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明日も笑顔で

#UDCアース #UDC-HUMAN

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●花やかさの裏で
 まぶたが、重い。

 息が上手く吸えなくて――咳き込んだ。
 今、何時だろう。ふと気になって起き上がろうとしたけれど、着物の裾が畳に擦れるばかりで、ちっとも体が動かない。わずかに開けた視界の先で、うすぼんやりとした非常灯の明かりが、手付かずのままの明日の支度を無情に淡く照らしている。
「……あと、何やらないと……いけないんだっけ?」
 頭痛がする。頭が回らない。前の休みなんていつだったか憶えていない。それでもまだ、頑張らなきゃと思った。だって、お客様が楽しみにお待ちなのだ。ふかふかのお布団での朝寝坊に、寝ぼけ眼で入る熱々の露天風呂、ラウンジでコーヒー片手に読む新聞、そして何より、お部屋に戻ってからの――。

『おはようございます! ご朝食をお持ちしました!』

 そうだ。
 そうしてまた笑顔で、お客様にお会いするんだ。明日のご出発(チェックアウト)を、最高の物にする為に。

 だから、ねえ。
 ちゃんと動いてよ、私の体。

 ……意識が完全に途切れる瞬間。ふわり、と体が浮いたような気がした。まるで、背中に羽が生えたみたいに。

●夢と現実と
「そして極限状態に追い込まれた彼女には、本当に羽が生えた。これが私が見た予知。最近多発している、人間のUDC化事件の一つだね。」
 皆集まってくれてありがとう――鈴木・志乃(ブラック・f12101)は猟兵達に頭を下げると、要点を纏めた資料を全員に配り始めた。
「UDC-HUMANになったのは大川・優さん。老舗旅館『花宴(はなのえん)』の仲居さんだね。まだ働き始めて一年も経ってないけど、お客様からの評判は良いみたい。」
 紺色の地に朝顔の咲いた着物を纏ったおかっぱ頭の若い女性が、紙の上であどけなく微笑んでいる。そのすぐ隣には背中から、服から、足の甲から羽の生えた異形の少女が佇んでいた。恐らくこれが変貌した彼女なのだろう。
「皆にお願いしたいのは、大川さんの討伐と救出。彼女はまだUDCになったばかりだから、今すぐ倒せば人間に戻れると思う。幸いまだ人としての意識が残っているみたいだから、良かったら声をかけてみて。」
 説得内容を考え始めた猟兵に、鈴木は目を細めて苦笑した。
「お客様からの評判が良くて、その上過労で倒れてるんなら、仕事への思いは強いんじゃないかな。好きだったのか、誇りを持っていたのか、そこまでは分からないけどね。」
 でも、と鈴木は言葉を切った。僅かな沈黙の後、細く長い息を吐く。
「……職場環境は相当悪い。UDC組織から情報を貰ったんだけど、この旅館どうもきな臭いんだよ。タイムカード改竄横行、休日出勤上等、人間関係も良くないとまぁ、ハッキリ言って潰れちゃった方が良いんじゃないかと思うんだけど――。」
 誰かのわざとらしい咳払いが響く。
「ごめん。ええと、無事に大川さんを助けられたら、話を聞いて元凶を止めて欲しいかな。このままだと第二、第三の被害者が出るのは確実だからね。」
 ブラック企業は撲滅だー! なんて突然猟兵の一人が叫んだもんだから、グリモアベースに不意に笑いが生まれた。そうだそうだと同意する声に、思わず鈴木も笑みが漏れる。
「……ありがとう。皆を転送するのは旅館の二階、ロビーラウンジ。深夜だから飲物のサーバーなんかは片付けられてるけど、テーブルやイスが沢山ある開けた空間って感じかな。大川さんを迎えに行こうとしてるUDCがいるから、まずはそれを撃退しよう。戦闘が終われば、職場の異変に気付いた大川さんが向こうから来てくれるよ。」
 破損した器物の処理や事件の隠蔽は、大変優秀なUDC職員達がなんとか頑張ってくれるので、建物倒壊まで行かない範囲なら好きにして欲しいと鈴木は言う。
「――それじゃ、よろしくお願いします。ブラック企業は、撲滅だー!」


スニーカー
 初めまして。スニーカーと申します。
 皆様が歩む旅路の、良い思い出の一つとなれれば幸いです。

 以下補足です。

●最終目的
 大川・優の救出と彼女を追い詰めた元凶への何らかの成敗。

●第一章
 ロビーラウンジにて『不幸少女』との戦闘です。
 戦闘能力自体はさして高くありません。次章も同じ場所で戦闘になる為、何らかの罠や地形変化等が起きた場合状態を持ち越します。

●第二章
 UDCに変貌した大川・優との戦闘になります。
 彼女の意識を揺さぶる説得や、中にいるはずの彼女を傷つけないような行動にはプレイングボーナスが付きます。

●第三章
 ブラック企業成敗のターン。
 元凶については追って開示します。

●!ATTENTION!
 大変お手数ですが、マスターページをご一読の上で参加をお願い致します。
 また全ての章において断章を挟み次第、プレイングを受け付けます。それ以前に送って頂いたものは採用するのが大変難しいです。ご留意下さい。
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第1章 集団戦 『不幸少女』

POW   :    現実は必ず突きつけられる
無敵の【完璧になんでもこなす最高の自分】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    数秒後に墜落するイカロスの翼
【擦り傷や絆創膏の増えた傷だらけの姿】に変身し、武器「【赤点答案用紙の翼】」の威力増強と、【本当は転んだだけの浮遊している妄想】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ   :    同じ苦しみを味わう者にしか分からない悲痛な声
【0点の答案用紙を見られ必死に誤魔化す声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――二階、ロビーラウンジ。

 しん、と静まりかえった深夜の旅館。古ぼけたカーペットの上を、猟兵達は踏みしめた。障子紙で覆われた橙色の照明が、辺りをぼんやりと映し出す。

 光を鋭く反射している漆塗りのテーブルと重厚感のあるソファは、年季が入っているものの清潔感があり、良く手入れされているようだ。芳しい香りに釣られて振り返れば、木の幹を模した支柱に季節の花々が活けられている。壁側にはショーケースが設置されており、日本人形が能を舞いながら、今はいない宿泊客を何を言うでもなく見つめていた。

 UDCはどこにいるのか。辺りを見回す猟兵の目に、ふと色褪せた額縁が止まる。

『花宴創業時(昭和8年)の玄関内部』

 白黒写真の中の木造建築は、いかにも昔ながらと言った様相だが温かみがあり、今と趣を異にしている。長年の間に改装を繰り返したのだろうか。猟兵達が考えを巡らす最中――甲高い少女達のささやき声が、ラウンジ中に響きわたった。

『こっちだよ! 私たちと同じ人がいる!』
『早くなぐさめに行かなくちゃ!』

 弾かれたようにそちらを見れば、STAFF ONLYの表記が掲げられた自動ドアに群がる、ランドセルをしょった傷だらけの少女達。

 その体が、あと一歩で従業員通路に消えようとしていた。
秋山・小夜
アドリブ、絡み歓迎
「なんとまぁ、老舗っぽいとこでしょうかね。まぁ、楽しむ暇はないんですけれども。」

室内だけれども殲滅速度を重視して二〇式戦斧 金剛のみを展開。そのままUC【華麗なる大円舞曲】を発動。室内という環境を生かして、なるべくあちこち破損させないように飛び回りながら殲滅にかかる。途中余裕ができたら他の肩と会話と化してみたり。


外邨・蛍嘉
歩き巫女に忍者に…と情報取りまとめとか忙しかった実家でも、ちゃんと休みはあったよ?
年齢的に娘世代になるその子(大川さん)には、ちゃんと休んでもらわないといけないね。
そのためにも、まずはあれらを止めないとね!

できれば地形破壊はしたくないんだ。触れればいいUC【棘一閃】で戦おうか。
武器は『藤色蛇の目傘』…傘のままだよ。変に当たってもあれだしね。

完璧に何でもこなすってことだけれど、本当かい?
例えば、こういう旅館に必須な着付けは?私は出身(戦国末期的世界)が出身だからね、乱れないけど。どうかね?

さてさて、邪魔だよ。どきな!



●凛として咲く
「――させませんよ。」
 すらりと伸びた足がカーペットをとん、と蹴った。瞬間、白銀の尾がたなびいてランドセルごと少女の一人を戦斧の刃で叩っ斬る。ごろんと横たわった不幸の化身は、みるみるうちに淡い燐光を散らして掻き消えた。
『あ……。』
『猟兵だ~っ!』
 けたたましい悲鳴を上げて、憐れな不幸少女達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う。破れかぶれに投げつける答案用紙が、鳥の羽のようにロビー中を舞った。
「楽しむ暇はなさそうですね!」
 白銀の尾――秋山・小夜(お淑やかなのは見た目だけ。またの名を歩く武器庫。・f15127)が、ワルツのステップを踏みながら叫ぶ。ソファに蹴躓き、つんのめった少女を避けながらのクローズドステップ、そしてナチュラルターン。刃渡り1mもあろうかという愛用のアックスキャノン、金剛を手に銀狼の乙女は舞い踊る。
『落ち着いてみんな! 階段から逃げ……。』
 言葉が最後まで紡がれることはなかった。まるで旅館の美術品かのように風景に溶け込んでいた蛇の目傘が、触れた先から少女の制服を布切れに変えて行く。はさりと傘を畳んだ外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)が、場違いなプリントや教科書の嵐を斬り払って泰然と戦場を歩く。
「まったくだね! お宿が壊されちゃ、被害者の子も悲しむだろうし。」
 蛍嘉は背後に鎮座するショーケースにちらと目をやった。戦国末期の世界を生まれとする蛍嘉の目から見ても、能面を被った日本人形達は随分な工芸品のように思えた。元々歴史ある旅館に傷をつけるつもりはなかったが、価値ある品が壊されたとあってはUDC職員の手でも復元は不可能かもしれない。そうなれば、あの子はどう思うだろうか。
『ば、馬鹿にしないで、私たちは何でも出来るんだから!』
 0点の答案用紙を見ないよう、薄目を開けながら睨む少女に蛍嘉は嫋やかに笑って見せる。
「そうかい。それじゃ着物を着てもらおうかな。人によっても多少着方は違うけど……ああ、襟芯も入れないうちに襦袢を着ちゃダメだよ。縛る時はお腹にもっと力を入れて。で、帯はどうやって巻くつもりだい?」
 ムキになって想像から着物を生み出した不幸少女に、蛍嘉はあくまで穏やかに指摘と質問を重ねて行く。半泣きになりながらも頑なに着付けを続けた少女は、巻き損ねた帯を踏んづけて転んだ。
「もうっ、数が多いです!」
 苛立ちと共に狼少女が金剛を組み替え、57ミリ砲を展開する。宙に跳び上がった状態での発砲、からの反動による逆方向の敵への突進、斬撃。テーブルを、壁を、蹴って飛び跳ね縦横無尽に駆け回る小夜に、決死の思いで飛びかかる過去の亡霊を蛍嘉の差す藤色の一閃が斬り捨てる。
「ありがとうございます、蛍嘉さん。」
「いいえ。若い子たちを守るのは親世代の私たちの役目さ。さて……。」
 眼前の敵に向き直り、元・歩き巫女の長は凛として吼える。
「――邪魔だよ。退きなオブリビオン!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・リデル
彼女に貴方達の慰めは不要です。
……彼女のことは私達に任せて安心して骸の海に還りなさい。

オド(オーラ防御)を活性化。
オーラセイバーを具現化。
近接では剣を振るい、距離がある場合は魔法銃をよういて彼女達を倒します。
敵WIZUC
怠惰の結果か努力をしてなおなのかは分かりませんが、現実を直視しなければ改善はありませんよ。
『無効化術式』で戦闘力の増強を無効化します。
※基本的には視野を広く持って周囲への被害を可能な限り抑える方向で戦術を組み立てて戦います。


ルゥナ・ユシュトリーチナ
●アドリブ、連携歓迎
いやー、『おもてなし』は大好きだけど『おもてな死』はルゥナさん的に勘弁願うんだよねぇ…。
取り敢えず辿りつかない事には始まらないし、ちゃっちゃと片付けますか。

まぁ、あんまり暴れて旅館を壊しても迷惑な客だからねぇ。一体ずつ確実に行こうか。てかそれしか出来ないし。
スモークグレネードを投げ込んで【目潰し】しつつ、手近な相手は接近。拳撃を顔面に叩き込もう。なぁに、女同士だ遠慮はいらんよね?
答案用紙を見られたくない?
はっはっはっ、そうは問屋が卸さないねぇ。腕を引っ掴んで、【怪力】で無理やり引き摺り出そう。
モノが無きゃ誤魔化しもクソもない。火のついた葉巻で焼き捨てて、喉元締めて落とそうか



●その痛みを超えて
「おーおー、やってるやってる……。」
 見渡す限り赤点だらけの紙吹雪。既に阿鼻叫喚の地獄絵図と化したロビーを横目に、ルゥナ・ユシュトリーチナ(握撃系無気力フラスコチャイルド・f27377)は苦笑する。早いところ終わらせて件の被害者とご対面と行きたかったが、そうは問屋が卸さないらしい。
「こりゃちっとばかし骨が折れそうだ。頼りにしてるよ、ステラちゃん。」
「ええ、お任せ下さい。」
 傍らに立つ怜悧な女性――ステラ・リデル(ウルブス・ノウムの管理者・f13273)の沈着たる様子に、満足そうに笑んでルゥナは歩き出す。騒乱の中、気取られないようさりげなくスモークグレネードのピンを抜き、地面に放った。
『えっ、なになに!?』
『いやーっ、何にも見えない!』
「見えちゃ困るんだよなぁ、色々と!」
 ――少女の顔面に、拳がめり込んだ。
 濛々と立ち込める煙幕を縫って、悲鳴と殴打が木霊する。人造の耳が声の出所を捕らえ、容赦の無い豪腕がその手に入れた全てを握り潰した。搦め手一つで呆気なく崩壊する敵戦線を、ステラはただ静かに見据える。観察する――想定通り、相手は“声”をトリガーに戦闘力を増強しているらしい。それも答案用紙の0点を誤魔化す声で、だ。いっそ紙切れを全て燃やすか、もしくは。
「――音よ。」
 言の葉の発露と共に、ロビーカーペット全体を覆う巨大な魔法陣が顕現する。陣に組み込まれた無効化術式は、少女達の叫声を瞬く間に吸収して閉じ込めた。
『……!』
「おっと、余所見はナシだよ。」
 声を奪われた少女の首を、すれ違いざまにルゥナが締め上げる。酸欠になった一体は、そのまま地面に崩れ落ちた。
「あいにく“おもてなし”は大好きだけど、“おもてな死”は勘弁願うんだよね……。ほら、そんなこと知っちゃったら、せっかくの煙と酒精がマズくなるじゃん?」
 いつの間にやら取りだしたのか、愛用のドライシガーを一吹かし。その背後を取ろうとしていた新たな一体に、ステラの魔弾が急襲する。
『……、なぐ、行……。』
「彼女に貴方達の慰めは不要です。」
 銃弾の痕から凍りついて行く少女の首に、オーラセイバーの刃が触れる。放っておいても倒れるだろうが、油断は出来ない。早く楽にと剣先を動かそうとした時、術式でかき消されかけた僅かな声が、ステラの鼓膜を震わした。
『あのこ、……と、なかま……。』
「……大川さんは。貴方達とは別ですよ。」
 そして、私達も貴方達とは違う。
 言葉を続けるより先に、剣の光が過去の亡霊を包み込んで消滅させた。

