君はまだ歌えているだろうか
●悲しくない歌を
「忘れていいから」
それは今際の際に告げた別離の言葉であった。
幽世に辿り着く前に自分は力尽きてしまった。そんな自分に寄り添うと言った彼女が、自分と共倒れになって幽世に辿り着けないことが、心苦しかった。
それは後悔を生み出す元になるであろうから。
故に自分は言ったのだ。
「忘れていいから」
別離の言葉。
どうか、君は君の歌を歌えばいい。
いつだって君は自分のために歌を歌ってくれたけれど、本当は君自身のために歌っていいんだと告げたかった。
でも駄目だった。どうしても自分に向けられる好意が心地よくて、ずるずると君の歌声を自分のために歌わせてしまった。
それがどうにも気恥ずかしくて、嬉しくて、そして、どうしようもなく己が醜いと思った。だから、別離の言葉は、そんな言葉にしたのだ。
自分という足枷のない君の歌声はきっとたった一人のためじゃなくて、みんなの為に在るべきだと思ったから―――。
●恋の歌を
「いいえ、忘れません」
それはあの人の最期に送った言葉であった。
幽世に共に辿りつかんとしたけれど、あの人は最期に自由になっていいと言ってくださった。優しい御方。
最後までご自身の言葉が私への呪いになることを危惧されていた。だから、あんなことを言ってくださったのだ。
故に私は言ったのだ。
「いいえ、忘れません」
決意の言葉。
この声は貴方のために。
いつだって私の歌は貴方のために。貴方のために謳うことが私の誇り。下心がなかったわけではないけれど、どうしても溢れてしまうから。
貴方の心地よさそうに耳を傾けてくれる姿がたまらなく愛おしかった。
貴方のために歌うことが、こんなにも誇らしい。
貴方は自分のために歌ってくれていると言ったけれど、本当は自分自身のために歌っていたのです。
だから、ああ。ああ、本当に。
骸魂となってでも、帰ってきてくださったことが本当に嬉しくて。嬉しくて。ようやくひとつになれるのだと、選んでくださったのだと思えて。
だから、思わず言ってしまったのです。歌ってしまったのです。それが世界を終わらせる言葉だとしても―――。
「時よ止まれ、お前は美しい」
そして、世界は終わりへと崩壊していく―――。
●世界の終わりに歌う
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを出迎えたのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)だった。
彼女の微笑みはいつもと変わらないものであった。頭を下げて、猟兵たちへと予知した事件の内容を語る。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はカクリヨファンタズム。妖怪たちの住まう世界……その世界に終わりが来ようとしています」
カクリヨファンタズムは不安定な世界である。
容易に世界の終わり―――カタストロフが起こってしまうほどに。
今回の世界崩壊の中心にあるのは骸魂と一体化してしまった妖怪である『偉大なる海の守護者』だ。
人魚の妖怪に、かつての主でもある海の守護者の骸魂が取り付くことによって、強大なるオブリビオンと化しているのだ。
「今回のオブリビオン『偉大なる海の守護者』は、神殿を模した迷宮を生み出して皆さんを世界の崩壊を待っています。ですが、この迷宮に多数の一般妖怪たちが巻き込まれてしまったのです」
取り込まれてしまった人魚の妖怪は海辺に住んでいたが故に、夏の海の時期と重なってしまったことによって生み出された迷宮に海水浴に着ていた妖怪たちが迷宮に巻き込まれてしまったようなのだ。
まずは迷宮にひしめく骸魂たちから一般妖怪を救出しつつ、迷宮を脱出しなければならない。
迷宮を抜けた先に今回の崩壊を招いたオブリビオンが座している。これを討ち果たし、世界の終わりを食い止めなければならない。
「カクリヨファンタズムのオブリビオンは、生前に縁のあった妖怪を骸魂が飲み込むことによって誕生した存在です。今回の人魚の妖怪と海の守護者の骸魂もまた同様です」
だが、オブリビオン化してしまったことで即座に世界が崩壊し始めることは、そう多くはない。
だが、今回は違う。
「はい……骸魂に飲み込まれた人魚の妖怪の方は、喪った『大切な人』と自分が一つになったことで満たされ、思わず『時よ止まれ、お前は美しい』と呟いてしまったのです。それこそが、世界の終わりを告げる『滅びの言葉』だったのです」
それにより、足元から瓦解するように世界は滅びへと向かう。
これを止められるのは猟兵を置いて他にはない。さらに迷宮に巻き込まれた一般妖怪たちを救えるのも、猟兵だけなのだ。
「確かに大切な方との別離は耐え難いものでしょう。私も同じ立場であったのならば、それは……」
耐えられないかもしれないとナイアルテは肩を抱く。
長き時を生きる妖怪にとって、それは決して忘れることのない思い出を抱えて生きることにほかならない。その悲しみは想像を絶するものであろう。
故に満たされた時、彼女は呟いてしまったのだ。世界が終わってもいいと。
「オブリビオンを打倒するということは二人を引き裂かなければならないということです。望まれないことであろうと思います。けれど、それでも。それでも成さねばなりません。世界のためでもあり、飲み込まれた人魚の妖怪のためでもあり……そして、望まずに骸魂となってしまった海の守護者のためでもあります」
だから、どうか、とナイアルテは頭を下げる。
満たされた者達を引きさなければならない戦い。それを願うのは……辛いことであるのかも知れない。けれど、それでも世界を、誰かを護るためにはやらなければならないことでもある。
故にナイアルテは頭を下げて、猟兵たちを送り出す。
本当に出会ったものに別れは来ない。
けれど、別離の念は、耐え難いものである。けれど、それでも時は止まらない。逆巻くこともない。
だから美しいのだ。止めてはならぬものを止めれば世界が終わる。それを防ぐために、猟兵達は戦わなければならない―――。
海鶴
マスターの海鶴です。
今回はカクリヨファンタズムでの事件になります。迷宮に巻き込まれた一般妖怪たちを救出し、想い人と一体となったオブリビオンを打倒しましょう。
●第一章
冒険です。
崩壊の前兆として迷宮化した世界に巻き込まれた一般妖怪たちを救出しましょう。
迷宮を突破すれば、世界の終わりを齎さんとするオブリビオンと戦うことになりますが、共に迷宮を突破した妖怪たちは、無事に戦いの場から逃れることができます。
●第二章
ボス戦です。
オブリビオン化した妖怪との戦いです。
人魚の妖怪を飲み込んだ骸魂『海の守護者』がオブリビオン化した『偉大なる海の守護者』との戦いになります。
オープニングで示唆されるように、彼等は恋人に近い関係である以前に主と仕える者という間柄が存在してします。
人魚の妖怪は、主を称える歌を歌い慕っていましたし、海の守護者もまた憎からず思っていました。
幽世に辿り着く前に海の守護者は倒れてしまいましたが、人魚の妖怪は無事に幽世に辿り着いて、以来ずっと海辺で亡き主を思って歌い続けていました。
オブリビオンを倒せば、人魚の妖怪は救出されます。
●第三章
冒険です。
人魚の妖怪は骸魂を倒したことに納得しています。ですが、それでも再びの別離は、彼女を落ち込ませるでしょう。
彼女を元気づけるために自身の思い出話を語らいながら、未来への展望を抱かせたり、慰めてあげてください。
それではカクリヨファンタズムにて、別離から再会し、満たされた思いが世界を滅ぼすのを止め、巻き込まれた一般妖怪を救出し、取り込まれた妖怪を慰める皆さんの物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 冒険
『探索し、救出せよ!』
|
POW : 敵を倒して襲われてる妖怪を救出する
SPD : 罠を解除して罠に掛かっている妖怪を救出する
WIZ : 痕跡を辿って隠れている妖怪を救出する
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「時よ止まれ、お前は美しい」
それは歌うように。
放たれた滅びの言葉は、世界を終わらせる。足元から崩壊していく世界。けれど、その崩壊していく傍から世界は迷宮へと変わり果てていく。
それは骸魂の迷いか。
ずっとずっと迷っていたかったのか。
「―――答えはでない。けれど、君が歌い続けるというのなら、自分はそれに答えよう」
人魚の妖怪を飲み込んだ骸魂がオブリビオン化した『偉大なる海の守護者』は未だ迷い続けていた。
これが本当に彼女の求めた歌なのか。
自分のエゴが、彼女を狂わせたのではないか。
この歌は本当に君の歌か―――。
迷宮と化した世界の最奥、迷宮を抜けた先にオブリビオン『偉大なる海の守護者』は座して歌う。
迷いながら、本当にこれが己の求めた歌なのかと自問自答を繰り返す。
迷宮の中には世界の崩壊と迷宮化に巻き込まれた一般妖怪たちが今も尚取り残されている。
骸魂があちらこちらに舞い飛び、己の縁ある妖怪を飲み込まんとさまよっている。
巻き込まれた妖怪を助け出し、迷宮を抜け、座すオブリビオンを倒さなければ、カクリヨファンタズムは崩壊してしまう。
すなわち、世界の終末―――カタストロフである。
これを止められるのは猟兵しかいない―――。
久瀬・了介
POWで行動。アドリブ歓迎。
どのような事情があろうと、そこにオブリビオンがいるなら殺す。
迷宮内を捜索。巻き込まれた妖怪達を探す。大声で呼び掛けて居場所を探る。
骸魂に遭遇したらハンドキャノンで掃討する。
妖怪とは言え民間人。軍人として彼らを戦闘に巻き込まない義務と責任がある。軍が無くなろうと関係無い。
殺意を一旦抑え、彼らの安全確保と避難誘導を最優先に行動。
救助しながら、迷宮深部へと侵攻していく。
慎重且つ迅速に。手が遅れれば、一手間違えれば世界が滅びる。人々の救助も無駄になる。そしてオブリビオンは更に罪を重ね続ける。
今ここで殺す事を躊躇う理由は何一つない。事情は知った。哀れには思う。だからこそだ。
世界が足元から崩れ落ち、迷宮へと再構成されていく。
その過程で巻き込まれた妖怪たちは骸魂がひしめく迷宮にて孤立無援の状態で過ごさなければならない。
骸魂と妖怪は、その縁によって結ばれている。
全ての骸魂は、縁のある妖怪を飲み込むことによってオブリビオンと化す。それがこのカクリヨファンタズムの理であり、オブリビオン化した妖怪と骸魂は容易に世界を終わりへと導くのだ。
それはカクリヨファンタズムが不安定な世界であるが故。
「どのような事情があろうと、そこにオブリビオンがいるなら殺す」
久瀬・了介(デッドマンの悪霊・f29396)にとって、それは当然のことであった。そこに容赦があってはならない。放置すれば世界を滅ぼすのであれば、尽くを骸の海へと還さなければならない。
それも迅速に、正確に、少しの犠牲も出すこと無く。
それがデッドマンとして蘇った了介の使命であった。いや、その体を動かす原動力と言ってもいい。
迷宮と化した世界にも即座に乗り込んでいったのは、蛮勇ではない。
ただ為すべきことを為す。
そのために即座に行動を起こしたのだ。妖怪とは言え了介にとっては民間人である。軍人としての本分が彼等を傷つけることを良しとしない。
たとえもう所属していた軍がなくなろうとも、関係のないことだ。
「誰かいないか―――!」
声をかけ、妖怪たちを探す。
けれど、妖怪たちを引き寄せるばかりではない。それどころか自身に骸魂をひきつけてしまう。
まだオブリビオン化していない骸魂たちの群れが了介に迫りくる。大挙してやってくるさまは、まさしく世界の終わりであろう。
けれど、了介にとって恐れはない。軍人として生きた証が、まだその胸の中に燃えている。一般の妖怪たちを戦闘に巻き込まない。
その義務と責任が、彼の身体を突き動かす。
「朽果れ」
ユーベルコード、死点撃ち(シテンウチ)によって大型拳銃から放たれた弾丸が骸魂を撃ち貫き、霧散させる。
未だオブリビオン化していない骸魂を消滅させることはできなくても、時間を稼ぐことはできる。
殺意を抑え、迷宮の中を駆け抜ける。
声を張り上げ、妖怪の姿を探すのだ。慎重さが求められている。けれど、迅速さもまた尊ばれるものだ。
「一歩間違えれば世界が滅びる。人々の救助も無駄になる」
駆ける了介の視界にちらりと映る人影……否、妖怪の影。
怯えるように迷宮の四隅にある子どもの妖怪の姿を認め、了介は殺気を抑え、手を差し伸べる。
もう大丈夫だと言うように、安心させるように。
どれだけの妖怪が巻き込まれているかわからない。かと言って、オブリビオン化した骸魂ばかりを追いかけていては、この子供の妖怪もまた骸魂に飲み込まれてオブリビオン化してしまうだろう。
「優先順位は間違えない―――さあ、行こう」
子供の妖怪を抱え、再び駆け出す。
そう、オブリビオンは更に罪を重ねる。重ね続けてしまう。それがオブリビオン、過去の化身である。
それを彼はよく知っていた。だからこそ、迅速にと駆けるのだ。取りこぼすものがあってはならない。どれだけ己の手が小さかろうが、取りこぼしてはいけない。
救いを求める声を聞き落としてはならない。
オブリビオン化した骸魂と妖怪の関係はすでに委細承知している。
けれど、それが躊躇う理由には成りえない。何一つ。哀れだと想う。
「―――だからこそだ」
間違えてはならない。
一時の感情が世界を滅ぼすというのであれば、それは今まさに。
世界を滅ぼす言葉も、それを受け入れた妖怪も、望んで死して骸魂になったわけでもない誰かのために。
その誰かのために戦うために己は死の淵から蘇ったデッドマンである。その在り様が悪霊のごとしと言われようとも関係ない。
「オブリビオンは全て殺す」
それが彼の彷徨い続けるたった一つの理由なのだから―――。
成功
🔵🔵🔴
村崎・ゆかり
主と従者ね。どこかで聞いたような組み合わせ。でも、あたしたちはそれ以上よね、アヤメ?(口づけをねだり)
それじゃ、さっといきますか。「式神使い」でカラスに似た黒鴉の式を大量に実体化させて、迷宮全域を「偵察」走査する。
未だオブリビオン化していない妖怪は黒鴉の式かアヤメに連れ出してもらって、既に骸魂に憑かれたものはあたしが直接乗り込み、「破魔」「除霊」の不動明王火界咒で骸魂を焼く。
ある程度奥まで進んだら、一般妖怪の避難は黒鴉に任せて、アヤメと合流して二人で今回の事象の元凶へと向かうわ。
共にあるということがどういうことか、教えてあげようじゃない。時を止めるなんて冗談じゃないわ。
アヤメ、頼りにしてるね。
その言葉が世界を壊すのならば、その歌は滅びの歌であったことだろう。
時が止まれば、世界は終わる。時間の流れがせき止められれば、質量を持った時間という概念は決壊し世界という枠組みそのものを滅ぼすのだ。
足元から崩壊していく世界は、その端から迷宮へと姿を変えていく。一般の妖怪たちが多数取り込まれ、今も尚迷宮の中でひしめく骸魂たちの影に怯えなければならない。
世界を救うために選ばれたのが猟兵であるというのならば、その力を持って世界の崩壊を止めなければならない。
すでに猟兵達は崩壊が始まるカクリヨファンタズムに転移し、事のあらましをグリモア猟兵から得ている。
かつての主従。そして、互いに想い合う者を引き裂かねばならないこと。
「主と従者ね。どこかで聞いたような組み合わせ。でも、あたしたちはそれ以上よね、アヤメ?」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は自分に従う式神にして恋人のアヤメの顔に自身の唇を寄せる。
何をというわけでもなく自然と触れ合うのだから、彼女たちにとって、これは普段のスキンシップの延長線上にあるものであろう。
小さな音が響き、頬を赤らめた式神アヤメが主を嗜めるように撫でる。
