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邪教徒の残滓 ~花々の悪夢は、終わらない~

#UDCアース

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#UDCアース


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 UDCアース世界。極東の島国、日本。
 その幾つかある大都市の近郊に、とある女学園が存在する。
 在校生には名家の子女を多く抱え、文武両道かつ品行方正をモットーとするその学園は、近年では随分と珍しくなった『お嬢様学園』として近隣住人にも知られ、親しみと憧れを以て愛される学園だ。

 ──ねぇ、知ってる? あの『学園』の噂?
 ──『学園』って……あぁ、あそこの。

 だが、その女学園に悲劇が起きた。
 2019年11月某日。学園祭のその日に引き起こされた、『千華女学園襲撃事件』である。
 とある武装勢力の突然の襲撃を受けた女学園は、為す術も無く制圧され……多くの犠牲を生み出す、惨劇の舞台と化したのだ。
 ……幸い、事件は即日解決された。卒業した当時の三年生以外の救い出された生徒達は、今でも学園に通っている者が殆どだ。
 だが、しかしだ。被害が無かった、という訳ではない。
 治安当局の当初の想定よりは少なかったとは言え、多くの罪のない命が犠牲となった事は事実である。
 そして同じ様に。少なくない数の心の傷を抱えた者を生み出してしまった事も、また事実であった。
 ……とは言え、もう事件から随分と時が経っている。多くの人々の記憶からは事件の記憶は薄れ始め、世間からは女学園の存在も薄れているはずであるのだが……。

 ──また、出たらしいわよ?
 ──あんな事件があったもの。可哀相に……。
 ──でも、少し……怖いわよねぇ。

 ここ最近、近隣の住民たちの間に。学園に関する噂が広まりつつあった。
 それは、『あの学園の生徒が次々に発狂しているらしい』という噂話。
 情報の出処は、分からない。真偽の程も、分からない。
 だが、その無自覚の悪意(ウワサ)は。人々の口を介して広まって……耳にした生徒達の心を、悲嘆に包む。
 ……巡り膨れる、悪意の循環。破滅の時は、もうそこまで迫りつつあった。



「──お集まり頂きまして、ありがとうございます」

 グリモアベースに集まる猟兵達を迎え入れる、艷やかな銀の髪のグリモア猟兵。
 いつもは微笑みを浮かべて猟兵達を迎え入れるヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)。だが、今の彼女の表情は引き締まった真剣な物。
 ……どうやら今回の案件は、一筋縄ではいかぬらしい。

「去年の秋の終わり頃。皆さんに赴いて頂いたUDCアース世界のとある女学園を覚えている方はいらっしゃるでしょうか?」

 ヴィクトリアのその言葉に、辛い記憶を刺激される者もいるかもしれない。
 それは、去年の秋の終わりの事。UDCアース世界の片隅で起きていた、凄惨な事件の事。
 邪神を奉じる武装勢力による、名門女学園の襲撃。引き起こされた惨劇と、狂乱の果ての死闘の事である。
 ……その事件は、猟兵の活躍により終結を見たはず。その後派生した案件も、解決を見たはずだ。
 一体その事件が、どうしたというのだろうか?

「実は、その女学園に……新たなUDC怪物、邪神が降臨する光景を予知しました」

 皆さんには、その邪神の降臨を食い止めて欲しいのです、と。ヴィクトリアが、語る。
 件の事件の折、降臨した邪神が討滅されたのは間違いない。戦場に満ちていた邪気も、戦闘の末に祓われたのは事実である。
 だが、邪神降臨の影響は想定以上に深刻であったらしい。邪気は建物に土地に深く染み入り、少しずつ、少しずつ……その濃度を増していたのだ。

「その結果、学園は更に邪気に蝕まれ。通う生徒や職員は変調を来たし生気を喪い、邪気が更に蔓延る。その様子を外から見た人々が噂をし、生徒の心が傷ついて……見事なまでの悪循環です」

 この状況を、何者かが狙って作り上げたのか?
 それとも、ただの偶然なのか? それは、分からない。
 だが、確実に言える事があるとすれば。

「……この状況は、邪神が降臨するに絶好の好機であると言うこと。そして仮に、邪神が降臨した場合……凄惨な被害が予想される、ということです」

 状況を鑑みるに、この手の状況で顕れる邪神は人々の負の感情を糧とし、力とする存在だ。
 そんな存在がもし降臨すれば。学園のみならず、この地方都市一帯が負の感情に飲み込まれ……という事もあり得る事態である。
 ……そんな事だけは、断じて許すわけには行かない。静かに戦意を高める猟兵達に頷いて、ヴィクトリアが言葉を続ける。

「これから皆さんには女学園に赴いて頂き、学内各所にある邪神降臨の原因……『邪気の淀み』を破壊して頂きます」

 『邪気の淀み』に、決まった形は無いらしい。
 渦巻く魔力であるかもしれないし、何らかの物体に擬態しているかもしれない。
 その在処もまた、定かでは無いが……猟兵が見ればすぐに違和感に気付けるはずだ。その辺りは、難しくは無いだろう。
 とは言え、問題はここからだ。

「……邪神の力の影響が出ている事からお分かりかもしれませんが、既に学園は邪神の監視下にあると見て間違いないでしょう」

 故に、学園敷地内への直接転送は不可能だ。学外に降り立ち、個々に学内に入り込んでもらう事になる。
 とは言え、普通に真正面から行けば猟兵の侵入を感知されるだろう。結果邪神が無理やり降臨し、学内の生徒に犠牲者が出てしまっては元も子もない。
 なので、正面から行くのなら。『学園にいてもおかしくない』と邪神が認識する様な変装やカバーストーリーなど、何らかの偽装が必要だろう。
 ……無論、邪神の目を掻い潜り潜入出来る技術に自信があるのなら、そちらでも問題は無いだろうが。

「……一度ならず、二度までも。惨劇の舞台とする訳にはいきません」

 皆さんの御力を、お貸し下さい。
 そう告げて、深く丁寧に頭を下げて。ヴィクトリアは猟兵達を現地に送り出すのだった。


月城祐一
 夏の暑さはようやく和らいだか。
 どうも、月城祐一です。秋と言えば……うーん、食欲!(ありがち)

 今回は、UDCアース世界での依頼。
 とある女学園に降臨しようとする邪神を阻止して頂きます。
 参考までに、以前の『女学園』関連のお話は ↓こちら↓ になります。
(【女学園】 https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17302 )
(【黒幕】 https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=22319 )
 読まずにご参加いただいても問題はありませんが、宜しければ是非ご一読下さい。

 さて、補足となります。

 第一章は冒険。
 名門女学園の各所に在る『邪気の淀み』を探し出し、破壊して頂きます。

 状況はOPの通り。学内は邪神の監視下に置かれた状況です。
 ですので、皆さんには『学園にいてもおかしくない』と邪神に認識させる偽装を施した上で、学内に入って頂く事になります。
 その偽装は、何でも構いません。とは言え、ここは『女学園』。その辺りを抑えつつ、違和感の無い偽装を考えると良いでしょう。
(=上手く『学園にいてもおかしくない』と認識されれば、プレイングボーナスが与えられます)
 ……潜入技術に自信があれば、その辺りを無視しても問題は無いかも知れませんが、是非ご一考下さい。

 無事に潜入が出来れば、学内各所の探索です。
 この学園には『校舎』、『特殊教室棟』、『管理棟』、『体育館』、『正門前広場』、『駐車場』、『運動場』などと言った、一般的な学校に存在する設備は一通り存在します。
 皆さんにはそれらの施設を探索し、『邪気の淀み』を発見・破壊して頂く事になります。

 つまり今回のプレイングで必要なのは、
 ・邪神の認識を欺く『女学園にいてもおかしくない偽装』。
 ・学内をどう探索するか。
 の、2点となります。
 プレイングの字数が厳しくなるかとは思いますが、ご了承下さい。

 また、第一章開始時の時刻は午後4時頃。
 ちょうど放課後となった時間であり、学内には多くの学生や職員が存在します。

 第二章、第三章に付いては現時点でお知らせできる情報はありません。
 状況が進展した際に情報開示を行いますので、ご了承下さい。

 純潔の花々に二度迫る、邪神の狂気。その悪意を挫けるのは、やはり猟兵のみ。
 皆さんの熱いプレイング、お待ちしております!
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第1章 冒険 『UDC召喚阻止』

POW   :    UDCの発生原因となりそうなものを取り除く

SPD   :    校内をくまなく調べ、怪しげな物品や痕跡がないか探す

WIZ   :    生徒達に聞き込みを行い、UDCの出現条件を推理する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 今日の授業の終業と、放課後の到来を告げる鐘が響く。
 多くの名家の子女を抱える名門女学校であるとは言え、放課後ともなれば気持ちも浮き立つもの。普段であれば今日の授業の反省や放課後の予定、週末の外出の打ち合わせなど、学園の至る所では明るい声が響く時間である。
 だが、しかし。今、生徒達の顔に浮かぶ生気の色は薄い。彼女達を見守る教職員の顔もまた同じである。
 ──『学園の生徒が、次々に発狂しているらしい』という近所の街に蔓延る噂に、その心を苛まれているからだ。

 根も葉もない噂、とは言えない。ここ最近学内で体調を崩す生徒職員が続出しているのは、事実であるからだ。
 ……体調を崩したその結果、『あの事件』を思い出し塞ぎ込む生徒もいる。その姿を、街の人々は面白おかしく語っているのだろう。

 ──無意識のまま、何者かに刺激される悪意のそのままに。

 幸い今現在、命に関わる案件は発生してはいない。
 けれど、このままでは。明日、明後日はどうなるかは、分からない。
 ジリジリと迫りくる破局の予感を感じながら、それでも生徒は、職員は。今日も学園での生活を過ごす。

 ……猟兵達が学院の門前に降り立ち学内に踏み入ったのは、そんな時であった。
四王天・燦
《華組》
SPD

此処はシホとの縁の始まりの地
それに今度は『間に合う』んだ
絶対に守ろうぜ

別れて行動
卒業生が教育実習に来た恰好・設定で入る

縁あらば【女学園】2章で吸精した娘と遭遇するかもね

学生に会釈し偽造名刺で接触
元気のない生徒に熱でもあるの?とおでこをくっつけて誘惑…こういうのアタシの時代は流行ったんだ、なんてね

昔との変化を見たいと言って案内を頼むよ
校舎・体育館・運動場は回れるかな
澱みは稲荷符を投擲し破魔で鎮めるぜ

生徒会が今もあるのか、ここ数年の活動も聞く
アタシ達が助けた会長の顛末を探るぜ
息災なら傍受されても無難な文面でシホにメール
女生徒には『カノジョ』と連絡中と言うよ

一通り回れば学生は帰らせるぜ


シホ・エーデルワイス
《華組》

…予期してはいました
だから出来る限り傷跡を残さない様にしましたが…

苦い表情になるも
瞳に宿す意志は強い

ええ
これ以上穢させません!



生徒に変装し転校生の演技
コミュ力と礼儀作法で淀んでいそうな場所を情報収集
相手が口にしたくないかもしれない為
読心術と第六感で反応を読取る

必要に応じて優しく手をつないで慰め鼓舞

戦闘発生時の為
去り際に催眠術で早く帰るよう誘導
学園内の人を極力減らす

ある程度情報が揃えば目立たないよう人払いの結界術

淀みを見つけたら破魔の祈りで浄化

【潜霊】には学園のネットワークを調べてもらう

出処不明の情報ならネットにも隠れているかも?

メールは傍受される前提で使用

助けた会長の安否も気になります





 今まさに正門から敷地内に踏み入り、感慨深げに周囲を見渡す女が一人。
 リクルートスーツに身を包んだ女のその様子は、周囲から見れば『卒業生が教育実習生として、久しぶりに母校に戻ってきた』かのように見えるだろう。
 だが、そうではない。

(此処は、シホとの縁の始まりの地だ)

 彼女の正体は、邪神の降臨を防ぐ為に派遣された猟兵の一人。名を、四王天・燦(月夜の翼・f04448)という。
 燦は、かつてこの学園に降り掛かった惨劇の場に居合わせた猟兵だ。幾つもの悲劇をその目にし、苦い思いを胸に抱いた猟兵である。
 だが、あの時の戦いは苦い思い出だけを燦に与えはしなかった。共に一つの目的の為に邁進した、得難い相棒を得る事も出来たからだ。
 ……故に、この学園は。燦にとっては、色々な意味で『特別な場所』である。

(──そうさ。今度は『間に合う』んだ)

 そんな場所に、再び訪れた悲劇の予兆。
 それを防ぐ機会を相棒と共に得られたのは、まさしく天の配剤と言った所だろうか。
 ……絶対に、守ると。燦の胸に、戦意は静かに、だが確かに滾っていた。

「……ん?」

 そんな燦の視界に入る、一人の少女の姿。
 正門前広場に幾つかあるベンチの一つに腰掛けるその少女の顔を、燦はどこかで見たことがある気がした。
 あの整った顔立ちは、確か……そうだ。事件の折、燦と相棒の連携に最後まで抗っていた、あの少女だ。

「……やぁ。調子が悪そうだけど、大丈夫か?」
「……えっ?」

 突然声を掛けられた事に、目を見開く少女。
 ほんの僅かな関わりから繋がった、今回の縁。紡がれた糸は、どんな形となるだろうか……?



 燦が敷地内に踏み入り、広場で縁のある少女と出会ったその頃。
 既に校舎内に潜り込んでいた燦の相棒、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は一人、校内をゆっくりと散策していた。
 シホの纏う衣服は、真新しい学園指定の制服。物珍しげにキョロキョロと周囲を見渡すその姿は、この場にまだ慣れていない印象を周囲に与える仕草である。
 『転入したての転校生』。シホのその演技は、中々に堂に入った物だった。

(……空き教室。ここが良いですね)

 そのまま数分、校舎内を散策して。見つけた空き教室に、滑り込む。
 そっと扉を閉め、人の目から完全に離れた事を確認すれば……。

「──詩帆、お願いできますか?」

 誰もいない空間に向けて、呟くシホ。
 その呟きに応えるかのように、シホの眼前の空間が歪み……顕れ出るのは、一体の幽霊。
 その正体は、電子空間という情報の海を泳ぎ情報収集をする存在だ。
 名を、薄雪詩帆という。シホが生み出した、電子幽霊(サイバーゴースト)である。

『──うん。やってみる……その代わり』
「ええ、黄身ボーロね」
『うん! 頑張る!』

 与えた任務は、学園のネットワークの調査だ。
 近隣に広まりつつある情報は、出所不明。だが学内に関する噂である以上……その漏洩源は、学内であるはずだ。
 ならば、邪神の痕跡がそこにもあるのではないか、と。そう睨んで、シホは詩帆を動かしたのだ。
 与えられる報酬に顔を綻ばせ、消えていく電子幽霊。
 その姿は実に微笑ましく、シホの顔にも微笑みが浮かぶが……その微笑みは、すぐに苦い表情へと変わっていく。

(……予期はしていました)

 ……シホもまた、かつての事件に立ち会った猟兵達の一人である。
 あの事件の折、シホは己の身体も顧みず、ただ『救いたい』という思いのままに戦った。
 その思いは、戦いの場だけに収まらず。全てが終わったその後で、被害者たちを救うべく、孤軍奮闘する程の強い物であった。

(だから、出来る限り痕跡を残さないようにしたはずですが……)

 シホの思いと行動は、結果的に多くの被害者の心身を救った。それは間違いない事実である。
 もし仮にシホの献身が無ければ。この地に淀む邪神の邪気はもっと早く表面化し……グリモア猟兵が予知するよりも早く、惨事へと結びついていたはずだ。
 ……つまり、あの時のシホの献身があったからこそ。今回猟兵達は、『間に合う』事が出来たのだ。

(これ以上、穢させはしません──!)