 ステラとて猟兵となる程の才はあれど、何の努力も無しに今の能力を得た訳ではない。それこそ支援者の元で血の滲むような努力を続け、時に地獄と紛う環境に身を置くことで、ようやく身に付いた賜物である。
 ルゥナとて神の如き拳を持てど、それに胡座をかいて慢心している訳ではない。その戦法故に常に負傷を、苦痛を作戦に織り込んで覚悟を持ち戦っている。いつも傷の絶えない彼女は、応急処置キットが手放せない。

 現実を直視し、前へ進み続けてきた猟兵達。
 現実を理解し、それでも働き続けて来た大川。
 現実を否定し、妄想の世界に浸る不幸少女。
 
 同じはずが無かった。

 少女達の躯が燐光と化し、宙に浮かんでは消えて行く。ルゥナが答案用紙に移した葉巻の火は、葬送のように燃え広がって行った。

 ――、
 ――――、
 ――――――。

「ありがとうね。正直、対多数の戦闘は苦手でさ。」
 ほら、手って二つしかないじゃん?
 目に見える敵を一掃して一段落した頃、ルゥナは歯を見せて笑った。生傷には慣れているものの、負傷なく手早く戦闘が終わるならそれに越したことは無かった。
「お役に立てたようで良かったです。」
 屈託のない笑みに釣られて、ステラも思わず顔が綻ぶ。戦闘の合間の、短い休息。張り詰めていた緊張も解け、ルゥナはもう一本葉巻を取り出した。静寂の中で、煙がくゆる。
「お好きなんですか、煙草。」
「ん? あぁ、そうだねぇ。」
 特に労働の後の一本はいいねぇ、と答え。
 ぷかり、ぷかりと煙が浮かぶ。
「……この件が全部片付く頃には、さぞかし旨い煙が吸えるだろうよ――あぁ、ほら、お出ましみたいだ。」

 ルゥナの目線の先。
 吹き抜けになった階段の上から、本物の天使の羽が舞い落ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
(在りし日の玄関口の写真を一瞥し)
――昔はいい宿だったんだろうな。いや、今も“目に見える”トコは悪くねえんだろうけどさ。
知らねえままの方が善かったんかもしれねえけど、知っちまったからには放っておけねえ。猟兵としても、旅人としても。
怖ぇけど、まずは前哨戦だな。――頼んだ、フェモテューヴェ!

《二十五番目の錫の兵隊》を喚び出して前衛に立てつつ、おれ自身はその後ろから〈援護射撃〉を撃って《兵隊》を支援、もしくは相手に〈目潰し〉や〈武器落とし〉をしかけて攻撃を妨害する。
向こうは自己強化をしてくるから一筋縄じゃ行かねえだろうけど、我慢比べだ。
近くに仲間がいるならそっちも〈援護射撃〉や〈鼓舞〉で支援。


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

おい。
お前ら、なに勝手な事を囀ってるんだ?
誰が。
何と。
同じだって?
お前らみたいな落ちこぼれと、優さんが同じ訳ねぇだろうが。
そんな下らねぇ一方通行の共感を通そうとしてるから、
誰にも理解されず、理解できなかったんじゃねぇのか。

ラウンジの中の『闇に紛れる』ように少女を『追跡』し、
やおら目の前に立つ。
そして思い切り不機嫌な顔で、
「煩いんだよ、お前ら【今なんどきか分かってんのか?】」
と苛立ちの感情をテレパスに乗せて【時縛る糸】を放つよ。
答えに窮するのか、怖気づくのかは知らねぇが。
止まった奴から順に組み付いて、
電撃の『属性攻撃』で仕留めていく。

建物にゃ負担を掛けたくないからね。



●ある少女の独白
 ――ロビーラウンジ。連絡通路側にて。

『はあっ、はぁっ、はぁっ……!』
 不幸な私は逃げていた。猟兵から。
 まさかいきなり沸いて出るとは思ってなかったんだもの。
 自分の目の前で“自分”が斬り落とされた時、私は皆とは別方向に走った。点いている照明の少ない、暗い連絡通路側だ。ここを走って行けば別棟に移動出来る。“あの子”を迎えに行くのはちょっと遅くなるけど、とにかく今は隠れなくちゃ。
『……やっと、やっと見つけたんだから!』
 何をやっても上手く出来なくて、怒られて、ダメダメな私でも、仲良く出来そうな人。沢山叱られて体中ボロボロの、不幸な人。
 会えたら何を話そうか。彼女は何が好きだろうか。考えていたから、気づかなかった。
「おい。」
 私の前に立つ影に。

●誰が為に
「一人だけ逃げようってか、いい度胸じゃねぇか。」
 不幸少女を追跡し先回りしていた数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)が、連絡通路を塞ぐように仁王立ちしていた。声に滲み出る苛立ちを隠さないサイキッカーは、間髪入れず敵の首に腕を掛け、電流を流し気絶させる。
「多喜ッ! まだそっちに行くぞ!」
 全体を俯瞰して見ていた鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)の叫びが通路中に響き渡った。逃げ道を探して来たのだろう少女達の群れが、後から遅れて雪崩れ込んでくる。
「胸に燃ゆるは熱き想い、腕に宿るは猛き力。その想いを盾に、その力を刃に。……頼んだ!」
 古今東西のフォークロア(伝説伝承)を操る召喚士である嵐が呼び出したのは、片足が義足の武装した兵士、【二十五番目の錫の兵隊(フェモテューヴェ)】。答案用紙を撒き散らしながら走り回る少女達を、後方から銃剣で追撃する。逃げ場を塞いだ連絡通路に迸る電流と銃弾の雨が、一瞬にして廊下を戦場へと変えた。
『いやだ、どいて!』
「させるか、頼むぜフェモテューヴェ!」
 破れかぶれになって暴れる少女を、兵士の剣が受け止め斬り捨てる。そのまま荒れる戦線へ突っ込むと、近場の敵から容赦なく剣撃を浴びせ始めた。通路の中央へ押され始めた少女達が、脇からすり抜けようものなら嵐のスリングショットが脳天を貫く。強い集中力で正確に弾を撃ち続ける嵐の、手は僅かに震えていた。
『いやっ、やめてー!』
『私やっと……。』
『新しい友達に会いに行くんだから!』
 挟み撃ちにされた不幸少女が、思い思いに悲鳴を上げた――その時。

 時間が、静止する。

「おい。」
 声が響いた。
 心臓の鼓動すら停止させかねない、低く地を這う怒声が。
「煩いんだよ、お前ら。……【今なんどきか分かってんのか?】」
 戦場全体に飛ばされた多喜のテレパスが、強烈な圧を伴って少女達の動きを停止させる。対象の主観時間を止める思念波、【時縛る糸(クロノスタシス)】が敵の意識を完全に絡め取った。不幸少女の体は石のように硬直し、動く気配が無い。
 テストの結果を隠し、誤魔化そうとする打たれ弱い不幸少女の精神には、怒りに塗れた多喜の思念はあまりにも強すぎたのだ。

 あっけなく無抵抗になってしまえば、後は二人の一方的な蹂躙で。
 近場の敵を羽交い絞めにし、電気を流し、地面に放り投げる。
 一瞬でも抵抗しようものなら躊躇なく急所を殴り、その場に捨てた。
 鉛の雨は降り止むことなく、無理やりにでも押し通ろうとすれば剣戟でそれを阻んで。
『…………ひど、い、こんな、』
「“酷い”のはどっちだ。」
 最後の一体。呆ける少女の胸倉を掴み、多喜は顔を寄せる。
「何が友達だ、好き勝手囀りやがって。お前らのはただ一方的な感情を押し付けてるだけじゃねぇか。」
 あくまで自分が救われたいが為に。
 他人の都合は考えもせず。
「悪りぃけど、アンタらを友達の所には連れて行けない。」
 命のやり取りに未だ震えが止まらない体を、それを上回る意志で抑えつつ嵐が少女に語りかける。
「……友達って、そう言うのじゃないだろ。大川さん、苦しんでるんだろ?」
 ――心配してやるのが、先だろうよ。
 
 暗い渡り廊下で、燦燦たる閃光が弾け跳んだ。

 ――、
 ――――、
 ――――――。

「ここも昔は、いい宿だったんだろうな。」
 古びた写真を覗き込んで、嵐がぽつりと呟く。
 再び静寂が訪れたロビーの中央に、嵐と多喜は帰って来た。他の場所でも戦闘が終わったようで、今はグリモア猟兵の予知した通り、UDC化した大川が現れるのを待っている。
「今も見てくれは良い宿だよ。食事や寝床は分からないけど、少なくともソファは座り心地が良い。」
 お前も座れば? と呼びかけた多喜は、ソファに腰掛けて身に纏った武装を簡単に点検していた。
「……いや、遠慮しておく。」
「そう?」
 多喜の声かけを断ると嵐は押し黙り、もう一度在りし日の旅館に思いを馳せる。
 受付に飾られた折り鶴と、小さな花瓶に活けられた野花。手作りであろう布の人形。
 質素ながらも温かみのある空間が、此処には確かにあったのだ。
 一体いつ変わってしまったのか。

「嵐。」
 ひりついた多喜の声に、飛んでいた意識を取り戻す。
 振り返った目に映る、緩く弧を描いた白髪と血塗れた羽。

 ――戦わなければいけない。彼女を守る為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
ふむ、ここがUDCアースの宿か。独特のにおいを感じるな。雰囲気は悪くない。事が終われば露天風呂を堪能してみたいものだが、従事者が健やかに働けていないと知れば客としては落ち着いて泊まれぬだろう。なればひとつ救いを向けてみようか。

いくら片付けが入るとはいえ、無闇に壊すものではないよ。
不幸少女相手にはUC葬送黒血を用いる。我が血を浴びせて動揺を誘い、さらに燃やせば慌てるだろう。刺剣で翼の紙を刺し奪えば燃え尽きるまで眺めていようか。火の粉の散る様も美しい。


アルファ・ユニ
カノンさん(f01119)と

ブラック企業は撲滅だ。
…行動に移せる日が来るなんて楽しみだね?

いい雰囲気のロビー。バンシーやサムヒギンを溶け込ませて。
テラーハウスにするにはぴったりだね

銃を天高く掲げて、号令を

UC
次が控えてるからあまり密度は高くできないけど、室内ならこれで追い詰める

最中答案用紙を数枚掴んで

…あのさあ

あんた達と大川さんは同じじゃないよ

不幸から逃れるための努力をしたの?それを受け入れてでも輝く策は少しでも講じたの?
努力の跡も何もみえないんだけど
"やらない"ことを不幸だって言い訳で正当化するな

悪い子も還る前に、悪夢の中眠れ

そうだねカノンさん
苦しめられてるくらいならホテルに連れてこ


カノン・トライスタ
ブラック企業潰すついでに優秀な仲居さんをヘッドハンティングし隊(ユニf07535)と
ユニ共々どんなアドリブでも大歓迎

(ユニの言葉に頷き)ああ、しかも仲居さんは優秀な努力家ときた。これは是非ともうちのホテルにスカウトしたいよな。

しかしこの旅館、趣もあって結構好きなんだけどなぁ……箱のミカンが腐るのは底からってか。
……へえ、創業当時……ねぇ。なるほど、優が憧れたのはこれか。

(ユニへ近づく敵へガンナイフで発砲)
で、そこの躾のなってねぇガキ共。良い子はとっくに寝る時間だぜ。
悪い子は……とっとと還りな!



