11
月だけがバカみたいに輝いている

#UDCアース

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース


0





「もう、会うのやめよう」
「うん」

 あっさりと。もう二度と、会えなくなるかもしれない友人との別れに私は了承した。願ってやまないと食い付く返事に、ツキコは綺麗な顔でクスクスと笑う。
 私たちは友達だった。短い間だったけど、ツキコと共に過ごす時間は楽しかったし、苦しくなかった。
 息が詰まらない。
 言葉を飲み込まなくていい。
 ツキコは、トゲを含まずにはいられない私の嫌味を受け入れて、流したついでに言葉のナイフで刺してきた。だから私もやり返した。
 そこに怒りの感情は含まれない。
 そりゃ、熱くなりすぎた時もあったけど。私もツキコも、笑って笑って、面白可笑しくて、馬鹿楽しくて。
 朝も昼も殺し文句を絶やさずに、夕を過ぎた御喋りは夜をも越えた。

「正直なところ」
「ぶっちゃけた話?」
「まあね。実は結構、精神面にガタが来てる。ソコの……燃えないゴミ並みに」
「……燃える兎だ。捨てられたのね」
「うわ、ばっちい」
「えんがちょすれば平気よ」
「もう切れてるのに?」
「じゃあなんでツキコを連れて行くの?」
「ツキコが寂しがりだから、勝手に着いてきてるだけ」

 帰路に着く私の後ろを、ツキコはふわふわとした足取りで付いてくる。
 会うのをやめようと言ったのはツキコの癖に。先に縁を切ろうとしたのはツキコの癖に。
 私の減らず口からは、低俗でありきたりな悪口を思い浮かべても言い難いらしい。
 不燃ごみに置かれた兎のぬいぐるみを抱えるツキコに賛辞を贈るので精いっぱいだ。

「似合う似合う」
「本当に、もう。限界なのに」
「何がさ」
「寿命」

 ああ、あったな。そんなの。
 思いふける私が空を見上げたと同時に、思いつめたツキコは地面を見下ろしたのだろう。

 ツキコといる人はみんな死んじゃう。だから、ツキコはその人に幸せをあげるの。

 私を幸せにする、とか言ってたツミコの話を思い出せた私は、足を止めたツキコに顔を向ける。
 空には重々しい雲が重なり合っていて、見ているものを不安にさせるような禍々しい紫色をしていた。どうやら小雨も本格的に降ってきたらしく、ツキコの足首が濡れていく。
 私の髪の襟足が湿気るのも、時間の問題だろう。

「今日さ、満月なんだって」

 踵を返した私はツキコのほうへ足を向け、ツキコを追い越して足を進める。
 ツキコが、ゆるゆるとした足取りで付いてきた。

「いいの?」
「あの家を死に場所にするなら、野垂れ死ぬほうがマシ」
「雲が晴れなきゃ、無様なだけだよ」
「止まない雨はないっていうけど、風情ある死なんてゴメンだね」

 月見をしようと、山公園にたどり着いた私たちは濡れたベンチに腰を掛ける。
 雨月か夢月かはあまり興味がない。どちらにせよ十五夜でないことは確かだ。

「ツミコって、なんでツキコなの?」
「わかんない。でも、ツミコじゃないの。ツミコじゃあ、ないんだよ」
「ツキコはツミコなのに」
「それでも、ツミコはツキコだもん」

 雨は止まずに強さを増す。雲は晴れず、月は見えず。ただ、寒さに体温を奪われていく。
 すると、眠くなってしまうもので。舟を漕ごうとした私にツキコがボロ雑巾の兎を近づけてきたから、もう二度と舟には乗らないと決めた。

「……雲の向こうは見えるのかな」
「空でも飛ぶ?」
「ツキコ空飛べるの」
「ツキコは空飛べないよ」
「兎でも蹴飛ばしとけ」
「雨水吸ってるから、月まで飛んでかない」
「月が迎えに来いってもんよ」

「お迎えに参りました」「お迎えに参りました」「お迎えに参りました」「お迎えに参りました」

 第三者の声が無数に重なり合って鼓膜を震わせた時、平和ボケした人間の本能が、コレはまずいぞと警報の鐘を鳴らした。
 だから私はツキコの左手を無理やり引っ張って、ぬかるんだ公園の土を蹴った。
 なんで。なんでだ。
 なんでツキコの右手が赤く染まっている。どうして彼女は血を流している。
 あの兎はなんだ。兎? 兎だったか!? ぬいぐるみだろう!?

「お迎えに参りました」「お迎えに参りました」「月に行きましょう」「穢れを祓いましょう」「今宵は満月です」「参りましょう」「参りましょう」「祓います」「月はすぐそこです」

 姿は見えない。けれど、声だけがそこら中に響き渡るってことは、何処かにソレは潜んでいるんだ。
 血を流すツキコの様子をうかがう暇なんてない。私だって、とっくに死にかけだ。

「ツキコが見てきた人間の最期ってコレ!?」
「違う、違う!! あんな兎、ツキコ知らない!」
「あの雑巾は捨てた!?」
「捨てた!」

 雨は、私たちを嘲笑うかのように強さを増す。大声を出さなきゃ意思疎通ができないほどに、確実に体力を奪っていく。
 どうすんのさ。逃げるしかないんだけど、現実ってこんなに幻想的だったのか、どうか。寒い。寒いから体が震えるんだ。考えるな、足だけ動せ。それなら……あ、あれっやば、足に何か引っかか――!

「っアユメ!?」

 ……私、針谷歩芽の意識は、ソコで途切れてしまったのです。


「時間に限りがあるので、簡潔に説明を行います。
 今回事件が起きた世界はUDCアース。皆さんには、偶発的に召喚された邪神どもを破壊していただきます。
 現場は雨がひどく、山の中です。木々もあれば傾斜面もあるでしょう。
 また、夜間作業となりますのでご注意ください。今後も土砂降りが予想されています」

 グリモアベースにて。
 ジェリッド・パティ(red Shark!!・f26931)は早口なことを悪びれもせずに、猟兵たちへ口頭での説明を行っていた。
 三枚の写真を並べたジェリッドは、こちらをご覧ください、と作業用手袋で覆った左手を広げる。

「一枚目の少女の形をしたコレは、UDC怪物のツミコです。能力は対象に偽りの幸福を与え騙し衰弱死させる、らしいですね。
 その対象は隣の写真の人間、針谷歩芽になります。被害者兼召喚者である彼女は、ツミコと一か月弱行動を共にしていたようです。
 そして最後の写真に映っている、月の兎というUDC怪物が今日に召喚されました」

 満月の日、兎を象る触媒、『月が迎えに来い』という言葉。
 その三つが偶然重なり合った結果、事件は起きてしまったのだと、グリモアを展開するジェリッドは言葉を続ける。

「被害者とツミコの関係性は未だ不明ですが、猟兵でない人間と邪神が関わった先は……まあ。ウチの主観が入りますが、絶対ロクなものではないでしょう。
 それに、このツミコはUDC-Pではありません。被害者の人間は保護して、ツミコともども、全ての邪神を討ち滅ぼしてください。世界の危機ですし」

 取って付けたような一文を最後に言い放ったジェリッドは、猟兵たちを薄暗い悪天候の地へと転送させる。
 無音をもかき消す雨二十里の中、邪神の嘆きが、囁きが、望みが。確かに其処に在った。


拳骨
 プレイング受付状況は、お手数をおかけしますが、マスターページをご確認ください。

●舞台について
 天候:雨が降っています。章が進むごとに、雨はどんどん強くなっていきます。
 地形:整備がされていない山の中です。足場が悪く、見通しも悪い現場となります。
 時刻:夜と夜中の間くらいです。

●第1章
 ボス戦です。敵の足元には救出対象であるNPCが転がっています。
 どうやら、敵はNPCを守ることを優先しているようです。

●第2章
 集団戦です。敵はNPCを狙っていますが、怯えた者を最優先に攻撃します。

●第3章
 ボス戦です。よろしければ、少女の話に耳を傾けてくださるとうれしく思います。
 その言葉をどう解釈するかは、お任せします。

●NPCについて
 針谷・歩芽(ハリヤ アユメ)。15歳の家出少女です。
 終始気絶扱いにしようと思っていますが、コンタクトを図れば、何かしら答えてくれるかもしれません。
 ですが、猟兵ではない一般人なので、治療もなしに盾にすると死にます。

●雑記
 拳骨です。3作目になります。よろしくお願いします。
 なんちゃってシリアスで、ボスラッシュなシナリオです。
 皆様のご活躍を、格好良く書けたらなと思います。
 改めて、よろしくお願いします!
46




第1章 ボス戦 『ツミコ』

POW   :    ××のカタチ
自身が装備する【髪留めの赤いリボン】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    ××の在処
【梔子の花弁】と【甘い香り】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ   :    ××の代償
【実体を持たない青い鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鈴・月華です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●つきがまわっておどってる
 どうしよう。
 あのウサギはツミコの敵じゃあないけれど、気を失ったアユメを狙っていた。
 右手の血は治まった。でも、アユメを守りながら戦うことが、ツミコにはできない。もうアユメはボロボロだもの。ツミコからも逃げないと、アユメは。
 ……いっそ、いっそ。ツキコがアユメを殺せば。アユメは。月に行かなくて済む。けど……それは、アユメの幸せなの?

 雨が、また強くなっていく。
 このまま、このまま。アユメは。そのまま、眠っちゃうのかなあ。
 お休みの一言もくれないなんて……出会ってきた人たちはちゃんと言ってくれたのに。アユメの、癖に。
 ツキコに膝枕されちゃってて。起きたら、アユメはツキコに散弾銃を浴びせられるのに。

「……あ。……え、え。……ちが、う……ウサギじゃなくて。コレって……?!」

 何か、何かが。来た。判る。居る。居る。来ている。解る。近づいて、来る……。
 ……うそ、うそうそ。ツキコ気づかなかった。気づかなかった。
 猟兵。猟兵だ! 猟兵が、向かって来てるんだ!
 ああ、どうしよ、どうしよう。ツキコ、戦わないと。どうなるの、アユメはどうなるの?
 アユメを連れて行くの? そこはアユメが幸せとなるところ?
 わからない。猟兵は敵。ツキコにひどいことをする敵。じゃあアユメは?
 アユメにひどいことをする? ああ、だめ。それはダメ。アユメは幸せになってほしいの。

「……ツキコがアユメを幸せにするの。だから」

 ツミコは、アナタたちに幸福を与える余裕なんて、ないんだよ。
故無・屍
…フン、ガキが面倒な縁を結んだモンだな。


暗視、環境耐性の技能にて暗闇及びぬかるみに対応
ツミコに対しては、剣を向けることなく

…初めに言っとくぞ。俺はお前の敵だ。
今ここにお前が居て、猟兵として来た以上、俺はお前を殺す。
…だが…

ツキコに背を向けて、アユメに向けてUCを使用する

生憎、依頼にはあのガキの救出なんてのも含まれててな。
無駄な戦闘の拍子に無駄な傷を作らせるなんざ半端な真似もできねェ。
身体にも、心にもな。


――お前がここに居る間、あのガキの命を繋ぐくらいはしてやる。使いたくもねェ力だがな。
だからあの兎どもの殲滅を手伝え。


…共闘の申し出なんざじゃあねェ。
ただ、『使える』と思うなら利用しろって取引だ。



●アナタはまぶしい
 降り立つ地面にはじっぐりとした無数の木の葉が敷かれていて、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)が歩くたびにソレは踏まれ、ぬかるんだ土とより近づいた。
 薄黒い闇には慣れている。自分が歩んできた道よりは、この暗さを強める雨中すらもまだ明るく思える。
 前方を睨み続ける故無は、一度左右に目を流した。がさりと、草木が揺れる其処には、この世の生物ではない何かが潜んでいたのだろう。
 この山で暮らしていた原生生物は、危機を察知して隠れている。息をひそめず、殺意を漏らす兎は生物としてはおざなりで、実に傲慢なものだった。
 ……それは、目の前に居る少女二人にも、同じことが言えるのかもしれない。

「……フン、ガキが面倒な縁を結んだモンだな」

 人間を膝枕しているUDC怪物を目撃した緑眼は、広がりもしなければ細まることもなく。
 鋭いままに一人と一体を映し、雨粒に遮られながらも情報を捉える。

「……初めに言っとくぞ。俺はお前の敵だ。
 今ここにお前が居て、猟兵として来た以上、俺はお前を殺す」
「……」

 その怪物、ツミコは。故無の鋭い眼光に臆する様子もなく、彼と目を合わせ続けた。そのまま故無を視界に入れたままに被害者である人間、針谷歩芽を膝から降ろす。
 まるで人間のような動作で、ゆっくりと。その生命体が傷つかないようにと言うかのように。
 故無はツミコに剣を向けることなく、木にもたれかかる被害者に身体を向ける。被害者の息は弱々しく浅いもので、眠りながらも震えていた。

「……」
「……」

 誰も言葉を発しなかった。故無に振り落ちる雨粒は冷たいもので、いずれは己の体温を奪っていくのだろうと考える。
 それは、周囲にも言えたことで。既に冷え切った身体の被害者は生命さえも奪われていく。
 その原因は、雨だけではない。

「……だが」

 故無は被害者に色黒の手を向ける。夜でなければ目を凝らさないと気づかないであろう淡い光は小さく、小さく。残滓としてその場に現る。
 ツミコは強く故無を睨みつけた。敵意を示した口元は、傷つけないでと動いた気がする。
 風が吹いて、ツミコの塗れた前髪を揺らした。故無はこれから襲い来る攻撃に警戒しつつも、手を下げることはなかった。
 見えないソレは、穏やかな昼時に似合うような美しいさえずりを放つ。ピルリ、ピイピと。
 ソレは鳥なのだろうと認識した故無は、肉体を啄まれる感覚を覚えても振り下ろすことはしない。
 それどころか、被害者の元へ前進する。ツミコは意図の読めぬ猟兵の行動に恐怖を感じただろう。

「アユメにひどいことしないでっ!」

 その恐れは、今にも死にそうな生物に危害が加わることへの恐れだった。
 見えない鳥とともに、ツミコは故無に襲い掛かる。しかし故無にとっては避けることは簡単で、追撃することも造作もなく。けれど剣は未だ抜かず、敵に背を向けたまま。
 故無のユーベルコード【光輝の残滓】が発動された。

 その光は、光と呼ぶにはあまりにも擦切れていた。しかし、それは対象の傷を癒していく。
 その光は、光と呼ぶにはあまりにも錆付いていた。しかし、それは対象の呼吸を安定させる。
 その光は、光と呼ぶにはあまりにも毀れていた。しかし、それでも光は確かに此処に存在しているのだ。

 被害者を高速治療した故無は疲労する。しかし負傷者であった被害者の顔色を確認しようとその場に屈みこむ。
 故無の頭上からは、なんで、と震えた声が振ってきた。

「なんで、どうして。アナタ……アナタは……何、なの?」

 それらはツミコから発せられたものだった。
 驚く姿は人間の少女そのもので、しかしアレはUDC怪物なのだと、立ち上がる故無は再度認識する。

「……もう一度、言う必要があるのか。俺はお前の敵だ」
「それは、知ってる。…………アユメの敵じゃないことも、今知った」
「……」
「ツキコは、ただ。……納得したい。だけ」

