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虚嘯聖環、シガンハシヅカ

#グリードオーシャン #七大海嘯

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#七大海嘯


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 悪意と害意は、同じものなんだろうか。
 砂を掻き、寒さに震える体を引き起こし、少女は、浜辺に立っていた。
 ざり、と裸の足が砂を踏む。靴代わりに巻いていた布は海流に流された。
「……ただいま」
 誰にともなく言う。その足で歩く。いくらか険しい坂を上り、丘へとのぼれば、小さな村が見える。真ん中が窪んだ山の形をした島。そのほんの上縁だけが海から顔をだす、環状の島。
 ここは、不気味な静寂に包まれている。
 見れば水平線に太陽が沈んでいく。
 ああ、そうだった。帰りつく度思い出してしまう。活気に溢れたありふれた島であった日々を。
 無人。そう直感するほどの、静けさが家々の間を漂っている。
 紺いろの大地に空だけが赤く燃えている。怪物めいた巨大な眼が、波の揺らぎに二、三度瞬いて、目を閉じた。
 空の火が朽ちて、寒々しい夜の藍色に溶けていく。今まで聞こえなかった波のざわめきが聞こえ始めた。
 いや、聞こえはじめたそれは、人の息遣いだ。
「ああ、ああ! ――お帰りなさい……っ」
 日没の祈りを捧げ終えた人々の声が遠くの雨音のように流れ出したその時。
 慈愛と歓喜に柔らかく揺れる声が、少女の脳髄をひどく軋ませた。
「巫女さまだ」「巫女さま! お帰りになられたのですね」「ああ……おいたわしや、あのような傷を付けられて」
 濡れぼそる布に身を包んで、疲労に落ち窪んだ表情を見せる少女をおもんばかりながらも、しかし、誰も近づこうとしない。その体を拭こうとしない。
 いや、近づくものはいた。
「私の娘……良かった、生きていたのね」
 その体を抱き締める女性、そして、男性。その後ろで、寂しげに、どこか恨めしげな目をした幼い少女。
「うん、お母さん、お父さん」
「よかった……あなたを失ったら私たち……」
 数秒、胸が痛くなるほど少女の体を抱き締めた女性は、改めて少女と視線を合わせて、微笑んだ。
「ちゃんと、お務めは果たせたのね」
「ああ、あのお方の望みを叶えられるのはお前だけだ」
「あなたは私たちの宝」
「俺たちはお前を生み育てるために生まれて、お前は……あの方のために、生まれたんだ」
「ああ……なんて、幸せな子……」
「……うん」
 安堵して緩んだ瞳に、見えぬ刺に刺されたような痛みが走る。
 見ていない。お母さんも、お父さんも、その震えた声を発する潤んだ瞳は私を見てくれてはいない。少女は、視線を滑らせる。
 二人の言葉の先にあるのは――。
「ああ、お疲れ様です。さあ、あなたの成果を私に話してください」
 ゆっくりと、体を休めながらね。
 少女の肩に触れた白い手。慈愛に満ちた絹布を草風に奏でるような声。
 少女へと始めに声をかけた存在。
「はい、……『神様』」
 背を優しく押され、少女は背を向けたそれに歩みだす。
 たおやかな聖女を思わせるその姿に脚はなく、砂に線引く大蛇の尾が地を這っている。
 少女は、ふと視界に入った、家に掲げられた『舵輪』の紋章に僅かに目を細め、濡れたままに蛇の背を追った。


 グリモアベースに写し出されるのは、海原に浮かぶ海賊船。
 帆に並び掲げられた海賊旗には『舵輪』のシンボルが描かれている。
「七大海嘯が一角、舵輪。その配下を名乗る者たちだ」
 ルーダスは、その船団をそう説明した。七大海嘯、という名も馴染みはない。海を拓き、そうして伝え聞くようになったそれは、強大なオブリビオンであると予想される。
「この島は、すでにその舵輪の配下であるコンキスタドールに掌握され、前線基地と化しているようでね」
 コンキスタドールの支配から、この島を解放する。
 それが今回の目的だ。
「とはいえ、常に警戒が敷かれ、忍び込むことはできない。だから、正面突破だ」
 鉄甲船でこの船団を破り、島へと到達する。
 全てを相手にしている暇はない。時間を掛けすぎれば、他の基地から増援を呼ばれてしまう。
 ただ船を破壊されては意味がない。
「つまり鉄甲船を守りながら、突破しなくてはならない」
 だが、厄介なこともある。とルーダスは忠告する。
 その船団に、島民が乗っている。いや、乗っているだけでなく、猟兵を阻止しようと攻撃意思を見せるだろう。
 コンキスタドールに扇動され、共に立ちはだかる。コートとフードを身に纏い、姿をおなじものにしている彼らは、しかし救うべき島民でもあるのだ。
 死を恐れてくれる、とは思えない。彼らの価値観は、コンキスタドールに都合の良いものへと誘導されているのだから。
「……だからといって、退くわけにはいかないだろう?」
 増援はあちらだけではないし、なによりも、猟兵は、オブリビオンを屠るものなのだから。
 グリモアが光を放つ。世界が移ろぎはじめた。
 そして。
「さ、準備はいいかな」
 光の先。
 満ちる海嘯、船の穂先を叩くうねりが、猟兵達を歓迎していた。


オーガ
 各賞ごとに断章を挟みます。

 一章、対集団海上戦
 二章、対ボス地上戦
 三章、冒険フラグメント
 です。

 よろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『忘却に誘う扇動者』

POW   :    その言葉は、人々を熱狂へと導いた。
自身の【演説に賛同した人々の理性】を代償に、【狂乱に堕ちた賛同者】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【反対者に対して、その島で使用可能な凶器】で戦う。
SPD   :    その言葉は、人々が無謀に至る誘いであった。
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【言葉に扇動された人々の命】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ   :    その言葉は、人々からその島を忘却し尽くした。
【この島は海に消えるべき】という願いを【自身の演説を聞いた全ての人々】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「ああ、……っ」
 悲嘆の声が、響く。社の舎内。神座として建てられた部屋に、蛇の涙がこぼれ落ちている。
「綺麗な肌だったのに、可哀想に」蛇の腕が少女の腕をなぞる。下腕の内側。水晶が埋め込まれた疵。
「傷付いて、死に瀕して、それでも、帰ってきてくれたんですね」
 偽りの無い優しい声色から逃れるように背けた目が、部屋の隅に転がる白い小石を見つける。
 同い年か、いや、それより幼い人の背骨の一つ。海賊が拐ってきた人間を、また喰ったのだろうか。それとも島民だろうか。
「家族のために。ああ、私はあなたを助けることができない。私はあなたを幸せにできない。……なんて可哀想な子」
 この蛇の語る『教え』というものに、この島の人々は侵されている。
 コンキスタドールの扇動のままに、与する海賊に奉仕し、教えを守るために人を裏切り続けている。
 その自覚もないまま。愛するものを変わらず愛していると信じたまま。
「あなたは、世界を見るが故に、異常を知ってしまう」
 この島に巣食う海賊が、知らぬ人間が、島民が、家族が、異常な渦の中に魂を投じていることに、ここを離れる少女だけが気付く。
 蛇の優しき受容という毒に、己の欲を押さえる理性を溶かされたように。その欲すら蛇は飲み込み、それに人々は歓喜する。
 ただ独り、気付いてしまう。メガリスに適応したばかりに。
「あなたは狂うこともできない」
 さめざめと泣く。その声に偽りはなく、慈しみを以て少女に涙する。
 悲劇というならその脚本を書いたのは、蛇であるはずなのに。
 そうして、涙をそのままに蛇は言った。
「あなたを殺す為にシーサーペントを差し向けました」
 悪意なく、害意を示す。そこに少女を否定する心はなく、その苦痛を呑み込んで。
「逃げ切れはしなかったはずなのに、あなたは生き残った」
 その告白に、少女は驚かない。きっと、死んでいたならそれは幸福だと、慈愛に彩られた言葉を言うのだろうから。
 なら、生き残ったなら、悪意無き害意に得ようとしたのは。
「ならば、出会ったのでしょう? 猟兵に」
 猟兵、突如降って沸いたように現れた、そう名乗る集団。その噂は、無視し得ぬ程に広がっていた。
 そうだ。コンキスタドールを殺し、人々を救うそれに、少女は出会った。
 誰かを救うために、動く人々。
 身を滅ぼすほどに死に近づき、そしてそれを跳ね退け、救われぬはずの誰かを助ける人々。
「教えてください。猟兵とはなんなのか、あなたが思うままに」
 そうだ。
「……埒外の、存在」
 だから、少女は猟兵に願ってしまったのだ。

 ――助けて、と少女は、すがったのだ。

 その思いが、全てを壊すと知りながら。願う幸福を、過去に葬ると知りながら。
 そう、伝えずにはいられなかったのだ。


 島を目指し、鉄甲船が波を裂く。
 その先に立ち塞がる船団。倒すべきコンキスタドールと救うべき島民の混合船員。
 これを突破し、七大海嘯の支配下にある島へと上陸せよ。


 第一章、船上戦です。

 それっぽいプレイングだといいかもしれません。
 島民とコンキスタドールは、海賊用の武器、船載兵器を使い攻撃してきます。

 それでは、よろしくお願いいたします。
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡みも歓迎!

よ~し!みんな海の藻屑にしちゃ……っ
ダメなんだよね!うん、ちゃんと覚えてるよ!ほんとほんと!
あストップストップ!![餓鬼球]くんズ丸呑みにしちゃダメーッ!!

そうだ、船ってことは舵や帆や動力はあるってことだよね!
それを壊しちゃえば付いてこれないよね!ボクって賢い!
かじっちゃえー!
後はついでに球体くんたちを放って船の上の子たちをかくらん?してもらうよ!敵と人の区別のつきにくいときの見分けは…[第六感]で!
その上で進路上の邪魔な船は球体くんたちに押してどかしてもらって…
しつこく攻撃してくるならボクもダーッと空中を走っていって乗り込んで自分でUC使ってやっけるよ!


ニール・ブランシャード
わわっ、転移したらすぐ船の上なんて!こ、心の準備が…
海って大きすぎて苦手だな。それにぼく、落ちたら沈んじゃうし。

敵船に乗り移る方法は、飛べる人がいれば乗せてもらいたいけど…もしくはぼくが飛び移れるくらいまで近づくのを待とう。
その間に飛んでくる攻撃は…うーん、飛び道具持ってないし…一か八か…
てい!!(武器を怪力任せに振る)
わぁっ、なんか飛んでった!衝撃波ってやつ!?

乗り移れたら今度はぼくの番。
UCが確実に効くように島民達を引きつけて…
今だ!練る毒性は「麻酔」!
コンキスタドールは簡単には眠ってくれないかもね。でも、人間の島民達は?
うまく2人きりになれたら、正々堂々と戦おうか。
さぁ、武器を取りなよ!



 世界を包んだグリモアの光が僅かに揺らぐ。
 一陣の風が、潮飛沫を跳ねて棚引くカーテンのように視界を覆ったと思えば、次の瞬間に視界に飛び込んできたのは海の青だった。
「ぅ、え? わ……っ!」
 鎧を細かい水滴が叩く震動と共に感じる強烈な潮の香りに、海原を進む鉄甲船の甲板に転移させられた全身鎧は、思わずによろめいた。
「びっくりした……いきなり海の上なんだ」
 ニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)は落ちれば、何処かの島に辿り着くまで海底を歩き続けなければいけないという、恐怖と好奇心に、腰を引きながらも、眼下の揺れる海黒を眺める。
 泳ぐ、という手はない。時折、所用で離れているときに中を覗かれ、伽藍洞の鎧が動いていると誤解をされる事もある彼は、しかし、鎧の中に住まうブラックタールである。故に鎧と体を切り離すことは可能ではあるのだが、それは彼にとって服であり、鎧であり、家である。
 思いつきもしない、というのが正しいかもしれない。
 ともかく、恐る恐ると海の下に思いを馳せる彼に反して、海に恐怖を全く覚えていないであろう少年の声が響いた。
「よーっし!!」
 その声にニールが振り向けば、その先には潮風にピンク色の髪を揺らす少年。海どころかそもそも恐怖という感情をどこかしらに落としてしまったのではないか、という程の明朗さで、不可思議な球体を周囲に、ぐるぐると舞わす彼、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)の視線の先には、島までの海域を埋めんばかりの海賊船の群れ。
 島民とオビリビオンが入り交ざる第一関門。どうにか、島民たちを救えるようにコンキスタドールを――。
「じゃあ、みんな、海の藻屑にしてるぞーっ!」
「ぉ、え、ええ!?」
「ってダメなんだよね、ちゃんと覚えてるよ! ほんとほん、ぁ、ストップ! 餓鬼球くんズ、ステーイ!!」
「……えぇ」
 明確に行く先全部掘削して道にしてやるぞ、という意思が見える鈍い刃の塊ともいうべき凶悪な球体を慌てて制御する彼に、ニールは思わず息を吐き出していた。
 船首に仁王立ちする彼の姿は、頼もしく見えたのに些かな不安が心中にひょっこり顔を出している。
 と、その時。
 微かに鎧を震わせる振動に、ニールが振り返り見たのは、並ぶ円だった。それが大量の海賊船の胴体から覗く砲口だと気付いたのは、その一瞬後で。
 それが、一斉に砲弾を発射するのは、その一秒後だった。
「……っ、ぅあ!!」
 考える暇も無かった。弓も銃も持っていないニールが無意識の行動で取ったのは、その手に持ったハルバードを力任せに振るうことだった。
 もし、それが余人の振るうものならば、何の結果も齎す事は無かっただろう。だが、人並み外れた怪力を以て振るわれたそれは。
 ド、バゴァ!! という凄絶な轟音を伴い、空気を震わせた衝撃波を擲っていたのだ。乱暴に放たれたそれは、宙を迫る砲弾と正面衝突し。
 弾け飛ぶ。
 砲口から発されたのは榴弾ではなく、純粋な重量兵器としての砲弾、金属の塊だったようで、ニールの衝撃波に、重く響く震動音を発しながらてんでばらばらの水面に水柱を立てていった。
「……、な、なんか飛んでった……」
 放った、というより、何か出た、というべきか。ともかくニールは水面に落ちる水しぶきと、自分の手の中にあるハルバードを数度繰り返し見つめると、ぐ、と柄を握り締めた。

