これは旅団シナリオです。
旅団【Dies】の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです。
「随分と長引いた残暑も漸く収まり、過ごしやすい日が来ようとしている」
良い季節になった、と言ちるは枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)。
気温も湿度も下がって来たとは、頬を撫でる風が教えてくれようか。白銀の毛先に睫を擽られた帷は、真紅の瞳を淡く細めて言った。
「キマイラフューチャーもそうだろう」
高層ビルが乱立するコンクリートジャングルも、漸う熱を手放そうとしている。
夏を過ぎれば残照もより短く、ポップにペイントされたアスファルトが含む水蒸気量も減って、雑然とした都市の空気もぐんと透明感を増す。
特に其の変化は夜に顕著に現れると、花脣は幾分にも楽し気に言を継いで、
「太陽が眩しさを抑えると、空に秋の気配を仰ぎたくなるものだが……どうだろう、夜景を愉しみに行かないか」
摩天楼の夜を眺めに行こう、と仲間に語り掛ける。
巨大モニュメントや立体映像が派手に輝く高層ビル群、その間を走り抜けるモノレールや有人ドローンが光を運ぶ大都市の夜は、まるで宝石箱を引っ繰り返した様に光輝燦然に溢れており、其を眼下に敷いた景色は最高だろうと帷は云う。
彼女は更に詳述して、
「超高層ビルが聳立する中に、ひとつ、大都市ならではの夜景をパノラマで楽しめるオープンテラスがある。そこの料理に舌鼓を打ちながら、お喋りを愉しむと佳いだろう」
外観はオーセンティックな南仏風。
オープンエアのフロアにはお洒落なカウチが並べられ、ゆっくりと食事を愉しめる他、夜風を感じる縁ではドリンクを手にスタンディングで夜景を眺められる。
予約客ごとにブースを貸し切る為、存分にゆっくりできるだろうと付け足した帷は、どこか愉しそうに繊指を弾いて、
「キマイラフューチャーにテレポートする。どうぞ、特別な時間を過ごして欲しい」
と、馴染みのメンバーを光に包んだ。
夕狩こあら
いつもお世話になっております。夕狩こあらです。
旅団「Dies」専用のシナリオをお届けします。
●シナリオの舞台
惑星全てが都市リゾート化したキマイラフューチャー。
立体広告に身を包む高層ビル群、摩天楼の間を抜けて走るモノレール、闇に浮き上がる巨大斜張橋……絢爛なる夜景を眼下に敷き、ゆっくり飲食を愉しみましょう。
●シナリオ描写について
キャラクター同士の会話をメインに描写致します。
馴染みのメンバーならではの深いお話が出来ます。
どうぞ、特別な一日をお楽しみ下さい。
第1章 冒険
『ライブ!ライブ!ライブ!』
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POW : 肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!
SPD : 器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!
WIZ : 知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
超高層ホテルの最上階を訪れた猟兵を迎えたのは、ゴリラのキマイラだった。
パリッと糊をかけた白襯衣(ワイシャツ)に洒脱な黒いベスト、そして太い首回りに蝶襟飾(ネクタイ)をちょこんと飾った彼は、予約客の顔ぶれを見るなり莞爾と頬笑むと、バタバタと急ぎ足で、なんならナックルウォークで予約席に案内した。
「ウホウホ」
促されたカウチ席は、瞳に飛び込む夜景に対して水平。
眞正面から摩天楼の絶景を眺められる特等席に案内された猟兵は、先ずホカホカのおしぼりに指先を温め、本日のコースメニューの説明を受ける事になった。
「ウホホホーイ」
こちらは全て一流のシェフ、いや一流のゴリラが手掛けた南仏風の創作料理で、客人が選ぶドリンクに合わせて追加の料理も注文する事が出来る。
前菜はきのこのラビオリ。
スープはオマール海老のミネストローネ。
メインディッシュはお客人の嗜好に合わせて「鮪」が解体される予定で、既にマグロ解体職人らしいゴリラのキマイラが向こうでスタンバっている。
これにパンを選ぶも良し、ライスを選ぶも良し、この世界は何を合わせても良い。
デザートはシェフおすすめのバナナなのだが、気に喰わない場合はそこらへんをコンコンコンすると、バーガーやドーナツ、かりんとう等が出てくると言う。
「ウッホウッホ」
そこまで説明したゴリラのキマイラの給仕は、品の漂う礼をひとつすると、先ずは乾杯の一杯をとドリンクメニューを差し出した。
エル・クーゴー
●本日の衣装
・2019年11月10日2ピン同様、リダン見立ての「L95式マキナスカート」でエントリー
女性陣の衣装への評価を実施して下さい
・物九郎に「なんか言えや」って感じで詰める
・尚、お供のマネギは涎掛けが蝶ネクタイになってる
●オーダー
当機はアルコール摂取時に於ける酩酊に高い耐性を発揮――するかどうかは現在未知数です
・度数強くなさそうなのをセレクトお任せ
・食べる物は物九郎のオーダー品を横から勝手に突っつく
●物九郎へ
管理者権限付与期間の定期更新作業を、現刻を以って中止
――永続付与します
(顔が赤いのはアルコールの所為?)