 ツミコには理解ができないのだろう。だから、このツキコとやらは知ろうとしている。
 言わなくてはわからないのだ。故無はため息を吐き、言葉もそれに続いた。

「……生憎、依頼にはあのガキの救出なんてのも含まれててな。
 無駄な戦闘の拍子に無駄な傷を作らせるなんざ半端な真似もできねェ。
 身体にも、心にもな」

 ――お前がここに居る間、あのガキの命を繋ぐくらいはしてやる。使いたくもねェ力だがな。
 だからあの兎どもの殲滅を手伝え。

「そう……」

 それは決して共闘の申し出ではなかった。故無はツキコを使えると判断した。だから利用する。
 故無の言葉をそのまま呑み込む赤眼は、まつ毛で隠れて見えなくなる。
 これは取引だ。二人の共通目的である被害者を守ることは、どちらにとっても利益がある。
 目を伏せたまま、ツキコは故無に了承した。

「ツキコは、アナタと一緒に戦わないよ」

 ツキコは被害者を一瞥し、その空間から離れ始める。
 その離れ際に、猟兵とUDC怪物がすれ違う時があった。

「アナタ。……いい人なのね。ツミコの敵に、くれてやる言葉はそれくらい」

 雨を吸った白いワンピースの裾に泥がつけたツキコは、故無が言われて嬉しくないであろう言葉を最後に、故無が来た別の方向に駆けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロバート・ブレイズ
情報収集で敵の挙動を把握
「先ず――最も『前』に俺は何者でも『冒涜』せねば筆の執れぬ種と成り果てた。貴様等が如何に『想えど』も俺は尽くを誘拐せねば成らぬ」
たとえば――実を知らぬ存在に『肉』を与える滑稽
たとえば――虚に塗れた攻撃を現実に落とす所業
人間が『それ』を望まないとは思えず、普遍的な無意識はひどく本物を求めている
――青い鳥が運ぶのは幸福だ。他のものは赦されない
「其処が貴様の位置だ。貴様の輪郭だ。貴様の貌だ。空想は容易く撃ち殺される」
実体を作れば屠るのみ。栞――糸を手繰り界を切断、そのまま『オブリビオン』諸共叩き潰す。嗤え
「幸福とは人の脳髄次第で『決する』蜜だ。甘さを変える事は己以外に出来ぬ」



●アナタはまがまがしい
 把握せよ。
 それは少女の形をしている。赤い目に白い肌、二つに結われた緑青の髪は波打ち、孔雀石を思わせる。
 右手の傷跡は薄まりつつも真新しく、白かったワンピースは泥で彩られ、黒い靴のつま先は現世の色に染まり終えていた。
 掌握せよ。
 ロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)はその昔、果ては生前とも呼べるある日から、何者でも冒涜しなくては物書けぬ生命体へとなり果てる。
 その立派な髭をたくわえる老人は正真正銘の人間で在り、邪神と狂気を綴り続ける文豪で在り、未知なるものすらも恐怖の渦へと貶める悪霊で在った。
 冒涜せよ。
 被害者と先ほどまで接触、また猟兵とも接触済み。故に敵意は今のところ無く、されど能力は常々発動されており、詰まる所、この放牧された羊は目的を失った迷子とも言えよう。が、依然してそれは滅亡を表すUDC怪物である。
 否定せよ。
 ユーベルコード【冒涜物】。それは総てを『否定する』という願いを普遍的無意識領域に呼びかけ、荒唐無稽たる否定を賛同する負の感情の度合いに応じて実現される。

「――貴様等が如何に『想えど』も、俺は尽くを誘拐せねば成らぬ」

 たとえば――実を知らぬ存在に『肉』を与える滑稽。
 たとえば――虚に塗れた攻撃を現実に落とす所業。

「人間が『それ』を望まないとは思えず、普遍的な無意識はひどく本物を求めている」

 ――青い鳥が運ぶのは幸福だ。他のものは赦されない。

 ××の代償。その記号二つに入る言葉は、果たして単語と呼べるものだろうか。実体を持たない青い鳥は、視認しなければ青くもなく、鳥でもなく。美しい歌を鳴きもしない。
 赤い殺意は運ばれない。青い執着は運ばれない。灰色の感情に意味はない。黒が混じる白が意味を持ったとして、透明の色彩には叶わない。

「其処が貴様の位置だ。貴様の輪郭だ。貴様の貌だ。空想は容易く撃ち殺される」

 青い鳥は負の感情に認識された。故に翼は折れ、風を切れぬ生物は、もう鳥とは呼べやしない。
 ブックマーカーの役割を担う銀糸の栞を手繰るロバートは界を切断し、オブリビオンたるツミコ諸共叩き潰す。
 屠られるままのツミコ。否、ツキコとは、神聖の形損ないであり、翼を持たぬ異常のものだ。

「嗤え」

 恐怖を与えられたツミコは笑わない。冒涜翁に敵意を向けれども、其処に殺意が無ければ何も為しえないことは誰しもが知っている。

「笑わないよ。ツキコは」

 笑えないもの。
 そう赤眼は白髪を見据え、透き通った声で抵抗を示した。雨の中、ツミコの擦り切れて穴が開いたスカートがゆらりと舞う。
 我々は否定する。蜘蛛糸はツミコの細い足首に絡まり、対象を固定する。

「幸福とは人の脳髄次第で『決する』蜜だ。甘さを変える事は己以外に出来ぬ」
「そう。ツミコが幸福を与えなくても。アユメは、多分。幸せだった」

 白い足に赤い輪が二つ咲いた。救いを拒んだ足枷は無理くり破壊されたが、証は人間の形をする限り、一生消えることはないのだろう。
 パンくずの代わりに赤い斑点を残す嗤わぬものの足跡を、ロバートは見つめる。
 雨が強まり、遠くで雷を落とした。シワのない紳士服は雨水でしっとりと濡れていて、後に正しく対処をしなければシワを生み出し、動物臭を強くさせるのかもしれない。
 ロバートもまた、黒々しい緑の中を歩き始める。甘くもないパンくずを辿った先には、嗤えるもの顕現するか、どうか。
 なんにせよ、何者で在れどロバートが冒涜することには変わりない。変わらず、絶筆しない限り、冒涜王は物を書き続けるのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

鵜飼・章
邪神のくせに人間に肩入れする愚かなツミコさん
こんばんは、悪役だよ
僕らはきみに心酔するだけの動物なのに
まるできみのほうがアユメさんを好きみたいだ

僕は人間の友達が少ない
だからきみの気持ちはわからない
わからないから、わかりに来たんだ
僕より余程人間らしいきみを殺したくはないんだ
仕事だからやるけど

今日の天気みたく湿っぽい死に方は嫌でしょう
僕も綺麗な死に方は期待してない
きっといつかきみを殺した罰が当たって
トラックに轢かれたりするんじゃない
そうして僕も邪神になったりしてね

ごめん
世界の為に死んで下さい
UC【ヘンペルのカラス】
きみはアユメさんをどうしてほしい
僕は嘘つきだけどその願いは極力叶える
月が綺麗な夜だから



●アナタはにんげんなのに
 兎の死骸が転がっている。
 人の手が付けられていない自然の中に、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は足をつけて降り立った。ぱちりと水たまりの音がする足先は、防水機能がなければ木の根っこのように栄養を吸い上げてしまっただろう。
 彼が最初に目にした骸は、紛れもなく兎だったもの。だが、山に生息する原生生物は人間のような死に様を晒さない。死臭なき骸は山に歓迎されるはずはなく、自然に還らず海へと落ちる。
 未だ骸の海に還らぬものが、鵜飼の紫水晶に二つ映っており、瞬きをした彼はそのものを一人として処理をした。

「こんばんは、邪神のくせに人間に肩入れする愚かなツミコさん」

 悪役が来たよ。と、鵜飼が声を掛けた先には、泥付いた白いワンピースに赤い花を沢山咲かせたUDC怪物、ツミコがいた。
 赤黒い手を樹木から離したツミコの赤眼に恐れはなく、敵意もなく、だが少し疎まし気で、それでも鵜飼を受け入れる。
 白は赤を引き立てる。白い肌に備わる小さな口の中は、人間と変わらない同じ色をしていた。

「悪が名乗りを上げるだなんて、それじゃあダークヒーローね」
「どうだろう。でも、正義の味方よりは、悪の敵の方が格好いいと思うかな」
「ふうん、愛されるよりも恐れられた方が安心だものね」
「そうだね。愛することは難しいから」

 でも、人であることのほうがよっぽど難しい。
 鵜飼は人であり続けてきたつもりだ。彼は人より人らしくなろうと決めたから。人間になりたいとは、思っているから。
 それでも、時々。一息。軽く地面を蹴ってみれば、空気とともに宙に浮いてしまうもので。肩に乗る織布をそっと手繰り寄せ、浮世の重力を感じ取る。

「僕らはきみに心酔するだけの動物なのに。まるできみのほうがアユメさんを好きみたいだ」
「それは、そうね……。ツキコはきっと、例えツミコがアユメの強い生命力を見定めなくたって……
 自ずと人間性に惹かれてしまった、から。好きなんでしょうね。だから、こうして」
「八つ当たりをしている?」
「どちらかといえば、憂さ晴らし。ツキコは約束を守らないといけないから」
「律儀なんだね」

 鵜飼には人間の友達が少ない。人間を動物のカテゴリーに追加したならば、数はそこそこと言えたかもしれないが、指で数えており返せるか、どうか。
 故に、情の欠ける鵜飼にはツミコの気持ちはわからないものだった。
 よこしまな気持ちさえ持たなければ、神にも成りえたかもしれない怪物は、人の形をしているくせに人ではない。
 それなのに、やけに人間臭くて。いやに動物臭くて。その邪神は、殺せば腐った死臭を漂わせるのかもしれない。
 結果はわかりきっている。オブリビオンは骸の海にしか往けやしない。しかし魔物はもしかしたらを想像せずにはいられないのだ。
 わからないなら、わかればいい。わかりに来たから、鵜飼はツミコの前に立っている。

 ――僕より余程人間らしいきみを殺したくはないけど。白黒はつけないといけないんだ。

 猟兵であるゆえに、世界を守る。それが、鵜飼・章という名を持つ人間の仕事だから。

「ごめん。世界の為に死んで下さい」

 黒は白を輝かせる。
 紫眼の魔物に召喚されたアルビノの鴉は、赤眼の怪物を見据え、尋問官の言葉を待っている。

「きみはアユメさんをどうしてほしい」

 鵜飼の質問と共に、白い鴉は嘘つきを拷問にかけ、仕置きする。嘘つきが真実を言うまで長老の拷問は終わらない。
 そして、鵜飼が発動させたユーベルコード【ヘンペルのカラス】は、簡単な質問ほど殺傷力を増していく。
 だんまりのツミコに拷問鴉は羽を広げる。嘘か真実かが吐き出される唇を見据えながら、じっとそのまま静止した。鵜飼は続けて尋ね、答を求める。

「僕は嘘つきだけどその願いは極力叶える。月が綺麗な夜だから」

 今日の天気みたく、湿っぽい最期は嫌でしょう。
 鵜飼だって、綺麗な死に方を期待しているわけではない。
 きっと、いつか。いつしか誰かだったかもしれない何かだったものを殺した罰が当たって、それが例えばきみだったとして。道路を走るトラックに、身を轢かれて死んでしまうのかもしれない。

 ――そうして僕も邪神になったりして、ね。すると、きみもまた人間になったりするんじゃない。

 どこか投げやりな尋問官の言葉に、噓も真実も言わぬものはクスクスと笑ってのけた。
 途端、梔子の花弁が優雅に舞い、甘くも洗練された香りが辺りを霞む。
 鵜飼は一瞬だけ重たくなった頭を前に落とし、頷く素振りをツミコに見せた。
 その間に、白い朦朧を運ばれた白い鴉は返り血に染まるツミコの右手に爪を食い込ませていた。
 しかし、鴉は静かに笑い終えたツミコの答に、力を和らげることしかできなくなる。

「月を見せてあげてほしい」

 日常への帰還。
 か細い声はぽつりと呟くツミコは、真っすぐに堂々とした様子で鵜飼と対面する。エメラルドグリーンの毛先はやはり赤々しく、結び目にある二つのリボンと同じ色をしていた。
 日常にUDCは存在しない。UDCが存在しないならば日常であり、非日常にこそUDCは存在する。
 故に当たり前に狂気は曝されない。定めないこの世に、神は容易く顕現されないのだ。

「アユメが起きた時には、もう。何もかもが終わった後だといいのになあ」
「……アユメさんから、きみは逃げるの?」
「さあ。でも、鴉が襲ってこない限りは。真実なのかも」

 鵜飼は一言、ある一言だけをツキコに向けて言おうとしたのだが、重くなった瞼に視界を塞がれてしまった。
 先ほどと違って頷くことなく、暗転の時間も短かったというのに。
 真実しか言わぬものは、人間のように上手に嘘を織り交ぜて、拷問から逃げ切っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

人形・宙魂
戦う前に…えっと…懐炉と合羽を持ってきたの……アユメさんに着せてあげてくれませんか?

既製服の合羽と使い捨て懐炉を渡します。
彼女達の関係に、何か言える程私の頭は良くないけれど。
…人間と邪神が関わればロクな事にならない……私も、そう思っています。
だから…

踏み躙る覚悟を決めて、人喰羅刹紋を浮ばせ、戦闘体勢に移る。
手遅れになる前に、貴方も、後に来るモノも、倒します。

数条の鬼縛鎖を振るい、オーラ防御。
リボンを絡め取り、なぎ払い。

怪力で跳び、空中浮遊。ジャンプ時の勢いで切り込みます。
同時に『鬼重・地獄道』

棘で動きを封じて、刀で斬ります。
偽りの幸福、その正誤は分かりません。
ただ、終わらせます。



●アナタはおさえている
 頬に張り付く横髪を耳にかけなおした人形・宙魂(ふわふわ・f20950)の目先には、小さな川が流れていた。
 流水には赤が混じっている。それは生ぬるい血液で、冷たい雨によって薄く溶けており、下へ下へと運ばれていた。
 人形が見上げた傾斜面の向こうには、誰かか、何かが。絵具を洗った時に出る汚れた水を捨てるかのように、赤い色を出しているのかもしれない。
 跳ねる必要もなく、普段よりも大きい歩幅で小川を避けた人形の手元には、既製服の雨合羽と使い捨てカイロが重ね持たれていた。
 被害者である針谷歩芽を気にかけた彼女は、針谷が土砂降りの雨から身を凌げるように。皮一枚で防いだとしても体温を下げてくる自然にあらがう為に。暖の取れる、温かい贈り物を届けに暗い山道を正しく登っていく。
 道中、季節の変わり目を知らせてくれる木の根っこが、人形の急ぎ足を引き留めた。
 モミジのように紅くはない葉の集合体は、まだまだ夏は終わらないと、たくさんの緑色を残している。
 風に吹かれてざわめく樹木たちのように、針谷歩夢もまた、寒さで震えているかもしれない。
 人形はかぶりを振って、足に絡まる根っこを踏んづけるも、その場に立ち止まざるを得なかった。

「あ……。……こ、こんばんは」

 山に入って初めて口を開いた人形の青眼には、呑気に眠りこける針谷歩芽の姿が映ったからだ。
 その隣には人形と同じく、横殴りの雨が降る地に降り立った猟兵が既に居て、情報の共有をしたところ、どうやら交代制で被害者の護衛に付いているのだとか。
 
