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こゝろおぼえ

#カクリヨファンタズム #音楽 #忘れないための、しるし #鬼火の三味長老

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#カクリヨファンタズム
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#鬼火の三味長老


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『あれあれ、おくり提灯だわ』
 日も暮れた頃、宵の間にぽかりと仄かな灯りが浮かび上がって、娘がどこか楽しげな声で言った。
 十の歳から始めた習い事は三味線。家路へ着く時間はいつも夕暮れで、人も妖怪も行き交う逢魔道。
 水路の音色を聴きながら娘が何かを口ずさむ。
 娘はいつも何かを『音』にしていた。それは童謡だったり、気持ちだったり、好きな譜をなぞるものであったり。
 たくさんの帰り『時』。茜が差して景色は一面染まっていく。
 蛍が飛び始める宵の頃になれば急ぎ足となり、包み抱えた三味線も跳ねた。
 数多の春夏秋冬を渡り。
 数多の軽重哀楽を奏で。
 いつしか娘と離れ離れとなった三味線は意志持つ妖怪となった。
 けれども弦を指で弾いても撥で弾いても、娘の音にはならない――。


 市の中をとことこ歩く。
「三味長老さん、良い物が入ったのだけど見ていかないかい?」
 骨董ガラクタ蚤の市で馴染みの店主が三味長老へと声を掛けた。
「良い物?」
「空の色を映しとったビー玉だよ。手に取ってご覧よ」
 何色が良いかい? と促され、三味長老は良く知る茜色のビー玉を手に取ってみた。
 蚤の市の品は思い出を呼び起こす物ばかりだ。視界いっぱい、重なるように夕暮れが広がった。
「ほんとだ、めっちゃイイじゃん♪ 買ってくね」
「毎度あり~」
 買ったばかりのビー玉を掌で遊ばせながら三味長老は路地へと入る。
 ガヤガヤとした市の喧騒を背に。先には骸魂の通り道があり、ふわりふわりと過ぎていく。
 その時、一つの骸魂が近寄ってきて――帰ってきた――すんなりと、三味長老はそう感じた。
「……アンタ……」
 買ったばかりのビー玉が掌から落ち、地面を転がる。掌は鬼火を迎え入れる。
「また会えたね、嬉しい、嬉しいよ」
 鬼火の骸魂――かつての娘と一つになった三味長老が歓喜の声を上げる。
 潤い満ちた『今』。共に巡った鮮やかな四季が魂を彩った。
 このまま一緒にいたいね。
 そうだね。
 あの日々の音を奏でようよ。
 それじゃあ、
「時よ止まれ、お前は美しい」
 鬼火の三味長老。終わりを告げる『滅びの言葉』が、カクリヨファンタズムを破滅へと導く。


「想いに伴う言葉ひとつで、崩れ落ちてしまうなんて。本当にカクリヨファンタズムという世界は脆いのね――」
 想いで繋いだような世界は、鬼火の三味長老が放った言葉で終焉が迫ろうとしているらしい。
 足元から崩れ落ちてゆく世界を元に戻すため、カクリヨファンタズムへと向かって欲しいとポノ・エトランゼ(エルフのアーチャー・f00385)は集まった猟兵たちに説明する。
「皆さんを送り届ける場所では蚤の市が開かれていたのだけど、生憎、崩壊中とあって結構不安定な感じなのよね」
 地面はあったり、なかったり。
 市の店も人も品物も散乱していて、現場はものすごーく混乱中らしい。
「それじゃあ、鬼火の三味長老も何処にいるのか分からないのか……」
 猟兵の言葉に、そうなの、とポノが頷く。
「でもね、この辺りには『おくり提灯』っていう妖怪たちがいて、三味長老までの道案内も任せられそうなんだけど――この混乱でしょう? ぽろぽろと大切だった気がする想い出を落としまくっててそれどころじゃないみたいなのよね」
 落とすとは……。摩訶不思議な現象を聞き、真顔になる猟兵たち。
「ここがカクリヨファンタズム世界の不思議なところね。想い出が落とし物になっているのよ」
 まあ現場に向かって、話を聞くなり、落とし物を拾って持ち主を探すなりとすれば、自ずと道も拓けるだろう。
「いつものことになるけれど、皆さんの現場での判断にお任せするわ。
 その後は鬼火の三味長老との戦いね……ようやく再開した二人を引き離すことになってしまう。
 辛く感じてしまうかもしれないけど、世界のため人々のため、彼らのために再びの別れは必要なこと……なのよね」
 どこか自身へと言い聞かせるように呟いて、ポノは猟兵たちを送り出すのだった。


ねこあじ
 ねこあじです。
 今回はよろしくお願いします~。

 第1章では崩壊しようとしている危険なカクリヨファンタズム『市場』にて、おくり提灯という妖怪とのやり取りになります。
 おくり提灯のタイプは色々。
 通常ならば道を示してくれますが、色々落としちゃっててそれどころじゃないみたいです。
 ・話を聞いてみて、一緒に探し物をしたり。
 ・手掛かり――共感できる想い出や、アイテムを沢山集めてみたり。
 ・一つのアイテム(想い出)からなんやかんや推理してみたり。
 落とし物はほんわかした光のようなものが宿ったアイテム、となっています。
 おくり提灯の光るアイテムや想い出はプレイングで指定してもいいですし、無かったら、共感できるものを頑張って作りますMSが。
 凄くふんわりしてますがよろしくお願いします。
 大丈夫、私もふんわりとしか感じ取れていないので。

 おくり提灯が想い出を取り戻せたら、道案内をしてくれます。

 第2章はオブリビオン化した妖怪『鬼火の三味長老』との戦いです。
 妖怪と骸魂の思い出に関わるようなプレイングだと、プレイングボーナスがつきます。

 第3章は、うまく骸魂だけを倒せて三味長老が生きていたら、声を掛けて励ましたり、一緒に遊んだり。
 そして骨董ガラクタ蚤の市で買い物しましょう。
 手に取ると風景が浮かぶ不思議なビー玉や、星の流れるようなバレッタだったり、銀木犀の簪には初恋の心など、想い出を呼び起こす品を見つけることができたりします。
 玩具には子供時代の想い出や、持ったことのない煙管には未来を夢見た想い出など、色々とあるでしょうね。
 お気に入りの想い出の品を探したり、純粋に掘り出し物を探したり――楽しくお買い物してみてください。


 プレイングの採用はなるべく頑張るの方向です。
 再送が発生するかもしれません。
 シナリオのプレイング受付日・締切日が発生します。
 お手数おかけしますが、マスターページやTwitterでご確認のほどよろしくお願いします。

 それでは、全体的にふわーっとしてますが、プレイングお待ちしてます。
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第1章 冒険 『失くしもの』

POW   :    とにかく話を聞いてみる

SPD   :    手掛かりを沢山集める

WIZ   :    独自に推理してみる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 到着したカクリヨファンタズムは、あっちこっち騒がしい。
 市の道へと立って猟兵は、周囲を見回しながらも注意を払って歩く。
「あわわわわ、これじゃあ商売になんないよ!」
 売り子をしていた妖怪が風呂敷に品をまとめていく――慌てているのか、肘に当たってしまった籠がひっくり返りサイコロがばらばらと地に落ちた。
 カツン! と高らかな音が鳴り、刹那、猟兵の視界は闇へと転じ、ぐるんと回ったかのような感覚――気付けば、違う区画にいた。
「やあやあ、猟兵さんじゃねぇか。もしかしてこの世界を助けにきてくれたのかい?」
 違う店の妖怪が話しかけてくる。
「この辺りはもう危ねぇよ。……まったく、一体何が原因なのやら。狭間の引っ越しか、それとも新たに迷宮化しちまうのかねぇ」
 猟兵さん、こっちの道に行ってみようや、と。道を示した妖怪の後をついていけば、そこは石畳道。けれども石はひとつひとつが意志を持ったかのように動き始め、前を行く妖怪は浚われるように消えてしまった。
「あ、やっべ、おれたち家帰れなくね? これ」
「おおーい、おくり犬かおくり提灯はいないかぁ?」
 妖怪たちが呼ぶと、提灯単体や、提灯を持つ妖怪がひょこひょこと出てくる――樽の中から、看板の裏から、軒を越えて。
「おくり提灯、おうちに帰りたいんだけど……」
「ああー、ごめーん、今は無理ぃー。今ぼく迷子ー」
「確実に送り届けてくれるおくり提灯が迷子だ……と……」
 妖怪たちがざわざわとし始めた。
「ここ何処、ぼくどんなおくり提灯? なーんにも見えないんだよねー」
 今のおくり提灯には本来あるべき灯りが無く、なにも見えない状態らしい。

 苦虫を潰したような表情になる妖怪たち。
「猟兵さん、悪ィけどちっと力貸してくれねぇか? あいつらの灯を見つけてやんねえと」
 提灯といえども懐中電灯型、ランタン型と色んなタイプがいるらしい。
「よう、おくり提灯その3。お前、一体どんな光持ってたか分かるか?」
「んー、なんかぁ、酔っぱらい」
 酔っぱらいの思い出を持つおくり提灯――彼は飲んだくれの親父たちを水路に落下させることなく無事に家へと送り届けてきた提灯である。
 人と死別した辛く悲しい日、倅が所帯を持っためでたい日、酒をあおった人間は沢山の感情を分けてくれた。
 話を聞いた妖怪のおっさんが光るお猪口を見つけ、提灯の中へと入れる。するとどうだろう。
「わあ、酔いどれ親父たちの光、思い出したよ。おっさんも寄り道してどっかで飲んでく? 案内するよ」
「いや帰る。真っ直ぐ帰る。可愛い嫁さんと子供が待ってんだ。必ず帰る」
「はーい、じゃあ立ってる死亡フラグ避ける道で帰ろうねー」
 帰り道を見つけた妖怪が去っていく。
 そんな時、三味線の音がどこからか聴こえてきた。
 何かを憂う曲調に猟兵たちは耳を澄ませながらも、安全で確りとした道を見出すおくり提灯探しを始めるのだった。
ノネ・ェメ
 初めて来た世界だけど、なんか何回来ても面食らいそ。。

 思い出無い無いって慌ててる方が相手だと一緒にあせってしまいそなので、しゅんとして、ぺしょっとして見えるおくり提灯さんが目についたら、そんな感じの方からお話を伺ってこーかと。

 アニメとかだと、思い出の品の光と合わせるよにぼんやり音が鳴ってたりするけど、現実(ぁ、幽世なのだっけ)でそんな演出演出したヒントはない、かなぁ? 付き添って、二人三脚で探して、事あるごと(探し物だから、ないごと?)に凹んでしまいそーな相方さんはその度に音数が増えるUC等で、その都度励まして。

 今日のこの一件もまた、落ちるくらいの重さ(思さ?)になったりしてるのかなぁ。



「もうこの辺りは危ないのかな」
「どうなっちゃうんだろう」
 妖怪たちが不安を零しながら逃げていく。
 カタカタと動き始めた石畳をひょいっと踏んでからの跳躍。天狗は翼を羽ばたかせ、そのまま空を飛翔した。
 その様を見たノネ・ェメ(ο・f15208)は「わ」と驚きの声。零れた一音に合わせて、彼女の表情も思わずといった驚きの表情。
 狸や狐はドロンと逃げやすいものに化けていく。
(「初めて来た世界だけど、なんか何回来ても面食らいそ」)
 すぐそばにある店も何かへと変容していき、ノネは二歩分後退した。
「お姉ちゃん、さっさと市から逃げなきゃだヨ~」
「ん。あなたも早く逃げてね。わたしはもうすこし……」
 とある妖怪に声を掛けられて、微笑み頷いたノネは相手へ退避を促した。そうして周囲を見回せば、何だか石っぽいものを見つけた。
「……?」
 周囲のように変容していくわけでもなく、不思議に思ったノネは近付き耳を澄ませる。生き物の気配がした。
「ねえ、きみ、どうしたの? ……ちょっと触らせてね」
 ノネの手に収まるくらいの大きさだが、持ってみればしっかりと重い瓦灯であった。
「ここ、どこだろう、ふぁんふぁん」
 ふぁんが鳴き声なのか『不安』なのか――聞き分けしにくい声だったけれども、ノネの耳は正確な意味が聞こえた。
「そか、不安なのか。きみは、きみが分かるかな?」
 カタカタと陶器の蓋を動かす瓦灯。そっか、と再び柔らかな声色でノネは返す。
「じゃあきみを探しに行こう」
「ふぁん」
 今度は鳴き声。小さな音を奏でる瓦灯だ。でも大丈夫。ノネはどんな小さな音も拾えるのだから。

「これは? ――あ、ちがう?」
 ぼんやりと光る落としモノを拾ってはみるけれど瓦灯には合わないもののようだった。
 誰かに渡せるように、拾った籠に落としモノを入れてあっちこっちを探すノネ。
 拾いモノが違うたびに瓦灯はしょんぼりとして、「だいじょぶ、だいじょぶ」とノネは声を掛けた。ノネの〝音奏〟は大丈夫の音色を重ねていく。
 彼だか彼女だかよく分からないが、照明皿と、釣鐘型の蓋の方には草花の絡む透かし模様が入っていて、火を入れれば明かりの具合を調節できるようだ。たぶん就寝時に使われていたものなんだろうなとノネは思った。思って――あ、と気付く。
 ノネは音を止めた。
 もう一度、だ。

 ―― ɑːnsɑ́ːmbl mɪ́ksɪŋ ――

 その声は落とした雫のようなもの。
 空気が僅かに揺らぎ、波紋のように拡がっていく。音は漣のように。
 新たな雫を落とせば旋律が紡がれる。
 ノネが歌い、奏でるこもりうた。おやすみなさいと月が雲に隠れる詩。まっくらな世界のなかで隠れた光はどこへ行くのだろう。
 歌いながら、崩れた店から零れる月明りのような光を見つけたノネがそれを拾う。
 うちわだった。暑い夜に、はたりはたりとそよいでいたのだろう。
 ノネがあおぐと柔らかな風に変化したうちわは、瓦灯へと入っていった。
「おもいだした」
 ぽわんと瓦灯に光が灯る。
 誰かが眠りにつくときに聴いた子守唄。親から子へ、子は親に、また子へと継がれていく唄を瓦灯が紡ぐ。微笑んだノネが合わせて唄う。
「ね、瓦灯さん。わたしの道、教えてほしいな」
「ふぁん」
 瓦灯の蓋が動き、暗くなってきた道を草花模様の光が照らし出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネーヴェ・ノアイユ
想い出が落し物になるとはいったい……。一先ずは近くにいる妖怪様と……。その手に持たれている送り提灯様にお話を伺ってみましょうか……。探し物をするにもまずは情報がないとですし……。

お話を伺っている間の送り提灯様の想い出がふいに消えて何も分からないご様子……。とても共感してしまうのですけれど……。この共感は恐らく別物ですよね……。引き続き妖怪様やおくり提灯様からお話を伺いつつ……。想い出に繋がりそうな物を一つ一つ探し歩いてみましょうか。snow broom様もも何か上空から何か見つけ次第持ってきてくださると助かりますので……。どうかお願い致しますね。

(想い出などに関しましてはお任せ致します)



「おじちゃん、おいらたちも連れてってよ~」
「おう! ほら、来い」
 遊んでいた子供たちが空を飛んでいた天狗に抱えられ、避難していく。
 狸や狐たちも、空飛ぶ生き物に化けて逃げていく。
 カクリヨファンタズムの崩壊しようとしている市に降り立ったネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)は、何かを探そうと、何かを見極めようとして、周囲を見回した。
「お嬢ちゃんも早く逃げなさいね」
「はい、お気遣いをありがとうございます……」
 丁寧に礼を述べる間にも周りの屋台は何かに変容し始めており、ネーヴェは数歩下がる。その瞬間、敷かれていた石畳がするりと抜けていった。
「……!」
 そのままの意味で足を掬われ、咄嗟に、それこそ縋るように箒の柄を握るとsnow broomがその身を振るってネーヴェを支える。
「た、助かりました、snow broom様……」
 姿勢を元に戻すネーヴェ。ふわふわとしていて、それでいて容赦のない幽世の世界。
「あら……?」
 視界が翻った瞬間に移動してしまったのだろうか、先程までの通りではなく、別の通りの市だ。退避する妖怪たちがいて、それでも一つの店が賑わっているのに気付く。
「おおい、店主、おくり提灯はまだあるかい?」
「帰還の札小僧を貸し出してくれないか?」
 飛び交う言葉を聞いて、ネーヴェは首を傾げた。
「妖怪様が妖怪様を……?」
 そこは妖怪が妖怪を売っている店だった。粗方、品が捌けたのだろう、店主が「やれやれ」と声を零して品を回収し始める。櫛や動く手拭などの和小物、光の無い瓦灯、提灯といったモノ。
「あの……」
「ん? ああ、お嬢さんもおくり提灯をお求めかね?」
「そう、ですね……。ひとつお尋ねしたいのですが、妖怪様は売れるものなのですか……?」
「そうさな、道具から妖怪になったモンの一部は、存在意義っちゅうモンを求めなさる」
 品と主の波長も大事、それが骨董蚤の市だ。ネーヴェを見た店主は、吊り下げ型のいわゆるペンダントランプを差し出してきた。
「先の騒ぎで光を落っことしちまった奴さ。こいつは職人の生を共に歩み、妖怪となった。騒ぎの中ではあるが、ランプの光を探してやっておくれ」

(「想い出が落し物になるとはいったい……」)
 摩訶不思議な事だ。道の端に寄ったネーヴェは、抱えたオリエンタル調のランプを見つめた。ちゃんと生き物の気配がする。
「ランプ様。あなた様の光を見つけるお手伝いをさせてくださいね……」
「ひかり?」
 ネーヴェに返ってくる、子供のような声。
「おねえちゃん、ここ、暗いね」
「少し明るいところへ出ましょうか……」
 昼のような明るさではあったが、子は建物の影を気にしているのかもしれない。陽射しのあたる場所へとネーヴェは移動した。
「ご自身のお名前はお分かりになりますか……?」
「バルっていうよ。付けてくれたのは……誰だろう」
 ストン、と落ちたバルの声につられ、ネーヴェの表情も僅かに沈んだものへ。
(「想い出がふいに消えて何も分からないご様子……」)
 共感してしまうけれど――と、ネーヴェ。一瞬だけ目を閉じた。
「想い出に繋がりそうな物を一つ一つ探し歩いてみましょうか……」
 snow broomも空へ。雪原のようなリボンが銀を煌かせてなびく。
 なるべく陽のあたる場所を選び歩いていると、バルは角度によってキラキラと輝く。それもそのはず、彩り豊かなガラスが嵌めこまれているのだ。
「おや、バルじゃないか」
「?」
 妖怪に声を掛けられてもバルの反応は虚ろだ。
「やれやれ、こんなに輝いているのに中身の光を失っちまったのかい……お嬢さん、バルの主はテルキャーリの職人だったんだ」
 言葉後半、妖怪はネーヴェに話しかけるものとなった。銅線、銀線細工の主が手掛け生まれたバルはとても繊細な細工をその身に持っている。
「きっとバル様は愛されていたのでしょうね……」
 ネーヴェが呟いたその時、上空のsnow broomが何かを見つけたようでくるくると回った。
 物が散乱している市で白く輝く光をネーヴェたちは見つけた。
 それは作りかけの銀線細工だった。光るそれをバルの中へと入れてやれば――合っていたようだ。白い光はあたたかなオレンジ色の光へと変化した。
「あっ、ぼくのお父さん……!」
 『父』は、暗くなっても銀線細工の仕事をしていた。手元を明るいランプに任せるその姿は、いつか目を悪くしないだろうかと、バルはハラハラしながら見ていた。
 ふと目を上げた父がバルを見て頬を緩めた。あたたかな光に促されるように、作業を止め、父は就寝の支度を始める。
 父に、机に置かれた『きょうだい』の姿に、バルはおやすみなさいを告げて。
「大事な、だいじな想い出だよ……!」
 光を明滅させてバルが言う。愛された道具だったのだろう――よかった、とネーヴェは微笑んで繊細な細工を撫でる。
「私も、骸魂様におやすみなさいを告げに来たのです……バル様、眠りへ促すための道を教えて頂けますか……?」
 蜂の巣(バル)模様のランプから零れた光が虚空を泳ぎ、道を示した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
大切な方との再会が
世界の終焉を招くとは
何ともやり切れません

