4
オーバー・ホール

#クロムキャバリア

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#クロムキャバリア


0




●自由交易国家カゴガド
 色取り取りの簡易天幕が通りを作り、行き交う人々が、砂漠明細を施した外套を纏い、暑気と砂埃を退ける。何処に出張っていようと、何を持っていようと、テントの住民はこぞって声を張り上げ、品物を売り付ける。
 自由交易国家カゴカド、自由交易と言えば字面は良いが、実体は小国家規模の闇市だ。此処では、金と物資と目利きだけが物を言う。交渉に武力を用いれば、商人が雇用したキャバリアが容赦無く銃口を向け、私刑染みた裁判は、金の多寡のみで決着するケースが多い。
 彼等に情が無いかと言えばそうでは無く、技術屋でも無い只の商売人ならば、金と物資で切れる縁が丁度良いと言った塩梅だ。勿論、真面目にやっていれば心も揺らぐ。少ない物資で自分達に美味い飯を作る気の良い酒場の店主には、遠慮の無い物言いと共に、賃金から奮発して金を出す。人情の薄い交易国家だからこそ、信頼する人間には一等甘くなりがちでもあった。そもそも、国家がそうなっているのも、戦乱の世と、不足する物資の所為と言って良い。
「どうやったら、こんな碌でも無え世界で、清く正しく生きられるってのかねぇ」
 餓死病死は茶飯事で、果てには日々騙し合い、殺し合う。男は世界のどうしようもない構造と惨状に、誰も彼もが阿呆だと、コックピットの中で諦めたように煙草を銜え、シニカルな笑みを浮かべた。
「おう、煙草フカす程に暇なら、今度有る闘技場の監視やってくれ」
「へいへいっと。無料で特等席で観戦出来るってのは自警団特権様々だ」
「……死ぬんじゃねえぞ」
「心配すんな。人の命じゃ、酒の一杯も飲めやしねえんだからよ」
「違いねえ」
 動力を起こし、エネルギーインゴットを緩く燃焼させる。単一画面の茫洋とした光のみだったコックピット内に明確な光が灯り、埋もれていた全長5メートルの鋼の巨躯が、軋みを上げて起き上がる。所々劣化の進んだアーマーフレームは、男が長年傭兵を続けて居る証でもあった。
 嫌気が差す様な騙し合いの日常で、住民が熱狂する粗野な娯楽。全長5メートルにも及ぶスクラップキャバリアによる潰し合い、通称ディスカーディング。使用されるキャバリアは何れも不備を抱えた物ばかりであり、都合の良い鉄屑処分や人材発掘を兼ねている。進行や大まかなルールはこうだ。
 競技者には経年劣化や損傷の酷いキャバリアが配布され、7日ほどオーバーホールの猶予を与えられた後、バトルロイヤル形式の予選となる。当日の明確なルールは射撃、射出武器の禁止と、他者を行動不能に追い遣る事の2点のみ。当然の様に、パイロットの安否は保証されない。前者のルールは、観客が派手な近接戦闘を好む事と、格差をある程度是正する為のレギュレーションだ。後者はある程度まで、乗り手に裁量を委ねる事を特権としている。
 そして、会場内で起こるトラブルの一切は、派遣された自警団員に一任される。このパイロットが何らかの要因で不在になった場合、責任を負う者は居ない。
「酷え話だよなあ」
 改築された廃工場の駄々広い会場は、一般客の安全は一切考慮せず、統治者となる商人の集まる特別席のみ、エネルギーインゴットを用いた非実体シールドによって手厚い保護が為されている。行われる賭け事の胴元は勿論彼等だ。これでも文句が出ないのは、彼等が積極的に一般層に還元を行っているからでもある。
「今日も、明日が遠そうだ」

●グリモアベース
「新しゅう見つかった世界で事件が起きるみてえじゃけー、皆に解決を依頼するな」
 海神・鎮(ヤドリガミ・f01026)は集まった猟兵に資料を渡し、自身も帳面を捲りながら、見つかった新世界について、概要を説明し始めた。
「まず、見つかった世界の名称はクロムキャバリア。無数に分裂した国家同士が常に人型兵器を使って、プラントって施設を奪い合っとる。当然、奪い合う理由は物資の枯渇じゃな。全体的に荒廃しとるみてえ。行った事あるなら、アポカリプスヘルに近えかな」 
 この世界の物質はプラントという遺失技術に頼っており、小国家同士の小競り合いは、人型兵器、キャバリアによって行われている。
「これは大体全長5メートル位で規格統一されとるよ。まあ試作機や専用機なんてのもあるらしいが、一般に出回っとる分は概ねこれじゃし、フレーム換装や兵装交換なんかで小回り効くし、調査結果の中じゃあ変形機構も積めるみてえじゃし、優秀なんじゃねえかな?」
 専門的に見た場合は違うかも知れない上、実際の所は良く分からないと首を傾げると、鎮は帳面を捲り、説明を続ける。
「上には暴走しとる衛星砲台が無差別砲撃してくる所為で、広域通信網や観測施設全部潰されたらしい。御陰で世界情勢や地形を知る手段が根絶されとる。文明は高性能な人型兵器を量産出来るくれえじゃな。猟兵には何処の国も戦力として歓迎してくれるよ。キャバリアの貸与も、通常なら受けられる……が、今回のケースはちょっと特殊かなあ」
 此処からが本題と、咳払いをして、事件についての詳細を話し始めた。
「行って貰う国家は自由交易国家カゴカド。字面は良えけど、まあ国家規模の闇市じゃな。目利き出来んかったら足下見られる、そういう商売人気質な人等が集まった国家よ。勿論、機械技師や研究者なんかもどんな物でも販路に困らんからそれなりに居る。治安維持は統治しとる商人等が雇用した傭兵がやっとるみてえ。それで、此処で流行っとる娯楽が、ディスカーディング。スクラップ同然の人型兵器をオーバーホールさせてのバトルロイヤルじゃな」
 これに、この世界のオブリビオンで有る、オブリビオンマシンの乗り手が混ざるらしいと鎮は告げた。
「オブリビオンマシンは蘇生したクロムキャバリアじゃが、猟兵以外には見分け付かんでな、戦火を拡大させとる一因になっとる。乗り手を破滅的な思想に洗脳するらしい。じゃけー、この競技に参加して食い止めて欲しい。ルールは、7日のオーバーホール期間の後に予選。形式はさっきも言った様にバトルロイヤル。射撃、射出武器の禁止の2点。勝敗は戦闘不能かどうかで決定される。乗り込む者の安否は問わんらしい。逆を言やあ、戦闘不能にしてしまやあ、後は勝者に一任される」
 心中を押し殺す様に淡々と競技についての説明を終え、茶を一口流し込んで気持ちを落ち着ける。
「割り込み参加とかにはならんけー、皆も7日のオーバーホール期間が有るよ。オブリビオンマシンの乗り手も、予選は一応スクラップのキャバリアに乗ると思う。ルールの穴と言って良えか分からんが、キャバリアに乗らんといけんとは言われて無えし、生身で出ても問題は無えよ。良え機会じゃし、一先ず、生身での戦闘は奥の手として取っといて、キャバリア操縦経験積んでみるのも、悪う無えんじゃねえかな」
 予選登録機体は現状で60機、此処に猟兵のキャバリアが追加された機体数となり、決勝である本戦に勝ち上がれるのは20機だ。
「あ、基本的にオブリビオンマシンに洗脳された乗り手は、大本である機体を壊しゃあ正気に戻るから安心して。進め方は皆に丸投げすることになるけど……宜しく頼むな」
 最後に鎮は深く頭を下げ、猟兵達を送る準備をし始めた。 



【マスターコメント】
●挨拶
 紫と申します。今回はクロムキャバリア。
 恐らく癖が強めだと思われます。

●シナリオについて
・章構成
【集団戦】→【日常】→【ボス戦】です。

・1章の目的
 庶民の娯楽で有るディスカーディングへ参加し、本戦である決勝に進むこと。
(本戦では好きなキャバリアを使用出来ます。これについては解体の手間が省ければ割と何でも良いのと、本戦に進んだ機体を技術資料とする目的が含まれています)

・ギミック
1:ルールによって射撃、射出武器の使用は禁止とされています。
※一部UCが使用不能となっている機体が多いです
※これらの兵装を搭載出来るキャバリアは、率先して監督役である、自警団員のキャバリアを狙います

2:敗北者の安否は勝者に委ねられています。自警団員も例に漏れません。

3:7日のオーバーホール期間で配布されたスクラップ同然の量産型キャバリアを何らかの手段によってオーバーホールする。(生身主体であれば別に適当で良い)。自身の力で無くとも技術者を探して依頼する等も可能ですし、乗り手を手助けする為の諜報役を行う等も可能です。

4:配布されたスクラップキャバリアを乗り捨てる形で、生身での参加も可能です。


●その他
・1章毎にOPを作成致します。
・途中参加は歓迎しております。
・PSW、キャバリアの有無、ロボット知識や機械知識の有無は気にせず、動いてみて下さい。
・生身での戦闘は全章通して【可】としております。

●最後に
 なるべく一所懸命にシナリオを運営したいと思っております。
 宜しくお願い致します。
92




第1章 集団戦 『ギムレウス』

POW   :    砲撃モード
自身の【背部大型キャノン砲】を【砲撃モード】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD   :    メタルファング
自身の身体部位ひとつを【機械で出来たワニ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    接近阻害地雷敷設
自身からレベルm半径内の無機物を【対キャバリア地雷】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アルバート・ガルシア
「俺は紳士じゃないんでね…女や子供だろうと容赦はしないぜ」

【目的】
ディスカーディングへ参加

【心境】
住人の娯楽ならば、ここはこの空気の乗ってしまった方が良さそうだな。
出来るだけビッグマウスの雑魚を演じておこうか。

【行動・戦闘】
★キャバリア選択
戦闘に使用するユーベルコードの性質を生かす為、簡単に倒れるわけには行かないので出来るだけ装甲重視のキャバリアを選ぶようにする。

★戦闘
出来るだけ近接した距離に持ち込み、ダーク・ヴェンジャンス(WIZ)を使用、敵と打ち合いながら【負傷】の蓄積を狙って後の攻撃に備える。
フライングベアートラップを使用して、(傷口をえぐる)攻撃をしつつ(生命力吸収)でダメージを狙う。


村崎・ゆかり
巨人種族よりも更に巨大な、鋼鉄の騎士の世界か。あたしにはあまり接点の無さそうな世界だけど、アヤメはどう思う?

さて、ディスカーディングへエントリーして来たわ。あたしたちに下げ渡された機体はこの場所にあるって。

それじゃあ、一週間、スクラップマシンと格闘しましょうか。
ふたりで呪符を貼り、呪言をペイントして、立派な依り代に。
呪術じゃどうにもならないところは、外部の専門家にお願いする。

さて、当日ね。遠隔攻撃禁止なのは、流れ弾が観客に当たらないようにするためでもあるのかしらね。

あたしは機体に搭乗しない。器物覚醒で式神にした機体を無人機ならではの動きで戦わせる。
これでも傀儡廻しは上手いのよ。そこ、もらった!


神奈木・璃玖
新たな世界、クロムキャバリアは戦乱の世界の様子
そんな中で自由交易国家とは名ばかりの闇市の国が出来ている辺り、商魂たくましい方はどこの世界にもいるのですね

さて、配布されたキャバリアを直していただくために、選択UCで腕のいいと言われる整備士を雇いましょう
良いものにはそれだけの対価を、というのは技術でも同じこと
金に糸目はつけませんが、それは適正な値段の場合のみです
わざと高値を吹っ掛けるおつもりなら…わかっていますね?

