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邪教徒の残滓 ~花々の悪夢は、終わらない~(作者 月城祐一
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 UDCアース世界。極東の島国、日本。
 その幾つかある大都市の近郊に、とある女学園が存在する。
 在校生には名家の子女を多く抱え、文武両道かつ品行方正をモットーとするその学園は、近年では随分と珍しくなった『お嬢様学園』として近隣住人にも知られ、親しみと憧れを以て愛される学園だ。

 ──ねぇ、知ってる? あの『学園』の噂?
 ──『学園』って……あぁ、あそこの。

 だが、その女学園に悲劇が起きた。
 2019年11月某日。学園祭のその日に引き起こされた、『千華女学園襲撃事件』である。
 とある武装勢力の突然の襲撃を受けた女学園は、為す術も無く制圧され……多くの犠牲を生み出す、惨劇の舞台と化したのだ。
 ……幸い、事件は即日解決された。卒業した当時の三年生以外の救い出された生徒達は、今でも学園に通っている者が殆どだ。
 だが、しかしだ。被害が無かった、という訳ではない。
 治安当局の当初の想定よりは少なかったとは言え、多くの罪のない命が犠牲となった事は事実である。
 そして同じ様に。少なくない数の心の傷を抱えた者を生み出してしまった事も、また事実であった。
 ……とは言え、もう事件から随分と時が経っている。多くの人々の記憶からは事件の記憶は薄れ始め、世間からは女学園の存在も薄れているはずであるのだが……。

 ──また、出たらしいわよ?
 ──あんな事件があったもの。可哀相に……。
 ──でも、少し……怖いわよねぇ。

 ここ最近、近隣の住民たちの間に。学園に関する噂が広まりつつあった。
 それは、『あの学園の生徒が次々に発狂しているらしい』という噂話。
 情報の出処は、分からない。真偽の程も、分からない。
 だが、その無自覚の悪意(ウワサ)は。人々の口を介して広まって……耳にした生徒達の心を、悲嘆に包む。
 ……巡り膨れる、悪意の循環。破滅の時は、もうそこまで迫りつつあった。



「──お集まり頂きまして、ありがとうございます」

 グリモアベースに集まる猟兵達を迎え入れる、艷やかな銀の髪のグリモア猟兵。
 いつもは微笑みを浮かべて猟兵達を迎え入れるヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)。だが、今の彼女の表情は引き締まった真剣な物。
 ……どうやら今回の案件は、一筋縄ではいかぬらしい。

「去年の秋の終わり頃。皆さんに赴いて頂いたUDCアース世界のとある女学園を覚えている方はいらっしゃるでしょうか?」

 ヴィクトリアのその言葉に、辛い記憶を刺激される者もいるかもしれない。
 それは、去年の秋の終わりの事。UDCアース世界の片隅で起きていた、凄惨な事件の事。
 邪神を奉じる武装勢力による、名門女学園の襲撃。引き起こされた惨劇と、狂乱の果ての死闘の事である。
 ……その事件は、猟兵の活躍により終結を見たはず。その後派生した案件も、解決を見たはずだ。
 一体その事件が、どうしたというのだろうか?

「実は、その女学園に……新たなUDC怪物、邪神が降臨する光景を予知しました」

 皆さんには、その邪神の降臨を食い止めて欲しいのです、と。ヴィクトリアが、語る。
 件の事件の折、降臨した邪神が討滅されたのは間違いない。戦場に満ちていた邪気も、戦闘の末に祓われたのは事実である。
 だが、邪神降臨の影響は想定以上に深刻であったらしい。邪気は建物に土地に深く染み入り、少しずつ、少しずつ……その濃度を増していたのだ。

「その結果、学園は更に邪気に蝕まれ。通う生徒や職員は変調を来たし生気を喪い、邪気が更に蔓延る。その様子を外から見た人々が噂をし、生徒の心が傷ついて……見事なまでの悪循環です」

