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わたしからあなたへ~想いは手紙に乗せて

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #スパヰ甲冑 #わたしからあなたへ #心情シナリオ #心情

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● 想いは手紙に乗せて
『前略 橘・玲子様。
 暑かった夏も終わり、最近は涼しくなってきましたね。
 玲子さんはその後、いかがお過ごしですか?
 手紙は代筆を頼まれたとのこと。体調が特別悪くなったという訳ではない、とおっしゃられても心配です。
 どうか無理はされませんよう。一日も早く良くなられるよう祈っております。
 そういえば、入院されている病院の近くでお祭りがあるそうですね。気晴らしに出かけられたらいかがでしょう? きっと楽しいですよ。

 今日はお知らせがあります。
 実は仕事の都合で米国へ行くことになりました。この手紙が最後の……』

 そこまで書いた九重・葛明(ここのえ・かずあき)は、便箋を握り潰すと火をつけた。灰皿の中で燃えていく紙切れを見下ろし、珈琲を飲むと再び万年筆を取る。

 橘・玲子と手紙をやり取りするようになって、どれくらいの時間が経っただろうか。橘重工から新式の影朧甲冑についての技術資料を盗み出すために始めたこのやり取りも、とうとう終わりを迎える。

 後は飛行船に乗って立ち去るだけ。盗んだ技術を幻朧戦線と祖国に流せば、この国での仕事は終了となる。もう二度と玲子さんとやり取りをすることもなければ、この国の地を踏むこともない。
 彼の中に流れるもう一つの国の血を選び、ジル・ベイリーとして生きていくことに未練なんて無い。
 ただひとつ、未練があるとすれば。

「……一度だけでいいから、玲子さんに会いたかった……」

 叶うのならば、一緒に祭りを見てみたかった。
 情報をやり取りする中で始めた玲子さんとの文通は、いつの間にか葛明にとってもかけがえのないものになっていって。
 だが、会えない。会うことはできない。
 この文通が万が一にもバレてしまったら、彼女もスパイ容疑が掛けられてしまう。
 ーー実際、知らぬこととはいえスパイの片棒を担がせたのだ。当局に捕まったらどんな目に遭わされるか。

 だから、会わない。彼女が送っていた住所は既に引き払い済で、これからの手紙は宛先不明で返っていくことだろう。
 だから、これが最後の手紙。
 病という闇の中、それでも美しい心であり続ける玲子さんへ宛てた、最後の手紙。
 葛明はしたためた手紙をいつもの封筒に収めると、切手を貼りポストへと投函した。

● グリモアベースにて
「言いたくても言えない気持ち。会いたくても会えない事情。あるよねーそういうの」
 どこか遠くを見渡したリオン・リエーブルは、腕を組みうんうん頷くと改めてでっかい魔導書を開いた。

 ページ上にホログラムのように浮かび上がるのは、サクラミラージュの空港。発着場には大きな飛行船が停泊していて、次々に荷物が積み込まれている。
「この荷物の一つが、帝都で活動していたスパヰの一人が盗み出した情報の集大成なんだ。これを本国へ運んで、技術データを幻朧戦線に流して高飛びしようとしているスパヰがいるんだ。こいつを何とかしてほしいっていうのが今回の依頼だよ」

 スパヰの名前は分かっているが、空港で捕まえてしまうと荷物を取り返すことはできなくなり、技術情報も後日、幻朧戦線へと渡ってしまう。
 これを防ぐには、飛び立った飛行船内でスパヰを捕まえるしかない。

「飛行船のチケットは手配済みさ。乗り込むまでカフェーでのんびりしててもいいけど、この空港では「手紙の祭典」っていうイベントをやっててね。せっかくだから乗り込むまでのひとときに、親しい人に手紙を書いたらどうかな? 口では言えないことも、手紙なら伝わったりするものさ」

 手紙の祭典と銘打ってあるだけあり、様々な紙やインクがよりどりみどり。紙の色や便箋の柄にも凝ることができる。洋紙はもちろん和紙もあり、筆記具も様々揃っている。
 封筒も凝ったものが用意されてて、本格的な封緘もできる。
 投函された手紙はすぐに届けられる。もちろん、隣にいる誰かに手紙を手渡しても構わない。

「会いたくても会えない二人をどうするか。皆の行動で大きく変わってくるよ。……どんな結末が待ってるのかは分からないけどさ。この情報を幻朧戦線に渡す訳にはいかないんだ。それだけは確かだけど、皆なら良い結末に導けるって思ってるよ」
 リオンは笑みを浮かべると、サクラミラージュへの道を開いた。


三ノ木咲紀
 オープニングを読んでくださいまして、ありがとうございました。
 今回は、咲楽むすびMSとのコラボシナリオとなります。

 咲楽むすびMS
『わたしからあなたへ~想いは心に秘めて』

 シナリオの時期は異なりますので、両方のシナリオへのご参加も大歓迎です。
 具体的には、当シナリオの第一章で出した手紙は咲楽MSのシナリオの第一章に届きます。
 出された手紙を受け取って……ということもできます。
 プレイング募集時期が重なりますので、手紙の内容だけは事前に背後様同士で打ち合わせるなどしていただけるとありがたく思います。

 第一章は日常。手紙を書きます。
 普段口では伝えられない誰かに、手紙を書いて想いを伝えます。
 便箋や封筒、インクはどんなものでも。ちょっとしたものなら同封できます。
 会場は広いカフェです。手紙を書かなくても、空港の景色を見ながらカフェで一息つくのでも大歓迎です。
 スパヰの氏名は分かっているので情報収集もできます。軽く話もできますので、何かあればプレイングでお願いします。

 第二章は冒険です。
 飛行船に乗り込んだスパヰは、逃走を開始します。
 飛行船の中という限られた範囲内で、めいっぱい活劇っぽく追い詰めていただければプレイングボーナスがあります。
 飛行船はかなり規模が大きく、たくさんの人や荷物を載せています。
 イメージとしては豪華客船を思い浮かべていただけるとわかりやすいです。

 第三章はボス戦です。
 詳細は断章にて。

● 登場人物について
 九重・葛明(ここのえ・かずあき)
 米国人の父と日本人の母の間に生まれたハーフ。
 日本で育ち、父親からスパイとしての技術を叩き込まれました。
 日本での活動を終え米国へ渡る予定。
 舞台で見た橘・玲子の姿に強い憧れを抱き、仕事で偶然関わった彼女自身に惹かれています。
 ですがスパイである自分が彼女と会えば疑われると思い、会うことはできないと考えています。
 米国人としての名はジル・ベイリー。

● プレイング受付期間
 プレイング受付は10/9(金)朝8:31~10/10(土)23:59まででお願いします。
 なるべく再送が無いようにがんばりますが、万が一再送になった場合はご連絡させていただきます。
 第二章以降は、断章でお知らせします。

 それでは。
 素敵なご縁が結ばれますよう、皆様のプレイングをお待ち致しております。
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第1章 日常 『言葉にならない気持ちを伝えて』

POW   :    決意を伝える

SPD   :    謝罪を伝える

WIZ   :    感謝を伝える

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鹿村・トーゴ
手紙かー
滅多と書かないけど一通ぐらい…
透かし和紙に細筆で
時候の挨拶、自分は元気とか近況を短く記し赭と署名
宛先は故郷鹿村の父母
…里帰りしたとき手渡そうっと

さて【情報収集】
スパイてのは間諜か
同業他社ってやつだな

綺麗な瓶に葛の花片と橘の葉数枚を入れてユキエに持たせ
自分は九重葛明を荷札等から本人を探し【追跡/聞き耳/野生の勘/郷愁を誘う】
人好きな出発待ち客として接触
鹿村と名乗り九重からも名前聞き出したい
自分の褐色肌をネタに
異国の祖父母に会いに参ります
でも飛行船は初めてでね不安だな
貴方は?…等
話し相手の礼にと飲み物を奢り先程の瓶を渡す
貴方の名前に縁のある花だ
葛も橘も薬になる
御守りにお持ちなさい

アドリブ可



● 故郷へ繋がる手と手紙
 晴れ渡った飛行場に秋風は吹き抜け、遠く見える飛行船は来たるべき飛行に向けてその機体を休めている。
 飛行場の景色に目を細めた鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は、振り返った先で開催されている「手紙の祭典」に頭を掻いた。
「手紙かー」
 故郷を飛び出して、もうどのくらい時間が経っただろうか。その間、里帰りこそしたものの両親に宛てて手紙を送ったことは無かった。
 里帰りしてももちろん喜ばれるのだが、手紙は形に残るもの。トーゴがいない間も、故郷鹿村の父母に彼の気持を伝えてくれるだろう。
「滅多と書かないけど一通ぐらい……」
 頷いたトーゴは、手すりから飛び降りると会場へと向かった。
 紙も様々。色とりどりの洋紙や和紙に文房具が並ぶ中、トーゴが選んだのは透かし和紙に細筆だった。
 椅子に座って墨を硯に取り、何を書こうか思案する。
 普通は近況や思ったこと感じたことなどを書くだろう。振り返った先に広がる飛行船の景色は書くに値するが、いかんせんトーゴの両親は鄙びた忍びの隠れ里に住んでいる。いきなり異世界の話を書いても驚かせるだけだった。
 なので、書くのは自分のことが中心に。
 時候の挨拶、自分は元気なことをまず最初に書き認め、両親を驚かせない近況を短く記す。
 文の最後に赭と署名し、紙に包んで封をして。書いた手紙は懐へ。
「……里帰りしたとき手渡そうっと」
 そう言って立ち上がったトーゴは、小さく伸びをすると周囲を見渡した。
 今回追うのはスパイ。つまりは間諜。
「同業他社ってやつだな。……ユキエ」
 トーゴの声に、白い鸚鵡のユキエが空の散歩から帰ってくる。トーゴの腕に止まったユキエは、「なにごと?」とでも言いたそうに首を傾げる。
 葛の花片と橘の葉数枚を入れた綺麗な瓶をユキエに持たせて、自身は情報収集を開始する。
 行き違う多くの人達の荷札に目をやり会話に聞き耳を立て、本人を探す。やがて発見したトーゴは、壁に背中を預けて立つ葛明の足元に小縫丸を転がした。
「あれ? オレの小縫丸どこいった? ……ってアンタそれ拾っちゃくれねえか?」
 慌てた風に葛明に駆け寄ったトーゴに、葛明は拾った小縫丸を手渡した。受け取ったトーゴは、そのまま葛明の隣に立つと人好きな表情で話しかけた。
「ありがとうな。俺の名前は鹿沼・トーゴってんだ。貴方は?」
「音重・葛哉(おとのえ・かずや)といいます」
 しれっと偽名を使う葛明に、トーゴは人好きのする笑顔を浮かべると自分の褐色の頬を人差し指で軽く掻いた。
「音重さんすか。オレはこれから異国の祖父母に会いに参ります。でも飛行船は初めてでね。落ちないか不安だなー」
「なあに。乗り込んでしまえば地面と代わりませんよ。それに、そうそう落ちたりしません」
「それなら良かった。……貴方はこれからどこへ行くんです?」
「米国へ」
 言葉少なく応じる葛明に頷いたトーゴは、ユキエに預けた花と葉の小瓶を葛明に手渡した。
「これは……?」
「小縫丸を拾ってくれて、話し相手になってくれたお礼だ。貴方の名前に縁のある花だ。葛も橘も薬になる。御守りにお持ちなさい」
「これは……!」
 顔色を変えた葛明は、一瞬スパイの顔でトーゴを振り返る。警戒した葛明が周囲を見渡しても、そこには誰もいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベリザリオ・ルナセルウス
【言わぬが花】
●目的
SPD
織久への想いを手紙に書こう
手紙にしたためて封をして私の胸に留めておこう

●行動
手紙は厳重に封をしてしまいこむ

織久へ
君に言えないことがある
私は君を西院鬼のさだめから救いたい。死ぬまで戦い死しても怨念の一つとなって戦い続けるさだめなど認めたくない
亡くなった君の父君が君の纏う怨念の炎の中にいるのが分かる。織久もいずれそうなるのだと、それを受け入れていると分かる度に胸が裂けそうになる
戦わないで、これ以上血に染まらないで、西院鬼のさだめから逃れて怨念も戦いも忘れて生きて欲しい
すまない織久。この想いは君の生き方も覚悟も踏み躙るものだ
どうかこの封が解けませんように


西院鬼・織久
【言わぬが花】で参加
ベリザリオは一体何を思い詰めた顔で書いているのでしょうか
あなたが俺に言いたい事などとうに分かっていると言うのに
ですが知られたくないなら黙っていましょう
俺は、我等は西院鬼。我等が残せるのはこの怨念のみ
誰かのために残す言葉などないのです

【行動】POW
基本的に戦闘以外には興味がないため戦いの時を静かに待っている
(殺意+呪詛)をなるべく抑え目深に帽子を被って物陰に潜む(目立たない+闇に紛れる)事で密かにスパヰの動向を見張っておく
ベリザリオの手紙の内容はなんとなく予測できているが気付いている事は悟らせない
分かってませんよと密かなアピールとしてベリザリオには背を向けておく



● 西院鬼の矜持
 標的と猟兵が接触したのを確認した西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は、揺らぎかけた警戒を帯びた殺気を押さえると深い観察に入った。
 葛明が何か大きな行動を起こしては、今回の作戦に大きな枷となる。猟兵もその辺りは心得ているであろうが、もし戦闘が起きるのであれば話は別だ。
 戦いが起きれば、真っ先に介入する。それ以外ならば興味は無いので放置する。
 幸い大きな変化もなく、再び物思いに耽る葛明に動く気配はない。しばらくは大丈夫だろうと視線を外した織久は、便箋に向かい真剣な面持ちで筆を滑らせるベリザリオ・ルナセルウス(この行いは贖罪のために・f11970)の姿に視線を移した。
(「ベリザリオは一体、何を思い詰めた顔で書いているのでしょうか」)
 独りごちるように思考を巡らせるが、ベリザリオが織久に言いたいことなどとうに分かっている。
 ベリザリオは、西院鬼一門の狂戦士として生きる織久に、平和に静かに生きて欲しがっているのだ。
 オブリビオン狩りを至上目的とし、呪われた得物を手に戦場を駆ける「我等」西院鬼一門。その生き方や死に様は、他人の目から見ればさぞ異質に、不幸に見えるだろう。
 だが、織久はこの生き方を選んだ。そのことに躊躇いは無い。
(「俺は、我等は西院鬼。我等が残せるのはこの怨念のみ。誰かのために残す言葉などないのです」)
 隠していた殺気が忍び出たのか。知らず足元に伸びる影面がゆらりと揺らぐ。騒ぐ影を抑えた織久は、ふと顔を上げて一瞬だけ交差したベリザリオの視線から目を逸らす。その先には停泊する飛行船があった。
 優美なフォルムの巨大な機体は現在、整備や清掃、荷の積み込みといった作業が行われている。空へ飛び立ち、花形として舞うためにはどうしても必要な休息の時間。
 爪を研ぎ牙を磨き、獲物を屠るための整備の時間。
 飛行船を見てそんな感想を抱く織久は、感じるベリザリオの視線に小さなため息をつく。何を書いたのかは想像がつく。だが、気付いたことに気付かせてはやらない。
 織久は何食わぬ顔で、ベリザリオに静かに歩み寄った。

● ベリザリオの想い
 少し離れた場所でスパイの動向を監視する織久に視線を上げたベリザリオは、変化のない様子に視線を落とすと再び手紙に向かい合った。
 書きたいことが胸をかき乱し、うまくまとまらずにまだ一文も書けてはいない。
 何の印もない純白の便箋。滑らかな手触りの白い紙は、裏に挟んだ黒い罫線用紙を透かしながらインクが乗るのを待っている。
 西院鬼一門の狂戦士として生きる織久の生き方に、ベリザリオは深く複雑な想いを抱いていた。
 ベリザリオを救ってくれた織久の父。彼に憧れて、彼のようになりたくてパラディンとなった。
 ーー救ってくれた戦士は死に、その忘れ形見である織久が纏う炎の一部と化し、その怨念だけが今もなお現世に留まり続けている。
 ベリザリオにはそれが辛かった。
 それが定めだと、オブリビオンを狩るための一振りの武器であり続け、死した後も一門の力となることに何のためらいもない。
 そんな風に見える織久の姿は、ベリザリオには受け入れ難いものだった。だが。
(「ーーこれも織久が選んだ道です。私にとやかく言う権利など、最初からありはしない」)
 だが、織久の生き方を見ているとベリザリオは胸が痛くなる。
 本当ならば学校に通い、友達と学び、遊び、人生を豊かにする基礎を築く大切な時期だというのに。
 そんなことは最初から望んでいないと言わんばかりの織久の姿に胸が痛くなる。
 だから、今のベリザリオにできることをする。
(「織久への想いを手紙に書こう。手紙にしたためて封をして私の胸に留めておこう」)
 一つ頷いたベリザリオは、ペンを取ると一息に文章を綴った。

『織久へ
君に言えないことがある
私は君を西院鬼のさだめから救いたい。死ぬまで戦い死しても怨念の一つとなって戦い続けるさだめなど認めたくない
亡くなった君の父君が君の纏う怨念の炎の中にいるのが分かる。織久もいずれそうなるのだと、それを受け入れていると分かる度に胸が裂けそうになる
戦わないで、これ以上血に染まらないで、西院鬼のさだめから逃れて怨念も戦いも忘れて生きて欲しい
すまない織久。この想いは君の生き方も覚悟も踏み躙るものだ
どうかこの封が解けませんように』

 胸の内を書き上げふと顔を上げたベリザリオは、こちらを見る織久の姿に一瞬立ち上がりかける。すぐ逸らされる視線にため息をつき、インクが乾くのを待ち厳重に封をする。
 この手紙は、織久が読むことは無いだろう。
 あるとすれば、よほどのことが起きた時。
 幾重にも封印を施した手紙を仕舞い込んだ時、織久が歩み寄ってきた。
「手紙は書けましたか?」
「ええ」
「そうですか。それは、良かった」
 それだけ言う織久に、ベリザリオは探りの視線を入れる。
 誰に宛てた物なのか。投函はしないのか。
 少しでも手紙を詮索したならば、このまま手渡してしまうのもいいかも知れない。
 一瞬胸をよぎった考えは、頷き向けられる織久の背中によって断ち切られた。
「誰宛にかは、聞かないのですか?」
「あなたのプライバシーを詮索するほど、野暮ではありません」
 思わず問うたベリザリオの声に、織久は不思議そうな表情で振り返る。
 気付いていない織久の姿に小さく安堵の苦笑いを零したベリザリオは、文房具を片付けると立ち上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎木・葵桜
スパイの事情かぁ…
でも、会いたいんだよね
そう思ってるなら、難しくても
是が非でも会わせてあげたいなって思っちゃう

…って、お父さんもこんな感じだったのかな?

