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こゝろおぼえ(作者 ねこあじ
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『あれあれ、おくり提灯だわ』
 日も暮れた頃、宵の間にぽかりと仄かな灯りが浮かび上がって、娘がどこか楽しげな声で言った。
 十の歳から始めた習い事は三味線。家路へ着く時間はいつも夕暮れで、人も妖怪も行き交う逢魔道。
 水路の音色を聴きながら娘が何かを口ずさむ。
 娘はいつも何かを『音』にしていた。それは童謡だったり、気持ちだったり、好きな譜をなぞるものであったり。
 たくさんの帰り『時』。茜が差して景色は一面染まっていく。
 蛍が飛び始める宵の頃になれば急ぎ足となり、包み抱えた三味線も跳ねた。
 数多の春夏秋冬を渡り。
 数多の軽重哀楽を奏で。
 いつしか娘と離れ離れとなった三味線は意志持つ妖怪となった。
 けれども弦を指で弾いても撥で弾いても、娘の音にはならない――。


 市の中をとことこ歩く。
「三味長老さん、良い物が入ったのだけど見ていかないかい?」
 骨董ガラクタ蚤の市で馴染みの店主が三味長老へと声を掛けた。
「良い物?」
「空の色を映しとったビー玉だよ。手に取ってご覧よ」
 何色が良いかい? と促され、三味長老は良く知る茜色のビー玉を手に取ってみた。
 蚤の市の品は思い出を呼び起こす物ばかりだ。視界いっぱい、重なるように夕暮れが広がった。
「ほんとだ、めっちゃイイじゃん♪ 買ってくね」
「毎度あり~」
 買ったばかりのビー玉を掌で遊ばせながら三味長老は路地へと入る。
 ガヤガヤとした市の喧騒を背に。先には骸魂の通り道があり、ふわりふわりと過ぎていく。
 その時、一つの骸魂が近寄ってきて――帰ってきた――すんなりと、三味長老はそう感じた。
「……アンタ……」
 買ったばかりのビー玉が掌から落ち、地面を転がる。掌は鬼火を迎え入れる。
「また会えたね、嬉しい、嬉しいよ」
 鬼火の骸魂――かつての娘と一つになった三味長老が歓喜の声を上げる。
 潤い満ちた『今』。共に巡った鮮やかな四季が魂を彩った。
 このまま一緒にいたいね。
 そうだね。
 あの日々の音を奏でようよ。
 それじゃあ、
「時よ止まれ、お前は美しい」
 鬼火の三味長老。終わりを告げる『滅びの言葉』が、カクリヨファンタズムを破滅へと導く。


「想いに伴う言葉ひとつで、崩れ落ちてしまうなんて。本当にカクリヨファンタズムという世界は脆いのね――」
 想いで繋いだような世界は、鬼火の三味長老が放った言葉で終焉が迫ろうとしているらしい。
 足元から崩れ落ちてゆく世界を元に戻すため、カクリヨファンタズムへと向かって欲しいとポノ・エトランゼ(エルフのアーチャー・f00385)は集まった猟兵たちに説明する。
「皆さんを送り届ける場所では蚤の市が開かれていたのだけど、生憎、崩壊中とあって結構不安定な感じなのよね」
 地面はあったり、なかったり。
 市の店も人も品物も散乱していて、現場はものすごーく混乱中らしい。
「それじゃあ、鬼火の三味長老も何処にいるのか分からないのか……」
 猟兵の言葉に、そうなの、とポノが頷く。
「でもね、この辺りには『おくり提灯』っていう妖怪たちがいて、三味長老までの道案内も任せられそうなんだけど――この混乱でしょう? ぽろぽろと大切だった気がする想い出を落としまくっててそれどころじゃないみたいなのよね」
 落とすとは……。摩訶不思議な現象を聞き、真顔になる猟兵たち。
「ここがカクリヨファンタズム世界の不思議なところね。想い出が落とし物になっているのよ」
 まあ現場に向かって、話を聞くなり、落とし物を拾って持ち主を探すなりとすれば、自ずと道も拓けるだろう。
「いつものことになるけれど、皆さんの現場での判断にお任せするわ。
 その後は鬼火の三味長老との戦いね……ようやく再開した二人を引き離すことになってしまう。
 辛く感じてしまうかもしれないけど、世界のため人々のため、彼らのために再びの別れは必要なこと……なのよね」
 どこか自身へと言い聞かせるように呟いて、ポノは猟兵たちを送り出すのだった。





