き直してくれよう
私にとってお前は大事ではないからな、遠慮などいらんだろう?

手にしたアイスピックを巨大化させ、杖剣として戦う
さぁ、逃れられるかな
結界術で戦場から逃げられないようにしてから武器を振るう
相手の武器が鞭ならばリーチは不利か……だが今の私は避けるも容易くてな

――なにか、欠落したか?
いや、違うな……私は最初から、なにも持っていない
私は神、与える側の存在
お前の攻撃は、私とは相性が悪いようだな

最優先は敵の撃破だが、余力があれば木箱を守ろう
では反省と後悔することだ
今更謝っても……死者も宝も元には戻らん



 男が堪えるような慎重さで息を吐く。それでも黄金の双眸は爛々と輝き、宿願を成すという執着を見せていた。
 だがクーラカンリは欠片も哀れまない。蒼穹の如き目が見つめるのは男の足元、血で赤く濡れた“みどり”たち。――元々どのような姿だったのか。百年後に身を得たかもしれない硝子の無残な姿に、クーラカンリはひどく冷えた青色を向ける。
「お前の宝でなければ、他者の宝を踏み躙って良いとでも?」
「俺の宝でなかったものを、何故手元に残しておかねばならない?」
「――ほう」
 ひと暴れしようと考えていたクーラカンリだが、男が一瞬の躊躇いもなく返してきた言葉でその考えを変えた。
 なんたる傲慢。なんたる邪悪。
 “ひと暴れ”では生ぬるい。到底足りぬ。
「その性根を叩き直してくれよう。私にとってお前は大事ではないからな、遠慮などいらんだろう?」
 凍える青を宿したアイスピックを手の内で遊ぶように回転させ、ぱしり。鋭い先端で男の心臓を指しての宣告には神だからこその圧が宿り、玻璃堂の中だけ冬に戻ったと錯覚するほど。
 すると金華猫の男が口の端を上げて嗤った。
「勝手にしろ」
 長い尾をゆらりと漂わせ、紅鞭を手に前へ。足元に散らばる“みどり”の破片が、ぐっ、と踏みつけられる。すう、と冷えたのは蒼穹と黄金のどちらだったか。
「神であろうとそれ以外の何かであろうと、俺には関係の無い話だ」
「……成る程。私は言葉を誤ったようだな。お前に確認すべき事など何一つ無かった」
 そう告げた瞬間、アイスピックがずんっと巨大化した。剣と称するに相応しい大きさになった得物を手に、迫る。
 リーチを考えれば近付かなければならぬ己の方が不利。しかし空気を裂いて低く鳴く紅鞭を見たクーラカンリは不遜に笑っていた。流れるように横へ翔け、ぐるんと上へ。そこから一気に落ちてくる紅色の前、神は止まらない。
「今の私は避けるも容易くてな」
 加速して躱し、轟音を背に突っ込んでいく。
 男が西暦何年に生まれたか知らないが、己が守護神として顕現したのは人が誕生するよりも遥かに昔。その事実を源に編んでおいたユーベルコードが、殺意のみを宿した紅鞭との戯れを展開させる。
「……面倒な」
 男が低く吐き捨て、より烈しく紅鞭を揮ってすぐに後ろへと跳んだ。その先には――玻璃堂の出入り口が。しかし男の体は弾かれるようにして内へと戻る。
「結界か」
「理解したところで、お前の性根を叩き直す事は変わるまい?」
「――は。そこまで夢を見たければ、見せてやる」
 ただし、絶望の。
 黄金の瞳と声が合わさって放たれた見えぬ波がクーラカンリの全身を飲んだ。その余波で硝子片が押されしゃららと鳴いて煌めいて――、
「なにか、欠落したか?」
 神である男は平然とそこに立ち、いや、と納得した様子で地面を蹴り、迫る。
 どういう事だ。訝しむ黄金にクーラカンリは告げる。己の内からは男が狙ったものが欠落することはない。そもそも起きないのだ。
「私は最初から、なにも持っていない。私は神、与える側の存在」
 顕現し、守護についていた時も。獄卒として猟兵として生きる今も。
 ここまで相性の悪い組み合わせも無かろう。神はうすらと笑み――剣となった凍れる青色を男の身へと沈み込ませる。
「では反省と後悔することだ。今更謝っても……死者も宝も元には戻らん」
 報いを――神罰を受けよ。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
だからって壊してサヨナラなんて、とんだ駄々ネ

綺麗なものが壊されるのを黙って見過ごす手はナイでしょ
敵の動き見切り割り込むよう「くーちゃん」を放ち箱を守るわ
自身はオーラ纏い直接的負傷を軽減
ケド掛けてくる術には抗いこそすれ逃げはしない
……生憎、その手の術にゃ馴れてンのよ
奪わせないし、奪う事が出来るならソレはオレだけ

些細な仕草からその心読み隙をつこうか
くーちゃん諸共【天片】に変え
花弁を夜明けの一時に見る薄緑色に染め氷属性付与
嵐と吹雪かせ全てを敵へと向けるわ

誰かの大切を思いやれないくせ、ソレを手に入れようだなんて
烏滸がましいにも程があるってモノよ

順に少しずつ傷口を抉って、奪われる心地を味わわせてアゲル



(「違うからって壊してサヨナラなんて、とんだ駄々ネ」)
 だからあんな風にきっついお灸を次から次へと据えられるのよ、とコノハは笑みを浮かべ、揮われた紅色をかいくぐって黒の管狐を放つ。
 翔けた管狐が木箱を前足でぎゅっと抱えてひらり。紅鞭の届かぬ場所目指し風となって翔けゆく姿へ、その子のコトよろしくねと笑い――後ろより迫る紅鞭の音にゆっくり振り返った。
 パアン! 響いた音には衝撃だけが詰まっていて、しかし打たれた筈のコノハはいたたと顔を顰めて腕を擦るだけだ。
 その理由が何なのか。食らったコノハだけでなく、呼吸を乱しつつある金華猫の男も理解しているようで――じ、と見てきた黄金色が不機嫌そうに細められる。
 水と油レベルとはいかずとも、直接打たれるよりも遥かにマシな程度にまで攻撃の威力を軽減させた、見えぬ守りの壁。それでも、衝撃はゼロではない。
「で? 随分な挨拶ね」
 薄氷を細め笑いかければ、金華猫の男は冷えた眼差しと鞭を操る動きのみを返す。その足元にある大きなへこみと亀裂。古い血の跡。ああ、あそこで殺されたのは三人目かしらなんてコノハは過去に思いを馳せて――ハッ、と笑った。
「欲しいものがなかったのがそんなに嫌?」
「……ならば、お前も味わえ」

 在った筈のものが、何よりも心を占めるものが消えているという世界を。

 ゆらりと輝きを宿した双眸、言葉紡いだ声。そして、叩きつけられる紅色。
 三つ全てから成る力が抗うコノハの意識全てに侵入した次の瞬間、目の前に在ったのは飛び込んだ玻璃堂の内部ではなかった。コノハが想う、最も大切なもの。それが奪われゆく瞬間。その光景。
「やっぱりね」
 しかし、口からこぼれた声はさらりとしていた。
「……生憎、その手の術にゃ馴れてンのよ」
 猟兵として戦う中、様々な不可思議やユーベルコードに触れてきた。その中には過去を暴くものや心の傷口を抉るものもあった。全部纏めたらエッセイが出せそうなほどに在る。
「でもネ。奪わせないし、奪う事が出来るならソレはオレだけ」
 ソッチはどうなの。
 奪われた? それとも奪う側で、奪えずにどこかで落としたワケ?
 ほんの少し首を傾け微笑み問えば、金華猫の男は呼吸数回の間に“戻った”コノハを無言で睨み――何かを言おうとして、口を固く閉じた。
「だんまり? そんなんじゃあソレっぽいものを知ってても教えられないわ」
 そも、教える気もないけれど。
 薄氷の瞳がゆるりと細められ――しゅるり。腕に絡みつくように戻った管狐諸共、今在る武器を風蝶草へと変えてゆく。
 白詰草に似た色と形の花弁。ぴぴんと伸びた雌しべと雄しべはまるで猫のひげ。
 そこに映すのは無限を紡ぐ空の色。夜明けのいっときだけ現れる薄緑。
(「ご注文は、なんて尋ねちゃいないけれどコレがいいんでしょ」)
 奪い壊した硝子たちが持つ色と同じ響きを持つ、みどり色。
 一気に纏めて咲いたかのように溢れた薄緑の風蝶草に、男の目が見開かれる。
「これは……いや、違う。違う、これではない……!」
「アラ残念。でも折角だしあげるわ」
 染めた花弁に真冬の力を宿せば、澄んだ薄緑は金華猫を喰らう花嵐の吹雪と化す。凍てる空気で包み、花弁は刃のように。吹雪く色に、赤が混じっていく。
「誰かの大切を思いやれないくせ、ソレを手に入れようだなんて。烏滸がましいにも程があるってモノよ」
 踏み躙った分だけ順に、少しずつ傷口を抉りましょ。

 本日のメインは、奪われる心地。

成功 🔵​🔵​🔴​

蘭・七結
【彩夜】

お上手に化けていらしたようね
硝子に夢中で気がつけなかったわ

好ましいものがたがうように
価値観はひとそれぞれ
あなたには瓦落多かもしれないけれど
これは、これらは大切な硝子たち

割るどころか、傷一つたりともつけたくない
皆さんが館にて待っているのだもの
ルーシーさん、無事に持ち帰りましょうね

あかあかしい香りは嫌いではないの
以前はよく揺らいだものだけれど
求めて鬼に至りはしない

透明な硝子が色づくように
あかい彩を添えましょう
あかは、わたしの彩
鮮烈なるいのちのあか
焼き付いて、離れないでしょう

とりどりの彩を得て、真白は色づいた
あなたの彩は如何なるいろなのでしょうね
瞬くようなこの一時
あなたを、みせてちょうだいな


ルーシー・ブルーベル
【彩夜】

わ、天狗さんの姿が変わった

何を探しているのか分からないけれど
なゆさんやルーシーが選んだものも
その箱の中も
嘗て砕いたものも
全て作った人に宝物になって欲しいと送り出された筈
みな誰かの宝物になる権利がある
ええ、なゆさん
どれひとつとして傷つけさせやしない

充満する金錆びた匂いにくらくらするけれど
首から下げたこころの彩を留めた石をぎゅっと握れば
……うん、だいじょうぶ

鮮やかなあかが舞っている
ガラスが熱されて形を成す時のあかがこうならいい
ルーシーからは白く柔らかいものをお見せするわ
『勇敢なお友だち』
その鞭を、あなたをなゆさんとガラスに近づけさせない

白は彩に染まる可能性の色だもの
ね、あなたは一体何色?



