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鬼女の愛を言祝ぐは、滅びの言葉

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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「時よ止まれ、お前は美しい」

 ――その一言で、あやうい均衡を保っていた世界は、あっけなく壊れ始めた。
 布の継ぎ目がほつれるように大地が裂け、古びた漆喰のように空が剥げ落ちる。
 ぽっかりと開いた奈落の穴に、何もかもが堕ちてゆく。その中心に立つのは1人の女。

「どうしちゃったんだよ、羅刹女の姐さん!」

 彼女が『滅びの言葉』を口にする瞬間を見ていた妖怪が、信じられない様子で叫ぶ。
 その妖怪の知っているかの鬼女は、あまり陽気なほうではないが、いつも穏やかで優しく、しおらしい振る舞いで皆から慕われていた、そんな妖怪だったから。

「あんたはこんな事する人じゃなかっただろ!」
「骸魂に取り憑かれておかしくなっちまったのかい?!」
「お願いだから正気に戻って――」
「うるさいッ!!!」

 心配そうな様子で口々に呼びかける妖怪達を、羅刹女はまさしく鬼の形相で一喝する。
 かと思えばその顔はすぐに、狂気をはらんだ歓喜の表情へと一変し、陶然と微笑む。

「ずっと……ずっとこの時を待っていたの。幽世でまたあの人と会える、この時を」

 幾年月の中で失ってしまった大切なもの。それを取り戻すために今日まで生きてきた。
 狂い哭く本性をひた隠しにして、何年も、何年も、現し世や幽世をさまよい続けて。
 思い出が風化し、その人の顔も名前も思い出せなくなっていっても、それでも――。

「いつか、また会えるって信じて……ようやく望みが叶ったのよ。もう二度と放さない、絶対に逃さない! 私とこの人を引き裂こうとするなら、誰であろうと許さない!!」

 骸魂になっていようと構うものか。それで世界が滅びてしまおうとも関係はない。
 この一瞬、この一時が、永遠になってしまえばいい。愛しいあなたと共に、永久に。

「時よ止まれ! 私たちの再会を、永劫に祝福し続けるために!!」

 狂ったように叫ぶ鬼女の足元から、世界の崩壊が加速する。もう妖怪達も近寄れない。
 崩壊に巻き込まれた建物が崩れ、壁や瓦礫の雨が降り注ぐ。それはまさに終焉の景色。
 ひとりの妖怪と骸魂の再会が、今、幽世を滅ぼそうとしていた――。


「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「カクリヨファンタズムで暮らす妖怪のひとりが、世界の終わりを告げる『滅びの言葉』を口にしてしまいました。これにより、カクリヨファンタズムが崩壊を始めています」
 地球と骸の海の狭間にある、人々から忘れられた者達の住まう世界、カクリヨファンタズム。この世界はひどく不安定で、些細なきっかけでカタストロフ級の事件が頻発する事が知られている――そう、時にはたった一言の言葉ですら、滅びのトリガーになるのだ。

「『滅びの言葉』を口にしたのは、羅刹女と呼ばれる鬼女の妖怪のおひとりです。近所の妖怪曰く、しおらしくて気立てのいい性格で、周囲からも慕われていたそうですが――」
 そうした大人しい外面の裏には、ずっと狂奔な本性を抱えていた。彼女は遠い昔に大切な人を失い、その人を取り戻すためにカクリヨファンタズムを訪れたのだ。忘れられたもの、失われたものが集うこの世界でなら、いつか愛する人ともまた会えると信じて。
「何十年か、あるいは百年以上……ずっと秘められてきた彼女の悲願はついに叶いました。叶ってしまいました。骸魂となって帰ってきた、大切な人と再会するという形で」
 骸魂は、生前に縁のあった妖怪を飲み込んでオブリビオン化する。羅刹女は自ら望んで愛しい人の骸魂とひとつになり、積年の想いを満たした――そして思わず呟いてしまったのだ。「時よ止まれ、お前は美しい」と。

「かくして幽世は崩壊を始めました。こうなっては一刻も早くオブリビオン化した羅刹女を倒し、彼女と骸魂を引き離さなければなりません」
 羅刹女は崩れ落ちていくカクリヨファンタズムの崩壊点の中心にいる。だがそこに辿り着く道程には、崩壊に巻き込まれた建物の残骸が厄介な障害となって立ち塞がっている。
「過去の遺物を組み上げて作ったせいか、幽世の建物にはかなり壊れやすいものも多いようです。崩れてくる壁や瓦礫といった障害物を排除しつつ、なるべく迅速に崩壊の中心へ向かってください」
 障害を乗り越えたあとは、肝心の羅刹女との戦いだが――彼女はやっと取り戻した大切な人の骸魂をゆめゆめ手放しはしないだろう。説得するにせよ、力尽くで引き剥がすにせよ、激しく抵抗されることは間違いない。

「彼女は自らの意志でそうしたとはいえ、骸魂に呑み込まれただけの一般妖怪です。骸魂を倒せば、救出することもできるでしょう――それが世界のためでも、彼女のためでも、望まずに骸魂になった彼女の想い人のためでもあると、リムは信じています」
 淡々とした言葉の中に微かな哀愁をにじませて、リミティアはそう語った。もしご迷惑でなければ、骸魂から解放されたあとの羅刹女のことも気にかけてやってほしい――と。
 狂奔と化した積年の想いが引き起こした世界の滅び。それを阻止するためにグリモアは輝き、崩れゆくカクリヨファンタズムへと通じる道を開いた。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はカクリヨファンタズムにて『滅びの言葉』を呟いてしまった妖怪を止め、世界の滅亡を防ぐのが目的です。

 第一章では今まさに崩れ落ちていく幽世を乗り越えて、崩壊の中心に向かいます。
 崩壊に巻き込まれて崩れた建物の壁や瓦礫が障害となるので、どうにかして対処しながら先へ進んで下さい。

 第二章では崩壊の中心点で、骸魂とひとつになった鬼女『羅刹女』との戦闘です。
 自ら望んで骸魂に呑み込まれた羅刹女ですが、まだ救出することはできます。彼女の心を揺さぶるような説得ができれば、戦闘中でも隙が生じるかもしれません。

 無事に事件を解決できれば、三章は平和になった幽世での日常になります。
 詳細については実際の三章到達までお待ちください。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『崩壊する建物』

POW   :    力技で崩れてきた壁や瓦礫を排除する

SPD   :    素早く移動して脱出する

WIZ   :    崩壊の速度や落ちてくる瓦礫の角度を計算して回避する

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

雛菊・璃奈
黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】と展開した【unlimited】による掃射で壁や瓦礫を吹き飛ばし、破壊して中心へ向かうよ…。

ラン達は中心の方へは連れて行かず、崩壊から少し離れたところで巻き込まれた妖怪達の救助と避難誘導をお願い…。

大切な人を亡くす気持ちは解るし、再び会いたいっていう気持ちも解るよ…でも、それでも…世界を滅ぼし、他を犠牲にしてもっていうのは間違ってる…。

「ご主人!」
「悲しい人!」
「止めてあげて!」

絶対に止めるよ…このままじゃ誰も救われないから…。
それに…羅刹女さんもその大切な人も救える可能性、希望(【共に歩む奇跡】)はあるから…。



「大切な人を亡くす気持ちは解るし、再び会いたいっていう気持ちも解るよ……」
 まるで天地がひっくり返ったように、或いは積み木細工を崩すように、壊れていく幽世。その崩壊の中心を見つめながら、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は哀しげに呟く。
「でも、それでも……世界を滅ぼし、他を犠牲にしてもっていうのは間違ってる……」
 愛する人と二度と離れたくないという切なる願いが、この惨事を引き起こしたと言うのなら――それはどうしようもなく理不尽で、不条理で、だからこそ止めないといけない。
 この世界に生きる人々のために、羅刹女の想いをただの悪意にしてしまわないために。

「ラン達は崩壊から少し離れたところで巻き込まれた妖怪達の救助と避難誘導をお願い……中心の方へはわたしだけで行くよ……」
 一緒に幽世にやって来たメイド人形達に指示を出すと、彼女らはこくりと神妙な表情で頷くと行動を開始する。既にこれほどの規模の崩壊が起こっているとなれば、被災した妖怪も少なくはないだろう。事態がさらに悪化する前に安全な場所まで避難させなければ。
「今助ける!」
「こっち!」
「急いで!」
 メイド達はそれぞれ手分けして瓦礫の下敷きになった妖怪を助け出し、慌てふためく者をまだ崩壊の進んでいない方に誘導していく。その別れ際、彼女達は泣き出しそうな顔をして、主人たる璃奈に大きな声で叫んだ。

「ご主人!」
「悲しい人!」
「止めてあげて!」

「絶対に止めるよ……このままじゃ誰も救われないから……」
 璃奈はその言葉にこくりと頷くと、呪槍・黒桜を持って崩壊の中心点に向かい始めた。
 幽世中を呑み込まんとする崩壊は、もともと崩れやすかった幽世の建造物を破壊し、吹き飛ばされた壁や瓦礫が雨のように降り掛かってくる。流石にその直撃を受けでもすれば、猟兵であっても痛いでは済むまい。
「呪われし剣達……わたしに、力を……『unlimited curse blades』……!!」
 だが、巨大な瓦礫が璃奈を押し潰す前に、展開された無数の魔剣がそれを吹き飛ばす。
 さらに呪槍をひと振りすれば、解放された呪力が黒い花弁の嵐となり、行く手を阻む壁を破壊する。幾度の冒険を乗り越えてきた彼女には、これしきの障害は問題にならない。

「急ごう……これ以上崩壊が進む前に……」
 黒桜の花吹雪と魔剣の掃射で道を切り開きながら、中心点に向かって早足に進む璃奈。
 被害が広がり妖怪達に犠牲者が出るのを恐れるのは勿論だが、この惨状を起こしてしまった妖怪――羅刹女に、これ以上罪を犯してほしくないという想いもそこにはあった。
「それに……羅刹女さんもその大切な人も救える可能性、希望はあるから……」
 巫女装束の内にしまった一枚の小さな呪符に手を当てながら、ぽつりと彼女は呟く。
 この【共に歩む奇跡】を使える状態であれば、骸魂となった妖怪も救済できるかもしれない――それは淡い期待かもしれないが、彼女にとっては賭けるに足る可能性であった。
 救える命がそこにある限り、璃奈は助けることを諦めない。まっすぐに前進を続けるその足取りは力強く、迷いのないものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

故無・屍
…ッチ、これだからこの世界は嫌いなんだよ。


死んだ奴は戻ってなんか来やしねェ。
自分の覚えたままの姿でそこに居たとしても、
そいつはただの泥人形と変わらねェんだよ。

ジャンプ、残像の技能にて瓦礫を避けて進みつつ、
避け切れないものは怪力、2回攻撃、早業を駆使しUCにて纏めて破壊する。

周りに他の猟兵が居る場合はかばうの技能にて補助する。

このクソッタレな状況を作った理由に関しちゃ個人の感情だ、否定はしねェ。受け入れもしねェがな。
依頼を受けたから止めに行く、それだけだ。


――想った奴が生きた姿を見ておいて、
その死を真っ向から否定して、
その挙げ句よくもまあこんな形で『取り戻す』となんざほざけたモンだな。



「……ッチ、これだからこの世界は嫌いなんだよ」
 愛する人を求め続けた女と、想い人の骸魂が生んだ悲劇。今回の事件のあらましを聞いた故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は、言い尽くせぬ感情を舌打ちに変える。
「死んだ奴は戻ってなんか来やしねェ。自分の覚えたままの姿でそこに居たとしても、そいつはただの泥人形と変わらねェんだよ」
 カクリヨファンタズムは不安定な世界だ。生死の境さえもこの地では時に曖昧となる。
 幽世に辿り着けす死んだ妖怪が成るという骸魂は、彼にとっては生者を惑わせる紛い物としか思えなかった。

「このクソッタレな状況を作った理由に関しちゃ個人の感情だ、否定はしねェ。受け入れもしねェがな」
 そうぼやきながら幽世を駆ける屍の身のこなしは俊敏で、邪魔な壁を軽々と跳び越えて進む。崩れた建物の瓦礫が上から降ってきても、残像が生じるほどの機敏な動きで躱す。
 この事件を起こした羅刹女に同情するつもりなどさらさら無さそうな様子ではあるが、一方で手を抜いているような素振りもまったく無い。
「依頼を受けたから止めに行く、それだけだ」
 気に食わない相手であっても、引き受けた仕事は実直にこなす。周りに他の猟兵がいないかどうかに気を配り、もし危機に陥っていれば身を挺して庇うつもりであったところからも――そこに自己に対する捨て鉢さが含まれていたとしても、彼の人となりが窺えた。

「道が悪くなってきやがったな」
 崩壊の中心に近付くにつれて、周囲の荒廃も進んでいく。巨大な建物がバラバラに崩れ、降りしきる瓦礫はまるで砲弾の雨のよう。並みの精神の持ち主では足がすくむような光景だが、幾多の悲惨な戦場をも経験してきた屍は恐れることなく剣を抜き放つ。
「――纏めて潰しゃあそれで終いだ」
 奇妙に湾曲した黒刃の大剣「アビス・チェルナム」が闇を纏い、その刃が巨大化する。
 常人では持ち上げることも叶わなさそうなそれを、力任せにぶん、と振るえば――目にも止まらぬ早業で刃が閃き、周囲の瓦礫を纏めて粉砕した。

「――想った奴が生きた姿を見ておいて、その死を真っ向から否定して」
 【暗黒剣・無尽】でなぎ払う周囲の惨状を見渡しながら、吐き捨てるように屍は言う。
 否定はしない、とは言ったものの。既に"亡い"ものの影を追い続けて、事実を直視する目を喪ったような輩とは、やはり相容れる気がしない。
「その挙げ句よくもまあこんな形で『取り戻す』となんざほざけたモンだな」
 それがどんなに大切な相手でも、失ったものは取り戻せない。羅刹女も、そして彼も。
 順調な道行きとは裏腹に、どうしようもなく嫌な気分にさせられながらも。ただ仕事をこなすだけだと、『故無き屍』は乱雑に闇の刃を振るいながら先へ進むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
崩壊する世界でひたすらやかましい女が一人。

「もうダメ、やっぱりダメ。助かりっこない、こんな所来なければよかった、今更ジタバタ無駄にあがいた所で死ぬのよ。あぁ~もうダメダメダメ!ダメダメばっかでキリが無いわ」

お前は一体何しにここに来たんだとツッコミたくなる、やかましさ。段々と瓦礫等がカビパンの周りに落ちてくる。直撃するのも時間の問題か。

「もうダメよ、私はナウなヤングにイケイケなまま死ぬのよ!助かりっこないわ。絶対死ぬわ」

が、女神の幸運による思し召しなのだろうか。カビパンの所だけ何度も崩れた壁や瓦礫が重なって空間が出来上がる。まるで絶叫マシンを全力で楽しむかのように、中心部に意図せず進んでいく…



