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七股野郎に制裁を

#UDCアース #UDC-HUMAN

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#UDC-HUMAN


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 小雨の降る夜だった。
 その女性は傘も差さずに街中を歩いていた。
 ジャケットにブラウス。膝丈のフレアスカート。味気のないオフィスカジュアル。水分の染み込んだ服はしっとりと重く、女性の有様をより悲しいものに仕上げていた。
「私……私は七番目って何……。一番下って……酷い……あっ」
 パンプスのヒールが折れ、女性はその場で転んでしまう。服も鞄も細かな砂利にまみれてしまった。道行く人は女性を避けるだけで、助け起こしてくれる人はいない。
 惨めだ。本当に惨めだ。何でもいい、何かに縋りたい――。
 泣くのを堪えて顔を上げた女性の目に、黒々とした大きな鳥居が飛び込んできた。いつの間にか神社がある場所まで来ていたようだ。
 四方を道路で区切った敷地に建つ神社。道路と敷地の境目は、鳥居のある場所を除いて全て木々で覆われている。
 建てられた時期が古いのだろうか。成長した木々は、階段を登った先にある本殿までをも覆い隠すように茂っている。
 周囲をビルに囲まれた中、この場所だけが切り取られたように存在していた。地図を真上から眺めたら、この場所だけがぽっかりと穴が開いているように見えるかもしれない。
「……ふ、ふふっ、おみくじでも、引いていこうかな……」
 女性は招かれたように鳥居をくぐる。茫然自失のまま階段を上がりきって、もう一つの鳥居をくぐった。温かな光が女性を出迎える。
 本殿を照らす灯籠の明かりだ。明かりはまるで女性を慰めるように揺れていた。
「嘘、嘘だよね……? 七股なんて嘘だって言ってよ……!」
 わぁっ、と女性は嗚咽を上げた。緊張の糸が切れたのだ。境内の真ん中で崩れ落ちた女性は、ただひたすらに全てを泣き濡らした。
 やがて嗚咽が呻き声へと変わる頃、女性の姿は白い龍に似た何かへと変貌していた。龍は咆哮を上げる。まるで、全ての苦しみから解放されたいと願うように――。


 グリモアベース内部、モニター画面の前。
 集まった猟兵たちを前に、アーリィはいつも通り頭を下げた。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今回お伝えするのは、UDCアースの事件です」
 その内容は、心に傷を負った一人の女性がUDCに変貌してしまうというものだ。
 件の女性はどうやら交際相手に七股を掛けられていたらしい。しかも、その交際相手というのがどうしようもない男で、付き合った女性の人数と、貢がせた金額をステータスにするような屑野郎だということだ。
「被害にあった女性は、真面目で奥手な性格のようです。誑かすのには丁度よかったということでしょうか」
 心なしかアーリィの声は低くなっていた。ふぅ、と長い溜め息を吐いた彼女は、切り替えた面持ちで説明を続けた。
「件の女性ですが、傷心のまま神社へ入ったところでUDCへ変貌したようです」
 だが、変貌直後ということもあり周囲への被害は確認されていない。急ぎ倒すことができれば、被害を抑えるだけではなく、女性を救うことも出来るだろう。
「こちらをご覧下さい」
 モニター画面に本殿付近の映像が映し出された。
 ゆらゆらと本殿の近くを旋回しているのは、白い龍に似た一体のUDC-HUMANだ。これこそが女性の変貌した姿である。
「こちらのUDC-HUMANは境内の近くに留まっているようです。ですが、このUDC-HUMANの元へ辿り着くためには、周囲に集まりつつある別のUDCを倒さなければなりません」
 映像が切り替わる。どろりとした石灰色の粘液を纏うUDC――呪われし精霊たちが「アハハ……アハハ……」と狂った声を上げながら、神社の敷地内をうろついていた。
 軽く目を伏せたアーリィは、憂いを湛えた表情で猟兵たちへ告げる。
「皆さんには女性を無事に救い出していただきたく思います。そして……今回の事件を引き起こす原因となった男性には、同様の被害者を出さないよう、皆さまの手で直々に制裁を加えていただきたく思います」


ユキ双葉
 こんにちは、ユキ双葉です。
 今回はUDCアースのシナリオとなります。

『第一章』
 神社の中をうろつくUDCたちとの戦闘になります。

『第二章』
 境内の近くでボス戦となります。
 こちらの章では、
「事情を踏まえた説得や、中にいる筈の本体を攻撃しないような配慮」
 といった行動が、プレイングボーナスの対象となります。

『第三章』
 お仕置きのお時間です。
 七股をかけた屑野郎が二度とこんな事を起こさないように、
 たっぷりと制裁を加えてください。
(ただし、命までは奪わないでください)

●女性『ユリコ』
 冴えない容姿で真面目な性格の女性。
 ある男と付き合っていたが、七股をかけられていたと知り絶望。
 しかもお金まで騙し取られた。

●屑野郎『オダマキ』
 女に貢がせた金額が自分のステータスだと考えている男。
 二股どころか七股くらいは平気でやる。
 かなりの数の女性と金額が犠牲になっている。
 基本的に初心で鈍感、もてなさそうな女性を選ぶ。
 ただし、あからさまにお金の匂いを感じない相手は選ばない。

●戦場について
 周囲をビル群に囲まれた神社です。
 歩道に面した入り口の鳥居を潜ると、緩やかな傾斜の階段が続いています。
 階段を登りきるともう一つ鳥居があり、その先に境内があります。
 夜間照明があるため、光源は不要です。
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第1章 集団戦 『呪われし精霊『アンウンディーネ』』

POW   :    ドロドロ抱擁
【直接抱き着き】が命中した対象に対し、高威力高命中の【鍾乳石化する体液】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ドロドロ噴射
自身の身体部位ひとつを【鍾乳石化する体液を噴射する散水ノズル】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
WIZ   :    ドロドロ降雨
【鍾乳石化する体液】を降らせる事で、戦場全体が【鍾乳洞】と同じ環境に変化する。[鍾乳洞]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

外邨・蛍嘉
「」内はクルワ。

…いやさ、私は側室・妾が当たり前なところ(戦国末期)出身だけどさ。
なんだい、その甲斐性なしの最低男は。
「同意シマス、ケイカ。男のワタシからしても、唾棄すべき相手デス」
意見一致したね。じゃあ、急ごうか!
「エエ。行きマショウ!」
神社っていう立地は、悪霊だから苦手なんだけど、そうも言ってられないしね。
というわけで、UDCには退いてもらおう。視界に入ったら、即UCで斬って捨てる。

※男を「屑」とは思っていますが、その言葉を出すキャラではないので、極力言い換えています。
クルワの髪は、水のようになっています。




 宵闇の中、ビルに囲まれぼぅっと浮かび上がる神社は、神秘的な静謐さを感じさせる。厄を払い、魔を退ける場所。
 外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)にとっては、生い立ち故にやや苦手とする場所だ。だが、今は一刻を争う時である。蛍嘉は躊躇うことなく鳥居を潜った。
 途端、敷地内に風のような咆哮が響き渡る。
「あぁ、なんて悲しげな声だ……」
 UDC-HUMANとなった女性の嘆き――。咆哮から悲痛な音色を感じ取った蛍嘉は、ぐっと眉を潜めた。
 側室、妾。出自の関係上、そういった関係は当たり前のように見てきた。しかし、そんな自分から見ても、今回の事件を引き起こすきっかけとなった男は、甲斐性無しで最低だ。
(「同意シマス、ケイカ。男のワタシからしても、唾棄すべき相手デス」)
「クルワ――」
 蛍嘉の内側に声が広がった。透き通った響きを持つ涼しげな音。内に宿した鬼『クルワ』の声である。
 瞼を閉じれば、その姿をありありと見つめることができる。蛍嘉の胸中に静かな闘志が満ちていく。
「――意見が一致したね。じゃぁ、急ごうか!」
(「エエ。行きマショウ!」)
 蛍嘉は刀を手に石畳の階段を駆け上がる。招かれざる存在はすぐにやってきた。
 フフ……アハハッ――……。
 甲高く木霊する狂った笑い声。木々の隙間を呪われた精霊たちが浮遊していた。
 精霊たちは蛍嘉の姿を見るや否や、両腕を散水ノズルへと変化させ、ドロドロの体液を散布し始める。
「!?」
 蛍嘉は目を見張る。木々の枝先に付着した体液が、鍾乳石と化していた。
 鍾乳石は瞬く間に育ち巨大な氷柱状になる。そして、自重に耐え切れず折れた枝は、蛍嘉の頭上から氷柱の雨となって降り注いだ。
「ふっ」
 短く息を切った蛍嘉は、軽い身のこなしで鍾乳石の氷柱を避ける。石畳へ衝突し砕けた鍾乳石は、鈍い輝きを放ちながら周囲へ欠片を撒き散らした。
「敵のお出ましだ……さぁ、クルワ!」
 着地と同時に力を高める。蛍嘉の周囲にぼぅっと青白い光が立ち込めた。
『――ワタシの力、見せて差し上げマス』
 揺らめきの中、蛍嘉に召喚されたクルワは刀を構えた。
 精霊たちが金切り声を上げて向かってくる。精霊たちを見据えた二人は、慌てることもなく軽やかに跳躍した。
『雨剣鬼の力、とくとご覧じアレ――』
 クルワの太刀筋が斜めに走る。細雨を切り散らし、精霊の胴体を上下に分断した斬撃の跡は、激しい横殴りの雨を思わせた。
 その場で崩れ落ちた精霊は、石階段を濡れ落ちて消え去る。クルワの背後から襲い掛かろうとしていた精霊たちは、蛍嘉の刀が驟雨の如く叩き斬った。
 アアァ――……アアアァァ――……!
 断末魔の悲鳴が響き渡る。精霊たちの気が一瞬そちらへ向かった。
「! クルワ!」
『了解デス!』
 好機と見た二人は咄嗟に敵の包囲網を抜け走り出す。向かう先は悲しい咆哮が響き渡る境内であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