●ブラック企業潰すついでに優秀な仲居さんをヘッドハンティングし隊
「オペレーションデルタ、パンデモニウムッ!!」
 白銀の尾が最初の不幸少女を斬り捨てた――瞬間。弾かれたようにアルファ・ユニ(愛染のレコーディングエンジニア・f07535)は叫んだ。掲げたクラハライツの銃身が、淡い照明に照らされて眩く光る。主人の号令に反応した精霊達は、答案用紙ウィングを撒き散らしながら逃走する不幸少女達を思い思いに襲撃し始めた。
「おいおい、開幕から大盛況だなぁ?」
 早々に弾を撃ち尽くしたガンナイフをリロードしつつ、カノン・トライスタ(深紅の暗殺者・f01119)がバンシーと少女の大合唱の中皮肉を言う。はて、“敵は強くないから大丈夫”などとほざいたのはどこのどいつだったろうか。決まっている、あのグリモア猟兵だ。確かに強くはない。強くはない、が。
「サムヒギン達を潜伏させておいて良かった……。いくらなんでもバラバラ過ぎでしょ、協力するって気持ちがあいつらには無いわけ?」
 不幸少女達はユニの想像以上に自分本位な性格だったらしい。あっちこっちへ飛んで跳ねては、味方同士で衝突し、毛躓き、あらぬ方向へと転がって行く。老舗旅館の様相をぶち壊すほどに、既に足元はプリントだらけだ。その上どこに隠れていたのか、思ったよりも数が多い。戦は数だとほとんどの世界では言うが、流石にこの状況は――、
「ユニッ、後ろ!」
 振り返った先でカーリングのストーンよろしく、哀れな少女が頭から突っ込んで来る。手近に居たサムヒギンが大口を開けるより早く、血棘の刺剣がその身体をカーペットに縫い止めた。
「やぁ、楽しそうじゃないか。良ければ私も混ぜてくれよ?」
 ロングブーツの踵を鳴らし、白いワンピースが翻る。乳白色の肌に返り血を浴びて不敵に笑むネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)が、挨拶代わりに敵を屠った。
「ネフラさーんもちろん!」
「よぉ、来てたのかネフラ。」
 よくよく知ったる仲間の登場に、混乱真っ只中でも顔が綻ぶ。無理もない、この三人は同じホテルに所属する猟兵である。その上ユニはホテルで模擬戦を管理する立場にあった。カノンもネフラも模擬戦常連、お互いの戦法は頭に入っている。即席で連携するのに、これ以上無い心強い援軍だ。
「志乃が初めて予知をしたと言うからな。しかし、酷いグリモア猟兵様だ。」
“大川さんを迎えに行こうとしてるUDCがいるから、まずはそれを撃退しよう”だなんて、まぁ簡単に言ってくれる。渡された資料にもろくな情報が載っておらず、訊こうものなら知らん分からんの一点張り。大丈夫大丈夫と無責任に送り出したと思ったらこの惨状である。
 これはもう、貸し一つだろう。
「……そーだね、帰ったらアイス奢ってもらわなきゃ。」
「でっかい土産も一緒にな。」
 顔を見合わせて笑い合う。――さて、仕切り直しだ。

「妨害は任せて。全部絡め取って見せるから。」
 ユニの右半身を覆うように紅い目玉が咲き誇る。思考や心を読むサトリの視線が、周辺一帯の不幸少女達の意識を、認識を緩やかに蝕んで行く。侵食された少女達は頭を押さえ、先ほどまで走り回っていた個体が幾度もよろめいた。
「フフ、流石だ。弔いをくれてやろう。」
 刺突剣をわざと自身の肌に触れさせ、線になった傷から溢れた黒血をネフラは少女に浴びせかける。
『えっ、なんで自分、……いやぁっ!』
 疑問に思う、その一瞬が命取り。燃え上がる黒い血の炎は瞬く間に答案用紙に移り、妄想の中だけでも飛べていた翼は、暗闇のロビーを煌々と照らた後灰塵と化す。
「ネフラにばっか良いカッコさせてらんねーからな、「銃刀戦闘術・改」行くぜ!!」
 濃密な霧を足元から滲ませ、黒衣の蹂躙が開始する。サトリの悪夢から逃れようと藻掻く過去の亡霊に接近し、纏う殺意で意識を圧する。尚も動ける逃亡者がいれば、アンカーフックを壁に撃ち付け戦場を縦横無尽に飛び交った。
『やっ、だ……!』
 鋼鉄のワイヤーで雁字搦めに縛り上げられた少女が、脱げ出そうと顔を真っ赤にして暴れる。どうやらこの周辺では彼女が最後の一人らしい。カノンがガンナイフを頭に突きつける。
「良い子はとっくに寝る時間だぜ。」
『悪い子じゃない! 悪いことなんか何にもしてない! 私と同じ子を迎えに行くだけだもん!』
「……あのさあ。」
 再び深夜の静寂に包まれたロビーラウンジでくしゃり、とユニが答案用紙を握り潰す。
「あんた達と大川さんは同じじゃないよ。不幸から逃れるための努力をしたの?それを受け入れてでも輝く策は少しでも講じたの?」
 努力の跡も何もみえないんだけど。
 全身の血が凍り付くような声に、ひゅ、と少女が息を吸った。
 それきり、何も言わず押し黙る。
「いいよ、カノンさん。やっちゃって。」
 何の躊躇いも情緒もなく、音響の魔術士は引き金の主に許可を出す。
「OK。おやすみ、不幸のシンデレラちゃん。来世は魔女にも王子様にも頼らず、ハッピーエンドを掴むんだぜ。」
 
 カノンがトリガーに指を掛ける。
 銃声が、響いた。

 ――、
 ――――、
 ――――――。

「そう言えば、さっき言っていた“お土産”とは何のことかな。」
 大川が現れるまでの束の間の休息で、ネフラは二人に問いかける。合流したばかりの時に、確かカノンがそんなことを言っていたのだ。
「あぁ、実はね、大川さんをうちに引き抜こうと思って。」
 戦闘が終わり、帰って来たバンシーと戯れながらユニが答える。無論、先ほどまでの戦闘は前哨戦で、本番はこれからなのだがこういった時間も精霊使いには欠かせない。
「うち、と言うとペンドラゴンか。」
「そうそう。優秀で努力家みたいだし、これは是非ともホテルにスカウトしたいよな。」
 放っておくといつまでも腰掛けていられそうなソファに、カノンはどっぷり沈み込む。表面上だけなら趣もあり、宿泊客として止まる分には“良い”旅館なのだろう。だが従事者が健やかに働けていないと分かれば、おちおちのんびりもしていられない。ユニとカノンは、ブラック企業を潰すのみならず大川のその後まで考えているらしかった。
「なるほど。……フフ。凄いな、二人とも。」
「そりゃペンドラゴンの従業員ですから。」
「あぁ、いや、そういうことではなくてね。」
 胸を張るユニにネフラは手を横に振る。
「彼女は名前の感じからすると、生粋の日本人だろう。ペンドラゴンがあるのはUDCアメリカ。当然、言葉は通じない。大学で英文学でも専攻しているなら別だがね。」

 ――それを連れて行こうと言うのだから、当然もう手立ては考えてあるのだろう?

 ネフラの言葉に二人が顔を見合わせた直後。他猟兵達のざわめきが耳に届いた。

 階段を粛々と、音も立てずに彼女は降りて来た。
 柔らかいワンピースに身を包み、体のあちこちから翼を生やして。
 歩いた後に抜け落ちた羽が、天使の後ろに道を作る。
 血濡れた背中からぽとり、と。涙のようにアカイロが落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ノーズワンコスモス09』

POW   :    無気力なる果ての夢
【千切れた自らの羽 】を降らせる事で、戦場全体が【全て満ち足りた理想の世界】と同じ環境に変化する。[全て満ち足りた理想の世界]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD   :    全き善なる光
【記憶に刻まれた傷と経験を癒し消す優しい光】【身体に刻まれた傷と鍛錬を癒し消す柔和な光】【心に刻まれた傷と戦意を癒し消す暖かい光】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    願いは叶う、何度でも
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【集めた誰かの成し遂げたいとするエネルギー】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は奇鳥・カイトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 真夜中に降り積もる雪のように、白い羽がロビーに舞い落ちた。
 折れそうなほどに細い手足が、一歩ずつ階段を降りて来る。
 緩やかに弧を描く色の無い髪を揺らし、血塗れた翼からはアカイロを滴らせ、救済の使徒と化した旅館の花は、招かれざる客を視界に捉えると前で手を組み一礼した。

 まるで本物のお客様にするように。
 完璧な出迎えの姿勢を取って。

「……おきゃくさま。もうしわけございませんが、ほかのおきゃくさまの《きゅうさい》のごめいわくになりますので――、」

 虚空を孕んだ瞳に光は無い。

「おひきとり、いただけませんでしょうか。」

【プレイング受付9月22日8:30~】
鏡島・嵐
(戦うことへの恐怖と、その姿に感じた痛ましさが、心を満たし――)
ッ、何が救済だ!
今ここで一番救われないといけねえのは、アンタの方じゃねえのか!?
(――それらと同じくらいの怒り、やりきれなさに衝き動かされる)

アンタがこの仕事が大好きで、お客さんに幸せな時間を過ごしてほしいって願うんは、どうしようもなく正しい。
――でも、そのために身も心もボロボロになるまで磨り減らすってのは……上手く言えねえけど、なんか違うだろって思う。
おれだったら――そうだな、自分が貰ってる楽しさや幸せを、従業員の人とも共有してえな。

そんなナリじゃ、どんなにもてなされても、心から喜べねえよ。
(鏡に映る彼女の姿は、そう――)



●発露
「――ッ、何が救済だ!!
 今ここで一番救われないといけねえのは、アンタの方じゃねえのか!?」

 悲鳴にも似た魂の咆哮が、ロビー中で反響する。
 一触即発であった筈の戦場が、その痛みに満ちた圧に静まり返った。
 他の猟兵達を掻き分けて、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)が使徒に変貌した大川の眼前に躍り出る。自らの内から涌き出る怒りと遣る瀬無さが、本来怖がりで臆病な彼が持つもう一つの思いを強烈に衝き動かしていた。
『おっしゃっていることのいみが、よく』
「そんなナリでもてなされたって、心から喜べねえよ! たとえ本当にこの仕事が大好きだったとしても、お客さんに幸せな時間を過ごして欲しいってアンタの願いが、どうしようもなく正しかったとしても――違うだろ、それは!」
 感情のままに溢れる言葉が、儀礼的な台詞を覆って行く。あまりの痛ましさに背けたくなる目を、それでも青年は天使に向けた。
 地面を駆ければ折れてしまいそうな手足。
 爪で引き裂けそうなほど薄い皮膚。
 体中から生える翼と、絶え間なく地面に流れ落ちる血。
 コスモスの輪が燦然として照らす使徒の顔は、依然として無のままだ。
「何があったか、おれは分からねえけど……上手く言えねえけど、それでも“コレ”は違う。」
 恐怖と憤怒で震える声を、それでも必死に重ねて旅人は語りかける。
 決して纏まってなんかいない。論理的でもない。何故自分がこう言いたいのか、筋道立てて説明することだって出来やしない。
 それでも――ただ、感情のままに訴えかける。彼女が失った心を、もう一度取り戻す為に。
「そんな姿になってまで、自分を殺してまでやりたかったことなんだろうけど――けど俺なら、自分がお客さんから貰ってる楽しさや幸せを、従業員の人とも共有してえ。」
 それが出来ないのは、悲しいだろ――?
『……ぁ。』

 激情に揺れる琥珀色の瞳から、つぅっと透明な線が引かれて。
 まるで共鳴するかのように、天使の目にも光が差す。

『わたし、は。』

 いつの間にか宙に浮かび上がっていた姿見のような鏡が、使徒の体を正面から映す。
 その鏡に見えるのは、救済の天使などではなく。

『……わたし、きゅうさい、しなきゃ――!』
「優!!」

 千切れた羽がぶわりと舞い、天使に笑いかけていたおかっぱ頭の女性を覆い隠す。そのまま羽は癇癪を起した子供のようにロビー中を飛び交い、宿泊客を出迎えるくつろぎの場は瞬く間に戦場と化した。
 苦々しい思いを抱えたまま一度後方に下がった嵐は、ぐしゃぐしゃになりかけている顔でもう一度敵を視認する。
 ――無機質だった天使の頬を、涙が伝っていた。


「お客様も大事だけど、もっと効率よくやること考えなきゃ。」
 塗装の剥げた従業員用エレベーターの中から、先輩の声だけが通路に響いた。
「そんなんじゃいつまで経っても終わんないよ。ごめん、先帰る。」
「……すみません。」
 ひらりと振られた手は、びっくりするぐらいやせ細っていて。私はただ、謝罪して。先輩は帰った。それだけのことだ。

 それだけの、ことだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋山・小夜
アドリブ、絡み歓迎
「……なんか、色がかぶってませんか?わたしと。お引き取り?できませんね。」

再び二〇式戦斧 金剛を展開。UC【華麗なる大円舞曲】を発動。さらに可能なら使わない武装も展開し、UC【千本桜】も発動、回避、攻撃のどちらかに使えるようにしておく。
最悪UCが使用不可能になるだろうけれども、自身の速度の速さを生かして一撃離脱を繰り返してどうにかダメージを与えていく。時折榴散弾を装填し、射撃も行っていく。


ルゥナ・ユシュトリーチナ
アドリブ連携歓迎
ははは、悪いが予約もチェックインもしていなくてね。客じゃない以上、それに従う義務はないねぇ。ならそもそも入って来るなと言われたら、反論のしようもないけど

さて、説得しながら戦闘ねぇ…正直、肉体言語以外は得意じゃないけど、その方面からでも響くかな?
初手で煙幕弾を放り投げつつ、PDWによる牽制射と共に接近。光って謂わば光速だしねぇ。躱すよりもそもそも狙わせないことが重要かな。そのまま接近し、握撃による攻撃を。【怪力】

仕事に誇りを持つのは結構、上に従順なのも模範的だ。でも、たまには心の赴くままに暴れるのも一興さね。経験、鍛錬、戦意が無くたってね…人は拳を握って、嫌みな奴を張り倒せるのさ



●怒り
 最初の猟兵が消え失せた筈の大川の感情を引き出した、途端。抜け落ちた羽が意思を持ったかのように、猟兵達を追尾する。ルゥナ・ユシュトリーチナ(握撃系無気力フラスコチャイルド・f27377)は咄嗟にテーブルの影に隠れていた。太い羽軸がダーツよろしく、漆塗りの表面に傷をつける。どうも悠長にお話をする気は無いらしい。他の猟兵達も思い思いに応戦しているのか、分かる範囲でも魔法の光や見えない思念波、多数の銃声が飛び交っていた。
「始まっちゃいましたね。」
 白銀の尾を揺らし、秋山・小夜(お淑やかなのは見た目だけ。またの名を歩く武器庫。・f15127)が影に転がり込んで来る。手にしたアックスキャノンに弾を装填し直すと、テーブルの上辺で得物を支えひょっこり顔を出し連射した。
「まぁ私ら、不法侵入者だしねぇ。随分手厚い歓待だよ、ホント。」
 正式な予約もチェックインも済ませていない、オブリビオンにとってとびきりのイレギュラー。入って来るなと言われれば、一つも反論のしようが無い。おまけに先の猟兵の戦いを見る限り、説得を繰り返す度――大川・優の感情を呼び戻す度、攻撃は激しくなりそうだ。事態の面倒臭さにふ、と軽いため息が漏れる。
「でも、お引き取りなんて出来ませんからね。」
「違いない。」
 笑いながら神の手がスモークグレネードのピンを抜いた。レバーを倒して目標まで放ると、二人の猟兵は煙幕の中を一息に駆ける。
「――行きます!」
 人知れず刻まれるワルツのステップと共に、狼少女は再び戦場を躍り狂う。掛け声に反応して振り返った使徒の脇腹を、金剛の分厚い刃が容赦なく切り裂いた。
『ぃっ、たぃ……。』
「まだまだっ!」
 銀狼が銃弾と剣戟で織り成す猛攻を、天使は陽炎のような羽を舞わしゆらゆらと交わす。煙さえ晴れていれば、それは華麗な大円舞曲だったのだろうが――突如、天使の動きが止まった。背後から何者かの手が、枯れ枝のような腕をがっしりと掴んでいたのだ。
「つーかまーえたっ。」
 まるで無邪気な子供のように、ダウナー女子がぎりぎりと手に力を籠める。音が出そうなぐらい強く、激しく握られた使徒の腕はもう少しで折れそうだ。逃れようと藻掻く天使を、されど離すつもりは毛頭ない。
 グリモア猟兵は説得を、等と言ってはいたがルゥナは元々、肉体言語以外は不得意なのだ。筋肉至上主義者である彼女は、今後もその主張を変える気はないし、それに反する設定が生える予定もない。