「わー、便利だ」
 ロニは、ハルバードを振るう度に発生し、迫り来る砲弾の軌道を強引に変える技を見ながら素直に感嘆した。ロニ自身、なんというか、大味な攻撃なので、この数の砲弾を対処しようとするとどうしても、船毎木っ端微塵にするのが手っ取りばやいと考えてしまうわけで。
 となると、ちまちま砲台を狙うというのも面倒臭いわけで。
 ゴッ、ガゴン!! と 中々豪快な音を立てて弾かれていく砲弾を見送りながら、海賊船の間を縫うように、遂に突っ込もうという段になって、先を阻むように海賊船が動き始めた。
 それを見てロニは、はっと気づく。ふと周りの海賊船を見回し、うん、と頷く。
 そうして神の叡智は。
「船って事は、舵とか帆とか、動力壊しちゃえば動かないんじゃない?」
 パワープレイを選択した。
 よって一度納めた餓鬼球に再出勤を願う。暴れたりなかったとばかりに意気揚々に歯を鳴らしてくれている。
 ならば好都合、とロニはそれらを打ち放つ。首輪の外れた散歩中の犬の如く、吹っ飛んでいった球体が、道を塞ごうとしていた船の帆を食い破り、水面を掻き分けては帆を齧り、戦輪を砕き、波に流される大きな木塊へと変えていく。
「ひゅー、まさかの大あたり! ボクってば天才?」
 破壊活動に放った以外の球体を船上の船員をかき乱していきながら、自慢げに頷いたロニの耳に、なにかが水面を叩く音が飛び込んでくる。
「……」
 見れば、船員が動かぬ船から身を投げて、気を失い浮かぶ仲間に目もくれず、ロニ達の乗る船へと泳いで渡ろうとしているのが見えた。
「行け!! 溺れ死のうともあの船を――!!」
「あー、もう!」
 叫ぶ人影に、ロニは潮風に乱れる髪の隙間から鋭くそれを睨む。ちり、とかく乱する球体の中にありながら勘に引っかかるその人影は、島民を唆し、尚且つ自分が指揮する立場を崩さず、そして、何より、何より。
 ど、ぁ!! とロニが鉄甲船を飛び出した。船全体が揺れるような膂力を以て弾き飛んだその体が握り締めた拳が僅かに放物線を描いた跳躍の終着点。
 何より、ただロニの気に障るその声の主の体に拳が突き立った。
 船の甲板を突き破り、内室の床に跳ねたそれに、顔のないコンキスタドールにロニは告げる。
「しつこいのって嫌われるんだよ? 言われたことない? じゃあ、神様のありがたいお言葉って事で」
 そのまま空いた穴に飛び込んで。
「覚えて却ってね」
 ボ、ガッ! と柔らかい弾丸が船底に穴を開けて、水底へと姿を消していった。

「あー……」とニールは不安が実をつけた実感、という知りたくなかったような感覚を覚えながら、僅かに沈んでいく船を見つめて、ハルバードの柄で床を叩いた。
「……早く助けに行かないとだよね」
 ロニとは別のルート。球体を抜けて接近した海賊船に乗り込んでいたニールの周囲には、恐らく島の人々なのだろう船員がうずくまっていた。その殆どが指先を動かすのが精いっぱい、といった状態。
 その中で、一人だけ立つのは、フードを深く被って影を落とした人間。いや。
「コンキスタドールなら、この毒にも耐えるよね」
 中枢神経をそのままに末端の運動神経だけを侵す麻痺毒の霧を鎧の隙間から周囲へと振り撒いたニールは、槍の穂先を人影に向ける。
 それは毒の霧の中でなお、周囲を扇動し、動けない人たちにニールを襲わせようとした相手。早々に気付いて倒れたふりをしていれば不意打ちも打てたのだろうに。
「……っ」
 手にするのは何の変哲もないカトラス。
 立ち合いは、さながら騎士同士の闘いか。だが、その力量差は明確で。
「正々堂々、戦おうか」
 それからその船の主導権が奪われるまで、一分すらも経つことは無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
幸せそうだしわざわざ真実を教えないで処分したほうがいいんじゃない?と思うけれど仕事だからな
面倒臭いけどヒトの命は取らない方針

オブリビオン全部を相手にしている時間もないんだっけ
『朔』を【投擲】、ワイヤーを使い敵の船に乗り込んでUC解放・朔を発動
迷路で敵集団を分断

一般人じゃ迷路は壊せないよ
一人ぼっちで、悪意の魔力が姿を変えた迷路の水晶に嬲られるといい
水晶に映る自分が別の意思で動き、笑い、語りかけてくる恐怖をたっぷり味わってね

【ダッシュ】で船上を駆け巡り
この状況で俺に攻撃を仕掛ける余力がある奴をオブリビオンと判断
攻撃されても気に留めず、敵に突撃し斬り捨てる

分断されて本領発揮できないってどんな気持ち?



 カツン、と僅かな音が、轟音に乱されて波の音に呑み込まれていく。
「……ふう」
 随分と派手に陽動してくれている。
 サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は、自分の立てる微かな物音が漏れなくすべて轟音に隠される事に、恐らく望まれはいない感謝を送る。
 サンディとて、彼らが自分たちの最善と思う限りを尽くしているのは分かる。だから、聞きようによっては煽っているように思える感謝を直接告げようとは思っていない。
 僅かに揺れた体に、この船が舵を切ったことを悟る。
「……やっぱり、次に動くのはこれだよね」
 サンディは、そう足をつける壁を見下ろした。
 さて、今彼がどこにいるのか、といえば、船の中棚。分かりやすく言ってしまえば、船の外側の壁を地面にしゃがみこんだいた。
 サンディが背負うようにして肩の上に通り、彼の体を重力に逆らうように船壁に貼り付けるワイヤーは、船の外縁に引っかかる水晶の鉤爪に繋がっている。
 つまりは、半ば宙づりの体で、誰に気付かれることも無く敵の真下で、徐に寛いでいたサンディだが、その動きが見えた瞬間に刹那に切り替えてワイヤーを引き、船の壁を駆け上り船縁を蹴って船上へと舞い上がった。
 突如として現れた乱入者に幾数もの眼が己を捕らえる感覚に、サンディは笑う。
 その反応が、遅い。
 ワイヤーがサンディの突き出した腕、ぐるぐると巻き付いたそのワイヤーの先、手の中で踊った水晶を掴み取って、彼は告げる。
「ああ、あんまり見つめない方がいいよ」
 忠告する声、しかし、その声色はそれに反して、悪意に彩られていた。
 その水晶に乱反射した光が甲板をまばらに照らした瞬間、酷く歪んだ硝子質の音が埋め尽くした。現れるのは沈むような黒の水晶の壁が作る迷宮だ。
 船の上、そこまでその迷宮としての難易度は高くはない。それを作る水晶がただの水晶に留まるのであれば、だが。
 直後、轟音がかき鳴らされた。
 武器を壁に叩きつける音、苦痛に叫ぶ声。いうならばコンキスタドールの信者と化した島民が矛盾と自己肯定の狭間に揺れる。
 サンデイは知る由もない。思考を制限され、理想を妄信させられた彼らの心の底に残った良心。それが悪意と重なり、海賊に与し、家族を差し出し、己をも滅ぼさんとしている自らを攻めるその声が、どれ程彼らの心を砕くか。
 その叫喚の渦の最中に降り立ったサンディは、音もなく小刀を抜き放って、肩の力を抜いた。
 そのまま、肩越しに僅かに視線を放った。
 体の横、垂らした腕の先から背の方へと刃を投擲する。バ、ヒュ、と空気を切った刃が水晶の迷宮をがむしゃらに抜けて、まさに今サンディへと突進しようとしていた人影の肩を貫く。
 小刀の柄が男の腕に生える。
「ぅ、が、……っ」
 見えている。
 その人影が、偶々傍にいた他の人影に囁かれ、悪意を振り払った島民だと。その囁きを行ったその背後に潜むものこそ、サンディの敵であると。
 殺して面倒は御免だ。急所を避けて貫いた刃へとサンディの手が伸びる。
 駆け抜け、哀れな島民の腕から刃を引き抜いたサンディはそのまま、島民の傍らを抜けると、唆していた人影の喉仏へと刃を刺し貫いていた。
 ズグリ、と嫌な感触が返る。
「残念だね、駒が少ないと指揮者の手が丸見えだ」
 駒も少なければ仲間もいない。
「分断されて本領発揮できないってどんな気持ち?」
 笑みを浮かべ、問いかけ、しかし答えなど求めてはいない。その喉が空気を送るよりも早く。
 サンディの小刀の刃がコンキスタドールの喉を掻っ捌いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリア・フォルトゥナーテ
【ダッチマン】
アドリブ連携歓迎

「なーにが神ですか!神は天に座すもの!地に伏す者が抱く愚かな妄想癖ごと海に沈めてあげます!」

鉄甲船の前に飛び降りて、海中で併走している、悪霊船員達を乗せた幽霊船フライングダッチマン号に飛び乗ります。

そして、敵船の真横で船を浮上させ、幽霊船員達と共に、一気に敵船への乗り込みを開始します。

洗脳された民達は手荒でも拘束するだけに留め、オブリビオンは有無を言わさず抹殺します。

「海で私に対抗したければ、こんなボロ船ではなく、勝ち組の海賊船に乗る事です。最大のライバルが乗ってる幽霊海賊船を紹介しましょう。もちろんそこでもオブリビオンは1人も生かしてはくれませんけどね?」


アンノウン・シー
【ダッチマン】
アドリブ歓迎

一人称は当艦、二人称はミスターorミス+名字、愛称はウノ

「ミスフォルトゥナーテの考えに当艦は賛同しかねますが……行為には強く賛成します」
 ミスフォルトゥナーテの船に共に飛び乗り、幽霊船員と共に敵船に乗り込みます。
装備アンカーを構えUCを発動し戦闘に入ります。銃の威力の都合上、当艦は対象をオブリビオンのみに限定しUCの補正で民間人を攻撃しないようにします。
「ボロ船……ミスフォルトゥナーテのも同じようなものでは? 幽霊船なわけですから……」



 神、とは、なんであるか。
 善とは似て非なるものか。
 さて、マリア・フォルトゥナーテ(何かを包んだ聖躯・f18077)は神ではなく、しかして善であろうとする。
「なーにが神ですか!」
 故に、悪へと齎すのは罰で然るべきなのだと、彼女は鉄甲船からその身を翻した。
 直下は、常闇の蒼海。軌道力を失ってしまえば、ただ、敵の攻撃の的になるだけではあるが、しかし、迷いなく飛び出した彼女の体は、深い海の中へと飛沫と共に吸い込まれていった。
「……」
 マリアの傍ら。彼女の金髪を隠したベールが風になびいて波に呑まれる一部始終を見送ったウォーマシンの少女は、ただ静かに彼女が落ちた海を見つめて、そうして口を開いて小さな溜息を発していた。
 それは、呆れた、というよりは、困ったというような僅かに笑みを含んだ色合いで。
 ゴ、バア! と水面が膨れ上がり、鉄甲船に接近しようとしていた海賊船の真横へと巨大な何かが、いや、その半ば程が見えればその姿を他の物と見まがう事はないだろう。
 帆は破れ、板は腐った朽ちた船が、海中からその姿を現していたのだ。
 ウォーマシンの少女、アンノウン・シー(所属不明の船・f26269)は、その甲板に立つ女性の姿を追って、鉄甲船を飛び降りていく。
「神は天に座すもの!」
 横目に、慌てたように舵を切る海賊船を見据え、マリアは顎を上げて睥睨してみせる。その背に従えるは、亡霊と呼ぶにも歪な存在。深海に住まう生物と死した人間が水圧の中で重なりあったとでもいうべきグロテスクな混ざりものが四百弱。
「地に伏す者が抱く愚かな妄想癖ごと、――海に沈めてあげます!」
 ば、と振り上げた腕に、一斉に背後の亡霊が動きを見せた。直後に立ち上がる橋が倒れては、見下ろす形の船へと亡霊たちが雪崩れ込んでいく。
「ミス・フォルトゥナーテの考えに当艦は賛同しかねますが……」
 飛び降りてきたアンノウンが、マリアの傍らに進み出ると些か豪快な二丁拳銃を構えて、小首をかしげるようにマリアに視線を合わせた。
「行為には強く賛成します」
 だん、と重い音を響かせてアンノウンは敵船へと舞い落ちる。
「ぅおぉおお!!」
「早速ですか」
 その直後、両手剣を握り締めたフードの船員の斬撃を、着地の衝撃を逃がすように転がって避け、その脚を蹴り飛ばす。
 盛大に音を立てて転んだ船員の頭を銃身で殴りつけ意識を奪い、周囲を見渡した。
 船全体から恐怖とも奮起ともつかぬ怒号が轟いている。人ひとり分の隙間を開けてそこかしこで、亡霊と船員が戦っているような状況で、静かに笑みを浮かべる仲間がいた。
 ミス・フォルトゥナーテ。アンノウンの眼に善行を積むその彼女の『生態』。時折垣間見える歪が、また浮かんでいる。
「……ああ、なんて色の無い悪意たち」
 輪郭ばかりが刺々しく歪んで、色を持っていると思い込んでいる。マリアは左右から同時に襲い掛かろうとして亡霊に組み伏せられた船員を一瞥していた。
「海で私に対抗したければ、こんなボロ船ではなく、勝ち組の海賊船に乗る事です」
 その言葉は、その船員に対してではない。彼らの背後に隠れた扇動者へと向けたものだ。
「……ミスフォルトゥナーテのも同じようなものでは?」
 最大のライバルが乗ってる幽霊海賊船を紹介しましょう、もちろんそこでもオブリビオンは1人も生かしてはくれませんけどね? と揶揄うように告げた言葉に、アンノウンは思わずつぶやいた。
 というよりも、こちらはれっきとした幽霊船だったりする。
 こちらの方がボロ船としての風格も品格も上、まである。と、その言葉が聞こえたのか、マリアがにこやかに振り向いたのを見て、咄嗟に視線を逸らしたアンノウンは、藪蛇をつついた、と引き金を引き。
「あ」
 ゴ、バン! と銃身に似合う轟音と共に吐き出された弾丸は、船員へと止めを刺そうとしていた亡霊の両腕、肘から先を見事に奪い去っていた。
「……」
 振り返る、腕を失った亡霊とマリア。
 その視線に何か言われる前に、アンノウンの優秀な演算能力は最適な解答を導き出していた。
「しかし、恐らく、あの亡霊は、島民を区別できず、構わず殺害を行おうとしていたように思えました。つまりファインプレーでは?」
「結果論ではないですか、手加減しようとしていたかもしれませんよ」
「一理ありますが、あえて当機は否定します」
「……その心は?」
 迷うことなく振り上げた銃口。その向きは、彼女が標的とした相手と違う方向へと向けられていたが。
「海の上では、船こそが最上位存在なのです」
 それは、船の中枢コンピューターである彼女の至言か、はたまた、苦し紛れの大言か。
 放たれた凶悪な弾丸は、実は島民だった、アンノウンが標的としていた男の振り上げた刃を打ち砕いてなお止まらず、船縁を砕いては跳ね、その背後にいたコンキスタドールの頭部を吹き飛ばしていたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクトル・サリヴァン
助けて、なんて言われちゃねえ。
悪い奴なら別だけどもそうでないなら張り切るしかないよね。

水の魔法で水流操作、海賊船の接近を妨害しつつ鉄甲船の進行を補助。
UCで空シャチ召喚。半数は5体ずつ合体させて敵海賊船の帆を破ったりして機動力を削ぎ、残りは一般人救助の為に控えてて貰う。
海に飛び込ませ生贄に、とかありそうだし一般人が犠牲にされそうな場合に救助お願い。
直接乗り込んできた人は拘束する程度に留める。
扇動者はきっと無理はしてこないだろうし、多分これは一般人。
全体の人の動きを見て先導してる起点見つけたら空シャチに空から奇襲、フード咥えさせ扇動相手のない空の旅へご招待。
終点は海だけど。

