●無音
――。
――――。
――――、――あぁ。
わたしの首を盗ったのはお前か?
……違うか。
済まない。
首がなくて、もう誰が誰だか分からないんだ。
今わたしは、首を盗った奴を憎んでいる。
首を盗った奴を殺さないと、気が済まないんだ。
きっとまだ近くにいると思う。
首がなくてもこの身体は、気配を感じ取ることはできるから。
だからわたしは、――わたしたちは行くよ。
本当に申し訳ない。わたしが悪かった。
どうか安らかに。
――。
――――。
――――、――。
●グリモアベース
「サムライエンパイアには昔話が今も息づいているわ」
橘・ワセはそう語り出す。
昔話といえば、何が思いつくだろう。出身の世界によっては様々あることだろう。
ことサムライエンパイアにおいて言えるとすれば――。
「狐と狸の化生が人里に降りてくる前に、退治をお願いするわ」
着物の袖を揺らしながら話す。いつも通り不機嫌そうな無表情で猟兵を一瞥して。
「そ、狐と狸。妖怪合戦でも始まりそうでしょ?そうならないために、最善を尽くしましょう」
半紙を広げると、筆で描かれた街の簡略図が姿を現す。
「町はずれにある神社に祀られていた狐の神様が、少し前に行方不明になったの。一応、帰ってきたのだけど……」
どこか歯切れの悪そうにしてから。
「……首がね、なくなっているの。その所為かは知らないけど、格が大きく下がって、今や妖怪や化生の仲間入り。分身までして、放っておけば首を盗った主を探して手当たり次第に人を殺めるわ」
その前に、こちらから神社へ出向こうという話。
「そしてその影に、狸の気配もある。どう関わっているかは知らないけど、狐と因縁があることは確かよ」
狸大将だなんて、打ってつけでしょう?皮肉を聞かせて、鼻で笑う。
「合戦が終われば、待っているのは宴よ」
上手くいけばの話だけど。そう付け加えて。
「あたたかいお鍋が待っているわ。頑張りなさい」
「先ずは狐よ。悪いけど、堕ちた以上は退治しなくちゃいけない。丑三つ時を狙ってその神社へ、参拝に行きましょう」
きっといるはず。だって、彼の住処だったのだから。
「狸とは夜明け頃に出くわす筈だから、それまでに終わらせること。じゃないと、挟み撃ちにされるわよ」
あまり時間に余裕がないことを告げる。
夜のサムライエンパイアを映すグリモアベース。寒空の下に、思わず景色だけでも身が縮み込む。
「あぁ、それと」
そう、思い出したようにワセが呟く。
「空気が乾燥してるから、山火事には気を付けてね」
空想蒸気鉄道
この度は空想蒸気鉄道へご乗車ありがとうございます。
妖怪合戦です。
嘘です。そうならないよう頑張りましょう。
●行動について
連携や一緒の行動をご希望であればお申し付け下さい。
(仲間の~とかそれっぽいことがあれば、連携させることがあります)
戦闘シーンでは連携可能であれば書きやすいです。
それでは、良い旅を。
第1章 集団戦
『憎しみに濡れた妖狐』
|
POW : 神通力
見えない【波動】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD : 鬼火
【尻尾から放たれる怨嗟の炎】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : 心眼
【常に相手の思考を読んでいるかのように】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夜神・静流
●心情
哀れに思う気持ちはありますが、魔に堕ちた以上は抹殺するのみ。
●行動
破魔技能は常時使用。
投擲技能で鉄礫や霊符を投げて牽制しつつ、残像・ダッシュ技能で素早く間合いに入り、接近戦を挑む。
早業・先制攻撃orカウンター、怪力・属性攻撃を使用して二ノ太刀・紅で攻撃。
神通力に対しては呪詛耐性・オーラ防御で対処。物を掴んで操作し、攻撃して来る場合は第六感・見切りで回避しつつカウンターを狙う。
「せめてこれ以上苦しまないように、一太刀で仕留めましょう」
「どうか安らかにお眠りなさい。もう迷い出る事がないように」
夜明け前の境内を足袋が踏む音が響く。
寒空の下には、よく音が響くように感じる。
「――あぁ」
白い息を吐いて、夜神・静流(退魔剣士の末裔・f05903)は正面に見える社へ向き直る。
どこを見ても、首なし狐の気配はない。もしや、既に人里に降りて行ってしまったかも?
否。未だ、『そこにいる』。
「……姿を見せなさい」
静流がおもむろに太刀を、鞘ごと振るう。
広い刃渡りの一太刀に、風が揺らぐ。決して力強く振るったわけではない。
つまり――そこにいたのだ。
彼女の正面にまで、迫っていたのだ。
「退魔の剣士である私に、そのような隠れ身は通じませんよ」
妖気――何より、殺気を感じ取っていた。
首のない狐が姿を現すと同時、静流へと襲い掛かる。
標的は数えて、3匹。
一歩翻ると、先ほどまでいた足元が大きく抉れる。何かが強く打ちつけられたようだった。
「念力の類ですか……厄介ですね」
懐から取り出した霊符を、風に乗せてばら撒く。妖鬼に堕ちた狐はその気配を感じて逃れようとする。
しかし――。
「――哀れに思います。けれど、魔に堕ちた以上は抹殺するのみ」
風の流れに逆らい、霊符は妖弧を囲う。
「だから、せめてこれ以上苦しまないように――、一太刀で仕留めましょう」
柄に手をかける。
何かしてくることは明らかで。当然、気配に敏感な狐は行動に移る。
霊符の隙間をかいくぐり、術者たる静流を潰そうと、念動力を放つ。
しかし――。
「どうか安らかにお眠りなさい」
確かに念動力を叩きこんだ筈なのに、静流はそこにはいなくて。
声は狐たちの背後からした。
誰の目にも、気配にも捉えられることなく抜かれた刃は炎を帯びて赤く仄光っていた。
ふと、静流が振り返って見れば、既にそこに狐はおらず。
まずは3匹、無事に浄化できたことに胸をなでおろす――その背後に、新たな狐の個体が迫る。
「――」
避けることなく、念動力を避ける。
否、力場が静流を避けるように逸れていった。
視線を向ければ、攻撃してきたと思わしき狐の姿が。
「参りましょう」
彼らが、安らかに逝けるように。
足袋が、境内の石畳を蹴り上げた。
大成功
🔵🔵🔵
ミク・シィナ
どの世界でも、堕ちた神はもはやモンスターですわね。
なるほど。
敵はジンツウリキという見えない力で攻撃を…。
ならば私も相手の土俵に乗って、攻撃を行いましょう?
