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花咲く柩にあなたよ睡れ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 犬に喰い殺されたのだとおとなは言った。
「嘘よ」
 髪を振り乱して地団駄を踏む。癖のあるブルネットのショートヘアが揺れるのを、困ったように顔を顰めたおとなが眺める。
「絶対に嘘だわ。あの子に噛み跡なんか無かったじゃない!」
「あったんだ。あったんだよ、エルザ」
 言い聞かせるようなその声が嘘を孕んでいる事など、エルザにはお見通しだった。
 知っているのだ。だって斃れていたあの子を最初に見つけたのはエルザだった。

 星の綺麗にみえる夜だった――だからふたりでこっそりデートをしましょうって、小指と小指でゆびきりをした。ゆびきりと重ねたやくそくの徴に、触れ合うくらいに近くにあるあの子のきんいろの睫毛が擽ったかった。
 待ち合わせは東の花畑。あの子が暖かなココアの係で、私がサンドイッチの係。
 でも少しだけ運が悪かった。こんな夜中に何処へ行くのって、心配性のお母さんに見つかった。
 結局お母さんが眠るまで家を出る事が出来なくて、漸く準備を終えて出掛ける頃には、約束の時間をたっぷり過ぎていて。
 ココアが冷めちゃったって怒られるんだろうなあって、息を切らしていったら、そしたら、そしたら――。

「違うわ、嘘よ、絶対に!」
 村を束ねる立場のそのおとなに掴み掛かる勢いで、エルザが眦を吊り上げる。
「だって犬は――あの子のお洋服だけをびりびりに裂いたりしないもの!」
 室内の空気が冷ややかに重みを増す。
 それは誰もがそうと知りながら、見て見ぬふりをすると決めた事だ――このブルネットの少女以外は。
「犬はあの子の首を絞めたりなんか出来ない筈だわ!」
 喉よ裂けよとばかりに声を張り上げる。
 エルザは見たのだ。彼女の細い頸に赤黒く残った誰かの指の痕を。乾いた涙の跡を。虚ろに空を向いた硝子球の様な眸を。蹂躙された花畑に広がるきんいろの髪を。
 尚も言い募ろうとする彼女の身体に、取り縋る様に抱き着く女が在る。母親だった。
「エルザ!」
 娘の身体を必死に押し留める女の身体もまた、細く震えていた。
 罪だと知っている。罰せられるべきと理解している。けれどそうする訳には、どうしてもいかない。
「罰せられないの――この村はいま、働き手を喪う訳にはいかないの……!」
 貧しい村だった。
 若い男など数えるほどしか居ないのだ。麗しの花を蹂躙せしめて手折った男たちは、今でものうのうと罪を見逃されのさばっている――村が明日を生きていく為に。

 その夜だった。
 いびつな人型に潰れた花畑の一角を茫洋と眺めていたエルザの耳に、甘く囁く声の在る。
『ころしたい?』
 胡乱げにそちらを向く。黒い布を羽織った見たことのない女が、うっそりと笑んで佇んでいた。
 唆される様に尋ねられれば、心の裡に軋むが如く渇望が沸き起こる。エルザは迷う事なく声にした。
「ころしたい」
 ころしたい――殺したい。愛しいあの子を虐げた男たちを。
 あの子の死を黙殺したこの村など知るものか。
 嗚呼――お母さんは、あの子との事を反対していた。逢うのをお止めと事あるごとに嗜めてきた。あの時お母さんが邪魔しなければ。
 嗚呼、嗚呼、すべてが憎くてきらいで堪らなくて――。
『なら、私をお使いなさいな』
 女の手がするりと黒衣を外し、そっとエルザに羽織らせる。
 それを切欠の様にして、女の躰はゆっくりと崩れ落ちてゆく――冴え冴えと照る月を浴びて、変容に至る黒衣のエルザは微かにわらった。

●花の咲く
「貧しい村だ」
 居並ぶ猟兵たちを見遣って、斎部・花虎はそう告げた。
「薬の原料になる花を育てて摘み取り売り捌く、そんな生活を慎ましく続けていた様だ。土壌が特殊で、作物が殆ど根付かなかったらしい」
 彼女の掲げる掌の上で、淡く翡翠の色を得てグリモアが輝いている。
「薬は転じて毒となる――ひとに対して有害な神経性の毒を持つ、そんな物騒な花も群生している場所が在るのも視えた。……が、ここ数日、この花を摘みに作業をしに行った男たちが、誰ひとりとして戻ってこない様でね。そう、オブリビオンが関わっている」
 背後にふわりと村の光景が浮かび上がる。
 暫しそれをじっと見つめてから、花虎は猟兵たちに向き直った。
「――数日前に、この村で事件が起こった。少女がひとり、死んでいる。その死に関して、村人たちには後ろめたい事がある――故に、おまえたち猟兵が出向いても、素直に助けは求めないだろう」
 その顔色は僅かに仄白い。視たものを全て語るのに抵抗があるのは、この案内役の悪い箇所だった。
 それでも伝えるべき事はきちんと伝えるのだ――少しだけ背を伸ばし、親しくおまえたちと呼ばう猟兵の顔を順繰りに見つめる。
「この村が秘めたそれを、まずは暴いてくれ。暴いてその上で救うと請け負ってやってくれ。余所者に恥は曝せぬと、ひた隠しにするそれを掘り起こして横っ面をはたいてやってくれないか」
 囁いて、あえかに笑む。
 揺るがぬ信頼を滲ませて、花虎は相好を崩した。
「――殺されたのは少女がひとり。消えてゆくのは若い男たち。関わっているオブリビオンは、これも少女がひとり。……悪い想像をしたか。そうだ。概ね、間違いはないよ」
 グリモアの光が揺らぐ。間もなく道は啓かれるだろう。
 到着したら、村から東の花畑を探すべきだと彼女は云う。神経性の毒を持つ花が群生している箇所はまた別なので、この東の花畑については特に身構えず探索する事が容易に叶う。
 大事なことをもうひとつ、と花虎が言い添える。
「このオブリビオン――ゼラの死髪黒衣、と呼ばれるものに操られている状態だ。女の躰を取っ替え引っ替え渡り歩くもので、厄介ではある。あるが、これを滅すれば宿主は助けられる」
 そうしてちいさく息をする。
「彼女がそれを望まねど」
 さあ送ろう。花虎はそう囁いた。


硝子屋
 お世話になっております、硝子屋(がらすや)で御座います。
 ダークセイヴァーでのお仕事です。

 開始時点で猟兵の皆さんに預けられている情報は、花虎がOPで語った事のみです。

 ・第一章:村で起きた事件の真相を探って下さい。この時点では毒の花の群生地には立ち入れません。
 ・第二章:OP公開時点で不明です。探索パートとなります。
 ・第三章:ボス戦『ゼラの死髪黒衣』。

 明るい雰囲気には恐らくなりません。
 プレイングには心情を遠慮なくお詰め下さい。

 ご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『その花を手折るもの』

POW   :    地を掘り返し、埋まった何かを探し出す

SPD   :    あたりに散らばった足跡や血痕を辿る

WIZ   :    誰かが遺した痕跡を読み解く

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

イア・エエングラ
誰がその子の、死ぬのを見たの
それは私と、蠅が言う
止めず泣かずその声を、聴いていたとでも、いうのかな
知らぬ顔で棺を担いで土を掘って
そんな世界をどうしたら、好きでいられるだろうね

約束をした花畑の、咲いてるお花は僕にも分かるかな
一輪手折りに膝ついて、折れた子らでも探してようか
忘れ物があるかなあ、なければ一輪いただくよう

さて番近いおうちにお伺いしよ
きっと静かな夜だったもの、聴こえないこともないでしょう
ひとつの嘘でみな刈られるの
僕はそれも因果かしらと思うけれど
――それでは困って、しまうでしょう
綺麗な願い一つのために全て奪って良いわけではないと
……思えるようになってしまったのは、かなしいかしら



●無辜
 空は晴れ切らない、ぐずつく様な曇天だった。
 年若い娘が『不慮の事故』で死に、続くように男たちもが消えていく、そんな村はその全てが棺桶の底にでも在るかの如くしんと沈んで静かだった。
 猟兵たちが来るという一報が入っていたのか、それともこれ以上の被害を恐れて皆戸内へ閉じ籠もっているのか、出歩いている村人の姿はない。
 しめやかに這う葬送の気配だけが、そこに在る。

「――そんな世界をどうしたら、好きでいられるだろうね」
 イア・エエングラは密やかな声を虚に散らした。
 そうしてその硝子めく眸を花畑へと向ける。村の東側に横たわるそれは、この季節であっても村民の無聊を慰めるだろう程度には花開いていた。
 名前のわからないものも幾つか在って、大概それらは柵に囲われ隅の方に纏められている。件の、薬の原料になるものだろう。
 柵に囲われていないものは、イアでも名の解る一般的な種類だ――パンジー、ノースポール、エリカ。種を取り混ぜて撒いたのか、それとも風に乗って飛んできた種が根付いたのかまでは解らねど、そういったものが入り乱れて咲き誇る。
「かわいそに、ねえ」
 囁くイアの声は拉げた花に向けられたか、それともそこで命の途絶えた娘へ向けられたか――それもまた、彼ひとりの胸に秘する事だ。
 茎が折れ、花弁が幾枚か剥がれたノースポールを一輪摘み取る。
 狭く苦しいちいさな村だ。視線を巡らせれば、村の東端の民家が少し先に在る。イアは迷わずそちらへ爪先を向け、堅く閉じられた扉をほとほと叩いた。
「……どなたですか。外様の方に、お話すべき事など御座いません」
 扉は開かれない。綻んだその蝶番の隙間から、か細い風の様に住人と思しき老爺の声がする。
 イアはちいさく息を吐いた。声は縷々と紡がれる。
「件の夜に、何ぞお聞きにはならなかったかしら」
「いいえ、――いいえ、何も」
 老爺は嗄れた声で否定する。
 イアは折れた花を唇に寄せた。
「……それが何を指すのか、お解りなのかな」
 件の夜――それが何を示すのか、それを問われる事が何なのか、村に暮らす人々は重々承知しているのだ。
 老爺はもう応えなかった。
 つよい風が轟と吹く。花を摘む指先をひらけば呆気なく、折れたそれは空を高く飛んでゆく。
 曇天の彼方に消えたノースポールを見送って、イアは少しだけ瞑目した。
 そうして囁く。
「――、かなしいかしら」
 少女を想った誰かの願いを、明日を求めた彼らの願いを、少しだけ悼んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィオリーナ・フォルトナータ
…何とも痛ましい、ことです
如何なることがあろうと、罪なき少女達の運命が蹂躙されて良いはずなどなく
…秘されているものを暴いたとして、わたくしはかの村のためにこの剣を振るうことが出来るでしょうか
…いいえ、今はまだ、迷う時ではありません
それに、オブリビオンが関わっているのであれば、為さねばならぬことに変わりはない、はず
今はただ、わたくし達に出来ることを

【POW】
共に出向かれた猟兵の方達と力を合わせて
こう見えて力はありますので、今はこの剣をスコップに持ち替えて
土を掘り返す役目を担いましょう
わたくし自身も、妙な臭いや痕跡に注意を払いつつ
花達にはごめんなさいと声を掛けてから、隠されているものを探し当てます


ルフトゥ・カメリア
別に、クソ共が死のうがどうでも良いんだけどよ。
【第六感】で気になる場所を掘り返してその「何か」とやらを探してみるとするか。【怪力、盗み】

……悪ぃな。
腐りも穢れも見慣れてんだよ、テメェは見られたかねぇだろうけどなぁ。非常事態だ、許せ。
あとでこの天使サマが綺麗にあの世に葬送してやるよ。【祈り、破魔】

村人に見つかれば、【言いくるめ】て協力させる。
なぁ、テメェらは本当に何の関係もねぇと思ってんのか?
娘がひとり死んだよなぁ。
そのあと、若い男共が消え始めた。
何処に、原因があると?
このままじゃ、まだまだ消えるぞ。テメェらの息子も孫も兄も弟も。居なくなる。
……今なら、この天使サマが全て救ってやるぜ?話せよ。



●遺片
 冷えたスコップが、ざくりと音を立てて土を食む。
 そうやって少女の死の真相を掘り返しながらも、フィオリーナ・フォルトナータのかんばせの色は優れない。
 痛ましい事だ。罪なき少女達の運命が蹂躙されて良い筈など無い。
 スコップは土を掘り進む。ざくりと大口を開けて銀色が土を掻き出す度、フィオリーナの胸の底から冷たいものが滲み出る。
 ――秘されているものを暴いたところで、自分はこの剣を村の為に振るう事は叶うだろうか。
「……いいえ、今はまだ、迷う時ではありません」
 緩くかぶりを振れば、オールドローズの髪糸がそれこそ花の如く冷気を孕んで膨らみ散った。
 その傍らに、薄藤色が軽やかにしゃがみ込む。
「手伝う」
 赤い眸に俯くような翳を落としたルフトゥ・カメリアが訥と声を添え、柔らかくとも冷たい土にその指先を沈めた。
「有難う御座います、……あの、お貸ししましょうか」
 凍えるのではと眉尻を下げたフィオリーナが、自身の持つスコップを示す――が、ルフトゥはちいさく構わないといらえて首を振った。
 ネモフィラの花が眦に陰影を落とす。
「指の方が良い。『ちいさいから見落とす』、そう云われてんだ」
 ルフトゥの言葉に、フィオリーナは口を噤んでそっと掘り起こされる地面を見た。
 不要な言葉は猟兵たちには必要ない。彼の裡にある何らかがそう告げたのだろうと、理解は容易い。
「悪ぃな」
 椿の如く赤い眸を眇めてルフトゥは囁く。
 慰撫する様な、それだった。
「腐りも穢れも見慣れてんだよ、テメェは見られたかねぇだろうけどなぁ」
 ――あとでこの天使サマが綺麗にあの世に葬送してやるよ。
 意志に、言葉に籠められた祈りは魔を撃ち祓う清浄ささえ備えている。あやす様な声と共にルフトゥの指先が摘み出すそれを見て、嗚呼、とフィオリーナの吐息が漏れる。
 ちいさなちいさな爪だった。
「抵抗を、……なさった、のでしょうか……」
 そっと受け取る様に出されたフィオリーナの掌の上に、ルフトゥがそれを置く。
 ちいさな爪だ。肉体から剥がれ落ちたそれは、決して直視に耐えうるものではなかったかもしれない。それでも良く良く観察すれば、その先端に何か細いものが引っ掛かっているのが知れた。
 獣が爪を剥ぎはしないだろう。剥がれ落ちてしまうほど『抵抗』をしたのだ。
 誰かに。何かに。悍ましい行為から逃れる為に。
「赤茶の短い髪だな。――クソみてぇな過去が見えるぜ、」
 吐息と共に吐き捨てたルフトゥが、ぱんと音を立てて手の土を払う。そうしてじろりと鮮やかな赤が視界の端を睨め付けた。
 遠くの方で、民家の扉の閉まる音がひとつ響く――村の誰かがこわごわ覗いていたのだろう。
「――なぁ、テメェらは本当に何の関係もねぇと思ってんのか?」
 此方と接触しようともしないその様子に、奥歯を喰いしめてルフトゥは囁く。
 腹の底が煮えている。ネモフィラの炎が凛と燃える。
「それでもわたくし達は、救わねばなりません。――それが、わたくし達に出来る事であるのなら」
 花畑に膝をついた儘のフィオリーナの声が、細く棚引いてははざまに消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

境・花世
失せもの探しは得意なんだ
それから多分――
嫌な予感とかも、良く当たる方

“再葬”

もう一人のわたしを連れて
花を掻き分け、痕を探す

やがて見つけたのはどちらだったか
ああ、ほら、やっぱり
乾いた泥にくっきり大きな靴跡
踏み籠められた金の髪が
光っているのが、酷くきれいで

失くさぬよう写真に収めて
村へ行く誰かへ託して、と
もうひとりに行かせたら
その場に立ち尽くして待っている

いつか誰もかれも終わるのだとして
けれど身勝手に千切る黒い指先は、
報いを受けてもしかたがないね?