 この状況を、何者かが狙って作り上げたのか?
 それとも、ただの偶然なのか? それは、分からない。
 だが、確実に言える事があるとすれば。

「……この状況は、邪神が降臨するに絶好の好機であると言うこと。そして仮に、邪神が降臨した場合……凄惨な被害が予想される、ということです」

 状況を鑑みるに、この手の状況で顕れる邪神は人々の負の感情を糧とし、力とする存在だ。
 そんな存在がもし降臨すれば。学園のみならず、この地方都市一帯が負の感情に飲み込まれ……という事もあり得る事態である。
 ……そんな事だけは、断じて許すわけには行かない。静かに戦意を高める猟兵達に頷いて、ヴィクトリアが言葉を続ける。

「これから皆さんには女学園に赴いて頂き、学内各所にある邪神降臨の原因……『邪気の淀み』を破壊して頂きます」

 『邪気の淀み』に、決まった形は無いらしい。
 渦巻く魔力であるかもしれないし、何らかの物体に擬態しているかもしれない。
 その在処もまた、定かでは無いが……猟兵が見ればすぐに違和感に気付けるはずだ。その辺りは、難しくは無いだろう。
 とは言え、問題はここからだ。

「……邪神の力の影響が出ている事からお分かりかもしれませんが、既に学園は邪神の監視下にあると見て間違いないでしょう」

 故に、学園敷地内への直接転送は不可能だ。学外に降り立ち、個々に学内に入り込んでもらう事になる。
 とは言え、普通に真正面から行けば猟兵の侵入を感知されるだろう。結果邪神が無理やり降臨し、学内の生徒に犠牲者が出てしまっては元も子もない。
 なので、正面から行くのなら。『学園にいてもおかしくない』と邪神が認識する様な変装やカバーストーリーなど、何らかの偽装が必要だろう。
 ……無論、邪神の目を掻い潜り潜入出来る技術に自信があるのなら、そちらでも問題は無いだろうが。

「……一度ならず、二度までも。惨劇の舞台とする訳にはいきません」

 皆さんの御力を、お貸し下さい。
 そう告げて、深く丁寧に頭を下げて。ヴィクトリアは猟兵達を現地に送り出すのだった。





第3章 ボス戦 『広告風船』

POW ●いつもご利用ありがとうございます。———です。
【未来への不安を増幅させる光】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD ●旅立ちのお手伝いをさせて頂きます。
【死への恐怖を低下させる声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ ●必要なものは全てこちらでご用意しております。
【『心の支え』を忘れさせる不協和音】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は春乃・結希です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 学内に蔓延した邪気。降臨した邪神が撒き散らすその力により活性化した、『負の感情』の化身。
 這い寄る無数の魔の手を前に無力な一般人達を、猟兵はその持てる力を振るい救い出し……それぞれに、運動場へ突入を果たす。

 ──いつもご利用、ありがとうございます……。

 陽が暮れて夜の帳に包まれた中空に漂う邪神。
 その悍ましき姿から放たれるチカチカと瞬く光と、頭に響く不気味な声と耳障りな不協和音は止まらない。
 まるで己の存在を誇示するかのようなその行動は恐らく、まだ足りぬ力を掻き集める為の行動でもあるのだろう。
 ……もし、一般人がこの場に残っていれば。この邪神のその力で心を狂わされ、邪気を供給する贄となっていただろう事は想像に難くない。
 だが、邪神のその目論見は崩れた。
 猟兵達が皆、学内に残った一般人の退避を優先させた事で。贄となる存在は、この場からいなくなったからだ。

 ──旅立ちのお手伝いをさせていただきます……。

 だがその目論見が崩れた今となっても、邪神からの光と音は止まらない。
 ……いや、そもそもこの邪神にはそんな知性は無いのかもしれない。
 ただただ、人々の『負の感情』を揺るがし、練り上げ、死へと誘う……この邪神は、ただそれだけの存在であるのかもしれない。

 ──必要な物は、全てこちらでご用意しております……。

 そんな存在を、世に放つ訳にはいかない。なんとしても、この場で仕留めるべきだろう。
 それぞれの武器を構え、猟兵達が邪神『広告風船』へと挑む──!