(ふと、思い出したのは自分の父親
数年不在になる前にやりとりしたことをふと思い出す
不在の期間、父もこのスパイのような思いを抱いていたのだろうか
今は当時わからなかった父の胸中をなんとなく想像してみる
色々あっただろうけどそれでも無事に帰ってきたのは
きっと強い想いを抱いてくれてたからだ
そう思えば、感謝の気持ちを書きたくなって)

『色々文句ばっかり言ってるけど
でも、私、お父さんのこと大好きだよ』

あれ?ラブレターっぽい?
まぁいいか
(けらりと笑って封をする)


ユディト・イェシュア
会いたくても会えない二人ですか…
情報は渡せませんが
それとは別に何とかしたいと思ってしまいますね

あれが飛行船…
あんな大きなものが空を飛ぶんですね…

手紙はあまり書いたことがありませんが
こういう機会でもないとなかなか書けませんし
エリシャさんに感謝の気持ちを綴ってみましょう

あんまり恩に感じるのは嫌がられますけど
それでも何度でも伝えたいんです
あんな空っぽの子供だった俺を見捨てず優しく接してくれたこと
内容はともかく猫柄の便箋ならきっと喜んでくれるでしょう

何か思い悩んでいそうな義姉の力になりたくても
俺を頼ってはくれません
できることは限られていますが
それでも

あの人の笑顔を守りたい
それが俺のささやかな願いです



● 何度でも伝えたくて
 スパイと接触した猟兵を見守っていたユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)は、動揺するスパイの姿に小さなため息をついた。
「会いたくても会えない二人、ですか……」
「でも、会いたいんだよね」
 ユディトの隣で深く頷いた榎木・葵桜(桜舞・f06218)は、何やら感慨深そうに葛明の方を見て目を細めている。少しの沈黙。葛明の姿に頷いた葵桜は、決意するように拳を握り締めた。
「そう思ってるなら、難しくても、是が非でも会わせてあげたいなって思っちゃう」
「俺もそう思います。……情報は渡せませんが、それとは別に何とかしたいと思ってしまいますね」
「そうだよね。だって、会いたいのに会えないなんてそんなの……」
 言いかけた葵桜は、何か重大なことに気付いたように目を見開くとポツリと呟いた。
「……って、お父さんもこんな感じだったのかな?」
「葵桜さんのお父さんですか? 確か和風喫茶のお店を開いている神主さんとか……」
 ユディトの問に頷いた葵桜は、選んだ便箋を手に取ると明るい笑顔を浮かべた。
「そうだよ。でも以前、ちょっとあってね。……よし、書くこと決めた! ちゃちゃっと書いちゃおう! また後でねユディトさん!」
「あ、葵桜さん……」
 呼び止めたユディトには構わず、葵桜は手紙に向かい合う。書くことを改めて整理しているような姿に、ユディトは改めて自分の便箋に向かい合った。
 手紙はあまり書いたことがないが、こういう機会でもないとなかなか書けないのも事実で。書きたいことも伝えたい人も、ユディトは既に決めていた。
(「エリシャさんに、感謝の気持ちを綴ってみましょう」)
 そう思い、ペンを手に取り文字を綴る。
 さっぱりとした性格のエリシャは、あまり恩に感じられるのは好きではないようだった。嫌がられてしまうかも知れないが、ユディトは何度でも伝えたいのだ。
 昔を思い出し、今を想いながら文章を綴る。

 あんな空っぽの子供だったユディトを見捨てず、優しく接してくれたこと。
 エリシャがいなければ、きっと長くは生きられなかった。
 それほど追い詰められたユディトを、エリシャは救ってくれたのだ。
 傷つき、問われても何も答えられなかったユディトに、返事をねだるでもなくただ根気よく笑顔で話しかけてくれた。
 それがどれだけ、ユディトの空っぽの心に水を注いでくれたことだろう。
 今のユディトがいるのは、エリシャのおかげだ。何度だって感謝を届けたい。
 だけど。
 何か思い悩んでいそうな義姉の力になりたくても、ユディトを頼ってはくれない。
 できることは限られているが、それでもエリシャの笑顔を守りたい。
 もう、心を閉ざしていたかつての自分ではないのだ。
 かつてエリシャが救ってくれたように、今度はエリシャを救いたい。

(「ーーそれが俺のささやかな願いです」)
 かわいい猫の便箋に思いの丈を書き綴ったユディトは、猫柄の封筒に手紙を収めると猫の封蝋で封をした。

● 伝えて欲しい気持ちがあって
 ペンを手に持ち便箋に向かった葵桜は、ふと顔を上げると遠くにいる葛明を見た。手に持った何かを弄びながら一人立っている姿は、どこか物悲しくも見えてきて。
「スパイの事情かぁ……」
 ペンを手に持ちくるくる回しながら独りごちる。
 スパイは確かに犯罪だ。スパイ天国とはいえ、帝都でスパイだとバレたら罰せられるだろう。その片棒を担がせた玲子に類が及ぶのが怖くて会えない、という行動はおそらく正しい。
 本当ならば、このまま会わずにフェードアウトするのがお互いのため、なのかも知れない。そう思い、葛明は何も言わずに去ろうとしている。
「玲子さんに、せめてお別れを書いたのかな? それとも何も書かなかったのかな?」
 手紙の内容は分からないから、葛明がどんな手紙を書いたのかは知る術もない。だけど、いなくなることが分かっているなら、さよならくらいしてほしいなと思う。
 だって、さよならも言わずに音信不通になったら、玲子さんはきっと悲しむ。
 生きてるのか死んでるのかも分からないなんて、苦し過ぎる。
 唇を噛んだ葵桜は、心に浮かんだ父親の笑顔に想いを馳せた。
 今でこそ家族揃って仲良く暮らしているが、葵桜の父は数年間不在になったことがあった。
 失踪する直前に、つまらないことで喧嘩したことを思い出すと今も胸がチクリとする。
 突然会えなくなって寂しくて、「ごめんなさい」も「ありがとう」も言えないまま二度と会えないんじゃないか。
 失踪してから帰ってくるまでの数年間、葵桜は不安と恐怖を乗り越えるのに精一杯だった。母と弟と三人で支え合って、父の帰りを待っていた。
 あの時は自分のことで精一杯で、父の気持ちにまで思い至らなかったけれど。
(「ーー不在の間お父さんも、このスパイみたいな気持ちだったのかな」)
 再会して、また元の家族に戻って、元気に猟兵として活躍するようになって。今あらためて、当時わからなかった父の胸中をなんとなく想像してみる。
 不在の間、葵桜たちにも色々なことがあった。それと同じくらい、父にも色々なことがあったのだろう。心が折れそうになったことだってあったかも知れない。
 それでも無事に帰ってきたのは、きっと強い想いを抱いてくれてたから。
 葵桜たちに会いたいって思って、思い続けてくれていたから。
(「そう思えば、感謝だよねー」)
 父の姿を思い浮かべた葵桜は、にんまり笑うと便箋に筆を滑らせた。

『色々文句ばっかり言ってるけど
でも、私、お父さんのこと大好きだよ』

 書き上げた文章を目の高さまで上げて、改めて読み返す。真っ直ぐで飾り気のない言葉は、まるで……。
「……あれ? ラブレターっぽい? まぁいいか」
 けらりと笑った葵桜は、桜色の便箋を折り畳むと同じ色の封筒に入れてシールを貼った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
狐だった俺が、妖狐に目覚めて1年過ぎた。
言葉と字を覚えて1年経つ。
きっと多分何となく上達したはずだ。

とはいえ、誰宛の手紙を書こうかな。
ん〜。

「カフェーの定員さんへ

おれは、いつも、てい都に来ると、お店でサンドイッチを食べています。

お店のサンドイッチのファンです。

今は仕事で、ひこうせんに、のるのをまっています。

いつも、おいしいサンドイッチをありがとうございます。

サンドイッチとカフェオレを、いっしょに食べて、のむのが好きです。

お店のサンドイッチはすごくおいしい。
おれの、大好ぶつです。

今度、またてい都に来たら、サンドイッチお、食べにいきます。」

うん、できた!
多分…読める…かな?
伝わればいいんだ。多分。



● 一年ぶんの「ありがとう」 
 手紙の祭典会場にやってきた木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、遠くに見える飛行船の姿に目を輝かせると手すりまで駆け寄った。
 停泊する飛行船は美しい流線型を描き、他と比べても大きな船体は見ているだけでワクワクしてくる。
 こんな大きな物が、空を飛んで外国まで行くのだ。ほんの1年半前までは全く想像もつかなかった世界に、都月はほう、とため息をついた。

 狐だった都月が、妖狐に目覚めて1年過ぎた。
 それはつまり、言葉と文字を覚えて1年経つということで。
 その間経験した様々な出来事は、狐だった時間よりもよほど濃密で刺激的で楽しくて。
 いろんな人からいろんなことを教わった。

 最初に助けてくれた年老いた男性に「自分は妖狐なのだ」ということを。
 それから出会ったたくさんの猟兵や、猟兵でなくても知り合ったたくさんの人達には、数え切れないくらいたくさんの大切なことを。

 そのうちの一つが読み書きで。まだまだ書けない字も多いけど、習い始めた最初の頃よりはきっと多分何となく上達したはずだ。
 今ならばきっと、手紙だって書けるはず。
「とはいえ、誰宛の手紙を書こうかな」
 はた、とそのことに気付いた都月は、腕を組んで考え込む。

 最初に出会い、親切にしてくれた年老いた男性に手紙を書ければ良かったかも知れないが、彼は老衰で亡くなってる。
 じゃあ誰に書こうか。色々な人達の顔が浮かんでは消え、消えては浮かびと忙しない。
 指折り候補を上げていた都月は、ふと思いついた親しい顔に顔を明るくした。
「ん~? ……そうだ!」
 手紙を書くなら、一番に書きたい人を思いついた。ちょうど同じ帝都に住んでいるから、郵便屋さんに届けて貰うことだってできる。
 そうでなくても、自分で届けてもいいかな。ワクワクしながら便箋コーナーに駆け寄った都月は、並んだ色とりどりの紙や封筒を見比べてはまた頭を捻った。

 あれもいいな。でもこれもいい。ああこっちも捨てがたい。
 あれこれ悩んだ都月は、一番良さそうな便箋と封筒を手に取ると空いているテーブルに駆け寄った。

「カフェーの定員さんへ

おれは、いつも、てい都に来ると、お店でサンドイッチを食べています。

お店のサンドイッチのファンです。

今は仕事で、ひこうせんに、のるのをまっています。

いつも、おいしいサンドイッチをありがとうございます。

サンドイッチとカフェオレを、いっしょに食べて、のむのが好きです。

お店のサンドイッチはすごくおいしい。
おれの、大好ぶつです。

今度、またてい都に来たら、サンドイッチお、食べにいきます。」

 何枚も何枚も書き直して書き上げた手紙に、都月は満足げに微笑んだ。
「うん、できた!」
 書き上げた手紙を手にとって、よくよく読み返す。習い始めて一年目の文字はまだ拙くて、誤字や脱字があるかも知れない。

 ちょっと不安になった都月は、また何回か読み返す。自分ではちゃんと意味も通じるし、伝えたいことも書けた。と思う。
「多分……読める……かな?」
 首を捻って考えるが、考えても仕方がない。伝わればいいんだ。多分。
 元気よく結論付けた都月は、便箋を折りたたむと封筒へ入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶/2人】
手紙の祭典かぁ
今の時代、メールやSNSで連絡取り合うのが
当たり前だから、手紙って逆に新鮮だよね

色とりどりの便箋やインクや筆記具が並んでいて
まずこれを眺めて選ぶ段階から楽しい
ねじり加工がお洒落なガラスペン、
紅葉色のインク、桜の花弁が舞う和紙を手に取る

さて、何書こうか…
今年の夏、色んな島に訪れて
遊びに遊んだ思い出を綴ってみる
泳いだりBBQしたり花火をしたり…
便箋何枚分でも書けそう
手紙というよりまるで夏休みの日記みたい?
〆は月並みだけど「来年も一緒に行こうね」と

便箋とお揃いの和紙の封筒に入れて投函
俺は梓宛に、梓は俺宛に
ほぼ同じ内容の手紙を送っていたと知るのは
もう少しあとの話


乱獅子・梓
【不死蝶】
綾に連れられてイベント会場に来たはいいが…
手紙か…そういえば人生で手紙なんて
きちんと書いたこと無いような…?
これも貴重な体験だろう

綾は楽しそうに便箋やインクを選んでいるが
俺はどういうのが良いかいまいち分からず
悩みに悩んで、結局無難な
白の便箋と黒いボールペンをチョイス
ま、まぁこういうのは内容が一番大事だからな
と言いつつ、その内容も悩んでいるわけだが…

「あんまり無茶するなよ」…いや、今更手紙で
言うことでもないなコレ、没だ
脳裏に浮かぶのは、夏にグリードオーシャンの
あらゆる島で遊びまくったこと
ほぼ毎日のようにどこかの島に行ってたな
あの時のことを素直に綴ってみる
…来年もまた行こうな、と



● 綾から梓へ
 賑やかな会場に入った灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、ニコニコしながら手紙エリアを見渡した。
 手紙の祭典、と銘打ってあるだけあって紙の種類もなかなかなもので、色とりどりデザイン色々な便箋やそれらと対になった封筒、ここだけで買える記念切手の綺麗な柄など見ていて飽きることがない。
「手紙の祭典かぁ。なかなか面白い催しだね。そう思わない? 梓?」
「そうだな。それにしても手紙か……。そういえば人生で手紙なんて、きちんと書いたこと無いような……?」
 はたと気付いて腕を組む乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の姿に、綾もまた頷いた。
「今の時代、メールやSNSで連絡取り合うのが当たり前だから、手紙って逆に新鮮だよね」
「これも貴重な体験だろう」
 深く頷く梓に頷きを返して、綾は色とりどりの便箋エリアへと向かった。季節感がある紅葉柄の便箋も綺麗だし、本物の紅葉を漉き込んだ和紙の便箋なんてのも珍しい。オーソドックスな白い便箋だって何種類もある。
 よくもまあここまで集めたものだ。半ば感心しながらも、あれがいいか、いやこっちの方も捨てがたいと眺めて選ぶ段階からもう楽しい。
 便箋と封筒を選んだならば、ペンとインクも選ばなければ。やはり様々並んだ文房具エリアへと向かった綾は、パッと目を引くペンを手に取った。
 ねじり加工がお洒落なガラスペンだ。同じガラスペンなら別に無地でも透明でも全く構わないはずなのだが、それはそれ。見えないお洒落というものだ。
 よろしければご購入もできますよ、という店員に笑顔で手を振って、インクのチョイスに入る。紙は白系を選んだから、それに乗せるインクはダークカラーでなければ読みにくい。だがここに来てただの黒インクというのも味気ない。
 試し書きしてはペン先を拭き、また別の色を選び。
 試して悩んで考えて、選んだチョイスに綾は満足げに微笑んだ。
「よし、これでいこう」
 綾が選んだ便箋は、桜の花弁が舞う和紙だった。
 本物の紅葉が漉き込まれた和紙の隣にあった、本物の桜の花弁が漉き込まれた和紙。和紙自体もほんのり桜色で、派手になりすぎないが美しくセンスが良い。何か加工がしてあるのだろう。桜の花びらも色褪せることはなく、美しい色を保っていた。
 ここに合わせるのは紅葉色のインク。秋の空に映える、燃えるような紅を思わせるインクはこの祭典の限定品だという。
 桜と紅葉。春と秋を代表する美しさを込めた便箋に綴るのは、今年の夏の思い出。
 何せ今年の夏は梓と二人、ほぼ毎日のようにグリードオーシャンの海へと繰り出したのだ。
 ありとあらゆる島へ行き、いろんな夏のバカンスを楽しんだ。楽しみまくり楽しみ尽くした。
 泳いだりBBQしたり花火をしたり。
 桜咲く浜辺でたくさんの猫と戯れながらのんびり花見したり。
 カジキマグロとバトルしたりダークマターを食べてみたり深海魚のロイヤルウェディングを見物したり。
 ダークマターな猪とバトったりカニが収穫した野菜を収穫してバーベキューして花火見たり。
 他にも色々。数え上げればキリがない。
 夏休みの日記みたいな手紙の〆には「来年も一緒に行こうね」の一文。
 来たるべき来年の夏は、今年よりももっと楽しいに違いない。
 にんまり笑った綾は、一発書きで仕上げた便箋とお揃いの和紙の封筒に入れるとポストへと投函した。