ユーベルコード「漆黒の瞳」を使用し、見えない力同士のパワー対決に持ち込もうとします。
力と力の真っ向勝負。
ふふ、楽しみですわね♪
【使用技能】
捨て身の一撃10、鎧砕き10、礼儀作法1、怪力13、生命力吸収10、残像2、2回攻撃10、地形の利用1、なぎ払い11、第六感10、暗視1、おびき寄せ1、盾受け1、属性攻撃1、武器落とし10、クライミング1、傷口をえぐる10、見切り1、空中戦1、カウンター10、激痛耐性2、フェイント10、衝撃波1、範囲攻撃1
一説に、感情の持つ力というのは念力にも影響を及ぼすという。
こと憎しみに囚われ、化生へと堕ちた妖狐の持つ憎しみはとても大きな感情とも言える。
その感情から放たれる波動は凄まじく、戦場へと変わり始めた神社の境内は、すでにいくつもの凹みが生じていた。
「あらあら」
夜の境内に、ミク・シィナ(漆黒の令嬢・f03233)を包む闇色のドレスが揺らぐ。
この世界において、滅多に見る機会のない異装。妖狐にとってしてみれば、既に見ることのできない服装。
洋風のドレスの揺らぎを、妖狐は感じ取る。
あれは敵だと。
自身へ危害を加えんとする者だと。
空気が揺れる。それは、念動力の合図。
不可視の一撃はミクへと迫り――。
その眼前にて、消滅する。
「ふふ」
小さく、不敵な笑みを浮かべる。
「パワー対決。一回戦は私の勝ちでよろしいでしょうか?」
茶化すように微笑むミクへ、追撃の二、三撃目が襲い来る。
何が起きているか、首のない妖狐たちは知る由もない。
彼女の瞳が、己らの波動を真っ向から打ち消していることに。
「――」
二つ、合わさった波動に少し圧されたものの、特に問題はなく涼しい表情を浮かべる。
「では……次は私の番ですね」
漆黒の瞳が、首なし狐を捉える。
「――本気でいきましょう」
不可視の力は、嵐のように妖狐を潰す。
大成功
🔵🔵🔵
サフィリアリス・エレクトラガント
神様だったのに、首を落とされ、妖怪や化生の類に格を落とされ、堕落して……とても悲しいお話ですねぇ……
ともあれ、人々を殺されるわけにも参りませんものね
使うユーベルコードは「光の女神様はあなたの味方」
どうやら、心眼でこちらの攻撃を回避してくるようですが……あなたはもう神様ではありませんね、首無し狐さん。
堕ちた狐に私をとめることはできません
私は魔王であった身、妖や魔の存在であれば……技能【恐怖を与える】が効くでしょう
恐怖を与えることができたのならば、後は召喚した光の女神様のお仕事。
その恐怖を感知して光刃で狐さん達を切り刻んでくれますよ、いくら心眼を使おうとも、恐怖からはどこにも逃げられません
神社の境内に現れた女性は、手を頬に当てる。
「嘆かわしいことですね。首を落とされ、堕落して……」
聖女然としたサフィリアリス・エレクトラガント(魔王様の仰せのままに・f13217)の言葉に、何匹かの妖狐が殺気を向ける。
同情を買ってしまったか、それとも。
怨嗟の炎を纏う尾を揺らし、首のない顔で睨む。
しかし――。
「ともあれ、人々を殺されるわけにも参りませんものね」
視線を向け返したサフィリアリスの瞳。
魔王然とした威圧感。殺気が、妖狐を襲う。
「恐いですか?」
訊ねる声は、聖女のもの。
陽だまりのように優しい口調。
しかし、瞳を向けられた妖狐たちは依然動かない。
「大丈夫、恐いのも痛いのも一瞬です」
何故か。
彼らには見えるのだ。
目に見えずとも、気配を感じる。
感じずにはいられないのだ。
「それに――ほら、本番はそれからですから」
彼女の背後に現れた、光輝く聖女の聖霊。温かく感じる筈なのに、何故か悪寒が止まらない。
例えるならそう、炬燵の中でかく汗に近い。
神経が狂うのだ。
聖霊が振り下ろす、光の刃が妖狐を包む。
それは、一度感じた恐怖をどこまでの増幅させる、刃より危険なモノ。
恐怖に巻かれた妖狐はやがて、意識を失い、そのまま消滅することだろう。
最期に聞こえたのは――。
「では、どうぞ安らかに」
そんな、何かの声だった。
大成功
🔵🔵🔵
パーム・アンテルシオ
狐と狸の化かし合い。ふふ、おとぎ話みたいだね。
なんて笑ってられないか。語り終えればお終い、じゃないからね。
あなたも、私も。もう元には戻らない。戻せない。
ユーベルコード…金竜火。
ふふ、ちょっと親近感を感じるよね、この炎。
…と、そうだった。もう、見えないんだったね。
取り囲め。数を増やせ。2度でも、3度でも、何度でも喚び出そう。
集え。哀れな妖狐の足元に。その炎が天に届くまで。
これは弔いの炎。その体を、魂を、浄化し、次の世へと送る炎。
堕ちた狐を、物の怪として狩るのは、人の役目。
けれど、狐のままに死なせてやるのは…きっと、狐の役目。
狐のよしみ。せめて、これ以上苦しみの無いように。堕ちないように、送るよ。
「取り囲め、数を増やせ」
ひとつ。
「2度でも3度でも、何度でも喚び出そう」
ふたつ。
「集え、哀れな妖狐の足元に。その炎が天に届くまで」
――みっつ。
「――これは、弔いの炎。その体を、魂を浄化し、次の世へと送る炎」
炎が巻き上がる。
彼女を表すような桃色の狐火が、堕ちた狐に絡みつく。
やがて、焼き尽くすようにふわりと消滅する狐を見て、しかしパーム・アンテルシオ(桃色無双・f06758)の表情はどこかすぐれない。
妖狐という一種族である彼女にとって、狐相手は何か思うところがあるのだろう。
もう元には戻らない。戻ることもできない。
不可逆の理不尽が、頭をぐるぐる掻き乱す。
「……っ」
眼前を奔る、相手の炎が焼いたのは、皮膚でも前髪でもない。
胸元がじりじりと焼けるようで、厭だった。
それでも彼女がここに立つのは、やるべきことがあるからだ。
それが自分の役目であり、狐のよしみ。
だから――。
『ありがとう』
「――え?」
ふと、音のない言葉に顔をあげる。
目の前ではまさしく今、一匹の狐が消滅したところだった。
「…………」
ふと、攻撃の手が止まる。自分の意志など、関係なかった。
それを好機と見た、狐たちが群がるように、パームへ迫りくる。
「――!!」
再度現れた狐火が、ぐらりと大きく揺らぐ。
その、ゆらめく炎の先で、パームは――笑った。
「……そうだよね。こういうときだからこそ、暗い顔は、していられない」
たったひとこと。憎悪の中に残された、たった一言が、彼女を奮い立たせる。
なぜなら――。
「――それが、私だから」
少なくとも、今だけは。
しっかりと相手を見据えること。暗い顔は向けないこと。
戻らないけれど、だからこそ、これ以上苦しみのないように。
その思いが、桃色の炎に宿る。
「――、金竜火!」
弔いの炎は、優しく全てを包み込む。
いつも、彼女がそうするように。
大成功
🔵🔵🔵
フェム・ポー
あぁ、あんな姿になってぇ、あんなに怨みにまみれてしまって可哀想、可哀想ねぇ?
人を襲うしかなくなってしまったならぁ、『救って』あげるしかぁ、無いわねぇ?
そんな姿にされてしまってぇ、痛くてぇ、苦しくてぇ、悲しいのねぇ? でも、もう大丈夫よぉ? イタイのもぉ、クルシイのもぉ、カナシイのもぉ、全部フェムが引き受けてあげるからぁ、フェムのところへ帰っておいでぇ?(技能:誘惑。ただ純粋な慈悲の心で、相手を救済へと誘う)
(その救済に魅了されたものは呼び出された、『黒き光を纏って宙に浮かぶ巨大な異形の胎児』が放つ触手に安寧の感情と共に『生命吸収』され、同化される)
うふふ。ゆっくり、おやすみなさぁい?
――抗い難い、慈悲の感情がそこにはあった。
それは憎しみが、憎悪が、喪った頭を巡る妖狐たちの思考に無理矢理にねじ込まれ、たちまちに埋め尽くしていく。
感染したウイルスのように、全てを書き換えていくのだ。
そして、その慈悲の源たる小人は、彼らの前で静かに微笑む。
その微笑みはまさしく慈母のもので、柔和で――。
だからこそ、実に抗い難いのだ。
気付けばフェム・ポー(聖者の残骸・f12138)は、そこにいた。
妖精の小さな体躯は、夜明け前の境内にて判別を付けるのは難しい。
故に、何かアクションを起こすまで、妖狐さえも気づかなかった。
「あぁ、あんな姿になってぇ、あんなに怨みにまみれてしまって可哀想、可哀想ねぇ?」
柔和な笑みを、視線を向けて、ようやく一匹の妖狐がその存在に気づく。
――気づいてしまった。
「人を襲うしかなくなってしまったならぁ、『救って』あげるしかぁ、無いわねぇ?」
動かなくなった一匹の妖狐を、周りの妖狐はどう思っただろうか。
その原因を、探ったに違いなく。
故にこそ、慈悲は伝染していく。
「……ねぇ?」
訊ねるように、或いは謡うように、フェムは口を開く。
「そんな姿にされてしまってぇ、痛くてぇ、苦しくてぇ、悲しいのねぇ? でも、もう大丈夫よぉ? イタイのもぉ、クルシイのもぉ、カナシイのもぉ、全部フェムが引き受けてあげるからぁ」
ふと、夜を何かが照らす。
夜明けの日差しではない。それよりももっと、恐ろしいほどに眩いもの。
黒い光を纏う、異形の胎児が――空を覆う。
彼女に魅了されたもののみが、それを認識するだろう。
彼女に、魅入られたからこそ。
「――だからぁ、フェムのところへ帰っておいでぇ?」
妖狐たちを吸収し終えて、異形の胎児が帰った後。
フェムは未だに、微笑みを絶やしてはいなかった。
「うふふ」
小さく笑って見せた彼女を、一連の出来事を誰かが見ていたなら、どう思うことだろうか。
何を思うことだろうか。
否、たらればなど在りはしない。見ていたものなど、もういないのだから。
「ゆっくり、おやすみなさぁい?」
小さな慈母は、最後にそう呟いた。
大成功
🔵🔵🔵
蛇神・咲優
『かなしいよね、ツラいよね、にくいよね
でも、だからってそれをカンケイない人にぶつけちゃダメ
ホントはキツネさんが一番わかってるんじゃないかな?
カミサマだったんだもん…
それに、キツネさんの首をとったの―――ホントに人間?』
そう呼び掛けつつ愛刀の篤光を握り
目立たないように忍び足で近づき先制攻撃
増えていく分身を2回攻撃で確実に仕留め
『ねえ、キツネさん…誰かにうらまれてない?
