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Show must go on! キネマ大作戦!

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #スパヰ甲冑 #どうしてこうなった #傭兵旅団ブットバース救援シナリオ

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#傭兵旅団ブットバース救援シナリオ


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 サクラミラージュ世界では、今、世界各国や各都市の派遣したスパイ達が、帝都にはひしめいている……と、グリモア猟兵の蛇塚・レモン(蛇神憑きの金色巫女・f05152)が話を切り出した。
「以前からサクラミラージュで騒ぎを起こしているテロリスト集団こと『幻朧戦線』は、これまでにグラッジ弾、影朧甲冑、籠絡ラムプと豊富に影朧兵器を投入してきたのは、知っての通りだと思うんだけど……ひとつ、ここで疑問が生まれるんだよね~っ?」
 レモンは人差し指を立て、猟兵たちの注目を集める。
「それは、これら影朧兵器を生産・配布するための資金や人手が、一体何処から流れているのかって事だよっ! 『大正の世の中をぶっ壊す』っていう危険思想を抱く黒い鉄の首輪を身に着けた者達だけじゃ、ここまで大掛かりなテロ行為は実現できないのは明白だしっ! 背後に様々な思惑や利害関係が渦巻く中、『幻朧戦線』に加担するスパイが、そういった援助をしている可能性があるって判ったんだよっ!」
 そう前置きをした上で、レモンはその頭上に輝くグリモアから、予知の内容を投影し始めた。

「今回の任務の場所は、映画の撮影現場だよっ! その内容は、義賊が私腹を肥やした悪人を懲らしめるべく活躍する活劇って触れ込みなんだってっ!」
 世直しを謳う自由奔放な女義賊と、それを追う堅物の刑事の男。
 2人は出会うたびに激突しながらも、いつしか互いを理解し合う唯一無二の存在と認め合い、そして恋に落ち、帝都を巣食う巨悪に向かって力を合わせるという、なんとも胸躍る展開なのだとか。聞いている限りでは、とても痛快な内容だ。
 だが、レモンは更に話を続けた。
「でも予知によると、どうやら、この映画の出演者――主人公扮する義賊を追う刑事役の俳優さんがスパイ……かもしれないんだよっ!」
 証拠がないため断定はできないが、グリモアの予知によれば、クランクアップ後にこの俳優は何処へと姿を消してしまうのだという。そうなっては掴める証拠も掴めなくなってしまう。その前に猟兵が撮影現場に乗り込み、演者や裏方として映画に携わることでスパイを確保してほしいというのが、今回の任務内容だ。
 レモンは刑事役の俳優の顔写真をグリモアに映し出した。
「スパイ嫌疑がかかっているのは、田中 晃彦(たなか あきひこ)さん。年齢は28歳の、今売り出し中の国民的スタァだよっ! ちょっと若いけど、たしかにイケメンだよね~っ!」
 イケオジ好きのレモンの守備範囲外とはいえ、その容姿は美丈夫であった。
「もとは帝都桜學府の學徒兵だったけど、家庭の事情で退学してから、役者の道を歩いてきた苦労人っぽいっ! 当然、ユーベルコヲド使いだよっ! 猟兵ほどじゃないけれど、『スクワッド・パレヱド』と『ショウ・マスト・ゴー・オン』が使えるみたいだよっ!」
 ……有事のときは、相手もそれなりの対抗をしてくると思っていいだろう。
 でも、とレモンは付け加える。
「今回の任務で映画の撮影を中断させることはできないよっ! どうも中断させちゃうと予知が変わっちゃうっぽい? だから、みんなも映画撮影に協力しつつ、田中さんをマークし続けてほしいなっ!」
 ちなみに、映画はまもなくクランクアップを迎えるそうだ。
 猟兵達が演者に回った場合は、カメオ出演という形でのエキストラ配役になる。
 クランクアップを迎えると田中はすぐに行方をくらますので、その前に身柄を拘束したいところだ。
 レモンはグリモアを起動させて、サクラミラージュへの転送を開始する。
「Show must go on! 一度始まったお芝居は何があっても止められないんだよっ! みんな、せっかくだから映画製作を楽しみつつ、田中さんを捕まえてきてねっ!」


七転 十五起
 大正世界にキネマ旋風が巻き起こる!
 その裏で暗躍するスパヰの真意とは?
 なぎてんはねおきです。

●概要
 第一章:日常パートは、猟兵達が撮影現場に合流する場面から描写します。
 撮影関係者はスパイ捜査の事は知りません。
 ですが、容疑者に色々と噂が付きまとっているのは暗黙の了解なのだとか。
 ここでは、参加者の皆様が【映画製作で何をしたいか?】を書いた上で、【スパイ容疑者の証拠集め】を行っていただきます。証拠集めは、『出演者や関係者への聞き込み』『隙を見付けて容疑者の私物を物色する』または『直接本人へカマを掛けてみる』等と、自由な発想で行ってくださって構いません。ただし、公序良俗に基づいて、という原則でお願いします。
 証拠が揃うと、容疑者は一時的に姿をくらまします。

 第二章:冒険パートは、実際に映画撮影に携わります。
 撮影が再開すると、容疑者は何食わぬ顔で戻って撮影に臨むので、撮影を中断しない程度に彼の逃走を阻止するような行動をして下さい(容疑者は撮影中に再び姿をくらまそうとします)。なお、撮影中の映画は大掛かりなアクションを売りにしているらしく、猟兵たちも派手な殺陣や屋根から屋根へ飛び移るような『活劇的なプレイング』を心懸けて下さい(プレイングボーナスが発生します)。
 ちなみに、監督はアドリブ大好きなので、ハプニングだろうがなんだろうが「そのまま続けて!」と撮影を続行します。脚本家も悪ノリ大好きらしく、すぐに監督の無茶振りに応じて脚本を書き換えてしまうため、かなり派手に暴れても問題ありません。

 第三章ボス戦は、正体を暴かれたスパイが実力行使に頼ります。
 ただし、スパイも自分の立場を弁えているため、撮影現場では暴れたりしません。
 撮影現場近くの人気のない里山まで逃げ込み、そこで猟兵達を迎え撃ちます。

●容疑者
 田中 晃彦(たなか あきひこ) 28歳。
 帝都桜學府の元學徒兵。家庭の事情(詳細不明)により、退学を余儀なくされた。
 しかしその後、演劇の道で才能を開花、今では人気急上昇中の国民的スタァに。
 彼の演技はリアリティに満ち溢れ、役作りも完璧と評判。
 スパイの嫌疑も、刑事役をやるための事前知識だと飄々とかわし続けている。

 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
 Show must go on!
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第1章 日常 『営みの裏に潜む影』

POW   :    体力、勘に物を言わせて事件に向き合う

SPD   :    捜査は脚で、つまり健脚こそ事件解決の第一歩

WIZ   :    整理しよう。きっと何か見落としがちな手がかりがある

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

紅葉・智華
※アドリブ・連携歓迎
(口調:基本素、必要であれば【演技】)

「オブリビオンに与するのは見過ごせないなあ……――さて、やるとしますか」(【選択UC】(防具初期技能:演技))でいかにもキャピキャピした金髪(ウィッグ)美形タレント志望風に【変装】する。(ついでに胸には詰め物をセット、【誘惑】用)

撮影では、演者の勉強をさせてもらうという名目で、裏方のお手伝いをしつつ、エキストラ出演する、みたいな感じなら容疑者本人に接触しつつ、『周りへの聞き込み』をしつつ、『容疑者の私物を物色』する事もできるんじゃないかな。(情報収集)


ノインツィヒ・アリスズナンバー
【WIZ】
やっばい☆アイドル活動始めた途端に映画デビューなんだけど!
でもでも、そんな記念すべき映画を台無しにしかねない奴はシメる☆
こちとら1回の営業に命賭けとんのじゃ。国民的スタアとは違って泥水啜ってまでこぎつけとんじゃコラ☆

てなわけで、色んな共演者さんや監督さん、関係者の皆様にあいさつ回りしまーす☆UCを発動して超アピール!
共感した皆に、田中さんの噂について聞くよ☆

それでえ、ついでに本人に対してカマかけて証拠集めしまーす!
「あのあの☆田中さんって超スタアじゃないですか?役柄もスパイが似合ってて超まぶしいです☆」
パフォーマンスを応用して、何かしらの違和感ある反応を見つけるよ☆

アドリブ・絡み歓迎



 サクラミラージュで行われている映画の撮影現場へ転送された猟兵達は、早速、監督と面会して挨拶を交わした。
「今日は演技の勉強をしたいという我儘を聞いてくださって、本当にありがとうございます!」
 金髪の女性がにこやかに微笑みながらお辞儀をした。
 見た目はいかにも軽そうな印象に反して、思いの外、礼儀正しい態度で接する女性――ユーベルコードで変装した紅葉・智華(紅眼の射手/自称・全サ連風紀委員・f07893)は、監督の差し出す握手に応じると、気恥ずかしげにはにかんでみせた。
「やだ……監督さんの手っておっきいですね! 人柄の良さが出てるからでしょうか? すごく温かいですね……!」
「はっはっは! 君ィ、僕をおだてても何も何も出ないよぉ?」
 監督は言葉と裏腹に嬉しそうにニヤけていた。
 そして、その視線は智華の胸元に注いでいた。
(うわ、分っかりやすいなぁ……!)
 作り笑いが崩れないように堪えつつ、今日のために詰め込みまくった胸を張ってみせる智華。いつもなら空気抵抗ゼロな凹凸のない胸元だが、今はこれでもかと2つの丘が前に競り出していた。
 とにかく監督に気に入られなければ、撮影現場での捜査もうまく行かない。
 ここは我慢だと、智華はぐっと堪える。
 その横で、監督を必死に凝視するのはフラスコチャイルドのノインツィヒ・アリスズナンバー(90番目のアイドル・f29890)だ。
(やっばい☆ アイドル活動始めた途端に映画デビューなんだけど! ってニセパイにつられてんじゃねーよテメッコラァ! 私ちゃんも見ろよオイ監督ゥ! ほぅら、ここに美少女がいますよー☆)
 彼女の目は血走っていた。
 2人は成り行きとはいえ協力して捜査をすることにしたため、智華のユーベルコード変装のこともノインツィヒは把握している。
「監督さん! 今日はよろしくお願いしまっす☆ 新人アイドルのノインツィヒこと、ノインちゃんです☆」
 キラッと周囲に☆のオーラを振りまくようなあざとさアピールに、監督は一瞬だけ真顔になった。
「ああ、よろしくね、ノインちゃん」
「反応薄っす!」
 監督の塩対応にノインツィヒが猛抗議!
「オイ監督さんよぉ? こちとら1回の営業に命賭けとんのじゃ。国民的スタアとは違って泥水啜ってまでこぎつけとんじゃコラ☆ しっかり私ちゃんの顔と名前だけでも覚えんかいワレ☆」
「ノインさんっ!? 地が出てるから! ストーップ!」
 智華が慌ててノインツィヒを制止しようと、その口を塞ごうとした。
 その時だった。
「ノインちゃん、面白いねぇ! そのギャップが最高ッ! いいよいいよ、エキストラと言わずにちょっと台詞ありの役に挑戦してみない?」
「えーっ! いいんですかぁー☆」
 一変して態度が急変するノインツィヒ、逆転ホームラン!
「監督さん! 私ちゃんの歌、聞いて下さい☆」
 調子に乗った彼女は、その場で歌って猛アピールを開始!
 ユーベルコード『サウンド・オブ・パワー』で、共感者を増やして情報を引き出す作戦だ。
 しかし……。
「♪ヴォオオオオォォーッ!」
 ノインツィヒにはまだ、肝心の歌唱の才能は芽生えてなかった。
 撮影現場にデスボイスが木霊すると、何事があったのかと撮影スタッフと演者たちが集まってきた。
「やった☆ パフォーマンス大成功☆」
「ノインさん、歌、もっと練習しましょうか……」
 頭の中でノインツィヒの声がグルグル反響する智華が苦笑する。
(でも、問題の田中さんも来てくれましたね。探す手間が省けました)
 智華は集まってきた人々に事情を説明し、今日一日お世話になる旨を伝えて深々とお辞儀をした。ユーベルコードで着替えたことにより、今の智華は自然な演技をこなすことができるのだ。当然、自然な流れで田中へ接触を図る。
「国民的スタァである田中さんと同じ作品に携われるなんて感激です!」
「超弩級戦力の皆さんがお芝居の体験ですか。いいタイミングでした、ちょうど本日が撮影の最終日(クランクアップ)なんですよ。慌ただしいですが、分からないことがあったら私に声を掛けてくださいね」
 田中は穏やかに微笑みながら、足早に撮影現場へ戻っていった。
 智華は田中の背中を見送りつつ考え込んでいた。
(あの人が田中さんかぁ。スパイとは思えないほど人柄の良さがにじみ出ていたけど。だとしても、もし疑惑が本当なら、オブリビオン側に与するのは見過ごせないなあ……)
 相手は演技の達人なのだ。普段からスパイであることを周囲に漏らさないことくらい、造作も無いだろう。
「――さて、やるとしますか」
 智華は本格的に捜査を開始する。
 一方、ノインツィヒは智華へアイコンタクトを送ると、監督とともに田中が向かっていった撮影現場へ連れて行かれた。
 あの監督、本当にノインツィヒと田中を共演させるつもりなのだろう。
「ノインさんが注意を惹いてくれている今がチャンス……!」
 智華は撮影現場から踵を返して遠ざかってゆく。