あは、でもちゃんと助けるよ
守るべきは失われた過去じゃない
今を生きているひと――そう、あるべきだから

呟けば右目の花がしゃらりと笑うように
風もないのに、揺れる


都槻・綾
※絡みアドリブ歓迎

痛ましい予知ですね
もう取り戻せぬ過去だと
骸海に放るには生々しく
誰の心にも
癒えない罅と
昏く沁み込む罪悪が残り続けるに違いない

屠られた娘の家族もきっと
嘆き叫ぶことが叶わなかったでしょう
代弁者である少女――今、闇雲に数多の復讐を為している彼女

其れは
奥底に眠る
魔が差すという
軛に繋がれた村人達の胸の虚が
形を持ったものではないでしょうか

村を救うことが出来るのは
彼女がまた、人を信じ愛することが出来るようになる為には
真実を露わにする皆の勇気が必要です


花への荷重の掛かり方、倒れた方向などをよく観察
夜目利く生物が目撃していなかったかを辺りの動物に尋ね
痕跡の些細なものでも逃さず
第六感を研ぎ澄ませる



●花鳥
 境・花世の右目には、艶やかに百花の王が咲き誇る。
 けれど彼女の傍らにいるもうひとりの彼女は、確かに境・花世であるのにそうではない――彼女の右目は健在で、薄紅の両の眸はひたと花世を見据えている。
「綺麗ですね」
 掛けられた声に、みっつの薄紅が都槻・綾の方を向く。
「折角の花畑だもの」
 なんてね、と花世は浅く笑った。さあ、ともうひとりの彼女に声を掛け、件の荒れている箇所を検分する様に膝を折る。
 その傍に自らもしゃがんで折れた花を見遣りつつ、綾は独りごちる様に声を織る。
「痛ましい話です。誰の心にも、癒えない罅の在る様な」
「けれど誰も見てみぬ振りをしている。罅から水が漏れ出ているのを」
 謳うように花世が返した。
 嫌な予感は良く当たる方なんだ、内緒話の様に小声でそんな風に添えられる。
 やがてその衣服の裾がくんと引かれる――薄紅をふたつ持つ方の花世が、控えめな仕草でその手許を指し示していた。
 覗き込んだ花世の唇から、散り落ちる如くに吐息が漏れた。
「――ああ、ほら、やっぱり」
 折れた花々に秘め隠される様にして、すっかり乾いた泥に大きく靴跡が残っている。
 その跡に織り込まれる様にして、長い金色の髪糸が見て取れた――花世の手が、それを一葉の写真に収める。大事なものだ。
「男性、……でしょうね」
 検分した綾が呟く。ええ、と花世も顎を引いた。
「随分な位置にある足跡だ事。――御覧、」
 指し示す。観察すれば、足跡はひとつでは無かった。
 男性のものだろう大きなそれは、入り乱れる様にして在る――が、どうしてか一定の範囲はちっとも踏まれていない様だった。花はどちらも等しく倒れているのに。
 少女ひとりぶんの躰の周囲に、その足跡は鏤められている。
 そこに横たわるものを、容赦なく取り囲むが如くに。
「ひた隠しにする理由、それを顕すと働き手を喪う理由……」
 綾の啓かれた見えざる感覚は、それを痛切に訴えてくる。倒れた花の方向、その荒れ様、些細な痕跡に至るまでが何もかも。
 救いは何処に在るのかと、嘆く様に訴えている。
 魔が差したが故に悲劇は起きた――それがこの世界の常と言えど。
「ね、当たったでしょう?」
 呻くように綾が零すのを、捉えた花世がほんの僅かに眉尻を下げる。
 ええ、と綾が己の眉間に指背を寄せる。瞑目の間は僅かだった。
「彼女がまた、人を信じ愛することが出来るようになる為には――真実を露わにする、皆の勇気が必要です」
 耳朶に甘い綾の声に、花世はふと視線を伏せる。
 そうしてしゃらりと右目の花が揺れた。風もない。けれど、意志がそこに咲いている。
 守るべきは失われてしまった過去ではないのだ。
「今を生きているひと――そう、あるべきだから」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

松本・るり遥
すっげー嫌な予感すんのに
なんで来ちまったかなあ

……大人がクソ野郎だからだよ
ああどうせお前らのせいだ
のうのうと平和な現代を生きてる俺に。掴みかかって非難する勇気なんざどうせ無いけど。
胸に生じた悔しさに、目をつむれる程いい子じゃねえし。

【SPD】
後ろめたいなら、他殺か、あるいは追い込まれた自殺、とか。
花畑なら踏み入った跡とかあったら派手に残るだろうし、そこから何か辿れねえかな。ちょっとお邪魔します。
もし不自然に荒れてるエリアがあるなら、そこ周辺を携帯端末のライト機能で照らして血痕とか無いか探ってみる

これを?村の男が後ろめたい?
嫌な予感しかしねーよクソ
絶対吐かせてやる
隠しようがないって叩きつけてやる


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
追い詰められれば何をするか分からないのも、人の業か。
我々の目的は、あくまでオブリビオンの打倒と、二人目の犠牲者を救うことである。
……たとえそれが、誰に望まれたことでなかろうとも、私の矜持はより多くの一つを救うことにあるのだよ。

さて、では花畑の探索といこう。
事件が起きたのであれば、周到な犯人でない限りは痕跡があるはずだ。まずはそいつを探る。
誰でもいい、この地に眠る死者に協力を乞おう。
……深い傷を負ったはずだ。被害者のお嬢さんが来てくれるとは思っていないがな。
何かしらの痕跡を見つけたのなら、報告を頼む。
その間、私は周囲の足跡やら、抵抗の痕跡やらを調べることとしよう。


セラ・ネヴィーリオ
貧しい村から貴重な働き手を奪うだなんて!
ひもじい思いをするのは辛い……辛すぎる……うん、頑張って犯人を見つけ出そう!!

ということで花畑到着っと
【残響】術式、詠唱。おいで、未練ある魂よ
最近このあたりで何か悲しい声を聞いたかい?と問いかけてみるよ
具体的には女の子が泣いていたり、男の人が襲われたり
もしそんなことがあったら、それが何だったのか詳しく教えてほしいな。言葉でも文字ででも
……辛かったら、それに関わるものが来た方角だけでも構わない

霊魂と別れる時にはお礼をこめて鎮魂歌を
その魂が安らいでくれるように【祈り】の【歌唱】を【全力魔法】で
分かったことは近くの猟兵さんと共有しておくね

(アドリブ/連携歓迎)



●畢竟
「追い詰められれば何をするか分からないのも、人の業か」
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイムは淡と落とす。
 その胸中に見据えた目的は揺るぎはしない。オブリビオンの打倒、及び新たな犠牲者が出る前にそれを救う事。それだけだ。
 喩えそれが、誰が望むでもない事で在ったとしても。
「貧しい村から貴重な働き手を奪うだなんて!」
 ひもじい思いをするのは辛い事だとセラ・ネヴィーリオも奮起する。
 そうして眼前に力尽きた様に横たわる花畑を見遣って再び口を開く――が、躊躇するかたちでぱくんと閉じた。色濃く花水木を写し取った紅の眸が、落ちる睫毛の翳りを得る。
 後ろを振り返ろうとして、様子を窺おうとした彼がついと通り抜けるのを見た。
「すっげー嫌な予感すんのに、なんで来ちまったかなあ」
「それがるり遥さんだからでしょ」
 松本・るり遥がそうぼやくのに当然の如くセラが返して、銘々に花畑へと至る。
 場所はすぐに解るだろう――既に幾人かの猟兵たちが立ち入っており、そうでなくとも花はひとのかたちに薙ぎ倒されているのだから。
 るり遥の手許でぼうと端末のライトが光る。荒れた箇所を見下ろす様に照らし出せば、無惨なものは際限なく読み取れるだろう。
 ひゅ、とその細い喉が鳴るのだ。飲み下せない。呼吸も、断片から顕になる真実も。
「――クソッタレ」
 語尾の震えた罵声は誰に届くでもない。
「この地に眠る死者に協力を乞おう」
 静かな声が杭を打つ。ニルズヘッグだった。
 必ず痕跡が在る筈だ、と彼は云う。それを丁寧に紐解き辿る事が肝要だ。
「なら、僕にも手伝わせて」
 ましろの残響が空気を打つ。
 セラの声にニルズヘッグはいらえるかたちで肯いて、死者の岸辺に指先を伸ばす――その手にするりと、仄白く燐光を得る細い手が重なった。
 疲れた様な顔をした、壮年の女性がふわりと佇む。結い上げた金の髪は所々ほつれていて、貧しい身なりはこの土地の出身者だと云う事が容易に知れるだろう。
「眠りを妨げたと理解の上で言うが、助力を願いたい。――頼めるか」
 金の眼差しは真摯に彼女へと手向けられ、死者への敬意を以てニルズヘッグの声は向けられる。
 女は物言わず黙って首肯した。従順な様子だった。
「最近このあたりで、何か悲しい声を聞いたかい?」
 墓守の出たるセラもまた、死者の扱いは心得ている。
 一礼と共に柔く語り掛ける様なその尋ねに、女は青白い顔をそっと歪ませた。悲哀の色が、哀切のそれが、彼女の顔を占めている。
 嗚呼、とセラの顔もまた歪む――識っているのだ。
 それは彼女にとって、酷く悲しい事であったのだ。
「……指をさしてくれるだけでも良いんだ。僕たちは真実を知らなくちゃ」
 女の指先が、つと持ち上がる――示すのは、件の花が倒れている箇所だ。
 物言わぬ彼女が示す先を、るり遥は言葉無く端末のライトでぼうと照らす。
「ほら、やっぱり」
 乾いた笑みが口端から溢れて落ちる。自嘲だった。
 少女ひとり分、花の倒れた箇所。取り囲む様な男の足跡。ライトで睨め付ける様にすれば、その頭上に地面を掻いた様な跡が在る――丁度何か細いものを押し付けて、がっちりと掴んで縫い止める為についた指の跡のようだ。
 金色の花が散ったのだろう。惨めに。誰かに虐げられる様な非道さで。
「――これを? 『後ろめたい事がある』って?」
 笑う様にるり遥の肩が揺れるのを、痛ましげにセラが見つめる。
「絶対吐かせてやる」
「……るり遥さん」
「隠しようがないって叩きつけてやる」
 感情を綯い交ぜにして持て余すかの様な、そんな二人のこどもたちを見遣ってから、ニルズヘッグはその金色の眼差しを村の方へと向けた。
「私の矜持は、より多くの一つを救うことにある」
 ライトが照らし出す村の欺瞞の証明に、ニルズヘッグは静かにそう囁いた。
 その芯が揺らぐ事はない。世界には愛と希望が満ちている――それがどんなに歪んだかたちで在ったとしてもだ。
 脳裏にいつかの記憶が過る事はない。
 ニルズヘッグの灰燼が風に揺れた。
「これを呑んでオブリビオンを撃ち、救えるものが在るのなら。それが罰されるべき罪人だとしても」
「――在るが儘を在るが儘に救う、と云うのは、難しいんだね」
 セラが呟く。
 この村には素直に飲み下せない事が多すぎた。そうしてそれはもう盃に戻せやせず、溢れ落ちていくままなのだろう。
 所在なげに佇む死人の女をセラは振り仰ぐ。その金色の髪に、祈る様に花水木のそれを伏せた。
「ご心配を、なさっておいでだったんだね」
 有難う、とセラは微笑む。再び眠りに就く彼女に、そんな顔のまま逝って欲しくは無かった。
 祈りの歌がささやかに、曇天の下に滲んで咲いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

終夜・嵐吾
何とも言えぬ。運が悪かった、とも言えぬ。
もしかしたら二人共に命散らせていたかもしれぬ。
そうした者達を野放しにせねばならぬような村なら……滅んでしまえと思ってしまうんじゃが。
それはわしが幸せな場所におるからよな。
このような事、起こらぬ様にするには……この世界を根底から変えんといかんのじゃろう。

【WIZ】
まずは花畑で……その痕を辿ろう。
この花畑の花以外のものが、無いかどうか。
ひとのかたち、か。あがいたのだろうなぁ……
虚の主よ、なれはどうみる? 眠っておっては応えんか。
すん、と息吸うて。
この場の花の香がうっすらでもするなら覚えておこう。
違う香がしたなら、毒持つ花かもしれんから。


シノア・プサルトゥイーリ
【WIZ】
そう。なんという『犬』に襲われたというのかしら。

容易い土地ではない。どこであっても。故郷を思い出し緩く首を振る。ざわつく感情を沈め

花畑に触れ、残る何かを【追跡】する。
持ち物か、些細なものでも見逃さない様に
犬に、首を絞めることなどできないでしょうし。
エルザを選んだというのか、気分か。何かあれば…

