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温泉郷の夜は更けて

#サクラミラージュ #宿敵撃破 #挿絵

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 そこは、都からは外れた小さな温泉郷。
 東京や横濱といった都市に比べれば華やかさが欠けるけれども、此処でも変わらず幻朧桜が咲き乱れ、穏やかな人々が和やかに迎え入れてくれる湯治場だった。
 そんな温かな町の大通りを行く、モノクロの人影が1つ。
 見た目の歳は、壮年から中年といったところか。
 長袖のYシャツもテーパードパンツも革靴も、乱れた短髪も虚ろな瞳さえも黒色で。
 膝下まであるロングタイプの白衣と、無精ひげの生えた顔色の白さを引き立たせる。
 どこか疲れたような雰囲気の男は、無言のまま、1人、道を歩き。
「万病に効く名湯……」
 ふと、とある宿の入り口に張られた案内の紙に目を留め、足を止めた。
 するとそこに、声が飛び出してくる。
「あら、環ちゃん。お出かけかい?」
 男が視線をずらすと、宿の入り口から恰幅のいい女性が通りへと出てきたところで。
「ええ、今日はとても体調がいいの。ここの温泉のお蔭ね」
 続いて、線の細い少女と、それに無言で付き従う老婆が姿を現した。
 恐らくは宿のおかみと湯治の客、そしてその側用人だろう。
「それはよかった。でも、無理したらまた倒れちまうからね。気を付けてね」
「はい。ありがとう、女将さん。早めに戻りますね」
 男が見ていることに気づかぬまま、言葉を交わした少女は、老婆と共に、頼りなげな足取りで通りを歩いていった。
「……大河内様、大丈夫でしょうか?」
「心配ではあるけどね。環ちゃんの好きにさせてやって欲しい、とも言われてるし」
「難しい病気なんですよね?」
「そうだってね。うちに来てからは調子がいいようだけれども……」
 宿の中に戻ったおかみと従業員らしき女性の会話も漏れ聞こえてくる。
 それでなくとも、微笑みながらも青白い顔に、触れただけで折れそうな細さに、健康からは程遠いことが分かる。
 男は通りの向こうに小さくなった背を見つめて。
「病に苦しむ者、その全てを治すことは叶わない」
 ぽつり、と暗く低い声を零した。
 それは誰かに語りかけているようであり、独り言のようでもあり。
「医者が全てを救うことなどできない」
 何かを思い出しているようでもあり。
「できることは」
 両の手を目の前にゆるりと掲げ、掌をぼうっと見つめて。
「全ての生を終わらせることで、救えなかった者に報いることのみ」
 その手をゆっくりと握り込んで。
 全てに絶望した医者『鳴宮・兼康』は、そっと黒瞳を伏せた。

「ちょいと温泉に入ってこないかい?」
 集まった猟兵達に、九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は悪戯っぽい笑みを浮かべながら話しだした。
「静かな温泉郷なんだがね。どんな病にも効く湯だと評判の湯治場だそうだ。
 行ってもらう宿は、男女別と混浴の3つの大浴場に、個室の薬草風呂が3種、気兼ねなく使える家族風呂が5室も備えられていてね。
 大浴場には露天もあるし、家族風呂は半露天。
 あと、家族風呂なら軽めの酒を持ち込み可、だそうだよ」
 まるで温泉旅行のお誘いのような情報に、楽しそうと喜びながらも、猟兵達はいぶかし気に顔を見合わせる。
 そんな気配を察した夏梅は、ひょいと肩を竦めて。
「……まあ、その宿に影朧が現れる、ってことなんだがね」
 種明かしをするかのように掌を見せながら苦笑した。
「その宿の湯治客の1人が影朧に狙われている」
 大河内環、14歳。
 とある病のために宿に長く泊まっている子だという。
「同じ宿に泊まれば、部屋だとか動向だとかは自然と分かるだろうし。
 影朧が現れる時間までは、ゆっくり夜桜温泉を楽しんでおいで」
 ほら温泉旅行だろう? と言いたげに笑う夏梅に、今度は猟兵達が苦笑して。
 それでも、遊んでばかりはいられないからと、その時はいつか、と質問が飛ぶ。
 夏梅は、忘れてたと誤魔化すように笑いながら。
「ああ、影朧がやってくるのは夜も更けた頃だよ」
 ゆっくりしといでと、ひらりと手を振った。


佐和
 こんにちは。サワです。
 雪見と月見はやったけれども、花見温泉は未経験です。いいなぁ。

 温泉郷の一角にある大きな温泉宿が舞台です。
 宿泊客である大河内環は、ばあやと2人で1ヶ月程この宿に滞在しています。

 第1章では、環の泊まっている温泉宿で夜を過ごしていただきます。
 お風呂の種類はOPの通り。お風呂の希望があればご指定ください。
 温泉は天然で、少しだけ白い濁りのあるお湯です。
 大浴場の露天と、家族風呂からは幻朧桜が見れます。
 飲み物の持ち込みがOKなのは家族風呂のみ。
 薬草風呂の詳細は、指定があればどうぞ。
 狙われている本人及び周囲の人達へ接触したり探りを入れたりすることもできますが、誰も特に何もしなくとも、少女の必要最低限の情報は入手できます。
 気兼ねなく夜桜温泉を楽しんでいただいても大丈夫です。

 夜も更けた頃、第2章で宿に『帝都斬奸隊』が乗り込んできます。
 集団戦です。理性に乏しいので、転生は望み薄です。

 第3章は『全てに絶望した医者『鳴宮・兼康』』とのボス戦となります。
 説得しながら戦った場合、プレイングボーナスがあります。
 また、説得が多ければ、倒された影朧は『無数の桜の花びら』となり、桜の精の『癒やし』を得ればいずれ転生できるようになります。

 それでは、夜桜の温泉郷を、どうぞ。
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第1章 日常 『夜櫻温泉郷』

POW   :    熱い湯でも関係ない。じっくりと、入って温まろう

SPD   :    効率のいい入り方で、じっくりと疲れをとろう。

WIZ   :    人目を気にせず、のんびりと入ろう。

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

吉野・嘉月
まぁ、単純に温泉旅行だったら俺達に声がかかるなんてことはないわなぁ。
だが、久しぶりの温泉だゆっくりつかるか。
本当は日本酒でも飲みながらってのが理想だが大浴場では無理みたいだし。
家族風呂を独り占めなんてのもいいんだが。
一応仕事だからな影朧についての【情報収集】もしたいところだし。
大浴場にしておくよ。
大浴場ならいろんな人間と話せるだろうしね。【コミュ力】

『万病に効く名湯』ねぇ…本当にそんなものがあるなら医者いらずってやつだ。
医者でも治せない病ってのは沢山あるしな。
…なんにせよ病に悩む人間てのは多くいるよ。
藁にも縋る思いで湯治なんて人もいるかもな。



 少し白く濁った湯に身体を沈めると、思わず視線が上へと向いた。
 大きな湯船から溢れ出る水音と共に立ち上る湯気が、天井を白く曇らせて。
 まるで頭の先までお湯につかってしまったかのような白濁した景色に、吉野・嘉月(人間の猟奇探偵・f22939)は焦茶色の瞳を細めた。
 大きくゆっくりと吐いた息は、心地よい溜息となって。
 湯船の端に、左右に開いた両腕と背を預けながら、ゆったりと両足を前に伸ばす。
 じんわりと伝わって来る温かさと。
 揺れる水の感触と、ふわりと少し浮かぶような感覚に。
 嘉月は今度は完全に目を瞑り、大きく大きく息を吐いた。
 久しぶりの温泉は、期待以上に嘉月を楽しませてくれているけれども。
「まぁ、単純に温泉旅行だったら俺達に声がかかるなんてことはないわなぁ」
 苦笑しながら、濡れた茶色の前髪をかき上げる。
 そう、嘉月が温泉にいるのは、この宿に影朧が現れると予知されたからで。
 猟兵稼業の一環でしかない。
 ゆえに嘉月は、家族風呂で日本酒を一杯、なんて願望を我慢して。
 他の客もいる大浴場へと足を運んでいた。
(「湯上りの一服くらいは、いいよな」)
 後のお楽しみをちょっとは考えながらも。
 温泉を堪能しているふりをしつつ、嘉月はさっと周囲に視線を流した。
 ちょうど湯船に入ろうとしてか、客らしき1人が近づいてくる。
 年のころは50程に見えるが、やつれた感じゆえに老けて見えるのなら、実際はもう少し若いのかもしれない。下手したら嘉月と同年代か。
 そんな雰囲気や線の細さ、そしてこの浴場に慣れた感じから、長期滞在の湯治客だろうと推理して。
 嘉月はさっと頭の上に手拭を乗せると、気持ち良すぎて気付かない、といった体を装って顔を上げ、その手拭を床に落とした。
「手拭、落ちてますよ」
「……ああ、これはすみません。ありがとうございます」
 狙い通りに拾ってくれた男に礼を言いながら、さりげなくどうぞと湯船を示せば。
 何となく2人は横に並んで湯につかることとなり。
 嘉月はまた天井を見上げたまま、その男に話しかけた。
「いい温泉ですね」
「ええ。御蔭でか、大分体調も良くなりました」
「おや、では観光ではなく?」
「はい。湯治で……もう7日程滞在して居ります」
「いい温泉なわけだ」
「そうですね。其方は観光で?」
「ええまあ。そんなところで」
 短くも会話を繋ぎながら、少しずつ情報を集めていく。
「黒づくめの医者、ですか……私は殆ど部屋から出ませんし、知りませんね」
 影朧についての情報は得られなかったけれども。
「湯治の貸間は、其方の宿とは別棟にあるのですよ。
 共同ですが炊事場もありましてね」
(「狙われてるって子もそっちに泊まっているのか」)
 影朧が現れるとされた場所の詳細は見えてきたから。
 のんびりと、嘉月は話を弾ませながら、ふと、湯を両手で掬い上げた。
(「『万病に効く名湯』ねぇ……」)
 話の節々で男が褒め称える温泉。
(「本当にそんなものがあるなら医者いらずってやつだ」)
 そこまでの効能があるとは嘉月は思っていないし。
 そしておそらく話をしている男自身も、思ってはいないだろう。
 とはいえ、医者でも治せない病というのは沢山ある。
 そんな病に悩む人間というもの、多くいる。
 だからこそ。
(「藁にも縋る思いで湯治、なんて人もいるかもな」)
 さあ、影朧に狙われたという少女はどうなのか。
 嘉月は思いを馳せながら、掬い上げた湯を、ぱしゃり、と放るように零した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨咲・ケイ
いいですね、温泉。
私は温泉が大好きなんです。

大浴場の露天風呂に入りましょう。
桜を見ながらの入浴って、この世界
ならではですよね……。
影朧が絡んでいなければ最高なのですが……。
宿もとてもいい感じですし、
今度、義妹を連れてきましょう。

と、楽しんでばかりもいられませんね。
大河内さんに接触しておきましょう。
女性の方が話しやすいと思いますので、
チャイナドレスを着用し、女装して
接触します。

ここに来たばかりの湯治客を装って、
彼女の病について、それとなく聞いてみましょう。
話が終わったら
「この辺りでは影朧が出没するという噂を
聞きました。夜は部屋から出ない方がいいですよ」
と告げておきます。

アドリブ等歓迎です。



 大浴場の、こちらは露天風呂で、ぐっと両腕を掲げて伸びをしたのは雨咲・ケイ(人間の學徒兵・f00882)。
「桜を見ながらの入浴って、この世界ならではですよね……」
 自然と上を向いた黒い瞳に映るのは、薄紅色の花の群れ。
 夜の闇にぼんやりと浮かび上がるかのように見える幻朧桜は、さわりさわりと穏やかな風に揺られ、心地よい花擦れの音を小さく響かせていた。
 ひらりと樹から離れた花弁が1枚、湯に落ちて。
 ケイは両手を湯の中へと戻しながら、その動きでゆらゆらと揺れる様を見つめる。
 下を向いたことで、しっとりと濡れた艶やかな黒髪も肩口で小さく揺れ。
 肩に滴り落ちた水滴が、平らな胸へと滑り落ちていった。
 穏やかで温かな一時。
「影朧が絡んでいなければ最高なのですが……」
 思わずそう零してしまうけれども詮無い事。
 そもそも予知がなければこの温泉との縁もなかったわけだから。
 仕方ないと割り切って、今は大好きな温泉を楽しむことにする。
 少し白く濁ったお湯は肌触りが良く。
 幻朧桜が覗ける景色も上々。
 宿そのものの印象もとてもいい感じだったから。
(「今度、義妹を連れてきましょう」)
 柔和に笑う大きな黒瞳を思い出しながら、ケイはくすりと微笑んだ。
「と、楽しんでばかりもいられませんね」
 一通り温泉を堪能したところで、ケイは猟兵として動き出す。
 ぽかぽかと温まった身体を拭いて、脱衣所で袖を通したのはチャイナドレス。
 ノースリーブの袖口から細く美しい腕をすらりと伸ばし。
 スリットから覗く足にはロングタイツをぴったりと履いて。
 よく拭いた黒髪に、いつもの蝶の髪飾りをつけたならば。
 脱衣所から出てきたケイは、スレンダーな美少女となっていた。
(「女性の方が話しやすいでしょうから」)
 女装とは思えぬ女装をして、大浴場の入り口付近でさりげなく待ち伏せしたケイは。
「こんばんは。ここはよい温泉ですね」
 現れた長い黒髪の少女に、穏やかに話しかける。
 折れそうなほどに華奢で、白磁以上に白い肌の少女は、ケイに儚げに微笑み。
「今晩は。温泉に入られたのですか?」
「今いただいてきました。今日こちらに到着したばかりで」
「そうですか。私も此方の温泉は好きですから、何だか嬉しいです」
「私は、雨咲ケイ。お名前を伺っても?」
「環です。大河内環と申します」
 来たばかりの湯治客を装ったケイは、少女が探していた相手と確認すると。
 宿のことを尋ねる体で話を繋ぎ、そっと彼女自身についての問いも織り交ぜていく。
「では、環さんはこちらに滞在されて大分経つのですね」
「ええ。もう1月になりますかしら」
「そんなに長く……お具合、悪いんですか?」
「大丈夫です。最近は調子が良いのですよ。今日は少し外にも出られましたし」
 とはいえ聞けたのはその程度。
 具体的な病名やら病状やらは初対面では聞き辛く、また環自身も進んで話したくはなさそうだったから。
「ああ、引き止めてしまってごめんなさい。温泉に行かれるところでしたよね」
 ケイは怪しまれる前にと諦めて、話を切り上げることにした。
「いいえ。お話楽しかったです」
 環は本当に嬉しそうに微笑むと、それでは、とケイが出てきたのとは別の脱衣所へと足を向け、歩き出した。
 すれ違うのを見送る、その時に。
「この辺りでは影朧が出没するという噂を聞きました。
 夜は部屋から出ない方がいいですよ」
 真剣な眼差しで告げたケイへ、環は少し驚いたように振り向いてから。
「ありがとうございます。そういたしますね」
 またふわりと微笑んで、ぺこりと1つ会釈をした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード
やあ、いい宿だね。プラチナちゃんと二人、浴衣で夕食を食べたら家族風呂だ。
プラチナちゃんの裸は、他の人には見せたげない。
さ、脱衣所で浴衣を脱いで、家族風呂へ入ろう。
ここに来るまでにも視界に入ってたけど、改めてみると幻朧桜って大きいねぇ。オブリビオン――影朧を転生させる神秘の大樹。どういう仕組みになってるんだろう?
プラチナちゃんも、ぼくから独立した存在に転生出来るのかな?

お風呂の中では、身体を流しあった後は、二人で淫らな戯れをたっぷりと、どちらかの体力が尽きるまで。
のぼせる前には、どちらかが相手を肩に背負って出るつもり。

こういう所では瓶の牛乳を飲むのが作法と聞いた。売店へ行って買ってこよう。



「ここに来るまでにも視界に入ってたけど」
 ちらりと過った薄紅色に、セシル・バーナード(セイレーン・f01207)はふと手を止めて顔を上げた。
「改めて見ると幻朧桜って大きいねぇ」
 緑色の瞳が向いたのは、家族風呂の壁の1つ。
 窓というには大きすぎる程に開いた空間の向こうで、幻朧桜が咲き誇っている。
 これだけ広い面積を覆う硝子が作れなかったか、元々の設計思想なのか。
 上部に簾が巻かれているだけで、外とを隔てるものは何もない。
 ただ、一面の薄紅色が。
 何本もの狂い咲くような幻朧桜が。
 窓らしき空間を埋めている。
「オブリビオン……影朧を転生させる神秘の大樹かぁ。
 どういう仕組みになってるんだろうね?」
 それはこの世界、サクラミラージュの特徴であり特性。
 不安定なオブリビオンである影朧は、その荒ぶる魂と肉体を鎮めた後、幻朧桜から生まれる桜の精の癒やしを受ければ転生できる。
 他のどの世界の樹にもない、幻朧桜だけの能力。
 そうでなくとも、1年中咲き続けるというだけでも不思議なのだから。
 セシルは、目の前の銀糸を一束掬い上げると、興味深そうに眺める。
「プラチナちゃんも、ぼくから独立した存在に転生出来るのかな?」
「どうでしょう?」
 セシルに背中を洗ってもらっていた銀髪の少女が、こくんと首を傾げた。
 いつもセシルがユーベルコードで召喚するこの少女は、元々はオブリビオンだったのだけれど、今は何なのかと聞かれるとセシルにもよく分からない。
 でも少なくとも影朧ではないようだから、転生は無理かな、と軽く苦笑して。
(「ぼくから独立できれば、本当の自由なんだろうけどね」)
 そう思いながらも、自分から離れられない存在である少女をこそ愛おしく思ったりもしてしまうから、明らかな矛盾にセシルの苦笑は深まっていく。
 だから、そんな考えを振り払うように。
「それにしても、いい宿だね。夕食も美味しかったし」
 話題を変えながら、セシルは止めていた手を再び動かした。
 石鹸で作った泡で両手を覆うと、そのまま少女の背中に伸ばして。
「2人っきりで入れるお風呂もあるし」
 そのまま直接、少女の背中を撫でるように洗っていく。
 傍から見ると、仲の良い子供達が背中の流し合いをしているようだけれども。
 セシルの掌は、少女の白く滑らかな肌の上を、その柔らかさや艶やかさを確かめるかのようにじっくりゆっくりと往復して。
 だんだんとその動く範囲が、背中から肩へ、腰へ、腕へと広がっていった。
(「プラチナちゃんの裸は、他の人には見せたげない」)
 それが、セシルが混浴風呂ではなく家族風呂を選んだ理由だと告げたら、少女はどんな顔をするだろう?
 ふと、そんなことも考えながら、どんどん広く触っていく。
「そっ、そそそそういえばっ」
 そして前胸部や股関節にまで届き始めた掌の動きに耐えられなくなったかのように、少女が真っ赤な顔で振り返った。
「さっき牛乳がどうとか話してませんでしたか?」
 誤魔化そうとするかのように、少女は別の話題を振り。
 セシルは、ああ、と頷くとにっこり微笑む。
「温泉から上がったら、瓶の牛乳を飲むのが作法だって話を聞いたことがあったんだ。
 だから、ここも売店とかで売ってるのかなって思ってね」
「そっ、それじゃあ早速上がって牛乳を……」
 ここだ、と言わんばかりに少女はセシルを遮り、風呂桶に汲んだお湯をざばっとかぶって泡を落とすと、慌てて立ち上がろうとした。
 けれども。
「まだだーめ」
 ぐいっと手を引かれ、バランスを崩した少女はセシルの腕の中へ倒れ込む。
「もっと温泉を楽しんでから、だよ」
「でもでもこれ以上は私のぼせちゃうというかもう既にくらくらというか……」
 耳元で囁かれる声に、少女の顔がさらに赤く染まり。
 言葉では拒否しながらも、セシルの腕の中から逃げようとはしない。
 ゆえに少女は、ゆっくりと立ち上がったセシルの妖艶な動きにリードされて。
「おいで、プラチナちゃん」
 桜の花弁が浮かぶ湯船の中へと誘われていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルカ・スノードロップ
【BH】
グループ内アドリブ◎

未成年が多いので、お酒は持ち込みませんが
家族風呂で、のんびりと

みんな、私の妻ですからね
女の子同士でも、仲良くあって欲しいですね

家族風呂で、人目もありませんから
羽目を外すのもいいのでしょうけど
外しすぎない様にしないとですね。私の場合

身体を洗ってもらった後で、浴槽に浸かりつつ
スキンシップしている愛妻達の姿を眺めます

浴槽で寛いでいる所で、愛妻達が、順番に膝の上にやってきました
スキンシップは大事ですから
甘えてきた子のことは、存分に甘やかしちゃいます
『膝の上の聖域』なんて言葉も、どこかにはあるそうですけど
のんびりできる時間も、たまには良いものですね


ルーイ・カーライル
【BH】
アドリブ◎
グループ内❤(いちゃラブ)

「みんなで入る温泉は、楽しいよね♪」

持ち込んだボディソープと乳液は、CMやネットで「摩擦レス」って言ってるやつだよ
素手洗いするやつだね
「お兄ちゃん、ボクたちのこと、洗って♪」
沢山泡立てて、身体の隅々までー
ボクはお兄ちゃんに甘えちゃうのです

ミスティお姉ちゃんと、ミルティお姉ちゃんが
お兄ちゃんの背中、洗ってあげる?

ボクも含めて、みんなお兄ちゃんの奥さんで姉妹だからね
ベルナお姉ちゃんと、美麗お姉ちゃんのスキンシップをみて
「ボクもー♪」って飛び入り参加するよ

その後は、浴槽でお兄ちゃんのお膝に交代で座ったり
いっぱい甘えて、可愛がってもらうよ


ベルナ・スノードロップ
【BH】
グループ内❤アドリブ◎

皆さん、兄嫁です
私もお兄様の妻ですから(自称)

今日はゆっくりのんびりです
「洗いっこしましょう」
私から、提案します

ミスティちゃんや、ルーイちゃんとは、一緒にお兄様に――ということもありますけど
美麗さんとは、一緒にお風呂入る事は、そうそうなかったですし
「女子以外には、お兄様しかいないから問題ないです」
美麗さんが、大きさとか柔らかさとか、私との違いを確かめちゃいます

他の年少組の子がスキンシップに来たら、受け止めちゃいます
されちゃう分は、私からもしちゃいますからね
年少組に「お兄様は、やっぱり、これくらいの方がいいんですね」と納得しちゃいます

浴槽ではお兄様にいっぱい甘えます


ミスティ・ストレルカ
【BH】
基本アドリブ調整可

●方針-WIZ
皆で家族風呂でゆったりですね
お兄ぃ達を洗ってあげるのですよー(スポンジで泡立て両手につけ

この後襲撃があるみたいなのであんまり激しくはできないけど
汚れやすい所も丁寧にもこもこと(わっしわっし)
この頃、他の皆もおとなになってる…気が…(大人的に気になる個所を重点的に洗いに行ってしまう

洗い終わったらじっくりとお湯に浸かって休むのです
んー、ちょっと寂しいのかな…
ぎゅっとくっついたり、と温かいと思うのです(桜を見上げ


お風呂の前か後辺りで
環さんの難病に対して彼女自身が諦めてないか意思を確認したいです
ただ影朧を鎮める使命だけでなく、余所者でもやっぱり応援したいのですよ


メイベル・リーシュ
【BH】
グループ内アドリブ◎

外の温泉も悪くはないですわね
「ミルティさん、一緒に住んでいる所のお風呂も温泉ですわよ?」

『妹』である、からくり人形でしかなかったヒルデも
最近は、自律行動と自分の気持ちを言葉に出来る様になりましたから
積極的に主様や、皆さんとスキンシップを図っていますわ

同じ主様を愛する者同士ですもの
洗いっ子したり、さわりっこしたりして、親睦を深めますわ

浴槽では、ヒルデとふたり一緒に可愛がってもらうのがパターンだったのですけど
ヒルデも一人で愛されたいみたいですわね
いい傾向ですわ♪

主様の膝の上で
「主様には、もっと色々な女性に愛される殿方になって頂きませんと❤」


緋神・美麗
【BH】
グループ内アドリブ◎

温泉好きなので温泉にまったり浸かって楽しみながら折角の機会なので親睦を深めてみる
皆ベルカの妻だけどあまり交流する機会ってなかったからねぇ
温泉の定番として洗いっこの意見が出たので勿論参加。和気あいあいとしながら洗いっこするわよ
特にミスティとはあんまり話す機械もなかったからね。髪とか丁寧に洗ってあげるわよ。

ベルナのスキンシップは驚きはするけど気が済むまで任せるわ
「も、もう、これで満足かしら?」
更にスキンシップしにくる子が増えたら
「も、もう、皆好きにしなさいよ。」

浴槽でのベルカとのスキンシップは年長者として皆を優先して最後まで待ってるわね。


ミルティ・レリース
【BH】WIZ
グループ内アドリブ◎
全員名前+ちゃん

「温泉温泉♪ 温泉って入ったことないや、露天風呂?」

湯船にゆったり浸かって、甘いお菓子を食べながら、皆とお話し~
あ、浸かる前に体を洗うの?
はーい、洗いっこねー、誰から誰から?
あわあわにしてもこもこ、みんな綺麗になろうねー♪

綺麗になったから温泉に浸かろうねー
お話とー、いちゃいちゃとー、さわりっこしてー、どうしよっか?



「環お嬢様、手拭をお忘れです」
「ありがとう、ばあや」
 家族風呂へ向かう途中、大浴場の前を通りかかったミスティ・ストレルカ(白羽に願う・f10486)はそんな会話にふと足を止めた。
 長い黒髪の線の細い少女が、小柄な老婆と向き合って立っているのが目に留まる。
「何度も申し上げるようですが、御無理はなさいませぬよう」
「分かってます。御風呂も短めにしますから、大丈夫です」
 心配する老婆に答える少女は、儚げに、しかし微笑んでいて。
「露天風呂も、もっと元気に成ってからの楽しみにしておきますから」
 まだ顔色は青白いけれども、未来を見た答えを返していたから。
(「よかったです。諦めていないのです」)
 ミスティは、手が出ない程に長い袖を引き寄せ口元を隠しながら、微笑んだ。
 難しい病にかかっているという、影朧に狙われた少女・大河内環。
 けれどもその姿に、悲嘆に暮れ、絶望に浸っている様子はなかったから。
(「余所者でもやっぱり応援したいのですよ」)
 女湯へと入って行く背中を、紫の瞳は熱く見送る。
「ミスティ、こっちよ」
 そこに飛んできたのは、緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)の声。
 振り向けば、家族風呂の入り口の前で、美麗がおいでおいでと手を振っていたから。
 ミスティはふんわりと微笑んで駆け寄った。
 そうして向かった家族風呂は、すでに賑やかなことになっていた。
「温泉温泉♪ 温泉って入ったことないや。露天風呂?」
 両の目を明るい色の花で覆ったミルティ・レリース(蝶と華の踊り子・f19316)が、脱いだばかりの服を相手にくるくるとダンスを踊り。
「ミルティさん、一緒に住んでいる所のお風呂も温泉ですわよ?」
 その様子に大人びた微笑を浮かべたメイベル・リーシュ(銀月に照らされし殺戮人形―キリング・ドール―・f15397)の傍らで、黒髪の絡繰人形がこくりと頷く。
「みんなで入る温泉は、楽しいよね♪」
 ボディソープのボトルを抱えたルーイ・カーライル(シンフォニック・エンジェルギア・f17304)が満面の笑みを浮かべれば。
 そんな少女達を見渡したベルカ・スノードロップ(少女を救済せし夜の王【中将】・f10622)も、穏やかに微笑んだ。
「家族風呂、ですか」
「私達にぴったりでしょう?」
 ベルカの呟きを拾ったのは、同じ緑色の長い髪を揺らした、妹のベルナ・スノードロップ(月を愛でるは、聖なる風・f19345)。
「皆さん、兄嫁ですから。もちろん私もお兄様の妻ですけれども」
 そう、この場にいる男性はベルカのみ。
 お酒も飲める立派な大人を囲むのは、ミルティもメイベルもルーイもミスティも、まだ子供として男湯にも入れるほどの幼女ばかりで。
 ベルナと美麗もまだ少女の域を出ない。
 それが全て家族なのだと告げるベルナに、ベルカも頷いて。
「人目も気にせず、のんびりとできるのはいいですね」
 嬉しそうに、琥珀色の瞳で妻達を眺めていた。
「女の子同士もみんな仲良くあってくれる……これ以上のことはありませんし」
「ええ、今日はゆっくりのんびりです」
 喜ぶ兄に、そして夫に、ベルナもにっこりと笑いかけてから。
「さあ、洗いっこしましょう」
 浴場へ足を踏み入れるなり提案の声を上げた。
 お風呂ならではの楽しいコミュニケーションに賛成の声が次々と上がり。
「これ、CMやネットで『摩擦レス』って言ってるやつだよ。乳液もあるよ」
 ルーイが早速ボディソープを泡立てて見せる。
「はーい、洗いっこねー。誰から誰から?」
 ミルティも両手を泡まみれにしながら、皆を見て。
「お兄ぃ達を洗ってあげるのですよー」
 ミスティはスポンジで泡立てると両手に盛って、それをベルカに向ける。
 それじゃあ、とミルティも加わって、2人が素手でベルカの背中を洗い出せば。
「お兄ちゃん、ボクたちのこと、洗って♪」
 ベルカの前にルーイがすとんと座り、その艶やかな背でおねだり。
「じゃあ私は……メイベル? ヒルデ?」
 美麗も泡を手に、誘うように笑いかける。
 伺うようにちらりとメイベルが青い瞳を向けた絡繰人形の『妹』ヒルデが、自ら進み出るように美麗の近くへと寄っていった。
 最近できるようになった、自律行動。
 ヒルデが自身の気持ちを言動で表せるようになったことをメイベルは喜び。
「メイベルちゃんは私が洗いますね」
 そこに飛び込んできたベルナに、泡まみれにされていく。
 そうして始まった洗いっこは、相手や役割を入れ替えながら続いていって。
「あわあわにしてもこもこ、みんな綺麗になろうねー♪」
 ミルティが今度はメイベルに向かえば。
 ヒルデが代わりにとばかりにミルティを洗い。
「そういえば、ミスティとはあんまり話す機会もなかったわね」
 ならばこの機にと美麗は、普段は小さなツーサイドアップにしているミスティの白い髪を丁寧に洗っていく。
 そのミスティは、ルーイに泡だらけの手を向けていて。
「この頃、他の皆もおとなになってる……気が……」
 何となく、大人的に気になる個所を、重点的に洗いに行ってしまう。
「そうかな? おとなー?」
 当のルーイはくすぐったそうに笑うばかりだったけれども。
「ボク洗ってもらってばっかりだから、お兄ちゃん洗ってあげる♪」
 おとなだからね! と楽し気にベルカへ向かっていった。
 続く泡の交流。
「皆ベルカの妻だけど、あまり交流する機会ってなかったからねぇ」
 美麗が改めてその光景を眺めれば。
 そうですね、とベルナが頷き。
「ミスティちゃんやルーイちゃんとは、一緒にお兄様に……ということもありますけど、美麗さんと一緒にお風呂入る事は、そうそうなかったですし」
 言いながら泡だらけの両手を美麗に向け。
「こうして、私との違いを確かめちゃうこともできませんでしたし」
 その動きが明らかに、洗うものではなくなっていく。
「え!? も、もう、ベルナ!?」
 突然のスキンシップに驚きながらも、美麗は本気で止めることはなく。
 仕方ないといった感じに、気が済むまでさせてみる。
 むにむにと大きさや柔らかさを確かめていくベルナに。
「ボクもー♪」
 気付いたルーイが飛び入り参加。
「今度はさわりっこ~」
「あら、ヒルデも交ざりますの?
 では私も、親睦を深めますわ」
「おとなを……確かめる……」
 ミルティにメイベルとヒルデ、ミスティまでも加わって。
「もう……皆好きにしなさいよ」
 されるがままの美麗は、諦めたような、でも交流自体は嬉しそうな、複雑な苦笑を見せていた。
 一足先に湯船につかっていたベルカは、そんな妻達の楽し気な様子を眺めながら。
「羽目を外すのもいいのでしょうけど、外しすぎない様に気を付けて」
 唯一の大人らしく、穏やかな注意を飛ばすけれども。
「あら、それはお兄様でなくて?」
 さらりとベルナに返されて。
「みんなお兄ちゃんの奥さんで、姉妹だからね」
「ええ、同じ主様を愛する者同士ですもの」
 ルーイがメイベルが、大丈夫と笑う。
 さらにベルナは、悪戯っぽく微笑んで見せると。
「それに、女子以外にはお兄様しかいないから問題ないです」
 ベルカに見せるように、今度はミルティへとボディタッチ。
「お兄様は、やっぱり、これくらいの方がいいんですね」
 自身程には大きくない膨らみを両手に収めて、ちょっと難しい顔を見せていた。
 そんなこんなで泡々な時間は過ぎて。
 そろそろ私達も湯船にと言ったのは誰だったか。
 賑やかな女の子達は、ようやく、白い湯の中に潜り込んでいく。
 大浴場というには狭いけれども、小柄な子供が多いとはいえ7人が余裕で入れるほどに広い浴槽は、ゆったりと皆を受け入れて。
「あら、桜の花弁も」
「わー、綺麗だよ」
 そっとお湯ごと1枚の薄紅色を掬い上げた美麗を、ミルティが覗き込んだ。
 ふとミスティが見上げると、そこには窓というには大きすぎる穴が空けられていて。
 その穴を埋めるかのように、幻朧桜が咲き誇っている。
 薄紅色の向こうに見えるのは、真っ黒な夜空。
 でもむしろその黒が、桜の花を引き立て、輝かせているようで。
 ぼうっとその美しい光景を眺めていたミスティは。
「んー、ちょっと寂しいのかな……」
 ぎゅっとベルカにくっついてみる。
 甘えるようなその仕草に、ベルカは優しく微笑んで。
 その白い髪を、色白な背中を、そっと撫でてあげる。
 嬉しそうに紫の瞳を細めるミスティを、ベルカが見下ろして。
「ボクもー♪
 ええと、それじゃあお膝の上!」
 そこにルーイがまた飛び込んできた。
 白い湯の中で組まれたベルカの脚の上にちょこんと座って、えへへ、と見上げる。
 そのオレンジ色の髪も撫で、嬉しそうな紫色の瞳を覗き込んで。
 気付くと、他の少女達も羨ましそうにルーイを見ていたから。
「順番、かな?」
 笑いかけたベルカに、ぱあっと皆の顔が輝いた。
「お菓子も持ってきたんだよ。食べるー?」
 とんでもない甘党のミルティは、目元の花と一房色の違う金髪を揺らしながら、そう言って甘く笑いかけ。
 膝の上からベルカに、あーん、と差し出してみせる。
「温かい、のです」
 ミスティも膝の上はまた格別とばかりに笑みを見せて。
「ヒルデと2人一緒に可愛がってもらうのがパターンだったのですけど」
 メイベルは1人だけでベルカの膝の上に乗る。
「ヒルデも1人で愛されたいみたいですわね」
 いい傾向ですわ♪ と青い瞳を嬉しそうに細めた。
 そして、独り占めした膝の上から名残惜しそうに移動するその時に。
「主様には、もっと色々な女性に愛される殿方になって頂きませんと❤」
 ベルカの耳元でそっと甘く囁く。
 続いてヒルデが、そしてベルナがと並び。
 美麗は自分が最年長なのだからと、皆を優先してちょっと我慢。
(「どこかには『膝の上の聖域』なんて言葉もあるそうですけど」)
 愛しい妻達が代わる代わるやってきてくれるこれは、確かに聖域だと感じながら。
 ベルカはそれぞれを存分に甘やかしていく。
「ボク、もう1回座りたいな」
「いいですね。もう1巡しましょう」
「待ってる間にお菓子食べるー?」
 その間にも、少女達はそれぞれに交流を深めているようで。
 温泉のお湯以上に温かなものが互いに満たされていくようだったから。
(「のんびりできる時間も、たまには良いものですね」)
 ベルカはふっと微笑んで、やっと順番が回ってきた美麗の金髪の頭を、幼子達にしたのと同じように優しく撫でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわぁ、アヒルさん、温泉ですよ。
あの、アヒルさん、またその視線は何ですか。
私もちゃんと勉強してきましたんですよ。
見てください、温泉キャップです。
これなら、帽子を被ったまま温泉に入れます。
準備万端なんですよ。



「ふわぁ。アヒルさん、温泉ですよ」
 支度を整え、家族風呂に入るなり、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は歓喜の声を上げた。
 宿の部屋より広いのではないかと思う浴室に、木枠で囲まれた四角い湯船が、床に埋め込まれるようにして、これまた広くお湯を湛えている。
 今扉を開けた脱衣所側と、そこから繋がる両側面には普通に木の壁があるけれども。
 目の前の、湯船の向こう側には壁がない。
 自然の木をそのまま使ったかのような手すりと、その手前に丸みを帯びた石を日本庭園風にごろごろ並べて、ぽっかり空いた壁の向こうへ近寄らないようにはされていて。
 丈のさほど高くない植え込みが手すりの向こうに立ち並ぶ。
 そして、その開けた空間一面に、幻朧桜が咲き誇っていた。
 フリルはその美しい薄紅色に赤い瞳を細めながら、そっと湯船に近づいて。
 両手で持っていたアヒルちゃん型のガジェットを水面に浮かべた。
 頭の上に小さな手拭を乗せたガジェットは、すいーっと湯船の中を泳ぎ。
 その湯の流れで、薄紅色の花弁と共に、フリルの近くへ戻ってくる。
「……あの、アヒルさん。またその視線は何ですか」
 湯桶でお湯をすくい、恐る恐るかけ湯をしていたフリルはそれに気が付いて。
 どこか見上げるようなガジェットの視線に、困ったように眉を寄せた。
 おどおどと気弱そうに、フリルはガジェットのつぶらな瞳を見つめ。
 でも、と意を決して首を左右に振ると、頑張って胸を張る。
「私もちゃんと勉強してきましたんですよ。
 見てください、温泉キャップです」
 フリルが指し示した先、ガジェットの見上げる先は、綺麗な銀髪が揺れる頭部。
 フリルはいつも、つばの大きな帽子を被っており。
 何故かそれを脱ぐのを嫌がる傾向があったのだけれども。
 今はその帽子の上から、透明なビニールのヘアキャップを被っていた。
「これなら、帽子を被ったまま温泉に入れます」
 上手い事帽子のつばを折りきることもなく、ふんわりと被さったビニールキャップは、本来はその中に帽子ではなく長い髪を入れるのだろうけれども。
 帽子を被ったままで温泉に入れることに喜ぶフリルには、その発想はなく。
 ふわりと揺れる長い銀髪のほとんどは、キャップから出たままだから。
「準備万端なんですよ」
 嬉しそうに、フリルはガジェットの近くから湯船に入っていく。
 まあ、家族風呂なので他に誰もいませんし。
 水面に広がっていく銀髪から逃げるように流されていくガジェットは、何となく、やれやれ、といった雰囲気を醸し出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

草守・珂奈芽
【要宮】

男子なの忘れて勢いで温泉さ誘っちゃったのさ…し、親しみがあるからつい!
混浴になっちゃってなんか恥ずかしいけど楽しまなきゃ、折角だし!