● 梓から綾へ
 一方その頃。
 綾に連れられて会場に来た梓は、早速便箋の海へと漕ぎ出す綾を見送ると自分も便箋エリアへと足を踏み入れた。
 右を見ても便箋。左を見ても便箋。そのどれも甲乙つけがたく綺麗で、どれもがとても良く見える。
 ……だが、どれも良く見えすぎて、どれがいいのか正直良くわからない。
 あっちの水色の便箋もいいが、いっそ黒い和紙に銀のペンで書くのもかっこいいか。いやそれだと読みにくいだろうと思って洋紙に目をやるが、色も柄も多すぎて何が何やらさっぱり分からなくなってくる。
 選択肢が多すぎてどれがいいか感覚がマヒしてくる。みんな違ってみんないい、などとどこぞの詩人のフレーズが脳裏をよぎるが、早く選ばなければ時間がいくらあっても足りなくなる。
「あぁもう、どれにすりゃいいんだ? ……ん?」
 ふと手を止めた梓は、目に飛び込んできた白い便箋に目を留めた。一見するとただの白い便箋だが、よく見るとシンプルな蝶が見え隠れする。
 エンボス加工、というのがどういうものかは知らないが、そういう加工がされているらしい。片隅に一匹だけ押された蝶の姿に微笑んだ梓は、便箋を手に取ると適当に黒のペンを掴んで席へと向かった。
 少し顔を上げれば、綾は既に書き始めている。楽しそうにサラサラと筆を滑らせる姿に負けじとペンを手に取るが、さて何を書こうか。ここに来ても悩んでしまう。
 改めてパッと見ると本当にありきたりな便箋で、何やら凝った便箋を厳選している綾に出すならもう少し凝った方が……などと語りかける脳内の自分を手を振って追い払う。
「ま、まぁこういうのは内容が一番大事だからな」
 と言いながら、改めて便箋に向かい合う。
 手紙というものは、メールと違って何回も書き直すことができない。なかなか頭を使う作業だ。昔の人は偉いもんだ。書いては消し、消しては書いた梓の周囲には、いつの間にか書き損じの山が築かれている。

「綾へ
 あんまり無」

 そこまで書いた梓は、続けるべき「無理するなよ」の文字を書く手を途中で止めた。
「……今更手紙で言うことでもないなコレ。没だ」
 便箋用紙を束から切り離した梓は、残り少ない便箋用紙に頭を抱えた。そろそろちゃんと書かないと、この便箋が無くなってしまう。

「綾へ
 あんまり無いことだったけど、今年の夏は楽しかったな」

 よし、リカバリできた。
 そこまで書いたら後は早かった。
 思い出される、のんびりありカオスありなひと夏の出来事……ひと夏……ひと夏だったかぁあのグリードオーシャンの夏は。
 綾と二人、いろんな島を巡って遊んだことがまるで昨日のことのように思い出されて。海も山も海底も、色々あったがどれもこれも楽しかったことばかり。
 くつくつと思い出し笑いしながら書き綴る。文章を書くこと自体がさほど得意じゃない上に、慣れない手書だ。美文名文とはいかないかも知れないが、その分率直な気持ちがたっぷり詰まっている。
 楽しかったという気持ちを込めた文章った梓は、最後に一文を書いて締めくくった。

 ……来年もまた行こうな、と。

 そして手紙はポストへと投函され。
 お互いにほとんど同じ内容の手紙を送り合っていたことに気付くのは、まだもう少し先の話だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『逃げるあいつを追いかけて』

POW   :    とにかく正攻法!背中に向かって走れ!

SPD   :    スピードを活かして追い込むのが得策だね。

WIZ   :    地形や状況を活かして足を止めようか。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※ 第二章のプレイングは、断章投稿後に受付させていただきます。
● 飛行船はテロリストを乗せて
 豪華客船にも似た美しいフォルムの飛行船が、秋の空へと飛び立った。
 多くの人達に見送られ、高度を上げて水平飛行へ入る。技術の粋を集めた飛行船は多くの上流階級の人間たちも乗っていて、日が暮れて夜になると皆着飾って広い会場に集まってくる。

 華やかに着飾った男女達が集う、立食パーティーが始まった。
 華やかなパーティー会場の片隅で壁に背中を預けた葛明は、会場を冷ややかに見やりながらも注意深く周囲に視線を走らせていた。
 パーティーが始まってしばし。一人の男が葛明の隣に立つと、視線を向けずに小声で話しかけた。

「……九重・葛明だな」
「幻朧戦線か」
「例の情報を渡してもらおうか」
 淡々と語る男に、葛明は肩を竦めた。
「情報は米国に着いてから受け渡す手はずだろう?」
「いいや? 予定が変わったんだよ。なぜなら……」
 隣に立った男が言った直後、爆発音が響いた。

 騒然となる会場に黒服の男たちがなだれ込み、乗客や乗員に銃を突きつけた。
 一際体格のいい男が会場の中央へと歩み寄ると、拡声器で怒鳴り声を上げた。
『我々は、幻桜戦線! この飛行船は我々が制圧した! 爆弾を爆破して海の藻屑となりたくなければ、我々の指示に従うことだ! まずは帝都へと引き返してもらおう!』

 威嚇するように発射された銃弾に、客たちが悲鳴を上げる。葛明の隣に立った男は、銃を葛明に向けると不敵な笑みを浮かべた。
「というわけだ。お前が持っている新型影朧兵器と情報を渡して……」
 言いかけた男の身体が、ふいに倒れた。素早く足払いを掛けて転倒させた葛明は、男の足と肩に素早く銃を撃ち込むと会場から抜け出した。
「追え! 奴を逃がすな!」
 隣にいた男の怒鳴り声が追いかける中、葛明は一人格納庫へと急いだ。

※ お知らせ
 皆さんが乗り込んだ飛行船は、ハイジャックされました。
 事前に阻止しようとすると、予知が変わってしまうので阻止はできません。
 テロリストを制圧し、同時に葛明を確保しなければなりません。
 以下の情報は、ハイジャック後に帝都より皆さんへ情報提供がありました。

・ テロ集団「幻桜戦線」
 幻朧戦線とは別のテロ組織です。幻朧戦線から枝分かれした一派です。自分達を追放した幻朧戦線を一泡吹かせ、別組織として同盟してやろうと考えています。
 基本的に脳筋で思慮が足りませんが、武力と実行力はあります。

・ 「幻桜戦線」の目的
 幻朧戦線に認めさせるために、また自身の実力を示すために乗客の身代金の奪取と、新型影朧兵器の確保を狙っています。
 また籠絡ラムプを使うような生ぬるい作戦は性に合わず、ハイジャックが失敗すれば爆弾を爆発させ、飛行船を帝都に落として幻朧戦線による宣戦布告としようとしています。

・ 葛明の行動
 輸送中の兵器本体と情報を幻桜戦線に渡すわけにいかないと、格納庫へ向かっています。
 格納庫へ辿り着いたら、影朧兵器を起動させてそのまま空へ逃走します。
 幻桜戦線の追手が掛かっていて、猟兵達が何もしなければ捕らえられてしまいます。
 命までは取られませんが、情報と機体は幻桜戦線へと渡るでしょう。

・ 乗客乗員
 パーティ会場にいた客は一箇所に集められ、銃を持ったテロリストが警備しています。会場の真ん中に幻桜戦線のリーダーと取り巻きがいます。

・ 飛空船の状況
 現在、幻桜戦線の要求に従い帝都へと引き返しています。爆弾が各所へ仕掛けられ、リーダーの合図で爆発します。

 プレイングの冒頭に、以下の記号の記入をお願いします。
 無い場合は○(葛明の追跡)が選ばれたとします。

 幻桜戦線を制圧し、人質の解放と爆弾の解除をするなら●
 葛明を追いかけるテロリストを排除し、情報と機体を確保するなら○

 選択されたプレイングの数と内容で、第三章の展開が変わります。
 また、爆弾の解除や人質の解放はどちらでプレイングを掛けてくださっても大丈夫です。

 プレイングは10/16(金)朝8:31より10/18(日)朝8:30までにお寄せください。
 咲楽MSのシナリオとは受付期間が異なりますのでご注意ください。
 また、この章からのご参加も大歓迎です。
 よろしくお願いします。
ベリザリオ・ルナセルウス
【言わぬが花】
〇WIZ
まずは黒服をどうにかしないと。織久、爆弾の事があるから殺さないように気を付けて
まず鈴蘭の嵐で撹乱して織久が動きやすいようにしよう

黒服が制圧出来たら確保だ。命を捨てる覚悟はあったかも知れないけど、織久の呪詛で精神が弱っただろうからそこを突く
そのまま死んだり正気を無くしたりしないように浄化と応急手当をしてから爆弾の位置を教えて貰えるなら罪も軽くなるよと説得してから爆弾処理をする人に渡そうか

後は先行した織久が場を引っ掻き回してるだろうから、私は織久に向かって行く黒服をシールドバッシュと武器落としの要領で気絶させよう
叶わないとみて爆弾のスイッチを押されたら困るからなるべく手早く


西院鬼・織久
〇【言わぬが花】で参加
情報も機体も諸共失う事に成りかねないと言うのに、ご苦労な事です
愚行に付き合わされるのは御免です。片付けましょう

【行動】POW
五感+第六感+野生の勘を働かせ敵の行動を把握し予測、常に隙を狙う

ベリザリオの鈴蘭の嵐に夜砥を忍ばせ範囲攻撃で捕縛、怪力で振り回して周囲の敵ごとなぎ払い、追撃のUCによる怨念の炎(殺気+呪詛+生命吸収)で行動不能に陥らせる

ベリザリオが治療のため留まる間先行し、ジャンプ+ダッシュで壁天井を足場にしながら追跡。影面で捕らえ足を止めずUCで行動不能にして転がし葛明を追う

葛明はなるべく傷をつけないようUCで遮り、逃走を続けるか抵抗するなら夜砥+麻痺で捕縛



● 慈愛
 物々しい雰囲気に包まれる飛行船内で、一人のスパイが逃走を開始した。何の変哲もないグレーのスーツに身を包んだ葛明は、スパイらしい身のこなしで追いかけてくる黒服達を撒きながら走る。
「逃がすな! 追え!」
 怒鳴り声を上げながら銃を撃つ黒服の男達に、ベリザリオ・ルナセルウス(この行いは贖罪のために・f11970)は眉を顰めた。
「まずは黒服をどうにかしないと」
「情報も機体も諸共失う事に成りかねないと言うのに、ご苦労な事です」
 ベリザリオの隣を走る西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)が呆れたように冷酷な視線を投げる。黒服の男達は、織久の視線には気付いていないのだろう。逃走する葛明を撃ち殺してもかまわないとでも言いたげな銃撃に、ベリザリオは詠唱を開始した。
 詠唱が終わると同時に、ベリザリオが佩いたFulgor fortitudoが形を失う。無数の鈴蘭の花と化したバスタードソードは、黒服の男達へ向けて流れるように向かっていった。
「このスパイが、待ちやがれ……って、うわぁ! なんだこの花は!」
 突然視界を塞ぐ鈴蘭の花に怯えたように、黒服達が腕を大きく振るう。撹乱のために放った鈴蘭の嵐は攻撃力は弱く、目くらましと悟った黒服が構わず葛明に向けて走り出す。再び銃を構えた黒服の姿が、ふいに倒れ込んだ。
 鈴蘭の嵐に忍ばせた極細の鋼糸が、黒服達を捕縛する。夜砥から流れ込んでくる無念の死を遂げた者たちの怨念が黒服達の精神に傷をつけ、振り払おうという意思を阻害する。
「我等が怨念尽きる事なし」
 詠唱と同時に、夜砥に黒い炎が伝え走った。捕らえられた黒服達は、織久に宿る怨念と殺意の炎を受けて目を見開いた。
「うあ、うわあ! 熱い、熱い! 助けてくれぇ!」
「他愛もない」
 言い捨てた織久は、黒服を壁に打ち付けると夜砥から解放する。そのまま追跡を再開する織久に、ベリザリオは声を投げた。
「織久、爆弾の事があるから殺さないように気を付けて」
 ベリザリオの声が聞こえたのかは分からない。だが振り返ること無く走る背中に信頼を乗せたベリザリオは、既に消えた炎を消そうと転げ回る黒服の男達に駆け寄った。
「たす、助けてくれぇ! 俺が、俺が悪かったあ! だからそっちに連れて行かないで……ひぃっ!」
「落ち着いてください! 炎はもう消えています」
 気付けに頬を軽く叩いたベリザリオは、そのまま精神崩壊を起こしそうな黒服達に浄化を施した。
 じっとりと纏わりついていた織久のーー西院鬼の怨念が、ベリザリオの浄化によって清められていく。ようやく落ち着きを取り戻した黒服達に応急処置を施したベリザリオは、涙と鼻水でベチャベチャになった黒服にハンカチをそっと渡した。
「もう大丈夫です。あなたを苛んでいた怨念は消えました」
「あああ、ありがとうありがとう! あんな怖い思いはもうごめんだぁ……!」
「そんなに怖かったのですね。でももう大丈夫です。あなたが爆弾の位置を教えてくれるなら、あの怨念はやって来ません」
 聖者のような笑みを浮かべるベリザリオに、黒服の男は何度も頷いた。
「俺が知ってることは何でも教える!」
「それは良かったです。あなたの罪も軽くなることでしょう」
 問いに何でも答える黒服の男達から情報を聞き出したベリザリオは、武装解除した黒服の男達を一室に閉じ込めると織久の後を追った。

● 執念
 時は少し遡る。
 黒服の男達に治療を施すと言っていたベリザリオを置いて駆け出した織久は、新手の男達の姿に眉を顰めた。
 葛明を夜砥の射程に収めるまであと少しだったというのに。本当に邪魔な連中だ。
 手元に戻した夜砥を再び握り締めた織久は、こちらを足止めしようと向かってくる大柄な黒服の男の姿に足を早めた。
「止まれ! お前達何者だ!」
 こちらの行く手を遮るように立ちふさがる大男が、銃を放つ。鉛玉を軽々と回避した織久は、床を蹴ると壁に足を掛けた。
 いくら通路を塞ぐような大男といえど、頭の周りには隙間がある。壁を駆け抜け大男の背後に回り込み着地した織久は、すれ違いざま放った夜砥を引き絞った。
 蛙を踏み潰したような声を上げ、大男の足がわずかに宙に浮く。シャンデリアを支点に大男を釣り上げた織久は、動かなくなるのを確認すると夜砥を離した。
 どう、と大きな音を立てて倒れる大男は振り返らない。あと一瞬長く吊っておけば、あの大男は死んだだろう。殺す寸前で手を離した自分に自嘲の笑みを零した織久は、先行する葛明の姿を視界に捉えると再び加速した。
 大男と同じ要領で回り込み、葛明の前に立つ。夜砥を手に立つ織久の姿に立ち止まった葛明は、警戒しながらもジリジリと距離を取った。
「おとなしくするなら殺しはしない」
「お前たちは何者だ? 幻桜戦線じゃないのか?」
「あんな愚者どもと一緒にしないで貰いたい。抵抗するというのなら、多少手荒でも……」
 言いかけた織久は、殺意の炎を葛明へと放つ。怨念を纏った炎はしかし、葛明を燃やしはしなかった。
 すぐに意識を取り戻したのだろう。葛明の後ろに忍び寄っていた先程の大男が、怨念の炎に燃え上がる。一瞬苦痛のうめき声を上げた大男は、織久の怨念をものともせずに葛明の腕を掴んだ。
「この程度の怨念……あの戦場に比べたらどうってことねぇ! こいつさえ捕まえれば……」
「織久!」
 葛明を拘束しようとしていた大男の身体が、大きくのけぞる。黒服を無力化して駆けつけたベリザリオが放つシールドバッシュを受けた大男が葛明の手を離した瞬間、織久の夜砥が閃いた。
 大男の首に巻き付いた鋼糸が、そのまま首を刎ねる。倒れた大男を冷たく見下ろした織久は、隙を突き逃走した葛明の背中を見送った。
 今から追いかけてもいいが、どこから湧いて出たのか黒服の追手がこちらに向かってくる。
「これ以上愚行に付き合わされるのは御免です。片付けましょう」
「ここは少しでも多く、戦力を削るのが得策ですね」
 背中合わせに語り合った二人は、床を蹴りそれぞれの黒服へと向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ

【情報収集/追跡】搭乗時に全体間取り確認しておく

葛明に追いつくのを最優先とし
テロ発生後会場~格納庫への最短ルート割り出し(通風孔や天井裏も利用)格納庫へ急ぐ傍ら葛明追跡の幻桜戦線を待ち伏せ・背後から等奇襲+先手を常に心掛けつつ【地形の利用/だまし討ち/罠使い】
>パーティ会場から持ち出したナイフ・フォーク等【念動力で投擲】し牽制・攻撃
及び数人纏めてUCで麻痺させ連中の服で拘束【ロープワーク】
一応不殺

葛明に追いつけば鸚鵡のユキエを顔や手に飛び掛からせ格納庫開放を妨げる
銃撃は【カウンター】で躱しフォーク等突き付け
「妙な連中に絡まれてんじゃん
また会ったね『音重さん』高飛び前にちょっと話そ?

