13
行燈祭りと白猫のあられ

#カクリヨファンタズム

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム


0




 窓越しに、行燈の灯が揺れる。
 今年も祭りの日が近づく。
 また独りで過ごす祭りの日が。
 そう、思っていた。
「ねえおきて、ごしゅじんさま。そとをみせるやくそくじゃない」
 白猫は、亡くした主に語りかける。
 共に過ごした過去を思い出しながら。
「ねえこえをきかせて、ごしゅじんさま。へんじして」
 白猫は、亡くした主に願う。
 あの優しい声を思い出しながら。
「ねえ、ごしゅじんさま」
 白猫は独り、亡くした主を想い、嘆き続ける。
 にぃあ、にゃあ、と哀しい声で。
 今年も独り、祭りの日を過ごす。
 そう、思っていた。
 けれども。
『おはよう、あられ』
 白猫の前で、亡くした主が動き出す。
 骸魂となって、優しく白猫の名を呼ぶ。
「ごしゅじんさま」
 歓喜の白猫を、主は迎え入れて。
 化け猫となっていた白猫を、主の骸魂は飲み込んで。
 オブリビオンへと変えていく。
「おきてくれた。よんでくれた」
 けれども白猫にとってその変化は些細なことで。
 むしろ、オブリビオンとして主と1つとなれたことに満たされて。
「もうなくさない。もうはなれない」
 白猫は、呟いてしまう。
 世界の終わりを告げる、滅びの言葉を。

 ……時よ止まれ、お前は美しい。

「カクリヨファンタズムが崩壊しようとしている」
 九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)が告げた言葉に、だが集まった猟兵達は慣れた様子で話の先を促す。
 さもありなん。
 UDCアースと骸の海の狭間にあるこの世界は、カタストロフが日常茶飯事、とも言える程に、世界の終わりが幾度も訪れかけている。
 猟兵達に、世界の終わりを防いで欲しい、という依頼が来ることも珍しくなく。
 ゆえに、落ち着いた様子の皆を見回して、夏梅も慌てることなく話を続けた。
「崩壊の中心となっているオブリビオンは、彷徨う白猫『あられ』。
 亡くした主の魂魄に飲み込まれた東方妖怪……化け猫さ」
 主の死を受け入れられず、起きてくれることを待ち続けた白猫は。
 骸魂となっていても、戻ってきた主に喜んで。
 むしろ望んでオブリビオンになってしまったようだと夏梅は言う。
 すでに崩れ始めている世界を元に戻す為には、オブリビオンを倒す必要がある。
 けれどもそれは、骸魂を倒す事と同義。
 やっと大切な主と会えた白猫を、再び主から引き離すことになるから。
「2人の仲を引き裂く……っていうと酷い話だがね。
 でもきっと、こうすることが、あられのためでも、望まず骸魂となったあられの主のためでもあるはずだよ」
 そう信じるしかないねぇ、と夏梅は苦笑を見せた。
 そして俯きかけた顔を、だがすぐに上げると真っ直ぐに猟兵達を見据えて。
「ちょうど、向かってもらう辺りでは、行燈祭りの準備がされている。
 その行燈の灯が、過去を魅せる力を持ってしまっていてね。
 妖怪達が過去に囚われて、さらにオブリビオンが生まれても厄介だから、あられの元へ行くついでに、その灯も消してきておくれ」
 おまけのように、依頼を付け足す。
「全てが終わって、祭りができるようになれば、行燈には改めて灯をつければいい。
 そうだね。行燈祭りを一緒に楽しんでくるのもいいだろうね」
 夏梅は努めて明るく笑いながら。
 その笑顔に少しだけ憂いを混ぜて。
「……よろしく頼むよ」
 猟兵達を送り出した。

 にぃあ、にゃあ。


佐和
 こんにちは。サワです。
 ずっと一緒に居たい人は誰ですか?

 数多の行燈が灯る中にオブリビオン・彷徨う白猫『あられ』がいます。
 ちょうど祭り会場の中心辺り。
 足元から崩れるように世界は崩壊を始めていますが、まだその影響は祭り会場の外側にしか現れていないようです。

 第1章では、数多の行燈の間を抜けて、あられの元へと向かいます。
 この行燈の灯は過去を魅せてきます。
 見たい過去がありましたらどうぞご指定ください。
 見えるのは自分の過去、もしくは、許可を得た同行者の過去です。
 特に過去を見ないまま、灯を消していっても大丈夫です。

 第2章は、あられとのボス戦です。
 あられやその主に関わるプレイングにはプレイングボーナスがあります。

 第3章では、行燈祭りが行われます。
 行燈の灯りで幻想的に照らし出される、どこか昔懐かしいお祭りです。
 浴衣を着ていったりするのもいいかもしれません。
 状況によってはあられとも一緒に楽しむことができるでしょう。

 それでは、行燈の瞬きを、どうぞ。
146




第1章 冒険 『行燈フィーバー!』

POW   :    吹き消す!!

SPD   :    水を掛ける!!

WIZ   :    燃える素を取り除く!!

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ゆらり、ゆらりと、行燈の灯が揺れる。
 いつも道を照らしている辻行燈だけでなく。
 道の端に幾つも並べられた、数多の灯が。
 縦長の箱に、真四角の箱に。円柱型に、多角多面体に。
 貼られた和紙の模様も写して。
 ゆらり、ゆらりと、幻想的に揺れる。
 そこにぼうっと浮かび上がるのは、誰かの過去。
 誘うような懐かしき思い出。
 ああ、もしかしたならば。
 主を待つあの白猫も、この灯に過去を見たのかもしれない。
 過去に誘われ、囚われて、魂魄を引き寄せたのかもしれない。
 その真相は分からぬまま。
 オブリビオンとなった白い化け猫を、幾重にも幾重にも囲むように。
 崩壊する世界の中で、行燈の灯は揺れ続ける。
 ゆらり、ゆらりと。
 誰かの過去を浮かびあがらせて。
エインセル・ティアシュピス
【アドリブ連携歓迎】
にゃーん……しろねこさんかわいそう……
でもせかいがなくなっちゃったら、しろねこさんとごしゅじんさんのおもいでのばしょもなくなっちゃうよ。もっとかなしいことになっちゃう。だからとめなきゃ!

なつかしーかこ?にゃーん、ぼくうまれたばっかしだからなつかしいってよくわかんにゃい。
でもあんどんさんのひをけさないといけないんだよね?
よーし、【指定UC】でおっきなねこさんをよんで、ねこさんにのせてもらってはしりながら【属性攻撃】でおみずだしてひをけしてくよ!
あとしっぽのおリボンさんにも【式神使い】でバケツにぼくがだしたおみずためてもらってかけれるようにするよ。
かじになっちゃめーだもんね!



「にゃーん……しろねこさんかわいそう……」
 事件の説明を思い出しながら、行燈の灯が揺れる道をとぼとぼと、エインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)は歩いていく。
 白い猫耳も、背中の羽根もしゅんとして、白い尻尾は付け根を飾る緑のおリボンと一緒に項垂れて。
 猫同士という共通点も相まってか、エインセルは白猫に思いを寄せる。
 正確にはエインセルは猫ではないのだけれども。
 それでも、拾ってくれた飼い主の事が大好きなのは、きっと白猫と同じだから。
(「りょーやとばいばいは、いやだもんね」)
 境遇を自身と重ねて考えると、さらに猫耳がぺたんと下がる。
「でも、せかいがなくなっちゃったら、しろねこさんとごしゅじんさんのおもいでのばしょもなくなっちゃうよ」
 それでも、すぐに猫耳をぴんっと立てて顔を上げるのは。
 そんな白猫の想いが、もっと悲しいことを引き起こしちゃうと思うから。
 まだエインセルのいる場所までは届いていないけれども、確実にカクリヨファンタズムの崩壊は始まってしまっているから。
「だからとめなきゃ!」
 大きな緑色の瞳から哀しみを振り払って、エインセルは前を見据えた。
 行燈の灯が照らし出すこの道の先に、件の白猫はいる。
 たたたっと早足で通り行くエインセルに、ゆらり、ゆらりと灯が揺れて。
 不意に、エインセルの前に人影が現れた。
「……りょーや?」
 黒髪なのに白い竜鱗を持つドラゴニアンの青年の姿に、エインセルは緑瞳を瞬かせる。
 自分を追いかけてきたのだろうか、と首を傾げるけれど。
 その姿は、いつも見ているものとどこか少し違う気がして。
 さらに逆方向へと首を傾げるエインセルの前で、青年は白い子猫を抱き上げた。
 羽根の生えた子猫が……かつてのエインセルが、緑色の瞳で青年を見つめている。
「なつかしーかこ?」
 そういえば、とエインセルは、白猫の話と一緒に聞いた説明を思い出した。
 行燈の灯が過去を魅せ、妖怪達が囚われてしまうのだとか。
 だからきっと、今見ているのは、エインセルの懐かしい過去。
 なのだけれども。
「にゃーん? ぼくうまれたばっかしだから、なつかしいってよくわかんにゃい」
 単純な子猫の思考は、過去に過剰な想いを寄せることはなく。
 思わぬところで飼い主の姿が見れてちょっと嬉しい、くらいだったから。
 囚われる、という感覚がよく分からない。
「でも、あんどんさんのひをけさないと、いけないんだよね?」
 だからエインセルには、その理由を理解しきれないけれども。
 やらなきゃいけないこと、と説明を素直に受け止めて。
「よーし」
 ユーベルコードで知恵を授けし賢者の猫を呼び出した。
 エインセルは、バステトの眷属である大猫の背にひょいと身軽に乗っかって、そこから道の先を指差すと。
「はしってー」
 声に応えるように、大猫が走り出した。
 そうして行燈の間を通り抜けながら、エインセルは水を生み出し、撒いていく。
 大粒の雨のように降り注ぐ水は、行燈の灯を次々と消して。
 過去の幻影から、妖怪達が解放されていく。
 さらに、尻尾に結ばれた愛嬌醸す緑の尾紐が、式神としてしゅるりと動き。
 道の端にあったバケツを絡め取り上げると、エインセルが撒き散らしていく水の一部を集めて溜めていく。
 そして大きな辻行燈の上で、バケツをひっくり返すと。
 ざばーっとかけられた水が、大きな火を消した。
「かじになっちゃめーだもんね!」
 確かに、初期消火のような光景ではありますが。
 どこか消防士のような感覚で、エインセルは灯に水をかけ続けながら。
 白猫へと続く道を、大猫の背に乗って走っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

天帝峰・クーラカンリ
行燈の光が美しいな。消してしまうには、少々惜しい…
とはいえ職務は全うせねばならん。悪いが、吹き消させてもらうぞ

脳裏によぎるは故郷の山。信仰深き天帝の峰・クーラカンリ。
私と同じ名前、いや、私そのもの
人々に崇められ、時に祝福を、時に災いを齎し、神である自分を確立してきた場所
神は信仰なしでは存在できない。私も例にもれず、その通りである
嗚呼、こうして獄卒になった今、クーラカンリ山はどうしているだろうか
人々を無為に殺めてはいないか?かといってすんなりと登頂させてはいまいか?
こういうのは飴と鞭、加減が大事なのだ
私もこの任務を――責務を終えたら、必ずや山に戻り皆を――

…夢幻か
ふぅっと灯火を吹き消す



 ゆらり、ゆらりと揺れる行燈の灯が、辺りをぼんやりと照らし出す。
「美しいな」
 見慣れたはずのカクリヨファンタズムの懐古的な風景が、どこか幻想的な雰囲気を纏うのを見て、天帝峰・クーラカンリ(神の獄卒・f27935)は思わず呟きを零していた。
 それはまさしく、行燈がもたらした光景。
 和紙越しの穏やかな灯りが生み出した空間。
 クーラカンリは、手近にあった縦長の箱型をした行燈に手を伸ばしたけれども。
 その動きが、ふと、止まる。
「消してしまうには、少々惜しい……」
 この灯が過去を魅せることは知っている。
 このまま灯を残せば、妖怪達が過去に囚われてしまう可能性があることも。
 新たなオブリビオンを生まないためにも、行燈の灯を消すのが、猟兵としても獄卒としても全うすべきクーラカンリの職務なのだが。
 ゆらり、ゆらりと。
 淡い灯が、周囲の景色が。
 美しく揺れていたから。
 灯へと伸ばされた手が、止まったまま。
 クーラカンリの目の前に、極寒の峻険な山が聳え立った。
 それは、クーラカンリの故郷。
 信仰深き天帝の峰・クーラカンリ。
 クーラカンリと同じ名を持つ山であり、クーラカンリそのものと言うべき山。
 ……山には信仰が宿る。
 人々に崇められ。
 時に祝福を、時に災いをもたらし。
 神としてその存在が確立する。
 だがしかし。
 その信仰がなくなれば、神は存在できない。
 崇める人々がいなくなれば。
 祝福も災いも、感じる者がいなくなれば。
 神としての存在は消える。
(「嗚呼、私もその通りである」)
 故郷を離れ、このカクリヨファンタズムへと逃れたクーラカンリは。
 地獄の獄卒として、新たな地に存在する神は。
 己の変遷を思い出すと共に、かつての自身を見つめた。
 神の居なくなったクーラカンリ山は、どうしているだろうかと。
「人々を無為に殺めてはいないか?
 かといって、すんなりと登頂させてはいまいか?」
 かつての自分に問いかけるかのように。
 分かたれた半身を気遣うかのように。
 聳え立つ山へと声をかける。
 天帝の名を冠する峰ゆえに、飴と鞭の加減が大事なのだ、と諭す声は。
 自戒のようであり。教授のようでもあり。
 見上げるクーラカンリと見下ろすクーラカンリ。
 2つの存在が再び交わるかのように、伸ばした手が近づいて。
「……夢幻か」
 クーラカンリはぎゅっと手を握り締めると、胸元へと引き戻した。
 これは行燈が魅せた過去。
 今のクーラカンリが留まるべき場所ではないから。
 クーラカンリは改めて周囲を見て、揺れる灯を見出して。
 ふぅっ、と灯火を吹き消した。
 途端に揺らぐ、天帝の峰。
 消えていく、懐かしき故郷。
(「私もこの任務を……責務を終えたら、必ずや山に戻り皆を……」)
 薄れゆく山へと誓いながら、クーラカンリはそっと青瞳を伏せた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ノエル・マレット
飲んでみる?って言われたんだ。
カップに入った黒い飲み物。
わたしが物欲しそうにしてたからだと思う。
うんって勢いよく答えてわくわくしながら飲んだらすっごく苦くて拗ねちゃったっけ。

当たり前で、愛おしい日々。
何も持っていなかったわたしに初めてできた大切な家族(ひと)。
これ以上ないほど幸せで、だからこそ怖かった。
失いたくなかった。
だから。ただ、護りたかったのです。
わたしと、あなたと。それを取り巻く世界を。

行燈の灯を消しながら思う。
……これは意味のない仮定のはなし。
そうならないために努力してきたのだから。
でも。もし白猫と同じ立場になったとしたら、わたしはきっと――。



『飲んでみる?』
 そう言って差し出されたカップの中には、黒い飲み物が入っていた。
 聞いてくれたのは、きっと、わたしが物欲しそうに見ていたから。
 わたしのことを見ていてくれたから。
『うんっ』
 勢いよく答えたわたしは、早速カップを受け取って。
 わくわくしながら口をつける。
 でもそれはすっごく苦くて。
 拗ねたわたしに、カップの向こうで温かな笑いが零れた。
(「……失いたくなかった」)
 それは、当たり前で、愛おしい日々。
 何も持っていなかったわたしに初めてできた大切な家族。
 他愛もない会話が、温かくて。
 傍にいれるだけで、嬉しかった。
 これ以上ないほど幸せで。
 だからこそ、失うのが怖かった。
(「だから。ただ、護りたかったのです」)
 わたしと、あなたと。それを取り巻く世界を。
 失いたくなかった。
 当たり前になった日々が当たり前に続いていくことを。
 護りたかった。
 だからもし、今目の前に広がる愛おしい時間を、取り戻せるのなら……
「……これは意味のない仮定のはなし」
 揺れる行燈の灯を消しながら、ノエル・マレット(誰かの騎士・f20094)は呟く。
 失くした過去は、戻らない。
 例え、こうして目にすることができたとしても。
 ゆえに、失くさないように護っていかなければならない。
 だからわたしは……私は、騎士になったのだから。
 力なき人々を守護する、誰かの騎士に。
「そうならないために努力してきたのだから」
 誰も幸せを失くさなくてすむように。
 そして、失くしてしまった幸せに囚われてしまわないように。
 ノエルは、長いポニーテールにした髪を揺らすように左右に首を振り。
 緑がかって輝く金色をふわりと靡かせながら。
 消えていく過去の光景を、振り払うように道を進む。
 行燈の灯を次々と消しながら。
 その先に居る、オブリビオンとなってしまった白猫の元へと。
 ノエルは、真っ直ぐに、前へと進んでいく。
(「でも、もし白猫と同じ立場になったとしたら」)
 ゆらり、ゆらりと心の奥底を揺らしながら。
(「わたしはきっと……」)
 それでもその青い瞳は、真っ直ぐに前を見据えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

木槻・莉奈
シノ(f04537)と

見えるのはシノの過去
知りたいと望んでいた
シノの恩人で嘗ての想い人だった人が、本当はどんな人だったのかを
真っすぐに見つめた後、そっと黙祷のように視線を伏せて

…懐古も後悔も、悪い事じゃないわ
過去を顧みなければいけない時ってあるもの
だけど…私達に過去へ戻る手段はない
活かすなら今に、そして未来に活かすしかない

私は、悔やむだけで終わる程情けない人を好きになった覚えはないわ

握りしめた手をほどき、それ以上怪我を増やさぬ様繋げば手を引くように歩きだし

ほら、行きましょ
望まぬ形で戻ってきちゃった飼い主さんを、送り還してあげないとなんだから

そうね
…会いたい子がいる世界を、壊したいわけないもの


シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と

見えるのは、
俺を庇って死んだ雪狼のセス(宿敵)を含めて親友3人で酒場で酒を飲んでいた記憶
懐かしくて、取り戻せるのならと、あの時を壊した俺が償わなければと何度も思った、が
爪が食い込む程に拳を握ってその感情を握り潰し、
リナがセスの姿を見たら静かに辻行燈の灯を消す

あの感情を再び認めれば、隣に立ってくれている彼女への気持ちも言葉も、
全てを無駄にしてしまう
だから、殊更平静を装って「あれがセス…俺の恩人だ」と伝える

繋がれた手に肩の力を抜けた
惚れた弱みがあるとは言え、本当にリナには敵わない

了解、このままカクリヨ壊すのは本意じゃないだろうし
何より。過去に囚われてちゃ、未来も見えないしな



 その3人は酒場で酒を飲み交わしていた。
 アルコールで上気した赤く楽し気な顔で、他愛ない話をして、笑い合う。
(「懐かしい……」)
 それを眺めたシノ・グラジオラス(火燼・f04537)は、青い瞳を細めた。
 3人のうち1人は、シノ自身。
 まだ人狼となる前の、過去の自分。
 そう。シノが人狼となったのは、あの人を亡くしてからだから。
 誰よりも大切で、愛おしい、雪のように白い人狼の女性を。
「セス……」
 彼女が自分を庇って死んだことを、シノはちゃんと覚えている。
 自分とセスが、親友と共に笑い合っているこの光景が、過去でしかないことも。
(「取り戻せるのなら……」)
 何度も、思った。
 この光景を壊した自分が償わなければならないと。
 思っていた。
 けれど。
「あの人が、セス……?」
 傍らで紡がれた鈴のように澄んだ声に、シノははっと振り向いた。
 木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)は、艶やかな漆黒の長髪をさらりと揺らしながら、シノが見ているのと同じ光景を静かに見つめている。
 その視線の先にいるのが3人のうち誰なのかなど聞くまでもなく。
 緑色の瞳が、黙祷するようにそっと伏せられるのを、見た。
 シノは、爪が食い込む程に拳を握ると。
 懐古と後悔も入り混じる、その感情を握りつぶすようにして。
 そっと、行燈の灯を消す。
 酒場が消え、元のカクリヨファンタズムの街並みが戻って来た。
 その変化を見てから。
 過去が消えたのを確かめてから。
「あれがセス……俺の恩人だ」
 シノは殊更平静を装った声で、莉奈に告げる。
 あの感情を再び認めれば、隣に立ってくれている莉奈への気持ちも言葉も、全てを無駄にしてしまうから。
 取り戻したいと。償いたいと。
 そう願った、根本の感情を、シノは握りつぶす。
 けれども。
「……懐古も後悔も、悪い事じゃないわ」
 頑なに力の込められた拳へと、柔らかな繊手が触れる。
「過去を顧みなければいけない時ってあるもの。
 だけど……私達に過去へ戻る手段はない。
 活かすなら今に、そして未来に活かすしかない」
 護らなければならないと思うほどに細く白い莉奈の手が。
 シノの手を慈しみ、逆に護るように優しく包み込む。
「私は、悔やむだけで終わる程情けない人を好きになった覚えはないわ」
 そして見上げてくる緑色の瞳は、にっと微笑んで。
 強く、真っ直ぐに、シノを射抜いた。
(「ああ、本当に……」)
 その輝きを、シノは青い瞳を眩しそうに細めて、見つめる。
(「本当にリナには敵わない」)
 誰よりも大切で、愛おしい、共に立ってくれる女性を。
 気付けば、強張っていた肩の力が抜けて。
 緩んだその手と莉奈の手が繋がれる。
 爪の食い込んだ跡が残る掌を、これ以上怪我を増やさぬようにと護るように。
 過去に迷い留まるシノを、ぐいっと今に引き上げるように。
「ほら、行きましょ。
 望まぬ形で戻ってきちゃった飼い主さんを、送り還してあげないとなんだから」
 莉奈は、優しく、でも力強く、繋いだ手を引いた。
 ふわりとシノの顔に笑みが戻る。
 それはまだ少し気まずそうで、苦笑に近いものだったけれども。
 青い瞳は、莉奈を、今の世界をしっかりと見ていたから。
「了解。このままカクリヨ壊すのは本意じゃないだろうし」
「そうね。
 ……会いたい子がいる世界を、壊したいわけないもの」
 莉奈は、オブリビオンとなってしまった白猫の元へと足を向ける。
 シノも手を引かれて後を追い、すぐに莉奈の隣に並んで歩き出す。
「何より。過去に囚われてちゃ、未来も見えないしな」
 その手に感じる愛おしい温もりを、そっと握り返しながら。
 2人は共に進んでいった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

琴平・琴子
行燈の灯が見せるのは助けられた私
あの時助けてくれた貴方
そしてその肩に寄り添う顔の見えない足の無い幼い姫君の貴女

御伽噺を語らう貴方
見えぬ顔でも口許は微笑み携えた貴女
それを一枚の肖像画の様に見ている私

それで良かったの
肖像画の中に入れずとも
それを見ているだけで幸せだったの

暗闇が怖かった
その中にいる何かが怖かった
いつしか私は
手を差し伸べた貴方の様に
恐れる物にも凛々しく立ち向かう貴女の様に
なりたいと思ってしまったの

あの時に戻りたいかと言われたら
きっと戻りたいとは思ってしまうけれど

けれどこの瞳は
この足は
前を向くため
前を見るため

優しい灯
そうっと静かに
息を吹き消して

優しい灯のお前
有難うね



 ゆらり、ゆらりと行燈の灯が揺れる。
 あの時、助けてくれた貴方の姿を。
 その肩に寄り添っていた貴女の姿を。
 ゆらり、ゆらりと行燈の灯が浮かび上がらせる。
 優しく手を差し伸べてくれた貴方。
 御伽噺を語らう貴方。
 足のない幼い姫君の貴女。
 見えぬ顔でも口元には微笑みを携えていた貴女。
 そんな2人の姿は肖像画のようで。
 琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)はそれを見ているだけ。
(「それで良かったの」)
 琴子は思い出す。
(「肖像画の中に入れずとも。
 それを見ているだけで幸せだったの」)
 そう思っていたあの時の自分を。
 見ているだけの自分を思い出す。
 でも。
 暗闇が、怖かった。
 その中にいる何かが怖かった。
 だから琴子は。
 いつしか思ってしまった。
 怯える私に手を差し伸べてくれた貴方の様になりたいと。
 恐れる物にも凛々しく立ち向かっていた貴女のようになりたいと。
(「思ってしまったの」)
 だから。
 あの時に戻りたいかと言われたら。
 きっと琴子は、戻りたい、とは思ってしまうけれども。
 それでも。
 琴子の緑瞳は。
 琴子の足は。
 前を見るために。
 前を向くために。
 貴方の様になりたいと。
 貴女の様になりたいと。
 未来を願ってしまったから。
「……優しい灯」
 琴子は、そうっと静かに息を吹きかけた。
 行燈の灯が、ふうっと消えていく。
 過去の肖像画が、消えていく。
「優しい灯のお前、有難うね」
 懐かしい光景を見せてくれた行燈に、暗闇を退けていた灯に、お礼を紡いで。
 でももう行く先が暗闇でも、この足は進めるから。
 琴子は前を見据えると、穏やかに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
きれい
灯を見回す

聞こえてくる音
人形を作る風景
長い金の髪

覚えていないけれどわかる
作られているのはわたし

デザイン画に目を留める

あれ、あの絵

見覚えがある
瞬くと風景は変わって

「帰ろう」
声がする
わたしたちを集めてくれたおとうさんのやさしい声

わたしが動く姿を見せられなかった
今は会えない、

あの絵はおとうさんの絵だ
わたしたちを見て描いたんだって思ってた
でも、順番が逆だったんだ

おうちにいたわたしの兄弟は
おとうさんがデザインした、ほんとうの兄弟?
シュネーも?