村人が来るのであれば、言っておきましょうか

伏せた秘密の毒が今、絞めているのは誰の首かしら

罵られたとて不思議ではない。それを隠す土地を知らぬ訳ではない

けれどね。
何を理由にしようとも、事実を無かったことにだけはできないわ

苦しみから逃れられなくてもせめて一人
残るあの子の命を、任させて貰えないかしら


鵜飼・章
そうだね、大人は狡い
そして子供は聞き分けがない
どちらもとても人らしい
心あるゆえの衝突と悲劇なら僕は誰も責めない
行く末を見届けに来たんだ

情報収集と支援を兼ね
出発前に村に立ち寄り花を買う
その際鴉を使って男達の臭いがついていそうな物を密かに拝借
干してある洗濯物等が狙えれば

同時にUC【三千世界】も使う
エルザさんの母の様子を見張らせ花畑へ

【楽器演奏】で辺りの生き物を呼び【動物と話す】で目撃情報を得る
特に犬にはきみ犯人にされてるよ、反論はないかなと
【コミュ力/言いくるめ/優しさ】で宥めつつ話す
借りた男達の私物と現場の臭いをかがせ
嗅覚で真犯人を特定するよう頑張ってもらう

得た情報は全て仲間に伝え調査に役立てる


メドラ・メメポルド
まあ、まあ、毒のある場所?
素敵ね、メドも毒はすきよ。メドも作れるもの。

でもわるいひとはすきじゃないわ。それを隠すのもだめ。
知らんふりするなら、勝手に探して見つけてあげましょう。

【WIZ】
お花畑で探し物しましょう。
そうね、咲いてるお花をよくよく見て、
なにか違いがありそうなところを探してみましょう。
土が違ったり、花の向きがおかしかったり、
ひとの関わった場所には不自然が宿るのよ。

なにかを見つけたなら、村のひとたちに聞いてるわ。
ねえ、これを知ってる?
今教えてくれれば、きっとかみさまもお許しになるわ。
ええ、メドはセイジョサマ?だもの。
うそいつわりなく答えてくれたなら、救いを与えましょう。



●毒花
 無二の友であるところの鴉がその嘴に咥えて来たものを受け取って、鵜飼・章は唇の両端を持ち上げた。
 日常的に用いていたのだろう、ぼろぼろの作業用の手袋だ。習性の様にくるくると頭を捻る鴉の頭を指先で擦ってやってから、章は言い聞かせる様に声にした。
「心あるゆえの衝突と悲劇なら、僕は誰も責めない」
 その片手には花が在る。彩りの良い花を幾本か油紙で包んだだけの簡素なそれは、章が歩き出すと共にか細く揺れた。
「行く末を見届けに来たんだ」
 おいで、とその声がちいさく何かを呼ばう――それはすぐに馳せ参じるだろう。良く良く懐いた鴉は従順に、章の言い付け通りにエルザの母親の見張りへと就く。
 爪先を向ける花畑には、幾人かの猟兵の姿が見えていた。
「収穫は?」
 尋ねる。いちばん手近な場所にいたシノア・プサルトゥイーリが視線を擡げ、難しそうに少しだけ眉宇を曇らせた。
 桜色の髪がくゆる様に揺れている。
「他の猟兵たちから報告が上がっているわ――信じたくは、ないけれど」
 元よりここが容易い土地でないのは解っていた。胸中を甘く苛む様に、郷里の姿が記憶の端に手を掛ける。
 けれどシノアはそれを打ち払う様に首を振った。ざわつく胸を、感情を宥める様に緩い呼吸をあえかに重ねる。
 片膝を突き、シノアの指先が折れた花に触れた。
 残された痕跡を追う様に、その指先が慈しんで花弁をなぞる――けれどどう角度を変えた所で、見えてくるものは報告を受けたそれとそう変わった事ではない。
 少女ひとりが抵抗したと思しき潰れた花々。
 それを取り囲む様に在る、複数の男たちの足跡。
 細い何かを縫い止める様に地面へと食い込んだ、指の跡と思しきもの。
「……そう。これを『犬』の仕業にしてしまうのね」
 だらりとシノアの指先が落ちる。
 声を掛けようとして終夜・嵐吾は唇をひらき、――結局逡巡してその口許を手で覆った。
 胸中に渦巻く負の気持ちを言い表す言葉はたくさん在る。けれどそれを口にするにも、どうしたって憚られる。
 感情の払底にはこの世界を変えねばならない。それこそ根底から。
「――、……いや。儘ならぬな」
 何とも言えないし、儘ならない。嵐吾は曇天を仰ぎ見てからそう囁く。
 ひとつ嘆息めいた吐息を零してから、嵐吾は己が右目に巣食うそれに意識を向ける。
「虚の主よ、なれはどうみる? ……まあ、眠っておっては――」
 応えぬだろうと思っていた。それでも確かにそれが鳴く。
 噎せ返るほどの花の香の隙間から、何かを捉えてそれが鎌首を擡げるのだ。
 ――たすけて。
 ――いたいわ。
 ――えるざ。
 少女の啜り泣く声がした。虐げられる側に放り落とされた悲壮な誰かの叫声が、過去から這い出て苛む様に嵐吾の鼓膜を叩いてゆく。
「……言わせんでくれ」
 呻く如くに嵐吾は囁く。右目の奥はすっかり静かだ。
「誰かの犠牲の上にしか成り立たぬ様な村なんぞ、滅んでしまえ等と――」
「あら、」
 場違いな様にふんわりとあまやかな声が響く。
「いいとおもうわ? だっていま、とても苦しそうなお顔をしていたもの」
 我慢はよくないわ、と少女は笑う。メドラ・メメポルドは海月めく出で立ちをふわりと揺らし、夢の中を泳ぐ様に花畑を歩いてゆく。
 ふうん、と始終を見ていた章が顎を擦る。その手にオカリナを携えた。
「僕の方にも誰か来てくれるかな――懐こい子なら、尚嬉しいんだけど」
 唇に充てがわれたオカリナが、風変わりな音色を――練習中なのだろうか、とそれを耳にした猟兵の誰かはそう思った――奏でる。
 オカリナを仕舞う章はすぐに口端に笑みを乗せるだろう。おとなしい様子で近寄ってきた犬の耳下を掻いてやると、犬は従順に一声鳴いた。
 図体はそう小さくないが、愛嬌たっぷりで可愛らしい。
「やあ。少し力を貸しておくれよ」
 話術に長けた章はそれを遺憾なく発揮する。舌を出して息を荒げる犬の尻尾が、ぶんぶんと左右に揺れていた。
「きみ犯人にされてるよ。反論はないかな」
 またひとつ鳴く。
『ないけど、やってないよ!』
 だよねと章は頷いた。そうして失敬してきた作業用の手袋を、犬の鼻先へと近付ける。
 また大きな声でわんと鳴いた。
『そうそう、こういう臭いがいっぱいついてたよ!』
「――、お喋り出来てるの?」
 犬の声に釣られて戻って来たメドラが眸を瞬かせる。すごいわ、と蕩ける様な感嘆が添えられた。
 もっと喋らないかしらと吠え声をきらきら待つメドラに、得意げに尾を振る犬がまたわんと鳴く。
 言葉は章にしか伝わらない。
 たぶんそれは幸いなのだろう。
『おんなのこが揉みくちゃにされてたよ! ずっと泣いてたよ!』
「――――お気は済まれましたか」
 犬の吠え声に顔を覗かせたのはメドラだけではない。
 村の方からおとなの一団が、恐らくこの村での為政者に当たる男を先頭にゆっくりとやって来る。
 猟兵たちを苦々しげに見回して、髭を蓄えた壮年の男は尚も口を開く。
「我々はあなた方の助けを必要と致しません。――どうぞ、お引取りを願います」
「あら、どうして?」
 すいと対峙する様に前へ出るのはメドラだった。彼女を案じて引き戻そうとシノアの指先が伸ばされたが、結局下ろして見送る事にした。
 言いたい事は、為したい事は、きっとこの場に集うすべての猟兵たちが持っているのだ。
「ねえ、これを知ってる?」
 幼い掌にちいさな何かを載せて、メドラは臆する事なく向き合って問うた。
 ちいさなそれは、釦だった。シャツのどこか一部から飛んだのだ――花畑に落ちていた。揺るぎない痕跡として。
 あの晩に居た誰かの、遺留物として。
「ものを大事にする村なのね。イニシャルかしら、アルファベットが彫られているのよ」
「……誰かが落としたのでしょうね」
 絞るような声色で男は言う。
 メドラはふわりと小首を傾いだ。
「今教えてくれれば、きっとかみさまもお許しになるわ」
 男の背後で誰かが息を呑む。
 罪悪感はずっと在ったのだ。消せ様もないそれをずっと見ないふりをして――罪に罪を重ねている。
「伏せた秘密の毒が今、絞めているのは誰の首かしら」
 凛と声の通る。シノア・プサルトゥイーリもまた、これを機として前へ進み出た。
「何を理由にしようとも、事実を無かったことにだけはできないわ」
「……そんな、……そんな事は解っているんだ。けれど――」
 少女ひとりを黙殺して得る平穏と、村の明日とを掛けた秤が、どうして釣り合うだろう。
 男は為政者として、村が生きていく明日を取ったに過ぎない。喩えそれが誰かを見殺しにしてしまう行為であっても。
 仕方がない。生きていく為には。幾らでもそうやって理由付けは叶うけれど、結局それは自らの罪の告悔と同等だった。
「うそいつわりなく答えてくれたなら、救いを与えましょう」
 ほんとよ、とメドラ・メメポルドは口端をそっと持ち上げる。
 その微笑みには、聖女のいろが宿っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『まどろみの花畑』

POW   :    息を止めて突っ切る

SPD   :    素早く走り抜ける

WIZ   :    対策を取って切り抜ける

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●禁じられた向こう側
「帰って来ない男たちは三名、皆が若者です。――そう、全員、あの夜に関わっていた者です」
 猟兵たちには、村でいちばん年嵩だと云う老爺が話をしてくれた。
 曇天の厚い雲の向こうには、ぼやけた三日月が浮かんでいる――暫くはこのままだろう。
「彼らは皆、同じ場所で消えました」
 あちらを、と老爺が村の南側、小高い丘の向こうを指差して示す。
 遠くの方に、強固そうな柵に覆われた何かが見えた。
「神経性の毒を持つ花の群生地です――あの様に、普段は厳重に管理をしています。摘む時にだけ、厳重に防備した男が籠を背負って入ります」
 帰って来ない男を心配して見に行けば、残されていたのは籠だけだったと云う。
「それでもあそこの花を摘まねば、我らの生活は成り立ちません。故に、明日はこの者が行く手筈でした」
 老爺が傍らに控えさせていた、痩せっぽちの男の背を小突く。
 青い顔をした男は何も言わない。小突かれるまま、そこに所在なく佇んでいる。
「四人目です。あの日、東の花畑へ行った者はこれで最後」
 猟兵たちにはそれで充分だろう。
 軽蔑の、或いは好奇の視線が男に注がれる――ひ、と喉を引き攣らせ、男はますます縮こまるだけだ。
「恐らくあの子の目的は、復讐です。……村の最後の防護服を着せ、これを皆さんにお供させます」
 いきたくねえよ、と男はべそをかく。誰も聞いてはいなかった。
「毒花の群生地の向こうで、あの子はさいごの一人を待っている――きっと」
 宜しくお願い致します、と老爺は深く頭を下げた。
メドラ・メメポルド
ああ、かわいそうなひと。
でも、赦しを乞うなら、メドはゆるしてあげましょう。二度目はないけどね。

【WIZ:対策を取って切り抜ける】
ええと、対策というほどではないのだけど。
メド、自分のからだで毒を作れるの。
毒自体にもつよいから、ここのお花もきっと平気よ。

あ、でももしふらふらしたら、お花を食べちゃうわ。
からだに取り込んだ方がね、慣れがはやいの。
おいしい毒ならいいなあ。おいしいのはすきだもの。

ああ、そうだわ。
つらそうなひとにはメドの血を分けてあげましょう。
きっと解毒薬の代わりになるはずよ。
でも、効きがわるかったらごめんなさいね。
お薬には、コジンサがあるものよ。


境・花世
だいじょうぶ、罪は償える
だから案内が済んだなら
安心して生きていけるよ

男へそう微笑めば発動する、
――“偽葬”

