退廃都市からの脱出は嵐の如く
振り下ろされた刃を、両手に握った長剣で弾いた。
ぐわんと鈍い音が響く。錆の浮いた粗悪な剣は、たったの一合で刃毀れしてしまった。
目の前で、剣を弾かれた少年が尻餅をつく。目尻には涙が浮かび、歯はがくがくと震えている。弾かれた剣の柄は、とうに少年の指からすっぽ抜けていた。それでも、彼は必死になって両手を前に突き出している。
(そんな目で見るなよ……!)
震える少年は、たぶん、『ぼく』と同じくらいの歳だ。きっと、今の境遇も同じ。
名前も知らない彼の唇が小さく動く。「助けて」と言われた気がした。
視界が滲む。零れた涙が頬を伝うのを感じた。
……けれども、ぼくに、彼を助けることはできない。
スコールのような叫びが周囲から轟々と響いている。『ショー』に集まったならず者たちが、金網のフェンスにかぶりついて熱狂のままに「殺せ!」と合唱していた。
殺さなければ、殺される。耳がおかしくなるような狂騒の中、ぼくは、錆びついた刃を持ち上げた。
●
「ヴォーテックス・シティ、という都市がある」
作戦机に広げられたアポカリプスヘルの広域地図。京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)の指先がその一角に円を描いた。円に囲まれた範囲は、かなり広い。曰く、ニューヨークの二倍はあるという。
悪と狂気の『ヴォーテックス一族』が支配する、超・超・巨大都市。それが今回の事件の舞台、『ヴォーテックス・シティ』であった。
「都市を支配するヴォーテックス一族は、複数のレイダー・キングを配下とする、いわば『キング・オブ・キングス』とも言うべき強力なオブリビオンの一族だ。……残念だけど、彼らと正面からことを構えるには、今はまだ準備不足と言わざるを得ない」
伏籠から溜め息が零れる。眉間には皺が寄っていた。彼は二、三度首を振り、努めてフラットな口調で話を続ける。
「この都市には世界各地のキングたちから大量の物資や奴隷が上納されている。それも、ほぼ毎日。今回みんなに頼みたいのは、その中でも特に命の危機にある奴隷の救出だ」
伏籠が予知したところによると、話はこうだ。
ヴォーテックス・シティには『闘技場』と呼ばれる施設が点在する。といっても、古代のコロッセオのような立派なものではない。金属製のフェンスで四方を囲った、路傍に設えられた小さなステージだ。俗に言う、『金網デスマッチ』に近い。
「この『闘技場』で見世物にされるのは、各地から拐かされた少年少女の奴隷たち。……子ども同士の、殺し合いだ」
言葉の端には隠し切れない苦々しさがあった。言葉を切り、伏籠は赤ペンで地図上にいくつかの赤丸をつける。どうやらそこが闘技場の位置らしい。
「介入しなければ、子どもたちは互いに殺し合って、全滅する。僕たちの目的は彼らの救出。いいかい? 子どもたちを連れて都市から脱出するまでが作戦だよ」
「順を追って確認しよう。作戦は大きく分けて二段階ある」
そう言ってグリモア猟兵は指を二本伸ばす。
「ひとつ。『闘技場』から子どもたちを解放すること」
子どもたちが囚われているのは、前述のとおり、金網に四方を囲まれたステージだ。作るのが面倒だったのか、天井はガラ空き。施設としての防御力は甘く、観戦する多数のならず者たちも下級のレイダーばかり。
猟兵であれば、乱入することは容易だろう。正面からならず者をボコボコにするもよし、何らかの策を講じるもよし。子どもたち(おそらくは対戦者の2人。余裕があれば、近くに囚われている他の子を探すことも可能かもしれない)を連れて『闘技場』から離れることができれば第一段階は完了だ。
「ふたつ。子どもたちを連れて都市から脱出すること」
『お楽しみ』を邪魔されたならず者たちは当然ながら追っ手を放ってくる。奇妙なクルマに乗った、機動力重視の追跡部隊だ。彼らとはチェイスしながらの戦闘となるだろう。
巨大都市、といってもそこはアポカリプスヘル。その街並みは都市の残骸や機能停止した重機、巨獣の骨や巨大洞窟が複雑に組み合わさった混沌としたものだ。街路は入り組んでいて、遮蔽物や物陰も多い。また、鍵の掛かっていないクルマもそこら中に放置されている。めぼしいマシンがあれば、奪って利用することも可能だろう。
「もちろん、自前のマシンを持ち込むのも有効だと思うよ。助けた子どもを乗せてもいいし、追跡部隊の機動力に対抗できればかなり有利になるはずだ」
そう、戦場にいるのは猟兵だけではない。救出した子どもたちのフォローも大事な要素だ。何かしらの手助けがなければ、子どもたちの足では、すぐにならず者に捕まってしまうだろう。
「……おそらく、下位の追跡部隊を蹴散らせば、レイダー・キング級のオブリビオンが出張ってくると思う。とんでもないモンスターマシンでデタラメに街を破壊しながら追跡する『焔の男』が、予知に垣間見えたからね」
オブリビオンが立ち塞がるなら、倒さねばならない。けれどもやはり、一番の目的は都市からの脱出だ。追跡者のモンスターマシンに対抗する手段があれば、より安全に事を進めることが出来るだろう。
ひと通りの説明を終えて、グリモア猟兵がヴォーテックス・シティへのゲートを開く。ひとまずの転送先は都市から離れた位置らしい。枯れ果てた荒野の向こうに、歪に入り組んだ奇妙な都市が見えた。
時刻は夕刻。怪しげなネオンや電飾がパラパラと点灯を始め、あちこちで赤々とした篝火が燃えている。『ショー』は日が落ちてから始まるというが、あの様子では都市の内側は昼間のような明るさだろう。闇が支配する荒野とは対照的。まさに、眠らない街だ。
「紛うことなく敵の拠点への殴り込みだ。無茶はしても無理はしないでくれ。……子どもたちのこと、頼んだよ、イェーガー!」
灰色梟
ヒャッハー! 新鮮な世紀末だァ! こんにちは、灰色梟です。
今回の事件は、アポカリプスヘルに存在するオブリビオンの一大拠点へのカチコミとなります。いくつか特殊なプレイングボーナスがあるので、下記をご確認ください。
シナリオ構成は一章が子どもたちの救出(冒険)、二章と三章がならず者との戦闘となります。
二章・三章の戦闘では、ほぼすべての敵がクルマ等に乗って猟兵たちを追ってきます。都市の中でカーチェイスとバトルが同時に行われるわけですね。追跡してくる敵の機動力に対抗することができればボーナスとなります。
また、大ボスも危険なモンスターマシンに乗り込んで猟兵たちを追跡します。ボス自身の能力だけではなく、モンスターマシンへの対策があればより有利に戦うことが出来るでしょう。
それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。一緒に頑張りましょう!
第1章 冒険
『セーブ・ザ・スレイブ』
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POW : レイダーを腕力で成敗する
SPD : 逃走経路を探し、秘密裏に奴隷を逃がす
WIZ : 自身もあえて奴隷となり、現地に潜入する
👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
稷沈・リプス
アドリブ歓迎っす。自称人間な神。
混沌は好きっすけど、退廃はいただけないっす。
ふむふむ、闘技場は『天井ガラ空き』。
このUC向きな場所っすね!
闘技場に突撃後、空中にむかってUC発動っす!舟召喚!
皆ー!矢とか魔法とか、レイダーに向かって、『太陽』属性攻撃一斉発射するっすよー!
大丈夫、秩序大好きな元の持ち主(故人)も笑って許すどころか『いいぞもっとやれ』って言ってくると思うっすし。
その間、俺は子ども達保護するっす。
大丈夫っす、その武器、もう手を離していいんっす。
すぐには信じられないと思うっすけど、助けにきたんすよ、俺たち。
※本当に借りてたので、詠唱も『借りてた』で済ますのがリプスクオリティ。
雲の無い夜だった。月は丸く、高い場所で輝いている。
けれど、人々がその柔らかい光に気付くことはなかった。街の灯りが強すぎるのだ。毒々しいネオンの蛍光と、荒々しい篝火の赤とがシティを満たしている。
『闘技場』の周囲には、篝火が殊に多く設置されていた。ステージの上から夜の闇を拭い去るように、四方八方から赤い光を注いでいる。
「おら、さっさと入れっ! ぐずぐずするな!」
「うあっ……」
ぎぃ、と軋みを上げて金網フェンスの一角が開く。拐かされた少年が、ならず者に蹴りつけられながらステージに放り込まれた。そのちょうど対角からも、別の少年がフェンスの内に投げ込まれている。
揺らめく炎に、金網の影が蛇のようにステージを蠢いていた。ぐねぐね、ぐねぐねと少年たちの不安を煽る。
錠の落ちる金属音が冷たく響く。逃げ道が、塞がれた。少年の目が彷徨い、足元に転がる剣に気付いた。あらかじめ置かれていたのだろう。錆びついた、ぼろぼろの長剣。縋るように、その柄を握って持ち上げた。
「はぁ……はぁ……」
喘ぐように息を吐きだす。少年の視線の先で、対戦相手が同じように粗悪な剣を握っていた。その更に後ろには、フェンスの外からならず者が銃を向けているのが見える。
振り返る勇気はない。けれども、きっと少年の後ろにも同じようなならず者がいるのだろう。闘わなければ、撃たれる。彼らに、選択肢はない。
フェンスに張りついた見物客が興奮しながら金網を揺らす。篝火にぐにゃぐにゃと照らされた彼らの狂笑は、少年たちにはバケモノにしか見えなかった。
「う、あぁあ!」
味方は、誰もいない。わけもわからず、少年は吼えた。対戦相手も口を開いている。なにを叫んだのか、その声は観衆たちの野次に掻き消されて、少年に届くことはなかった。
剣先を引き摺りながら、少年が走る。対戦相手と、ほとんど同時だった。
あっという間に距離が詰まる。少年たちは、もう何も考えられない。その目に映るのは『敵』の姿だけ。ただ本能に従って、生きようと、必死に剣を振るおうとする。
流血の予感に、ならず者たちのボルテージも最高潮となった。意味不明の叫び声を上げる彼らの視線も少年たちに釘付けになっている。
――だから、空から『救い』が降ってくることに気付くものは、誰もいなかった。
「はい、そこまでっすよ」
音もなく、という言葉が相応しい。ステージに降り立ち、少年たちの間に割って入った稷沈・リプス(明を食らう者・f27495)は、振り下ろされた両者の剣の腹に掌を当て、なんでもないようにその軌道を逸らした。
「わ、わ……」
「……え、あ、あれ?」
空を切った刃の重さにたたらを踏んだ少年たちが、混乱した表情で目をぱちくりと動かした。彼らの前に現れたのは、ダボっとしたシャツを着た、黒髪の男だった。飄々とした笑みが口元に小さく浮かんでいる。もちろん、少年たちの知った顔ではない。
「さてさて。混沌は俺も好きっすけど……」
ぐるりと周囲を見渡して、リプスは肩を竦める。虚を突かれて固まっていたならず者たちが、だんだんと再起動を果たしていく。小さなざわめきは、すぐに群れなす怒号へと変わっていった。
「退廃はいただけないっすね」
「っ、おい、テメェ! いったいどこの――」
デスマッチの仕掛け人である銃を持ったならず者が吠える。その言葉を、リプスは人差し指を己の唇に当てることで遮った。
あまりにも自然なその所作にならず者がほんの一瞬言葉を見失う。その僅かな間隙を使って、リプスは唇の人差し指を天に向けて高く伸ばした。
「これも借りてた権能っすけど。今回ばかりは、笑って許してくれるっすよね!」
秩序大好きな『元の持ち主』の顔を思い浮かべて、リプスは口元を緩ませる。ともすれば『いいぞもっとやれ』という声さえ彼方から聞こえてくる気がした。
高らかに響いたリプスの声と大袈裟な仕草に、ならず者たちが一斉に首を上方へと傾ける。はじめ、彼らは『ソレ』に気付くことは出来なかった。
なにしろ『月の形』を気にする者など、彼らの中にはほとんどいなかったのだから。
「な、なぁ。なんかおかしくねえか?」
「おいおい、なんだありゃあ!」
丸かったはずの月が欠けている。否、正確には月の光を遮って、大きな何かが浮かんでいるのだ。
一部のレイダーが異常事態に気付くが、もう遅い。『浮遊する大型木造船』に乗り込む戦士の幽霊たちは、既に周囲一帯を射程に収めていた。
「皆ー! レイダーたちに『太陽』を降らせてやるっすよー!」
夜の舟(ウイア・メセケテト)の縁から、動物の頭部を持つ人間たちが姿を覗かせた。地上に向けられた弓矢と魔法杖の先端に、太陽の輝きが宿る。
銃を持ったレイダーが咄嗟に銃口を上空に向ける、が、放たれた弾丸は船まで届くことなく闇に消えていった。危険を察知したならず者の群れが互いに揉みくちゃになりながら逃げようとする。
その背を目掛けて、『太陽』属性の一斉射が降り注いだ。
「もう大丈夫っす。その武器、もう手を離していいんっすよ」
夜の闇も、ぎらついたネオンも、荒々しい篝火も、太陽の光がまとめて押し流した。闘技場の真上に座する夜の舟は、真下にあるステージだけを避けて光の雨を降らし続けている。周囲から注ぐ暖かな光だけが、少年たちを包んでいた。
……あっちこっちからレイダーたちの悲鳴が聞こえてくるのは、まぁ、些細なことだ。
「だ、だいじょうぶって、そんな、なに言ってんだよ……」
「にいちゃんは、何者……?」
少年たちの表情に浮かぶのは、混乱と警戒。無理もない。拐かされてからずっと、彼らは奴隷として扱われてきたのだ。見知らぬ他人というだけで、彼らの身体は恐怖と緊張に強張ってしまう。
それでも、少年たちの瞳には僅かな光が残っていた。希望を信じようとする、小さな光だ。リプスは膝を折り、少年たちと目線の高さを合わせて、ゆっくり、しかしはっきりとした口調で彼らに語り掛けた。
「すぐには信じられないと思うっすけど……、助けにきたんすよ、俺たち」
柔らかい笑みだった。ならず者たちの下卑な笑いとはまるで違う。
少年たちがそういう笑みを最後に見たのは、奴隷にされる前のことだった。掌から長剣がするりと落ちて、乾いた音を鳴らして地面に転がった。
ぺたりとへたり込み、呆然とリプスを見上げる少年たち。涙が溢れた彼らの瞳には、失われていた生気が戻りつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
比野・佑月
うーん、これはびっくりするほど悪い子でいっぱいだ!
為す術もない弱者の自由を奪うのは我慢ならないなぁ、俺。
――というわけで。
場内乱入といえばやっぱり動物じゃない?
【眷属招来・饗】で相棒召喚!
饗、いってこーい!食べていいのは観客の方だけだからよろしく!
さてさて、なんかすでに大騒ぎみたいだし。
今のうちに他に囚われてる子とか探してみようかな?