ううん、そうじゃなくたって
わたしたちはかわらない
だけど、うれしい

わたしがまだしらない
おとうさんのおくりものがあった
わたしはおとうさんがいたからうまれてきたんだ



「きれい」
 道の両側で揺れる灯を見回すように歩きながら、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は歩き進んでいった。
 ゆらり、ゆらりと和紙越しに、行燈の灯りが穏やかに照らし出す。
 幻想的な道行きに、ふと、音が聞こえてきた。
(「この音、知ってる」)
 音の先を覗き込めば、大人の人が何やら作業をしていて。
 白磁のようなパーツを。ふわりと軽い金糸を。宝石のように澄んだ青い欠片を。
 聞き覚えのある音と共に組み上げていく。
 覚えていないけれど、オズにはわかる。
 作られているのは、長い金の髪の人形。
 すなわち。
(「……わたし」)
 これは、オズが生み出された過去。
 幾つもの綺麗な素材を組み合わせて。
 丁寧に、精緻に、創り上げられていくミレナリィドール。
 その作業の傍らには、デザイン画らしき1枚の絵があって。
(「あれ、あの絵……」)
 気付いた瞬間、風景が変わっていた。
『帰ろう』
 やさしい声がオズを迎え入れる。
 まだ動けなかったオズを。
 おとうさんが、オズたちを集めてくれていた過去。
 今は会えないおとうさん。
 オズたちが動く姿を見せられなかったおとうさん。
(「あの絵は、おとうさんの絵だ」)
 先程の過去に見た、デザイン画のような絵を思い出す。
 ずっと、あの絵は、オズたちを見て描いたのだと思っていた。
 でも、オズが作られているその時に、絵は傍らにあった。
 順番が逆だった。
 ということは。
(「おうちにいたわたしの兄弟は、おとうさんがデザインした、ほんとうの兄弟?」)
 思い至った答えに、オズは、抱いていた人形を見下ろす。
(「シュネーも?」)
 雪のような白い髪と桜色の瞳を持つ姉。
 髪飾りと同じ青色を挿した白いドレスに身を包んだ人形は、オズの想いに応えぬまま、ただじっと、青色の瞳を見つめていた。
 だから、オズは、ううん、と首を横に振った。
(「そうじゃなくたって、わたしたちはかわらない」)
 ほんとうでも、ほんとうでなくても。
 兄弟は兄弟だから。
(「だけど、うれしい」)
 オズは、その感情だけを抱きしめる。
(「わたしがまだしらない、おとうさんのおくりものがあった」)
 淡い過去から、確かな真実だけを拾い上げて。
 くるくると、シュネーと一緒に踊るように、嬉しさを表現しながら。
「わたしはおとうさんがいたからうまれてきたんだ」
 過去から、未来へ進む力を拾い上げて。
 オズは弾む足取りで、行燈の灯の間を進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

飛鳥路・彼方
「燃える素ってなんなのかしら。誰かの記憶?想い?」
それって宝物ってことよね?

「たっからもの♪たっからもの♪」
歌いながら燃えている火に手を突っ込んで握りしめ、ズボッと取り出す
火が消えた後の拳の中に、光るキラキラした破片が残ることもあるし黒ずんだ灰しかないこともある
キラキラしたものは懐にいれて灰はぱっぱと払って
手まで炭化しても2~3度振れば元通り
だって私、悪霊だもの
生きてないし死にきってもいない
界の狭間で死ななかっただけ
骸魂と私達、何がそんなに違うのかしら
集めても界を壊せないくらい弱いところ?

昔のことなんて覚えていない
いつも宝物を探していただけ
全ては刹那で彼方

「貴方は何を見せてくれるのかしらね」



 ゆらり、ゆらりと揺れる行燈の灯。
 その輝きは見つめる者に過去を魅せるけれども。
 飛鳥路・彼方(東方妖怪の悪霊陰陽師・f28069)の金の瞳が興味津々見つめるのは、過去ではなく、灯そのものだった。
(「昔のことなんて覚えていないのよ」)
 何だか見覚えのある景色やら、かつてボコった骸魂やらが見える気もするけれど。
(「いつも宝物を探していただけ」)
 そんなものに見向きもせず、彼方は揺れる灯に首を傾げる。
「燃える素ってなんなのかしら?」
 普通の行燈ならば、油やら蝋燭やらが入っているものだけれども。
 過去を魅せる灯となれば、きっと違うモノが燃えているはずと。
「誰かの記憶? 想い?」
 彼方達妖怪が、過去の思い出や追憶を食糧とするこの世界。
 火種が誰かの大切なモノであってもおかしくはないと思えるから。
 大切な、つまり、価値のあるモノ。
 だとすると。
「それって宝物ってことよね?」
 レア物ハンターな彼方は、導き出した答えに、キラキラと金瞳を輝かせた。
「たっからもの♪ たっからもの♪」
 弾む声で歌いながら、彼方は、行燈の中心へと無造作に手を突っ込む。
 中心、すなわち、燃え輝く炎の中へと。
 手が焼けるのも構わずに握り締めれば、火は消えて。
 黒ずんだ手の中には灰だけが残る。
「残念。じゃあ次」
 それでも落胆することなく、諦めることなく、彼方は灯に手を入れ続けた。
 次第に手まで炭化していくけれども。
 動き辛いと思えば、ぶんぶんと2度3度と手を振って。
 あっという間に元通り。
(「だって私、悪霊だもの」)
 再構築された繊手を見て、彼方はにっと笑う。
 生きてないし。死にきってもいない。
 世界の狭間で死ななかっただけ。
「骸魂と私達、何がそんなに違うのかしら?」
 幽世に辿り着けずに死んだから骸魂になり。
 幽世に辿り着いて死にきらなかったから悪霊になる。
 ただ、それだけの差なのにと。
 彼方はふと、首を傾げる。
 骸魂はオブリビオンと化し、世界を壊すけれども。
 悪霊はいくら集まっても世界を壊せない。
 その弱さが違いなのかしらと。
 考えて。
 でもすぐに、また灯へと手を突っ込んだ。
「まだ見ぬお宝に早く会いたいの」
 彼方にとって大切なのは、ただそれだけで。
 他の全ては刹那で彼方。
 だから、彼方は消えた灯から手を引き抜くと。
 そこに残ったキラキラしたものに、笑顔を見せた。
 灰をぱっぱと振り払い、手にしたモノを懐にしまい込んで。
 彼方は、道の先を見る。
 行燈が照らし出す、祭りの中央へと続く道を。
「……貴方は何を見せてくれるのかしらね」
 世界を崩壊させている、まだ見ぬ相手へ呟いて。
 彼方は、その前にとまた行燈に手を伸ばした。

成功 🔵​🔵​🔴​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と 

過去を灯すあかりを抜けてあられの元へ
まつりん、待って
あかりの合間に見えるまつりんのふわしっぽ
それも段々と見えなくなって

気がつくと、あかりがふわふわ
…蛍の光?
憶えてる、おとうさんとおかあさん
皆で行った蛍狩り
揺蕩う灯が少し怖いけど、おとうさんに抱っこされたらほっと安心

…でも、わたしはしっぽを探さなきゃ
今、いつも傍にいてくれる

ふわふわ揺れるあかりを手で撫でるように消すと
見える、黄金に光るすすきのあかり
その中に、いた
まつりん

…ね、まつりん
あられも今を見なきゃだめかな?
飼い主さまに会いたいあられ

まつりんの応えに、ふふ、と嬉しそうに目を細め

…わたしはまだ迷ってる


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と。

ねこ探すなら、おいらも動物になろっと♪
(赤茶の子狼が、行燈の間を走り抜けて行く)

ふんふんと臭いを嗅いで進み。
ふと振り返ったら、涙目の黒髪の女の子。

橙の髪紐がゆらゆら。
おいらを探して、小走りで呼んでる。

あ、あれはお隣のおばちゃん。
そっか。コッチに来てすぐ、二人でお腹空かせて歩き回ったっけ。

もー、すぐはぐれるんだからなぁ。
こっちだよ、アンちゃーん!

急にしっぽ掴まれて、戻ってくる。
あれ。迷子になってたのはおいらの方?

んー、おいらなら。
時間は止まってほしくないかも。

思い出は大事だけど。
これからもっと面白いコト、転がってるかもしれないじゃん?

にっこり笑って、行燈ばしゃーん。



 行燈の灯が照らし出すカクリヨファンタズムの街並みを、きょろきょろ眺めていた木元・祭莉(かしこさが暴走したかしこいアホの子・f16554)は。
「ねこ探すなら、おいらも動物になろっと♪」
 にぱっと笑ってそう言うと、くるんと回って赤茶の毛並みの子狼へと姿を変える。
 ふんふん、と臭いを嗅いで道を探り。
「こっちー」
 すったかたーと走り出した。
「まつりん、待って」
 それを追うのは、双子の妹である木元・杏(だんごむしサイコー・f16565)。
 ふわふわと揺れる赤茶色の尻尾は、ふさふさもっさりしていて、その毛色は先っぽにいくと黒くなり、そして銀色へと変わっていく。
 その見慣れた色合いを、杏は一生懸命追いかけて。
 でもふわふわ揺れる灯りの中で、尻尾はだんだんと見えなくなって。
 気が付くと、杏は違う光に囲まれていた。
 ゆっくりと明滅しながら、ふわふわと空を漂う幾つもの淡い輝き。
「……蛍の光?」
 杏はそっと手を伸ばし、ふわりと指先を避けて飛ぶ光に金色の瞳を細めた。
 覚えている。家族皆で行った蛍狩りの、あの光景を。
 だんだん闇が深まる中で、1つ、また1つと輝き出して。
 ふわふわと宙を舞い、また応えるように地面に広がる、無数の光。
 揺蕩う灯が少し怖くて、腰が引けていたら。
 おとうさんの大きな手が優しく黒髪を撫でてくれて。
 大丈夫だよと言うように、力強く抱き上げてもらえた。
 双子なのに正反対に、楽しそうに走り回っていた兄は。
 おかあさんに追いかけられて、柔らかな手に掴まって。
 蛍を脅かしちゃ駄目だと諭されながら、仲良く手を繋いでいた。
 抱きしめてくれる温もりに。
 耳に届く落ち着く声に。
 杏はほっと安心して、身を委ねたくなるけれども。
(「……でも、わたしは」)
 そっと杏は、おとうさんの腕から降りる。
 こちらを見つめているおかあさんに、少しだけ寂しげに、でも笑顔を向けて。
「わたしはしっぽを探さなきゃ」
 今、いつも傍にいてくれるのは、赤茶のふわふわ尻尾だから。
 ふわふわ揺れる光の中。
 蛍ではない灯りを見つけて。
 杏は、そっと手で撫でるように、消した。
 途端に周囲の景色が変わる。
 ふわふわと蛍の光が踊っていた夜から。
 ふわふわとススキの穂が揺れる村へ。
 黄金色に光る中を探しながら、杏は呼びかける。
「まつりん」
 聞こえた呼び声に、子狼姿で走っていた祭莉は足を止めた。
 耳をピンと立てて振り返ると、きょろきょろ辺りを見回す黒髪の女の子が見える。
 橙の髪紐をゆらゆらと揺らして、祭莉の名を探すように呼びながら。
 金色の瞳に零れそうな程に涙を湛えている。
 不安気なその姿は、双子の妹で間違いないけれども。
 何だかいつもと違う、違和感。
 こてんと首を傾げてその姿をじっと見つめていると。
 ふと別の気配を感じて、祭莉は視線を戻した。
「お隣のおばちゃん?」
 進もうとしていた道の先に現れた見知った姿に、祭莉はきょとんとして。
「そっか。コッチに来てすぐ、2人でお腹空かせて歩き回ったっけ」
 やっと思い出すと、ぽんっと手を打った。
 これは、今住んでいる村に辿り着いた時。
 ススキの穂がふわふわ揺れる中を彷徨うように歩いて。
 出会った村の人達に兄妹揃って迎え入れてもらえて、この村に住むことになるのだと。
 家族一緒の幸せとは違うけれども、新しい幸せが始まる時の思い出だと。
 祭莉は嬉しそうに笑って。
 泣きそうな妹に声を張り上げた。
「こっちだよ、アンちゃーん!」
 ようやくこちらに気付いた妹が、祭莉を呼びながら小走りにやってくる。
「もー、すぐはぐれるんだからなぁ」
 仕方ないなぁ、と笑ってその姿を見つめていると。
 唐突に、背後から狼尻尾をむぎゅっと掴まれた。
「え?」
「まつりん、見つけた」
 振り返ると、そこには笑顔の杏がいて。
 ふわふわと行燈の灯が揺れる街並みが広がる。
 ススキの穂も、隣のおばちゃんも、涙目の妹も。
 吹き消されるように消え去っていたから。
「あれ? 迷子になってたのはおいらの方?」
「……そう」
 確認すると、杏がこくりと頷いた。
 えへへー、と誤魔化すように笑うと、杏は祭莉の尻尾を離して。
 2人仲良く並んで、行燈の並ぶ道を行く。
 1つ、また1つとその灯りを消しながら。
 過去に囚われず、今を見つめながら。
 双子は先へと進んでいく。
「……ね、まつりん」
 ふと、灯へ伸ばした手を止めて、杏が囁くように問いかけた。
「あられも、今を見なきゃだめかな?」
 亡くした飼い主に会いたいと願っていた白猫。
 魂魄となった飼い主に会えた白猫。
 それは、過去に囚われて、過去に取り込まれてしまったが故の、再会。
 でも、白猫の願いを叶える、多分唯一の方法。
 白猫を、そして世界を助けるなら。
 過去ではなく今を、そして未来を見なければいけないけれども。
 その今に、そして未来に、飼い主は、いない。
 白猫の願いは、叶わない。
 俯き気味の杏に、祭莉は、んー、と少し考えて。
「おいらなら、時間は止まってほしくないかも」
 にっこりと、いつものおひさま笑顔を浮かべた。
「思い出は大事だけど。
 これからもっと面白いコト、転がってるかもしれないじゃん?」
 赤茶の子狼は、前脚で行燈をばしゃーんと倒すと、その中の灯を消して。
 さあ次、と前を向く。
 真っ直ぐなその姿勢と答えは、いかにも祭莉らしくて。
 迷わず進む様子に、杏は、ふふ、と嬉しそうに目を細める。
(「……わたしは」)
 だけど杏は、その微笑の下で思う。
 抱き上げてくれたおとうさんの温もり。
 見守ってくれたおかあさんの声。
 今は会えない両親だけれども、二度と会えないわけじゃない。
 それに傍には双子の片割れがふわふわと居てくれる。
 でも、それらが過去にしかないとなったら。
 自分は未来へ進めるだろうか?
 祭莉のように、真っ直ぐに前を向けるだろうか?
 そんな自分が、白猫から飼い主を奪えるのだろうか?
 願いは叶わないと告げられるのだろうか?
(「わたしはまだ迷ってる……」)
 ふわふわと揺れる灯りの中で、杏の心もふわふわと揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リグ・アシュリーズ
崩れゆく足場をつたって、一気ににゃんこさんの元へ向かうわ!
大丈夫、脚力には自信あるもの。待っててね!

がらり崩れる岩から岩へ跳んで、時には剣も突き立てて這いのぼるわ。
行燈に浮かび上がる景色には、視線は向けても足を止めず。
荒れ果てた畑。崩れ落ちた家。
見せられたって平気、跳ねのけて進むわ。
大丈夫。だってあの時、私たちは。
――すべて覚悟の上で、決着つけたんだから。

台所で菜を刻む、お母さんの後ろ姿。
断片的に蘇る過去の記憶を、錆鉄の雨でかき消して封じ込めるわ。
あられちゃんに必要なのは今を生きることよ!
綺麗で止まった世界に身を置いちゃ、ダメ。
私たち、残された側のヒトたちはね。

全部ぜんぶ、乗り越えていくのよ!



 ゆらり、ゆらりと揺れる行燈の外側で、世界はもう崩れ始めている。
「待っててね、にゃんこさん!」
 その不安定な足場を伝って、リグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)は白猫の元へと急いでいた。
 自慢の脚力で、岩から岩へと飛び移り、また、聳え立つ岩を飛び越えて。
 時には剣も突き立てて、止まることなく這い上る。
 そして、崩壊がまだ緩やかなところまで辿り着いたかと思うと。
 荒れ果てた畑が広がり、家が崩れ落ちていた。
 赤い満月の輝く廃村。
 それは、ゆらり、ゆらりと揺れる灯が見せるリグの過去。
 大切なモノを失った、その光景。
(「大丈夫」)
 けれども、リグの足は止まらない。
(「だってあの時、私たちは……」)
「すべて覚悟の上で、決着つけたんだから」
 抱いた決意をも思い出し、前へと足を踏み出して進む。
 ゆらり、ゆらりと行燈の灯は揺れて。
 さらに時間を巻き戻して魅せる。
 血のように赤い満月は、暖かな陽光へと変わり。
 穏やかな風に葉を揺らす、緑の映える畑が広がる中に。
 年月を経て尚優しく人々を包む、懐かしい家が建つ。
 その台所から聞こえるのは、菜を刻む音。
 慣れた様子で包丁を動かす、その後ろ姿は。
(「お母さん」)
 声をかければきっと振り返って、笑顔を向けてくれるだろう。
 あの声でリグの名を呼んでくれるだろう。
 断片的に蘇った、穏やかな過去の記憶にリグは焦茶色の瞳を少しだけ細めて。
 それでもリグは、惑わずに、錆鉄の雨を辺りに降らせた。
「あられちゃんに必要なのは今を生きることよ!」
 綺麗な過去を、雨でかき消して。
 止まった世界を、動かしていく。
 過去を想うことは悪い事ではないけれども。
 そこに身を置いて、留まってしまってはダメだと思うから。
「私たち、残された側のヒトたちはね」
 リグは一瞬たりとも足を止めずに、狂月想花の中を走り抜けて。
 行燈の灯を雨で消しながら、まだ見ぬ白猫へと声を上げる。
「全部ぜんぶ、乗り越えていくのよ!」
 崩壊する世界も、過去の灯も、迷いなく乗り越えながら。
 リグは前へと進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふえぇ、せっかくご主人様と再会できたのにこんなことってないですよね。
アヒルさん、私達も急いであられさんの元に行きましょう。
アヒルさん?聞いてますか?
どうしたんでしょう、アヒルさんの元気がありませんね。

ふえ?突然風景が変わりました。
これが過去を見せる行燈ですか。
記憶のない私が言うのも何ですが、この過去は私じゃないですよね。
ここは工房というよりは研究室でこの机に乗っているガジェットさんはまだ完成していませんがたぬきの宝箱ですよね。
他にも私がガジェットショータイムで呼び出しているガジェットさんがいます。
ふええ、白衣を着た女の子が入ってきました。
もしかして、あの子がアヒルさんのご主人様なのですか?



 崩壊しかける足場にあわあわしながら、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)も白猫の元へと急いでいく。
「ふえぇ、せっかくご主人様と再会できたのにこんなことってないですよね」
 目の当たりにしたカタストロフの始まり。
 でもそれは、切ない願いが叶ったからこそで。
 ゆえに、猟兵達はその願いを断ち切らなければならない。
 願い望んだ再会に、また別れをもたらさなければならない。
 聞いた説明を思い出しながら、フリルは悲し気にその赤い瞳を揺らして。
 でも、迷いを振り払うように首をぶんぶん左右に振ると、手にしたアヒルちゃん型のガジェットへと話しかけた。
「アヒルさん、私達も急いであられさんの元に行きましょう」
 しかし、いつもならガアとすぐさま返ってくるはずの声はなく。
 いつものようにフリルをつついてくることもなく。
 ガジェットはフリルの手の中で静かに佇むのみ。
「アヒルさん? 聞いてますか?」
 さすがに不思議そうに、フリルはガジェットを覗き込む。
(「どうしたんでしょう?」)
 ガジェットゆえに顔色などあるはずもないけれども。
 何となく、元気が無いように思えて。
 重ねて問いかけようと、フリルがまた口を開きかけた、刹那。
「ふえ?」
 突然、辺りの風景が変わった。
 行燈が立ち並び、祭りの準備が進んでいた街並みから。
 何かの工房のような、機械が並ぶ、広い建物の中へと。
「……これが、過去を見せる行燈、ですか」
 瞬間移動したのかと錯覚するほど不自然な変化に、だがフリルは思い出す。
 ゆらり、ゆらりと揺れていた行燈の灯の影響を。
 だから、びくびくと少し怯えながらも慌てずに、フリルは周囲を観察した。
 工房かと思ったけれども、机に乗っているガジェットは未完成のようで。
 調整をしているのか、試験をしているのか、周囲には似たようなパーツが幾つも並べられている。
 散らばったメモのような紙には、様々な数値が走り書きされ、マルやバツ、矢印や取り消し線などで賑やかに彩られていたから。
「研究室、でしょうか?」
 フリルは印象の変化を口にして、首を傾げた。
 どこを見ても、見覚えのない景色。
 とはいえ、フリルは記憶を失っているから。
 もしかしたら、忘れてしまった過去の光景なのかもしれないけれども。
「この過去は私じゃないですよね」
 何となく、そう感じる。
 何を根拠にと言われれば何とも答えようもないけれども。
 違う、とフリルは妙に確信していた。
 とするならば誰の、と考えて。
 手掛かりを求めてさらに観察を続けていって。
 ふと、気付く。
 幾つものパーツに囲まれたガジェットは、完成していないけれども、フリルが呼び出す『たぬきの宝箱』なのだと。
 他にも、ガジェットショータイムで呼び出すガジェットの外装が、似た一部分が、作りかけのように、ここにもあそこにもと点在しているのだと。
 恐らく、ここは、フリルの扱うガジェット達の生まれた場所。
 フリルの知らない、ガジェット達の過去。
(「もしかして……」)
 思い当って、問いかけようと手元を見下ろすと。
 不意に、研究室の入り口が開いた。
 ふええ、と慌てながら振り向けば、扉をくぐって現れたのは1人の女の子。
 研究室という場にいるには幼過ぎる気もするけれど。
 しっかりと白衣を身に纏い、しかも着慣れた様子に見える。
 そして女の子は真っ直ぐに、当たり前のように机に歩み寄って。
 真っ白な鳥のような作りかけのガジェットを手に取った。
「あの子がアヒルさんのご主人様なのですか?」
 フリルの問いは、最初に聞こうとしたものとは少し変わっていたけれども。
 手元からは何の声も動きもないまま。
 フリルは、ガジェットと一緒に、じっとその女の子を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

庭月・まりも
いちごさん(f00301)と

※自分にマリモが取り憑いている事は知らない
見えるのは猫のマリモの過去

すごい数の行灯……綺麗ですね……!

あれ? これいちごさんの記憶ですか?
わ、可愛い猫さん。

最初の行灯では、
いちごさんとマリモが出会ったところ。

2つめの行灯では、
いちごさんとマリモが遊んでいるところが見えます。

この子、いちごさんのこと大好きなんですね。
安心してすごく甘えてます。

3つめの行灯は……。
寿命を悟って、いちごさんの前から姿を消してしまったマリモを、
いちごさんが、マリモを探しているところ。

マリモちゃん、愛されてたんだね。
自分と同じ名前の子ってだけなんだけど、
なんだか自分のことみたいで嬉しいな。


彩波・いちご
まりもさん(f29106)と

昔、野良猫を飼い猫同然に可愛がっていたんですよね
だから白猫の気持ちも飼い主の気持ちもわかる気がして…

猟兵になりたてで不慣れなまりもさんをフォローしつつ
行燈の中を進んでいきます

すると…昔可愛がっていた猫のマリモの姿が見えて
懐かれて私にじゃれている姿
私の頬を舐めたり私に抱きしめられて嬉しそうに鳴いたり
…いつしかいなくなって探して…寿命を悟って私の前から姿を消したんですね…私も今知りました…
マリモがいなくなって寂しくて泣いたんです…思い出して一筋の涙が

そういえば、まりもさんと同じ名前でしたね
偶然だと思いますけど…

思い出に微笑みかけて、別れを告げるように行燈の灯を消します



「すごい数の行燈……綺麗ですね……!」
 揺らめきながら道を照らす灯を眺め、庭月・まりも(乗っ取られ系家猫・f29106)は表情を綻ばせた。
 よく見るカクリヨファンタズムの街並みなのだけれども、淡い行燈の灯に照らされることでどこか不思議で幻想的な雰囲気が醸し出しされている。
 その美しさに微笑みながら、同意を求めるように振り向けば。
「昔、野良猫を飼い猫同然に可愛がっていたんですよね」
 彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)は、景色ではなく、この道の先に待つものへと思いを馳せていた。
「だから白猫の気持ちも飼い主の気持ちもわかる気がして……」
 ぽつりと零れた呟きは、しんみりと憂いを帯びていたから。
 まりもも少し表情を陰らせ、心配そうにいちごを見つめる。
 と、その足元を、たたっと1匹の猫が駆け抜けた。
「わ、可愛い猫さん」
 突然の遭遇に、でも何故か猫に好かれ、人間キャットタワーと言われる程に猫が寄って来るわ登って来るわが日常なまりもは、言うほど驚かずに。
 オブリビオンでも化け猫でもない、目指す白猫とは違う猫であることだけはしっかりと確認して、その愛らしさにまた笑みを取り戻す。
 野良猫だろうか、と揺れる尻尾を目で追いかけていると。
「マリモ……」
 不意にいちごから零れた呼び声。
 でも、その響きは、まりもを呼ぶものとは違っていたから。
 もしかして、とまりもは猫といちごを交互に見やる。
「あれ? もしかしてこれ、いちごさんの記憶ですか?」
 それは、聞いたばかりのいちごの過去。
 その推測が正しいのだと証明するかのように。
 猫が走って行った先に、青い髪の少年の姿が現れる。
 ゆらり、ゆらりと揺れる淡い灯りの中で。
 猫は少年にじゃれついて。
 その腕に抱き上げられれば、ぺろぺろと頬を舐めて。
 少年の笑顔に、嬉しそうに鳴き声を上げた。
「あの子、いちごさんのこと大好きなんですね」
 安心しきって甘える様子に、まりもも嬉しそうに微笑む。
「うん。マリモ、すごく懐いてくれたんですよね。
 でも……」
 いちごの表情も綻んでいたけれども、ふっとそこに影が差す。
 まりもが首を傾げると、ゆらりと揺れた灯の中で、猫が少年の前から姿を消していた。 少年が猫を探して呼ぶ声が、辺りに響き渡る。
「いなくなって寂しくて泣いたんです……」
 その姿に、その声に、ぽつりといちごが零す。
 じっと少年を見つめる青い瞳には、涙が今にも溢れそうで。
 居た堪れなくなったまりもも、猫を探して辺りを探る。
 そして、少年に見つからない物陰で、そっと息を引き取る猫を、見つけた。
「寿命を悟ったから、いちごさんの前から姿を消したんですね……」
「そう、だったんですか……」
 知らなかった真実を、行燈の灯に見て。
 青い瞳からついに涙が零れる。
 頬を伝う一筋の涙を、しばし見つめていたまりもは。
 しんみりした空気を振り払うように左右に首を振ると。
「マリモちゃん、愛されてたんだね」
 努めて明るい声で、いちごへと笑いかけた。
「自分と同じ名前の子ってだけなんだけど、なんだか自分のことみたいで嬉しいな」
 その笑顔に、いちごは驚いたように振り返り。
 涙を拭ううと、くすり、と微笑みを浮かべた。
「そういえば、まりもさんと同じ名前でしたね」
 偶然ですねと告げれば、まりもがおどけた様子で、にゃー、と鳴いて見せて。
 顔を見合わせた2人は、同時に、ふふっと吹き出す。
 いちごも、そしてまりも自身も気付いていない。
 まりもが引き寄せる猫は、生きている猫だけではないことを。
 霊媒体質のまりもに、マリモの霊が憑りついていることを。
 知らないまま、それでも2人は、行燈の灯が見せた猫と少年と同じように、楽しそうに仲良く笑い合って。
 いちごは躊躇いなく、思い出に別れを告げるように、ふっと灯を消した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳳来・澪
【花守】
うん、この光景は一段と――どこか切なくて、優くて、心の奥にじんわり沁み入るよう