千崎・環
アドリブ連携歓迎!

雨か…。

うおお、女性の心を踏みにじる屑野郎は絶対に許さない!
何とか彼女を救い出して、この千崎 環が必ず仇を討ちます!

まずはUDCの群れを突破して彼女のところへ行かないと!
策は…ない!正面からいくよ!
官給品の雨合羽を着て、盾を前面に押し出して気合い一発正面突破!ドロドロを喰らわない様に盾で防ぎながらダッシュだあ!
一気に接近したらその勢いのまま盾を叩きつけてUCを発動、一撃で叩きのめしてやる!
出たとこ勝負…じゃない!臨機応変に動くよ!
もしドロドロを受けたら合羽を捨てて仕切直し!

ぐぬぬ…そこをどけぇ!




 細い雨に混ざり、ぼたぼたと濁った滴が落ちている。
 鍾乳石で覆われた木々の先端から地面へ落ちた滴は、ミルククラウンのなりそこないを作り、じわりと面積を広げた。滴は見るからに粘度が高く、嫌な気配を纏っている。
 明らかにUDCの仕業だと思われる代物だが、千崎・環(突撃吶喊!・f20067)は足を止めずに石階段を上り始めた。
(「天気も雨ですし、官給品の合羽を持ってきて正解ですね!」)
 環の心は持ち前の正義感と高めのテンションでやる気に満ちていた。気持ちの矛先は件の男へ向けられる。
(「女性の心を踏みにじる屑野郎は絶対に許さない! うおお! この千崎環が必ず仇を討ちますよ!」
 心は熱く、けれども歩みは慎重に。
 滑りやすくなった場所をうっかり踏み抜かないように、鍾乳石が発生した場所を避けて階段を上がる。と、そこへ前方から何かが飛んできた。
「うわっ!?」
 環は反射的に盾を掲げる。びしゃっと濡れた音が広がって、粘度のある液体が透明な盾を伝った。盾の向こう側でくすくすと笑う影が集っている。
「出たな……!」
 精霊たちの手荒い歓迎を受けた環は息巻いた。
 宵闇の中からあっという間に精霊たちが沸いてくる。鍾乳石と化した木々の間を浮遊している精霊もいれば、地面や石畳へ広がった鍾乳石から直接、姿を現す精霊もいる。
 この群れを突破しなければ境内へ辿り着けない。環は盾の取っ手を握る手にぐっと力を込めた。それから進行ルートをざっくりと見定める。
「策は……ない! 正面からいくよ!」
 環は盾を前方に構えたまま駆け出した。精霊たちは環の正面から、上から、左右から襲い掛かってくる。
「せぇいっ!」
 掛け声と共に環は盾を振り回す。いち早く環の周囲へ集まっていた精霊たちは、一瞬にして蹴散らされた。
 上から迫ってきた精霊に対しては、その場で空振りを誘い警棒で薙ぎ払った。環の背後から迫っていた精霊が、それに巻き込まれる形で自滅する。
「ぐぬぬ……そこをどけぇ!」
 進行方向、団子状に集まって道を塞ぐ精霊たちへ向けて、環は腰を落として突撃した。盾越しにドォッ――と重い衝撃が伝わってくる。
 団子の中心付近にいた精霊たちは衝突に巻き込まれ、そのまま崩れて消えていった。突撃を回避した残りの精霊たちは、盾を回り込み環へ組みつこうとする。
「確実に倒す!」
 環は異能の力を借りた腕を垂直に振り上げた。膂力の増した腕を一気に下ろし、兜割りの要領で精霊たちを一刀両断していく。
「わわわっ!」
 いつの間にか背後へ回っていた一体が、べっとりと抱き付いてきた。
 環は咄嗟に合羽を脱ぎ捨てて警棒を振りかぶる。鍾乳石で固められた合羽ごとバランスを崩した精霊は、環の一撃をまともに受けて階段から転げ落ちていった。
「現場は臨機応変!」
 自ら道を切り開いた環は、颯爽と石階段を駆けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

カーバンクル・スカルン
あのドロドロした水が入っちゃったら、機械が引っかかって動かなくなりそうねー。私は強引に動けそうだけど……触らないに越したことないか。

あと、こんなビル街を鍾乳洞にするなUDCの人の対処が大変だろうが。引っ込めやゴラー!

カタリナの車輪を投擲して、敵の近くにある鍾乳洞のつららをへし折って敵の体に降り注がせる。それに敵の注目が行っている間に、私は【クリスタライズ】でコソコソ境内に侵入させていただきます。

被害者が元に戻れば、きっと散会してくれるでしょ。……ダメだったらその時に考え直す!




「これはー……すごい、というかひどい」
 ベースから転送された直後。
 鳥居越しに神社の景観を確認したカーバンクル・スカルン(クリスタリアンのスクラップビルダー?・f12355)は、あまりの惨状に顔を引き攣らせた。
 UDCによって生じた鍾乳石はすっかり成長し、アーチ状となって神社の敷地全体を覆っていた。しかも完全なアーチではなく、夜空が見えるほどの隙間があいている。動物のあばら骨めいた形がまた薄気味悪さを感じさせた。
「うーん」
 今はまだ敷地内に収まっているが、これがもっと成長したら大変なことになる。突破を急ぐに越したことはない。だが。
「あのドロドロした水が入っちゃったら、機械が引っかかって動かなくなりそうねー。私は強引に動けそうだけど……」
 カーバンクルの傍らにはスクラップで作ったワニが控えている。戦闘においては大切な相棒だ。
「ま、触らないに越したことはないか」
 急いては事を仕損じるとも言う。急ぐのであれば、なおのこと状況を見極めながら進んだ方が良い。
 カーバンクルはワニと共に鳥居を潜った。何度か戦闘が行われたのか、鍾乳石が砕け散っている箇所もある。
「!」
 不意に嫌な気配を感じた。カーバンクルは身構える。
 フフッ――……。
 ひそひそと広がる笑い声。声はやがて壊れた楽器のように木霊し始めた。同時に精霊たちが姿を見せ始める。
 天井から垂れ下がる氷柱状の鍾乳石、上下で繋がった鍾乳石の柱、戦闘で鍾乳石まみれにされた石灯籠。そこら中から文字通り沸くように出てきた精霊たちは、カーバンクルの姿を見るや否や一斉に襲い掛かってきた。
「――っと」
 トンッと地を蹴り攻撃を避ける。思いの他、簡単にかわすことが出来た。
 精霊たちは連携も緩く追撃も甘い。まるで悪戯に行く手を阻んでいるだけのようだ。カーバンクルはむむっと口を尖らせる。
(「遊んでいる時間は無いけど、全部を相手にしてもキリがないよね……。ん?」)
 少し離れた場所で、柱の影に身を潜めている数体がこそこそと何かをしていた。
 訝しんだカーバンクルが、そちらへ跳躍しようとした瞬間――。
「うっ、わ!?」
 すかすかだったあばら骨天井が、正しくアーチとなり一斉に滴が滴ってきた。濁った雨がしとどに降り注ぐ。戦場に発生している鍾乳石が一際大きくなった。
 その様を見たカーバンクルは、棘だらけの巨大な車輪を構えつつ、精霊たちへ一喝した。
「こんなビル街を鍾乳洞にするなー! UDCの人の対処が大変だろうが! 引っ込めやゴラー!」
 その場で足を踏ん張り、両腕を使って思い切り車輪を投擲する。車輪は空気を巻き込みながらフリスビーのような軌道を描き、育ったばかりの鍾乳石を次々とへし折っていった。
 鍾乳石の氷柱を浴びせられた精霊たちは悲鳴を上げる。氷柱に貫かれ地面へ縫い付けられる精霊。体の下半分を削り取られて呻く精霊。仲間の惨状を見た他の精霊たちは右往左往し始めた。
「よし、今なら行けるね」
 カーバンクルは気配を鎮める。キラキラと輝いていた体が徐々に透き通っていく。水晶のような透明度だ。
(「被害者が元に戻れば、UDCたちもきっと散会してくれるでしょ。……ダメだったらその時に考え直す!」)
 ワニを抱えたカーバンクルは、混乱する精霊たちを尻目に移動を開始した。

