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花咲く都に舞う死香

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章 #番犬の紋章 #地底都市

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 そこは静かな花園だった。
 蒼穹を映したかのような、青く小さな花が風に揺れている。
 所々に見られる木のモニュメントには、美しいレリーフが施されていた。

 花園は街の中央にあった。
 周りは石畳に囲まれ、その外側を豪華なゴシック調の建物が、更にその外側を白い木造建ての居住区が取り巻き、最後には高い塀が囲んでいた。
 花を中心としたこの要塞都市の名はシエルフローラ。『葬燎卿』と呼ばれるヴァンパイアの治める、地底都市である。


 グリモアベースの片隅。いつものカウンターの前で、黒月は猟兵たちを迎えた。
「やあ、よく来てくれたね。今回もダークセイヴァーからの依頼だが……行き先はなんと地底都市だ」
 黒月はそう告げると、後方パネルに風景を映し出した。
 天井が岩で覆われ、あるべき空は見当たらない。遠くに見える街らしきものが、ぼんやりと光を灯しているのみで、他はただ岩か土があるだけだった。
「皆の活躍によって、『辺境伯の紋章』はかなりの数集まった。そこから次なる情報が導き出されたんだ。――そう、この地底空洞の存在だ」
 グリモア猟兵たちが予知した、ダークセイヴァー各地の広大な地底空洞。この空洞には様々な都市が存在し、それをヴァンパイアたちが支配しているという。
 無論、それ等の都市に生活するのは――ヴァンパイアに虐げられる人間だ。
「どうやら『辺境伯の紋章』を配り歩いていた者たちは、ここから更に深部にいるようだね。しかしまずは、この地底都市で虐げられている人々を救うことが先決だ」
 地底都市で暮らす人々は、地上世界の存在さえ認知していない。ただただヴァンパイアによる圧政――時には死よりも恐ろしい其れを、甘んじて受け入れる他ないのだ。
 逃げ場も救いも、彼らにはない。
「今回私が予知した地底都市は『シエルフローラ』と言う美しい街だ。しかしその美しさは仮初のもの。ここを統治するヴァンパイアの歪んだ感性によって、あってはならない方法で成立しているんだ」
 中心に蒼い花園を抱く街。
 聞こえは綺麗だが、問題はその花園を彩るモニュメントにある。
 動植物のレリーフが施された木製のそれは――棺だった。
「……『死んでいる時しか安らげないのであれば、美しい棺にいれて埋葬しよう』と、予知夢の中でヴァンパイアは言った。つまり、奴は人々を『棺に納める雄弁な材料』としか見ていないんだよ」
 黒月が目を伏せて言う。
「生きた人を棺に入れ、花の中に埋葬する。そんなことを繰り返している奴だ……」
 一体、何人の街人が棺に入れられてしまったのだろうか。
 後方のパネルに映る街は遠く、その花園までは見通せない。
 まるで要塞のような都市の規模。いつからある街かは分からないことからも、随分な犠牲が出ていると見て間違いないだろう。
「一刻も早く、彼らを助けてほしい。そのためにも、統治するヴァンパイアを倒してほしいんだ」
 ヴァンパイア――名を『葬燎卿』と言う。
 彼はただの領主ではない。都市を守る『門番』をも兼ねているのだ。
「地底都市には必ず『門番』が居てね、彼らはかの『同族殺し』さえも一太刀で屠れる程の手練だと予知している。つまり、葬燎卿はそれ程の強敵だということだ」
 眉根を寄せてそう告げた黒月が、突然ぱっと明るい表情になった。
「だが安心してくれ。『門番』の強さは、彼ら自身の実力ではないんだ」
 葬燎卿をはじめとする『門番』たちは、体のどこかに『番犬の紋章』という寄生虫型のオブリビオンを寄生させている。つまり、それさえ剥がすなり破壊するなりしてしまえば、一般的な領主と同程度の力になるということだ。
「葬燎卿の『番犬の紋章』は、二対の翼の先端部にある。突起のように出っ張っているから見ればわかるだろう。二つで一つの紋章というわけだね」
 紋章が健全な状態では、葬燎卿にダメージを与えることが出来ない。片方破壊するだけでも、幾分か戦い易くなるだろう。
 積極的に狙っていくに越したことはない。
「葬燎卿を倒すことが出来れば、ようやくシエルフローラに入ることが出来る。街中にもオブリビオンがいるようだから、くれぐれも気を付けてくれ」
 街の安全を確保することが出来れば、人々を地上へ導くことも出来るだろう。
 こんな地底の危険な場所に、彼らを放置しておくわけにはいかないのだから。
「じゃあ、そろそろ出発して貰おうか」
 黒月がグリモアを操作し、猟兵たちの顔を見渡す。
「準備は良いかな? 転送しちゃうぞー。健闘を祈る!」


霧雨りあ
 ダークセイヴァーからこんばんは、霧雨です。
 気付けば秋ですね。食欲の秋、ごはんが美味しい。

 さて、今回は地底世界へご案内いたします。

●第一章
 早速ボス戦です。
 同族殺しを一撃で倒せる程の強敵ですが、オープニングに記載がある通り『番犬の紋章』によって強化されています。
 紋章は翼の両先端に寄生しています。これを破壊、または剥がさない限り、ダメージを与えることは出来ないのでご注意ください。
 紋章を何とかしようとする行動が見られれば、プレイングボーナスが加算されます。

●第二章
 地底都市シエルフローラでの集団戦です。
 詳細は断章にて追記いたします。

●第三章
 こちらも断章にて追記いたします。

 今回もすべての章に断章をはさみます。
 プレイングの参考となりましたら幸いです。

 それでは、みなさまの冒険が良きものとなりますように。
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第1章 ボス戦 『葬燎卿』

POW   :    どうぞ、葬送の獣よ
【紫炎の花びらが葬送の獣 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    安らぎを。貴方には私の棺に入る価値がある
【埋葬したいという感情】を向けた対象に、【次々と放たれる銀のナイフ】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    葬燎
【棺から舞い踊る紫炎の蝶の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠シノア・プサルトゥイーリです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちが転送された場所は、街に程近い荒れ地だった。
 この距離から見るシエルフローラは、かなりの大きさがある。
 街をぐるりと囲う城壁は美しいが、中から生気を感じることは出来ない。街の近くとは思えない静寂が包んでいた。

「――何ですか、貴方たちは」
 転送直後だというのに、早速どこからか声が聞こえて来た。
 姿は、見えない。
「噂には聞いていましたが……なる程、貴方たちが猟兵とやらですか。つまり、私を倒しに来たと?」
 涼やかな声が、強い風を呼ぶ。
 強風は紫の花弁を運び、猟兵たちの前で竜巻となった。
 それが静まれば、そこには一人の男性が佇んでいた。
 紫の髪に、蝙蝠のような羽をもつ麗人。全身から滲み出る気配が只者ではない。
 ――彼が『葬燎卿』で間違いないだろう。つまり、蝙蝠の羽の先端の突起部分が、例の『番犬の紋章』だ。
「私の棺たちが泣いています。壊されることを恐れて――いえ、棺に入るべきモノを奪われることを嘆き悲しんでいるのですね……」
 独り言のように呟く葬燎卿は、すっと瞳を閉じた。
「死が安らぎであるのなら、美しい棺に閉じ込めれば、ほら。美しいままで存在していられるでしょう? 貴方たちも棺に入れてあげますよ」
 口の端が歪み、再び開かれた目には狂気が浮かぶ。
「私は美しいものにしか興味がありませんから――」

 最早、何を言っても無駄であろう。
 猟兵たちは各々の武器を構え、この『門番』に立ち向かうのだ。
シーザー・ゴールドマン
広大な地底空洞か。何ともロマンを感じるね。
見物がてら地底都市の解放と洒落込もうかな。
おやおや、領主自らお出迎えか。良い心がけだね。

『ウルクの黎明』を発動。
オド(オーラ防御)を活性化してオーラセイバーを振るって戦います。

敵POWUC対策
UCの発動を確認したら、動くのを止め、『念動力』でそこら辺に転がる石や木(ぽきっと折ります)を高速で動かして獣の的にします。
そうしておいて自身はゆるりと片手を上げて『葬燎卿』の翼の両先端にある『番犬の紋章』に魔力の波動(衝撃波×部位破壊)を放って破壊しましょう。

戦いの中で理性を手放す。
余程の勝算がない限り、選択するべきではないね。


故無・屍
…フン、地下にまで根を伸ばすたぁ暇な奴らだ。
日光嫌いのヴァンパイアには似合いの場所だな。


継戦能力、怪力、二回攻撃、情報収集にて相手の動きを観察しつつ戦闘を展開、
敵の攻撃に対しては第六感、野生の勘、見切りの技能にて
回避ないし致命傷を避ける
敵の注意が他の猟兵に向いたらUCを発動、殺気の技能にて殺気を抑え、
UCによる技能に加え早業、破魔にて相手の認識範囲外から紋章の破壊を狙う