ともあれ世界を救いましょう

提灯さんとお話

今の姿や性格は
過去が積み重なった結果

つまり今の姿は
失くした思い出に近しい筈

類感魔術を試みましょう

今の提灯さんを表す光を
三魔力を組み合わせて生み出します

例えば
花萌:風:自由や旅、情報
赤熱:炎:太陽や情熱、笑顔
紺碧:水:月や海、静寂
等々

更に提灯さんにぴったりの旋律を
即効で爪弾きます

提灯さんの象徴である光と音は
提灯さんの欠片である思い出と
魅かれ合います

ふわふわと飛ぶ光を追って
爪弾きながら夜道をぶらぶら
この先にきっと思い出がありますよ♪

不謹慎かも知れませんが
今のこの不思議な状況を
しっかりと味わいたいです



「ひゃあ、早く逃げなきゃ逃げなきゃ」
「こわいこわい帰り道だねぇ」
 慌ただしく妖怪たちが駆けて行く。変化できる妖怪は次々に鳥となり空を飛び始めた。
「どいたどいた、もうここは危ないよ、猟兵さん」
 走ってきた妖怪に声を掛けられ、箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)はぴょんと道を譲るように飛び退いた。
 ガタンガタンと荷車を牽く妖怪が仄々を見下ろす。
「猟兵さん、乗っていくかい? 猟兵さんくらいならまだ乗せられるよ」
 そう言って荷車を視線で示すので、仄々は手を挙げて振った。
「いえいえ、お気遣いなく。ありがとうございます。私はここでやることがあるのです」
「それは今にも崩れそうなココに関係する――のだな」
 そうかそうかと妖怪は頷いた。
「はい。でもそのためにはおくり提灯さんを探さねばならないようで」
「おくり提灯か、道具妖怪を売る店はおれもやっているが――そうだ」
 妖怪が荷車を探り、畳まれた一つの提灯を仄々へと差し出した。受け取った仄々がそれを開けば楕円の提灯となる。
 提灯からは「くすんくすん」と、しっとりとした泣き声が零れてきた。
「……この方は……」
「だいぶ昔に光を落としちまった提灯だ。骨董蚤の市では色んな物が集まるから、こいつの光も何処かにないものかと連れてきてたんだが――」
 この有様だろう? と妖怪が言う。光があれば売り物ともなるだろうがと呟いた妖怪は、提灯の扱いにちょっと困っているようだった。
「手がかりも何もないおくり提灯だが、なんか猟兵さんなら見つけられる気がするな。そいつを頼むよ」
「分かりました。頑張って見つけてみます」
 くすんくすんと泣く提灯を抱えた仄々が頷く。
 妖怪と別れたのち、彼は提灯を向き合ってみることにした。畳まれたそれをまぁるく開く。
「おくり提灯さん? ご自分のお名前は分かりますか?」
「くすん……なまえ? でん?」
「デンさんですか、綺麗な模様をお持ちですね」
「なんだろう、これ」
 デンが身を震わせる。くすんだ黄色の体は絹織物を張ったものだ。影絵のようなヒトガタが二つ、そして上部には鳥の姿。
「デンさんの今の姿や性格は過去が積み重なった結果だと思います」
「性格?」
「ええ、ちょっと泣き虫さんのようですね……悲しい想い出をお持ちでしたか?」
「わからない」
 くすん、くすんとデンが泣く。涙はでないけれどもデンを形作る竹ひごはよく震える。
 仄々はデンを傷つけないように肉球でポンポンと励ますように。
「ですが、今の姿は失くした思い出に近しいはず」
 デンを傍に置き、蒸気機関式竪琴・カッツェンリートを展開させた仄々は弦を弾いた。
 高らかな一音が空に駆け上った。
 試すのは類感魔術だ。今のデンを結果とすれば、何らかの原因に起因している――そんな仮説を立て、仄々は探るように注意を払って、一音一音を丁寧に紡ぐ。
 魔力で自身を強化し五感を澄ませた。
 音に魔力の光を乗せれば、ぽわぽわと蛍のような光が『二人』の周囲を舞う。
(「デンさんの道を先に見つけて差し上げねば」)
 紺碧の光が下に、萌える緑が空を流れていく。色付き始めた光を、カードを見る占い師のように読み解くのは仄々だ。
「海で悲しい想い出があるのでしょうか? 空を流れる光は別離を意味しているのでしょうか? ――いきましょう」
 デンを持ち、仄々が歩き始める。
 空は夜色となっており、静かだ。
 カッツェンリートを爪弾きながら、しとやかな夜道をぶらぶらと。
 そして細い棒の先でも光のない提灯がぶらぶらと揺れた。
「この先にきっと思い出がありますよ♪」
「……、……おにいさんはどうして、ここにきたの? 想い出探し?」
「――この世界を救いに来たのですよ。おかげでこうやってデンさんと知り合うことができました」
 これは、デンさんと私の想い出になりますね。と仄々が何気なく言うと、くすんくすんとデンがまた泣き始めた。何故かは分からないが、寂しいらしい。
 仄々はデンを寄せて、再びポンポンと。
「デンさん、ほら、見つけましたよ。きっとあれがあなたの想い出です」
 光る巻貝を見つけた仄々。三角の耳を寄せるとざざん、ざざんと海の音が聴こえてくる。デンにも聴かせてやろうと巻貝を近付ければ、貝は溶け、はっきりと聴こえる音となりデンの中へ。
 ぽわんとデンは光を内に宿した。
「あ、思い出した。思い出したよ、おにいさん……!」
 いつか、帰ってくるね。そういって男は船に乗り、生まれた国へと戻っていった。
 満月の祭りで彼と共に買ったランタンの灯を、女は見続ける。悲しい目だった。
 僅かな時が経って赤子を抱く女は変わらず毎夜、ランタンを灯す。悲しい目はいつしか穏やかなものとなる――けれども月明りのない夜は泣くのだ。
 鳥になって海を渡れたら良いのに、と。
『おかあさん、いつも泣いてるとお月様も悲しくなっちゃうでしょ』
『お月様なんて、今夜はないでしょう?』
『でも、ほら、いつも見てるよ』
 子がデンを指差す――月のかわりに夜を照らし続けてきたランタンを。
 力のなさを感じていたデンは救われた気がした。

「デンさんはずっと見守り続けてきたのですね」
 提灯をぽん、ぽんと。
 光を思い出したデンは淡い黄の輝きを見せ、模様はくっきり。あたたかな光だ。
「おにいさん、幽世を救いに来たんでしょう? 案内するね」
「ありがとうございます」
 ぽわぽわとデンが飛び、仄々はその後を追った。
 仄々はこの世界に思いを馳せる。
(「大切な方との再会が世界の終焉を招くとは……何ともやり切れませんが……」)
 きっとデンも他の妖怪たちも会いたい人がいるはずだ。けれども――、
「……ともあれ世界を救いましょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​

蔵座・国臣
この世界は、本当に、脆いのだな…

鉄彦…いや。大型バイクに乗って移動なんてすれば、妖怪達にぶつかってしまいそうだな。ライトだけ付けて、降りて押して、落とし物を踏まないよう、進もう。

慌てず、騒がず、ぶつかって怪我などしないように逃げるか、まとめて一塊に集まるように。光る落とし物を見たら近くのおくり提灯か猟兵に渡してくれー。などと、声をかけながら…提灯。いや、提灯と行灯の違いが分からんな。ランタンもいるし…まぁ、彼らの落とし物を探そう。
こういう世界だ。“縁”のあるものであれば見つけやすそうだが…私に縁…医療器具?医者を患者に届けたおくり提灯など、いてもおかしくない、か



 ガッシャン!
「あいたー!?」
「大丈夫か」
 派手にぶつかる音が聞こえ、蔵座・国臣(装甲医療騎兵・f07153)は咄嗟に声を掛けた。振り向く時には「だいじょうぶ!」と素早い返答。
 屋台から出てきた妖怪はちょっとよろけていて、国臣は僅かに眉を顰めた。
「避難の基本は『おはし』だ」
 手を貸してやりながら諭すように国臣。
「おはし?」
「おさない、走らない、喋らない、だ。――いいか、君たちもだ」
 ぐるりと周囲へと目をやれば、このような中でも賑わう店がある。妖怪が道具妖怪を売る店で、今は飛ぶようにおくり提灯が客の手に渡っているところだった。
 その騒ぎに思わずこめかみを押さえてしまう。
「慌てず、騒がず、ぶつかって怪我などしないように逃げるか、まとめて一塊に集まるように」
「集まった!」
 国臣の言葉を聞き、寄ってきた妖怪の子供たちに「良い子だな」と告げる。
「丁度、天狗がいる。小さな子たちから送ってもらうといい。小さな動物妖怪たちは」
 と、籠の中へ小動物妖怪たちを入れていった国臣は狸と狐へと目を遣った。
「大きな鳥に化けて、少しずつ連れ出してやってくれ」
「ひえ」
「はーい」
 大きな鳥に化けた妖怪が、籠を括る紐をそれぞれ銜えて飛翔する。
「後の者たちは臨時の避難所へと向かおう。待っていれば猟兵たちが世界の崩壊を止めてくれるはずだ」
「すまんね、センセ。手伝ってもらっちまって」
「助けを必要とする場で当然のことをしたまでだ」
 大型バイクの鉄彦を押して歩く国臣はライトを付けた。いつの間にかちょこんと乗っていた妖怪に話しかけられ、応じながらちらっと目を向けた。
「センセのそれはおくり提灯かい?」
「……普通の宇宙バイクだな。おくり提灯は……いや、提灯と行灯の違いが分からんな。ランタンもいるし……」
「そうそう、ランタンや瓦灯もあるし」
 ケタケタと笑いながら妖怪は掌に収まる瓦灯を取り出した。
「ふむ、定義が難しいな――何はともあれ、光ったものは拾っておこう」
 仄かな光を零す陶器を見つけても、持ち主とされるおくり提灯は見当たらない。
「センセ。この籠に入れておこう。避難所で必要とする者がいるかもしれない」
 妖怪の言葉に、そうだな、と国臣は頷いた。籠には光る物や畳まれた提灯が入っており、その一つを国臣へと差し出す妖怪。
「センセもおくり提灯を必要としなすってる猟兵サンだろう?」
「……ありがとう」
 提灯を開けば『金創』の文字。外科医の持ち物だったのだろう。
「こういう世界だ。“縁”のあるものであれば見つけやすそうだと考えてはいたが――」
「縁! 良い言葉だねぇセンセ。俺ら妖怪にとっちゃ美味いモンだぜ。それじゃあ頑張りなすって!」
 鉄彦から飛び降りた妖怪が臨時の避難所へと入っていく。

「おくり提灯、君は何か覚えていることがあるか?」
「――」
 じっと見つめられる気配がした。されど虚ろ。
「――まあ、そう気を落とすな。そうだな、光る医療器具などを探してみよう」
 ぽんぽんと提灯を叩き、国臣は光る物を探し歩く。
 途中、怪我をして蹲っていた化け狸の脚を治療したり、破れ飛べなくなった木綿の妖怪を縫い合わせて、と困っている妖怪を助けていった。
(「また見つめられているような……」)
 このおくり提灯は無口なのだろう。気配は感じれど、息を潜めている様子。まるで国臣のやることを知っているように。
「先生、患部はよく見える……?」
「ああ、大丈夫だ――ん?」
 問いが提灯から発せられたものだと、応じてから気付く。
 木綿妖怪の応急処置を済ませて避難所へと送り届ければ、先程の妖怪が「センセ」と国臣を呼んだ。
「センセが声掛けてたから幾つか光る物が集まったんだが、センセの子のところに合うモンもあるんじゃねぇか?」
 鋏、茶筅、灯芯と様々な物が集められているなか、ふと国臣は丸い眼鏡を手にした。
「君の先生は、良く見えていなかったのではないか?」
「?」
 国臣が問いかけるも、相変わらず虚ろな様子の提灯である。
「きっと晩年は眼鏡をして、たくさんの明かりを焚いたことだろう」
 試してみてはどうだ、と眼鏡を提灯の中へ入れてやれば、煌々とした光が灯る。
「あ、先生、思い出したよ」
 夜中に叩き起こされて、眼鏡と提灯と、そして医療道具を抱えて急ぎ足となる医者。足を滑らせ転ばないように、迷わないように道を照らし続けた提灯は、いつも患者の元へと先生を送り届けていた。
 手元が暗ければ、側に。
 足された行灯に身の内の火を分け与え、煌々と照らし出した。
 生きること、死ぬこと、伴う感情は鮮烈で金創の提灯は余すことなく受け入れるため、何でも素直に受け取るおくり提灯となった。
「先生、疲れちゃって泣く夜もあったけどさ、一緒にいれて嬉しかったよ」
「そうか。患者にとっては親身に診てくれる、良き御仁だったのだな」
 再びぽんぽんと提灯を叩く国臣。
「先生、先生もきっと――」
「センセ! ちょっと診て欲しい奴がいるんだが!」
「ああ、今行く」
 提灯が何かを言おうとしたその時、国臣を呼ぶ妖怪の声。スッと立ち、向かう動きは提灯がいつも見ていた姿であった。
 患者の元に跪いた国臣の背が丸くなる。
 送り届けたのが終わりではない。きっと患者にとって、光が示されるのは今この瞬間なのだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノイン・フィーバー
先の妖怪の方に習って、黒いシミのついたレトロな懐中電灯を手に取ります。
→黒いシミは実は血の痕。

「……送り火その9サン、アナタはどんな光をもっていたのです? 覚えていますカ?」
「覚えていない方が、案外マシってこと」
「中々穏やかではない」

人海戦術ということで『彼女』を召喚。
『彼女』はわき目も振らずに、一つのガラクタを手にして戻ってくる。


「ああ、ナルホド。『そちら側』を垣間見た方々ニは、一番必要なものですネ」

持ってきたのは矢印の形の標識。いいや、進むべき道標。

想い出:
懐中電灯は狂気の冒険をした探索者を現実へ導いた送り火です
探索者が生還できたのは、きっと送り火のお陰もあったのでしょう
それはまた別のお話



「猟兵さん! アンタも帰れそうにないんだったらおくり提灯を探すといい。彼らなら無事に目的地まで送ってくれるはずだ」
「おくり提灯ですカ――昔々ならではですネー」
 慌て狼狽える妖怪たちの一人に声を掛けられたノイン・フィーバー(テレビ顔のメカ野郎・f03434)はにこやかな声で応じた。
 首を僅かに傾ければヒーローマスクでもあるテレビの重心も傾く。周囲を見回せば、先の妖怪たちの声掛けに出てきたのだろう、カツンカツンを自己主張の激しい懐中電灯を見つけて手に取った。
 銀一色というメタリックな懐中電灯は何やら生々しい黒いシミがあり、ノインがスイッチを入れても明かりが点くことはない。カチ、カチとオンオフの音だけ。
「レトロでありながラ、現代的なおくり提灯サンですネ……おくり提灯その9サン、アナタはどんな光をもっていたのです?」
 覚えていますカ? と問いながらもテールキャップを外し電池の有無を確認した。あやかしメダルのような、あやかし印の入った電池が入っている。となれば、点かないのは本体の故障……いや記憶の有無によるもの。
「ええー、おいら、覚えてないや。覚えてない方がマシってこともあるでしょ」
 その9の声はあっけらかんとした少年のものだった。が、どこか空虚を感じるもの。
「中々穏やかではないですネ」
「でさ、にーちゃん」
「にーちゃん……はい、何でしょうカ」
「何でおいら、9なのさ?」
 とても不思議そうに少年なおくり提灯が尋ねる。ノインは簡単なことですよ、と呟いた。
「この辺りで9番目ニ見つけたこと、9には馬九行駆という言葉モありましてネ。意味は……」
 ――万事何事も上手くいく。
 そう告げてにっこり顔文字を画面に映すノインであった。

 光を探すにも、屋台がひっくり返って物が散乱した市の中だ。光る物を見つけてもそれは元々光る不思議アイテムだったりするので、探し物をするには苦労しそうである。
「ここハ幽世。澱んだ空気も気持ちよく感じる彼女ニ任せた方が良いでしょうネ」
「『彼女』?」
「要は人海戦術ですネ」
 ――とノインが言った瞬間、彼の画面な顔から白い腕がにゅっとやや勢いよく出てきた。
「ひえっ!?!?」
 間近で見てしまったその9――名が気に入ったようで、その9と呼ぶことになった――が、ガタガタとノインの手の中で震えた。
「ショータイムです、ミス。本能のままに、その9さんにまつわる物を探してきてください」
 ぐいぐいと力強く画面の縁を押さえつつ出てきた『彼女』は、両手はそのままにくるんと前転するように地面へと降り立った。
「けっこーあぐれっしぶだね」
「いや~、空気がとても美味しイようで――体も軽いノではないかと」
 カクリヨファンタズムの世界は馴染むのだろう。『彼女』はわき目も振らずに進み、剛力で崩れた屋台を退かし始めた。
 ガタンガタガタッ! と、豪快な音が響き渡る。
 そして何かを見つけたのか、やや引きずりながら一つのガラクタを手にして戻ってきた。
「ああ、ナルホド。『そちら側』を垣間見た方々ニは、一番必要なものですネ」
 そう言ったノインの顔が矢印マークを映す。
 『彼女』が持ってきたものは、長い年月に色褪せ剥がれてしまった矢印の形の標識だ。
「進むべき道標ですネ。その9サン」
 ノインの声に合わせ、その9に向かってスッと道標を差し出す『彼女』。
「これがおいらの?」
 カチ、とスイッチをオンにしてノインが矢印を照らすかのようにヘッドを向ける――そうして標識が示す方へ向ければ、一瞬にして標識は消え、明かりがパッと点いた。
「あ! 思い出した! よ!」
 それは、一度足を踏み入れたら戻れない。そんな場所へと入った探索者に『最期』まで寄り添った記憶だった。
 広がる闇のなかで、探索者――彼は一度幽世へと迷い込んだ。変わらずの闇であったが、その9は覚えている。生ぬるい風が吹き、照らし出した先も黒い泥のような地面に見えたがそれは凝りつつある血溜まりであった。
 道具妖怪でありながら、ぞっとしたものだ。光は自身が放つ一筋のみ。祭囃子が追いかけてくる。
 家へ、家へ、と念じれば道は見いだせた。
「探索者サンは生還出来たのでしょうか?」
「うん。無事に送り届けたよ――ちゃんと、安寧の終わりを迎える時まで」
 狂気の冒険は狂気を生み出す。幸い、彼はその9を手放さなかったので、その9は光を照らし続けることができた。彼が狂わないように。
「その9サンは、優しく慎重な方なのですネ。今度はワタシを送っていただけますカ?」
 何処に、とその9は問う。
「この冒険の先、世界の崩壊を止めるための場所ニ」
 テン、テン、と弦を弾く軽やかな音がノインの元へと届いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

カクリヨの世界には何度か来ているけれどここは不安定で少し落ち着かない
まずはおくり提灯さんに声をかけよう
はい、そこの提灯さん(ガシッと捕獲)
想い出を探すお手伝いをしに来ました
どんな感じの想い出かわかります?
暖かいとか
嬉しいとか
幸せーとか
…漠然としすぎかな
でも諦めない
よし!アヤネさん
あちこち歩いて探索です
提灯さんが何がきっかけを思い出せるよう沢山話しかける

想い出を見つけることができたらよかった…と喜ぶけれどアヤネさんの顔を見てすぐに両親のいない彼女の寂しさを察し手を握る
大丈夫
二人なら寂しくないですよ

あ、アヤネさん
滅ぼすとか物騒ですって
世界を犠牲にせずとも巡り会ってみせますよ
そう言って微笑む


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
脆い世界
僕なら多分一人で滅ぼせそうな
以前はいつもそんなことを思っていた
ソヨゴと出会うまでは