※アドリブ絡み等お任せ



「助けて、なんて言われちゃねえ」
 あの声が、心の中に蟠りを作っていた。
 腹の底に引っかかった魚の小骨のような違和感に、見た目に反して硬い丸い腹を無意識に掌を触れながらヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は、銛を肩に担いで甲板から、迫る海賊船の群れを眺める。
「さてと」
 ヴィクトルは、ただ甲板に立つようにして、しかし海賊船の接近を確かに防いでいた。
 意識するのは、鉄甲船を中心にした波紋。この船の周りの水流を、海面付近は外向きに、底の方から水を押し上げるようにして横向きの渦を作っている。いわば上昇水流か。
 周囲を押し流すとともに、この船を押し上げるように推進力を底上げして、生んだ隙へと滑らせている。
 他にも、海賊船同士の衝突を誘い、どうしても、地上を行くように細かい操作が効かない操舵を妨害し、とどめとばかりに召喚したシャチの半数を合体強化した8体にわけて遊撃へと向かわせているヴィクトルではあるが。
「ま、それだけじゃあ、終わらないか」
 あちらも、何も考えられないような出来の悪い人形ではない。
 波の間を縫って接近する船もあれば、船で近づけないからとその身を海面に躍らせる人影がある。ついでに言えば、船をうっかり壊してしまった影響で海に投げ出されている人たちもいる。
 残した半数のシャチで救助しつつ、機動力を削いで、全体にダメージを蓄積していはいるが、全滅させるには遅々とした運びかもしれない。
 戦況の中心。それは敵陣に突っ込むこの鉄甲船をおいて他にはない。その中心に立ちヴィクトルは、広く戦場を見渡していた。事態は刻一刻と変じている。
「ある程度数を減らせば、予定通り大丈夫そうだ」
 頷いてから、彼は、視線を背後へと向けた。波を割って近づいてきた海賊船から、落ちれば恐らく海面に全身を打ち付け即死するだろう高さから飛び移った船員が、武骨なカトラスを握って、立っている。
「……」
 すう、と細めた目に映る人影に、ヴィクトルはそれがコンキスタドールである可能性を即座に捨てていた。
 洗脳し、命を捨てさせ、そうして目的を果たそうとする手合いが、敵陣に乗り込んでくるとは考えられないからだ。
 もし、その『ありえない』を突いてくるとしても、致命傷を与える程の一撃を乗り込んできた彼、もしくは彼女がヴィクトルに与えられるとは思わない。
 重心の揺らぎが、足の運びが、明朗に告げている。
 揺れる船上の動きではない。
 そして、そこから放たれる攻撃。
 コンキスタドールに扇動され、人殺しへの抵抗が無いとはいえ、そもそもはただの島で暮らしていた普通の人だ。
 だ、ガッ! と短い交差の音。
 世界の導くままに戦場を渡り歩く猟兵の戦闘経験と比べると、稚拙極まりないとしか言えない攻撃に、ヴィクトルは軽く柄で足を払って転がす。近くに巻いていた縄を取ると、緩やかな動きながら無駄のなさが見せる速度で拘束を完了させていた。
 が、ヴィクトルの眼はその彼を見てはいない。
「見つけた」
 シャチが帆を食い破り、距離を突き放していく背後の海賊船、捕縛した人影が元いた船。その上に、今まさに他の船員を海へと躍らせんとする人影の姿。
「うん、いいね。動きが乱れ始めた」
 ブン、と振り上げられて軽やかに宙を舞った人影が、見事にターンを描いたシャチの牙に咥えられて水面へと直下、叩きつけられた。
 盛大な飛沫を上げて、海中へと引きずり込まれたそれの行く末など決まり切っている。数秒遊んだシャチが水面から飛び出してくるまでヴィクトルが待つことも無く。徐々に統率も崩れ始めた海賊船の船団を見つめて、もう一度頷いた。
「あとは、任せても問題ないかもね」
 とはいえ。
 でも、もう少しかき回そう、とその手を緩める考えはヴィクトルには更々ないのだが。
 鉄甲船が、背後に海賊船を引き連れ上陸するまで、あと少し。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

シノギ・リンダリンダリンダ
何事もなく無事に略奪蹂躙完了。その為には島民に手出し無用…
あぁ、本当に面倒くさいですが…これも大海賊の務めですね

【越流せし滄溟の飛蝗】で自前の海賊船を召喚
操縦は召喚した死霊に任せます。私の死霊です、私並みの「航海術」は持ち合わせています
砲撃用に何名かの死霊も残し、残りは私が引き連れ敵船へ
船は敵船の攪乱のために動き回り砲撃し続ける

島民とコンキスタドールの違いとは何でしょう
戦闘行為への慣れでしょうか

お前達が前にしているのは、厄災たる大海賊です。お分かりで?

「殺気」の籠った大海賊の「覇気」、「威厳」の籠った言葉
それで倒れるフードは無視して残りを蹂躙します
倒れた敵?それはそれで放っておけばいいでしょう



 島民に手出し無用。見た目はコンキスタドールと同じにしている。
 何事もなく無事に略奪蹂躙完了させるには、なかなか面倒くさい話になってはいるのだが。
「ま、これも大海賊の務めでしょう」
 幸い、海に落ちた島民を救う手がある。となれば、海賊が海賊としてやるのは、蹂躙それだけだろう。
 敵船の縁を踏み、シノギ・リンダリンダリンダ(強欲の溟海・f03214)は艶然と笑む。その背に、横づけにした海賊船とその船に乗る海賊の幽霊たちを従えた彼女は、歩き慣れた公園を歩くような気軽さで羽織るコートを揺らしてみせた。
「……っ」
 見るからに無防備、しかし、無防備が故に誰かがきっかけを作らなければ一歩も踏み込めないような、緊迫感が彼女と彼女を囲う敵の船員の間に漂う。両者の間に空いた数メートルの距離に漂う、互いの態度による温度差の亀裂のような不可視の隔壁が、一触即発の地雷原のようにシノギを中心に円を描いているのだ。
「さあ、……お前達の目の前にいるのは、何か、理解していますか?」
 口を開く余裕があるのも、シノギだった。海賊帽から垂れる桃色の髪の房を耳の後ろへと流して、確かに彼女は笑いを浮かべる。
「――厄災たる大海賊です」
 お分かりで? と傾げた首にしかし返る言葉も無い。
 いや。
 返す事も出来なかった、というのが正しいのだ。
「……っ!」
 震える。
 どだん、と静かに放たれたはずのその声には、紛れもなく本能を揺らす殺気が満ちていた。逆らえば死にゆくと確信するその声に、脊髄から全身を振るわせた船員が崩れ落ちる。
 だが、シノギの意に反して、行動そのものを縛られるものは少なかった。疑問には思わない、彼らの大半は、シノギを見ているようでシノギを見てはいない。
 その、脳に刻まれた言葉に目を瞑って、あるいは自分の死にまで目を瞑る死兵。
「ぉ、あぁああッ!!」
 ゴ、ッ! と最初に床を蹴る音が弾け、釣られるように不可侵であった空間に敵が踏み入れた、その瞬間に。
「――発射」
 盛大な爆発音の連続と共に、船が跳ねた。揺れるなどという生易しい表現では効かない。シノギの背後に留めていた海賊船が至近距離で砲撃を以て、敵艦の胴体に風穴を開いていた。
 その敵船員たちが奔り出しを挫かれ、たたらを踏んだと同時に、幽霊海賊達が、侵略を開始した。
 瞬く間に船上を埋める、怒号。叫び、剣戟の重なる鐘が転がるような争いの喧騒。
 火薬の香りが鼻を突き、焦げた木板が僅かに視界を煙らせる。人を亡霊が床に叩きつけて拘束せしめていく。そこに力関係の対等は欠片も感じられない。
 一方的な自由の略奪。
 その只中にあって、シノギはその争いに身を投じてはいなかった。歩を進める。
 ぐ、と拳を握り、一人の人影へと視線を送っていた。
「あなたが『敵』ですね」
 断言する。それは先ほど大海賊としての存在、その覇気を込めた一言にすら動じなかった唯一の存在。戦闘に、この叫喚に慣れていないものではない反応。
 フードの奥で僅かに歯を噛む動作が見えた。
「さあ」
 ぎしり、と握った拳が軋み上げる音が響いて、無機質な体を持つ彼女が獰猛な笑みに口を歪め放つのは、堂々たる宣言。
「――蹂躙しましょうか」
 蒼空に轟音が駆け抜けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『寛容なる蛇神』

POW   :    蛇神の抱擁
【蛇体での締め付け】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    縛られた献身
小さな【宝石で抵抗できないように暗示をかけ、口】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【胃。暗示を解ければ抵抗できるようになるの】で、いつでも外に出られる。
WIZ   :    囚われし神僕
【神威の手鎖につながった鎖】で武装した【過去に喰らった人々】の幽霊をレベル×5体乗せた【大蛇】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠空葉・千種です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「理不尽に殺されるだなんて、惨いことでしょう?」
 最後の瞬間を幸せに思えないなんて、悲しいことでしょう? と問う。
「それから目を逸らす事を、逃避する事を、私は否定しません」
 必ず来る、七大海嘯の暴虐。それをただ正気のまま受け入れる等、望まないだろうと。
「だから、その苦痛が救いと教え、その死が幸福だと教えるのです」
 そして、最後に自分の望むままに自らの体を差し出して、死にゆくのです。
「それは、紛れもなく、幸せなことでしょう?」
 この島の住民が皆、ゆくゆくは殺されるというのなら、と。
 それはそう語った。


 ああ、終わりが来てしまったのだと分かった。
 仮初の幸せが失われて、略奪され何もかもを失った自分を知る日が。
 巫女と呼ばれた少女は、はたまた、少年にユウキと呼ばれた少女は、猟兵を迎えに行くという蛇の後を追おうとして、見知った影に振り向いた。
「……お姉ちゃん」
 そこにいたのは、少女と同じ面影を持つ幼いこどもだ。彼女の妹、彼女の両親が生んだ同じ家族。彼女が護りたいと願う幸せの一つだったはずのもの。
 その、小さな妹の眼差しは、寂し気に、恨めし気に、今はもう一つ、――確かな怯えが見えていた。
 少女はそんな事すら分かってしまう程に、あらゆる場所でその感情を見つめてきた。
「どうして帰ってきたの?」
「……どうして、って?」
 ああ、彼女は私に返ってきてほしくないのだと思った。ごめんね、とそれだけ告げようとした言葉すら呑み込んで、少女は妹を残し蛇を追う。
 妹に望まれなくとも、この島から逃れることは出来ない。幸せを手放すことは出来ない。言葉を亡くして、幸せを得るのだ。
 喉のしこりを、呑み込んだメガリスを触れる。声を奪い、望みへと導くメガリス。それはあの蛇を指し示している。
 あの猟兵、という存在は埒外の存在だ。共にいながら、少女にとっては、その存在はこの蛇達と何も変わらない。
 もし、少女が彼らに害意を向ける存在だったとして、彼らは少女達を助けただろうか。少女を乗せ、少年の島を襲った海賊を救いはしたものの、ぞんざいに放り投げた彼ら。
 蛇も猟兵も、変わらず怪物でしかない。
 空は青く広がっている。果ての無い海の向こうに上がる煙は、誰が燃える火だろうか。
 もし、このメガリス達が自分を狂わせて怪物と化すのなら、その怪物を、彼らなら殺してくれるのだろうか。


 少女に縁のある鮫の深海人は、先を拓いた猟兵達の鉄甲船の背を、そしてそれを追う、海賊船の背を見つめていた。
 あの船団のどれもかれもが、その後ろに控えた船に気付いてはいない。いや、気付いてはいるのだろうが、その気付いている集団を動かすコンキスタドールは猟兵を最重要視し、最も警戒し、そして、得体のしれない憎悪に囚われている。
 猟兵と名乗る彼らは、そういうものなのだという。彼らの因縁は知る由も無いが、だが、まあ都合が良い。
 どうやってかは知らないが、あの船に乗る戦力を事前に把握していた彼らの作戦に変更の合図はない。
「じゃあ、あの無防備なケツをぶっ叩いて、驚かせてやるとするか」
 獰猛に鮫が笑う。従えるのは島民より遥かに戦闘経験を積んだ海賊と、死なぬ地獄で生存経験を積んだ奴隷と呼ばれた人間たちだ。
 猟兵達が暴れたおしてくれたおかげで、敵船の数もずいぶん減っている。拿捕して陸に放り投げる事も簡単だろう。


 突破したとして、十中八九後ろを追ってくるコンキスタドール率いる船はどうするのか。という声にルーダスはそう答えた。
 この島は、七大海嘯の舵輪の前線基地であると同時に、其れに与する海賊の中継地点でもある。時間をかければ、危険が及ぶのは島民たちだ。
 彼らは人質の価値を知る。
 そして、その島を任されたコンキスタドールは、人を呑み力を高めるという。
「最悪、背後の心配がない程度に攪乱してくれれば、それでいい。危険は少ないだろう?」
 もし、増援が来なければ、ではあるが。
 時間をかけない為に、時間をかけられない要因を増やしながら、ルーダスはこの島を牛耳るコンキスタドールに話を移す。


「ああ、いらっしゃったのですね。猟兵の方々」
 美しい姿をした女性は、蛇は、砂浜を踏んだ猟兵達を出迎え、歓迎するような言葉を吐いた。人よりも高い位置から、慈しみを振り撒く、神々しさすら見えるそれに感じるのは圧倒的なまでの力。
 絶対的な力量の差。猟兵であれば対抗できると思えるが、一介の島民であれば、無意識にそれに跪いてしまうのも自明かもしれなかった。
 天から降る陽の光に、影が蠢いた。蛇のその背後。島に住まう住民たちが砂浜を踏む猟兵達をほど近い丘から見下ろしていた。


 紛れもない、敵意の視線をむけているのだろう。巫女の妹は、それらから目を逸らしながら、蛇の傍らに佇む姉を見つめた。
 理解が出来ない、あの姉を。
「ええ、分かります。敵意、あなた方は私達を殺さねばならない。私たちが世界の歩みを憎んでいるから。私が今を生きる人を呑むから」
 ですが、とそれは告げた。
「彼らは幸せなのです。だから、彼らの幸福を壊さないでください」
 感嘆の声を上がる。その声に吐き気すら催すのは、きっと姉が無関係ではないのだろうと思う。
「私は、あなた方の幸福も願っているのです。どうか……」
 説く蛇に守られる傍らで、姉がその喉に触れるのを見た。


 流れ、を感じた。
 その蛇の周りに渦巻く改変。
 猟兵達が感じたのは予感だった。己の攻撃が逸らされ、蛇の攻撃が外れることなく、運命に導かれるように敗北へと堕ちていく予感。
「どうか私の糧となり、不幸を御救いください」
 グリモア猟兵は、その傍らの少女が鍵だといった。
 悪意に囲まれたままに、猟兵は将と対峙する。


 第二章、寛容なる蛇神との戦闘です。

 通常状態でも十二分に強力なコンキスタドールですが、巫女である少女のメガリスの補助によって、回避や命中の行動の成功率が著しく上昇しています。

 戦闘プレイングと並行して、他の行動による有効なプレイングがあれば話の流れ的にいいかもしれません。

 断章の大半、フレーバー要素ですが、三章展開にも繋がります。

 好きに書きます。
 お好きにプレイングください。

 よろしくお願いします。
サンディ・ノックス
お前の提案に頷くならあんな面倒な戦いしてここに来てないけど?
自己正当化だらけの耳障りな言葉は耳に入れるだけで不愉快

少女は何故蛇に協力しているのだろう
メガリスを使う事が当然で他意はないのか
そうせざるを得ない事情があるのか
それとも…俺達の共倒れを望んでいるのか
聞いてみないとわからないし尋ねる

でも俺の力は力づくで潰すものばかりで一般人を無効化するだけは難しい
良い手がある同業者が都合よく居ないかな
最悪、彼女を気絶させて蛇と交戦

朔を【投擲】、蛇体に鉤爪を食いこませる
玉桂の小刀で何度も斬り付けてから招集・紫を発動
蛇の攻撃は俺の攻撃も当たりやすくなるから好都合
腹立たしいお前に俺以上の傷と痛みを刻み込んでやる


ニール・ブランシャード
彼らが、幸せ?
ぼくにはそう見えないな。
皆、ニセ神様の毒に侵されてるだけだ。

うぅ…ぼく、精神をいじられる攻撃ニガテだな…
暗示には全力で抵抗するけど、しきれなかったら…
…いっそ自分の頭を殴り付けてみよう【怪力】
そうすれば衝撃で目が覚めるかも。
頭が吹っ飛んでも平気だよ。ぼく、タールだし。

巫女さんへは…怖がらせないよう「優しさ」を気にして、目を見て話しかけるよ。
でも、優しい言葉は聞き飽きてるだろうから、優しくないことも言う。

君がぼくらを呼んでくれたんだね。
…きっと全てを元通りにはできない。
でも「神様」を殺さないと、島も、君自身も、何も取り返せないままだ。
思い出してごらん、君がほんとにしたいことを!