陽動作戦ってやってみたかったんだよね。
ブリキの玩具に取り憑いてる恍の【野生の勘】とか
他の眷属たちの犬の嗅覚も頼りにしながら近くの室内を捜索するよ。
見つかったら怖がらせないようしゃがんで視線を合わせ、
もう大丈夫だからねと声を掛けて微笑むよ。
レテイシャ・マグナカルタ
アドリブ連携歓迎
空を飛んで二人の間に高速で落ちて割って入る
剣は手の平で傷無く受け止め握り砕く
殺さなければ殺されると、武器を壊された事に絶望を感じるだろうよりも早く両手を伸ばして二人を胸元に抱き寄せる。人の熱を伝える
「頑張ったな、もう大丈夫だ。助けにきた!」
分りやすく短い言葉に伝えるべき気持ちを全て乗せる
金網の向こうから罵声が出れば
「うるせぇっ!!」
怒りのままに一喝、子供達をその場に少し離れて全力で地面を踏み抜きアスファルトを砕く。その巨大な塊を片手で楽々と持ち上げ四方に投げつける
「他の皆がいる場所はわかるか?」
観戦者がダメージを受けたり混乱している隙に子供達を抱え、他の奴隷達の元へと急ぐぜ
セシリア・サヴェージ
子どもに殺し合いをさせるショーなど……悪趣味という言葉では足りません。
必ず子どもたち全員を脱出させ、そして非道の王には相応しい罰を与えます。
仲間の手によって対戦者の二人は確保できましたね。ですが他にも捕らわれている子どもはいるはず。
控室、あるいは牢獄のような場所があるはずです。予め韜晦のローブを羽織って【目立たない】ように【変装】して潜入・捜索します。
子どもたちを発見したら周囲のレイダーを撃破して安全を確保します。
あとは逃走するのみですが万一追手に追いつかれては子どもたちに危険が及ぶ可能性があります。
ここは一旦UC【深淵に至る門】で子どもたちと共に仲間の元へと合流しましょう。
同時刻、『見世物デスマッチ』は別の闘技場でも開催されていた。
ドラム缶の篝火が照らすステージで、二人の少年がじりじりと間合いを測っている。金網の外で飛び交うならず者たちの喧しい野次が、彼らの心をどんどん追い詰めていた。疲労と恐怖からか、双方の剣の切っ先はふらふらと揺れている。
「おい、テメェら! いつまでダラダラやってんだ!」
「血ぃ見せろや! 血をよォ!」
ひときわ大きい怒号。少年たちの肩がびくりと震える。
次いで、銃声。監視役のレイダーが、銃口を空に向けて引き金を引いたのだ。
その轟音に急き立てられ、少年たちの思考が真っ白に染まる。
「ッ、あぁあああ!」
突撃したのは、ほとんど反射からの行動だった。
少年たちの錆びついた刃が振りかぶられる。どちらも、防御のことなど頭になかった。
不格好に、がむしゃらに、その刃が振り下ろされる、その寸前。
流星が、夜空を裂いて舞い降りた。
「頑張ったな、もう大丈夫だ!」
アスファルトのステージに映る竜翼の影。翻る豊かな金の長髪。金網のフェンスを飛び越えて、レテイシャ・マグナカルタ(孤児院の長女・f25195)がステージの中央に高速で落下する。
振り上げられた二つの剣のド真ん中。躊躇いもなく割って入ったドラゴニアンの少女が、粗悪な刀身を掴んで砕き割る。
少年たちの瞳が混乱と絶望に揺れる。砕かれた剣は彼らにとって恐怖の象徴であり、しかし同時に、縋らざるを得ない小さな希望でもあった。
大きく目を見開き、身体を硬直させる子どもたち。だが、彼らが崩れ落ちるよりも早く、レティシャは少年たちの小さな身体を両手でぎゅっと抱き寄せた。
「安心しろ。助けにきた!」
事情も、理由も、名前すらも告げない短い言葉。
けれども今この瞬間、少年たちを包んだヒトの温かさは、彼らにとってどんな言葉よりも雄弁だった。
思いの丈を詰め込んだレティシャの言葉が、熱を取り戻した少年たちの心にじわりと沁みていく。強張った指の力が自然と抜ける。粗悪な剣が掌から滑り、コンクリートの地面にからりと転がった。
「ぁ……ぅう……」
「大丈夫。もう大丈夫だ」
少年たちの口から言葉にならない嗚咽が漏れる。胸元に抱きしめた震えるその背中を、レティシャの柔らかい掌が優しくさすっていた。
「て、テメェ! なにしてやがんだ!」
「ザケンなよ! ぶっ殺すゾ、オラァ!」
一拍遅れて、ならず者たちの怒号が次々とステージに叩きつけられる。頭を沸騰させた悪漢たちの品の無い罵声。その脅しに、少年たちの肩がびくりと震えた。
不安を拭うように、レティシャの掌が少年たちの頭に置かれ、くしゃくしゃとその髪を撫でる。彼らを背に庇い、怒れるドラゴニアンはゆっくりと振り返る。
「うるせぇっ!!」
激声一喝。ビリビリと夜の空気が震える。フェンスに張りついていた最前列の悪漢たちが、思わずのけ反った。
背後の少年たちを手で制し、『力持ち』の少女が数歩前に出る。アスファルトのステージにこつこつと響く足音。少年たちから少し離れた場所で彼女がピタリと足を止めた、次の瞬間。
「せぇ、のっ!」
レティシャの脚が地面を全力で踏み抜き、アスファルトの岩盤を大小に割り砕いた。
「んなっ……」
大地を揺るがす破砕音に、何かしらを吠えようとしたならず者たちがあんぐりと口を開けて固まった。呆けた表情を晒す彼らの眼前で、レティシャが地面の割れ目に指を突っ込んで、巨大なアスファルト片を持ち上げた。身の丈ほどもありそうなその岩盤を、彼女は片手の指で軽々と掴み、ぶんぶんと振り回しながら加速をつけている。
「っべえぞ!」
「逃げろ! ぐ、おい、押すんじゃねえ!」
ゾッとした気配に、最前列のならず者たちが慌てて逃げようとする。が、悪漢たちに統制などがあろうはずもない。好奇心に駆られた後列の動きとかち合い、フェンスを取り囲む群衆はあっという間に混沌の渦に陥ってしまった。
押し合いへし合いを繰り返し、二進も三進もいかなくなってしまったならず者たち。その頭上を目掛けて、レティシャがコンクリートの塊を思い切り投げつける。
「道を開けてもらう、ぜ!」
ぐおんと空気が撓む音。投擲された大質量の岩盤が、ステージを取り囲む金網に突き刺さる。抵抗は、ほんの僅か。四方の金網を繋ぎ止める金具があっという間に限界を越えて破損。アスファルトを受け止めたフェンスは、大きく拉げながらならず者たちに向けて倒れていった。
当然、ならず者たちは阿鼻叫喚の大混乱だ。
「すごい……」
ステージに立ち尽くす少年が思わず呟きを零す。あれほど強固に思えたフェンスが、あっさりと突破できてしまった。ひと仕事やり終えた表情でこちらに歩いてくるレティシャを、少年たちは熱っぽい瞳でじっと見つめている。
その視線を知ってか知らずか、彼らの傍らに立ったレティシャは「よし!」と気合をひとつ。ぐい、と両腕を伸ばし、驚く少年たちを一息に両脇に抱え上げた。
「わ、わわ」
「二人とも。他の皆がいる場所はわかるか?」
レティシャの真剣な問いに、咄嗟に身を捩じろうとした少年たちの動きが止まる。それを問う意図は、少年たちにも理解できた。
無茶だ、と思う。
……けれども、もしかしたら。
二人の少年は顔を見合わせ、どちらからともなく頷き合った。
「たぶん、あっちの方から連れてこられた、と思う」
「わかった。……今の、"聞こえたな"?」
少年たちの伸ばした指先に視線を飛ばしながら、レティシャはステージの隅の暗がりに声を掛ける。闇の中からするりと現れたのは、ピンと耳を立てた、赤い瞳の黒犬の霊だった。
レティシャの問いに黒犬が力強く頷いた。それを見届けてから、彼女は抱えた少年たちに声を掛け、ステージの外へと駆け出した。
「行くぞ。しっかり掴まってろよ!」
「う、うん!」
横倒しになったフェンスを踏み越えて、ならず者たちの群れに一気に飛び込む。正面のレイダーを蹴り飛ばしてルートを確保。追いすがろうと伸ばされた別のレイダーの腕を、横合いから飛び出した黒犬が噛み千切った。
血肉を喰らった黒犬が、勢いそのままに突進してならず者を跳ね飛ばす。空いたスペースにレティシャが踏み込み、将棋倒しになった悪漢たちを飛び越える。
縦横に暴れ回す黒犬の霊に護衛されながら、レティシャたちは猛スピードで悪漢たちの人垣を突破していくのだった。
●
「そうそう。食べていいのは観客の方だけだからね」
『闘技場』を中心として、都市に混乱が広がりつつある。右往左往する人々の群れをすり抜けながら、比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)はストリートを駆ける。
何を隠そう、レティシャと共に暴れ回る黒犬霊・『饗』は、佑月の召喚した彼の眷属であった。佑月が『相棒』に伝えた指示は実にシンプル。乱入して、暴れ回って、注意を惹くことだ。
実際、レイダーたちにとっては両手を子どもたちに塞がれたレティシャよりも、自由自在に暴れ回る黒犬の方が直近の脅威となっていた。狙いが分散されることでレティシャは動きやすくなり、なおかつ、騒ぎの拡大によって人々の注意も闘技場の周辺に釘付けとなっている。陽動作戦としては上々の仕上がりだ。
「為す術もない弱者の自由を奪うのは我慢ならないなぁ、俺」
「同感です。子どもに殺し合いをさせるなど……、悪趣味という言葉では足りません。ですが、今は時間との勝負。急ぎましょう」
佑月と並走する黒フードの女性、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)が、彼の言葉を肯定しつつも冷静な判断を口にする。彼女が『韜晦のローブ』のフードを目深に被っているのも、この先の展開を見据えてのことだ。ならず者たちの視線から目立たないように変装した彼女は、しかし、フードの奥で僅かに眉を顰める。
「まずは、子どもたちが囚われている場所を探さないと……」
連行された少年たちの状況を考えれば仕方ないとはいえ、『饗』を介して伝わった情報は収容施設の大まかな場所だけだ。おそらくは屋内。しかし、捜索エリアにはかなりの建築物が乱雑に建ち並んでいる。
時間が経てば経つほど、追跡部隊が出張ってくる可能性は大きくなる。建物の中をひとつひとつ調べている余裕はないだろう。
「大丈夫だよ」
逡巡するセシリアの肩を佑月が軽く叩いた。
「迷子を捜すのも、おまわりさんの仕事だからね」
街路を駆ける佑月の足元に、ブリキの玩具がひょいと躍り出た。
ガチャガチャと音を立てて駆動する玩具に取り憑いているのも、佑月の眷属だ。名を恍。歴とした(?)犬の怨霊である。
少年たちが指差したエリアで足を止め、佑月は眷属たちの『網』を放つ。引っ掛かるのは、連れ去られた子どもたちの残した血と涙の匂い。犬にまつわる眷属たちの嗅覚が、目には見えない手掛かりを暴き出す。
仕上げは『恍』の野生の勘。眷属たちのキャッチした情報を統合し、ブリキの玩具がひとつの扉を指し示した。
「あそこ。見て」
件の扉にさりげなく視線を動かしながら佑月がセシリアに囁く。
目立たない建物だが、扉の前に見張りが二人。騒動の広がりにも関わらず、彼らはじっと扉の左右で守りを続けている。
いかにも、だ。
互いに頷き、佑月とセシリアは一気に地面を蹴った。
「あン? なんだァ、テメェら……、ガッ!」
「潜入します。出口の確保を」
「オッケー。そっちも気を付けてね」
鎧袖一触。距離を詰めた犬神と暗黒騎士とが見張りを一瞬でノックアウトさせる。気絶した悪漢たちをすぐさま物陰に放り込み、セシリアはするりと扉の中へ。
屋内に消える仲間の背を見送り、佑月は素知らぬ顔で扉の前に立ち塞がった。パッと見は見張りの交代要員。けれどもこれから先、中に入ろうとするならず者は全員ここでシャットアウトだ。
●
「下りの階段。子どもたちは地下ですか」
確かめるようにフードを被り直し、セシリアは足早に建物の中を探索していく。入り口の先は打ちっぱなしのコンクリート通路で、分かれ道もなく下り階段に接続していた。
外部の狂騒から遮断された無機質な階段は、震えそうになるほど冷え込んでいる。天井の四隅からは水が染み出ていて、ぴちゃぴちゃと雫を落としていた。
深呼吸をひとつ。焦る気持ちを押し殺して、セシリアは自然な速度で階段を降りていく。元より悪漢たちの巣窟だ。フードで顔を隠すような『お客様』だって少なくないはず。
「おい、ちょっと、アンタ。ここから先……、うぐっ!?」
シンプルな変装だが、問答無用で戦闘にならない程度の効果はあるらしい。
踊り場に屯していたならず者を当て身で一蹴。その場に放り置いて先を急ぐ。
折り返すこと四度。感覚的に地下二階くらいだろうか。下り階段は終点となり、正面の壁に金属製の扉が置かれていた。
扉の先は、再びコンクリートの通路。一階よりもさらに寒い。裸電球がパチパチと点滅している。少し進むと、また扉。
耳を当て、中の様子を探る。広い空間の気配。微かな振動が、人の存在を伝える。
意を決して、セシリアは扉を押し開いた。
「あれ? 今日のショーはもう終わったのか?」
雑多に物が置かれた大部屋だった。中央のソファーにならず者がひとり。セシリアを味方と誤認したのか、首だけで振り返って暢気に話し掛けてきた。どうやら他のメンバーは外の『ショー』に掛かり切りらしい。
ならず者の問いには応えず、セシリアは部屋をぐるりと見まわす。事務机、椅子、散らかった空き瓶、何かの作業台。
……そして、部屋の隅に金属の檻。
ぐったりと横になった子どもたちの姿を見た瞬間、セシリアは嵐となってソファーのならず者の首を掴み、タイル張りの地面に叩きつけた。
「ぐぁっ!」
「檻の鍵は?」
指先に力を籠めて冷たく問う。突然の襲撃に目を白黒させたならず者は、封じられた呼吸に気付き、慌てて事務机を指差した。
セシリアが視線を向けると、確かに机の上に鈍色の鍵が転がっている。ならず者の首を乱暴に離し、彼女は檻の鍵を手に取った。
ゲホゲホと咳き込むならず者を背にして、檻の鍵を開く。囚われた子どもは四人。金属扉の軋む音に、横になっていた彼らはうっすらと目を開いた。
――全員、生きている。
「く、くそ! テメェ! ヴォーテックス一族に逆らってタダで済むと思ってんのか!」
ほっと息を吐いたセシリアの背後で、ならず者がふらつきながらも銃を構えた。
照準は揺れている。セシリアは静かに、しかし、確かな覇気を迸らせて振り返った。
「ならば、お前たちの首魁に伝えるといい」
「うぐっ!?」
踏み込んだ彼女の影を、ならず者が捉えることは叶わなかった。銃口を跳ね飛ばし、漆黒の手甲が襟首を持ち上げられる。息を詰まらせたならず者が見たのは、深く冷たい、銀の瞳。
「非道の王にはいずれ相応しい罰を与える、と!」
「ごッ」
腹部に打ち込まれたセシリアの拳が、ならず者の意識を刈り取った。脱力した男を床に落とし、セシリアは子どもたちへと走り寄る。
ひと悶着の間に、四人の子どもたちは床から立ち上がり、檻の外に出てきていた。明るいところで見ると、闘技場に連れ去られた少年たちよりもさらに幼いことがわかる。目の端には涙の痕。憔悴した表情で、どこか縋るような視線をセシリアに向けている。
その視線に頷きを返し、セシリアは部屋の中心に向けて腕を掲げた。
「――現れろ門よ。我が同胞の元への道を示せ」
詠唱と共に彼女の腕の先で『深淵に至る門(アビスゲート)』が開く。転移門の続く先は、同じ世界にいる『仲間』の元だ。……子どもたちがびくりと身を竦ませているが、仰々しいのは我慢してもらうほかない。
戸惑う子どもたちを安心させようと、セシリアは精一杯の優しい口調で脱出を促した。
「安心してください。もう誰にも、あなたたちを傷つけさせはしませんから」
●
「よーしよし。もう大丈夫だからね」
転移門から飛び出した子どもたちを佑月が抱き留め、わしゃわしゃと頭を撫でる。彼の人好きのする笑顔と外の空気に、子どもたちはほんのりと表情を柔らかくしていた。
四人目の子どもに続いてセシリアが地上に戻ってみれば、そこらの地面には追加でノックアウトされたならず者たちが何人も転がっていた。当の佑月は、子どもたちを抱きしめながらしれっとブイサインを作っている。
「悪い。待たせたな!」
「っ、みんな! だいじょうぶ!?」
タイミング良く、群衆を振り切ったレティシャが佑月たちに合流する。彼女の腕から少年たちが飛び出し、救出された子どもたちの元へと走っていった。
子どもたちが喜びの涙を流しながらくしゃくしゃの笑顔を咲かせる。その光景に心を休めながらも、猟兵たちはすぐさま次の行動に移り始める。