アドリブ可



● 忍の本領
 時は少し遡る。
 銃声が響き、葛明が逃走したのを見た鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は、気配を消すとそっと会場を抜け出した。
 手にした飛行船の見取図を確認し、葛明が逃走した経路を推理する。かなりの数の幻桜戦線が追手に回ったようだが、要は格納庫に辿り着くまでに追いつければよいのだ。
 格納庫がどんな状況なのかがわからないので、できればそこへ辿り着くまでに拘束できれば何よりだ。
 脳内で最短距離をシュミレートしたトーゴは、従業員用通路へと入り込むと通風孔を見上げた。周囲を見渡し人気がないのを確認すると、通風孔へと潜り込む。身軽に通風孔へと入り込んだトーゴは、匍匐前進しながら前へと進む。
 突き当りで倉庫の床に降り立ったトーゴは、ドアをそっと開けると気配を探る。大きな足音を立てながらこちらへ向けて走ってくる気配を感じたトーゴは、ロープを廊下の向こう側の柱に結びつけると、廊下を横断するようにロープを渡した。
 待つことしばし。走ってくる幻桜戦線がロープの上を通過しようとしたタイミングに合わせて引っ張ったトーゴは、足を取られて倒れる黒服の男達へと踊りかかった。
「悪ぃな。ちぃと寝ててくれ」
 男達が起き上がるよりも早く掌を向ける。放たれる【サイキックブラスト】の高圧電流が幻桜戦線を直撃し、苦痛のうめき声を上げた男達が気を失い倒れる。幻桜戦線を無力化したトーゴは、武装解除すると彼ら自身の服でお互いの腕を外向きに縛る。こうするとお互いがお互いを引っ張り合って身動き取れないのだ。ついでに猿轡を噛ませて倉庫へ放り込む。
 改めて安全を確認したトーゴは、廊下へと踊り出す。走ることしばし。途中数組の幻桜戦線を無力化したトーゴは、ついに直接葛明を追う幻桜戦線へと追いついた。

 広々とした格納庫だった。巨大な木箱がいくつも固定されている格納庫は船底部に近く、壁一枚を隔てた向こう側には強い風の気配がする。
 葛明に銃を突きつけた数人の幻桜戦線は、手を上げながらも油断なく距離を取り隙を伺う葛明に声を上げた。
「さあ、情報を渡して貰おうか!」
「断る。俺が契約したのは幻朧戦線でね。幻桜戦線じゃないんだ」
「同じことだ! 橘重工から盗んだ技術は、俺達の崇高な目的のために……」
 言い募る男の姿を見たトーゴは、ものすごいスピードで駆け寄ってくる味方の気配に懐を探る。真っ直ぐ駆け抜けた黒い影と呼吸を合わせたトーゴは、手首を鋭く返すとパーティ会場から失敬したナイフとフォークを投げつけた。
 念動力で投擲されたナイフが、黒服の男の肩と背中を深々と抉る。怯んだ隙に飛びかかり、電撃で無力化させる。
 もう一人の幻桜戦線は、駆け込んだ猟兵が倒した。顔を上げたトーゴは、向けられる葛明の銃口に身を翻した。直前までトーゴがいた空間を銃弾が通り抜け、新手の幻桜戦線を沈黙させた。
「お前たちは誰だ? 幻朧戦線か?」
「妙な連中に絡まれてんじゃん。……また会ったね『音重さん』。高飛び前にちょっと話そ?」
「君は……鹿村君か?」
 ナイフを突きつけながら笑みを浮かべるトーゴに、葛明は驚きの声を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月


なんか……よく分からないけど。
追跡の方が俺は得意だから、葛明って人と幻桜の奴らを追いたい。

幻桜の奴らは風の精霊様にお願いした[催眠術、範囲攻撃]で無力化したい。

眠らせたら、狐の姿になって葛明って人の後を追いたい。

風の精霊様に音と匂いを運んで貰いつつ、狐の聴力で走る足音と、嗅覚で匂いを[情報収集]しながら[ダッシュ]したい。
雪原のソナーと言われる野生育ちの狐の耳は伊達じゃないぞ。
それに狐は人より2本も足が多いんだ。
人より早く走れるはずだ。

射程内で妖狐の姿に戻って、UC【雷の怒り】で足止めしたい。

既に兵器?に乗り込んでるなら、兵器に雷の精霊様の[属性攻撃]を入れれば…壊れてくれないかな。


榎木・葵桜

姫ちゃん(f04489)とは別行動

姫ちゃんに人質と爆弾の解除をお願い
どっちもどうにかしたいけど一人では厳しいなら
頼むべきは親友の力だよね♪

私は葛明さんを[追跡]するよ!
可能なら葛明さんへ話をしたいな

話の前に
まずは葛明さんへの
幻桜戦線の追手を止めなくちゃ

UCで動きを止めて無力化させて縛り上げるよ
もし攻撃されたら[見切り、武器受け]で対応
動きは止めるけど命までは取らないから、その辺は安心してね?

>葛明さん
あなたがスパイだってことは知ってる
でもあえて聞きたい

会いたい人、居るんじゃないの?
どうして会いに行かないの?
スパイだから?

確かにそうかもだけど
でも
本当にそれでいいの?
自分の気持ちに後悔しないの?



● 野生の勘
 時は少し遡る。
 戦闘の気配に顔を上げた木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、漂ってくる逃走と闘争の気配に鼻をヒクリとさせた。
「なんか……よく分からないけど」
 テロリストの制圧よりも追跡の方が得意だと判断した都月は、パーティ会場をそっと抜け出すと気配を探った。情報収集を試みるが、場の混乱と戦闘の気配にうまく情報が集まらない。
 ならばと風の精霊様との交信を開始した都月の腕を、榎木・葵桜(桜舞・f06218)が引っ張った。
「都月さん!」
 都月の身体が細い通路へ収まった直後。先行する猟兵達の増援へ向かった多くの幻桜戦線達が廊下を通り過ぎていった。
 危なかった。風の精霊様との交信に気を取られすぎた。都月は顔を上げると、ホッと胸を撫で下ろす葵桜に微笑んだ。
「ありがとう。風の精霊様とのお話に夢中になって」
「どういたしまして。……風の精霊様、っていうことは都月さん、精霊術士なの?」
「そうだよ」
 頷いた都月は、改めて風の精霊との交信を開始する。都月の髪がふわりと舞い上がり、現れた風の精霊が小さなつむじ風を起こしながら都月の周囲をクルクルと回る。
「風の精霊様。葛明っていう人の後を追いたいんだ。音と匂いを運んでくれないか?」
 都月の願いを聞き届けた風の精霊は、一際大きな風となり周囲へと消える。その様子を見守っていた葵桜は、ワクワクした声を上げた。
「すごーい! 今のが風の精霊様?」
「うん。葛明の音と匂いを運んでくれるんだ」
「音と匂いを。この船にはいっぱい人が乗ってるのに、そんなのよく分かるね」
「雪原のソナーと言われる野生育ちの狐の耳は、伊達じゃないからね!」
 ふふん、と自慢気に胸を張る都月に、葵桜は小さく拍手を送る。待つことしばし。運ばれてきた匂いと音に耳をピクリとさせた都月は、小さな足音を立てながらドアを開けた。
「こっちだ!」
「私も行く!」
 都月について、葵桜も駆け出す。周囲を警戒しながら進んだ二人は、もうすぐ格納庫というタイミングで足を止めた。T字路の奥から、怒鳴り声がする。
「待て、九重!」
「情報を渡して貰おうか!」
 ついに葛明に追いついたのだろう。数人の男達が、銃を手に怒声を上げるのが聞こえる。
 男が銃を撃つより早く、一陣の風が吹き抜けた。都月が放った風の精霊が黒服の男達の頬を撫で、眠らせていく。
 襲撃に気付いた男達が数人、振り返り通路を戻るとこちらへ向けて銃を撃ってくる。T字路の壁に身を隠して体勢を整えた葵桜は、即座に詠唱を開始した。
 葵桜の周囲でオーラが靡き、無数の桜の花びらがふわりと浮く。無数の桜の花びらを纏った葵桜は、近づいてくる幻桜戦線の気配に舞扇を振り下ろした。
「舞う桜はあなたを捕らえて離さない、ってね! 見せてあげるよ、幻じゃない本物の桜吹雪!」
 小さく舞い召喚した桜吹雪が、通路を埋め尽くすほどの勢いで黒服の男達へと向かう。桜吹雪に捕縛された黒服達が銃を取り落し、銃声が止む。
 捕縛した男達を拘束する葵桜に、都月は床を蹴り駆け出した。
「葛明が心配だから俺、先に行く!」
「あたしもすぐに行くから!」
 葵桜の声を聞き、視線を遠くに巡らせた都月の姿が黒く歪む。豊かな尾を持つ黒い狐の姿になった都月は、矢のような鋭さで通路を駆け抜けた。
 葵桜の姿が小さくなる。二足歩行という軛より解放された都月は、四本の足で床を掴み、蹴り、風のように奔る。
 視線が低い。身体が軽い。風の抵抗も無く駆ける頬を切る風の、なんて心地良いことだろう。
 狐は人より2本も足が多い。人より早く駆け抜けた都月は、葛明を追い詰め銃口を向ける幻朧戦線に【雷の怒り】を放った。

● 理と感情と
 時は少し遡る。
 演説と脅迫が響くパーティ会場で青いドレス姿の姫桜の隣に立った葵桜は、姫桜にそっと声を掛けた。
『姫ちゃん。姫ちゃんはここをお願い。私は葛明さんを追いかけるよ』
『あお?』
 訝しげな声を上げた姫桜は、真剣な葵桜の声に頷いた。
『……止めたって聞かないんでしょ。分かったわ。ここは任せて、追跡の方を頼むわ』
『さすが姫ちゃん! 頼むべきは親友の力だよね♪』
 にぱっと微笑んだ葵桜に、姫桜はやれやれ、といった風にため息を落とす。そっと移動して作ってくれた死角を通って会場の外へ出た葵桜は、こちらへ近づいてくる幻桜戦線の気配に駆け出した。格納庫までは距離がある。ここでの戦闘は避けたほうが得策だ。
 途中、目を閉じ精霊と交信する都月を助けた葵桜は、追跡を開始した。やがて通路奥で葛明に追いついた葵桜は、容赦なく撃ってくる幻桜戦線に詠唱を開始した。
「舞う桜はあなたを捕らえて離さない、ってね! 見せてあげるよ、幻じゃない本物の桜吹雪!」
 無数の花びらが、葵桜の周囲を踊るように舞い上がる。隙を突き解き放たれた桜の花びらは、応戦する幻桜戦線達を次々に拘束していった。
 このままにしておけば確実に動きは止められるが、このユーベルコードは寿命を削る。ロープで拘束した葵桜は、暴れる黒服の男ににっこり微笑んだ。
「動きは止めるけど命までは取らないから、その辺は安心してね?」
 幻桜戦線を拘束した葵桜は、狼の姿になり駆け出す都月を見送ると急いで駆け出す。
 格納庫に辿り着いた葵桜は、銃を落とされ両手を挙げる葛明に静かに向き合った。
「九重・葛明さんですよね」
「……」
 答えない葛明に、葵桜は歩み寄った。葛明には、どうしても聞きたいことがある。だから親友の手を借りて追跡戦に参加したのだ。
「葛明さん。あなたがスパイだってことは知ってる。でもあえて聞きたい。……会いたい人、居るんじゃないの?」
「……あなた方は何でもお見通しだ、超弩級戦力」
「どうして会いに行かないの? スパイだから?」
「そうですよ」
 観念したのか、葛明は静かに頷いた。少し遠くを見た葛明は、記憶を辿るようにしばらく沈黙すると口を開いた。
「僕はスパイです。米国人スパイの父と日本人の抜け忍の間に生まれた僕は、スパイとして生きるよりほかに方法は無い。ーーそしてこの国でも、スパイは重罪です」
 言葉を切った葛明は、自嘲の笑みを浮かべた。玲子から来た手紙は、内容を確認後すぐに燃やしてしまって一枚も手元にない。だがきっと玲子の元には残っている。それは確たる証拠になってしまう。
「僕は手紙でうまいこと騙して、玲子さんに情報を引き出させました。手紙のやり取り自体も隠れ蓑として使いました。ここでは言えないようなことも、色々と。もし万が一バレてしまったら、玲子さんはもとより橘重工の存続すら危うくなってしまう。ーーそれはつまり、橘重工で働く何万人もの労働者が路頭に迷うということです」
 確たる意思で語られる葛明の言葉に、葵桜は一瞬言葉に詰まった。葛明は正しい。確かにそうだ。だが、理屈で正しいことが本当に正しいとは限らないことを、葵桜は既に知っていた。
「確かにそうかもだけど。でも、本当にそれでいいの? 自分の気持ちに後悔しないの?」
「会わずにする後悔よりも、会ってからする後悔の方がよほど重くて苦しい。ーー玲子さんには最後の手紙で別れを告げました。病が彼女の命を消すまでの時間を、当局の拷問まがいの取り調べで費やさせる訳にはいきません」
 クツクツと笑った葛明は、背中を預けた荷物を拳で殴りつけた。警報音と同時に、コンテナが開く。中から現れた新型影朧兵器を背にした葛明は、大きな声で叫んだ。
「この秘密を知ったのだから、超弩級戦力といえども生きて帰す訳にはいかない! 新型の威力……」
 言いかけた葛明の声を遮るように、大きな爆発音が響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】●
わぁ、猟兵生活いろんなことがあったけど
ハイジャックに遭うのはこれが初めてだなぁ

まずは普通の客のフリして大人しくし
他の乗客乗員が集められた場所へと潜り込む
梓のUCで会場が真っ暗になったら
幻桜戦線がざわついている隙に
乗客乗員に自分たちは超弩級戦力であることと
必ず助けるからここを動かないでねと伝える

UC発動し、ナイフに「人」のみを透過する性質を与える
無数のナイフを幻桜戦線へと投げつけ
彼らの手にした銃のみを叩き落とす(武器落とし
更に接近し、グーパンや肘打ちなどステゴロによる気絶攻撃
テロリストいえども相手は普通の人間だもの
血祭りにはあげたくないからね

※アドリブやマスタリング歓迎


乱獅子・梓
【不死蝶】●
そんなのほほんと言ってる場合かお前
って違うな、未知の体験に
心なしかテンション上がってるなこいつ…

さぁて、ショーの始まりだ
心の中でちょっと格好良く決めつつUC発動
会場内を真っ暗闇へと変化
幻桜戦線の連中は当然困惑するだろうし
この何も見えない状況では
迂闊に銃をぶっ放せなくなるだろう

更に、紅い蝶を人の形の象るように群れさせて
あたかもそこに人が居るように見せかける
粗末な小細工だが一瞬でも
幻桜戦線の意識を誘導出来れば上出来
その隙に使い魔の颯の死角からの突撃や
焔と零の頭突きや尻尾ビンタ
更には俺の拳や蹴りといったフルコースで
どんどん気絶攻撃して無力化させていく