 満身創痍となった黒衣の男――金華猫と天狗のツバキは、性別も含めあまりにも外見が違う。男が姿を現した時、その変わりようにルーシーは「わ、」と思わず口にしていた。
 いけない、つい。
 はっとして手で口を隠した小さな淑女に、やわく笑みを咲かせた七結は男を見て言う。“お上手に化けていらしたようね。硝子に夢中で気がつけなかったわ”――と。

 かつん。かつん。
 石の床に足音が響く。
「好ましいものがたがうように、価値観はひとそれぞれ」
 七結がルーシーと共に巡った市で出逢った硝子たちは、素晴らしかった。
 様々な灯りに照らされながら、その煌めきと色をも映して輝いて。彼らが太陽の陽射しを浴びたなら、放つ色彩と煌めきは市で見たもの以上の眩さを魅せただろう。月の光ではどうなるだろう。曇り空なら? 洋燈の灯りは?
 二人で見つけたとびきりの硝子細工も、きっとそう。
「あなたには瓦落多かもしれないけれど。これは、これらは大切な硝子たちよ」
 やわらかに語る七結の隣、ルーシーは無言のままこちらを見る黄金を見つめ返す。
 男が何を探しているかは全く分からないが、七結や自分が選んだものも、砕こうとしていた木箱の中も、嘗て砕いたものも。全て作った人に宝物になって欲しいと送り出された筈。
 彼らは作り手の想いと共に新たな縁へと羽ばたき、次の彩を結ぶもの。
 そしてそれは硝子だけに留まらないとルーシーは知っている。
「みな誰かの宝物になる権利があるの」
 それを金華猫の男は幾つも破壊した。
 違う、要らぬと煌めく彼らに宿る全てを否定して、宝ではなく瓦落多だと言って。
 自分たちが手を伸ばして選んだ煌めきにも同じことをするのだろう。そんなことは――、
「ルーシーさん、無事に持ち帰りましょうね」
 割るどころか、傷一つたりともつけたくない。
 ニ彩の香水瓶と花満ちる宝箱。帰りの道中で割れないようにと大切に包まれ受け取った煌めきが、あの館で過ごす皆の目に映り、より幸いの彩を魅せるまでは。決して。
「ええ、なゆさん。どれひとつとして傷つけさせやしない」
 本当は、玻璃堂に充満する金錆びた匂いにくらくらしてしまうけれど。
 隣には七結が居る。首からは、こころの彩を留めた石も在る。ぎゅっと握れば、美しく澄んだ青と優しく淡い金色が力をくれるようで。
(「……うん、だいじょうぶ」)
「……言いたい事は、それで、終いか」
 喋るのも辛そうな男からはどれ程の血が流れ出たのか。
 床を、硝子片を濡らして艶々と映るもの全てが男の血だろうか。
 漂う香りはあかあかしくて――七結は嫌いではなかった。以前の自分であればこの香りに揺らいでいただろう。だが、様々な彩と出逢い新たなものを得た今は、その香りを求め鬼に至りはしない。
 みどりを求める金華猫の男。纏う色は黒と金。
 けれどそのこころに色が無く、空っぽの無色透明ならば――、
「あかを、」
 花唇が笑む。あかが、咲く。
 透明な硝子が色づくよう七結が添えたのは自分の彩。他に存在するどの赤よりも鮮烈な、いのちのあかを宿した牡丹一華の花嵐。
 咲いて溢れて暗闇を照らすようなその色が黄金の瞳いっぱいに映り込み、男が抱くすべてを攫おうと舞い踊る。
「違う、俺の宝はこれではない!」
「けれど、焼き付いて、離れないでしょう」
 黄金が吼える。金環結わえたあかが笑む。
 放さない、離さないわ。
 牡丹一華が奏でる音色は不思議と七結の声を消さず、男へと届けていく。
 その音色と声を耳に、ルーシーは鮮やかなあかが舞う様を見つめていた。市で教えてもらった硝子が生まれる、その始まり。熱されて形を成す時のあかが、こうならいい。だから。
「ルーシーからは白く柔らかいものをお見せするわ」
 紅鞭を握る男の手が動いた瞬間、つま先を行儀よく揃えて、とん。
 可憐なカーテシーをしたルーシーの元から、立派な角を持つ羊のぬいぐるみがぽぽんっと飛び出した。するとふわふわやわらかな白色の後ろを、蒼兎のぬいぐるみ――ララを始めとしたぬいぐるみたちが、やる気いっぱいの足取りでついて行く。
「みんな、おねがい」
 おー!
 ぬいぐるみが振り上げた拳はやわらかな丸みを帯びているけれど、秘めているのは素敵な握り拳のみ。
 羊を先頭に駆ける一行が花嵐の領域に入る直前、あかが開かれる。さあっと開かれた様にルーシーが目を輝かせ見上げれば、それを受け止めた七結がこくりと頷いて――ずどんっ。どんっ。ぬいぐるみ一行の勇敢な突進が男の体を壁に叩きつけた。
「ッ……!!」
「その鞭を、あなたをなゆさんとガラスに近づけさせない」
「知った、事か……っ」
 宝。宝を。
 定めた筈の、それを。
 何としてでも。
 傷つき血に濡れても、金糸の髪の間から覗く黄金の双眸だけは燃え盛るような輝きを宿して二人を映していた。ただし――見える世界は急速に朧な輪郭へと変わっていき、起き上がろうとする腕からがくんと力が抜け、倒れた拍子に金糸の髪がはらりと広がる。
「とりどりの彩を得て、真白は色づいた。あなたの彩は如何なるいろなのでしょうね」
「白は彩に染まる可能性の色だもの。きっと、何色にだってなれるわ」
 ルーシーの言葉がひとつだけの彩を帯びて、心に幸いの色を灯すよう。
「ええ、屹度そう」
 結ばれる縁。出逢いから紡がれるもの。
 真白を色付かせる彩は、瞬くようなこの一時にも存在する。
「ね、あなたは一体何色?」
「あなたを、みせてちょうだいな」

 ずるり。倒れた男が顔を動かし、願う少女二人を見る。
 しかし流した血が瞼を通って眼球に触れ、二人を映すその目は赤と黄金の境界が滲んでいた。執着に燃えるこがねの輝きが赤く濡れて――日が沈む空のように、昏くなっていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 集団戦 『かしまし鬼娘』

POW   :    鬼の刀
【小刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    鬼の鈴
【鈴の音】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ   :    鬼の本気
【自身の妖力の全て】を使用する事で、【立派な角】を生やした、自身の身長の3倍の【大鬼】に変身する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●かしまし、白銀
 ぱた。ぱた、た。
 長い尾の先だけが、ほんの少しだけ動いては音を立てる。
 その感覚はどんどん空いていき、やがて動かなくなると体が淡い光を放ち始めた。金色をやわらげたような月色に光が、欠片となって崩れ始めていく。
 終わった。
 訪れた静寂の中でそう感じた時、男が鞭の先端を乱暴に掴んだ。
 何を――!
 誰かがそれを言うより早く、男が深紅の百合を思わすそれで自身の首をかき切る。
 吹き出した血は一瞬で体と同様、月色の光る欠片へと。崩壊の速度は一気に上がり、胴から首へと向かって、

「好きにやれ」

 たった一言を告げた口もそこまで到達した崩壊によって消え、最後の欠片――バラバラだがどこか花びら似た光がはらりと舞って、空中で千切れて、金華猫の男は骸の海へと還った後。玻璃の村では、騒ぎが起こっていた。


「蝶々の簪もーらいっ♪ 黒と赤の組み合わせ、かっこ良くない?」
「あーっいいなあ。じゃあね、じゃあね……はいはい! 私は月下美人!」
「……この水色紫陽花と紫の薔薇、どっちのブローチが似合うと思う?」
「……どっちも似合うし、ていうかあたしらが取り憑いてるんだからお金払う必要ないよね? 貰っちゃおうよ」
「ねえねえ、あっちに超可愛い硝子の釦あったから見に行こうよ!」
「いらっしゃい、うちは高いよ!」
「やぁだー! なんで店長になってんの!? きゃはは!」
 硝子市が開かれていた通りにいた村人たちは皆、骸魂に取り憑かれてしまった。
 市を賑わせているのは、鬼の少女『かしまし鬼娘』たち。
 あれいいな、これいいなと目についた硝子を身に着けたり、頂きますと懐へ仕舞ったり、中には店長になって好き勝手に硝子を並べたり同じ鬼娘にあげたりと、それはもう好き放題にやっている。
「けどさー、今までずっと一人二人しか表に出してもらえなかったのに、なんか急に全員表に出されたよね。頭どこよ?」
「知らないっ。楽しいことしよ遊ぼうよって言っても『五月蝿い』『喧しい』『失せろ』しか言わなかった頭だしぃ」
「とか言って、あんた表に出してもらえたら硝子工房から欠片パチっては頭にこっそり贈ってたじゃん。特に緑系」
「ちょっとやあだーー! 言わないでよーーー!!」
「うっそマジで? お供え……じゃなかった、貢いでたの?」
「貢いでない! だってあれほったらかしだったもん、タダだもん!」
「あー、あんた顔がいい男に弱いもんねえ」
 ぴーぴーきゃあきゃあ、わいわいガヤガヤ。
 市の時とは全く違う賑やか過ぎる賑わいが支配する光景は、金華猫の男が起こした最後の事件。これを解決しなければ、この村の硝子とその技術は永遠に失われてしまうだろう。そうならない為にも、


「「「「「うげっ、猟兵!」」」」」


 気付いた途端逃げ出したり臨戦態勢を取った鬼娘を、一人残らず、骸の海へ。
 
ルーシー・ブルーベル
【彩夜】

自分で、自分を
次の廻りの時には探し物が見つかればいいなって、思ってしまう

わわ、お外が大騒ぎ?
何だか楽しそうではあるけれど
村の人たちとガラスは返してくれないと

最後にもうひとふんばり
がんばりましょう、なゆさん
ええ、きっと皆待ってる

なゆさんとは以前かけっこをした事はあるけれど
今度は鬼ごっこね?
ルーシーもすき
たくさん捕まえてしまいましょう
準備はばっちりよ!

大きな鬼さん、手の鳴る方へ
お店やガラスの品から引き離して【ふわふわなお友だち】
両足を絡めとってしまいましょう
立派な角が重そうだし、転びやすいかも?って

さあ、なゆさん
続きをおねがいしてもいいかしら
ガラスもキレイだけれど
花のうつくしさもステキだわ


蘭・七結
【彩夜】

自らの道は自ら決める、だなんて
――うつくしい月の色だったわ
往く先で、捜し物が見附かるとよいわね

幽世の空を舞うひかりを見つめていれば
何処からか声が聴こえるよう
……まあ、先ほどより賑わっているよう
お気持ちはよく分かるけれど
彼らも、硝子も、返していただきましょう

ええ、もう少し
この一幕を無事に終えて
皆さんが待つ場所へと、戻りましょうね

鬼ごっこはすきよ
追う側、となれば張り切ってしまうよう
鬼を追う鬼だなんて、不思議ね
さあ、準備はよいかしら
もういいかい、で駆けましょう

やわらかであいらしいお友だち
お力添えをありがとうね

結びの時としましょう
あかい花の嵐で、骸魂たちを攫ってゆくわ
どうぞ、その眸にてご覧あれ



 花弁めいた欠片がはらりはらりと舞いながら消えていく。
 自身の手で最期を決めた男の名残はやがて完全に消え失せて――うつくしい月の色だったわ、と七結の呟きが咲くようにこぼれ、隣にいたルーシーがこくりと頷く。
 金華猫の男は骸の海へ還ったが、いずれまた幽世へ現れるのだろう。
 その往く先で、廻りの中で、捜し続けているものが見つかるよう二人は願いながら玻璃堂の外へと出た――のだけれど。
 大きな月。幽世の空を舞うひかり。玻璃の村を見下ろす美しい夜空に、年頃の娘たちがはしゃぐ声が重なり響いていた。老いた声、幼い声、男の声は一切なく、その源が硝子市から。何事かと硝子市に戻ってみれば――、
「……まあ、先ほどより賑わっているよう」
「わわ、大騒ぎね」
 思わず目がまあるくなってしまう光景に、物陰に潜んだ二人は顔を見合わせてからもう一度、硝子市を満喫する鬼娘を窺った。
 これ綺麗あれも可愛いと楽しそうにあちこち覗く鬼娘がいれば、似合うかなと髪や胸元に添えてみたりと、どの鬼娘も楽しんでいる。
 しかし鬼娘たちの肉体は、この村で生きていた妖怪たちに取り憑き得たのもの。
 触れ、眺め、身につけてと楽しむ硝子も、彼らが創り出した宝物だ。
「最後にもうひとふんばり。がんばりましょう、なゆさん」
 小さな両手をきゅっとさせたルーシーの左目にはやる気がきらり。
 愛らしく頼もしい輝きに、七結は「ええ、もう少し」と微笑み、懐に手を添える。
「この一幕を無事に終えて、皆さんが待つ場所へと、戻りましょうね」
「ええ、きっと皆待ってる」
 見つけたとびきりの彩をお土産に皆が待つ彩とりどりの館へ帰り、そしてまた、皆と幸いの彩を紡ぎ結んでいく。そのひとときに辿り着く為、そして今宵巡り逢った煌めきの源たる村と、村人たちの為。
 笑みを交わす二人の想いは固く――と、ルーシーはあることを思い出した。
「なゆさんとは以前かけっこをした事はあるけれど、今度は鬼ごっこね?」
「鬼ごっこはすきよ」
 それも今回は追われるのではなく、追う側だ。七結の心は張り切ってしまうようで、それでいて“鬼を追う鬼だなんて”と、どこか不思議な心地でもある。――鬼娘である彼女たちは、どのような鬼かしら。
「ルーシーも鬼ごっこはすき。たくさん捕まえてしまいましょう」
 楽しげな微笑にルーシーも無垢な笑みを浮かべ、すぅ、と静かに深呼吸ひとつ。
 かすかにきりっとした眼差しに七結の双眸がやわらかに笑んだ。
「さあ、ルーシーさん。準備はよいかしら」
「準備はばっちりよ、なゆさん!」

 もういいかい?