そ、そーえばいつきくんも小柄なのさ。
わたしもだけど小さくて軽いと大変だよね。見た目にも舐められたりさ!
なんちゅーか、猟兵として戦うの、大変じゃない?

…そっか、なんだか似てるのさ。
わたしはこの腕の通りひょろくて貧弱でさー。でも猟兵になったら体も力も昔よりは強くなってね。
それならヒーローみたいにかっこよく誰かを助けたいなーって、ちょっと頑張ってるのさ。
変、かな?
…えへへ、ありがと。思わず照れ笑いになっちゃうのさ。
よーし、じっくりあったまって今回も頑張ろーね!!


雨宮・いつき
【要宮】

混浴に誘われてしまいました…
あれ、もしかして女だと思われてる?
いやでもちゃんと男だって以前言ったような
…ま、まぁ何にしてもお誘い頂いたのに無碍にするわけにもいきませんよね
…意識し過ぎて調査に身が入らなかった気がします

少し気まずい気分になってたら、草守さんの方から話し掛けてくれて
…そうですね。立っ端も無くて力も無くって
陰陽術を修めて人並みに戦えるようになりましたけども、僕も本当は皆の前に立ちたくて

…全然、変なんかじゃないですよ
誰かの助けになりたい、自分の出来る事を精一杯活かしたい
それって、とても素敵で大事な事だと思いますから

…ええ、ええ。出来る事を精一杯、頑張りましょう



「いつきくん、一緒に温泉行こう!」
「え、ええ。はい」
 草守・珂奈芽(小さな要石・f24296)に陽気に誘われた雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は、思わず返事を返してから。
 大浴場へと向かう道すがら、やっと思い至った。
(「草守さんと一緒に、ということは、混浴……?」)
 互いに14歳とまだ大人扱いされない年齢とはいえ、大人が一緒でないと風呂に入れない程にも、無邪気に裸で遊べる程にも幼くはないから。
 隣を歩く珂奈芽の緑色の可愛いお団子頭をちらりと見ながら、いつきは考える。
(「それとも、もしかして僕、女だと思われてる?
 いやでもちゃんと男だって以前言ったような……」)
 確かにいつきは、まだ男らしさが全面に出る前のすらりとした体格だし。
 肩に届かないくらいのさらりとした艶やかな黒髪も、柔和に微笑む青い瞳も。
 眼鏡をかけた整った顔立ちも、少女と見紛う程の美少年ではあるのだけれど。
(「……ま、まぁ何にしても、お誘い頂いたのに無碍にするわけにもいきませんよね」)
 狐耳を緊張にぴんっと伸ばして、落ち着きなく狐尻尾を揺らしながらも、表情や態度は冷静に、いつきは混浴風呂の扉を開けた。
 そして、脱衣所へと入るいつきの後を追った珂奈芽は。
(「男子なの忘れてたのさ! し、親しみがあるからつい!」)
 誘った時の勢いから覚めて、いつきと同じ問題にようやく直面していた。
 とはいえ、誘っておいていまさら別々で、なんて言えないし。
 いつきがいいと言っているのに自分だけが嫌だなんて、嫌っているみたいだし。
 そもそも珂奈芽はドラゴニアンの一族の蛍石なんだから、ドラゴンは竜形態ならいつも裸みたいなものだし、宝石は服なんて不要なものだし、大したことじゃない……って思い込むにはちょっと無理があったけれども。
(「なんか恥ずかしいけど楽しまなきゃ、折角だし!」)
 ちょっぴり強がりと、前向きな思考で割り切ると、珂奈芽は気にしてないよという風を装って湯船に飛び込んでいった。
 幸い、他の客の姿はなく、貸し切り状態なのに内心ほっとしながら。
 珂奈芽といつきは、幻朧桜が見守る下で、露天風呂に並んでつかる。
 ゆるりと全身を包む温かな湯の感触は落ち着くし。
 白く濁ったお湯と、咲き誇る薄紅色で、目のやり場に困ることはなかったけれども。
 何となく漂う、気まずい空気。
 お互いの方を見れないまま、逃げるように幻朧桜に視線を固定して。
 どうしたらいいのか、といつきが悩み始めたその時。
「そ、そーえば。いつきくんも小柄なのさ」
 珂奈芽が、少し固い声で話しかけてきた。
「わたしもだけど小さくて軽いと大変だよね。見た目にも舐められたりさ!
 なんちゅーか、猟兵として戦うの、大変じゃない?」
「……そうですね。立っ端も無くて力も無くって。
 陰陽術を修めて人並みに戦えるようになりましたけども」
 男女の差がまだ少ない年齢の2人は、確かに似たような背格好で。
 きっといつきはこれから背が伸びていくだろうし、珂奈芽も素敵な魅力を得ることだろうけれども、それはまだまだ先の話。
 今の2人は小さくて非力な存在だったから。
「僕も本当は皆の前に立ちたくて」
「そっか、なんだか似てるのさ」
 強張りの溶けてきたいつもの口調で頷くと、珂奈芽は右腕をお湯から上げて翳した。
「わたしはこの腕の通りひょろくて貧弱でさー。
 でも猟兵になったら体も力も昔よりは強くなってね。
 それならヒーローみたいにかっこよく誰かを助けたいなーって。
 ちょっと頑張ってるのさ」
 少し苦笑して、いつきの方を振り向くと。
「変、かな?」
 問いかけにいつきも振り返って。
「全然、変なんかじゃないですよ」
 珂奈芽を真っ直ぐに見つめて、優しく微笑んでいた。
「誰かの助けになりたい、自分の出来る事を精一杯活かしたい。
 それって、とても素敵で大事な事だと思いますから」
「……えへへ、ありがと」
 真摯な答えに、珂奈芽は思わず照れ笑いを浮かべ。
 左腕もお湯から上げると、うーん、と伸びをするように掲げる。
 いつの間にか、漂っていた気まずさはなくなり。
 いつもの居心地のいい空気が2人の間を漂っていたから。
「よーし。じっくりあったまって、今回も頑張ろーね!」
「ええ、ええ。出来る事を精一杯、頑張りましょう」
 珂奈芽といつきは微笑みを躱し、温かな湯から咲き誇る幻朧桜を見上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

君影・菫
ニーナ(f03448)と

なあなあ、ニーナは温泉て行ったこと有る?
うちは実際来るのは初めて
マナーは髪と手拭いをお湯につけないとか
身体にお湯も…?
一応入る前に確認しに行こか

しゅるりと帯を解きひとつひとつ畳んで
隣の視線にこてりと首を傾げて
どないしたのてゆうるり咲う

混浴も気にしない程遠い羞恥やけど
今回は女湯なんやねとゆるいおと
目指すは広い大浴場と童女のように眸輝かせて
ふふ、幻朧桜も見えるよてゆびさきで

ゆうるりと浸かる心地はヒトの体やからわかるもので
ふうと零した吐息さえ実感の、
キミは何を考えてるんやろて気にのうて
お湯の中で手探りキミと指先を絡めてみたら
ふふ、捕まった
この一瞬を繋ぐような心地
あったかいねえ


ニーナ・アーベントロート
菫さん(f14101)と

あたしも温泉は初めて
普通のお風呂とは勝手が違うって聞いたから
マナーも予習してきたよ
湯船に入る前には、身体にお湯をかけるんだっけ……?

服のボタンを外し髪を束ねつつ
ついお隣と自分自身を真剣に見比べる
菫さん、スタイル良すぎじゃない……?
背はほぼ同じなのになぁって羨望の視線

流石に混浴は恥ずかしーよ、今回は女湯で!
童女のように奔放な友人と顔見合せて
目指すは大浴場の露天風呂

身体を芯から温めて、手足をぐんと伸ばしリラックス
顔を上げれば夜天に映える花の色
菫さんにはヒトの身で感じる幸せ、沢山知ってほしいし
遠い未来でも覚えててほしいから
触れてきた指先をきゅっと捕まえた
……ふふ、あったかい



「なあなあ、ニーナは温泉て行ったこと有る?
 うちは実際来るのは初めて」
「あたしも温泉は初めて」
 大浴場へと向かう廊下を歩きながら、君影・菫(ゆびさき・f14101)とニーナ・アーベントロート(埋火・f03448)はゆるりと声を交わしていた。
 初めてのものは、そこに至るまでも楽しいものだから。
 この一時すらも嬉し気に。
「普通のお風呂とは勝手が違うって聞いたから、マナーも予習してきたよ」
「そうなん?」
「うん。ええと、湯船に入る前には、身体にお湯をかけるんだっけ……?」
 ちょっとしどろもどろなニーナに、菫はくすりと微笑んで。
「一応、入る前に確認しに行こか」
 この寄り道も楽しいもの。
 そして、一通りの教えを受けてから、2人は脱衣所へと足を踏み入れる。
 へぇ、と物珍し気に見まわしてから、隣合って荷物を置くと。
 ニーナは早速服のボタンを外し、服を脱ぎ始めた。
 髪をお湯につけないように、と聞いた話を思い出しながら。
 長い灰色の髪を束ね、高い位置で纏め上げて。
 ふと、隣に目が向く。
 そこには、しゅるりと帯を解いて、着物を丁寧に畳んでいる菫がいた。
 和装に合わせいつも結っている長い緑髪は、ふわりと揺れる横髪も纏め上げて。
 色白の美しい肌を惜しげもなく晒している。
 普段から露出が高めだから分かってはいたけれども、その胸はとても柔らかそうでふうよかで大きくて……
 思わずニーナは、小ぶりな自分のそれと真剣に見比べてしまう。
 そんな様子に気付いた菫は、こてり、と首を傾げ。
「どないしたの?」
 ゆうるり咲う声に、ニーナは少し恨めしそうに返した。
「菫さん、スタイル良すぎじゃない……?」
 背はほぼ同じなのになぁ、とついつい羨望の視線を向ければ。
 おやまあ、と軽く驚いた菫は、すぐにふんわりと微笑んで。
「うちはニーナの可愛らしさも羨ましいわあ」
 バランスの取れた穏やかな曲線美を紫色の瞳で追う。
「そうかな?」
 褒められて少し嬉しそうにしつつも、やっぱり菫に憧れているようなその様子に。
 ふふ、と悪戯っぽく微笑んだ菫は、さり気なく浴場の入り口へと視線を流し。
「今回は女湯なんやね」
「流石に混浴は恥ずかしーよ!」
 ゆるうく告げると、ニーナが慌てて飛びついてきた。
 混浴でも構わないと思う程に羞恥が薄い菫なら、本当に混浴に連れていかれかねないといった焦りの形相。
 その必死な様子から、ニーナの中からコンプレックスが一時的にかもしれないけれども消え去ったのを見て取って。
 菫は嬉しそうに笑った。
「ええよ。目指すは広い大浴場」
 どちらでもいいのは本当。
 女湯でも混浴でも、広いお風呂があるのは同じだから。
 わくわくと、童女のように紫瞳を輝かせる菫に、ニーナは顔を見合わせて。
 行こう、とどちらからともなく扉を開けた。
 そこに広がるのは、待ちに待った広い浴場。そして広い湯船。
 たっぷり満ちた白いお湯から、白い湯気が立ち上り。
 その脇にあるもう1つの入り口からは、露天風呂のある外へと出れる様子。
 惹かれるように外へ出れば、石造りの大きな湯船。
 そして、広がる夜空と。
「ふふ、幻朧桜も見えるよ」
 菫の艶やかな指先が示す、薄紅色。
 わあ、とニーナも童女のようにオレンジの瞳を輝かせて。
 でもマナーは大事、と逸る気持ちを抑えながら、まずは身体に湯をかける。
 足元から、だんだんと上に。
 周囲にお湯が大きく飛び散らないように気を付けながら。
 肩までお湯をかけ終わったら。
 同じ所作を終えた菫と笑い合ってから、ゆうるりと湯船に沈んでいった。
 はぁ、と思わず息が零れる。
 芯から身体が温まっていく感覚に、ニーナは手足をぐんと伸ばし手リラックス。
 そのまま背を少し倒すように顔を上げれば、夜天に桜の花が輝くように映えていて。
 ニーナはしばらくそのまま、温かさと美しさとに身を預けた。
 菫も、お湯にゆうるりと浸かる心地を、ふうと零した吐息を、存分に味わって。
(「ヒトの身やからこそ、やなあ」)
 簪のヤドリガミである自身を想う。
 ヒトの身体を得たからこそ、得られた実感。
 そして、ニーナと共に来れたからこその、幸せ。
(「キミは何を考えてるんやろ?」)
 ちらりと横目で隣を見た菫は、ふと気になって手を探る。
 少し白い湯の中を、ゆうるりと泳ぐようにニーナへと近づいた菫の繊手は。
 そうっとニーナの手の甲に、触れた。
(「菫さん……」)
 お湯ではない感触に気付いたニーナは、でも視線を上に向けたまま。
 ふっとその口元をほころばせた。
 簪である菫に、ヒトの身で感じる幸せも沢山知ってほしいし。
 遠い未来でも覚えていて欲しいと思う。
(「これも幸せに、なったかな?」)
 初めてだと言っていた温泉。
 そして、自分と一緒に居てくれる、この一時を。
 幸せと思って、ずっとずっと覚えていて欲しいから。
 ニーナは、甲に触れた指先をそっと迎え入れるように手を浮かせて。
 絡めとるように、きゅっと捕まえた。
「ふふ、捕まった」
 菫の声が笑う。
 身体を包む優しい温泉と。
 夜空に広がる幻朧桜。
 そして、指の絡まる、この一瞬を繋ぐような心地よい感覚。
「あったかいねえ」
「……うん、あったかい」
 菫のゆうるりとした声に、ニーナも上を見たまま瞳を閉じて、答えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ランガナ・ラマムリタ
ときめくん(f22597)と

女湯へ。タオルを巻いてときめくんの肩の上
実は本の妖精としては肩まで水に浸かるのは得意ではないのだけれど
それはそれとしてこの光景は大変目に優しい。悩ましいね?

「こらこら。物語なら確かにここで謎めいた美女は定番だけれど、2人まとめてというのはテンプレヱトを外れるよ。ねえ、お嬢さん」
なんて、横から茶化し
「湯治かい。それは失礼。万病に効く湯、確かに良い療養になりそうだ」

調子を合わせつつ、くす、と、横目に探偵さんのお手並み拝見

2人になると、さらりと湯に濡れた黒髪を梳いて
「ふふ、緊張しなくても大丈夫だよ。小さな子もいるのに、そう大胆な悪さはできないからね」
桜の香りが、心地良いね


如月・ときめ
ランガナ(f21981)さんと

友人と探偵のお仕事するの……恥ずかしい仕事はできないな、と
緊張しちゃってますね

女湯で環さんに接触
ランガナさんは、合わせてくれるって自然に信じて

「もしかして華族のお嬢様のお忍びですか。小説のシチュエヰシヨンみたい!」

似た年頃の気安さと装った無神経さ
でも、事情を知ればちゃんと謝罪。あとは探偵の話術で、巧みにお話を訊きだします

病状は把握しておきたい
影朧を迎え撃つ際の対策を講じたいですし
……どんな、病かも。目を逸らさず知っておきたい

……なんででしょうね
一糸纏わない姿、落ち着きません
故郷で慣れてるはずなんですけど

「もう、っ! ランガナさんはまた、そうやって揶揄う。
……莫迦」



 女湯の湯船に身を沈めた如月・ときめ(祇ノ裔・f22597)は、だが身体を強張らせたまま、少し固い表情で浴場内を見ていた。
 艶やかな長い黒髪はお湯に浸からないよう纏め上げて、線の細いうなじを見せ。
 桜の精の特徴である両側頭部の桜の枝に、薄紅色の花を咲かせ。
 色の白い肌を隠すかのように、肩までしっかりと白い湯に浸かる。
 その体勢だけなら、温泉を堪能している状態だったけれども。
(「友人と探偵のお仕事するの……恥ずかしい仕事はできないな」)
 温かい湯船の中にあって尚、緊張に強張る身体。
 ときめがちらりと左の肩に視線を向ければ、そこには小さなフェアリーが座っていた。
 いつもの燕尾服に似た服装を脱いで、タオルを巻いた温泉仕様となったランガナ・ラマムリタ(本の妖精・f21981)は。
 灰色の髪がかかったモノクルの下で、黒い瞳をゆったりと細めている。
「本の妖精としては、水に浸かるのは得意ではないのだけれど」
 ときめの視線を感じてか、くすりと面白がるように笑ったランガナは。
「それはそれとしてこの光景は大変目に優しい。悩ましいね?」
 どこか格好いい、同性からの評価とは思えない物言いでときめを見上げた。
 耳に届いた心地よい声に、肩に感じる確かな存在に。
 ときめは、お仕事頑張らなくちゃ、とまた気合いを入れ直す。
 さらに強張っていく身体に、ランガナが、ふふっ、と艶やかに微笑んだ。
「緊張しなくても大丈夫だよ」
 纏め上げた黒髪を梳くように右手を当てて、少しほつれた黒髪を左手で掬い上げると。
 湯に濡れ艶やかに輝くそれを顔に近づけ、そっと口づけて見せる。
「小さな子もいるのに、そう大胆な悪さはできないからね」
「もうっ! そんなんじゃないですのに。
 ランガナさんはまた、そうやって揶揄う」
 緊張していたのはそっちの理由ではなかったのだけれども。
 慌てて反論するうちに、ふっとときめは安堵していく自分を感じていた。
 いつものようなやり取りのおかげ、なのだろうか。
 ときめが少しずつ平常心を取り戻していくと。
 今度は、一糸纏わぬ姿でいる自分を改めて認識してしまい。
 ランガナに言われた言葉の方が気になってしまって。
(「……なんででしょうね。故郷で慣れてるはずなんですけど」)
 どこか落ち着かずにそわそわしてしまう。
 様子の変わったときめの可愛らしさに、ランガナはまた微笑むと。
 掬い上げた髪を手放し、撫でていた髪へと寄り添うように身体を寄せた。
「桜の香りが、心地良いね」
「……莫迦」
 ときめは温泉のせいだけではない真っ赤な顔で、俯き気味に水面を見つめる。
 そこに。
「さあ、来たよ」
 少し声色を変えて囁くランガナの声に、ときめは顔を上げた。
 赤瞳に映ったのは、湯けむりの向こう、洗い場から湯船へと歩いてくる線の細い少女。
 長い黒髪をときめのように高い位置で纏め上げた少女は、羽織っていた湯あみ着らしき薄手の着物をそっと脱いで、湯船の端にしゃがみ込んで揃え置くと。
 湯桶で温泉を汲み上げて、少しずつ白磁の肌にかけていく。
 湯船に入る準備、といったその様子を観察してから、ときめは、よしっ、と改めて気合を込めた。
「探偵さんのお手並み拝見」
「ランガナさんってば、もうっ」
 肩から見守ってくれる視線を感じながら。
 特に打ち合わせなどなくとも、きっと合わせてくれると自然に信じて。
 ときめは少女に話しかけた。
「もしかして華族のお嬢様のお忍びですか。小説のシチュエヰシヨンみたい!」
 少し無神経かと思いながらも、でもそれは似た年頃の気安さと取ってもらえるだろうとの打算も持って、好奇心旺盛な少女を装えば。
「こらこら。物語なら確かにここで謎めいた美女は定番だけれど、2人まとめてというのはテンプレヱトを外れるよ。ねえ、お嬢さん」
 ランガナも調子を合わせ、ときめをたしなめるようにしながらも少女に話を振る。
 突然のことに、驚いたように瞳を見開いた少女は。
 でもすぐに、少し困った笑みを浮かべて小さく首を振った。
「いいえ、私は湯治の為に滞在しているだけの者ですから」
「ごっ、ごめんなさい」
「湯治かい。それは失礼。万病に効く湯、確かに良い療養になりそうだ」
「はい。此処はとても良い湯ですよ。御蔭様で私も大分調子が良いのです」
「それはよかったです。そうすると、こちらは長いのですか?」
 きちんと謝罪も入れながら、少女の話にしゅんとしたりほっとしたり、大仰に反応を見せつつ、ランガナのフォローも挟みながら、ときめは少女との話を続けていく。
 湯船の端に並んで座るように身体を沈め。
 互いの名を伝え合いながら。
 少女は……大河内環は、新しい友達に少しずつ自身のことを語り始めた。
「何時もは、ばあやに手伝って貰って個室の御風呂へ行っていたのですけれども。
 ここ数日はこうやって、大浴場に来れる様になりました。
 まだ露天は、御医者様に止められておりますけれどね」
 それはときめが、探偵の話術で巧みに話の流れを作ったゆえであり。
 同年代の友人という演出を添えたおかげでもあり。
「難しい病気、なのですか?」
「どんな病か教えてはいただけないだろうか?
 ああ、もちろん無理にとは言わない。
 ただ、どのような病に湯が効くのか、知りたいと思ってしまってね」
「ランガナさんは本の妖精ですから。知識欲が強いんです」
「それはときめくんもだろう?」
 ランガナとの仲の良い、いいテンポのやりとりを挟んだからでもあって。
 訥々と、環は自身の病について語りだす。
 本当に幼い頃は、運動が苦手なくらいで普通の子供だったと。
 尋常小学校に通い出した頃から、疲れやすくなり、風邪をひきやすくなり、不意に倒れてしまったり、皮膚が弱く爛れてしまったりもして。
 高等小学校への進学どころか、卒業することすらできなくなって。
 気分も落ち込み、床から離れることも難しくなっていたのだと。
「御医者様には、正確な原因は分からないと言われております」
 この温泉郷へ来たのは、別の場所での療養により少し床を離れられるようになった頃。
 気持ちが落ち着き、皮膚の病が次第に治まってきていて。
 最初は貸間に湯を運んでもらっていたのが、個室を使えるようになり、大浴場に来れるまでになったのだという。
「でも、ごめんなさい。あまり長湯はできないので……」
「あっ、気にしないでください」
「体調が一番大事だ。私やときめくんに気兼ねする必要はないよ」
 話の途中で、申し訳なさそうに湯船を立つ環を、ときめとランガナは見送り。
「またお話する機会があったら、嬉しいです」
 はにかむように笑うその儚い笑顔が、浴場を出ていくのを見守った。
 病と闘う少女。
 苦しみながらも希望を掴み、生を望む姿。
 ふわり、とランガナはときめの肩から浮かび上がるように立ち上がる。
 ときめも、湯船の中で立ち上がったまま、環の後ろ姿が消えていった扉を見つめ。
「絶対に、影朧に殺させたりしない」
 誓うように、呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
見上げれば満開の桜
湯船からほぅ、と一息
「医師、ね…」
義父もUDC専属の医師であったし
自分も魔導心療術士を目指して医療の道を進み出した
少しだけ近しくは感じる

「少しだけ、似てるのよ」
予知に出てきた白黒の人物像を思い返して

自分が本当に癒したい人は唯一人
けれど相手は役者の教養として心理学を修め、
茶を用いるセラピストとしても造詣が深い
その知識と経験で闇を隠し通してしまえる程には
「義兄さんが拒むのなら」
UDC世界の理論はその闇に届かない

自分はあらゆる意味で未熟だ
だからこそ手を伸ばし続ける
アルダワの魔術にだって
「いつか、その空疎(しろ)と絶望(くろ)を」
幻朧桜の花のような命の色に染め上げられたら



 広く湯を満たした露天風呂の片隅で。
 その温もりに身をゆだねていた南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)は、惹かれるように漆黒の瞳を上へ向けた。
 夜空のような瞳に映り込むのは、神秘の幻朧桜。
 黒の中にぼうっと浮かび上がるように咲き誇る薄紅色で。
 その花の美しさに、思わず、ほぅ、と息が漏れる。
 身体を包み込む心地よい湯の感触に。
 視界一杯に広がる美しい光景に。
 海莉は穏やかな笑みを浮かべて浸るけれども。
「少しだけ、似てるのよ」
 ぼんやり揺蕩うその思考が、今回現れるという影朧へと及ぶ。
 ……病の少女を狙う、医師の影朧。
 医師という職業は、海莉にとって近しいものだった。
 義父は、UDC専属の医師であったし。
 海莉自身も、魔導心療術士を目指して医療の道へと進みだしたところだから。
 親近感、ともまた少し違うかもしれないけれども。
 その存在を想像し易くはある。
 だが、医師であるというそれ以上に。
 予知で語られた影朧の、その人物像を思い返すと。
 重なる。
 全てを救えないと嘆く絶望が。
 それなら全てを終わらせようと狂った闇が。
 重なる。
(「義兄さん……」)
 医療の道を選び、進む海莉が本当に癒したいのは、唯一人。
 けれども、その相手は癒すべき傷を隠し通し。
 海莉が気付く前に姿を消してしまった。
 役者の教養として、心理学を修めていたから。
 セラピストとして、茶に関わる造詣も深かったから。
 そういった数多の知識が、経験が、義兄の闇を隠し。
 義兄が拒んだから、UDC世界の理論はその闇に届かなかった。
 その世界に、海莉も、いた。
 海莉も、届かなかった。
(「私は、未熟だ」)
 あらゆる意味で、そう思う。
 だからこそ、海莉は手を伸ばし続ける。
 義兄に与えられた、芝居や茶葉など、様々なものを零さぬようかき集め。
 UDC世界のもので届かないのならと、アルダワの魔術も求め。
 今度こそ、とその手を伸ばす。
「いつか、その空疎と絶望を」
 白い空疎と、黒い絶望を。
 幻朧桜の花のような、命の色に染め上げられたら、と。
 そして、温かな温泉のように。
 義兄の心を包み込めたなら、と。
 ただひたすらに、それだけを願って。
 海莉は、白い湯から持ち上げた細い腕を、咲き誇る薄紅色へ向けて伸ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と

よっしゃ、行くか!
彼の肩に腕を回して
強引に引き連れて歩く
向かう先は家族風呂

酒持ち込めるのが
此処しかなかったんだよ
他の薬草風呂とかが良かったか?

連れ込んでから聞くのは、確信犯
彼がノーと言わないことを知っている
ふ、と口角を上げたなら晩酌を強請ろうか

ほら、マコ、注いで
お前は未成年だからな
飲めねえけど、オレは飲む

注がれた酒をひとくち含み
そのまま勢い良く飲み干した

あ゛ー、うめえ、

風呂から見える幻朧桜も相俟って
すげえ良い気分だ、楽しい

今度はお前が成人してから来るか
その時にはオレが注いでやるよ

にんまりと楽しそうに笑う
以後も繋がる縁を信じて疑わない

ひらり、舞う花びらが、浴槽に落ちた


明日知・理
ルース(f06629)と
アレンジ、マスタリング歓迎

_

はいはいと笑って彼の腕を受け入れ共に歩く。
いいや、ルースの好きなところでいいよ。…って、風呂で酒飲むのか?のぼせないか?
そうなったら勿論介抱するが、まあ彼のことだ。大丈夫なのだろう。

「ふー…」
温泉が気持ちいい。
酌を強請られれば微笑んで拝命しよう

上機嫌な彼の様子にそりゃよかったと返し
ルースが飲みすぎないよう俺が一応セーブしておこう。酌の役は俺だし丁度いい。

……俺が成人してから?
一つ瞬いて彼を見る。
彼がそこまでこの縁を繋いでいてくれるのかと思うと嬉しくて
「…ああ、楽しみにしてる」
心の底から笑って、そう返した。

薄紅の花びらが、流れていく。



「よっしゃ、行くか温泉!」
「はいはい」
 ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は、明日知・理(月影・f13813)の肩に腕を回すと、半ば強引に歩きだした。
 引きずられるような格好となった理だけれども、その顔に浮かぶのは優しい苦笑で。
 呆れたような、でもどこか嬉しそうなものだったから。
 ずんずん進んでいくルーファスの、好きなようにとついていく。
 そうして辿り着いたのは。
「……家族風呂?」
「此処しかなかったんだよ。酒持ち込めるのが」
 不思議そうに傾げた首は、ルーファスがさらりと告げた理由に、なるほど、とすぐに元に戻って。
「他の薬草風呂とかが良かったか?」
「いいや、ルースの好きなところでいいよ」
 尋ねるルーファスに、もう来ているのだし、というニュアンスも含めて答える。
 まさしくそれを狙い、ノーと言わせないようにと動いていた確信犯は、ふっと口角を上げると、早速風呂場へ繰り出して。
 少し白く濁ったたっぷりのお湯の中に、2人は並んで身を沈めた。
「ふー……」
 心地よい温かさに、揺蕩う水の感触に、理は思わず息を吐く。
 自然と上向いた視線の先には、ぶち抜いたかのように壁がなくて。
 開けたその空間を、薄紅色が埋めている。
 一面の幻朧桜に、紫の瞳を細めていると。
「ほら、マコ、注いで」
 理の目前に、ずいっと銚子が差し出された。
 はいはい、とまた苦笑して答えながら受け取ると、次に出てきたのはお猪口で。
 理はそこになみなみと、無色透明な液体を満たす。
 零れそうなそこに口をつけたルーファスは、ひとくち含んで余裕を作って。
 次の瞬間には、勢い良く飲み干していた。
「あ゛ー、うめえ」
 用意されていた酒は、入浴中であることを考慮して度数が低めのものだったから、酒豪のルーファスには水みたいではあったけれど。
 温泉に浸かりながら。桜を見上げながら。
 そして、親しい相手の手酌を受けながら。
 楽しむ酒は格別だったから。
 気分良く笑いながら、またお猪口を差し出す。
「そりゃよかった」
 上機嫌なルーファスに、理も嬉しそうに小さく微笑み、銚子を傾ける。
 まだ未成年の理には、共に飲むことはできないけれども。
 ここまで楽しまれたならこっちも楽しくなるというもの。
 とはいえ、入浴中の飲酒は気持ちよさと危険が隣り合わせと知っているから。
 飲み過ぎないようにセーブしておこう、とこっそり考えていたりもする。
 まあ、のぼせたりしたらもちろん介抱してやるつもりでいるし。
 酒に強く、またよく酒を飲み慣れているルーファスなら大丈夫だろうとも思いながら。
 丁度、任された酌の役を存分に利用して、ペースを調整していく。
 そしてまた、お猪口を空にして気持ちよさそうに声を零したルーファスは。
「今度はお前が成人してから来るか」
 不意に、理に捧げるように、お猪口をくいっと持ち上げて見せた。
(「……俺が成人してから?」)
 それは、一緒に酒を飲み交わそう、という誘いであるとともに。
 この先も2人の縁を繋げていこう、と望んでいるかのような言葉。
 いやむしろ、縁が続いていくと信じて疑っていないかのようだったから。
 一つ瞬いて、楽しそうに笑うルーファスを見つめた理は。
「その時にはオレが注いでやるよ」
「……ああ、楽しみにしてる」
 心の底から笑って答えながら、再びお猪口に銚子を近づける。
 ふわりと穏やかな風が通り。
 ひらりと舞った薄紅の花弁が2枚、湯船に落ちて浮かび。
 離れることなく流れていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
【エウちゃん(f11096)と行動】

目標の少女を侵入者から守る事を想定し旅館の間取りを把握する
後は夜更けまで英気を養う!

温泉だ!
私の部屋お風呂狭いからゆっくり体伸ばせるの久しぶり!
誰かと入るのはいいね、シェル姉は一緒に入ってくれないもん

エウちゃん、結構温泉好きだね?
露天風呂、いいよね。外の風と温かいお湯の両方が味わえてつい長湯しちゃう

こういう所はご飯も期待できるんだよね、何が出るかなー。好みのものが出るといいなー!

あ、探り入れるんだね?了解、見張っておくよ
……こう、完全に仕事抜きならこの滑らかな肌をツーっと悪戯したくなるよね
いや、しないけどね?


エウロペ・マリウス
同行者:セリカ(f00633)

露天風呂は大好きだから、こうしてまったり過ごすのもいいね
混浴を避ける&同性でも白い濁りのある湯なら、入ってしまえば肌を必要以上に晒さなくていいだろうし
セリカと談笑しつつ、じっくりと温泉を楽しませて貰うとするよ

それから、その間も情報収集はしっかり行っておくよ
「無明に漂う番犬。噤む赫灼の理を以て常闇を纏い、集いて散れ。月の女神に従いし亡霊の影(ヘルハウンド・ウンブラ)」
大河内環の傍で見張らせ、周りには見せない本音等も探れたら幸いかな

意識を共有させている間は、完全に集中して無防備になるから、
セリカに注意しておいて貰おうかな?
さすがに見知らぬ人に肌を晒すのは抵抗あるからね



「温泉だ!」
 飛び込むような勢いで、でも実際はちゃんとマナーを守って露天風呂に入ったセフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)は、温かな湯の中で両手足を伸ばした。
「私の部屋お風呂狭いから、ゆっくり体伸ばせるの久しぶり!」
 どれだけ伸ばしても湯船の端に当たらないのを楽しんでいると。
 その向かいに、エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)もそっと入って来る。
 お湯の中に入ったら溶けてしまいそうなほどに綺麗な白い髪と青い瞳のエウロペは、だが実際はそんなことはなく、心地よさげに、ほぅ、と息を吐いた。
「エウちゃん、結構温泉好きだね?」
「露天風呂は大好きだよ」
 にっと赤い瞳で笑うセフィリカに、エウロペが微笑むと。
「いいよね。外の風と温かいお湯の両方が味わえてつい長湯しちゃう」
 セフィリカはご機嫌で、少し白く濁ったお湯を両手で掬い、ぱしゃっ、とその場で宙に放り投げるようにして水音を立てた。
「幻朧桜も綺麗だしね」
 遊びだしそうな金髪から視線を動かし、エウロペは周囲を見て示す。
 セフィリカもそれを追いかけるように顔を上げて。
 夜空の下で輝くように咲き誇る薄紅に、また歓声を上げた。
「誰かと入るのもいいよね」
 こうして気付かせてもらえることもあるし。
 何より弾む会話が楽しいから。
 セフィリカは、むっと口を尖らせて、不満を表して見せ。
「シェル姉は一緒に入ってくれないもん」
「魔剣シェルファ? ……錆びるからかい?」
「そうだったの!?」
 エウロペの想像に、驚いてお湯から立ち上がったりする。
 そんな他愛もない会話を交わしながら、じっくり温泉も楽しんで、まったりと時間を過ごしていく。
「こういう所はご飯も期待できるんだよね。
 何が出るかなー。好みのものが出るといいなー!」
 そのうちに、温泉ではなくその後にもセフィリカの楽しみが向いていったから。
「その前に一働きだね」
 エウロペはお湯に身体を沈めたまま、詠唱を始める。
「無明に漂う番犬。噤む赫灼の理を以て常闇を纏い、集いて散れ。
 月の女神に従いし亡霊の影(ヘルハウンド・ウンブラ)」
 露天風呂の周囲に現れたのは、黒い犬の姿をした不吉な妖精の影。
「あ、探り入れるんだね? 了解」
 察したセフィリカが、ぐっと親指を立てて見せると、エウロペは頷いて。
 吠えることもなくエウロペを覗き込むようにしていた影の犬は。
「大河内環を見張っておいで」
 指示を受けるなりくるりと踵を返し、足音すらも立てないで走り去った。
「ええと、今いる大浴場の上の階が、観光客用の宿泊部屋でしょ。
 東側にある別棟が、何だっけ、かしま? なんだって。
 湯治の人はそのかしま? に泊まってるんだって聞いたよ」
 セフィリカも、遊んでばかりいたわけじゃないことを示すように。
 事前に把握していた旅館の間取りをエウロペに伝える。
 影朧が侵入してくるならどこからだろう、とか。
 どこで迎え撃てば、狙われた少女を危険に晒すことなく守れるか、とか。
 いろんなことを想定して見てきた情報を話すけれど。
 影の犬と意識を共有させているエウロペは、完全に集中していたから、セフィリカの言葉には無反応。
(「セリカがいるから、大丈夫」)
 エウロペとしては、無防備になってしまう自分をセフィリカが見ていてくれていると信頼できるからこその情報収集方法だ。
 白く濁りのある湯で、必要以上に肌が見えなくなっているとはいえ。
 見知らぬ人に肌を晒すのには抵抗があるから。
 セフィリカが注意してくれるなら、と思っての行動。
 そしてセフィリカも、それを察していて。
 しっかり周囲を見張っていく。
 でも、待っているだけはちょっぴり退屈だから。
「……こう、完全に仕事抜きなら、この滑らかな肌をツーっと悪戯したくなるけどね」
 エウロペの色白の肌の近くで、立てた人差し指を動かしてみたりする。
「いや、しないけどね?」
 ほら触ってない触ってないと、ぱっと手を開いて見せ、笑い。
 セフィリカはまたじっと、エウロペの肌を見つめた。
「……本当に、しないけどね?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 影の犬は大浴場を出て、廊下を駆ける。
 迷うことなく真っ直ぐに、貸間と呼ばれる別棟へと。
 そこで、影の犬は指示された相手を見つける。
 大河内環。
 湯治で滞在する、長い黒髪の儚げな少女。
 環は自分の部屋へと向かってゆっくりと歩き。
 不意に、その身体が傾いだ。
 たまらず座り込んだ姿に、宿の従業員らしき女性が気付いて駆け寄る。
 誰か、と呼び寄せれば従業員と、環に付き従う老婆が姿を見せた。
 皆に支えられながら、環は部屋に入って行く。
 手早く敷かれた、というよりも、敷きっぱなしだった布団に寝かされ。
 御医者様を、という声が飛び交って。
「少し長湯、してしまいました」
 青白い顔で、環が力なく、それでも嬉しそうに微笑む。
「とても、楽しかったので」
 傍に座る老婆が、環の細い手を握り、それはよろしかったですね、と呟いた。
 影の犬は、誰にも気づかれないままそれからの一部始終も見守り。
 その全てを主へ伝えていく。
 主治医らしき老爺に、このまま安静にしているように、と言われ。
 もう大丈夫と従業員やおかみが引き上げていった。
 そして、部屋には環と老婆だけが残り。
 静かになった夜が、更けていく。
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

匡は温泉って来たことある?
私は大好きなんだけどさあ
体の刻印がタトゥーに見えるせいでよく断られるんだよな……

つーわけで久々の温泉だー!!
どうせなら露天風呂が良いよなあ
……どうしたんだよ、匡?
ああ、私と一緒にいるときは大丈夫だって
私の刻印見て喧嘩ふっかけて来る奴は
よっぽどの命知らずか、よっぽどの馬鹿か、どっちかだ
はは、何だよ、親友と一緒に遊びに来てるだけだぞ
もっとガンガン頼ってくれたって良いのになー

……ま、露天風呂にいりゃ色んな噂が入って来るって
打算もないわけじゃねえけどな
完全オフなら遊んでるとこだけど、仕事はちゃんとやる主義だ
――人間は噂が好きって、よく知ってるんだぜ