「えっと……懐炉と合羽を持ってきたの……アユメさんに着せてあげてくれませんか?」

 その猟兵は人形の申し出を了承し、人体のぬくもりを残した二つの補給物資を針谷の代わりに受け取った。
 人形は雨合羽を広げる者に対し、一礼をしてその場を去る。戦う前に、赤い小川の上流を確かめに向かうのだ。
 人形は戦いを好まなかった。だから、川の始まりが針谷でなかったように、何かでもなければいいのにと気にしながらも、日本刀を両手に持ち直して、片手に取って。
 水源を踏み躙る覚悟を決めて、忌みたくもなる人喰羅刹紋を浮ばせ、人ならざる邪神を断ち切らんと戦闘体勢に移り、鬼は野山を駆け回る。

 人間と邪神が関わればロクな事にならない。人形だって、そう思っている。
 人間の針谷歩夢と、UDC怪物のツミコ。彼女達の関係に、口出ししようとも思えない。
 気の利いた言葉か、真理をつく言葉か。慰める、責め立てる、噓を吐く、適切な物言いをする。

(そんな、何かを言える程。私の頭は良くない)

 けれど。
 刀を振るうことができる。力を振るうことができる。戦うことが、人形にはできる。
 途中で泣いてしまうかもしれない。あるいは、悦んでしまったりもするかもしれない。
 それでも……自らの力を振るい、戦う事を決意したことに間違いはない。時には恐れることもあるだろう。しかし人形は、両の足で立ち上げることができるのだ。だから。

(手遅れになる前に、あなたを。……あなたも。あなたの後に来るモノも、倒します)

 怪力で跳躍し、空中を浮遊する人形は、重力に身を委ねつつも日本刀を構え、勢いよく対象に狙いを定める。
 河口に居たのはUDC怪物であったが、あの赤い血液が何処から出たかは、人形がツミコに直接聞かなくては分からずじまいのままだろう。
 空を見つめる怪物に刃を突き立て切り込む人形は、ユーベルコード【鬼重・地獄道】を発動させた。それは攻撃が命中した箇所に棘を生やして、対象を呪い、角を生やす。これまで行われた殺生・盗み・邪淫を暴くためである。
 不意の一撃を食らうことになるツミコは驚いたのだろう。きゃあと、小さく悲鳴を上げた。後に素早く状況を把握した怪物は、鬼に成りながらも条件反射で反撃を開始する。
 ほつれた髪留めの赤いリボンの片方を無くしたツミコは、残り一個を複製して数を増やす。それぞれが拘束しようと、ばらばらに捕縛しようと、人形のカタチを今一度示そうとやってきた。
 人形は無数の赤い線を、刀で絡めとっては薙ぎ払う。鬼の性を封じる戒めの鎖も存分に振るって、カタチ作ろうとする赤い色を拒んでは防ぎ、棘が生えた同胞を探し当てる。

「アユメさんは、無事でしたよ」

 おそらくだが。白かったであろうボロボロのワンピースに新たな切り傷を付けられるツミコに、効くであろう情報の共有。揺れた赤眼の隙を逃さぬ人形は、動きが封じられたUDC怪物をばっさりと斬った。
 肩から斜めに直線状からドバっと出てきた赤い液体は無臭で、人間と同じ血なんて流れてないのだと再認識できる。
 口からも血を溢れさせる怪物は、静かに。

「そう……」

 眉間にしわを寄せながらも、安心しきった表情をしていた。
 人形にもともとあった罪悪感は大きく膨らんでしまい、重圧としてのしかかる。
 痛みを堪える姿勢がまるで人間だったから。優しく笑んだ顔は人を越えていたが、少女のカタチを取る限り、人間だろうと思い込んでしまう。
 それでも、それでも。ただ、終わらせるために人形は刀を握る。

「……偽りの幸福、その正誤は分かりません」
「……」
「沢山、棘の生えたあなたは、これまでに沢山の噓をついてきた。
 ……でも、嘘は必ずしも偽りでないことを。私は、そう、思います」
「……ツキコは誤魔化しているだけだよ。バレないように」
「何故、」
「ツキコにも、わからないや」

 何故、あなたは自身を誤魔化しているの。わからないふりをするの。
 人形が言葉を迷っているうちに、赤色の怪物は血溜まりを残して消えていた。
 そういえば、護衛に付いていた猟兵が言っていたのだ。ツミコは、同じ怪物である兎を追い回していると。

「……私も」

 兎を、探そう。
 小川を形成する五体の骸を見つめた人形もまた。
 拙く生物に擬態する怪物に、復讐心を宿して跳んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

波狼・拓哉
はいこんばんは、月が綺麗ですね?…え?月は見えない?こまけぇことはいいんですよ

んじゃ、ミミック化け開きな
…「君の幸せは」?
偽りの幸福を与えることに幸せ感じてたりするならそうですかそのまま死ねで済ますけど
そうじゃないならまあ…

…そうですね、おにーさん探偵でして…依頼でもしてみます?
月の兎が一般人を狙う理由の解明とか
この依頼終わるまでくらいはあなたの対処遅らせますよ
兎以外にもいるみたいですし、最後にもう一度くらいは言葉交わせるかもですよ

寝るわけには行かないので適当に梔子の花弁を撃って、衝撃波で香りを散らす
UDCとして行動するなら…まあ、仕方がないか
彼女には悪く言わないでおきますよ

アドリブ絡み歓迎)



●アナタはさとい
 雨が降って雷が落ちて、風が吹き荒れる悪天候のハイキング。
 自然と触れあれ、自然の驚異をこれでもかと体験できる遭難コースに首を突っ込むのは、レスキュー隊以外に誰が居るのだろうかと、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は探索用のゴーグルに張り付く黒髪をかきあげる。
 少なくとも、これは探偵の仕事とは言い辛いというか。人探しを受け持ってはいるけど、ちょっとばかしはボヤいてしまう。せめて向かい風が弱まりさえしてくれればと、ゴーグルの中で皺を寄せた波浪は、追い風を振り切り歩を進めた。
 風になぎ倒されたソメイヨシノの葉は青々しく、秋になれば立派な桜紅葉を見せてくれたのだろう。下敷きになっている兎の形をしたUDC怪物を見つけた波浪は、取り残された切り株に注視する。
 円形の縞模様から樹木の年齢を計ることは、専門知識がなければ苦労する。だが、その断面が斜めになりつつも、綺麗に形を残しているのは実に不自然なものだ。
 不自然と言えば、この天候だって当てはまる。
 時が経つにつれて、巨大な雨雲は山の頂上を通り過ぎずに集合していく。層を重ねて色を濃くして、凝縮された黒い靄に台風の目なんてついていない。どこをどう歩いても雨、雨、雨。
 その悪天に波浪は覚えがあった。これは第六感が働いたわけではなく、単なる経験から推測される予報。

(雨を降らしている原因は邪神。意味もなく、其処に居るだけの存在……)

 ただ自然に、災害を残すもの。
 近いうちに戦ったことのあるオブリビオンをピックアップしようとした時、もう二度と花開かぬ枝の先にソレは現れた。
 ゴーグルの温度感知に引っかかった少女に違和感を抱いた波浪は、下山を開始する。

(邪神が人に近い体温を持つのか?)

 ああ、でも。雨に打たれながらも。血を流しながらも。人間の平均体温を保つ少女は、UDC怪物だ。

「こんばんは、月が綺麗ですね?」
「……空模様が汚い分、頭に思い浮かべる月はさぞ美しいのでしょうね」
「ええ、まあ。共有できないのが残念な程に」
「何にも見えていないのに、簡単に美醜を決めるだなんて」
「こまけぇことはいいんですよ。月は月だ」

 それ以上でもそれ以下でもない。月が月ながら人は人で。
 オブリビオンは、オブリビオンだ。

「んじゃ、ミミック」

 ――化け開きな。

 波浪の左腕にある黒水晶のブレスレットから召喚された箱型生命体は、幻朧桜に化けてはらはらと花弁を舞わす。
 UDC怪物のツミコは、苦笑いをしたかと思えば梔子の花弁を躍らせる。甘い香りが鼻につく前に、決着をつけるべきなのだろう。

「……『君の幸せは』?」
「アユメが幸せになること」

 模範解答。
 かぶせ気味に述べるツミコはカンニングでもしたのだろうか。

「早押しクイズじゃあないんだけどなあ」
「いいよ、もう。どうでも」

 投げやりに笑うツミコの白肌には、幻朧桜に化けたミミックが降り注ぐ鋭利な桜の花弁によって切り傷が増えていく。
 幻影に閉じ込もるツミコは、偽りの幸福を与えることに幸せを感じているわけではないように思えた。無責任でいい加減な態度は、責任を果たしたことによる副産物だと、花とともに空を舞う二体の骸が教えてくれた。
 このままツミコを殺すことが最善であることは間違いない。間違いないが、そうじゃない。

「そうですね……実はおにーさん探偵でして。どうです。今から依頼でもしてみます?
 例えば、月の兎が一般人である針谷さんを狙う理由の解明とか」
「! ……」

 寝るわけにはいかないと思い、得物の拳銃で適当に梔子の花弁を撃っては香りを散らしていた波浪だったが、銃を下ろして、自身を売り込んだ。
 被害者の名前を出せば、ビンゴ。一発で釣れたツミコに向けて、探偵は事業サービスを展開していく。

「兎以外にもいるみたいですからね、この山。それを討伐するまでは、あなたの対処を遅らせることができますよ。
 ケガも、多分治療できる人がいると思うので……最後にもう一度くらいは言葉交わせるかもですよ」
「どうしてツキコとアユメを遭わせようとするの」
「あれ、会いたくないんですか?」

 意外だなあと付け足した波浪はけらけらと笑う。震え声に息を詰まらせ、破れたスカートのすそを強く握る仕草は、まるで人間の女の子だ。
 UDC怪物として行動するなら仕方がないで済むことなのに、このツミコはどこまでツキコでい続けるのだろうか。
 手を取り合えば、延々とツキコでいられるのだろう。それは叶わぬ共存なのだが。
 いつの間にか、梔子と桜のフラワーシャワーは止まっていた。雨だけは変わらずに振り続けている。以前よりも強く勢いをつけて、振り続ける。
 ツミコの細く、棒きれのような腕を掴んだ波浪は言う。

「彼女には悪く言わないでおきますよ」
「なんで」
「悪い事してないじゃないですか。逃げることも、まあ悪いことでははないしね」
「じゃあ放してよ」
「いいんですか?」

 ――すぐそこにチャンスがあるのに。こんな偶然、もう二度とありませんよ。

 笑うことなく真摯に説く波浪は、そっと力を緩めて拘束を解き、振り返る。
 緑眼を覆うガラスは三つの生命の温度を感知していて、その前から赤眼は、二体と一人が近づいていることに気づいていた。
 下唇を噛む怪物の表情は、ぼさぼさになった髪で隠れてしまって見えやしない。

「俯いていいんですよ」

 時間稼ぎはしますから。
 手を軽くひらつかせながら、探偵は再び山の上へ調査に向かう。
 兎の行動原理、まだ見ぬ邪神の正体探り。言っちゃったからには、ちゃんとやらないとね。

「……、……一つ。アナタに教えてあげる」

 波浪の背中には、顔を上げたらしいツミコの声が聞こえる。波浪は振り返らない。
 振り返れば再びツミコは俯いてしまうのだろうと、なんとなく。そう感じ取れてしまったからだ。

「あの兎。知能は低いし、騙されやすい。人に夢中で罠にも気づかなかった」

 そりゃいい情報だ。と、ミミックに目配せをした波浪は不敵に笑った。
 ツミコの表情はわからない。ツキコの思惑はわかりづらい。だが、その場から動かないということは。
 もうすぐ、夏休みが終わる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラピタ・カンパネルラ
【仄か】

鮮明に視えずとも
声、音、気配でわかる
雨音、飛沫で形を知る
友達を庇っているんだね

(大切な友を、殺すも、生かすも、迷いも覚悟も最後まで心臓いっぱい戦うさいわいの君を
少しだけ僕らに重ねて
けれど、綺麗で
藍焔が溢れるーー注ぐカロンの灰に、安心した)

カロンと手を繋ぐ
環境耐性、雨も斜面も星の恵み
焔は鳥も、ツキコも追う

アユメ
起きて!
声が届く内に!
起きたらいなかったなんて、いっとう寂しい

君達の背を押す事だって
僕達、出来るよ
でも
生きて幸せになって、欲しいんだね

(いいなあ、綺麗)
(僕、もし君だったら
絶対に一緒に、連れて行ってしまう)

アユメは無事に守る
約束する
君達の本物のさいわいの日々を
悲劇では終わらせない


大紋・狩人
【仄か】
豪雨、けぶる少女達の姿
彼女の幸いは
偽りなんかじゃない

(倒れた友に寄り添う少女
かつて見た、もしもの僕らを重ねて胸が詰まる
ラピタの手を握る)

焦がれの炎を留める
火炎耐性を込めて傷癒す【炉端の灰】
大丈夫
暖かな灰はアユメを傷つけない

おびき寄せ、灰の鳩が青い鳥を
藍炎へ誘導し焼べる
手をつなぐ
悪天候を物ともしない子の道案内

ラピタの懸命な声
お別れできないなんて駄目だ
燃える姿を見せる事になろうとも
鳩、起こすのを手伝って

幸いの子、想いを渡してあげて
一心にきみが注いだ幸せは
この先アユメを支え、守り
ともに生くものになるんだ

不本意かもしれないが
きっときみの幸いに招かれたんだ、僕ら
うん
守るさ、アユメを
きみの意志ごと



●アナタたちはどこまでも
 豪雨に濡られる灰色二つ。盲目の王子さまと灰かぶりのお姫さま。手を繋いで旅路を行く。先は幸い。向かうは仄星。地表無き大気の上にカンテラを。

「ね、ラピタ。人が二人……きみの方向に居る」
「こっち?」
「うん」

 灰眼の大紋・狩人(一握・f19359)は、雨水で重たくなったスカートを揺らして、ラピタ・カンパネルラ(薄荷・f19451)の左手を握る己の力を、少しだけ強めた。
 紅い義眼を左に傾けたラピタは、耳を澄まして雨音を辿る。鮮明に視えずとも、声と音と、気配でわかる。
 幸いの旅路にて、同じ旅人ともいえる猟兵と合流を果たした大紋とラピタには、一人、眠り姫が同行することになっていた。猟兵たちは、別れの挨拶などは告げずに依頼を遂行する。

「黒髪で……雨のせいで癖がついている、のかなあ。背丈が僕よりは小さくて、ラピタより少し大きい」
「今も、寝てる?」
「起きる気配がないくらい」
「起きれないのかな。起きたく、ないのかな」

 どっちが、彼女のためなのだろう。幸福とは、なんなのだろう。
 規則的な寝息を立てる被害者を背負う大紋は考える。偽りの幸福をばら撒く怪物は、……否、彼女は。彼女の幸いは偽りではないと。
 人づてに聞いただけでも、豪雨の中けぶる少女たちの姿は本物だったのだから。
 倒れた友に寄り添う少女。かつて見た、もしもの僕ら。その二つを重ねてしまえば、胸が詰まるほどに想像ができる。
 ラピタの手を握る大紋の手を、またラピタも握り返した。
 残った片腕で被害者を支えている器用な大紋を連れて、雨音と飛沫を頼りに怪物の元へ向かっていくラピタも、身を叩く星の恵みを受け入れながら考える。
 友達を庇い続けた少女の話。伝言ゲームはそのまま伝わらずに答えが変わってしまう時があるけれど、どれかが間違っているというわけではない。
 大切な友を、殺すも、生かすも、迷いも、覚悟も、……最後まで心臓いっぱい戦うさいわいの君を。少しだけ僕らに重ねる。