「そういうのは、お仕事終わってからにしましょうね」
まったくもう、とどこか立場が逆転したような主従の形になっても、中身は変わらない関係だって存在している。
二人はゆかりのユーベルコード、黒鴉召喚(コクアショウカン)によって召喚された鴉に似た鳥形の式神を先導させ、迷宮全域を走査する。
このような迷宮を前にして無闇に突っ込むのは得策ではないとゆかりは判断し、視覚を共有した黒鴉たちが迷宮内部にひしめく骸魂たちを躱しながら、未だ取り残されているであろう妖怪たちの姿を探す。
「それじゃ、アヤメ。さっといきますか」
はい、と互いに二手に分かれて駆け出す。ここからは二手に別れたほうが効率的だ。
未だ骸魂たちは漂うばかりで妖怪たちを飲み込むまでに至っていないのが幸いした。
「―――っと、もう大丈夫よ。あたしたちが猟兵だってわかる?」
カクリヨファンタズムにおいて猟兵とは妖怪たちの姿を見ることができるがゆえに非常に人気者である。
そんな彼等と会うことができるのは、妖怪にとって喜ばしいことだった。すぐさまうなずく妖怪たちを見て微笑むゆかり。
それじゃあ、と黒鴉たちに妖怪たちの保護を任せて、迷宮を駆け抜ける。
すぐにアヤメが合流してきて並走する。この迷宮の先に、世界の崩壊を招いた元凶―――オブリビオンがいる。
「共に在るということがどういうことか、教えてあげようじゃない。時を止めるなんて冗談じゃないわ」
人と妖怪の時間の流れは違うかもしれない。
けれど、時は絶対に逆巻くこともなければ、止めていいものではない。
どれだけ望んだとしても、例え別れが訪れたとしても、ゆかりは止まるつもりはなかった。共に在る。
それが如何なるものであるのかをゆかりは知っていただろうから。
人の生命は長き時を生きる妖怪たちに取ってみれば、ほんの僅か、瞬きの如き時間であるのかもしれない。
それでも、ゆかりは『時よ止まれ』などとは思わない。
例えアヤメとの別離が訪れるのだとしても、それだけは思わない。いつだってそうだ。人の人生は一瞬。一期一会であるからこそ、一生懸命に生きていけるのだから。
「アヤメ、頼りにしてるね」
互いの微笑む顔が嬉しい。
心が通い合っているからこそ、わかる。
別離もまた愛した人との掛け替えのない一時であると―――。
成功
🔵🔵🔴
御園・桜花
「生きる歓びを…思い出せる方には、思い出していただこうと」
UC「魂の歌劇」使用
日常のふとした美しさ、驚き、楽しさ、生きている歓び、希望
そういうものが感じられる歌、童謡、民謡を歌い続けながら移動
歌声を聞いて此方に逃げてくる妖怪は保護
それを聞きながらもまだ見知った妖怪を飲み込もうとする骸魂は破魔の属性込めた桜鋼扇で殴って消滅させる
躊躇う骸魂は放置
「知り合いで、生きる輝きがどういうものか経験があって、それでも一方的に他者を取り込もうとするならば。それはもう、愛情でも懐旧でもなく我欲でしょう?どうぞ骸の海へお還りを。お戻りは、もう1度願いを見定めてからに」
助けた妖怪はまとめて混乱の場の外に連れ出す
人の生命と妖怪の生命。
それは掛け替えのないものであり、たった一つのものである。長き時を生きる妖怪と、それに比べて短き時間を生きる人間とでは価値観の相違はあれど、確かなことはたった一つである。
「生きる歓びを……思い出せる方には、思い出していただこうと」
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、世界の終わりを迎えんとするカクリヨファンタズムにおいて、足元から崩壊し、再び迷宮へと姿を変えた世界に一人佇んでいた。
生きる歓び。
それは誰しもが心の中に在るものであろう。幸せが、歓びがあるからこそ、不幸せだと、悲しいと感じる心が在る。
ならば、生者である人魚の妖怪にもまた、同様のはずだ。
今は想い人との再会に、そして一つになれたという気持ちだけが先行しているようなものだ。
だが、それが世界を壊す。終末へと導く言葉。
『時よ止まれ、お前は美しい』
時間が過去に排出される質量を持つからこそ、時が止まってしまえば世界は決壊し、崩壊してしまう。
それを望まぬ者たちをも巻き込んでしまうのは、『彼等』自身のためにもあってはならないことだ。
「貴方の一時を私に下さい…響け魂の歌劇、この一瞬を永遠に」
桜花の歌声が静かに響き始める。
迷宮に幕を上げるは、魂の歌劇(タマシイノカゲキ)。
桜花の心の中にある言葉を、感情を響き渡らさせる。
それは些細な日常が不意に見せる美しさ、驚き、楽しさ、生きている歓び、希望……それを桜花の歌声は表現していた。
その歌を耳にしたものが、聴き続けていたいと、聞き惚れるほどの歌声は、たしかに妖怪たちの心を安らかなるものにしたであろう。
迷宮にあって彼等は孤立無援。
宙には骸魂たちがひしめき、己達を飲み込まんとしている。その恐怖や不安は、桜花の疑う人生への讃歌によって打ち消される。
童謡、民謡と次々と披露される桜花の歌に、次々と妖怪たちが集まってくる。
「ご安心ください。私がお守りいたしましょう」
微笑む姿はまさしく桜の化身のごとく。
響く歌声は、空に舞い上がる花弁のように儚くも美しい。
だが、その歌に引き寄せられるのは妖怪だけではない。宙に舞う骸魂たちでさえ同じであった。
骸魂の望みは一つ。
縁ある妖怪を飲み込み、オブリビオンとなり己の欲望を満たすこと。
「知り合いで、生きる輝きがどういうものか経験があって―――それでも一方的に他者を取り込もうとするならば」
歌うような桜花の声が響き渡る。
手にする桜の花弁の刻印が散る鋼を連ねた鉄扇―――桜鋼扇が一気に開かれる。刻印された桜の花弁の刻印が輝き、破魔の力を発揮する。
撫でるように、風を戦がせるように鉄扇が迫る骸魂を叩き落とす。
「それはもう愛情でも懐旧でもなく我欲でしょう? どうぞ骸の海へお還りを」
一撃の下に骸魂が霧散し、骸の海へと還っていく。
舞い散るような美声と振るわれる鉄扇の舞が軽やかに、華やかに迷宮と化した世界に桜のごとく舞い散る。
「お戻りは、もう一度願いを見定めてからに」
鉄扇が閉じられた瞬間、ひしめく骸魂たちは退き、道を拓く。桜花は保護した妖怪たちと共に迷宮の外へと駆け出す。
この先にオブリビオンがいる。
この世界を迷宮へと変え、世界を終わりへと導く言葉を発した存在が。
思い出すだけでいいのだ。生きるとはどういうことかを。見失っているのであれば、桜花は問いかけ続けるだろう。
それが生きているという証なのだから―――。
成功
🔵🔵🔴
黒髪・名捨
●心境
世界を滅ぼす言葉にしては、切ないねぇ。
ホント滅びるんじゃなくて止まればよかったんだろうに…。
●敵を倒して襲われてる妖怪を救出する
オレの『第六感』と寧々の『野生の勘』を頼りに逃げ遅れた妖怪を探すか。
骸魂を見つけたら速攻にアーラーワルを『槍投げ』て撃破(幻爆)
あ、近くに妖怪居たら巻き添えが怖いから、『破魔』こみのパンチで撃破だな。その辺の判定寧々よろしく。
さて、あんた大丈夫か?
襲われてた妖怪に手を差し伸べて、とりあえずな安全地帯へ連れて行く。
とりあえずに作った寧々の『結界術』で作った簡易セーフティゾーンだ。
とりあえず、ここで待っていてくれ…っとな。
さて、次の救助者を探しに行くぞ…。
時間は過去を排出しながら進んでいくものである。
排出された過去という時間は骸の海へと集積し、そこから滲み出るものがオブリビオンであり骸魂である。
故に不安定な世界であるカクリヨファンタズムにおいて、言葉とは即ち力である。たった一つの言葉が、想像が容易に世界を変える。
故に言ってはならないのだ。
『時よ止まれ、お前は美しい』
時間は逆巻かない。時間は常に過去へと排出され続ける。故に時が止まれば世界という器は決壊し破壊される。
それが世界の終わり。終末を告げる言葉なのだ。
「世界を滅ぼす言葉にしては、切ないねぇ。ホント滅びるんじゃなくて止まればよかったんだろうに……」
黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)は、カクリヨファンタズムの有り様に対して、そう呟いた。
すでに世界は足元から崩壊し、迷宮へと変貌を遂げていた。
宙を舞う骸魂たちは、己に縁のある妖怪を飲み込まんと迷宮の中を漂うようにして飛び回っている。
迷宮の世界は、それだけでオブリビオン化した骸魂の迷いを体現するかのようだった。己と他者の間で揺れ動くさまは、さながら答えのでない問答のようだ。
けれど、どんな迷宮にも出口があるように、その問答にもまた答えが訪れるものだ。
名捨は迷宮の中を駆け抜ける。彼の頭に乗っかった喋る蛙『寧々』が指差ししてくれるおかげで、迷宮に巻き込まれてしまった妖怪たちの所在を知ることができる。
「―――いた」
短槍アーラーワルを振りかぶる。
骸魂に飲み込まれんとする妖怪の姿をみやり、ここからでは己の拳が間に合わぬと判断したのだ。
放たれた短槍は矢のような速度で放たれ、骸魂を貫き霧散させる。
「なんだ、寧々。なんで頭をぺちぺちする」
頭の上で寧々が頭を叩いている。ああ、そういうこと、と名捨は即座に駆け出す。今まさに飲み込まれようとする妖怪がまだ居たのだ。
短槍の投擲では妖怪を巻き込んでしまう。それ故に寧々は名捨に教えてくれたのだ。それにしたって頭叩かんでも。そう想いながらも名捨は破魔の力籠もりし拳で以て、骸魂を吹き飛ばす。
「さて、あんた大丈夫か?」
名捨が襲われていた妖怪たちに手を差し伸べる。
妖怪たちにとって、猟兵とは己の姿が見える者であり、カクリヨファンタズムにおいて人気者である。
故に名捨の言葉にコクコクとうなずくばかりで、キラキラした瞳を向けるのだ。なんとも眩い歓待に名捨も話が早くていいと寧々が作ってくれた結界術の中へと誘う。
「ここなら結界の中にあるから骸魂に襲われることも少ない……とりあえず、ここで待っていてくれ」
そう言って妖怪たちは憧れの眼差しで名捨を見送ってくれる。
なんとも面映いものであるが、悪い気はしない。
誰かのために戦う。
存外悪くない気分であった。頭の上では何故か寧々が得意げにふんぞり返っているのが、なぜだかわからなかったが、名捨はそれでも先を急ぐ。
遠き者は短槍アーラーワルの投擲にて打ち消し、近き者は破魔の力込められし拳で持って骸魂達を次々と霧散していく。
名捨の迷宮走破を止められるものはなく、次々と結界術によって作り上げられたセーフティゾーンに妖怪たちが集まっていく。
「さて、次の救助者を探しに行くぞ……」
獅子奮迅なる活躍を見せる名捨。
その頭上で寧々がやっぱり誇らしげにふんぞり返るのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
「時よ止まれ、お前は美しい」
素晴らしい言葉ですの
是非実践したいのですけれど
賛同して承諾下さる方がいなくて寂しいですの
権能的にそう思うだろうけど
人間にとっては基本的に有難迷惑だからね
戯言は無視して手が足りないから力を借りよう
価値観は合わないけれど
価値観が合わない事は理解してくれてるから大丈夫だと思うよ
邪神が使い魔を、僕がドローンを操作
迷路の中を先行調査しつつ移動
邪神が骸魂の時間を停めたり石化させたりして危険を排除しつつ
僕が避難誘導して妖怪達を安全な場所へ逃がそう
あの言葉で世界が崩壊するってどういう事なんだろう
確かオブビリオンによって過去が世界を埋めつくすと
未来が生産できずに時間が停止するんだっけ
「時よ止まれ、お前は美しい……素晴らしい言葉ですの」
それは佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)の中に融合した邪神が、邪神の恩返し(ガッデス・リペイメント)と言わんばかりに分霊として現れ、放った言葉であった。
カクリヨファンタズムにおいて、それは滅びの言葉である。
時は常に過去へと排出されるがゆえに前進していく。
故に消費された時間は過去として骸の海へと集積し、にじみ出た過去が過去の化身―――つまりはオブリビオンとして顕現する。
それ故に、不安定な世界であるカクリヨファンタズムにおいて、妖怪たちの何気ない一言や想像が、世界に影響を及ぼすことは多々あるのだ。
故に『時よ止まれ、お前は美しい』という言葉は、時間の停滞を発現させ、骸の海へと排出されない過去が世界に溜め込まれ、決壊する。
それが即ち今回の事件における世界の崩壊である。
足元から崩壊し、次々と迷宮へと変化していく世界。そこに巻き込まれた妖怪たちをまずは猟兵は救い出さなければならないのだ。
「是非実践したいのですけれど、賛同して承諾くださる方がいなくて寂しいですの」
世界の滅びを望む者は、そう多くはないだろう。
特にカクリヨファンタズムにおいては、稀なることである。いや、世界の終わりは頻繁に発生してしまうのだが……。
「権能的にはそう思うだろうけど、人間にとっては基本的に有難迷惑だからね」
晶は現れた邪神の分霊の言葉を無視し、けれど人手が足りないが故に力を借りるのだ。
分霊と晶の価値観は全く合わない。
価値観の相違というものは同じ人間であっても起こり得ることであろう。けれど、ここまでまったく価値観が違う生物が同じ肉体という器に収まっている事自体が奇跡であったのかもしれない。
互いに互いの価値観が合わないことは全て承知の上だ。それはある意味深い理解出会ったのかも知れない。
邪神の分霊が使い魔を、晶はドローンを操作しながら迷宮と化した世界の中に駆け出す。
すでに使い魔とドローンによって骸魂ひしめく迷宮の中に巻き込まれた妖怪たちを探し出す。
「骸魂の方はおまかせあれですの」
次々と邪神の分霊が使い魔を通じて骸魂たちを石化していく。危険の排除された迷宮の通路を晶のドローンが次々と妖怪たちの避難を誘導していく。
「任せたよ。こっちはもうすぐで避難が終わりそうだから」
互いに相容れぬものという相互理解に寄ってのみ成されるコンビネーションは、ある意味で通じ合った仲にも似通ったものを見出すこともできたであろう。
二人は次々と妖怪たちを避難させ、自分たちもまた迷宮の奥へと進む。
この先にこの世界を迷宮化させたオブリビオンが存在する。
「あの言葉で世界が崩壊するってどういうことなんだろう。確かオブリビオンによって過去が世界を埋め尽くすと未来が生産できずに時間が停止するんだっけ……」
晶の懸念は次々と浮かんでくる。
逆に邪神は、どうでも良いとい風に次々と障害となる骸魂たちを石化し、霧散させていく。
時間の停止。
つまりは過去に時間が排出されない状態。言わば、今はダムの中の水が満タンになりつつ、放水もできない状態と思えばいいだろう。
いつか時間を溜め込む世界という器が決壊する時までは世界は保つだろう。
故に急がなければならない。
どれだけの理由があろうとも、どれだけの同情すべき事情があろうとも、時間を止めてはならない。世界を壊してはならない。
それがどれだけ非情の判断だとしても―――。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
骸魂は【Sluagh】で対処
耳を澄まし息遣いや物音を頼りに妖怪さんを探し
破魔を宿したオーラで包み保護していく
怪我していれば黒符で治療
……彼らの事情が他人事に思えない
立場は違えど私は喪った者――コローロと共にいる
それが、オブリビオンか否かというだけで、こんなにも……
わかってる
世界の破滅は避けるべきこと
己のエゴで破滅を招いてはいけない
……でも私は
もしきみが――例えば骸魂や影朧になっていたとしても、傍に居たいと願った筈だ
ずっとずっと、この命が尽きるまで
嗚呼、でもこんな短き命では足りない
ならば時が止まればいいと……
……彼らの想いを、否定できない
ねぇ、コローロ
私は彼らに、なんて言葉をかければいい――?
