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深夜42時バトル

#クロムキャバリア

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#クロムキャバリア


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●汚れ二つ名/名無しの麓
「新たな世界には新たな発見があるが、新たな厄介事もある。いきなりで悪いが、皆には厄介なドンパチを解決してもらいたい」
 『偽名国家エイリアス』。
 自ら本名を捨てたならず者、偽名を用いて渡り歩く傭兵、二つ名持ちの戦争犯罪者からやんごとなき理由で本名を奪われた復讐者まで、この小国家に住む人間は雑多そのもの。
 唯一ある共通点と言えば、全員が全員『本名』よりも広く知られた別名を持っているということだろう。
「もう察してる奴もいるだろうが、エイリアスって国家名も便宜上付けられた物らしい。国に付けられた二つ名ってトコだな」
 クロムキャバリアには、子供を叱る際に有名な言い回しがあるという。
 『親の言うことを聞かない悪ガキは、エイリアス送りにしちまうぞ』。
 つまり、この国家はクロムキャバリアにおける姥捨て山/子捨て山なのだ。
 親に捨てられた子供が向かう国、手の付けられない老人が辿り着く国、元居た国を追放された犯罪者が住み着く国、あるいは『誰かの都合』で生まれた厄介者が捨てられる国。
 どこにも行けないどん詰まりに集まった彼らは、いつの日からか自らの命を的に明日の日銭を稼ぐ事を覚え始める。
 誰も受けたがらないような厄介事に汚れ仕事ばかりを専門に受けて回る、金にも命にも意地汚い、世界から捨てられた傭兵たちの国。
 それが『偽名国家エイリアス』という訳だ。

●猟犬の群れ/孤高の王狼
「だが、そんな国でも――――あるいはそんな国だからこそ、トップは大した奴だった。クロムキャバリアに明るい奴は知ってる顔かもな。この男だ」
 通称『ウルフ・ハウンド』。
 外見年齢30代後半、性別は男性。髪型はオールバック。顎まである整った髭が特徴で、狼のような抜け目のない戦いぶりからその呼び名が付いたと言われている男である。
 ある日どうしようもない連中のたまり場に現れたウルフは、卓越したキャバリアの操縦技術によって、当時そのたまり場を牛耳っていた犯罪集団を一晩で壊滅させた。
 ウルフはなし崩し的に集団の実権を手中に収め、彼らの居場所に『エイリアス』と名を付け、そこに住む人々に『傭兵』という生き方をひたすら教え込んだ。
 喧嘩しか知らないならず者にキャバリアの操縦技術を教え、偽名の傭兵たちに別動隊を信用する大事さを叩きこみ、戦争犯罪者へは規律を守ることの意味を説き、復讐者に泥にまみれることの重要さを気付かせ、暴徒を兵士に、駄犬を猟犬に変えたのだ。
 エイリアスの人々に他の国家と渡り合える武力を授け、その武力を以てプラントという集団が自立するための生命線を奪い、力とプラントを擁したことで『ただのたまり場』を『国家』へと変え、世界に捨てられた人々の居場所を造り出した男。
 それが『ウルフ・ハウンド』という訳だ。

●タイムリミット/残り42時間
「さて、ここからが本題になる。事の始まりは、今から6時間前のことだ」
 乗騎の交換兼試運転調整を行うためエイリアスに残ったウルフと側近以外の戦闘員が、他国からの要請を受け傭兵として出撃した後、事件は起こった。
 無事任務を終え、帰投した彼らを待っていたのは、待機要員や技術員が至る所で無惨に殺され、赤に染まったエイリアスの街並みであったという。
 全ての死体の近くには、『この国のプラントを占領した。48時間後爆破を行う』というようなメッセージが、亡骸の血で赤く残されていた。
 更に問題だったのは、ご丁寧にプラントへと向かう主要幹線道路が尽く破壊されていたことだ。国中の武器庫、弾薬庫、食糧庫、貯油所、兵舎に倉庫に工場なども言わずもがな木端微塵。
 そして、エイリアスから――――ウルフ・ハウンドとその側近たち、そして彼らの機体だけが消えていた。血と涙の一滴も残さずに、彼らだけが忽然と、である。
「状況証拠からして、ウルフ・ハウンドが今回の事件の首謀者であることに間違いはないだろう。事態は今も進行中だ。猶予は既に42時間。皆にやって欲しいのは、大きく分けて三つになる」
 一つ。ウルフ・ハウンドが立て籠もったプラントへの道を発見するために、片っ端から情報を集める事。
 二つ。プラントへの侵攻を開始し、道中で待ち受けているだろう側近を排除しながら、プラント内への侵入を果たす事。
 三つ。プラントの爆破を防ぐため、敵首魁と思しきウルフ・ハウンドとその乗騎を破壊する事。
 その全てを、残り42時間以内に行ってもらう必要がある。

●MISSION/START
「エイリアスの中枢とプラントを結ぶ道路は封鎖されてるが、プラントに潜入するための方法はまだあるはずだ。理由としては、『エイリアスはプラント簒奪によって成り立った国家である』ってコト」
 つまりこういうことである。プラントを奪う前のエイリアスが如何に腕のある傭兵集団と言えども、『補給も無しに正規の軍隊と真っ正面からやり合って勝てたはずがない』。
 昔のウルフも、過去にプラントを簒奪した際には必ず工夫を練ったはずだ。その工夫が何だったのかを探ること、ウルフという人物像を探ること等が、今回の事件解決の糸口となるだろう。
「つう訳で、まずは情報収集から始めてくれ。特に怪しいのは、エイリアスの地下深く、廃棄された下水道跡に広がってる違法マーケット。ここにはエイリアスに住んでる奴らの中でも更に後ろ暗い奴らが住んでいる。だが、その分生きた情報だってあるはずだ」
 襲撃当時の生の情報、破壊された幹線道路の詳細、プラントの現況に裏道の有無まで、その他猟兵の皆ならばこその発想で地下の住民から聞き出せることも多いはずだ。
「それから、エイリアスの戦闘員たちは皆への協力を惜しまないぜ。諜報に伝令の代行や手伝いは当然、機体や弾薬だって幾らかは貸し出してくれるだろう。手足のように使うと良い。自分の居場所を守るため、彼らもそれを望んでる」
 時計の針は進み続けている。急いだ方が良いだろう。
 何といっても、国家存亡の危機という奴なのだから。
「42時間後、俺が聞きたいのはたった一つだ。成功の報を持ち帰ってきてくれよ?」
 状況開始。


ボンジュール太郎
 お疲れ様です、ボンジュール太郎です。
 ロボVSロボでもロボVS生身でも上手く書きます。
 保身や次善策抜きの、あなたの考える最高の一点突破プレイングを投げてきて頂けると書きやすくて最高です。
 採用する以上失敗はさせないので、強気で来てくだされば幸いです。
 何卒宜しくお願い致します。

●採用について
 1~3章を通して、採用人数は4~8名様程度をまとめて採用したいと考えております。
 合わせプレイングは採用率がやや下がります。

●プレイング受付期限について
 プレイング受付期限は9/30(水)の08:30~10/1(木)23:59までとします。
 期間内でプレイングの数が足りなかった場合は、追って連絡いたします。

●アドリブ・絡みについて
 アドリブや絡みを非常に多く書くタイプであることを強く自覚しています。
 アドリブ、絡み無しを希望の方は「×」を書いていただければその通りに致します。
 記名なしの場合は上手くやります。
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第1章 冒険 『禁制市場』

POW   :    絡んでくるごろつきを返り討ちにし、情報を吐かせる

SPD   :    マーケットの参加者に金を握らせ、情報を買い取る

WIZ   :    自身も出店者として堂々とマーケットの裏側まで入り込む

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヴィクティム・ウィンターミュート
情報ってのは、様々な角度から集め、確度を高めて研磨しなきゃいけねぇ
取るに足らない与太話でも、そこには何かしらの価値がある

まずはBalor Eyeを放つ
こいつらに集めさせるのは、会話だ
現地の連中がしてる、あらゆる会話を収集する
恐怖や警戒でフィルターのかかってないものだからこそ、良いんだ
次にエイリアス
こいつらにはウルフについて重点的に調べさせる
あぁ、一人武器の調達に割こう
急いでくれよ

んで、フリーの俺はというとだ
このマーケットで最も古株の事情通に会って、情報を聞く
対価は『技術』だ
さっき調達させた武器に、UDCアースやSSWの技術で、改造を施す
完成品を売り込んで、聞き出すのは奴らが使ってた戦術だ


バルディート・ラーガ
ヒッヒヒ。どンな世界だろうとも、このテの吹き溜まりの空気は変わりやせンねエ。
ゴミに脂垢、鉄に血イの混じった酷エ匂い。呼吸がし易いッたらねエさ。

荒くれ共に交じりつつ、ミッション遂行に必要な情報を集めやしょ。
メカにゃ然程詳しくございやせンが、きちんと運用しようとなりゃア
弾薬に燃料にと中々に大食らい、すなわち相応の兵站も必要な筈です。
大口の流通を完全に隠し切るつーのはむつかしいでしょうぜエ。

さアて。商業ルートから足取りを辿ッて行く、となりゃ
このマーケット人脈をこさえていくのが近道でしょう。そこでこのUC。
何卒ご懇意にしていただけりゃアと思いやす。ヒヒヒヒ!


矢来・夕立
残り42時間て。

【エイリアス内部と周辺に地下道がないか】を調査。

攻め込む際に隧道を用意したものと見ています。
以降は物資の搬入や、監視を掻い潜っての出撃に使ったんじゃないですか。
隠された地下道があるなら、幹線道路を壊して困るのは攻め入る側だけです。
効率を考えると搬入口は複数ある。
忘れられたものなんかも、おそらくは。

聞き込みをする相手は古参。
国が国の体を作るより前からここにいるような奴なら、凡そ何にでも立ち会っているハズです。

あなた名前があるでしょう。
呼び名≪コールサイン≫でも、仇名≪エイリアス≫でも。
…それはもう、ただの記号ではなくなっているんじゃないですか。
訊いただけです。シゴトをしましょう。


玉ノ井・狐狛
※アドリブ・絡みなどお任せ

いわゆるアンダーグラウンドってヤツぁ、どの世界・どの国でも同じだ
何人死のうが、何がぶち壊されようが、「その状況を利益に繋げる」ために画策している第三者がいるもんさ

そういう魂胆をお持ちの、影の実力者サマを探す
裏社会の作法を踏まえて探りつつ、急ぎだからな、イカサマ(千里眼・賄賂)もアリだ

接触したら交渉
相手の目論見を言い当てて話の枕にでもして、
「外様の傭兵(猟兵)を抱き込めたほうが都合がイイんじゃねぇの?」ってところか

代価は情報でイイぜ
失踪したのはアタマと側近、つまり重役だろ?
なら、おたくほどのヤツがそこに網を張ってないワケがない

その札、アタシに賭けてみろよ
損はさせないぜ


御蔵・槙
違法マーケットかあ…
何か面白いパーツがないか気になるけど今は我慢…!
お金と言う名の浅草の駄菓子を握らせて、
路上生活者の子供に情報収集で聞き込みして回ろうかな

ほら、あるでしょ、子供が大好きな「ひみつきち」ってやつ
ああいうのを探してるうちに大人達が知らない抜け道とか、
もう使われてない古い道とか見つけることもあるんじゃないかなって

残っていた人達もまずプラント防衛を考えたと思う
でもそこに向かう道路が破壊され守備隊全滅ってことは
ウルフ・ハウンドは都市の外側から襲撃したんじゃなく
先にプラントへの抜け道を通り、
都市の中心部から守備隊を襲ったんじゃないかと思うんだけど、どう?


クルト・クリューガー
傭兵稼業で裏切りは御法度だ
信用と実力を売り買いする商売だからな
まぁ制限時間付きだ
さっさと終らせよう

エイリアス建国時にプラント襲撃に携わった奴を探す
接触し当時の情報を得ればプラント奪還に役立つはずだ
まぁ、そういう情報を持つ奴らをウルフ・ハウンドも放っておかないだろうし
本人も理解してるだろうからここに逃げ込んでる可能性は高い
刺客も送り込まれてるだろうから
あからさまに武装している剣呑な集団……キャバリアに乗ってればほぼ確定かな
そいつらをボコってターゲットがどこにいるか聞き出して保護する
その見返りとして情報を頂くとしよう
なに、雇われのごろつきぐらいならUCで大砲の一発でもぶち込めば大人しくなるだろうさ


神羅・アマミ
たった一代で自ら築き上げた王国をたった一夜で自ら崩壊へと導こうとする…此度の事件、確かにきな臭い!

元はならず者集団とあらば、未だウルフに反目し雌伏を続ける者もいるはず。
そこを前提にマーケットでは「反勢力による仕業の可能性」として住人からこの狂乱を引き起こし得る主要人物の情報を聞き出したい。
当該の人物に当たる機会を得られたなら、今度は逆に「ウルフご乱心、今こそ国家転覆の好機」という形で本命の有用な情報を引き出せたら御の字じゃな。

妾の見立てとしては、そもそもこのマーケットが廃棄された下水道に展開されている以上、至るところ蜘蛛の巣のように抜け道が張り巡らされているはず。
プラントへ至る道も必ずあろう!


忠海・雷火
見返りも持たない者の情報収集に、素直に応じる訳もなし
まあ、やれる事をやるだけね


武器は隠した上で、先ずは堂々と。危険そうな相手も含め、直球で訊ねて回りましょう
「裏道等、プラントに関する情報を知らないか」とね
情報入手の成否に関わらず、一通り訊き終えたら、怪しげな通路等に入り探索

と、ここまでが誘き寄せる為の演技
此処の知識もない素人が急に現れて、何か目的があり、しかもこっそり探索を始めたら……
誰かが排除に来るでしょう? 返り討ちにして情報を吐いて貰うわ
末端なら、吐くのは上の者の名前と所在だけで良い。其奴から同じように情報を得るから
中々吐かないなら、痛め付けて恐怖を与えUC使用。全て話すよう命じるのみよ



●00:00/タイムリミットまで、残り42時間
 『偽名国家エイリアス』は国であれど、それ程大きな国土を有しているわけではない。
 国土の総面積は精々が1200平方km程度。そこから軍事施設や防衛施設を除けば、人民に与えられた土地は更に狭くなっていく。
 だが、それはあくまで『表』の話。今から8人の猟兵たちが下っていくのは、エイリアスの地下深く、廃棄された下水道跡に広がる違法マーケット。
 そこに降りた猟兵たちの目に飛び込んできたのは、惨劇の傷跡生々しい『表』のエイリアスと比べて圧倒的に活気があり、とてつもなく広い地下道。
 人の気配を探すのに目を凝らす必要すらなく、地下だというのにそこかしこの照明のせいで眩しすぎる程に明るい。ここまでくれば最早『地下街』だ。
 そこかしこで怒号と笑いが行き交い、泥酔した酔っ払いが眠る道の隅っこは誰かの血で濡れている。
 女と酒がてんこ盛りの歓楽街のようであり、火薬の詰まった危険物倉庫でもあった。
 ここは地獄の四丁目。捨てられた人の住むエイリアスの更に底。買えないものは何もない、違法蔓延るマーケット。
 木の根のようにエイリアスの地下に広がる下水道跡は、まるで人の欲のように、先の見えない地獄のように、どこまでも果てが無く見えた。

「情報ってのは、様々な角度から集め、確度を高めて研磨しなきゃいけねぇ。取るに足らない与太話でも、そこには何かしらの価値がある。――――ッてな訳で、全員にこれを配っとく。時間がねえ、範囲が広い、集める情報が多角的と来たもんだ。リアルタイムでの情報共有くらい、しときたいだろ?」
「御託は良いんで、役に立つモンがあるならさっさとやって下さい。残り42時間しかないんですから、吞気してる余裕はないでしょう。いつもの軽口は無しですよ、端役さん」
「ヒッヒヒ。どンな世界だろうとも、このテの吹き溜まりの空気は変わりやせンねエ。ゴミに脂垢、鉄に血イの混じった酷エ匂い。呼吸がし易いッたらねエや。ところで先に一つお聞きしときたいンですがね、皆さん方はどう立ち回るおつもりでいらっしゃる?」
「空気に関しちゃ同感だね。そうさなぁ、いわゆるアンダーグラウンドってヤツぁ、どの世界・どの国でも同じだ。何人死のうが、何がぶち壊されようが、『その状況を利益に繋げる』ために画策している第三者がいるもんさ。アタシはそっち方面で遊んでくるぜぃ」
「元はならず者集団とあらば、未だウルフに反目し雌伏を続ける者もいるはずじゃからのー。妾はこの狂乱を引き起こし得る主要人物の情報を聞き出してくるわ。この事件は『ウルフに対する反勢力による仕業の可能性がある』とかって筋書きにして、この状況を利益につなげようとしてる第三者ってのを釣り出せたら御の字じゃな」
「それじゃ、私は路上生活者の子供に聞き込みして回ろうかな。ほら、あるでしょ? 子供が大好きな『ひみつきち』ってやつ。ああいうのを探してるうちに大人達が知らない抜け道とか、もう使われてない古い道とか見つけることもあるんじゃないかなって」
「リアルタイムでの情報共有に異論はないが、俺は一人でやらせてもらうぞ。エイリアス建国時にプラント襲撃に携わった奴を探す。接触し当時の情報を得れば、後々プラント奪還に役立つはずだ。探し方にも当てがある」
「そこの傭兵さんに同じく、私も一人で結構よ。武器は隠した上で、先ずは堂々と。危険そうな相手も含め、裏道やプラントに関する情報辺りを直球で訊ねて回ってくるわ」

 ――――だが、猟兵たちは臆さない。例え目の前に広がるのが果ての無い地獄であろうとも、彼らはめいめいに好きなことを言いながら、地下に広がる裏町に対して各々の力と策を以て挑まんとしていた。
 油断できない地獄など、彼らにとっては慣れたもの。先の見えない作戦など、彼らにとってはいつものことだ。
 深夜0時、タイムリミットは残り42時間。世界に弾かれた偽名の国のその奥底へ、世界を股にかける猟兵たちが挑む。


●02:00/タイムリミットまで、残り40時間
『――確かめてみたが、――違いねえぜ。世界蛇組も、Blue Hellも、どっちも――何者かに襲われて――――』
『最近――――照明の調子が悪いなァ』
『マジかよ。ウルフの奴が――――っていう上の事件に続いて、不穏――のか?』
 下水道跡のそこかしこで、情報の欠片が今もまた一つ降り注ぐ。
 この違法マーケット街に住むのは、『表』のエイリアスにも住めなかった札付きの厄介者。楽しみは飲酒に賭博、女にクスリ。
 しかしそんな悪事に身を埋めて生きてきた彼らだからこそ、自分の命に関わる『トラブル』の匂いにはめっぽう敏感であった。代用アルコールを嗜みつつも、彼らは今日も生き延びるための相談を行い続けている。
『間違いねえよ。今日だけでも――――やたらめったら上の奴等っぽいよそ者が増えて――ガキ共も逃げ出す算段付け始めてる』
『また酒代――――あのクソヤロウが――――』
『あの――噛み付いたら離さねえ、クソ生意気なクソガキ共が? ――――そりゃまずいな。俺たちも――地下深くに潜って――やり過ごした方が――――』
「ヘッ……ビンゴだな。だんだん地下道の生態系ってのが分かってきたぜ? 全員、ちょっと耳だけ貸してくれ。今から俺が掴んだ情報を共有する。地下の勢力図についてだ」

 そして、そんな荒くれ者たちが路傍に零した噂話に与太話、あらゆる会話を片っ端から拾い続ける男がいた。
 偽名の国の奥底に、ユーベルコード【Balor Eye】にてばら撒いたドローンを用いて、耳を凝らせば自然と聞こえてくるような情報を全て拾って自らの脳内で精査し、確度の高い情報だけを味方の猟兵全員に通達。
 そんな芸当が出来るのは、ストリート育ちの元フリーの非合法工作員しかいない。ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)という名を持つ男の仕業である。
彼は恐怖や警戒でバイアスやフィルターのかかってない情報こそが、最も街の内情を探るために必要なものであると知っているのだ。
「良いか? まず、この地下街を牛耳ってるのは二つの組織だ。一つ目は、『世界蛇組』。ウルフがエイリアスの王になって、プラントを奪ってからしばらくした後出来た――――まあ、暴力団みたいなモンだな」
 その後のヴィクティムの話を纏めると、こうだ。
 ウルフがならず者どもを自らの兵隊として纏め上げていく最中、ウルフの右腕、組織のNo.2に当たる人物が彼の強引なやり方に反発し、同じくウルフに付いていけなかった人物を引き連れ、荒れた地下街に悪法を敷いて闇市を開いた。
 エイリアスの地下に広がる違法マーケットの正体は、ウルフと袂を分かった人々の最後の砦だったという訳だ。
「とはいえ、世界蛇組が出来上がってから地下街のお行儀は良くなったって聞くところからすると、割合まっとうな組織なのかもしれねえがな。当然、違法マーケットの元締めもここだ」
 違法マーケットにおける世界蛇組の役割は、暴力と土地勘による支配。悪人たちを更なる悪法で締め上げ、最低限の社会性を生み出しているのがこの組織である。
「そんで、二つ目が『Blue Hell』。こいつらは最近エイリアスの外部から乗り込んできた――――お行儀の悪い闇商だ。『死の女神』だの『女王』って呼ばれてる女頭領が仕切ってる」
 世界蛇組がエイリアスの地下で悪法なりの平穏を生み出し、違法マーケットの商売が上り坂に差し掛かってきた頃、別の組織が入り込みはじめた。
 Blue Hellと名を冠した彼らは、それまで違法マーケット内でも堅く禁止されていた賭博や麻薬を大っぴらに自分たちのシノギにすることで成り上がっていった。
 違法マーケットにおけるBlue Hellの役割は、武器に火薬、物資と金回り。世界蛇組との一番の違いは、金を稼ぐ手段を選ばないことだろう。新顔故に、メンツに縛られず汚い手段を取れるのだ。
 二つの勢力は互いを敵視しながら、地下の利権をより多く掻っ攫うために日々いざこざを繰り広げているのだとか。

「ンで、この情報が一番重要だ。この二つの勢力だが、八時間前……つまり事件開始当時近くから、アタマが何者かに襲われてるってそこら中で噂になってやがる。ウルフが放った刺客かもって話だ。だとしたらくせえぜ、コイツら。ウルフが不利になる何かを知ってやがるとみて間違いねえ。そこら辺探ると、旨いスジに噛み付けるかもだ。共有終了、ご清聴ありがとさん」
 ヴィクティムの恐るべきところはここだ。
エイリアスの地下で拾える全ての会話の中から、たったの一時間程で『確か』かつ『次の行動に繋がる』情報だけを吸いだすなど、並の人間に、いや、並の猟兵にも出来ることではない。
恐ろしいまでの情報収集力と、それ以上の情報を整理する能力。それが彼の持つ武器だ。
「終わりました? 長電話」
「ああ、待たせたな。それで、そっちはどうだったよ」
「端役さんのように長話をするつもりはないので端的に言いますが、駄目ですね。エイリアスの本隊も、それに地下街の住民も、自分たちが使っている道のことしか知りません。末端から辿ってここの全容掴むの、多分難しいですよ」
「成程な……お前が言うなら間違いねえだろ、了解したぜ」
 猟兵たちへの連絡を終えたヴィクティムの傍らに、いつの間にやら影が一つ。音もなく照明の下に姿を現したそれを、人々は矢来・夕立(影・f14904)と呼んでいた。
 先ほどからエイリアス内部と周辺に地下道がないか調査していた夕立は、ひとまずの所感を共有するとヴィクティムに向き直る。 

「どう思います?」
「エイリアスの本隊含め、ここの奴らが知らなさすぎるってコトについてか? ……性格を悪くして考えるなら、情報統制だろうな。あまり直感には頼りたくねえが、ここの空気は何つーかそれっぽいとこがあるぜ」
「同感ですね。地下街にある何かを隠してるのがウルフって男なのか、それともここを牛耳ってる奴等なのかは分かりませんけど、ここまで地下道全容の情報が手に入らないのは異常です。裏で何十人か死んでてもおかしくないタイプの策謀ですよ、これ」
「ああ。意図的、かつ妄執的だな。ここまでのモンだと、動機の根源が善意なのか悪意なのかも分かりゃしねえ。自分の目でも見てきたんだろ? 所感を聞きてえ」
「設計図通りに作られたと思しき道だけに絞っても、南北に広く伸びたメインストリートを幹にして、多くの枝に分かれて細い道が何十に渡って存在してます。その後自然に出来た穴ぼこや、人力で開けられた抜け穴なんかも含めたらそれ以上。……それから」
「それから? 続けろよ」
「プラント方面に繋がる東側の道ですけど、そちら側はさらに複雑な構造になってますね。直進できる道が一つもない。付随して、東に進めば進むほどデカい壁が色んな道を塞いでます。オーバーテクノロジーっぽい出来でした。ゾンビ映画で見る、隔壁みたいにゴツいやつ。残り40時間で総当たりして、正解を見付けるのは無謀です。諦めた方が良いですね」
 実際的な足の速さと、実現可能な選択肢の取捨選択の早さ。それが情報戦における夕立の強みだ。
大量の情報を拾い上げて扱うことが得意なヴィクティムとは対照的に、彼は少ない情報から次の動きを絞る方が得意であった。二人の相性の良さは、言うに及ばずである。

「隔壁ね……それも気になるが、今はとりあえず置きだな。OK、自力でプラントへの道を当たるのは時間の無駄ってワケだ。設計図か地図が欲しいトコだが、持ってそうな奴に心当たりは?」
「……第一に、ウルフ・ハウンド。次に、ここの元締めを気取ってる奴等。取り締まる力は、取り締まる土地を知ってなきゃ行使できませんから。最後に、古参。国が国の体を作るより前からここにいるような奴なら、凡そ何にでも立ち会っているハズです。例え地図などを持ってなくても、頭に入ってる情報は欲しい。後、欲張るならストリートチルドレンにも話を聞きたい。抜け道に詳しいのは案外ああいう存在でしょう」
「同感だな。他の奴らは元締めを当たってるみたいだし、ストリートチルドレンについては槙に任せて良いだろ。俺たちは古株を当たるとするか。どうせ狙いは同じだろ?」
「ウルフ本人の情報はどうするつもりですか? 一応その方面でも調べておいて損はないと思いますが」
「そっちは既にエイリアスの本隊に手伝って貰ってる。任せておいて平気だと思うぜ。……ってトコまで含めて、一応全員に方針を共有しとくか」
「しゃらくさいですね、段取り良すぎて」
「褒め言葉として受け取っとくよ。最終的な絵図は『情報を持ち寄って再集合』ってトコかね。動くぜ」
「仕切らないでください」
話しながら、工作員は眩しい照明の中に消えていった。影もそれに追従する。次に彼らが現れるのは、場に全てのカードが揃ってからだろう。


●04:00/タイムリミットまで、残り38時間/N
 地下街のメインストリートを南下していくと、治安の悪い違法マーケットの中でも更に胡散臭い方面に出る。
スラム街の治安の悪さに、遊郭のような華やかさと外国人居留地の雑多さを継ぎ接ぎして出来上がったような此処こそが、裏商、Blue Hellの縄張りのど真ん中。その近辺、裏路地の一角で、今日も誰かの悲鳴が地下に木霊する。
「さアて――――どうです、四人目のお兄サン。そろそろあっしらと"オトモダチ"になりたくなッてきたンじゃァねェですかい?」
「うるせェ、何だ手前ら……! 世界蛇組の回しモンかよ、このバケモンが……! それとも、ウルフの刺客か……!? 誰が話すかよ……ッ! アアッ、ギャアアア!」
「意外と粘るのー。忠義モン……ってよりかは、これアレじゃな。親分からの仕置きが怖くて喋らねーだけじゃな」
「さっきドローン越しに聞いた感じじゃ、アタシらの相手はそんな感じだったモンなぁ。手段を選ばない裏商、Blue Hellッてったっけ?」
 いつもならば、また他所の女衒が女をパクりに来ただの、やれクスリに狂った男が薬売りを刺し殺しただの、どこぞの賭場でイカサマした奴がいるだので、『悲鳴をあげさせる』のはBlue Hellの手の者のはずだった。
 ただし、今日は違う。
「まあまあ、まアまアまア。そンなに怒っちゃァ体に毒ですよゥ。あっしらは猟兵、世界蛇組の手の内のモンでもウルフが放った刺客じゃありやせン。それに、何も兄サンに親分を裏切れッてンじゃァない。あっしらはBlue Hellの親分サンと逢ってお話がしたいだけでして、兄サンにゃ『親分と会える賭場』を聞きたいだけでさァ。どうです一つ、じーっくりと腰を据えてお話でも……」
「やめろ、もう近付くなァ! 俺にその腕を回すんじゃねえ! ギャアアアアアアア!!」
 現在進行形で『悲鳴をあげている』のはBlue Hellの下っ端で、『悲鳴をあげさせる』のは
バルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)と呼ばれる蛇であった。そしてその後ろに控えているのは、神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)と玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)。
事の次第を説明するには、ヴィクティムが猟兵達へ情報共有を行った際にまで時間軸を戻す必要がある。

「――――ははぁん、成程ねぇ。通りで往来にやたら身綺麗な癖にツラはひでぇ男どもがうろついてやがる訳だ。よっしゃ、アタシたちは商人の方行こうぜぃ。そっちの方が性に合ってそうだし、賭博と聞いちゃ黙ってられねぇや」
「構わんぞ! 影の実力者サマとやらを探したかったのは妾も同じじゃしな。つーわけで、妾も商人探しの方に乗ることにした! 情報集めするんなら、手下より頭目に聞いた方が手っ取り早いじゃろうしな」
「ヒッヒ、ならあっしもこちらにご同道させて頂きやすかねェ。メカにゃ然程詳しくございやせンが、きちんと運用しようとなりゃア弾薬に燃料にと中々に大食らい、すなわち相応の兵站も必要な筈です。大口の流通を完全に隠し切るつーのはむつかしいでしょうぜエ。商人の尾から捕まえちまいやしょ」
「おうおう、良いこと言うじゃねぇかぃ蛇の。つっても、裏社会の作法を踏まえて探りつつ、急ぎだからな。咎められねえ限りイカサマもアリアリで、接触したら交渉の手筈で進めていきてぇが、どうでぃ?」
「相手の目論見を言い当てて話の枕にでもして、本命の有用な情報を引き出そうって腹じゃな? たった一代で自ら築き上げた王国をたった一夜で自ら崩壊へと導こうとする王に、その裏で暗躍する地下の派閥が二つ……此度の事件、確かにきな臭い! これだけ臭けりゃ妾たちが付け入る隙はどっかにあるじゃろ、たぶん。知らんけど」
「ヒッヒヒヒ! いやはや、お二方とも実に頼もしいことで。それじゃァ僭越ながらこの蛇公も尽力いたしましょうかねェ。商業ルートから足取りを辿ッて行くとなりゃ、このマーケットに人脈をこさえていくのが近道でしょう。――――そこでこのUC」
「うお! 何じゃお前それ」
「炎の蛇ってかぃ、面白ぇの持ってやがらぁ。道案内は任せて良いって訳だな?」
「へェ、へェ、そりゃもう任せて頂ければ。こちら種も仕掛けもございやせんが、どんな相手とでも"オトモダチ"になることが可能なお蛇ちゃんでして。何卒ご懇意にしていただけりゃアと思いやす。ヒヒヒヒ!」