 瞳に強い決意の光が宿らせて、空き教室をするりと抜け出るシホ。
 『少しでも多くの人を救いたい』。根幹に宿るその思いを糧に、シホの戦意も静かに燃え上がっていた。



「驚きました、突然あんな……」
「ははっ、いやぁ悪かったって。アタシらの時代には流行ってたんだよ」

 恥ずかしげな少女の声に、軽やかに笑う燦の声。
 燦は今、少女の案内で校内を散策している最中であった。
 『数年ぶりだから、昔との変化が見たいんだ』と語り案内を頼んだ燦のその申し出に、少女は訝しげな顔をしながらも頷いていた。
 ……どうやら、『あの時』の記憶は少女には無いらしい。あったとしても、靄に覆われた朧気な物であるのだろう。

「しかし、うん。そう簡単には、変わってないモンだなぁ」
「それはそうですよ。数年でそう大きくは変わりませんよ」

 連れ立ち歩き見渡すその光景は、あの事件の時の光景と大きく変わる物ではない。校舎、体育館、運動場とザッと見てきたが、パッと見た限りでは怪しい所は見受けられなかった。
 ……無論、細かく見れば何かが見つかる可能性は否定は出来ないが。
 燦のボヤキに応える少女の声に、『まぁそうだよな』と頷きを返しつつ、燦はハッと気がついたかのように尋ねるべきことを少女に問う。

「……あ、そう言えば。生徒会長がいただろ? 長い黒髪で、スタイルが良くて……」

 それは、去年の事件の最終盤。邪教徒の凶刃に傷つけられた、この学園の生徒会長のこと。
 ……邪教徒の凶刃により深い傷を負い、傍目にはその生命を散らしたかのように見えた生徒会長。だが燦とシホは諦めず、真っ先に動き……寸での所で、生徒会長の命を救っていた。
 自らが助けた命が、その後しっかりと己の道を歩めているのか。燦とシホが気にするのも、当然の事と言えるだろう。

「あぁ、会長ですか?」

 そんな燦の突然の問に、少女は僅かに目を見開くも淀みなく答える。
 ……曰く。あの事件の後、会長は暫くの間入院していたらしい。
 だが、その入院期間はそう長くは無かったそうで。関係者が驚くほどの回復の速さで、一月程の療養の後、学校に復帰したのだとか。
 現在はどうしているのかと問えば、二学期中は海外に留学に出ているのだとか。大学は既に指定校推薦で都内の一流大学に進学が決まっているそうで……流石は文武両道を掲げるこの学園の会長か、と言った所である。

「そっか。元気そうなら、良いんだ」

 気掛かりの一つであった会長の安否。その息災を知れた事で、ほっと息をする燦。
 あの時の自分達の献身は、一人の少女の未来を確かに護れたのだ、と。
 その結果を知れば、携帯端末を取り出し何やらメッセージを送り出す。
 燦のその突然の行動に首を傾げる少女。疑問符を浮かべる彼女に向けて……。

「んっ? あぁ。『カノジョ』に、ちょっとね?」

 ニヤリ、と笑って答える燦。その言葉の意味を勘づけば、少女は顔を赤くして詮索を控えるだろう。
 ……ほんの僅かな間を置いて、燦の端末が震える。返ってきたメッセージには、燦を労う言葉と会長の無事を喜ぶ一言。
 そして……。

 ──音楽室で待ってます。

 の、一言。
 音楽室。確か、特殊教室棟だっただろうか。

「……よし、もう大丈夫だ。悪いね、付き合わせて?」
「い、いえっ。こちらこそ、しっかりしたご案内も出来ず……」

 そうと決まれば、善は急げだ。
 同行してくれた少女に礼を告げれば、少女もしっかりと頭を下げて謙遜を返す。
 授業でお会いできるのを楽しみにしています、と言葉を残して去っていく少女。
 その後姿を見届けて……燦は音楽室へと足を進めた。



 ──会長、無事だってさ。詳しくは合流してから。

 別行動を取る相棒……燦から届いたメッセージに、シホの口からホッとした息が溢れる。
 儚げな印象のシホが浮かべた柔らかなその表情に、何を勘違いしたのか。

「おっ? カレシ? 転校生ちゃん、まさかのカレシ持ち!?」

 シホを囲む数人の学生が黄色い声を上げる。
 ……空き教室から飛び出したシホは、今度は生徒達の間に自然と紛れ込むように行動していた。
 学校という空間は、とかく閉鎖的なもの。そんな空間の中で、蒼の瞳に艷やかな銀の髪という見覚えのない顔は、普通ならば悪目立ちしてしまう事だろう。
 だが、今シホが纏う服はこの女学園の指定制服。それも着慣れていない、新品である。
 その制服の真新しさを見れば、目聡い者なら『転校生か』とすぐに察しが付く物であり……。

「えぇ、と。そんな、『カレシ』とかじゃ……」
「え、そうなの? ちぇっ、残念」

 今シホは、そんな目聡い学生のグループに取り囲まれている状況であった。
 中々に圧の強い学生達に苦笑するシホ。所謂『お嬢様学校』であっても、こういう少女達は普通にいるらしい。
 少々、面倒だなとも思わなくも無いが……だがシホのその内面は、この状況を好機とも捉えていた。
 ……こういった目聡い少女達ならば、学内の状況にも詳しい筈。ならば、『邪気の淀み』に迫る情報を得られる可能性も高いはず。
 事実、彼女達は今……。

「それで、その。『音楽室』がどう、というのは……」

 そう、彼女達は今、『最近音楽室の空気が悪い気がする』と言っていたのだから。
 一歩踏み込み、尋ねるシホ。そんなシホの姿勢に一歩退きながら、学生達の一人が頬を掻く。

「うーん、まぁ授業に出るようになったらすぐ判っちゃうだろうし。えっとね……」

 彼女が言うには、最近音楽の授業中に頭痛を訴え離席する生徒が多発しているらしい。
 まだ夏の暑さが僅かにとは言え残るこの時期である。熱中症か、と疑いもあったのだが……。

「でも、おかしいんだよね。空調はちゃんと効いてるはずなんだ」

 だから空調の掃除がされてなくて空気が悪いのかなー、って。
 そう言葉を紡ぎ笑顔を見せる学生に、「それはちょっと、嫌ですね」と相槌を打つシホ。
 だが、しかし。その頭の内で考える事は、別のことだ。

(音楽室、と言えば。確か、あの事件の際には……)

 思い起こすのは、あの日の事。
 確か音楽室では、武装勢力の面々が囚えた女学生を傷つけ嬲っていたはずだ。
 結果として、駆けつけた猟兵によりその場は鎮圧されている。だがそれまでに女学生たちが感じた絶望と悲嘆は、膨大な物であったはず。
 ……その絶望と悲嘆が邪気となり、淀みとなっている可能性は高い。

「……お話、ありがとうございます。そろそろ日暮れも近づいてますし……」

 ──早く帰った方が、良いですよ?
 丁寧に頭を下げて礼を告げ。その後紡いだ言葉に乗せるは、人の心を惑わす魔力。
 今回の依頼は、邪神降臨の阻止である。だが、邪神と言われる存在が猟兵達の活動を黙って見過ごすとは到底思えない。
 『邪気の淀み』を祓い、砕き続ければ。きっと邪神は、邪魔者を排除しようと動き出すだろう。
 そんな事態に備える為に、一般人を極力減らすために。シホはその力を言葉に乗せたのだ。

「──ぁ、うん……そう、だね。早く帰った方が、いいか」

 シホの言葉に心を惑わされ、ぼうっとした顔をして。学生たちのグループが、家路を急ぐ。
 その後姿を見送りながら、携帯端末を手にメッセージを作成、送信。

(……電子の海には、邪神に繋がる明確な情報は無かったけれど……)

 シホが放った電子幽霊の調査は、不発に終わっていた。学園内のネットワークには、不審な点は存在しなかったのだ。
 だが、しかし。完全に空振り、という訳ではなかった。
 この学園を狙う邪神の影。その一端を、電子幽霊は見つけ出していたらしい。

(……巨大な風船? いいえ、アドバルーン、でしょうか?)

 その痕跡は、近隣住民のSNSアカウントにアップロードされていた物。
 薄暮に暮れる学園の、その上空に……うっすらと浮かぶ不気味な影のその姿が映し出された、一枚の写真である。
 ……今空を見上げても。その影は文字通り、影も形も見当たらない。
 恐らく邪神は、今は力を蓄える事に専念する段階であるのだろう。

(で、あれば。邪神の意識が、こちらに向いていないその内に……!)

 一つでも多く、『邪気の淀み』を消し去らねばと。
 話に聞いた音楽室へと、シホの脚は動き出す。

 ……その後、合流した燦とシホは音楽室の片隅に蠢く魔力の渦……不可視の『邪気の淀み』を発見。
 司る破魔の力を振るい、見事に淀みを祓い清める事に成功したのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

備傘・剱
この学園、マジで何かに祟られてないか?
いや、今は邪神が祟ってる訳だが

業者として、中に潜入だな
教科書や先生に頼まれた本の納入業者として潜入すれば、彼方此方、歩き回っても変ではないだろ?
あ、その前に、真転身で、女になっておくわ

それにしても、邪神も何を考えているのかしら…
前回、かなりの人がここで死んでるから、目をつけられてるのかもしれないわね

で、校舎内の淀みを発見次第、一足りないとパンドラゴラに破壊させるわ
この姿だと、本当に普通の女性になっちゃうのよねぇ…

それと、すれ違う生徒や、先生たちの様子も少し確認しておこうかしら
何処かに頻繁に向かうとか、特定の何かが流行ってるとか、ね

アドリブ、絡み、好きにして





「……この学園、マジで何かに祟られてないか?」

 グリモア猟兵の依頼を受けた備傘・剱(絶路・f01759)がまず感じ、口にした第一声である。
 剱もかつての事件に現場に赴き、活躍を見せた猟兵の一人である。
 その力で先陣を切り、降臨した邪神とほぼ相打ちとなる壮絶な戦いを繰り広げた者である。
 だが、そんな事件の記憶も鮮やかな、ほぼ一年の間に。一度ならず二度までも、この学園は邪神案件に巻き込まれてしまっている。
 剱がそう思いボヤいたも、まぁ無理からぬ事であろう。
 ……とは言え、この学園が悪い訳ではない。
 悪いのは、かつてこの学園を身勝手な理由で襲撃した邪教徒の一団であり、今この学園を祟り付け狙う邪神であるのだから。

「さて、どうするか……」

 ともあれ、依頼を受けたからには動かねばならない。
 だが、正面から無策で飛び込む事は、この状況では下策も下策。
 邪神の感覚を掻い潜るのも難しそうであるし、ここは推奨された偽装工作を施して行くべきであろう。

「ここは……業者、だな」

 学園という組織は、集う生徒に学びを与え、育む場所である。
 だがその学びを与える為に、必要なものは多い。それら必要な物を集める為に、学園は専門の納入業者と契約を交わす事が常である。
 今回剱は、そんな納入業者の一人に扮して校内に忍び込もうと考えたのだ。
 必要になる小道具(納入される教科書を始めとした本など)は、UDC組織に連絡を取ればすぐに手配されるはずだ。
 携帯端末を手に、連絡を入れようとする剱。
 だが、その前に……。

「……っと、その前に。一応、女になっておくか」

 何やら不可解な事を呟く剱。
 一体彼は、何をしようと言うのだろうか?

 ………
 ……
 …

 暫くの後。手配された書籍類を台車に乗せて校内を行く剱の姿があった。
 だが、その姿は常とは大きく違う。
 褐色のその肌と右目を走る傷はそのままであるが、黒の髪は艷やかに腰まで伸び、体付きもどことなく細く、華奢となっていた。
 ……そして違うのは、その姿だけではない。

(……生気が少し欠けてる他には、学生や教師には不審な点は無し、ね)

 胸の内で呟く、その言葉。普通に言葉に出しても、その口調は普段と変わるだろう。
 そう、剱は己のユーベルコードの力を使い、その姿を女性に変じていたのだ。
 ……この学園は、女学園。中で過ごす人々も、基本的には女性が中心だ。
 であるならば、業者の側も配慮して女性を中心に送り出すだろう……そこまで考えてかどうかは、定かではないが。
 何にせよ、剱はその姿を女性に変じたその上で、納入業者に扮して学園に乗り込んでみせたのであった。
 学園に踏み込んで以後、特に剱の周囲に変わった様子は見られない。偽装工作は上手く行ったと見て良いだろう。

(それにしても……前の事件でかなりの人が死んでいるから。それで目を付けられているのかもしれないわね)

 学園内を探索しつつ、思考を巡らすのは何故この学園ばかりが狙われるのかという、その疑問だ。
 とは言え、その疑問に関する答えは比較的簡単に浮かぶ。剱自身が言及しているその通り、以前の事件が原因だ。
 ……凄惨極まりない悲劇に見舞われた、この学園。猟兵達の活躍により多くの人々が救われたのは、事実である。
 だがその過程で、多くの絶望や悲嘆が生まれたのもまた事実。それらの負の感情は、一柱の邪神をほぼ完全な状態で降臨させる程の物であったのだ。
 それほどの、強力な負の感情だ。今この学園に残るそれは、ただの残滓であるとは言え……。

(邪神が目を付けない理由が、ないという訳ね……っと?)

 考えを巡らせつつ、周囲を警戒する剱の脚が止まる。
 ……ここは、校舎の一角。『図書室』のその前だ。
 そんな図書室の内側から、滲み出るような黒い何かを……練り上げられた悪意の様な何かを、剱は感じた。

「お誂え向き、かしら」

 呟き、台車を押して室内に足を運ぶ。
 見た所室内に人影は無く、受付にも『離席中』と書かれた札が置かれたのみだ。
 札の下には、『体調不良で一旦、保健室に行っています』と書かれたメモがある。
 どうやら当番だった学生は、この悪意に中てられて体調を崩したと見える。
 ……そちらの方も気掛かりではあるが、この状況は剱にとって好機でもある。

「今のうちね……」

 呟き、無人の図書室を探る事、僅か数分。
 本棚に収められた書籍の内の一冊に、この場に漂う悪意の根源を見つけ出す。
 ……木を隠すなら森の中、では無いが。どうやらこの場の『邪気の淀み』は、書籍の一冊に擬態していたらしい。
 一般人を相手にすれば、その擬態は完璧だと言えるだろうが……猟兵の目を相手にしては、その偽装はお粗末極まる。

「それじゃあ、お願いね?」

 とは言え、この姿の剱に戦闘力は無い。『淀み』への対処は、別の者に任せる事になる。
 告げる剱の言葉に応えたのは、剱の頭にしがみつく小妖怪と自立して動く南瓜型マンドラゴラ。
 ダイスと蔓が叩きつけられたその瞬間、衝撃を受けた『淀み』は音も無く消え去るばかり。

「随分とあっさりしたものね……」

 その余りにもあっさりとした展開に、剱としては呆気にとられてしまう程である。
 だがまぁ、変に梃子摺るよりは良し。この調子で、もう数箇所は回れれば……。
 踵を返し、図書室を後にする剱。『邪気の淀み』の掃討は、まだ始まったばかりであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルメリー・マレフィカールム
……助かったのに、また酷い目に遭ってる?
……それは、とても悲しいことだと思う。これ以上、被害は出したくない。

この時期は見学を受け付ける学校も多いって、UDC組織の人に教えてもらった。
だから、私は見学者を装う。服も何処かの学校の制服を用意してもらって、それを着て潜入する。

潜入後は「特殊教室棟」を探索。学校の人に案内してもらいながら、一つ一つ教室を確認していく。
案内時間が短くても、【走馬灯視】なら十分に余裕がある。淀みを見落とさないように、しっかり観察する。
もし案内された場所で見つからなかったら、トイレに行くフリをして未探索の場所を探しに行く。

【アドリブ・協力歓迎】





「──それで、ここが特殊教室棟。音楽室や美術室、それに作法室なども……」

 案内役の学生の言葉に小さく頷く、銀の髪の少女。
 ルメリー・マレフィカールム(黄泉歩き・f23530)は、学校見学の中学生を装って学内に入り込んでいた。
 この時期は、進学希望者の学校見学を受け付ける学校も多いと、ルメリーは付き合いのある現地組織の構成員から聞いていた。
 そのアドバイスを元にルメリーは学校に見学を申請し、こうして学内を見て回る事が出来ていた。
 とは言え、問題が無かった訳ではない。

(それにしても、この娘……本当に、中学生かしら?)