鳴宮・匡
◆ニル/f01811と


タトゥー……UDCアースとかだとそうなるよな
俺? うーん……来たことはない、かな
風呂は嫌いじゃないんだけど……

湯船に浸かりながら、落ち着きなく周囲の地形を見回す
え? いや、なんでもないんだ、けど
……丸腰になるのが、苦手で
今狙撃されたら無防備だし、とか
警戒しちまうっていうか

いや、まあ
お前となら大丈夫だと思ったから、お前を誘ったんだけどさ
……なんでもない
一人で頑張らなきゃ、とか言っといて
結局、ニルに頼ってるよなあ

まあ、警戒しちまう性分は兎も角
人の会話には耳をそばだてておくよ
長く滞在してるなら、人の話の口には上りやすいはず
居場所や行動パターンくらいわかれば
守るには困らないだろ



「匡は温泉って来たことある?」
「俺?」
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)に問いかけられ、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は上着を脱ぎながら首を傾げた。
「うーん……来たことはない、かな。風呂は嫌いじゃないんだけど……」
 そういえば初めてだと答えると、ニルズヘッグがにやりと笑う。
「私は大好きなんだけどさあ。
 体の刻印がタトゥーに見えるせいでよく断られるんだよな……」
「タトゥー……ああ、UDCアースとかだとそうなるよな」
 露出を好まないニルズヘッグゆえに、普段見ているのは左頬のものだけだけれども。
 入浴のために服を脱ぎ去ったニルズヘッグのがっしりした身体中には、蛇のような竜のような黒い刻印が2本線を引くように走っているから。
 確かに、と匡は苦笑を見せた。
「つーわけで、久々の温泉だー!」
 早速、ニルズヘッグはサクラミラージュの温泉へと飛び出していく。
 どうせなら、と向かうのはやっぱり露天風呂。
 広くゆったりとした石造りの浴槽に、夜空に広がる幻朧桜に。
 そして温かな、少し白く濁ったお湯に浸って。
 ニルズヘッグは伸びをするように四肢を伸ばした。
 続く匡も、同じ湯にその身体を沈めるけれども。
 リラックスしたニルズヘッグとは違い、どこか落ち着きなく周囲を見回している。
「……どうしたんだよ、匡?」
「え? いや、なんでもないんだ、けど……丸腰になるのが、苦手で。
 今狙撃されたら無防備だし、とか、警戒しちまうっていうか」
 返ってきた答えもどこかそわそわと落ち着かず。
 特に何も持っていない手が、どうしたものかと彷徨っているから。
 ニルズヘッグは、半ば吹き出すように笑った。
「私と一緒にいるときは大丈夫だって。
 私の刻印見て喧嘩ふっかけて来る奴は、よっぽどの命知らずか、よっぽどの馬鹿か、どっちかだ」
「いや、まあ、お前となら大丈夫だと思ったから、お前を誘ったんだけどさ」
 それでもまだ身体の強張りが解けない匡に、ニルズヘッグは近寄ると、ぐいっとその肩に手を回して抱える。
「はは。何だよ、親友と一緒に遊びに来てるだけだぞ」
「……なんでもない」
 肩を並べて豪快に笑うニルズヘッグに、匡も苦笑して動きを揃えた。
 その力強い腕に、何でも受け止めてくれそうな分厚い胸板に。
 安堵を感じないわけではないけれど。
(「1人で頑張らなきゃ、とか言っといて、結局、ニルに頼ってるよなあ」)
 匡は複雑な心中を抱え。
 それを見越したように、ニルズヘッグも苦笑する。
(「もっとガンガン頼ってくれたって良いのになー」)
 でも互いに深くは触れないまま。
「よーし。親友が背中を流してやろう」
「いや、大丈夫だって」
 冗談交じりの会話を楽し気に交わしていった。
 気の置けない友人同士の、文字通りの裸の付き合い。
 そんな時でも、匡はさり気なく周囲の会話に耳をそばだてていた。
 常に警戒してしまう性分でもあるし。
 何より、匡は温泉を楽しむためだけにここにいるのではないのだから。
(「長く滞在してるなら、人の話の口には上りやすいはず」)
 だからこそ人の集まる大浴場を選んだのだから。
 そしてその狙い通りに。
「大河内のお嬢さん、今日は出かけたんだって?」
「ああ、大分調子が良くなったようだなぁ」
 露天風呂の向こう端で男達が話している声が小さく聞こえてきた。
「貸間の一番奥だったか? お付きのばーさんとそこに来てから……」
「もう1月経つんじゃないかね」
「親は来ないのかい?」
「稼いでるからねぇ。病弱な娘よりも仕事が先だろうさ。
 といっても、2、3度は顔を見に来たんじゃなかったかね」
「その程度じゃ、ばーさんと2人っきりっつー方があってるな」
「何だよ。夜這いでもかけるのか?」
「馬鹿野郎。病人相手に、んな非常識な事ができるか」
「まー、美人だけどな」
「それは、確かに」
「美人だから……可哀そうだよな」
「このまま治っちまえばいいのにな」
「頼むぜ温泉様よ」
 漏れ聞こえる会話から、必要な情報を拾い上げて。
 小さく頷いた匡は、ふと傍らへとその黒瞳を向ける。
「……ま、打算がなかったわけじゃねえからな」
 ニルズヘッグも聞こえたよと言わんばかりに、自身の耳を指で示して見せた。
 完全オフなら遊んでるところだが、仕事はちゃんとやる主義だから。
 浴槽の端に背中を預け、開いた両腕の肘も乗せながら。
「人間は噂が好きって、よく知ってるんだぜ」
 にやりと笑うニルズヘッグに、匡も穏やかに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

比野・佑月
【月花】
彼女の、いつもの落ち着く匂いとは違った香り
思わず顔をしかめそうになるも、薬草風呂と聞いて匂いの正体が腑に落ちる
「や、俺は…」
ああ、その顔はズルイ
「……香鈴ちゃんの所為じゃないよ。それだけはキミがどう思おうと絶対だ」
視線から逃れるように、言われるがまま風呂へ

「うー…もう出ていい……?」
「そうだ、何か話してよ。俺、香鈴ちゃんがお話ししてくれてる間は大人しくしてるよ」
なんてキツイ匂いを我慢する褒美をねだってみつつ。

化け物、またその単語だ
(ねえ教えてよ香鈴ちゃん。キミを苦しめるそれは何?)
何も出来ない、聞くことすらできずにいる自分が歯痒くて苛立たしくて。
治りかけの傷に湯が沁みる気がした


花色衣・香鈴
【月花】
(参考シナリオID:28998)
個室の薬草風呂なんて貴重だから依頼に託けて入らせてもらった
湯上りに着た浴衣が植物で不格好かもと思うと少し不安だけど
「…?佑月くん」
こんな所でまで会うなんてと思ったのは一瞬
「此処、薬草風呂があって…あの、佑月くんもどうですか、この間わたしの所為で怪我、」
思い出して泣きそうになる
わたしなんかにも親切な彼に、わたしはしてあげられる事が無い
だからせめて

彼を湯殿に押しやり、扉に背を向け更衣室に座り込む
「だめです。ゆっくり浸かって下さい」
話…
「…人にお見せできる様な体じゃないのでこういう所は助かります」
怪奇人間(短命)とは言えない
けど
「化け物になっちゃいましたから」



 湯を上がって尚、独特な薬草の香りが花色衣・香鈴(Calling・f28512)を包む。
(「個室の薬草風呂なんて貴重ね」)
 しっとりと濡れた黒髪の下でオレンジ色の瞳を細め、香鈴は穏やかに微笑んだ。
 脱衣所を出る前に、もう一度身支度を確認して。
 どうしても、右の二の腕と左の太腿、そして背中が不格好かもと気になる。
 そこには、植物が生えていた。
 花咲き病の怪奇人間である香鈴は草花に異様なレベルで好かれてしまい。
 その身体は、あらゆる植物にすぐ寄生されてしまうから。
 何とか植物が目立たぬようにと何度も何度も浴衣を整えてから。
 意を決して、やっと、香鈴は廊下に出た。
 少しひんやりと感じる空気に、軽く身を縮ませて。
 さて部屋に、と進む先へ顔を向けた、その時。
 視界に思わぬ人影が映る。
「……佑月くん?」
「香鈴ちゃん」
 驚く香鈴に、比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)は嬉しそうに微笑んだ。
(「こんな所でまで会うなんて」)
 自分の名を呼ぶ、優しい声に。
 自分を見つめる、誠実な黒い瞳に。
 香鈴の胸が温かくなる。
「香鈴ちゃんも温泉? あ、もう入った後なのかな?」
「……はい。此処、薬草風呂があって……
 あの、佑月くんもどうですか?」
「や、俺は……」
 けれども、それは一瞬。
「この間わたしの所為で怪我、を……だから……」
 香鈴の脳裏に、真っ赤な光景が蘇る。
 飢えた影の獣に噛みつかれ、その牙に抉られ、血に染まった佑月の姿。
 ボロボロに傷ついた身体で、それでも尚、香鈴を護って戦い。
 そして香鈴に優しく笑ってくれた……
 思い出して、泣きそうになる。
 でも、泣いてしまっては、きっと佑月を困らせてしまうから。
 ぐっと堪えて、何とか笑みを作ろうとする。
(「わたしなんかにも親切な彼に、わたしはしてあげられる事が無い」)
 だからせめて、と思い至ったのは、傷にもいいと聞いた薬草風呂。
 香鈴は自らも出てきたばかりのそこを示し、懇願するように佑月を見上げた。
(「ああ、その顔はズルイ」)
 零れぬまでも涙で潤んだ、魅力的なオレンジ色の瞳に。
 湯上りのせいか少し赤く染まった色白の頬に。
 そして何より、哀しみと心配と必死さが入り混じった、切なげな表情に。
 佑月は、分かったよ、と頷く。
 それで香鈴の憂いが晴れるなら。
 意を決して、扉に手をかけた。
 でも、これだけはと、開けた扉の向こうへ進む前に振り向いて。
「……香鈴ちゃんの所為じゃないよ。それだけはキミがどう思おうと絶対だ」
 真っ直ぐに見つめて告げると、香鈴の瞳から、つうっと雫が流れ落ち。
 あっと思った時には、背を押されて、佑月は扉をくぐっていた。
 振り返ってその表情をもう一度確かめることを何となくできないまま。
 言われるがままに支度をし、湯殿へと向かった佑月は。
 さらに強くなった薬草の匂いに、思わず顔をしかめていた。
 香鈴にはその表情を気付かれないようにしながら、湯船に近づくと。
 緑色の葉がぷかぷかと浮いていて。
 白く濁ったお湯も、心なしか緑色に染まっているような気がする。
 かけ湯をしてから身体を浸けたなら、さらに匂いは強くなった。
 そういえば。
 いつも香鈴から感じるのも、植物のような香りだった。
 でも、薬草風呂とは違って、柔らかな落ち着く香りだったから。
 植物は植物でもこんなに違うのか、と思う。
 いや、もしかしたら。
 香鈴の香りだから落ち着くのか……
 思い至ったそれに、しかし佑月は、何を身勝手な考えをとぶんぶん首を横に振り。
 動いた拍子にさらに薬草風呂の匂いが鼻につく。
「うー……もう出ていい……?」
「だめです。ゆっくり浸かって下さい」
 扉の向こうへ声をかければ、脱衣所から香鈴の言葉がぴしゃりと返ってきた。
 キツイ匂いを我慢しながら、でも言われた通りに身体を沈めた佑月は。
「そうだ、何か話してよ。
 俺、香鈴ちゃんがお話ししてくれてる間は大人しくしてるよ」
 思いついたように、褒美をねだってみる。
「話……」
 更衣室で、湯殿に繋がる扉へ背中を向けて座り込んでいた香鈴は、提案に考え込んだ。
 何を話したらいいのだろう。
 佑月はどんな話を喜ぶのだろう。
 そう、考えて。答えがでなくて。
 香鈴は言葉に詰まり、無言が続く。
「あー……ほら、このお風呂、香鈴ちゃんにはどうだった?」
 その戸惑いを感じ取ってなのか。
 佑月の声が、話題を振ってくれた。
「とても、休まりました。いい薬草、でしたし」
 少しほっとしながら、香鈴は訥々と話しだす。
 それが佑月の望みならと頑張って。
「個室でこんなお風呂があるなんて、思っていませんでしたから、助かりました」
「助かる?」
「はい。人にお見せできる様な体じゃ、ないの、で……」
 言葉を紡ぐ毎に、座り込んだ身体をぎゅっと抱えるようにしながら。
 香鈴は俯くように瞳を伏せる。
 怪奇人間であることは、知られていると思う。
 佑月には、身体から生えた植物を見られてしまっているから。
 でもこの身体の詳しいことは、言えない。
 短命であるとは、佑月には……
 だけど。
「化け物に、なっちゃいました、から」
 ぽつり、と零れる。
(「またその単語だ」)
 化け物。
 香鈴が自身をそう表すのを、佑月が聞くのは初めてではない。
 けれども、その言葉の真意は、本当の意味は、佑月には分からなくて。
 だからこそ佑月には、何もできなくて。
(「ねえ教えてよ香鈴ちゃん。キミを苦しめるそれは何?」)
 何度も思った問いかけを、でもまた今も、飲み込む。
 哀し気で寂し気な香鈴の声に、聞くことすらできなくなってしまう。
 歯痒い。
 苛立たしい。
 それでも、踏み出せない。
 儚くも佑月の隣で咲いてくれる花を、手折ってしまうような気がして。
 聞いてしまったら、もう隣にいてくれないのではないかと怖くて。
 佑月は、肩どころか口元まで、湯に浸かって。
 湯船にそっと注がれるお湯の音だけが、しばし響く。
 ……治りかけの傷に湯が沁みる気が、した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高辻・歩夢
ルーナお姉ちゃん(f16900)と一緒

○基本
・家族風呂
・呼び方は「ルーナお姉ちゃん」

○アドリブ材料
・両親と姉を幼くして喪っている
・姉は生きていれば、ルーナと同学年
・甘え方は知らない
・お風呂や温泉は好き
・独りが苦手なのでカラスの行水

○行動
お姉ちゃんと一緒なのでゆっくりする
あらいっこの提案が、お姉ちゃんからあったので
促されるまま、お姉ちゃんのお膝に座って
頭や身体を、洗われます
「ん。くすぐったい、よ?」
洗って貰ったから
「お姉ちゃんが、僕の膝に座るの?」

「大きくなったら、膝に乗せる?」
お姉ちゃんに言われるままに身体や髪を洗うよ

浴槽でもお姉ちゃんの膝で
ぎゅーっとされて、くっついて暖まる

うん。寂しくないよ


ルーナ・セントルイス
歩夢くん(f16213)と一緒
○基本
・家族風呂
・呼び方は「歩夢くん」
・自分の事は「お姉ちゃん」
○アドリブ材料
・田舎娘
・実家は家族が多く下の子の面倒も良くみていた
・方向音痴で故郷への帰りかたがわからない
・甘やかしたがり

○行動
歩夢くんを甘やかします!
弟のように接してお姉ちゃんぶる
洗いっこの提案をしてお膝に乗せてわしゃわしゃ♪と優しく髪を洗ったり

「痒いとことかないかなー?」
「お姉ちゃんが綺麗にしてあげるからねー♪」

歩夢くんは大きくなってもお姉ちゃんと一緒にいてくれるみたい?

「ふふ、なら、大きくなったらお姉ちゃんがお膝に乗せてもらおうかなー♪」

湯船では歩夢くんをなでなでぎゅーってくっついて入ります



「さー、歩夢くん。お姉ちゃんと洗いっこしましょう」
「うん、ルーナお姉ちゃん」
 家族風呂の洗い場で、両手を泡だらけにして笑うルーナ・セントルイス(迷子の竜・f16900)に、高辻・歩夢(ロストクロニクル・f16213)も笑って歩み寄った。
 どうしたらいいのかな、と様子を伺うと、ルーナが示したのは自身の膝。
 頷いた歩夢は促されるまま、座るルーナの膝の上に、背中を向けて腰かけた。
「お姉ちゃんが綺麗にしてあげるからねー♪」
 すぐに小さな背中が泡に覆われて、腕に脚にと広がっていき。
「ん。くすぐったい、よ?」
「もー、動かないの。洗いにくくなっちゃう」
 身体中が、ついでに頬っぺたまでもが泡だらけになったところで。
「このまま頭も洗っちゃうよ」
 続いて短い青髪も、白い泡に包まれていった。
「痒いとことかないかなー?」
 わしゃわしゃと、痛くないように指の腹を使って優しく洗うルーナに。
 歩夢は今度は気持ちよさそうに、金色の瞳を細めた。
 家族風呂という場所も相まって、仲良し姉弟に見える2人だけれども。
 2人に実際のところ、血のつながりはない。
 ルーナは故郷の村を飛び出してから帰れなくなった方向音痴迷子で。
 歩夢は両親と姉を喪い、幼くして天涯孤独の身となっていた。
 偶然出会った、赤の他人。
 それでも、実家で弟妹や幼子達の面倒をよく見ていたルーナは、歩夢を甘やかし。
 実姉と同年齢のルーナを、歩夢は本当の姉に対するのと同じように慕って。
「はい、おしまい」
「ルーナお姉ちゃん、ありがとう」
 実の姉弟以上に仲睦まじく、お互いを大切に思い合っていた。
「そうしたら交代、だから……お姉ちゃんが、僕の膝に座るの?」
「んー、まだ歩夢くんは小さいから、お姉ちゃんが座るのは無理かな?」
「そっかぁ……」
 だから歩夢は、自分がしてもらって嬉しかったことを、ルーナにそのまま返せないことにしょんぼりして。
 可愛いその様子に、ルーナは嬉しそうに笑った。
「なら、大きくなったらお姉ちゃんがお膝に乗せてもらおうかなー♪」
「大きくなったら?」
 こくん、と傾げられる首。
 歩夢は言われたことを飲み込んで、繰り返して。
「うん。大きくなったら僕の膝に乗せてあげるね」
 ようやく、ぱあっと表情を輝かせた。
 そして今は、とルーナの周りをちょこまかと歩き回り始めて。
 泡々な小さな手で、ルーナの身体を洗っていく。
 一生懸命な様子を眺めたルーナは、それ以上に、先ほどの歩夢の言葉が嬉しくて。
(「歩夢くんは大きくなってもお姉ちゃんと一緒にいてくれる?」)
 だったらいいな、と願いながら。
 一通りルーナの身体を洗い終えて、満足気な顔を見せていた歩夢に抱き着いた。
「わわっ!? お姉ちゃん? まだ頭、洗えてないよ?」
「あ、そうだった。お願いしまーす」
「うん。任せてね」
 そうして互いに洗った後は、一緒に湯船に浸かって。
「ルーナお姉ちゃん、見て見て。花弁もお風呂に入ってるよ」
「本当だ。綺麗ねぇ」
 大きな大きな、ガラスのない窓から見える幻朧桜に、そして舞い込んできた花弁に、わいわいと楽し気に遊ぶ。
 普段は烏の行水な歩夢も、ルーナと一緒なら楽しいから。
 少し白いお湯も珍し気に、ゆったりのんびりして。
 その中で、ルーナにまた、おいで、と膝の上に誘われる。
 またいいのかな、と少し甘え下手な、というか甘え方を知らない歩夢は、子供らしからぬ遠慮を垣間見せるけれども。
 重ねて誘うルーナに、おずおずとその身を預けた。
 可愛い可愛い、弟のような子。
 ルーナは後ろから歩夢の頭を優しく撫でて。
「約束、ね」
 囁かれた言葉に、歩夢は一瞬きょとんとしてから。
 思い出して、振り向きながら笑う。
「うん。大きくなったら、お風呂の中でもお姉ちゃんを僕の膝に乗せてあげる」
 無邪気な未来に、ルーナは歩夢をぎゅーっと抱きしめて。
 くっついたままの姉弟を、幻朧桜がさわさわと、風に揺られながら見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・心
【ローグス】で参加

いやはや、花見酒とはオツなもんですね、さすが我が故郷

せっかくの故郷にマディソンさんをお連れできたことですし、家族風呂で水着着用しながら帝都で有名なちょっとお高い酒を持ち込みましょう

皆さんにお酌をしながら、まったりとお酒と会話を楽しみます
ささ、マディソンさんどうぞどうぞ

うちの師匠ですか? 物言いは乱暴ですけど、立派な医者でしたよ
この顎髭だって、師匠みたいな貫禄が出るようにって、真似してたんですよ

ええ、こうなってしまった以上、さっさと転生させてやらなきゃですね

静かにお猪口を重ねましょう

献杯


マディソン・マクナマス
【ローグス】で参加

WIZ使用

鳴宮さんと家族風呂で花見酒と洒落込むかぁ
お誘い頂いて手ぶらってのもな。故郷のグリーンビールを瓶で持ち込み、鳴宮さんと談笑しながら温泉に浸かるか
入浴中もサングラスと、自衛用のダイヤモンドチタン製付け爪は着用

へー、鳴宮さんみたいな顎髭ねぇ……ん? 
その人って鳴宮さんみたいに肌白くて、黒髪に上下黒で揃えた上から白衣羽織った壮年男性?(あっれぇ……そんな感じの奴、表の通りで見たような……)
まッいーかッ! 座して待とうが飲んで待とうが夜更けにゃ攻めてくんだからな

月も桜もいい塩梅でよぉー、誰かをお送りするには良い夜じゃないの
なぁ鳴宮さん、一足先にお師さんの弔い酒と行こうや



「いやはや、花見酒とはオツなもんですね。さすが我が故郷」
 ぶち抜かれたように壁が1枚ない家族風呂で、鳴宮・心(正義狂いの執刀医・f23051)はくいっとお猪口を傾けた。
 風呂場を覗き込むように咲き誇る幻朧桜は美しく。
 ゆったりと身体を包み込む、少し白く濁った温泉は温かく。
 どちらも心地よいものだったけれども。
 やっぱり心を満たすのは、喉を通っていく熱い液体。
 そして、空になったお猪口に、また酒瓶を傾けて。
 そのまま、隣にあるもう1つのお猪口へも、ささどうぞどうぞと瓶の口を向けた。
「風呂に花見に酒たぁ、洒落たもんだ」
 注がれる酒を受け止めたのは、入浴中もサングラスを外さない、マディソン・マクナマス(アイリッシュソルジャー・f05244)。
 お猪口を持つ手にもいつも通り、自衛用のダイヤモンドチタン製付け爪がついていて。
 リラックスしているやらいないやら。
「グリーンビール、でしたか。これもなかなかいけますね」
「だろ? 鳴宮さんのコレはサクラミラージュのかい?」
「ええ。帝都で有名な銘柄でしてね。ちょっと奮発しました」
「いいねえ」
 飲み交わす酒は、家族風呂用にと宿が用意した度数の低いものではなく。
 2人それぞれの故郷のものを用意したもの。
 家族風呂へ辿り着く前に、おかみさんにマディソンのグリーンビールが見つかって。
 危ないのでお風呂では飲まないようにと没収されてしまったのだけれども。
「持ってるのが1本だけとは限らねぇんだよなぁ」
「持っているのが1人だけとも限りませんしねぇ」
 悪い笑みを浮かべた2人は、こうして温泉と桜と酒を楽しんでいた。
 小さな水音を響かせて揺蕩うお湯が、温かく身体を包み込み。
 夜空を覆う程に広がる幻朧桜が、艶やかに視界を彩る。
「そんで、ココに来るのが鳴宮さんのお師さんなんだっけか?」
 少し酒が進んでから、またお猪口を空にしたマディソンが、軽い口調で話を振った。
「あー、そうみたいですねぇ」
 心も、それよりも酒の方が重要、と聞こえるくらい適当な相槌をして。
 それよりも、と付け加えそうなタイミングで、マディソンに酌をする。
「どんなお人よ?」
「うちの師匠ですか?
 物言いは乱暴ですけど、立派な医者でしたよ。
 この顎髭だって、師匠みたいな貫禄が出るようにって、真似してたんです」
「へー、鳴宮さんみたいな顎髭ねぇ……」
 酒を傾け、また注ぎ、のんびりと会話を交わしながら。
 ん? とマディソンは口をつけかけたお猪口を止める。
「鳴宮さんみたいな髭面で、鳴宮さんみたいに肌白くて、黒髪に上下黒で揃えた上から白衣羽織った壮年男性?」
「あー、そんな格好してましたっけねぇ」
 具体的な問いかけに返ってきた心の声は、間延びした物だったけれども。
(「あっれぇ……? そんな感じの奴、表の通りで見たような……?」)
 むむ、とマディソンは、宿に着く前のことを思い返す。
 とはいえ、そいつがそれからどこに行ったのかとか。
 そもそも本当に心の師だったのかは、分からないから。
「まッ、いーかッ!」
 マディソンはあっけらかんと笑って、お猪口を干した。
「座して待とうが飲んで待とうが、夜更けにゃ攻めてくんだからな」
「そういうことです。今は温泉と花と酒とを楽しんで……」
 心もお猪口を傾け、その中身を空にすると。
「……さっさと転生させてやらなきゃですね」
 にやり、とマディソンに笑って見せた。
 今度はマディソンが酒瓶を持って。
「月はねぇが、その分夜闇に桜が映えて、いい塩梅でよぉー。
 誰かをお送りするには良い夜じゃないの」
 新月の夜空を、くいっと顎で示しながら、心のお猪口へと瓶の口を向ける。
「なぁ、鳴宮さん。一足先にお師さんの弔い酒と行こうや」
 マディソンは自分のお猪口にも酒を満たして。
 心と視線を合わせると、2つの盃が持ち上げられた。
「献杯」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】
フッフッフ、温泉といえばやっぱりコレだよな
酒とお猪口が乗ったお盆を温泉に浮かべ、くいっと一杯
誰の邪魔も入らない温泉で夜桜を眺めながら
酒を楽しめるだなんて最高の贅沢だな…
散った桜の花弁がお猪口の酒に浮かぶのも風情がある
綾も一杯どうだ?

焔と零には温泉は熱すぎるから
ぬるま湯入りの桶を風呂代わりに
クッ、桶から首を出して浸かる姿が可愛い…!
防水加工のスマホ持ってくれば良かった…!

どわぁっ!?
綾の不意打ち水鉄砲攻撃が直撃
危うく酒をひっくり返すとこだった…!

……大丈夫か?お前飲んでないのに俺よりも酔ってないか?
ってまたかよ!
喰らわれっぱなしでたまるか!と
お返しとばかりに俺も水鉄砲をお見舞い


灰神楽・綾
【不死蝶】
大浴場と家族風呂、どっちがいい?って
梓に聞いたら力強く「家族風呂!」と断言して
何でかなと思ったら、なるほどお酒飲みたかったからか…
いや、俺はあんまりお酒強くないし
のぼせたら困るから遠慮しておくよ

お酒は楽しめないけど、周りを気にせず
ゆっくり出来るからいいよね
湯船の中で存分に身体を伸ばし

…仔竜たちにすっかり骨抜き状態の梓を見て
ふと悪いことを思いつき
えいっと手の水鉄砲を喰らわせてやる
あはは、隙ありーってね

ごめんごめん、じゃあお詫びに
お背中お流ししましょうかー?なんてね
もう、ジョークが通じないなぁ
もう一発水鉄砲をお見舞いする

結局水鉄砲合戦になったとか
家族風呂を存分にエンジョイしましたとさ



 大浴場と家族風呂、どっちがいい?
 家族風呂!
「……って、何でかなと思ってたんだが」
 少し前の会話を思い出しながら、どこか疲れたように湯船の端に背を預け、ぼやくように呟いたのは灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)。
「なるほど」
「ん? 綾も一杯どうだ?」
 頷いた綾に、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)がお猪口を差し出した。
 綾と同じ白い湯につかり、綾のようにリラックスして湯船の端に寄りかかったその前には、酒とお猪口が乗ったお盆が浮いている。
「いや、俺は遠慮しておくよ」
 勧められたお猪口を綾はそっと遮るように押し返した。
 入浴しながら呑んでも大丈夫なように、弱い酒だと聞いてはいるが。
 あまり酒に強くはないし、のぼせたら困るし、と思いながら。
「フッフッフ、温泉といえばやっぱりコレだよな。
 誰の邪魔も入らない温泉で夜桜を眺めながら酒を楽しめるだなんて最高の贅沢!」
 満足気に笑う梓を見てるだけでいい気もしてくる。
 それに、お酒がなくとも、周りを気にせずゆっくり出来るのはいいか、と綾は綾なりに家族風呂に満足して、湯船の中で存分に身体を伸ばし。
「おっ! お猪口の中に桜が入った。最高だな!」
 はしゃぐ梓から視線を上げれば、咲き誇る幻朧桜が視界を埋めた。
 家族風呂は、湯船に近い壁を1枚取り払ったかのような半露天となっている。
 ゆえに幻朧桜をすぐ間近に感じながら温泉を楽しめるわけで。
 ひらひらとまた舞い落ちてきた花弁を何の気なしに目で追うと。
 今度は綾の前を、2つの桶が漂い流れていった。
 ぬるま湯を満たしたその中には、炎竜の焔と氷竜の零がそれぞれ入っていて。
 ゆったりと、桶から首だけを出して、こちらも温泉を堪能中の模様。
「クッ、可愛い……! 防水加工のスマホ持ってくれば良かった……!」
 そのまま梓の方までぷかぷか行けば、すっかり骨抜き状態で。
 酒に桜に仔竜たちにと、心底楽しんでいるようだった。
 そんな嬉しそうな梓を見ていると。
 綾が思いつくのは、悪いこと。
 白く濁ったお湯に隠して、手を水鉄砲の形に組むと。
「えいっ」
「どわぁっ!?」
「あはは、隙ありーってね」
 見事に不意打ち攻撃が梓に直撃した。
「危うく酒をひっくり返すとこだった……!」
 酒の乗ったお盆を支える梓の必死な様子に、綾はにやにやと笑って。
「ごめんごめん。
 じゃあお詫びにお背中お流ししましょうかー?」
 軽く謝り提案すると、梓は喜ぶどころか顔を強張らせる。
「……大丈夫か? お前飲んでないのに俺よりも酔ってないか?」
 普段の綾からは考えられない『親切』の2文字に訝しむ梓は、まじまじと綾を見つめ。
「もう、ジョークが通じないなぁ」
「って、またかよ!」
 その顔面にもう一発、水鉄砲が発射された。
「やられっぱなしでたまるか!」
 こうなれば梓も応戦し。
 結局始まる水鉄砲合戦。
 思う存分暴れられるのも、他に誰もいない家族風呂ならではだから。
「いいねえ、家族風呂。最高の贅沢!」
「そういう意味で選んでねぇ!」
 2つの桶がひっくり返った湯船に、縦横無尽にお湯が飛び交い。
 頑張って酒のお盆を退避させた仔竜たちは、またお猪口の中に落ちてきた桜の花弁をみつけて、綺麗だねぇ、と言い合うかのように頷き合っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛砂・煉月
千鶴(f00683)と

夜桜って聞いた時に千鶴を思い出したんだよねー
誘った理由は些細だったけど
でも出会いに見た桜の中のキミが鮮明だったから

温泉ってなんかワクワクするよね
幻朧桜を映しながら大浴場でゆったり風情に浸る
あたたかな湯
万病の湯ね
――オレの病も治るのかな
小さく笑った顔は少し大人びて
既に人狼病を受け入れてる己に悲観は余り
桜のお守り、千鶴が云うと叶っちゃいそうだね
ねぇ、桜のキミ?

はは、やっぱ千鶴には桜が似合うね
濡れた髪に滴る雫も
湯に映える白い肌も
あっは、その掻き上げる仕草もかっけー
触れられた雫に
オレも?って不思議そうに
桜と紫の緋に映す

満足げに咲う顔は
狼ではなくて人懐っこいわんこ
うん、好く効くや


宵鍔・千鶴
煉月(f00719)と

温泉に桜だなんて風情が在るね
レンのお誘い、嬉しかったよ
わくわくすると彼の言葉に力強く頷いて

湯気に霞む幻朧桜が淡く見えて
夢心地に大浴場へとそろりと浸かる
白濁湯を両掌で掬い
万病の湯、なんだっけ?
君の零した音は受け止めて掬った湯を
肩へと掛け流す
治る、と信じてリラックスした方がきっと
身体にも、心にも良いよ、レン
はらりと湯に落ちる花弁を眺め
桜のお守りも一緒にね、と微笑む

似合う、は嬉しいけれど…
視線に一寸恥ずかしくて濡れ髪掻き上げ
レンこそ、綺麗なんだけどね
黒曜から滴る雫を指でそうと触れ
赫眸に桜色が映るのも見逃さず

温かく包む湯に
見上げた先、桜
傍ら屈託ない笑顔見れば
噫、此れはよく効くと



 夜空を覆い尽くそうとするような勢いで咲き誇る幻朧桜。
 そこからひらりと離れた1枚が、露天風呂に落ちてきて。
「温泉に桜だなんて風情が在るね」
 白い湯に浮かぶ薄紅色を目で追って、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は微笑んだ。
 水面から半分だけ手を出して伸ばせば、花弁は逃げるようにゆるりと流れ。
 その先で、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)の両掌にお湯ごと掬い上げられる。
「夜桜って聞いた時に千鶴を思い出したんだよねー」
 捕まえた花弁ににかっと八重歯を見せて笑うと、千鶴の紫色の瞳が細められ。
「レンのお誘い、嬉しかったよ」
 返ってきた言葉にまた、煉月は笑った。
 ……煉月が千鶴と出会ったのも見事に咲き誇る桜の中。
 薄紅色の中に佇む漆黒の髪が、紫色に煌めく瞳が、凛とした白い顔立ちが、とてもとても鮮明に煉月に刻み込まれていたから。
 そんな些細な理由でのお誘いだったのだけれども。
 千鶴が嬉しかったと言ってくれるのなら。
 誘ってよかった、と煉月も嬉しそうに、お湯が零れて花弁だけが残った掌をもう一度湯に戻して、薄紅色をまたふわりと浮かび漂わせた。
「温泉ってなんかワクワクするよね」
 桜の次は温泉を楽しもうとするかのように、しっかりと肩まで浸かった煉月に。
 千鶴も力強く頷いて見せながら、そろりと白く濁った湯に身体を委ねる。
 ほぅっとする、あたたかな感触。
 少し浮かび上がるような優しい浮力と。
 立ち上る湯気に霞む、淡い幻朧桜。
 夢見心地な世界の中で、千鶴はそっと、両掌で白い湯を掬い上げ。
「万病の湯、なんだっけ?」
 ふと、聞いた話を思い出す。
 万病に効く名湯。
 それは湯治場として宣伝するこの宿の文言だったけれども。
「……オレの病も治るのかな」
 零れた言葉に、千鶴は湯を見下ろしていた顔を上げた。
 人狼とは、悲しき『人狼病』の感染者。
 その治療方法は見つかっていない。
 今は、まだ。
 だが、零れた煉月の声は、望みも薄く、淡々としていて。
 小さく笑った顔は、少し大人びていて。
 悲観を通り越した先へと、逆に落ち着いてしまっていたから。
 既に人狼病を受け入れている煉月を、千鶴はじっと見つめる。
「治る、と信じてリラックスした方が、きっと身体にも、心にも良いよ」
 千鶴にはそれくらいしか言えないけれども。
 そこに、穏やかな風がざあっと幻朧桜を揺らして。
 はらりはらりと幾つもの花弁が、雪のように湯に落ちてきた。
 それはまるで、幻朧桜も煉月を慈しんでいてくれているかのようだったから。
「桜のお守りも一緒にね」
 ほら、と千鶴は微笑んで見せる。
「千鶴が云うと叶っちゃいそうだね」
 煉月も笑いながら、舞い落ちる花弁を目で追い。
 ねぇ、桜のキミ? なんて話しかけて。
 気付けば、薄紅色は千鶴の上にも降り注いでいた。
 濡れて雫の滴る、艶やかな漆黒の髪も。
 白い湯に映えるほど美しい白い肌も。
 こちらを見て優しく笑う紫色の瞳も。
 薄紅色が舞う中で、とても綺麗に浮かび上がっていたから。
「はは、やっぱ千鶴には桜が似合うね」
 出会ったあの時の息をのむ光景も思い出しながら、煉月は笑う。
 嬉しいけれどもちょっと恥ずかしくて、千鶴は煉月の真っ直ぐな赤い瞳から逃れるように少しだけ視線を反らしながら、誤魔化すように黒髪をかき上げれば。
「あっは、その掻き上げる仕草もかっけー」
 思わぬ賛辞が重なった。
 白い肌がほんのり赤い気がするのは、お湯のあたたかさのせいだけだろうか。
 うーん、と苦笑した千鶴は、今度は手を煉月に伸ばし。
「レンこそ、綺麗なんだけどね」
 触れるのは、濡れて少し落ち着いたくせ毛から滴る水滴。
 黒曜のように煌めいて美しい黒髪の先に、そうっと触れれば。
「オレも?」
 不思議そうに見上げてくる赫眸にも、幻朧桜が揺れていた。
 さらに千鶴の瞳の紫も、煉月のきょとんと開かれた赤に映り込んで。
 ほら、綺麗。と千鶴は微笑んだ。
 そうかな、と尚も不思議そうな煉月だけれども。
 千鶴が嬉しそうだからそれでいいかと思い。
 狼というよりは人懐っこいわんこのように、屈託なく笑う。
 そして2人は、どちらからともなく夜空を見上げ。
 あたたかな湯に包まれて。
 隣にいる存在を互いに感じながら。
 湯けむりの中、夜闇に広がる薄紅色を、見つめる。
「噫、此れはよく効く」
「うん、好く効くや」
 咲う顔はどちらもとても穏やかで、満足そうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『帝都斬奸隊』

POW   :    風巻(しまき)
【仕込み杖を振り回して四方八方に衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    神立(かんだち)
【仕込み杖】による素早い一撃を放つ。また、【インバネスと山高帽を脱ぐ】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    幻日(げんじつ)
自身の【瞳】が輝く間、【仕込み杖】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 思い思いに温泉を楽しむうちに、夜の帳が降りて来る。
 通りを歩く人の姿もほぼなくなり、月のない夜に幻朧桜だけが輝く闇の中。
 猟兵達の過ごす温泉宿の裏口の前で、蠢く幾つもの人影があった。
「医者の先生は、全ての病に等しく終わりをもたらさんとしている」
 低く紡がれる声の主は、仕込み杖を持った士族くずれ。
「我らはその先陣」
「存分に剣を振るい、武士らしく散る」
「それこそが先生の望みを叶えることなれば」
 黒い山高帽の下で、赤い瞳を血の色に輝かせ。
 闇を写し取ったかのようなインバネスの下で、黒手袋に覆われた手を握り。
 仕込み杖を確かめるように引き、その刃をキラリと光らせると。
「我ら『帝都斬奸隊』」
「今宵は先生の為にこの剣を」
 標的のいる温泉宿、その離れの棟の貸間へ向けて。
 人斬りテロ集団は動き出した。
セシル・バーナード
さあ、お仕事の時間だ。頑張ろうね。プラチナちゃん。また後で可愛がってあげるから。それこそ朝まで。
場所は離れの周りの庭あたりで。

プラチナちゃんには鉄塊剣『プラチナファング』(「鎧無視攻撃」「鎧砕き」「なぎ払い」「貫通攻撃」)で戦ってもらう。
レアメタル・フィールド展開。プラチナちゃんが全力を出せる状況を構築。

オブリビオンが来たよ。片付けよう。
奴らの武器は仕込み杖。プラチナちゃんの支配対象だね。
ぼくも「範囲攻撃」「全力魔法」の裁断空間で、まとめて微塵切りだ。近づかれる前にオブリビオンを片付ける。

プラチナちゃんも調子がいいみたい。負けてられないね。
寄らば死ぬ。この状況に、どういう手を打ってくるか。



 貸間は離れにある、というだけあって宿泊棟よりもかなり奥まったところにあった。
 ゆえに、宿泊棟すぐ近くの正面入り口からも、そしてその横手にひっそりとある裏口からも、大分距離が離れていて。
 その間を埋めるのは、広い広い庭園。
 幻朧桜だけでなく、様々な木や生垣も並び。
 それなりに入り組んだ小路は、隅々まで散策すれば小一時間程かかりそう。
 そんな庭の一角に。
「さあ、お仕事の時間だ。頑張ろうね。プラチナちゃん」
「任せてください。もう私めちゃくちゃ頑張りますから!」
 セシル・バーナード(セイレーン・f01207)は、銀髪の少女と共に立っていた。
 庭には明かりが少なく、また新月の夜ゆえに、辺りは薄暗い。
 散策にはあまり向かない時間帯ではあるのだが、セシル達がここにいる理由は、迫り来る敵……サクラミラージュでは影朧と呼ばれるオブリビオンを迎え撃つためだから。
「温泉宿は守ってみせます!」
 少女は鉄塊剣『プラチナファング』を構え、ぐっと表情を引き締めた。
 その傍らに立ったセシルは、長い銀の髪を一房、そっと掬い上げ。
「うん。そうだね。ぼくらも楽しませてもらったし、ね?」
 艶やかな声を紡ぎながら、手にした銀糸にそっと口づけて見せる。
 びくっと肩を震わせた少女に、妖艶に笑いながら、その耳元に顔を近づけ。
「大丈夫。また後で可愛がってあげるから。それこそ朝まで」
 熱い囁き声に、少女は顔どころか肩まで真っ赤になっていた。
 こちらを振り向かない、いや、恐らく振り向けない少女に、セシルはくすくす笑い。
 そこに見えた人影を、すっと伸ばした手で指し示した。
「ほら、オブリビオンが来たよ。片付けよう」
「頑張りますもうすっごく頑張りますから!」
 何かを誤魔化すかのように勢いよく告げた少女は、改めて剣を握り直すと。
 生垣の向こうから現れたばかりの相手へと斬りかかる。
 相手は、闇に紛れる黒ずくめの男達だった。
 山高帽もインバネスも、袴もブーツと思わしき靴も手袋も、全てが黒で。
 傷のある頬の上で鋭く煌めく瞳だけが、酷く赤い。
 闇そのもののような人斬りは、薙ぎ払うような鉄塊剣を冷静に躱し、手にした杖を下方から振り上げる。
 いや、それはただの黒い杖ではなく。
 引き抜いた中に鋭い刃を隠した、仕込み杖。
 切り上げる斬撃を、銀髪の少女もまた落ち着いて見切り、鉄塊剣で受けはじいた。
 続く剣撃を、セシルはじっと見つめる。
 仕込み杖は即ち刀であるから、鉱物でできている武器だ。
 となると、金属を操る銀髪の少女の支配対象ではあるのだけれども。
 投げナイフやら銃弾やらとは違い、人斬りが握り、常にその動きを制御しているもの。
 相手の手を離れた金属ではないがゆえに、完全に支配を奪うことができないようで。
 それでも、人斬りの斬撃を微かに乱しているようだった。
 でなければ、純粋な剣の腕だけならば、少女はもう切り伏せられていただろう。
 互角にまで持ち込まれた戦い。
 でも少女には、セシルがいる。
「プラチナちゃんに負けてられないね」
 にっこり笑ったセシルは、少女の後ろから空間を操った。
 見えない刃となったそれは、人斬りを切り裂くけれども。
 その威力はごく僅か。小さな傷を負わせるのみ。
 しかし、小さいとはいえ不可視の攻撃に人斬りが一瞬戸惑えば。
 それは少女には大きな隙となって。
 鉄塊剣が、仕込み杖の防御を躱して人斬りを貫いた。
 崩れ落ち、消えゆく黒い人影。
 だがすぐに、その後ろで新たな人斬りが仕込み杖を抜いているから。
 セシルは、少女と並んで笑いかけた。
「寄らば死ぬ。さあ、どうする?」
 2人ならば負けることはないのだから、と。

成功 🔵​🔵​🔴​

フリル・インレアン
ふええ!?温泉キャップは帽子の上に被るのではなくて、髪が温泉に浸からないように被る物なんですか。
と、当然知ってましたよ。
あの、アヒルさん、またその視線を向けてますけど、そろそろ時間ですので急ぎましょう。

ふえぇ、ここから先には行かせませんよ。
温泉宿にはそのような物は不用です。
おいしいお菓子はいかがですか?
お菓子の魔法で動きを遅くしている隙に攻撃です。
いくら素早い攻撃でも、行動自体が遅ければ当たりませんよ。


吉野・嘉月
【落ち着き】で会話のムードに
たまたま望む『結末』が同じだったもの同士が協力したってところなんだろうが…。
救いようが無いほど愚かだな。
どちらにとってもお互いは手段に過ぎない。
それは本当にお前たちが望む『結果』をもたらすか?