 ――――そして、時は現在に戻る。ラーガがユーベルコード【俄仕立ての友誼】によって、Blue Hellの男の肩へ回した腕から、満足な答えを得るまで男の肩をじりじりと炙り続ける地獄の炎の蛇を召喚して――――彼と、"オトモダチ"になったところからだ。
「わ……分かった……。喋る、何でも……賭場の場所も言うから、止めてくれ……」
「ヒヒヒ、そりゃよござんす。あっしも兄サンと仲良くなれて幸いでさア。さアて、それッじゃァ……。賭場の場所を教えて頂くついでと言ッちゃアなンですがね、クダンの場所まで兄サンに直接案内なんぞをお願いしても宜しいですかねエ? あわよくば、その後親分サンにお話通して頂くトコまで願いたいンですが」
「な――――ッ、無理だ! こんな危険な状況でそんなアブねえことしたら、俺が姐さんに殺されちまう! 場所を教えるまでって話じゃ――――?!」
「いやいや、アタシたちは最初に言ったぜぃ? 『親分と会える賭場を聞きたい』ってなぁ。そこを履き違えてもらっちゃぁ困る」
「そういうこったのー。賭場の場所だけ教えてハイとんずらなんてかまされちゃたまらんし、妾たちがその姐さんとやらに逢えるまでの渡りは付けてもらいたいんじゃが? 『猟兵様ご一行』みたいに派手な紹介よろしくの」
「あ……え……? は、はは、はははは……」
「さアてどうですかねエ、兄サン。"オトモダチ"の話、聞いてくれると助かるンですが……? ヒッヒヒヒヒ!」
 蛇に囚われたBlue Hellの構成員にさしたる罪はない。彼はエイリアスの地下で必死に生きるため、自分の頭で考えてBlue Hellに付くことを選んだのだから。
自らが生きるために麻薬の売買にも手を染め、最近違法の運営にも手を染めた。しかし、この街ではそんなことは罪になどならない。ここは偽名の国、エイリアスの地下深く。罪だの罰だのという概念は、既に悪法によって捻じ曲げられている。
それでも彼の罪を強いて言うならば、――――蛇に目を付けられてしまったことこそが罪であったと言えるだろう。


●04:00/タイムリミットまで、残り38時間/S
 ところ変わって、同時刻。
地下街のメインストリートを北上していく二人の猟兵が、別の裏道から同じ広場へ辿り着いていた。南とは対照的に、こちらは異様なまでに厳かな雰囲気がある。まるで生者など誰もいないように静かであった。
「偶然ね。……いや」
「……ああ。コイツはどうやら誘われたな」
「よォ、そこ行く兄ちゃん姉ちゃん。アンタらカタギじゃねえだろう。どこの差し金でここまで来た? ここは世界蛇組の庭だぜ」
 忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)の作戦は実にシンプルなものだった。彼女は何の嘘偽りもなく、先の言葉通りに武器を隠して堂々と聞き込みを行っていたのである。
聞くことはただ一つ、『裏道等、プラントに関する情報を知らないか』ということ。対象を選ぶこともせず、道で会う人全員にそれを聞いて回っていた。しかし、当然ながら雷火が期待するような情報は出てこなかった。
一通り訊き終えた後、人気の少なそうな怪しげな通路に自ら単身で入り探索を行っていた彼女は、いつの間にやらここまで辿り着いていたという訳だ。

「不都合かしら?」
「いいや、手間が省けた。むしろ好都合だ」
「まさかBlue Hellの奴らじゃねえよなあ? まあ、どこの誰だろうと痛い目見て帰っていただくことには変わりねえんだけどよ」
対して、クルト・クリューガー(なんでも屋「K.K&Bogey」・f30011)の作戦はこうだ。エイリアス建国時にプラント襲撃に携わった奴を探す。単純かつ無駄のないコンセプトで構成された作戦は、ヴィクティムからの通信でさらに強固なものになった。
『世界蛇組が生まれたのは、プラント襲撃の後』。『世界蛇組の組長は、ウルフの元右腕』。その二つの情報によって、クルトはこの街で尋ねる相手を定めた。即ち、世界蛇組の組長だ。この街で確実にプラント襲撃時の情報を持っているのはその人物しかいないためである。
そして彼は世界蛇組の本拠地を目指して北上を続け、この裏道の先にある広場にまで辿り着いたという訳だ。

「そこについては同感だわ。やれる事をやるだけね」
「まぁ、制限時間付きだ。さっさと終らせよう」
「……それともまさか、テメエらもウルフが放った刺客かァ……? オヤジのタマ取りに来たなんて抜かしてみろ、テメエら半殺しじゃ済まさねえぞ」
しかして、そんな二人へ既に世界蛇組は目を付けていた。片や臆さずプラントについての情報を集め始めた素人と思しき女。片やキャバリアに搭乗したままの戦車乗りと思しき男。そのどちらも世界蛇組に接近してくる人物としては放置できない異質な存在だ。
故に、世界蛇組は雷火とクルトをひとところに集め、一気に包囲して排除する作戦に出た。敵の数はキャバリアが一機、生身の戦闘員が四人。
「お互い好きにやるという想定で良かったか?」
「それでいきましょう、まだお互いの手札も分からないものね。お手並み拝見」
「あのなあ……テメエら、俺らの話聞けやァァァァ! お前らァ、やっちまえやァッ!」

 ――――だが、世界蛇組の手のものはまだ知らなかった。
雷火がこの街においては見返りも持たずに情報収集に素直に応じる人などいないだろうということを理解して、自らを排除しに来るだろう『誰かを誘き寄せる為の演技』を行っていたことを。
クルトが最初から、キャバリアに搭乗しているなどしてあからさまに武装している剣呑な集団をボコって、ターゲットがどこにいるか聞き出して保護しようとしていたことを。
「生身の相手は頼む。俺の武装じゃ殺しちまう」
「了解よ。『誇示して』、『話し合いに持ち込む』流れね」
「そういうことだ。相手のキャバリアは俺がやる」
「さっきからアニキの話も聞かずに何ごちゃごちゃと言っとんじゃ姉ちゃん! もろた――――ア――――?!」
「命は取らないから安心しなさい。返り討ちにして情報を吐いて貰うわ」
 敵集団を指揮している兄貴分と思しき存在が下した発破によって、四人の戦闘員が手元の拳銃によって同時に雷火へと発砲を開始した。四つの鉛玉はそれぞれ別の方向から雷火の頭部に向かって飛び――――。
 一つは雷火が繰り出した右足の強い踏み込みと上半身の屈みによって躱され、一つは彼女の装備の一つである骸刀『焔喰』の切っ先によって弾道を逸らされ、一つは雷火が繰り出した打ち下ろしによって空中で真っ二つにされ、最後の一つは鋼膜細胞によって強化された彼女の左手の中で握りつぶされていく。
「銃弾を――――!?」
「――――バケモンかよ?!」
 そのまま雷火は戦闘員たちが呆気に取られている一瞬の隙をつき、更に身を屈めながら戦闘員の中でも権力の高そうな人物に向かって飛ぶように走る。
その際に、左手で握り込んでいた銃弾を狙いの人物の前歯目がけて咄嗟に投げ込むのも忘れない。命中確認。前歯は歯の中でも神経が太く、痛覚が鋭い人体急所の一だ。
「――――ギャッ!」
「ここまでよ。全員動かないで」
 思わぬ防御と思わぬ反撃を受け、雷火の思うままに怯んだ敵の一人は今、その首元に彼女の持つ短刀を押し当てられている状態にあった。雷火は見事な体捌きによって、瞬く間に敵の一人を人質に取って見せたのである。

「な――――ク、クソが……ッ! すまねえ、タカ……! オヤジの元には行かせねえぞ、ウルフの犬どもがァ!」
「アニキ……! 俺は良いです! 俺に構わず、やっちまってくだせえ!」
 普通であれば、雷火が敵の一人を人質に取った時点で戦闘は終了するはずだった。しかし、敵はどうやら相当切羽詰まっている様子。
人質を守ることよりも、目の前の外敵を排除することに重きを置いた行動を選んだ敵は、搭乗している量産型キャバリアの手法をクルトへ向けた。
「おいおい、部下が人質に取られてるってのに――――Bogey、仕事だ」
「死ねやァァァァァ!」
 敵の主砲が放たれる寸前、クルトは即座に乗騎の右脚のみを折り畳んで左脚の車輪のみを思い切り吹かす。するとどうだ、彼の機体は敵の放った砲弾を回転するようにして寸での所で躱してみせるではないか。機体を一回転させた後は、お互いの位置関係が元通りになるというおまけつきである。クルトの駆るキャバリアの主砲は、既に敵の胴体を完全に捉えていた。
「次弾発射の時間なんざ与えねえぞ。てめぇは一発で終わらせてやる」
「やってみろやァ! 俺のキャバリアは追加装甲仕様なんだよ、量産型キャバリアのしょべえ砲弾なんざ何発食らっても無駄だっつーの!」
 そして、クルトのキャバリアが弾を放つ。
それはつまり、彼の幻想【オーバーフレーム換装】によってキャノンフレームに変形したキャバリアの攻撃力を5倍にして放たれた大砲が、敵キャバリアのコクピット上部の追加装甲のみをブチ抜いて、敵キャバリアのコクピットを丸裸にして見せたのと同義であった。

「……は?」
「言ったろ? ――――時間が惜しいってよ。それで、どうするんだ? おとなしく降伏して知ってることを全部話すか、それともここで無駄に痛い思いをするかだぜ」
「もしもあなた達が末端なら、吐くのは上の者の名前と所在だけで良い。其奴から同じように情報を得るから。吐かないならそれでも良いわ。全て話すよう命じるのみだから」
「……テメエら……何もんだ? マジで……。Blue Hellの連中でもねえ、ウルフの刺客でもねえ……。……降伏するからさっさと俺の部下を解放してくれ。もう逆らわねえよ……」
「私たちは猟兵よ。さっき見せた彼のチカラと、今から見せるチカラがその証拠。『3つの口にて囁く虫よ。揺らぐ心を惑い狂わせ、我が意の下へ導け』」
 純粋な戦闘力で負かされた世界蛇組の戦闘員たちに、雷火が見せたもの。それは彼女の幻想のチカラ、【憑依召喚・蠱虫之傀】である。
 召喚系列の術の一つであるそれは、戦闘員たちが雷火へと抱く恐怖の感情を餌にして現世に昆虫型UDCを顕現させるユーベルコードだ。
「末端でも、ウルフが地上で行った事件の話くらいは聞いてるよな? 俺たちはウルフのプラント破壊を止めに来た。そのために、お前らの親玉が持つ情報が欲しい。例えばここの地図だとか、プラント簒奪の時の話だとかな。おとなしく手を貸すってんなら、保護もしてやる。その見返りとして情報は頂くがな」
「彼の言う通り。協力してくれるなら危害は加えないわ。でも、覚えておいて。あなた達はもう私に恐怖の感情を抱いた。これで私はいつでもあなた達を傀儡にできる。あなた達が私に危害を加えようとしたその瞬間、耳からこの虫たちを侵入させてね」
「猟兵……ッ!? マジかよ、存在してたのか……! 希望の存在だって聞いてたからよ、俺はてっきり御伽話だと……。……分かった。俺の権限で、アンタら二人をオヤジに逢わせてやる。正式に、客人扱いってことにしてな。その代わり、もう弟分たちはここで離してくれ。俺はもうアンタらにビビりまくりだ、人質は俺一人がいれば良いだろ? それとも、危害を加えないってのは嘘なのかい?」
「……いいや、傭兵稼業で嘘だの裏切りは御法度だ。信用と実力を売り買いする商売だからな。約束しよう。そっちが俺たちを裏切らない限り、身の安全は保障する」
「そうね、良いでしょう。少し過剰なパフォーマンスだったことは謝罪するわ。これからは、正当なビジネス相手としてよろしく」
 敵に自分の角の違いを見せつけ、相手の牙を折る。交渉でも、取引でも、賭け事でも、戦闘でも、イニシアチブをとる上で重要なことだ。
クルトと雷火はたった二人でそれを成し遂げ、世界蛇組の組長とのコネクションを結ぼうとしていた。大成功と言って差し支えない活躍ぶりであろう。


●07:00/タイムリミットまで、残り35時間
「――――それで? お前らかい、私に会いたい奴らってのは」
「おうとも。アンタかぃ、ここいらの地下街の賭場の元締めこと、Blue Hellの女王サマってなぁ。逢いたかったぜ」
 ラーガが現地で作った"オトモダチ"に連れられて、三人の猟兵がやってきたのは、エイリアスの地下街の最南端。Blue Hellのお膝元の賭場であった。
 そこで彼らを待ち構えていたのは、Blue Hellの女頭領。直接的な戦闘力こそ持たないが、手段を選ばない海千山千の切れものである。
「如何にもさ。……で? 『猟兵様ご一行』が、私に何の用向きだい。まさか仲良く茶をシバきに来たわけじゃないだろ」
「ヒヒヒ、コイツは話が早くて助かりやす。有り体に言やア……あっしらはね、情報が欲しいんでさア。もう女王サマのお耳にゃ入ってるコトでしょうが、ホレ。ウルフがこの近くのプラントを狙ってるってヤマの解決が、アッシらの目的でしてね」
「そのために、例えば……『地下街の地図』だの『ウルフの狙い』だのの情報が欲しいってかい? ――――悪いが、お断りだねえ」
「……一応聞くが、その理由としてはアレかの? 妾たちに情報を渡すことが、お主の儲けにならんからか?」
「その通り。っていうか、それ以外の理由がないし、これ以上この事件に私らは旨味を見出せてないんだよ。ウルフがプラントを破壊したとして、私たちは別段大きく困りゃしないしね。早いとこおさらばしたいのさ」
「ああ? どういうことじゃ、今の言葉。『ウルフご乱心、今こそ国家転覆の好機』とか考えちゃっとる感じかの? もしくはプラント事件に乗じて世界蛇組を地下から排除し、一気に地下の勢力図を塗り替えようとしとるとか?」
「…………ふふ。私から情報を引き出そうとしてるね、お嬢ちゃん。まあ簡単な話だよ、私たちはあくまで外部から最近ここに来た存在だからね。世界蛇組に比べれば、まだエイリアスもプラントも諦めも付くだけって話さ。悪いけど、話はここまでにしてくれるかい? さっさと逃げる算段を――――」
「――――しゃらくせぇなぁ、女王サマ。噂に聞いてたお行儀の悪さってなぁどこに行ったんだぃ? アンタも賭場の元締めならよ、ここらで一丁欲を出してみねぇか?」

「……何が言いたいんだい?」
「アンタは商人だ。しかも、超が付くほど一流のな。アンタ程の人が、『今の状況を利益に繋げる』ってことを考えないとはアタシにゃ思えねぇ。――――プラントっつう金の生る木を、命惜しさにむざむざ捨てる気かぃ?」
「…………フン。いくら猟兵とは言えど、この状況じゃプラントは切るしかないだろ。期待するだけバカのやることさ」
「いいや、巫女狐の嬢ちゃんの言う通り! もしもハナっから全部諦めてたって言うんなら、どうして妾達との話し合いに形だけでも応じたんじゃ? 損切りなんて格好いいことを言っておいて、実際は未練が残ってるのが透けて見えとるってモンじゃぜオイ!」
「ヒヒヒ! 確かにそうかもしれやせんねエ。何でも、商人ってのは常に『もッとこうすれば得できたのに』と考える方々でいらっしゃるとか? そうだとすりゃア、一攫千金のチャンスに自ら背を向けなきゃならねエ今の状況はさぞかしお辛いでしょうなア」
「チ……。いいや、それでも不確実な儲け話には乗れないねえ。私も頭領やってんだ、最低でも『地下街の地図』と『ウルフの変貌の理由』、それからそもそも『本当にプラントへの地下道は存在するのか』くらいの勝算が分かってないと、構成員に示しが付かないよ。コトはそれくらいヤベえ話なんだ」
「――――それじゃこの商談、アタシらが確実に儲かる賭けにしてやろうじゃねぇか。賭けようぜ、地獄の底の女王サマ。逃げの算段を打つかどうか決めるなぁ、あと三時間だけ待ってくれやしないかぃ?」
「……良いだろ、話だけ聞いてやろうじゃないか。勝敗の、条件は?」
「今から三時間だけ待って、アタシらの手元にアンタを納得させるだけの情報って手札が揃えばアタシらの勝ち。手札が揃わなきゃアタシらの負けだ。その時はアタシらをウルフからの刺客に対する護衛にでもなんでも好きに使いな。どっちに転んでも、アンタにゃ猟兵とコネが出来る。外様の傭兵を抱き込めたほうが都合がイイんじゃねぇの?」
「ふん……待ちなよ。アンタらが勝った時は? 何が欲しいんだい」
「代価はアンタの隠してる情報でイイぜ。失踪したのはアタマと側近、つまり重役だろ? なら、おたくほどのヤツがそこに網を張ってないワケがない。――――その札、アタシに賭けてみろよ。損はさせないぜ」
「……私も随分煽られたもんだねえ。……クク、良いだろ。キッカリ三時間だ。それ以上は待たないよ」
「ギャハハハハ! そうこなくっちゃ話が始まらんからの! 吠え面かくんじゃねーぜ!」
「ヒッヒッヒヒ! コイツは面白エ、ここまで来た甲斐があったッてモンでさア!」
「良いね、めでたく賭け成立って訳だ。それじゃ、三時間じっくり待つとしようかぃ。いずれ来る勝利への札って奴をね」

 手強い相手に狐狛が斬り込み、アマミが噛み付き、ラーガが追って、最後に彼女らが繰り出した最後の切り札は、『猟兵』そのものをチップにした博打であった。
 入場料を何とか支払って、テーブルには付けたという形。ここで勝つには一転狙いの大勝ちしかないという状況だ。
狐狛たちの手の中で良い役柄が出来るかどうかは、他の猟兵たちの手にかかっている。


●08:00/タイムリミットまで、残り34時間
「違法マーケットかあ……。何か面白いパーツがないか気になるけど今は我慢……! 狐狛さんたちからの連絡だと、『本当にプラントへの地下道はあるのか』ってことをあと二時間以内に確認する必要がある訳だし……うん、やっぱりこの手に頼ってみよう! ねえ、君たち! ちょっと聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
御蔵・槙(矢絣探偵・f27805)は、エイリアスの地下街を単身で駆け回っていた。北にも南にも向かわず、彼女が探しているのはいわゆる『ストリートチルドレン』。
プラントへの地下道の有無の確認や、実際の襲撃についての敵の手順などを調査するためにも、彼らのようにこの地下街で生きるために目耳を毎日必死で凝らしている者たちの助けは必須であると考えたのだろう。多角的な情報が手に入るかもしれない、良い手法だ。
「なんだよ姉ちゃん。誰? ってか、ここの人じゃないでしょ」
「変なカッコ。何その服、走りにくそう」
「もうっ、変な格好じゃないよっ。これはね、矢絣の着物って言うんだ! サクラミラージュじゃ、ハイカラ女学生定番の服なんだから」
「ふーん……。俺たち忙しいんだけど、なんか用? もう行って良い?」
 しかし、彼らの反応は一様に冷たい。恐らくは彼らが育ってきたこの街の環境による影響が大きいのだろう。だが、それでめげる槙ではない。
「待った! ふふん、何も出さないで質問しても君たちが釣れないのは想定内だよ! これでどうだっ!」
「え……。なんだ、これ」
「きれい……」
「良い匂い、する……」
 そう言いながら槙が彼らストリートチルドレンに握らせたのは、お金――――と言う名の浅草の駄菓子であった。色とりどりの金平糖や、素朴な甘さが優しいあんこ玉に羊羹などなど、彼女は自分の世界から多くの駄菓子を持ち込んできていたのである。

「っ、馬鹿! 余所者から貰ったモンなんて食っちゃダメだ、早く捨てろよ!」
「で……でも、兄ちゃん……。俺、これ捨てるのやだよ……。だって、こんなにきれいで甘い匂いの食べ物なんて、地下で初めて見たのに……」
「……~~ッッ、この馬鹿ッ!! 仕事もしないで食べ物が食えるなんて旨い話、地下のどこにもねえんだッ! 余所モンの大人から貰った毒入りの団子食って死んじまったマサ兄のこと忘れちまったのかよッ!」
「――――大丈夫。毒なんて入ってないよ、ほら! それにね、私、君たちに仕事をお願いしに来たんだ。その仕事をこなしてくれたら、もっと今みたいなの挙げられると思うんだけど、どうかな? 君たちみたいな子供だからこそ知ってる、いろんな噂を教えて欲しいんだ」
「えッ……?」
 プラントという恩恵があるにせよ、エイリアスの地下で生まれ、地下で育ってきた子供である彼らにとっては、駄菓子どころか甘いものを食べるということを経験したことすら数えるほどしかなかったはずだ。警戒心も非常に強い様子である。
 故に、槙は自分で持参の駄菓子を食べて見せながら子供たちへ仕事の依頼を行っていく。彼らに正当な仕事を依頼して、正当な報酬として、『お金』という名の駄菓子を渡すつもりなのだろう。
「にいちゃん。おれ、仕事、うけたい」
「そうだよ兄ちゃん! いつも俺たちの代わりに食べ物を盗んできてくれる兄ちゃんに、今度は俺たちが甘いもん分けてやるからさ! 知ってるんだぜ、兄ちゃんがいっつも腹ペコのクセに俺たちに食べ物分けてくれてるの!」
「……どうかな? もちろん君が嫌だって言うなら、私も無理強いはしないよ」
「……皆の分、あるか? コイツら以外にも、まだいるから」
「うん、もちろん。いっぱい持ってきたんだ。アルバヰトに励むハイカラ女学生の懐事情を舐めないでよね」
「…………なら、俺も受ける! 何が知りたいんだよ、ヤガスリの姉ちゃん! 俺たち何でも答えるからさ、何でも聞いてくれよ!」
 恐らく、槙が子供たちにただ駄菓子をばら撒いていただけならば、ここまでの彼らの助力は得られなかったことだろう。駄菓子を『お金』に見立てて正当な報酬とし、正当な労働としての情報収集を彼ら子供に依頼したということが、彼らの琴線に触れたのだ。

「よーし、それじゃちゃきちゃきっと聞いてってこうかな! ねえ、皆はもう地上で起きたウルフって人の事件は知ってる?」
「知ってる! っていうか、それもう地下でも持ちきりの話だもん」
「ふむふむ、やっぱりそうなんだ。で、聞きたいのはここからでね? 私考えたんだけど、あの日エイリアスの本隊が出払っていったあとってさ、エイリアス内に残っていた守備隊の人たちも、その間の外敵に備えてプラント防衛を考えたと思うんだ。でも、そこに向かう道路が破壊されて守備隊全滅ってことは……」
「あー、多分俺分かった。姉ちゃんが聞きたいのって、ウルフは都市の外側から襲撃したんじゃなくって、都市の中心部から守備隊への襲撃を開始したんじゃないかってコトでしょ。うん、姉ちゃんの推理で合ってるよ。俺、その時チビたちの飯を取ってくるために丁度地上に上ろうとしてたから見てたんだ」
「そうそう、そういうこと! それでね、ここからが大事な話で。その時、都市の中心部から守備隊を襲撃したウルフ・ハウンドたちってどうしたか分かる? どこに向かって、どこを通ったとか」
「んー、俺が戻ったのはウルフたちが全員地下に引っ込んでからだったからなあ。誰か分かる奴いる?」
「あ。おれ、それわかる……。にいちゃん、あの道のこと、言ってもいい? おれ、あそこをウルフたちが走ってくの見た」
「……うーん、そうだな。多分、姉ちゃんなら大丈夫だろ。俺が話すよ。姉ちゃん、今から話すことは姉ちゃんが信頼できる人にしか話さないで欲しい。俺達の生命線の話だから」
「分かった。大丈夫、信頼できる人にしか話さないよ。君たちの大事な情報だってことも伝えるから、任せて」
「ありがと。……ウルフたちが通ったのは、俺たちの秘密の抜け道の一つだと思う。正しいスイッチを順番に押せば開くデッカい壁とか、そういう奴。普通の大人たちは知らないけど、俺たちそういうの一杯知ってんだ。ストリートチルドレンにレンメンと受け継がれてきた、ヒゾーのチエって奴」
「わあっ、それってすごいじゃない! 襲撃後の移動ってところから考えると、ウルフ・ハウンドが通った秘密の抜け道っていうのがプラントに繋がる道なのかな?」
「うーん……多分そうだと思うけど。正直、俺たちもそんなに地下街から離れすぎる方に行ったこと無いからなあ。奥に行ったところで食べ物もないし」
「ふむふむ、ってことはやっぱりウルフ・ハウンドはこの地下街の地図なり設計図を持っていて、それを用いてエイリアスの地下街からプラントまで移動していた……ってことだよね。追うためには地図が必要不可欠……っと。ありがと、皆! 私が知りたいこと、ひとまず分かっちゃった。はい、報酬!」
「やった! ありがとう、ヤガスリの姉ちゃん! 姉ちゃんの仕事ならまたいつでも受けるぜ、俺達!」
「それでね、もしかしたらまた皆の話を聞きに来るかもしれないから、少しの間ここで待っててくれる? 皆の抜け穴の知識がもっと役に立つ時が来るかもなんだ」
「それじゃ、俺はここに残って姉ちゃんを待ってるよ。チビたちはこの食べ物持たせて一回拠点に帰らせたいんけど、良いかな? 拠点で待ってる奴らにも、早く食べさせてあげてえんだ」
「全然おっけー! さっぱりきっぱり江戸っ子女学生はその辺の融通も利くのです。それじゃ、また後でね!」
「おう! ありがとな、姉ちゃん! 甘い食べ物、皆で大事に食べるからさ!」


●09:00/タイムリミットまで、残り33時間
『――――ってことで、子供たち経由でプラントまでの地下道の存在は確認したよ。襲撃後の移動の話だから、間違いないと思う』
『こっちの首尾も上々だ。世界蛇組からの協力を取り付けて、下水道跡の設計図……というか、地下街周辺の地図も手にいれた。随分と昔のモンだからどこまで使えるかは疑問だが、図にはプラントらしき構造体が収まるだろうスペースも記されてる』
「了解だ。槙もクルトも、良い情報だぜそいつは。狐狛たちにも共有しとく。今状況が一番気になるのはあいつらだろうからな。槙、後でクルトが手にいれた設計図を子供たちに見せてやってくれ。使える秘密の抜け道とやらがどれくらいあるのか確認して、地図をアップグレードしておきてえ」
『そうなるかもと思って、子供たちのまとめ役は呼び留めてあるよ! 地図のデータを確認したら、子供たちに抜け穴の確認を依頼するね』
「ハッハー、良い手際だ! ナイスだぜ、槙!」
『ハッカーさん、上機嫌のところ悪いのだけど、私からも一つ良いかしら。プラント簒奪時の作戦について、世界蛇組は何も知らなかったわ。当時ウルフの右腕だった組長さんが詳細を知らないんだから、相当なものよ。実際、プラント簒奪の後からウルフは意図的にこの街の情報をシャットダウンするようになっていったとか』
「了解だ、そっちについては俺も当たってみる。俺と夕立も今交渉の真っ最中でな、あとすこしだと思うんだが……お。来た来た」
「オレを使いッ走りにするとは良い度胸ですね。高くつきますよ」
「ツケといてくれ。エイリアスの奴らに頼んでた仕事だったが、更に急ぎになっちまったろ? お前の足のが速いだろうと思ってな。取ってきてくれて助かったぜ。……さて、待たせたな、爺さん。再交渉の時間だ」

 雷火とクルト、それに槙からの報告を受け取って、ヴィクティムは夕立が持ってきたという筒状の何かを手に目の前の老人に向き直る。
二人の猟兵の前に鎮座するこの老人は、違法マーケットで最も古株の事情通だ。国が国の体を作るより前からここにいる、大凡この国の何にでも立ち会っていると思しき人物である。
「また来たかよ、坊主ども。言ったはずだぜ、帰んな。俺が興味を惹かれるようなもんを出さない限り、テメエらに情報は売らねえよ」
「分かってるよ爺さん。だから、今度はコイツを持ってきたんだぜ。ちょっと見てくれや」
「……こりゃオメー、ただのRSロングレンジライフルだろうが。……あ? ……ンだ? このライフリング……。しかもオイオイ、何だこの重量? 滅茶苦茶軽いじゃねえか。チッ、何かと思えばオモチャかよ。笑わすな坊主」
「そう思うなら、試し撃ちしてみれば良いんじゃないですか? トリガーは人力で引けるようにしてます。合金的も持って来てますよ。正確に言うなら持たされてきた、ですけど」
「オモチャの銃を振り回して喜ぶような歳じゃねえのに、その上何が哀しくて穴も開かねえ合金なんざ撃たなくちゃならねえんだよ、チッ……。これで何もなかったら、お前ら覚悟――――うおおッ!?」
 夕立とヴィクティムに言われるがままに老人が構えた、キャバリア用の装備とは思えない重量の銃器。その銃口から放たれた一撃は、目に見えぬほどの弾速で以て合金の的に大きな穴をあけて見せた。

「坊主ども――――こりゃ――――なんだよ?」
「――――爺さん、俺たちが出す対価は『技術』だ。俺がさっきここで調達させた武器に、別世界の技術で改造を施した。宇宙で使われてる技術だの、幻想だ邪神だのを射殺せる技術の結晶だよ。アンタが俺らに情報をくれるなら、この完成品をくれてやってもいい」
「……面白え。興味湧いてきたぜ、お前らにな。乗った。何が聞きてえ」
「ウルフたちがプラント簒奪の際に使ってた戦術だ。知ってるか?」
「ヘッ! 俺ァ奴らがガキの頃から面倒見てたんだ、当然よ! ……プラント簒奪作戦の時、当時のウルフは単身で下水道跡へ潜入してった。部下も連れずに、たった一人でな。プラントの内部に潜り込んで、中の奴らを皆殺しにするって作戦だったらしいが……。結果的に言えば、その作戦はきれいさっぱり無くなった」
「あ? どういうことだ? 失敗したってのか」
「いやあ、そうじゃねえ。どうもウルフは作戦の最中に何かに気付いて、もっといい案を思いついたらしいんだ。その良い案っていうのが、【プラントの近くにある何かの施設を人質に取ることで】、とある国からプラントを丸ごと無傷で奪い取る――――ってモンだ。そして、アイツはマジでその作戦を一人で成功させちまった。その施設が何かってのは俺も知らねえけどな」
「ふゥん……? なんだ? プラントじゃない、別の施設を……? 雷火、プラントの周辺に何かもう一つ別の構造体はあるか? 地図で確認してみてくれ」
『地図には……。確かに、プラントに隣接して何か大きな施設があっただろうスペースは確認できるわね。でも、詳細は不明よ』
「了解、ありがとよ。嘘は言ってないみてえだな、爺さん」
「当然だろ。交渉で嘘を言うほど耄碌しちゃいねえ」