「……カロン。鳥が飛んできている」
「鳥? それは……青い鳥だ。姿は見えないけれど、使いの者だろう」

 実体を持たない青い鳥は叫んでいた。来るな来るなと拒絶を歌にのせ、ピイールリ、チリチリ。美しい声で必死に訴える。

「青い鳥も、友達を庇っているんだね」

 そして、友達の居場所も教えてくれている。飛んできた方向に、さいわいの君は佇んでいるんだ。
 決して、僕たちを待ってくれているわけじゃない。むしろ彼女は拒んでいる。それでも、逃げずに。諦めずに。抗って、立ち向かって……傷つけ合う。
 言葉で傷をつけてきた彼女たちのコミュニケーションツールが、肉を断ち切る刃となった時。彼女たちは以前と変わらずに引っ搔き傷を作るのだろうか。

(けれど、綺麗だ)

 ――やけて、ちりついて、あぶれてしまうほどに、きれいなんだ。

 ユーベルコード【藍焔が哭く】。焦がれたラピタからは藍焔が溢れ、その炎はラピタが美しさや憧れを感じた全てを燃やそうと追いかける。
 その対象は青い鳥。泣き惑い、悲痛な声で歌う彼らは美しい。
 その対象はツキコ。最奥にて、立つことしかしない彼女の選択は眩い。
 その対象は眠り姫。幸福に包まれた彼女の仄かな輝きが光って綺麗。
 その対象はカロン。お揃いの瘡蓋になる前から、電車のホーム、本物のホームではなかったけれど。多分、あの時から。綺麗だと、思ったから。

「ラピタ」

 大丈夫だと、笑ってみせた大紋は、己が纏う暖かな灰を雨に墜とされることなく負けじと降らせる。それは大紋のユーベルコードである【炉端の灰】だった。
 灰を注がれた王子様は安心して、灰が積もる眠り姫は傷つかない。遺灰かぶりは疲労してしまうが、気にせずに灰の鳩を使わせ、青い鳥を藍炎へ誘導し、焼べてしまった。

「アユメ」
「…………」

 ラピタは被害者である、針谷歩芽に対して声を上げた。起きて、起きてと願いながら、けれど揺さぶることはせずに。思いを音にのせた幸福の王子は懸命に歌ってみせる。

「起きて! 声が届く内に! 起きたらいなかったなんて、いっとう寂しい。だから」
「…………」
「アユメ。君が、君の意志で。目を開けて、起きないと。ダメなんだ」
「……。……いつから、狸寝入りなの気づいたんです?」
「! ……おはよう、アユメ」
「……おはざっす」

 眉間にしわを深く寄せた少女の目色は、髪と同じ黒色をしていた。針谷のへの口と鋭い目つきは気まずそうに右に寄っている。

「狸寝入りだったのか?」

 針谷を背負って直接心臓の音を聞いていた大紋は、パチパチと目を瞬かせ驚いてしまう。
 小さく舌を出した針谷は複雑そうに、奥歯を噛みしめるのをやめた。

「背負ってもらった時、目覚めてたんですけど。……タイミング掴めなくて、今に至りますね」
「そうか。じゃあ、行こう。
 悪天候を物ともしない子の元へ。僕たちは道案内をしにきたんだ」

 大紋は針谷の手を繋ぐ。ラピタも余った手を包む。
 仄かな人のぬくもりを久々に地肌で感じ取る針谷は鼻で笑い、走り出した。

「現実って、こんなにも幻想的だったんですね」

 見えない鳥に、灰で構成された鳩と、生き物のように走る火の色は青。
 月見をしようとしたら兎に襲われて、間抜けにも転んで気絶。目覚めたら目覚めたで、知らない人が二人居る。
 同じ人間ではない誰かもわからない二人に挟まれて、走って走って、ツミコが居る場所へ。
 そのツミコは綺麗な髪色をしていて、ゆるくウェーブが掛かった薄青緑を二つに結っており、白いワンピースと白い靴……だったな。

「私よりボロボロになってて、どうすんのさ」

 大紋とラピタ、そして針谷が目にしたUDC怪物は、藍焔に包まれてもなお、其処に立ち続けていた。
 そのUDC怪物は赤赤しい。二つあった髪束は一つになっていて、髪にとどまらず顔や手、ワンピースは返り血だらけ。
 赤いワンピースには切込みや穴も開いて、泥もついていた。泥は足元まで伸びている。
 肌にも泥はついていて、切り傷、打ち傷、火傷。それでも、怪物は笑んでいた。

「本当、猟兵って厄介者ね」
「至れり尽くせりがよく言う。私はお荷物だったけど、熱くないのソレ」
「熱いよ。ツキコ、燃えているもの」
「へえ。死ぬの?」
「うん。ツミコは死ぬよ」
「あっそ。勝ち逃げするんだ」

 針谷は雨合羽のフードを外し、黒髪を雨で濡らした。そしてラピタに向き合い、ユーベルコードの解除を申し出る。

「あの炎、もう燃やさなくても勝手に死ぬっぽいんですけど。
 ……やっぱり消火するのは、マズいことですか」
「……ううん、まずくない。でも」
「はい」
「お別れ、できる?」
「人を看取るなんて経験ゼロですけど、言葉を交わすだけなら。口論しない程度で」
「うん」

 ラピタは、針谷の背を押すことができる。カロンも一緒だ。僕たちは出来るよ。
 雨では消えぬ藍焔が小さくなる一方で、大紋は鳩とともにツミコを支えていた。

「幸いの子、想いを渡してあげて」
「ツキコは、渡したくないよ。まじないはいずれ、のろいとなる。そんな想い」
「のろいになったのなら、まじないにもなれる。大丈夫だ。
 一心にきみが注いだ幸せは、この先アユメを支え、守り、ともに生くものになるんだ」
「……」
「不本意かもしれないが、きっときみの幸いに招かれたんだ。僕ら」
「ちゃんとえんがちょしてれば、こうはならなかったのにな」
「そうだな、ならなかっただろう。……それでも、お別れできないなんて駄目だ」
「生きて幸せになって、欲しいんだね」

 ツミコと大紋のもとへ、ラピタとラピタに連れられた針谷がやってきた。
 人好きのものと、ひとを護るものはその場から少し離れて、行く末を見守り届ける。
 人なる少女が、人ならざる怪物を介抱している様に、ラピタはまた綺麗だと思えた。
 もし、自分がどちらかだったら。
 別れなど告げられず、どちらか一方で一緒になって、絶対連れて行ってしまうのだろうと。大紋の手を握り締めて、そんな思考を紛らわす。
 大紋はラピタの手を握り返し、少女たちの刺しあいに耳を傾けた。

「私はどうせアンタを忘れる」
「アユメは薄情だものね」
「ほっとしたでしょ。臆病者のツキコは。臆病の癖に、……私を庇ってさ」
「……うん。そう、そうだね、ツミコはアユメに幸せになってほしいから」
「アンタの幸せって何さ」
「ツミコの声、小さい? ただ、アユメに幸せを――」
「あのさ。ツミコの幸せって、私が幸せになることなの」

 言葉をかぶせた針谷の表情は、ツミコにも分からなかった。
 どうして同じことを聞き返すのだろうと疑問に思っているツミコは、困惑する。

 ――そうじゃないだろ。

 なにが、とツミコは聞こうとしたのだが、それもまた針谷によって遮られてしまう。
 鋭い黒眼は獰猛で、ひどく赤眼を睨みつけたまま、声を荒げた。
 
「アンタは今までさんざん私に付きまとった癖して、学んだことは理性だけかよ。
 私を真似た癖にどうして他人を思いやる!? 何故そんなにも自己犠牲に縋る!!」

 それは、ツミコというUDC怪物の存在意義を否定する言葉に聞こえたかもしれない。
 出会ったものに望む幸福を与えるものは、与えられたことはなく、受け取ろうとは考えない。
 だから他人の幸福が自身の幸福なのだという。
 それしか幸せはないだろうと。それほど幸せなことはないだろうと。

「知ってるのかツミコ。アンタが我儘言ったの一回だけだぞ。しかも今日、さっき。
 一度も口にしていないけど、ツミコは確かに、私を振り回したってのに。なんだその物言いは」

 そんな他人任せで人に縋って生きるツミコに、針谷は口を挟まずにはいられなかった。
 だが、決して邪神に望みはしない。それは決して自分が望む幸福ではない。それは針谷とっては望ましくない不幸である。
 だが、それがどうしたと針谷は言ってのけるのだ。幸福や不幸に価値を見出さない彼女は、ただ本能のままに生きる動物で、社会性や人間性などを溝に捨てたからこそ、邪神に目をつけられたし、目をかけてしまっている。

「ツキコはその時、何を思ったのさ。今も、それを。ずっと。私は聞きたいんだよ。
 ずっと聞きたかったし、ずっと聞いていたかった。待ってるんだよ、私は此処で」

 役割だとか。立場とか、そんなの全部取っ払って。切羽詰まった時に語られる赤裸々の情動を、醜いと思う者もいるだろう。
 しかし、動物の針谷は同じ動物の本能行動を欲していた。美醜なんてものは問わず、生物の本質をただただ追求する。

「もっと、いっしょに。いたかったなあ」

 もっと一緒に居たかった。それが、UDC怪物ツミコの幸せだ。
 ぼたりぼたりと、雨粒よりも大きい涙を流すツミコは、小さな人間の女の子だった。
 そのまま泣きじゃくるツミコは地団駄を踏んで、我儘に言葉を吐き続ける。

「どうせなら、アユメに殺されたかった」
「私が死ねって言ったら、ツキコ死ぬ?」
「やだ、死にたくない」
「そっか。ん、それでいい。それがいいんだ。わがままなアンタが好きよ」
「ふ。以外、ふふ。アナタに好きなんて感情が、備わっていたなんて」
「私は感情でしか動かないよ。でなきゃ介抱なんてやってられるか」
「……あーあ! 悔しい! 邪魔が入らなかったら、ずっとよかったのに」
「そーね。勇敢なツキコは無鉄砲だから、結果は同じだったろうけど。結果論だ」
「……最後まで、雨、止んでくれないな」
「一生忘れられない月見になったんじゃないの?」
「そう、ね。うん、ツミコは、忘れないよ」

 諦めたようにゆるりと笑むツミコは、もうすぐ眠りにつくのだろうか。
 顔を上げた針谷は大紋とラピタに目配せをして、大紋はラピタとともに、戻ってくる。

「もう、いいのか?」
「自分は、はい。お二方もいいですか」
「……じゃあ、僕から。アユメは無事に守ると約束する。君達の本物のさいわいの日々を、悲劇では終わらせない」
「うん。守るさ、アユメを。きみの意志ごと」
「……至れり尽くせりですね。本当に。ツキコ聞いてる?」
「聞いてる。聞こえてる。聞こえたよ。ちゃんと、聞き届けた」

 ――だから。もう、これ以上の幸福なんて。ないよ。

 そのUDC怪物は、出会ったものに望む幸福を与え、生きるモノを衰退させて。果ての滅亡を持ち運ぶ。
 与えられ続ける幸福はゆめまぼろし。しかし、それは非常にはかなくて直ぐに消えてしまう泡沫の夢。
 夢から醒めた怪物は、骸の海にて目覚めるのだろう。そして奥底に潜り、また眠りにつくのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『月の兎』

POW   :    満月
【透明化】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮捕食態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    新月
自身と自身の装備、【騎乗している浮遊岩石】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ   :    朔望
【油断や庇護欲】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【仲間】から、高命中力の【装備武器による一撃】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ささやきてまねくおつきさま
 雨は止まない。
 さらついた水はダマが取れた布地のように糸を降らせ、霧を作り出している。視界が悪いのは相も変わらず、さりとて身を打つ一滴一滴が大気に分散したのは僥倖か。

「あわれな小娘でした」「月には行けませんでした」「あわれな小娘でした」「同胞をなぶる女はあわれですか」「今宵は満月です」「笑止」「あの女は同胞を四十三をも手に掛けました」「あわれな小娘でした」「参りましょう」「情を持つ生命はあわれな者です」「笑止」「笑止」「月に行きましょう」

 山中にいる者は耳にするだろう。脳に不快なざらつきを残す囁きには統一性がなく、まるで内輪揉めでも起こしているかのように異音を渦巻かせるUDC怪物の鳴き声を。
 そこに感情が含まれているかは定かではない。しかし王の耳を持つ者ならば、六十弱の声を聞き分けることができるだろう。そして怒りや哀しみに関わらず、人たる被害者を殺すことには変わらない月の兎が確認されるはずだ。
 被害者である針谷歩芽の意識は覚醒している。この針谷歩芽は猟兵でもUDC職員でもない只の人間だ。UDCアースにありふれている多くの普通の人々のうちの一人でしかない。
 何故、月の兎は一般人を狙うのか。理由の解明には、僅かな知性とおびただしい狂気で組み立てられた羽音を、穴の開いた両耳へと注ぎ込み、一言を理解しなくてはならないだろう。

「私は月には行かない」

「それはいけない」「それはいけない」「それはいけない」「それはいけない」「それはいけない」「それはいけない」「それはいけない」「それはいけない」

 何でさ。
 拒否を言葉に示した針谷は茶々を飲み込み、奥歯を噛み締める。我欲だけの彼女には、例え己の愚行が折角救いの手を差し伸べてくれた者たちの恩に対して仇を返すものであったとしても、ハッキリと正さねばならぬ現実があった。
 真実を知った月の兎はやっと口をそろえて拒絶を表す。百以上の目目は各々詰め寄り非難轟々を言い聞かせた。

「月に参りましょう」「月に参りましょう」「直ぐそこに月はいます」「汚れています」「飛んでいけましょう」「蹴り飛ばします」「穢れを祓います」「月は綺麗です」「月に参りましょう」「連れて行きます」「海には月がありません」「月に参りましょう」「月を見ましょう」「月が舞っています」

 鈴谷は耳の代わりに目を閉じて、近くの猟兵に向き直る。その顔色は青く冷や汗をかいていたが、彼女は俯くことなく頭を下げた。

「すんません、挑発になりました。
 あと、今言ってる場合じゃないことはわかっているんですけど、後になると絶対言わないと思うので。
 ……助けていただき、ありがとうございました。今も、まだ、変わらず」

 頭を下げて礼を述べる鈴谷は、以下の二点を続けて言ってのける。
 自分は邪魔にしかならないだろうが、囮として兎の餌にはなれるだろう。
 その場に屈むことや、右に飛ぶなどの簡単な指示であれば実行が可能である。
 戦い方は猟兵それぞれだ。被害者を死なせない限りは戦略的に扱ってもいいのかもしれない。
ロバート・ブレイズ
「貴様等は随分と『月』に執着する郡だが、其処までの盲目に価値が有ると言うのか。確かに猫や兎、人類は飛翔する術を成すべきだが、跳ねる者は首の繋ぎ目も曖昧と知れ――何。礼を散らすのか。纏めて告げた貴様の方が奴等よりも賢いに違いない――」
ユーベルコード使用し被害者とお話(一方的なセリフ)する。続ければ続けるほどに文字は壁となり、敵の攻撃を一般人に寄せ付けない
敵の意識を此方に向けたら他猟兵に任せる。透明でも全部塞いでしまえば好い

この隙は大きいだろう

「月の兎も壁の鼠も同じものだ。我々が理解する必要は皆無で、覗き込む事は致命と思え――例えば。蟇蛙を聖なるものと称するに等しい」



●moon beast
 数を減らされた不完全なる群は個として成り代わり、個は個として幾多なる対立の前に妄言を唱え唱え、どちらが正義か天秤に重りを乗せていく。
 月の兎たちにあった統率力は、一度は散されたが再度いびつに固まった。月に執着を持つソレは人の役には立てぬ、むしろ人に害なす獣である。その末路は食糧として火の中に飛び込むほかはない。

