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ハッピー・ハロウィン・パラレルシネマ

#ヒーローズアース #戦後 #挿絵

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#戦後
#挿絵


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●出演オファー
 これは、平行世界(パラレルワールド)を舞台にした作品だ。
 主人公はイェーガーでありヒーローである"あなた"。
 その世界の"あなた"には、攫われた"大切な人"がいる。
 家族か、友人か、それとも恋人か――それは人それぞれだろう。
 あなたは攫われたその人を探し、取り戻そうとしている。

 生きてまた会えると信じて、諦めることをせずに。
 どの様な手段を使っても、あなたは手がかりを得るだろう。
 とある富豪の屋敷、そこに大切な人は囚われているらしい。
 ヴィランに攫われた大勢の人たちと共に。
 強化人間へ改造する為の実験体になっているのだという。

 屋敷では今度ハロウィンパーティが行われるらしい。
 潜り込んで手がかりを探るには絶好の機会……。
 十中八九罠だ。薄々と感じながらも、あなたは行くだろう。

 けれどその先にあるのは、残酷な試練。
 自我を失った大切な人が、ヴィランに命じられるまま、あなたを襲うのだ。
 ――君なら、その時どうするだろうか。

●グリモアベース
「……というのが、大体のあらすじだ。この映画に出演する者を募集している」
 台本を見せながら、クック・ルウが説明を始める。
「舞台は平行世界のアメリカ、皆には主役の一人を演じてもらいたい」
 依頼元のイェーガームービー社は、2019年の戦争後に設立された映画会社だ。
 これまでもイェーガーを主役にした映画を撮っている為、知っている者もいるだろう。
「もともとこの会社は、映画を撮るにあたり『マルチバース構想』というものを使っていてな。平行世界にする事により、何でもありの設定で細かい事は気にせずハッピーに映画撮ろうぞ。という為のアレと映画監督は言っていた」
 イェーガームービー社は、出版、おもちゃ、各種メディアが関わっている会社なので、色々やりやすくする為の大人の事情が云々、という事らしい。

「あらすじに沿っていれば、どんな人物を演じてもらっても構わない。その世界の"あなた"はそうなのだろう。と、いう事になるからだ」

 つまりは全てifなのだ。
 何者を演じたとしても、あなたは"あなた"。
 "大切な人"は、実在の人物か、それとも架空の設定だろうか。
 いずれにせよ"大切な人"を演じる役者は、メイクやCG、あらゆる技術を使って可能な限り理想に近い人物となるだろう。
 あるいは知り合いの誰かと、そういう役を演じあっても良い。

「ハロウィンの仮装とでも思って、協力してもらえれば幸いだ。よろしく頼む」


鍵森
 この作品はフィクションです。
 という前提でifパロ映画に出演しませんか。
 難易度はやや易です。

●出演について
 他者の猟兵を登場させる場合は、合わせプレイングでのみ採用となります。
 攫われた人を演じたいというのでも大丈夫です。
 映画なので戦闘シーンは、予め手加減済み、CG等で表現されている事となります。
 健全な映画なので、ノットエロであしからず。

●あらすじ
 第1章。
 富豪の屋敷で開かれるハロウィンパーティに潜入します。
 正体を悟られないように振る舞って下さい。
 なおパーティ主催者である富豪の男はヴィランに洗脳され操られています。
 屋敷内にいる人達は仮装したヴィランです。
 黒幕は最終章に登場するので、ここでは会えません。
 攫われた人は地下にある研究所で、洗脳装置に繋がれて眠っています。

 第2章。
 大切な人との再会シーンです。
 「幸せの為には互いに殺し合わなければならない」
 そう洗脳された大切な人とあなたは戦う事になります。
 集団戦ですが、映画なので戦闘以外の行動をとっても大丈夫です。
 あなたらしい決断を行って下さい。
 なお、攫われた人々は強化人間『マギニア』のユーベルコードを使用できるようになっています。

 第3章。
 黒幕との最終決戦。
 幸福強化人間『ロイヤル・ハッピー』が立ちはだかります。
 ハッピー役は有名な女優さんが、迫真の演技でがんばります。
 ――貴方は幸せ? それとも不幸せ?
 彼女はそう問うでしょう。

●プレイング受付期間について
 1章は10/10(土)8:31〜受付開始です。
 皆様のご参加お待ちしております。
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第1章 冒険 『怪しい屋敷に乗り込むぞ!』

POW   :    メイド、執事に紛れる

SPD   :    資産家や大物のふりをして招待客に紛れる

WIZ   :    警備員として雇ってもらい潜入

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第1章
 アメリカ某所。10月31日、時刻は夜を迎えた頃。
 富豪の屋敷でハロウィンパーティが始まった。
 広々とした邸内は、到る所パンプキンカラーに飾り立てられて。
 グロテスクな装飾品が照明にあたって不気味な影を作る。
 豪勢な料理、悪趣味な音楽、目まぐるしいダンス。
 動物や怪物のマスクを被った人々が、悪夢のパレードじみた狂騒を繰り広げる。
 全員仮装したヴィランだ、とあなたは気がつくだろう。

 仮装した客人達に紛れることは、難しくない。
 使用人や、警備員の振りをしてもいい。
 正体を悟られないように振る舞いながら、あなたは"大切な人"の事を思う。
 ここは相手との関係性や自身の心情を観客に伝えるシーンなのだ。

 一方。

 厳重に隠された屋敷の地下深くにある研究室。
 病室に似た無機質で白い部屋には、機械の稼働音だけがしていた。
 無数の人々がベッドに寝かされ、不気味な装置に頭を繋がれた状態で眠っている。
 ヴィランに攫われた人達だ。
 助けを信じ、悪に屈しず、最後まで抗い抵抗しただろうか。
 眠る彼等のその心は、まだ戦っているのかもしれない。
 ベッドの上で、どんな夢を見ているだろう。
 「幸せ」を繰り返す声が、頭の中を白く染めていく。
ロク・ザイオン
……諦めるなって、言われたけど、さ。

たとえば、の、あねごは
…やっぱり、おれより小さく幼くて
けれど、そばで暮らしてきた憧れのひとで
きっとおれにいろいろなことを教えてくれたんだろう

たとえば、の、おれは
…あねごに拾われたのかな
街に隠れるけもののように、暗いところを這いまわって
やっと生きてたのかも知れない

貴方がくれた、ひとの仮面を被って
行儀よく振る舞おう
【野生の勘】を働かせ周囲を観察しながら
こどもには優しくお菓子を
……そして恐ろしい声で囁き脅かそう
逃げろ、怖いものがここに来る前に


ーーじゃあ。
「そうはならなかった話」を、
始めようか。 



 ――じゃあ。
 「そうはならなかった話」を、始めようか。

 おばけの格好した小さな子供達が、はしゃぎながら歩道を行進している。それぞれが手に持ったプラスチック製のジャック・オ・ランタンのポットには、戦利品のお菓子が詰まっていて、お祭りの夜をとびきり愉快にしていた。
 通りの向こうにある大きな屋敷に行ってみようか。そんな相談を誰が始めただろう。やめよう、知らない人の家に行っちゃいけないってママが言ってた。と別の子が言いだして「もう暗いよ、帰ろうよ」「いくじなし、せっかく此処まで来たのに」そんな、他愛もないちょっとした意地の張り合いで群れから外れて駆け出した子供を、青い瞳が見ていた。

 トリック・オア・トリート。呪文のように口の中で繰り返しながら子供は道を進んでいた。すねたように足元を見て歩くから、街路樹から現れた人影とぶつかりそうになる。「ごめんなさい!」
 慌てて謝る子供の目線からパーンアップで映し出されるのは、分厚いコートを着た炎色の髪を持つ青い瞳の女。
 彼女は穏やかな微笑みを返すと、子供に合わせるように屈んでポケットから取り出したキャンディーをポットに入れてやる。
 おずおずと子供が「ありがとう」とお礼をした。女は柔らかく目元を細めて、少しだけ顔を近づける。
「逃げろ」
 唇から発されたのは心臓が凍りつくような、警告〈アラーム〉。
「怖いものがここに来る前に」
 ゆっくり一音一音をはっきりと伝わるように発する。けれど子供相手に聞かせるにはあまりにもゾッとするような声だ。子供の目の前にある女の瞳は獣のように爛々としている。
 行け、と視線を外すようにして目が告げる。
 子供は声も出ないほど怯えた様子で、後じさり、逃げ出した。友達のいるところまで戻って、どっと堰を切ったように大きく泣き出した様子を眺め。
 ――ロクは安堵するように息を吐いた。

 ロク・ザイオンは数年前までストリートの裏路地で、息を殺しながら暮らしていた。誰にも求められず、追い払われるままに人の目に触れないように、日の当たらない場所へ行って隅で丸くなる。そうやって生きてきた。
 惨めだとも思わなかった。それが、当たり前だったから。
 暗い場所から連れ出してくれたのは、一人の少女だった。
 どうして自分を拾ってくれたのか、今でもよくわからない。
 野良猫にでも似ていたんだろうか、そんな風に思ったこともある。
 その時のロクは、人とは言えない有様だった。
 誰も彼女を人間扱いしなかったし、彼女自身すらそうだったのに。
 とにかく少女はロクを家に連れて帰った。

 家の中で途方に暮れた顔したロクと考え込む幼い少女が向き合っている。
「やることは多いわ」と少女は言い「順番に始めましょう」と手を叩いた。
 まずはじめに温かい湯で体を洗わされ。絡まっていた髪を切って、梳かした。
 服を着せてくれた。用意されたのは清潔で、新しいものだった。
 パンをくれた。皿に載った料理を、たくさん食べた。
 まともに腹を満たしたのはいつ以来だったろう。
 ベッドの上で初めて寝た。柔らかい寝床は落ち着かなくて胸が騒いだ。
 そこから目まぐるしいような日々が始まった。
 毎日が変化だ。
 言葉を教えてくれた。
 世界が広いことを教えてくれた。
 ひとを、教えてくれた。
 季節がめぐる様子と共に、ロクと少女の仲が深まっていく様子が映し出される。
 絵本を読む二人。公園で遊ぶ二人。映画を見る二人。
 最初はぎこちなかったロクの表情が、だんだんと柔らかくなって、自然な笑みが浮かぶようになってくる。憧れるような眼差しで、少女を見守るようになっていく。

 少女はロクよりも年下だったけれど。
 なんでも知っていて、嬉しそうに教えてくれて、居場所を与えてくれた。
 そうした存在をどう現したものかと考えるならば。
 あねご、なのだった。そう呼びなさい、とも言われた。
 大切な、なによりも大切な、存在になっていた。

 そんな彼女を、奪われた。

 獣の仮面を被った連中が騒いでいる。
 そこら中むっとするような甘ったるい酒の匂いがしている。タバコに混じって漂うのはドラッグの匂いか。
 パーティホールは下品なジョークが飛び交い、常軌を逸した振る舞いもそこかしこに見えた。
 給仕服を着たロクは、そんな様子にも動じず平然と仕事をこなしていく。
 今はその時ではないから、牙も爪も隠して。
 ちゃんと教えられたように、行儀よく振る舞っている。
 たとえば、のロク・ザイオンは。
 ひとの仮面を被ったけもの、なのかもしれなかった。
 けれどもその仮面は、大事に育まれたロクの心そのものなのだ。
「……諦めるなって、言われたけど、さ」
 野生の勘が告げている――もうすぐだと。
「『おれ』は、貴方に会ってもいい……、ですか……?」
 これは、もしも、の。別の世界の、ことだから。
 許しを請うような、切なく苦い声が零されて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四王天・燦
《華組》

設定

天使族の末裔を監視する組織の一員
エーデルワイス邸にドジっ子メイドとして入り込んでいた
ドジは演技なのに庇ってくれたり、こっそりお茶会をしたりする過程で惹かれてゆく

ある日、買い物から帰るとシホは何者かに攫われていた



黒ドレスで潜入
顔の左半分をマスカレイド(byTW3)で仮装
見ようによっては切れ味鋭い女暗殺者

気がかりはシホが語ったことのある『親友に磔られる悪夢』
逆を返せば『アタシがシホを殺す』予兆
そして洗脳が行われているという情報

予兆と相まってまるで宿命の時が来てしまったかのよう
洗脳装置に組み込まれ手遅れの場合は処分せよと上層部から命じられている

平穏で幸せな日々が終わる
覚悟は―できている


シホ・エーデルワイス
《華組》
攫われ役



役設定

平凡だが
偶に前世の罪と処刑の末路を悪夢で見る薄幸少女
実は天使の末裔
胸元に『聖痕』

無意識に燦へ惹かれている

黒幕が伝説の天使の力に着目し攫う



悪夢&洗脳概要

処刑場で怒り狂う群衆に罵られながら
親しいはずの人達の手で磔にされ
槍で針鼠の様に串刺しにされる

挿される度
血の代わりに燦達との幸せな思い出を映した淡い白光が零れ落ちる


誰かが囁く

大勢が幸福を得るには負の感情を受止める生贄が必要

罪深く
償う気が有り
他人を幸せにして喜びを感じる貴女は最適

前世の罪を償い
且つ
大勢を幸せにしたい?