「オレからもいくつかあります。エイリアスの内部と周辺に地下道がないか、答えてください。エイリアスの地下ばかりが取り沙汰されていますが、この地下道、本来はもっと大きいものだったんじゃないですか?」
「ほォ……。坊主、どうしてそう思う?」
「奴らの手口を考えれば、妥当なところでしょう。オレはウルフたちが他の国へ攻め込む際、隧道を用意したものと見ています。そして、以降は物資の搬入や、もしくは外部からの監視を掻い潜っての出撃に使っていたんじゃないですか? 隠された地下道があるなら、幹線道路を壊して困るのはオレたちだけですから。効率を考えると搬入口は複数ある。忘れられたものなんかも、おそらくは」
「……答えは、イエスだ。だが、もしもウルフがプラント爆破だけを目的にしてやがるってんなら……そのほとんどは、もう潰されてるだろうな。ウルフは周到な野郎だ。理由も無しにお前らの追撃を許す道を残しているような奴じゃない。……ただ」
「ただ? 何です」
「もしもウルフがお前らの追撃を許すような道を残しているとすれば、それは十中八九『理由があって』のことだ。身内にはとことん甘いが、敵を殺す時は狡猾、非情、効率重視。それがウルフ・ハウンドって男だからな」
「……爺さんの今の発言は、確かにエイリアス本体の奴らから貰ったウルフの印象データとも一致してる。随分と恐ろしい奴だったみたいだな、ウルフって男は」
「端役さん、プラント方面の道で今も生きてるのがあるかの確認って今できます?」
「ちょっと待っとけ、槙に聞いてみる。槙、ウルフが抜け道を潰してないか確認頼めるか?」
『今丁度その連絡をしようと思ってたところ! さっき確認したけど、そういう話は聞かないなあ。っていうのも、道を潰す時は多分爆薬とかを使うはずでしょ? 子供たちがそういった衝撃音を聞いてないみたいなの』

「爺さんの言う通り、ウルフは何か理由があって道を破壊していない……ってコトですか。もう一個話してもらいますよ。ウルフ・ハウンドという男がこの事件を起こした理由について。言い換えるなら、ウルフ・ハウンドって男が変貌した理由について。思い当たる節は全部出してください」
「……そうだな。一個だけ、思い当たる節がある。事件当時、ウルフが長く使ってた自分の乗騎を新型に交換したことは知ってるか? 何でもその新型とやら、悪名が付くほどの性能だったらしくてな。攻撃目標に確実な死と破壊をもたらすことから、付いたあだ名が『モノクロ・ゴースト』。……コイツが、オブリビオンマシンだった可能性がある」
「オブリビオンマシンって、アレですか。搭乗者を破滅的な思想に狂わせるってやつ」
「敵にとことん容赦のない、狡猾で効率重視の男が、破滅的な意思に支配されたなら……か。そりゃあ最悪だな。大量殺戮にはもってこいの人材の出来上がりって訳だ。OK、狐狛に連絡しよう。札は揃ったぜってな」


●10:00/タイムリミットまで、残り32時間
 エイリアスの地下の様々な場所で、猟兵たちは多くの情報をかき集めてきた。
 地下の勢力図から始まった情報収集は、今やクライマックスに差し掛かろうとしている。
 クルトと雷火が世界蛇組から手にいれた地下の設計図。
槙が子供たちから聞きだした、プラント方面に繋がる秘密の抜け道の存在。
ヴィクティムと夕立が地下で一番の古株から『技術』と引き換えに引き出した、ウルフのプラント簒奪の際の作戦内容の切れはしと、オブリビオンマシンによる変貌。
その全ての札をアマミ、ラーガ、狐狛の三人が手に入れた時点で、Blue Hellの女王との賭けの結果は出ていたのである。後は総取りをするだけだ。

「――――さて、ギリギリだったが――――賭けはアタシの勝ちみたいだぜ? 女王サマ。地図も、ウルフの変貌理由も、プラントへの地下道の有無も、今なら全部が全部アタシの手の中にある。これで文句はねえだろう? 教えてもらおうか、アンタが隠してる情報ってヤツ」
「……フー。……良いだろう。私も腹ァ括るかね。……なあ。お嬢ちゃんたちは、どういう形でこの地下道は広がってるか、考えたことはあるかい? ああ、地図ももう持ってるんだっけか。それを確認したって良いから、思いつくことを言ってみな」
「ふむ……。妾としては、そもそもこのマーケットが廃棄された下水道に展開されている以上、至るところ蜘蛛の巣のように抜け道が張り巡らされているはずと見ておる。故に、張り巡らされた蜘蛛の巣の末端、そのどれかにプラントへ至る道も必ずあろうとな! それに今なら地図もある! ウルフを止めるための道はもう見付かっとるって訳よ」
「蜘蛛の巣とは良い例えですなア。実際に、そのこたアある程度の目視と地図にて確認済ですしねエ」
「それじゃ、この地下街――――蜘蛛の巣の中心は、どこだと思う?」
「そりゃぁ……『ここ』じゃねぇのかぃ? エイリアスの地下、メインストリートってとこだろよ」

「――――いいや。実はそうじゃないんだよ。この地下道の中心は、エイリアスの地下って訳じゃないんだ。この地下道の中心は――――プラントに隣接してる、太古の昔に遺棄された『核融合炉跡』なんだ。ここは厳密に言えば下水道跡じゃなくて、当時は核融合炉にいざということがあった時のための非常用冷却水の通り道だったんだよ。もう干上がっちまってるけどね。誰か見なかったかい? プラント側に進もうとするとすぐにぶつかるゴツい隔壁と、エゲつない曲がり角をさ」
「え」
「……は?」
「――――ヒヒ。『核融合炉』と来やしたか! というと……、核分裂炉よりも未来の技術とかッて言われてるアレですかい?」
「そう、それ。とはいえ、放射性の危険性がどうたらって問題は今じゃ全くないらしいけどね。何せ遺棄されたのはずいぶん昔の話だ。『誰かが下手にいじらない限り、爆発はおろか何の危険性も生じない』ようになってるんだよ」
「待て待て。妾、すげー嫌な予感がするんじゃが」
「ウルフは……核融合炉がプラントに隣接してること、多分知ってやがるよなぁ」
「そういうことさ。私の見立てが正しけりゃ、ウルフの狙いは核融合炉にちょっかい出すことだ。オブリビオンマシンに思考を乗っ取られた、効率重視の大量殺戮方法で――――これ以上のものはないだろう? 自分はおろか、核融合炉跡も、隣接してるプラントも、そして『地下道が繋がってる』エイリアスの地下も、それから地上に至る抜け穴も、当然地上も、あいつは全部殺しきるつもりだよ」

 Blue Hellの女王が最後に隠していた情報は、『プラントに隣接している施設の正体』。
 ウルフは、今も核融合炉跡とプラント爆破を狙って行動しているはずだ。プラント爆破を48時間後と設定したのも、恐らくは核融合炉の爆破準備にかける時間を見越してのことだろう。
「……無駄かもしれないけど、私らがさっさと逃げようとしてたのはそれが理由さ。それでも、アンタらは逃げずにウルフの策謀に挑もうってのかい。端的に言って無謀だよ、そいつは」
『あー、あー、ドローン越しに失礼。聞こえます? 会話の途中で割り込むのもなんですが、聞き捨てならない言葉が聞こえたもので』
 最後の方は半ば泣き言のようになっている諦め節を、無粋にも無機質なドローンのスピーカー音声で遮るのは別所にいる夕立である。彼は女王の言葉を切り裂いて、自分の言いたいことだけをそのまま言の葉に乗せてぶつけていく。
『ねえ、Blue Hellの女王様。あなた、名前があるでしょう。エイリアスの地下を牛耳る、「死の女神」でしたっけ。呼び名≪コールサイン≫でも、仇名≪エイリアス≫でも。何でも構わないんですが……それはもう、あなたにとって、ただの記号ではなくなっているんじゃないですか? 端的に言うと、『悔しくないんですか』? アンタの名前が、存在意義が、何の感慨もなく効率とか言うつまんない考えで破壊されようとしているのに? まあ、訊いただけですけどね。……シゴトをしましょうか、皆さん』
『ま、ここで降りるのは性に合わないしな。勝ちたいんなら、オールインは当然だろ?』
『ご用命を受けた以上、なんでも屋は働くだけさ。今の情報は世界蛇組にも伝えておく。こうなった以上、あいつらも兵隊を出してくれるかもしれん』
『敵がどんな武器を出してこようと、結局負ければ死ぬし、勝てば生き延びられるって話に変わりはないものね。ひとまず、請け負ったところまでは付き合うわ』
『ここで私たちが逃げちゃったら、子供たちが済む場所さえもなくなっちゃうんだもんね。治安は確かに悪いかもしれないけど、誰かが住んでる場所を見捨てる気にはならないな!』
「ヒッヒヒヒ! コイツは良いですなア。ニンジャのお人は発破をかけるのも得意でいらっしゃるのかしらン。あっしも変温動物ながら珍しく血が疼いてきたトコでさア」
「つうか相手の狙いがでかいのは分かったけども、結局止めりゃいいんじゃろ?! 妾は作戦を阻止した時のウルフとかいう野郎の吠え面が見てえぜ!」
「よぅ、どうだい女王サマ。もうちょっとだけ遊ぼうぜぃ。だってよ、ここで降りちゃ面白くないだろうよ? 逃げ打ち決め込んだところで生きるか死ぬかの博打なら、攻めて攻めて死んでみようや。――――その札、アタシ『たち』に賭けてみろよ。損はさせないぜ」

「……ククク……クックック……ハーッハッハッハ! 上等じゃないか、吐いたつば飲み込むンじゃァないよ! 酔っ払いにろくでなし、色狂いに薬売り! こんなクズどもの命で良けりゃ、全部アンタら猟兵に預けたよ! 今からBlue Hellはエイリアス本隊と世界蛇組に続いて猟兵の傘下に入る! 弾薬、火薬、燃料その他諸々必要なら生きてるうちに全部言いな、地獄で清算してやるよ! クズ野郎共の意地、とくと見せつけてやろうじゃないか! 事件が終わるか死ぬかまで、二度とベッドじゃ寝れないと思いなァ!」
 敵の狙いと情報を手に入れて、猟兵たちは次の戦場へ向かう。
一つの街の表と裏、命の全部をまるごと引き連れて、彼らは孤高の王狼へと賭けを挑むのだ。
タイムリミットまで、残り32時間。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ガーゴイル』

POW   :    ランス・チャージ
【ビームランスでの突撃】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    デルタ・ストライク
【僚機と連携すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【三機のコンビネーションアタック】で攻撃する。
WIZ   :    RS-Sミサイルポッド
レベル×5本の【実体】属性の【誘導ミサイル】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※断章公開10月6日(火)予定、プレイング募集受付10月8日(木)08:30~10月9日(金)23:59までの予定です。
断章は二章のイントロに加え、皆さんの活躍によって開示された情報を整理した一覧も公開するつもりです。内容の振り返りに活用してください。※
【第一章で猟兵が手にいれた情報一覧】
・地下街を牛耳る二つの組織
 ①『世界蛇組』について
→荒れた地下街に悪法を敷いて、違法マーケットを作り出した『世界蛇組』の組長の正体は、ウルフの元右腕だった人物。
違法マーケットにおける最低限の社会性を生み出し、暴力と土地勘による支配を行っているのがこの組織である。
現在はクルトと雷火の活躍によって取り付けられた協力の元、自分たちの住む地下街を守るために地下街の地図と人員を猟兵に提供してくれている。

・地下街を牛耳る二つの組織
 ②『Blue Hell』について
→最近エイリアスの外部から乗り込んできた、お行儀の悪い闇商。『死の女神』『女王様』と呼ばれる女頭領が仕切っている。
新顔故にメンツに縛られず、汚い手段を取れる彼女たちは、金を稼ぐ手段を選ばない。それ故、違法マーケットにおいては、武器に火薬、物資と金回りの流通を一手に手掛けている。
 ラーガ、アマミ、狐狛の活躍によって、猟兵との賭けに負けた『死の女神』は私財すらも擲ち、プラントという金の生る木の破壊を阻止しようと猟兵へ力を貸してくれている。

・ウルフの性格について
 →身内にはとことん甘く、優しく、面倒見が良い。しかし、敵に対してはどこまでも非常で苛烈、容赦がなく効率重視の人道を無視した作戦も行うことが出来る人物。
 かつて単身でとある国家からプラント簒奪を企てた際も、道中で偶然発見した核融合炉跡を見付けるや否や、『プラントの無傷での譲渡』と『核融合炉跡の爆破』の二択を迫ってプラント簒奪を成功させたことからも、彼の手段を選ばない性質が見える。

・ウルフの変貌理由について
 →古くなった機体を新調した際、オブリビオンマシンに搭乗してしまったため。
 攻撃目標に確実な死と破壊をもたらす機体、通称『モノクロ・ゴースト』に試運転を兼ねた調整のために乗り込んだウルフは、その瞬間から暴走を始めた。彼の手段を選ばない性質と、オブリビオンマシンのもたらす残虐性、破壊性が相まって、今回の作戦は立案された。

・蜘蛛の巣のように広がる地下街の正体について
 →プラントに隣接して存在している、太古の昔に遺棄された『核融合炉跡』の非常用冷却水の通り道であり、故にこの街の中心地は核融合炉跡だというのが正しい。
数多くの厳重な隔壁が至る所で発見されたり、プラントへの道が非常に複雑に曲がりくねっているのはそのためである。
 スタンドアローンシステムによって施錠されている隔壁の開閉は12桁のパスワードによって行われ、連綿と続くストリートチルドレンたちの知恵に頼る以外、この扉を開ける方法はない。開閉が出来ないのはウルフたちも同様である。

・ウルフの狙いについて、および猟兵たちの追撃の道を残している理由について
 →彼の狙いは、核融合炉跡を爆破することで『プラント』『エイリアス』『エイリアス地下街』の全てを焼き払うこと。
 猟兵がウルフを止めるために今も進軍している地下通路を封鎖しなかったのは、その道を残すことで核融合炉跡爆破の際に生じる爆風に指向性を持たせ、確実にエイリアスの地下街と地上を破壊するため。
 敵の目論見通りに核融合炉跡が爆破された場合、被害は計り知れない。
 プラントを含む半径6km圏内は光熱によって即座に消滅。
 指向性を持たされた熱線と爆風はエイリアス全土を含んだ半径256kmを焼き尽くし、放射能汚染は風に乗って計測不能な範囲にまで広がるだろうとされる。
●ALL HELL BREAKS LOOSE.
 全ての準備が揃った時、エイリアスに住む人々は、言葉を失って唖然とするか、笑いを堪えられずに吹き出してしまうかのどちらかの反応を取る以外に無かったという。
 それもそうだろう、一体だれがこの事態を予想できたというのか。
 ウルフの台頭によって纏め上げられ、軍隊を持つ国家にまでなり上がってきたこの街を脅かす最低最悪の敵の正体が、よりにもよってウルフ・ハウンドだというのだから。
 そしてウルフ・ハウンドの凶行を止めるために猟兵たちの側に立ったのは、ウルフが国の王であった頃は反目していた、『エイリアス本隊』と『世界蛇組』、『Blue Hell』の連合軍なのだから。

「いやあ、マジで笑えるよなァ。ウルフ健在だった時は、アイツを中心にしていがみ合ってた三つの勢力が……。猟兵さんたちの口添えもあるとはいえ、こうも簡単に纏まるとはよ。こうして連合軍が動いてるのを目にしても、俺ァまだ夢見てるみたいな気分だぜ」
「優れた人材や忠臣が見付かるのは、得てしてこういう国が乱れた時なんだよ。アンタも世界蛇組の若頭張ってるなら、そこんトコをよく覚えとくんだね」
「フーン、そういうモンかい。……っていうかよ、こうやって話してみるとアンタ中々話の分かるイイ女じゃねえか。なあ、Blue Hellの女王サマ。アンタは後方よりも鉄火場の方がお似合いだと思うがね」
「船頭多くして何とやら、さ。私の役割は後方で踏ん張って前線にタマとヒトを送り続けること。前はアンタが張るんだろう? あの『なんでも屋』に破壊されたキャバリアの替えが良くあったもんだね」
「オヤジがな、譲ってくれた。あの人ももう歳だからよ、前線は俺らに任せてくれって無理言ったんだ。したら、持ってけとさ。『死んでも壊すんじゃねえ、もしも壊したら生きて帰って俺に詫び入れてから死ね』とまで言われちまったよ」
「……クックック、そりゃ大変だ。どうあっても生き延びなきゃねえ」
「ハッ、まあ上手くやるさ。それじゃあな。もしもお互い生きてたら、32時間後に乾杯しようぜ」
「その時の酒は私が奢ってやるよ、全員分な」
「そりゃ楽しみだ。高い酒用意して待っててくれや」

 残り時間は32時間。
 入り組んだ地下道を攻略し、ウルフ・ハウンドの凶行を止めろ。


◆◆◆



◆陣営、および人員状況
 ウルフの凶行を止めるため、『エイリアス本隊』、『世界蛇組』、『Blue Hell』の三種類の兵隊の精鋭から成る連合軍が結成されています。
 『エイリアス本隊』から1人、『世界蛇組』から3人、『Blue Hell』から1人と言った割合で構成された基本小隊が合計で150組。

 更に、『エイリアス本隊』の生き残りから生え抜きの精鋭のみで構成された特殊工兵小隊と前線指揮中継小隊、キャバリア小隊がそれぞれ10組ずつ用意されています。 また、猟兵との戦闘によって愛機を破壊されてしまった『世界蛇組』若頭も、戦線に復帰しており、彼が指揮する小隊も存在しています。
基本小隊へは3機のキャバリアと人数分の火器が、特殊小隊へは付随してしかるべき装備が配備されています。
 ウルフの教鞭を受け、一流の軍人である『エイリアス本隊』が小隊の隊長を務めながら全体の指揮を連携して執り行い、実際の戦闘が起きた際は『世界蛇組』のキャバリア搭乗者が戦闘員を務める形となるでしょう。『Blue Hell』は補給要員、および連絡要員として動いてくれます。

 彼らの最大目的は猟兵の行動のサポートです。猟兵の護衛や後詰めなどが主な任務になりますが、何か個別に依頼したいことがある場合は頼ってみるのも良いと思います。
 また、要請によってストリートチルドレンたちを最前線にまで連れ出した場合、各地の【隔壁操作】が可能となります。
 正しい道の捜索短縮や開閉を利用した戦術などが可能になりますが、ストリートチルドレンたちを何らかの手段で守る手立ては必ず必要となるでしょう。

◆戦場
 エイリアスの地下街の中心であるメインストリートから出発して、ウルフ・ハウンドが待ち構えていると思しき、プラントに隣接している核融合炉跡の中心地にまで向かいます。
 放射線による危険はありませんので、そこについての準備は必要ありません。
 まずは設計図とストリートチルドレンたちがウルフ・ハウンドたちの後退を見たという話を元にメインストリートから核融合炉跡の方向に前進してもらいます。
 その後はストリートチルドレンたちから聞き出した情報や抜け道を優先して用いながら、核融合炉跡の非常用冷却水の通路中を正しい道を探しながら駆け抜けてもらうことになるでしょう。

 道中は非常に曲がりくねっている上に狭く、高低差もあり、視界も極度に暗いため、見通しが立たなくなっています。設計図によれば核融合炉跡地まではおよそ24000mとありますが、そこをどれだけ早く抜けられるかが作戦の肝になると思われます。
 しかし、道の性質上敵の待ち伏せは必ずあると考えて良いはずです。ウルフと共にエイリアスを抜け出した側近たちがキャバリアに乗って猟兵たちを妨害、遭遇戦からの遅延戦術を展開しながら時間稼ぎを行う目算が高いでしょう。
 こちらを作戦上『遭遇戦エリア』と呼称いたします。

 最後の難関は、非常用冷却水の通り道を抜けた後です。
 核融合炉跡の中心地に向かうため、冷却水通路途中の非常階段口から物資搬入口へと出て、核融合炉側の斜行エレベーターに乗って更に3000m上昇してもらう必要があります。
 こちらもまた敵の待ち伏せに適した場所となっております。道中の遭遇戦とは異なり、一本道でそれなりに広く、照明も存在する通路をゆっくりと上昇するエレベーターの頭を抑えられている関係上、多少力押しにでも突破する必要が出てくるでしょう。
 傾斜は非常に強いため、猟兵の脚なら自力で上がることも不可能ではありませんが、エレベーターを破壊された場合は大幅なタイムロスが生じてしまう恐れがあります。
 こちらを作戦上『突破戦エリア』と呼称いたします。

◆猟兵の役割
 『遭遇戦エリア』ないしは『突破戦エリア』のどちらかに全力を尽くしてもらうのが良いでしょう。32時間という限られた時間を用いて寝ずの進軍を行う以上、ウルフと戦う前の前哨戦で全員が同時期に疲弊することは避けるべきです。
 狭く、暗く、入り組んだ道で遅延戦術を展開する敵をどう迅速に叩けるか。
 広く、明るく、真っ直ぐな道をゆっくり上がっていくエレベーターを守りながら目の前の敵をどう片付けるか。
 そのどちらかで自信のある方に、次善策をかなぐり捨てて挑んで頂くのが最上手であると思われます。
 皆さまの健闘を心より祈っております。



※プレイング募集受付10月8日(木)08:30~10月9日(金)23:59までです※
矢来・夕立
▼遭遇戦・トラップ担当
雑魚が足止めに使われてるだけって分かってます?
足止めにしか使えない雑魚と言い換えましょうか?

まず一機。
《闇に紛れ》させた『朽縄』で捕縛。引きずり落とす。
その隙を突いて罠を張ります。
【紙技・文捕】。
式紙を複数展開。
どこへ行っても絡まるよう、複雑に。
デカブツだけが引っかかればいいんで、ひとが通れる隙間は残しておきましょう。
ジップラインや綱渡りみたく使えるかもですし。

糸操りみたく簡単に、縄打ちみたくひどく縛ってあげます。

締め上げて機体の破壊まで行けるならそうしたいところです。
…が、正直誰かに任せたいですね。まあまあ疲れるんで。
人がいなきゃやりますよ。
それはそれで格好がつきます。


神羅・アマミ
かような歴史に名を残す一戦に参加できることの誉れ!

・『遭遇戦エリア』でメイン活動
味方を一体でも多く最終決戦場へ送り込むため、敵の遅延戦術に飛び込むことを踏まえるとまずは猟兵たる妾が先陣を切るべし!
暗闇での敵感知と回避は【野生の勘】頼みになってしまうが、一度交戦状態に入ればUC『吊込』による閃光弾で【範囲攻撃】!
敵の暗視カメラを焼く用途はもとより、此度は罠に一手間…この世界ならばお馴染みじゃろう、チャフを撒く!
直接交戦を避け通り抜けが目的ならばこれで必要十分。
味方の計器にも影響はあろうが、この地下を己の庭のように暮らしてきた歴戦の勇士たちならば、むしろ妾が遅れを取ったり迷ったりする方が心配じゃ!


ティオレンシア・シーディア
『遭遇戦エリア』

…核融合炉って…
いくつか予測程度は立ててたけど、遥か斜め上にとんでもないもの持ち出してきたわねぇ…

時間かけて地道に潰すのが本来最善手なんだけど、そんなことしてらんないし。無茶でもなんでも一気に突っ切るしかないわねぇ。
ミッドナイトレースに○騎乗してエオロー(結界)で○オーラ防御の傾斜装甲を展開、即フルスロットル。味方と連携取りつつ全速で突っ走るわぁ。
角待ちなりバリケードなり、待ち伏せするにもある程度定石ってのがあるし、予測くらいは立てられるかしらぁ?
●要殺にアンサズ(情報)とラド(探索)で底上げして警戒。暗いんだし出逢い頭に閃光弾で〇目潰しでも叩き込めば連携崩せるかしらねぇ?


ヴィクティム・ウィンターミュート
【遭遇戦】

このエリアで重要なのは、当然情報だ
待ち伏せされる関係上、無策で行けばファーストアタックを確実に食らう
存在を知覚し、先に行動するしかない

奴らは当然、意志疎通のためにローカル回線を使った通信をしてるはずだ
その回線を【ハッキング】で見つけ、辿る
そしてキャバリアのシステムに侵入し、視界を盗み見て現在地を把握する
向こうさんがここのマップを網羅してんなら、そいつも盗み見る
各機の武装、機体仕様がわかりゃ最高だ
これらを、「気取られず」にやり、共有する
冬寂が如く、な

把握できたならこっちから先に攻める
セット、『Surrender』
おうちに帰るか、武装を解除するか 選べ
どのみち、ジューヴに手は出させんよ


玉ノ井・狐狛
遭遇戦

三十二時間しかない――言い換えりゃ、そのくらいの長丁場
移動を始めてすぐに遭遇ってこともあるまいし、考える時間はわりとあらァな

つうワケで、事情通の旦那がたに聞こう
野郎の戦歴を、具体的に、細かくな
目的こそオブリビオンが唆したにしても、策戦立案はウルフ本人のモンだろ?
――そうじゃなきゃ、もうちったァ楽な仕事だったろうさ
けど、それはつまり、指し手の癖がわかるってこった
向こうはアタシらを知らない。一方的なアドバンテージだぜ
→思考の癖を読んで罠や伏兵への警戒を効率的に

あと重要なのは、相手の知識・経験だな
武器に兵器、魔法に超能力……知らない手段なら「刺さり」やすい
→踏まえてUCで障害に対処&周囲に共有


クルト・クリューガー
遭遇戦エリアで全力を出す

オーライ、先行する
遅れずについてこいよ

要請によってストリートチルドレンを一人よこしてもらおう
狭いがガキ一人くらいなら相乗りできるはず
【隔壁操作】を用いて正しい道の捜索短縮や開閉を利用し背後からの奇襲を防ぐ
ボウズ、上手く出来たらお駄賃はずんでやるから頑張ってくれよ?
ボギー、警戒を厳に

UCで移動力を5倍に射程を半分に
狭く、入り組んだ道で射程は必要ない
それに道は別に傷つけたっていいだろ
素早く進むためのコラテラルダメージってやつだ
足は止めずに怪しい物影は例外なくマシンガンアームで銃撃しながらクリアリングし即座に蹂躙殲滅
突撃ってのはある程度、距離がないと真価を発揮できないんだよ!


バルディート・ラーガ
【遭遇戦エリアへ】
あっしア生憎と、コックピットへ乗るンが向いてねエクチでして。
なにせこの長アい尻尾、巻いて置くにも狭ッ苦しうございやす。
ですからして、小隊の皆様にゃ是非とも足をお貸し頂きてエところ。
UCで腕を増やしながらに「グラップル」、外装へがちりとしがみ付き
ブーストエンジンに振り落とされねエよに踏ん張りやす。

奇襲の敵サンを目視し次第、ソチラへ飛び移って挑発。
周囲は暗く、この世界の武器だのはやたらに光る。
いやア実に宜しい、UCの条件たる光源が選り取り見取りです!
これ見よがしと敵機の外装を飛び移ッて攻撃を引きつけ「敵を盾にする」要領で
コンビネーションを同士討ちへと誘導しちまいやしょ。ヒヒヒ!


御蔵・槙
正直これは最後の手段だけど…!
でもこれ以上の方法が私には思いつかない
必ず生きて帰すからみんなお願い、力を貸して!