※アドリブやマスタリング歓迎



● 不殺の制圧
 時は少し遡る。
 会場から駆け出した葛明を追い、幻桜戦線の動きが慌ただしさを増す。そんなテロリスト達の様子にざわついた客達の耳に、銃声が響いた。
「静かにしろ! お前たちの命は俺たち幻桜戦線が握ってるんだからな!」
 ボスの腹心だろうか。出っ歯の男の威嚇射撃に、客たちが静かになる。それに気を良くしたボスは、拡声器を使って自分達の一方的な主張をがなり続けている。
 そんな様子を人質のフリをしながら見ていた灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、耳障りな演説を聞きながら口元に笑みを浮かべた。
「わぁ、猟兵生活いろんなことがあったけど。ハイジャックに遭うのはこれが初めてだなぁ」
「そんなのほほんと言ってる場合かお前」
 半ば呆れたように隣で肩を竦めた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)に、綾はサングラスに彩られた目を細めて小さくボスを指差した。
「えーでも未知との遭遇って何だか楽しくない? このボス、「世界は闘争によって進化すべき」ってもう三回目だよ? 他に言うことないのかな?」
「……って違うな。未知の体験に心なしかテンション上がってるなこいつ……」
 眉間のシワをほぐす梓に、綾は注意深く幻桜戦線の様子を観察した。会場中央にボスが一人と取り巻きが数人。会場内にいる武装したテロリストは人数だけは多い。
 ボスを取り押さえたいところだが、まずは手下を何とかしなければ乗客に犠牲者が出てしまうかも知れない。
 そう思っている最中にも、ボスの演説はどんどんボルテージを上げている。演説が最高潮に達した時、綾は梓に視線をやった。
 その直後。会場が闇に包まれた。
「なっ! なんだ!?」
「停電か!?」
「きゃあっ! なに? なんで真っ暗なの?」
「落ち着いてマダム」
 突然の闇に騒ぎ出す幻桜戦線達の姿に、綾達の行動は早かった。
 不自然なほどの闇に包まれた会場に、乗客たちも一斉に騒ぎ出す。怯えてパニックを起こしかける女性に駆け寄った綾は、立ち上がろうとする肩をそっと叩いた。
「あ、あなた誰?」
「超弩級戦力だよ。あなた達を助けに来たんだ」
「超……弩級戦力?」
「そう。必ず助けるから、ここを動かないでね」
 綾の声に、乗客たちの動揺が静まっていく。その声を聞いたテロリストが、鋭い声を上げた。
「超弩級戦力だと!? 俺たちの邪魔をするつもりか!」
「そうだよ。覚えていてね。何処にいても、君を捕まえる」
 にこやかに答えた綾は、詠唱を完了するとJackを放った。鋭く放たれた殺戮刃物は、綾に背中を向けたテロリストの心臓めがけて真っ直ぐに飛ぶ。
 確実に仕留める軌跡を描いた殺戮刃物はしかし、テロリストを傷つけることはなかった。「人間」を透過するよう放たれた殺戮刃物は、今にも発砲されそうだった銃を弾き飛ばして床へと落とす。
 突然の攻撃に動揺するテロリストに音もなく忍び寄り、拳を顎に叩き込む。めり込んだ顎を軸に勢いよく蹴り上げた足が、隣にいたテロリストを蹴り上げ床にねじ伏せる。混乱に乗じて次々にテロリスト達を無力化していった綾は、あらかた気絶させるとふいに鋭い視線を向けた。
 辛うじて意識を取り戻したテロリストが、拾い上げた銃を梓の背中に向けている。一気に駆け寄り蹴り上げた銃が宙を舞った時、重い拳が綾に迫った。
「俺の拳で倒れねぇ奴はいねえ!」
「当たらなきゃ意味ねえけどな!」
 異変に気付いた梓が、鋼鉄の拳を振り上げ綾に迫ったテロリストを沈黙させる。テロリストの鎮圧を確認した綾に、梓が口元に笑みを浮かべた。
「殺さずに制圧したのか」
「テロリストいえども相手は普通の人間だもの。血祭りにはあげたくないからね」
「そうか」
「そうだよ。殺し合いなら容赦しないけどね」
「そうか……って、そこは相変わらずだなおい」
 呆れた声を上げる梓に、綾は不敵な笑みを浮かべた。

● 紅蝶の舞い
 時は少し遡る。
 未知との遭遇にテンションを上げる綾に呆れて肩を竦めた梓は、周囲の状況を確認すると詠唱を開始した。
 この会場を闇で包み、隙を作ってテロリストを制圧する。他の猟兵たちとも打ち合わせた手はず通りに完成させたユーベルコードを解き放つ前に、小さく手を挙げ合図を送る。
「さぁて、ショーの始まりだ」
 我知らず楽しそうに呟いた梓は、闇へ落ちる会場に即座に行動を開始した。
「なっ! なんだ!?」
「停電か!?」
「きゃあっ! なに? なんで真っ暗なの?」
 騒然となる会場に、紅い人影が浮かび上がった。暗闇の中に浮かぶ人影はぼんやりと輝き、一種異様な美しささえ醸し出している。
「だ、誰だ!? 誰かいるのか!?」
 声を上げたテロリストが、蝶の人影に向けて発砲しようとする。テロリストが構える銃が、ふいに落ちた。急降下した闇色のカラスに銃を取り落したテロリストが振り返るよりも早く、仔ドラゴンが突撃を仕掛けた。
「キュー!」
 愛らしい声と同時に鳩尾を直撃されたテロリストが、その場に崩れ落ちる。焔に負けじと振り回された零のしっぽが、テロリストを沈黙させていく。
 使い魔達がテロリストを制圧する間に、梓も鋭く動く。
 一方的に夜目が効くという有利を活かしてテロリストに駆け寄り、拳を叩き込み気絶させていく。次々にテロリストを無力化する梓は、首筋に感じる殺気に振り返った。
 意識を取り戻したテロリストの銃口が、梓を狙っている。攻撃直後の硬直を狙われ回避行動もままならない。
 せめて少しでも回避しようとした梓は、飛び蹴りで銃を叩き落とした綾の姿に体勢を整える。同時に死角から綾に鋼鉄の拳を振り上げるテロリストに、振り返る勢いのまま飛び上がる。
「俺の拳で倒れねぇ奴はいねえ!」
「当たらなきゃ意味ねえけどな!」
 梓の拳がテロリストの顎を捉え、脳震盪を起こさせる。死者も出さずにテロリストを鎮圧した綾に、梓は思わず笑みを浮かべた。
「殺さずに制圧したのか」
「テロリストいえども相手は普通の人間だもの。血祭りにはあげたくないからね」
「そうか」
「そうだよ。殺し合いなら容赦しないけどね」
 さすがに綾も、テロリストとはいえ人間を無闇に殺すことはないか。そう思った梓は、続く言葉に思わず肩を落とした。
「そうか……って、相変わらずだなおい」
 不敵な笑みを浮かべる綾に、梓は呆れ混じりの声で答えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

彩瑠・姫桜

あお(f06218)とは別行動

あおから頼まれたからね
遅ればせだけど参戦させてもらうわよ

何がテロよ
自分たちの勝手を通すために
誰かの命を犠牲にしていいわけないでしょう
絶対に守ってみせるわよ

けれど
一つ一つ爆弾探してたんじゃ
時間がどれだけあっても足りない

まずはテロ組織の無力化を目指す
組織を無力化するには
リーダーを先に落とした方が早いと思うの
だから狙いはリーダーよ

まずはUC使用し[範囲攻撃]で
テロ組織全体の動きを一時的に止めたいわ

その上で[覚悟]をもって
一直線にリーダー狙う

攻撃は[武器受け]で逸らす

急所は外し[串刺し]攻撃
脳筋であればこっちも力で黙らせるわ
命まではとらないけれど
怖い思いはしてもらうわよ


ユディト・イェシュア

ハイジャックですか…大変なことになりましたね
葛明さんのことも気になりますが
そちらは他の方に任せて
俺は人質に囚われた人々の安全の確保を最優先に動きます

幻桜戦線…
彼らも手練れではあるでしょうが
オブリビオンではありません
猟兵が負けることはないでしょうが
形勢不利を悟って爆弾を爆破されると困りますね

葛明さんへの追手に人手を割いているでしょうから
守りが厚いとは思えません
できれば仲間と協力して
銃を持った敵とリーダーを素早く攻撃し
気絶攻撃で戦闘不能に持ち込みたいところです

人質に危害を加える前に何とかしたいですが
何かあれば身を挺して守ります

あなたたちの思い通りにはさせません
乗客も帝都も必ず守ってみせます



● 幻桜戦線の理
 場を満たしていた闇が晴れた瞬間、ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)が駆け出した。
 会場を占拠していたテロリストたちは、そのほどんどが地に伏すか無力化されている。後はボスと取り巻きを無力化させれば、この場は収まるだろう。
 同じことを思ったのだろう。ユディトと同時に駆け出した彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は、槍形態のschwarzを大きく振るうとテロリスト達を転倒させる。体勢を崩したところに払暁の戦棍を叩き込んだユディトは、次々とテロリスト達を気絶させていった。
 取り巻きを制圧したユディト達の姿に、残されたボスは憎々しげな声を上げた。
「貴様たち……超弩級戦力か! よくも俺達の崇高な暴力を邪魔してくれたな!」
「崇高な暴力って何ですか!?」
 思わずツッコミを入れてしまったユディトに、ボスは得意げな笑みを浮かべた。
「世界は闘争によって進化してきた! 闘争が無ければ、人類はここまで文明を発展させることなどできなかっただろう! 見ろ! この生ぬるい時代を! 700年もの間、文明はほとんど進化しないではないか! 我々は崇高な手段を持って……」
「この世界のことは良く知らないわ。確かに文明は停滞しているのかも知れない。でも、平和を壊してまで発展させた文明に意味があるの?」
 滔々と語るボスに、姫桜が腹立たしげに指を突きつける。青い目に怒りを湛えた姫桜の視線を受け止めたボスは、理解できないと言わんばかりに頭を振る。
「話が通じないのは悲しいことだな!」
「それはこちらも同じです」
 悲しげな笑みを浮かべたユディトは、払暁の戦棍を握り締める。もとより話が通じるとは考えにくかったが、ここまでとは。もっとも、そのくらいでなければハイジャックなどという愚行に走ったりはしないだろうが。
「大人しく投降してください。今ならまだ間に合います。罪が軽くなるように、俺からも……」
「ハッ! 何を言い出すかと思えば!」
 吐き捨てたボスは、ジャケットを脱ぎ去ると身体に巻き付けたダイナマイトを顕にする。乗客たちから上がる悲鳴を心地よく聞いたボスは、右手に持ったスイッチを高らかに掲げた。怒鳴り声を上げるボスの右手が小さく震えているのを見たユディトは、小声でユーベルコードを詠唱する。そんなユディトに気づいた様子もなく、ボスは狂ったような叫びを上げた。
「もとより、生きて帰れるなどと思ってはいないわ! ハイジャックが成功して身代金と機体が手に入れば良し! そうでなくてもこの飛行船自体が爆弾となり帝都の帝を殺すのだ! そうすればこの世界は再び闘争の世界となるだろう!」
「あなたたちの思い通りにはさせません。乗客も帝都も必ず守ってみせます」
「やってみろ超弩級戦力!」
 高笑いを上げるボスの姿に、ユディトはジリジリと距離を取りながら倒れた部下たちを起こして回る。ボスが右手に持つスイッチがダイナマイトの起爆スイッチならば、ユディトが叩き落とすよりも早く爆破されてしまうだろう。そうなれば乗客たちに大きな被害が出るのは避けられない。
 ユディトが唇を噛んだ時、詠唱を完成させた姫桜がユディトの後ろから躍り出た。

● 猟兵の理
 ユディトがボスの気を引いている間に詠唱を完成させた姫桜は、合わせ離した両掌に湛えられた莫大な量の高圧電流をテロリスト達に向けて解き放った。
「雷よ! テロリスト達の動きを止めて!」
 声と同時に、眩いばかりの光が取り巻き達を襲う。放たれる高圧電流は、首の後をさすりながら起き上がった取り巻き達を再び床に伏せさせるには十分な威力があった。うめき声を上げながら倒れるテロリストを盾に難を逃れたボスは、高らかに右手を掲げた。
「近づくんじゃねえ! こいつを爆発させるぞ!」
「やれるものならやってみなさいよ」
 身体からオーラを湧き上がらせ、雷のような声を上げる。鬼気迫る勢いの姫桜に、ボスは一瞬気圧されたように後ずさる。小娘と侮っていた姫桜の気迫に呑まれた自分を恥じるように、ボスは手に力を込めた。
「近づくな……」
「何がテロよ! 自分たちの勝手を通すために、誰かの命を犠牲にしていいわけないでしょう! あなたは発展した文明が見たいのよね? なのに死んだら元も子もないわ! あなたはただ、都合の良いように使われているだけよ!」
「う、うるさい! 俺は勇敢な戦士だ! 選ばれし者だ! このダイナマイトを爆破させて……」
「あなたの弱点は、本当は死にたくないことです」
 ボスの指がスイッチにかかる刹那、ユディトは駆け出した。矢のように駆けたユディトの戦棍がボスの手を強かに打ち付け、自爆スイッチを跳ね上げる。
 自爆スイッチがボスの手から離れた瞬間、姫桜が動いた。
「命まではとらないけれど、怖い思いはしてもらうわよ!」
 駆け出した姫桜の手にしたWeisが、ボスの肩を深々と貫く。串刺しにされ、壁に縫い付けられたボスは苦痛のうめき声を上げるとがっくりと項垂れる。
「急所は外してあるわ。安心しなさい」
 観念した様子のボスの身体に巻き付けられたダイナマイトを解除して、導線を切って無力化する。気絶したテロリスト達を縛り上げていた葵桜は、笑い声を上げるボスの姿に振り返った。
「くっ……。ははっ! あーっはっはっは! この、俺が、死を恐れているだと? 笑わせるな! お前たちなど帝都の藻屑にしてくれるわ!」
 目に狂気を湛えたボスは、左手に取り出したスイッチを素早く押した。
 同時に響く爆発音。船体に仕掛けられた爆弾が爆発する音が次々に鳴り響き、船体が大きく傾いた。
「ちょっと! 何したのよ!」
「この船を帝都に落としてやるのさ! どうせ俺は幻桜戦線に殺される! ならばお前たちも道連れだ!」
「なんてことを!」
 口角に泡を飛ばすボスを今度こそ気絶させたユディトは、高度を下げる飛行船に拳を握り締めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『スパヰ甲冑』

POW   :    モヲド・零零弐
【マントを翻して高速飛翔形態】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【目からのビーム】を放ち続ける。
SPD   :    影朧機関砲
レベル分の1秒で【両腕に装着された機関砲】を発射できる。
WIZ   :    スパヰ迷彩
自身と自身の装備、【搭乗している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


● 想いは飛行船に乗せて
 轟音を上げながら、飛空船が大きく傾く。
 爆破された飛空船のバルーンからはユーベルヘリウムが漏出し、優美な船体は確実に地上へと落下していく。
 高度を下げる飛行船に顔色を変えた葛明は、手にしたアタッシェケースを開くと中に仕込まれていた盗聴器のスイッチを入れた。
 ブリッジに仕掛けられた盗聴器から流れてくる船員達の声は、皆一様に緊迫した空気を孕んでいた。

『船長、落下予測地点が変わりました! 箱海高原の箱海町です!』
『よくやった! その先に箱海湖があるな。そこに着水する! できるな!』
『む、無茶です!! 高度がそこまで保ちません!』
『無茶でもやるしかないだろうが!』

 船員達の声に、葛明は顔色を変える。箱海町は玲子が療養する病院がある場所だ。
 何回も。何十回も何百回も何千回だって書いた住所だ。間違える筈がない。

 駆け出した葛明は、顕になった最新鋭機に乗り込もうと手を伸ばす。それを止めた猟兵を振り返った葛明は、肩に掛けられた手を大きく振り払った。
「このままでは玲子さんのいる病院に、この船は落ちてしまう! 僕はこの機体で飛行船を押して、落下地点を変える! 玲子さんを死なせはしない、絶対に!!」
 真剣な目で猟兵達に訴えた葛明は、並ぶコンテナを指差した。

「あの中に、空を飛ぶことができる影朧甲冑がある。乗客たちの避難を頼みたい。ーー玲子さんに協力させて盗んだ技術で、せめて人を助けて欲しい」

 それだけ言い残し機体に乗り込んだ葛明は、即座に起動させると空へと向かう。船体に取り付き、スパヰ甲冑の全能力を解放。
 光の方へと落下していた船体は、ゆっくり船体を持ち上げると黒い穴のように見える湖へと向かった。
 ユーベルコヲドの複数同時使用を可能とする最新鋭機は、その全能力が船体の軌道修正に使われる。代償として、葛明の命を燃やしながら。
 遠くに見える箱海湖がゆっくりと近づく。湖のほとりの光に、玲子がいる。

ーー何度、会いたいと書いた手紙を燃やしただろう。
 何度、汽車の切符を握りつぶしただろう。
 会いたくて会いたくて、でもどうしても会えなくて。
 焦がれた箱海高原に、こんな形で行くだなんて皮肉なものだ。
 そして今も、あの病院には行かない。
 絶対に。

 想いを強くした葛明は、放たれる銃弾に振り返った。地上に残った幻桜戦線の残党がスパヰ甲冑を出したのだ。湖へと導く最新鋭機に向けて、怒鳴り声が響いた。
「やってくれたな! 帝都が無理ならば、せめて箱海町に落としてやる! 湖に着水などさせるものか!」
「幻桜戦線か。やれるものならやってみろ!」
 攻撃を受けてもなお、最新鋭機は飛行船を支え続ける。再び銃口を向けるスパヰ甲冑に向けて、いくつもの影が躍り出た。

※ マスターより
 玲子のいる病院に向けて落ちる飛行船の軌道を変えるために、葛明は飛行船を支えています。
 これを狙って、幻桜戦線が持つ虎の子のスパヰ甲冑が攻撃を仕掛けています。
 このスパヰ甲冑の撃破が成功条件となります。

 どのような結末を迎えても、箱海町に飛行船は落ちません。
 このまま放置すれば、葛明は死に飛行船は湖の藻屑と化し、スパヰ甲冑は駆けつけた桜學府のユーベルコヲド使い達によって追い払われます。

 格納庫には「レベル×100km/hで飛翔できる」というユーベルコヲドを常時発動させる影朧甲冑の試作機があります。
 これに乗れば、猟兵達も空を飛びながら戦うことができます。技能や武器やユーベルコヲドも通常通り使い、アクロバティックな空中戦をすることができます。
 影朧甲冑としての機能としては弱いので、猟兵ならば影朧の影響を受けることなく乗りこなすことができます。
 もちろん、自分のユーベルコヲドで飛んでも構いません。