そうだネ
まずは提灯の落とし物を探そう

探し当てた想い出は
祭りの日に両親と逸れてしまう子供
泣いて絶望して
でも最後には出会える
そんな話
出会えてよかったネ
と口にするけどつい寂しさを隠せない

思いがけず手を握られて
そうだネ
ソヨゴと一緒なら寂しくない
もう愛する人と別れたくはない

三味長老の気持ちは分かる
ソヨゴと離れてしまってまた巡り会えたら
世界一つくらい滅ぼしても
僕は構わない

ソヨゴの自信ありげな言葉に思わず吹き出す
うんそうだネ
僕らならきっと大丈夫だ

提灯に案内をお願いする
悲しい話を終わらせに行こう



「幽世の世界には何度か来ているけれど、ここは不安定で少し落ち着かないですね」
 崩壊の影響で変な区画に飛ばされては堪らない。何らかの拍子で引き離されないようにと、城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)とアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)は手を繋ぐ。
 冬青の言葉に頷きながらアヤネはIFを思う。
(「本当に、脆い世界。僕なら多分一人で滅ぼせそうな――」)
 冴え冴えと。世界をその瞳に映す以前ならそう考えていた、という自覚はあった。
(「ソヨゴと出会うまでは」)
 繋ぐ手へ僅かに力を込める。
 気付いた冬青がアヤネを見て首を傾げて。ふ、とアヤネは微笑む。
「? アヤネさん? まずはおくり提灯に声をかけなきゃですね――ということで、はい、そこのおくり提灯さん」
「ぴぎゃぁぁぁ!?」
 がしっと、赤い提灯を背負った狸を捕獲する冬青。首根っこを掴まれた狸はぷらんと吊られて、呆気に取られたのちパタパタと短い手足を動かした。
「ソヨゴ、イニシアチブの取り方がアグレッシブだネ」
「えっそうですか?」
 わりと迷いがないというか、即決というか。安全そうに見える場所におくり提灯with狸を拉致ってから、二人は繋いでいた手を離した。
「にゃ、な、にゃ、何たぬ!?」
 膝元あたりまでしかない狸を、二人で屈み囲う。
「狸さんもおくり提灯なんですか?」
「こ、この過去の記憶を失った哀れなたぬをたぬ鍋にしても美味しくないたぬよ!」
「記憶がない? ……ちゃんとおくり提灯みたいだネ」
 おくり提灯with狸が背負う赤い提灯には『狸』の文字。間違いはないだろうとアヤネが言う。
「おくり提灯さん、想い出を探すお手伝いをしに来ました。どんな感じの想い出かわかります?」
「ふぇ?」
 掴んだ衝撃を打ち消す勢いで、穏やかな表情と声音で冬青が尋ねる。きょとんとするおくり提灯with狸。
「暖かいとか、嬉しいとか、幸せーとか」
 狸のくりっとした瞳に冬青が映る。彼女の笑顔にちょっと反応したようだ。けれども首を傾げる狸。
「……漠然としすぎかな。でも諦めませんよ」
 よし! と狸を抱えて立ち上がる冬青。
「アヤネさん、あちこち歩いて探索です!」
「そうだネ。まずは提灯の落とし物を探そう」

「おくり提灯さんはどうして狸の姿をしているのかな?」
「たぬ」
「何かに化けるためだろうか」
 ずんぐりむっくりなおくり提灯with狸を交替で抱えながら、散乱した市を歩く。
「そう言えば、さっき狸の妖怪が葉を使って鳥に化けていたネ。おくり提灯は葉っぱを持っているのかしら?」
「はっぱ?」
 きょとーん、とした顔になるおくり提灯with狸。
「アヤネさん、何だか葉っぱのような気がしますね」
 変化のための葉を知らぬ狸。ぽっかりと空いた記憶はそこにあるのかもしれない。
 ふぅむ、とアヤネが周囲を見回し、冬青は一方を注視する。地面にはイチョウやモミジの葉がいくつか落ちている。赤と黄、ほんのすこし変化しつつある緑が散る地面に違う彩りが一つ。
 見つけたそれは淡く光る緑の葉。
 摘み、おくり提灯with狸の頭に乗せてやれば、フッと葉が消えた。すると背負っている提灯が灯り、赤々とした光を放つ。
「わ、思い出したたぬ。お姉さんたちも迷子たぬ?」
「……迷子?」
 おくり提灯with狸に訊かれ、思わずリピートするアヤネ。狸は頷いた。そっと小さな前片脚を差し出す狸。
『ひぐっ、おかあさん、おとうさん、どこー』
 その時、悲痛な声が聞こえてビクッとした。冬青が辺りを見回すが、誰もいない――否、壁を照らす提灯の光に薄く映る子供。
 子供を見たおくり提灯with狸は葉っぱを使って、泣く子と似た人の子へと変化した。
 涙を拭ってやり、頭を撫でて、泣き過ぎて熱くなった手を握る。
『なかないで』
 冷たくした手拭を渡して、子供の手を引いて歩いた。
 その時の狸は、自身の背丈と同じものにしか変化できず、行き交う大人の間を縫うように歩く。彼らが気付いてくれるように赤い提灯を掲げて。
 祭りの喧騒も、ひっくひっくとしゃくる子の声も聴こえてくる。
 泣いて絶望したこの子を送り届けよう――両親の元へ。
『ほら、君のおとうさんとおかあさんが、あそこにいるよ』
『……! おとうさん、おかあさん!』
 するっと手が離れて子供が駆けて行く――その姿を見送るおくり提灯の、光の想い出。
「ありがとうたぬ。思い出せたたぬー」
 そうしてどこからか出した葉っぱを大切に手にして。
「ん、思い出せて……あの子が両親と出会えてよかったネ」
「はい。おくり提灯さんの想い出を見つけることができて、よかったですね」
 あたたかい想い出だなぁと。アヤネの声に続いて喜ぶ冬青は、ね、と彼女の方を見て――。
 そっと、けれどもしっかりと手を握る。何を掴めば良いのか、途方に暮れたような、行き場を失ったようなアヤネの指先は儚い。
「……大丈夫、二人なら寂しくないですよ」
 離れたくない、離したくない、ここにいてね、ここにいるよ。
 指先が絡む。
 寂しさを隠せていなかったアヤネの唇が震えた。
「……――そうだネ。ソヨゴと一緒なら寂しくない――もう愛する人と別れたくはない」
 繋いだ手では足りず、こつ、と額がくっついた。
 アヤネの願いであり、意志。
 過去には叶わなかった願いであり、一度砕けたかのような意志。
「三味長老の気持ちは分かる」
 あのね、とアヤネが言葉を続ける。
「ソヨゴと離れてしまって……また巡り会えるなら、世界一つくらい滅ぼしても僕は構わない」
 その時のアヤネはどんな瞳をしていたのか。
 スッと離れた時にはいつものアヤネの目で、冬青は確認することができなかった。でも。
「あ、アヤネさん、滅ぼすとか物騒ですって! 世界を犠牲にせずとも巡り会ってみせますよ」
 そう言って微笑む冬青。安心して。任せて。
 声音と笑みの下にあるのは自信。
 思わずといったように、アヤネは吹き出す。
 くくっと声が漏れた。
「うん――うん! そうだネ。『僕ら』ならきっと大丈夫だ」
 一人ではふらついても、こうして手を繋いで。
 二人だと支え合えるのだ。繋ぐ絆は少しずつ強くなって、いまのふたり。
「おくり提灯」
「ん?」
 おくり提灯with狸は葉っぱをくるくると弄っていた。声を掛けるアヤネを見上げる。
「鬼火の三味長老の元へと案内をお願いするよ」
 悲しい話を終わらせに行こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リグ・アシュリーズ
わ、わわ!思い出の品たち、ばらまいちゃったのね。
こんだけ散らかってちゃ私の部屋といい勝……んっんー!
何でもないわ!さ、一緒に失くした物探しましょ?

ね、何か覚えてる?
困ったわね……じゃあ、ひとまずお散歩しましょ!
道中話を聞きながら、これは?と見つけたものを
提灯さんに尋ねて確かめるわ。
違う?じゃ、ヒントちょうだい!
失くしたのは、あったかいもの?とがったもの?

わかった、これね!
勢いよく掲げたのは(ここにねこあじMSがすっごく笑える頓珍漢なモノを入れる)で。
えーー。いいじゃない、もうこれで!

うん?何でこんな笑顔なのって?
笑って探した方が、きっと見つかりやすいわ!
探しに行くんじゃなく、手繰り寄せるのよ!



「まあこれも妖怪助け。ここらの皆でおくり提灯を助けてやろうじゃねぇか!」
 おくり提灯たちを保護した妖怪の班が、長の声に「おおーっ!」と同調した。
「しっかしこいつらよく想い出を落とすよなぁ」
「おくり提灯だからな、仕方ない仕方ない」
「え、ええー……想い出ってよく落っこちるものなの?」
 何だか慣れた様子の妖怪たちに、リグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)は戸惑いの声。
「存在意義を見失った道具妖怪なんざそんなもんさね」
「そうなんだ」
 大変だね、と、リグは一塊になってしょんぼりしているおくり提灯たちに声を掛けた。
 仄かに光る鋏、灯芯などを発見していく妖怪たち――けども作業は容易ではない。ひっくり返った屋台の下敷きになっていたり、下ばかり向いているので避難する妖怪とぶつかって荷物がばら撒かれたり。
「わ、わわ。大丈夫かしら?」
「だ、だいじょうぶー」
 目を回した妖怪を助け起こしたリグは、改めて市の惨状を眺める。
「こんだけ散らかってちゃ私の部屋といい勝b……んっんー!」
 思わず呟いた自身の言葉で我に返り、咳払い。帰ったら片付けよ。とかそんなことを思いつつ。
「何でもないわ! さ、私も一緒に失くした物を探すわね?」
「おー、じゃあ猟兵の姉さんはコイツを頼むよ」
 そう言った妖怪はしょんぼりしたおくり提灯たちのなかから、古びた携行用ランプらしきものをリグに渡した。
「? まぁるいレンズ。一体何に使っていたものなのかしら。ね、何か覚えてる?」
「んー、ぱたぱた?」
「ぱたぱた?」
 思わずフレーズを繰り返してしまうリグ。少し錆びたカンテラのようだが、丸いレンズが嵌めこまれている。
 困ったわね……と呟くリグだったが、次の瞬間にはぱっと笑顔になった。
「じゃあ、ひとまずお散歩しましょ!」
 道中、何か引っかかるモノがあるかもしれない。リグはカンテラを抱えて足取り軽やかに、散乱する市の中へ。

「これは?」
 リグが光るブローチを見つけて、カンテラに見せればカタカタと動く。
「違うのねー。カンテラさんは一体どんな想い出を落としたのかしら」
 ブローチは他のおくり提灯が必要としているかもしれないのでそのまま持ち歩く。周囲では臨時の避難所が起こされ、そこに入っていく者。小さな妖怪たちは、天狗や鳥に化けた狸と狐が飛翔して送っていく。
 時が経つにつれ、現場でも落ち着きが見え始めていた。よかった、とリグは一人頷く。
「ね。じゃ、今度はヒントちょうだい! 失くしたのは、あったかいもの? とがったもの?」
「あったかいもの、かな」
 あったかいものか~、と歩いていると食べ物屋台が並ぶ区画へとでた。妖怪たちはいなくて、食べ物が散乱している。
 ひゃあ勿体ない、と呟いたリグが「あっ」と声を上げ勢いよく屈んだ。
「分かった! これでしょ?」
 ばーん! と勢いよく掲げたのは光る肉まんであった。まだあたたかい。
「ちがうよぉぉぉぉ」
「えぇぇぇ。いいじゃない、もうこれで!」
 ガタガタと身を揺らすカンテラに、同じ声音で返すリグ。
「もー猟兵さん、あっそれ食べちゃだめだよ!?」
「た、食べない、食べない。ちょっと、わーほかほかしてるなーおいしそうだなー世界が落ち着いたら食べにこようかなーとか考えてるだけで」
 ほかほかの光る肉まんも他のおくり提灯のものだろう。持ち歩いていたが、お手伝いで探し物をする妖怪を見つけて二つとも預けた。
「猟兵さんってば楽しそうだね」
 時折起こる丁々発止に息を吐きながらカンテラが言う。
「うん? ――そうね。笑って探した方が、きっと見つかりやすいと思うの! 探しに行くんじゃなく、手繰り寄せるのよ!」
 にっこりとした笑顔でリグが言う。
 笑顔を見たカンテラが「飴ちゃん」と呟いた。呼び起こされた、何か。
「飴ちゃん? あっ、あそこに転がってる光る飴があるわね。これかしら」
 可愛らしい紙に包まれた光る飴。カンテラの蓋を開けて入れてやれば、ぽわっと光が灯った。
「! 猟兵さん、思い出したよ!」
 光が照らし出したのは夜の駅だった。汽車が到着し、乗降していく客たち。一人だったり、家族連れだったり。
 別れの抱擁をしたり、離れがたいのか、送る者送られる者が車窓越しにお喋りを続けていたり。
 駅員とともに光景を見守っていたカンテラ――合図灯――は、ここに再会の喜び、別れの悲しみ、色んな感情が詰まっているのを知っている。
『よい旅を』
 駅員が言う。ポケットに忍ばせていた飴を泣く子供にあげれば、きょとんと不思議そうな顔になり、ぱっと笑顔の花が咲く。
『ばいばい』『ありがとう』
 子供が手を振れば、駅員も振り返し――合図灯は彼からも笑顔の気配を感じ取った。 
 よい旅を。
 合図灯は振られ、時にぱたぱたと光を明滅させられて。皆が無事に目的地へと着けるよう、願い送る。
 そんな合図灯の話を聞いて、リグは微笑む。
「ほんと、あったかい想い出ね」
「そうでしょ? 見つけてくれてありがとね。それじゃ、こんどは僕の番」
 パタパタと光が明滅し、リグと合図灯の前は新たな風景が広がった。
「合図灯さんは私がどこに行きたいのか、分かっているのね」
 どこかぼんやりとした声でリグが呟く。
 旅の途中だけれど、今のリグが行きたい場所。一歩を踏み出せば、どこからか汽笛の音が渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈍・小太刀
また崩壊してるの?ほうかいほうかい…
なんてのは置いといて(誤魔化し
こんなにころころ崩壊して
幽世ってのは本当に不安定なところね

落とし物?全くしょうがないわね
私も探してあげるからさ
見つけたらちゃんと連れてってよ?

ええとそうね、手掛かりは無いの?
色とか形とか、音とか…

パラパラ、しとしと
手掛かりの音は時に軽快に時に穏かに
馴染み深い自由気ままな音達は頭上から

雨粒がきらりと光り
あ、傘だ!

灯る光の色は優しくて温かくて
何故かな家族の事を思い出す

これもきっと誰かの大切な思い出の品なんだね
おくり提灯、アンタもお気に入りなの?
ふふ、見つかってよかったね

じゃあ約束通り
鬼火の三味長老の所に連れてってね!

※アドリブ歓迎!



「ひゃー大変だ大変だ~」
「何が起きてるんだろね?」
 妖怪たちがあたふたとしながらも、売り物を回収したり、逃げ道を探したり。
「向こうの通りはもう駄目だなぁ! 無重力~」
 様子を見てきた妖怪が戻ってきた。
「幽世、また崩壊してるの?」
 その時、カクリヨファンタズムへとやってきた鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)の声に、ぱっと振り向く妖怪たち。
「あ、猟兵さぁぁぁん」
「そうだよ、崩壊してるの」
 ちょっぴり泣き声となっている妖怪たちにうんうんと頷く小太刀。
「ほうかいほうかい」
「「…………」」
「…………なんてのは置いといて」
「ちょっと世界、一枚崩壊させちゃって」
 妖怪の言葉に応じたのか否かは分からないが、小太刀の足元の石タイルが一枚、滑るようにして消えた。
「そ、そこ空気読むの!? こんなにころころ崩壊して、幽世ってのは本当に不安定なところね」
 引っこ抜かれる座布団から飛び退いたが如く、二歩分下がった小太刀は「まったくもう」と眦を上げた。つんつんしてる。
「つんつんお姉ちゃんは世界を救いにきたの? ――……どうしたの?」
「ちょっと、目の体操をしてるの。じゃなくて、そう、崩壊を止めに来たの」
 妖怪が小太刀を呼んだ時、思わず目を覆ってうにうにとしてしまった彼女は、こくんと頷いた。
「でも道が分からないのよね」
「じゃあおくり提灯の出番だね!」
 そう言って妖怪がガラクタの山からひとつの提灯を救い出した。
 時代劇などでよく見る古風な提灯だ。丸形で青海波の透かし模様が入っている。
「この子、落とし物をしちゃったみたいで」
「落とし物? 想い出かしら。――全くしょうがないわね」
 やや跳ねる張り具合の提灯を小太刀はぽんぽんと軽く叩いた。
「私も探してあげるからさ。見つけたらちゃんと連れてってよ?」
「はぁ~い」
 小太刀の言葉に、おくり提灯――弓張提灯は幼い声を返した。

 この辺りの不揃いな石畳たちはまだ動くことはなく、妖怪たちが避難していった市はがらんとしていた。
「何か覚えていることとかあるの?」
 小太刀の問いに弓張提灯は「ううーん?」と唸るばかり。ちょっと促してみた方が良いのかもしれないと、小太刀は考える。
「ええとそうね、手掛かり――例えば色とか形とか、音とか……」
「おと。…………ぱらぱら、しとし、と? たんたんたん」
 弓張提灯は、戸惑いを少し、そしてリズムよく答える。
 と、その時、ぱたぱたと一粒、二粒と滴が落ちてきた――気がした。
「……今」
 小太刀は掌を返し、幽世の夕の空を見上げた。
 ぱたん、と頬を打つ何か。
「ぱらぱら、しとしと」
 弓張提灯が歌う。
 手掛かりの音は、時に軽快に、時に穏かに。
 その時、茜の空に染まった一滴ほどの光が落ちてくる。縁が繋がった瞬間。
 たんっと飛沫が散ったそこには、
「あ、傘だ! ねえ、あの傘光ってるよ」
 光は雨だったのか、それとも傘だったのか。仄かに光る傘を拾い、小太刀はぱんっと開いた。柄は籐巻き、内には飾り糸が複雑に織りなす蛇の目傘。
 ぱたん、ぱたん、と滴の落ちる音がする。
 ぱたぱたぱた、と音に伴って傘は光る滴となって溶け、弓張提灯に降り注いだ。
「あ。おもいだした、思い出したよ」
 弓張提灯が言い、ほわっとその身に灯った光が周囲を照らし出した。
 少女は窓から雨景色を眺めていた。煙る世界から切り離されたかのような一室。雨音に満ちて、しとやかなほんの肌寒い空気。
 ざあざあと降っていた雨がいつしか小降りとなり、しとしとと静かな色を。
 たん、たん、と軒から落ちる滴の音を響かせる。
『お迎え……』
 少女が着物を羽織り、弓張提灯を灯した。蛇の目傘を持ち、外へと出る。
 雨の日の夕暮れは季節関係なくつるべ落としだ。歩けば水が跳ねて着物の裾は汚れてしまうけれども、夜が訪れる前に少女は灯を早く届けたかった。もう辺りは暗い。
『おとうちゃん!!』
 男が駆けてくる。走った方が早い、と灯りも傘も持たない彼に少女は傘を差し出した。
『ああ、いと。やっぱりお前だったか』
 娘の名を呼び傘の柄を取った父が微笑む。灯りが見えたよ、と。
『家に帰ろうか』
 ――そんな弓張提灯の光と想い出に、
(「何故かな、家族のことを思い出すよ」)
 と小太刀の胸もほわほわとあたたかくなる。
「きっと、その親子の大切な思い出の品なんだね。アンタも、お気に入りなんでしょ?」
「うん。いとはいつもお迎えに行っててね、二人で家に戻ったらもう暗くってね、行灯にぼくの火を分けていくんだ」
 雨の日は特に肌寒く、家が温まってゆく様が好きだった。
「そっか。ふふ、大切な想い出、見つかってよかったね」
 そう言った小太刀に「ありがとう」と弓張提灯が頷けば、持つ手が「くっ」と僅かに跳ねた。
「じゃあ約束通り、私を鬼火の三味長老の所に連れてってね!」
「うん!」
 いつしか水たまりの続く道。どれもこれも光を映さない水たまりであったが、とある水たまりが反応して月の光のように。
「こっちだよ。あの光を辿って」
 ぱしゃんっと水たまりに入った小太刀に、次なる光。鬼火の三味長老へと導き続いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK!
カクリヨファンタズム……初めて訪れましたが、大変なことになってます
何もかもごちゃごちゃで、目眩を引き起こしそうです
郷愁を誘うこの雰囲気も、本当に好ましく感じられるのは事件解決後の事になるのでしょうね