 その火種は人間である。

 きょとんとした顔を最後に透明化した月の兎はUDC怪物であり、オブリビオンだ。。
 尻に轢く円形の玉石は執着すべき月ではないのか。ならば、彼ら又彼女らの示す月とは何なのか。
 姿を消しても音を消しても、声を出して主張をする月の兎が其処の住民であり、月を故郷を謳うとして、何を称えているというのだ。

「貴様等は随分と『月』に執着する郡だが、其処までの盲目に価値が有ると言うのか」
「月に価値はあります」「月に価値はあります」「月に価値はあります」「月に価値はあります」「月に価値はあります」「月に価値はあります」「月に価値はあります」「月に価値はあります」

 ふむ。と、ロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)は納得したかのように白い顎を撫でた。確かに月の裏側には未知なる都市が存在するのかもしれない。
 未知とは恐怖であり、人類はその不安を解消するために箱船を出して宇宙を散策する。
 理解を得た者は安らぎを求め、覚えた脅威とともに帰還するだろう。彷徨うものは新たな知識を求めて夢の世界へ旅経つのだろうか。
 月への跳躍は人類の課題であろう。しかし、それをいとも簡単に行う生物が既にこの世に存在していることも確かである。

「確かに猫や兎、人類は飛翔する術を成すべきだが、跳ねる者は首の繋ぎ目も曖昧と知れ」

 開拓に危険は付き物である。否、開拓でなくても、既知であっても、可能性の魔物はいつだって死の鎌を振るう機会を狙っているのだ。此処にいるすべての生物の首には平等に生死の権利が与えられている。
 それを執り行うのは、月の兎などという人でないものでなければ礼を散らした人であるものでもなく、その合間にいるロバートでもないのだろう。しかし、冒涜者こそがこの場をかき乱すのだ。

「――纏めて告げた貴様の方が、奴等よりも賢いに違いない」

 私はロバート・ブレイズだ。兎角。貴様等、此度の戯れは厄介な連中だ。羅列した既知どもの肉と精神を喰い散らかし、遍く愚物を否定せねば成らぬ。悉くが最悪ならば早過ぎる埋葬――……

 ユーベルコード【アンノウン・カダス】を発動させたロバートは、被害者である針谷歩芽とお話を開始する。それは一方的なものであったが、続ければ続けるほどに翁が紡ぐ文字の羅列は文字通りの壁となり、数――頁にも及ぶ長い台詞は敵の攻撃も一般人自身もを寄せ付けない。
 途中、それは夢を求めて森や大都、宮殿や塔を訪れ向かう冒険物語のような話題に触れる。宇宙の深遠へ落下する意識は、いずれは覚醒して現実に戻ってしまう。だが旅は終わることなく人間に戻るためにその者は何処かを目指して直進する。
 それを聞く針谷は難解でありながらもどこか楽しく、恐ろしくも胸が躍る夢見る人の神秘体験に興味を持ってしまった。
 二人の人間の間からは壁を殴る音がする。透明化した月の兎が言葉を殴っているのだ。それを気にせずに針谷はロバートに問いかけた。

「その生き物の秘密を知った人間はどうなる?」
「貴様が空飛ぶものを片端から捕まえて殺めるような娯楽を求めず、ただ関心も無関心も抱くことなく変わろうとしなければ、どうにもならないだろう」

 答えを返したロバートは何事もなかったかのように話を戻し、さらに続ける。

「月の兎も壁の鼠も同じものだ。我々が理解する必要は皆無で、覗き込む事は致命と思え。
 ――例えば。蟇蛙を聖なるものと称するに等しい」

 夢を求めた者は、夢を見る力を失い現実との乖離に苦しむ事となった。
 知を求めた者は、人の身を捨てても人の脳には収まりきるはずのない膨大な情報に潰された。
 力を求めた者は、肉体も精神もその全てを乗っ取られて知らぬうちに何かに殺されていた。

 何の力も持たない人間如きがUDC怪物や邪神と解析し、対峙することは実に愚かなことだ。
 そんな愚行を果たしても決して戦うことを選んではならない。共存を望むのは狂っている。
 逃げて、求めるのだ。混濁とした当たり前の日常を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

人形・宙魂
アユメさんの元へ駆けます

宙へ、飛んでしまいたいと、そう思ってます。
でもそれは、こんな……
重力の属性を込めた鬼縛鎖をなぎ払い重量攻撃、兎達を吹き飛ばして、
アユメさん前に立って、霊力の壁でアユメさんと自分を隔てます

怖かったら、ごめんなさい。『鬼重・餓鬼道』餓鬼達を召喚。
雨の中でも、人の匂いが、芳しくて、餓えて、渇いて、それでも……!

錯乱気味の自分を落ち着かせる為に、首に注射器を当てて
……こんな私が、此処に居てはいけないって、そう思うから。
アユメさんの様な方を、連れていって良い所じゃないって、そう思うから!

餓鬼達に、兎達を襲わせます。
雨の中でも、姿が見えなくても、餓えた鬼達は、兎の匂いを嗅ぎ分けます



●そらから
 赤子の手のように小さく、白い手が持つ木槌に付着した赤色は誰のものだろうか。新たな彩を求める月の兎は、殺戮を求めて木槌を捕食対象目掛けて振り下ろす。
 木槌が叩いたのは柔らかな女の肉体ではなく、一つの鋼を薄く伸ばしただけの刃物だった。そして月の兎の攻撃を受け止めた者は、何度も何度も折り返された日本刀、魂虚を扱う人形・宙魂(ふわふわ・f20950)である。
 重力の扱いに長けた人形は、鬼縛鎖をなぎ払いて月の兎を吹き飛ばす。重量ある攻撃を受けた兎たちは、月に月へと雨音と共に囁き合唱をし続けていた。

「月に参りましょう」「月に参りましょう」「飛んでいけばすぐそこです」「月に参りましょう」「月に参りましょう」「月が綺麗ですよ」「月に舞いましょう」「飛んで月に行けましょう」

 月の兎に狙われた被害者である針谷歩芽の元に駆け寄った人形は、針谷の安否を確認しつつ守るように前に立つ。

「宙に、飛んでしまいたいと、そう思っています。でもそれは、こんな……」

 こんなに、血生臭い。
 赤い両眼をギラギラと輝かせ威嚇をする月の兎に対して、人形には覚えがあった。小さな体から繰り出される荒々しい一手。それを受け止めた時に見てしまった悦んだ獣の表情。
 その残虐性は隠されることなく表面に現れ、人形に見せつけるかのように、赤が飛び込んでくる。
 下唇を噛んだ人形は一度、止まない雨を睨みつけた。雨の中では当然、雨の匂いがする。其処には人の匂いが有る。後ろに、後ろから。生きている人の匂いがするのだ。
 守らなくてはならない人の匂いは芳しくて、飢餓感を思いだした身体は唾液を分泌させた。
 湿気で喉が乾いてしまっただろう。山登りで、少しお腹が空いただけなのだろう。

 そう、だからちょうどよく。空を満たせるものが在るじゃないか。

 後ろを振り向いた人形の青色には、黒髪黒目の少女が映っている。年は一つしか変わらず、身長も大体は同じくらいだろうか。
 舌でも打ちそうな顔をした針谷は、表情を変えることなく目線を人形に移し目を合わせた。揺れる黒にはUDC怪物への恐怖が重ね塗られている。其処には、錯乱しようとしている自身も含まれているのだと、黒色に映し出された人形は思えてしまった。

「怖かったら、ごめんなさい」

 黒髪に覆われた頭部を目掛けて木槌を振り下ろそうと奇襲を企てた月の兎に、人形が召喚した無数の餓鬼が噛り付くのは僅差であった。
 ユーベルコード【鬼重・餓鬼道】。人形の満腹度を代償に召喚された餓鬼たちは口に入った物を火にする事で戦っている。燃える木槌で炎に包まれた餓鬼を殴りつける兎は前進しようにも、針谷との間に霊力の壁を作り、自身を隔てる人形の姿を受け入れることしかできなかった。
 人形は肩で息をするも冷静に注射器を取り出し、勢いのままに首に当てた押し子を打った。ふるりと身が震えたのは、全身が瞬時に冷えたからだろう。乾きは満たされた。満たされたのだ。これ以上を満たすものは目の前にいて、後ろから香るなどありはしないのだ!

「……こんな私が、此処に居てはいけない」

 それでも。人形は其処にいる。餓鬼たちとともに、消えた兎を追いに行く。足音が聞こえれば刀を振るい、匂いがするところに火煙が舞う。

「月は……あなたたちは! アユメさんの様な方を、連れていって良い所じゃない!」

 雨の中。餓えた鬼達は兎を狩る。鬼達の腹が満たされる事はなく、それでも、それでも。
 この力を、善い事に使えるなら。透明の月を求めて、人形・宙魂は宙へと飛ぶのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉
あー…別に囮とかは要らないんでその気持ちだけ受け取りますね?
ああ、いや邪魔になるとかおにーさんが気おくれしてるとかじゃなくてね?
単純に居ても居なくとも問題ないだけなんで

化け侵しな、ミミック
数が多いのがお前達の敗因ですねっと…最厄の時を始めましょう
あ、ミミック
一応鈴谷さんの前に陣取っとけ…ほらまあ、一応依頼受けましたし?

自分は衝撃波込めた弾で兎の頭狙って早業の二回攻撃で撃ち貫く
そしてロープワーク、地形の利用、第六感、罠使いで簡単な罠…足に引っ掛けるだけなのやつでも作って置いときますか
まあ、あの兎の前でこけたなら…うん

先んじて罠が効くと聞いてましたから…これくらいはねー

(アドリブ絡み歓迎)



●There is a candy in the box!
 月の兎には罠が効く。あれだけ賢そうなセリフを吐いているのに、知能は低めで騙されやすい、らしい。
 確かにと、狂気に耐性のある波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は雨音に混じる囁きに納得してみせた。
 支離滅裂な言葉の羅列はめちゃくちゃに見えて単純だ。単純に月に一緒に行きたいと言っているだけなのだ。その理由も、おそらくは手段が目的になっているのだろう。
 月に連れて行ったあとは特に何もしない。一方通行で帰り道は保証されず、そもそも手段が殺して連れていくという物騒なものでなければ、見た目通り可愛らしいものである。の、だろうか。

「あー…別に囮とかは要らないんでその気持ちだけ受け取りますね?」

 罠を仕掛け終えた波浪は被害者である針谷歩芽に声を掛けた。波浪は針谷を使わずに戦うことを選択する。
 使う使わないにしても、月の兎は被害者を狙っているわけでどうしても囮として機能してしまうが、これ以上ただ何も力を持たない人間の少女に負荷をかける必要はないだろうと、先の言葉足らずで誤解を招かないためにも話を続ける。

「ああ、いや邪魔になるとかおにーさんが気おくれしてるとかじゃなくてね?
 単純に居ても居なくとも問題ないだけなんで」
「それは、ありがたい言葉ですね」

 言葉の壁や霊力の壁に包まれた針谷は其処から動かない。二丁拳銃を構えながら波浪は周囲の罠に目を向ける。
 月の兎もこちらの出方を伺っているのだろう。何かを引きずる音は木槌だろうか、骸の兎か。

「あ、ミミック。一応鈴谷さんの前に陣取っとけ」

 召喚された箱型生命体は何か、何かを目線で訴えているが波浪は気にしない。別に依頼のことを忘れてなどいないのだから。今に思い出して実行し終えたのならば、問題などないのである。

「化け侵しな、ミミック」

 痺れを切らしたのはどちらが先だっただろうか。月の兎が牙を剥くのは、どうやら時間が掛かることらしい。
 ならば此方の先手は必須と言えよう。透明化している月の兎をあぶり出すためにそれは盲目にして無貌に化ける。

 ユーベルコード【偽正・平界空音】。
 ミミック本来の力の一端である狂気を籠めた様々な武器は、飛び出すように顕れてしまった。
 月の兎の記憶に化け出たミミックは、噛み付くように月の兎の見てる世界や思考を改変する。一羽一羽、丁寧に肉体を傷つけつことなく一匹ずつ。
 すると次々に透明化を解除し、代償として木槌を強化する月の兎の姿が確認されるだろう。

「数が多いのがお前達の敗因ですねっと……最厄の時を始めましょう」

 月の兎たちは、殺戮捕食態のままお互いを殴り始め、思いもよらぬ仲間割れをまた再開してしまった。
 噛み付き、殴打し、蹴り頭突き。怯えたものから浮遊する岩石に轢かれて潰れて赤を撒く。
 波浪は衝撃波を込めた弾丸を兎の頭に二発練り込ませ、鮮やかな一線を描き撃ち貫いた。
 それを赤眼で追った月の兎は波浪の姿をやっと視認する。何も意味を持たない言葉をだらだらとよだれのように吐き散らしたUDC怪物は、一直線に波浪の元へ飛び跳ねた。
 月の兎が飛び跳ねたことは正解だっただろう。地面に張られた罠など飛べば掛かるはずなどないのだから。だから気づくはずがないのだ。
 空にも罠が張られているだなんて、思いもしない。

「あー……見え見えのこれに引っかかっちゃいます?」

 そのロープは隠されることなく、ただ境界を区切るかのように張られていた。高さは波浪のみぞおちあたりだろうか。白い毛で覆われた腹を撃った月の兎は、人間でいえば肘を入れられたようなものである。
 向こう見ずで殺戮を求める残虐な獣はまたしても高く飛ぶ。しかし今度はそのロープに足を引っかけてころび、そのまま地面に張った罠にも引っかかってしまった。
 肘打ちを経験した月の兎の頭に二度弾丸を撃ち込んだ波浪は、若干呆れた様子で二匹目に銃口を向ける。

「うん……先んじて罠が効くと聞いてましたから。これくらいはねー」

 それにしても間抜けすぎやしないか。
 波浪は緑眼をチラリと狂気を振りまくミミックに向け、怯えたような震えをする月の兎の頭部を破壊した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大紋・狩人
【仄か】
燻る負の炎、灰
懸命に生かそうとした、心をぶつけて欲しがった
一緒にいたいと願った
彼女達の情を侮辱するか、兎

囮ができるのは、強い戦人の資質
それでも僕らはきみを守りたいんだ
ああ、兎は僕が引こう
隠れるとしても駆けるとしても
足元に気をつけて
辺りはラピタが綺麗に晴らしてくれるから

覚悟、嗤う連中への怒りは
油断と庇護欲からは遥か遠く
【ばらまいた砂糖の火】!
おびき寄せ、かばう、
派手な動きと血肉の香りで兎どもを集めるように
澄んだ青の下を駆ける
兎達がアユメの方へ行かないよう
蒼炎や眠りが連中を還すまで

(青に昼の月を探したのは
感傷の名残)
(その言葉が嬉しい)
うん、晴れた日の夜には
いつだって見上げれば会えるものな


ラピタ・カンパネルラ
【仄か】

情は、命あるものが繋ぎ合う、消え失せない宝物だよ。
それを抱えて、一緒にいたかった彼女らの
一体何を嗤うと言う

囮役なら、僕の友達も得意なんだ
カロンが兎達を引き付けてくれる。大丈夫、アユメは隠れていて
……あるいは、護られるなんてじっとしていられなくて。君が信じた君の脚で、走りたくなったら駆け出したっていい
うん、雨は任せて
短い間だけれど
月はまだ沈まない