「もうダメ、やっぱりダメ。助かりっこない、こんな所来なければよかった、今更ジタバタ無駄にあがいた所で死ぬのよ」
 崩壊する幽世の異変を解決するために猟兵達が奔走する中、ひたすらにやかましい女が一人。カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)は崩壊の中心から逃げるでもなく、ただ青ざめた顔でジタバタと喚き散らしていた。
「あぁ~もうダメダメダメ! ダメダメばっかでキリが無いわ」
 お前は一体何をしにここに来たんだとツッコミたくなるやかましさ。そうしている間にも幽世の崩壊は進み、崩れた建物の瓦礫等が段々と彼女の周りに落ちてくる。このままでは直撃するのも時間の問題か。

「もうダメよ、私はナウなヤングにイケイケなまま死ぬのよ! 助かりっこないわ。絶対死ぬわ」
 ナウなヤングはそんなこと言わない。ということを教えてくれる者は残念ながらここには居なかった。死ぬ死ぬと言いながら騒ぎ立てるのは止めない、往生際がいいのか悪いのか分からないカビパンだが――不思議なことに彼女に命中する瓦礫はひとつもなかった。
 常識的に考えれば、こんなところに無防備に突っ立っていれば、そろそろ脳天に瓦礫のひとつでもブッ刺さっていていいはず。しかし「女神の幸運」を持つ彼女は本人も意図せぬまま瓦礫を避けていたり、あるいは偶然にも瓦礫が逸れていったりと難を逃れていた。

「こんなところで死ぬのなら、死ぬ前にカレーうどんをいっぱい食べておきたかった。どうせならふやけたうどんの麺に埋もれて死にたかったわ、いややっぱりそれはイヤ」
 カビパン自身はまったく気付いていないが、彼女のいる所の周りにだけ、何度も崩れた壁や瓦礫が重なって、小さなシェルターのような空間が出来上がっている。どんな奇跡的確率かは知らないが、これも女神の幸運による思し召しなのだろうか。

「そういえば遺書も残してないわ。ここから叫んだらカレー屋のみんなに遺言は届くかしら……あなたたち! 私がここで死んだら店は頼んだわよ!」
 相変わらずカビパンはやかましいまま。喉が枯れないのかと心配になるくらいの大声で叫びながら、ハリセン片手に瓦礫のシェルターから飛び出す。まるでギャグ漫画の登場人物のようなドタバタ走りだが、やはり"幸運"にも崩壊の被害は彼女のもとを逸れていく。
「い~~~や~~~~死ぬ~~~~!」
 その振る舞いは見ようによっては、まるで絶叫マシンを全力で楽しむかのようである。
 さながらジェットコースターを駆け下るように、崩れゆく幽世を満喫(?)するカビパンは、意図せずその中心部に進んでいくのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

病院坂・百合
世界の危機と聞いて出不精の百合も慌てて飛び出しました!
一銭にもならないけど、将来的な収益を見越して頑張るよ!


道中は最低限の護身術で道を切り開いていくよ。
これぐらいの困難に打ち克てなくて探偵を名乗る訳にはいかないからね!

アドリブ、連携可。



「世界の危機と聞いて出不精の百合も慌てて飛び出しました!」
 そう言って壊れゆく幽世に降り立つのは病院坂・百合(見境なしの名探偵・f23071)。
 帝都桜學府では難問難題を解決する名探偵として名の通った彼女。この依頼を引き受けたのはこの地に紐解くべき謎を見出したからか、あるいは危機を見過ごせなかったのか。
「一銭にもならないけど、将来的な収益を見越して頑張るよ!」
 割りかしちゃっかりとした打算も胸に秘めつつ、少女は陽気な態度で歩を進めていく。
 どこへ行けばいいのかなんて、推理するまでもない。世界の崩壊がより激しい方向に歩いていけば、そこに"犯人"は待っているのだから。

「それにしても本当にすごい光景だね」
 地面がめくり上がり、空が裂け、建物が音を立てて倒壊する。百合の目に飛び込んでくるのはまさに"この世の終わり"の如き天変地異に見舞われ、崩れ去っていく幽世だった。
 これがたった1人の妖怪の呟いた一言が引き起こしたものだとは、説明を受けていなければ信じられなかったかもしれない。それで滅びるのが張本人だけならまだ良かったものを、巻き込まれるのはカクリヨファンタズムとそこに暮らす全ての妖怪達ときている。
「……いつもは謎を紐解いた結果には関与しないんだけど、そうも言ってられないね」
 演技中は無邪気に振る舞ってはいても、実は彼女は義に篤い。一度依頼を請け負ったからにはタダ働きになろうとも無辜の人々を見捨てるような真似はしない。鬼灯のような赤い瞳をすうと細めた百合の前方、崩れ落ちた建物の瓦礫が立ち塞がる。

「これが探偵の必須技能!」
 常人にはどうにもできない大きな瓦礫の壁に、【最低限の護身術】を叩きつける百合。
 探偵にとっての"最低限"とはどういう基準なのか――彼女が抜き放った退魔刀は分厚い木材と煉瓦の壁を障子紙のように切り裂き、その周辺の地形はまっさらに破壊された。
「これぐらいの困難に打ち克てなくて探偵を名乗る訳にはいかないからね!」
 猟奇事件渦巻く帝都で探偵としてやっていくには、単に頭脳が優れているだけでは足りない。まして影朧と戦うために鍛えられた桜學府の學徒兵が、板切れや石ころ程度に遅れを取るものか。

「さて、もう一息ってところかな。ちょっと急いだほうが良さそうだね」
 "最低限"の武術の冴えで道を切り開きながら、百合はまっすぐに崩壊の中心を目指す。
 探偵として、猟兵として。事件を追う彼女を止められるものは何一つ存在しなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネーヴェ・ノアイユ
言葉一つでこのようなことに……。噂には聞いておりましたが本当に危うさと隣り合わせの世界なのですね……。

共にこの世界へと来ていたsnow broomに跨り少しでも早くこの場を駆け抜けられるよう空を飛んで移動しようかと思います。
崩落の影響にて瓦礫などが降ってきた際には速度をなるばく落とすことなく避けられるコースを見極めて飛びつつ……。どうしても避けきれない場合は氷壁を作り出して盾受けすることで防ぎますね。
進路を崩落した建物が塞いでいた場合にはUCの氷塊にて壊すことで突破したり……。建物が倒れてきた際には巨大な氷壁を作り出して建物を支え、その間に突破したりなど多少強引にも駆け抜けていければと……。



「言葉一つでこのようなことに……」
 まさに"世界の終わり(カタストロフ)"という表現がよく似合う、崩壊するカクリヨファンタズムの惨状を目の当たりにして、ネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)は少なからず衝撃を受けた様子で呟く。
「噂には聞いておりましたが本当に危うさと隣り合わせの世界なのですね……」
 不安定な成り立ちゆえか、幽世でこうした事件が起こるのは月に1度や2度ではない。
 そのうちの1つでも対処が遅れれば、この地はたちまち骸の海へと沈む――自分達猟兵に課せられた使命の重さを否応なく実感させられ、少女は肩を小さく震わせた。

「今は、少しでも早くこの場を駆け抜けられるよう……」
 ネーヴェは白い箒「snow broom」に跨って、崩れ行く幽世の上空を飛ぶ。氷と雪をモチーフとした衣服を纏う少女が、白い髪をなびかせて翔ける姿は冬の妖精のように美しい。
 しかし現在の幽世には空にいようとも安全な場所はなく。崩落の影響を受けた建物の瓦礫などが暴風に巻き上げられ、危険な障害物となって彼女の元にも降りかかる。
「大丈夫……落ち着いて見ていれば……」
 箒の速度を落とすことなく、避けられるコースを冷静に見極め。ひゅうと氷雪の軌跡を描きながら、ネーヴェは降りしきる瓦礫の隙間を縫うように翔け抜ける。迷宮災厄戦で経験したオウガ・オリジンとの空中戦に比べれば、これしきの障害はまだ生ぬるいほどだ。

「崩壊が一番激しいのは、あちらですね……」
 高いところから幽世を見回せば、この異変の起点がどこにあるかは一目瞭然。魔力で作り出した氷壁を盾のように掲げ、避けきれなかった細かい瓦礫の破片を防ぎながら、ネーヴェは中心点へと至る最短のルートを飛び続ける。
「これは……」
 そんな彼女の前に立ちはだかったのは、元はお屋敷だったと思しい倒壊した建物の壁。
 大きな瓦礫が積み重なって完全に道を塞いでしまっており、迂回するか高度を上げれば通ることはできても時間は掛かる――それよりは破壊してしまったほうが早そうだ。
「雪よ……氷よ……私に力を……」
 頭に結んだ大きなリボンに触れながら唱えると、これまで盾にしてきたものよりも巨大な氷塊が、砲弾のように勢いよく撃ち出される。轟音と共に着弾した【ice bomb】は見事に瓦礫を粉砕し、少女が通れるだけの幅の道を作り上げた。

 ――が。破壊時の衝撃が他のところの崩落も招いたか、今度はゴゴゴゴゴと地響きを立てて、積み木を組み上げたような高い塔がネーヴェ目掛けて倒れ込んできた。咄嗟に氷壁を張る判断が遅れていれば、箒もろとも下敷きにされていたかもしれない。
「少し焦り過ぎたでしょうか……。でも……」
 1つの破壊から連鎖的に崩壊が進むのは、それだけ幽世が"脆く"なっている証である。
 世界の滅びまであまり猶予が残されていないことを肌で感じたネーヴェは、多少強引にでも中心へ向かおうと、巨大な氷壁が塔を支えている間に全速力でその下を翔け抜ける。

「急ぎましょう……」
 氷の魔法で障害を突破し、目指すはこの事件を引き起こした妖怪――羅刹女のいる所。
 はかなく危ういこの世界を守るために、少女は恐れることなく前を見つめ続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
気持ちは解るけどね…世界を犠牲に目的を叶えるなんてさせるわけにはいかないのよ。

【ブラッディ・フォール】で「黒竜を駆る者」の「ドラゴンテイマー」の姿(テイマーの黒衣と剣を装備し、翼が生えた姿)へ変化。
【文明侵略】で崩れた建物の壁や瓦礫を次々に変換して増やしながら中心へ侵攻。
途中で妖怪達を助けたら必要な数のドラゴンに乗せて離脱させたり、一部のドラゴンを先行させて包囲・攻撃させたりしつつ、残りのドラゴン達を引き連れて中心点まで侵攻するわ。

大切な人に会う為に長い間彷徨って来たその執念も理解できる…。
でも、その為に世界を犠牲にするのは許されないし、それはオブリビオンと変わらないのよ…。必ず止めるわ



「気持ちは解るけどね……世界を犠牲に目的を叶えるなんてさせるわけにはいかないのよ」
 愛ゆえに世界の時を止め、想い人との再会の瞬間を永遠にしようとした羅刹女の想い。
 滅びの言葉を口にするほどの妄執、あるいは狂奔とでも呼ぶべき彼女の情念を慮って、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は痛ましげに目を伏せる。
 本来ならその願いは純粋なものだったのだろう――だとしても、己の悲願のために世界を滅ぼそうとする者がいるのなら、それを阻止するのが猟兵の使命だ。

「……骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ」
 静かに【ブラッディ・フォール】の詠唱を紡いだフレミアの背中から三対の翼が生え、手元には禍々しい赤き剣が現れ、身にまとう装束は黒く変化する。それはかつてキマイラフューチャーで刃を交えたオブリビオン『ドラゴンテイマー』の力を己に付与した姿だ。
 彼女が赤剣をかざすと、刀身から放たれた【文明侵略(フロンティア・ライン)】の波動が辺りを覆い、崩壊した建物の壁や瓦礫を黒い鱗と翼を持つドラゴンへと変換していく。
「行きなさい」
 周囲の無機物を強制的に黒竜「ダイウルゴス」に変化させるその力をもって、フレミアは自らの手勢を増やしながら行く手を阻む障害を排除していく。あっという間に百を数える大群となったドラゴンは、主の目となり耳となり手足となって、幽世の空を飛び回る。

「ギィッ!」
「うわっ、なんだ?!」
 先行していたドラゴンの一部が、崩壊に巻き込まれていた妖怪を発見する。瓦礫に足が挟まって動けなくなっていた彼は、突然やって来たドラゴンにびっくりした様子だった。
 彼のように加速する滅びから逃げ遅れた妖怪はけして少なくはない。黒竜の軍勢はそうした者達を見つけては救助活動を行い、瓦礫の下から助け出した被災者を背中に乗せる。
「向こうはまだ崩壊が進んでいないわ。崩れやすい建物から離れて身を潜めていなさい」
「あ、ありがとう! 助かったよ!」
 妖怪達を乗せたドラゴンを安全圏まで離脱させると、フレミアは残りのドラゴン達を引き連れて侵攻を再開する。先行していたドラゴンは本隊に先駆けて邪魔になる瓦礫の破壊と撤去も行っており、悠然と歩く彼女の道行きを阻むものは何一つない。

「大切な人に会う為に長い間彷徨って来たその執念も理解できる……」
 ドラゴンの軍勢と共に崩壊の中心点に向かいながら、フレミアはぽつりと呟きを零す。
 妖怪の一生は人よりも遥かに長い。何十年――あるいは何百年という歳月をかけて、かの羅刹女は誰にも内心を明かさぬまま、愛する人との再会を望み続けてきたのだろう。
「でも、その為に世界を犠牲にするのは許されないし、それはオブリビオンと変わらないのよ……。必ず止めるわ」
 自らの"過去"に囚われ続けた果てに、今や幽世を滅ぼす厄災と化してしまった羅刹女。
 彼女の彷徨を、このような最悪の結末で終わらせはしない――真紅の瞳に決意を宿し、フレミアは崩壊する幽世を駆けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
愛しいものとの時間をとこしえのものとする為に、か。
理由はわからなくもない、が──世界を滅ぼすというのなら、止めなくてはならないな。

『艶言浮詞』で、瓦礫を風や重力の精霊に変えながら進む。
精霊達には進路の障害物を取り除いたり、落ちてくる瓦礫から守ったりして貰おう。僕も警戒はするが、これだけ精霊の手があるのだから使わない理由もあるまい。
逃げ遅れたものがいれば助け、崩壊の中心から離れる方向へ精霊を護衛に付けて逃がすぞ。

……何もかも精霊頼りだが。世界の危機ということで勘弁してもらおうか。
この一件が終われば対価は弾もう。頑張ってくれ。

※改変、アドリブ、絡み歓迎


遠吠・狛
過去に縛られるって誰にでも起きうることだからね。
まあ、とにかく羅刹女のとこまでたどり着いてからの話か。

あんまりうかうかしてられないし、いそご!
中心までの最短ルートを見極めて進むよ。
眷属狛犬の「ハヤテ丸」に先導頼んで全速力で駆けてくよ。
建物の残骸は踏破できそうなら踏破、無理なら横によけてみたいな感じ。
崩落や陥没も上手にかわしていきたいけど、うまいこといくかな!
かわせない崩落や邪魔な壁とかはUC【神罰鐵拳】でぶん殴って突破!