この世界、幅広い文明様式が存在しますから、
あの子達の容姿から大まかに……あ、ランタンが出て来ました
何となく西洋の感じは漂っていますが、断定はできません
まずは話を聞いてみましょう
えっと、おくり提灯さん、何か覚えてますか?
本の虫……夜道で躓いてばかり……?
何だか、同業の香りが……

推理を終えたら探し物を手伝います
迷ったら勘に頼ってみましょう

「……わわっ」
「!(ぴーん)ふふ、ここですね」



 どん! がらがっしゃん!
「わーやっちゃった~」
 逃げている時に何かに引っかかったのか、派手に転ぶも一回転した狸がのんびりと言う。
 外灯や町を飾るぼんぼりはぱちぱちと点滅し、その地面には物が散乱。妖怪も落ちていれば、誰かの物なのか売り物なのか判別がつかないくらいに雑多に物が転がっている。
「カクリヨファンタズム……初めて訪れましたが……大変なことになってます……ね……」
 クララ・リンドヴァル(白魔女・f17817)の呟きはどこか呆然としたものだ。
(「郷愁を誘うこの雰囲気も、本当に好ましく感じられるのは事件解決後のことになるのでしょうね」)
 カーンカーンと『火の用心』と刻まれた櫓から鐘の音が鳴る。乱雑な音のなかで鳴り響いた鐘音はクララの耳を劈いた。
「きゃ……何もかもごちゃごちゃで、目眩を引き起こ――いえ今まさにそれでは」
 くらくらっと目眩を感じ、よろけるクララ。
「わ、わ、大丈夫? 猟兵のお姉ちゃん!」
「は、はい、大丈夫だと思います……」
 狐耳を生やした妖怪の少女に支えられ、クララは礼を言う。
「お姉ちゃん。そんなにふらついてちゃ、あっという間にさらわれちゃうよ」
「し、しゃきっとしますね」
 宣言は言霊に。クララは背筋を伸ばした。
 そんな彼女に安心したのか、妖怪の少女は「気を付けてねー」と言って避難していく。
 見送ってから周囲を見回すクララ。
 おくり提灯を持つ妖怪もちらほらと、天狗は小さな妖怪たちを抱えて空を飛ぶ。
(「この世界、幅広い文明様式が存在しますから、あの子達の容姿から大まかに……」)
 いうなればハロウィンに作られるカボチャのランタンも、おくり提灯となる。
 その時。
 どん! がらがっしゃん!
 と、再び音がして籠の中から転がり出てきた灯芯やテルキャーリ。そして、
「アイタタタ……も~いまやったのどこの妖怪ー!?」
 どこかツンツンとした女の子の声は、地面を転がったランタンから発されている。
「だ、大丈夫ですか? 怪我は……どこか欠けたりは」
「あたし、結構丈夫だからだいじょぶ!」
 クララは転がったランタンを優しい手つきで拾う。銀彩に覆われたアイアンの曲線は細やかで、ガラスをはめ込んだランタンだ。
(「西洋のものでしょうか?」)
 そう考えていると、じいいっと見つめられる生き物の気配。ランタンもまた妖怪だ。
「おくり提灯……いえ、おくりランタンさんはまだ光を持っていますか?」
「ひかり? あ、あれっ? あたしなにこれどうなってるの??」
 かたかたと震えるおくりランタン。
「わわっ、落ち着いてください。お手伝いしますから、光、見つけましょう?」
 宥め励ますようにクララが言うと、おくりランタンの震えが止まる。
「ひかりが何かわからないけれど、うん、見つけたい」
「それでは――えっと、おくりランタンさん、何か覚えてますか?」
「おぼえ?」
 不思議そうな声のおくりランタン。クララは考える。
「一緒にいた人の感じとか、あなたを取り巻くものとか」
「ん~ん~~~~? よく誰かのせいで転がったりしてたよ」
「おっちょこちょいな方だったのでしょうか」
「あとすんごい分厚い本の横で酷使された」
 …………あれ?
 何となく心当たりがあるような? とクララの心臓がどきりと跳ねた。
「何だか、同業の香りが……あ、いえ、おくりランタンさんの落とし物、絞り込めたかもしれません」
「ほんと!?」
 クララはおくりランタンを連れ、散乱した市のなかで古書が多く集まる場所へと向かう。
「類は友を呼ぶともいいますし、こちらに紛れているような気が」
 この辺りはまだ崩壊は始まっていないようだ。けれども人がいないということは避難してしまっているのだろう。
「! ――ふふ、ここですね」
 ぴーん! ときたクララの視線の先には、ワゴンの中に放られている本たち。仄かに光る一冊があった。
「見つけました。きっとこれでしょう…………重いですね」
 分厚い本を手にしたクララは、中身が気になりページを捲る。
 ぱら、ぱら。横へと流れていったページが切り離され、一筋の光となった。
「……わっ」
 光たちはおくりランタンの中へと入っていき――、
「あああぁぁぁ! 思い出した! ねえねえちょっと聞いてくれる!?」
 その身に強めな光が灯ったおくりランタンが、想い出を語る。
 その子はとても本が好きな女の子だった。学び舎で本を読み、図書館で本を読み、借りて帰る。けれども帰る頃はいつも暗くて、父親が仕事帰りに迎えにくるのだ。
 ランタンをかざし夜道を行く。少女は父に手を引かれ、もう片方の手には開かれた本。
 父親が生きてた時は帰り道も安全だったけれども。
 父親が他界してからの帰り道。少女は片手にランタンを、もう片方の手には開かれた本。
「ほんと危なっかしいのよあの子! 石畳って舗装されてても、すっごく躓きやすいものなのよ!?」
「ご、ごめんなさい」
「あたしを本に翳すんじゃなくて、ちゃんと前を照らして前を見て歩きなさいっての!」 
「本当にすみません」
 ぐさ、ぐさ、と言葉がクララにも突き刺さり、おくりランタンが言うあの子はクララのことではないのに何故だかついつい謝ってしまう。
「あの子、最期になんて言ったと思う? 『もっと本が読みたかった』だよ。おかあさんになってもおばあちゃんになっても子供たちに本を読み聞かせてたの。
 だからみんな、最期のあの子に本を持たせてあげたのね。あたし、あの子の近くでずっとずっと、一晩中光を灯し続けていたわ。でも、でも」
 ふぐっと涙声になるおくりランタン。
「あたしももっと一緒に読みたかった……!」
 わんわんと泣きだしたおくりランタンはほろほろと光を零した。地面で弾けた光が細やかに散って、行く先を示す。
「な、泣かないでください。おくりランタンさんの想い出が、せっかくの知識が、零れちゃいます。きっとまた一緒に読んでくれる人に巡り逢えますよ」
「ふぐぅ」
 クララがガラスを拭えばほろほろと零れ落ちる光が止まる。
「骨董蚤の市って出逢いの場でもあると思うんです……無事、市が開催できるように、事件解決への道を示してください」
 こくり、こくりと頷くようにおくりランタンが動く。
 鬼火の三味長老へと続く道を案内するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『鬼火の三味長老』

POW   :    べべべん!
【空気を震わす大音量の三味線の演奏 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    鬼火大放出
レベル×1個の【鬼火 】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    終演
【三味線の演奏 】を披露した指定の全対象に【生きる気力を失う】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 テン、テン、テン――テテテテ。
 弾く弦一音しばらく続くと、次には駆け上がるかのように連なっていく。
 おくり提灯に導かれ、道を見つけた猟兵が耳にする三味線の音。
 辿り着いたのは蚤の市の出入口付近の拓けた場所であった。あちらこちらに鮮やかな彼岸花が群生しており、鬼火が舞う。
 ――テンッ!
 猟兵たちの存在に気付いた鬼火の三味長老が撥を強く弾き、音が止んだ。
「何者だ。立ち入るな」
 本来の三味長老からかけ離れた威圧ある声。
 ベベン。
 と、再び一音。猟兵たちが駆けてきた道が消失し、先の方で新たな闇が広がった。
「あちらからお帰り願いたい。ここは私の世界、私の狭間、私の時間」
 テン、と音が合図のようであるかのように、空は夕暮れとなった。
「彼女とあれで織りなす、私の音」
 ベベン。風が吹き、揺れる彼岸花が擦れ合ってしゃらしゃらと音を奏でた。
 心地よい秋の音楽だ。僅かに鬼火の三味長老の口端が微笑むも、すぐに真一文字が結ばれた。
「……だがどうあっても邪魔をするというのなら、容赦はせぬ」
 そう言って鬼火の三味長老は猟兵を睨むのであった。
ネーヴェ・ノアイユ
……素敵な音色ですね。三味長老様と骸魂となられた娘様の息もぴたりと合っていることが伝わってくるほどですが……。この世界のため。気を引き締めて参りましょう。

三味線の演奏にて……。失いかけた気力をおくり提灯のバル様の灯りをふと思い出したことにより気力を取り戻します。
三味線の演奏に気を付けつつ……。三味長老様にお尋ねしてみます。
その娘様とどのように過ごした時間が大切だったのか。娘様はどのような時に楽しそうに演奏をしていて……。今のような状態を本当に望んでいると思われているのかを。

攻撃は私の手段の中で最も精密攻撃に長けているUCを使用し……。骸魂様のみを狙うよう少量ずつ丁寧に放っていきますね。


箒星・仄々
お二方が慈しみ絆を育まれた過去からなる
この世界の破壊を
お二人が望む訳がありません

お止めしましょう


生きる意志を削ぐ…
その三味線で
そんな音色を奏でるなんて哀しいです

竪琴の音色で三味線に抗じながら
外界と響き合わせ魔力を練り上げます

秋風を風の
夕暮れを炎の
彼岸花(それが表す彼岸との境界の川)を水の
矢とし攻撃


鬼火さん
再会した友と別れ難いのは道理です

貴方の大切な
三味線さんと
この世界と
世界に満ちる音を守る為
海へお還しします

長老
友との再会
嬉しいですよね

そして幽世の沢山のお友達が今
苦しんだり困っておられます
そんなことお嫌でしょう?

終幕
長老さんを促し
共に鎮魂の調べ

大丈夫
鬼火さんは
思い出として貴方の裡に輝いていますよ


ノネ・ェメ
 どーもしないとすればスルーしてくれる? 邪魔をするというのでなければワンチャン?

 わたしのUCは、争いや戦いの制止を求めるもの。制止に応じてさえくれたなら、三味長老さんが探し求めてた、娘さんの音だって聴かせてあげれる。

 娘さんの音こそを聴かせたげたいのだけれども、相手もオブリビオンって事なら……鬼火さんが幾つに分身しよーとも、合体して一つになろーとも、その動きは五分の一。素早さならまけません。ので、当たりません。と、思います。

 娘さんの音を聴く事で、鬼火さんが娘さんであって、娘さんでないって事が、何かしらでも伝われば、こう……成仏、出来たりとか? でも、でも二人の“今”も裂きたくないよ……。



 ティン。
 それは秋の夜長に鳴く虫のような音色であった。猟兵たちへ散歩――否、退出を促す音楽。
「……素敵な音色ですね」
 snow broomへランタンを預け、静かに、そして穏やかにネーヴェ・ノアイユが言う。
「三味長老様と、骸魂となられた娘様の息もぴたりと合っていることが伝わってくるほどですが……」
 トン、とリズムに乗って瓦灯へ指を当てたのち、ノネ・ェメはそれを懐へ保護しながら、
「――でも、ふたりは別の存在で。うまく言えないのだけど、娘さんと、三味長老さんと、『今』の鬼火さんと、きっと音は違うもの」
 ノネの聴く今の音色は熟練のものだ。三味線の技術を磨き続けてきた三味長老と、生を終えた娘――鬼火の骸魂の情。時の流れは確かに、『今』である音の結果を生み出し、けれども三味長老が望む過程のさなかに在った音は過去。
 二人の会話を、音楽を聞いていた箒星・仄々は僅かに息を吐いた。「しばらくはこちらへ」と提灯に告げて、畳んだそれを懐に。
「お二方が慈しみ、絆を育まれた過去からなるこの世界の破壊を、お二人が望む訳がありません」
 箒星風の飾りがついた帽子を被りなおし、決意の宿る瞳で先を見据える。
「お止めしましょう」
「……はい、この世界のため。気を引き締めて参りましょう……」
 仄々の言葉に、ネーヴェは頷くのだった。

「邪魔をするか」
 べべん!
 鬼火の三味長老が撥で弾き、高らかな音を奏でた。衝動による早駆けを表現する演奏がどくどくと猟兵たちの鼓動を打ち、苦しいという感情が生きる気力を奪っていく。
 しっかりと立つ――それを意識して傾ぎそうな体を支え、仄々は呼気を整えた。
「生きる意志を削ぐ……その三味線で、そんな音色を奏でるなんて哀しいです」
 抗うようにカッツェンリートを奏で、自身の魔力を紡ぎトリニティ・ブラストを発動する仄々。遊牧民を故郷とする彼の力は、多くが自然へと由来するものだ。
 世界と同調させた魔力に反応し、茜の空から生まれるように炎の矢が、風は涼しさのなかにどこかひやりとしたものを感じる秋の、茜を映し精製された水矢は数本が束になり流れる。
 秋景色が交差し、鬼火の三味長老を攻撃する。
 矢が当たる瞬間に彼女を覆う青い炎は、きっと三味長老を取り込んだ鬼火の骸魂。
 べん! と一音を境に曲が転調した。飛んでいた鬼火のいくつかが鬼火の三味長老へと帰る。
「『私の時間』を失くそうとする者はすべからく滅べばいい」
 弦をかき鳴らせば絶望を表現する音色。
 ザッ! と血の気が落ちてゆくのを感じたネーヴェの視界は、切り取られたかのような闇が訪れた。
 先程も見た闇の世界――ふと思い出す。
(「あれは……」)
 新しき想い出と闇の世界がネーヴェの視界でリンクする。そこに灯っていたのは、共に歩いたバルのあたたかな光だ。
(「――大丈夫」)
 宿った光はぽかぽかと。ネーヴェの心をあたためてくれる。
「鬼火の三味長老様……」
 凛と、ネーヴェは問いかける。
「今のような状態を、娘様が本当に望んでいると思われているのでしょうか……」
「――何を……お前達があの子の何を知っているという」
 ぱんっと仄々が生む炎矢が鬼火を削ぎ、散った赤青の火を風矢が払う。
「娘様とどのように過ごした時間が大切だったのか……」
 それは水面に落ちた滴のような言葉。
 苛烈な音色に投じられた静かな声が心地良いなと、ノネは思う。
「── tʃɪ́lɪn’zǽpɪn’──」
 争いや戦いの制止を求めるノネの想いの音が世界へと渡り始めた。仄々の水矢が開き、彼岸花へと変化した。水花が鬼火の力を洗い落とす。
 刹那に劈く三味線の音を柔く包むはノネの音楽だ。それは三味長老が紡げず、鬼火の三味長老も紡げない誰かの音色。
 ぴたりと相手の三味線が止む。
(「娘さんの音を聴くことで、鬼火さんが娘さんであって、娘さんでないってことが……伝わるかな……?」)
 軽快な曲調に想いを寄せるノネ。
 icicle tempestを展開し、周囲の鬼火を刈り取っていくネーヴェの氷鋏たち。少女は問う。
「娘様はどのような時に楽しそうに演奏をしていましたか……」
「――あの子は、どのような時も楽しそうだった。悲哀を弦に乗せる時だって」
 悲しみ、悔しさを乗せたこともある。それでも指先はいつも軽やかで楽しそうで。根っからの奏者だった――聞いたノネが更に音を紡いだ。動きが鈍る青の鬼火を、ネーヴェの氷鋏が更に刈り、仄々の炎矢が空の茜に染めた。
「娘さん、いえ、鬼火さん。再会した友と別れ難いのは道理です」
 秋色の魔力に満ちた矢を放ちながら仄々が言う。
「貴方の大切な三味線さんと、この世界と、世界に満ちる音を守る為に、骸の海へお還しします」
 仄々の言葉と奏でられる竪琴の鎮魂の調べに、ノネもまた同調し奏じる。
「三味長老さん、友との再会は嬉しいですよね」
 分かります、と仄々。
 ノネの音と、ネーヴェの声と、仄々の言葉。鬼火の三味長老の世界に渡るのは優しさに満ちたものだった。
「ですが、幽世の沢山の、貴方のお友達が『今』苦しんだり困ったりしておられます。そんなことお嫌でしょう?」
 べ、べべん。
 鬼火の三味長老の音が再開し割り入るも、何かが違う。あんなに彼女の身に馴染んでいた焔が少し浮いた。
「もう一度、尋ねさせてください……。今のような状態を、本当に望んでいると思われているのですか……?」
 仄々から続いたネーヴェの再度の問いに、顎をくっと上向ける鬼火の三味長老。
「「「悲しい」」」
 声が三重となり、三人の耳に届いた。奏でる音楽は、一つから二つへと乖離し、再び一つへと揺らぎ続けている。
 同調しながらも分裂する音は、別れの名残であったり惜しむものであったり。
(「でも、でも二人の“今”も裂きたくないよ……」)
 『今』しか奏でられない音楽はノネの胸をぎゅっと潰しにかかる。〝音憩〟の効果で、とろみのある音色が今生に響いた。
「「「刹那、せつな、切ない」」」
 ゆるゆると鬼火が放出されていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

私は大切な人と離れ離れになったことがまだないから三味長老さんの気持ちを理解することはできません
三味線のこともよくわからない
けどこれは綺麗な音色だと感じる
でも…この音が滅びとなり
カクリヨの世界が壊れたら
三味長老さんにも
本当の彼女さんにも
とても悲しいことだと思う
だから…
ごめんなさい邪魔をします

抜刀しダッシュで前へ
その演奏、止めさせてもらいますよ
部位破壊で手を狙い演奏の邪魔をする
そして狙えるのなら骸魂を狙ってUC仮面劇場をぶつける

大音量の演奏って要は衝撃波だよね?
衝撃波には衝撃波をぶつける
相殺は難しくとも衝撃の速度を遅らせることで此方に演奏が届く前にダッシュで回避!