「喰らい尽くせ―――」
それは迷宮と化した世界に響き渡る。
ユーベルコード、Sluagh(ジャックドー)によって放たれた魂を奪い喰らう、宙を漂う形なき影の群れがスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)より放たれ、宙にひしめく骸魂の群れを食らい付くしていく。
首にかけた使い古されたヘッドフォンを外し、スキアファールは耳を澄ます。
迷宮の中に巻き込まれてしまった一般の妖怪たちの存在を探す。他の猟兵達も手伝ってくれては居るが、未だ全てが救出されたわけではない。
彼の耳に届く音、その全てを判断する。
息遣い。
物音。
それら全てがスキアファールにとっては世界の音だ。どれだけ空中をせわしなく骸魂たちが飛び交おうとも、彼が聞き分けられぬ道理はない。
「……彼等の事情が他人事に思えない」
ぽつりとつぶやく言葉が世界に溶けて消えていく。
けれど、その呟きを聞く者もあるだろう。そう、今まさに世界を終わらさんとする言葉を吐き出してしまった人魚の妖怪と骸魂が変貌したオブリビオン。
彼等の事情をすでにグリモア猟兵から得ている。故に、スキアファールは、どうしても割り切れない思いを抱えながら迷宮と化した世界を走る。
立場が違えどスキアファールもまた喪った者である。だが、今はコローロと共に在る。己は猟兵であり、対するはオブリビオン。
たったそれだけのことで、ボタンの掛け違いのような境遇の差だけで、こんなにも……と。
その先の言葉を紡ぐことは出来ない。
それを呟いてしまえば、対する彼等の思いを土足で踏みにじるようなものであった。
「……わかってる。世界の破滅は避けるべきこと。己のエゴで破滅を招いてはいけない」
理性は告げる。
それが道理であると。理屈にあった言葉であると。そうあるべきであると正しく理解している。
けれど。それでも。
そうどこかで己の心が叫んでいるような気がした。
あれはボタンの掛け違ってしまった自分たちではないのだろうか。もしかしたら、コローロが骸魂や影朧になっていたとしても、傍に居たいと願ったはずである。
だからこそわかるのだ。
その禁断の言葉をつぶやいてしまった人魚の妖怪の想いが。
「ずっとずっと、この生命が尽きるまで。嗚呼、でもこんな短き生命では足りない。ならば―――」
そう、ならば時が止まればいいと。
保護した妖怪たちを優しく破魔のオーラ宿した力で包んでいく。
己の葛藤と迷宮に囚われ孤立無援でいた彼等の感じた不安や恐怖は関係のないことだ。
けれど、どうしても頭の隅に掠める思いがある。それを無視できない。
救われたかも知れない者と、救われなかった者。救われなかったものが救いを求めるのは、願ってしまうことをどうして責められようか。
「……彼らの想いを、否定できない」
それがスキアファールの偽らざる本心であった。
世界が終わりに瀕しようとも、それでもと求めてしまう彼等の心が、想いが、痛いほどに胸に突き刺さった気がした。
名を呼ぶ。
問いかけは空に溶けて消える。
「ねぇ、コローロ。私は彼らに、なんて言葉をかければいい―――?」
抱えなければ悩むこともなかったことだろう。
けれど、その葛藤無くば己であるわけもなく。生み出されるは葛藤ばかり。けれど、それでもと前に進まねばならない。
そうすることで得られるものが道行きの先にあるのならば―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
恋人達を守護し祝福するのは御伽の騎士の務め
ですが私は戦機の騎士
滅びを防ぐ為、為すべきことは決まっています
…ダークセイヴァーで人と心通わせ子を設けた吸血鬼を止む無く討ったことを思い出します
迷宮に放った妖精ロボや自前のセンサーで●情報収集
骸魂に追われる妖怪達を捕捉
ロボのレーザーでの●スナイパー射撃で機先を制しつつ妖怪を背にかばい近接武装で迎撃
私について来てください
安全圏までご案内します!
幼子や自力移動が難しい怪我人は怪力や、●操縦する複数のワイヤーアンカーで抱えて移動
(妖怪達を送り届け)
再びの別離を齎すことに躊躇いはなし
ですが…その形を良き物にすることを希求してこその騎士でもあります
…行きましょう
思い出すのはダークセイヴァー世界のことであった。
データベースが勝手に開かれるのを、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は止めることができなかった。
人と心通わせ子を設けた吸血鬼。
本来相容れぬ者が繋がりうまれるものもあった。けれど、それは討たなければならない存在。
恋人を守護し、祝福するのはおとぎの騎士の務めである。
だが、トリテレイアは違う。
「私は戦機の騎士。滅びを防ぐ為、為すべきことは決まっています」
それは間違えようのない判断であった。
すでに足元から崩壊し、迷宮と化した世界に放った自律式妖精型ロボ 遠隔操作攻撃モード(スティールフェアリーズ・アタックモード)から伝わる情報を元にトリテレイアは駆け出していた。
骸魂が宙にひしめく光景は、まさしく世界の終わりであったことだろう。これがカクリヨファンタズムという不安定な世界の有様である。
「言葉一つで此処まで揺らぐ世界……世界の在りようとは、一体なんであるのかを考えさせられます」
けれど、トリテレイアのやるべきことは変わらない。
迷宮を踏破し、巻き込まれた一般妖怪たちを救出し、迷宮の先に座すオブリビオンを討つ。
滅びの言葉を紡いだ妖怪の心情は推し量ることしかできない。
けれど、今骸魂に襲われんとする妖怪を見捨てることはあってはならない。御伽の騎士となれずとも、己が炉心に宿した騎士道は未だ揺るがず。
「こちらへ!」
トリテレイアが叫ぶ。
目の前には骸魂に飲み込まれかけた妖怪。手を伸ばし、妖精ロボが骸魂を討ち、霧散させる。
伸ばされた手をしっかりと掴み、トリテレイアは妖怪を抱えて走る。妖怪一人だけではない。巻き込まれた他の妖怪たちを先導し、迷宮を進む。
妖精ロボを前に、レーザーで機先を制しながら、トリテレイアは背に保護した妖怪たちを導く。
「私について来てください。安全圏までご案内します!」
妖精ロボたちが乱舞するようにレーザーを放ち、妖怪たちへと迫ろうとする骸魂たちを尽く霧散し尽くす。
妖怪にも幼い老いたというものがあるのだろう。トリテレイア自身には判別が尽きかねるが、自力で動くのが難しそうな者達をワイヤーアンカーで抱えて移動しきる。
迷宮の先はすぐそこだ。
そこまで行けば、彼等も迷宮から逃れることができる。
「再びの別離を齎すことに躊躇いはなし。ですが……」
そう、これは今更な戦いであるのだ。
一度は別離を経験した者達に、再び同じことを為す。分かたれてしまった生命が、また別れるだけである。
それは機会的な思考であったことだろう。世界の終わりと引き換えにしてよいかという天秤が傾くことはなかった。
けれど、電脳ではない炉心がうねるような気がした。
「その形を良き物にすることを希求してこその騎士でもあります」
それは電脳がはじき出した演算ではない。
もっと別の、どこかで導き出した答えだ。世界は終わらせない。かと言って彼等の、骸魂と妖怪の分かたれる道を後悔に塗れさせることもしない。
どちらかを取らねばならないというのであれば、トリテレイアはどちらにも手を伸ばす。
それがベストではなくとも、ベターに成り下がったとしても、それでもより良きものをと目指すことこそがトリテレイアの炉心に宿った想いであったことだろう。
「……行きましょう」
どのような結果になるのか、演算装置は教えない。わかるわけもない。
これから先に待ち受ける事象は、数値化できるものではないのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
薙殻字・壽綯
美しい、ですね。何かを引き込む魅力があれど、これは望まない者の心以外も奪い取ります
……私は、進むと決めました。長い間、殻にこもっておりました。ですが、足を前に。一歩ずつ。私は確かに歩いているのです
救助活動を、開始します。人探しは、得意になったつもりです
妖怪には、お世話になりました。その生命は決して失われて欲しく無いのです。襲いくる骸魂には、鉛の玉を
怪我した者には……治療を。銃口を向けるのは申し訳なく思います
…………我が行先を、邪魔しているとは思いません。邪魔なのはむしろ、私でしょうから
世界の終わりとはいかなるものであろうか。
此処、カクリヨファンタズムにおいて世界の終わりとは、ふとした瞬間に訪れるものである。
そのどれもが未遂に終わるからこそ、カクリヨファンタズムは存続してきた。妖怪のつぶやく言葉に、妖怪の想像するものに、あらゆる物にカクリヨファンタズムは影響される不安定な世界であればこそ。
「美しい、ですね。何かを引き込む魅力あれど、これは望まない者の心以外も奪い取ります」
薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)は目の前に広がる崩壊した世界、迷宮へと成り代わった世界を前にして、そう言葉を零した。
迷宮の様は、これを為したオブリビオンの心の表れであろう。
迷い、まどい、悩み、懊悩し続けるが故に出せぬ答えのままに結末を導いてしまった結果であろう。
それをして美しいと思う。
人は皆悩みながら世界を歩む。時間は止まらず、逆巻かない。それ故に『時よ止まれ、お前は美しい』という言葉こそが滅びの言葉であろうことは当然の帰結であったことだろう。
世界は時間を排出し、前に進む。過去となった時間を吐き出すがゆえに時は前に進み、過去は骸の海へと落ちていく。
そうした集積したものが滲み出たものが、過去の化身―――オブリビオンである。
けれど、不安定な世界であるカクリヨファンタズムにおいて言葉とは力を持つ。時が止まれば、排出される過去は世界を埋め尽くす。
まるで放水もできない貯水量を越えようとしている決壊寸前のダムのようなものだ。
世界とは器である。
その崩壊が起これば、世界とて終わる。
「……私は、進むと決めました。長い間、殻に閉じこもっておりました。ですが、足を前に」
踏み出す。
その一歩を迷宮の中へと。それはあまりにも難しい一歩であったが、踏み出すことができたことは事実として残る。前に踏み出したのならば、もう一歩を踏み出す。
あゆみは遅くとも前進する。
時よ止まれとは願わない。時間の流れに取り残されようとも、それでも前に進み続ける。
「一歩ずつ。私は確かに歩いているのです」
それは大いなる前進である。一歩を踏み出さぬ者に二歩目はなく、到達するべき道行きもあろうはずもない。
宙に見えるはひしめく骸魂たち。
迷宮と化した世界には多くの一般妖怪たちが巻き込まれ、今も尚猟兵の助けを舞っている。
「救助活動を、開始します。人探しは、得意になったつもりです」
それに、と壽綯は思う。
妖怪にはお世話になったのだ。その生命は決して喪われてほしくないと思える。それだけで戦うには十分な理由だった。
「痛みは一瞬です」
構えた医療道具……と謳われる軽機関銃から放たれた弾丸が骸魂たちを霧散させていく。
Kiss it better(イタイノイタイノトンデイケ)。そんな生易しいものではないけれど、鉛玉をくれてやるのに躊躇いはない。
怪我をした妖怪たちがいれば、きっとぎょっとしたこであろうが、壽綯は慈愛を持って彼等を治療する。
「……銃口を向けるのは申し訳ない……」
けれど、心配はいりません。
注射と同じようなものなのです。最初はチクッとしますが、後々から効いてくる……そんなものなのです、と彼は言う。
果たしてそのとおりであるのだが、あまりにも見た目が見た目であろう。妖怪も猟兵の言うことだから従ってくれているし、極度に怖がることもしないが、やはり緊張はするものである。
治療を終えて、壽綯は再び迷宮の先へと歩みを進める。
「……我が行先を、邪魔しているとは思いません」
この迷宮が猟兵達を阻むものだとは思っていない。
何故ならば、この迷宮はオブリビオンの迷いの現れであろうから。それに、彼等にとって自分たちの方こそが……。
「邪魔なのはむしろ、私でしょうから」
彼等の道行きを美しいと思うのであれば、それを引き裂かんとする者こそが障害であろう。
けれど、それでも世界の終わりは防がなければならない。
それは世界のためでもあるし、飲み込まれた妖怪のためでもある。意図せずして骸魂となってしまったいつかの誰かのためにも……世界の終わりは防がねばならないのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『偉大なる海の守護者』
|
POW : 深海の歌
【津波を呼ぶ歌】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 海の畏れ
【他の海にまつわる妖怪を吸収する】事で【鯨の鎧を強化した形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 災厄の泡
攻撃が命中した対象に【祟りを引き起こす泡】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【恐怖による精神ダメージと祟り】による追加攻撃を与え続ける。
イラスト:砥部スカラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ペイン・フィン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
迷宮の先には歌が聞こえる。
それは猟兵達を出迎える歌ではなかった。たった一人のために歌う歌声が響き渡る。
巨大なる海獣の骨に囲われし、人魚の姿。
それこそがオブリビオン『偉大なる海の守護者』である。今や骸魂と一つになった人魚の妖怪は、全てが満たされたような表情のままに歌い続ける。
それが世界を滅ぼしてでも手に入れたかったもの。
満ち足りた心のままに歌う歌の、なんと心地よいことだろう。たった一人のために歌うことが、こんなにも心を満たすのだと、初めて知った。
「ああ、なんて。なんて言っていいのか―――わからない。それほどまでに私は今、満たされている。歌いましょう。歌いましょう。もっと歌いましょう。貴方のために、貴方だけのために」
世界が終わっても構わない。
誰かがこの時間を終わらせるというのなら。
「……忘れていいと言ったのに、忘れられないのは自分の方であったなんて、こんなにも滑稽なことはない。止めてくれという視覚すら自分にはない」
故に、彼女が歌うのならば。
それに答え続けよう。海獣の骨が揺れる。迷うように、懊悩するように、常に揺れ動く心は、まるで初恋のように。
猟兵達は挑まなければならない。
どれだけの同情すべきものがあろうとも。世界を終わらせてはならないと。その愛が世界を壊すというのならば、その別離を己たちが為すと―――。
村崎・ゆかり
ご機嫌よう、でいいかしら。泡沫の夢を終わらせに来たわ。失ったものは取り返せない。当然の道理よ。
あたしにも愛しい従者はいるけど、一つになりたいとは思わないわ。相手がいるから愛し合える。一つになってしまったら、それは他を顧みないただの自己愛よ。想いは外へ向かわず、自分の中だけで閉じている。
まずは憑いている方から片付けましょう。
魂喰召喚。
薙刀で「なぎ払い」「串刺し」にして、『海の守護者』の骸魂に直接攻撃を加える。
アヤメは直接攻撃で相手の注意を逸らして。
二人のコンビネーションで、骸魂を打ち砕く。
これが二人の力よ。諦めきれず一人になったあなたたちでは敵わない力。
かつてのあなたたちもそうだったんでしょう?