力の強い奴に弱い奴が支配されんのは一つの摂理だ、そこに関しちゃどうだっていい。
ただ、これがこっちの依頼なんでな。
オーダー通りの仕事はするってだけだ。

…少なくとも、過去に消えた奴よりは今に存在する奴の方が上等だろうよ。



●紅と白の軌跡
 広大な地底空洞をゆったり眺めていたシーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)は、突如現れたオブリビオン――葬燎卿に視線を向けた。
「おやおや、領主自らお出迎えか。良い心がけだね」
 地底空洞の見物がメインでやって来たシーザーにとって、この強敵もただの通過点。余裕の微笑を浮かべてそう告げれば、葬燎卿も同じように微笑んで会釈した。
「これはこれは……恐ろしくも美しい方ですね。我々と同じものを感じますが――猟兵ならば仕方がありません。私のコレクションとして、こちらに入って頂く他ない」
 葬燎卿を取り巻く紫の花弁が後方に集まり、その中から現れたのは巨大な棺。それも大の男が二人、優に入りそうなサイズである。
「……それに俺も入れってか?」
 シーザーのやや後方で、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)がため息混じりに言った。
 力の弱い者が強い者に支配されるのは摂理だと割り切っている屍にとって、ここの都市がどうなろうと関係のないことだった。
 とは言え、過去から染み出した存在より、今を生きる者が上等であるとは思ってる。
 しかもこれは仕事だ。オーダー通りに事を成す必要がある。
 この目の前のいけ好かないヴァンパイアをさっさと始末して、都市の人間を地上に送り届けることが今回の依頼内容である以上、それを全力で遂行するまでだ。
「棺に入るのは仕事じゃねェな。悪いが他を当たってくれ」
「ふふ、そう連れないことを言わないでください。貴方はとても良い目をしています。昏い緑の瞳……好きですよ。これを棺に閉じ込めないわけにはいきません」
 葬燎卿は口の端を上げ、棺の端に手を掛けた。
 棺の蓋が僅かに開き、そこから異様な気配が溢れ出す。
「広大な地底空洞にはロマンを感じるが、君のその棺の中身にはそういったものを一切感じないね」
 シーザーがそう告げると、葬燎卿は目を細めて嗤った。
「美しい棺に入り、美しい花園で死という安らぎに身を委ねられるのですよ。これの一体何が気に入らないのでしょう?」
 棺から溢れ出した不可視の何かが、銀のナイフへと姿を変える。
 それが動き出す前に、二人は動いていた。
 真紅のオーラを纏ったシーザーが、オーラセイバーを手に宙を駆ける。
 その後方にピタリと着く屍の手には、白い直剣レグルス。
 二人は宙に浮かぶ銀のナイフを叩き落としながら、一気に葬燎卿との距離を詰めた。
「私に近付こうとは愚かな」
 葬燎卿の瞳が紫の輝きを放つ。同時に地面に落ちたナイフが紫の花弁へと姿を変え、後方から猟兵二人に迫った。
「……ッチ、面倒なことしやがる」
 屍は体を捻りながら、全力でレグルスを横に薙いだ。剣戟が衝撃派となって向かい来る花弁を切り刻む。
 シーザーは後方を屍に任せ、そのまま葬燎卿に迫った。凄まじい速度で繰り出されたオーラセイバーの剣戟を、葬燎卿はまるで蝶のようにひらりひらりと躱していく。
「それも紋章の力かね」
 シーザーは楽しげに尋ねながら、前方へと跳躍した。
 空中でくるりと回って着地すれば、葬燎卿を挟んだ向こう側に屍が見える。
「おや、挟み込まれましたね」
 葬燎卿は肩を竦めて見せたが、余裕の笑みは絶やさない。
「厄介だな、その『番犬の紋章』とかいうのは」
 屍が吐き捨てるように言えば、葬燎卿はくすりと笑う。
「これが私の実力ですよ……では、今度はこチラカライキマス」
 葬燎卿の言葉が軋むと同時に、体の端から紫の炎に包まれていく。
 そして炎は紫の花びらへと姿を変え、ゆらゆらと集い、獣を模った。
『グルルルル……』
 唸り声を上げながら、シーザーと屍を交互に睨め付ける。
 二人は失笑した――その理性のない姿に。
「余程の勝算があると見えるね」
「死に急ぐたぁ馬鹿な奴だ」
 彼らの言葉にも獣は唸るばかり。
 しかし次の瞬間、猛然と右へ走り出した。
 シーザーと屍から離れるように疾走したかと思えば、何もない場所へ飛びかかる仕草を見せたのだ。
 よく目を凝らせば、そこには宙に浮いた小枝が高速で左右に揺れていた。
 屍は怪訝な表情を浮かべたが、シーザーは静かに笑って言った。
「ハハハ、特性猫じゃらしは効果てきめんだったね」
 彼の念動力による所業にまんまとハマった獣に、屍は呆れ顔でレグルスの切っ先を向けて言った。
「何が強敵だ、拍子抜けもいいところだ」
 そのまま地を蹴って獣に肉薄する。
 危険を察した葬燎卿は、獣の姿を解いて魔法の障壁を張り巡らせた――が、もう遅い。
 屍が狙うは右の『番犬の紋章』。
 彼の掲げたレグルスに、後方から放たれた魔力の波動が纏わりついた――シーザーの放った膨大な紅の魔力を灯した白い剣は、複雑な軌跡を描いて紋章に吸い込まれていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィーナ・ステラガーデン
ごめんこうむるわ!そんなに棺の中が良いと思うならあんた一人で入ってなさいよ!?接着剤で蓋を閉め少し穴を空けて熱湯注ぎ込んでやるから!だいたい何が美しいまま。よ!人はその生き様が美しいのよ!覚えときなさい!

紋章の位置が微妙に当てづらいわね!
とりあえず蝶の群れからは必死に【ダッシュ】で逃げ惑いつつ【属性攻撃】で蝶を打ち落としていくわ!
ここいらには埋葬された犠牲者があちこちいるわけよね?
相手が隙を見せた時に一瞬の足止め目当てでUCを発動よ!
今こそ復讐の時よ!棺から出てきなさい!
死者のお手手によって動きが止まれば仲間猟兵に任せるか、私が火球で紋章を打ち抜くとするわ!

(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


七那原・望
そんな妄想に他人を巻き込まないでもらいたいです。

【果実変性・ウィッシーズアリス】を発動。
【第六感】と【野性の勘】で敵の動きやナイフの挙動を【見切り】、回避しつつ分離させたセプテットやオラトリオ、ねこさん達との【属性魔法】の【多重詠唱】で必要に応じて【一斉発射】【乱れ撃ち】でナイフを撃ち落とします。

敢えて防戦に徹し、油断を誘いつつこっそりねこさん達に【全力魔法】の幻覚を発動してもらいます。

敵が幻を見ている間にねこさん達と共に翼の両先端を【多重詠唱】【全力魔法】の氷【属性魔法】で凍らせ、砕いてしまいましょう。

棺を慰めたいなら自分の死体でも詰め込んでおきなさい。
美しいし、安らかなのでしょう?お前は。



●氷の国のアリスと炎の魔女
 ――それは不毛の戦いに見えた。
「だーかーらー! 絶対イヤだって言ってるでしょ!?」
「美しいままで人は永遠の眠りにつき、それを包んだ美しい棺は花園で眠る……この美しさがどうして理解できないのでしょう?」
「そんなに棺の中が良いと思うなら、あんた一人で入ってなさいよ!? 接着剤で蓋閉めて少し穴を空けたら、沸かしたての熱湯を注ぎ込んでやるから!」
「私が棺に入ってしまったら、この美しい光景を誰が愛でるというのですか?」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!! だいたい何が美しいまま。よ! 人はその生き様が美しいのよ、覚えときなさい!!」
 バシっと言い放ったフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)の後方でじっと静かに佇んでいた七那原・望(封印されし果実・f04836)は、唐突に口を開いた。

「そんな妄想に他人を巻き込まないでもらいたいです」

「……」
「……」

 一瞬にして静寂に包まれる。
 葬燎卿に向けられた言葉なのだろうが、何故かフィーナも押し黙った。
 水色のエプロンドレスに、王冠を戴いた大きなリボン。足元に座る四匹の猫を従え、まるで『アリス』を思わせる可愛らしい少女。そんな彼女から発せられた言葉は、氷よりも冷たい何かを孕んでいた。
 ――目隠しだけが異質かと思えば、その気配も異質で。
「……ええ、その風景ごと棺に閉じ込めたいものです。美しい」
 フリーズから立ち直った葬燎卿が何事か言っているが、望にはどうでも良いことだった。
「棺を慰めたいなら自分の死体でも詰め込んでおきなさい。美しいし、安らかなのでしょう? お前は」
 可憐な少女の言葉と思えないそれが、葬燎卿に突き刺さる。
「……わかりました。多少傷付けてでも手に入れるまでです」
 ため息混じりにそう言うと、葬燎卿は後ろ手に支えていた巨大な棺の蓋を開いた。
 そこから溢れ出したのは、紫の蝶の群れ。数え切れないほどの美しい嵐。
 近くにいたフィーナが慌てて後方へ下がる。
「蝶の形をした炎……? とことん嫌味なやつね!」
 彼女の言う通り、蝶を模った紫の炎が、凄まじい魔力を撒き散らしながら辺りを飛び回った。
「ちょっと、危ないじゃない!」
 フィーナは蝶の群れを引き連れて、望から離れるように全力で走り去った。
「……仕方がありませんね。では、こちらのお嬢さんにはこれを」
 葬燎卿はフィーナから意識を外すと、再び棺から溢れた魔力を望に向けた。魔力は銀のナイフとなって望へと飛翔する。
 しかし望は一歩も動かない。
 彼女からふわりと浮かび上がった巨大な銃や、エクルベージュ色の剣やナイフが、銀のナイフを次々に弾いてくれる。つまり動く必要もないのだ。
 例え、仲間たちの防御を掻い潜って望に迫るナイフがいたとしても、四匹の猫から放たれた衝撃波が瞬時にナイフを無効化するだろう。
「これはまた面白い防ぎ方をしますね。しかしそうも防御に徹していては、私に傷はつけられませんよ?」
 薄い笑みを貼り付けた葬燎卿。
 しかしその表情は、怪訝なものへと変化した。
「……? なんですか、これは……?」
 異変はまず地面に起きた。
 地表がまるでマシュマロにでもなったかのように、白くふわふわに変化したのだ。
 思わずたたらを踏みながらも振り返れば、大切な棺がバランスを失って後ろに倒れたところだった。幸いマシュマロ地面によってダメージはなかったようだが、今度は地面からニョキニョキと生えた腕たちが、棺をぺたぺたと触り始めた。
 ――葬燎卿の顔から表情が消えた。
「なる程、なかなかに高度な幻覚ですね……」
 凄まじい殺気を纏った彼は、望を睨みつけ――。
「いや、それ、幻覚じゃないから」
 いつの間にか戻ってきたフィーナが、しれっと言い放った。
 一緒に飛び回っていた蝶を模った炎たちは、どうやら彼女の炎に負けたようだった。蝶を焼き払った魔力の残る杖を葬燎卿に向ければ、彼の足をひたりと掴む手、手、手。
 それは幻覚でも何でもない、本物の『死者の手』だった。
「あんた、その辺に都市の人たち埋めたでしょ?」
 そう。フィーナが呼び起こしたのは、棺に入れられ生き埋めにされた犠牲者たちの手だ。葬燎卿へ向けられる憎悪は、一体如何ほどのものか。
「な、そんな馬鹿な……」
 驚愕に見開いた目を下へ向け、慌てて手の群れを魔法で吹き飛ばそうとしても――もう手遅れなのだ。
「これがお前の行いの結果」
 望が告げる。
 その冷たい声は刃を含んだ強大な吹雪となり、葬燎卿に向けて放たれた。
 避ける間もなく吹雪を受け、右の羽に座す『番犬の紋章』は粉々に砕け散ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蝶ヶ崎・羊
人を棺の添え物の様に扱うのは感心しませんね

まずは紋章を破壊します
鎌鼬の雷の【属性攻撃】を弾丸のように圧縮して【スナイパー】のように狙い打ちします
紋章を破壊することに成功すれば雷から炎魔法に切り替えて命中しやすい箇所に【二回攻撃】