「オレが救出したのが二人」
「こちらは四人です」
「ってことは、一人が二人ずつ抱える感じかな」
「だな。追跡部隊が出てくる前に距離を稼ぐぞ」
ひとしきり再会を喜び合った六人の子どもたちは、今は静かにレティシャたちの動きを待っている。非力な子どもたちが頼りにできるのは、もはや猟兵たちを置いて他にいないのだ。
子どもたちを抱きかかえれば、改めて彼らがひどく痩せ細っていることに気付く。軽すぎる彼らを大事に抱え、猟兵たちは脱出ポイントを目指して走りだした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レパイア・グラスボトル
ガキの殺し合いなんざ観て何が楽しいのかね。
怪我人が多いこの街はお得意さんだったんだけどな。
猟兵に目を付けられたのが運の尽きだな。
なら、頂ける物は頂くとしようか。
【WIZ】
オマエら、ここのガキ共を助けに行ってやれ。
今回は良い子の仕事だ。
逸れず【団体行動】、怪我人も大事に【医術】そして、攫える者、奪える物を獲ってきな。【略奪】
彼等の親達は鍵の破壊をはじめ略奪に必要な知識技術は仕込んでいるのだ。
小さくてもレイダー。笑い楽しく略奪をするのだ。
帰る所があれば見送るし、無ければ家族になるのも良いだろう。
条件は一つ、この地獄で笑って生きる事。
レパイアと一部の子供は怪我人対応。
善人悪人問わず怪我人には真摯。
「まったく。ガキの殺し合いなんざ観て何が楽しいのかね」
毒々しいネオンがギラつく街路を闊歩しながら、レパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)は肩を竦める。
理解しがたい嗜好だが、その善悪を論じるつもりはない。ただ、どうにも不経済な遊びだとは思った。
そもそも、文明崩壊後の世界においては子どもだって貴重な労働力だ。それを『使い潰す』ならまだしも(それだって長期的には不毛な損失だと思うが)、一夜の娯楽として『消費』するのはハッキリ言って非効率にもほどがある。
だが裏を返せば、その『無駄』を許容するだけの余裕がヴォーテックス・シティにはあるということだ。アポカリプスヘルにおいて力ある者は正義であり、その支配地には人も資源も自然と集まってくる。無駄としか思えない『ショー』も、都市の力を誇示するためのパフォーマンスという側面があるのかもしれない。
「怪我人が多いこの街はお得意さんだったんだけどな」
人が増えればトラブルも増える。『闇医者』であるレパイアにとって、この街では仕事に事欠かなかったのだが……、どうやらそれも潮時らしい。
ふらふらと歩を進めるうちに、彼女は見覚えのある通りに出た。記憶を手繰り、傾いた建物の傍に寄る。崩壊したアパートメントの外壁には、斜めになった外階段が残されていた。錆の浮いた鉄階段を上って屋上へ。二階建ての建築物の上に出れば、地上の様子がよく見えた。
「……これはまた、派手にやったもんだ」
屋上の縁から辺りを見渡す。眼下を通るストリートの向こう側に、見世物の闘技場があった。
正確には、元・闘技場か。猟兵たちの襲撃により四方のフェンスは地面に倒れ伏し、中央のステージも見事なまでに破壊されている。
ステージの周囲ではならず者たちの怒号が飛び交い、屋上のレパイアまでその怒声を届かせていた。襲撃者の猟兵たちはすでに逃げ去った後のようだが、現場の混乱はまだまだ収まりそうにない。
とはいえ、その混乱もヴォーテックス・シティ全体から見れば、ほんの一部での出来事に過ぎない。この程度の襲撃では、この超・超巨大都市の屋台骨は揺るぎもしないだろう。
だが、『あの』猟兵たちが手を出すと決めた以上、彼らの活躍(あるいは、暗躍)がこれだけで終わるはずもない。やると決めたら、あの手この手で、最後まで徹底的にやる。猟兵とはそういう集団なのだ。
「目を付けられたのが運の尽きだな。……なら、頂ける物は頂くとしようか」
愉快そうに口元を持ち上げて、レパイアが屋上を振り返る。地上の篝火や電飾の死角となった闇の中には、いつのまにか何人もの小柄な人影が集合していた。
月光に照らされたその容貌は若く、ともすれば幼い。継ぎ接ぎの衣服に、小振りながらも手入れされた装備。彼らの出で立ちは、幼いながらも一端のレイダーのものだった。
「オマエら、ここのガキ共を助けに行ってやれ」
白衣のポケットに腕を突っ込んで、レパイアがざっくばらんな指示を『レイダーズ・チルドレン』に与える。彼らが首を傾げたので、一言付け加えた。
「今回は良い子の仕事だ」
「ヤー! ヒャッハー!」
その一言で通じる辺り、彼らも手慣れたものである。子供世代のレイダーたちは、それぞれの『親』に仕込まれた技術と知識を頼りに、元気いっぱいに屋上から飛び出していく。
――小さくてもレイダーなら、笑い楽しく略奪するのだ。
次々と地上にダイブする『家族』の背を見送りながら、レパイアは謡うように警句を綴る。
「単独行動は厳禁。逸れずに団体行動。怪我人も大事に手当すること。……そしたら、攫える者、奪える物を獲ってきな」
地上に降りた小さなレイダーたちは、いくつかの集団に分かれて周囲の建物に侵入していく。『良い子の仕事』の作法も、彼らは十分に熟知している。都市のならず者たちの混乱が続く限り、彼らは奴隷の救出と物資の確保に励むことだろう。
「何人かはワタシについてきな。こっちは怪我人の対応だ」
散歩に出るような気軽さで、レパイアもふわりと屋上から地面に降りる。音もなく着地して、周囲をぐるりと一望。遅れて着地したアシスタントを引き連れて、目についた怪我人の元に彼女はテクテクと近づいていく。
「う、ぅう……」
倒れていたのは、年端も行かない少女だった。おそらくは奴隷。ならず者たちの押し合いに巻き込まれたのか、彼女は足首を腫らして物陰に蹲っていた。
周囲に少女の主人らしき人物は見当たらない。騒動に巻き込まれたか、あるいは、少女を置いて逃げたのか。どちらにせよ、レパイアが治療を行うには好都合だった。
「ふむ……。捻挫だな。動くな、すぐ処置してやる」
驚く少女に有無も言わせず、レパイアはテキパキと彼女の脚に応急処置を施していく。それほど深い怪我ではない。治療はほんの数分で完了した。
アシスタントのレイダーズ・チルドレンが少女の肩を支えて立ち上がらせる。おどおどと戸惑った様子の少女を見つめて、レパイアは指を三本立てて問い掛けた。
「さて、アンタには選択肢がある。もしも帰るところがあるなら見送るが……」
「……帰る場所なんて、ありません」
暗い顔で少女が俯く。ワケアリ。アポカリプスヘルでは珍しくもない話だ。
悲壮な空気を纏う少女に鼻白みながら、レパイアは指を一本戻す。残りは二本。
「となればこの都市に残るか、そうでなくちゃ、ワタシらの家族になるかだ」
「家族……?」
「条件は一つ、この地獄で笑って生きる事」
ぽかんとした少女に、レパイアが歯を見せて笑ってみせた。横を見れば、少女に肩を貸す少年レイダーもニヤリと口の端を持ち上げている。
その条件があまりにも予想外だったのか、少女は目を瞬かせ、悩み……、けれどもはっきりと頷いて、レパイアの提案を受け入れた。
「こ、こう、ですか?」
「……ちょっとぎこちないが、及第点だ」
少女の顔に浮かんだ、引き攣ったような、それでも精一杯の笑顔。
どんなに不格好であれ、この状況で笑えるならこの世界を生き抜くための素質ありだ。レパイアが少女の肩をぽんと叩き、新たな家族の誕生を歓迎する。
どうしてか、少女の瞳に涙が滲んだ。咄嗟にごしごしと目元を擦る彼女の背を、アシスタントの少年が優しく撫でている。
その様子をしっかりと瞼に収め、レパイアは白衣を翻して振り返った。
「まずはそこらに転がってる連中を治療するぞ。善人も悪人も、怪我人には変わりないからな!」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『煮慈威露愚喪の獏羊族』
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POW : 強奪の時間だヒャッハー!
自身が操縦する【山羊】の【突撃威力】と【物資強奪確率】を増強する。
SPD : ヒャッハー!突撃だ!!
【トゲ棍棒】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : 1ヒャッハー!2ヒャッハー!!3ヒャッハー!!!
【ヒャッハー系歌詞で大音声の羊数え歌】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「ヒャッハー! 邪魔するヤツはぶっ飛ばすぜェ!」
「イヤッハァー! ヴォーテックスにケンカを売ったのはどこの馬鹿だァ!?」
パラリラパラリラとどこかで聞いたようなホーンが夜の街に響く。
ダカダカと連なる蹄の音。ネオンよりもカラフルな虹色のボディがストリートを疾走する。
ヴォーテックス・シティの恐るべき追跡部隊『煮慈威露愚喪の獏羊族』が、ついに行動を開始したのだ。
ふざけた外見と侮るなかれ、彼らの機動力はアポカリプスヘルの一般的な車両の速度に匹敵する。加えて、『数え歌』を介した特殊な音波攻撃は周囲の人間を眠らせる能力まで有しているという。
子どもたちを守りつつヴォーテックス・シティを脱出するためには、どうにかして彼らの追跡に対抗しなくてはならないだろう。
……ちなみに、種族としては下で走っているのが山羊で、上に乗っているのが羊である。
羊を倒せば山羊はおとなしくなるし、山羊を倒せば羊は移動手段を失う。どちらか片方を倒すだけでも、彼らの戦力を削るには十分だ。
「オレたちに追われて生きて帰れると思わねえこったな! そこんとこ夜露死苦ゥ!」
稷沈・リプス
アドリブ連携歓迎っす。
さて、【夜の舟】に臨時旅客っすよ。子ども達を乗せるっす。
もし、他にもいたら乗せるっすよ。定員、ないようなもんっすし。
子ども達には出来るだけ、船の中央にいるように言い聞かせるっす。縁は危ないっすからね。
護衛船員もいたりするっす。
夜とはいえ、空中を行く大型木造船っすからねー、目立つっすね。
目立つまま、相手に向かって『太陽』属性攻撃を一斉発射。集団戦利用するっす。
建物などの障害物は、上(空)から乗り越える。道なりに行くしかない相手には、見えてても追いにくいと思うんすよね。
眠りそうになったら、使い魔の【明け呑む蛇】に噛んでもらうっす。
※船員達は、できるだけ怖がらせないように配慮中
夜空の海を舟が往く。
稷沈・リプス(明を食らう者・f27495)が乗り込んだ『夜の舟』は大型の木造船だ。空に浮かぶ船底が、篝火とネオンでまだらに照らされている。
追跡の手の届かない空の遥か高くに、とはいかなかった。子どもたちを連れて乗船するために(リプス曰く、『臨時旅客っすよ』とのこと)建物の屋上まで高度を落として接舷する必要があったのだ。
「いやー、夜とはいえ、この大きさは目立つっすね」
船首から眼下の街並みを覗き込んでリプスが口笛を吹く。夜の舟はヴォーテックス・シティの支配領域から逃れるように航行中。ぐねぐねと乱雑なストリートもなんのその。旧時代の遺構やら積み重なった重機の山やらを飛び越えて、空飛ぶ舟は一直線に進んでいく。
惜しむらくは舟のサイズが大きすぎて、地上からも非常に目立っていたことだろうか。
「ヒュウ! ご機嫌な乗り物じゃねェかよ!」
「いいねえ、乗ってるヤツらをぶっ殺したらそのまま貰っちまおうぜ!」
リプスの視界にストリートを疾走する虹色の山羊が映る。極彩色の暴走族は、夜の舟に負けず劣らずの目立ちっぷりだった。
地の利はやはり敵にある。隊列を組んだ獏羊族はストリートの行き止まりを巧みに回避しながら、夜の舟の下方にぴったりとついて来ていた。建造物に直進を遮られるたびに両者の距離は一度は開くものの、虹色羊のハンドル捌きと虹色山羊の健脚とが、あっという間に距離を詰めてくるのだ。
「さてさて、さすがに借り物を奪われるワケにはいかないっすからね。……『太陽』の一斉射撃、準備よろしくっす!」
追跡部隊の動きを目に焼き付けて、リプスは甲板を振り返る。片手を軽く上げて合図を出せば、夜の舟の船員たる動物頭の幽霊たちがすぐさま船の縁から地上に狙いをつけ始めた。
弓に番え、杖に蓄えるは『太陽』の輝き。船上は真昼の如き明るさに包まれる。地上から見れば、夜に浮かぶ太陽が、巨大な船の陰に隠れて見えるだろう。
――つまりは、これも『蝕』だ。
頭上で膨れ上がった力の気配に、虹色暴走族が色めき立つ。ヤバイ、が、止めようにも手が届かない。飛んでる相手に彼らができることはただひとつ。小集団のヘッドから鋭く号令。すぐさま羊たちは声を合わせて『数え唄』を叫び始めた。
「1ヒャッハー! 夜になったら日は沈むゥ!」
「2ヒャッハー! 日が沈んだらおネムの時間!」
「3ヒャッハー! 良い子も悪い子もネンネしなぁッ!」
眠りの魔力を秘めた歌声(と呼ぶには雑に過ぎるリズムだが)が共鳴を繰り返して天まで届く。広範囲に撒き散らされた催眠ボイスに巻き込まれて、ヴォーテックス・シティの野次馬たちがバタバタと眠りに落ちていった。
限界まで喉を振り絞った羊たちの大声。その催眠術は夜の舟の船上にまで効果を及ぼす。……及ぼす、の、だが。
「……むにゃむにゃ。……ッ、ってアイタタ!」
こっくりこっくりと船を漕いだリプスが、鋭い痛みに飛び起きる。一発で覚醒して自身の身体を確かめれば、なんと使い魔の『明け呑む蛇』が、リプスの頭部にがっつりと牙を立てていた。というか、丸呑み一歩手前である。
「いやいや、確かに起こしてくれとは頼んだっすけど!」
尻尾を掴んで蛇を引っぺがす。血が出たりはしていないので、ちゃんと加減はしてくれたらしい。
噛まれた辺りをさすりながら甲板を見渡せば、地上を狙う船員たちは変わらぬ姿勢でリプスの指示を待っていた。なにしろ、彼らは幽霊である。催眠術の相性は最悪だった。
幽霊船員たちが居眠りから目覚めたリプスをじっと見つめている。ちょっと居心地が悪いかも。コホンと咳払いをひとつ。気を取り直してリプスは掲げた片手を振り下ろした。
「準備はいいっすね? 眠らない街に『太陽』を落としてやるっす!」
「23ヒャッハー! そろそろネタが浮かばねェ!」
「24ヒャッハー! ってか、もうゼッテェ寝てるだろ!」
「25ヒャッハー! いい加減、地面に落ちて……あァん?」
ぜぇぜぇと喉を嗄らした羊たちが天を仰ぐ。弾けた陽光が目を灼いた。巨大船の縁から漏れていた白い輝きが、ぱっと溢れて、地上に降り注ぐ。
避ける暇など、あるはずもない。夜を染めて突き刺さった太陽の奔流が、ニセモノの虹たちを丸ごと呑み干した。
●
「のわぁあー!」
『太陽』を降らせながら真っ直ぐに進む夜の舟。その甲板で悲鳴が響いた。
悲鳴の主は囚われていた少年だ。暴走族の催眠術で見事に眠らされていた彼を、手透きの幽霊船員が起こした直後の出来事だった。
……眠りから覚めて最初に見えたのが幽霊の顔、というのは幼い少年には刺激が強すぎたらしい。叫び声を聞いて目を覚ました他の子どもたちも、揃って悲鳴を上げている。
飛び起きた子どもたちがわたわたと甲板を走り始める。本気で怯えたのは、最初だけ。昼間のように明るい船の上を、彼らはいつしか恐る恐る探検していた。
頼れる幽霊の精兵たちは、困ったように手を拱いている。子どもたちを怖がらせないように配慮しているのだが、如何せん、元々の姿が怖い。地上に射撃を続ける船員に寄らせないように、遠巻きから子どもたちを見守るばかりだ。
「おーい、縁の辺りは危ないから、なるべく中央に……、って聞こえてるっすかー?」
「え、あ、はい! みんな、こっち!」
子どもたちのバイタリティに頭を掻きながらリプスが声を掛けると、年長の少年が仲間たちを集めて舟の中央に戻っていった。
騒がしいが、悪いことではない。少しずつ元気を取り戻していく子どもたちの姿に、リプスはほっと胸をなでおろすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
比野・佑月
子供たちに『ほねっこキャンディ』を手渡し、お願いを。
あんな環境で必死に踏ん張っていたキミたちの勇気を俺は信じてる。
だからさ、ちょっとの間おにーさんのことも信じてくれる?