 まず智華は、周囲で作業をしていたスタッフに声をかける。
「何か手伝えることありますか? 雑用もこなせますので、何なりと」
 これにスタッフは喜色の表情を浮かべた。
「本当かい? 助かるよ。実は出演者にお弁当を配りたいんだけど、撮影が押しててまだ出来ていないんだ」
「それ、私がやります! 何処へ届ければ?」
「撮影所の隣の食堂にお弁当が用意されてるから、取ってきてから、各出演者の楽屋に配って置いておいてくれないか?」
「分かりました!」
 智華は早速、撮影所の隣の食堂からお弁当を受け取ると、堂々と出演者の楽屋に侵入する。
「これは、義賊役の主演女優、永野フジコさんのお弁当っと……。へぇ~、お蕎麦が好きなのかな? なんだか献立がヘルシー。こっちは助演の方々の分で、そして……」
 一際豪華な弁当、これこそが国民的スタァである田中晃彦の弁当だ。
「やっぱりスタァの弁当は他の人とは別格なんだなぁ。さてと……」
 弁当を届けに来た、というだけで、田中のお付きの人たちはすんなりと智華を通してくれた。
 楽屋にはちょうど誰もおらず、田中の私物と思しきスーツケースがメイク台の横に立てかけられていた。
「あの中、物色できないかな……?」
 人が近付く気配はない。
 撮影が長引いているのは本当らしい。
 ならば、と紅葉印のハッキングツールを懐から取り出し、自動解錠を試みる。
 スーツケースは4桁の暗証番号が必要だが、彼女にかかれば10秒足らずで照合が完了してしまう。
「1027、っと。何か意味があるのかな? 誰かの誕生日だったり? ま、いっか。さてさて、何が入っているかな?」
 スーツケースを開けると、そこには、明らかに日本語ではない言語で書かれた書類と、見覚えのある機体の設計図が入っていた。
「これは……影朧甲冑!?」
 幻朧戦線が投入した非人道的甲冑型影朧兵器。乗り込んだ者は影朧の呪詛に蝕まれ、もし搭乗者が外へ降りれば、その命を落とすという極悪非道な仕様だ。
 手元の設計図は、幻朧戦線の関係者でなければ入手できないものである。
「これを持っているということは、やはり田中さんは……? でも、なんか私の知ってる影朧甲冑と随分と形状が違うような……?」
 智華の記憶にある影朧甲冑は、もっと無骨で禍々しい感じであった。
 だが、手にとった設計図には、何処かアニメのキャラクターのようなデフォルメ感満載のフォルムが記載されていた。
「これ、撮影しておこう、電脳演算端末に記録して、ARホログラムでいつでも閲覧できるように設定っと……む?」
 その時、誰かが楽屋へ近づいてくる気配を察知した智華。
 急いで書類と設計図をスーツケースに戻して鍵を掛ける。
「お疲れさまです。田中さんのお弁当、置いておきましたよ」
「ああ、ありがとうございます」
 付き人とすれ違った智華は、何食わぬ顔で楽屋から立ち去っていった。

 その頃、ノインツィヒは縦横無尽、天衣無縫のやりたい放題を尽くしていた。
 最初は悪党の人質役として演技をするように言われていたノインツィヒだったが、監督と脚本家の悪ノリが過ぎたことにより、なぜか主役の女義賊と田中扮する刑事2人と一緒に共闘する猟兵アイドルというポジションに変わっていた。
「マジっすか? いきなり準主役級配役なんだけど私ちゃんてば!」
「あの2人は本当に仕方がないな……」
 浮かれるノインツィヒとは正反対に、制作側の暴走を受けて田中は頭を抱えていた。
 そして、1シーンの撮影が終わり、監督が映像の確認をしている最中、ノインツィヒと田中は2人きりになった。
「ノイン君の型破りな演技、初めてとは思えないくらいドスが効いていたよ」
「あ、あはは~☆ 私ちゃん、女の子だからあ? あんな怖い演技できるかー不安でしたけどお? でもでもお、やっぱり才能があるのかなって☆ テヘッ❤」
 まさか地の性格のまま出演してくれと言われるなんて思ってもいなかったノインツィヒである。
(嫌アアァァァーッ! 可愛い役じゃないー! なんで初出演がゴリラプレイなのー!? イケメンの前で「タマ殺ったるけんのう!」とか言っちゃったし! そもそも犯人を殴り飛ばすような女の子は人質にならないよねー? でもでも、そんな記念すべき私ちゃんの出演映画を台無しにしかねない奴はシ・メ・る☆)
 キッと田中を睨み付けるノインツィヒ。
 目の前の彼がスパイかどうか、確かめねばなるまい。
 彼女は思い切って、本人に尋問を開始する。
「あのあの☆ 田中さんって超スタアじゃないですか? 役柄もスパイが似合ってて超まぶしいです☆」
「え? 私は刑事役なんだが……?」
 田中は眉をひそめている。
「スパイはほら、フジコちゃんの義賊がそれっぽいんじゃないかな?」
「でもでも? 田中さん、やけにスパイのお勉強に熱心だって、他の出演者さんから聞いちゃいました☆」
「いつの間に……? うーん、刑事が犯人の思考を理解するための役作りってだけなんだけどなぁ」
 困惑する田中に、ノインツィヒは更に突っ込んでカマを掛けてみる。
「やっぱり、田中さんのスパイ疑惑って本当なんですか……?」
 小声で、囁くように田中へ問いかけるノインツィヒ。
 途端、田中の表情からスッと表情が消え、能面のような無感情だけが残った。
「ノイン君。噂を真に受けて他人を傷つけてしまうかもしれないと考えたことはないのかい?」
「え、あ、あの……」
「私がスパイだと囃し立てられて、周囲の人は迷惑がかかってるんだ。撮影にも悪影響が出てる。世間のゴシップに惑わされないでくれたまえ」
「ご、ごめんなさい……」
 不機嫌そうにノインツィヒから目線をそらす田中。
 ぼそっと、その口から一言だけ言葉が漏れた。
「世間に囃し立てられるようなスパイなんて、ただの間抜けじゃないか……」
「……田中さん?」
 ノインツィヒの声に、ひどく狼狽する田中。
「あ、いや、ほら! 考えてご覧よ。スパイは秘匿すべき身柄だ。それを世間に筒抜けなら、そいつはスパイ失格ってことさ」
「おお☆ 言われてみれば! 田中さん、冴えてますね☆」
「はは……そんな疑い、私が被ったとことでいい迷惑だよ」
「本当にそうですねえ☆」
 話を合わせたノインツィヒだったが、腹の中では田中の言葉に引っかかりを感じていた。
(さっきの何処か自嘲のような物言い……。田中さんはやっぱりスパイなの?)
 目の前の好青年が、後ろめたいことをやっているスパイには到底見えない。
 これも演技なのか、それとも……?
 だが、田中の笑顔の中に、後悔の念が見え隠れしたのをノインツィヒは見逃さなかったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御園・桜花
大道具・小道具・その他裏方担当

「国民的スタァの方々が…お仕事頑張ればサインいただけるでしょうか」
目をキラキラさせながら大道具小道具の準備、弁当やお茶の手配
いかにもファン上がり(そして実際そう)の風情で熱心に裏方に取り組む
白Tシャツ1枚持参し空き時間に表側に監督以下スタッフ、背面側に俳優達のサインを邪魔にならないタイミングを狙ってお願いする
「一生の宝物として部屋に飾ろうかと…着たら勿体なさすぎますもの」

実際は裏方専業と見せつつUC「蜜蜂の召喚」で田中昭彦を観察
台本素早く斜め読みし休憩タイミング把握
本人に捕まったり潰されたりしない距離で動向追わせ特に休憩タイミング以外で移動開始したら仲間に連絡


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

さぁーて、と。
現場への聞き込みはだいぶ絞れてるみたいだねぇ。
ここはひとつ、監督以外の「責任者」さんと話をしてみようか。
こういう映画の撮影なら居るんだろ?
プロデューサー……いや、興行主さんがさ。
本人じゃなくても、代理人でも構わないさ。
まずはこの映画、どこから持ち込まれた企画なのか。
誰かにキャスティングがねじ込まれなかったか。
裏が無ければまぁ、
田中が上手く立ち回ってただけだろうからね。
もしもそれで弱みがあったならそこを、
無かったらそんな後ろ暗い奴をわざわざ起用する弱みを
『傷口をえぐる』様に『言いくるめ』て、
アタシを目立たない部分で使ってもらうようにするよ。


二本木・アロ
人材派遣のブットバアスでーっす、と。
雑用に扮して入り込むわ。

【POW】
ヤバいモンなら肌身離さず持ってそうな気ぃすんだよなー。
よーし、本人に直接アタックかましてくっか。

針子の道具持参で【コミュ力】活かして話し掛けるぜ。
「田中さーん! さーせん、衣装の方でトラブっちまったみたいで。ま、なんとかしますんで採寸だけ再度イイっすか?」
巻き尺当てつつ、【野生の勘】で怪しい所に触れてみる。
武器になりそうなモンや紙片がありゃくすねたいトコだな。
袖や裾、ジャケットの内側、懐中時計の中も隠せるか。
あ、ついでに靴の中も見とこ。中敷きの下とかな。
「これ裾上げした方がよくないっすか? 一旦履き物脱いでくれません?」



 撮影現場に集合した猟兵はまだまだいる。
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は大道具・小道具・その他裏方として撮影現場の手伝いを申し出た。
「国民的スタァの方々が……こんな間近で……。お仕事頑張ればサインいただけるでしょうか」
 目を宝石のように輝かせる御園。
 一方、対照的にキッチリとビジネスライクな態度で挨拶をするのは二本木・アロ(ガードカツィナの娘・f02301)である。
「人材派遣のブットバアスでーっす、と。人手が足りないって聞いたんで来ましたーっと。あ、雑用とかそういうの、何でもやるんで、よろしくおなーしゃーす」
 豊満ながらも鍛え抜かれた腕部や腹部を見たスタッフは、喜んで裏方へ二本木を引き入れた。
 一方、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は、他の猟兵が集めた情報を共有するべく奔走していた。
「おまたせ、おふたりさん! どうやら、現場への聞き込みはだいぶ絞れてるみたいだねぇ」
 数宮は、田中の所持品に怪しい設計図があった事、田中にスパイの話題を振ると後悔の色を見せる、という2点を伝達した。
「……信じたくありませんが、田中様は、やはり……」
 憧れのスタァの疑惑の色が濃くなった事に、御園は落胆の色を隠せない。
「けど、それらって、まだシラを切ろうと思えばできる内容だな。決定的な証拠ってわけじゃねぇなぁ」
 二本木の意見に数宮は頷いた。
「そこなんだよ。だから、もっと情報を引き出す必要があるってわけさね」
 数宮はぐっと背筋を伸ばすと、肺から一気に息を吐き出す。
「さぁーて、と。ここはひとつ、監督以外の『責任者』さんと話をしてみようか。こういう映画の撮影なら居るんだろ? プロデューサー……いや、興行主さんがさ」
 踵を返して数宮は2人から離れてゆく。
 手を振る彼女の背中を見送ると、御園と二本木は、裏方の仕事へ戻っていった。