響く歌声は恋の歌。
世界を壊してでも響き渡らせんとする意志が、迷宮を抜けた先に座すオブリビオン『偉大なる海の守護者』から発せられ続けていた。
飲み込んだ人魚の妖怪の周りにまとわりつくような海獣の骨格が軋みを上げる。歌う度に、その心地よさに堕ちていくような、そんな音。
けれど、構わずに人魚の歌声は鳴り止まない。
「―――沈めよう。何かも深海に引きずり込んで沈めてしまおう。自分を惑わすものもなく、君の声だけを効いていられる」
微笑むように歌声が響き渡る。
「ご機嫌よう、でいいかしら。泡沫の夢を終わらせに来たわ。失ったものは取り返せない。当然の道理よ」
歌声に割って入るようにして村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)の声が響き渡る。
それは世界を終末へと導かんとする歌声を止めさせるには十分なものであった。けれど、それでは止まらない。止まるわけがない。
もしも、それだけで止まるのであれば、彼等はオブリビオン化していないだろう。満たされないものを求めてしまうからこそ、満たされてしまった時、彼等は他の何者も要らないと、その眼中にお互い以外の何者もいれなくなってしまう。
「失っても君はまだそんなことを言えるだろうか?」
『偉大なる海の守護者』の言葉が響き渡る。
それはある意味で真理であったのかも知れない。
失って尚、それを諦められると言い切れるだろうかと。そんな者などどこにもいないのではないかと。
「あたしにも愛おしい従者はいるけど、一つになりたいとは思わないわ。相手がいるから愛し合える。一つになってしまったら、それはほかを顧みないただの自己愛よ。想いは外へ向かわず、自分の中だけで閉じている」
ゆかりにとって他者という存在こそが愛を注ぐものである。
ひとつになりたいと願うことは、即ち己になるということであるが故に、その愛は行き場をなくす。
己の内側に籠もった愛に意味はない。
ゆかりにとって自己愛とは他者に注ぐためのものが成り果てていいものではないのだ。
「急急如律令! 汝は我が敵の心を砕き、抵抗の牙をへし折るものなり!」
最早問答は無用である。
ひとつになりたいと願う者と、他者を愛するがゆえに、個であることにこだわる者とが相容れるわけもない。
ユーベルコード、魂喰召喚(タマクイショウカン)によって、薙刀の刃に召喚した魂喰らいの式神が宿る。
その力は肉体を傷つけるものではない。
襲い来る大波がゆかりを襲う。無差別に世界に溢れんとする大波があたりを打ち崩し、海へと引きずり込まんと迫る。
それを式神のアヤメがゆかりを抱えて飛び越え、大波を越えた瞬間ゆかりを『偉大なる海の守護者』へと打ち出す。
閃く紫の刃。
それは魂喰らいの力がやどりし刃であり、肉体を傷つける一撃ではない。
その一撃が如何なるものか、本能で悟ったのだろう。海獣の骨が蠢き、刃を受け止める。
「―――甘い! 肉体を傷つけるわけではない一撃なら―――!」
ずるりと海獣の骨をすり抜けて薙刀の刃が、その身に宿る骸魂の魂魄を斬りつける。
「次です、3時の方角から打撃、きます!」
アヤメが叫ぶ。
魂魄のみを傷つける刃を受けて蠢く海獣の骨がゆかりを引き剥がさんと骨の尾が襲う。それをアヤメが即座に反応して呼びかけたおかげで、対応が遅れずに済んだ。
薙刀の柄で尾の一撃を受け、さらなる追撃を放つオブリビオンへアヤメが攻撃を加えて注意をそらす。
「これが二人の力よ。諦めきれず一人になったあなたたちでは敵わない力」
互いの死角を補う。互いの力のない部分を使い分ける。
そうすることによって二人の力は二人のままにできることが増えていく。それが一つになるということ以上の意味を持つことをゆかりは叫ぶ。
放たれた薙刀の一撃が、さらに骸魂のみを傷つけていく。わかっていたはずだ。一つになる、それがどんな意味を齎すのか。
「かつてのあなたたちもそうだったんでしょう?」
それはゆかりの願いであったのかもしれない。
主と従者。
その関係性は自分たちにも共通する部分である。それが、このような形で終わりを迎えるのは、言葉にしてしまえば陳腐になってしまうけれど―――嫌だったのだ。
だからこそ、二人で一つではなく、二人で二つのままがいい。
例え喪ってしまったのだとしても、かつての在りし人のことをなかったことにしてはならないのだと、紫の刃が波打つ世界に閃くのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
久瀬・了介
やっとたどり着いた。オブリビオンは全て殺す。
目に入った瞬間に、【呪詛】を込めた呪いの言葉を吐き守護者にぶつける。「動くな」。
それ以上は何もさせない。自分が何をしているか、分かっているんだろう。自分で止まれないなら俺達が止めてやる。
相手を睨み付けて動きを捕縛しつつ、歩み寄って鉈状の怨念武器を生成。骨の鎧を叩き割る様に振り下ろす。【精神攻撃】。骨ごと、魂までも破壊する。
妄執に囚われる心地好さは分かる。よく知っている。だが、人として生きていれば何時かはそこから抜け出せる…のだろう。
貴様が生身の敵なら説得する道もあった。だが、貴様は変われないんだろう?
だからこそオブリビオンは殺す。全て殺す。必ず殺す。
紫の剣閃が骸魂を斬りつける。
骸魂が飲み込んだ人魚の妖怪の肉体に傷つけることなく、オブリビオン化した骸魂の中に宿る想いや、迷いのみを絶とうと放たれた。
「―――自分は」
その迷いはさらなる隙を生み出す。
どうしようもない迷い。これでよかったのだろうかという迷い。一つになれたことの歓びが嘘だったわけではない。
望んでいた。
望んではならないことであったとわかっていたとしても、死せる己にとって、それが唯一の未練であったのだろう。
幽世に向かう時、自分が力尽きなければ。もっと強ければと思うことはいくらでもあった。後悔してもしきれるものではない。
だからこそ、望まぬままに骸魂と成り果てた後―――。
彼女の歌声をもう一度聞きたいと願ったことが、全ての過ちであったのだろう。世界は崩れる。足元から崩れていく。
世界が終わってもいいと思ってくれたことが、自分にとっての全てであったのだ。
「だから、自分は」
しかし、その言葉は遮られる。
「やっとたどり着いた。オブリビオンは全て殺す」
その視線はあまりにも強烈なる呪縛(ジュバク)であった。
呪いの言霊と言ってもいい。
短く放たれた、『動くな』という言葉。それがオブリビオン『偉大なる海の守護者』の身体を強烈に縛るユーベルコードであった。
久瀬・了介(デッドマンの悪霊・f29396)は、その赤い瞳を向け、呪詛を込めた言葉を放った。
「それ以上は何もさせない。自分が何をしているか、わかっているんだろう」
その言葉は、ユーベルコードよりも『偉大なる海の守護者』の心を縛り上げる。
そのとおりであった。
崩落した世界が迷宮の姿に変えたときからわかっていたことだ。
迷い、まどい、懊悩する。
これでよかったのかという思いと、これでよかったという想いがぶつかりあって火花を散らす。
心地よい場所にとどまり続けたい。彼女に思われ続けていたい。
一度はそれを手放したはずなのに、触れ合ってしまえば、その決意すら流され溶かされる。
「自分は、忘れていい、と言ったんだ―――いや、忘れてほしくない。これが彼女を縛る呪いだとしても、そうであってくれたなら、と一欠片でも思ってしまったことが」
それが間違いであったのだと。
了介の赤い瞳が輝く。ユーベルコードの輝きが増し、オブリビオンを捕縛し続ける力を増していく。それは寿命削る力の行使であったけれど、関係などあるものか。
「自分で止まれないなら俺達が止めてやる」
足を踏み出す。
手にするはエクトプラズムが物質化した怨念の武器。鉈の形へと変貌した怨念の刃が次々と人魚の身体を覆う海獣の骨格を尽く破壊していく。
それは骸魂の精神、肉体と共に次々と壊していく一撃であった。破壊する。破壊する。それは彼の心に宿ったたった一つの事。
譲れない。変わらない。芯に血潮の通ったものであった。
「妄執に囚われる心地よさは分かる。よく知っている。だが、人として生きていればいつかはそこから抜け出せる……のだろう」
それは己自身にも降りかかる難題であったことだろう。
すでに己は人の身ではない。デッドマンであり、亡霊でもある。そんな我が身でどの口が言うのであろうか。そんなことはわかりきっている。
それでも、と彼は言う。
「貴様が生身の敵なら説得する道もあった」
けれど、それは詮無きことである。すでにオブリビオンと化している。肉体は死して、魂は骸魂へ変じている。
そこに変化はない。
生きることは変化し続けること。その意味を問い続けることであろう。ならば、すでに終わってしまった者たちには変えようがない。変わりようがない。
あるのは過去の化身としての不変のみ。
「だが、貴様は変われないんだろう?」
「それは、君も同じのはずだ」
変われない者同士が、互いの存在を許せぬと対峙する。オブリビオンは猟兵を。猟兵はオブリビオンを滅ぼさなければならない。
過去と今がせめぎ合う。
骨が砕け散る音が響き渡る。確かに同情の余地があるのかもしれない。
だが、関係ない。どこまで言っても、どれだけの事情があろうと、これだけは変えられない。変わらない己が、変わらぬものを滅する。
変わらぬ者は、必ず世界を滅ぼすからだ。無辜の人々を、現在を生きる人々を害する。
「だからこそオブリビオンは殺す。全て殺す。必ず殺す」
それが己の変わらぬ存在としての意義だとするのならば、それを完遂するまで己は滅ぶことなどできようはずもない。
振るった怨念武器の一撃が、空虚なる虚を持つ海獣の骨を砕く音を響かせ、了介のできぬ慟哭の代わりに響き渡らせ続けるのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
薙殻字・壽綯
……もし、私が貴方と同じ境遇に身を置いてしまえば。私も、貴方と同じ選択をしたでしょう
そして、貴方と同じくして。誰かの手によって、引き離される
世界は、残酷です。だからこうして、滅ぼされようとしています
止めたくなくても、止めなければ、私の孤独が潰えてしまいます
わが身可愛さと同時に、私は……人を。生き人も、死に人も、愛しいと想うのです
……私は、群衆の中の一人であり、決して、孤高ではありませんから
……一つ、質問を。そこから見る景色は、素敵なものですか? 私に、語っていただけませんか
迷って、良いのです。迷うためにも、貴方たちには、時間が多く必要だと思います。だから……どうか、生き急がないでください
慟哭のように響いた骨を砕く音。
それは海獣の骨格を身にまとった人魚―――オブリビオン 『偉大なる海の守護者』の防御を容易く打ち破る怨念の武器が奏でた音であった。
けれど、打ち砕かれた骨格は凄まじき速度で復元していく。しかし、それは完全なる復元ではないことは確かである。
砕け散ってしまった骨格は元には戻せない。ばらばらになった骨をつなぎ、鎧のように身にまとうことに寄ってオブリビオン 『偉大なる海の守護者』は、その力を取り戻そうとしていた。
「わかっている。わかっているとも―――これがただの無理心中であることなど。けれど、彼女が求めてくれると知ってどうして、その手を、歌を拒むことなどできようか」
嘆く言葉は、迷いから出た言葉であろう。
世界の崩壊の後に迷宮を形作ったのもまた、骸魂たる海の守護者の迷いから生まれたものであろう。
「……もし、私が貴方と同じ境遇に身をおいてしまえば。私も、貴方と同じ選択をしたでしょう」
薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)はゆっくりと歩みを進める。
対峙するオブリビオンの身の上を知った上で、己もまた同じであろうということは簡単に想像できた。求めて止まぬものを求めて手をのばすのは、生命として当たり前の挙動であったことだろう。
それを誰が咎められる。誰がそれをしないと言い切れる。けれど。
「そして、貴方と同じくして。誰かの手によって、引き離される」
その言葉は真理を語っていたように思えたかもしれない。
海の守護者であった骸魂に響く言葉は、真摯であったろうし、その懊悩を見透かすかのような言葉であった。
「引き離されたくないと、その手を離したくないと歌う者の手をどうして振り払える。世界が終わろうとも、どうしようとも手放さないと思うのは悪であろうか」
どうしようもない。
どれだけのエゴであると言えようか。世界と己。天秤に掛けることこそが愚かであろう。だが、それが生命の有り様とも言える。
「世界は、残酷です。だからこうして、滅ぼされようとしてします。止めたくなくても、止めなければ―――」
自分の孤独が潰えてしまう。
そうつぶやく壽綯にとって、世界とはみんなの中にあって孤独を感じる場所であるのだろう。
たった一人で佇む荒野にも孤独を見い出せば、群衆の中にあって孤独を見出す者もある。
それがないものねだりであったとしても、それでもそれを受け入れて行くのが大人であるというのならば、その生き方を選んだ者は、一体なんと呼べばいいだろう。
「我が身可愛さと同時に、私は……人を。生き人も、死に人も、愛おしいと思うのです」
己が孤独であると感じるがゆえに他者を慮ることができる。
例えそれが、今を生きる生命であったとしても、過去に在りし骸魂だとしても、どちらも在り様として愛する。それが壽綯という猟兵なのだろう。
「ならば―――」
「……私は、群衆の中の一人であり、決して、孤高ではありませんから」
それはにべにもない拒絶の言葉であったかもしれない。
二人で一つになろうとしたものと、群衆の中で個としてありながら、全として振る舞うもの。その決定的な溝が存在している。
オブリビオンにとって、それは理解し難いものであった。
「……一つ、質問を」
その手には一冊の文庫本。
いつからそれを持っていたのか定かではないが、彼の手には一冊音文庫本が手に取られていた。頁が風に捲くりあげられ、そこから溢れる南天の花々が世界を埋めていく。
白く小さな花々が、彼の愛を増す。溢れるように止めどなく。けれど、それは赤く実を結ぶが故に。白き花は募る愛故に一方的であったのかも知れない。
海獣の骨の鎧を纏うオブリビオンは本来圧倒的なスピードでもって猟兵を圧倒する。それは壽綯もまた、その速度で持って打ち倒されてしまうほどであった。
だが、南天の花々が溢れ続ける限り、オブリビオンの知覚や運動神経は麻痺し続ける。南天の花々は消えない。彼の問いかける質問に対して、満足行く答えを彼が得るまで。
故に、名を食み出しもの黒む(ハミダシモノクローム)。
「そこから見る景色は、素敵なものですか? 私に、語っていただけませんか」
何を、と思ったであろう。
この滲む世界が如何に美しいと思えるだろうか。溢れそうになる涙。自分も『君』ももうわかっているのだ。
己達だけの世界など、意味がないのだと。
自己があって他者がある。だからこそ世界は回っていくし、拡張していく。自分たちはそれを、その可能性を圧し潰すだけの存在に成り果てたことを知っている。
歌う。
歌って、歌って、愛を歌えば紛れるかと思った、それは……どうしようもなく自分と『君』との間の拭えぬ溝を深めるばかりだからだ。
「―――まどってばかりだ。だから視界が滲む。見たいものは見えない。わかると思ったものはわからない」
その言葉は、壽綯の求めたものであったかわからない。けれど、文庫本が閉じられる。
「迷って良いのです。迷うためにも、貴方たちには、時間が多く必要だと思います。だから……どうか、生き急がないで下さい」
その言葉が壽綯にとっての手向けの言葉であったことだろう。
どれだけの時間を重ねても、どれだけの懊悩を抱えたとしても、振り払えぬものがある。過去の化身たる身に可能性はない。
故に、もう彼等はわかっている。
もうどうしようもないと、引き裂かれるしかない互いの身を思うばかりである。オブリビオンである以上、猟兵は滅ぼさなければならない存在。
けれど、どうしても文庫本を閉じ、背を向けた壽綯を打つことがどうしてもできなかったのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
黒髪・名捨
●心境
さて、終わる世界と奏でる悲しみの歌…か。
終わるのは…歌にしようぜ。
正直、アンタの悲しみは記憶が抜けてる俺には理解できねー。
だが、ここの妖怪たちが迷惑したのは理解した…。
悪いが…物理的に止めさせてもらうな。
●戦闘
無差別攻撃かッ
『オーラ防御』を展開ッ!!