戦闘後は私もお祈りします


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
君の気持ちはわかる
僕ももし出会ってしまったら我を忘れるだろうネ
でも僕はもうひとつの事実を知っている
それは
死者は二度と蘇らないということ
君と同化しているそれは過去の幻影に過ぎない
言っても理解してもらえないのも知ってる
ならばその幻を僕らが消し去ってやるよ

PhantomPainで射撃
骸魂を狙い撃とう

ソヨゴの動きをサポートするために牽制射撃を行う
電脳ゴーグルとスコープを連動
モーションを先読みして攻撃を遅らせる

生きる気力って元々僕には無いもので
ソヨゴがいる限り無限に補充されるものでもある

僕らの呼吸を乱すことはできない
二人とも生きているからネ

戦闘後
骸魂と化した娘のために
十字を切って祈りを捧げる



 ティン。ティル、ティル、ティル。
 それは秋の夜長に鳴く虫のような音色に聴こえた。猟兵たちへ散歩――否、退出を促す音楽に、頭を振ったのは城島・冬青であった。
「……私は大切な人と離れ離れになったことがまだないから、三味長老さんの気持ちを理解することはできません」
 三味線こともよく分からないけれど、綺麗な音色だと冬青は感じた。でも、と心の中で相反するものが生まれる。
 音を編み、紡がれる曲は魔を祓うように清廉なものだ。それは世界も時も寄ることを許さないものへと昇華されている。
(「……この音が滅びとなり、カクリヨの世界が壊れたら、三味長老さんにとっても、本当の彼女さんにとっても、とても悲しいことだと思う」)
 刹那に結ばれた気持ちは危うい今の中に在る。
 きっと過去に在った彼女は望まないだろう。
 きっと妖怪としての生を繋ぐ三味長老は望まないだろう。
 だから、と冬青は呟いた。花髑髏へと手を添える。
「ごめんなさい、邪魔をします」

 べべんッ!
 耳を劈くほど激しくかき鳴らされる三味線に空気が揺らいだ。
(「大音量の演奏――要は、衝撃波」)
 波打つ茜空へ花髑髏を振るった冬青は、同じく生み出した衝撃波で攻撃をなるべく相殺して、波状となり続くそれを避けた。
 向かってくる鬼火を撃ち、更に鬼火の三味長老へと牽制射撃を行うアヤネ・ラグランジェ。冬青の衝撃波により揺らいだ鬼火への追撃も的確に。
 電脳ゴーグルにより展開された電脳世界は数多の同一存在――鬼火の位置を把握し、その動きを読み取った。計算された動線と連動するPhantomPainのスコープが骸魂の先手を取る。
 骸魂を撃てば鬼火が煌々と輝き、瞬時に光が収まる。べん! と一音を境に曲が転調すれば飛んでいた鬼火のいくつかが鬼火の三味長老へと帰った。
「「何故、邪魔をする――!」」
 ぴたりとした一つから、重なる声は、存在は猟兵たちの攻撃によって徐々にぶれつつあった。
「君の気持ちはわかる」
 アヤネは言う。
「僕ももし出会ってしまったのなら、我を忘れるだろうネ。でも僕はもうひとつの事実を知っている」
「「……事実?」」
「そう、自然の摂理――死者は二度と蘇らないということ。君と同化しているそれは過去の幻影に過ぎない」
「幻影であるはずがない。現にこうして『我々』はここに在る」
 べん、べべん。
 と、三味線を奏でながら鬼火の三味長老は言った。
「……言っても理解してもらえないのも知ってる……」
 ふ、とアヤネは息を吐き出した。PhantomPainのスコープ越しに世界を見る。
「ならばその幻を僕らが消し去ってやるよ」
 ガガガガッ!!
 アサルトライフルの連射音が三味線の音色を劈き分断した。
 対抗するように三味線を叩き鳴らし始めた鬼火の三味長老へと冬青が迫る。
「!」
「その演奏、止めさせてもらいますよ」
 間合いを捉えた瞬間の踏みこみは深く。軸足から胴にかけ捻りを加えた一閃は鋭いものであった。撥を掴む手を狙い斬り上げれば、ばんっ! と青い炎が盾の如く弾けた。
 いなされたのは切っ先であったのが好都合、左手刀を柄に叩きこみ一瞬にして刃を返した冬青が袈裟懸ける。
「もう、これ以上苦しまなくていいですから!」
「「「あぁっー!」」」
 憐憫を籠めた花髑髏の一撃は敵の肉体を傷つけない。刀の軌道に青炎がついてくる。
 がら空きとなった敵の胴――噴きあがる青火をアヤネのスコープが捉えるのに一弾指。花髑髏を振るった冬青が間合いを抜けると共に、弾丸が骸魂を撃つ。
「「「な、何故……! 何故、活力が萎えない!?」」」
 かき鳴らした音もアヤネには響かない。鬼火の三味長老は顔を歪め、唸る。
「教えてあげようか。生きる気力って元々は僕には無いもので、ソヨゴがいる限り、無限に補充されるものでもある」
 アヤネの言葉を聞き、冬青は目を向けた。
「僕らの呼吸を乱すことはできない。二人とも生きているからネ」
「三味長老さんはカクリヨの世界で生きています。その生には『あなた』の生きる気力も伴っているはずです」
 妖怪としての暮らし、友達。世界の時は進み、過去に帰ることはできない。留まることも許されず、歪みとなってしまう。
 本当に、この世界が滅んでもいいのか――冬青の問いに、鬼火に覆われる三味長老の姿が揺らいだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノイン・フィーバー
協力等OK

頭のチャンネルのダイヤルをスポっと外してその9さんをそこにセット
その力、今一度お借りしたい!

戦闘:
主に鬼火を対処。アームドフォートにて、現れたそばから撃ち抜く

終焉:
三味線の演奏は性分故に聞いていた為、被害多め。その場に立ち尽くし膝を突く
倒れなかったのはその9さんが『敵』を照らし続けてくれたから

そして、画面の内側から画面を砕きかねぬ勢いで『彼女』が現れる。半ば強制的にUC発動

生きたまま蓋を、『生きること』を閉じられた彼女にとって、その行為は赦されざるが故に

対骸魂

「その音を、命を奪う音に、世界を壊す音にシテはいけませン。
その業を背負えばきっと、その音色も思い出も、何もかもガ遠くなる」


鈍・小太刀
空の色も風の匂いも
移ろう四季の中だからこそ
想い出の音は沢山で
でも時を止めてしまったら
新たな音は生まれない
本当にそれでいいのかな?

昔の音が懐かしい?
そうだね
楽しいも嬉しいも沢山
時には怒ったり悲しんだりも
想い出を奏でる二人の音は
とても心地よく響く
でもさ、今の二人なら
もっとできる事あるのかも

離れ離れになった後
娘さんが三味長老が歩んできた道は長い
互いの知らない音は
きっと新鮮な響き
ここで再び出会ったからこそ
奏でられる音がある
過去だけじゃない
今の二人の音を聞かせてよ
未来へ繋ぐ新しい音を

桜花鋭刃で邪心のみ斬り
骸魂を切り離す

動き出す時間の中で
それはきっと一瞬の輝き
でも確かに聞こえたよ
奇跡の様な二人の新しい音が


クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
芸道には縁のない身ですが、
それでも魔術師の端くれとして言わせて頂くなら、
自然には情緒を形にして現す働きがあるものです。

一分なら一分。その間に感じた気持ちや、場の雰囲気。
思い出を篭めて魔力を操れば
情緒が音を自然に形作ります。
この現象は一度きりです。

だから、長い時を経て、世界も跨いだ今、
娘さん本人の演奏でも、当時と音は少し変わっている筈ですよ。

でも、きっと嬉しいのでしょうね。
狭間の先で懐古と安らぎを噛み締めながら、二人きり。
……何て言ったら良いんでしょう。
危うさと共に、少しの憧れも抱いてしまいます……ね。

【UC対策】
生きる気力とは無縁の死霊を戦場に放ち、自由に動いて貰いましょう。


蔵座・国臣
避難の確認か、以降の避難を妖怪に任せられたら、急いで参戦。だな。
おくり提灯には患者用のサイドカーに隠れていて貰おう。手荒に扱うので吃驚するかもしれんが、頑丈に出来てるからな。

しかし、骸魂だけを、倒す、か。なかなか難しそうだな。
三味長老の方の治療ならば出来そうではある、か。難しいかもしれんが、どうにも出来んというわけではないな。
黄泉路も半ばまでなら引き返せる。引き返させるのが私の仕事だ。
…だから、“帰り路”はこちらだぞ。

『緊急車両が通ります』にて、即席の壁役として飛び回り。ナノマシンによる緊急治療で他猟兵達のサポートに徹する。耐火性能はそれなり、自己修復可能。勝つまで耐えて…本業はそこからだ。




 べん、べべべん。
 撥で弾き、打ち、連なり音色となる三味線。
 猟兵たちと、音と一手を交える鬼火の三味長老の曲は穏やかなものから苛烈なものと様々だ。
 鬼火の舞うなか、書を手にしたクララ・リンドヴァルがリザレクト・オブリビオンを展開する。
 見えぬ魔の糸が紡がれ召喚される死霊騎士と死霊蛇竜は、彼岸の花咲く地を駆けた。
「「「何奴!」」」
 骸魂に覆われた鬼火の三味長老の声は、一重から三重といったりきたり。それでも奏でる音色は一つで、生きる気力を失う感情を呼び起こす、終演にして終焉を宿す演奏が披露された。
 だが、相対するは死霊たち。生きる気力も、その感情も無い彼らは一撃を易々と鬼火の三味長老へと入れた。
 刹那に燃え盛る青火が宿主を守るように、ばんっ! と弾く。消耗したぶん、飛んでいる火塊が鬼火の三味長老へと帰っていく――伴うはかき鳴らされる弦音。
「……芸道には縁のない身ですが、それでも魔術師の端くれとして言わせて頂くなら、自然には情緒を形にして現す働きがあるものです」
「――?」
 クララの声に怪訝な表情となる鬼火の三味線。
「一分なら一分。その間に感じた気持ちや、場の雰囲気。思い出を篭めて魔力を操れば、情緒が音を自然に形作ります。この現象は一度きりです」
 その時に存在し、その時に感じたもの、術者の状態と、描く調和はほんの僅かな一瞬が織りなしたもの。
「だから、長い時を経て、世界も跨いだ今、娘さん本人の演奏でも、当時と音は少し変わっている筈ですよ」
「「何を! 『今』、現にこうして我々は……ッ」」
 三味線を叩く撥。太棹が低く唸り、鬼火が何かに抗うように加速した。
「「『そう』であろう!?」」
 それは鬼火の三味長老自身ではなく、クララにでも、猟兵にでもなく、誰かに問いかける声。
 かき鳴らされる三味線の音に煽られ、クララへと迫る鬼火を阻害するのはテレポートした蔵座・国臣の宇宙バイクであった。鉄彦そしてサイドカーのテツハコと共に盾と壁となる国臣。
 死霊を扱い、動けぬクララが目を瞠る。対し、国臣は「構わん」と応えた。
「耐火性能はそれなり、自己修復可能だ。サポートに徹する。存分にやるといい」
「それならバ、ワタシは剣となりましょウ」
 おくり提灯もといおくり懐中電灯・その9を装着したノイン・フィーバーがアームドフォート・typeGによる機銃掃射で鬼火たちを撃ち貫いていく。
 ガガガガッ!!
 激しい射撃音が三味線の音色を劈き分断していった。
 ヒーローマスクの、レトロなテレビによくある、チャンネルダイヤルを外した場所にセットされたその9がカタンッと動いた。
「む! そこですネ!」
 火を噴く銃口を向け、集まりつつあった鬼火たちを散らす。
 鬼火の群れを死霊たちと共にくぐり抜けんとする鈍・小太刀。
(「空の色も風の匂いも、移ろう四季の中だからこそ想い出の音はたくさんで――」)
 でも、と思い紡ぐ。
(「時を止めてしまったら、新たな音は生まれない。本当にそれでいいのかな?」)
 クララの言う通りだ。その時を映し具現するのは、その時だけ。
 よく手入れされた片時雨の刀身が小太刀と鬼火を映す。
「ねえ、鬼火の三味長老。昔の音が懐かしい?」
 一刀をいなす鬼火。ばんっ! と再び弾けて斬線がぶれる。
「「「我々――……否、彼女にはもう一度、あたしを奏でて欲しかった」
 ずわっと数多の鬼火が揺れ、三味長老の声が反響する。小太刀は頷く代わりに鬼火を斬った。
「そうだね。楽しいも嬉しいも、たくさん。時には怒ったり悲しんだり、人生いろいろだしね」
 かき鳴らすロック調の音に混じる穏やかな紡ぎ。
 その時を、想い出を奏でる『二人』の音はとても心地よく響いた。
「でもさ、今の二人なら、もっとできる事あるのかもよ。『今』しか出せない音を聴かせてよ」
 小太刀の声に、骸魂が内包していた鬼火を吐き出し渦巻かせた。
 踊りを誘う軽快な曲調にノインは聴き入っているのか、掃射を行いながらもどこかリズムに乗っていて銃撃の奏者となっていた。


 べべべん! 空気を震わす大音量の三味線が猟兵たちを攻撃し、細胞に染みこむ音が構築する身体を崩壊せんとする。
 どん! と心臓を、細胞を音が撃つ――まともに喰らったノインが一瞬立ち尽くし、血を吐きながら膝をついた。画面にノイズが走る。
「にーちゃん」
 その9が下を向くなと光を鬼火の三味長老に向けた。馬九行駆、その9に与えた『意味』は彼の存在意義となり、ノインに倒れる事を否とした。
 その時、ノインのヒーローマスク――画面を砕きかねぬ勢いで内部から『彼女』が現れる。幽世の空気に馴染む『彼女』は文字通りに画面から飛び出して、その9が次々と照らす鬼火を叩き潰していく。
 生きたまま蓋を、『生きること』を閉じられた彼女にとって、その行為は赦されざる故。
 長い黒髪を振り乱し、突進していった。
「――音による不調も馬鹿には出来ん」
 音波である。癒しにもなれば時に殺すこともある。例えるなら雪の結晶が顕著だろう。猟兵の内部で反響する害ある音。
 呟いた国臣が自身のバトルホワイトを活性させ、スチームを放った。医療用ナノマシンによるメディカルオーラを乗せて。
 瞬時に音波に飛ばされてしまうが、その軌道上・着弾点には猟兵たちや仲間の使役するものがいてナノマシンが治療していく。
 一方、接敵している死霊騎士と小太刀が鬼火を斬り、散らしていた。厚い炎壁が少しずつ薄くなっていく。
(「離れ離れになった後、娘さんと、三味長老がそれぞれ歩んできた道は長い」)
 『彼女』の演奏する音色に反響する音は、別物となり始めている。
「ね、響き合っているでしょう?」
 互いの知らない音は、きっと新鮮な響きだ。軽快な、合わせられる即興を感じとり小太刀が言う。
「ここで再び出会ったからこそ、奏でられる音があるんだよ。過去だけじゃない、今の二人の音をもっと聞かせてよ」
 聴かせて欲しいな、と片時雨に願いと祈りを籠める。
 ――未来へ繋ぐ新しい音を。
 一刀が過去を絡め、新たな道を拓く。
 鬼火の三味長老の探り合っていた音が転調した。反響から繋ぎ紡ぐ音色に、ほう、とノインは感嘆の息を吐けば、メディカルオーラもきらきらと。
 繋ぎ、紡ぐ――故に、ふたり。骸魂と三味長老の姿が猟兵たちの前に現れた。
「……その美しい音を、命を奪う音に、世界を壊す音にシテはいけませン。その業を背負えば……きっと、その音色も思い出も、何もかもガ遠くなる」
 ノインの向いた先に『彼女』が、そしてクララの死霊蛇竜が跳ねるが如く伸びた――『彼女』が殴り飛ばした骸魂を喰らう死霊蛇竜。
「でも、きっと嬉しかったのでしょうね」
 ノインの言葉を聞いて、クララが言う。
「狭間の先で懐古と安らぎを噛み締めながら、二人きり。……何て言ったら良いんでしょう――」
 書を閉じれば、死霊たちが消えていく。共に散る青焔も薄くなり茜の空へ消えていった。
「危うさと共に、少しの憧れも抱いてしまいます……ね」
 見送るクララが呟いた。
 ピィン。
 弾いたかのような弦音が世界を打ち、響く。
「……、……ぁ……」
 刹那の邂逅の反動か、三味長老が地面へと崩れ落ちた。


 視界いっぱいの彼岸花が揺れ、黄泉へと誘う。重い体も意識も土に吸い込まれそうだ。
「――……つかれた……」
 そう言い置いて目を閉じた三味長老を白い光が覆った。
「……ちょ、まぶし……」
 緩く開けば自身の涙で世界が揺らいでいた。眩しくて嫌になる。
「黄泉路も半ばまでなら引き返せる。――引き返させるのが私の仕事だ」
 膝をつき三味長老を治療するのは国臣である。
 演奏を続けて感覚のなくなった指先がじんわりと、ぬくもりを感じた。
「……“帰り路”はこちらだぞ」
 サイドカーから取り出したおくり提灯を三味長老の手に渡す国臣。多少荒々しい揺れとなったがテツハコは頑丈で中は安全。光を再び落とすことなく『金創』と書かれた提灯は、三味長老を更に温めた。
「……優しく……ない……」
 このまま共に眠りたかった。でもこれは数秒も前の過去の話。三味長老は国臣を見上げた。未来を見せる手を彼女は受け入れた。
「医者ってのは、優しそうでいて優しくないんだよね」
 三味長老の呟きに、おくり提灯が返す。
「何とでも言うといい」
 妖怪らしく調子のいいことを喋りはじめた二人へ端的に返しながら。
 安堵を覚えた国臣は治療を続けるのだった。

 三味長老が目を閉じた。先程とは違って今は心に活力が溢れつつある。
 妖怪としての本能が周囲の情を捉えた。
 鎮魂の曲が奏でられ、幽世だというのに祈りが満ちている。
 言いたいことはたくさんあったけれども『今』の娘に、猟兵たちと世界に、返し、伝えたい感情は、これだ。

「……ありがとう……」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『骨董ガラクタ蚤の市』

POW   :    値下げ交渉をしてみる。

SPD   :    面白い物を探して歩く。

WIZ   :    珍しい掘り出し物を探す。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「え~、ちょ、マジで? マジでアタシでないアタシがやっちゃった感じ?」
 猟兵たちとともに元・骨董ガラクタ蚤の市へと戻った三味長老は、結構な引き声で言った。
「えーこっちの道、違うとこに繋がってんじゃん」
 路地を覗きこみながら呟く三味長老。
「あ、三味長老、どこにいってたの? もう安全だってさ」
「これくらいならサッサと片付けられるっしょ」
 もう安全だと猟兵たちに教えられた妖怪たちがやる気を出して、片付け&出店をしていく。周辺の探検に向かう妖怪もいて、相変わらず人が行き交っていた。
「あ、ここ吹き溜まりになってたんだね。落ち葉がいっぱい集まってる」
「焼き芋しようよ」
「じゃがバタもしようよ」
 ……などなど、色々自由に動く妖怪たち。
 三味長老と片付けの手伝いをしつつ、猟兵が改めて周囲を見回せば新たな骨董ガラクタ蚤の市が開かれようとしている。
 新しいお客さんも到着し始めているようだ。
「……うーん……罪滅ぼしにちょっと場の盛り上げを手伝ってこようかな」
 そう言った三味長老は三味線を持って、演奏のできる場所へと向かうようだ。
「あ、猟兵さんたち、ここ色んなものがあるからさ。買い物していくといいよ。……アタシも買いたいの、あるし。
 あつあつの焼き芋も配られるようだしね」
 微笑み、ひらりと手を振って。三味長老はビー玉を売っていた店主の元へと向かって行った。

 骨董ガラクタ蚤の市。
 手に取ると風景が浮かぶ不思議なビー玉や、様々な風景が見える万華鏡。
 星が流れているようにキラキラと輝く夜空色のバレッタ、銀木犀の簪は初恋の心などの想い出を呼び起こし、飾りリボンは縁の強まるおまじない。
 どこかで見た品を手にすれば、あなたの想い出が呼び起こされるかもしれない。
 そしてここは骨董品と客人の縁を繋ぐ、出会いの場だ。
 撮りたいものを撮れる古いカメラ、手に馴染む文房具など大切にされてきた道具を見つけたり。
 昔に失くした物と再会もできるかもしれない。
 祖父が使っていた懐中時計、祖母の着物、懐かしき想い出と郷愁、そして楽しい気持ちが満ちる市。
 数え切れないほどの物がある市で、お気に入りの想い出の品を探したり、純粋に掘り出し物を探したり――もちろん、飲食店や休憩スペースもある。
 自由気ままに歩いてみよう。
ノイン・フィーバー
基本:パフォーマンスが許される場所があれば、ひとつマジックでもしたいですネー。
その9さんにお願いして良さげなスポットを導いてもらう。

『彼女』:出しっぱなしにして市を楽しんで貰う。

彼女とその9サンには欲しいものがあれば買ってあげるつもりだが…(おまかせ)

ポイント:もし他の猟兵達が拾わないなら、掌から落ちた『茜色のビー玉』を見つけたい。
三味長老サンがそれに思い入れがあるようなら、再会してお返する。決別して壊すもよし。