 その言葉を合図に、二人は硝子市を引っかき回す賑わいの中へ。
 軽やかに飛び込んだ二つの彩――朧気に浮かぶような白とふわり輝くような金は、目の前の硝子を物色していた鬼娘たちの視界で、硝子に負けない存在感を放つ。
「ん? あっ!」
 目も口も大きく開いた鬼娘に七結の唇が緩やかに三日月を描く。長い髪と純白のスカートが翻り、ふわりと戻っていく数秒間。やばい、と一人が呟けばそれは他の鬼娘にも伝わって、大きな瞳に次々と慌てた様子が浮かんでいく。
「あたしちょっと急用が~」
「わ、わたしも」
「まあ。でも、鬼ごっこはもう始まっているわ」
 ねえ? 瞳に金環結わえた鬼がやさしく微笑めば、人形のように愛らしいもう一人の鬼が唇を開く。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
 ルーシーも金糸のツインテールをひらひらと躍らせて――遊戯に誘われたからには、それも鬼ごっこならば譲れないものがあるのか。顔を見合わせた鬼娘たちの体がむくむくと大きくなり始めた。
「わ、すごい」
『あたしらを鬼ごっこに誘うんだ?』
『いいよ、遊んであげる! 捕まえられるものなら捕まえてみなさいよ!』
「うん、いいわ。さ、大きな鬼さん」
 手の鳴る方へ。
 小さな手のひらを合わせ、パチパチ、パチ。ルーシーは時折振り返りながら駆け、鬼娘を硝子から引き離していく。
 その後を追う鬼娘たちの足音が低く響いて、体の中に不思議な振動が伝わって――なぜだかそれがくすぐったいのは、頼もしい鬼と一緒に彼女らを誘っているせいか。
 それにしても本当に大きい。
 これだけ大きいと、普通なら捕まえるのも一苦労なのだけど。
「あなたも、一緒に鬼ごっこしましょ」
 ルーシーがぎゅっと抱きしめたぬいぐるみが、綿毛の詰まった手をぴこっと上げる。するとそこから飛び出した白一色。ふわふわ伸びていくそれは魔法の煙のようで――しかし鬼娘たちの足にふわわんと絡みついたそれは、鬼娘の巨体をものともしない丈夫さを誇っていた。
『あっ何これ!? や、やばっ!』
『ちょっ待っ絡まっ……きゃああ!』
 体が大きくなればこうなった時に生じるパワーも大きくなる。立派な角も転びやすさを上げ、鬼ごっこに集中していた鬼娘たちは、悲鳴と一緒に店と店の間で派手に転んで地響きめいた音を立てた。
 すごい音。目をぱちりとさせて呟いたルーシーは、鬼娘たちの向こうにふわりと見えた色に気付き、目を細める。
「さあ、なゆさん。続きをおねがいしてもいいかしら」
「ええ、勿論」
『嘘っ! 待って待って、いつの間に後ろに!?』
 いつから? それは秘密と言うように七結は唇に立てた人差し指を添え、ルーシーと、彼女のやわらかであいらしい友に感謝を告げる。その指がそうっと下ろされて――結びの時を告げるべく舞い始めたあかい牡丹一華に、ほう、とルーシーは感嘆の吐息をこぼす。
(「ガラスもキレイだけれど、花のうつくしさもステキだわ」)
 なんて――なんてあかく、うつくしい。
『ああっ、待って待って、久々の自由なの!』
「まあ、そう。でも、いけないわ」
 遊戯の時間は、鬼ごっこは、これでお終い。
「どうぞ、その眸にてご覧あれ」
 ざあざあとあかが溢れ、あかが舞う。
 あかい花嵐がしろがねを覆い、攫って――、

 もういいかい?
 もういいよ!

 ――ほら、つかまえた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎

ひとまず買っていない代物は置いていけ、話はそれからだ
綺麗だからって奪っていくな、技術料は払え!
職人だって先立つ物がないと生きていけねぇんだよ!

SPDで判定
頭を抱えたくなる光景だがやるしかない
まずは逃走しようとしている敵を風嵐の指輪を使って作った風の結界術に閉じ込めて逃亡阻止
攻撃の前に敵が持っている代金を払っていない商品はダッシュ、早業、不意打ちを使いながら略奪で奪い返す
それから優しさと心配りで奪い返した硝子が割れないように気を使いつつ、銀腕を武器改造で剣の形状にして怪力、鎧無視攻撃、戦闘知識を併用して敵を切断して攻撃
奪い返した品物はもちろん全部返却する



「ねえねえ、この簪よくない? 髪に凄く映えると思うの!」
「その藤もいいけど、ほらこっち、こっちの山吹もつけてみなよ~!」
(「……何をやっているんだ、あいつら」)
 金華猫の男が消え、これで事件は終わったと思ったのも束の間。
 男が解き放った鬼娘たちが硝子市のあちこちで好き勝手に遊び、はしゃぐ光景に、ルイスは頭を抱えたくなっていた――が、寸前でぐっと堪える。
 事件がまだ続くのであれば、猟兵としてやることはひとつだ。
 あの鬼娘たちを倒し、職人たちが丹精込めて生み出した宝を守り、取り憑かれた村人たちをも救い出さなくては。
 ルイスが見ていると知らない鬼娘たちは、気に入ったものを紙で包み箱に入れてと持ち帰る気満々で――いや待て、とルイスは眉間を押さえた。
(「その紙と箱も店の物だろ」)
 硝子以外も自分の物のように使う様に、ルイスは重い重い溜息をついた。
 こんなことが硝子市のあちこちで起きている。目の前のことを片付けても他があり、すぐには事態集結とはいかないだろう。それでも、やるしかない。
「それじゃあ次行こっか。どこ行くー?」
「確かあっちに綺麗な硝子の指輪あったし、そこにしない?」
「さんせーい!」
「賛成じゃないだろ」
 思わずつっこんでしまったルイスに鬼娘たちが「うわっ」と目を丸くし、最初からフルスロットルで逃げ出した。ぴゅーっと遠ざかった姿はあっという間に小さくなって――しかし、ふわっ、と浮き上がったそこから全く進めなくなる。
「え、何で!?」
「やだこれ、結界じゃん!」
「ひとまず買っていない代物は置いていけ、話はそれからだ」
「うそっ!? もっと距離があった筈……!」
 すぐ近くからした声に鬼娘が驚く僅かな間。ルイスは強欲の海にて得た銀の指輪から編み上げた結界をそのままに、目にも留まらぬ速さで鬼娘たちが掴んでいた袋を奪い返した。
 腕の中でことりと音を立てた箱に最新の注意を払いながら、銀腕を剣へと変え、一閃――の直前。鬼娘たちが待って待ってと涙目で訴える。その手には――鈴がひとつ。
「硝子どれも綺麗でしょ? 欲しくなるのも仕方ないでしょ?」
 ちりん、ちりーん。ちりりん。
 綺麗な音色と共に注がれる命乞いに、ルイスの剣が僅かに下が――るわけがなかった。
「綺麗だからって奪っていくな、技術料は払え! 職人だって先立つ物がないと生きていけねぇんだよ!」
 繰り出した斬撃は正に必殺の仕置。
 鬼娘たちが消え、風結界の中で取り憑かれていた小柄な妖怪がすやすやと寝息を立てている。彼らが奪い返した硝子の作り手なのかどうか、確かめるにはもう少しかかるだろう。なにせ――。
「……次は向こうか」
 はしゃぐ娘の声は、あちこちから。
 ルイスの鬼退治は、もう少しだけ続くのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フリル・インレアン
ふええ、アヒルさん、どこ行っていたんだはこっちのセリフですよ。
アヒルさんが間違った場所に行っていたんですよ。
それとツバキさんがこの惨状を見て怒ってますよ。
たしか、ツバキさんも職人さんですからマナーの悪いお客さんにお冠のようです。
ふえぇ、この恋?物語は24時間持続して私の体を使う上に戦闘力は落ちるのに、なんでアヒルさんと息ピッタリであんな大鬼さんを翻弄させているんですか?
ツバキさんって実はすごく強いんじゃないでしょうか。



『クワーッ、クァ、クァッ!』
「ふええ、アヒルさん、どこ行っていたんだはこっちのセリフですよ」
『クァア?』
「私じゃないです、アヒルさんが間違った場所に行っていたんですよ。それと、」
 続きを言おうとしたフリルだが、その視界が下から上へと、ぐんっ! と移動したものだから涙目で悲鳴を上げることになってしまう。というのも。
『跳んだところで小娘一人に何が出来るのよ!』
『あたしら全員倒せると思ったら大間違いだかんね?』
 フフンと笑う鬼娘たち――元々の身長から三倍という巨体になった鬼たちが、立派な角をぎらりとさせ、手にした短刀や握りしめた拳でフリルを捕らえ、屠ろうと手ぐすねを引いて待っている。
「ふええ、どうしたらいいんですかぁ」
 こんなに高く跳んだのは今日が初。
 大きな目を涙でいっぱいにしたフリルだが、その体が空中でくるんっと体勢を変えた瞬間、その姿は獲物目がけ降下する隼の如き勇ましさを放ち始める。
『え、』
 驚いた鬼娘の鼻に着地した小柄な少女が見せたのは電光石火の攻め。
 それも、アヒルさんとの連携攻撃だ。
 眉間を蹴り飛ばし、痛みと衝撃でぐらりと後ろへ傾いたそこに、アヒルさんがクチバシによる膝カックンを決めてすぐ。フリルは再び高く跳躍し、今度は後頭部を蹴り飛ばした。
 前へ飛ぶようにして倒れた鬼娘が消えていくさなか、アヒルさんが体当たりやクチバシアタックで翻弄するのに合わせ、フリルが蹴って拳で突いて肘打ちを決めてと、一羽と一人の連携攻撃は、鬼娘たちを確実に、そして次々に倒していく。
 ――フリルの表情は、あわあわオロオロと怯えたままなのに。
 現状を理解しているのはフリルとアヒルさんと、
『あたしら職人が命かけて創ったものを何だと思ってんのさ!? 綺麗だって褒めたらタダで貰えるとでも思ってんの!? ンなわけ無いだろ払うもん払いな! でなきゃ欠片だってやらないよ!!』
 フリルの体を依代とし、鬼娘たちが起こした惨状に大激怒中のツバキだけ。
(「ツバキさんも職人さんですからマナーの悪いお客さんにお冠なんですね」)
 しかしフリルには不思議なことがある。
 金華猫との戦いで発動させて以降自分の体はツバキが使っているが、これは24時間持続する上に戦闘力は落ちる筈。しかしツバキはアヒルさんとぴったりの連携を見せ、鬼娘たちを翻弄し続けているのだ。
 ――もしや。
 フリルは大暴れする自分の肉体を、どこか他人目線で捉えつつ、思った。
(「ツバキさんって実はすごく強いんじゃないでしょうか……」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
ニュクス

潔い散り際……とは言えないね
地を滑る様なダッシュで一息に詰め
斬り付けざまに緑の硝子細工を奪還

盗品を貢ぐ、とか……全く理解が出来ない
大事な人が居た事無いから分からないんだ、って?
失礼な。両手じゃ数え切れない程沢山居る。
え、そうじゃない?
心がキュウってなる相手……?
心の裡に浮かぶ人影が、段々形に……

――はっ
口車に乗せられる所だった
ぶんぶんと頭を振って雑念を追い出し
レモン。十秒欲しい。

ざわめく心を瞬時に鎮める
私が求めるのは一筋の剣の道
武士道に生き、武士道に死す

目を開き、通りに居る鬼を視界に捉え
一陣の風と共に刃閃かせ駆け抜ける
硝子細工は……レモン、お願い

ん――何だか、頬が熱い
風邪、かなぁ……?


レモン・セノサキ
ニュクス

硝子細工をモノ質に取られちゃ仕方ない
銃じゃ跳弾で割っちゃうかもだし
武器を捨てて格闘戦を挑む

十秒か、任せといてっ
「ブルースフィアビット」をクロムの周囲に展開
非破壊性のマヒレーザーで護衛させる

君たち、付き合う男はもう少し選びな?
顔ばっかり好くても中身がアレじゃなぁ
ま、言っても聴かないか
恋は盲目、お目目が硝子珠になった経験は私にだってあるんだし

誰だ?今婆臭い、とか言った奴ぁ
掌底で顎を打ち上げ
龍尾脚・迅閃
頚椎蹴り抜き意識を刈る
宙に舞う硝子細工は両手でキャッチ
疵とか付いて無いね……?