スナイプ中に通常攻撃やSPDの攻撃が来た場合はUCの風鼬さんの小刀を打刀にして【武器受け】をしてもらいます
紋章が壊れたら各々の刀で攻撃(鎧無視攻撃)

『違う…人は死以外でも安らぎを獲得できます。』
『そして、その人の人生は最期の時までその人…棺ではありません。』


朱酉・逢真
心情)耽美趣味だねェ。ネクロフィリア…とはちと違うか。死体の腐りゆく様までうつくしいと思えるタイプか。それとも腐れば醜いと吐き捨てるのか。すこゥし興味があるが、マ・いまは関係のないことさ。
行動)俺を埋葬したいと思うかはともかく。攻撃からは眷属《鳥・獣》たちに盾ンなってもらおう。そのすきに雷を溜めこんどくのさ。限界まで強化してから、紋章とやら。確実にひとつ壊しちまおう。よくばってふたつ狙ったりはしねぇよ。無理せずコツコツ確実に。基本だな。



●イカズチの落ちる時
 銃を手にした蝶ヶ崎・羊(罪歌の歌箱・f01975)の美しいエメラルドの瞳は、今や輝きを失っていた――僅かに怒気の籠もった声で、相対する葬燎卿に言葉を投げる。
「違う……人は死以外でも安らぎを獲得できます」
 葬燎卿は、棺に都市の人々を閉じ込めて埋葬すると言った。そしてそれはとても美しいことなのだと。
 まるで人を棺の添え物としか考えていないかのような物言いは、羊にとって見過ごせるものではなかった。
「生きていては苦しみばかりでしょう。それに比べて『死』は静かで優しい。そんな静かな安らぎの時を、花に囲まれた美しい棺の中で得られるのですよ? これ以上の安らぎが他にあるというのですか? 最高の人生でしょう、彼らにとっても」
 葬燎卿は饒舌に語る。
「いいえ、その人の人生は最期の時までその人のもの。棺ではありません」
 例え苦しい人生であっても、人はその中で幸せを掴み取っていくのだ。人は言うほど弱くはないと、羊はよく知っていた。
 しかし羊の言葉にも、葬燎卿は厭な笑みを向けるだけで。
「賛同を得られないのは残念ですが……貴方は美しい人だ。是非ともこの碧の棺に入って頂きたい」
 告げると同時に現れた巨大な白い箱。それは碧い宝石と金のレリーフで彩られた、美しい棺だった。
 羊は静かに目を伏せた。
 ――何を言っても彼の理解は得られない。
 短い嘆息と共に、銃口を向けた。

(……耽美趣味だねェ)
 二人のやり取りを、神様――朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は『見て』いた。
 どうやら葬燎卿は、中の人間に興味はなく、その『安らかな死を美しい棺で迎え花園で眠る』という事柄のみを愛でるという変わった嗜好のようだ。
 死体が腐りゆく様まで美しいと思えるタイプか、それとも腐れば醜いと吐き捨てるのか――少しだけ興味を持った逢真だが、ひひ、と嗤って眷属の背から地に降りた。
(マ・いまは関係のないことさ)
 これから始まる戦いの中に、その答えはないだろう。

 タタタ、と小気味よい音が空気を伝わる。
 羊の銃『鎌鼬』に収まる石は黄色へと変化し、銃口から放たれる弾丸は雷そのものだ。しかし葬燎卿は余裕の笑みを浮かべながら、紫の花びらを操って相殺していく。
「おやおや、そんなものが私に当たるとでもお思いですか?」
「これは手厳しいですね」
 羊の表情も柔らかい。
 どちらも互いの実力を探っているというわけだ。
 ――と、葬燎卿の視界に黒い影が映った。
「……? なる程、もう一人いましたか」
 逢真がゆっくりとこちらへ歩いて来る姿を認め、葬燎卿の口の端が上がる。
「これはこれは……恐ろしい気配を放つ方だ」
 再び羊に視線を戻しながら、葬燎卿は言う。
「もう一つ棺が必要ですね、少々お待ち下さい。この方の次は貴方です」
 随分遠い位置で立ち止まった逢真は、葬燎卿の言葉にこくんと首を傾げながら。
「俺も埋葬したいってか? ひ、ひ。悪いこたァ言わねェ、やめときな」
 そう言って地べたに座り込んだ。
 逢真が『何なのか』知っていれば、棺に入れようなどと思わないのだろうが。
「……貴方は戦わないのですか? この人と同じ猟兵でしょう?」
「ひひ、俺ァよわっちいんだ」
 嘯く逢真の言葉に、葬燎卿はくすくすと笑った。
「そうですか……ならば一息に棺の中へご招待いたしましょう」
 羊の攻撃を防いでいた花びらたちが、一斉に舞い上がる。
 かちゃり、と棺の蓋が開いたかと思えば、そこから飛び出したのは大量の銀のナイフだった。
 それ等は羊と逢真目掛けて宙を駆ける。
 しかし――そのナイフが二人を傷つけることは叶わなかった。
 羊が歌えば風鼬が現れ、逢真の前には眷属の《虫・鳥》――それは強大な獣や怪鳥になった――がずらりと並んだ。
 82体の風鼬は互いに手を繋ぎ、次々に合体した。構えた打刀を振りかざし、まるで踊るような動作で銀のナイフを打ち落としていく。
 獣と怪鳥は、その腕や尻尾、或いは大きな翼から放たれる衝撃波で、銀のナイフを無効化していった。
 仲間が防戦をしているうち、羊と逢真は同じものを見ていた。それは葬燎卿の翼の先端部、『番犬の紋章』だ。
「一体いつまでそうして防いでいるつもりです?」
 痺れを切らした葬燎卿が、攻撃手段を変えようと動いた。
 そこに生まれた僅かな隙を、二人は見逃さない。
 先の攻撃とは比べ物にならない魔力の奔流が、羊の鎌鼬から撃ち出される。圧縮された其れは裁きのイカズチ。
 逢真は座ったまま手を動かした。彼が操るのは《恙》――その神威は稲妻となって迸る。
 二人の雷撃は混ざり合うことなく、眩い光を放って葬燎卿の翼を撃ち抜いた。
 静かな地底空洞に、ヴァンパイアの悲鳴が響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
ヴァンパイアの地底都市か。まるで伝説に聞く「アガルタ」のようだな。
まずは敵の強化を解かなければ、ということで翼の紋章を狙おうか。ただし、あからさまにそれを狙うとなると攻撃が単調になってしまうので、悟られぬように攻撃に視線と足捌きによる《フェイント》や、虚実を混ぜた《二回攻撃》を駆使しての心理戦を仕掛けていこうか。

《戦闘知識》で相手の戦いかたを分析。敵の目的は、標的を美しい姿で葬ること…。ならば体の損傷を極力さけ、急所を的確に突いて迅速に仕留めようとするだろう。
ブレイドウイングによる《武器受け》でナイフをガードしつつ【妖剣解放】を発動、素早く距離を詰めて紋章をピンポイント攻撃だ!



●アガルタに踊る鬼神
 紅の斬撃が幾筋も走る。
 妖刀を閃かせ怒涛の斬撃を繰り出したのは、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)だ。長く美しい赤髪と黒のコートを靡かせて、禍々しい妖刀を操る姿はまるで鬼神。
 しかし対する葬燎卿は巨大な棺を器用に動かし、そのすべてを受け止めた――余裕の笑みすら浮かべて。
 ギギンと耳障りな音が耳朶を打った。
 この音を聞くのも三回目かと思いながら、ガーネットは葬燎卿が反撃に放った紫の花弁を妖刀で斬り裂いた。
「いやぁ、ゾクゾクしますね……本当に強く美しい方だ」
「紋章は片方破壊されたというのに、余裕じゃないか」
 ガーネットの指摘にも、葬燎卿は表情ひとつ動かさない。
 右の羽の先端にあった『番犬の紋章』は、別の猟兵との戦闘で失っている。左の紋章はまだ残ってはいるが、ズタズタに傷ついていた。
「つまり――これが私の実力ということです」
 笑顔を向ける葬燎卿に、ガーネットも笑顔で応えた。
 その間にフェイントを織り交ぜた横薙ぎ、斬り上げ、死角からの蹴りを放っているが、すべて躱されている。
 番犬の紋章が鈍い光を放った気がした。
(やはり強化を解かなければ、まともにダメージは与えられないか……)
 心の中でそう呟きながらも、ガーネットの攻撃の手が緩むことはない。
「ああ……早く貴女をこの棺に入れて、花園に沈めたいですね。燃えるようなその赤い髪と瞳が、白の棺と蒼い花に包まれるのです……これ以上に美しいものがあるでしょうか!?」
 彼女を埋葬する瞬間を想像して興奮した葬燎卿に反応し、棺の蓋が僅かに開いた。その中から飛び出した銀のナイフは、ガーネットの急所を狙って鋭く飛翔する。
(狙いは急所のみ……? つまり敵の目的は、標的を美しい姿のまま葬ることか)
 ガーネットはそう分析すると、大きくマントを翻した。中から勢いよく飛び出した金属製の翼が、向かい来るナイフからガーネットを守る。
 軽い音を立てて弾かれたナイフが地面に落ちるよりも早く、ガーネットは前方へ向かって大きく跳躍した。
 葬燎卿を飛び越え、一回転して着地する。
 宙で見た光景――地底にありながらも苔や魔法ガスによって得られる光、荒れ果てた大地、そしてその中に佇む壮麗な都市。それはまるで様々な伝説に描かれる『アガルタ』のようだと、ガーネットは思った。
 しかしそれも刹那のこと。
 着地と同時に展開したユーベルコードの効果によって、コンマ数秒で葬燎卿へと肉薄する。
 狙いは――左の翼の突起、番犬の紋章!
「斬り裂け!!」
 居合の如き斬撃が繰り出され翼へと迫る。
 彼女の高速の動作に反応が遅れた葬燎卿は、慌てて棺でガードしようと――。
「ガァッ!?」
 葬燎卿から苦悶の声が漏れた。
 超高速で叩き込まれた妖刀から衝撃波が放射され、紋章の抵抗を打ち破って翼を切り落としたのだ。
「ぐ……な、何ということを……」
 よろめきながら葬燎卿は後ずさった。
 刀を携えたガーネットがクスリと笑う。
「実力なのだろう? ならば大した痛手ではないだろう」
 涼しい顔でそう告げれば、葬燎卿の顔からサァっと血の気が引いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
オレが入るにはその棺は立派過ぎるな
苦しみながらゴミの如く捨てられる……業深き者の死はそうあらねばならん