マリア・フォルトゥナーテ
アドリブ連携歓迎

海底から浮上させたダッチマンに飛び移り、更にクラーケンを上陸させます。

「さあ!行きなさいクラーケン!あなたの巨体と10の剛腕を持ってすれば、捉えられない敵はいません!」

巫女のメガリスも関係ない程の大質量攻撃を敵オブリビオンに与え、敵が生んだ大蛇は船の砲撃で撃滅します!

「七大海嘯など片腹痛い!海の支配者の私の前に、海賊も商人も海神もオブリビオンも!お酒を献上し尽くすがいいのです!」

主旨のずれた挑発をしつつ、船を操り攻撃を続けます!

敵の命中率がいくら高かろうと、神の呪いで不死の船となったダッチマンにはダメージそのものに意味がない。
不死性を利用して船を味方の盾にしつつ、戦闘します!


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡みも歓迎!

うぇ~なにそれ~…めんどくさっ!
んもー

彼女に話しかけようか
スピーカーくんと話すよりよっぽど有意義だからね!

●助けてって言ったじゃない
だからきたよ!…ってわけじゃないけどね!ボクあのときよく聞いてなかったし!
大変だったねー!
あそれ、ボクに何が分かるんだって顔?
まー神様だって全部は分かってあげられないよ、ボクはキミじゃないから
ま!どんな生き方をしてたって、それなりにツライ目には遭うもんさ!
でもさー幸せにも終わりがあるんだから、悲しいのだって永遠には続かないよ!
楽しいことや嬉しいこと、探せば絶対に見つかる!探してみなよ

だからとりあえずボクを助けて!あの子メッチャ強い~!!


レイ・オブライト
話は終わりか

悪、逆徒と見なされようが(生前慣れたもので)構わないが
住民が寄ってきた場合は戦いの余波で死なぬよう覇気のオーラ防御で威圧、押しやり守る。彼らに攻撃されても手は出さず同様、間合いに踏み入らせぬことで蛇女への格闘を繰り出しやすく
UC発動にはこの際与えられた傷も活用。敵UCの巻き付き状態を逆手に取り【Gust】己もろとも蛇女を貫く狙い
動けぬ程の損傷となれば念動制御の鎖メインで他を援護。蛇女を縛り返す、巫女と蛇女とを阻む……主に隙を稼ぐ。まあ死なねえ限り、なんだって出来るもんだ。人は(限界突破)

『それ』が本当に幸福だってなら、死んでやっても良かったんだがな

呼んだろう
聞き間違いとは言わせねえ


雪羽銀・夜
アドリブ連携歓迎

ああ、お前みたいな奴大嫌いだよ。
他のやつらが幸せとか不幸とかどうでも良いけど、お前に食われるのだけは御免被る。

砂か。都合が良い。
天愾夜翳で、砂を黒雲へ。夜の竜神の神罰を滾らせて、攻撃と防御に。オーラ防御、結界術。
仲間の邪魔にならないよう、不要な分は砂に戻して、神出鬼没の遊撃。

逆に陥没させたり大蛇の進行を妨害し、幽霊は浄化で悼滅。

さて、鳥の巣で一瞬見えたのがあいつか。何考えてんのか。少なくとも気が楽なことは考えちゃねえだろうさ。

でも気の迷いだろうとなんだろうと、助けてっていったのは、願ったのはお前だ。
ならもがいて見せろ、あがいて生きろ。オレはお前の願いを信じるぜ。


ヴィクトル・サリヴァン
選択肢絞って幸福語って誘導するって、性質の悪い支配だよね。
この世界は厳しいけれども基本在り方は自由だ。
それも見てきたんだろう、ユウキちゃん?

水の高速詠唱で水壁をいくつも作り大蛇の攻撃を防ぐ。
曲面平面、色んな水鏡で視覚の攪乱もかねて。
その中にUCで虚実入れ替えによる奇襲を狙う。
水鏡に映した虚像の銛を鏡から発射させたり。
出来るだけ攻撃や防御の瞬間のみUC発動させるね。

その間にユウキちゃんに呼びかけ。
終わりは別の始まりだ。その先には不幸も逆もまたあるかもしれない。
何なら皆に島々を見て思ってる事ぶちまければいい。言葉でなくとも。
嫌われても、死んじゃうよりはずっとマシだよ。多分ね。

※アドリブ絡み等お任せ


シノギ・リンダリンダリンダ
右腕をMidās Lichに換装し【飽和埋葬】で死霊海賊を召喚
時間稼ぎに集団戦術で毒蛇に嗾ける

幸福とは、誰かに決めてもらうものじゃありません
お前の幸せは、お前にしか分かりませんし、つかみ取れません
我々が猟兵足りえるのは、自分の幸せを目標に足掻けるからです
お前にもそれくらいはできるでしょう?
助けてほしいなら、まずはお前が誰かを助けなさい

少女への鼓舞めいた言葉をかけ後はどうなろうと毒蛇への攻撃に集中する
死霊で動きを止め、呪詛に塗れた呪殺弾で部位を狙い破壊する
じわじわと傷口をえぐるように恐怖を与えて蹂躙する

私の幸せは、お前をブッ殺してお前の親分に喧嘩を売る事です
なので、私を幸福にしてくださいね神様?




 沈黙が砂浜に降りた。
 誰かが何か、動きを見せる機を探り合っている沈黙。
 その静寂を破るのは。
「いかがなされたので――」
 そうして口を再び開いた蛇……、ではなかった。
 ド、パァ!! と爆音が轟く海原から、何かが巨体を引きずりあげた。
 その飛沫が、浜に降りそそぐよりも早く、それらを叩き落すような影が、空から蛇目掛け降り注ぐ。
 声。
「さあ! 行きなさいクラーケン!」
 叫ぶのは、マリア・フォルトゥナーテ(何かを包んだ聖躯・f18077)。沖から座礁するのも構わず強引に、浅瀬に乗り上げた幽霊船の甲板から放たれた声は、粉塵が巻き上がり視界の塞がれた砂浜へと朗々と響き渡っていた。
 その粉塵の中に巨体の影。猟兵達の隣へと侵攻した異形。それは知りえる知識に基づけば、頭足類の一種と判断するのだろう姿形。足、いやそれは腕と呼ぶべきなのか、うねる十の手足を持つ、深海の怪物。
 それを従え、マリアは、その自らを神と嘯く声に聴く価値すらないと、最速最重の一手を切り出していたのだ。
「あなたの巨体と10の剛腕を持ってすれば、捉えられない敵はいません!」
 その一本が既に超重となる殴打をまとめて叩き込み、爆発と紛わんばかりの粉塵が、次の瞬間に、雨のように地面へと降り注いだその先。
「――拒絶、と受け取ってよろしいのでしょうか?」
 叩きつけられた腕が齎した惨劇の中。
 まるで、クラーケンがわざと攻撃を逸らしたかのように抉れた砂浜に立ちながら、しかし、その髪一本すら散らさず、蛇神はそこに立っていた。
 直後、その背の地面から空を震わすような轟音を発し、巨大な蛇が砂を弾き上げて顕現していた。咢を開き、クラーケンへと喰らい付いていく。
 巨大な怪物同士の激突に、浜が、島が、海が揺れる。
 その立てる波に荒れる船の上でマリアは、す、と目を細めた。
 彼女の経験から、当たって然るべき攻撃だった。クラーケンの腕は避けようとしても、他の腕が確実に仕留めるよう動く術を知っている。
 だというのに、それが外れた。巫女のメガリス、強大とはいえ、圧倒的な余裕を見せる蛇神の守護。
「ええ、ええ! ならば、良いでしょう!」
 撃退せんとしながらも嚙み合わない動きをするクラーケンに巻き付く大蛇へと、マリアは笑みを浮かべて、むしろ高揚した声を上げていた。
 直後に、幽霊船の砲塔が胴から現れる。幽霊船の砲台。横向きに浅瀬に乗り上げた不安定な状態だろうと構わず、マリアは号令を発する。
 大蛇から放たれた数百の鎖を武装する亡霊に等目もくれず、その眼が射るのは巨大な白蛇。
「放てッ!!」
 耳を殴りつけるような、重なる砲音が海を渡る。


 瞬く間に迫る砲弾に、しかし、蛇が動くことは無かった。動くまでも無い、ということなのだろう。
 放たれた砲弾が、暴れるクラーケンの腕に弾かれ、互いに衝突し、時折不自然に軌道を捻じりながら、その全てが蛇神には届かない。
「……ああ、厄介だね」
 怪獣大戦争へと発展していく、大蛇とクラーケンの闘いから逃れながらサンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は、困ったな、とこめかみを掻いた。
 チリチリと耳の先を焦がすような感覚は、警戒のシグナルか。彼は、蛇の視線に凍ることなく肩を竦めた。その二体の暴威から逃れるには、蛇神に近づくのが最善だった。
 抜いた小刀を軽く投げては掴むを繰り返しながら、これを投げても刺しても、今の蛇に傷をつけることはないのだろうと悟っている。
 マリアの攻撃から、遠距離や命令などによる間接的な攻撃は、逸らされる。ならば近距離からの強引な攻撃なら影響は少ないかもしれない。
「お前の提案に頷くなら」
 だが、少ない、だけ。僅かに勢いや精度を削がれれば、目の前のコンキスタドールの力量には届かない。だから、まずサンディは言葉を反すことにした。
「誰も殺さず、お前らだけ見分けて、そんな面倒な戦いしてここに来てないけど?」
 はしり、と小刀の柄を捕まえる音が轟音の中に、微かに鳴る。その音は、蛇が尋ねたように、拒絶の音だ。武器を握る音だ。
「そうですか、彼らの幸福を、拒むというのですね」
 自己正当化だらけの耳障りな言葉。だというのに、この蛇はその暴論を以て、純真に『幸福』という言葉を連ねた。
 サンディは知っている、こういう手合いは。己を真実だと信じ、それ以外の世界を殺し尽くす手合いは、傷がつかない。物理的な意味ではなく、心情として。
 故に、僅かにでも光明を見出す為の時間稼ぎでもなんでも、言葉も視線も全てに打算を仕込み、息を吸う。
「……幸せ?」
 その蛇が、幸福なばかりの強者が激さぬ、しかし、感心を無くさぬよう、言葉にナイフを忍ばせんとしたサンディの声を遮るように放たれたのは、少し独特な響かせ方をする声だった。
 見れば、巻き上がる粉塵から転がり、立ち上がる鎧の姿。その内に住まうニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)だった。
「ええ。彼らは幸福なのです。それを護る為に私たちはこうして、あなた方にお願いをしているのですよ?」
「ぼくには」蛇の言葉が終わるか否や、ニールは首を振ってみせた。「そうは見えない」
「ええ、だから拒むのでしょう? そうあなた方が考えるから、彼らの幸せを妨げるのでしょう?」
「……違う」
 ぎぎ、と鎧が軋む。口を持つならきっとそれは歯噛みに似たうねりだったのだろう。
「皆、ニセ神様の毒に侵されてるだけだ」


 サンディは視線を巫女と呼ばれる少女に向ける。外見だけで言えば十歳程、雰囲気は少し年嵩か。
「ねえ」穏やかに彼が少女へと言葉を投げた。「君は、なんでこの蛇に協力しているのかな?」
 メガリスでコンキスタドールを護る。少女が蛇を見る目は崇拝のそれではない。だというのに従うというのは、何かしらの事情があるのか。
 猟兵へと、明確に向ける敵意は、蛇との共倒れでも狙うものだろうか。返らぬ言葉にサンディは肩から力を抜いて、頭上を駆けていく砲弾と暴れ狂う怪物たちの闘争を眺めた。
「……少しムラがあるか」と零した声に、声の届く中にいたニールが僅かに首を傾げたのを見て、意味ありげに笑ってみせた。
「全部が全部都合よく防げるメガリスじゃあないんだろうね」
 恐らくコンキスタドールの手先として経験を積んだとはいえ、少女だ。それが、このたゆまぬ連撃に対しての防御を長時間の間維持し続けられるのか。
「……え、っと」
 ニールは、その言葉の意味を考えて、至る思い付きに似た考えを口に出していた。
「つまり、このまま、だと?」
「その内うちあの防御を抜けて、巫女に攻撃を届かせる隙くらいはできるだろうね」
 ニールに表情は無い。あるのは文字通りの鉄面皮。
 だが、語る言葉に、その言葉と共に握る刃に、彼が息を呑んだのがサンディにはありありと分かった。
「――っ」一瞬の逡巡を見せた。隙さえあれば、少女を傷つけてでも止める。そう言外に告げたサンディに反論しようとしたのか、どちらにせよ、その言葉を彼が吐き出すことはない。時間が多くはないというのは、サンディの言葉で分かる。
 だからこそ、ニールは踵を返して少女へと向き直る。
 対して、サンディには、少女へ掛ける言葉はもう無い。小刀の柄を握り、ニールから離れるように数歩歩いた。粉塵が巻き上がっている。
 サンディに出来るのは、力づくに潰すような手ばかりだ。篭絡だのカウンセリングだのは門外漢である、ゆえに。
 砂ぼこりを裂いて振り抜かれた鎖の重撃を自らの後ろ髪を引き斬るかのように小刀を背後へと奔らせて、弾き逸らし、沈むように駆けた。
「……不意打ちは、気配を絶って狙うものだよ」
 腹に一つ、首の中央に一つ。瞬時に連撃した刃が半透明な人影を、粉塵の中に散らす。蛇は動かない、だが、暴れる大蛇の齎した亡霊が迫り来ている。
 ならば、彼がする事は明快だった。ありがたく、寛容にも猟兵達に幸福を選ぶ選択の時間を与えてくれる蛇にあやかって、少女を説き伏せる時間稼ぎに勤しむ事に苦手意識はない。