 案内役の学生の視線に一瞬浮かぶ、訝しる様な光。
 そう、その問題とはルメリーの体格にあった。
 ……未だ、十にもならない年齢のルメリーである。その体格も、年相応に小柄であり……中学生を名乗るには、少々厳しい所があった。
 そんな相手からの見学の申し入れなど、普通ならお断りされる所である。だがルメリーは今、こうして学内を見学出来ている。
 それは、何故なのか。

(……うーん、でも制服は『着慣れている』みたいだし)

 その最大の要因は、ルメリーにアドバイスをした組織の構成員が用意した制服にあった。
 ルメリーが今纏う制服は、隣県の公立学校で採用されているごくありきたりなセーラー服である。
 だがその最大の特徴は。ルメリーの体格に合わせつつ……見窄らしくない程度に、小さな傷や解れ、シワなどがあることだ。
 ──その様子を見る人が見れば、『三年間、毎日大切に着てきたのだろう』と。そんな時間を想像させるだろう。

(……まぁ、ちょっと小さい娘ならウチの学校にもいるし。気の所為、よね)

 ルメリーに対応する案内役の学生も、まさに今そう認識し。浮かんだ疑念を、捨てた。
 学生ですら誤魔化される会心の偽装である。邪神が気付くはずも無いだろう。
 ……ルメリーにアドバイスし、制服を用意したという組織の構成員の功績は、まさに大。
 『猟兵の活動を全面的にバックアップする』という、その言葉通りの活躍をしてみせたのだ。

「……なに?」
「あっ、いえ。なんでもありません。それでは、実際に各教室を……」

 ……そんな疑念とそれを掻い潜る手柄話が裏ではあったとは露とも知らず。
 小首を傾げるルメリーの問いに、案内役の学生が慌てたように案内を再会する。
 まずは一階から……と。脚を踏み入れた、その瞬間。

(──この感じ。間違いない)

 ルメリーの眼が。肌が。感じ取ったのは、確かな違和感。
 淀み、練り上げられ、滲み出る。そんな強烈な悪意のその気配を、感じ取ったのだ。
 ……瞬間、発動する瞳の権能。死の間際の如く引き伸ばされた主観時間を活用し、場所の特定に取り掛かる。

(……たぶん、三箇所。気配からして、二階に二つ。最後の一つは……そこ)

 ルメリーの視線が捉えたのは、一階のトイレ。
 上階の方も気になるが、今ルメリーの背を見知った顔の女性達、学内に入り込んだ猟兵達が通り抜けていくのが判る。
 ……上の階は、彼女達に任せて問題はないだろう。ならば、自分は……。
 案内役に断りを入れてトイレに踏み込めば、淀む空気はますます重く……一番奥の個室が発生源だと、即座に判る。

(この学校は、折角助かったのに。また、酷い目にあってる……)

 ルメリーも、かつての事件に関わった猟兵の一人である。
 多くの悲惨な光景見た。絶望に震える者を、悲嘆に沈む者を。そしてヒトの悪意が発露するその瞬間を、ルメリーは見たのだ。
 もし、この学園を狙っているという邪神が降臨するような事があれば。あの時の光景が、再び目の前に広がってしまうかもしれない。

(……それは、とても悲しい事だと思う)

 だから、と。制服の懐に隠した、一振りの刃を取り出すルメリー。
 ルメリーが愛用するそのナイフは、大ぶりで頑健。何より鋭利な軍用ナイフ。
 その鋭い切っ先を、目の前に渦巻く『邪気の淀み』の中心点へ叩きつければ……風船が破れ空気が漏れ出るが如く、『淀み』は爆ぜて無へと返る。

「──これ以上、被害は出したくない」

 決意を新たにするように、ルメリーの口から言葉が溢れる。
 困った人々を、救いたい。悪の手から、守りたい。
 幼い魂に宿る正義の心を静かに燃やし、ルメリーはその場を後にし……外で待つ案内役の学生と合流するのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

久遠・翔
アドリブ絡み歓迎
女学園の制服着用


潜入…と、いうかこの学園自体に何度か足を運んでいるので違和感はないと思うっす
理由としては生徒達のメンタルケア…あの事件の後も手が空いたら何度も通っている内に教師の人からも顔覚えられているっす
だから今回もそれで来たけど遅くなった事を伝え学校に入り、残っている生徒の中調子の悪い人が居たら来て欲しいと伝えてくださいと伝える

来た生徒と話す…ただまぁ、何でお姉様って呼ぶんだろう…?(誘惑146)
と、ともかく空き教室で女生徒達のカウンセリングみたいな事をしつつ最近何か変わった事がないかの聞き込みその後調査します
まだ恐怖に怯えていたり邪気に晒された女生徒は選択UCで救出します





「……それで、最近何かこう、問題とかはあったっすか?」

 校舎の二階の端。現在は空き教室となったその部屋で、この女学園の制服を纏った久遠・翔(性別迷子・f00042)が生徒と向き合う。
 一対一の対面形式のその面談の名目は、生徒達のメンタルケア。かつての事件で心に傷を負った生徒達を癒やす、あの事件の後からずっと継続してきた大事な務めである。
 ……とは言え、翔は別にその方面の専門家という訳でも無い。年代的にも少女たちと同年代である。
 傍から見れば、そんな翔がケアを担当するのは若干の違和感を覚えるような光景として見える事だろう。

「いえ、私は特には……あ。でもですね、『お姉様』っ?」

 だが、学生たちはそんな違和感などまるで感じていないらしい。
 むしろ頼れる憧れの存在の元へと通いつめるかの如く、積極的に翔の元へと参じてくる始末である。
 ……そんな翔の存在を、学校側は胡散臭く感じたか。当初こそ、その受入具合は消極的であった。
 だが翔のケアを受けた生徒の回復状況と、現地組織の大人な事情を感じさせる様々な後ろ盾を前にすれば。
 事件から一年が経とうとする現在、今では顔パスで校門を通過出来る程、翔の存在はこの学園に馴染んだ物となっていた。
 そんな生徒・職員の反応を見れば。邪神は若干の違和感こそ抱いた物の、すぐにその警戒心を捨てたらしく。
 翔は堂々と、生徒のカウンセリングを兼ねた情報収集に精励する事が出来ていた。

「うーん、その『お姉様』っての、いい加減ヤメないっすか……?」
「えぇー? でも、『お姉様』は『お姉様』ですし……」

 そんなこんなで、本日のカウンセリングは最後の生徒。
 親しげな様子で翔と言葉を交わすその女学生は、あの事件で翔と同じ教室に囚われていた学生たちの一人だ。
 あの事件の際から、彼女は随分と翔の事を熱の篭もった視線で見ていたが……その熱は今もますます高まっているらしく。
 翔が学園に来訪し面談を行う際は、必ず最後の一人として顔を出し。いつしか『お姉様』と呼び、篤く慕う姿を見せる様になっていた。

(いや、うん。慕ってくれるのは嬉しいけれど。ホント、何で『お姉様』って……?)

 以前は、あの事件という危機的状況を救い出してくれた翔に対する吊り橋効果から……と、そう考えていた。
 その上で、自分の存在が彼女のような存在の支えになるのであれば、と。その立場を受け入れる覚悟も、固めていた。
 ……勿論、今でもその覚悟は揺らいでいない。一人でも多くの罪なき人を救うため、翔は文字通り『己の身体を犠牲にする』という覚悟で、猟兵としての戦いを続けているのだから。
 しかし、だ。

(……この娘はもう、随分と精神も安定してると思うんだけどなぁ……?)

 内心首をひねる翔。どれだけ考えても、翔には少女の内心が理解できなかった。
 ──ちなみにその答えは、翔が振りまく無自覚の『誘惑』のその力によるものであるのだが。
 その事を知れば、翔はきっと己が許せなくなるだろうし……なにより、本気になりつつある少女の気持ちに対しても、失礼だ。
 切っ掛けは超常のその力であったかもしれないが、一人の少女の気持ちに火を付けたのだ。
 今後どうなるかは定かではないが……翔には苦労して頂くとしよう。

「……っと、それで? 何が、『でも』っすか?」
「あぁ、いけない。えぇと、ですね……」

 閑話休題。
 流れを元に戻すように翔が話を振れば、少女の口も本題を語りだす。
 彼女が言うには、最近昼休みに校舎の屋上に立ち入った生徒が、体調不良を訴えるという事案が多発しているそうだ。

(屋上……)

 翔の眼が、鋭さを増す。
 校舎棟の屋上。そこはかつての事件の際の最終決戦の舞台となった場所。
 身勝手な理屈を振り翳した男が邪神を降ろし、そして滅びた場所である。
 そんな場所であれば、邪神の力の残滓……『邪気の淀み』が潜んでいる可能性は、高い。

「……んー、まぁ空調と外気の温度差、かもしれないっすね。それじゃ、今日はもうこんな時間だしもうお終いっすよ」
「えぇー、もうちょっとお話を……」

 誤魔化す様に。だが悟られぬ様に。務めて明るい声を出し、立ち上がる翔。
 荷物を纏めて帰り支度を始める翔に対し、少女が近寄り袖を引くが……。

「しょうがない、っすねー」

 そんな少女の懇願に、根負けしたように。翔の腕が少女を抱く。
 暖かく優しいその包容は、知らず少女の内に溜まりかけていた邪気の残滓を洗い流すが……その事実を知る者は、いない。

「……はい、お終い」
「えぇーっ!? お、お姉様! もうちょっと……」
「だーめ、っす。ほら、遅くなる前にさっさと帰るっすよ?」」

 時間にして、ほんの数秒。包容を解き、少女の背を押し帰宅を促す翔。
 未練有りげに振り返る少女に手を振れば、今日も脈なしかと肩を落として少女は家路に着くだろう。

(……今日の所は、深刻な症状の生徒はいなかったけれど)

 そんな少女の背を見守りながら、翔は思う。
 今日は、まだ大丈夫だった。だが、明日は? 明後日は?
 ……一時間先だって、平和であるという保障など。邪神が這い寄るこの世界には、ありはしない。
 だからこそ、判明した危険な因子は早期に摘み取らねばならない。
 全ては今を生きる人々が未来に進む、その為だ。

「……さて、行くとしますか!」

 空き教室を後にし、屋上を目指す翔。
 目指したそこには確かに、『邪気の淀み』が渦を巻いており……翔はその手で、禍根の一つを断つのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

秋月・信子
●WIZ

…また、ここですか
『土地そのものが相当穢れてるわね。いつも通り影越しに耳打ちするから…どうしたの?また懐かしい?』
…冗談は程々にお願いします

まずはここの生徒さんと錯覚させなければなりませんね
伸びた影の一部を纏い、ここの学園の制服に【変装】します
武器はバイオリンケースの中に収めて携帯しましょう
『変装は上出来だけど、顔だけはここの生徒に成り済ませれないから学校関係者が多い場所は避けたいところね。じゃ、特殊教室棟にでも行きましょうか』
ええ、私もそう考えていました
使われていない空き教室や人気のない準備室…隠れた空間が多いですので
では、そこまでの案内をお願いします
『OK。ナビゲートは任せなさい』


クロエ・アスティン
【太陽の家】
再びあんな事件を起こさせるわけにはいかないであります!
事前になんとか解決してみせるでありますよ!

名門女学校への潜入ということで制服を着て転校生のフリをして学園内を見て回ります。
すれ違う生徒達には、「ごきげんようであります」とあいさつをしつつ気が付いたら『駐車場』へ

ちょっと大きな風評被害がありそうな自動車……が3台も並んでなんだか怪しいであります。
外から車内を覗いてみようとするけれど鏡のように反射して中が見えない……ますます怪しいであります!

ミフェット様にお願いして鍵を開けてもらいましょう。自分はいざという時のために盾を取り出して構えてるでありますね。

※アドリブや連携も大歓迎


ミフェット・マザーグース
制服、制服、同じ服
みんながお揃い、みんなでいっしょ
走らず、歌わず、飛び跳ねず、しゃなりしゃなりと大人しく

【太陽の家】のみんなと一緒に潜入するよ
マコ(f00732)に教わった学園の溶け込み方を実践して、廊下は歩かずそーっと

SPDで判定
マコと手分けして、クロエ(f19295)と一緒に、怪しい場所を探して「情報収集」
クロエの挨拶をみならって「ごきげんよう!」と、すれちがう生徒さんたちに笑顔で挨拶していくね
そして探してるうちに辿り着いたのは駐車場!

怪しいクルマが止めてある?
ちょっとちっちゃいけど、送迎バス、というモノかも?
じーっと近づいて、ヘンならミフェットの髪の毛の先で「鍵開け」してみよう!





「それじゃあ、手分けをして行くであります!」
「マコ、気をつけてねっ?」

 先行するように、足早に去っていくクロエ・アスティン(ハーフドワーフのロリ神官戦士・f19295)とミフェット・マザーグース(沼の歌声・f09867)の二人。
 年齢的にも若年で、その体格も小柄な二人である。転入生を装う様にこの学園の制服を着せてはいるが……邪神の眼は、誤魔化せるだろうか?

(まぁ、クロエちゃんは貴族だったらしいし、ミフェットちゃんは良い子だし。大丈夫、かな? それにしても……)

 そんな年少二人の背を見送りながら、秋月・信子(魔弾の射手・f00732)が息を吐く。
 そうしてそのまま、今の光景を確認しようとするかのように。周囲をぐるりと見渡し、思う。

(……また、ここですか)

 太陽の下に集う三人の少女。彼女達も、かつての事件に関わった猟兵である。
 凄惨な光景と邪教徒の横暴さをその目で見て、怒りに身を震わせたのは記憶に新しい。
 だが信子にとってのこの学園は、また違う意味を持つ場所でもある。

『土地が相当穢れてるわ──どうしたの? また懐かしい?』
「……冗談は、程々にお願いします」

 頭に響く、誂うかのような『姉』の声。返答は思わず不満げな声色となってしまう。
 名門お嬢様学園。そんな学び舎に降り掛かった、凄惨な出来事。
 それらが組み合わさったあの事件は……信子の心の傷を強く抉り、傷付ける物であったのだから。
 今もまだ、信子は自らが帰るべき場所を見つけられていない。そんな状況で思い出を強く揺さぶられた場所に、再び脚を踏み入れたのだ。
 ……憂鬱な気持ちとなるのは、仕方がない事だろう。

『そうね。冗談はともかく……私はいつも通り影越しに耳打ちするから』

 響く『姉』の声は、どこまでも気楽だが……仕事の段となれば、話は別。
 真剣さを帯びた声色に変わった事を感じ取り、信子もその気を引き締める。
 そうだ。この学園が再び惨禍に呑み込まれる事だけは、防がねばならない。
 それが出来るのは……自分たち、猟兵だけなのだから。

『学校関係者が多い場所は避けるべきね。特殊教室棟にでも行きましょうか。ナビゲートは任せなさい』
「ええ、私もそう考えていました。案内をお願いしますね」

 銃器を収めたバイオリンケースを背負い直して、一歩脚を踏み出せば。影が蠢き纏わり付いて、信子の纏う衣服を替える。
 替わったその姿は、この学園の制服姿。どこからどう見ても、この学園の学生の一人に見えるだろう。
 ……とは言え、顔は変えられない。関係者に見つかれば、部外者と判明するのも時間の問題だ。
 信子は大胆に、だが細心の注意を払って……一路、特殊教室棟に急ぐ。



「ごきげんようであります!」
「ごきげんよう!」
「えっ、あ、はい。ごきげんよう……?」

 家路を急ぐ数人の生徒とすれ違いざま、元気に、笑顔で、挨拶をするクロエとミフェット。
 二人の姿に見覚えが無く、首を傾げる生徒達であったが……困惑しつつ、挨拶を返す。

「ねぇ、あんな娘ウチにいたっけ? 随分小さかったけど」
「小さいだけなら、三年生にいなかったっけ?」
「……あ、転入生じゃない? ほら、さっきもいたし」
「この時期、多いのかしら……」

 過ぎ行く生徒達の雑談が、風に乗って聞こえてくる。少々の違和感はあったようだが、どうやら致命的なミスとまではいかなかったらしい。
 ……この調子なら、邪神の監視も誤魔化せるはずだ。

「変装は、上手くいってるようでありますね。しかし、それにしても……」

 ふぅ、と息を吐き額の汗を拭うクロエが周囲を見やる。
 校内の探索を始めてから、どれくらい経っただろうか。
 陽は少しずつ西に傾き、そろそろ防災無線が子供たちの帰宅を促す時間帯となりつつあった。
 そんな状況であるのだが……二人の成果は、現状ゼロ。『淀み』の一つ、その残滓すら見つけられていない状況であった。
 ……まさか、もう全部の『淀み』が片付いたのだろうか。

(……いえ。それは無いはず、であります)

 一瞬浮かんだその考えを、クロエは頭を振って否定する。
 クロエは戦女神を奉じる神官戦士である。その清廉な祈りは、神も甚くお気に入りのご様子で……クロエに多くの力を授け、助けてくれていた。
 そんなクロエが、感じるのだ。まだこの地には、邪気が残っているという事を。
 ……つまり、探す場所が悪いのだろう。まだ誰も行っていない場所。普段生徒が立ち入らない場所が、怪しいか。

(制服、制服、同じ服。しゃなりしゃなりと大人しく……)

 むむむ、と唸りながら歩くクロエ。その隣で小さく鼻歌を口ずさむのは、ミフェットだ。
 大人を除いて、みんなが同じ服を纏うこの場所。
 みんながお揃い、みんながいっしょ。走らず、歌わず、飛び跳ねず。皆が皆、礼儀正しい。
 ミフェットにとってその光景は非常に興味深い物であり、好ましい光景でもあった。
 その結果、鼻歌を歌いだしてしまったのはご愛嬌、と言った所だろうか?
 ……まぁ無駄に騒いでいる訳でなし、廊下をはしたなく走っている訳でもない。
 その辺りは、多めに見て欲しいものである。

「……うーん、ミフェット様。ここはやはり、別の場所を探した方が良さそうであります」
「うん。それで、えっと……どこを探すの?」

 悩んだ末、やはり場所を移そうと結論付けたクロエの提案。
 その頷きつつ、ミフェットの首が傾く。

「えっ、と……具体的な場所は、ちょっと。とりあえず、歩くでありますよ!」

 ミフェットの当然の疑問。だがそれに返す答えが無かったか。
 答えに窮した様に言葉に詰まるクロエが、誤魔化すように歩き出す。

「あっ、待ってクロエー!」

 その後ろを、ミフェットがほんの少しだけ速歩きで追い掛ける。
 年少の二人が向かう先は、一体どこに繋がっているのだろうか。



『ここまでは、順調ね』

 頭に響く『姉』の声に、静かに頷く。
 特殊教室棟を目指し動いていた信子であったが、その行動を阻む者はおらず順調の一言。
 今まさに、建物の入り口へと辿り着いた所であった。

(……前の事件の時も、ここには入りましたけど)

 信子が探索場所としてこの地を選んだのには、理由がある。
 それは、この建物の特殊性。この特殊教室棟には、実験や実習などと言った教室では出来ない特殊な授業を行う為の機能が集約されているからだ。
 ……特殊な機能を集約するという事は、必然機材倉庫や教員の準備室なども併設されるという事だ。
 つまり、この建物内は……隠れた空間が、他の地よりも多く在るという事である。

(隠れ潜むなら、こういう空間が……?)