あとは野生の狛犬の走りの見せどころだね!

絡み、アドリブ大歓迎だよ!



「愛しいものとの時間をとこしえのものとする為に、か」
 ひとりの鬼女が幽世の滅びを願うに至った想いを、シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)はぽつりと呟く。想い人のいない明日を生きるよりも、終わらない刹那に埋もれていたい――かの羅刹女の望みは盲目的で狂気に満ちていたが、同時に一途であった。
「理由はわからなくもない、が──世界を滅ぼすというのなら、止めなくてはならないな」
「過去に縛られるって誰にでも起きうることだからね。まあ、とにかく羅刹女のとこまでたどり着いてからの話か」
 このまま見過ごすわけにはいかないというシェーラの言葉に、遠吠・狛(野生の狛犬・f28522)も理解と同意を示す。哀しき妄執に囚われた鬼女を"倒す"にせよ"救う"にせよ、まずは崩壊の進む幽世を攻略するのが先決だ。

「あんまりうかうかしてられないし、いそご!」
 たんっと勢いよく地面を蹴った狛は、崩壊の中心へと向かって一目散に全力疾走する。
 その前方には中型犬サイズの霊犬が、くんくんと辺りの匂いを嗅ぎながら走っていた。
「はやて丸、先導よろしくね!」
 狛犬一族の姫御子たる狛に仕える眷属狛犬は「わんっ」と一声鳴いて、崩壊の中心までの最短ルートへと彼女を導いていく。だがその進路上には崩落した建物の壁が立ち塞がり、空からは大きな瓦礫が砲弾のように降り注ぐ、平坦でも安全でもない道行きだった。

「おいで、僕に手を貸してくれ」
 そこに狛達の後を追ってきたシェーラが【彩色銃技・口寄せ・艶言浮詞】を発動し、風や重力の精霊を瓦礫に憑依させる。すると邪魔な障害物はたちまち彼を慕うしもべに変わり、自らの意思で猟兵達のために道を開けた。
「おー。式神ってやつだね!」
「東洋ではそう呼ぶらしいな」
 感心したように声を上げる狛に応えつつ、シェーラは無邪気に戯れる精霊達を使役し、進路にある障害物を取り除かせ、上から落ちてくる瓦礫から自分たちを守るよう命じる。
「僕も警戒はするが、これだけ精霊の手があるのだから使わない理由もあるまい」
 依り代となる無機物は辺りにいくらでも散らばっており、必要とあればいくらでも頭数を増やせる環境。呼び寄せられた精霊達は踊るように風と重力を操り、猟兵達の障害となるものをふわりと浮かび上がらせて、邪魔にならないところに撤去していく。

「これなら楽ちんだね!」
 邪魔な瓦礫がひとりでに前からはけていくのを見て、狛は快活に笑いながらスピードを上げる。白狼の毛皮とその霊力を纏った彼女の身のこなしは軽く、少々の障害物であれば撤去を待つ必要もなく踏破し、崩壊する地面の亀裂や陥没もひょいと上手に飛び越える。
「ここまではうまいこといってるね!」
 当たればただでは済まない瓦礫の雨も、彼女は足を止めることなく危なげなく避ける。
 道行きは順調。だがその時、先行するはやて丸が「わんわんっ!」と、何かを訴えるような叫びを上げた。見れば1人の妖怪が瓦礫に埋もれ、今にも潰されそうになっている。

「た……助けて……」
 崩壊から逃げ遅れたらしいその妖怪は、重い瓦礫の下でもがきながら息も絶え絶えに助けを求める。これは不味いと顔つきの変わった狛は、彼の下へダッシュで駆けつけると、白狼の毛皮手袋を着けた拳をぐっと握りしめる。
「ぶっこわすよ!」
 気魄と共に繰り出されるのは【神罰鐵拳】。如何なる物体も砕く神気を込めたその一撃は、硬い瓦礫を砂岩のように粉砕する。巻き上げられた細かい瓦礫の破片も、精霊達が操る風と重力によって彼方へと吹き散らされ、窮地の妖怪は無事助け出されたのだった。

「危ないところだったね」
「怪我はないか?」
「へ、平気です。ありがとうございます!」
 狛とシェーラの手で助け起こされたその妖怪に、どうやら負傷などは無いようだった。
 2人は彼に早く避難するように言い、シェーラが使役する精霊から数名を護衛につけて、崩壊の中心から離れる方向へと逃がす。
(……何もかも精霊頼りだが。世界の危機ということで勘弁してもらおうか)
 障害物の撤去に防御に救助活動まで、精霊達に任せる仕事の多さにシェーラはすまなさを感じるが、事はとにかく緊急を要する。こうしている間にも世界の滅びは刻一刻と進み、崩壊の範囲が広がり続けているのが肌で感じられた。

「この一件が終われば対価は弾もう。頑張ってくれ」
 シェーラがそう約束すると精霊達は機嫌を良くした様子で、ふわりふわりと宙を舞う。
 崩壊の中心まではもう一息。ここから先はさらに多くの障害と危険が予想されるが、ここまで来て怖気付くような猟兵達ではない。
「野生の狛犬の走りの見せどころだね!」
 険しい難所ほどむしろ乗り越えがいがあると言わんばかりに、眷属と共に力強い走りを見せる狛。邪魔な壁や躱せない瓦礫は殴って壊し、最速かつ最短で前へ前へと突き進む。
 彼女が道を切り開くのに合わせて、シェーラと精霊達も障害を退けながら駆け続ける。
 此度の事件の元凶である妖怪――羅刹女との対峙の時は、もう間近に迫りつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
御伽の騎士ならば二人の愛を祝福し、守護するのでしょうが…
為すべきは分かっていても遣り切れません

装着したUCでの三次元機動能力で飛翔
マルチセンサーでの●情報収集で検知した崩落する壁や瓦礫を回避したり、対艦砲で消し飛ばして突破

人より強い妖怪とはいえ限度はあります
道すがらセンサーで検知した救助求める声や熱源反応から逃げ遅れた妖怪達を探査
●怪力で抱えて落下物の無い広場等に避難させます

※老若男女問わずなるべく多くの妖怪の声を拾わせて救助する描写希望

救助活動で装備の稼働時間は限界ですが…

この世界の有様は迷いを無くすに不足はありませんね
助けを求めた彼らの声は十分に彼女を止める『理由』となります

…行きましょう



「御伽の騎士ならば二人の愛を祝福し、守護するのでしょうが……」
 世界の滅びを阻止するため、愛するふたりを引き裂かなくてはならない今回の依頼に、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は溜息を吐くように呟いた。
「為すべきは分かっていても遣り切れません」
 大切な人ともう一度会いたいという願いが、どうしてこんな事態を引き起こしてしまったのか。それがこの世界の特異性なのだとしても納得し難いものである。鋼鉄の胸の中にもやもやとした迷いを抱きながら、機械仕掛けの騎士は前進を続ける。

「ブースター出力正常。三時方向より飛来物を検知」
 【戦機猟兵用全環境機動型大型標的攻撃試作装備】による三次元機動能力を獲得したトリテレイアは、背部の追加大型ブースターから光の翼のようにジェットを噴き出して、崩れゆく幽世の空を飛翔する。機体に搭載されたマルチセンサーは航空レーダーの役目を果たして、崩落する壁や瓦礫の破片が飛んでくる方角・速度から直撃の危険性を検知する。
「対艦砲にエネルギー充填……発射」
 細かな破片は各部の小型スタスターを小刻みに吹かして回避し、大きな瓦礫は装備した馬上槍型ビーム砲で消し飛ばす。小惑星やスペースデブリの漂う暗礁宙域での戦闘に比べれば、この程度の悪環境は彼にとって何の問題にもならなかった。

「人より強い妖怪とはいえ限度はあります」
 むしろトリテレイアが意識を向けるのは障害物よりも、この崩壊から逃げ遅れた妖怪達の安否に関してだった。道すがら救助を求める者を見過ごさないよう、声や熱源反応を検知するセンサーの感度は常に最大にして、瓦礫に埋もれた人影はいないか常に探査する。
「た……助けて……」
「誰か……」
「痛い……痛いよぉ……」
 建物が崩壊する音に紛れて、普通なら聞き逃されてしまうようなか細い声。しかし騎士はそれがどんなに小さな悲鳴だろうと必ず駆けつけ、その巨体と怪力で彼らを救い出す。

「もう大丈夫です。助けに来ました」
 壊れた建物の影で泣いていた妖怪の子供を発見したトリテレイアは、安心させるように力強い語調で語りかける。白亜の装甲に包まれたその体躯と、傘のように頭上へ掲げられた大盾は、降り注ぐ瓦礫の雨からその子を守る。
「ひっく、ぐすっ……向こうに、おじいちゃんもいるの……」
 妖怪の子がべそをかきながら指差した先には、長い体をした蛇妖怪が、崩れた建物の梁に胴を挟まれて動けなくなっていた。トリテレイアはすぐさまそこに駆け寄ると、重機ばりの怪力で邪魔な瓦礫を持ち上げ、今にも押し潰されそうだった妖怪を無事助け出した。

「しっかりと掴まっていてください」
 妖怪の子を両腕で抱え、蛇妖怪を機体に巻きつけさせ、トリテレイアは再び空に舞い上がる。落下物の恐れのない広場まで避難させると、彼らはほっと安堵と笑みを浮かべた。
「なんとお礼を言っていいか……!」
「おにいちゃん、ありがとー!」
 送られる感謝の言葉に黙礼で応えると、騎士はまだ救助を必要としている者を1人でも多く助けるために、休むことなく幽世を駆け回る。聴覚に飛び込んでくる切実な声、視界に映る生命の熱量は、どれも"生きたい"と懸命に訴えていた。

「死にたくない」
「あの子を助けて」
「痛いよ、怖いよぉ」

 妖怪達の切なる願いの声を拾い集め、騎士が崩壊より救い出した命は数十名に上った。
 回り道や往復の連続で、飛行用ブースターの燃料ゲージはすっかり下がりきっている。
「救助活動で装備の稼働時間は限界ですが……この世界の有様は迷いを無くすに不足はありませんね」
 空中から地上への移動に切り替えるトリテレイアの声には張りがあった。彼に助けを求めた妖怪達の声は、十分に羅刹女を止める『理由』となる――迷いの霧はいつしか晴れ、進むべき方角は明確となる。

「……行きましょう」
 ただ一途に再会を望んだ鬼女の想いを、引き裂かなくてはならないのは辛いことだ。
 それでも、より多くの罪なき人々を滅びから救うために、機械仕掛けの騎士は往く。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『羅刹女』

POW   :    はなさない
【翼を変化させた鋭い刃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    にがさない
【背中の翼と尾を激しく動かす】事で【鬼夜叉】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    ゆるさない
攻撃が命中した対象に【呪詛の刻印】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【激しい怨嗟】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠スフォルツァンド・スケルツァンドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 崩れ落ちる建物の障害物を乗り越え、時には逃げ遅れた妖怪を救助しながら、崩壊の中心に向かう猟兵達。先に進むにつれて地面はすり鉢状に落ちくぼみ、まるで奈落へと通じる底なし穴のように、彼らを闇の深くへと誘う。

「…………誰?」

 その果てで猟兵達を待っていたのは、長い黒髪をなびかせた二本角の鬼女であった。
 まどろむように目を閉じていた彼女は、自身の領域にやってきた気配を感じて瞼を開き――爛々と輝く黄金色の瞳で、猟兵達を見つめる。

「貴方達は……分かります。私とこの人を引き裂こうとする者……」

 骸魂に呑み込まれオブリビオンと化したことで、彼女の本能は猟兵を"敵"と認識した。
 この鬼女こそが妖怪『羅刹女』。かつて失った大切なひとを取り戻さんと望み、再会の一瞬を永遠とするために滅びの言葉を紡いだ、此度の事件の元凶である。

「この人の魂を奪おうというのですね……そんなことは絶対にさせない……私達はもう二度と離れない……!!」

 始めは穏やかだった口ぶりは熱と狂気を帯びたものとなり、殺気で空気が張り詰める。
 自らの望みを妨げる者に対する狂奔な態度。美しい女の姿の裏に潜む鬼気迫る本性。
 それが羅刹女という妖怪であり、骸魂と融合したことでその性質はより強まっていた。

「未来なんてものがあるから、私達はまた離れ離れにならなきゃならない。そんなのはもうイヤ、もう耐えられない。だから――時よ止まれ、お前は美しい!」

 明日に絶望した鬼女の嘆きが滅びの言葉となり、幽世の崩壊をさらに加速させる。
 残された猶予はもう幾許もない。この世界に生きる妖怪のために――あるいは過去に囚われた女と、望まずして骸魂となったその想い人のために、猟兵達は戦闘態勢を取った。
フレミア・レイブラッド
貴女の気持ちは解るけどね…他人や世界を犠牲にして自分の望みだけを叶えようなんて許されないのよ。
それに、貴女の想い人は本当にそれを望んだの?
貴女自身と、貴女の大切な人(骸魂)の為にも…貴女にこれ以上、世界を崩させるわけにはいかない

【真祖の吸血姫】発動。
敵の翼の刃を真祖の魔力による凍結魔弾【属性攻撃、高速・多重詠唱、全力魔法、誘導弾】で凍結・迎撃し、残りを魔槍で打ち払いながら高速で接近。
膂力と技量で正面から打ち合いながら叩きのめし、【神槍グングニル】で吹き飛ばすわ(相手の実力次第では加減して直撃させずにグングニルの衝撃波で吹き飛ばしたり)

これが我が真の姿…貴女と世界の破滅、必ずや止めてみせる!