同じカミサマやヨウカイに……そうだな、キツネと言えばタヌキ。
わるさばかりのタヌキさんに化かされちゃったりとか…まさか、ね』
もし、仮にそうだとしても過ぎた話
これ以上被害を出さない為に最後の一匹にUCを
『―――行こう、篤光』
「わわっ……っと」
神通力が地面を抉るのを、一歩飛び退って避ける。
翼もふわりと羽ばたき、飛距離を稼ぐ。
蛇神・咲優(迷子奇譚・f05029)は気弱そうな瞳を、もう一度妖狐に視線を向ける。首はないが、それでも視線が交わっていることは、なんとなく分かった。
「ねぇ、キツネさん」
ふと、諭すような声を向ける。
「かなしいよね、ツラいよね……にくいよね。でも、だからってそれをカンケイない人にぶつけちゃダメだと思うの。……ホントは、キツネさんが一番わかってるんじゃないかな?」
対話を試みる様な言葉にしかし、狐は応えない。
代わりに、思念の塊を咲優へ投げつける。憎悪の感情が作り出す破壊が、咲優を呑み込む――。
「それにね」
しかし。
声は土埃の中からではなく、妖狐の背後を取っていた。
「キツネさんの首をとったの―――ホントに人間?」
妖狐が振り向くより先に、刀身が狐の銅を捉える。
柄を握る小さな手と、それを深々刺し込むように、底を叩くもう片手。
弱い力で正確に貫いた刃を、一瞬の停止の後に引き抜く。
引き抜いた刀を幼い掌がくるりと回す。脇を使うように翻った刀身は、背後に迫るもう一匹の妖狐に突き刺さる。
背を預けるように、振り返ることなく刺し貫いた刃をすっと引き抜くと、二匹の妖狐はたちまちに倒れ、霧散する。
「――ふぅ」
ひとつ、呼吸を整えて。正面にいる妖狐を見据える。
一息のふたつの分身を斃した少女に、思わず一歩後退る。それに、咲優は一歩あゆみ寄る。
「ねえ、キツネさん……もしかして、誰かにうらまれてない?」
再び、咲優は口を開く。
「同じカミサマやヨウカイに……。そうだな、キツネと言えばタヌキ、かな。わるさばかりのタヌキさんに化かされちゃったりとか……さ」
答えはなかった。聞く耳など、とうになかったから。
「……しかたないね」
顔はないけれど、前足と身体が威嚇を表したのを見て、咲優はふわりと飛ぶ。
飛行にも似た、一足飛び。抜き足に近い動きで、一気に攻撃の圏内へと迫る。
神通力の力場が、二人の間に生まれるのが肌で伝わる。しかし、それを無視するように、咲優は刀を構える。
「――行こう、篤光」
銘を呼び、叩きつけるように放った一撃は神通力ごと、妖狐を断ち切る。
憎しみや、未練も纏めて。
「……さようなら」
大成功
🔵🔵🔵
御剣・神夜
首を取られたご神体
その怒り、無念、悔しさ、どれ程の事でしょう
ご神体を傷つけた者に怒りを覚えますが、今はそれどころではありません
本物の妖怪化生になる前に止めましょう
神通力、鬼火は遠距離攻撃が可能と思われるので攻撃されたらなるべく避けつつ、自分の間合いに持ち込んで攻撃する
避けられない場合は野太刀で受けて強引に距離を詰める
心眼で此方の思考を読まれてるかのように避けられても慌てず、返しの弐の太刀で冷静に仕留める
「こんなものを扱っているからと言って、隙を作ると思いましたか?隙など作りません。でなければ、免許皆伝など貰えないのですよ」
ふらりと、着物の袖を揺らす。
真っ白な袖は夜の境内によく目立つ。故に、妖狐もない首をそちらに向ける。
ふと、月明かりが握られた刃を照らす。照り返しが、妖狐の首先を映した。
「あなたの怒り、無念、悔しさ。……私には分かりませんが、それでも怒りは覚えます」
あなたたちと同じように。御剣・神夜(桜花繚乱・f02570)は刀を握る手に力を込める。
「しかし、今出来ることはこれだけ」
蒼い視線を、薄らと向ける。
「本物の妖怪化生になる前に――あなたたちを止めましょう」
月明かりを受けて、刀身が煌めく。
「――ッ!!」
非常に長い刀身の太刀。大振りでありながら細やかに軌跡を翻す。
天武古砕流の剣術。卓越した技能から繰り出す一撃が、一匹、また一匹と妖狐を捉える。
心眼でさえ、避けることの敵わない正確無比の一撃。
「こんなものを扱っているからと言って、隙を作ると思いましたか?」
気配を消して、後方から迫っていた妖狐を、放たれた狐火ごと断ち切る。
広い間合いに、一足の詰め。
「隙など作りません。でなければ、免許皆伝など貰えないのですよ」
御霊を振り払うように、空を切る。
これで、最後。
蒼い瞳を閉じて。
「……安らかに」
そう、呟く。
気付けば空も白み始めて、やがて日の昇る頃。
戦いも漸く、終わりを告げようとしていた。
大成功
🔵🔵🔵
紅葉・華織
※アドリブ・連携歓迎
合戦なんて起きたら大事じゃん!? 止めに行くよ!
と、言っても私にできる事は唯一つ。
「――唯、寄って、斬る」
【UC:唯寄斬】で遠くから一気に接敵(ダッシュ5)、その最中に妖手裏剣【炎蛇】(誘導弾2,追跡1)と閃光手裏剣【煌刃】(目潰し2)を投げて、抜刀してすれ違う瞬間に敵を青白く輝く妖刀【月華】で一閃(鎧無視攻撃7)。
身の危険を感じたら(【UC:天性の超直感】)、【ジャンプ1】したり【スライディング1】したりで回避するつもりだよ!
「赤枝流剣術の初歩にして秘奥――見せてあげる!」
夜明けの間近な白み空。
町も目覚め始める頃に、剣閃が奔る。
踊るように閃く剣術。それを狙うように神通力が迫り、ぐるんと翻り避ける。斬撃は狐火をかき分け、一足に妖狐へと迫る。
「――唯、寄って、斬る」
それが、紅葉・華織(奇跡の武術少女/姉捜索中・f12932)に出来る唯一つのこと。
両足と空いた片手で着地する。爪が石畳を削るようにして、勢いを殺すと飛び跳ねるように地を蹴り上げる。
宙へと浮いた身体を捻り、妖狐の集団へと斬り込む。二重三重の斬撃は月明かりを照り返す僅かな瞬間だけ、目視が間に合う。
「っ!」
足元を攫うように打ち込まれた神通力を、消えかけの妖狐の尾を掴んで重心をずらす。
そのまま、肩から腰へ、順々に着地して、片腕を軸に飛び起きる。
「……あれで最後、かな」
社に鎮座した、妖狐へ視線を向ける。
妖狐も、身体を華織へ向けている。お互いに互いを、敵として認識している。
「――悪いけど、合戦が起ころうものならみんなが困るんだ。キミがいつしか、守ろうとした町のみんなが、ね」
化生へ堕ちた神体は、その言葉に何を思うだろうか。
首のない妖狐に、言葉は届くか。
否、伝わらなくてもよい。やることはただひとつだ。
華織は刀を構え直す。
「剣とは即ちただ寄って斬るのみ――」
そう、小さく呟いてから――目を見開く。
「赤枝流剣術の初歩にして秘奥――見せてあげる!」
刀身が、夜明けの日差しを浴びて輝く。
朝の日差しには、悪鬼羅刹を祓う力があるらしい。
その光が、どこまでも眩しいから。
眩い夜明けとともに、最後の妖狐が消滅する。
こうして、丑三つ時より続く戦いは幕を閉じる。
その背後に、更なる力を感じながら――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『狸大将』
|
POW : 怨魂菊一文字
【かつての己を岩戸へ封じた霊刀の居合抜き】が命中した対象を切断する。
SPD : 焔の盃
レベル×1個の【盃から燃え上がる狸火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ : 八百八狸大行進
レベル×5体の、小型の戦闘用【狸兵団】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「神月・瑞姫」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「憎しみに濡れた妖狐は、最後に何を思ったのかしら」
そんなものは戯言に過ぎない。それでも、思わずにはいられなかった。
夜明けの日差しから顔を逸らして、橘・ワセは話し始める。
「妖狐退治、ご苦労さま。少し人里に降りてしまったかもしれないけど、まぁ、気にしないで」
アテでもあるのか。それ以上のことは言わなかったが、心配させない物言いから、気にする必要はないと判断して。
「時間はかかったけど、問題ないわ。無事――間に合ったから」
その言葉とともに、社を覆う森が大きく揺れる。
地鳴りに近いそれは、しかしすぐに自然災害の類ではないと理解することが出来るだろう。