成功 🔵​🔵​🔴​

満月・双葉
七股…うーん
恋人が複数というのはまぁ良いとして
恋人と呼ぶべき関係だったかそもそも怪しいですし
夫々を幸せにできないなら手を出すなと言うところでしょうか
取り敢えず目の前のことに対処をですね

敵が複数居る場合、敵を盾にして攻撃を避け自身に当たらないように動き回る
【野生の勘】も使って敵の攻撃は見切る
足を止めるとどの道当たってしまいますし、羽を使って飛び回る動きも加えて動き回り敵をひきつけ、【暗殺】のいろはも覚えさせたカエルのマスコットさんの存在を悟らせずユーベルコードの使用を成功させます
「すいませんが石像になる趣味はありませんので寄らないで頂きたいです」
最後には桜姫で【鎧無視攻撃】を行い砕いていきますね




 冷たい空気が頬を撫でる。
 神社へ足を踏み入れた満月・双葉(時に紡がれた星の欠片・f01681)は、膝を屈めて鳥居の根元へそっと指を伸ばした。そこに『花』が咲いていたからだ。
「鍾乳石……」
 濡れた感触が指に纏わりつく。戦闘で砕けた鍾乳石がそのまま地面へ定着し、四方へ成長したのだろう。
 上を見れば鍾乳石のアーチが夜空を遮っている。かろうじて隙間はあるのだが、それ以上に石灰色が視界の殆どを占めていた。
 天井アーチは階段の上まで続いている。この先にUDCとなってしまった女性がいる。
「七股……」
 双葉は渋い表情で呟いた。
(「恋人が複数というのはまぁ良いとして、恋人と呼ぶべき関係だったかそもそも怪しいですし、夫々を幸せにできないなら手を出すなと言うところでしょうか」)
 事件の内容に関しては色々と思うところもあるが。
「今は取り敢えず目の前のことに対処を、ですね」
 目の前のこと。それは双葉を取り囲むように出現した精霊たちだ。
 周囲の環境はすっかり鍾乳洞さながらである。精霊たちにとっても居心地がよいと見え、方々で無数に体を出したり引っ込めたりしている。
「走り抜けてしまいたいところですが」
 近くの柱から現れた精霊たちが、双葉へ向けて鍾乳石の固まりを投げてきた。
「そうもいきませんよね」
 羽を広げた双葉は空中へ舞い上がり攻撃を回避した。精霊たちは鍾乳石から離れ、双葉を追いかけてくる。
(「追撃は厄介ですね。であれば――」)
 一際大きな鍾乳石の柱があった。柱の表面は奇妙に波打っている。精霊が姿を現す直前の現象だ。
 翼を強くはためかせた双葉は柱へと急接近する。精霊たちもつられてスピードを上げた。クスクスと笑う声が追いかけてくる。
 ウフフッ、アハハッ――……。
「!」
 柱の表面から精霊が顕現した。精霊の姿を見た双葉は、柱の精霊からスレスレの位置で急旋回する。急激な方向転換についていけなかった精霊が、柱の精霊たちと衝突し互いに自滅した。
 直接攻撃が難しいと見るや、精霊たちは双葉から距離を取り始めた。
 何をする気なのか。双葉が身構えた直後、天井アーチから垂れ下がっていた鍾乳石が一斉に落下してきた。氷柱の雨だ。
「厄介な攻撃をしてきますね」
 翼で空気を掴み双葉は縦横無尽に空中を駆け回る。機動力と勘に優れた双葉にとって、敵の攻撃を避けることは造作もなかった。
(「そろそろ頃合ですか」)
 双葉は視線をちらと下へ向ける。洞窟と化した戦場の隅っこを、小さなカエルのマスコットが走り回っていた。
 事前にユーベルコードを発動させ、戦場へ忍ばせていたのだ。カエルのマスコットは、自滅して横たわった精霊たちを片っ端から捕食している。
『ケロッ!』
 充分な量を捕食したのか、腹を軽く擦ったカエルのマスコットは素早く動き出した。
『ケロロッ!!』
 後ろ足が大きく地面を蹴り出した。カエルのマスコットは、近くの鍾乳石から出現した精霊へ飛びつき、相手が抵抗を見せるより早く腺から体液を放つ。
 精霊たちを喰らうことでコピーした能力。鍾乳石化する体液を浴びた精霊は、瞬く間に固まった。暗殺は素早く、そして音もなく繰り返された。
(「マスコットさんは順調ですね。では僕も」)
 双葉は空中で静止する。しつこく双葉を追尾していた精霊たちは、好機と見たのか一斉に向かってきた。双葉は赤黒い大鎌へと変形した武器を構え、軽く息を吐き出した。
「すいませんが、石像になる趣味はありませんので寄らないで頂きたいです」
 スバッと一閃――半円状の斬撃が精霊たちの腕を一瞬で持っていく。精霊たちの悲鳴が重なって不快な音を奏でたが、双葉は意に介することなく再び大鎌を振るった。
 ドロドロの滴が飛び散り、精霊たちはまとめて胴を二分された。再生することのなくなった体が下へ落ち消えていく。
「もう少し減らしておきましょうか」
 戦場を見渡した双葉は、カエルのマスコットが固めた精霊たちを破壊すべく、大鎌を手に下へ降りていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

中小路・楓椛
(アドリブ・連携歓迎です)
WIZ
最近こちら側に喚ばれる機会が多いのですが、出逢う事案が悉く人の業が深過ぎるのですけど…社会全体が《ヨクナイモノ》に引っ張られてます?
まあそれはそれとして、お手伝い程度なら動けると思うので多少動いてみましょうか。
目標の無力化の為には有象無象の排除が必要のようですので、装備の【ろいがーのす】を合体モードで投擲して正面を薙ぎ払いますが、その際にUC【こる・ばるぷす】を連携して刃金の表面で術式起動、接触存在の構成因子をまとめて灼き斬り、遅延発動で指向性の爆発衝撃波を浴びせて即時再生不可能な程度には粉砕しておきますか。「汝、極微塵(クオーク)に砕けよ」…そんな感じです?




 小柄な影が鳥居の上に座っている。
 異形の気配へ吸い寄せられるように現れ、鳥居へ腰掛けているのは中小路・楓椛(流しの家事手伝い狐・f29038)だ。
 様変わりした神社を見下ろす姿は子狐のものだが、その気配は見た目に反して成熟している。
「最近はこちらに喚ばれる機会が多いですね……」
 楓椛は小首を傾げながら思案に暮れた。
「出逢う事案が悉く人の業が深過ぎるのですけど……。もしかして、社会全体が『ヨクナイモノ』に引っ張られてます?」
 昨今は様々な出来事が重なり、情勢も不安定だ。この世界も似たようなものなのかもしれない。
「まあ、それはそれとして、お手伝い程度なら動けると思うので、多少動いてみましょうか」
 すくっと立ち上がった楓椛は、鳥居の上から戦場の様子を確認した。
 上も下も鍾乳石で満たされた戦場には、石灰色の精霊たちがうようよしている。この先の境内で待つ目標を無力化するためには、精霊たちの排除が必要だ。
「んー、できれば、一撃である程度の数を排除したいですね」
 一度にまとまった数の敵を薙ぎ払うことの出来る武器といえば、あれしかない。
 ろいがーのす――二振りの鉈を合体させた十字手裏剣を用意した楓椛は、武器を前方へ構えたまま意識を集中し力を注ぎこんだ。
「彼方の炎を……拝借!」
 武器が青白い光に包まれる。次いで、複雑な術式が刃金の表面に浮かび上がり、一段と輝きを増した。
 ユーベルコードの気配を感じ取った精霊たちが騒ぎ出す。精霊たちにとって猟兵とは縄張りを荒らす厄介な客だ。至極当然の反応だろう。
 こちらも準備は万全だ。楓椛は鳥居から一息に飛び降りる。精霊たちが一斉にこちらを振り返った。楓椛は微笑を浮かべる。
「道を空けて下さいな」
 楓椛は挨拶と同時に上半身を後方へ捻り、反動をつけて十字手裏剣を投擲した。
 大きな楕円を描いた十字手裏剣は、刃に触れた精霊たちの体を次々と分断していく。切り口は溶けたバターのようだ。加えて、爆発による衝撃波が残った部分を再生不可能なほどに粉砕していく。
 アアアッ――……!
 先制攻撃を受けた精霊たちが騒ぎ出す。天井アーチから姿を現した精霊たちは、やや慌てた様子で濁った体液を降らせ始めた。少しずつ成長する鍾乳石を見た楓椛は、ぽんと手を打つ。
「あら大変。邪魔なものは全部壊してしまいましょう。――汝、極微塵(クオーク)に砕けよ」
 十字手裏剣が再び空中を駆ける。洞窟内の鍾乳石が破壊され、砕けた鍾乳石もろとも爆風が吹き荒れた。精霊たちの体も、そして天井アーチでさえも爆発の衝撃波に巻き込まれ吹き飛ばされる。
 気がつけば、吹き抜けた天井に夜空が見えていた。新鮮な空気が入り込んでくる。
「では、先へ進みましょうか」
 精霊たちが沈黙したのを見届けた楓椛は、境内へ向けて走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『救済を謳う終末の龍『髏淵』』