逃げ出せた嬉しさとか、俺が格好いいとかなんでもいいよ。
明るいことを考えながら、もう少しだけ我慢するんだ。できるかな?
…そうしたらきっと、怖い思いはさせないからさ。
乗り物はそのへんで拝借。
【従犬・大狂乱】で複製したトラップと、銃弾の雨をバラまきながら逃走。
時には鎖部分を道を塞ぐように渡して通せんぼしてみたりと、
徹底的に接近されないような戦いで子供たちを怖がらせないように。
……今晩はジンギスカンかな。勿論奇抜じゃない色してるヤツ!
松苗・知子
[心情]
どちらが本物のヤンキーか、解らせてあげないといけないわね。
いやヤンキーじゃねえわ陰陽術師だわ。
[行動]
途中参戦だし、子供連れて脱出するメンバーの支援に努めるのよ。
【騎乗】活かして宇宙スクーターで追跡部隊に並走しつつ【幻青燈火】を発動、狐火の3分の2はバラでヤギの足周辺に飛ばして、走行を妨害するのだわ。
残りの狐火は一つに合体させて、長く伸ばした特殊警棒の先端に纏わせるのよ。そいでもって
「焼きゴテじゃおぁおらぁーー!!!」
並走してる羊・ヤギに思いっきり押し付けるわ!家畜風情がよぉ!
あと普通に【武器受け】用に警棒使って防御するわ。
きつくなってきたら離脱しながら後方に狐火ばら撒いて逃げるのよ。
背後から聞こえたクラクションに、比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)は街路沿いの建物に飛び込んだ。室内を横断して、窓を蹴破る。飛び出した先は、隣のストリート。頭の中でマップを更新して、彼は再び走り出す。
両腕に抱えた二人の子どもは、舌を噛まないようにじっと黙っている。どうにか励ましてあげたいが、まだ足を止めるわけにはいかない。
休む間もなくクラクションがストリートに響く。後方の曲がり角から、虹色の暴走族が姿を現した。
「しつこいなぁ、もう!」
「ヒャッハー! 見つけたぜェ! 野郎ども、突撃だァ!」
シティに轟くお馴染みのヒャッハー・テンション。トゲ棍棒を振り回して、デコ山羊たちが猛スピードで突っ込んでくる。
距離が近い。逃げるか、迎え撃つか、僅かに逡巡。蛮声に震える子どもたちをしっかりと抱え直し、佑月が動き出そうとした、その寸前だった。
「ちょぉっと待ったぁー!」
二輪天翔。建物ひとつを丸ごと飛び越えて、白色の宇宙スクーターが颯爽とストリートに落ちてきた。ドライバーたる松苗・知子(天翔るお狐・f07978)は着地の衝撃を後輪からしっかりと流し、そのまま獏羊族たちの横っ腹に突っ込んでいく。
ぐわんと響くエキゾーストノート。レトロスクーターと侮るなかれ。ヘッドライトを輝かせて、白い流星が暴走族の小集団を貫いた。
「ぐぉっ!」
「な、んだァ!?」
未舗装のストリートに砂煙が巻き上がる。二、三匹の山羊が隊列から弾き飛ばされ、もこもこの虹色羊が道端のガラクタに墜落していった。
白いアオザイが鮮やかに翻る。混乱する集団から飛び出したスクーターが、ドリフトしながら佑月たちの目の前で停車した。
「お待たせ! 遅くなっちゃったかしら?」
「まさか! ばっちりなタイミングだよ」
ひょいと片手を挙げて口の端を持ち上げた知子に、佑月がにっと笑みを返した。腕の中の子どもたちが瞳を憧憬に輝かせている。世紀末世界において、イカしたバイクはある種のステータスなのだ。
熱っぽい視線の子どもたちにひらひらと手を振ってから、知子は暴走族に振り返った。崩れた隊列を立て直して、虹色の山羊が再度走り出そうとしている。その機先を制して、彼女の指先から青白い狐火が放たれた。
「燃やしちゃうわよ? ――幻青燈火!」
辺りを照らす篝火の赤い灯りを押しのけて、青い焔が地面を埋め尽くす。撒かれた火種はおおよそ50。火力は並みと知子は語るが、(一応は)生物である虹色山羊の足を止めるには十分な火勢があった。足の裏を焼いた痛みに、山羊たちがぴょーんと腰を跳ねる。
「うげ! おい、止まるな!」
「ほら、今のうちに!」
スクーターのスロットルを回しながら知子が佑月たちの背中を押す。一時的とはいえ追跡が止んだ貴重なチャンス。周囲を見渡した佑月は、路傍に停車した一台の大型バギー(もちろん、世紀末仕様だ)に目を付けた。
子どもたちを助手席に放り込み、運転席に飛び乗って、挿しっぱなしのキーを捩じる。低いエンジン音と共に車体が振動する。素早く計器を確認して燃料の残量をチェック。……大丈夫、問題なしだ。
「二人とも、手を出して」
バギーを発進させる前に、佑月は子どもたちに声を掛けた。首を傾げながら掌を差し出した彼らに、ドロップ缶に入った『ほねっこキャンディ』をいくつか手渡す。
「あんな環境で必死に踏ん張っていたキミたちの勇気を、俺は信じてる」
運転席から身を捻って、佑月は真っ直ぐに子どもたちの瞳を覗き込む。辛い経験を思い出したのか子どもたちの瞳が曇り、しかし、すぐに光を取り戻して佑月を見つめ返した。
やっぱり、強い子たちだ。
「だからさ、ちょっとの間おにーさんのことも信じてくれる?」
「……うん!」
真っ直ぐに頷いた子どもたちに一瞬だけ目元を緩ませてから、佑月は真剣な表情でフロントガラスの先を見据えた。クラッチを切り、ギアを入れて、アクセルを踏み込む。力強く回転したオフロードタイヤが轍の泥を跳ね飛ばし、車体を大きく揺らしながらバギーを発進させた。
「明るいことを考えながら、もう少しだけ我慢するんだ。できるかな?」
「た、たぶん」
自信なさげに応えた子どもたちに、「俺が格好いい、とかでもいいよ?」と佑月は悪戯っぽくウィンクする。
バックミラーに知子のスクーターが映り、次いでその後ろから追いすがる暴走族たちの姿が見えた。碌に整備されていない悪路に、バギーが何度も車体を浮かせる。乱雑に置かれたドラム缶の篝火を躱し、ギアをさらに一段上へ。じゃじゃ馬のハンドルを握りながら、佑月は敢えて子どもたちに笑顔を見せた。
「……そうしたらきっと、怖い思いはさせないからさ!」
ギアを上げたバギーを追って、虹色の山羊が揃って加速する。ぐんと距離を詰めてきた虹色暴走族に対して、知子が先頭の山羊にスクーターを横づけにして並走させる。手も届きそうな距離まで詰め寄り、彼女は特殊警棒を持ち出して右手に握りしめた。
「さぁ、どっちが本物のヤンキーか、解らせてあげないとね!」
「あァン!? いい度胸じゃねェか、コノヤロー!」
片腕運転で振り抜かれた呪力式特殊警棒。淡い光が弧を描く。
迎え撃つは虹色羊のトゲ棍棒。ぶつかり合った長物が、火花を散らして弾かれ合った。
「っとと!」
パッと離れる両者のマシン。
揺らいだのは知子。地に足を着けない騎乗戦では、武器の重さが威力に大きく響く。
身体を傾けてバランスを取り戻す知子に、すかさず虹色山羊がサイドステップで迫る。
ぶん、と重い風切り音。振り落とされた棍棒を、特殊警棒が受け止めた。
スクーターのタイヤが滑り、ハンドルが暴れる。口元にいやらしい笑みを浮かべた虹色羊が、棍棒の重みで警棒を押さえ込みながら、知子を壁際へと押し込んでいく。
「ハッ! 口ほどにもねェなぁ、おい! このまま磨り潰してやるゼェ!」
「訂正するわ。やっぱりヤンキーじゃねえわ。あたしが名乗るのなら、やっぱり――」
鍔迫り合いの最中、知子が一瞬、アクセルを緩めた。
均衡が崩れ、力点から逸れた棍棒を特殊警棒が捌く。
勢いのまま地面に触れた棍棒の頭が土塊を跳ねた。
バランスを崩したのは、今度は羊のほうだった。武器の重さは威力になるが、反面、体勢が崩れれば立て直すのが難しくなる。
「――そう、陰陽術師だわ!」
高速詠唱。呪力式警棒の先端に特大の狐火が灯る。
自称・天翔けるお狐様の本領発揮。
刻まれた真言を励起し、その身を長く伸ばした警棒が、虹色羊のがら空きの背中に突き刺さった。
「焼きゴテじゃおぁおらぁー! この家畜風情がよぉ!」
……もっとも、言葉だけを切り取るとヤンキーにしか見えないのだが!
「グワァアーッ!」
無防備な背中を焼かれた虹色羊が、もんどりうって山羊から落下する。ゴロゴロと転がって後続の暴走族を巻き込んでいく彼を見送りながら、知子はスクーターをストリートの中央に復帰させた。
サイドミラーを覗けば虹色の追跡者たちが無数に見える。数体倒した程度では底が見えない。彼らをこの場で全滅させるのは現実的ではないだろう。
「そろそろ逃げ時かしら……、と」
緩やかなカーブを猛スピードで曲がり切り、長い直線に出る。前方に戻った知子の視線に、激走するバギーから佑月が身を乗り出すのが映った。
その手に握られた得物を視認して、知子は口元を緩める。すぐさま、フルスロットル。暴走族からぐんと距離を離し、愛車のボディに力を籠める。
前方で佑月が頷いた。
瞬間、車体の『溜め』を解き放って、レトロスクーターが大ジャンプする。
「たーんと遊んでおいで! ――従犬・大狂乱!」
「おまけの目くらましよ!」
バギーの運転席から、ユーベルコードで複製された黒鉄製のトラバサミがばら撒かれる。宙に跳ねたスクーターの下をすり抜けて、犬を模したトラップがストリート全体を埋め尽くした。
ついでとばかりに佑月が手持ちの拳銃を乱射。放たれた弾丸の雨に合わせて、知子も狐火を後方にばら撒く。
青い炎が視界を塞ぎ。
合間から飛び出す銃弾に勢いを削がれ。
縺れた虹色山羊の脚にトラバサミが食い付いた。
「ぐおぉ!?」
一瞬で展開されたキルゾーンに絡め捕られ、暴走族が次々と脱落していく。
トドメに佑月がトラバサミの鎖部分を念力で街路に張り巡らせる。
強引に突破しようと加速した連中は、見事に鎖に引っ掛かって転倒していった。
追跡部隊を近づけることなく、そのまま一気にバギーが彼らを引き離す。ジャンプから着地したスクーターが隣に並び、二台のマシンはストリートを我が物顔で走り抜けていった。
「……今晩はジンギスカンかな。勿論奇抜じゃない色してるヤツ!」
「いいわね。焼肉なら火加減はあたしに任せてちょうだい!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レパイア・グラスボトル
略奪はホームに帰るまで略奪である。
おやつは現地調達まで。
子供を車でお迎え。
略奪品や子供達を乗せて逃亡。
レパイア用救急車以外はアポヘル一般車両。
相手の足留めが必要。
【POW】
子供の不始末は大人がやらないとな。
しっかし、アレはどういう意図で造られたんだ?