猟兵用の機体を、メカニックと武器改造で
複座・オート操縦可に改造
後ろに子供達を乗せ万が一の時にはこれで逃げてもらう
猟兵なら、機体がなくたってどうとでもなるもの

進行ルートは子供達からあらかじめ見通しの悪い箇所や
待ち伏せに適するキャバリアが複数立てる箇所を聴取し除外
なおかつ複数を立案しておく

力押しで即座に突破できない数に遭遇した場合、
消耗と時間の浪費を避けるため迷わず隔壁まで退却し
敵を中へ閉じ込めるように閉鎖
その後別ルートを進み先を急ぐ

もしもの時は自動操縦で子供だけでも逃がす



●Fall to Hell
 仄暗い暗闇の中、響き渡るは鉄火の音。時折混じる、敵のものか味方のものかさえ知れぬ鬼気迫る人の叫びだけが、絶えず流れ続ける銃火の作るリズムに合わせて地下フロアを支配していた。
 闇の中へと今から挑む君たちに分かるのは、感情の籠ったそれが流れるたびに一つの命が散っていることだけだ。
 真っ暗い地獄の奥の奥。曲がり角の片隅で、怪物のモノアイだけが怪しく光る。
 待ち構えるは百戦百勝の『ガーゴイル』軍団。
 それに対するは、一騎当千の猟兵たち。
 急いで焦れば奴らの餌食、急がなければウルフの策略の餌食。
 時間を味方に付けた不敗の王狼の手駒へ、世界の防人が挑む。
 地獄の底の暗闇で、勝利にあり付けるのは果たしてどちらか。


●14:00/タイムリミットまで、残り28時間
「かような歴史に名を残す一戦に参加できることの誉れ! 戦端を開くのは妾に任せてもらうぞ、皆のもの! 敵に当たるまではガンガンに速力出して良いぞ、その代わり当たったら妾を降ろして下がれよ! 全員死ぬンじゃねえぞ、ここはまだまだ前哨戦じゃからのー! 突ッッッッ撃じゃオラァァァァ!!」
「アマミの姉御に続け! 叩くのは邪魔する奴だけで良い、キャバリア乗ってる奴が前、徒歩はその後からついてこいや! どの道間に合わなきゃ全員死ぬんだ、自分の居場所守りたきゃァよ、猟兵さんたちだけに任せてンじゃねェ! 命張ッぞテメェらァ!!」
「「ウォォォォォォォォ!!」」
 エイリアス地下の真っ暗闇を高速で駆ける光に座する前線の主は、従えるエイリアス連合軍に檄を飛ばして速力を上げながら尚駆ける。
 全てが計算尽くの彼女の言葉は人心を戦火へと駆り立て、最前線に立つ彼女の行動は兵士たちの心を狂奔へと導く。
 その才は、恐らくこの世界のような乱世において最も輝く彼女の素質だ。煽り、束ね、人々の心のさざ波を高波へと変える。先頭のキャバリアの肩口に座って目の前の暗闇を見据える、神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)ならそれが出来るのだ。
「ヒッヒヒ! 前は随分と燃えてやがらア。しッかしすいやせンねエ、世界蛇組の若頭サン。あっしア生憎と、コックピットへ乗るンが向いてねエクチでして。なにせこの長アい尻尾、巻いて置くにも狭ッ苦しうございやす」
「気にすんな、同じ蛇の誼って奴だ。余所者のはずのアンタら傭兵が命張ってくれてンだ、俺たちだって少しは何かの役に立ちてえのさ。だからよ、なんでもやるぜ。こうしてアンタらの足にもなるし、お望みならアンタの腕の代わりにもなってやらァ」
「ヒヒ、蛇の道は蛇ッてワケですかイ。でもまア、今のウチはこうしてあっしの代わりに走って頂いてるだけで充分でさア。今後とも小隊の皆様にゃ是非とも足をお貸し頂きてエところ、無理はなさらねエでくださいな!」
 アマミが率いる部隊の後続に続くのは、世界蛇組の若頭が率いるキャバリア隊。
 その先頭を走る若頭の機体には、何やら一つの影がへばりついていた。いや、よく見ればあれは影ではない。影のような何かが組み付いている。
 果たしてその正体は、バルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)である。
 失った両腕を地獄の炎で補完しているはずの彼ではあるが、如何なる幻想のチカラを用いてか、彼は確かに自らの肩口から生えた腕にて若頭の機体への外装へとがちりとしがみ付き、ブーストエンジンにも振り落とされずにいるではないか。
 恐らく、その不可能を可能に変じるチカラこそが彼の武器なのだろう。エンカウントの時が楽しみである。

 ――――そして、いよいよその時が来た。
 アマミたちが鋭角な曲がり角を急旋回して進もうとした際、曲がり角の奥からパーティの招待状だと言わんばかりの誘導ミサイルの雨あられが現れ、彼女らの勇み足を叩かんとして狭い地下道に撒き散らされていく。
 数からして敵は一人ではあるまい。曲がり角での待ち伏せによる、複数の弾幕による範囲攻撃、かつ波状攻撃。敵の脚を止めるための、典型的かつ教科書通りの遅延戦術だ。
「――――おっしゃ来たァ! そりゃ来るじゃろうな、狐の嬢ちゃんの読みが当たったのー! こっからお主らは妾たちの援護に回れ、前に出るんじゃねーぜ! おう、蛇の!」
「ハイハイ、ここにいやすとも! 若頭サン、皆様の陣頭指揮をお頼みしやす。あちらサンはキアイ充分ッて感じですなア。神羅の姐サン、歓迎の具合は如何程で?」
「妾たちは最前線、直接交戦を避け通り抜けが目的よ! 妾らが足を止めりゃ、その分後ろも詰まるし相手に陣を敷き直す余裕を与えちまうからのー! だからアレじゃ、アレ使って足止めずに走ってくとしよーぜ! ただし――――」
「打ち合わせ通りの形ですな、ガッテン承知ィ! ――――ただし、ノータイムで噛み付けるトコは噛み付いても?」
「そういうことじゃァ! 蛇の、まずはお前が前を張れ! 妾はまずミサイルをぶっ壊す!」
「ヒヒヒヒ! ありがてエことでさア、それじゃあっしも働いてくるといたしましょ!」
 そういうと、二人の猟兵はそれぞれ自分勝手に自らが得意なことへ手を伸ばしながら進む。キャバリアの肩口から真っ直ぐ飛び降りたアマミは、そのままミサイルの雨の中へと。キャバリアの外装から静かに手を離したラーガは、影を這いずる蛇の如くに曲がり角の先へと。
「オラオラお呼びじゃねーんじゃよッ! 可愛いアマミちゃん目がけて飛んできてくれるお陰でよー、狙い合わせなくて良いから楽で良いわい!」
「チッ……防ぎやがるか。こちらウォッカ、次弾装填するぞ。更に弾幕を張る。時間を稼げればいい。各自、決して接近されるなよ」
 ガーゴイルたちが曲がり角の奥から大量に放ってきたのは、【RS-Sミサイルポッド】。誘導ミサイル故に曲がり角の奥の標的を捉えることが出来たのだろうが、喰らわなければ誘導も何のことはない。
 アマミは目の前から次々に現れる実弾ミサイルの雨あられを、自らの装備の一である戦闘用の和傘のみで右へ左へ打ち返していく。
 それも、時にはわざと打ち返したミサイル同士が空中でぶつかり合うような弾道に仕向けて、だ。自らに降りかかりそうな破片や爆風が生じた際は、和傘を一瞬だけ開いて自分の身を守ることも忘れてはいない。

「アップルトン、装填完了。インはウォッカに合わせて――――ッ、なんだ?!」
「ヒッヒッヒッヒッヒ! さアさ皆サンいかがでしょ、ダンスの相手があっしじゃァ役不足かもしれやせンが、これでもステップには自信がある方でして――――いやなに、種も仕掛けもありャしませンよウ。ただ、光あるトコにゃ影があり、ってねエ」
 アマミが敵のミサイルから自軍を守っている間に、ラーガは事態の根本的解決に乗り出した。つまり、敵への接近である。
 接近は敵とて最も注視する行動のはずだが、ラーガがそれを上手く躱して敵陣の真っただ中にまで入り込めたのには訳がある。
 ユーベルコード、【薄っぺらな矜持】。
 自身の肉体を任意の光源から伸びる影に変え、約80m程にまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与するその力は、一見して単純なようでもあり――――その実、非常に応用の利く力であるのだ。
 ラーガは自らの身体をユーベルコードで影に変えると、まずは敵が放った誘導ミサイルが放ち続ける加速度計の明滅の光を用いてミサイルの雨の中をすり抜けながら影化と解除を繰り返して前進。敵機との距離を縮め、ユーベルコードの範囲内に入り込んだ瞬間に更に幻想を行使した。
 その結果、蛇は敵機の照準装置やアイボールライトなどの敵が放つ僅かな光に潜むようにして大胆に、かつ光速にて敵陣への移動を可能にしてみせたのである。
「灰吹きから蛇が出させて頂きやしたよッと、ヒヒ! そオら踊ってみて下さいや。そうでもしなきゃ、あっしが皆サンの足を転ばせちまいますンでねエ!」
 そうして敵の射撃陣形の内側まで入り込んだラーガが行ったのは、敵機体の足先や両翼の付け根に自らの装備である『黒炎の蛇鞭』をしならせて絡ませ、敵の連携を崩すことだった。
「さっさと排除しろ! 一発でも当てればそれで済む、連携で――――!」
「ですが隊長! コイツ、動きが早くて――――うわッ?!」
「おやおやア、どうしやした? まるであっしを見失っちまったかのようですなア! ここは地下道! 周囲は暗く、この世界の武器だのはやたらに光る。いやア実に宜しい、UCの条件たる光源が選り取り見取りッてな訳です!」
 立て直しを図った敵がラーガを狙って射撃を開始すれば、彼は敵に接近した時と同様に自らを影に変えつつ光の速さで敵の外装から外装へと飛び回っては敵の射撃を回避していく。しかも、回避する前の自分の立ち位置を利用して敵を盾にするように動き、敵のコンビネーションを同士討ちに誘導するというワザありだ。

「仕方ない、各自ミサイル斉射の後一度退け! ここで崩されるよりは、そっちの方がまだ――――」
「ギャハハハハ!! 決断が遅い上に見込みが甘いわ! 分かっておらんのー、蛇がお前らを転がしてくれたってコトはよー! 妾の手が空くってことじゃろうが! 盛者必衰、油断大敵! 己の力に自惚れて、迂闊な歩を進めたその一寸先こそが闇! 呪縛されし五体に後悔の二文字も刻め! ンで死ねーッッ!! 【吊込】ッ!!」
「野郎ども分かってんな、進軍の片手間でやれそうなやつだけ見りゃいい! 先に進むことが最優先だァ! 猟兵さんに続けェッ!!」
 猟兵の強みは彼らにそれぞれ別の強みがあることだ。
 ラーガが一瞬でも時間を作って敵の行動を止めさせれば、敵の攻撃を追い返す必要のなくなったアマミがキャバリア隊を率いて敵機へと接近を果たせる。一瞬の奇襲と防御が噛み合って、盤面は一機に猟兵へと傾く。
「突撃か……! 先ほどのミサイル斉射が役に立つ、俺たちが下がる時間くらいはあるはずだ!」
「それが甘いっつーの! 今回は罠に一手間仕込んであるんじゃよなーこれがァ! テメェらはここから逃がさねー!」
「――――なんだとッ!? チャフかッ!」
 ユーベルコード、【吊込】。
 次元転送装置から設置型トラップを放ち、閃光により対象の動きを一時的に封じるアマミのチカラ。
 彼女の目的は二つだ。一つ目は敵の暗視カメラを焼くこと。そしてもう一つは、――の世界ならお馴染みのチャフを撒くことで、誘導ミサイルを無力化すること。
「ヒヒヒヒヒヒ!! 神羅の姐サンのおかげで、そこら中光源だらけの影は伸び放題ですなア! コレなら幾らでも手が伸びる、ここは一つ食べ放題といきやしょう!」
 そしてアマミが放った浮遊機雷の放つ閃光で地下道に光が満ちれば、ラーガは敵機から長く伸びる影を利用して更に機動性を上げ、戦場を跳び回りながら蛇鞭にて敵機を転がし続けていく。
 そこへ止めを刺すのがキャバリア部隊である。オブリビオンマシンとはいえど、こうまで鮮やかに足と目を殺されては抵抗などできようはずもない。
 オブリビオンマシンの一群を迅速に無力化し、更に猟兵たちは距離を稼いでいく。


●16:00/タイムリミットまで、残り26時間
 ――――しかし、そこに更なる危機が迫る。派手な閃光によって群がってきた、別の敵機群たちの登場である。
「猟兵連中、思ったよりも進軍ペースが早いな……。ローカル通信で全域に連絡を取れ、ジャミングだのは考えなくていい。とにかく伝達の速度を優先しろ。ここで囲んで時間を稼ぐ」
「チィ! キリがないが仕方ねー、さっきと同じ要領でどうじゃ、蛇の!」
「心得やし――――おっと、どうやらこっちも頼れる増援が来たみたいですよウ、ヒヒ!」
 地下道に、オブリビオンマシンでもエイリアスのキャバリアでもない、第三のマシンが現れる。
 猟兵たちの背後から現れたその機体は、世にも珍しいバイク型UFO、『ミッドナイトレース』。それをこんな狭い地下道で自由自在に駆ることが出来るのは、世界にたった一人しかいない。
 付随して、そのバイクの後部座席にはもう一人男が座っていた。バイクは二人分の戦力を載せて、ただただ最前線へとひた走る。
「いやぁ、……核融合炉って……。いくつか予測程度は立ててたけど、遥か斜め上にとんでもないもの持ち出してきたわねぇ、ホント……」
「あるものは利用される、それが戦場の常でしょう。それにどの道、爆破されるのが核融合炉跡だろうがプラントだろうがオレたちがアイツらに勝てばいいだけですし」
「まぁ、確かにそれはそうねぇ。それで、どうしようかしらぁ? 時間かけて地道に潰すのが本来最善手なんだけど、そんなことしてらんないし。無茶でもなんでも一気に突っ切るしかない――――と思うんだけど、良い?」
「バーテンさんのご自由に。オレの心配は不要です。あなたの走りは今までも何度か見てきましたので。このマシン、黒龍の時も使ってましたよね」
「あら、それじゃこの先も遠慮は無用で走らせちゃうわよぉ? ――――全速で突っ走るわぁ」
「ご随意に。余計な空気抵抗はオレの式神で殺します。これで乗車料金分の働きはした、ってコトで」
 バイクの主はティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)。そして彼女の後ろに影のようにぴたりと付くのは矢来・夕立(影・f14904)。
 二人を載せたバイクは地下道の床も壁もお構いなしに、最短距離で最前線に到達せんとする敵陣へと突っ込んでいく。
「同時で良いですか、仕掛けるのは」
「合わせるから、遠慮なくどうぞぉ」
 ティオレンシアの駆るミッドナイトレースはこの先も何もハナっからフル・スロットル。エオローのルーンを用いてオーラによる傾斜装甲を展開。
 さらに幸守と禍喰、二匹の式神が夕立の命令によってミッドナイトレースの外装へ取り付き、紙のカウルとなって空気抵抗を軽減していく。
 結果的にティオレンシアのバイクは、UFO故に僅かに空に浮き、材質が紙で出来た頑丈なフルカウルを持つモデルなど、どこのメーカーも垂涎で欲しがるだろう代物に仕上がった。
 最前線到達まで、あと1秒――――0。

「仕掛けます。ワナですが、敵の出鼻をくじくことはできるでしょう。――――【紙技・文捕】」
「あらぁ、良いじゃない。なら、アタシは相手の動き出しを潰そうかしらぁ。――――【要殺】」
 【紙技・文捕】。
 『罠使い』としての技術を、平常時の十倍以上に増幅させて使用する夕立のチカラ。
 罠の形は問わず全ての罠を利用するという点において、今の夕立に適うものはいない。
 【要殺】。
 視力・聞き耳・第六感・見切り・咄嗟の一撃。つまりは『職業柄必要な技能』の技術を、平常時の十倍以上に増幅させて使用するティオレンシアのチカラ。闇討ちも闇討ちも奇襲も不意打ちも先取りも、先の先を取れる今の彼女には通用しなくなった。
「蛇さん、手伝ってください。新しく来た奴らを全部寝かせます」
「こりゃまた、矢来の兄サンは蛇使いが荒くていらッしゃる! ヒッヒヒ、お手伝いさせて頂きやしょう!」
「バーテンの! 浮遊機雷のトラップじゃ、上手く使え!」
「あらぁ、ありがとう! そうねぇ、これなら目潰しになるかしらぁ。全員、目は閉じといてねぇ。行くわよぉ」
 アマミが手に持った浮遊機雷を前線のさらに先へ投げ、バイクに乗ったティオレンシアがそれを敵の進軍に合わせて空中で狙い撃ち、爆発させる。
 閃光が戦場にあふれ出したその瞬間、光が生んだ影に潜んで機動力を得たラーガが夕立の両肩を掴んで光速移動を開始し、夕立は光に向かって伸びる影の中で紙垂状の式紙である朽縄を中心に自分の所持する式神を全て展開させ、長くてしなる一本の縄を顕現させる。
 夕立が今回一人で仕掛けた罠は非常に単純なものだ。簡単に言えば、『こちらに近付く敵を縄で縛る』。ただそれだけの代物である。
 しかして、結果から言えば――――夕立が絵図を描いた罠は、他の猟兵の手によって更なる工夫と改良が施されることになる。
「アンタたち、雑魚が体のいい足止めに使われてるだけって分かってます? 足止めにしか使えない雑魚と言い換えましょうか?」
「見え透いた挑発! そして閃光による目潰しか! しかし甘いな、先の通信で貴様らの手の内は分かっているわ! 同じ戦法では我らは倒せんぞ、このまま連携で押しつぶさせてもらう!」
 アマミとティオレンシアの放った閃光による目潰しを先の会敵結果から既に読んでいた敵は、どうやら既に閃光に対する何らかの対策を練ってきていたらしい。
 速度を落とさずに前進し、猟兵の進軍を止めようとする敵のアイボールライトの回転から見て、恐らくは複数のアイカメラの切り替えを用いて視点の保護を行う手に出たのだろう。

 ――――だが、それだけの対策ではもはや猟兵は止まらない。
 アマミの閃光に対しての対抗策を講じたことで、彼らは自らの進撃に対して慢心を覚えた。その結果、彼らは速力を緩めることなく猟兵へ向かって進み――――高速で近付くバイクの後ろに結びつけられた一本の縄が、自分たちの身に迫っていることに気付かなかった。
「バーテンさん、全速力でお願いします」
「言われなくてもよぉ」
「――――ガッ――――?!」
 敵機の群れが、高速で接近する『何か』に絡めとられて一斉に体勢を崩し始めた。
 夕立の狙いは、つまり『敵を待ち構えて罠に嵌める』ことではもはやなかった。これだけの手があるのならばと、彼は他の猟兵の力を用いて『迫り来る敵に罠を能動的にぶつけてやる』ことを選んだのである。
 縄の端は既に強化された視力と勘を用いて敵陣の只中へと突っ込み、すいすいと彼らを追い抜いていくティオレンシアの駆るミッドナイトレースの後部座席に結び付いている。そして縄のもう片方の端は、アマミの生み出した光によって生じる隙間を縫って動く、性格の悪い蛇と影が握っていた。
「やっぱりオレたちが見えていないようですね。そんなんだから―――」
「――――こうしてあっしらに足を掬われッちまうンですよ、ヒヒヒ!」
「な――――何ィ?!」
 ラーガは夕立を掴みながら自らの身体を影として敵機群の足元を光の速さで動き回り、そして夕立はラーガが敵機の足元をすり抜けるたび、彼らの脚部に悪さを仕掛ける。彼らが通り過ぎるたび、敵機の脚部には強固且つ複雑な数珠つなぎの縄の結び目が幾重にも折り重なって施されていた。
 猟兵たちは、閃光による目くらましとバイクの速力、そして影を自在に移動できるチカラと手くせの悪さを用いて、一本の縄でここら一帯の敵の全てを捕縛してみせたのだ。
「俺たちの足元に縄――――そしてその縄を先導するのは――――あのバイクか! ヤベぇ、アイツら俺たちをこのまま引きずって――――! お前らァ! あのバイク乗りを先に殺せェ!」
「させねーよダァホ! だから言ってんじゃろうが、盛者必衰、油断大敵ッてなァ! 軸足もーらい!」
「それに、アタシだって簡単にやられる気はないのよねぇ。悪いけど、寝ててもらうわぁ」
 捕縛された敵の中にも猟兵たちの狙いを看破して対抗しようとする腕利きは幾らかいるらしいが、猟兵たちは敵に僅かな反逆すら許さない。
 夕立たちが目を惹いた僅かな隙に接近したアマミは、和傘と鉄下駄を用いてまだ倒れていない敵の軸足や、身体の側面を強かに打ち付けていくことで彼らを無理やり地面に寝かしつけていく。
 地面に倒れ伏しながらなんとか火器による反抗を試みる敵もいるが、それらは全てティオレンシアが運転の片手間に行う正確無比な速射によって潰されていく。その精度は異常なまでに高く、もはや火器の使用を図った者たちの装備から順に穴が開いていくという有様であった。
「罠にもいろいろあるんですよ。縄、地雷、煙幕、撒き菱、落し穴、トラバサミ、本物の虎。それからこういう――――市中引廻しとか。もう解けませんよ、それ。糸操りみたく簡単に、縄打ちみたくひどく縛ってあげましたから」
「ギャアァァァァァァアアア!?」
 ティオレンシアは無数の敵機に繋がった縄の結び目を一手に担いながら、さらに出力を上げていく。彼女の駆るミッドナイトレースは空に浮かぶUFO故地形の影響は受けない。だが、『高速で走るミッドナイトレースに引きずられていく敵機』たちは、地形の影響を痛いほど味わっていたことだろう。
 そこかしこにある高低差、90度の急カーブ。その全てが、高速で引きずられていく敵機たちにとっては凶器となる。ティオレンシアが一度ハンドルを大きく切れば、敵は引き回されて壁に激突する哀れな鉄塊となり果てる他に無かった。

「ウーム、こりゃア派手な見世物! さぞかし仕込みの腕が良かったンでしょうなア!」
「助かりました。締め上げて機体の破壊まで――――とは考えていましたが、まあまあ疲れるんで正直誰かに任せたいと思っていたところです。文字通りの一網打尽なら、見栄えも良いし格好もつきましたね」
「暗いところで出会い頭にブチかませたのが大きかったわねぇ。さて、この先はまだ長いんでしょう? 一気に突っ切るとしましょうかぁ。……そういえば、後続の皆は大丈夫かしらぁ? チャフとかも撒いてあるんでしょう?」
「なーに心配要らんじゃろ! 味方の計器にも影響はあろうが、この地下を己の庭のように暮らしてきた歴戦の勇士たちならば、むしろ妾が遅れを取ったり迷ったりする方が心配じゃってな! 妾らはとことん突っ走るとしようぜー!」
 もうぴくりとも動かなくなったガーゴイルの群れを尻目に、四人の猟兵は更に暗闇の奥へと進む。向かうはウルフの待ち受ける、核融合炉跡の中心地だ。


●20:00/タイムリミットまで、残り22時間
「残り二十二時間しかない――言い換えりゃ、今回の土壇場は一荘戦よろしくの長丁場ッてェこった。アタシたちが移動を始めてすぐに遭遇ってこともあるまいし、考える時間はわりとあらァな。耳貸しな、『ウィザード』の。作戦会議といこうぜぃ」
「Blue Hellの女王様を口喧嘩と賭けで負かした博徒から誘われるとは光栄だね。参加料は如何ほどだ?」
「なぁに、そんなに寺銭で吹っ掛けやしねえよ。アンタ程の差し手ならどうだな、そっちの用意した手札でどうでぃ」
「クク……良いぜ。それが参加料ってことは、そっちの手も教えてくれるんだよな?」
「そりゃ当然。ただでさえ渋馬場なんだ、アタシたちくらいはフェアプレイで行こうぜぃ」
「ハッハ! フェアプレイ? 一流の代打ちが言う冗談にしては冴えてるねえ。狙いは?」
「Winner takes all(勝者総取り)以外にあるかぃ? 手段は?」
「バレない限りVale tudo(何でもあり)だろ? バレなきゃイカサマじゃねェモンな」
「アタシたちの持ち駒は悪くねェ。多く集めた歩が山ほどと、桂馬に香車に角飛車がそれぞれ二枚ずつあるようなモンよ。穴熊狙いの差し手が相手だ、速攻で王将を裸にしてやろうぜぃ」
「ククク、不謹慎だがほくそ笑んじまうね。RTSも賭けも、根底は割と似てやがる。性格悪く行くとするか。今の戦況はどうなってる?」
「打ち合わせ通り、最前線には盾の、蛇の、影の、それから『黒曜宮』の主が出張ってくれてるぜぃ。敵陣の感触確認と、それから足を稼ぎつつ陽動を兼ねての戦陣構築って具合でなァ。ついさっき敵の一群を蹴散らした、ッて連絡が入ってきたトコよ」
「そりゃ良い、頼もしすぎるくらいのフロントだ。それじゃバックスも遅れないよう用意するかね」
 連合軍の前線指揮中継小隊を呼びつけながら、その中心で玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)とヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は不敵にニヤ付く。
 今回の作戦で遭遇戦に参加している猟兵は8人。『たったの8人』と捉えることも出来るが、戦場における一騎当千の駒が『8枚』あれば、戦略立案には困らない。一流の博徒と魔法使いならば尚のこと、彼女らは手札を選ばない故に。
 彼らが選ぶのは『情報』だ。二人は場に出ているありったけの情報の群れの中から、自分の勝ちに繋がるモノを選ぶ嗅覚に優れている。それが突出した勝負師の共通項である。

「そこでだ、事情通の旦那がた。ウルフの戦歴を、具体的に、細かく教えてくれるかィ? この作戦に参加してる中で一番長いのは?」
「そりゃ俺だ。国家としてのエイリアスが出来てすぐの頃に本隊に召し上げられたから、それなりに戦術への理解度もあると自負してる」
「良いねぇ、アンタに訊くのが一番具合が良さそうだ。なに、訊きたいのは今回の一連の作戦についてのことでなァ。今のウルフの目的こそオブリビオンが唆したにしても、策戦立案はウルフ本人が立てたモンだろとアタシは読んでるんだが、どうでぃ」
「…………十中八九、お嬢さんの言う通りだろうな。そうじゃなきゃ――――」
「――――そうじゃなきゃ、もうちったァ楽な仕事だったろうからなァ。皆まで言うなぃ、そこらは分かってるさァ。今回の騒動がオブリビオンマシンの狂気に当てられた『だけ』の暴れなら、こんなに面倒な局にゃなってねェだろうからよ」
「ああ、同意する。それに、この作戦は何というか……やっぱりあの人の面影があると思う。エイリアス全土を巻き込んで核融合炉爆破の餌食にしようって工夫が仕込まれてる辺り、特にそう感じたよ。相手にして初めて理解できたんだ、あの人の敵に対する非常さがな」
「そうかいそうかい。……けど、それはつまり、指し手の癖がわかるってこった。向こうはアタシらを知らないが、『アタシらは向こうを知っている』。こりゃ一方的なアドバンテージだぜ。聞かせてくれよ兄ちゃん、一から十まで、表から裏まで、スペードのエースからジョーカーまで、ウルフの手の内の癖を全部なァ」
「それじゃ言うが……正直、現時点での戦闘状況はあの人の戦法らしくねえ気もする。このペースなら、ウルフの側近は猟兵さんたちに蹴散らされて終わるだろう。多少の時間は稼げるだろうが、でもそれだけだ。ウルフって人が、このまま勝ちの目の薄い勝負を繰り返すような男とは……俺には思えねえ」
「ふうン? もしかすっと、コイツは……ウルフに謀られたかも知れねえ。伏兵がいるな」
「俺も同意見だ。ウルフって奴が本物なら、裏で別の策が回ってるだろうからな。このままやれば不利は確定くらいに思ってた方が良いぜ。どうする? 諦めてサレンダー投票でも始めるかい」
「へっ、馬鹿言うんじゃないよ。乗ってやるさあこの博打。相手の思考の癖を読んで、その裏をかけば良いんだろ? ……なあアンタ、もう一個確認だ。この世界に、魔法だの超能力って実在の概念はあるかィ? その他、アンタらの得意なもの、不得意なもの、知識に経験、全部教えてくんな」
「魔法? ……いや……。言い回しなら聞くが、実際に見たことは無い。というか、そんなものがあるのか? いや、あったとして使えるのか? 何者なんだ、あんたたち……」
「俺たちは猟兵で、俺は『魔法使い』さ。覚えとけ、アンタらを勝たせる魔法を見せてやるからよ。……狐狛、相手の手札の裏は見たぜ。大体がお前の読み通りだ。動くとしよう」
 最前線の四人が距離と時間を稼いでいる間に、二人の差し手が動く。ウルフの策略に乗り、ウルフの策略を利用するために。

『――――ッてな訳だ。最前線を走る味方を追いかけながら、同時に包囲を企む敵を蹴散らしてくれ。言うのは簡単だが、多分お前のとこが一番キツいぜ』
「仕事なら受ける、それだけだ。オーライ、先行する。遅れずについてこいよ、槙」
「りょーかい! 最前線に立つ味方の包囲を狙ってる敵を何とかすればいいんだよね? クルトさんの後ろは江戸っ子女学生にお任せくださいな!」
『ハッハー、頼もしいねえ! OKだ、現時点で確認の取れてるマップデータを送信する。上手く使ってくれや』
「了解だ。通信終了、状況を開始する。ボウズ、上手く出来たらお駄賃はずんでやるから頑張ってくれよ?」
「もっちろん! お兄さんのサポートだろ? 任せてくれよ、なんでもやるぜ!」
「ヴィクティムさん、ありがとう! ようし! 必ず生きて帰すから、みんなお願い、力を貸して!」
「当然だぜヤガスリの姉ちゃん! おーし、お前ら気合い入れるぜ! 子供でも役に立つとこ、見せてやれ!」
 狐狛とヴィクティムがウルフの思考や作戦の癖を集め、そしてこの状況に照らし合わせた際、一つだけ彼の癖から導き出した答えがある。
 即ち、『寡兵による誘い出し』と、『衆兵による包囲』。
 この地下道はただでさえ分岐が多い。隔壁の開閉パターンまで含めれば、猟兵たちの進軍ルートは無数とも言える程の択がある。
 ――――だからこそ、ウルフは必要最低限の要所にのみ自らの兵士を僅かに配置して地帯戦術を展開することで猟兵の進軍ルートをコントロールし、猟兵たちがエレベーター前に到着した瞬間に脇道に潜ませた大量の兵士を猟兵たちの背後に展開させ、そこで殲滅戦を行うつもりなのだろう。
 それこそが、狐狛が多くの情報から叩き出した結論である。そして、その裏取りはとある筋からヴィクティムが既に済ませている。しかし、時間の猶予を考えれば最前線の味方には進軍を続けてもらうほかない。
 故に最前線の味方を守るのは、狐狛とヴィクティム、そしてキャバリアに乗り込んだクルト・クリューガー(なんでも屋「K.K&Bogey」・f30011)と御蔵・槙(矢絣探偵・f27805)の仕事だ。
 彼らの仕事は、今なお核融合炉跡を目指して正しいルートをひた走る最前線の味方を追いかけながら、その途中の道中に潜む全ての敵の無力化。つまりは、失敗の許されない後詰めという訳である。