 考えを巡らせつつ足を踏み入れようとした瞬間。通り過ぎる影に気付く。
 信子と同じ制服を纏う銀の髪の少女と、スーツに身を包んだ同じく銀の髪の女性。以前、この地で見た覚えのあるその姿。建物の内部を見れば、先日一緒に行動した少女の後ろ姿も目に映る。
 ……成程。信子と同じ様に、この建物の特殊性を怪しんで動いた者達が、多数いるようだ。

『先行した二人は、音楽室に行くみたいね。なら私達は……』
(準備室の方へ、ですね)

 トイレへと踏み込んでいく小さな背を見届けつつ、信子もまた建物に脚を踏み入れて階段を昇る。
 目指すは音楽準備室。一つ、二つと消えていく『邪気の淀み』と同質の気配が漂う、その場所であった。



 同時刻。クロエとミフェットの状況にも、変化が訪れていた。
 ウロウロと敷地内を歩く二人の目の前に広がる、広大な空間。
 アスファルトで舗装され、白線でスペースが区切られたその場所に並ぶ、多数の鉄の塊。

「駐車場、でありますか……」

 クロエの呟きのその通り。この地は駐車場。教職員や搬入業者が使う車を留め置くその場所であった。
 ……並ぶ車は、多種多彩だ。その大きさも、大小様々である。
 だが、その一角に……。

「クロエ、あれ。あの車……」
「同じ車が、三台並んで……で、ありますか?」

 白いワゴン車が三台。並んで停められていた。
 ……その車種は、過走行に耐えられる頑健さとエンジンパワー、何より積載量の多さ等から配達業者や運送業者に人気の車種。
 とある国ではその車種をベースに武装化を施されたり、フィクション界隈では誘拐犯御用達であったりと、何かと風評被害を受けている車種でもあった。
 そんな車が、三台横に並んで停まっているのは……どうも怪しい感じがする。

(車の中は……むぅ?)

 小さな体でぴょんぴょんと跳ねながら、車の中を覗き込むクロエ。
 一台、二台は中を覗くことが出来たが、最後の一台の窓ガラスはまるで鑑のように反射して中が見えない。
 ……これはますます怪しい感じだ。

「ミフェット様……!」
「う、うん。開けてみるね……!」

 クロエの呼び掛けに従って、ミフェットの触手の髪が蠢く。
 細く長い髪の毛の先を鍵穴に押し当て、流し込み、鍵穴の形に構築して。
 鍵を開けようとした、その瞬間だった。

 ──チリリッ。

「──危ないッ!!」

 クロエの髪に飾られた、戦女神の聖印が揺れる。
 同時にクロエの頭に過る第六感。危機感に突き動かされるまま、一歩二歩と前へと進み盾を構え──。

 ──ボスンッッッ!!!

 ワゴン車が、爆ぜた。
 吹き出した空気が駐車場を突き抜け、停まる鉄の塊の数々を大きく揺らす。

(コレは、邪神の邪気……! まさかこの車に擬態していたでありますか!?)

 ワゴン車から吹き出した空気の中に含まれる邪気に、クロエの目が鋭く細まる。その直感は、正しい。
 クロエ達が見つけたその車こそ、『邪気の淀み』が姿を変じた擬態であり……ミフェットが鍵穴を刺激したその結果、溜め込んだ邪気が放出、崩壊するに至ったのだ。

「み、ミフェット様! ご無事でありますか……!」
「う、うん。クロエこそ……」

 猛烈な邪気の風が吹き荒れ、収まり……クロエとミフェットは、お互いの無事を確認する。大丈夫、特に目立った怪我は無い。
 だが、しかし……。

「この、悍ましい空気。まさか、今ので……」

 呟き、周囲を見渡すクロエ。見た目には、突風が吹き荒れた以外の変化は無い。
 だが、しかし。空気の中に漂う、邪気の念。薄く、しかし重いその感覚が……まるで学園全体を覆い尽くすかの様に広がっている事が、クロエになら判るだろう。
 ……猟兵達の破壊工作を察知し、邪神が遂に強硬策に出てきたのだ。

「クロエ……」
「──信子様と、一旦合流しましょう。それから、この後の事を……」

 不安げな表情のミフェットの手を取り、その場を離れようと動き出すクロエ。

 純潔の花々が集う、学舎の園。
 その地を包む悪夢が、始まろうとしていた──。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『嗚咽への『影』』

POW   :    嗚咽への『器』
戦闘力が増加する【巨大化】、飛翔力が増加する【渦巻化】、驚かせ力が増加する【膨張化】のいずれかに変身する。
SPD   :    嗚咽への『拳』
攻撃が命中した対象に【負の感情】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【トラウマ】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    嗚咽への『負』
【負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【涙】から、高命中力の【精神をこわす毒】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 猟兵達の活躍により、女学園各所に潜んでいた『邪気の淀み』の多くは破壊され、祓われた。
 だが、その破壊工作は上手く行き過ぎた。順調に破壊しすぎたか……邪神が猟兵の存在を、遂に感知したのだ。

 ──いつもご利……いま……。

 頭上を見上げれば、浮かび漂う悍ましき影。
 空をふわふわと漂うアドバルーンの如きその影から発せられる音声が響けば、生きとし生ける全ての者の心に過る不安と悪意。
 ……人々の負の感情を膨れ上がらせ、未来という光を奪う。邪神のその姿が、そこにはあった。
 邪神が漂うのは、運動場の上空だ。一刻も早く、邪神を討ち取らねばと急く猟兵達のその脚が、止まる。

 ──ォオオ゛……アァァ゛……!

 校内各所から響き渡る、嗚咽に似た声。
 不定形の影に似た邪神の眷属が、猟兵達の行く手を遮ったのだ。

 ──ナンデェ……ワタシタチダケェ……!!

 影は嘆く。
 何故自分達だけが、こんなに苦しまねばならぬのか、と。
 何故自分達だけが、こんなに悲しまねばならぬのか、と。
 ……何故、周りの人々は。自分達を、苛むのか、と。

 ……勘の鋭い者ならば、気付くかもしれない。
 この影は、過去の事件の被害者達の無念であり、今を生きる学生達の苦しみ。
 数多の負の感情を、邪神が練り上げ形とした……『嗚咽への影』である、と。

 ──アナタタチモ、イッショニィィ!!!

 仲間を求めるかのように、藻掻き苦しみながら。影が、蠢く。
 悲嘆と嗚咽を具現化した存在を、猟兵達は討ち祓う事が出来るだろうか……?

 ====================

●第ニ章、補足

 第ニ章は、集団戦。相手は『嗚咽への『影』』となります。

 第ニ章の成功条件は、『敵の撃破』です。
 『邪気の淀み』を破壊し邪神の降臨に気付いた猟兵達に対し、『影』達が阻むかのように立ち塞がります。
 その『影』を祓い、運動場へと急ぐ事が第二章の目的です。

 『嗚咽への『影』』は人々の負の感情から生じた影。
 他者の心に『どうしようもない』負の感情を植え付け、仲間とする事に飢えているという性質を持ちます。
 今回の場合、元となった感情は本文の通り。
 力押しでの撃破も難しくありませんが、その辺りの事情を汲み取り動くと良いかもしれません。

 戦場のシチュエーションは、『(運動場を除いた)女学園内の各所』。
 (運動場以外であれば)どの地を戦場として選んでも構いません。
 戦いやすい環境を選び、活かし、影の撃破にお役立て下さい。

 また、一章の際にいた学生の多くは家路に着いておりますが、まだ一部の学生・職員等が学内に取り残されています。
 一般人の救助を行う際は、プレイングにご記載下さい。
 救助を優先するか、突破を優先するか。皆様の選択で、三章の状況が変化します。

 突如顕れた邪神と、その眷属。
 悲嘆と嗚咽が響く学内を、猟兵達が駆ける。
 皆様の熱いプレイング、お待ちしております。

 ====================
四王天・燦
《華組》

邪神が何しても集った猟兵なら絶対勝てる!
生者の救助が最優先だ

今回も手分け
シホが怪我しないか心配ばかり
適宜連絡を取り助けた人を救園に預ける

詩帆はナイスナビ
愛してるぜ

生者の声に耳を澄ます
ピンチなら大声で影を自身へおびき寄せながら要救助者を目指すぜ

影を鎮魂すべく慰めの稲荷符を浴びせる
嗚咽が弱まった機に伍式で葬送

影に教信者戦で見た亡骸の少女を感じたら
間に合わなかったことを詫びる

かつて間に合わなかった女生徒達への申し訳なさ・生と死を冒涜する邪神への怒りは負の感情かもしれない
でもアタシはこの感情を否定したくない!
気合一閃、狂気耐性を爆発させ精神毒を振り払うぜ

シホと声を合わせ願う
安らかに眠れますよう


シホ・エーデルワイス
《華組》


失った邪気を一気に補充して復活する気ね
させません!


『詩帆』が監視カメラで残っている人の所在をチェックし
放送で救助に向かう味方を案内
私も燦と手分けして救助活動

聞き耳と第六感で探し
見つけたら危険から庇いつつコミュ力と手を繋ぐで安心させ【救園】へ匿う

敵の嘆きは寄り添い受止める覚悟と勇気で
毒・呪詛・狂気耐性で抗いつつ
負の感情を和らげる優しき浄化属性攻撃の光で葬送


ごめんなさい
私達でも全ては救えません
けど
苦しむのは貴女達だけではありません

生き残った人達も
同様に苦しみ生き続けます

私も…前世の死後
同位体達から託された想いを背負っています

願わくはその悲嘆を共有する事で
苦しみが和らぎ
安らかに眠れますように





 突如学内を覆い包むように広がった、重く苦しい空気。
 その内に込められた『邪気』を感じ、燦とシホが並んで駆け出す。

 ──体育館にいっぱい! それと、管理棟に、広場にも……!

 瞬間、響く校内放送。子供の様に高いその声の主は、シホの生み出した電子幽霊だ。
 電子幽霊は、校内ネットワークを通じて監視カメラの映像を確認していた。
 その情報を元に、校内放送という形で校内に残る一般人の所在を猟兵達に告げているのだ。

「詩帆、ナイスナビ! 愛してるぜ!!」
「もうっ、燦はそんなことばかり……」

 響く放送に軽口を叩く燦。そんな軽口にため息を溢すシホ。
 日常的に見られる軽やかなやり取り。だが二人の表情は、真剣そのものだ。
 猟兵達の活躍により、『邪気の淀み』の多くは祓われた。
 だがその結果、邪神は強硬策に出た。学内にいる一般人を苦しめ、負の感情を揺り動かすことで……失った邪気を補充する事を企てたらしい。
 邪神のその目論見を、見過ごすことなど出来るはずがない。

「──まずは、生者の。一般人の救助が最優先だな?」
「えぇ。邪神の狙い通りになんて、させません!」

 かつてのように、いつものように。
 傷つけられた人々を、力なき人々を救う。その為に。
 まずは体育館へ向けて、二人は駆けて、駆けて……。

 ──ァ゛ァ゛……!

 道を阻むかのように、体育館の入り口に湧き出した『影』と、遭遇する。

「行け、シホッ!」

 瞬間、燦の口から響く裂帛の声。
 同時に破魔の力篭もる霊符が空を切り裂き翔び行けば、力に怯んだ『影』の列に綻びが生じる。

「お願いします、燦!」

 その綻びを縫う様に、貫く様に。
 シホの身体が飛び込んで、体育館の中へと消えていく。
 ……二人の考える、一般人の救助プラン。その実行の為には、シホが一般人と接触しなければ始まらない。
 シホを体育館の中に送り届けた事で、まずは作戦の第一段階は達せられたと言って良いだろう。
 燦としては、後はこの場で出来るだけ多くの影を惹き付けて。シホの動きをサポートしたい所だが……。

「さぁ『影』どもめ、ここから先は通さ……ッ!」

 大見得を切る様に口上を上げた燦のその動きが、止まる。
 その目に映るのは、一体の影。その顔に浮かぶ表情を、燦は見たことがある。

(あの時の……!)

 それは、かつての事件の事。
 学園に降り立った直後、燦が目にした事件の犠牲者と思しき女学生。その遺体が、浮かべていた表情であった。
 ……俯せになり事切れたその瞳に浮かぶ、恐怖と絶望。その悲惨な姿を、忘れることなど出来るはずも無い。

「……く、そッ……!」

 ギリィッ、と。響くような音を立てて噛み締められる奥歯。
 燦の心に、黒い影。「負の感情」が、湧き上がっていく……。

「これは……っ!」

 一方、体育館に突入したシホである。
 体育館には、恐らく部活動の最中であったのか。30人程のユニフォーム姿の女学生と顧問の教員が、苦悶の声を上げて倒れ伏していた。
 慌てて近くの学生に駆け寄るシホ。脈を取り、顔色を見てその様子を伺って……。

(……良かった、重篤な状態では無さそう)

 その様子に、ほっと安堵の息をつく。
 運動部の学生というだけあってか、彼女達は皆それなりに鍛えられているようで。
 磨き上げられた体力のおかげで、邪気の侵食と消耗を多少なりとも抑え込めているらしかった。
 ……とは言え、このままではそう長くは保たないだろう。救助をするなら、早い方が良さそうだ。

「……大丈夫、心配しないで。私の手を取って……」

 安心させるように、努めて優しい声色で。だが必ず助けるという強い意志を込めて。
 白く柔らかなシホの手が学生に向けて差し出されれば。
 苦しむ学生は助けを乞うように、だが信じて良いのかと疑うかのように。恐る恐ると言った様子で、その手を取る。

「私が呼ぶまで、決して外に出てはいけませんよ?」

 手と手が触れ合った、その瞬間。輝く光が学生の身体を包む。
 光の中に解け消える学生の身体。その光は舞い踊るかのように揺らめいて……シホの胸に輝く十字架に消える。

「──中でくつろいで、待っていて下さい」

 十字架の先は、シホが創り出したユーベルコード製の部屋へと繋がっている。
 保存食と寝台を完備したくつろげる雰囲気のその部屋の中でなら、学園を包む邪気の影響も届かぬはずだ。
 ……この空間に、人々を避難させ。その後、邪神を打ち倒す。
 燦とシホが打ち立てた作戦は、このような物であったのだ。

(……さぁ、次の人を……)

 一人を救い、次の人を、また次の人を。シホの動きに、迷いも淀みも無い。
 救助作業は順調に進み、ついに最後の一人のその手を取った……その瞬間だった。

「……ぁっ、うしろ──!」
「えっ……っぅ!?」

 光に溶ける少女があげた声に振り向けば、そこにいたのは一体の『影』。
 いつの間に。そう考える間もなく飛ばされた涙の雫にシホの身体が濡れ……。

「くっ……!」

 膝を突くシホ。その心に湧き立つ負の感情は、影の元となった被害者たちの無念の嘆き。
 その嘆きは、シホの心の奥底に宿る記憶を刺激し、蠢き……シホの心を塗り潰そうと、染み渡っていく。
 だが……。

「ごめん、なさい……」

 膝を震わせながら立ち上がるシホの目に浮かぶのは、未来を見据えた強い意志。
 ……いくら理外の力持つ猟兵と言えど、全てを救う事など出来はしない。その事を糾弾するかの様な嘆きの声に、確かに心は痛みはする。

「けれど、苦しむのは貴女達だけでは、ありません……」

 そうだ。苦しんでいるのは、犠牲者達の無念だけでは無い。
 事件を超え、今を生き抜く人々も。同様に、苦しみを抱えているのだ。
 その上で、生者は明日を生きねばならない。ある意味では、犠牲者達よりも辛く険しい道を往かねばならぬのだ。
 ……その辛さは、数多の同位体から託された想いを背負うシホであれば。痛いほど、判る。

「だから、貴女と共にはなれません。願わくば──」

 その悲嘆を共有し、苦しみが和らぎますように。
 放たれた光の波動は、負の感情を和らげる優しき光。
 悪しき者を浄化し癒やす、覚悟と勇気の光である。
 眩しく輝く波動を受けて、『影』のその身体が掻き消えて──。

「──くっ、ぁぁぁアアアッ!?!?」

 ──悲鳴が、上がった。精神を壊す毒を受けた、燦の悲鳴だ。
 見知った面影に、負の感情が膨れ上がった燦。その心の変化に反応したかのように、『影』の動きは活発となり……今、痛烈な一打を受けたのだ。
 心を、頭を。満たし狂わす、悲嘆の毒が巡る。同時に膨れ上がるのは、面影を残す彼女への申し訳無さと、生と死を冒涜する邪神への激しい怒り。
 ……心を満たしつつあるその感情を捨て、迫る敵を淡々と処理すれば。きっとこの苦しみからは、開放されるだろう。
 それは、判っている。けれど──!

