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きみに添う蛍星(作者 小鳥遊彩羽
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 それは、綺麗なひかりが舞う夜のことだった。
 いつかあの子と一緒に蛍を見たこの場所に、蛍が、あの子をもう一度連れてきてくれたんだ。
 目の前に現れたあの子は、おれが知ってるあの子とそっくりそのままの姿で。
「すず……? いや、そんなはずない。あの時、すずは……」
「あいたかったよう……コノエ……」
 たどたどしく紡がれる少女の声に、少年の顔が僅かに歪む。
 縋るように伸ばされた手を払うことなど出来なくて。少年は、少女の細い身体をぎゅうっと抱きしめた。
「すず……」
「コノエ……っ」
 すると次の瞬間、少年の身体は少女の中に――正しくは、少女が従えていた赤い球体のような何かに吸い込まれてしまった。
 少年を吸い込んだ“それ”は、この世界では骸魂と呼ばれるオブリビオンだ。
 けれど、骸魂とひとつになった少年は、永い時を経て少女と再び巡り会えたことに、忽ちの内に心が満たされてゆくのを感じていた。
 ――あの日、あの子を失ったこの世界で。再びこうして、一緒に居られるなんて。
 またここで、一緒に蛍を見られるなんて。
 ああ、うれしい。うれしい。ずっとこうしていたい。
 ねえ、だって、話したいことがたくさんあるんだ。

 そして、少年は、禁断の言葉を紡ぐのだった。

●きみに添う蛍星
 時よ止まれ、お前は美しい――。
「……それこそが世界に終わりを告げる、滅びの言葉なの」
 キトリ・フローエ(星導・f02354)はぽつりと、どこか寂しげに零してから、いいえ、と小さく首を横に振った。
「でも、今ならまだ世界の崩壊を止めることができる。みんなの力で骸魂を倒して、妖怪の子を助けてあげてほしいの」
 滅びの言葉を紡がれた世界は、今まさに滅びの危機に瀕している。
 猟兵たちは崩壊しかけた世界を渡り、滅びの中心にいる骸魂を倒さなければならない。
「骸魂の元へ向かうには、空から降ってくる花弁の雨の下を抜けていかないといけないわ。その花弁はね、きらきらしていて、お星さまみたいなんだけど……みんなの中にある、きらきらした大切な想い出を目の前に映し出すんですって」
 たとえば胸を焦がすような憧憬であったり、大切な誰かと紡いだいつかの出来事であったり、その姿かたちはひとによって様々だろう。
 それは誰の前にも等しく。たとえ既に喪われた記憶であっても、不思議と、己のものだとわかるのだという。
 そして、多くの花弁に触れるほど、その想い出はより鮮明になって――あたかも現実であるかのように感じられる。
 だが、花弁は絶えず振り続けているので、長く足を止めてしまっては、いずれ埋もれてしまうだろう。そうなる前に、先へ進まなければならない。
「想い出とどういう風に向き合い、先に進むか。……そんなの知らない! って無理やり花弁を振り払いながら進むことも出来るでしょうし、敢えて触れないようにしながら進むなんてことも出来ると思うけれど。とにかく、どうにか頑張って骸魂の元へ向かってちょうだい。花弁に埋もれてしまう前にね」
 そうして崩壊の中心に辿り着けたなら、いよいよ骸魂との戦いとなる。
 妖怪の少年・コノエを取り込んだ骸魂は、少女の姿をしていると思いきや、その下にある赤い球体のようなものが本体らしい。コノエはその球体の中にいるが、意識を失い眠っているため、声をかけても反応はないだろう。だが、こちらからの声は届くはずだ。
「大切な人とのお別れは辛くて寂しいことよ。でも、みんななら、こういう時、あの子にかけてあげられる言葉を、きっと持っているはず」
 言葉が届けば届くほど、骸魂の力は弱まっていくだろう。そうして倒すことが出来たなら、世界は元に戻るはずだ。