幸せな思い出を失い罪悪感で満たされ
私が生贄になれば
皆も私も幸せになれると洗脳され

お願いです
どうか私を導いて下さい!



 黒いドレスを纏った女が壁際に立って、パーティの様子を眺めている。
 女の顔の半分を奇妙な仮面が覆っている、けれども顕わになっている面差しが、美しくも冷たく無表情なので素顔も精巧な仮面のようだった。
 まるで死を告げる不吉なカラスだと、ひそりと囁く声。
 当たらずとも遠からずだ。
 命じられるがままにどんな仕事もこなす――組織の一員。
 それが、四王天・燦の正体なのだから。

 自分がうごくまでにはまだ少し時間がある。
 仮面の奥で、燦は少しだけ過去の情景に思いを馳せた。

 広い邸宅の庭で二人の少女が秘密のお茶会をしている。
 メイド姿をした燦の隣に座るのは、天使のような少女だった。
 白い花のように清らかで、無垢で可憐な少女。
 シホ・エーデルワイス。その名を想うだけで、燦の胸は締め付けられる。
 エーデルワイス家の令嬢とメイドが親しくていると知られれば咎められるから、人目につかないように木陰に設えたテーブルに用意した椅子は二脚だけ。
「どうぞ、お嬢様」
「あら。今は名前で呼んでくれる約束よ」
「ふふ。そうでしたね、シホ」
「敬語もなしよ?」
 揃いのティーカップを持って、微笑みを交わし、楽しい会話はいつまでも途切れない。まるで麗しい絵画のような光景だった。
 ふいに紅茶のおかわりを用意しようとした燦の手に、熱い紅茶の滴が掛かった。
「大丈夫、燦」
 ドジばかりするメイドの燦を、シホは真っ先に心配をする。
 そうやって失敗を庇われたりする内に二人は仲良くなっていったのだ。
「ああ、これぐらい平気だ」
 本当はドジな振りをしているだけだとは、言えなかった。シホを監視するために送り込まれた自分の正体を、決して知られたくはなかった。
 惹かれる心さえも偽りだと、思われてしまうのが怖かった。
 シホが笑っていられる、そんな平安で幸せな日常が続いてほしかった。
 けれど。
 可愛らしい紅茶缶を見つけたから、今度のお茶会で出してみようか。なんて。
 お使い帰りの道すがら、そんな事を思っていた瞬間に事件は起こったのだ。
 物々しい邸宅の様子、慌てふためく使用人が戻ってきた燦に異変を報せる。
「お嬢様が攫われた」
 頭を殴られたようなショックに瞳は大きく見開かれる。
 買い物袋が腕から滑り落ち、鮮やかだった世界が色あせていった。
 床にぶつかった袋が、ぐちゃぐちゃになって中身を撒き散らし、潰れる音が重たく響き渡る。紅茶缶が転がっていく。
 なにもかも振り切るように、叫びだしそうになるのを堪えながら、階段を駆け上がった。胸が、ひどく痛かった。
 寝室の扉の前で立ち止まり、燦は虚ろな声で呼びかける。
「……シホ?」
 返事はない。……その日から彼女は消えてしまった。

「悪夢を見るの」
 いつだったか、シホはそう言った。
 怯えるように、そして悲しげに燦を見詰める瞳は濡れていて。
「どんな夢?」
 そっと髪を撫でてやろうとして、伸ばしかけた手を止める。偽りばかりの自分に、慰める資格はないと思ったのだ。きっと、シホはその仕草に気づかぬ振りをしていた。
 躊躇うような間があって。幽かに震える唇が、夢の内容を語りだす。
 それは――。


「貴方、天使族の末裔なんですってね」
 素敵ね。と金色の髪をした女が笑った。珍しいおもちゃを手に入れて喜ぶ子供のように無邪気に。
「面白い記憶ね。前世の罪、なんて業が深いのかしら。貴方って不幸せね」
 何度目かの実験の後、シホは別室に連れて行かれた。
 踏み込んではいけない人の心の内を無理やり暴いて、尋ねる声はやはり楽しげだ。
 女はいつだってハッピーなのだ。
「償いたいの……そう」
 スイッチを入れた音がして、途端に体が重くなって眠りに落ちていく。
 暗転。
 そこは、いつもの悪夢の中。
 怒り狂う群衆が処刑場を取り囲んで、口々にシホを責め立てる。
 親しいはずの人達は、中心となってシホを磔にした。
 もう何度目の悪夢だろう。
 これは記憶だ。どこかであった物語の結末。
 幼い頃からずっと見てきた、忘れることの出来ない悪夢。
 群衆が迫り、手に持った槍を次々とシホの身体に突き刺していく。
 ここまではいつも通りだった。けれど。

 パキン。氷に亀裂が疾走ったような音がした。

 槍の刺さった場所から血の代わりに白い光が流れ出た。
 一突きごとに抉られて、淡い白光が割れた硝子のように飛び散って消えていく。
 何が起こったのか解らなかった。
 消えていく。と悟ったのは、思い出せなくなってからで。
 お□いのティー□ップ。
 秘密の□□会。
 『□□』はじめて名前を呼んでくれた□の声。
 虫食いのようになった情景が、さらに砕け散っていく。
 こぼれていく。止まらない。
 幸せな思い出が血のように傷口からあふれて自分の中から失われていく。
 自分が処刑される苦痛や恐怖よりも遥かに上回る絶望に思わず泣き叫んでいた。
 たすけて。ごめんなさい。やめて。ごめんなさい。
 かえして。おねがい。けさないで。
「償う為ならなんでもできるでしょう」何処からかあやすような声が言う。
 あ、ああ……、う、ああ。
 これが罰……? わたしに与えられた使命……?
 許されるのなら、償えるのなら。
 できます。できます。私は、なんでもいたします。
「大勢を幸せにしたいでしょう?」
 償います。幸せにします。
 皆も私も幸せに。幸せに。
「大勢が幸福を得るには、負の感情を受け止める生贄が必要よ」何時しか天からの声のように、それは聞こえた。

 幸せな思い出を失し、この身を罪悪感で満たしましょう。
 人々の幸福を願い、全てを捧げる生贄となりましょう。
 お願いです。どうか、私を導いて下さい!

 いつしか天使は、涙を流して笑うのだ。


 対象は洗脳の実検体になっている。
 手遅れの場合は処分せよ。

 組織から下された命令は簡潔だった。
 ただの駒には思考をする権利も与えられない。
 けれど。
 あの平穏で幸せな日々がもう戻らないなら。
 いっそ自分の手で、終わらせるべきなんだろう。
 夢と同じ結末を辿ってしまう事になっても。
 この役目を他の誰かに委ねるつもりはない。
 覚悟は――できている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】
ベネチアンマスクを着け
吸血鬼の仮装でパーティ潜入

会場の隅で狂騒を眺めながら物思いに耽る
考えるのは、ひとりの弟のこと
割とぬけててヒヤヒヤさせられることも多いが
昔からいつも俺の後ろをついてきてた可愛い弟
血は繋がっていないが
俺たちの間には本当の家族以上の絆があった
俺がずっと守ってやると思っていた
そんなあいつがある日忽然と姿を消した

不審な点が多いにも関わらず
警察は早々にただの家出と結論付け捜索を打ち切った
…もしかして、警察も介入出来ないような
大きな闇に巻き込まれたのでは?
いずれにせよ
誰も役に立たないのなら俺がやるしかない
ようやくここまで辿り着いた

大丈夫だ
お兄ちゃんが絶対助けてやるからな――綾


灰神楽・綾
【不死蝶】
※攫われた人役

遠い遠い昔の夢
おじさんに手を引かれ小さなお家に来て
知らない場所、知らない人を前にオロオロしていたら
その家の男の子がにぱっと笑って俺の頭を撫でてくれた
それが彼との幸せの始まり

ある日、彼と二人で大冒険に出かけたら
うっかり迷子になっちゃって
俺は不安で泣きそうだったけど
彼はそんな俺をずっと撫でて励まし続けてくれた
ようやく家に辿り着いたら
おじさんにめちゃくちゃ怒られたなぁ

おじさんが死んじゃってからも
俺と彼は二人で一緒に過ごしてきた
「大丈夫、俺がずっと守ってやる」って言ってくれた

ああ、でもずっと一緒だったはずの
彼の顔も名前も思い出せなくて
ずっとノイズがかかっている
ねぇ、君は誰?



 弟は、ある日突然、消えた。
 最後に交わした会話は、明日の夕飯はなにがいいかとか、そういうありきたりなもので、気になる様子なんて一つもなくて。
「いってらっしゃーい」
 そうやってのんびりした声で送り出すのも、いつもと変わらなかった。
「ただの家出? ふざけんじゃねえ!!」
 あいつがそんな事する訳ないだろうが。
 黙って消えるなんてこと、する訳ないだろうが。
 梓の怒鳴る声は誰の心にも届かない。諌めるような、しかしどこか冷ややかな目が返ってくるだけだった。
「血が繋がってないんでしょう、弟さん」
 そう言われる度に全身に冷水を浴びせかけられたような思いがした。
 だから何だと言い返しても、まるで言葉が通じていないようだった。
 何も知らない連中が都合の良い解釈をして、無責任な結論を出す。
「複雑な年頃ですし。まあ、暫く様子を見てはどうです」
 そうして、あっさりと警察は捜索を打ち切った。

 誰も役に立たないのなら。
 俺がやるしかない。
 綾は、俺のたった一人の家族だ。

 華美な装飾を施したベネチアンマスクをした吸血鬼が、パーティホールの隅に佇んでいる。眇めた目でチラリと狂騒を眺めて、梓は黙り込んでいた。
 警察の態度から、弟の失踪にはなにか大きな闇が関わっているのではないかと嫌な予感がしていた。
 ここに辿り着くまで、泥の中を藻掻くような日々だった。
 なんの手がかりも得られず、ただ無力を噛み締めながら。
 ようやく手に入れた手がかりは、どこまでもおぞましくて。
 綾が。弟が、実験体?
 守ってやると言ったのに! 俺がずっと守ってやると!
 割と抜けてて、ヒヤヒヤさせる事も多くて。
 だけど昔からいつも俺の後ろをついてきていた可愛い弟。
 血の繋がりなんかなくても、家族以上の絆で結ばれた兄弟だった。
 あいつの為ならなんだって出来た。
 情報を得るのに危ない橋を渡ることも、悪人の振りをしてパーティに潜入することも、どんなことだってやれる。

 大丈夫だ。
 お兄ちゃんが絶対助けてやるからな――綾。

 この屋敷のどこかにいる筈の弟を梓は想う。
 必ず見つけてやるから。
 一緒に帰ろう、俺達の家に。


 遠い遠い昔の夢。
 俺はまだ幼くて、なにも解らない子供だった。
 大きなおじさんに手を引かれて、小さな家に連れていかれた日。
「今日からここがお前の家だ」そうおじさんが微笑んだ。
 その家にはもう一人、子供がいて。
 はじめて会った男の子は、オロオロするばかりの俺を見て、手を伸ばした。
 そのまま、いい子いい子、と頭を撫でてくる。
「だいじょうぶ」
 びっくりして眼を見張るばかりの俺に、その子はニッコリと笑いかけた。
 頭を撫でる手はやさしくて、笑顔がうれしくて。
 胸がぎゅうっとなった。
 それが彼との幸せのはじまり。

 梓は俺のお兄ちゃんになった。

 どこへ行くのも、いつも一緒だった。
 大抵、俺が後からついていくのだけど。
 梓はいつも俺がはぐれないように、気をつけてくれていた。
 歩く速度が違えば立ち止まっては振り返り、時には手を繋ぐこともあった。
「迷子になっちゃだめだぞ」
 そう言って、心配そうな顔をする。
 その度に「うん」と俺は頷くんだけど、いまいち信用されてなかった気がする。
 うちのお兄ちゃんは心配性なんだ。

 二人で大冒険に出かけたことがある。
 近所の行ったことない道を探検しようって、ずいぶん遠くまで行ったんだ。
 見たことのない景色を二人で旅するのが、楽しくて夢中だった。
 そうしたら、帰り道がわからなくなってしまって。
「綾、だいじょうぶだからな。絶対、帰れるからな」
 辺りがだんだん暗くなってきていて、梓だって怖かっただろうに。
 不安で泣きそうな俺をずっと撫でながら励まし続けてくれた。
 どこをどう歩いたのか思い出せないけれど。
 ようやく家に辿り着いたら、おじさんが飛び出して来て「心配したんだぞ」って何度も言いながら、めちゃくちゃに怒られたっけ。

 楽しかったな。幸せだった。

 おじさんが死んじゃってからも、彼と俺は二人で一緒に過ごしてきた。
「大丈夫、俺がずっと守ってやる」
 最初にあった時と同じ言葉を、ずっと言ってくれていたね。
 ぜんぶ、覚えてたよ。
 なのに。
 白い砂嵐が、浚っていく。
 声を、姿を、名前、を……思い出を。
 どうしよう。ねえ。大丈夫って、言ってほしい。
 またもう一度、頭を……ああ、なんだっけ。

 ねぇ、君は誰?