私も7日間の間に訓練すればそれなりに操縦できるでしょう
生身での近接戦闘はそれなりに心得がありますが、キャバリアに乗ると勝手が違いますね
しかし勝てばいいのでしたらやりようはありますか


シーザー・ゴールドマン
ハハハ、クロムキャバリア。実に楽しそうな良い世界だね。
ふむ、このスクラップキャバリアをオーバーホールして参戦すれば良いのだね? やってみよう。

『創造の魔力』を使ってキャバリアを超進化再生させます。

今回は射撃、射出武器は禁止だったか。では、格闘重視が良いね。
魔力をそのまま攻撃力に変換できる機構にしようか。
……うん、なかなかいい出来だ。

7日間の期間、オーバーオールは一時間に満たず終え、残りは闇市見物と洒落込みましょう。

バトルロイヤルでは手当たり次第に周囲のキャバリアを破壊していきます。
武器は『破壊の魔力』を宿らせたキャバリアの拳と脚。動きは生身同様の再現度で。


エア・ルフェイム
この巨大ロボ…キャバリア?だっけ
めっちゃくちゃ格好いいんだけど!?
エアもこれから乗れるんだよね、超楽しみ!

るんるん気分でディスカーディングの申込み
機械知識はあるけど系統違うっぽいしナー
ここは郷に入れば郷に従えってやつネ!

コミュ力武器に現地の人から情報収集
機体整備出来る人に整備を依頼しちゃう
整備のお手伝いには積極的に参加!
あとこの子の操作方法とかも聞いておく
…ついでに外装黒猫っぽくデコっちゃお
個性って大事だもん!

予選では直したキャバリアで出撃
相手が動かなくなったら追撃はしないこころ!
てなわけで!
くらえ!エアちゃん達のワイルドファイアーにゃんこクロー&キック!
立ち塞がるやつはみんな纏めて成敗だゾ!



●強奪行為
 保有する食糧生産に特化したプラントから、貨物車が土埃を上げて簡易天幕の間を走り回る。飛び出してくる住民に、ブレーキを踏み、怒号と共にクラクションを鳴らす。次の間には横から銃器を突き付けられ、仲間と思しき者達が包囲し、出所の怪しい熱伝導ナイフでコンテナを裂き、物資の強奪を図る。
「てめぇら、此処でそれがどう言うことか分かってやってんだろうな!」
「ならよ。明日の飯をアンタが保証してくれんのかよ……! その次の日は? またその次の日は?!」
「ふむ……察するに、食うに困っているのかな? 先程此処に来たばかりでね。やり口と良い、君達は此処の土地勘が有る様だ」 
「誰だてめ……」
「服装は土地柄、仕様が無いが、その口調は些か礼儀を欠いている。何より威嚇行為は通用するか否か、見極めることが肝要だよ」
 何時の間にか距離を詰めていた長身の偉丈夫、おおよそ、干上がったこの土地には似つかわしくない紅い礼装の男は、運転手に突き付けられた鉄製の銃身を、いとも容易く、玩具のように拉げさせた。
「先に言っておくが、仲間に助けを呼ぶのは無駄な行為だ。残らず意識を刈り取っておいたからね」
 トリガーに指が掛けられ、確りとグリップを握られた銃を、シーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)は片腕で、これまた容易く取り上げた。指を負傷したのか、片腕を庇いながらも、若者は尚、シーザーを睨み付ける。漸く頭が事態に追い付いた運転手が、恨み言を共に腕を振り上げる。
「済まないが、彼には私の案内役を務めて貰おうと考えていてね。これで不問にしてくれるかな?」
 若者が所持していた拉げた拳銃と共に、純金で出来た金貨を3枚ほど握らせる。この世界の貨幣には一定の水準の存在しない。それでも、金等の鉱物資源は此処でも有効な様だ。
「もう少しマシなのが居るだろうに、物好きなにーちゃんだな。解ったよ。てめぇ等、命拾いしたな! このにーちゃんに精々、感謝しろよ!」
 乱暴に扉を閉め、意識を失い、転がった若者達の身体を避ける様にハンドルを切り、過ぎ去っていく。
「と言う訳で、私は一応、君の命の恩人という事になる様だね」
「だからどうしたってんだ。礼は言わねえ。じゃあな」
「仕事だよ。請け負えば、そうだね……1週に満たない程度だが、気を失っている者を含め、生活を保障しよう」
「アンタ、正気か?」
「君達の強奪行為が、正気だったと弁護できると思っているのかね?」
 先程と同じ、純金で生成された金貨を30程詰めた革袋を若者の前に落とす。
「前金だ。事情は君から彼等に説明したまえ。起きたら、ディスカーディングの受付会場まで、案内をお願いするよ」
 若者は紐を解き、金貨の数を適当に把握し、複雑そうに眉根を寄せて立ち上がり、仲間達を起こした。奇妙な男から奇妙な依頼を受けたと説明すると、戸惑いながらも、前金の額に、全員が沈黙の了承を示した。
「信頼しているよ」
「……それは、一切の虚偽を容認しないって事だろ」
「心得ている様で何よりだとも」
 厄介な仕事を抱え込んだと独りごちる代わりに、若者は一つ舌打ちをしてから、受付会場へシーザーを誘導する。


●連れ立って歩む
「巨人種族よりも更に巨大な鋼鉄の騎士の世界か。あたしにはあまり接点の無さそうな世界だけど、アヤメはどう思う?」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)はフード付きの外套を被り、除く三つ編みをのんびりと揺らしながら、簡易天幕の有る街道を歩く。小柄というだけで、手癖の悪い窃盗行為は絶えず、若い女性と見れば、声を掛け、引き込みたがる男が絶えない。後者は主にゆかりの従者であるアヤメに対して行われていたのでほぼ全員、魔力の込められた視線一つで骨抜きにされ、情報を洗いざらい引き出されていた。
 前者は所作が判明した時点で、成人で無ければもれなく腕の骨を折り、子供であれば諭した後に、聞き入れなれば関節を外した様だ。
「そうですねえ、大きいか小さいか位で、術式で同じ様な事をやっていると思いますが……この国に限るのであれば、治安の悪さの方が似合わないと思いますけれど」
「相変わらず、順応力と応用力が高いわね……UDCアースにも、こういう所はあるけれど。今回は正直助かってるわ……ありがと」
「お役に立てているのならば何よりですけれど……お疲れですね」
 市場自体は真っ当であろうとそうでなかろうと覗いてみれば興味深い物はそれなりに有るのだが、上述したトラブルが絶えず、意欲以上に、疲労感が募る。資料に記載されていた自警団についてはどう考えても人員不足なのが現状だろう。
「手っ取り早く受付に向かいましょうか。アヤメに言い寄ってくれた人達の御陰で、場所は分かったし、色々聞けたしね」

●窃盗行為
「この戦乱の絶えない世の中で、自由交易国家とは名ばかりの闇市ですか……何処の世にも、商魂逞しい方は、いらっしゃるものですね」
  同業でも有る神奈木・璃玖(九尾の商人・f27840)は耳と尾を隠し、興味深げに雑踏に紛れ、闇市の品物をそれとなく吟味する。活気のある呼び込みは何れも無視し、眼鏡の下で琥珀の瞳が金勘定と些細な興味に僅かに揺らぐ。赤茶の洋装へ、思い切りぶつかって来た小さな影の腕を、逃さぬように取る。
「気配はそれなりに薄めていたはずですが……少々話は変わりますが、等価交換という言葉はご存知ですか? 中身は空とは言え、貴方のその行為の代償は、高く付きますよ?」
 抵抗し、逃げようとする少年を、懐へ引っ張り込む。銜えた煙管に火を付け、手の甲に近付ける。
「そうですね。思い付く代価は二つ。選ぶのは少年ですが……今、銜えているのは煙草の一種ですが、手の甲を灰皿にするか、暫く、無給で私の言う事を聞き、手伝いをするか……何方が宜しいですか?」
 煙管の煙を少年に吹き付け、撮んで先を軽く手の甲に近付ける。仄かに伝わる灰の熱に、少年は冷や汗を滴らせ、戸惑う様に視線を背けた後、渋々と言った様子で後者を選んだ
「素直で宜しい。生活苦自体には同情程度は致しますが。さて、滞在は7日。先ずは、この競技の受付まで、案内して頂けますか?」

●趣味人
 短い赤髪を揺らして、思う侭に雑踏を歩けば、小柄な体躯というだけで幾人にも声を掛けられる。都度、自身より強ければ考えると伝えると、下手に出ていればつけ上がると拳を振るわれ、後の先気味に加減した掌底を一つ叩き込む。内臓破裂も起こさない気絶のみが目的の一撃で呆気なく意識を失った。
「そういうわけだから、ごめんネ!」
 エア・ルフェイム(華焔・f02503)は言い寄ってきた気絶した男に明るく謝罪と別れを告げて、天幕に並ぶ商品を興味津々と言った様子で覗き見る。口の上手い商売人が、食いついたと見るや、品物のいわくや、何処から出て来た物なのかを詳細に語るのを、暫く聞きながら、品物を手に取って良いか確認し、機械構造を外見からある程度吟味していく。特に出所の怪しい機械部品や兵器を好んで物色していく。
「……やっぱり系統違うっぽいナー」
「その子を見るに、お嬢ちゃんは技師さんなのかい?」
「うん、ロン君って言うんだけど、私が作ったんだよー」
「そうかい。どっから来たかは知らんが、そろそろディスカーディングって競技の時期だから、良い食い扶持になるだろうね」
「あ、それ知ってるよー! 巨大ロボに乗って戦う奴だよね! エアちゃんも乗れるって聞いて、超楽しみにしてるんだよー!」
 壮年の商人は少し目を丸くして、機械仕掛けの黒猫と楽しそうにはしゃぐエアを見る。
「お嬢ちゃんは参加者の方だったんだね。乗れるのはスクラップ同然の機体だがねえ。それじゃあ、応援するから、代わりに何か買って行ってくれないか?」
「ちゃっかりしてるネー」
「そりゃあねえ。でもまあ、商売が上手けりゃ、もう少うし良い地位に居ると思うよ。扱う商品が趣味に寄っているから、人なんて寄り付きゃあしない」
「だからのんびりお話聞けたんだけどネ」
 他の天幕に比べて人だかりが少ない変な店だと思ってひょっこり覗いてみれば、品揃えが明らかに異質であり、並んでいるのはどれもこれも、この世界では実利の薄い品物ばかりだ。
「お嬢ちゃんはやけに真剣に品定めしていたし、使い方が分かるのかな」
「んー。分かり易く言うと、此処の品物は全部、普通の人には扱えないネー! エアちゃんと相性良さそうなの一つ貰うから、受付の場所教えて欲しいナー!」
 簡単に言うと思念や魔力を動力源とする兵器や機械部品だ。半分趣味というのは謙遜でも何でも無く、機能は兎も角、こう言った物が好きで仕入れているのだろう。細かい造りが違う為、全容や機能を全て把握出来る訳では無いが、軽く力を流し入れてみると、使い慣れた蒸気銃と同じ様な手応えが返って来る物が有る。
「道理で……技師さんや研究者みたいな人しか寄りつかないわけだ……皆、金払い自体は良くて、どうにか成り立っているんだが、良い事を聞けた。好きなのを一つ持って行くと良い。配布されている地図を上げよう」
「ホント!? ありがと!」