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●第ニ章、補足

 第三章は、ボス戦。相手は『広告風船』となります。

 第三章の成功条件は、『敵の撃破』です。
 女学園の悲劇で生まれた邪気と積もり積もった負の感情。
 そこに目を付け吸い寄せられ、遂に降臨した邪神の撃破が目的となります。

 一章の『邪気の淀み』の破壊。そして二章の『一般人の退避』。
 この二つを達成した結果、『広告風船』は弱体化した状態で降臨しています。
 とは言え、腐っても邪神。下手な攻撃が通用する事は無いでしょう。
 また、『広告風船』のその名の通り、常に空中に浮遊した状態を維持し続けます。
 そんな敵を相手に、どう立ち振る舞うか。皆さんの立ち回りが試される戦いとなります。

 戦場となるのは、女学園の運動場。
 土壌は全面芝生かつ、広大で平坦。足元に難儀する事は無いでしょう。
 また、時刻は陽も暮れた夜7時過ぎ。
 照明設備はありますが、生徒職員が退避済みのため戦闘開始時には稼働はしておりません。
 この辺りの事情も考えつつ、邪神との戦いにお役立て下さい。

 悍ましき姿を中空に晒す、邪神『広告風船』。
 ただ只管に人々の感情を掻き乱すこの存在を、猟兵達は討てるのか。
 皆様の熱いプレイング、お待ちしております!

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高階・茉莉(サポート)
『貴方も読書、いかがですか?』
 スペースノイドのウィザード×フォースナイト、26歳の女です。
 普段の口調は「司書さん(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「眠い(私、キミ、ですぅ、ますぅ、でしょ~、でしょお?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

読書と掃除が趣味で、おっとりとした性格の女性です。
戦闘では主に魔導書やロッドなど、魔法を使って戦う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


轟木・黒夢(サポート)
『私の出番?それじゃ全力で行くわよ。』
 強化人間のヴィジランテ×バトルゲーマー、18歳の女です。
 普段の口調は「素っ気ない(私、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、偉い人には「それなりに丁寧(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格はクールで、あまり感情の起伏は無いです。
戦闘では、格闘技メインで戦い、籠手状の武器を使う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!




 夜の帳に包まれた、女学園の運動場。その上空に浮かぶは、邪神『広告風船』。
 ふわりふわりと中空を漂いつつ、邪神は今も生きとし生ける全ての者の心を乱す光と音を放っていた。
 そんな悍ましきその姿に対して。

「私の出番ね……」

 その青い瞳を向けたのは、轟木・黒夢(モノクローム・f18038)であった。
 夜風に靡く黒の長髪。スッと鋭く細まる瞳に輝く光からは、燃え滾る戦意の高さが伺い知れる。

「……空を飛ばれているのは、厄介ですね」

 そんな戦意を燃え滾らせ、今にも飛び出しそうな黒夢の隣から響くおっとりとした暖かな声。
 高階・茉莉(秘密の司書さん・f01985)が言う通り、敵は上空を漂い降りてくる気配はない。
 それに、運動場というだけあって戦場は広く拓けている。中空に浮かぶ相手に強力な一打を浴びせようにも、足場となる場所などどこにもない。
 ……このままでは、邪神の攻撃を一方的に受ける事になってしまいそうだ。

「大丈夫、問題ないわ」

 そんな茉莉の不安げな声に、黒夢の返答は淡々とした物。
 はて、と首を傾げる茉莉にそれ以上の言葉を返す事無く。膝を曲げる屈伸運動を一度二度と繰り返し……黒夢が、芝に覆われた地を駆ける。
 ぐんぐんと加速し、瞬く間にトップスピードに乗る黒夢の身体。
 しかしそれが、黒夢の限界速度であるとは言っていない。

「──クロックアップ・スピード!」

 パチン! 黒夢の指から響く高い音。瞬間、黒夢の身体のギアが一段上がる。
 ……黒夢は、幼い頃から幾度となく強化改造手術を施されたのだという。
 その改造によって得た身体能力は、常人を遥かに上回る。正しく、『強化人間』である。
 そんな強化された身体能力を更に引き上げるのが、今の所作である。
 指を鳴らす事で己の身体を高速戦闘に適した状態とし、スピードと反応速度を高めたのだ。

「黒夢さん? ──そういう事ですかっ!」

 そんな黒夢の爆発的な速さにただ驚く茉莉であったが、即座に黒夢の狙いを解き明かす。
 茉莉は、本を愛する読書家である。特に愛読するのはSF小説やミステリー小説であり……必然、その洞察力や想像力も中々の物。
 そんな洞察力と想像力が告げるのだ。

(加速して、勢いのままに飛び上がり……邪神の下まで行こうと言うのですね!)