POW   :    魂魄乖離咆哮
【UCを無効化し、精神と肉体を引き裂く咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    贄貌苦面龍鱗
戦闘中に食べた【ことがある生きた人類の血肉】の量と質に応じて【状態異常を無効化する人の顔の鱗を生成し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    人類救済説話
【全ての人類を生・老・病・死から永劫に救う】という願いを【人類の心の深層】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は神樹・桜花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 人気のない境内に呻き声が響いている。
 打ちひしがれたUDC-HUMAN は、蹲るようにとぐろを巻いていた。
 雨はすっかり止み、夜空には星が輝いている。だというのに、UDC-HUMANの心が晴れることはない。
 何故――……どうして――……。
 許せない――……許さない――……。
 呻き声に混ざって女性の声が木霊する。
 悲しげな、そして苦痛に満ちた声はどこまでも、どこまでも響き渡った。
外邨・蛍嘉
祀られてる神様には悪いけれど、荒れるかもしれないね、ここ。
たぶん、この子は娘世代になるんだろうね。

許さないし許せないのは同感さ。
「というか、許さなくてイイデス、ソンナ奴」
クルワって鬼だからね…。
「今のままだと、アナタは人間ではなくなりマス。それ、止めマスカラ」
そうそう、目一杯泣いてもいいし、叫んでもいい、なんなら暴れてもいい。でも、人でなくなるのは止めるのさ。

相手からの攻撃は避けない。物に当たりたいこともあるだろうしさ。
攻撃するのなら浄化属性の斬撃で、UDCのみを攻撃するようにするね。

今は悪霊だけどさ。私がまとめていた歩き巫女ってね、こういうときの受け皿にもなるんだよ。




 オアアァァ――……!!!
 UDCの群れを突破した蛍嘉が境内へ入った瞬間、UDC-HUMAN『髏淵』の咆哮が響き渡った。内に溜めた感情が高まり、ついに動き出したのだろう。
 敵はすぐさま蛍嘉の気配に反応を見せた。うぞうぞと蠢く長い尾が蛍嘉をめがけてスイングしてくる。
「うっ……!」
 蛍嘉は咄嗟に妖影刀『甚雨』を盾にして攻撃を防いだ。しかし、攻撃の勢いまで殺すことはできず、体は後方へ高く吹っ飛ばされる。空中で受身を取った蛍嘉は鳥居の柱へ着地し、すぐさま柱を蹴って地面へ降りた。
「…………」
 蛍嘉は自身の手を見る。
 感情の篭もった重い一撃だった。ビリビリと広がる衝撃が、まだ腕や手の平に残っている。女性の嘆きをそのまま体現しているかのようだった。
「さて、どうしたものか」
 蛍嘉が武器を構え直したその時。
 許せない……許さない……あの男が私を――。
 低い地を這うような声が響いてきた。恨みの感情に彩られた女性の声を聞いたクルワが、すかさず反応する。
「というか、許さなくてイイデス、ソンナ奴」
 鬼である故の容赦ない物言いだが、敵に僅かな変化が生じた。
 真っ赤な多眼が揺れるような色合いを見せていた。UDCに取り込まれていても女性の意識はまだ残っている。蛍嘉よりも年下、恐らくは娘世代に当たる年齢の女性――。
 蛍嘉はゆっくりと諭すように語り掛けた。
「許さないし許せないのは、私も同感さ。でもね、人でなくなるのはおよし」
 敵の体がびくりと震えた。敵は動揺を隠すように頭を激しく揺らして近付いてくる。
 蛍嘉は呼吸を整えて衝撃に備えた。敵の攻撃を避ける気はなかった。刀を握る手に力を込める。
 ぐわっと敵の体が持ち上がり、長い尾が再び蛍嘉を捉えた。蛍嘉はまたしても攻撃を正面から受け止めた。踏ん張った足が濡れた土を荒く削る。
「今のままだと、アナタは人間ではなくなりマス。それ、止めマスカラ」
 クルワが再び女性へ伝えた。またも、敵の動きが鈍くなる。
 蛍嘉は渾身の力で相手の尾を弾き返し、浄化の力を乗せた斬撃を繰り出した。尾から遡るように切り傷が広がり、鱗に似た真っ白な表皮が飛び散っていく。
 ギイィィィッ――!
 痛みに体を捻った敵は威嚇するように吼えた。蛍嘉はすかさず言葉を伝える。
「そうそう、目一杯泣いてもいいし叫んでもいい、なんなら暴れてもいい。私が受け止めるさ」
 ほんとうに……? ほんとうに……?
 女性の声が聞こえてきた。鸚鵡返しの不安な声。自らの衝動を制御できないと知っているが故の確認だ。それは女性の優しさでもある。蛍嘉は安心させるように言った。
「なあに、大丈夫さ。昔取った杵柄と言うほどではないが……この手のことには慣れているからね」
 ありがとう……ありがとう……。
 囁くような声がふつりと切れた途端、敵は自らを鼓舞するように咆哮を上げた。体中の表皮がふつふつと粟立って、人の顔を持つ鱗が生成されていく。禍々しい気配が敵を包み込んでいた。
「……ふぅ、祀られてる神様には悪いけれど、荒れるかもしれないね、ここ」
 ユーベルコードでもう一人の自分を呼び出した蛍嘉は、女性を傷付けず敵の体力のみを削ぐため、もう一人の自分と共に敵へ向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

満月・双葉
身近に複数妻恋人が居る人が居ますし多妻制度を否定しません
相手を幸せに出来ぬのなら手を出すべきではなかった
件の某さんは何れは女に刺されて死ぬ
貴女が手を汚す必要はなく
誰かが手を汚す必要もなく
僕がけちょんけちょんにしておきますから
取り敢えず落ち着きませんか
それなりに失ったものも多く腸が煮え返るのでしょうが
勿体無い、貴女の人生が

待つは一瞬の隙
耐え忍べばそれで良
光弓の首飾りの【弾幕】で撹乱しつつ防御に徹し近付かせ
【咄嗟の一撃】でUDCの喉元に喰らいついて咬みちぎり
UCも捨て弾に
UDCと女性を繋ぐ生命線を魔眼にて視て虚空から現れる桜姫による一撃で断ち切る
女性は傷付けぬように
万が一は【医術】にて応急処置を