葬送の獣……奇遇だなオレの獣も似たような事をできる
UC「禍ツ暴喰」発動
これで無差別に暴れる獣が2体
負けた方は骨も残るまい
ククク……お互い碌な死に様にならんなぁ?
獣共が喰い合っている間に内なる武器『冥き殺戮衝動の波動』の結界展開【結界術】
【殺気・呪詛】の暗黒オーラで番犬の紋章を捕える【捕縛】
殺意の呪いに蝕まれろ!【継続ダメージ】
縛を解こうと翼を動かせば獣共に紋章を喰われるぜ
足掻き踠き悶え絶望の中で死ね【恐怖を与える】



●紫の炎が消える時
「私としたことが……皆さんの美しさに気を取られ不覚を取りました。ですが、ここからは違います。本気でいきましょう」
 目の前に立つ白い髪の青年が、どれ程の力を秘めているのか――紋章を失った葬燎卿は巨大な棺を手繰り寄せ、値踏みするようにナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)を見つめた。
「……オレが入るにはその棺は立派過ぎるな」
 葬燎卿が何を考えているのか察したナギは、静かにそう告げる。
 彼の横に座る巨大な獣が、グルルと低い唸り声を上げた。剥き出しの肉や骨で構成されたその獣の名はソウルトーチャー。まるで何かを封印するかのように巻かれた包帯が不気味だ。
 僅かばかりソウルトーチャーへ視線を向けた葬燎卿は、盛大に顔をしかめ、すぐに視線をナギへと戻した。
「ふふ、素敵でしょう? この美しい棺……貴方はこれに入って、死という安らかなる時を花園で迎えるのですよ」
 クスクスと笑って言う葬燎卿に、しかしナギは首を横に振った。
「苦しみながらゴミの如く捨てられる……業深き者の死はそうあらねばならん」
 それは葬燎卿へ向けた言葉か――それとも、自身への言葉か。
 ナギは話は終わりだとばかりに、鋸のような刃を持った鉈を手にした。
「おやおや、そんな野蛮な武器は不要です。その身ひとつで棺に入って頂かなければ」
 そう言って棺の蓋に手をかければ、僅かに開いた隙間から紫の花弁がざらざらと地面に溢れた。
 花びらは一箇所に寄り集まり――大きな虎を象った。
「さあ、あの青年を捕らえなさい!」
 葬燎卿が命ずれば、虎は大地を蹴ってナギへ向かって猛然と走る。
 しかしナギは動かない。表情のないまま、ぽつりと呟いた。
「奇遇だなオレの獣も似たような事をできる」
 ナギの手がソウルトーチャーに触れる。
 するするとほどかれる包帯――ユーベルコードは展開された。
『グガアアアアア!!!!』
 凄まじい咆哮を上げ、ソウルトーチャーが虎へ向かって走リ出す。
 暴走捕食携帯となった其れは、速く動く者を無差別に襲うのだ。
「これで無差別に暴れる獣が二体だ。負けた方は骨も残るまい」
 ナギの言葉に合わせ、ソウルトーチャーの牙が虎の背に食い込んだ。虎も負けじとソウルトーチャーの前脚に齧り付く。
 地面を転がり、血みどろになりながら組み合う二匹。
 ――ナギの口端が吊り上がった。
「ククク……お互い碌な死に様にならんなぁ?」
 先程までの静かな青年と同一人物とは思えない、残忍な笑み。
 しかし葬燎卿は気付いていない。
「これでは動けませんね……厄介な」
 ソウルトーチャーを睨みつけてから、次なる攻撃のために棺を再び開こうと――。
「何をしている?」
 ナギの低い声音が、その手を止めさせた。否、何かに捕らえられ手が動かなくなったのだ。
「何故です……何故動かない!?」
 それはナギの殺戮衝動から生まれた波動。
 徐々に生命力が抜けていくことを感じた葬燎卿は、慌てて魔力を腕に集中させた。
「解こうと動けば、獣どもに喰われるぜ?」
 ナギが嗤って言った。
 ソウルトーチャーと虎は、葬燎卿の近くで喰い合っている。ここで下手に動けば、彼の言う通り巻き込まれかねない。
「くっ、奴等が死ぬまで待つしかないですか……しかしそれは貴方も同じでしょう」
 そう言ってナギに視線を向けた。
 しかし、そこに立っているのは知らない男だ。
 歪んだ表情、狂気しかない瞳――これが先程の青年なのだろうかと。
 戸惑う葬燎卿に向かって、ナギは言い放った。

「殺意の呪いに蝕まれろ。足掻き踠き悶え絶望の中で死ね」

 葬燎卿の喉の奥がヒュッと鳴った。
 引き攣った顔から、どんどん生気が失せていく。
 恐怖に身が竦み、呪いに蝕まれ、すべてが瓦解していく――。

 ――死とは、こうも恐ろしいものなのか。


 紫の花びらが、一斉に舞い上がった。
 宙でくるくると風に遊ばれながら、猟兵たちの頭上を吹き抜けていく。
 その一枚一枚が仄かに光を放ったかと思えば、ゆっくりと溶けるように消えていった。
 美しいものだけを愛した葬燎卿は、最期の時まで美しくあろうとしたのだろうか。
 それが例え、恐怖に縛られた最期だったとしても。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『堕ちた死体』

POW   :    噛み付き攻撃
【歯】を向けた対象に、【噛み付くこと】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    一度噛まれると群れる
【他の堕ちた死体の攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【追撃噛み付き攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    仲間を増やす
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【堕ちた死体】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 地底都市シエルフローラの巨大な城門を潜った先には、白い木造造りの家々が規則正しく並んでいた。その向こう側には、豪華な屋敷が建ち並んでいる。
 その先には、件の蒼い花園があるようだった。
 そこからこちらに向かって、地響きを上げながら走って来る人、人、人。
 凄まじい数の人間は、近くで見れば気付くだろう――それが皆死体だということに。
 花園に埋められた人々が、都市の防衛のための『ガーディアン』として使われているようだった。
 猟兵たちは武器を取りながらも、周りの建物からの視線を感じていた。
 いつ棺に入れられるかと怯えて暮らして来た人々は、猟兵たちが敵か味方かも判断が付かず、息を潜めて彼らを観察しているだ。

 このゾンビの群れを殲滅すれば――彼らを安心させることが出来るのだろうか。

 ---

●補足
 都市の人々が外に出ることはないので、避難誘導などは必要ありません。
『魅せる』ような戦い方が出来れば、彼らに勇気を与えることが出来るでしょう。

 以下、戦場となる場所です。
 戦い易い場所をご利用ください。

『蒼い花園』…まだゾンビが入ったままの棺が多数残っています。
『中央広場』…街の中央、建物から距離のある広い場所です。ゾンビが四方八方から襲って来ます。
『豪華な屋敷前』…誰も住んでいない飾りの建物が並んでいます。隠れるにも最適、破壊しても問題ありません。

 ここでの活躍が第三章のボーナスとなりますので、気合いの入ったプレイングをお待ちしております。
アイオラ・セレーネ
心情)コロス、コロスコロスコロス…コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す!殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺。
行動)目の色が文字通り、変わる。「中央広場」にて一匹ずつ、力任せに、最大限の憎しみを込めて殺害してゆく。
その際に【2回攻撃】と【早業】にて効率化、おさまることのない憎悪は無差別に【恐怖を与える】
【第六感】で視界外から迫りくる死体をいなす。
視野は狭くなり、共闘という概念はない。



●其れは死を以てしても足らず
 靴底が石畳を踏みしだき、走る死体に瞬時に肉薄すれば。
 赤い軌跡を描いたマチェットが、獰猛に首を掻いた。
 噴き出したタールのように黒い液体が、彼女の服を濡らすことは――ない。
 コンマ数秒で次の獲物へ奔り、殺す。
 ひどく静かで単純な――例えそれが殺すという行為であったとしても――動作とは裏腹に、彼女の内ではたった一つの感情が激しく渦巻いていた。

 ――コロス、コロスコロスコロス……コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す!

 猩血の瞳。本来の紺碧は、血塗られてしまった。
 狂おしいほどの殺意。
 動作は冷たく、動きが冴えていくほどに、彼女の殺意は膨れ上がっていった。
 そう、抑える必要などない感情だ。

 ――殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!

 脳内を彩る殺意が、彼女の手足を動かす。
 憎悪の念に駆られて力任せに振るわれたマチェットが、死人の頭を叩き潰す。
 振り下ろされたマチェットは凄まじい速度で跳ね上がり、横に並んだ死人の胸を穿った。
 すぐさま身を横にスライドさせ、背後から駆け寄った死人を軽くいなすと、よろめいた其れの背に向かってマチェットを叩きつけた。

 広い中央広場にいるはずなのに、視野に映るは死人のみで。
 他の猟兵の存在など最初からなかったかのように、彼女は独りで踊るのだ。

 ――共闘? 必要ないじゃない。
 ――不死者を殺すという行為に、他人が必要かしら?

 白い髪の異形狩り、名はアイオラ・セレーネ(憎悪・f00082)。
 不死者を絶滅させるべく、今日も咎を討つ。

成功 🔵​🔵​🔴​

七那原・望
このゾンビ達も元は此処の住民だったのですよね。死は安らぎだなんて言っておきながら、死後の身体すらこうやって弄んでるのですか。

【Laminas pro vobis】に此処に在る2つの支配を終わらせる望みを込めて。

【第六感】と【野性の勘】で敵の動きや攻撃を【見切り】、常に優雅にくるくると【踊り】ながら回避を。

ユーベルコードの力で攻撃力を強化した【全力魔法】の【浄化】の【魔力を溜めた】【歌】でゾンビ達を【浄化】します。

もういいのです。
あなた達を縛っていたヴァンパイアは消えました。
だからあなた達はもう隷属しなくていいのです。
あなた達は自分の為に生きていいのです。
そしてあなた達はもう休んでいいのです。



●やすらぎのうた
 都市の中を、おびただしい数のゾンビが走り回る。
 封印された視界故に見ることは叶わないが、その五感を以てゾンビの正体を予測した望は、小さく嘆息を漏らした。
 彼らはこの都市で暮らしていた一般市民だ。
 生きたまま棺に入れられ、望みもしない死を与えられた、憐れな犠牲者たち。
「……死は安らぎだなんて言っておきながら、死後の身体すらこうやって弄んでいるのですか」
 安らぎだと言うなら、何故静かに眠らせておかないのか。
 所詮は――ヴァンパイアの遊戯だったということだ。

 ゾンビたちの呻き声はまるで無念の歌声。
 望の元へも、その歌はやって来る。
 まるで助けを求めるように、望へと伸ばされた手。
「もう、いいのです」
 望はまるで見えているかのように、その手をひらりと躱した。
 次々に押し寄せるゾンビの攻撃は決して望に届かない。
 くるくると。
 まるで花や鳥を思わせる優雅な身のこなしで、中央広場へゾンビを誘導していく。
 広場の中央で立ち止まった望は、突如柔らかな赤い光に包まれた。その中から現れたのは、礼装に身を包んだ美しい乙女。
 薄紅の小さな口が開かれれば、優しく降る雨のような声が広場に響き渡った。

 ――もういいのです

 静かに始まる歌に、ゾンビたちの足が止まる。

 ――あなた達を縛っていたヴァンパイアは消えました。
 ――だからあなた達はもう隷属しなくていいのです。

 儚い声が、ないはずの心に染み渡る。
 小さなゾンビは顔を歪めて涙を零した。
 大きなゾンビが慟哭し、細身のゾンビが啜り泣いた。
 次々に伝播する激しい感情に、ゾンビたちはその場に崩れ落ちた。

 ――あなた達は自分の為に生きていいのです。
 ――そしてあなた達はもう休んでいいのです。

 ゾンビたちの体がゆっくりと光に包まれていく。
 偽りない安息。
 やすらぎの歌が、彼らを眠りへといざなう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
地底都市の中央広場に、ヒーローカー「BD.13」を駆って登場する。
これだけ広い空間があるなら、こいつを存分に
走らせられるな。
卓越した《運転》技術に加え、クルマの性能を《限界突破》
させてゾンビの軍団を翻弄。
さらに上空にメカたまこEXを飛ばし、空撮映像をナビに
転送させれば死角もカバーできるはず!