(猫の福を懐き、音羽ちゃんと踏み出した先、ふと一等目を惹いた灯を覗けば)

――おばあちゃん

(無意識に零れた言葉と共に、瞳からもぽつりと――懐かしさと恋しさが入り交じったものが込み上げて、零れ落ちて)
(見えたのは、在りし日の平穏――おばあちゃんと、福によく似た猫の吉との日々――今は亡き面影)

…嗚呼、楽しかったね、幸せやったね
叶うならもう一度、心穏やかにその傍に寄り添いたい

…でも、過去には戻れんから
うちは、先に進まなあかんから
(心配そうに頬寄せる福を撫で、向き直った灯をそっと消して)
大丈夫、行こう――音羽ちゃん、福


花表・音羽
【花守】
此処は一際…胸に響く様な、迫る様な、不思議な感慨が滲んで参りますね

(不意に澪様とまた別の灯にゆらりと誘われ――くらりと、藤咲く光景が視界と心を染め上げて)

(温かな灯の色――温かな、思い出の彩

これは…忘れる筈もない
あの御方との光満ちた記憶

互いに護り守られ、共に平穏を見守り――大切に想い続け、末永き幸いを願い続けてきた――

巫女であった彼女と、神鏡であった私と――言葉は交わせずとも、何処かで通じ合えていたと信じている、尊き日々)

…貴方様と育んだ温かな灯は、今もこの胸に、確と
(迷い無き眼で灯見据え、意を決し)

――ええ、澪様
眼前の灯を消せども、心に灯る想いまでは消えませんから

未来を紡ぐべく、先へ



 ゆらり、ゆらりと、行燈の灯が揺れる。
 縦長の箱に、真四角の箱に。円柱型に、多角多面体に。
 貼られた和紙の模様も写して。
 ゆらり、ゆらりと、幻想的に揺れる。
「此処は一際……胸に響く様な、迫る様な、不思議な感慨が滲んで参りますね」
 その揺らめきに目を細め、花表・音羽(夢現・f15192)が呟けば。
「うん……どこか切なくて、優くて、心の奥にじんわり沁み入るようや」
 鳳来・澪(鳳蝶・f10175)もしっとりと、穏やかな笑みを浮かべる。
 抱いた茶虎の猫をもふもふと撫でながら、振り向いた音羽と一度笑い合い。
 そこからまたそれぞれに、周囲へと視線を向ければ。
 ふと、縦長の箱の中で揺れる灯へと目を惹かれた。
「……おばあちゃん」
 無意識のうちに零れた言葉。
 一筋の刀傷が残る右目と、黒髪の間から覗く左目が、大きく見開かれ。
 赤瞳からぽつりと、込み上げてきたものが零れ落ちる。
 澪が見たのは、在りし日の平穏。
 老婆と、口元と胸元が白い茶虎猫の姿。そして己の器物。
 懐かしくて。恋しくて。切ない。
 今は亡き面影。
「嗚呼……楽しかったね、幸せやったね」
 もふもふした茶虎猫・吉を撫でる老婆の元へ。
 よく似た茶虎猫・福を抱いて、澪は、呼ばれたかのように歩み寄る。
(「叶うならもう一度……」)
 ただ、その傍に寄り添いたい。
 心穏やかに、一緒の時を過ごしたいと。
 澪は願い、柔和に微笑む老婆と吉へと、近づいていく。
「あの御方は……」
 そして音羽も、澪とは別の、円柱型の行燈で揺れる灯に誘われて。
 藤の花咲く光景に、視界と心を染め上げていた。
 音羽の瞳を映したかのような紫水晶の如き藤色が、幾重にも空から垂れ下がる中で。
 漆黒の絹髪をさらりと風に躍らせ。
 透き通るような白磁の肌を輝かせ。
 その女性は凛と佇んでいる。
 忘れるはずもない、光満ちた記憶。
 温かな、思い出の彩。
 巫女である彼女と、神鏡である音羽。
 互いに護り守られ。共に平穏を見守り。
 言葉は交わせずとも、どこかで通じ合えていた、尊き日々。
 大切に想い続け。末永い幸せを願い続けてきた。
 音羽が自身に映した、姿。
 また共に居れるなら。またその手に戻れるなら。
 どんなにいいだろうと思うけれども。
「……でも、過去には戻れんから」
 音羽の耳に、優しく、そして強い、明朗な声が響く。
「うちは、先に進まなあかんから」
(「澪様……」)
 迷いを振り切る真っ直ぐな声に、音羽は、今共に在る友人を想い。
 そっと自身の胸に手を添えると、神鏡を守りし巫女を見据えた。
「……貴方様と育んだ温かな灯は、今も、確と」
 どこか誓うように告げれば、巫女は音羽と同じ、穏やかな笑みを見せて。
 その視線が、想いが、交わったと感じながら。
 音羽は、眼前の灯を消した。
 ふっと暗くなる、円柱型の行燈。
 でも、手を添えたままの胸は温かく。
 心に灯る思いまでは消えないから。
 音羽は顔を上げ、振り向くと、澪も灯の消えた縦長の行燈と向き直っていた。
 腕の中の茶虎猫・福が、どこか心配そうに澪に頬を寄せていたけれども。
「大丈夫」
 澪は穏やかな笑みを浮かべ、福をそっと撫でて呟く。
 そして、音羽へと顔を上げ、快活な笑顔を浮かべると。
「行こう……音羽ちゃん、福」
「……ええ、澪様」
 誘い歩き出す澪に、音羽は並ぶように足を揃えた。
 未来を紡ぐべく、先へ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『彷徨う白猫『あられ』』

POW   :    ずっといっしょに
【理想の世界に対象を閉じ込める肉球】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    あなたのいのちをちょうだい
対象への質問と共に、【対象の記憶】から【大事な人】を召喚する。満足な答えを得るまで、大事な人は対象を【命を奪い魂を誰かに与えられるようになるま】で攻撃する。
WIZ   :    このいのちをあげる
【死者を生前の姿で蘇生できる魂】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠香神乃・饗です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 多くの行燈の灯を消して進んだ先にあったのは、祭りの中心である広場。
 そこには夕闇が広がっていた。
 どれだけ多くの行燈が集められているのだろうと期待していた想像とは真逆の光景。
 そしてその中心に。
 1匹の白い猫がいた。
 首輪代わりか赤い紐を首に巻き、そこに白梅と鈴を飾り。
 二又に分かれた、長くしなやかな尻尾を揺らす。
 金色の瞳の、化け猫。
 さらにその身は主の骸魂に飲み込まれて。
 オブリビオン『彷徨う白猫』となってしまった『あられ』。
「どうして?」
 現れた猟兵達にあられは問いかける。
「ごしゅじんさまといっしょにいるだけなのに」
 大切な人との仲を引き裂こうとする者達に問いかける。
 その純真な金瞳に、世界の崩壊は映らない。
 ただ、失った人との再会に満ち足りた心だけを抱えて。
 あられは首を傾げて見せる。
「そうだ」
 そして、あられは思い至った。
「みんなもおなじになれば、わかるよ」
 自分だけでなく、皆が大切な人に再会できれば。
 失った人を取り戻せれば。
 自分と同じ満ち足りた心になって、自分を分かってもらえると。
 そう考えて。
 あられは、猟兵達へと襲い掛かってきた。
琴平・琴子
ずっと一緒に居たい気持ちもよく分かります
その場に居たい気持ちも
でもね
そこに立ち止まっちゃいけないんです
あられさん、貴方のご主人はそこに立ち止まったまま、悲しんだまま、それで良いと仰られるのでしょうか?

ふわりと触れる肉球は優しい世界に連れて行ってくれる
王子様とお姫様がいる肖像画の中
だけど駄目
此処に居たら駄目
此処に居たら私は王子様になれない
愛される優しさよりも、未来を切り拓く勇気を欲したの

討ち破いた世界から迫りくるダメージにはUCでカバー
大丈夫
今は動けないけど、私も貴方も動けないわけじゃない

歩んでいきましょう
暗闇から光に向かうための一歩を
僅かでも、きっとその一歩は次に繋がるから



 夕闇の中で煌めく、純真な金色の猫瞳。
「おなじになれば、わかるよ」
 白猫の双眸は迷いなくそう考えて、猟兵達へと向けられる。
 近づいてきた琴平・琴子(f27172)へも。
「ずっといっしょに」
 そして、ふわりと琴子に触れたのは、優しい世界へと誘う柔らかな肉球。
 はっと気付くと、すぐ目の前で御伽噺が紡がれていた。
 語らう王子様の肩には、足のない幼いお姫様が寄り添っていて。
 顔は見えないけれども、口元に穏やかな微笑みを浮かべている。
 行燈が見せてくれたのと同じ、優しい世界。
 でも、あの優しい灯と違うのは。
 眺めているだけだった1枚の肖像画のような光景の中に、琴子も居ること。
 王子様の手は琴子にも優しく差し伸べられて。
 お姫様の微笑みは琴子にも優しく向けられていた。
 傍に、と望んだその位置。
 戻りたい、と思ってしまうあの時。
 理想の世界が琴子を閉じ込める。
(「ずっと一緒に居たい気持ちもよく分かります。
 その場に居たい気持ちも」)
 だけど。
 駄目。
 此処に居たら、駄目。
「そこに立ち止まっちゃいけないんです」
 琴子は、優しい手に、優しい微笑みに、迷いのない緑色の瞳を真っ直ぐ向けた。
 共に居たいのは本当。
 差し伸べられた手を取りたい。
 その微笑みに見守られていたい。
 でも、琴子が欲したのは。
 愛される優しさよりも、未来を切り拓く勇気。
 王子様のように、誰かに手を差し伸べられるようになりたい。
 お姫様のように、恐れるものにも凛々しく立ち向かっていきたい。
 そう思ってしまったから。
 琴子は、閉じ込めていた理想の世界を打ち破る。
「あられさん、貴方のご主人は、そこに立ち止まったまま、悲しんだまま……それで良いと仰られるのでしょうか?」
 破られた世界から琴子へ、抜け出た反動のようにダメージが迫りくるけれども。
 それを無敵城塞で耐えながら、琴子はあられへと声を上げた。
 超防御モードは、琴子を完全に護りきる。
 しかしその代償に琴子の動きを全て封じてしまうもの。
 でも、大丈夫。
 大丈夫なのだと、琴子は揺らがず、前を見て。
「今は動けないけど、私も貴方も動けないわけじゃない」
 いつか動き出せるのだと告げる。
 砕けぬ心で、真っ直ぐに。
「歩んでいきましょう。
 暗闇から光に向かうための一歩を」
 今は動けぬまま、それでも琴子はあられへと微笑みかける。
 そうありたいと望んだお姫様のように。
 琴子を助けてくれた王子様のように。
 手を伸ばせない代わりに、届けと心を伸ばして。
「僅かでも、きっとその一歩は次に繋がるから」
 琴子は優しく、そして凛々しく微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エインセル・ティアシュピス
【アドリブ連携歓迎】
にゃーん……ぼくはしろねこさんとたたかいにきたんじゃないよ、おはなししにきたんだよ。
ごしゅじんさんがいなくなったの、かなしいよね。
ぼくもりょーやがいなくなったらやだからわかるよ。
でも、それでせかいがなくなっちゃったらもっともーっとかなしいよ……?

にゃーん、きいてくれない……どうしよう……
あっしろねこさんのユーベルコード……そうだ!
【結界術】でねんねしちゃうのをがまんできるようにして【指定UC】でおかえししたら、しろねこさんのごしゅじんさんがいきかえったりしないかな?
たぶんごしゅじんさんもおはなししたいこといっぱいあるとおもうし……これでおはなしできたらいいなあ……



「にゃーん……」
 あられと対峙したエインセル・ティアシュピス(f29333)は、折角立てた白い猫耳をまたしゅんとさせて、困り果てた声を出していた。
 もちろん、緑のリボンが飾られた猫尻尾も、さらには背中の羽根までも、項垂れたように垂れ下がっている。
 止めなきゃと思って来たけれども。
 エインセルにあられと戦う気はなくて。
「ぼくはしろねこさんとたたかいにきたんじゃないよ、おはなししにきたんだよ」
 その気持ちを訴えても、返って来たのは幾つもの魂。
 それは、死者を生前の姿で蘇生させ、エインセルへと笑いかける。
 男の子が。女の子が。
 子供達に囲まれた優しげな女性が。
 エインセルを迎え入れるように手を広げ、眠りへと誘おうとするけれども。
「にゃーん?」
 知らない人達に、エインセルは首を傾げるだけ。
 まだ生まれて間もない子猫には、亡くした人などいないから。
 結界術も使いながら眠りに抗い、あられに訴えかける。
「ごしゅじんさんがいなくなったの、かなしいよね。
 ぼくも、りょーやがいなくなったらやだから、わかるよ」
 懐かしい、も、戻りたい、も分からないエインセルに分かるのは。
 飼い主が傍にいないと寂しい、という感情だけ。
 だからその共感を伝えながら、崩れ行く世界をも、思う。
「でも、それでせかいがなくなっちゃったら、もっともーっとかなしいよ……?」
「どうして?」
 しかしあられは、金色の瞳に純真な疑問符を浮かべて。
「ごしゅじんさまといっしょにいるだけなのに」
 カタストロフに気付かないまま、ただただ不思議そうに首を傾げるだけ。
 いや、むしろ、世界などどうでもいいと思っているかのようで。
 やっと会えた大切な人しか見えていないようだったから。
「にゃーん、きいてくれない……どうしよう……」
 伝わらない思いに、エインセルはまた猫耳を垂れ下げて頭を抱えた。
 そこに、あられの放った魂が迫る。
 男の子の姿で。女の子の姿で。優しげな女性の姿で。
 エインセルを眠りへ誘おうと、手を伸ばし……
「あっ、そうだ!」
 ピンッと猫耳を立てたエインセルは、すたっと後ろに飛び下がると。
「にゃーん! りょーやじきでんユーベルコード! いっくよー!」
 思いついたユーベルコードを発動させる。
 それは、元々は飼い主が使っていたもので。
 エインセルが教えてもらった、大切な絆の力。
 迫り来る魂をエネルギーとして吸収して防ぐと、それを反射させるように、全く同じ能力として……すなわち、死者を生前の姿で蘇生できる魂として放出した。
(「おんなじユーベルコードでおかえししたら、しろねこさんのごしゅじんさんが、いきかえったりしないかな?」)
 エインセルが考えた通り、魂はあられの前で姿を変えて。
「ごしゅじんさま……?」
 あられがぼんやりと、人影を見上げる。
 自分の言葉が伝わらないのなら、言葉を伝えられる人を呼び寄せればいい。
 と、説得のために考えたというよりも。
(「たぶん、ごしゅじんさんも、おはなししたいこといっぱいあるとおもうし……
 これでおはなしできたらいいなあ……」)
 エインセルは純粋に、話したいことがいっぱいあるだろうと、あられのことだけを思ってやってみたのだけれども。
「ちがう。ごしゅじんさまは、もういっしょにいる」
 骸魂となり既に共にいる、自身をオブリビオンと化した存在を本物だと認識しているあられは、主人の姿をとった魂を迷いなくその爪で切り裂く。
「にゃーん……」
 エインセルの猫耳は、三度ぺたんと倒れ伏した。

成功 🔵​🔵​🔴​

飛鳥路・彼方
空中をふよふよ飛び回りながら高速詠唱
破魔と浄化込めた『破魔符』で弾幕張り召喚された魂の消滅図る
「これ、私には効かないと思うけど。任されるわ」

「それじゃ私、一生貴方のこと分からないわ。大切な人ってなに?覚えてないもの。貴方のことだって、多分明日には忘れてるのに」
宝物を出して見せつけるように眺め
「でもね、宝物は違うのよ?宝物は手元に残しておけるの。なくさない限り、ずっと私のものなのよ」
「変なこと言うのね。失くしたら宝物じゃないわ。失くなったら覚えていないもの。失うものは宝物じゃないのよ」

「世界がなくなると、お宝探しに行けないの。それは困るのよ」
「だって私、悪霊だもの」
睡眠飲食呼吸不要の悪霊、嗤った



 あられの放った魂は、四方八方へと広がって、他の猟兵達へも向かっていく。
 その様子を空中から見た飛鳥路・彼方(f28069)は。
「これ、私には効かないと思うけど。任されるわ」
 破魔符を手に、詠唱を始めた。
「ヒ、フ、ミ、ヨ、イツ、ム、ナナ、ヤ、ココノタリ……」
 高速での詠唱により、元々呪力や真言が籠められた御札に、さらに破魔と浄化の力が強く、強く込められていき。
「布瑠部由良由良止布瑠部由良……」
 詠唱を重ねれば重ねる程に、無限に威力が上昇する霊符は、敵を貫通する程の威力を得ていって。
「六根清浄、急急如律令」
 周囲に広げるようにばら撒くと、弾幕のように撃ち放った。
 霊符の重奏は数多の魂へと向かい、その大半を消滅させていく。
「どうして?」
 しかしあられは、金色の瞳に純真な疑問符を浮かべる。
「ごしゅじんさまといっしょにいるだけなのに」
 亡くしてしまった人と、また再び共に居れること。
 それは、あられにとって、とても嬉しいことだから。 
 きっと皆そうだと、同じだと思っていたのに。
 死者を生前の姿で蘇生できる魂が、次々と無造作に消されていく。
 その様子にも、心底不思議そうに、あられは首を傾げた。
 彼方はそんな子猫を一瞥すると、それじゃ、と問いかける。
「ご主人様っていうのが、大切な人?」
「そうだよ」
 迷いなく頷くあられに、彼方は気のない様子で、ふうん、と応え。
「私、一生貴方のこと分からないわ」
 ばっさりと切り捨てるかのように言い放つ。
 そして続けた問いに、あられが目を瞬かせた。
「大切な人ってなに?」
 それは彼方の純粋な疑問。
「覚えてないもの。貴方のことだって、多分明日には忘れてるのに」
 悪霊である彼方は、自分はただ世界の狭間で死ななかっただけの存在と思っていて。
 死にきらなかったその時に、昔を忘れてしまうようになってしまったから。
 大切な人も。
 大切な思い出も。
 彼方には何もない。
 だからこそ、彼方は行燈から見つけたキラキラしたモノを出して見せた。
「でもね、宝物は違うのよ? 宝物は手元に残しておけるの。
 失くさない限り、ずっと私のものなのよ」
 昔を失くした彼方に残るのは、探して見つけた宝物だけ。
 それだけが彼方の拠り所なのだと示しながら。
 宝物を見せつけるように、愛おしそうに頬を寄せる。
「なくしたら、とりもどしたいよね?」
 その様子に、それならばと、あられが口にしたのは。
 物であれ人であれ、失ってしまったものを取り戻せるなら、それは嬉しいことだと。
 あられと同じ気持ちだと確認するような問いかけ。
 だけれども。
「変なこと言うのね」
 今度は彼方が不思議そうに、首を傾げた。
「失くしたら宝物じゃないわ。失くなったら覚えていないもの」
 それは『今』しか持たない彼方の感覚。
 昔を持てない彼方の真実。
「失うものは宝物じゃないのよ」
 今、目の前にあるものが。
 今、手にしているものが。
 それだけが、彼方の全て。
「だって私、悪霊だもの」
 嘆くでもなく、哀しむでもなく、淡々とその事実を受け入れて。
 だから、と彼方は嗤う。
「世界がなくなると、お宝探しに行けないの。それは困るのよ」
 過去よりも、失ってしまったものよりも大切なのは、今であり、これから手にすることができるものなのだと。
 彼方は空中を飛び回りながら、また破魔符を手にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

リグ・アシュリーズ
辺りを見渡しても、灯りは見えず。
今のあられちゃんが望むのは、二人きりの閉じられた世界なのね。
その気持ちを、否定はしないけれど。
黙って剣をとり、怯まず立ち向かうわ。

呼び出されるのは、私のお母さん。
朧げな黒いもやに包まれた面影は、きっと私とよく似た戦法で、
数段上を行く速さで攻めてくる。
だって私に剣を、料理を、生き方を。
叩き込んでくれたの、あなただものね。

あられちゃん――ひとつ、聞かせて。
とっても綺麗なこの世界に、あなたが見せたかった『おそと』はあるの?

剣を受けるのと引き換えに放った狼。
きっとあなたは答えを間違えるわ。
でも、認めてほしいの。閉じ込めちゃダメ。
ご主人様といっしょに、おそとに出るのよ!



 辿り着いた広場に行燈の灯は1つもなかった。
 ここに来るまで、あれだけの数の行燈があったのに、と驚くほどに。
 灯りのない、夕闇の世界。
 その中央に居るのは、輝くように真っ白な子猫……あられ。
(「今のあられちゃんが望むのは、2人きりの閉じられた世界なのね」)
 ぼうっと浮かび上がるかのようなその姿に焦茶色の瞳を細めて、リグ・アシュリーズ(f10093)はそう感じる。
 ご主人様と共に在れば、世界を照らす光も要らないと。
 ただ、一緒に居る、それだけが叶えばどんな世界でも構わないと。
 一途に想い続ける盲目の愛。
 ゆえに、迫る猟兵達に拒絶の意思を見せ。
 理想の世界に閉じ込め、死者を蘇生する魂を放ち。
 動きを止めると共に、過去に呼び込もうとする。
 あられは、それで幸せだから。
 亡くした大切な人が戻って来る、理想の世界が。
 亡くした大切な人を甦らせられる、魂が。
 あられの、願いだったから。
「どうして?」
 あられは純粋に、金色の瞳に疑問符を浮かべた。
「ごしゅじんさまといっしょにいるだけなのに」
 その何がいけないのか分からないというように。
「ごしゅじんさまといっしょにいちゃ、いけないの?」
 疑問は質問となり、ユーベルコードとしてリグへと向かう。
(「その気持ちを、否定はしないけれど……」)
 一度瞳を伏せたリグは、くろがねの剣を手に取り、しっかりと顔を上げる。
 その目の前に立つのは、剣を携えた1人の女性。
(「お母さん」)
 リグの記憶から召喚された、大事な人。
 朧げな黒いもやに包まれ、はっきりと姿は見えないけれども。
 その面影は、どこかリグに似て。
 そして、リグとよく似た戦法で、攻めてきた。
 女性が持つには武骨な剣が、少女が持つには無骨な黒剣で受け止められる。
 でもすぐに剣は引かれ、間を置かずに再び鋭い切っ先がリグを狙った。
 辛うじて弾くリグに、さらに続けて黒剣が襲い掛かる。
 受け、躱し、弾き。
 見慣れた剣戟をリグはギリギリで防いだ。
 それはリグも知る技。
 けれど、リグより数段上を行く速さ。
(「だって私に剣を、料理を、生き方を叩き込んでくれたの……あなただものね」)
 かつて、母として寄り添ったことを。
 かつて、師として向き合ったことを。
 思い出しながらも、リグは黒剣を振るい続け。
 一度大きく後ろに飛び退くと、白猫へと声を向けた。
「あられちゃん……ひとつ、聞かせて」
 その傍らに、嘘喰み狼を呼び出しながら。
 意識を反らしたその隙に、放たれた女性の剣を受けながら。
「とっても綺麗なこの世界に、あなたが見せたかった『おそと』はあるの?」
 リグは質問を、投げかける。
 あられは、ぱちぱちと金瞳を瞬かせると。
 ふるふる首を横に振ってから、答えた。
「あるよ。みてるよ」
 灯り1つない夕闇の中で。
「ごしゅじんさまといっしょにみてるよ」
 大切な人と共に見る今の景色がそうなのだと答えた。
 けれども。
 リグの傍らから魔狼が飛び出し、その凶悪な顎を開いてあられに襲い掛かる。
「ほら、やっぱり。あなたは答えを間違えた」
 痛みを堪えながら黒剣を振るい、女性を牽制しながら、リグは笑った。
 嘘に喰らいつく魔狼があられへと向かったことこそが証明。
 今の世界は、あられが望んだ『おそと』ではないと。
 2人きりの世界ではいけないのだと。
 あられ自身も心のどこかで分かっているはずだと。
「認めてほしいの。閉じ込めちゃダメ」
 剣を捌きながらリグは訴える。
「ご主人様といっしょに、おそとに出るのよ!」
 そしてリグは、目の前に迫り微笑む女性へと、迷いなく黒剣を突き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
きみはこの世界がこわれてしまうことに気づいてないんだね
わたしはとめないといけない
この世界にはきみとごしゅじんさまの思い出がたくさんあるでしょう?
きみも思い出もうしなったら
きっとかなしむから

おなじになったことは、あるんだ
何度も幻のおとうさんに会って
オズ、動けるようになったの?
そう嬉しそうに笑ってくれた

おとうさんはもういない
でもいつか、わたしが壊れておとうさんのところにいったとき
たくさんのひとをおてつだいできたって
こんなものを見たよって
おとうさんがいないあいだにしったこと
いっぱい話したい

だから今は、だいじょうぶ
……だいじょうぶだよ

微笑んでオーラ防御
魔鍵で生命力吸収

あられ、きみもおやすみのじかんだよ



 夕闇の中に佇む白猫は、心底不思議そうに首を傾げる。
「どうして? ごしゅじんさまといっしょにいるだけなのに」
 金色の瞳に宿るのは、純粋な疑問。
 それを見たオズ・ケストナー(f01136)は、悲し気に青い瞳を曇らせて。
「きみはこの世界がこわれてしまうことに気づいてないんだね」
 ぽつり、と呟いた。
 周囲の見えていない、いや、見ようとしない、盲目。
(「……あるよ」)
 それに共感を覚えながらも、オズは首を横に振る。
「ごしゅじんさまといっしょにいちゃ、いけないの?」
 ただただ、一緒にいたいと。
 それだけを願う、小さな子猫。
(「おなじになったことは、あるんだ」)
 かつてオズは、何度も何度も幻のおとうさんに会った。
 大事そうにオズを撫でてくれて。
 見上げて微笑むオズに、嬉しそうに笑ってくれた。
『オズ、動けるようになったの?』
 そんなおとうさんがまた、オズの目の前に現れる。
 オズの記憶から召喚された大事な人が、優しくオズへと笑いかける。
 本当のおとうさんは、オズたちが動く姿を見られなかった。
 だから、今のオズを見てもらいたいと願ったし。
 一緒に動いて、笑い合いたいと思っていた。
 その気持ちはきっと、あられと同じ。
 だけれども。
「おとうさんはもういない」
 オズはこちらに手を伸ばすおとうさんに、迷いなくガジェットを向けた。
 また一緒にいれたらどんなにいいだろうと思うけれども。
 それは叶わぬ願いだと知っている。
 それを叶えることを、おとうさんが願っていないことも知っている。
「いつか」
 だからオズは、ガジェットの攻撃に消えゆくおとうさんに笑いかけた。
「いつか、わたしが壊れておとうさんのところにいったとき」
 おとうさんが望む再会はきっとそれだと思うから。
「たくさんのひとをおてつだいできたって、こんなものを見たよって……
 おとうさんがいないあいだにしったこと、いっぱいいっぱい話すからね」
 だから今は、だいじょうぶ。
 おとうさんが一緒にいなくても。
「……だいじょうぶだよ」
 オズの周りの世界には、おとうさんの心が遺されているのだから。
「ね、シュネー」
 白い髪の人形に、そっと頬を寄せて、オズは微笑む。
 この姉も、他の兄弟も、おとうさんが遺してくれた、大切な世界。
 だからこそ。
(「わたしはとめないといけない」)
 オズは、あられへと向き直る。
「この世界にはきみとごしゅじんさまの思い出がたくさんあるでしょう?」
 オズと同じ気持ちを持つあられなら。
 その主人は、おとうさんと同じ優しい人だと思うから。
「きみも思い出もうしなったら、ごしゅじんさまも、きっとかなしむから」
(「とめないといけない」)
 オズはガジェットと共に、青い瞳を真っ直ぐにあられへと向けた。
「あられ、きみもおやすみのじかんだよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

天帝峰・クーラカンリ
大切な人に再開できれば、か…。
生憎、私にとって大切な者は既に隣にいるのだ。
自由奔放な東方妖怪、なにを考えてるか分からない西洋妖怪。そしてうるさくも楽しい部下たち。
だからあられ、おまえの気持ちに寄り添うことは出来ない。
私は私の…大切な人と共にあるから。

UC【断罪流沫天】であられの柔い身体を蹴り上げる。小さな身体を痛める蹴るのは少々気がひけるが、相手がオブリビオンである以上油断は出来ぬ。
夢を見たか、あられ。ご主人と共に居る、永久の夢を。
されどそれは夢の果て――現実ではない。思い出せ、あられ。ご主人様は、死んだのだ!
理想の世界など程遠い。私を囲いたくば、地獄の豪鬼をつれてることだ…!