 おにいちゃんって――なんだっけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァン・ロワ
【黒】アドリブ◎
執事服に仮面

仕事だからって
その辺の奴らに飼われるのもね~
そうだ、オニーサンちょっと俺様を飼ってみない?
だって“大切な人”とは戦うんでしょ
弱い奴じゃつまんないじゃん
精々楽しませてよねオニーサン

オニーサンを飼い主(仮)に見立てて演技する
忍び込むのは得意だからね~
先ずは使用人のふりをして会場で情報を探ろうか
聞き耳を立て
情報を持ってそうなヤツを見つけたら
軽く気分が悪くなる程度の毒を少々

休むために独りになったのを見計らい
空いた部屋に連れ込んだら
ガンと壁に押し付けながら”お話”しようかな

あの人をどこにやった?
汚い口であの人の名前を口にするなよ

月蝕の手で脅す
だってこれは見世物だから
派手に、ね


杜鬼・クロウ
【黒】アドリブ◎
眼鏡
スーツ
黒マント

へェ…犬っころからンな台詞が聞けるとはなァ
上等
退屈する前に迎えに来い
あんま”主人”待たすなよ(彼のドックタグ引っ張り離し

・設定
駄犬の主人且つ架空の大切な人
高級スーツ店の店員
実はフィクサー
普段の性格と差異無
武器無
拉致られる時間帯お任せ

『…俺に何か用でも
服が汚れるので手荒な真似は止めろ…て頂けますか』
軽く抵抗
【魔除けの菫】使うがわざとヴィランに捕まる

『ココは一体
…何のコトやら
俺はしがない服屋の店員だが』

【この囚われた人達は十中八九…
俺が今暴れても事態が悪化するだけ
ココは躾がなってねェが俺の狗に任せるとするか
次に会う時は…】

意識手放す

俺の倖せ
人々が平和に過ごせる未来



 杜鬼・クロウはものごとの良し悪しを判断するのに、独自の視点を持っていると言えた。善悪とは、単純に解決できないものだからだ。
 彼が裏と表の顔を持つようになったのはいつからだろうか。
 一仕事を終えてホテルを出たクロウは、眼光の鋭さを覆うようにメガネを掛け直した。政治家絡みの揉めごとを上手く収めるのに一晩掛かったが、結果は上々だ。
 表沙汰に出来ない事件を解決したい時、彼等はフィクサーを頼る。
 クロウは優秀だった。マフィアだろうが、売人だろうが、誰であれ彼は冷静に対応する。それは表の仕事でも同じ事だ。相手のオーダー通りのスーツを仕立てるには、機転の良さと臨機応変な対応を要求された。
 仕立ての良いスーツに身を包み、黒いマントを羽織って颯爽と歩く姿はどこか近寄りがたいような魅力があって、人は自然と彼に道を譲った。
 そんなに避けなくても、とって喰ったりしねえさ。
 胸の中でひっそりと彼は嗤う。

 そうして、一日がはじまった。

 クロウの務める高級スーツを扱う店は、洗練された雰囲気を持つ由緒ある老舗だ。
 古くからの馴染みの者も多く、買い物ついでに歓談を楽しむ者も多い。
 ふいに客の一人が(背丈を測っている最中に)不穏なうわさ話を始める事も、珍しくはなかった。人はスリリングな話題を好む。
 各地で起こっている連続失踪事件はヴィランの仕業らしい。
 噂じゃあ幾つかの事件に関連性が認められたのだとか、そんな憶測が飛び交う。
 秘密裏にうごめく巨大な闇を感じさせる一件は、クロウの耳にも届いていた。
 人種、年齢、性別、消えた人々に共通点はない。
 あるとすれば――、彼等には皆、帰る場所があるということだ。
 案外、珍しい事でもある。誘拐は、身代金目当てでもない限り、消えても問題ない人間が狙われるケースが多いからだ。
 胸糞の悪い事をしやがる。
 一体、どこの誰がこんな事をするのか。
 そう考えたのは、なにかの予兆だったのかもしれない。

 店からの帰り道、複数の男たちがクロウを囲んだ。
 すぐ横の道に見慣れない車が乗り付ける。
「……俺に何か用でも」
 背中に当てられる、銃口の感触。
「車に乗れ」くぐもった声で男が命じた。マスクをしているのだろう、計画的だ。
 クロウが物怖じせずに対応しようとすると、強引に腕が掴まれる。
「服が汚れるので手荒な真似は止めろ……て頂けますか」
 一瞬荒げそうになる口調を丁寧に直しながら、クロウは男を睨めつけた。
 すると威嚇するように、耳につけた菫青石のピアスが僅かに力を放ち。
 銃を構えた男の腕が、一瞬石のように固まって重たくなる。
 はっと、息を呑む気配がした。
「ご心配なく、大人しくついて行きますよ」
 その様子をせせら笑うようにして、クロウは自ら車に乗り込んだ。
 目隠しをされ、車に揺られること数時間。
 やがて車は停まり、どこか大きな建物に連れて行かれたようだった。
「ココは一体」目隠しが外される。
「はじめまして、お会いできて光栄よ。フィクサーさん」
「……何のコトやら。俺はしがない服屋の店員だが」
 真っ白な部屋だ。
 医療室のような場所にベッドが並んで人が寝かされている。
 クロウの目の前には、女が一人立っていた。
「誤魔化すなんて、今更でしょう。唯の店員は、そんなピアス持ってないわ」
 小さく女は笑った。始終笑っているような様子だ。
 クロウは鼻を鳴らして、押し黙る。これ以上情報を与えるのは得策ではない。
 女の事は知っている。ロイヤル・ハッピー、イカれたサイコパス。
 ああ。成程。おおよそ理解できた。
「私の実験室にようこそ、貴方を歓迎するわ」
 お断りだと言いたいところだったが。
 目に映るのは囚われた人々が寝かされたベッドだ。
 この状態で抵抗すれば、事態は悪化するのは明白。
 ならば。
「俺を連れてきた事、後悔するぜ」
 あえて、この場は待遇を受け入れてやろう。
 首筋に注射を打たれて、意識が暗く閉じていく。
 脳裏に浮かんだ面影に口元は薄く笑んでいた。

 ココは躾がなってねェ俺の狗に任せるとするか。
 次に会う時は……――。

 かくして。

 彼の意識は夢の中へと沈んでいった。
 人々が平和に過ごせる未来。
 俺の倖せ。
 それが、俺の、望んだ……。


 ヴァン・ロワは自分の主人を探していた。
 どうせわざと捕まったのに決まっている。まったく困った飼い主だね。
 飄々とした態度には動揺がない、むしろこの状況を楽しんでいるようにも見える。実のところの本心なぞ、誰も知らなくても良いのだから。
 忍び込むのは得意とするところ。あっさりと屋敷の使用人のふりをして潜り込むと、パーティ会場に目を光らせた。
 狼の耳をピンと立てれば、どんな些細な情報も聞き逃すことはない。
 碌でもない馬鹿騒ぎの喧騒から、役立ちそうなワードを拾い上げていく。
 地下。例の件。時間。処刑ショウ。殺し合い。
 気になったのはこんなところだろうか。
 物騒極まりない発言が多い。
 ヴィラン共の悪巧みは、パーティ客共通のお楽しみという事らしい。
 さあて、どいつが当たりだろう。

 "この実験が上手くいけば一儲けできるな"

 そう呟いてほくそ笑む男に、ヴァンは近づき銀盆に載せた酒を差し出す。
 特製の毒入りカクテルだ。効果はすぐに現れるだろう。
 軽く気分が悪くなる程度だが、見る間に顔を青くさせた男がパーティホールを出ていく。素知らぬ顔で後を追って。
「お客様、ご気分が優れないようなら、こちらの部屋でお休みになっては如何です」
 そんな優しい言葉を掛けながら、介抱するようなふりをして、空いた部屋の中へ男を連れ込む。
 中でじっくり"お話"しようか。
 扉を閉めたら、男の胸ぐらを掴んで乱暴に壁へ叩きつける。あーあ、口を閉じなよ、舌噛むぞ。ほら、静かに。俺様の話を聞け。質問にだけ答えろ。
 拷問? いえいえ、とっても穏やかな話し合いだ。
 なあ、アンタ、知ってるんだろう――?
「あの人をどこにやった?」
 脳髄に恐怖を叩き込むような唸り声。
 飄々とした笑顔はとっくに消えている。無表情にも似た、冷えた怒りの相貌をして。炯々とした眼だけが猛獣のように鋭い。
「誰のことか解らないって? あ、そう。じゃあ順番に言ってみろよ」
 ちがう。ちがう。その名前じゃない。多いなあ何人いるんだか。
 ……。……。……。――ははっ。
 お前さ。
「汚い口であの人の名前を口にするなよ」
 キリキリ、狂気は渦巻いて。影の中に潜む眼が、次々と開いていく。闇に睨まれるってどんな気分。あ、気絶した。それならもう手を伸ばそう、闇はどこまでも広がって、あの人を探すんだ。
 派手にやろう、どうせ刻限だ。

 忠犬と狂犬は紙一重なのかもしれない。
 狼を飼いならすのは難しいけれど、唯一の人になったのなら。
 精々楽しませてよね、オニーサン。


●Off the record
「オニーサンちょっと俺様を飼ってみない?」
 ヴァンがそう声を掛けたのは、オファーがあって暫くのこと。
「へェ……犬っころからンな台詞が聞けるとはなァ」
 クッ、と喉を鳴らして笑うクロウは、言葉の重みを知らぬ訳でもないゆえに、どういう風の吹き回しだと睨めつけるような視線を投げる。ヴァンは肩を竦めてみせた。
「仕事だからって、その辺の奴らに飼われるのもね~」軽い調子で言い。
 渡された台本を流し読むように捲りながら、悪戯っぽく笑う。
「だって“大切な人”とは戦うんでしょ。弱い奴じゃつまんないじゃん」
「上等」
 そういうことなら。演じてやるのも面白い。
「退屈する前に迎えに来い」
 クロウはヴァンのドックタグの鎖に指を入れて引っ張り離し。
「あんま”主人”待たすなよ」
 目元を微かに緩めて片笑んだのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『強化人間『マギニア』』

POW   :    コード・ブラスト
【周囲の空気を自身の周囲に収束する】事で【暴風操縦モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    コード・エゴ
自身の【微かに残っていた自我】を代償に、【自身に掛かる数十倍の重力】を籠めた一撃を放つ。自分にとって微かに残っていた自我を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
WIZ   :    コード・グロウ
自身からレベルm半径内の無機物を【太陽光】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第2章
「Happy Happy Halloweeeeeeeeeeen!!」
 突如、パーティの客人達が口々に叫びだす。
 仮装した客人は、ヴィランとしての本性をさらけ出し。
「イタズラしようぜ! Trick or Trickだ!」
「悪夢をはじめよう! 幸せな悪夢を!」
「やっと会えたその人を抱きしめて死んでいけ!」
 狂った猿のように囃し立てる声が屋敷中に響き渡る。
 不愉快だろうけれど。
 戦う相手は、この悪趣味なヴィラン達ではない。
 あなたの前に、影が現れる。
 見覚えのある姿は、そのままに、しかし傀儡となり果てて。

 幸せ(殺せ)。幸せ(殺せ)。幸せ(殺せ)。
 ……仕合せ(殺しあえ)!