攻撃は【パイロキネシス・α】を使用。
運転席に座ったままの状態で《念動力》で火球を操り、
ゾンビ共を片っ端から燃やしていく。
猛々しいエンジン音を響かせて走り回れば、家の中の人々にも
私の存在をアピールできるだろう。
お休み中だったなら、申し訳ないけど。



●エキゾースト・ロマン
 猟兵到来に合わせて墓を出たゾンビたちが、続々と中央広場に集いつつあった。
 只今の時刻は午後22時。既に眠りについている人もいる時間帯だ。
 そんな静寂の都市に轟く、猛々しいエキゾーストノート。
 城門を潜り、都市のメインストリートを疾走する優美な2ドアクーペは、ガーネットの駆るヒーローカー『BD.13』だ。
 スピードを落とすことなく中央広場へ突っ込み、凄まじい煙とスキール音を上げながら定常円旋回してギャッと止まる。
 中に座るガーネットの赤い髪が、ふわりと揺れた。
 激しい運転にも微塵も疲れを見せない彼女は、ざっと戦場に目を走らせる。
 ゾンビたちには意思がないのか、BD.13に臆することなく、こちらへ向かって走ってくる。その数、数十。
「思ったより数が多いな……しかしここは広い。こいつを存分に走らせられる」
 ちらりと時計に目をやり、お休み中の方には心の中で謝罪しておきながら。

 中央広場は広い。これを視界だけで把握するのは不可能だ。
 ガーネットは、にわとり型ドローン『メカたまこEX』を飛ばして、その空撮映像をナビに転送させた。
 これで彼女に死角はない。
 不敵な笑みを浮かべ、再びBD.13のアクセルを踏み抜く。
 ガーネットに応えるように、BD.13は激しいエンジン音を轟かせて走り出した。
 ゾンビの群れを追い回し、時にドリフトでタックルをかましながら、縦横無尽に駆け回る。
 しかし、敵の数はなかなか減っていかない。
 轢かれて倒れていたゾンビも、時間が経てば起き上がって来るのだ。
 ガーネットは運転の手を止めることなく、自身に流れるダンピールの血を活性化させた。
 彼女の体から不可視の力が立ち上り、それは87個の火球――あらゆる環境で燃えるサイキックエナジーの炎へと形を変えた。
 ゾンビたちの動きを見ながら、ガーネットがそれ等を放つ。
 火球は意思があるようにゾンビたちを追い、取り憑き、その身を灼き尽くすまで燃え続ける。
 ――炎に彩られた中を疾駆するBD.13は、見る者を虜にするような美しさだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

故無・屍
門番はくたばったか、それなら後は仕上げだな。
見える場所での華々しい殺陣なんざ他に任せておきゃぁいい、
こっちは似合いの戦場でとっとと仕事を終わらせるだけだ。
…俺の戦いより、向こうの戦いに希望を見出した方がいくらか健全だろうよ。


屋敷前での戦闘を選択
UCでの技能に加え目立たない、聞き耳、暗視、時にはおびき寄せを用いて
隠行にて敵を殲滅する
怪力、2回攻撃、早業も用いて暗殺は迅速かつ確実に、

可能であれば罠使いの技能にてワイヤートラップなどを仕掛けて
標的を一網打尽に片付ける
自分の戦いの内では極力屋敷の破壊は避けるように配慮はする


…ここに住んでる奴はいねェようだが、
この家の部品が地上で使える可能性もあんだろ。



●影の中で
 中央広場では、ゾンビと猟兵の入り乱れた戦闘がはじまっていた。
 それに比べ、此処は静かだ。
 厳かな雰囲気の巨大な屋敷が、誰に住んで貰えることもなく佇んでいる。家とは使われて初めて意味を成すものだが、葬燎卿にとってはただの飾りという認識らしい。
 ――実に、くだらねェ。
 屋敷の影に潜む屍は、言葉を吐き捨てた。
 彼はここを仕事場に選んだのだ。誰の目にも止まらない、この場所を。
(見える場所での華々しい殺陣なんざ他に任せておきゃぁいい、こっちは似合いの戦場でとっとと仕事を終わらせるだけだ)
 影の暗殺に希望を見い出す必要は、ない。

 猟兵の気配を感じ取ったのか、ゾンビたちがふらふらとやって来て、辺りの様子を伺っている。
 屍は聞き耳を立て、見えない位置からゾンビの動向を探った。
 スキルマスター・ダーティ――ユーベルコードを展開させることで、彼の能力は格段に上がっている。
 仕事の開始を告げるかのように、まずはこちらに向かって屋敷の角を曲がったゾンビを、背後から手刀の一撃で昏倒させた。
 その後、屋敷と屋敷の隙間を活用しながら移動しては、道行くゾンビを引きずり込んで殴殺し、時に自身の影を刃に変えて刺殺した。
 ゾンビに見つかることなく、次々にその数を減らしていく。
 音のない世界――ゾンビの呻き声が小さく反響するも、風が吹けば消え去る。もし誰かが此処に居れば、まるで廃墟に立っているかのような感覚を覚えるだろう。
 誰かが戦っているなどと思えないような――しかし暗殺とはそういうものだ。
 小石や口笛を使って、残りのゾンビをとある場所まで誘導する。
 目に見えない極細のワイヤーが張り巡らされたその場所で、ゾンビたちは死期を悟ることなく絶命した。
 とても市民に見せられたものではない肉片。それを見つめる屍の目は仄暗い。
 このまま晒すわけにもいかず、慣れた手付きで片付けながら――ちらりと屋敷を見やった。
 窓から見える室内には、恐ろしく高価な調度品が飾られている。この建物自体も、うまくバラせば立派な建材となるだろう。
 派手な戦闘をしなかったのは、そういう理由もあるのだ。彼らが地上へ出る際に、一緒に持って行けば生活の足しにはなるだろうと。

 屍は舌打ちすると、再び手を動かした。
 もう敵はいない。
 あとはここの連中を外に連れ出せば、仕事は終わるのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィーナ・ステラガーデン
後は町のお掃除かしら?
粋の良い死体ね!そのまま躯の海へ直行させてやるわ!
もちろん目立つ場所で戦うわ!つまり中央広場よ!
んー。特に魅せる戦いって思いつかないわね!いつもどおり爆音立ててけちらすとするわ!
誰か背合わせで戦いたい所だけど、もし誰もいないなら一人でやるわね!
前に出てきたやつから順番に魔法での【制圧射撃】で【吹き飛ばし】てやるわ!
数が押してきたら一人なら杖に乗って空を飛んで、誰か仲間が一緒ならその人に少しだけ任せてUCで一気に派手に周囲を焼き焦がすわよ!
むふーっ!たわいないわね!!
(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


蝶ヶ崎・羊
これは…助けられず申し訳ありません。ですがその代わり、全員弔わせてもらいます。

まずは集まりやすくする為に中央広場へ移動します
そして不安な人々を落ち着かせる歌を歌い、その歌でゾンビを誘います(歌唱/誘惑)
ゾンビ達が近寄ってくれば蔦の鞭でなぎ払い、UCの子羊達に蹄による【鎧無視攻撃】の蹴りをしてもらいます(属性攻撃/なぎ払い)
『さぁ、一人残らず安らかな眠りへと誘わせてもらいますよ。』

攻撃は【見切り】や【オーラ防御】で防ぎます



●歌うドールとナパームの少女
 どかどかと足音を立てて、ゾンビの群れが向かってくる。
 それは都市の民衆の末路。
 隠れて様子を伺っている人々も、猟兵が来なければこうなっていたのだろう。
 助かった者たちは良い。これから先は圧政に怯えることなく暮らしていけるのだから。
 しかし、ゾンビとなってしまった者は――。
「これは……助けられず申し訳ありません」
 眉を下げ、口から滑り出す言葉。
 羊は悲しげにゾンビたちを見やり、謝罪を述べた。
 助けれらなかったことの申し訳なさと、彼らを弔おうという強い意思。
 人を愛するが故の所作。
 しかしその思いは、一時断ち切られる。
「ちょっと、感傷に浸ってる場合じゃないわよ! さっさと掃除しないと街だけじゃなくて私たちまでゾンビまみれよ! そんなのごめんだわ!」
 羊から少しばかり離れた場所で、大きな叫び声が上がったのだ。
 ゾンビに取り憑かれて引き剥がそうと必死のだめな魔女、フィーナの叫び声だ。
 羊は苦笑しながらも、風の魔法でゾンビを吹き飛ばしてやった。
 いつもなら一緒に吹っ飛んで行きそうなフィーナが、今日はその場で微塵も動いていない。羊のスペックの高さが伺い知れた。
「ぐぬー、絶対燃やしてやるわ!」
 怒りの形相で腕まくりポーズをしながら、フィーナはズンズンと中央広場へと向かう。
 羊もその後に続きながら、その口は静かなメロディを紡いでいた。

 ――やさしい夜 月が昇り 星が瞬く
 ――きみのうえにも 安らかな時が やってくるのだ

 淡い緑の光が羊を包み、光は風となって歌を運ぶ。
 騒いでいたゾンビたちは、羊に惹かれるようにフラフラと中央広場へ向かい、家に隠れる民衆からは不安を取り除いた。
 美しい歌声が、優しい空間をつくりだし――。
「さあ、ガンガン燃やすわよ!!」
 暴君フィーナによって台無しとなった。
「ちょっと、誰が暴君よ!?」