げげっ、クロムってば一編に……!
銀塊から極細の銀糸を無数に飛ばし、硝子細工を宙に吊り下げる
アーケードの飾りみたいだ



 三日月を寝床に微睡む兎、地蔵に扮した悪戯狐、提灯片手に歩く栗鼠――動物をモチーフとした硝子の置物が並ぶ店も、かしまし鬼娘によってそれはそれは賑やかなことになっていた。
「これいいじゃん! 紙で包んで~箱にしまって~♪」
「ねえねえ、あれも良くない?」
 職人の技巧が光る硝子を手に取り、眺め、欲しいと思った硝子とそうでないものを無邪気に分けてはきゃらきゃらと笑う娘たち。
 これじゃあ人質ならぬモノ質だねとレモンが困っていたのは数秒だけ。向こうからは見えない位置でレモンとクロムが視線を交わしてすぐ、硝子市を勝手に楽しんでいた鬼娘たちの周りに旋風が巻き起こる。
「わっ、な、何――きゃあっ!」
「痛ッ!?」
 悲鳴と同時、何かの軌跡をなぞるようにぱっと咲いた鮮血と衝撃に呻く声。それを確かめるように、鬼娘たちの傍からざあっと過ぎた二人の娘が振り返る。
「おっとごめんね、素敵な硝子を割るわけにはいかないからさ!」
 じゃあこれは返してもらうよ。笑顔でウインクをしたレモンの横では、利き手に刀、反対の手――腕に硝子細工をしっかりと抱えたクロムの姿。
 拳と刃、それぞれの得物でぴしゃりと一撃。その一瞬の間に、二人は鬼娘たちが“貰っちゃおう”と仕分けていた硝子を奪い返していた。硝子たちをどこかに置くよりはここの方が安全、と二人とも硝子を懐に押し込み、構え――クロムはひりりと刺すような気配を漂わす。
「盗品を貢ぐ、とか……全く理解が出来ない」
「うっ、うるさぁい!! なんか見た感じ大事なひといたことなさそうだし、こっちの気持ちとかわかんないでしょどうせ?」
 一番に反応した鬼娘の言葉に、クロムの表情がほんの少しだけムッとした。
「失礼な。両手じゃ数え切れない程沢山居る」
「おおー、一往復したねクロム」
「どっ、どどどどうせ友達とか仲間でしょ!」
「当たり前だ」
「あー……クロム、大事って部分は合ってるけどちょっと違うと思うよ」
「え? 違う?」
「そうだなぁ……ねえ、君たちが言ってるのってこれかな?」
 レモンが両手で作ったハートサインに鬼娘たちがきゃあっとはしゃいだ。先程の言葉から、硝子片をこそこそ盗んでは金華猫に渡していたと見られる鬼娘など「そうそう!」と熱心に頷いている。
「あたしが言ってるのは、それ! 心がキュウってなる相手よ!」
「心が……?」
 ああ、そういう意味。納得したクロムの心の裡にふわふわと浮かび上がるものがあった。自分の心を騒がせるかと思えば不思議と満たす人影が段々はっきりとした輪郭を――、
「はっ! いけない、口車に乗せられる所だった」
 頭をぶんぶん振って雑念を追い出せばいつも通り。
 鬼娘から聞こえた舌打ちには一切反応せず、レモン、と相手を捉えたまま呼ぶ。
「十秒欲しい」
「任せといてっ」
「何する気か知らないけど、うちら、ただのお洒落好きな鬼娘じゃないから!」
「わかってるよ。だから“こうする”のさ」
 堂々不敵に笑ったレモンの周りからヒュンッと星が翔けた。クロムの周りでピタリと留まったブルースフィアビットたちの照準が、飛びかかろうとした鬼娘たちを捉え――チュインッ。
「わっ、ちょっ!?」
「君たち、付き合う男はもう少し選びな? 顔ばっかり好くても中身がアレじゃなぁ」
 と言っても蒼い光線に驚いていた鬼娘たちは素直に聞きはしまい。事実、「顔がいい方がやる気出る」「欲を言うと性格も多少いいと嬉しい」と好き勝手に言い始めていた。欠片を盗んでいた鬼娘は何やらブツブツ言いながら両手の指先をちょんちょん合わせている。
「あ~、恋は盲目ってやつだね。お目目が硝子珠になった経験は私にだってあるんだし」
「えっ、若いのに意外とばばくさ、」
 い。最後の言葉を音とする前に、レモンの掌底が鬼娘の顎を軽快に打ち上げていた。
「誰だ? 今婆臭い、とか言った奴ぁ」
 そのまま龍尾を描くような蹴撃を見舞い、頚椎を蹴り抜けば鬼娘が一人キュウッと倒れ――拍子にぽぉんと宙を舞った硝子細工の下へとレモンは滑り込んだ。
「疵とか付いて無いね……?」
 良かったと安堵したレモンだが、ふいにひやりとした感覚に包まれて。ああ、きっかり十秒だ、なんてつい笑ってしまう。
 鬼娘たちの声。気配。
 共にここまで来たレモンの存在感。
 それらは瞼閉じた暗闇の中でほんの数秒だけ響き、ざわめいていた心はクロムが求める一筋の道と共に瞬時に鎮まった。暗闇に感じた道は曇りなき一振りの刃が如く。クロムが求めるのは唯一つ――武士道に生き、武士道に死すこと。
「――!」
 暗闇から光へ。
 世界を開いた瞬間捉えた鬼娘全てへと、クロムは一陣の風となり刃と共に往く。
 翔けた直後にこぼれた鬼娘たちのかぼそい最期の声。宙を舞う――硝子たち。
「げげっ、クロムってば一編に……!」
 レモンの手元の銀塊から無数の銀糸が迸る。それは過ぎる全てを捕らえる蜘蛛の巣のように広がり、全ての硝子細工を見事宙に吊り下げた。
 店と店の間、何もなかったそこでゆらゆらと揺れる硝子と、ほのかに煌めく銀の糸。アーケードの飾りを見るようで、ぼんやりと眺めたレモンの目がクロムへとゆるゆる向いていく。
「硝子細工……ありがとう、レモン」
「どういたしまして。……ん? クロム、どうかした?」
「ん――何だか、頬が熱くて。風邪、かなぁ……?」
 何だろう。
 胸をそうっと押さえた時。少しだけ、心がキュウっとしたような。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シュデラ・テノーフォン
ヴィル君(f13490)同行

ヴィル君ああいうの苦手?
…って今気になる言葉聞こえたけども
じゃまた俺前出るよ、任せて

やァ獲物…じゃないレディ達
硝子好きかい?あァうん丁寧に扱おうね
折角君達を綺麗に飾ってくれるんだから
そうだ、鏡で付け心地地チェックするのは如何かな
俺が用意してあげるよ

白雪鏡で視える範囲を捕獲
後はヴィル君と一緒に殲滅しよう
雷の精霊銃で次々感電させていこうか
あァ安心して、硝子は熱しなきゃ絶縁体だから
朽ちるのは君達だけだ
民からも硝子からもお引取り頂けるかな
万が一の攻撃はさり気ない指輪の盾で防ぐよ
各個撃破は俺も剣で
狩り獲ってヤるよ

またコノ市に来たいからね
不純物はきっちり砕いておこう
過去に還りな


ヴィルジール・エグマリヌ
シュデラ/f13408

ああいう娘たちは苦手なタイプだな
死んだ妻を想いだすし――……
うん、寧ろやる気が出て来た気がする

私は鋸を戦場に踊らせて
シュデラのフォローを
毒を塗った鋸の刃で白肌を斬りつけ
彼女たちを弱らせようか

鳴り響く鈴音は
鋸の刃の音で打ち消して
澄んだ音色も悪くはないけど
私にとっては此方のほうが
聞きなれていて心地が良い

感電して動きが止まった子は
鋸で強かに切りつけて無力化していこう
そう、シュデラの云う通り
売物に勝手に触ってはいけないよ
指紋が付いて仕舞うだろう?
そういうの、私は赦せないタイプなんだ
悪い子には仕置きと行こう

必要なら私も前へ
処刑剣を奮って各個撃破
――さあ
愛を籠めて、頸を刎ねてあげる



 指輪、イヤリング、ブレスレットにネックレス。
 シュデラとヴィルジールが見つけた鬼娘たちは、装飾品がお好きらしい。
 次々に手に取っては手や耳元に添え、互いにチェックして、「これにする!」だの「あっちの方が似合うって~」だの――無断ショッピングをこれでもかと満喫している。
 それを暫し見ていたシュデラは、ふぅん、と狼尾を揺らして――ちらり。何となくだが、鬼娘たちを窺うヴィルジールの様子が普段とほんの少しばかり違う気がする。
「ヴィル君ああいうの苦手?」
「ああいう娘たちは苦手なタイプだな。死んだ妻を想いだすし――……」
 見ていると思い浮かぶ、かの姿。立ち振舞。
 過去の記憶を見た眼差しが遠くから近くへと戻ったのは、すぐのこと。
「うん、寧ろやる気が出て来た気がする」
「そう? 良かった。じゃまた俺前出るよ、任せて」
 なんてスマートに対応したシュデラだが、ヴィルジールの口から飛び出た『死んだ妻』が普通に気になっていた。だが、それを尋ねたりしつこく追求するような真似はしない。潜んでいたそこからごく自然な様で姿を見せ、ハッと身構えた鬼娘たちへと一言。
「やァ」
 獲物――じゃない。
 言いかけたものを紳士的な微笑みできらきらとカバーすれば、向けられる色違いの眼差しと微笑に鬼娘たちが頬を赤らめた。
 そわそわと落ち着かない様子を見せ、もじもじと恥じらう仕草は可愛らしいといえるものだが、腕や尖った耳、角や髪に“無断で”つけている煌めきは硝子職人でもあるシュデラにとって実に見逃せないものだった。
「レディ達。硝子好きかい?」
「好き!」
「きらきらしててテンション上がっちゃう!」
「あァうん丁寧に扱おうね。折角君達を綺麗に飾ってくれるんだから」
 物色途中だった硝子を持ったまま跳ねそうな勢いを、微笑と軽く上げた手でやんわりと抑えればハァイと素直な声。しかし手放す気配は無く、シュデラは再び営業スマイルを浮かべた。
「そうだ、鏡で付け心地チェックするのは如何かな。俺が用意してあげるよ」
「えっ、い、いいの?」
「ああ。ほら、これを使って」
 それは魔法のようだった。
 硝子の指輪からほのかに輝いた瞬間、鬼娘たちの背後に次々と現れた煌めき。曇りひとつない鏡をはめ込んだ繊細な硝子細工は、市に並ぶ品々に負けず劣らずの逸品――かつ、シュデらのユーベルコード。
 鏡よ鏡。そう尋ねれば望む答えをくれそうな美しき鏡に鬼娘たちの目が輝く様を、ヴィルジールが静かに見ながらやって来た。後ろに隠した手にはきらりと光る――得物一振り。
「ああ、綺麗に写っているね」
「だろう? これなら、」

 狩りも楽だよ。

 静かに冷えたシュデラの目が、急速に鈍り始めた動きに戸惑う鬼娘たちを映す。
「な、な……! 騙した、のね!?」
「――! い、いやッ、よ!!」
 もっと楽しみたい。
 もっと遊びたい。
 欲という願いをぎこちなく声にした鬼娘たちが、必死の形相で鈴持つ手を揺らす。りぃんりりぃんと不規則に響いた音色が増えゆくのと共に、ぎこちなさがかすかに和らいで――りりんッと跳ね上がった。
 直前、翻った白銀色。
 店と店の間、頭上を埋めるように並ぶ眩い群れは提灯に非ず。ぎらりと光を弾く数多の鋸がヴィルジールの歩みと共に次々と舞い、鬼娘たちの白肌に赤い彩りを増やしながら鈴の音を跳ねさせ、終わらせていく。
「澄んだ音色も悪くはないのだけどね」
 どうも――自分には、此方のほうが聞き慣れていて心地が良い。
 静かに細められたエメラルド色に慌て、怯えるのは鬼娘たちの目。頼もしき同行者に笑むのは、シュデラの色違いの目。ありがとうと笑った双眸が、手にした銃と共に鬼娘たちへと向いた瞬間、雷鳴と悲鳴が咲いた。
「あァ安心して、硝子は熱しなきゃ絶縁体だから。朽ちるのは君達だけだ。――民からも硝子からもお引取り頂けるかな」
 身につけたそれは全て売り物であり、真心の籠もった逸品なのだから。
 二人が狩るのは鬼娘だけ。彼女らが一切の断り無く手にとって面白がり楽しんでいた煌めきは、二人の得物が火を吹き閃くたびに一つ一つ奪還され、鬼娘が消えゆくのに合わせて一先ずはと店の机に置かれていく。
「シュデラの云う通り。売物に勝手に触ってはいけないよ。指紋が付いて仕舞うだろう? そういうの、私は赦せないタイプなんだ」
 だから、悪い子には仕置きと行こう。
 鬼娘が消えて元の――村人の体を抱きとめたヴィルジールの視線は、あわわと震える残りの鬼娘を映した瞬間冷ややかなものへ。その心を映すように鋸がまた一つ、空気を裂いて鮮やかに閃いたその向こうからシュデラが遠慮なく剣を振り下ろした。
 白銀色の下から鮮やかな赤が天へと昇るように溢れ、ぱたりと倒れて――ああ、だいぶ片付いただろうか。しかし、硝子市で見聞きした賑わいとは違う音色の種はこの場にも、そして他にもまだまだ存在している。
「狩り獲ってヤるよ」
 この村にオブリビオンの輝きは必要ない。過去がどれだけ明るく賑やかに振る舞おうとも、村人たちが創り出すもの以上の輝きは生めやしないのだから。
「――さあ。愛を籠めて、頸を刎ねてあげる」
「過去に還りな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
【きょうたか】
理由もなく奪って、殺して
あげくのはてにばら撒いていくなんて
迷惑きわまりないっす!
ひとつ残らず片付けてやるっす!