「……ふーん?」

 ――そんな彼女でも。
 何故か不思議と、かけるべき言葉はすんなり出て来た。

「暴れられるんじゃん、貴女。」
『…………ぇ。』
「いやぁ上に従順で真面目一辺倒かと思ってたけど、きっとやれば出来るんだね。」
 言うが早いが、空いていたもう片方の手をふわふわした使徒の頭に持って行きがしぃっと鷲掴む。そのままぐりんと捻らせて、無理やり向かせた方角には返り血を浴びた小夜の姿が。
「えっ。」
「内心、腹に据えかねてることあるんだろ? その感情出しちまいな。」
『……わたしは、きゅうさいを、』
「此処にその嫌味な奴が立ってると想像して、心の赴くままに暴れるのさ。」
「いつ私が優さんとカラーリング被ってるの気にしてたの分かったんです?」

 明後日の方向へ思考を巡らす小夜を差し置き、ルゥナは使徒に語りかけ続ける。
 彼女が奥底に眠らせてしまったであろう怒りに、掠れば良いと思いながら。

「こんな姿じゃなくたって。特別な経験や鍛錬、戦意なんて無くても……人は拳を握れる。腹の立つ奴を張り倒せる。」
 一体何が原因でこんなことになったのか、想像はつかないけれど。
「私達猟兵じゃなくホントにぶん殴りたい奴、居るんだろ?」
『……ぶん、なぐる。』
 それきり、使徒は動かなくなる。異形の姿のまま、どこか意識は遠くにあるように。
 どうやら思うところがあったらしい。上手く行ったかなと僅かな安堵を覚えつつ、そのまま大川の反応を待つ。

『――あああああああああッ!!』
 使徒の頭上で燦然として回り続けるコスモスの輪の、その輝きが急激に増して行く。
「直撃はマズいです!」
「そんな簡単には行かないかっ。」
 舌打ちをその場に残して、二人は再びショーケースの影に跳び込んだ。
 確かな手応えを、荒れ狂う使徒と自身の手に感じながら。


「要はお客様一人に対して、どんだけ人数使ってるんだって話だよ。」
 けたたましく鳴り響く電話と、それに応対する予約担当の早口が絶え間なく続く帳場で、支配人の声はやけに大きく聞こえた。
「大変だとは思うけど、皆上手くやってるんだからさ。君にも頑張ってもらいたいわけ。」
 分かる?
 首を傾げた支配人に、私はただ“はい”と返事をした。

 上手くなんて誰もやれてないって、本当は叫びたかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

《きゅうさい》の迷惑……?
マズい!
だいぶ侵食が激しいのか!?
いや、同じ価値観を刷り込ませてる……?
詳しく考えるのは後だ!
咄嗟に物陰へ隠れて『闇に紛れる』。
あの光を浴びる訳には行かないからね……!

そうして物陰から思念波と一緒に声でも呼び掛け、
『コミュ力』を合わせて事情を聴くよ。
この旅館への想い、ここで働く事への拘り……
そして疲れの原因、更には「変わる」瞬間の記憶。
お客さんへの安らぎの提供を、
「救済」にすり替えられたその瞬間を指摘して『鼓舞』すれば。
自分でないモノの違和感にも気付いて貰えるはず!

気張れよ優さん。
自分が好きな旅館の評判を自分のせいで貶めたくはないだろう!?


ステラ・リデル
さて、倒すだけなら容易いですが……
力づくで倒して良いのか不安がありますね。
少しお話をして存在を人間側に引き寄せてから……としましょうか。

『青い光の衣』を纏い対峙。
彼女はWIZUCであらゆる行動を成功させるでしょうが、それで私を止めるどころか傷つけることもできません。
ゆっくりと声をかけて反応を見ましょう。

《きゅうさい》とは何でしょうか?
貴方はお客様の笑顔を見て喜んでいたと思いますが、それでお客様は笑顔になるのでしょうか?
貴方は本当に《きゅうさい》を望んでいるのですか? 等々

彼女に『揺らぎ』が見えたら聖なる波動(衝撃波×破魔×浄化)で浄化を試みます。
アドリブ歓迎です。



●哀しみ
 先の猟兵が大川・優の眠った感情を呼び覚ましたのと共に、白く眩しい月のような光が、使徒を中心にロビー全体へ広がった。即座に長机の影に避難しようとした数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)を庇うように、前方から飛んできた瑠璃色の魔力障壁が光を遮り立ち塞ぐ。誰かのユーベルコードであろうその守りは、不思議なことに使徒の光を柔らかく吸収し、より強くしなやかな防御を庇護下の人間に与えているように思えた。
 使徒の発光が収まり、世界に色が戻って来る頃、衣の持ち主――ステラ・リデル(ウルブス・ノウムの管理者・f13273)が振り返る。
「大丈夫ですか。」
「ああ、サンキュ。……なぁ、ソレ、あの光に強いのか?」
 経験や鍛練の記憶すら癒し消す、使徒の全き善なる光。それをことごとく、ステラの青い衣は吸収せしめたのだ。
 どうも単純に質問をして来た訳では無さそうだと思い、ステラも長机に身を隠す。
「ブルー・アーマーのことですね。大抵の攻撃は吸収しますが……。」
「悪い、時間を稼いでくれないか。テレパスで優さんの精神に直接呼び掛けようと思ってたんだが、深くまで潜るには時間がかかる。」
 多喜が使用するつもりのユーベルコード【過去に抗う腕(カウンターパスト)】は、対象の過去や記憶、精神や思考回路にすら干渉出来る強力な思念波だ。適切に運用できるなら、今回のような依頼にとってこれ以上有効な一手はない。
 しかし今この時は、干渉の元となる対象の情報が少な過ぎた。猟兵達が大川について分かっているのはせいぜい、過重労働で倒れた仕事熱心な仲居という事だけ。彼女本来の意識を取り戻す為に、特に大切な記憶や感情を探し当てるのは、この混戦中にあまりにも長い時間を要し――。
「分かりました。」
 一も二もない強い即答。協力を願った多喜の顔が自然と綻ぶ。
「助かる。何分持たせられる?」
 悠然として立ち上がったステラは、穏やかに微笑んだ。
「必要であれば、いつまででも。」

 戦線の維持をステラに任せ、多喜は大川の記憶へ、精神へと深く深く潜って行く。既にUDCと混ざり合っている彼女の意識を見つけ出し、それを支える為に。
 思念波で彼女の名を呼んで、呼び続けて――何故かはじめに視えたのは、今よりどこか人も物も懐かしい、ロビーに居る家族連れの宿泊客だった。黒いおかっぱ頭の少女が紙パックのジュースを音を鳴らして遊んでおり、母親らしき人物からそれを嗜められている。よくよく見れば少女の風貌は、どことなくグリモア猟兵から貰った資料に載っている大川・優に似ていた。
 ここは過去の花宴、なのだろうか。
『わたしね、ここがだいすき。』
 はっとして声のした方を見れば、いつの間にか少女が多喜の前まで移動していた。
「えっ、あのっ。」
『おとうさんとおかあさんと、なんかいもきてるんだよ。ごはんもおいしいし、おねえさんたちもやさしーの!』
 きゃっきゃと笑う少女は、その場でくるりくるりと無邪気に回転する。
「優、さん……?」
『もうねー、おねえさんたちスッゴクかっこいーんだよ! おまっちゃとかしゃしゃしゃーってたてて、おきもの、あんなキレーにきてねー、』
 くるり、と。回った少女の服の裾が紺色に変わる。
 ふわりと広がった着物に、淡い色合いの朝顔が咲いて。
『いつか私も、あんな風になれたらなーって思ってました。』
 半ば独り言じみて、女性に変わった少女はぽつりと呟いた。
 その背から翼が生え、ついで足の甲から羽軸が伸び、そして――。
「ダメだ!」
 異形に変貌しかけた手を咄嗟に掴み、抜け落ちた羽がカーペットに積もる。虚ろな目をした大川が、涙を流しながら多喜を見上げた。
「――気張れよ、優さん。
自分が好きな旅館の評判を、自分のせいで貶めたくはないだろう!?」

 千切れた羽が乱れ飛び、唐突な発光が猟兵達の身体を侵食して行く中、ステラは平然と使徒と対峙していた。まるでその場だけ攻撃が存在しないかのように、ありとあらゆる技を青い衣は吸い取り、無効化する。何度やっても、何をやっても、その一切がステラには通用しない。
 羽が刺されば淡雪のように溶け消え、光を放てば瞬く間に吸収しその力を我が物にする。何をも通さぬ鉄壁の守りに、感情が希薄なはずの使徒にも次第に疲弊が見え始めた。事実、ステラにとって使徒の討伐は容易いことなのだ。
 ――問題は、大川の意識をどう取り戻すか。
『なん、で……。わたしは、きゅうさいを……。』
「……“きゅうさい”、とは何でしょうか?」
 まるで幼子をあやすような、落ち着いた声だった。ステラは無意味に暴れる使徒にゆっくりと近づき、彼女の奥底に沈んだ感情に触れられるよう、優しく問いかける。
「貴方はお客様の笑顔を見て喜んでいたと思いますが、“きゅうさい”でお客様は笑顔になるのでしょうか?」
 はたと使徒の動きが止まる。体から漏れていた光が、徐々に弱まって消えて行く。
「……貴方は本当に、“きゅうさい”を望んでいるのですか?」
 きっと違うだろう。
 恐らくそこに入る言葉は、救済などではなく――。

 使徒は口を開かない。
 しかし虚ろなその目からは、透明な雫が零れていた。
 救済を与える存在の使徒は、ステラの青い光に包まれて異形の身体を癒されて行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カノン・トライスタ
ブラック企業潰すついでに優秀な仲居さんをヘッドハンティングし隊(ユニf07535)(ネフラf04313)
「ホテルペンドラゴンにてカジノを預かってるカノン・トライスタだ。お前を救済……もとい、雇いに来た。どれだけ趣ある旅館だろうとなぁ……そこで働く人間が笑えねぇのはお断りだぜ」
とはいっても、話の出来る状況じゃなさそうだしな……足止めは任された!くれぐれも丁重に頼むぜ?
『福利厚生は勿論、社宅完備や家賃補助、育児医療のサポート、資格取得費の負担にレストラン各種施設の割引など、各種揃えておりますし、年俸は能力に応じて正しく査定』だってよ。さすがうちのオーナーだ。
さぁ、お客様が待ってる。帰ろうぜ!


アルファ・ユニ
カノンさんとネフとブラヘッ隊(略)

…オーナーさんのサポートは万全らしいし、大丈夫でしょ
はやく正気に戻してブラック企業の事情聴取。

カノンさん、魅力的PRよろしくっ(丸投げ)

音で空気を操作して浮遊。赤の海と白の羽根、時を止めると白黒だけどこれもまたいい情景。

適応か、眼で視て必要な役柄を演じよう
あとはUC纏ってUDC化した身体を巻き戻せるようにトンファーで攻撃

…もし強い想いがあるようなら

戦闘中ぶつかったところとか時を戻して、大川さんの情緒が安定している時にほんの少しでも見せてあげられたらいいな。

そんな身体で望む理想の世界、なんかじゃなくてさ

もっと温かみのある、写真みたいな旅館の風景を。

アドリブ歓迎


ネフラ・ノーヴァ
アドリブOK。
ラノベのタイトルみたいな長い隊名だな。カノン、ユニと共に。

礼には礼を持って返す。突然の訪問を詫びよう。皆血の気が多くてな。しかし引き下がりはしないよ。
降りしきる羽は美しいじゃないか。空中の一つを掴み取って口づけをする。ハイヒールを鳴らし皆に足元への注意を促せばUC激流血海で床を血の海に変える。
フフ、やはり白が赤く染まる様は美しいな。
かける言葉は二人にお任せしよう。私は剣で貫くのみだ。