森を押し倒し、現れたのは大狸。
『おやおやァ。コイツはまた不可思議なコトで。狐さんらはどこに行ってしまいやしたかねぇ』
辺りを見回して、人の言葉を介する狸。足元には小狸を従え、その手には、長い太刀が握られている。
「あれが妖狐の首を跳ねた張本人かは、定かではないわ。……けれど、因縁があるのは確か」
ワセが言う。グリモアベース越しに、大狸をきっと睨む。
「放っておけば、狐を探しに町へ降りてしまうかもしれない。そうじゃなくても、化生どもの陣取り合戦の末よ。どちらにせよ、町へ被害が出るのは確実……なら、やるべきはひとつ」
ワセは猟兵たちへ向き直る。
「大将気取りの狸を倒しなさい。ここは人の世、人の世界。妖怪や化け物はお呼びじゃないの」
熱の籠った言葉で、猟兵を送り出す。
「さぁ、もう夜明け。お伽噺には帰ってもらう頃合いよ。――往きなさい」
サフィリアリス・エレクトラガント
妖怪合戦も大詰めですね
大将気取りの狸さんを倒しておしまいにいたしましょう
ええ、ここは人の世
ですから……夜明け前に決めましょう
使うユーベルコードは「美しい絆をお見せしますね」
ここは人の世……ですから、夜明けが来るまでは魔や妖がはびこっていても不思議じゃありません
魔や妖のいざこざは魔や妖にお任せを
【屈強で巨体な悪魔将軍】と【凶悪な魅了と魔術を持つ女淫魔将軍】の二人を召喚いたしまして。
存分に暴れてください
相手は妖怪、化け物の類です
あなた達の力を振るってこの妖怪合戦を終わらせてください
夜明けが来たら、人間の世に戻るのですから。
魔王であったものとしてのお仕事です。
「兵団のみなさん、仕事でやすぜ」
猟兵が現れるのを予期していたように、狸大将はそう告げる。
開戦の号令。
走り出す小狸は槍を、鉄砲を、猟兵へ向ける。
「出番ですよ。……さぁ、存分に暴れてください」
槍が、今まさにサフィリアリス・エレクトラガント(魔王様の仰せのままに・f13217)を貫かんとしたところを、黒い影が攻撃を弾く。
槍も、鉄砲も、その鎧を通ることはない。
「……おンや」
狸大将が眉をひそめる。
一目で、鎧の彼が強敵であることを見抜いたのだろう。
「ご紹介させてくださいね。こちら、悪魔将軍さん。私の自慢のお友だちですわ」
黒い鎧を纏った強靭な肉体の持ち主の横で、サフィリアリスはにこりを微笑む。
「カカ、将軍と来やしたか。これはまた……殺し甲斐のある」
それ以上の言葉は挟まず、視線のみで小狸たちに指示を送る。
力を計れ――、と。
命を受けた小狸が、悪魔将軍へと押し寄せる。
小狸同士が肩を貸し合い、大きく飛び跳ね槍を振りかざす。
地上の狸も、前衛と後衛に別れる。
大量の手数、様々な手段による攻撃が、一度に殺到する。
しかし、悪魔将軍は寡黙にその攻撃を、迫る小狸を見るばかり。
おそらく、彼の力であればすべての攻撃を受けてもそこに立っていられることだろう。
しかし、狸大将の目は値踏みするように悪魔将軍を睨んでいる。
「――面倒だ」
故に、悪魔将軍は剣を抜く。
鞘から抜き出すと同時、溢れ出る闇色のオーラ。
そして、その切っ先を――乱暴に振り下ろす。
ただ、それだけだった。
斬撃による衝撃波が、闇の力を持って大地を裂く。
圧倒的な攻撃の前に、抵抗さえできずに消滅する小狸。
そして衝撃波は、そのまま狸大将へと迫る――。
「――!」
鞘からほんの僅かに見せた刀身で、衝撃波を受け止める。
キン、という音とともに、刃をしまうと狸大将は口を開く。
「――道理で。しかし、力は知れやした」
瞑目し、居合を構える狸大将。しかし、それを遮ったのは悪魔将軍ではなく、サフィリアリスであった。
「……ふふ。えぇ、確かに、お強いようです。しかし、私のお友だちは――決して一人ではありませんわ」
「……」
狸大将が首を傾げる前に、彼の首横から腕が伸びる。
艶やかな潤いを感じる、その細腕。
首元に優しく絡んだ腕に次いで、耳元に吐息がかかる。
「――――――」
狸大将ですら、直前まで感じることの出来なかった気配。されど、強力な淫蕩の気。強い力を持つ淫魔の類であることは、容易に想像がつく。
そして、その一瞬の隙を突くように。
「――喰らえ」
衝撃波と、その後を追随する悪魔将軍が狸大将へと迫る。
「ヌゥ――!!」
太刀を抜き、叩きつけるように刃を放つ。
衝撃波は消し飛ばし――しかし、悪魔将軍の凶刃には一手足らず。
肩を深々と裂かれた狸大将は、一歩下がって呟く。
「……これが、猟兵でやしたか。成る程、あまり舐めてかかるのはよろしくない様子で」
大きな一撃を喰らいつつも、息を荒げるには至っていない。
それは強力な妖気の持ち主であり――オブリビオンであることを物語る。
「それでは、ここからは全霊でお相手つかまつりやしょうか」
視線は悪魔将軍の後方――サフィリアリスを射抜く。
それだけであった。
「――!」
狸火が、サフィリアリスの背で炸裂する。
寸でのところで直撃を免れるものの、二人の仲間の召喚が解除される。
「……やってくれますね」
「お互い様でありましょう」
そう、まだ闘いは始まったばかり。
――熾烈な闘いの幕が、夜明けとともに上がる。
大成功
🔵🔵🔵
ミク・シィナ
魔術はあまり得意ではありませんが。
折角新しいものを作りましたし、ここは試しにWIZ属性の滅びの光(コードジェネシス)を使ってみましょう。
八百八狸大行進、つまりは小さな狸さんたちの大行進でしょうか。
ふふ、お可愛いこと♪
それでは、片っ端から吹き飛ばして参りましょう☆
ついでに本体の狸さんまで攻撃が届けば御の字ですが、さて…。
服装は漆黒のゴシックドレス姿に漆黒のマントを羽織っております。
使用技能やその他装備品に関してはステータスシートをご参照にお願い致します。
※アドリブ、他の方との絡み、歓迎致します。
露霧・霞
ちょいと狐退治には間に合わなかったッスけど、狸狩りには間に合ったようッスね
にしても無駄に威厳だけはある狸ッスね。一丁前に刀までさげてるッスか
ちまちました小細工とかは性に合わないッスから、ドーンっと正面からぶつかるッスよ。武器の雪割に氷の力を乗せて、氷力刃舞で真っ向勝負ッス。何事もまずはぶつかるッスよ!
もし力負けしそうでも、一太刀でも浴びせられれば御の字ッス。その時は素直に後ろに下がって、他の人のサポート……狸兵団の相手でもしておくッス
にしても腹黒そうな顔してるッスねぇ……こういう腹芸の得意そうなやつは苦手ッスよ。力任せにドーンってのが通じればいいッスけど。
アドリブ、他の人との絡み等歓迎ッスよ
「ふふ、お可愛いこと」
小さく笑って見せてから、ミク・シィナ(漆黒の令嬢・f03233)は奥の狸大将を見据える。
「世に言う八百八狸、つまりは狸さんたちの大行進でしょうか?」
「そんな可愛いモンだといいんスけどね」
ゴシックのドレスの後ろで、露霧・霞(あたしってば最高ッスよ・f00597)は苦笑いを浮かべる。
「あんま舐めてかかると痛い目見そうッスね。奴さん、先の一撃で本気のようですし」
「えぇ。けれど私たちのやることに変わりはありません」
微笑みながら、しかしミクはきっぱりと言い放つ。
その姿に、霞も苦笑いが本当の笑みに切り替わる。
「……そッスね。そりゃそうだ。さて!狐退治には間に合わなかったッスけど、狸退治はキッチリこなすッスよ!」
「狐退治、でありやすか……?」
その言葉に、狸大将が耳をピクリと動かす。
「ということは、やはりあんたさん方がここの狐を?」
「?……えぇ。それが何か?」
あたしはいなかったッスけどね!と言う霞の言葉まで届いたかは定かではないが、その言葉に狸大将は笑う。
「……カカ。なるほど、そうでやしたか。あんたさん方が……あぁ」
ふと、笑みを止めて。
「――よくもやりやがったな」
「――――」
朝靄に煙る空気が、一層と冷たくなるように感じた。
自然と、身体がこわばるのを感じる。拳を、うっ血するぐらい握ってしまう。
そしてそれ以上、狸大将が何かを語ることはない。
代わりに、小狸の兵団がぞろろと現れる。
彼らの目も、どこか先ほどよりも凶暴な熱を帯びているように感じる。
「……あたしが突撃するッス。ミクさんは援護を!」
「えぇ。分かりました」
少し真剣そうに答えて、ミクは魔術を展開する。
接近戦を主体とする彼女にとって魔術はあまり得意ではないものの、えり好みをする場面ではない。
「終焉を、今、あなたに捧げましょう」