 双葉が鳥居へ着地したとき、境内には光の柱が立っていた。
「あれがUDC-HUMAN……」
 光の柱の正体。それは敵の能力だ。
 裏切られるのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。苦しみから解放されたい。どうしたらいい、どうしたら救われるのか。
 人類の心の深層へ呼びかけたその結果が、敵の力として集約されていく。
(「――攻撃が来る」)
 嫌な気配を感じ取った双葉は鳥居から羽ばたいた。
 光を飲み込んだ敵の赤い目がぎょろりと輝く。途端、敵を中心に黒い帯状のもやが数多生成された。黒いもやは無造作に飛び回り、周囲の景観を無差別に飲み込んでいく。
「これは……」
 双葉は眼を見張った。
 黒いもやが当たった場所は、巨大なスプーンで繰り抜いたかのように消滅していた。破壊ではなく消失だ。傷つくのが怖いなら、最初から何もなければいいとでも言いたげな有様だった。
「まだ、そこにいらっしゃいますね?」
 敵の破壊行動を遅らせるべく双葉は女性へ話し掛けた。ぐぐっと頭をもたげた敵が双葉を見上げる。
「僕は多妻制度を否定しません。身近に複数の妻や恋人が居る人もいますし。ですが相手を幸せに出来ぬなら、手を出すべきではなかった」
 敵は双葉の声に耳を傾けていた。こうやって暴れることは、女性の本意ではないのかもしれない。双葉の言葉も真剣さを帯びていく。
「件の某さんは、何れは女に刺されて死ぬ。いや、女が手を汚す必要はなく、誰かが手を汚す必要もなく。僕がけちょんけちょんにしておきますから」
 そう、件の某にはきっちりと制裁を加える必要がある。こんな事件が二度と起こらないように。
「ですから、取り敢えず落ち着きませんか。それなりに失ったものも多く腸が煮え返るのでしょうが、勿体無い、貴女の人生が」
 緩慢な動作で敵が首を垂れた。説得はきいているようだ。だが次の瞬間。
 グウウウアアアアッ――。
 敵は苦しむような声を上げた。暴れる敵の体から徐々に黒いもやが立ち込める。もやはすぐさま帯状に分かれて方々へ飛んだ。
「っ!」
 身構えた双葉だが、黒いもやは双葉から微妙にずれた位置へ飛んでいく。UDCの中で女性が抵抗しているのかもしれない。続く攻撃も意図的に外されているようだった。
(「光の弓矢をたくさん放てば、敵の意識もそちらへ逸れるかもしれない」)
 上手くいけば敵へ近づける。双葉はすぐさま己の首飾りへ触れた。キィィィン――と高い音が響いて、解放された光が弓矢の形を取る。
 矢の数は無制限だ。上空から地上へ向け弓を構えた双葉は、あらん限りの速さで矢を射始めた。無数の鋭い光が雨の如く降りしきる。
 グアッ――!
 敵は内側を守るように体を丸めた。双葉は矢を射続けながら降下していく。
「……」
 白く長い躯体が間近に迫った。双葉は敵を凝視した。
 体の中を生命エネルギーが巡っている。中でも奔流の大きい場所が数箇所あった。UDCと女性を繋ぐ生命線。ここを全て断てば――。
「!」
 双葉の頭上に影が差す。敵の鍵爪が双葉を狙っていた。上体を逸らして攻撃をかわした双葉は、そのままユーベルコードを発動させた。
「少しの間だけ大人しくしていてくださいね」
 虹色の薔薇が一斉に敵を取り囲んだ。極彩色の炎が吹き荒れて敵の生命力を奪っていく。
 オオオオッ――!
 のたうち回る敵の内側へ入り込んだ双葉は、光の矢を剣の代わりにして下から敵の喉元を斬り上げた。ガッ、と詰まった声が敵の口から迸る。
 がくん、と敵の体が項垂れた。距離を取った双葉は、先程確認した生命エネルギーの奔流を思い出す。
「まずはその腕……貰いますよ!」
 狙いを定めた双葉は、虚空から現れた『桜姫』を手に取り、敵の片腕を目掛けて真上から『桜姫』を振り下ろした。
 グアアッ――!
 敵の片腕がエネルギーを撒き散らしながら宙を舞う。続けてもう片方の腕が宙を舞った。敵の体を離れた腕は虚空へと消え去る。
 グウウッ――……。
 両腕を捥がれた敵が双葉を睨みつける。しかし、その赤い眼差しには猟兵への敵意だけではなく、期待と懇願が滲んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

中小路・楓椛
(アドリブ連携歓迎します)
WIZ
「全ての」「人類を生老病死(しょうろうびょうし)から」「永劫に救う」…?
ここはショートコントの発表会か何かでしたっけ?

現世の救済を謳うには今回の怪異のカミサマの信仰の絶対量と神格がちょっと…いえ大分足りてなくないですか?奇跡の行使にもリソースは必須ですわよ?

ニンゲンは誰かに救って貰わないと生きていけない程ヤワじゃありません。
中の人、貴女の居場所は其処じゃないです…さあ目覚めなさい。

UC【アトラナート】と術式系技能を全部盛りで…後のフォローは他の猟兵の方に任せます。


――我、【神罰】執行を承認す 此処に【封印を解く】。
この際カミサマは自身の矮小さを識ると良いですよ。




 夜空の下、欠けた鳥居を見上げた楓椛は小首を傾げた。
「これは一体?」
 見れば、鳥居だけではなく境内のいたるところが不自然に欠けている。地面には小規模なクレーターが幾つも生じ、本殿の屋根や灯籠といった建造物は、滑らかすぎるほどの丸い切断面を晒していた。
 楓椛はなおも訝しむ。その最中、本殿の近くから光の柱が上空へ伸びた。
 色彩の奔流。その中を人々の声が走り抜けていく。痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。苦しみから逃れるためには、最初から何も無ければいい――。
 楓椛は地面を蹴って鳥居の欠けた部分へ上がった。
「なるほど。光の柱の正体は敵の能力ですか」
 見渡した場所、不自然に生じた浅いクレーターの中心に敵はいた。光の柱は両腕を失くした敵の体から立ち昇っていた。
 賛同せよ――、賛同せよ――。
「!?」
 楓椛の心にも突如として『願う声』が届く。
 我は神――、我は神――。全ての人類を生、老、病、死から永劫に救う存在なり――。
 大層な物言いに楓椛は悩ましげな溜め息を吐いた。
「全ての人類を生老病死から永劫に救う……? ここはショートコントの発表会か何かでしたっけ?」
 辛らつな言葉に敵の気配が怯んだ。呼び掛けを打破するべく楓椛はなおも言い募る。
「現世の救済を謳うには、今回の怪異のカミサマの信仰の絶対量と神格がちょっと……いえ大分足りてなくないですか? 奇跡の行使にもリソースは必須ですわよ?」
 グオオオオッ――!!!
 呼びかけが中断され敵が吼えた。光の柱が収束し敵の周囲に黒いもやが生まれる。もやは瞬く間に個別の帯状へと形を変え、周囲の景観を不自然に削ぎ始めた。
「あれが不自然な欠けの正体だったのですね」
 楓椛が佇んでいた場所にも黒いもやが差し向けられる。楓椛は鳥居から近くの石灯籠へ跳躍した。敵はなおも執拗に楓椛を狙い続ける。
 石灯籠から狛犬へ。狛犬から本殿の屋根へ跳んだ楓椛は、UDCの中にいるであろう女性の気配を探った。UDCからの敵意は感じるものの、女性からの敵意は感じられない。楓椛は女性へ呼びかける。
「ニンゲンは誰かに救って貰わないと生きていけない程ヤワじゃありません。中の人、貴女の居場所は其処じゃないです。……さあ目覚めなさい」
 あ――、と女性の声が小さく響いた。同時に、枷を嵌められたが如く敵の動きが鈍る。
「――我、神罰執行を承認す。此処に封印を解く」
 楓椛は練り上げた術式を一気に解放する。爆発的な力の高まりと共に、目に見える形となって出現した呪文の文言が、敵の体を螺旋状に取り囲んだ。文言はぎゅっと締まり敵の体をぎりぎりと締め上げる。
 アアアアッ――!
 濁った悲鳴が空気を揺らした。細かな電流に似たエネルギーが敵の体を迸り、敵の体力を徐々に削っていく。
「この際カミサマは自身の矮小さを識ると良いですよ」
 弱りゆく敵を見た楓椛は、静かな口調で告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーバンクル・スカルン
人身供養で、他の人々を救うってか? まー、なんて前時代な神様ですこと。

そんなクズのために、貴方が命を捧げる必要は無いさ。7人目だから何、金づる扱いだから何、それで死んでもクズは悲しむと思うか?