「槙、これからは別行動に移るぞ。俺は前に出て脇道を潰し、クリアリングを行いながら一つ一つ脇道を潰していく。お前は俺のさらに後ろだ。ヴィクティムたちから受け取った作戦を完遂するには、俺たちとボウズ共の動きが必要不可欠だからな」
「うん、分かった! 私だってメカニックの端くれ、やってみるね!」
「良い度胸だ。操縦に不安はあるか」
「念のため、機能不全に陥った時は自動でオートシステムが立ち上がるようにしてるよ。不安が全くないわけじゃないけど、それでも微力は尽くすつもり!」
「よし。それなら俺もお前を信頼して背中を預けよう。武運を祈る。ボギー、警戒を厳に」
「うん、クルトさんも。それじゃいくよ、みんな!」
 二人の猟兵は二手に分かれ、クルトは最前線の味方が通らなかった脇道などを高速で移動しながらクリアリングし、隠れた敵の痕跡を探す。対して槙は最前線の味方が通った道をそのままなぞる様に、何かを確認しながらキャバリアを駆る。
 ――――何かの痕跡を見付けたのは、二人同時のことであった。
『クルトさん、聞こえる?! やっぱり、正しい進軍ルートに狐狛さんの仮説を裏付ける不自然な進軍跡がある……! 巧妙に隠してあったけど、子供たちが見つけてくれたよ!』
『そいつは御手柄だが、今ちょっと手が離せない。会敵した、交戦に入る。やはり奴ら隠れてやがった。狐狛たちに連絡頼む。それから、敵のローカル通信を拾うチャンスだとヴィクティムに伝えろ』
『了解です、クルトさんは!?』
『俺はコイツらを叩き潰す。二度と舐めた真似できねえようにな』
 槙が敵の進軍の痕跡を発見したころ、クルトは遠く離れた別の場所で隠れていた敵小隊を発見する。ローカル通信によって連携を取りながら、彼らは行動打破のための一手を生み出していく。
「チッ……、猟兵か。こちらベルモット小隊、敵に発見された。これより交戦に移る、オーバー」
「ボウズ、これから揺れるぞ。しっかり掴まってやがれ」
「ッ!? マジか、あの猟兵野郎、早――――ッ」
 クルトが駆る量産型キャバリアの目の前の三叉路に位置するのは、何かの工作を図っていると思しきガーゴイルの小隊である。敵はクルトの姿を目視するや否や、思考を切り替えて即座に戦闘態勢に移る。
 だが、先んじて動いたのはクルトのキャバリア。彼の機体は乗っていた戦車を改造した戦車型オーバーフレームに、機械知性体ボギーを載せたオンリーワンのユニーク機。
 更に、彼は既にユーベルコード【オーバーフレーム換装】を用いて機体の機動性を五倍にまで向上させている。ワンオフ機ならまだしも、ガーゴイルなどに後れを取るはずがない。その代償にクルトの武装の射程は半分となっているが――――構うものか。
 狭く曲がりくねった地下道において、射程の長さなどさしたるアドバンテージにはなり得ない。敵小隊が完全に態勢を整える前に、高音を上げて開店するローラーダッシュにて接敵を果たしたクルトは、キャバリアの武装であるマシンガンアームで三点バーストによるタップ撃ちを行っていく。
 狙いはガーゴイルのコクピットがある胸部だ。装甲は多少厚いが、故にこその三点バーストである。研ぎ澄まされたクルトの速射は、結果的に一つだけの穴を残して敵機体を墜としてみせた。
「くそ、早い! 全員散会しろ――――ギャッ!」
「隊長! 隊長?! ……クソがァ、テメエ許さねえぞ!」
「許さないならどうする? 銃弾を浴びてタップダンスでも踊るのか? 今そこで倒れた隊長とやらみたいによ」
「馬鹿野郎、散会して陣形を整えろ! ~~ッ、言わんこっちゃねえ!」
「挑発に乗ってくれるなら有難い限りだな。各個撃破の形にしてくれてありがとよ」
 クルトはそのまま続けざまに左肩部によるタックルを行って陣形の中心に位置する隊長機と思しき機体のバランスを崩すと、0距離での連射にて隊長機を粉微塵に変えていく。
 更に義憤に燃えて脇から襲い掛かってきた敵のビームランスによる突きを鮮やかなローラーターンによる半回転で躱して見せると、そのままマシンガンアームでの歓迎をお見舞いしてやる。
「後の奴らは逃げやがったか。陣形を整えて、三叉路付近で俺を包囲するつもりかね。……だが、無駄骨だな。ボウズ、隔壁封鎖頼む。封じるのは二ヵ所だけだ、俺の前の道は残しとけ。徹底的に各個撃破の形に持っていく。確実に仕留めるぞ」
「おっけー! ええと、ここの扉のロックは……これで良いよ、お兄さん!」
「早くて良い働きだ。駄賃は弾んでやらんとな」
「――――クソッ――――どうなってやがるんだ! どうしてこの扉が閉まってやがるんだよ!? オイ!? 誰かいないのか?! オイ!?」
 クルトが相乗りしているストリートチルドレンに頼んだのは、隔壁操作による三差路の分断である。入り組んだ地形を利用してクルトを取り囲もうとする敵の狙いを断つと同時に、自らの背後を守って敵を各個撃破に移れる最良の策と言えるだろう。
「な――――なんだよ、アイツ! 俺ばかり追ってきやがって! くそッ、他の奴らはどうしてやがる! 包囲はどうなってんだ?!」
「いつまでも逃げるなよ、機動性じゃ勝てねえんだ。腹括ったらどうだ?」
 そうして自らの背後からくる危険を排除したクルトは、心置きなく目の前の敵だけに集中できる。逃げていれば散会した仲間が集まり、陣形を組みなおせると思っている敵の背後から、圧倒的な速力で『K.K&Bogey』が迫る。
「……ッ、クソッ! 言いやがったなテメエ、吠え面かかせてやらァッ!!」
「そこが甘ェって言ってんだ。突撃ってのはある程度、距離がないと真価を発揮できないんだよ。――――こんな風になァ!」
「ギャ――――アアアアアア!!」
 彼が逃げる敵を挑発していたのは、敵の【ランス・チャージ】を誘ってのことだ。速度の乗ったビームランスでの突撃は確かに強力であれど、クルトの目の前の敵が行ったような突撃では何の怖さもない。
 ――――挑発に乗って、助走も無しに振り向きざまに繰り出す突撃など、クルトとボギーには届かない。敵を振り向かせたのも当然狙いの内である。敵が速度を殺して振り向いているうちは、『的がズレない』故に。
 こうしてまた一人をマシンガンの餌食にしながら、クルトは地下道に潜む敵を迅速に排除していく。そして彼が暴れている間に、猟兵たちはもう一つの策を展開させていく。

「――――よォ! 見付けたぜ、嬢ちゃん。さっきからよォ、お仲間と一緒に俺らの懐を探ってやがるだろ。困るんだよなァ、そういうことされっと。だからよ……ここで死になァ!」
「――――ッ、やっぱり見付かっちゃったか……! 危険なポイントだったし、迂回する道はなかったし、仕方ない! 切り替えろ、あたし! みんな、ここからどうすれば良いと思う?!」
「姉ちゃん、このまま前進! んで最初の角を右に曲がって、突き当りにある抜け穴に向かって! そこがゴール! ヴィクティム兄ちゃんたちが指定したポイントだから!」
「分かった! 信頼してるよ、みんな! いくね!」
「どこ逃げようってンだよ、お嬢ちゃん! ギャハハハハハハハ!!」
 別所で移動し続ける槙の姿を、ウルフの側近たちが捉える。しかし、だからといってすぐに諦めるような彼女ではない。既に彼女の駆る機体は複座式に改造済み、ストリートチルドレンたちもそれぞれ一つずつ武装を任されている状態だ。
 そして何より、槙はさっぱりきっぱり江戸っ子女学生兼メカニック。自分にやれることをやると割り切った彼女の行動に無駄はない。慌てるのは即座に止めて、進行ルートもストリートチルドレンたちの意見を聞いて既に複数の案を考案済である。
「右に曲がるよ、みんな! 多分敵のミサイルが来る、チャフお願い!」
「逃げ切れるわけねえだろうが、死ねやァ!」
「オッケー姉ちゃん! ヴィクティム兄ちゃんが指示してくれたタイミング通り……! いまだっ!」
「ンだとォ?! チャフ!? 小賢しいなオイ!」
 即座に方向展開しながら機体を走らせる槙の後を追うのは、ガーゴイルの放つ誘導ミサイル。しかし、誘導ミサイルが槙の機体に迫ったその瞬間、ストリートチルドレンの一人が絶妙なタイミングでチャフを展開させることで敵のミサイルを無力化していく。
「逃げられると思うんじゃねえよ、オラァ!」
「やっばい……! 揺れるよみんな! オートマ起動、即解除!」
「なんの、これでどうだぁ!」
「眩し……ッ!? 目くらましかァ、往生際のわりィ!」
 誘導ミサイルを乗り越えて尚敵は槙の行く手を阻む。今度の攻撃は連携による三方向からの同時攻撃。だが、その攻撃に対しても槙はキャバリアの自動運転のタイミングを切り替えることで緩急を付け、同時に子供たちが放つ閃光弾によって敵の攻撃から脱していく。
 まるで『敵の武装が予め分かっている』かのように、彼女たちの動きは完璧だった。
「突き当りの抜け穴が見えた……! あとは、全速力でッ!」
「させるかよォ、馬鹿がァァ! お前はここで死にやがれッ!」
「うるせーバーカ! 姉ちゃんには指一本触れさせねーからな! お前ら合わせろ! アイツ倒すぞ!」
「ンだとォ?! アームだけが反転して――――ッ?! グ、アアアア!!」
「ナイスだよ、みんな! ――――いっけえ!」
 そして最後に彼女たちの前に立ち塞がったのは、ランスチャージによる突撃にて槙のキャバリアの背後から突撃を行う敵機である。だが、そんな迂闊な攻撃を見逃すストリートチルドレンたちではない。
 槙がキャバリアの移動に集中している間、火器管制は彼らの役目だ。一機だけで突撃をかける敵など、キャバリアの全武装を用いれば何の怖さもありはしない。マシンガン、ミサイル、レーザー、エトセトラ。槙のキャバリアに積まれた全ての武装が一斉に敵を捉えて焼き払っていく。そして、槙は目当ての場所に辿り着く。


●22:00/タイムリミットまで、残り20時間
 そこはスタンドアローンシステムによって作動する各地の隔壁に異常が発生した際、強制的にシステムに割り込んでシステムの主導権を奪い、本来は出来ないはずの外部からの隔壁操作を可能にする隠し部屋――――『緊急隔壁操作室』。
 ストリートチルドレンたちの力を借りて隔壁を操作することによって、猟兵たちは本来見付けることのできない部屋を見付けだすことに成功したのである。
「――――そこまでだ。成る程なァ、ガキを利用して隔壁操作を行い、抜け穴を通ってこんなトコにねえ。見つけ出してくれてありがとよ、この部屋は俺たちも探しててね。キャバリアを降りな、嬢ちゃん。……クク、しっかし本当にこんな部屋があるとはなァ!」
「まだ追ってきたの……?! ……ッ、……みんな、この機体に乗ってて。私に何があっても、動いちゃダメだよ」
「嬢ちゃんの狙いが分かった時にな、猟兵の包囲なんざせずにアンタを追った方が利があると思ってね。だってそうだろ? この部屋のコントロールさえ掌握しちまえば、隔壁操作も俺たちの手の中だ。面倒な遅延戦闘なんかせず、時間が来るまで隔壁を下げちまえばいい。……さあ、おしゃべりは終わりだぜ! さっさと降りなァ!」
「……クッ……!」
 しかし、槙の後を追って敵の部隊が現れる。どこにこれまでの数が隠れていたのか不思議に思えるほどの軍勢が、隔壁操作室に押し寄せていた。抜け穴はもとより固められ、槙の乗るキャバリアも全方位から銃口を向けられてしまっている。万事休す――――かと思われたその時、二人の猟兵がどこからともなく姿を現した。

「――――親玉のお前、今……勝ったと思っただろ? この局面を生み出したのは自分だって思っただろ? それなら残念だったな。この局面に至った時点で、お前の負けだよ。それが嫌なら交渉するか? 言っておくが、これは慈悲だぜ」
「……なんだテメエら。何言ってやがる?」
「――――まだ分かってねえとはおめでたい頭だ、羨ましい限りだぜ。この部屋にアンタらを誘導するように仕向けたのは、アタシら猟兵の方だって言ってンだよ」
「……へェ、そうかい。それでどうする? 俺たちをここに連れ込んで、交渉だと? 慈悲だと? 面白くもない冗談だな、お前らの要求は何だってんだ? こっちには人質がいるの忘れてねえか? ア?」
 槙を包囲する敵の陣の外から、まるで幻のように唐突に現れたのは狐狛とヴィクティムの二人組。彼女らは槙が人質に取られていることも意に介さない様子で、堂々たる素振りで敵部隊の親玉と思しき相手と直接交渉を始めていくではないか。
「簡単さ。お前ら、今すぐ槙を解放しろ。ンで、おうちに帰るか、即座に武装を解除するか選べ。どのみち、ジューヴに手は出させんよ」
「……ククク……舐めてやがンな? お前ら。こっちは大群、お前らは人質を入れても三人。交渉なんてできる立場じゃねーだろうが、馬鹿か?」
「アタシらは至って大真面目さァ。で、どうするんでィ? アンタらの択は二つっきゃねえ。人質を解放してアタシらに降るか、もしくは、だぜ」
「……ン~~、そうだな。まず俺らがお前らに下るッてのは無しだ。そんなことする意味がねえ。帰るってのも無しだ。ウルフのアニキに殺される。で、人質の解放だが……当然そいつも無しに決まってらァ! 撃ち方始めろテメェら! 全員ブッ殺せェ!」
 だが、当然この状況で相手が交渉などまともに取り合うはずもない。敵は親玉の合図に合わせて一斉に三人の猟兵へ銃口を向け、射撃を開始しようとトリガーに力を入れていく。
――――その瞬間に合わせ、二人の猟兵が種明かしを始める。

「ま、それならそれで話は早いか。――――【Choice Code『Surrender』】」
「わざわざテーブルを用意した甲斐がないぜ、馬鹿に付ける薬はねえなァ。――――【英雄、敗色を好む】」
「――――ハ? ギャアアアっ、いてえッ!? 痛ッ、クソ、いてえエエエ?!」
「えッ? アイツら、さっきまでここにいたのに、どこに消え――――!?」
 ユーベルコード、【Choice Code『Surrender』】。
 ヴィクティムの用いるその幻想は、戦意喪失、武装解除、技術消失プログラムを放ち、半径90m内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移するチカラ。
 転移を拒否すると多大なダメージを負うというオマケつきである。猟兵たちが敵をここに誘い込んだのは、彼らを同じ場所に集めてユーベルコードの範囲に入れ、一網打尽にするためだ。
 ユーベルコード、【英雄、敗色を好む】。
 狐狛のチカラであるそれは、魔力や呪詛を消散させる破魔の符、移動や飛行を妨げる重力結界、感覚欺瞞や思考惑乱をもたらす幻術を対象に放ち、全て命中するとユーベルコードを封じるというチカラ。
 彼女はその三つの中でも『感覚欺瞞や思考惑乱をもたらす幻術』を主に戦場に撒き続け、敵の感覚や認識のほとんど全てを騙してやっていたのである。

 ――――そもそもの話、『緊急隔壁操作室』などという部屋は存在すらしていない。全ては狐狛の幻術が生み出した、文字通り幻の部屋なのだ。
 だが、敵はまんまと狐狛の幻術に惑わされ、途中から幻影に変じた槙の機体を追いかけて何もない空き部屋に大群で押し寄せていたのである。種明かしをした瞬間に、敵が槙を含めた猟兵達を見失ったのも、あの空き部屋で行われていた全てが幻であったが故だ。
 当の三人の猟兵たちは最初から最後まで抜け穴など通っておらず、槙も含めて抜け穴の前で声だけを響かせていたにすぎない。敵の軍勢は、中盤以降猟兵の掌の上で踊っていただけに過ぎない。
「ふう……! もう、ホントに緊張したんだから! いくら幻術にかかった瞬間を朧げにするからって、全力で『本当はない部屋を探して逃げる演技』だなんて!」
「ハッハ、悪い悪い。でも敵の武装は教えてたし、現にこうして問題なかっただろ? 敵の封じ込めにも成功したわけだしな」

 狐狛が敵の狙いを看破して、クルトの活躍で浮足立った敵が意思疎通を図るために行ったローカル通信の回線を、ヴィクティムが見事に掴むことでハッキングに成功し、槙が策の最後に必要な『敵を誘い込む』という部分を見事にこなした。
 槙とストリートチルドレンたちが敵の武装を難なく無効化出来ていたことも、ヴィクティムのサポートがあったためだ。『魔法使い』は敵の誰にも気取られずにキャバリアのシステムに侵入し、視界を盗み見て敵陣の現在地を把握していた。
 おまけに敵のマップをも盗み見て、各機の武装、機体仕様の情報すらも盗み出していたのである。これらを「気取られず」にやり、共有する。冬寂が如くの魔法が、猟兵たちの行動を強固にサポートしていたという訳だ。
「クロムキャバリアで広域通信が出来なくなってから100年だろ? アイツらが知らなかったのは魔法や幻術だけじゃない。ハッキングなんかの情報戦もだったのさァ。良く刺さってくれて何よりだぜ」
「……へえ? どうやらこっちも上手くいったらしいな。オーダー通り、ここから離れた場所で孤立してた敵兵は全員無力化してきたぜ。後は抜け穴の向こうのコイツらだけか。どうするんだ?」
「お、クルト。お疲れさん、やっぱお前のとこが一番面倒だったな。良い働きだった、感謝するぜ。これで俺たちも最前線に追い付くだけだ。槙、後始末頼めるか?」
「おっけー! 事件が終わるまで、ここに閉じ込めておけばいいんだよね。空き部屋に繋がる抜け穴を包囲する感じだから……みんな、隔壁操作お願いね!」
「ああ、それで良い。事件が終わった後にアイツらが大人しく投降するかどうかはさておき、二日近く飲まず食わずで置いとけば頭も冷えるだろうよ」
「もしオブリビオンマシンの影響を奴らも受けてンなら、その時はその時だしなァ。ここなら包囲もやりやすい。抜け穴は一つしかない訳だしな。ま、その辺の心配は後で良いさァ」
「今はまず最前線に向かうこと、か。そういうことなら狐狛とヴィクティムは俺のキャバリアに掴まれ。飛ばすんだろ?」
「隔壁操作も完了したよ、急ごう! 最前線のみんなが待ってるよ!」
 敵の狙いを看破し、全ての戦力を封じ込めることに成功した四人の猟兵たちも、こうして最前線へと向かっていく。残すは、エレベーター前の攻防だけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

忠海・雷火
●突破戦
戦闘時人格:カイラ


ネクロオーブでこの世界の死霊(機械?)を可能な限り喚び、昇降機周辺に配置
命令は「攻撃からエレベーターを守る盾となれ」

私は昇降機を狙うミサイルを斬り、短刀を投擲し、庇いながら傾斜を駆け上る
弾数が多い以上、纏めて破壊できるよう誘爆は積極的に狙う
巻き込まれる分には構わない。半分捨て身のようなもの

距離を詰めれば、恐らく対応の為に私も標的に加える筈
武器受けや見切り、ミサイル同士で干渉を起こすよう立ち回り対処
全て捌けずとも、激痛耐性と気合いで耐え凌ぐ

此処迄で受ける痛みは充分だろう
UC使用、敵数に対し雷霊を均等に配分
数倍返しの反撃、受けると良い
その間に登り切り、残敵がいれば直接斬る


パウル・ブラフマン
▼目的
『突破戦エリア』の移動補佐

▼行動
どもー!エイリアンツアーズでっす☆
ウルフさんがなんかやらかしそうなんだって?
持ち前の【コミュ力】を活かして
主にストリートチルドレンの皆から【情報収集】してきたよ。

オレの愛機が小柄に見える?
アハッ☆デカさが全てじゃないよ、機動力も大事☆
行くよ、Glanz―UC発動!
【悪路走破】上等!FMXの要領で
斜行エレベーターを猛スピードで疾走するよ。
戦況に合わせて、仲間チームのピストン輸送に尽力。
エレベーターが一度上昇した隙に
更に援軍を後方から送り込みたいなって。

迎撃には、展開したKrakeによる【制圧射撃】で対抗。
必要に応じて【弾幕】を張り、仲間の進軍を援護するね!



●34:00/タイムリミットまで、残り8時間
「どもー! エイリアンツアーズでっす☆ ウルフさんがなんかやらかしそうなんだって? オレもさっきそれ聞いて慌てて駆け付けたってワケでっす! 間に合って良かった、このエレベーターを越えられるかが山場なんすよね?」
「そういうことね。皆が遭遇戦で作ってくれた時間、無駄には出来ないわよ」
「了解でっす! そういうことならオレに任せてくださいよ☆ 突破戦チームの足として、ガッツリ働いちゃうんで!」
「あら、良いの? 傾斜は駆け上がろうと思っていたけれど、それなら頼ろうかしら」
「お任せあれ、二人で充分すぎますって! 出来る限りみんなも休ませてあげたいし、ここはオレらが気張りたいトコですしね☆ 作戦はどうします?」
「攻めは私に任せてくれて良いわ。足と援護、お願いできるかしら」
「マジですか?? あざまーっす! 実はオレ、そのどっちも大得意なんですよね! オッケー、それじゃそんな感じでいきましょいきましょ! 連合軍の皆も、援護射撃ヨロシクゥ!」
「ウス! 俺らのキャバリアの脚じゃガケみてェなこの斜面は登れないっすけど、それでもエレベーターに乗って休んでいらっしゃる他の猟兵の皆さんを守り切るくらいの弾幕は張らせて頂きやす! お任せ下せえ!」

 斜行エレベーター前で作戦会議を行っているのは、忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)とパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)の二人。彼女らは数少ない突破戦のメンバーである。
 パウルは先ほどまでストリートチルドレンたちに持ち前のコミュ力を活かして聞き込みを行いつつ、愛機である宇宙バイク、『Glanz』を駆って最前線へと合流を果たした、猟兵向け旅行会社で運転手を務めるタコ坊主。足も速けりゃ手数も多い、突破戦には必要の能力を持つ男。
 対して、手数の多さという点ならば雷火も負けてはいない。彼女はカタナにネクロオーブ、短刀に魔術装置など、数多くの装備を持ってこの戦場に臨んでいる。突破のために傾斜を自らの脚で登り切るつもりだったらしいが、『運び屋』がいるのならばその必要は無いだろう。
 二人を頭に、連合軍のキャバリア部隊が今突破戦の全戦力という訳だ。もはや道は目の前の一つのみと分かっているならば、これくらいの人数が丁度良い。
「ンー、接近するまではエレベーターの守備が最優先、ってカンジで良いですよね? これが壊されちゃうとタイムロスもキツいらしいし」
「ええ、それでいきましょう。敵もエレベーターの破壊を狙ってくるでしょうけど、ある程度距離を詰めれば、恐らく対応の為に私たちも標的に加える筈。そこからが勝負ね」
「りょです! つまりはガンガンに飛ばして距離詰めるのが正解っすね! 雷火さん、シートベルトは絞めました?」
「ココから先はノーブレーキって訳? 遠慮はしないで良いわ、運転手さん。私を振り落とすつもりでやって頂戴」
「ハハッ、それはちょっと難しいかもです! オレ、安全運転が信条なもんで!」
 多くの人員を載せた巨大斜行エレベーターが、ゆっくりと動き始めていく。目指すべき到着地点はまだ見えない。見えているのは、エレベーターの行く先の空中で待ち構えるガーゴイルの群れだけだ。
 上等じゃないか、食い荒らしてやろう。化け物は果たしてどちらか、奴らに教えてやるといい。
 突破戦、開始。

●36:00/タイムリミットまで、残り6時間
「出てきたぞッ、猟兵の奴らだ! ぜってぇここから先に通すんじゃねえぞ! さもなきゃウルフに殺されちまうぜマジで!」
「ッたりまえだろが! あんな小さな機械に乗って来るなんざいい度胸、装甲も何も付いてねえ二輪車なんざさっさと撃ち落として終いだァ! 連携を取って射線を作れ! ミサイルを撒けェ!!」
「オレの愛機が小柄に見える? アハッ☆ デカさが全てじゃないよ、機動力も大事☆ 
行くよ、Glanz――――UC発動!」
 パウルが愛機のタイヤを斜面を噛ませたのは、敵の軍勢がエレベーターの上昇を目視したのと同時のことであった。ユーベルコード、【ゴッドスピードライド】。
 彼が駆るGlanzは今、超常の力によって走る不可能を可能にするバイクと成った。悪路走破もなんのその。ほとんど崖に近い角度の斜面を恐ろしいまでのグリップでガッチリホールドした彼の愛機は、斜行エレベーターを猛スピードで疾走しながら敵が連携して放つ射線を連続で躱していく。
 パウルは時に僅かな突起を活かしてマシンを跳ねさせ、Glanzの光線によってミサイルを無力化しながら、撃ち落としたミサイルの爆風を活かして揚力に変え、空中でスピンをキメこみつつハンドルから両手を離して自分の身体に降りかかる銃弾も華麗に、鮮やかに躱してみせる。
 その上で後部座席に座る雷火が感じる揺れはほとんど無いというのだから、彼の運転技術はやはり大したものである。空を舞い、時に空を駆け、その様はまるでFMXだ。
「戦況に合わせて、仲間チームのピストン輸送に尽力――――って思ってたけど、こういう状況なら雷火さんの目的地にオレも最後まで付き合うのが筋っしょ☆ 飛ばしていくぜ、Glanz! まだまだまだまだやれるだろ?!」
「意味分かんねえ機動してやがる……! だったらエレベーターだ! あっちを狙え、アイツらにこれ以上攻め込ませるんじゃねえ!」
「来なさい、人の末路の死霊ども。機械の末路の鉄くずども。奴らの攻撃からエレベーターを守る盾となれ。未練を遺しているならば――――私に従い、鉄火場で踊れ」
「ンだ――――?! 鉄の化け物――――ッ!?」
 揺れの少ないGlanzの後部座席にて、雷火はネクロオーブである『ブラック・オパール』を触媒に、この世界の死霊と鉄くずを可能な限り喚び、昇降機周辺に配置していく。
 寄り集まったネジやゼンマイなどの鉄くずを身体として蘇った魂たちが雷火の指揮を受け入れた時、質量を持った物言わぬ亡霊たちは、エレベーターを狙って放たれた敵のミサイルを受け止める壁と化したのだ。

「――――ムカつくぜ、クソウゼエ! だったらテメエら、もうエレベーターは良い! あの目障りな野郎共がここを登り切る前に一気に潰す! 『逃げ場がない位のミサイル、一気にやれ』やァ!」
「ッ! 雷火さん、こりゃマズいかも! 奴らオレたちの進路ごと纏めてミサイルで狙うつもりだ! どうします?!」
「……運転手さん、さっきみたいに跳べるかしら? 逃げ場がないなら、道を拓きましょう」
「おおおっ、その作戦めちゃめちゃサイコーっすね! 跳び上がるための取っ掛かりがあれば、オレはいつでも!」
「だったら、取っ掛かりは私が作るわね。……来なさい、身体を作ってやるわ。私たちの道となれ、死霊ども」
 連携による射線を躱され、エレベーターへの誘導ミサイルを防がれ、焦れた敵が次に行ったのはパウルと雷火の二人を狙い、敵全員の連携で行う誘導ミサイルの乱射にて猟兵たちを確実に殺すことであった。
 しかし、それをただ黙って良しとするような猟兵たちではない。敵の狙いに気付いた雷火は、先ほどと同じ要領でこの世界の亡霊を鉄くずに集めて質量とし、パウルとGlanzが空を駆けるための『鉄くずのジャンプ台』を即席で作成してみせた。
 そう、つまり猟兵たちは自らミサイルの雨の中に突っ込むことで、被害を最小限に抑えながら進もうとしているのだ。
「雷火さんマジサイコー! これなら『跳ぶ』どころか『飛ぶ』までやれちゃいます☆ よっしゃァGlanz、道を拓くぜ!? ――――派手にブッ飛べェ!」
 勢いを乗せてジャンプ台に到達したパウルとGlanzは、見事な重心移動と機体操作によって見事に空を駆けていく。パウルはそのまま目の前に壁のように広がる一面のミサイルを空中で展開した固定砲台、Krakeによる制圧射撃で次々に迎撃していくではないか。
 彼は移動の最適化を図りながら大量の弾幕を張ることで目の前のミサイルだけを撃ち落として大量の誘爆を引き起こし、自分たちの進路を確保しつつ爆風を目くらましのように用いて、敵の目を盗んでみせたのである。

「どうなった……!? クソ、見えねえ! 片付いたのかよ――――ア――――?」
「――――遅いわね、何もかもが」
 そしてミサイルの誘爆によって生まれた大量の黒煙の中から風を斬って姿を現したのは、スピードの乗ったGlanzから跳躍することで更なる推進力を得た雷火であった。いや、この状況においては『カイラ』と呼ぶ方が正しいか。
 カイラの手には黒煙を纏った骸刀『焔喰』が握られており、彼女の目の前で沈黙に至ったガーゴイルの胸部には彼女の武装の一つである銘なき短刀が深々と突き刺さっていた。
 それはつまり、カイラが今しがた空中でミサイルを幾度も斬り裂きながら前進を続け、黒煙に紛れながら最も近い敵機を短刀の投擲によって排除した証左である。
 防御のために効率の良いミサイルの誘爆を狙い、敵の目をごまかしながらの前進を狙っていたのはパウルだけではなく、カイラも同様であったのだ。
「一人抜けた――――ッ?! テメェら火力集中させろ! 手負いの女一人くらい、すぐに畳んじまえッ!」
「骸の海より来たれ、来たれ。我が痛苦の雷宿し、黄泉より逃れしかの怨敵を灼きはらえ――――【火雷怨舞】。数倍返しの反撃、受けると良い」
 傾斜を上り終え、敵陣の真っただ中へ到達したカイラはよく見れば身体中に傷を負っているように見えた。当然である、ミサイルの雨の中を半分捨て身のようにして突破してきたのだから無理もない話だ。
 ――――だが、カイラにとってはそれすらもが作戦のうち。彼女のユーベルコード、【火雷怨舞】は自身が肉体、或いは精神に痛みを感じただけ、約90体の受けた痛みと同程度の傷を与える雷型の死霊を召喚する幻想のワザ。
 死霊はカイラに痛みを与えた対象を追跡し、攻撃する。つまり、彼女は敵の攻撃を『受けてしまった』わけではない。『わざと受けていた』のだ。攻め手を増やし、敵陣に混乱を招くために。

「ギャアア!? いっ……!! 痛ェェ!! なんだよコイツら、何なんだよォ!?」
「馬鹿野郎、こんな密集してるとこで慌てて撃ったら俺に当たんだろうが――――グ、アアア!!」
「落ち着けッ! ここは一回退いてから集中砲――――ウ、カ、アア、ア」
「全て捌けずとも、激痛耐性と気合いで耐え凌ぐ――――と思っていたけれど。腕の良い運転手さんのお陰で、大分助かったわ。ありがとう」
「あざまーっす! オレこそ助かっちゃいましたよ、やっぱ一人より二人ですからね! さ、後は早いとこ片付けを済ませちゃいましょ☆」
 カイラが先陣を切って密集陣形を取って待ち構えていた敵を混乱の渦に叩きこんだ隙に、パウルも黒煙の中から生還して合流を果たす。
 パウルはGlanzによる高速機動で、カイラは手に持つ骸刀を用いた武器受けや見切りにて敵のミサイル同士が干渉を起こすようそれぞれ立ち回りつつ、落ち着きを取り戻そうとしている敵兵を優先して排除していく。
 死霊による反撃を受けて混乱している敵を更に追い詰めていく。彼らを襲っているのは骸の海を漂う怨嗟の念に、力と指向性を与えたもの。神話に語らるる神の如く敵を追う力に、人の身で対抗できるはずもない。
「そうね。これからエレベーターに乗った皆もここに来るわけだし、ゴミは纏めて掃除しておいた方が良いでしょう」
「ですよねー☆ オレたちでキレイキレイしておきましょっか、この後の決戦も控えてることですし、気持ちよくいきましょ!」
「待――――待て、待て! ヘヘ、ええと……そうだ! 俺を殺すとウルフが黙っちゃいねえぞ!? 何を隠そう、俺ァウルフの元右腕で――――!」
「それって世界蛇組の組長サンの話でしょ? 猟兵だからって知らないと思った? それに、アンタだって有名な傭兵でしょ。別名『嘘つきジャック』。得意なのは背中からの奇襲、民間人が相手でも嘘ついて殺す、汚い戦法で嫌われてる悪名高いヒトだよね。ダメだよ、オレだって情報の裏取りくらいしてるんだからさ」
「最後の言葉は下手な嘘ってことで良いかしら? それじゃ、さようなら。あなたも悪党なら、命の瀬戸際くらいは潔くしておくべきだったわね」
「……クソッ! クソがァ――――!!」
 最後に残ったキャバリアから聞こえてくる声に対して、猟兵たちは返事を二つだけ返した。一つはKrakeによる砲撃。一つは骸刀『焔喰』による一閃。二つの返答が静寂の中で響いた後、エレベーターのゴールで動くのは猟兵二人だけとなった。
 見事な手際、実にお見事である。遭遇戦、突破戦、両面共に完了だ。
 現時刻は36:00。核融合炉跡の爆破タイムリミットまで、残り6時間。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『モノアイ・ゴースト』