「うぇ~……」
 メンドクサイなあ、と漏らす声に、しかしその足取りはそこまで思いものでは無かった。
 無軌道的な曲線を描いて飛翔した幾つかの球体が、互いが干渉するようにぶれて飛ぶ。蛇を狙ったはずのそれは、近くにいた鎖を握る亡霊の頭を齧り取っていた。
 ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は、その一度の動きで、蛇に舌を巻いていた。球体が逸れたのは少女のグリモアの影響だとしても、その全ての球体をその眼が確かに追い、僅かに重心が自由に動けるように調整されたのを見て取ったからだ。
「……んもー」と口を尖らせた少年の外見相応の表情を見せるロニに、蛇は怒りすらも見せず、慈愛に似た笑みを湛えるばかりだ。
 謝りもせず、ロニは少女へと向き直る。
「ねえ、キミ!」
 呼びかけた声に、少女の眼が動く。冷めた目。だが、感情が籠らぬそれではない。
「助けてっていったんだよね?」
 問い掛けた。反応は無い。いや、動いた視線は、反応を隠しているそれだ。ということも気づきながら、ロニは少女の反応など気にせず言葉を続けた。
「まあ、ボクあのときよく聞いてなかったし見てなかったけど。いろいろ忙しくって」
 正直、あの声のるつぼで一人だけの声を覚えていることなんてできなかった。そもそも、鉄甲船でも彼女の声を聴いた記憶はない。
「大変だったねー」
 
「……って、今、ボクに何が分かるんだって思ったでしょ」
 はは、とロニは見透かすように言って、笑う。そして、両手を広げておどける。
「まー神様だって全部は分かってあげられないよ」
 ボクはキミじゃないから。やや横暴にもそう断言していた。
 そして、冷ややかな声がそれを追う。温度の乏しいそれはロニの声との温度差に、存在感を強くもって発せられる。
「幸福とは、誰かに決めてもらうものじゃありません」
 シノギ・リンダリンダリンダ(強欲の溟海・f03214)は、片腕を外し、黄金に侵される腕へと換装しながらに、少女へと告げる。
 呪いを宿す掌を、握り、開き、その感触を確かめる。
「お前の幸せは、お前にしか分かりませんし、つかみ取れません」
 シノギ達が猟兵足りえるのは、自分の幸せを目標に足掻けるから。そこに誰かの手に自らの幸福を託そうという考えはない。
 少なくとも、シノギはそうして生きてきた。そうして俗にいう幸福というものへと手を伸ばしている。
「お前にもそれくらいはできるでしょう? 助けてほしいなら、まずはお前が誰かを助けなさい」
 それだけ言うと、シノギは蛇へとその眼を向けた。あとは、ただ彼女の選択だとその僅かに揺れるまつ毛が告げるように瞬く。
「この世界は厳しいけれども、基本在り方は自由だ」
 少女が見てきた世界は、陰惨だっただろう。残酷だっただろう。
 でも、そうだとしても彼女が見てきたのはそれだけじゃないはずだ。
「それも見てきたんだろう、ユウキちゃん?」
 そう彼女を呼んだ少年達を、告げるヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は知っている。
 サンディやシノギが無限にも等しく沸き出でる亡霊を駆除する補助を、水の壁で行いながら、少女に相対する。シャチの尾で砂をかきながら、砂ぼこりの壁の向こうにまだいるだろう島民たちを思う。
「終わりは別の始まりだ」
 彼らを支える教えが無くなれば、当然後は崩れるばかりだ。
 だとしても、それは全ての終わりでもない。不幸の始まりかもしれない。更なる絶望の入り口かもしれない。
 それでも、何もかもを諦めるよりも、進む価値のある道だと思う。
 少女に、不幸のまま終わってほしくないと。
「何なら皆に島々を見て思ってる事ぶちまければいい」
 たとえ、それが言葉でなくても、見せればいい、伝えればいい。その為の手段は、彼女は見てきたのだろうから、その腕に持っているのだろうから。
 ヴィクトルは、願うように言う。
 そうして、僅かな静寂の後に、少女は瞑目した。少し前に感じた感覚があった。
 脳内に、反響する、音。
『でも』
 その声に、あの声はやはり彼女なのだと、ヴィクトルは思う。
『でも』
 繰り返される。
 その声に、ニールは息を呑んだ。その声が響かせる感情をニールは知らない。


『――でも、みんな幸せでしょ?』
 震える声が聞こえた。空気を伝播して、響く其れは耳からではなく、五感を通して響く声。
 ニールはそれに恐怖した。少女は、誰よりもこの島の異常を知る人間だ。だが、その声には、島民が幸福であるという事を今まで疑っていなかったという想いが浮かんでいる。
 歪だ。
 そして、その意識が自分へと向いている事に気付く。幸せじゃないと、言って見せた彼へと。
「――」
 ニールは、声を振り絞る――いや。
 そうしようとした。だが、その寸前に、目の前に躍る何かに彼は気を取られていた。
「ぇ、あ?」
 宝石。宙に浮いた光。
 瞬間、言葉を失う。今告げようとしていた言葉が記憶容量のどこにも見つからない。言葉を紡げない。原始的な計算装置のようにただ信号を繰り返すばかりの脳で、ニールはそれを行ったのだろう蛇を見つめた。
 蛇が動いた。
 それを悟った直後、ニールに強烈な衝撃が走る。蛇の攻撃を受けたわけではない。むしろ、その攻撃は、ニールの持つハルバードが兜を殴打する強烈な振動だ。
 鎧の中に満ちる半液状の全身が打ち震え、無秩序な思考の羅列が、繋がって言葉になる。
 取り戻していく言葉に、ニールは次ぐ宝石の妨害に警戒したが、果たして、その宝石がニールの眼前に現れる事は無かった。
「それでも、呼んだだろ。聞き間違いとは言わせねえ」
 ド、バウ! と砂が爆ぜ跳ぶ轟音が、砂ぼこりを吹き飛ばす。同時に亡霊が吹き飛ばした影が蛇へと駆ける。
 と同時に、視界がクリアに開かれた。超重の獣が暴れまわる粉塵が立ち上る嵐めいた視界が黒に染まり、カーテンの留め具が外れたかのようにおちたのだ。
 駆けるは紫電特攻、人影は傷だらけの肌を晒し蛇へと踏みこんだ。
 レイ・オブライト(steel・f25854)。彼が勢いのままに振り抜いた拳は、しかし、届かない。僅かに勢いがそがれた瞬間に蛇の尾がその体を吹き飛ばす。猛烈な勢いで砂を跳ねたその肉塊は、しかし、次の瞬間に電磁の残滓を残し掻き消えていた。届かぬ拳は、しかし、絶えず蛇へと迫る。
「覚えてなくても構わないぜ」
 その捨て身の猛攻を傍目に、夜の肌を持つ少年が冷たく笑っていた。
「気の迷いだろうとなんだろうと、助けてっていったのは」
 そう願ったのは。
「お前だ」
 雪羽銀・夜(つきしろおぼろ・f29097)が砂を黒の暗雲へと変じて操りながら短く言い放った。
 少女が、何を思うのかは知らない。故に語る言葉は少なく、ただ、救われたがっているという、その願いを信じてここに立つ。
 レイが雷光と共に蛇の意識を裂くというのなら、夜は周囲の亡霊を排除する。黒雲に月光の妖力を纏わせ、蛇に喰われた魂を浄化し打ち滅ぼしていく。
 ニールは、そうして生まれた一瞬の余裕の中で息を整えた。そうして覚悟を決める。
 この言葉は、決してやさしい物じゃない。少女の願いを否定するものだ。
 全てが元の通りになんてならない。過去は過去。過去が今を犯すなら、それを砕いて、壊して、拒絶するのが猟兵だ。
 過去を望むものを殺す、埒外の化物だ。
 少女がしたかったことは、問い掛けなくても分かる気がした。
 きっと彼女は、島民に幸せであってほしかった。いや、違うのか。
 もっと歪んだ願いだ。分からない、ニールが理解する人というものの外に、奥にある紛った線が結ぶ、感情。
 形は見えずとも、しかし、確かに少女を支えていただろう認識を否定する言葉。
「みんな、幸せなんかじゃない」
 だとしても、ニールはそう断言した。


 少女の瞳が、見開かれる。
「どうして……」
 声が耳を震わせた。
 その瞬間、彼方から光が奔る。いや、縮んだ、というべきか。島を囲っていた程の力場の輪が少女の周囲へと浮かぶ。
 その影響は、即座に猟兵達の知る所となる。
 海を渡った砲弾が、今までその全てを何もない場所へと導かれていた塊が、狙いの中心。歪まぬ軌道を取って蛇へと叩き込まれたのだ。
「フ、ふふ! 七大海嘯など片腹痛い!」
 明確に、直撃した砲撃に、船上でマリアは笑みと共に声を張り上げる。届いたのだ。避ける素振りすら見せないあの蛇へと届いた。
 ならば全力攻勢あるのみ、見ればクラーケンも大蛇を抑え込みにかかっている。砂浜で何が起こったのかは知らない。そして、あの蛇が一発の砲弾で朽ちるとは思わない。
 だが、好機。
「海の支配者の私の前に、海賊も商人も海神もオブリビオンも! お酒を献上し尽くすがいいのです!」
 いささか主旨のズレた発言と共に、狂気の滲むテンションをぶち上げたシスターが、船員へと号令を放つ。
「畳み掛けるのです!!」
 夜とレイの姿に、サンディは時間稼ぎの必要がなくなった事を理解した。間に合ったとも、遅いとも思わない。ただあるように事が運ばれた。
「ああ、可哀そうに」
 己へと叩き込まれた、砲弾をその尾で受け止め、はじき返しては次ぐ砲弾と衝突させた蛇は、少女を嘆いた。
「幸せだったでしょう? 不幸すらを奪われて、あなたは誰にも――」
 声は、世界に阻まれた。砂が舞い上がる。
 間を埋めるように、その意図を千切るように、球体が蛇と少女の間に落ち、音を乱して消していた。巻き上がる砂粒が蛇を叩く。
 それを阻む力はもうない。
「あ~あ! 助けてって言おうとしたけど、なんかそれどころじゃないなあ!」
 残念がる言葉に、しかし、滾るのはどこか嬉し気な興奮でもあった。
「ま! どんな生き方をしてたって、それなりにツライ目には遭うもんさ!」
 その言葉は、自分に言い聞かせるような、少女に言い聞かせるような、そして、蛇へと言い聞かせるように朗々と紡がれる。
「でもさー幸せにも終わりがあるんだから、悲しいのだって永遠には続かないよ! てなわけで、どうでもいいけどさ、スピーカーくん」
 球体の上から、見上げるばかりだった蛇を見下ろして、ロニは、もういいよね? と問いかける。
「……じゃあ思いっきり、ぶっ潰す! ――の、前、にっ!」
 ぐるん、とロニは球体の上でターンした。
 直後迫るのは、蛇の頭部だった。巨大なハンマーのように振るわれるそれは、クラーケンが十の腕で持ち上げた蛇の胴体、その先。
「こっちッ!!」
 拳がそれを捉えた。小さなアッパーカットが巨大な蛇の顎にめり込み、へこませ。直後、秘めた威力が爆発した。
 炎が溢れたのではない。ただ純粋な衝撃波がかち合った拳から蛇の頭部を木っ端みじんに砕いて、山が弾けるように吹き飛ばした。
「ふう、ちょっとは静かになるかな?」
 直後、首を無くした蛇の胴体が砂浜に風を纏って叩き込まれた。


 鎖を振りあげる亡霊を切り裂いて、サンディは船に飛び乗る際にも使用した鉤縄を薙ぐ。
 鎖を纏う亡霊と海賊の出で立ち、シノギが放った死霊。互いを殺し合う闘争の最中を突き抜けたそれが蛇の胴体に食い込んでいた。
 鱗を剥ぐように、先端が皮膚を破り、傷をつける。ならば、刃も通る。
「……っ」
 サンディは即座に駆けた。痛覚が蛇に危機を知らせ、対処を行う前に刃を奔らせる。
「――ああ、お強いのですね」
 だが、その先を蛇は行く。
 鎖がかき鳴る音が一斉に動いたのだ。ロニが吹き飛ばしたはずの蛇が地中を割り、その体で迫るサンディを引き潰さんと豪烈に迫り来る。さながら長大な戦車のように大量の亡霊を連れたそれは。
「あんまり、邪魔するなよな」
 砂を陥没させて膨れ上がった黒雲に軌道を浮かせていた。
 飛び降りた鎖を武器にする亡霊を立ち上った水壁が阻む。揺らぐ水面を見せるそこに浮かんだ数多の幻影。その境を越えた銛が実体化してはサンディの周囲の掃討していく。
 夜の操る雲が作った間隙、ヴィクトルの水鏡が開いた道に体を滑り込ませてサンディは、ワイヤーを引く。水鏡が幻影に彩ろうと、黒の帳が張られようと、それが蛇の場所を告げている。
 銃弾が駆ける。
 レイは、背後から己の動きを縫うように放たれる弾丸と共に、蛇と対峙していた。射手はシノギだ。その弾丸が命中すれば、穿った傷の周囲の動きが僅かに鈍る。
 雷を散らし、レイは振るわれる尾を躱した直後に、サンディが亡霊を切り裂いて、蛇の尾を切り裂いた。
 標的が自分から肉を差し出してくれる、というのはやりやすい。
 一瞬、視線を交わした両者は、蛇に攻撃を仕掛ける。
「――っ!」
 連撃の最中、蛇の体が旋回した。
 動きの鈍る体を強引に動かしたのだろう。制御の効かない旋回は己が召喚したかつての餌食を薙ぎ払いながら、しかし、猟兵達を捉える軌跡を描く。
 瞬時に、サンディは思考する。それを躱すには足場が脆い。屈もうと、飛ぼうとそれは彼を捉えるだろう。ならば、傍の男。
 自ら傷を作る闘い方。数合、隣で即興の連携を取れば、大枠の思考は分かる。
 であるならば、とサンディはデッドマンへと駆け寄り、蛇の尾が彼らの体を巻き潰す寸前にサンディの胸蔵を掴まんと伸びた腕に、飛び乗っていた。
「……っ」
 掴んで範囲外から逃そうとした腕に飛び乗った青年に驚きながらも、しかしレイの体は反射的に動いていた。やることは変わらない。腕を跳ね上げ、青年の足場として機能させた直後にレイの体を蛇の尾が捉えた。
「っと」
 サンディは、直後、下から響いた体の砕ける音に眉を顰める。残念ながら、決して自らそこに飛び込む気はない。頃合いだ。その蛇の体に付けた傷を黒剣の残滓を瞳に映せば、青紫に黒が泳ぐ。
「は」
 笑む。上手い事捕まえてくれたものだ。拉げて壊れる体の痛覚に視界を黒に染めながら、止まらぬ鼓動に弾ける電光を見る。レイの心臓はまだ止まらない。迸る雷撃がレイの体の内側から、その皮を肉を、骨を打ち破り溢れ出る。光の槍がレイを掴む蛇の胴体を貫いた。
「目印は十分だ」
 轟雷と共に放たれた閃光がサンディの視界を白に塗りつぶすも、放たれた獣は構わず宙から飛び降りていく。砂に着地する、それと青紫の瞳と漆黒の毛並みを持つ獣が蛇の傷へと喰らい付くのは同時であった。