消えた少女の後を追うように、
軽くなった両脚で駆け出してゆく
今ならこの躰は侵食する毒にさえ、
少しは抵抗してくれるだろう

けれど少しずつ翳む視界、
ひたひたと痺れてく指先
ああ、死ぬ時ってこんな風なのかな
骸の海の波音が聴こえた気がして
静かに耳を澄ませるけれど

それは唯の、花が風に揺れた音

乾いた唇であえかに笑って、
辛そうな仲間がいれば手を貸そう
或いはふらつく自分を戒めるために
歩みは欠片も、緩めずに

罪には罰を与えるべきだ
けれどもしも罰より救いが、あるのなら
一筋のそれを探すのは
まだ此の岸で、生きているから



●群花
「ああ、かわいそうなひと」
 毒を含むが如くに甘美な声色が、謳うようにメドラ・メメポルドの幼い唇から零れ落ちる。
 夜風が毒花の上を渡ってゆく――揺らされる花弁がそこからひとを招く様に、蜜めく馨を燻らせていた。
「でも、赦しを乞うなら、メドはゆるしてあげましょう」
 但しそこに二度目の文字は無い。赦しとは与えてやるものだ。こちらの意志で、気紛れに。
 ふふと笑ってメドラが防護服を着込んだ若い男の傍を抜けてゆく。
 ひとで在るのにひとならざるものの様なその物言いに、男は青褪めた顔を更に青くして俯いた。
「だいじょうぶ、罪は償える」
 境・花世は艶やかに咲きながら囁いて笑む。
「だから案内が済んだなら、安心して生きていけるよ」
 そんな風に口にするから――その身体はちからを得るのだ。
 嘘を吐けないが故に、偽りを口にする度に彼女は花開く様に匂やかにそこに在る。
「いきましょうか」
 促す色で声を紡ぐのはメドラだ。その翡翠を汲む眸がひたと男を見据えれば、彼はうう、と小さく唸った。
 のろのろと鉛を引き摺るかの様な所作で歩き出す男を視界の片隅に、少女たちもまた、群れ咲く毒花へと踏み出してゆく。
「メドはね、自分のからだで毒を作れるの」
 ふわふわと雲を踏むめく足取りで歩くメドラの傍らを、少しだけ軽くなった脚で往きながら、花世は微かに瞬いてみせた。
「――、辛くはないの?」
「いいえ、ちっとも。毒自体にもつよいのよ」
 だからここのお花もきっと大丈夫、と蕩ける様にメドラは笑む。
 そうして一輪積み上げて、躊躇いなくその鮮やかな花弁を口に含んだ。まあおいしい、ときらりと煌めく眸を見るに、本当に美味しいのだろう。
「そう、それなら――」
 良かった、と。きっと花世はそんな風に返答をするつもりだった。けれど叶わない。
 毒は幽く歩み寄る――花世のほそい指の先まで余す事なく、その淵に沈めてしまう為に。
「待って、」
 縋る様に伸ばした指先は、傍らを歩く少女に向けたものか――それとも、或いは。垣間見えた死の気配に少しだけ背筋を伸ばした、ただの女の世迷い言と言えばそれまでだ。
 骸の海の波音がした。そんな気がした。確かにざざと鼓膜を擽るのだ、けれど未だここは此岸だ。
 僅かに霞む視界の向こうに、揺れる毒花と月灯りを背に手を差し伸べるメドラが視えた。
「手はひつよう?」
 柔く尋ねられ、花世の喉が薄く上下する。
 ほんのひととき目眩に襲われたのだろう、かぶりを振って花世はそれを辞した。
「いいえ、もう平気。――そんな風に手を差し出せる側に、わたしもならなくちゃ」
「メドもたすけてもらう事がたくさんあるわ。お互い様、ね?」
 振る舞いに滲む尋常ならざるものと、ふわりと浮かぶ笑顔は決して相容れないのに、そうしているのがメドラだった。
 前を向き、またふたりで並び立って花の群れを渡ってゆく。
 その先には何が在るのか、それはまだ杳として知れない。
 一筋の光か、救いか、それとも只々暗渠と罰が待っているのか――黒衣を引き受けた少女を想って、花世は少しだけ瞑目した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鵜飼・章
抜けるだけなら簡単だけど
防塵マスクをつけ少し花を見ていく
目的は単純な生体観察と死の体感
【世界知識】の一部に

毒をもつものは奇怪で美しい
この常闇の世界とおなじだ
息をしようと足掻くほど首が絞まる
此所で生きようとする限り
誰もが心を蝕む毒に侵され続けるのだろう

同行する彼に思う所ある人もいるかな
黙って聞くけど白熱しすぎたら宥める
彼を裁くのは僕の役目じゃない
あの子と村の大人が
何より彼自身が己の罪を罰し
この先自らを律しなければ村に明日はない

行きたくない?
生きたくない?
悪い子に我儘は言わせないよ
誰も死んではいけないんだ

学習出来たらUC【相対性理論】で上空に退避
気分が悪そうな人がいれば乗せる
急ごう
僕は先にいきます


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
ま、どんな人間であれ、矜持にかけて手の届く命は救うと決めている。
守ってやるさ。守れる範囲でな。
であるから、うっかり守り損ねるほど、失望させたりはするなよ。
……貴様はけじめというのを知っているか?
ふはは――そうだ。逃げるでないぞ。貴様を狙うお嬢さんに会うまで、絶対にな。

とまれ、対策なしでこちらが全滅するのでは本末転倒。
ハンカチと呼吸の制御で毒の吸入を抑えるほかには、なるべく早く抜けるしかあるまいな。
幸いにしてこの巨躯だ。歩幅だけはある。
全力で駆け抜ければ、それなりの速度にはなろう。
途中で体に違和感を覚えるようであれば、控える蛇竜を槍として、杖代わりに進むことも考えねばならんな。


終夜・嵐吾
なれがおらんと出てきてはくれんのじゃろ。
守りたくはないが、なれも何らかの形では償わねばならんのはもうわかっておる……か、どうかはわからんな。
そも、命摘むものにわしはやさしくできんからの。死なんようにはしてやるが、それだけじゃ。

神経性の毒持つ花、か。
これを以て成り立つなら燃やしてしまえば村のものらは死してしまうしかないんじゃろうな。これはわしの触れるべきことでは、ない。
毒耐性もって対するが気を付けて、早くに抜けよう。
神経性というのはどう来るんじゃろうか。痺れか、それとも幻覚か。
じゃが、使いようによっては役にたつものでもあろうな。
虚の主よ見ておくか? 少しだけなら、香の戒めの隙間から見せてやろ。



●判断
「――美しいな」
 跪いて指先に眺めるその毒花に、半ば見惚れる様にして鵜飼・章は声を零す。
 毒を持つものは奇怪で美しい――この常闇が抱く世界と同じだ。
 ひとの身体を蝕むと知りつつも、歪な生き方をしていると理解すれどもそれに頼らねばならぬ、そんなものが根付く土壌には相応しいのだろう。
「これを燃してしまえば、村のものらは死してしまうしかないんじゃろうな」
 その手許を覗き込みながら呟く終夜・嵐吾の姿に、防塵マスクを障りのない程度にずらして章は彼を見遣った。
「燃してしまいたい?」
 それすらも知識の一部として蓄えようとするかの如く、章が尋ねる。
 嵐吾は否と首を振った。
「これはわしの触れるべきことでは、ない」
「同意見だ。僕らの踏み込んで良い領域じゃあない――彼も、同じく」
 ふたりの視線が花から擡げられる。その先には青褪めた顔の青年が、震える両足で懸命に花畑を進んでいるのが見えている。
「守ってやるさ」
 彼らと同じく青年を見つめるニルズヘッグ・ニヴルヘイムが、凪いだ声色でそう口にした。
「守れる範囲でな」
 どんな人間であれ、矜持にかけて手の届く命は救うと決めている。それがニルズヘッグだ。
 その金色がついと狭められ、値踏みする様に――見られた青年の方はそう思った――青年を見つめる。視線に気付いた青年が、わかり易くその身体を強張らせた。
「……貴様はけじめというのを知っているか?」
 放り投げられたニルズヘッグの問い掛けに、青年はぶんぶんと首を振る。小狡い台詞を考える余裕も、最早無いらしい。
 両の金が細く絞られる。笑う様な貌だった。
「逃げるでないぞ。貴様を狙うお嬢さんに会うまで、絶対にな」
 時間は有限だ。まごつく青年にそう時を掛けてはいられないと、ニルズヘッグは彼から視線を剥がす。
 その間際に唇が音なく囁く――うっかり守り損ねるほど、失望させたりはするなよ。
 それが青年に伝わったかどうかは定かではない。が、彼は何度か空気を呑む様に喉を嚥下させている様子だった。気圧されはしているのだろう、猟兵たちから向けられる様々な感情に。
 青年の両足が、竦む様に立ち止まる。ちらと見遣って嵐吾が次いだ。
「なれがおらんと出てきてはくれんのじゃろ、」
 迂遠に逃げるなと釘を刺され、泣き言めいたくぐもる唸り声がその喉奥から溢れる。
 彼らの遣り取りを見ていた章が、立ち上がりながら呟いた。
「思う所ある人も、少なくはなさそうだ」
「東の花畑を見た者は、大なり小なり何かしら言いたい事は在るだろうさ」
 ニルズヘッグが請け負う。
「死なんようにはしてやるが、それだけじゃ」
 とぼとぼと、青年が再び毒花の中を歩み始めたのを見届けてから視線を戻した嵐吾も端と落とす。
 命を摘む者に優しくなどしてやれはしない。
「それでも、誰も死んではいけないんだ」
 ふと言葉を織り成す章の声は、幾分か柔いものを含んでいる。善悪よりももっと単純に、前提を語るかの様に泰然と。
 そうしてその手が空より黒い隼を招く。章の倍は在ろうかという巨体を愛しげに受け入れて、その背に乗り上がった。
「乗るかい?」
 章が視線で手近にいるふたりに尋ねる。
 わし毒にはちょっと耐性ある、と嵐吾が小さく手を挙げて言うと共に、ニルズヘッグが浅く頷いた。
「早く抜けられるなら有難い。失礼する」
 ふたりを乗せて高く舞い上がり、真っ直ぐに花の向こうへ滑ってゆく鳥影を見送ってから、嵐吾は指先でちょいと右目を掻く――そこに眠るものに、呼び掛ける様に。
「少しだけなら、香の戒めの隙間から見せてやろ」
 虚の主は微睡んでいる。なれど漂う毒花の馨は半ば暴力にも似た芳しさだ。
 歩く内に誘われて鎌首を擡げる事も在るだろう。嵐吾は改めて一歩を向こう側へと踏み出した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

学文路・花束
【WIZ】
蒼褪めた卑しい行ないの男。画題としては食指も動かないな。
然し、風にそよぐ花は描いてみたい。
これ程にまで綺麗なら、毒気の一つ二つもあろうさ。

(クロッキー帳に描かれるアート)
(零れる木炭の欠片が地に落ちると、風が起こる)

一陣、二陣、三陣。
風よ吹け。澱みを掃え。毒気は薄らげ。
付近の毒は、空の高みへ。

(描く手が止まる)
(風に揺れる花畑、空高く舞い上がる花弁が描かれていた)

毒気は地上へ降り戻る前に、四散、薄らぎ、牙を失うだろう。
往くならば、今のうち。
……ああ、舞い上がる花が綺麗だ。

(かなしいほど)
(歩きながらクロッキー帳の別頁を開き)
(東の花畑の絵、その片隅に)
(寄り添う二つの人影を描き足す)


都槻・綾
※絡みアドリブ歓迎

防御服の仕様を知り
世界知識の元、準ずる衣布等を皆へ配布

花粉等は吸引や身に纏う事の無きよう注意
有効ならオーラ防御も活用

野生動物は危機回避の道を知っているだろうか
楽器演奏で呼び
屈んで目線を合わせ
抜け路を問う

青年の逃亡防止と
守りも兼ねて傍らへ

断罪は私達や
先で待つ彼女が行うものではない
貴方自身が生涯をかけて
犯した罪を忘れず贖い続けるべきことです

責める音も
優しさも無く淡々と

毒持てど花はただ在るが儘に咲くだけ
時に用法を誤るのは――敢えて「誤る」のは
誰の心にも宿る昏い虚なのかもしれず

見上げる縫の頭をそっと撫で
微かな笑みを落とす

不意打ちを第六感で警戒、見切り
先制攻撃で縛符
オーラで自他共に防御


フィオリーナ・フォルトナータ
その男の顔を、こちらに見せないで下さい
わたくし、まだこの剣を抜きたくはないのです
すぐにでも償わせたい所ですが、これだけは
何が起ころうと逃げずに、目を背けずに、全てを見届けなさい

一刻も早く彼女の元へ参りましょう
毒に対する心得は少々ありますが、それでも
毒そのものをなるべく吸わないように、一気に駆け抜けましょう
道が必要ならば、なぎ払います
男が嘆こうと喚こうと、知ったことではありません
…本当は。この花畑ごと燃やしてしまえたらと、少しだけ思わなくもないですけれど
それで誰も救われないこと位は、わかっているつもりです

…エルザ、わたくし達は貴女に、さらなる絶望を与えることになるかもしれません
それでも、どうか、



●善悪
 青褪めた顔の青年の歩みは遅々としたものだった。
 当然だ。彼にしてみれば、死刑台と自分の葬式がセットになった場所へ出向く様なものだ。それでも行けと皆は言う――それが青年の犯した罪に対して取るべき償いなのだから、と。
 その傍らに、すらりとした男が添う。
「断罪は私達や、先で待つ彼女が行うものではない――貴方自身が生涯をかけて、犯した罪を忘れず贖い続けるべきことです」
 まさに心中を言い当てられた様な心地だった。青年は怯えた顔でその男を、都槻・綾を見遣る。
 仰ぎ見るその表情は、決して険しいものではない。けれどこちらを慮って労る様な、そんな気遣いも感じられない。責めるものでも、優しさが滲むものでも無いのだ。
 烈しいものがない代わりに、底の見えない穏やかさだった。
 逃げる先を探すかの様に、青年の顔がきょろきょろと辺りを見回す――視界の端に引っ掛けた翻るオールドローズに、それが吊られた。
「その顔を、こちらへ向けないで下さい」
 視線に気付いたフィオリーナ・フォルトナータは、密やかに眉根を寄せて青年を拒絶する。
「わたくし、まだこの剣を抜きたくはないのです――それに、彼には全てを見届ける義務が在る」
 冷えた声色で添えられた言葉は、青年を縮こまらせるには充分だった。
 青年から少し離れた場所で、この男もまた青年を見遣っては肩を竦めるのだ――学文路・花束は、抱えているクロッキー帳をぱらぱらと繰った。
「蒼褪めた卑しい行ないの男。……画題としては食指も動かないな」
 けれど風にそよぐこの花の群れる様ならば、と藍の眼差しが花の群れを嘗める。
 尋常ならざる美しいものは、得てしてひとを破滅に導くものだと云う。これもその類なのだろう、と花束は口端をそっと持ち上げた。
 クロッキー帳に木炭が滑る――その欠片が野に落ちる度、ひとつ、ふたつと風の舞う。
「風よ吹け。澱みを掃え、」
 風は花束の願う通りにその空間を掃き清めてゆく――彼らが歩いていく分には余裕のある広さの空間が、ただ美しい花の咲くものとしてそこに佇む。
 綾の手が手製のマスクを外す。ものの数分で何らかの障害が起きるであろう群れ咲く花も、今であれば何も憂う事なく渡ってゆけるだろう。
「――毒持てど、花はただ在るが儘に咲くだけ。嗚呼、でも、これは……」
 何を害するでもない花は、そこにそうあるだけで心を癒やし得るものなのだ。
 毒の薄らぐ気配にほっと息を吐いて、フィオリーナもその胸に掌を当てた。
「助かりました。必要ならば薙ぎ払うつもりで居ましたが、――花に罪はありませんから」
 でも――それでも、本当は。
 この花畑ごと燃やしてしまえたらと、思わない訳ではないのだ。フィオリーナはそのかんばせに、僅かに翳を差して自らのこころを戒める。
 そうした所で、誰も救われる訳ではないのだから。
「……ああ、舞い上がる花が綺麗だ」
 呟く花束の、その手許のクロッキー帳が風の悪戯でふわりと捲れる。
 顕になるその面には花畑と舞い上がる花弁――けれどそれを次へと繰って、歩き出しながら花束は再びその紙面へと画材を走らせる。
 それをちらと目にしたフィオリーナが、搾り出す様な吐息と共に顔を歪めた。
「――エルザ、わたくし達は貴女に、さらなる絶望を与えることになるかもしれません」
 それでもどうか、と願ったのは誰だろう。
 フィオリーナの声に示される様にして同じくそれを見た綾もまた、僅かに眉尻を下げて淡く笑むのだ――その手が愛らしい人形の頭を撫でるのを、縫と名付けられた彼女がそっと見上げていた。
 花束のクロッキー帳には、東に寝そべる白い花畑が広がっている。
 描き足された人影ふたつは、仲睦まじく寄り添っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シノア・プサルトゥイーリ
【WIZ】
この花が村を生かしー蝕んだのか、それとも(育んだのか