●受付
「ディスカーディングの受付は此方になっております。必要事項を置かれている紙に記入した後、常駐しているスタッフにお渡し下さい」
 形式張ったアナウンスが会場のそこかしこで響く。主に男性が担当しているのは治安の悪さも有るだろう。用紙に書くことはそう多く無く、氏名年齢、希望するスクラップキャバリアのフレームや武装程度。常連参加者はスタッフが顔を覚えている為、極めて順調に事が進む。
「ああ言うのは、この国の上澄みだ。シーザー……さんにはああ言う人達の方が性に合うんじゃねえの」
「そうかもしれないね。上澄みと言う事は、ある程度、区域が別れているのかな」
 気紛れに雇用した若者と話しながら、用紙に必要事項を記入し、近くの係の者に渡す。
「そうなる。つっても特に金を持ってる連中が他を追い出しているだけだ……しょうがねえ所があるのは理解してる。俺達ですら嫌になるからな。思惑はどうあれ、あいつらが下層支援に尽力してる事も知ってる」
「それでも、どうにもならない現状が有ると言うだけだね」
「あ……貴方の御陰で、俺達は暫く安泰だがな」
「不慣れな敬語というのは、聞いていて中々愉快だ」
「させてんのはアンタだろうが!」
「その上澄みの区域で宿を借りるのだから、粗野な言動は多少なりとも直しておかなければね。足下を見られてしまうよ」
「……は?」
「貴方、本当に何処でもその格好なのね」
 少年が間の抜けた声を出したのに続いて、フードを被った小柄な影が、強気な声音でシーザーに話し掛ける。編まれた三つ編みと紫色の瞳は、ゆかりのものだった。
「分かり易くて良いだろう。久し振りだったかな?」
「一先ず、顔見知りが居て良かったわ。他にも居るかしら」
「ふむ、何となくそれらしい気配の者ならば、周囲に3人ほどかな」
 それらしい人影が居る場所へ大雑把にシーザーが指を差す。一人は分かり易く、周囲を物珍しく見て回っている赤髪の少女、1人は少年を連れ立って、煙管に煙を燻らせた洋装の細身の長身。もう1人はと言えば。
「優勝は俺に決まって居るからな。雑魚は今の内に辞退した方が身の為だぜ!」
 親指を立てて首を掻き切る様にスライドさせ、真下に翻すジェスチャー。当然悪感情に周囲がざわつくも、それを演技だと察した者も幾人か居た様だ。意に介する事も無く、挑発的に唇を釣り上げる外套の男は、アルバート・ガルシア(カラミティオウル・f17322)だ。
「割と順応しているわね。ちょっと羨ましいわ……」
「お疲れかな?」
「そうね……この国だけでしょうけど、流石に疲れたわ」
 ふと、指を差されていた事に気付いたのか、残りの2人とも合流する。一先ず、キャバリアを受け取った後の方針を互いに交換していく。アルバートもほとぼりが冷めた辺りで、感付き、合流する。

●受取
「希望無しの方は、此方から好きなキャバリアをお選び下さい。希望の有る方は幾つか見繕いましたので、其方からお選び下さい。搬送先が決まっていないので有れば、運搬は各自にお任せすることになります。運搬車の貸出と積載自体は此方で行っております。またこれらの盗難の際には相応のペナルティが有りますので、必ず予選前までのご返却をお願い致します」
 特にフレーム自体に拘った者は少なく、ガルシア以外はスクラップの格納庫で各々気に入った物を選んでいく。
「これかな。痛みが比較的少ない様だ」
「私はコレかなー! 壊れかけてるって言うのも浪漫あるよネ!」
「専門外なのよね。どれでも良いか……」
「美術的価値や保存状態程度なら目利きも出来ますが、実利には遠いでしょうし、これで良いでしょうか?」
なるべく痛みが少ない物を選んだシーザーと、デザインに大差が無い事から、ほぼ感覚で選んだエア。知識の不足から適当に選んだゆかりと璃玖という構図になる。宿とガレージが決まり次第、シーザーの雇い入れた若者が運搬車で送り届ける算段となる。
「私の分は一度彼方に置いておくか」
 軽く選んだ機体に触れると同時に、胴体部分に大きな法陣が描かれ、機体が格納庫から消失する。異なる世界の空き地に飛ばした等と説明しても、猟兵以外は、恐らく誰も信じないだろう。
 またガルシアは装甲重視のフレームから、一番装甲が厚い物から、鈍重な機体を選び、自身が運搬車を走行させると猟兵達に伝える。
 

●情報収集
 運搬を任せた彼等への通信連絡役は一先ずシーザーを介して行う事になり、その為の相互通信符をゆかりが作り、皆に渡す。事前相談通り、璃玖とエアがそれぞれのやり方で整備士を探す。一先ず登録を終えたことを、先程の商人に話し、特に信頼出来る技師は居ないかと聞き込んでみると、買い付けに来た何人かの技術者を教えてくれた。彼にとってエアの齎した先程の情報は非常に価値の有る物だった様だ。
 璃玖は少年から技師の居る区画と知人の有無を聞き出してみると、良い噂を聞かない変人のガレージが有ると俯きがちに零した。
 リストアップされた中で、事前予約無しで大会に間に合わせることが出来るのは、少年の零した技術者のガレージのみで有り、一先ず2人一緒に訪れる。お世辞にも綺麗とは言えないサビが随所に見えるガレージに足を向けると、年若い明るい声が響く。
「ボクに用ー? ディスカーディング予選のオーバーホール依頼とかだったら嬉しいなー! 折角駆け込みOKにしたんだし! あれ大口の依頼だし、思い切りガメれそうだからさ」
「良いものにはそれだけの対価を、というのは技術でも同じこと。金に糸目はつけませんが、それは適正な値段の場合のみです。わざと高値を吹っ掛けるおつもりなら……」
 顔の見えぬ恐らく技師で有ろう、年若い声の主の無遠慮な物言いに、ゆったりとした口調で、しかし有無を言わさない様、最後に念押しをする。
「わかっていますね?」
「え、本当に? さっきの冗談だよ。まあ技術料は高く付くけどぼったりしないって。でもさ、ウチ自分で言うのもアレだけど、かなりアレだよ。認められた事無いんだよね。子供の癖にー、どうにもならない好事家しか弄れない様な部品ばかり相手にしてるって! あれってさ、どれも精神感応系とか超自然科学の兵器とか、子供っぽい発想って何時も言われるけど、魔法機械とかそう言うのだと思うんだけど、中々修理できなくってさー、いつも悔しいんだよねー。で、修理するスクラップって、何台?」
「4台! 助手が居るなら出来るだけ手伝うからネ!」
 ようやくひょっこりと顔を出した少年は、話の脈絡を意に介さず、唐突に仕事の話に移行する。これはまあ、変人と言われても仕方ないだろう。
「んー、お姉さんみたいな助手なら歓迎かなー。その黒猫型の機械ってどうやって動かしてるの。あ、料金見積もりはざっとこれ位。全部スクラップ同然だからかなりお高めだけど。ボってないし、助手志望だし、皆真っ当みたいだし、何なら台数割引しちゃっても良いなあ。信頼してくれたの貴方達が始めてだー、嬉しいなーって事で! いやさー、普通の細かい仕事は結構来るんだけどねー、いざこう言う大口の仕事になると何でか誰も来てくれないって言う微妙な請負業者っぷりでね、やっぱりさ、ガレージが安っぽい所為かな?」
 原因は恐らく色々有るだろう。先ずはこの独特の会話テンポが原因で、次に得体の知れない機械を年柄買い付けては、四六時中弄っている事を考えれば、客の信頼を得られないのも仕様が無いだろうと考え、璃玖はやや溜息交じりに見積に目を通した。私財で祓い切れる程度で有り、良心的な価格には間違いが無さそうだ。
「割引までは必要ありません。此方の価格で大丈夫ですよ。その代わり、良い仕事を期待します」
「わーい。お兄さんもお姉さんも皆良い人だー! あ、じゃあねー、割引の代わりに宿決まってなさそうだし、良いとこ教えてあげる。この辺で良い人がやってて良い人が集まる所って少ないからさー。はいこれ地図ー! キャバリア届くまでは一応、此処にいてねー!」
 
●一週間
 ゆかりは運び込まれたキャバリアに呪符と法陣を描いていき、他は技師に出来る限りの修復作業を頼む。璃玖はキャバリアが仕上がるまで、依頼した技師が制作していたキャバリア操縦訓練用のシミュレータと教本を確りと学習する。
 エアもほぼ同じくだが、助手や客と言うより友人という感覚で、波長が合ったのか技師と仲良く作業を進めていき、彼女が黒猫風のデコを申し出ると、技師は思わず吹き出して、エアの感性を褒め、要望に応えた。
「だって個性って大事でしょう?」
「だよねー! 量産型もボクは好きなんだけどさー、あ、でも演出規定があるからねえ、ちょっとだけ悪者っぽくしないといけないんだー! ごめんね!」
 別所、支配階級達が居る区画でホテルを取ったシーザーは、空き地にスクラップとなったキャバリアを出現させ、指を弾く。開放した紅色の奔流が機体の内外を包み込み、浸透させて行く。機体が新品同様に再生し、そうなりたいと機体が抱く理想の姿に進化させていく。結果、操縦機構は猟兵の思い描く速度に対応出来る物になる。
「心が有るかどうかは別の話だ。今回は射撃、射出武器は禁止だったね。それと演出規定だったか。少々禍々しいアクセサリを付けて、武器は、ふむ、魔力をそのまま攻撃力に変換できる機構にしよう」
 機体の骨格からフレームアーマーに魔力を浸透出来る機構を追加し、更にセーフティとして、自身の魔力以外では起動出来ない様に、ロックを掛ける。全て初日の1時間で終わらせた後、暫くのティーブレイクを雇用した若者と嗜み、戯れに緊張したままだった若者に、作法を仕込もうと試み、不器用に実行するのを楽しみながら、夕食と就寝の時を除き、闇市を見て回る。売り文句に耳を傾けてみれば、他国の最新鋭兵器の盗品だ、旧時代の用途不明の兵器だと触れ込みながら、その商品は只、スクラップを組み上げただけの適当なワンオフ品と言うのはザラで、派手な売り文句を掲げてなければ良品かと思えば、使い物にならない弾丸や、数発で壊れる使い物にならない拳銃、エネルギーパックが切れかけたビーム兵器など。勿論エネルギーパックは別できっちり高額で売っていたりする。かと思えば、本当に旧世代の超兵器がガラクタ同然の価格として出回っている。盗品を少々大袈裟な値段で真っ当に売る程度なら、この国では本当に可愛い悪事だ。
「びっくり箱の様な所だね」
 この様相ならば、真面目に商売をしているという情報が何よりも高価だ。信頼出来る情報屋を数人確保し、その上で誠実な商売人を独自ルートで仕入れておく必要が有るだろう。初日から最終日付近までその様に、この国家を楽しんだ。またこれは、若者が言った上澄みも現状、そうは変わらない。彼方に居る支配階級は、独自のルートを持っていると言える。
「こんな感じかしら」
「呪符や法陣を描くと、それなりに禍々しくなりますねー」
「紫色で法陣を描きたかったら、仕方ないわ。可動部分なんかは技師の子が確りとした仕事をしてくれたし。彼が雇ったって言うあの子達も、きちんとキャバリア送り届けてくれただけで感謝ね。後はコクピットの中に起動用の仕込みをして終わりよ」
 最後にゆかりがコクピットに自身が愛用している呪符を1枚貼り付け、魔力光と共に、術式を封印する。
「お疲れ様、明日が本番ね。今夜はゆっくり休みましょう。その前に、頑張ってくれた技師の子に、宿泊先の御飯を持っていって上げましょうか」
「はい。そうしましょう」