 常識的に考えれば、何を無茶なと思うかもしれない。
 だが、目の前で走る黒夢の加速力を見れば可能性はゼロでは無いように思える。
 それに何より、茉莉も黒夢も、猟兵だ。理外の力を振るう猟兵であるならば……そんな無茶など、押し通す事も不可能ではない。

「ならば、私は……!」

 その手の魔術書を胸に抱き、力を注げば。たちまち本は光に溶けて、無数の茉莉花(ジャスミン)の花弁へと変じていく。
 助走の最中で攻撃を受ければ、黒夢は十分な速度を得られないかもしれない。それを防ぐ為に。

「風に舞う茉莉の花々よ──!」

 芳しき芳香放つ、茉莉花の花弁を。悍ましき邪神の誘いを断つ、盾とする!
 ……ふわりと感じるその香りを鼻にすれば、黒夢の身体から緊張が消えて。
 その身体能力も、更に一段高みに届く事だろう。

 ──旅立ちのお手伝いを……必要な物は……。

 運動場に響く邪神の声。
 人の心を負の色へと傾けるその音色を打ち消すように、花弁が次々と萎れて崩れるが……黒夢の身体にも心にも、邪神の力は届かない。
 茉莉の狙いは、見事に正鵠を得て……。

「全力で、行くわよ──ッ!」

 最後の花弁が邪神の力を打ち消した、その瞬間。黒夢の脚が地を蹴って宙を舞う。
 ……加速は十分。ならば、砲弾のような勢いで飛ぶ黒夢の身体が邪神に届かぬ道理は無く。また振るわれる籠手の一撃も……!

「ハァッ!」

 ──邪神の身体を、見事に叩くのも道理!
 ガツン! と、まるで鋼が打ち合ったかのような鈍い音。
 その音に確かな手応えを感じつつ、反動を活かして黒夢は離脱を図る。

「……幸先は良し、ね」

 五点接地を決めつつ地に降り立つ。駆け寄る茉莉に手を振り答えつつ、邪神の姿を確認する。
 その姿は、遠目には先程までと変わらぬ様に見えるが……ほんの僅かに、感じる圧力が減じている様な気がする。
 まずは、先手を取れた。そう思って、問題は無いだろう。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

備傘・剱
こいつが諸悪の権化、か
こんな奴の為に、多くの命が散ったわけだな
なら、そのツケはキッチリ、払ってもらおうか

ゴーグルで敵を視認しつつ、静かに近づいて、暗殺を仕掛ける
暗闇に紛れて空中浮遊で音もなく、素早く背後に回り込み、結界術で動きを封じたのちに黒魔弾発動、同時に衝撃波、誘導弾、呪殺弾に鎧砕きと鎧無視攻撃の全部を零距離射撃で全部叩き込んで一撃必殺を狙うぜ

本来なら、じっくりと削ってやりたい所だが、てめえに殺された奴らへ約束したことがあるんでな
躯の海の最も深い所へ、破片も残らず叩き落してやるよ
反省も、後悔も、貴様からは何もいらない
二度と、蘇る気も起きない様にしてやるからな

アドリブ、絡み、好きにしてくれ




(こいつが、諸悪の権化か)

 地を駆け跳ねた猟兵の鋭い一撃に揺れる邪神。
 だが風船の如き風貌のその邪神からは、感情の揺らぎの一切も感じない。
 今まさに、攻撃を受けたというのに。普通なら生じるであろう怒りや動揺を示す事無く、ただただ不快な音声と光を放つのみである。
 ……この邪神に、知性は無いのではないか。僅かに感じていたその疑問を確信に変えつつ。

(こんな奴の為に……)

 剱の心に宿るのは、強い怒り。
 かつての事件で無念を残し、その感情に目を付け捻じ曲げ、降り立ったこの邪神。
 だが、奴には知性・理性が無い。だとすれば敵はただ、本能でこの騒動を引き起こしたという事になる。
 幸い、今回に関しては犠牲者はいなかったが。それでも崇高な使命など無く、ただただ人々を不安に陥らせ滅びに導くだけの存在など、許容できるはずも無い。
 ……それが邪神と言えば、そうなのだが。だが、世には『因果応報』という言葉もある。
 邪神の反省? 後悔? そんな物は要らない。邪神にはただ、今回の騒動を引き起こしたその責任を果たして貰うだけだ。

(そのツケを、キッチリ払って貰おうか──!)