衣で口元を覆い、毒への耐性を使って移動しましょう
防護服を使っていたそうだから、地形を見てもどこの毒が薄いということも無さそうだけれど、気をつけておきましょうか

毒の花を摘むことをとやかく言う立場にはないけれど
少女に起きた悲劇を、平穏の為に口を噤むのは好きでは無いわね
あのお嬢さんが手を下し続ける必要など…(言いかけて息をつき

為政者の告げた言葉も告悔であるのならば
最後の防護服を着た男を差し出してー何を思うのかしら

念の為、男が逃げることが無いように気をつけて。
恐ろしいでしょうね。行きたくなど無いでしょう。
けれどそれは貴方が招いたことよ


イア・エエングラ
きみの足取りは重くとも、きっと僕らが守るだろうな
あの子とはきっと、反対ね
……さて、為すべきを為しましょう
だからどうぞ、安心なさってねと
笑ったところで気休めにはならないかしら

毒耐性なら多少はあるけどどれだけゆけるかな
纏うのはお招きした青い炎
お花を焼けないものてのぼる花粉をとあとは袖で覆っておこか
やあ綺麗な花畑だのにね
毒であるから、繋ぐには違いないだろうけど

三日の月に炎の灯りで、人影くらいは分かるかしら
彼から少し距離置いて他にも出入りできる箇所探しながら
いらっしゃるのを、お待ちしましょ
彼の身に危険があれば、黒糸威でお迎えできるよに気は置いて
見えたらすぐに、彼女を追うことと致しましょうな



●壌土
 群れ咲く花の彼方此方で、猟兵たちはそれぞれが花の向こうを目指し毒を掻き分け進んでゆく。
 しっかりと口許を覆い隠したシノア・プサルトゥイーリは、足許をさやと揺れるそれを見下ろし布の向こうで唇を甘く噛む――花は村を生かしたのだろう。
 或いはこの可憐に咲く毒花こそが、悲愴な事件を育んだ土壌なのやも知れなかった。
「綺麗な花畑だのにね、」
 声は、その傍らを征くイア・エエングラのものだ。
 燐光を得る様にして薄蒼い炎に取り巻かれる彼は、その炎に舞い上がる毒の花粉から護られながら花を踏む。踏まねば進めない。猟兵たちは、この花を乗り越えてゆく必要がある。
「毒の花を摘むことをとやかく言う立場にはないけれど、」
 歩調を緩める事なくシノアがいらえる。
「平穏の為に口を噤むのは好きでは無いわね」
「けれどそうしなければ、生きてはいけなかったんでしょう」
 穏やかにイアは口にした。
 声に籠められた物静かなトーンは、シノアの言葉を否定する訳でも、行われた隠蔽を肯定する訳でもない。既にそこに根付く事実を綻ぶ様に声にして、イアの視線がゆらりと移ろう。
 視線の先には青褪めた顔色の男がとぼとぼと歩く――ひとりだけ防護服に包まれたその姿に誰かが付き添う訳でもないが、けれど猟兵たちは逃しはしない。
 引き摺るように重たく歩くその姿は、確かに守られはするのだろう。
「あの子とはきっと、反対ね」
 あの子、が指し示すのはひとり――或いは、ふたり。
 不仕合せに見舞われた少女たち。ひとりは息絶え、ひとりはその為に今宵も誰かに手を掛けようとしている。
 シノアの長く揺れる桜色が、夜風に乱され僅かに散った。
「あのお嬢さんが手を下し続ける必要など――」
 閊えたものを吐き出すかの様な言葉は、けれど途中で遮るように口を噤んで消えてしまう。細い吐息だけが余韻を残して、その語尾にたなびいた。
「……揺れてしまうね、どうしても」
 独り言めいた声色でイアが囁く。
 ええ、と淡くシノアは返す。
 そうして赤い眸が視線ごと擡げられ、どこか苛烈に防護服の青年を見遣った。
「恐ろしいでしょうね。行きたくなど無いでしょう、――けれどそれは、貴方が招いたことよ」
 青年はいつからか足を止め、花の群生地の只中で立ち竦んでいる。掛けられた言葉に心身を揺らす余裕すらなく、ただ蒼白な顔で前方を見遣っていた。
「――ああ、果てが」
 その視線を追ったイアが、溜息混じりに得心する。
 視界の先、そう遠くない場所には群生地の終わりなのだろう、入り口と同じく強固な柵が張り巡らされていた。
「待ちましょうか。……お嬢さんも、恐らくここへ来るんでしょう」
 シノアが呟く。
 その声には極僅かな諦念が、待ち受けるものとして滲んでいた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

松本・るり遥
ルフトゥ、セラ】
目の前で直接なじる勇気など、やっぱり無かった。
不快感や嫌悪ばかり煮え立つ。
男に届かぬ程度の声。

『何でだよ。どうしてそんな奴助けなきゃいけない』
『助けないと他の多数が生きてけないから、そりゃそうだ』
『じゃあ少数は誰が助けてくれるんだよ』
『負けた少数の悔しさは、怨みは、誰が肯定してやりゃ良いんだ?』

『独白』。ごぽり、血の味が混じる。
あわれな少数側ーー少女に会いに行く力を猟兵に宿そう。この毒に負けず、先行く力を。

猟兵は猟兵ゆえ、男を、村を助けると、信じるからこそ紡げる文句
男を見捨てる勇気は欠片も無い。
掛けられる言葉に頷くほど物分かりも良くない

こんな甘えた怒りを、心の奥で恥じている。


ルフトゥ・カメリア
セラ、るり遥と。

俺はケダモノ以下のクソなんざ、どうなろうと知ったこっちゃねぇ。テメェはただの労働力で、ただの囮だ。それ以外の存在価値はねぇ。
可笑しな真似すりゃ即座に切り捨てられると思え。【言いくるめ】
育ち柄、見慣れていた。が、不快を感じない訳ではない。
助ける者、切り捨てる者は選ぶ。傲慢な守護天使は全てを救うつもりはない。

……はッ、甘えた餓鬼かテメェ。
るり遥の独白を鼻で笑って、その頭を叩くように撫でて通り過ぎる。誰が助けるか?そんなの、そう思う奴が動けば良い。
ハンカチに包んで胸元に入れた小さな爪を服の上から撫でてやる。送ってやるから待ってろ、と。【祈り】

マスク代わりに炎を纏って、花の向こうへ。


セラ・ネヴィーリオ
【るり遥くん、ルフトゥくんと】

この男の人は赦せないけれど
ルフくんが僕の分も怒ってくれてるから
嫌悪憎悪悲哀は秘めておく
代わりに微笑んで囁くよ
ねえ、怖い?逃げたい?助けてほしい?
それはきっとね、君たちが弄んだ子も
君と同じく願ったことなんだよ
もし報いようと思うなら、顔を上げて歩いていこうね、って
【呪詛】の様に

るり遥くんの『独白』が聴こえる
「そうそう!無念を受け止める為にいるのが僕らでしょ」
ルフくんに続いて肩をぺしっと叩いて笑う
毒への【覚悟】を決めたら【祈り】の【シンフォニック・キュア】を口遊み進もう
旋律に載せるのは救う意思
奪われた女の子の想いを、取り憑かれた子を、村の人たちを。悲しみから掬い上げよう



●繋岸
「俺はケダモノ以下のクソなんざ、どうなろうと知ったこっちゃねぇ」
 吐き捨てる様なルフトゥ・カメリアの声は、躊躇いなく青褪めた顔の青年に突き刺さる。
 彼の防護服は毒こそ防ぐが、それ以外のものからは護ってなどくれない――犯した罪を見据える様な猟兵たちの言葉と視線に、すっかり落ちた両肩が震えて戦慄く。
 凛とした眼差しには椿が赤く咲き誇る。嫋やかな髪の薄藤がそれを際立てて、ひ、と青年は喉奥で声を押し殺した。
「可笑しな真似すりゃ、即座に切り捨てられると思え」
「――僕の分まで怒ってくれちゃって、」
 鋭利に研がれた言葉で青年を言い包めるその様を見遣って、やれとセラ・ネヴィーリオは息を吐く。
 咎めるつもりなど毛頭ない。無垢なルフトゥの怒りは、倣うこころを任せるに丁度良い。
 セラの唇がついと持ち上がる。その端に、艶やかな笑みが引っ掛かる――彼は囁く。怖い? 逃げたい? 助けてほしい?
「それはきっとね、君たちが弄んだ子も、君と同じく願ったことなんだよ」
 猟兵たちはそれを確かに目の当たりにしたのだ――あの荒れた東の花畑で、『彼女』の遺した痕跡を辿った。
 貧しくとも慎ましい、変わらぬ明日が来ると何の疑いもなく生を謳歌していた少女のいのちが、清純が、無惨に踏み荒らされて散り果てたのを。
「顔を上げて、歩いていこうね」
 報いる気が、ほんの僅かでもその心中に残っているのなら。
 セラの紡ぐ言葉は呪いにも似ている。春に落ちる影は存外昏いのを、たぶん彼だけは識っていた。
「――――、」
 青褪めた男が今にも倒れそうなくらいに顔色を亡くしているのを、松本・るり遥の眸が一瞥する。
 するが、それだけだ。身体の裡で煮え立つ悍ましい感情は、飲み下せなかった喉を塞いで言葉さえも戒める。畢竟、勇気など無いのだ。
 嗚呼、それでも独白せずには居られない。懐く感情はいつだって暴発の隙を狙っている。
『何でだよ。どうしてそんな奴助けなきゃいけない』
 助けないと他の多数が生きていけない。そりゃそうだと誰かが云う。
 喉には鉄錆が厭らしく臭う。それが滲む血の所為だと、るり遥は誰に示唆されずとも良く良く知っているのだ。
『じゃあ少数は誰が助けてくれるんだよ』
『負けた少数の悔しさは、怨みは、』
 ――誰が肯定をしてやれば良いんだ。
「……はッ、」
 詰めた息を吐き出す様な、それはルフトゥの気安く零した声だった。
「甘えた餓鬼かテメェ」
 ルフトゥはその独白を笑い飛ばして、返事の代わりに軽くるり遥の頭を叩く。離れる間際にくしゃりと髪を混ぜる指先が、どうしようもなく暖かさと親しみを以て感覚を残す。
 そうそう、ともうひとりが笑う――セラは柔く肩に触れて、懐こい所作でぺしりと叩いた。
「無念を受け止める為にいるのが、僕らでしょ」
 織り成す覚悟は揺らがない。祈る為には芯が必要で、だから蹈鞴を踏んではいられない。
 セラの唇から旋律が漏れ落ちる。聞き慣れない言葉はけれど、それが誰かの為の救いと祈りである事だけは明白だった。誰にだって解る。春の日向がそうであるが如く、どこまでいったって優しいのだ。
 ネモフィラの焔が慈しむ様にその傍らで燃え上がる――未だ年若く熟し切らない天使を護る為に、ルフトゥを覆うかたちでそれは躍る。
 誰が。――問いへの答えは簡単だ。
「そんなの、そう思う奴が動けば良い」
 天使の掌が、胸元に入れたちいさな『それ』を慰撫する。祈りはその所作にだって宿っている。
「現にほら――、ね?」
 ルフトゥの言葉に応じる様にセラは微笑んだ。
 ここに居るだろうと言外に言い含めなくとも、きっとそれを伝えたい相手には違いなく伝わる筈だ。
 るり遥には勇気はない。その代わりに補う様にして、周囲から与えられるものが呆れるくらいに在るのだ――誰かの感情が、想いが、述べられた手が。
「ばかだな、」
 表情も声色も、前を征くふたりには見えなかったろう。聞こえていたとして、それが誰を指すのかは、さて。
 甘えた怒りは尚も心奥で息衝いている。るり遥はそれを恥じて、追う様に一歩を踏み出した。

 群れ咲く花の終わりを示す様に、境界を区切る柵が果てにも設けられていた。
 その少し手前に、赤黒く変色した地面が在る――花が枯れた訳ではない。元よりそんな風に変色していた訳でも、勿論ない。
 夥しい血を吸ってすっかり変貌した、それは確かに花だった。
「――ふうん、そう」
 冷ややかな声が、夜のあわいから滲んで落ちる。
「死にたくないから、そんな風に護られているの?」
 どこからともなく、柵の内側にそれは顕れた。赤黒い、花だったものを躊躇なく踏み締めて。
 ぞろりと長い黒衣を纏うブルネットの少女が、欄とひかる双眸を猟兵たちに据えていた。
「あたしのローレは、あんた達に殺されたのに?」
 愛しの少女を失った少女エルザ――今は『ゼラの死髪黒衣』と呼ばれるものが、そこに居る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ゼラの死髪黒衣』