●予選開始
 開催場所の廃工場跡には、60機からの参戦者が名乗り出る。当日に紹介などしきれる訳もなく、事前に記載された出場者の名前と、キャバリアが搬送されたガレージの名称のみが記載されている。これに対して監督役で派遣される自警団員は1人のみ。全てを監視する必要は無く、反則側の有利を演出すれば、判明が早く、砲撃を躱しきれなければ、単にそれでお終いと言うだけだ。賭博としては個人の情報網が全てとなる。
 視界の過剰な煽りが、マイクとスピーカーを通して客席に響き渡る。全機の搬入が終わり、指定された場所へと移動が終わると、視界が大口径の信号弾を上空に向かって構え、撃ち上げる。煙に色が灯ったのを開始の合図として、競技は開始された。
 開始と共に早々に上がる鋼鉄の軋み。整備不全の機体が早々に立ち上がる事すら出来ず、痛んだままの脚部間接が胴体を持ち上げきれずに崩落し、近くに居たキャバリアが見ず知らずの他人とコクピットを鋼の拳が貫いた。マニピュレーターを血色で染め上げる物が居れば、早々に棄権を促し、自身も同時に脱落する者も居る。自警団員は上がる火砲から逃げ回りながら、どうにかやり過ごすも、自身も安全規定から、白兵武器のみであり、反撃の糸口が掴めない。
「火砲が鳴り響く度に観客が頭を下げているね」
 スタート地点近くのキャバリアをシーザーは涼しい顔で蹴散らした。一応コクピットを避け、機体の足を高速で砕き、訳も解らずマニピュレーターを突き出した所で、流動する赤のオドを宿した鋼の手刀が砕き切る。危険だと判断されたのか周囲四方を取り囲まれたのを、冷静に頭部をマニピュレーターで握り砕き、下段気味の足刀で蹴り飛ばす。真上からの奇襲を軽く地を蹴って自滅させ、メインカメラとなる頭部を踏み潰し、一先ず火砲のある相手ならば手応えはあるかと、ブースターを起動し、奇襲に出る。
「分かっては居たけど、酷い競技ね。急急如律令! 汝ら、我が下知に応じ、手足の如く動くべし!」
 人の死に、良くも悪くも慣れて居るのが窺える。ゆかり自身は搭乗せず、アヤメに抱きかかえて貰い、身体強化分の霊力を其方に回し、戦地での対応を全て一任しながら、 コクピットに仕込んだ封印を開放する。術法によって半生物と化したキャバリアの操作に集中し始めると、自身の意思と主の命に従って、鋼の拳を振るう。法陣で補強された各間接部と装甲は他のキャバリアよりも滑らかに動き、生半可な人の意思を介さないため、他のキャバリアよりも挙動がやや俊敏だ。
「これでも傀儡廻しは上手いのよ。そこ、もらった!」
鈍重ながらも少しずつ他者を蹴散らし、安く手に入ったジャンクの鉄棍が、頭部を払い、四肢を打ち付ける。
「言っただろ、俺の勝利は決まってるってよ!」
 超重装甲の鈍重な機体をコクピットで操作しながら、黒色の粘液で機体を覆い、周囲の機体にその装甲を押し付けるように密着近接格闘戦を挑む。軋みを上げて拳を撃ち込み、関節の痛みを無視する様に肘を打ち込む。呼応するように相手もマニピュレーターを犠牲にし、コクピットの有る胴体を守る。技術の伝達しにくいキャバリアの鈍重な取っ組み合いは、黒色の粘液に覆われるというビジュアルの凶悪さも相まって、特に観客を沸かせていく。得物や拳が装甲を傷付ける度に、黒色の粘液が機体を補強し、機体を自然に回復させ、鋼の四肢に出来た細かな傷口に、血液を代償にして作った鎖付きのトラバサミを作り出し、四肢を?いで無力化させる。戦闘能力の増強と共に機体の反応速度が徐々に高まっていく。
「くらえ! エアちゃん達のワイルドファイアーにゃんこクロー&キック!」
 火砲の鳴り響くエリアで、黒猫型のキャバリアのマニピュレーターが凶悪な焔の剣歯虎の頭に変わり、機体の四肢を次々に噛み砕く。笑われていた機体だが、基礎性能は非常に高く、エアの能力も相まって、たちまち競技に意外性の熱風を振り撒いていく。一打毎に変化部位が変わり、火砲を掻い潜るように機体を滑らせ、取り巻く反則機体を端から焔の虎が四肢と頭が溶かし喰らう。
「立ち塞がるやつはみんな纏めて成敗だゾ! あとルールは守った方が良いと思うナー!」
「同感です。決められたルールを逸脱しすぎると、何もかも崩壊してしまいますからね」
 7日の特訓の結果、璃玖はすっかりキャバリアの操縦に違和感を感じなくなった。何より、個人個人毎に細かな調整を小さな技師がやってくれたので、彼にとっては非常に乗り心地の良い機体に仕上がった。キャバリアサイズで作られた、余り鉄で作られた煙管型の棍棒で頭部のメインカメラを砕き、火砲部隊を叩く。幾つかをシーザーが突進で葬り、自警団員が最後の一機を打ち崩すと、マニピュレーターの親指を立て、個人回線で礼を言ってくれた。
 大波乱の幕開けと、観客には非常に受けの良い試合だった模様だ。何より火砲を扱う機体は観客からもブーイングが凄まじく、自警団の人数が少ないこともあり、本戦への出場確率が高いという、理不尽な要素でも有った。
 密度の濃い試合は時間経過を忘却させる。規定数が20機は絞られ、本戦出場選手が、此処に決定した。
「本戦出場選手には、暫しの休息期間とプレゼントが設けられます。贅沢な自然公園での癒しの一時、どうぞ、ご堪能下さい! それでは皆様、生き残った勇士を含め、その健闘を称え、より大きな拍手、声援をお願い致します」
 歓声が上がれば不満も上がる。多種多様な反応を残して、予選は決着していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『しかし体は闘争を求める』

POW   :    馬や羊などの大型動物と触れあう

SPD   :    猫や犬などの中型動物と触れあう

WIZ   :    鼠やリスなどの小型動物と触れあう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●自然保護区の会談
 決勝に駒を進めた選手達20名、専用の車両に案内された自然公園は、異常にセキュリティが厳しい、これまた乾いた世界とは無縁に見える、白の半円球状の建築物だ。各種ロックを運転手が解き、中へ入れば、一面が湖と繁茂した植物に囲まれ、動植物が気儘に生を営んでいる。降り注ぐ陽光は外の照りつける物とは違い、温かで心地良い。
 案内役が言うには光度、湿度、温度等、全てを内部機構で自在に制御している様だ。元となる原理は未だに不明だが、抱えている研究者が解明から、応用して作成した物となっているらしい。
 小動物が同乗していた陰鬱な男性に歩み寄るも、彼は無視して1人、寛げる場所を探しに行く。残念そうに首を垂らした小動物に、明るい女性が手を振ると、女性の方に視線をやって、軽い足取りで茂みの中に去って行く。
「お偉方は本当に何考えてるのか分かんねえな」
「そうかい? 俺ぁ好きだぜ。あんな糞みてえな小競り合い繰り返す世界よりも、よっぽど良い」
「一銭にもならねえのに、相変わらず物好きだな、アンタの所は」
 5人組の、壮年の傭兵チーム二組は、互いに顔見知りの様で、それぞれ此処の雰囲気についての感想を漏らしながら、やがて湖の畔に腰を落とし、澄んだ美味い水で喉を潤しながら、次第に仕事や、大会での情報交換に移行する。
「……勘だから金は取らねえがよ、何か嫌な予感がすんだよ。決勝は適当に盛り上げ重視の八百長で、トンズラしねえか?」
「……穏やかな相談じゃねえな。今回は実力者も多いみてえだし、そうするか」
 普段から強気な痩せた風体の男が、俄に冷や汗を垂らし、震えながら乞うのだから、それは生き延び、発達しすぎた傭兵が訴える生命機器だ。演技の可能性も捨て切れないが、いざとなれば現場で引っ繰り返せば良いと、男は思考を巡らせた。
「ありがとよ。本戦に上がった奴に顔見知りが居て、こんなに安心したのは始めてだよ。恩に着るぜ」
 1人で行動する陰鬱な男性と元気な女性を除いた3人は、まだ年の頃は20代程の3人組で、今回は運が良かったと胸を撫で下ろし、大凡外の風景とは思えない公園を、楽しめる気分では無かった。1人が震えながら頭を抱え、病人の様に、うわごとを繰り返す。他の2人は彼の主張を汲み取り、励ますが、発狂寸前の心根には届かない。
「しぬ、みんなしぬ、はは、ははは。闘争は罪なり、戦争は罪なり、亡者の屍肉を屍に変えて私腹を肥やす悪魔共。諸共死せよ、しせよ、しせよ……生は罪なり罪は生なり」
 1人は終始こうで、1人は顔色悪く、陰鬱な男性が去った方を視線で追ってから、淡々とスクラップ・キャバリアを操り、無感情無関心にパイロットごと処理していく様は、思い出すだけでも怖気が奔ると、渋面になりながら零した。
「……そう言う競技だけど、何かおかしいんだよな。アイツ。多分、どっかネジが外れてる」
「あの元気な子と一緒だったのはどっちだっけ?」
「うん? 俺達、一緒に居たんじゃなかったっけ?」
「……あれ?」
 記憶の混濁による証言の不一致、2人は混乱を深めて行く。怯える男性の独り言が、不気味に余韻を残す。

●状況整理
 オブリビオンマシンの搭乗者は未だに判明していない。猟兵達は自然公園を楽しみながら、本戦に出称する他の選手、延べ15名と交流を図る事が出来る。
 実態は5名、5名、3名の各代表者と、陰鬱な男性と元気な女性、話し掛ければ、その時に、それぞれ、名前は答えてくれる。5名チームの代表者はそれぞれ、実質の棄権を予定しており、3名の若手チームは1人が発狂寸前であり、継続参加については怪しい所が有る。
 資料によれば、今回のオブリビオンマシンの乗り手は1人、となるとチームを組んでいるとは考え辛く、単独行動をしている可能性が高く、容疑者は自ずと2名に絞られるが、確たる証拠は無い。娯楽として録画、公開されているノーカットの映像記録にも、目立った異常は無い。
 どの様なアプローチで調査し、炙り出すかは猟兵に委ねられている。一切の推理を行わず、この貴重な自然公園での一時を好きに楽しむと言うのも、猟兵の自由だ。
 ひらひらと舞う蝶が視線をよぎり、猟兵はそれぞれの時間を過ごし始める。
村崎・ゆかり
んー、ここは色んな駆け引きの場なのかしらね? せっかくアヤメと一緒に森林浴と洒落込むつもりだったのに。
まあ、参加者一同に「コミュ力」使って初対面の挨拶しときますか。
ご機嫌よう。あたしは村崎ゆかり、陰陽師……って、言って分かるかしら? まあ、魔法使いみたいなものよ。本戦では、どうぞお手柔らかに。

さて、義理は果たしたわ。アヤメ、二人で一杯楽しみましょ。
黒鴉を飛ばして、人の少ない方を見つけてそっちへ歩いていく。
この世界に、よくこんな施設が残っていたものね。まっ作に解体されそうなものだけど。
途中、動物たちに餌をあげながら、黒鴉が見つけた人の来ない場所にアヤメと一緒に忍び込み、人工の自然の中で愛し合う。


神奈木・璃玖
自然公園で過ごす休息、ですか
リフレッシュのためにもいいかもしれませんね
ここまで無給で働いてくれた少年と共に過ごしましょう
この私相手に盗みを働こうとした対価分は働いているようですし、どうせなら最後まで付き合ってもらいます

休息、とは言っても仕事はしてもらいます
ここに来た当初の目的を果たしましょう
オブリビオンマシンの搭乗者の捜索のお手伝い、よろしくお願いしますね

おや、八百長の誘いとは面白いお話をしていますね
私にも是非そのお話を聞かせてください
選択UCにより真実を語ってもらいます
別に咎めるつもりはありません
相当な実力をお持ちとお見受けする彼らが実質の棄権を考える、その根拠が私は気になるだけですので


シーザー・ゴールドマン
さて、候補はあの活発な女性と暗鬱な青年か。
まあ、どちらでも良いね。
(本戦で倒すことに変わりなく、正体を掴んでいても最初に倒すか後になるかくらいの違いしかない。それならば特に気にする必要もないという考え)
とはいえ、会話する機会があればどんな思想に染まっているのか確かめておくのも面白いかもしれいが。
ともあれ、とりあえずは情緒不安定なあの3人組の相手をしようか。
(と、3人組と交流します。うち、一人はオブリビオンマシンの影響を強く受けている様なので『破魔×浄化』でそれを取り除いてみます)
気分はどうだね? 直接搭乗していないならこれで十分のはずだがね。



アルバート・ガルシア
【目的】
オブリビオンマシンの乗り手の調査

【心境】
ターゲットが誰かわからない状況で交流というのも変な話だが…。
「探りを入れている奴がいる」と認識させて相手を釣るのも一つの手かもな。

【行動・戦闘】
★交流
搭乗者の資料を閲覧した後は、他のチームに「注目選手のリサーチ」という名目で聞き込み(情報収集)をする。
ターゲットが釣られてきた場合は、相手が狙いやすいように状況にあえて立つことで相手の掌の乗るよう行動。

★戦闘(発生するかは不明)
飽くまで襲われた際の脱出手段として戦う。
武器のダークネスクロークはコートのように着込み、襲撃者を『咎力封じ』で動きを鈍らせた所で(目立たない)ように人が密集している方へ逃走。


エア・ルフェイム

すっかり予選楽しんじゃった!
休暇返上して頑張らないとネ!