 疑惑が濃厚になったとはいえ、田中 晃彦はまごうことなき国民的スタァだ。
 共演者であり、この映画の主演を務める永野 フジコも、若干21歳ながら高名な映画祭の新人賞を獲得した演技派女優だ。
 脇を固める演者たちも、サクラミラージュに住まうものならば、一度は聞いたことあるであろうという知名度を誇る、そうそうたる顔触れが勢揃いだ。
「はぁ……夢見心地とは、この事を言うのでしょうか……」
 御園は熱に浮かされたようにフワフワとした足取り。
 いかにもファン上がり(そして実際そう)の風情で、それでも熱心に裏方に取り組む。
「御園さん、こっちお願いできますか?」
「はい、ただ今参ります」
 呼ばれた先は、舞台の小道具を作る資材の運搬だった。
 映画の裏方の仕事自体も、御園にとって胸躍る体験であった。
 銀幕の裏方仕事は、地味で細かな作業ばかりだが、そのひとつひとつがきらびやかなお芝居を支えているのだと思うと、なんだか御園は誇らしく思えてきた。
「あ、あの、お仕事中申し訳ございません。実は、お願いがありまして」
 御園が差し出したのは、真っ白なTシャツとサインペン。
「皆様のサインを頂戴したく。構いませんか?」
 御園は空き時間をこまめに活用し、監督以下スタッフにTシャツの正面へ、背面に出演者達のサインをもらいに巡ってゆく。
 当然、疑惑の矛先を向けられている田中へも、彼女はサインを依頼した。
 スケジュールのチェックは、仕事中に確認済みだ。
 田中は御園の申し出に、にこやかに快諾してみせた。
「ああ、勿論だとも。でも、裏表にびっしりとサインを書いたら、着るときにすこし目立ちすぎないかい?」
 田中の質問に、御園は首を小さく横へ振った。
「いいえ、これは一生の宝物として部屋に飾ろうかと……着たら勿体なさすぎますもの」
 頬を赤らめ、うっとりと田中に見惚れる御園。
 実にファン上がりといえる反応に、田中は思わず微笑んだ。
「確かに、こんな豪華なシャツは帝都中を探し回ったって唯一無二だね。ほら、これでいいかな?」
「わぁ……感激です。ありがとうございます……!」
 御園は感動して、Tシャツを受け取った手指が震えていた。
 そして何度も頭を下げて感謝を述べると、足取り軽く仕事場へ戻っていった。
「……上手くいきましたね」
 御園はクスッと小さく笑みをこぼした。
(既に蜜蜂が田中様の監視を開始しました。五感を共有していますので、何かあれば、すぐに同僚の皆様にご報告いたしましょう)
 実は、御園は田中がサインをしたためている間に、ユーベルコード『蜜蜂の召喚』によって、小さな蜜蜂を偵察として解き放ったのだ。
 非常に気配が読み取られづらい蜜蜂は、その視覚や聴覚などの五感を御園と共有することで、尾行で得た情報を収集しようと画策していた。
 そこへ、二本木が田中へ駆け寄ってきた。
「田中さーん! さーせん、衣装の方でトラブっちまったみたいで。スーツ、さっきのアクションで肩口が避けちまったとかなんとか」
 手には針子の道具、そして巻き尺。
 田中は二本木が何をしに来たのか、すぐに察して顔を曇らせた。
「そ、そうか。まいったね。次の撮影が押しているというのに……」
「ま、衣装はコッチでなんとかしますんで、ここで採寸だけ再度イイっすか?」
「……やっぱり、ここでかい?」
 田中は困惑していた。
「人目もあるし、ちょっと気恥ずかしいだけども……」
「何言ってるんすか、スタァなんだからシャキッとしてくださいよ。つか、すぐ終わるんで、失礼しまーす」
「ちょっと、君っ!?」
 二本木は有無を言わさず、田中の体へ巻き尺を這わせ始める。
「現場が押してるのはコッチも一緒っすよ。ほら田中さん、ちゃっちゃとTの字みたいに両手上げてくださいっす」
「……わかった。手短に頼むよ」
 二本木の押しに、田中はとうとう観念して、言われるがまま動く。
(さて、と。採寸ついでに身体検査と洒落込みますか。武器になりそうなモンや紙片がありゃ、くすねたいトコだな)
 二本木はテキパキと採寸をしてゆき、その都度、自身の勘を働かせて怪しい箇所を触ってみる。
(袖や裾、ジャケットの内側、懐中時計の中も隠せるか)
 田中の表情が硬い。演技力に定評のある彼が、ここまで焦燥しているのは何かあるはずだ。
 二本木は、ここで賭けに出た。
「これ裾上げした方がよくないっすか? 一旦履き物脱いでくれません?」
「え、靴も脱ぐのか……」
「駄目っすか?」
 首を傾げる二本木の反応は至極当然のものだ。
 傍から見たら、真面目に仕事をこなすスタッフの言い分を、田中が拒んでいる図にしか見えない。
 田中もそれを理解しているようで、やけに平静を装って頷いた。
「君は仕事熱心なんだね。わかった、お願いするよ」
「りょーかいしやしたぁ」
 田中の靴を脱がした二本木は、すかさず靴の中敷きに手を突っ込んだ。
 それを見た田中が青い顔をして慌て始めた。
「何をしているんだね、君!?」
「おや、これはこれは……!」
 中敷きに挟まっていたのは、数字の羅列と銀行の名前、そして見知らぬ名前であった。
 更には、簡単な手書きの地図まで重なっていた。
「これ、銀行の口座番号っすよね? それにこの地図の場所に、何があるんすかね?」
「君には関係ないことだ。返したまえ!」
「いいっすよ。けど、設計図を渡しにいくなら話は別っす」
 二本木の言葉に、田中は思わず身を強張らせた。
「なぜ……設計図のことを君が知ってるんだ?」
「さぁ、なんでっすかねぇ?」
 二本木は、採寸をするフリを続けながら、田中の耳元に囁きかける。
「影朧甲冑の設計図なんて代物を、一般人のはずの田中さんが何故か持ってるってこと、どうしてあたしは知ってるんすかねぇ? いわゆる『運び屋』ってやつ? 田中さん――あんた、一体、何を隠してるんすか?」
「な……ッ!? そこまで、知っているのか……!」
 遂に、猟兵は田中へチェックメイトを掛けた。

 その頃、数宮は、映画の配給会社の社長と名乗る白髪の男と面会していた。
「さて、私になにか聞きたいことがあるそうだが……?」
「まずはこの映画、どこから持ち込まれた企画なのか、聞いてもいいかい?」
 数宮の言葉は、既にユーベルコードとなって社長に影響を及ぼす。
 ユーベルコード『罪暴く言の葉(ディテクティブ・ロイヤー)』……交渉時に相手を丸め込む話術を発揮する効果を持つ。
 彼女の質問に、社長は小首を傾げる。
「どこから、って、元はこの脚本、亜米利加の富豪が趣味で書いたらしいんだが、その原作者の関係者と名乗る、地方の名主が和訳して持ち込んできたんだ。それで帝都でも上演される運びになったわけだが」
「へぇ、原作があるのか、これ? で、キャスティングはどうなんだい? なんか不自然な事があったりしたのかい? 例えば……誰かが無理やりねじ込まれた、とか?」
「……よく、知ってるじゃないか」
 社長は数宮の言葉を訝しがりながらも、ユーベルコードの効果で強く言い返せない。
「もともとは、義賊役の永野フジコ君の単独主演だったはずなんだ。そこへ、脚本を持ち込んだ名主が田中君を推挙してきてね? わざわざ、原作にはない刑事との恋愛模様まで加筆してだよ? ま、私は面白ければどうでもいいんだがね?」
 この返答に、数宮は逡巡する。
(すると、田中さんはその名主と繋がってる可能性が高いねぇ。むしろ、名主のほうが黒幕で、田中さんはそいつの使いっぱしりの可能性も……?)
 そうなると、田中が後悔の念を顔に滲ませていたというのも辻褄が合う。
(もしかしたら、田中さんは、今になって自分の行いを悔やんでるってことかね……? しかし、彼にはこの『仕事』をやらなければならない理由がある……)
 数宮が思考を巡らせていると、一匹の蜜蜂が数宮の元へ飛んできた。
『多喜様、急いでスタジオまでお戻り下さい。全ての証拠が、一本の線で繋がりました……』
 残念がる御園の声が蜜蜂から伝わる。
 数宮は社長に詰め寄ると、ドスの利いた低い声で尋ねた。
「なぁ、社長さん? 良い話と悪い話があるんだが、どっちから聞きたい?」
「え、あ、い、良い話から……」
「じゃあ悪い話からだな?」
「はぁっ!?」
 愕然とする社長へ、数宮は言葉をまくし立てた。
「残念だが、田中さんは幻朧戦線に利用されてる。そして、この映画の脚本を和訳した奴も、十中八九クロだ。アタシが超弩級戦力の猟兵サマって事ぁ知ってるだろ? この話、もし世間に明るみになったら、この映画はオジャンだねぇ?」
「そ、そんな! 私は何も知らないぞ! 本当だ! その、田中君が……テロリストの手先というのは、本当なのか……?」
 狼狽する社長の様子からして、本当に何も知らないのだろう。
 哀れ、厄介事に巻き込まれた完全な被害者である。
「ああ、証拠が出揃ったし、全てが繋がったと同僚から連絡が入ったよ」
「なんて、ことだ……! あの真面目な青年が、なぜ……?」
 憔悴したまま膝から崩れ落ちる社長。
 そこへ、数宮の手が差し伸べられる。
「んで、良い話ってぇのが、このアタシを田中さんを監視できる程度に露出できる配役にねじ込めないかね? あの人はなにか事情があるみたいだし、まだ食い止められるかもしれないよ? その調査のために、アタシ達が極秘で此処へやってきたってわけさね!」
 猟兵の目的を数宮が明かすと、社長の顔が安堵で和らいだ。
「そうだったのか……。わかった、監督には私が頼んでみよう」
「サンキュー、社長さん! んじゃ、ちょっくら田中さんの様子を見てくるわ!」
 目的を果たした数宮は、足早にスタジオへ駆け出していった。

「……んで、なんでこうなるんだよ?」
 呆然とする数宮は、御園と二本木に問い掛けた。
 既に田中は現場から逃走していたのだ。
「迂闊でしたわ……。さすがアクションを嗜んでらっしゃるだけはありますね」
「いやー、こっちもさ、いきなり格闘で抵抗されるとは思ってなかったからなー?」
 話によると、証拠を揃えて突きつけた瞬間、いきなり二本木は投げ飛ばされかかったのだとか。
「ありゃ柔道でも嗜んでるんじゃね? あのヒト、たしか元は學徒兵だったか? そりゃ強いはずだわ」
 頭を掻く二本木だが、その表情は決して暗くない。
「でも、追尾はきちんとできている。蜜蜂ちゃんサマサマだな」
 御園の放ったユーベルコード蜜蜂は、田中を現在追跡中とのこと。
「そう遠くまでは移動しておりません。……おや?」
 蜜蜂を通して田中を監視する御園の様子がおかしい。
「どうしたんだい、桜花さん?」
 数宮の問い掛けに、御園は小首を傾げた。
「公衆電話で、誰かと話しています……」
 御園は蜜蜂を介して、電話ボックスの会話を聞き取ろうと試みた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『ここはキネマのパラダイス』

POW   :    スタントマンや警備員や肉体派俳優として参加する。

SPD   :    撮影や照明や録音等や演技派俳優として参加する。

WIZ   :    スタアのマネージャーや助監督や知性派俳優として参加する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 田中は公衆電話で焦りを見せながら、受話器越しの相手に怒声を浴びせていた。

「話が違うじゃないか! 幻朧戦線だと? 私はテロリストの片棒を担ぐために、あのスーツケースを受け取ったわけじゃないぞ! この話はなかったことに……待て、やめてくれ。それだけは止せ! その金がなければ、亜米利加で母さんが手術を受けられない! 母さんを人質の取るのか……!」

 どうやら、田中の母親は重病らしく、手術のために亜米利加まで赴かねばならないらしい。その資金は、今回のスパイの報酬で賄われる算段だったと推測される。
 しかし、田中には幻朧戦線の事は伏せられていた。彼はまんまと利用されたのだ。そして幻朧戦線は、田中の母親の命を人質に、任務の完遂を強要してきたようだ。

「……わかった。最後まで私が手を汚せば良いんだろう? 私だって、帝都の薄汚い暗部を幾度となく見てきた。……帝都桜學府を母さんの治療費を優先して自主退学した時も、誰も手を差し伸べてくれなかった。スタァになった今でも、母さんの病気の件は醜聞(ゴシップ)だからと公表するなと事務所から言われる始末だ! ああ、そうだ、もうたくさんだ! やるなら徹底的に『演じて』みせるよ。私の演技は、もともとは世間を欺いて憐憫を乞うために養ったものだからね……!?」

 だが、と田中は相手に1つだけ要求した。

「この映画だけは、潰さないでほしい。この映画は間違いなく後世に残る傑作になる! 私が逮捕されても、演者やスタッフのみんなには迷惑を掛けたくないんだ……! 頼む、それだけの力があるだろう、君には……!」

 懇願する田中に、受話器越しの相手は承諾したようだ。

「助かるよ。これで心置きなく、クランクアップを迎えられる。感謝する」

 受話器を置いた田中は、迷うことなく、なんとスタジオに戻ってきたではないか!