 頭の中で繰り返される声に操られた、あなたの大切な人。
 身体を強化するため植え付けられたコードは凶刃となり。
 幸せを望むその顔は、慈しむような表情かもしれない。

 あなたは、どんな選択をするだろうか。
灰神楽・綾
【不死蝶】
かつてあの人が俺に言ってくれたんだ
「大丈夫、俺がずっと守ってやる」って
その言葉だけで俺は幸せだった、けど、いつからか
「守られるだけじゃなくて
俺もあの人を守れるだけの強さが欲しい」
って思うようになった
幸せの、その先を欲しがるようになった

殺せば殺すだけ強くなれるって聞いた
強くならなきゃ、俺はあの人の元へ帰れない
だから…邪魔しないで
ナイフを構え、暴風を纏い

目の前の彼が「あの人」であることも認識出来ないまま
唯一消えなかった想いだけを胸に彼に襲いかかる

一撃目が成功し、すかさず二撃目…のつもりが
一瞬の隙をつかれ俺は彼の腕の中に

――あれ?この声、この大きな手は…?
そして、俺の意識は途切れた


乱獅子・梓
【不死蝶】
ずっと探していた弟、綾がそこに居て
だが様子がおかしい
あいつの言う「あの人」はもしかして…?
あいつの言葉が洗脳ではなく本心なのだとしたら
俺の一方的な想いが今回の悲劇を招いたのか…?

ああクソ、落ち着け俺
俺のすることは変わらない
あいつと一緒に家に帰るんだろう…!

一撃目は敢えて喰らってやろう
だが二撃目はそうはいかない
仮初の力で強化されたって
お前の動きや癖はお見通しだ
何年一緒にいると思ってんだ
全神経を集中させ綾の攻撃を躱し
腕を引いて抱きとめる

……遅くなってごめんな、もう大丈夫だ
優しく囁き、頭を撫でてやる

そして、一発喰らわせ気絶させる
めちゃくちゃ心が痛んだが…
まぁ初めての兄弟喧嘩みたいなものだ



 一変した屋敷内の様子に梓は身構えた。
 そこへ人混みの中から人影が現れて。
 ぐるりと部屋を見回す視点が、吸い寄せられるように止まる。
「……、……綾?」
 見間違えるはずもない。ずっと探していた弟が、そこにいる。
 仮面を脱ぎ捨てて、梓はたまらず叫んでいた。
「綾! 無事だったんだな!」
 答えはない。
 黒い髪を揺らして、綾は微笑んでいた。
 距離を詰めるように、ゆっくりと近づいて来る。
 様子が、おかしい。
「おい、……俺がわからないのか?」
 見ているものが、信じられなかった。
 目の前に、弟がいる。やっと会えた、たった一人の家族。
 それが。
 その手にナイフを握っている。
 鋭く尖った切先を、こちらへ向けて。
 まるで、夢見心地のように蕩けるような瞳は遠くを見ている。
 綾の唇が開いて、滔々となにか語り始めた。

「あの人が俺に言ってくれたんだ。『大丈夫、俺がずっと守ってやる』って」
「あの人……?」
 訊ねても、それには答えず綾は話し続ける。
「その言葉だけで俺は幸せだった」
 消えなかった想いを、伝えるように紡ぐ。
 目の前にいる人が誰なのかもわからずに。
 掛けられる声も綾にはよく聞こえない、風の音が邪魔をする。
「守られるだけじゃなくて。俺もあの人を守れるだけの強さが欲しい」
 轟、と風が起こって部屋中を走り巡った。
 俺の力、幸せになるための力。
 足りない、こんなのじゃ、まだ。
「殺せば殺すだけ強くなれるんだ……」
 そう教えられた。だからナイフを構えて、踏み出す。
「もう俺は、後ろをついていくばかりの子供じゃない。あの人の、隣に立つんだ」
 目の前にいるものを切りつけていく。
 避ける人影を追いかけて、何度もナイフを振る。
 躱さないで、お願いだよ。
「強くならなきゃ、俺はあの人の元へ帰れない」
 幸せの、その先が欲しい。
 帰るんだ。帰るんだ。絶対に帰るんだ。
「だから……邪魔しないで!」
 悲痛な叫びが、響き渡る。

 どこまでも歪まされて、なのに。
 語る言葉はきっと本気なのだ。切なく、狂おしいほどに。
「俺のせい、なのか……?」
 梓は愕然とする。
 自分の一方的な想いが、弟を追い詰めていた。
 この悲劇は全部「弟を守る」という気持ちが引き起こした。
 そんな思いが胸を渦巻く――だが。
「ああクソ、落ち着け俺」
 挫けそうになる心を律して、歯を食いしばる。
 それが真実だとしても、することは変わらない。
 あいつを連れて、一緒に帰るんだ。
 決意は、固く。
 振り下ろされるナイフの軌道を読みながら、間合いを詰める。
 避けるばかりだった梓の動きが変わり、綾はとっさにナイフを横薙ぎに奮った。
 構わずに体を当てるように一撃を受けた梓の腕を、刃が切り裂く。
「あ……」綾は息を呑んだ。
 視界に鮮血が飛び散る光景が網膜に焼き付くように広がっていく、警鐘を鳴らすサイレンの様に軋むような痛みが頭の中を駆け巡った。
「これは俺が望んで……でも……?」
 ほんとうに、そうだっただろうか。
 刺された梓よりも、綾の方が苦しげな顔をしている。
 それでも想いが強いばかりに、身体は動く。止まらない。
 とどめを刺そうとナイフを心臓へ突き立てようとしてしまう。
 しかし、その手を梓が払い除ける。
「何年一緒にいると思ってんだ……お前の動きなんてお見通しなんだよ!」
 梓は、吠えた。
 痛みも、苦しみも、全てが遠のく。
 全神経を集中させて、体をねじ込むように懐に飛び込む。
 腕を伸ばして、絶対に離すまいと強引に手首を掴んだ。
 そのまま抵抗する動きを許さずに、腕を引いて胸に抱きとめるようにして引き寄せる。もつれ合うように二人の身体は折り重なって。
 ようやく、取り戻せた。と梓の胸に熱いものがこみ上げてくる。
「綾」
 抱きしめる手に力を込め、耳に唇を寄せるように頭を近づけると。
「……遅くなってごめんな、もう大丈夫だ」
 やさしく囁いて、梓の手が綾の頭を撫でていく。
 綾は、動けなかった。何かが、自分の中で重なって、蘇ってくる。

 ――あれ? この声、この、大きな手は……? 
 ――……俺、知ってる。

 放心した表情を浮かべた綾の手から、ナイスが滑り落ちていった。
 次の瞬間。
 トンッ、と意識を断つ衝撃に視界が閉じていく。
「……い、ちゃん……」
 かすれた声が、こぼされて。
 力を失った体が崩れるように、梓へと倒れかかっていく。
「二人で、家に帰ろうな」
 気絶させるための一撃を放った梓だが、心が痛い。
 眉を八の字にして、泣くような笑うような、そんな表情になりながら。
 大きな子供を抱えるように綾を抱きしめて、梓もゆっくりと床に膝をつく。
「まぁ。初めての兄弟喧嘩みたいなものだよな」
 大きく息を吐いて、すこしだけ瞳を閉じる。
 起きたら話をしよう、伝えたいことがたくさんあるんだ。
 お前と、これからも一緒にいたいから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
「あねご」
向けられた貴女の顔は
きっといつもどおり、やさしくて
今からおれを殺すなんて信じられないくらい。

「あねご」
なぜおれを拾って、言葉を、世界をくれたのですか。
退屈の、気まぐれでしたか。
憐れみでしたか。
ただ、さみしかっただけですか。

「あねご」
おれは貴女のしあわせになれていましたか。

おれはひとだから。
愛するひとに向ける牙も爪も、持ってないんだ。
だから貴女と無理矢理でも【手をつないで】
どうか、この、ひどい声が届きますように
喉が枯れて裂けるまで、貴女を呼ぼう

「あねご
おれと一緒に、きてください」



 ロクの瞳には諫早、ただ一人の少女しか写らない。
 パーティホールに現れた少女は、人の群れをすり抜けるようにして歩いてくる。

 確かな足取りを見て。
 青い瞳がゆるゆると光を帯びていく。
 生きている ――そう、思った。
 少女はロクの姿を探して辺りを確かめ、見つけると目を細めて笑った。

 優しい顔をしていた。
 まるで何もなかったのでは無いかと思いたくなる程に。
 いつもと変わらぬ、そんな笑顔だ。
 けれどその身体は、何か異質なものの匂いがしていて。
 首筋の毛が逆立つような、気配を感じる。
 少女はロクへと手を翳してみせた。
 風の音がしたと思うやいなや、胸を弾くような衝撃があった。
 この風はあの手から放れたものだろう。
 でも。
 それが、なんだというのだ。
「あねご」
 大事に育てられた動物が大好きな人の元へ駆けていくように。
 なんの躊躇も、迷いもなく、ロクは少女へ近づいていく。
 風に、髪の先が弾かれた。
「あねご」
 怪我は、ありませんか。
 お腹は空いて、いませんか。
 寒くはありませんか。暑くはありませんか。
 風が頬を掠めて血が少し出た。
「あねご」
 おれはひどい声をしているから、全部を口には出せないけど。
 話したいことが沢山あって。
 聞きたいことも沢山あって。
「あねご」
 明日を求めて叫ぶように進んで、ようやくここまで辿り着きました。
 喉が枯れて叫ぶまで、貴方を呼んでいました。
「あねご……」
 目の前にまで迫ると、少女は手を翳したまま動かない。
 せめぎ合う二つの意識に戸惑うような、表情をしながら。
 傷つけてしまったロクを見上げる瞳は悲しげに揺れている。
 安心してください、とロクは穏やかに微笑みかけた。
「おれはひとだから」
 愛するひとに向ける牙も爪も、持ってない。
 ゆっくりと相手が怯えないようにひざまずく。
 恐る恐ると触れ、その手を両手に包み込むように握って繋いだ。
 温もりに、涙がこみ上げてきそうになった。

「あねご」
 なぜおれを拾って、言葉を、世界をくれたのですか。
 退屈の、気まぐれでしたか。
 憐れみでしたか。
 ただ、さみしかっただけですか。

「あねご」
 おれは貴女のしあわせになれていましたか。

 手の甲に額を当てるように俯くロクの表情は写らない。
 肩が震えて、鼻を啜る音がしている。
「ロク」
 少女が、応えた。
 ロクは声は出さずに。ただ、額を手に擦り付けるような頷きを、一度、二度。
「来てくれのね」
 生きたぬくもりがあった。耳には心臓の鼓動が伝わってくる。
 まやかしではない血肉の通った人間の息遣いをしている。
 "この子"は病んでいる匂いをしていない。
 人間としてそこに在る、だから。
「大丈夫……ロク」
 その小さな声に背中を押されるままに、言葉を紡ぐことができる。
 息を吸う。
 上手く呼吸が出来なくて、まるで陸に打ち上げられた魚の気分だ。
 喉を締め付けられたように言葉が上手く出てこない。
 それでも、振り絞るように声を出す。つっかえながらも、懸命に。

「あねご、おれと一緒に、きてください」

 いつか言いたかった言葉。
 けれど言えないままになってしまった言葉。
 どうしてもあなたの答えは俺には考えられなくて。
 別の世界のあなたに委ねる事をどうか、ゆるしてください。

 沈黙があって。

「……連れて行って、ロク」

 やがて零されたのは、耳に触れるようなやさしい声。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァン・ロワ
【黒】アドリブ◎
ヴインテ:映画用の偽名。クロウはまだ本名知らない

ご主人様から迎えに来てくれるのはうれしいけどさ~
せめて会えて嬉しいの表情くらい
作ってくれてもいいんじゃない?
軽口を叩き応戦する
俺様がアンタの邪魔になるなんて万に一つもないはずだよ
そうなる前に消えちゃうからね
剣はまともに受け止めずクロス・クロで力を受け流す形でさばいて
足りないところは影の手で補うけれど
ああ…面倒だな
この人相手じゃ得意の毒も使えやしない
フェイント混じりは得意だし
簡単には引っ掛からないけどさぁ
攻め手に欠ければ結果は見えてる

ほんと、俺様もそう思うよ
アンタに刺されるなら、それも悪くないなんて

取り戻したんだからちゃんと褒めてよ


杜鬼・クロウ
【黒】

『鼻が鈍ったか
遅い
俺から出迎える羽目になった

彼らの倖せの為に
俺が願う平和の為に

お前は用済みだ(ノイズ混じりで嗤う』

ネクタイ緩め【誓炎誇謳】使用
炎刀で無駄一つない攻撃
スーツ汚さず
単調な攻撃と見せかけフェイント
花炎で彼を囲み一斉業火

『弱い
この程度か
生半可な攻撃では俺は殺せないと解ってるだろ
お前ともあろうものが…只の仔犬に成り下がったか
”ヴインテ(愛する俺の狗)”』

蠱惑的に愛(どく)囁き
蝕むは誰の心か
見えぬ鎖で縛り
優しく甘く胸に抱く

狂笑の渦
やみの眸に映す
洗脳解け
自分が刺した血染めの駄犬見て驚愕

オイ
…おい
何寝転んでやがる(肩揺すり
誰が先に逝けっつったよ…ッ!