●喜び
『……おひきとり、ください。』
 数多の猟兵達の猛攻を受け、使徒の言葉に迷いが生じ始める。始めに比べれば、幾分か話も攻撃も通じやすくなっただろうか。
「突然の訪問を詫びよう。皆血の気が多くてな。」
しかし引き下がりはしないよ――隙を逃さずネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)がヒールの踵を打ち鳴らす。突如何の予兆もなしに生まれた大渦から血潮が止めどなく溢れ出し、カーペットやテーブルごとロビーを赤い海に染めた。
「時魔法の準備終わりっ、いつでも行けるよ!」
 足元を血で掬われた使徒を横目に、超音波振動で宙に浮かんだアルファ・ユニ(愛染のレコーディングエンジニア・f07535)がトンファーを構えて叫ぶ。
「オーケイ、それじゃ勧誘と行きますか。ちょっと物騒だけどな!」
 黒いロングコートをはためかせ、天井に打ち付けたアンカーフックでカノン・トライスタ(深紅の暗殺者・f01119)はターゲットの正面に降り立った。
『……いかが、なさいましたか。』
「ホテルペンドラゴンにてカジノを預かってるカノン・トライスタだ。お前を救済……もとい、雇いに来た。」
『やと、う。』
 体勢を立て直した使徒は首を傾げると、そのまま羽軸をダーツよろしく深紅の暗殺者へと飛ばす。即座に照準を合わせ撃ち落としたものの、やはり大人しく話を聞いてはくれないらしい。
「あぁ、聞いたことあるだろ? ヘッドハンティング。それにお前が選ばれたってワケだ。」
『……はぁ。』
 どうにも今一つ反応が薄い。正気に戻っていないのだから当然と言えば当然なのだが。
『そこでわたしは、きゅうさいができますか。』
「――もうちょっと“大川さん”に戻さないとダメかもね。」
「私が援護に回る。説得は二人に任せるよ。」
 そっと浮かぶ羽を手に取り、ネフラはそこに口づける。目の前の天使は体中が白く、彼女が赤を散らすにはうってつけだった。一面の赤を操作し生まれる渦で使徒の行く手を遮りつつ、刺剣で体の要所を突けば傷跡から流れる血が花を咲かせる。
「ネフ、避けて!」
 使徒がよろめいた所を、音響の魔術師が急襲する。トンファーに纏わせた時の魔力が、触れた先から大川に巣食うUDCの侵食を抑え、退化させる。巻き戻す。逆戻りさせる。その一部分だけ体の造形が変わり、羽が抜け落ち“白”が少しずつ減って行く。
「足止めは任された。眩しくなるから直視するなよ?」
 言うが早いが、黒衣が放ったスタングレネードから溢れる、目を焼くほどの光とけたたましい爆発音。呆気なく地面に座り込んだ使徒をワイヤーで手早く捕縛すると、殺意を凝縮した霧を纏ったままカノンはもう一度使徒の前に立つ。
 時間遡行攻撃は思ったより効きが早く、使徒の肉体はグリモア猟兵から貰った資料に記載されていた“大川・優”に少しずつ近づいているように思えた。髪色には黒が混じり、背は高く手足は肉付きが良くなって行く。
『あなた、方は……。』
 まるで今意識を取り戻したかのように、大川は黒衣を見上げぽつりと呟く。先程よりも呂律がしっかりしており、これなら多少の会話は通じそうだ。
「――改めまして、ホテル・ペンドラゴンの従業員、カノン・トライスタだ。ブラック企業で働く優秀な仲居さんを、ヘッドハンティングしに伺った。」
『……ヘッド、ハンティング。』
「あぁ、知り合いのツテでお前を見つけてね。是非うちのホテルで働いて欲しい。」
 突然の話に驚いているのか、まだUDCと入り混じっている意識が朦朧とするのか。
 大川の反応はあまり芳しくない。
「うちのオーナーから言伝だ。『福利厚生は勿論、社宅完備や家賃補助、育児医療のサポート、資格取得費の負担にレストラン各種施設の割引など、各種揃えておりますし、年俸は能力に応じて正しく査定』だってよ。趣があっても従業員が笑えねぇ職場より、よっぽどいいと思わねえか?」
「快適さに関しては私も保証する。私は宿泊客だが、ホテルはどこも清潔で食事も良い。従業員も皆幸せそうだ。」
 カノン(正しくはホテルのオーナー)の怒涛のPR文句に、ネフラの援護射撃が炸裂する。一応話は呑み込めているのか、大川は少し逡巡する素振りを見せ、そして。

『そこで私は、救済ができますか。』

 瞬く間に走る緊張。瞬時に己の武器を構え直そうとした二人と、二人を見上げて返答を待つ大川が戦闘を再開しようとしたその時。
「……違う。」
「ユニ?」
 音響の魔術士が高度を下げて三人の間に割って入り、使徒の方へ向き直った。
 見た目は変わっても、本質は変わっていないかのような言葉選びだったが――彼女が訴えようとしていることは、サトリの目を開かずとも理解が出来た。
 けれど、もし。これが本当なら。
 彼女は正真正銘のバカ、だ。

「出来るよ、接客。」
 導き出された言葉にカノンとネフラが目を見開く。
「今よりもっとちゃんと接客できると思うよ。うちのシフト融通利くし、休みも取れるから勉強だってし放題だし、さっきも言った通り資格取得補助も万全。」
「え、おい、ユニ?」
「これが正解。救済じゃなくて接客。大川さんはずっと接客がしたいって言ってたんだよ。」
 ユニの言葉に大川を見れば、口角がほんの僅かに上がっていた。
 確かに“救済”を“接客”に入れ替えれば、全ての発言に納得が行く、が。
「……まじで?」
「まじで。ほら、あの顔見てよ。嬉しそうだよ。」
「……そこまでして仕事がしたいのか、彼女は。」
 福利厚生より社宅完備より、育児医療より年俸よりも。
 何よりも、接客(救済)が出来るかどうか。それが彼女の大事だった。

 これはなかなかの逸材だと、ネフラが愉快そうに笑う。
 カノンは事実に半ば呆けて、ユニは片手をロビーにかざした。
「予定と使い方違うんだけど……。そんなに接客が好きで倒れたって言うなら、此処で働き過ぎるぐらい好きな接客が、何かあったのかもね。」
 見てやろうよ。

 時が、巻き戻る。時間が、逆転する。
 今よりも過去へ、もっと昔へ。
 飾られていた写真のように、温かみのあった旅館の風景へ――。


 おかーさん、きょうも“はなのえん”に行くの?
 『そうだよ、優。温泉、楽しみだねー。』
 うん! ねーおかーさん、いつものおねーさんにあえるかなぁ。
 『どうだろうね、行ってみないと分からないな。』

 あのおねーさん、かっこいーよね。
 わたしもおねーさんみたいになりたい!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

外邨・蛍嘉
…うん、混じってるねこれは。
でもおそらく、間に合うさ。間に合わせてみせる。

基本は攻撃しない。ただ、最後の決め手として必要なときにはするけれど。

…大川さん。あんたは真面目なんだね。そうなっても、身につけた所作をもって来るんだし。
でもね、一度、しっかり休みをとった方がいいのさ。根を詰めすぎてる。救済じゃない、休みだよ。
…それに、救済が必要なのは、大川さん自身さ。与えるんじゃない、授かる方だよ。

私たちは、あんたを助けに来たんだ。
はは、本当に娘世代の子だよ。…守るのが親の役目さ。
あんた自身の笑顔を見たい人、他にもいると思うけどね。



●気を楽にして
 まだ、もう少しだけ動かせて。
 私には救いたい人が、沢山――。

「何言ってるんだい、もう寝る時間だよ。」
再び静けさを取り戻したロビーで、外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)は戦闘を止めた使徒に柔らかく微笑む。宿泊客用に壁にかけられた時計は丑の刻を指していた。本当だったら、とっくの昔に猟兵達も夢の中に旅立っている時間だ。
『でも、きゅうさいが……。』
「必要なのは救済じゃない、休みだよ。それにあんたは授かる方さ。」
 首を傾げる傷だらけの使徒に、蛍嘉は思わず苦笑してしまう。最早羽も飛ばさず、発光もしなくなった使徒は再び両手を前に下ろし、組んでいたのだから。
 過労で倒れたにも関わらず、身に着いた所作を異形に変じても尚忠実に守ろうとする姿は、彼女の生真面目さ故かそれとも。
『さずかる、ほう。』
「そうだよ。大川さんは根を詰め過ぎてる。一度しっかり休みを取らなきゃ。」
 言葉につられて本来の体力が現れたのか、ふらり、と使徒の足がもつれた。転びそうになった使徒の肩を掴み、蛍嘉はじっと目を合わせる。
「ほら、もう限界が来てる。ちゃんと布団に入らないと。」
『でも、まだ……。』
「救済も接客も全部後だよ、後。今はとにかく休むこと。」
 その為に、猟兵達はここまで来たのだ。
 たった一人の女性に、なんてことはない普通の休息を与える為に。
「……そうしてまた元気になって、それからまた、大好きなお客様に笑顔を見せてあげたらいい。」
 お客様もきっと、そう望んでるはずだからさ。

『……やすんで、いいの。』
 今までとは違う、どこかあどけない声だった。蛍嘉は使徒を抱きしめると、色の無い髪をそっと撫でる。小さな子をあやすように、寝かしつけるように柔らかく、優しく。
「いいんだよ。おやすみ、優。」

 異形の身体から、羽が抜け落ちる。
 淡い燐光を散らせながら元の姿を取り戻した大川は、蛍嘉の腕の中で幸せそうに眠っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『人間の屑に制裁を』

POW   :    殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る

SPD   :    証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる

WIZ   :    事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一縷の望み
 ――午前三時。三階、客室フロア。334号室『桔梗』にて。

「助けて頂き、本当にありがとうございました!!」
 一面日焼けした畳張りの和室で、床の間に飾られた菊とカスミソウが香気をふわりと漂わせている。障子紙で覆われた照明から漏れる明かりは、三つ指ついて頭を下げるおかっぱの仲居と、座卓を囲む猟兵達を照らしていた。机の上には一人ずつ、菓子皿に盛られた温泉まんじゅうとほうじ茶が置かれている。
「御礼、と言うには心ばかりで、時間帯も非常識ではございますが……よろしければどうぞ、お召し上がり下さいませ。」
 ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした、と再度頭を下げる大川に体を気遣う声が飛ぶ。大川は苦笑して顔を上げた。
「おかげさまで良く眠れました。体調管理の一つも出来ずに、お恥ずかしい限りです。」
 あくまで自分に非があると主張するつもりらしい。否定しようとする猟兵を、しかし分かっているかのように遮り大川は言葉を続ける。
「早く辞めれば良かったところを、続けたのは自分の意思ですから。皆様に助けて頂かなければ、今頃お客様も従業員も、皆死んでいたかもしれません。」
 もう一度、深く座礼をし感謝を述べた。そして――。
「UDCエージェントの方から、事情は伺っております。何から……お話しましょうか。」
 十数年前、花宴は倒産の危機にあった。
 古い旅館の維持にはそれ相応の金が要る。建物の老朽化と経年劣化した備品、効率化の為の一部業務の外部委託に若者の旅館離れなどは、確実に経営を蝕んでいた。
 そこに現れたのが今の支配人兼社長だ。支配人は旅館を大層気に入り、花宴を買収した。必ず宿を再建して見せると豪語し、その辣腕を振るい始めた――かに見えた。
「実際、予約は増えましたが……私達が対応し切れない数のお客様を、その頃から入れるようになったそうです。」
 当時、花宴ではベテラン社員の退職が多発していた。前の支配人が居なくなるならと、それを契機に一人、また一人と立ち去って行ったのだ。
 人が減ったなら減ったなりの工夫をするか、お客様の受け入れを減らすのが道理である。しかし支配人は対策を講じず、ほぼ毎日満室近いお客様を入れ続けた。
 ただでさえ人手不足のところに、利益追求の為の無理な新規客の獲得。
 不満を抱く従業員達は次々と辞めて行き、代わりに支配人のツテで多くの人材が投入された。
「現場を見ない管理職を、ですがね。」
 書類の数字とばかり格闘する上司達の下、お客様と接する仲居、フロントはもちろんのこと板場も相当に苦しめられている。表面上は国の法律に乗っ取り、9時間で仕事を終わらせ全員帰宅していることに『なっている』、が。
「終わるわけ、ないんです。足りない人手は他部署から呼んで手伝ってもらってます。板場さんだって朝早くて夜遅いのに、昼休憩無しでチェックイン一緒にやってもらって……。」
 フロントや仲居も似たようなもので、文字通り一日中仕事をしていると大川は言った。休みなんてない、ただ仕事をするだけだと。
「壊れた人から辞めるか、仕事を適当にして行くんです。クレームが起きた方がいいって、こんな館潰れた方がいいって言う人、何人もいました。それでも私は、お客様が……接客が好きだから、皆ちゃんと笑顔で帰って欲しくて……。」
 おかっぱ頭の両目にじわりと涙がにじむ。溢れる雫はぼたり、ぼたりと膝の上に落ち、紺色の生地に染みて見えなくなった。
「……猟兵の皆様。情けない、話ですが、これが花宴の現状です。」

 皆様は、超常の力を操ると伺いました。
 こんな状況でもまだ、どうにか出来るのでしょうか。
  
【MSから補足】
 MSのスニーカーと申します。ご参加の検討、ありがとうございます。
 三章プレイングについてですが、フラグメント通りにする必要はございません。皆様の思い思いの『制裁』を書いて頂ければと思います。
 支配人を直接天誅するのもアリ、宿泊客になって盛大なクレームを入れるのもアリ、はたまた優秀な社員を引き抜いてしまうのもアリ、です。法律やネットを介した行動も出来るかもしれません。必要な準備があれば、現地のUDC職員がとても頑張ってくれることでしょう。
 仲居として潜入し、自身で情報収集しても構いません。その場合は大川がサポートします。
 大川と長時間話したい場合は、宿泊客になって大川を指名して下さい。彼女の体力は回復しているので、過労の心配はしなくても大丈夫です。

【再送のお願いについて】
 大変恐縮ではございますが、当方のスケジュールにより再送をお願いする可能性がございます。お嫌で無ければ、再度ご参加頂けると有難く存じます。
ステラ・リデル
どうにか出来るのか、という質問にはどうして欲しいのかによる、とお答えしましょう。
原因である支配人を破滅させる、あるいは改心させるのは可能です。
あまり、一般人に手を出すのを好みませんが彼にはUDCを生み出した責任があります。今回は対処しましょう。
もっとも私が動くまでもないと思いますが……
その上で聞きますが、大川さん、貴女はどうしたいのですか?
すぐに答えを見つけなくても良いですよ。
ただ、私達が貴女を救ったからと言って、私達に迎合する必要はありません。貴女が本当に望む未来を教えて欲しいのです。
(もし聞くことができれば)
貴女と会ったのも他生の縁というものでしょう。協力しますよ。
アドリブ歓迎