「無事に世界が元に戻ったら、蛍がたくさん飛んでいる川の近くに戻ってこられるはず。あの子も……コノエも近くにいるから、思うところがある人は、どうか声をかけてあげてほしいの」
 勿論、カクリヨに舞う幻想的な光を眺めるだけでも心が洗われるだろう。
 その光には鎮魂の力があるらしいとされている。
 川のせせらぎに耳を傾け、静かに想いを馳せるのもいいだろう。
 キトリはぽつぽつと、言葉を探し選ぶように続ける。
「コノエは見た目は狐の耳を生やした小さな男の子だけど、妖怪だから、あたしたちよりずうっと長く生きているわ。彼がすず、と呼んだ女の子も妖怪で、ふたりは幼馴染だったの。でも、何かがあって、すずは死んでしまった」
 そのきっかけとなった“何か”は、キトリにはわからない。
 ただ、すずを失ったことをコノエはひどく後悔していた。
 そして、失ってしまった大切な人であるすずとの想い出を、コノエはずっと持ち続けていた。
 そんな彼の前に骸魂とはいえすずの姿をした存在が帰ってきたのだから、手を伸ばさずにはいられなかったのだろう。
「骸魂を倒せばコノエは助かるけれど、すずは助けられないわ。……再び巡り会えたふたりを、引き裂かなければならないのは悲しいけれど。でも、」
 世界を救うために、どうか戦ってほしい。
 願うようにそう告げ、キトリはグリモアの光を輝かせた。





第3章 日常 『蛍火』

POW蛍を愛でる
SPD蛍を愛でる
WIZ蛍を愛でる
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 時計の針が巻き戻るように、辺り一面に降り積もった花びらが舞い上がっていく。
 欠けた月も、落ちた星も、瞬く間に夜空を明るく照らし出して。
 そうして、周囲には元の穏やかな世界の風景が戻ってきた。

 ――そこは、どこか郷愁を、懐かしさを思わせる森の小路を抜けた先にある、小さな川だ。
 澄んだ水が流れていて、奥には滝があるのだろう、少し大きな水音が響いてくるのがわかる。

 すると、猟兵たちを迎え入れるように、ひとつ、ふたつと、浮かび上がる金色の光があった。
 ――蛍の光だ。
 光は少しずつその数を増して、川沿いのあちらこちらにほのかな光を灯し始めていた。

 幽世の夜に、蛍が舞う。
 蛍の光には、時に、鎮魂の祈りが籠められることもあるのだという。

 すずとの二度目の別れを経たコノエは、ぼんやりと舞う光を見つめている。
 コノエには、閉じ込められていた間もかけられた言葉や想いは届いていた。
 だからこそ、猟兵たちの優しく背を押すような想いを受けて、少女の手を離すことが出来たのだ。
 彼は、これからも永い時をこの世界で生きていくことだろう。
 大切な少女との大切な想い出を、しっかりと胸に抱きながら。
 そんな少年に対し、思うところがあるのならば、声を掛けてみるのもいいだろう。
 勿論、見守るだけに留めて、各々で思い思いの夜を過ごすのも良い。
 空に輝く月のあかりが地上を優しく照らしてくれているから、闇に呑み込まれてしまうこともない。
 川のせせらぎに耳を傾けながら、あるいは川沿いの路を辿りながら、静かに想いを馳せるのもいいだろう。
 想いはきっと、あなたの傍に寄り添ってくれるから。
 
ルーシー・ブルーベル
……わああ
これがホタル、とてもきれいね
あつくないけれど、つめたくもない
やさしくて、ひそやかで
ふしぎな光

さらさらと流れゆく水音を聞きながら
ふれてしまわないように手をかざしてホタルさんを見る

どうか安らかに眠ってほしい
その気持ちを
あの人に、彼らに届けてくださるなら
たしかにこんな光がいい

ね、コノエさん
もしお辛くなかったら、ルーシーにもコノエさんのお話を聞かせてくださる?
そうすれば、ルーシーもコノエさんとすずさんの事を忘れないわ
ルーシーの中でずうっとお二人はいっしょよ
そしておイヤじゃなかったら
二人の事をルーシーのお友だちにもお話する