【蒼穹に消ゆ】、焼却。霧雨を晴らして兎達に眠りと炎を撒き燃やす。
晴れ間は視界を晴らすだろう。多数を引き付けるカロンの手助けにもなれたらいい
兎達、おやつの時間も全てお終い
骸の海の揺籠に帰るといい

月が、地べたから見えるなら
それで、良いんだよ、きっと



●星の浮かばない空を見出して
「懸命に生かそうとした、心をぶつけて欲しがった。一緒にいたいと願った。
 彼女達の情を侮辱するか、兎」
「情は、命あるものが繋ぎ合う、消え失せない宝物だよ。
 それを抱えて、一緒にいたかった彼女らの……一体何を嗤うと言う」

 雨を燻るは負の黒炎。空を覆うは灰の靄。細まる蒼炎は夥しく、仄かに混ざりて悪性を掃う。

「あわれな小娘でしょう」「相容れない」「相容れない」「相容れない」「相容れない」
「違いませんか」「おろかな小娘でした」「相容れません」「相容れない」「あわれな」

「黙れ」

 少女を囃し立てる悪獣は灰色の瞳を焚きつけた。強く灯る燃え残りからは砂糖菓子のように甘美で、葡萄酒のように芳醇な香りが兎の鼻を刺激させる。
 ユーベルコード【ばらまいた砂糖の火】。大紋・狩人(一握・f19359)が放つ香は、月の兎を飢餓と酩酊の状態へと陥れさせた。
 そこに兎なる哺乳類の愛らしさなど有りはしない。齧歯をむき出しに毛を逆立てる獣は疑問符を頭に浮かべながらも、食欲を掻き立てる甘美な血肉に噛み付くために突進する。

 ──易々、触れてくれるなよ。

 玻璃のくつが雨宙を舞う。がらすに惹かれる月の兎を踏んで、蹴って。襤褸の黒いクリノリンドレスを派手に浮かせ、揺らせ。灰髪を赤く染めたく思う怪物はおびき寄せらせ死へ向かう。
 怪物の中には、大紋と同じ手立てで油断や庇護欲を誘おうとするものもいた。しかしながら、僅かな知に覚悟を嗤う醜悪さえあれど、仲間を護る美麗など遥か遠く。
 怒る燕は澄んだ青の下を駆ける。その青空は、ラピタ・カンパネルラ(薄荷・f19451)そのものであった。
 ユーベルコード【蒼穹に消ゆ】。飛翔するラピタは霧雨の戦場に弱い蒼炎と致死量の眠気を落とし撒いては焼却する。
 燃える月の兎は睡魔に襲われては白結晶の匂いに惑う。もはや当の目的であった人間なぞ認識できないほどに思考を委ねてしまっていた。
 万が一正気を取り戻せば、狂気を纏いて殺戮を求められる。そして透明になった月の兎は無鉄砲に木槌を振るい、灰髪二人に弾かれては骸の海の揺籠へ。還った先に家は建っているのだろうか。ウサギ小屋の中にあるおやつは果たして誰のものだろうか。

 雨上がりのプリンセスは晴れ間の青に月を探す。もちろん、月の兎が被害者である針谷歩芽のもとに行かないように、蒼炎と共に青空を駆けながら。
 星はまだ見えない。見えないけれど、空の星になりたいだなんて言っていた懸命なきみを思い出してしまったから、少しだけ感傷に浸りかけた。きみと一緒に星空を見上げるのは好きだけど、こうやって星空を駆けるのも、悪くないのかもしれない。

 地べたを照らすプリンスは青空の上から雨を纏う。背中に打ち付ける水粒は弱々しいものだが、これを落としたら誰かの瞳に飛び込んで、その人をかなしくさせてしまうだろうから。
 月はまだ沈まない。まだ昼だから、恥ずかしがり屋の月に謁見することは叶わない。けれど、大丈夫。
 囮の君は強い戦人。カロンが兎達をたくさん惹きつけて、僕は友達たちの足元を晴らして。隠れているアユメはまるで月のようだった。駆けた彼女は、自分を信じられる強い子なんだろうな。

「帰ろう、終わりへ」

 短い間だったけど、雨は任せて。
 慈しむ青空の中を駆けるは誰かを護る者と己を信じる者。隠れることなく走っては守られて、綺麗に晴れた足元に時折目を奪われながらも駆け上がる。
 いつしか兎は周囲におらず、雨も降ってきてしまったが、太陽も月も、雲だって一つもない青い空はキラキラと、輝いているわけじゃないのにキラキラで、綺麗で、眩しかったのだ。

「月が、地べたから見えるなら。それで、良いんだよ、きっと」
「うん。晴れた日の夜には、いつだって見上げれば会えるものな」

 雨天を見上げる者に駆けられた言葉はやさしく、捻った首は苦笑して、曲がらぬ恩義を走り終えた息上がりと共に漏らしていた。

「……ありがとうございます」

 雨はまだ止まない。それでも、月は其処に在る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
眠い…
どうして人間を狙うのかな
一応訊いてはみるけれど

UCで狐の群れを喚び敵を襲わせる
狐は聴覚と嗅覚がヒトより遥かに優れていてね
きみたち兎にとっては天敵になるけど
食べられないように頑張って
アユメさんを連れてなるべく敵から離れておくよ
どこへ行きたい
僕は月より良い所ならどこでもいいや

ツキコさんの伝言
『きみに月を見せてあげて』だって
だから危険に晒す訳にはいかない
転ばないように気をつけて

家には帰りたくないのかな
理由は何となくわかるし
嫌なら言わなくてもいいけど
地上も月よりはましさ
居場所はなくても酸素がある
そのうち嫌でも息の仕方を覚えるんだ

僕ね、まだきみを助けたつもりないよ
月が綺麗な所に幸福が置いてあるなら



●夜と深い青の先
 一つ小さく欠伸を零せば、目元に液体が現れた。脳内に酸素を取り込んだ鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、喜びのガーデニアが運ぶ眠気に追懐しつつも思い起こして覚醒する。
 ざあざあと、伏せる紫眼に飛び込む雨音たちは先ほどよりも遠巻きだったが強みが増した。乾燥を許さぬ湿気は辺りに立ち込んでは場の温度を下げ続けている。
 UDC怪物たる月の兎もまた、寒さに震えているのだろうか。それとも、劣勢についに怖気づいたか。
 そもそも、どうして人間を狙うのだろうか。鵜飼は、今度はまだ生きている兎たちに一応の訳を訊いてみる。

「召喚主に恩返しでもしたいのかな」
「月に行きましょう」「お迎えに参りました」「お待ちしています」「月に参りましょう」「月に参りましょう」「月が終われないうちに」「満月です」「月が直ぐそこに待っています」

 動物の話と違って理解しがたい羽音の狂気を剥がしてみれば、おのおの好き勝手に鳴く愛らしい白い毛玉のようで、皆が一貫して月に執着しているように鵜飼には思えた。
 月面着陸を願う月の兎の数匹、もう片手で数えられる数へと減ってしまった数匹たちは浮遊した岩石もろとも透明化して鵜飼の視界から逃れようと企てる。
 鵜飼はあえて追うことをしなかった。しかし決して逃すことはしない。自然の驚異物を片手に、鵜飼は被害者である針谷歩芽にも訳はないのかと訊きこんでみた。

「ねえ、アユメさん。個人の意思というものは自由であるべきだと思わない?」
「それを口にするかしないかでこの場は無法地帯と化しますが、基本的にははい。ですね」
「法の下ではないけれど、もう一度直接本人に確認して見てもらおう。どうですか、月に行ってみたいと思いますか?」
「いいえ。私は月に行きたくありません。勝手に喚んどいてごめんだけど、召き貰いは欲しくない」
「……だ、そうだよ。果たして、聴衆は納得してくれるかな?」

 非難と動揺の声を聞く前に、自然数の集合を手にしていた鵜飼は狐の群れを召喚していた。
 ユーベルコード【百獣の王】。表面的な『自由』を与えられた生物たちは見えぬ兎の姿をかぎ分け、ゆらりゆらりと足を運ぶ。
 兎に取って、狐は天敵になりうる存在だろう。しかし、兎死すれば狐これを悲しむという言葉があるように同じ山野に棲む動物。脱兎の足跡を追い襲い、ギャアギャアと鳴く狐たちの中にはもしかしたら、同類の不幸を嘆く個体もいたのかもしれない。それ故に、腹に納めて明日は我が身と戒めた。
 狐の狩りに甚振られる月の兎をしり目に、針谷を連れて離れた位置からその光景を見届ける鵜飼は、欠伸を噛み殺しながら梔子の彼女から伝えなくてはならぬ言の葉を届け出る。

「ツキコさんの伝言。『きみに月を見せてあげて』だって」
「ぶはっ。ふ、ははっ! ……置き土産にしては上等なのに、なんで直接言わないかなあ」
「間接的に言ってこそ効果を為すものだったんだろう。吹き出すほどに熱烈な告白だった?」
「ええ、シンプルに『死ね』と。私には未だ月が見えないというのに」
「わあ、強烈だ。でも、きみたち二人は意外とロマンチストなのが分かるよ」
「言葉が正しく伝わることなんてないんですよ。意志に意味を持たせるのは結局は他人であり、自分じゃあない」
「だから、家には帰りたくないのかな」
「ああ。ええ、まあ」
「理由は何となくわかるし、嫌なら言わなくてもいいけど」
「感情が空切らない折り合いの真ん中を求めつつ、爪切りを買いに」

 雑談に花を咲かせる二つの黒髪の後には、足跡の形をした水たまりが無数に作られていた。
 もうすぐ、狐兎の鳴き声も聞こえなくなってしまうのだろう。こゃんと、一匹の狐が鵜飼に成果を告げている。口元に付着した赤色は、かの月の兎が持っていた木槌を思わせた。
 未だ雨が止まないのが少し気がかりだが、これからは、山を下りるべきなのだろう。

「どこへ行きたい」

 狐を撫で労う王は、自由を問う。
 無言で使い捨てカイロを振る針谷に対して、転ばないように気を付けてと鵜飼は一つ大きな段差を登り、振り向いた。

「僕は月より良い所ならどこでもいいや」

 滑る岩場に足を取られぬように濡れた樹木に手を伸ばして、山を下るために上を目指す。山頂に赴けば、晴れて月は見えるのだろうか。

「地上も月よりはましさ。居場所はなくても酸素がある。そのうち嫌でも息の仕方を覚えるんだ」
「追体験して身に染みてくれたら、楽なんですけどね」
「僕ね、まだきみを助けたつもりないよ。今日は月が綺麗な夜なんだ」

 月が綺麗な所に、幸福が置いてある。ならば、最後まで。人間のきみを危険に晒す訳にはいかない。

「夜空の空気を吸ってみよう。夜にさえ息を吐けたなら、夜だけでも生きていられたら。
 冬になれば活動時間が増えて、きみの世界は徐々に広がっていくと、僕はそう思うよ」

 夏場には活動時間が減ってしまうかもしれないけれど、夜は必ず訪れるから。その時には、減ったままでもいいんじゃない。 
 冷たく笑う鵜飼に対して、針谷もまた、薄く笑ってみせたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『十里雨』

POW   :    大雨洪水土砂注意報
自身からレベルm半径内の無機物を【土石流 】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD   :    世界の隙間
自身と自身の装備、【自身を所持している 】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ   :    局所的集中災害
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はノエル・クリスタリアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●「止まない雨はない」
 止まない雨はない。
 偶発的に召喚された邪神であるUDC怪物、ツミコと月の兎の両方を骸の海へと向かわせた猟兵たちの任務は全うされただろう。
 後は下山してUDC職員などに被害者を引き渡せば依頼は達成されるはずだ。
 そう、そのはず、だった。そのはず、だったのだ。

「止まない雨はない」

 女が被害者である針谷歩芽のすぐ真横に立っていた。
 傘を差していても雨を防げない女は鬱蒼とした表情で、鈍く虚ろに水を滴らせ、うろんだ瞳に青空を映している。

「止まない雨はない」

 なぜ気付かなかったか。それはずっと側に居たからだ。ずっと振り続けて居た。
 血流れる大地を潤い流す雨として、誰かに忘れら去られた白い傘と一緒に少女は存在した。
 眠らぬ街を壊し耕す嵐として、世界に忘れ去られてしまった誰かと一緒に邪神は顕現した。

「止まない雨はない」

 雨の音が激しくて、その女が何を言っているかは耳に届かない。だが、かき消された声を出す口の動きは震えていた。
 ぽたりぽたりと呪文が呟かれる度に、瞬間的に気温が下がれば土砂のような雨水が落ちてきて、だのに風だけはやけに静かで、無常な集真藍が平穏を求めては移ろいでいる。

「止まない雨はない」

 止まない雨はない。
 邪神である女と距離を取り、繰り返される口言葉を思い返した針谷は、あ。と一音を発せてしまえば、冷えた左手で黒色の前髪を後頭部へと流しつけた。

「……確かに、止まない雨はないって。そう確かに言ったけどさ」

 偶然とは、限定的な条件の中で絶対的な因果が奇を衒った結果、全がかち合い環が満たされ誕生する化学反応だ。
 止まない雨はない。

「止まない雨はない」

 止まない雨はない。
 邪神はずっと。ずっと。呪文を唱え続けるのだ。震える声で、吐き出すように。同情を誘うような声で。底があるかもわからない洞に凍み込んだ情を含ませているかのように、錯覚を周囲に張り巡らす。
 またしても少女の形をしたUDC怪物は、邪神と呼ばれるオブリビオンで、それは十里雨という名で観測された。

「止まない雨はない」

 雨が止まない。
鵜飼・章
土石流とか災害とか困るなあ
僕は只の人間だから純粋な暴力は苦手だよ
なのにきみもまた透明になりたがるんだね
消えるのって難しいよ
人を殺すより難しい

さっきと同じでも芸が無いし面白い物を見せてあげよう
UCで死んだ月の兎達のゾンビを作る
心配しないで、今度は僕の思い通りに動く
兎も耳はいいらしいよ
傘から落ちる雨音を聞き分けて
淋しい通り雨を月まで連れていってよ
結構なハッピーエンドだと思うんだけど

アユメさんが月に行きたいと言ったら
僕が殺しても別によかったんだ

ちなみにツキコさんも呼べるけど
どう、もう一度会いたい?
僕の予想はNOかな

きみたちの間にあるものがそういう名前なら
嫌いじゃないかも、友情
雨があがれば月も出るかな



●Harrow William
 伝わらない言葉に意味はあるのだろうか。そこに価値を持たせ根付けた場合、残るものは果たして要るのだろうか。

「止まない雨はない」

 十里雨から発せられる音は、人が紡ぎ出す話し言葉に聞こえて、耳鳴りのように響いてしまう。雨が強くなる一方で、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は物柔らかな瞳で少女の形を作る邪神を映し、しなやかに笑んでいた。
 消えることは、難しい。人を殺すよりも難しい。だから消えることなく、消えきれずに、現れた。

「明けない夜はない、かな」

 言葉の暗示力とは恐ろしいもので、時に善人を邪悪に染め上げる。それが十里雨に当てはまるかは定かではないが、難題に立ち向かうには至言が必要なのだろう。
 白い傘とともに雨の中へと消えようとした十里雨は、鵜飼の言葉に反応したのか小さな大空二つを向けてきた。
 瞬きされぬ青眼に鵜飼は映らない。そのまま土石流を放つ十里雨に敵意は感じられない。しかし、封じられる災害を打つ手なしと受容してはならない。水害は人類にとっての脅威であり、討つべき邪神である。

