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明日も笑顔で(作者 スニーカー
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●花やかさの裏で
 まぶたが、重い。

 息が上手く吸えなくて――咳き込んだ。
 今、何時だろう。ふと気になって起き上がろうとしたけれど、着物の裾が畳に擦れるばかりで、ちっとも体が動かない。わずかに開けた視界の先で、うすぼんやりとした非常灯の明かりが、手付かずのままの明日の支度を無情に淡く照らしている。
「……あと、何やらないと……いけないんだっけ?」
 頭痛がする。頭が回らない。前の休みなんていつだったか憶えていない。それでもまだ、頑張らなきゃと思った。だって、お客様が楽しみにお待ちなのだ。ふかふかのお布団での朝寝坊に、寝ぼけ眼で入る熱々の露天風呂、ラウンジでコーヒー片手に読む新聞、そして何より、お部屋に戻ってからの――。

『おはようございます! ご朝食をお持ちしました!』

 そうだ。
 そうしてまた笑顔で、お客様にお会いするんだ。明日のご出発(チェックアウト)を、最高の物にする為に。

 だから、ねえ。
 ちゃんと動いてよ、私の体。

 ……意識が完全に途切れる瞬間。ふわり、と体が浮いたような気がした。まるで、背中に羽が生えたみたいに。

●夢と現実と
「そして極限状態に追い込まれた彼女には、本当に羽が生えた。これが私が見た予知。最近多発している、人間のUDC化事件の一つだね。」
 皆集まってくれてありがとう――鈴木・志乃(ブラック・f12101)は猟兵達に頭を下げると、要点を纏めた資料を全員に配り始めた。
「UDC-HUMANになったのは大川・優さん。老舗旅館『花宴(はなのえん)』の仲居さんだね。まだ働き始めて一年も経ってないけど、お客様からの評判は良いみたい。」
 紺色の地に朝顔の咲いた着物を纏ったおかっぱ頭の若い女性が、紙の上であどけなく微笑んでいる。そのすぐ隣には背中から、服から、足の甲から羽の生えた異形の少女が佇んでいた。恐らくこれが変貌した彼女なのだろう。
「皆にお願いしたいのは、大川さんの討伐と救出。彼女はまだUDCになったばかりだから、今すぐ倒せば人間に戻れると思う。幸いまだ人としての意識が残っているみたいだから、良かったら声をかけてみて。」
 説得内容を考え始めた猟兵に、鈴木は目を細めて苦笑した。
「お客様からの評判が良くて、その上過労で倒れてるんなら、仕事への思いは強いんじゃないかな。好きだったのか、誇りを持っていたのか、そこまでは分からないけどね。」
 でも、と鈴木は言葉を切った。僅かな沈黙の後、細く長い息を吐く。
「……職場環境は相当悪い。UDC組織から情報を貰ったんだけど、この旅館どうもきな臭いんだよ。タイムカード改竄横行、休日出勤上等、人間関係も良くないとまぁ、ハッキリ言って潰れちゃった方が良いんじゃないかと思うんだけど――。」
 誰かのわざとらしい咳払いが響く。
「ごめん。ええと、無事に大川さんを助けられたら、話を聞いて元凶を止めて欲しいかな。このままだと第二、第三の被害者が出るのは確実だからね。」
 ブラック企業は撲滅だー! なんて突然猟兵の一人が叫んだもんだから、グリモアベースに不意に笑いが生まれた。そうだそうだと同意する声に、思わず鈴木も笑みが漏れる。
「……ありがとう。皆を転送するのは旅館の二階、ロビーラウンジ。深夜だから飲物のサーバーなんかは片付けられてるけど、テーブルやイスが沢山ある開けた空間って感じかな。大川さんを迎えに行こうとしてるUDCがいるから、まずはそれを撃退しよう。戦闘が終われば、職場の異変に気付いた大川さんが向こうから来てくれるよ。」
 破損した器物の処理や事件の隠蔽は、大変優秀なUDC職員達がなんとか頑張ってくれるので、建物倒壊まで行かない範囲なら好きにして欲しいと鈴木は言う。
「――それじゃ、よろしくお願いします。ブラック企業は、撲滅だー!」





第3章 日常 『人間の屑に制裁を』

POW殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る
SPD証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる
WIZ事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一縷の望み
 ――午前三時。三階、客室フロア。334号室『桔梗』にて。