 夕闇の中に佇む天帝峰・クーラカンリ(f27935)は、ふと、遠くを見るように彼方へと青い瞳を向けた。
「大切な人に再会できれば、か……」
 呟いたクーラカンリは、先ほど行燈の灯に見た景色を思い出す。
 信仰深き天帝の峰・クーラカンリ。
 厳しくも誇り高く聳え立つ極寒の山と、それを崇める人々。
 今は戻れぬ、懐かしの故郷。
「ずっといっしょに」
 その景色が、あられの声と肉球と共に、再びクーラカンリの周囲に広がった。
 これが戻りたい世界でしょう?
 これが理想の世界でしょう?
 そう誘うように見せつけて。
 クーラカンリを捕らえるように。
 故郷の景色が広がっていく。
(「ああ、そうだな」)
 戻りたくないわけではない。
 山への信仰から生まれた神が、その山から離されているのだから。
 戻れるのなら戻りたい。
 山と共に在りたい。
 けれども。
『えへへ~。やった~、支部長に撫でてもらった~』
『あ~。クーラくん、僕は? 僕も偉いと思うんだけどなぁ~』
 ふと、騒がしい声が脳裏によみがえった。
 自由奔放な東方妖怪と、なにを考えてるか分からない西洋妖怪。
 そして、うるさくも楽しい部下たち。
 今のクーラカンリを囲む、新たな世界。
 クーラカンリは、口元を歪める程度の小さな小さな、でも確かな笑みを浮かべて。
「生憎、私にとって大切な者は既に隣にいるのだ」
 真っ直ぐに前を向く。
 過去の大切なものは失われたままだけれども。
 新たに訪れた世界が、新たに出会った人が、大切なものになったから。
(「だからあられ、おまえの気持ちに寄り添うことは出来ない」)
「理想の世界など程遠い。
 私を囲いたくば、地獄の豪鬼をつれてることだ……!」
 クーラカンリは一喝と共に世界を打ち破り。
 破られたことで襲い掛かってくる攻撃を受けながらも、あられへと駆け込んだ。
 そして、勢いのまま踏み出した足で、白い小さな身体を蹴り上げる。
 伝わる柔らかで軽い感触に、少々気が引けるが。
 相手はオブリビオンなのだと自分に言い聞かせながら足を振り抜けば。
 宙を舞ったあられの全身から、幾重もの棘が生えた。
「夢を見たか、あられ。ご主人様と共に居る、永久の夢を」
 夢を棘に変える断罪流沫天の効果を見ながら、クーラカンリは語りかける。
「されどそれは夢の果て……現実ではない」
 夢は夢でしかないのだと。
 辛くとも、今から目を反らしてはいけないと。
 自分を呼ぶ部下たちの騒がしい声をまた思い出しながら、クーラカンリは叫んだ。
「思い出せ、あられ。ご主人様は、死んだのだ!」

成功 🔵​🔵​🔴​

木槻・莉奈
シノ(f04537)と

『高速詠唱』で【トリニティ・エンハンス】
【水の魔力】で防御力の強化を

攻撃は最終手段
相手の攻撃は『見切り』『武器受け』『激痛耐性』で耐久を

私が受けても大丈夫なように防御力上げてるのに…無茶するんだから
(不服そうにしつつも、大人しく庇われ

ねぇ、ごしゅじんさまはどんな人なの?
どんな家に住んで、どんな風にあなたと過ごしてきたの?
何を、大切にしていたか覚えてる?

…大好きなのね、だから傍にいたかった
寂しいも、悲しいも、いっぱい耐えてきたのはえらいわ

でもね…大切な人の大切を、あなたが壊して、なくしてしまうの?
大切な者も、大切な物も…道連れにしてしまう事、ごしゅじんさまは本当に望むかしら


シノ・グラジオラス
リナ(f04394)と

満ちるのは一瞬
後は事実から目を反らし続ける煉獄が続くだけ
気が付いてる筈だ
満たされない渇きは過去じゃ埋められないって

可能な限り、あられの説得を
『見切り』『武器受け』で極力攻撃を避けて『激痛耐性』で耐え、『時間稼ぎ』を
リナへの攻撃は『かばう』
説得しきれないのなら攻撃も厭わないが、それは俺の役目
骸魂への攻撃は【洞映し】で苦しみは短く

主人に大事にされてきたんだな
けど、このままだと世界が壊れて何の道アンタはまた主人と別れないといけない
主人との大事な想い出を、世界ごと壊していいのか?

なあ、主人との想い出を聞かせてくれよ
残されたアンタの想い出の中で、この先もアンタの主人は生き続けるから



 骸魂となって帰ってきた主人。
 世界の崩壊と引き換えの再会。
 何を犠牲にしてでもと願ったものであったとしても。
 喜びに満ちるのは一瞬。
 後は事実から目を反らし続ける煉獄が続くだけ。
「気が付いてる筈だ。満たされない渇きは過去じゃ埋められないって」
 小さな白い姿を見て、シノ・グラジオラス(f04537)がぽつりと零す。
 気が付いているからこそ、猟兵達を拒絶するのだと。
 喜びに縋りついて、他を見ないようにしているのだと、感じて。
 何も知らないフリをする金色の瞳を見据えると、ぐっと手に力を込めた。
 そこに、木槻・莉奈(f04394)の詠唱が響く。
 歌うように紡がれる強化の魔法。
 その魔力が向かうのは莉奈自身にだけだけれども。
 心地良い旋律に、シノはふっと微笑んだ。
 過去ではなく、現在に見つけた、シノの渇きを満たすもの。
 欠けた心を埋めるのではなく、それこそがシノだと受け入れてくれた人。
 莉奈が傍に居てくれるなら、シノはもう、間違えない。
 だから、放たれた肉球を、閉じ込めようと迫る理想の世界を。
 シノは迷わず打ち払い、そしてその攻撃を受け止めた。
「無茶するんだから」
 背中越しに、庇った莉奈から不服そうな声がかかる。
 ちゃんと防御力上げてたのに、とむくれながら、でも、大人しく庇われてくれたのが、シノの気持ちを汲んでのことのようだったから。
 肩越しに振り向いたシノの表情には、意図せず嬉しさが零れていて。
 怒っているのだと伝えるように、ぷいっと反らされた莉奈の顔は、ほんのりと朱に染まっていた。
 そしてそのまま莉奈は、あられへと向き直る。
「ねぇ、ご主人様はどんな人なの?」
 そっと首を傾げれば、肩口から零れる綺麗な長い黒髪。
「どんな家に住んで、どんな風にあなたと過ごしてきたの?
 何を、大切にしていたか覚えてる?」
 柔らかな微笑で、莉奈が穏やかに問いかければ。
「ごしゅじんさまは、やさしくてあったかい。
 いつも、よんでくれた。いつも、だいてくれた」
 あられは嬉しそうに話し出した。
 舌足らずな口調でも途切れることなく、次から次へと話が続く。
 それは、あられがどれだけ主のことを想っているかを伝えると共に。
「主人に大事にされてきたんだな」
 あられがどれだけ主に想われてきたかを伝えるものだったから。
 シノも莉奈に並び、少し哀し気に見つめる。
 喜びに縋りつくその様を。
 目を反らし続ける姿を。
 でも、このままで居させてあげることはできない。
 世界のためにも。あられのためにも。
 だから莉奈は、話に頷いて、切り出した。
「……大好きなのね、だから傍にいたかった。
 寂しいも、悲しいも、いっぱい耐えてきたのはえらいわ」
 褒められて金色の瞳を細めるあられに、莉奈は表情を曇らせて見せて。
「でもね……大切な人の大切を、あなたが壊して、なくしてしまうの?」
 あられが見ない事実を問いかける。
「このまま世界が壊れたら、何の道アンタはまた主人と別れないといけない」
 シノも、目を反らしている結末をはっきりと示して。
「大切な者も、大切な物も……道連れにしてしまう事、ご主人様は本当に望むかしら?」
「主人との大事な想い出を、世界ごと壊していいのか?」
「……ちがう」
 けれども、あられはふるふると首を横に振り。
「ちがう。こわしてなんかない。
 ごしゅじんさまといっしょにいるだけだから」
 自分に言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。
 事実から目を反らし続ける。
「ずっといっしょにいるだけ」
 そして再び肉球を放とうとする動きを見て、シノは莉奈の前へ出た。
 護り庇うのも自分の役目だが、あられを傷つけるのもそうだと決めてきたから。
 小さな子猫への攻撃を躊躇う優しい莉奈の心をも庇いたいと思うから。
 シノは先刻の負傷で流れた血に魔力を混ぜ、地獄の蒼炎を生み出し、放つ。
 容赦なく子猫に襲い掛かる、蒼白い炎。
 そんな自分を莉奈がどんな表情で見ているのか、見ないようにしながら。
 シノは、炎から逃れようと下がったあられに、声を飛ばした。
「なあ、主人との想い出を聞かせてくれよ」
 嬉しそうに話していた姿を思い出しながら。
 シノは希う。
「残されたアンタの想い出の中で、この先もアンタの主人は生き続けるから」
 それこそがきっと、ずっと一緒にいられる方法だと思うから。
『……懐古も後悔も、悪い事じゃないわ』
 シノがもらった言葉を思い出しながら、また魔力を繰って。
 あられの心にかかった闇を燃やすかのように、蒼炎は燃え盛った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
あられさん、ずっといっしょにということはできないんですよ。
永遠の愛を誓う時でさえ、「死がふたりを分かつまで」とその期限が定められているんです。
終わりの時は必ず訪れるんですよ。

ずっといっしょにですか。
私達は幸せなのかもしれませんね。
アヒルさんとこうして剖検していられる今を幸せに感じてしまいます。
ですが、私はアリスです。
帰らなければいけない場所があります。
そして、アヒルさんにも帰る場所があるんですよね。



「ずっといっしょにですか」
 小さな身体で抗うあられを、フリル・インレアン(f19557)はじっと見つめる。
 大切な人を亡くしてしまった子猫。
 それがどんなに大きい喪失だったのか。
 フリルの想像で足るものなのかは分からないけれど。
 手の中に抱えたアヒルちゃん型のガジェットを見下ろしたフリルは、あられを見据えているその姿に、淡く微笑んだ。
「私達は幸せなのかもしれませんね」
 いつも一緒に居てくれる。
 いつも共に冒険してくれる。
 もはや当たり前になっている日常が、とても貴重なものなのだと。
 あられの姿から再認識したフリルは、今この時を幸せに感じていた。
 ずっと一緒に居たい。
 ずっと共に冒険を続けたい。
 そう願う心がフリルの中にあるのも確かだけれども。
「ですが、私はアリスです。
 帰らなければいけない場所があります」
 フリルは、気弱な赤い瞳に精一杯の力を込めて、前を見る。
 それはきっと、幸せなだけではない道。
 ガジェットとの別れが待つ未来。
 でも、フリルはアリスだから。
 そのためにガジェットは共に居てくれているのだから。
 間違えてはいけない、とフリルは自分に言い聞かせる。
 今の幸せは、これからを乗り越えるためのもの。
 フリルが先へ進もうとするからこそ得られたものなのだから。
「そして、アヒルさんにも帰る場所があるんですよね」
 思い出すのは、行燈の見せた景色。
 研究室で、製造途中のガジェットを手にしていた、白衣姿の女の子。
 フリルのいない、ガジェットの過去。
 いつか分かれる2人。
 それをフリルは少し寂しく思い。
 でも、としっかりと受け入れて足を踏み出すと。
 世界が破れた。
 気付かぬ間に、フリルはあられの見せる理想の世界に閉じ込められていたのだ。
 今この時との境が曖昧な程に似通った世界は。
 破られたことでフリルへと襲い掛かるけれども。
 その威力は酷く低くなっていて。
 急に暴れ出したガジェットが、難なく蹴散らしていく。
 騒ぐガジェットにあわあわしながらも、フリルはその後をついていき。
 ふと、金色の視線を感じて振り返った。
「あられさん、ずっといっしょにということはできないんですよ」
 向けられていたのは、あられの不思議そうな瞳。
 理想の世界に囚われず、次々と抜け出て来る猟兵達に驚いてもいるようで。
 どうして? と問いかけるような子猫に、フリルは少し寂しげに微笑む。
「例えば永遠の愛を誓う時でさえ、死がふたりを分かつまで、とその期限が定められているんです」
 変わらない世界はないのだと。
 変わっていくからこそ世界なのだと。
 フリルは静かに受け入れて。
 戸惑う金瞳にそっと手を伸ばすと、サイキックエナジーを放った。
「終わりの時は必ず訪れるんですよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳳来・澪
【花守】
福は少し待っててね
大丈夫――あの子もご主人様も、決して悪意がある訳ではないから
(だから余計に、胸が痛むけど…ふと双方の猫の首飾りを見て、それでもぐっと堪え)

再び夢現に幻を見ても――御免ね、まだ一緒には眠れんの
音羽ちゃんや福と遊ぶ約束
他ならぬおばあちゃんや吉との、最後の約束
あの子達を放っておけん気持ち
――果たさなあかん事が沢山あるから

UC使いつつ幻振り切るも
行動は音羽ちゃん同様に

うちは残った身でもあり、福の家族でもあり――想いは、痛い程

…だからこそ、ね
大切な想いや過去が、禍を招き未来を断つ事になってほしゅうない
どうか、おやすみと言ってあげて――優しいご主人様として、穏やかに休ませてあげて


花表・音羽
【花守】
ええ――福様はどうか、後ろで見守っていてくださいませ
そして、例え心苦しい道行でも――私達も、最後まで目を逸らさずに参りましょう
(澪様の視線を追うように、心配げに鳴く福様とあられ様をみやり――痛む胸の内にそっと覚悟を決めて)

――はい、私もまだ、貴方様の元へは行けない
このままでは、満ち足りるどころか、空しくてならぬ結末に至ってしまう――眠るに眠れません

UC発動し夢幻こそ振り払えど、骸魂を鎮める一手は極力待ちます
あられ様達に、少しでも言葉が届くまで

お心は、同じく
ですが、哀しい結末も見過ごせず

あられ様
どうか――その御方を、骸魂としてではなく、大切なご主人様として、ゆっくり眠らせてあげてください



 真っ白な小さい子猫を心配そうに見つめる、白茶虎のもふもふ猫。
 そのふくふくした優しい姿に、鳳来・澪(f10175)はそっと手を伸ばし。
「福は少し待っててね」
 頭の茶虎模様を撫でて微笑んで見せた。
「大丈夫。あの子もご主人様も、決して悪意がある訳ではないから」
 もふもふの毛並みを心地よく感じる繊手の下で、きゅっと目を細める福。
 応えるように頷いた澪は、手を離して。
 福の首元を飾る、赤いリボンと白い花に目を留めた。
 それは、赤い紐に白梅と鈴が揺れるあられと似た装飾で。
 あられと主は、福と自分と同じなのだと感じられて。
 胸が、痛む。
 世界を壊したいわけではない。
 ただ、大切な人と一緒にいたいだけ。
 同じ願いを持つであろう白と白茶虎を見比べて。
 澪は、その痛みをぐっと堪える。
 そこにふわりと、花表・音羽(f15192)が寄り添った。
「ええ。福様はどうか、後ろで見守っていてくださいませ」
 穏やかに微笑みながら、音羽も2匹の猫を見つめる。
 澪の視線を追うように。
 主との再会に満ち足りた心だけを抱えるあられと。
 それに対峙する主を心配するように鳴いた福を。
 音羽も、しっかりと見て。
「例え心苦しい道行でも……私達も、最後まで目を逸らさずに参りましょう」
 澪と似た思いに痛む胸の内に、そっと覚悟を決めた。
 そこに、あられの放った魂が迫る。
 その多くは撃墜されていたけれども、零れた魂は、死者を生前の姿で蘇らせた。
 澪の前に。
 音羽の前に。
 行燈の灯の中に見た、亡くした大切な人が立つ。
 眺めるだけだった行燈とは違い。
 柔和に微笑んだ老婆は、誘うように澪に近づき、手を伸ばし。
「……御免ね、まだ一緒には眠れんの」
 澪は、少しだけ哀し気に、おばあちゃんに微笑んだ。
 音羽や福と交わした、遊ぶ約束。
 他ならぬおばあちゃんや吉との、最後の約束。
 そして、あの子達を放っておけない気持ちが、澪にはあるから。
「果たさなあかん事が沢山あるから」
 伸ばされた優しい手を、そっと返すように押し出して。
 澪は、微笑んだ。
「……はい。私もまだ、貴方様の元へは行けない」
 そして、音羽もまた。
 音羽とよく似た姿の女性に。
 いや、正確には、音羽が姿を映した女性に。
 静かに首を横に振って、共にと誘う手を遮る。
「このままでは、満ち足りるどころか、空しくてならぬ結末に至ってしまう……」
 神鏡のヤドリガミは、持ち主の手に戻る喜びよりも。
 壊れてゆく世界を。
 揺らいでいくあられを。
 心配する気持ちの方を強く抱いて。
「眠るに眠れません」
 誘い来る眠りにも抗い、夢幻を振り払うように大きく腕を振った。
 その動きに合わせて、くるりと舞うように花薫る風に包まれると。
 音羽は神霊体となり、陽にも透ける身に藤色の羽衣を纏っていく。
 その手に構えるは、藤色を纏うなぎなた・花護。
 その周囲に広がるは、優しい藤の香と安寧の祈りが籠められた護符・花祈。
 天津風により蒼天の加護を得て、音羽は、かつての持ち主の姿を蘇らせた魂を、鎮めるように切り裂いた。
 同じように、澪も神霊体となり、握り締めたなぎなたを大きく振り下ろす。
 老婆の姿を消すその動きは、巫覡載霊の舞となって。
 2人の戦巫女は、切っ先を揃えた。
 けれども、それぞれの刃が断つのは、放たれた魂ばかりで。
 あられや、あられを取り込んだ骸魂に向けるのは待たれた。
(「あられ様達に、少しでも言葉が届くまで」)
 ただ斬って終わりにはしたくないから。
 その心を救いたいから。
 音羽は、藤色の舞いを見せ。
(「うちは残った身でもあり、福の家族でもあり……」)
 澪はまた、あられの在り様に自らを重ね見る。
 想いは、痛い程分かるから。
(「……だからこそ、ね」)
「大切な想いや過去が、禍を招き未来を断つ事になってほしゅうない」
 あられが歩き出せるように。
 澪は、赤色の舞いを見せる。
 心を同じくした巫女の舞いは、穏やかに、でも着実に、哀しい結末へと向かってしまっている小さな願いに染みていき。
 神楽となってその心を癒していく。
「あられ様。どうか……その御方を、骸魂としてではなく大切なご主人様として、ゆっくり眠らせてあげてください」
 切に祈る、音羽の願いを乗せて。
「どうか、おやすみと言ってあげて」
 穏やかに諭す、澪の願いを届けて。
 巫女の舞いは続く。
 少しでも優しい結末へ向かうようにと。
「優しいご主人様として、穏やかに休ませてあげて」
 願いながら微笑む澪に、あられの揺れる金色の瞳が向けられて。
 小さな福の鳴き声が、その背を押すように、響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

彩波・いちご
【恋華荘】

気持ちはわかります
私もマリモと一緒にいたかった
私もマリモと再会できるなら…と思いますし

…あ、いえ、まりもさんのことではなくてですね?
紛らわしくてすみません

気持ちはわかりますが、私のマリモは、別れを選びました
自分が死ぬことで、私の時間を止めてはいけないと
だから私も、その思い出を抱えて前に進んでいるんです
別れは悲しいですけど、思い出も絆も消えませんから

あられさんも、もう御主人様を眠らせてあげてください
御主人様も、このまま貴方を巻き込んで世界を終わらせることは、望んでいないはずです

そう言って、私は子守唄を歌います
御主人様が眠れるように
【天使のような悪魔の歌声】で優しく歌って送りましょう


庭月・まりも
【恋華荘】

ご主人さまといっしょに。
その気持ちはとてもよくわかるかな。
わたしも大好きな子と離れたくはないもんね。

でもいつかはかならずそのときはくるんだよ。
だからそのとき笑えるように、
楽しい思い出をたくさん作っておくんじゃないかな。

って、え? わたし……
と、つい頬を染めちゃうけど、ちょっと勘違い。

き、気を取り直して!
あられさん、あなたのご主人さまがここにとどまるということは、
いままでの時間や思い出を、全部なかったことに、
ううん、出会わなかったほうがよかったことにすらしてしまうんだよ。

だからいまは、しっかりさよならを言ってほしいな。
想いを忘れなければ、必ず会えると思うから。



「ご主人さまといっしょに……」
 盲目ではあるけれども一途に主を想うあられを見て、庭月・まりも(f29106)は少し哀し気な苦笑を見せた。
「その気持ちはとてもよくわかるかな。
 わたしも大好きな子と離れたくはないもんね」
「私も、気持ちはわかります」
 その隣で頷いたのは彩波・いちご(f00301)。
 複雑な色を混ぜた青い瞳で、真っ白な小さい姿を見据え。
 そこに、かつて可愛がっていた猫を重ね見る。
「私もマリモと一緒にいたかった。
 私もマリモと再会できるなら……と思いますし」
「え? わたし……」
 切ない声で名前を呼ばれたまりもが、思わず頬を赤く染めて振り返るけれども。
「……あ、いえ、まりもさんのことではなくてですね?」
「あ、ああ! いちごさんに懐いていた猫のマリモのこと、ですね?」
「紛らわしくてすみません」
「い、いえこちらこそ、勘違いしてすみません」
 いちごまで顔を赤く染めて、ぺこぺこと謝罪合戦をする2人。
 霊媒体質のまりもには猫のマリモの霊が憑りついているので、ある意味勘違いではないのですが、いちごも、まりも自身もその事実は知らぬまま。
 延々と続くかと思われたすみませんの応酬の中、まりもが改めて顔を上げた。
「き、気を取り直して!」
 まだちょっと頬は赤いままだったけれども。
 まりもは、魂を放つあられに向き直る。
 数多の魂は、死者を生前の姿で蘇生させ、過去へと誘おうとするものだったけれども。
 次々と撃墜されていく魂に、その影響を受けぬまま。
 まりもは声を張り上げた。
「あられさん、あなたのご主人さまがここにとどまるということは、いままでの時間や思い出を、全部なかったことに……ううん、出会わなかったほうがよかったことにすらしてしまうんだよ」
 哀しいけれども、何にでもいつかは終わりがくる。
 別れなければいけない時が。
 だから、楽しい思い出をたくさんたくさん作っておくんだと思うから。
 思い出があれば、その時笑うことができると思うから。
 それを無くしてしまわないでと、まりもは願う。
 一緒に過ごした時間を。
 思い出して笑うことができる記憶を。
 そもそもの出会いを。
 否定するようなことはしないでと、まりもは祈る。
 その言葉に、いちごは思い出していた。
 先程、行燈の灯で見ることができた、大好きなマリモの決意を。
「私のマリモは、別れを選びました」
 それは、かつては喪失しか感じていなかった別れ。
 急に姿を消したマリモを探して、探して。
 見つからないまま、寂しくて泣いた過去。
 でも、その理由を、行燈が見せてくれた過去で、いちごは知った。
「自分が死ぬことで、私の時間を止めてはいけないと。
 だから私も、その思い出を抱えて前に進んでいるんです」
 いや、もしかしたら。
 理由を知らないままでも、マリモの思いはいちごに伝わっていたのかもしれない。
 寂しくても。泣きはらしても。
 いちごは、マリモとの時間を糧に、前を向いて進んで。
 まりもだけでなく、沢山の新たな友人を得られたのだから。
「別れは悲しいですけど、思い出も絆も消えませんから」
 きっとあられにも同じように糧があるはずと。
 主が遺したものに気付いて欲しいと。
 いちごは穏やかに微笑みながら、伝えていく。
 それとも、とまりもが首を傾げて見せ。
「あられさんは、思い出も絆も、消してしまいたいのかな?」
 問いかけに、あられの金色の瞳が見開かれた。
 言葉での答えはなくとも、明確に伝わる否定の気持ち。
 それを感じ取ったまりもは、うん、と頷いて。
「だからいまは、しっかりさよならを言ってほしいな。
 想いを忘れなければ、必ず会えると思うから」
 大丈夫だよと伝えるように、笑顔を見せた。
「もう御主人様を眠らせてあげてください」
 そしていちごは、胸元で両手を握ると、静かに歌声を響かせていく。
「御主人様も、貴方を巻き込んで世界を終わらせることは望んでいないはずです」
 ユーベルコードである天使の歌声。
 でもそれは優しく穏やかな子守唄で。
 骸魂を倒すのではなく、本来の眠りに誘うかのような旋律だったから。
 いちごの歌声に、まりもも願いを重ねていく。
 どうか。どうか。
 悲しいだけの別れにならないでと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

あられ。今とてもうれしい?
会えないはずの人に会えた喜び、孤独の辛さ、誰かを亡くした事のないわたしはまだ知らない
だから、あられの大切な人の魂を見せて?