せっかく温泉でのんびり出来たってのに。
一気に気分が参ってくるね。
あんたらはひとっぷろ浴びたかい?
いい湯だったぜ?
浴びてなくても問答無用でお帰り頂くがね。
UC【帰還陣】を【高速詠唱】し発動

足掻くなら痛いだけだぞ?



 暗く広い庭を駆ける黒い人影。
 広いゆえに散開したのか、3人だけの『帝都斬奸隊』が小路を通り。
「せっかく温泉でのんびり出来たってのに。一気に気分が参ってくるね」
 そこに聞こえた声に、人斬り達は足を止めた。
 小路が少し開けた、広場とも言えないほど小さな空間。
 そこに木製のベンチが1つあって。
 吉野・嘉月(f22939)が1人でそこに座っていた。
「あんたらはひとっぷろ浴びたかい? いい湯だったぜ?」
 落ち着いた様子で、嘉月は世間話のように話しかける。
 その、ゆったりとした、というよりもだるだるな雰囲気に人斬り達は戸惑い。
 穏やかな焦茶色の瞳がふっと笑むのを見た。
「たまたま望む『結末』が同じだったもの同士が協力したってところなんだろうが……
 救いようが無いほど愚かだな」
 そして、よっこらしょ、と声が聞こえそうなゆっくりとした動作で嘉月が立ち上がるのも、ただただ見てしまい。
「どちらにとってもお互いは手段に過ぎない。
 それは本当にお前たちが望む『結果』をもたらすか?」
 両手を適当な高さで広げ、肩を竦めた嘉月にも、斬りかかるタイミングを逃してしまったかのように動かず。
 しばし、互いを探るような、問われた答えを探すような、間が落ちる。
 ゆるやかな膠着を見せる、戦場とも言えない戦場。
 そこに。
「ふええ!? 温泉キャップは帽子の上に被るのではなくて、髪が温泉に浸からないように被る物だったんですか!?」
 何だか悲鳴のような、驚きに満ちた少女の声が飛び込んできた。
「と、当然知ってましたよ。もちろん、知ってました。
 ……あの、アヒルさん、またその視線……知ってましたって言ってるのに……」
 人斬り達とは別の小路……実は嘉月が宿からここへ辿り着いたのと同じ道から、姿を現したのはフリル・インレアン(f19557)。
 大きな帽子の広いつばを片手で引き寄せるように掴み、もう片方の手でアヒルちゃん型のガジェットを持ったフリルは、俯き気味に歩いてきて。
 はた、と気がついて顔を上げると、ようやく嘉月と人斬り達に気が付いた。
「ふえええ!?」
 今度こそ悲鳴を上げるフリル。
 おろおろと、首を忙しく左右に振り、嘉月と人斬りの男達とを見るその顔はどこか泣きそうな雰囲気だったから。
「嬢ちゃんも温泉、楽しんだかい?」
「はうぅ!?」
 緊張してるのか、と気遣って話しかけた嘉月だけれども。
 逆にフリルはびくっと飛びあがらんばかりに驚いて、身を縮こませる。
 抱えられたガジェットが、どこか呆れたように、がー、と鳴きました。
「わ、分かってますよアヒルさん。当然分かってます。
 温泉宿に仕込み杖とか不用ですよね」
 そのガジェットを見下ろして、自身に言い聞かせるように呟きながら、フリルはこくこくと頷いて。
 意を決したように、顔を上げる。
「ですから……
 あ、あの、お菓子を作ってきたんです。よかったら、おひとつどうぞ」
 そうして差し出されたのは、フリルが趣味で作ったお菓子。
 可愛らしい花の形に揃えられたクッキーや、細かい模様が描かれた一口サイズのチョコレート、ふんわり丸い色とりどりのマカロンなど。
 ティータイムを彩るには最適なものばかりだったけれども。
 月のない夜闇の中、武骨な男達の間にはちょっと不似合いかもしれず。
 人斬り達どころか嘉月も、どうしたものかと戸惑っていた。
 でも、フリルはそんな周囲を気にせずにお菓子を並べ、ガジェットの嘴の先に、あーんと言わんばかりにマカロンを差し出したりしていて。
 和やかなおやつタイムがそこにあった。
 ……我に返ったのは、人斬り達の方が先だった。
 相手が菓子にうつつを抜かしているのなら好機とばかりに、仕込み杖から刃を抜き素早くフリルへ斬りかかろうと動き出す。
 けれども、その動きはやたら遅く。
 だからフリルは、チョコレートを口に運びながらあっさりと刀を避けた。
 そして、マカロンのクリームを嘴の端につけたガジェットが、刀を振り下ろした姿勢の人斬りへと飛び込んで。
 人斬りは避ける動作も見せずに、まともに食らうと後ろへ倒れ込んだ。
 その攻防を見て、嘉月は気付く。
 これはフリルのユーベルコードなのだと。
 お菓子を楽しんでいない対象の行動速度を遅くしているのだと。
「俺にもくれるかい?」
「は、はいぃっ!?」
 ならばと嘉月はフリルに話しかけ、おずおずと差し出されたクッキーを受け取る。
 ぽいっとそれを口に放り込みながら、ゆっくりと迫り来る人斬り達を眺めて。
「菓子も風呂もいらないってんなら、問答無用でお帰り頂こうか」
 口の端を歪めながら、展開するのは帰還陣。
 起き上がる途中の、そして、仕込み杖を引き抜く途中の、人斬り達の足元に、不思議な模様の円が光り描かれて。
 転移の効果を発動させる。
 驚き抗う人斬り達を嘉月は眺めながら。
「足掻くなら痛いだけだぞ?」
 淡々と告げたその先で、速度の差ゆえか抗いきれなかった人斬り達は、どこへともなく姿を消した。
 静かな夜闇が庭に戻る。
 ふぅ、と嘉月は疲れたような息を吐いてから、ふと思い出したように振り返って。
「美味かったよ」
「ふええぇ!?」
 もう1つ、と差し出した手に、人見知りなフリルは頑張ってまたクッキーを渡した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨咲・ケイ
随分歪んだ武士のようですが、
まあオブリビオンであれば仕方ありませんね。
このような場を荒らす無粋なオブリビオンには
早々に骸の海に帰って頂くとしましょう。

【POW】で行動します。

大河内さんのいる離れを守りましょう。
周囲に一般人がいる場合は避難を促して守ります。
敵の衝撃波に対しては天霊から放つ【衝撃波】で相殺。
一般人に攻撃が及びそうな場合は、アリエルによる
【盾受け】と【オーラ防御】を併用して
私が盾になって防ぎます。
一般人の避難が済んだら攻撃に転じましょう。
【グラップル】による接近戦を仕掛けて隙を作り
【2回攻撃】で【魔斬りの刃】の連撃を放ちます。

アドリブ歓迎です。



 宿をぐるりと囲むように広がる広い庭は、当然ながら宿泊客に開放されている。
 温かな陽が照らす昼間だけでなく、月のない薄暗い夜でさえも、いや薄暗いからこそ、この庭を訪れる酔狂な客はいるもので。
「もう……こんな所に連れ込んで、何する気?」
「分かってるだろ? 期待して着いて来た癖に」
 腕を組んで歩く2人の男女は、誰も居ないはずの小路を進んでいた。
 そこに唐突に現れたのは、黒いインバネスを靡かせた男。
 黒い山高帽の下で、赤い瞳を鋭く輝かせ。
 これまた黒い袴に覆われた足を踏み出しながら、杖を振り回そうとする。
 黒い杖の持ち手部分の少し下が、少ない光を反射して煌めいて、そこに刀が仕込まれていたことを明かすけれども。
 突然の邂逅に驚いた男女がそれに気付く間はなく。
 鋭い煌めきが無慈悲な剣閃を刻む。
 けれども。
 そこに小型の盾『アリエル』を構えた雨咲・ケイ(f00882)が寸前で割り込んだ。
 仕込み杖を受け止めて、闘氣に輝く盾を掲げたケイは、振り返らぬまま背中で告げる。
「宿へ戻りなさい」
 丁寧な口調ながらも有無を言わさぬ雰囲気に、男はこくこく頷いて、女に引きずられるようにして逃げていった。
 その気配を感じながら、他に一般客はいないかとケイは素早く視線を走らせ。
 大丈夫、と判断すると、盾を押し返すようにして人斬りと距離を取った。
 薄闇の中で、仕込み杖の刃と殺気に満ちた赤い瞳だけが、煌めく。
「何故、あの方々を?」
 その煌めきに向けて、ケイは問いかける。
 狙われていたのは、今の男女ではなく、病と闘う少女のはず。
 だが、指摘された人斬りは、欠片も動じることはなく。
「我ら『帝都斬奸隊』は、先生の先陣」
 淡々と、告げた。
「先生の道行きに邪魔となるものは全て、斬る」
 離れに向かおうとした途中にいたから。
 それだけの理由で斬り殺そうとしていたのだ、と。
 答えにケイは、眼鏡の下の黒い瞳をすうっと細めて。
「随分歪んだ武士のようですが、まあオブリビオンであれば仕方ありませんね」
 盾をしまうと、その繊手を構えた。
「ここは心と身体を癒し、穏やかに過ごす場所。
 それを荒らす無粋なオブリビオンには、早々に骸の海に帰って頂くとしましょう」
 そして、言い終わるや否や地を蹴って、人斬りとの距離を一気に縮める。
 易々と近づけさせないと言わんばかりに人斬りは仕込み杖を振るい、広範囲への衝撃波を放つけれども。
 ケイは練り上げたオーラ『天霊』で相殺し、その懐に入ると手刀を繰り出した。
 傷1つない嫋やかな繊手は、氣をのせたことで光り輝き。
 邪妖を断つ魔斬りの刃となって、人斬りの身体を深く斬り裂く。
 普通ならそれで事切れてもおかしくない程の深手に、だが人斬りは倒れるのを踏みとどまり、仕込み杖を強く握りしめるともう一度、衝撃波を乗せた一撃を振りかぶった。
 それは武士としての信念か、執念か。
 しかしケイは、重ねて手刀を繰り出し。
 連撃の勢いも加えて、人斬りを押し倒した。
 ようやく地に伏した人斬りは、黒づくめの格好の比喩ではなく、闇にとけ込んでいく。
 さっと肩口の黒髪を払ったケイは、消えゆくその姿を見下ろして。
 すぐに周囲に視線を戻す。
(「離れに近づいてくるオブリビオンが少ないですね」)
 ケイは背にした貸間の棟を意識しながら思う。
 これ以上は近づけさせない、と離れにほど近いこの付近に陣取ったけれども。
 サクラミラージュでは影朧と呼ばれるオブリビオンとの会敵は酷く少ない。
 他の猟兵達がもっと遠い場所で迎撃してくれているからだろうか。
 だとしても。
(「油断せず、守りましょう」)
 ケイは離れに居るはずの、先ほど言葉を交わした黒髪の少女の笑顔を思いながら。
 薄闇に覆われた庭の警邏へと戻った。

成功 🔵​🔵​🔴​

如月・ときめ
ランガナさんと(f21981)

傍で守るなんて流儀じゃない
人は探偵と縁がない方が幸せだから
でも
「隠し事、できませんね。借りておきます」

もしもの時は人手が要るし、判断だって場慣れした者が現場に居ればより迅速です
子どもみたいにぷいっと

お疲れ様です、環さん。
先刻はごめんなさい。お話が弾んで嬉しくて
ふふ、今回は大人しめにしますね

念のため窓近くに陣取り
ランガナさんが取り出す本を見て相槌やお勧めを語りながら

人を探しながら向かってきてる気配を感じれば

部屋の外に現れるは国津神の眷属達
ランガナさんの蛇と連携し返り討ちにします

夜ですからね。距離感が狂うことってよくあるんです

邪魔は、させません
警戒を怠らず静かな時間を


ランガナ・ラマムリタ
ときめくん(f22597)と

影ながら、と言いたいところだけど
ときめくんを見て、くすりと
「行こうか。傍に誰かがいた方がいいこともあるよ」

こんばんは。お邪魔するよ、環くん
目溢ししてもらえないかな、婆やさん。友人の見舞いさ

UC妖精の司書
手品のように、抱えるほど大きな本を取り出し
「私の仕事は、移動図書館の司書でね。床の中の、気晴らしになるかと思って」
取り出すのは先に話したような小説ばかり
望むなら、異世界の医学書の類だってあるけれど。私は医者ではないからね

言葉を交わしつつ。見えない毒蛇を、部屋の外へと
彼女の大事な時間を守り給え
恐怖に震える時間なんて、勿体無い

外が騒がしいって?
ふふ、気のせいだよ、きっと



 庭での戦いがぽつりぽつりと始まった頃。
 離れにある大河内環の貸間へと訪れた2つの人影があった。
「環さん、こんばんは」
 入口の戸から聞こえた少女の声に、老婆が布団の横から立ち上がる。
 静かな、しかししっかりとした足取りで戸に近づき、少しだけ隙間を開けると。
 そこをするりとすり抜けて、フェアリーのランガナ・ラマムリタ(f21981)が環の布団の上まで一気に飛んで行った。
「お邪魔するよ、環くん」
「……ランガナ様?」
 上からかけられた声に、環の瞳が開く。
「ああ。ときめくんもいるよ」
「ときめさんも……」
 先ほど大浴場で聞いた時よりも弱々しい声は、けれども嬉しそうに綻んで。
 ゆえに老婆は、無遠慮に入ってきたフェアリーを、そして戸の向こうから心配そうにこちらを伺う如月・ときめ(f22597)を、困ったように見ていた。
「目溢ししてもらえないかな、婆やさん。友人の見舞いさ」
「……ばあや」
 ランガナの言葉に、そして何より環の懇願に。
 老婆は困った顔のまま、だがするりと戸を開け、ときめを中へと案内する。
 ありがとうございます、と礼を言いながらときめはその横を通り。
「先刻はごめんなさい。お話が弾んで嬉しくて。
 ふふ、今回は大人しめにしますね」
 横になったままの環へ苦笑して見せてから、入口側にではなく、庭に面した窓の近くへと腰を下ろした。
 環は起き上がることなく……恐らく、起き上がるのが辛いのだろう、このままでごめんなさいと断りを入れながら、じっとときめの動きを視線で追って。
 その胸に抱かれた数冊の本を、不思議そうに見つめる。
 視線に気づいたランガナは、本と環の間に降り立つように高度を下げて。
「そうそう。先ほど説明した通り、私の仕事は移動図書館の司書でね」
 言いながら示した先で、ときめが本を環へ差し出していた。
「床の中の、気晴らしになるかと思って」
 ランガナには抱える程大きな大きな本を1つ1つ、持ち上げては。
 これは大浴場で話したような華族のお嬢様のお忍び物語だとか。
 こちらは甘酸っぱい恋愛小説だとか。
 内容を簡潔に、そして環の興味を惹けるように魅力的に、語っていく。
 ときめも、相槌を打ったり、ここがお勧めですとネタばれにならない程度に大好きなシーンを語り聞かせながら紹介を手伝い。
 わいわいと話すランガナとときめを、環は楽しそうに眺めていた。
(「来てよかった」)
 その様子にときめはほっと胸を撫で下ろす。
 本当は、環の部屋に来ない方がいいのではとも思っていたから。
 人は探偵と縁がない方が幸せだし。
 傍で守るなんて流儀じゃない。
 影ながら。人知れず。
 それこそが探偵の在り方と思っていた。
 でもやはり、環のことが心配で。
 また倒れたと聞いてからそわそわしてしまっていて。
 もしもの時は人手が要る。
 場慣れした者が現場に居ればより迅速な判断もできる。
 探偵が傍に居るための理由を、言い訳のように幾つも考えてしまっていたから。
「行こうか」
 くすりと笑ってランガナが誘ってくれた時には、驚いた。
「傍に誰かがいた方がいいこともあるよ」
 それはときめの思考を肯定する言葉。
 ときめが欲しかった、背中を押してくれる手。
 でも、だからこそ、ときめは子供のようにぷいっと視線を反らしてしまって。
「隠し事、できませんね。借りておきます」
 素直ではない答えに、またランガナが笑っていた。
 そうして、環の部屋に来た2人は。
 見舞いと称して持ち込んだ本についての話を続ける。
(「望むなら、異世界の医学書の類だってあるけれど」)
 ランガナは図書館の蔵書を幾つも思い出しながら。
 すぐにそれを取り出せるユーベルコードも考えて。
 しかし、ときめに持ってもらった数冊の本だけを語る。
(「私は医者ではないからね」)
 環が自分に求めるのはそれではないと分かっているから。
 そして、ユーベルコードは別のものを使いたいから。
「四つ。……読者の時間を守り給え」
 小さく囁いた声に応じて、窓の外に不可視の毒蛇の群れが召喚された。
 さらにその傍らに、国津神の眷属が呼び出され。
(「邪魔は、させません」)
 ときめの思考に従い、近づいていた黒づくめの人斬りへと襲い掛かっていく。
 眷属に向けて人斬りは仕込み杖を引き抜き、その瞳を赤く輝かせ。
 幾重にも重ねた斬撃を放たんとする。
 しかし、その手に、足に、毒蛇達が見えぬままに絡みつき。
 その細くも力強い身体で、そして何よりもその牙からの毒で。
 人斬りの動きを鈍らせれば、そこに眷属が飛び込んでいった。
 かなりの勢いに、人斬りは毒蛇を振り落としながら、やたら遠くまで飛ばされる。
「……ときめくん」
「夜ですからね。距離感が狂うことってよくあるんです」
 窓の外の状況を察して、ちらりとモノクルの下の視線を流すランガナに、眷属と五感を共有しているときめが、小さく舌を出した。
 それでもしっかりと、毒蛇と眷属とは、主のいない戦場で人斬りを倒す。
 相手が複数人だったなら、防衛は難しかっただろう。
 けれども、離れに近づいてくる人斬りは少なく、また、個別に動いていたから。
 警戒体制は充分なものとなっていた。
「少し外が騒がしいような……」
「ふふ、気のせいだよ、きっと」
 気付きかけた環や老婆には、ランガナが何事もないように笑いかけ。
 ときめも次々と本の話を膨らませていく。
 せめてこの部屋の中だけは、静かな時間を。
 そう願いながら。
 人知れず、探偵と司書は戦いを続けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

君影・菫
ニーナ(f03448)と

折角のええ心地
それを邪魔するなんて覚悟はあるんやろね?
誰かなんてどうでもええけど

うちの色で迎えたげよか
ヴィオラの戯で増やした子たちを念動力で操り
間髪入れず先制攻撃を範囲で降らせ狙いゆく
不意打ちになるなら此れ幸い
ニーナの黒とも合わせられるやろか
合間にオーラ防御で護りを置いて

聞き耳に第六感
キミらを感知する術は何でも
今日のうちは少し機嫌悪いから
茨の鉄柩に突っ込まれたくなかったら大人しくしいや

病に等しい終わり?
微塵も興味ないわ
…命には等しく終りが来るもんやろ
キミらが決める権利は何処にもない
モノのうちにだってそれくらい解るわ
だから今一度、菫色を向けて

終われば、
せやねてキミには咲う


ニーナ・アーベントロート
菫さん(f14101)と
湯煙と、宵の桜吹雪に
随分似つかわしくない人らが出てきたねぇ
見回す視線にぴりりと殺気を込め
うん、楽しい一日に水差してくれた落とし前ってことで

【戦闘知識】と【第六感】で敵の動きを見切りつつ
【オーラ防御】を身に纏い敵陣に【ダッシュ】で飛び込み
『Unsterbliche Liebe』使用
菫さん、同時攻撃で畳み掛けちゃお!
同じように散らす黒でも、ほら
こっちの方が素敵でしょ

…そうだよね
命の終わりなんて誰にも決められないよ
菫さんの言葉に続けば、胸の中の炎が強さと熱さを増した
一度死んだも同然のあたしが、今ここにこうして立ってるんだし
心の中でそう呟いて
また振り返る時は「行こっか」って笑顔



 多くの草木が並ぶ庭には、もちろん幻朧桜もある。
 もともとここにあったのを庭に生かしたのか、それとも庭を造る際に植えたのか、太い幹でずっしりと佇むその枝には、薄紅色が絶えず纏われ。
 月のない夜に、僅かな灯りで、ぼうっと浮かび上がるかのように咲いていた。
 そんな幻朧桜の下で。
「湯煙と、宵の桜吹雪に、随分似つかわしくない人らが出てきたねぇ」
 現れた黒づくめの人斬り達を見回して、舞い散る花弁に手を伸ばしていたニーナ・アーベントロート(f03448)は、黄昏色の瞳を細く引き絞る。
 ぴりりと込められた殺気に呼応するかのように、君影・菫(f14101)も、咲き誇る花を見上げていた菫色の瞳を鋭く人斬り達へ向けて。
「折角のええ心地……それを邪魔するなんて、覚悟はあるんやろね?」
 無粋、と小さく告げながらゆるりと振り返った。
 相手が誰かなんてどうでもいい。
 ただ、美しい夜を乱す黒が、穏やかな闇を切り裂く仕込み杖の煌めきが。
 どうにも、腹立たしくて。
「うん、楽しい一日に水差してくれた落とし前ってことで」
 どう見ても笑っていない瞳でにっこり笑ったニーナは、オーラを纏いつつ、人斬りへ向けて地を蹴った。
 一気に間を詰めながら、繊細な象嵌が施された鞘から小振りのナイフを抜き放つ。
 そのまま切りかかろうとするような動きに、人斬りは仕込み杖を振り上げて。
「痛いくらいに、愛してあげる」
 刹那、呟いたニーナの声に、ナイフが無数の黒薔薇へと変わった。
「同じように散らす黒でも、ほら」
 舞い散る花弁は、黒づくめをさらに黒く覆うように襲い掛かり。
「こっちの方が素敵でしょ」
 黒い山高帽を、黒いインバネスを、黒い袴を、黒い杖を。
 次々と黒く切り裂いていく。
 そしてニーナは、フェイントにした動きから逆に、人斬りから少し距離を取り。
「菫さん」
「そうやね。うちの色で迎えたげよか」
 振り返りながらその名を呼べば、ゆるりと前に進み出た菫が、緑色の髪に挿した簪へそっと手を触れた。
 そこに飾られた石は、菫と同じ名で呼ばれる紫色に輝いていて。
「さ、沢山の紫で彩ろうなあ。その視界埋めてまう程に」
 黒い花弁の中に、同じ簪が幾つも幾つも生み出され、煌めいた。
 美しい菫色の石も、優雅な造りも、鋭利な先端もそっくりそのままに。
 複製された簪は、念力により、鋭く人斬り達へと飛び行く。
「今日のうちは少し機嫌悪いから」
 簪と同じ紫の瞳を、言葉通り不機嫌に細めた菫は。
「茨の鉄柩に突っ込まれたくなかったら大人しくしいや」
 人斬り達の動きを冷静に見つめながら、ヴィオラの戯を操った。
 黒と紫に襲われた人斬り達は、だが傷を負いながらも赤い瞳に殺意を残し。
 花弁を、簪を、その仕込み杖で少しずつ斬り落とし、行く手を切り開いていく。
「医者の先生は、全ての病に等しく終わりをもたらさんとしている」
「我らはその先陣」
「故に我ら『帝都斬奸隊』、先生の為にも剣を振るわん」
 口をつくのは彼らの信念。
 存分に剣を振るい、武士らしく散る。
 そのために選んだ行動理由。
 例えそれが、どんなに歪なものだとしても。
 信に殉ずると、人斬り達は刃を振るう。
「病に等しい終わり?」
 しかし菫は、その言葉にふっと笑みをこぼした。
「微塵も興味ないわ」
 遊女を思わせる自身の服の裾を見下ろし、つまらなそうに撫でて。
 艶やかに魅せる鎖骨のラインの先で、滑らかな肩を竦めて見せる。
「命には等しく終りが来るもんやろ。
 キミらが決める権利は何処にもない
 モノのうちにだってそれくらい解るわ」
 そして改めて人斬り達を見据えるのは、簪と同じ紫色の瞳。
 ヤドリガミとしての本体である器物と変わらぬ、真っ直ぐな菫色。
 幾つもの命の終わりを見てきた、輝き。
「……そうだよね。命の終わりなんて誰にも決められないよ」
 ニーナも菫の言葉に続けて、思いを紡げば。
 胸の中の炎が、強さと熱さを増した。
 かつて、美しい『怪物』に奪われた心臓。
 その心音の代わりに燃え上がる炎が。
 ニーナの思いを後押しする。
(「一度死んだも同然のあたしが、今ここにこうして立ってるんだし」)
 そっと炎の位置へと、服の下にある胸元の傷跡へと、繊手を添えて。
 真っ直ぐに顔を上げれば、さらりと流れる鈍色の長髪。
 そして、炎のように輝きを増した黄昏色の瞳。
 だから、今一度。
 黒の花弁を、紫の簪を、ニーナと菫は合わせ放って。
 人斬り達を覆い尽くし、消し去っていく。
 そうして黒づくめの姿が消えた庭にまた、はらり、はらりと幻朧桜の花弁が舞った。
 ニーナは、降って来る花弁に再び手を伸ばし。
 偶然にも掴めた1枚を、そっと握りしめる。
 その手の動きに合わせて一度瞼を下ろして、しばし。
 瞳を開き、顔を上げたニーナは、笑顔で振り返った。
「行こっか」
「せやね」
 返ってきたのは、菫が咲くような柔らかな笑顔。
 この場の、1つの戦いは終わったけれども。
 無粋な者はまだ他にも居るはずだから。
 ニーナと菫は歩を揃え、並んで小路を進んでいった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セフィリカ・ランブレイ
エウちゃんと(f11096)

生きてても辛いだけ、故殺そう
それは優しさかもしれないけど本人が望まないなら、ただの押し売りだ
止めなきゃね

環ちゃんの負担にならない場所で迎撃
なるべく広い場所がいい
相手にする数も増えるけど、そこはそれ

エウちゃん、牽制任せたっ!
彼女の魔法の正確さを知っている

【月詠ノ祓】

ならば彼女が生み出す隙に乗じて全力で駆ける事に集中する!
シェル姉、全力だよ!
『温泉で休んでた分、調子の良い所を見せてもらうわ』
相棒の魔剣も、見てない所でのんびりしていたのか機嫌がよさげだ

相手の動きは確かに早い。
けど、達人同士の戦いで少しでも動きが止められたらどうなるかは、想像するまでもない、ね!


エウロペ・マリウス
同行者:セリカ(f00633)
ボクはセリカの戦闘をサポート&露払いをするよ

【空中浮遊】を用いて【空中戦】で距離を保ちつつ、
敵の攻撃に対して【オーラ防御】の上に【結界術】を施して防御を固めておくよ

「闇穿つ射手。無窮に連なる氷葬の魔弾。白き薔薇を持たぬ愚者を射貫く顎となれ。射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)」

敵の行動を制限するような形で【誘導弾】で操作性を高めて牽制
足元を中心に攻めて、凍てつかせることで攻撃するための移動や踏ん張りを阻害する

キミ達が、自己満足な望まぬ死を与えるというならば、
ボクは、キミ達が望む『武士としての死』なんて崇高なものは与えないよ



 セフィリカ・ランブレイ(f00633)が『帝都斬奸隊』の迎撃に選んだ場所は、貸間から大分離れた、芝生の広場だった。
 裏口からの小路の1つが早々に行き当たるここは。
 セフィリカも楽しんだ温泉へ、観光客用の宿泊棟へ、湯治用の貸間の棟へ、はたまた庭をさらに散策する道へと、幾つもの行先に分かれるジャンクション。
 そんな利便性を知ってか知らずか。
 仁王立ちするセフィリカの前に、黒づくめの人斬りが次々と姿を現す。
「数が多いね」
 ひの、ふの、と山高帽を数えながら、ちょっと思った以上かも、なんて呟いて。
 それでも笑みの消えない赤い瞳に、人斬りはすらりと仕込み杖を抜いた。
「そこをどいてもらおうか」
 放たれるのは低く重く暗い声。
「我らは今宵、先生の為に此の剣を振るうと決めた」
「全ての病に等しく終わりをもたらさんとしている先生の御為」
「苦しみの生から解き放つ為に」
 重なる言葉は狂気にも満ちて。
 鋭く煌めく刀身以上に、殺気立った瞳が妖しく輝く。
「つまりそれって」
 しかしセフィリカは臆することなく、こくんと首を傾げて見せて。
「生きてても辛いだけ、故殺そう……ってこと?」
 むう、と不満げな顔を見せる。
 そしてすぐに、ぶんぶんと首を左右に振ると。
「それは優しさかもしれないけど、本人が望まないなら、ただの押し売りだ」
 セフィリカは、白い鞘から青く輝く両刃の長剣をゆっくりと引き抜いた。
 どんなに辛くても。どんなに苦しくても。
 それで死を求める人ばかりではない。
 少なくとも大河内環は……病に蝕まれ、影朧に狙われた儚い少女は。
 影の犬が見つめる前で、楽しかった、と微笑んでいた黒髪の少女は。
 その生を諦めてはいなかった。
 だから。
「止めさせてもらうよ」
 セフィリカは、青い魔剣シェルファを掲げて、その名を呼んだ。
「エウちゃん!」
「闇穿つ射手。無窮に連なる氷葬の魔弾。白き薔薇を持たぬ愚者を射貫く顎となれ」
 応えるように凛と響いた声は、エウロペ・マリウス(f11096)の詠唱。
 人斬り達はその姿を探し、慌てて周囲を見回して。
 そのうちの1人が、はっと気づいて空を見上げる。
 エウロペは、背中の白い翼を広げ、夜闇に浮いていた。
 まるで、今夜は姿を隠している月の代わりにと言うかのように。
 白い髪を、白い服を、ふわりと揺らして。
 色白の肌を、青い瞳を、美しく煌めかせて。
 モノクルの下で微笑んだエウロペは。
 氷の結晶を象った杖を、振り下ろした。
「射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)」
 降り注ぐのは、無数の氷。
 正確には氷ではなく、万物を凍てつかせる概念を内包した魔弾だが。
 触れた物全てを凍らせるそれは氷以外の何物でもない。
 思わぬ空からの攻撃に、人斬り達はその瞳を輝かせ、自身を傷つけることも厭わずに仕込み杖を幾重にも振るって氷を斬り落としていくけれども。
 人斬りへと向かった氷は、牽制。
 本来の狙いは、斬り落とされた氷が転がる地面であり。
 そして、上へと気を逸らした隙を見逃さずに飛び込んだセフィリカのサポートだから。
「シェル姉、全力だよ!」
『温泉で休んでた分、調子の良い所を見せてもらうわ』
 意思ある魔剣シェルファを携え、セフィリカが駆ける。
 相手は多数、しかも腕の確かな士族ゆえ、セフィリカを迎え撃つ仕込み杖の刃は、素早くそして鋭い。
 如何にセフィリカが剣の才に恵まれた者とはいえ、容易い相手ではなかった。
 けれどもセフィリカには、エウロペがいる。
(「エウちゃんの魔法の正確さは知っているからね」)
 振るわれる仕込み杖は、降り注ぐ氷にも割かれ。
 斬り落とされた氷が、そしてそもそも地面を狙っていた氷が、人斬り達の足元を凍らせると移動や力を込めるための踏ん張りを阻害していく。
 そしてもちろん、セフィリカにはただの1つの害も与えずに。
 エウロペは、誘導弾も使って操作性を高めた氷で、人斬り達の行動だけを狙い、制限させていく。
「キミ達が、自己満足な望まぬ死を与えるというならば」
 ぽつりと零す声は、静かに、冷たく。
「ボクは、キミ達が望む『武士としての死』なんて崇高なものは与えないよ」
 宣言通り、エウロペは人斬り達の実力を抑え込んで。
 存分に剣を振るうことを許さぬまま。
 僅か以上の隙に、セフィリカの高速の一閃が走っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

比野・佑月
【月花】
「そうそう、そっちは通行止めだ」
鎖付きのトラバサミ、わんわんトラップを放ち
追い立てたり、噛みつかせて引っ張ったりで敵を
庭とか広い場所へ引きずり出すよ

「まかせた、香鈴ちゃん!」
名を呼び、連携しながら取り逃しのないように。
武器を振るうその腕、地を蹴るその脚にトラバサミの牙を喰い込ませ
行動を阻害しながら俺自身も短刀で接近戦を。
香鈴ちゃんの方へ攻撃がいかないよう鎖を引いての誘導や、
向かってくることを見越してトラバサミを仕掛けて置くとかで有利に動こう。
どんなに数が多くても、この場を支配してるのは俺たちだ。

こっちは風呂あがりに運動させられてるんだ、
憂さ晴らしくらいには役立ってくれないと困るよ


花色衣・香鈴
【月花】
流石に浴衣のままじゃ戦えない
いつもの服に着替えて羽衣を纏う
出来る限り建物も敷地も無事に済ませたくて、多少広く立ち回れる場所で敵を迎え撃つ
庭は少し荒らしてしまうかもしれないけれど…
「行かせませんよ」
先制攻撃として鈴を片方振って衝撃波の洗礼
まともなダメージにはならなくても、
「佑月くん!」
佑月くんのトラバサミを躱した敵を次々狙う形でUC発動
わたしが外せば佑月くん達の、佑月くん達が外せばわたしの的になる
敵の手数が多い以上負う傷は決して少なくないけれど…段々霊力も地に満ちてくる
嗚呼、でも
折角佑月くんに薬草風呂に浸かってもらったのに
「貴方たちの所為で台無しですっ」(ぷんすか)
絶対に許しませんから!