 多機能型サイバーゴーグル越しに見える敵の姿が、大きくなってくる。ゆっくりじっくり静かに距離を詰めている、その証拠だ。
 中空に浮かぶ厄介な敵に対して剱が採った戦術は、『暗殺』であった。
 夜の帳にその身を紛らせつつ、その身に宿すサイキック能力で静かに空中浮遊。
 そうする事で敵の懐へと音もなく潜り込み、致命の一打を放とうと考えたのだ。

(……本来なら、じっくりと削ってやりたい所だが)

 あと数十センチまで近づけば。意識を、力を、拳へと向ける。
 輝き始める腕のガントレット。滲み出る光は、先程の『影』との戦いで見せた太陽の輝き。
 その光で以て、邪神の動きを拘束すれば……!

「──躯の海の最も深い所へ、破片も残さず叩き落としてやるよ!」

 溜め込んでいた猛る戦意を叫んで吐き出し、その掌を叩きつける!
 ……剱は、『影』に誓っていた。お前達の無念は、晴らしてやると。
 その約束を果たすべく、剱の掌に渦巻くは漆黒の魔力の塊だ。
 剱が身に付けたありとあらゆる戦闘技術が凝縮されたその塊は、全てを打ち砕く大威力の一撃。
 もし、邪神がその一撃を存在の核に受けていれば。邪神はその存在を、無へと還して居たことだろう。
 だが……。

 ──カッ!!

 剱の放つ輝きに襲撃を察知した邪神が、苦し紛れの光を放つ。
 常人が浴びれば即座に心を狂わせるであろうその光だが、強い怒りと約束に燃える剱の心には届かない。
 だが、しかし。その強烈な閃光は……ゴーグル越しの剱の目を灼き、ほんの一瞬視界を奪ったのだ。

「ぐっ……!?」

 呻く剱。振るわれた掌がブレて、狙いとはほんの僅かにズレた所を穿つ。
 このままでは、有効打とはなりえない。ならば、せめて後に続く者の為にも……!

「漆黒の魔弾は、いかな物も退ける──!」

 吼える剱。沸点を超えて高まる戦意が、掌の魔力に更なる力を与え……炸裂する!
 邪神の風船の身体を巻き込み、爆ぜ散る魔力。
 猛烈なその威力は邪神の身体の一部を破砕し、溜め込まれた邪気が空中に漏れ出て消える。

「……ここまでか」

 少しずつ高度を下げる邪神の姿を、数十メートル吹き飛ばされた先で姿勢を戻しつつ剱が見つめる。
 この手で討つ事は敵わなかったが、確かな爪痕は残せた。後は続く仲間に任せれば、問題はないだろう。
 邪神『広告風船』との戦い。その天秤は、確かに猟兵の側に傾きつつあった。
成功 🔵🔵🔴

ルメリー・マレフィカールム
……あれが、邪神。
……他の場所には行かせない。ここで終わらせる。

明るさは大丈夫。『死者の瞳』なら、暗くても十分に目視できる。
問題は、相手が飛んでいること。近接攻撃が届かないから、ナイフの投擲を確実に当てる必要がある。

まずは観察。邪神が死への恐怖を薄れさせるなら、それも使う。死に近づくほど、【走馬灯視】は効果が高まるから。
主観時間を引き延ばす。瞬間。刹那。限りなく零に近い時間まで。そうして相手の動きを読んで、核に当たるよう全力でナイフを投擲する。
邪神からの直接攻撃が来るなら、同じく観察から攻撃を予想して回避を試みる。

【アドリブ・協力歓迎】




「……あれが、邪神」

 猟兵の痛烈な一撃を受け、高度を落とす風船型の邪神。
 その姿をじいっと見つめて呟くルメリーの赤の瞳は、既に鈍く輝いていた。

(……大丈夫。暗くても、十分に目視できる)