「土石流とか災害とか、この山中で起こされるのは困るなあ」
「止まない雨はない」
「僕は只の人間だから、純粋な暴力は苦手だよ」
「止まない雨はない」
「なのに、きみはまだ透明になりたがるんだね」
「止まない雨はない」

 この山には桜の樹木がそびえ立つ。紅葉しかけた緑葉は雨を纏いて波を作り、泥を交えた津波として鵜飼を呑みこもうと荒く舞う。
 鵜飼は巻き込まれる前に局所的集中災害から逃れられる場所に目星をつけて見切り、巻き添えになる被害者の針谷を連れて駆けだした。
 泥を跳ねさせる中、鵜飼は先ほど針谷が言った言葉を思い返す。

(アユメさんが月に行きたいと言ったら、僕が殺しても別によかったんだ)

 自分を殺すのは、他と比べたら簡単だ。でも、人でなしの人間を殺すのは。気が引けるかもなあ。
 邪神に殺されるのは、違うだろうし。いまだ月を見せてあげられてないんだから、それこそ罰当たりなんだろうな。
 災害は通り過ぎて空気にぶち当たってはそこら中に散開する。自然が飛び散るころには邪神の能力は途絶えており、何れは山に還るのだろう。
 海に戻らぬ邪神はまたしても透明になって、鵜飼たちを観測していた。小間に当たる雨音を耳にした鵜飼は、十里雨が傘を差したままであるという事実を頭に入れておく。

「さっきと同じでも芸が無いし面白い物を見せてあげよう」

 ≪閉じた時間的曲線の存在可能性≫。時間軸と世界線を歪めて他の可能性世界へ繋げ、生命をねじ曲げる鵜飼の邪法は戦場で死亡したものをゾンビへと蘇生する。
 そのゾンビは赤い目に白い肌を持ち、小さな手足には似つかわしくない木槌と隕石を備え、静かに、静かに。王の命令に長い耳を清ませ、ひたひたと待っていた。

 ユーベルコード【閉じた時間的曲線の存在可能性】。鵜飼に作られたものは、月の兎だった。

「兎も、耳はいいらしいよ。
 傘から落ちる雨音を聞き分けて、淋しい通り雨を月まで連れていってよ」

 結構なハッピーエンドだと思うんだけど。
 気性の荒さが目立つ月の兎たちは、すぐさま泥地を駆け回る。兎たちは鵜飼の思い通りに動くため、知性を補われている。そのため、いらぬ心配は不要というものだ。
 物音は消せない十里雨の動きは鈍くなっており、白い傘に穴を開けられないようにと、白い毛並みに泥を付け染まっていく兎と対峙しているように見えた。

「あの傘が、お気に入りなのかな」
「本体なんでしょうかね、傘」
「じゃあ、僕は傘を持っている本人にしよう。
 ちなみにツキコさんも呼べるけど。どう、もう一度会いたい?」
「辞めといた方がいいっすよ。アレは晴れてないじゃんって秒でキレて攻撃してくる」
「やっぱりNOだったか。きみたちの間にあるものがそういう名前なら、嫌いじゃないかも。友情」
「堂々と良かったと言えますよ、私は。友達だったんだし。ですし」

 言い直す針谷を背に、鵜飼はほんの少しだけ雨が弱まったのではないかと思えて空を見上げる。
 黒々しい曇り空からは無数の雨が変わらずに降り注いでいる。しかし、雨を生み出している原因を取り除いたならば。

「雨があがれば月も出るかな」

 月の兎は生臭い雨音を嗅ぎ分け、鵜飼は湿った土壌の匂いを夜見て数える。十里雨は人間から逃れられない。
 人間から逃れてしまえば、人前から消えることすらできなくなってしまうのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロバート・ブレイズ
「残酷だが在るべき者・物は失せるのが運命だ。骰子を投擲した両者は勝敗を知らず、人類だけが『結末』を迎えて嗤う。何度も何度も苛まれた国民が、嗚呼、俺の脳内で悲鳴を上げて往く――雨粒は最後、止まるのだ」
真の姿を解放し『木乃伊じみた肉体・巨大な頭部と炎の三眼・七色の拳』を顕現させる。恐怖とは訴えだ。此処は誰もが投げ出す、身の暗黒だ
「初めまして。俺の名前はロバート・ブレイズ。されど『此の名』は幾多も絶えて消え、願望は愈々己を殺し尽くす」
自絶願望発動。世界に隙間など赦されない
――遍く我々は『成功法』だ
透明化を否定し『鉄塊剣』で圧し潰す
「俺を『観測』するが好い。貴様は其処で誕生したのか?」



●Hey William,can you hear me?
 空気に溶けようと消える十里雨は、物音や体温を消せるわけではなかった。不完全な透明になった邪神は白い傘を差したまま、閉じぬままに雨を浴びては兎を浴びていた。白い傘に傷がつかぬようにと行動したソレにはいくつかの打撲痕が発見されるだろう。

「止まない雨はない」

 止まない雨はない。青空は白い傘の内側を確かめるように、取っ手をくるりと回転させてみている。その行動に意味はないが、やはり言霊に効果があるのだろう。少しばかり弱くなった雨は再び、強度をも増してロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)の衣服を重くさせた。

「残酷だが在るべき者・物は失せるのが運命だ」
「止まない雨はない」
「骰子を投擲した両者は勝敗を知らず、人類だけが『結末』を迎えて嗤う」
「止まない雨はない」
「何度も何度も苛まれた国民が、嗚呼、俺の脳内で悲鳴を上げて往く」

 ――雨粒は最後、止まるのだ。

 それは木乃伊じみた肉体をしていた。細い胴体から伸びる枝のような手の先は、七色が渦巻き漂っている。 
 絵具をまき散らしたかのような拳は鋭くもなければ力強いとも言えず、しかしそれは恐るべきことに全てを把握しもぎ取ろうと、貪欲に知を求めては嗤い、全てを冒涜して否定する為にテノヒラを広げ胸を躍らせ自らそうぞうした世界を回す。
 それは巨大な頭部に三眼の炎を灯していた。顔に繋がるであろう細い首に乗っている球体は黒い包帯を巻いているかのようにくるりくるりと線を描いており、隙間には宇宙を思わせる深い暗闇が挟まっている。
 そんなブラックホールからは三点の大きな穴が開いており、大気の摩擦熱で輝き落ち続ける流れ星のように原初の火は十里雨を観察していた。
 火種は見えず、雨にかき消されることなく、それは三つの足で立っており、外部からの力でゆらゆらと、山という玉座に座っていた。
 顕現したそれとはロバート、ロバート・ブレイズの事である。冒涜するものの真の姿の一つだ。
 
 恐怖とは訴えだ。此処は誰もが投げ出す、身の暗黒だ。

「初めまして。俺の名前はロバート・ブレイズ。されど『此の名』は幾多も絶えて消え、願望は愈々己を殺し尽くす」
「止まない雨はない」

 ――遍く我々は『成功法』だ。

 ユーベルコード【自絶願望】。総てを『否定』する為の鉄塊剣は創造主の夢見る力で威力を変え、地獄の炎は煌びやかに、無色透明の雨を溶かして昇華させ、月まで飛躍させては破壊する。
 
「止まない雨はない」

 十里雨は三度透明となるが、冒涜王は世界に隙間など赦されないと考える。よって真実は暴かれる。観測者のいない観測室は、ただ四角い箱である。
 壁のない真白な空間に十里雨の逃げ場はなく、ただ疲労する結果だけがこの場に残ってしまった。だが、物事に代償は付き物だ。対価を払うロバートが失ったものは存在である。
 それでも人間は否定し続ける。無聊をアヤしてはソウゾウし、記号兆候をなぞっては全を圧し潰して夢路の誕生を繰り返す。

「俺を『観測』するが好い。貴様は其処で誕生したのか?」

 見える透明に色を与えるとして、生命の赤で塗りたくるのも悪くない。だが、目を楽しませる色は赤だけでないのだ。

「止まない雨はない」

 透き通らない雨を否定せよ。十里雨は小さながらもはっきりと青空を示ししている。
 通り雨の行き先は被害者の元である。予測された天気は軌道に乗り、降りることは赦されない。

「クカカッ――確かに貴様は私を殺すが、貴様は貴様を斃したのだよ。確実に。完全に。此の絶望は我々の魂だ」

 消えぬ雨に嘲笑を。立ち去れと言葉を添えて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

人形・宙魂
使いたくなかった。多分そう思ってた。
もっと、早く気付けたかもしれないのに!
『鬼重・天上道』鬼女へ変わる。

念動力、自然現象である土石流の敵の権能に介入、奪う事は出来なくとも、鈍らせて、重力を反転、下から上へ、吹き飛ばし。

雨を晴らそうとしてたら……後悔は後
長く伸びた腕の怪力で、十里雨を殴り飛ばし、アユメさんから突き離す。

止まない雨はない。
今も続く雨が、邪神の影響だったのなら、元に戻せば良い。
羽を揺らし、冷たい風を送る、凍結属性攻撃。

雨は止むし、月はただ綺麗で。
風を操り、凍結捕縛。魂虚を敵に投げ落として重量攻撃

私も、あの兎も、この雨も、本来の形を歪ませているだけ。
現実はそんなもので良かったのに。



●青白の彼方、氷宙の向こう
 通り雨は過ぎ去らない。立ち去ることなく、何もすることなく、雨を降らしたまま立ち尽くす。

「止まない雨はない」

 自然現象とは人間の意志や働きとは無関係に起きる、現実の出来事だ。今目の前に事実として顕れて居る十里雨は自然の理から外れ、世界に忘れられた外なるものである。
 学校や駅、コンビニエンスストアなどに置かれた傘のように、誰かに持ち去られる順番を与えられずに、持ち主が盗まれなかったと安堵して手に取る役割も果たせず、すれ違い、迎えられなかった白い女は同じ色をした不思議な傘と出会って、世界に大雨を降らすだけ。
 雨はまだ止まない。まだ、まだ。これからも、ずっと。延々と緑緑しい植物を腐らせ、豊かな大地を崩壊させる。

「止まない雨はない」

 人形・宙魂(ふわふわ・f20950)は後悔していた。己の目を閉じたくなるも他なる世界を睨みつけ、奥歯を噛みしめて、息を吐く。

(使いたくなかった)

 争うことなく、話し合えて、通じ合えて、手を取り合って。一緒に世界と共存出来たら、どれだけやさしい世界だろうか。
 勝つのはたった一者だけ。猟兵か、オブリビオンかの二択だけが世界を壊して、守って、食い止めては浸食して。海に還れば命を紡いで、いつかの終わりがくるまで戦い続ける。

(使いたくなかった。多分、そう思ってた)

 ふわりと人形の漆黒が浮かんだ。雨水で濡れた毛髪は重力に逆らい、墨染た布に覆われた後頭部からは翼が生える。
 翼がはためくと同時に、人形の姿は変わり終えていた。羽毛を纏った鬼女は人形と同じ羅刹紋を身体に浮かばせ、根が青く、先に行くにつれて赤色へと変わっていく角は、人形と同じ角をしていた。
 ユーベルコード【鬼重・天上道】。十五尺余の大きさを持つ鬼女は、人形・宙魂だ。

(もっと、もっと早く気付けたかもしれないのに!)

 長く伸びた腕は被害者の針谷に近づこうとする十里雨を殴り飛ばす。その力は凄まじいもので、幹の細い樹木は少しばかり折れてしまう。
 突風はその場にいる全員にやってくる。雨合羽のフードを抑える針谷は目を閉じることなく、逸らさずに天を見上げていた。
 人形の目下では自然現象である土石流が確認される。発生源は紛れもなく十里雨であり、遠巻きからでも、小さくとも、薄赤い口元が動いているのが人形には解ってしまった。

 ――もし、雨を晴らそうとしてたら。

(……後悔は後)

 胸が痛い。 罪の意識はじくじくと人形の全身に広がって、指の先をちりつかせた。雨と一緒に、大粒の涙を下に落としてしまいたくなる。しかし液体はふわふわと宙に浮く。雨も、土石流も。流れを鈍らせ遅く遅くせき止められる。
 力の流れを完全に奪いきることは難しい。しかし、十里雨の権能に介入した人形は、念動力で重力を反転させてみせた。下から上へと吹き飛ばされたのは土石流のみならず、雨降らしの女も飛んでいる。

「止まない雨はない」

 十里雨は、白い傘の内から浮かぶ水を掴むかのように細腕を伸ばしている。手のひらに落ちぬ雨粒を晴れ晴れとした青空に映さない邪神は、一体どこを見ているというのだろうか。

「……止まない雨はない」

 今も続く雨が、邪神の影響だったのなら、元に戻せば良い。だから、雨を止ますんだ。
 雨が止んだ空には、ただ綺麗な月が浮かんでいて。満月は地表を照らしていてくれたんだ。
 私も、あの兎も、この雨も、本来の形を歪ませているだけ。

「現実はそんなもので良かったのに」

 羽が揺れれば風が舞う。再び十里雨が起こした災害は円形を描くように飛んでいき、代わりに冷たい風が襲い来る。雨は氷結して雪へと変化した。
 自然現象を起こす羽毛と重力を操る角を持つ人形は冬風を操り吹雪を作る。粉雪と戯れる十里雨は地肌に霰をくっ付かせて動けなくなっていた。
 人形とともに大きくなっていた日本刀、魂虚を手にした鬼女は、浮かぶ十里雨に重量のある得物を投げ落として、遠い地面へと落下させた。
 心の鬼が笑っている。俯きながらも残心する人形は、冷気を体内に取り込み、身心を殺いで我が身を沈めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

波狼・拓哉
確かに止まない雨はないですけど、だからと言って晴れるとは限らんのですよ

…少なくとも彼女の心の雨は止んでますけどね
晴れるかどうかはこのあと次第ですけど

それじゃあミミック化け明かしな…その存在を現実に縫い止めてやりますよ
世界の隙間を否定して、夢幻虚空にしてやりましょう
…例え姿が見えずとも光と熱は当たりますでしょう?