 ――中央広場にて。
 羊の歌声とフィーナの叫び声に誘われて集ったゾンビたちに囲まれ、二人は背中合わせに立っていた。
「随分集まりましたね……」
「そうね! 完全に囲まれたわ!」
 どうしてこうなったのか考えないフィーナは、取り敢えず前に出たゾンビを火球で爆発させる。
 羊も近寄る二体を、蔦の鞭で薙ぎ払った。
 ゾンビたちは警戒しながらも、じわじわと包囲の輪を狭めてくる。
「んー、こうしてても埒が明かないわね! 羊、少しの間任せるわ! 合図したら逃げるのよ!」
 フィーナはそう言い残して、杖に跨りぴゅーと宙へと舞い上がった。
「わかりま……行ってしまいました。しかし空飛ぶ魔女ですか」
 返事をさせて貰う暇もなく飛んで行ったフィーナを目で追いながら、羊は感嘆の表情で呟く。
 ほうきに乗って空を飛ぶ魔女の本は、自身が営む夢塔古書店にもたくさんある。
 しかし、杖に跨って空を飛ぶ魔女はなかなか聞かない。
「……と、この方たちを食い止めるんでした」
 完全に別ごとを考えていたところに襲い掛かって来た一体を何とか躱して、羊はそっと囁いた。
「我は翼を望む者なり……地をかける神の使いに聖なる翼を!」
 詠唱と共に出現したのは、なんと82体の子羊だ。それも翼の生えた、まるでぬいぐるみのような愛らしさの子羊たち。
 しかし、見た目に騙されてはいけない。
 彼らは羊の命に従い、その凶悪な蹄でゾンビたちを薙ぎ倒していく。
「さぁ、一人残らず安らかな眠りへと誘わせてもらいますよ」
 羊が不敵に笑って告げた。
 強打で打ち倒されたゾンビ……確かに安らかな眠りは訪れそうである。

「準備できたわ!!」
 子羊たちが半分近くのゾンビを倒したところで、天の声が聞こえた。
 これは所謂”お告げ”というやつだ。それも破滅のお告げ。
 羊は頷くと、子羊たちが切り開いた道から外へ逃げた。
 ――その直後に。

「消し炭にしてやるわ!!」

 何やら物騒な文句と共に、灼熱の火球が降り注いだ。
 それは魔法で飛ばした火の玉と言うより、戦争で使うようなナパーム弾と説明した方が正しいだろう。
 着弾すれば、凄まじい爆音とともに炎が燃え盛る。
 それは水をかけても消えることはない。
 なんてったってナパーム弾。

 えげつない魔女の攻撃を背後に感じながら、羊は建物の影に潜んだ。
 振り返った瞳に映る惨状は――都市の民衆に見せられたものではない。
 その場をいそいそと離れて『やさしい歌』を歌うドール。
 彼の歌声は、再び民衆にやすらぎをもたらすだろう。

 ナパーム魔女の戦いは、もう少し続きそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心中)派手なドンパチはニガテなンで、そォいうのンは他におまかせしよう。ゾンビねェ。元・市民ってことかい。俺は救いの神じゃねえから、哀れんだりはせんのだが。タマシイが縛られっぱなしなンは困るねェ。つれてかせてもらうぜ。
行動)場所は『豪華な屋敷前』。壊してもいいたァ豪気なこった。使わせてもらおうかィ。屋敷っつゥ『無機物』を代償にサールウァを喚ぶ。死体どもを巻き上げて、上の方でミキサーしちまいな。地底空洞たァいえ、屋根の上すぐ岩場ってこともあるまい。残ったタマシイは俺が預かる。病んでンだろうからな。転生するまえに、冥府でしばらく療養しな。



●タマシイの行方
 天使像や植物のレリーフが施された柱や壁、美しいステンドグラス。
 大聖堂や宮殿を模した建物は、どこかの世界で『バロック建築』などと呼ばれているらしい。
 誰も住んでいない、からっぽの器。
 ただの、飾り。
 そんな建築物が建ち並ぶ通りに、からんころんと下駄の音が響く。
 遠くで起こる爆音にエキゾーストノートは、猟兵たちが大いに暴れているからだろう。
 自分はここで静かに弔うと。
 ……いや、彼に弔うという思想はない。凶都に住まう凶星――逢真は救いの神ではないのだから。

 ゾロゾロとこちらへやってくる元・市民を見やると、逢真はふと笑みを零した。
「タマシイが縛られっぱなしなンは困るねェ」
 哀れみはない。だが、望まない死を与えられ、輪廻に戻ることも叶わないタマシイは放っておけない。
 命が辿るはずの軌道を、逸れてしまったタマシイを――。
「からっぽの無機物なら、使わせてもらおうかィ」
 周りの豪華な建物をぐるりと見渡し、そう告げる。
 ついでに上も見上げれば、遠いところに天井が見える。
 さすがは巨大な地底空洞。背の高い建物の屋根から天井までは、優に200メートルは離れている。
「頼むぜ、やんちゃ坊主。巻き上げてミキサーしちまいな」
 逢真の声に応え、近くの建物が”吠えた”。
 ――それは不浄の暴風雨、凶神の寵児『サールウァ』。
 声は大気を震わせ、嵐へと変わる。
 嵐は黒い竜巻を喚び、一筋の世界を創り上げた。
 逢真目掛けて猛然と走って来たゾンビたちが、竜巻に絡め取られて宙(そら)へと舞い上がる。
 ぐるぐると回転しながら巻き上げられたゾンビたちは、見えない上空で肉塊になり、ミンチになり、最期には塵となって消えた。

 オブリビオンという肉の檻に囚われていた彼らのタマシイは、逢真の元へ集う。
 逢真は慈しむかのように、目を細めた。
「病んでンだろうからな。転生するまえに、冥府でしばらく療養しな」
 かみさまの声に、タマシイはゆうらりと揺れた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シーザー・ゴールドマン
地響きを上げて走る屍か。見ようによっては喜劇的だね。
(押し寄せる屍の群れは『ソドムの終焉』を以て周囲に被害を出すことなく一息に消滅させます。住民への視覚的効果を考えてその輝きに『破魔』属性を纏わせて聖なる雰囲気を出したりもしています)

さて、彼の自慢の蒼い花園だったか。やはり棺は余分だね。
(そちらに足を運び、一通り見回して記憶した後、同じく『ソドムの終焉』にてゾンビごと棺のみを消滅させます)
うん、この方が見栄えが良い。これが見納めになるのは少し残念かな。
(葬燎卿は既に亡く住民も地上に連れていくつもりの為、管理するものなき花園は早晩荒れると考え)



●蒼い花と赤公爵
 地響きを上げて走る屍。それは本来恐ろしいと感じるものだが、見様によっては酷く喜劇的に映る光景だった。
 とは言え、そう思えるのは力を持つが故。
 ここに暮らす民にとっては、恐怖の対象でしかないのだ。
 ふふ、と笑いを漏らして悠然と立つ偉丈夫は、紅のスーツを風に揺らしながらゾンビの群れの正面に立っていた。
 周りから感じる視線には、恐怖、憎悪といった負の感情しかない。そしてそれはゾンビに対してだけでなく、シーザーにも向けられていた。
(仕方のないことだね。今まで受けて来た仕打ち、そして突然現れたゾンビと正体不明の人間……不審に思わないわけがない)
 手をすっと上げれば、掌に集う魔力。神々しい光を灯して幾重にも重なる”輪”を作り出す。それは徐々に収縮し、一筋の光となって群れの中を奔った。光の残滓を撒き散らして進む光は、辺りを真昼――地底の人間に知る予知もないが――のような明るさで照らし出した。
 一際眩い閃光が、視界を白く染めて。
 それが収まれば、ゾンビたちの姿はどこにもなかった。
 雨のように降りしきる光の中を、シーザーがゆったりと歩いて行く。
 窓からこちらを見つめる視線の『色』が変わっていることに気付いて、口端を僅かに上げた。


 ――そこは静かな花園だった。
 蒼穹を映したかのような、青く小さな花が風に揺れている。
「これが彼の自慢の蒼い花園だったか」
 シーザーは花園に敷かれた石畳を歩き、辺りを見渡した。
 所々に見られる木のモニュメントには、美しいレリーフが施されている。
 そう、これが棺だ。
「やはり棺は余分だね」
 棺はカタカタと揺れて、蓋の隙間からゾンビの手が出た。
 しかし彼らが完全に外へ出ることは、ない。
 シーザーから放たれた光が分裂し、点在する棺諸共ゾンビたちを消し去ったのだ。
 再び静寂を取り戻した花園に、ざあっと風が吹いた。
「うん、この方が見栄えが良い」
 棺はなくなり、蒼一色となった花園。
 満足そうに頷いたシーザーは目を細めた。
 葬燎卿は既に亡く、明日の朝には住民たちを地上へと連れ出す予定となっているのだ。
 つまり、ここを管理する者はいなくなり、花園は早晩荒れるだろうと。
 シーザーはふっと目を閉じた。

 ――記憶に残る花園、それは本物よりも鮮やかだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『常闇の葬歌』

POW   :    自分も歌う

SPD   :    楽器を奏でる

WIZ   :    耳を傾ける

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 翌朝。
 都市の人々は、失った家族や友人を弔うため、蒼い花園に集っていた。
 棺は残っていないが、死してからずっとここで眠っていたという事実は消えない。
 しかし、生まれてから死ぬまで圧政に耐え、日々怯えて暮らしていた彼らに、死者を弔う方法などないのだ。

 魂が永くあったこの場所で、彼らと共に出来ることはないだろうか――。

●補足
 都市の人々は皆さんの活躍により、心を開いてくれました。
 しかし、人々の『弔いたい』という望みを叶えなければ、地上へと連れ出すのは困難です。
 プレイングでは、何かしらの方法で弔いをしてあげてください。
 POW/SPD/WIZの行動は気にせず、自由に行動して頂いて問題ありません。
 歌を歌うもよし、小さな祭りを催すもよし。
 民衆は弔いを知らないので、何だってやります。
(勿論、弔いは他の猟兵に任せ、地底都市を探索するのも有りです)

 尚、食糧は豊富にあり、豪華な屋敷へ行けば大抵の物が揃います。
 色々企画してみてください。
ガーネット・グレイローズ
吸血鬼の脅威は去ったか。われわれの任務ももうすぐ終わる…。だが、その前に地下都市の人々と交流してみるか。
というかここの人達は猟兵のことを知っているのか?《コミュ力》技能を用いて、住民にさりげなく話しかけてみよう。
「我々は、地上の世界から来たのです。猟兵と言って…吸血鬼と戦う力があります」
外の世界を知らないのなら、《世界知識》で簡単な説明を。そして、死者を弔うのに協力する。