 ルメリーの瞳は、常人のそれとは違う。何者かの力によって死を乗り越えたその結果得た、特殊な眼だ。
 その眼の権能を以てすれば、夜の帳などは関係ない。相手が高度を落としている事と併せて、敵の様子はしっかりと視認出来ていた。

(問題は、相手が飛んでいること)

 だが、相手を視認出来ていても攻撃が出来るかと言えば話は別だ。
 ルメリーの主たる攻撃手段は、その手の軍用ナイフによるもの。武器としてのリーチは非常に短い。
 投擲、という手段も無いではないが。高い位置にいる相手にナイフを投擲するのは難しいし、決定打ともなり難いだろう。
 ……故に、ルメリーが敵に対して痛打を与えんとするならば。敵の状況をしっかり見極めた上での行動が、不可欠となる。

(だから、まずは観察──!)

 結論付けて、目を凝らして邪神の様子を観察しようとしたルメリーが目を見開く。
 傷つき高度を落とした邪神から放たれた『声』が、ルメリーの肌を、耳を貫いて。心と頭を、冒したのだ。
 胸の奥から湧き立つ猛烈な不快感。頭にも経験したことの無いような割れる様な痛みが走る。
 ……この苦しみから解放されるなら、己の命を捨てても……。

「──ッ!」

 ……僅かに湧いた不穏な感情を打ち消すように、ルメリーは自らの口中を噛み破って正気を保つ。
 口の中を満たす鉄の味。口の端から溢れる血を無視して、ルメリーはただただ邪神の姿を睨む。

(あの邪神は、死への恐怖を薄れさせる。なら……『それも使う』)

 ルメリーの瞳に宿る鈍い輝きが、僅かに変わる。赤く輝く光がまた一段鈍くなり……だが宿る意思は、強くなる。
 頭上の邪神は、生きとし生ける者の心を負の方向に揺り動かし、死へと近づけるのだという。
 そんな敵の力は、実はルメリーとは相性が悪くない。ルメリーの眼に宿るその力は、『死』へと近づけば近づく程に、その力を増していくのだから。
 ……ルメリーの見る世界が、変わる。全ての光景がコマ送りの動きとなっていく。
 瞬間。刹那。限りなく零に近い時間にまで、ルメリーの主観時間は引き伸ばされる。
 停止したかのように見える、相手の動き。
 どこに何が有り、どこを攻撃されれば嫌なのか。その全てが、手に取る様にルメリーには判る。
 ……相手の嫌がるその場所は、存在の中心である核。その場所へ目掛け、ナイフを構え……。

(他の場所には行かせない。ここで、終わらせる)

 銀閃、一閃。放たれたナイフは天へと、邪神の身体へと、一直線に迫る。
 これ以上、被害は出させない。ルメリーの放った刃には、小さな少女が心の奥底で燃やす正義感が篭められている。
 その正義の一撃が……邪神の身体を穿たない道理など、ありはしない。
 邪神へと迫るナイフは狙い違わず、ルメリーが見抜いた邪神の核を覆う表皮……風船部分に突き刺さる!
 ……邪神の表面上に、変化は無い。今も空中に座し、不快な音声と光を撒き散らす姿は変わらない。
 だが、しかし。

 ──~~~~~!

 痛打に狂う邪神の叫びを。ルメリーはその魂で確かに耳にした。
 威力がまだ足りなかったか、その存在を消し去るには至らなかったが……ルメリーの一撃は、確かな傷を邪神に与えたのだ。

「やっ、た……っ?」

 自らの行いの結果を見届けた、その瞬間。ルメリーの意識がふつりと途切れる。
 ……邪神の力を利用したという事は、その力に心身を侵される事と同義である。
 そんな事をすれば、消耗し意識を失うのも当然の事。だがしかし、その結果は決して批難される物では無い。むしろその小さな身体で、良くぞここまで堪えたと。称賛されて然るべきであろう。
 倒れ伏すルメリー。だがその表情は……己の挙げた功績に、口元を僅かに綻ばせた物であった。
 
成功 🔵🔵🔴