…ああ、あなたがご主人さま
その魂がたとえ骸魂でも、ほんの少しでもそこに居るはず
人の心のご主人さま

まだ、眠れない
【華灯の舞】で己の腕を狙い、痛みで眠気に対抗する

ご主人さま
あられを、世界を壊すものとして
皆に憎まれる存在にしていいの?
たとえ間違いであったも、会えたこの一時、無駄しないで

ぎゅっと抱きしめてあげて?
千の言葉を紡がなくても、きっと、それだけで十分なのだから

…だめ、眠気が勝る
でも、きっとまつりんが起こしてくれる


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と。

あ、猫さんだ。
すごく嬉しそうだね。
へえー。飼い主だった人に会えたんだ。

これまで、一緒にどんなことしたの?
何が、どんなときが楽しかった?

おいらはね、家族でバーベキューに行って、母ちゃんに褒められたとき!
あとは、父ちゃんに時計もらったときかなあ?

二人とも、ニコニコしてた。
次もお手伝い頑張ろうって思った!

ね。
アンちゃんの呼んでくれた人と。
今、一緒にいる人。
どっちが本当のキミの飼い主さん?

よく見て、嗅いでも、わかんないようなら。
残念だけど、無理にでも引き離して、わかってもらうしかないね!

だってキミ、その骸魂に騙されてるんだもの。
それって、かわいそうだから。

助けてあげる!



「あ、猫さんだ」
 ふんふん、と臭いを嗅いで道を探り。
 辿り着いた広場で、赤茶の毛並みの子狼は小さな白猫の姿を見つけた。
 灯りのない夕闇の中で、それでもその姿が輝いて見えるのは。
「すごく嬉しそうだね」
 伝わってくる気持ちを口にしながら、子狼は……木元・祭莉(f16554)は、元の少年の姿に戻って、にぱっと笑う。
 亡くした主の骸魂に飲み込まれて。
 オブリビオン『彷徨う白猫』となってしまった『あられ』。
 でもその姿は、祭莉が感じた通り、嬉しさに満たされていて。
 会いたいと願った人との再会に喜んでいるのが、揺れる二又の尻尾からも分かる。
 けれども。
 その再会は、世界の崩壊を招いてしまうから。
 その再会は、あられを過去に捕えてしまうものだから。
 猟兵達は集い、悲しい結末を止めようと対峙する。
「どうして?」
 でもその思いは、あられには分からない。
 未だ幼い子猫だから。
「ごしゅじんさまといっしょにいるだけなのに」
 満ち足りた心を、大切な人と一緒に居れる幸せを、もう二度と失いたくないから。
 数多の魂を放ち、迫り来る猟兵達を牽制する。
「あられ……」
 その切ない姿に、祭莉に追いついた木元・杏(f16565)は、ぎゅっと手を握り締める。
 会えないはずの人に会えた喜び。
 孤独の辛さ。
 それは、誰かを亡くしたことのない杏がまだ知らない感傷。
 でも、嬉しそうなその姿に。
 心底不思議そうなその疑問に。
 想像することはできたから。
(「わたしはまだ……」)
 ふわふわと迷う心を抱いて、杏はじっとあられを見据えた。
「みんなもおなじになれば、わかるよ」
 そんな杏の前で、あられは肉球を放ち、理想の世界を広げる。
「ずっといっしょに」
 ずっとずっとと望んだ世界を紡ぎ上げ。
 そこに猟兵達を捕らえんとする。
 しかし、それらを猟兵達は次々と乗り越えていった。
 数多の魂は、彼方が弾幕のように放った霊符の重奏で、次々とその数を減らし。
「あっ、そうだ!」
 ユーベルコードを反射させたエインセルによって、死者を生前の姿で蘇生できる魂は、あられの主の姿をとった。
「ちがう。ごしゅじんさまは、もういっしょにいる」
 しかしあられは、迷うことなくそれを切り裂き。
 骸魂に縋りつくような、頑ななその姿に、エインセルがにゃーんと耳を垂れ下げる。
 澪が、音羽が、亡くした大切な人の誘いの手をそっと遮り。
 琴子が、シノと莉奈が、理想の世界から抜け出てくる。
 その姿にも、あられは、どうして? と首を傾げながら。
 ただただ、金色の瞳を不思議そうに瞬かせるだけ。
 それはまるで、理解しようとしているふりをしているだけのようで。
 実際は、理解することを拒んでいるかのようだったから。
「あられさん、貴方のご主人は、そこに立ち止まったまま、悲しんだまま……それで良いと仰られるのでしょうか?」
 琴子の訴えも、あられの心までは届かない。
 そんな中で。
「私、一生貴方のこと分からないわ」
 唯一、彼方が、あられに寄り添うどころか切り捨てるかのような声をかけた。
 紡がれるのは、あられとは違い過ぎる価値観。
「なくしたら、とりもどしたいよね?」
「変なこと言うのね。失うものは宝物じゃないのよ」
 違い過ぎて、あられには理解しきれないがゆえに。
 あられの心が揺れ始める。
 あられに声が届き始める。
「ごしゅじんさまといっしょにいちゃ、いけないの?」
 揺らぎ始めた心を示すかのように紡がれた疑問は質問のユーベルコードとなって。
 相手の記憶から大切な人を召喚すると、攻撃を始めた。
「あられちゃん……ひとつ、聞かせて」
 母と対峙するリグは、戦いの最中にあられへと質問を返して。
「とっても綺麗なこの世界に、あなたが見せたかった『おそと』はあるの?」
「あるよ。ごしゅじんさまといっしょにみてるよ」
 だがその答えに、嘘に喰らいつく魔狼があられへと迫る。
 凶悪な顎を開く魔狼に、よいしょ、と祭莉が並走し、その拳を振るいながら。
「ね、聞いていい?」
 攻防の最中に問いかけた。
「これまで、一緒にどんなことしたの? 何が、どんなときが楽しかった?」
 それは、ユーベルコードではない、純粋な質問。
 ただただ、祭莉が知りたいと思い、祭莉が伝えたいと思ったこと。
「おいらはね、家族でバーベキューに行って、母ちゃんに褒められたとき!
 あとは、父ちゃんに時計もらったときかなあ?
 2人とも、ニコニコしてた。次もお手伝い頑張ろうって思った!」
 今は離れている家族と過ごした大切な時間。
 心の中から祭莉を支えてくれる、幸せな思い出。
「この世界にはきみとごしゅじんさまの思い出がたくさんあるでしょう?」
 ガジェットを向けたオズも語りかける。
 ミレナリィドールである自分を生み出してくれた父を思い。
 きっとあられにも、そんな気持ちが、記憶が、あるはずだからと。
 それが失われることは止めなければいけないと。
「大切な人の大切を、あなたが壊して、なくしてしまうの?」
 莉奈がそんな悲しい結末は迎えて欲しくないと訴えた。
「主人との大事な想い出を、世界ごと壊していいのか?」
 シノも蒼炎と共に、問いかけの形で現実を突き付けていく。
 その炎の間を駆け抜けて、飛び退いた魔狼と祭莉が開けた空間へと、クーラカンリが飛び込んだ。
「思い出せ、あられ。ご主人様は、死んだのだ!」
 厳しい現実と鋭い蹴りは、小さな子猫相手には酷なものだったろうと思う。
 けれどもクーラカンリはあえて、柔い身体を蹴り上げた。
 現実は甘いだけはないのだから。
「あられさん、ずっといっしょにということはできないんですよ」
 フリルも、常に共に居るガジェットを胸に抱いて、告げる。
「終わりの時は必ず訪れるんですよ」
 きっと自分にも、この手にこの重みがなくなる時が来る。
 その覚悟を、気弱な赤い瞳に精一杯込めて。
「あられ。今とてもうれしい?」
 そこに、杏がそっと近づいた。
 あられと主との別れをもたらすことに、迷いを見せていた杏は。
 皆の言葉に支えをもらい、隣に居てくれる祭莉に勇気をもらって。
 自分に向けられた魂を1つ、そっとあられの前へと連れてくる。
「あられの大切な人の魂を見せて?」
 それはきっと、主のものではない魂。
 でも、主の生前の姿を蘇生させることができる魂だから。
「……ああ、あなたがご主人さま」
 あられの前に、再び、主の姿が現れる。
 そこにはきっと、ほんの少しでも、人の心の主はいるはずだと杏は信じて。
 魂がもたらす眠りに、己の腕を傷つけ抗いながら、杏は話しかける。
「ご主人さま。
 あられを、世界を壊すものとして、皆に憎まれる存在にしていいの?」
 問いかけに、あられが顔を跳ね上げた。
 小さな自分を見下ろす、主の姿をしたものを見上げて。
 金色の瞳が、ゆらゆらと揺らぐ。
「ね。アンちゃんの呼んでくれた人と。今、一緒にいる人。
 どっちが本当のキミの飼い主さん?」
 祭莉の問いかけに、あられの答えはない。
 エインセルの時は迷いなく切り裂いていた存在を。
 今のあられは、迷って見上げている。
 もしかしたら、最初の時も迷ってはいたのかもしれない。
 でもその時は、叶えられた願いに、まだ頑なにしがみついていたから。
 見たくないものを否定することができていた。
 けれども、今は。
 過去に囚われない猟兵達の姿を見て。
 前を向く言葉が届いてきた今は。
 違う、から。
 だから杏は、主に振り向いて。
「ぎゅっと抱きしめてあげて?」
 そっと、あられを指し示す。
 これが正しい邂逅だとは思っていない。
 けれども、どんな形であれ会えたのならば。
 この一時を無駄にしてほしくないから。
 千の言葉を紡がなくても、きっと、それだけで十分なのだから。
 望む杏に応えるように、主はそっとあられに手を伸ばし。
 慈しむように抱き寄せると。
 すぅっとその姿を消した。
 金色の瞳から、ぽろぽろと雫が零れ落ちる。
 あられの心の氷が解けたかのように。
 白猫は、静かに涙を零して。
 気付けば、リグの前から母の姿が消えていた。
 リグが倒したのではない。
 恐らく、あられが満足だと思う答えを得たから……
「あられ様」
 そこに、音羽の声が届く。
「どうか……その御方を、骸魂としてではなく大切なご主人様として、ゆっくり眠らせてあげてください」
 まだあられは骸魂に飲み込まれたオブリビオンのままで。
 そのままでは世界の崩壊も、あられの哀しみも、きっと止まらないから。
 音羽は、切なる願いを込めて、美しい舞を見せる。
「どうか、おやすみと言ってあげて」
 澪も動きを揃え、願いを揃え、2人の巫女が舞い踊る。
「別れは悲しいですけど、思い出も絆も消えませんから」
 いちごは子守唄を紡ぎ、主を送る準備を整え。
「だからいまは、しっかりさよならを言ってほしいな」
 それに寄り添うまりもが、少し哀し気に、でも晴れやかに笑って見せた。
「今は動けないけど、私も貴方も動けないわけじゃない」
 琴子が、伸ばせない手の代わりに言葉を向けて。
「歩んでいきましょう。
 暗闇から光に向かうための一歩を」
 戸惑うあられに、道を示す。
「まだわかんないようなら、残念だけど、無理にでも引き離すよ。
 そうしないとわかってもらえないでしょ?」
 殴られたら殴り返す勢いの祭莉も、ちょっと乱暴にあられの背を押して。
「でもそれだと、お別れはできない」
 杏は、じっとあられと同じ金色の瞳を向ける。
 まだそこに迷いはあるけれども。
 きっとこれが、あられにとっても主にとっても、救いの道の1つだとは思うから。
「だから……」
 促す杏に、あられはゆっくりと頷いた。
 ん、と杏も頷くと、振り返ってその場を空ける。
 巫女が舞い振るうなぎなたが向かい。
 子守唄の旋律を奏でる歌声が響き。
 そして、まかせて、と飛び込んだ祭莉の灰燼拳が。
 あられを取り込んでいた骸魂を倒した。
 消えゆく骸魂は、先ほど見た主の姿はとっていなかったけれども。
 ぼんやりと消えていくそれを、あられはしっかりと見つめて。
「さよなら、ごしゅじんさま」
 金瞳からの雫と共に、言葉を零した。


 ありがとう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『百鬼夜行のお祭り騒ぎ!』

POW   :    縁日のごちそうに舌鼓!

SPD   :    幻想的な情景を堪能する!

WIZ   :    お祭りグッズを見て回る!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 オブリビオンが消え、世界の崩壊が止まる。
 夕闇が夜闇に変わっていく中で、あられは主を見送ったそのままの姿勢で、じっと空を見上げ佇んでいた。
 その金色の瞳からの涙は止まっていたけれども。
 まだ少し、哀しみを宿したまま。
 でもしっかりと夜空を、前を見つめる。
 そこに、ざわざわと人の気配が集まってきた。
「あれあれ? 何があったの?」
「何だか懐かしい夢を見ていたみたいよ」
「よく分からんが、大変なのは終わったのかい?」
 口々に、首を傾げているのは、カクリヨファンタズムに住む妖怪達。
 行燈の灯が魅せる過去に囚われていた彼らも解放されて。
 元の世界が戻ってくる。
 主のいない、でも主との思い出の残る、あられの世界が。
「大丈夫なら、祭りだ祭りだ」
「そうね。行燈には何度でも火を灯せばいいもの」
「よっしゃ。縁日の準備を急ぐぜ」
 そして、妖怪達は賑やかに行燈祭りを始めていく。
 道の両端に並べられた行燈に、今度は過去を魅せない普通の火が灯されて。
 ゆらり、ゆらりと。再び幻想的な光景を生み出す。
 いつもそこにある辻行燈も。
 祭りのために幾つも幾つも並べられた置き行燈も。
 数多の灯が揺れ、街並みを淡く照らし出す。
 けれども、相変わらず広場には何もないままで。
 夜闇に暗く沈むばかり。
 祭りの中心地のはずなのにと首をかしげていると。
 くすくすと、浴衣姿のろくろ首が笑いながら、道に並ぶ行燈を指差した。
「ここには最初は行燈を置かないの。
 縁日も出ないし、何もない場所にしておいて。
 そして、祭りを楽しんだら、好きな行燈を1つ選んでここに持ってくるのよ」
 1人1つ、行燈を持ち寄れば。
 街中に散らばった行燈の多くが、祭りの終わりに移動することになるという。
 それがこの広場であり、行燈祭りの中心なのだと。
 祭りの楽しい思い出が集まってくる場所なのだと。
「だから、皆さんも祭りを楽しんで。
 そして最後に、ここに行燈を置いて頂戴」
 ろくろ首は楽し気に笑い、ふと、佇むあられに目を向け。
「化け猫ちゃんもね」
 そちらにもひらりと手を振り、街並みへ向かう。
 行燈が灯る、賑やかになってきた祭りへと。
 新たな思い出を紡ぐ場所へと。
飛鳥路・彼方
あられを見つめ、抱き上げてよしよしと撫でる
「あられ。貴方子猫なんだから、とりあえず誰かの家の子になりなさい。大きくなるまで育ったら、貴方の大事なご主人様が貴方に見せたかったものなり新しいご主人様なり探しに行けばいいわ」

「私の世界はここだし、うちの子になる?それなら私のことは、母ちゃんか姉ちゃんって呼ぶのよ?私は貴方の主人じゃなくて、貴方を育てるだけだから。あられの大事な人は、あられが見つければいいわ」

「私は会わないと1日で忘れるけど、その分あられが覚えて私に教えてくれればなんとかなるわ、きっと。うちの子になるなら、私とあられ、2人の名前を書いた2人分の迷子札を買いに行きましょう」
あられを撫でる



 夜空を見上げて佇む白猫。
 行燈の灯りが、祭りのざわめきが、広場の周囲に戻ってきても。
 主が消えていった空を、見つめ続ける。
 前を向いた金瞳にはもう涙はないし。
 主に別れを告げ、しっかり見送ることもできた。
 それでもあられはじっと夜空を見上げ続けて。
 少しだけ、哀しみを残したまま。
 何となく声をかけづらい雰囲気を漂わせていた。
 ……のだが。
 そんなあられに、無造作に飛鳥路・彼方(f28069)の手が伸ばされる。
 唐突に持ち上げられ、驚いて見開かれた金瞳を、同じ色がにっと覗き込んで。
「あられ。貴方子猫なんだから、とりあえず誰かの家の子になりなさい」
 そのまま抱き寄せた彼方は、白い毛並みをよしよしと撫でながら話しかける。
 それは、新たな始まりへの提案。
 主との別れ、という終わりをやっと受け入れたばかりのあられには、まだ考えるどころか思いもしていなかった、未来への道筋。
「大きくなるまで育ったら、貴方の大事なご主人様が貴方に見せたかったものなり新しいご主人様なり探しに行けばいいわ」
 それを急に示されて、あられはどこかおろおろと困ったように彼方を見る。
 そんな戸惑いに気付いていないのか、気にしていないのか。
 彼方は、そうね、とどんどん話を進めていって。
「私の世界はあられと同じここだし、うちの子になる?」
 飛び出した言葉に、あられの金瞳が見開かれた。
 次の主を決めるなんて、まだ考えたくもないと。
 急すぎる申し出に、反射的に暴れてしまうけれど。
 彼方は上手くその動きを制して、自分に向き合うように抱き替える。
「それなら私のことは、母ちゃんか姉ちゃんって呼ぶのよ?
 私は貴方の主人じゃなくて、貴方を育てるだけだから」
 けれど、続いた彼方の言葉に、あられはふと動きを止めた。
「あられの大事な人は、あられが見つければいいわ」
 それは確かに、あられのことを考えてくれた言葉。
 貴方のことは一生分からないと、切り捨てるように言っていたのに。
 強引に話を進めているかのように感じていたのに。
 その思考は理解しきれず、不思議に感じてしまうけれども。
 唐突に突き付けるかのような話しぶりに、振り回されている感は否めないけれども。
 それでも、彼方は確かにあられを想っていてくれて。
 あられのことを大切に考えてくれている。
 そう、感じられたから。
 暴れなくなったあられに、彼方はふっと笑いを零した。
「私は会わないと1日で忘れるけど、その分あられが覚えて私に教えてくれればなんとかなるわ、きっと」
 それは世界の狭間で死ななかった代わりに、彼方を蝕む呪いのようなもの。
 彼方は過去を持てず、現在だけを見て、未来へ進むしかできない。
 それでも、それが何てことないことのように、彼方は笑う。
 何とかなるものだと、悲哀の欠片もなくどこか豪快に微笑んで。
 彼方はそっと、あられを下ろした。
「うちの子になるなら、2人の名前を書いた2人分の迷子札を買いに行きましょう」
 優しくその白い頭を撫でてから、離れていく繊手。
 自分勝手に見えて、でもちゃんと、あられに決定権をくれた彼方を。
 あられは見上げる。
 揃いの迷子札をつけるのも、悪くないと思ったのは本当だけれども。
 やっぱりまだ、決められないから。
 にぃあ。
 お礼のように、一声鳴いて。
 あられはくるりと踵を返し、走り出した。
 彼方の表情は見なかったけれども。
 きっと、笑って見送ってくれていると思いながら。
 あられは、未来を探して、迷わずに足を踏み出していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子
【浴衣】
あられさんと一緒に
一緒に着いてきた猫の使い魔の名前は「お前」

お前がすねを擦ってご飯のおねだり
みっともないですよお前、あられさんは良い子にしてるんですから
ごめんなさいねあられさん、お前は食い意地が張っているので

何か食べたいものとかありますか?
と言っても食べれるものは限られてるでしょうし…
あら焼き魚?お前、良い所に気が付きましたね偉い偉い
あられさん焼き魚はお好きですか?

半分こなさいね
これお前、食べ過ぎない
美味しいですか?
――そう、それは良かった

私はあなたのご主人にはなれやしませんけども
こうして同類を呼んで楽しむ事はできますよ



「あられさん、ご一緒させていただけませんか」
 行燈と屋台の並ぶ縁日へとたどり着いたあられは、かけられた声に振り向いた。
 そこに立っていたのは琴平・琴子(f27172)。
 少し傾げた首の動きで、赤い飾り紐で結ばれた黄色と緑色の花飾りが映えるきれいな黒髪が、切りそろえられた肩口でさらりと揺れて。
 穏やかな笑みを湛える緑色の瞳が、優しくあられを見つめている。
 花飾りと同じ、淡い黄色と柔らかな若草色の大きな市松模様をあしらった浴衣には、少し濃いめの黄色い帯を合わせて。
 葉を模した金の帯留めを飾りながら重ねた白い兵児帯が、シンプルに結んだ黄色の帯にふんわりと華やかさを添える。
 その姿を、ぱちぱちと目を瞬かせて見上げていたあられだが。
 ふと、琴子の足元にうごめく黒い影に気づいて視線を下ろした。
 それは、緑色の首輪に琴子と揃いの花飾りをつけた黒猫。
 鼻筋から口の周りと、ちょんと揃えた前足の先だけは白いけれども、それ以外はどこもかしこも真っ黒で、そしてとてもずんぐりむっくりした黒猫は。
 その体格に似合った、どこか偉そうな態度で一声鳴いた。
「私の使い魔です」
 紹介する琴子の声に応えるように、黒猫はまた鳴いて。
 重量感のある身体を、だが意外なほどにすっと滑らかに動かして、刈安色の鼻緒でシンプルな下駄の周りをくるりと回って見せる。
 それは、琴子に付き従っているのを示すようであり。
 こうしてついておいでと見本を示すようでもあり。
 鳴き声と共にちらりと流された黒猫の視線に、あられは首を傾げるようにしながらも足を向けて、その大柄な黒い身体の後ろへとついてきた。
 くすりと微笑んだ琴子は、2匹を見下ろしながら歩き出す。
 淡い行燈の灯りが照らし出す道を。
 楽し気な屋台が立ち並ぶ道を。
 白い布花を飾った、濃いめの小さな籐籠を手にゆるりと歩けば、その横を、黒猫がどっしりと、あられが軽やかに、ペースを合わせて進んでいく。
 すると、再び黒猫が鳴いて、琴子のすねにふくよかな体を摺り寄せてきた。
「よく鳴くと思っていたら」
 その動作がご飯のおねだりだと気付いた琴子は苦笑を零し。
「みっともないですよ、お前。あられさんは良い子にしてるんですから」
 たしなめるように言ってから、やり取りをじっと見ていたあられへも笑いかける。
「ごめんなさいね、あられさん。お前は食い意地が張っているので」
 でもせっかくの屋台ですし、と黒猫の意見を採用することにして。
 琴子は周囲の屋台に並ぶ食べ物をぐるりと見まわした。
「あられさん、何か食べたいものとかありますか?」
 華やかな色合いの屋根には、たこ焼き、焼きそば、わたあめと、縁日の屋台では定番の様々な文字が躍っているけれども。
 あられも一緒に食べられるものをとなると、限られてしまうかと考え込む。
 するとまた、黒猫が鳴いて。
 気付けば足元から離れていたその姿が、どんっと座っていたのは焼き魚の屋台の前。
「お前、良い所に気が付きましたね。偉い偉い」
 褒めれば、えっへんと胸を張るかのように顔を上げ、きゅっと瞳が細められる。
「あられさん、焼き魚はお好きですか?」
 足元の白い影に尋ねながらも、袖を抑えつつ紙皿に乗った1尾を受け取り。
 通りの端へと避けてから、そっと足元へと差し出した。
「半分こなさいね。
 これ、お前。食べ過ぎない」
 早速がっつくようにして食べ始めた黒猫をたしなめながら、どうぞ、と薦めれば。
 あられは黒猫の様子を伺いながらも、おずおずと食べ始める。
「美味しいですか?」
 尋ねる琴子には、きゅっと金瞳をつむって見せて。
「……そう、それは良かった」
 ふんわりとほころんだ笑顔を、あられは見上げる。
「私はあなたのご主人にはなれやしませんけども、こうして同類を呼んで楽しむ事はできますよ」
 だからまた、ご一緒させてくださいねと。
 いつでもご一緒いたしますよと。
 伝えてくれる優しい笑みを、あられはじっと見つめ続けてた。
 眩しいとも思えるその笑顔はきっと。
 琴子が言っていた、暗闇から抜け出るための光、だから。
『私も貴方も動けないわけじゃない』
 あの時向けられた言葉を思い出しながら。
『歩んでいきましょう』
 あられが一歩踏み出すように、そっと右の前足を上げたところで。
 ふと、緑色の視線が、あられのすぐ横へと逸れた。
 琴子の表情が、ふぅ、と疲れたような呆れたようなものに変わる。
「これ、お前。半分こなさいと言いましたよね?」
 琴子の視線を追って振り向けば、そっぽを向いて尻尾をゆらりと揺らす黒猫と。
 骨ばかりが残る紙皿が、見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エインセル・ティアシュピス
【アドリブ連携歓迎】
しろねこさんといっしょにおまつりいきたい!
でもしろねこさんがいきたくないならいっしょにいていっぱいおはなししたいにゃーん。
ねこのすがたになって【指定UC】でおともだちもいっぱいよんで、みんなでおはなしする!
ぼく、しろねこさんともおともだちになりたいんだ。なっちゃダメかにゃ?