「さあ、最後のシーンを撮影しようじゃないか! Show must go on! 何があっても、ここからはノーカットで回してくれたまえ!」

 田中の注文に、監督と脚本家はニタリと笑みを浮かべた。
 対して、猟兵たちは田中の凄みと覚悟を肌で感じ、そして悟った。

『彼はこのまま、演技途中で現場から今度こそ逃げ去るつもりだ!』

 小道具として、例のスーツケースを付き人に持ってこさせた田中は、最後のシーンを台本でチェックしている。そのシーンとは、愛する2人――女義賊と刑事が、己の矜持にかけて最後の決戦に望む場面だ。立場が違う2人は、最終的には対立し、愛ゆえに刑事は女義賊を取り逃す。それが永遠の別れになるとも知らずに……という、悲恋の結末なのだとか。
 しかし、もはや台本通りに動く必要なんてない。
 猟兵たちよ、演技に乱入せよ!
 ド派手に活劇アクションを繰り広げ、田中の逃亡を阻止するのだ!
【追記事項】
 現場にいる脚本家と、黒幕の翻訳者は別人です。猟兵は、目の前の田中氏に集中してください。
紅葉・智華
※アドリブ・連携歓迎
(口調:基本素、必要であれば【演技】)
(引き続き金髪タレント志望風に【変装】、【選択UC】により防具初期技能【演技】強化)

容疑者との距離を詰めたい所だけど、ただのエキストラのままでは厳しい。
という訳で、所々身体能力(ダッシュ,ジャンプ,見切り)を見せつけつつ、刑事に助けられるシーンがあった場合には必要以上にベタベタとくっついてみよう。
「田中さんがかっこよくてつい……」
とか言えば現場の人も「そっか」で納得するだろうし(演技)。
で、実は巨悪側でしたっていう変更が入れば、その後容疑者を逃がさないように攻撃する時も違和感が出ないだろうし。
「愉しかったですよ貴方との友情ごっこォ!」


ノインツィヒ・アリスズナンバー
なんでこうなった?

私ちゃんはアイドルとして監督に売り込み、助演レベルの役を手に入れたんだけど、命取ったらぁなんていう羽目になるとは。アイドルとは……?
……まあでも、仕事は仕事だし、やるしかないのか……?やるしかないか……

そういう訳で、引き続き任侠レベルの口調で行くよ☆
台本通りになんて行かなくていいなら……UCを発動して、そこら辺の大道具を【投擲】でぶん投げ続けるよ☆
この状況を利用してスタントだってこなせるアイドルとして売り込んじゃうもんね☆
後は、【レーザー射撃】と【悪路走破】で爆発を起こしながら田中さんを追いかけるんだから☆
派手な爆発は刑事物の付き物だぞ☆

アドリブ・絡み歓迎



 野外セットでの撮影の準備が終わった。
 そろそろ撮影が始まろうとしていた頃、紅葉・智華(紅眼の射手/自称・全サ連風紀委員・f07893)は悩んでいた。
 彼女に言い渡された役は、残念ながら端役であった。
(容疑者との距離を詰めたい所だけど、ただのエキストラのままでは厳しい……)
 監督と脚本家へ相談しに行こうと思ったが、既にカメラが回ってしまっている。
 目の前では、田中扮する刑事と、女優の永野が扮する女義賊との直接対決が始まっていた。
「このスーツケエスは渡せない。これは、キミをおびき出すための道具に過ぎない!」
「わたくしを騙したのですか! どうして? わたくし達はパートナーだって言ってくださったではないですか!」
「あんな口約束、ただの休戦協定に過ぎない!」
「そんな……っ!」
 思わず見入ってしまう名演技に、智華はしばし食い入るように見入ってしまった。
(いやいや! 駄目だ駄目だ! なんとか自然に乱入して、容疑者との距離を縮めないと!)
 だが智華は、偶然2人の決闘を目撃した野次馬Aである。
 どうにか話の流れに割り込めないか、必死にシナリオを組み立ててゆく智華。
 一方、田中の真横で堂々と準主役として出演中のノインツィヒ・アリスズナンバー(90番目のアイドル・f29890)が、灰色の姫カットをはらりと揺らしながら、人知れず悩んでいた。
(なんでこうなった?)
 猟兵(アイドル)デビュー直後、いきなり国民的スタァなイケメンの隣で準主役に大抜擢され、ラストシーンでも悲恋にくれる刑事に慰めのキス(!)をするという重要な役回りを当たれられているにも関わらず、ノインツィヒの胸中は不満で溢れかえっていた。
(私ちゃんはアイドルとして監督に売り込み、助演レベルの役を手に入れたまでは良かった。それは本っ当に良かった。けど、どうして初セリフが『命(タマ)取ったらぁ!』なんていう羽目になるの? 素じゃん。私ちゃんのライク・ア・ドラゴンな裏の顔じゃん。演技もクソもねぇよ監督。だって素だよ? しかもアイドルが口から吐いたら駄目なセリフじゃんこれ。 一体、アイドルとは……?)
 アイドルかと思ったら、Vシネマ女優にクラスチェンジしていた。
 このままだと、般若の柄が入った黒壇色の着物に、短刀(ドス)振り回してカチコミするヤクザの女にクラスアップしかねない。そのうち、フルヌードで背中に牡丹や龍の入れ墨を彫るシーンを撮影しようかとか言われるところまでありえる。
 というか、任務のためとはいえ、今撮影している内容が、いずれ帝都中に放映されると思うと、ノインツィヒは背筋が凍えそうだった。
(……まあでも、仕事は仕事だし、やるしかないのか……? やるしかないか……)
 ノインツィヒが身体を小刻みに震えだす。
 その横では、田中扮する刑事がスーツケースを抱えて逃走を図ろうとしていた。
「さらばだ……! キミに、これ以上の悪事を重ねてほしくないんだ!」
「待って、行かないでっ!」
「止めないでくれ。この悪事は、私が全て背負うと決めたんだ! さらば!」
 田中が走り去ろうとしたその時だった。
「待たんかいワレェッ!」
 ドスが効いた低音ボイスが、その場にいた者達を竦み上がらせた。
 ノインツィヒのアドリブだ!
(もうこうなったら、引き続き、最後まで任侠レベルの口調で行くよ☆ YA☆KE☆KU☆SO☆DA☆)
 腹を括った彼女の怪演(?)に、田中は困惑していた。
「な、なぜ、キミが私を止めるんだ?」
「決まっておるじゃろうが……!」
 ギロリ、と鋭い視線を田中へ向けた彼女は、思いがけない言葉を彼に投げ掛けた。
「ウチ、刑事さんのこと、ぶち好きじゃけん、一緒に連れてかんかい!」
 なんで台本がエセ広島弁なんだろう、と気になるも、ノインツィヒは考えることをやめた。今は、刑事と助手の少女との接点を作らなければ、追跡する動機が得られない!
 このアドリブに田中は演技なしに驚いていた。
「な……っ! でも、キミは、数日前に私と知り合ったばっかりじゃないか!」
「そうじゃ! 刑事さんに助けられて、ウチは一目惚れしてしまったんじゃ! 捜査に協力したんも、刑事さんがぶち好きじゃからじゃぁ! だから一緒に連れてかんかいワレェッ!」
 凄みのある台詞の裏には、ノインツィヒ自身の本音も混じっていた。
(キャーキャー♪ 演技中にアドリブで告白(合法)しちゃったー☆ ハンッ、全国の婦女子共、ざまぁみろ! 田中さんは私ちゃんとラブラブ❤ランデブーするんだから☆)
 ジリジリと迫るノインツィヒに、女義賊も呆れたように声を上げた。
「私の知らないところで、そんな幼気な女の子と愛を深めていたのですか? だから、大人のわたしくには興味がなくなったのですかっ?」
 女優・永野フジコ。アドリブ適応力が斜め上に高すぎた。
「人聞きの悪い事を言わないでくれたまえ!」
 田中はまさかのロリコン疑惑を掛けられ、居た堪れなくなったのか、遂にその場から走り去っていってしまった。
 これにノインツィヒと、なぜか智華が後を追いかけ始めた!
「待たんかい、刑事さん! ウチの愛を拒むんか、ワレ!」
 ノインツィヒはそこら中の郵便ポスト(!)や軒先に並ぶ盆栽が入った植木鉢(!)を怪力で引っこ抜くと、ユーベルコードを使ってそれらを全力投擲!
「愛、なめんてんじゃねええええええええ!!!!!」
 迫撃砲めいたノインツィヒの攻撃に、田中は『スクワッド・パレヱド』で障害物を吹き飛ばしてやり過ごしてゆく!
「……なるほど。あの子にも、私の正体がバレたか」
 独りごちる田中は、今度はヒョイッと塀に登ると、民家の屋根を超えて撮影所を飛び出していった。
 まさかの場外撮影に発展! スタッフたちは全力で田中を追い掛ける!
 これに智華が動いた!
「きゃあああぁ! 刑事さあぁぁん! 助けてえぇ!」
 叫び声を上げた智華は、ノインツィヒが投げた障害物の下敷きに……なっているように見せかけるべく、潜り込んでから悲鳴を上げたのだ。
 ノインツィヒ、カメラに映らない角度で智華へグッジョブと親指を立ててみせる。
 咄嗟に田中は悲鳴の主を確認すると、一瞬だけ足が止まった。
 きっと、このまま無視をすれば余裕で逃げられるだろう。
 だが、自分の演じる刑事は、困っている人を放っておけない性格という設定だ。
 田中は、役者であることを選んだ。
「キミ! 大丈夫かい?」
 田中は役に準じて、来た道をUターンせざるを得なかった。
「ああ! 助けに来てくださると信じてました!」
 金髪のウィッグを被った智華は、ユーベルコード『電脳魔術【即着】(ラピッド・イクイップ)』の効果で、演技力が超強化されているのだ。
 目からポロポロと感涙をこぼすそのさまは、演技初心者だとは到底思えないほどの気迫が漲っていた。そして、必要以上に田中の身体へベタベタと触っていた。
「あ、あの、お嬢さん? キミが無事だと分かった以上、そろそろ私は行かねばならないのだが……放してくれないか?」
「あら、御免遊ばせ? あなたがとても男前だったので、ついこの身を委ねてしまいたくなってしまいましたわ、おほほのほー!」
 後日、智華は監督にこう自白している。
『だって、あんな美形の男子に抱きつきたくない女子がいますか? いや、いない! 田中さん、めちゃくちゃいい匂いだったんですよ! あれでご飯が食べられるレベルのいい匂いだったんですよ!』
 切実!
 だが実際、こうして智華が強火のスキンシップをしていると、田中はなかなかその場から離れられない。確かに、足止めにはうってつけであった。
 しかし、今は演技中。
 智華がベタベタしていると、話の筋が変わってしまう。
 なぜならば……!
「ウチの男に、なぁに手ぇ出しとんのじゃ、ダボォッ!」
 時速60kmで疾走する達磨自転車の上で、腕を組んだまま仁王立ちしながらサングラスでキメているノインツィヒが急接近!
「刑事さんはこの後、ウチと愛のタンデム走行をするんじゃい☆ 泥棒猫は轢き殺したるわダラズゥッ!」
 達磨自転車は、その後ろを何故か爆発と紅蓮の炎を巻き上げながら、田中を追い立て始めたではないか!
「いや待ちたまえ! 何なのだ、その爆発は!」
「あれ~、ご存知ないんですかぁ? 刑事が走ると、その後ろは爆発が巻き起こるのはお約束なんですよ☆」
「そんな約束事、聞いたことがないぞ……!」
 笑顔いっぱいのノインツィヒの回答に、田中が秒でツッコミを入れた。
 そして智華がおもむろに口を開く。
「あ、それ、西部警……」
「泥棒猫は往生せいやぁあああああ!」
 ノインツィヒは色々と危機を感じたため、すぐさま智華の胸倉を掴んで、前方へぶん投げた! 智華の身体はきれいな放物線の軌道を描き、田中の進路をうまく遮るように着地!
 揉めたと見せかけてからの、見事な猟兵間の連携だ!
「ふふふ、くくく……あーはっはっは!」
 すると智華、突然の高笑い!
「我が主、女義賊様との盟約を破りし愚かな刑事よ! 今まで被害者のフリして、私はお前に接近し、そのスーツケースを奪う機会を伺っていたのだぁ! 愉しかったゾォ! お前との友情ごっこォ!」
「くっ! まさか、彼女が自分の手下を向かわせてくるとは……!」
 此処まで来ると、田中もアドリブで演技を継続させて物語の整合性を取りつつ、うまく逃走経路の打開を模索している。
 智華とノインツィヒは、田中の役者魂と機転の速さに、腹の中で感服していたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

二本木・アロ
映画を完成させるつもりはあるみてーだな。
あんたの俳優としてのプライドには感心するぜ。
……つまり、カメラ向けられてるうちは俳優であろうとするわけだよな。
よっしゃ、絶対にフレームアウトさせねーからな!

撮影係の助手として現場入り。
田中と猟兵の動きにカメラマンが追い付かなくなってきたら、
「足には自信あるんで!」とカメラを引き継ぎ、
【ダッシュ】【クライミング】で道だろうが屋根だろうが追いかけるぜ。

……つっても元學徒兵相手じゃ持久力勝負もビミョーか。
よし、そしたら『アヴァチュホヤの御裾分け』で焼きもろこしを出して齧りながら追いかけるか。
必要に応じて仲間にも振る舞うぜ。
ほらほら田中ちゃん、遅くなってんぞー。


御園・桜花
蜜蜂が聞いた話は他の猟兵に全て伝える

「あの方の演技に賭ける情熱は本物だと思うのです。だから、ラストシーン直前までは、台本通りの行動をされるのではないでしょうか。ラストシーンを怪盗の独白にすれば、途中がどうあれ映画の整合性はとれると思うのです」

「私は映画に出ない裏方です。そして貴方は国民的スタァ。良い映画にしていただきたいという想いは変わりません」
UC「精霊覚醒・桜」
カメラアングルに入らない上空から田中の行動注視
田中が台本から外れた行動・カメラの死角に潜り込むような行動を取ったらマッハ7弱で急接近し逃走阻止

「逃げないで下さい。貴方の想いに添えませんが、貴方のお母様を助けるお手伝いはしたいのです」


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

さぁてそういう事情かい。
田中さんは逃がしちゃいけない、のは分かる。
でもな。
要は「逃げようとさせなきゃいい」んだろ?
つまりはスパイとして協力する理由を潰しゃあいい。
猟兵の威光を笠に着るのはあまり好きじゃないが、
お母さんの事は何とかできるよう取り計らおうじゃないさ。
後はそれを『演技』の中で伝えるだけ……!