POW   :    囚われの慟哭
【憑依された少女の悲痛な慟哭】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    小さな十字架(ベル・クロス)
【呪われた大鎌】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    眷族召喚
レベル×5体の、小型の戦闘用【眷族】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ゼラの死髪黒衣、名をエルザ
「あのね、こういう時、何を言われるかはわかってるの」
 黒衣の下は随分と薄汚れている――返り血、泥、抵抗を受けたと思しき破れ、ほつれ。
 履物はなかった。白い素足が、血染めの毒花を踏み荒らす。
「『こんな事をしてもローレは帰って来ない』」
「『ローレが望むと思っているのか』」
「『これ以上血で手を汚すことはない』、――合ってる?」
 いとけない声でエルザはつらつらと言葉を連ねる。
 闇から滲む様にして、その手に大鎌が構えられた――猟兵たちがどんな言葉を掛けたとして、戦闘を避ける事は叶わない。
 彼女を戦闘不能にする事だけが、黒衣を破壊出来る唯一だ。
「あたしの望みは、それを殺して復讐を遂げること。――四人目よ」
 他の三人がどうなったかを語る様子はない。
 尤も猟兵たちが目の当たりにする、夥しい血に染まった花を見れば言葉はなくとも解るだろう。
「ローレの為なんかじゃない」
 黒衣のフードの影から、少女の蒼い眸がぼうとひかる。
「ローレを愛したあたしの為の、復讐なの」
 エルザの声が震えて滲む。
 猟兵たちに斃される事も厭わない雰囲気だった。恐らくは死ぬ事すらも、厭わない。
 その復讐を遂げる事さえ叶うのならば――喩え総てを擲ったとして、悔いはない。
「お願いよ、遂げさせて――そしたらあたしは、ローレのとこに走って行くから!」
 絶叫だった。
 それは悲鳴に良く似ていた。
境・花世
愛しいひとを絶たれた
きみの心臓に空いた虚に、
何を手向ければいいだろう

足元のそれと混ざって
世界を赤く染めていく牡丹の花弁
踏み躙られた少女たちの、
震える慟哭を覆い尽せ

いつか、いつか必ず
誰も彼もあの海へゆくよ
融け合ってまた逢えるから

――なかないで、

囁きに牡丹を濡らす露は
わたしの涙かどうか知れない
ただ胸が痛いから、
黒衣を切り裂き啜りながら
絡め取る蔦は抱き締めるかの如く

ふたりの好きだった花を
お気に入りのカップを、星空を
両手に抱えてゆくといい
でも、そんなぐしゃぐしゃの顔のままでは
きっと笑われてしまうよ

だから――今は、まだ

やがて道があの海へ至るまで、
きみの抱く愛がひかりであれと
どうしようもなく、願っている


都槻・綾
復讐の名に翳された誠の望みは
自身への断罪でしょうか

約束を違えた事を
どれ程に悔いたか

蹂躙された命は還らない
寂寞と後悔は
生涯晴れはしないのだと、思います

然れど
罪深き者であれ
他者の命を絶ちし貴女もまた
未来への道程を
苦しみを抱えたまま
歩まねばなりません


青年を背に護り、下がらせるも
温度の乗らぬ声掛け

決して目を逸らさず
為した罪を裡に焼き付けなさい

オーラで自他防御
見切り回避
流星符の捕縛

血紅の大地を洗う真白の山荷葉で、花筐
天の雫に雪がれ透明になる花
少女達が見る筈だった星野原めく花の柩
命の弔いになるよう祈る、願う

エルザの救出も
ローレの安らかなる眠りも

――どうか、


少女を助け起こし治癒
歩み出せる時まで
傍らに添いたい



●空虚
 ひとかたまりの烈しい感情が、そこにひとの貌を為して在る。猟兵たちが相対する敵と云うのは、形容するならそんなものが相応だった。
 ――なにを手向ければいいだろう。
 境・花世は自問する。けれどそれへの答えなど出よう筈もない。
「――なかないで、」
 唯そうやって声を掛けた。
 踏み出す足許の花が、枉々しい毒花から緋色へと塗り替えられてゆく――咲き誇る百花の王、牡丹へと。踏み躙られた少女たちの嘆きも哀切も慟哭も何もかも、その下へ抱き込んでしまう様に。
 いまの花世こそが紛れもなく花だった。ぽたりと落ちる雫はけれど、涙かどうか知れはしない。
 這う蔦がエルザを絡め取る。揮われた大鎌がそれを厭って切り裂くが、花世の嫋やかな指先が次を差し向ける方が僅かに早い。繚乱する様は艶やかだった――夜のしじまに鮮血の趨る音さえ響くのだ。
 黒衣の裾が悲鳴如く音を立てて裂けてゆく。
「寄り添わないで――来ないで!」
 エルザが悲愴に声を上げる。多感な年頃の彼女はいま、総てを擲ったつもりで自らの檻に閉じ籠もっていた。
「約束を違えたのを、どれほど悔いた事でしょう。……誠の望みは、自身への断罪でしょうか」
 檻には柔くひかりが差す。それは言葉のかたちを為している――都槻・綾の唇がそう織り上げると共に、エルザの細い肩が大仰に揺れた。
 痛々しいほどに蒼い眸が見開かれる。唇が怯える様に戦慄いて、けれどそれを悟らせまいとする様に声を張った。
「暴かないでよ……! その男を渡してくれれば、大人しく死ぬって言ってるじゃない!」
 四人目の男は今や腰を抜かした様に地へとへたり込んでいる。
 下がれと手で示しながら、綾がそれを背に庇う――それでも彼へと掛ける声は、護るべきものに対するそれではない。酷くつめたい声だった。
「為した罪を裡に焼き付けなさい、」
 人ひとりを死神に仕立て上げたその罪を示して、目を逸らすなと綾は云う。
 遣り取りを見て、癇癪を起こした様にエルザが大鎌を振り上げた。
 鋭く斬り下ろされる斬撃は違う事なく花世を狙う――が、何の力もない村の若者相手ではない、力任せの一撃など猟兵には通じる訳もない。
「ねえ、ふたりは何が好きだった?」
 花世の声が穏やかに尋ねる。
 好きな花、いつもの星空、お気に入りのカップ、少しだけ焦げた手作りのクッキー。少女たちの名残はおそらく彼方此方に残っている。
「両手に抱えておゆきよ。でも、そんなぐしゃぐしゃの顔のままではきっと、笑われてしまうよ」
 掛けられた言葉にエルザの動きが軋むのを、油断なく綾の双眸が捉える。
 穢れた大地も何もかもを漱ぐ様に、白い花弁が夜に沁む。山荷葉――親愛を、倖いを、花弁ひとひらが各々懐く。涙に濡れれば見えねども、いまは褥を雪ぐべくそこに舞う。
 今や毒花の原は覆われて、柩と呼ぶに相応しい。少女が睡るには丁度良い。
 それがどの様なかたちになろうとも。
「――どうか、」
 綾の裡にも祈りが滲む。香炉のひとつ、彩りの灯りを宿す様にして。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

メドラ・メメポルド
あなた、お友だちをふかく愛していたのね。
そう、愛していたから、奪われたから、自分のために憎むのね。
すてき。

いいわ、あなたなら食べてあげる。
【POW:ブラッド・ガイスト】
メドの血をもって、右肩の月を赤く染めましょう。
そうすれば……わたしはいつもよりおなかがすくの。
悲鳴も痛みもどうでもいいわ。
くらげの腕も伸ばして捕まえて、おいしくぜぇんぶ。

……なんてね。
ごめんなさい、あなた自身は食べないわ。
だって、あなたがいないと彼女の死をかなしむことも、彼女をおもって憎むこともできないでしょう?
ひとはね、わすれたらしぬの。
だから、ぜぇんぶ食べて、自分になさいな。
そうして生きて、しんでいきなさいな。


鵜飼・章
ふふ、そうか
可愛いね

復讐自体は別に良いから
僕を殺してここまでおいで
悪いけど本気で邪魔をするよ
きみの嫌いな大人だから

方針は男の護衛と支援
極力男の側を離れず拷問具の【投擲】で攻撃
【スナイパー】で木等に【串刺し】にし敵の接近を妨害

機を見て鴉に見張らせた親の様子を伝え
【ヘンペルのカラス】で問う
お母さんが憎い?
答えが虚勢なら弱い拷問具で拘束
真実なら…本気でおしおきかな
普通に拳でぶん殴る
どうして殴られたか考えてごらん

咎人殺し的な意見だけど
この場合きみが生きていた方が効果的だと思うんだ
きみが死ねば事件は風化し皆罪を忘れるだけ
ヒトってそういうものだ

死ぬより辛い道とは思う
でもね
生きてしか成せない復讐もお薦めだよ



●生よ
 ましろい花弁に黒衣を、全身を斬り裂かれて崩れ落ちるその一瞬を見逃さず、そこを穿つ様に鵜飼・章は針を投げる。エルザが地面についた掌に、それは寸分の狂いもなく突き立った。
 痛みに慣れていない悲鳴が上がるが、章の顔色は変わらない――けれどその眸には、確かな慈愛と虚無が座す。彼はそういうものだった。
 章が立つ傍らには、護られる形で村の男がへたり込んでいる。犬の様に地面に繋ぎ止められたエルザは、そこへ斬り掛かる事も叶わず睨め付けるばかりだ。
「教えてあげよう」
 章の声は寧静に告ぐ。その肩には鴉が宿る――彼女の母親を見張らせるべく飛ばした友が。
 羽音と鳴き声とで賑やかに主張する鴉に鷹揚に頷いてから、さて、と章はエルザへと視線を遣った。
「きみの母君の話だ。――きみが居なくなってから、ずっと消沈しているそうだ。いつでも帰って来れる様にと、扉の灯りを昼夜絶やさないらしい」
 口の端が僅かに持ち上がる。
 白黒を付けるべく向けられる、問いはきっと天秤の為の分銅なのだ。
「お母さんが憎い?」
「…………ッ、」
 ごくシンプルな質問に、答え倦ねたエルザの喉が上下する。
 逡巡する様なその様子に、章は片眉を持ち上げた。裁定が下る。美しい昆虫をそうするかの如く、ひとの大きさに適した展翅テープがエルザを地面に縫い付ける。
「――もう、あまりいじめては、だめよ」
 言葉の上では嗜める様に紡がれるが、その声はあまく蕩けて輪郭は曖昧だ。
 エルザの方へと歩み出る声の主――メドラ・メメポルドの後ろ姿を見遣って、章はちいさく両肩を竦めた。
「彼女の嫌いな大人だからね。為すべき事をそうするべきだ」
 だから本気で邪魔をする。エルザの願いがどんな決着を望むものであれ、彼女のそれを阻止するべく、猟兵たちはここに各々立っている。
 拘束されたエルザの前に、メドラが愛らしい仕草で膝を折る。その指先が、地に繋がれた彼女の幼い顎についと触れて持ち上げた。
「……そう、愛していたから、奪われたから、自分のために憎むのね」
 すてき、と囁く様に添えられる――そうしてその右肩が、その月が、次第に赤を帯びてゆく。
 エルザへともう片腕が伸ばされる。否、それは片腕一本きりではない。もうひとつ、またひとつ、伸ばされるのは誰をも逃さぬくらげの腕だ。
 抱き上げる様な仕草こそ麗しいが、地へと繋ぐ拘束から無理矢理に引き剥がすのと同じ事。少女めいた劈く色の悲鳴はけれど、すべてがすべてメドラの肚の中へと墜ちてゆく。
 だってメドラは空腹で、眼前に居るのは可愛らしい弱きものだ。
「なぁんて、ね」
 幼い容貌に似合わぬ笑みを浮かべて、エルザの躰が解き放たれる。
 不可解そうにしながらも、大鎌を構え直して即座に距離を取るその姿に、けれどメドラは笑む儘だ。
「だって、あなたがいないと彼女の死をかなしむことも、彼女をおもって憎むこともできないでしょう?」
 エルザの蒼が、呆然と見開かれる。
「ひとはね、わすれたらしぬの」
 あまい声が紡ぐのを、耳を欹てていた男が引き継ぐ。
「きみが死ねば事件は風化し、皆罪を忘れるだけだ。歴史のはざまに消えていくよ、きみのその烈しい感情ごと、何もかも」
 章が唆す様に囁く声に、エルザの指先が戦慄いた。
「ヒトってそういうものだ。――思い知っただろう?」
 生きてしか成せない復讐を、と章が密やかに重ねるのを、双眸眇めるメドラが首肯する。
「そうして生きて、しんでいきなさいな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
愛する者を奪われ、それを恨むことが人の心の業であると、私は知っているよ。
だが。そうであるからこそ、これ以上の暴虐を許す気はない。
ふはは。お嬢さんよ。覚悟しろ。

狙うのは衣装のみ。
ゆえに扱うのは大鎌である。【なぎ払って】くれよう。
【嵐海の毒霜】で強化をすれば、相手の鎌の一撃にも対応できるであろうよ。
体が蝕まれようが関係はない。この身は死に損ないだ。
例の男も、一応は死なんように【かばって】やる。
ここまで来たのであるから、けじめは果たしたと見てやろう。

さァ、覚悟は決まったか?
ここで死することではない。
その思いを背負ったまま、これから愛する者なき世界を愛し、何を杖にしてでも生きていく――覚悟だ!