「アタシは! この感情を否定したくないッッ!!」

 喉を衝く咆哮。
 魂を震わせ、気合一閃。身を冒す毒を、霊気で弾く。
 力技で毒を耐え凌ぐ燦の姿に、『影』も思わず驚きを得たか。ほんの一瞬、その動きが止まる。
 ……その一瞬は、燦にとっては十分な隙だ。

「──破ッ!」

 再び放たれた、破魔の札。
 邪気を切り裂くその符を受ければ、邪神の力に翻弄され捻じ曲げられた悲嘆の念も、ほんの僅かに静まるだろう。

「……ごめんな。あの時、間に合わなくて」

 動きを止める『影』達。その姿へ向けて詫び、黙して礼を捧げつつ。
 手を振り喚び出すは、450に迫る炎の数々。慈悲の力で燃え上がる、狐火の群れだ。

「御狐・燦の狐火をもって。苦痛なく安らかに、彼岸の向こうへと渡り給う──」

 そっと押し出された炎が飛び、影の身体を灼いていく。
 悲嘆のその感情を燃料に、炎は熱く、高く燃え上がり……影のその姿を、掻き消していく。

「「──安らかに、眠れますように」」

 消え行く影。天に昇る煙。
 葬送の光景を眺める燦とシホの口からは、奇しくも同じタイミングで同じ言葉が紡がれるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

備傘・剱
未練か…
俺、少しでも、こいつらの未練を晴らしてやることが、できるんだろうかな

一般人の救出を最優先とさせてもらう
未練に取り込まれて未練を残すなんざ、勘弁してほしい所だからな

で、影には、効果があるかどうかは解らないが、八咫導、発動させて破魔と浄化を載せた拳で、なんとか、優しく成仏させてやれねぇなか?
未練があるのは解り切ってるが、それを抱えたまま、あの世に行くよりは、少しはましだと、思うんだよ
結界術で抑え込めば、そう難しくはあるまい

邪神に対する怒りや憎しみは俺がキッチリ落とし前をつけておいてやるからな
終わっちまったお前らは…、あの世って所に言って、次の生って奴を享受してほしい

アドリブ、好きにしてくれ





 図書室を始め数カ所に点在していた『淀み』を破壊し、剱は一旦正門前に戻っていた。
 納入業者を装う以上、必要以上に校内にいれば怪しまれるのは必定。探索を続けるのならば、変装を替える必要があると考えたのだ。

(……さて、どうするべきか──ッ!?)

 男の姿へと身体を戻しつつ、ふむと考える剱。
 瞬間、ぞわりと背筋が粟立つ。直後吹き抜けたのは、猛烈な勢いの風。
 まるで鎌鼬の様な肌を切る様なその風に含まれている邪気を、剱の肌は確かに感じ取る。
 慌てて周囲を見渡せば、路上に倒れ伏し苦しむ生徒、職員の姿。
 空を見上げれば運動場の上空に、巨大な風船の如き奇怪な影の姿が見えるだろう。

「まさか、もう降臨したのか……!」

 ……いや、好都合だ。
 邪神の力の根源となる『淀み』を破壊したことで、ヤツは本調子では無いだろう。
 ならば、討つべきは今。この学園を狙い祟る存在を、掃討する……!

 ──ォ゛オ゛……ァァァァアアア!!

 だが、剱のその行く手を遮るかのように。顕れ出る、無数の『影』。
 その嘆きに満ちた呻きを聞けば、判るだろう。
 『影』は邪神の眷属である事を。
 『影』はこの地に漂う負の感情……無念と未練とが練り上げられた存在である事を。
 そして何より。放っておけば、一般人達を次々と取り込み……同族を創り出し続けるだろうという事を。

「本命の前に、一般人を保護せねばならんか」

 拳を構え、意識を集中する。
 同時に身体の内で練り上げるのはサイキックエナジー。腕を包むガントレットが共鳴し、練り上げられた力を膨れ上がらせていく。

「未練に取り込まれて未練を残すなんざ、勘弁して欲しい所だからな……!」

 膨れ上がる力が、臨界を迎える。
 爆ぜ散るサイキックエナジーが、空間に漂う邪気を祓い……暖かな光に満ちた一筋の路を創り出す。

「正しき道、説き示せ八咫烏」

 拳に浮かび上がる巴紋。神話に謳われる太陽の御使いを示すその紋が司る権能は、導き。
 悔い、嘆き、怒り、無念……様々な負の感情に迷う者達を浄化する、慈悲の力が光り輝き……。

「──太陽の路とは、汝の事なり!」

 拳が、振り抜かれた。
 瞬く閃光。光は無数の粒子となって広場を駆け抜け……押し寄せる『影』を包み、掻き消していく。

「怒りや憎しみは、俺がキッチリ落とし前を付けておいてやる。だから……」

 お前らは……あの世って所に行って、次の生って奴を享受して欲しい。
 死後の安息を願う剱の餞の言葉に、掻き消える『影』は答えない。
 ただただ静かに、穏やかに。光の中へ、消えていくのみだ。

「……少しでも、未練を晴らしてやることが出来たんだろうかな」

 瞑目し、小さな嘆息と共に呟かれたその言葉。
 だが次の瞬間、開かれた剱の目に浮かぶのは……鮮烈なまでの、強い戦意。
 邪神を討ち、未練を晴らすその為に。剱は強く、拳を握り締めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミフェット・マザーグース
おっきい、おっきいオブリビオン
苦しい気持ちが膨らんで、より集まって
ひとりぼっちは寂しいよね

【太陽の家】のみんなと一緒に行動
マコと合流して、逃げ遅れたヒトたちを助けるよ

オブリビオンが増幅するのはココロのくるしみ、わるいゆめ
みんなが負けそうになってたら「楽器演奏・歌唱」でみんなを「鼓舞」するよ

UC【田園を照らす暖かな陽の光の歌】
目を閉じて、頭に思い描くのは、帰るおうち、安心できる居場所
ミフェットに見えるのは『太陽の家』のイメージ
みんなには、どんな風景が見えるのかな?
あのオブリビオンには……
みんなが回復したら歌を止めて、避難のお手伝いをがんばるね!


クロエ・アスティン
【太陽の家】
信子様と合流するために特殊教室棟の方に向かいますが
途中で襲われている女生徒を見つけて助けるために飛び込みます!

どこか見覚えのあるブカブカの制服を着た小さな少女を庇って『拳』を受けてしまいます。
影のトラウマと自身のトラウマが重なり「ひぃっ、もう、こんなのやだー」と震えながら体を丸めます。
けど、聞こえてくるミフェット様の歌声と守るべき少女の悲鳴に我を取り戻します。

自分は……自分を助けてくれた冒険者みたいになるって女神様に誓ったでありますよ!
助けてあげられなくてごめんであります……でも、これ以上不幸な人を増やすわけにはいかないであります!
【破魔の聖光】で影を打ち払うであります!


秋月・信子
●SPD
【太陽の家】
突然頭に鳴り響くサイレンのような嗚咽
意識が鉛のように重くなる頭鳴りの中、気づけば廊下には壁のようなバリケードが作られている
…壁の奥から誰かの悲鳴が聞こえる
そう、あの時も…同じように……

いえ、これは私の"記憶"
溢してしまった水は元には戻せない
けども…今、目の前のそれを防げるのなら…ッ!

影よ、影の豹よ
まやかしの壁を越えなさい!
声の主を救出したならば、最短コースで窓から外に脱出です
そうだ…クロエちゃん、ミフェットちゃん!
二人と合流するべく影の黒豹を疾走らせながらバイオリンケースに収めていた銀の散弾を装填したショットガンを取り出し、影の中に蠢く負の感情に狙いを定め、闇を祓いましょう





 学園に満ちる邪気。各所から響く悲嘆の嘆きを掻い潜るように、ミフェットとクロエが駆ける。
 遠く頭上に漂い見える邪神。人の心を負の方向に掻き乱す悍ましきその存在を討つ為に、まずは別行動している仲間との合流が先決だ。
 目指す先は、姉と慕う仲間のいる特殊教室棟。だが、その最中。

 ──ゥァ゛ァ゛……!

「ひっ!? い、いやっ……!?」

 今まさに学園の女生徒に襲い掛かろうとする『影』のその姿を、二人は見る。
 襲われている少女は、どこかで見た覚えのある姿。人一倍小柄で、ブカブカの制服を着たその姿は……かつての事件の折、音楽室で救った少女のその姿と一致する。
 ……その光景を見れば、クロエは慌てて進路を変える。自慢の盾を投げ捨てて、身軽となった勢いで一気に距離を詰めて……。

「危ないであります──ッ!」

 『影』と少女の間に割って入る。
 瞬間、クロエの胴を貫く鈍く重い衝撃。肺を圧迫され、息が止まり……クロエの膝が、折れる。

「……クロエ?」

 膝を折ったクロエのその姿に、首を傾げるミフェット。
 いつものクロエであれば、ここで崩れる事など無い。一歩踏ん張り、守るべき存在の為に奮起を見せるはず。
 だが、崩れ落ちたクロエが立ち上がる様子が無い。
 それどころか……。

「っ、ひっ!?」

 そのまま頭を抱え、縮こまってしまう。
 ……『影』のその拳には、相手に『負の感情』を想起させる力がある。
 その力により、クロエは過去のトラウマを呼び起されて。戦意を失ってしまったのだ。

「クロエ、クロエっ!?」
「も、もう! こんなの、やだぁっ!?」

 かつての戦いで乗り越えたと思ったそのトラウマは、やはり相当根深かったか。
 ミフェットの呼び声にも、クロエは頭を振るばかり。

 ──アナタモ、イッショニィィ……!

 呻くかの様に響く『影』の声。恐怖に竦み、縮こまるばかりのクロエは動けない。
 ゆっくりと『影』の拳が振り上げられて……少女の悲鳴が、木霊した。



「──くっ、ぅ、ぁッ……!?」

 突然頭に鳴り響いたサイレンの様な嗚咽。
 鉛のように重くなる頭鳴りに意識を持っていかれそうになるのを何とか耐えて、信子は何とか音楽準備室から抜け出した。

「ねえ、さん……? っ、うぅ……!」

 自身の内に宿る『姉』と意識を繋げようと試みるも、本体である信子の不調に『姉』の意識も途絶えたか。応じる声は、聞こえない。
 ますます酷くなる頭痛に蟀谷(こめかみ)を抑えながら、信子がゆっくりとその視線を上げると……。

「これ、は……」

 そこにあったのは、廊下を塞ぐように立つ壁。
 机や椅子、掃除ロッカーやありあわせの資材で作られた、簡易的なバリケードだ。
 ……信子は、この光景を知っている。

 ──いやっ、いやぁぁぁ!!!
 ──たすけっ、誰か、助けてぇっ!?

 壁の向こうから聞こえる、誰かの悲鳴。
 ……そうだ。この光景を、信子は知っている。

「あの時と、同じ……!」

 目に浮かぶ壁は、信子の心のトラウマを示す物。
 ……そう。それは、信子の『記憶』が生み出した幻だ。

(溢してしまった水は、元には戻せない。けれど──!)

 ぎりっ、と。響く頭鳴りを抑え込むかのように奥歯を噛み締める。
 歯が割れ、鮮血が吹き出るが……そんな物は、気にしない。どうせ後で治療が出来る。
 そんな事より、大切なのは。今、しなければならないことは……!

「『あの時』の悲劇を、防げるのなら……ッ!!」

 信子の身体を纏っていた『影』が解け、別の形を創り出す。
 それは、剽悍な四足獣。靭やかな運動能力を誇る、『黒豹』だ。
 バイオリンケースに収めた銃器を手に、その背にスッと跨って。
 決然と、信子が叫ぶ。

「──影の豹よ! まやかしの壁を超えなさい!!」

 主のその意を受けて、豹が駆け、跳んだ。
 高く積み上げられたまやかしの壁を飛び越えたその瞬間、壁は瞬時に雲散霧消し……眼下に震える学生達に今まさに圧し掛かろうとする『影』を、信子はその目に見るだろう。

「やらせません!」

 状況の把握は一瞬。目標の優先順位を決めるのも一瞬。
 銀の散弾を装填した散弾銃を構え、発砲する。

 ──バスンッ! バスッ、バスッ!!

 古来より、銀とは邪なる存在を退ける力を持つものとされる。
 破魔の力宿るその弾丸に触れれば。学生達に迫る『影』は、その存在の痕跡を一欠片も残す事無く蒸発していく。

「逃げて下さい! 学外へ、早く!」

 一瞬のその出来事に、何が起きたか理解が及ばぬ学生たちへ声を掛ける信子。
 だが、それ以上の事は出来ない。本来なら、彼女達を安全圏まで送り届けるべく護衛もするべきなのだが……。

(クロエちゃん、ミフェットちゃん……!)

 今は、そうする余裕も無い。
 一家の『長女』として、同じ家で暮らす妹達を守らねばならぬのだ。

「今、行きますからね……!」

 疾走する影の豹のその背の上で。
 信子は妹分達の身を、案じていた。



 ──少女の悲鳴が、響く。
 守るべきその存在の悲痛な叫びに、蹲るクロエの身体がビクリと跳ねる。
 ……恐怖に怯えたのか。いいや、違う。

「……じ、自分、は……!」

 クロエは、かつて自分を助けてくれた冒険者の様になると。戦女神に誓いを立てた、神官戦士である。
 そんな自分が恐怖に震え、無様を晒すなど。信仰する神に、申し訳が立たないではないか。
 クロエを僅かに奮い立たせたのは、その心に宿る篤く熱い信仰心の発露であった。
 ……だが、しかし。

「……っ、ぁ……!」

 ガクリ、と揺れる膝。
 未だ恐怖は身体から抜けきらず、魂を奮い立たせるだけでは立ち上がることもままならぬ状況だ。

(クロエを、応援しなきゃ……!)

 そんな友達の姿を支える様に、ミフェットが動く。
 取り出したのは、愛用のテナーリュート。弦を爪弾き奏でる音に、想いを乗せて詩を紡ぐ。

 ──目を閉じて ほんの少しだけ 思い出して
 ──胸のそこにしずんでる 暖かいばしょ

 その歌は、聞く人々の心を癒やす風景を想起させる歌。
 聞く人によって、抱くイメージは千差万別だ。
 だが、多くの人が思い浮かぶイメージは。きっと、帰るべき家の姿。暖かな家族の待つ、その場所であるだろう。
 流れる旋律。郷愁を誘うかのようなその音に……蠢く『影』が困惑したかのように、動きを止める。

(……みんなには、どんな風景が見えるかな?)

 ミフェットに浮かぶイメージは、自身が今暮らす家。
 暖かく命を照らす太陽の様な、心休まる大事な場所だ。
 ……きっと、共に暮らすクロエも。見えるイメージは、一緒のはずだ。

(なら、あのオブリビオンは……?)

 あの『影』が、かつての事件の犠牲者の無念や怒りが元となったのであれば。
 彼ら、彼女らだって。きっと、家に帰りたいと。そう願うはずだ。

(帰りたいけど、帰れない。苦しい気持ちが膨らんで、より集まって……)

 そんな純粋な想いを。邪神は弄び、元の願いを見失わせる程に膨れさせ。『負の感情』として、解き放ったのだ。
 だが、それでも。せめて仲間を。悲嘆に昏れる輩を……ひとりぼっちは、寂しいからと。
 ……そんな想いを抱えて、『影』は蠢くのだ。

(でも、それはわるいゆめだから。わるいゆめからは、解放してあげなくちゃいけないから)

 ──その陽の光は いつでもみんなを照らしてる

 胸に湧き立つ感情を篭めて、ミフェットは唄う。
 友達を、支えたい。人々を、守りたい。そしてこの『影』をも、救いたいと。
 心を篭めて、ミフェットが歌い上げていく。

「……これ以上、不幸な人を増やすわけにはいかないであります……!」

 そんなミフェットの心に触れて、クロエが顔を上げる。
 クロエの表情は、まだ青白い。だがその目にはしっかりとした理性の光が宿っていた。
 力無き人々を、守る。その使命を果たすべく、ゆっくりと掌を『影』へと向けるクロエ。
 その掌に、暖かくも鮮烈な光が瞬いて……。

「『あしきもの』を払う、光あれ──!」

 破魔の力が、解き放たれる。
 沈んだ太陽が今一度輝いたかのようなその閃光が輝けば、『影』は光に呑まれて消え行くのみだ。

「クロエ!」
「じ、自分は、大丈夫であります。それより、そちらの女の子を……!」

 『影』を飲み込む光が消えて、力尽きたかのように再び崩れるクロエ。
 心配するかのように駆け寄るミフェット。だがクロエのその声を聞き、慌てて少女の様子を確認し……。

「──二人ともっ! 大丈夫っ!?」

 直後、響く声。
 二人が顔を向ければ、そこには黒豹に跨った信子の姿。
 紆余曲折を経て、太陽に集う少女達は遂に合流を果たしたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

久遠・翔
真の姿開放
アドリブ絡み歓迎


まずい!まだ先生やあの子が残っている!と真の姿を開放して職員室に急行
悲鳴を聞きつけ見つけると影の間に割って入る
大丈夫、落ち着くっす!俺がこの場を引き受けます!