自分は姿を表させた敵に向かって、衝撃波込めた弾で撃ち貫いてやりましょう
それ以外はまあ…淡々と処理するくらいですかね
特に考慮することもないでしょうし…
そろそろ雨に濡れすぎて寒くもなってきてますからね

(アドリブ絡み歓迎)



●明霧の中の意識
 雨と共に雪が舞う。透明から白に色づけられた結晶体は積もることなく地表に触れては姿を消す。
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は、何故、十里雨が針谷歩芽に固執するのかを護衛しながら考えていた。

(口は災いの元っていうけど、素質があった。だけじゃあ「はいそうですね」とは言えないんだよな)

 雨に濡れた身は寒さを覚え、北風によってますます冷えていく。しゃかしゃかと耳に聞こえる音は使い捨てカイロから奏でられていて、奏者の針谷は雨ですっかり濡れてしまった暖房器具から熱を摂取できているのだろうかと、波浪は後ろを振り向きたくなってしまった。

(……少なくとも、彼女の心の雨は止んでいる。晴れるかどうかはこの後次第だけど)

 邪神の考えなんてわかるはずがなく、わかりたいものでもなく。この身は完全な正気を押しのけ狂気に染まってしまったが、それでも僅かな意識のセーフティで目の前を遮蔽して認識する。
 そんな波浪の代わりに箱型生命体のミミックは針谷と向き合い、口ともいえる蓋を開ける。ギザギザの歯が付いた縁を見せつけられた針谷は、驚きつつも問題ないというジェスチャーをしているかのように思えた。波浪に向き合うミミックは、口を大きく開けて伝言する。
 頷いて返事をする前に、異様を感じ取った波浪は銃を構えなおして戦闘態勢に入った。

「止まない雨はない」

 雨が落ちてきたからだ。
 白い傘を庇うかのように地上に降り立つ十里雨は、よろつきながらも待ちぼうける。定まらない姿は薄々と雨霧に身を潜めようと消えていく。せっかく色づいた白は雨に流され溶けてしまっていた。

「確かに止まない雨はないですけど、だからと言って晴れるとは限らんのですよ」
「止まない雨はない」

 音を消せぬ十里雨は、波浪の言葉に反応したのか声を発する。疲労を蓄積してでも世界の隙間に入り込む雨女の行動は実に不可解だ。
 消えたいのか、消えたくないのか。雨を止ませたいのか、止ませたくないのか。どちらにせよ、どっちつかずの邪神は針谷を目掛けて不安定な足取りで向かって来る。
 敵の目的が分かっていて、敵の居場所も判っている。特に考慮することもないだろう。取るべき行動は淡泊でいい。
 探偵、波狼・拓哉は確かに依頼を受けたのだ。契約書なんてあるはずもなく、口約束も曖昧だったけれど、人によく似た怪物から勝手に仕事を受け取った。

「それじゃあミミック化け明かしな」

 ――その存在を現実に縫い止めてやりますよ。

 青空は箱型生命体を映さない。だが、決して目の前を映すことのない青眼はその目を逸らすことができなかった。
 狂気の光は狂気を呼ぶ熱を放ち、透き通る十里雨を焼いていく。無数の太陽に囲まれた雨女は動きを封じられたかのようにその場に立ち止まり、波浪も針谷も眩しさを感じる光景を作り出した箱型生命体に釘付けともいえる状況を見せ思わせた。
 ユーベルコード【偽正・門超最極】。世界の隙間を否定された十里雨は、夢でも幻でもなければ現実だ。何もない空間に再び現れた真実である。
 何かが見える空間では雨が降る。太陽に焦がされながらも、大空が晴れるまで雨は降る。
 極近用のノットを両手で持ち、狙いを定めた波浪は衝撃波を込めた弾丸を十里雨に向けて撃つ。狙いは女ではなく、内側に雲を浮かばせ、雨以外にも藍色が集まったものを降らす、白い傘だ。

「止まない雨はない」

 庇おうにも、口だけしか動かせない十里雨は攻撃を受け入れる。無数の穴を開かせた白い傘からは波浪が浴びる雨水を通して十里雨にも浴びせ始めた。
 淡々と処理を行う波浪は傘を持つ女にも銃弾を放つ。撃ち抜かれた白い肌は太陽熱で赤くなっており、火傷をしているようだった。黒い穴からは血液も、液体も噴き出すことなく数を増やしていく。

「止まない雨はない」

 止まない雨はない。その言葉に、意味はあるのだろう。意味なき言葉でも、意思なき言葉でも。
 人が理解できる言語として通じてしまえば、人は其処に意味を見出すのだ。

「晴れますよ」

 多分だけど。雨が降らなきゃ、今日は満月がよく見える夜だったらしいし。なら、気休めでも。晴れるって、言ってあげた方がいいのかもしれない。
 十里雨が、口をつぐんだ。
 止まない雨はない。雨は、まだ止まない。まだ、雨は。止まない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大紋・狩人
【仄か】
雨音も、雨期の花も好きだけど
長く続けば冷えきってしまう
(応えるよう
寒さが苦手なきみの手を握る)

ラピタ
もう一度、雨を受け止めて晴らすんだね
間違いないよ、震える凍夜の声は僕にも届いた
帰ったらホットミルクな
うん、蜂蜜たっぷり
行っておいで
地上は僕が引き受ける

十里雨の起こす土石流や
ラピタの蒼炎が場を覆うならば
火炎耐性、かばう、【君繋ぐ花辺】
土石は枝根や花垣に任せて
青空の下、山荷葉や紫陽花の花群れにアユメを匿おう

凍雨の傘が消えれば
青と日差しは体いっぱいに注ぐだろうな
(山荷葉、雨を含んで透る花
馴染みある玻璃の靴のよう
或いは
ずっと傍にいて見えずにいた雨の少女のよう)
暖かいとよく眠れるよ
良い夢を、十里雨


ラピタ・カンパネルラ
【仄か】
雨音も、雨季の花も
晴れ間があってこそだもの
止まない雨は、無いんだ

うん
彼女に青空を見せたい
気のせいかもしれないけど
あの声、悲鳴みたいだーー

ホットミルク、甘くして?
ちょっと、張り切って、くるから
ーー君の花垣が地を守る事を信じてる

土砂流の流れはカロンに任せて
雨を受け止めて炎をそそぐ
晴れても、下から雨の音がする
ねえ、十里雨、
その傘が、少し、重いんじゃないか
傘をさしてると
雨が上がったことに
気付かなかったりもする、だろ
傘を焼き払う
君にどうか陽が注ぎますように
ほら、止まない雨は無かった

背にうける雨も、君が潰える時止むだろうか
湿度に満ちる花の香り
おやすみ十里雨
明るい場所を、君も好きだと、良いのだけど



●give Blue sky a bouquet.
 穴の開いた白い傘。隙間からは雨が落ちてきていて、赤くなった女の肌に吸われていく。白い傘の内側からは雨だけでなく花も降り注いでおり、それらは女を濡らして地表へ落ちて、大地を潤らせ腐らせる。
 口を閉じ、薄赤の口内を晒さなくなった十里雨は白い柄を両手で覆って、姿を消すことなく表情を隠した。
 ラピタ・カンパネルラ(薄荷・f19451)は、十里雨が発した音階を悲鳴だと感じ取った。左手を動かし、何かを掴もうと探る素振りを見せたラピタの手を握る大紋・狩人(薫衣草・f19359)もまた同じく、震える凍夜の声を耳に入れ心へと届かせ、間違いないと頷いて右手をやさしく、しっかり、熱を分け与える。
 雨音と雨期の花。どちらも灰髪二人は好んでいた。雫の打楽器は面白くて可愛らしい。洗面器やガラス瓶、悪気のない雨の粒は思い思いに飛び跳ねる。紫陽花の花は小さなブーケをたくさんつけていて、どれもが色とりどりで、その身一つで花屋を切り盛りしているのだ。
 だが、それは長く続けば冷え切ってしまう。晴れ間がなければ花は根腐れ、満杯になった器たちはこぼれて浸水してしまう。
 それではいい夢は見られない。寒いまま眠りにつくのは、とても寂しくなってしまうことなのだ。

「ラピタ」
「うん」
「もう一度、雨を受け止めて晴らすんだね」
「うん。……彼女に、青空を見せたい」
「ん、わかった。……帰ったらホットミルクな」
「……ホットミルク、甘くして?」
「うん、蜂蜜たっぷり」
「やった。ちょっと、張り切って、くるから」
「地上は僕が引き受ける。さあ、行っておいで」

 ラピタは、名残惜しそうに大紋の手を離す。寒いのが苦手だったおうじさまに取っては、おひめさまのあたたかな体温は、恋しいものだったからだ。
 大紋も、寒がりなラピタを心配そうに見つめていたが、彼女を信じて見届ける。己を信じていてくれているのだ。ならば、己のすべきことはなんだ?

「きみが迷わないように、けもの道を歩きやすくすることだ」

 ユーベルコード【君繋ぐ花辺】。大紋を中心に形成されていく迷路は、花園だ。ふわふわのコットンフラワーは、きみが僕に似合うと言ってくれた繊細の花。夏にハイビスカスのような花を咲かせて、秋ごろに実をつけるんだ。

「止まない雨はない」

 やっと口を開いた十里雨は迷路を打開しようと土石流を流し始める。そして、降り注ぐ蒼炎に気が付いたのか、蒼炎の竜巻を作り出して壁を燃やそうと災害を増やす。
 強力な火炎耐性を与えられた強固な花園は、よほどの集中砲火を浴びせないと崩れないだろう。
 上空では、青空となった幸福の王子が弱い蒼炎と致死量の眠気を雨の代わりに降り注いでいた。
 ユーベルコード【蒼穹に消ゆ】。己に向かい来る攻撃は、信じてくれたカロンに任せて、円熟した灯で場を覆っていく。

 ――君の花垣が地を守る事を信じてる。だから僕は、十里雨の下へと向かえるんだ。

 雨を受け止め火をそそぐ天に向けて濁流を放とうとする十里雨の攻撃は、山荷葉の枝根や紫陽花の花垣によって空で止まる。花群れは針谷だけでなく十里雨をもやさしく匿う。青空の下で身動きの取れなくなった十里雨は、ただただ声を漏らし続けるのだ。

「止まない雨はない」

 晴れた空の中、傘の内側から出ることを拒むようにして十里雨は丸く、小さく、縮こまっていた。
 そのままうずくまって、花に埋もれて眠りに付こうとしているかのように。それなのにずっと、口癖を言い続けている。

(晴れても、雨の音がする)

 それは雨音のようにぽつぽつと、ぽたり、ぼたり、ぼた。穴が開いた小さな円形の中で新たな雨を降らしていた。
 十里雨のもとに降り立った青空は、青空の瞳を持つ女と対峙する。屈みこんだ女と同じくラピタもしゃがんで、目線を合わせて対話を試みる。

「ねえ、十里雨、その傘が、少し、重いんじゃないか」
「止まない雨はない」
「傘をさしていると、雨が上がったことに気づかなかったりもする、だろ」

 無言。十里雨は音を発しなくなり、傘をぎゅっと握り締めるだけだ。
 青空はラピタを映さない。赤眼もまた、ハッキリとは映せなかったが、その仕草は何処か自分に似ているように思えた。まるで、さっきにカロンのあたたかい手を握った感覚が左手にやってくる。

(きっと。カロンなんだ)

 十里雨にとって、白い傘は大切なもの。ラピタには少しの迷いが生まれてしまった。
 どうすれば。どうすればこの子を救ってやれるのだろうかと、考えて、考えて。彼女の口癖から意味を見出して、意思を捕まえて。手を伸ばして、差し出してみた。

「……傘は、どう思う?」

 白い傘は不思議な傘。内側に無数の曇を映しては、雨と集真藍を無常に降らす。
 ぽたぽたと落ちる雨水の勢いはなく、無機物であるそれはラピタの言葉に反応するわけがなかった。だが、ゆっくりと、だんだんと。雨が弱く、なっていく。雨音を頼りにしていたラピタは、傘にも意識があるのだろうかと、思わずにはいられなかった。
 十里雨は空を見上げる。青空を瞳に閉じ込めた十里雨は、内なる雲を映さない。開いた穴の先に見える外なる青空も映さない。だが、虚ろなのにキラキラと輝く青眼はかなしそうに揺れていて、小さな青空に雨粒が点眼されたとき、流れた雫は泣いているようだった。

「……止まない雨は、ない?」
「止まない雨はない」
「止まない雨は、あるよ。ここにいる」
「止まない雨はない」
「うん。止まない雨はない。けど、君は、君たちは。いる」

 十里雨は、恐る恐るといった様子で、ラピタに手を伸ばしてきた。それと同時に、白い傘の取っ手をラピタに差し出している。
 ラピタは女の手を握り、白い傘を手に取った。女は青空に青空を映す。役目を終えた凍雨の傘は、青と日差しを体いっぱいに注ぎ込み、チリチリと小間を燃やしていく。女は燃えはしなかったが、ラピタが握る指の先からうっすらと存在を無くそうと消えていこうとしていた。

「ほら、止まない雨は無かった」

 震える声を抑えながら、白い傘を女に返す。傘を受け取った女、十里雨は燃え進める傘を閉じて、両手で握り締めて火を受け止めながら、瞳に青空を映していた。

「止まない雨はない」

 青い紫陽花の代わりに白い山荷葉が自由奔放に舞い踊る。遠くからはカロンとアユメが駆け寄ってくる気配がした。
 湿度に満ちる親愛の情を持つ花に倒れ、横たわる十里雨は濡れると透明になる幸福の花に囲われる。

「ラピタ!!」

 いち早くラピタのもとに到着した大紋は、ラピタを安心させるように両手で白い手を包み込む。
 ほっと、一息をついたラピタはゆっくりと大紋の名を呼んだ。疲弊を思わせる声色に大紋は気づき、何かあったのかを問うか迷う。

「ラピタ」
「……カロン」
「疲れた?」
「……ううん。……カロンが……」
「僕が?」
「……カロンが居なくなるのは、嫌だ」
「僕も嫌だな、それは」
「うん」

 大紋の後を追ってきた針谷が到着したとき、いつしか、十里雨を囲うように合流した三人は立っていた。
 雨を含んで透る花は馴染みある玻璃の靴のよう。或いは、ずっと傍にいて見えずにいた雨の少女のようだと、大紋は十里雨の様子をみて思遣る。

「暖かいとよく眠れるよ。良い夢を、十里雨」
「止まない雨はない」

 燃え続ける白い傘は自分が手に持つ懐炉のようだと、針谷は考える。

「雨止んでよかったな十里雨」
「止まない雨はない」
「あっちでツキコにどつかれないといいなアンタ」
「止まない雨はない」

 明るい場所を君も好きだと良い。そう思っていたラピタは心なしか顔色が明るくなった女を見て、おやすみの声を掛けた。

「おやすみ、十里雨」
「止まない雨はない」
「そうだね、止まない雨は無かった」

 傘が燃え尽きると同時に十里雨の姿も消えた。青空もいつの間にか藍空へと変わっていて、時刻が深夜を上回る時刻であることが確認される。
 それでも、深夜にしてはやけに地面が明るく思えて、上を見上げてみれば丸々とした月がバカみたいに輝いている。もちろん星も見えるのだが、ひと際輝き星明りを霞ませる黄色は、雲一つない夜空にこれでもかと存在感を放っていた。
 その日は晴天で、お月見日和にふさわしい空模様をしていた。
 雨は止んだ。
 止まない雨は、もういない。

●モノローグ
 貴方はふと、用事を覚えてUDCアースに訪れたかもしれない。君はもともと、UDCアースに住まうものだったかもしれない。われわれはまたしてもUDCアースで依頼を受け、世界を守るために行動しているのかもしれない。
 UDCアースには怪物や邪神が多く蔓延っている。それと同じくして、UDC職員はいついかなる時でも猟兵をサポートするために、日々の観測をできる限り行っている。
 ある日、一人の職員が誰かに手紙を渡してきたとしよう。差出人は、以前に依頼にて顔を合わせた事のある少女だと仮定する。手紙の内容は感謝から始まり、近状の報告をしているものだった。
 以下は、抜粋された一文である。

『一度は全ての記憶を忘れようと職員に頼み込んで、記憶消去銃で自害しようと思いました。
 日常への帰還を願ったツミコは、非日常なUDCを知らない幸福な私を願ったのです。
 でもそれじゃあ、心中を企んだツミコの思う壺だよなあって。私は月より太陽の方が好きだったようなので。
 私はもう、何かを呼び寄せすことがないように治療を受けましたが、万が一があれば。
 その時はまた、世界をよろしくお願いします』

 この手紙を受け取るか受け取らないかは個人の自由だ。気が向いたら返事を書いてもいいだろう。ヤギの餌にしたって構わない。
 このモノローグとは独り言であり、この場に居ない外なる者たちに向けられた独白である。人々は語りに耳を傾けてもいいし、聞こえなくとも構わない、他愛のない蛇足なのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年10月18日
宿敵 『ツミコ』 を撃破!


挿絵イラスト