二人の事がタンポポの綿毛のように色々な人の心に咲いて
根をおろすでしょう


「……わああ」
 優しい光を放つ蛍の群れを前に、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)はターコイズブルーの瞳を輝かせていた。
「これがホタル、とてもきれいね。……あつくないけれど、つめたくもない」
 浮かんでは消え、そうしてまた浮かぶ――静かに明滅を繰り返す光に、感嘆の息を零すルーシー。
「やさしくて、ひそやかで、ふしぎな光」
 さらさらと流れゆく水音を聴きながら、ルーシーはそっと触れぬ程度に手を翳し、――じいっと。
 この世界の蛍は人を怖がらないのだろう。ルーシーの小さな手の傘の下で、怯える様子もなく淡い輝きを放ち続けていた。
「ホタルさんも、やさしいのね。ねえ、よかったら、一緒にお祈りしてほしいわ。そして、届けてほしいの」
 ――どうか、安らかに眠ってほしい。
 その気持ちを、想いを、あの人に――彼らに届けてくれるなら。
(「……たしかに、こんな光がいいわ」)
 優しい光を目に焼き付けて、それから、ルーシーは少年の元へ向かう。
 少年はひとり川辺に佇み、ぼんやりと蛍の光を見つめていた。
「ね、コノエさん」
 そっと声をかけると、少し驚いたようにぱちぱちと瞬く少年の瞳。
「あのっ、……ありがとう、すずと俺を、助けてくれて……」
 ルーシーは微笑んで会釈をひとつ。それから小さく首を横に振った。
「いいのよ、ルーシーも皆も、二人を助けたかったからここに来たの。もしお辛くなかったら、ルーシーにもコノエさんのお話を聞かせてくださる?」
「きみに? ……おれはそんな、何というか、あんまり面白いことは話せないかもしれない、けど……」
 何を話せばいいのか考え込んでいる様子の少年に、ルーシーはふわりと微笑んだまま。
「なんでもいいのよ、今までにいちばんおいしかったおやつとか、面白かったご本とか。そうすれば、ルーシーもコノエさんとすずさんのことを忘れないし、ルーシーの中でずうっとお二人はいっしょよ」
「……うん、ありがとう、……おれなんかのために、いや……すずと、おれのこと、そんなに思ってくれて」
 コノエの肩が微かに震える。今にも泣き出しそうな少年にルーシーは瞬いてから、そっと手を伸ばした。
 ルーシーの意図を何となく察したらしいコノエが、僅かに身を屈める。
「おイヤじゃなかったら、二人のことを、ルーシーのお友だちにもお話したいわ」
 ルーシーの小さな手に頭を撫でられて、コノエの顔にどこかくすぐったそうな、ほのかな笑みが綻んだ。
「うん、ありがとう。そうだな……おれの、っていうより、すずの話のほうが多くなりそうだけど……」
「ええ、構わないわ。何だって聞かせてほしいの」
 そうして二人は川辺に腰を下ろし、しばし他愛ない話に幾つもの花を咲かせることとなる。
 これはほんのささやかなきっかけで。ここから更に“花”は咲いてゆくのだ。
 ルーシーや他の皆が撒いた種が芽吹き、綻んで、種を結び、そうして――。
 この世界に生きるひとりの少年と、この世界に生きたひとりの少女。
 ふたりの物語はタンポポの綿毛のように、色々な人の心に咲いて――根を下ろしてゆくことだろう。
 
大成功 🔵🔵🔵

黒鵺・瑞樹
アドリブOK

一人で川沿いを歩く。少し寂しいとは思う。
特別な関係の人はいないし、俺なんかに応えてくれる人がいるとは思えないから当然だが。
それでも久しく人に近づかないようにしてたからか話をしたい時もある。
でも話し方を、距離感を忘れてしまってる気もしてる。
なによりまだ人が怖い。
傷つけてしまうかもしれない、傷つけられるかもしれない。
俺にだけならまだ耐えられるけど、巻き込まれる人がいるのが何より嫌だ。
それが怖い。なら一人でいいと諦めて。
だから時よ止まれなんて願えない。早く過ぎ去って欲しいから。
幾度となく繰り返してきた悩みを、また何度も繰り返し思い返し。
いつか何もかもを終わらせられたら楽になるんだろうか。