避難させようにもこう数が多いと守りながらじゃないと…安全な道を確保しつつ裏門まで逃げ遅れた人を避難させます
避難させた後は取り残された生徒がいないか飛び込んで探します

ただ、目立つように動いてたので影に囲まれて抱き着かれ思いっきり負の感情が流れ込みます
そうか…この子達はあの時の傷を今でも…

そう思うと…影を抱きしめます
ごめんね、苦しませて
ごめんね、悲しませて
UCを発動させて嘆きを介抱します
そして…その痛みを引き受けます





 その身に纏うは、純白のドレス。額を飾るは銀に輝くティアラ。
 翔は真の姿を晒し、二振りのククリナイフを油断なく構える。
 だが……。

「ハッ……ハッ、ハッ……!」

 その肩は大きく揺れ、呼吸は荒れる。
 見ればドレスの各所は汚れ、破れ。その下の白い素肌には『影』の残滓が滲んでいた。

(……何とか、『あの子』や先生達は逃がせたっすけど……!)

 校舎棟の屋上に潜んでいた『淀み』を破壊した直後、翔は学園に生じた異変に気付いていた。空に浮かぶ邪神の姿を目にし、その降臨に一番最初に気付きもしていた。
 ……悍ましき、邪神のその姿。その姿を見れば、心を不安に苛まれるか。はたまた正義の怒りを燃え上がらせるか。
 だが翔の心に過ぎったのは……自分がこの学園で縁を重ねてきた人々の、安否であった。

『──まずい! まだ、先生や『あの子』が……!』

 刹那、真の姿を解き放ち。校舎を駆けて、駆けて。
 『影』に襲われかけていた『あの子』を。管理棟の職員室に集まっていた教職員達を。
 管理棟に居た多くの一般人達を、翔は己の身を盾にして救い出し……何とか学外まで、避難させる事に成功していたのだ。
 だが、しかし……その代償は、大きかった。

「っ、く……!」

 振り下ろされた『影』の拳を、何とか躱す。
 普段なら軽やかな脚捌きも、反撃にと振るう刃の冴えも。今はまるで、鉛のように重く、鈍い。
 そう。一般人を救うべく奮闘したその結果……翔は己の体力を、ほぼ使い果たした状態に陥ってしまっていたのだ。
 己の行動に、後悔は無い。そうしなければ、一般人に犠牲が出ていたかもしれないのだから。
 ……温存を選んだ結果、縁を重ねた人々を失うよりは。今のほうが、よっぽどマシと言うものだ。
 とは言え、だ。

(この状況は中々にキツい……ッ!?)

 胸中で小さくボヤいたその瞬間、翔が大きく目を見開いた。
 その視線の先には、翔を包囲しつつある『影』達。
 その影が渦を巻き、膨張し、繋がり、巨大化し……一体の大きな『影』へと、変じつつある様子を、目の当たりにしたからだ。
 ……どうやら消耗しきり満足に戦えぬ状態となりつつある翔の様子に、一気に勝負を決めに来たと見える。

(コレは──しまっ!?)

 驚きに一瞬、意識が染まる。その事を翔が自覚したその時には、勝負は決していた。
 膨張する影が、一気に翔の手足を拘束し……その内側に、翔の身体を取り込み始めたのだ。

「──くっ、あっァァアアあァァァッッ!?!?!!」

 瞬間、流れ込む負の感情。白い喉を震わせる翔の悲鳴が、学内に響く。
 流れ込んできたその感情は、ヒト一人の精神では到底処理しきれない物。
 その情報量に、翔の心が軋む。ドレスが弾け、白い裸身が露わとなり……抗う術を、喪っていく。

(──そう、か。この子達は、あの時の傷をっ、いま、で、も……!)

 だが、軋む心の片隅で。僅かに残った意識のままに、翔の身体が動く。
 同化されつつある手を弱々しく伸ばし……巨大化した、『影』の核を豊満な胸に掻き抱けば。

(ごめんね、苦しませて……ごめんね、悲しませて……!)

 ただただその『嘆き』に寄り添うように、包容する。
 流し込まれた『負の感情』を否定する事無く、寄り添い、飲み込み、同化して、引き受ける。
 そんな慈悲の心に反応するかのように、翔の身体から淡い光が輝き始める。
 まるで『影』の核を包むような優しい光に照らされれば……少しずつ、少しずつ。巨大化した不定形の『影』は、光に溶けて消えていくだろう。
 ……それは、かつての事件でも見せた光景。
 邪神の力により植え付けられた絶望と淫欲を剥き出しとする堕ちた女学生を包容し、その心身を癒やしたあの場面と、良く似ていた。
 ──だが、邪神の力の根源たる『負の感情』を引き受ければ。
 当然、その心身は蝕まれ。消耗するのが道理であろう。

「ぅ、ぁ……」

 影が消え、どさりと崩れ落ちる翔の身体。その目に意思の光は薄く、倒れ伏したまま動くこともままならない。
 ……心身ともに、まさに満身創痍。そんな状態で、翔はこの後どう動こうと言うのだろうか……?

成功 🔵​🔵​🔴​

ルメリー・マレフィカールム
……予定よりも早い。
……今すぐ、残ってる人を逃がさなくちゃ。

場所は「特殊教室棟」。はぐれないよう、案内役の人を引き連れながら保護に向かう。
向かうのは悲鳴の聞こえた方向か、案内役の人に聞いた人の居そうな場所にする。

戦う時は、『死者の瞳』でオブリビオンと民間人の動きを観察して、【銀閃】でオブリビオンだけを狙って攻撃する。
反撃が来るなら、初動から攻撃を予想して回避する。

……私がもっと強ければ、あなたたちがそうなることも無かったと思う。
……でも、これ以上悲しむのを見たくは無いから。だから、今はごめんなさい。

保護が終わったら、皆を安全な場所に誘導してから「運動場」に向かう。

【アドリブ・協力歓迎】





「な、なに……? きもち、わる……」

 ルメリーの目の前で、案内役の女学生が膝をつく。
 その顔色は見る見る内に蒼白に変わり、正常とは言えないのは明白だ。

(……多分、予定よりも早い)

 何が起きたか判らず困惑する女学生。
 その背を擦って落ち着かせようと試みながらも、ルメリーは現在の状況を分析していた。
 先程吹き抜けた猛烈な風。その後学内に邪気が満ち始めた事から考えて……邪神が降臨したのは、間違いない。
 だが、その邪気の濃度は。かつてこの地で対峙したあの邪神のそれより、少々薄い気がする。
 つまり、邪神は完全な形で降臨した訳では無い。予定していたよりも早く、無理やり出てきたと考えるべきだろう。
 そんな相手であれば、交戦して撃破するのは難しくはないはず。その為にも……。

(……今すぐ、学校の中に残ってる人を逃さなきゃ)

 後顧の憂いと成り得る、一般人を逃がすのが先決か。

 ──いやっ、いやぁぁぁ!!!
 ──たすけっ、誰か、助けてぇっ!?

 今まさに、二階から助けを求める女生徒の叫びが聞こえる。
 助けを求める生徒を助け、案内役の生徒と共に安全な場所へ送り届けよう。
 そう決めて、動き出そうとした。その瞬間だった。

 ──バスンッ! バスッ、バスッ!!

 空気を切り裂く様な発砲音が、三度。二階から響いたのは。

「ひっ!?」

 引き攣ったような声をあげる女学生。かつての事件の記憶が蘇ったのか、頭を抱えて身を縮こまらせてしまっている。
 ……だが、ルメリーには判る。今の発砲音と同時に、二階から感じる邪気が消えた事を。
 今のはどうやら、味方……猟兵の攻撃による物であるらしい。

「大丈夫、今のは味方の。それよりも……」

 蹲る学生の背を擦る手を止め、ルメリーがゆっくりと立ち上がる。
 その赤の瞳が見つめる先には……ゆっくりとこちらに蠢き迫る、一体の『影』の姿が。
 どうやら『影』は、ルメリーとその傍で蹲る学生に完全に狙いを定めたと見える。

「……少しの間、動かないで」

 囁きと同時に、駆け出す。敵の注意を引くかのように、近寄られる前に自ら距離を詰めたのだ。
 そのルメリーの動きに、『影』はあっさりと引っかかる。ゆっくりと拳を振り上げ……迫るルメリーへと、振り下ろす。

(……大丈夫、視えてる)

 だが、その拳がルメリーを捉える事は無い。
 赤の瞳が鈍く輝けば、ルメリーの見る世界がモノクロに変わる。
 同時に全ての動きが遅くなり……『影』の一挙手一投足が、コマ送りの様にルメリーには視える。
 ……卓越した観察眼。それこそが、ルメリーの特徴にして最大の武器。
 その特徴を最大限に活かせば。

「──外さない」

 拳を躱す、その瞬間。同時に相手の核を突き崩す事も、難しくは無い。
 一筋の銀閃が『影』を穿けば、不定形の『影』はその形をグズグズと崩していき……床の染みへと、消えていく。

(……私がもっと強ければ、あなたたちがそうなることも無かったと思う)

 その様子をじっと見つめながら、ルメリーは思う。
 もっと強ければ。もっと早く気づけていれば。あの時の事件は、もっともっとより良い形で終えられていただろう、と。
 だがその思いは、所詮は『たられば』。イフを語る事に意味は無く、現実は今目の前で起きている事が全てである。
 ──だから。

「……今は、ごめんなさい」

 現実の世界で、これ以上誰かが悲しむ姿を見たくは無いからと。
 ぎゅっと強く、その掌のナイフを握り締めて。ルメリーは僅かの間、瞑目し祈りを捧げる。

 ……その後、二階からふらふらとした足取りで降りてきた数名の女学生と案内役の女学生を引き連れて。
 ルメリーは無事、正門まで学生たちを送り届け……空に蠢く悍ましき邪神の下へと、駆け出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『広告風船』

POW   :    いつもご利用ありがとうございます。———です。
【未来への不安を増幅させる光】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    旅立ちのお手伝いをさせて頂きます。
【死への恐怖を低下させる声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    必要なものは全てこちらでご用意しております。
【『心の支え』を忘れさせる不協和音】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は春乃・結希です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 学内に蔓延した邪気。降臨した邪神が撒き散らすその力により活性化した、『負の感情』の化身。
 這い寄る無数の魔の手を前に無力な一般人達を、猟兵はその持てる力を振るい救い出し……それぞれに、運動場へ突入を果たす。

 ──いつもご利用、ありがとうございます……。

 陽が暮れて夜の帳に包まれた中空に漂う邪神。
 その悍ましき姿から放たれるチカチカと瞬く光と、頭に響く不気味な声と耳障りな不協和音は止まらない。
 まるで己の存在を誇示するかのようなその行動は恐らく、まだ足りぬ力を掻き集める為の行動でもあるのだろう。
 ……もし、一般人がこの場に残っていれば。この邪神のその力で心を狂わされ、邪気を供給する贄となっていただろう事は想像に難くない。
 だが、邪神のその目論見は崩れた。
 猟兵達が皆、学内に残った一般人の退避を優先させた事で。贄となる存在は、この場からいなくなったからだ。

 ──旅立ちのお手伝いをさせていただきます……。

 だがその目論見が崩れた今となっても、邪神からの光と音は止まらない。
 ……いや、そもそもこの邪神にはそんな知性は無いのかもしれない。
 ただただ、人々の『負の感情』を揺るがし、練り上げ、死へと誘う……この邪神は、ただそれだけの存在であるのかもしれない。

 ──必要な物は、全てこちらでご用意しております……。

 そんな存在を、世に放つ訳にはいかない。なんとしても、この場で仕留めるべきだろう。
 それぞれの武器を構え、猟兵達が邪神『広告風船』へと挑む──!

 ====================

●第ニ章、補足

 第三章は、ボス戦。相手は『広告風船』となります。

 第三章の成功条件は、『敵の撃破』です。
 女学園の悲劇で生まれた邪気と積もり積もった負の感情。
 そこに目を付け吸い寄せられ、遂に降臨した邪神の撃破が目的となります。

 一章の『邪気の淀み』の破壊。そして二章の『一般人の退避』。
 この二つを達成した結果、『広告風船』は弱体化した状態で降臨しています。
 とは言え、腐っても邪神。下手な攻撃が通用する事は無いでしょう。
 また、『広告風船』のその名の通り、常に空中に浮遊した状態を維持し続けます。
 そんな敵を相手に、どう立ち振る舞うか。皆さんの立ち回りが試される戦いとなります。

 戦場となるのは、女学園の運動場。
 土壌は全面芝生かつ、広大で平坦。足元に難儀する事は無いでしょう。
 また、時刻は陽も暮れた夜7時過ぎ。
 照明設備はありますが、生徒職員が退避済みのため戦闘開始時には稼働はしておりません。
 この辺りの事情も考えつつ、邪神との戦いにお役立て下さい。

 悍ましき姿を中空に晒す、邪神『広告風船』。
 ただ只管に人々の感情を掻き乱すこの存在を、猟兵達は討てるのか。
 皆様の熱いプレイング、お待ちしております!

 ====================
高階・茉莉(サポート)
『貴方も読書、いかがですか?』
 スペースノイドのウィザード×フォースナイト、26歳の女です。
 普段の口調は「司書さん(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「眠い(私、キミ、ですぅ、ますぅ、でしょ~、でしょお?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

読書と掃除が趣味で、おっとりとした性格の女性です。
戦闘では主に魔導書やロッドなど、魔法を使って戦う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


轟木・黒夢(サポート)
『私の出番?それじゃ全力で行くわよ。』
 強化人間のヴィジランテ×バトルゲーマー、18歳の女です。
 普段の口調は「素っ気ない(私、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、偉い人には「それなりに丁寧(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格はクールで、あまり感情の起伏は無いです。
戦闘では、格闘技メインで戦い、籠手状の武器を使う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!





 夜の帳に包まれた、女学園の運動場。その上空に浮かぶは、邪神『広告風船』。
 ふわりふわりと中空を漂いつつ、邪神は今も生きとし生ける全ての者の心を乱す光と音を放っていた。
 そんな悍ましきその姿に対して。

「私の出番ね……」

 その青い瞳を向けたのは、轟木・黒夢(モノクローム・f18038)であった。
 夜風に靡く黒の長髪。スッと鋭く細まる瞳に輝く光からは、燃え滾る戦意の高さが伺い知れる。

「……空を飛ばれているのは、厄介ですね」

 そんな戦意を燃え滾らせ、今にも飛び出しそうな黒夢の隣から響くおっとりとした暖かな声。
 高階・茉莉(秘密の司書さん・f01985)が言う通り、敵は上空を漂い降りてくる気配はない。
 それに、運動場というだけあって戦場は広く拓けている。中空に浮かぶ相手に強力な一打を浴びせようにも、足場となる場所などどこにもない。
 ……このままでは、邪神の攻撃を一方的に受ける事になってしまいそうだ。

「大丈夫、問題ないわ」

 そんな茉莉の不安げな声に、黒夢の返答は淡々とした物。
 はて、と首を傾げる茉莉にそれ以上の言葉を返す事無く。膝を曲げる屈伸運動を一度二度と繰り返し……黒夢が、芝に覆われた地を駆ける。
 ぐんぐんと加速し、瞬く間にトップスピードに乗る黒夢の身体。
 しかしそれが、黒夢の限界速度であるとは言っていない。

「──クロックアップ・スピード!」

 パチン! 黒夢の指から響く高い音。瞬間、黒夢の身体のギアが一段上がる。
 ……黒夢は、幼い頃から幾度となく強化改造手術を施されたのだという。
 その改造によって得た身体能力は、常人を遥かに上回る。正しく、『強化人間』である。
 そんな強化された身体能力を更に引き上げるのが、今の所作である。
 指を鳴らす事で己の身体を高速戦闘に適した状態とし、スピードと反応速度を高めたのだ。

「黒夢さん? ──そういう事ですかっ!」

 そんな黒夢の爆発的な速さにただ驚く茉莉であったが、即座に黒夢の狙いを解き明かす。
 茉莉は、本を愛する読書家である。特に愛読するのはSF小説やミステリー小説であり……必然、その洞察力や想像力も中々の物。
 そんな洞察力と想像力が告げるのだ。

(加速して、勢いのままに飛び上がり……邪神の下まで行こうと言うのですね!)