POW   :    バリアチャージ
【バリアを纏った】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【支援機】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    パルス・オーバーブースト
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【オブリビオンマシン】から【光学兵器による一斉攻撃】を放つ。
WIZ   :    ゴーストスコードロン
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【支援キャバリア】が召喚される。支援キャバリアは敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●40:00/タイムリミットまで、残り2時間
 複雑かつ入り組んだ作りになっていた核融合炉跡の非常用冷却水通路を越え、敵が待ち受けていた斜行エレベーターの戦いにも勝利し、猟兵たちは更に歩みを進めていく。
 物資搬入口の奥底から更に細い通路を何本も通り、もう役目を終えて久しい電源の落ちたセキュリティゲートを越え、核融合炉跡の中枢である中央制御室へと繋がる通路を進む。
 そこで君たちが目にしたのは、静寂と埃と暗闇の中で一つだけ不自然に明滅を繰り返すセンサー類であった。近くには一つだけ電気を回っているモニターもある。

『発電機出力-過剰』
『排気筒測定値-正常』
『空調システム-正常』
『放射線量-異常なし』
『放水口モニタ測定値-異常』
『原子炉建屋内圧力容器-圧力過多』
『タービン発電機-再稼働から40時間経過-電力供給過剰』

 そこまで確認した時、猟兵たちの誰かがこう呟いた。「ウルフの野郎、核融合炉に火を入れやがった」。
 猟兵たちの読みは正しい。ウルフはエイリアスの地上にて虐殺を行った後、核融合炉跡にまで移動を開始してすぐにタービン発電機を再稼働させたのである。そして定格出力 220万kW のタービンを回し、容量 260万kVA の発電機で生み出された電気の全てを核融合炉の再起動のために用いたのだ。
 何故か? その理由は恐らく、核融合炉の活動を再開した方がこの施設を爆破した際の被害が大きくなるからだろう。
 現時点では放射線などについての危険性はないが、このままウルフの思い通りにこの施設の爆破を成功させてしまった場合、どこまで被害が出るかなど想像もできない。
 更に事態が大きく進展したのは、猟兵たちがそこまで思考を巡らせ、同時にウルフ捜索のためどう動くかについて相談を開始し始めたその時であった。
 中央制御室で静寂を保っていた『原子炉建屋最上階モニター』に、禍々しいキャバリアに搭乗している男が現れた。コクピットのハッチが開かれ、男の外見が判明する。外見年齢30代後半、性別は男性。髪型はオールバック。顎まである整った髭が特徴の――――。
 間違いないだろう。モニターに移るこの男こそがウルフ・ハウンドだ。


●Hellhole
「――――いらっしゃい。正直に言って、驚いたよ。なあ、猟兵? お前たちが化け物だって噂は聞いてたが、まさかこれ程のものだとはな。全員欠けずにここまで来れたことに対して敬意を表するよ、掛け値なしにな。……さて、悪いがこの会話は一方通行でな。俺の言いたいことだけを言わせてもらうぜ」
 ウルフの乗っているキャバリアこそ、恐らくエイリアスの情報屋が話していた機体なのだろう。攻撃目標に確実な死と破壊をもたらすことから、付いたあだ名が『モノアイ・ゴースト』。十中八九オブリビオンマシンであるその機体の中で、ウルフは尚も話を続ける。
「俺が定めたタイムリミットまでは残り2時間。いや、本当に大したもんだ。俺の見立てじゃどう頑張っても48時間以内にここまで来るのは不可能だと思ってたんだがね、まさか2時間も残されるとは思わなかったよ。さぞかし名うてのプレイヤーだとお見受けする。だから猟兵諸君、俺から君たちにラストゲームの提案だ。名称は、『鬼ごっこ』でどうだい」
 どうやら、ウルフの正気はもはや完全に喪失しているらしい。異常な底意地の悪さと抜け目のなさがオブリビオンマシンの狂気に当てられて、奴は猟兵たちにとんでもなく卑怯なゲームを持ち掛けるに至ったのだろう。
「俺は大量殺戮を完遂したい。君たちは俺を殴って止めたい。俺だってそれなりに名も知れた傭兵だし、腕に自信もあるよ? だが、分の悪い賭けはしたくない性分でね。俺はこれから約2時間、施設内のどこかに仕掛けた時限爆弾が起爆するまで――――核融合炉跡内を『全力で逃げ回る』ことにする」
 コクピットを開きながら、まるで事務連絡をしているようにフラットな表情で、ウルフはそのように続けていく。よく見れば、どうやら手には何かリモコンのようなものを持っているようだった。

「1点だけ注意事項を伝えよう。俺を無視して爆弾を解体しようとするのはお勧めしない。もしも君たちがそうしていることが分かれば、その瞬間俺は時限爆弾の起爆装置を即座に押す。核融合炉の再起動が臨界近くにまで達してからの方が都合が良かったが、この瞬間に押してもエイリアス全土を吹っ飛ばすことは可能だろうからな。ブラフだと思うならそれも結構。どっちみち、工夫でもしない限りは君たちは俺を追うしかないって話だ」
 『以上、説明終わり』と言いたげに無表情のまま手を振り、ウルフはコクピットをゆっくりと閉めていく。
「生きるために何でもしたし、仲間を活かすためなら泥も啜ってきた。死にたくなかったし、死なせたくなかったからな。だけど不思議なことに、この機体に乗ってからその思考は逆転した。『どうして俺たちは生き残っちまってんだ』ってな」
 彼は一つも面白くなさそうに、狂った妄言を口から撒いていく。恐らくはこれも時間稼ぎのつもりなのだろう。
「だってそうだろ? 生よりも死の方が圧倒的にバランスが取れてるし、混沌としていないし、奇麗で、そして美しい。死んだ奴が何も言わなくなっちまうのは、きっとここより死んだ世界の方が楽しいからなんだろうな。だから、俺は殺すぜ。この世界で生きるみんなを殺して、最後の最後に俺も死ぬ。それが良かれと信じてな」
 モノアイ・ゴーストのコクピットが閉まる。原子炉建屋最上階で、ウルフ・ハウンドは機体から禍々しい幽鬼じみたオーラを放ちつつ、最後にこう告げるのだった。
「さあ、やろうか。遊んでくれよ、猟兵ども。タイムリミットまで、残り2時間。遊び疲れるまで走ろうぜ」
 未曽有の核爆発を防ぐため、死に際でのチェイスが始まる。
 逃げる狡猾な王狼の牙を折り、世界を救え。


◆勝利条件
 『2時間以内にウルフ・ハウンドを撃破/あるいは捕縛する』。ただし後述する条件が整った場合のみ、時間制限は考慮せずとも良い。
 指定が無い場合、ウルフはオブリビオンマシンごと撃破されるものとする。


◆陣営、および人員状況
 猟兵と共に最前線まで至ったのは、『連合軍』の特殊工兵小隊とキャバリア小隊、『世界蛇組』若頭が率いる小隊で合計21組となります。
 そのほかの小隊やストリートチルドレンたちは、猟兵達の勝利を信じて後陣にて補給ルートの設立と作戦終了後の撤収ルートの構築を行ってくれています。
 彼らの最大目的は猟兵の行動のサポートです。二章と同様、何か個別に依頼したいことがある場合は頼ってみるのも良いでしょう。


◆戦場
 核融合炉跡を逃げ回るとはいえ、ウルフが乗っているキャバリアもそれなりの大きさがあります。故に、主な戦場は以下の三つに絞ることが出来ます。

 1.【タービン建屋】
 蒸気発生器によって精製された蒸気の力で核融合炉内の電気を生み出す、タービン発電機がある部分です。核融合炉内をぐるりと一回り出来る、ドーナツ状の空間になっています。
 非常に大きい高圧タービンが1基、その周辺に大量の配線やパイプによって接続されている低圧タービンが2基直列に配置されており、低圧タービンの下には復水器と呼ばれる蒸気を水に戻す機器も設置されています。
 設備を破壊しても問題はなく、蒸気や水を活かすことが出来るかもしれません。また、入り組んだ構造をしているため何かを隠したり、自分が隠れるといった行動も可能でしょう。

2.【原子炉建屋最上階】
 ウルフがモニターで猟兵たちに話を行っていた、非情に開けた場所です。ここの真下にいわゆる原子炉と呼称される圧力容器が存在し、ナノセラミック製とコンクリ製の二重蓋が頑丈な足場として機能するでしょう。核融合炉内の中央に位置する場所であり、タービン建屋との行き来は容易です。
 工夫できるようなギミックは少ないですが、それを補うに余りあるほど『広く』、『見晴らしがよい』場所になっています。真っ向勝負をしたり、もしくはタービン側から逃げ込んできたウルフを待ち伏せするには向くでしょう。

 3.【中央制御室】
 発電所の「頭脳」として、全設備を運転監視することが可能な施設です。
 2時間という余裕が生まれたことにより、この部屋に誰か猟兵がいた場合はウルフが仕掛けた爆弾を捜索したり、猟兵達の連携を滑らかなものにしたり、ウルフの行動を監視することが出来るでしょう。
 この戦場を選択した場合直接的な戦闘行為には関われませんが、その代わり上記に記した『爆弾の捜索』などの特殊なプレイングが可能になります。
 そして、『爆弾の処理』を完了した場合は全猟兵が時間制限なしにウルフと戦えるようになるでしょう。ただし、戦闘に参加する猟兵の数が少なければその時点でウルフに怪しまれてしまうため、危険な賭けであることは違いありません。


◆猟兵の役割
 上記の戦場から自らの得意な場所を一つ指定し、そこでの戦いに集中するのがよろしいかと思われます。指定は番号でも場所でも構いません。
 また、三章についてはプレイングを採用する方を組み合わせて全員同時に描写するつもりでいますので、それを前提に自分の役割だけに注力するのも面白いかと思います。
 二章同様、次善策を捨て、自らの一番得意なことでウルフを追い詰めて頂くのが最上手かと思われます。
 皆さまの健闘を心より祈っております。ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。どうか最後まで、何卒よろしくお願い申し上げます。


※プレイング募集受付10月15日(木)08:30~10月16日(金)23:59までです※
矢来・夕立
●捕縛
悪党には居心地のよい国ですよ。
あいつが本当に有能なら生きて働いてもらいます。

初動。バーテンさんのバイクのケツを借りて機動力を確保。支援機に飛び移る。
片っ端から叩き落としてやる。
飛び乗った支援機を利用して《闇に紛れる》。
畢竟視認されなければいい。敵意を感じようが見えない敵を追うのは無理でしょうよ。
熱源感知?利用価値のあるお仲間ですけど?
撃つなら他の機体へ逃げます。デカブツと違って身軽なので。

この速度の戦闘は三秒が長いな。
【紙技・冬幸守】で目視・妨害・破壊を繰り返す。
視界が開けたら移動。支援機かバイクで次の群れまで運んでもらいましょう。
オレの武器は紙ですが、鋏に負けるほどヤワではありません。


神羅・アマミ
その気になれば今すぐにでも自爆ボタンは押せるはず…
馬鹿げたゲームに興じるは、奴も内面では狂気に抗っている証左か?


索敵なら人海戦術!
小隊キャバリアと連動するレコーダーやワイヤレスカメラ等をかき集め、『特機』のビットに無理矢理括り付け散開。
妾自身もキャバリアを借り、3Dグリッド化したマップを集団監視、他の猟兵も含め無線で連携じゃ!

見敵即現場急行!
しかしまずビットで狙うべきは壁に張り巡らされた水冷パイプ。
光学兵器は雨や粉塵に弱いと聞いたことがあるぞ!
風車状に束ねたビットで金属片混じりの水を舞い上げ、ビームの威力が弱まればよしんば直撃でも致命傷こそ避けられよう。
お返しに主兵装の一つも破壊しちゃる!


御蔵・槙
2
ここまで来たら最後までやらなきゃ江戸っ子が廃るってもんでしょ!
いや今は江戸じゃなくて帝都だけど!

あえて待ち伏せ等の小細工はせず陽動として動こうかな
口惜しいけど私にはウルフに対する決定打が何もない
けれどその光学兵器を無効化する手段はある

あえて目立つように
派手な塗装のピコハンなガジェットでUCを発動、
これで殴っちゃうもんね!とウルフを挑発
同戦場の仲間にもこっそり一機ずつつけておこう

ハンマー内部には小麦粉とかハッタイ粉とか詰まってる
御自慢の一斉攻撃もブルーミング現象で無効ってわけ
UCだから何度壊されても困らないよ
決定打がないなりに戦い方はあるってこと
私が証明してあげる!


忠海・雷火
戦場:2


奴が来る瞬間、機体のカメラ部分が来るだろう位置を狙い刺突
直撃すれば有利、しなくても目的には繋がる
悪辣な計画にゲームと、害意も充分だけど
目を狙った相手に、少しの「敵意」も抱かない人は居ない筈

UC発動後は真っ向勝負
支援機も本体も人型故に、関節可動域や予備動作等は対人戦闘知識で見切り攻撃にも活かす
数多い敵を盾にして同士討ちも狙い、固まった所は薙ぎ払う

可能なら、小隊に弾幕での行動阻害をお願いして
半ば巻き込まれても良いから敵機の懐へ飛び込む
ウルフ本人への直接攻撃はせず、纏った力で機体からだけエネルギーを奪い滅ぼしたい
既に幾人も手にかけているにせよ、始まりは事故に等しい。積極的に殺す理由は無いもの


玉ノ井・狐狛


オーラスだな、仕上げといこうか

こっちの手札はいくらか道中で割れてて、一方で野郎の機体の情報は不十分
パッと見りゃァうまくない状況かもだが――アタシらにゃ、魔法使いがついている
猟銃はの調子はどうだ? 狼退治の時間だぜ

▼方針
連合軍や世界蛇組に手伝ってもらおう
工兵によるトラップ設置と、キャバリアによる狙撃・砲撃――
もちろん、そんな「普通の戦法」、ウルフの野郎には通じづらいだろうけどよ
「精度」が「普通」じゃなけりゃ、話は違ってこねぇか?
③からのナビ、①側と交戦時の情報、霊視によるオブリビオン能力の察知……辺りを揃えて効率を最大化すりゃ、成り駒も同然だ
(UC)

さァ、狼サンよ
これでもまだコールするかい?


ティオレンシア・シーディア


リスクを減らして安全マージンを取る…戦術に関してはホントに正道ねぇ。
けど、あたしたち相手に二時間も逃げきろうだなんて。…随分と舐めたこと言ってくれるじゃない。

ミッドナイトレースに○騎乗してエオロー(結界)で○オーラ防御を展開、●轢殺・適応を起動して攻撃力を半減、装甲と移動力を状況に応じて強化するわぁ。お望み通り追っかけてやろうじゃないの。
突進は初動見切ってバレルロールなりフロントフリップなりで回避。支援機墜としつつぴったり張り付いて徹底的にイヤガラセしてやるわぁ。
電撃の帝釈天印、遅延のルーン三種にEMPグレネード、魔道も化学もより取り見取り。足引きの手筋ならいくらでもあるのよぉ?


パウル・ブラフマン
戦場:2

愛機Glanzをゴキゲンな【運転】テクで繰り交戦。
情報提供に感謝しつつ、皆と連携してくね♪

UC発動―地獄へようこそ!
魔改造で射程を伸ばしたKrakeを展開して
ヒット&アウェイを繰り返し、仲間の【援護射撃】を。
同乗?モチ歓迎だよ☆

【カウンター】のタイミングで
Saugerのカラビナを敵機に引っ掛けたら
そのまま機体上を疾走、殺害しないよう留意しつつ
コックピット付近に【零距離射撃】。

ねぇウルフさん。
このワイヤーさ
ストリートチルドレンの皆から預かったヤツなんだ。
アンタの悪口はスゲェ聞いたけれど
誰もアンタに死ねとは言わなかった。だから殺さず連れて帰る。

ココからよく見えるでしょ?アンタの国は美しい。


ヴィクティム・ウィンターミュート
3

ここは俺一人で良い
語られざる独り舞台ってやつさ

監視カメラで様子を把握
これまでの情報、行動パターン
【ハッキング】によるスペックの把握に武装の状態、構造、仕様
そして味方の行動タイミングの調整、連携の効率化
全て俺がやる

共有はニューロハックで直接脳に送る
2の連中は1での戦闘ログが活きるはずだ

さて『これをやりながら』爆弾を見つけ、解除しなくちゃな
カメラは俺のヴィジョンにリンクさせたから問題ない
目がありゃ見つけられる
解除?ハッ!頭使うか指先使うかの違いだけだ
一番楽な役回りなんだ
成功させなきゃ無能もいいとこだぜ

"自分で自分を操る"ように
思考も手足も指先も
精密に指揮し、操るんだ
マルチタスクの極限を目指せ


クルト・クリューガー
2.【原子炉建屋最上階】
狂人の戯言は聞くに耐えんね
お前を墜とせばこの依頼は達成だな
まぁ、事情は知っているから可能な限り生かしておいてやる
いくぞ、ボギー

UCで装甲を半分に移動力を5倍
ここは広い
追いかけますにも随伴機と分断するにも機動力が必要
攻撃は喰らわなければいい
中央制御室からの情報と仲間との連係しながら追い詰める
まずはキャバリア小隊と連係し随伴機から掃除
数が減ってきたら機動力を奪うために足やブースターを重点的に攻撃
移動力を活かして可能な限り後ろや上をとって攻撃
おらおら、どうした!
そのご立派なバリアは飾りか?
突撃してきたらそれに合せて味方に攻撃してもらう
突撃は直線的な攻撃だからな見切りやすかろう


バルディート・ラーガ
あっしは【原子炉建屋最上階】にて、敵サンを迎え撃ちやしょう。
デカブツの上にあの数、生身で真っ向からはちと厳しそ。
どっかでキャバリアーを調達できりゃア楽ですがねエ。

……や、や、ご協力の皆々様の愛機は是非ともそのままに。
ホレ、面白そな機体が丁度目の前にございやしょ。
ですからして、皆様にゃ是非とも再度力をお貸し頂きたく。

戦場を単独で「ダッシュ」、支援キャバリアの幾ばくかを引き付け。
キャバリアの攻撃はキャバリアで防ぐ。味方の小隊にカットして頂き
UCを発動。キャバリアを、その操縦権を「盗み取って」同士討ちさせちまいやしょ!
具体的な動かし方?さっぱり分かりやせンけれども。
……で、電脳の兄サン辺り!頼む!



●40:30/タイムリミットまで、残り90分
「リスクを減らして安全マージンを取る……戦術に関してはホントに正道ねぇ」
「おまけになんじゃあの脚の速さ。妾達がマジで走っても、並の手段じゃ追い付けんぞあれ」
「しかも武装も一級品。幽鬼じみたオーラに見えるあれ、実際的にはバリアか何かですね。それにあの笑えない速さ。正直、真正面から相手取るのは厄介な相手ですよ。策も無しに戦えば負けますね。――――で? どうします」
「ええ、イヤになるくらいのまっとうな強敵ねぇ。……けど、あたしたち相手に残り一時間半も逃げきろうだなんて。……随分と舐めたこと言ってくれるじゃない? やっぱりさっき皆と話した通り、捕まえましょ、あいつ。手段を択ばず、徹底的にあいつに負けを認めさせて勝とうじゃない」
「賛成じゃ。ウルフとて、その気になれば今すぐにでも自爆ボタンは押せるはず。……馬鹿げたゲームに興じるは、奴も内面では狂気に抗っている証左か? もしそうだったらよォー、オブリビオンを倒して無辜の人々を救う猟兵たる妾達の目的は一つじゃよなァ~?!」
「提案を肯定します。悪党には居心地のよい国ですよ、『偽名国家エイリアス』は。あいつが本当に有能なら、まだまだこの生き地獄で働いてもらいます。オブリビオンマシンだけをブッ壊して、アイツの全てに勝ッてやる」
「それ良いわねぇ。それでいきましょ。戦術に関しちゃ正道だとしても……アタシたちに舐めた口を利いたお礼はしてあげなくっちゃね?」


●40:40/タイムリミットまで、残り80分
「狂人の戯言は聞くに耐えんね。アイツを墜とせばこの依頼は達成だな。代理賭博師、さっきのミーティング通り、前線指揮はお前に任せて良いんだよな」
「ああ、任せときなァ。……さてと。オーラスだな、仕上げといこうか。一応確認しとくぜぃ、方針はさっきのミーティングの通りで良いな?」
「ええ、捕縛ね。構わないわ。既に幾人も手にかけているにせよ、始まりは事故に等しい。積極的に殺す理由は無いもの」
「うん! ここまで来たら最後までやらなきゃ江戸っ子が廃るってもんでしょ! 助けちゃおう、ウルフさんも! あの人だって、この世界に生きる人なんだから!」
「それに、オレたちって猟兵だしね☆ 敵にするのはオブリビオンと悪人だけにしなくちゃ嘘でしょ! どれだけ今がキツい状況でも、青臭いコト言いながら人助けしちゃお☆」
「ヒヒヒ、仰る通りに青臭いですなァ。ただま、青臭い方が生臭いより何倍もマシってモンです。あっしも反対は致しやせン、手が届くなら伸ばしてみるとしましょ!」
「まぁ、事情は知っているから可能な限り生かしておいてやる。いくぞ、ボギー。足がない奴は今のうちに言っとけ、運んでやる。乗り心地は保障せんがな」
「Glanzに乗りたい人も言ってくれて良いよ! オレ、今回は皆とゴキゲンに連携していく感じで動こうと思ってるから☆ 蛇さんとか、どう?」
「ヒッヒ、お気持ち大変ありがたいですなァ! ですが、ご協力の皆々様の愛機は是非ともそのままに。ホレ、面白そな機体が丁度ございやしょ。ですからして、皆様にゃ是非とも再度力をお貸し頂きたく」
「アタシは一口乗らせてもらうぜぃ。今は目も脚もあればあるだけ良いからなァ、飛ばしてくれて構わねえ」
「それじゃ、私も。敵機の懐へ飛び込むつもりでいたから、機動力があると嬉しいわ」
「あっ、私もお願いします! その代わり、光学兵器については任せて下さい! 少し思い付いたものがあるので!」


●40:50/タイムリミットまで、残り70分
「オーケー、最後の確認だ。【タービン建屋】に三人、【原子炉建屋最上階】に六人。ここは俺一人で良い、語られざる独り舞台ってやつさ。絶望的な地獄に、プレイヤーが十人って訳だ。ウルフは捕縛する、エイリアスは守る、俺たちはあいつの全てに勝つ。なに、負けてもたかが死ぬだけだ。その代わり、勝てば全てが手に入る。気楽に遊ぼうぜ、カウボーイども。――――残りは100分。ゲームタイム」

 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)、
 神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)、
 矢来・夕立(影・f14904)、
 クルト・クリューガー(なんでも屋「K.K&Bogey」・f30011)、
 玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)、
 忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)、
 御蔵・槙(矢絣探偵・f27805)、
 パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)、
 バルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)、
 ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)。
 地獄に集った猟兵が十人、名うての狼を追いかけて、残り120分の鬼ごっこが始まる。
 どん底と核の冬、鉄火と放射線、生と死、本名と通称。どちらが正しくてどちらが間違っているかなど、今この生き地獄においては論ずる意味を持たない。
 何故ならこれは狩りだからだ。さあ、ウルフハントを始めよう。議論の種々は勝った方の総取りである。遊び疲れるまで走れ、猟兵。この国を救いたいのなら。


●41:20/タイムリミットまで、残り40分
「――――よう、随分遅かったじゃないか。俺を倒す算段は付いたのかい、猟兵諸君」
「随分と舐めてくれやすねエ。ちょいとした作戦会議でさア、しかしご丁寧に待ち構えて頂けるとは思いやせンでした」
「これはかくれんぼじゃないからな。鬼ごっこは上手く逃げ続けるのが一番面白いのさ。自分に追いすがる、足の遅い間抜けを見ながらな」
「趣味が悪いのね。こちらとしては追う手間が省けるから楽で良いけれど」
「ウルフさん。アンタは俺らの命の恩人だし、信じられる教官だし、何より部隊の親みたいな人だ。だけどよ……今のアンタ、今までで一番カッコ悪いぜ」
「だから、俺らは猟兵サンたちに付きますよ。俺たちのアタマは誰よりも生き汚くて気高い狼だ。今のアンタじゃない」
「上等だぜ、クソ野郎共。命を捨ててかかってきやがれ」
「全員、死なないように死ぬ気で気を付けていこ☆ シートベルトは締めた? ――――ココから先はノーブレーキだぜ」
 ウルフが待ち受ける原子炉建屋最上階への一番乗りは、愛機Glanzに雷火とラーガを乗せて駆けるパウルと、彼の宇宙バイクに追従するエイリアスの本隊である。
 猟兵とエンゲージしたウルフが『モノアイ・ゴースト』のコアユニットを一度吹かせば、敵は瞬時にパウル達からまるで飛ぶように跳躍を――――いや、あれは実際に飛翔を行っているのか。
 ともあれ、ウルフは桁外れな速度を以て即座に距離を離しながら、支援機であるガーゴイルを虚空より召喚していく。
 【パルス・オーバーブースト】と、【ゴーストスコードロン】。
 即ち、今のウルフはマッハ7を越える程の瞬間的な素早さと、無限に召喚が可能な支援無人キャバリア部隊という二枚の手札を切れる状態だ。
「ヒヒヒヒヒ、笑えますなア。ありゃァ速い、チト速すぎるレヴェルに片足突っ込んでいやがらア。蛇の目じゃナントカ追うのでやっとでさ。……ところで皆サン、お気付きですかイ?」
「もち! 見た感じ、加速は断続的なモンで永続じゃない! オレのテクとGlanzのスピードがあれば、工夫次第で追いつける! タコの脚の速さ、舐めてもらっちゃ困るんだよね!」
「頼もしいわね。まずは支援機から片付けていきたいところかしら。あちらはそこまで脚に自信がある訳じゃなさそうだし、それに……その方が、敵に追い付くには近道だろうから」
 大凡猟兵たちの見立て通りである。敵機の札は確かに強い。だが、エースとキングだけでは役にはならないのだ。『敵は、別々のUCを同時に使っていない』。
 そしてそれは恐らく、ただ使っていないのではなく『使えない』のだろう。よく見れば、幽鬼じみたオーラによるバリアも今は使えていないと見える。
 『バリア』、『加速』、『支援機の召喚』。その三つがトレードオフならば、やり方次第で賽の目が微笑む可能性はいくらでもあるという訳だ。
 先ほどの飛翔と敵機召喚も、派手に動いて自分の能力の高さを見せつけながら、その実はただ順番に能力行使を行っているだけに過ぎないということを、既に歴戦の猟兵たちは見抜いていた。
 だからこそ、先に支援機を叩く。ウルフが猟兵たちに倒された支援機を補充している間、敵は加速を使えない。故に、捕まえるきっかけをつかむならそこがチャンスということだ。
「行け、ガーゴイル。俺を追う猟兵諸君を歓迎してやれ」
「来た来た来たァッ! 二人とも、飛ばしてくから掴まってて☆ 悪いけどこの感じ、さっきもやったんだよね! ココから先はオレの海域だよ――――地獄へようこそ! 【Space Devil Rises】!」
 ウルフの指示によって、100や200では足らぬ程の支援キャバリアの群れがパウルたちの脚を止めるために壁となって蠢いていく。その動きは無人機らしく一糸乱れぬほどの正確さであり、人の意思を感じるものではなかった。
 ――――だからこそ、パウルのチカラが良く刺さる。彼のチカラは、固定砲台であるKrakeにカスタムを重ねに重ねて実現した一種の幻想。Krakeの効果・威力・射程を、3倍に増幅するという単純にして強力なチカラだ。
 11時、12時、1時、そして正面やや上方に向けて放たれる4方向への一斉掃射が、無人故の正確無比な操作によって圧倒的な密度を構成していたガーゴイルたちを焼き払っていく。無人操縦の正確さが裏目に出た形である。
 パウルの加速はびた一衰えていない。対して支援機の壁は穴が開いたままである。
「雷火さんッ! さっきの『アレ』、もう一回出来る?!」
「『アレ』ね。了解よ。角度も合わせるから、先と同様に」
「蛇さん! あの中に突っ込むよ! 心の準備はOK!?」
「ヒッヒッヒ! よござんす、タコの兄サンのご随意に!」
「ノリ良いね、サイコーだよ! ――――ブッ飛ぶぜェ!」
 Glanzの後部座席に座る雷火のネクロオーブ、ブラック・オパールがほんの僅かに瞬いたその瞬間、この世界の亡霊たちが小さな鉄くずに集まって、雷火の思う通りのカタチを形成していく。
 彼女らは斜行エレベーター突破戦で見せた『鉄くずのジャンプ台』をもう一度精製して、それを取っ掛かりとして今度は支援機の壁に空いた穴に向けて飛び込んでみせたのだ。
 ――――だが。
「悪いな、その戦法はもう読んでたよ。同じ手で来るとは舐められたもんだ。空中じゃ地上のように身動きも取れんだろ? ガーゴイルども、散会して再集結。鶴翼の陣を取れ。包囲して押し包め。動けなくすれば俺が取る」
「ッ! こりゃやばい――――ッ!?」
 空中を跳んでガーゴイルたちを切り抜けたかに思えたパウル達の前に、天井付近に潜んでいた伏兵たちが突如現れてビームランスを構える。
 そして次の瞬間には、壁のような陣形を取っていたガーゴイルたちも伏兵たちの動きに追従しながら陣形を変え、空中のパウルたちを包囲するかのような陣を取るではないか。さらに問題なのは、ガーゴイルたちの包囲の後ろでウルフがその手に持った光学兵器と思しき銃器を猟兵らに向けていることである。『ガーゴイルたち諸共撃つつもり』だ。
 ウルフは猟兵たちの動きを読み、道中の敵よりも上の戦術を取っている。猟兵たちが同じシチュエーションで同じ戦術に甘えれば、その隙を取られるという訳だ。
 ――――『同じシチュエーション』で、『同じ戦術』であればの話だが。