●花火を見て
多数の炎色反応パターンを観測しました
(口端が、ちょっとだけ上がる)
白斑・物九郎
●二十になったので酒飲みに来た
●ニコリネも呼ぶ
●今夜は黒のジャケット姿
ァ?
ドレスコードとかあったら面倒だと思ったんスよ
●エルの衣装へ
……今日は非武装でも問題ねェか
(※褒めない天邪鬼)
●オーダー
鮪捌くんスか
ンじゃカルパッチョ
酒は――ねーさん方とバーテン(ゴリラ)、選んで下さいや
マタタビ酒はあるんスか?
●リダンが塩対応とか嘆いてたら
イイじゃニャーですか、塩
行軍にゃ必須の物資っスよ
(酔うと懐っこく笑うようになる)
●顔赤いエルが寄って来たら
永続付与ォ?(ちょっと酔いが醒める)
いっスよ別に
更新の手間が省けまさ
(※天邪鬼Ⅱ)
●花火が上がったら
ったく、いきなりドカンドカンと――
……?
エル、今笑いましたかよ?
リダン・ムグルエギ
あら、二人共おめかしでステキね
アタシもドレス着てみたの
どーう?
もう、素直じゃないわね
酔ったって言い訳して本音言うの超おススメよ、二人共?(ウインク一つ)
お酒は口当たりがいいの中心で…マタタビはデザート時ね
ニコがこの1年で好きになったのを勧めるとかどう?
じゃ、食べながら飲みましょ!
二人共、おめでとーう
最初は歓迎してくれてたのに
今じゃこんな塩対応…よよよ
弟の反抗期でお姉ちゃん悲しい
エルちゃんには素直でいてねー?
アーハ
じゃ、これはステキな門出へのプレゼントよ
花屋と選んだ『花』束、受け取ってね
事前に誕生会について花火職人に知らせ依頼しておくの
花屋のニコのアドバイスの元、二人の為に空に咲かすわ、祝いの花
嘗てこの惑星に生きた人類は、犇々と聳立する摩天楼に文明の極致を刻んだか。
高層ビル群が纏う燦然は、夜空の星燈を翳らせぬよう全て光を下向きに、街を象徴するモニュメントはビル風の抑制と美観を両立させ、隅々まで計算し尽くされた都市開発が、今の絶景を生み出している。
「――もっと風が強いかと思ったけど、これくらいなら平気ね」
そっと安堵を溢すは、リダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)。
柔かな風に頬を撫でられた彼女は、御空色に染まる艶髪を首頸(うなじ)へ流しつつ、つと振り返るや翡翠の麗眸を細めた。
「二人とも、おめかしが崩れなくて安心よ」
より佳景の眺められる場所へと手招く相手は、二十歳の節目を迎えた二人。
その一人、白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は着慣れたダルンダルンの甚平の代わりに黒のジャケットを羽織り、黒髪に白斑を落とす猫っ毛はブローして、洗練されたフォーマルスタイルを夜景に映えさせる。
蓋しすっきりと暴かれた柳葉の眉は胡亂そうに眉根を寄せて、
「ァ? ドレスコードとかあったら面倒だと思ったんスよ」
ゴリラのキマイラにウホウホ言われるのが煩わしかっただけだと、彼を粗雑(ぞんざい)に親指に示して見せる姿もまた端麗。
硬質の指はその儘、首筋へ――頭頂(かぶり)を傾げて無造作に髪を掻けば、少し睫を落した視界に、純白の翼を生やしたポチャ猫がいっぱいに映った。
「……。…………。…………随分と頑張りましたわな」
涎掛けが無くて大丈夫ですかよ、と瞳を合わせるは『マネギ』(親機)。
上質な毛質の翼猫は、ずんぐり太い首に蝶ネクタイを付けて、「どや」と言わんばかり零距離でアピール中。
其を面倒臭そうにむんずと掴んで引き剥がした物九郎は、次いで玲瓏の彩を放つ金瞳に間近で射られる事となる。
双眸に迫るは、節目を迎えたもう一人、エル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)。