うげじゃないっす!そこになおるっす!

へっ?イケメン?どこっすか?
は?俺がっすか?(狼狽)
誉人の方がイケメンっす!
って、誉人が微妙な顔してるっす!
ずごごごごって波動が出てるっす!
た、たーかと?どうしたっすか?

よく解らないっすけど機嫌が悪いのは解ったっす!

花弁に紛れて肉薄し死角から暗殺していくっす!
誉人は真向勝負が好きっすから相手の気をそらすように一撃を放ち
横やりを入れる奴を絞め妨害していくっす!

煩いのは苦手なんっすよ
それに
そうっす!泥棒も殺しもダメっす!習ってないんっすか!


鳴北・誉人
【きょうたか】

てめえらがアレのこと慕ってたか知、は?饗が、イケメン?
ンなもん見りゃ判ンだろ

(俺が一番知っとるわ
つか見目だけだと思ってンのか
浅ェ…浅えよ…饗は性格もイケてンのォ!
コイツの気遣いのせいで何回死にかけてっか…マジでハンパねえンだからァ!
醤油が欲しい時にスッと出てくンのは序の口で
エナガグッズ集めてくれたり一緒に愛でてくれたり
たまんねえのォ!ひっくり返るわ!
そんで…云々)

ってぶちまける気ねえから黙ってっけどォ!(ぐぬぬ)

色めき立つ鬼へ刃の花弁で強襲
それで足りねえなら脇差抜いて応戦
返す刀でも素早く斬り二度の斬撃を
好戦的な鬼にも正面から斬り込む

もーっ姦しいわ!
泥棒ダメって頭に習ってねえンか!



 探し求める宝を得て、宿願を成す。
 その為だけに金華猫の男は硝子を奪い、殺し――挙句の果てに“これ”だ。
「これ硝子の色はいい感じなんだけど~、このパーツの色だけもうちょっと濃い目だったら良かったな~。そしたらあたしの好みドンピシャなのに」
「ここアクセばっかの店だし、パーツだけどっか仕舞ってたりするんじゃない?」
「あり得る~。お客の要望にその場でパパッと応えちゃう感じ!」
 アクセサリーを専門とする店を占拠した上に、置かれていた棚にある無数の小さな引き出しを開けては中途半端に戻す、を繰り返す鬼娘たち。その指や手首、耳元には、ここで商いをしていた者によって生み出された硝子がきらりと宿っていた。
 嗚呼。遠慮がないにも程がある。
 そして名の通り、実に姦しい。
「全員迷惑きわまりないっす! ひとつ残らず片付けてやるっす!」
 そう思った時にはもう行動開始。
 誉人を後ろに、堂々姿を現した饗の声で鬼娘たちがビクッと飛び上がった。
「うげ! 出た!」
「うげじゃないっす! そこになおるっす!」
「てめえらがアレのこと慕ってたか知――、」
「やだ待って、イケメンじゃん!!」
「は?」
 鬼娘が上げた声に、言葉を遮られた誉人は片眉を跳ね上げた。
 饗はぽかんとした。
 イケメン。イケてるメン。イケてるとは良いという意味であり、メンとは男のことだ。つまりそんな男がこの場にいるというわけだが、今ここに居る男は二人でしかし向こうはこっちを見て――ええっと?
「どこっすか?」
「ンなもん見りゃ判ンだろ」
 お前だお前と誉人が饗を指し、鬼娘たちが目をぱちくりさせたり「やだぁ」とキャッキャはしゃいだりと――つまりそういうことらしい。饗の目はますます丸くなり、口もぽかーっと開かれる。
「何言ってるんすか、誉人の方がイケメンっす!」
「……」
「えっ、何で誉人微妙な顔してるっすか!?」
 どうして? 何でなんすか? 誉人はイケメンでは? 誉人の背後にずごごごごと波動的なものが出始めたものだから、饗は再び狼狽えるしかない。
 そんな、目を丸くしてあわわと狼狽える饗と、慌ててもイケメンじゃんとはしゃぐ鬼娘たち。どちらも誉人の視界にあり――ずごごご波動は一向に収まる気配無し。なぜならば!



 饗 が イ ケ メ ン と か

 俺 が 一 番 知 っ と る わ


 つか見目だけだと思ってンのか
 浅ェ……浅えよ……饗は性格もイケてンのォ!
 コイツの気遣いのせいで何回死にかけてっか…マジでハンパねえンだからァ!
 醤油が欲しい時にスッと出てくンのは序の口。
 エナガグッズ集めてくれたり一緒に愛でてくれたりとたまんねえのォ!
 ひっくり返るわ!
 そんで――……、



 鳴北・誉人、20歳。
 これまでの日々で『死因:香神乃・饗』となりかけること数え切れず。
 幸か不幸か饗のイケメンっぷりを知らない鬼娘たちに“饗がどれだけイケメンか”をこれでもかとぶちまけ――る気はないため、噴き出す衝動をぐっと内に抑えるあまり、ずごごごご波動にぐぬぬ顔が加わっていた。
 その隣では饗がずっとオロオロしている。
「た、たーかと? どうしたっすか?」
 ずごごごぐぬぬ。
(「よく解らないっすけど機嫌が悪いのは解ったっす!」)
 気分転換をするにも硝子市は鬼娘たちに占拠されたまま。
 となれば一刻も早く片付けなくては!
 饗の瞳にやる気を浮かべれば、鬼娘たちがそれに気付いて鈴や小刀を手に身構える。しかし「イケメンは生かしておきたいなー」と、この状況でも中身は相変わらず。更に饗と誉人のどっちのイケメンから倒すかという話し合いまで始めだした。
(「何か、どっちの御膳にするか悩んでる図みたいっすね」)
 自分も誉人も料理ではない為、どう選ばれても大人しく食べられる気など無く――そしてそれをわざわざ言葉にして相棒へ尋ねずとも、会話を挟まずとも、ふわり躍った花弁が何をどうするつもりかを雄弁に語ってくれる。
 誉人の手元から空中へ。刀から、白きアネモネへ。
 刃の花弁はその輪郭と表面に照明の灯色を幾度も映し、鬼娘たちの視界でちかちかと光を咲かせて躍りながら、骸の海へといざなう花吹雪と化した。
「きゃああっ!」
「なっ、何よこんなもの……!」
 鈴を鳴らして強くなれば。小刀で受け止めて散らしてしまえば。
 きっとそう思ったのだろう。そしてそれを実行出来るだけの能力はあるのだろう。
 だが鈴の音を響かせられたのは僅か数秒。容赦なく煌めいて裂く花吹雪だけでなく、その陰から閃いた別の刃も鬼娘を襲い、強化の暇を与えない。
「やっ、やだあちょっともう! せっかくのイケメンなのにー!!」
「俺、煩いのは苦手なんっすよ。それに」
「ちょっとくらいデートしてくれたってぇーーー!!」
「へっ? デート?」
「もーっ姦しいわ! 泥棒ダメって頭に習ってねえンか!」
「そうっす! 泥棒も殺しもダメっす! 習ってないんっすか!」
 誉人の雷が花吹雪と共にズドンと落ちて饗の刃がそれに続く。
 イケメン二人との別れを惜しむ鬼娘たちの悲鳴がうわあんと木霊して消えた後、そこには取り憑かれていた妖怪たちが無傷でスヤスヤと転がっていて――、
「……泥棒すんなって教えねえタイプだな、あいつ」
「そうっすね、絶対教えてなさそうっす……!」
 金華猫の顔を思い浮かべた二人の耳に届いた、きゃははと笑う声。どこかで今を満喫しているだろう娘たちの声に、二人の“やっぱり”がぴたりと重なった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ノヴァ・フォルモント
掻き消えた金華猫の男
懐の木箱を心配そうに抱え直し
外へ戻れば何やら村が騒々しい

無数の甲高い声
内容は楽しげだがどれも妙に耳障りな
面倒な置き土産というわけか

硝子細工を気に入っている様だが
村人達と取って代わられてはね
さて、どうお帰り頂くかな

これだけ居るのだから
一度に複数相手を出来れば良いのだが
隠れていたり硝子細工に夢中な者達ならば、或いは

周囲の様子を見て
三日月の竪琴の弦を弾く
何時も行き交う人々が足を止めて、集まる
俺の商売道具だよ
さて、コレに誘われてくれれば良いのだがな

きっと初めは心地良く聴けるだろう、けれど
この月夜の旋律は聴く者によりその音色を変える

お前達の居場所は此処じゃない
その体は返して貰うよ



 金華猫の姿が消えれば玻璃堂の中は一気に静けさが戻った。そのせいか、懐の木箱をそうっと抱え直しただけで、普段はさほど気にならないだろうかすかな音が目立ち、気にかかる。
 もっと明るく、どこか落ち着ける場所で中身の無事を改めるとしよう。
 ノヴァは木箱をしっかりと抱えたまま外に戻り――田舎村の夜にしては少々質の違う騒がしさで、朱色の双眸をぱちりとさせる。
 虫でも蛙でもない。数は無数。音色は甲高い。
 発生源である村――硝子市に戻ってみれば、騒々しさの原因たちが見える範囲だけでも相当数。ひと目見て鬼とわかる娘たちは、物陰に隠れたノヴァに気付かないまま、目についた硝子に片っ端から手を伸ばしている。
(「成る程。面倒な置き土産というわけか」)
「やっぱこっちの赤椿の指輪かなー。ほら見てよ、超映えてる♪」
「いいじゃんいいじゃん。変わり種でさ、こっちのひよこブローチも良くない?」
「きゃーっ可愛い!! こっちも貰っちゃおーっと!」
 しかも聞こえる会話の内容は楽しげではあるが、どれもが妙に耳障りだ。余計な光が存在しない場所で見る星空だって、ここまで騒がしくなったりしない。鬼娘たちが村人たちと取って代わっているせいもあるだろうか。
(「さて、どうお帰り頂くかな」)
 すぐ近くに三人。少し離れたところにも、何人か。
 これだけ居るのだから、あまり手間をかけるよりも一度に複数相手出来る方が良い。多ければ多い分だけ、硝子市本来の姿が早く戻る。
 すぐ近くの三人は硝子細工に夢中だ。
 その向こうにいる鬼娘は――こちらに背を向けている。丁度いい。
 自分の今の位置は? 悪くはないが、もう少し。
 ノヴァは物音を立てぬよう、進路と退路両方を確保出来る場所まで移動すると改めて懐に仕舞った木箱を確認し――瞼を閉じ、三日月の竪琴の弦へ触れた。

 ――……、

 こぼれ落ちた音色が月夜の姿を紡ぎ始めた瞬間、鬼娘たちがハッと振り返る。
 通りの一角。公園。酒場。あらゆる場所でこの三日月の歌声を響かせてきたが、どの場所でも、どんな時でも、行き交う人々はその音色で足を止め、三日月のもとへと集まっていた。
 その時ノヴァが見た人々の表情は、静かで穏やかな微笑や心ほぐした優しいものがほとんどだったけれど。さて、鬼娘の方は。
「わ、悪くないじゃない」
「う、うん」
 綺麗な硝子は欲しい。故に、未だ手にしている。
 竪琴を弾いているのは猟兵だ。しかし、三日月の音色をもう少し近くで聴きたい。
 音色に誘われた鬼娘たちの反応にノヴァはやわらかに微笑んだ。ぽ、と鬼娘たちの頬にほのかな紅がさしたことに気付くが、そうっと目を伏せ、奏で続ける。
 夜の帳が落ちていくように、音色は周囲だけでなく、鬼娘たちの内にも深く広く響いていった。そして眠りにつく時のような心地良さに、じくり、じくりと痛みが混じりだす。
 気のせいかなと思っていた鬼娘たちは、この旋律こそが自分たちを骸の海へ還すものだと気付き、慌てて全妖力を使おうとするが、中途半端にしか大きくなれず、ガクリと膝をつく。
「よく、も……!」
「よくも? それは間違っているな」
 夜色のフードの下。
 三日月の音色を紡ぐ男は、月色の髪の間から黄昏の色を向ける。
「お前達の居場所は此処じゃない。その体は返して貰うよ」

成功 🔵​🔵​🔴​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

自害か…?否、これで終わりではなかろうと騒がしくなった外へ宵と向う
…これはどのような状況だと眉を寄せつつも宵を護る様に敵と宵の間に割り入り前に出よう
女子供に武器を向けんといけぬのは心苦しいが、宵に怪我をさせる訳にはいかんのでな
それに…顔が良い者に弱いならば宵も狙われるやもしれんからな…と
俺は狙われんだろう?それにそれは俺の台詞なのだがと照れ臭げに瞳を細めメイスを構えよう

戦闘時は【狼達の饗宴】にて狼達を呼び出し周囲に展開
己は宵を『かば』う様に前に立ったまま敵が宵に近づかぬ様狼達を嗾けて行こう
大鬼に変われば多少心苦しさも薄れる故、狼達の攻撃に合わせメイスで攻撃を
…宵、怪我はないな?