こういう時だけイイコぶるなや、クソが…



 部屋の中に入ってきた男を、ヴァンは影の中から見詰めた。
 彼が現れたことに驚きはない、もう気づいていたから。
 それでも手放しでは喜べない状況だ。
「鼻が鈍ったか。……遅い」
 言い訳も許さない、絶対的な口調も。
 皺一つ無いスーツを着こなすその姿も、普段とあまり変わらない。
 ただ。
 じりじりと殺気立つ空気が、肌を舐めるように張り詰めていく
 再会の雰囲気は、とても穏やかとは言えなかった。。
「お陰で俺から出迎える羽目になった」
 クロウの冷ややかな眼差しが、ヴァンを一瞥する。
 けらり。笑って。
「ご主人様から迎えに来てくれるのはうれしいけどさ~」
 どう見ても正気じゃないご主人様の様子に、やれやれ仕方ないなあとため息を一つしてみせる。
「せめて会えて嬉しいの表情くらい、作ってくれてもいいんじゃない?」
 不遜な態度にネクタイを緩めて首元を寛げながら、クロウは瞳を細めた。
 喉を鳴らして愉しげに嗤う声に余計なノイズを混じらせて、
「お前は用済みだ」
 そう、首を掻っ切るジェスチャーと共に告げる。
 ああ、これを"仕込んだ"連中はまるで解っていない。
 ヴァンは可笑しくて、大声で笑いたくなった。
「俺様がアンタの邪魔になるなんて万に一つもないはずだよ」
 この関係は、唯の主従じゃない。
 部屋の真ん中を横切って、距離を詰めながら囁きかけた。
 その声は、誰にも聞き取れないほど低く。
「――そうなる前に消えちゃうからね」
 知ってるだろう、ご主人様。
 見詰める瞳にも、眉一つ動かさずに。
「彼らの倖せの為に」
 クロウは嗤う。
「俺が願う平和の為に」
 謡うように、祈るように、唱えながら。
 炎を喚んだ。
「燃えろ、花炎」
 クロウの手から噴き出すように紅蓮の炎が起こり、唐菖蒲の形をして咲き誇る。
 炎は刀となってその手の中に収まり、燃え立つ刀身を灼灼と輝かせた。
「ああ……面倒だな」ヴァンは呟く。
 クロウと対峙して、はじめて面白くなさそうな顔をしている。
「こんな時ぐらい俺の事だけ考えてよ……ほんと煽り上手だよね」
 熱風を纏った一閃が繰り出されると、ヴァンは踏ん張りのきく方の足を使って後方へと飛びのき、すんでのところで躱した。
 間を置かず次の斬撃がくれば、今度は受け流すようにして、身体を反らして避ける。そして全身に闇を纏い、素早く横をすり抜けて相手との位置を入れ替えながら、ダンスでも踊るように防戦を続けた。
「弱い――この程度か」
 クロウの口元に、恍惚とした蠱惑的な笑みが浮かぶ。
 一糸乱れぬ無駄のない動きで立ち回り、確実にヴァンを追い詰めていく。
「もっと愉しませてくれると思ったんだがな」
「そんなに飼い犬に手を噛まれたいの?」
 ヴァンは息をつく暇もなくステップを踏む。
 搦手にも対応できるとは云え、攻め手に欠けた状態では当然、戦いは一方的になぶられるような形だ。
「生半可な攻撃では俺は殺せないと解ってるだろ」
「はいはい、その通りだよ」
 殺してくれとでも云うのか、この人は。
 毒も使わない優しい俺様の心遣いを何だと思ってんだろ。
「お前ともあろうものが……只の仔犬に成り下がったか”ヴインテ(愛する俺の狗)”」
 ピン、と狼の耳が反応する。
「ほんと、俺様もそう思うよ」
 アンタに刺されるなら、それも悪くないなんて。
 甘ったるい事を想うぐらいには。
「気に入ってるんだよね、アンタのこと」
「……もういい、灰になれ」
 振るう腕から唐菖蒲の花弁をした炎が舞い上がり。
 ヴァンの周りを囲い業火を生み出す。
 炎の渦に巻かれて、ヴァンは息を吸って大きな声を上げた。
「俺様さあ、一つだけ言いたいことがあるんだよねー!」
 世界の平和。誰かの幸せ。
 わざと悪い顔してみせながら、いつもそれを願っている。
 優しい、優しい、ご主人さま。
 でも。
「そうやって、誰彼構わず優しくしてさあ」
 床を蹴って、飛びかかる。
 闇を纏った狼が捨て身で襲いかかるのだ。
 床に押し倒すぐらい訳もなく、覆いかぶさって冷たく囁く。
 珍しく本気で怒りを覚えているのだと、自分でも意外に感じながら。
「自分が傷つけばいいって思ってんの?」
 勝手に連れ去られて、思考まで弄られてさ。
 それでもまだ、そんな風に赤の他人のことばかりで。
 ねえ。

「――俺が平気だと思った?」

「なにを」
 クロウは二の句を継ぐ事ができなかった。
 血の匂いに視界が揺れて、眠っていた意識が叩き起こされる。
 何かを合図にして催眠が解かれたように。
 明滅するように思考力が戻ってくると、クロウは息を呑んだ。
 炎刀がヴァンの身体に突き刺さり、床に横たわったまま動かなくなっている。
「オイ……おい」
 肩を掴んで揺さぶっても、返事はない。
 吐き気がする。
 自分の手が血に染まっている、どうしてなのか考えるまでもない。
「何寝転んでやがる……誰が先に逝けっつったよ……ッ!」
 スーツが汚れるのも構わずに抱き起こそうとするクロウの姿に、ヴァンの口元はうっすらと笑った。

 怒らないでもいいじゃない。
 取り戻したんだからちゃんと褒めてよ。

「こういう時だけイイコぶるなや、クソが……」
 悪態を吐く声は震えている。
 ヴインテ。ヴインテ……。目を開けろ。
 繰り返す声だけが、部屋の中で小さく響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
《華組》


洗脳と同時に天使へ覚醒
真の姿の様な姿になる

ヴィランの戦闘員に命じられ【霊装】で憑依

翼を得た戦闘員は派手に脇役のヒーロー達を一蹴

化け物!殺せ!等と罵られ
悪夢に似た光景に心が軋むも
大勢を幸せに導く必要な犠牲だと囁かれ洗脳が深まる

どうか…私だけが人々に憎まれ
最後に討たれる事で
負の感情が発散されますように


なぜ彼女は攻撃しないの?
彼女が傷つくのは心が騒ぐ
知らない人なのに?

私は彼女に愛されている?

木陰のテーブル…


燦の声で記憶が蘇り

ダメ…燦を傷つけて大勢を幸せに導くなんて私には出来ない!

憑依を解除し戦闘員から離れるも
黒幕に再度捕まり強力な催眠術で強引に【霊装】で憑依させられ
自我を封じられる

燦…私を…


四王天・燦
《華組》

短剣で流れるように雑兵を倒すが不意に硬直

直感―愛の力でシホを、霊装を感じ取る
天使の力?
手遅れか

覚悟はしてる
ドレスを破り、仮面も捨て身軽となりギャンビットで仕留め…られない
胸に飾るシホから貰ったエーデルワイスと、想いが捨てられず鋭さを発揮できないどころか刃を落とす

無理だ
だってアタシの心はもうシホのもの
今まで正体を偽ってごめん―

罵倒するヒーローを裏拳一発で倒す
黙れ…正義も平和も要らない
シホだけが欲しい!

血塗れ満身創痍
気付けの錠剤を過剰摂取して意識を繋ぎ只管シホに訴える
目を醒まして
またお茶会しよう
良い紅茶があるんだ
あの狐柄のカップで
思い出してよ!

本当の覚悟…アタシはシホを『絶対連れて帰る!』



 さあ、天使様。
 そのお力を与えて下さい。
 多くを殺(幸せに)して、処刑される為に。

「ええ……わかりました」
 言われるがままに、覚醒した天使はヴィラン達に白い翼を与える。
 大勢を幸せにしましょう。
 白い翼を持つヴィランを率いて、シホは歩き出す。
「それが、私のすべき贖罪」
 化け物! 殺せ!
 取り囲む人々が、心無い言葉を浴びせてくる。
 それは現実の光景だろうか、それとも夢の続きだろうか。
 シホには、もうわからない。
 罵声を聞く度、彼女に掛けられた洗脳は深まり、心を蝕んでいく。
「どうか……私だけが人々に憎まれますように」
 願いは純粋であるが故に、残酷なほど優しく。
「最後に私が討たれることで、大勢が幸せになりますように」
 すべての仕打ちを受け入れ、善を成そう。
 だから、憎んで下さい私を。
 負の感情を注がれて、はじめて役目を果たすことが出来るから。
 そうすれば、きっと。
 許されるの。

「シホ……?」
 短剣でヴィランを切り倒し、燦は体を硬直させた。
 冷たい汗が背中を伝う。
 予感がした。もう、手遅れなのだと。
 理屈ではなく感じ取った、この気配は間違いなく彼女のもの。
「庭の方か」
 窓ガラスを叩き割って外へ飛び出し、邪魔な仮面を捨て、ドレスを破って身軽になった燦は弾丸のように駆け出していく。
 きっと、チャンスは一度きりだろう。
 奇襲が失敗すれば、再びの接近は許されない。そういう相手だと、解っている。

 屋敷の庭で白い翼を広げた天使が、軍勢を引き連れて飛び立とうとしていた。
 燦は気配を消し、旋風のように軍勢の間をすり抜けていく。
 気づかれるはずなんてなかった、後方斜めからその喉元を狙って距離を詰める。
 けれど。
 あと少しで届くという距離で、シホは静かに振り向いた。
 天使は微笑んでいた。
 燦の殺意もまた、彼女にとっての救いであり願いだ。
 両手を広げてダガーの一撃を受け入れようとする、その姿に燦の背筋が震えた。
「無理だ」
 だってアタシの心はもうシホのもの。
 殺せる訳がない。
 殺せる訳、ないじゃないか!
 ダガーの切先は空を切って、止められる。
「今まで正体を偽っててごめん――シホ」
 謝罪の言葉に、シホはキョトンと瞳を瞬いた。
 なんのことなのか、まるでわからない。
 でもとても苦しげに、彼女は泣きそうな顔をしていて。
 だから。幸せに、してあげたくて。

 シホは燦の身体を翼で包み込むように覆い。
 やさしく撫ぜるように――切り裂いた。

 血飛沫を上げ、燦は吹き飛ばされたように地面に転がる。
「ぐっ……ゲホ……ッ!」
 訓練された身体は咄嗟に反応し、致命傷を避けていたが全身に激痛が走った。
 よろめき立ち上がるその背後に、声が掛かる。
 "あれはもう手遅れだ。解っているだろう"
 そう言ったのはヒーローらしき男だった。事情を知るような様子から、燦のいる組織の一員なのかもしれない。シホの力が起こす影響を考えれば、念を入れて監視されていたのだとしても、不思議ではなかった。
 "始末しろ、燦。正義と平和のために"
 その言葉に怒りがこみ上げ激情のまま、ヒーローの顔面に拳を叩き込む。
「黙れ……正義も平和も要らない!」
 もう組織なんてどうでも良かった。
 燦は心の底からの願いを叫ぶ。
「アタシは、シホだけが欲しい……!」
 気付けの錠剤を口に放り込み、噛み砕いて無理やり摂取しながら、満身創痍の身体を奮い立たせる。過剰摂取による反動なぞ、どうでもいい。
 声が出れば、それだけで充分だ。

 今度はちゃんと話しかけるから、聞いてほしい。
 アタシの、覚悟を。
「シホ」
 傷ついた身体を引き摺るようにして、燦は歩き出す。
 シホは茫洋とした眼差しを向けて、立ち竦んでいた。
 燦を傷つけた感触に、酷い動揺を覚え、震えているのだ。
 大丈夫だよ、と燦は笑顔を浮かべてみせた。
「目を醒まして、またお茶会しよう」
 その言葉に、心臓が大きく跳ねる。
 燦に手を出そうとする軍勢を押し留めて。
 シホは意味もわからぬまま、じっと耳を傾けた。
「良い紅茶があるんだ」
 やさしい、声。

 なぜ彼女は攻撃しないの?
 傷だらけの姿に心が騒ぐのは何故?
 ……知らない人、なのに。
 どうしてそんなに優しい瞳で私を見るの。
 ……。
 私は彼女に愛されている?