 船内からユーベルコヲドで狙い撃ちにしたり、バルーンの上によじ登ったりすれば影朧甲冑に乗らずに攻撃することもできますがペナルティはあります。
 また、乗客たちはパニックを起こしていますので、こちらを落ち着かせたり避難させたり操舵を手伝ったりといったこともできます。
 通信機は生きていますので、葛明や船内の乗客乗員、スパヰ甲冑に乗った幻桜戦線のテロリストと話をすることもできます。
 プレイングはご自由にお掛けください。
 葛明の生死は問いません。

 プレイング受付は、断章公開後すぐより10月25日(日)朝9時頃まで。
 咲楽MSの受付期間とは異なりますのでご注意ください。

 それでは。良き空の戦いを。
ベリザリオ・ルナセルウス
【言わぬが花】
●目的
WIZ
織久はあっと言う間に飛び出して行ったね。しかも生身で!
さっきの黒服は殺せなかった分大暴れするだろうから私は織久と乗客を守る

●行動
UCで味方と飛行船の人々を鼓舞して私に敵を誘き寄せる
味方に祝福を与える光は敵に対しては全てを暴く光の矢だ
光の屈折でも分かるし、傷付けば空気抵抗も増えて飛行音も大きくなる
シールドバッシュで殴り付けて武器落としで武装を解除する
後は織久の炎で心身がボロボロになった彼等に避難を手伝って欲しいと説得。私は君に怨念の炎で苦しみもがくより救いのある道を選んで欲しいと精一杯呼び掛ける
手伝ってくれるならUCで今度は味方として浄化と手当もするからね


西院鬼・織久
【言わぬが花】で参加
影朧甲冑?オブリビオンマシンのような物でしょうか
これを使っては餓えが酷くなりそうです

何せ我等は底無し故
この身に触れぬ血肉では物足りぬ
狩るべき敵の血肉を啜ってこその我等よ

【行動】POW
乗客は同行者に任せ敵の殲滅に集中
五感と第六感+野生の勘を働かせ状況把握と敵行動を予測

先制攻撃+UC+空中戦の飛翔+ダッシュの最高速で接近、なぎ払いで斬り抜け速度を保ったまま早業の連撃でなぎ払い怨念の炎(呪詛+生命力吸収)の継続ダメージを与えて行く

敵の攻撃は残像+回避や武器受け、ダメージは各種耐性で凌ぎ損耗させておいた箇所をなぎ払い
切断まではいかなくても付けた傷に二回攻撃+串刺しで内部を破壊する



※ ご連絡
 リプレイの最後に葛明と玲子の結末が挿入されますので、よろしければご確認ください。

● 血と呪詛の饗宴
 傾いた飛行船の床が、更に角度を増していく。
 倒れ伏す幻桜戦線の構成員達を冷たい目で見下ろした西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は、彼らが腕に付けた通信機が一斉に立てる音に眉を上げた。

『親愛なる我等が幻桜戦線の諸君!
 我等が崇高なる目的は必ず成し遂げねばならぬのである!
 この船を箱海の地へ落とし、新たなる世界の礎を築くのである!
 だがこれを阻止せんとする愚昧なる最新鋭機が一機取り付いている!
 諸君らは至急船橋を制圧し、既に潜入せし我等が同志を助け操舵を奪取……』

「愚かだな」
「織久?」
 通信機を手首ごと踏み潰した織久は、踵を返すと船橋へと駆け出した。織久の笑みに何を感じたのか、幻桜戦線を治療していたベリザリオ・ルナセルウス(この行いは贖罪のために・f11970)の声が聞こえたが無視して船橋へと向かう。
 連絡の中では、影朧甲冑に乗って戦えとあった。だが、そんな玩具に乗って戦うのには抵抗がある。何故ならば。
(「オブリビオンマシンのようなものでしょうが、それを使っては餓えが酷くなりそうですからね」)
 西院鬼の怨念は底無し沼のように深く、重い。
 いくら敵を殲滅できるとはいえ、血肉を感じぬ殺り方では物足りないのだ。
「狩るべき敵の血肉を啜ってこその我等よ」
 先程の戦闘では、ほとんど殺せなかった。殺せる敵もベリザリオが救ってしまい、昂ぶる血を鎮める術を探していたところ。
 また邪魔される前に、幻桜戦線を屠らなければ。
 一人でも多くの血と怨念を浴びてこそ、西院鬼の怨念は鎮まるのだから。
 鋭く振り返った織久は、床を蹴ると詠唱を開始した。
「我等が血に潜む竜よ、天地を遍く狩る竜翼と化せ」
 蹴った床が地に付く前に、織久の身体が加速する。全身に西院鬼の吸血鬼が持つ竜の力を纏った織久は、闇焔を手に幻桜戦線達が向かう船橋へと飛び立つ。
 途中すれ違う幻桜戦線を屠れば、血と闘争の気配に背筋が沸き立つ。やがて船橋に突入しようとしていた幻桜戦線達の姿を確認した織久は、更に加速すると大鎌を振り上げた。
 最高速度で接近し、同時に鎌を薙ぎ払う。奇襲を受けた幻桜戦線の首を刎ね心臓を突き、刺さった死体を振り抜きざまに投げつけては牽制とする。
 こちらに気づいた幻桜戦線が一斉に銃を発砲してくるが、既にそこに織久の姿はない。幻影を残して床近くに伏せ飛翔した織久は、足首を狙い怨念の炎を解き放つ。
 呪詛を受けた幻桜戦線が、苦痛の叫び声を上げる。黒い炎に包まれた幻桜戦線達の地獄の叫びは、なんと耳に心地よいことだろう。
「今、楽にしてやろう」
 大鎌を振り上げ、転げる幻桜戦線を内部から破壊する。地獄絵図の上で静かになった廊下に、室内から声が響いた。
「く、来るな! こいつがどうなってもいいのか!」
 船長と思われる男を羽交い締めにし、こめかみに銃口を突きつける幻桜戦線を見た織久は、凶悪な笑みを浮かべる。
 敵は殺す。巻き添えは知らない。
「織久!」
 闇焔を振り上げようとした織久を、知った声が押し留めた。

● 宴の終わり
 あっという間に飛び出した織久を追い駆け出したベリザリオは、嫌な胸騒ぎに船橋へと急いだ。
 さっきの戦いで、本当は敵を殺したかっただろうことは想像がつく。だがそれを止めて敵を癒やしたのだ。中途半端に昂ぶった血は、新しい血を見なければ収まらないのだろう。
 下手をしたら乗員たちまで殺しかねない。ところどころに転がる死体を道標に廊下を駆けたベリザリオは、屍山血河をなす廊下に眉を顰めた。
 幻桜戦線達が物言わぬ死体と化している。死してなお苦痛の表情を崩さない死体に唇を噛んだベリザリオは、聞こえる怒声に足を早めた。
「く、来るな! こいつがどうなってもいいのか!」
 どうなってもいいのだ。幻桜戦線を屠れるのならば。足元が血で汚れるのも厭わずに駆けたベリザリオは、闇焔を振り上げる織久に抱きついた。
「織久! いけません! それでは人質にまで危害が及びます!」
「ベリザリオ。ですが奴は敵です。生かしておく訳にはいかないでしょう」
「ここはこの船の心臓部です。ここが落ちてはあなたも無事では済みません。この船を操作する人を傷つけては、任務が果たせなくなります。それでもいいのですか?」
 ベリザリオの必死の呼びかけに、織久は大鎌を下ろすと一歩下がる。安堵したベリザリオは織久を離すと、船長に銃を突きつける幻桜戦線と向き合った。
「さあ、銃をおろしてください。こんなことをしても世界は変わりませんよ」
「うるさい! せめてこの船を箱海町へと落とすんだ! お前こそ武器を捨てろ! さもないと……」
「仕方ありませんね」
 小さくため息をついたベリザリオは、腰に佩いたFulgor fortitudoを外すと床へ置いた。そちらに気を取られた一瞬の隙を突き床を蹴ったベリザリオは、小手を返すと幻桜戦線の懐へと潜り込んだ。
 シールドバッシュの要領で、顎を下から強かに打ち付ける。そのまま仰向けに倒れた幻桜戦線を抑え込んだベリザリオは、目を回す幻桜戦線に語りかけた。
「抵抗は無駄です! 大人しく……」
「無駄なものかよ!」
 幻桜戦線が叫んだ直後、その身体が呪いの炎に包まれた。隙を突きベリザリオの脇腹を刺そうとしていた幻桜戦線の手からナイフが落ち、地獄のような苦痛の叫び声が上がる。
「織久……」
「なんですか?」
「いえ、ありがとうございます」
 礼を言ったベリザリオは、浄化の光を幻桜戦線の目の前に差し出した。
「あなたがまだ抵抗するなら、炎はこのままにします。ですが協力してくれるなら、炎を消して浄化しましょう。ーー私は君に怨念の炎で苦しみもがくより、救いのある道を選んで欲しい」
「わ、分かった! 協力する! 協力するから助けてくれ!」
 叫ぶ幻桜戦線に頷いたベリザリオは、壁を背に立つ織久を振り返った。
 昂ぶった血が落ち着いたのだろう。小さく肩をすくめる織久に頷いたベリザリオは、幻桜戦線に癒やしと浄化を与えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

彩瑠・姫桜
引き続き、あお(f06218)とは別行動

あおと連絡とれないけど、
なんとなくやってることは予想つくわ
なら、私は、私のできる最善を尽くさなくちゃね

飛空船内部の行動中心

[コミュ力、優しさ、礼儀作法]を駆使して
乗客をできるだけ落ち着かせながら避難誘導するわ
子供やお年寄り、身体の不自由な人にはなるべく手を貸すわね

船内にいる幻桜戦線の人員や
パニックを増長させるほどに暴れたりする人には
私のUCで少し静かにしてもらおうと思うわ

ある程度誘導のめどがついたら
飛行船の操舵室へ行き、操舵の支援を試みるわ

可能なら、通信機で外部と連絡を取る
葛明さんと…この流れなら多分あおも居るわよね
連携取って飛空船の軌道修正を行いたいわ


ユディト・イェシュア
飛行船が傾いて…
いえ、それでも皆で動けば最悪の事態は避けることができますね
この状況でパニックになるなという方が無理ですが
まだ意識のある幻桜戦線を気絶させてから乗客を落ち着けます

大丈夫です
この機体が安全な場所に不時着できるよう
今仲間たちが全力で動いています
皆さんにできることはパニックを起こさないこと
救命胴衣など身に着けて安全な場所で掴まっていてください

葛明さん
あなたはスパイだから会えないと言った
けれどここを守りきれば
乗客と町を救った一人として会えるのではないですか
…必ず生き延びてください

乗客が落ち着けば飛行船から援護を
透明になられるのは厄介ですが
相手の体力を少しでも削れれば助けになるでしょうか



※ ご連絡
 リプレイの最後に葛明と玲子の結末が挿入されますので、よろしければご確認ください。

● 悪足掻き
 時は少し遡る。
 華やかなパーティ会場は見る陰もなく荒れ果て、斜めになった床が、ギシリと軋む。
 その音に怯えてパニックを起こしかける乗客たちに、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は微笑みを浮かべると安心させるように声を掛けた。
「大丈夫よ。この船は落ちたりしないわ」
「そんなこと、分からないだろう!」
 怒鳴り声を上げる壮年の男性の声に答えるように、爆発音が響く。同時に感じる衝撃に、パーティー会場に悲鳴が響いた。
「ほら見ろ! 大丈夫だなんてきれいごと……」
「大丈夫です。この機体が安全な場所に不時着できるように今、仲間たちが全力で動いていますから」
 にっこり微笑んだユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)が、尊い笑顔で乗客を宥める。顔を上げ、外を見る姫桜に引かれるように顔を上げた乗客たちは、繰り広げられる空中戦に息を呑んだ。
 ユディトの声を裏付けるように、猟兵達が戦っている。この船を落とそうと攻撃を仕掛けるスパヰ甲冑を牽制し、この船は守り通すのだという気迫で攻撃を仕掛けている。
 その様子を見つめた姫桜は、今は連絡が取れない親友のことを思った。
(「あおと連絡とれないけど、なんとなくやってることは予想つくわ」)
 きっと葵桜はちゃんと格納庫へ辿り着き、試作機の中で戦っているのだろう。葵桜ならばきっとそうする。そんな確信が姫桜にはあった。
「なら、私は、私のできる最善を尽くさなくちゃね」
「その通りです」
 ユディトが頷いた時、突然ドアが開いた。何に怯えているのか、パニックに陥った幻桜戦線の男が数人、銃を乱射しながらパーティ会場へと駆け込んでくる。
「ははは! 死ね死ね! 幻桜戦線よ永遠な……」
「黙りなさい!」
 金切り声を上げ引き金を引こうとする男に、姫桜の行動は早かった。即座に猿轡を噛ませて黙らせると、手枷と拘束ロープで動きを拘束する。仲間を盾に拘束から逃れた男に、ユディトは払暁の戦棍を構えた。
「少し寝ててください!」
 勢いよく振り下ろされる戦棍の一撃が、残党を気絶させる。残党の拘束を終えた姫桜は、動揺する乗客たちを見渡した。

● 混乱と冷静と
 突然乱入した幻桜戦線に、乗客たちの間で不安と恐怖が沸き起こる。
 そこへ、船体に再び衝撃が走る。更に近づく地上に混乱する乗客たちに、ユディトは語りかけた。
「皆さん、落ち着いてください! パニックが何よりも良くありません!」
「でも、このままじゃ私達は死ぬのよ!」
「死なせないわ! 私達は超弩級戦力よ。あなた達はあたし達が必ず守るわ!」
 きっぱりと言い放つ姫桜に頷いたユディトは、救命胴衣を手渡して回った。
「その通りです。皆さんができるのは、まずパニックにならないことです。まずはこの救命胴衣を身に着けてください。今、他の仲間達が皆さんを誘導するために動いています」
「だから、まずは落ち着いてよね」
「超弩級戦力……聞いたことがあるわ」
「確かさっきも、助けてくれたよな」
「この間、知り合いの友達が影朧から助けてくれたって言ってたよ」
 噂が噂を呼び、落ち着きを取り戻す乗客たちに、ユディトは姫桜と一緒に救命胴衣を配って回る。
 身体の不自由な人やお年寄りにも寄り添い一緒に身につける姫桜の姿に、乗客たちは徐々に安心を取り戻していった。
 気絶させた乗客や幻桜戦線にも救命胴衣を身に着けさせたユディトは、避難準備をしていた猟兵から連絡を受け取ると乗客たちを誘導した。
 誘導を終えて操舵室へ行くと言い残して走り出す姫桜を見送り甲板へと出たユディトは、続く戦闘に目を細めた。猟兵達と互角の戦いを繰り広げるスパヰ甲冑は、甲板へ出た乗客たちの姿を確認すると姿を消す。背筋にぞわりとした気配を感じたユディトは、鋭く振り返ると指先を宙に向けた。
「そこです!」
 鋭く放たれる雷が、姿を消したスパヰ甲冑に直撃する。ユーベルコードを解除して姿を現すスパヰ甲冑に牽制攻撃を仕掛ける猟兵を見送ったユディトは、今もなお船底で飛行船を支えているであろう葛明に通信を繋いだ。
「葛明さん。あなたはスパイだから会えないと言ったそうですね。けれどここを守りきれば、乗客と町を救った一人として会えるのではないですか」
『……だめだ。会うことはできない』
 それだけ言うと、通信が沈黙する。
 葛明は今もなお、命を削りながらこの船を支えている。少しでも長く飛行し、先にある箱海湖へと着水させるために。
 玲子の命を守るために。
「……必ず生き延びてください」
 葛明に気持ちを伝えたユディトは、指を組み祈りを捧げると目を開け避難誘導の手伝いに走った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】
チッ、その場に居ながら
爆発を止められなかったのは悔やまれるな…

綾は敵のスパヰ甲冑の対処
俺は飛行船の対処という役割分担

UC発動し、空にドラゴンを最大数召喚
背に複数人乗れる大型竜の形状

乗客乗員を拡張器でなだめつつ
ドラゴンの背に乗るように促し避難活動を進め

数体は葛明の周囲を囲み
敵の攻撃からかばうことに徹する

残り全てのドラゴンには葛明と共に
怪力を以て落ちる飛行船を支えさせる
バカでかい飛行船、ドラゴンの力でも
そう簡単には抑えきれないだろうがゼロよりはマシだ
葛明の負担と削られる寿命を
1分でも1秒でも多く軽減させる
生きてさえいれば、気が変わって
好きな女に会いに行く決心もつくかもしれないだろう


灰神楽・綾
【不死蝶】
俺たちには爆弾解除の術は無いからねぇ…
今出来る最善の、最後の大仕事をしよう

中身での戦いの方が好きだけど
今は言ってる場合じゃないね
影朧甲冑に乗り込み
空へと飛び立つ、その前に

あーあー、聴こえている葛明さん?
これから俺たちは君に全面協力するよ
ただし条件がある
君も行きて帰ること
そして、命を賭けてでも守りたかった女性に
あとで会いに行ってあげること
まぁ今はそれどころじゃないだろうから
頭の隅にでも置いといてよ
返事も効かず通信機を切り