滅びゆく者達へと告げる言葉を契機に、闇属性のビームが小狸たちへと殺到する。
黒い流星群の如く、空を覆い降り注ぐ光線が小狸を蹴散らす。全てとはいかないものの、その合間を縫うように霞が駆ける。
「この一撃は痛いッスよ! 歯食いしばれッス!」
こちらは氷の魔力を帯びた薙刀を構える。野山を駆ける野犬のように、鋭く獰猛な一撃を放つ。
しかし。
「――甘い」
気付けば、太刀が振られた後。鞘から抜いたところを、目視すらできない。
薙刀に対抗する、居合の一撃。それは刃越しに、霞の腕に強打をかける。
「――――ッ!」
「離れてください――な!」
弾かれるがまま、翻り着地する。そこへ、今度はミクの光線が飛来する。
手数では圧倒的に勝る。幾重の流星が如き光線をしかし、銀閃が駆け巡る。
「足りぬわ」
言葉とともに、太刀を鞘にしまう狸大将。キン、と鍔を鳴らせば、たちまち光線が切り裂かれ、霧散してゆく。
「そこッス!」
痺れる腕で、生まれた隙を文字通り突く。
「……!」
再び、そのまま太刀を抜こうとする狸大将だが、それは失敗に終わる。
飛びかかった霞の足が、柄の底を叩いたからだ。
小さな身体から放つ、ささやかな抵抗。狸大将の怪力を持ってすれば、些細なこと。
しかし、こと卓越した技能から放たれる一撃に関して、ほんの少しの力の誤算が命取りになることもある。
故に、狸大将の居合斬りは一歩遅れる。その一瞬を突いて、薙刀が狸大将を掠めていく。
「――やるじゃねぇか、猟兵」
居合の薙ぎ払いで霞と吹き飛ばすと、頬を拭う。頬に小さく氷の痕跡を残して、しかしそれだけであった。
「だが儂を倒すのは、まだ足りぬ」
「く――」
狸大将の鋭い瞳が、二人を突き刺す。その殺気は太刀の一撃に並ぶほどに、重く冷たい。
「足りぬのだ」
大狸は、未だなお圧倒的な存在感を放ち、猟兵を追い詰める。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジェイ・ドゥ
あぁ、俺も。化け狸は嫌いだよ
(表情は変わらないが、代わりに尻尾がよく動く)
炎には炎を
狸火には己のフォックスファイアで相殺するように
山に火が落ちる前に撃ち落としてやらねば
ちょこまか出てくるちび狸もついでに燃やしておこうか
【おびき寄せ】で狸大将に近付くことが出来れば
俺の友(からくり人形)で背後から抱き締めるように操る
じりじりと、包み込んで
強くキツく、離さんとす
其の力は徐々に強まって
最後は抱き潰してやろう
残念ながら、ひと思いには殺してやらないさ。
戦舞台に吹く風が、尻尾を揺らがせる。
そのまま、突き通った風が次に揺するのは――炎。
「化け狸は嫌いだよ」
ジェイ・ドゥ(哭声・f01196)が吐き捨てるように呟くと、その狐火は大きく膨らむ。
酸素を受けてか、或いは感情に揺らいだか。
「儂らこそ、狐は好かぬ」
前衛の小狸の兵士が燃えて消滅するのを、炎越しに狸大将が睨み付ける。
お互い、無表情も相まって目つきの悪い睨み合い。
先に動いたのは、狸大将だった。
「フン――ッ!!」
小狸をけしかけ、本人も盃を構える。
一匹一匹が小さいものの、大群で押し寄せるその様は浮世絵の大波を連想させる。何より、込められた殺気が、ジェイを威圧する。
「面白い――」
因縁の戦いというものを引き継いで、ジェイは真向から受けて立つ。
戦いは過酷を極める。
「――――――」
一人で、並み居る小狸を蹴散らし続ける。一匹一匹こそ脆いものの、手数の面で圧倒的に不利。
それに加え――。
「狸ジジイめ……」
「それで終わりか、猟兵」
狸大将は、片手の盃をゆらりと揺らす。
すると、その水面にクラウンのように、浮き上がった酒が炎を象る。
狐火ならぬ、狸火。
それが、裏手の森に引火しないよう、狐火を当てての相殺を続けているのだ。
足りない手数を、さらに守りへ裂く。
「……憐れですな。所詮は狐といったところでありやしょう」
「何故、森を燃やそうとした」
苦しい戦況の中で、ジェイが訊ねる。狸大将はそれに口角を釣り上げて応える。
「そりゃ、当然でありやす。ここいらの土地を守る狐さんは、もう居りやせん。故に、不戦勝であっしらの土地という話です。……あっしらの土地なら、何しようがあっしらの自由。そうでしょう」
さも当然といった口ぶり。ジェイの手数を削る為に、最も効率的な手段に、放火を思いつくおぞましさ。
最後に、人里を一瞥したのを見て、ジェイは確信する。
彼のいう土地というものに、人里が含まれていること。
「――やはり、物の怪は物の怪か」
狸大将へと向き直る。その片手のひらに、狐火を乗せて。
このままでは埒が明かない。故にこそ――。
「……一撃、ブチかます」
「やれるものならやってみろ、若造」
狸大将が、盃を下ろして鞘に手をかける。そのまま、一歩。また一歩と、ジェイへ近づく。
居合斬りの間合いに、ジェイを捉えるために。
「――ここだ」
間合いに入る直前で、ジェイが腕を伸ばす。その行動に、立ち止まり様子を見ようとする狸大将。
しかし、それが仇となる。
「むっ……!」
背後から、何者かに飛びつかれる。一切の殺気なく近づいたそれは、ジェイの操る絡繰。
「ひと思いには殺してやらないさ、思う存分苦しめ」
その隙を突いて、潜り込むように接近。そのまま、殴りかかるように手の狐火を叩き込み――。
「その程度か――小癪なァ!」
「――!」
じりじりと締め潰さんとした絡繰り人形から、単純な膂力だけで逃れる。そのまま、鞘ごと太刀を叩きつける。
「ぐ、――!!」
「狐風情が……儂を舐めるな」
強かな打撃が、ジェイの胴を直撃する。
それでも――。
「……化け狸め。化かし合いはこっちが上だ」
「――――」
もう片手に携えた、小さな狐の種火。
置き土産と言わんばかりに膨らんだ狐火は、狸大将の確かな隙を突いて、大きく吹き飛ばした。
大成功
🔵🔵🔵
フェム・ポー
うふふ。うふふふふっ。ええ、そうねぇ。ここにはぁ、『化け物』はお呼びじゃないわねぇ。
あの狸のオブリビオンちゃんも早く『救って』あげてぇ、終わりにしてしまいましょうねぇ?
UCを使ってぇ、大きな人達(普通の人間)とぉ、同じサイズに変化してぇ、聖者の聖なる光が反転した生命力吸収の闇の光を纏った状態に変身するわぁ。攻撃には《吸命の邪光》とぉ、《縛虐の呪鎖》を使うわぁ。
あらぁ? 親分さんだけじゃ無くてぇ、狸の兵隊さんもぉ、フェムに『救って』欲しいのかしらぁ?
うふふ。いいわぁ。フェムのところに、おいでぇ?
イタイのも、クルシイのも、カナシイのも、全部、ぜぇんぶ、フェムが受け止めてあげるわぁ。
ソプラノの軽やかな笑い声が響く。
「うふふ、うふふふふっ」
憎しみの妖狐と戦ったときと同じように、フェム・ポー(聖者の残骸・f12138)は絶やすことなく慈母の笑みを浮かべる。
しかし、あの時とは一つ決定的に違うところがある。
それは、身体のサイズ。
小さな妖精の背丈だったものが、闇の光の力を帯びて一般的な人間ほどのサイズで顕現している。
「アナタたちもぉ、救ってあげる。狐さんたちみたいに、ね」
あぁ、でも。と、フェムは辺りを見回す。
遠く吹き飛ばされた狸大将は、流石に対象外である。
「……仕方ないけどぉ、あっちは他のみんなに任せるかしらぁ」
などと呟くフェムの無防備な背中を、小狸たちが狙わない筈もなく。
槍先が、銃口が、フェムを狙う。
けれど……。
「――うふふ」
ぞわり。
距離など関係ない。その場にいた全ての小狸が、一瞬固まる。
何かおぞましい、殺気さえ生ぬるいような、何か強いオーラを感じる。
「そういえばぁ、狸さんたち。あの狐さんたちを狙ってたのよねぇ?」
フェムは笑みを絶やさない。
ふと、フェムの身体の刻印が、妖しく光る。光を帯びたそれは、見る者に怖気を与える。
その真実は、生命力の吸収。赤く脈動するように光る刻印は、ごくりごくりと命をすいとる。
急激な生命力の吸収に、小狸たちは武器を構えるどころか、手に持つことさえままならなくなってゆく。やがて、立っていることさえ困難になり、膝をつく。
小狸たちが最期に見るのは、狸大将の顔などではない。
狸大将の元いた場所に立つフェムの、慈しみ深き笑み。
「いけない、それはいけないわぁ。狐さんたちを狙うなんて」
フェムは、小狸の最期を笑顔で迎え入れる。
「だって――救うのはフェムの役目なのに」
その笑みの奥に、何があっても。
大成功
🔵🔵🔵