「――――なんてね。雷火さん、蛇さん! オレは正面、脇の奴らを! ヴィクティムくん、タイミング指定ヨロシク!」
「突破戦の時とは違って、今は3人。私と運転手さんだけじゃない、もう一本の腕があるのよ。それに、頼れる後方指揮官も付いてるしね」
『そう持ち上げるなよ、実際に良い動きしてるのはお前らだ。パウル、3秒後に正面へ二度斉射。ラーガはその後敵からの攻撃対処を頼む。エイリアス小隊連中、準備良いな? 駆け付けてもらってすぐで悪いが、雷火とラーガの援護だ。照準指示が欲しい奴は操縦寄越せ、俺が遠隔でやってやる』
「オッケー! 出来るだけガーゴイルを巻き込める、ウルフの目をごまかせるような奴ね! まっかせて☆」
「なんの、これでも俺たちだって一流の傭兵ですぜ! 援護射撃はお任せ下せえや! 雷火の姐さん、蛇のアニキ、僭越ながら援護させて頂きやす!」
 確かに、雷火とパウルの連携によって空を走りつつ突破を図るという戦術は先と同じものだ。しかし、そこから先の展開は突破戦の際とは全く違う。
 まず以て、支援キャバリアであるガーゴイルは先の地下道戦で見たものと同一のもの。であれば――――監視カメラで全ての戦いを監視しているヴィクティムという男が、そのスペックも隠れ位置も行動パターンも武装情報も、その全てを把握していないはずがない。
 先のパウルの一斉掃射で最大効率による敵機の一掃をキメられたのも、ヴィクティムの的確な指示とパウルの実行能力の両方があったればこそ。
 彼は一人で情報戦を行っている。ハッキングによる敵機スペックの把握に武装の状態、構造、仕様の把握。そして味方の行動タイミングの調整、連携の効率化、監視カメラの映像の無線回線共有と猟兵たちの意思疎通の手助け。
 その全てを、ヴィクティムは一人で完璧に行っていた。
「私たちも負けてられないわね。実働部隊として、恥じない動きをしようかしら」
『ラーガ、敵機攻撃タイミングを共有する。すぐ来るぞ。2秒後にビームランスによる連携突撃だ』
「ヒッヒヒヒ、そう方々から頼られると困っちまいますがねエ! 蛇の脚より速いタコの脚に、惹き付けなくとも包囲してくれる切れ者の敵、同じ狙いの頼れる姉さん、大量の援護射撃に実に鮮やかな後方指揮! こんな面白エ一流の舞台にあっしも役者として立ってンだ、ここらで良いカッコしておかないと夢見が悪くなっちまいそうでいけやせンなア!」
 空中を駆けるGlanzから跳躍を行いながら、ラーガは猟兵たちを纏めて打倒そうとする支援キャバリア、ガーゴイルの群れの魁に向かっていく。
 彼は右手に握られたシガーケースを素早く巧みにガーゴイルの眼前にホイと投げてやると、左手で操る黒炎の蛇鞭を目の前に伸ばし、先程投げたシガーケースに仕込まれた閃光火薬に火を付けることで敵のアイカメラを一瞬黙くらかして見せた。
「ヒヒヒヒ、ちょいと失礼。アンタのお力借り受けやすよ、ウルフ殿! タコの兄サン、目くらましお願いしやす! エイリアスの方々、援護射撃頼んますよウ! ――――【掏摸の大一番】!」
『今だ、撃て! パウル、エイリアスの野郎共!』
「了解、想定タイミングドンピシャだよ蛇さんたち☆ オラオラ、派手に散らかれよッ!」
「蛇のアニキに取り付いたガーゴイルを撃ち払えッ! 点じゃなく面で弾幕形成しろ!」
「チッ……。面倒だ、連携がイヤに取れていやがるな」
 そして戦局は三つの動きを同時に見せる。
 一つ目は、エイリアスのキャバリア部隊による、ラーガの目の前で一瞬視界を失い怯んだガーゴイルたちへの援護射撃。ヴィクティムの指揮によって底上げされた射撃能力を用いて、彼らはラーガへ向かうガーゴイルの悉くを銃弾の雨で掃除していく。
 二つ目は、キャバリア部隊からの援護射撃と同時に行われる、ガーゴイルたちへ向けられたパウルの一斉清掃。今度の四連射は目の前の突破ではなく、空中で猟兵たちを包囲しようとしたガーゴイルたちを散らすために四方へ分散されて放たれていく。
 各所でガーゴイルたちがはじけ飛び、誘爆によってさらに大きく爆風が起こる。パウルはそれによって支援キャバリアの包囲を分断すると同時に、撃破の際に発生した爆風でウルフからの攻撃を防いで見せた。
 光学兵器は熱された空気に弱い。温められて膨張した大気は密度が小さくなり、レーザー光を屈折させてしまうからである。指向性レーザー光の本懐は集約にこそある。待機中にバラ撒かれた熱と煙と鉄くずは天敵なのだ。
 三つ目は、キャバリア部隊からの援護射撃を受けて見事にガーゴイルたちの攻撃を防いだラーガの幻想行使である。【掏摸の大一番】。対象のユーベルコードを防御すると、それを発動するのに必要なモノを盗み取り、1度だけ借用できるというチカラ。
 ラーガはそのチカラを用いて、煙幕と爆風の最中から現存するガーゴイルたちの操縦権を奪ってみせた。
「ヒヒヒヒヒ! 上手く行きやしたねエ! さて、電脳の兄サン! 火事場泥棒に成功したは良いがあっしはキャバリアーの動かし方なんざ分かりゃしやせんでどうぞ良しなに頼ンます!」
『――――こりゃ――――面白ェ! 良い働きだぜラーガ、コイツらの回線開け! 俺が指揮して喰わせ合う!』
「そんなコト言われやしても何が何やら……! これかァ?!」
『ドンピシャだぜ! しかもコイツは――――掘り出しもんだ! ウルフの機体とのアクセス履歴が残ってやがる! 回線をリダイレクトしてバックドア作りゃ、ウルフの機体のコントロールだって奪え――――』
「……そういうことか。腕の良いハッカーがいるらしいな? させるかよ。現ガーゴイルとのリンクを遮断、ポート61閉鎖。リンク新規、ランダムポート開放。タスク更新は0.02秒。作戦仮想マシン内にサンドボックス展開。新規アクセス検知次第焼け。ガーゴイル部隊再召喚。包囲再開しろ」
『チッ……。案外手が早い野郎だな、クソ。まあ良い、今の一瞬でウルフとガーゴイルの装備情報は抜き出せた! 共有するぜ、良く聞けよ!』
 爆炎の中で自らが召喚したガーゴイルたちのコントロール権を奪われたことを察知したウルフは、次の瞬間には光学兵器を用いて自分が目視できるガーゴイルたちを躊躇なく撃ち抜いていく。
 ラーガとヴィクティムに操縦権を奪われ、そこから芋づる式に機体データを盗まれる危険性に勘付いた故だ。今残存しているガーゴイル各機は残しておいても損しかないという判断によるものだろう。
 光学兵器を用いてラーガが支配したガーゴイルたちの殆どを焼き殺した後、ウルフは即座に新しい支援キャバリア部隊を再度召喚していく。ヴィクティムのハッキングに対する対抗策も取り入れた新部隊だ。

「了解したわ、情報に感謝を。これでハッキリしたわね。支援キャバリアは人型故に、関節可動域や予備動作等は対人戦闘知識で賄える。これなら――――見切れるわ」
 鮮やかに展開されていくウルフの防衛策に、しかして猟兵たちの二の手が伸びる。パウルの砲撃とラーガたちの活躍によって目の前が開き、ウルフがこちらに向かっての対処を行った今、敵との距離はそう離れているわけではない。
 パウルのGlanzから飛び降りた雷火は、少なくも残ったガーゴイルに飛び移って空を駆けてウルフへの接近を試みる。ラーガによって奪われ、ヴィクティムによって能力を強化されながら操られる機体の速度は著しく、ウルフへの距離を瞬く間に詰めていくではないか。
「――――ようやく突出してくれたな。誘い出した甲斐があったよ。まずはお前から殺してやる。全部隊、包囲取りやめ。あの女に集中攻撃だ。墜ちろ、女」
 しかし、ウルフもさるもの。敵は雷火の接近を読んでいたかのように手元のガーゴイル部隊を操ると、狙いを『猟兵たちの包囲』から『雷火の単体撃破』に切り替えていく。
 だが、それがどうしたというのだろう。
 既に敵の包囲網は途切れつつあり、障害は眼前にある新しく展開されたガーゴイル部隊だけ。ならば、それを『道』にするまでだ。
「狂える力、沸き立つ混沌よ。我が身が浴びる意志の主こそ汝の贄、汝の渇きを刹那彩る響音なり――――【制約召喚・狂沌之齧】。無人操縦からの害意は……まるで虫の本能のように色褪せているわね」
 そして、カイラによる幻想行使が行われた。彼女のチカラは自らの全身を敵の体や力、存在概念を滅ぼすエネルギー体で覆い、自身が敵から受けた敵意、害意などの負の感情に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を付与するというモノ。
 敵が無人操縦のガーゴイル部隊とはいえ、01の電気信号が発した害意をカイラは見逃さない。ウルフが放つ光学兵器の一撃を乗っていたガーゴイルから跳躍することで回避したカイラは、そのまま空中でガーゴイルたちとの乱戦に突入する。
 数の多い敵を足場代わりに用いながら、時に放たれるビームランスの突撃を骸刀『焔喰』の刀身によって流して同士討ちを誘発させ、飛来するミサイルの雨はその中心を見極めて、構える短刀を投擲することで誘爆を起こし無効化。敵が『人型』である以上、カイラはそれに相手取るに当たって圧倒的なアドバンテージがある。
 尚も連携による突撃を行う敵機群を『道』のように用いて、カイラはまるで空中を走るかのようにウルフへの接敵を果たしてみせた。
「ほう、やるな。だがまだだ、俺と踊りたいなら手順を踏んでもらおうか。ガーゴイル部隊、壁になれ。俺が逃げる時間を作れよ」
 しかし、自らに近付く猟兵に対してウルフはとことんつれない素振りだ。彼は瞬く間に破壊されたガーゴイル部隊を再召喚すると、自らの目の前に配置することで即席の壁を作っていく。カイラの突破力を削ぐのが狙いか。――――しかし。
「――――させないよッ! 雷火さん、突っ込んでいいよ! 合わせる!」
「ヒヒヒ、キャバリアにはキャバリアと申します! オラいけテメェら、姐さんの道を拓きなア!」
 そこに間に合ったのが、パウルのKrakeが放つ砲撃とラーガが操縦権を奪ったガーゴイル部隊のミサイルレイン。彼らの援護射撃が、ウルフの呼びだした『壁』に罅を入れてみせたのを、カイラの目は見逃さなかった。
「ありがとう、二人とも。こうも罅が入っていれば、壁とは名ばかりね。もろく固まった所を薙ぎ払うだけよ。――――これで、ようやくあなたに手が届く」
 そして、一閃。カイラの柔らかい手の内から流れるように放たれる、骸刀『焔喰』の薙ぎ払いが、ガーゴイル部隊の胴を大きく裂いていく。そのまま、カイラは役目を果たせなくなった敵の支援機を足蹴にウルフへと接近。至近へと至る。
 カイラは薙ぎ払われた骸刀『焔喰』を握る手首を表に返し、小指を回して鍔口を起点に獲物の刃先を反転させると、伸びた利き手の中で順手に構え直した骸刀に推進力を乗せて両腕のしなりを解き放つ。
 現代剣術においては禁じ手とされる、『目玉への突き』。カイラはそれをウルフの駆るモノアイ・ゴーストに向けて放ってみせたのだ。
「――――ッ、ハハハハハハ! 猟兵もやるじゃないか」
「まだ余裕があるつもり? そうだとしたら、見立てが甘いわよ」
「それはどうかな。ゲームを締めるにはまだ早すぎる。どうやら人型の相手が得意なようだが……これならどうだ? 人の身にはない、俺の奥の『手』だよ」
 モノアイ・ゴーストのアイカメラへと延びるその刀身を、敵は機体の上半身を捻ることで左肩口の円盤シールドで受けてみせる。そしてお返しに繰り出されるのは、機体の背面に見えていたテイルブレードの一撃だ。お礼参りのつもりだろうか、三次元的な動きを見せるそれはカイラの右目を刳り貫く軌道で飛来していく。
 それを寸での所で防いだのは、ヴィクティムが操るガーゴイルの一機だ。ウルフの繰り出したテイルブレードをモロに受けた機体が破壊されていく最中で、味方の防御が間に合うことを知らされていたカイラは敵の攻撃に構わずもう一刀、モノアイ・ゴーストへ振るってみせる。狙いは先ほど攻撃を受けられた円盤シールドだ。
 カイラが放った袈裟斬りにより、先の突きで脆くなっていた円盤シールドが粉々に破壊されるのと、ウルフが再度飛翔能力を用いて戦場から離脱し、タービン建屋へと移動を開始するのはほぼ同時のことであった。
「逃がした……。でも、一太刀は入れたわね。推測が正しければ、これで追撃の手は易くなるわ」
「あぶねエあぶねエ! あの尾っぽ、確かに見えてはいやしたが……まさかああいう使い方をしてくるとは思いやせんでしたなア。あっしも尾先に刃でもつけてみようかしらン」
「人ともナーイス! 怪我はない? 大丈夫? 狐狛さんたちもそろそろ着くみたいだし、俺たちも次に備えよっか」
「ええ、そうね。タービン側にいる三人が、もう一度追い返してくれるのを待ちましょう。ウルフを討ち取るチャンスは、きっとその瞬間にあるだろうから」


●41:25/タイムリミットまで、残り35分
『俺だ。ついさっき、タービン側にウルフが向かったぜ。お前らが張ってる場所の丁度真反対、4時の方向から抜けてった。現在は速度を落として巡行中。急いで向かえば接敵まであと30分ってトコだが……。小隊キャバリアとビットの状況はどうだ?』
「完璧とは言えんが、それでも出来るだけのことはやっといた! 急ぎの割には上手く機能しとるぞ。予めレコーダーだのワイヤレスカメラだのをビットに無理矢理括り付け、タービン建屋内に散開させといて正解じゃったの。今そっちに妾が作った3Dグリッド化したマップを共有するんで、確認願いたい」
『どれどれ……お、結構クリアだな。OK、これは大分使えるぜ。打ち合わせ通り、ニューロハックでお前らの脳に直結で情報を送る。カメラ位置から割り出した現在位置のリアルタイム追従は俺の方で組む』
「おー、あのなんか頭にふわっとなる奴か……。応、それでよろしく頼むわ! 索敵なら人海戦術、これだけ網を張り巡らせておけばウルフも参るじゃろ。……で? 例の件、どうじゃ」
『多分お前らの読み通りだな。中央制御室に集められた監視カメラの映像を、一つの圧縮ファイルにまとめてどこかに流し続けてる回線が一本存在してる。恐らく、ウルフだ。十中八九、奴も監視カメラの映像を覗いてやがる。お前らと逆方向に現れたのも、恐らくそれでだろうな』
「――――それじゃ、話は早いわねぇ。挟み撃ちで行きましょ。狼はあたしが追い立てるわぁ」
「オレは打ち合わせ通りにバーテンさんと動きます。盾キャラさんはどうしますか」
「了解じゃ、それじゃ妾はお主らと逆方向から追うとするかの。一応高速型キャバリアも借りとるが、お主らのが速いじゃろ。足止めは任せい。方針は――――」
「――――打ち合わせ通り、『徹底的な嫌がらせ』でよろしいですね」
「ククク、そういうことよ! あのオオカミヤローはここでひっ捕らえてやらー!」
「良いじゃない、そういうの好きよぉ。あっちもあたしたちのことを監視されてるなら、きっと何かしらの手は打ってくるでしょうけど……逆に、そこを突いてやろうじゃない? 追い込み猟といきましょうかぁ」
 ティオレンシアのバイク、ミッドナイトレースのヘッドライトが怪しく光る。エンジンルームからは気高い嘶きが轟き、カウルからは幻想の残滓である白煙が狼煙の如くに立ち上っていた。
 夕立はミッドナイトレースの後部座席に座って、静かに両手を空けている。自分の獲物は身体のどこかに隠したまま、無沙汰を隠そうともせず生意気にそこにいた。しかし、目だけは赤茶色に光っている。その目は、まるで手負いの獣を追うコウモリのようだった。
 キャバリアを借り受けてその中で作戦行動を組むアマミも、夕立と同様無手である。しかし、彼女は既に自分の武器を周囲に放っていた。
 【特機】。アマミの幻想であるそのチカラは、90体ほどの柄尻のデジタル表示器に1と刻印された戦闘用ソードビットを召喚するというモノ。彼女はエイリアスのキャバリア小隊と特機に『目』と『耳』を括りつけると、予めタービン建屋内にばら撒いておいたのである。ヴィクティムとの共有は既に済んでおり、彼女らの狩りが始まろうとしていた。

『――――ってな訳だ。ウルフの野郎、支援機をタービン建屋にバラ撒きやがったらしい。アマミ、現地のキャバリア部隊の指揮は任せる。適宜引かせてくれ。ティオレンシア、そっちはどうだ』
『アマミちゃん了解じゃ! 深追いさせずに戻す感じで良いな? こっちもいくつか特機が落とされたわ、その度に数は補充しつつじゃが多少面倒じゃの。破壊したのがウルフか支援キャバリアなのか分からんのがイマイチよくねー』
「こっちも了解よぉ。それじゃ、あたしたちはウルフを追い立てながら邪魔な支援キャバリアを墜としまくる形で動わねぇ」
『ああ、それで頼む。夕立、例のタイミングはお前が指示しろ。合わせてやるよ』
「『合わせますから指示ください』でしょ。それが人にものを頼む時の態度ですか? まあ良いです、ひとまず了解しました。一応信頼してるんで」
『クックック、良いねえ! その憎まれ口を聞いてると行ける気がしてきたぜ。おっと、早速お前らの前方でカメラロストだ。支援キャバリアの目算が高ぇ、蹴散らせ!』
「――――言われなくても」
「――――やってやろうじゃない」
 【轢殺・適応】。ティオレンシアのユーベルコードにより、今彼女が操縦する乗騎、ミッドナイトレースは攻撃力を半減しつつ機動力を五倍にまで高めた高機動特化モードに変形した状態となっている。つまり、追うには特化した形態という訳だ。
 その速度は尋常なものではない。その気になれば、マッハ7以上の速度を出せるモノアイ・ゴーストとも良い勝負をするだろう。ティオレンシアはその機体をあくまでクレバーに扱い、速度上昇は断続的な加速に押さえて見事にドーナツ状のタービン建屋内を駆けていく。
 時に発電タービンをドリフトで躱し、配線やパイプを飛び跳ねて越える。既にアマミとヴィクティムから3Dマップは貰っている故に、ティオレンシアは先の先まで地形が分かる。障害物など物の数にさえならず、ここは既に彼女の庭に等しい。
 そして高速で走り続ける彼女たちの前に、まずは一つ目の支援キャバリアの群れが現れた。ガーゴイルたちが計12機、通路を塞ぐように陣形を組んでいるのが見えた。
「早い者勝ちで良いですね? 会敵まで3秒ほどという所ですか」
「もちろんよぉ。足は止めないから、そのつもりでねぇ」
「心得ました。――――では。鏖だ」
 【紙技・冬幸守】。夕立のユーベルコードにより、彼の周りにどこからともなく白い闇が顕現する。いや、違う。あれはコウモリだ。いや、それも正確ではないか。
 彼のチカラは、三秒の目視により、視認している対象を蝙蝠の式紙の群れで攻撃するというシンプルなモノ。影はコウモリを従え、闇にて蝙蝠を飼う。彼の黒い学生服から生える様にして、翼を持った白い式神が飛び交って辺りに帳を下していく。
 次の瞬間、聞こえるのは一つの金属音だけだった。
 それはティオレンシアが自らの愛銃、六連装リボルバーのオブシディアンが六つ連続で鳴いて、六つのガーゴイルの心臓を同時に撃ち抜いた音。
 それはミッドナイトレースから式神を足掛かりに縦に回転しながら跳んだ夕立が、雷花による断ち切りで続けざまに三つ、三つの手裏剣で同数のガーゴイルの主要配線が詰まった首元を同時に闇に葬った音。
 一つの金属音が去り、そして後には十二の鉄の屑だけが残った。
「引き分けですか」
「あたしのリボルバーが7連装だったら勝ってたかもねぇ」
「たらればの話でしょう。飛ばして下さい」
「はいはい。止まらず行くわよぉ」
 そして二つ、三つ、四つ。連続で鳴り続ける金属音の後には、動かなくなった支援キャバリアの群れだけが残っていた。僅かに時間が経ち、彼女らの目の前に『それ』が見える。

「早いな、随分と。そんなに俺を求めてくれてたのかい?」
「そちらの御託に付き合う気はありません。それに白々しいですよ。カメラで覗いていたんでしょう」
「分かり切った時間稼ぎに乗る趣味、無いのよねぇ」
「おっと、コイツは手厳しい。それじゃ始めよう、チェイスの時間だ。観客を呼ぼうか、出来るだけ多くな」
 モノアイ・ゴーストを駆るウルフをティオレンシアたちが目視した瞬間、敵は即座に速力を上げて猟兵たちから距離を離し始める。だが、面倒なことに――――ウルフの周囲には数えきれないほどのガーゴイルたちが装備を構えてそこにいる。
 ティオレンシアと夕立が迅速にここまで来れたのも、ある程度不意打ちに近い形で円形上の壁の向こうから圧倒的な速度で現れ、敵に構えさせることなく一方的に撃破できたからだ。しかし、ここから先は違う。ウルフの直接的な指示で動く支援キャバリアの群れは、明らかに先程よりも脅威だ。敵は明らかに支援キャバリアを犠牲にした、割り切った戦い方を行うつもりでいる。
「1番隊は突貫。2から4は自分の前方やや下にミサイルを構えろ。当てようとせず、爆風を置いて対処しろ。5から8は俺を守れ。射線を塞げば良い」
「どうします?」
「うーん、そうねぇ。突っ込むわぁ」
「それじゃオレは一旦降ります」
「了解よぉ。また後で会いましょう」
 ウルフの指示を聞くのと同時に、二人は瞬間的に行動を開始。状況を組み立てられる前に動き始める。ティオレンシアはミッドナイトレースの強化を速度から装甲に瞬間的に変更し、同時にこちらへ突っ込んでくる敵機へ前輪を上げて突っ込んでいく。
 ユーベルコードとルーン魔術によるオーラ防御で装甲が強化されたミッドナイトレースが、ビームランスごと敵機の群れを轢き散らかしていく。その間に、夕立は空を駆けていた。蝙蝠の式神を空に浮かべ、その上を素早く移動しながら目指すはミサイルを構えている敵の群れだ。まず彼はその両手に構えた苦無型式神を投擲し、最も近い箇所にいるガーゴイルのミサイルを射抜いて誘爆を起こすと、その爆風で生まれた影に隠れて奥にいた支援キャバリアへの接近を果たす。
 そして、三秒。音もなく現れた蝙蝠の群れが支援キャバリアを飲み込んだかと思った次の瞬間、飲み込まれた支援キャバリアは鉄くずになって動かなくなっていた。大事なものを運ぶ管が斬られたら死んでしまうのは、人も機械も変わらない。更に死んだキャバリアを足蹴にして、夕立はウルフの防衛に回っているキャバリアたちの群れに突っ込んだ。
 自らの至近へと至った猟兵を排除するべく、ガーゴイルたちがすぐさまビームランスを用いて夕立を突き刺そうと動く。だが、それを止めるのは遠間にいるティオレンシアの放つ銃弾だ。彼女のリボルバーが一つ鳴けば、六つの鉄くずが生まれていく。同時に、夕立も自らの近くにいる敵のアイカメラだけを的確に苦無で削いでいく。影に紛れるように、ウルフの近くを飛ぶ支援キャバリアに身を潜めて。
 猟兵たちはウルフの喉元近くまで迫っていた――――かのように思えた。
「奮闘しているところ済まないが、俺にはこの手があるんでね。あと少しの間、おとなしく追いかけっこに興じていてくれよ」
「――――チッ」
「面倒ねぇ、まったく」
 瞬く間もないとはこのことで、ウルフが構えた光学兵器――――レーザーライフルが、夕立の乗る支援キャバリアの頭を射抜いていく。それを寸での所で察知した夕立が別の支援キャバリアに飛び移ろうとするが、ウルフは夕立が飛び移れそうな支援機を全て自分の手で焼いてしまう。空中に跳ねた彼の脚場を無くし、彼を殺すのが狙いだ。
 滞空したままの夕立の頭部をウルフが構えるライフルが捉えるのと、夕立が自分自身の身体に蝙蝠の式神を突撃させて無理やり姿勢制御を行ったのはほぼ同時のこと。彼の頬に火傷のような斬り傷が生じたのと、その隙にティオレンシアがモノアイ・ゴーストへの接近を図ったのも、ほぼ同時のことだった。
 ――――しかし、ウルフはそこで新手を繰り出した。【バリアチャージ】。バリアを纏った突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させるユーベルコード。彼は猟兵たちから逃げると見せかけ、その実彼らの息の根を止めるべく攻勢に打って出たのである。
「逃げると思わせて突進とはねぇ。でも、見切れない訳じゃないのよぉ?」
「そうだろうな。単調な攻撃だけでお前らを殺せるとは思っていない。だから、こういうのはどうだ?」
「――――ッ!」
 ウルフの仕掛けた突進を、機体を反転させる初動を見切ったティオレンシアは見事な右方向へのバレルロールを行うことで突進を底面スレスレに避けていく。ミッドナイトレースが浮遊するバイク型UFOでなければできなかった芸当だ。
 彼女がウルフの攻撃を躱した先には、先ほど夕立とティオレンシアが排除した、ミサイルを構えた支援機部隊が物言わぬ鉄くずとなって散らばっている箇所である。――――そして、あろうことか鉄くずの中からいくつかの機体がおもむろに起き上がり、ミッドナイトレースへと手を伸ばしてくるではないか。
 ウルフは先ほどの攻防の中で、いくつかの機体に『撃破されたフリ』を要求、完全に撃破されたガーゴイルたちに紛れ込ませていたと見える。しかし、そこはティオレンシアもさるもの。彼女はミッドナイトレースの動きを止めようとして地べたで這いずる敵機をリボルバーで即座に排除していくが、その隙にウルフが噛み付いた。
「装甲と機動力が売りと見た。だが、タイヤまでは守れんだろう? 足を狙わせてもらうぜ」
「――――その攻撃、待てやァァァァ!!」
「ッ、新手か」
 突進を行ってティオレンシアに追い付き、レーザーライフルの接射を行おうとしたモノアイ・ゴーストの脚部を、しかして鋭いソードビットの群れが射抜く。それを操るのはアマミだ。ティオレンシアたちの逆側からキャバリアで走ってきた彼女は、ここ一番のタイミングで現れてウルフの動きを止めて見せたのである。
「三人相手じゃ分が悪いな――――ガーゴイル部隊、自爆命令だ。捨て身で突貫しろ。時間を――――」
「――――甘いんですよ。バーテンさんばかり見て、こちらの警戒を怠りましたね。ここにアンタの兵隊はもういない。オレが全部墜としたので。いい加減逃げを打つのも芸がないですよ」
「……チッ! ……だが、まだ速度がある。距離を離して、仕切り直しを図らせてもらうぞ」
 ガーゴイル隊に自爆命令を下し、猟兵たちから逃れようとしたウルフの目論見を排除したのは夕立である。彼は無理やりウルフの攻撃を避けた後、着地後即座に蝙蝠の式神と自らの剣技にて周囲で目に付いたガーゴイルを全て墜としてみせていた。
 こうして手札を縛ってやれば、あとウルフに残されたカードは超高速の飛行による逃亡以外にない。敵は即座にアマミのいる方向へと身を反転させ、超音速で距離を離していく。そして光学兵器による攻撃を行うべく、敵がレーザーライフルを構えようとしたその時、戦場で二つの策が動いた。

「――――端役さん、今です。アレを」
『オーライだ、『主要電源』を落とす。同時にキャバリア隊のナイトビジョンを起動させる』
「――――今じゃぜテメェら! ブチ斬れェ!」
「アマミの姐さんからの合図だ! やるぞオラァ!」
「ッ、なんだッ?!」
「ようやく焦ってくれたわねぇ。――――喰らいなさい」
 一つ目は、夕立からヴィクティム経由で行われる『タービン建屋内の主要電源を落とす作戦』。単純すぎる策だが、アイカメラを用いて戦場を把握するキャバリア乗りには致命的な暗闇を生み出すことが出来る策だ。
 そして光学センサーによるアイカメラからの視界が消えたウルフの動きが一瞬止まった隙に、誰よりも先んじて動いたのはティオレンシア。彼女は機動性重視のミッドナイトレースによる加速を行いながら、動きを止めたウルフへと急速接近を図る。
「舐めるなよ……! いくら暗いとはいえ、ヘッドライトが見えてンだ!」
「じゃあ、それも隠しましょうか」
「なッ?!」
 接近を図るティオレンシアのヘッドライトの光を目印にして、ウルフがレーザーライフルを構えたその瞬間、夕立の放つ蝙蝠の群れが暗闇の中でウルフの視界に纏わりつき、ミッドナイトレースのライトを隠していく。
 それでもとめくら撃ちで放たれた一撃を、ティオレンシアはフロントフリップで鮮やかに回避。そのままモノアイ・ゴーストに張り付いたかと思うと、電撃の帝釈天印と遅延のルーン三種が刻まれたシルバーバレットに、手持ちのEMPグレネードを至近距離からお見舞いし、鮮やかに離脱まで決めてみせた。電気系統を狂わされ、モノアイ・ゴーストが更に自由を奪われていく。
「ッ、クソが! 面倒な手を使いやがる……!」
「徹底的に嫌がらせさせてもらうわぁ。魔道も化学もより取り見取り。足引きの手筋ならいくらでもあるのよぉ?」
 しかし、ウルフはまだ諦めていない。彼はイカれた電気系統をリセットするべく、モノアイ・ゴーストの上半身部分だけ先んじてリブートをかけて視界にまとわりつく夕立の蝙蝠を払い、ナイトビジョンに切り替えてアマミをレーザーライフルで狙っていく。
「端役さん、もう一度。相手が夜目に切り替えました」
『アイ、サー。白い闇に落ちな、狼』
「ガッ――――?!」
「ギャーーハハハハ!! 隙だらけじゃのー、ウルフ・ハウンド! 行くぜオラァー!! とくと見やれ、ガラクタより組み上げし妾の華麗なる剣舞! せめて一思いに骸の海の藻屑へと還してやろうぞ! 死ねーッッオブリビオンマシンコラーッッ!!」
 そしてそこでもう一度ヴィクティムの介入が入る。敵のアイカメラの切り替えを捉えた夕立が、彼に合図を送ってタービン建屋内の主要電源を復旧させることで、ナイトビジョンに切り替えたままのウルフから再度視界を奪ってみせたのである。
 その隙に乗じて斬り込むのが、キャバリアから飛び出して終結させたソードビットを手に吶喊を行うアマミである。彼女は至近距離に迫ったウルフ・ハウンドのレーザーライフルを狙い、その手に握ったソードビットを揮う。
「バカみたいに声を上げやがって――――! 遺言はそれで満足か、アア!?」
「バカはテメェじゃ! 回りよく見ろやァ! あっ、見れなかったですかねーすいませんねー! レーザーライフルなんざ、この状況じゃ利かねーンじゃよォ!」
 アマミを返り討ちにするべく、ウルフは彼女の声を頼りにレーザーライフルを構え、その引き金を引く。銃口はアマミの頭部を確実に捉え、そして放たれたレーザーが彼女の頭を射抜き――――しかして、アマミは無傷であった。
 猟兵たちが動かした策の二つ目は、状況開始時からアマミが狙っていた渾身の策。
 彼女はタービン建屋内の各地に潜むエイリアスのキャバリア隊に特機で生み出したソードビットを配布しつつ、自らの合図で壁に張り巡らされた水冷パイプの至る所を切断するよう彼らに指示を出しておいたのだ。
 ウルフが白い闇に目を奪われている間に、水と蒸気は辺り一面を支配していた。おまけに、アマミは自らの背後に風車状に束ねたビットを展開させ、金属片混じりの水を舞い上げてレーザー光の威力を更に弱めていたのである。
「まずは一つ! シールドが破壊されて剝き出しの左肩、奪わせてもらうぞ! 喰らえやァ!」
「マズいな……! クソッ! 最初に暗闇にしたのもこの一瞬のためか! ――――だがァ!」
 そして、アマミが揮うソードビットが見事にモノアイ・ゴーストの左肩を斬り落とす。カイラたちがシールドを壊しておいたため、敵の左肩を守るものは何もなかったのである。
 だが、左肩を落とされながらもモノアイ・ゴーストの動きは止まらない。敵機は復旧した下半身を駆使して後退しつつ、カイラに放った奥の手を再度用いる。テイルブレードによる、三次元的な奇襲である。――――しかし。