津波を一瞬止めた瞬間に『ジャンプ』して『水上歩行』で津波の上を走破する
…オレは…泳ぐの苦手なんだ…。
なんで、その歌を砕くッ
長い髪の毛を伸ばして『ロープワーク』の要領で捕まえたら、そのまま投げて『体勢を崩す』
チャンスだッ
一撃必殺ッ
『怪力』+『部位破壊』+『毒使い』で喉を潰すつもりで首を攻撃する。
その歌声を(物理的に)止めてやるッ!!
他人の悲しみは、他人にしか理解できないものであるというのならば、それはあまりにも悲しいものであったことだろう。
理解できないがゆえの悲しさ。けれど、それを悲しいままにしないために人は前を向いて歩く。
人生という時間は短くも長いものであるがゆえに。既に終わってしまった存在はどうすればいいのだろうか。
過去の化身―――オブリビオン。『偉大なる海の守護者』にとって、それは迷いばかりに塗れたものであったことだろう。
猟兵を前にしても、滅ぼし合うはずであるのに迷い続けてしまっていた。
本当にこれが自分の、そして『君』の願いであるのだろうかと。一つになったからこそ満たされる感触もまたあるだろう。
「終わらせたくないと願う自分がいるのなら―――それもまた、『君』の選択なのだろうか」
歌声が響く。
それを遮るようにして、黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)が躍り出る。迷宮より飛び出し、オブリビオンとなった海の守護者を赤い瞳が捉えていた。
「さて、終わる世界と奏でる悲しみの歌……か。終わるのは……歌にしようぜ」
どちらかが確実に終わってしまうというのであれば、猟兵はきっと世界を取るだろう。世界に選ばれた、世界のために戦う戦士である猟兵はすでに生命の埒外にある者である。
世界の終わりを止められるのが自分たちしかいないのであれば、躊躇なくその力を振るうだろう。
「正直、アンタの悲しみは記憶が抜けてる俺には理解できねー」
名捨にとって記憶とは探すものであり、追い求めるものである。
けれど、その欠片を掴むことができないままに、此処まで来てしまった。骸魂の抱える悲しみも、人魚の妖怪が懐き続ける悲しみも理解できない。
「だが、ここの妖怪たちが迷惑したのは理解した……」
静かに構える名捨。
もはや問答は無用である。互いが相互に理解できないのであれば、拳で持って解決するしかない。
「悪いが……物理的に止めさせてもらうな」
その言葉はどこか申し訳無さそうな、そんな声色であったかもしれない。
理解できないからと言って、その事情、悲しみが偽りであると断じるわけではないのだ。
「わからない。わからない。自分がどうすればいいのか。けれど―――『君』が望むのなら!」
歌声が響く。それは深海より打ち出されし大波の歌。世界のすべてを飲み込み、深海へと引きずり込もうとする無差別の波。
名捨の前面にオーラの力が展開される。しかし、それでもオーラが軋む程の圧倒的な大波の威力。まともに受け止めては、こちらが保たない。
一瞬止まった大波。次の瞬間、名捨が地面を蹴って押し寄せる大波の上を疾走する。
「……オレは……泳ぐの苦手なんだ……なんで、その歌を砕くッ」
長い黒髪が伸び、『偉大なる海の守護者』の身体へと絡みつき、拘束する。そのままその体を引きずり倒すようにして引っ張り、名捨の体が水上を蹴って跳躍する。
チャンスだ。
それは千載一遇の好機。
振るう拳は誰がために。世界のために。そこに住まう妖怪たちのために。
その歌声が世界を壊す愛だというのならば、その歌声響かせる喉を―――。
「一撃必殺ッ! その歌声を止めてやるッ!!」
放たれた拳、それは態勢を崩した『偉大なる海の守護者』ののど元へと放たれる。海獣の骨格が幾重にも拳の前に展開されるも、その尽くを打ち破って名捨の拳が、その喉へと突き刺さるようにして放たれる。
拳の衝撃波が呼び出された大波を吹き飛ばし、そしてまた戻るようにして押し寄せる波間に『偉大なる海の守護者』がさらわれるようにして後退していく。
仕留め残った。けれど、その拳の手応えは十分。
嫌な感触がまだ残っている。悲しみを解することができなくても、想像はできる。故に名捨は、己の拳に残った感触を振り払うようにして、大波から逃れるように跳躍するのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「これは愛ではなく恋であり、互いのためと言いつつ自分の至上の想いのためである。故に誰かが自分達を引き裂きに来るだろうと。罪の甘美さまで織り込んでの熱情とお見受けしたので。貴方達が心の奥底で望む、強制的な終わりを体現しに参りました」
UC「アルラウネの悲鳴」使用
仲間を巻き込まぬよう留意し敵を引き裂く
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
「もう一度、きちんと終わりを告げ合う時間が持てたのです。それを無駄にしないで下さい。貴方達は今、自分の想いを、その歓びだけを見つめて、実際には相手のことを見ていません。自分の命より大事な方に、伝えぬまま分かたれるを良しとしないなら。この最後の刻を、無駄になさいませぬよう」
幾重にも張り巡らせた海獣の骨格が拳から放たれる衝撃を防がんとした。
けれど、それはユーベルコードの必殺の一撃に寄って尽くが破壊され尽くす。かろうじて喉は残っているが、それでもダメージは残っている。
オブリビオン『偉大なる海の守護者』は己の喉がまだ残っていることを奇跡に思いつつ、前を向く。
波が自分の体を猟兵から引き離してくれた。けれど、まだ猟兵達は自分を狙うだろう。何故ならば、自分はオブリビオンであり、世界を滅ぼす者である。
その自覚があれど、それでもと捨てきれぬ想いがある。
「これは愛ではなく恋であり、互いのためと言いつつ自分の至上の想いのためである」
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の声が響き渡る。
一歩踏み出す。
即座に『偉大なる海の守護者』は、その体を海獣の骨格にで覆う。猟兵。自分を滅ぼさんとする者、その存在に気がついた。
どうあっても相容れぬ存在であるがゆえに、互いに滅ぼし合うしかない。
「何を―――」
けれど、対峙する桜花の眼差しは敵対するものへと向けるものではなかった。
「故に誰かが自分たちを引き裂きに来るだろうと。罪の甘美さまで取り込んでの情熱とお見受けしたので。貴方達が心の奥底で望む、強制的な終わりを体現しに参りました」
「違う。自分は、違う。終わりなど望んでいない」
それが偽りの言葉であると『偉大なる意味の守護者』も桜花もわかっていた。
けれど、それを正すことはない。
正したところで意味はない。
なぜなら、桜花と『偉大なる海の守護者』は猟兵とオブリビオンであるから。
「自分は終わらない。終わらせない。『君』の歌声を響かせ続ける―――!」
罪在りというのならば、自分だけに降りかかればいい。『君』はただ、自分に飲み込まれただけなのだから。望んで世界をも滅ぼそうなどと考えてなどいなかったのだから。
そんな嘘が通じる―――なんて思えなかったけれど、それでも。
「―――ッ!」
アルラウネの悲鳴(アルラウネノヒメイ)の如き絶叫が放たれる。
それは圧倒的な速度で持って桜花を引き裂かんと迫る『偉大なる海の守護者』をも捉え、引き裂く。
その痛烈なる一撃が鎧った海獣の骨格を散々に砕き、その身をしたたかに打ち据えるのだ。
「もう一度、きちんと終わりを告げ合う時間が持てたのです」
それは桜花にとって幸いなことであろうと思えた。
死別、離別、その時に十分に時間が残されているものは幸福だ。後に何かを残せたという思いと、託されたという思いが残るであろうから。
けれど、突然の離別であれば、それすら許されないのが生命というものであろう。「それを無駄にしないで下さい。貴方達は今、自分の想いを、その歓びだけを見つめて、実際には相手のことを見ていません。自分の生命より大事な型に、伝えぬまま分かたれることを良しとしないなら」
桜花の瞳がほほえむ。
それは到底敵であるオブリビオンに向けるものではなかったけれど、その想いの美しさは過去のものであろうとも、変わることのない美しさであったであろう。
「この最後の刻を、無駄にはなさいませぬよう」
桜花の願いはたったそれだけであった。
今はまだ一つになった歓びに震えているだけだ。本当に必要な時間を、今は知らなければならない。自分でなくても他の猟兵が彼等を討つだろう。
世界の終わりは近い。
足元から崩壊し、迷宮へと姿を変えた世界もまた終わりに近づいていく。
終わらないものはない。変わらないものはない。
故に桜花は無駄にはしてほしくない。
この一時の逢瀬がどれだけの奇跡の上に成り立っているのか、その意味を考えてほしいと。そういうように背中を向けるのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
嗚呼……鏡を見ているかのようだ
やはりあなたたちは、私たちにそっくりですね
――えぇ、私も心が満たされた気分でした
ぽっかりと空いた穴が幸せで満ちていく感覚を、確かに味わった
けど……後悔もしている
彼女の眠りを妨げ縛りつけてしまった
囚えて自由を奪ってしまったから
それなのに今も、傍に居たいと願う
傍に居させてほしいと願う
エゴの塊すぎて笑うしかないですね
再びの別離をこんなにも恐れている
本当に世界は残酷だ
ふたりだけの空間を切り取って、世界とは無関係になれたらいいのに
何も滅びることがなくなれば、よかったんですけど、ね……
……あなたの歌には敵いませんが聴いてくれませんか
大切な人の為に、辛くとも生きたいと願う歌を
項垂れる。
それはオブリビオン『偉大なる海の守護者』にとって、頭を殴られたかのような衝撃であった。
自分と『君』とが一つになったとしても、それでも別れは来る。どれだけ世界を滅ぼそうとしても、抑止力としての猟兵が必ず。
ならば、これは言ってしまえば一時の逢瀬に過ぎない。今生の別れと言ってもいい。出会ってしまったのならば、別れがあるのが生命である。
永遠はない。だからこそ、ボロボロと身にまとった海獣の骨格で出来た鎧が崩れていく。
後悔はない。いや、それもまた嘘だ。自分には後悔しかない。一人にしてしまったこと、先に逝ってしまったこと。『君』を悲しませたこと。
「嗚呼……鏡を見ているかのようだ。やはりあなたたちは、私たちにそっくりですね」
頭を垂れる『偉大なる海の守護者』の前に立つのは、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)であった。
鏡写し。
けれど、決定的に掛け違えてしまった存在が、そこにあった。どちらが正しいのか、どちらが間違っているのか。
それすらもわからないままに、スキアファールと『偉大なる海の守護者』は対峙する。互いの境遇、互いの想い、願い、それらはすべて同じであったことだろう。
ただ、違うのは猟兵とオブリビオンという違いのみ。
それはどうしようもない事実だ。
「満たされているんだ。『君』も満たされていると思ったから、滅びの言葉を―――呟いてしまった。自分もそうだ。満たされている。満たされている……」
けれど、それは世界にとって決定的な綻びにして滅びである。
「―――えぇ、私も心が満たされた気分でした。ぽっかりと空いた穴が幸せで満ちていく感覚を、たしかに味わった」
心の傷は、穴は、同じものでは塞ぐことができない。
心は肉体のように頑強ではないけれど、柔らかいものだから、形を変えることができる。その穴を塞ぐために何かで覆ったり、埋めたりすることはできる。
人によって、その形や色や材質は違うけれど。
「けど……後悔もしている。彼女の眠りを妨げ縛り付けてしまった。囚えて自由を奪ってしまったから」
スキアファールは瞳を伏せる。
瞼の裏に鮮明に映る、あの火花の色。罪悪がないのかと言われたら、それは嘘になる。けれど、本当に必要な真実は一つあればいい。
「それなのに今も、傍に居たいと願う。傍に居させてほしいと願う」
その願いがあればこそ、己の足は大地を踏みしめる。膝が折れて大地に付してしまったとしても、土を掴んででも立ち上がろうとすることができる。
その意味を知った体はもう、ぽっかりと穴の空いた心を抱える以前の己ではない。心が形を変えるというのであれば、体もそうだ。
容れ物の肉体であったとしても、スキアファールの心に宿る“色”が今も尚、燦然と輝くからこそ、自身を人間たらしめる。
「エゴの塊すぎて笑うしかないですね。再びの別離をこんなにも恐れている」
「悲しみの別離を恐れている。再び悲しませたくはないのに」
互いの言葉は、互いの思いと同じであったことだろう。
出会いがあるからこそ、別離がある。別離があるからこそ出会いがある。いつまでも同じところに留まってはいられない。
人も、時も。
「本当に世界は残酷だ。ふたりだけの空間を切り取って、世界とは無関係になれたらいいのに。何も滅びることがなくなれば、良かったんですけど、ね……」
けれど、人は誰しもが他者と無関係ではいられない。
誰かの世界が、誰かの世界と接している。大勢の中にあっても孤独を感じるのと同じように、誰かの孤独の隣に誰かがいるのだ。
それが生命の持つ因果であるのならば。スキアファールは伏せた瞳を開く。
「……あなたの歌には叶いませんが、聴いてくれませんか。大切な人のために、辛くとも生きたいと願う歌を」
スキアファールが息を吸い込む。
今この瞬間も、スキアファールは変わっていく。不変なものなど何処にもない。永遠はあったとしても不変はない。
どんなに時を止めようと、堰き止めようとしても、時は止まらない。世界を壊してでも進んでいく。
それがどんなに残酷なことであろうとも、それでもスキアファールは歌うのだ。
己が己であると、そう在って良いのだと世界に叫ぶように歌う。
その歌の名を『Vivi(レーゾンデトゥール)』という。
咆哮の如き歌が、己の存在を問いかけるように世界に歌われる。スキアファール以外の誰にも理解できない己の存在意義。
けれど、不思議に歌声は心をえぐるような衝撃となって世界を震わせる。
その振動は生命のビート。
「―――生きたい」
そう願うように歌声は世界に叩きつけられた―――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
世界と引き換えにしたい程の想い、か
UDC-Pやシャーマンの様に
平和的に共にいられるなら良かったのに
私の聖域にくれば時が停まったまま
永遠に一緒にいられますの
そうはいかないさ
人魚の方は今を生きてるんだ
花は散るから美しい
別れがあるからきっと出会いを喜べるんだと思うよ
儚く散りゆくものだからこそ
一瞬の煌きを固定して永遠にしたいですの
残念だけど一人の思いと世界を天秤にかける事はできないからね
津波での攻撃は神気で水を固定して防御
周囲の時間を停滞させて一気に近づくよ
近付いたらワイヤーガンで口や首のあたりを拘束して
歌を邪魔しつつガトリングガンで攻撃
海獣の骨を削り落そう
完全に石化しないように
ある程度力を制御するよ
世界に歌声が響き渡る。
それはあまりにも切実で、けれどどこか物悲しく。聞く者の心をえぐっていくような、そんな歌声だった。
オブリビオン『偉大なる海の守護者』は、その歌声に引き寄せられるように潰れた喉で歌う。深海よりの歌を。どうしようもない自分たちの末路を予見するように歌う。
大波が生まれ、世界は深海へと引きずり込まれようとしていた。
「どんなに願ったとしても、最早『君』に出会えぬというのであれば―――」
一つになってしまったがゆえに、もう会えない。