逆に手元には置いておけないけれど、無碍にできないなら、預かり大事にする。

「今日はありがとう御座いましタ、その9サン。
機会があれば、またワタシを良い未来へ導いてください。お願いしますネ」



「ノインのにーちゃん、こっちこっち。良い広場が出来たらしいんだ」
「おや。並びの変わってしまった市ですガ、その9サンには何処ニ向かっているノか分かるのですネ~」
「これでも立派な妖怪、おくり提灯だからな!」
 懐中電灯のその9に導かれながら路地を歩くノイン。
 空の光は僅かに地面へと届く程度。ちょっとばかりジメっとした路であったが、ノインの『彼女』はその路が好きな様子。
 路を抜ければ並ぶ柳をテント代わりに開く蚤の市の光景が。
 ジジジッとノインの画面にノイズが走る。
「……電波妨害ですかネ?」
 どよん。
 暗澹とした空気を感じ取り、ノインは周囲を見回した。一つの店に興味を持ったのか『彼女』がゆらりとしゃがみこむ。ぺたんと座れば長い黒髪が地面に広がった。
「あいや、お嬢さん、良い瘴気を放っているね」
 『彼女』――客を前にした店主は、早速商売を始めるようだ。
「この櫛が気になるかい? ちょいと曰く付きでね、愛憎の末に沼へと捨てられちまった櫛なんだが、ほら細工が見事だろう? これでお嬢さんの髪を梳けば沼光のような艶やかさとなるよ」
「……ノインのにーちゃん。『彼女』さん、店主の変な口上に捕まってるけどいいの?」
「たまには自由ニ買い物でもしたいのだと思いますヨ」
 『彼女』の様子にその9が問うのだが、ノインの答えはおおらかなものであった。
「その9サンも、気になる物があれバ、是非仰ってくださいネー」
 良い場所に連れてきてくれたお礼ニ欲しい物があれバ、とノインの太っ腹発言に、その9はガシャンと動き始めた。
「マジで!? 奢り! じゃ、あの呪いの人形ストラップ!」
「…………その9サンも曰くつきのモノがお好きなのですネ~」
 『彼女』は曰くつきの手鏡を興味深そうに持っていた。鏡が映すのは深淵だ。長い髪からのぞく瞳で、真剣に鏡を覗きこんでいる。
「うわ、おいらの光も吸い込まれちゃう!」
 『彼女』と同じく、鏡を覗きこんだその9が楽しげな声を上げた。
「店主。それでハ、その曰くつきの櫛と手鏡、そして怪しい呪いの人形のストラップをお買い上げ致しますネ」
 楽しそうにしている二人に、ノインからのプレゼント。
「ノインのにーちゃん、ありがとう!」
 自身にストラップを付けてもらったその9が礼を言い、『彼女』も――少し恐る恐るとした動きで、丁寧に手鏡と櫛を手に取った。

 骨董ガラクタ蚤の市では、大道芸人もいて行き交う人々を楽しませている。
 柳の店が並ぶこの区画は水たまりも多く、それらを使ったマジックショーをノインは行うことにした。
「それでハ皆様、ご注目を。この暗澹めいた素敵な市ニ、ほんの少しの彩りを添えてみせまショウ」
 仕込みステッキを軽やかに回したノインが「3、2、1――」とカウントダウンを告げれば、ばしゃん! と周囲の水たまりが跳ねた。
 バシャン! ぱしゃん! 跳ねた水滴がぶわっと膨らんでシャボン玉へと変化する。
「わ、シャボン玉だ~!」
 妖怪の子供たちがふよふよと飛ぶシャボン玉を追いかけ始める。妖怪の顔を、柳を、市の風景を映すシャボン玉――それは市の品々をも映し――茜の空を映した。
「…………?」
 否、それは茜色のビー玉だ。落ちていたそれを拾い、手に持てば一瞬だけ茜の空がノインの周囲に広がった。
「あ」
 その時、聞き覚えのある声がしてノインが振り向く。そこにいたのは鮮やかな浅葱色の髪を持つ妖怪だった。
「三味長老サン?」
「アンタ、さっきの……それ、見つけたんだね」
 三味線を抱えた三味長老が駆け寄ってくる。そういえば、と、ノインは思い出す。『これ』は三味長老の落とし物なのだろう――あの時、強く、郷愁を描いたビー玉。
「ええ。確か、三味長老サンが買われたビー玉でしたネ」
 ノインがビー玉を差し出して言えば、三味長老は頷いた。頷いて、しばらくノインの持つそれを見つめた後、掌を上向けた。ころん、とノインの指から三味長老の掌へ映る茜色。
「いつの間にか落としちゃっててね、探してたんだよ。……でも見つからなければいいな、とも思ってた」
 へらりと力なく笑む三味長老。
「指が、さっき『会った』あの子との演奏を覚えててね――新しい想い出っていうか、これから先も、あの子と爪弾ける気がするんだ」
「新しい空を見れそうなのですネ」
 ノインの言葉に、三味長老はまた頷いた。言葉なくノインが掌を表にすれば、再び茜色のビー玉は彼の手に。
「では、ワタシが大切ニお預かりしましょウ。茜の時ハ、三味長老サンの未来に無限となったようですカラ――」
 いつか、想い出の一つの茜を目にしたくなった時にお返ししましょう。
 そう言って、ノインは茜色のビー玉を大事に預かることにした。

 逢魔時。
 現世では妖怪と人が行き交う時間、幽世では刹那であり永遠でもある時間――けれども少しずつ未来が紡がれる狭間にて。
「今日はありがとう御座いましタ、その9サン。
 機会があれば、またワタシを良い未来へ導いてください。お願いしますネ」
「うん、ノインのにーちゃん、またね~!」
 新たな縁を繋いだ別れは、穏やかに元気に。その9はぶんぶんと光をぶん回す。きっと手を振っているのだろう。
 ノインは画面に笑顔を映して、幽世を後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蔵座・国臣
先ずは事後処理というか、治療だな。片付けの間に猟兵達を診ておこう。市を楽しむのに怪我のまま、ではな。大怪我は居なかったようだし、魔法薬を配るだけで済みそうだな。
後に、避難のごたごたで怪我人など出てないか聞きながら市を巡ろうか。
せっかくなので、『金創』のおくり提灯に付き合って貰うかな。当人が嫌でなければ、だが。

最後に三味長老の所に。何か途中飲み物でも買って差し入れに行こう。
一息入れたまえ。病み上がりのようなものだぞ。などと、曲の切れ目に声をかけようか。問診というわけでもなく、ただの労いとして。

空を映すビー玉?ちょっと欲しいな。後で見に行ってみよう。どの辺りにあったのかね?



「先ずは片付け? ――その前に、君たちの治療が『先ず』だろう」
 戦いを終え、市場へと戻ろうとする猟兵たちの治療を行う国臣。音が与える人体被害は内部で起こっていることが多く、彼のメディカルオーラが猟兵たちを包む。医療用ナノマシンが仲間の体を癒していった。
「市を楽しむのに怪我のまま、ではな。
 幸い、大怪我は居なかったようだし、これを渡すから飲むといい」
 回復セットから魔法薬を取り出し、仲間へと配る国臣。
「わあ、元気が出てきますね」
 仲間の猟兵の一人が言った。戦いの疲労感が消えていったようで、手を握ったり開いたりと調子を確かめていた。片付けも捗り、蚤の市も存分に楽しむことができるだろう。
 思わずといったように浮かんだ彼らの笑顔に、国臣は頷くのだった。

 その後に国臣が向かったのは妖怪の怪我人たちのもとだ。
「もう少し、おくり提灯には付き合って貰えるだろうか」
「うん、大丈夫だよ。怪我人を治すのが『先生たち』の務めだもんね」
 医師の元にいた金創のおくり提灯は、ずっと見てきたせいか国臣の手際に興味津々の様子だった。怪我人がいる元へと案内しては、彼の治療行為が終えた後に色々と質問をしてくる。 「時代や世界が変われば、適宜必要とされる手も変わってくる。しかし精度に関しては一律としたいところだな」
 そのために医療用ナノマシン、回復薬と呼ばれるポーション、そして回復呪文のスクロールなど様々な物を国臣は用意している。
 へえ~、と関心やら感心を示しつつ、おくり提灯は医療キットについても尋ねたりとしていた。
 そういったやり取りをしながら蚤の市内を回っていると、三味線の音色が聴こえてくる。人々の会話の邪魔にはならないほどの、僅かな音。
 それでもしっかりとテンポは取っており、気付いた者は耳を澄ませながら買い物を楽しんでいるようだ。国臣は息を吐いた。
 曲の切れ目を捉え、寄っていく。
「三味長老」
「――あ、猟兵先生じゃん。どうしたの?」
 積みレンガに座って演奏をしていた三味長老が国臣に笑みを向ける。
「一息入れたまえ。病み上がりのようなものだぞ」
 そう言って国臣が緑茶の缶を差し出した。店で買ったばかりの温かいそれに、三味長老は目を瞬かせたのちに受け取る。
 カシッと小気味よく缶を開ける音が二つ。
「どしたの? 診察」
「いや、労いだ」
 端的に、必要とする物言いは応じ方一つが誠実。出会ってから今だ短いが、国臣の性格を知った三味長老は「あはは、ありがと」と笑った。普段はからりとしている彼女であったが、今はまだ寂しさみたいなものが見え隠れしていた。
「こうやって人間のように、飲んだり食べたりってしてると生きてるってこんな感じだったのかなぁとか思うんだよね」
「妖怪となって、最初に食べた物はやはり興味のある物だったりするのか?」
「そうだね。あたしは熱い緑茶と団子だった~」
 ほら、と三味長老が景色から、空へと指先を移していく。
「こうやってさ、『帰り道』にお茶して団子を良く食べてたんだよね。どんな味だったのかな、って。いつも同じ店だし同じような景色だったけど、一時として同じ時は無かったよ」
 どんな味だったんだろう、と三味長老。
 たくさんの人の生と道を見てきた国臣もまた、何処かへと思い馳せた。
「空か……そういえば、空を映すビー玉があると聞いたのだが」
「あ、興味ある? ほら、あっちの店にあるんだ」
 三味長老が国臣を案内する。
 様々な色のビー玉を売るその店は、一つ一つを丁寧に並べていた。
「一つ持ってみてよ」
 店主と三味長老に促され、黒に白耀の加工のされたビー玉を手にしてみる国臣。
「――これは」
 彼の視界に広がったのは月の浮かぶ夜空であった。月光に小さな星は隠れ、国臣の影が伸びていた。
 刹那の時は直ぐに過ぎ、再び市場の喧騒。国臣は並ぶビー玉へと視線を落とした。
「様々な色があるのだな」
「そうだね、青空、夕空、朝焼けの空――猟兵先生の好きな空の色、きっとあると思うよ」
 そう言う三味長老の声音は聞き覚えのあるものだった。
 故郷の空を懐かしむそれに、国臣の脳裏に或る空が呼び起こされる。
 果たして、あの空は或るのだろうか――様々な空色ビー玉が国臣の瞳に映るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】

焼き芋にも流行りがあるのネ
蜜芋?
なるほど美味しいネ!

焼き芋を頬張りながら
蚤の市を二人で眺めて歩く
なんとなく郷愁を感じる場所だ

ソヨゴが喜んでいるのを見てふふっと笑う
僕にはきっとそういうのは縁がない
記憶も無いし

ふと見覚えのある品の前で足を止める
金属製のカウベルだ
父の祖父がアルプスで牧牛をしていた頃の品だと言ってた
それに似ている

うんそう
父の父はフランス人だったのネ
僕の姓はフランスのものだよ

母が冗談で
父の首にそれをつけておけば安全よと
真顔で言っていたのを思い出す

遺品は僕の手元に残っていない
手に取ってカランと音をさせる
思い出も一緒に忘れていた

同じ品が巡って来たとは思わないけど
これは買って帰ろう


城島・冬青
【橙翠】

蚤の市に響く三味線の音色はやはりとても綺麗です
まずはお腹すいちゃったので焼き芋食べましょう!
最近の流行りの焼き芋はしっとり系なんですよ
蜜芋ってやつですね

カクリヨの世界の市場は独特ですね
どの世界とも違います
何かいいのあるかな〜?
あ…!
見覚えのある絵柄のついたハンカチを見つける
これ私が小学生の時の遠足で無くした物に似ています
このハンカチにプリントされてるペンギン
当時凄く人気があったキャラなんです
懐かしいな
無くした時は凄く凹んだっけ
再会できて嬉しいな
購入しよっと

おや?
そのベルがどうかしましたか?
へー、じゃあアヤネさんにはフランスの血も入ってるんだ!
ふふ、アヤネさんにも素敵な再会がありましたね



 人の喧騒に混じり、決して邪魔しない程度の細い旋律は三味長老の手から奏でられているようだ。
「ふふ、蚤の市に響く三味線の音色が綺麗ですね」
 聴きながら冬青が言う。撫でるような弦音は繊細で軽快で。
 リズムに乗るように、買ったばかりの焼き芋を割る冬青。
「はい、アヤネさん、半分こしましよう!」
 包み紙は二人分。一枚にほかほかと湯気を出す片割れをのせて、冬青はアヤネへと差し出した。
「綺麗な色だネ。ソヨゴの瞳の色みたい」
 受け取り、ほくほくとした深い黄金色を見てそんな感想を言うアヤネ。
「な、なちゅらるですね、アヤネさん」
「? 何が?」
「いえ、何でもありません。……――最近の! 流行りの焼き芋はしっとり系なんですよ。蜜芋ってやつですね」
 何かを振り切るように、半ばハキハキとした声を発した冬青であったが、アヤネが目を向けた時にはいつもの調子に戻っていた。
「ふぅん、焼き芋にも流行りがあるのネ」
 人の少ない通りを歩きながら、二人食べ歩き。北欧柄のテントが並ぶ市場でウィンドウショッピングだ。
「なるほど美味しいネ」
「ほくほくしっとりですね~。このちょっぴりねっとりとした食感と甘さが、口の中に広がって――冷ましたお茶がとても美味しいです」
 食のコメンテーターのようなことを言ったのち、冬青は飲み物を口にした。

「それにしても、カクリヨの世界の市場は独特ですね~。どの世界とも違います」
 洋風、和風と入り混じる世界の市場は品物もまた混在している。
「なんとなく郷愁を感じる場所だネ」
「はい」
 そんな会話をしながら見て歩く。
 目を惹くものはたくさんあった。手鏡ひとつ、装飾もまた和風洋風と様々な物が並んでいるのだ。中には人を映さない曰くつきのものまで。
 何かいいのあるかな~? と、冬青が楽しそうに見て回っていると、一瞬ぴたりと静止した。今見覚えのある絵柄が――。
「……ん? あれ? ……――あ!」
 何かを見つけ、一歩をやや強く踏み出した冬青の後に続くアヤネ。
「ソヨゴ?」
「アヤネさん、このハンカチ! これ、私が小学生の時の遠足で無くした物に似ています」
 手に取ってみても良いですか? と尋ね、店主の了解を得た冬青は畳まれていたハンカチを開く。
「このハンカチにプリントされてるペンギン、当時凄く人気があったキャラなんです」
 グッズもたくさん出ていたのを思い出す。
 ぬいぐるみや文房具、リュックや靴下と、凄く凄く悩んで、母に相談した記憶。
 手にしたハンカチはいつも一緒にいられるように。小学生の時、ポケットから取り出しては眺めていた。
 洗濯した時も、家で寝転んで干されたそれをたまに眺めていた。風に揺れ、はたりと動くキャラクターが生きているみたいに見えた。
「懐かしいな……無くした時は凄くへこんだっけ……」
 刺繍されたペンギンを指先で撫でる冬青。いつも撫でていたせいか、ふと、あの時の感触が指先に蘇った。
(「再会できて嬉しいな」)
 冬青が懐かしみ、これ、ください! と購入する様子に、アヤネはふふっと笑った。
(「僕にはきっとそういうのは縁がない――記憶も無いし」)
 周囲には懐かしくも、目新しいものが溢れている。物も、感情も、縁も。
 歩き、たくさんの品を見て回っていると、カラン、と音が聴こえた。
 カロン、カロン、カラン。
「? 鐘の音でしょうか?」
「いや、これはカウベルだネ」
 耳を澄ませた冬青に、アヤネが答える。音に導かれ辿り着いたのはたくさんのベルを売る店だった。
「いらっしゃい」
 ヤギの妖怪が二人を出迎える。
「さっきの音は――この金属製のカウベルたちだネ」
 たくさんのベルが並んでいるが、アヤネの眸は一つのカウベルに吸い寄せられた。少し痕のある使いこまれた金属製のカウベルに見覚えがあった。これ、と、どこか上の空で呟く。
「アヤネさん? そのベルがどうかしましたか?」
「ん。父の祖父が、アルプスで牧牛をしていた頃の品だと言ってた――それに似ている」
 持たせて貰った時の記憶。あの時のように両手を持ち、それを指先に感じた。冷たいけれどどこかあたたかいのだ。僅かな凹凸がしっくりと手に馴染む。
「アルプス……へー、じゃあアヤネさんにはフランスの血も入ってるんだ!」
「うん、そう。父の父はフランス人だったのネ。僕の姓はフランスのものだよ」
 ひとつ思い出せば、連鎖して次の記憶がアヤネの中に浮かんでくる。無意識に微笑んだ。
 アヤネが持たせて貰ったカウベルと、父の首を見比べて、母が言うのだ。
「父の首に、『それをつけておけば安全よ』――って。母のジョークだったけれど、彼女が真顔だったのが凄く記憶に残ってて……」
(「遺品は僕の手元に残っていない」)
 手に取ったカウベルはカランと音を立てる。
「思い出も一緒に忘れていたよ」
「ふふ、アヤネさんにも素敵な再会がありましたね」
「んー、同じ品が巡って来たとは思わないけど、これは買って帰ろう」
 冬青の言葉に、ちょっとだけニッとした笑みを浮かべて返したアヤネだったが、買い求める姿はどこか弾んでいる。

 失くしたと思っていた縁が再び繋がる。
 不思議な骨董ガラクタ蚤の市を、再び歩きだす二人であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リグ・アシュリーズ
三味長老のとこ行く最後の最後で合図灯見ずに
道踏み外して見事に出遅れた私だけど、
暗闇の中彷徨ってたら突然あかりついて足元散らかっててほあー!!
え、ちょ、ホントに長老さんがこれやったの?
半分ぐらい私が共犯、とかないわよね……?

気が動転するのもほんの数十秒。
――あ。綺麗な音。
遠くに聞こえる三味線の音、小躍りしながら市を練り歩くわ!
物珍しそうに骨董品を眺め、途中でじゃがバタ焼き芋わた飴
イカ焼きたこせんベビーカステラに軒並み引っ掛かり、
お口いっぱいに頬張りながら歩き。

あれ、何かしら?
気になって覗いた店先に、置いてあったもの(おまかせ)に目を奪われ。
ふふ。たまには買ってみようかしら。
一期一会、だものね!