「行かせませんよ」
「そうそう、そっちは通行止めだ」
 花色衣・香鈴(f28512)と比野・佑月(f28218)もまた、少し開けた場所で人斬り達を迎え撃っていた。
 湯上りの浴衣から、戦いやすいいつもの服に着替えて。
 建物も、できれば庭も、荒らさずに済ませられるようにと。
 細く狭い小路の入り口に香鈴は立ちはだかり。
 佑月は、別の小路へ進みかけた人斬り達の前に、鎖付きの黒鉄製トラバサミわんわんトラップを向かわせ、こちらへ追い立て、広めの場所へと引きずり出す。
 倒さねば先に進めないと認識したか。
 はたまた、目の前に現れたなら倒すと無差別にか。
 黒づくめの人斬り達は、すらりと仕込み杖の刃を抜いた。
 その動きに、先手を、と香鈴は嫋やかな片腕を掲げ、その身に纏った魔力糸で編まれた羽衣の片端を振るう。
 飾られた青翡翠から放たれるのは霊力の衝撃波。
 広範囲に広がったそれは、人斬り達を漏れなく襲いつつも、拡散しているがゆえに大きなダメージは与えられない。
「佑月くん!」
 だがそこに。呼んだ名に応えるように。
 佑月が念力で操作する、犬を模したトラバサミが襲い掛かる。
 衝撃波に対応する隙に飛び込み、仕込み杖を掻い潜ってその腕へ、避けようとする動きの先へと回って地についたその脚に、鋭い鉄の牙を喰い込ませ。
 行動を阻害し、動きを鈍らせたところに、さらなるトラバサミが、そして飛鉄短刀『穿牙』を携えた佑月が追撃を加える。
 しかし数に勝る人斬りを、数十もあるとはいえ1人が操るトラバサミで全て押さえることはできず、その牙を、鎖を、逃れられた者がいた。
 けれども。
「まかせた、香鈴ちゃん!」
 そこに振るわれるのは、破魔の神器のもう片端。
 香鈴の羽衣に飾られた紫翡翠から、覆い潰すような霊力の波が生み出される。
 二段構えの双鈴の羽衣。
 その両端を使い重ね、香鈴は神楽を舞うかのように繊手を振るった。
 佑月が外した相手を香鈴が狙い。
 香鈴が外した相手を佑月が狙う。
 また、香鈴の死角へ回り込もうとする相手を、佑月が鎖を引いて別の方向へ誘導し。
 佑月が仕掛け置いたトラバサミにかかるように、香鈴が衝撃波で誘い導く。
 互いをカバーし合いながら。
 互いの能力を生かし合って。
 香鈴と佑月は、2人で戦っていく。
 この場の流れを支配していく。
 とはいえ、相手も士族。剣技の達人。
 そして、散開したとはいえ未だ集団と言える人数でこの場にいるから。
 仕込み杖は幾度も香鈴や佑月を襲い、小さな傷を重ねていく。
 その中で、インバネスを脱ぎ去り瞬間的にその速度を増した人斬りが、対応の遅れた香鈴の腕を深く斬り裂いた。
「香鈴ちゃん!」
「大丈夫です」
 焦りの声で名を呼ぶ佑月に、だが香鈴は落ち着いて、お返しとばかりに衝撃波を放つ。
 しかし振るわれたその白く細い腕は、赤く染まっていたから。
「こっちは風呂あがりに運動させられてるんだ」
 佑月はトラバサミを、香鈴を傷つけた人斬りへと集中させた。
「憂さ晴らしくらいには役立ってくれないと困るよ」
 何頭もの犬がじゃれつくかのように、トラバサミが纏わりつき。
 鋭い牙が次々と人斬りを喰いちぎっていく。
 だが、1人に攻撃を集中させれば、他が手薄になる。
 攻撃の手が緩んだのを好機と、別の人斬りが、今度は佑月の肩口に刃を食い込ませた。
(「嗚呼、折角佑月くんに薬草風呂に浸かってもらったのに」)
 咄嗟に香鈴が衝撃波を放ち、すぐに佑月から人斬りを引き離すけれども。
 斬り裂かれた服は、赤黒く染まっていくから。
「貴方たちの所為で台無しですっ」
 香鈴はさらなる衝撃波を重ねた。
「絶対に許しませんから!」
 双鈴の翡翠は、霊力を衝撃波とすると共に、地にその霊力を満たしていき。
 地に立つ香鈴の衝撃波は、放つたびに威力を増す。
 佑月のトラバサミも、相手の数が減ればそれだけ操る精度を上げられるから。
 より細かな動きで攻撃を重ねていくことができる。
 そして2人の連携も、数を重ねる毎に緻密になっていき。
 ゆえに、香鈴と佑月には、次第に余裕が生まれてきて。
 負傷を減らしながらも着実に人斬りを1人、また1人と倒して行った。
「戦いが終わったら、また薬草風呂に行きましょう」
「え、いや、それはちょっと……」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
随分とパターナリズム(父権主義)なお医者さまね
患者のリビングウィル(生存意志)の完全無視は頂けないとこ

中には入れない
あんた達は療養の場には殺意が強過ぎる
(左手のマンゴーシュを掲げ、UCを発現)
ここで舞台の上で一緒に踊りなさい
骸の海に帰るまで

さぁて影朧も猟兵もご覧あれ
今から魅せるは旅館を舞台にした一大活劇!
全てを守ると覚悟を決めた者の演武なり
(『演技』に『歌唱』も駆使して朗々と詠い、『存在感』を示して敵を『引きつけ』る
『ダンス』の動きも入れた立ち回り
時に攻撃を『受け』る剣に宿した炎や雷の『属性』の輝きで軌跡を残し
敵の瞳が輝くなら刀に宿したその強い光で焼いて閉じさせる
常に舞台の上を意識した動き)



「医者の先生は、全ての病に等しく終わりをもたらさんとしている」
「今宵の我らは、先生の望みを叶える御為に」
「武士らしく、先生への義に、存分に剣を振るおう」
 庭の一角で対峙した南雲・海莉(f00345)に言い聞かせるかのように。
 いや、それが大義だと言い訳をしているかのように。
 淡々と紡がれた低い声に、海莉は大きくため息をついて見せた。
「随分とパターナリズムなお医者さまね。
 患者のリビングウィルの完全無視は頂けないとこ」
 医療の道を進む海莉は、医師のパターナリズムが、本人の意志は問わずに患者へ介入や干渉をすることが認められる場合があると知っている。
 しかしそれは、患者のリビングウィルを、生きたいと望む心を、医師が踏みにじるためのものではなく、患者を生かすために行われるもののはずだから。
 小さく首を振る動きに、艶やかな長い黒髪が揺れて。
 伏せ気味だった顔を上げれば、真っ直ぐに輝く漆黒の瞳。
 対峙する黒づくめの人斬り集団を、父権主義な医師に従う者達を。
 その向こうに、探し追い続ける義兄の姿を微かに重ね見て。
 真っ直ぐに否定する、鋭い黒。
「中には入れない。あんた達は療養の場には殺意が強過ぎる」
 緋色のマン・ゴーシュを左手で掲げた海莉は、力強く言葉を紡いだ。
「汝、人の心惑わし癒し魅了するものよ。
 この地に降り注ぎ、闇より我らを照らし出せ!」
 応えるように降り注ぐのは月灯燦爛。
 月の魔力を秘めたスポットライトは、この場を聴衆満ちる大歌劇場へと変化させ。
「さぁて、影朧も猟兵もご覧あれ。
 今から魅せるは旅館を舞台にした一大活劇!
 全てを守ると覚悟を決めた者の演武なり」
 海莉は大仰に一礼して見せてから、歌を踊りを紡ぎ奏でていく。
 人斬りへ向かう動きは、まるで剣舞。
 流れるような美しい動作に、マン・ゴーシュの刀身に刻まれたルーンで炎や雷の輝きを加え、煌めく軌跡を宙に刻みながら、仕込み杖と切り結ぶ。
 聴衆からの賞賛の拍手が聞こえてきそうな光景に、ユーベルコードの効果が生まれ、海莉は、数にも剣の実力にも勝るであろう人斬り達を圧倒していった。
「ここで、舞台の上で、一緒に踊りなさい」
 演舞の最中に、海莉は人斬りを見据え、小さく告げる。
「骸の海に帰るまで」
 それこそがこの活劇の結末であるのだから、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルカ・スノードロップ
【BH】
アドリブ/連携◎

【世界知識】【戦闘知識】で敵の情報分析

味方の攻撃の射線へ【おびき寄せ】る【だまし討ち】の【援護射撃】は
【集団戦術】として実行します

《指定UC》の前提となる『突いた対象に射撃可能な自慢の槍』達を《セブンカラーズ・ガンランス》で召喚
召喚した槍に【誘導弾】を載せて【槍投げ】【投擲】【スナイパー】で嗾けます
【串刺し】にした後に、魔弾を【零距離射撃】で撃ちこむ【属性攻撃】に繋げて【蹂躙】します


緋神・美麗
【BH】
アドリブ、連携◎

さて、温泉も十分楽しませてもらったし、しっかりお仕事もしないとね。
相手が人斬りテロ集団だろうとなんだろうとまとめて蹴散らすわよ。

敵の無差別範囲攻撃は【戦闘知識】【第六感】【野生の勘】【見切り】で回避、もしくはシールドビットで【盾受け】する
味方に被弾しそうになったらシールドビットを【念動力】で飛ばして【盾受け】して【かばう】

攻撃は【気合】【力溜め】【リミッター解除】【限界突破】で威力を限界まで上げたUCに【範囲攻撃】【誘導弾】【鎧無視攻撃】【フェイント】【2回攻撃】を乗せて射程内の敵をまとめて殲滅していく


ミスティ・ストレルカ
【BH】
アドリブ連携◎
夜も更けてきてねむねむだけど頑張るのよー

●方針-WIZ
遊撃と攻撃地点への【おびき寄せ】を行います
【情報収集】は済んでるとの事で突破されぬよう【時間稼ぎ】して皆の攻撃チャンスを増やします

攻撃の回数が多いですね、回避は【見切り】【第六感】【空中戦】で動作の隙を減らすようにするのですよ
受けのみだと飽和攻撃が辛いので【オーラ防御】で被害を抑えUC【衝撃波】で牽制します
数が多くてもこちらも十分な範囲と【2回攻撃】で押さえるのー

・今日のひつじ(非活性サモンシープ)さん
頭上で毛を逆立てもこもこと威嚇してるようです
遊撃というかここは通さんと【恐怖を与える】つもりみたいなのです?



「さて、温泉も十分楽しませてもらったし、しっかりお仕事もしないとね」
 もうすっかり乾いた金色の髪をさらりと夜風に靡かせて、緋神・美麗(f01866)は薄い夜闇に覆われた庭を見回した。
 その位置は、貸間のある棟よりも、美麗達も泊まる観光客用の宿泊棟に近い場所だったから、まだ影朧は姿を見せず。
「みんなはもう寝たのかな?」
 ゆえに、ベルカ・スノードロップ(f10622)は穏やかな微笑を浮かべて、宿泊棟の方を優しく眺めていた。
 共に温泉を楽しんだベルカの妻達は、その大半が幼い子供だったから。
 夜も更けてきたこの時間は就寝時刻。
『兄嫁を寝かしつけるのは妹にお任せくださいな。
 もちろん私もお兄様の妻ですけれども』
 そんな声に見送られて、夜の庭へと出てこれたのは、唯一の成人であるベルカと、妻の中でも最年長の美麗。そして。
「ミスティも寝ていていいんですよ?」
「んー……ねむねむだけど頑張るのよー」
 デフォルメ調の白羊の上に寝転がるように乗り、手が出ない程長い袖でぼんやりした紫色の目を擦る、ミスティ・ストレルカ(f10486)だけだった。
 表情も動作も、紡ぐ言葉もぽややんとしたミスティは、それでも何とか、オラトリオの白い翼を広げて羊の背から舞い上がる。
 しっかり美麗に結びなおしてもらったツーサイドアップの白い髪を揺らしながら空を駆け、薄紅の花弁と共に踊っていけば。
「……見つけたのよー」
 眼下に蠢く、黒づくめの人斬り集団。
「こっちなのー」
 相手もこちらに気付いたのを確認してから、ミスティはふよふよとベルカ達の元へと戻っていく。
 その動きは、人斬り集団から逃げるようにも見えたけれど。
 貸間を目指す人斬り達を妨害するものではなかった。
 人斬り集団が、『帝都斬奸隊』が、本当に言葉通りの義に殉じていたならば、ミスティを気にもせず先を行くはずだったが。
 ミスティに気づいた集団は、その後を追うように進路を変える。
 行く手を阻むものを斬るのではなく。
 見つけた全てを斬らんとするかのように。
 口にしていた理由が、ただの人斬りの口実であるかのように。
 貸間から遠ざかることを厭わずに、ミスティを追いかけ。
 仕込み杖を引き抜きながら一閃すると、その白い背中に向けて衝撃波を放った。
「そうはさせないわよ」
 だが衝撃波がミスティの背に当たる寸前、美麗のシールドビットが割り込む。
 サイキックエナジーで硬度を強化された白い飛翔盾は、しっかりとミスティを護り。
 そこに自慢の槍を携えたベルカが飛び込んだ。
「私がお相手しましょうか」
 長い緑色の髪を靡かせ、琥珀色の瞳で紳士的に微笑むベルカに、人斬り達は鋭く赤い瞳と共に仕込み杖の刃も向け。
 次々と繰り出される斬撃を、ベルカは流れるような動きで引き付け、躱していく。
 ミスティも、衝撃波を躱しながら宙を舞い踊り。
 逃げ回るだけに見えた2人の動きの最中。
「ベルカ! ミスティ!」
 響いた声と共に、拡散極光砲が人斬り達へと放たれた。
 ちらりと振り返るベルカが見たのは、頭上に手を掲げた美麗の凛々しい姿。
 その手に収束された光を、光線として撃ち放ったのだと知るベルカは、それを最大限に生かせるようにと人斬り達の動きを誘導していたのだ。
 狙い通り、その場にいるほぼ全ての人斬りに光はダメージを与えたけれども。
 まだ倒すには足りない。
 それに、美麗にばかり任せてはいられないから。
 ベルカは手にした槍に誘導弾を乗せて投げ放った。
 光に気を取られていた人斬りを貫いた槍を追いかけるように接近したベルカは、そのまま零距離で魔弾を撃ち込み。
 何とか耐えきったか、と思われた人斬りの前に、瞬時に次の魔弾を生み出し揃える。
「残念でした」
 間髪入れぬ連射に、さすがに人斬りは姿を消した。
 そしてミスティもまた、回避だけを続けるのは辛いので。
 衝撃波と共に鈴蘭の嵐を吹き荒らし、仕込み杖を牽制する。
 そんな攻防の最中、ミスティはふと、ひつじさんはどうしたのだろうかと思い出し、ふわりと高度を上げて探すと。
 頭上の毛を逆立て、もこもこになった羊は、貸間の方へと向かう小路の入り口に立ちふさがるようにして立っていて。
 ここは通さん、と威嚇をしているようだった。
 もこもこでとっても可愛いので、威嚇とか恐怖とかからは程遠いのですが。
 それでも、羊なりに役目を果たそうとしているのにミスティはこくんと頷いて。
 再び舞い上がる鈴蘭の花弁。
 ベルカの槍もまた1人、人斬りのインバネスを貫いて。
「相手が人斬りテロ集団だろうとなんだろうとまとめて蹴散らすわよ」
 そこに今一度、美麗の声が響く。
 ベルカが、ミスティが、人斬り集団を引き付けてくれている間に、力を溜めていた美麗は、不敵な笑みに金色の瞳を輝かせ。
 手に収束させた光をまた撃ち放つ。
 威力を限界にまで上げた光線は、ベルカ達の誘導もあり、またかなりの命中率を見せ、さらに今度は人斬りを深く傷つけていたから。
 最後のとどめをと、ベルカの槍とミスティの鈴蘭が、駆け抜けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草守・珂奈芽
【要宮】
む、カラス…式神さん?ちゃんと偵察してたなんてさっすがー!
よーし行こっ!わたし達が守れるもののためにさっ!

いつきくんと待ち伏せして…管狐さん達と飛び出すのさ!
UCさ使って草化媛と連携攻撃に出るよっ!
自慢の素早さも的を絞らせなければ怖くないのさ!
むしろ避けれるもんなら避けてみろってね!

草化媛の〈掩護射撃〉とわたしの〈誘導弾〉で管狐さん達の間を縫って注意を引きつつ、
こっちを見てない敵は〈念動力〉で操る翠護鱗で薙ぎ払うのさ!
翠護鱗は足止め用に道を塞がせるのも忘れないよ。そーそー通させはしないのさ!
相手の攻撃は結晶で〈盾受け〉して、相手が止まればオーケー!
「いつきくん、追撃よろしくぅ!」


雨宮・いつき
【要宮】
…っと、警戒にあたらせていた八咫烏達から報せが
向こうも動き出したようですね…
行きましょうか、草守さん
自分達に出来る精一杯を成すために

彼らの目標地までの途中で待ち構えましょう
会敵したら近くへ忍ばせていた管狐達に不意打ちをさせます
素早い剣筋がご自慢のようですが…手数が多いなら、それ以上の手数をぶつけて押し切るまで
準備はいいですね、草守さん!

小刀の斬撃に狐火
相手の攻撃が追いつかないくらいの波状攻撃で意識を管狐達の方へおびき寄せて隙を作ります
草守さんの方へ意識が向いた相手には、その意識の外から仕掛けて体制を崩す
互いを補助し合えるように動きましょう
駄目押しに、雷撃符の電撃もお見舞いします!



 よいしょっ、と庭に出た草守・珂奈芽(f24296)へと夜闇の一部が舞い降りる。
 その気配に顔を上げた珂奈芽は、薄闇の中からその漆黒の輪郭を見て取って。
「む、カラス……式神さん?」
「ええ、八咫烏です」
 思い当たったその正体に首を傾げつつ振り向くと、雨宮・いつき(f04568)がそっと伸ばした腕に、護符から変じた漆黒の式神が3本の脚で止まった。
 陰陽師であるいつきは、嘴を近づけてくる鴉に青い瞳を細めて。
「向こうも動き出したようですね……」
「ちゃんと偵察してたなんてさっすがー!」
 その役目も察した珂奈芽が褒め称える前で、鴉は漆黒の胸を張るように首をもたげる。
 嬉しそうにも見えるその仕草に、くすりといつきは微笑んでから。
「行きましょうか、草守さん」
「よーし行こっ! わたし達が守れるもののためにさっ!」
「ええ、自分達に出来る精一杯を成すために」
 声をかけ合い、2人は黒鳥の先導で庭を進んだ。
 空から見下ろす鴉の情報で、貸間へ向かう人斬り達の先へと回り込み、隠れて待ち構えると共に、いつきはそっと周囲の草陰に管狐を次々と忍ばせる。
 珂奈芽も、胸に蛍石を嵌め込んだ魔導人形『草化媛』に神通力を通して。
「準備はいいですね」
「うん」
 小さく声を交わし、青と金の瞳で頷き合ってから。
「それ、今だーっ!」
 珂奈芽は管狐と草化媛と一緒に飛び出した。
 完全な不意打ちの上に、小さいながらも数百の数に上る管狐。
 抜き放った黒い仕込み杖の刃が目にも留まらぬ速さで幾重にも繰り出されるが、1本の刀では到底さばききれる数ではなく。
「素早い剣筋がご自慢のようですが……
 手数が多いなら、それ以上の手数をぶつけて押し切るまで」
 小刀を咥えた管狐は、狐火も混ぜ放ちながら、順に順にと切れ目なく波のように人斬り達へと襲い掛かっていく。
 御狐戦隊の名に相応しい連携攻撃。
 そんな小さな活躍の合間を縫って走るのは、珂奈芽。
「自慢の素早さも的を絞らせなければ怖くないのさ!」
 管狐に撹乱されて生まれた隙を逃さず狙い、草化媛の術と共に誘導弾を放っていく。
「むしろ避けれるもんなら避けてみろってね!」
 一撃で倒せる程とはいえ無数の相手と、その隙から撃ち込まれる射撃。
 黒いインバネスを脱ぎ去り身軽となって尚、人斬り達はその動きに苦戦し。
 山高帽が弾き飛ばされ、袴を切り刻まれ。
 小さい傷を次々と重ねていく。
 その混戦からたまらず抜け出た1人の人斬りが、これは不利だと戦場を見切り、脇へと反れる小路へと逃げ込もうとするけれども。
 珂奈芽はその動きを見逃さずに、魂晶石の飾りから魔力結晶を溢れさせる。
 念動力で操る翠護鱗は、逃げる人斬りを薙ぎ払い。
「そーそー通させはしないのさ!」
 さらに、行く手を塞ぐように小路にも撃ち込みながら、珂奈芽はにっと笑った。
 ならばと別の1人が、管狐を無視する勢いで珂奈芽に迫る。
 無数の傷を小さく刻み込みながらも、振るわれた仕込み杖は力強く。
 今度は盾とした翠護鱗を翳した珂奈芽はかろうじてそれを受け止めていたけれども。
 相手は体格のいい大人の男性。しかも鍛え抜かれた武士。
 小柄な少女の姿である珂奈芽とは違い過ぎる体格から、力の差は明らかすぎて。
『小さくて軽いと大変だよね。見た目にも舐められたりさ!』
 まさしく、温泉で珂奈芽自身が語った苦労通り、盾が押し込まれる。
 このままの力比べでは到底敵わない。
 だからといって、急に珂奈芽が力強くなれたりするわけではないから。
 珂奈芽は競り合っていた盾を引き、一瞬、相手の体勢を崩して。
「いつきくん、追撃よろしくぅ!」
 呼ばれるまでもなく、そこにいつきが飛び込んだ。
 管狐の攻撃を引き連れながら接近し、珂奈芽が作った隙に放つは雷撃符。
 強い霊力を込めた護符の束は、雷を生み出すと、人斬りを撃ち貫く。
 勝てない力比べをする必要はない。
 小柄ゆえの素早さを。軽さゆえの手数の多さを。
 そして何より、頼れる仲間との連携を。
 いつきと珂奈芽は、磨き上げた今の自分達の精一杯を出し切って。
「草守さん、そちらを」
「おっけー、任せて」
 鴉が夜空を旋回し、見下ろす先で。
 少しずつ、でも着実に、人斬り達を倒していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛砂・煉月
千鶴(f00683)と

凡ての病に終わり?
笑っちゃうよね
そんなの要らないのにとむしろ嗤った
命は零れるものだけど
その弔い方は反吐が出る

――千鶴、
俺の腕、適当に刻んでくれる?
いのちの欠片を散らす匂いを感じたなら
血を媒介にするから協力してなんてさ
痛みには強いんだ
…ん、借りていって

ハクの名を呼んで白竜が姿を見せれば槍へ
自己紹介は又、今度ね
流れる血を使ってハクを紅狼覚醒
さぁ、ハク
喰い散らせと赫の狼を解き放ち
己もダッシュで駆け敵に詰め寄り
渇望の刻印で化物の力を遠慮なく奮う
第六感を研ぎ澄ませ
隙在らば相手の喉元に喰らい
吸血で赫を奪い散らして

無事?と振り返った顔は
狼だけど笑みはいつもと同じ
だってキミと桜が咲うから


宵鍔・千鶴
煉月(f00719)と

凡てを等しく終わらせるなんて傲慢だね
…命を散らすときを誰かが決めるなんて
………気に食わない

耳元で赫が揺らめいて
いのちの欠片を差出すことは厭わない
…、れん、でも。
――傷つけたくない
彼の言葉に躊躇いも飲み込んでふるりと首を振り
…ごめん、少しだけ、きみの血を借りる
腕を引き寄せて燿夜の切っ先で赫を滲ませれば

美しき白竜が赫き獣へと転じる傍ら自身も追いかけ
レン、ハクの紹介楽しみにしているよ
桜は残酷に嗤い
喰らう狼に併せて敵へ間髪入れず刃を突き立てる
桜舞わせた防御をふたりへ纏わせて
彼が自由に赫奪えるよう

返る血の赫を指先でそうと拭って
噫…無事だよ、狼さん
幻朧桜の下で密やかに咲ってみようか



 薄闇満ちる小路を駆け抜けていた2人の人斬りは、その途中で唐突に足を止めた。
 腰を低く、仕込み杖をいつでも抜けるように構えれば。
「凡ての病に終わり?」
 行く手から、笑みを含んだ声が響く。
「笑っちゃうよね。そんなの要らないのに」
 ゆっくりと人斬りの前に進み出たのは飛砂・煉月(f00719)。
 いつもの陽だまりとは違う、冷たく赤い瞳を細めた嗤いで肩を竦めた。
「凡てを等しく終わらせるなんて傲慢だね」
 並ぶ宵鍔・千鶴(f00683)も淡々と言葉を紡ぎ。
「命を散らすときを誰かが決めるなんて……気に食わない」
 微かに声に力がこもり、瞳の紫に不機嫌の色が混ざっていく。
 ゆっくりと燿夜を、血染め桜の打刀を引き抜けば。
 今夜は空にない月の耀きの代わりにと、錵が煌めいた。
 その言葉に頷いて、煉月はふと右腕を掲げ。
「命は零れるものだけど、その弔い方は反吐が出る」
 ハク、と呼べば、軽く曲げたその腕に白銀のドラゴンが姿を見せる。
 対峙する、4つの人影。
 相容れぬ、2つと2つ。
 人斬り達もすらりと仕込み杖から刃を抜いて。
 敵意が、殺気が、満ちていく。
 燿夜を構えた千鶴は、その耳元で朱華の耳飾りを赫く輝かせ。
「花戯れ、彩染まれ、朽ち逝くまで咲かせておくれよ」
 攻撃を強化する、残花ノ戯のユーベルコードを紡ぐ。
 しかしそれは、ある条件を満たさねば、千鶴の命を削るもの。
 千鶴自身は、いのちの欠片を差し出すことになんの厭いもないのだけれど。
「……千鶴。俺の腕、適当に刻んでくれる?」
 燿夜の刃の先へと、煉月が袖をまくり上げた腕を掲げて見せた。
 条件とは即ち、味方への攻撃。
 それを促すように、千鶴の寿命が減らぬように、差し出された腕。
「っ、れん、でも……」
「血を媒介にするから、協力して」
 戸惑いに、痛みには強いんだ、なんて煉月は笑って見せて。
 退く気はないと、腕で示す。
(「……傷つけたくない」)
 千鶴は、言葉を躊躇いと共に飲み込むと。
 ふるりと首を横に振った。
「……ごめん、少しだけ、きみの血を借りる」
「ん、借りていって」
 引き寄せた腕に滲む、赫。
 燿夜の切っ先を伝う、赫。
「さぁ、ハク」
 腕を引き戻した煉月の呼びかけに、白竜は槍へと姿を転じ。
 流れる血を代償に、その封印を解く。
 血を求め続ける狼へと紅狼覚醒させてから。
 ああ、と煉月は思い出したかのように、肩越しに千鶴へ笑いかけた。
「ハクの自己紹介は又、今度ね」
 そして人斬り達へと、喰い散らせ、と解き放つ。
 襲い掛かっていく赫の狼に続いて煉月も駆け。
 首の後ろで疼く渇望の刻印、その鮮血を求める鼓動のままに、力を振るう。
 人狼としての、化け物の力を。
「レン、紹介楽しみにしているよ」
 千鶴もタイミングを合わせて燿夜を振るい。
 喰らう狼の牙から間髪入れず、刃を突き立てた。
 舞い散る、赫。
 残酷に嗤う、桜のように。
 燿夜を引き抜いた千鶴は、桜を舞わせ、煉月とハク、ふたりへ護り纏わせる。
 存分に動けるように、と向けられた支援を感じながら。
 煉月は、狼は、人斬りの喉元へと喰らいついた。
 奪い散らす、赫。
 事切れていく、赫。
 そうして倒れ伏した2つの人影の傍らで。
 狼は白竜へと戻り。
 狼は振り返る。
「無事?」
 振り返った顔は、いつもの煉月のものではなかったけれど。
 その笑みは、いつもと同じものだったから。
「噫……無事だよ、狼さん」
 千鶴はそっと手を伸ばし、返り血を指先で拭う。
 そしてふっと浮かんだ咲みも、密やかながらも穏やかな、いつもの微笑。
 だから、煉月もまた、咲う。
 その周囲を、はらりと、赫ではなく幻朧桜の薄紅が舞い踊っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と

あ゛ー、いい湯だったな
あとはアイツらを倒そうか

濡れた髪からは湯気が立つ
酒も煽ったが一切酔っていない
寧ろ、良い気分で戦えそうだ
肩に乗る黒竜を撫でて敵を見た

あ゛?
オレの背中はいつだって預けてるよ
マコは、ちゃあんと守ってくれるだろ

なんて、揶揄していれば
視線が重なって口角が上がる
信じてるよ、とは口にも出さず
地を蹴って目前の敵へと駆け出す

ナイトと呼べば
意図を察した黒竜が槍に変じ
そのまま集団の敵へと幾度も穿つ

四方八方から迫る衝撃波
マコを狙った攻撃は防ごうか
何と言われて怒られても
勝手に身体が動くんだから仕方ないだろ
鋭い視線で敵を見据え得物を構える

誇り高い武士らしく、──散れ


明日知・理
ルース(f06629)と
アレンジ、マスタリング歓迎

_

……ルース。
貴方の背中は俺が護ろう。
だから、貴方はただ、前を向いていればいい。

…信じてる、なんて言わない、けれど信頼満ちる言葉をきいて僅か瞠目し、視線が合う。
そしてフと微笑み、
「ああ──任せてくれ」

二人同時に一歩踏み出し
俺が振るうは白刃の一閃。
ルースとナイトを庇うことを最優先にしつつ、
…って、ルースが俺を護ったら意味ないだろう…!?
だが面倒見の良い彼らしいなと思いつつ、
怪我したら後で手当てするから、絶対診せるようにな!


影朧たちに、誰も殺させない。
放つユーベルコードは【華仙】
我が刃を以て、彼の者らを骸の海へ葬送る。



「あ゛ー、いい湯だったな」
 湯上りの散策、といった雰囲気で、ルーファス・グレンヴィル(f06629)は庭を行く。
 濡れたままの灰色の髪からは、まだうっすらと湯気が立っていて。
 ぽかぽかと身体も温かい。
 煽った酒で気分は良く、そして一切の酔いを見せていないから。
「あとはアイツらを倒そうか」
 ルーファスは、肩に乗せた黒流を撫でると、小路の向こうから姿を現した影を見た。
 いやそれは、影のように黒い、黒づくめの人斬り達で。
 会敵するや否や、すらりとその仕込み杖を引き抜く。
 煌めく鋭い刃を前に。
「……ルース。貴方の背中は俺が護ろう」
 明日知・理(月影・f13813)が闇色を纏う妖刀『花驟雨』を構えて告げた。
 目深に被ったフードの下で、対峙する相手を見据え。
「だから、貴方はただ、前を向いていればいい」
「あ゛?」
 続く言葉にルーファスは、ちらりと傍らに赤瞳を向けると。
「オレの背中はいつだって預けてるよ。
 マコは、ちゃあんと守ってくれるだろ」
 揶揄しつつも返された、信頼満ちる言葉。
 一瞬、驚きに少し見開いた紫色の瞳は、赤を見返して。
 視線が合えば、どちらからともなく浮かぶ笑み。
「ああ……任せてくれ」
 そして2人は同時に地を蹴り、人斬り達へと駆け出した。
 ナイト、と呼べばルーファスの肩の黒竜が槍へと姿を変え。
 その柄を握るや否や、穿ち放つ。
 引いてはまた、何度も、幾重にも。
 黒い穂先が、黒づくめを抉る。
 その横を走るのは、白刃の一閃。
 黒の中で鮮やかに、何度も、幾本も、軌跡を刻みながら。
 理は、護ると告げたその言葉に違わぬようにと、ルーファスとナイトを気にかける。
 仕込み杖の動きに警戒し、だからこそ、四方八方へと放たれた衝撃波に即座に反応を見せた理だけれども。
 それより早く前へ出て、理に向かってきた攻撃を槍で受け防いだのは、ルーファス。
「……って、ルースが俺を護ったら意味ないだろう!?」
「勝手に身体が動くんだから仕方ないだろ」
 思わず非難の声を上げるも、返ってきた声に、いつもの軽薄な笑みに、理は苦笑して。
(「面倒見の良い彼らしいな」)
 それでこそ、とも思いながら、でもルーファスを護りたい気持ちに代わりはないから。
「怪我したら後で手当てするから、絶対診せるようにな!」
「あー、はいはい」
 怒ったように告げれば、適当な口調が返ってきた。
 そしてまた、黒と白とが刃を揃える。
 仕込み杖を受け、弾き。
 黒いインバネスを、黒い袴を、黒い山高帽の下の頬を、斬り裂いて。
(「影朧たちに、誰も殺させない」)
 もう1つの誓いを理は胸に秘め、理は白く煌めく妖刀を振るう。
 そこからさらに、不可視の斬撃も撃ち放った。
 見える刀身と見えない斬撃。
 その差に咄嗟に対応しきれず、人斬りはまともに受け。
「我が刃を以て、骸の海へ葬送る」
 深く傷を刻まれたそこへ、理は最後の一閃を繰り出す。
 同時に、もう1人の刃と槍とを合わせたルーファスは。
 絡め取るようにして跳ね上げ、その手から仕込み杖を弾き飛ばして。
「誇り高い武士らしく……散れ」
 鋭く突き出された黒槍が、人斬りの胸を深く深く、貫いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・心
【ローグス】

仲間と共に宿の裏庭で敵を待ち受け
ここなら多少宿の被害を気にせず戦いやすいでしょう…ブービートラップでも仕掛けますか?

仲間の活躍を尻目に、暗闇でハッピーパウダーを鼻からキメます
キタキタァ!と叫びたいのを押さえつつ、暗闇を利用して奇襲と参りましょう

飛翔永刃を使用して生殺与奪を音もなく投げます
仕込むのは当然到死毒、オブリビオンにする手加減はありませんから

ハッハッハ、さすがは皆さんです
うちの仲間は頼りになりますねぇ
さてさて、そちらのお仲間はどうですかねぇ…お師匠?

残念、医者は医者ですが、オブリビオンにつける薬はありませんから…オブリビオンを治療するような、酔狂な医者がいれば別ですがねぇ!


駒鳥・了
【ローグス】
戦闘から合流だよ!

裏庭の高い木とか屋根に最初から登っといて哨戒しとこ
UCでオレちゃんの姿は見えないケド
Sniper eyesで相手はばっちり見えちゃうもんね
人数やルートは繋ぎっぱなしにしてたケータイで簡単に伝えよっかな

始まったらオレちゃんも行こっかー
無限ナイフの乱れ撃ちどこまでかわしてくれっかな?
適当なトコで敵を踏みつけつつ姿を現して刀も抜くか
薙ぎ払いに吹き飛ばし
ちょーっと乱雑にやってもふっとび先でまあ、ねって結果だろーし
フェイントでかわしたらカウンターで返り討ちにしとこ!

えっ重傷止まりにしなきゃダメ?
そんなぁーめっちゃざっくりやっちゃったよー
医者でどうにか出来るもん?(棒読み)


網代・徹
【ローグス】

じゃあ温泉入りましょうか。ァ、それもう終わりました?

メンバーと合流
呼び方は名字+さん

裏庭で待ち伏せ、敵が来たら不意討ちでUC【天網恢恢】使用。網をバサっとかけて動き辛くしたとこで網の上から殴る蹴る突き刺すのやりたい放題。
あんた方の武士らしい散り方ってェやつはコレで良いですかね、満足ですかィ?

敵の無念さをてんこもり煽りつつ、楽しそうに笑顔で踏みにじっていく。
躊躇い?あるわけねーじゃねェですか。このやり方キくんですよねェ。

暗器を取り出しあちこちの敵に【投擲】。足止め程度でもやっとけば後は他の強い方々がなんとかするでしょゥ。

さーてェ。
お医者様でもいりゃァ、助かるんでしょうにねェー。(棒)


刹羅沢・サクラ
【ローグス】

幻朧桜に紛れて仲間と合流します
手裏剣を投げつけ牽制を仕掛けましょう
ある程度援護ができたなら、あたしも前線へ出ましょうか
武士らしくというのなら、こちらも刀でお相手致しましょう
とはいえ、あたしは忍
お座敷の剣術でこの残像が捉えられまするか
などと残像と見切りで剣の相手をしつつ、注目を浴びましょう
ふむ、遠当てが得意のようですが、あたしにも矢避けの加護がある
力尽くで押し通ります
得意な術を使う時にこそ、隙は生まれるものです
刀で受け、崩したと思わせて、空いた手で波濤の拳を繰り出します

む、医者をおびき寄せる策でしたか……
困ったな。これでは処置無しです


マディソン・マクナマス
【ローグス】で参加

合流したローグスメンバーと共に裏庭で待ち伏せ
っても宿泊施設に爆薬仕掛けんのはな……斬り合いは得意じゃねぇが、じゃあ帰りますって訳にもいかんしな

敵が間合いに入った時&攻撃動作に入った時を狙いUC【猫の毛づくろい2.0】による唾を敵の足元に吐き掛ける
敵が体勢を崩した所を、両手のダイヤモンドチタン製付け爪による【早業】で相手の利き手首をねじ切り、喉を引き裂き、あるいは臓腑を抉り、顔面を削いで殺す
倒れた相手の腹に執拗に蹴りを入れながら、ここにいない相手を【挑発】する

重傷患者が1ダースだァ! お客様の中にお医者様はいませんかァーッ? 特に黒髪で無精ひげで壮年のお医者様はさぁーッ!