それでね、おまつりいくならしろねこさんとおともだちたちといっしょに、ひゃくねこやこーでぱれーどするよ!
ぴろぴろしたのをおやたいのおじさんからもらったから、まんまえでぴろぴろふいてこうしんだー!
しろねこさんはぼくのとなりね!
ぱれーどおわったら、さいごにみんなであんどんさんをおきにいくんだー♪



「しろねこさんしろねこさん」
 空っぽの紙皿を前に佇むあられの元へ、元気よく飛び込んできたのはエインセル・ティアシュピス(f29333)。
 猫耳と猫尻尾、さらには羽根を生やした白い短髪の男の子は、大きな緑色の瞳をキラキラ輝かせながら、あられの前にしゃがみ込んだ。
「ぼく、しろねこさんともおともだちになりたいんだ」
 金の瞳を覗き込むようにさらに視線を低くすれば、膝だけでなく手も地面について。
 似た姿勢になったエインセルに、あられは金瞳を瞬かせる。
「……おともだち?」
「そう。なっちゃダメかにゃ?」
 こくんと首を傾げて問えば、期待に満ちた顔がこくこく頷いて。
 答えを待つ視線に、ちょっと気圧されながらも、あられは小さくうなずいた。
 嬉しそうにぴょこんと立ち上がったエインセルは、やったー、と手を挙げて。
 くるりとその場で一回りすると、その姿が羽根の生えた白猫へと変わる。
 さらに自身に近くなったエインセルに、あられが驚いていると。
「いっしょにおまつり、ぱれーどしよう!」
 エインセルは満面の笑みでユーベルコードを発動させた。
「にゃーん! みんなー! でーておーいでー!」
 声に応えて召喚されたのは、エインセルと同じ、羽根の生えた猫達。
 エインセルより小さな子猫は、わらわらと群れを成してあられを取り囲み。
 急な変化にきょろきょろするあられに、エインセルがすり寄った。
「しろねこさんはぼくのとなりね!」
 そしてエインセルは、いっくよー、とにっこり笑って歩き出す。
 あわあわしていたあられは、いってらっしゃい、と小さく手を振る少女に見送られ、先を行くその小さな羽根を追いかけて。
 慌てて追いつき隣に並ぶと、エインセルの笑顔がさらに弾けた。
 そしてそんな2匹の後ろには、羽根子猫達がわちゃわちゃと続く。
「おっ。化け猫パレードだな」
 その様子を眺めたらしいのっぺらぼうが屋台から声をかけてくると、エインセルはぴこぴこと耳を動かしながら振り返り。
「ひゃっきやこーなのー!」
 えっへんと胸を張るけれども、行列にはもちろん猫しかいないわけで。
 その矛盾を面白がるように笑ったのっぺらぼうは、自分の屋台からおもちゃを1つ取り上げてエインセルに差し出した。
「よし。じゃあいいものをやろう」
 それは、厚紙でできた細長い筒のようなもの。
 片方の端から筒に息を吹き込むと、反対側のくるくる巻かれた薄い色紙が伸びる、吹き戻しと呼ばれる笛で。
 不思議そうに受け取ったエインセルは、巻かれた紙を引っ張ったり、筒をのぞき込んだりしてから、ようやく使い方を理解して口に咥えると。
 ぴろぴろ、と伸びていくその様子に、途端に緑瞳が輝く。
「おもしろーい! おじさんありがとー」
 きちんとお礼を忘れずに、ってりょーやがいってた、なんて思いながら。
 おじさんに尻尾を振って見せてから、吹き戻しを吹き吹き再開する猫の行進。
 ぴろぴろ、ぴろぴろと楽し気に。
 ぱたぱた、とてとてと騒がしく。
 行燈の灯りの間を進んで行く小さなパレード。
 足並みを合わせているだけだったあられも、いつの間にか楽し気に、二股に分かれた尻尾を揺らしていて。
 その様子にエインセルの笑みがさらに深くなる。
「ぱれーどしたら、みんなであんどんさんおきにもいこうね♪」
 声を弾ませ提案すれば、またぴろぴろと紙が伸びて、縮んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

彩波・いちご
【恋華荘】
浴衣に着替えて、まりもさんと縁日に繰り出しましょう
「まりもさんの行きたいところで大丈夫ですよ」
行先は彼女に任せつつエスコート

「あ…」
射的の景品のお守りのようなキーホルダーにふと目を取られ
「そうですね。どことなくマリモに…」
2人でそれを狙ってみましょう

「ありがとうございます」
私の方が取ってもらっちゃったので、お返しをしなくては
あ、次はヨーヨー釣りですね
では代わりにこちらは私が
「はい、どうぞ」
って、あれ、水風船破れそう!?
「危ないっ」
割れた水風船で2人してびしょ濡れに…あと庇おうとしてまりもさんを抱きしめることに…
「え、えと、すみません…」

何となく赤面しつつ
最後に行燈置きに行きましょう


庭月・まりも
【恋華荘】

あらためて浴衣でお祭り!
いちごさん、いきたいところとか食べたいものとかある?

あ、あれ。
あのキーホルダー、マリモちゃんに似てないかな?
狙ってみようよ。

まずは猫のキーホルダーを狙って射的。。
とれたら、もちろんいちごさんにプレゼントだよね。

そしてつぎは水ヨーヨー釣りかな。
これは……なかなか……難しいー。

わ、いちごさん上手!
え? わたしにくれるの? さっきのお礼?
そんなのいいのに……。

と、ちょっと照れつつ受け取るけど、
ちょうどそのときヨーヨーが割れて、びしょ濡れに!?
慌てたいちごさんに、また触られちゃった!?

そんなトラブるもいい思い出にして、
マリモちゃんカラーの行灯を置いたら、笑顔で帰るね。



 お祭りを歩いていくあられは、それぞれ思い思いに楽しんでいる皆を見上げていた。
「いちごさん、いきたいところとか食べたいものとかある?」
 浴衣に着替えた庭月・まりも(f29106)は、くるりと振り向いて笑いかける。
 ワインレッドを思わせる落ち着いた赤紫色の浴衣は、細い縦ストライプを基調とした柄で、下前を中心に、左のおはしょりや左裾に白の市松模様を重ねられていて。
 さらに、袖や裾に白色と鮮やかな赤紫色の桜花を散らした、艶やかなもの。
 重なる柄を、片端に青いラインを添えた黒帯できゅっと引き締め、白い花の帯留めと青い帯締めで色を差し込んでいく。
 肩にかかっていた黒髪も後ろだけ結い上げて、白と青の花で飾れば、襟元のうなじが艶やかな肌を魅せていた。
「まりもさんの行きたいところで大丈夫ですよ」
 その姿に青瞳を細めた彩波・いちご(f00301)も、まりもと同じデザインの、こちらは青色の浴衣を身に纏っていて。
 帯のラインや帯締め、青髪を結い上げ飾る花には赤紫色を入れている。
 色違いのお揃い浴衣で並んだ姿は、どこか姉妹のようで。
 きょろきょろあたりを見回しながら先導するまりもを見守るかのように、ゆっくりと落ち着いた所作でいちごは後をついていった。
 あれもこれもと目移りするまりもの様子を、微笑ましく眺めていたいちごだけれども。
 ふと、視線を流した射的の屋台に目を留めて。
「あ……」
 思わず足を止めていた。
 青瞳が見つめるのは、4段の階段状の台に並べられた幾つもの景品のうちの1つ。
 2段目の左端近くに置かれた、お守りのような小さな猫のキーホルダー。
 それが。
(「どことなく……」)
「あ、あれ。あのキーホルダー、マリモちゃんに似てないかな?」
 そこにまりもが戻ってきて、いちごの隣から屋台を覗き込んで問いかける。
 それは、昔いちごが可愛がっていた野良猫。
 まりもと『偶然にも』同じ名前だったために、今はちょっとややこしいけれども。
 いつの間にか姿を消してしまった、大切な、思い出の中の姿。
 キーホルダーの猫は、そのマリモととてもよく似ていて。
 そうですね、と頷いたいちごの視線は、キーホルダーから動かない。
 だから、まりもはにっこり笑うといちごの手を引いて。
「狙ってみようよ」
「はい、2人で狙ってみましょう」
 射的の屋台に2人で挑んでいった。
 しかし、慣れない射撃に、おもちゃゆえに精度の低い銃に、いちごは四苦八苦。
 狙ったキーホルダーが小さいこともあり、かすりもしないまま終わってしまう。
 それならば、とまりもは気合を入れて。
 外れていくコルクの弾から狙いを少しずつ調整して、最後の1発。
「とれた!」
 ころんと倒れた猫のキーホルダーに、まりもがガッツポーズ代わりに両手を掲げた。
「はい、いちごさん。プレゼント」
「ありがとうございます」
 そうして狐の店主から受け取ったキーホルダーは、そのままいちごの手に渡る。
 大事そうにそっと握りしめるいちごに、まりもは満足そうに微笑んでいるけれども。
(「お返しをしなくては」)
 いちごはそう思い、周囲の屋台を見回した。
 食べ物の屋台は、キーホルダーのように手元に残らないからと目を飛ばして。
 見つけたのは、色とりどりの水風船が浮かぶプール。
「次はヨーヨー釣りとかどうですか?」
 これなら、と提案すると、まりもも笑顔で頷いた。
 河童の店主から、太めの針金を曲げた釣針をこよりの先につけた道具を受け取って。
 しゃがみ込んだ2人はいざ挑戦。
「これは……なかなか……難しいー」
 今度はまりもが苦戦して、1つも取れないままこよりが千切れてしまったけれど。
「わ、いちごさん上手!」
「はい。とれました」
 いちごは見事に、青地に赤紫色のラインが入った水風船を釣り上げた。
 ぱちぱちと拍手を送るまりもに、いちごは掲げて見せていた水風船を差し出す。
「まりもさん、どうぞ」
「え? わたしにくれるの?」
「さっきのお礼です」
 キーホルダーと水風船。
 交換し合う、祭りの思い出。
「そんなのいいのに……」
 申し訳なさそうに言いながらも、どこか嬉しそうにまりもは手を差し出して。
 いちごから水風船を受け取ろうとした、その時。
 河童の店主がにやりと笑った。
 水かきのついた手が、水風船へと向けられて……
「まりもさん危ないっ」
「わあっ!?」
 店主の悪戯で唐突に割れた水風船は、小さなその中に入っていたとは思えないほどの水を周囲にぶちまけて。
 咄嗟に庇おうとしたいちごをも巻き込んで、まりもをびしょ濡れにする。
 さらに、慌てたいちごは、まりもをぎゅっと抱きしめる形になってしまっていて。
 思わず硬直して、止まってしまった2人。
 ぽたり、と滴る水すら聞こえそうな中で。
 柔らかな感触がいちごの腕に伝わっていた。
「え、えと、すみません……」
 慌てていちごは手を放し、目を逸らしながら何とか謝罪の言葉を紡ぐ。
「い、いえ、ありがとうございます……」
 まりもも頬を赤らめて、いちごを真っ直ぐ見れないまま、それでも庇ってもらえたお礼は伝えないとと言葉を絞り出した。
(「また触られちゃった……」)
 しかしこのハプニングは、まりもにとってむしろ嬉しい思い出で。
 逆に喜んでいるのを気付かれないようにと、いちごから目を逸らす。
 そんな、もじもじとした微妙な空気が2人の間を流れた。
「あ、ああっ! ええと、ほら、あの行燈。マリモちゃんカラーじゃないかな?」
「そ、そうですね!」
 気まずさを誤魔化すかのように声を上げたまりもに、いちごも乗っかって。
 見つけた行燈を間に、何とか元の関係に戻ろうと取り繕っていく。
 同じ色合いで模様が少し違う、どこかお揃いのような行燈を、いちごとまりもはそれぞれ手に取り立ち上がり。
「置きに行きましょうか」
「はい」
 まだ少し赤い顔で笑い合うと、広場に向けて歩き出す。
 並ぶ2つの背を見送る河童の店主が、お幸せにー、と棒読みで呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード
プラチナちゃんとお揃いの浴衣で、行燈祭を楽しもうか。

もう屋台は出てるかな? アックス&ウィザーズのお祭とは、また趣を異にしてるね。
プラチナちゃん、なに頼もうか? ふわふわ綿飴? ソースたっぷりのたこ焼き? リンゴ飴にポップコーンもいいね。
好きなものを好きなだけ頼んじゃおう!

持っていく行燈は、月を見上げる兎が描かれたこれでいいかな?
じゃあ、ぼくらも人波に流されよう。当然のように広場まで。
行燈もちゃんと置いたし、また夜店巡りを堪能しよう。

あ、プラチナちゃん、口元にソースが付いてるよ。動かないで。
顔を寄せ、舌でソースを舐め取ったら、そのまま濃厚なキスへ。
ねえ、その気になっちゃった。後で一杯しようね?



「やっと屋台が出てきたね」
 行燈の灯に浮かび上がった賑やかさを見回して、セシル・バーナード(セイレーン・f01207)はゆっくりと縁日を通っていく。
「アックス&ウィザーズのお祭とは、また趣を異にしてるね」
 世界が違えば文化も違う。
 空を覆う紫色の花の下で楽しんだ祭りを思い出し、今目の前に広がっている、どこかレトロな雰囲気の祭りとの差異をも楽しみながら。
 セシルは隣へと笑いかけた。
「プラチナちゃん、なに頼もうか?」
 金属のようにきらめく銀色の長髪を揺らして振り返った少女は、セシルを見ながらも、ちらちらと周囲の屋台に視線を走らせていて。
 答えを迷っているようなその様子に、セシルも屋台の華やかな文字を読んでいく。
「ふわふわ綿飴? ソースたっぷりのたこ焼き? リンゴ飴にポップコーンもいいね」
「ええと……ワタアメって何ですか?」
 そこに返ってきたのは、思わぬ問いかけ。
 どうやら少女は、どれにしようか迷っているのではなく、それが何か分からなくて対応を迷っていたのだとセシルは理解して、ああそうか、と納得する。
 ユーベルコードとして共にいることになった少女は、そもそも再孵化してからまだ日が浅く、知らないことが多々あるのだ、と。
 セシルがいろいろな世界を連れ歩いているけれども、まだまだ経験不足。
 そういえば、とセシルは揃いの浴衣を見下ろす。
 袖と裾に波千鳥の模様をあしらった青磁色の浴衣も、少女は初めてだと喜んで、洋服とは違う造りに戸惑いながらも興味津々だったな、と思い出して。
 だからこそ。
「大丈夫。ちゃんと初めてを教えてあげるよ。
 ぼくに任せて、ね?」
 また教えられる嬉しさに微笑んで、可愛い耳元で熱く囁けば、頬を赤く染めた少女が、困ったような期待するような、複雑な表情で頷いた。
 そして2人は、カクリヨファンタズムの屋台を楽しんでいく。
 雲のようにふわふわで、甘い綿飴を。
 大きな蛸がちょっと飛び出している、熱々のたこ焼きを。
 見た目も可愛らしい、小さなリンゴを丸ごと水飴で包んだリンゴ飴を。
 抱えるような量の割に軽く食べられる、ちょっとしょっぱいポップコーンを。
 どれも新鮮な少女の反応も楽しみながら、セシルは縁日を堪能する。
「そういえば、行燈を選んで持っていくんだっけ?」
 ふと、目を留めたのは、屋台の合間に並ぶ淡い灯り。
 色も形も模様も様々な行燈は、道の端に少し隙間を開けて並んでいた。
 最初は隙間なくだったけれど、もう広場に持って行った者がいるのだろう。
 それじゃあ、とセシルも選んで。
「これでいいかな?」
 手にしたのは、月を見上げる兎が描かれた、円柱形の行燈。
「可愛いですね」
「うん。でもプラチナちゃんの方が可愛いかな」
 また少女の頬を赤く染めながら、セシルは片手で行燈を持ち、もう片方の手で少女の手を引いて、周囲の人波に流されていった。
 流れのたどり着く先は、ちらほらと行燈が集まってきている広場。
 周囲に倣って行燈を置くと、これでよし、と微笑んで。
「あ、プラチナちゃん、口元にソースが付いてるよ」
「え? え? どこですかどこですか?」
 ふっと少女との距離を詰めた。
「動かないで」
 囁きながら手を伸ばせば、拭き取ってくれると思ったらしい少女が動きを止め。
 真っ赤になった頬に手を添えたセシルは、引き寄せるようにもしてそこに顔を寄せ、唇のすぐ横をぺろりと舐め取った。
 ふわっと口の中に広がるソースの味。
 驚きに見開かれる少女の可愛い反応。
(「もう少し食べたいな」)
 そんなことを考えながら妖艶に微笑んだセシルの表情は、近すぎて少女には見えず。
 そのまま唇を奪っていくと、次第に少女が蕩けていく。
(「うん。美味しい」)
 いつの間にか抱き寄せていた少女の耳元へと、艶やかに濡れた唇を移動して。
「……ねえ、その気になっちゃった」
「あ……」
 囁いて、またぺろりと舐める。
「いいよね?」
 おずおずと小さく小さく頷いた少女に満足しながら。
 セシルは、行燈の灯に背を向け、2人きりになれる場所へと移動していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

日隠・オク
栴さん(f00276)と

お祭りですね!
灯りがとてもきれいです。

輪投げ、射的、金魚……!
(言葉の単語にときめいている
食べ物の屋台も好きですが、その、お祭りを楽しむ屋台も好きです、よ。

屋台はひとしきり楽しみつつ
じゃがばた食べます
その、見てたら食べたくなってしまいました
栴さんも食べますか?

たこ焼きいただきます
もぐ(にこにこしながらたこを楽しんでいる

浴衣も着てみたいです
(うんうん頷いてる

ええっと私は
目があったような気がしたこの行灯さんにします

広場がみんなが持ってきた灯りでいっぱいになりますね


生浦・栴
うさすずの(f10977)と

以前訪れたサムエンの祭りともまた雰囲気が違うな
輪投げに射的に金魚掬い
本当に金魚なのか、少しばかり疑問も残るが
うさすずの的には、矢張り何か食べ物の方が?(様子見

其れでは此れと交換だなと、たこ焼きに新しい楊枝を刺して出す
然う云えば最後に気に入った燈りを広場に持って行くらしい
食べ乍ら道々に飾られている行灯を見て歩こうか

ついでに、道行く住人を見ると、浴衣は誂えても良かったろうかという気が少し
まあ俺もうさすずのも持ってないから丁度良いといえばそれまでだが気が向けば来年、か?
訪れる祭りはまた別のものになろうが

話している内に目を止めたのは千鳥絵の行灯
俺は此れにしようか



「灯りがとてもきれいです」
「以前訪れたサムエンの祭りともまた雰囲気が違うな」
 日隠・オク(カラカラと音が鳴る・f10977)と生浦・栴(calling・f00276)は、並んでゆっくりと行燈の間を歩いていく。
 淡い灯りが照らし出す、どこかレトロな雰囲気の街並みを眺めながら。
 そこに点在する、色々な色の屋根を持つ屋台に目移りしながら。
「輪投げに射的、金魚掬い……」
 栴は、書かれた文字を順に読み上げながら、並べられた品々を覗き込んでいく。
 色とりどりの小さな輪や、おもちゃの銃が狙うのは、日本人形や西洋のドール、木を組み立てた細工物にブリキの車。
 独楽にけん玉、万華鏡などの間に、キャラメルの箱やら麩菓子やらも見え。
 雑多すぎるその並びに、栴は思わず笑みをこぼす。
 小さなプールに泳ぐ赤い魚は、金魚のように見えるけれども、カクリヨファンタズムの成り立ちを考えると、本当に金魚なのか、なんて考えてもしまったり。
 眺めているだけでも楽しいものだったが。
 折角だから何か、とも思うもので。
「うさすずの的には、矢張り何か食べ物の方が?」
 隣の様子を伺えば、長い垂れ耳を翻してオクが振り返った。
「食べ物の屋台も好きですが、その、お祭りを楽しむ屋台も好きです、よ」
 藍色の短髪の下からおずおずとこちらを見上げる緑色の瞳が、言葉通りときめいているのに気が付いた栴は、紫の瞳を細めると。
「では楽しもうか」
 告げてオクを誘い、屋台の遊びを楽しんでいく。
 わざと不安定に作られた輪に、精度の低いおもちゃの銃に、振り回されながら。
 すいすいと心地よさ気に泳いでいく金魚に、ゴムひもをつけた水風船に、惑いながら。
 ひとしきり遊びを楽しむと、漂ってくる美味しそうな香りが気になってきて。
「その、見てたら食べたくなってしまいました」
 オクは、たっぷりのバターがじんわり溶けていくホクホクのじゃがいもを1つ、どこまでが身体なのか分からない煙の妖怪から受け取った。
「栴さんも食べますか?」
「其れでは此れと交換だな」
 じゃがばたを差し出すと、入れ替えるように栴から渡されたのは、真新しい楊枝に刺されたたこ焼きで。
 わあ、と嬉しそうに微笑んだオクは、いただきますと、もぐ。
 美味しさに、そして、交換する楽しさににこにこしているオクの様子に、栴も笑いながら、では此方も、とじゃがいもをそっと崩して口に運んだ。
 さあ次は、と戻ってきたじゃがばたを食べながらも、オクの視線は新たな屋台に向き。
 栴もたこ焼きを食べながら、また文字を読んでいく。
 ある程度遊びも食べ物も楽しんだからか、その視線は先ほどまでと違い、屋台以外の物にも向くようになっていて。
「然う云えば、最後に気に入った燈りを広場に持って行くらしいな」
 ふと、見下ろしたのは、箱型の置き行燈。
 和紙越しに柔らかく、ゆらゆらと揺らぐ灯りを眺めて思い出したのは、この行燈祭りの慣わしだと教えられたもの。
 よくよく見てみれば、同じ箱型でも色合いや模様、枠の飾りなど、行燈はどれも少しずつ違った意匠を施されているようで。
 なるほど、これは選びがいもありそうだと栴は頷く。
 次の食べ物を選びながらも、今度はきちんと行燈も眺めていくと。
 ついでに、道行く住人にも栴の目が留まった。
「……浴衣は誂えても良かったろうか」
 小柄な妖怪も大柄な妖怪も、身体の形が人間とは違う妖怪でさえも、ほとんどの者が浴衣を着ているのに気付き。
 いつもと変わらぬ洋装の自身を思わず見下ろしてしまう。
 まあ、着るも何も、浴衣を持っていないのだからそれまでなのだが。
 こういった機会に誂えてみてもよかったのかとも思っていると。
「浴衣も着てみたいです」
 オクも興味はあるようで、うんうん頷いていた。
 そうだな、と栴も頷き返しながら。
 オクならば、瞳の色に合わせた緑色か、髪色に合わせた青色の浴衣……いや、逆に明るい色で艶やかに着飾る浴衣もいいのかもしれない、などと想像して。
「気が向けば来年、か?」
 ふっと、栴は笑いかけた。
「訪れる祭りはまた別のものになろうが」
「楽しみですね」
 どんな浴衣に出会えるのか。
 そして、それを着てまた栴と一緒に祭りに行けるかもしれない、約束のようなその言葉にも嬉しそうに。
 オクはにこにこ微笑んで、ぱくん、とじゃがばたを食べ切った。
 そうして歩く、行燈の道。
 今を未来を紡ぎながら、弾んでいく会話。
 その最中に、栴は、千鳥絵の行燈に目を留めて。
「俺は此れにしようか」
 両手で持ち上げ、オクに見せる。
「ええっと、私は……」
 オクも、きょろきょろと周囲を見回し、様々な行燈を眺めてから。
「目があったような気がしたこの行燈さんにします」
 シンプルながらも柔らかな曲線が美しい行燈を、抱えるように持ってきた。
 今度は灯りと共に歩く、行燈の道。
 様々な笑顔が運ぶ、淡い灯り。
「広場がみんなが持ってきた灯りでいっぱいになりますね」
「ああ。思い出で溢れていくのだろうよ」
 その灯りの連なりを眺めながら微笑むオクに、栴も行燈を掲げて、笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

君影・菫
【浴衣】
亜厂(f28246)と

今年初めて着た浴衣で機嫌良くひとり散歩
懐かしい夢が何だとか聞こえるから
ふふ、うちなら何が見れたんやろなんて

識らぬ聲に振り向けば三つ尾の赤猫はん
はら、まあ
あかり…キミ、亜厂ていうの
このお祭キミみたいやんね
かあいらしい猫はんについ緩んでしまうわ

うちは菫
花の字をそのまま綴るんよ
淡い灯やけどキミとご一緒しても?
ふふ、優しい妖はん
ほんなら隣に遠慮なく

招く猫模様の行灯を探したのは
えろう綺麗な灯猫はんと出会えたから
なあ、亜厂
うちとまた遊んでくれる?
出会いが行灯に融けぬよう口約束ひとつ
勿論よ、お陽さまの下のキミにも会いたいものとゆうるく咲う
でも今は――キミとの祭夜に気持ちを寄せて


五月雨・亜厂
【浴衣】

菫(f14101)と

祭歩きは楽しきと
人型成した妖猫がカラコロ歩く

怪異去ったと言えれども
おなごのひとり歩きは気になるもので
柔く靡いた翡翠の君へそうっと声を

夜道にひとつ、あかりのお供はどうでしょか?
三つ尾の猫は亜厂と名乗り
怖がらせるも宜しくないと
にゃあごと手招き添えながら

すみれ、菫
ゆかしい響きが見目に添う
零る笑みとで咲く花ふたつ
誘ったものを断る理由はないだろう?
和らぐ灯を隣にと此方が願う

菫の花弁添うものか菫の色を添うものか
欲張り選ぶは次会う願掛け秘めたもの
おやまあ早くも願いが舞い込んだ
それはあかりの要らぬ時間でも?
誘いに尾っぽ揺らし応えをひとつ
約束共に行燈置いて
まずはこの祭夜を堪能しましょ