古びた屋敷で、一本のバイオリンを拾う。人が亡くなったときは、鎮魂の曲を奏でるもの…。昔少しだけ手慰みに習っていたので、一曲演奏して死者への手向けにする。
地上へ出ることを望む人がいたなら、知っている人類砦へと案内しよう。



 ガーネットはメインストリートを歩きながら、今後のことを考えていた。
(我々の任務ももうすぐ終わる……地上へ出ることを望む人がいれば人類砦へ――いや、待て。ここの人たちは猟兵や地上のことを知っているのか……?)
 ちょうど左手に見える大きな古びた屋敷の前に、人々が集まって話しているのを見掛けて、ガーネットは声を掛けた。
「少し宜しいでしょうか?」
「あ、救世主様!」
「救世主様……?」
 思わず苦笑を漏らし、ガーネットは簡単に説明する。
「いや、そんな大層なものではありません。我々は地上の世界から来た猟兵です。猟兵は吸血鬼と戦う力があるのです」
 彼女の言葉に、人々は驚きを隠せないようだった。
「あんな恐ろしい者たちと……?」
「いや、それよりも『地上の世界』とは一体どういうことでしょうか?」
 案の定、ここの人々は何も知らないようだ。
 ガーネットは言葉を選びながら、ゆっくりと説明した。
 実はここが地底空洞と呼ばれる場所で、天蓋の上には世界が広がっているということ。そこもまた吸血鬼が支配しているが、猟兵たちによって解放された土地があり、人々が豊かな生活をしているということ。
「そんな、まさか……」
 人々は信じられないと顔を見合わせながらも、事実吸血鬼を倒し都市を救った猟兵の言葉なら信じようと頷き合った。
「もし皆さんが望むのであれば、地上で安全に住める街へお連れします」
 ガーネットは柔らかに微笑んだ。
 人々は顔を輝かせ――そして少し淋しげな表情で首を横に振った。
「いえ……ですが、ここには私たちの家族が眠っています」
「彼らを置いては行けません……」
 街人の言葉に、ガーネットは頷く。
「では、その家族の皆さんを一緒に弔いましょう」
「弔う? それは何でしょう?」
 人々は困惑する。
 彼らにとって、生きることだけがすべてだったのだ。弔いなど知りようもなかった。
「亡くなった者の魂は、体を離れて彷徨っています。その魂が次の世界にいけるように、私が鎮魂の曲を奏でます」
 ガーネットはそう言いながら、屋敷の入り口に落ちていたバイオリンを拾うと、石階段に腰掛けた。
 人々が不安そうに彼女を見つめる。
 ガーネットは微笑んだ。
「家族や友人に、感謝や別れの言葉を。想いは彼らに届きますから――」

 静かで優しい音色が、風に乗って溶けていく。
 ガーネットの奏でる音楽は、人々の心に染み渡り、涙を誘った。
 啜り泣く人、笑顔で送ろうと笑う人。
 彼らの想いは、確かに死んだ者へと届いただろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
そうですね。弔いましょうか。
ちゃんとしたお葬式のやり方はわからないですけど、気持ちが大事なのです。
花を手向けるのは……こんなに花があるし必要ないかもですね。

あなた達はただ、失った人達との思い出を胸に浮かべてください。
例えどんなに辛い日々だったとしても、共に過ごした日々の記憶はかけがえのない思い出で、もうこの世にはいない彼らの唯一の存在の証なのです。
だから彼らを決して忘れないように、そして気持ちに整理を付けて明日へと進む為に、彼らの記憶をしっかり胸に刻み付けて、思い切り悲しんで、そして彼らの安らぎを祈ってください。

わたしは……鎮魂歌でも【歌い】ましょうか。

せめて、今度こそ安らかに……


蝶ヶ崎・羊
POW

『死者を弔う方法は、花を手向けるのと歌を歌って送り出す事でしょうか?
後者ならならすぐ出来ますね』

『優しい歌を聴いた魂達は、残した方々の声に安心してきっと天国へと旅立てると思います。』
『悲しいお別れは皆さんも旅立つ方々も嫌でしょう?』
優しくゆっくりと問いかけましょう

同意してくれるのなら弔いの優しい歌を教えながら、皆さんと歌いましょう

弔いの気持ちがあるのならきっと安らかに眠ってもらえる…そう思いながら



 蒼い花びらが舞う。
 美しい花園に集う人々を見つめながら、羊は何か出来ることはないかと考えていた。
 彼らは大切な者を失っても、その弔う方法すら知らずに育ったのだ。
 いたたまれない気持ちに、羊の表情が沈む。
「死者を弔う方法は、花を手向けるのと歌を歌って送り出す事でしょうか? 後者ならならすぐ出来ますが……」
「そうですね、歌で弔いましょうか」
 思いがけず返事が返って来たことに驚いて、羊は振り返った。
 そこには小さなオラトリオが佇んでいた。
「望さん」
 羊は優しい微笑みを浮かべ、少女の名を呼んだ。
「花を手向けるのは……こんなに花があるし、必要ないかもですね」
 望はそう告げて花園に顔を向けた。
 蒼い花は競うように咲き誇り、人々の心を和ませる。
 羊は『そうですね』と頷くと、花園に集った人々へ声を掛けた。
「優しい歌を聴いた魂たちは、残した方々の声に安心してきっと天国へと旅立てると思います。悲しいお別れは、皆さんも旅立つ方々も嫌でしょう?」
 最初は戸惑っていた人々も、二人の言葉に耳を傾ける。
「ちゃんとしたお葬式のやり方はわからないですけど、気持ちが大事なのです」
 歌で鎮魂を――。
 人々は不思議そうに顔を見合わせていたが、やりたいと賛同した。
 羊は優しく微笑むと、望と歌の方向性を打ち合わせる。
 シンフォニアの二人が互いの歌と旋律を合わせれば、優しい弔いの歌が出来上がることだろう。

「では、今から皆さんにも歌をお教えします。一緒に歌いましょう」
 羊の言葉に続いて、望はゆっくりと諭すように告げた。
「歌うのが辛ければ、あなた達はただ失った人たちとの思い出を胸に浮かべてください。例えどんなに辛い日々だったとしても、共に過ごした日々の記憶はかけがえのない思い出……もうこの世にはいない彼らの、唯一の存在の証なのです」
 望の言葉に、何人かは声を上げて泣き出した。
 もう返って来ない。もう会えない。
 それは、とても……とてもつらいことだ。
「だから彼らを決して忘れないように、そして気持ちに整理を付けて明日へと進む為に、彼らの記憶をしっかり胸に刻み付けて、思い切り悲しんで、そして彼らの安らぎを祈ってください」
 望の声は優しい雨のように、人々の心へと染み込んだ。

 そして、優しい歌がはじまる。

 望の透き通った高音に、羊の心地良いテノールが重なる。
 街人たちの声も恐る恐る重なって、想いのカタチが出来上がった。
 怒りも悲しみも、涙も嗚咽も、すべてを包み込むやさしい歌。
 いつしかここにいる全員が、歌をうたっていた。

 ――安らかに。

 羊と望、そして都市の人々の想いを乗せて。
 歌はそらへと駆けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心中)弔いなんてェのは、死ななかったやつらの気を紛らわすためにするモンさ。だがそれをしねェと気がすまねえってンなら仕様もねえ。ここは一肌脱ぐとするかァ。
行動)影の笛を軽ゥく吹いて、死んだやつらのタマシイにいっときの霊体をやろう。半透明で触れんくらいがいい。へたに実体もたせっと遺族に欲が出て、蘇生だなんだってェハナシにならァ。24時間も必要ねェ、祭りの間だけでじゅうぶんだ。恨みつらみがひでェやつは喚ばねえどくからよゥ、しっかりお別れしておきなィ。



 蒼い花園の弔いは、様々なカタチで進む。
 花を手向け、歌で鎮める。
 それも弔いだ。
 しかし小さな子どもが”弔”を理解することは、少しばかり難しい。

「……ふっ」
 小さな少年が、泣き止まない少女の手を引いて花園へと入って行く。
 ふらふらと石畳を歩き、大人たちの間を抜けて。
 ふと落ちた影に気付いて顔を上げれば、そこには――。
「おう、どしたィ?」
 かみさまがいた。
 きょとんと目を見開いて立ち尽くす二人。
 逢真はひひと笑うと、よっこらしょとしゃがみ込む。
 視線を合わせてもう一度――。
「ふ、うぇ……わああああお母さぁぁぁん!!!」
 何事か言う前に、二人は泣き出してしまった。
「……こりゃア参った」
 頭を掻きながら、ひとまず二人が落ち着くのを待つ。

 つまり、二人はつい先日母親を棺に入れられてしまったのだと。
 この都市を出るのなら、母親を『弔う』必要があるのだと(どこかの大人の言ったことを鵜呑みにしたのだろう)。
 弔う意味もわかっていない二人に、逢真は慈しみの表情を向けながら喉の奥で笑った。
「ま・弔いなんてェのは、死ななかったやつらの気を紛らわすためにするモンさ。だがそれをしねェと気がすまねえってンなら仕様もねえ」
 ぽんと立ち上がると、泣き止んで手を伸ばして来る少女を少年に任せて――簡単に言ってしまえば彼は毒だ――二人から少しだけ離れた。
 恙を笛に変えた影の笛。
 軽く吹けば、彼の集めたタマシイがゆうらりと降りてくる。
 それは人のカタチを模って――半透明な”お母さん”となった。
 仮初の器に入った、触れることの出来ない母親だ。
「お母さん!」
「おかさんっ」
 二人は抱きつく勢いで走ったが、母親はそれを制して何事かを言い聞かせるように話し始めた。
 逢真は静かに見つめる。
 仮の器のタイムリミットは24時間。1日あれば色んな話をして、別れも言える。
 それ以上長く実体を持たせれば、遺族に欲が出ることがある。今の子供なら心配はないだろうが、これが大人ともなると『蘇生してくれ』なんて話にならないとも限らない。
(しっかりお別れしておきなィ)
 カランコロンと下駄を鳴らして。
 かみさまはゆく。残ったタマシイを連れていかねばならないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シーザー・ゴールドマン
地上に行くも行かぬも彼等の自由だが、『弔いたい』か。
よろしい、一つ『慰霊祭』を開いてあげようじゃないか。