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

賑やかで華々しい娘さんたち
どうしたものでしょうか、とくすくす笑っていれば
かれに近づくその娘

ああ、お手を触れないでいただけますか
かれは僕のものですので
どのように美しいとんぼ玉も
値千金とうたわれる百合のガラス細工も
陽の光を受けて煌めくステンドグラスも
如何なる美しき物にも引き換えられぬ
僕の宝物ですので

そして自覚のないかれには苦笑い混じりに
はぁ。いえ構いませんよ、きみにつくよくない虫はみな払いますから
さあ、お引き取り願いましょう

「属性攻撃」「全力魔法」「範囲攻撃」「一斉発射」を付加した
【天撃アストロフィジックス】にて攻撃しましょう
ええ、大丈夫です
きみも怪我はありませんね?



 金華猫の男が自害し消える間際に残した言葉。
 消えてすぐに騒がしくなった村――硝子市。
 これで終わりではなかろうというザッフィーロの予感は正しく、同時に非常に理解し難いものだった。
「……これはどのような状況だ」
「賑やかで華々しい娘さんたちですね。どうしたものでしょうか」
 ザッフィーロは眉を寄せ、宵はくすくすと笑う。
 鬼娘たちが村人たちに取り憑き肉体を奪った骸魂、つまりオブリビオンでなければ、笑顔で硝子市を独占している光景はまだ微笑ましい部分がある――かもしれない。しかし現実では彼女たちはオブリビオンであり、どうにかしなくてはならない状況だ。
(「手段は色々とありますけれども……おや」)
「ねえあそこ!」
「ほんとだ! でも猟兵じゃん、どうする?」
「あたしらが勝った後、なんかいい感じのケースにしまうとか……」
 こちらに気付いた鬼娘たちが複数。きらきらソワソワした様子で近付いてくる表情が意味するものを宵は察し、特に、ザッフィーロを見つめる一部へとニーーーッコリ笑いかけた。
 と、その視界が自分より6センチほど高い後ろ姿で遮られる。
「ザッフィーロ」
「女子供に武器を向けんといけぬのは心苦しいが、お前に怪我をさせる訳にはいかんのでな。それに……顔が良い者に弱いならば宵も狙われるやもしれんからな」
 油断など決してしないが、注意せねば。
 そう語るザッフィーロの表情はいつも通り真面目であり、いつも通り、本気で宵を想い、案じてのものだった。だから宵はほんの少しだけ困ったように笑って、仕方ないですねと前を譲るのだ。
 しかし譲らないものもある。
「ああ、お手を触れないでいただけますか。かれは僕のものですので」
「えっ!」
 宵空から石を掬い上げ、星と黄金と合わせたような杖をすいっと前へ向け、牽制する。
 宵、と少し驚いたような声に宵は笑み、目をまん丸にしている鬼娘たちへと続けた。
「どのように美しいとんぼ玉も、値千金とうたわれる百合のガラス細工も、陽の光を受けて煌めくステンドグラスも……かれは、如何なる美しき物にも引き換えられぬ、僕の宝物ですので」
 ハッキリと告げてザッフィーロを見てみれば、
(「この顔は『宵は何を言っているのだ』の顔ですね」)
(「宵は何を言っているのだ」)
 その通りだった。
 ちなみに鬼娘たちの目も物凄く丸くなっているが、宵もザッフィーロもノータッチだ。
「俺は狙われんだろう? それにそれは俺の台詞なのだが」
「はぁ。いえ構いませんよ、きみにつくよくない虫はみな払いますから。さあ、お引き取り願いましょう」
 照れくさげに目を細めてメイスを構える横顔に、宵は自覚のなさを感じて苦笑い混じり。
 そんな二人の視線が揃って向けられたことで、時間停止よろしく止まっていた鬼娘たちがハッと震え、動き出す。眉は吊り上がり、大きくぱちりとした目は笑いながらもギラギラとしたものを宿していた。
「よくない虫だなんてシツレーしちゃう!」
「でも安心してよ、愛し合ってる二人はセットのまんま、うちらが愛でてあげるから!」

 それなら文句ないでしょ?

 きゃははと笑う声がぐんぐんと大きくなり、巨大化した鬼娘たちは市に並ぶ店の高さをあっという間に超えていた。これなら虫だって勘違いもしないでしょ。言った笑顔は、蝶の翼が痛むのも気にせず鷲掴みにしようとする子供と似ている。
 だが、身の丈三倍への変身は二人にとって非常に都合が良かった。
「行け」
 元々そこにいたかのように現れた狼たちがザッフィーロの号令で一斉に駆け出す。突然の出現で巨大鬼娘が驚いている間に、狼たちは次々と地を蹴り店を組む木を駆け跳躍し――がぶりっ。
『いったぁ~~い!! ちょっ、やだぁ珠のお肌に何するのよぉ!!』
「……うむ。大鬼ならば多少、と思ったが、これなら心苦しさも薄れるな」
『ええっ!?』
 それに子羊ではなく大鬼ならば狼たちが噛み付く場所にも困らない。
 狼が振り落とされて即跳躍したザッフィーロのメイスが、見事なフルスイングで大鬼の脇腹に沈み、うっ、と聞こえた呻き声が再び飛びかかった狼たちの噛みつきで悲鳴に変わる。
『ちょっ、ちょっとやだ! もう!!』
『痛い、痛いったら!!』
「おや、それは大変ですね。早く終わらせてあげましょう」
『――へっ?』
 急に止んだ噛みつきと殴打の連携攻撃。
 代わりに聞こえた声は優しく、けれど何だか怖い内容だったような。
 身長三倍の大鬼娘たちの目がパチッと瞬き一回。その金色の目に、ひゅーん、と眩い光の帯が映って――数秒で埋め尽くしたそれは、宵に招かれ、空を翔けてやって来た流れ星御一行。
『ちょちょちょちょ待って待ってーー!?』
『おっ、お店! そうだお店! 巻き込んじゃうでしょ!?』
「コントロール抜群ですからご安心を」

 僕は、よくない虫しか払いません。

 宵のニッコリ笑顔は、大鬼娘たちの視界同様に流星の輝きで白く照らされて――星々が大きな的となっていた彼女らを撃ち抜いた瞬間、ぱぁんっ! と大きな体が光の粒となって弾けて消えた。
 流星の光が薄れゆく中、鬼の娘たちがいたそこに宿主とされていた村人たちがころころ、こてん。うーん、と聞こえた声に苦しそうな様子はなく、ザッフィーロの目はすぐに宵へと向く。
「……怪我はないな?」
「ええ、大丈夫です。きみも怪我はありませんね?」
 交わす眼差しは優しく、言葉には慈しみを。

 宝物だから、愛おしくて。
 宝物だからこそ、僅かな傷でもできてはいまいかと確認せずにいられない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

陽向・理玖
【月風】

イケメンってのはイケてるっつーか
格好いい
…えっ?
しがみ付かれ息を飲み
可愛すぎか
先に俺の息の根が止まるわ…

ねぇし

内心瑠碧姉さんにイケメン認定されてるのは
嬉しいけれど

こんなに可愛い
瑠碧姉さんを前にして
他の奴とか絶対ねぇし

あーそこの着飾ってる鬼娘
そうあんた
お洒落好きなんだろ?
この姉さんもっと可愛くしてやってくれよ
全然分かってねぇから
俺が余所見する暇ねぇ程自分が可愛いって事

見た目だけじゃねぇし
ぼそりと

うわっやべぇ
めっちゃ似合う
…可愛い

返すし
いるなら買うから大丈夫

いやー
いい仕事してる
でも
それも
その人も
あんたのじゃない
分かるよな?
ダッシュで懐に飛び込み
小刀龍珠で武器受けしカウンター

でも
ありがとうな


泉宮・瑠碧
【月風】

金華猫の方は、最期…混乱の他に
彼女達の自由も、思ったのでしょうか

そして見た鬼娘達に、ぽかん
…自由を満喫中、ですね…?

イケメンに、弱い…
…イケメン、というのが
実は未だに、よく分からず…
好まれる男性、という意味でしょうか
…つまり
理玖は、あげません
鬼娘に告げて
彼の腕にぎゅうとしがみ付き

…え?
理玖の提案にきょとん
いえ、見目だけ整えても、意味は無いかと…
…う、では、髪型だけ、お願いします

出来たら
恥ずかしさで、居た堪れない気持ち
…飾りとか、勝手に、ごめんなさい
後でお返しします

幽世に辿り着けていれば
村で仲良く、過ごせたでしょうか
…穏やかに眠れますよう夢幻包容

ありがとう
頭と呼ぶ方の所へ…おやすみなさい



 最期は自ら首をかき切った金華猫は、何を思っていたのだろう。
 在った筈の宝が見つからないという混乱と――鬼娘たちを表に出した、その意は。
 もしかして彼女たちの自由も思ったのだろうかと思案していた瑠碧は、理玖と共に向かった先で見た鬼娘たちの振る舞いに暫しぽかんと立ち尽くす。
「……自由を満喫中、ですね……?」
「ん? あっ、ねえ!」
 連れがいるけどイケメンだよと仲間の袖を引っ張る鬼娘の手首には、どこかから勝手に持ち出したのだろう、宝石粒を連ねたような美しい腕輪がいくつもあった。
 袖を引かれた鬼娘はサイドのお団子に山吹の簪を挿していたところで、他の鬼娘も自由気まま好き勝手に簪やら腕輪やら、首飾りやら――楽しんでいたその目が瑠碧の隣に立つ理玖に注がれ、凛々しいタイプもいいよね~とお喋りに花を咲かせ始める。
「イケメンって……」
 どう反応したものか。リアクションに困る理玖を見上げた瑠碧は、鬼娘たちはそういうタイプに弱いのかと把握――したのだけれど。
「理玖、一つ……聞いてもいいでしょうか……?」
「何だ瑠碧姉さん?」
「イケメン、というのが実は未だに、よく分からず……好まれる男性、という意味でしょうか?」
「ああ、イケメンってのはイケてるっつーか、格好いいって意味」
 ――ということは。
 ――つまり。
「理玖は、あげません」
「……えっ?」
 理玖は時が止まった気がした。
 鬼娘たちへと明確に告げた瑠碧に、腕にぎゅうとしがみつかれたのだ。その可愛さたるや到底言葉には表せない。確かなのは、鬼娘よりも先に自分の息の根が止まると感じたことくらい。
「おおっ。大人しく控えめな印象だけどなかなかタフなとこあるタイプじゃん」
「ライバルとして不足なしってやつ?」
 そんな理玖をよそに鬼娘たちは楽しげに目を細め、猟兵のコイバナとか興味あるかもーとちゃっかり硝子を物色しながらこちらを見ている。
(「ねぇし」)
 瑠碧に“イケメン”認定されている事実は正直言って嬉しい。嬉しいが。
(「こんなに可愛い瑠碧姉さんを前にして他の奴とか、絶対ねぇし」)
 そしてもう一つ、理玖が「ねぇし」と思うことがある。
 丁度いい。向こうはすぐに飛びかかってこないのだ。利用させてもらおう。
「あーそこの着飾ってる鬼娘」
「ん? あたし?」
「そうあんた。見た感じお洒落好きなんだろ? なら頼む。この姉さんもっと可愛くしてやってくれよ」
「えっいいの!?」
「え……?」
 鬼娘はパァッと顔を輝かせた。目を丸くした瑠碧は理玖と鬼娘を交互に見て、申し訳なさそうな表情で俯いていく。ぎゅうとしがみついていた腕から、するりと力が抜けていった。
「いえ、見目だけ整えても、意味は無いかと……」
「ほら全然分かってねぇから。俺が余所見する暇ねぇ程自分が可愛いって事」
 見た目だけじゃねぇし。
「え……」
 理玖。今、なんて。
 ハッキリと言われたこと。ぼそりと聞こえたもの。
 瑠碧の丸くなった目が小さく震え、白い頬に熱が集まりほのかな紅に染まっていく。
 そんな二人に鬼娘たちのハートはこれでもかと年頃の乙女モードになっていた。キャーッと上げた黄色い悲鳴。手と手を取り合い、その場で踊るような足踏みをジタバタジタバタ。
「顔もだけど言ってるコトもイケメンじゃーん!!」
「超気合入れて可愛くする!」
「で、ですが……」
「あんたは大人しく可愛くなるの! はいここ座って!」
「……う、では、髪型だけ、お願いします」