「貴女の気持ちは解るけどね……他人や世界を犠牲にして自分の望みだけを叶えようなんて許されないのよ」
 愛するものを失った羅刹女に哀しげな、しかし厳しい視線を向けてフレミアは告げる。
 同情の余地こそあれど現在の彼女は骸魂と融合したオブリビオン。独りよがりな願いで幽世を滅ぼさせないためにも、魔槍「ドラグ・グングニル」を構える手に迷いはない。
「それに、貴女の想い人は本当にそれを望んだの?」
「そんなの……決まってるッ!!!!」
 私達の想いはひとつ。そう信じて疑わぬ狂奔の鬼女は、背中から石か金属のような翼と尾を生やし、猟兵達に襲い掛かる。対するフレミアも【真祖の吸血姫】を発動、己の持てる全力を以て、この哀しき妖怪を止めることを決意する。

「我に眠る全ての力……真祖の姫たる我が真の力を今ここに!」
 崩壊する幽世の中心点で、解き放たれる真祖の魔力。紅い輝きを纏ったフレミアの体は17~8歳程に美しく成長を遂げ、背中にはヴァンパイアを思わす4対の真紅の翼が生える。
「これが我が真の姿……貴女と世界の破滅、必ずや止めてみせる!」
「やれるものなら……やってみなさいッ!」
 その高貴なる血統に恥じぬ厳かな風格で彼女が告げれば、狂乱の羅刹女もまた咆えた。
 絶対に【はなさない】、という想いを込めて翼を羽ばたかせれば、舞い散る羽が鋭い刃へと変化して嵐のように降り注ぐ。真祖の吸血姫は自らの魔力を冷気に変え、無数の魔力弾にしてこれを迎え撃った。

「切り裂けッ! 私達の愛を阻む全てを!」
 翼の刃と魔弾が激突し、激しい衝撃と寒気が戦場に吹き荒れる。骸魂に呑まれたことで一般妖怪より遥かに力を増した羅刹女だが、真の力を解放したフレミアも負けていない。
 降りしきる刃の雨は魔弾によってことごとく凍結させ、残ったものを魔槍の柄で打ち払いながら飛翔。瞬間移動かと見紛うほどの爆発的な加速で、一気に敵との距離を詰める。
「貴女自身と、貴女の大切な人の為にも……貴女にこれ以上、世界を崩させるわけにはいかない」
「ッ……! なにが、私達の為よ……っ!!」
 神速に迫る勢いで突き放たれる真紅の魔槍を、辛うじて腕で受け止め反撃する羅刹女。
 フレミアはそのまま白兵戦に移行し、膂力と技量の全てを駆使して正面から打ち合う。

「今の貴女は自分の事しか見えていない。世界も、他人も、大切な人のことさえも」
「なにを……っ!」
 感情を叩きつけるような鬼女の猛打と、洗練された吸血姫の槍さばき。激しい乱打の行方は高位竜種以上の膂力と豊富な実勢経験で磨いた技量、その二点で勝るフレミアが次第に優勢となり――幾合かの交錯の末、魔槍が鬼女の守りを打ち崩した瞬間、彼女は一言。
「もう一度言うわ。本当にこれが望みなのか……貴女の想い人に問いかけてみなさい」
 その直後に繰り出されるのは【神鎗グングニル】。魔力を槍に超圧縮することで全てを穿つ、フレミアが持てる最大級の一撃は、真紅の閃光となって戦場をまばゆく照らした。

「――――ッ!!!!!」
 凄まじき爆光と衝撃波に呑まれ、羅刹女の身体は抵抗の余地さえなく吹き飛ばされる。
 直撃はさせていない。もしフレミアが手加減抜きで彼女を消滅させるつもりだったなら、その身は今頃跡形もなくなっていただろう。
「なんの……つもり……っ?」
 実力の差は歴然だったことを痛感したがゆえ、羅刹女は地に伏せたまま歯ぎしりする。
 対するフレミアは自分の胸に問いかけてみなさいと言うように、それ以上は何も語らず――彼女が与えた言葉と温情は、羅刹女の心に少なからぬ動揺をもたらしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

病院坂・百合
百合は説得が得意じゃないけど、ここは任せて!

まず【強制改心刀】で切りつけるよ!邪心を祓ってしまえばこっちのもの。
「骸魂となった彼がこんな結末を望む筈がない、彼は貴女にこんなことをして欲しくない筈だよ」
って説得するよ!
ダメだったらもう一回【強制改心刀】を使う、と見せかけて普通に切りつけるよ!



「百合は説得が得意じゃないけど、ここは任せて!」
 ハイカラにアレンジされた軍服を纏い、退魔刀を抜くと、百合は颯爽と敵の前に立つ。
 彼女の故郷サクラミラージュには、骸魂に類似した亡霊が存在する。"影朧"と呼ばれるそれらを輪廻の輪に戻すために説得し、聞き分けのない者は力尽くでも悪事を阻止するために、帝都桜學府に属する學徒兵は日々精進を重ねている。
「貴女も、私達の邪魔をするの……? だったら許さない……!」
 立ち上がった羅刹女は凛とした百合の視線と目があうなり、翼を刃に変えて撃ち放つ。
 想い人を【はなさない】という妄執が作り出した刃の嵐は鋭く、激しく、そして脆い。

「行くよ!」
 百合は姿勢を低くして、刃の雨の下をくぐり抜けるように駆け、避けきれないものは刀で払う。清水と神鋼で鍛え上げられた退魔刀、其が打ち払うのは悪鬼に魔性――そして人の心に宿る邪心である。
「一刀両断! ――なんてね」
 剣戟の間合いへと身を滑らせた百合は、間髪入れぬ早業で【強制改心刀】を繰り出す。
 すっと鮮やかな軌跡で弧を描いた刃は、羅刹女の肉体を傷つけることなく、その内にある邪な心のみを斬った。

「う……っ!?」
 雷に打たれたように身体を震わせ、がくりとその場に膝をつく羅刹女。それまでの鬼気迫る雰囲気がふっと薄らいだのを感じて、百合は今が説得のチャンスだと言葉をかける。
「骸魂となった彼がこんな結末を望む筈がない、彼は貴女にこんなことをして欲しくない筈だよ」
 羅刹女の愛したひとが、羅刹女のことを大切に想っていたのなら、まだ生きている彼女が世界もろとも滅びるようなことは望まないだろう。こんなことをしても誰も――彼女自身も、そして骸魂になった彼も幸せにはなれないのだと、誠意を込めて説得を重ねる。

「あのひとが……望んでいない……? 私と一緒にいることを……?」
「このまま世界を滅ぼしたところで、骸魂になった彼は永遠に苦しむだけだよ」
 強制改心刀を受けた羅刹女は、呆然とした様子で百合の説得に耳を傾けている。故郷にて見聞きした事例をもとに、大切なひとを真に想うべきならば解放してやるべきだという彼女の説得は、鬼女の心にも響いたように見えた――。
「……うそよ。私たちはずっとここで一緒にいるの……それを彼も望んでいるはず……」
 ――だが。何十年、あるいは百年以上に渡って溜め続けてきた羅刹女の業は、一太刀で祓いきれるものではなかったらしい。再び狂奔に取り憑かれた彼女の目は爛々と輝き、翼の刃がぎらりと剣呑な光を放つ。

「まったく頑固だね」
 説得が不完全に終わったのを察した百合は、即座に霊力を込めた退魔刀で斬りつける。
 強制的に邪心を払う先ほどの一撃を警戒し、羅刹女は刃の翼を使って防御の構えを取るが――そう見せかけて、今度の百合が放ったのは【強制改心刀】ではなかった。
「言葉で納得してくれないなら、容赦はしないよ」
「っ……ぎぃッ!!?」
 普通の刀として扱っても、退魔刀の切れ味は並みの刃物より遥かに勝る。その一太刀は翼の刃を断ち斬って袈裟懸けに羅刹女を斬り伏せ、真っ赤な鮮血を戦場に舞い散らせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

カビパン・カピパン
「…誰?」」
問いかける鬼女。
「ご存じカレー屋の店主です」
「誰よ!」
「って、貴女こそ誰よ!!」
双方ビックリである。

「もう二度と離れない」
「どうぞどうぞ」
「時よ止まれ、お前は美しい!」
「時が止まったら、カレーうどん作れないじゃない」
話がまるで噛み合っていない。相手も一緒だったようで、お互いに怪訝な顔で見つめ合った。

「悩み聞くよ、カレーあるよ。ふむふむ、ははぁ。聖者の私がお二人への祝福の賛美歌を歌いましょう」

始まるカビパンリサイタル。
(ここにMSさんの考えた素敵な祝福の歌詞が入るよ!)

歌い終えたカビパンのキメ台詞は…
「やだぁ、心地よい歌で昇天させちゃったぁ?癒し系過ぎるのも罪ね。反省っ、てへぺろ☆」



「うぅっ、よくも、よくも、よくも……ッ」
 猟兵らの攻撃に押されがちの羅刹女は、端正な顔立ちを怒りに歪めながら喚き散らす。
 愛するものと一緒にいたい、ただそれだけの願いをどうして妨げるのか。苛立ちを募らせる彼女の前に、スッ、と瀟洒な軍服を身に着けた女性が現れる。
「……誰?」
 問いかける鬼女に、その女性は答える。
「ご存じカレー屋の店主です」
「誰よ!」
「って、貴女こそ誰よ!!」
 突然現れた得体の知れない相手に双方ビックリ。羅刹女はともかくカレー屋の店主ことカビパンは、目の前にいるのが今回の事件の首謀者だと気付いても良さそうなものだが。

「……貴女が何者かは知らないけど、私達はもう二度と離れるつもりはないわ」
「どうぞどうぞ」
 ここに来たからにはとりあえず敵だろうと、殺気立った目つきで睨み付ける羅刹女に対し、カビパンの態度は呑気なもの。さっきまで「もうダメ、助かりっこない」と喚き散らしていたヤツと同一人物なのかと一瞬疑わしくなるほどに、落ち着き払った態度である。
「あと少しで私達の望みは叶うの……時よ止まれ、お前は美しい!」
「時が止まったら、カレーうどん作れないじゃない」
 シリアス路線を貫く羅刹女と、マイペースなカビパンとでは、話がまるで噛み合っていない。違和感を感じたのどちらも一緒だったようで、お互いに怪訝な顔で見つめあった。

「悩み聞くよ、カレーあるよ」
 ひとまず『悩み聞くカレー屋』店主であるカビパンは、いつもの仕事通りに相手の悩みを聞いてみることにする。一体どこから出したのか、のびきったカレーうどんを出して。
 羅刹女のほうもこいつ相手に敵意を抱くだけ無駄だと思ったのか、これまでの辛く苦しい想いを滔々と語りだした。大切なひとと再会することだけを望んで、彷徨い続けた日々――そこには想い人との惚気話や犬も食わないたぐいの内容も多分に含まれていたが。
「ふむふむ、ははぁ」
 そんな彼女の悩みをカビパンは真剣に――おそらく真剣に耳を傾け、なるほどと頷く。
 それからおもむろに持っていた聖杖をマイクのように構えると、まるで聖者のように(※聖者です)優しく微笑んだ。

「聖者の私がお二人への祝福の賛美歌を歌いましょう」

 そして始まる【カビパンリサイタル】。ノリノリのテンションで彼女が歌うのは、離れていた2人の再会を祝す歌――なのだが、所々の音程が絶妙に外れているうえに、メロディもしっちゃかめっちゃかな、絶望的にあまりにも酷い音痴が全てを台無しにしていた。
「あぁ~↑ ふたりはまるでロミオとジュリエット~↓ マクベスもびっくりの悲劇に全米が泣いたわ~↑↑」
 どんなに素敵な祝福の歌詞も(これが素敵な歌詞かどうかについて異論は認める)彼女の絶望的音痴の前では不快感MAXの精神攻撃に早変わり。それを間近で聞かされた羅刹女はたまったものではない。

「ど~うか~↑ これからは↓ お幸せに~~♪」
「う、うるさい……頭が割れそう……っ!!?!」
 耳をふさいでも頭にこびりついて離れない、命にかかわる音曲にのたうち回る羅刹女。
 リサイタルが終わるのと同時に、ばたり、と力尽きたように倒れ伏した彼女とは対照的に、カビパンは大変スッキリした様子で。歌い終えた彼女のキメ台詞は――。
「やだぁ、心地よい歌で昇天させちゃったぁ? 癒し系過ぎるのも罪ね。反省っ、てへぺろ☆」
 こつんと自分の頭を小突いて舌を出すその仕草に、羅刹女はかつてない殺意を抱いた。
 が、リサイタルによる深刻な精神ダメージを負った直後の彼女に、それを実行するだけの気力は残っていなかったのだった――。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
お願い、話を聞いて…。
わたしの力なら、貴女の大切な人を助けられる可能性があるから…。

羅刹女さんに呼びかけ、【共に歩む奇跡】について説明…。

もし、羅刹女さんが話を聞かずに攻撃してきたら、呪詛刻印や怨嗟は【ソウル・リベリオン】で吸収…。
自身の力に変え、呪詛の縛鎖で捕縛…。
【unlimited】による一斉斉射や黒桜の呪力解放、縛鎖から呪いを付与して弱体化させ、大人しくさせるよ…。

不安なのは、想い人の骸魂の意思が見えない事だね…。
羅刹女さんの意思が強くて骸魂側の意思が見えないから、敵意の有無が判らないから、力の制約上、有効かが判らないのが…。
もし、敵意がったら…最悪、倒すしか…。



「お願い、話を聞いて……」
 崩壊の中心点で激しい戦いが繰り広げられる中、隙をみて羅刹女に近づいた璃奈は、右手には一振りの魔剣を、左手には小さな霊符を握りしめながら懸命な様子で呼びかける。
「わたしの力なら、貴女の大切な人を助けられる可能性があるから……」
「助ける……? 嘘よ、そう言って私を騙して、この人を引き離すつもりでしょう!」
 【共に歩む奇跡】について説明しようとする璃奈の話に耳を貸さず、羅刹女は敵愾心のままに襲い掛かる。オブリビオン化したことで強化された豪腕の一撃が少女の身体をかすめ、小さな傷を刻みつけた。

「もう私達のことは放っておいてッ! 他人なんていらないのよッ!!」
 ふたりきりの時間を邪魔するものは【ゆるさない】という羅刹女の怒りが、璃奈の身体に呪詛の刻印を与える。その印は鬼女の激しい怨嗟を伝播させるマーカーとなるものだ。
「少し落ち着いて貰わないと……」
 このままでは説得もままならないと判断した璃奈は、手にしていた魔剣【ソウル・リベリオン】の刃を付与された刻印に触れさせる。呪いや怨念を糧として喰らい、浄化する性質を持ったその剣は、羅刹女から与えられる呪詛や怨嗟をもたちどころに吸い尽くした。

「ちょっと手荒になるけど……」
「ぐ……ッ?!」
 吸収した怨嗟を自らの力に変えて、璃奈は呪詛の縛鎖を羅刹女めがけて放つ。蛇のように絡みつく無数の鎖が鬼女の四肢を捕縛したのを確認した直後、すばやく呪文を唱えると、自らが祀る魔剣・妖刀の現身を大量召喚する。
「呪われし剣達……わたしに、力を……『unlimited curse blades』……!!」
 巫女の魔力から生み出された数百本もの魔剣の現身は、その意志に呼応して一斉に放たれ。同時に璃奈自身も呪槍・黒桜の力を解放し、黒い呪力の桜吹雪を羅刹女に浴びせた。
「大人しくしてもらうよ……」
「っ……このッ……あああぁァァァ……ッ!!」
 羅刹女は呪詛の鎖を引きちぎろうともがき暴れるが、魔剣と黒桜、そして鎖の3つから付与される呪いは急激に彼女を弱らせていく。抵抗する気力も次第に萎えていき、項垂れるようにがくりと膝をついたところで、璃奈はゆっくりと彼女の元に近寄っていく。