「会食の前に女性陣の衣装への評価を実施して下さい」
「アァ?」
「細密な観察を経た後に迅速かつ的確な言語化が推奨されます」
ずいっと詰め寄るエルも、今宵は瀟灑な訪問着。
清楚な白のシャツブラウスに花萌葱のストールを軽く羽織り、サイバーな色合いを艶と彈くマキシスカートは、華やかに嫋やかに揺れて柳腰を際立たせる。
月光と耀く銀髪がゆるやかに波打つのは、リダンによる巻き髪アレンジだろう。
素材の佳さに嬉々としながら全身のコーディネートを手掛けた服飾師が、満足気にエルを瞶めているのが物九郎の視界の隅ッコに映った。
美しくも無表情なエルが「なんか言えや」とばかり眼路の九割を占領する中、物九郎は佳聲の方向へと金瞳を逸らし、
「ニコリネのねーさんもGOATiaの実験体に駆り出されたクチですかや」
「そうよー、今年の秋はスカラップがトレンドなんですって!」
これね、と波型に縁取られたレース袖を見せているのがニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)なのだが、銀河級デザイナーが手掛けたというビスチェデザインも、気品あるシャンタン生地のスカートもよく見えない。
残り一割の視界で、ニコリネとリダンが話しているのが見えるのだが――。
「リダンさんのパネルレースのドレスも素敵よね!」
「エル」
「ソフトチュールとレースの異素材切替に挑戰してみたくて。どーう?」
「おい」
「完璧! 透け感も繊細で綺麗だし、上品なミモレ丈も良いと思いまーす!」
「離れなさいや」
そこら辺をフヨフヨ飛んでいたマネギを咄嗟に攫み、ムギュ、と間に詰めた物九郎は、次なる言をじっと待つエルに深く溜息して、
「……今日は非武装でも問題ねェか」
云って、幾許か結び合った視線をついと逸らす。
それから翩翻(ヒラリ)と手を振って傍らのカウチに腰を落とせば、リダンが呆れた様に肩を竦めた。
「もう、素直じゃないわね」
綺麗とか、美しいとか、可愛いとか。
世の中にはいくらでも形容詞はあるのに、竟ぞ気の利いた科白はあげないんだからと、物九郎の天邪鬼を詰るように流眄を注ぐ。
而して全員がカウチに座るのを見届けた佳人は、ゴリラのキマイラの給仕が運んで来たシャンパンを笑顔に受け取ると、柔かく佳聲を滑らせ、
「……酔ったって言い訳して本音言うの超おススメよ、二人共?」
と、匂い立つほどのウインクをひとつして乾杯を促した。
†
天蓋に星燈を鏤め、足元に燦然を敷く摩天楼の夜。
喧噪は日暮れと共に収まりつつも、電飾や液晶広告は夜の帳に愈々光を輝かせ、大都会の街は眠りそうもない。
超高層ホテルの最上階テラスに集った彼等の夜も始まったばかりで、フルートグラスを手に取った四人は、幸福の泡をスッと胸元へ、淡い乙女色のロゼを揺らして乾杯した。
「二人共、二十歳おめでとーう」
「ン、リダンのねーさんも三十路おめ」
「猟団長も副団長もリダンさんも、お誕生日おめでとうございまーす!」
「Happy birthday to all of you.」
爽涼の風を肌膚に感じつつ、オープンエアの空間でお誕生会。
特に今年は節目を迎える年齢にて、食事は豪勢に――有名なゴリラ、いや有名なシェフの料理を堪能しようと此処を予約したリダンは、早速、何か頼んでいるようだった。
「二杯目はこれと同じものを、より豊かな果実味を味わえるよう大きなボウルで頂戴」
「ウホウホ」
「お酒は口当たりがいいのを中心に……マタタビはデザート時にお願いね」
「ウホホイ」
ニュービーなお二人には粋美なるドゥ(甘口)を。
赤ワインは、傾けるだけで空気が移動するアヤム(鶏型)のデキャンタで。
手際よく指示すれば、ゴリラのキマイラもキリキリとスタイリッシュに動いて、食事に合わせた美酒を運んでくれる。
自身は辛口のエクストラ・セックに花脣を濡らしたリダンは、膝に乗せたマネギ(子機)とメニューを眺めるニコリネに視線を注いで、
