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鬼女の愛を言祝ぐは、滅びの言葉(作者
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「時よ止まれ、お前は美しい」

 ――その一言で、あやうい均衡を保っていた世界は、あっけなく壊れ始めた。
 布の継ぎ目がほつれるように大地が裂け、古びた漆喰のように空が剥げ落ちる。
 ぽっかりと開いた奈落の穴に、何もかもが堕ちてゆく。その中心に立つのは1人の女。

「どうしちゃったんだよ、羅刹女の姐さん!」

 彼女が『滅びの言葉』を口にする瞬間を見ていた妖怪が、信じられない様子で叫ぶ。
 その妖怪の知っているかの鬼女は、あまり陽気なほうではないが、いつも穏やかで優しく、しおらしい振る舞いで皆から慕われていた、そんな妖怪だったから。

「あんたはこんな事する人じゃなかっただろ!」
「骸魂に取り憑かれておかしくなっちまったのかい?!」
「お願いだから正気に戻って――」
「うるさいッ!!!」

 心配そうな様子で口々に呼びかける妖怪達を、羅刹女はまさしく鬼の形相で一喝する。
 かと思えばその顔はすぐに、狂気をはらんだ歓喜の表情へと一変し、陶然と微笑む。

「ずっと……ずっとこの時を待っていたの。幽世でまたあの人と会える、この時を」

 幾年月の中で失ってしまった大切なもの。それを取り戻すために今日まで生きてきた。
 狂い哭く本性をひた隠しにして、何年も、何年も、現し世や幽世をさまよい続けて。
 思い出が風化し、その人の顔も名前も思い出せなくなっていっても、それでも――。

「いつか、また会えるって信じて……ようやく望みが叶ったのよ。もう二度と放さない、絶対に逃さない! 私とこの人を引き裂こうとするなら、誰であろうと許さない!!」

 骸魂になっていようと構うものか。それで世界が滅びてしまおうとも関係はない。
 この一瞬、この一時が、永遠になってしまえばいい。愛しいあなたと共に、永久に。

「時よ止まれ! 私たちの再会を、永劫に祝福し続けるために!!」

 狂ったように叫ぶ鬼女の足元から、世界の崩壊が加速する。もう妖怪達も近寄れない。
 崩壊に巻き込まれた建物が崩れ、壁や瓦礫の雨が降り注ぐ。それはまさに終焉の景色。
 ひとりの妖怪と骸魂の再会が、今、幽世を滅ぼそうとしていた――。


「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「カクリヨファンタズムで暮らす妖怪のひとりが、世界の終わりを告げる『滅びの言葉』を口にしてしまいました。これにより、カクリヨファンタズムが崩壊を始めています」
 地球と骸の海の狭間にある、人々から忘れられた者達の住まう世界、カクリヨファンタズム。この世界はひどく不安定で、些細なきっかけでカタストロフ級の事件が頻発する事が知られている――そう、時にはたった一言の言葉ですら、滅びのトリガーになるのだ。

「『滅びの言葉』を口にしたのは、羅刹女と呼ばれる鬼女の妖怪のおひとりです。近所の妖怪曰く、しおらしくて気立てのいい性格で、周囲からも慕われていたそうですが――」
 そうした大人しい外面の裏には、ずっと狂奔な本性を抱えていた。彼女は遠い昔に大切な人を失い、その人を取り戻すためにカクリヨファンタズムを訪れたのだ。忘れられたもの、失われたものが集うこの世界でなら、いつか愛する人ともまた会えると信じて。
「何十年か、あるいは百年以上……ずっと秘められてきた彼女の悲願はついに叶いました。叶ってしまいました。骸魂となって帰ってきた、大切な人と再会するという形で」
 骸魂は、生前に縁のあった妖怪を飲み込んでオブリビオン化する。羅刹女は自ら望んで愛しい人の骸魂とひとつになり、積年の想いを満たした――そして思わず呟いてしまったのだ。「時よ止まれ、お前は美しい」と。

「かくして幽世は崩壊を始めました。こうなっては一刻も早くオブリビオン化した羅刹女を倒し、彼女と骸魂を引き離さなければなりません」
 羅刹女は崩れ落ちていくカクリヨファンタズムの崩壊点の中心にいる。だがそこに辿り着く道程には、崩壊に巻き込まれた建物の残骸が厄介な障害となって立ち塞がっている。
「過去の遺物を組み上げて作ったせいか、幽世の建物にはかなり壊れやすいものも多いようです。崩れてくる壁や瓦礫といった障害物を排除しつつ、なるべく迅速に崩壊の中心へ向かってください」
 障害を乗り越えたあとは、肝心の羅刹女との戦いだが――彼女はやっと取り戻した大切な人の骸魂をゆめゆめ手放しはしないだろう。説得するにせよ、力尽くで引き剥がすにせよ、激しく抵抗されることは間違いない。

「彼女は自らの意志でそうしたとはいえ、骸魂に呑み込まれただけの一般妖怪です。骸魂を倒せば、救出することもできるでしょう――それが世界のためでも、彼女のためでも、望まずに骸魂になった彼女の想い人のためでもあると、リムは信じています」
 淡々とした言葉の中に微かな哀愁をにじませて、リミティアはそう語った。もしご迷惑でなければ、骸魂から解放されたあとの羅刹女のことも気にかけてやってほしい――と。
 狂奔と化した積年の想いが引き起こした世界の滅び。それを阻止するためにグリモアは輝き、崩れゆくカクリヨファンタズムへと通じる道を開いた。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はカクリヨファンタズムにて『滅びの言葉』を呟いてしまった妖怪を止め、世界の滅亡を防ぐのが目的です。

 第一章では今まさに崩れ落ちていく幽世を乗り越えて、崩壊の中心に向かいます。
 崩壊に巻き込まれて崩れた建物の壁や瓦礫が障害となるので、どうにかして対処しながら先へ進んで下さい。

 第二章では崩壊の中心点で、骸魂とひとつになった鬼女『羅刹女』との戦闘です。
 自ら望んで骸魂に呑み込まれた羅刹女ですが、まだ救出することはできます。彼女の心を揺さぶるような説得ができれば、戦闘中でも隙が生じるかもしれません。

 無事に事件を解決できれば、三章は平和になった幽世での日常になります。
 詳細については実際の三章到達までお待ちください。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『崩壊する建物』

POW力技で崩れてきた壁や瓦礫を排除する
SPD素早く移動して脱出する
WIZ崩壊の速度や落ちてくる瓦礫の角度を計算して回避する
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。