「この呪符には、触れた者を人や妖怪と共存するのに不都合がないよう変換・最適化する力があるから……」
 動かなくなった羅刹女に、改めて自身のユーベルコードの効果について説明する璃奈。
 もしこれが成功すれば世界を滅ぼす必要などなく、羅刹女と想い人はずっと一緒にいられる。しかしそれには最適化する対象が、敵対意志を持っていないという条件があった。
(不安なのは、想い人の骸魂の意思が見えない事だね……。羅刹女さんの意思が強くて骸魂側の意思が見えないから、敵意の有無が判らないから、力の制約上、有効かが判らないのが……)
 骸魂となった想い人に【共に歩む奇跡】に抵抗を示されれば、璃奈の計画は失敗する。
 もし、敵意があったら――最悪、倒すしかない。悲壮な決意を胸の内に秘めながら、少女は意を決して呪符を羅刹女に押し付けた。

「うぅ……っ、ちがう、あの人が私のもとを離れていくはずない……」
 羅刹女はまだ猟兵達のことを信用していない様だが、呪いにより抵抗は物理的に封じてある。祈りを込めた呪符はぴたりと肌に張り付き――璃奈は固唾を飲んで様子を見守る。
「ほら……やっぱり……ッ?!」
 最初、それは何の反応も示さず、ユーベルコードは失敗したかのように思われた。だがその直後、ぽうっとほのかな光が羅刹女の身体から呪符に吸い込まれていくのが見えた。
 驚愕の表情を浮かべる羅刹女――だがその身は今だオブリビオン化したままだ。これには璃奈も驚いたように目を丸くするが、巫女としての知識から何が起こったか判断する。

「これは……想い人の骸魂の"敵対意志のない側面"だけを取り込めた……?」
 神道において霊魂には、和魂(にぎみたま)や荒魂(あらみたま)といった複数の側面があるという。世界の崩壊を望まず、共存の意志のある和魂は呪符に宿り、オブリビオンとして世界の崩壊を望む荒魂は羅刹女の妄執に同調した――ということかもしれない。
「そんなバカなこと、あるはずないっ……返して、あの人を返してよ……ッ!」
 羅刹女に分かったのは自分の内にあった大切なひとの一部が離れていってしまった、という事実のみ。半魂とはいえ思いもよらぬ裏切りを受けて、彼女は半狂乱になって叫ぶ。
 より純粋な荒魂と同化したことで、鬼女から放たれる邪気はいや増している。だが璃奈は臆することなくさっと手を伸ばし、彼女に貼り付けた呪符とその中の霊魂を回収した。

「これが想い人の骸魂に残った良心なら……絶対に守り抜かないと……」
 僅かに開かれた共存の道。これを成し遂げるためには羅刹女を止めて、骸魂の荒ぶる側面を滅しなければならない――怒り狂う鬼女と猟兵の戦いは、更に激しさを増していく。

成功 🔵​🔵​🔴​

シェーラ・ミレディ
骸の海は過去が降り積もったものである──というのは、猟兵ならば聞いたことのある話だが。
ならば時間を止めることも、不可能ではないだろう。
しかし。
生憎、猟兵は未来を救うためにいるのでな。悪いが倒させてもらうぞ!

呪詛を刻印されないよう、『珠聯璧合』で精霊を呼び出し、突撃させて的を増やそう。
一撃で倒されてしまうが、だからこそ怨嗟の方は無視できる。
僕自身は精霊の影に隠れて移動しながら、隙を見て精霊銃を撃つ。
精霊たちによる物量と僕の銃撃。全てに対処できると言うならやってみるがいい!

離れたくないと言うのなら、せめて二人諸共に骸の海へ還してやろう。
眠れ、愛ある者達よ。

※改変、アドリブ、絡み歓迎



「骸の海は過去が降り積もったものである──というのは、猟兵ならば聞いたことのある話だが。ならば時間を止めることも、不可能ではないだろう」
 膨大な過去の海よりあふれ出た時の残骸オブリビオン。世界を侵食し滅びをもたらさんとするその力を幾度と目の当たりにしてきた為に、目の前の鬼女が一瞬を永遠にしようとしていると聞いても、それ自体にシェーラに驚きはなかった。
「しかし。生憎、猟兵は未来を救うためにいるのでな。悪いが倒させてもらうぞ!」
 多くの妖怪達が明日に向かって生きるこの世界を守ることが猟兵の使命。それを果たすべく断固たる決意をもって精霊銃を構える彼に、鬼女『羅刹女』は殺意と怨嗟を向ける。

「未来なんて私はいらない……あの人と過ごした過去と……この一瞬さえあれば!!」
 背中から生やした翼と尾、そして怪力を秘めた細腕を振り上げて襲い掛かる羅刹女。
 怨嗟の力を纏ったその攻撃を受ければ、呪詛の刻印が付与される。それを嫌ったシェーラは【彩色銃技・口寄せ・珠聯璧合】を発動、小型の家事精霊を大量に呼び出す。
「僕のために咲け。舞い散る花弁は諸君に捧ぐ」
 "お掃除"用の戦闘用デバイスを持った精霊達は、召喚者の指揮のもとで羅刹女に一斉突撃を仕掛ける。本業は家事とはいえその戦闘力は侮れるものではないが――怒り狂う鬼女を相手にするには、いささか荷が重いか。

「邪魔よ!」
 羅刹女が腕や尾を振るうたび、パンッと風船が弾けるような音を立てて精霊が消える。
 鎧袖一触とはまさにこの事か。果敢に挑みかかるも一撃で倒されてしまう精霊達だが、それはシェーラの予想通りの展開でもあった。
(呪詛を刻印されないよう、的を増やせれば十分だ)
 羅刹女のユーベルコードは刻印を付与する攻撃と、激しい怨嗟による追撃のあわせ技。
 ゆえに一撃で消滅する精霊に攻撃を受けさせれば、怨嗟は実質無視することができる。
 そしてシェーラ自身は飛び交う精霊達の影に隠れて、いつの間にか羅刹女の死角に入っていた。

「今度は僕の番だ」
「―――ッ?!」
 タタンッ、と銃声が響き渡り、放たれた弾丸が羅刹女を背後から射抜く。いつの間に回り込まれていたのかと慌てて振り返れば、今度は正面から家事精霊の群れが押し寄せる。
「精霊たちによる物量と僕の銃撃。全てに対処できると言うならやってみるがいい!」
 シェーラが呼び出した400体以上の精霊は、いかに鎧袖一触といえど容易に駆逐できるものではない。敵が精霊を狙えばその隙をついてシェーラが銃を撃ち、シェーラに標的が移れば精霊達が仕掛ける。双方の連携が取れているからこそ可能な挟撃作戦であった。

「くぅ……ッ、この、この、この……ッ!」
 何体倒しても怯むことのない精霊の猛攻と、狙いすました少年の銃撃に、羅刹女は苛立ちをつのらせていくが――蓄積するダメージには抗えず、その動きは徐々に鈍っていく。
「離れたくないと言うのなら、せめて二人諸共に骸の海へ還してやろう」
 シェーラは弱っていく敵に対して容赦なく、だが一抹の慈悲を込めてトリガーを引く。
 愛ゆえに引き起こされた凶行であるならば、愛と共に沈みゆくもまた本望であろうと。
「眠れ、愛ある者達よ」
 宣告と共に響く銃声が、鬼女の悲鳴をかき消す。戦いの終わりが徐々に近付いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

遠吠・狛
戦闘は速やかに、だね。
【ダッシュ】に【野生の勘】を絡めた野生の動きで攪乱、素早く接敵。
【怪力】を込めた【グラップル】で突きや蹴りの連撃で相手を圧倒。
敵の攻撃は【オーラ防御】で威力を殺して対応。
連撃で怯んだ所に、UC【神滅咆哮】で、ダメージを与えて、神気で縛るね。

戦闘前か金縛り後か。タイミングをみて説得を試みるよ。

ねえ、愛は「心を受ける」って書くんだって。

きっと大事なのは、その人の魂でなくて心だよ。
その人はあなたが立ち止まることを望んでた?
きっと違うんじゃないかな。
その人の心は受け入れられてる?

受け入れたなら、きっとそれが愛。
だから骸から出ようよ。
刻を動かそうよ。

愛があなたの心を強くするんだよ。



「戦闘は速やかに、だね」
 広がりゆく崩壊の中心で元凶の姿を捉えた狛は、矢のような速さで勢いよく駆け下る。
 これ以上、幽世を滅びに向かわせはしないという決意を総身に漲らせ、握りしめた拳は力強く。
「く……っ!!!」
 新手の接近に気付いた羅刹女は翼を広げて身構えるが――それよりも速く、犬狼の拳が彼女に突き刺さり、「ぐぅッ」とくぐもった悲鳴と共に、その身がぐらりとよろめいた。

「はやく終わらせるよ」
「この小娘……ッ!!」
 羅刹女は怒りと呪詛のこもった拳を振るうが、狛は持ち前の脚力に勘の鋭さを絡めた野生の動きで駆け回る。狙いを定めさせないよう翻弄しながら、犬狼の神衣とともに身にまとったオーラの防壁で攻撃の威力を殺し、鋭い突きや蹴りの連撃で応じる。
「くっ……このっ……」
 小柄な外見に見合わぬ怪力と、目にも止まらぬラッシュの嵐に圧倒されていく羅刹女。
 敵が連撃に怯んだところに、狛はすうっと大きく息を吸って、全力の【神滅咆哮】を叩き込んだ。

「狛犬さまの遠吠えだよ!」
 幽世中に届くような大きな咆哮が一帯に響き渡り、激しい衝撃波が戦場に吹き荒れる。
 犬狼の神気が込められたその攻撃は至近距離にいた羅刹女に大きなダメージを与えたのみならず、神気によってかの鬼女の心身を金縛りにあわせた。
「っ……動け、ない……っ!?」
 まるで全身が石になってしまったかのように、指先ひとつすらピクリとも動かせない。
 この効果は一時的なものとはいえ、戦闘中においては致命的な隙。青ざめる羅刹女に対して、狛は――それ以上の追撃を加えることなく、穏やかな調子で話しかけた。

「ねえ、愛は『心を受ける』って書くんだって」
「……え……? なによ、急に……」
 金縛りにあったまま怪訝な表情を浮かべる羅刹女に、狛はさらに語りかける。愛ゆえに道を踏み外してしまった妖怪に、もう一度考え直して貰うために――これを逃せば説得の機会はもう巡ってこないかもしれないという考えのもとに、思いの丈を全てぶつける。
「きっと大事なのは、その人の魂でなくて心だよ。その人はあなたが立ち止まることを望んでた?」
「そ、それは……っ」
 当たり前だと少し前までの彼女なら言ったかもしれない。だが戦いの中で猟兵達がかけた言葉の数々は、羅刹女の心にしとしとと積み重なって、小さな迷いを生じさせていた。
 この再会をあの人も喜んでくれていると、だからこそ時を止めようと思っていた。だが、今もこの身に宿る想い人の骸魂は、本当にそれを望んでいたのだろうか――?

「きっと違うんじゃないかな。その人の心は受け入れられてる?」
 普段のやんちゃな雰囲気はなりをひそめ、真剣な調子で問いかける狛。その時になってようやく羅刹女は、自分が想い人にさえ感情をただ押し付けていたことに気付き始めた。
 心を受けると書いて愛と読む。自分の願望を相手にぶつけるだけではなく、相手の心を受けとめるところから愛は始まるのだと――少なくとも狛はそう思う。
「受け入れたなら、きっとそれが愛。だから骸から出ようよ。刻を動かそうよ」
 犬狼の毛皮を纏った手を、そっと差し伸べる。金縛りはいつの間にか解けていた。
 葛藤を抱えた表情で、その手をじっと見つめる羅刹女に、狛はそっと声をかける。

「愛があなたの心を強くするんだよ」

「わ……私は……わたしは……ッ!!!!」
 幾年にも渡り抱えてきた妄執と狂奔、ひたむきに大切なひとを愛する想いと良心。
 相反するその2つの板挟みとなって羅刹女が苦しんでいるのが、狛にも分かった。
 果たして彼女の心の天秤はどちらに傾くのか――決着の時まで幾許もないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
翼刃を防御し歩み寄り

(『理由』の使い方…もし戦機にこの世界の『地獄』の概念が適応されるなら。私は底の底へ向かうのでしょうね。…今更でしたか)

想い人との再会、誠に喜ばしき事です
ですがその前に
『これ』を聞いていただけますか

(道中の救助活動で拾った妖怪達の悲鳴、嗚咽、叫びの音声をUCで再現)

時を止めた結果です
崩壊が進めば更に増え、最期は声すら途絶えるでしょう
老いも若きも幼子すら…貴女の良く知る喪失の悲しみと共に終着を迎えます

…暫しお相手と話すお時間を差し上げます

屍を積み上げて良いかと
己と共に血に塗れて良いかと!

…お相手の方
彼女にあなたは何を望みますか?

ご決断を

『覚悟』決めるか進展なければ剣振り下ろし



「私は……あの人とずっと一緒にいたい……でも……だけど……ッ!」
 想い人との再会だけをひたすらに願い続け、他者や世界を省みぬことを当然としてきた羅刹女の心は今、猟兵達の説得により揺れ動いていた。彼女の内なる葛藤を表すように、その背中から生えた翼はバサバサと羽ばたき、刃へと変化した羽を辺りに撒き散らす。
(『理由』の使い方……もし戦機にこの世界の『地獄』の概念が適応されるなら。私は底の底へ向かうのでしょうね。……今更でしたか)
 トリテレイアは大盾で翼刃を防ぎながら、彼女を説得するために歩み寄っていく。態度には示さないものの、その胸に葛藤を秘めているのは彼も同じ――戦うために得た『理由』を交渉の材料とする、そのことに後ろめたい感情を覚えながら、しかし彼は断行する。

「想い人との再会、誠に喜ばしき事です。ですがその前に『これ』を聞いていただけますか」
 刃の嵐を抜けて羅刹女の前に立ったトリテレイアは【機械仕掛けの騎士の振舞い】を応用して、電脳に記憶したデータを音声として再現する。それはここに来るまでの道中で彼が拾った妖怪達の悲鳴、嗚咽、叫び――救いを求める切なる音声記録(ログ)だった。
『た……助けて……』
『誰か……』
『痛い……痛いよぉ……』
 トリテレイアの救助が間に合わなければ、この者達は恐らく命を落としていただろう。
 建物の崩落に巻き込まれた者、瓦礫で怪我をした者、皆が今回の事件の被害者だった。

「この声……」
 流れる音声のひとつに羅刹女が反応を見せる。幽世で暮らすうちにできた知己の妖怪の声が混じっていたのだろう――再生を終えたトリテレイアは、今度は己自身の声で語る。
「時を止めた結果です。崩壊が進めば更に増え、最期は声すら途絶えるでしょう」
 愛のために世界を滅ぼす。言葉にするのは簡単だが、果たして彼女はそれがどういった事なのか正しく理解していただろうか。世界と共に滅びる妖怪達の悲鳴を、嘆きを、その最期の姿を――ただ崩壊の中心でまどろんでいただけの彼女は見聞きしていないはずだ。
「老いも若きも幼子すら……貴女の良く知る喪失の悲しみと共に終着を迎えます」
 かの鬼女が為した罪の証を、機械仕掛けの騎士はまざまざと彼女の前に突きつける。
 かつて永遠の別離を味わった者が、同じ苦しみを与えている。その事実を、厳然と。