●願い
「どうして欲しいのかによる、でしょうか。」
 考えを巡らす他猟兵達を脇に、口火を切ったのはステラ・リデル(ウルブス・ノウムの管理者・f13273)だった。大川に一番近い席に座っていたステラは、これ以上泣くまいと顔を強張らせる仲居と静かに目を合わせる。
「……どうして欲しいか、とは。」
「大川さんが聞いた通り、私達猟兵は超常の力を揮う存在です。」
 それこそ自然現象の操作、兵隊の召喚、時間の巻き戻しから――、
「精神の干渉も。故に原因である支配人を破滅させる、あるいは改心させるのは可能です。あまり、一般人に手を出すのを好みませんが彼にはUDCを生み出した責任があります。今回は対処しましょう。」
「それはっ……。」
「その上で聞きますが、大川さん、貴女はどうしたいのですか?」
 精神の干渉、と聞いてあからさまに表情を変えた大川を、ステラはただじっと、見つめる。
「私?」
「ええ。此処で働くのは猟兵ではなく、大川さん方従業員です。私達はあくまで現状を打破する為の一時的な助っ人に過ぎません。」
 猟兵達がどのような行動を起こすにせよ――それこそ今この場に集う誰かが考えているように、悪事の証拠を回収し、支配人を社会的に殺し、上司陣を物理的にボコり、代わりの支配人を立て、経営をもっと信頼の置ける組織に任せるとしても。今後花宴で働く従業員の気持ちを蔑ろにしたのでは、そのどんな行動も意味がない。
 だからこそステラは、超常の力であるユーベルコードを使用するよりも先に大川の思いを知りたいと考えていた。
「すぐに答えを見つけなくても良いですよ。ただ、私達が貴女を救ったからと言って、私達に迎合する必要はありません。貴女が本当に望む未来を教えて欲しいのです。」
 極端な話をするならば、猟兵達にとっては今後UDC-HUMANが現れるような事態が起きなければ良いのだ。それだけを考えるなら、いっそ旅館を潰すという手段も取れるはずだった。
 それでも、ステラはそうしなかった。
 あくまで大川の為に。大川が望む未来へ、猟兵達が花宴を導けるように。
 今この場で、彼女の考えを訊いておきたかった。
「私は……。」
 押し黙っていた大川が口を開く。
「私は……皆が笑って過ごせるような、そんな旅館であればいいなって、そう思います。お客様だけじゃなくて、ちゃんと従業員も含めた皆です。」
 花宴に関わる全ての人間が、笑顔でいられる状態。
「でも私は、皆が……自分以外の従業員が、どうしたら納得が行く職場になるか分からないから。……だから、皆が出勤して来たら、まず皆の話を聞いても良いですか。」
大川が提案して来たのは、そんな夢物語だった。従業員満場一致での、花宴の経営続行。
 恐らく、無理に等しいだろうが――そんな夢物語への案内人は、余裕のある穏やかな笑顔を浮かべ、頷いて見せた。
「貴女と会ったのも他生の縁というものでしょう。協力しますよ。」
 もっとも私が動くまでもないと思いますが……。と一人ごちた彼女の背後では、他猟兵達の思案顔がずらりと並んでいた。幾人かは既に悪い顔をしている。心配する必要は無いだろう、多分。

 障子から差し込む光が、徐々に強さを増して行く。
 夜明けは、近い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

外邨・蛍嘉
さて、事情はわかったよ。
なら…『忍び』としての仕事をしようか。年食ってるけど、仲居として潜入調査だね。
礼儀作法と演技を駆使しようか。
なーに、生前で慣れてるよこういうこと。

それにしても、見てくれはいいんだけど。マンパワーっていうんだっけ、それを無視した状態だね、本当。
私は鍛えられてるし猟兵だしで倒れなくて済むけれど、他の人はねぇ…疲れが見えるよ…。

上の人が使う業務パソコンに近づけたら、地縛鎖で情報引き出そうかね。誤魔化しのやつ、わんさか出てきそうだし。
出てきたら、仲間内に回そうかね…。

※演技中は、基本『~です、~ます』の丁寧口調です。



 ――AM5時。帳場にて。

 扉の窓から覗くブラインドの閉められた部屋は、必要最低限の明かりしか点けられておらず、やや薄暗かった。PCの真っ黒な画面が事務机の上にずらりと並び、どこか不気味さを感じさせる。あちらこちらで山を作っている書類は、煩雑な重ね方をされていた。
「……それじゃ、行きます。よろしくお願いします。」
 大川は背後に立つ緑髪を束ねた仲居らしき人物に頭を下げると、大きく深呼吸し帳場の扉を開けた。
「おはようございます!」
「うわっ!」
 Yシャツ姿の中年男性が、慌てて大川の方を振り返る。男は大川を視認すると、すぐに顔を綻ばせた。
「なんだぁ、大川ちゃんじゃん。また早出かい?」
「お疲れ様です。えぇ、昨日仕事やりかけで帰っちゃったもので……。」
 苦笑いを浮かべた大川は、思い出したかのようにあぁ、そうそうと言って背後に立つ着物を着た女性――外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)を手招きで自身の隣に立たせた。
「保坂さん。こちら新しく入った外邨さんです。外邨さん、あちらはナイトフロントの保坂さん。」
「外邨と申します。よろしくお願い致します。」
「おー、新しい方! 保坂です、よろしく。」
 人当たりの良い穏やかな笑みを浮かべ、深々と腰を折る外邨にナイトフロントも条件反射で笑顔になり、頭を下げる。しかし、外邨はすぐにちらちらと、何かを探すように視線を彷徨わせ始めた。
「大川さん、シフトはどちらに……。」
「あーごめんなさい、そうでしたね。シフトは総務の机にあって……そうそう、それです。あっ、保坂さんすみません、ちょっといいですか私のお客様早朝出発で用意する物があってですね……。」
 大川と彼女に誘導されたナイトフロントが暖簾をくぐり、お客様側の通路に出て行く――直前、大川と外邨の視線が合った。外邨は笑って頷くと、着物の中に隠し持っていた地縛鎖をじゃらりと取りだす。静まり返った帳場に、今いるのは外邨だけだ。存外、事は上手く行った。
「忍びとしての本領発揮、だね。」
 総務のPCに触れさせた地縛鎖が吸い上げるのは、多種多様な『誤魔化し』の記録。
 ちらと外邨が確認しただけでも、タイムカード改竄の履歴がほぼ毎日止まらない。労災隠しをしたと思しき痕跡もあり、法の下で裁けば厳重処分は免れないだろう。さらに。
「……これも皆に伝えないとねぇ。」
 合わない帳簿を辿った先に発見した、サクラレビューの依頼記録。
 マンパワーを無視した経営を続け、予約サイトの評価が下がった末に金に物を言わせた帳尻合わせ。この会社は赤字と聞いた気がするが、これでは本末転倒だろう。
 叩けばまだ埃が出そうだと、積まれた紙の書類も直に漁ろうと手をかけたその時。
「やーありがとうございました保坂さん、助かりました!」
 わざとらしくアラームのようにうるさい大川の声が、暖簾の外から聞こえて来る。外邨はさりげなく鎖を袂にしまい込むと、机の上のシフト表を手に取り目を細めた。全員きっかり、8時間か9時間労働だ。
「いいよお、これぐらい。夜中に鳴り続ける内線に比べたら大したことないって!」
 快活に笑い暖簾をくぐるナイトフロントの身体は、少し縮こまっているように見えた。どことなく姿勢が悪いのは、疲れで前かがみになっているからだろう。
「外邨さん、シフトどうでしたか?」
 大川が不安気に外邨の様子を窺う。総務のPCをちらちらと見る目に、外邨はこっそりウィンクを返した。
「そうですね、ちょっとまだ分からないことがあるので、また後で伺おうと思います。」
 鼻筋に向かって顔の皺を寄せシフトと睨めっこする外邨は、どこからどう見ても新しい職場に慣れない老眼の仲居だった。しゃんとした立ち姿は、それでも年齢と経験から来るベテランの風格を漂わせているが。
「分かりました。それじゃ、水屋に行きましょうか。保坂さんまた後で!」
 扉を開け帳場を出る大川に追随し、外邨ももう一度頭を下げ退室する。
 まだ此処は調べられそうだが、大まかな情報は手に入れた。後続の猟兵が経営陣と戦うのに、既に十分な量の証拠だ。後は現場の調査を優先しても良いかもしれない。
 
「……本当に、ありがとうございます、外邨さん。」
 水屋に向かう従業員エレベーターの中で、大川が唐突にそう言った。
「なんだい、藪から棒に。」
「あの、私、記憶結構残ってるんです、自分が怪物になってた時のこと。」
 『きゅうさい』をするのだと、うわ言を呟きながら羽を撒き散らしたこと。
 血を流したまま光を放ち、猟兵達を襲ったこと。それから――
「外邨さんがずっと、休んでいいんだって、言って下さって。私凄く安心して……寝ちゃったことも。でもおかげさまで今、生きてて、体も元気で……。」
 言葉を紡ぐほど、尻すぼみになる声。目を合わせれば、大川はまたぽろぽろと涙を流していた。
「その上今もこうやって、助けて下さるから。だから、本当に、ありがとうございます。」
 がばっと、音が付きそうなほど深く頭を下げた礼は、身に着けた所作ではなく感情に任せたものなのだろう。タイミング良くか悪くか、ごうん、と機械の駆動音がしエレベーターの重い扉が開く。外邨は思わず、くすりと笑った。
「私からすれば、あんたは娘世代の子だからね。守るのは親の役目だろう?」
 え、と目を見開いた大川をよそに、外邨はエレベーターを降り振り返る。
「さ、今日一日仲居としてよろしくね、大川さん。――大丈夫、お母さんが助けに来たとでも思って、気を楽にしてなさいな。」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
うーん、難しいな。
方針は決まってる。超常の力を頼るのは最低限――せいぜいこの宿の暗部を暴く決定的な証拠を押さえるくらい――にして、人の法で裁くんが誰にとっても幸せだ。
ただ出来ることなら、宿を潰すかどうかは大川さんたちに選択権を預けてえ。

情報収集の傍ら、大川さんや、他の信頼のおける仲居さんとかに訊いて回る。

――もう二度と、古き良き花宴は取り戻せないかもしれねえ。
それでも……どんなカタチになっても、この宿が末永く続いてほしいって気持ちは残ってるか? ここでの沢山の思い出に訣別しなきゃならないとしても、後悔しねえ?

どんな答えでも、それを尊重する。
なんとかそれを叶えられねえか、UDCとかにもかけ合う。



 ――午前九時半。一階、フロントカウンター。

 既に辺りは、チェックアウトを待つ人々でごった返していた。
 忙しなく駆け回る法被を着たスタッフは声を張り上げ宿泊客を誘導し、立ち止まることなく笑顔で接客を続けている。無造作に脱がれた館内用スリッパを回収する動きは燕のように鮮やかで、領収書を変更する為PCをブラインド・タッチで叩く指先は蜘蛛のように素早い。花宴のフロントスタッフは本来プロ集団なのだろう――と、宿泊客に混じる旅人、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は心から思った。
 嵐はフロントまである従業員を探しに来ていたのだが、この様子ではしばらく会話は無理そうだった。落ち着くまで待とうとイスに腰かけ、ラウンジで貰って来たカフェモカを啜りながら、先ほどまで会っていた従業員達との会話を思い出す。
「普通の職場ならそれでいい、か……。」
 それが嵐の聞き込みの結果だった。
 短期間契約の派遣やもう辞める従業員、支配人の息のかかった経営陣を除き、大川に紹介された信頼の置けるスタッフ達は口を揃えてそう言った。普通の労働時間で普通に休みがあり、残業代が正しく支払われお客様に笑顔で接客できる、そういう普通の職場。
 そんなこと本当に出来るのか、と嵐は従業員達に問われた。今までそんな当たり前のことすら、彼らは享受出来なかったのだ。
 嵐は出来ると即答した。その為の案は別の猟兵が考えていた。ただ、懸念があるとすれば、その案を実行した後のことで。
「……そろそろいいか。」
 最後と思しき宿泊客が玄関から出て行くのを視認した嵐は、コーヒーを飲み切りイスから腰を上げた。

「うちの大川を助けて下さって、ありがとうございました!」
 客のいなくなったフロントで、ややしわがれた力強い声が響き渡る。白髪交じりの頭を深く下げたフロントマネージャーに、嵐は慌てて手を横に振った。
「いや、そんな……。おれはただ、少し声をかけたぐらいっすから。」
 明らかに自分より年上の男に、くだけた敬語で謙遜する。実際は切った張ったも恐怖を堪えながらやったのだが、それは特段今大事なことではない。
 嵐は何も知らない一般人のこの男に、昨夜起きた事件の全てと彼が住む世界の闇について説明した。即ち、UDCという存在のこと、それに対抗する組織のこと、大川がUDC化したこと、故に猟兵達が花宴の環境を是正しなければならないこと、そして――。
「今の支配人や、悪事に関わった経営陣には法の裁きを受けさせるとして。おれ達は花宴を、UDC組織のフロント企業に買収させようと思ってます。」
 この策は司法に詳しく、組織に多少ツテのある他猟兵の発案だった。経営を圧迫しているのが宿の老朽化なら、それを圧倒的な資金と経営力でもって改築なり補強なりしてやれば良い。普段から猟兵達に贅沢三昧させているUDC組織なら、それぐらいお茶の子さいさいだろう、と。
 この話を聞いた嵐はすぐさま組織にかけ合った。組織としても昭和から続く老舗旅館が傘下に入るのはメリットがあったらしく、そう時間をかけず了承を得た。交渉相手がやや気圧されていたところを見ると、もしかすると嵐がこの案件にかける熱意や、応と言わない限り上げそうに無い頭に負けたのかもしれないが。
「しかし、そうなると経営は」
「社長はUDC組織の人間になるけど、支配人は――谷口さん。アンタにお願いしたい。」
 谷口と呼ばれたフロントマネージャーが、目を見開いたまま固まった。
「おれはここに来るまで、情報収集の為に多くの従業員と話したつもりっす。仲居さん、板場さん、仕入れの人、パートのおばちゃん、予約や施設の兄さん達、谷口さんの部下のフロントの子……。度々アンタの名前が出るんすよ。」
 この旅館にとっての最善を求め、短い時間で館内を駆けずり回り誠意を持って情報収集を続けた嵐に従業員が教えてくれた、経営陣で唯一信頼の置ける人間。他部署に率先してヘルプに回り、無茶苦茶な運営状況を機転で切り抜け続けて来たフロントマネージャー。
「前支配人がいた時は副支配人だったって聞きました。それが今の支配人になってから降格したって。谷口さんが支配人になれば良いんじゃないかって、皆あちこちで言ってたんすよ。」
 未だ言葉を紡げぬ男に、嵐は熱意を持って畳みかける。何せUDC組織から新たに支配人を連れてくるよりも、今の従業員で慕われている人間がいるならその人間がトップになった方が間違いなく良い。嵐がフロントを訪れたのは、谷口にこの話をする為だった。
「しかし、私は……。」
「チェックアウト見てたんすけど。凄いっすね、統率取れてて。おれ、驚いたんす。」
 カフェモカ片手に、嵐はイスに腰かけたまま確かに見ていた。
明らかにスタッフの人数が少ないにも関わらず、清算カウンターも、玄関も、駐車場もどの場所も詰まることなく、ゲストが皆笑って出発して行く姿を。
「パブリックスペースの管理もフロントの仕事だそうっすね。古い物ばっかりだけど、手入れはちゃんとされてて趣がある。ロビーラウンジに初めて来た時、良い宿だと思った。――アンタが頑張って来たんだろ?」
 嵐の言葉に男は押し黙り、俯いてそのまま動かなくなる。
 よく見れば、肩が震えていた。何も見なかったフリをして、嵐は言葉を続ける。
「……おれは従業員でもなんでもねえ部外者だけど、皆の話を聞いて来た人間として言わせて下さい。谷口さんが支配人になれば、もう一度、古き良き花宴を取り戻せるかもしれねえ。経営者が変わったってこの宿の為に長く働いて来たアンタなら、どんなカタチになっても旅館を任せたいって思ってる人もいる。ここでの思い出も、きっと沢山あるんだろ? 支配人の件、考えてみてくれませんか。後は谷口さんが首を縦に振るだけなんだ。」
 男の目から雫が落ちて、カウンターデスクにぽとりと落ちた。
 返答は無いまま、雨は止まない。
「……UDC組織の連絡先はここに置いて行きます。」
 名刺を机の上に置いて、嵐はその場を後にした。
 どうか連絡が来ますようにと、心の底から祈りながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルゥナ・ユシュトリーチナ
アドリブ改変歓迎
うーん、ルゥナさんはあれこれ考えるのが苦手だからねぇ…ここは直接的に行こうか。戦闘中にああも見栄を切った手前、一発かまさなきゃ女が廃るってものさね。
大丈夫、命までは取らないよ。社会的には死んでもらうが。

旅館の評判に傷はつけられないし、決行はチェックアウト時間後、宿泊客がはけたタイミングで。理由をつけてミーティングか何かを開いて貰い、他の従業員含めて支配人を引っ張り出す。後は機を見て乱入し、拳を叩き込んであげようねぇ!