『――――悪いな、その戦法はもう読んでたよ。同じ手で来るとは舐められたもんだ。アマミ! お前の右からテイルブレードが来る! 夕立も来る! 二人でブチかましちまえ!』
「応よォ! 尾っぽだか何だか知らねーが、あんま妾たちをナメんじゃねーや! 斬り落としたらー!」
「協力しますよ、盾キャラさん。挟み撃ちで」
 アマミはヴィクティムからの指示を受け、自分の頭部へと振るわれたテイルブレードを鉄下駄を装備したハイキックで弾き飛ばして見せる。尚も彼女を襲おうとして蠢くテイルブレードの根元を止めるのは、ティオレンシアの駆るミッドナイトレースから跳躍してモノアイ・ゴーストの背後から影のように現れた夕立だ。
 彼はウルフを白い闇に落としたその時から、ずっとこの瞬間を狙っていた。即ち、敵の背後を取れるこの時を、である。敵意を感じようが、畢竟視認されなければ良いと考えてのこと。見えない敵を追うのは無理なのだから当然だ。
「オレの武器は紙ですが、鋏に負けるほどヤワではありません。もちろん、そのテイルブレードとかいう装備にもね」
 敵の後ろに取り付いた夕立は、蝙蝠の群れと苦無を用いて敵機から縦横無尽に伸びるワイヤーを挟みこみ、一直線に伸ばしていく。
 それを見たアマミは風車状のソードビットを装着した和傘に装備を持ち換え、伸びきったワイヤーへと刃を回転させながら和傘を揮う。
 ワイヤーとはいえ、伸びた状態の線は脆いもの。ティオレンシアの機動力と夕立の機転、そしてアマミの膂力と回転するソードビットたちは、見事にテイルブレードを両断せしめることに成功した。
「――――ッ……! ……やるな、猟兵。認めるよ、お前らは確かに強い。だが……最後に勝つのは俺だ。どれだけ無様でも、俺は逃げさせてもらう。お前らに最後まで付き合う義理もないんでな……!」
「やべェ! 猟兵さん方、四方八方から滅茶苦茶な数のガーゴイルが突っ込んでってやす! 俺たちには見向きもしてねえ! アイツら、猟兵さんを巻き込んで自爆する気だァ!」
『そいつらの言う通りだぜ、ガーゴイルたちが一斉にそこに向かってる。ミサイル反応も確認済だ、さっさと逃げた方が良いな。方向を指定するから少し待ってろ』
「マジかよオイ! まあ結構いい線いったじゃろ、ここは一旦迎撃じゃな!」
「そうしましょう、後の仕上げは中央の人たちに。呼んだ支援機をこちらに向かわせるなら好都合。自爆なんてさせず、減らせるだけ減らしてやりましょう」
「あたしたちに舐めた口を利いたお礼は出来たしね。念のため、自爆を回避した後も随時移動だけはしておきましょうか。何があっても良いようにねぇ」
 ウルフは自らの機体を半ば引きずるようにして飛翔し、その代わりにガーゴイルの群れを飛ばすことで猟兵たちの追撃から逃れていく。左肩を落とされた影響で、既にウルフの飛行はずいぶん不格好なものとなっている。速度も全快時ほど出てはいないだろう。
 三人の猟兵はウルフに大きく手傷を負わせてやったことを讃え合いながら、二方向から突っ込んでくるガーゴイルの群れへと目を向ける。ウルフの後の相手としては些か物足りないが、原子炉建屋最上階側の戦力をおびき寄せられたのならそれでも良いはずだ。
 アマミがソードビットを構え、ティオレンシアがオブシディアン片手にミッドナイトレースに跨り、夕立が闇に紛れていった。第二ラウンド、開幕。


●41:55/タイムリミットまで、残り5分
「……くくく。面白ェ奴らだな、猟兵ってのは。俺の戦術を越える奴らってのは初めてだぜ。ああいう奴らともっと戦えりゃ面白かったんだろうが……、もうこれでお終いだな」
 バランスを逸した身体を引きずって、ウルフ・ハウンドはタービン建屋内を飛ぶ。ティオレンシアたちから少しでも離れた場所に向かい、そこから原子炉建屋最上階内に戻るつもりだ。時間稼ぎのためでもあるだろう。既に時間の猶予はない。時限爆弾のタイムリミットまでは後五分。
「……アイツらはよくやってくれてる。問題は俺の方だ……これだけの目がありゃ見付けられるはずだ……。爆弾が見付かりゃ、後は3秒で解いてやれる……。どこだ……全て確認したはずだ、見落としがあるのか……?」
 ウルフが原子炉の中央に戻り始めた頃、ヴィクティムは一人孤独に中央制御室で戦っていた。情報との戦は彼のニューロンを深みへと誘い、集中が彼の心の奥を捉えていく。
 彼は"自分で自分を操る"ように、思考も手足も指先も精密に指揮し、自らを意図的に操る。ゾーンと呼ばれる精神領域に達した彼は、既にマルチタスクの極限にいる。


●41:57/タイムリミットまで、残り3分
「……? 逃げたのか……? ……いや、隠れて俺を狙ってやがるのか。良いぜ? 好きにしろよ。どっちみち、もうここまで来ちまえば俺を殺そうが何しようが関係はねえ。見付けられてねえんだろ、爆弾をよ」
 周りに猟兵の姿がないことを確認しながら、ウルフは静かに原子炉建屋最上階エリアへと足を踏み入れた。周りには誰もおらず、静かそのもの。残り時間はあと3分。
「タービン建屋内は……無い。それははっきりしてる……。エイリアスの舞台連中も良くやってくれてる……。……アマミのビットから寄せられた情報も確かだ……。中央制御室は真っ先に俺らで洗った……。原子炉建屋……しかねえ。どこだ? 俺がウルフなら……。失敗は許されねえ……必ずやり遂げる……!」
 カメラで得る視覚情報を128×128のマルチな映像情報にして同時に脳内で再生しつつ、集音機やマイクから拾える音声情報は既に何倍にも圧縮した上でノイズを排し、ユニークな音声や規則正しい音のみを拾って体系化済。しかし、それでも見付けられていない。爆弾の影も形も、まだどこにも。


●41:59/タイムリミットまで、残り1分
「……いよいよか。長かったような、短かったような……退屈しねえ42時間だったぜ」
「…………見付けられない…………? そんなこと、…………可能なのか…………? ――――いや、待てよ」


●41:59:30/タイムリミットまで、残り30秒
「特に、世界蛇組とBlue Hellが組んだってのが気の利いたジョークだったな。これから死ぬってのに、良くできた茶番だよ」
「――――俺がウルフなら――――どうしたって『見付けられない場所に設置する』。それでいて、起爆の影響が最も大きい場所に……――――そうか!」


●41:59:55/タイムリミットまで、残り5秒
「……ああ……。もう話すこともねえなァ。あばよ、猟兵。良く死んでくれ。俺も一緒に死んでやるからよ」
「――――クックックックック……! 解除できるかって? ハッ! 場所はもう分かった、あとは頭使うか指先使うかの違いだけだ! 一番楽な役回りなんだ、成功させなきゃ無能もいいとこだぜ! 間に合わせてやるから全員所定の位置につけ! 勝つぞ、この勝負!」


●41:59:59.999/タイムリミットまで、残り0.001秒
「俺の、勝ちだ――――ッ?!」
「――――俺の、勝ちだッ!!」


●42:00/タイムリミット
「な――――ッ?! どうして起爆しねえんだ!? クソッ、クソッ! まさか……!」
『そのまさかだよ、ウルフ・ハウンド! 俺がお前の爆弾を解除した! 遠隔操作ももう利かねえ、諦めな! しかしよォ、まさかあんな場所に爆弾を仕掛けやがるとはな! 考えたもんだぜ――――お前の足元、二重蓋の奥の奥! 原子炉のど真ん中とはよォ!』
「チィッ……!」
 ヴィクティムは本当にギリギリのところで爆弾の場所を発見し、ハッキングを行って起爆を止めて見せた。彼がいう爆弾の場所――――それは、何を隠そうウルフ・ハウンドの足元。原子炉の中枢も中枢、原子炉圧力容器の内側、制御棒付近に仕掛けられていたのである。
『俺も無意識に避けちまってたが、考えてみりゃテメェは支援機を幾らでも召喚出来るんだったな? だったら原子炉に火を入れる前に、タービンの復水器から原子炉圧力容器内に支援機を送り込んで爆弾を仕掛けることも可能だった訳だ!』
「……クッ……! ……どうして、それが分かった……。答えろ、猟兵」
『簡単なことさ。いくら探しても見付からなかったからだよ。これに尽きる。で、考えた。俺がお前ならどうするかってな。で、こう思ったんだ。……用意周到なお前のことだ、生身な上に後から来た俺達じゃ絶対に見付けられない場所に仕掛けてもおかしくねえってな。そこから後は逆転の発想だ。起爆の影響が大きいのが第一条件で、俺たちが見つけられない場所はどこかってな。そうすりゃ、おのずと答えは出るだろ? ここしかねえよ。後はこっちもドローンを潜り込ませて、解析して、ハックして、それで終わりだ』
「……ククク……クックックック……ハーッハッハッハッハッハッハッハ!! ああそうかよ、俺の悪い癖だぜ……。手段を選ばないってのが裏目に出ちまった訳だ……。……まあ良いや。――――それじゃあよ、テメェらを全員殺してもう一度仕掛けりゃそれで済むこった」
『オイオイ、やれると思うのかよ? さっきまでは俺も片手間だったが――――これからは、何の憂いもなくやれる。最高効率で、隙間無く。押し引きの主導権を完全に握り、何もかもを掌の上で転がす。――――指し手が有能かどうかで、戦いは決まるんだぜ? やっちまえよ、お前ら。勝とうぜ。長い勝負だったが、これでようやく決着だ』
 ヴィクティムのユーベルコード、【Perfect Control Operate】が原子炉内を支配していく。
リソースを完璧にコントロールした戦術指揮を披露した指定の全対象に、強大な戦闘能力と、必ず勝利したいという感情を与えるそのチカラに呼応して、猟兵たちの能力が底上げされていく。ゲームタイムは終了した。これからは――――勝つ時間だ。


●深夜42時バトル
「こっちの手札はいくらか道中で割れてて、一方で野郎の機体の情報は不十分。パッと見りゃァうまくない状況かもだが――――蓋を開けてみりゃどうだ? アタシらにゃ、魔法使いがついてたなァ。猟銃の調子はどうだ? 狼退治の時間だぜ」
「ありがたいことに、快調そのものだね。今なら何だってやれそうだ。ウルフズハントは初めてだが、これなら上手くこなせるだろうよ。揺れるぜ、良く掴まってな!」
「私も! ……なんだか、いつもより体が楽かも! 勝てるよ、私たち! 勝とう、ウルフさんに! みんなで協力して、皆が帰る場所を作るんだ!」
 戦場の影に潜み続け、そして今ウルフの背後から現れて戦車型オーバーフレームによるマシンガンアームによる鉛玉の雨を放つのはクルトだ。彼の機体の上部には、狐狛と槙も同乗している。
 彼らの能力が冴え渡るのも当然である。なぜなら、既にこの場はヴィクティムの指揮下にあり、彼のチカラによる強化は猟兵全員に行き渡っているからだ。
「チッ! ガーゴイル隊、出ろッ! 俺を守れ、奴らを殺せ! 魚鱗の陣を取って押し続けろ! 前衛はビームランスで突撃、後衛は前衛諸共にミサイル放射! アイツらを殺せェッ!」
 半ば不意打ち気味に放たれたクルトの銃弾を、ウルフは至近距離にガーゴイル隊を再召喚することで防いでいく。召喚が済み次第モノアイ・ゴーストにもバリアを張り、自分自身も前に出る気らしい。
「おっと、そいつは無理な相談だぜ? 何故なら、その打ち筋のままじゃアンタはアタシに負けるからだ。野郎共、まだ撃つんじゃねェ……。今だァッ!」
「狐狛の姐さんからの合図が出たぞォ! 撃て撃て撃てェッ! クルトのアニキ」
「コイツは面白い、トラップか! 俺たちも負けていられんな、ボギー!」
「何を――――ッ?! ンだ、こりゃア――――!」
 しかし、ウルフ自らが前へ出ようとしたその時である。モノアイ・ゴーストの進軍に合わせ、敵の足元で何かが弾けた。弾けた物の正体は、既に撃破されて倒れ伏すガーゴイル隊の影に隠れたブービートラップ。クレイモアやC4などの火薬類である。
 それを契機にして、原子炉建屋最上階の至る所から援護射撃の雨が飛ぶ。クルトが狙う標的に合わせて行われる射撃の雨は、エイリアス連合軍キャバリア隊によるものだ。
「ウルフの動きをよく見とけよ! ガーゴイル隊は数が多いが、そこまで脅威じゃねェからなァ! 突撃と光学兵器に気を払え、火力は常に一点集中、狙いを合わせろ! 工兵によるトラップ設置と、キャバリアによる狙撃・砲撃――――もちろん、そんな「普通の戦法」、ウルフの野郎には通じづらいだろうけどよ。『精度』が『普通』じゃなけりゃ、話は違ってこねぇか? こんな風によ!」
 クルトは自らに向かってくるミサイルの雨を、巧みなローラーダッシュとターンステップによって全て躱していく。
 右へパワースライドしながら爆風の中をすり抜け、左へドリフトしながら銃弾を喰らわせる。そのクルトの銃弾の狙いに合わせ、まとまった援護射撃が敵陣に確かに穴を開けていく。
 【旅は道連れ、夜は宴】。狐狛の用いるユーベルコードだ。それは策戦に協力する友軍が自身の元へ多く集まるほど、自身と友軍の能力が強化されるというモノ。さらに意思を統一するほど強化されるこのチカラは、この戦場においてはお誂え向き。効果覿面というものだった。
「ガ――――アアア! うざってェ野郎共だ、そんなに殺されてえなら殺してやるよ! ガーゴイル隊、散らばれ! 援護射撃担当のザコどもに絡み付け! 脚を止めさえすりゃ、後は俺一人でやる! ――――死ねッ!」
「させないよっ! みんな、アレを使って! 私だって、これで殴っちゃうもんね!」
「ウッス! テメェら槙さんからのお達しだ、アレ構えろォ!」
 先ほどまでと打って変わって、激昂した様子のウルフが片腕で構えるのはレーザーライフル。光学兵器であるその武器は、距離による威力の減衰もほぼありはしない。即ち、距離を問わずに攻撃可能な超兵器だ。それを乱射するべくエネルギーをチャージし始めた敵に対し、槙も自らの手札を開示する。
 【ガジェットショータイム】。戦っている対象に有効な変な形のガジェットを生み出すそのチカラで、槙は既に何本ものハンマーを生み出し、味方全員にそれを配布していた。派手な塗装が成された、ピコピコハンマーのようにも見えるその装備を全員が構えるのを見て、ウルフ・ハウンドの狙いが変わった。
「……チッ、ありゃなんだ? 皆目見当が付かねえ、不確定要素なら先に潰す! ガーゴイル隊、ミサイル撒け! 体勢を崩した後に、レーザーライフルをぶち込んでやる……!」
「――――よおし、引っ掛かった! みんな、迎撃用意! ついでにミサイルの爆風の中にハンマーを投げ込んじゃって!」
「了解でさあ、おらよっとォ!」
「――――コイツは――――?! クソッ!! そういうことか、やりやがる!」
 槙とキャバリア隊が自信ありげに構えた武装に対し、ウルフはレーザーライフルの前に布石としてミサイルを放った。しかし、それが命取り。迎撃されていくミサイルの爆風に向かって投げ込まれるハンマーが炎に包まれて破裂すると、至る所で真っ白い煙幕のような何かが展開されていく。
 その何かとは、『小麦粉』に『ハッタイ粉』。槙が狙ったのは、つまりハンマー内部に仕込んだ粉を敵の攻撃によって破裂させ、粉塵を戦場に撒き散らすことだ。自らにはウルフに対する決定打が何もないことを理解している槙は、敵の光学兵器を無効化する手段を用いて敵の攻め手を減らすことに注力したのである。
 『ブルーミング現象』。指向性エネルギー兵器――――いわゆるDEWの実現の妨げになる現象の一つ。レーザー光などのエネルギーが熱に弱いことは前述した通り。
 詰まる所、レーザー光は熱や湿気によって大気の密度が小さければ小さいほど弱まるのだが、大気中に煙や粉塵などが発生している場合、大気がレーザー光を吸収してしまう割合がより高くなる。その現象のことを、ブルーミング現象と呼ぶ。
 つまり槙が戦場に粉塵を撒き散らしたことで、ウルフの光学兵器は使用を禁じられたも同然、ということだ。近距離で射撃を行えばまだ威力も健在だろうが、モノアイ・ゴーストの遠距離攻撃を封じた槙の功績は非常に大きいと言えるだろう。
「狐狛、情報寄越せ。あの機体の脆いとこはどこだ」
「ナビに加えてタービン戦闘の情報を統合すると、左肩が死んでる影響で飛翔に影響があったそうだ。ってこたァよ、突進にだって影響は出るはずだぜ。左半身のバランスが悪いなら、そこを重点的に攻めるってなァどうだい」
「了解だ、それでいこう。野郎共! 狙いは俺に合わせろ、そろそろ止めといこうじゃねえか!」
「馬鹿が! キャバリア部隊の連中はガーゴイル隊の相手で精一杯だろうが……! 今のうちに、てめえらからだッ!」
 狐狛の策戦にクルトが乗り、エイリアス連合軍の力も足し算に入れて、いよいよこの戦いもクライマックスだ。それを裏付けるように、演者も続々とこの場所に集まり始めている。

「――――残念。あたしたちバイク組の脚の速さがあれば、こういうことも出来るのよねぇ」
「キャバリア隊はクルトの射撃に合わせい! お主らの守りは妾達タービン組が請け負った!」
「オレの式神も残り少ないですし、早く決めてきてくださいね。ケツは持ってやるんで」
 ウルフの目論見を崩すべく集まったのは、ティオレンシアのミッドナイトレースに乗って現れたタービン組の三人である。
 彼女らは即座に散会すると、各地で散らばったガーゴイル隊だけを狙って動き始めた。アマミはソードビットと和傘を、ティオレンシアはオブシディアンとグレネードを、夕立は式神と雷花の一閃を、惜しげもなく振るってはガーゴイル隊を蹴散らしていくではないか。
「だったら俺の手でお前らを一人ずつ近付いて殺すだけだ――――ッ! まずはテメエだぜ、量産型キャバリア乗り!」
「オイオイ、まさかお前ワンオフ至上主義か何かかよ? やってみな、ワンオフ野郎。後で吠え面かくんじゃねえぞ」
 【オーバーフレーム換装】。クルトが用いているユーベルコードだ。彼のこれまでの機動力の正体は、装甲を犠牲にして得たものという訳だ。ヴィクティムと狐狛のユーベルコードの援護も受け、今や彼の機体の機動力は五倍以上ある。
 味方のガーゴイルを巻き込みながら超速で突進を仕掛けるモノアイ・ゴーストにだって、今のクルトの機体ならば付いていける目がするという話。装甲は薄いが、攻撃を喰らわなければ良いだけのこと。
「吠えやがったなッ!」
「――――遅ェんだよッ!」
 突進しながらレーザーライフルを連射するモノアイ・ゴーストに対し、クルトは連続したアクセル&ブレーキを用いながら敵の乱射を寸での所で全て躱していく。ローラーダッシュは急加速と急減速が持ち味だ。
 避け切れない位置の射撃については、槙が新たに生み出したハンマーで受けることで煙幕による防壁を張っていなし、同時に狐狛が指揮を執ってエイリアス連合軍の援護射撃をモノアイ・ゴーストの脚部に喰らわせていく。
「UCだから何度壊されても困らないよ! 決定打がないなりに戦い方はあるってこと、私が証明してあげる! クルトさん、いっけえ!」
 いよいよ距離が近くなってきたその瞬間、クルトは乗機の片輪のみを固定しながらもう片輪を高速で回転させ、思い切り吹かす。するとどうだ、――――クルトの機体は、ウルフの突撃を回転するようにして寸での所で躱してみせたではないか。機体を半回転させた後は、ウルフの背後を取れるというおまけつき。
 そして、クルトのマシンガンアームが味方と同時に火を噴いた。援護射撃と一緒くたになって放たれる鉛玉の雨あられは、モノアイ・ゴーストの背面に存在するブースターと、左脚部を大きく削り取っていく。
 強化された彼らの力は、既にウルフの放つバリアをものともしていない。これでモノアイ・ゴーストは左半身がほとんど破壊された状態だ。もはや満足に動くことさえ厳しいだろう。
「ンだ、その動きは――――ガァァァッ!」
「世界蛇組の若頭に使った戦法さ、量産型キャバリアを舐めるからそういうことになるんだよ。おらおら、どうした! そのご立派なバリアは飾りか?」
『ハッハッハ! やるじゃねえかクルト、さすがだねえ! さ、決めようぜ? いよいよチェックってな』
「全くだ、上手いこと踊って見せるモンじゃねェか! さァ、狼サンよ――――見たとこ、もうアンタに勝ち筋はねえぜ。これでもまだコールするかい? こっちにゃ成り駒が山ほど、そっちはもう歩が何枚かと王だけだろうに」
「降参してください、ウルフさん! あなただって、もう抵抗は無意味だって分かってるんでしょ?!」
「……フッ、ククク……。……笑かすなよ、猟兵。『コール』だ……! 降りる訳ねえだろう、ここまでやっといてよォ!」
「――――そっか。それじゃオレらも遠慮なくいくよ! 歯ァ食い縛りなよ、ウルフさん!」
「ヒヒヒ! 時には諦めも肝心ですぜ、ウルフ殿! ま、言っても分からねえンなら、分かるまで教え込んでやりますがねエ!」
「真っ向勝負といきましょうか。最後はきっと、そう言うのがふさわしいだろうから」
 そして、クルトの駆るキャバリアと同時に横に並んで走るのは、先ほどまでタービン組と共にガーゴイルの破壊を行っていた三人。全ての演者はここに集まった。
 最初に動いたのは、パウルのGlanzに乗るラーガである。お気付きだろうか? 彼はまだ、盗んだユーベルコードの行使を行っていない。
 確かに先ほど、『支援キャバリアの操縦権を奪取すること』はしたが――――それはあくまでユーベルコードの前提である、盗みを行っただけに過ぎない。ラーガはまだ、支援キャバリアの召喚を行っていない。
 故に、彼は今ここでその返済を行っていく。無数の支援キャバリアを生み出したラーガは、そのチカラを以てウルフを包囲してみせたのだ。

「今です、矢来の兄サンがた! 足場のセッティングは致しやしたよウ、ヒヒヒヒヒ!」
「悪くない。蛇さんにしてはいい仕事ですね、褒めてあげます」
「良いね、この道! 悪くない走り心地だよ、揺れも少ないしね☆」
「それはあなたの腕がいいからじゃないの、運転手さん?」
 そうしてラーガがウルフの周りに創り出した道を駆けるのは、影とタコ、夕立とパウルの二人。そしてパウルの駆るGlanzにはカイラも同乗している。彼ら三人は超スピードで空を縦横無尽に駆け回っては、ウルフの隙を見計らって背面からの突撃を決行した。
「――――そう来ると思ったぜ、テメェらは俺の背面から来るだろうってなァ!」
「ヤバッ、読まれてた!?」
 しかし、追い詰められているとはいえウルフも一流の戦術家。この状況で狙うのは自らの背面だろうと読み、振り向きざまにパウルたちにレーザーライフルを向けてみせる。
「――――そうはさせないっ! ティオレンシアさんっ!」
「はいはい、お任せあれよぉ。観念するのね、ウルフ・ハウンド」
「――――チィィィィ! クソが、だったらァ!」
 そこにウルフの抵抗を更に読んで行動を開始する二人の猟兵。槙とティオレンシアだ。いつの間にやらティオレンシアのミッドナイトレースの後部座席に乗った槙は、敵の至近距離にまで接近しながらモノアイ・ゴーストの構えるレーザーライフルの銃口に向けて自作のハンマーを投擲する。
 そして、それを間違いなくオブシディアンの一射によって撃ち抜くのがティオレンシアだ。彼女たちの活躍により、近距離のレーザーライフル射撃さえも封じられたウルフが次に行うのは、全身に纏っていたバリアを右のマニュピレーターに集中させて放つ殴打である。
「残念だなァ。コールは悪手だったぜ、ウルフ・ハウンド。アタシのこの目に、この結果は――――もう見えてたからなァ」
『そういうこったな。だが、個人的にはそういう意地を張るのは嫌いじゃねえぜ? だからよ、礼儀だ。全力で相手してやるよ。アマミ! 思い切り振り被れ、ブーストかけてやる!』
「応とも! 妾はハナっからそのつもりじゃぜー! 喰らえウルフ、この一刀を受けるが良いわ!!」
「――――クソッ――――クソッ!!」
 ライフルさえも捨てて繰り出されるその一撃を、しかして狐狛の白銀の目は既に捉えていた。彼女は『狗瞳“白”』によって霊視を行い、オブリビオン反応を鋭敏に捉え、バリアエネルギーの移行の前兆を感じ取っていたのである。
 そうなれば、あとはヴィクティムがニューロハックによって全体へ狐狛の捉えた情報を共有するだけ。付随して、彼はネットワーク越しに繋がったアマミのソードビットの性能を底上げするプログラムを走らせていく。
 『89』と刻印され、ヴィクティムからの強化も受け取ったソードビットを握りながら、アマミはラーガの呼びだした支援キャバリアたちを足蹴にして大きく跳躍。その大剣の質量を活かした振り下ろしを繰り出して、モノアイ・ゴーストの右腕を斬り落としてみせた。
「いよいよですね。――――三秒、数えろ」
「トドメよ。そのオブリビオンマシンだけ、破壊させてもらうわ。あなたはまだ死ぬ人じゃない」
「決めよっか、ウルフさん! このワイヤーさ、ストリートチルドレンの皆から預かったヤツなんだ。アンタの悪口はスゲェ聞いたけれど、誰もアンタに死ねとは言わなかったよ。だからアンタは必ず殺さず連れて帰る! 帰ったらよく見てみなよ! ――――アンタの国は美しい」
「俺たちからは以上だ。コイツで――――チェックメイトだぜ、ウルフ。依頼、完了」
「クソがァァァァ!! 俺の……負け、かよ……ッ! ……へッ! やるじゃねえか、猟兵ども!」
 左肩、右腕、背面ブースターにテイルブレード、レーザーライフルに左脚部。それらを失っても尚、ウルフは残った右脚部による蹴りを放って猟兵たちに一矢報いようとする。
 しかし、それを止めるのは夕立の冬幸守。彼は式神をモノアイ・ゴーストの右脚部に纏わりつかせて蹴りの勢いを止めてみせると、抜刀しながらさらに前進。抜き放つは雷花、斬魔の刀が一。夕立はその脇差を逆手に構え、コクピット付近に十文字の傷跡を付ける。
 夕立の隣を走りながら、蹴りに対するカウンターの要領でSaugerのカラビナをモノアイ・ゴーストに引っ掛けるのはパウルだ。彼はそのまま敵機の上を疾走すると、そのまま夕立が傷を付けたコクピット付近に威力を調整したKrakeによる零距離射撃を放っていく。
 更に追従するのはカイラだ。彼女が身に纏うのは、荒れ狂うエネルギー体UDCの極々一部。敵のチカラや存在概念を滅ぼすエネルギー体。それを利用して、彼女はウルフ本人への攻撃はせず、纏った力で一閃、オブリビオンマシンのエネルギーの身を断ち斬ってみせた。
 そうしてオブリビオンマシンとしてのエネルギーを失ったモノアイ・ゴーストのコアユニットに、クルトの放つマシンガンアームの連射が突き刺さり――――敵機体は、不思議なことに跡形もなく虚空へと消滅していくではないか。
 そうして後に残されたのは、乗り手であるウルフ・ハウンドだけ。今は気絶しているが、命に別状はない。後遺症が残る心配も無いだろう。
 お見事である、猟兵。
 キミたちは全ての任務を見事にこなし、最善の結果を手にいれたのだ。
 その全ては、君たちの努力と協力、創意工夫によって得られた物。
 君たちの誰か一人でも欠けていれば、今とは異なる結果となっていただろう。
 42時間にわたる激闘と、君たちの奮闘に心からの感謝を。


●深夜明けエピローグ
 それからの話だ。
 『偽名国家エイリアス』は、今も存続してここにある。それなりのルールと規則によって地上の平穏が維持されている裏で、地下で不条理と理不尽が闊歩して歩くのもいつも通り。
 しかし、変わったこともある。
 第一に、この国の政治形態。
 今までエイリアスはウルフ・ハウンドとその一派のみで構成された専制政治を行っていたが、この国の王が帰還後に最初に行ったのが、その改革と、エイリアスの地下を正式に国の一部として認めることであった。
 専制政治は合議制へと移り変わり、そこには世界蛇組の若頭やBlue Hellの女王の席もあるそうだとか。
 彼らが顔を突き合わせての初の議題は、違法マーケットの国営化とその取り分について。そして違法風俗と薬物に対する法の制定と、そこで働いていた人々への働き口を用意する政策だったそうだ。
 第二に、地下に住む子供たちの救援活動が行われるようになったこと。
 ウルフは国費を用いて地上と地下にストリートチルドレンたちを受け入れる施設を作り、そこの運営に自分が信頼できる人物と世界蛇組、Blue Hellの面々を取り入れ、ストリートチルドレンたちに住居と教育の両面を提供した。また、地上と地下を結ぶエレベーターが建造され、行き来は随分と楽になったという。
 そして最後に、エイリアスの新しい名所についてだ。
 地上と地下を結ぶエレベーター工事が終了した後、エレベーターのほど近い場所に一つの石碑が建立された。
 そこには、こう記されていたという。

『 
 長い42時間を走り抜けた10人の猟兵たちに 心からの感謝を込めて
 別名は我が名 通称も我が名 ここは『猟兵に助けられた国』エイリアス
 我らの忌まわしくも誇らしい二つ名において誓う
 いずれ災厄をこの世から駆逐する時 我らは必ずその恩を返す
 どん底の国の狼と、蛇と、女王 最悪の義兄弟より


 石碑は今日も、朝日を受けてエイリアスの街の中心にある。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月19日


挿絵イラスト