「リグさぁぁぁん……」
 おくり提灯もとい合図灯が涙声でリグを呼んだ。
「やーほんとごめんねッ、ほらだって、ちょぉぉっと真っ暗な世界にテンション上がって暗闇ジャンプに挑戦しただけで、こんなことになるなんて……」
「いや思ってたでしょ」
「――あっ、はい、ちょっと思いました。三味長老さんのとこ行く最後の最後で、道踏み外して見事に出遅れた私――そう、それが、私!!」
 どーんと胸を張って言うリグ。
 そう、世界は猟兵たちが救ってくれたのである。そしてその瞬間に、つまり現在、暗闇の中、鬼火の三味長老への道を見失ったふたり。
「ジャンプしただけで全然違う道に移っちゃうとか、思わないでしょ? 道、崩れちゃったの? 私、そんなに重い存在……??」
 よよよ、と泣き真似をしながら呟くリグであったが、「まあ人の生って重いもんだよね」と合図灯がそこそこ重く返した。
「だってさ時間を歩き続けて、そのための食べ物も必要だし、その道を作る『煉瓦』もたくさんいるよね。道を踏み外すのは簡単だけど、その道、絶対重いし」
「えー、やだ合図灯さんったら……シリアス。……哲学かしら」
 そんなやり取りしているうちに、新たな道を見つけた合図灯が闇を照らした。こっち、こっちと導かれるがままにリグは新しい見知らぬ道を歩む。
「着いた」
 合図灯が言った瞬間、ぱっと光溢れる世界が現われて、その眩しさにリグは目を瞬かせた。
「わ、いきなり明かりがついたみたい」
 ぱちぱちと。目を慣らしながら辺りの喧騒に気付く。わいわいとした妖怪たちの明るい声が聞こえてくる。
「きっと市場に戻ったのね――って、ほあー!! え、ちょ、ホントに三味長老さんがこれやったの!?」
 言葉半ばに叫んだリグ。光に慣れた目に入ってきた光景は、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのような市場だった。
「半分ぐらい私が共犯、とかないわよね……?」
 呟きながらよく周囲を見てみると、いっそ瓦礫も利用してやれという凹凸の激しい市場となっている。高低差を利用して売られる長い細工物、軽業師は綺麗な飾り布を手にひらひらと舞いながら物を売る。
 簡易な板の橋があちこちに架けられて、ちょっとしたアスレチックとなっていた。
 どこからか聴こえる、弦を撫でるような三味線の音色は繊細で軽快だ。
「綺麗な音ね」
 遠くから届く三味線の音楽に、リグの足取りも軽くなる。そして珍しそうに骨董品を見て回る。
 細工の見事な刀は毎夜虎の夢を見るという。過去を映すという手鏡を覗きこんでみれば、鏡面は波打っていて海のよう。合図灯の光も吸い込まれていく。
 興味が惹かれればそちらへ向かい、ちょっと道を戻って路地に入ってみたり。気儘に市を楽しむリグ。
「合図灯さん、どこからか良い匂いが漂ってくるんだけど」
「行ってみる?」
 匂いを辿ってみれば、落ち葉で焼いたお芋たち。振舞われていたそれはアツアツで、じゃがいもに挟んだバターがとろけて濃密な味。
 焼き芋は二つに割れば、ほくほくと黄金色だ。
「ん~~おいしい! 合図灯さんも食べてみない?」
「それは食べられないけど、リグさんの美味しいっていう感情を美味しく食べてるよ。ほっぺが真っ赤だね」
「ふはっておいひぃんはほの……!!」
 にこにこにっこりと、リグは満面の笑顔だ。
「あ、ついでにあれも食べちゃおう」
 わた飴やイカ焼き、たこ焼きをえびせんで挟んだたこせん、甘い生地を焼き上げた丸いベビーカステラと、行く先行く先に美味しいモノが現われてリグはとても満喫していた。お腹も心もいっぱいになっていく。
「ついで……?」
 終わらない食の道に、合図灯は不思議そうな声でツッコミしつつもやはり楽しそうだ。

「あら、何か音がするわね?」
 フォンフォンとか、リンリンとか、耳を澄ませてようやく聴こえる程度の音色に気付く。
 気になったリグが店を見つけて覗けば――、
「鉱石屋さんかしら? 宝石、ってわけじゃないみたいね」
 白やピンク、青や紫と様々な色の石たちが売られている。磨きはかけられていないようで、色は綺麗だが素朴な佇まいの石たち。
「いらっしゃい、お嬢さん」
「こんにちは、おばあさん。何だか音楽のようなものが聴こえてここに来たのだけど……」
「あらあら、お嬢さんは耳が良いのね。これは音石といってね――」
 持ち主の音色を覚える石なのだという。長く行動を共にすれば、持ち主の鼓動、歩み、声を吸収し音色に変えて発する石は、黄泉の坂で採れるのだとおばあさんは言った。
「自分がどんな生を歩んだのか、その音色を聴くために黄泉入りした死者や妖怪がよく拾ったりしているね」
 過去の音色、未来の音色と様々に。
「へえ。持っていれば、いつか私の音も奏でてくれるのかしら」
 私は、リグは、どんな音色を奏でているんだろう。一つ、手に持った石にじんわりとリグの体温が移されていく。
「ふふ。たまには買ってみようかしら。――おばあさん、これ、くださいな!」
 これだ! と思った色の音石は既に掌の上に。
「一期一会、だものね! 合図灯さんも、今日は本当にありがとう」
「うん、こちらこそ本当にありがとう、リグさん」
 光を見つけてくれて。と合図灯が自身の光を揺らめかせた。そろそろお別れの時間。
「ちゃんと前見て歩いてね、お腹いっぱいだからってその辺で寝転がっちゃだめだよ、変な音色を音石くんに奏でられちゃうからね」
 母親のようなことを言い始めた合図灯に、思わず力の抜けたリグがへらりと笑う。
「だ、大丈夫よ。私、これでもシッカリしているんだから」
「ウッカリさんの間違いじゃ……あ、ううん、なんでもなぁい」
 呟くようなツッコミをした合図灯をキロリと睨んでみれば、棒読みで返されてしまった。睨みを利かせてみた顔も長くはもたず、リグは笑顔になる。
「それじゃ、合図灯さん、またね!」
 カクリヨファンタズムで得た縁に、思いっきり手を振って。
 リグは軽やかな足取りで帰路につくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
懐から出したデンさんへ改めて感謝

ありがとうございます
おかげで幽世は救われました

もう一つだけ
力を貸して下さいませんか?

……そして長老さんの許へ
懐から取り出した焼き芋を長老さんへ
指が温まりますよ~
私やデンさんの分もあるので
お気になさらず

そしてこれを
と空色ビー玉をお渡しします

長老さんが落とされた(と予知で聞いた
ので
先ほどデンさんと探しました

三味線の音色や響きを学ばせていただけますか?
協奏を依頼
三味線に合わせ竪琴を爪弾きます

長老さんが今を楽しく生き
未来へ進んでいる証の調べ
鬼火となられた娘さんの元へきっと届きます

協奏のお礼をお伝えしたら
四季折々を移すビー玉を購入
その煌めきと風景に魅了されながら
焼き芋ぱく



「ありがとうございます。おかげで幽世は救われました」
 戦場から市場へ。懐で守っていたおくり提灯のデンを取り出し、ぽんぽんと再び丸くさせた仄々はデンへと礼を言う。
「ううん。こちらこそ、ありがとう」
 デンは照れたようにほんのちょっぴりオレンジの増した光を灯した。仄々はふふっと微笑む。
「そうだ、デンさん。もう一つだけ、力を貸して下さいませんか?」
「?」

 弦を撫でるような弾き方は繊細な音色を生み出す。軽快なテンポを加えれば、聴き手も思わずリズムを取ってしまい、散策が楽しくなっていく。
 そんな三味線の音色に導かれたようにひょっこりと仄々が現われ、気付いた三味長老は奏でる指を止めずに微笑んだ。ちょっと待ってて、と目が合図した。
 きりのよい所で演奏を止める三味長老の元へ。積んだレンガの上に座った彼女を見上げた仄々はゲットしたばかりの焼き芋を差し出した。
「お疲れ様です。これをどうぞ。指が温まりますよ」
 詫びの感情が混ざった音色であったことに気付きながらも、仄々は触れずにただ穏やかな声で三味長老へと言う。
「ありがとう。――ふふ、まだあつあつだ」
 包み紙からじんわりと。三味長老は焼き芋を二つに割って、ほくほくな黄金色に表情を緩めた。
「猟兵さんも、おくり提灯も一緒に食べよーよ」
 焼き芋の片割れから仄々へと目を向けた三味長老であったが、仄々はふりふりと手を振った。
「私やデンさんの分はあるので、お気になさらず」
 ね。と、デンと一緒に仄々。
「そしてこれを」
 続いて懐から出したビー玉を三味長老へと渡した。
 それは茜の模様の入ったビー玉だった。彼女が強く郷愁に駆られた茜色のビー玉は異なる縁を繋ぎ、それなら、と仄々が探した物。
 彼女と、新しい音と、それを奏でた時の楽しさをぎゅっと詰め込んだビー玉は、持った瞬間に彼岸花の茜が敷かれた青空の風景を見せてくれた。
 優しい旋律が微かに聴こえる――。
「すごい……どうしたの、これ」
「ビー玉職人の方を探しまして。『鬼火』と『三味長老』さんの奏でた曲を入れたビー玉を作って貰ったのです」
 見える気泡は仄々が込めた音色だ。
「世界に一つ、娘さんと、三味長老さんと、そして鬼火の三味長老さんのいた色です」
 ほろりと、涙一粒が三味長老の頬を流れ落ちていった。
「ありがとう、小さな猟兵さん。――ほんとに、ありがとね」
「三味長老さんが今を楽しく生き、未来へ進んでいる証の調べでした。鬼火となられた娘さんの元へきっと届きますよ」
 そう言った仄々もカッツェンリートをポロン♪ と奏でる。少し、深みの増した音となっていた。
 戦いや冒険は、猟兵としての仄々の音を少しずつ変えていく。
「あの時は、協奏をありがとうございました」
「こちらこそ。鎮魂の音楽を、ありがとう。あの子も、あたしでないあたしも、ちゃんと世界の一部なんだなって送ることが出来たよ」
 お互いに微笑み合って、手を振った。
 出会いと別れ、解けては結ばれる縁は確かにその時その時に感じるものだ。
 さよならのお別れは鎮魂曲に込められて、繋いでいた手を緩やかに外す――音楽は人の心を動かす魔法みたいなもの。

 四季折々を移すビー玉を購入した仄々は、見つけた土手で寝転んで空へと翳してみた。
 カクリヨファンタズムの空に、紅葉が飾られた。ビー玉を少し動かせば、静かな眠りの冬、芽吹きの春、すくすくと光に向かって伸びる夏。
 四季の煌めきと風景に魅了されながら、ほくほくの焼き芋をぱくりと。
「あったかいね」
「あったかいですねぇ」
 どこかぼんやりとしたデンの呟きに、仄々もぼんやりとした声を重ねて。
 今この時限りに揺蕩うあたたかな時間を満喫するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネーヴェ・ノアイユ
骨董市にて……。snow broom様に似合いそうな飾りリボンを見つけましたので……。それを購入し、snow broom様へと結ばせていただいてから他にも何か良い物を探していると三味長老とお会いします。

三味長老様にお時間がありそうでしたら……。今の三味長老様に娘様とお過ごしになられた時間がどのようだったのか……。どういった時間が特に楽しかったのかなどをお聞きしたり……。私も此度のことで三味線に興味を持ちましたので……。三味線の弾き方についてを教わったりなどして共に過ごさせていただければと思います。

元々音楽に明るくないので……、中々上手くは弾けませんね……。ですが……。とても楽しいです……!



 骨董ガラクタ蚤の市。
 区画によっては人が多く、時にほんの少しネーヴェは目を回すような感覚を覚えながら市を歩く。
 刺繍やビーズが施された飾り布の店、艶やかな光沢を放ち音の鳴る鉱石、客が買い求めるものは様々で、それら一つ一つを興味深く眺めながらネーヴェは市を進む。
 ひらひらとたくさんのリボンを売っている店で立ち止まったネーヴェは、あ、と小さく声をあげた。
「これは……。snow broom様に似合いそうなリボンですね……」
 と、一つの飾りリボンを手に取った。彼女の抱く雪のような色のsnow broomはくるりと回る。長柄が回る感触は少しくすぐったかった。
「ふふ……気に入りましたか……?」
 ネーヴェの声が僅かに弾み可憐なものとなった。snow broomは長柄を少し動かして、ネーヴェを導く――否、目指していたのは一つのリボンの元だ。
「snow broom様……? ――あっ、もしかして私にリボンを選んでくださっているのですか……」
 一瞬にして買い物が楽しいものへと変化した。
 微笑みが絶えず零れ、リボンを二つ、買い求めたネーヴェに店主のおかみも笑顔になっている。
「ふふふ、可愛らしい。良かったね、箒さん。良い主に巡り合ったのだね。大切にしてあげてね、お嬢さん」
「はい」
「リボン、包むかい? すぐに飾るかい?」
「えっと、可愛らしいのですぐに使わせて頂きたいと思っています……ありがとうございます……」
「いいえ、こちらこそ、まいどあり」
 受け取ったリボンをsnow broomへと結んで。
 選んでもらったリボンを自身に結んで。
 『ふたり』は嬉しそうに市での散策を再開した。

 歩いていると、聴こえてきた三味線の音色に自然と導かれるように。
「三味長老様……」
「あ、猟兵さん。また会えたね」
 演奏の切れ間に声を掛けてみれば、ひらりと手を振った三味長老が笑顔でネーヴェを迎える。
 再び繋がった縁に花咲くお喋りは、物であった妖怪と娘のおはなし。
 帰り道に立ち寄った雑貨屋や、休憩処の話。
「あの子、新商品が出るとそのたびにそのお団子にハマっちゃってさ、どんな味なのか気になってしょうがなかったよ。だから妖怪になって一番にお団子屋に飛び込んだってわけ」
 そのまま三味長老が娘が作った「おいしいのうた」を歌うものだから、ネーヴェも笑ってしまう。
「もちろん、即興とはいえその作曲もなさったのでしょう……?」
「そうそう。ちょっと弾いてみようか」
 撥を使わずに、指先で弦を弾く三味長老。撫でるような弾き方だがテンポは速い。
「わ、そのような弾き方もあるのですね……」
 指の動きは的確なのだろう、紡がれる音色は乱れがない。
「ん、猟兵さん、興味あるならちょっと弾いてみる?」
 三味線は名前の通り、弦が三つ。本調子に合わせた三味長老の三味線を持たせてもらうネーヴェ。
「姿勢は、うん、元々良いみたいだね、そんな感じ。指かけをはめて、撥は中心を持ってみて」
「中心……この辺りでしょうか……」
 撥の中央ではなく、重さの中心となる。
 太腿に三味線の胴を乗せて、撥を弦に下ろすように。
 べん、と小さく音が鳴って、共にネーヴェの心も鳴った気がした。
「あはは、イイ感じ。撥って結構重いでしょう? その重さで弾いてみると、良い音が出るんだよ」
 勘所を指先で押さえ――これにもコツが要って、ついつい意識が寄ってしまいがち。それでも音を出すのが楽しくてネーヴェは懸命に指先と撥を動かしてみた。
「元々音楽に明るくないので……、中々上手くは弾けませんね……」
 ですが……、と続ける彼女の声は静かではあったが、沈んだものではなく子供のように無邪気めいたもの。
「とても楽しいです……!」
「えへ、楽しいって気持ち、大事だよね。大人になったあの子は、三味線を教える先生になったんだけど、やっぱり楽しさを教えていたなぁ」
 教えてる方も楽しくなるんだね、と三味長老が笑う。
「少しの間ですが……、御教示お願い致しますね……先生」
 にっこりとネーヴェ。
 一時の師弟関係が結ばれ、市場に新たな縁の音が紡がれてゆく。
 拙さの残る音色だからこそ気を配る丁寧な紡ぎは、縁の溢れる市にとても馴染んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
ウェリナちゃん(f13938)と

色んなものがあるんだな
瞳を輝かせる少女に表情を穏やかに
逸れないようにと手を繋いで歩く
気になるものあったら言って
折角来たんだし、全部見てこ

美味そうだな
俺らにもおひとつ下さいな
はい、火傷しないようにネ

挨拶をしているウェリナちゃんをみれば
おわ。え、それ食えるの?
どーも…?

へえ、絵本もあるんだ
タイトルは「きみのおもいで」
でも表紙は真っ白で

気になる
俺、これにしよ

後で一緒に開けば
ウェリナちゃんとの思い出の景色が浮かびあがって
それはあの勇者の伝説が残る丘であったり
二人で遊んだ夕陽の公園だったり

おお、すげぇ
俺とウェリナちゃんの本だな
嗚呼、どんな風に映るのか
次開く時が楽しみだ


ウェリナ・フルリール
アヤチャン(f01194)と!

はわ、ようかいさんのせかい!
いろいろそわそわしちゃいますが
まいごにならないよう、アヤチャンとてをつなぎます(ぎゅっ
ドラゴンさんのおさいふは、なくさないように
うさぎさんポシェットにいれておくのですっ(ぐっ

やきいも…(じー
もらってたべれば、おいしいってにこにこ
はじめてたべました…!(熱いのでちびちび

おめあては、おかいもの!
おもしろいものがいっぱいです…!(きょろ
このせかいのおかしは、おしゃべりするのです?
(こんにちは、と喋るお菓子にぺこり

アヤチャンは、えほんです?
わ!すごいのです…っ
アヤチャンとリナの、おもいでのえほん!
きょうのおもいでも、このえほんでまたみれますね!



 骨董ガラクタ蚤の市。
 訪れたカクリヨファンタズムは賑やかの最中にあり、加えて何だかとっちらかっている印象だ。
 道具の妖怪を売る店、青物売りをする魚姿の妖怪。
 目に映る妖怪は愉快な姿の者も多くて、「ふわぁ」と声をもらしたウェリナ・フルリール(ちいさな花騎士さん・f13938)は周囲を見回した。
「はわ、ようかいさんのせかいですね! ようかいさんがいっぱいです」
 瞳を輝かせている少女の肩へ、浮世・綾華(千日紅・f01194)は思わずといったように手を添えた。人が多い。
「色んなものがあるんだな――ウェリナちゃん、はぐれないよーに手、繋ごっか」
「はい!」
 綾華の指先が少女の肩を流れ、差し出される。
 きゅっとウェリナの小さな指が彼の手を握った。
「それじゃあ、気になるものあったら言ってね。全部見てこ。――あ、ウェリナちゃん、ちゃんとお財布もった?」
「アヤチャン。リナ、ちゃぁんと、ドラゴンさんのおさいふを、なくさないようにしてます」
 ぐっと繋いだ手に力を込めるウェリナであったが、綾華からすればくすぐったいそれ。
 さらにぐっと胸をはるウェリナ。白いストラップが強調され、ちょっとだけぬいぐるみを持ち直した。そうしてやっと綾華の視界に映るモノ。それは、
「うさぎさんポシェットにいれているのですっ。きょうは、ドラゴンさんはおかねのまもりをしているので、トカゲさんをつれてきました」
 ふわふわ可愛い、灰色リボンをつけたトカゲのぬいぐるみ。
 にこっと笑ってそう言ったウェリナに綾華も笑顔を返す。
「そか、安心だ。それじゃあ出発しよう」

「アヤチャン、あそこ、おいしそうなかおりがして、ふしぎなやまがあります」
 くいっと手を引いて綾華へと言ったウェリナの視線は、灰の山に。
「ん? あー焼き芋だね、ほら、灰の中から包みが出てきたでしょ」
 熱そうな灰の山に枝を差し込み、ころんと転がりでてきた包みの中身は焼き芋だ。
「やきいも……」
 じー、っと一連の動きを、そして美味しそうな香りを放つそれを見つめるウェリナ。ふは、と綾華は笑いを零した。
「妖怪さん、妖怪さん、俺らにもおひとつ下さいな」
「はぁい、たっくさん焼いてるからね。どうぞだよ。熱いから気を付けてね」
「ほんとだ。あちち……」
 ぽいっと渡された包みは熱くて、綾華は冷ますために軽く振るう。ぽんぽんと掌でジャンプさせて。
「ん、もういいかな。――はい、火傷しないようにネ」
 包みを開けば紫の皮。
「アヤチャン……?」
「ちょっと割ってみようか」
 どうすればいいのか分からないウェリナから、再び焼き芋を受け取った綾華がそれを割ればほくほくとした黄金色が現われた。ふわぁとウェリナはびっくり顔。
「はい、はんぶんこ」
 今度こそと渡した半分のお芋を、どこかいそいそとした様子のウェリナが食べる。口に含んだ量は、熱いのでちょっとだけ。
「――はふ――はわ、おいしいです……はじめてたべました……!」
「蜜芋ってやつかな。甘」
 しっとり、若干ねっとり。柔らかな芋の甘味が口いっぱいに広がって、一緒に食べられる皮はほんの少し苦み。それが良いスパイスとなっていた。
 休憩にと焼き芋を食べたあとは、再び買い物の旅。
「おもしろいものがいっぱいです……!」
 綾華と手を繋いでいるので存分にきょろきょろできるウェリナは、たくさんの物をその瞳に映していった。
『こんにちは、小さなお嬢さん、甘い物はいかが?』
 と、ウェリナに話しかけてくるのはふわふわとした綿あめ。
「……このせかいのおかしは、おしゃべりするのです? ……えと、こんにちは、です」
 そう言ってぺこりとお辞儀をするウェリナ。そんな彼女の動作に気付いた綾華は、二度見した。
『こんにちは』
「こんちは――っておわ、え、喋るの??」
「アヤチャン、リナ、おさいふだしますね」
「あ、うん、買うんだ」
 手を離してうさぎさんポシェットから財布を出したウェリナ。どこか真剣な表情で値段を見て、お金を数えて、店主へと渡した。
 綿あめとクッキーと、飴。
「アヤチャン、わたあめひとくちどうぞです」
「あ、俺が最初に食べるのね」
 食べたわたあめは、とてもわたあめだった。
『ふわふわを維持できてるってのが、わたしの売りなの! おいしい?』
「はい、あまくってとってもおいしいです」
 食べている間もお喋りするわたあめに応じながら、食べ進めるウェリナであった。

「アヤチャン、ほんやさんがあるのです」
 歩みが弾むようなものへとなったウェリナが手を引いた。綾華を先導する。
「ウェリナちゃん、やっぱり本が好きなんだね」
「はい、あれからも、たくさんよんでますよ」
 えへん。と胸をはるウェリナ。
 古書から新しい本と様々な並び。
「――へえ、絵本もあるんだ」
 呟いた綾華がふと手を伸ばした先には絵本。背表紙にあるタイトルは「きみのおもいで」――棚へと入ったそれを引きだしてみれば――真っ白の表紙だった。
「気になるなぁ。俺、これにしよ」
「アヤチャンは、えほんなのです?」
「うん。ウェリナちゃんは何にする?」
 そんな会話をして、本売りの露店を後にした。包まれなかった本は二人の手の中で常に存在をアピールしているみたいだ。
 そわそわとしているウェリナの様子に、ちょっと休憩しよっかと綾華は広場の床几へとエスコートした。
「まっしろのえほん、きになります」
 そう言ったウェリナに笑みを零し、綾華が絵本を開く。
 ウェリナの手も添えられて、一緒に開いた絵本――ページを捲ればどこかでみた風景、よく知っている姿。
「わ! すごいのです……っ」
「おお、すげぇ」
 二人同時に声が上がる。
 そこには綾華とウェリナの思い出の景色が浮かび上がっていた。
 篝火がたくさんの夜のお祭り。
 高所から見た世界の景色。
 勇者の伝説が残る、虹色混じりの白銀の光景。
 二人で遊んだ夕日の公園であったり、ささやかな日常の風景も。
 ここには二人の思い出の景色がぎゅっと詰まっている。
「俺とウェリナちゃんの本だね」
「アヤチャンとリナの、おもいでのえほん!」
 目と目を合わせて笑顔を交わす。
 新しいページを捲れば、本を覗きこむふたりの姿が。
「きょうのおもいでも、このえほんでまたみれますね!」
 まだまだ薄いこのページは、新たな思い出を必要としているようだ。
 たくさんあそびましょう、と満面の笑顔となったウェリナへ綾華は頷く。
 嗚呼、と。指先が捲るは思い出。
(「どんな風に映るのか――次開く時が楽しみだ」)
 記憶、記録、思い出。
 一枚一枚の紙が括られ、繋がる縁。
 嬉しさや楽しさを綴り、二人の歩みはその先にも。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈍・小太刀
焼き芋の匂いに釣られ気付けばもぐもぐ
ほら、腹が減ってはなんとやらっていうし?(誤魔化し

蚤の市かあ
ふらふらと並ぶ品を見て回れば
不思議な品が沢山で
宝探しみたいで面白い
そういえば、もうすぐポノの誕生日だった様な
何かいいものあるかな

あ、弓張提灯もいた
焼きいも食べる?
さっきはありがとうね
大切な傘、もう失くさないでよ?
…そうだ傘!