諸君等は亡き家族や友人を弔いたいという。
では、彼等の霊を慰め、諸君等が明日へと踏み出せるように儀式を行うとしよう。
(魔法で青い花園中央にモノリスの様なモニュメントを創り)
(『ローマの奔流』で召喚された軍楽隊が『レクイエム』を奏で始めます)
では、諸君が亡くした大切な者達の魂の安らぎを祈りたまえ。
次に献花だ。モニュメントにそれぞれの想いを込めて花を供えると良い。
(悪魔達により一輪ずつ青い花が配られ)
それでは閉式だ。諸君等は死者達を心配させぬように前を向いて歩くと良い。

アドリブ歓迎です。



 花園の弔いは続いていく。
 蒼い花びらが舞い上がる――。

「諸君等は亡き家族や友人を弔いたいと言う。では、彼等の霊を慰め、諸君等が明日へと踏み出せるように儀式を行うとしよう」
 シーザーが集う人々にそう告げれば、彼らは目をぱちくりと瞬かせ、首を傾げた。
 どうやら『霊を慰める』という意味がわからなかったようだが、自分たちを助けた猟兵が、自分たちが強く生きていくために執り行う『儀式』ならば、信じて待てば良いだろうと。

 会場はここ、蒼い花園だ。
 シーザーは準備が整うまで人々を下がらせ、早速会場づくりに取り掛かる。
 と言っても、彼の魔力があれば時間をかけることなく整ってしまうのだが。
 オドを活性化させ、中央にモニュメントを創り出す。僅かに光を放つ真白な巨塔、これが献花台だ。
 そしてユーベルコードを展開し、自身の世界から悪魔たちを喚び出す。
 無論、オブリビオンとの戦闘で喚び出す時と同じ見た目では、人々は怯えてしまうだろう。そうならないよう、細工は施してある――シーザーや猟兵から見れば悪魔然としているのだが、都市の人々の目には『可愛らしい鳥や動物』に映るような魔法をかけたのだ。
 彼らの役割は『軍楽隊』と『補佐』である。

 こうして準備があっと言う間に整い、人々は再び蒼い花園へと集められた。
「見て、可愛いもふもふがいる!」
 子供が悪魔を見て声をあげる。
 きっと、彼には『二本足で歩く可愛らしいウサギ』に見えていることだろう。
 人々が皆花園に入り終えると、シーザーは軍楽隊に合図した。
 厳かにはじまるレクイエム。
「では、諸君が亡くした大切な者達の魂の安らぎを祈りたまえ」
 シーザーが告げると、皆目を閉じて故人を悼む。
 涙を流しながら、或いは笑いながら。亡くなった大切な人の魂へ祈りを捧げた。
 一時の悲しくも優しい時間が過ぎれば、人々の元へ悪魔――何度も言うが動物や鳥の姿をしている――が花を携えやって来る。
「次は献花だ。それぞれの想いを込めて、モニュメントに花を供えると良い」
 悪魔が手渡す花は、この花園の蒼い花。
 美しく揺れる花を受け取った者から、献花台へと供えていく。
 花を据える際に、泣き崩れてしまう人もいた。

「――それでは、閉式だ」
 頃合いを見計らって、シーザーが声をかける。
「諸君等は死者達を心配させぬように、前を向いて歩くと良い」
 締め括りの言葉を告げる頃には、人々には僅かながらに笑顔が戻っていた。
 地上に行くも行かぬも、それは彼らの自由だ。
 どこで生きていくにしろ、弔いの儀式が明日を生きる活力となったことは、間違いないだろう。

 ――人々の想いを乗せ、蒼い花びらが舞う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

故無・屍
…『英雄』どもはうまくやったらしいな。

俺がやったのは隠れて殺しての仕事だけだ、
弔いの場なんぞに立った所で響く言葉もねェだろうよ。


弔いには参加せず、UCの技能の応用、及び情報収集、失せ物探しにて都市を探索し番犬の紋章とはそもそもどうして現れたのか、など事件の根幹に繋がる情報を捜索

その際、領主館、ゾンビが現れた場所などから
死者の遺品を探し、集め終わり次第住民に渡す

…扱いは好きにしろ。
死んだ奴が返事をすることなんざ無ェがな、
弔いの根幹ってのは『弔いたい』って感情そのものだ。
それだけじゃ不満だってなら…

祈りの技能にて手を合わせて

…こうやって死んだ奴の冥福でも祈っとけ。
これが俺の国の『弔い』の姿勢だ。



 花園から少し離れた場所で、屍は目を閉じて木に背を預けていた。
(……『英雄』どもはうまくやったらしいな)
 美しい歌や、子供たちの泣き声が聞こえる。
 猟兵たちが執り行う『弔い』は、どんなカタチであれ、都市の人々に明日への活力を与えたことだろう。
 そんな弔いに、屍が参加する道理はなかった。
 屍にとって、今回の依頼は『隠れて殺しての仕事』を受けたまで。汚れ仕事の末に弔いとは、天で魂を待つ神様が嗤うだろう。
(弔いの場なんぞに立った所で響く言葉もねェだろうよ)
 屍はふらりとその場を後にした。

「……仕事といくか」
 ユーベルコードを展開。
 しかし、今から行うのは殺しではない。
 屍が向かう先は領主の根城、領主館だ。
 最早誰もいない大きな屋敷の扉を堂々とくぐり、書庫や私室を見て回る。
 ――番犬の紋章とは?
 ――そもそもどうして其れは現れたのか?
 事件の根幹に繋がる情報が落ちていないかと。
 彼は仕事を遂行していく。
「大した情報はねェな……」
 暫し探し歩いた後に、あっさりと引き上げる。
 予想通りと言えば、そうだ。やすやすと証拠が見つかるようなら、番犬の紋章を配った奴等はとうに見つかっているだろう。

 領主館を出た屍は、戦場となった屋敷の前へと移動した。
 そこには、小さなクマのぬいぐるみが落ちていた。
 花型の懐中時計、片方だけの靴に、小さな手袋――。
 戦闘中には気付かなかったものが、ぽつぽつと落ちている。
 そう、これ等は遺品だ。
 すべて拾い上げると、屍は居住区へと戻って行った。

「……扱いは好きにしろ」
 ぶっきらぼうにそう告げて。
 都市の人々が集う施設――寄り合い場のようなものだろう――の前に、屍は遺品をそっと並べた。
「こ、これは……」
「ああ……うちの子の人形だわ!」
 人々は家族や友人の遺品を手に取り、赤く泣き腫らした目に再び涙を浮かべた。
「死んだ奴が返事をすることなんざ無ェがな、弔いの根幹ってのは『弔いたい』って感情そのものだ。それだけじゃ不満だってなら……」
 屍は言葉を切って、ふいに手を合わせた。
「……こうやって死んだ奴の冥福でも祈っとけ」

 ――これが俺の国の『弔い』の姿勢だ。

 ヒーローズアースの極東には、手を合わせて拝む風習があると言う。
 無論、ダークセイヴァーの人々が知る良しもない。
 しかし今は――。
 屍と共に、都市の人々は手を合わせて目を閉じた。
 穏やかな『弔い』、それは人々の想いを乗せて天へと昇る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィーナ・ステラガーデン
(少女集めた死体火葬中)
陰鬱としてるわねえ!弔いねえ。この灰を撒けばいいわ!
そうすれば植物が育って動物が草を食べて育てばそのお肉は私達が食べれるわ!
そしてそのお肉は身となって私達の明日の活力となるのよ!
そうやって先代を血肉として私達は進んでいくしかないんじゃないかしら!
つまり灰を撒いたらお祭りよ!明日の為にご飯を食べるのよ!
無理してでも食べなさい!無理してでも笑うのよ!ふてぶてしく!
食べて飲んで騒いだら寝る!そうしたら明日は未来の為に動き出すのよ!より良い明日の為にね!
後は花火(UC)でもあげようかしら!勝利と未来への希望を祝ってドーーン!

(アレンジアドリブ大歓迎!)



「もーえろよもえろーよー! へーいへーい!」
 メインストリートのど真ん中で。
 人の目も気にせず、フィーナは集めた死体を燃やしていた。
 言い換えれば、残ったゾンビの”火葬中”。
 別にやましいことをしているわけではない。
「んー、何だか陰鬱としてるわねぇ!」
 都市の各所で執り行われている弔いの気配に、楽しげに歌っていたフィーナが眉根を寄せる。故人を悼んだり、別れを惜しんだりしているのだ、そりゃあそんな空気にもなろう。
 空気を読めない魔女は、どこからか拝借したほうきで焼け残った灰を掃いて集めながら。
「……弔い? あー、そうねぇ」
 誰に言われたわけでもないが、ようやく気付いてふむんと考え込む。
 ――ぴこーん。
「そうよ、この灰を撒けばいいわ! そうすれば植物が育って動物が草を食べて育てば、そのお肉は私たちが食べれるわ! 私たちが!」
 私たちが。
「そしてそのお肉は身となって、私たちの明日の活力となるのよ!」
 私たちの。
「そうやって先代を血肉として、私たちは進んでいくしかないんじゃないかしら!」
 私たちが強調されている気もするが、皆がそうやって進んでいくのは筋が通っている気がする。
 突然熱く語りだした魔女に、周りで見ていた都市の人々が驚いて後ろへ下がった。
 フィーナは彼らへ向かって更に叫ぶ。
「つまり灰を撒いたらお祭りよ! 明日の為にご飯を食べるのよ!!」

 ――そして、本当にお祭りになった。

 灰は空へと昇り、人々はそれを見送る。
 彼らが空を見つめている間に、フィーナは猟兵たちを捕まえて祭りの準備に走り回った。
 豊富な食糧は、猟兵たちが故郷の美味しい料理へと変えた。
 ※フィーナは作っていない。

 メインストリートに並べられた長机に、所狭しと並ぶ料理たち。
 もちろん酒やジュースもある。
 人々は見たことのない料理に目を輝かせた。
「さあ、無理してでも食べなさい! 無理してでも笑うのよ! ふてぶてしく!」
 フィーナが叫びながら肉に齧り付く。
 人々もまともな食事を採っていなかったのだろう、次々に手を伸ばし舌鼓を打った。弔いも終わり、少なからずわだかまりの消えた心に染み渡る、美味しい料理。
「食べて飲んで騒いだら寝る! そうしたら明日は未来の為に動き出すのよ! より良い明日の為にね!」
 彼女の言葉は、料理と共に人々の胃袋へ落ちていく。

 そして夕暮れ。
 あれ程騒いでいたフィーナはどこかへ消えていた。
 その変わりに。

 ヒュルルルル……ドーン!

 天蓋ギリギリの宙で弾けた色鮮やかな花火たちが、祭りと弔いの最後を締め括ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月23日


挿絵イラスト