「わ……私、は……」
「……暫しお相手と話すお時間を差し上げます」
 それまでの威勢をなくした羅刹女へと、トリテレイアは淡々とした調子で語りかける。
 その身に取り込み、取り込まれた骸魂の意思と、もう一度彼女は向き合うべきだと。
「屍を積み上げて良いかと。己と共に血に塗れて良いかと!」
 語りかけるうちに騎士の語調にも熱がこもり、その手に握った儀礼剣の柄が軋んだ。
 その言圧に怯んだように、羅刹女はびくりと肩を震わせ――ぎゅっ、と胸元で両手を握りしめ、自らの中にある骸魂に意識を向けだした。

「……お相手の方。彼女にあなたは何を望みますか?」
 羅刹女の中で一向に自らの意思を示さない骸魂の方にも、トリテレイアは呼びかける。
 鬼女とその想い人が何を望み、胸の内で何を語らっているのか、外から全てを窺い知ることはできない。時にして一分ほどの沈黙の後、騎士は再び彼女らに決断を促した。
「ご決断を」
「私達……は……ッ!!」
 狂気に染まるでなく、不安と葛藤に揺らいだ羅刹女の瞳。その唇がなにかを紡ごうとした時――それを遮るように膨大な邪気と妖気が、彼女の身体の中からあふれ出した。

「分からない……どうしたらいいのよ……私は、ずっとずっと、この時のために……!」
 幾十年という歳月を費やした執念は、もはや本人にさえ抑えきれぬものと化していた。
 そして骸魂と化した想い人の意思もまた、世界の破滅を望むオブリビオンの意思からは逃れられぬ。
「……ならば、致し方ありません」
 その執着と妄念を断つ。もはや迷いなく振り下ろされた騎士の剣は、過たず鬼を斬る。
 彼岸花が咲くように、戦場に散る真紅の鮮血――狂奔する羅刹女の叫びが響き渡った。

成功 🔵​🔵​🔴​

故無・屍
やっと到着か、面倒な道程を走らせやがって。

UCにて攻撃に対し反撃
見切り、カウンター、怪力、2回攻撃にて
より精度が高く高威力の反撃を狙う


…手前ェが何に縋って何を代わりにしようが手前ェの勝手だ。
俺個人としちゃ反吐が出るが、その感情を持つ事自体は否定しねェよ。

だが、その覚悟は本当に揺らがねェのか。
手前ェが取り戻したい奴を取り戻す為に世界を滅ぼす覚悟じゃねェ。


――想った奴に、『世界を滅ぼさせる』覚悟だ。

手前ェが死を否定したくなる程に想った奴と一緒に生きた世界だ。
間違えるなよ、手前ェは今自分の愛した奴にその生も、想いも全部『否定させようとして』んだよ。

もう一度考えろ。
その末路が本当に『美しい』のかをよ。



「やっと到着か、面倒な道程を走らせやがって」
 崩壊する幽世を踏破して、異変の中心点までたどり着いた屍は、さんざ手間をかけさせてくれた此度の元凶を藪睨みする。その羅刹女はと言えば長い黒髪を振り乱し、背中の翼を羽ばたかせ、尾でめちゃくちゃに地面を叩き――ともかく正気の様子とは思えない。
「やっと会えたのよ……やっと叶ったのよ……諦めたくない……手放したくない……そう思うのはいけないことなの……?!」
 目からは血の涙を流して、喉も枯れんばかりに泣き叫び。翼が巻き起こす旋風は刃をはらんだ破壊の嵐となる。道中も厄介だったがここは更に面倒くさそうな様子だと、屍はしかめっ面のまま溜息を吐いた。

「……手前ェが何に縋って何を代わりにしようが手前ェの勝手だ」
 右手には白い刀身の直剣「レグルス」、左手には黒刃の大剣「アビス・チェルナム」を構え、ぶっきらぼうに語りながら【暗黒剣・仇狩り】の構えを取る屍。敵を見据えるその眼光は鋭いが、それは相手の全てを否定し尽くすような、敵意に満ちたものではない。
「俺個人としちゃ反吐が出るが、その感情を持つ事自体は否定しねェよ」
「だったら……邪魔を、しないで……ッ!!!」
 荒れ狂う翼刃の嵐が一点に向けられ、哭き喚く羅刹女の叫びとともに屍に襲い掛かる。
 だが彼は視線を揺らがすことなく攻撃の軌道を見切り、両手の双剣を巧みに操って、降りしきる刃のことごとくを叩き落とした。

「だが、その覚悟は本当に揺らがねェのか」
「っ……覚悟、ですって……?」
 不動のまま無傷で攻撃を捌ききり、なおも言葉を浴びせる屍に、羅刹女はたじろいだ。
 覚悟ならある。何を犠牲にしてでも私は想い人と再会の瞬間を永遠にする。先刻までの彼女ならすぐにそう答えただろう、だがそれを読んでいたように彼の言葉は続けられる。
「手前ェが取り戻したい奴を取り戻す為に世界を滅ぼす覚悟じゃねェ。――想った奴に、『世界を滅ぼさせる』覚悟だ」
「…………ッ!!!」
 そう告げられた時、羅刹女の心を貫いた衝撃はどんな刃よりも鋭かったやもしれない。
 分かっていなかったとは言わせねえと、なおも翼刃を捌く屍の目には有無を言わせぬ圧があり。かけられる言葉は、なおも厳しく。

「手前ェが死を否定したくなる程に想った奴と一緒に生きた世界だ。間違えるなよ、手前ェは今自分の愛した奴にその生も、想いも全部『否定させようとして』んだよ」
 彼女が犠牲にしようとしているのは名も知らない有象無象だけではない。世界が消えればそこで生きた者達の証も消える。彼女とその想い人がともに生きた証も、例外はなく。
 失ってしまった愛するものを取り戻すとは、愛するものの過去の全てを否定すること。他ならぬ想い人にその業を背負わせる『覚悟』はあるのかと、屍は問いかけていたのだ。
「わ……私はっ……そんなつもりは……この人も、きっと喜んでくれるって……!」
 問いを突きつけられた羅刹女の動揺ぶりは、まるで足元の地面が抜け落ちてしまったかのようだった。ただただ純粋に、そして愚直に、想い人との再会だけを願い続けてきた彼女は――残された側でなく、先に逝った者がどんな想いでいるのか、考えもしなかった。

「もう一度考えろ。その末路が本当に『美しい』のかをよ」
 "時よ止まれ、お前は美しい"と羅刹女は言った。信念に揺らぎが生まれた今、果たして彼女はもう一度その言葉を口にできるのか――覚悟を確かめるように屍は双剣を振るう。
 仇狩りはただ防御の構えにあらず、その真価はいかなる距離にあろうと敵を討つ反撃にこそある。"加減"してやっていた分の鬱憤も込めて、精度と威力を最大まで高めた二度の閃撃が、翼刃を吹き散らして羅刹女に迫る。

「――――!!!!!」
 為すすべなく直撃を食らった羅刹女は高々と宙を舞い、戦場に血飛沫を撒き散らす。
 もはや肉体的にも限界は近い。悲願成就が困難となったこの状況で、それでもまだ世界を"滅ぼさせよう"とするのか――彼女が『覚悟』と『決断』を示すべき時は迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネーヴェ・ノアイユ
私はまだ恋愛経験などもないので……。世界を滅ぼしてまで共に在りたいと思うあなた様の気持ちを理解することが出来ません……。ですが……。そんな私にも思うことがあるのです。愛とは一方的に押し付けるものではないと……。
ですからもう一度考えてください。あなた様の愛した方は骸魂となり共に過ごすためならば大切な想い出がある世界を滅ぼすことを望むような方だったのかを。

羅刹女様の攻撃は氷壁の盾受けにて受け止め、追撃は急いで空中浮遊することで回避を行います。以降はUC化させた氷壁にて相殺を行いつつ……。手に氷の鋏を作り出して羅刹女様へと言葉を掛けながらその命を奪わない様に急所は外しながら鋏による攻撃を行いますね。



「私は……ただ……愛する人と、もう一度会いたくて……」
 崩壊の中心点に崩れ落ちた鬼女・羅刹女は、生気の抜けた表情でぽつりぽつりと呟く。
 始まりはただ、それだけだった。死別を経てもなお失われなかった愛情が妄執へ、そして狂奔へ変わり果ててしまったのはいつだろう。幽世を滅ぼそうとしてまで、取り戻したかった"大切なもの"とは、いったい何だったのだろう。

「私はまだ恋愛経験などもないので……。世界を滅ぼしてまで共に在りたいと思うあなた様の気持ちを理解することが出来ません……」
 項垂れる羅刹女へと静かに声をかけたのはネーヴェ。誰かに恋をした経験だけでなく、過去の記憶のほとんどを失っている彼女には、想い人との"過去"に固執する羅刹女の境遇を痛ましく感じこそすれ、その心の痛みは想像するに余りあった。
「ですが……。そんな私にも思うことがあるのです。愛とは一方的に押し付けるものではないと……」
 ただ己の思うがままに動く羅刹女のやり方では、本人も、その想い人も、周りの人も誰も幸せにはなれない。想いと想い――絆が通じ合わない愛はただのエゴであり、不幸な結果しかもたらさないと、傷ついた羅刹女の有様を見るうちに少女はその思いを強くする。

「ですからもう一度考えてください。あなた様の愛した方は、骸魂となり共に過ごすためならば、大切な想い出がある世界を滅ぼすことを望むような方だったのかを」
 澄んだ碧い瞳でまっすぐに見つめながら、羅刹女に問いかけるネーヴェ。幸福な過去さえも否定し、世界を滅ぼすという業を、愛するひとの骸魂にまで背負わせていいのかと。
 雪のようにしんしんと羅刹女の心に降り積もったその言葉は、彼女の中で燃え続けていた恋獄の熱を冷ましていき――はらり、と。その瞳から一粒の涙がこぼれ落ちた。
「……私は、取り戻したかった……あのひとと過ごした、大切な日々を……無理だと分かっていたのに、縋り続けて……私が願っていたのは、こんな事じゃなかった……!!」
 ネーヴェが、猟兵達が、かけ続けた言葉の数々は、遂に狂奔する鬼女の心を動かし。
 長きに渡る迷妄を彷徨い続けた羅刹女は、ようやく己の過ちに気付くことができた。

「くっ……あああぁぁぁぁぁ……っ!!!!」
 その時、羅刹女が苦しげな悲鳴を上げたかと思うと、凄まじい量の妖気があふれ出す。
 骸魂の影響によって宿った、世界を滅ぼさんとするオブリビオンとしての本能が、目的を失った彼女の中で暴れているのだ。
「逃げ……て……私の意思だけでは、もう、止められない……!」
 目視できるほど凝縮された呪詛が鬼女の腕に集う。本人にすら抑えようがないほどに膨れ上がった妄執の最後の抵抗とでも言うべき攻撃に、しかしネーヴェは一歩も退かない。

「今、お止めします……!」
 殴り掛かってきた羅刹女の拳を、ネーヴェは氷壁にて受け止め。氷の結晶に呪いの印が刻まれたのを見るや、「snow broom」の穂から魔力を放出して空中へと浮かび上がった。
 十分に相手との距離さえ離れていれば、怨嗟による追撃は襲ってこない。剥がれ落ちていく空のただ中で呼吸と魔力を整えた彼女は、反撃に転じるべくユーベルコードを紡ぐ。
「風花舞いて……。一つになれば全てを守る煌めきの盾」
 発動するのは【六花の万華鏡】――氷壁に魔力が集まり、キラキラと万華鏡のように美しく輝く、いくつもの雪結晶が重なった氷の盾鏡を作り上げる。ネーヴェはそれを正面に展開したまま、白い箒に乗って流れ星のように羅刹女のもとへ駆け下りていく。

「ぅ……あぁぁぁぁぁぁぁッ!」
 羅刹女が発する怨嗟の叫びは氷の鏡盾によって相殺され、ネーヴェには傷ひとつない。
 一目散に降下する少女の手には、魔力で精製した「icicle scissors」。身の丈ほどもある巨大な氷の鋏を、まるで腕の延長のようにすらりと操って。
「どうか……。あなた様がもう一度、未来に歩み出せますよう……」
 祈るように言葉を掛けながら振るわれた氷の刃は、その命を奪わないように急所を外しながら羅刹女を切り裂き――彼女に宿っていた想い人の骸魂を、真っ二つに断ち切った。

「ぁ…………」
 羅刹女の身体から今度こそ完全に骸魂が消えていき、オブリビオンの気配も失われる。
 それと同時に世界の崩壊はピタリと止まり、まるで逆再生のビデオを見ているかのように、剥がれた空や大地の亀裂が修復されていく。
「……ありがとう……」
 己の宿業より開放された鬼女は猟兵達に向かってそう言うと、ぱたりと意識を失った。
 かなり消耗しているようだが、命に別状はない。あるいは致命傷となるようなダメージは骸魂が肩代わりしたのかもしれない。それが真に彼女の愛した人の魂だと言うのなら。

 ――かくして、鬼女と骸魂の再会から始まった、世界の滅びは回避されたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『思い出食堂』

POW   :    美味しい(楽しい、嬉しい)料理を注文する

SPD   :    辛い、苦い(辛い、悲しい)料理を注文する

WIZ   :    甘酸っぱい、ほろ苦い(恋や友情)料理を注文する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 異変に駆けつけた猟兵達の活躍によって、カクリヨファンタズムの崩壊は阻止された。
 この事件が幽世にもたらした傷は浅くはないが、妖怪達はすでに崩れた瓦礫の撤去や建物の再建などを急ピッチで進めている。このあたりは流石に危険慣れしている様子だ。

「此の度はご迷惑を……そんな言葉では足りないほど大変な迷惑をおかけしました……」

 修復が一段落したところで猟兵達に声をかけたのは、しおらしく項垂れる1人の鬼女。
 オブリビオン化を解かれ、正気に戻った羅刹女は、今回の事件を引き起こしたことについて深く反省しているようだった。

「本当は分かっていたはずなんです……どんなに探したとしても、失われたものは帰ってこないって……戻ってきたとしても、昔と同じようにはいられないって……」

 それを受け入れることのできなかった弱さが、終わりなき狂奔へと彼女を駆り立てた。
 その果てにしでかしてしまった事について、どう償えばいいのかはまだ分からないようだが――彼女は己の罪と向き合う覚悟でいるようだ。

「お詫びと言うには、ささやかに過ぎますが……宜しければ少しお付き合い願えないでしょうか? 行きたい場所があるんです」

 そう言って羅刹女が猟兵達を案内したのは、町の外れにある小さく寂れた食堂だった。
 崩壊の危機からも無事に難を逃れたらしいその店の表構えには『思い出食堂』と書かれた看板が掲げられていた。