語る者がいなければ過去研究者だったレイダーが語るかもしれない。
レパイアと運転手以外の大人が残る。
UCによる迎撃。
向こうから来てくれるんだ狙う必要もないな。
羊共、コイツラからなら奪ってもいいぞ。
どうせ爆発するしな。
兵隊を治し死なせず無限軌道の如く戦わせる。
これがrepair型の本来の使用方法。
出稼ぎ先の歓待船で羊の味は知ったがアレには食欲は湧かない。
レテイシャ・マグナカルタ
アドリブ連携歓迎
他の猟兵が用意した車に二人を抱えて乗り込むぜ
他の皆と一緒にじっとしてるんだぜ
んじゃちょっと行ってくら、また後でな(頭を撫でウィンク)
突撃威力を上げて先頭に躍り出た羊へ車後部から飛び出して空中ドロップキックだ、そのグラサン蹴り割ってやんよ!
上手く後続の山羊を巻き込んでくれりゃ御の字だが
オレはその増強された山羊に乗って集団の中で暴れる心算だ
無事だった隣の羊のモヒカン辺りを掴んで振り回させてもらうぜ
山羊が上手く走らなかったり落山羊させられたなら翼を開いて空中に逃げて、別の羊を落として再度奪うぜ
上手く一団を撃退できたら車の速度を飛んで追いつけるぐらいに落してもらって戻るぜ
アポカリプスヘルにおける『一般車両』の意味合いは、旧時代とは趣が異なっている。
まず、まともな道路がほとんどない。なので、オフロード装備が基本になる。悪路に対応できるように大きいタイヤが好まれているし、車体もあの手この手で補強されていることが多い。走行中に危険と遭遇することも日常茶飯事だから、武装を備え付けるのもスタンダードだ。
特に、レイダー(略奪者)が語る『一般車両』ともなれば、『奪われる前に奪え』を地で行くような代物になりがちなわけで……。
「もう一回聞いておくけど」
ずらりと集まった『いかにも』な車両を前にして、『奪還者』レテイシャ・マグナカルタ(孤児院の長女・f25195)が腕組みをしながら口を尖らせる。
「本当に任せて大丈夫なんだな?」
そう問いたくなるのも無理はない。なにしろ子どもたちの『お迎え』にやってきたのは、正真正銘のレイダー集団だったのだから。
ヴォーテックス・シティでも比較的人通りの少ない裏通りに集まった彼らは、大急ぎで救出した子どもたちと略奪した物資を車に積み込んでいる。作業を進めているのは大人だけではない。忙しなく動く人の中には少年少女のレイダーも混じっていた。
「安心するといい。ここにいるのはワタシの身内だよ。猟兵にケンカを売るほどバカじゃない。子どもたちのことは丁重に扱うとも」
レテイシャの問いに答えたのは、ひときわ目立つ『強襲型武装救急車両』から医療器具を補充していたレパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)だった。
彼女は強面の大人たちに指示を出して、逃走の支度をテキパキと整えている。確保した怪我人をレイダーたちが丁寧に車両に乗せてあげているあたり、その言葉に嘘はないのだろう。
奪還者と略奪者の因縁は浅からぬものがある。が、それをこの場で問題にするのは得策ではないらしい。レテイシャはちょっぴり困ったような笑みを浮かべて、降参とばかりに両腕を上げた。
「……今は四の五の言ってられねえか。わかったよ、しっかり頼むぜ」
「略奪はホームに帰るまで略奪だからな。積荷を奪い返されるような間抜けはしないさ」
最後の積み荷を車両に放り込み、レイダーたちが猟兵の元に集まってくる。足止めに残るのは大人だけ。少年少女は子供世代のレイダーも含めて車の中だ。
作戦をスタートする前に、レテイシャは一台の車両を覗き込んだ。助手席にちょこんと並んで座っていたのは、彼女がここまで運んできた二人の子どもたちだ。いかつい大人たちに囲まれて所在なさげだった彼らも、今は子供世代のレイダーに構ってもらって多少は落ち着いていた。
「他の皆と一緒にじっとしてるんだぜ?」
「うん……、ひとりじゃないから、だいじょうぶだよ」
素直に頷く子どもたち。その頭をレテイシャがわしゃわしゃと撫でる。
運転席のレイダーがキーを捻った。エンジンがぶるんと震え、マシンが発進態勢に入る。レテイシャも子どもたちの頭から手を離して車から距離を取る。
名残惜し気に見つめる子どもたちに、彼女はウィンクを投げて微笑んだ。
「んじゃちょっと行ってくら。また後でな」
「追跡部隊の足を留めている間に、裏通りから『積み荷』を逃がす。それでいいな?」
「ああ。せいぜい派手に暴れて、連中を釘付けにしてやるぜ!」
レテイシャとレパイア、二人の猟兵を先頭にして、レイダーの一団が表通りに飛び出した。逃走チームが潜む裏通りから注意を逸らすように、彼女たちは足早にストリートを遠方へと駆けていく。
追跡部隊が好き放題に走り回ったためか、大通りに陣取る野次馬の数も少なくなっていた。となれば自然、集団で行動する猟兵たちの一団が目立つことになる。今回ばかりは願ったりだ。
しばらく走るうちに、通りの彼方から大音響のクラクションが聞こえてきた。まだかなりの距離があるというのに、わかりやすいことである。
「しっかし、アレはどういう意図で造られたんだ?」
ストリートのド真ん中で接敵に備えつつ、レパイアが首を傾げる。アポカリプスヘルに奇妙な動物は数あれど、あそこまでド派手な生物というのはなかなかに珍しい。
素朴な疑問に答えたのは、訳知り顔の壮年レイダーだった。
「『獏羊族』ってのは他人を眠らせて物資を溜め込む性質の生き物だな。肉は食用可能で、しかも絶品って話だぜ」
「羊の肉? 出稼ぎ先の歓待船で味は知ったが、正直、アレには食欲は湧かないぞ」
かつて口にした羊の味を思い出してレパイアが顔を顰める。
しかし、物知りな彼も羊たちがなぜ虹色になっているのかは分からないらしい。その謎の正確な答えは、グリモア猟兵にも分からないことだろう。
ただ、横で話を聞いていたレテイシャは、ふとこんなことを思いついた。
「あのさ。『獏羊族』の拠点には物資がたくさんあって、しかも倒せば食料になるってことだろ?」
「ああ、そうなるな」
「つまり、『襲うとおいしい生き物』が『めちゃくちゃ目立つ虹色』になってるって……、なんか、出来過ぎじゃないか?」
「……」
レテイシャの言葉にレイダーたちが押し黙る。獏羊族が自発的に色を変えたのであれば、ただのお間抜けさんで済むのだが……。もし、誰かの手が入ったゆえの変色だとしたら、アポカリプスヘルらしい強かな思惑が隠れていそうな話である。
「ま、ワタシらのやることは変わらないんだがな。……そら、おいでなすったぞ!」
肩を竦めたレパイアが示した先の、遠くの曲がり角に砂煙。ダカダカと蹄の音を響かせて、虹色暴走族が姿を現した。
一瞬、可哀想な目で見てしまったが、それはそれ。迫りくる追跡部隊に、レイダーたちが戦闘態勢を取る。一塊になって身構える屈強な略奪者だちに、猛スピードで疾走する虹色獏羊族が怯むことなく突っ込んでくる。
「ようやく見つけたゼェ! テメェらはここでオシマイよぉ!」
「強奪の時間だ! ヒャッハー!」
山羊に跨った羊たちが、ハンドル代わりの角をぐいっと操る。ストリートに響く嘶き。羊突猛進。先頭(ヘッド)に率いられた暴走族が、速度を上げて突撃態勢に入った。
対するレパイアを中心としたレイダーたちはその場で壁になる構え。
だが、その隊列から飛び出す影がひとつあった。大地を蹴って敢然と山羊の群れに飛び掛かったのは、言うまでもなく、レテイシャその人である。
「上等! そのグラサン、蹴り割ってやんよ!」
力強い踏み切り。鋭いジャンプ。浮いた身体が宙で横になる。
ぐっと力を籠めて曲げた両の膝。踵の向こうに敵の顔。
高速で接近する先頭の羊。ハンドルを切ろうにも、距離が近すぎる。
シューズの裏に柔らかい感触。
刹那、レテイシャは両脚のパワーを全力で解き放った。
「ドロップキィーック!」
「ぶへらっ!?」
首から上が吹っ飛んだような衝撃。虹色羊がド派手に吹っ飛ばされ、後続の山羊に突っ込んでいく。
会心の空中キックを放ったレテイシャが、運転手のいなくなった山羊の角を掴み、くるりと身を翻してその背に跨る。座った鞍がもこもこの毛皮に沈み込んだ。乗り心地はふかふか。『数え唄』を聞かずとも眠くなりそうな快適さだ。
「いくぜ、ここからUターンだ!」
眠気を払って気炎万丈。レテイシャの両腕が山羊の角を全力で引っ張った。
たまらず山羊の前脚が浮き、ウィリーの状態に。そのまま後ろ脚を支点にして急反転。今度は角を前に倒して、山羊を強引に発進させる。
すぐ近くに面食らった虹色羊が一匹。レテイシャに浮かぶワルい笑み。すれ違いざま、彼女はソイツのカラフルなモヒカンを掴み取った。
「おま、アダダダ! 抜ける、抜けるゥ!」
「ちょっと振り回させてもらうぜ? 禿げないように祈ってな!」
モヒカン羊にとっては悪夢の宣言。レテイシャの怪力が、彼の頭部を投げ縄のようにぶん回し始めた。
尾を引く悲鳴がドップラー効果で歪んで響く。鈍器と化したモヒカン羊が、周囲の仲間たちを巻き込んで暴れ狂う。「60トンはイケる」と豪語するレテイシャの豪腕が、びったんびったんと次々に羊たちを山羊から叩き落としていった。
「いやはや、やるもんじゃないか。……とはいえ、ひとりで全ての敵を押し止められるワケもなし。そろそろワタシらも始めるとしよう」
レテイシャの猛烈な暴れっぷりにひとしきり感心してから、レパイアがひらひらと手を振ってレイダーを呼ぶ。彼女の傍らに歩み寄った一人の男が、覚悟のキマった表情でタックルのように身構えた。
「向こうから来てくれるなら、狙う必要もないな」
レパイアが瞳を細めて戦場を見据える。
ユーベルコードの起動準備。
目標地点を確認。混戦の上空に座標を固定。
発動直前、隣のレイダーと目を合わせる。
二人は揃って、口の端を三日月に持ち上げた。
右手を顔の横に。パチリと彼女の指が鳴った。
「花火の時間だ。――ショウタイム・オン・ザ・ファイアワーク!」
「イヤッフゥー! 燃えてきたぜぇー!」
喊声を上げたレイダーが足元から消失する。
瞬間転移。次の瞬間、彼の身体は羊たちの上空にあった。
自然落下した彼はそのまま真下にあった虹色山羊にしがみつき、肩パッドのトゲを横っ腹にブスリと突き刺す。
「羊ども、ソイツからなら何を奪ってもいいぞ。……どうせ爆発するしな!」
レパイアの声が届いたわけでもないが、山羊を掴まれた虹色羊は確かに見た。
突き刺さった肩パッドから導火線が伸び、じりじりと火種を運んでくる、その光景を。
「ちょっ――」
羊の叫びを遮って、爆発した肩パッドが彼を吹き飛ばした。一瞬遅れて響く爆発音。吹き抜けた強烈な熱風が、追加で羊たちを落馬(落山羊)させる。
爆発に巻き込まれたのは追跡部隊だけではない。敵陣のド真ん中で大暴れしていたレテイシャも危うく爆発に飲まれそうになっていた。危険な気配に、咄嗟に山羊の背を蹴って空中に飛翔した彼女の下で、先刻までの相棒がジンギスカンと化す。竜翼を広げてホバリングしながら、彼女は思わず叫んだ。
「レパイア!? いいのかよ、これ!?」
「心配するな! バラバラになっても治してやるから! ……生きていたらな」
最後にぽつりと加えられた一言に、レテイシャは呆れと戦慄の冷や汗を流す。一応、転移召喚されたレイダーたちは普段よりも頑丈にはなっている。らしい。
だからといってこの戦法を躊躇なく実行するのは、レパイアとレイダー、どちらもネジが飛んでいるとしか思えない。『花火大会』が最初のひとりで終わるハズもなく、次なる爆弾レイダーたちがノリノリで羊たちの群れに投擲されていく。
「ああもう! どうなっても知らねえぞ!」
ドッカンドッカンと戦場に爆発が断続的に響く。ぐちゃぐちゃになった戦線にレティシャも作戦変更。空中からの急襲キックで羊を山羊から蹴り落とし、爆風に乗って離脱するのを繰り返すスタイルに移る。
混沌とした戦場は爆発音と火薬の匂い、そして竜翼が風を切る音に満たされた。
交戦時間は数分にも満たなかっただろう。
だが爆発の止んだ後のストリートには、そこら中に穿たれたクレーターの中にレイダーが倒れ伏すという、この世の終わりのような光景が広がっていた。
「兵隊を治し死なせず無限軌道の如く戦わせる。これがrepair型の本来の使用方法というワケさ。……よし、救急車両にコイツラを回収して逃げるとしよう」
「……いや、それって本当に正しい運用なのか?」
裏通りから呼び寄せた救急車両にレイダーたちを手早く積み込んで、猟兵たちも急いで車両に乗り込んだ。発進した救急車両の中で、レパイアはすぐさまレイダーの治療に取り掛かる。
応急処置を受けながらワイワイと戦果を語るレイダーたちの姿を見ながら、イマイチ釈然としないレテイシャは、なんだか無性に子どもたちの顔が見たくなっていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
セシリア・サヴェージ
UC【闇を纏いし嵐の軍団】を発動。子どもを数名の騎兵に託して、私と残りの者たちで追手を迎撃します。
適宜騎兵を突撃させたり【念動力】で瓦礫等を【投擲】して数え歌を妨害します。
明確な対抗策がない以上は歌わせない事が唯一の対抗策。ですが純粋な機動力では追手に劣りますし、妨害にも限界があります。