御剣・神夜
おやおや、随分と尊大な狸ですねぇ
まぁ、貴方が狐の首を切った犯人であれ、違うのであれ、人の世に仇なすというのなら、我々があなたを狩り取りましょう
怨魂菊一文字は野太刀で受け止めるか、攻撃して相殺、もしくは重量を生かした一撃で押し切る
焔の盃は野太刀で斬り払うか、避けるかしながら間合いを詰めて自分の間合いで勝負する
狸兵団を召喚されたら邪魔にならないのであればあまり相手にしないが、亜あまりに邪魔されるのであれば、野太刀を振り払って蹴散らす
「狸と狐は犬猿の仲とは言いませんが、よく比較はされます。それでも、貴方のやったことは褒められる事ではありません。それ相応の対価、払って貰いましょうか」
風を切り裂くように、瞬く一閃が煌めく。
「ハァ――っ!!」
御剣・神夜(桜花繚乱・f02570)の、型に沿った滑らかで迷いのない一撃が、狸大将の首を掠めていく。
足取りも、刃のなぞる道筋も、今日は調子がいい。
「――あっしも歳ですかい、ねぇ」
対する狸大将は、最初よりも少し動きが鈍くなっていた。ここまでに蓄積したダメージが響いているのか。或いは、彼の言う通り老いから来るものか。
どちらにせよ、神夜にはたいして関係のないこと。
「ひとつ、お聞きしますけど」
と、神夜が口を開く。野太刀の切っ先は下げているものの、手は添えたままいつでも攻撃できるように。
「狐の首を盗ったのは、あなたですか?」
その言葉に、狸大将は眉をひそめる。
かと思えば、小さく吹き出して笑って、ひどく残酷な表情を浮かべて告げる。
「……それに、何か不都合でも?」
「――分かりました。もう十分です」
一瞬にして、再び距離をつめる。
「それ相応の対価、払って貰いましょう」
「抜かすな、小娘」
速攻で距離を詰めたにも関わらず、攻撃は狸大将のほうが早かった。
神速の居合、今までも他の猟兵たちを苦しめてきた一撃をしかし、神夜は太刀で受け止める。
「――――!」
刃越しの強打。得物ごと手首を叩き折るような一撃をしかし、先読みしていた神夜は一瞬、野太刀を握る手を緩めることで上手く衝撃を受け流す。
そして、居合の弱点たる攻撃後の無防備を狙う好機を、逃すことはない。
「――そこです!」
「甘いわッ!!」
狸火が、二人の合間に現れる。目くらましではない、ひとつのカウンターとして組まれた狸大将の戦略。
無策で飛び込めば当然、無傷では済まされない。
「なら、乗った!」
「な――――!?」
ここで初めて、狸大将が驚愕を浮かべる。
なんと、狸火に構わず突撃したのだ。
「あ、阿呆め――、ッ!?」
数瞬後には、火だるまになった神夜が地面を這う。そういう筋書きだった。
しかしそれは、振り下ろされた野太刀の一撃が狸火を斬り払ったことによりご破算となる。
「……阿呆はあなたです。戦いに驕るなど、見た目通り随分と尊大なものだ」
切り返した野太刀が、本来の標的である狸大将へと向く。
対応しようと霊刀を向け直すも、一歩遅い。
「――天武古砕奥義、流走!!」
刀による斬撃が、地面を抉る。
石畳が大きく抉れる様は、竜の爪痕のように――。
大成功
🔵🔵🔵
蛇神・咲優
タヌキさんたちを町へ行かせるわけにはいかない
(―――おねがいね、光景)
光景に手を添え目立たないように忍び足で近づく
そのままUCで足止めするべく捉えられるだけの狸達を出来る限り足止め
狸火で溶かされたとしても時間や隙が出来るはず、そこを2回攻撃
反撃がきても素早く動き残像で躱せたら躱す
ダメなら激痛耐性で耐える
『タヌキさんは昔話で聞くワルヂエはたらくタヌキさんなのかな?
キツネさんの首―――タヌキさんがやったの?それとも別の人?』
(カンケイなくてコウテキシュってヤツで首がなくても戦いたかったとか…だったのかな?)
思考を巡らせては傷目掛けて
傷口をえぐるべく篤光を強く握る
※アドリブ・台詞改変・連携歓迎
紅葉・華織
※アドリブ・連携歓迎
今度の相手は狸さんかぁ。
と言っても、私にできる事はやっぱり寄って斬るという事だけ。
妖手裏剣【炎蛇】(誘導弾2,追跡1)と閃光手裏剣【煌刃】(目潰し2)を囮にして【UC:唯寄斬(SPD)】で遠くから一気に接敵(ダッシュ5)、抜刀してすれ違う瞬間に敵を青白く輝く妖刀【月華】で一閃(鎧無視攻撃7)。
回避は勘かな。(【UC:天性の超直感】)駆けたり跳んだり(スライディング1,ジャンプ1)……いつもの事だけど。
「【寄って斬る】と心の中で思ったなら、その時既に【寄って斬り】終わっている――それこそ、唯寄斬の神髄……見せてあげるよ!」
苛烈な攻撃を受けてもまだ、狸大将は膝をつかない。
「――全く、しぶといな」
砂埃の舞う風の先で、紅葉・華織(奇跡の武術少女/姉捜索中・f12932)が呟く。
見れば石畳の境内は、妖狐との戦いも併せてだいぶボロボロになっている。森も、延焼こそしていないものの枯れ葉の先が少し焦げているようにも見える。
火の粉が足元に落ちれば、腐葉土のような落葉の床が燃え盛っていたかもしれない。
蛇神・咲優(迷子奇譚・f05029)は猟兵とオブリビオンの戦いの痕跡を一瞥すると、狸大将へと向き直る。気弱そうな顔はしかし、ここで止めなければいけないという決意の熱を持っている。
「タヌキさんたちを町へ行かせるわけにはいかない」
本来の目的であったところの妖狐がもういない以上、次に手を出すとすれば人里であろう。
それを許すわけにはいかない。
「成る程、なるほど……これが猟兵。その本気か。……儂がここまで追い詰められるとはの」
傷は多い。それでも、仁王立ちをして猟兵の前に立ちはだかる狸大将はまだ、折れていない。
「良かろう、命をかけて貴様らと渡り合おう。――覚悟はいいか」
応えるまでもない。
二つの手裏剣を飛ばし、華織もまたその後を追うように突撃する。
「効かぬ」
一度の居合斬りがその二つをいともたやすく撃墜するのを見て、しかし華織が足を緩めることはない。
一気に距離を詰め、懐まで潜り込む。
「せい――ッ!!」
青白い軌跡を描く斬り上げと、狸大将の霊刀が激突する。
激しい鍔迫り合い。狸大将が負傷しているとはいえ、その膂力は未だ衰えない。
「――――――!!」
甲高い音とともに、お互いを弾き合う。そのまま、両者ともに数歩下がる。
「――今っ」
ふと、狸大将のすぐ後ろで、幼い声が響く。気配を殺して忍び寄っていた、咲優のものだ。
「小癪な――」
切り返しを狙うように、振り向きざまに横の一閃を繰り出す。
それを咲優が、小柄な身体を丸めて回避する。
大振りの一閃の後、僅かな硬直にすかさず光景を構える。
繊細な、それでいて鋭い二撃の剣撃。一撃は肩を、もう一撃は横腹を穿つ。
けれど、それで怯むでは大将を名乗れない。無理矢理に構え直した刀を、乱雑に振りかざす。
「ぁ――――」
「ッ、――危ない!!」
間一髪で、華織が刀で受ける。カバーには間に合ったものの、無理に横入りしたせいか手首にひどい激痛が走る。
「ぐ――!!」
「今だ、者どもかかれェ!!」
狸大将の声に、今再び小狸の兵団が現れる。
一度消滅したせいで数こそあまり揃っていないが、それでもこの状況を畳み込むのには十分な戦力だ。
「マズい――!」
その時だった。
「―――おねがい、光景」
幼い、鈴のような声とともに、冷気が満ち溢れる。
「これ以上、傷つけられないように」
咲優の持つ刀の、真の力。絶対零度の剣。
庇われる形で丸まった咲優の刀からあふれ出た冷気は、瞬く間に小狸を呑み込む。
「よ、よくも――!!」
激高する親玉の声。
しかし、その声さえも切り裂くような一撃が抜かれる。
「――っ」
手首の痛みがなんだ。
少女が作ってくれた隙を、逃すわけにはいかない。
「思い知れ、唯寄斬の神髄……!!」
夜明け雲さえ穿つような、鋭い一撃が狸大将を貫く――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
パーム・アンテルシオ
人の世界、か。
そうだね。妖の居るべき時は、もう終わった。
ここはヒトの世。ヒトの時代。影に生きる者は…影に帰る時。
…九ツ不思議、殺生石。
あまり使いたくないものなんだけど。
あなた達を相手にするのなら。きっと、これが一番だから。
さぁ、おいて。望みとあれば、抱きしめてあげるよ。
その槍も、刀も、爪も牙も。
私は全てを受け入れる。あなた達の全てを。
だから…それで満足してくれないかな。ここを、最後にして。