第2章 ボス戦 『鬼火の三味長老』

POW ●べべべん!
【空気を震わす大音量の三味線の演奏 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD ●鬼火大放出
レベル×1個の【鬼火 】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ ●終演
【三味線の演奏 】を披露した指定の全対象に【生きる気力を失う】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 テン、テン、テン――テテテテ。
 弾く弦一音しばらく続くと、次には駆け上がるかのように連なっていく。
 おくり提灯に導かれ、道を見つけた猟兵が耳にする三味線の音。
 辿り着いたのは蚤の市の出入口付近の拓けた場所であった。あちらこちらに鮮やかな彼岸花が群生しており、鬼火が舞う。
 ――テンッ!
 猟兵たちの存在に気付いた鬼火の三味長老が撥を強く弾き、音が止んだ。
「何者だ。立ち入るな」
 本来の三味長老からかけ離れた威圧ある声。
 ベベン。
 と、再び一音。猟兵たちが駆けてきた道が消失し、先の方で新たな闇が広がった。
「あちらからお帰り願いたい。ここは私の世界、私の狭間、私の時間」
 テン、と音が合図のようであるかのように、空は夕暮れとなった。
「彼女とあれで織りなす、私の音」
 ベベン。風が吹き、揺れる彼岸花が擦れ合ってしゃらしゃらと音を奏でた。
 心地よい秋の音楽だ。僅かに鬼火の三味長老の口端が微笑むも、すぐに真一文字が結ばれた。
「……だがどうあっても邪魔をするというのなら、容赦はせぬ」
 そう言って鬼火の三味長老は猟兵を睨むのであった。
ネーヴェ・ノアイユ
……素敵な音色ですね。三味長老様と骸魂となられた娘様の息もぴたりと合っていることが伝わってくるほどですが……。この世界のため。気を引き締めて参りましょう。

三味線の演奏にて……。失いかけた気力をおくり提灯のバル様の灯りをふと思い出したことにより気力を取り戻します。
三味線の演奏に気を付けつつ……。三味長老様にお尋ねしてみます。
その娘様とどのように過ごした時間が大切だったのか。娘様はどのような時に楽しそうに演奏をしていて……。今のような状態を本当に望んでいると思われているのかを。

攻撃は私の手段の中で最も精密攻撃に長けているUCを使用し……。骸魂様のみを狙うよう少量ずつ丁寧に放っていきますね。


箒星・仄々
お二方が慈しみ絆を育まれた過去からなる
この世界の破壊を
お二人が望む訳がありません

お止めしましょう


生きる意志を削ぐ…
その三味線で
そんな音色を奏でるなんて哀しいです

竪琴の音色で三味線に抗じながら
外界と響き合わせ魔力を練り上げます

秋風を風の
夕暮れを炎の
彼岸花(それが表す彼岸との境界の川)を水の
矢とし攻撃


鬼火さん
再会した友と別れ難いのは道理です

貴方の大切な
三味線さんと
この世界と
世界に満ちる音を守る為
海へお還しします

長老
友との再会
嬉しいですよね

そして幽世の沢山のお友達が今
苦しんだり困っておられます
そんなことお嫌でしょう?

終幕
長老さんを促し
共に鎮魂の調べ

大丈夫
鬼火さんは
思い出として貴方の裡に輝いていますよ


ノネ・ェメ
 どーもしないとすればスルーしてくれる? 邪魔をするというのでなければワンチャン?

 わたしのUCは、争いや戦いの制止を求めるもの。制止に応じてさえくれたなら、三味長老さんが探し求めてた、娘さんの音だって聴かせてあげれる。

 娘さんの音こそを聴かせたげたいのだけれども、相手もオブリビオンって事なら……鬼火さんが幾つに分身しよーとも、合体して一つになろーとも、その動きは五分の一。素早さならまけません。ので、当たりません。と、思います。

 娘さんの音を聴く事で、鬼火さんが娘さんであって、娘さんでないって事が、何かしらでも伝われば、こう……成仏、出来たりとか? でも、でも二人の“今”も裂きたくないよ……。


 ティン。
 それは秋の夜長に鳴く虫のような音色であった。猟兵たちへ散歩――否、退出を促す音楽。
「……素敵な音色ですね」
 snow broomへランタンを預け、静かに、そして穏やかにネーヴェ・ノアイユが言う。
「三味長老様と、骸魂となられた娘様の息もぴたりと合っていることが伝わってくるほどですが……」
 トン、とリズムに乗って瓦灯へ指を当てたのち、ノネ・ェメはそれを懐へ保護しながら、
「――でも、ふたりは別の存在で。うまく言えないのだけど、娘さんと、三味長老さんと、『今』の鬼火さんと、きっと音は違うもの」
 ノネの聴く今の音色は熟練のものだ。三味線の技術を磨き続けてきた三味長老と、生を終えた娘――鬼火の骸魂の情。時の流れは確かに、『今』である音の結果を生み出し、けれども三味長老が望む過程のさなかに在った音は過去。
 二人の会話を、音楽を聞いていた箒星・仄々は僅かに息を吐いた。「しばらくはこちらへ」と提灯に告げて、畳んだそれを懐に。
「お二方が慈しみ、絆を育まれた過去からなるこの世界の破壊を、お二人が望む訳がありません」
 箒星風の飾りがついた帽子を被りなおし、決意の宿る瞳で先を見据える。
「お止めしましょう」
「……はい、この世界のため。気を引き締めて参りましょう……」
 仄々の言葉に、ネーヴェは頷くのだった。