 澄んだ水と森の匂い。
 心地よい風がそよぐ川沿いを、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は一人で歩いていた。
 ふわりと舞う蛍の光は幻想的で、何処か懐かしい気さえする。
 ――ひとりで歩くのは少し寂しいと、ふと瑞樹は思った。
 特別な契りを結んだ相手が居るわけではないし、何よりも――。
(「……俺なんかに応えてくれる人がいるとは思えないから、当然だが」)
 口の端がほんの僅か、自嘲気味に歪む。
 それでも、久しく人には近づかないようにしていたからか、誰かと話をしたいと思う時もあるのだ。
 緩く息を吐き出し、瑞樹は蛍が舞う光景を見つめながら、取り留めのない思考を巡らせる。
 話し方を忘れてしまっているような気がする。
 ――何より、まだ、人と接することそのものが怖くもある。
 だから人と距離を置いたのだ。
 このままではいけないと思っても、瑞樹は踏み出す勇気を持てないまま。
 傷つけてしまうかもしれない。
 傷つけられるかもしれない。
 己だけが傷つけられるのであればまだ耐えることも出来るだろう。
 けれど、巻き込まれてしまうかもしれない人がいるのは、何よりも嫌だと瑞樹は思うのだ。
 自分のせいで、誰かが傷ついてしまうことが怖い。
(「それなら、ずっと一人でいい」)
 それは、諦めにも似ていた。
 だから、時よ止まれと願うことなど瑞樹には決して出来ない。
 寧ろ、一刻でも早く過ぎ去ってほしいとさえ思うのだ。
「ああ、また……何時もと同じだ」
 瑞樹は小さく息をつき、くしゃりと頭を掻いた。
 見上げた空には元の姿を取り戻した満月が浮かんでいる。
 これまでに何度も同じことを考えてきたというのに、また繰り返し同じことを考えては、答えの見つからない思考の迷路に囚われる。
「……いつか、何もかもを終わらせられたら楽になるんだろうか」
 たまらずそう吐き出した瑞樹の目の前で、蛍の光がふわりと瞬いた。
 
大成功 🔵🔵🔵

都槻・綾
清涼の岸辺を歩きながら
コノエさんの姿を見守り
歩き出す様を見送る

少年の背で
ふわふわ明滅する蛍は
まるで彼を慰めているみたいに優しいひかり

キトリさんへお会いしたなら
そんな蛍の様子をお話しして
二人でそっと微笑みあえるかしら

――ね、
キトリさんは金木犀はお好き?

取り出した帛紗から漂うのは
極々幽かな甘い花の馨り
秋の――季節の廻りを知らせる金桂花の香

風に乗せる為に開いた扇へ蛍が止まれば
暫し瞳をぱちりぱちりと瞬いて
次いでふくふく笑み零す

そより
柔らに扇ぎ
蛍も香りも風にゆぅるり游ばせよう

少年へ話し掛けることはしないけれど
心を鎮めて落ち着けるような
今宵眠りに就く褥が寂しくなくなるような
穏やかな香りを届けられたら良いな


 空にはまあるい月が浮かんで、数多の星が散りばめられている。
 吹く風は木々の梢を揺らし、けれど獣たちは息を潜め静かに眠る、夜。
 在るべき姿を、穏やかな日常を取り戻した世界の片隅。
 清涼の岸辺を歩きながら、都槻・綾(糸遊・f01786)はふと青磁色の双眸を瞬かせ、妖怪の少年が歩き出す様を見守る。
 思わず瞬いたのは、去りゆくその背に灯る、幾つものひかりが視えたから。
 それは寄り添うように翅を休めながら、淡い輝きを放ち続ける――蛍のものだ。
(「……あぁ、まるで」)
 ふわふわと明滅するひかりは、まるで、蛍たちが少年を慰めているようにも見えた。

「……という風にね、思ったのですよ」
 内緒話のようにそっと紡がれた綾の言葉にキトリ・フローエ(星導・f02354)はうんうんと頷き、そして互いに顔を見合わせては笑みを綻ばせて。
「――ね、キトリさんは金木犀はお好き?」
 問う声に添えられたのは、懐から取り出された錦秋の帛紗。
 広げればふわりと漂う、極々幽かな甘い花の馨り。
 秋の訪れを、季節の廻りを知らせる金桂花の甘い香りに、
「ええ、好きよ!」
 フェアリーの娘は笑って、大きく頷いてみせる。
 その馨りを風に乗せるために開いた扇に、何処からともなく漂い飛んできた光が引かれるように翅をとめれば、青磁色の双眸が思わず瞬く。
 綾はそのまま暫し、ぱちりぱちりと瞳を瞬かせてから、次いで――ふくふくと笑みを零した。
 そよりと柔らかく扇ぎながら、蛍も花の香も風にゆうるりと游ばせて。
 ふわり、ふわふわと舞うちいさな光に、何処か眩しげに目を細める。

 ――どうか彼の心が少しでも鎮まるように、落ち着くように。
 今宵眠りに就く褥が少しでも寂しくなくなるような、穏やかな香りを届けられれば良いと。
 綾は願いと花の馨りを風に乗せ、暫しのひとときを楽しむのだった。
 
大成功 🔵🔵🔵