……違うでしょ、一番の復讐は貴方自身が幸せな様を見せつけることでしょうが。そのために変なクズ神の犠牲になることを私は許さない。

神様の体を手枷・猿轡・拘束ロープで一気に捕縛してから全てを無効化させた女性を救出。もし残るようなら神の頭に鋸をぶっ刺してやる。

さーて、ってうっわ、神社ボロボロになってんじゃん。……一夜で元通りに出来るかな。

まあ、UDCにそこは任せるとして。私は承った依頼を片付けに行くとしますかね




 荒れ果てた境内で両腕を失った敵がのたうち回っている。
 切断箇所からは生命エネルギーが散逸し、体の再生も上手くいっていない。それでも身の内から溢れる感情に任せて、敵はばたばたと暴れている。
 ――我は神、神。ゆえに全ての人類を生、老、病、死から永劫に救わねばならぬ。
 抑揚のない声がカーバンクルの心へ響いてきた。
 敵の様子を確認したカーバンクルは、漏れ聞こえた敵の声に盛大な溜め息を吐いた。
「人身供養で、他の人々を救うってか? まー、なんて前時代な神様ですこと」
 カーバンクルは敵との距離を保ったまま、手枷と猿轡、拘束ロープを用意した。敵の能力を無力化するためだ。準備を進めながら、カーバンクルは女性へ呼びかける。
「ねぇ、聞こえてる? そんなクズのために、貴方が命を捧げる必要は無いさ。……七人目だから何、金づる扱いだから何、それで死んでもクズは悲しむと思うか?」
 敵の中から戸惑った気配が伝わってきた。悲しみに満ちた声が響く。
 ――でも、私。
 他の猟兵たちによって敵は大分弱っていた。故に女性の声もはっきりと聞こえるようになっていた。
 カーバンクルは女性へ向けて自分の気持ちをはっきりと伝える。
「……違うでしょ、一番の復讐は貴方自身が幸せな様を見せつけることでしょうが。そのために変なクズ神の犠牲になることを私は許さない」
 力強い言葉を前に女性が沈黙した。拒絶されただろうか。そう思ったが、女性の強い気配を感じた。敵の中で女性が頷いている。
 ――私、こんな場所で終わりたくない。
「! 貴方の願い、私が聞き届ける!」
 女性の声を聞いたカーバンクルは、その期待に応えるべく地面を強く蹴った。
 向かってくるカーバンクルに気が付いた敵は、体を大きく振って尾をスイングしてくる。
「当たらないよ!」
 尾を跳んで避けたカーバンクルは、そのまま敵の背中部分へ着地した。
「よしっ」
 最初に手早く猿轡を敵の口へ嵌める。敵は頭を振って暴れ出した。カーバンクルは振り落とされないように、敵の頭部にある翼を引っ掴んだ。
 ぐんっと頭を下げた敵の動きが止まる。訝しむ間もなく、敵の背中がぼこぼこと動き始めた。不気味に沸き立つそれは人の顔だ。敵の気配が禍々しさを増していく。
「急がないと……」
 敵の背中を途中まで滑り降りたカーバンクルは、無い腕の代わりに翼と翼に手枷を嵌めた。両の翼を繋ぐようにして体の動きを制限したのだ。背中に浮かんでいた顔が有名な絵画のように歪む。
 あとはロープだけだ。手枷の隙間にロープを結び、そこからは縦横無尽に動き回った。敵が暴れれば暴れるほどロープは絡まっていく。
 グウゥゥゥッ――!
 ロープで雁字搦めにされた敵は、バランスを崩してそのまま横倒しになった。二度ほどバウンドした敵は猿轡を噛み千切ろうと頭を激しく動かしている。
 絡まったロープはなおも敵へ食い込み、その能力を押さえ込んでいった。敵の体に浮かび上がっていた人々の顔が消えていく。
 だが敵も相当にしつこかった。カーバンクルは躊躇うことなく『金切鋸』を取り出した。
「さすがにこれで終わらせるから」
 敵の頭へ近付いたカーバンクルは、鋸の刃を敵の頭頂部へぴたりと押し当て、一気に突き刺した。ずぶずぶと皮膚を裂いて刃が進む。
 ギアアアアッ――……!
 断末魔が辺りに響き渡った。びくびくと細かな痙攣を見せた敵は、やがて動きを止めた。生命エネルギーが散逸し敵の体は消滅していく。
 境内からUDCの気配が消えた。そして、敵が消えた場所には横たわったままの女性が残された。
 女性へ近付いたカーバンクルは、手の甲をそっと鼻先へ近づけた。呼吸はしっかりしている。気を失っているだけのようだ。
 ほっと一息ついたカーバンクルは立ち上がる。
「さーて、ってうっわ、神社ボロボロになってんじゃん。……一夜で元通りに出来るかな」
 改めて境内を確認すれば、そこかしこにクレーターが生じていた。狛犬も鳥居もぼろぼろだった。
「……まぁ、それはUDCに任せるかな。私は承った依頼を片付けに行くとしますかね」
 この後は最後の依頼が待っている。そう、件の男へ制裁を加えるという大仕事が猟兵たちには残っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『人間の屑に制裁を』

POW   :    殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る

SPD   :    証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる

WIZ   :    事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 夜の街を一人の男が歩いている。
 身なりの小奇麗な青年だ。人好きを匂わせる顔はどこか甘やかで、おおよそ本人の性格とは一致しない。
 男は携帯を取り出す。貢がせている人数の分だけ、携帯は使い分けていた。
 スミレ、カスミ、セリ、ユズ、サクラ、アオイ、そしてユリコ。
 今取り出したのは先程振ったばかりの女、ユリコ相手に使っていたものだ。女の名前を消去した男は、薄っすらと軽薄な笑みを浮かべた。
「さーてと、次はどんな女を引っ掛けようかなぁ」
 新しい七人目を求める男は、どこまでも身勝手な性格だった。
中小路・楓椛
(アドリブ等歓迎)
今回の私の取り分全てを彼女の救済へ。

それと…普段人間同士の争いには原則介入しない事にしていて…馬鹿な子程可愛い…バかわいい?とか言うじゃないですか。

今回は例外で…私の「リハビリ」を兼ねて、この何とかという元凶の青年に犠牲…被検体…協力者になって貰いましょう。

さて、そこな貴方、そうそうそこのアナタ。

(これまでどんな状況下でも開いた事の無かった「炎のように紅い」眼が「全て」開く)

ちょっと…私の【眼】を見て貰えます?

(【神罰】【呪詛】全開で「外なる宇宙の真理」の全てを脳に視覚経由で受け取り拒否禁止で大送信)

これで魂魄が灼け残れば…一角の預言者(狂える詩人)になれるでしょう、ね?




 月の美しい夜だ。小雨は上がり、空は乾いた夜の色を晒している。
 夜空の下、男は携帯電話を取り出してにやついていた。見るからに邪な笑み。ビルの屋上へ腰掛けた楓椛は眼下にその光景を眺めていた。
「普段、人間同士の争いには原則介入しない事にしているのですが……」
 今回は例外だ。楓椛自身のリハビリと、この男の犠牲となった女性への救済。二つの理由を兼ねている。
「ふふ、馬鹿な子ほど可愛い……ばかわいい? とも言いますし」
 月明かりの下、ふさふさとした尻尾が上機嫌に揺れた。
 すくっと立ち上がった楓椛は屋上の縁を蹴り出す。
「何とかという元凶の青年には犠牲、いえ、被献体……協力者になってもらいましょう」

 携帯電話を閉じた男は再び歩き出した。先程、振ったばかりの女の代わりを見つけるためだ。
 七という数字に拘りがあるわけではないが、貢がせる人数は多いほうがいい。何より人数が多ければ多いほど、男の自尊心は満たされる。
「……大人しくて、金を持ってそうな子はいるかな、と」
「さて、そこな貴方」
 男の耳に涼やかな声が飛び込んできた。この世のものではないような、透明な響き。足を止めた男は周囲を見渡す。気のせいだろうか、誰も居ない。
「……?」
「そうそう、そこのアナタ」
「う、わっ!?」
 頭上から音もなく一匹の子狐が降りてきた。
 風呂敷のようなものを背中に担いだ二足歩行の子狐。男は目を白黒させた。非現実的な光景に、何処かの神様だろうかとさえ考えた。
 子狐、もとい楓椛は薄っすらと口を開いた。
「ちょっと、私の目を見てもらえます?」
 声は不思議な響きを伴って、すとんと男の耳へ入ってきた。楓椛の紅い眼が男を捉えている。炎のような色合いは男の意識を瞬く間に吸い寄せた。
 あ、と思う間もなく男の体は大きく捻られた。頭から足のつま先までが、茹ですぎたスパゲッティのように伸びていく。
 男の意識は宇宙へ放り出された。おおよそ人の脳では受け止めきれない情報が、次から次へと男に降り注ぐ。
 宇宙の果てで太鼓を鳴らす異形が踊り狂っていた。輪を作る異形の中心では、白痴の者が呆けたように座している。異形は王の無聊を慰める。乱れた旋律が、音が、男の脳を不快に掻き乱した。
 耳が痛くなった。口の端から泡が溢れる。ガクガクと震える足がくず折れた瞬間、男の意識は今この瞬間へと戻ってきた。
「ぐっ……!?」
 途端に吐き気が襲ってきた。男は慌てて路肩にある排水溝を見つけ蹲った。
「ぐえぁっ……! うげっ……」
 間を置いて水面が汚らしく揺れる。
「これで魂魄が灼け残れば……一角の預言者(狂える詩人)になれるでしょう、ね?」
 どこからか声が木霊する。楓椛の姿はすでに消えていた。
 というより、本当はビルの一角に隠れて高みの見物をしていたのだが、男にとっては神の遣いが苦痛を与えに来たにも等しい出来事だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