応援で駆けつけた警官役のエキストラとして、
刑事(田中さん)に「大丈夫ですか!?」と駆け寄るよ。
そしてアドリブで、『万事手はずは整えました。追いましょう!』
と含みを持たせて『母親の治療は猟兵が責任をもって行う』
と書いたメモをさりげなく手渡す。
残りは終幕まで駆け抜けるよ!



 演技を続けながら猟兵から逃げようとする田中。
 普通ならば非効率で、矛盾している彼の言動だが、そこには国民的スタァの役者魂が見え隠れしていた。
「映画を完成させるつもりはあるみてーだな。あんたの俳優としてのプライドには感心するぜ」
 アシスタントカメラマンに名乗り出た二本木・アロ(ガードカツィナの娘・f02301)は、重い撮影用カメラを肩に担ぎながら田中をフレームに収め続けていた。
「……つまり、カメラ向けられてるうちは俳優であろうとするわけだよな。よっしゃ、絶対にフレームアウトさせねーからな!」
 撮影所の敷地内ではケーブルを捌いていただけだった二本木だったが、いざ田中が本格的に外へ飛び出したと知るやいなや、正式なカメラマンからカメラを預かり、そのまま駆け出していた。
「足には自信あるんで! 行ってきやーす!」
 その言葉通り、市街地の屋根や塀を伝って逃げようとする田中に喰らいつき、撮影を継続させてゆく二本木。
(いいっすよー、田中さん! 逃げる姿も男前っすねー!)
 いくら走っても振り切れない二本木に、田中は作戦を変更する。
「……このスーツケースの中身、他の誰にも知られるわけにはいかない。特に彼女には……。彼女にはもう、犯罪に手を染めてほしくなかった。だから、私が全て背負って、彼女の目の前から消え去れば……!」
 役に没頭する田中の台詞は、どこか後悔と自嘲の告白にも聞こえた。
 次第にその台詞は歌となり、いつの間にかミュージカル調に変わってゆく。
 その歌声は、二本木に『もっと歌声を聞いていたい』という感情を呼び起こさせる。
 田中はユーベルコード『ショウ・マスト・ゴー・オン』を発動させてきた!
(付いてくるというのなら付いてくるがいいさ、超弩級戦力。だが、この歌声はキミ以外にも届いている!)
 田中の歌声は、道行く一般人にも届き、その場がたちまち騒然となってゆく!
「キャァーッ♪ 素敵ーッ!」
「もっと聞かせてぇ!」
 道行く女性達が、熱に浮かされたかのように二本木の行く手阻み始めた!
「やっべ! こんな遣り口もあるのかよ!」
 田中は障害物(野次馬)を用意してきたのだ!
 群衆から抜け出すのに苦労する二本木をよそに、歌う田中は華麗にその場から立ち去ろうとする。
「おい、待てって! ちょ、悪いが映画の撮影中なんだ、どいてくれ! って付いてくんな!」
 まるで童話に出てくる笛吹き男に付いてくる子供達のように、夢遊病患者めいて田中を追い掛け始める群衆!
 田中の歌を聞きたさに大移動する群衆は、撮影の邪魔でしかなかった。
「まずい! フレームアウトさせて堪るかよ……!」
 ようやく人ごみから抜け出せた二本木だが、既に田中の背中は豆粒サイズまで遠のいてしまっている。
 万事休すか、と思われたその時、空から桜色の流星が降り注いだ。

「逃げないで下さい」
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が音速を超えた速度で飛来してくると、田中の行く手へ回り込んできた。
「……驚いたね。超弩級戦力は空も飛べるのかい? 私もそれ、使ってみたいな」
「まだ軽口が出る程度には余裕がおありなのですね」
 御園の言葉に、田中が首を振る。
「そんなワケないだろう? キミ達の執念深さに、私は必死さ。できれば、そこを通してくれないかな?」
「それは出来ない相談です。たとえ、今がフレームアウト中だとしても」
 今度は御園が首を横に振った。
「私は映画に出ない裏方です。そして貴方は国民的スタァ。良い映画にしていただきたいという想いは変わりません。そして、貴方はこの映画を完成させたいと心から願っている。だから、敢えて最後まで役者であることを選んだのでしょう?」
「そうさ。この映画は素晴らしい出来になる。キミたちの出演も話題を呼ぶだろうからね」
「だったら、最後まで演じきって、皆々様と共にクランクアップを迎えればいいではありませんか。それが国民的スタァである貴方の役者としてやるべきことです」
 諭すように訴えかける御園は、差し出がましいようですが、と前置きをした上で提案を投げ掛け始める。
「実は、撮影所を出てくる直前、脚本家の方にご提案してきました。この映画、ラストシーンを怪盗の独白にすれば、途中がどうあれ映画の整合性はとれると思うのです」
「なるほど、それは名案だ! けど、私はここで退場させてもらうつもりだが?」
「貴方の演技に賭ける情熱は本物だと思うのです」
 御園の言葉に、田中の足が思わず止まった。
 彼女は一気にここから言葉をまくし立ててゆく。
「形振り構わず逃げるべきなのに、貴方は役に没頭しました。だから、ラストシーン直前までは、台本通りの行動をされるおつもりなのではないでしょうか?」
 田中は俯いたまま無言を貫く。
「ならば此処で投げ出さないて下さい。中途半端に逃げないで下さい。貴方は、国民の羨望を浴びる存在のはずでしょう?」
 御園の言葉に、田中は図星を突かれたのか、ぐぅの音も出てこない。
 そうこうしているうちに、後ろから二本木と警官姿の数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)がこちらへ向かってくる。
 御園は全身を渦巻く桜吹雪で覆うと、その身体がふわりと中に浮かんだ。
「お願いします。逃げないで下さい。私は、空から貴方を監視しております。貴方が台本から外れた行動若しくはカメラの死角に潜り込むような行動を取ったら、すぐにマッハ7弱で急接近して逃走を阻止してみせますから」
「……これ以上演じて、どうしろと? 私は、母親の命を人質にされているんだぞ……?」
 田中が吐き出すように苦悶する。
 だがそれに御園は微笑みながら答えた。
「貴方の想いに添えませんが、貴方のお母様を助けるお手伝いはしたいのです。私達に任せてくださいませんか?」
 ぶわっと桜吹雪が田中の視界を覆ったかと思えば、次の瞬間、御園の姿が忽然と消えていた。彼女の言葉通り、上空での監視に戻ったのだろう。
 そこへ、数宮がようやく追い付き、二本木の撮影が再開される。
「探しましたよ、警部! 貴方が襲われてるという情報が入ったので、本官が応援に駆けつけました!」
 田中は再び役者としてカメラの前に立ち、見事なアドリブで数宮と言葉をかわし始めた。
「……襲われてた、というのは誤解だ。むしろ逆だ。このスーツケースの中身を、あの女義賊が狙っているんだ。それで私は逃げているのさ」
「なんと! あの噂の女義賊が! でしたら、此処で待ち構えて捕まえましょう!」
「いや、その必要はない。これは私の捜査だ。キミは本来、管轄外だろう? 持ち場に戻りたまえ」
「ですが……! そういうことならば、もっと応援を呼ぶべきです!」
 突っかかる数宮巡査が、田中の手元に織り込まれた紙を渡した。
「……これは?」
「ち、近くの派出所の連絡先であります! それと、帝都桜學府にも応援を呼びましょう! これは大捕物ですよ!」
「だから私には必要ないと……」
「そう言わず、警部の目で確かめていただけますか? 応援を呼ぶなら、今しかありません!」
 数宮の言葉は、ユーベルコード『罪暴く言の葉(ディテクティブ・ロイヤー)』の効果で、相手を丸め込ませやすくなっているのだ。
 田中はおもむろに髪に書かれた文章に目を落とす。
 そこに書かれた内容に、田中は眉間にシワを寄せた。
『母親の治療は猟兵が責任をもって行う。救出の手筈も帝都桜學府が整えてくれた。あとは、アンタが母親のいる病院がどこか、台詞の中で自然に混ぜてくれるだけでいい』
 田中は唖然としていた。
「これは、本当なのか?」
「嘘ではありません! 本官は心から、警部殿のお力添えしたいのであります! 万事手はずは整えました! 女義賊を捕らえましょう!」
 ニカッと笑って見せる数宮。
 実は、彼女が合流に遅れたのは、集められた情報を精査し、田中の母親の救出作戦並びに黒幕の捕縛のための応援要請を、帝都桜學府に掛け合っていたからだ。
(さぁて、そういう事情っていうなら、幾らでもやりようがあるてもんさ。田中さんは逃がしちゃいけない、のは分かる。でもな。要は『逃げようとさせなきゃいい』んだろ? つまりはスパイとして協力する理由を潰しゃあいい)
 帝都桜學府はすぐにでも學徒兵達を動員できると約束してくれた。
 スーツケースの運搬を依頼した黒幕への包囲網も狭めつつある。
 あとは、田中の出方次第だ。
「……五反田、だ。私は『五反田の病院』へ向かう。『応援を頼む』よ」
 これはつまり、田中の母親が五反田の病院に入院しているということだ!
 更に、黒幕を追い詰めるように帝都桜學府への協力も認めたのだ。
 早速、数宮は小道具の無線で、本当に帝都桜學府へ連絡を取り始めた。
「こちら数宮! 応答せよ! 警部から承諾を得た! 直ちに出動を求む! 目的地は五反田の病院! 『二方面作戦』を決行せよ!」
『こちら帝都桜學府。直ちに作戦を決行す!』
 ザーッとノイズが走って通信を終えた数宮。
 田中は溜息を吐くと、数宮に頭を下げた。
「……感謝する」
「いえ! 本官は当然のことをしたまでであります!」
 敬礼する数宮。二本木も無言で頷く。
 これでシーンが締まるだろうと、2人は思っていた矢先の出来事だった。
「だがね? さっきも言ったはずだ。これは……『私の捜査』だと!」
 田中が上空を見上げる。
 すると、突然、上空から高速飛来する真紅の機人が田中を鷲掴みにしてしまう!
「こいつは……影朧甲冑じゃないかい!」
「マジかよ! おい、今更逃げるのかよ!」
「いいや、私はもう逃げない! 猟兵諸君、付いてきたまえ! 決着をつけよう!」
 そのまま、ズキュゥゥゥン!と帝都の空を高々とぶっ飛んでゆく田中!
 だが、これに抗うべく、二本木がユーベルコードを発動!
「そうはさせるかよ! 早くこのとうもろこしを食ってくれ!」
 どこからか取り出した焼きもろこしを数宮に渡すと、自身も思い切りかぶりついた。
 ユーベルコード『アヴァチュホヤの御裾分け(アヴァチュホヤノメグミ)』は、焼きもろこしを食べて楽しんでいない相手の行動速度を5分の1に低下させるのだ。
「ほらほら田中ちゃん、遅くなってんぞー」
 空を飛ぶ相手は流石に速度低下しても速いのだが、まだ猟兵の身体能力で追い付けそうだ。
「待って下さい。あとは私が追いかけます。後ほど、皆様には蜜蜂であの御方の居場所をお知らせしますので、まずは撮影所へ戻って、皆様は関係者たちへ事情を話してくださいませんか。お願い致します」
 降下してきた御園が焼きもろこしをかじった後、赤い影朧甲冑を追い掛けてゆく。
「なんでだよ、田中さん! もうアタシ達が戦う理由なんてないはずだろう!?」
 数宮は電柱に拳をぶつけて唇を噛み締めている。
「どうやら、田中さん、腹になにか抱えてるカンジみてぇーだなぁ?」
 カメラを止めた二本木は、飛び去ってゆく田中と御園を目で追い掛けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『スパヰ甲冑』

POW   :    モヲド・零零弐
【マントを翻して高速飛翔形態】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【目からのビーム】を放ち続ける。
SPD   :    影朧機関砲
レベル分の1秒で【両腕に装着された機関砲】を発射できる。
WIZ   :    スパヰ迷彩
自身と自身の装備、【搭乗している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 高機動型影朧甲冑『スパヰ甲冑』は、撮影所から少し離れた、人気のない里山に降り立った。
 追跡していた猟兵達は、田中の元へ詰め寄る。
 田中は甲冑の腹部のファスナーを下ろすと、その中へ身を潜らせてゆく。