「あの狐柄のカップで。そうだ、お菓子は何がいい?」

 明滅するように脳裏を過る、この景色は。
 お茶会をしている、あなたと私。
 木陰のテーブル……二人だけの秘密。
 零れてしまった白光の輪郭が、形を取り戻していく。

「――思い出してよ! シホ!」
「……あき、ら」
 そうだ。それがあなたの名前。
 どうして忘れていたんだろう、こんなに大事なことを。
 使命なんかよりも、ずっとずっと大事なことなのに。
「ダメ……」
 ヴィランに与えた翼を消し去る。
 私は天使になんてなりたくない、あの悪夢の続きはもう見たくない。
「燦を傷つけて大勢を幸せに導くなんて私には出来ない!」
 天使であることを拒絶しようとしたシホの頭の中に声が響いた。
 ――許されないわ、貴方は不幸せな化け物なんだから。
 脳裏に仕込まれていた覚醒を促すためのトリガーが発動する。
 強力な催眠が、シホを再び悪夢の中へ閉じ込めようとしていた。
「燦……私を……」
 どうか、止めて。
 再び失われそうになる自我を懸命に保ちながら、必死に言葉を紡ぐ。
 まるでそれが最後のお願いだというように。
「そんなのいやだ!」
 燦は、必死に腕を伸ばした。
 彼女が絶望の底へ落ちていくのを止めるために。

 本当の覚悟……。
 アタシはシホを『絶対連れて帰る!』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『幸福強化人間『ロイヤル・ハッピー』』

POW   :    貴方に幸せを与えているのだから、感謝してよね
自身の【幸せ】を代償に、【聖なる衝撃波】を籠めた一撃を放つ。自分にとって幸せを失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    貴方は幸せ?それとも不幸せ?
対象への質問と共に、【自身の幸せエネルギー】から【幸せバディの群れ】を召喚する。満足な答えを得るまで、幸せバディの群れは対象を【刃物による集団奇襲】で攻撃する。
WIZ   :    私を不幸にさせるなんて、許さない
自身が【不幸】を感じると、レベル×1体の【自分のコピー】が召喚される。自分のコピーは不幸を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠海屋・福実です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「もういいわ。全員始末して」
 女はそう言って通信を切った。屋敷の中は騒然となるだろう。
 ――けれど足止めにもならないかもしれないわね。と唇の端を吊り上げる。
 屋敷の地下にある無機質な白い部屋には機械とベッドが並び、壁を埋め尽くすようにモニターが並んでいた。実験体の様子を、彼女はずっと此処で観察していたのだ。
 ヴィラン――ロイヤル・ハッピー。
 女は、誰よりも幸せを求め、望んでいた。
 けれど幸せの形は、人それぞれなのだという。
 だから、サンプルが必要だった。
「人はいつ幸せを感じる?」
 「会いたい人に会えた時?」
  「大切な人の願いを叶える時?」
 それを知りたいが為に、事件を起こしたのだと謡うように笑いながら。
 すべてを終わらせるためにやって来たあなた達を迎えるだろう。

「ねえ! 教えてよ、今――あなたは幸せ? それとも不幸せ?」

 狂乱の果てにあるものは、破滅なのだと教えてやらねばならない。
 クライマックスを始めましょう。
ヴァン・ロワ
【黒】アドリブ◎

…わん
何その顔
わざわざ返事してあげたんだから
ちゃ~んと褒めてよねご主人サマ
【命の逆さ時計】の闇で傷口を覆い隠し
無理やり体を動かす

俺様が幸せかどうかはこの後ご主人サマがご褒美をくれるかにかかってるんだけど
クロウをみて口のはしを吊り上げて

クロス・クロ構え
ご主人サマの攻撃がバッチリ決まるように隙を作りにいく
姿勢を低く速く駆け
敵の攻撃を見切り避けたら
機動力を削ぐために脚を貫くように

幸せだよ
名前を呼んでたあの瞬間
あの人の頭には俺しかいなかったんだから
そんな状況を作ってくれてありがとう~
なんて、ご主人サマに聞こえないよう囁いて
月蝕で捕縛

ご主人サマの攻撃なら苦しまずに死ねるでしょ
俺様優しい~


杜鬼・クロウ
【黒】アドリブ◎

現実は甘くない
犠牲の上に成り立つ平和があるのも解ってる
けど
(本当は手離したくねェ
大事なモン全部)
役と実際の感情がリンク

『!お前、生きて…
馬鹿、喋るな
…何故わざと刺されたか見当がつくから余計に腹が立つ
褒められたいのなら、すべき事は分かるだろ』

少し潤む目を逸らし悪態つく
彼を狗として使う
スーツただす

『自分すら倖せに出来ない者に他人を倖せにするなど到底出来る筈がない
それに
俺は独りじゃないので(狗見て
…お前は本当の倖せを知らないんだな』

フィクサーとして戦う
UC使用
狗を隠れ蓑にし死角から炎刃で灼き斬る
流れる所作
小回り利かせ2回攻撃
衝撃波は跳躍で回避
敵を包む炎は温かくて優しい

狗への褒美お任せ



 屋敷の騒ぎを遠くに、荒れ果てた部屋の中には二つの影だけがある。
 腕の中にヴァンを抱えたクロウは、未だ立ち上がれない。
 ヴァンの動かないその身体から流れていく血の量が、もはや手遅れなのだと物語っていた。

 いつだって。
 現実は甘くない。

 動かしようのない事実が、息ができない程重たくのしかかる。
 口封じに殺された売春婦。家族諸共始末された売人。海に沈められたジャーナリスト。
 脳裏にフラッシュバックする記憶は、止めどなく。
 それはフィクサーとして事件の影で目にしてきた死。
 どれほど完璧な仕事をしたのだとしても、防ぐ事のできなかった結末があった。
 掬い上げようとした手から、砂のように零れていくのだ。
 自分なら救えたなんて、傲慢になれる訳じゃない。いつだって後悔と苦悩の連続。
 だからこそ無駄なく立ち振る舞う自分を心に描いたのかもしれない。善も悪も全てを飲み込んで、自分の正しさを信じ続けられる強さがあればと。

 犠牲の上に成り立つ平和があるのも解っている。
 けれど。本当は。心の奥底で、望んでいた。
 "俺の願う平和"は――……口に出せない程、綺麗事で。

 本当は手離したくねェ、大事なモン全部。

 心重ねた"本音"は、零れて届く。
 どこからどこまでを、口に出していたのかは謎だ。
 それはマイクにも拾えないような微かな吐息のような声だったのだから。
 けれど、狼の耳が拾うには充分な音。
「……わん」
 弱々しく声を上げ。
 薄っすらと瞳を開けながら、ヴァンは僅かに微笑む。
 息を詰めたようにその表情を見たクロウの顔に驚きが広がっていく。
「お前、生きて……」
 普段の様子が嘘のように、動揺した顔を見せたりして。
 貴重な光景を瞳に写しながら、
「何その顔」
 ヴァンは誂うように言い。
 苦しい息の下から、それでも軽い調子で言葉を紡いだ。
「わざわざ返事してあげたんだから……ちゃ~んと褒めてよね。……ご主人サマ」
「馬鹿、喋るな」
 いつ事切れてもおかしくはない意識を繋ぎ留めるように、叫ぶ声を聞きながら。
 ヴァンの周りに、ずるり、と。闇が染み出すように集まって傷口を覆う。
 呪力により蠢く闇が、時計の針が逆巻くように傷口を塞いでいく。
「よっし、これで大丈夫」
 そう言って、ヴァンは立ち上がってみせた。
 臓腑を焼かれて貫かれた傷が簡単に治るはずもない。無理矢理そう見せているだけだ。
 けれど耐え難いほどの痛みをおくびにも出さず、笑ってみせる。
 辛い現実だってたまには甘くていいでしょうと言うように。
「俺様は頑丈だからさ、安心したでしょ? ご主人サマ」
 さあさあ、存分に褒めろ。と尻尾を触らんばかりの態度に、クロウはぐっと言葉を飲み込んでから、ゆっくりと床から立ち上がった。
「……何故、お前がわざと刺されたか」
 腹立たしそうに言いながら、逸した瞳は潤んでいて。
「見当がつくから余計に腹が立つ……褒められたいのなら、すべき事は分かるだろ」
 悪態を吐き、汚れて乱れたスーツを正しながら息を整える。
 いつもと変わらぬ姿に立ち返って。
「行くぞ」
「はーい」
 ただ一人の狗を連れて、フィクサーは部屋を後にする。

「おはようフィクサーさん。お目覚めの気分は如何だった?」
「ハロウィンに似合いの夢だったぜ。Mis.ハッピー」
 互いに皮肉げに言葉を交わし、対峙する。
 白い部屋の壁に並んだモニターが、その姿を映し。
 質問の答えを記録するようにアングルを変えて、万華鏡のように様々な角度から迫った。
「貴方の幸せは興味深かった。でも、理解できなかった」
 当然だろう。とクロウは肩を竦めた。
「自分すら倖せに出来ない者に、他人を倖せにするなど到底出来る筈がない」
 結末を始める為に、クロウは炎を喚ぶ。
 揺らめくように生じた紅き炎は美しい花の形をして、白い部屋の中を赤く染めあげた。
 炎刃は、先程よりも柔らかな形をしているようにも見えた。
 それは冷徹さだけでは辿り着けない境地に彼が居る証。
「ねえ――貴方は幸せ? それとも不幸せ?」
 質問に答えたのは、ヴァンの方が早かった。
 さりげない動きでクロウを守るように立ちはだかりながら。
「俺様が幸せかどうかは、この後ご主人サマがご褒美をくれるかにかかってるんだけど」
 期待の眼差しを向け、口の端を吊り上げれば。
 クロウはやれやれと溜息を吐いてみせた。
「じゃあ……お前の好きな毒か武器をやるよ」
「それ仕事道具じゃん」
 愛を毒と言葉遊ぶ男は、それ以上は何も言わず。
 お預けを命じられたような顔をした狼を見てほくそ笑む。
「まあいいや、俺様は健気だからね。贅沢は言わないよ」
 とん、と床を蹴って。
 闇を纏い姿勢を低く屈め、飛び込むようにヴァンは駆け出した。
「悪いけど、私も唯じゃ死なないわ」
「うんうん、頑張ってくれないと俺様も楽しくないからね」
 聖なる力を込めた衝撃波と、闇に染まるヴァンがぶつかり合う。
 電撃が弾けるような光を迸らせ、空気が揺れるような音を響かせた。
「幸せだよ」
 衝突音に忍ばせるように潜めた声で囁く。
「名前を呼んでたあの瞬間、あの人の頭には俺しかいなかったんだから」
 接敵したロイヤル・ハッピーの足を止めるように、爪で穿って。
 心底から嬉しそうな笑顔を一瞬だけ浮かべて。
「そんな状況を作ってくれてありがとう~」
 そう言って、身を翻せば現れたのは炎の刃。
 クロウの姿がそこにある。
 虚を突いた形から、ロイヤル・ハッピーに切先を突きつけて。
「俺は独りじゃない……それが答えだ」
 倖せの形、お前がそう呼ぶものだと告げる。
 希望を砕かれたような顔つきとなった彼女を双眸に写し。
「お前は本当の倖せを知らないんだな」
 憐れむように呟きながら。
 名前を呼ばれる幸せも知らぬような彼女を斬るのは。
 温かくて、優しい炎。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜野・久詞郎
「久ちゃんが幸せかどうか正直分からないッス。でも、誰かの幸せを守ることはできるッス。ここで倒しておかないと、不幸せな人が増えそうなんで。悪いけど倒させて貰うッスよ」

黒い仮面の戦士に変身して大立ち回り。
玩具の販促をするかの如く、コレクションアイテムを使って別のフォームに変身したり。
フォーム専用武器を使ったり。
時に相手を圧倒したり、苦戦したり。
最後は必殺技を使ってフィニッシュ。
徹頭徹尾、日曜朝のヒーローのような立ち回り。
撮影終了後は、ロイヤル・ハッピーを演じた女優さんからサインを貰って大喜び。