 常識的に考えれば、何を無茶なと思うかもしれない。
 だが、目の前で走る黒夢の加速力を見れば可能性はゼロでは無いように思える。
 それに何より、茉莉も黒夢も、猟兵だ。理外の力を振るう猟兵であるならば……そんな無茶など、押し通す事も不可能ではない。

「ならば、私は……!」

 その手の魔術書を胸に抱き、力を注げば。たちまち本は光に溶けて、無数の茉莉花(ジャスミン)の花弁へと変じていく。
 助走の最中で攻撃を受ければ、黒夢は十分な速度を得られないかもしれない。それを防ぐ為に。

「風に舞う茉莉の花々よ──!」

 芳しき芳香放つ、茉莉花の花弁を。悍ましき邪神の誘いを断つ、盾とする!
 ……ふわりと感じるその香りを鼻にすれば、黒夢の身体から緊張が消えて。
 その身体能力も、更に一段高みに届く事だろう。

 ──旅立ちのお手伝いを……必要な物は……。

 運動場に響く邪神の声。
 人の心を負の色へと傾けるその音色を打ち消すように、花弁が次々と萎れて崩れるが……黒夢の身体にも心にも、邪神の力は届かない。
 茉莉の狙いは、見事に正鵠を得て……。

「全力で、行くわよ──ッ!」

 最後の花弁が邪神の力を打ち消した、その瞬間。黒夢の脚が地を蹴って宙を舞う。
 ……加速は十分。ならば、砲弾のような勢いで飛ぶ黒夢の身体が邪神に届かぬ道理は無く。また振るわれる籠手の一撃も……!

「ハァッ!」

 ──邪神の身体を、見事に叩くのも道理!
 ガツン! と、まるで鋼が打ち合ったかのような鈍い音。
 その音に確かな手応えを感じつつ、反動を活かして黒夢は離脱を図る。

「……幸先は良し、ね」

 五点接地を決めつつ地に降り立つ。駆け寄る茉莉に手を振り答えつつ、邪神の姿を確認する。
 その姿は、遠目には先程までと変わらぬ様に見えるが……ほんの僅かに、感じる圧力が減じている様な気がする。
 まずは、先手を取れた。そう思って、問題は無いだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

備傘・剱
こいつが諸悪の権化、か
こんな奴の為に、多くの命が散ったわけだな
なら、そのツケはキッチリ、払ってもらおうか

ゴーグルで敵を視認しつつ、静かに近づいて、暗殺を仕掛ける
暗闇に紛れて空中浮遊で音もなく、素早く背後に回り込み、結界術で動きを封じたのちに黒魔弾発動、同時に衝撃波、誘導弾、呪殺弾に鎧砕きと鎧無視攻撃の全部を零距離射撃で全部叩き込んで一撃必殺を狙うぜ

本来なら、じっくりと削ってやりたい所だが、てめえに殺された奴らへ約束したことがあるんでな
躯の海の最も深い所へ、破片も残らず叩き落してやるよ
反省も、後悔も、貴様からは何もいらない
二度と、蘇る気も起きない様にしてやるからな

アドリブ、絡み、好きにしてくれ





(こいつが、諸悪の権化か)

 地を駆け跳ねた猟兵の鋭い一撃に揺れる邪神。
 だが風船の如き風貌のその邪神からは、感情の揺らぎの一切も感じない。
 今まさに、攻撃を受けたというのに。普通なら生じるであろう怒りや動揺を示す事無く、ただただ不快な音声と光を放つのみである。
 ……この邪神に、知性は無いのではないか。僅かに感じていたその疑問を確信に変えつつ。

(こんな奴の為に……)

 剱の心に宿るのは、強い怒り。
 かつての事件で無念を残し、その感情に目を付け捻じ曲げ、降り立ったこの邪神。
 だが、奴には知性・理性が無い。だとすれば敵はただ、本能でこの騒動を引き起こしたという事になる。
 幸い、今回に関しては犠牲者はいなかったが。それでも崇高な使命など無く、ただただ人々を不安に陥らせ滅びに導くだけの存在など、許容できるはずも無い。
 ……それが邪神と言えば、そうなのだが。だが、世には『因果応報』という言葉もある。
 邪神の反省? 後悔? そんな物は要らない。邪神にはただ、今回の騒動を引き起こしたその責任を果たして貰うだけだ。

(そのツケを、キッチリ払って貰おうか──!)

 多機能型サイバーゴーグル越しに見える敵の姿が、大きくなってくる。ゆっくりじっくり静かに距離を詰めている、その証拠だ。
 中空に浮かぶ厄介な敵に対して剱が採った戦術は、『暗殺』であった。
 夜の帳にその身を紛らせつつ、その身に宿すサイキック能力で静かに空中浮遊。
 そうする事で敵の懐へと音もなく潜り込み、致命の一打を放とうと考えたのだ。

(……本来なら、じっくりと削ってやりたい所だが)

 あと数十センチまで近づけば。意識を、力を、拳へと向ける。
 輝き始める腕のガントレット。滲み出る光は、先程の『影』との戦いで見せた太陽の輝き。
 その光で以て、邪神の動きを拘束すれば……!

「──躯の海の最も深い所へ、破片も残さず叩き落としてやるよ!」

 溜め込んでいた猛る戦意を叫んで吐き出し、その掌を叩きつける!
 ……剱は、『影』に誓っていた。お前達の無念は、晴らしてやると。
 その約束を果たすべく、剱の掌に渦巻くは漆黒の魔力の塊だ。
 剱が身に付けたありとあらゆる戦闘技術が凝縮されたその塊は、全てを打ち砕く大威力の一撃。
 もし、邪神がその一撃を存在の核に受けていれば。邪神はその存在を、無へと還して居たことだろう。
 だが……。

 ──カッ!!

 剱の放つ輝きに襲撃を察知した邪神が、苦し紛れの光を放つ。
 常人が浴びれば即座に心を狂わせるであろうその光だが、強い怒りと約束に燃える剱の心には届かない。
 だが、しかし。その強烈な閃光は……ゴーグル越しの剱の目を灼き、ほんの一瞬視界を奪ったのだ。

「ぐっ……!?」

 呻く剱。振るわれた掌がブレて、狙いとはほんの僅かにズレた所を穿つ。
 このままでは、有効打とはなりえない。ならば、せめて後に続く者の為にも……!

「漆黒の魔弾は、いかな物も退ける──!」

 吼える剱。沸点を超えて高まる戦意が、掌の魔力に更なる力を与え……炸裂する!
 邪神の風船の身体を巻き込み、爆ぜ散る魔力。
 猛烈なその威力は邪神の身体の一部を破砕し、溜め込まれた邪気が空中に漏れ出て消える。

「……ここまでか」

 少しずつ高度を下げる邪神の姿を、数十メートル吹き飛ばされた先で姿勢を戻しつつ剱が見つめる。
 この手で討つ事は敵わなかったが、確かな爪痕は残せた。後は続く仲間に任せれば、問題はないだろう。
 邪神『広告風船』との戦い。その天秤は、確かに猟兵の側に傾きつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルメリー・マレフィカールム
……あれが、邪神。
……他の場所には行かせない。ここで終わらせる。

明るさは大丈夫。『死者の瞳』なら、暗くても十分に目視できる。
問題は、相手が飛んでいること。近接攻撃が届かないから、ナイフの投擲を確実に当てる必要がある。

まずは観察。邪神が死への恐怖を薄れさせるなら、それも使う。死に近づくほど、【走馬灯視】は効果が高まるから。
主観時間を引き延ばす。瞬間。刹那。限りなく零に近い時間まで。そうして相手の動きを読んで、核に当たるよう全力でナイフを投擲する。
邪神からの直接攻撃が来るなら、同じく観察から攻撃を予想して回避を試みる。

【アドリブ・協力歓迎】





「……あれが、邪神」

 猟兵の痛烈な一撃を受け、高度を落とす風船型の邪神。
 その姿をじいっと見つめて呟くルメリーの赤の瞳は、既に鈍く輝いていた。

(……大丈夫。暗くても、十分に目視できる)

 ルメリーの瞳は、常人のそれとは違う。何者かの力によって死を乗り越えたその結果得た、特殊な眼だ。
 その眼の権能を以てすれば、夜の帳などは関係ない。相手が高度を落としている事と併せて、敵の様子はしっかりと視認出来ていた。

(問題は、相手が飛んでいること)

 だが、相手を視認出来ていても攻撃が出来るかと言えば話は別だ。
 ルメリーの主たる攻撃手段は、その手の軍用ナイフによるもの。武器としてのリーチは非常に短い。
 投擲、という手段も無いではないが。高い位置にいる相手にナイフを投擲するのは難しいし、決定打ともなり難いだろう。
 ……故に、ルメリーが敵に対して痛打を与えんとするならば。敵の状況をしっかり見極めた上での行動が、不可欠となる。

(だから、まずは観察──!)

 結論付けて、目を凝らして邪神の様子を観察しようとしたルメリーが目を見開く。
 傷つき高度を落とした邪神から放たれた『声』が、ルメリーの肌を、耳を貫いて。心と頭を、冒したのだ。
 胸の奥から湧き立つ猛烈な不快感。頭にも経験したことの無いような割れる様な痛みが走る。
 ……この苦しみから解放されるなら、己の命を捨てても……。

「──ッ!」

 ……僅かに湧いた不穏な感情を打ち消すように、ルメリーは自らの口中を噛み破って正気を保つ。
 口の中を満たす鉄の味。口の端から溢れる血を無視して、ルメリーはただただ邪神の姿を睨む。

(あの邪神は、死への恐怖を薄れさせる。なら……『それも使う』)

 ルメリーの瞳に宿る鈍い輝きが、僅かに変わる。赤く輝く光がまた一段鈍くなり……だが宿る意思は、強くなる。
 頭上の邪神は、生きとし生ける者の心を負の方向に揺り動かし、死へと近づけるのだという。
 そんな敵の力は、実はルメリーとは相性が悪くない。ルメリーの眼に宿るその力は、『死』へと近づけば近づく程に、その力を増していくのだから。
 ……ルメリーの見る世界が、変わる。全ての光景がコマ送りの動きとなっていく。
 瞬間。刹那。限りなく零に近い時間にまで、ルメリーの主観時間は引き伸ばされる。
 停止したかのように見える、相手の動き。
 どこに何が有り、どこを攻撃されれば嫌なのか。その全てが、手に取る様にルメリーには判る。
 ……相手の嫌がるその場所は、存在の中心である核。その場所へ目掛け、ナイフを構え……。

(他の場所には行かせない。ここで、終わらせる)

 銀閃、一閃。放たれたナイフは天へと、邪神の身体へと、一直線に迫る。
 これ以上、被害は出させない。ルメリーの放った刃には、小さな少女が心の奥底で燃やす正義感が篭められている。
 その正義の一撃が……邪神の身体を穿たない道理など、ありはしない。
 邪神へと迫るナイフは狙い違わず、ルメリーが見抜いた邪神の核を覆う表皮……風船部分に突き刺さる!
 ……邪神の表面上に、変化は無い。今も空中に座し、不快な音声と光を撒き散らす姿は変わらない。
 だが、しかし。

 ──~~~~~!

 痛打に狂う邪神の叫びを。ルメリーはその魂で確かに耳にした。
 威力がまだ足りなかったか、その存在を消し去るには至らなかったが……ルメリーの一撃は、確かな傷を邪神に与えたのだ。

「やっ、た……っ?」

 自らの行いの結果を見届けた、その瞬間。ルメリーの意識がふつりと途切れる。
 ……邪神の力を利用したという事は、その力に心身を侵される事と同義である。
 そんな事をすれば、消耗し意識を失うのも当然の事。だがしかし、その結果は決して批難される物では無い。むしろその小さな身体で、良くぞここまで堪えたと。称賛されて然るべきであろう。
 倒れ伏すルメリー。だがその表情は……己の挙げた功績に、口元を僅かに綻ばせた物であった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

久遠・翔
アドリブ絡み歓迎
真の姿開放


ボロボロになりながらも屋上に
邪神を見て最後の力を振り絞り選択UCを起動
一瞬にしてドレスが漆黒の露出が高いものに変質し魂の一部まで呪いが進行しますが歯を食いしばって立ちます

影も大きく目が無数に浮かび触手のような黒い腕が何十本と生えてきますが…ふと内に潜む邪神の声が

ー何故そこまでする?汝にとって彼の者達は他人に過ぎない
己が身を削る激痛を容認するのは何故か?-

…わかってない
俺は自分が救える者を救いたい
それを阻む者に容赦など…しない!

中にいる邪神が大笑い
お前への祈りも力に変えろと言い残し消える

ドレスが純白に戻り飛翔
相手の負の攻撃を影が全て喰らい本体にUC雷光一閃を叩き込みます





「はぁ、はぁ……くっ、ぅ……」

 白い裸身に全身の擦過傷。
 ボロボロの姿となりながら、翔は校舎棟の屋上へと再び足を踏み入れる。

「……あれが、邪神か」

 屋上から見上げる空に漂う、風船型の邪神。
 その姿を目に収め、低く呟く。
 ……翔の身体は、既にボロボロだ。まともに戦う事など望めないだろう。
 だが、それでも。この身体が、まだ動くのならば。
 ──戦わない理由など、ありはしない!

「救う為なら、俺の身を喰らえ……ッ!」

 覚悟を固め、身体の内に残る最後の力を解き放つ。
 顕れ出るは漆黒のドレス。肌を大きく露出した、呪われた装束だ。
 ……その力は、翔の身体に潜む邪神の力。使えば使う程、翔の身体を蝕む諸刃の刃。
 邪神の呪いが、身体を蝕む様を感じる翔。不快なその感覚に意識を手放しそうになるが……歯を食いしばり、耐える。

 ──判らん。何故そこまでする?

 瞬間、頭に響く声。
 男性なのか、女性なのか。老いているのか若いのか、その声を聞いてもその姿は判然としない。
 だが、翔には判る。その声の主は……翔の内に潜み、今も翔を呪いで蝕む邪神の物である、と。

 ──汝にとって、彼の者達は他人に過ぎぬ。
 ──だというのに。己が身を削る激痛を容認するのは、何故か?

 その邪神の問いに乗る感情は、単純な疑問。そして何故そこまでするのかという、単純な戸惑いだ。
 そんな邪神の浮かべた声を、翔は鼻で笑って答えてみせる。

「……わかってない。お前は、俺の事をわかっちゃいない。俺はただ……俺が救える者を、救いたいだけだ!」

 それは、聞き様によっては崇高な志の様に聞こえるだろう。
 だが、違う。翔のその思いはそんな崇高な物では断じて無く……ただただ、己の意思を貫きたいとするだけのものである。
 故に、翔は叫ぶのだ。

「俺が人を救うことを阻む者に、容赦など……しないッ!」

 目を血走らせ、ボロボロになりながらも、己の為したい事だけを目指して動く。
 その精神性は……『強欲』と呼ばれるもの。一般的には悪とされる、それである。
 だが、その精神性。それこそが……翔の内に潜む邪神が、彼に目を付けた理由であるのだ。

 ──クッ、クハハハハハ! 面白い! 実に面白いぞ!

 呵々と嗤う邪神。だがその嗤いが響けば響く程、翔の身体を蝕む呪いの勢いが減じていく。
 ……どうやら翔のその答えは、邪神の意思に強く響いたらしい。邪神の力はそのままに、ただ呪いの勢いだけが減じていく。

 ──『お前への祈り』も、力に変えると良いだろう。

 何が起きたか判らぬと、目を白黒させる翔。
 そんな彼に掛けられた、邪神の最後の言葉に。

(──これは……!?)