イア・エエングラ
軋んだ心がそのまま砕けてしまいそう
遂げて、その許へゆけるなら、どれほど
良いだろうにとは噤み視線を伏せて
願いは理屈でないものな

けれどもその復讐を阻みましょう
彼女らの、彼らのためでなく、僕のため
今在る意味を、なくさぬために

お招きするのは青い火を
滄喪でもって焼きましょう
あなたの願いをくらった黒い子を
今ばかりは迷わずに、焼いて剥いでしまおう
幾ら呼べどひとつずつ、全部残らず
残るのはきっと、エルザだけ

ひとりの世界なんて、何にも意味など、ないものな
巡る季節も、綻ぶ花も、――一緒でなければ何にも
白い花の咲くたびに、思い返すばかりは酷だもの
だからきっと、ゆけるように
優しい子らは、そうはきっと、願わないかしら



●覺悟
「――……迷わせないで、お願いよ」
 猟兵たちの言葉は衒いなくエルザの心を穿って砕く。
 それでもまだ、彼女は大鎌を手放さず黒衣を脱ぎはしない――すでに三人ぶんの血で汚れた手は、そう簡単に落とし所を見出だせない。
「愛する者を奪われ、それを恨むことが人の心の業であると、私は知っているよ」
 添う様にしてニルズヘッグ・ニヴルヘイムは凛と張る。
 だからこそこれ以上の暴虐を許す気はなく、黒衣に縋った少女を止める気概でそこに立っているのだ。
 それはすぐ傍に佇むイア・エエングラも同じ事だ――彼女の復讐を阻む為に、ここに居る。
「阻まれたって成し遂げる。だってこれは、あたしの願いだもの!」
 吼える様なエルザの声に、軋む心の音すら聞こえそうだとイアは瞑目する。
「願いは理屈でないものな、」
 遂げてその許へ逝けるなら、どれほど良いだろう。思えど音には為せる筈もない。
 誰もがそれを願っている。誰もがそれを阻みに来た。
 イアの掌がぼうと光を帯びる――碧く揺らぐまろい火が、そこを起点にしてイアの全身を嘗めてゆく。纏う様にして燃えるそれは、けれどどうしたって寄り添う如くに優しくて。
「その黒衣は、あなたの願いを苗床にする良くないもの。――だから、」
 焼いて剥いでしまうのだ。悉くを、たったひとりのエルザに戻るまで。
 碧い炎が死髪黒衣に絡み付く。その端から燃してゆく――否、凍てついている。それでも燃えていると形容するのが正しいのだろう、だって炎はそれほどに烈しい。
 やめて、取り上げないで、と少女が狼狽して炎を払うべく我武者羅に大鎌を振るう。消せよう筈もない。
「消して、消してよお――……!」
 燃える儘に大きく振り上げられた大鎌が、ついにはイアへと向けられた。が、振り下ろされた切っ先が届く事はない。
 ぎいんと鈍い音を立ててそれを弾き返すのは、同じくして構えられた大鎌だった。
 ニルズヘッグが口端に笑みを引っ掛ける。
「『私が全て受け止めてやる』」
 エルザに向けてのそれであったのやも知れない。或いは呪いを喚ぶ為の。
 川を流れる毒はその果てにニルズヘッグへ宿るのだ。かの呪いは躊躇なくその体躯を蝕んで、耐え難い責め苦を課すだろう――なれどそれを代償として得たものは、余りにも勁い。
 一撃を弾き返された事で呼吸を整えたエルザが、蒼い眸をまるく見開き次撃を構える。猶予なく放たれる拘束の一撃は、明らかに少女の扱える力ではない。オブリビオンが、それを為す。
「死に損ないは、そう簡単にはくたばらないんだ」
 威風に満ちた声と共に、エルザの鎌はやはり弾き返される。
 金属同士が激突し擦れ合う不協和音は、月光の許に尾を引いて響き渡るだろう。その音も充分にそれを示しているが、びりりと震えるエルザの指先が、ぶつかりあった力の強烈さを思い知らせる。
 それでもその指先が、黒衣に纏わり付く碧い炎を気丈に握り潰す――くぐもった苦鳴を耳にして、イアはそっと吐息した。
「ひとりの世界なんて、何にも意味など、ないものな」
 巡る季節も、綻ぶ花も、――いっしょでなければ何ひとつとして。
 彼女にとって遺された世界は非情かも知れなかった。それでもその先へとゆける様に、少なくともイアはそう願う。
 地に崩れ落ちるエルザの前に、ニルズヘッグが大鎌の切っ先を突き付ける。
「さァ、覚悟は決まったか?」
 尋ねる。睨め付ける少女の眸に、ここで死する事ではないと彼は浅く笑った。
「その思いを背負ったまま、これから愛する者なき世界を愛し、何を杖にしてでも生きていく――覚悟だ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィオリーナ・フォルトナータ
その身を焦がす憎悪を散らすことが出来るのは
エルザ、貴女だけです
わたくし達に出来るのは
貴女を蝕む黒衣の影を祓うことだけ

トリニティ・エンハンスで攻撃力を重視して強化
攻撃は盾で受けつつ
ミレナリオ・リフレクションで相殺を試みます

――エルザ、
貴女がこの男を殺すというのなら、わたくしは止めません
愛しい人を、愛した世界を奪われて
悲しいでしょう、憎らしいでしょう
けれど、復讐に駆られて総てを失うには、きっと貴女は未だ若い
…未だ、貴女をローレの元へ逝かせる訳にはいきません
どうかローレが生きた、そして今貴女が生きるこの世界を
見て、知って、それでも絶望しかないというのなら
その時はもう一度、わたくしが貴女を斬りましょう


終夜・嵐吾
他の者たちの言葉もわかる。見知った者の言葉を聞いて、瞳伏せ
エルザの嬢ちゃんの言葉を、ただ受け止めてわしが思うのは一つ
なれがしたいと思うならそうすればよい

なれがローレという嬢ちゃんと過ごすはずだった花畑の花は――これじゃろか
虚ろの主よ、その姿をさっきみた花の姿としてほしい
わしは真似事しかできんが、何も思う事なければ刃向けておいで
それで気が済むなら、この先がどうであろうと……わしはおやすみと、おくってやろう
他の者が引き止めても、本当にそれを望むなら――負ってやろう

しかし、もし
もし何か少しでも、ひっかかるものあるならきっとそっち側にはいってはならんのじゃ
最後に決めるのは、嬢ちゃんじゃから



●記憶
 エルザの顔が、泣き出しそうにくしゃりと歪む。
 死にたがりの人間に、世界はいつまでも優しくはない。その当たり前の道理を掲げる猟兵たちに、少女の芯には少しずつ罅が入り始める。
 それでも身を護る様に飛び退っては、再び大鎌が振り上げられる――誰かに向けられたそれを庇う様に、ひらりと躍り出たフィオリーナ・フォルトナータは間近に盾を構え、同質量の斬撃で以て斬撃を弾く。
「貴女がこの男を殺すというのなら、わたくしは止めません」
 眼差しの交差する一瞬、肯定された己の殺意に、少女は僅かに驚いた様にフィオリーナを見つめ返して後ろへと跳ねる。
 空色の眸は真っ直ぐにエルザを射ていた。
 愛したひとを、愛した世界を奪われて、哀しみも憎しみも如何ほどだったろう――心を寄せては眉尻を下げ、けれど、とフィオリーナは言葉を継ぐ。
「復讐に駆られて総てを失うには、きっと貴女は未だ若い」
 彼女の――或いは猟兵たちが掛けた心からの言葉を聞いて、終夜・嵐吾もまた、眸を伏せる。
 双方に譲れないものがあるからこそ、為したい事があるからこそ、そしてそれがどうしたって食い違うからこそ衝突する。
「……でもローレは全部奪われて死んじゃったわ。あたしが隣に行ってあげないと、あの子、ひとりよ……」
 お守りの様に大鎌を抱き締めたエルザは、震える声でフィオリーナに云う。
 彼女は柔く首を左右に振った。もうひとりの許へ送ってやる訳には行かないのだと、穏やかに紡ぐ。
「なれがしたいと思うなら、そうすればよい」
 遣り取りにもうひとつ声が挟まれる――黙ってそれまでを見つめていた、嵐吾だった。
 訝しげに嵐吾へと探る様な視線を向けるエルザに、彼は虚の主よとちいさくそれを起こしに掛かる。洞にて微睡むそれは首を擡げ、嵐吾の願う通りに姿を変じるだろう。
 花弁が舞い散る――白い、ちいさな。東の花畑を埋めていた、あの可憐な花々に。
「合っとる様じゃの」
 灰青の毛並みを揺らして狐が薄く笑む。エルザの視線はその花にひたと注がれたまま逸らされない――あの日、約束を交わした花畑。
 村の東にいつだって在って、彼女らのひみつの愛を守り包んできた。
「あの子と、ずっと過ごしてきた――」
「……わしは真似事しかできんが、何も思う事なければ刃向けておいで」
 嵐吾は穏やかに言葉を為す。
 心配げにフィオリーナが彼を見たが、交わし合う眼差しがそれを封じた。
 それで気が済むのなら、と嵐吾が云う。この先がどうであれ、自分はおやすみを告げておくってやろうと。
「本当にそれを望むなら――負ってやろう」
 エルザは震える手で鎌を握る。が、どうしたって持ち上がらない。
 白い花は幾度だって記憶に愛しい影を喚び起こすのだ。呼吸を乱して唸り、猟兵たちを睨め付ける様な鋭い視線を隠さない少女の姿に、フィオリーナは構えていた剣の切っ先をそっと下ろす。
「世界は、この村だけではありません。――ローレが生き、貴女が生きるこの世界を、貴女には見て知って欲しい。……それでも絶望しか無いと云うのなら、」
 真っ直ぐに紡ぐ言葉は、時に剣よりも鋭く相手を刳り得るのだ。
 ぽっかり穿つ穴が闇を得るか、それとも新たな花が咲くかは、まだ誰にも解らない。
「その時はもう一度、わたくしが貴女を斬りましょう」
 花咲く様に揺れる髪が、フィオリーナの淡い淋しげな笑みを彩って散る。
「最後に決めるのは、嬢ちゃんじゃ――故にわしらは、それを強いたりはせぬよ」
 世界は未だここに根付く。彼女たちの記憶も想いも何もかも、すべてを抱いた儘にして。
 フィオリーナも嵐吾も、それを充分識っているのだ。
 ふと差す雲が翳を為す。嵐吾の表情はそれに隠され見えずとも、声色ばかりはどうしたって穏やかだった。
「それでも何かが引っ掛かって、名残惜しくこちらを振り返ってしまうのなら。……きっと、そっち側には行ってはならんのじゃ」
 エルザが震える声で、嗚呼、と顔を覆う。
 黒衣の片袖が、ずるりとその肩から落ちかかっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジン・エラー
なァンだよ
駆けつけてみりゃこの有様か
花なンかどォーとでもなる。オレは聖者だぜ?

"女は帰ってくるかもしれない"
"女は望んでいるかもしれない"
"女は血を欲しているかもしれない"
なンてな
最初っからお前がどうとか知らねェよ
一生のお願いでも聞いてやるかよ
念願だろうが切願だろうが遂げさせるもンかよ

お前がお前の為の復讐ってンなら
オレはオレの為にお前を救ってやるよ
【オレの救い】で全部救ってやる

なンで全てを等しく救うか?
神は万物に平等じゃねェからさ
オレはお前も、"お前"も、ローレも、そこのクズ野郎も
ぜェ~~~ンぶ救ってやる


ああでもオレは気まぐれなンで
ちょっと蹴りたくなっちまった
そこにいたお前が悪ィ。イェハハハ!



●救い
「花なンかどォーとでもなる。オレは聖者だぜ?」
 聖者を名乗り救いを與える事は、ジン・エラーにとって呼吸を為す事と同義だ。
 崩れ落ちたまま、縋る様に大鎌を離さぬエルザの前に気軽にしゃがみ込んで視線を合わせ、救いを齎す者は云う。
 そうしてゆらりと立ち上がる――双眸が慈しむ様に眇められる。救ってやらねばならない。他でもない自分が。
「お前がお前の為の復讐ってンなら、オレはオレの為にお前を救ってやるよ」
「……気軽に救うだなんて口にしないで」
 エルザの蒼に意志が宿る。それがぼうと光るのは、オブリビオンの力の発現に他ならない。
 こちらを睨め付け覚束ない足取りで身を起こすエルザに、ジンは好ましげに顔を歪めて笑って見せた。
 その笑みを知ってか知らずか、尚も少女は言い募る。
「何も知らない外様の人間が、出来もしない事を――!」
 少女の慟哭は黒衣を介し劣悪な力の奔流となり、周囲すべてを我武者羅に押し潰す――筈、だった。
「出来るさ。否違うな。出来る出来ないの問題じゃあねェ」
 それが至極当然の道理であるかの如くジンは紡ぐ。
 泥濘の如きましろい光は救いの具現だ。ジン・エラーのそれだ。それらは慟哭に相対して押し包み、並べて総てを肚に仕舞う。
「聖者は救いを與えるもンだ」
 その片足がひらりと持ち上げられ、すぐ傍に縮こまっていた村の男を蹴り飛ばす。情けない声を上げて、薄汚れた身体が転がってゆく。
 軽やかに笑ってジンは少女に向き直った。
「オレはお前も、“お前”も、ローレも、そこのクズ野郎も救ってやるさ――ぜェ~~~ンぶ、な」
 言葉も意志も衒いなく真っ直ぐに向けられる。
 それは間違いのない自信に裏打ちされた本心だ。
「出来る訳、ない……」
 光を目の当たりにしてエルザの声の末尾が震う。
 出来る訳がない、そんな事は。それでも為してしまうのではないか、猟兵たちなら本当に救ってくれるのではないか、この男ならばもしかして――。
 揺らぎ始めた少女の足許は、酷く脆い。

成功 🔵​🔵​🔴​

学文路・花束
……成程、中途で筆を折るようなものか。
君自身の為ならば、それはそれで。
此処にいる皆がやりたいように動いたとて。
僕が描く為に動いたとて、構うまいな。

(アート、催眠術、視力)
(クロッキー帳を捲れば、泥も血も黒衣も清めるように、東の花畑の情景が広がるか)
(少女の青い眸に、蜂蜜色がよぎるか)
(まほろばの中、留める声が聞こえるか)
(遂げては、こちらへきてはいけないと)
(君を現へ繋ごうとする、だれかの想いの遺り香が如く)

僕は、望むままを描くだけだ。

(復讐劇、大いに結構)
(だが)
(僕は今、別の形を描きたいと望んだ)

(勿論、君が何を見出しても構わない)
(僕はその結果を描こう)

生憎、こちらもエゴイストなもので。



●心映
 ――ぱら、と紙の捲る音がひとつ在る。
 戦場に於いては異質なそれに、エルザの眸がそちらへ逸れる――視線の先には、クロッキー帳の一葉が。
「何が見える?」
 学文路・花束は寧々と問う。
 夜に藍一筋垂らしな様な髪には火花が咲く。その隙間から覗く眼差しが、ひたとエルザを見据えていた。
「――あたしたちの、花畑が、」
 鎌を握らぬ少女の指先が、焦がれる様に紙面へと伸びる。触れようとして、けれど躊躇う様に握り込んだ。その手は酷く汚れていた。
 開かれた帳面のその頁には、白い花畑が咲き乱れる――四季折々の花がささやかに咲く、愛でられるだけの花畑。
 揺れる金の髪を幻視した。夜風にそれが揺れるのを見るのがすきだった。
 それでもそれは、まぼろしだ。既に喪われて戻らぬものだ。
「……土足で踏み荒らすみたいなことするのね」
 記憶は、願いは、枷の様に少女を此岸へ繋ぎ留めている。
 唸る様に絞り出される黒衣の少女のその声に、花束は浅い所作で両肩を竦めた。
「僕は、望むままを描くだけだ」
 ここにいる皆がそうだ。各々が為したい事の為にこの地へ集い、言い分を手に殴り合う。
 己の裡を暴かれ描かれるのを嫌がる様に、エルザの大鎌が空を薙いだ。そこから羽撃く白い鳩は、けれどオブリビオンの力を宿す眷属に相違ない。
「生憎、こちらもエゴイストなもので」
 花束は調子を崩す事なくそう告げて、画材で鳩を撫ぜてゆく――白い羽をインクに染めて、眷属は触れる事すら叶わず散っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シノア・プサルトゥイーリ
[POW]
気休めは言わないわ
それは違うとも言えない