 そして数分後。鬼娘が持つ鏡には、普段下ろしている髪の一部をふんわりとお団子にし、残りはそのまま下ろしてと――つまり、ハーフアップにした瑠碧が映っていた。
 お団子をしっかりと留めているのは、小さな葉を連ねた可憐な蔦と瑠璃唐草が咲く大きめのバレッタだ。硝子で出来ている蔦の緑と瑠璃唐草の青が、瑠碧の髪にその色をほのかに映してキラキラと輝いている。
 前髪の分け目もいつもとほんの少し変えて――と、鏡に映る自分に瑠碧は恥ずかしいやら居た堪れないやらで、すぐに鏡を見られなくなってしまっていて。理玖はというと、
「うわっやべぇ。めっちゃ似合う。……可愛い」
「でっしょー!? もっと色々やりたいけどいきなり色々は疲れるだろうと思ってー?」
「まあ今日のところは? これくらいに? したげてもいいかなーって感じ?」
 理玖は鬼娘たちが用意した硝子たちをじっと見る。これ全部を使って、じゃあ次はこれ、終わったら今度はこっち、なんてなったら瑠碧はきっと疲れてしまう。そこまでして可愛くさせるのは違うだろう。
「あ……飾り、とか。勝手に、ごめんなさい。後でお返しします」
「ちゃんと返すし。それに、いるなら買うから大丈夫」
 本当に、マジで、可愛かった。
 このお洒落は一時的なお楽しみだ。理玖は外されていくバレッタと共に見たものをしっかりと心に刻みながら、満足気な鬼娘たちへと礼を告げる。
「いやーいい仕事してる」
「えっへへどうもどうも」
「でも。それも、その人も、あんたのじゃない。分かるよな?」
「――え? あっ」
 気付いた時には、理玖の拳の射程内。完全に、捉えられていた。
「でも、ありがとうな」
「ありがとう。頭と呼ぶ方の所へ……おやすみなさい」
 拳が届かぬ距離にいた鬼娘は、瑠碧の喚び声に応えた姿無き精霊が、さらさらしゃららと眠り誘う銀砂を降らせていく。ぱちりとした目は、たちまちとろり。
 そうして拳と精霊降らす砂が鬼娘たちを夢の中へ――骸の海へといざなって。きゃあきゃあと賑やかだったエリアに、穏やかな静寂が訪れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水鏡・陽芽
あの人は最期にとんでもないことをしたね。それならあたし達でこの騒ぎを止めて、この事件を終わらせるよ!

おびき寄せと大声を使って挑発して、相手の注意をこちらに向けさせるよ。その後はフェイントを入れながら投擲で攻撃。うまいことだまし討ちの形に持っていきたいかな
危なくなったらダッシュでさっさと攻撃範囲から離れる。逃げ足には自信があるからね。回避には残像や第六感を活用

敵の全体を攻撃できる機会が巡って来たら【玻璃花弁の舞】でまとめて攻撃。綺麗な硝子が欲しいのよね?それならこれをあげるよ!

他の人との絡み・アドリブ歓迎



 きゃあきゃあはしゃいで、硝子から硝子へ。店から店へ。
 鬼娘たちの振る舞いを見た陽芽は、始めは驚きを浮かべていたがすぐにむぅっと怒りを浮かべた。
(「あの人は最期にとんでもないことをしたね」)
 連続殺妖事件の犯人である金華猫は倒され、骸の海へ還った。だというのに、あの男が最後に解き放ったもののせいで、この村を訪れた時は様々な妖怪たちで賑わっていた硝子市は鬼娘たちに占拠され、どこもかしこも大騒ぎ。
 これでもう殺しは起きないと村人たちが安心できる筈だったのに、このままでは日常そのものが過ごせなくなってしまう。
(「そんなの絶対にだめ。この騒ぎを止めて、この事件を終わらせる!」)
 陽芽は鬼娘たちに見つからないよう、物陰からほんの少しだけ顔を覗かせた。
 鬼娘の位置と数は。店の並びは。通りと、そこから横に入る道は。
 見える範囲を確認し終えた陽芽はその場から飛び出した。しっかりと地面に足をつけ、蹴って、跳んで――すうっ。深く息を吸い、

「 鬼 さ ん こ ち ら ! 」

 腹の底から声を響かせた。
「きゃあっ!?」
「なななな何!?」
 陽芽の大声は鬼娘たちのお喋りをかき消し、一帯をその声量と音で圧倒する。
 鬼娘たちの反応は様々だ。思わず物陰に飛び込んだ者、尻もちをついた者。手に首飾りを引っ掛け眺めていた鬼娘は、驚いて両手をバタバタさせた為に手と首飾りがこんがらがっている。
 すとんっ。着地した陽芽は、時間をかけて鬼娘たちを見た。
「ふーん?」
 ほんの少しだけ語尾を上げてから、くすっと笑う。
「あたしより大人なのに、情けないんだね」
「おっ、驚いただけよ!」
「生意気、とっちめてやる!」
「わあ怖い、逃げなくっちゃ」
 巨大化し始めた鬼娘たちを、陽芽は本気で“怖い”と思ってはいない。くすくす笑って背を向けて、リボン飾りをひらりひらりと躍らせ走り出す。
 大きな足音とセットで届いた「待ちなさいよ!」に「待たない!」と笑って返し、道を走る途中で脇へ――と見せかけ思い切り跳んだ。自分を追って駆け込もうとしていた鬼娘たちがつんのめりぶつかってと渋滞を起こしたそこへ、すかさず投擲攻撃を見舞う。
『きゃあっ! このっ、ちょこまかと!』
「あれ、違うのがよかった?」
 店の屋根から屋根へ。とんとんっと跳ねて移動しながら、陽芽は大きくなった鬼娘たちを丸っと捉え、「あ、そっか」。両手をパチンと合わせて笑う。
「綺麗な硝子が欲しいのよね? それなら――」
 太陽の飾り煌めくインカムマイクを指先で撫でれば、撫でたそこから色が薄れゆく。はらはらと崩れこぼれる様は煌めきの帯。空中を舞った欠片はいつの間にか花びらとなっていて、
「これをあげるよ!」
 陽芽の言葉と共に、玻璃花弁の嵐が降り注ぐ。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
まあ、とんだ置き土産だコト

とりあえず【黒管】で小さなくーちゃんばら撒いて捜索&追跡ネ
一人ずつ捕まえて……でもイイんだけど
ふふ、お遊びに付き合うのも悪くないわネ
食事は楽しまなくっちゃ

おや、素敵な色。お似合いだネ
ナンて、盗ったモノに夢中なコに挨拶の気軽さで声掛けるわ
デモそういうのって、人から贈られる方が嬉しくナイ?
と来た時買ったダリアを捧げ
華麗で優雅……ほらぴったり
ダリアを渡した手を取り、指先へ挨拶の口付け
――のフリで生命力を頂くわねぇ
イイ夢みれて?

ダリアは本物サンへのお詫び代わりに差し上げましょ
自分のはまた改めて作って貰えばイイし
その為にも鬼退治、頑張らなきゃ
さあ、次はどんな手で頂こうカシラ



 硝子市の一角、その壱。
 ツーサイドアップなお団子ヘアをほどいて、ひとつのお団子に。梅の花、藤、大きな菊。花を咲かせた美しい簪を挿せるだけ挿して――やばっ、生花じゃんこれ! と笑うグループ。
 その弐。
 魔女の魔法がかかった硝子玉。水中から掬い上げるたびに彩を宿して染まるそれが面白くて、掬っては凄い凄いとはしゃぎ、じっくり眺めながらお喋りして。そしてまた、両手で掬っていく二人組。
 その参――その肆――硝子市にばら撒いた管狐から届く光景に、暗がりに身を潜めていたコノハの口がゆるりと笑む。
(「まあ、とんだ置き土産だコト」)
 好きにしろ。鬼娘たちは金華猫の男が残した言葉通り硝子市で好き勝手に過ごしている。ああちょっと、それフツーに泥棒でしょ。なんてつい言いたくなることをしている光景も見えた。
(「さて」)
 一人ずつ捕まえる? それともいっぺんに大漁に? レシピを考える時のようにコノハは指先で地面をトントン叩いて――ふふ、と笑った。お遊びに付き合うのも悪くないだろう。だって。
(「食事は楽しまなくっちゃ」)

「おや、素敵な色。お似合いだネ」
「えっ? うわ!」
「ああゴメンナサイね、驚かせちゃった?」
 でもホント、よく似合ってる。なんて気軽に挨拶兼ねて声をかけた鬼娘の手には、盗ったばかりで夢中になっていたもの――黄色と茶色が鮮やかな硝子の向日葵が一輪。
 掌サイズのそれは髪飾りで、成る程、白銀色の髪に添えれば向日葵の色が髪にうすらと映って綺麗だった。
「デモそういうのって、人から贈られる方が嬉しくナイ?」
「そ、それは、まあ……思う……け、ど」
 コノハから全くと言っていいほど敵意がなく、向けられる言葉と表情は親しげで。故に、鬼娘は戸惑いと照れの混ざった表情で、店に元々置いてあったらしき鏡に映る自分とコノハをちらちらと見る。
 そこにそっと差し出された一輪。美しいダリアに鬼娘の目がまあるくなった。
「華麗で優雅……ほらぴったり」
「ぴ、ぴったり? あたし、可愛い?」
「ええ。とっても」
 目を細め、優しく言葉を紡ぎながらダリアを渡した手を取る。
 頬を染めた鬼娘はコノハの手を振り払うことはなく、戸惑い以上の恥じらいを浮かべ、指先へと贈られる挨拶の口付けに瞳を震わせて――くらりとした。
 嗚呼、乙女心を震わすトキメキが直接脳内に。
 なぁんてことはなく。
「イイ夢みれて?」
「あ、れ……?」
 その場に座り込んだ体を支えるコノハの表情は、鬼娘からは見えない。顔を上げる力が沸かないのだ。
 なんで。きゅうに。たどたどしい言葉の続きは紡がれず、鬼娘の体全体がほのかに輝き始め――ぱちんっ。光の粒が弾けた後、コノハは取り憑かれていた河童の子を店の椅子にそうっと座らせ、膝の上へと詫びる代わりにダリアを置いた。
 それを欲しがる本物は骸の海に到着済みだろうから、文句を言っていそうだけれど。コッチにまで聞こえやしないし? コノハは笑み、自分の花はまた改めて作って貰えばと、ダリアと気絶している河童にじゃあネと手を振って歩き出した。
「さあ、次はどんな手で頂こうカシラ」
 こんな風に食事するのも――たまになら、悪くない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

騒がしいと思ったら……彼女達が原因だったのだね
美しい想いの宿る硝子が泣いているようにも感じられて胸が痛むよ
噫!割れそう!