「私は思い出してしまったんだ。この帝都は、弱者を救済してくれない事に。私の母さんはね、私を生んでからすっかり弱ってしまってね。そんな母さんを父親は見限り、親族からも腫れ物扱いだ。それは私が俳優になって大成してからも変わらない。もっと言えば、この国のために尽くそうと思って入学した帝都桜學府も、理想と現実の乖離に何度落胆したか……」
 田中の独白は、スタァの実像にしては、あまりにも凄惨な過去であった。
「そして何より、帝都ではカネが必要だ。いくらカネがあっても足りなくなる! カネがなくなれば夢も希望も諦めざるを得ない! この運び屋の仕事も、母さんの治療費を捻出するためさ。亜米利加の腕の良い医者を紹介してもらえるという破格の条件付きでね」

 完全にスパヰ甲冑に乗り込んだ田中の身体を、影朧の呪詛が蝕み始める。
「うぐ……っ! だから、これは私の意地だ。私のケジメだ。私の懺悔だ。私の怒りだ。私の悲しみだ。この世界が平和というのなら、弱者を切り捨てる平和など、私はうんざりだ!」
 田中を乗せたスパヰ甲冑がホバリングを開始!
「改良されたこの影朧甲冑の呪詛が完全に私の体を蝕むまでに、まだ時間の猶予はある。それが何を意味するか、諸君は分かるはずだ」
 それはつまり、早期撃破をすれば、田中は助かるということだ。
「猟兵諸君。どうか、愚かな私のわがままに付き合ってくれたまえ……」
 甲冑の両腕の機関砲を、猟兵たちに向けた田中が言葉を放った。

「――幻朧戦線、田中 晃彦。推して参る。さぁ、Show must go on!」
水心子・静柄(サポート)
本差の姉に劣等感を持っていてい、表面上は邪険にしているが姉妹仲は良い方、所謂ツンデレ。考え方は知的、でも面倒になってくると脳筋的な解決法に傾く。勘が鋭いが如何にも知的に導いたように振舞う。知的にユーベルコードを使いこなす。脳筋ぽいけど実は知的。武器は鞘に入ったままの脇差(本体)。高圧的、威圧的な話し方だが、本人は至って普通に話しているつもり。

基本は本差を召喚して無双したがるが欠点があるが、相手によっては居合の構えをとって後の先で対応する。面倒な時は知的に考えつつグラウンドクラッシャーでデストロイ。


桑原・こがね(サポート)
あたしを見ろォ!
登場は雷鳴と共に、派手に演出していきたいわね!
名乗りを上げて注目されたいわね!
囮役とかも嫌いじゃないわ。

こそこそしたり駆け引きするのは苦手だし、何事も正面突破の力技で解決したい!

戦うときは大体斬りかかるか、武器を投げつけるか、雷出すかのどれかね。徒手空拳も心得が無くもないわ!

さーて、雷鳴を轟かせるわよ!


北条・優希斗(サポート)
『敵か』
『アンタの言う事は理う解できる。だから俺は、殺してでも、アンタを止めるよ』
『遅いな』
左手に『蒼月』、右手に『月下美人』と言う二刀流を好んで戦う剣士です。
自らの過去を夢に見ることがあり、それを自身の罪の証と考えているため、過去に拘りと敬意を持っております。その為オブリビオンに思想や理想があればそれを聞き、自分なりの回答をしてから斬ります。
又、『夕顔』と呼ばれる糸で敵の同士討ちを誘ったり『月桂樹』による騙し討ちを行なったりと絡め手も使います。
一人称は『俺』、口調は年上には『敬語』、それ以外は『男性口調』です。
見切り、残像、ダッシュ等の機動性重視の回避型の戦い方をします。


日留部・由穏(サポート)
こんにちは、日留部由穏と申します
これでも太陽神の生まれです
人々の生活はいつまでも見飽きないものですし、晴れやかに生きてほしいと考えます
人間同士の諍いならともあれ、オブリビオンの影に未来を曇らされるなら私が手を出さない道理はありません
光が届かない所へは、日輪たる私が手を伸ばせばよいのです
特に、各地の卑劣な神々には思う所がありますね

戦闘は超視力と暗視、UDC組織で身に着けた光線銃での銃撃戦です
催眠術は情報収集にも戦闘時の誘導にも使えますので、結構便利ですよ
アートも得意なので騙し絵や罠の隠蔽等も可能です

過剰に負傷を避けるつもりはありません
何があろうと、人の未来を照らし続けることが私の存在意義ですから


フェリス・シー(サポート)
『フェリスちゃんにお任せなの』
 ちっちゃい妖精さんです。
 普段の口調は語尾に「なの」ってつけて話す(自分の名前+ちゃん、相手の名前+ちゃん、)」

年齢相当で無邪気で難しいことは分かんない。
楽しそうな事は積極的に参加する
時には無邪気にハチャメチャ
いたづらしてみたり
バッタの群れで蝗害起こしてみたり、
溶解液入り水鉄砲撃ってみたり
軍人さん呼んで戦争してみたり

ユーベルコードはマジックザギャザリング由来のものですが、原型とどめていない物もあり元ネタを特に気にする必要はないです。



 赤き影朧甲冑が空中浮遊しつつ、両腕に装着された機関砲を猟兵たちへ向ける。
 その射線を遮るように、サポートで駆け付けた猟兵達が割り込んできた。
「アンタの言う事は理解できる。だから俺は、殺してでも、アンタを止めるよ」
 北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)は左手で魔刀『蒼月・零式』、右手で妖刀『月下美人』を抜き払い、影朧甲冑に乗り込んだ田中を見据える。
「アンタがどれだけ苦しんだかは、さっきの話でよく分かった。だが、テロリストに加担した時点で、それは言い訳に過ぎない。アンタは今、自身の怒りで罪を犯そうとしているからだ」
「そうよ、そんな事したって意味がないわ。むしろ罪状が増えて困るのは田中さん、貴方の方よ?」
 水心子・静柄(剣の舞姫・f05492)は、静かに、そして戒めるように田中へ告げる。
「幻朧戦線に利用された事については同情するわ。貴方の抱える事情にもね。でも、自分の意志でそれに乗り込んだからには、それ相応の覚悟があると判断するわよ?」
「……ッ!」
 田中は影朧甲冑の中で唇を噛み締めながら無言を貫く。
 その代わりに、影朧甲冑はマントを翻して高々と空へ駆け上がってゆくと、目からビームを照射しながら機関砲を乱射し始めた。
 飛んでくる光線と弾幕を、猟兵達は一斉に飛び退いて回避!
「残念です。それがご自身の決断というのなら、やむを得ません」
 日留部・由穏(暁天緋転・f16866)は悲しそうに目を細めた後、すぐにユーベルコードで対抗する。
「31.6度の白日より、去り逝く貴方に餞を」
 290本の白い炎が日留部の周囲に生成されると、田中へ向かって一斉に飛来してゆく!
「私(かみ)の慈悲を、与えましょう」
「させるか……!」
 田中は自身と影朧甲冑を透明にしてみせた。
(射撃は所詮、目視での標的確認ができなければ命中させられない! このスパヰ迷彩で姿を消せば……)
 透明化したまま、数多の白炎から逃れようとする田中。
 だが、田中は“彼女”の存在に気が付かなかった。
「イーグルアーミーの人、協力お願いなの」
 不意に、影朧甲冑の背後から聞こえる少女の声。
 直後、立て続けに何十も重なり合う銃声とともに放たれる銃弾の雨!
「何処にいるか分からないから、とにかくあちこち撃っちゃってなの」
 フェアリーのフェリス・シー(ちっちゃなプレインズウォーカー・f00058)は、ユーベルコード『集合した中隊(コレクテッド・カンパニー)』で呼び出した小銃小隊三個と火器小隊一個に発砲命令を下し、とにかく無造作に周囲を砲火しまくっていた。そのあまりの無軌道ぶりは、フェリスが田中の気配を辿れていない証拠でもあったが、そのランダムでバラバラな射線は、日留部の放つ白炎を回避する妨害になっていた。
(しま……っ!)
 遂に影朧甲冑が前後からの十字砲火を浴びて姿を表した。
 日留部の白炎は、たとえ喰らっても熱くも痛くもないのだが、精密機械である影朧甲冑の制御回路を傷つけるのには十分すぎる効果を持つ。加えて、フェリスの重火器の弾幕が、着実に影朧甲冑への損傷を広げてゆく。
「影朧甲冑ちゃん、みーっけなの♪」
 フェリスは鬼ごっとをしているかのごとく、空中でキャッキャとはしゃぐ。
 田中は機体の損傷率を確認、動作に支障がない程度のダメージだと判断すると、機体をすぐに起こして体勢を立て直した。
「参ったね。よもや、そんな小さな猟兵のお嬢さんまでいるとは。完全に不覚だったよ。まだまだ私は勉強不足だったようだ」
「田中さん、もう、止めませんか?」
 ふと、日留部が言葉を投げかけた。
「私は太陽神の生まれ。人の子には健やかに、穏やかに生きてほしいのです。何があろうと、人の未来を照らし続けることが私の存在意義ですから」
「だったら、弱者にも、もっと平等に光を当ててほしかったよ、太陽神様……!」
 田中の独白は、なかば恨み節にも聞こえた。
 再び機体が浮かび上がる。機体を旋回させ、両腕の機関砲を北条へ突き付ける。
「弱者は、陽の光すら浴びることが出来ないまま死んでゆく者だっているのだよ。現に、この大正の世の中で陽の光を独占するのは、いつも強くて傲慢な奴ばかりじゃないか! 本来なら、苦労を重ねる母さんのような人が陽光を浴びるべきなのに!」
 田中の怒りの言葉と共に機関砲が火を吹く!
 篠突く雨が如く放たれた銃弾は、北条の全身に浴びせられてゆく。
 だが、北条は弾幕の着弾点から既に姿を消していた。
「何処を見ている? 俺はこっちだ――」
 影朧甲冑の脇腹に凄まじい衝撃が2連続で迸った。
 北条の二刀流が、影朧甲冑の真横からきれいに入って装甲を切り裂いたのだ。
「馬鹿な……? 完璧に捕らえたはずだ……!」
「悪いな。この蒼穹の瞳なら未来を読める……!」
 北条のユーベルコード『剣王の瞳』で数秒先の未来を視る事で、弾幕の射線を軽々と回避しつつ敵の企画へ回り込んだのだ。
 しかし、これは本来、真の姿で発動できる異能。無理矢理に使用したためか、彼の消耗は著しい。
 そこを狙う田中!
 北条、万事休す!
 だが、次の瞬間、黄金色の雷光が影朧甲冑を吹き飛ばした!
「雷鳴を轟かせろォ! そして、あたしを見ろォ!」
 金髪の女剣士が、全身に雷光を纏って斬りかかってきたのだ!
「遅れてごめんっ! さあ、悪党! ここからは、雷鳴団団長の桑原・こがね(銀雷・f03679)様が相手だァ!」
 大見得を切って、カッコよく決めた桑原。
 内心で手応えを感じて大満足であった。
「ちょうどよかったわ。ねぇ、貴女? あれ、撃ち落とせる?」
 静柄の言葉に、首を傾げながらも桑原は快諾した。
「えっと、うん、やってみるわ!」
「頼んだわよ。ほら、さっさとしないと敵が飛んで逃げるわよ?」
「うわ、本当だ……! こら、空を飛びなんてズルいわ!」
 桑原は高速で空を飛ぶ影朧甲冑へ、所持している刀を幾振りも投げ付けるが届かない。
「ああ、イライラするわね! こうなったら、えーと、火・水・風の魔力を自分の体の中で合わせて……発電ッ! 理論は知らないけど!」
 バチバチィッと桑原の全身から火花が飛び散ったかと思えば、突き付けた刀の切っ先から、影朧甲冑へ向けて一条の電撃が放たれた!
「感電して落ちろォ!」
「あガッ!?」
 機体に高圧電流が流れ、中に乗り込んだ田中も感電してしまう。
 そのまま高度を落として地上へ降りてくる影朧甲冑の着地点へ、静柄が猛然と駆け寄ってきた。
「あの降下速度から算出して、あと10秒で墜落するわね。その前に……!」
 ダムッと地面を蹴って跳躍した静柄は、本体である鞘に収まったままの脇差の鯉口を切る。そのまま、火焔の刃紋が浮き出た刀身を鞘から素早く抜き、神速の居合を披露した!
「ハッ!」
 ギイィィンッと金属同士が激突した甲高い音が里山に轟く!
 影朧甲冑の胸部が切り裂かれ、中に搭乗している田中の顔が露出!
 機体は無様に地面を転がりながら、ゆっくりと再び起き上がる。
「これが、超弩級戦力の戦闘か……!」
 圧倒される田中は、猟兵達の猛攻に後退しつつあった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

御園・桜花
「…さすが国民的スタァは演技派です」
小さく笑う

「本当に理想郷が存在したら。其処に住む方々は随分短命になることでしょう。誰かの理想は誰かの地獄。万民の理想郷など有り得ません。動かぬ水は澱んで腐る。ぶつかり合う理想の終着点が共生です。其は動的であって静的ではない」

「理想郷など只の口実。貴方の事情を聞いて責める者は殆ど居りませんもの。罰せられたかったのでしょう?貴方が納得するまでお尻をペンペンして差し上げます」

UCの蜜蜂張り付け透明化見破り逃走阻止
第六感も使用し制圧射撃や高速・多重詠唱による属性攻撃で足止め

「大人なのですもの。司法取引や情状酌量はご自分で引き出して下さいね。…新作、お待ちしています」


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

田中さん……
アンタバカだよ、
バカが付くぐらい真面目過ぎるんだよ!
そういう奴には、やっぱり言葉よりも
実力で解らせないと駄目なようだね!
オラ、来やがれってんだよォ!