紅朱音を予選突破者へ放って情報収集を依頼
エアは他の猟兵が接触とってない人に話聞きに!
判断材料はいっぱいあった方がいいよネ!

ねぇねぇ
大会には仲間と参加してるんだよね?
登録時点でのメンバーの名前とか教えてほしいナー
良ければご挨拶も!
優勝争う身としては、戦う人達のこと知っときたいでしょ
やるなら正々堂々がモットーなので!
陰鬱な気分を晴らす様に、元気に笑顔で話進めて
何か会話中に引っかかる部分ないか気にしとこ

単独行動組か発狂寸前の人見つけたら、
使い魔のルーン君に別働出勤して貰う
慰めと奉仕によるアニマルセラピー効果で、
ぽつりと何か零してくれたら僥倖ね



●摺り合わせ
「森林浴と洒落込むつもりだったけれど……そういう場でも無いのかしら」
 長閑な湖畔でそこかしこで響く小鳥の囀りに耳を預けながら、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は、水面下の駆け引きの場で有る事に感付き、煩わしげに眉根を寄せた。
 実際の所、この休息期間は予選を勝ち抜いたリビルド機体の内外へのお披露目と、手掛けたガレージへのオファー期間でもある。技師や研究者はどの様な技術が使用されたのか、専門知識の薄い一般層は、外装の出来を屋台で買った昼飯を共に物見遊山と、試合終了後の2次会となっている。
 後で知る話だが、猟兵の機体を担当した技師は、使者がその独特過ぎるペースに付いて行けず、飛び出す言葉の端々から、研究費が嵩む予感がしたのか、ご破算になった様だ。
「不本意なら、気にせず、楽しんでくると良いのでは無いかな?」
 シーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)は涼しい顔をして、赤いスーツの襟を正し、他の選手の動向にそれとなく目を配る。
「うんうん! すっかり予選を楽しんじゃったエア達が、休暇返上で頑張るからネ!」
 エア・ルフェイム(華焔・f02503)の、絡繰り黒猫のロンが、主人の動きに合わせ、任せてと言わんばかりに、片腕を上げた。
「ターゲットが誰か分からない状況で交流と言うのも変な話だからな。一先ず、全員に探りを入れてみるぜ」
 アルバート・ガルシア(カラミティオウル・f17322)は外套から革張りの手帳を取り出し、早速と行った様子で、湖畔の傍に歩んで行った2人を追う。
「リフレッシュの為にも良いかもしれませんね。今暫く、付き合って頂きますよ」
 本戦出場者の連れという事で、幾つかの規則に従う前提で同行が許された。ただ、信頼度の低さから、一人だけ発信器内蔵の腕輪が填められた。当の少年はと言うと、見た事の無い緑溢れる光景に、目を見開いて、驚いていた。
「聞いて……いませんね」
 どうしたものかと、神奈木・璃玖(九尾の商人・f27840)は暫し考えて、手の甲を軽く抓ると、はっとした様子で顔を上げた。
「休息期間では有りますが、確りと仕事はして頂きます。呆けた顔をするのは、控えなさい。彼女も言った様に、こう言った場では、尚更です」
 自身も上着と合わせた茶のループ・タイを軽く締め直しながら、代価無しに物事を教えるのは些かサービスが過ぎているかと、軽く首を振る。
(存外、真面目に働いてくれていますから、それで良しとしましょうか)
「彼と一緒に動きますよ。どうやら、後ろは彼女が補助してくれるようですしね」
 少年の手を半ば強引に引きながら、アルバートの後を追う。肩上に焔の蝶が一羽、ひらひらひらと舞い踊る。
「それじゃあ、皆のお言葉に甘えましょうか。顔が見えたら、礼儀だけ通しましょう」
 愛用の白一色の呪符を取り出して、手早く呪を吹き込む。主の命を受け、黒羽が木々をすり抜け、人気の無い場所を探って行く。
「ん」
 隣に居た従者より一歩前に出て、手を差し伸べる。すぐに、恋人でも有る彼女の温かな掌が重ねられた。

●傭兵の勘
 水場を住処とする動物達が水浴びや給水に水面を波立たせ、小鳥の囀りや虫の鳴き声に混じり、賑やかな水音を立て、真っ白な水の粒を巻き上げる。
 休息を命じた仲間達は、顔見知りの傭兵仲間と、こぞって拾った小石が何度水面で跳ねるかを競い合う。良く言えば賑やかで、悪く言えば少々煩わしい。胸の内を吐き出して、八百長を持ち掛け、了承を得ても、尚、男の震えは止まらなかった。
「お二人さん、ちょっと良いか?」
「お、イキがってた兄ちゃんじゃねえか。中々堂の入った演技だったぜ。実力があろうとなかろうと、ああ言うのは客が喜ぶ。どうやら有る方だったみてえだがな。本戦でもその調子で頼むぜ!」
 未だに深刻な顔から復帰しないのを見兼ねて、豪快な口調で、壮年の男が、アルバートの声掛けに、上機嫌な様子で応対する。
「お褒めに預かり光栄だぜ。旦那、色々聞かせて貰っても良いかい? さっきまでの事も含めて、な」
「別に此処で隠す必要も無えからな。映像、録音記録は此処に残る。咎められた前例は無えんだ。総勢20機のキャバリアのぶつかり合いだ。ある程度、事情を汲んでるんだろうよ。観客が盛り上がりゃあ、何でも良いのさ。まあ、言い出す奴は少ねえけどな」
「正直に語してくれた礼だ。誰にも言わねえよ。本戦は、どんな機体に乗るんだ?」
「直球だねえ。何処にでもある量産型よ。フレーム一式揃えるだけでも一苦労だ。最新鋭機が羨ましいぜ。まあ、馴染まねえ機体のテスト・パイロットも御免だがな。懐が寂しい時は参加してるからよ、履歴を見れば武装も分かるぜ。今も昔も大して変わんねえさ。なあ?」
「あ、ああ……」
「成る程、良いお話を聞かせて頂きました。私からも礼を言いましょう。ですが、もう少々、語って頂きましょう」
 怯えた様子の痩身の男性に目を遣り、アルバートが語っている間、両手で狐を作り、耳となる部部を逆さに合わせ、そのまま十指を開き、小窓を作る。
 無邪気な子供の呪い事。眼鏡の上から、片目が痩身の男性を覗き込み、ゆっくりと言葉が紡がれる。唇が一言毎に残像を残し、耳から精神に染み渡る。
「……勘だ。そうしなきゃ、俺の部隊も、こいつの部隊もあんたらも、、あそこに居る観客も、誰も彼もが死ぬ。皆殺しだ。実力なんざ、多分一切合切関係ねえ。俺は悪い予感しか当てた事が無えんだ……あんたら、良い所に住んでんだろ。此処から出たら、その坊主連れて、何もかも放り出して逃げな。それが良い」
「その御陰で、お前さんの仲間は生きてんじゃねえか」
「……何人も見殺しにしたさ」
「だろうな。俺も同じ様なもんだ。侭ならねえ」
「貴重なお話、有難う御座います」
 狐の窓から除くのを止め、肩に留まっている焔の蝶を一撫で、口唇を寄せ、此方の結果を彼女に伝えて寄越す。彼等は被害者でも加害者でも無さそうだ。

●3人組
 どうも噛み合わない事に当惑し始めた2人を余所に、独り言のみが周囲に響く。
「初めましてだね。どうも、調子が良くない様だが、何か有ったのかな?」
「あ、ええと、初めまして。初対面の方に明かすのもどうかとは思いますが……俺達にも良く、分からないんですよ」
 シーザーに気付いた青年が慌てた様子で軽く頭を下げる。2人の意見が食い違い、頼りにしているメンバーは蹲ったまま、あの様子だと、一瞥する。
「予選で何か有ったのは違い無いんですけどね」
「それきっと……私達もおんなじだよねえ」
「だよなあ……記憶か認識の書換って遺失技術か何かか」
「ふむ、検討は付くのだね」
 思考の柔軟さから、彼等が予選を勝ち抜くのも道理だと一人で納得し、蹲っている一人に、、人差し指で触れ、軽く力を込めて押す。額の一点に赤い光が灯り、狂気を赤い破魔の魔力が一瞬で、跡形も無く消し飛ばす。黒い影の様な邪気が、彼の身体から剥がれる様に、虚空へと霧散する。
「直接搭乗していないのならば、これで十分だろう。どうだね?」
「は……え、あれ? 俺、何……此処は、2人とも、無事なの……か?」
「良さそうだね」
 周囲を幾度か伺い、最後に二人に目を遣って、無事なことに安堵したのか、腰を抜かす。元に戻った事に二人が感極まって、飛び付いた。
「何が有ったのか、聞いても良いかね?」
「……2人の居ねえ所で頼む」

●陰鬱な男性
「ねえねえ、登録時点でのメンバーの名前とか教えて欲しいナー! あ、私はエア。エア・ルフェイムで登録したんだけどネ! やるなら正々堂々の方気持ち良いし!」
 石投げに興じている、壮年の傭兵等には、この調子で詰め寄る。彼等からすれば、娘の様な年齢の女性でもあり、彼女の持ち前の明るさから、割とあっさり名前や登録機体を教えてくれた。
「今回だけの偽名かもしれないけどなあ」
 豪快に笑う彼等に、影は見られない。陰鬱なのは、やはり彼等のリーダーだけの様だ。これならば、彼への心配りは必要無いと、エアは安心して、軽い足取りで自然公園を散策する。
 適当な木の幹に、瞳を閉じてもたれ掛かる青年に、気配を消して近付き、白猫の使い魔を呼び出して見る。俊敏に身を翻し、携帯していた銃を使い魔の白猫に向けた所で、両手を取って覗き込む。
「吃驚したカナ?」
「……!?」
 思い切り力を込めて振り解こうとしても、腕がぴくりとも動かず、青年は目を見開いた。気配を感じさせなかった上で、早抜きを止められ、挙げ句、細身の少女に力で負けているという事実は、青年を大いに困惑させた。可愛らしい白猫の使い魔の鳴き声は、主であるエアへ向けた、非難のニュアンスを多分に含んでいた。
「貴方みたいなタイプは逃げちゃうからネ。かーなーり強引な方法を取らせて貰ったんだけど……このまま力比べ、続けたい?」
「いや、体力の無駄遣いだ……聞きたい事は……何だ?」
 観念した様子で、腕から力を抜き、先程と同じ様に、幹にもたれ掛かる。エアは遠慮無く、自身も同じ木の幹に背を預けた。
「そうだネー。じゃあ、例えば好きな物とか」
「食えれば何でも良い。選り好みなどする余裕は無い」
「じゃあネー、好きなこととか」
「適度な睡眠だ。休息を抜くと反動で勘が鈍る」
「キャバリアは好きじゃ無いのカナ? エアちゃんはすっごく格好良いと思ったし、好きなんだけどネー!」
「あんな物は只の便利な道具に過ぎん」
「じゃあ何で大会に出たの?」
「……懐が寂しかった。それだけだ」
「そっか。私はこの公園、好きだけど、貴方はどうかな?」
「……俺には過ぎた場だ。アンタは……何で俺に構う?」
「楽しく無さそうだから、勿体ないなーって! 人生は楽しまなきゃネ! あとね、嘘は良くないと思うナー?」
「……正直に生きるには殺し過ぎた」
 青年は白猫の頭を撫でて、懐かしむように、淡く微笑んだ。
「そっちが本当なんだネ。なら、貴方は引き返せそう!」
「鬼は地獄に堕ちねばな」
「本物はネー。そんな事で、思い詰めたりしないんだよネ」
「まるで会ってきたかのような物言いだな」
 彼の言葉にエアは明るく笑って、Vサインを送る。その意味が、青年に伝わる事は無いだろう。
 