外邨・蛍嘉
お仕置きの時間だね。
忍は忍らしく。【忍法:若装】で若返りして、UDCアースの現代娘っぽい格好をして。ちょいと高めのイヤリングとかもして。
奥手な演技をして相手から声かかるのを待ってみようか。
演技中は「です、ます」口調の丁寧さで。
だまし討ちと情報収集の要領で、携帯拝借して。
…女の子たちに真実の情報を流そうじゃないか。鉢合わせるように仕向けよう。
ああ、ここにボイスレコーダーもあるんだよ。便利だよね。さっきまで私にささやいてたことも入ってるよ。

「ケイカ…無理しないでクダサイネ…無理したら、後でアナタの兄に怒られマスヨ…」
大丈夫大丈夫、無理はしないよ。




 夜の街。その片隅に美しい女性が立っている。
 ふんわりと広がるプリーツニットのワンピースに、今の時期は寒いからであろうストールを合わせている。貝殻のようなつるりとした耳たぶで揺れるのは、藤の花を模ったイヤリングだ。
 会社からの帰り道を行く人々も、足こそ止めることはないが女性に見惚れている。清楚で控え目な美人。
 誰かと待ち合わせをしているのだろうか、彼女はしきりに腕時計を見ていた。いや、見る振りをしているだけだった。女性――蛍嘉は件の男を待ち伏せているのである。
「ケイカ……無理しないでクダサイネ……。無理したら、後でアナタの兄に怒られマスヨ……」
 作戦の決行を前に、クルワが心配そうな声を出した。
 蛍嘉は兄の顔を思い出す。兄というよりは同士に近いのだが。
「大丈夫、大丈夫。無理はしないよ」
 蛍嘉はクルワを安心させるように言った。
「おや?」
 蛍嘉はふと視線を上げた。別の場所で猟兵の気配を感じた。次いで男の声が細く木霊している。悲鳴とも似つかない叫び声だ。
「他のダレかが目標と接触したのかもしれマセン」
「ふむ。こっちに来るかもしれないね。ちょっと移動しようか」
 アイボリーのエナメルバッグを腕に掛けなおした蛍嘉は、声が聞こえた方へ歩いていった。

 男はまだふらふらとしていた。
 先程見せられたものは一体何だったのだろう。宇宙の果てで狂乱の宴を催す異形たち。
「うえっ……」
 思い出すだけで気持ちが悪くなる。どうにかして気分転換をしたかった。
「ん?」
 ふと正面から歩いてくる人影があった。コツ、コツ、とヒールの音が響く。
 男は目を見張った。しっとりとした艶やかさを感じさせる美しい女性だった。見目もアクセサリーも控え目で清楚な雰囲気だが、質のよさを感じる。
 気を取り直した男はすっと背筋を正した。偶然を装って女性へぶつかる。
「あっ、すいません」
「いいえ、こちらこそ」
 バッグを拾い上げる一瞬の間に、男は女性を品定めする。金はありそうだ。男慣れもしていない印象がある。確かめてみよう。男はバッグを返す振りをして女性の手へ触れた。
 女性の手がぴくりと跳ねる。やはり慣れていないのか。そう思ったが、女性は何故かじっと凪いだ眼差しで男を見つめ返してきた。
 何だ? 思った瞬間、一瞬にして険しい表情を向けられた。
「貴方、オダマキさんですよね?」
「えっ?」
 突然のことに男は困惑した。女性は構わず続ける。
「私、ユリコの友達です。あの子から聞いたんですけれど、貴方、七股を掛けていたって本当ですか?」
 男は途端にぎょっとした。
「な、何のことかな。僕には覚えが」
「とぼけないでください。あの子、貴方に三百万円も騙し取られたって泣いていました」
 あの女、余計な事を言いやがって。男は舌打ちした。女性が耳聡く聞きつける。
「貴方、今……」
「あぁー、いやいや、そんな女性は知りませんよ? それに、僕はそんな不誠実なことはしませんし。今は付き合っている女性もいないから。そもそもその人だって馬鹿ですよ。相手の言ったことを鵜呑みにしてホイホイお金を出すなんて。僕はそんな頭の悪い女性は好みじゃないなぁ」
 しらを切った男は盛大に捲くし立てた。面倒な相手とは関わらない方がいい。そう考えて踵を返そうとした瞬間。
「ふーん。では、コレは何です?」
 女性の手に六つの携帯電話が収まっていた。
 男は愕然とした。いつ盗られたのか。いやそもそも、自分に気付かれず一瞬でこんな芸当が出来るのか。この女は何なんだ。考えた瞬間、男の背筋はぞわっとした。
 先程のことが思い出される。自分の前に突然現れた子狐。その子狐に見せられた不可解で気味の悪い幻。まさか、同じ類いの存在なのだろうか。
「おい、返せよっ!」
 男は顔を真っ青にして女性へ掴み掛かった。と、女性のしなやかな足が男の股間を見事に蹴り上げた。ひぎっ、と声を上げ蹲ったところで、今度はヒールで背中を踏まれた。
 男が悶絶している間に、女性は自らを『ユリコ』と騙り、片っ端から携帯電話で女性たちへ連絡を取っていった。
 程なくして、二名の女性が男の元へやってくる。二人はたまたま近くにいたのかもしれない。他の女性たちはショックを受けて呆然としているか、単純に場所が遠かったのだろう。
 女性――蛍嘉はバッグからボイスレコーダーを取り出して、先程の会話を女性たちへ聞かせた。途端に彼女たちは金切り声を上げ、恐ろしい形相で男へ迫った。男は股間を押さえたまま情けない姿を晒している。
 まさしく修羅場だ。自分の任務はこれで完了である。未だ揉めている現場を後にした蛍嘉は、闇に紛れながらゆっくりと変装を解いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

満月・双葉
さーて今回はどんな男を……
こ、ん、ば、ん、は…くだらない男
ふん、色男の風上にもおけないクッサイ男だことハハッ
(散々挑発して殴り掛かりでもしてくれば腕を取り殴りかかってくる勢いに任せて後ろ手に捻りあげる地面に押さえつける)
動くから痛いんだよ
まぁ、これから動かなかろうと痛いこといーぱいして
あ☆げ☆る☆
その程度の分際で女を弄んだんだ、殺される覚悟くらいあったろ?
「殺される」恐怖を与える目的
腕の一本は本来曲がらない方向に曲げて…暴れるならその暴れるに任せてへし折る
女の感じた心の痛みはこの程度のもんじゃないよ?
足も一本同じようにして逃げられないようにして放置
医者だから安心して
死なない程度にしとくから♪