他者と自己との間に隔てるものがないからこそ、一つになれたというのに、他者でなければ顔を見ることも出来ないという絶望が、大波の歌を響かせる。
飲み込み、押し流し、引きずり込む。
世界が自分たちを引き裂くというのであれば、自分たちは引き裂かれる運命にあったというのかと―――。
「世界と引き換えにしたい程の想い、か。UDC-Pやシャーマンの様に平和的に共にいられるなら良かったのに」
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)の呟きは、オブリビオン『偉大なる海の守護者』の歌い放つ声にかき消された。
その想いは変わらない。そう思いたくなるほどの事情であるのだ。けれど、それは許されない思いでもあった。
思っても変わらない。詮無きこと。取り返しのつかない思いは世界を壊す。
「私の聖域にくれば、時が停まったまま永遠に一緒に要られますの」
己の体のうちに融合した邪神がつぶやく。
それは彼女にとって最良の解決策であったことだろう。けれど、晶は違うのだと首を振る。
「そうはいかないさ。人魚の方は今を生きてるんだ」
過去の化身と今を生きる者。
その決定的な溝は、例え今まさに同じ時間に生きていようとも、変えられないものである。
永遠の存在と刹那の存在が交わることができるのが交錯の一瞬であることは言うまでもない。
「花は散るから美しい。別れがあるから、きっと出会いを喜べるんだと思うよ」
大波が晶に迫る。
それは全てを飲み込んで、全てを過去に引きずり込もうとする大波であった。その大波の前ではあらゆる防御が無意味になる。
けれど、晶の身に宿した邪神の権能はそれすらも停止させる。
今や此処は、邪神の領域(スタグナント・フィールド)である。神気満ちる晶の周囲に置いて、大波は水飛沫のままに固定される。
「儚く散りゆくものだからこそ、一瞬の煌きを固定して永遠にしたいですの」
それは水の飛沫が美しい球を描くのと同じ様に、本来ならば瞳の一瞬の動線として描かれるもの。ずっと眺めていたい。そう願うのは邪神であった。
晶と邪神の価値観は相違であった。
どうあっても交わらない。
「残念だけど一人の思いと世界を天秤に掛けることはできないからね」
晶の体が駆け出す。すでに神気によって周囲の大波は固定している。大波の高さも、飛沫あがる水流の力強さも、今は意味がない。放たれたワイヤーガンが海獣の骨格でできた鎧へと打ち込まれ、固定する。
「自分の、『君』の歌を―――邪魔するな!」
その歌声は、まさに生きるための歌。過去の化身の歌う歌ではない。
あらゆる罪を、世界を破壊せんとした人魚の妖怪の想いすらも、すべて自分が被る。そんな力強さを持つ歌が、神気を押し戻す。
大波が再び動き出し、ワイヤーでつながった晶とオブリビオンの間に流れ出す。凄まじい海流の流れに晶の持つワイヤーガンが軋む。
「―――世界を壊すというのなら、彼女の世界も壊すことになるって、わかっているはずだろうに!」
その言葉とともに晶が放つガトリングガンの弾丸が海獣の骨で出来た鎧を削る。
放たれた弾丸から神気が溢れ出し、その鎧を石化していく。次々と放たれる弾丸が、削り、硬め、削り、硬め……その鎧の全てを引き剥がすように砕ききる。
石化の力をある程度制御できている。
完全に石化してしまえば、人魚の妖怪にも影響があるかもしれない。そう思えばこそであった。
誰かを思うということは、それだけで力になる。それを証明するように晶の放つ神気が押し寄せる大波でさえも固定し、その力を封じるのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
惑っておられるのですね、海の守護者
優しさ故に止めるべきだと悟りつつも、愛しいが故に離れられず
ですが、世界を…お相手の時を止める事は許さぬことは御分かりの筈
その迷い、打ち砕きます
迫りくる水の壁…津波へ向け格納銃器展開
UCを●乱れ撃ち●なぎ払い
●怪力でワイヤーアンカー接続した大盾●投擲
鉄球が如く振り下ろし、凍結させた氷壁を粉砕
砕氷舞う中、『偉大なる海の守護者』に接近
剣を一閃
生に死があり、物語に幕引きあり
だから『命』は何かを残し、残されるモノはそれに応えたいと願うものです
人魚の歌姫様
歌が終わらなければ聴衆が…想い人が返礼を言えません
そして守護者よ
どうか、彼女に労いを
そして、『愛』を伝えてください
海獣の骨格により生み出された鎧は砕け、呼び寄せた大波は石化し止まる。
すでにオブリビオン『偉大なる海の守護者』が出来うることは全て為し得たと言ってもいいだろう。
いまだ心はまどっている。迷い続けている。自分の願いと想いが、『君』の願いと想いが同じであるがゆえに、そのまどいは強まるばかりだ。
「どうして、こんなに苦しい……失うことがこんなにも苦しいなんて思いもよらなかったんだ。永遠はなくても、同じ思いがあれば……けれど自分は」
それでもと。
それでも『君』と同じ時間をいきたいとお願ってしまった。そして、『君』は言ったのだ。
『時よ止まれ、お前は美しい』
どうしようもないほどに間違ってしまっていた。
共に在りたいという願いと永遠は並び立つことなどできようはずもない。
「惑っておられるのですね、海の守護者。優しさ故に止めるべきだと悟りつつも、愛しいが故に離れられず」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はそう、状況を、彼等の心情を推し量った。
それはデータベースと共に電脳がはじき出した結論であり、正しいのだろう。けれど、何処か別の場所でうなずく自分がいたような気がしたのだ。
「ですが、世界を……お相手の時を止めることは許されぬことは御分かりの筈」
剣を構える。それは儀礼的な構えであったけれど、トリテレイアにとっては義を持って相対するに相応しき相手であることを如実に語っていた。
「その迷い、打ち砕きます」
その言葉が合図になったように巨大な壁の如き大波が迫る。
深海より放たれ、深海へと引きずり込もうとする大波は、トリテレイアのちからであっても抗うことのできない圧倒的な水の奔流であった。
けれど、それが水であるのならば、対応できる。その機械の体に格納された銃器が展開され、放たれるは超低温化薬剤封入弾頭(フローズン・バレット)。
炸裂し特殊弾等に封入された薬剤が噴出し、分子運動を低下させ急速凍結に至る現象を引き起こす。
一瞬で大波が凍りつき、そこへ放たれるはワイヤーと接続された大盾。
まるで鉄球のように振るわれた一撃が氷壁と化した大波を打ち砕き、世界に煌めく。その最中を噴出するスラスターの炎と共に駆け抜けるアイセンサーの揺らめきが、氷片を溶かす。
「生に死があり、物語に幕引きがあり」
掲げた剣の刀身がオブリビオン『偉大なる海の守護者』を映し出す。氷片が舞い散る中、その表情は驚愕でもなければ、憤怒でもなかった。
己を打倒さんとする騎士を見上げ、驚くほどに穏やかな顔をしていた。
それは何もかもを諦めた者の顔ではなかった。
己の過ちが正されることを確信した顔であった。例え、己が霧散し消えていったとしても、後に残るものがあることを知っているからこそ浮かぶ表情。
「だから『命』は何かを残し、残されるモノはそれに応えたいと願うものです」
放たれた剣閃の一撃がオブリビオンの肉体を袈裟懸けに切り裂く。
「―――ありがとう」
たったそれだけで良かった。
歌が、まだ終わらない。終わってはならないというように世界に響き続ける。それは最早『偉大なる海の守護者』の放つ歌声ではなかった。
終わらない。
終わりたくない。
この一時の逢瀬すらも一瞬の明滅の後に終わらすことなどできようはずもないと歌う歌声は、人魚の妖怪のものであった。
「人魚の歌姫様―――歌が終わらなければ聴衆が……想い人が返礼を言えません」
その言葉を境に歌が止む。
どうしようもないほどの思いが溢れる様をトリテレイアは見た。機械の体では絶対に溢れることのない思いの丈が、ぽろぽろと『偉大なる海の守護者』の頬を伝うのを見た。
泣いているのは、一体どちらであったことだろうか。
いくら演算をしてみたところで、電脳は答えなかった。
「どうか、彼女にねぎらいを。そして、『愛』を伝えて下さい」
かろうじて、トリテレイアは、そう言葉を紡いだ。『愛』とはなんであるか。その答えを今、トリテレイアは見ているような気がした。気がした、という曖昧な感情でさえ、ないはずの機械の身体がそれを感じている。
それに驚くことすらない。
そうであると知っている。
骸魂と妖怪の間にすら、世界の終わりですら分かつことのできない何かを今、トリテレイアは視ているのだ。
「―――」
その言葉はトリテレイアでさえ聞き取れないものであった。
それも当然であろう。
たった一人のために紡いだ言葉が、他の誰かの耳に入ることはない。
崩れ去っていく海獣の骨が、霧散し骸の海へと還っていく。『愛』を知って、尚トリテレイアの電脳がエラーをはじき出し続ける。
けれど、そのエラーこそがトリテレイアの炉心を燃やし続ける。戦い続ける理由であると―――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『妖怪郷愁語』
|
POW : 楽しい思い出を語る
SPD : 甘酸っぱい思い出を語る
WIZ : ちょっと切ない思い出を語る
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
オブリビオンは骸の海へと還る。
世界は時を刻みだし、足元から崩壊し迷宮と化していたカクリヨファンタズムは、日常を取り戻していた。
骸魂に飲み込まれ、一体化していた人魚の妖怪は、驚くほどに静かに猟兵達に頭を下げた。
ご迷惑をおかけしました、と。
己の感情が一時でも世界を崩壊へと導いたことを悔いるように。
「―――あってはならぬことでした。考えてはならぬことでした。謝って謝りきれるものではありませんが……」
それでも人魚の妖怪は憂いを帯びた瞳のままに猟兵達へと頭を下げるのだった。
日常は戻り、妖怪たちはいつものように面白おかしく生きていく。
けれど、人魚の妖怪は、全てを納得し、全てを飲み込んでも尚、決して忘れない思い出と共に海辺の岩場にて瞳を伏せて佇む。
世界は守られた。
けれど、猟兵たちが守るべきものは世界だけではない。
放ってはおけないと考えるのもまた、誰しもの心の中に浮かび上がった思いであったのかもしれない―――。
黒髪・名捨
●心境
しかし、思い出…か。
記憶喪失には厳しい話題だぜ。
●行動
SPD
思い出話ねぇ…
オレにはかんけーねーな。帰るぞ寧々…ってなんだ?
(頭上の寧々がぺしぺし頭を叩くというなの気絶攻撃)
いや、マジで何…ってこれ『催眠術』…Zzz…
◆寧々
うむ、何故か旦那様が寝てしもうたので妾が話そう。
そう何故か(『化術』で人化し、眠った名捨を膝枕しつつ)
うむ。妾と旦那様との婚姻の話をしよう
アレはそう○○日前◆時▽△分前にさかのぼる…
(以下省略。内容は「UDCアースで一室借りて住んでいた時、眠り薬を盛って寝た名捨の拇印を取って、勝手にヒーローズアースの役所に出した話」)
いや、だから認めてないって言ってるだろ!!(起きた)
他者の心を癒やすものは一体なんであろうか。
人の心とは形を変えやすく、移ろいやすいものである。だが、長き時を生きた妖怪たちにとって、思い出こそが糧であろう。カクリヨファンタズムは不安定な世界であれど、その過去の思い出の残滓こそが糧となって妖怪たちの身を存続させている。
そして、今また一人、過去の思い出に浸ることによって傷ついた心を埋めようとする者がいた。
今回の事件、世界を迷宮へと変貌させた骸魂と人魚の妖怪。
最早二度と邂逅はないと思っていたがゆえに、訪れた邂逅に人魚の妖怪は思わず、滅びの言葉『時よ止まれ、お前は美しい』と呟いてしまった。
幸いにして猟兵達によって骸魂は骸の海へと還された。それによって世界の終わりは回避されたのだが、残された人魚の妖怪は海辺の岩に腰掛け、その海の果てを眺め続ける。
いつ果てるともわからない海の波間に、愛しき者との思い出を糧にして、己の心を慰めているのだ。
「しかし思い出……か。記憶喪失に厳しい話題だぜ」
黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)には過去の記憶がない。
それ故にどう思い出話をしていいかわからなかったのだ。
今回は己の出る出番はないと踵を返そうとしてぺちんぺちんと名捨の頭上で、その額を叩く喋る蛙『寧々』。
「オレにはかんけーねーな。帰るぞ寧々……ってなんだ? え、いや、マジで何……ってこれ、さい……」
不意をつかれたせいもあるのだろうが、喋る蛙『寧々』による催眠攻撃によって名捨の意識が途切れる。
その場にぱたりと座り込むようにして名捨の身体が崩れ落ち、頭の上から、ぴょんこと寧々が飛び降りて化術にて人の姿へと変ずる。
「あの……?」
人魚の妖怪は突然気絶するように寝てしまった名捨に驚いたようだが、同じ妖怪である寧々には特に警戒心はないようで、どうなさったのですか? と尋ねる。
それを寧々はよいよいと手で制して、寝てしまった名捨を膝枕でもって迎えて話を始める。
「うむ、委細問題なし。何故か旦那様が寝てしもうたので、妾が一つ話をしよう。そう、何故か」
「何故か……」
釈然としないものを感じつつも、人魚の妖怪は微笑む。
なんとも微笑ましいやり取りであろうと思ったのだ。いや、旦那様は何故か寝てしまったのだが、膝枕をする二人の様子は、羨ましいという気持ちは不思議と湧き上がらなくとも、心地よい光景であるように思えたのだ。
「うむ。妾と旦那様との婚姻の話をしよう」
いきなりはじまった嫁トーーク。
アレはそう……と始まる寧々の思い出話。何時間何分何秒前、と細かく覚えているあたりは笑いどころであったのかも知れないけれど、人魚の妖怪にとっては、それも当然のことであったのだろう。
うなずきを持って人魚の妖怪は相槌をうち、寧々が語るあまりにもあんまりな婚姻の経緯を驚きつつも、微笑みが交じるようになっていた。
「肝心なのは既成事実よ。UDCアースは今、非常に法と律が整っていての。拇印があれば、ほれこのとおりじゃ」
さらに後から撤回されないように別世界のヒーローズアースまで持っていったというから用意周到というか、外堀も内堀も滅多打ちにして固めてしまったようなすさまじい話を聞いて人魚の妖怪は、わずかに困惑した顔をしたが、寧々は見逃した。
「……微笑ましいですね?」
なんとか、笑いを堪えていた人魚であったのだが、それも終わりを告げる。
催眠術が解かれた名捨が膝枕から飛び起きて……。
「いや、だから認めてないって言ってるだろ!!」
驚くほどのノリツッコミをしたところで人魚の妖怪は噴き出してしまった。
お腹を抱えて笑う眦には、一粒の涙が輝いていた。
それは悲しみの涙ではなく、喜色の涙。
いつか、それが一時のものではなくて、ずっと続くものになればいい。寧々は得意げにふんぞり返り。
「どうだ? 惚れ直したか?」
そう、自信満々に言い放つのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
無事でよかったわ。世界も、あなたも。
この子はアヤメっていってね、とある世界で出会ったオブリビオンの一人だったの。でも、可愛いから、式神にしてお持ち帰りしちゃった。
オブリビオンとしての部分を祓って、欠損部位をあたしの術式で補完して。
自由意志はしっかり残してあるのよ。だから、あたしを助けてくれることもあれば、あたしの行動を止めてくれることもある。
その……ああ言ったけど……一つになることもよくあるのよ? ベッドの中で……。
今じゃ、アヤメ無しでの生活は考えられないわ。あなたもそうでしょ、アヤメ?