いけないね、サヨ
おいたをする悪い子にはお仕置をしないとね

私の贈った桜がきみの髪で揺れている
それだけでこんなに嬉しいなんて不思議だな

だめだよ
巫女の美しい桜は、私のだから
サヨを庇うように切り込んで、不運を招く神罰を振らせ落とす
そんな所で転んでしまうなんて、不運だね
…当たらないよ
傷つけそうな硝子は朱桜のオーラと念動力で守る
サヨと共に戦える幸福に笑みを深め
早業で駆け切断するよ

え?私への……考えていてくれたんだね
それだけでこんなにも嬉しいな
はやく終わらせて行きたいな

サヨ、約束だよ


誘名・櫻宵
🌸神櫻

美しくないわね
火事場泥棒とはこの事かしら?
きゃらきゃらと賑やかで楽しい事
けれどお嬢さん方
ここの硝子はその様に扱って良いものではないの
大切に磨き上げた繊細で美しい作品

しゃらと揺れる玻璃桜の簪に触れてから
カムイの言葉に是を示す
そうね
悪い子にはお仕置をしなきゃいけないわ

誘うように笑みを深めて生命を喰らい散らす神罰の桜を巡らせて
カムイの太刀筋に合わせ駆け、なぎ払い
彼の背は私が守るのよ
躱してカウンター、衝撃波と共に千々に斬る

艷華

硝子に相応しい美しい桜となりなさい

落ち着いたらまた一緒に硝子市を巡るの
カムイに贈りたい素敵な硝子細工が決まったのよ
あなたを彩り、凛と鳴る

美しい硝子の鈴を

ねぇ、約束よカムイ



 鬼娘たちが硝子市を好きに満喫している様に、騒がしさの原因を見たカムイが納得していられたのは僅かな時間。鬼娘たちが手にしている硝子が煌めくたび、そこに宿る美しい想いが硝子と共に泣いているようで胸が痛くて――、
「噫! 割れそう!」
「ヘーキヘーキ。あたしたち、ちゃんと持ってるもん!」
 なんて鬼娘は言うが、安心出来るわけがない。
 ハラハラするカムイの隣では、櫻宵も目の前の現状を憂いていた。花を摘むように硝子を手にしては、これは自分のものにすると楽しげに笑う鬼娘たち。噫、噫、なんて――、
「美しくないわね。火事場泥棒とはこの事かしら?」
 はしゃぐ声が絶えぬ空間でも、その声はよく通った。
 きゃらきゃらと賑やかで楽しい事。そう続けた櫻宵の口元は、そ、と持ち上げた袖で隠れていて――はあ、と溜息ひとつ。
「けれどお嬢さん方。ここの硝子はその様に扱って良いものではないの」
 職人一人一人が想いを注ぎ、熱意を吹き込み膨らませ、咲かせて。そうやって大切に磨き上げた、繊細で美しい――それぞれがたったひとつの物語。故に。
「いけないね、サヨ。おいたをする悪い子にはお仕置をしないと」
 やわらかに咲ったカムイの瞳に、贈ったばかりの桜が映る。櫻宵の髪に永久の春を添える様が在る。しゃらと揺れて、煌めきうたう。それだけでこんなにも嬉しいなんて。
(「不思議だな」)
 満ちゆく心を伝える眼差しに櫻宵は微笑を返し、玻璃桜の簪に触れた。
「そうね」
 指先に伝わる桜が、そこに宿る想いと紡がれる物語が愛おしい。
 それを、あの娘たちは知らない。知ろうとしない。気にかけない。綺麗だから、欲しいから。それだけで数多の煌めきに手を伸ばし、自分たちの物だと笑って、はしゃいでいる。
「悪い子にはお仕置をしなきゃいけないわ」
 夜闇の中で音もなく、灯るように浮かび上がる桜の如く。
 美しく深まった櫻宵の微笑に鬼娘たちが言葉をなくし、息をのんだ瞬間。それを一口で呑み込むように春の彩が溢れた。美しくも容赦なく生命喰らう桜が巡り、鬼娘たちから悲鳴の波が巻き起こる。
「な、何よ、知らないわよ、そんなものッ……!!」
「ただ楽しんでただけよ、何が悪いってのよ!!」
 櫻宵の起こした桜に抗った数名が宿す妖力全てを全身に広げ始めた。二人より低く小柄だった体が、ぐぐ、ぐっ、と大きくなり、角もより大きく。背丈は店の屋根を優に超え、“娘”と添えるのを躊躇うサイズの大鬼へと変じる。
『やられた分やり返させてもらうから!』
 ぐわっと伸びてきた手が硝子にしたように巡る桜ごと櫻宵の体を掴みにかかるが、ひらり舞い込んだ刀が巨大な腕を逸らさせた。内に漆黒の彩を宿した銀朱の髪が、桜鼠の髪と共に翻る。
「だめだよ。巫女の美しい桜は、私のだから」
 お仕置きだ。
 カムイの穏やかな声と共に黒桜が舞う。さああとかすかな音を響かせ、鮮やかに。
 りん、と鈴の音が聞こえたら――鬼娘はたちまち不運と結ばれて。
『あっ?!』
「そんな所で転んでしまうなんて、不運だね」
 頭から地面へ飛び込むようにして転げた衝撃が辺りを揺らす。手は櫻宵も桜も捕まえられず、土を抉るに終わっただけ。――そも、始めから捕まえられる筈がなかった。カムイが刀を揮った時、櫻宵もまたカムイと共に動いていたのだから。
 今度こそと身を起こした大鬼の手が鋭く伸びかけた刹那。
「……当たらないよ」
 カムイが呟いたと同時、大鬼の視界に鮮やかな血色の軌跡が刻まれる。それが櫻宵の揮う血桜の太刀筋だと大鬼が理解する間もなく、薙ぎ払われた手は本人の意志に反してぶわりと容赦なく浮き上がって――、
「私のかぁいい神様に何をしようとしたのかしら?」
 悪い子ね。
 カムイの背をしっかりと守る護龍の瞳に射抜かれた大鬼は、どうっと迸った衝撃波で千々に斬られ、光の粒となって弾け飛ぶ。
『よくも!!』
『許さない、硝子なんてもう知らない! 殺してやるわ!!』
「――駄目だよ」
 一つ一つに美しい想いを宿し、いずれ誰かとの物語を花開かせる硝子たち。周囲にある全てに朱桜の守りが見えぬ力と共にふわりと注がれれば、大鬼たちがどれだけ暴れようと傷もヒビも入りはしない。
「サヨ」
「カムイ」
 背中合わせに太刀を揮い、名を口にする。
 共に戦える幸福がカムイの表情を春へと綻ばせた。とん、と地を蹴った姿が一瞬で距離を詰めては大鬼を断ち、鮮やかな銀朱に寄り添う桜鼠が翻るその奥で、桜龍の瞳が大鬼を映して咲う。
『あ――、』
 ほのかな春を灯したような瞳に魅了されたら、逃げられない。
「硝子に相応しい美しい桜となりなさい」
 二人が舞うたびに春の彩が生まれる。騒がしい音が、ひとつ、またひとつと散っていく。その中で、ねぇカムイ、と櫻宵が紡いだ声は蕩けるように甘く、やわらかだった。
「落ち着いたらまた一緒に硝子市を巡りましょう。カムイに贈りたい素敵な硝子細工が決まったのよ」
「え? 私への……」
 考えていてくれたんだね。そう言ったらきっと、当たり前よと咲うのだろう。けれどそれだけのことで、カムイの心はこんなにも幸せできらきらと満たされていくのだ。
「はやく終わらせて行きたいな」
 サヨが決めたという贈り物は、何だろう。
 瞳に木漏れ日のような光を躍らす様に櫻宵は優しく笑み、一閃。大鬼をまた一人、光と変えて還していく。そうするごとに、カムイへと贈る煌めきに近付いていく。
 カムイを彩り、凛と鳴る美しき硝子の鈴。
 今はその音色を心に浮かべることしか出来ないけれど。
「ねぇ、約束よカムイ」
「サヨ、約束だよ」

 結んだ約はきっと花開く。
 その時の訪れが――こんなにも愛おしく、待ち遠しい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天帝峰・クーラカンリ
やれ、大物を倒したかと思えば今度は小娘の相手か
ひとのものを勝手に盗むのは泥棒だぞ
社会のルールを教えてやろう

なんだ、頬を赤くしてじろじろと…私の顔に何かついているか?
これをくれる?(水色の美しい細工が施された硝子皿を差し出される)
…そなたの好意はありがたいが、これもまただれかの宝物
私がもらうわけにはいくまい

だが、そなたは話が通じそうだな
どれ、少し喋るか
お前たちは抑圧されてきたようだが、何ゆえに?
やはりその、なんでもかんでも奪おうとする気質故か?
誰にでも失いたくないものがある
それを考えてみなさい…そなたにも、何かあるのではないか?

ひとしきり話終えたらUCで天へと送る
次はいち妖怪として生まれると良い



 連続殺妖事件の犯人という大物を倒したかと思えば、今度の相手は鬼娘。
 きゃっきゃと硝子市を楽しむ様は可愛らしくはあるのだろうが。
(「ひとのものを勝手に盗むのは泥棒だぞ」)
 社会のルールを知らぬのならば教えてやろう。
 クーラカンリは堂々姿を見せ――ん? と足を止めた。
 こちらに気付いた鬼娘が目を丸くした後、慌てた様子で背を向けること暫し。ごそごそとしている風に見える動きをした後、両手を背後に隠し、とととと、と近寄ってきた。向けられる大きな金色の眼差しは何か言いたげだ。
「なんだ、頬を赤くしてじろじろと……私の顔に何かついているか?」
 ぶんぶんぶんッ。勢いよく首を振った鬼娘がかすかに体を震わせている。冷えるのだろうか。不思議に思ったクーラカンリだが、一応は訊くか、と思った時である。
「あっ、あげるッ!!」
 バッと差し出されたのは硝子皿だった。美しい細工に宿る水色の彩は、太古より続く記憶とよく馴染む。しかしクーラカンリは差し出されたそれに手を伸ばしはしなかった。
「そなたの好意はありがたいが、これもまただれかの宝物。私がもらうわけにはいくまい」
「ぅ……」
「だが、そなたは話が通じそうだな。どれ、少し喋るか」
「!」
 残念そうになった瞳が途端にパァッと輝いた。
 少し喋るだけだというに、そこまで喜ぶとは。ふむ、と見つめれば白い頬がまた赤くなり、染まる範囲がじわじわと広がっていくのを見ながらクーラカンリはそうさな、と切り出した。
「お前たちは抑圧されてきたようだが、何ゆえに? やはりその、なんでもかんでも奪おうとする気質故か?」
「え、えっと、頭……あ、名前教えてもらえなかったからそう呼んでるんだけど」
(「己の名も伝えず、都合良く扱っていたのか」)
 もっと刺しておくべきだったか。
 思考で出来た間に首傾げた鬼娘へクーラカンリは頷き、続きを促す。
 鬼娘曰く、自分たちの好きなものはお洒落と悪戯、お喋り、その他楽しいことであり、目の前のものを好めば即それで楽しむ気質。それは金華猫の男にも向き――構い過ぎて、厭われた。
「中には本気で構ってた子もいたけど、脈無しって感じで」
「ふむ……誰にでも失いたくないものがある。あの男もそうだったのだろう。それを考えてみなさい……そなたにも、何かあるのではないか?」
 失いたくないもの。
 大切に、抱えていたいもの。
 クーラカンリの言葉にぱちぱちと瞬きを繰り返した金色の目が、クーラカンリから静かに外される。失いたくないもの、と言葉をなぞった横顔は、過去を振り返っているようにも見えた。
 ふいに鬼娘が近くの店へと小走りで向かった。店の前には白布が掛けられた机があり、娘はそこに外した腕輪を置いてすぐ、小走りで戻ってきた。
「もう良いのか」
「うん。ごめんなさい」
「なに、学んだのであろう? ならば良い。さて……」
 ゆらりと紡いだユーベルコード。それを見つめる鬼娘へと向ければ、鬼娘は一切の抵抗を見せることなく受け入れた。溢れ始めた光と熱が、魂を送る導きとなって鬼娘を送っていくのをクーラカンリは見送り、呟く。
「次はいち妖怪として生まれると良い」


 こうして連続殺妖事件は途絶えた。
 真相はいくつかの後悔や衝撃となって、数日ほど村に留まるだろう。
 しかしそれでも、職人たちの“硝子への情熱”という宝は絶えることを知らない。
 痛みや傷跡を抱えたまま新たな彩と煌めきが玻璃の村に生まれ、誰かとの出逢いを待ち――そして、宝となって輝く時が来る。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年03月23日
宿敵 『金・宵栄』 を撃破!


挿絵イラスト