「この食堂は、訪れた人の過去や思い出を材料に料理を作ってもらえるんです。楽しかった思い出も、悲しい記憶も……」

 羅刹女は以前にもここでよく、想い人との過去を振り返るために料理を頂いたという。
 今、ここに再び彼女が訪れたのは、その過去をもう一度噛み締めて、前に進むためだ。

「思い出は消えたりしません。料理は何でも作ってもらえます。ですので皆さんも良ければ何か注文してゆかれて下さい。お代は私が持ちますので……」

 幸せな思い出を楽しむもよし、辛い記憶を噛み砕くもよし。望むのであればこの食堂は猟兵の過去も美味しく料理してくれるだろう。それはきっとこれからの糧になるはずだ。
 平穏を取り戻した幽世で開かれる小さな食事会。思い出を味わうひとときが始まった。
カビパン・カピパン
「~~お代は私が持ちますので」
「なっ―」
カビパンの目がくわっと見開いた。
「悩み聞くカレー屋で、カレーうどん以外を頼むなぁー!私の目の黒いうちはお代も取らん!!」
『思い出食堂』はカビパンの手によって占拠された。鬼女が客扱いである。

「えぇぇ!」

鬼女が後ろにひっくり返り宴が始まる。
…しかし只の宴ではなく前を向いて未来に生きろ、と励ますかのような乱痴気騒ぎであった。

カビパンを見ながら鬼女はくすりと笑うのだった。

「ほんと、変な人…」

その後カビパンが小声で『例のブツをくれ』なんて愉快な事を言うので、悪ノリして秘蔵の一品を手渡した。それらはカレーうどんにぶち込まれ、色んな意味で盛り上がったとだけ記しておく。



「……お代は私が持ちますので」
「なっ――」
 『思い出食堂』の前で羅刹女がそう言った途端、目をくわっと見開いたのはカビパン。
 それはタダ飯が食えるチャンスに喜んだわけでも羅刹女の気前のよさに驚いたわけでもない。天性のドケチであり貧乏性な彼女にも、譲れない一線というものがあるのである。

「悩み聞くカレー屋で、カレーうどん以外を頼むなぁー! 私の目の黒いうちはお代も取らん!!」

 スパーン! とハリセン片手に思い出食堂に乗り込んだカビパンは、驚く店員をよそに店内の一角を占拠し、ででん! と自分の店の看板とカレーうどん用の鍋を取り出した。
 あっという間にここはもう『悩み聞くカレー屋』出張所。店主はカビパンであり、鬼女は客扱いである。差し出されたお品書きに載っているメニューはカレーうどん1つきり。
「えぇぇ……!?」
 あんまりにもあんまりな暴挙に、思わず後ろにひっくり返る羅刹女。戦闘中に味わった【ハリセンで叩かずにはいられない女】の不条理っぷりなど、まだまだ序の口だったのだと彼女は知る。

「おや、ここからカレーうどんの匂いがするぞ?」
「あっ、店長いるじゃん! 繁盛してるー?」
 食堂の中にできたカレー屋にどやどやと押しかけてくるのは、常連客の妖怪達。客と言いつつ大体は注文もせずに駄弁っているだけの彼らは、めいめい勝手に酒やつまみを用意して宴会を始める。
「今日も幽世はピンチだったけど、なんだかんだ元通りだし!」
「祝おう祝おう! 妖怪ばんざーい、猟兵ばんざーい!」
 あと少しでカクリヨファンタズムが崩壊していたかもしれないというのに、喉元過ぎれば何とやらということか。騒ぎを聞きつけた他の妖怪達も押しかけてきて、たちまち店内は収拾のつかないどんちゃん騒ぎと化した。

「なにこれ……?」
 客扱いというにはぞんざいに放置され、完全に場の空気に取り残された羅刹女は、ぽかんとした顔でその光景を眺める。はたから見ればただ飲んで食って騒いでいるだけでしかないが――しかし、それは只の宴ではなかった。
「建物は壊れちゃったけど、すぐに直すさ!」
「生きてりゃなんとかなる! ならなくてもなんとかする!」
「明日は明日の風が吹くってね!」
 宴に参加する妖怪の中には、今回の事件で被害にあった者の少なくないはずなのに、誰も彼もが楽しそうにはしゃいでいる。過ぎ去ってしまった事をくよくよするよりも、前を向いて未来に生きろ――彼らの乱痴気騒ぎは、そう羅刹女を励ますかのようでもあった。

「今日のカレーうどんは会心の出来ですよ! さあどうぞ!」
「「いえそれは遠慮します」」
 どんちゃん騒ぎの中心で、見た目はいいのに何故かものすごく不味いカレーうどんを作っては、常連客から全力で拒否られているカビパンを見ながら、羅刹女はくすりと笑う。
「ほんと、変な人……」
 それはこの事件以来、彼女が初めて見せた笑顔だった。カビパンが作りあげたギャグの世界に毒されただけかもしれないが、その表情は少し憑き物が落ちたようにも見えた。

「やはりこいつらはいつものカレーうどんじゃダメね……羅刹女、例のブツをくれ」
「……ふふ。ええ、いいわよ」
 その後。ビパンがまるで闇取引のようなノリで小声で愉快な事を言うので、羅刹女もつい悪ノリして「秘蔵の一品」を手渡してしまい。それらはカレーうどんにぶち込まれ、色んな意味で盛り上がったらしいが――その詳細についてはまたの機会があれば記そう。
 ただ宴に参加した妖怪達が、一様に悪酔いしたような青い顔で「アレは一度っきりでお腹いっぱいだ」とだけ証言していたことを、ここには記しておく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
ううむ……諸共に骸の海へ還そうとしてしまった手前、羅刹女と顔を合わせるのはいささか気まずいのだが。
注文をする前に、まずは謝らねばな。
世界の崩壊を止めるためとはいえ、申し訳ないことをした。

謝罪も済んだところで、改めて注文しよう。僕は楽しい料理をいただこうか。
材料にする思い出は、写真にも撮ってもらった姉とのお茶会で。
姉といってもそう呼んでいるだけで、血も繋がっていないし戸籍も関係ないのだが。……思えば、奇妙な縁だなぁ。
料理にも反映されているのだろうか、懐かしいのに食べたことのない味がする。
次に姉さんとお茶をする時の、話のタネになりそうだ。

※改変、アドリブ、絡み歓迎



(ううむ……諸共に骸の海へ還そうとしてしまった手前、羅刹女と顔を合わせるのはいささか気まずいのだが)
 案内されるまま『思い出食堂』にやって来たシェーラの内心には、複雑なものがある。
 離れたくないという愛し合う者達を、一緒に眠らせてやろうとした彼の選択は、けして誤ったものではない。そのうえで羅刹女が骸魂との別れを決意したのは本人の選択だ。
(注文をする前に、まずは謝らねばな)
 だが何事にもけじめは必要だろうと、シェーラは隅に座っている羅刹女に声をかける。
 異変中はあれほど荒ぶっていた彼女も、今は別人かと思うほどにしおらしい様子だ。

「世界の崩壊を止めるためとはいえ、申し訳ないことをした」
「いえ。私のほうこそ、皆様には大変なご迷惑をおかけして……」
 すっと頭を下げて謝罪の言葉をかけるシェーラに、慌てたように頭を下げ返す羅刹女。
 過去への執着から解放された今の彼女は、自分がどれだけ大変なことをしでかしたのかよく分かっている。オブリビオンの力が引き起こした事とはいえ、骸魂と1つになることを望み、滅びの言葉を口にしたのは紛れもない彼女自身の意思だったのだから。
「未来を救おうとする貴方がたの強い決意のおかげで、私は……あのひとの魂はこの世界を滅ぼさずに済みました。感謝こそすれ、恨むようなことはありません」
「そう言ってもらえれば、少しは気が楽になる」
 憑き物がを落ちたように穏やかに微笑む羅刹女に、シェーラもまた静かな笑みを返す。
 結果的に今回の事件は、望みうる限り最良の結果に落ち着いた。ならば、互いにこれ以上の遺恨を残す必要もあるまい。

「さあ、シェーラさんも何か召し上がってください。ここのお料理は美味しいですよ」
「そうだな、では改めて注文しよう。僕は楽しい料理をいただこうか」
 謝罪も済んだところで、シェーラは近くにいた店員を呼び止める。来店客の思い出を材料にして料理を作るという不思議な『思い出食堂』に、決まったメニューは存在しない。
「この写真を撮った時の思い出を調理してもらえるかな?」
 彼が見せたのは、白と赤の薔薇が咲き誇る美しい庭園で、優雅にお茶会を楽しむ一組の男女の写真だった。手前側で椅子に腰掛けているのはシェーラ、そして奥の側には彼よりもやや年上の、赤い髪の女性がティーカップを手に取っている。

「綺麗な人ですね。もしかして恋人の方ですか?」
「姉だよ。といってもそう呼んでいるだけで、血も繋がっていないし戸籍も関係ないのだが」
 好奇心の視線にふっと笑って返しながら、シェーラは写真に写る"姉"に視線を落とす。
 どういった経緯でそんな関係となったのか、ことさら人前で語るようなことでもない。
 ふたりがどうやって出会い、そして姉弟となったのか。それは当人達の大切な物語だ。
「……思えば、奇妙な縁だなぁ」
 少し前までの自分に、将来姉ができると言ってもきっと信じられないだろう。生まれも種族も異なるが、写真に写るふたりの様子には穏やかな親しさが感じ取れた。特に"姉"の髪の色――それは親しい人の前で見せる彼女の"真の姿"なのだとシェーラは知っている。

「お待たせしました」
「ああ、ありがとう」
 注文からややあってから運ばれてきた料理は、たっぷりの具材を包んだパイだった。
 彼と姉の奇縁が反映されているのだろうか、口に運んだそれは懐かしいのに食べたことのない不思議な味がする。食べるまでどんな具材が使われているか分かる、宝箱のような料理だ。
「次に姉さんとお茶をする時の、話のタネになりそうだ」
 ふふと口元に楽しげな笑みを浮かべながら、シェーラはその思い出を味わうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
随分と変わった食堂ね…。この世界ならでは、って感じかしら。
封印される前…お母様(シナリオ「忘れがたき死人の村」で登場)が存命していて一緒に過ごした頃の思い出を料理にして頂こうかしら。


大切な人は離れ離れになっても、いつでもわたし達を見守ってくれてるわ。
それに、わたし達の事を慕ってくれる仲間達も…。
貴女にも大切な人だけでなく、貴女の事を慕い、案じてくれた妖怪達がいるでしょう?

大切な人の想い、慕ってくれる仲間達の想い…共に大事にしなさい。
どうしても辛い時もきっと、仲間達が救ってくれるわ。



「随分と変わった食堂ね……。この世界ならでは、って感じかしら」
 古ぼけていながら、どこかノスタルジックな雰囲気を感じさせる店内を見回して、フレミアは呟く。訪れた人の過去を材料にして料理を作る『思い出食堂』――確かにそれは、忘れられた過去の遺物が流れ着くカクリヨファンタズムだからこそ成立しえた店だろう。
「ここ、いいかしら」
「ええ、どうぞ」
 羅刹女の近くの席に腰を下ろした彼女は、おしぼりを持ってきた店員に注文を伝える。

「封印される前……お母様が存命していて一緒に過ごした頃の思い出を料理にして頂こうかしら」
「かしこまりました」
 思い出食堂の店員は、食材となる客の過去について詮索はしない。ただ受け取ったそれを丁寧に下ごしらえし、美味しく食べて貰うために丹精込めて料理の腕前を振るうのみ。
 やがてフレミアの前に並べられたのは、まだ幼い頃に家族と食卓を囲んで食べた、過ぎ去りし日のメニューと同じもの。口に運べば当時の記憶が、大切なひとの笑顔や言葉が、瞼の裏に鮮明に浮かび上がる。
「……懐かしいわね」
 吸血鬼の父との間にフレミアを産んだ、人間の母メイリー。おっとりとしていて心優しく、強大な真祖の力ゆえにフレミアが封印されることになった時も、けして娘を見捨てようとはしなかった、強い母。亡くなった今でもかの人の想いは、娘の心に息づいている。

「大切な人は離れ離れになっても、いつでもわたし達を見守ってくれてるわ」
 思い出の味を噛みしめながら、フレミアは穏やかな口調で羅刹女に語りかける。羅刹女にとっての大切な人も、近くて遠い所から、貴女の健やかな幸せを願っているはずだと。
「それに、わたし達の事を慕ってくれる仲間達も……」
 フレミアが前を向ける理由はもうひとつ。母と死別し、父と決別した彼女は、しかし決して孤独ではなかった。幾つもの冒険や戦いのなかで出会い虜にしてきた眷属達は、頼もしい仲間として、あるいは共に暮らす家族として、いつだって彼女の支えとなってきた。

「貴女にも大切な人だけでなく、貴女の事を慕い、案じてくれた妖怪達がいるでしょう?」
「私にも……」
 フレミアの問いに羅刹女が戸惑いを見せたその時、大きな音を立てて食堂の扉が開く。
 振り向けばそこには、はあはあと息を切らせた妖怪達がいる。彼らはみな羅刹女の顔を見ると、ほっと安堵したように表情を綻ばせた。
「羅刹女の姐さん! よかった、無事だったんだね!」
「探したんだよ、大丈夫かなって……」
「どうしてあんな事しちゃったの?」
「僕たちにも相談してよ、力になるからさ!」
 彼らは予てより羅刹女と親交のあった妖怪達。羅刹女にとっては想い人と再会するまでのその場繋ぎの関係のつもりだったかもしれないが、彼らは本気で羅刹女の身を案じ、事件が起こってからもずっと彼女の安否を気にかけて、ここまで探しに来てくれたのだ。

「みなさん……」
 驚きに目を丸くする羅刹女の胸に、じんわりと熱いものがこみ上げてくる。自分は愛するひとと再会するために、彼らのことも切り捨てようとしたのに――これまでと何一つ変わらない親交を、彼らは自分に求めてくれている。
「大切な人の想い、慕ってくれる仲間達の想い……共に大事にしなさい」
 その様子を穏やかな顔で見守りながら、フレミアは妖怪達のためにそっと席を開けた。
 駆け寄る妖怪達に囲まれて、羅刹女はほろりと涙を零す。ごめんなさい、ごめんなさい、と掠れるような声で何度も謝るのが聞こえた。大切な人を失った後でも、自分を支えてくれる掛け替えのないもの達の存在に、彼女はようやく気付くことができたのだ。

「どうしても辛い時もきっと、仲間達が救ってくれるわ」
「……はいっ」
 羅刹女はもう二度と滅びの言葉を口にすることは無いだろう。失った過去の重さに潰されそうになったとしても、共に生きる妖怪達がいれば、道を誤ることなく進んでいける。
 しっかりと頷いた彼女の表情からそれを確信したフレミアは、優雅に微笑みながら食堂を後に――己の仲間達が待っている居城に帰っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
思い出が電子情報で良いなら…この記憶媒体の中身を

銀河帝国が【過去】となる以前
帝国に兵器開発を強制され多くの死を齎し嘆いたある天才が『防衛対象の己の殺害』を生産物に入力
その個体は矛盾命令の実行で自我と記憶が崩壊した

それが己だと示す長年の調査結果と発掘記録映像
(2ピン・long,long~)

微笑みながらの最期の言葉

「死出の供だからか、私を救ってくれるからかしら?