見つけたのは空色の傘
開けば内側に広がる青い空と白い雲
そうね、ポノには青空が似合いそう
おじさんこれお願い
リボンもかけてね!

三味長老の演奏も聞きに行くよ
感じるのは深く強い絆の音
二人の音は今も生きているんだね
思い出と共に三味長老の中に、私達の中に
だから一言伝えたい
素敵な演奏をありがとう



 包み紙に半分包まれた焼き芋を割れば、ほくほくとした黄金色。
「うわ、おいしそう~」
 目を輝かせた小太刀は「いただきます」と告げてほくほくな焼き芋に被りついた。
(「うわ、めっちゃ甘ーい♪」)
 口いっぱいに広がる蜜芋の味。しっとりとした食感はややねっとりと。濾した芋餡を食べているようにも感じた。それでいて皮はしっかりとほんの少し苦みがあって、
「うん、焼き芋だ~」
「美味しく焼けてる?」
「すっっごくおいしい。それにあったまるね」
 木の枝を灰のなかに差し込みながら尋ねる妖怪に、ツインテールを跳ねさせて小太刀が頷き答えた。
「猟兵のお姉さんも蚤の市に来たんだよね。何か良い物は見つけた?」
「……え? あっ、蚤の市! 今から出陣予定よ」
 焼き芋を頬張りつつ一瞬考えた小太刀。目の前の美味しい物に、おくり提灯のように色々と落っことしていたようだ。焼き芋と一緒に配られているお茶もいただき、存分に満喫した小太刀はお土産も貰って(勿論焼き芋だ)「ごちそうさま!」と妖怪たちに手を振り、市場の中へと歩いていく。
「蚤の市かあ。どんなのがあるんだろう?」
 ふらふらと並ぶ品々を見て回る小太刀。
 和風洋風と入り混じる世界は色んなものがある。とある古城の大きな鍵、毎夜謎解きを仕掛けてくる刀、水の枯れない桶。
「わ、古着も可愛い~」
 内側に魔法陣のような刺繍がされたポンチョや、足が疲れないブーツ。勝手に踊る赤い靴と曰くつきのものもあった。
「不思議な品ばっかりで、宝探しみたい」
 隣の店は全然違うジャンルの品が並んでいて、歩けば驚きの連続だった。
「何かお土産とか買っていこうかな~……って、そういえば、もうすぐポノの誕生日だった様な」
 お土産から、今いる蚤の市へと案内した猟兵のことを連想した小太刀は、よし、と僅かに目的を据えた。

 青空の元に床几と座敷を拵えた一膳問屋がわいわいと賑わっている。
 青物売りがいて、飴売りがいて、和の物が多めにある区画をきょろきょろと小太刀は見回した。
 細工物を売る店は簪や櫛は勿論のこと、艶やかな細工のバレッタという西洋の物もあったりする。
「あ、弓張提灯もいた」
「あ、猟兵さん。元気?」
「元気元気、ってさっき別れたばっかでしょ。ね、弓張提灯も焼きいも食べる?」
「食べる~どろどろどろーん」
 中から葉っぱをぺいっと出して、弓張提灯が小さな女の子に変化する。どろん。
「ちょ……変身できたの!?」
「ちょっとだけね~」
 さすが妖怪、と呟いて小太刀は持っていた焼き芋を弓張提灯へとあげた。一膳問屋の床几に二人で座って、頼んだお茶と焼き芋で休憩だ。
 いただきます! と言った弓張提灯は、まだ温かい焼き芋を頬張った。思わず笑ってしまう小太刀。
「ほっぺがリスみたいになってるよ」
「ふぁふぁへ、ほひいいんはも」
 小太刀の言葉に頬張ったまま応じる弓張提灯。これはいけない、と湯呑を渡す小太刀。
「何て言っているのか分かんないよ……ゆっくり食べなよ?」
 弟や年下の幼なじみがいるので面倒見の良いお姉さんの一面が出ている。
「そうだ、さっきはありがとうね。大切な傘、もう失くさないでよ?」
「ふはっ……うん」
 渡されたお茶を飲み干して、弓張提灯が頷く。よしよし、と小太刀が微笑み――次の瞬間、何かに閃いたのか「あっ!」と声を上げた。
「……そうだ、傘! ありがと弓張提灯、無事決まったわ!」
 にっこり笑顔で立ち上がって、それじゃ! と手を振って小太刀は駆ける。
「ばいばーい?」
 焼き芋を片手に弓張提灯も手を振って。そして首を傾げるのだった。
 駆けた小太刀が飛びこんだのは傘屋であった。蛇の目傘、絵日傘、提灯も商うそこはカラフルな色が溢れている。
 見上げれば、木で組まれた細いつる棚に広がる様々な傘。花が描かれ、動物が描かれ、ちょっとした絵画展のような空模様。
「――あ、これ、いいな」
 小太刀が見つけたのは空色の傘だ。開けば内側に広がる青い空と白い雲。試しに差して、『空』を見上げてみる。
「そうね、ポノには青空が似合いそう」
 さらに柄をくるくると回してみれば、楽しくなってきた。これは自分だけの空だというトクベツ感。
「おじさーん、これお願い。あっ、リボンもかけてね!」
「はいよ、リボンは何色にするかね?」
 何色と問われて小太刀は再び真剣に悩み始める。ふと目についたのは、明るい緑地のリボンだ。
 気に入ったリボンをかけて貰い、傘を受け取る小太刀。
(「喜んでくれるかな?」)
 誰かへのプレゼント――色んなたくさんのドキドキも、買い物を楽しむ彼女に彩りを添える。

「三味長老~。さっき見かけた時、焼き芋食べてたでしょ? じゃ今度は綿あめ食べてみない?」
 オーロラ加工がされた透明の包みに入ったふわふわの綿菓子を手土産に、小太刀は三味長老の元へ。
「あ、猟兵の――」
「小太刀だよ、色々あって名乗れてなかったね」
 はい、と綿菓子を差し出せば、「ありがとう、小太刀」と三味長老の微笑み。
「一曲聴いてく?」
「うん、聴きたい! 三味長老のオススメの曲、聴かせてよ」
 積みレンガに座り、通りで曲を披露していた三味長老。その隣に座りながら小太刀がウインクしてリクエスト。
「オススメね~、どれがいいかなぁ。新曲にしようかなぁ」
 と、呟きながらも曲は決まっているようだ。姿勢を正し、三味線の胴を膝に当てた三味長老は弦へと撥を落とした。左指先は勘所を的確に捉え、三本の弦が小気味よく、そして強く音を奏でていく。
 小太刀の身の内へと響く音色は、深く強い絆の音だった。
(「あ、そうか」)
 再び繋がり、新しくなった縁は――、
(「二人の音は今も生きているんだね……思い出と共に三味長老の中に、そして私達の中に」)
 目を瞑って音色に耳を澄ませて。
 べん! と上がった音に促され、小太刀は拍手を贈った。
「三味長老、素敵な演奏をありがとう!」
 溢れそうなたくさんの言葉は敢えて伝えない。ぱんと打った手が、貰った曲へと響かせる。
 うてば響くその縁。
 三味長老はどこか照れたように、小太刀へと笑顔を返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
ふふ、三味長老が助かって良かったです。
幽世も元通りになりそうですし……私も改めて市を散策しましょうか。

【WIZ】
ふと周囲に人が居ても、全く気にならない事に気付きます。
世界が丸ごと退行したような巨大なノスタルジア、
優しさと温もりに包まれながらも溺れていくような感覚に呑まれて、
いつしか夢見心地で歩いていたのでした。

このままだと、誰かにぶつかってしまいそうです……。
人気の無い一角に避難します。私、結局こうなってしまうんですね……。
近くの市で掘り出し物を探しましょう。
わ、はたき。古書。アンダーリム。他にも色々。迷いますね……。
……はい。この子に決めました。
宜しくお願いしますね。



 耳を澄ませば弦を撫でるような三味線の演奏が聴こえてくる。
 喧騒の邪魔をしない柔らかな音色に気付いた人は、品を求める足取りが軽くなる。
 流れるメロディは三味長老としては詫びのものなのだろう。音に乗る効力に、そしてどこか吹っ切れたような演奏に、クララは一つ頷いた。
「三味長老が助かって良かったです。幽世も元通りになりそうですし……私も改めて市を散策しましょうか」
 骨董ガラクタ蚤の市。
 カクリヨファンタズムの市場は、和も洋も混在した不思議な市場だった。青物売り、荷車いっぱいの花売り、鉢をとっても北欧のものやシンプルな素焼き、アンティークな真鍮と品の質は様々だ。
 木で組まれた細い緑廓をくぐっていく通りでは、開いた傘が飾られていたり、どこかの風景を描いたポストカード、たくさんのランプ。
 青空の下には一膳問屋や喫茶が開かれており、和の床几や野点傘、使いこまれた洋風テーブルと椅子と、休憩する妖怪たちもどこかくつろいだ様子。
 ふと、クララは周囲に人が居ても、全く気にならないことに気付いた。歩くスペースは十分で、飾りのないクリスマスマーケットのような市場は、
(「世界が丸ごと退行したような――」)
 巨大なノスタルジアだ。クララが改めて意識を向けてみれば、どこか古めかしい。骨董品という奥ゆかしい品々を見て回る人も、歩き方ひとつ、言葉ひとつ、たくさんの時を流してきた物たちへ敬意を払っているかのような、そんな空気。
「ふふ……」
 自然と笑み零れた。
 優しさと温もりに包まれながらも溺れていくような感覚に呑まれ、いつしか彼女は夢見心地で歩く。
「わあ、猟兵さん、ちょっとちょっと~」
 明るい声が耳に届くが、自身のことだとは思わなかったクララは相変わらずふわふわとした足取り。
 くいっと手を引かれて、ぱっと振り向く。
 小さな女の子がクララの手を掴んでいた。
「――あの?」
「猟兵さんってば、だいじょーぶ?」
 少しませた口調、その聞き覚えのあるその声にぱちぱちと目を瞬かせたクララ。いやまさかそんなはずは……と思いながらも、
「……おくりランタンさん?」
「そうよ。猟兵さんってば、あの子みたいな歩き方しちゃってちょっと危ないよ?」
「え、えっ、ランタンさん――??」
 ランタンを持つしぐさをしたり小さな女の子の頭に手を翳したりと、あわあわとしたクララの動き。
「驚いた? あたし、変化の術を使えるの!」
 成功した! という風に笑うおくりランタン。そんなやり取りをしている間にも、少女に手を引かれて人気のない一角へと導かれるクララ。ようやく状況を理解した彼女は、はあぁぁぁとちょっぴり重い溜息を。
「あのままだと、確かに、誰かにぶつかってしまいそうでしたね……」
 私、結局こうなってしまうんですね……。と、若干落ち込んで。
「大丈夫よ。猟兵さんはそういうことに気付ける人だもの。こういったことに気付ける人ってね、あたしたちのことをよく見つけてくれる人なのよ」
 あたしたち――道具の妖怪・おくりランタンがそう言う。目前の鮮やかな物に惑わされず、本当に必要な、真理を見出す意識を持つ人なのだと。
「そう、ですか? ありがとうございます……それでは気を取り直して、掘り出し物を探しましょう」
「うん、その調子! 良い物と巡り逢えますように!」
 おくりランタンがクララへと蛍のような光を送る。加護の魔法だろうか――魔力の扱いに長けたクララは瞬時にして意識を切り替え、それを受け入れた。
 束の間に邂逅。縁は確かにあったようで、「それじゃ」と手を振ったおくりランタンへと手を振り返す。

 古物市。
 仕舞い込まれた品々が、外の空気を染めていく。
 古書の店では長く足を留めてしまったけれども、そういった店は本好きが多い。知らない言語で書かれた本や、開けば薄く場面が展開する魔法の本と、様々に。
 眼鏡を売る店では、クララも試着してみる。フレームが下方にあるアンダーリムは、クララを大人びた容姿にしてくれる。
 旅人向けの店では、びっしりと守りの刺繍を裏地に刺したコート。お守りや、止まることを知らないブーツという曰くつきのものまで。
『お嬢さん! 私を使ってみないかい?』
 八百万が宿ったかのような物は自らを売り込んでいた。声を掛けられたクララはびくっとする。
「わ、はたき、さん? 少し見てもいいですか」
『私じゃなくっても、色んなはたきがいるさね! たくさん見ていきな』
 お喋りなはたきは、掃除中にもお喋りなのだろうか?
 なかなか大変そうです……、と思うクララ。
 振れば瘴気を払うはたきもあって、まじまじと観察する。柄の装飾は古の、はたく部分には刺繍。魔の符牒だろうか。
 売り子めいたはたきとは違って、喋らない瘴気祓いのはたき。ひと目でクララは気に入ってしまったようだ。
「……あの、この子を頂けますか?」
「まいどありー」
 今度はちゃんと店主が対応してくれた。
「物置はよく魔力溜まりが出来てしまいますしね。……これから末永く、よろしくお願いしますね」
 はたきさん。
 そう声を掛ければ、確かな息吹を感じる。
 新しい出会い。手を伸ばせば結ばれる縁の市を、クララは再び歩きはじめるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノネ・ェメ
 三味長老さんの様子は……何も覚えてなかった系? それならとくべつ気にかける事もない、かな? でも一期一会ともゆーし、三味長老さんにお伴させてもらっちゃお。せっかくだしわたしも和服、和服……UCで浴衣に早着替え。

 三味長老さんはいい買い物できました? ゎ、キレイなビー玉。中を覗くとさらに? じゃー、コレ見てみよっと。ふゃ……

(海の底のような暗く深い青が広がり、明るく楽しい感じとは違うものの辛く悲しい感じとは違った、どこまでもニュートラルといったような、ふしぎと落ち着く、そんな感じの心象に)

 ……すごい。これ、ください。わたしの想い出の一端かもなんだ? 心当たりは、あるよな、ないよな。ふふっ。



 猟兵たちと別れ、歩き始めた三味長老をノネが追う。
 ── ədʒˈʌst fítiŋ ──
 紡いだ音は瞬時に発露され、ノネの姿を浴衣のものへと変えた。
「わ、すごい、猟兵さん、めっちゃ可愛い浴衣じゃん!」
「そなのです、めっちゃカワイー浴衣なのです。三味長老さんの姿を見てて、いいなーって思って」
 電子の夜空に泳ぐ金魚柄。袖振らば光粒がキラキラとしていた。乙女椿だろうか、髪飾りの大輪も青く。
 たくさんの青に染まったノネに、綺麗だね、って三味長老は頷いた。
「猟兵さん、名前なんていうの?」
「ノネって呼んでください。ね、三味長老さん、何かお勧めのものってあります?」
「う~ん、今のオススメはビー玉かなぁ。ノネさん、一緒に売っているお店に行く?」
「行きます行きます、お伴しまーす」
 普段よりはちょっとしとやかめな足取りで浴衣裾をさばく。
 途中で飴細工を買ったり、ぱちぱち弾けるジュースを飲んだり。時折、ふと、三味長老は何かを探す視線を辺りへと向けている。
「何か探してるんです?」
「うん、ビー玉。でも見つからなければそれでもいいかな、って思ってる」
 どこか寂しそうな、それでいて安堵したような笑み――いや、声音。
「…………手、繋ぎます? わたし、ちゃんと歩いて『案内』するから、たくさん探せますよ」
 探しながらの歩みは危なっかしい。それならば、と、ノネが手を差し出せば三味長老は目を瞬かせた。
「いいの? ありがとう!」
 繋いだ手は直ぐに体温を共有し、ほかほかとあったかくなる。

 見つけたビー玉、新しいビー玉、心の琴線に触れた縁はまた別の物語。

「ゎ、キレイなビー玉」
 辿り着いた店はビー玉を丁寧に並べて売る店だった。
 赤や青、緑や白、そして黒と。色一つとっても明度は様々で、さらにはオーロラ加工、クラック加工と多種に渡っている。
「いらっしゃい、三味長老と、初めてのお嬢さん。ビー玉、手に取って覗いてご覧よ。綺麗なものが見えるよ」
「ふぇ、中を覗くとさらにキレイ? じゃー、コレ見てみよっと」
 白銀の布地に置かれ、僅かに沈んだビー玉を手に取って。
 は、とノネは息をのんだ。
「ふゃ……」
 小さく声がもれる。彼女の視界いっぱいに、青が広がった。
 明るく楽しい、踊るような青――ううん。
 じゃあ、辛く悲しい、深い涙に満ちた青――いいえ。
 どれもを含み、どれもに染まらない。どこまでもニュートラルを渡る青は、不思議とノネの心を落ち着かせた。
 それは、海の底のような暗く深い青。たくさんの生まれる前の息吹が静かな静かな――可能性の青だった。
 何が生まれ、何が落ちていくのか。
「……すごい。これ、ください」
 ふぁっと我に返ったノネの掌でビー玉が転がる。少しくすぐったかった。
「毎度あり、お守り袋をつけておくから、入れておくといいよ」
「ん、ありがとうございます。
 ……これ、わたしの想い出の一端かもなんだ?」
 ノネでなかったノネが見ていたかもしれない青。
 もしかしたら今のノネが無意識下で見たかもしれない青。
「――心当たりは、あるよな、ないよな♪ ふふっ」
 少しリズムをとって歌うように。
 懐かしい世界に心を寄せた。
「良い物が買えた?」
「はいっ」
 三味長老の声に、思いきり頷いて。
 嬉しそうなノネの表情に三味長老も笑顔になった。
 うてば響く、いろんなこと。

 静かな青。聴いて。
 ほら、世界にはこんなにもたくさんのメロディが溢れてるよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月08日


挿絵イラスト