「ニコもこの一年で好きになったのを二人に勧めたらどうかしら」
「それ、いいかも! 私もすっかりお酒を美味しく頂けるようになったものねー」
「にゃんご」
それなら、と指先が滑るはフルーティーなカクテルたち。
ゴリラのキマイラのバーテンダーにごにょごにょと要望を伝えたなら、彼はこっくりと首肯いてシェイカーをふりふり、何ともフォトジェニックな色合いの杯を差し出した。
「ウホホ、ウホホ」
「ほーん、これが“カクテルの王”と。此処にも王が居たもんですわ」
スープが冷めるのを待つ物九郎の前には、マティーニ。
ステアより注がれる王道の味は辛口で、鼻を寄せるとハーブような馨が漂流う。
ほーん、と宛如(まるで)品定めする様に物九郎が佳脣を濡らす傍ら、バーテンダーは彼がオーダーしたトマトのファルシを横から勝手に突っつくエルに質問していた。
「ウッホホホホ」
「――“お嬢さんは酔う方かい”という質問に回答を用意します_当機はアルコール摂取時に於ける酩酊に高い耐性を発揮――するかどうかは現在未知数です」
これに成程と目瞬きしたバーテンダーは、度数は低めに、生チョコの様な風味を愉しめるパパゲーナを差し出した。
「ウホウホ、ウホウホ」
「モーツァルト作曲の歌劇『魔笛』に登場するパパゲーノの伴侶、パパゲーナとの名前の一致を確認しました」
チョコレートリキュールとブランデー、そして生クリームをシェイクしたショートカクテルは、咥内を濃厚な甘さに満たしてくれる。
エルは翼猫の親機(蝶ネクタイ)と子機(おしゃれベスト)が見守る中、こく、こく、と少しずつ味わうようにして飲んだ。
「……酔いが回らないように腹に何か詰めときなさいや」
中々に佳い飲みっぷりを傍らにした物九郎は、心配した訳では(あろう)なかろうが、隅ッコでねじりハチマキを巻いたゴリラのキマイラに視線を遣る。
「おたく、鮪捌くんスか」
「――ウホ」
「ンじゃカルパッチョ」
「ウホウホ! ウホウホ!!」
オーダーを受けるや腕まくり、日本刀の様な鮪包丁をスラリ夜風にさらし、威勢の良い掛け声で鮪を捌いていくマグロ解体職人。
ドンドコ、ドンドコ。
ドンドコ、ドコドコ。
和太鼓は要らない気もしたが、鮪の解体は豪快に、料理は爽やかな柚子の馨りを添えて繊細に。ゴリラの職人は一流の腕を披露した後、新鮮な海の幸をテーブルに届けた。
これが頗る美味とは、一同の喫驚の顔貌で判然(わか)ろう。
「お……美味しい……!!」
「にゃんご! にゃんご!」
再びマグロ化しそうになるニコリネの隣、マネギ達は一口を求めて羽搏き。
「――ン。よき」
「天然南マグロの濃厚な旨味と強い甘味を確認しました_引き続き賞味します」
物九郎は短くお褒めの言葉を、脇からつつくエルも「おかわり」の箸を伸ばせば、なにやらホテルのスタッフと会話していたリダンが、慌てて箸を伸ばした。
「待って、私もカルパッ――」
「こういうのは早いもの勝ちですでよ」
「あっ」
寸秒の差で美味は物九郎の口へ、もっしゃもっしゃと頬を動かした冷徹と瞳が合う。
むぐぐ、と唾を飲んだリダンは、次いでヨロヨロと上質なカウチの彈力に沈み、
「最初は歓迎してくれてたのに、今じゃこんな仕打ち……よよよ」
「あっリダンさん泣いちゃった」
「…………弟の反抗期でお姉ちゃん悲しい」
「三十路で涙もろくなるとか、早すぎじゃニャーですか」
「……この塩対応……意地悪の一番搾り……エルちゃんには素直でいてねー?」
突っ伏した腕の隙間から恨めしそうに物九郎を盗み見れば、彼は變わらず新鮮な生醤油と鮪のハーモニーに舌鼓を打ち、冷ややかにも艶帯びた瞳を注いでいる。
「イイじゃニャーですか、塩」
「良くないわよ」
「行軍にゃ必須の物資っスよ」
マティーニに濡れた端整の脣が皮肉を滑らせる。