「助けて頂き、本当にありがとうございました!!」
 一面日焼けした畳張りの和室で、床の間に飾られた菊とカスミソウが香気をふわりと漂わせている。障子紙で覆われた照明から漏れる明かりは、三つ指ついて頭を下げるおかっぱの仲居と、座卓を囲む猟兵達を照らしていた。机の上には一人ずつ、菓子皿に盛られた温泉まんじゅうとほうじ茶が置かれている。
「御礼、と言うには心ばかりで、時間帯も非常識ではございますが……よろしければどうぞ、お召し上がり下さいませ。」
 ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした、と再度頭を下げる大川に体を気遣う声が飛ぶ。大川は苦笑して顔を上げた。
「おかげさまで良く眠れました。体調管理の一つも出来ずに、お恥ずかしい限りです。」
 あくまで自分に非があると主張するつもりらしい。否定しようとする猟兵を、しかし分かっているかのように遮り大川は言葉を続ける。
「早く辞めれば良かったところを、続けたのは自分の意思ですから。皆様に助けて頂かなければ、今頃お客様も従業員も、皆死んでいたかもしれません。」
 もう一度、深く座礼をし感謝を述べた。そして――。
「UDCエージェントの方から、事情は伺っております。何から……お話しましょうか。」
 十数年前、花宴は倒産の危機にあった。
 古い旅館の維持にはそれ相応の金が要る。建物の老朽化と経年劣化した備品、効率化の為の一部業務の外部委託に若者の旅館離れなどは、確実に経営を蝕んでいた。
 そこに現れたのが今の支配人兼社長だ。支配人は旅館を大層気に入り、花宴を買収した。必ず宿を再建して見せると豪語し、その辣腕を振るい始めた――かに見えた。
「実際、予約は増えましたが……私達が対応し切れない数のお客様を、その頃から入れるようになったそうです。」
 当時、花宴ではベテラン社員の退職が多発していた。前の支配人が居なくなるならと、それを契機に一人、また一人と立ち去って行ったのだ。
 人が減ったなら減ったなりの工夫をするか、お客様の受け入れを減らすのが道理である。しかし支配人は対策を講じず、ほぼ毎日満室近いお客様を入れ続けた。
 ただでさえ人手不足のところに、利益追求の為の無理な新規客の獲得。
 不満を抱く従業員達は次々と辞めて行き、代わりに支配人のツテで多くの人材が投入された。
「現場を見ない管理職を、ですがね。」
 書類の数字とばかり格闘する上司達の下、お客様と接する仲居、フロントはもちろんのこと板場も相当に苦しめられている。表面上は国の法律に乗っ取り、9時間で仕事を終わらせ全員帰宅していることに『なっている』、が。
「終わるわけ、ないんです。足りない人手は他部署から呼んで手伝ってもらってます。板場さんだって朝早くて夜遅いのに、昼休憩無しでチェックイン一緒にやってもらって……。」
 フロントや仲居も似たようなもので、文字通り一日中仕事をしていると大川は言った。休みなんてない、ただ仕事をするだけだと。
「壊れた人から辞めるか、仕事を適当にして行くんです。クレームが起きた方がいいって、こんな館潰れた方がいいって言う人、何人もいました。それでも私は、お客様が……接客が好きだから、皆ちゃんと笑顔で帰って欲しくて……。」
 おかっぱ頭の両目にじわりと涙がにじむ。溢れる雫はぼたり、ぼたりと膝の上に落ち、紺色の生地に染みて見えなくなった。
「……猟兵の皆様。情けない、話ですが、これが花宴の現状です。」

 皆様は、超常の力を操ると伺いました。
 こんな状況でもまだ、どうにか出来るのでしょうか。
  
【MSから補足】
 MSのスニーカーと申します。ご参加の検討、ありがとうございます。
 三章プレイングについてですが、フラグメント通りにする必要はございません。皆様の思い思いの『制裁』を書いて頂ければと思います。
 支配人を直接天誅するのもアリ、宿泊客になって盛大なクレームを入れるのもアリ、はたまた優秀な社員を引き抜いてしまうのもアリ、です。法律やネットを介した行動も出来るかもしれません。必要な準備があれば、現地のUDC職員がとても頑張ってくれることでしょう。
 仲居として潜入し、自身で情報収集しても構いません。その場合は大川がサポートします。
 大川と長時間話したい場合は、宿泊客になって大川を指名して下さい。彼女の体力は回復しているので、過労の心配はしなくても大丈夫です。

【再送のお願いについて】
 大変恐縮ではございますが、当方のスケジュールにより再送をお願いする可能性がございます。お嫌で無ければ、再度ご参加頂けると有難く存じます。