●取引
「この辺なら良いか。端的に言うと、俺は取引をした」
 狂気を治療された3人組の1人がシーザーに語った内容はこうだ。2人を殺さない代わりに、奴隷になると言う取引を持ち掛けられ、彼はその要求を呑む事にした。その結果、彼は狂気に呑まれたらしい。
「そうしねえと2人とも殺されちまうから。顔は分からねえが、男の声じゃあなかったな。2人の記憶が混濁してんのは、自分の正体を悟らせねえ為かな」
 治療せずに本戦に参加すれば、本戦参加者を見境無く襲っていただろうとも、彼は零す。
「有難う。後は思想の確認かな」

●桃花
「この辺りね。念の為、結界も張っておきましょうか」
 道中は時折足を止めては、作られた自然に順応した野鳥や小動物の観察、人懐こい者が寄ってくれば、軽く撫で、その艶やかな毛並みの質感と、気持ち良さそうに目を細める、表情をアヤメとゆかりは楽しんでいた。人通りの無い場所に辿り着けば、2人揃って、腰を落とす。周辺に居た小鳥に、屋台で買った丸パンを細かく千切って投げてやると、喜んで啄む。
「この世界に良く、こんな施設が残っていたものね。真っ先に解体されそうだけど」
「食糧自給拡大の足掛かりでしょうか。或いは、天候を絡繰で制御しようと、考えているのかもしれませんが」
「改めて聞くのだけれど、そう言う考え方って、やっぱり魔法の応用から来てるのかしら?」
「ええ、ニンポーを魔法体系の一つとして捉え、組み込んだのと同じ様に、私達エルフにとっても天候操作は一つの終着点である、大魔法に属しますからね。私達の里はニンポーに特化しましたし、応用としての考え方のみが残った、という感じですけれども」
「元々の受け皿が広いのもあるのかしらね」
 座ってもそれなりに身長差が有るからか、ゆかりは強気に微笑んで、繋いだままの手を起点に身体を翻す。向き合った状態から、ゆっくりと上半身に体重を掛ける。この時点でアヤメの方も察して、全身の力を抜く。柔らかな頬に寄せられた唇が、頬肉を仄かに吸い上げ、何方からとも無く、唇を重ね合う。

●元気な少女
「お嬢さん、今暇かい?」
「暇だよー、どの子も私に近付いてくれないし! 何でかな」
「動物は警戒心が強い。普通はそんな物じゃないかね。聞きたい事が有るんだが」
「あ、向こうで聞いてた奴でしょー! 選手のリサーチって言ってたよね。良いよ良いよ! 何でも聞いてー!」
「じゃあ遠慮無く、どんなキャバリアに乗って決勝に出るつもりなんだ」
「待ってました! 量産型じゃないし、この辺じゃあ見ないしかも! こー見えてもワンオフ任される位には、優秀なんだよー!」
「そりゃあ結構な事だ。今回の大会の話題は掻っ攫えそうだな」
「でしょでしょ! お兄さんも本戦出るんだよね! 諦めても良いんだよー!」
「おっと、そこは譲れねえ。あれだけ大口叩いて、尻尾巻いて逃げたんじゃ、観客や街の人間から総スカン食らっちまう。きっちり勝つか負けるかは、しねえとな」
「だよねえ……あの煽り方、古いと思うんだけど」
「それくらいの方が、皆ノってくれるもんさ。お嬢さんは何でこの大会に?」
「楽しそうだし、ついでに、賞金とか出るから良いなあって」
 アルバートは少女の発言を逐一メモしていく。少女に怪しい言動は無く、一緒に居た璃玖にも確認を取るが、特に気になる点は無いと首肯した。引っ掛かる点と言えば、動機が余りに軽過ぎる事と、少々少年が怯えている程度だ。
「良いタイミングだったかな。君の思想を、聞いてみたくてね」
 丁度良い所に通り掛かったと、シーザーが少女に問い掛ける。
「思想? 世界平和かなあ」
「これは中々センスの有る、面白いブラックジョークだ。人目が無ければ、腹を抱えて笑ってしまいたい所だね」
「……ありがと?」
「どういたしまして、それでは、本戦でね」
 呼び出しのアナウンスが流れ、送迎の際に見た出迎えが、選手達を探し、車まで案内していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ブレイジング・バジリスク』

POW   :    ブレイジング・シュート
【ライフルの集中射撃】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    バジリスク・ランページ
【右腕のライフル】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    エンジンキラー
自身の【オブリビオンマシン】から【漆黒のオーラ】を放出し、戦場内全ての【エンジン】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●紅炎のオブリビオン・マシン
 本戦の舞台は予選と同じく、廃工場跡。使用機体は自然公園に行く前に伝達を済ませており、機体の運搬や搬入は希望した業者、人員によって完了している。勿論、必要無いと伝えていた場合は、生身を晒す事になる。
 物質転送技術は失われた技術だが、ほんの1世紀ほど前に実在していた事は、クロムキャバリア内でも、実用的である事も相俟って、広く知られている。
 元気な印象を与え、世界平和を謳う少女は、開始位置に呆と佇んで、考える。笑い飛ばされる思想、耳を傾けない世界。何故か、少女には理解が出来ない。
「間違ってなんか、無いよね」
 誰も彼もが泣いて叫んで餓えて死ぬ。食い扶持が無いと息絶え絶えに喘ぎ、人殺しで糧を得る。何もかも黒煙と炎熱に呑まれて焼かれ、世界が平和で有れば良いと願うのに、いざそれを唱えれば無理だ冗談だと否定する。それが、少女には理解出来ない。
 遠耳に鉄の騎兵がぶつかり合う音、鉄が拉げる鈍い音が耳を伝う。
 純真な心に、無理解と、絶望と、孤独が影を生む。光を糧に闇を為し、光を食い散らかし、狂気を孕み、肉体と言う外殻を持って出力する。
 誰もが争わない世界を望むなら、争いを生む者全て、悪なのだ、と。
 強烈な自己矛盾を抱えながら、壊れた笑みを浮かべ、自身の在り方を認めてくれた、鋼の希望と共に、狂った平和の道を邁進する。
 昏い青色の機体が、少女を叩き潰そうと、容赦無く鋼の拳を振りかざす。陰鬱な男性の駆るのは何処ぞの国の最新鋭、標準の人型クロム・キャバリア。
「小さな王は炎竜との邂逅に転機を得る。来て、わたしのかたち、わたしのすべて」
 漆黒の混じる紅炎が、円陣を描いて灯り、赤い鋼鉄の巨体が少女を守護するように鋼拳を受け、上方へ弾き飛ばす。少女の身体が炎に包まれ、コクピットに転送される。
「人が死ぬ競技なんて許せないよ! 喜んで出場してるみんなも、面白がって開催する人達も、人を死ぬのが楽しいなんて言うみんなも! 悪い人ばっかり。だから燃やして灰にしよう、ブレイジング・バジリスク」
 コクピットの中で、壊された人間の理想が笑う。

●青いクロム・キャバリア
 何処にでも居る、食うのに困った少年は、両親に負担を掛けまいと、早くに家を出て、知人の傭兵稼業を手伝う道を選ぶ。貧乏なのは変わらないが、キャバリアを初めとした機械整備を始め、生き抜く術を、周囲の皆が気前良く教えてくれた。仲の良い同年代の者達も出来、機体操縦の才を見込まれ、早くに実戦へと駆り出された。初出撃から暫くはやらかした事も多いが、次第に周囲からは頼りにされ、貧しい生活は変わらずとも、少年は、確かに幸福だった。
 黒混じりの紅炎が視界を包む。多量の熱に喉が焼かれて喘ぐように吐息を漏らす。機体が破壊されたショックで意識を朦朧とさせながら、半ば溶解したコクピットを開く、見知った顔など残っている筈も無く、大きく口を開けたまま、黒焦げた焼死体がぼろりと崩れる。眼前の光景から目を背け、込み上げて来る吐き気に逆らわず、吐瀉物を炎に塗れた荒野に撒き散らし、救いを求める様に、他の機体から生存者を探して回る。
 紅蓮の荒野に佇む赤の機体と、コクピットから降りてきた、明るい様子で残敵を探す少女に、少年は息を殺し、気配を絶って機体の影に隠れた。
「これで、争ってる人達はみーんないなくなったし、世界平和にまた一歩、近付いたね! 帰ろっか!」
 そう宣った言葉も、人物も、赤いキャバリアも、あの悪夢の様な情景も。全て、少年が忘れることは無い。すぅと情が失せて、笑いたくなるほど、心が凍る。熱意は冷たく暴走し、復讐の鬼を生む。この時から、彼の時間は止まったままだ。
 機械的に腕を磨き、言われるままに躊躇無く手持ちの道具で人を殺す。目的のためにより良い道具を、目的の為に、もっと力を。然うして、もう何年が経ったのか、青年は覚えていない。
「……いや」
 地に足を付け、日々を明るく過ごす人に会えたのだから、幕引きには過ぎる程、幸福だと言って良い。
「鬼は此処だ。貴様の存在ごと、切り取って殺してやる」
 魂の一片すら残さぬと、オブリビオンマシンを睨み付け、対峙する。

●状況整理
 本戦は開始された。赤いオブリビオンマシン、ブレイジング・バジリスクに、青いクロム・キャバリアが早くも対峙している。
 オープン回線で、陰鬱な男性が、少女を叩くと言い残し、単独で向かった為、因縁でも有るのだろうと、事情を汲んだのもあって、猟兵以外のキャバリアは、2機から離れた場所で、観客を喜ばせるよう、ややオーバーな演出で壊し合いや取っ組み合いを演じている。邪魔にはならないだろう。
 猟兵は青いクロム・キャバリアを除いて、自由に動ける状況だ。
 青い期待は、オブリビオンマシンの破壊に注力するが、そこに余裕は無い。陰鬱な男性は、復讐を遂げる為に今まで生きて来た為、少女を殺す気であり、加減は期待出来ない。
 この青い機体の対応については、上手く挙動を読んでの実質の共闘や、戦闘中の説得による共闘でも、機体を行動不能に追い遣る等が候補だ。どれも猟兵にとっては難しい事では無い、好きに動いて良さそうだ。
 オブリビオンマシンを破壊すれば、搭乗者はその狂気から逃れる事が出来るが、今回のケースでは、既に少女の心は周囲からの無理解という負荷によって壊れてしまっている。 もし少女を心の意味で救いたいと願うならば、救出後に、誰かによる心のケアや心身に作用する回復ユーベルコードが必要だろう。
 また陰鬱な男性に対しても、誰かの働き掛けが無ければ、先には悲劇が待つのみだ。
 猟兵はやや複雑な状況の整理を終え、行動を開始する。
村崎・ゆかり
『GPD-331迦利(カーリー)』で参戦。(初出時のみ正式名称、以後は『迦利』のみで可)「式神使い」と器物覚醒で、自在に操る。

人間の心は脆いものね、アヤメ。荒事が終わったあとに、二人に処方出来る薬か何か持ってない?