 シノギは蛇へと肉薄した。
 渾身の一撃。そこにもたらされた反撃は、蛇の余裕を削り切る事に成功している。
 砂を蹴り上げるシノギに傷ついた蛇は、しかし辛うじて反撃を繰り出した。いや、死に瀕し、力を振り絞ったのだろうか。その速度も、精度も、凡そ猟兵に越えられるものではない。
 シノギであっても、その尾の拘束を躱す事は出来ない。無機物に作られた人の全身を蛇の尾が砕き割る。
 そんなビジョンを、蛇が確信したその直後。
 しかし、そのビジョンは覆される。砕けもしない。蛇の尾は彼女の姿を寸断し、そして、揺らいでシノギは五体満足で像を結ぶ。
 血を滴らせる蛇の尾が握りつぶしたのは、形を持たない水で出来た鏡。そこに浮かぶ虚像だった。
 ならば、本当の彼女はどこに、と惑う蛇の眼前。
 銃を構えるシノギを尾が摺り抜けたその瞬間に、その虚像は水鏡を通過していた。
「……っ」
 眼前に躍り出た虚ろであったはずのそれは重みと魂を持つ、確かな実体。直前、ヴィクトルの水鏡を通過した彼女が実体へと入れ替わっていた。
 もし、蛇が常の思考であったなら、見破ったのだろう絡繰りに、しかし、その思考は硬直する。
 呪詛を滾らせる銃口が、蛇の女の眉間にひたりと狙いを定めていた。
「蛇は硬いか、人ならばどうだろうな?」
 防御は蛇の尾でしかしていない。その防御と攻撃を両立させる尾さえも貫いた弾丸だ。その効果は、蛇自身が呑んだ息が証明している。
 引き金が引かれる。
 ガズン、と、響く銃声と共に蛇の頭部が、後ろへと大きく仰け反る。だが、それはまだ息絶えてはいなかった。ぐん、とその仰け反る蛇から生えた胴体が、起き上がらんとして、しかし、鎖や雲がそれを阻んでいた。
 ガパン、と音がする。
 それは蛇の足元に駆け込んできたニールの鎧、その右肩辺りが膨らむ異音だった。その鉄の隙間から溢れ出る異形の泥が流動し、何かの頭蓋を形成し。
「……ああ、あなた方は救いを齎す存在では、ないのですね」
「でも、そうありたいんだ」
 何かの頭部が、開いた口の中に蛇の胴体を呑み込み、閉じた。
 残るのは、人の胴、その半ばを残した蛇の体。
 やがて、それすら、崩れて薄れていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 冒険 『戦渦の島で』

POW   :    敵の拠点を正面から叩き潰す

SPD   :    ゲリラ戦で敵を恐怖させる

WIZ   :    難民の救助に回る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 助けて、と願ったのは、今思えばどうしてだったのか、思い出せない。
 何から救ってほしかったのか。
 きっとこの在り方に満足していた。それでも、救いを求める人を見て、求めたくなった。
 自分が不幸であることは知っているのに。


 神様が殺された。
「どうして」
 手足の指の先、爪の内側がむず痒いような不安がじりじりと全身を包んでいく。
 あの方を慕っていた。幸せだった。それが幸せだったのに、それが奪われた。神様が喜ぶことが嬉しい。そうすれば、心の奥に満ちる澄んだ液体が、幸福感を与えてくれるから。それが奪われた。
 どうして、それが分からなかった。なぜあれらは、神を殺したのか。幸せを考えてくれた神を。一体何の利益があるのか、いや、そもそも神を殺す事などどうやって。逆らう海賊がいようと、神はそれをただの腕の一振りで圧倒して見せた。正しくも神の所業。
「どうして」
 それに続く言葉すら湧いてこない。理解が出来ない。だけど、誰かの声が聞こえた。
「巫女様が、裏切った」
 そうか。
 そうだ。
 巫女様は、あの侵略者と会話をしていた。巫女が招き入れたのだ、あの破滅の使徒を。
「巫女が裏切った!!」
 次々と上がる声に、共に声を張り上げた。


「まって、ねえ、なんで」
 巫女の妹である彼女は、その声が島の人間でなく、あの神と共に現れたフードの人影だと分かっていた。
 神の助力を、そう願った誰かが武器を持ってきていた。いや、フードの人影が皆の手にそれを握らせている。人を殺す為の刃。
「さあ、お前も」
 大人の誰かが、彼女を見下ろしていた。
「ああ、巫女様の妹。なら、適任だ」
 握っていたカトラスを幼い手に握りこませて、微笑んだ。
 適任、その言葉の意味は分かる。姉を殺せというのだ。家族がそれを、その正当化を図れと。その笑顔は悍ましい肉の蠢きにしか見えない。
「お、かあさん」と見回しても母の姿はない、父は船に乗って海の警備に出ている。
 握らされた柄の重みに、その生ぬるい温度に全身に怖気が走り、少女は武器を取り落としてしまう。
 元々少女には重いものだ、当然の動きではあるが、しかし、周囲の彼らは当然とは取らなかった。
「どうして離したんだい」
 震える少女の手を握り、大人が問いかける。
「いいや」
 だが、その言葉に少女が答えるよりも早く。
「お前もか?」
「ぁ、いっ、!?」
 無表情の憎悪に染まる男が、少女の手首を捻り上げていた。
「お前も、裏切り者か」
 無数の悪意の眼が、少女に落ちた。


 島の集落には、海賊と島民が武器を手に待ち構えていた。
「我らが神の仇を取るのだ!! 我々が幸福への導きとなれ! 巫女と、共に現れた悪魔を
屠るのだッ!」
 騒々しい中に、一際響く声。船の上で見たようなフードの人影に、誰かが舌打ちを放った。
「そりゃ、島の中にも居やがるよな」
「……猟兵達はどうした、まだなのか」
 鮫の深海人は、何か足止めか、計画外の事が起こったのだろうと悟っていた。最悪の状況で無い事を祈りながら、作戦の変更を決する。
 次策もある。やることは変わらない。難易度が上がった、それだけだ。と言い聞かせて、懐から握りこぶしほどの球体を取り出した。
 この島のどこかにある旗のメガリス。それを破壊しなければこの島に援軍が来る。そうなれば、この島を囲まれて終わりだ。
 潜んでいた岩場から、集落を見下ろしていた彼は、合図の光弾を空へと擲った。
 我先にと跳び出した彼らは、集落のあちこちに飾られる舵輪の旗の精査をする間もない。
「どれがその旗か、分からねえ。全部破り捨てちまえ!」
 武器を握る。
 コンキスタドールに煽られた島民と海賊。命を捨てる彼らと、猟兵に助力する海賊達の戦端がいま、開かれた。


 今まさに雪崩れ込んで来ようとする島民の威勢の中で起こったそれに、猟兵達は初動が遅れていた。いや、遅れていなかったとしても間に合わなかったかもしれない。
 群衆の中に紛れていた少女がその腕を引き上げられて、箍の外れた暴力に晒されるまさにその時。
 その島民の頭蓋に、結晶の鏃が突き立った。切っ先から留まらぬ衝撃が爆ぜて、砕いた骨と共に血糊を撒き散らして、少女の腕から手が離される。
 痣を浮かべる腕を抑えながらも、解放された少女は信じがたいものをみるように姉の姿を探し、そして。
 彼女の元へと駆け出していた。
 どうして、いつだって逃げられたはずの姉が此処にいるのかは分からないままに、それでも、その手を引くために。


 巫女、そう呼ばれ、またユウキと呼ばれた彼女は、今しがた己がした行動を信じられずにいた。
 伸ばした手がぼやけて、駆けてくる妹の背を掴もうとする腕にピントが合う。
 彼らの幸せを望んでいた。
 自分はどうしても幸せにはなれない。あの力を持つ蛇ですら、神ですら私を幸せにできないというのだから。だけど、自分の不幸せが彼らの幸せに、家族の幸せに続くのなら。それが良かった。
 そもそも、その思考がこの島の誰よりも深く蛇に植え付けられた鎖と知らず。純真に彼女はそう、願っていた。
 そんな彼らに、少女は今確かに悪意を持って、害意の為すままに、刃を向けていた。
 体を動かした感覚はない。溢れる力が考えるよりも先に、体を動かしている。
 捕まえないで。恐ろしい目から、妹を護らないと。そう高鳴る心臓に急かされて伸びる手の先で、また一人島民が水晶に穿たれ倒れる。
「あ、れ……」
 この腕は、こんな色だったか。岩肌のように、赤錆た水晶に覆われていただろうか。
 喉が焼けるように熱い。導きの光の輪が揺らいで、膨れ上がる。
「なんで!」
 妹の声が聞こえた。返すべき声がもう出せない。
「逃げないの!」
 いや、出せた所で。
 どう返したらいいのか分からないのだ。
 ただ願う。救いが欲しいと。
 あの船で誰も殺さず。そう彼らの一人がそう言っていた。
 この力を抑え込む。刃を向けた島民すら殺そうとしない彼らに救われると信じて。
 助けてとはもう叫べないけれど。
 もう、願いが叶うことはないけれど。


 水晶のメガリスが少女の半身を包み、不安定にぶれる羅針盤のメガリスが起こす円が少女と、彼女の放った水晶の周囲に蛇を護っていた特殊な力場を発生させている。
 メガリスが少女を呑み込まんとしている。今ならばメガリスだけを破壊すれば間に合うだろう。救わぬにせよ、その暴走存在を放っては置けない。
 だからといって、彼女にだけかかずらわっている暇もない。
 この前線基地へと来る敵の増援を防ぐために、闘争の最中である集落の中に隠された旗のメガリスを見つけ出さねばならないのだから。

●第三章

A、暴走したメガリスと対峙するか。
B、村の中で暴徒の中、旗を探すか。

 大まかにこの二択の行動となるかと思われます。

 Aは少女のメガリスの効果に抵抗したり、喉と腕にあるメガリスを狙って攻撃するプレイングにボーナスが入ります。

 メガリスは『円内の世界を願いの導きに沿わせる羅針盤』と『能力に共振し伝播させる水晶』です。
 少女の抵抗で十全に力は発揮できていません。

 Bは協力者に的確な指示を出したり、彼らの能力を向上させるプレイングにボーナスが入ります。

 敵は、一章と同じですが、海の警備よりも経験は浅く、弱いです。
 集落の近辺に、旗のメガリスが隠されています。

 好きに書きます。
 好きにプレイングください。
サンディ・ノックス
「彼女達から離れろ、死にたいのか!」
緊急事態だ
真実よりわかりやすい指示がいい
この状況で口答えする馬鹿はいないと思うけど
居れば黙って『解放・夜陰』を頬すれすれに撃つ
腰が抜けているヒトには足下に撃ち我に返す

姉の元へダッシュで向かいつつ真の姿を解放
何の縁か暴走している彼女の色と俺の色はそっくりだ

水晶に抉られようと構わない
そのためのこの姿
暴走する力が妹に及ぶならこの身の全てを使い阻止する覚悟

先の戦いで彼女の心がメガリスに影響するとわかった
また力を貸してねと内心思う

姉の手を取り穏やかな調子で声をかけ労いながら
「助けに来たよ」
希望を感じてほしい
上手く力場が弱められたら即座に小刀で喉のメガリスの破壊を試みる



 笑う。
 どうやら、ここまでの苦労は徒労に終わることも無いようで。
 サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)はそんな事を、心の中で嘯きながら笑った。
「どうやら、俺は君を嫌いになる必要はないみたいだ」
 深い青の空を映す瞳を、赤錆に包まれる少女へと向けて言う。聞こえてはいないだろう。それでいい。
 誰かに聞かせようといった訳ではない。ただ自分が手繰るべき悪意を選択する、照準のようなものだ。
 静かに息を吸う。
 肺が冷えた潮風に満ちる。
 一つ瞬きをする。
 そうして、開いた瞳は、どこか冷たく周囲を見まわしていた。笑みを遠ざけ、直前まで無視していた叫喚を耳に入れる。
「何だよ!!」「こ、殺せ!」「いやだ、いやだ嫌だ! なんで!」「助けて、神様」「アイツが悪いんだ」
 醜い声だ。誰しもが、その罪を見ようとしない。ただ逃避を重ねるばかりで、誰かが指を差した先に向けて、誰かが叫んだ言葉を真似ている。
 そして、その誰かに責任を押し付けて駆け出す。自分の命の責任すら誰かに投げ捨てて、死んでもいいと。駆ける巫女の妹に手が伸びる。目の前で顔を知る隣人が殺されたというのにそれを止めない島民の頭へと、少女の放った水晶が弾け飛ぶ。
 その寸前に。
 キュ、ガッ! と駆け抜けた黒色の水晶、少女の放つそれではない色が、島民の頬を掠めるように放たれていた。いや、僅かにその肉を抉ったか。それは知らないが。
「離れろ、死にたいのか!」
 射手であるサンディは、動きを止めた島民に、いや、周囲の島民みなへと言い放つ。その周囲に浮かぶのは先ほど放ったのと同じ黒い水晶の矢礫だ。何かを堪える様に震えるそれは、ほんの僅かにサンディが気を緩めれば、秘めた悪意のままに人の命を喰らわんと暴れ飛ぶだろう。
 彼らが振るうような虚飾の悪意ではない。研がれた利器の如き悪意だ。
 虚を突かれたように、気圧され息を詰めて動きを止めた彼らを、サンディは再び意識から追い出して、少女へと向き合う。
「さ、少しは話しやすくなったか」
 息を吐き、サンディは砂を蹴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡みも歓迎!

もうしっちゃかめっちゃかじゃないか!
んもー

●クワイエット
はいはいわかったよ!一回落ち着こ?
彼女にも覚悟をしてもらわないとね
UCを発動するよ
これで巻き戻しまでは時間ができた(加えてメガリス効果への耐性を得る)
はい静かに!周りを"静か"にするよ

あーあー…キミも大変だねー
キミの運命は大体三つだ
1、殺される ご愁傷様
2、怪物になる ご愁傷様
3、助けられる
どれがいーい?

あ。そういえばキミの運命はもう一つあるね
メガリスに打ち勝つことだ

まあどれにしたって楽じゃないね
言ったでしょ?
どんな生き方をしてたってそれなりにツライ目には遭うもんだって
でも、選ぶことはできる!手伝ってあげるよ!