人魚さんたちもそんな風だったかは知らないけど、あの人を素敵な想い出として今日を生きる原動力にしていかなきゃ。
足元から崩壊し、迷宮へと姿を変えていた世界は元のカクリヨファンタズムへと姿を変えていた。
それは今回の事件の原因となったオブリビオンが骸の海へと還ったためだ。それを為した猟兵達にとって、この事件はまだ終わっていない。
骸魂に飲み込まれていた人魚の妖怪は、骸魂と一つになることで満たされていた。生前の記憶、思い出、そういったものが人魚の心を未だ悲しみの中に追いやっている。
他者に人の心が癒やされることはない。
自分で自分の心を救う術を育てなければならない。そのために他者の心の優しさは、それを芽吹い希望に水を掛けるようなものだ。
「無事でよかったわ。世界も、あなたも」
そう声をかけるのは、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)であった。
彼女の隣には、愛奴召喚(アイドショウカン)によって召喚された式神のアヤメの姿があった。
ああ、とゆかりは得心言ったように、隣立つアヤメを紹介する。
「この子はアヤメっていってね、とある世界で出会ったオブリビオンの一人だったの。でも可愛いから、式神にしてお持ち帰りにしちゃった」
そういうゆかりに言葉の大半を人魚の妖怪は理解しきれていなかったかもしれない。
幽世という世界に渡り歩くことですら、死の覚悟を伴うものだ。
世界を渡ることができる猟兵にとっては馴染みのないものであったとしても、妖怪たちにとっては驚きの事実であったことだろう。
海辺の岩に腰掛け、ゆかりはアヤメと共に言葉を尽くす。
「オブリビオンといっても、オブリビオンの部分を祓って、欠損部位をあたしの術式で保管して……自由意志はしっかりと残してあるのよ。だから、あたしを助けてくれることもあれば、あたしの行動を止めてくれることもある」
それは完全に自立した存在としてゆかりがアヤメを認めているということにほかならにないだろう。
都合の良い相手を求めているわけではない。
共に並び立ってくれるものを求めている。それは、人魚の妖怪にとっても同じことであっただろう。
共に在るだけでいい。
それだけでいいと思える相手は得難い相手であろう。
歌うような声が岩場に響く。人魚の声は未だ悲しみの色を湛えていた。どうしようもないことだ。
「その……」
言いにくそうにゆかりが言葉を紡ぐ。
それはオブリビオン『偉大なる海の守護者』との戦いにおいて、彼女が言った言葉を、どう訂正しようかといいあぐねている様子であった。
ひとつになることが悪いことばかりではない。そう伝えたかったのだけれど、何も言わなくてもいいというように微笑む人魚の妖怪の表情を見ればわかる。
彼女もまた理解しているのだ。
「今じゃ、アヤメ無しでの生活は考えられないわ。あなたもそうでしょ、アヤメ?」
うなずきを返すアヤメと共に岩場から立ち上がる。
不器用ながら伝えるべきことを伝えなければとゆかりは言葉を選ぶ。
主と従者。
それ以上の関係が、骸魂と人魚の妖怪の間にはあったのだろう。それは彼等の言葉からもわかる。
その言葉、その態度、表情、何もかもが彼等のあいだにあった確かな絆を感じさせる。それ故に彼等は一つになったことによって満たされて、滅びの言葉を紡いでしまったのだから。
「あの人を素敵な思い出として今日を生きる原動力にしていかなきゃ」
ゆかりにとって思い出こそが日々を生きる糧であろう。
食事も、睡眠も、たしかに生命の意地として必要なことだ。けれど、それ以上に人は思い出に生かされている。
心を燃やすためには、いつだって心穏やかな思い出が、記憶が燃料になる。灰色の過去にすがるよりも、心を燃やして進む未来が輝けるものになるようにと。
ゆかりは、そう願わずには言われなかったのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
薙殻字・壽綯
つらい選択だったと、思います
……形あった証拠が。生きた形跡が消える恐怖は。ひどく、苦しいことを。私は知っているつもり、です
……私には、友達がいました。その子は……鈴谷、は。私の生命を繋ぐ器官。内臓そのもの、でした
そんな体の一部が無くなったら。取り戻したくなるし、何かですき間を埋めたくなる
今も、私の。いや、僕の。僕の内臓は、空白のままだ
でも、空白だけど、確かに体に残って、存在していて。僕は、この空白を何かで埋めようとは思わない
此処は君の場所だから。隙間風は冷たいけれど、いつか暖かな空間になってくれると、いいなって
だから。時が、貴方たちを苦しめる毒でなく、安らぎある薬であればと……私は、思うのです
猟兵たちが次々と海辺の岩場へと訪れる。
そえは骸魂と言えど、嘗て心を通わせ合った者を失くした人魚の妖怪の心を慰めたり、励ましたりするためだ。
人魚の妖怪は納得している。
全てにおいて、世界を滅ぼす言葉を紡いでしまった己に非があると理解していた。だからこそ、取り乱すこと無く。けれど、どこか寂しげな表情のまま、海辺にて鎮魂の歌を響かせるのだ。
「―――どうしようもないことだったのです」
彼女の声は歌を歌うように響き渡る。
物悲しくも、どこか寂しげな声色。未だ心は喪失感から立ち直れてはいないだろう。
「つらい選択だったと、思います……」
薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)は人魚の妖怪が座す岩場の近くに腰を下ろす。視線を交わすこと無く、言葉を紡ぐ。
話すことは苦手であり、その情愛は深いものであるけれど、人と関わりたがらない隔絶した心根では、それが精一杯の距離であったのだろう。
「……形あった証拠が。生きた形跡が消える恐怖は。ひどく、苦しいことを。私は知っているつもり、です」
紡いだ言葉。
それは喪ったものが語る言葉であったことだろう。同じ苦しみを味わった者にとって、それは筆舌に尽くしがたいものである。
けれど、言葉を紡ぐことはやめない。人と関わりを持つことに躊躇いを持っていたとしても、その心に抱える情愛が深ければ、深いほどに彼の言葉は慎重なものになっていく。
けれど、意を決したように言葉を紡ぐ。
きっと誰彼構わずに語ることはなかった言葉。
「……私には、友達がいました。その子は……鈴谷、は。私の生命をつ繋ぐ器官。内蔵そのもの、でした。そんな身体の一部が無くなったら。取り戻したくなるし、何かで隙間を埋めたくなる」
掛け替えのない存在とは、そういうものであろう。
自分以外の何者かに心を預けるとはそういうことであろうし、それを失うということは、どれだけの空白を生み出すかわからない。
人によってそれは大きかったり、小さかったり様々であろう。
けれど大なり小なり、必ず心に穴が開く。止めどなく溢れる血潮は、垂れ流されたまま。己の傷に気付くことなく生きる者だってあるだろう。
「今も、私の。いや、僕の。僕の内臓は、空白のままだ」
どうしようもないとわかっている。喪ってしまったものを取り戻そうとしても、それが他者という存在であるのであれば、取り返しがつかない。
わかっている。
わかっていたとしても―――。
「でも、空白だけど、たしかに体に残って、存在していた。僕は、この空白を何かで埋めようとは思わない」
顔を上げる。臥せったままではいられない。
この心に空いた穴は埋めない。それはなぜかと問われれば、其処は。
「此処は君の場所だから。隙間風は冷たいけれど、いつか暖かな空間になってくれるといいなって……」
それは叶うかわからぬ願いであった。
それを知っているからこそ、壽綯は顔を上げたのだ。視線を向ける。人魚の妖怪の瞳とかち合う。
物憂げな瞳。それはきっと人魚の妖怪も同じことを思ったことだろう。
同じ苦しみ、悲しみを知っている者の瞳である。
似た者同士であるのかも知れないし、同じ境遇を持つものであったのかもしれない。そこに共感という感情は流れてはいけないと思った。
「だから。時が、あなた達を苦しめる毒でなく、安らぎある薬であればと……私は、思うのです」
時間だけが解決してくれる。
二度目の喪失であるけれど、それでも時間が薬になってくれることを願うしかない。その身を苛む悲しみも、いつか何か別のものに変わる日が来る。
それを信じなければ、何もかもが毒になるだろう。
「なら、私は歌いましょう。私のために、そして、私と似た誰かのために」
その歌声はゆっくりと海の波間に溶けて消えていく。
壽綯は再び目を伏せた。
その歌声はきっと、誰かのために。壽綯をも癒やすように、波間の向こうに届くことなく、座す彼等の心に染みていくのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
久瀬・了介
一息つき、麦酒をあおる。部隊の皆がよく飲んでた酒だ。復讐を果たす度に、誰かに手渡されるかの様に手元に現れる
人魚に「あんたも…」飲むかと言いかけて止める。流石にそれはない。「…大変だったな」
馬鹿なのだろうか俺は。何か言える事はないか
「…自分にも昔大切な人がいた。自身の未熟もあって引き裂かれたんだが。
荒れ果てた。怒りに身を任せ暴れた。悲しくて夜も昼もなく泣き続けた
そうしてる内に激情は落ち着いた。残ったのは純粋な想いだけだ。そういうものなのだろう」
嘘はついてない
怒りや悲しみを全て吐き出した後に残ったのは純粋な怨念だけだった
自分は泣き喚くしか出来なかった。彼女には歌がある。だから、自分とは違うのだろう
戦い終えた後はいつだっこうだ。
久瀬・了介(デッドマンの悪霊・f29396)の手もとには、デッドマンである己の身にもわかるほどにキンキンに冷えた缶ビールがあった。
どこからともなく、オブリビオンへの復讐を果たす度に、誰かに手渡されるかのように手もとに現れる。
それを不思議に思ったことは何度も在ったが、どこか懐かしむ気持ちになる。部隊のみんながよく飲んでいた酒だ。それだけは覚えている。今も。
海辺に響く歌声は人魚の妖怪のものであろう。
納得済みの結末であるとわかっているはずなのに、これ以上己がどう言葉を掛ける必要があるのだと頭の端ではわかっている。
けれど、それでも足を運んでしまったのはなぜだろうか。
手にした缶ビールを掲げようとしてやめた。
「あんたも……」
という言葉は歌声に溶けて消えた。流石にそれはない。そんな風に思ってしまう。酒がどれだけ彼女の慰めになるというのだろうか。いや、なりはしない。
「……大変だったな」
そう言葉をかけることで精一杯であった。自嘲する。馬鹿ななのだろうか、俺は。何か言えることはないかと頭を巡らせる。
人魚の妖怪は訝しむような表情を浮かべて了介を見ている。歌声はやんで、ただ彼の言葉を、その二の句を告げることを待っているようであった。
けれど、彼ののど元には何かが詰まったような、そんな感触がずっとまとわりついている。どうしようもない感覚。
そんな風にまごまごしていると人魚の妖怪が、柔らかく微笑んだ。
「……はい、お互い様に」
ご迷惑をおかけしました、と人魚の妖怪が頭を下げる。
そんな顔が見たかったわけじゃない。オブリビオンは討たねばならない敵である。己の復讐心をかきたてる存在である。だからこそ倒した。
それと彼女の想い人を討ったという事実は同じことである。けれど、そんな相手に討った相手が何を言えるというのだ。
だというのに彼女は微笑んだ。お互い様に、と。彼女はもうわかっていたのだ。
「……自分にも昔大切な人がいた。自身の未熟も在って引き裂かれたんだが。荒れ果てた。怒りに身を任せ暴れた。悲しくて夜も昼もなく泣き続けた。そうしているうちに激情は落ち着いた。残ったのは純粋な想いだけだ」
訥々と語り始めたのは、彼女の微笑みが喉のつっかえを溶かしたからであったことだろう。
自分にも覚えがある。どうしようもないほどの激情は己の身を焦がすけれど、永遠に燃え続けることはない。
些細なきっかけで再燃することはあれど、ずっとは、ない。己の身は延々と燃え続けるプロメテウスではないのだから。
「―――そういうものなのだろう」
嘘はついていない。
純粋という言葉に紛らわしたものは、純粋なる怨念だけであったけれど。それでも怒りや悲しみを全て吐き出した後に残ったものが、今も尚己の体を突き動かしている。
「そういうものなのでしょう」
人魚の妖怪がうなずく。
自分は泣きわめくしか出来なかった。その微笑みを湛えた悲しげな表情は、けれど自分とは決定的に違うのだと了介はわかっていた。
自分のように何もかもを燃やし尽くした後に残る怨念で生きていない。今を生きる彼女には歌がある。
骸魂となってでも戻りたいと願った想い人が愛した歌が。
その歌を歌える限り、彼女は大丈夫だ。缶ビールを煽って了介は立ち上がる。話を聞いてもらったようなものだった。
なんとかして彼女に、と思ったけれど、自分と彼女は違う。自分は己の怨念のみで動くデッドマンであったとしても、彼女は今を生きる歌を歌う者だ。
ならば、己はこの怨念を糧に過去を殺し続けよう。
今という可能性を食い破らんとする過去の化身を。誰かの今を守るために戦い続け、復讐という名の惨禍に身を投じよう。
そんな彼の背中を今という讃歌が後押しするように、人魚の歌声が海辺に響き渡り続けるのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「何故謝られるのでしょう?謝りは誤りを正す行い。貴女は貴女の望んだ邂逅を、誤りにしてしまうのですか?」首傾げ
「私は哀しか共感できないので、貴女の心に添えない自覚はありますけれど。貴女の願いを、貴女が否定するのは間違っていると思います」
「生きることは願うこと。願いがぶつかれば、相争うは仕方がない。世界も何時かは死ぬのです。世界を生かそうとすること殺そうとすること、それが均衡する状態は、共存と呼んでも差し支えないと思うのです」
「周囲との軋轢を避ける方便はそれとして。同じことが起きたら、何度でも同じことをしても構いません。私達も同じですから。貴女の心を殺す生き方は、私達も彼の方も望まないと思います」
人魚の妖怪の歌声が海辺に響く。
それは鎮魂であり讃歌であった。猟兵が己達を止めてくれなければ、このカクリヨファンタズムは崩壊し、この光景を見ることも出来なかったことだろう。
オブリビオンとは世界を過去で満たす者。過去の化身。現在を貪り滅ぼす者である。自分も想い人も、そうなる前に猟兵に寄って止められたのは不幸中の幸いであった。
故に人魚の妖怪は全てに納得し、彼等に頭を下げて、自身の不始末をわびたのだ。
「何故謝られるのでしょう? 謝りは誤りを正すおこない。貴女は貴女の臨んだ邂逅を、誤りにしてしまうのですか?」
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が首を傾げて、人魚の妖怪に言い放つ。
彼女にとって、人魚の妖怪の行いは過ちではなかった。
その願い、その想いのどこに過ちがあっただろうか。それ故に桜花は謝る必要はないのだという。
邂逅してしまったことが過ちであるというのなら、その存在事態をも否定する行いである。骸魂と人魚の妖怪。その邂逅は過ちなどでは決してなかった。
「私は哀しか共感できないので、貴女の心に添えない自覚はありますけれど。貴女の願いを、貴女が否定するのは間違っていると思います」
その言葉は人魚の妖怪の涙の咳を切る。
多くの者たちにとって、この世界の崩壊は過ちであったのかもしれない。けれど、桜花と人魚の妖怪、そして骸魂となってしまった海の守護者にとっては、間違いなどではなかったのだ。