『コミュ力』で啖呵を切って『挑発』し、
『属性攻撃』の電撃を『範囲攻撃』のように放って、
甲冑の動きをけん制するよ。
狙いをぼかすために姿を消されるだろうけど、
そこまでも織り込み済みさ。

その真っ直ぐな意地が、アタシに向けられた時。
【超感覚領域】の電撃が、その甲冑をからめ取る。
『マヒ攻撃』も込めてるからね、そうそう迅くは飛べなくなるだろ。
後は『ダッシュ』で駆け寄って、
顔は外して脳天からの拳骨で勘弁してやらぁ!


二本木・アロ
「……で、話終わった?」
テキトーなトコに座ってくつろぐぜ。
「話なげーんだもん。聞いてらんねー」
「んなもん着る根性あるなら他で使えよ」
仲間が攻撃に集中できるよーに【挑発】して攻撃を引き受けてるわ。
あたしに狙い絞ってくれりゃ【かばう】のが楽だからな。
基本的に殴る蹴るの肉弾戦だから、硬そうなヤツとは相性悪いんだ。
んで攻撃はオペラツィオン・マカブルで受け流す。

弱者を救済、ねぇ。なんで弱者に甘んじてんだ?
學徒兵で俳優で、根性あるじゃねーか。
「さっきはああ言っちまったけど、あんたの告白も演説も良かったぜ」
観衆もきっとあんたの味方に付くだろーよ。
……ん? カメラなら回しっぱなしだけど? ダメだった?


ノインツィヒ・アリスズナンバー
なるほどなるほど?
確かに~私ちゃんも芸能界もねじ込みとかに金は……あ、この話タブー?
二面作戦も展開されたし、もう後は田中さんを止めるだけ☆絶対に救出してみせるからね☆

呪詛が回る前に速攻戦!攻撃には【見切り】で回避して、【無差別攻撃】【レーザー射撃】で姿が見えないことに苦戦するように【パフォーマンス】するよ☆
同時に隠しておいたキャバリア・イドラの【エネルギー充填】しておいてUC発動!イドラと一緒にステージ開幕だぁ!
私ちゃんも少し忘れてたけど役は猟兵アイドル!姿が見えなくても音は届くでしょ!

……そういえばまだフィルム回ってんのかなこれ。

アドリブ・絡み歓迎


紅葉・智華
※アドリブ・連携歓迎

「理由はわかりました。でも――(電脳魔術で軍服ワンピースに【早着替え】しつつ)其方がそのつもりなら屠るのみでありますよ」
どんな理由であれ、オブリビオンの利する行為は許しません。体表面を硬質化させて(真の姿解放)、敵の攻撃は【見切り】つつ、回避する(第六感)。【ダッシュ】で十分に間合いを詰めたら【カウンター】気味に『選択UC』(グラップル)でぶん殴る。

「理想と現実との差で苦しむのは誰にでもある事でありますよ。でも――それを理由に人々を欺いたと貴方の母が知れば、どう思います?」
もう遅いのかもしれない。でも、これだけは突き付けてやらないと。