生産物の中で一番憎くて選んだこの木偶が騎士に見えるわね」

あの方が私を選んで殺した理由
私の罪の手掛かりに…

強き正義感に覆われた憎悪と一欠けらの愛
女性の強き情念で料理に私が接触すると死ぬ…ですか

私は、貴女に何をしてしまったのですか
アレクシア様…



「思い出が電子情報で良いなら……この記憶媒体の中身を」
 トリテレイアが『思い出食堂』の店員に提供したのは、記録装置の中のデータだった。
 彼には現代に再起動を果たした以前の記憶がない。誰が何のために自分を作ったのか、何を命じられ行動してきたのか――データに残されていたのは己の名と、子供向けの騎士道物語群だけ。それが機械騎士"トリテレイア・ゼロナイン"のスタートラインだった。

「こういう注文は初めてですけど……できる限りやってみるよ!」
 書物や写真に記録された思い出を材料にすることはあっても、星間文明の記録装置から思い出を取り出すのはこの食堂も初めての試みだろう。難しい顔をしながら厨房に引っ込んでいく店員を見送って、トリテレイアは料理ができるまでの暫しの間、物思いに耽る。

 ――かつてスペースシップワールドを支配した銀河帝国が"過去"となる以前の時代、帝国に兵器開発を強制された1人の天才がいた。数々の兵器を作り上げ多くの死をもたらした彼女は己の所業を嘆き、ある生産物の一体に『防衛対象である己の殺害』を命令した。
 守るべき対象を殺すという、矛盾した命令を入力されたその個体は、創造主の命令を実行したものの、自我と記憶が崩壊してしまったという。――それが己だと示す長年の調査結果と根拠が、トリテレイアが発掘した古い記憶映像だった。

 ――闇の中で鎖に縛られた蒼い髪の女性が、一機のウォーマシンと向かい合っている。
 凶器を振り上げたまま固まっているその機体へと、彼女は微笑みながら最期の言葉を。
『死出の供だからか、私を救ってくれるからかしら? 生産物の中で一番憎くて選んだこの木偶が騎士に見えるわね』
 深いグリーンの瞳と、兜型の頭部装甲に覆われたカメラアイの視線が交錯し――それきりプツンと映像は途切れている。この後の顛末は語るまでもない、むかしむかしの物語。

(あの方が私を選んで殺した理由。私の罪の手掛かりに……)
 長い探求の末にようやく見つけた、忘れてしまった己のルーツの断片。この『思い出食堂』ならば、断片に遺された記憶を料理という形で取り込めるのではないかと期待する。
 だが、暫くしてから厨房から出てきた店員の表情は、あまり芳しいものでは無かった。
「ごめんよう。頑張ってみたんだけどさあ……」
 コトリとテーブルの上に置かれたその料理は、盛り付けも丁寧で美味しそうに見えた。
 嗅覚から感じられる匂いにも、その他各種センサーによる成分分析にも異常はない。にも関わらず、トリテレイアは"それ"を食することに非論理的な忌避感を覚えていた。

「作っておいてこんなこと言いたくないけど、食べないほうがいいと思う」
 弱り果てた顔で食堂の店員が語るに曰く、この記憶媒体の思い出に込められていたのは、強き"正義感"に覆われた"憎悪"と、一欠けらの"愛"だったという。恐らくそれは映像に映っていたあの女性の――これほどに強い情念を調理するのは店員も滅多にないという。
「その情念、うまく言えないんだけど、騎士さんとは馴染まないと思う。食べちゃったら、そのー……最悪、死んじゃうかも」
「……ですか」
 店側に落ち度があった訳ではない。それでも声に滲む落胆を隠すことはできなかった。
 ごめんよう、と何度も店員から平謝りされながら、口にすることのできない"思い出"を前にして、トリテレイアは独り言ちる。

「私は、貴女に何をしてしまったのですか、アレクシア様……」

 その問いに答えてくれる者はなく。暗闇の記憶から返ってくるのは木霊のみ。
 機械仕掛けの騎士の過去は、今だ深い忘却の霧の中に隠されたままであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

遠吠・狛
思い出を調理してくれるんだ。不思議な料理屋さんだね。

じゃあせっかくだから、廃れちゃった前の神社の思い出でも料理してもらおっかな。
料理はお任せするんだよ。

山間の小さな神社だったけど、うちには居心地のいい場所だったんだよ。
でも詣でる人もいなくなれば、いつの間にか神様もいなくなってて。

護るべき者もいない社を打ち捨てなきゃいけないのは切なかったかな。

今はこうして流浪の狛犬してるけど、いつかは……ね。

なあんて、たまにはこういう雰囲気も悪くないかも。

絡み、アドリブ大歓迎だよ。



「思い出を調理してくれるんだ。不思議な料理屋さんだね」
 ノスタルジックな内装の店内に、ふわり漂う美味しそうな香りをくんくんと嗅いで。
 興味深そうに目をキラキラと輝かせた狛は、空いていた席にストンと腰を下ろした。
「じゃあせっかくだから、廃れちゃった前の神社の思い出でも料理してもらおっかな。料理はお任せするんだよ」
「かしこまりましたー!」
 注文を受け取った店員が、ぱたぱたと軽快な足取りで厨房に入る。料理を待っている間、少女が思い出すのは狛犬としてのかつての護所。今は失われてしまった居場所だった。

「貴女も……大切なものを失ったことがあったのですか?」
 そう問いかけてきたのは、額から赤い二本角を生やした鬼の女性。オブリビオン化した時とは見違えるほど穏やかで、しおらしいくらいに恐縮した態度の羅刹女がそこにいた。
「すみません……さっきの注文が聞こえてしまって。詮索されたくない事でしたら……」
「いいよ。うちは気にしないから」
 狛は気分を損ねたふうもなく、さばさばした態度と明るい笑顔で自分の隣の席を叩く。
 そして、どこか遠くを見つめるような視線を送りながら、過去の思い出を語り始めた。

「山間の小さな神社だったけど、うちには居心地のいい場所だったんだよ。でも詣でる人もいなくなれば、いつの間にか神様もいなくなってて」
 代々続く狛犬一族の姫である狛には、寺社の守護者としての使命がある。護るべき社が廃れてしまってから、彼女は新たに護るべき神社を探して、今もこうして旅をしている。
「辛くは……なかったですか?」
「護るべき者もいない社を打ち捨てなきゃいけないのは切なかったかな」
 席についた羅刹女からの問いに、まだ年若い少女は寂しげな笑みを見せた。慣れ親しんだ居場所から離れる際にはきっと様々な思いがあっただろう、後ろ髪を引かれる気持ちもあっただろう――それでも彼女は過去に留まるよりも、新しい居場所を探しに旅立った。

「あ、きたきた」
 狛が思い出話をしているうちに、料理のほうも出来上がったようだ。テーブルに並べられたのは白米にお味噌汁、焼き魚に野菜のお漬物といったオーソドックスな和食の数々。
 いただきます、と手を合わせてから箸をつけたそれは、どこか懐かしいような、胸の奥からじんわりと温まっていくような、穏やかで不思議な味がした。
「うん。おいしい」
 まぶたを閉じれば鮮明に浮かび上がるかつての日々。山奥までやって来た参拝者たちの笑顔や、落ち葉を履く竹箒の音、澄み切った空気の匂い――木漏れ日に照らされた思い出の風景は、今も彼女の中で色鮮やかに生きている。

「今はこうして流浪の狛犬してるけど、いつかは……ね」
 かつてと同じ――いや、それ以上の居場所をきっと見つけてみせると、狛は微笑んだ。
 それから柄にでもないとでも思ったのか、ちょっぴり照れたように赤らめた頬をかく。
「なあんて、たまにはこういう雰囲気も悪くないかも」
「そう、ですね……とても素敵だと思います」
 幸せだった頃の思い出を大切にしながらも、それに囚われることなく前に進んでいる――同じ放浪者でも自分とはまるで違う彼女の生き方に、羅刹女は眩しそうに目を細めた。

「私も、これからは貴女のように歩んでいきたいです」
「そう? ちょっと照れくさいけど。あなたならできるよ」
 彼女は刻を動かすと決めた。大切なひとの心をきちんと受け止め、歪んだ妄執ではない本当の愛を取り戻した今の羅刹女なら、心配はすることないだろうと狛は太鼓判を押す。
 様々な過去を抱えた者が集う、このカクリヨファンタズムで。思い出を肴にした夕餉の時間は、穏やかに過ぎていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
1章で避難を手伝ってたラン達と合流。
過去、家族が生きていた頃の思い出やラン達と出会ってからの思い出を料理にして貰おうかな…。
(ラン達もそれぞれ思い出を料理に注文)

わたしにとって、それぞれ大切な家族の記憶だからね…。

あ、そうだ…羅刹女さん、これを…(2章で霊魂を回収した【共に歩む奇跡】の符を渡す)
貴女の想い人の霊魂がこの中に…。
(再度自身の力について説明)
半魂だけっていうのはこれまで前例が無いんだけど…再び、大切な人と歩む事ができるかもしれない…。

だから、羅刹女さん、貴女の想いをその符に…。
今一度、奇跡を起こそう…!



「ご主人おかえり!」
「無事でよかった!」
「ご主人もあの人も!」
 崩壊の中心点から帰還した璃奈を待っていたのは、ほっとした表情のメイド達だった。
 幽世の妖怪達の救助や避難誘導に当たっていた彼女らは、主人の助けに行けない歯痒さを感じながらも無事を信じ続けていた。そしてメイド達と合流を果たした璃奈の顔にも、いつも無表情な彼女にしては珍しい、ほっとしたような安堵の感情が浮かぶ。
「ただいま……ラン達も怪我はないみたいだね、良かった……」
 生まれた世界も境遇も種族もまるで異なる彼女達だが、その心の結びつきは血の繋がりにも負けない。その関係性は単なる主従と言うよりは、ひとつの家族に近いものだった。

「過去、家族が生きていた頃の思い出や、ラン達と出会ってからの思い出を料理にして貰おうかな……」
 メイド達と共に『思い出食堂』を訪れた璃奈は、通りがかった店員に料理を注文する。
 オブリビオンの手で滅ぼされる以前の家族。猟兵となってから出会ったメイド人形達。
 魔剣の巫女としての璃奈の生き方を形作り、その心を今も支えてくれる大切な記憶を。
「わたしにとって、それぞれ大切な家族の記憶だからね……」
「わたし達も!」
「ご主人との思い出!」
「とっても大切!」
 ラン達もそれぞれ自分の大切な思い出を注文し、ややあって沢山の料理がテーブルに届けられる。エンパイア風の和食から、アルダワ風の洋食まで――どれも美味しそうな品々の中に、一風変わった卵料理がひとつ。
「これは……温泉卵……?」
「お客さんたちの思い出を料理してたら、ふと頭にこれが浮かんできたんだよねー」
 そういえばラン達と最初に出会ったのは、アルダワの温泉地での事件でのことだった。
 とろとろの白身と半熟の黄身をパンの上に乗せ、ポーチドエッグのようにして食べてみると、あの日から今日までの数々の思い出が、胸の中で鮮明に浮かび上がった。

「ん……とっても美味しかった……」
 舌鼓を打ちながら家族との思い出を味わった璃奈。ラン達も満足した様子で幸せそうな笑顔を浮かべつつ、またこの味を自分たちでも再現できないかと何やら話し合っている。
「あ、そうだ……羅刹女さん、これを……」
 食事に満足したところで、ふと璃奈は大事なことを思い出して店内をくるりと見回す。
 そして隅のほうの席で静かに食事をしている羅刹女を見つけると、先ごろの戦いの中で使用した【共に歩む奇跡】の符を持って声をかけた。

「この札は……確か、あの時の……」
「貴女の想い人の霊魂がこの中に……」
 骸魂と融合していた間の出来事は、オブリビオン化が解けた後も覚えているらしい。
 霊魂を回収した符を手渡しながら、璃奈は再度自身の力について羅刹女に説明する。
「半魂だけっていうのはこれまで前例が無いんだけど……再び、大切な人と歩む事ができるかもしれない……」
 常識では計り知れないユーベルコードの力は、その時々によって違う結果をもたらす事もある。魂の一側面のみの回収は完全な成功とも失敗とも言い難いが、だからこそ術者である自分も知らない未知なる可能性が残っているかもしれないことに、璃奈は賭けた。

「だから、羅刹女さん、貴女の想いをその符に……」
 半分のみの魂に共存のためのカタチを与えられるとすれば、それは羅刹女の想いのみ。
 誰よりも強くその魂を愛し、また一度は合一を果たした彼女であれば、あるいは――。
「今一度、奇跡を起こそう……!」
 力強い璃奈の言葉に導かれるように、羅刹女は符を手に取ったままそっと目を閉じた。
 大切なひとへの想いを、共に過ごした忘れがたい日々を、心の中に思い浮かべながら。

「……過ぎていった過去は、もう返ってこない。時計の針は巻き戻らない」
 羅刹女はもう「時よ止まれ」とは願わない。その心を焦がしていた妄執はもはや無い。
 あるのは微かな痛みと共に胸に去来する懐かしき思い出と、まっすぐで深い愛情だけ。
「ずっと立ち止まっていたけれど……これからはちゃんと前に進んでいく。だから、また私が道を誤らないように……どうか見守っていてください……あなた……」
 祈るような言葉と共に一粒の涙がぽたりと零れ落ち、【共に歩む奇跡】の符を濡らす。
 その瞬間――まるで陽だまりのようなあたたかで仄かな光が、符の中から飛び出した。

「……!」
 符よりあふれ出した光は、一羽の小さな鳥の姿を取って、驚く羅刹女の肩にとまった。
 記憶にあるかつての想い人とは、姿形はまるで違う。けれども羅刹女をじっと見つめるつぶらな瞳の色は、その眼差しから感じられる想いは、間違えようもなくあの人のもの。
「あぁ……ありがとう……こんな、ことって……!!」
 それ以上は言葉にならなかった。カタチを変えた想い人の魂をそっと両手で包んで、羅刹女は止めどなく涙を流す。その光景を、璃奈は優しい表情で静かに見守っていた――。



 ――鬼女の狂愛が言祝いだ、滅びの言葉から始まった物語は、ここで幕を閉じる。
 羅刹女の進み始めた時間が、これからどんな未来を刻むのかは誰にも分からない。
 だが今は彼女と、そして彼女を救った猟兵達に、ひとときの憩いがあらんことを。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月04日


挿絵イラスト