 息を吐く。
 サンディが砂を蹴り上げた。にわかに静まっていた声が沸き上がる。
「あー、もうしっちゃかめっちゃかじゃないか、もー」
 ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は、首を脱力させながら空を見上げて、嘆息した。
 まるで収まる様子もない。この群衆の中に扇動する奴がいるのだろうけれども、ロニにそれを見破ることは出来ない。その術もないわけで。
 少し少女と話がしたいな、と思っていた。少し煩い。だから。
「じゃあ、仕方ないよね。はい、ちょっとだけ――」
 黄金の眼の奥に幾億万の輝きが一つだけ瞬く。
「静かに」
 それだけで、世界は変わった。いや、失われたというべきか。周囲にいた島民も、猟兵も、いやそれだけでなく海水が揺れる音も失せている。
「――」
 残るのは少女とロニ。二人だけだった。驚愕した少女にロニは頷く。
「あー、あー……キミも大変だねー」
 周囲の変化など気にせず、彼は言った。つい先程、彼女へと向けた言葉。だが。「そっか、『何が分かるんだ』なんて、思ってないんだよね。うん、知ってる」そこに付随する言葉は、全く違うものだった。それ以上、ロニはそれについて何も言わない。興味が無いとばかりに、全て知っているというように。
「まあ、君には三つの選択肢がある」
 人差指を立て、いち、とよく言い聞かせるようにゆっくりと声を出した。
「このままボクたちに殺される。こう言うべきだね、ご愁傷様」
 軽く笑って、肩を竦める。もう一つ指を立てる。
「2、怪物になる。メガリスに呑み込まれて全部ぐちゃぐちゃにする。ハッピーエンドかもだけど、まあ、ご愁傷様」
 指をもう一つ立てて、それから、と言う。
 3。
「助けられる」
 少女の表情が僅かに変わる。
「そうだね、嫌だよね。だって、それはキミが幸せになる道だ」表情を見ずとも、ロニは少女がどう思うかを『知って』いる。「でも、選ぶことのできる選択肢だよ」
 問うその瞳にあるのは、つい先程までのロニの光ではない。もっと深く、もっと希薄で、もっと濃く、最も遠い理知の光。
「もう遅い? そうだね、全部ボクが消しちゃったから」守ろうとしたものも、護ろうとしてくれた者も、壊そうとしたものも全て。だが彼は言う。「でも、気にしないで良い」
 世界が未来へと進む為に、時間を消費し過去を生む。それがこの世の摂理だ。だが、今、全知全能を取り戻したロニは、その理を捻じ曲げていた。
 世界に時間を消費していると思わせ、生まれる過去を生まない歩みを世界へと強制する。
 いや、捻じ曲げるというと大げさだろうか。神であろうと、しかし、世界に存在する以上根源を捻じ曲げることは出来ない。
 故に、この未来は存在せず、現在を消費しない世界はやがて、思い出す。
 現在を思い出し、仮初の未来を忘却する。
 つまりは。
「巻き戻る、キミもボクと話したことは忘れるし、ボクだって全知全能を失えば影響を受ける」
 何も変わらない。現実へと立ち戻れば、ロニが消失させた島民も猟兵も元に戻る。この力は、全知全能故に、全知全能に足りないのが、現在のロニという存在だという事を知っている。
「でも、世界が虚構の未来を歩んだという事実は残る。世界がまどろんでみたこの今は朧げに記憶される」
 この問いをしたという嘘は、嘘という真実になる。
「さあ、だから、覚悟しなよ。選ぶ時間は稼いであげたからさ」
 どんな生き方をしてたってそれなりにツライ目には遭うもんだって。そう言いながら、ロニは、ふと空を見上げる。
 世界が嘘に気付き始めた。歪みが正されていく。
「ああ、もう一つ」巻き戻る世界の中で、ロニの言葉が放たれて消えた。
 メガリスに打ち勝つこと。
「まあ、どれにしたって楽じゃないね」
 そう笑い。
 息を吐く。
 サンディが砂を蹴り上げた。にわかに静まっていた声が沸き上がらんとした、瞬間。
 その中に居た一人の人影が、頭上からピンポイントで落ちた球体に削り取られていた。肉片となった人影が飛び散る。その理由を彼は弁じる。
「キミ、なんか、怪しい感じがしたんだよね」
 勘だと。
 突然の凶行に、今度こそ完全に信者の声が静まり返った砂浜で、ロニは悪びれもしない。
「ま、間違えてたら、ゴメーンね」
 そう言い、あとは傍観の姿勢を決め込むことにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニール・ブランシャード
A

あの子にかかりきりになってられないのは分かってる。
でも、せっかく生まれた時から「自分」持ってたのに
それをヤツらに見失わさせられたあの子のこと
ほっとけないんだ。

彼女の喉と腕のメガリスを狙って「黒い手」で攻撃するよ。
「強い腐食性を持つ毒」…ただし今だけは、生物の身体には効果のない毒を練る。そうすればメガリスだけを破壊できるはず。(毒使い)
彼女の攻撃はできる限り避けるか武器で弾くけど、接近するためなら受けることも厭わない。
…なんか水晶が爆発してたし、そりゃ怖いけど。
でも、せめてあの子にとっては救いをもたらすものでありたい。
【勇気】を出せ、ぼく!

ずっと独りでよく頑張ったね。
君を、助けに、来たよ!!



 扇動者が殺され、落ち着くを幾らか取り戻したからか、村の方からも喧騒が聞こえてくる。
 ニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)は鎧の中でぐるりと僅かにそちらへと意識を向けるように中身を傾けてから、そちらへと駆けていった猟兵の背を兜の隙間から見送って少女へと向き直る。
 あの子にかかりきりになってられないのは分かってる。それでもニールはそちらへと向かいはしなかった。
 ほってはおけない。なぜかそう思う。
 彼女が不幸なのか。と言われれば、分からないと思う。
 ニールにとって少女は、初めから『自分』というものを持っていた羨ましいと思う相手なのだから。
 だから幸福なのか、と言われればそれも違う。ニールが羨むそれを見失った、いやあの蛇に、扇動者に、島の人々に見失わされたあの子どもにただ幸福だ、などとも思えない。
「……」
 どうして、ニールは彼女を助けたいと思うのか。
 あの暴走は怖い。水晶が着弾した衝撃で人の頭蓋が弾ける様を見た。この鎧も、その中身もあれを受けて無事だとは思えない。
 ハルバードを握る。それは覚悟の力ではない。得体のしれない恐怖ではない感情が心らしき器を満たしていく。
 誰かがやってくれる。今から村の方へと駆けて行っても止める手はない。そう思う声が消えない。
 いつから、ニールはこんなに臆病になったのか。いつかの彼は、自分という個体が消失する事に何の感情も――恐怖も抱いてはいなかったはずだというのに。今はこうして、ただ揺れている。
 その時、ビギン!! と水晶の砕ける音にニールは、益体も無い思考から浮上した。視界の先で猟兵が少女へと向かう。少女の姿がそこにあった。聖環を纏い、水晶に半身を覆われたその姿は、その瞳には、誰も映っていないようにすら見えた。
「そうか」ニールは気付いた。「だから、ぼくは君を助けたいんだ」
 彼女がいる暗がりを知っている。そこに戻りたくないから、恐怖を覚えるのだから。
「さあ、分かったらさっさと勇気を出せ、ぼく」
 独りの怖さを、知っている。
 ハルバードを握る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雪羽銀・夜
気にはなるが、巫女の方は任せて、オレは旗取りに行くぜ。

出会う味方に、負けるな、オブリビオンに抗えと道返白夜。月光と夜闇の守護を与えて片っ端から旗を切り裂く。

家の中だろうと外だろうと構わねえ。怯えてる島民がいたらごめんだけどな、だが旗は貰ってくぜ。
指示?まあ分かってるだろうが、フードを狙え。身に染みた洗脳はしらんが、あれがいなくなれば多少死に戸惑ってはくれるだろ。

羽衣で攻撃をいなしつつ、結界術、オーラ防御。邪魔すんなよ、急いでるんだ。

余りにもしつこいようなら切れ味低めに撫でておくが、できるだけやりたくはないな。

アドリブ連携歓迎


シノギ・リンダリンダリンダ
あぁ、うわ。めんど…
毒蛇を倒せばどうにかできる洗脳じゃないですねあれは
あちらのイザコザはきっと優しい猟兵達が助けてくれるでしょう
後は任せましょう


【飽和埋葬】で死霊騎士を召喚
ツーマンセルで集落に散開させる
グラップルと集団戦術による暴徒の拘束
大海賊のお宝探しの嗅覚で旗の探索をします
協力者には手を出さず、暴徒も命までは取りません

貴方がたが我々を利用したように、私も利用させてもらいます
この島の解放が目的でしょう?
私は旗を焼いて、七大海嘯に喧嘩を売るのが目的です
ほら、利害の一致
正義の味方だとでも思っていましたか?
こちとら、泣く子も黙る大海賊です
お宝探しは私の領分。分かれば協力してくださいな?



 少女との戦闘、前哨戦が過ぎ、その本番が始まる頃。
「は、邪魔すんなよ、急いでるんだ」
 刃筋の立て方すら知らぬようなぞんざいさで振り下ろされたカトラスの一撃を、羽衣で防いで笑い捨てる。
 細める笑みの中には慈悲ではなく、どこか恭悦めいた光が躍り――直後薙ぎ払われた羽衣に島民が吹き飛ばされて家屋の壁に激突してその意識を手放していた。
 おおよそ、風にすら舞うような羽衣、一枚の布が弾き出す威力でないが雪羽銀・夜(つきしろおぼろ・f29097)がそれに驚く事など無い。
 羽衣の姿を取ってはいるが、本質は神剣であるそれが理を断とうが、むしろそれこそがあるべき姿であるのだ。
「んで、お前は平気か?」
 影から不意打ちされかけていた彼に問いかける。
「……っ、あ、ああ助かった」と知らぬ顔の海賊が言う。
「あのフードを真っ先に狙え。動きが鈍る」
 いや? とそこで夜は首を傾げる。どこかであったか、と思えば海賊ではなく、地獄の底から助け出した男性であることに気付いた。
「ああ、お前」
 偶さかに二度命を救った訳になる男性の肩に手を置いて、夜は問い掛けた。
「さて、人間。負けるなよ?」
 きょとんと男性は、夜の顔を見上げるが、其れに返るのは、夜の意味ありげな笑みばかりだ。
「も、勿論だ」
「よし」
 そう男性が頷いた瞬間に、彼の周囲に銀と黒の風が纏い付いた。湧き出でる力に、肩から手を離した夜を振り返るが、既にそこに夜の姿は無く。
「……っ」
 武器を手にした男性は、どこから乱入してきたのか、骸が鎧を着ているような勢力が、二体一組で暴徒を圧倒し出している戦場へと戻っていくのだった。


 死霊騎士を村中に分散させて、暴徒の鎮圧に向かわせた後、僅かに気になった家屋に押し入ったシノギ・リンダリンダリンダ(強欲の溟海・f03214)は、そこで自らの腹に包丁を突き立てんとしている女性の姿を見つけた。
 リンダの侵入に気付いた彼女は、顔を青ざめてその包丁を取り落としていた。へたり込んだままに少し後ずさる女性に、シノギは臆しもせず歩み寄っていた。
「さて、どうやらお邪魔してしまったようですが、取引でもしましょうか」

「貴方がたの目的は、この島の解放でしょう?」
 シノギとあの蛇神を戦わせる、そうして自由を得る。そう問いかけたシノギにしかし、女性は、懐疑的な視線を向けていた。
「……な、何の、話……?」
「ああ、違うのですか。成程、つまり心底あの蛇を崇拝して、あれの利になるように生きていたと」
 蛇。
 そうシノギが言った途端に、女性の体がぶるぶると震え始めた。自分の肩を抱いて、床の一点を見つめて、声を発していた。
「むす、娘が」
 震える口が紡いだ言葉にシノギは眉を顰めて、その続きを促した。
「娘が、神さまを、あ、ああ……、どうして、あの子は神さまに選ばれた素晴らしい娘なんです。私の、私達の宝、なのに、――裏切った」
 滔々と語られる言葉は、微妙の脈絡を失い錯乱状態が知れる。逡巡するように放たれた最後の単語は、あまりにも平坦で、未だに確信を得られていないのだろう。
「も、もう……私は生きてなんていれない、あの子を私が、神さまを裏切る娘を生んだ私は」
 ああ、と冷めた目で懺悔する女性を見下ろし、言葉を繋いでシノギは察した。
 これがあの巫女の親か。と。
 取り落とした包丁に手を伸ばした女性の手を再度蹴り払い、包丁を踏みつけた。自死などはさせない。
 別段、彼女の境遇を嘆いて慈悲を掛けた、というわけではない。
「っ、ぁ」
 シノギは膝を曲げてしゃがみこんで、女性の顎を掴み、蹴られた腕の痛みに俯いた顔を上げさせる。勘に頼って、この家に踏み込んだのは、やはり間違いではなかった。
 あの蛇に一番近い少女の家族。であるならば、他の島民が知らない情報も知っているかもしれない。大当たり、紛れもなくジャックポッドだ。
 このどうしようもない洗脳をどうかしようという気はない。そういうのはお優しい猟兵がやってくれるだろう。
「私は旗を焼いて、七大海嘯に喧嘩を売るのが目的です。貴女がここで死のうと、関りの無い事ですが」
「なら……!」
「あの蛇が最も大事にしていた旗、案内してください。ああ、それとも――」
 あなたを引きずって、暴徒に叫んであげましょうか。そうシノギは、唇に弧を描く。
「裏切った巫女の母親が逃げようとしていた、ただ殺すだけじゃ足りない。なんて」
「――」
 己の命を捨てる程の狂信にある暴徒がそれを聞けば、どう動くのか。それに数秒をかけて思い至ったのか、ヒュ、と喉が凍る音が聞こえた。むしろ滑稽なほどに女性はシノギを凝視して固まる。信じがたいとばかりに。
 さて、彼女はシノギを何だと思っていたのか。ここまで誰も殺さずにいた事で何か勘違いをしていたのか。
「コンキスタドールを倒す正義の味方だとでも思っていましたか? こちとら、泣く子も黙る大海賊です」
 お宝探しは、彼女の領分。だから。
「分かれば、協力してくださいな?」
 そして、シノギは利害の一致の上の協力で申し訳ありませんけどね。そう嘯いてみせた。
 

 村を駆け巡り、目につく限りの旗を斬り倒す夜ではあるが、しかし手ごたえを感じられずにいた。
「……手あたり次第にやってりゃ、いずれはってのは甘かったか?」
 扉をぶち抜いて、中に隠れていた子どもに手を振っては、壁に掛けられていた旗を裁断する。
「ああ、悪いな。家から出んなよ?」
 返事は聞かない。背中から斬りつけてくる様子もないのなら構っている暇はない。と夜が外へと再び出た時、ふと違和感に気付いた。
「……あの鎧連中、どっかに向かってるな」
 シノギという猟兵が喚び出した死霊騎士の動きに、そう感じた。行ってみるか、とその方向へと駆け出した先に、女性を連れたそのシノギの姿を見つけていた。
「見つけたのか?」
「ええ、いえ。情報を見つけた、という段階ですが」
 怯えている女性を見上げて夜は、首を傾げる。成程、情報元というのがこの女性らしい。
「ですが、どうやら残っていた扇動者が気付かれたことに気付いたようで」
「成程な」
 と夜は振り返る。
 見れば、煽られた島民たちが、決死の形相で百鬼夜行じみた死霊騎士へと突っ込んできている。
「死霊騎士が十分に抑えられるとは思いますが」
「ああ、分かった」
 と夜はシノギの言外の要請に頷いた。
「オレがあいつらを相手する。あんたは旗をへし折ってくれ」
「はい、任されました」
 そうして二人は再び離散する。
「さて、あっちはどうなってるか」
 迫り来る暴徒を待ち受けながら、夜は砂浜に残した少女へと思いを馳せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
【A】
UCで空シャチ召喚、二体になるまで合体。
風の魔法で突風起こしユウキちゃんを空へ放り上げる。
落下に意識が逸れた瞬間に水晶の側の手の中の水晶柱を狙い銛を投擲、手から弾き飛ばし破壊。
落下の方は片側の空シャチに空中キャッチ、もう一方に妹さん回収させつつ相乗りし合流、暴徒達から引き剥がすよう船側へ移動しつつ喉のメガリスを慎重に破壊。

…他人が誰かの幸福を決めつけられるの?
幸福を願った事が不幸への導線になる事もあればその逆も。
どう転がるかなんて神にも分からない。
最善が潰えたなら次善を目指す、それが生きるって事じゃないかな。
誰でも幸せを求めていい。世界は何も縛っちゃいないんだから。