じゃあ、始めましょう。誰が一番強いか決める戦いを!
はったりはこんな感じでいいかしら。

飛翔する逆三角形の機体先端に「全力魔法」の「オーラ防御」を張って、衝角のようにオブリビオンマシンに特攻させる。
エンジンの強制停止? 悪いわね、機甲式『迦利』の主動力はあたしの呪力。言ってしまえば、あたしを沈めない限り『迦利』は健在よ。
「レーザー射撃」の「制圧射撃」で「弾幕」を張って敵機に正面から吶喊。


シーザー・ゴールドマン
一章のキャバリアで参戦。『ウルクの黎明』を発動、力を伝播させ超強化。
まずは青年。
他の猟兵が説得(少女の命を獲るのを断念)していない場合は強力な電撃(属性攻撃)で機体を一時的に行動不能にします。
悪いね、終わった後にチャンスは上げよう。それまで待ちたまえ。
そして少女へ。
武器、四肢を破壊。このタイミングで機体から降り、装甲を砕いて操縦席から引き摺り出します。
その際、彼女の魂を『浄化』。狂気の残滓と心の傷を癒します。
その後、青年にオブリビオンマシンの事、仇が機体そのものであると教え、とどめを促します。信じないならそれまで。
少女にはその意思を確認。まだ世界平和を口にするならやり方を考える事だ、と援助を。


アルバート・ガルシア
【目的】
オブリビオンマシンの破壊

【心境】
少女を狙う陰鬱なキャバリア乗りには悪いが悲劇は回避させて貰うぜ。

【行動・戦闘】
戦闘
金星を狙いのフリをブレイジング・バジリスクにアタックするぜ。
行動を鈍らせる事に重きを置いてユーベルコード『咎力封じ』を使用して動きを出来るだけ封じた後に武器でアタックだよ。
攻撃では拷問具『荊野鎖』をチョイスして、四肢に鎖を絡めて動きを封じながら締め上げてダメージを与える戦法を取る。

説得
憎しみを燃やすのは勝手だが、俺から見ればお前もあの小娘も小競り合いだらけの歪んだ世界が生み出した被害者にしか見えないぜ。
『許せ』とは言わねぇ、復讐心に操られて未来への伸び代を見失わないでくれ。


神奈木・璃玖
三つ巴とはまた非常に厄介な状態になりましたね
男性に何があったかはわかりませんが、あのまま放っておくわけにはいきません
私達の狙いも彼女ですから、ここは素直に共闘を持ち掛けましょうか

遠距離攻撃は禁止ということですが、武器に選択UCの狐火を纏わせるくらいは問題ないでしょう
その炎が飛び散って男性のキャバリアとオブリビオンマシンが分断されても結果論というやつです
え?狙ってやったんじゃないのかって?
まさかまさか、そんなことはありませんよ(実は狙った)

オブリビオンマシンを破壊するのは他の方にお任せします
逆上した男性がかかってくる場合はお相手しますよ
戦いながら彼の想いを聞き、その心の内を教えていただきましょう


エア・ルフェイム
愛着沸いた予選時のキャバリアで出撃!
とりあえず青い機体の援護にっ
通信出来ればおにーさんに話しかけて

今のアナタをエアは否定しないよ
自分の人生なんだから好きなようにしたらいい
でも気持ちに嘘だけはつかないでね
地獄にはいつでもいけるけど
生きるのは今だけしか出来ないんだから

おにーさんはさ
人のいたみも辛さも理解できる優しい"人"だって思うから
その優しさで誰かを助けてほしーなとかって
…うん!これはエアの独り言!

(多分。あのおねーさんも同じだろうから
戦い終わったら。お話出来たらいいんだけどな)

機体が大破したら迅速に脱出
隠鬼を紅蓮の機体の右腕へ放ち
爆発に紛れながら鎧砕く爆霊手を振り翳す
―本当の鬼をみせてあげるよ



●摺り合わせ(事前)
「じゃあ、始めましょう。誰が一番強いか決める戦いを!」
 開始直後、如何にもと言った様子で村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)が人差し指を天高く指差し、参加者を口上で煽る。同時に、待機させていた白い機体が、錐揉みして落下し、ゆかりの隣に跪き、ゆっくりと立ち上がる。
 幾何学模様が施され、各所に白紙の紙が仕込まれたたゆかりのスクラップ・キャバリアは、特に異質な技術であると評価され、専門家は特に首を傾げていた。特に動力であるエネルギーインゴットが駄目になっている状態で、そこには修理の手が入っていない。一応ガレージにも問い質したらしいが、本人もそこは弄らなくて良いと伝えられたと主張し、疑われるのも面倒だと、さっさと修理ログと見積の入った小型記憶媒体を手渡した。異常と言えば、演出規定にも、特に必須とは言えない塗料をわざわざ発注した事と、あの幾何学模様を施したのは本人だったと言う所だ。
 恐らくそれが必要だったという事までは推測出来るが、最早機械工学の分野では無く、神学や考古学の部類に踏み入る為、早々に匙を投げた。
「誰が一番強いかだって? 俺に決まってんだ。早いところ尻尾巻いて帰んな!」
 観客にも聞こえる様に、コクピットの外部へ、アルバート・ガルシア(カラミティオウル・f17322)は拡声を兼ねた外部出力モードで、威勢良くゆかりに煽り返し、機体のマニピュレーターで指差した。予め教え合っていた個別回線の方では、悪く言えば、談合が着々と進む。
「ショー・ビジネスと化した格闘技の様だが……成程、当事者として体験してみると、これはこれで、良く出来ていると思えるね。私も噛んでみようか」
 搬入の必要は無いと言え、不用意に遺失技術紛いの事をする必要も有るまいと、シーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)は、搬入させたスクラップ・キャバリアに問い掛けながら、指を弾く。小気味良い音と共に、赤の魔力の奔流が竜巻となって機体を渦巻き、内部でキャバリアが生体のように、その身を更に変化させていく。
 彼の機体もゆかりと同じくだが、此方はエネルギーインゴットも動力として稼動している反面、核となる兵装機能が封印されていた。
 公園からの帰り、車内で幾つかの質問をされ、シーザーは、あの機能は自身以外にはまず扱えない事、封印を解けば、それだけでパイロットは死に至る事、最後に、それだけの事をしようと、1%も性能を発揮できない事を、順に説明する。腑に落ちない顔をしながらも、渋々納得した様で、引き下がる。
 魔力を動力源としている以上、備わっていない者が扱うならば、それに近しいエネルギー、つまり、生命力を捧げる事になる。常人の生命力を全て捧げようが、シーザーの想定には遠く及ばない。加えて、フレームに直接注ぎ込む運用想定である為、エネルギー保持機構は実装されていない。それでも、兵装の増設や運用次第で、最新鋭機に負けない性能の機体性能には仕上がっている。
「さて、威勢の良い者が多いようだが、私に勝てるなどと、夢にも思わないことだ」
 竜巻が晴れ、出現した機体の肩部に飛び移り、シーザーは他の選手を傲慢に挑発する。それぞれの口上の度、観客が歓声や怒号で会場が沸き立っていく。  
「皆さん、存外に楽しまれている様で、こう言った商売の売り文句の様な物でしょうか。流石に場や芝居を商材として扱ったことは有りませんでしたし、良い勉強になりますね」
 賭博ならば分かり易い。恐らくそれも噛んでいるのだろうが、 その上で見世物や芝居の要素を足した闘技は、神奈木・璃玖(九尾の商人・f27840)にとっても、新鮮ではあった。コクピットの中で一つ首肯し、やる気を見せる様に、煙管型の棍を器用に虚空で数回回転させ、最後に担ぎ上げて見せる。
 アルバートの機体もそうだが、遊びの少ない標準的な量産型キャバリアは、ボディの痛みを少々残すのみで、四肢からマニピュレーターの小さな関節に至るまで、滑らかな動作が保証されており、技師の修理の精度、速度が高く評価されている。内部のセットデータ、機体の重量バランスを確認して、専門家達は、作業の丁寧さに感心して声を漏らす。使用者の癖に合わせて、細かな調整が行われていた事を示すログが、その理由だ。
「一先ず、彼とは共闘を持ち掛けたい所ですね」
 オープン回線を通じて流れてきた男性の、静かな声に、方針を固めていく。
「人間の心は脆いものね。アヤメ、何か良い薬持ってる?」
「特定などは得意ですし、単純な安息香や睡眠薬、毒薬なら作れますけど、何方かと言うと、ゆかり様の専門分野だと思っていましたが」
「……正直、薬法の不勉強を反省しているわ。それはそれとして、私は赤いのを叩きに行くわ。迦利!」
 動き始めた他機をすり抜ける様に、機体に命じて、手の届かない高度まで、再浮上させ、自分は1回戦と同様、アヤメに抱かれて戦場を抜けて行く。
「俺もそっちだな。とは言え、この機体じゃ、少しばかり遅れるか」
 機体が壊れない程度に打ち合わせたような、拳打と蹴撃のやり取り、特に装甲の固い部分を掌打を狙い、体勢が崩れた所で、足を払われ、ブースターを使用し、宙返りで立て直す等、演舞の様なやり取りを行いながら、事態収束の打ち合わせを進行させる。
「では、私が運搬しよう。その機体ならば、投下しても大丈夫だろうしね」
 動作を封じるようにシーザーの機体が腕部を頭部に巻き付け、ゆっくりと力を加えていく。抵抗する様に、アルバートの機体が四肢をばたつかせるが、そのまま、上空に持ち上げ、ブースターを再起動。赤の軌跡を残しながら、青い機体の後を追う。
「オープンだとちょっと恥ずかしいし、通信回線開いてくれると良いんだけどナー」
 特に子供からの人気が高かった黒猫型のキャバリアは、展示中も風船などを持たされて完全にマスコット扱いされていた。
 外見とは裏腹、内部機構の丁寧さと、外装の遊び心はアルバート等の機体と同様に評価され、その上で、注目された要素は、ボディ全てに施された過剰とも言える耐熱コート。火山のマグマにでも放り込むのかと言わんばかりの過保護さであり、技術自体は素晴らしい物の、何の為に付与されていたのか、誰も理解出来なかった。それにも関わらず、端々に目新しい焦げ跡が有り、誰かがそれに匹敵する高熱兵装を扱った事になるのだが、それらしき兵装は見当たらず、また、フレーム内部に不可解な機構も有るが、兵装の類には見えない事から、この機体も首を傾げる要素が多かった様だ。
 エア・ルフェイム(華焔・f02503)が仕込んだ極々単純な構造の魔力伝導増幅機構であり、それが過保護な程の耐熱コートの理由であると知っているのは、あの小さな技師だけだ。正直に語っても、原理は分からないとしか言えず、誰も信じない絵空事が出て来るだけで、説明を受ける側は困惑を深めるのみだ。
 幾度か回線を開くように呼び掛けてみるが、何れもネガティブ。話す事はもう無いと言わんばかりだ。
「むー……そっちがその気なら、殴り込んじゃうだから! エアは青い機体の援護に回るよ!」
「商談をされるなら、分断は此方で行いましょう。先行した彼等は暫く、待って下さる様ですし」
「オッケー、それじゃあ宜しくネー!」
 黒猫型のキャバリアが煙管を抱えた璃玖の機体と、互いに牽制しながら併走する。