黒炎に溺れて。溶けてしまって。消えてしまおう。
形も、恨みも、無念も、全て残さず。
それがきっと、この世界のため。
この技は、たしかに傷を減らすけど。所詮、軽減。
けど…それを受け止めるのも、私の役目だと思ったから。
曙を過ぎて。
既に白む空も青に染まりつつある頃のこと。
石畳の階段を越えた神社の境内には、白い吐息を吐く大狸の姿があった。
既に小狸を呼び寄せる力は尽きていた。呼吸を乱し、ところどころから血を噴き出す。
ようやく膝をついた彼はしかし、ぎろり凶暴な視線を向ける。
大将の瞳ではない。
獣の瞳だ。
「妖の居るべき時は、もう終わりだよ」
鈴の音がしゃりん、と響いたような気がした。
パーム・アンテルシオ(桃色無双・f06758)は、彼の正面に立つ。
後ろは階段で、ここを通せば人里までは一本道。
その道に立ち塞がるように、道を阻む。元より猟兵を残したままこの戦場を後にすることは狸大将は好まないだろうが、それでも、ここに立つことそれ自体に意味がある。
狸大将が口を開く。
「……妖狐、か?」
「うん。あなた達が嫌ってやまない、小さな狐さ」
コンコン。指を組んで、狐の形。
「……あんた方の、せいだ」
狸大将が、低い声で語り始める。
「昔のことだ。妖狐の一族との権力争いに負けた儂ら狸は、そのまま時代に淘汰された……。ずっとずっと、負けたことを悔やんで――そして蘇った」
霊刀を持つ手に、力が篭る。
「あぁ、そうさ。妖が世を張る時代なんざ、もう二度と訪れない。けどなぁ、蘇ったこの身体は復讐の熱にうなされて止まねぇんだ……今度こそ、狸の天下を取るまで――この苦しみから逃れられねぇんだ……!!」
「…………」
独白に、パームは静かに耳を傾ける。
事情を知れば、手心が加わってしまうかもしれない。
けれど、聞かざるを得ない。
――だって、事情も知らず戦うなんてそんなこと、したくないから。
狸大将が刀を構える。
「……人違いなのは重々承知。しかし、武将故にあっしは貴様ら殺さにゃ腹の虫が収まらんのです。……恨むなら、祖先を恨め」
「……そう」
ひとつ、白い吐息とともに、パームはその桃色の袖を揺らす。
「――九ツ不思議、殺生石」
衣を翻す。
そこには、パームの姿はなく。代わりに、半結晶体の妖狐がいた。
否、それはパームに他ならず。首のある狐は世界に溶けたような姿を現して、その周囲には黒い狐火が舞う。
『なら、私は全てを受け入れる。刀も、炎も、怒りも憎しみも。だから……それで満足してくれないかな』
妖狐の姿をしてまで、苦く微笑んだのが分かる声と、言葉。
「――あぁ」
刀を構えて、狸大将が言う。
「……まこと、敵いませんわぁ」
やがて、神社の境内に黒い炎が上がったことで、この戦いは決着を迎える。
ここはヒトの世。ヒトの時代。影に生きる者は……そうして影に帰っていった。
しばらく後。大の字で冷たい石畳に転がるパームは、空を見上げる。
傷だらけの手のひらがとても痛かったけど、昇る太陽に手を伸ばす。
こうして、妖怪合戦は幕を閉じた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『今宵は夜宴の時なり』
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POW : 豪快に一気食いや一気飲みに挑戦する。もしくは美味しいお酒や食べ物に舌鼓を打つなど
SPD : 素早く一気食いや一気飲みに挑戦する。もしくは皆の前で芸を披露するなど
WIZ : 賢く一気食いや一気飲みに挑戦する。もしくは月や星を眺めて風流に浸るなど
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
【プレイング受付は2/12を予定しております】
陽が昇り、活気づく町を眺めていれば、夜が来るのは早かった。
陽が暮れて、尚も賑わうのには理由があった。
「合戦が終われば、待っているのは宴よ」
丑三つ時の頃、グリモア猟兵が告げた言葉だ。
戦いを終えた猟兵を讃えるように、祭囃子が響き渡る。
鍋が用意されてるとのことだったが、それ以外にも食べ物や酒が揃っている様子。
さあ、今夜は無礼講。
たっぷり飲んで騒いで、それから少し、感傷に浸るのも悪くない。そんな月明かりの宴がやってきた。
ソアラ・グスタヴソン
【SPD】サムライエンパイヤには馴染みがないやもしれぬが、自前の馬頭琴(モリンホール)の腕を見せてみようと思うのじゃ。
音楽は世界が違えど通じ合えると思うのじゃよ。
柔らかな調べで宴に彩りが添えられたらよいのだかのう。
ひとつ、弦を弾く音が響く。
夜を迎えた町はしかし、今日ばかりは提灯の灯りが賑わう。
暖かい光。雪こそ降らず積もらずの宴会席だが、それでも寒空に変わりはない。
町民もみな、少し寒さに身を震わせながら、故にこそ酒を流し込む。
「……んん。お嬢さんや、そいつは一体なんだい?」
ふと、町民の一人が訊ねると、少女は暖かく笑う。
「これか?これは、馬頭琴(モリンホール)という。サムライエンパイアには馴染みがないかもしれぬが……なに」
ソアラ・グスタヴソン(サムライブレイドの波紋・f04138)は言葉を区切って、一度弦を弾く。
「きっと気に入るじゃろう」
暖光に彩られた宴会席は、音楽によってさらに彩りを増していく。
しばらくもすれば、ソアラの周りには人だかりが出来ることだろう。
「これは……三味線の仲間か?いやしかし、音が全く違う……」
ある男が呟く。
彼の言う通り、形こそ三味線に似ているものの、音の観点で見れば似て非なるものであることは明確。
国柄も違えばそもそも、演奏方法が違うのだ。三味線が弦を文字通り『はじく』ものであるとすれば、馬頭琴は『ひく』という表現が適切。
その独特な低い長音が、祭りの喧騒に程よく溶ける。
「はははっ……」
演奏をしながら、ソアラが笑う。今は歌も間奏の最中。
間奏さえ彩るように、彼女は呟く。
「音楽は、世界が違えど通じ合えるものじゃ」
だからこそ、演奏を用意した。
ここで歌おうと思った。
「……さぁ。最後まで楽しんで行っておくれ。柔らかな調べで宴に彩りが添えてしんぜよう」
だって、まだ祭りは始まったばかりなのだから。
馬頭琴の音色は、少しの休憩を挟みながらも宴の終わるその直前まで響き渡っていた。
大成功
🔵🔵🔵
御剣・神夜
WIZ行動
月を眺め、星を見ながら飲む。
これも贅沢なお酒ですねぇ。わいわい騒ぐのも良いですが、偶にはこういうのもいいでしょう。
月と星を肴に月見酒。と行きましょう
月と星を眺めながらのんびりと盃に注いだお酒を飲みます
「冬の日は寒いですが空気が澄んでいるので月と星が綺麗に見えますねぇ。」
お酒を飲みながら夜空を眺め、首を斬られた狐の神様様にもう一個、盃をもらったお酒を入れておきます
「これで収まるとは思いませんが、少しは怒りが和らぎますように」
遠弾きの音色を聞きながら、御剣・神夜(桜花繚乱・f02570)は一息つく。
白い吐息は、朝方と同じく。けれど、匂いだけはどこか違く思える。
「偶には、こういうのも悪くないですね」
盃に注いだ酒を手に、小さく呟く。
喧騒から少し離れた、空いた長屋の縁側に座る。
ここからでも、祭りの中心部はよく見える。提灯の灯りが、彼らを照らすから。
けれど、それでも月や星の光をおびやかすことはない。彼らもまた、光り輝いてそこにある。
「少し、贅沢なお酒ですね。……少し冷えますけど、空気も澄んでいる」
綺麗だな、という独り言とともに、少しだけ微笑む。
盃の水面に月が映り、傾ければ今度は自分の蒼い瞳が映る。
「ほぅ」
お酒は適量。それでも、冷える夜を凌げるくらい、身体が暖まる。
「あぁ、そうだ」
思い出したように、縁側の隣席へと視線を向ける。
そこにあるのは、小さな盃。例えばそう、お供えもの向けの。
ふと、夜風が吹けば小さな盃の水面が揺れる。神夜の髪もまた、風が撫でていく。
「これで、少しは怒りが和らぎますように」
狐の神様への盃を眺めて微笑み、そして自分も盃を小さく揺らした。
大成功
🔵🔵🔵
パーム・アンテルシオ
宴、お祭り、かぁ…
…今は、もうちょっとだけ、一人で居たい気もするけど…
でも…そうだね。人は、お祭りが大好きだから。
私も、ヒトであるなら…参加しなくちゃね。
…って、い、一気食い?一気飲み?ゆっくり食べてちゃダメなの?