そこで一計を案じました。ここは巨大都市ですから高層ビルが立ち並ぶ地域があるはずです。そこに敵を【おびき寄せ】て、暗黒剣の斬撃や【衝撃波】による【地形破壊】でビルを倒壊させて追手を瓦礫の下敷きにする事で一網打尽にします。
進路妨害も兼ねているので再追跡は困難なはず。敵の本拠地ですから派手にやってしまいましょう。
どれほどの篝火を燃やし、どれほどの電飾を輝かせようとも、夜の闇を完全に消し去ることは出来ない。真昼のように明るいヴォーテックス・シティも横道に一歩入れば、古木の洞のような暗闇が蟠っていた。
崩れかけの建物の合間にある小さな広場は、後ろめたい者たちの集会場だった。しかし、追跡部隊に見咎められるのを嫌ったのか、今、広場にレイダーたちの姿はない。二人の子どもを抱えたセシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)にとって人目につかない広場は、逃走の支度を整えるのに格好のスペースだった。
「――闇より来たれ、古の暗黒騎士たちよ」
紡いだ言霊が『ワイルドハント』を呼び寄せる。姿よりも先に、がちゃりと金属鎧の鳴る音が聞こえた。広場を覆う闇から零れるように現れたのは、軍馬に跨った暗黒騎士の幽霊兵団だ。
「わ、わ……、えと、ひょっとして、おうまさん?」
整然と並んだ軍馬の雄姿に、子どもたちが目を白黒させる。おそらく、本物の(といっても幽霊だが)馬を見るのも初めてなのだろう。幼い二人はセシリアの背に隠れながらも、ちらちらと顔を覗かせて兵団の様子を窺っている。
幸いなことに、恐怖よりも好奇心がちょっぴり勝っているらしい。
「これより撤退戦に入ります。脚の速い騎馬はこの子たちを」
凛としたセシリアの指示。軍勢の中からすらりとした駿馬が二頭、騎士を伴って進み出た。咄嗟に隠れようとした子どもたちの背をセシリアが押し、それぞれの運び手に引き合わせる。駿馬から降りた暗黒騎士が静かに一礼し、子どもたちを鐙の上まで持ち上げた。
幽霊軍馬に跨った二人の子どもが「ひゃん」と縮こまる。幽霊だから、冷たいのだ。ただしそれは物理的な冷たさではなく、霊的な感覚によるもの。跳ね除けるには、心に熱を持つしかない。
「二騎が先行。護衛に四騎。残りの者と私で追撃を阻みます。総員、戦闘準備!」
発した号令に暗黒騎士たちが軍馬の首を巡らせる。セシリアも自身の幽霊軍馬の手綱を握り、軽やかにその背に跨った。
子どもたちを乗せた二頭の騎馬が軍勢の先頭に立つ。もちろん、手綱を握っているのは同乗する幽霊騎士だ。おっかなびっくり鬣にしがみつく子どもを、騎士がしっかりと支えている。
建物を挟んだ大通りの彼方から、けたたましいクラクションが近づいてい来る。これ以上、ここでのんびりしている時間はない。
セシリアは暗黒剣を引き抜き、その切っ先で広場の出口を真っ直ぐ指し示した。
「行軍開始! 嵐の如く、軛の外へ!」
駆けだした軍馬が広場を飛び出して、篝火に照らされたストリートに躍り出る。ぼんやりと路傍に座っていた野良レイダーがぎょっと目を剥いた。構わず、先頭の二騎が全速力の襲歩で都市の外縁を目指して走りだす。
その背を追って暗黒騎士の軍勢が、整然と一定の間隔を空けて疾走する。統率の取れたその動きは、まるでひとつの生き物のようだった。大地を揺るがす足音と膨れ上がった土煙に、先刻の野良レイダーが慌てて逃げていく。
走り出しは快速快調。しかし、軍勢の出現はすぐさま追跡部隊の知るところとなる。
「ヒャッハー! おいおい、オレたちと脚の速さを比べようってのかァ!?」
「ヒュウ! 命知らずもいたもんだな! テメェら、ゼッテー逃がすんじゃネェぞ!」
複雑に絡んだシティ・ストリートの一角から、虹色の暴走族が姿を見せる。流石と言うべきか、主要な街路にはしっかりと網を張っていたらしい。一度捕捉された以上、彼らを振り切るのはかなりの困難だろう。
「……『あの場所』に辿り着くまで粘れるか、ですね」
軍馬の手綱を握ってセシリアが呟く。純粋な速度では虹色山羊が上。乗り手の重さという問題もあるだろう。跳ねるように駆ける山羊の群れは、じりじり、じりじりと騎士の軍勢に近づきつつある。
「後列、十騎! 反転、突撃! 僅かでも時間を稼いでください!」
鋭い語気。すぐさま十の騎士が馬首を返し、突撃槍を構えて暴走族に襲い掛かる。
暴走族がにやりと笑う。喧嘩上等。羊たちがトゲ付き棍棒をぶんぶんと振り回す。
接近。激突。大轟音。
揉みくちゃの乱戦。制したのは、暴走族の方だった。
直線的な破壊力を持つ騎士の突撃を、不規則に跳ね回る山羊が翻弄し、羊の棍棒が叩き伏せる。
「1ヒャッハー! 悪路で山羊に勝てると思うなよォ!」
「2ヒャッハー! 岩山と比べりゃ、平地は天国みたいなもんだぜェ!」
アゲアゲのテンション。ぴょんぴょんと自在に跳ね回る山羊たちが、ストリートに転がるジャンクの山を華麗に飛び越えて速度を上げる。
弧状の軌道は、まさしく虹を描くようだった。その派手な挙動を隠れ蓑にして、虹色羊もさりげなく催眠数え唄を唱えようとしている。
「囀らせるな! 続けて十騎、再度突撃を!」
暗黒剣の切っ先が後方を指す。セシリアが騎士に指示を与えるのと同時に、突き付けた刃が念動力に指向性を持たせた。
路傍の瓦礫が暗黒のオーラに包まれる。ぐらりと揺れる瓦礫の山。3番目に歌おうとした羊を目掛けて、礫となった瓦礫が不可視の腕で投擲された。
「3ヒャッ……、ゴッ!?」
「なにやってんだゴラァ! また数え直しじゃねェか!」
顔面直撃。鈍い音を立てて落馬(落山羊)した羊に、仲間たちが散々に罵声を浴びせながら走り抜けていく。
それでも念動力で撃破したのは一頭のみ。続けて突っ込んだ暗黒騎士たちも、山羊たちの攪乱機動に翻弄され続けている。せめてもの救いは、数え唄のリセットには成功したことか。
「あと、少し……!」
暗黒騎士と暴走族は一進一退を続けながらストリートを駆けていく。虹色山羊が距離を詰めるたび、数人の騎士が捨て身で突撃して距離を戻す。その繰り返しだ。
かなりの距離を稼いだはずだが、残された騎士もそう多くない。手綱を握るセシリアの指に力が籠る。子どもたちを守り切るには、起死回生の一手が必要だ。
疾走する二つの集団。その上に、ふと、黒い影が落ちた。
「……っ! 間に合った!」
頭上を見上げ、セシリアが唇を強く結ぶ。ここが正念場だ。
落ちた影の主は、高層ビルの廃墟だった。罅割れ、朽ち果て、しかし今なお天高く聳える摩天楼。その残骸こそが、セシリアの案じた一計の要となる。
「ここで決着をつけます! 突撃! 死力を尽くせ!」
「――――ッ!」
亡霊たちの声なき鬨。先頭の二騎と護衛を残して全員が反転。暗黒騎士の軍勢は追跡部隊に最後の決戦を挑む。
黒いうねりとなって突き進む精兵たち。その中に、セシリアの姿はない。獏羊族と激突する騎士たちを背に、彼女は全速で廃ビルの麓へと軍馬を走らせる。
エントランスの手前で彼女は鞍から飛び降りた。ガラス張りだったであろうエントランスの扉は、今では見る影もない。がらんどうの扉の前に立ち、セシリアはすらりと暗黒剣・ダークスレイヤーを構えた。
「……一太刀で決めます」
両手持ち。切っ先を後方へ。脇を締め、横薙ぎの構え。
意識を集中。狙うべきは水平ではなく、斜めの筋。
後方から軍勢がぶつかり合う音。
足をずらし、軸を合わせる。踵の下で砂利が鳴った。
呼吸を練る。吐いて、吸って、止めた。
「一閃ッ!」
瞬間、黒い刃が疾る。
刀身に暗黒のオーラ。剛断の一撃が衝撃波を放つ。
コンクリートを砕く破砕音。真っ二つ。高層ビルの構造が斜めに裂かれた。
素早く離脱するセシリア。支えを失った廃墟がストリートを圧し潰す軌道で倒壊する。
「ヒャッ、ハァ!?」
暗黒騎士との混戦に集中していた獏羊族の頭上に、無数の瓦礫が降り注いだ。虚を突かれた虹色山羊が足を止め、逃走のチャンスをふいにする。
ガラガラと劈くような轟音がストリートを支配する。まさに一網打尽。あっという間に降り積もった瓦礫の山が、山羊も羊も、まとめてペシャンコにしたのだった。
「すごい……」
一面に舞った砂煙が篝火に照らされて薄く光る。走り去る騎馬の鞍の上で、子どもたちがぽかんと口を開いて、呆然と大破壊を見届けていた。
幽霊騎士の手綱捌きで、駿馬は風を切って駆け抜ける。叫びたくなるような解放感。子どもたちの胸に小さな灯がともる。
いつの間にか、幽霊の冷たさは気にならなくなっていた。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『ブレイズフレイムのガルバ』
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POW : ブレイズフレイム・デストロイヤー
レベル×1tまでの対象の【体すら吹き飛ばし、焼き尽くす紅蓮の炎】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD : ブレイズフレイム・ランバージャック
【なぎ払うように】放たれる【紅蓮の炎】が命中した対象を切断する。
WIZ : ブレイズフレイム・クリムゾン
【体から噴出し、敵を焼き尽くす紅蓮の炎】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ガトウ・ガドウィック」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「あーあー、どうすんだよ、これ」
「完っ全に道が塞がってんな。迂回するしかねえんじゃねーの?」
足元の小石を蹴ってならず者が悪態を吐く。彼らの視線の先には、横倒しになった高層ビルの残骸。猟兵によって倒壊させられた巨大建造物が、瓦礫の山となってストリートを封鎖していた。
瓦礫の向こう側に行くには、足場の悪い瓦礫の山をえっちらおっちら越えていくか、道を引き返して迂回路を探すしかないだろう。瓦礫の山を片付けようものなら、人手を集めても10日は軽く掛かるに違いない。
――もっとも、それはあくまで常人の範疇の話である。
「おいおいおい! 余所者がずいぶんと暴れてくれたじゃねえか!」
覇気に満ちた男の声。ストリートに熱波が吹き抜ける。
引き締まった身体にラフな服装。黄色掛かった髪に赤のメッシュ。
そして、背中には燃え盛る炎のオーラ。
振り返ったならず者たちの顔からさぁっと血の気が引いた。この区画に住む者で『あの男』を知らないヤツは間違いなくモグリだ。
「やべえぞ、『ブレイズフレイムのガルバ』だ!」
「逃げろ! 早くしないと巻き込まれるぞ!」
ならず者たちは慌てふためき、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。その様子を見送りながらガルバは口の端を持ち上げた。
「いい心がけだ。なぁに、離れていりゃあ死ぬことはねえよ」
ならず者たちの背中に言葉を放り、ガルバは開いた掌を瓦礫の山へと向ける。
「こんなもんが障害になるってか? ハッ! 全部、灰にしてやらあ!」
赤光。熱風。腕先から迸る地獄の炎。
ストリートを疾走した高出力の『ブレイズフレイム』が廃ビルを一息に呑み込んだ。
物理的な破壊力を伴った炎が吹き抜けた後、溶断された瓦礫の山には、反対側まで続く巨大な風穴が貫通していた。
追跡路を抉じ開けたガルバが自身のモンスターマシンに颯爽と飛び乗る。
彼愛用のマシンは、巨大なタイヤを備えた超大型の三輪バイク。特徴的なのは水平に配置された無数のブレードだ。
ガルバがエンジンをスタートさせると同時に、ブレードの刀身が真っ赤に赤熱した。近づいた敵の車両を溶かして、斬る。そういった目的の近接戦用車載装備だ。
アクセル全開。ロケットスタート。たまたま飛んできたガラクタさえも真っ二つにして、大型バイクは猛スピードで走り出す。
「逃がさねえぜ? ヴォーテックス一族にケンカを売ったこと、後悔させてやる!」
比野・佑月
「ようやく悪い子のお出ましかな?
あんまりにも遅いから、やられっぱなしの腰抜けかと思っちゃったよ!」
…来てくれてよかった。悪い子にはちゃーんと反省して貰わなきゃ
おいで、冥。
お前好みのパワー型っぽいし炎は全部お前にまかせた!
子供たちを守るためなのは勿論、
悪~い子の鼻をへし折ってやるためにも得意技は潰してあげなきゃ
「はっ、知り合いの猫と比べて温すぎて笑っちゃうや」
挑発と炎無効化の様子を受けて近接戦を仕掛けてくるかな?
瓦礫とかが飛んで来たら春宵の銃弾で砕くか
穿牙のワイヤーで絡めて落とすかで対処。
本人狙いで銃弾を放ち続け、接近されて初めて
不意打ちのようにタイヤにわんわんトラップを喰いつかせてやりたいな
松苗・知子
[心情]
そこそこ面倒なのが出てきたわねえ。
げぇーって感じよ。
[行動]
あたしは単独だから、スクーターで最後尾につけるのよ。
【追跡】で追跡側が辿るであろうルートを予測しつつ、後方を中心に警戒。ヤバそうな予兆があったら、大声&クラクションで皆に警告するのだわ。
[戦闘]
単身なんでリスク取りましょう。
一回スピードをぐっと落として、敵ボス側面か後方に回りこんで味方と挟撃を目指すわ。
挟撃できてもできなくてもユーベルコードを早めに発動。槍の半分は敵ボスを狙って目くらまし、もう半分は敵バイクの後輪片方を狙って機動力を削ぐのよ!