「おっ、来たね」
 宿から離れた裏庭の一角で、マディソン・マクナマス(f05244)はサングラスの下でにやりと笑い、現れた人影を出迎えた。
 鳴宮・心(f23051)も振り返り、へらりと笑みを向けたその相手は。
「じゃあ温泉入りましょうか。
 ……ァ、それもう終わりました?」
 おどけて肩を竦めた網代・徹(淵に臨みて・f30385)と。
『あははっ。ジロさんおっそーい』
「では、こちらが終わってから改めて温泉に……
 と、アキさん? どちらです?」
 けらけらと笑う駒鳥・了(I, said the Rook・f17343)のケータイ越しの声に、その姿を探して辺りを見回す刹羅沢・サクラ(灰鬼・f01965)。
 薄っ汚い事務所に集う仲間達だった。
「それで? まず敵さんは武士だとか?」
『そーそー。とりあえず団体さん1つ、こっちに向かって来てるよ。
 えーっと人数は……6人かな』
「ですから、アキさんは一体どちらに……?」
 わいわいいつもの調子で話す皆に、心達も合流して。
「この辺りなら、多少宿の被害を気にせず戦いやすいかと思ったのですが。
 ……ブービートラップでも仕掛けますか?」
「っても宿泊施設に爆薬仕掛けんのはな……
 斬り合いは得意じゃねぇが、じゃあ帰りますって訳にもいかんしな」
「マディソンさん、落とし穴でも掘りますゥ?」
「今から爆発物の調達は、間に合いますでしょうか」
「だーから、網代さんも刹羅沢さんも待てって」
『おおー。何だかマクさんが常識人みたい』
 気負うことなく待つうちに。
『そろそろ来るよー』
 了の声が告げたと思うと、小路の向こうから黒づくめの人斬りが姿を現した。
 すぐにサクラが手裏剣を放ち、こちらに気づいた人斬り達の動きを牽制すると。
 その隙に、徹は背負子から網を取り出し、投げ放つ。
 謎素材の網は大きく広がり、避けきれなかった人斬りを2人絡め取って。
「ァー、やっぱり網は便利ですねェ」
「よぉし、殺るぜ網代さん」
「了解しましたァ」
 ダイヤモンドチタン製付け爪を両手に輝かせたマディソンと共に襲い掛かった。
 動き辛い相手を網の上から、容赦なく殴る蹴る切る引き裂くとやりたい放題。
「あんた方の武士らしい散り方ってェやつはコレで良いですかね、満足ですかィ?」
 網の中に満ちていく無念をさらに煽りつつ、徹は楽しそうに踏みにじる。
 その様子に躊躇いは欠片もなく、むしろ、このやり方キくんですよねェ、と人斬りとどっちが悪人なのか分からない言動まで見せていた。
 そんな一方的にやられっぱなしの同士を助けようと、いや、どちらかというと同士に意識が向いているその隙を狙うかのように、他の人斬りが徹に迫り。
「フシャァァァァーッ!」
 その足元へ、マディソンが猫の毛づくろいの唾液を高圧で吐き出した。
 唐突に、極限まで摩擦抵抗を減らされた地面に、人斬りは咄嗟に対応できず。
 さらに、どこからか飛んできたナイフの乱れ打ちから逃れようとした動きから転倒。
 たまらず膝をついたところへ、マディソンが飛び掛かった。
 人斬りの利き手を捕えると、その手首を付け爪も用いてねじ切り。
 押し殺した悲鳴を上げかけた喉に、素早く爪を走らせる。
 奇襲により抑えられた3人の人斬りを、サクラはさっと見下ろして。
 ならば、と鍔にカササギを象った『銀鵲』を構えて見せる。
「武士らしくというのなら、こちらも刀でお相手致しましょう」
 応えるように、1人が仕込み杖を構え、サクラに向き直った。
 とはいえ、サクラは武士ではなく忍。
「お座敷の剣術でこの残像が捉えられまするか」
 正面からの斬り合いではなく、素早い動きで人斬りの剣を翻弄しつつ、銀鵲を振るう。
 なればと人斬りは、仕込み杖を大きく振るい。
 四方八方に衝撃波を生み出し、放った。
「ふむ、遠当てが得意のようです」
 それを見たサクラは、力づくで押し通り、刀で衝撃波を受けるけれども。
 その勢いに負けたかのように体勢を崩す。
 畳みかけるように仕込み杖を振り上げる人斬り。
 しかし。
「得意な術を使う時にこそ、隙は生まれるものです」
 わざと崩れたように見せていたサクラは、矢避けの加護を頼りにその隙へ迫り。
 何とか迎え撃とうとした人斬りの目の前を不意に横切るナイフ。
 一瞬、動作が遅れたところへ。
「刀で斬るばかりが戦に非ず……」
 サクラは銀鵲を持たぬ手で、波濤の拳を繰り出した。
「ハッハッハ、さすがは皆さんです」
 そんな仲間の活躍を横目に、心は夜闇に身を隠す。
 取り出したハッピーパウダーを鼻からキメれば、すぐさまハイになっていき。
 キタキタァ! と叫びたいのを抑えつつ、闇を駆け、人斬りの1人に近づいた。
 白衣の下に仕込んだ投擲用メスを取り出し、ユーベルコードで射程を増幅して音もなく投げ放てば、思わぬ方向からの奇襲に人斬りは避けきれず、幾つも身体に受け。
 すぐさま心へ向けて仕込み杖を構えてみせるけれども、その刃に仕込まれた毒に気付いて、顔色を変えた。
「あー、当然ながら致死毒です。
 オブリビオンにする手加減はありませんから」
 さらにユーベルコードで効果と威力を上げた毒は、あっというまに人斬りを蝕み。
 がくりと膝をついたと思えば、そのまま地面に倒れ込む。
 その様子を目の当たりにした最後の1人が、心に斬りかかろうとするけれども。
「オレちゃん登場!」
 頭上にいきなり現れた了が、そのまま踏みつけ、倒した。
 最初からユーベルコードで姿を消していた了は、高い木の上から戦況を把握し伝え、無限ナイフの乱れ打ちで皆を援護し、そしてようやく降ってきたわけで。
「でもちょーっと隠れすぎたかな。疲れたー」
 反りの浅い打刀『無銘蛇目貫』を無造作に振るい、踏みつけから起き上がった人斬りを乱雑に薙ぎ払い、ざっくり斬りつつ吹っ飛ばした。
「あァ? また来たなァ」
 吹っ飛んで行った先では、血に塗れた付け爪を鈍く光らせ、にやりと悪い笑みを浮かべるマディソンがいて。
「マクさん、あとよろしくー」
「おうよ!」
 よいしょっ、とその場に座り込んだ了はひらりと手を振った。
 マディソンは人斬りの臓腑を抉り、顔面を削いでいきながら。
「重傷患者の大量生産だァ!
 お客様の中にお医者様はいませんかァーッ?
 特に黒髪で無精ひげで壮年のお医者様はさぁーッ!」
 最初に切り刻んだ相手の腹に執拗に蹴りを入れつつ、挑発の声を上げる。
 それが向けられたのは、まだここにいない相手。
 この『帝都斬奸隊』をけしかけた黒幕であり。
 心のかつての師匠。
 だが、狙った相手からの反応はないどころか、姿も見せず。
「む、医者をおびき寄せる策でしたか……
 困ったな。これでは処置無しです」
 失敗してしまったかと、サクラは殴り倒して切り刻んだ人斬りを見下ろし。
「えっ、重傷止まりにしなきゃダメ?
 そんなぁー。さっきめっちゃざっくりやっちゃったよー」
 了も、マディソンの傍に転がる人斬りを眺めるように、額に手を当て、遠くを見るような仕草を見せた。
「さーてェ。お医者様でもいりゃァ、助かるんでしょうにねェー」
 もはやぴくりとも動かない網の下を見下ろして、徹も棒読みで言えば。
「医者でどうにか出来るもん?」
 こちらも棒読みの了。
「残念、医者は医者ですが、オブリビオンにつける薬はありませんから……
 オブリビオンを治療するような、酔狂な医者がいれば別ですがねぇ!」
 ハッハッハ、と心も、毒で倒れた相手を蹴って笑う。
(「うちの仲間は頼りになりますねぇ」)
 奇襲とはいえ手際よく、さほど数の差がなかったものの瞬殺に近い結末を見せた皆をぐるりと見回した心は。
 にやりと笑みを浮かべたまま、夜闇を見上げた。
(「さてさて、そちらのお仲間はどうですかねぇ……お師匠?」)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

何だよ、病気で死ぬ前に殺すって?
湯上がり気分が台無しだぜ

狭い廊下に誘い込む
二人とも本領は遠距離だからな
近距離での接敵数は少ない方が良い――って、ちょっと頭良さそうに聞こえるか?
……そうかな?

こういう小細工も、狭い方がやりやすいんだよ
匡の射線を遮らないように後ろに下がる
起動術式、【君の隣人】
さァ見えるか?貴様らにとって恐ろしいものとは何だろうなァ
そのご大層な武器で追い払ってみろよ
この狭い廊下の中でそんなものを振り回せば、当然――仲間に当たるだろうがな

同士討ちの味は如何だ?
まァ待てよ
匡の銃弾もとくと食らっていけ
生きたい誰かを殺したいなら
まずは貴様らが、地獄の底でもう一度死ぬことだ


鳴宮・匡
◆ニル(f01811)と


世の中にはいるだろ
死ぬことが救いだとか、殺すことが報いだとか
“他人のため”なんてご大層な文句で自分を正当化するやつがさ

間取りがわかるなら、地の利を生かさない手はないな
庭に面してない、狭い廊下で応戦するよ
……聞こえるも何も、お前は元々頭がいいだろ?

近付かないといけないのに、正面から攻めざるを得ないのは大変だろうな
こっちとしては狙いやすくて何の不都合もない
バランスを崩したやつ、隙を晒したやつ
……同士討ちに怯んで無防備になったやつ
殺れる相手から確実に仕留めていくよ

武士らしく、だって?
無抵抗な、ただ生きたいだけの命を奪うことが?
自己満足は手前同士でやってくれ
――骸の海で存分にな



「何だよ、病気で死ぬ前に殺すって?
 湯上がり気分が台無しだぜ」
「世の中にはいるだろ。死ぬことが救いだとか、殺すことが報いだとか、『他人のため』なんてご大層な文句で自分を正当化するやつがさ」
 人斬り達に追われ、廊下へと駆け込みながら、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(f01811)と鳴宮・匡(f01612)は言葉を交わす。
 建物内に入れさせまいと庭で迎撃する猟兵達ばかりの中で、その思惑が叶えられなかったかのような、守り切れず押し込まれてしまったかのようにも見える動きだが。
 これは地の利を生かした、誘い込み。
 把握した間取りから、宿泊客の様子から。
 狭くて誰も巻き込まない場所が分かっていたからこその、陽動。
「2人とも本領は遠距離だからな。近距離での接敵数は少ない方が良い」
 足を止めたニルズヘッグは、くるりと来た方向へ向き直る。
 狭くて正面からしか戦えず、さらに大人数で一斉にとは動き辛い、そんな廊下を狙い通りほぼ縦列にこちらへ向かってくる人斬り達を眺めて。
「……って、ちょっと頭良さそうに聞こえるか?」
「聞こえるも何も、お前は元々頭がいいだろ?」
「そうかな?」
 にやりと笑って見せるニルズヘッグに、匡は小さく口の端で苦笑しながら、流れるような自然な動きで愛銃BR-646C [Resonance]を構えた。
 そのアサルトライフルの射線を遮らないよう、匡の後ろに下がったニルズヘッグは。
「さァ見えるか? 貴様らにとって恐ろしいものとは何だろうなァ」
 ばっ、と両腕を広げると、人斬り達からの殺気を受け止めて。
 代わりに呪詛塊を召喚し、放った。
 呪詛塊は蠢きながら人斬り達へ迫ると、その形を変える。
 相手が最も恐れるものの形へと。
 それが何を象ったのか、ニルズヘッグには分からず、そしてどうでもよく。
「そのご大層な武器で追い払ってみろよ」
 動揺の走る人斬り達の間へと、そんな声を投げかけてみた。
 言われたから、というわけでもないだろうが、人斬り達は仕込み杖を引き抜き、呪詛塊を断ち切らんと振り回し始めて。
「この狭い廊下の中でそんなものを振り回せば、当然……」
 その刃が次々と、すぐ近くにいる別の人斬りを切り裂いていく。
「仲間に当たるだろうがな」
 狙い通りの展開に、ニルズヘッグはまた笑い。
 人斬り達の間にさらなる動揺が広がる。
「同士討ちの味は如何だ?」
 恐らく、この状況こそが人斬り達の恐れるもの。
 敵ではなく味方に剣を振るい、存分に戦うことなく仲間に殺され、散る。
 武士らしく、義に殉じたかのように、一途に剣を振るいたい。
 結末がどうであれ、それだけを望む人斬りは。
 その義が何であっても厭わない、無差別な侍は。
「我ら今宵は医者の先生の御為に」
「存分に剣を振るい、武士らしく散る為に」
 目の前の、望みとは真逆の光景に、こうではないと言うかのように呟いて。
「武士らしく、だって?
 無抵抗な、ただ生きたいだけの命を奪うことが?」
 そこに冷たく問いかけながら、匡はBR-646C [Resonance]の引き金を引いた。
「自己満足は手前同士でやってくれ。
 ……骸の海で存分にな」
 狭い廊下ゆえに、手前から1人ずつ。
 仕込み杖に斬り付けられ、バランスを崩した人斬りを。
 振り回される仕込み杖を警戒し、こちらには隙を晒した人斬りを。
 同志討ちに怯み、無防備になった人斬りを。
 匡は確実に仕留めていく。
 狙い違わず着実に、倒して行く匡の銃撃を眺めながら。
 ニルズヘッグは笑みの中で、金色の瞳にそっと怒りを湛え。
「生きたい誰かを殺したいなら、まずは貴様らが地獄の底でもう一度死ぬことだ」
 いつもの調子で笑いながらも、次々と姿を消す人斬りを静かに見送る。
 その声に頷くように、匡の放つ銃声がまた、響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
少しでも戦いやすいように庭で迎撃

わぁ、風呂上がりの運動にぴったりな
敵さんのお出ましだよ、梓
お風呂であんなに飲んでたのに
まだ飲む気だったの、君…?

存分に剣を振るい、武士らしく散る、か
いいねぇ、小難しいことは考えずに
気の済むまで殺し合えそうじゃないか
まずは自身の手を斬りつけUC発動
お前達と俺、どちらが速いか勝負だよ

両手にDuoを構え敵陣に突っ込む
強化したスピードと、ジャンプやスライディングも駆使して
トリッキーな動きで敵を翻弄しながら
次々と斬り刻んでいく
敵の攻撃は武器受けで防御したり
時には敢えて喰らってあげたり
それもまたテンションが上がるからいいよ
これで思い残すこと無く散れるかい?


乱獅子・梓
【不死蝶】
ったく、風呂上がりは
美味いもん食って美味い酒飲んで
気持ち良く寝たいところだったんだがな
他の客もそう考えているだろうと踏んで
この時間帯に襲撃したのかもしれないが

全ての病に等しく終わりを、だなんて
格好良くは言っているが
結局は諦めてしまっただけだろう
…と、それをこいつらに言っても仕方ないな
あとでその先生に直接言ってやろう

UC発動、雷属性のドラゴンを召喚
敵の群れに雷のブレス攻撃を浴びせ
感電させることによって(マヒ攻撃
ダメージを与えると同時に動きを鈍らせる
鈍ったところにドラゴン達の
頭突きや体当たりを喰らわせ武器落とし
綾は純粋な実力勝負を楽しんでいるようだが
俺は確実に行きたい派なんでね



 灰神楽・綾(f02235)と乱獅子・梓(f25851)は庭の小道を並んで歩いていた。
 気楽なその様子は、夜の散歩を楽しんでいるかのようだったけれども。
 狙いは他の猟兵と同じ、『帝都斬奸隊』の迎撃だったから。
「わぁ。風呂上がりの運動にぴったりな敵さんのお出ましだよ、梓」
 偶然のように目の前に現れた黒づくめの人斬り達に、綾がへらりと笑う。
 同じ相手を見た梓は、だが残念そうにため息をついて。
「ったく。風呂上がりは、美味いもん食って美味い酒飲んで、気持ち良く寝たいところだったんだがな」
「お風呂であんなに飲んでたのにまだ飲む気だったの、君……?」
 綾は、家族風呂で梓が1人で空けた酒瓶の数を思い出していた。
 まあ風呂のは弱い酒だったけど、とどこか自身を納得させるかのように呟いてから。
 改めて、山高帽にインバネスを羽織った袴姿の人斬りと向き合う。
「医者の先生は、全ての病に等しく終わりをもたらさんとしている」
 仕込み杖を引き抜きながら紡がれる声は低く。
「我らはその先陣」
「存分に剣を振るい、武士らしく散る」
「それこそが先生の望みを叶えることなれば」
 暗く、淡々と、歪んだ信念を告げれば。
「存分に剣を振るい、武士らしく散る、か……
 いいねぇ。小難しいことは考えずに、気の済むまで殺し合えそうじゃないか」
 綾は、自身に都合のいい部分だけを、実際は人斬り達の根幹である部分をきちんと的確に拾って、好戦的に笑った。
 そして掲げた手を、小型のナイフで切り付けると。
 血に染まった両手に、黒地に赤と赤地に黒の1対の大鎌『Duo』を握れば。
「お前達と俺、どちらが速いか勝負だよ」
 綾はそのまま、人斬り達の中へと突っ込んでいった。
「ちゃんとついてきてね」
 自身の身長程もある鎌は、黒地のものも赤地のものも、どちらもそれなりの重量を持っているけれども、綾はユーベルコードでそれらを軽々と扱い。
 まるで大鎌など持っていないかのようなスピードで人斬り達の間を駆ける。
 突き出された仕込み杖をひらりと飛び躱し。
 避けながら振るった大鎌をさらに赤く染め。
 今度は横に薙がれた刃をスライディングの要領で潜れば。
 起き上がる動作と共に2つの刃を下から跳ね上げる。
 振り下ろされた仕込み杖を赤地の柄で受け止め、その隙に黒地の刃に赤を増やして。
 右に左に、上に下に、ころころと変わるトリッキーな動きで翻弄しながら。
 蝶が舞うかのように楽し気に笑う。
 その様子に、梓はまたため息をついて。
「全ての病に等しく終わりを……だなんて格好良くは言っているが、結局は諦めてしまっただけだろう」
 綾とは違う部分に反応し、サングラスの下で顔をしかめる。
「……と、それをこいつらに言っても仕方ないな。
 あとでその先生に直接言ってやろう」
 しかしすぐに思い直し、それならばと召喚するのは雷属性のドラゴン。
「集え、そして思うが侭に舞え!」
 梓の意に従い、ドラゴンは広範囲に雷のブレスを放ち、人斬り達を感電させた。
 とはいえ、ブレスには感電死するほどの効果はなかったから。
 動きが鈍ったところにドラゴン自身が突っ込んで。
 頭突きを、体当たりを繰り出すと、その手の仕込み杖を落とさせる。
「俺は確実に行きたい派なんでね」
 綾と違って、と視線を向ければ、2本の大鎌はまだ楽し気に舞っていて。
 だがしかし、雷に動きを鈍らせた人斬りに、綾は赤いサングラスの下で、少しだけ不満気に目を細めていた。
 でもすぐに、何かを思いついたかのように笑みを取り戻すと。
 振り抜かれた仕込み杖の切っ先が、綾の肩口を切り裂いた。
 走る痛みに、新たに流れる赤に、綾がにやりと笑う。
「綾、お前……」
 わざと避けなかったと見切った梓が、苦い声を零すけれども気にせずに。
「負傷もテンション上がるよね」
 笑い飛ばしてから、傷をつけた人斬りに振り返ると。
「これで思い残すこと無く散れるかい?」
 綾は自身が受けた傷より格段に深い一撃を繰り出し、斬り伏せた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『全てに絶望した医者『鳴宮・兼康』』

POW   :    終わらせてやろう……お前の生を
【右手に嵌められた全てを切り裂く刃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    医者は毒にも薬にも精通しているものだ
装備中のアイテム「【様々な毒物が仕込まれた投擲用メス】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ   :    絶望を知るが良い
【空を覆いつくす黒い何か】を降らせる事で、戦場全体が【闇夜】と同じ環境に変化する。[闇夜]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鳴宮・心です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 そこここで起きた戦いに騒がしくなってきた庭を、その男はするりと抜け。
 いつの間にか、貸間の棟の入り口に静かに佇んでいた。
 風に揺れる長い白衣が医者らしいといえば医者らしいが。
 その下に着ている全てが、闇夜に溶けていきそうな漆黒で。
 ぼさぼさの短髪に無精ひげ、そして覇気のない黒瞳。
 纏う雰囲気は、絶望、だった。
「医者が全てを救うことなどできない」
 男は医者として、老若男女種族も問わず、様々な患者を診てきた。
 沢山の患者を助け、救ってきた。
 けれども中には力が及ばなかった患者もいて。
『死にたくない……助けてくれよ先生……』
『どうしてあの子を助けたのに娘は助けてくれなかったの!?』
『何で私だけが……何で……何でよぉ……』
『怪奇人間は短命だから、だから先生は父を助けなかったんでしょう?』
 救えなかった患者の。その周囲の人々の。
 嘆きが。哀しみが。怒りが。恨みが。
 医者を、鳴宮・兼康を、絶望に落とす。
『死ぬのは嫌だ……俺だけが、死ぬのは……』
『そうよ、あの子も死ねばいいのよ。娘のように!』
『何で私以外の人は生きているの……何で……』
『どんな人でも助けるなんて嘘じゃない』
 そして絶望が、医者を、鳴宮・兼康を影朧にする。
 貸間のあるこの宿は湯治場。
 傷を病を抱えるものが集まる場所。
 誰かは癒され、誰かは苦しみ、誰かは治り、誰かは死ぬ。
 救おうと力を尽くしても、同じ結末になるとは限らない。
 不平等な場所。
 街で見かけた黒髪の少女は、治るのだろうか。
 だとすれば、他の誰かが死ぬのだろか。
 治った少女を恨めしく思いながら。
 もしかしたら少女こそが、誰かを恨めしく思い死ぬのか。
 医者には、全てを救うことはできないのだから。
「なれば、医者にできることは」
 その手に全てを切り裂く刃を持ち。
 その手に平等に死をもたらす毒物を持ち。
 鳴宮・兼康は、貸間の棟の入り口を見据えて。
「全ての生を終わらせることで、救えなかった者に報いることのみ」
 全てに絶望した医者は、少女のいる部屋へ向かい、足を踏み出す。
吉野・嘉月
UC【此の世に不可思議など有り得ない】

頭を掻きながら【コミュ力】【落ち着き】で会話を試みる。

あんたはきっととても腕のいい医者だったんだろうな…だから難しい病気や怪我に立ち会うことも多かったんだろうそれを救えなかった絶望は計り知れない。
だけど医者であるあんたがその結論に至ってどうする。医者が諦めちまったら誰が患者を救うんだ?仮に死が救いになるとして患者の全てがそれを望んでるか?
患者の望みは「生きたい」だろう!?

どんなに御託を並べたって絶望したあんたには届かないかもしれないが。
俺はあんたにあんたの意思で人を殺すことはしてほしくない…。

(説得して攻撃の回避を狙う)



「あんたはきっと、とても腕のいい医者だったんだろうな……」
 薄暗い夜闇の中で穏やかに響いた声に、貸間の棟の中へと足を踏み入れようとしていた鳴宮・兼康はその動きを止める。
 ゆっくり振り返れば、そこには吉野・嘉月(f22939)が佇んでいた。
 スーツの上からカーキーのトレンチコートを羽織り、左手はコートのポケットに、黒い手袋に覆われた右手はぐしゃぐしゃと茶色の髪を掻き回している。
 その動きに、少しだけ伸びた分を後ろで結び、整えていた髪が崩れるけれども。
 もともと、スーツもコートもその表情も、どこか緩い感じに、悪く言えばやる気なく面倒くさそうに崩れていたから、逆に髪を乱したその方が全体としては似合っていた。
 そんな格好に違わず、嘉月の声色は緩やかで。
「だから難しい病気や怪我に立ち会うことも多かったんだろう」
 鳴宮・兼康を見つめる焦茶の瞳も、どこかぼんやりしているかのように見える。
 敵意も戦意も、ないかのように。
 嘉月は、頭を掻きながら、穏やかなままに続ける。
「それを救えなかった絶望は……腕がいいからこそ、計り知れないよな」
 その雰囲気にか、共感を見せる言葉にか。
 鳴宮・兼康は振り向いたまま、暗い瞳で嘉月を見ていたけれども。
「だけど医者であるあんたがその結論に至ってどうする。
 医者が諦めちまったら誰が患者を救うんだ?」
 嘉月の声に、力がこもる。
 絶望は理解できる。
 理解できるからこそ、答えは違うだろう、と。
「仮に死が救いになるとして患者の全てがそれを望んでるか?
 患者の望みは『生きたい』だろう!?」
 嘉月の言葉は叫びに近くなり。
 その訴えをかき消すかのように、鳴宮・兼康が右手を振るう。
 気付けば、黒手袋に覆われていたはずのその手には、5本の指を長く伸ばしたかのような、鋭い銀色の刃が嵌められていて。
『死にたくない……助けてくれよ先生……』
 全てを切り裂き、終わらせようと、嘉月を斬り付ける。
 しかしその刃は嘉月を捕えられず空を切り、そこに突っこんできた緑髪の少女と共に、大きく飛び下がった。
 ユーベルコードで回避行動を成功させた嘉月は、新たに現れた他の猟兵へと向き直る鳴宮・兼康の姿を見つめる。
 絶望に染まったかのような黒づくめの格好。
 でもその上から未だ羽織られている、医者の象徴でもある白衣。
(「どんなに御託を並べたって、絶望したあんたには届かないかもしれないが」)
 医者であるのならば。
 医者であることをまだ止めていないのなら。
「俺はあんたに、あんたの意思で人を殺すことは、してほしくない……」
 嘉月は、悲しくも優しい声で、告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨宮・いつき
【要宮】
自分に出来る精一杯をして
それでも尚、手を伸ばした先に届かなかった者
…思い当たる節が無いわけではありません
救いたくても救えなかった命は、僕も…

それでも、手を差し伸べ続けるしかないんです
生きたいと願う者が、縋る先を失う事は
決して、救いではないのですから
だから…僕は、彼を肯定出来ません

彼の得物は全て金属製…
であるならば、白虎の出番ですね
もちろん、ここは任されました!
投擲されるメスを磁力で明後日の方向へ引き寄せて防ぎ、
磁力で操れない素材であるなら流体金属で絡め取る事で毒ごと無力化
防御はこちらで受け持って、草守さんの道を作ります
未来への道を切り開くために…足掻き続けるんです!


草守・珂奈芽
【要宮】

……いつきくんの言う通り、助けれないのは辛いかもしれないさ。
でもあんたの願いは勝手な押し付け!今辛い誰かにはカンケー無いじゃんか!
そんなの正しいわけがない!
お医者さんだってヒーローだって生きる願いを、未来を守らなきゃ!!

信じてるからね、いつきくん!それに白虎さん!わたしは臆せず前に出るから!
〈念動力〉で草化媛と自分さ覆って勢いつけて突っ込むよ。
武器も何もなくて無謀な突進に見える?
草化媛を囮に、最後にとっておいたUCで背後に回り込み。
ドカンと〈衝撃波〉さ食らわせるのさ!

小さくても力がなくても戦うための覚悟と工夫ならある!仲間だっている!
やれることがあるなら全力を尽くすだけなのさ!



 駆け戻った貸間の棟近くで見つけたのは、黒づくめの医者の姿。
 絶望の過去から生み出された影朧、鳴宮・兼康。
「医者にできることは……
 全ての生を終わらせることで、救えなかった者に報いることのみ」
 独り言のようなその声を耳にした草守・珂奈芽(f24296)は、傍らに浮く小さな魔導人形『草化媛』と共に突っ込んでいった。
 走っていた勢いと念動力、そして湧き上がってくる憤りの感情を纏っての突撃。
 ひらりと避けるトレンチコートへ向けて右手の刃を振り抜いた、その攻撃動作の隙を狙ったものとなったが、それでも鳴宮・兼康は珂奈芽の動きを察して飛び退き。
 着地すると同時にくるりと振り向いた珂奈芽に、虚ろな黒瞳が向いた。
 珂奈芽は、僅かな外灯の光にも煌めく綺麗な緑髪の下で、むっと金瞳に力を込め。
 その存在を睨み付けるように見据える。
 そこに。
「自分に出来る精一杯をして、それでも尚、手を伸ばした先に届かなかった者……
 思い当たる節が無いわけではありません」
 訥々とした雨宮・いつき(f04568)の声が響く。
「救いたくても救えなかった命は、僕も……」
 背後に現れたいつきに、鳴宮・兼康は肩越しに少しだけ視線を向けた。
 少し俯くような仕草に、肩口までの黒髪がさらりと揺れ。
 眼鏡の下の青い瞳が伏せられるように半ば閉じる。
 小柄な妖狐の少年のそんな姿から滲み出るのは、後悔。
 かつて助けられなかった過去へ向けられる想い。
『何で私だけが……何で……何でよぉ……』
 その姿に、どこからか声が重なり。
 鳴宮・兼康は目を反らすかのように、視線を前の珂奈芽へと戻した。
 けれども、その背後で、いつきは顔を上げていて。
 真っ直ぐに、鳴宮・兼康を見つめていたから。
「……いつきくんの言う通り、助けれないのは辛いかもしれないさ」
 だから珂奈芽は、金色の瞳をさらなる怒りに輝かせる。
「でもあんたの願いは勝手な押し付け!
 今辛い『誰か』にはカンケー無いじゃんか!」
 精一杯、声を荒げて。
 抱えきれない程のこの憤りが伝わるようにと。
 珂奈芽の金の眼差しが、鳴宮・兼康を射抜く。
 その姿に青瞳を細めながら、いつきも鳴宮・兼康へと声をかけた。
「全てを助けられなくとも、手を差し伸べ続けるしかないんです。
 生きたいと願う者が縋る先を失う事は、決して、救いではないのですから」
 それでも、と思うから。
 諦めない人の前で諦めたくないから。
「だから……僕は、貴方を肯定出来ません」
 傍らに霊獣『白虎』を招来し、いつきは絶望を振り払う。
 そして、鳴宮・兼康のそれも消せればと願うけれども。
『何で私以外の人は生きているの……何で……』
「全てを救えぬのなら、全ての生を終わらせるのみ……」
 鳴宮・兼康は腰につけていた道具入れからメスを取り出すと、四方へと……珂奈芽にもいつきにも向けて投げ放った。
 刃物本来の金属の輝きとは異なる色合いは、毒だろうか。
 小さな傷すら危ういその刃に、しかし珂奈芽は怯まずに飛び込んでいき。
 その進路にあったメスが、不自然に軌道を変えた。
 珂奈芽を避けるように動いたメスの先にいたのは白虎。
 磁力を操る霊獣は、メスを引き寄せ珂奈芽を護り。
 いつきへ向かったものは操る流体金属で絡め取っていた。
 そうして開かれた道を、珂奈芽が走る。
「そんなの正しいわけがない!
 お医者さんだってヒーローだって、生きる願いを……未来を守らなきゃ!」
 先祖返りでドラゴンの頑丈な体ではなく、脆い石の身体で生まれた。
 それでも、分家とはいえヒーローの一族に生まれたのだから。
 猟兵となって、誰かを護りたいと望んだのだから。
 小さくても。力がなくても。脆くても。
 覚悟がある。工夫がある。強くなれる。
 そして。
 助けてくれる仲間だっている。
(「やれることがあるなら全力を尽くすだけなのさ!」)
 草化媛と共に飛び込む珂奈芽を、鳴宮・兼康は冷静に見切り。
 無謀にも見える突進を簡単に避けようと動き出した。
 でもその刹那。
「跳んで翔んでどこまでもっ!」
 草化媛だけをそのまま突っ込ませて、珂奈芽は瞬間移動する。
 現れるのは、鳴宮・兼康が回避したその先。
 完全に背後に回った珂奈芽は、出現時に発生する斥力をそのままドカンと食らわせた。
 予想外の力に、鳴宮・兼康はつんのめるように前へと飛ばされる。
 どうだ! と言わんばかりに胸を張る珂奈芽にいつきは頷いて見せてから。
「未来への道を切り開くために……足掻き続けるんです!」
 鳴宮・兼康の背に向けて、告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミスティ・ストレルカ
【BH】
アドリブ連携◎

ねむねむは少し慣れてきたの
私も【優しさ】【覚悟】を以て臨むのです

●方針-WIZ
影朧になる程想いを受け止める先生は優しい人なの
それでも生きたい人まで故意に手にかけるのは
救ってきた者を裏切る事だから
全てを救えないのは子供の私でも知ってるの
救える人を増やしたいと我儘になってもいいのですよ

光が届かない闇は本能的に【恐怖を与える】だろうけど【狂気耐性】や【祈り】で自身を見失わずに乗り越えるのです
ひつじさんの電撃で瞬間でも明るくなれば楽なんですけどねぇ
【2回攻撃】【第六感】で位置と気配把握の【情報収集】と攻撃を兼ねるのです
敵攻撃も【カウンター】用の情報、【オーラ防御】はしっかりなのね


ベルカ・スノードロップ
【BH】
アド/連携◎

うちの教会の教義は『よく交わり産めや殖やせ』
それは、生を重んじるもの
故に……
「『死こそ救い』などという戯れ言は認めません」

【集団戦術】による【団体行動】
【視線】【暗視】による【見切り】で敵の攻撃を【武器受け】して【吹き飛ばし】
【ロープワーク】と【盗み】による武装解除です

【毒耐性】【毒使い】【医術】の心得はこちらにもありますから
《選択UC》で、獲物を召喚
【投擲】【スナイパー】で嗾け【誘導弾】で【鎧無視攻撃】を仕掛けます

力及ばず救えないのと、積極的な殺人は別物です
「人を積極的に殺めた者は、輪廻の輪からも外れてしまいますよ」
影朧になったなら、桜の精さんに頼るしかない訳ですが……


緋神・美麗
【BH】
アド/連携◎

これはまた完全に歪み切ってるわねぇ…。これは速攻で片を付けるわよ

視力・暗視・第六感・見切り・野生の勘・戦闘知識・学習力で相手の動きを観察して行動パターンや癖を分析、先読みする
攻撃はクイックドロウ・先制攻撃で機先を制し、フェイント・誘導弾で命中補正、力溜め・鎧無視攻撃・衝撃波・限界突破で威力補正を掛けたUCで速やかに倒しにかかる

「違うでしょう?全てを救うことは出来なくても一人でも多く救いたいから医者になったんでしょう?仮に救えなかった人がいたとしても、次こそは掬ってみせようと頑張ってきたんでしょう?」
「救えなかった人達に報いるというのなら、殺すのじゃなく生かしなさい」



「ミスティ、大丈夫ですか?」
「……ん。ねむねむは少し慣れてきたの」
 優しく声をかけるベルカ・スノードロップ(f10622)に、こくんと頷いてミスティ・ストレルカ(f10486)はふんわり笑って見せる。
 子供が起きているには遅い時間。
 大きな紫色の瞳は、昼間に比べればまだぽややんとしているようだけれども。
 長い袖で目を擦る眠たげな仕草は確かに減ってきていたし、傍らに召喚したデフォルメ調の白羊の霊に乗ることなくちゃんと立っていたから。
 無理しないように、と言いながらもベルカは微笑みを返した。
「これはまた完全に歪み切ってるわねぇ……」
 その横で、進む先を眺めて呟いたのは緋神・美麗(f01866)。
 金瞳を少し細め、その上に片手を翳して遠くを見る仕草をしながら。
 白衣を着た黒づくめの男……鳴宮・兼康を見て、その言動に顔をしかめた。
 治る者がいて、治らない者がいる。
 それを不平等として。
 平等に与えられる結末を求めて……殺す。
 そもそもの医者としての在り方から歪んでしまっていると感じた美麗は、呆れたようなもどかしいような、複雑な感情を溜息と共に吐き出して。
「速攻で片を付けるわよ」
 ベルカとミスティに声をかけながら走りだす。
 既に数人の猟兵と対峙している戦場に、参戦しようと近づいたそこに。
 銀色の輝きが幾つも飛び来た。
 それがメスだと美麗が気付いたのは、とっさに躱した瞬間のこと。
 少し離れているからと油断することなく、鳴宮・兼康の動きをしっかり観察し、感覚を研ぎ澄ましていたからこその回避。
「毒のようです。気を付けて」
 ベルカは、メスの輝きが金属にしてはおかしいことも見抜き、声をかけながらその手の武器でしっかりと受け弾くと。
 念のためにオーラで防御を固めたミスティも、気配を把握し確実に避けていく。
 遠近合わせて四方への広範囲な攻撃を越えて迫りながら。 
「うちの教会の教義は『よく交わり産めや殖やせ』です」
 それに応えるかのように、ベルカは言葉も紡いだ。
 何人もの妻達と過ごす日々。
 幾つもの愛を育むのは、生を重んじる、それこそを大切にしているからだと説いて。
「『死こそ救い』などという戯れ言は認めません」
 美麗とミスティ、宿の部屋で眠る者達と、そして森の奥深くに建つ小さな教会を備えた洋館とを思い出しながら。
 ベルカははっきりと、鳴宮・兼康を否定する。
 しかし鳴宮・兼康は、どこか胡乱な黒瞳をちらりとベルカに流しただけで。
『どうしてあの子を助けたのに娘は助けてくれなかったの!?』
 その黒づくめの姿に纏わりつくように怨嗟の声が反響する。
『そうよ、あの子も死ねばいいのよ。娘のように!』
 もっと黒く、絶望を誘うように。
 後悔が深く深く更に刻まれていくように。
「違うでしょう?
 全てを救うことは出来なくても1人でも多く救いたいから医者になったんでしょう?」
 だが、それを振り払おうとするかのように、美麗は声を重ねた。
「全てを救えないのは子供の私でも知ってるの」
 ミスティも、大きく純真な紫瞳を真っ直ぐに鳴宮・兼康へ向けて。
「救える人を増やしたいと我儘になってもいいのですよ」
 長い長い袖に隠れた両手を差し出すように前へ伸ばしながら、にっこりと、子供らしく無邪気さを添えて、笑いかける。
 それはきっと、大切な我儘。
 容易く叶えられるものではないけれども。
 仮に救えなかった人がいたとしても。
「次こそは救ってみせようと、頑張ってきたんでしょう?」
 思い出して、と説きながら、美麗は足を止める。
 まだ少し、鳴宮・兼康から離れた位置だけれども。
 その場で巨大な鉄塊に電磁力を込めて。
「チャージ、セット、いっせーのっ!」
 遠距離からの先制、とばかりに加速し撃ち出した。
 超巨大電磁砲は、前へつんのめるように体勢を崩していた鳴宮・兼康へと向かい。
 反射的に回避の動きを見せつつも躱しきれなかったその黒い姿を、夜闇の中へと、建物から遠ざかる方向へ吹っ飛ばした。
 闇の中へ、絶望の黒へと溶け込んでしまいそうな、黒づくめの姿。
 それを見たミスティは、ふるふると首を横に振り、白い髪を、そこに咲くスノードロップの花を、そして結んでもらった可愛らしいツインテールを揺らしながら。
「ひつじさん」
 祈るかのように、傍らの白羊の名を呼ぶ。
 デフォルメ調のもこもこ羊は、応えるように一歩前に進み出ると。
 もふもふの身に電撃を纏うと、一気に周囲に放出した。
 その輝きは、僅かな時間ながらも闇を圧し。
 鳴宮・兼康の姿を明るく照らし出す。
「影朧になる程想いを受け止める先生は優しい人なの」
 体勢を整えようとしている医師を、ミスティはじっと見つめ。
「それでも、生きたい人まで故意に手にかけるのは、救ってきた者を裏切る事だから」
 ふっと寂し気に紫瞳を曇らせた。
「救えなかった人達に報いるというのなら、殺すのじゃなく生かしなさい」
 もう1発行く!? とまた鉄塊を掲げる美麗の前に、ベルカがそっと手を伸ばし。
「常世、現世、幽世と数多ある世界より、来たれ。ここには、過去も架空も無い。
 我が血、我が声に応え、顕現せよ」
 美麗を止めながら、その周囲に数多のメスを生み出す。
 鳴宮・兼康の技を返すかのように。
 闇に戻りかけているその姿を包囲して。
「力及ばず救えないのと、積極的な殺人は別物です」
 そっと差し示すような、緩やかな腕の動きに合わせて、メスは鳴宮・兼康へ向かった。
 空中にメスが描き出す複雑な幾何学模様の軌跡を眺めながら。
 右手に嵌められた長い5本指のような刃が、大きく広がり、また時に繊細に動きながらメスを余さず受け落としていくのを見つめながら。
「人を積極的に殺めた者は、輪廻の輪からも外れてしまいますよ」
 その前に止めたいのだと。
 影朧たるその身に、桜の精の癒しが届くようにと。
 少し哀し気な憂い顔で、願い。
 ベルカは呟くように、告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ランガナ・ラマムリタ
ときめくん(f22597)と

連れの言葉に、少し驚いて
「ん、分かった。頼りにしてるよ」
そう、嘯いて

切った張ったが得意ではない自分が、歯がゆいけれど
彼女の肩に寄り添って、妖精らしく道先の案内に努めよう

男が振るう刃を、闇夜の中で何処から襲い来るのか
本を開き、読み聞かせるよう、回避を指示

逃げ回るだけじゃない
辿るのは、物語の結末に向かうための道筋だ
可愛らしくも頼もしい探偵が、思いを伝えられるよう

「悲しい人だね、君は。全てを救えずとも、確かに君に救われた命もあったろうに」
「させないよ。彼女には、今度……貸した本を返してもらって。感想を、聞きたいんだ。楽しみにしていたんだよ、彼女――それが私のやりたいこと」


如月・ときめ
ランガナさん(f21981)と

環さんがお休みになったら迎撃に

「今日は沢山助けてもらったから。最後くらい格好つけさせて」
ランガナさんに囁いて

メスはランガナさんの見切りに応じ回避

そして夜の無明は…そこに棲む鬼を祓う探偵の舞台

私はあなたの痛みが解る
全てを救えない無力を

それでも私はどんな呪いを受けても諦めない
だから今も、ここで出逢った「友達」の力になれる

それに死こそ救済だと信じるなら、如何してそんな報われない顔をしてるんですか

渾身の一閃で武器を砕いて

……行きましょう、明日へ
お医者様なんて生き方自体がそもそも傲慢なんです
なら本当にやりたいことを諦めずに、痛みを抱えてでも
やるべきって、思いません?