ハイ・バリトンに紡がれる科白は、舌鋒鋭く、口吻は艶麗に――酩酊が彼を斯くの如くしたか、目尻の柔かさは何とも懐っこく、淡く差した朗色に時を奪われそう。
これには30歳キマイラと20歳のミレナリィドール、21歳人間が視線を集め、
「……ぶっちー、微笑った……?」
「9月6日21時05分47秒。マスターの笑顔を確認しました」
「……トゥンヌス!!」(訳:ジーザス)
刻下。
二機の翼猫がカメラのフラッシュを揃えた。
†
この夜、物九郎はよく艶笑(わら)った。
ボトルで頼んだマタタビ酒のまろやかな口当たりも影響したろう。
「これ、一階のショップで買わせて貰いますでよ」
「ウホウホ」
瓶底に佇む木天蓼の実を慌惚(うっとり)した表情で瞶めながら、オールド・ファッションド・グラスを手に氷を揺らしている。
スッと整った鼻梁を見せる横顔も夜景に映えて――傍らで同じマタタビ酒をソーダ割りで飲んでいたエルは、この時、美しい女聲波形を生成した。
丹花の脣は澱みなく告げて、
「管理者権限付与期間の定期更新作業を、現刻を以って中止」
「ァ?」
「――永続付与します」
果して此処に告ぐは。
躯体番号L-95に於ける管理者権限の永続付与。
「永続付与ォ?」
従来より期限の迫る毎に更新していた管理者権限を、恒久的に付与する――その言葉についと鼻筋を向けた物九郎は、美しくも表情を見せぬエルの頬の色付きに、彼女も酩酊を覚えたかと視線を結ぶ。
少うし酔いを覚ました彼は、ほろ酔いのエルが近付く儘にグラスを傾け、
「――いっスよ別に。更新の手間が省けまさ」
と、此方も了解を返す。
その淡泊で卒気ない素振りも彼らしかろう、安定の天邪鬼に吃々と竊笑したリダンは、「アーハ」と佳聲を一つ置いて立ち上がると、より夜景の愉しめる外柵へ歩き出した。
月下の佳人は莞爾と微咲(えみ)を溢して、
「大人の階段を昇り始めた二人に、新しい道が生まれたようね。――じゃ、これはアタシ達から、ステキな門出へのプレゼントよ」
フルーツを挿したハーブカクテルが、高く目元を超えるのが合図。
時にリダンとニコリネが、笑顔いっぱいに佳聲を重ねた。
「花屋と選んだ『花』束、受け取ってね」
「私とリダンさんからの、お祝いの花です!」
正に須臾。
ヒュウ――と立ち昇る笛の音に嚮導(みちび)かれて夜穹を見上げる。
然れば間もなく紫紺の天蓋に光の大輪が咲き乱れ、百花斉放の絶景が広がった。
胸を衝く音の合間に、仕掛け人達の柔らかな聲が聽こえよう。
「事前に此処で誕生会をするって、花火職人に知らせて依頼しておいたの」
「イメージは秋の花、女郎花に秋桜、リンドウ、それにダリアでーす」
ねー、と悪戯な微笑を結ぶリダンとニコリネ。
仲良く二十歳に、新しい門出を迎えた二人の為に「空に花を咲かせよう」と発案したのはリダンで、その企画に賛同したニコリネが花色をアドバイスした。
リダンがテラスに来た当初から風の強さを気にしていたのは、従業員と話し合っていたのは、此処で盛大に花火を打ち上げる為だったとは――今になって合点がいく。
二人が上手くいったとハイタッチする傍ら、物九郎は子供の様に喜ぶ彼女達にやれやれと溜息して、
「ったく、いきなりドカンドカンと――」
言いかけて、止める。
見れば己に隣するエルは、白磁と見紛う芙蓉の顔(かんばせ)に花火の彩を映しつつ、夜空に広がる大輪の華宴に幾許か口の端を持ち上げていた。
「エル――」
「多数の炎色反応パターンを観測しました」
「……今、笑いましたかよ?」
返事は、未だ上向いた口角が示そう。
二人は見事花火を打ち上げたニコリダと、ゴリラのキマイラが多めのホテルスタッフに見守られながら、摩天楼の夜に咲く大輪を、暫しうっそりと眺めるのだった――
大成功
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