「生きることは願うこと。願いがぶつかれば、相争うは仕方がない。世界は何時かは死ぬのです。世界を生かそうとすること殺そうとすること、それが均衡する状態は、共存と呼んでも差し支えないと思うのです」
終わりはいつか必ず訪れることである。
ならば、今がその時ではないと誰が言えようか。世界が選んだ戦士が猟兵であるというのなら、世界を滅ぼすのがオブリビオンである。
両極に位置する者が願うことは、同じではない。
相容れぬものである。だからこそ、猟兵は戦う。世界を守るために。そこに願いの良し悪しは存在しない。
桜花は、誰かの哀しみに添うことはできても、誰かの喜びに添うことはできない。けれど否定はしない。
「周囲との軋轢を避ける方便はそれとして。同じことが起きたら、何度でも同じことをして構いません」
桜花は微笑む。
何度間違ってもいい。何を願い、何を思い、何を叶えようとするのか。それは各々が思い描き、抱く等身大のものであるのならば、それを止める権利など誰も持ち得ていないだろう。
故にそれを許容する。
「私達も同じですから。貴女の心を殺す生き方は、私達も、彼の方も望まないと思います」
人魚の妖怪が歌わない生き方。
それは誰も望んでいない。心のままに歌っていいのだ。
『忘れていい』
それはたった一つの願いであり、祈りであったことだろう。
囚われること無く、その歌声を響かせればいい。忘れほしいわけではないけれど、歌を歌う時くらいは忘れてもいい。
人魚の妖怪の瞳から、はらり、はらりと涙がこぼれて落ちる。
それはまるで花弁が舞うように。
間違えたのならば、何度でもやりなおせばいい。
その道行きに在るのものは、いつだって白紙のままだ。何も刻まれていない。
未来が希望や可能性に満ちているというのならば、そこにあるのは、白紙の未来。そのために猟兵は戦い続け、未来という可能性を生かすために、ユーベルコードを振るうのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
軽率と責める事は簡単だけど
亡くなった大切な人に会いたいと願う気持ちは
それほど道を外れた事でもないんだよね
この世界がそれを許さない環境であるだけで
ちょうどいい思い出話はないから
UDCアースから来た事を伝えて
人魚達がUDCアースにいた頃の話を聞いてみようか
そうですの、誰かに話す事で整理がつく事もあると思いますの
決して興味津々な訳ではないですの
もし今でも忘れたくないと思っているなら
その思いが常しえになるよう寿ぎますの
変わらない事が素晴らしいものはあると思いますの
まあ、これは止めなくても良いかな
共に居る事はできなかったけれど
共にある事はできるかもしれないね
まだ時は進んでいくし別れが終わりとは限らないさ
涙がこぼれ落ちながらも人魚の妖怪は歌う。
人の心は、いつだって自分の思い通りにはならないものだ。どれだけの時間を生きてきたかもわからぬ妖怪たちにとっても、それはどうしようもないことであった。
感情が理性を超える。
それ故に生命は輝きを増し、時として世界を滅ぼすほどの力を齎すのだろう。不安定なる世界カクリヨファンタズムにおいては、それは特に顕著なものであった。
海辺の人魚の妖怪の歌声が響き渡る。
哀しみは涙に薄まって溶けて消えていくだろう。
「軽率と責めることは簡単だけど、亡くなった大切な人に会いたいと願う気持ちは、それほど道を外れた事でもないんだよね」
この不安定な世界―――カクリヨファンタズムがそれを許してくれる環境ではないだけで、と佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は歌声に耳を澄ませうなずく。
哀しみにくれる人魚の妖怪に何か思い出話をしてあげたいと思う晶であったが、ちょうどいい思い出というものが思い浮かばなかった。
けれど、それでも何か言葉を掛けてあげたいと思うのはおせっかいと邪神は笑うだろうか。
「やあ……カクリヨファンタズムに来る前はUDCアースにいたんだよね? それなら……」
そう言って晶は海辺の岩場に腰掛ける人魚の妖怪に話しかける。
晶自身もUDCアース出身の猟兵であれば、どっか共通点がなくとも話の取っ掛かりにはなるのではないかと思ったのだ。
「そうですの、誰かに話すことで整理がつく事もあると思いますの。決して興味津々な訳ではないですの」
そんな邪神の言葉が響く。
どう見ても興味津々過ぎるだろう、と晶は内心ツッコミを入れるのだが、融合した邪神にとっては意味のないことであった。
「もし、今でも忘れたくないと思っているなら、その思いが永久になるように寿ぎますの。変わらないことが素晴らしいものはあると思いますの」
邪神は己の権能を持ってすれば、それも可能であると告げる。
彼女にとって変わらないことこそが不変であり、普遍の観念である。ならば、それを為すことが尤も美しいものであると憚らない。
それを人魚の妖怪はゆっくりと頭を振る。
「良いのです。どうあっても時の流れは止められず、心は移ろっていくものでしょうから。例え、力でそれを為したとしても、それは今とどれだけ違うものでありましょうか」
晶にとって、邪神の言葉は止めるものではなかった。
人魚の妖怪と骸魂となった海の守護者。共に居ることはできなかったけれど、共に在ることはできるかもしれないから。
それができるのであれば、邪神の権能は晶の価値観においても間違ったものではなかった。そして、それを否定する人魚の妖怪の言葉に晶はうなずく。
「まだ時は進んで行くし、別れが終わりとは限らないさ」
そう、時は止まらない。
時は逆巻かない。
どんなに願っても、今を生きる者と過去の化身は同じようにはあれない。変わっていくもの、変わらぬもの、それが決定的な違いであるからこそ、別れが終わりとは限らない。
本当にであったものに別れがこないというのであれば、正しく出会った人魚の妖怪と海の守護者に別れは来ていない。
あんなにも誰かを思って歌っているのだ。彼女の心の中に、いつまでも思い出が残っている。薄れて消えてしまうまで、別れは来ない。
きっと死せる時にもまた、彼女は思い出すだろう。
自分が何のために歌い、だれに歌を捧げたのかを―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
UDCアース
一歩でも外に出れば邪神に覚醒する為、施設の一部屋に軟禁されていた少女がおりました
私含め多くの猟兵が無聊の慰みにと『外の世界』を教えました
それが生涯、無為に生きると悟っていた彼女の背を押したのでしょう
『貴方達に助けられた大勢の一人として忘れられるより、死ぬまで私を覚えていて欲しい』
…人は妖怪と骸魂ではありません
邪神は討たれました
絶望か、一人に捧ぐ愛か
由来は違えど「忘れない」「忘れられたくない」想いを抱くことは決して間違いではありません
あの我儘を騎士として叶え続けている私にとっては…
次はお二人の話を聞かせください
未来を歩むとしても…喜ばしき過去を振り返ることは悪いことでは無いのですから
人魚の妖怪が歌う歌声が海辺に響く。
それを機械の騎士、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は隣に佇み聞いていた。
互いにとって、世界の崩壊の間際まで戦っていた者同士である。骸魂に飲み込まれた人魚の妖怪にとっては、漸くに一つになれた骸魂との邂逅を阻んだ者が猟兵である。
だが、それでも人魚の妖怪の彼女は悲しげながら、微笑んで受け入れた。
世界と己の願望を天秤に掛けるのであれば、それは世界を取るべきであったのだろうと。
「一歩でも外に出れば邪神に覚醒するため、施設の一部屋に軟禁されていた少女がおりました」
トリテレイアは語る。
カクリヨファンタズムの隣に位置する世界、UDCアースでの事件を。
トリテレイアを含め多くの猟兵たちが無聊の慰みにと『外の世界』を教えたのだ。それは己の立場、己の体、己の感情を理解していた彼女にとって、背中を押すものであったのだろう。
今でも思い出すのだろう。
データベースが、電脳がエラーをはじき出したとしても何度も蘇る鮮烈なる映像。人間であれば、薄れていくものであったとしても、トリテレイアは違う。
己の身体が朽ち果てるまで、その記憶は鮮明に、けれどそれ以上の脚色無く保存され続ける。
『貴方達に助けられた大勢の一人として忘れられるより、死ぬまで私を覚えていてほしい』
その言葉は楔のようにトリテレイアの電脳に突き刺さっている。
人の願いを叶えるのが、機械たる身体を持つウォーマシンとしての責務であろう。ならば、それは正しく機能していると言えるのだろう。
どれだけの時間が過ぎようとも、どれだけの摩耗が己の体に起ころうとも、その楔のごとき言葉は、鎹となってトリテレイアの心という曖昧なるものをつなぎとめ続ける。
「……人は妖怪と骸魂ではありません。邪神は討たれました」
それは今回の事件のように分かたれるだけではないということを意味していた。
邪神である以上、霧散しなければならない。骸の海へと帰らなければならない。灰は灰に。つまるところ、そういうことだ。
絶望化、一人に捧ぐ会いか。
由来は違えど『忘れない』『忘れあっれたくない』思いを抱くことを間違いではないとトリテレイアは思っていた。
「貴女の生き方は間違いなどではなかった。無論、それは骸魂となってしまった彼もまた」
己の中にある、あの我儘を叶え続けるトリテレイアにとって、人魚の妖怪と骸魂の願いや祈りは、否定できるものではない。
何が間違っているのか、何が正しいのか。
人であるのならば、迷うこともあったことだろう。けれど、トリテレイアは機械である。正しい判断を行い続ける。
間違えない。正しいとインプットされたことだけを忠実にこなしていく。それがゆらぎのない機械たる長所であろう。
けれど、時折そうであろうかというゆらぎもまた彼の中に芽生えているのかも知れない。
本来であれば意味のないことだ。
人魚の妖怪の話を聞こうなどと考えることは。話を聞いたところで何かが変わるわけでもない。骸魂と成り果てた海の守護者が戻ってくるわけでもない。
言わば、時間の浪費だ。
けれど、それを浪費と受け取らない自身が在る。
「次はお二人の話を聞かせて下さい。未来を歩むとしても……喜ばしき過去を振り返ることは悪いことではないのですから」
その言葉は人魚の妖怪にとって、涙溢れることであったことだろう。
思い返す度に、涙が滲む。
どれだけ思っても、思い返しても、あの日に戻ることはない。
それが時の流れの残酷さでもあり、優しさでもあった。けれど、その涙はいつだってそうだけれど、人を、生命を前に押し出す。
あの温かさがあったからこそ、人の背を押す力の存在を感じられる。
どこかで誰かが微笑んだ気がして、周囲にアイセンサーを巡らせる。
けれど、トリテレイアは己のセンサーが何かを感知するのをエラーだと思った。
それはどうしようもないほどに優しいエラー。
幻影だとしても、それは、誰かのためのエラーであろうから―――。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
『時よ止まれ』と考え願うのは……
きっと間違いでも悪いことでもないと思うんです
辛くて、悲しかったのでしょう
幸せで、嬉しかったのでしょう
そもそもこの世界の理が莫迦正直に願いを叶えるのが悪いんですよ
――なんて冗談をひとつ
語るのは
互いに姿を見せぬ儘の逢瀬と別離のこと
猟兵と過去の存在として、やっと初めて言葉を交わせたあの日のこと――
沢山の過ちを犯しました
金輪際忘れてはならない
この短き命を賭して贖おうと誓いました
でも……会いたいと、また願ってしまった
歌い続けてください
それが彼へ息災を伝える手紙になり
忘れないという再びの誓いにもなります
(傍らのひかりを見つめて)
私は
……私たちは
きっと間違った儘進むしかない
『時よ止まれ』
それは滅びの言葉である。願ってしまう言葉でもあり、満たされたが故にこぼれ落ちた想いの残滓でもあったことだろう。
それは幸せで、幸せで、どうしようもないほどに幸せな瞬間を切り取りたいと願う心があればこそ、紡がれてしまう言葉であったことだろう。
「きっと間違いでも悪いことでもないと思うんです」
人魚の妖怪の歌声が響く海辺にて、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は語りかける。
何の因果であろうか。
境遇も、何もかもが鏡合わせのような存在。
けれど、致命的にボタンが掛け違えている存在。それを前にしてスキアファールの口からこぼれ出たのは、己が嘗て抱えたであろう懊悩。
辛くて、悲しかったのでしょう。
幸せで、嬉しかったのでしょう。
それはスキアファールにとっても、人魚の妖怪にとっても偽らざる言葉であった。どちらも本当のことだ。
「そもそも、この世界の理が莫迦正直に願いを叶えるのが悪いんですよ」
―――なんて冗談です、とスキアファールは息を吐き出す。
カクリヨファンタズムは不安定な世界であるがゆえに、妖怪の呟き、想像力だけでも世界を変えてしまう。
その有り様はまさに幽世と呼ぶに相応しき千変なる景色そのもの。
「致し方のないことです。それを願ってしまったのは、私が……寂しいと思ったから。きっとその寂しさに詰まる喉の支えを……あの人が取り除きに来たのでしょう」
無用な心配を、無用な騒動を起こしてしまったと頭を下げる人魚の妖怪。
彼女にスキアファールは語りかける。
互いに姿を見せぬ別世界での逢瀬のこと。
そして訪れた別離のこと。
皮肉にも猟兵と過去の存在として、やっと初めて言葉を交わせたあの日のこと。
それはあまりにも遅かったのかも知れない。もっと早くに、もっと、もっと、もっと―――。そんな風に願ってしまう自分がいる。
「沢山の過ちを犯しました。金輪際忘れてはならない。この短き命を賭して贖おうと誓いました」
けれど、後悔は実を結ぶことはない。
結実するのは、さらなる後悔だけだ。後悔は渇望を生む。
「でも……会いたいと、また願ってしまった」
自分でもどうしていいかわからない願い。会いたい。会いたい。会いたい。どうしても、会いたい。
それは後悔から生まれるからこその強き感情の波。寄せては返す。その度に波は高く、強くなって、散々に心のうちに荒れ狂う。
「歌い続けて下さい。それが彼への息災を伝える手紙になり、忘れないという再びの誓いにもなります」
人魚の妖怪に、それを望むのは酷であったかもしれない。
けれど、それでも人の願いは、祈りはきっと後悔から生まれる何か以上の力を持つはずだから。それを知るスキアファールにとって、それだけが己の心も、彼女の心をも救うたった一つの方法である。
Koloro(イロナキキミトトモニ)の火花のように瞬く光が、スキアファールの掌で踊る。
それが己の過ちの一つであるというのならば。
「私は……」
けれど、それこそが己であるという証であるというのならば。
「……私たちは」
その輝きを前に頭を垂れて、うつむいているわけにはいかない。時間は止まらない。逆巻かない。
どんなに絶望しても、泣いても、悲しんでも、時間は止まらない。過ぎ去っていくばかりだ。
「きっと間違った儘進むしかない」
例え、それが誰かにとっての間違いであったのだとしても。それでも前を向き続けなければならない。
過去に置き去りにしてきた想いも拾って、何一つ落とすこと無く。
前に進むしかない。
いつかの誰かが言った。
「忘れていい」
いつかの誰かが叫んだ。
「いいえ、忘れません」
ならば、といつかの誰かが言うだろう。
「君はまだ歌えているだろうか」
その答えは今、スキアファールの耳にどんなに悲しくても、苦しくても俯くこと無く響き渡っている―――。
大成功
🔵🔵🔵