…他者を率いる為に必要な要素は様々だけど、その内の一つに威厳がある。それが砕けてしまえば、下に舐められて立ちゆくまい。精々無様を晒すと良いさね。
その間にトンズラさ。



 人の上に立つ者に必要な力は、一体何だろうか。

 肉体、頭脳、気配り、カリスマ……人によって答えは様々だろうが、ある猟兵はこう答えた。
 ――威厳、と。

●筋力式社会的抹殺(ポンポンペイン)
 ――午前十一時。一階、会議室にて。

「……なんで私達呼ばれたの?」
「知らない。もー、まだお花活けてないのに!」
 季節の花が咲いた着物を纏った仲居達が、ひそひそと愚痴を交わす。突発的なミーティングとのことだが、その割には他所の部署の人間も集められていた。フロント、予約、仕入れに板場、施設に洗い場のお姉さん方まで、ほぼ全ての従業員がいるのだ。互いに召集の理由を訊いては、知らない分からないの応酬を繰り返す。
 まったく、支配人はいつも勝手だ。これではまるで、全体朝礼ではないか。……とその場の従業員誰もが思っていた。
「うんうん、よく集まってるねぇ。」
 全体朝礼の真の首謀者――ルゥナ・ユシュトリーチナ(握撃系無気力フラスコチャイルド・f27377)は、続々と増え続けるスタッフ達を、それはそれは嬉々とした表情で部屋の隅から窺っていた。思わず笑みが漏れるぐらい、ビックリするぐらい人が簡単に集まって行く。先に指示していた通り、大川と彼女に同行している猟兵の姿はこの場に無い。それで良い、とルゥナは思った。何せこれからするのはちょっとばかし汚いことだから。
 いや、ちょっとじゃないのだが。
 自分でもアレな行動だとは思った。けれど戦闘中にああも見栄を切った手前、一発かまさなきゃ女が廃るというものだろう。ルゥナさんはあれこれ考えるのが苦手なのだ。だから直接的に行くだけだ。そう、それだけ。
「大丈夫、命までは取らないよ。」
 社会的には死んでもらうが。

「まったく、どうして僕が呼び出しなんか……。」
 ――来た。小太りで浅黒い肌、白髪のおじさん。事前に聞いていた通りの人相の人間がぶつぶつ文句を言いながら現れた。
「あ、支配人!」
「ミーティングってこれから何するんですか?」
 下っ端平社員達が、やっと首謀者が現れたと言わんばかりに思い思いに問いを投げかける。支配人は大きなため息を吐き、よく肥えた腹を揺らして首を横に振った。
「いや悪いんだけど、僕は皆のこと呼んでないよ。一体どこのガセネタに……。」
「はいはーい、それルゥナさんのせいだねぇ。」
 会議室中に響き渡るよう、わざとルゥナは大きな声を出した。このままではせっかく集めた従業員が散開してしまう。そのまま物陰からふらりと現れ、銀髪のツインテールを揺らしながら支配人に向かって歩き出した。突如出現した部外者に、周囲の従業員達が一瞬、凍り付く。
「お、まえ、どこから……。」
「あーすぐ出て行くから気にしないで、ごめんねぇ。あんたが支配人?」
 何も知らない一般社員には目もくれず、ルゥナはいかにも小悪党と言った風貌の人間の眼前に仁王立つ。支配人は口の端をひくりと動かしながら、それでも眼光鋭くルゥナを睨んだ。
「……そうだが、一体キミは」
「OK、把握。」
 にかっと笑った顔は天使のように眩しくて。
「精々無様を晒して――死ね。」
 ――弛んだ腹に叩き込まれた拳は、悪魔の一撃だった。

 他者を率いる為に必要な要素は様々だが、その内の一つに威厳がある。とルゥナは後に語った。それが砕けてしまえば、下に舐められて立ちゆくまい。とも。
「ぅ……ぐぁ……。」
 容赦なく人体の急所を突いた連撃は、支配人の腹部を刺激し弛緩させる。
 別に物理的には死にはしない。自分にしては優しい一撃だとルゥナは思う。物理的には。
「お、まえ……。」
 さて、この後のことを見る必要は無いし嫌な臭いも嗅ぎたくない。周囲の人間は突然の暴行に驚愕して固まっているし、トンズラするなら今だろう。諸々の欲求と痛みに悶絶する支配人を放置し、ルゥナは一目散に出口に向かって走り出した。扉は当然しっかり閉めて、鍵も開かないよう壊しておく。これでトイレに逃げようにもそう簡単には向かえまい。十数分後には彼が社会的に死亡し、次の猟兵の花宴買収交渉は間違いなく難易度イージーになるハズだ。

 ――完全犯罪(パーフェクトクライム)、ここに達成。

 ……やっぱり気持ちだけばっちいから、後でお風呂だけでも拝借して行こうか。ついでに酒精と煙も、あと料理も……それならいっそ、泊まった方が早いかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

ふぅん、経営者の交代、ねぇ。
まぁ、確かに世の常だ。
だから……更に交代しても、別におかしくないよなぁ?
大丈夫、上手くやってみせるさ。

今回は支配人が愛着を感じているのに、
解決策をあまり考えてないってのが問題だからね。
現実を突きつけつつ、上手く軌道に乗せりゃいいんだろ。
だから……UDC組織のフロント企業に買収させようじゃないのさ。
交渉代理人としてはアタシが直々に乗り込むよ。

旅館の歴史を褒めそやし、現状のネットの評判を突き付けて
『傷口をえぐり』、経営の拙さを『言いくるめ』る様に指摘する。
そうした所で『法律学』を駆使した営業譲渡契約書の出番って訳さ。
真の復活、させてもらうよ!



 普段のライダースジャケットは脱ぎ、糊のきいたシャツを着る。ゴミが付いていないかしっかり確認したスーツを羽織りながら、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は自身の体を姿見に映した。こういう場では、身嗜みは大事だと彼女はよく心得ている。兄から貰った知識を頭の中で反芻し、鞄には先行した猟兵達からの情報を詰め込んだ。UDC組織にも、他猟兵が既にかけ合っている。大丈夫。一度大きく深呼吸し、鏡に向かって不敵に笑って見せた。
 ――この買収、必ず成功させる。

●罪暴く言の葉
 ――午後3時半。二階、支配人室。

 階下からチェックインで駆け回るスタッフ達の足音と声が聞こえるにも関わらず、目の前の男はどこか呆然と構えていた。想定通り、従業員の苦労は意に介していないようだった。元よりそうでなければ、この多忙な時間帯に面会など受け入れはしないだろう。
 もしくは、先行した猟兵が何かしたのかもしれない、と多喜は思った。何せあの時集った猟兵の一人が多喜に向かって『難易度ベリーイージーになるから、買収交渉は午後にした方が良い』と宣言したのだ。一体何をしたのか知らないが、多喜は心の中でその猟兵に感謝した。これなら言いくるめもし易いだろう。
「ご多忙の所、お目通り頂き感謝します。実は私、こういう者でして……。」
 お決まりの文句。表の顔の一つとして差し出す名刺。交渉代理人。
 多喜は自身の素性と、ここに来た目的について説明し始める。UDC組織のフロント企業の名を出し、その企業は以前から花宴に目をつけていた、とも。
「花宴は昭和8年から続く老舗中の老舗、この業界でも名が知れています。館内も拝見しましたが、文化的に価値の高い物が数多くある。ロビーに飾られていた人形も立派な工芸品ですが、玄関の掛け軸……あれはかの有名な高僧の品ですね?」
「あぁ、御存知ですか!」
 ――食いついた。多喜の予想通りに。
 旅館の歴史を誉めそやせば、良い気分になるだろうと踏んだ彼女の考えは当たりだった。館内インテリアは特に支配人のお気に入りらしく、事前に大川から仕入れた従業員用のあんちょこの情報を小出しにするだけで、後は勝手に話してくれた。適当に会話を盛り上げた所で、ですが残念です、と多喜はわざと声のトーンを落として見せる。
「……と、仰ると。」
「経営状態、あまり芳しくないようですね。ネットの評判、拝見しました。」
「一体何のことでしょう。うちは常に……。」
 はさり、と。机上に何枚かのコピー用紙が広がる。
 他猟兵が地縛鎖で総務のPCから吸い上げて来た、現在の宿泊予約サイトの花宴レビューページと、『サクラレビューで埋め尽くされる前の、本当の花宴の評価』。
「……これはっ」
「――先方は以前から、花宴を買収したがっていたと申し上げました。当然、御社の経営状態も把握しています。」
 嘘だ。UDC組織にかけ合ったのは多喜達猟兵で、レビューページも朝早くから潜入した他猟兵が今日入手したものだ。
 それでも。今この場で、花宴買収に賭ける想いは間違いなく本物。
「これだけのクレームがあって、経営者である貴方が気づいていない筈がない。口コミが広がるのも時間の問題です。……素早いご決断を、お勧め致します。」
 そっと取り出した営業譲渡契約書を、半ば沈痛な面持ちで多喜は支配人の前に差し出す。もう少し揺さぶりをかけるべきか迷ったが、先の猟兵達を信じて彼女はこれ以上の追及をしないことにした。何せ支配人は『これ以上無いほど打ちのめされて、支配人なんて今すぐ辞めたくなっている筈』だそうだから。それに、名目上でも支配人を名乗っている人間なら。多喜が取りだしたレビューページに柔らかく含ませた言外の意味は理解出来るだろう。
 ――私達は貴方の悪事、不正を把握している。大人しく旅館を差し出せ、と。

 勝ち取った真の復活を、多喜は穏やかな笑みで鞄にしまう。個人的に追い続けているUDC-HUMAN事件の一つも、これで一先ずの終息となるだろう。
「詳しい話は、また後日。先方の企業から連絡させます。それでは、私はこれで。」
 未だ茫然自失の支配人を置いて、多喜は重苦しい部屋を出た。長時間イスに座り続けていたからか、少し体が痛くて伸びをする。
 ……せっかく温泉が湧いているのだから、一風呂浴びて行くのも良いかもしれない。どうせならそのまま泊まって、食事と酒も頂いて行こうか。良い仕事をした後には、最高のご褒美になるだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋山・小夜
アドリブ、絡み歓迎
「さぁて、大川さんたち従業員への慰謝料その他もろもろのお金出してもらいますよ~。覚悟できてますよね~?(いい笑顔)」

とりあえず、ブラックの黒幕たちへ殺してしまったらまずいので死なない程度に主に股間を狙って蹴り飛ばすなり、ヤクザキックを食らわせるなりしていく。時と場合によっては顔面殴ります、もちろん。
なんなら愛刀である妖刀 夜桜も出すとしましょうかね。
まぁ、死なれたら困るので、ほどほどにします。



 ――午後八時半。花宴、従業員玄関。

 館の屋根の上、月光に照らされた白銀の尾が揺れる。秋山・小夜(歩く武器庫・f15127)はまるで縁側にいるかのように、のんびりとお茶を啜っていた。
「なかなか出て来ませんねえ、支配人達。」
 ねぇ、夜桜? なんて相棒の妖刀に話しかけ、適当な雑談をしながら時間を潰す。かれこれ数十分こうしているが、そろそろ体が冷たくなって来た。こんな秋の夜長に読書や夕涼みなんてすれば、本当は良い気分なのだろうが。
 いい加減中に入って出待ちしようかと考え始めたその時。玄関からのそりと現れる、いかにもな風貌の小太りの男。お茶を異次元空間に放り投げ、小夜は固い屋根を蹴った。