 ハロウィンパーティーが一変し、屋敷内は戦場状態となっていた。
 ヴィラン達は屋敷内のヒーローを始末しようと目を光らせてうろつき回り。
 悲鳴や怒号が飛び交う中、巻き込まれた人々を助けるべく立ち向かう者がいた。

「連続失踪事件を追ってみれば、とんでもない事態に出くわしたッス」
 逃げる人を襲おうとしていたヴィランを蹴り飛ばし、久詞郎は呟く。
 彼は洗脳した人間を戦闘用に強化し、人を襲わせるという恐ろしい計画を聞きつけて、密かに屋敷内に潜入していたのだ。
 洗脳が解けた人々を避難させながら、久詞郎は駆ける。
 凛とした眼差しは、正義に燃えて。
「変身ッス!」
 掛け声と共に装着された黒き仮面が輝きだす。
 光の粒子が久詞郎をシュルシュルと流れるように包み。
 泡沫がシュワリと弾けるように、その形を戦闘用スーツへと変えていった。
 そして現れたのは、愛らしい相貌を仮面に隠したヒーロー。
「ヴィランの野望はここで喰い止めるッス!」
 変身ポーズを決めて、駆け出すその姿は颯爽と。
 この事件の元凶を討とうと地下へと向かう。

 貴方は、幸せ? それとも不幸せ?
 ロイヤル・ハッピーの問い掛けに、その瞳は戸惑うように大きく瞬いた。
 白い部屋の中を、間合いを詰めるように歩み寄りながら。
「久ちゃんが幸せかどうか、正直分からないッス」
 心中を吐露する、真っ直ぐな言葉。
 興味深そうにロイヤル・ハッピーは耳を傾けている。
「でも、誰かの幸せを守ることはできるッス」
 大切な人でなくても関係はない。
 そこに泣く声があるならば、手を差し伸べるのがヒーローだ。
 部屋の中に並べられた寝台と装置は、ここで行われていた実験の証。
 これ以上、繰り返してはならない。そう意を決するには充分な光景だった。
「ロイヤル・ハッピー。ここで倒しておかないと、不幸せな人が増えそうなんで。悪いけど倒させて貰うッスよ」
 そう、人差し指を突きつける久詞郎を正眼に捉え、ロイヤル・ハッピーは、悪びれもなく微笑んでみせた。
 そして、おもむろに腕を振るい衝撃波を放つ。
「不幸せな人が増える? 何故、そう思うのかしら……私は幸せを理解しようとしただけなのに」
 飛び跳ねるように攻撃を躱し、久詞郎も反撃の構えをとる。
 くるりと翳したその手から三日月の形をしたマリンブルーの水刃を放ち。
「上階で起こっている出来事は、人を傷つけていたッス!」
 許されないことなのだと、全身で叫ぶように攻撃を叩きつける。
「ぐぅッ……!」
「やり方さえ違えばもしかして……いえ、これは理想論ッスよね」
 変身アイテムを起動させればその姿は眩く煌めいて。
 一段と研ぎ澄まされた戦士の装束に早変わりする。
「例えどんなに幸せになりたくても」
 闘志の中に、一縷の切なさを滲ませてそっと呟く。
「人の不幸を招くことは、やっちゃいけない事なんッスよ……」
 久詞郎の拳から、必殺技が放たれる。
 ソーダ水の水流が、ロイヤル・ハッピーを跳ね飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
《華組》


再び洗脳され呼び戻され
人質も兼ねて
ハッピーに無理矢理憑依させられる
彼女が死ぬと私も道連れになる状態

絵的に私は
ハッピーの背後霊の様な半透明姿で
枷の鎖に吊るされている


燦…お願い
私ごと彼女を止めて

私の力は他者強化
使い方次第で世界すら滅ぼせます
そんな力が社会に知られた以上
誰も私を放っておかず
以前の幸せな生活には戻れない…

燦とお茶会も…できない

それに…これは前世よりも前から続く宿命

燦が看取るなら
皆の幸せを願って犠牲になり笑顔で逝ける
多分幸せな最期


告白に奮起して脱出
燦に憑依し負傷を癒し回復

私だって本当は生贄なんて嫌です!

燦に恋できるかは不明
けど…
まだ燦と一緒にいたい


見知らぬ地
でも
燦と一緒なら大丈夫


四王天・燦
《華組》

シホ…そこは幸せ?
偽らず告白する

愛してる
幸せにしたい
世界よりアタシを幸せにしてよ
アタシを幸せにできる唯一の女性

返せシホを、幸せの日々を
殺すものか
死ぬ時は一緒だ!

薬で限界突破
衝撃波を突っ切りシホの名を呼ぶ
宿命を越えよう

想いを導に共有した天使の力を以て慈悲の聖剣一閃
ハッピーとの接点を斬る!

おかえり
もう離さない
シホの本当の力―優しい癒しだね

憑依を受け光の翼を生やしハッピーを諭すぜ
愛しい人と共に在る…それが幸せ
もういいだろ?

命令無視や秘密の知り過ぎ、共有された天使の力(右目がシホと同じ蒼に変異)から組織に追われる
シホと祖国の田舎町に高跳びしよう
一緒なら何処でも幸せさ

恋して貰えるかはこれからだね



 神々しく美しい天使が、幸せそうに笑っている。
 けれど、その声はシホのものではない。
 対峙する燦は手負いの身体で、それでも倒れずに立ちはだかる。
 そして、その傍らには"もう一人のシホ"の姿があった。
 半透明の身体は悪夢の中の姿と同じく、枷の鎖に吊るされている。
「燦……お願い。私ごと彼女を止めて」
 シホは涙ながらに訴えていた。
 憑依され身体を奪われた彼女は、霊体となってまで燦に伝えようとしているのだ。
 もう、これしか手段はないのだと。
「ふふふ。素晴らしい力じゃない、貴方が要らないなら私が貰うわ」
 シホを乗っ取っている人格は……事件の黒幕ロイヤル・ハッピーのものだ。
 洗脳と重ね掛けられていた人格憑依のトリガーは『シホが天使の力を拒絶すること』これによって、シホは身体を奪われてしまった。
「まだ元に戻れる手段はある、諦めないでシホ」
 そうではないのだと、シホは首を横に振る。
 たとえ体を取り戻したのだとしても、もう自分の未来には希望がない。
 なぜなら。
「私の力は使い方次第で世界すら滅ぼせてしまう」
 他者に力を与える、恐ろしい能力。
「そんな力を知られてしまった以上、以前の幸せな生活には戻れない……」
 誰も私を放っておかないだろう、戦う為の道具としたがるだろう。
 そうなれば。
「燦とお茶会も……できない」
 儚く零れたその声に。
 燦は胸の奥が震えて、拳を握りしめた。
 そしてついに……その秘密を告げる。
「知ってたよ、シホ」
「……え?」
「シホが覚醒する前から、アタシと組織は全部解ってた。シホが天使族の末裔であることも……あの時、話してくれた悪夢の訳もアタシは知ってたんだ」
「そんな……どうして」
「解った上で、傍にいた! シホに生きてて欲しくて! ずっと笑ってて欲しかった……!」
 シホの魂が受けた衝撃は身体にも伝わり、まるで雷に打たれたように固まり震えが走った。
 それは、裏切りともとれる告白であった。けれど、満身創痍の体で声を張り上げて叫ぶ燦の姿はなによりも懸命だった。その命懸けの決断に、シホの心は揺れる。
 だから燦は本心を告げる、心の奥底に秘めていた想いを伝える。
「シホを愛してる! シホを幸せにしたい! ずっとそれだけを願ってた!!」
 偽りのない真実を曝け出すことに、燦は迷わなかった。
 彼女の絶望を打ち払えるならば、何だって出来る。
 けれど呪縛は深く、魂に刻まれて。
「でも……これは前世よりも前から続く宿命……」
 声を震わせるシホの枷と鎖に繋がれた姿に、燦は眉をひそめ哀切な眼差しを向ける。
「シホ……そこは幸せ?」
「私、は……」
 燦に看取られて、皆の幸せを願いながら犠牲になって逝く。
 きっと、幸せな最後にちがいない。
 その思いに囚われたままのシホに、燦は言葉を重ねる。
「本当にそれで皆が幸せになると思うって……その皆に、アタシは入ってないのか」
 シホは、ハッと瞳を見開いた。
 燦の頬を涙が伝って落ちる。
 誰よりもシホが生きる事を望んでいる者。
 誰が否定しようと、貶そうと、変わらず傍にいてくれた、燦。
「世界よりアタシを幸せにしてよ……それが出来るのは、シホだけなんだよ」
 泣くのをこらえた声で紡がれた言葉によって。
 シホを縛り続けてきた因果の象徴たる光景に、変化が生じる。
 枷にヒビが走り、鎖が砕けていく。
 解放を望む心によって、シホの魂は自由となって――!

「返せシホを、幸せの日々を」
「無理ね、ここまで融合してしまっては……この身体ごと私を殺す以外の手段はないわ」
 ロイヤル・ハッピーは背中の翼を羽ばたき空へと舞いながら、冷たく告げる。
 燦の手に力が籠もった……熱く、脈打つような鼓動が体の内側を響いて。
「殺すものか……死ぬ時は一緒だ! 生きて、最後の日まで共に!」
 その時、硝子が割れるような澄んだ音が響き渡った。
 薄透明をしたシホの魂は両腕を広げて、燦の胸へと飛び込んでいく。
「燦ーーー!」
「シホ!」
 抱きしめあった二人の姿は折り重なって、一心同体となる。
 他者に憑依し、力を与えるシホの能力は今はじめて自身の願いと一致して、その本領を解き放たんとする。
 光の渦が巻き起こり、その眩さは周囲を白く染めた。

 おかえり、シホ。
 ……ただいま、燦。

 光の中で、二人は微笑みあった。
 かつての日常で育まれてきた絆のある笑みは、何よりも純粋で、優しい。
 そうだ、これがシホの本当の力なんだ。と燦は理解する。
 他者を兵器にするような力じゃない。
 優しい、癒やしの力。
「この輝きは……? 一体何が起こっているというの!」
 予想を超えた事態にロイヤル・ハッピーが狼狽した様子を見せる。
 ようやく光の勢いが収まると、その中心には燦が立っていた。
 しかし、その姿は大きく変化していた。
「貴方のその姿は……?」
「愛しい人と共に在る……それが幸せ」
 胸の上に手を置いて、燦は呟く。
 燦の背中には光の翼が生え、肉体にあった傷は跡形もなく消えていた。
 シホの憑依により天使の力を得た燦は地面を蹴って、空へと飛び立つ。
 その手に集う光が剣へと形を変えて。
 一気に詰めた距離から、剣撃を放つ。
「あっ……?」
 何をされたのか、ロイヤル・ハッピーには理解が出来なかった。
 光の刃はたしかに今、この身体を斬った。
 しかし、痛みも苦しみもない、ただ温かな感触が過ぎていっただけ。
 憑依した人格だけを、燦の光は斬ったのだ。
 一瞬にして、ロイヤル・ハッピーは消滅する。
 ……天使の翼に包まれるような心地を感じながら。
 きっとそれは、幸せな痛みだった。

 そして。
 二人は誰の手も届かない遠くへと旅立つ。
「さあ行こう、シホ」
「ええ、燦」
 この気持が恋になるかは、わからないけれど。
 燦と一緒にいたいと思う気持ちは、本物だから。
 差し伸ばされた手を握り返し、一緒なら大丈夫だと微笑んで。
 生きる、それがシホの選択。
「とりあえず、祖国の田舎町に高跳びしようか」
「燦の故郷に行くの? 楽しみね」
「ははっ」
 燦の右目は蒼く輝き、未来を見詰める。
 人生は一変するだろう、それでも燦は決して彼女の手を離さない。
 その誓いを、けっして忘れない。
 一緒なら何処でも幸せさ。

 恋して貰えるかはこれからだね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
…おにい、ちゃん…?
目を開ければ優しくて大好きな兄が居て
ここはどこなのか、何故俺たちはここに居るのか
暫く記憶が朧げだったけど
じわじわと自分がやったことが鮮明に思い出されて
俺、俺、お兄ちゃんに謝らなきゃいけないことが
たくさんあるのに…っ