けれど、自らの為と言うのであれば
私は私の覚悟でその前に立ちましょう

その復讐をここで止めさせていただく

真紅の瞳に覚醒して黒剣で挑む

戦闘知識で慟哭の届く範囲を見定められたら良いけれど
気がついた事があれば皆に共有

私はこの身で受けて、踏み込みましょう
願いを阻むのだから

走っていきたい思いは自分にもある。けれど思いが分かるとは言わない
それは彼女だけのもの

きっともう、同じ場所にはいけないわ
時計の針は違えてしまった
お嬢さん。貴女は生きている

いつか彼女が迎えにくるその時まで
お嬢さんは生きなければね
彼女がココアを持って迎えにくる時まで

村での今後が気がかりね…



●願い
 揺らさないでと声に悲愴を滲ませ少女は歎く。
 慟哭は劈くように月下を裂いて猟兵たちに牙を剥くが、それでもシノア・プサルトゥイーリは退かなかった。
 その眸が真紅を得る。旧い血が喚び起こされて全身を苛む――多くの詩篇断章に語られたであろう姿を得て、シノアはその慟哭へと踏み入ってゆく。
 だって、願いを阻みに来たのだ。
「あなたがそれを、自分の為の復讐だと謳うのなら」
 触れるもの総てを斬り裂く様な慟哭であれ、いまのシノアに傷を付けるには至らない。
 圧で髪が艶やかに流れる。まるで花の色めくそれに、少女の蒼い眸がほんのひととき、奪われる。
「私は私の覚悟でその前に立ちましょう――復讐は、ここで止めさせて頂く」
 阻む者は凛と声を張る。
 シノアの裡にだって、走っていきたい想いが在るのだ。なれどシノアの想いはシノアのもので、エルザの想いはエルザのものだ。重ねた様にわかるだなどと、口にしたくはなかった。
 だって、彼女だけのものだ。
「あなたになんか、わからない――大事なものを亡くした事なんか、きっと無いんでしょう?」
 苛烈な口調でエルザが声高に叫ぶ。慟哭は益々勢いを増す――が、シノアにはそれが通らない。
 ふとその唇の端が綻んだ。少女の身勝手な言い分に言い返すでもなく、ただ吐息の溢れる様なそれが在る。
「走って行ったところで、同じ場所には辿り着けないわ」
 真紅の双眸が伏せられる。睫毛の翳りが落ちる頬に、どことなし宿る色は哀切に似ていたやもしれなかった。
 少女が言い返そうと口を開くより早く、シノアは囁く。
「お嬢さん。貴女は生きている――散った誰かが祈った明日を征く権利を、貴女はまだ持っている」
 穏やかに諭すその声に、エルザの蒼い眸が痛々しいほどに瞠られる。
 甘やかす様に、シノアは継いだ。
「生きなければね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

松本・るり遥
(紛う事なく
"るり遥"が、酸素を吸った)


俺、

お前の怒りも、奴等を殺すのも妥当だって、正直思う
殺せるもんなら殺してえよなあ!俺達をガキだと思って、突き落とす奴等なんて!

でもさ、けどさ、
ローレとの思い出とか
喧嘩した時の仲直りだとか
貰った、あげた、誕生日プレゼントとか
本当はちょっとだけ嫌いだったところとかさ
そうゆうのを俺らに、
ああああなんつーか
俺にももっとお前の憎悪を分けてくれよ
一人で覚悟決めて死ぬのはズルだ!!

(俺には、掴みかかるようにしか叫べない)

俺は、ビビリだから
『お前が死ぬのが、お前の無念がここで終えるのが、訳分からねえくらい怖えんだよ!!!!お前達だけの怒りじゃねえぞ馬鹿野郎!!!!!』



●吐露
 誰かが息を呑んだ。
 他の誰でもない、松本・るり遥だった。
「殺せるもんなら殺してえよなあ! 俺達をガキだと思って、突き落とす奴等なんて!」
 声の輪郭は僅かに震えている。籠もる感情が否応なくそうさせている。
 怒りも殺意も妥当だと、今にも泣き出しそうな表情がそれら薄暗いものを肯定する。
「あなたも殺せばいいのに。ぜんぶを擲って」
 誰かの優しい言葉から逃げる様にまろび出て、大鎌を握り込んだエルザは唇を歪めた。
 息が上がる。共に言葉も迫り上がる。
 必死に飲み下す感情も何もかもが綯い交ぜになって逆流して、けれど既の所で吐き出すのを堪えている。
 息継ぎの様にるり遥は絞り出した。
「――擲つなんて芸当が出来る奴は限られてんだよ、」
 彼のスイッチはもう誰かが押してしまった。
 否、この時ばかりは誰かの所為には出来やしない。ここに立つのは、紛うことなきるり遥だ。
「……あのさ、なんつーかさ、ローレとの思い出とか、喧嘩した時の仲直りだとか、誕生日に何を贈った貰ったとか、本当はちょっと嫌いだったとことか、そうゆうのが……ああああ、くそ!」
 矢継ぎ早にるり遥から溢れてゆく。
 頭を掻き回して地団駄を踏んで、飾る猶予もない言葉ばかりが剥き出しのままに放たれるのだ。
「無念も後悔も憎悪も何もかも、あとふたりだけの秘密だとか、全部ひっくるめて! 自分の中に留めておけばそりゃあ綺麗だろうけど――でも、俺にももっと分けてくれよ!!」
 喉を掻き毟った。もっと声が出ればいいと思った。
 伝われとずっと祈っている――それでもその祈りを成就させられるのもまた、この問答に於いては松本・るり遥ひとりだけしか居ないのだ。
「抱えてひとりで死んじまったら、それは誰が憶えておくんだよ! お前が死んでここで全部終わるのが、訳分からねえくらい怖えんだよ――お前達だけの怒りじゃねえぞ馬鹿野郎!!!!!」
 いらえたのは絹を裂く様な音だ。
 既に襤褸切れの様に成り果てている死髪黒衣が、大きく裂けるそれだった。
「――…………、いやよ」
 震える身を抱き締める様にして、エルザが緩慢に身を折り膝を突く。
「ぜんぶあたしのに、しておきたいのに……」

成功 🔵​🔵​🔴​

セラ・ネヴィーリオ
耳の飾り石に触れる……本当は彼女の切望も叶えたい
けどその求めは働き手を奪い村の人を苦しめる
僕は生きる人が笑えて、死した魂が安らげる世界を願ってるから
此処を通すことは出来ないし、彼女に帰ってきてほしいとも、願う

これは僕の我儘であり祈りだ
でも君が君の想いを裏切れない様に、僕も僕の祈りに殉ずる覚悟がある
だからこれは、只の意地の張り合いだろうね

月下。寂しさを収めて微笑み【残火】
一息に飛び込み【祈り、覚悟】を乗せた【全力魔法】の拳を彼女へ
眷族も慟哭も、おいで。蹴散らし耐えて君の許へ
十字架を越えられたら
「僕を赦さないで。君をあの村へ連れ戻すことを恨んでおくれ」
在るが儘を、在るが儘に

(アドリブ歓迎ソロ希望)



●祈望
 指先に雫が触れる。雨が結晶したかの如く、その飾り石が。
 セラ・ネヴィーリオには掲げるものが在る――生者は笑い、死者はその魂が安らげる、そんな世界を願っている。
 心中にて相反する望みはどちらも本意だ。叶えたい。けれど天秤は釣り合わず、必ずどちらかに傾くのだ。
「祈りはきっと傲慢だ。――でも、そういうものでしょう?」
 意地の張り合いの様なものだとセラは笑む。我儘で譲れなくて、それを心底から願っているからたちが悪い。
 襤褸の様な黒衣を纏って、すっかりぼろぼろのエルザがそれでも鎌を構えた。それこそもう、意地の様なものだ。
「頑固者」
 ふと息を吐く。
 斃れるまで戦うと決めた彼女に、相応の覚悟で返すべく、セラもまた拳を構えた。
「――愛していたんだね」
「ええ」
 か細く返答が在るのと同時、セラの片脚が勁く地を蹴る。
 少女の身体を戒める様に衝撃が走るのと同時、反対の爪先で反動を殺すのと同時に走り出す――否、距離はひといきで詰められる。
 息を詰めた少女が再び空を薙ぐ。割れ目より出る白き眷属の群れをするりと躱し、足掻く様に振り下ろされる大鎌の切っ先すら呼吸ひとつ合わせて遣り過ごす。
 邂逅の瞬間、ほんの目配せ程度に視線が交わる。
 セラの声が低く甘く囁いた。
「僕を赦さないで。君をあの村へ連れ戻すことを恨んでおくれ」
 持ち得る総てを編まれ注ぎ込まれたその拳は、躊躇なく少女の鳩尾に沈められる――黒衣の働きか、大きく飛ぶ事こそ無かったが、声なく地に沈む様子はよく見えた。
「――あの子の為の祈りを、君が居なくなったら誰がするの?」
 祈る者だからこそ、セラは尋ねる。
 億劫そうに持ち上げられた蒼い眸が、言葉無くただじっとセラを見つめていた。
「死者の為の祈りに必要なものは、たったひとつ。……誰かの強い願いだよ」
 紅色滲む柔らかな眼差しを見つめ返す少女の眸が、潤んでぼやける。
 墓守の耳許には、いつかの雨の涯で見出したものが僅かな光を弾いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルフトゥ・カメリア
村に偽りのまま埋められたローレもそのままで、終われると思ってんのか
ローレの声も姿も、好きな物も嫌いな物も、笑う顔も、誰より知ってんのがテメェじゃねぇのか
テメェだけがローレを愛してたなら、そのテメェが化け物になるなら、ローレは誰が悼めば良い
最期を穢された娘に唯一残った愛まで堕ちたら、あの娘を誰が悼む

連れて来た小さな爪を、服の上からそっと握る
この娘の欠片の前で、愛した親友が化け物に堕ちる様なんて見せられないだろ

ゼラの死髪黒衣
エルザは返して貰うぞ

瑠璃唐草の炎に【破魔、祈り】
想いを叫ぶのは俺だけじゃねぇだろ、誰の言葉でもいい
愛してたんなら、人間のちっぽけな手であのクソ男をぶん殴ってみせろよ!



●涯際
「ローレの声や声、笑顔も泣き顔も、何が好きとか嫌いとか、そんなものを誰より知ってんのがテメェじゃねぇのか」
 倒れ臥したエルザに歩み寄って唸る様にそう言葉にするルフトゥ・カメリアは、憮然とした表情で横たわるその体躯を見下ろしている。
 ルフトゥの手が、衣服の上からちいさな何かをそっと握り込む――ここまで連れてきた、それは花畑で見出したちいさな爪だ。
 必死で抵抗した少女の欠片と共に、黒翼の天使がそこに在る。
 吼える様に云う度に、薄藤に咲く瑠璃唐草が感情を顕す様に揺れるのだ。
「テメェだけがローレを愛してた、ならそのテメェが化け物になったら誰がローレを悼むんだ。最期を穢された娘に唯一残った愛まで堕ちたら、あの娘を誰が悼む」
 返答を待ちはしなかった。
 その首から、両手首から、翼の付け根から、或いはもっと――炎が滲出してネモフィラの色を為す。熾された火はルフトゥの意志ひとつで合切を燃す。
「返して貰うぞ」
 麗しい炎が少女の身体を嘗めてゆく、が、不思議と彼女が苦しむ様子はない。ただ炎の噴き上げるごとに色合いの変わる只中で、黒衣だけがゆっくりと燃え滓に変じてゆくのだ。
「愛してたって言うんなら、ちっぽけな人間の手であのクソ男をぶん殴ってみせろ」
 真っ直ぐな祈りを孕むその言葉を、きっと激励と呼ぶのだろう。
 炎に焚べた励ましは、そこからもう一度生まれる少女の目蓋を押し開かせるには充分だった。

 黒衣の呪縛から逃れたエルザは、痩せっぽちの村娘に違いなかった。
 誰かがその傷を癒すべく力を揮う。誰かが彼女の先を憂いて眉宇を曇らせる。
 それでもゆっくり双眸を瞬かせたエルザは、ルフトゥに向けて弱く尋ねた。
「――――……ねえ、天使さん」
 蒼い眸が、今はまだ昏く彼を仰ぐ。
「あたし、あの子の為に、何が出来る……?」
 尋ねられた男は浅く笑った。
 満足気だった。
「何でも出来る。生きてりゃな」


 愛した少女の記憶を柩に、愛された少女は睡るのだ。
 そこにはいつだって目蓋の裏に描く様に鮮明に、冬の花畑を彩る白い小花が咲き群れる――毒花ではない、ただ愛でられるだけのか弱い花が。
 柩の中では永久の如くに少女ふたりが笑い合う。

 村はそう長くは続かないだろう。この事件を切欠に、先細りしながら緩慢に終わってゆく。
 エルザと云う少女は腫れ物の様に扱われ、それでもその中で営みを続ける。四人目の男の顛末は語られない――恐らくは犯した罪を呑み込んで、慎ましやかに仕事に従事するのだろう。
 この世界ではそう珍しくもない、どこにでもある貧しい集落の終焉だ。猟兵たちが介入しなかったとしても、いずれ似たような末路を辿っていたに違いない。
 歴史の隙間に零れ落ちてゆくその集落から、けれどいつか蒼い眸の少女がひとり、巣立つだろう。
 穢れた両手が雪がれる日など来る筈もない――それでもこの身は愛しい誰かが生きた証だと、何もかもを風化させない為に生きて繋ぐのだと、優しいひとたちが教え諭してくれたから。
 掛けられた言葉はすべてが花を苗床にして根付いている。
 だからその生の果て、あなたの隣で睡る日まで、終わりを夢見て生きていく。

 ――花咲く柩に少女は睡る。
 いつの日か傍らにあなたがやって来た時に、ありがとうと笑ってココアを差し出すその為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月12日


挿絵イラスト