味方の攻撃があたしを巻き込みそうなら
「構わず撃てぇー!」
自分の【逃げ足】を信じるのだわ
篝火の並ぶストリートを大型バギーが駆け抜けていく。
比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)にハンドルを握られたバギーは、デコボコ道に車体を派手に揺らしながらヴォーテックス・シティの出口を目指して走り続けていた。
「また跳ねるよ! 舌を噛まないでね!」
「っ、うん!」
元々がならず者たちの愛車である。シートベルトなんて気の利いたものは付いていない。助手席に座る二人の子どもたちは、車内の突起にしがみついてどうにか振動に耐えている。荒々しいバギーの挙動に慣れたのか、はたまた恐怖が麻痺してきたのか、悲鳴を上げる少年たちはちょっぴり楽しそうにも見えた。
「……うーん、なんだか嫌な気配ね。そこそこ面倒なのが出てきたかしら?」
一方、白い宇宙スクーターを駆る松苗・知子(天翔るお狐・f07978)は、敢えてバギーから距離を置いて後方から愛車を走らせていた。
彼女のスクーターに同乗する子どもはいない。単独行動であるがゆえに、スクーターの長所である小回りの良さをフル活用できる。だからこそ知子は、最後尾で敵の追跡を察知する役目を買って出たのだ。
その思惑通り、知子はいの一番に強敵の接近を感知した。肌に張りつくような激しい敵意。焦げるような熱気をじわりと背中に感じ取る。
ちらりと後ろを振り向けば、膨大な熱量にぐにゃりと揺れる空気。低く力強いエンジン音と眩暈のするような陽炎を引き連れて、巨大三輪バイクが猟兵たちに迫りつつあった。
「げぇーって感じね。うしろ、気を付けなさいな!」
先行するバギーに向けて、スクーターがパッパとクラクションを鳴らす。警告音を耳にして、運転席のサイドガラスから佑月が顔を覗かせた。
――速い。
まさしくモンスターマシン。速度では敵が一枚上手か。猛追するバイクの車上には、『ブレイズフレイムのガルバ』の姿がすでにはっきりと見えていた。
猟兵たちのマシンを捕捉して、ガルバの口元が凶悪に歪む。右腕がグリップから離れ、掌を前方に突き出した。
掌中に生まれる炎の核。
殺気。佑月と知子は咄嗟にハンドルを切った。急旋回したタイヤが泥を跳ねる。
「挨拶代わりだ。このくらいでくたばるんじゃねえぞ!」
炎核が膨れ上がり渦となる。
放たれるは紅蓮の奔流。突き出された槍の如き業火が一直線に街路を焼いた。
炎が裂いたのは猟兵たちの真横。急ハンドルを切ったマシンのすぐ隣の地面は、一瞬の間に真っ黒に焼け焦がされていた。
片輪を浮かせたバギーが激しく揺れながら平衡を取り戻す。然しもの子どもたちもこれには口を開く余裕もない。
ギシギシとサスペンションを軋ませる大型バギー。そのハンドルを力づくで制動しつつ、佑月は窓から後方に向けて拳銃の引き金を引いた。
「ようやく悪い子のお出ましかな? あんまりにも遅いから、やられっぱなしの腰抜けかと思っちゃったよ!」
ストリートに銃声が反射する。連続して放たれた弾丸が狙うのは、モンスターマシンの大型タイヤ。『春宵』は貫通力に強化を施した改造回転式拳銃だ。直撃すれば相手の機動力を確実に削ぐことが出来るハズ。
……だが、しかし。
「無駄無駄ァ! そんなもンじゃ足止めにもならねえぜ!」
咆哮と共に振るわれるガルバの腕。地獄の炎が壁となって直上に噴き上がる。
空気さえも灼ける超高温。炎の壁に呑まれた弾丸がドロドロに融解して地面に落ちる。
大型バイクの速度に陰り無し。ハンドルを握り直したガルバは、手始めとばかりに距離の近い知子のスクーターに狙いを定めた。アクセル全開。モンスターマシンが鋼の嘶きを上げる。
「まずはお前からだ! 真っ二つにして、そのまま灰にしてやらあ!」
「……こうなったらやるっきゃないわね」
唸りを上げて迫る大型バイクと、ずらりと並んだ赤熱の刃。
ハンドルを握る知子の指に力が籠る。彼女には温めておいた大技がある。けれども、何も考えずにぶっ放せば敵の炎に『融かされる』だけだ。有効打を通すには、ガルバの虚を突かなければならない。
危険はある。だが、虎穴に入らずんばなんとやらだ。
「リスク上等! 行くわよ!」
当機立断。覚悟を決めて、ぐっとブレーキを絞る。
スピードメーターが大きく戻る。全身に慣性の重み。
相対速度の加速。巨大バイクから突き出た無数の刃が背中に迫る。
背筋がチリつく。サイドミラーに映るガルバが掌に炎を生み出した。
嗜虐的な凶相。逃げ道を塞ぐつもりか。
知子は心を奮わせて口の端を持ち上げる。荷重移動。スクーターの後輪を滑らせた。
「こん、のぉ!」
片膝が地面に着きそうなほどマシンが傾く。ほとんど横倒しの頭上に、赤い刃。
敵の巨大バイクは相応に車高が高い。装備された刃もこちらの胴体を狙う位置だ。
その下を、強引に潜り抜ける。
スリップに近い挙動のスクーターに、地獄の炎を具現させたガルバの腕が迷う。
このタイミングで炎を撃ち下ろせば、自分のマシンの装備も巻き込んでしまう。
躊躇いが、隙を生んだ。
「――おいで、冥。炎は全部、お前にまかせた!」
バギーの窓からすかさず佑月があやかしメダルを放る。放物線を描いたメダルがカツンと地面に跳ね、封じられた犬の亡霊が現世に姿を現した。
眷属招来・冥。貪欲に力を求めた猛犬が、牙を剥いてガルバを襲う。
「チッ、うざってえな!」
ガルバが反射的に炎を投げつけたのは、しかし、悪手。
ぐわんと加速する貪食の犬霊。瞳は爛々。冥にとって、半端な炎は脅威にもならない。
霊犬の顎ががばりと開き、漆黒の大口がぽっかりと広がる。
ばくり、と一口。
膨れ上がろうとする地獄の炎が、たったの一瞬で丸呑みにされた。
「ッ! テメェ、オレのブレイズフレイムを!」
「今のが地獄の炎? はっ、知り合いの猫と比べて温すぎて笑っちゃうや」
佑月が挑発的な笑みをバギーから覗かせた。シートの陰で春宵をリロード。冷笑を浮かべたまま、再び引き金を引く。
一瞬でカッとなるガルバ。怒号。掌に生まれる新たな炎。間髪入れず襲い掛かる冥。
銃弾を躱し、霊犬を振り払おうと大型バイクが荒々しく左右に振れる。
生まれた意識の死角。刹那、知子がスクーターを立て直した。
「金行を以って銀の槍と為す……」
刃のキルゾーンをすり抜け、独楽のようにスピンしたスクーターの軸が垂直に戻る。
ぐらりと揺れながらフルスロットル。マフラーからぼふんと排気の塊。
猛加速したスクーターが、ガルバの背後を取った。
「亡びよ。――金行"銀槍"!」
アオザイの白い袖が閃く。五指の間に呪符。
投擲、銀光。風を切って放たれた呪符が、知子の詠唱により銀の短槍へと姿を変える。
扇状に広がった銀の軌跡が、稲妻の如き鋭角を描いてガルバの背に襲い掛かった。
「ぐっ!? ちょこまか、すンなッ!」
背後からの痛撃。連続して突き刺さった短槍に、ガルバはカウンターで炎腕を振るう。
轟と吹く炎風。ガルバの眼前に迫っていた銀槍が融けて落ちる。
だが、それさえも知子の目くらまし。
二手に分かれた銀槍の半分が、地を這い、炎風を潜り、三輪バイクの後輪に殺到した。
「片輪、もらうわよ!」
ゴムを刺す弾性の音を響かせて、銀の穂先が巨大タイヤに突き刺さる。
高速で回転するタイヤに断続的に突き立てられる短槍。左側の後輪があっという間にハリネズミになる。短槍はつっかえ棒となって地面の凹凸に引っ掛かり、巨大バイクの車体を大きく斜めに跳ね上げた。
「~~! 舐めんじゃ、ねえぞ!」
吠えるガルバ。浮いた左サイドに体重を掛けて、無理矢理に転倒を防ぐ。
頭上に伸ばされる片腕。掌から吐き出された激しい炎が、熱波の反動で後輪を地面に叩きつけた。サスペンションが暴れ、車体が不規則に跳ねる。
――その鼻先に、佑月のバギーがバンパーを寄せていた。
「得意の炎はもう品切れかな?」
「テメェ……ッ!」
至近距離でぶつかった互いの視線が火花を散らす。
好機。佑月の指がわんわんトラップの鎖を握る。モンスターマシンの超馬力は、今やガルバを振り回す側となっている。
大型バイクのすぐ後方にはスクーター。ともすれば巻き込まれかねない距離だが、躊躇いもなく、知子が叫ぶ。
「構わずやりなさいっ!」
「……それじゃ、悪い子にはちゃーんと反省して貰おうか」
口の片側を持ち上げた知子に、佑月が小さく頷く。
地面に滑らせるように投げられたトラバサミ。黒鉄の牙が暴れるタイヤに噛みついた。
ガルバの視界がぐるりと回る。激しい土煙を巻き上げて、大型バイクがスリップする。
制御不能。超高速で弧を描くモンスターマシンは、まるで巨大なハンマーだ。
「ま、が、れーっ!」
巻き込まれれば、間違いなくスクラップ。鉄塊の台風に巻き込まれる寸前、知子はスクーターのハンドルを全力で左に切った。
残された唯一の逃げ道。朽ちた建物の合間、ストリートから伸びた小さな脇道。
オーバースピードでの侵入。迫る壁。ハンドルを引き、タイヤを浮かす。
斜めになったスクーターが、壁を走った。
「クソ! 待ちやがれ!」
ブレーキを全力で掛け、ひとまず完全に停止した巨大バイクからガルバが吠える。
当然、待てと言われて待つはずもない。
横道からするりとストリートに戻った知子のスクーターと佑月のバギーが合流し、二人の猟兵は悠々とシティの外部に向けて走り去っていくのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レパイア・グラスボトル
世の中には偶然(運命)という物がある。
偶々、医者を探すヤツがいたり、倒すべき悪がいたり。
略奪結果も上々、子供も帰った。
あとは汚い大人の時間なのだ。
ボスを倒せば残った街で好き勝手に大人の遊びだ。
そんな調子に乗ったレパイアと大人共。
レパイア用車両にて轢殺を狙う。猟兵仕様かつ救急車両だから耐火で頑丈。しかし、重量は見た目相応。
【POW】
調子に乗った略奪者(世界観的雑魚)の末路など決まっている。
ボスと天敵に挟まれ燃えない鈍器か投擲具の如く武器扱いされる。
それでも治療は止めないが。
オマエ、拳法家だろうが。
ボスを退けられたら医者を探していた天敵にレパイアは持っていかれる。
勿論タダ働きである。
アレアド絡観
稷沈・リプス
アドリブ連携歓迎っす。
追っ手っすか。速度よし、機動力よしっすね、あれは。
ただ一つ、あれが不利なのは『炎』であるという点っすね。
【夜の舟】。これは太陽運行権能の一つ、つまりは太陽。
おそらく三回来るはずっすけど…太陽の炎に勝る炎なんて、あるはずないっすよね。結界も太陽の炎で作ってるっすし。
目眩ましで、また『太陽』の属性攻撃しておくっすか。あれ、めっちゃ眩しいんっすよ。
ついでに不幸呪詛でもつけるっすかねー。
でも、危ないから子どもたちは真ん中にいるようにっすよー。
元気なのは嬉しいっすけど、無事に送り届けるまでが役目っすから。
※護衛は相変わらず怖がらせないように配慮している。
「あそこに見えるのが追っ手っすか。速度よし、機動力よしっすね、あれは」
夜明け前の空を飛ぶ『夜の舟』の船尾から、稷沈・リプス(明を食らう者・f27495)が身を乗り出して地上を覗き込む。
モンスターマシンに跨るガルバの姿は、上空からでもはっきりと視認できた。猟兵たちにバイクを強制停車させられた彼は、怒りに震えながらふつふつと地獄の炎を滾らせていた。
空気が歪むほどの高熱が、タイヤに打ち込まれた『楔』を融かして無力化する。膨れ上がった炎の渦がシティの建物さえも巻き込んで燃え上がるが、ガルバはもはやそれに頓着することさえなかった。赤々と燃えるストリートを背景に、獰猛に目を輝かせたガルバがモンスターマシンのエンジンをキックスタートする。
イグニッション。大型バイクが吠え猛る。
「うわわっ」
「すっげー!」
怪物エンジンの唸りは、風の層を突き破って夜の舟まで轟いた。鼓膜を震わす爆音に、リプスの隣で地上を覗いていた子どもたちがひっくり返る。
ごろんと転がった少年少女を、幽霊船員たちがわたわたと追いかける。小さな乗客を怖がらせないように、ちょっぴり顔が怖い船員たちが恐る恐るといった様子で仰向けになった子どもたちを拾い上げた。
「はいはい。危ないから子どもたちは真ん中にいるようにっすよー」
振り向いたリプスがパンパンと手を叩いて子どもたちに縁から遠ざかるよう促す。それを合図に、船員の腕に抱えられた子どもたちがぴたりと動きを止めた。怖がったり、泣き始める気配はない。こちらの心配を知ってか知らずか、子どもたちはすっかり幽霊船員にも慣れてしまったようだ。
トテトテと船の中心に歩いていく子どもたちを見て、リプスは肩を竦める。元気なのは嬉しいが、彼らを無事に送り届けるのがこちらの役目だ。もうしばらく、おとなしく辛抱していてもらわなければ。
「なにしろ、さっきからあれがこっちを睨んでるっすから」
そう呟いたリプスが再び船尾から地上を覗けば、天上の舟を睨むガルバとばっちり目が合ってしまった。ちょっと目を離した隙に、オブリビオンの纏う炎は天を焦がさんばかりに巨大化している。周囲の被害を顧みないその火勢に、リプスはげんなりと眉を顰めた。
「まあ、でも。『炎』を相手にして、『太陽』が負けるわけにはいかないっすよね!」
『蝕』の神の指がパチンと鳴る。甲板にずらりと並ぶは武装した獣頭の戦士たち。
借り物権能。されども夜の舟が往くは太陽航路。是即ち、日輪の化身也。
地上のガルバがマシンを走らせ、高らかに片腕を掲げる。巨大化した地獄の炎が、火炎旋風を伴って振りかぶられた。
さながら炎の槌か。巻き起こった上昇気流に路傍の家々が千々に砕けて浮かび上がる。
「上から目線で、目障りなんだよ……っ! 墜ちろォ!」
咆哮と共に振り下ろされる腕。一塊となった燃え盛る業火が、ドロドロになった瓦礫を伴って夜の舟を襲う。
巨大木造船に比する超巨大火球。しかし、焔の先端が舟に接触する、その寸前。
夜の舟を護る不可視の球形結界が、バチリとスパークしてガルバの火球を押し止めた。
「んだとぉ!?」
「結界も太陽の炎で作ってるっすからね。さ、押し返すっすよー!」
地獄の炎と鬩ぎ合う、仄白く輝く太陽炎の結界。その内側から、幽霊戦士たちが弓と杖を構える。
鏃に炎、杖先に光。リプスの指先がガルバを指し、番えられた『太陽』の力が一斉に放たれた。
紅蓮が爆ぜ、閃光が弾ける。激突した力の余波が舟の甲板を白く染めた。
力の拮抗を制したのは『太陽』。極太の虹彩を描いた戦士たちの魔力が、地獄の炎を押し返していく。
「クソッ、まだだ!」
だが、それでもガルバは粘る。シティの被害も顧みず、繰り返すことさらに二度。崩壊した周囲の建造物を燃料に、地獄の炎を新たに燃え上がらせる。
『ブレイズフレイムを極める』という魂に刻んだ生き様が、ガルバを動かしていた。炎のぶつけ合いで負けるわけにはいかない。豪腕一閃。放たれた連なる炎。二つの巨大火球が夜の舟の結界に激突する。
「っ、ここが踏ん張りどころっすよ! めっちゃ眩しいっすけど、全力で!」
「――――ッ!」
言われるまでもない、と戦士たちが気勢を上げる。
迸る太陽の輝き。三重になった地獄の炎さえも、夜の舟には届かない。
バチバチと散る火花。結界に護られた絶対領域が、じわじわと獄炎を凌駕していく。
「……さてと。このまま我慢比べと洒落込んでもいいっすけど」
軽く息を吐き、リプスが甲板を振り返る。舟の中央で、子どもたちが固まって身を丸めていた。
太陽の炎は不尽。けれども、この場に留まってガルバに付き合うのは時間の浪費でもある。むしろ、本来の目的を考えれば、さっさとシティから離脱するのが得策だ。
弓兵と魔術師に攻勢を続けさせつつ、リプスは舵取りの船員に合図を送る。ヨーソロー。太陽の結界を維持しながら、夜の舟がゆっくりと航行を再開した。
「安全第一。あとは地上のみんなに任せるとするっすか」
敵の目を眩ませて、注意を惹けば仕事は十分。
ガルバの後方、炎に包まれたストリートの彼方に巻き起こった砂塵を視界に収め、リプスは口元を柔らかくする。
「夜が明ければ必ず太陽が昇るように。……世紀末には救世主が現れるものっすから」
●
「ヒャッハー! 背中がガラ空きだぜェ!」
救急車両の窓から身を乗り出したモヒカンがイケイケに棍棒を振り回す。
ドッタンバッタンとデコボコストリートを駆け抜ける強襲型武装救急車両。意外にも揺れにくい車両の内側で、レパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)と仲間のレイダーたちはゲヘヘと露骨な笑みを浮かべていた。
「略奪結果は上々。当然、フツーならヴォーテックス一族とは敵対することになるな」
「しかーし、現場で略奪したの子供たちだけ。で、アイツらはもうホームに帰った」
「ってことはぁ……?」
「追跡部隊のボスさえ消しちまえば、オレらはそのままシティで遊べるって寸法よォ!」
「イェーイ! 盛り上がってきたぜえ!」
大人って汚い。追跡部隊以外からは目撃されていないのをいいことに、レイダーたちは残った街で好き勝手遊ぶ気満々だ。
子供には言えないあーんなことやこーんなことに心を躍らせながら、武装車両が全速力で突き進む。猟兵仕様の救急車両は、頑丈でなおかつ耐火性も良し。しかも、肝心のガルバは天上の舟に首ったけだ。ダイレクトアタック(婉曲表現)を仕掛けるのにこれほどのチャンスはない。
やったぜ、レイダー! 大勝利!