 ハッと何かに気付いたように、翔の顔色が変わる。
 ……感じるのは、翔の身体を包むような弱々しくも優しい力。翔がこの学園で縁を重ね紡ぎあげてきた絆が生み出す『祈り』の力だ。
 猟兵が生み出す理外の力と比べれば、遥かに弱い。だが、今の翔にとってこの力は……何者にも代えがたい、暖かな力となる。

「……ありがとう」

 ふっと呟き、溢れる笑み。瞬間、翔が纏う装束が変わる。
 漆黒から純白へ、肌を晒すデザインは改められ、純潔を示すかのような清廉な形へ。
 ……先程の『影』との戦いで纏う、『真の姿』に身を包み。屋上を蹴って、翔の身体が宙を踊れば。

「一瞬で──」

 バチリバチリと輝く紫電と共に、急加速。
 まるで雷光の如き疾さで以て、猟兵の猛攻に傷つく邪神との距離を一息で詰め。

「──決める!」

 すれ違いざまに振り抜かれた手刀が風船をズタズタに切り裂き、邪神の溜め込んだ邪気を更に噴出させていく。
 そうしてその勢いのまま、邪神が光を瞬くよりも早く。翔の身体は空を翔け……学校の敷地の片隅へと落ちていく。

(……ははっ、やった、かな……)

 遠くなる意識。確かに感じた手応えだけを頼りに、邪神に確かな一撃を刻んだことを確信する翔。
 そうしてそのまま、戦いの行く末を見届ける事無く。翔の意識は限界を迎え、途切れた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミフェット・マザーグース
不安なこころに滑り込む、この声はすごく悪い声、悪いうた!
【太陽の家】のみんなと一緒に戦うよ
邪神に立ち向かう他の人たちとも、連携できそうならご一緒するね

UC【一人ぼっちの影あそびの歌】
「楽器演奏・合唱・鼓舞」で戦うみんなに勇気を分けられるような歌を唄うね
あの声にとらわれた影、あの子たちを救ってほしいな


旅立ちに出たのがいつなのか 忘れてるなら思い出して
さいしょに武器を握ったときに 心に灯した小さな炎

必要なものは踏み出す勇気 その背を押すのは声
たのしい思い出 つらい思い出 忘れられない自分のカケラ

立ちふさがるのが未来でも 歩みを止めずに駆けていける
戦っているのは一人じゃないから


クロエ・アスティン
【太陽の家】
あれをこのままにしてはおけないであります!

敵が空中にいるならばと【戦女神に捧げる聖なる祈り】を捧げると共に真の姿を開放!
戦乙女の姿になって広告風船の元へと飛び立ちます!

心をかき乱す不協和音に苦しめられますが、もう先ほどのような失態は見せないであります!
例え自分が忘れてしまっても、戦女神様はいつだって自分が必死に戦うところで見ていてくれるであります!
広告風船だけを見据え、「破魔」の力を込めた戦乙女の槍を構えて「ランスチャージ」で広告風船を貫くであります!

※アドリブや連携も大歓迎


秋月・信子
●POW&真の姿
【太陽の家】

風船…あの中へ様々な負の感情を貪り、淀ませ、校内に漏出し…
ここは格好の餌場だったのでしょうね

相手の未来への不安を増幅させる光とさらなる糧を得るための甘言に瞳を閉じながら答えます
ええ、私は旅立ちます
貴方が語る未来へ、闇で覆われた未来に【勇気】を持って踏み出します
例えそれが残酷な未来であっても…

瞳を開き【破魔】の力を湛えた浄化の魔眼で壊れたスピーカーのように鳴らされるサイレンの元凶を見据え、ハンドガンを構えます
そして、相手の核目掛けて突出するクロエちゃんを迎撃するよう蠢く垂れ幕状の邪神の一部に『紅蓮の魔弾』を撃ち込んで【援護射撃】し、清浄の炎で灰に、虚に還していきます





 度重なる猟兵達の猛攻に、風船の各所は裂かれ、破れ。少しずつ少しずつ、その高度が落ちていく。
 だが、しかし。

 ──いつもご利用……旅立ちのお手伝いを──。

 風船から響く不快な音声は、そのままだ。
 むしろ高度が低くなった事で、より強く身体に突き刺さるように猟兵達には感じられた。

「不安なこころに滑り込む、この声はすごく悪い声、悪いうた!」
「あれをこのままにしてはおけないであります!」

 そんな深いな邪神の呼び声に、珍しく怒りを露わにするかのようにミフェットが叫べば、同調するようにクロエも叫ぶ。
 心をかき乱す様な不快な音が折り重なった、不協和音。
 もし、ここでこの邪神を取り逃すような事があれば。きっとこの邪神は、この街の人々に牙を剥くだろう。
 ……そんな事を、許してはおけない。少女達の正義の心が、熱く燃える。

(……ここは、格好の餌場だったのでしょうね)

 そんな二人とは対称的に。静かに、だが強い戦意を瞳に浮かべつつ。敵の姿を伺っているのは信子であった。
 風船型の邪神、『広告風船』。きっとあの巨大な風船には邪気が……人々が持つ、様々な負の感情が詰まっているのだろう。
 そんな邪神にとって、この場はまさに格好の餌場。強力な邪気が染み付き、中てられた人々が負の感情を垂れ流す。邪神にとって、垂涎の場であったのだろう。
 ……だが、それもここまでだ。

 ──必要な物は全てこちらで……。

 響く音声が、瞬く光が太陽に集う三人の身体を貫く。
 瞬間、胸に湧き出す膝を折りたくなる様な不快感。だが、そんな物に負ける訳にはいかない。

(戦うみんなに、勇気を分けられるような歌を──!)

 すぅ、と息を吸い込んで。携えた弦を爪弾きながら。
 優しく、だが大きな声で。ミフェットが、唄う。

 ──旅立ちに出たのがいつなのか 忘れてるなら思い出して
 ──さいしょに武器を握ったときに 心に灯した小さな炎

 邪神の誘いに、負けないように。
 心に宿る種火を、昏き光以上に燃え上がらせる様に。

 ──必要なものは踏み出す勇気 その背を押すのは声
 ──たのしい思い出 つらい思い出 忘れられない自分のカケラ

 邪神の誘いに、負けないように。
 誰もが胸の内にある『心の支え』を、思い出させる様に。

 ──立ちふさがるのが未来でも 歩みを止めずに駆けていける
 ──戦っているのは一人じゃないから

 邪神の誘いに、負けないように。
 未来がどんな辛くても。明日がどんなに暗くても。
 隣には大切な友達がいるのだと言う事を、思い出させる様に。

 ──旅立ちに出たのがいつなのか 忘れてるなら思い出して
 ──さいしょに武器を握ったときに 心に灯した小さな炎

 繰り返し、繰り返し、繰り返し。
 邪神の力を掻き消し、仲間たちを奮い立たせる様に。ミフェットは、唄い続ける。
 その柔らかくも強い意思に触れれば、クロエも、信子も。己の為すべきを為す為に、動き出す。

「――いと気高き戦女神、戦いの地に立つ我らに加護を……我の生命を光に!」

 奉じる神に捧げる聖句。篤い信仰の光が、クロエの身体を包む。
 その光の中、クロエは暖かく強い意思の力を感じた。遥か遠くから自分を見守ってくれる、戦女神の想いの力だ。

(そう、戦女神様はいつだって自分が戦う所を見ていてくれるであります──!)

 羽撃く純白の翼。加護を纏った聖鎧。長大な槍を、その手に携える。
 戦女神の使徒。戦乙女(ヴァルキリー)へと姿を変えたクロエが、飛び立つ。

 ──必要な物は……。

「そんな戯言、もう自分には通じないであります!」

 宙を舞うクロエに向けて放たれる、邪神の誘い。
 その言葉を一言で切って捨て、戦槍を構えたクロエが一直線に邪神へ迫る。
 言葉は通じぬ。その事を悟ったか、風船の垂れ幕が触手のように蠢きクロエへ迫るが……。

 ──タァァァン!!

 響く銃声と真紅に輝く魔弾が、垂れ幕を一撃の元に焼き払う!

「……確かに、未来には不安があります」

 その魔弾を放ったのは、信子の構えた拳銃。射撃姿勢を崩さぬままに瞑目し、信子は思う。
 一寸先は闇という言葉もある様に、未来の事など誰にも分からない。だから誰だって、未来に不安を持つのは止められない。
 けれど、それでも。

「──私は、旅立ちます」 

 自分のいるべき、元の世界へ戻る為に。
 もう一度会いたいと願う、親友たちに逢う為に。
 ……それは全て、叶わないかもしれない。足掻き求めても、得られない未来かもしれない。
 だが、そんな闇に覆われた未来であっても。勇気を持って踏み出さねば、何も始まる事は無いのだ。
 だから……。

「例えそれが、残酷な未来であっても──!」

 開かれた信子の瞳が、蒼く輝く。
 極限にまで高められた集中力と戦意。蒼く輝く瞳に見据えられた獲物に、逃れる術など在りはしない。

 ──タァンッ! タァンッ!!

 立て続けに響く発砲。翔ぶ魔弾は狙い違わず、邪神の幕を更に一つ二つと燃やして塵へと還す。
 ──それは、クロエを阻む障害が消えたという事であり。

「やぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 同時に、クロエの戦槍が邪神のその身体を穿つという結果へと繋がる、という事でもある!
 裂帛の気合と共に突き入れられた戦槍。神威を篭められたその一閃は、邪気を纏う風船の表皮を貫き、中に残る邪気を焼き……。

 ──カッ!!

 瞬間、瞬く閃光。聖気と邪気が反発し、打ち消しあい、爆発を引き起こしたのだ。
 爆発に巻き込まれ、変身が解けるクロエ。そのまま地へ真っ逆さまに落ちていくが……。

「クロエっ!」
「クロエちゃんっ、大丈夫!?」

 ミフェットの触手の髪に何とか回収され、事なきを得る。
 心配そうな声をあげるミフェットと信子に『問題ないでありますよ!』とアピールするクロエ。その眼が邪神の方へと向けば……。

「──邪神が、堕ちるであります……!」

 度重なるダメージに、遂に限界を迎えたか。
 ゆっくりと、ゆっくりと。炎に包まれ地へと燃え堕ちる邪神の姿が、目に映るだろう。

 ……人の心を狂わし惑わす、邪神『広告風船』。
 その討伐戦は、遂に最後の時を迎えようとしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

四王天・燦
《華組》

風船の中に思い通りのシホと魔物美女の楽園を幻視る
無茶せず傍に居続けてくれるだけのシホを望む気持ちはあるけれど
そんな偽物を必要なものとして用意されても嬉しくないね

シホに寄り添う
今ここにいるシホが心の支え
神様に許されなくたって共にあり続ける!
誓いを胸に呪詛・狂気耐性を示し不協和音を振り払うぜ

稲荷符撒いて真威解放
邪神の光・声・不協和音を祓い捨てる
アタシの、乙女達の心に踏み込むな

領域が効いてる内に符に妖力を力溜め
シホの弾に合わせ炎属性攻撃の大火球をぶっ放して爆撃だ

後は生徒達と学園のケアだね
ここははじまりの場所、女の子たちの楽園だから
符を補充し真威で邪気を消していくよ

少女達に祝福がありますように


シホ・エーデルワイス
《華組》

何とか死者を出さず一安心

後は敵を倒せば終わり?

いえ…
染みた邪気を祓わなければ
また同じ事が起きるでしょう


暗ければ暗視

心の支えである思い出が綴られた『聖録』を拠り所にオーラ防御を張りつつ
『聖銃』で不協和音の効果を打消す狂気・呪詛耐性の籠った破魔の旋律
を楽器演奏して皆を鼓舞

弾は重力属性攻撃の誘導弾で敵を地上に落す

燦!今です!

落ちたら早業で弾倉を変え
【樹浄】を撃つ


照明は灯すと一般人に敵の姿を目撃され易くなる等
不利益無く有利になるなら『詩帆』が灯す


戦後
学園の人と聖霊樹が邪魔にならない所を相談し【樹浄】で植える
できれば複数本植えて結界にする

絶対大丈夫とは言えないけど
また狙われた時
察知し易いでしょう





 炎に包まれた邪神が、運動場の中央に堕ちる。
 巨大な風船に蓄えられていた邪気を燃料とするかの様に、轟々と燃え上がる炎。
 その光景は、遠からずこの邪神は滅びを迎える事になるだろうと、
 猟兵たちに、そう思わせる物だった。

(……終わった、のか?)

 燦もまた、そう感じた猟兵であった。燃え上がる炎を見つめ、すっと構えを解いていく。
 ……だが。

 ──ガッ、ザザ……がと……旅立ザー……。

 燃え上がる風船から響く雑音混じりのその音声を聞けば。

「なっ、コイツまだ……しまっ!?」

 燦の表情に驚愕と戸惑いが浮かび、その心が邪神の甘言に誘われていく。
 瞳に浮かぶ幻は、愛するシホと魔物美女達で創り上げられた楽園。
 無茶な事などせず、自らの傍に常に侍ってくれる愛しい人達。
 そんな存在がいるこの楽園に、ずっと居たい。この身を、この魂を、浸らせていたい。
 その為ならば、命などどうとでも……。

「燦!」

 瞬間、響いた呼び声に我に返る。同時に響く二丁拳銃の銃声が、広がり始めた邪気を払う。
 目を白黒させた燦の前には、現実の相棒であるシホの小さな背中があった。
 ……どうやら邪神の呼び声に囚われた燦を守る為に前に出て、邪気を打ち払ってくれたらしい。

「油断しないで下さい、邪神はまだ……!」
「悪い、シホ! 助かった!」

 背を向けたまま注意を訴えるシホの声に、返す言葉は感謝の言葉。
 そうだ、あんな偽物なんて必要ない。偽物を用意されても、嬉しくなんてない。

(……そうさ。今ここにいるシホが、アタシの心の支えなんだから)

 進み出て、シホと寄り添うように並び立つ。
 燦が想い、支えとするシホは。邪神が見せた都合の良い従順な少女などではない。
 こうして並び立ち、支え合い、共に未来を切り開く。そんな間柄なのだから。

(神様に許されなくたって、アタシはシホと共に在り続ける!!)

 誓いを胸に構えた破魔符を撒けば、吹き抜けるは邪気を祓い清める清廉な風。
 風に乗り、まるで雨の様に降り注ぐ破魔符。その上で、己の内に宿る妖力を滾らせて。

「──御狐・燦が願い奉る。ここに稲荷神の園を、顕現させ給え!」

 喚び願うは、五穀豊穣を齎す農耕神のその威光。
 神のその力を以て、邪神の邪気を祓い清め……この戦場に神聖な領域を創り出す。

 ──必よザザッ……させてさせてせてててて!!!

 広がる清廉な空気に、炎の中で悶える邪神。
 最後の足掻きを見せるかのように、雑音を一際強く響かせるが……。

 ──パンッ! タァンッ!!

 響く二丁拳銃の銃声に、その雑音は上書きされて。藻掻く身体を地に押さえつけられる。

「燦、今です!!」

 重力を篭めた属性弾を撃ち込みつつ、叫ぶシホ。
 ……勝負を決めるなら、ここしかない!

「もうこれ以上、アタシの、乙女達の心に……」

 地を満たす聖気。
 妖狐としての妖力と親和性の高いその力を身体に取り込み練り上げて。天に掲げた掌の上で創り出したのは一つの巨大な狐火だ。

「──踏み込むなッ!!」

 その狐火を、悶て足掻く邪神へ向けて放つ。
 飛び行く火球は、場の聖気を吸い上げて更にその熱量を増しながら飛んでいき……今、着弾する!

 ──カッ!!!

 迸る白光。世界の全てを染めるようなその光に、猟兵達の視界が染まる。
 だが、染まる光の中で。猟兵達はその魂で、滅ぶ邪神の断末魔を耳にする。
 そして、それと同時に。

 ──ありがとう。

 ……恐らく、邪神が滅びた事で。囚われていたかつての犠牲者達の無念も、解き放たれたのだろう。
 感謝を告げる無数の声を、猟兵達はその魂で耳にした。

「これで本当に、終わった……よな?」
「いえ、まだです」

 消え行く光。掻き消える邪気と、天に昇る思念の数々。
 その全てを見届けた燦が一言呟けば、首を振ってシホが答える。
 はて、と首を傾げる燦。邪神は今まさに討滅した。だが『まだ』とは、どういう事だろうか?

「学内に染みた邪気、それを祓わなければ。またいずれ、同じことが起きるでしょう?」
「……あー、なるほど。確かにそうだなぁ」

 その答えを告げるシホの言葉に、確かにそうだと頷く燦。
 ……シホの指摘は正しい。今回の事件の発端は、『学園に染みた邪気』が根本の原因である。
 その根本の原因を絶たねば。この学園を舞台とした第二、第三の事件が起きるのは、避けられないだろう。

「そうと決まれば早速動こうか! 女の子の楽園の為に、邪気は消し去ってやらないとな!」
「もうっ。燦は本当に、そんなことばかり……」

 そんな未来を防ぐ為ならば、多少の残業は苦でも無い。
 ニカッと笑う燦の軽口に、呆れたような声を上げるシホ。
 気の置けない軽やかなやりとりを交しながら、二人は校内の浄化作業へと移り……邪気を祓い、穢れを吸い上げ浄化する聖霊樹を植えて、結界を構築する。これでこの地の安全は、暫くは確保出来たと見て良いだろう。
 勿論、物事には『絶対』は無い。なにかの切っ掛けで、またこの地に危機が訪れる可能性は十分ある。
 未来がどうなるかは、判らない。だがそれでも、燦とシホの行動が今後の布石となる事は、間違いないだろう。

 ……人々の心を掻き乱す、悍ましき邪神。
 花々を滅びという悪夢へ誘おうとした『負の感情』の化身は、こうして猟兵たちによって討たれたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年09月30日


挿絵イラスト