まずは銃弾が飛んでくる方向へ高速で接近
そしてUC発動し、透明化した敵の位置を特定
念動力で複数のナイフ投げつけ牽制しながら接敵し
力溜めたEmperorの一撃をお見舞いする



※ ご連絡
 リプレイの最後に葛明と玲子の結末が挿入されますので、よろしければご確認ください。

● ドラゴンマスター
 傾く床に、響く爆発音。
 パニックを起こしかけるパーティ会場の乗客たちの対処を他の猟兵に任せた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、不安定な足元に舌打ちを鳴らした。
「チッ、その場に居ながら爆発を止められなかったのは悔やまれるな……」
「俺たちには爆弾解除の術は無いからねぇ……。今出来る最善の、最後の大仕事をしよう」
「あぁ、そうだな!」
 隣を走る灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の励ましに、梓も頷く。途中の分かれ道で綾とハイタッチで別れ甲板へと出た梓は、ユーベルコードの詠唱を開始した。
「集え、そして思うが侭に舞え!」
 【竜飛鳳舞(レイジングドラゴニアン)】の詠唱に応えて現れた92体のドラゴン達を見上げた梓は、それぞれのドラゴンに指示を飛ばした。
「いいかお前達! 今から乗客を避難させる班と援護班、それに船を支える班の3つに別れて貰う!」
 梓の指示に頷いたドラゴン達が、それぞれの持場へと向かう。船内に残った猟兵に連絡した梓は、少し水平を回復させる甲板に顔を上げた。
 船底に向かったドラゴン達が支えたのだろう。バカでかいドラゴン達とはいえ、この飛行船も負けず劣らずバカでかい。
 そう簡単には支えきれないだろうがゼロよりはマシだ。葛明の負担と削られる寿命を1分でも1秒でも多く軽減させなければ。
 かなりの高度からゆるやかに落下する飛行船の周囲には、低い雲が漂っている。天候が下り坂なのかも知れない。救助も着水も、急いだ方が良さそうだ。
 やがて葛明と通信を始める綾の声が、梓の耳にも聞こえてくる。彼らしい励ましに笑みを浮かべた梓は、ゆるやかになる傾斜に通信機のスイッチを入れた。
「綾、ついでにドラゴン達は味方だって伝えてくれや」
『自分で伝えたらいいじゃないか』
「言いたいことは綾が言ったからいいんだよ。じゃあな」
 返事も聞かずに通信を切った梓は、甲板へと移動した乗客たちを拡声器で励ましながらドラゴンの背に誘導する。
「生きてさえいれば、気が変わって好きな女に会いに行く決心もつくかもしれないだろう。……なんて、直接伝えるのも気恥ずかしいしな」
 頬を掻いた梓は、甲板に現れたスパヰ甲冑に振り返った。猟兵の攻撃に消した姿を現したスパヰ甲冑が、乗客達に向けて影朧機関砲を放つ。
「狙い撃ちかよ! こっちだ!」
 梓の声に応えたドラゴンが、影朧機関砲の銃弾から乗客たちを守る。直後に現れた綾の攻撃に甲板から離れたスパヰ甲冑を見送った梓は、影朧機関砲を受けて傷ついたドラゴンの頭を撫でて労うと拡声器で乗客たちの避難誘導を急いだ。

● シャドウチェイサー
 時は少し遡る。
 ハイタッチで梓と別れた綾は、格納庫へ向かうとコンテナの前に立ち止まった。
 解放されたコンテナの中に搭載された試作機は鎧と呼ぶには守る面積が少なく、足と背中に付けるジェット噴射で空を飛ぶ仕組みのようだった。
「なるほど。だから飛翔できるだけの機能しか無いわけか」
 口笛を吹いた綾は、目の前を通過するスパヰ甲冑が起こす風に目を細める。こちらはほぼ生身に近いのに、あちらさんは全身を重装備に固めているのは不公平な気もしたが、こちらには連携プレーと数の有利がある。負ける気はしなかった。
「中身との戦いの方が好きだけど、今は言ってる場合じゃないね」
 残った係員の指示に従い、足と背中にジェット噴射機に似た影朧甲冑を身につける。生気を奪われるような感覚がひやりとするが、気を確かに持っていればどうということはない。
 空へ飛び立つ前に通信機のスイッチを入れた綾は、船底でこの船を支えている葛明の機体に周波数を合わせた。
「あーあー、聴こえている葛明さん? これから俺たちは君に全面協力するよ。ただし条件がある」
『条件? それは……』
 言葉を切った綾は、問い直す葛明を遮り言葉を続けた。
「君も生きて帰ること。そして、命を賭けてでも守りたかった女性に、あとで会いに行ってあげること」
『君達は何故それを……』
「まぁ今はそれどころじゃないだろうから、頭の隅にでも置いといてよ」
 返事も聞かずに通信機を切った綾に、梓から通信が入る。梓らしい言葉に笑みを浮かべた綾は、再び周波数を合わせると葛明に声を掛けた。
「追伸だ。今そっちにドラゴンが向かったと思うけど、それは仲間だから。仲良くしてやって。じゃ」
 今度こそ通信を切った綾は、影朧甲冑を起動させると空へと飛び立った。制動を確認した綾は、聞こえてくる銃声に向けて高速で接近する。甲板に向けて影朧機関砲を発射するスパヰ甲冑の姿に、即座にJackをお見舞いした。関節部を狙った鋭い攻撃に砲撃をやめたスパヰ甲冑は、再び透明になると距離を取り再び甲板を攻撃しようと迫る。
「消えたって無駄だよ。甲板に攻撃はさせないから」
 放った蝶と感覚を共有した綾は、護衛のドラゴンの隙を突き攻撃を仕掛けようとするスパヰ甲冑の位置を正確に掴むとEmperorの一撃をお見舞いする。
 気付かれていないはずという油断を突いた攻撃に、スパヰ甲冑は姿を現す。更に甲板に攻撃を仕掛けようとするスパヰ甲冑に、ドラゴンのブレスが追い打ちを掛けた。
「戦場はここじゃないよ。もっと広い場所で遊ぼうか」
 ナイフを弄んだ綾は、甲板への奇襲を諦めたスパヰ甲冑に追いすがった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「飛行船が落ちる?」
箱海町に居たが桜學府からの緊急連絡受け地上から飛行
九重の状況等は依頼受領時に把握

「貴方が九重葛明さんですか!橘玲子さんが逢いたがっていた、あの!」
九重と共に飛行船支え九重の負担軽減
九重を狙う幻朧戦線は高速・多重詠唱で攻撃し排除
第六感や見切りで幻朧戦線からの九重への攻撃を察知し盾受け
九重が生きて橘に会えるよう激励

「橘さん…玲子さんは、貴方に会いたいと泣きそうでした!もう筆も持てないほどお悪いんです!貴方は、玲子さんが亡くなるまで悲しい涙を流させるおつもりですか!」
「もう桜學府は知っています!貴方の遠慮は意味がない!生きて情状酌量を勝ち取って、玲子さんに会って下さい、直ぐに!」


鹿村・トーゴ
試作機に搭乗
幻桜戦線スパイ甲冑撃墜と葛明の援護
【情報収集/野生の勘】で操作

七分割した七葉隠を空で【念動力】思い切り振り回しUC強化
近づく敵は強化ついでに殴り撃ち落とす
葛明に接近する幻桜を七葉隠を念動で【投擲】刺突させ
離脱させるか撃墜【暗殺】…敵殺害もやむなし
>葛明へ通信
接近する敵甲冑を教え自分が撃墜する旨を伝え
「葛明さんよ
間者の一番の使命は死なねー事…だよな?
それに
あんた飛行船は簡単に落ちねーとも言ったし

死なんでも捕まるだろうが…ならいっそ会えば?
本名で文を出す程思い入れある恋文の橘の君に
…出所してから二人で生きるとかさ
想像だが例えばあんたの親みたいに?
くノ一が郷抜けなんて余程だもん

アドリブ可


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)に乗客の避難を頼む

私は影朧甲冑に乗って
葛明さんの支援

飛行機を支えるのを手伝う
可能ならUCで葛明さんの治療するし
スパヰ甲冑が攻撃してきたら[かばう]ね

葛明さんは、会わない後悔の方がいいって言ったけど
私は、同じ後悔するなら会った方がいいって思う!

(過ぎったのは不在になった父と
残された母のこと)

葛明さんのためにじゃない
玲子さんのためにだよ

玲子さんは、絶対会いたいって思ってる
葛明さんが来るのを待ってる
何も言わなくても絶対そう

男は皆馬鹿だよ
守るために命をかけるのはいいけど
待ってる人に何もいわないで姿を消すとか
死ぬとかありえないんだから!

だから
絶対生きるんだよ

そして会いに行ってよ!



※ ご連絡
 リプレイの最後に葛明と玲子の結末が挿入されますので、よろしければご確認ください。

● 桜の願い
 時は少し遡る。
 一足先に箱海町に来ていた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、桜學府より受けた緊急連絡に顔色を変えた。
「葛明さんの乗った飛行船が、この町に落ちる?」
 思わず叫んだ桜花の声に反応するように、半鐘が鳴り響く。避難の流れに逆らって駆け出した桜花は、異様に低空飛行する飛行船を視認すると目を見開いた。
 バルーンから煙を上げながら、飛行船がゆっくりこちらに落ちてくる。サアチライトに照らされるのは、飛行船の底に取り付いた一機のスパヰ甲冑とそれに執拗に攻撃を仕掛けるもう一機のスパヰ甲冑。そして迎撃に出る猟兵達の姿。
 ふわりと総毛立つ感覚に身を委ねた桜花は、詠唱と同時に道路を蹴る。上空に飛び立った桜花は、渦巻く桜吹雪を纏いながら葛明に向けて一直線に翔けた。
 葛明を狙い機関砲の銃口を向けるスパヰ甲冑との間に、躊躇なく飛び込む。桜の銀盆を盾代わりに構え攻撃を受け止めた桜花は、ダメージを受けながらも葛明を庇いその場に留まる。
 激痛が全身を駆け巡る。ユーベルコードの集中が途切れそうになるが、意思の力で踏みとどまる。桜花には伝えなければならない思いがある。改めさせたい気持ちがある。
 ここで葛明が撃墜されてしまえば、その思いは永遠に絶たれてしまう。そんなことはさせない!
 歯を食いしばり耐える桜花への機関砲の圧が、ふいに消えた。
「お前の相手はオレがしてやっから離れろ!」
 最高速で飛び出した鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)が、スパヰ甲冑の気を引くように割り込んだ。大ぶりな動作で七葉隠を振り回し、念動力で一斉に攻撃を仕掛ける。
 同時に放たれた七葉隠の透明な刀身に回避行動に移り、攻撃をトーゴへと向けたスパヰ甲冑がその場を去る。
 その時、甲板から多くのドラゴン達が現れた。味方猟兵のユーベルコードにより召喚されたドラゴンが、一斉に船底に取り付くと葛明の負担を軽くするべく飛行船を持ち上げた。
 ひとまずの安全を確保し一息ついた桜花の耳に、美しい歌声が響いた。
「わたしは歌う。わたしは願う。あなたへと繋がる「奇跡」があるならば、いつか。たどり着くその未来に。この歌が、祈りが、届くように」
 影朧甲冑を纏い空を飛ぶ榎木・葵桜(桜舞・f06218)の祈り歌が、桜花の傷を癒やす。その歌声と歌詞に共感したのだろうか。通信機が鳴ると、葛明から通信が入った。
『……君、達は……』
「貴方が九重・葛明さんですか! 橘・玲子さんが逢いたがっていた、あの!」
『何故……玲子さんの名を? 君は……』
 通信機から返ってくるのは、予想以上に弱々しい声。これだけ大きな飛行船を一人で支えていたのだ。命がどれだけ削られたのか、予想もつかない。
 その声が玲子の姿に重なって見える。唇を噛んだ桜花は、通信機に向けて叫んだ。
「橘さん……玲子さんは、貴方に会いたいと泣きそうでした! もう筆も持てないほどお悪いんです! 貴方は、玲子さんが亡くなるまで悲しい涙を流させるおつもりですか!」
『玲子さんが……』
「もう桜學府は知っています! 貴方の遠慮は意味がない!」
『まさか知られて……!』
 桜花の声に、息を呑む気配がする。一瞬浮き上がった葛明の声が、やがて苦いため息と共に吐き出された。
『……なら尚更、会うことはできない。彼女は僕の共犯者だ。事が明るみに出れば、もっと辛い思いを……』
「そんな……」
「この、わからずや!」
 桜花の激励を拒否する葛明に、葵桜の叫び声が響いた。

● 桜の想い
 歌を終えた葵桜は、あっけに取られているだろう葛明に向けて想いをぶちまけるように叫んだ。
 玲子は会いたいと言っていた。筆も持てないほど重い病に蝕まれ、影朧に頼ってもなお繋がっていたいと願っていた。
 会いたくて会いたくて、でもどうしたって会えない人だっているのに。
 こんなに近くにいて、お互いに会いたいのに会わないだなんて。そんな理不尽が葵桜には許せなかった。
「葛明さんは、会わない後悔の方がいいって言ったけど。私は、同じ後悔するなら会った方がいいって思う!」
 叫びながらも脳裏をよぎるのは、失踪した父と残された母のこと。
 いつも明るく振る舞っていた母が一度だけ見せた涙が、慟哭が今も胸に痛い。
 失踪した父は世界を転移し、会いたくても会えない場所に行ってしまった。その時、葵桜はまだ猟兵じゃなくて、世界を渡ることはできなくて。
 何もできない無力な自分への苛立ちも、別れ際に立ち会えなかった悔しさも、昨日のことのように思い出すことができる。
 あんな想いを、玲子にさせたくない。二人はまだ生きて、同じ世界にいるのだから。
「葛明さんのためにじゃない。玲子さんのためにだよ」
『玲子さんの……』
「玲子さんは、絶対会いたいって思ってる。葛明さんが来るのを待ってる。何も言わなくても絶対そう」
『それは、光栄だね。僕のことなんて忘れて、幸せに……』
「なれるわけないでしょう! ……男は皆馬鹿だよ。守るために命をかけるのはいいけど、待ってる人に何もいわないで姿を消すとか、死ぬとかありえないんだから!」
『ああ……馬鹿なものだな』
「だから、絶対生きるんだよ。そして会いに行ってよ!」
『そう……そう、できたらどんなにいいだろう。玲子さんに会って、手紙じゃなく言葉で気落ちを伝えられたらどんなにか』
 絞り出すような葛明の声に、葵桜は顔を上げた。
「じゃあ……!」
『でも、会えない。玲子さんを、母のような目に遭わせる訳には……!』
「そりゃ、アンタのかーちゃんがくの一だったからだろ?」
 スパヰ甲冑と戦いながら割り込んだトーゴの明るい声が、なおも言い募る葛明の声を遮った。

● 忍の掟
 試作機に搭乗したトーゴは、スパヰ甲冑の攻撃をヒラリと避けると通信機に声を届けた。
 通信を傍受しながらも、スパヰ甲冑と油断なく相対する。姿を消したスパヰ甲冑を第六感とエンジン音で居場所を感知しては七葉隠を解き放つ。
 回避されても構わない。大きく振り回せば振り回すほど威力を増す【羅刹旋風】だ。むしろ半端に威力が解放されなくてありがたい。
 隙あらば最新鋭機を撃ち落とそうとするスパヰ甲冑のねちっこい攻撃を幾度目か受け止める。戦場全体に落雷のように放たれ続ける目からビームがうっとおしいが、こればかりは仕方がない。
 葵桜達の説得とそれに返される返答に心当たりを見つけたトーゴは、割り込んだ通信を保持しながら言葉を続けた。
「葛明さんよ。格納庫で言ってたよな。『米国人スパイの父と日本人の抜け忍の間に生まれた』って。あの時は流しちまったけどよ、くノ一が郷抜けなんて余程だよ?」
『そのようですね』
「こっから先は想像だけどな。ーー葛明のかーちゃん、抜けた郷の連中に捕まって『拷問まがいの取り調べ』って奴を受けたんじゃねえの?」
『……!』
 トーゴの声に、葛明は言葉を失う。落ちる沈黙。ため息と共に吐き出された息の先で、葛明は小さな笑い声を上げた。
『……あなた方は本当に、何でもご存知だ』
「そう……だったんだ……」
 葵桜が絞り出すような声を出す。言葉を失ってしばし。再び強い意志を帯びた声を上げた。
「葛明さんのお母さんは、気の毒だと思うよ。同じ目に遭わせたくないって気持ちも分かる。でも、玲子さんはそんな目に遭わせない! 絶対にだよ! 超弩級戦力の力、舐めないでね!」
「そうです! 桜學府には私からも働きかけます! お二人の罪が軽くなるように、優秀な弁護士だって付けられるんです! だから生きて情状酌量を勝ち取って、玲子さんに会って下さい、直ぐに!」
『……!』
 葵桜と桜花の力強い声に、葛明の声に生気が戻る。何も答えない葛明に、トーゴが声を連ねた。
「葛明さんよ。間者の一番の使命は死なねー事……だよな?」
『そうだな。君も同業者……忍者だったんだね』
「まあな。死なんでも捕まるだろうが……ならいっそ会えば? 本名で文を出す程思い入れある恋文の橘の君にさ。そんで……出所してから二人で生きるとかさ」
『あぁ……。鹿村君がくれた、小瓶みたいに、小さな家で二人で暮らして……それが、できれば、どん、な、……』
「葛明さん!?」
『……』
 途切れる通信に、トーゴは焦りの声を上げた。ドラゴン達も手伝い飛空船を支えてはいるが、常人である葛明にかかる負担は想像を絶する。
 通信が切れた葛明に、スパヰ甲冑からあざ笑う声が響いた。
『はーっはっはっは! そいつ死にやがった! お涙頂戴も無駄だったなぁ! このまま機体ごとバラバラにして……』
「おめーは黙ってろ!」
 心底から湧き上がる怒気を孕んだ七葉隠が、一斉にスパヰ甲冑に突き刺さる。撃墜させる勢いで放たれた7連撃に、スパヰ甲冑はたまらずその場を離脱する。
 怒りのままに追いすがったトーゴは、スパヰ甲冑に向けて七葉隠を再び放った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
この人は…
葛明さんを助けたい。
葛明さんはスパイだけど、悪い人じゃない。