※アドリブ絡み等お任せ


レイ・オブライト
頑張ったな
お前が報われる番だ

妹周辺に暴徒がいればそれらを電気で昏倒させた上でユウキへ
少し待ってろと姉を取り戻す意向を示し機を見させる
対ユウキ
願い(覚悟)で対抗
拳と覇気の嵐で致命打を逸らし間合いを詰める。刺さった分、また地形上の水晶は高圧電流の熱で溶かし邪魔を減らす
腕のメガリスは破壊と同時肉体にダメージがいきかねないと判断
届いた瞬間【UC】
水晶を砕く、痛みは引き受ける。だが不幸ではないと

恐怖が過ちを生む。一連の騒動が、海嘯に対抗しうる力を示せてりゃいい
一家に島を発つ意思があるなら投石でも何でも盾になる
(足はナガハマあたり協力すると踏む)
知っての通り世界は広い。逃げじゃない、探す旅も悪かないだろう




 少女の妹を追い縋る手がもう無い事を確認したレイ・オブライト(steel・f25854)は脱げる地面を蹴り抜いた。
 軽い砂が巻き上がり、直後にレイの体が空気を破る衝撃に吹き飛んでいく。
 閃光のように過ぎる砂浜の地面をその脚、二歩目が穿つ、その直前に。
「ッ!!」
 レイの顔面を抉り取る水晶の一射が迫る。
 右目を中心に捉える晶弾に潜り込むように体を捻り、浜から足が離れる。旋回し、繰り出した裏拳が錆びた水晶を捉え、砕け散る破片に目もくれず、三歩目を踏み出す。
 知った感触だ。地獄の底で触れた水晶。あれが齎したのは苦痛と癒しであったが、これは。
 踏み出したはずの足が空を切る感触に、レイはそれを悟った。体の動きが乱された。水晶を媒介にしたのだろう、既に効果が消えているその導きに、全身の筋肉を無理に働かせてつま先で地面を捉え、前へ。
「ああ、……邪魔するよな」
 放たれているのは、今の一つだけではない。周囲へとばら撒くように放たれた弾丸、地面に突き立ったそれらを辿り、幾何学的な線を描くように雷電と共に駆け巡ったレイは、しかし、瞬きの間に少女の周囲の光円の内側へと踏み込んでいた。


 砂の上を駆ける。その瞬間、放たれた水晶の弾丸にサンディは自らに放たれたそれよりも、姉へと駆け寄ろうとする少女に放たれたそれに目を奪われていた。
「……間にッ」合うのか、そんな疑問が浮かんだ瞬間にそれを蹴り砕く。
 間に合わせる、のだ。
 手にした黒剣から赤が伸びる。それを待たずに、サンディは向かう先を転換して、その身を弾き出した。
 ビュ、ゴ!! と風切る体がまるで時間が止まった世界を横切るように、不可能だった距離を一瞬のうちに詰めていた。
「――っ!」
 伸ばした腕の中に幼い少女を抱え、胸に寄せた瞬間に、背中に衝撃と激痛が走り体が撥ね飛ばされる。
 宙を舞い、そのままであれば地面に少女ごと激突するだろう衝撃を、広げた翼で緩和してサンディは柔らかく砂浜に着地してみせた。
 瞬時に起きた出来事について行けず、しかし、命の危機が迫っていた事だけを痛烈に感じた少女は、ただ声を失っている。立つ力さえ失い、砂の中に膝をついていた。
「大丈夫」
 震える彼女に、サンディは告げた。
 全身を刺々しい赤い鎧に包み、黒剣であったはずの赤黒い刃を手に、しかし、柔和に笑んで見せる。
「だから、ここにいるんだよ」
 少女を庇った際に、背を穿った水晶の傷を鎧の下に覆い隠して、それだけを言い残して背を向けた。
 久々、だろうか。サンディは思う。敵対しながらも手を伸ばそうと思ったのは。
 悪くはないと、そう思う。


 彼女が不幸だと、蛇は言った。
 だからどうした。
 ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は、眼前に届かんとした水晶を召喚した空シャチに噛み砕かせながら、真直ぐに少女を見る。
 80体ものシャチを周囲に泳がせながら、彼は静かに猛っていた。怒っていた。今すぐユウキと呼ばれた少女の耳を引っ張って宙ぶらりんにして小言を聞かせたい程度には怒っていた。
 でもそれは後回しだ。
「キミを助けるのが先決だよね」
 噛み砕いた水晶を吐き出して遊んでいたシャチたちが集まり出す。宙を泳いで混ざり合い、そうしてその数を二体にまで減らしていた。
「……ちょっと乱暴に行くけど、文句はないよね。ユウキちゃん」


 少女を包む聖環。その中へと踏み入れたのは三人。
 ニールは一歩踏み出した瞬間に異常を覚えた。少女へと向かっている。ただ進むだけ、だというのに、この方角が正しいのか、と懐疑が浮かぶ。
 間違っているのではないか。そう思いながらも、しかし、足を止めない。
 あの暗がりに彼女が一人でいるのなら、どこに行くこともできない、どこに行けばいいのか分からないのであれば、その救いになりたいと、そこから連れ出したいと勇気を振り絞ったのだから。
「ずっと独りでよく頑張ったね。」
 自分を叱咤し、自分を鼓舞し、少女に叫ぶ。
 左腕の鎧が急速に腐食して、黒い砂になって崩れ落ちる。そこから溢れた人を真似る腕が手を伸ばす。
「君を、助けに、来たよ!!」


 瞬間、現れたその変化は、その聖環の中にある猟兵には気付けなかっただろう。
「へえ、がんばれー」
 故に、その変化に気付いたその輪の外にいたロニはエールを送る。
 どういうわけか、少女がメガリスの支配を取り返そうとしているようだ。僅かにずれたもう一つの聖環。恐らく水晶を通して聖環を多重に発動させている。
 メガリスに打ち勝とうとしている。
「まあ、それだって楽じゃないよね……って言ったっけな」
 ロニはふと呟いた言葉にデジャヴを感じて、首を捻った。


 体が楽になった。
 果たして、それは何が引き金だったのか。
 サンディは、少女へと肉薄する。奇しくも、纏う赤は似ている。赤錆びたような鈍い光沢を返す色に、しかし、思う。
「君にその色は似合わないな」
 首をも覆う水晶に、刃が届きはしないか。そう考えた次の瞬間。ニールの腕が振るわれていた。
 ブラックタール。殻を失いそれでも人として振るわれた腕が、赤錆びた水晶に触れて液状に広がる。
 ジュ、ッ!! と短く音が弾ける。
 一秒にも満たない接触だったのにも関わらず、ニールの腕が過ぎたそこにあった水晶はその姿を失っていた。
 融解したように、爛れた水晶の断面が少女の肩口に覗いていた。
 細い首が見える。その内にメガリスが光っている。
 喉の中。少女の首を切り裂かねば、メガリスへとその刃は届かないのだ。
 サンディは逡巡し。
 そして、迷いなく、サンディは握った小刀の切っ先を少女の喉笛へと突き出していた。
「『引き受ける』!」
 声が聞こえていたのだ。
 そのレイが叫ぶ声に、サンディは意識を切り替えた。それは猟兵の声、蛇との戦闘の際にも聞いたそれだ。
 ならいいだろう。ならば、信じる。
「助けに来たよ」
 少女の手をとり、穏やかにサンディは告げた。
 思惑はある。ニールの言葉に影響があったのだから、確信している。これで少女が力を抑えられると。
 だが、そんな思惑など放っておいたとしても、彼はきっとこの言葉を告げただろう。
 微笑みかけて、刃を奔らせる。
 環が形を取り戻しだしている。迷わないのではなく、迷う事も許されない刹那の一撃。鋭く放たれた斬撃が少女の喉笛を抉り取り。
 何か硬質な感触がサンディの切っ先に触れる。
「……っ」
 巨大な敵を相手にするのではなく、強力な相手を制するのでもなく、僅かな力加減が少女の生死を別つ。
 引き受ける、と言っても、即座にその命を絶つ事すら出来てしまう刃に緊張が走る。
 そして、僅かに手を捻った。瞬間。
 僅かに、パキンと、何かが砕ける音と共に、光の輪が消え失せた。
 少女が受けたはずの引き抜いた刃の傷は既に無い。ふと、自らに落ちた影に見上げたサンディが見たのは、幾本もの水晶の杭。
「――離れて!」
 瞬間、ヴィクトルの声が響いた。
 直後。大砲を鳴らすような轟音と共に、烈風が彼らを空へと吹き飛ばしていた。


 宙を浮く。
 サンディは、烈風の中を翼で、風を抑え既に着地している。故に、打ち上がったのは水晶の杭と少女、そしてレイであった。
 喉から血液が零れて舞い、全身を汚す。息が抜ける、声が鳴らない。
 だが、水晶の動きはない。過ちの導きを嘯く光も無い。
 あるのは、己が為すべき導きだけだ。
「――」
 頑張ったな。響かぬ声で言う。
 喉の治療は後回しだ。この一瞬。ヴィクトルが上空に放り出したその衝撃に、水晶がいかに宿主である少女を護るかを決める、一瞬。
 拳を握る。
 覚悟を決める。
 ばちり、と紫電が走る。狙うは少女の腕。その水晶に覆われた半身。それをレイの拳が撃ち抜いた。


 ヴィクトルは、共に空を舞う猟兵を見上げる。
 二体のうち一体に乗った彼は、妹の少女を傍らに保護しながら、同じように見上げる彼女の肩を叩いた。
「大丈夫」
 人体を舞い上がらせるほどの突風に吹かれながらも少女の水晶の腕を掴み続けていたレイが拳を握る瞬間、銛を手に構える。
「――」
 上空で振り抜かれた拳が、少女の半身を吹き飛ばす。
 千々に吹き飛んだ水晶。それは少女の体に浸食しきっていたようで、少女の体の半分を残すばかり。
 宙の彼が即座に少女を治療する。
 ヴィクトルは、その猟兵を知っている。彼が行う『治療』がどういうものか。
「無茶するなあ――、とっ!」
 直後、レイの体の一部が瞬いたと思えば、その体の半分が吹き飛んだ。
 そして、無傷の少女と致死傷のレイが落下していくその、僅かに離れた中空へとヴィクトルは構えていた銛を投げ放っていた。
 それは、砕けた水晶の中で異彩を放つ、力の塊。水晶のメガリス。その側面に銛の切っ先が叩き込まれ、そして。


「巫女様を返せ!」
 嘆く声が響いた。
 怒る声が響いた。
 鉄甲船の上でいつか、少女に助けられた少年が、その声を聴いていた。
 奴隷船に乗せられたあの日、宴に騒ぐ海賊の隙を突いて同じ部屋にいた少女の手を引いて逃げ出した。
 だが、そこから、無事に船から抜け出し、岩場から小舟で逃げ出そうとしていた深海人と出会うまで、向かう先をその手を引いて教えてくれたのは、少女だった。
 名前を聞いても、何も答えない彼女にユウキと一方的につけたのは、その勇気に憧れたからだった。その手の迷いのなさに安らいだからだ。
「……」
 遠目にも分かった。彼女が妹の手を握る。解けるように笑んだ妹の表情が語る言葉が。
「行こう」
 きっと、あの時少年が口にしたそれと同じなんだと。


 もう一匹の空シャチが、落ちる少女とレイを受け止めていた。
 即死級の傷に衰弱したレイは、しかし一日寝れば治るらしい。
「もしかしてブラックタールの仲間だったりする?」と首を傾げたニールは、訝し気な視線をレイに向けられて、ちょっと落ち込んだままに少女の様子を見つめる。
「……あ」
 丁度その時に、少女の眼が開く。
「お疲れさまー、どうなるかと思ったね!」とロニは、少女に駆け寄って笑いかける。
 笑いかけて、そして、光景に閉口して俯く。
 それが、ただ自らのしでかした事に対しての表情ではない事は分かっている。この場の誰もが理解できるだろう。
「うん、そうだよね、あんまりBGMとして良くないというか、煩いというか。止める?」
 そう言った先。メガリスの暴走に怯えていた島民たちが、声を張り上げている。
「なんで、返せ、なんていうんだろうね?」
「……代替品に都合がいい、って事か。正当な権利を主張しているつもりなんだろうね、彼らにとっては」
「わー、勝手ぇ」
 神の代わりに、巫女を崇める。崇拝していた存在を失った後、刃を向けた者に縋り付こうとしている。
 だが、ふと、その声が止む。
 群衆が、次々と口を噤み、人ごみが分れたその先に。
「のいた、のいた。もう、新しい神様も新しい巫女様もいねえからさ」
「ただこの先の大ボスに宣戦布告出来れば、それでよかったんですけどね。こんな面倒になるなんて」
 協力者を引き連れそこにいたのは、夜とシノギ。
 辟易と、周囲の島民を睥睨したシノギが、集団の前に放り投げたのは『舵輪』の紋章が刻まれた一つの旗。引き裂かれたそれは、もう何の力も無い残骸と化していた。
 もう、七大海嘯の援軍が訪れることも無い。
 残る島民もそれに悟る、もはや、この島に彼らの望んだ平穏は残ってはいないと。


 一日、苦痛に満ちた夜を過ごしたレイは、一昼夜経った島にいた。
「ありゃ、時間かけて価値観戻していかねえと」
 協力者の指揮を執っていた深海人のナガハマは言う。
 この島の島民は幾つかの島に分散させて生活をさせる。互いに隔離した環境に身を置いてみようという事になったらしい。この島は故郷をコンキスタドールに奪われたという協力者の仮住居として使用する。
 ナガハマはというと。
「小舟じゃなくて安心した」
「ああ、そうか」
 聞くところによると、彼は少年と少女を連れて小舟で海を渡る時、コンキスタドールに襲われたらしい。
 少女と、その家族を比較的平和な島へと届けるのだという。
「……まあ、その島も良い思い出はねえがな」
 儀式の生贄にされかけた記憶を思い返して苦虫を嚙んだような顔をする彼に、レイは、少し肩を揺らして見せた。


「他人が誰かの幸福を決めつけられるの?」
 うつむいた少女に、ヴィクトルは静かに語り掛けた。返せと叫ぶ島民たちの声に掻き消されそうな言葉は、しかし少女の耳に深く響いていた。
「俺が幸せだと思う? 不幸だと思う?」
 答えは返らない。戸惑いが見える。分からない、そういう答えだと感じた。
 それは、その誰かが思う事だ、と。ヴィクトルは考える。たまたま入ったご飯屋が美味しくなかったら不幸だと、美味しかったら幸福だと。
 幸福を願った事が不幸への導線になる事もあればその逆も。それがどう転がるかなんて神にも分からない。
「最善が潰えたなら次善を目指す、それが生きるって事じゃないかな」
 味のはずれが無いメニューを探すとか。と考え、分かりづらい例えな気がして、それは言わずにおいて、ヴィクトルは、蛇との闘いの際に伝えたことを再度伝えてみる。
「誰でも幸せを求めていい。世界は何も縛っちゃいないんだから」
 ね、とヴィクトルは傍らに立っていた少女の妹へと笑いかける。
 彼女は姉に抱き着いて、嗚咽を上げる。
 そうしてしばらく、泣き腫らした目をそのままに、姉の手を握るのだった。


 七大海嘯。
 それが海に落とす影。全貌の見えぬ脅威を感じながら、先ずは一つ。
 猟兵達はその尖端を制したのだ。
 海鳴りはまだ遠い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月25日


挿絵イラスト