俺が招いたことで、お兄ちゃんを巻き込んでしまった
だから、どうか俺に任せて
俺にお兄ちゃんを守らせて
ナイフを持ち、黒幕ヴィランへと歩み寄る

幸せ、か
俺にとっての幸せは何か
ここに来たことで再認識出来た気がする
俺はあなたを恨んではいないよ
でも終わらせなきゃいけない
俺と彼の家に一緒に帰るために
だからこの花をあなたへ手向けよう
UCでナイフを紅い蝶の花弁へと変え放つ


乱獅子・梓
【不死蝶】
目を開けた綾は、何度も見てきた優しい表情の綾で
本当に帰ってきたんだなと嬉しくなる
大丈夫だ、家で全部聞いてやるから
だから…今は一緒に家に帰ることを考えよう
綾の頭を撫で、黒幕を見据え

…ああ、分かった
いつもなら俺が前に出て
「大丈夫、俺が守ってやる」と言ってやってただろう
弟に守られるお兄ちゃんというのもたまには悪くない
歩き出す綾の背中を見て
随分と大きくなったな…としみじみ思う

だが、少し手伝うくらいならいいよな
兄弟とは助け合うものだろう?
UC発動し、舞台を闇夜へと変化
綾の邪魔はさせない

そういえば、奴の問いに答えてなかったな
簡単な話だ、世界で一番可愛い弟が傍にいる
それだけで俺は世界一の幸せ者だ



 真っ白だった頭の中に鮮やかな色が戻ってくる。
 ノイズ混じりだった記憶の光景がクリアになって、次第に覚えるのは苦い罪悪感だ。
 あの人に謝らなくちゃいけない、その思いが渦巻くように強くなっていく。
 ああ、そうだった……。
 俺ね……、お兄ちゃんを…る…、力が、欲しくて……。
 だから、あの日。
 ………
 ……
 …
 随分長い間、眠っていたような気がする。
 はやく起きなくちゃ――ほら、呼んでる。何度も、俺の名前を。
「……おにい、ちゃん……?」
 目を薄っすらと開けた綾は、自分を見詰める梓と目が合った。
 そこに彼がいた事が、何故だか酷く嬉しくて。
「……今、何時……?」
 ふわふわと寝ぼけたような声で言いながら。
 ゆっくりと瞳を瞬いて、綾は柔らかな笑みを浮かべた。
 その顔に、今度こそ梓は安堵する。
 本当に帰ってきたんだな、と胸がギュッと熱くなるような心地がした。
「……あれ……此処は?」
 家ではない。今いる場所が見覚えのない景色であることに気が付く。
 梓も見たことのないような格好だ、どうしてだっけと考える。
 そして。
 一拍の間を置いて、綾の意識は急速に覚醒していった。
 自分がやった事を思い出していく。
「……あ」
 傷つけてしまった。自分のこの手で……、たった一人の家族を!
 その事実に愕然と打ちのめされて、綾は息を呑んだ。
「……ああ! 俺、俺、……!」
 お兄ちゃんに謝らなきゃいけないことがたくさんあるのに……っ。
 唇はうまく言葉を紡ぐことも出来ずに震えて、しゃくり上げるような声しか出せなくなる。
「綾、落ち着け」
 血の気が引いた真っ青な顔をする綾へ、梓は優しくうなずいてみせた。
「大丈夫だ、家で全部聞いてやるから」
 握りしめた拳に、手のひらを重ねて包む。
 思い出すのは、いつか冒険の後迷子になった幼い頃の情景。
「だから……今は一緒に家に帰ることを考えよう」
「……うん……」
 うなだれた綾の頭に手が乗せられる。
 いい子、いい子、と撫ぜる感触はあたたかくて。
 綾は涙がこぼれそうになった。

 "いたぞ、あそこだ" "逃がすな"
 逃げる二人を屋敷内のヴィラン達が追う。
 あまりにも多勢に無勢で、出口へ向かうのは困難を極めた。
 追い詰められそうになりながら、屋敷の奥へと走る。
「本当にこっちでいいのか?」
「うん。地下の研究室なら、別ルートから外に出られるはずだよ」
 記憶を辿りながら、綾が潜めた声で囁く。
 軟禁されていた時の状態はおぼろげだが、彼には確信があった。
 何故なら。
 この屋敷へ連れてこられた時、彼は正気であり、意識があったからだ。
 隠し部屋の昇降機に乗り込んだ二人は、緊張した面持ちで地下へと降りていった。
 そして。
「……願いが叶った気分はどうだった?」
 白い部屋の壁に掛けられたモニターの前で、ロイヤル・ハッピーが笑う。
 現れた梓と綾の表情を比べるように眺めながら、楽しんでいる。
「こいつが」
 軋るような声で梓が唸る。
 自分たち二人を争わせた存在に、嫌悪感を感じずにはいられないだろう。
 例えこの悲劇がいつか起こるものだった、かもしれないのだとしても。
「貴方達は、幸せ? それとも不幸せ? ――ねえ、綾?」
 コツン。と硬い靴音が響いた。
 鞘から抜き払ったナイフを握って、綾は進み出る。
「お兄ちゃん」
 その声には、決意が込められていた。
「俺が招いたことで、お兄ちゃんを巻き込んでしまった」
 言葉端に後悔の念が滲んでいる……けれど。
 ただ悔いているばかりではない。
 怒りに任せているわけでもない。
「だから、どうか俺に任せて」
 強い。信念に研ぎ澄まされた姿をしている。
「俺にお兄ちゃんを守らせて」
 いつの間にか広くなっていた背中。
 弟はもう幼い子供ではないのだと、実感しながら。
「……ああ、分かった」
 梓はそう言って、その背を見詰める。
 いつもなら「大丈夫、俺が守ってやる」と言っている筈の場面だけれど。
 送り出すように笑って。
 弟に守られるお兄ちゃんというのもたまには悪くない。そう胸の中で呟いた。

 綾の表情に、ほころぶような感情があった。
「幸せ、か」
 それはきっと言葉では言い尽くせない。
 ロイヤル・ハッピーと正面から向き合いながら、視線を交わす。
 "あの日"もこんな風に言葉を交わしたのだったか。
 貴方の幸せはなにか、と問われたような覚えがある。
 その時選んだ答えの結果が――今なのだとして。
「俺はあなたを恨んではいないよ」
「そう……意外だわ」
「俺にとっての幸せは何か、ここに来たことで再認識出来た気がする」
「……貴方の夢は、とても一途だった」
 他のヒーローとの戦いで手傷を負ったロイヤル・ハッピーは、大きく息を吐きながら言葉を紡ぐ。
「大切な人のいる、幸せ……私の知らない答えね」
 その姿が横に振れると、ユーベルコードによって分身を造り出していく。
 万華鏡のように同じ顔をした彼女たちは綾を取り囲み、腕を伸ばした。
「終わらせよう……俺はあの人と一緒に家に帰るんだ」
 綾がナイフを胸の前に翳すと、その刃が赤く染まって光りだす。
 ふっと。
 舞台が暗転する、白い部屋に満ちる暗闇。
 ポツポツと、小さな灯りが翅を広げて跳び回りはじめるのは、紅い蝶の群れ。
 舞遊ぶように周囲を彩れば、
「この花をあなたへ手向けよう」
 落とされた声と共に、紅く光る蝶がその群れに加わった。
 よく似た二種の蝶は、寄り添うように舞い上がり、高く昇っていく。
 その視界が吸い込まれるような美しい光景が一面に広がって。


「お兄ちゃんは……幸せ?」
「そうだな」
 世界で一番可愛い弟が傍にいる。
 それだけで俺は世界一の幸せ者だよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
(連れていくと、決めたから)

(騒然とする屋敷を、その場にあるものを【地形利用】
時には武器に、盾にしながら、あねごを抱え駆け抜ける)

これが、おれだ。
あねごと一緒にいたい、おれだ。

(この腕に抱いたものはもう手放さない
誰にも傷つけさせない
たとえ、黒幕の眼前だろうと)

…もし。あのまま死ぬことになったとしても
あなたの温かさを感じながらだったら
きっと、おれは、幸せなままだったよ。

腕の中に、「好き」を抱いていられるのが
おれの幸福だ。

(衝撃波からあねごを【かばい】ながら
【野生の勘】で一瞬の隙を突き、給仕服に忍ばせたナイフを投げる
幸運だって幸せのうちだ
お前は今、それを捨てたのだから)



 動物の仮面をつけた人間達は、いよいよ狂ったように暴れ始めた。
 酒の瓶が割れて、甘ったるい芳香が鼻腔を掠める。
 迫る群衆を鋭く睨めつけて、ロクは少女を抱き寄せた。

 何人たりとも彼女に近づくことを許さぬと、気配だけで告げながら。
「しっかり掴まって」
 ひざまずいて少女を抱き上げ、ロクは立ち上がった。
 空いた手には、ナイフを握る。
 言いようのない震えるような心地がした、胸の中に膨らんでいくこの熱に名前はあるのだろうか。
 昂揚とするような、しかし頭の芯はどこか冷えていて。
 それはここが戦場で、守るべき者を抱きしめているからなんだろう。

 ロクが駆け出した。その瞬間をスローモーションが大胆に捉える。
 大地を踏み鳴らす様な靴音が、重たく響き渡る。
 ドンッ、ドンッ、ドンッ。
 まるで心臓の鼓動と重ねるようなリズム、そして何処からか歌が流れ始める。
 力強い炎を思わせるような調べと合わさりながら。
 ロクは眼前の敵を切り払い、時には掴んだ椅子をぶつけ、扉を盾にする。
 抱き締めあったその腕を離さぬように、強く握りしめながら。
 激しく立ち回るその姿はまるで踊っているようだ。
 赤毛の三編みが跳ね上がって揺れて、彗星の尾に似た軌跡を残していく。
 大きく口を開けて、吠えるようにロクが叫んでいる。

 これが、おれだ。
 あねごと一緒にいたい、おれだ。

 この腕に抱いたものを手放さないように。
 誰にも傷つけさせないように。
 守りながら、連れて行くのだ。外の世界へ。

「あねご」
 やがて世界は再びもとの速さを取り戻して。
 荒々しく息を吐きながら、ロクは腕の中の少女が無事であるかを確かめた。
「怪我はしてない、ロク?」
「……大丈夫、です」
 逆に心配をされている。
 ああ、『この世界』の彼女はそうなのかと思いながら。
 彼女を浚うように連れていきたいのと同じぐらい、きっと『この世界』のおれも。
 ……もし。あのまま死ぬことになったとしても。
 あなたの温かさを感じながらだったら。
 きっと、おれは、幸せなままだったよ。
 そう、思うのだ。
 それが彼女から与えられるものならば、きっとなんでも、幸せだから。

 場面が、切り替わる。
 荒れ果てた屋敷の地下室。激戦の名残に機械は壊れ、壁や床に亀裂が走っている。
 事件の元凶たるロイヤル・ハッピーは、眠るように寝台の上に倒れていた。
 その瞳が開くことはもうないのだろう。
 不意に。
 壁に並んだモニターに、ロク達の姿が映し出される。
 貴方は……幸せ……? それとも……。
 操作する者がいないはずの画面に映し出される文字列は、何度も繰り出された質問。

 もう少しで屋敷から抜け出せそうだったその瞬間。
 ヴィランに混じった強化人間の一人が放った衝撃波がロクを襲う。
 全身で少女を庇い攻撃を受けた身体が床に倒れた。
 ワアッと歓声を上げて、動物の仮面を被った者達が殺到しようとする。
 少女を連れて行けと、その叫びが聞こえるか否や。
 一閃。
 給仕服から投げ放った隠しナイフをロクは投げ打った。
 青の瞳は爛々として怜悧な光を浮かべる。
 どこかで幸せを使い果たした女がいて、死んでいった。
 幸運だって、幸せのうちだ。
 この『おれ』はきっと運がいいにちがいない。
 腕の中に、『好き』を抱いていられるのが。
 おれの幸福だから。

 屋敷の騒ぎを置き去りにするように、二人は駆け出していく。
 玄関扉を開け放ち、正門をめざすその姿はどこか堂々としていて。
 きっともう誰にも引き止めることは出来ないだろう。
 二人がどんな表情をしているのかは、映し出されない。
 遠ざかる背中だけが小さくなっていく。

 一度も振り返ることのなかったその姿は、やがて見えなくなり。
 向こうの空には、ようやく夜明けの気配が漂っていた。



 エンドロールが始まる。
 真っ暗な画面に白い文字が流れていって。
 その後の彼らの暮らしが伺えるカットが映るかもしれない。
 別世界のあなた達は、これからもスクリーンの向こうで生き続けるのだろう。

 最後は、出演者と"あなた"への感謝で締め括られて。
 映画は終わった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月28日


挿絵イラスト