「邪魔をするか」
 べべん!
 鬼火の三味長老が撥で弾き、高らかな音を奏でた。衝動による早駆けを表現する演奏がどくどくと猟兵たちの鼓動を打ち、苦しいという感情が生きる気力を奪っていく。
 しっかりと立つ――それを意識して傾ぎそうな体を支え、仄々は呼気を整えた。
「生きる意志を削ぐ……その三味線で、そんな音色を奏でるなんて哀しいです」
 抗うようにカッツェンリートを奏で、自身の魔力を紡ぎトリニティ・ブラストを発動する仄々。遊牧民を故郷とする彼の力は、多くが自然へと由来するものだ。
 世界と同調させた魔力に反応し、茜の空から生まれるように炎の矢が、風は涼しさのなかにどこかひやりとしたものを感じる秋の、茜を映し精製された水矢は数本が束になり流れる。
 秋景色が交差し、鬼火の三味長老を攻撃する。
 矢が当たる瞬間に彼女を覆う青い炎は、きっと三味長老を取り込んだ鬼火の骸魂。
 べん! と一音を境に曲が転調した。飛んでいた鬼火のいくつかが鬼火の三味長老へと帰る。
「『私の時間』を失くそうとする者はすべからく滅べばいい」
 弦をかき鳴らせば絶望を表現する音色。
 ザッ! と血の気が落ちてゆくのを感じたネーヴェの視界は、切り取られたかのような闇が訪れた。
 先程も見た闇の世界――ふと思い出す。
(「あれは……」)
 新しき想い出と闇の世界がネーヴェの視界でリンクする。そこに灯っていたのは、共に歩いたバルのあたたかな光だ。
(「――大丈夫」)
 宿った光はぽかぽかと。ネーヴェの心をあたためてくれる。
「鬼火の三味長老様……」
 凛と、ネーヴェは問いかける。
「今のような状態を、娘様が本当に望んでいると思われているのでしょうか……」
「――何を……お前達があの子の何を知っているという」
 ぱんっと仄々が生む炎矢が鬼火を削ぎ、散った赤青の火を風矢が払う。
「娘様とどのように過ごした時間が大切だったのか……」
 それは水面に落ちた滴のような言葉。
 苛烈な音色に投じられた静かな声が心地良いなと、ノネは思う。
「── tʃɪ́lɪn’zǽpɪn’──」
 争いや戦いの制止を求めるノネの想いの音が世界へと渡り始めた。仄々の水矢が開き、彼岸花へと変化した。水花が鬼火の力を洗い落とす。
 刹那に劈く三味線の音を柔く包むはノネの音楽だ。それは三味長老が紡げず、鬼火の三味長老も紡げない誰かの音色。
 ぴたりと相手の三味線が止む。
(「娘さんの音を聴くことで、鬼火さんが娘さんであって、娘さんでないってことが……伝わるかな……?」)
 軽快な曲調に想いを寄せるノネ。
 icicle tempestを展開し、周囲の鬼火を刈り取っていくネーヴェの氷鋏たち。少女は問う。
「娘様はどのような時に楽しそうに演奏をしていましたか……」
「――あの子は、どのような時も楽しそうだった。悲哀を弦に乗せる時だって」
 悲しみ、悔しさを乗せたこともある。それでも指先はいつも軽やかで楽しそうで。根っからの奏者だった――聞いたノネが更に音を紡いだ。動きが鈍る青の鬼火を、ネーヴェの氷鋏が更に刈り、仄々の炎矢が空の茜に染めた。
「娘さん、いえ、鬼火さん。再会した友と別れ難いのは道理です」
 秋色の魔力に満ちた矢を放ちながら仄々が言う。
「貴方の大切な三味線さんと、この世界と、世界に満ちる音を守る為に、骸の海へお還しします」
 仄々の言葉と奏でられる竪琴の鎮魂の調べに、ノネもまた同調し奏じる。
「三味長老さん、友との再会は嬉しいですよね」
 分かります、と仄々。
 ノネの音と、ネーヴェの声と、仄々の言葉。鬼火の三味長老の世界に渡るのは優しさに満ちたものだった。
「ですが、幽世の沢山の、貴方のお友達が『今』苦しんだり困ったりしておられます。そんなことお嫌でしょう?」
 べ、べべん。
 鬼火の三味長老の音が再開し割り入るも、何かが違う。あんなに彼女の身に馴染んでいた焔が少し浮いた。
「もう一度、尋ねさせてください……。今のような状態を、本当に望んでいると思われているのですか……?」
 仄々から続いたネーヴェの再度の問いに、顎をくっと上向ける鬼火の三味長老。
「「「悲しい」」」
 声が三重となり、三人の耳に届いた。奏でる音楽は、一つから二つへと乖離し、再び一つへと揺らぎ続けている。
 同調しながらも分裂する音は、別れの名残であったり惜しむものであったり。
(「でも、でも二人の“今”も裂きたくないよ……」)
 『今』しか奏でられない音楽はノネの胸をぎゅっと潰しにかかる。〝音憩〟の効果で、とろみのある音色が今生に響いた。
「「「刹那、せつな、切ない」」」
 ゆるゆると鬼火が放出されていく。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