「定時退社とはいいご身分ですね。」
「なっ……。」
 ――支配人の脳天に、踵落としが直撃する。
 高所からの落下と体重、猟兵故の身体能力から叩き出される一撃は、支配人が振り返る間もなく彼の身体に強烈な振動を与える。訳も分からず地面に転がる支配人の、股間をつま先で小夜は蹴り上げた。
「ぐっ!?」
「ここが急所って言うのは知ってるんですよね~。」
 歩く武器庫の脳内辞書に、慈悲や情けという言葉は存在しない。あくまで一般人相手だからほどほどに、と彼女も心には留めているが、元々股間蹴りしようとかヤクザキックしようとか考えている戦場傭兵の攻撃はがそんな生優しい訳がなかった。
「一応聞いておきますけど、なんで自分が攻撃されてるか分かってます?」
 コンクリートの地面を這いつくばって逃げようとする支配人を、しかし小夜は踏みつけ逃がさない。戯れに脇腹を蹴り、答えを待つが男は一向に言葉を口にしなかった。もしくは、何も言えないほど痛めつけられているのかもしれないが……。そんなこと、小夜の知ったことではない。
「従業員の皆さんはね、ずっと苦しめられてきたんですよ。」
 他猟兵から回って来た不正の証拠は凄惨そのものだった。ハッキリ言って、死人が出ていないのが不思議なぐらいだ。この男が肥え太り裕福な暮らしをし、自由時間を満喫している間、大川達スタッフはずっと仕事をしていた。正当な賃金すら支払われず、食事を摂ることもままならない状態で、体中やせ細りながらも、ずっと。
「……仕方ないですね。その身体にしっかり教え込んであげます。」
 返答の無い支配人に業を煮やした小夜は、男を仰向けに転がすとすかさず股間を踏み潰した。

 ――絶叫。
 あまりの五月蠅さに思わず、いつもの謎空間から取りだした湯呑を汚声を喚き散らす口に突っ込む。ここまで酷い声が出るとは思わなかった。次からやらない方が良いのかも分からない、と小夜は思う。
「抜け出せるなんて、思わないで下さいね。」
 それでも、銀狼少女の拷問がそんなことで終わる筈もなく。
 彼女の責苦は、小一時間続いた。

 月光を背にした狼が、従業員玄関に仁王立つ。
 今日も現場に仕事を放り投げ、一切の不安などなく帰宅しようとする経営陣を恐怖のどん底に突き落とす為に。
「さぁて、大川さんたち従業員への慰謝料その他もろもろのお金出してもらいますよ~。覚悟できてますよね~?」
 手にした相棒、夜桜の刀身には未だ発展途上の主の姿が映る。
 左右反対の小夜の顔は、美しく妖し気に笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルファ・ユニ
ブラヘッ隊。

まぁユニ達は猟兵だしちょっと力見せるだけでもでも収まるとは思うけどさ

どれだけクレームとか陰湿なことしたところであいつらは反省しないでしょ

直接会って話さなきゃね、元凶たちに

カノンさんのお話が終わったら
かける言葉に魔力を込め、受け答えたらUC
曝け出しなよ、心の内を
そんでもって悪いことは全部自白しちゃおう?
ボイスレコーダーにしっかり残してね

やったことをしっかり復唱して省みるべきだと思うよ。
ちゃんと司法に捌いてもらおうね。勿論暴れないように抑えてもらって

ペンドラゴンで引き取って改善できるならいいけど
選べる限り大川さんの居たい場所で、したいことを実現できる場所にいさせてあげたいな


カノン・トライスタ
ブラヘッ隊と
アドリブ等々大いに歓迎

折角だし大川さんにお世話になろうかな。
で、改めてホテルペンドラゴンに引き抜きたい意思を明示。断られたら……ま、しゃあないな。

それじゃあ従業員獲得の“交渉”をしようか。
アンタが支配人か。いやなに、ちょいとお話があってな。
「大川優に関わるな。そして俺達のことは忘れろ。別にお前の命を取ろうって訳じゃねぇ。……が、降りかかる火の粉は払うしかねぇ。意味は分かるな?」


ネフラ・ノーヴァ
ブラへッ隊…。(ユニ、カノンと)

しかし折角の旅館に来たのだ、露天風呂など少し楽しませてもらおう。ああ、ついでに酒もあると良いな。

さて、交渉の主な所は二人に任せるが、元凶どもには旅館の改善を、刺剣をかざして脅しつつ要求しよう。倒産の危機から立て直した手腕はあるのだからできないとは言わせない。拒否するなら、本当に「血も涙もない」ようにしてしまうよ?と。



●休息
 乳白色の肌の上を、雫が滑り落ちて行く。
 クリスタリアンでありながらも血の通う体は、熱を帯びて上気し、穏やかな水温の中ぼうっと揺蕩っていた。
「……絶景だな。」
 花宴、最上階展望露天風呂『天空』。
 ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)は、先の戦闘の疲れをここで癒しに来ていた。
 見上げれば手の届きそうな程近くに見える大空と、見降ろせば周囲一帯、他の色が雑じることのない一面の鮮やかな赤い紅葉。渓谷ならではの眺望。チェックイン時、大川に『露天風呂は今の時期とっても綺麗だから必ず行って下さい』と念押しされたのも頷ける。
 ――ふと、陽が傾いている気がして、次の瞬間何となく口寂しくなった。そう言えばもう、夕食の時間だろうか。肢体に絡みつくお湯を名残惜しく思いながらも、ネフラは露天風呂を後にする。

 ――三階、客室フロア。334号室『桔梗』。
「お帰りなさいませネフラ様! もうお二人とも中でお待ちですよ。」
 指定された食事会場(宴会場は三人には広すぎるので、空き客室を貸し切りにしてもらった)へと向かえば、すっかり回復した大川が黒い木の盆を手に入口で出迎えてくれた。盆の上には何か料理が乗っており、今丁度食事を運ぶ所だったのだろうと予測出来る。
「体調はもう良いのかな?」
「はい、おかげさまで。今日はもう何なりとお申しつけ下さいませ!」
 明るく元気の良い返答だ。これなら心配はいらないだろう。
 館内用のスリッパを脱いで部屋に上がれば、浴衣に着替えたアルファ・ユニ(愛染のレコーディングエンジニア・f07535)とカノン・トライスタ(深紅の暗殺者・f01119)が荘厳な装丁のドリンクメニューから顔を上げた。
「ネフー! 待ってたよ。」
「よぉネフラ、飲物何にする?」
 二人ともすっかりくつろいでいるようで、顔は綻びああでもないこうでもないとメニューを覗き込みながら言い合っている。
「赤ワインをグラスで、と言いたい所だが、ここの食事は和懐石だろう?」
 無難に日本酒が良いんじゃないかと二人の背後に回ってメニューを見ようとするネフラに、着々と御膳を座卓に並べて行く大川が横からひょっこり顔を出した。
「日本酒でしたら当館一番人気、地酒の『玉ゆら』をオススメします。バッハを聴かせて発酵させてて、とても飲み心地が良いんですよ。」
 ここ、と日本酒ページの一番上に位置する一瓶を指す。カラフルな玉のれんのラベルは優しい色合いで、どことなく可愛らしい印象を受ける。
「へぇ、音で育てたお酒……。」
「それじゃ、これ一つ。あぁでも、食前酒もあるのか。」
「はい。お支度整いましたので、よろしければどうぞお召し上がり下さいませ。」
 その言葉に視線を座卓に戻せば、先付の乗せられた半月型の漆盆が三名分、泡を浮かべる食前酒と共にお行儀よく整列している。もういつでも始めてしまって良いのだろう。思い思いの席に着いた猟兵達を見て、大川は居住まいを正し三つ指をついた。凛とした空気が、辺りに漂う。
「――改めまして、本日は花宴にお越しいただきありがとうございます。担当となりました大川と申します。何かございましたら、どうぞ遠慮なくお申しつけ下さいませ。よろしくお願い致します。」
 深く、確りとした一礼の後、頭を上げて。
「本日のお献立は『紅葉賀』と題しまして、秋の――……。」

●選択
「それじゃやっぱり夢じゃなかったんですね、ヘッドハンティングって。」
 酒も回り話も弾み、雰囲気がちょっとした宴会と化して来た頃、ユニとカノンは本題を大川にぶつけた。つまり、自分達のホテルへの大川の引き抜きだ。大川は使徒化していた時の記憶が残っているようで、説明に長い時間はかからなかった。
「あぁ。大川さんさえ良ければ、うちのホテルはすぐに受け入れる用意があるぜ。」
 用意周到、準備万端を謳うカノンだが、言語習得の問題はどうも支配人に丸投げしたらしい。彼はカジノの管理者故、致し方無いことなのだが。
「あの後、簡単にですがネットで検索しました。……超一流ホテル、憧れちゃいます。」
 言いながらも大川は、卓用の五徳に備えられた固形燃料に火を点けて回る。次はメインの強肴、お鍋だ。一人一人の前に設置された銀鍋の中には、旬の魚介と野菜がこれでもかとふんだんに使用されている。
「……物凄く、興味はあります。皆さんのような方が在籍するホテルの接客、自分も見てみたいしやれたらって、とても惹かれます。」
 でも、と大川は言葉を切った。
「今の時期にこれ以上従業員が抜けたら、花宴は困りますから。せっかく皆さんが再建して下さったこの旅館を、私は守って行きたい。」

 他猟兵達の行動の結果、花宴はUDC組織のフロント企業に買収されることとなった。
 PCや現地の従業員から得た数多の悪事の証拠を元に、支配人含む経営陣を軽く脅したのだ。支配人を社会的に殺した者もいるようで、買収は殊の外スムーズに進んだ。
 経営陣は近いうちに刷新され、そのトップには従業員からの信頼が最も厚いフロントマネージャーが就く。最初は説得されてもうんともすんとも言わなかったようだが、ある猟兵の言葉が彼の琴線に触れたらしい。後になってUDC組織に連絡があった。
 花宴はまさにこれから、復活に向けて努力しなければならない時なのだ。

「……でも、いつか。花宴の再建が終わったら。色んなことが落ち着いたら、その時は私から伺って、面接させて頂いても良いですか。一流の接客、してみたいんです。」
 命を助けて頂いて、しかも誘ってまで頂いたのにこんな無茶苦茶な返答になってすみませんと頭を下げる大川に、ユニは笑って首を横に振る。
「ううん。大川さんの居たい所で、大川さんがしたいことをすべきだよ。支配人には私達から言っておくね。そのいつか、をユニ達は待ってるよ。」
 どこかしんみりした空気の中、お鍋がぐつぐつと沸き始める。蓋の穴からは湯気が上がり、出汁の匂いが部屋に立ち込めて来た。
「ところで大川さん、このお鍋もう食べていいの?」
「あっ失礼しました、はい、今蓋をお取りしますね! 本日の強肴は――……。」

●強襲
「もう他の猟兵が打ちのめしたそうだが、私達もやるのか?」
 宴も終わり部屋に布団も敷かれ、おやすみなさい、明日もよろしくお願いしますと大川が下がった後。三人は花宴を出て最寄りの駅まで出かけて来ていた。
「当然。未来の従業員獲得の為の交渉をしに行くぜ?」
「大川さん以外も逆恨みで何かされる可能性があるしね。やるなら徹底的にやらなきゃ。」
 秋の風が、温泉で火照った体を冷まして行く。つい昨日までこの世界は蒸し暑く、茹だるような湿気が蔓延していた気がするのだが、時が流れるのは早い。風を切って歩き、周辺の家々を見上げながら猟兵達は目的の場所を探す。
 ――ふと、目に入った明らかに金持ちと分かる一件家。白い屋根にクリーム色の壁の家。庭付きで高級外車もある。ナンバープレートの数字は……ビンゴだ。
「ここだね。」
 音響の魔術師の顔が、不敵に笑った。

「……タイムカードの改竄を指示したのは私です。残業代が未払いなのも分かっていました。クレームが多発するようになったので、外部の人間にサクラのレビューを依頼して……。」
 トンファーでぶん殴りそうになる怒りを抑えつつ、ユニは延々と汚声を垂れ流す支配人にユーベルコードを使い続ける。事前に他猟兵達から情報が回って来ていたとは言え、元凶の口から語られる仕打ちのあまりの惨さは、私的感情での刑罰の執行を頭にちらつかせるには十分だった。雑音が混ざらないよう全員黙っていたが、ネフラもカノンも同じような気持ちだった。
「……これで、以上です。後は部下に任せたので分かりません。」
「どうもありがとう。法の裁きを楽しみにしててね。」
 既に満身創痍の身体を、床に突き飛ばして録音装置をポケットにしまう。この証言は大事な記録だ。後で他の猟兵の手に入れた証拠と共に、しかるべきところに提出しに行かなければ。
 恐怖で震え目を泳がす支配人の首にネフラの刺剣が触れる。隣に立っていたカノンが暗闇の中殺気の霧を纏わせしゃがみ込み、無様な男と顔を合わせた。
「大川優に関わるな。そして俺達のことは忘れろ。別にお前の命を取ろうって訳じゃねぇ。……が、降りかかる火の粉は払うしかねぇ。意味は分かるな?」
 最後の力を振り絞り、支配人は力なく頷きそのまま意識を失った。
 これでこの男が今後従業員達に悪さを働くことは二度と無いだろう。どのみちしばらくは、刑務所の中で過ごすことになるだろうが。ほとんど自身の剣が活躍する場面の無かったネフラは、少し物足りなさそうに剣を振って見せる。
「フフ、呆気ないものだな。他の経営陣達はもう少し、吸い取れる血も涙もあると良いのだが。」
 猟兵達は無様な男を振り返らず、次のターゲットへと向かって行く――。

●明日も笑顔で
「……本当に、ありがとうございました。」
 花宴の玄関で、大川は初めて会った時と変わらず深く、丁寧に頭を下げた。
「皆さんのおかげで、私は生きています。それどころか、皆さんは花宴にいる従業員全員を救って下さった。」
「いいってことよ。その代わり、ペンドラゴンで待ってるぜ?」
「そうそう、約束はちゃんと守ってもらわなきゃ。」
 カノンとユニの言葉にぶわっ、と、涙腺が弛んだのか大川はまたもぼろぼろに泣き出す。どうにもこの娘は泣き虫らしい。別れ際ぐらい何とか笑顔でいさせようと大川を宥める二人を、ネフラは可笑しそうにくすくすと笑う。
「案外、ホテルに来たらスパルタかも分からんよ? 今から泣いていたら、いくら涙があっても足りないかもしれないな。」
「ちょっ、ネフ!」
 出発前の他愛ない掛け合い。ささやかな別れを惜しむ短い時間。
 ここで会ったのも他生の縁。共に行かなくとも、想いは確かに共有した。
 ――光の鎖で出来たゲートが、猟兵達を呼んでいる。
「ありがとうございました! またのお越しを、心からお待ちしております!」
 光に包まれ消えゆく背中に向けて、若い仲居の精一杯の声が飛ぶ。相変わらず泣き腫らしたままだけど、それでも口を弧を描き、これ以上無いぐらい大きく開けて。

 眩しく輝く朝日の下で、大川は確かに笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月10日


挿絵イラスト