 猟兵達の実力を身を以て体験した田中。
 影朧甲冑の損傷も軽くはない。
「どうやら、私はキミたちを軽んじていたようだ。よもや最新鋭の影朧甲冑が、簡単に捻られてしまうなんて思いもしなかった」
「田中さん……だったら、もう止めたらどうだい?」
 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)はまっすぐに甲冑の中の田中の顔を見詰めていた。
「アンタ……バカだよ、バカが付くぐらい真面目過ぎるんだよ!」
「なるほどなるほど? 確かに~お金は大事だし、天下の周りものだよね~?」
 ノインツィヒ・アリスズナンバー(90番目のアイドル・f29890)はうんうんと頷いて同意を示す。
「私ちゃんも、芸能界でお仕事のねじ込みとかにお金をプロデューサーに……」
「ノインツィヒさん? そのお話はやめましょう?」
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が笑顔でノインツィヒを制止する。
 彼女の背後がユラァリ……と怒気が立ち昇っている。
「……あ、この話タブー? てか桜花ちゃん、怒ってる?」
「今はあの御方の我儘を諌めるのが先ですよ」
 否定も肯定もせずにニッコリと微笑む御園に、ノインツィヒは思わず身震いしてしまう。
「ヒェ……あの、今後、姉御って呼んでいいっすか?」
「なんでです?」
 気圧されるノインツィヒ、首を傾げる御園。
「ああ、もう! 話が進まないでありますよ!」
 痺れを切らした紅葉・智華(紅眼の射手/自称・全サ連風紀委員・f07893)が話を再び切り出した。
「ともかく、動機はわかりました。貴方が同情を乞うのに十分な理由だということも。でも――」
 智華の全身が01の記号に包まれると、撮影用の衣装から普段の戦闘服である改造軍服に一瞬で早着替えを完了させた。
「其方がそのつもりなら、我々はオブリビオンとして貴方を屠るのみでありますよ?」
 それが何を意味しているのか、と無言で問い掛ける智華。
 これに御園が無言で智華へ視線を投げかけて牽制していた。
(そうか、桜花さんは田中さんを助けたいのか。でも、影朧甲冑はたしか……)
 一度乗り込めば、影朧の呪詛に全身を侵され、一生外へ出られなくなる代物だ。
(……田中さんの言葉を信じるなら、早期撃破をしなくてはならない。けど、もうだいぶ戦闘が始まってから時間が経過している。……最悪のケースも考え、その役目を私がやらなくては……!)
 智華は自ら汚れ役をかぶる覚悟を既に固めていた。
 その覚悟の表れなのか、智華の肌の色が人間の肌色から、金属の鉛色へと変色してゆく。サイボーグである智華の“真の戦闘形態”……ナノマシンによる体表面の超硬質化が始まったのだ。
「答えて下さい、田中さん。どんな理由であれ、オブリビオンの利する行為は許しません。貴方は、まだ猟兵達と戦うのでありますか?」
 問われた田中は、甲冑の中で俯き、絞り出すように答えた。
「……そうだ。これは、私の意志だ……」
「バッカヤロウ!」
 数宮が涙ぐみながら叫ぶ!
「アンタ、本っ当に大馬鹿野郎さね! その上、頑固と来たもんだ! いいさ、そういう奴には、やっぱり言葉よりも実力(ゲンコ)で解らせないと駄目なようだね!」
 数宮が両拳を掲げてファイティングポーズ!
「オラ、来やがれってんだよォ!」
「はいはい、待った。一旦クールになろうぜ。クールになー?」
 不意に、頭上から声が響いた。
 松の木の枝に腰掛けていた二本木・アロ(ガードカツィナの娘・f02301)が、カメラ片手に猟兵達と田中を見下ろしていたのだ。
「……で、話終わった? ふ、ふぁ――!」
 背伸びしながら大欠伸をすると、二本木は身体を後ろに逸して宙返りしながら着地してみせた。何たるフィジカルの強靭さだろうか。
「あー、もーさ、話なげーんだもん。聞いてらんねー。つかさ、あたしも一言あんだけど、イイ?」
 首や肩をゴキゴキ鳴らしながら、二本木は田中に人差し指を突き付けた。
「んなもん着る根性あるなら他で使えよ! 死んじまったら、あんたの母ちゃんが泣くぞ!? そんな事も頭が回らねーのかよ、多喜ちゃんも言ってたけど、本当に馬鹿だな、田中さんよォ!?」
「全然、一言で収まってなーい!」
 ノインツィヒがツッコミに回らざるを得なかった。
「大体さー? 弱者を救済、とか言ってるアンタが、なんで“弱者に甘んじてんだ”って話だぜ? あんたはこの世界で売れっ子の国民的スタァ様じゃねぇの? 十分に勝ち組じゃねーか。ギャラだってたんまり貰ってるだろ?」
「……華々しい世界の影では、色々とカネが必要なんだよ、この業界は。勿論、母さんの治療費も莫大だ。甘んじてるんじゃない、私は、いつまでも弱者のままなのさ」
 田中の独白に、二本木は嫌気が差してしまう。
「はぁ~? そうやって自分だけが悲劇の主人公だって思い込みやがって。バカを通り越してクソだな、あんた!」
「アロちゃ~んっ!? 国民的スタァをクソ扱いは良くないかなっ? かなっ?」
 二本木の暴言にノインツィヒの顔面が蒼白になってゆく!
 当の田中も、甲冑の中で顔が引き継いっていた。
「……はは、流石に挑発だと分かっていても、私の自尊心がその発言を許さないなぁ!?」
 ガォンッと駆動音を立てながら、両腕の機関砲の砲口が突如マズルフラッシュで瞬く!
 猟兵達は素早く四方八方に散って回避!
 けたたましい連続発砲音が砲弾とともに撒き散らされ、周囲の松やクヌギの幹を粉砕してなぎ倒してゆく。
「キャーッ!? アロちゃーんっ! 謝ろっ? ねっ? 田中さんは今は敵かもだけど、さっきの発言は良くないと私ちゃんは思うよっ!? って来んなよコラァ!! アイドルの身体、傷モンにする気かワレェーッ!」
 弾幕を踊るようにワタワタと回避しつつ、こっち来んなと言わんばかりに魔法光線で相手を牽制するノインツィヒ。
「どうした? それがご自慢の機関砲かよ? 豆鉄砲の間違いじゃねぇの?」
 だが、二本木は中指を立てながら田中を更に罵倒!
 田中は思わず堪忍袋の緒が切れてしまう。
「君は少し痛い目にあってもらおうか!」
 機関砲を更に連射!
 BATATATATATATATATATATATATATATATATATATA!
 地面に砲弾がぶつかるたびに篠突く雨が如く砂が舞い上がり、その軌道が二本木に迫る!
「危ない! リカバリー!」
 04-MV[P/MC]マルチロールアサルトウェポン【刹那】で即座に制圧射撃する智華!
 田中が銃撃に身を翻したことで、二本木への射線が逸れた。
「二本木さん、大丈夫でありますか!?」
 心配の声を掛ける智華だったが、二本木は微妙な顔だった。
「あー、うん、ひとまず礼は言っておく。でも……耳貸せ、ホラ!」
 ゴニョゴニョを智華へ作戦を打ち明ける二本木。
 その内容に、少しだけ智華は目を見開いた。
「なるほど。では、私は遊撃に徹するであります!」
「そうしてくれると助かるぜ。んじゃ、解散!」
 二本木と智華は左右二手に分かれて挟撃の構え!
「無駄だよ、キミたち! こっちも左右に機関砲が在るのだからね!」
 影朧甲冑の左右の機関砲が火を噴き、右の二本木、左の智華を狙い撃つ!
 砲弾の雨は、二本木と智華の全身に容赦なく突き刺さっていった!
「まずは2名戦死……な、んだ、と……?」
 田中は甲冑から左右を視認して驚愕した。
「ってぇなー! 危うく死ぬかと思ったぜ!」
 二本技は無傷でその場にあぐらをかいているではないか!
 対して、智華はというと、硬化した皮膚にめり込んだ弾を左手で払っていた。
「思っていた以上に厚い弾幕でありました……。右腕に弾を浴びてしましましたが、瞬時に皮膚の高度を調節して正解でありました」
「嘘だろう!? 人間は銃で撃ったら死ぬんじゃなかったのかっ?」
 田中が悲鳴を上げる!
 二本木は溜息混じりで言葉を返す。
「オレらは埒外の存在だぜ? 銃で撃たれても死なないことだってあるんじゃねぇの? 知らねーけど」
 すっくと立ち上がった二本木は、影朧甲冑を挟んで向かい側の智華へ警告する。
「ちょっと脇に逸れてくれねーか? あ、うん、そのへんでオッケ。んじゃ、ココペリ様、頼んだぜ?」
 アーマーリングから繋がった極細の操り糸をたぐると、真っ黒い動物のような小さな人形が二本木の前に立ちはだかった。
「これはオレの一族の信仰する神を模した、かってぇー人形のココペリ様だ。ココペリ様は、ラッパを吹くのが得意なんだぜ。こんな具合にな?」
 人形が、手に持っていたラッパを吹く素振りをした次の瞬間!
 ラッパから鉛玉の弾幕が影朧甲冑に殺到したではないか!
「ぅぐっ! これは……ユーベルコードか!」
「正ぇ解だぜ! 無気力であんたの銃撃を受けることで攻撃を無効化! その攻撃をそっくりココペリ様からぶっ放すことが出来んだよ!」
 ユーベルコード『オペラツィオン・マカブル』!
 無事に成功させた二本木が、智華へ叫んだ。
「そして、今だ、ぶん殴れ!」
「ハッ――! しま……っ!」
 田中が振り向こうとした矢先、鋼鉄めいた鈍色の拳が眼前に迫ってきていた!
「ナノマシンスキンアーマー硬度変換、硬度最大、ラプラス最大駆動――行くよラプラス。これが私の切り札だ――!」
 赤枝流拳術『唯倒』――紅眼の掌撃(クリムゾン・ストライク)!
 超硬度の鉄拳が、影朧甲冑の左側面を強打!
 轟音とともに甲冑の左腕から左腹部までが粉砕!
 クリティカルヒット!
 半壊した影朧甲冑に慌てた田中は、作戦を変更。
「ならば、これでどうかな? スパヰ迷彩、起動だ!」
 ブウゥゥン……と唸りを上げた影朧甲冑が、周囲の景色に溶け込んでゆく。
「これ、まずいんじゃないかい? このままだとまた逃げられるよ!」
 数宮が周囲を警戒する。
 だが、それを御園が否定した。
「いいえ、田中様はここから離れておりません。その大きな松の木の上に浮かんでおりますよ」
 御園は軽機関銃を両手で構えると、一見、何もなさそうな虚空へ向けて乱射し始めた。
 すると、銃弾が金属を弾く音とともに火花が散り、一瞬だけ赤い影朧甲冑の姿が浮かんではまた消えたではないか。
「今度は私の正面から見て5時の方向、突っ込んできます!」
「うおっ!?」
 御園に促されてしゃがんだ数宮の頭上を、何かが高速で駆け抜けていった。
「桜花さん、ひょっとして、本当に田中さんの居場所が分かってるのか!?」
「ええ。本日は、私の蜜蜂が大活躍ですね」
 微笑みながら軽機関銃で弾幕を張って、田中の動きを牽制する御園。
 彼女はユーベルコードで召喚した蜜蜂を、影朧甲冑に留まらせている。この蜜蜂は御園と五感を共有しているため、何処から襲ってくるかが彼女にとっては視覚情報で筒抜けなのだ。
「そういえば、ノインさんは何処行ったんだい?」
「あら、言われてみれば姿が見えませんね?」
 ここで、数宮がノインツィヒの姿がないことに気付き、御園も首を傾げる。
 と、次の瞬間!
『みんな~☆ おっまたせ~☆』
 帝都の空から、体高5mの巨大人形兵器が舞い降りてきた!
『私ちゃん専用機キャバリアのイドラだよ☆ ちょーっと隠し場所までダッシュで戻ってたら、遅れちゃった! メンゴメンゴ☆』
「な……っ! なんだ、これはァァァァァァッ!?」
 田中は口をあんぐり開けたまま驚愕!
 サクラミラージュの外から持ち出された人形兵器『キャバリア』が、帝都の郊外の里山に降臨! 影朧甲冑など文字通り足元にも及ばないサイズ感の差だ。
「こんなの、勝てるわけ無いだろうっ!?」
 田中、一瞬で戦意喪失……っ!
 だが、田中は今だ透明化を保ったままだ。
(そうだ、このまま逃げてしまおう。よもや猟兵があんな巨大な絡繰甲冑を操るなんて! 踏み潰される前に、そーっと、逃げてしまおう!)
 だが、田中の目論見は、全身に駆け抜ける音波の振動に阻止された。
『私ちゃん――アイドルターイム! 私ちゃんも少し忘れてたけど、映画での役は猟兵アイドル! 最後まで役に徹しないとだよね☆』
 イドラのコックピットが開き、中からノインツィヒが飛び出てくると、念動力で宙に浮かびながらアイドル的決めポーズ!
 すかさず、イドラに搭載されているサウンドスピーカーユニットから、和風ロックソングの伴奏が大音量で流れ始めた。
「私ちゃんの歌を聞きやがれー☆ ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
 ノインツィヒの影超えが始まると、里山に忽然と姿を表すファンの霊!
 バックバンドの霊達も伴奏に合わせ、生演奏を披露し始めれば、ノインツィヒのステージのボルテージは急上昇してゆく!
「♪帝都のサクラー 夜に紛れー☆ ♪響く慟哭ー 届かないよー」
『アーイッ! アーイッ! アーイッ!』
『フゥワ! フゥワ! フゥワ! フゥワ!』
 ノインツィヒの意外にも澄み切った歌声に合わせたファンの亡霊のヲタ芸が激しい!
 そして、彼女の歌声は悪しき存在を打ち砕く音響兵器となって、影朧甲冑全体に亀裂を走らせていく!
 ついでに、里山の一部が歌声によって爆ぜたのは、きっと地脈的に悪い箇所があったんだろう。出力過多とかではなく、そうだと信じたい。
 これならば、何処に田中が隠れようが大ダメージを受けることは必定!
「♪そのアームストロングネオサイクロンロドリゲス砲で撃ち抜いてー☆」
 極めつけは気配を感じた場所へ、マイク型サウンドウェポンを介して発生した魔法ビームを発射! 直撃した影朧甲冑は透明化が一瞬解除、そのまま空中に高々と打ち上げられてしまう!
「おのれ……っ! 私を、虚仮にしてくれたな!」
「田中さん、分かっただろう? アンタじゃ猟兵に勝てやしないんだ。おとなしく降参する気になったかい?」
 数宮がくいくいっと手招きするように誘う仕草を田中に向けた。
 田中はまたもや透明化すると、気配を消して数宮の死角へ回り込む。
(なめられっぱなしは癪だ! せめて、一矢報いてやるぞ……!)
 透明化したまま、数宮へ急接近する影朧甲冑!
 だが、またしても田中は異変を感じてしまう。
「ぎゃああああああああーっ!」
 突如、田中の全身に凄まじい電流が走った!
 そして、遂にエネルギー切れになった影朧甲冑が、猟兵達の目の前に墜落!
 動かなくなった機体の中では、感電して痺れた田中が放心状態のまま横たわっていた。
「オラ、ちょっと面貸しな!」
 数宮が田中を無理矢理に影朧甲冑から引きずり出す。
 幸いにも、まだ影朧の呪詛が蝕まれる前だったようで、田中の身体に不調は見られない。
「アタシに目を付けたのがアンタの運の尽きさ。アンタのその真っ直ぐな意地が、アタシに向けられた時、ユーベルコード『超感覚領域(サイキネティック・テリトリー)』の電撃が、その甲冑をからめ取る。電撃で痺れたらマヒするだろうからね、そうそう影朧甲冑は迅くは飛べなくなるだろうと思ってたが、まさかこれでトドメになっちまうとはねぇ……」
「あ……ら……が……」
 感電したせいか、呂律が回らない田中。
 そんな彼の脳天に、全力で拳骨を数宮は振り下ろした!
「アバッ!?」
「顔は外して脳天からの拳骨で勘弁してやらぁ! さあ、反省会の時間だよ! 横になったままでいいから、アタシらの説教を聞きな!」
 数宮は猟兵達の方へ向き直る。
「ほら、アタシはイイから、何か言いたい奴は言っときな?」
「それじゃ、私が」
 智華が前に進み出た。
「……田中さん。理想と現実との差で苦しむのは誰にでもある事でありますよ。でも――それを理由に人々を欺いたと貴方の母が知れば、どう思います? 二本木さんも言及したとおり、非常に悲しまれるのでは?」
「……っ!」
 痺れた口を開く代わりに、目を閉じて、後悔の念を顔に浮かべる田中。
「田中さん……泣かないで? 私ちゃんは、田中さんは悪くないと思ってるよ?」
 震える田中の手をノインツィヒは両手で包む。
「私ちゃん特製の、元気が出る魔法、掛けてあげる☆」
 ノインツィヒは彼の手の平の甲にそっと口づけをした。
「だ、台本通りだからねっ? それ以上でもそれ以下でないんだからねっ☆」
 顔を真赤にして、イドラのコックピットへ逃げ帰るアイドルであった。
 そこへ、御園が田中のそばまで歩み寄り、屈んで言葉を掛け始めた。
「……さすが国民的スタァは演技派です」
 彼女は小さく笑う。何もかもを見透かしたかの如く。
「本当に理想郷が存在したら。其処に住む方々は、随分と短命になることでしょう。誰かの理想は誰かの地獄。万民の理想郷など有り得ません。更に言えば、動かぬ水は澱んで腐る。ぶつかり合う理想の終着点が『共生』です。其は動的であって静的ではない」
 御園の言葉に、田中の瞳孔が驚愕で大きく開かれてゆく。
 更に御園は言葉を継ぐ。
「理想郷など只の口実。貴方の事情を聞いて責める者は殆ど居りませんもの。罰せられたかったのでしょう? 貴方が納得するまでお尻をペンペンして差し上げます」
 さぁ、と御園は笑顔で、自由の利かない田中をうつ伏せにひっくり返す。
「え、桜花さん? まさか……?」
 数宮が止めようとしたその時、御園の右手が天高く振り上げられた。
「その、まさかです」
 スパァァンッと小気味いい音を立て、田中の尻を痛烈に引っ叩いた御園。
「アギィッ!」
 本当に叩かれると思ってなかった田中も、思わず悲鳴を上げてしまった。
 だが、その悲鳴は、次第に嗚咽に変わっていった。
「うぐ……っ、ひっぐ……っ! ああ、そうだ……。私は、誰かに、罰を与えてもらいたかったんだ……!」
「騙された自分が許せなかった。強い地位を築けても、弱者を助けられない自分が許せなかった。そして、帝都のそういった暗部が許せなかった。そうですよね?」
「ああ……っ! キミは、何でもお見通しなんだな……っ! ひっぐ……っ!」
「勿論ですもの。私は、貴方様の大ファンですので」
「嗚呼……なんてことだ……。キミのような人に、もっと早く出会えていれば……! 私は、間違わずに、済んだのだろうか……うぅあぁ……!」
 すがりつくように御園のエプロンドレスに顔を埋める田中。
 そんな彼の頭を慈悲深く撫でる御園。
「大人なのですもの。司法取引や情状酌量はご自分で引き出して下さいね。……新作、お待ちしています」
「あっ、ああ――っ!」
 とめどなく漏れる田中の号哭。
 彼はきっと、今の今まで、罪の意識と自分への怒り、そして社会の理不尽さに心が張り詰めていたのだろう。御園の言葉は、そんな悲鳴を上げていた田中の心を癒やしていったのだ。
 と、ここで二本木がカメラを担いだまま、田中へ告げた。
「學徒兵で俳優で、よくよく考えれば、あんた根性あるじゃねーか。さっきはああ言っちまったけど、あんたの告白も演説も良かったぜ。あの言葉を聞けば、観衆もきっとあんたの味方に付くだろーよ」
『ねぇ、アロちゃん? さっきからカメラを担いでるけど……そういえば、まだフィルム回ってんのかな?』
 キャバリアの中から、恐る恐るノインツィヒが尋ねる。
 二本木はこれに首を傾げた。
「……ん? カメラなら回しっぱなしだけど? ダメだった?」
『……は? え、つまり……その……?』
「ああ、さっきのキスシーン! バッチリ撮影済みだぜ! 撮れ高ゲット!」
『にぎゃあああああああああああっ! 恥ずか死ーィ!』
 キャバリアの中で悶絶するノインツィヒであった。

 後日談。
 逮捕された田中は、調書の結果、幻朧戦線に利用されていただけで情状酌量の余地ありと検察に判断され、無事に釈放された。
 黒幕と思しき翻訳家も、學徒兵達のガサ入れによって証拠を押さえられたことによって身柄を拘束された。
 田中はこの逮捕に有力な情報を提供したとして、司法取引という扱いで減刑が決定。
 保護観察処分ではあるが、芸能界への早期復帰を見事に果たした。
 彼の所属事務所は、今回の事件を逆手に取り、テロリストと勇敢に戦った国民的スタァという謳い文句を広めた結果、田中は帝都の英雄的存在にまで上り詰めてしまった。

「まったく、私はそんなガラじゃないのだがね?」

 苦笑いする田中は、今回の事件に携わった猟兵達を映画の試写会に招いていた。
 この映画も、最初と趣旨が変わり、田中が幻朧戦線と戦ったドキュメンタリー風活劇に書き換えられていた。
 勿論、猟兵達の大活躍も余すことなく尺に盛り込まれていた。
 自分たちの活躍シーンに、猟兵達は思わず歓声を上げていた。
 ……だたひとり、白目を剥いているノインツィヒを除いて。
「私ちゃん、アイドルなんですけど……。Vシネマに転向なんて絶対にしないんだから……アノ監督ト脚本家、絶対ニ許サネェ……!」
 だが、この映画が公開された直後、ノインツィヒの怪演に民衆は『ノイン姐さん』と絶賛する事になるなんて、このときの彼女には予想だにしていなかった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月10日


挿絵イラスト