 微かに聞こえる外の喧噪が変化したのを感じてから。
 そして、話していた環が休んだのを見届けてから。
「おやすみなさい、環さん」
「婆やさん、ありがとう」
 如月・ときめ(f22597)とランガナ・ラマムリタ(f21981)は、笑顔で貸間の部屋の1つを後にしていた。
 深々と頭を下げた老婆が静かに扉を締め切った、その直後。
 2人は静かに建物の外へと急ぐ。
 扉をくぐって飛び出た先に広がるのは、夜の無明。
(「……そこに棲む鬼を祓う探偵の舞台」)
 数少ないながらも外灯に照らされた薄闇の中に鳴宮・兼康の姿を認めて、ときめはぐっとその手を握り締めた。
「今日は沢山助けてもらったから。最後くらい格好つけさせて」
 傍らを飛ぶランガナに、囁くように呟けば。
 少し驚いたように振り返ったランガナは、でもすぐに落ち着いた笑みを浮かべ。
「ん、分かった。頼りにしてるよ」
 そう嘯きながら、ときめの肩に寄り添った。
 ときめが頼りになるのは本当だけれども、全てを任せてしまうのではなく、その力になりたいと、共に戦いたいと思う気持ちもあるから。
 けれども、切った張ったが得意ではない小さな自分では力不足かと歯がゆく思い。
 また、環のために『自分が』頑張りたいと思うときめの気持ちも分かるから。
 ならばとランガナは本を開き、それを読むかのように鳴宮・兼康の動きを予想する。
「妖精は妖精らしく、道先の案内に努めよう」
 そして鳴宮・兼康の四方へ放たれたメスの軌跡を読み、伝え。
 その見切りに応じてときめは、飛び来る刃に回避の動きをとった。
 だが、その動きは逃げ回るだけのものではなく。
 鳴宮・兼康へと向かう機を伺うものでもあって。
「悲しい人だね、君は。
 全てを救えずとも、確かに君に救われた命もあったろうに」
 ときめの肩からランガナは鳴宮・兼康へと声を向ける。
 辿るのは、物語の結末に向かうための道筋。
 可愛らしくも頼もしい探偵が、その思いを伝えられるよう護り導く、妖精の蔵書印。
 金属以外の輝きを見せるメスに、不敵に笑って見せながら。
「させないよ。ねえ、ときめくん」
 舞台に上がる探偵の背を押すように囁く。
「……さぁ、この事件を終わらせる時がきました。
 真実を知る覚悟は、よろしいですか?」
 真っ直ぐに前を見据えたときめがユーベルコードを紡ぎあげた。
 事件を解決してみせると貫く意志が、ときめの能力を跳ね上げて。
 夜闇を圧する雷撃の輝きの中、鳴宮・兼康へと返されるように向かうメスの刻む幾何学模様の合間を縫って、間を詰めていく。
「私はあなたの痛みが解る。全てを救えない無力を」
 探偵として、常に成功してきたわけではない。
 迷宮入りしてしまった事件だってあった。
 それに例え事件が解決できても、何もかもを救えるとは限らない。
 医者のそれとは違うかもしれないけれども、絶望を感じることは、ある。
 それでもときめは。
「それでも私は、どんな呪いを受けても諦めない。
 だから今も、ここで出逢った『友達』の力になれる」
 思い出すのは、貸間の棟の一室で眠る環の姿。
 ときめとの時間を本当に嬉しそうに楽しんでくれて。
 友人と呼んでよいのかとはにかむように聞いてくれて。
 病と闘いながらもその辛さを見せまいと頑張っていた姿。
 けれども、全ての患者に平等な結末をと望む鳴宮・兼康に、一方的に、その全てを閉ざされようとしている儚い少女。
 彼女を諦めることなんて、できない。
「彼女には、今度……貸した本を返してもらって。感想を、聞きたいんだ。
 楽しみにしていたんだよ、彼女……」
 ランガナも、渡した本に瞳を輝かせていた姿を思い出しながら。
 交わした未来への約束を胸に抱きながら。
「それが私のやりたいこと」
 そのために、ときめに道を指し示す。
 ランガナが示す道筋を辿り、攻撃をかい潜ったときめは。
 美しい朱の差す野太刀と切り結ぶ鳴宮・兼康へと迫り。
「貴方が本当にやりたいことは、こんなことですか?」
 問いかけと共に、麗しの黒髪を舞わせながら退魔刀『徒櫻』を振るう。
「死こそ救済だと信じるなら、如何してそんな報われない顔をしてるんです?」
 放たれた渾身の一打は、野太刀に動きを抑えられていたその右手を、黒手袋に覆われた五指を伸ばしたかのように装着された長いメスに似た鉤爪のうち1本を、砕いた。
「お医者様なんて生き方自体がそもそも傲慢なんです。
 なら本当にやりたいことを諦めずに、痛みを抱えてでもやるべきって、思いません?」
 武器を、誰かを傷つけるものを壊し。
 その下にある、優しいはずの手をそのまま伸ばせるように願って。
(「……行きましょう、明日へ」)
 両側頭部に生えた桜の枝に咲く幻朧桜の淡く美しい花を揺らしながら。
 ときめは心の内で、告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
この世界にヘルシンキ宣言があったかは知らない、でも
拒否権あってこそのインフォームドコンセントでしょう?
万人の死などお断りするわ

義務も責任も医師だけのものじゃない
患者の家族も本人も、医師・看護士達と同じくチーム医療の一角よ
どんな結果だろうと治療指針を選んだ以上、負うものは平等
でも……貴方は相手の痛みを受け入れてしまったのね

存在感で惹きつけ、鉤爪を刀と剣で受けることに専念
仲間が攻撃に専念できるように庇い、声を掛ける時間を稼ぐ

追い続ける白黒の面影を重ねる
絶望の果てに殺めようとするのが患者か、己の心と存在意義の違いはあっても

「過ちも業も、罪も罰も悔悟も、皆の分まで全て一人で背負い込まないで!(叫)」



 数瞬、晴れた夜闇に降り注ぐメスの雨。
 その中で刃を振るう黒づくめの医師を、南雲・海莉(f00345)は痛ましげに見つめた。
「この世界にヘルシンキ条約があったかは知らない」
 それは医学会の基本的な倫理原則。
 UDCアースでは昭和の時代に宣言されたそれを、そこで医学を学ぶ海莉は挙げ。
「でも、拒否権あってこそのインフォームドコンセントでしょう?
 万人の死などお断りするわ」
 鳴宮・兼康の理論を切り捨てるかのように、すらりと野太刀を抜いた。
 紋朱の名を持つ刀は、海莉の構えに光を弾き、刃文に美しい朱を差す。
 邪を絶ち、光に歩む者を守護する象徴として。
 迷いなく真っ直ぐに、煌めく。
 インフォームドコンセントとは、医師と患者との間の合意のことを示すが。
 それには医師から充分な情報が伝えられることが必須であり。
 双方が納得した上で結ばれる同意のことだから。
 一方的に死をもたらす鳴宮・兼康は間違っていると、海莉は告げ。
 その所業を止めるべく、立ちはだかった。
 医療とは、医師だけのものではない。
 患者本人も、その家族も加わってこそのチーム医療。
 ゆえに、義務も責任も医師だけにあるものではなく。
 共に治療方針を選んだ以上、どんな結果であろうと負うものは平等のはずだと。
 医療の正しい姿を学び、信じる海莉は思う。
 けれども。
『怪奇人間は短命だから、だから先生は父を助けなかったんでしょう?』
 それを受け入れられない家族もいる。
 喪失の空虚をどこかにぶつけずにはいられない人も、いる。
『どんな人でも助けるなんて嘘じゃない』
 例え患者本人が納得して亡くなっていたとしても。
 その死に感じた痛みを、他者へ向けてしまう人が、いる。
「……貴方はそんな相手の痛みを受け入れてしまったのね」
 海莉は自身も痛みを感じたかのように漆黒の瞳を悲し気に細め。
 それでも鳴宮・兼康へ向かい、太刀を振るった。
 メスの雨を受け躱していく鉤爪に、紋朱の刃を合わせていく。
 白い長衣を翻し、メスに似た鉤爪を振るう、黒づくめの医師。
(「……義兄さん」)
 その姿に、海莉は、追い続ける白黒の面影を重ね見る。
 義兄の殺意は、患者という周囲の人ではなく、己の心と存在意義に向いていたけれど。
 絶望の果てに1人で間違った結果に行き着いてしまった。
 それはどうしても、似ていたから。
「汝、希望を司るもの。その『きせき』をここに現せ」
 海莉は剣に、陽光の属性の魔力を籠める。
 奇跡を願い刻んだ軌跡は、麗しの黒髪を舞わせて飛び込んできた櫻の少女の退魔刀が鉤爪を1本砕いたその隙に斬り込んで。
 だが鳴宮・兼康の身体を傷つけることなく。
 その絶望だけを切り裂くように振り抜かれる。
「過ちも業も、罪も罰も悔悟も、皆の分まで全て1人で背負い込まないで!」
 海莉は、目の前の医師に向けて。
 未だその背すら見ることの叶わぬ白黒の面影に向けて。
 叫ぶように、告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
「全てを救うことなど出来ない」
…そうだね、その通りだ
それは医者も猟兵も同じ
どれだけ戦う力を持っていても
駆けつけた時には既に無残に殺されたあとの人も居た
もはや声も届かずオブリビオンと化した「普通の人」を
殺すしかない時もあった
超弩級戦力ともてはやされたってこのザマさ

どれだけあがいても覆らないその事実を
真正面から受け止め心を蝕まれ
そして影朧となってしまった
先生はきっと優しい人だったんだろうね

全てを救うことは出来ない
でも、その手で救えた者も確かに居るだろう?
そして先生、あなたも救えると俺は信じている
UC発動し、紅く光る花弁を届ける
まるで闇に輝く小さな希望の光みたいでしょ…なんてね


乱獅子・梓
【不死蝶】
医者は人々にとって最後の希望だ
だが、どれだけ尽くしても叶わなかった時
希望を託された人達から
心無い言葉を浴びせられることもあるだろう
絶望し、何もかも諦めたとしても
誰もお前を責めることは出来ない

だが「全ての生を終わらせることが報い」なんてのは
諦め歪んでしまったお前のただの自己満足だ
屍にしてしまえば罵倒も恨み言も聞こえない
その静寂を自分の都合の良いように解釈しているに過ぎない

その姿では、お前は誰かに報いることも
そしてお前自身が報われることも永遠にない
だから、生まれ変わって
救えなかった人の分までもう一度精一杯生きな
それがお前に出来る報いだ

UC発動
少しでも肉体は傷付けないように行かせてやりたい



「先生はきっと、優しい人だったんだろうね」
 丸いサウンド型フレームの赤レンズサングラスの下で、いつもの糸目な笑顔を浮かべながら、灰神楽・綾(f02235)は穏やかに呟いた。
 全てを救うことなど出来ない、という考えには同意するばかりで。
 それは医者も猟兵も同じだと思う。
 綾がどれだけ戦う力を持っていても。
 駆けつけた時には既に無残に殺された後の人が居た。
 同じように、医者がどれだけ救う力を持っていても。
 駆けつけるのが遅く、死んでしまった人が居たのだろう。
 もはや声も届かずオブリビオンと化した『普通の人』を殺すしかない時もあったから。
 もはやどんな治療も効かず死へと向かう人をただ見送るしかない時もあったのだろう。
(「超弩級戦力ともてはやされたってこのザマさ」)
 きっとそれは、名医と呼ばれるような医者も同じ。
 伸ばした手が必ず届くわけではない。
 その手で全ての命を救い上げられるわけではない。
 どれだけあがいても覆らないその事実を、鳴宮・兼康は真正面から受け止め、心を蝕まれ……そして影朧となってしまった。
 だからこそ、その本質は。
 きっと優しかったのだろうと綾は思い。
 メスの雨の中に立つ黒づくめの姿を見つめる。
「医者は人々にとって最後の希望だ」
 その漆黒の髪に右手を置いた乱獅子・梓(f25851)も、同じ方向へ目を向けた。
 強者に苦難に襲われた人々が猟兵に縋るように。
 怪我に病魔に侵された人々が縋る先が、医者だから。
「だからこそ、希望に応えられない苦しみもあるだろう」
 どれだけ尽くしても叶わなかった時、自身の中の悔恨の念だけでなく。
 希望を託してくれた人から、心無い言葉を浴びせられることもあった。
 それは医者も猟兵も同じだから。
「絶望し、何もかも諦めたとしても、誰もお前を責めることは出来ない」
 綾の黒髪に置いた手に、力が籠められる。
「だが、全ての生を終わらせることが報い、なんてのはお前のただの自己満足だ」
 諦めの先で歪んでしまったその思考は認められないと。
 梓は鳴宮・兼康をにらみ据えて。
「屍にしてしまえば罵倒も恨み言も聞こえない……
 その静寂を自分の都合の良いように解釈しているに過ぎない」
 ぐしゃぐしゃと綾の髪をかき乱した。
 うわっ、と驚きの声を上げる綾の肩に、面白がるかのように炎属性の仔ドラゴンが乗りかかってキューと鳴き。
 梓の肩では、氷属性の仔ドラゴンがガウと鳴く。
 それらの様子に視線を流し、ふっと口元を緩めた梓は。
 改めて鳴宮・兼康を見据えると。
「歌え、氷晶の歌姫よ」
 黒づくめの姿へ向けて、空いている手を差し出した。
 その動きに合わせて、氷竜が神秘的な咆哮を奏でる。
 生命力のみを攻撃する葬送龍歌は、鉤爪の一部を砕かれた鳴宮・兼康を包み込み。
 ふらりと傾ぐように揺れた姿に、絶望した相手をさらに傷つけることを避けているかのような梓の攻撃に、綾は淡く微笑みながら、黒髪に埋もれた梓の手をそっと外し。
 そのまま差し出すように前に出した両手に、一対の大鎌を握った。
「全てを救うことは出来ない。
 でも、その手で救えた者も確かに居るだろう?」
 絶望の他に、抱いた感情があるはずだと。
 それを思い出して欲しいと願うと共に。
 握りしめた大鎌の柄の感触が、消える。
「そして先生、あなたも救えると俺は信じている」
 蝶を象る無数の花弁に形を変えた大鎌を、送り出すように両手を伸ばしたまま。
 梓と同じように、鳴宮・兼康を直接傷つけず、痛みを与えずに、攻撃する。
「まるで闇に輝く小さな希望の光みたいでしょ?
 ……なんてね」
 紅く光るバタフライ・ブロッサムは、薄闇を払うかのように鳴宮・兼康を覆い。
 そこにさらに桜の花弁が混じり踊るのを見つめて。
「その姿では、誰かに報いることも、そしてお前自身が報われることも永遠にない」
 歌う氷竜に優しく手を添えた梓も、舞い踊る花弁を眺めながら。
「だから、生まれ変わって、救えなかった人の分までもう一度精一杯生きな。
 それがお前に出来る報いだ」
 希望の光と共に穏やかに、告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛砂・煉月
🌸🌙

過去の為に現在を殺す
死者の為に生者を殺す
アンタ、それ命への侮辱だよ
報いでも何でもない
死者を理由にしてるだけだ

オレだって死にたくない
だから足掻いて生きてきた
今もそうだ
――なあ、ハク
名を呼べば白竜が手の中で槍と成る

槍投げの竜牙葬送
千鶴の桜が、噫…導いてくれるみたいだ
ダッシュで駆け体勢でも崩せれば御の字!
出血には吸血を、返してよ
あっは、オレも痛いのはやだよ
慣れてるだけって笑って
再度ハクを放る

アンタは真面目で優しいから絶望した
でもオレ諦めは嫌いだからさ
其の手に生は奪わせないよ

アンタ医者で在り続けるんだろ?
なら救いなよ
諦めるもの矜持を捨てんのも未だ早い
死の聲にオレ達が終いを届けるから
な、センセ?


宵鍔・千鶴
🌸🌙

皆を救うことが出来ないから
平等に殺す?
アンタ、医者なのに随分と
今在る生を軽んじるんだな
死者の聲を聴く前に、生者に向き合うものじゃないの?

俺も、生を諦めていたよ
でも、そうだね
今は足掻いている
護るべきものを見つけたから

月を翳して刀を抜けば
桜が舞い上がり零れ
敵への視界を奪うために
レンの白竜の槍が通りやすくなればいい
間合いを詰めれたなら
直接攻撃を

れんが痛いのはだめだよ?
って先程自分のために
傷を負ってくれた彼が
もう血を流さないように
次は俺が守るんだ、

絶望したアンタに出来るのは
俺はもう死者の声が聴こえぬように
葬送りだすことだけ
諦めないで欲しいから
医者としての誇り、忘れないでよ



「アンタ、医者なのに随分と、今在る生を軽んじるんだな」
 紅い蝶に囲まれた鳴宮・兼康に、宵鍔・千鶴(f00683)も静かに問いかける。
「死者の聲を聴く前に、生者に向き合うものじゃないの?」
 皆を救うことができないから。
 救えなかった者の怨嗟が聞こえるから。
 平等に救えないなら。
 平等に殺す。
「それは命への侮辱だよ。
 報いでも何でもない。死者を理由にしてるだけだ」
 飛砂・煉月(f00719)も千鶴と並び、違うと訴えかけた。
 過去の為に現在を殺す。
 死者の為に生者を殺す。
 それは確かに、人が与えられる等しい結末かもしれないけれども。
 現在は、生者は、生きることを望むものだから。
「オレだって死にたくない。だから足掻いて生きてきた。今もそうだ」
 なあ、ハク。
 と名を呼べば、同意するように頷いた白竜が、煉月の手の中で槍と成る。
 薄闇の中で淡く輝くようなその白い姿は、生きたいという望みを体現するかのようで。
 意志を貫こうと、鋭いその穂先を尚輝かせた。
「……俺も、生を諦めていたよ」
 でも千鶴は、鳴宮・兼康のもたらす一方的な死を受け入れるかのように呟き。
 しかしすぐにゆるりと首を左右に振ると、紫の瞳で微かに苦笑した。
「でも、そうだね。今は足掻いている。
 護るべきものを見つけたから」
 その瞳に浮かぶのは、朔夜の片割れ。
 苦笑はいつしか柔らかな優しいものへと変わり。
 なればこそと、一方的な死へと抗いを見せるように、千鶴は打刀を抜く。
 月を翳し、錵が耀けば、狂い咲くように桜が舞い上がり、零れ。
 紅い蝶の合間を埋めると、鳴宮・兼康の視界を大きく奪った。
 レン、と名を呼ぶまでもない。
 投げ放たれた白竜の槍が、桜に導かれるかのように走りゆく。
 風を切り裂くその気配に気づいてか、鳴宮・兼康は白衣を翻して回避を見せ。
 そこに、槍を追いかけるように、煉月がダッシュで飛び込んでいた。
「出血したんだ。返してよ」
 未だ傷の残る腕を見せるようにして、代わりにその血を啜らせてもらおうとするかのように、吸血鬼をも思わせる八重歯を覗かせて笑う。
 その傷を、自身が刻んだ痕を見て、哀し気に紫瞳を歪めた千鶴は。
「れんが痛いのはもうだめだよ?」
「オレも痛いのはやだよ。慣れてるだけ」
 心配して確認すれば、あっは、と煉月がまた笑った。
 これくらい大丈夫と伝えてくる陽気な姿。
 でも、自分の為に傷を負ってくれた彼に、もうこれ以上血を流して欲しくないから。
(「次は俺が守るんだ」)
 千鶴は桜の花弁をさらに増やす。
 美しくも優しいその舞に、そして千鶴の思いに。
 煉月は、護られているのを感じながら。
「アンタは真面目で優しいから絶望した。
 でもオレ諦めは嫌いだからさ、其の手に生は奪わせないよ」
 もう一度、白竜の槍を握りしめる。
「アンタ医者で在り続けるんだろ? なら救いなよ」
 まだ白衣を脱いでいないのなら。
 医者として、報いようと思っているのなら。
「諦めるもの矜持を捨てんのも未だ早い。死の聲にオレ達が終いを届けるから」
 鳴宮・兼康に纏わりつく怨嗟を散らし消すように、再び放たれる竜牙葬送。
「死者の声が聴こえぬように、葬送りだすから。
 それだけが、絶望したアンタに俺が出来ることだから」
 千鶴も言葉と共に、艶やかな桜の花弁をまた舞わせて。
 白竜の咆哮を、白き槍が劈く葬送曲を聞きながら。
「諦めないで。医者としての誇り、忘れないでよ」
 矛先から大きく逃れるように飛び退いた鳴宮・兼康へ、せめて思いだけでも届けと、声を重ねれば。
 煉月は槍を構えながらも追撃せず、明るく笑って見せ。
「な、センセ?」
 医者としての鳴宮・兼康に、呼びかけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード
プラチナちゃんと行動開始。

やあ、こんばんは、闇医者さん。ぼくらのことも診てくれないかなあ? ええとね、恋の病ってやつなんだけど。

からかいに反応してメスを投げてきたら、プラチナちゃんの力で影朧に突き刺さるよう途中で針路を折り曲げて。
鉄塊剣、まだ持ってるね? そっちも自由に使って。

ぼくは影朧の意識がプラチナちゃんに集中した隙を狙って空間転移。
影朧が鹿島には入れなくすることも優先しつつ、敵の背後の死角を取って、次元断層を纏った手刀でざっくり「暗殺」するように切り裂く。反撃は「見切り」でかわして。
ぼくにばかり気を取られていいのかな? プラチナちゃん、鉄塊剣ぶん投げて!

生老病死からは、誰も逃れられない。



 白槍から逃れるように大きく飛び退いた鳴宮・兼康を、セシル・バーナード(f01207)は明るい笑顔で出迎えた。
「やあ、こんばんは。闇医者さん」
 金色の髪の下で微笑む緑瞳は、年相応に思える無邪気な光に輝いて。
「ぼくらのことも診てくれないかなあ?
 ええとね、恋の病ってやつなんだけど」
「ええっ!? 私達病気だったんですか!?」
 それがからかいだと誰もが判断する中で、セシルの傍らにいた銀髪の少女だけが、あわあわと慌て出す。
 そんな様子も可愛いと思いながらも、セシルは落ち着けるようにその両肩に手を置き。
「うん、そうだよ。プラチナちゃん。
 だからお仕事の後でもっともっと愛し合おうね」
 耳元で熱く囁けば、少女の顔がそれこそ病気のように真っ赤になった。
 戦いやら医者やらをネタにいちゃついているのは、少女以外には明白だったけれど。
 鳴宮・兼康は虚ろなままの黒瞳を向けて。
「全ての生を、終わらせる……」
 セシル達の様子が全く見えていないかのように、同じ呟きを繰り返し。
 また毒に光るメスを取り出すと、四方へと無数に投げ放った。
「プラチナちゃん」
「はいっ。任せてください」
 セシルの声に応えた少女は、金属操作の能力を解放し、飛び来るメスの軌道を全て自分達から反らしていく。
 さらに、勢いは殺さぬようにその動きを操り。
 逆に鳴宮・兼康へ投げ返すかのように、進路を折り曲げた。
 跳ね返された攻撃に、だが鳴宮・兼康は慌てることなくまたメスを放ち、相殺し。
 それが間に合わないものは右手につけた4本の鉤爪で叩き落としていく。
 病人や怪我人を、というよりも、生ある者全てを殺さんとする行動を見つめて、セシルは微かに顔をしかめた。
 生老病死からは、誰も逃れられない。
 だからといって勝手にもたらされたくはないから。
(「押し付けられる『死』はお断りだよ」)
 セシルは静かに少女から離れ、鳴宮・兼康の死角へと移動する。
 メスの攻防で少女が鳴宮・兼康を引き付けている隙を狙い。
 そこに冷たく広がってきた霧も利用して。
 セシルは鳴宮・兼康の背後をとると、その黒づくめの背を切り裂こうと手刀を放った。
 鋭く振り抜かれた一撃は、薄闇と霧とを切り裂いたけれども。
 直前で気配を感じたか、鳴宮・兼康には紙一重で躱されて。
 回避の動作と共にこちらを振り向いた鳴宮・兼康に、セシルはにやりと笑った。
「ぼくにばかり気を取られていいのかな?」
 意味ありげな言葉に、鳴宮・兼康が訝しむ間もなく。
 飛び来たのは鉄塊剣『プラチナファング』。
 白金等のレアメタルを配合して作られた剣は、光り輝いて薄闇を払い、飛来の勢いで霧を散らして、その向こうから何かを投げた直後のような銀髪の少女の姿を見せる。
 メスを囮にしたセシルすらも陽動としての、2段構えの奇襲。
 しかし鳴宮・兼康はそんな鉄塊剣すらも回避して。
 銃声が響く中で白衣を翻すと、霧から逃れるように地を蹴った。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴宮・匡
◆ニル(f01811)と


ひとの命の重さを感じられない、ってのは
やっぱり、心の病に入るもんかな
……ま、それもそうか
別に――そうだからって
生きるのも、救うのも、諦めたりしないしな

眼だけでなく耳も、肌も
あらゆる感覚を研ぎ澄ませれば、霧の中だろうと相手は視える
ましてこの霧が、自分を害さないと知っているなら尚更
投げかけられるメスは当たる軌道なら撃ち落とす
意識は相手から外さずに
狙い澄まして致命の一撃を叩き込むよ

俺にはわからないけど
救うものだったあんたにとって
救えなかった命は、重いんだろうさ
だけど――救えた命もあったことは、間違いなく事実なんだ
それを忘れちまうのは
あんたが救った人間が、報われないと思うけどな


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

まァ待てよ
そんなに殺したいなら私たちから殺すと良い
こちとら心に病を抱えているんだ
「救って」くれるんだろう、先生?

さーな
でも少なくとも、こいつに治されるようなもんじゃねえや

悪いがもう勝負はついてる
【悪徳竜】の領域は、貴様の視覚を奪うだろうさ
どんなに優秀な執刀医も手元が見えなきゃヤブと同じ
さァ投げてみろ
匡の弾丸より先に、こちらに当てられるものならな

人間は不快の感情が残りやすいと聞くが
救えなかった患者の数だけ、救えた命があることを忘れたか
最善とは全てを救うことではないのだよ
見えない目でよく思い出すと良い
笑って礼を言う連中の顔を忘れたときに、貴様は本当に、医者の資格を失くすと思うがな



 蝶と桜の空間から逃れ出た鳴宮・兼康は、金と銀の子供達にちらりと視線を向け。
「まァ、待てよ。そんなに殺したいなら私たちから殺すと良い」
 動きを見せる前にと、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(f01811)が話しかけた。
「こちとら心に病を抱えているんだ。
 『救って』くれるんだろう、先生?」
 にっと笑いかける金瞳も、好戦的に見える表情も、病とは程遠い印象だったけれど。
 ふむ、と少し考えた鳴宮・匡(f01612)は、自身を思い返して。
「ひとの命の重さを感じられない、ってのは、やっぱり、心の病に入るもんかな」
「さーな。でも少なくとも、こいつに治されるようなもんじゃねえや」
「……ま、それもそうか」
 ひょいと竦めた肩に、ニルズヘッグが寄りかかるように腕を乗せる。
 戦場で培われた、自身が生き残るために必要だった感覚だとしても。
 日常では異質なものと認識はあるし、病と言われればそうなのかもしれない。
 とはいえ、例えそれが病だとしても。
 生きるのも、救うのも、諦めたりしないのだから。
 全てに死をもたらさんとする医者に治されるものでは、確かにないのだろう。
 ニルズヘッグの気楽な言いように、匡はふっと微笑んで。
 肩から離れていく腕を見送ると、ニルズヘッグがユーベルコードを紡ぎ出した。
「悪いがもう勝負はついてる」
 広がりゆくのは冷気の霧。
「どんなに優秀な執刀医も手元が見えなきゃヤブと同じだろ?」
 視覚を奪う悪徳竜が、黒づくめの姿を覆い隠して。
「さァ、投げてみろ。
 匡の弾丸より先に、こちらに当てられるものならな」
 ニルズヘッグは挑発の声を上げた。
 その声を頼りにか、それとも無差別にか、鳴宮・兼康はメスを投げ放つ。
 1本だけならば、狙いを違え、反れていただろう。
 だが視界の悪さを手数でカバーするように、メスは複数、放たれていたから。
 そのうちのいくつかは、ニルズヘッグを捕えられる軌跡を描いていた。
 メスの刃は金属以外の煌めきを見せ、そこに塗られた毒の存在を主張する。
 正中しなくとも、刃がかすめただけでも危ないメスの雨に。
 しかし、ニルズヘッグは落ち着いてその場に立っていた。
 だってニルズヘッグの隣には、BHG-738C [Stranger]を構えた匡がいるのだから。
 視界を霧に奪われているのは、匡も鳴宮・兼康と同じ。
 それでも。
 眼だけでなく耳も、肌も、あらゆる感覚を研ぎ澄ませれば。
(「霧の中だろうと相手は視える」)
 ましてこの霧が、自分を害するものではないと知っているなら、尚更。
 メスの軌道を読み切り、自身とニルズヘッグとに当たるものだけを匡は撃ち落とした。
 そしてそのまま、意識は鳴宮・兼康を捕え続ける。
「救うものだったあんたにとって救えなかった命は、重いんだろうさ」
 俺には分からないけれど、と呟きながら。
 狙い澄まし、銃口を向け続けて。
「だけど……救えた命もあったことは、間違いなく事実なんだ。
 それを忘れちまうのは、あんたが救った人間が、報われないと思うけどな」
 猟兵として、助けられた命がある。
 なればきっと医者にも同じ経験があるはずだから。
「忘れたか?」
 ニルズヘッグも重ねて問いかける。
「救えなかった患者の数だけ、救えた命があることを」
 人間は、不快の感情が残りやすいと聞く。
 それでも、記憶の奥底に残っているものがあるだろうと。
 ニルズヘッグは言葉を紡ぐ。
「最善とは全てを救うことではないのだよ。
 見えない目でよく思い出すと良い」
 自身が広げた霧の中で。
 響く銃声を聞きながら。
「笑って礼を言う連中の顔を忘れたそのときにこそ、貴様は本当に、医者の資格を失くすと思うがな」
 銃弾の命中を感じて頷く匡の肩に、自身のそれを寄せ、寄りかかるようにしながら。
 ニルズヘッグは、そうならないで欲しいと、告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花色衣・香鈴
【月花】
(PL:敵への種族及び種族特徴バレ希望)
傷の所為で寄生した花が見えてる
佑月くんにはもう見られた…でも説明した事は無い、あの日と違う花が咲く右腕

「貴方の苦悩は貴方に訪れた死を以て終わるべきなんです。今に病む人に手を出す資格なんてない!」
いつになく戦いにのめり込む
暗くとも僅かでも動く輪郭を捉え、敵味方誤認しなければ十分(技能暗視、UC発動)
「終わりません、まだわたしは、」
鈴を振ろうとして突然の感覚に頽れる
「ごほっ」
こんな時に発作
吐いたのは右腕の花と同じ
苦しい
だけど
「これがわたしの運命です、病なら今夜死んだとしてお医者様も世も恨みません」
神力が切れる前に
佑月くんに繋ぐ一発を
「生きます、今を」


比野・佑月
【月花】
「骸、お前の出番だ。任せたよ」
喚び出したうち半数程を合体、攻撃手段として運用
残りは適当に合わせて防衛手段
使い捨てでもいい、毒の回らぬ体でメスを受け止めさせる
香鈴ちゃんの身を守るにも複数体いるのが好都合だ

「――ッ香鈴ちゃん!」
彼女の一撃に合わせ全力の骸をけし掛ける。
一拍遅れて傾いだ体、抱きとめた彼女は意識を手放していて。

誰だって生きていたい
零れ落ちるものは留められなくて、無いものねだりは簡単だ
その積み重ねがあの医者の姿だろう
だというのに…

「キミは、どうして……」
苦しげな呼気、軽い体
零れ落ちた花と肌を裂く花、化物だと言ったキミ。
今夜死んだとて恨まない?何故?
わからない、わかりたくもなかった



 比野・佑月(f28218)と花色衣・香鈴(f28512)は、戦闘の気配を辿って薄闇に覆われた庭を駆け抜けていた。
 その目の前に、突如広がる冷たい霧。
 咄嗟に足を止め、様子を伺う2人の前で、霧は払われるように消えていき。
 そこから白衣を着た黒づくめの男が飛び出してきた。
 銃創だろうか、左肩を赤く染め、右手につけた4本の鉤爪を構えた鳴宮・兼康。
 標的である影朧との不意の遭遇に、一瞬、佑月は驚き黒瞳を見開いて。
「骸、お前の出番だ。任せたよ」
 すぐに戦闘用の骨犬の群れを呼び出した。
 数体を合体させ、青白い炎が揺らめく眼孔に刻印された数字を上げ強化した個体を鳴宮・兼康へと向かわせると、残りを防御に展開する。
 攻撃手段は能力重視、防衛手段は頭数重視と割り振って。
(「香鈴ちゃんを守らないと」)
 決意する佑月の身には、帝都斬奸隊との戦闘で負った傷が幾つも残っていた。
 どれも浅いものではあるけれども、香鈴も同じ状態だから。
(「これ以上香鈴ちゃんを傷つけさせない」)
 頭をよぎった、薬草風呂、という単語も振り払いながら。
 佑月は油断なく鳴宮・兼康の動きを見て、骨犬を操る。
 強化個体に攻撃を続けさせつつ、その合間に放たれる毒の仕込まれたメスが香鈴へ向かわぬようにと、毒の回らない骨犬を盾として使い捨てていって。
 その間に香鈴は、魔力糸で編まれた羽衣を揺らし、その両端についた青翡翠と紫翡翠の宝玉に秘められた神力を身に纏っていった。
 増強された霊力は、香鈴の能力を一時的に跳ね上げて。
 顔を上げて鳴宮・兼康を視界に捉えたオレンジ色の瞳に、虚ろな黒瞳が何かに気付いたように細められたのが映る。
「……怪奇人間」
 無精髭の生えた口元が小さく動き、零れた囁きに香鈴は息を呑んだ。
 咄嗟に抑えた右の二の腕には、帝都斬奸隊につけられた傷があり。
 肉体への傷は浅いものの、ざっくりと切り裂かれてしまった服の下から、腕に寄生して咲く花が見えていたから。
 花咲き病で花吐き病。
 そして花裂き病と呼ばれる通り皮膚を割って生え、香鈴と共生する植物。
(「化け物……」)
 ぎゅっと腕を抱きしめ、香鈴はその単語を思う。
 佑月にはもう見られてしまっている。
 怪奇人間であることも知られていると思う。
 でも説明したことはない。
 腕に咲く花が、以前見られた時と違う花である理由も。
 香鈴が短命であることも……
 けれど。
「病に苦しむ者、その全てを治すことは叶わない」
 それらを一目で見抜いたのか、鳴宮・兼康はメスを香鈴に集中させてきた。
 この湯治宿に鳴宮・兼康が訪れた理由である病人を見つけたかのように。
「短命を定められた者も、救いきれない」
 次々と放たれるメスに、庇いに入った骨犬が次々と貫かれ、倒れていく。
「全てを救えぬのなら、全ての生を終わらせる」
 そして右手の鉤爪が、香鈴だけを狙うように、鈍く輝いて。
「貴方の苦悩は貴方に訪れた死を以て終わるべきなんです。
 今に病む人に手を出す資格なんてない!」
 それを迎え討つように駆け出しながら、香鈴は叫んでいた。
 帝都斬奸隊との戦いと違い。
 いつになくのめり込んでいくかのように。
 双鈴の羽衣を手に、鳴宮・兼康へと飛び込んでいく。
「終わりません、まだわたしは……」
 だがしかし。
 突然、その身体が頽れて。
「ごほっ」
 咳き込むように、右腕に咲くものと同じ花を、吐いた。
(「発作……こんな、時に……」)
「香鈴ちゃん!」
 苦しさに視界が歪む。
 悲鳴のような佑月の声が聞こえる。
 だけど、香鈴は。
「これがわたしの運命です。
 病なら今夜死んだとしてお医者様も世も恨みません」
 必死に顔を上げ、真っ直ぐに鳴宮・兼康を見て。
 神力が切れる前に、倒れ伏す前に。
 せめてと霊力を撃ち放った。
「生きます、今を」
 放たれた攻撃に、全ての個体が合体し全力となった骨犬が並走したのを見て。
 香鈴の身体が力なく傾ぐ。
 慌てて駆け寄った佑月が抱き止めた時、もう香鈴は意識を手放していた。
 苦し気に上下する胸。
 細く、軽い身体。
 零れ落ちた花と、肌を裂いて咲く花。
 それを見て、短い命と告げた医者。
『化け物に、なっちゃいました、から』
 薬草風呂で聞いた声が、佑月の中に蘇る。
「キミは、どうして……」
 誰だって生きていたい。
 佑月だって、もちろん香鈴だってそのはずだ。
 でも、零れ落ちるものは留められない。
 無いものねだりは簡単だけれど、その積み重ねがあの医者の姿だろうと思う。
 だというのに……
(「今夜死んだとて恨まない? 何故?」)
 倒れる直前に、香鈴が鳴宮・兼康へ伝えた言葉が響く。
 どうして香鈴がそう言えるのか、佑月には分からない。
 分かりたくも、なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、あの方はお医者さんですよね。
ですけど、あの感じは影朧さんですよね。
あの、アヒルさん、今回私は白衣の天使を使おうかと思います。
アヒルさん、アレの準備をお願いします。

闇夜に適応するということは白衣を脱いで闇夜に溶け込んでこちらに近づいてきますよね。
ですが、こういう適応もできるんです。
アヒルさん、スイッチオンです。
ライト付きヘルメットの明かりを点けてください。

失せ物探しで見つけた白衣を念動力で回収して、先生の肩に羽織らせます。
先生、お疲れ様です。
と声をかけます。
心の応急手当を行うことが看護師さんの役目だと思いますから。
先生の傍にもそんな看護師さんがいませんでしたか?