 紫の鼻緒の下駄をからんと鳴らしながら踏み出された足は、露草色で椿が描かれた裾を乱さないようにと気を付けると、自然と歩幅が小さくなっていた。
 白地に淡い水色の縦縞を水が流れるかのようにさっと引いた浴衣。
 裾だけでなく袖にも椿を咲かせて、ゆらりゆらりと花を揺らし。
 瞳と合わせた菫色の帯にも花を象った帯留めが輝いて。
 長い長い翡翠の髪を結い上げ纏めて美しい項を見せ、ここにも菫色の花飾りが咲く。
 今年初めて着た浴衣を改めて見下ろした君影・菫(ゆびさき・f14101)は、ふふ、と機嫌良く微笑んで、ゆるりと1人で祭りを歩いていた。
 わたあめ、たこ焼き、りんご飴。
 射的に輪投げ、金魚釣りやヨーヨー釣り。
 立ち並ぶ屋台の賑やかさを覗き、そして、道の端に並べられた行燈の灯を眺めながら。
 楽し気な喧噪に耳を傾ければ、懐かしい夢が見れたとか、不思議な話が聞こえてくる。
(「うちなら何が見れたんやろ」)
 そっと手を添えたのは、翡翠の髪に挿した簪。
 菫色に金が奔る上品なそれは、ヒトを真似る彼女の本体である器物で。
 ふふ、とまた、菫は微笑む。
 もしかしたら今までの持ち主に、遊女や花魁に、逢えたのだろうか。
 それとも、ヤドリガミとなってから出会った誰かが見えたのだろうか。
 想像をもまた楽しみながら、菫はからんとまた下駄を踏み出した。
「そこ行く翡翠の君」
 そこにかけられた穏やかな紳士然とした声。
 識らぬ響きに、菫がふわりと振り向けば。
「夜道にひとつ、あかりのお供はどうでしょか?」
 人型を成した赤い妖猫が、三つ尾を揺らして慇懃に礼を送る。
「はら、まあ」
「どうぞ、亜厂、と。
 怪異去ったと言えれども、おなごのひとり歩きは気になるもので」
 おっとりと驚きを見せる菫に、五月雨・亜厂(赤髪の黒猫・f28246)は名乗りつつ、怖がらせるも宜しくないと、にゃあご、と手招きを添えた。
「あかり……?」
 告げられた名を繰り返した菫が、こくんと首を傾げれば。
 翡翠の前髪がさらりと柔く靡いて煌めく。
「このお祭みたいやんね」
 すぐに緩んだ表情は、柔らかな微笑みとなって亜厂に向けられて。
 かあいらしい猫はん、と評しながら、ではこちらからもと名乗り返す。
「うちは菫。花の字をそのまま綴るんよ」
 今度は亜厂が、すみれ、と名を繰り返せば。
 それを見た菫色の瞳が嬉しそうに微笑んだから。
「見目に添う、ゆかしい響きよ」
 名と笑みとで咲いたふたつの花に亜厂も笑みを浮かべ、笑い合った。
「淡い灯やけどキミとご一緒しても?」
「誘ったものを断る理由はないだろう?」
 そして、改めて菫があかりのお供を伺えば、亜厂ももちろんと、和らぐ灯を隣に願い。
「ふふ、優しい妖はん」
 ほんなら遠慮なく、と寄り添うように隣に立った菫と2人、祭りを歩き出す。
 賑やかな縁日の中を。
 数多に並ぶ行燈の揺らぐ灯りの中を。
 穏やかに眺めながら。
 楽し気に会話を紡ぎながら。
 ゆるりと穏やかに進んでいく。
 その中で、ふと、亜厂が思い出したのは、行燈を選ぶ祭りの風習。
 自然と、2人の視線が、並べられた行燈の間を行き来するようになった。
(「菫の花弁添うものか、菫の色を添うものか」)
 亜厂が探し、選ぶのはもちろん、隣に咲く花と次また会う願掛けを秘めるから。
 欲張り、と自覚し、くくっと喉の奥で笑えば。
「うちはこれな」
 菫がそっと手にしたのは、招く猫模様の行燈。
「えろう綺麗な灯猫はんと出会えたから」
 振り向いた菫色の瞳は、嬉しそうに亜厂を見つめて微笑んで。
 この出会いが行燈に融けぬように、と問いかけを続けた。
「なあ、亜厂。うちとまた遊んでくれる?」
 求めたのは、口約束ひとつ。
 それは亜厂が行燈に秘めた願掛けと同じものだったから。
 おやまあ、と早くも舞い込んだ願いに、亜厂は琥珀色の瞳を細める。
「それはあかりの要らぬ時間でも?」
「勿論よ、お陽さまの下のキミにも会いたいもの」
 ゆうるく咲う菫の花に、亜厂は三つ尾を揺らして笑い応え。
 木枠に菫の花の影を彫り入れた清楚な行燈を取り上げ、猫模様のそれの隣に並べるようにして見せた。
 気付いた菫の笑みがまた綻ぶ。
 交わされる未来の約束。
 互いに求めた、祭夜の続き。
 でも今は、出会えたこの時こそを大切にと。
 楽しい今を堪能しようと。
 菫と亜厂は並んで、広場へと向かう。
 歩みを合わせ、気持ちを寄せて。
 数多の行燈の灯りが見守る中で。
 いつかこの一時も、懐かしい夢に見れるようにと。
 招く猫模様と菫の花影は、並んで祭りを歩んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】【お任せ浴衣】
縁日に来るのも何度目だろうな
浴衣を着るのにも何となく慣れてきた
綾が毎回子どもみたいに
「行こう」って誘ってくるもんだから
俺もついつい絆されてはいはいと付き合ってしまう
いやいや、ごちそうしてるっていうか
お前がいつも俺にたかってくるんだろうが!

早速自然に俺に奢らせようとしているなお前??
ふと目に留まったのは輪投げの屋台
よし…たこ焼きを賭けて勝負だ!
難易度の高い景品をより多く取れたほうが勝ち!

そして結果…か、勝った…!!
綾と勝負事をするとほぼ全戦全敗していた俺が!
勝てた上に綾から奢ってもらえるとは
今日はなんて良い日だろう
……「一口ちょうだい」とか言われて
半数くらい食われたが


灰神楽・綾
【不死蝶】【お任せ浴衣】
お祭りって何度来ても楽しいじゃない
来れば梓に何かしら美味しいものを
ごちそうしてもらえるしね
それに、一人旅をしていた頃は
あんまりお祭りとか行かなかったんだけどね
梓と一緒に旅するようになってからだよ
こんなに色んな場所に遊びに行きたいと思うようになったのは

梓梓ー、俺たこ焼き食べたい
へぇ、輪投げかぁ
やったことないから興味津々
いいよ、その勝負乗った

あらら、負けちゃった
最初のうちは俺のほうが調子良かったんだけどなぁ
最後は梓の執念が勝ったって感じだね
男に二言は無いよ、ってことで
今日は俺が梓にたこ焼きを奢る

……負けたけど、今日も楽しかったな
満足げな笑顔で行燈を持って広場に向かい



「縁日に来るのも何度目だろうな」
 行燈の灯る屋台の間を歩きながら、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、ふぅと思わず息を吐いていた。
 つい下がってしまった視界に映るのは、黒に近い程濃い青に、銀糸の蝶がひらひらと星のように舞う浴衣で。
 瑠璃色の帯に自然と手をひっかけている自分に気付き、何となく着慣れてきてしまったその感覚にもまた、溜息が零れた。
 縁日と聞くたびに、毎回毎回、子供みたいに誘ってくるのがいるからな、とサングラス越しにちらりと隣を見やれば。
「お祭りって何度来ても楽しいじゃない」
 紅い眼鏡の下でにっこりと灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が笑っていた。
 その様子には、悪びれたところも、梓の様子に気付いたそぶりもない。
 黒地に見えるけれどもどこか赤みがかった浴衣には、こちらは紅い蝶が舞い。
 深いワインレッドの帯には、粋に扇子が挟まれている。
 揃えた意匠にも嬉しそうに、綾が笑っているから。
(「ついつい絆されてはいはい付き合ってしまうんだよな」)
 改めて楽し気な綾を眺め、梓は苦笑する。
 すると綾がくるりと振り向いて、梓を覗き込むように見やると。
「来れば梓に何かしら美味しいものをごちそうしてもらえるしね」
「いやいや、お前がいつも俺にたかってくるんだろうが!」
 反射的に反論すれば、綾がまた楽し気に笑った。
 まったく、とまたまた息を吐き、銀髪をかき上げるように額を抑える梓。
「一人旅をしていた頃は、あんまりお祭りとか行かなかったんだけどね」
 でも、ふざけたような口調の中で、ふと、綾が穏やかな声を紡ぐから。
「梓と一緒に旅するようになってからだよ。
 こんなに色んな場所に遊びに行きたいと思うようになったのは」
 思わず梓はサングラスの下の赤瞳を見開いていた。
 糸目の綾の笑顔はいつも通りだったけれども。
 どこかいつもと違う、淡く儚い雰囲気が感じられて。
 梓は一時、言葉を失くす。
 けれども。
「梓梓ー、俺、たこ焼き食べたい」
「早速自然に俺に奢らせようとしているなお前?」
 すぐにいつも通りに戻った綾に、梓も反射的にツッコんでいた。
 いつものリズム。いつもの光景。
 あの儚さは見間違いかと思わず額に手を当てかぶりを振った梓は、ふと、流した視線にその屋台を見つけ。
「よし……たこ焼きを賭けて勝負だ!」
「へぇ、輪投げかぁ」
 ビシィッと指差した輪投げ屋台に、綾も興味津々頷いた。
「いいよ、その勝負乗った」
「難易度の高い景品をより多く取れたほうが勝ちだからな!」
 そして、やたらと舌の長い店主から、色違いの小さな輪を受け取った2人は。
 無造作に並べられた様々な景品と対峙する。
 綾は、小さなものからひょいひょいと狙い、そこそこ数を増やしていくけれど。
 大物になるにつれて苦戦が続き、なかなか成果を上げられず。
 そこに、最初から大物狙いだった梓が、執念で連続ゲットを果たし。
 そして結果は。
「あらら、負けちゃった」
「か、勝った……!」
 目を瞬かせる綾の隣で、梓がぐっと両手を握り掲げていた。
 勝負事となると綾にほぼ全戦全敗していた過去が、喜びをさらに強くする。
 言葉少なに勝利を噛みしめるその姿は、嬉し涙すら見れそうで。
 苦笑した綾は、近くのたこ焼き屋台に向かった。
「男に二言は無いよ、ってことで」
 そして梓に差し出されるたこ焼き。
 ソースの香りが、程よい焦げ色が。
 ふわふわした削り節が、青海苔と紅生姜の鮮やかなコントラストが。
 梓にまた、感動をもたらした。
(「勝てた上に綾から奢ってもらえるとは」)
「今日はなんて良い日だろう」
 滅多にない瞬間を噛みしめるかのように。
 爪楊枝で持ち上げたたこ焼きをゆっくりと口へと運んで。
(「美味い……」)
 じんわり広がる美味しさに、梓は天を仰いだ。
 心にも何かが染み入ってくる気がする。
 そんな梓をにこにこと眺めていた綾は。
「あ、でも1口ちょうだい」
 自分が買ったのだしいいよね? と言わんばかりに早速手を伸ばす。
 気分のいい梓は、その動きを遮ることなく。
「1つくらいなら、まあ、奢ってもらったしな」
 鷹揚に頷いて見せるけれども。
 1口どころか次々と数を減らしていくたこ焼き。
「待て待て食べ過ぎだ」
「んー? そお?」
 慌てて梓が手を動かせば、争奪戦の様となっていき。
 結局、奢りとは名ばかりに、綾が半分以上を食べていた。
 空になった皿と、食べ足りなさとを手に、憮然とする梓。
 対照的に、綾は満足といった笑顔を見せて。
「よぉし、行燈選ぶぞー」
「誤魔化すな」
 弾む足取りで道行く綾の背を、梓の苦笑がどこか楽し気に追いかけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天帝峰・クーラカンリ
【白に青の矢がすりの浴衣姿】
あられよ、先程は手荒な真似をしてしまいすまなかった
お前の中のご主人を引き剥がすには、他に方法がなかったのだ。許してくれ
しかし、お前のさよならへの覚悟が、幽世を救ったのだ。誇れ

祭か…こういうのはあの部下たちの方が得意そうではあるのだがな
私も一人で遊べもしないようでは恰好がつかん。いざ遊ぶぞ
まずはこのやたら高くて量はさほどでもないから揚げを食べる
――美味しいが、あいつの作った料理のほうが美味い
次に輪投げに挑戦するが、こういうのはあいつの方が得意だろうなと想像する
…嗚呼、駄目だな。毒されている。祭の土産話は、到底出来そうにない
行燈を広場に於いて、光が満ちる前に立ち去ろう



「祭か……」
 楽し気な喧噪が飛び交う屋台の間を、天帝峰・クーラカンリ(f27935)はゆっくりとした足取りで進んでいった。
 その身に纏うのは、白地に青色の矢がすりの浴衣。
 普段より簡素な装いに肩の力を抜いてはいるものの。
 姿勢も挙動も折り目正しく、まだまだ堅い印象を消せぬままで。
「こういうのは部下たちの方が得意そうではあるのだがな」
 普段からお祭りのように騒いでいる獄卒達の姿を思い浮かべる。
 とはいえ、1人で遊べもしないようでは恰好がつかないだろうと思い至り。
 ならばとクーラカンリは気合いを入れた。
「いざ、遊ぶぞ」
 向かうは手近にあった、から揚げ屋台。
 持ち運びしやすいようにか、飲み物を入れられそうな形の紙の器に入れられている。
 だが、器の中は隙間だらけで、溢れそうに見えていながらも数が少ない。
 これであの値かと半ば呆れながらも、祭りとはこういうものなのかと納得させ。
 先を鋭く、細く削り上げた木にから揚げを1つ刺し、口へ運んだ。
(「美味しい」)
 香辛料の効いた濃い目の味付けが染み渡る。
 柔らかくも噛み応えのある肉の感触も申し分ないけれども。
(「美味しいが……あいつの作った料理のほうが美味い」)
 思わずそんなことを考えてしまい。
 その思考にはっとして、いやいや、とクーラカンリは首を振る。
 気を取り直して、次の屋台。
 今度は遊戯に挑むかと、輪投げに参戦するけれども。
(「こういうのはあいつの方が得意だろうな」)
 そんなことを投げる前から考えてしまい。
 また首を振って、誤魔化すように輪を投げる。
 慌てて適当になった輪が、景品など取れるはずもなく。
 空手のまま、クーラカンリはふらりと屋台を離れた。
「……嗚呼、駄目だな。毒されている」
 これでは、祭の土産話は到底出来そうにない。
 こんなことばかり考えていたなどと奴らに話そうものなら……
 とまた想像してしまい、クーラカンリはまた頭を抱えた。
 それは、今の環境がクーラカンリにとって大切なものになっている証明で。
 信仰深き天帝の峰に在った過去とは違うけれども、劣ることのない現在。
『生憎、私にとって大切な者は既に隣にいるのだ』
 迷う白猫にそう告げた、自身の言葉を思い出して。
 ふっと口元を笑みに歪めたそこに、猫の行列がやってきた。
 羽根子猫達の先頭を行くのは、吹き戻しを吹く羽根猫と、今思い出したばかりの白猫。
「あられよ」
 目の前を横切ろうとした真っ白な姿に呼びかければ。
 金色の瞳がクーラカンリをじっと見上げてきた。
 それを青い瞳で受け止めて、でもそっと伏せるようにして頭を下げると。
「先程は手荒な真似をしてしまいすまなかった。
 お前の中のご主人を引き剥がすには、他に方法がなかったのだ。許してくれ」
 謝罪の言葉を紡いでから、ゆっくりと顔を上げる。
 変わらずこちらを見上げていた金瞳は、恨むでもなく非難するでもなく、ただ真っ直ぐにクーラカンリを見つめていて。
 一度、きゅっと瞑られたそれが、許諾の頷きのように見えた。
 ありがとう、とクーラカンリは呟いてから。
「しかし、お前のさよならへの覚悟が、幽世を救ったのだ。誇れ」
 謝るよりも伝えたかった言葉を紡ぐ。
 あられにとって、あの別れが悲しみだけでなく、誇りとなるように。
 過去に劣らぬ未来を手にできるようにと。
 願って。
 そんなクーラカンリを見上げたまま少し首を傾げていたあられは。
 猫の行列に呼ばれると、くるりと踵を返して戻っていった。
 去っていくその白い姿をクーラカンリはじっと見送って。
『支部長ぉ。お土産お土産~』
『土産話だけとか言わないですよね? ね?』
 ふと、脳裏に響く騒がしい声。
 クーラカンリの新しくできた、大切。
 それを思い、小さく微笑んだクーラカンリは。
 広場に置く行燈と、持ち帰れる土産物を探しに動き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわぁ、あられさんが無事にご主人様とお別れできてよかったです。
あの、アヒルさん。
もし、私達のお別れの時に、私が駄々をこねたらアヒルさんが叱ってくださいね。
あられさんにあんなことを言ったけど、私はアヒルさんとちゃんとお別れできるか自信がないです。
ふえ?アヒルさん、どうしたんですか?
これはアヒルさんの過去を見せてくれた行燈ですね。
わかりました、駄々をこねないように行燈に誓えということですね。
ふえ?違うのですか?
ふえええ、私が駄々をこねたら、
アヒルさんが私を連れ帰って、私をサーヴァントとしてこき使うって
そんなの酷いですよ。



 行燈と屋台の間を練り歩く、猫だけの百鬼夜行。
 その先頭を行く白い姿が目の前を通っていくのを、フリル・インレアン(f19557)はじっと見つめていた。
 手にしたアヒルちゃん型のガジェットの顔もしっかり猫達に向けて、前へ先へと進んで行くのを見せていく。
「あられさんが無事にご主人様とお別れできてよかったです」
 ふわぁ、と感嘆の声を上げながら、零れたのはそんな呟き。
 手の中のガジェットの存在を感じながら。
 フリルは、遠ざかっていく白い背を、優しく見送っていた。
「あの、アヒルさん」
 そして、ぽつりとガジェットに語りかける。
「もし、私達のお別れの時に私が駄々をこねたら、アヒルさんが叱ってくださいね」
 アリスであるフリルには、帰らなければいけない場所がある。
 それがどこかは忘れてしまっているけれども。
 きっとその場所には、ガジェットはいない。
 ガジェットと共に居れるのは、帰り道を探している間だけ。
 いつか分かれる2人。
『ずっといっしょにということはできないんですよ』
 それを覚悟していると、あられには伝えたけれども。
 改めてその時を思うと、ガジェットとちゃんとお別れできるか自信がなくて。
 だからお願いします、とフリルは寂し気に微笑む。
 その様子を、じっと見上げていたガジェットは。
 不意にフリルの手の中で暴れると、そこからころんと飛び出した。
「ふえ? アヒルさん、どうしたんですか?」
 驚きながら後を追うフリルの前で、ガジェットは転がるように道の端に寄り。
 こつん、と当たって動きを止めたのは、淡い灯の揺れる行燈。
「これはアヒルさんの過去を見せてくれた行燈ですね」
 その灯りはフリルたちによって一度消され、妖怪たちが改めて点けたもの。
 ゆえに、もう過去を見せることはなく、囚われることもなくなっている。
 ただ美しく穏やかに揺らぐ炎。
 祭りの光景を淡く彩り、道行きを照らす道標。
「わかりました、駄々をこねないように行燈に誓えということですね」
 先を示すその役目から、思い至ったフリルが顔を輝かせて頷くけれども。
 ガジェットはくるりとフリルの元へ飛び戻り、そのくちばしで突っついた。
「ふえ? 違うのですか?」
 つんつんと突き続けられてフリルはおろおろとガジェットを見つめ。
 ガアガアと騒ぐ姿に赤い瞳を見開く。
「私が駄々をこねたら、アヒルさんが私を連れ帰って、私をサーヴァントとしてこき使う……ってそんなの酷いですよ」
 抗議をするも、ガジェットの突っつきは止まることはなく。
 ふえええ、といつもの困り顔に戻ったフリルは、大きな帽子のつばを引き寄せると、慣れた様子で蹲った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と
お団子ヘアに朝顔の浴衣着て
銀の土台で象られた円柱形の行燈を手に
行燈のひかりは他の人達のものとも混じり合い、白に青、そして橙色に…紫
色んな色が揺らめいて歩く先を照らしてくれる

まつりんのしっぽにも色んな色が映ってる

ね、まつりん
一時でも長く、一緒にいられたらいいな
待つのも行くのも、きっと同じだけ苦しいから

あられ、金平糖もどうぞ?
あられの行燈、綺麗
飼い主さまが好きだった物?
他の妖怪達の行燈の由来も聞いて回ってみよう
きっかけがあればお話も広がる
あられ、この世界には色んな人がいて
そっと触れると、ね、暖かい

広場に行燈を置いて
祈るのはあられの幸せ
飼い主さまの分も、心を込めて


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と。

行燈。
そういえば、前(実家)のおうちにも、ガラス蝋燭の灯りがあったっけ。
父ちゃん母ちゃんいっこずつ持ってた。

へへー、炎。
あったかいオレンジ色!
あられの目とおんなじだ♪
おいらのしっぽ、黒と銀の割合が増えてきたでしょ。
もうオトナだから!(むん)←根拠はない

ん?
どしたのアンちゃん。(撫でる)
あ、おなかすいたんでしょー?
しかたないなあ、海苔巻きあられ買ってあげるね!

あられは何が好き?
ん。
金平糖、何色がいい?
あ、焼き芋もいいね!
お姉さん、みっつ……よっつ、ください!

あられの喉元を優しく撫でてやって。
また来るよ。
それまで、おいらたち二人のこと、覚えててね?
ん。
やくそくだね♪



 行燈の灯る道を、木元・祭莉(f16554)は弾むような足取りで進んでいた。
 白と青を組み合わせた柄の手ぬぐいを、太目にぎゅっと額に巻いて。
 星のように散りばめた蚊がすりの紺の甚平から、健康的な手足と狼尻尾が生えている。
 面白がるように1つ1つ、行燈の灯りを覗き込んでいけば。
「そういえば、前のおうちにも、ガラス蝋燭の灯りがあったっけ。
 父ちゃん母ちゃんいっこずつ持ってた」
 思い出したのは、今住んでいる木元村の家ではなく、家族揃って過ごした実家。
 今は会えない大好きな両親との淡い思い出。
「灯り……」
 木元・杏(f16565)も、双子の兄の後に続いて行燈を見つめる。
 朝顔がぐるぐる巻き付いて、幾つも紫色の花を咲かせたような浴衣を、黒を添えた赤紫色の帯できゅっと締めて、ウサギ型の帯留めでワンポイント。
 肩で切りそろえた黒髪はまとめて結い上げ、リボンとお花を添えたお団子にして。
 袖をひっかけないように気を付けながら、行燈にそっと手を伸ばした。
 持ち上げたのは、銀の土台で象られた円柱形の行燈。
 揺れる灯に、蛍の輝きはもう見えない。
 家族みんなで過ごした蛍狩りの思い出は、見えない。
 でも、淡く優しい輝きは、他の人達の行燈と混じりあって。
 いろんな色に揺らめいて、歩く先を照らしていく。
 白に。青に。紫に。そして。
「あったかいオレンジ色!」
 元気に上がった祭莉の声に、ぱちくりと杏は金瞳を瞬かせた。
「あられの目とおんなじだね♪」
 言われて、改めて見てみれば、迷いの中で別れを選んだ白猫が思い浮かぶ。
 揺らめく心はこの灯のようで。
 それでも辺りを、行く先を、淡く照らして示していたから。
「ん、おんなじ」
 杏もこくりと頷いた。
「まつりんのしっぽにも色んな色が映ってる」
「え? おいら?」
 そこから杏が指差したのは、揺れる祭莉のふさふさ狼尻尾。
 赤茶色一色かと思いきや、先っぽへ向かうと黒く、そして銀色に変わっている。
 様々な人の思いが混じる行燈の灯のように。
 色を重ねて揺れている。
 祭莉もまじまじと自らの尻尾を眺めて。
「おいらのしっぽ、黒と銀の割合が増えてきたでしょ。
 もうオトナだから!」
 むんっ、と胸を張って見せた。
 大人になると尻尾の色が変わるのかどうか、杏にはよく分からないけれど。
 それは、迷う杏をいつも導いてくれる、力強くも優しいふさふさだから。
「ね、まつりん」
 金瞳を細めて、杏は語りかける。
「一時でも長く、一緒にいられたらいいな」
 思うのは、大切な人と別れたあられの姿。
 いつか自分たちにもそんな時が訪れるのかもしれないと、心を過った不安。
 待つのも。行くのも。
 きっと同じだけ苦しいから。
 ずっとずっと一緒にいたい。
 そう、願って。
 杏はそっと、祭莉の尻尾に手を添えた。
「ん? どしたのアンちゃん」
 そんな妹の様子に、祭莉はこくんと首を傾げ。
 よしよし、と頭を撫でてあげながら、考えて、考えて。
「あ、おなかすいたんでしょー?
 しかたないなあ、海苔巻きあられ買ってあげるね!」
「海苔巻きあられ……!」
 思い当たった答えは本当は違っていたけれども。
 美味しい響きに、杏の金瞳から不安が消えて、キラキラと輝きだしていた。
 よしそれじゃ、と目当ての屋台を探してきょろきょろ辺りを見回した銀色の瞳に。
 映ったのは、羽根子猫達の百鬼夜行。
「あ。あられみっけ」
 その先頭を歩いていた姿に気付いて名を呼ぶと、あられは行列を離れて寄ってきた。
 二股の長い尾を揺らしながら、双子の前にちょこんと座る白猫。
「あられ、金平糖どうぞ?」
「金平糖、何色がいい?」
 持っていたお菓子を差し出せば、色とりどりの星を、あられが不思議そうに覗き込み。
「あ、焼き芋もいいね!
 お姉さん、みっつ……よっつ、ください!」
 近くの屋台に目を留めた祭莉が、元気に走って取りに行った。
 その背を目で追うあられに、杏はふんわり笑いかけて。
「あられ、行燈は選んだ?」
 金平糖を差し出す時に地面に置いていた、円筒形の行燈をまた持ち上げて見せる。
 それは、行燈祭りの慣わし。
 広場に集っていく行燈と楽しい思い出。
 あられはどんな行燈を選ぶのだろう。
 主が好きだったもの?
 自身の姿に似た柄もの?
 そして、どんな思いを乗せるのだろう。
 まだ哀しみばかりだろうか?
 主との過去の思い出だけだろうか?
 それとも、何か1つでもいい、新しいものを見つけられた?
 思い、願いながら、あられに尋ねるけれども。
 あられは首を傾げるだけで。
 行燈を選ぶ、ということにまだ行き着いていなかった様子。
 それならばと、杏は、自分が選んだ銀の土台の行燈をあられの前に差し出して。
「あられ。この世界には色んな人がいて、そっと触れると……ね、暖かい」
 微笑みながら、手を添えて見せる。
 じんわり伝わる灯りのぬくもりは、そこに込められた思いと同じ。
 なれば、他の妖怪達は、行燈にどんな思いを込めているのだろう。
 どんな由来があるのだろう。
 聞いてみれば、そんなきっかけがあれば、お話が広がって。
 思い出も広がっていく。
 行燈はきっと、そのための輝き。
 今を広げ、沢山の楽しい過去を導く灯り。
 だから。
「あられも、選んでね」
 杏は淡く微笑んだ。
 この銀の行燈に杏が祈ったのは、あられの幸せ。
 飼い主さまの分も、心を込めて。
 大好きな兄の瞳と同じ、きれいな銀色に、願うから。
 だから、と杏は重ねて告げる。
 そこに、焼き芋を抱えた祭莉も戻ってきて。
 食べるよね? とあられに1つ差し出しながら、にぱっと笑った。
 美味しいも楽しい。
 誰かと食べる一時も、素敵な思い出。
 そうして、あられと祭莉と杏は、並んで道の端に座り。
 会話も楽しみながら焼き芋に舌鼓を打てば、あっという間に4つがなくなる。
 ごちそうさま、と立ち上がった双子を見上げ。
 あられは、行燈探しに向かおうと、2人とは違う道へを振り向いた。
 杏がこくりと頷き、祭莉がしゃがみ込むと。
 伸ばされた手は、あられの喉元を優しく撫でる。
「また来るよ。
 それまで、おいらたち2人のこと、覚えててね?」
 こくりと頷けば、にぱっと広がるお日様笑顔。
「ん。やくそくだね♪」
 それはきっと。
 選んだ行燈の灯に託すものの1つになるだろうと感じながら。
 あられはくるりと踵を返し、行燈が並ぶ道を歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳来・澪
【花守】浴衣
――よし、そしたら約束通り遊ぼっか
あられちゃんも、良かったら福やうちらと友達になってくれへんかな?
(安心した様に明るい声に戻って鳴く福と共に、そっと笑み)
大丈夫、貴方は独りぼっちやないよ
皆ついてるし、何よりご主人様もずっと見守ってくれてる筈やから

さぁ、お祭を皆で楽しみに行こう
今年は独りで寂しく暮れるだけになんて、させへんからね

基本はあられちゃんの希望に合わせてゆっくり逍遙
あ、一つだけ寄り道ええかな?(射的の前で)
福がね、玩具が欲しいらしくて――あられちゃんも何かいる?
寧ろ一緒に遊んでみる?