●状況開始
 先行した猟兵3人は状況を観察しつつ、付近の観客席への被害をそれとなく防ぐ様に動く。
 青い機体の拳が上方へ弾き飛ばされれば、低姿勢から背面のブースターを吹かし、肩部をぶつけるように機体を滑空させる。赤黒い炎を纏うショルダー・チャージ。すぐさま上方に逃れると、下方から軌道を強引に捻じ曲げて追撃する相手へ、ブースターの出力を切り、機体を翻し、背負っていた無骨な大剣を上から叩き付ける。端から焼き付き、溶解し、灰になるのを想定内だと、残った柄を投げ捨て、忌々しいと心中で舌打ちをする。
 一度展開すれば常時超高温の焔が付き纏い、且つ飛行可能、ブースター搭載型で、機動力も高く、小回りも効く。理不尽の極みだ。腕部、脚部を犠牲にしながら、胴体を狙う他無いだろうと、青年は機体を操作し、上手く敵から逃れながら、勝機を待つ。
「彼の劣勢の様だね。まあ、あれでは仕方ないだろう。と、合流出来たようだね。それでは取り掛かろう」
 併走する黒猫型と煙管型の金属棒を担いだ2機が、戦闘空域に差し掛かるのを見て、抱えていたアルバートの機体を投下する。鈍重な機体の落下衝撃をショック・アブゾーバが逃がし、起立する。ゆっくりと重量機体の歩みを進ませ、空域で飛び交う2機を見上げながら、格納していた機体拘束兵装を作り出し、準備。鈍重な機体を振り回すのに必要なのは、本人の人外とも言える身体能力。動体視力はその一つ。
青い機体に注意が向いている敵機の軌道を、アルバートは完璧に捉え、投擲する。ユーベル・コードによって生み出された創造物は、世界法則を無視し、超高熱を孕んだ炎熱を無視し、ブレイジング・バジリスクを捕らえた。機体重量を活かし、踏ん張りながらロープを引き、拘束。炎熱が消えた所で、青い機体がコクピットに鋼拳を突き入れようと動く。「武器に火を纏わせる程度は良いでしょう」
 申し訳程度の背面スラスターを吹かし、飛び上がった璃玖の煙管型の棍棒が振るわれ、両者に機体を焦がす炎が降り掛かる。元々そう言った構造を持つ敵機は兎も角、青い機体は後退を余儀なくされ、距離を取る。
「否定をする気は無いがね。まあ、彼女の話を聞いてからでも良いだろう?」
 先に待ち構えていたシーザーの期待が、ゆっくりと鉄の五指を広げ、伝導した魔力が赤い雷光に変容し、青い機体の四肢を穿つ。出力低下。伝達経路が一時的に遮断された事によって引き起こされたシステム・ダウン。操作不能に陥った機体が、力無く墜落する。

●崩壊疾走の原因
 黒猫型のキャバリアが墜落した機体を受け止める。両腕部に負荷が掛かり、金属のぶつかり合う鈍い音が響く。廃工場跡の荒野に、青い機体をそっと横たえると、直ぐに故障箇所の確認の為に青年がコクピットから顔を出す。検査ツールを走らせる。
「……この程度なら、問題は無い」
「やっほー! おにーさん。さっき振りだね!」
 エアを無言で一瞥した後、意図的に無視を決め込んで作業を黙々と進めていく。見様によっては呆れているとも、不貞腐れているとも取れる。何れにしろ、割と毒気は抜けていると、解釈する事は出来るだろう。
「エアはさ、今のおにーさんを否定しないよ。だって自分の人生なんだから、好きな様にすればいいって思うし。私もそうやって毎日生きてる訳だし! でも、気持ちに嘘だけはつかないでね」
「……俺は正直に生きて来たさ」
「地獄で罪を購うのなんて、何時だって良いんだよ?」
 心を見透かされた様な一言に、ぴたりと作業の手が止まる。
 停滞した時間の中、消化する過程で、積み上げる屍、その度に凍結した感情に亀裂が入る。自身の所業は、あの日に彼女が行った事と、何一つ変わらないのだと。僅かな亀裂は蓄積し、ゆっくりと凍結した心を蝕み、知らず知らず、簒奪する痛みに嗚咽を漏らす。
「でもね。生きるのは今だけしか出来ないんだから。おにーさんは優しい人だって、思うから、その優しさで、たくさんの人を助けて欲しいかなって!」
 これは自身の独り言だと言い終えると、青年は苦く笑う。
「アンタの独り言は、随分と押し付けがましいんだな……出会いたく無かったよ。本当に」
 そうすればきっと、楽に死ねただろう。阿呆だ馬鹿だと罵られながら、地獄で世話になった彼等に会えたかも知れない。今更、生きろと言うのは、彼にとって残酷な話だ。
「そうそう、そっちそっち! おにーさんはそっちの方がらしいと思うし! それじゃあ、ぱぱっと修理して戦線復帰しよっか!」
「行為自体は止めないのか?」
「何だかんだで、区切りは必要でしょ! あの機体を壊して、一旦終わりにしよう!」
 故障箇所を2人で手早く修理し、程なく、青いクロム・キャバリアは、その機能を取り戻した。

●戦闘続行
 敵機の行動を封じ、ブースター出力の上昇に伴い、アルバートの機体が少しずつ引き摺られ、宙空に浮きそうになる。ロープの耐久限界が近付く。
「引き剥がしが終わった様ね、こっちも準備完了よ。急々如律令!」
 繋がっている霊力経路を拡大し、機体に流すしながら、自立機構に命令。機体先端に霊力で衝角を形成、敵機より高高度を維持し、上空からの吶喊。同時に予め、霊符を広げ、形成していた法陣術式を解凍。攪乱弾幕を兼ねた追尾光矢が敵機に放たれる。自由にならない機体をどうにか捻り、光矢を避けようとるすが、爆ぜた瞬光がメインカメラを焼き、視覚情報を遮断する。僅かな風音のみで、上空から吶喊した迦利が、敵機の頭部を跳ね飛ばす。同時に、拘束ロープが途切れ、敵機が自由を取り戻す。
「それは、ちょーっと、やり過ぎだネ」
 右腕のライフルの巨大化に、黒猫型のキャバリアが跳ねて射線を遮る。銃口を変えらない侭、黒猫型のキャバリアを黒混じりの紅炎が灼き尽くす。動力を貫通した機体が宙空で轟音を立て、爆散する。爆煙の中で炎熱の牙が、溶鋼の涎を垂らし、炎熱纏う右腕を、ライフルごと食い千切る。自身に超高温の焔を纏わせながら緊急脱出装置を作動させ、逃れたエアが機体に取り付き、身の丈程もある黄金色の縛霊手を振り翳す。
「本当の鬼を見せてあげるよ」
 振り翳した五指を模した鉤爪が、コクピットを剥き出しにする。一瞬だけ見えた背筋の凍るような凶悪な微笑みに、中に居た少女は思わず、喉を引き攣らせ、か細い悲鳴を上げた。エアがコクピットから引きずり出し、そのままフラムの背に乗せ、地上に降り立った。
 ほぼ同時、シーザーが背後に回り、背部ブースターを膝で破損させる。アルバートの鋲付きの鎖が脚部を絡め取り、地上に引きずり下ろす。
 両手を捥がれ、コクピットを開かれた状態で、残る兵装は炎熱の発生機構と両足のみとなるが、シーザーが容赦なく両足を踏み付け、機体はほぼ行動不能に陥る。胴体のみになった、赤い機体を見下ろし、男性は別れを告げるように、核となる動力部に、鋼の拳を突き立てた。
「……さよならだ」
「もう同じ事を聞いただろうが、アンタには未来がある。世界の気紛れに、あんまり真面目に付き合うなよ」
「ああ。アンタもな。その物言いは何となく、俺の為に無理をしているだろう?」
「俺は……そっちの嬢ちゃんの側だ。動機は多分、アンタに近いがな」
「そうか……優しい人だと言われたが、アンタにどう言う言葉を送れば良いのか……その人が何を大切にしていたのか、ゆっくり思い返してみるのは、どうだ?」
 アルバートは、静かに首を振った。昔に試した事が有ったのかもしれない。

●向き合いと話し合い
「……私は、何か間違ったことを言ってたのかな?」
 呆然と、残骸となったオブリビオンマシンの方を見つめながら、少女はぽつりと呟いた。誰にとも無く呟いた言葉を、シーザーが拾い上げ、歩み寄る。
「世界平和だったね。主張は今も変わらないのかな?」
「うん。だって、皆が優しくて、良い人だったら、争いも起きなくて、誰も困らないでしょ? そうなるようにしたいって言っても、誰も聞いてくれなかった」
「ふむ、君の主張は理想論だからね」
「やっぱり、おかしいの?」
「平たく言うと、実現不可能では無いが、とても難しい類だ。ただ、無理かと問われれば、そうでもないよ。まず、君の主張は間違っていないし、上に立つ者も、そう言った者ばかりで有れば、苦労が減るだろうね」
「そう、なの?」
「そうだとも。ただ、善悪の判断基準が、本当は何処にも無いと言うのが問題になる。極端な事を言えば、首を鋸刃でゆっくりと切り落とす事が良い事だと教われば、子供は素直にそれを信じて実行する、という様にね」
「……悪い事だって思わないの?」
「良い事だと誰もが口を揃えて言う。誰も悪い事だと否定しない。そうなると疑問の入る余地が無いだろう? 君の主張がとても難しい事だと言うのが、分かるかな」
「……うん。でも、貴方は無理だって、言わないんだね」
「不可能では無いからね。目指すならば、別の形を模索するべきだ。教育者を目指し、教育機関の設立を目指す等は、真っ当だろうね」
「……ありがとう。私の話をきちんと聞いてくれて」
「どう致しまして。知力が付き、どうしようもないと気付いたら、挫折して良い程度には、壮大だ。誰も君を責めない。出来る所までやってみると良い」
 オブリビオンマシンの残滓が残っていれば浄化の必要が有るだろうと、少女の肩に最後に触れてみると、綺麗さっぱり無くなっていた。代わりに、傷付き壊れた心が徐々に戻る様、少々浄化の性質を変え、魂に潜ませる。壊れた心がゆっくりと修復されていくように。
「それじゃあ、先生を目指すおねーさんと、おにーさんの再出発を祝って、今日は美味しい御飯屋さんを探して振る舞っちゃおう! あ、試合の行方とか今どうなってるのカナ?」
 突然の大きな声に背中をびくりと跳ねさせて、少女はエアの方に振り向いた。まだ少し怖い様だが、矢継ぎ早に色々聞かれ始め、すぐに打ち解けていった。
「ふむ、向こうは早々に棄権すると言っていたし、少々物足りなさはあるね。君の分は壊れているが、私が直そう。もう少々、最後までやり合ってみるのはどうかね?」
「私は降ります。付け焼き刃で、まだまだ操作に粗が有りますし、スクラップからああまで復帰させて頂いた手前、壊すのも気が引けましてね」
「おにーさんは?」
「打たれっぱなしは性に合わん。やるなら受けて立つ……と言いたい所だが、今日のこれは私情を交えた任務でな。完了した以上、国から借り受けている機体は使えん。棄権だ」
「俺は良いが、あの機体じゃ勝ち目は薄いな。サンドバッグがオチだ。もう少し盛り上げて棄権だ」
「過剰に壊さない程度なら、私も続行で良いわ。もう少し扱いに慣れておきたいしね」
「では程々に、観客を楽しませる程度に、続行と行こう」
 様々な機体が集った今大会は、暫くの間、観戦を逃したことを後悔したと語る客が続出する、屈指の名勝負として、この国で語られ、幕を閉じる。

●終幕
 シーザーは試合が終わった後、暫くホテルに滞在し、若者達へ雇用の終了を告げる。また、仮に此処に来る事があっても、以降依頼することは無いだろうと言い渡し、自身の居城へと音も無く消えていく。リストアしたキャバリアをどう扱ったかは、本人のみが知る所だ。
 ゆかりがアヤメを引き連れて、ガレージの技師に礼を言いに行くと、神秘の実在について、すっかり馴染んだ独特の口調で礼を伝えてくれた。
 アルバートは1人、今の自分を作り出した昔の切っ掛けと、それより前の、師匠と共に過ごしたことを思い返し、目を閉じた。
 璃玖は無給で働かせていた少年に会いに行くと、書籍屋の前で立ち読みをしていたのを見付け、何が有ったのか興味を持ち、聞いてると、スリは止めて、植物学者を目指す事にしたと真剣に語った。あの光景を何処にでも見えるようにしたいと思ったらしい。此処で実現するならば、工学や化学も勉強しておくと良いと、専門書を幾らか見繕って出世払いで倍返しして貰うと少年に押し付けた。失望させない様にと言い含めると、存外気合の入った返事が返って来た。仕入れたキャバリアは一応、法術で持ち帰る方法を検討した様だ。
 エアは、復讐を遂げた青年を見送った。貸与されていたらしいクロム・キャバリアを保有する部隊は、割と融通が利く様で、任務の傍ら、多くの人に目を向ける気だと語り、この国を去る。何処かでまた会うことも有るかも知れない。
 そうして、人々の一幕に関わりながら、猟兵達の日常は続いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月16日


挿絵イラスト