風の精霊様に頼んで空を飛んで[空中戦]をしたい。

葛明さんの機体に[オーラ防御]を展開したい。

[野生の勘、第六感]を駆使して幻桜の攻撃や挙動に注意を払いたい。
見えないなら、こちらから行くぞ。
雷の精霊様の[範囲攻撃]で敵を炙りだしたい。
見つけたら[属性攻撃]で倒したい。

葛明さんに、話しかけたい。
じいさんと俺みたいになって欲しくない。

葛明さん、玲子さんに会うんだ。
生きてるんだ。
玲子さんは、今、生きてるんだ。
死んだら、会えなくなる。
頼むから。

UC【妖狐の通し道】で葛明さんの命を助けたい。
妖気は全乗せ。
結果的に乗客も助かればいいな。



※ ご連絡
 リプレイの最後に葛明と玲子の結末が挿入されますので、よろしければご確認ください。

● 妖狐の奇跡
 乗客の避難を手伝っていた木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、交わされる通信に手すりから身を乗り出した。
 抜け忍だった母を「拷問まがいの尋問」で亡くした葛明は、玲子が同じ目に遭うのではないかと思ってどうしても会うことはできなかった。
 そして今、玲子を救うために命を賭けている。玲子の命を救ったと、彼女が知るとも思っていないはずなのに。
「この人は……。風の精霊様、お願い。俺を空へと連れて行って。葛明さんを助けたい。葛明さんはスパイだけど、悪い人じゃない。だから」
 都月の呼びかけに、風の精霊がふわりと舞う。都月の周囲をくるりと回った風の精霊は、都月の身体を包み込むとふわりと浮かせた。
「ありがとう」
 都月が伝える感謝の気持ちに、風の精霊が優しい波動で応えてくれる。気を失ってもなお飛行船を支え続ける葛明にオーラ防御を展開した都月は、背筋を走る悪寒に身を翻した。
 直後に放たれた影朧機関砲が都月がいた空間を引き裂き、湖に鋭い波を立てる。両腕の機関砲で砲撃を仕掛けてくるスパヰ甲冑が、回避した都月には構わず葛明の機体へと照準を合わせる。
 その姿に、都月は叫んだ。
「させない。雷の精霊様!」
 都月の呼びかけに応えた雷の精霊が放つ雷が、スパヰ甲冑の動きを一瞬止める。その隙を突き介入した猟兵が、スパヰ甲冑に猛攻撃を仕掛ける。視界から消えたスパヰ甲冑の姿に、都月は安堵の息を吐いた。
 改めて葛明の機体へと寄り添う。市街地を辛うじて抜けた飛行船の高度はかなり下がり、湖面がもう目の前だ。ここで葛明を退避させなければ、湖面と船体に押し潰されてしまう。
「葛明さん、しっかりして」
 都月の呼びかけに、葛明は答えない。機体を船体から離そうとするが、まるで接着してしまったかのように離れない。迫る湖面の水しぶきに、都月は続けた。
「葛明さん、玲子さんに会うんだ。生きてるんだ。玲子さんは、今、生きてるんだ」
 必死に声を届けながら、脳裏に浮かぶのは都月と暮らしたじいさんの笑顔。
 妖狐だという自覚が無かった都月に、色々なことを教えてくれた。都月という名をくれて、人間社会で生きるのに必要なことを教えてくれて。
 猟兵になるといいとアドバイスをくれたのもじいさんだった。でも猟兵になって家に帰ったら、老衰で冷たくなっていて。
 さよならもありがとうも言えずに別れるだなんて、そんなの悲しすぎる。
「じいさんと俺みたいになって欲しくない。死んだら、会えなくなる。頼むから」
 切なる願いを乗せた都月は、今持てる妖力の全てを解放した。莫大なオーラを全身に湛えた都月は、葛明の機体に抱きつくと機体と船体を引き剥がしにかかった。
「この妖力を代償に……俺の意志を通させてもらう」
 強い意志と共に現れた【妖狐の通し道(ヨウコノトオシミチ)】が、葛明の機体をゆっくり引き剥がす。都月が纏ったオーラが触れる湖水をえぐり、半円柱型の軌跡を描く。
 葛明の機体を抱いた都月が飛行船の下から抜けた直後、飛空船が湖面に大きな波を作る。背中を押すような湖水を浴びながらも湖畔に辿り着いた都月は、失った妖力に飛びそうになる意識を何とか保たせると強引にハッチをこじ開ける。ぐったりとした葛明を何とか引き出して、頬を叩いて呼びかけた。
「葛明さん。今、玲子さんの病院に連れて行くから。だから頑張って」
 うっすら目を開けた気がする葛明に安堵の息を吐いた都月は、駆けつける救急隊員に玲子がいる病院の名を告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

北条・優希斗
連携・アドリブ可
久しぶりにこの世界に来てみれば
幻桜戦線の活躍か
先制攻撃+早業+UC使用
飛翔して飛行船を狙う敵の攻撃を雲の隙間を地形の利用+見切り+残像+第六感で利用して躱し蒼月、月下美人を抜刀肉薄
避けらなければオーラ防御
情報収集で弱点を見つけ二回攻撃+早業+鎧無視攻撃+薙ぎ払いで攻撃しながら幻桜戦線の奴等と話す
「世界が人の闘争によって進化してきた一面は否定しない」
「だが停滞と安寧がなければ人の滅亡は加速する。故にお前達の存在は否定される。そしてその否定をこの世界の人々は望む。これについてお前達はどう思う?」
更生する余地無しと判断したら乗り手の首を刎ねるよ
命を捨てる覚悟ならば自殺するだろうしね


森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

わりぃ、遅くなっちまった
…って落ちかけてるじゃねえか!?
飛んでるものは落ちるのがお約束とはいえ
ここまできっちり再現すんじゃねえよ!!
さっさと幻桜戦線とやらの甲冑を落とすぞ!

試作機借りて外へ出たら「高速詠唱、魔力溜め」から【悪魔召喚「スパーダ」】
スパーダは雲に隠れつつ大きく迂回させ、見つからぬ様スパヰ甲冑に近づかせる
スパヰ迷彩で隠れられると厄介なんだが
雲があれば移動の痕跡は残るはずだから、観察して追跡
必要あらば俺自身が二槍を手に「ランスチャージ」して囮に

スパーダが背後に回ったら「属性攻撃(雷)、制圧射撃」
雷を帯びた短剣を全部、雨あられと降らせてやるぜ!
落とさせるかよ!



● 悪魔が来たりて
 時は少し遡る。
 格納庫に駆け込んだ森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)は、慌てた様子でコンテナへと駆け寄った。
「わりぃ、遅くなっちまった。……って落ちかけてるじゃねえか!?」
「そのようだな」
 柱にもたれて戦いの様子を見ていた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)の姿に、陽太は訝しげな声を掛けた。
「黒髪のにーちゃんじゃねえか。何してるんだ?」
「俺もさっき来たところでね。介入するタイミングを見計らっているんだが……幻桜戦線がご活躍か」
「みてえだな。もっとも、黒い首輪の幻朧戦線から切り離されたパチもんの組織って話だけどよ……っとと!」
 試作機を身に着けながら肩を竦めた時、船体が大きく揺れた。
 バランスを崩しかけるが、何とか堪える。不気味に軋む船体に、陽太は一つ舌打ちを打つと悪態をついた。
「飛んでるものは落ちるのがお約束とはいえ、ここまできっちり再現すんじゃねえよ!!」
「先に行く。ーー其は、空を舞う、蒼き月の舞」
「って、おい!」
 陽太が止める間もなく身を躍らせた優希斗の姿が視界から消える。慌てて駆け寄った陽太は、生身で飛翔しながらスパヰ甲冑に攻撃を仕掛ける優希斗に口笛を吹いた。
「やるじゃねえか! さあて、さっさと幻桜戦線とやらの甲冑を落とすぞ!」
 試作機を起動させた陽太は、床を蹴ると身を躍らせる。接近するまでのわずかな時間に練り上げた魔力を高速で詠唱した陽太は、優希斗の猛攻に防戦一方になるスパヰ甲冑の背中に向けてランスチャージを繰り出した。

 戦いは長く続いた。乗客の避難や葛明の説得に当たる猟兵達の邪魔はさせないと、優希斗と連携して戦った陽太は、幾度目かの連携攻撃をスパヰ甲冑に叩き込んだ。
 二方向からの攻撃にたまらず透明になった機体が、その場を離脱する。姿が見えなくなったスパヰ甲冑だが、エンジン音や飛翔音を消すことはできない。耳を澄ませ追いすがり、鋭敏な感覚で居場所を知覚すると槍を繰り出した。
「そこだ!」
 鬼神の如き勢いで放たれる一撃がスパヰ甲冑をかすり、湖面に波を立てさせる。存在を捉えた陽太は、高速詠唱を開始した。
 攻撃を仕掛けながらも練り上げ続けた魔力が顕現し、全身を駆け巡ると宙に複雑な文様を描き出す。魔法陣を完成させるべく、陽太は詠唱を完成させた。
「紅き剣を司りし悪魔の剣士よ、我が声に応え顕現せよ。そして己が紅き剣を無数の雨として解き放て!」
 陽太の背後に現れた魔法陣が、捻じれたふたつの角を持つ漆黒と紅の悪魔を現世へと召喚する。現れた悪魔「スパーダ」は、手にした二振りの短剣を空中へと解き放った。
 その直後。760本に別れた短剣は空中を幾何学模様を描きながらスパヰ甲冑を包囲する。雷を帯びた紅い短剣はスパヰ甲冑を包囲し、一斉に解き放った。
「一度視認しちまえば、透明でも関係ねえよな!」
 陽太の声が真実であるかのように、姿を現したスパヰ甲冑は全力でスパーダの包囲網から抜け出した。

● 何のための正義
 全身に傷を負い、関節部分から火花を飛ばしながらも辛うじて飛翔するスパヰ甲冑は、形勢不利と見るとその場から逃走を図った。
「畜生! 超弩級戦力が邪魔をしてくれる! ここは一度撤退……」
「させないよ」
 冷静な声を浴びせた優希斗は、逃げようとするスパヰ甲冑の前に回り込むと蒼月と月下美人を構えた。
「俺達の崇高なる目的を邪魔するな平和の狗が!」
「自分で自分を崇高だなんて言う輩には、碌なのがいないと相場が決まってるんだ」
「抜かせ!」
 冷徹な目で睨む優希斗の殺気に気圧されたように動きを止めたスパヰ甲冑に、優希斗は静かに語りかけた。
 この世界にも久しぶりに来たが、相変わらず幻朧戦線が幅を効かせているようだ。目の前にいるスパヰ甲冑の操縦士は幻桜戦線というまた別組織らしいが、少々武闘派なだけでその根幹は変わらない。
 優希斗は予てより聞いてみたかったことを言葉に乗せた。
「世界が人の闘争によって進化してきた一面は否定しない」
 静かな圧を持って語りかけられる優希斗の声に、スパヰ甲冑に乗り込んだ男は意外そうな声を上げた。
「そ、そうかよ! 俺達の志を理解する超弩級戦力もいるんだな! どうだ? 俺達と来ねえか? お前ならすぐ幹部に……」
「だが停滞と安寧がなければ人の滅亡は加速する。故にお前達の存在は否定される。そしてその否定をこの世界の人々は望む。これについてお前達はどう思う?」
「はっ! 連中が俺達を否定するなら、俺達も連中を否定するまでよ! そうやって結束を固めてきたんだからな!」
 吐き捨てるように言った操縦士に、優希斗は眉を一つ跳ね上げる。黙って先を促す優希斗に、操縦士は狂ったように叫んだ。
「いいか、よく聞け! 世界は闘争によって進化してきた! 闘争が無ければ、人類はここまで文明を発展させることなどできなかっただろう! この700年、文明はほとんど進化してねえんだよ! 俺達は崇高な……」
「分かったよ」
「そうか! 分かってくれた……」
「お前と話をしても時間の無駄なことはよく分かったよ。お題目を復唱しかできない脳筋に聞いた俺が馬鹿だった」
「なんだと!?」
 叫んだスパヰ甲冑は、両腕に装着された機関砲を優希斗へと向け猛然と撃ち放った。迫る無数の弾丸が優希斗の残像を捉え、湖面を激しく打付ける。
 先程から長く続く戦いの最中に、情報収集はしてきた。単調な攻撃を見切り攻撃を回避した優希斗は、双刀を抜き放つと宙を蹴った。敵の生命を断つまで止まることの無い刀舞は、撃ち出される銃弾の尽くを回避しながらスパヰ甲冑へと肉薄した。
「闘争こそが進化の礎というのならば。双刀の露と消え自らが礎となるがいい!」
 薙ぎ払われた月下美人の初撃が、火花を散らすスパヰ甲冑の装甲を切り裂く。顕になった操縦席に蒼月を構えた優希斗は、容赦のない攻撃を繰り出した。
 爆発するスパヰ甲冑が、湖へと落下する。破壊された甲冑を追いかけるように、大きな水飛沫を上げながら飛行船が着水した。

● 想いは言葉に乗せて
 意識を取り戻した葛明は、見知らぬ天井をじっと見つめた。
 影朧甲冑の影響か、どこかはっきりしない意識の中でただ天井をぼんやりと睨む。
 やがてノックされるドアに首を巡らせた葛明は、そこに現れた女性の姿に目を見開いた。
 整った目鼻立ち。美しく流れる髪。病にやつれ顔色が悪くても、かつて銀幕の大スタアだった頃の面影を色濃く残した姿に、葛明は思わず口を開いた。
「橘……玲子さん、ですか?」
 車椅子の上で小さく頷く姿に、心臓が脈を打つ。本当に玲子なのか。あれだけ会いたくて焦がれた女性なのに、いざ目の前にすると混乱してしまって思考がただうわ滑りして。
「はは、ひょっとして僕は死んだのかな? あなたに会えるなんて、そんな……」
「……死んでなど。私も、貴方も。確かに生きてらっしゃいます」
 ふるふると首を振る姿に目を見開く。記事の切り抜きでも、活動写真でもない。葛明の声に言葉を返してくれる。そう。
 目の前にいるのだ。そのことを確かめたくて手を伸ばす。だが震える手はうまく動いてくれなくて、まるで自分の手ではないようで。
 震える手を、玲子の細い手が取る。伸ばした手が導かれて彼女の頬に触れる。玲子の手が葛明の手を包み込み、確かにそこにいるのだと伝えてくれる。
 手の平に、手の甲に感じる玲子の肌は温かくて、知らず涙で視界が歪んだ。
 もしも会えたら、伝えたいことがあった。言いたいこともたくさんあった。だがいざ目の前にすると胸がいっぱいになって、ただ一言だけが精一杯だった。
「……九重・葛明です」
「橘・玲子です。葛明さん。ずっとずっと、貴方にお会いしたかった」
「僕もです。あなたにどれだけ、お会いしたかったことか……!」
 玲子の姿を涙で歪めたくなくて、反対の手で涙を拭えば見える姿はとても綺麗で。
「美しい。あなたはとても、美しい」
 橘の花がほころび玲とした花を咲かせる美しい姿。この花を枯らすようなことは、してはいけない。自分とのやりとりで玲子が罪に問われるのかは分からないが、責は全て自分にある。
「玲子さん。僕は米国のスパイです。あなたとのやりとりも、仕事に利用しました。申し訳、ありません」
 葛明の告白に、ただ無言で首を横に振る。その姿に決意が固まった。
「僕は罪を償います。罪を償って、必ず戻ってきます」
 今まで犯した罪は消えない。罪に罰が下されるのならば、甘んじて受けよう。玲子の隣に胸を張って立てるのならば、どんな罰も恐ろしくはない。
「でもどこにいたって、手紙を書きます。必ず。だから。帰ってこれたら、また、会ってくださいますか……?」
「……はい。いつまでも。お手紙も、貴方と再びお会いできることも。いつまでも、お待ちしております」
「ありがとう。ありがとう玲子さん」
 微笑む玲子の顔が涙で滲む。
 再会を誓う二人の姿を、橘と葛の小瓶が静かに見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月28日


挿絵イラスト