いや…うん、そうだった…参加、しなくちゃね…
●POW
やると決めた以上、がっつり食べるよ。明日のお腹が少し心配だけど。
ええっと、さすがにお酒は避けるけど…あ、甘酒?そっか、それもアリか…
…うん、期待されてるなら、チャレンジしてみるのも吝かではない、かな。
甘酒は飲んだことないし、一気食いなんてのも、したことはないんだけど…
…最低限、吐いたりとか、こぼしたりとか、しないように気をつけるね…
一方、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は危機に瀕していた。
「えぇ……?」
眼前に並ぶは大量の宴会料理。刺身の舟盛りや、つみれの入った特大の鍋。その横にはドデカい蟹が一杯丸ごと乗せられた皿が。
その他にも、炊き込みご飯やそば。様々な種類の天ぷらなどなど、手広いラインナップの料理がずらりと並んでいる。
見るに鮮やか。嗅ぐにかぐわしく。では、味はいかほどかとパームが興味をそそられたところで、ひとりの男が言い放った。
「行くぞ、野郎ども!!食って飲んで騒ぐ、一気食いの始まりだぁぁぁあああ!!」
かくして、場は既に『勢いよく食べる』ことがマナーになりつつある雰囲気。
ついでに言えば、自分の分を小皿に摂ろうとしたところ、皿がどこかに流されていくわ、大皿に盛り付けられた料理が流れてくる始末。
「悪いな。ここの連中はそういうのが好きでな、だが他所の、女子供にまで流儀を押し付けることはねぇさ」
パームの姿に目が留まったのか、町民の男が声をかける。
「好きに食いな!宴ってのはそういうモンだ」
背中をばしばしと叩く勢いで笑う男。
「……ふうん。みんな、好きなんだ」
小さく、考える様な素振りを見せてから。
「じゃあ、やる。やったこと、ないけど」
その答えに、男は快活な笑みを浮かべる。
「……はっはっは!いい、なかなか根性のあるお嬢ちゃんじゃないか」
見渡せば、その言葉に反応したのか周囲から期待の眼差しが向けられる。
期待されたとあっては、応えないわけにはいかない。
「……見られながら食べるのも、一気食いも、得意じゃないけど、うん」
小さく頷くと、箸へと手を伸ばした。
一気食いとはいえ、最低限のマナーは必要で。
パームの場合、その小さい口で食べられる量には限界があった。
それでも、こぼさない範囲で勢いよく食べる様に、町民もみな大喜びだった。
「……ふぅ」
少し苦しくなりながら、少し宴会席から離れた場所で、いただいた甘酒を手に一足先に食休みに入る。
既に食べ過ぎもあって身体は温かいが、甘酒は心をほんのり温めてくれる。
「こういうのも、悪くない、かな」
風に揺られるでもなく、尾を揺らす。
人の祭り。その温かさに触れて、ひとり思う。
少し大変だったけど。
それでも、参加してよかったな、と。
「――あぁ」
真っ白な吐息をひとつ。
――甘酒の水面に、月は映らない。
大成功
🔵🔵🔵
露霧・霞
一仕事終えたッスし、おなかいっぱいご飯を食べるッスよ!
(育ち盛りだがそんな大量に食べられるわけではない)
お酒を飲んでる人っていっぱいいるッスけど、お酒って美味しいッスかね?
(匂いだけかがせてもらい、アルコールの匂いに顔をしかめる)
んー……なんだか変なにおいッスね
あたしは普通にご飯だけでいいッス。おじさーん、こっちにおうどん欲しいッス!
(手をぶんぶんと振ってアピールし)
まだまだ寒いッスからね。あったかいものが美味しいッス
一気食いは消化に悪いッスよー。のんびりとご飯を食べるッス
あちあち(猫舌)
しっかり冷まさないと、火傷しちゃいそうッス
アレンジ可、他の人との絡みも歓迎ッス
「ねぇねぇ、お酒って美味しいんスか?」
町民の一人に、のぞき込むようにして露霧・霞(あたしってば最高ッスよ・f00597)は訊ねる。
「はは!あと10年もすれば分かるさ」
「む、あたしはそんなに子供じゃないんスけど……」
言葉に対してか、漂う酒の匂いに対してか。
むっとした表情をしてから、しかし新しく運ばれてきた料理が目に入ると、すぐさまキラキラと瞳を輝かせる。
「あ、おじさーん、こっちにおうどん欲しいッス!」
「ほーい、まいど!元気なお嬢ちゃんだ、揚げを一つおまけしてやらぁ!」
やったー、と大喜びでうどんを手に取る。
「あちちっ」
そのまま口に運べば、まだ熱かったのか少し悶えて。ふうふうと冷まして、改めていただく。
まだ寒い夜風の吹く宴会席で、子供が身体を温める手段は温かい汁物に限られる。
「おいおい、あんまりがっついてこぼすなよ」
「だいじょーぶッス!それに、一気食いは消化に悪いんスよ?」
ずぞぞ、と麺をすすりながら、酒飲み連中をじとっと睨む。
そうして町民と仲良くしていると、不思議とモノが集まってくる。
背格好故か、気付けば母性を刺激されたほろ酔いの奥様方に囲まれていることとなる。
「はーい、甘酒。お酒じゃないから、大丈夫よね」
「あっはっはぁ!お酒でも大丈夫よぉ、アタシなんて乳飲み子の頃から~~」
「はぁい、天ぷらあげちゃう!おうどん食べ足りなければよそってくるわよ?」
たくさんの人とモノに囲まれて、酒も飲んでないのに人酔いしてしまいそうになりながらも、天ぷらうどんや甘酒を手にする。
温かいどころか、暑いくらいだ。
「…………うん」
火傷しそうなぐらい、温かい。
でも、それぐらいがちょうどいい。
大成功
🔵🔵🔵
白雪・小夜
【WIZ】交流不要
この世界の方々は割と騒がしい事が好きよね。
私も見てる分にはいいかしら、見てる分にはね。
まぁ私は人気の少ないところで月や星を眺めているわ。
月なんて…昔はただ生きる糧というか…そんな感じで…
柵窓の外の月を見る度に「今日も生き延びる事が出来た」と思っていた頃もあったわ
今はまぁボーッと眺めるだけでも心が落ち着くのだけれど。
さて、人も多くなってきたから帰ろうかしら。
私は多勢や人混みが苦手なの。
月下の境内に、白鷺のような白い人影。
ほう、と白い吐息をはいて、白雪・小夜(雪は狂い斬る・f14079)は石階段に腰掛ける。
背後にある神社の境内は激しく損傷しており、眼下に広がる祭りの騒ぎとは対照の雰囲気を醸し出している。
壊れた神社。廃した信仰。
「気楽なものね」
ぽつりと呟く。人混みを嫌いながらも、見てる分には楽しいようだ。
無表情の裏に温和の心を潜めながら、空に浮かぶ月に視線を移した。
「……こうして眺める月も、あまり悪くないわね」
いつも見ていたはずの月なのに、不思議といつもと違うものに見える。
そう見えてしまうのは、境遇の変化のせいか。はたまた祭囃子が聞こえるからか。
――或いは、どちらとも。
手持無沙汰の小夜の手元には、酒や料理の類は勿論ながら無い。それでも、どこか絵になる様なのは、その風貌からか。
当人もそれでいいらしく、月を眺めて落ち着いた時間を過ごす。
太鼓の音と、闇夜を照らす提灯の灯り。
人里から少し離れたこの場所でも、その存在感は確かなものだった。
「……この世界の方々は割と騒がしい事が好きよね」
ため息がまた、白く煙る。
そして、静かに立ち上がる。祭囃子から抜け出して、誰かがこちらに来るのを感じ取ったからだ。
「じゃあね」
最後に、壊れた神社に言葉を残して、雪色の着物をはためかせる。
気付けばもう、そこに彼女はいなかった。
大成功
🔵🔵🔵
フェム・ポー
POW
お祭りはぁ、にぎやかで楽しそうねぇ?
祭りの様子、街の人たちの様子を見させてもらいながらぁ、町外れに向かうわねぇ。
(笑顔が溢れた祭りの街並み。この現世(苦界)、痛みと苦しみと悲しみに満ちた世界で、それでも人々は生きていく。
その正しい営み、正しき人の世が愛おしく、そして堕ちた己からは遥かに遠い……)
……それでぇ、町外れの神社に着いたらぁ、そこでお歌を歌うわねぇ。
狐ちゃん達もぉ、狸ちゃん達もぉ、安らかにねむれるようにぃ、祈りを込めてぇ、子守唄を歌わせてもらうわぁ。
(そうしたところで、彼らはオブリビオン。この祈りは聞き届けられる事はないのだろうけど。それでも、今このひと時だけはどうか安らかに)
「……?」
フェム・ポー(聖者の残骸・f12138)神社の境内にやってくると同時、誰かが去る気配を感じた。
見回しても、誰もいない。まるで神隠しのようだ。
ただし、もうこの場所に神様はいない。
「…………」
夜明け頃の戦いで荒れ散らかった境内から、町のほうへと振り向く。
ふわふわと、お祭りを一通り眺めて来た後。様々な人と、その笑顔を見てきた。
そのどれもが、提灯の灯りよりも眩しくて、眩しくて……。
それが自分より遥かに遠い存在であると気付くと、不思議とここに来てしまった。
フェム・ポーは神格でもなんでもない。猟兵であるが、それ以前に神の祝福を信仰する、一介の聖女である。
それでも、遠いのだ。
だからこそ、眩しくてたまらないのだ。
「…………あぁ」
小人の身体が、灯篭に着地し、座り込む。狛犬の特等席が不在だった。
ああ 神よ
夜を照らしたまえ 人の迷わぬよう
罪に道しるべを 悲しみに救いを
ああ 神よ
雲を晴らしたまえ もやを払いのけて
安らかなこころを 安寧にねむりを
やがて命が止むときに
あなたへ我が身を差し出しましょう
いとうるわしき神よ
恵みを与えん汝に 我らの祝福を
英語にて綴られた子守歌は、果たして何処かの聖歌か。
優しい音色は、誰に手向けられたのか。
「……安らかに、おやすみなさぁい」
暫し瞑目し、やがて瞳を開く。
気付けば、多くの足音がこちらへと近づいていた。その中には、聞き覚えのある声も混じっている。
灯篭から飛び立って、人々のほうへと向かおうとした時。
「――――、」
優しく凪いだ、白い尾が森の中に見えた気がした。
冬に曙、空明るめば。妖狐狸合戦、――これにて終了と奉る。
大成功
🔵🔵🔵