最後は思い出の灯を手に
貴方の心にも温かな光が差しますようにと願い広場へ
――また必ず会いにくるよ


花表・音羽
【花守】浴衣
はい、澪様
それから、あられ様
約束といえば、ご主人様の分も果たしに――素敵なお祭を、一緒に見て回りませんか?
私も、友人となって頂けたらとても嬉しいです
(弾む福さんの声に和みつつ、優しく手を差し伸べ)

独り泣く日々にもまた、お別れを――少しずつ、一歩ずつでも、貴方様が再び巡る季節やお祭を心穏やかに迎えて行けるよう
踏み出しましょう

行きたかった所、見たかった所
灯も楽しみながら、心行くまでじっくりご一緒を
ふふ、福さんも可愛らしいご希望ですね
では、あられ様の分は私が頑張ってみましょうか?

思い出の灯には、今日の感謝と明日への祈りを込めつつ――
また友達として遊びに来ますねと、良ければ次の約束も添えて



「よし、そしたら約束通り遊ぼっか」
 くるりと振り返った鳳来・澪(f10175)の動きに、2つに分けて三つ編みにした長い漆黒の髪がゆらりと揺れた。
 瞳と同じ深い赤色の蝶が、髪を飾る花に留まり、耳元で小さくひらひらと飛ぶ。
 足元の紅から胸元の白へ、色を変えていく浴衣には、金糸で縫い描く花が咲き。
 淡い印象を無地の黒帯が引き締めていた。
 その上で、帯留めの代わりにと舞うのは蝶の留め具で。
 羽織るように肩から掛けた、半透明のふわりとした錆浅葱の布地を止め、縁取るレースをひらひらと、刺繍の続きのような金の飾り紐をきらきらと、重ね揺らす。
「はい、澪様」
 柔和に微笑む花表・音羽(f15192)は、艶やかな黒髪を纏めた1つの緩く大きな三つ編みを左の肩にかけて。
 瞳より濃い紫色の蝶は、右側の髪に揺れる藤のような花に留まり、耳元で小さく飛ぶ。
 纏う浴衣も上から花を垂れ下げる藤を思わせて、肩や胸元から袖や裾へと向かって青紫が白くなっていく。
 無地の黒帯で印象を締めるのも、蝶の留め金も、澪と揃いだが。
 羽織った半透明の布地は、肩口をシンプルに、足元を華やかに魅せるようにと模様や縁取りのレースが整えられていた。
 意匠を揃えながらも対のような深紅と青紫の娘達は。
 それを見上げる金色の瞳に、気付く。
「あられ様」
 先に呼びかけ、誘いの手を伸ばしたのは音羽。
「約束といえば、ご主人様の分も果たしに……
 素敵なお祭を、一緒に見て回りませんか?」
 穏やかな笑みのその隣で、澪も嬉しそうに微笑んで。
「良かったら福やうちらと友達になってくれへんかな?」
 さらなる誘いを重ねる澪の足元で、白茶虎猫が明るく鳴いた。
 その響きは、安心したようにのんびりと、嬉しそうに弾んでいて。
「私も、友人となって頂けたらとても嬉しいです」
 音羽も表情を和ませながら、優しくあられへと手を差し伸べた。
「大丈夫、貴方は独りぼっちやないよ。
 皆ついてるし、何よりご主人様もずっと見守ってくれてる筈やから」
 澪の言葉を裏付けるように、また白茶虎猫の鳴き声が寄り添い。
「独り泣く日々にもまた、お別れを……
 少しずつ、1歩ずつでも、貴方様が再び巡る季節やお祭を心穏やかに迎えて行けるよう
踏み出しましょう」
 差し出されていた音羽の繊手が、先へと続く道を示すようにゆるりと動く。
 主と行きたかった所。
 主と見たかった所。
 1歩でも前へと歩き出せるなら、まずはそこからでいいからと。
「今年は独りで寂しく暮れるだけになんて、させへんからね」
 誘う澪の言葉にあられは、小さく鳴いてから、白い脚を踏み出した。
 行燈の灯りに淡く照らし出される道を行く、2人と2匹。
 無理に多くの言葉を交わすわけではない。
 あれをこれをと干渉するでもない。
 ただただ、隣に並んで、同じ道を歩いていく。
 独りの道行きではないのだと。
 望むように進めるのだと。
 ゆっくりゆっくり、そぞろ歩く。
「あ、1つだけ寄り道ええかな?」
 そんな折に、足を止めて声を上げたのは、澪。
 ちらりと視線を送るのは、すぐ前にある射的の屋台にで。
「福がね、玩具が欲しいらしくて……」
「ふふ、福さんも可愛らしいご希望ですね」
 足元を見下ろし微笑む音羽に、白茶虎猫がきゅっと目を細めていた。
 射的に向かう動きに、あられも倣うように足を揃えて。
 皆で一緒に景品が並ぶ屋台を覗き込む。
「あられちゃんも何かいる? 寧ろ一緒に遊んでみる?」
 早速、おもちゃの銃を受け取った澪がくすりと笑いかけると、
 ぱちくりと瞬く金色の瞳。
 その横で、白茶虎猫は、全てお任せとばかりにゆったり座り込んでいたから。
 音羽もくすくす楽し気に、おもちゃの銃を手にする。
「では、あられ様の分は私が頑張ってみましょうか?」
 そして飛び交うコルクの銃弾。
 なかなか当たらないけれども、澪も音羽も笑みを絶やすことなく。
 結果よりも、一緒に挑戦していることを楽しんでいるようだったから。
 のんびり眠るように待つ白茶虎猫の隣で、あられはそんな2人をじっと見上げる。
 そして、しばしの後に振り返った澪の手には、柔らかな猫のマスコットが1つ。
「ほら、福。取れたんよ」
「すみません、あられ様。私は取れませんでした」
 その隣で音羽が少し申し訳なさそうに微笑むのを見上げ。
 でもあられは、嬉しそうに一声鳴いた。
 頑張ってくれたのは見ていたから。
 想ってくれたのは分かったから。
 あられは、よっこらしょと立ち上がった白茶虎猫に、そっと身体を摺り寄せて。
 澪と音羽を改めて見上げてから。
 くるりと身を翻して1人歩き出す。
 1人きりで離れていく、白い後姿。
 でも、それを見送る澪と音羽の口元には、淡い笑みがあった。
 1人歩く白猫が、もう独りではないと感じられたから。
「また必ず会いにくるよ」
 澪は見送る背中に、ぽつりと呟くように語りかける。
 あられの道行きを照らす行燈の灯は、思い出の灯。
 その心に穏やかで温かな光はきっと届いているから。
「また遊びに来ますね。友達として」
 音羽も、淡い灯りに次の約束を添える。
 揺れる灯に、今日の感謝と明日への祈りを重ねながら。
 きっとまた会えるからと、微笑んで。
「さぁ、そろそろ行燈選ぼっか」
「はい、澪様。もちろん、福さんも」
 そして澪と音羽は、白茶虎猫と共に、広場に向かって歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木槻・莉奈
【浴衣】着用
シノ(f04537)と

着慣れない浴衣はちょっと恥ずかしい気もするけれど
今はこの世界を守れた事、あられも無事にすんだ事
一緒にと言えば応えてくれた事、浴衣デートが出来る事
色んな嬉しい事があるのだから、まず楽しもうと

言葉が通じない場合は、『動物と話す』で通訳
あられ、手伝わせてもらってもいい?
お祭りを楽しんで、楽しかったよって気持ちをご主人様にもわけてあげましょ

…シノったら、すぐそういう事言うんだから(照れてそっぽ向きつつ
私は…なら紅葉にするわ
鮮やかなのも、穏やかなのも…どっちの赤もあるから丁度いいでしょ

花の季節ではないけれど、紅葉の花言葉も丁度いいしね
(※花言葉:大切な思い出、美しい変化


シノ・グラジオラス
【浴衣】着用でリナ(f04394)と

俺の浴衣に需要があるのか不思議だが、
リナに一緒に着たいと言われたら、可愛い彼女の頼みじゃ断れない
しかしまあ、浴衣って凄いな。普段は可愛いのに、今日は色っぽく見える

あられが空いてるなら、声を掛けようか
なあ、ご主人の話聞かせてくれよ。それでご主人っぽい行燈を探そう
それを広場に持って行けば、ご主人とも祭りを楽しめるだろ?

リナはどんな行燈がいい?
俺は桜か小花の…リナみたいなのがいいかな
鮮やかなのって、言うまでもなく(妹のこと)だよな。本当に最大のライバルだわ

いつか。あられにもいつか俺にとってのリナのような人が現れる
それまでは、俺達でよければたまに様子見に来るさ



(「やっぱり、ちょっと恥ずかしい……」)
 着慣れない浴衣を見下ろして、木槻・莉奈(f04394)は顔を隠すように、手にしたうちわを口元まで持ち上げた。
 菫色の矢がすりと白緑の花が舞う白地の浴衣を着崩さないように気を付けながら。
 長い袖が、足に巻き付くかのような裾が、動きを狭めているのを感じる。
 ワインのような赤から白へとゆるりと変化を見せる帯が、浴衣だけでなく気持ちも引き締めてくれるけれども。
 いつもそのまま風に揺らしている長い黒髪は、左右に一筋ずつ残して残りは纏めて結い上げてしまったから、首元が涼しく心許ない。
 そんないつもと違うこと尽くしの和装に、莉奈はまたうちわを顔に近づける。
 それでも。恥ずかしい気もするけれども。
 この世界を守れた事は。
 あられも無事にすんだ事は。
 間違いなく嬉しい事だったし。
(「それに……」)
 ちらりとうちわの上から覗き見るように隣を見れば。
 シノ・グラジオラス(f04537)が莉奈に歩調を合わせて歩いていた。
 その恰好も、莉奈に合わせた、濃紺の浴衣。
 一緒に着たいと言ったのに応えてくれた事が。
 そしてこうして浴衣デートができる事が。
 とてもとても嬉しい事だったから。
(「まず楽しまないとね」)
 莉奈は何とかうちわを下ろし、少しまだ照れながらも笑顔を浮かべた。
 その様子をシノもちらりと見下ろしていて。
(「しかしまあ、浴衣って凄いな」)
 見慣れない姿に、思わず目を奪われる。
 きっちりとした帯と、きゅっと締められた胸元が、細身の身体を儚く見せ。
 ゆったりとした袖口からは華奢な手首が、裾からは細い足首が、歩くたびに肌の白さと艶やかさを覗かせる。
 さらに、結い上げた長い黒髪のおかげで、項のラインが際立っていて。
(「普段は可愛いのに、今日は色っぽく見える」)
 あまりじろじろ見ないようにと気を付けながらも、気付けばつい、青い瞳は莉奈の動きを追っていた。
 自分の浴衣は特にどうでもよかったけれども、一緒にと望まれたなら断れず、半ば仕方なく袖を通したのだけれども。
 どうかな? と見せた姿に、莉奈が思った以上に喜んでくれたから。
 それも、浴衣は凄いと思う一端であったり。
(「浴衣デート、か」)
 並ぶ莉奈にまた奪われていた視線を、慌てて通りかかった屋台へと戻し、シノはどこか嬉しそうに苦笑した。
 と、その逸らした視界に映る、小さな白い影。
「あられ」
 声をかけると白猫は立ち止まり、金色の瞳でシノを見上げる。
「よければ、一緒にいかないか?」
 同行を伺いながら示すのは、周囲に並ぶ幾つもの行燈。
 この祭りの象徴であり、特徴でもある淡い灯。
「ご主人の話聞かせてくれよ。それでご主人っぽい行燈を探そう。
 それを広場に持って行けば、ご主人とも祭りを楽しめるだろ?」
 シノの提案に、そうね、と莉奈も頷いてから。
「あられ、手伝わせてもらってもいい?」
 しゃがみ込んでできるだけ高さを合わせ、あられの金瞳を覗き込む。
「お祭りを楽しんで、楽しかったよって気持ちをご主人様にもわけてあげましょ」
 微笑む莉奈を、その後ろのシノを、あられはじっと見つめて。
 小さな鳴き声1つで答えると、莉奈とシノの足元を縫うようにして歩き出した。
 その動きに笑顔を交わしてから、2人も一緒に足を踏み出す。
 浴衣だからというのもあるけれども、小さなあられを気遣って、これまで以上にゆっくりと歩く莉奈とシノ。
 その間、シノが望んだ、あられの主の話は語られなかったけれども。
 白い姿はつかず離れず、共に進んでくれていたから。
 それもいいかとシノは思う。
 語りたくなれば語ればいい。
 語りたくないなら語らなくていい。
 シノ自身もそうだから。
 無理に聞くことはしたくないから。
 そして、あられが語ってくれるなら、シノは何でも聞こうと思う。
 莉奈が自分にそうしてくれたように。
 だからシノは、あられを見下ろしながらも、莉奈へ問いかけた。 
「リナはどんな行燈がいい?」
「私は……」
 呟きながら流れた緑色の瞳は、様々な行燈の間を迷うように動く。
 色も形も素材も大きさも、数ある行燈は1つとして同じものはないから。
 迷うのも当然だろう。
「俺は桜か小花の……リナみたいなのがいいかな」
「……シノったら、すぐそういう事言うんだから」
 該当する行燈を探しながら告げれば、名前に反応したかのように反射的に振り返った莉奈が、すぐに照れてそっぽを向いた。
 そして、それなら、と思いついたように。
「なら私は、紅葉にするわ。
 鮮やかなのも、穏やかなのも……どっちの赤もあるから丁度いいでしょ」
「鮮やかなの……」
 言われた言葉にシノの脳裏に思い出されたのは、鮮やかな赤い長髪を持つ、シノの妹であり莉奈の親友でもある少女の姿。
 いつも2人で楽しそうにしている様子は、思い出そうとしなくても浮かんでくるから。
「本当に最大のライバルだわ」
 苦く呟いたその声を拾い上げて、莉奈がくすりといたずらっぽく微笑んだ。
 それに、と続けるのは、意趣返しだけではない理由。
「花の季節ではないけれど、紅葉の花言葉も丁度いいしね」
 紅葉に託された言葉は『大切な思い出』、そして『美しい変化』。
 主と過ごした時を想うあられに。
 そして、主との別れを決意し、新たに歩き出したあられに。
 合うものだとも思ったから。
 どうかしら、と見下ろす莉奈を、あられの金瞳がじっと見上げた。
「いつか」
 そこにシノの言葉がぽつりと落ちた。
「いつかあられにも、俺にとってのリナのような人が現れる。
 それまでは、俺達でよければたまに様子見に来るさ」
 そっと莉奈の肩に手をまわし、遠慮がちに引き寄せると。
 浴衣に合わせた色合いの花と緑色の玉簪が飾る黒髪が、こてん、と寄り添うようにシノの肩へと預けられる。
 その言葉と姿とを、大切に受け止めるかのように、あられは2人を見つめ。
 きゅっと一度目を閉じて見せると、くるりと踵を返す。
 走り出した白い後姿を、シノと莉奈は、穏やかに見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
リグ(f10093)と

リグリグっ
わくそわ、はやくいこうと振り返り

立ち止まるリグの視線の先見て
ここにもしゃてきがあるんだね
やろやろっ
しょうぶだねっ

一回やったことがあるもの
端狙って
えいえいっ
ふふ、やったあ
キャラメルげっとだよ

わあすごい、リグリグもあたったっ

あっ、あられ
彼女の前にしゃがんで
あんどん、みつけた?

まだならいっしょにいこっ
言ってたでしょ?
祭りのたのしい思い出をあつめなくちゃ
ね、リグリグ

おいしそうなもの、たくさんあったよ
あられの目の色にそっくりなあめもあったんだ

一緒に屋台を巡り
でしょ?と猫の形をした飴買い
ふふーと見せて

リグの仕草に自分の胸に触れ
(……うん)
微笑みあられを見る

わすれられないよね


リグ・アシュリーズ
オズりん(f01136)と

オズりん、まって!慌てなくたってもお祭りは逃げないわよぅ!
ぱたぱたと追いかける最中、目にした射的にきらりと目を輝かせ。
ええ、やりましょ!
重たくない銃に戸惑いつつ、片目をつぶって狙いを定め。
勝利の女神様、どっちに微笑むのかしら!

あられちゃんも行燈を探しに来たの?
せっかくだから少しご一緒しましょ!
彼女の歩調に合わせ、そぞろ歩き。
屋台のものを食べる?って三人で分けたりして。
わ、ホント!きれいな琥珀色ね!とオズりんの見つけた飴に見入っちゃう。

ね。あなたがご主人様のこと忘れなければ、
どこへでも連れて行ってあげられるわ!
忘れない限り、いつだってここにいるもの!(とん、と胸を叩き)



「リグリグっ。はやくいこう」
「オズりん、まって! 慌てなくたってもお祭りは逃げないわよぅ!」
 先を走りながら振り返ったオズ・ケストナー(f01136)を、楽しそうにリグ・アシュリーズ(f10093)がばたばたと追いかける。
 あれもこれもと目移りする、その視線の動きと同じくらい忙しなく、あっちへこっちへ動き回るオズ。
 そんな様子も、それを追いかけることも、楽しくて嬉しくて。
 リグは笑みを零しながら、見失わないようにとついていく。
 と、その最中、目にしたのは射的の屋台。
 面白そう、と焦茶色の瞳をキラリ輝かせれば。
「ここにもしゃてきがあるんだね」
 ちゃんとそれに気づいたオズが、くるりと方向転換して戻ってきた。
「やろやろっ」
「ええ、やりましょ!
 勝利の女神様、どっちに微笑むのかしら!」
「しょうぶだねっ」
 くすくす笑う2体の日本人形からそれぞれおもちゃの銃を受け取って。
「一回やったことがあるもの」
 早速構えたのはオズ。
 立っている箱の端にと狙いを定めて引き金を引くけれども。
 ぽこん、と飛んだコルク玉は横に反れて取り過ぎていく。
 むう、と口を尖らせながらも銃の位置を直して。
 また詰めたコルク玉を、えいえいえいっ。
「ふふ、やったあ」
 ころん、と転がったキャラメル箱に、オズは両手を上げて喜んだ。
「すごいオズりん。私もっ」
 続けとばかりに、今度はリグが挑戦。
 重たくない銃に戸惑いつつ、片目をつぶって狙いを定め。
 先ほどのオズの様子を思い出しながら、オズよりも大きな箱へと、えいっ。
「わあすごい、リグリグもあたったっ」
 細いクッキーにチョコレートをかけたお菓子の箱が倒れるのを見て、オズが先ほどのリグのように、ぱちぱちと拍手を贈る。
 それぞれ獲得した箱を受け取り、見せ合って。
 さあ次は、と視線を流したオズは。
「あっ、あられ」
 白く小さなその姿を見つけると、その前にちょこんとしゃがみこんだ。
「あられちゃんも行燈を探しに来たの?」
「あんどん、みつけた?」
 リグもオズの後ろから見下ろしながら問いかければ。
 じっと見上げてくる金色の瞳。
「まだならいっしょにいこっ。
 言ってたでしょ? 祭りのたのしい思い出をあつめなくちゃ。
 ね、リグリグ」
「そうよね。せっかくだし、少しご一緒しましょ!」
 そしてオズが誘いながら立ち上がり、また弾む足取りで進みだせば、リグと一緒にあられも歩き出した。
 一番小さなあられに合わせ、並ぶようにそぞろ歩くリグと。
 あっちへこっちへ目移りするとともに落ち着きなく動きながらも、ちゃんと毎回あられの元へ戻って来るオズ。
「何か食べる? わたあめ……は食べられないかしら?」
「わあ。あられみたいに、まっしろだね。
 こっちはね、たこやきと、りんごあめと……
 あ! あられの目の色にそっくりなあめもあったよ。ほら」
「わ、ホント! きれいな琥珀色ね!」
「でしょ?」
「猫の形も可愛い」
「ふふー」
 一緒に屋台を巡りながら、色々なものを見聞きしていく。
 綺麗な飴に目を奪われて。
 熱々のたこ焼きに大騒ぎして。
 ふわふわのわたあめをつっついて。
 釣れたヨーヨーを右へ左へと揺らして。
 お祭りを、楽しんでいく。
「ね。あられ」
 そんな中、リグがあられに優しい笑みを向けた。
「あなたがご主人様のこと忘れなければ、こうやって、ご主人様をどこへでも連れて行ってあげられるわ!」
 巡り歩いた道のりを示すように、振り返って両手を広げてから。
 リグは右手を引き寄せ、とんっ、と自分の胸を叩いて見せる。
「忘れない限り、いつだってここにいるもの!」
 消えない思い出。
 確かな絆。
 オズも、リグを真似るように自分の胸にそっと手を触れ。
(「……うん」)
 そこに残るものを、感じる。
 おとうさんがくれたもの。
 そして、腕の中にいてくれる、雪のような白い髪と桜色の瞳を持った人形を見てから。
 微笑みをあられへと向ける。
「わすれられないよね」
 少しだけ寂しげな、でも嬉しそうな笑み。
 過去に囚われてはいけない。
 でも、過去を捨てる必要はない。
 大事に大事にして、そして過去と共に、今を楽しんでいければ。
(「おとうさんも、おまつり、たのしかった?」)
 思ったその時、抱いた人形がオズに寄り添うように少しだけ倒れ。
 頷いたかのように、さらりと長い白髪が揺れたから。
 オズは穏やかに微笑む。
 あられは、そんな2人をじっと見上げて。
 不意にリグの足元を駆け抜け、走り去った。
 驚いて振り返るリグの前で、白い背中は祭りの人混みの中へと消えていき。
「変なこと言っちゃった?」
「ううん」
 心配そうなリグに、オズはにっこりと笑いかけた。
 だって、あられが走って行った先には、広場があるから。
 きっときっと、大丈夫。
 オズはそう思って、腕の中の人形をそっと一度抱きしめて。
「リグリグっ。きんぎょすくい、やろっ」
「ええ、やりましょ!」
 またお祭りへと、駆け出していった。

「あら、化け猫ちゃん。あなたの行燈は見つかった?」
 広場に戻ったあられに声をかけたのは、最初に会ったろくろ首。
 同じ場所での同じ人に、時が戻ったかのように感じるけれども。
 夜闇に覆われていたそこは、数多の行燈の灯で明るくなっていて。
 人々の祭りの思い出が、温かくあられを照らし出す。
 ゆっくりと、行燈の間を縫うように、歩を進めたあられは。
 さっき座っていた、主を見送ったその場所にまた座って。
「ごしゅじんさま」
 灯りで淡く照らされた空を見上げると、語りだした。
「ともだちが、できたよ」
 行燈祭りを楽しむ人々の様子を。
 あられに贈られた幾つもの言葉を。
 しっかりと思い出しながら。
 行燈の灯に囲まれたあられは、夜空へと語り続けた。

 にぃあ、にゃあ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月07日
宿敵 『彷徨う白猫『あられ』』 を撃破!


挿絵イラスト