「くそっ、くそっ! 何だったんだあの女は!」
 悔しさを滲ませた男は、覚束ない足取りで街中を歩いていた。
 妙な女のせいで『貢がせちゃん』が二人減ってしまった。それだけにあらず、ヒールで踏みつけられた背中と、蹴り上げられた股間はまだジンジンと痛みを訴えている。
 貢がせていた女たちから叩かれた頬も腫れていた。
「僕の邪魔をしやがって……」
 男は顔を醜悪に歪ませて悪態を吐く。
「あぁ、もう、こんな時はアレを見るに限るんだ」
 男が取り出したのは自分のスマホだった。七股用ではない正真正銘、自分の物である。男が確認したのはネットバンキングの口座だ。上手くいかない事があって苛々した時は、残高を見ると落ち着くのである。
「これだ……この金額が僕のステータスなんだ」
「こ、ん、ば、ん、は」
「うわあっ!?」
 耳元に声が落ちてきた。背後からひたりと寄り添う気配があった。
 男は慌てて飛び退いた。神経が過敏になっている。
 どくどくと脈打つ心臓を押さえながら振り返ると、そこには見目秀麗な女性がいた。
 驚いて声を上げてしまったが、よく見ればカモにちょうど良いかもしれない。こんなときでも男の頭は打算で働くのだ。
「くだらない男……」
 男の心を読んだかのように、女性――双葉は呆れ果てた態度を見せた。続く言葉も辛辣だ。
「ふん、それに色男の風上にもおけないクッサイ男、ハハッ」
「何だって……?」
 男は一瞬言葉に詰まる。香水のことだろうか。
 いずれにせよ侮辱されたことに変わりはない。頭にカッと血を上らせた男は、片側の頬を引き攣らせながら、何とか自尊心を取り繕おうとした。
「いきなり失礼な人だなぁ。この香水が臭いって? これ、結構高かったんだけど」
 男の強がりも何のその。双葉はわざとらしく鼻を摘みながら、さらに男を煽った。
「あぁ、クッサイ、クッサイ。……香水じゃなくて、お前のアレが臭いんだ」
「何だって……?」
 何か心当たりがあったのだろうか。適当にでっち上げた内容だったのだが、男は自身の股座を気にする素振りを見せ、それから顔を真っ赤にした。
「人が大人しくしてりゃ、付け上がりやがって……!」
 男は双葉へ殴りかかる。しかし、双葉は簡単に男の拳を避け、男の腕を掴み背中の後ろへと捻り上げた。双葉はそのまま男を地面へと押さえつける。
「うあああっ!」
「動くから痛いんだよ。まぁ、これから動かなかろうと痛いこといーっぱいして、あ☆げ☆る☆」
「はぁ!? お前何なんだよぉ……!」
 男は額に脂汗を滲ませながら怒鳴った。汗のみならず本性までも滲み出ている。
 そんな男へ心の底から軽蔑の眼差しを向けた双葉は、声を低くして凄んだ。
「……その程度の分際で女を弄んだんだ、殺される覚悟くらいあったろ?」
「ひっ……!」
 まったく容赦せずに捻りあげた腕を、関節が曲がる方向とは反対へ倒していく。男が嫌だと絶叫した。じわじわと増す痛みに男は涙を浮かべている。
 双葉は最後に思い切り力を掛けた。上から体重を乗せるようにして男の腕を折る。ゴキッと鈍い音が伝わってきた。
「うぎゃあああっ!」
 男は喉を引き絞り叫んだ。双葉は男へ冷めた声を投げる。
「あのさ、女の感じた心の痛みはこの程度のもんじゃないよ? ほら、そっちも」
 ひぃひぃと呼気を荒くする男の尻を蹴飛ばした。前へつんのめった男は、うつ伏せになってだらしなく地面へ伸びた。その片足を双葉は持ち上げる。
「い、嫌だ……!」
 想像を絶する恐怖に駆られているのか、男は最早こちらを見ようともしなかった。双葉は囁くように告げた。
「大丈夫……医者だから安心して? 死なないようにしとくから♪」
 足をそっと持ち上げる手がそら恐ろしい。男は片腕だけで這って逃げようとした。無常にも、腕を回された足はミシッと音を立て始める。膝頭が潰され、足はホールドされたまま抱き潰された。
「いいいいっ――」
 体をびくびくと痙攣させた男は、そのまま意識を失い地面へ突っ伏した。

成功 🔵​🔵​🔴​

カーバンクル・スカルン
まずは拉致から。物陰からターゲットとその周辺にバレないように隠れながら、一瞬でその意識を刈り取って人気の無いところへ連行する。

そうして私の顔は頭巾とかで隠して、男をカタリナの車輪に繋ぎ止めた後に強引に起こして……っと。

お前は誰? 名乗るほどの者ではございません。……でも、こうされる検討はついているでしょう? と徹底的にいたぶる。依頼人のことは一切漏らさない。それがプロだから。

どれだけ手足を砕こうと血切れようと、【不生不殺】で直し続ける。この世の物とは思えない激痛とセットでね。どれだけ苦しもうと死ぬことは許されない。

女を悦ばすためだけの三枚舌も抜いちまおうか、抜いたそばから元通りに戻っちゃうけど




 はぁ、はぁ、と荒い息が響いている。
 意識を失ってから数分後、じくじくと体を苛む痛みに目を覚ました男は、ビルとビルの間にある狭いコインパーキングまで避難していた。
 片腕と片足は折られたままだ。そのため、残っていた腕と足で何とか地面を這いずってここまで来た。男はべそべそと鼻を啜っている。
「痛いよぉ……痛いよぉ……」
 下手に動くと余計に痛みが増すので、男はただじっと地面に座ったまま泣き言を零していた。
「何で、何で僕がこんな目に……」
 男の疑問に答える声はない。代わりに頭上から影が差し込む。
「ひっ! う、げっ」
 怯えきった男の鳩尾に拳がめり込んだ。くの字に折れた体が細かく痙攣する。
「……よし」
 男の体が倒れこんだのを確認した拳の主――カーバンクルは、男を肩に担ぎ上げた。人目につかない場所へ移動するためである。
「ここでもいいんだけど、もっと人通りの無い場所がいいよね」
 何故なら、自分の『お仕置き』は過激だからだ。命を奪うつもりはないが、男の精神はずたぼろになってしまうかもしれない。尤も手加減という選択は最初からない。
「さーてと、どこかいい場所ないかなー」
 まるでピクニックにでも出かけるかの如く、カーバンクルは声を弾ませた。

 暗がりの中、男はハッと目を覚ました。此処は何処だろうと思ったが、少し身じろぎをしただけで折れた腕と足から激痛が走った。
 怪我を負った箇所が再び熱を持ち始める。脂汗が浮かんできた。男が必死に意識を繋ぎとめていると、男の前に頭巾で顔を隠した何者かが現れた。男は恐怖のあまり叫ぶ。
「あ、アンタ誰だよ……ここは何処だよ!?」
 目の前の人物――カーバンクルは、頭巾を外さずに答えた。
「ここは町外れの廃工場。で、お前は誰って? 名乗るほどの者ではございません」
 カーバンクルは男の前で肩を竦めてみせる。
「……でも、こうされる検討はついているでしょう?」
 男はごくりと生唾を飲み込んだ。カーバンクルは、指で男の手足を指し示す。示された先、男は自分の状況を改めて確認した。途端、声にならない声が上がる。
 男の体は車輪に固定されていた。たくさんの針が付いた不気味な車輪だ。男の手足は針の部分へ縛り付けられていた。体は大の字に開かれている。折れた腕と足も無理矢理に伸ばされていた。
「あああぁ……」
 男は我武者羅に首を振った。
「違う! 僕は悪くない!! 勝手に騙されたあいつらが悪いんだ!!!」
「……はー、救いようがないわー」
 頭巾の下、男の言い分に心底呆れたカーバンクルは、最早掛ける言葉は無しとでも言いたげに、淡々と男の腿へ鋸を刺した。
「ぎゃあああっ!?」
 突き立てた鋸をぐりぐりと回す。腿の内側が抉れ瞬く間に血が噴きだした。衣類がどす黒く染まっていく。
「うわあっ! うわあああっ!!」
 男は半狂乱だった。人目のないところへ連れてきて正解だ。煩くて叶わない。
「次はこれにしようかな、っと」
 カーバンクルが取り出したのは、巨大なフックがついた鎖だ。男の顔は真っ青を通り越して真っ白になる。
 ひ、ひ、と喉を鳴らして男は頭を戦慄かせた。汚らしい体液が血に混ざって足を伝い床へ広がっていく。
 カーバンクルは実にのんびりとした動作で、フックを男の股座へ引っ掛け鎖を車輪の後ろへ渡した。カーバンクルも車輪の後ろへ移動する。
 本来は敵を吊り上げるための武器だ。今は車輪そのものも工場内の柱や梁へ固定しているため、何かが吊り上げられることはない。
「そーれっ!」
 鎖を握ったカーバンクルは、一息に鎖を引いた。
「ああああああっ!!」
 股座から喉元まで一気に裂かれた男は、濁った悲鳴を上げた。下から真上に走った裂傷からは血が溢れ、薄っすらと湯気が立ち昇った
 本来なら即死に近い状態である。しかし、男にはカーバンクルが施した呪いが掛かっていた。男の傷はじゅくじゅくと蠢き元へ戻っていった。それでも、正気を失うほどの激痛は脳裏にこびりついたはず。あとはこれを繰り返すだけだ。
「ひ、ぎっ」
 カーバンクルは徹底的に男を痛めつけた。男の悲鳴は段々と小さくなっていく。気力をほとんど失いかけていた。
「う、うぅ……」
「おっと、まだ喋る元気が残ってるのか。じゃぁ、その女を悦ばすためだけの三枚舌も抜いちまおうか」
 ペンチを取り出したカーバンクルはふと手を止めた。舌をどうにかする際に歯が邪魔だなと感じた。手元でペンチを一回転させたカーバンクルは、男の歯をペンチで挟み込んだ。
「~~っ!!!」
 びくっ、びくっと男の体が跳ね上がる。男の口の端からは血の泡が溢れていた。歯を全て引っこ抜いたカーバンクルは、男の舌を鷲掴みにする。
「ぅぇ……ぇっ……」
「うーん……」
 力任せに引っ張ったら下顎ごと外れそうだ。で、あれば削ぎ落とした方がいい。嘔吐しそうに呻く男を無視して、カーバンクルは鋸を男の舌の根へ当てた。
「~~!! ~~!!!」
 拘束具が煩く音を立てた。男は白目を剥きながら、もうしません、もうしません、と謝り倒す。しかし、今まさに舌の根を封じられている最中の男は、言葉を発しておらず、その謝罪は男自身の頭の中で虚しく響くだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月08日


挿絵イラスト