「ふええ、霧です。闇夜に霧ってもう何も見えないです」
 見事に霧に巻き込まれていたフリル・インレアン(f19557)は、どうしようかとおろおろ周囲を見回すけれども。
 その手に持ったアヒルちゃん型のガジェットの鳴き声に、はっと我に返る。
「そ、そうですね。アレを準備してもらっていたのでした」
 思い出して頷くと。
「アヒルさん、スイッチオンです」
 声に応えるように、いつものつばの広い帽子の代わりにかぶっていたライト付きヘルメットが点灯した。
 薄闇の暗さを圧して、ぼんやりと周囲の様子が見えるようになったと思うと。
 飛び行く剣や、戦闘のそれぞれの動きで霧が切り消されていき。
 白衣を纏った黒づくめの姿が見えるようになる。
「ふええ、あの方はお医者さんですよね。
 ですけど、あの感じは影朧さんですよね」
 首を傾げながら、フリルは鳴宮・兼康の戦いを見つめた。
 襲いくる骨犬を捌き、それより小さめな、でも数の多い骨犬にメスを放つ。
 目を凝らせば、骨犬の向こうに猟兵らしき人影も2つ、見えたから。
 骨犬は彼らのユーベルコードだろうと思う。
 そのうちに、戦っていた2人の猟兵のうち1人が、花を飾ったかのような少女の身体が傾いで、慌てたようにもう1人が駆け寄り、抱き止めた。
「ふ、ふえぇ、怪我したのでしょうか? 大変です」
 高速治療のユーベルコードを持つフリルは、咄嗟に駆け寄ろうとするけれども。
 ふと気づいて、その足を止める。
 見つめるのは、鳴宮・兼康の姿。
 倒れた女性が最後に放った霊力の攻撃を躱しつつも僅かに受け。
 その隙を狙ったかのように襲い掛かってきた大きな大きな骨犬の鋭い牙に、差し出した左腕を噛みつかれ、勢いに押されたように倒れかかり。
 しかしそれで動きが止まったところを、右手の鉤爪で腹を切り裂きかき消す。
 そうして敵を倒しながらも、地に膝をついたまま立ち上がることなく。
 白衣の左肩と左腕を血に染めながら。
 右手の鉤爪を1つ欠けさせながら。
 どこか呆然と、倒れた少女を見つめている。
 その姿に、フリルは赤い瞳を向け続けて。
「あの、アヒルさん……」
 伺うようにかけた声に、ガジェットが背中を押すように応え鳴いた。
 だからフリルは、ユーベルコードを発動させる。
 戦場を駆ける白衣の天使。
 そっと伸ばした手は、白衣の上から肩に添えられて。
「先生、お疲れ様です」
 フリルは、鳴宮・兼康にそう声をかけていた。
 ゆっくりと振り向いた黒瞳に映ったフリルは、穏やかな笑みを浮かべていて。
「心の応急手当を行うことが看護師さんの役目だと思いますから」
 身体の傷よりも、絶望に沈んだ心を癒せるようにと。
 柔らかな掌と共に、その温かな力を向ける。
「先生の傍にもそんな看護師さんがいませんでしたか?」
 そうであったらいいと願いながら。
 フリルは優しく、問いかけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨咲・ケイ
医者も猟兵もオブリビオンも万能ではありません。
守ろうとしても、救おうとしても
零れ落ちてしまいます……。
それでも嘗てのあなたによって、多くの喜びと
笑顔が生まれたのではないのですか?
思い出してください。
それは尊くかけがえのないものである事を……。

【SPD】で行動します。

初手で【退魔集氣法】を使用。
敵のメスを高速移動で回避しながら間合いを詰め、
【グラップル】による接近戦と衝撃波で攻めていきます。
毒を受けてしまった場合はスノーホワイトの薔薇の香気で
【浄化】しましょう。

近くに大河内さんや一般人がいる場合は
彼女達の安全を最優先とし、
敵を彼女達から引き離すようにして戦います。

アドリブ等歓迎です。



 膝をついた黒づくめの医師の肩に、そっと手を添える看護師。
 そんな光景を見た雨咲・ケイ(f00882)は、2人にゆっくりと歩み寄っていった。
「医者も猟兵もオブリビオンも万能ではありません。
 守ろうとしても、救おうとしても、零れ落ちてしまいます……」
 全てのものには限界がある。
 それは力であり、知識であり、時間であり。
 様々な要因が、全てを叶えることを難しくする。
 医者は、猟兵は、オブリビオンは。
 全能の神ではないのだから。
「それでも嘗てのあなたによって、多くの喜びと笑顔が生まれたのではないのですか?」
 語りかけながら、ケイは思い出す。
 大浴場の入り口で僅かな会話を交わした少女のことを。
 他愛ない会話を楽しんでくれて。
 気遣う言葉を嬉しそうに受け入れてくれた。
 彼女が戦う病に、猟兵でしかないケイは何の手助けもできなかったけれども。
 それでも、彼女に喜びと笑顔を与えることができたから。
 医師である鳴宮・兼康ならば、より多くの喜びと笑顔を生み出せたはずと。
 ケイは信じ、そして呼び起こそうとする。
「思い出してください。それは尊くかけがえのないものである事を……」
 絶望の奥底に沈められてしまったものを。
 もう一度、掘り起こしていくかのように。
「先生」
 呼びかけ続ける。
 しかし、顔を上げた鳴宮・兼康の虚ろな黒瞳は絶望に染まったままで。
 振り返るような動きと共に右腕を振るい、その先の4本の鉤爪がケイを狙う。
 だが、闘氣をまとっていたケイは、その体術で素早く回避し。
 傍に居た看護師役の少女を突き飛ばす。
 ふええ、と悲鳴を上げた少女が、巻き込まれない位置までころんと転がっていったことを確認してから、構えを見せ。
 再び鳴宮・兼康へ近づくと、その間を詰めたまま接近戦を挑んでいった。
 狙うのは関節を捕える組技だけれども、右手の長い鉤爪が、そして放たれる幾本ものメスが、ケイの動きを抑えていって。
 かすめた刃が、小さな傷から毒を与えていく。
 ケイは、邪気を払い心身を癒すスノーホワイトの薔薇の香気で浄化をしつつ、メスを鉤爪を、体術から繰り出す破邪の衝撃波で受け弾いて。
「尊くかけがえのないものを失ったままのあなたに、環さんを殺させはしない」
 少し離れた先にある貸間の棟を背に、鳴宮・兼康をにらみ据えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
同行者:セリカ(f00633)
行動:WIZ

自身への闇夜は【暗視】で対応
セリカへのメスの攻撃に関しては、【毒使い】の知識を以て【医術】で対応

救えなかった者達の声が心に強く残るのは、
きっと、キミ自身が最後まで諦めずに患者を救おうとしたからこそ
だからせめて思い出して欲しい
キミを絶望へ堕とす言葉ばかりじゃなかったはずだよ

「虚実を喰らう獣。纏い・砕かれ・混濁に沈み、朔に眠れ。華鏡は虚月に彷徨う(ルナ・スペクルム)」

敵に迎撃しやすいように誘導して発動
見せる幻は、確かにあったはずの感謝の言葉

絶望という月に覆われて、キミの心を闇が支配しても、希望という名の太陽は隠れてしまっているだけで、そこには在るはずだよ


セフィリカ・ランブレイ
【エウちゃんと(f11096)】

シェル姉でも手に入らないものはあった?
かつて魔神と呼ばれ、栄華を極めた末に魔剣となったそんな彼女に
『手に入れたつもりでも、そうでもない。世界はそんな風にできてないもの』

そんなもんか。
……何にせよ、得られるものを大事にしたいよね
得られなかった事に潰されないように

エウちゃんの言いたい事、わかるな
全部を助けたいって願いも、わかる。私も結構、欲深いほうだしね
それが出来ないから願いを反転させるのはなんていうか、生真面目が過ぎる話だけど

【神薙ノ導】
撃ち合うごとに相手の戦術を、染みついた癖を紐解く。相手が一人前提の技だ
エウちゃんが見せる幻を邪魔されないよう守りながら戦うよ



「救えないから、手に入らないから、殺し、壊す……
 そういう考えの影朧なんだよね」
 帝都斬奸隊が口にしていた『先生』についての言を思い出しながら、エウロペ・マリウス(f11096)は薄闇に覆われた庭を行く。
 そうそう、と頷くのは、隣に並んだセフィリカ・ランブレイ(f00633)。
 セフィリカはそのまま腰に差した魔剣シェルファへ赤い瞳を向けると。
「シェル姉でも手に入らないものはあった?」
 かつて魔神と呼ばれ、栄華を極めた末に意思ある魔剣となった、そんな『彼女』にも聞いてみる。
 柄の部分に赤い宝石を1つあしらった両刃の長剣は、その青い刀身を白い鞘に収めたそのままで、声だけをセフィリカに届ける。
『手に入れたつもりでも、そうでもない。世界はそんな風にできてないもの』
「そんなもんか」
 ふうん? と今度は曖昧に頷いたセフィリカは、少し考えて。
「……何にせよ、得られるものを大事にしたいよね。
 得られなかった事に潰されないように」
『そうね。得られたものを得られなかったものに潰されるなんて、滑稽だわ』
 出した結論に魔剣も同意を見せて。
『あんなふうに』
 セフィリカの進む先に佇む黒づくめの姿を、言葉だけで示した。
 それは、無手の少女……と見まごう程に美しい少年に向けて鉤爪を振るう鳴宮・兼康。
 絶望に押しつぶされ、影朧となった医師。
「よーしっ、行くよシェル姉」
 敵を認めるなり、セフィリカは魔剣を引き抜き、青い刀身を携えて駆ける。
 それは仲間である猟兵の援護であり。
 エウロペの詠唱時間を稼ぐためのもの。
 言われずともそれを悟ったエウロペは、ふっとその青い瞳を細めて。
「救えなかった者達の声が心に強く残るのは、きっと、キミ自身が最後まで諦めずに患者を救おうとしたからこそ」
 氷の結晶に彩られた杖を掲げながら、鳴宮・兼康へ声をかける。
 詠唱に、届けたい思いをも乗せるかのように。
「だからせめて思い出して欲しい。
 キミを絶望へ堕とす言葉ばかりじゃなかったはずだよ」
 伝わって欲しいと願いながら、告げる。
(「エウちゃんの言いたい事、わかるな」)
 セフィリカはその言葉に共感を覚え、そっと笑みを零した。
 全部を助けたい、という鳴宮・兼康の願いも、わかる。
(「私も結構、欲深いほうだしね」)
 でもセフィリカには、全部を助けることなどできはしない。
 目の前にあるものを救うのさえも、難しいことがあるのも知っている。
 それでも、全部を助ける、と決意して頑張るならまだしも。
 出来ないからと願いを反転させる、なんてのは。
(「なんていうか、生真面目が過ぎる話だけど」)
 到底、受け入れられないものだから。
 だからセフィリカは、エウロペの様子を伺いながら、鳴宮・兼康の鉤爪と切り結ぶ。
 その技術を把握し、行動の癖を覚え、相手の動きを読み切るからこそ機先を制することができる強力な踏み込みから、夕凪神無式剣術の一撃を繰り出し。
 時折放たれるメスも、しっかりと叩き落としながら。
 エウロペを守るように戦う。
 そして、頷いたエウロペに合わせ、大きく後ろに飛び下がった。
「虚実を喰らう獣。纏い・砕かれ・混濁に沈み、朔に眠れ」
 召喚されるのは、月を映す巨大な万華鏡。
 そこから幻想的な龍が創り出されて。
「華鏡は虚月に彷徨う(ルナ・スペクルム)」
 エウロペが振り下ろすようにして指し示した杖に従うように、氷のようにもガラスのようにも見える煌めく龍は、その身をくねらせて鳴宮・兼康へと向かった。
 美しい龍は、真正面から単純な動きで襲い掛かっていったから。
 鳴宮・兼康は、その長い身体を難なく鉤爪で斬り壊す。
 砕け散った龍の身体は、そのままキラキラと周囲を漂い。
 万華鏡に映る月光による幻を、魅せた。
 それは、エウロペが思い出して欲しいと願った光景。
 確かにあったはずの感謝の言葉。
『ありがとう、先生。僕を治してくれて』
『ほら、走れるようになったんだよ。見て見て、先生』
 元気になった者達から送られたものもあれば。
『最後まで諦めないでいてくれて、ありがとう』
『孫を見ることができたのは、先生のおかげです』
 救えなかった者達から送られたものも、ある。
「絶望という月に覆われて、キミの心を闇が支配しても」
 その欠片を覗き見ながら、エウロペは穏やかに微笑んで。
「希望という名の太陽は隠れてしまっているだけで、そこには在るはずだよ」
 ほらね、と告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と

全ては救えない
守ってなんかやれない

思い出すのは
戦場で犠牲になった兵士たち
さっきまで話してた相手なのに
もう居ないなんて、よくある話だ
病人と兵士じゃ立場は全然違うけどな

それでも
全部を救おうと
守ろうとするのがお前だろ

横目で先生へ語り掛ける彼を見る
敵にも情けを掛けるマコと
短い間だが関わってきた
だからコイツが考えそうな事も
よく知っている、よく分かる

…──本当にお前は優しいよ

悪友の名を紡いで槍を構える
一直線に見据えるは敵のみ

先生が何を感じても
オレには一切関係ねえ
ただ、オレは──
コイツの言葉が先生に響けば良いと思うよ

さあ、止めてやろうか
大勢の誰かを救ってきた手を
これ以上汚させねえように


明日知・理
ルース(f06629)と
アレンジ、マスタリング歓迎

_

…先生。
その無念も悔悟も到底計り知れない
だが、その方法が彼らに報いることだとは到底思えません
救えなかった命はあった
けれど貴方は

たしかに、誰かを救った

命を、心を、貴方は確かに救っていた
それは貴方が『医者』だったから
そんな貴方を俺は尊敬し
だからこそ──俺は貴方を此処で止めます

ルースとナイトを最優先に庇いつつ
俺自身も鳴宮医師の攻撃を出来うる限り受け流す
彼に誰かを傷つけさせたくない故

…先生
貴方は頑張りすぎた。だから少し休みませんか。
難しいこと考えるのは、起きてからにしませんか。
貴方さえ良ければ…俺にも一緒に考えたい
救うとは何か。
報いるとは、何かを──



「……先生」
 幻を映し出す煌めきの中で佇む鳴宮・兼康に、明日知・理(f13813)も声をかけた。
「その無念も悔悟も到底計り知れない。
 だが、その方法が彼らに報いることだとは到底思えません」
 全てに等しい終わりをもたらさんとする、絶望の医師。
 でも今、鳴宮・兼康を包むのは、感謝の言葉だから。
 数多の笑顔に加えて、理は。
「救えなかった命はあった。けれど貴方は」
 大切なことを。
「たしかに、誰かを救った」
 告げる。
 絶望に埋もれていた、確かな希望を示す。
「命を、心を、貴方は確かに救っていた。
 それは貴方が『医者』だったから」
 忘れないで。思い出してと。
 消えゆく幻と共に伝えながら。
「そんな貴方を俺は尊敬し、だからこそ……俺は貴方を此処で止めます」
 理は、すらりと妖刀『花驟雨』を抜き放ち、構える。
(「……本当にお前は優しいよ」)
 その姿を横目で見ながら、ルーファス・グレンヴィル(f06629)は小さく苦笑した。
 まだ短い間だけれども、敵にすら情けをかける理と関わってきた。
 だから、理が考えそうなことも、よく知っている。よく分かる。
(「全ては救えない。守ってなんかやれない」)
 思い出すのは、戦場で犠牲になった兵士たち。
 病人と兵士では、立場は全然違うけれども。
 さっきまで話してた相手なのにもう居ないなんて、よくある話だから。
(「それでも全部を救おうと、守ろうとするのがマコ……お前だよ」)
 ルーファスはいつもの軽薄な笑みを浮かべて。
「ナイト」
 悪友の名を呼んだ。
 肩に乗っていた黒竜は、再び槍にその姿を変え。
 その切っ先を花驟雨と揃える。
「さあ、止めてやろうか。
 大勢の誰かを救ってきた手を、これ以上汚させねえように」
 そしてルーファスと理は、鳴宮・兼康へと槍と剣とを振るった。
 早く正そうと、槍は一直線に鳴宮・兼康を狙い。
 全てを赦し包み込む雨の様な優しさで、剣は一閃を輝かせる。
「先生。貴方は頑張りすぎた。だから少し休みませんか。
 難しいこと考えるのは、起きてからにしませんか」
 その間にも、理は鳴宮・兼康に声をかけ続け。
(「先生が何を感じても、オレには一切関係ねえ」)
 ルーファスは、どこか動きの鈍った鉤爪に思う。
(「ただ、オレは……コイツの言葉が先生に響けば良いと思うよ」)
 理のその優しさが、絶望の向こうへ届くように。
 理の想いが、無駄にならないように。
 願いながら、槍を突き出し。
「貴方さえ良ければ、俺にも一緒に考えたい。
 救うとは何か。報いるとは、何かを……」
 そして理は、鳴宮・兼康へ手を差し伸べ続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニーナ・アーベントロート
🦇🌼

自分が不幸だから、助からなかったから
関係ない誰かを犠牲にしてもいいって
本気でそう思ってる人がいるなら、勝手すぎる
そんな自分勝手で、人の未来を奪っちゃ駄目だよ
医者だろうと、何だろうとね
救えなかった命があったのは本当だとしても
救えた命のこと、無視するのは違うと思う

菫さんが意識を逸らしてくれてる間に【力溜め】
…ありがと、これで行けるよ!
そっちが闇夜を生み出すのなら
あたしは月光で照らしてあげる
『ヴォルフ・エンハンス』で攻撃力を強化
物理防壁を張りながら前進し
右手の刃物に【先制攻撃】と【部位破壊】
消耗は【吸血】による【生命力吸収】で補う
…あたしの番が終わっても、彼女が
菫さんが、すぐそこまで来てるよ


君影・菫
🦇🌼

ヒトはみぃんな自分の命が大事
だから医者のヒトに皺寄せが行くんよね
その光景も識っとるよ
うちのいつかの持ち主かて命の儚さに嘆いたもの

識っとるから云うの
それを背負うのは医者や無いて
自分の命を背負うのは自分自身だけやわ

だから報いるなんて傲慢
キミだってヒトなんやから

先制攻撃と不意打ち仕掛けるジャックの葬は意識逸し
ニーナの準備迄のひと時
念動力で遊撃しながら意識は一点に向かんようにしつつ
自身とニーナにオーラ防御

ふふ、ニーナの次はまたうちの番
再び沢山のジャックを操っては
キミの絶望にサヨナラを

絶望の中には希望があるはずなんよ
キミの手は未だ救える手やろ
報いるてうなら誰かを笑顔にしてや
キミに届く有難うの為に



「自分が不幸だから、助からなかったから、関係ない誰かを犠牲にしてもいいって……
 本気でそう思ってるなら、勝手すぎる!
 そんな自分勝手で、人の未来を奪っちゃ駄目だよ」
 ニーナ・アーベントロート(f03448)は可愛らしくも精一杯、華奢な肩を怒らせて。
 むっとした表情で鳴宮・兼康を見据えていた。
 その怒りを愛おしく思いながらも、君影・菫(f14101)は宥めるように、両肩にそっと手を置く。
「ヒトはみぃんな自分の命が大事。
 だから医者のヒトに皺寄せが行くんよね」
 細めた瞳の色は、紫。
 緑色の髪に差された、菫の本体である簪に輝く石と同じ色。
「その光景も識っとるよ。
 うちのいつかの持ち主かて命の儚さに嘆いたもの」
 簪として、数多の命を見てきたからこそ。
 菫は知っている。
 鳴宮・兼康が間違っているのだと。
「識っとるから云うの。それを背負うのは医者や無いて。
 自分の命を背負うのは自分自身だけやわ」
 告げながら菫は次々と、糸の要らなくなったマリオネットを沢山召喚し。
 惨殺ナイフを生やしたそれを、操った。
「だから報いるなんて傲慢。キミだってヒトなんやから」
 槍から剣から、そして伸ばされた手から逃れた鳴宮・兼康を囲うように、四方八方を取り囲めば、一斉に踊るように襲い掛からせる。
 幻を紡ぐ無数の煌めきが既に地に落ちた中で。
 鳴宮・兼康の鉤爪が何体ものマリオネットをも落としていくけれど。
 それは菫による誘導。ニーナの準備が整うまでの意識反らし。
「ありがと、菫さん」
 どこからともなく木魂する狼の遠吠えを聞きながら、ニーナは繊細な象嵌を施した小振りのナイフに月光属性を与え。
 満月の魔力で強化されたその力を振るい、鳴宮・兼康へと飛び込んでいった。
「医者だろうと、何だろうとね。救えなかった命があったのは本当だとしても、救えた命のこと、無視するのは違うと思う」
 闇夜を月光で照らすかのように。
 言葉を投げかけ、そしてナイフを振るって。
 鳴宮・兼康の絶望を晴らすかのように、畳みかけていけば。
「ふふ、ニーナの次はまたうちの番」
 その後に続けと言わんばかりに、菫のマリオネットも再び襲い掛かり。
「絶望の中には希望があるはずなんよ」
 だから、まず絶望にさよならしようと菫は笑いかける。
「キミの手は未だ救える手やろ?
 報いるて云うなら誰かを笑顔にしてや」
 ……キミに届く、有難うの為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 鳴宮・兼康は薄闇に覆われた庭を駆ける。
 白衣の左側を血で汚し、右手の鉤爪を欠けさせて。
 猟兵達の追撃を何とか躱して。
 庭をただ駆ける。
「全ての生を、終わらせる……それが、救えなかった者への……」
 呟く声は、そうしなければならないと自身に言い聞かせているかのよう。
 絶望に縋りつくことを科しているかのようで。
「全てを終わらせなければ……」
『患者の望みは「生きたい」だろう!?』
 そこに、幾つもの言葉が蘇ってきた。
『生きたいと願う者が縋る先を失う事は、決して、救いではないのですから』
『お医者さんだってヒーローだって、生きる願いを……未来を守らなきゃ!』
 それまでは響かなかった言葉が。
『力及ばず救えないのと、積極的な殺人は別物です』
『生きたい人まで故意に手にかけるのは、救ってきた者を裏切る事だから』
『救えなかった人達に報いるというのなら、殺すのじゃなく生かしなさい』
 心にまで届かなかった言葉が。
『全ての生を終わらせることが報い、なんてのはお前のただの自己満足だ』
『死こそ救済だと信じるなら、如何してそんな報われない顔をしてるんです?』
 蘇り、届いてくる。
 そのきっかけは。
(「ああ、そうだ。あの少女だ」)
 視界に鮮やかな花が咲く。
『これがわたしの運命です。病なら今夜死んだとしてお医者様も世も恨みません』
 悔恨もなく、後悔もなく、ただ病を受け入れていた少女。
 受け入れながらも、生きることを諦めていなかった一輪の花。
 そして。
『思い出して欲しい。キミを絶望へ堕とす言葉ばかりじゃなかったはずだよ』
 絶望の怨嗟を払い、記憶の奥底から引き出された幻。
『貴方はたしかに、誰かを救った』
 強く、言い切ってくれた言葉もあった。
『全てを救えずとも、確かに君に救われた命もあったろうに』
『嘗てのあなたによって、多くの喜びと笑顔が生まれたのではないのですか?』
 信じてくれた言葉もあった。
『医者だろうと、何だろうとね。救えなかった命があったのは本当だとしても、救えた命のこと、無視するのは違うと思う』
『笑って礼を言う連中の顔を忘れたそのときにこそ、貴様は本当に、医者の資格を失くすと思うがな』
 医者であるなら、と背を押してくれた言葉も。
『アンタ医者で在り続けるんだろ? なら救いなよ』
『諦めないで。医者としての誇り、忘れないでよ』
 引き上げてくれる言葉も。
『キミの手は未だ救える手やろ?』
 いくつもいくつも。
『あなたも救えると俺は信じている』
 重なっていって。
『先生、お疲れ様です』
 ふと、鳴宮・兼康は肩に手を当て、立ち止まった。
 そっと黒瞳を伏せ、そこに感じた温もりを、思い出して……
鳴宮・心
【ローグス】
お師匠

こう実際に見ると足が竦むものがありますね
気付けば仲間を見守るばかりです

その据わった目も、不機嫌そうな表情もいつも通り
でもその言葉は種族に関わらず命を救うことに全力を尽くしていたお師匠とは思えないもの

今だけはお薬に逃げるのでは無く…自分の言葉で、自分の殺意で以って殺してあげます
殺戮衝動を使用し、全力で以って殺戮刃物で切り刻む

お師匠っ! 何逃げてんだよっ!?
全部は救うことが出来ないって…それでも医者は少しでも多く救う為に、受け止めすぎちゃいけないって
救えたら誇れって、でも及ばなければ心の整理をつけろって
あんたが言ってたじゃないかよ

そんな現実逃避してないで、さっさと成仏して下さいよ


網代・徹
【ローグス】

なァんだ、鳴宮先生のお師匠様ってェから、どれだけクレイジーな方かと思えば。
アンタ、逃げたんですかィ。

敵さんがSPDの攻撃を使用したら、防御としてUC【天網恢恢】の網目を細かくして使用。
自分にも味方にも当たらないよう、毒メスを受け止めてくるりと丸め込む。
残念!特注なんで切れもしないんですよォこの網。便利でしょゥ。網はまだまだありますんで、いくつでもどォぞ。

ァ、いえね?色んな毒物なんてオイシイ…違う、売れそうな…あァいやいや、危なげな代物、ちゃァんと回収しなきゃなァーって

私はただの道具なんで、そんな高尚な悩みなんざ抱えたことァねェですが。
逃げた先ァ、いかがです?
随分惨めに見えますよゥ。


駒鳥・了
【ローグス】
なるみーさんのおっしょさん、ばんはー!
ホントに無精ひげお揃いだ!(けらけら

でも逃げ先は薬じゃなくて殺人か
真面目人間て自分を追い詰めるとロクなコトしないね!

久しぶりに魔力解放して斬りこみ!
魔法剣にUCを纏わせ防御力を上げ
反対の手はナイフで適宜攻撃!
攻撃カウンターやら相手のナイフの切払いもするけど
その右手の関節、斬り結んだ後にも爪が動くの超面倒
なるみーさんの援護だし引きつけるのにいーんだけどさっ!

おっしょさんさー
人間、ヤな思い出の方が強烈らしーけど
助けられた人の笑顔とか言葉とかはなんも覚えてないの?
未だめっちゃ懐いてる人が少なくともそこに一人いるじゃん
これ以上暗い記憶増やすのやめない?


マディソン・マクナマス
【ローグス】で参加

庭に踏み込んだ鳴宮(敵)の足元に、庭に浮遊させておいたUC【自爆特攻中古ドローン】を1機突撃させて牽制
10mmサブマシンガンを向けながら、予め断りを入れて置く

「お医者の先生ェ、こっちゃぁ5人がかりだが……よもや卑怯とは言わねぇよな?」

無数のドローンの自爆突撃で敵の移動経路を限定、味方に投擲された毒物付きのメスも爆風で弾き飛ばし、後方で味方の支援に徹する
爆破で無残に破壊されてゆく庭園を眺めながら、鳴宮(味方)の様子を横目で見やる

(んー、鳴宮さんは動かねぇか? 別に構わねぇが……どうすっかねぇ、俺が口挟む事じゃねぇしなぁ。ま、本人がいいならそれでいいがよ……)


刹羅沢・サクラ
【ローグス】

世直しなどとは申しませぬが、ひとつ殺しの時間と参りましょうか
あたしは人斬りの忍。人命を救うお仕事とは真逆なるもの
人が死ぬるは必定なれば、殺すに易く、生かすに難い
……薄汚い人斬りから言わせていただくなら、つまり貴方は、楽な方に逃げるわけですね
実に結構。

刀と手裏剣の二刀で戦います
やはり斬り合ってこそですね
とはいえ、忍は化かしてこそ
残像と鴇追雷穿華の狐火を駆使して【咄嗟の一撃】で手裏剣を撒き周囲を火で囲い牽制を中心に立ち回りましょう
命を取るよりも、身体の機能を奪う戦いで削っていきましょう

人は失敗に学ぶものですが、成功でしか喜べぬものです
貴方はその失敗に、満足がいっているのですか?



「あーっ。なるみーさんのおっしょさんだ。ばんはー!」
 場違いな程明るい声に鳴宮・兼康が顔を上げると、そこにはけらけらと楽し気に笑う駒鳥・了(f17343)がこちらを指差していた。
「ホントに無精ひげお揃いだ! ほら、見て見て」
 ぶんぶんと手を振って他の皆を呼び寄せる。
 そんな物見遊山な了に、おや、と刹羅沢・サクラ(f01965)が、ほう、とマディソン・マクナマス(f05244)が続き。
「なァんだ、鳴宮先生のお師匠様ってェから、どれだけクレイジーな方かと思えば。
 アンタ、逃げたんですかィ」
 へらりと笑う網代・徹(f30385)の後ろで、鳴宮・心(f23051)が佇む。
 了は、ん? と一瞬首を傾げて、でもすぐにまた笑い声を上げ。
「でも逃げ先は薬じゃなくて殺人か。
 真面目人間て自分を追い詰めるとロクなコトしないね!」
「薬もどうかっちゃどうかと思いますがねェ」
 徹と2人で陽気に、挑発ともとれる言葉を交わす。
 そんな騒がしい様子を、鳴宮・兼康はじっと見つめていたが。
 はっと気づいて飛び下がる。
 その足元にいつの間にか、自爆特攻中古ドローンが1機、静かに迫り、鳴宮・兼康が避けた地面にぶつかると爆音を立てた。
「お医者の先生ェ、こっちゃぁ5人がかりだが……よもや卑怯とは言わねぇよな?」
 にやりと笑って告げたマディソンは、すでに10mmサブマシンガンを構え、しっかりとその銃口を鳴宮・兼康へ突き付けている。
 あっさりと戦闘態勢に入っているのを見て取った了は。
「じゃあオレちゃん斬り込み!」
 直刀の魔法剣を携え、魔力で防御力を上げつつ飛び込んでいった。
「魔力開放久しぶりー」
 楽し気な声と共に剣を振り、迎撃する鳴宮・兼康の鉤爪と斬り結んでいくけれども。
 1本の剣に対して4本の鉤爪。
 さらに、指のように関節のある刃は、剣とは違う動きを見せるから。
「あー、これ超面倒っ」
 了は、むう、と口を尖らせ文句をつける。
(「まあ、なるみーさんの援護だし引きつけるのにいーんだけどさっ!」)
 本当の狙いはそっと胸中でだけ呟いて。
 なんだかんだと斬り合っていくそこに。
「世直しなどとは申しませぬが、ひとつ、殺しの時間と参りましょうか」
 鍔にカササギを象った日本刀で、サクラが加わった。
 剣と刀と鉤爪とが、リズムよく噛み合っていく。
「あたしは人斬りの忍。人命を救うお仕事とは真逆なるもの」
 その最中、サクラは呟くように声をかけ。
「人が死ぬるは必定なれば、殺すに易く、生かすに難い。
 ……薄汚い人斬りから言わせていただくなら、つまり貴方は、楽な方に逃げるわけですね。実に結構」
 動揺の1つも誘えるかと挑発を試みてみるけれども。
 鳴宮・兼康の表情も、鉤爪の動きも変わらぬまま。
 なれば、とサクラは刀を振る動きの中で、狐火を宿した手裏剣を撒いた。
 牽制の動きに、鉤爪と刃が離れ。
 サクラと共に了も一度後ろに下がる。
 その空いた間を埋めるように、メスが放たれた。
 飛び来るその刃の輝きは、金属のものだけではなく、明らかに何かが塗られていて。
 かすることすら本能的に忌避するその色合いが輝くと。
「さて、どォぞ」
 のんびりした声と共に、徹が背負子から謎素材の網を放り投げた。
 いつもより網目の細かい網は、毒メスを受け止めるとくるりと丸め込み。
「この網。便利でしょゥ。
 特注なんで切れもしないんですよォ」
 へらりと笑いながら、徹は丸めたのとはまた別の網も取り出して見せる。
「網はまだまだありますんで、いくつでもどォぞ」
「おぉ? 商売人が大盤振る舞いたぁ珍しいんじゃねぇの?」
 その様子に、マディソンが心底不思議そうに問いかけるけれども。
「ァ、いえね? 色んな毒物なんてオイシイ……違う、売れそうな……あァいやいや、危なげな代物、ちゃァんと回収しなきゃなァーって」
 徹から返ってきた誤魔化しきれてない答えに酷く納得して、それじゃこっちも、とマディソンも動き出した。
「爆薬載せたドローンが、自動操作アプリでお手軽ミサイルに……
 全く良い時代になったもんだ」
 最初に鳴宮・兼康の足元を狙ったのと同じドローンを今度は幾つも飛ばして。
 相手の動きを限定し、逃走阻止に動かしていく。
 脅しで進む先を爆破してみたり。
 投げられたメスに突っ込ませて、爆風で弾き飛ばしてみたり。
 なかなか景気のいい爆音が、定期的に庭園に響いていく。
 結果、庭園の景観がどうなっているのかは、推して知るべし。
 けれども、そんなことは欠片も気にせず。
 マディソンが目を向けるのは、今だ立ち尽くしたままの心だった。
(「んー、鳴宮さんは動かねぇか? 別に構わねぇが……」)
 鳴宮・兼康が、心と同じ苗字を持つ相手が、彼の師であることは聞いている。
 いわゆる1つの『因縁の相手』のはずなのだが。
 このままだと心抜きで決着をつけてしまいかねないとも思うけれど。
 心本人が動かないのであれば、マディソンにはどうすることもできない。
(「どうすっかねぇ、俺が口挟む事じゃねぇしなぁ。
 ま、本人がいいならそれでいいがよ……」)
 なるようになるか、と割り切って、マディソンはまたドローンを操った。
 了もサクラも刃を繰り、徹もせっせと網を投げ。
 戦い続ける仲間を見守るばかりの心は。
(「お師匠……」)
 その戦いの渦中にいる黒づくめを目で追い続ける。
(「こう実際に見ると足が竦むものがありますね」)
 据わった黒瞳も、不機嫌そうな表情も、記憶にあるいつも通り。
 でもその言葉は、種族に関わらず命を救うことに全力を尽くしていた師匠とは思えないものだったから。
 心は、いつも吸っているハッピーパウダーを、そっとしまう。
 今だけは、薬に逃げるのではなく。
 自分の言葉で。自分の殺意で。
「殺してあげます!」
 心は、鍛えられたメスを据えた殺戮刃物を、師が振るうものと同じ刃を右手につけ、鳴宮・兼康へと迫った。
「お師匠っ! 何逃げてんだよっ!?」
 切り結びながら、こみ上げてくる思いを心はそのまま吐き出していく。
「全部は救うことが出来ないって……
 それでも医者は少しでも多く救う為に、受け止めすぎちゃいけないって。
 救えたら誇れって、でも及ばなければ心の整理をつけろって。
 あんたが……他の誰でもないあんたが言ってたじゃないかよ!」
 医者としての知識も技術もそうだが、何より心得を教えてくれたのが師だった。
 なのに。それなのに。
 そう言っていた人が、殺すことが救いだと言う。
 全てを受け止め壊れていったと言う。
 それが、信じられなくて。
 受け入れたく、なくて。
 心は右手の鉤爪に思いっきりその憤りをぶつけていった。
「おっしょさんさー」
 その様子を眺めて、了も声をかける。
「人間、ヤな思い出の方が強烈らしーけど、助けられた人の笑顔とか言葉とかはなんも覚えてないの?」
 剣を携えたまま、戦いには割り込まずに。
 言葉だけを、届ける。
「未だめっちゃ懐いてる人が少なくともそこに1人いるじゃん
 これ以上暗い記憶増やすのやめない?」
 師弟の斬り合いを、物騒な語らいを、乱入して邪魔する無粋な真似はせずに。
 徹も、丸めた網をほどき、中から取り出したメスを眺めながらにやりと笑い。
「私はただの道具なんで、そんな高尚な悩みなんざ抱えたことァねェですが。
 逃げた先ァ、いかがです? 随分惨めに見えますよゥ」
 しかし、鳴宮・兼康が挑発に乗ることもなく。
「いやァ、私らはお邪魔なようでさァ」
「そのようだ」
 マディソンも、逃走防止にドローンを配置しつつ、戦いの推移を見守るのみ。
「人は失敗に学ぶものですが、成功でしか喜べぬものです。
 貴方はその失敗に、満足がいっているのですか?」
 サクラも、師弟を囲む青白い炎の調整だけを行いつつ、問いかけだけを投げた。
 答えは、サクラにはない。
 でももしかしたら、斬り結ぶ心には伝わっているのかもしれないと。
 時折メスも交え、躱される斬撃を皆で見守り。
「そんな現実逃避してないで、さっさと成仏して下さいよ!」
 大きく右手を弾き上げた直後、即座に振り下ろした心の刃が、鳴宮・兼康の身体に深く深く、5本の傷跡を刻み込んだ。
 それは、鳴宮・兼康の鉤爪が4本に欠けていたからであり。
 左腕に幾つも傷を負っていたからでもある。
 これまでの猟兵達の想いが重なった上での、一撃。
 ふらり、と傾いだ鳴宮・兼康はそのまま地面に倒れ伏し。
「お師匠!」
 反射的に心が駆け寄った。
 だが、倒れた鳴宮・兼康を抱き起すでもなく。
 傍らで足を止め、虚ろな黒瞳を宙に向けるその姿を見下ろすのみ。
 血に染まった白衣の上に、黒づくめの服の上に、静かに薄紅の花弁が降り注ぐ。
 気付けば、その場所のすぐ傍には、大きな幻朧桜が生えていて。
 咲き誇る花枝が、招くように、穏やかな夜風に揺れる。
「お師匠……」
 そして、薄紅舞う夜闇の中で。
 絶望を纏っていた黒づくめの医師は。
 穏やかに、その虚ろな黒瞳を閉じた。

『先生、お疲れ様です』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月14日
宿敵 『全てに絶望した医者『鳴宮・兼康』』 を撃破!


挿絵イラスト