……なんてオイシイ話で済むはずもなく。
鼻歌交じりに負傷レイダーの手当てをしていたレパイアは、ふと後部ガラスの向こうに視線を飛ばし、迫りくるひとつの人影に気付いた。……気付いてしまった。
「げ!? アイツはまさか……っ!」
吹き荒れる砂塵と共に現れたシルエット。鍛えた己の脚で戦場を駆けるニクいヤツ。
あっという間に救急車両に接近するレジェンド・オブ・アポカリプス・ヒーロー。
まさかまさかの腐れ縁、アイツはまさに、世紀末救世主だ!
「ヤバイ! おい、スピードを上げろ! 追いつかれるぞ!」
「え? いや、もうアクセルべた踏みなんだが……」
「じゃあなんで徒歩のアイツに追いつかれそうなんだよォー!?」
指だけは治療のために動かしながらも、思わず絶叫。なんだなんだとレイダーたちが後方を振り返った瞬間、救急車両がガクンと揺れる。
――アイツの指が、バンパーを掴んでいた。
レイダーたちが揃って「ゲェー!?」と頭を抱える。常識外れの健脚で救急車両と等速で走るアイツが、後部ガラスから車内を覗き込んできた。
「医者は、どこだ……?」
「おま、状況を考えろ、状況を!」
救世主の目にばっちり捕捉されたレパイアが、慌ててフロントガラスの向こうを指差す。騒がしく接近する車両に、前方のガルバがついに振り向いた。
もはやブレーキを掛けることはできない。レパイアたちに残された道は、ガルバを轢いてそのままアイツから逃げ去るのみだ。
目を剥いたガルバが腕を振るい、直撃コースの救急車両に獄炎を放つ。閉め切った車両の窓から見える景色が真っ赤な炎で埋め尽くされた。
耐火装甲は機能している。ならば蒸し焼きにされる前に駆け抜けようと運転席のレイダーが必死にアクセルを踏むが、世紀末の救世主はそれを許さなかった。
「ヤツもまた、倒すべき悪、か……」
「待て待て待て! いったい何をする気、うぉわ!?」
救急車両の前輪が宙に浮く。なんという怪力。バンパーを掴んで車両を持ち上げた救世主が、マシンの耐火装甲を盾にしてガルバに突撃する。言うまでもなく、車の中はしっちゃかめっちゃかだ。
「んだぁ、テメェ! お前もヤツらの仲間か!?」
「……」
ガルバの荒々しい誰何に、救世主は沈黙で応えた。
地獄の炎を跳ね除けて、救急車両が水平に振りかぶられる。車内のレイダーたちが団子になって転がる中、それでも治療を続けるレパイアがドア一枚を挟んでゲッソリと問う。
「オマエ、拳法家だろうが」
「……ヌンチャクのようなものだ」
横一閃。振り抜かれた救急車両が、横薙ぎにガルバを直撃した。
金属が激突する轟音。「ぐおっ!」と呻いたオブリビオンが巨大バイクごと吹き飛んでいく。ぐるんぐるんと空中で回転した三輪バイクが、ぐしゃりと地面に墜落した。
沈黙したガルバを静かに見つめ、救世主はベコベコに凹んだルーフを担ぎ直す。大型車両の重量だろうと鋼の肉体は小揺るぎもしない。レイダーたちに押し潰されながら窓の内に張りついたレパイアに、外から声が掛かった。
「医者が要る。ついて来い」
「……ハァ。またタダ働きか」
ひっくり返った車内で溜め息。こうなってしまっては、もはや逃げられそうにもない。
しょうがない。猟兵としての仕事は達成している。拠点に連れ帰った子供たちは……、まぁ、他のメンバーがなんとかするだろう。
踵を返した世紀末の救世主は、ドナドナと運ばれる救急車両と共に、砂塵の彼方に消えていったのだった。
●
「ところで、目眩ましと一緒に地上に落とした不幸の呪詛」
ゆるゆると戦域から遠ざかる夜の舟で、リプスが首を傾げる。
「あれって、誰にとっての不幸になったんっすかね?」
問われた子どもたちも、幽霊船員も、みんな揃ってハテナを浮かべた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
セシリア・サヴェージ
もう追いついたのですか……ならばここで討ち果たすまで。
この身に代えてもあなた達を護ると誓いましょう。……反転して敵を迎え撃ちます!
UC【暗黒の守護者】を発動して魔法障壁を展開。状態を維持しながらガルバに向かって突進します。
おそらく炎の塊をぶつけてくるでしょう。ですが必ず護ると誓ったのです……これしきの炎で私の【勇気】と【覚悟】は揺らぎません!
炎の中を突き進みガルバの元へ【切り込み】ます。すれ違いざまに馬に【ジャンプ】させ、ブレードを飛び越えつつ【捨て身の一撃】を入れます。
悪しき炎では暗黒の護りと騎士の誓いを灼く事は叶いませんよ。
レテイシャ・マグナカルタ
「アイツらの未来、奪還(うば)わせてもらったぜ」
追う敵の前に仁王立ちで立ちふさがる
普段無意識に纏っている、生まれついて持っていた膨大な魔力による防御
それが薄れるくらいに体中の魔力を右手に集中させていく
熱気が肌を焼く痛みをものともせず、ただただ敵を睨みつけ真っすぐに走り
「ぜりゃあああっ!!」
青白く輝く手刀が地獄の炎を斬り、赤き刃を断ち、回転の勢いを乗せて敵を両断せんと迫る
戦いの前後どちらか適切なタイミングで
子供達にこの街を抜けてどうしたいかを聞く
アテがあるならそこまで送り届ける
希望を届けるのが奪還者だから
行き場が無いならオレの本拠地(孤児院)もあるぜ。同じくらいの歳の奴らも多い
ガルバはキレた。
元より気の短い男である。周囲の被害や、ともすれば自身のダメージさえも、もはや彼の眼中から消え失せていた。
怒りに任せてモンスターマシンのアクセルを限界以上に踏み込む。たとえエンジンが焼け焦げフレームがバラバラになろうとも、やられっぱなしで引き下がることは我慢ならなかった。
巨大バイクが車体を軋ませながら疾走する。後先考えない猛加速。ほとんど暴走だ。
カーブを曲がり切れず、接触した街道沿いの建築物が炎に包まれて弾け飛ぶ。その反動で無理矢理タイヤの向きを変え、次の街路へ。
――その直線の果てに、二人の猟兵が待ち構えていた。
「もう追いついたのですか……」
幽霊軍馬の上で呟くセシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)の表情に驚きはない。この遭遇は意図されたものだ。
子どもたちは幽霊騎士に護衛させて先に逃がした。遠ざかるその背に、彼女は確かに誓ったのだ。
この身に代えても必ず護る、と。
「なればこそ、ここで討ち果たすまで」
馬首を巡らせたセシリアが、敵に正対してその道を阻む。すらりと抜き放った暗黒剣を祈るように眼前に構える。特大剣の黒い刀身が炎を映し、静かに輝いた。
その傍らでもう一人の猟兵、レテイシャ・マグナカルタ(孤児院の長女・f25195)はガチリと両の拳を打ち合わせる。
セシリアが静であれば、レテイシャは動。めらめらと燃えるガルバの炎を瞳に刻み込み、軽くステップを踏みながら身体を温める。
猛スピードで疾走するモンスターマシンは、アフターファイアでシティの建物を燃やしながら、瞬く間に猟兵たちに迫りつつある。近づくほどに明瞭となるガルバの顔は、獣の如き怒りに染まっていた。
殺気の籠った視線が猟兵たちを貫く。その殺意を真っ向から受け止めて、仁王立ちで道を塞いだレテイシャが口の端を持ち上げた。
「アイツらの未来、奪還(うば)わせてもらったぜ」
「ッ! ブリンガァアッ!!」
奪ったものは、少年たちの未来。レテイシャの挑発的な言葉に、激昂したガルバが凶悪に叫ぶ。怒れるままに突き出されるオブリビオンの片腕。己の敵たる『奪還者(ブリンガー)』たちを目掛けて、ガルバは己のすべてを賭けた獄炎を撃ち放った。
掌から生み出されたのは、命を燃やす地獄の炎。自身の生命力さえも燃料にした、最強にして最期の一撃だ。
真っ赤な炎の渦がバイクよりも速くストリートを駆けてくる。馬上のセシリアと地上のレテイシャ。二人の猟兵は、その脅威に臆することなく突撃した。
「正しき闇の力で、全てを護ってみせる!」
「指先に集中して……、こうだっ!」
展開と凝縮。二つの魔力が正反対の流れを描いた。
湧き上がる暗黒の魔力が無敵の魔法障壁を創造し。
膨大な竜の魔力がレテイシャの右手で刃を成す。
全身の魔力を刃に集めたレテイシャは防御をかなぐり捨て、揺るがぬ守護の意思を胸に掲げたセシリアは絶対の防御を具現した。
共に駆ける二人の猟兵は、それぞれの全力を以てオブリビオンに立ち向かう。
「ウオォオオッ!」
鬼人の咆哮。ガルバの渾身の炎が、暗黒の魔法障壁と激突する。
灼熱の波濤が暗黒の壁に弾かれて飛沫を上げる。
吹き抜けた猛烈な熱風が、レテイシャの無防備な肌を焼いた。その痛みをものともせず、彼女はただただガルバを睨んで走り続ける。
迫る火炎の第二波。二度目はないと、セシリアが叫ぶ。
「これしきの炎で! 私の勇気と覚悟は揺らぎません!」
護ると誓った。子どもたちも、そして、戦友もだ。
高く掲げた暗黒剣。霊馬の声なき嘶き。守護の意思が暗黒の力に共鳴する。
無敵の障壁の原動力は、セシリア自身の想像力だ。炎そのものだけではない。熱と風の干渉すら遮断する、鉄壁のイメージを己の心に打ち立てる。
暗黒障壁が、より強く、より堅固に色を変える。
直後に赤光と轟音。再び激突する炎。
だが、もはやその余波がレテイシャを傷つけることはなかった。
豪炎の波が途切れる。
至近距離。マシンに並ぶ無数のブレード。
二人の猟兵がパッと左右に分かれた。
待ち構える赤熱の刃を、セシリアは躱し、レテイシャは断つ。
漆黒の特大剣。軍馬の跳躍。赤い刀身を飛び越え、捨て身の構え。
青白く輝く手刀。跳ね上がる刃。赤い刀身を両断し、勢いのまま身を捻る。
「はぁあああっ!!」
「ぜりゃあああっ!!」
黒と青。瀑布の如き縦斬りと、颱風の如き回転斬り。
閃いた二つの刃が、ガルバの身体を縦横に断ち切った。
渾身の一撃を放った二人が、勢いを抑えきれずにストリートを転がった。土煙を上げながら翻身。立ち上がった二人が、モンスターマシンの行く末にピントを合わせる。
巨大バイクに跨った人影がぐらりと揺れ、四つに分かれて地面に落ちる。主を失ったモンスターマシンが道端のジャンクの山に突っ込み、やがて静かにエンジンを停止させた。
建物に延焼していた地獄の炎も、だんだんと火勢を弱めていく。赤く染まっていたストリートに闇が戻り、やがて白い光が射しこみ始めた。
夜明けだ。セシリアは暗黒剣の刃を収め、モンスターマシンの残骸に向けて呟いた。
「悪しき炎では、暗黒の護りと騎士の誓いを灼く事は叶いませんよ」
「おかげで、助かったぜ……っ」
ぷはっと息を吐きだしたレテイシャが、ごろりと仰向けに寝っ転がる。背に触れた街路の土は、まだほのかに熱を帯びている。
見上げれば、黎明の空は雲一つなく晴れ渡っていた。
●
どこまでも続く赤茶けた荒野。ヴォーテックス・シティから遠く離れた小高い丘で、猟兵たちは小休止を取っていた。彼方に見える悪徳の都市は、もう豆粒ほどの大きさだ。
子どもたちを連れて合流した猟兵たちの一団は、ちょっとしたキャラバンの様相を呈していた。一般人を連れてグリモアベースを経由するわけにもいかない。子どもたちを各地に送り届ける旅は、もうしばらく続きそうだ。
「どこか、行くアテはあるのか?」
丘の頂上から、ひとりの少年が荒野の果てを見つめていた。背中から声を掛けたレテイシャの問いに、彼は無言のまま首を横に振る。
ぼんやりと黄昏るその両肩を、レテイシャの掌が包んだ。
「行き場が無いならオレの本拠地もあるぜ。……そうだな、お前と同じくらいの歳の奴らも多いぞ」
振り向いた少年の瞳は、ほんのちょっぴり潤んでいた。ぐしぐしと袖で目元を拭い、大きく息を吸って、少年は躊躇いがちに口を開く。
その選択がどのようなものであれ、彼には彼自身の行く道を決める自由がある。
奪還者は、子どもたちに確かな希望を届けたのだ。
大成功
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