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The Shamrock

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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 まもなく陽が沈む。沈みゆく太陽に向かって、パトリックは歩き続けた。まだ視界には荒れた草原と岩場しか入ってこない。本当ならば既に拠点に帰り着いていたはずだ。ここは見覚えのある場所だから、そう遠くないところまでは来られたはず、ではあるが――暗くなればレイダー共が闊歩しはじめるし、モンスターじみた野犬たちも目を覚ます。かすかに聞こえた遠吠えに反応して、パトリックの足が無意識のうちに速くなった。
「主よ、どうか今日という一日を無事に終えられますよう――」
 何度目かの祈りを呟いた時、オレンジ色の眩しい光が途絶えた。ついに陽が沈みきったか、と顔を上げると、そこには一人の男が立っていた。
「まだ人間はそのようなものに縋っているのですか」
「え……」
 日没直前の目を刺すような陽光が男のディティールを覆い隠す。声を聞く限りでは、まだ若い青年だろうということが伺えた。左手を目の上に翳して光を遮ると、相手が丈の長いコートを着ているらしいということも判った。そしてその右腕は――。
「その神が、この世界を一度でも救ってくれましたか?」
 男は再び、パトリックの十字架を嘲った。腕を広げ、人間が――いや、すべての生き物たちがやっとの思いでその日を生き、そして死に絶えようとも決して変わることのない空を示す。その指先はやけに長く、そしてナイフのように尖っている。
「地を這い泥水を啜るような暮らしをしてなお、あなたがたはそのまやかしにしがみついて生きるのですか」
「――……」
 パトリックは答えられない。それは、自分の心の内にも住み着きはじめていた疑念。誰にも言えず、自分でも直視できず、見て見ぬ振りをしてきた、神への反逆。
 男の爪が太陽の最後の雫を受けてギラリと光った。



「…………」
 浅黒い肌に鍛え抜いた肉体にはおよそ似つかわしくない華奢な十字架を手にして、アレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)は何事かを深く考え込んでいるようだった。猟兵の一人が遠慮がちに声をかけると、「ああ、すまない」と皆の方へと向き直る。そして、こう言った。
「おまえらは、“カミサマ”ってやつを信じるか?」
 猟兵の能力には様々な者がいる。信仰心の篤い者もいれば、無神論者もいるだろう。あるいは自分自身が神であるという者さえいて、それを目の当たりにすれば「信じるも信じないもなかろう」と、きっと誰もが思うのだろうが――。
「俺は信じてない。宇宙の真理だとか天国だとか、そんなのは鼻をかんだチリ紙以下だ」
 そう言ったところで、通りすがったヤドリガミと神の二人連れが顔をしかめた。それを見て、アレクサンドラは「いや、悪かった。あんたらのことじゃない」と大きな身体を申し訳なさそうに小さくした。
「俺自身に“信仰心”なんてものは残っちゃいないが、“信じるものがある人間の強さ”は信じている。仲間や家族、愛する人、――得体の知れないカミサマでもいい」
 生きることは大変なことだ。どれだけ踏ん張ろうとも、ある日突然心がぽっきりと折れてしまう。身体が保っても心が保たなければ人は生きてはゆけない。あるいは逆に、信じるもののために奇跡を起こすことだってできるのだ。

「アポカリプスヘルに、人々の信仰心をターゲットに暴れ回る連中が現れた」
 長い前置きがようやく終わって、いよいよ本題に入る。
「異端審問と称して、信仰心の象徴や祈りの言葉を目の敵に罪のない人間を襲う。俺が視たのは、十字架を持った若い奪還者だった。連中の言い分は、『おまえの信じるものはおまえを助けてくれたのか?』だ」
 ――俺なら『いいや』と即答するところだがね。アレクサンドラは自嘲気味に笑った。
 襲われる奪還者は信心深い人々の多い地域出身で、祖父から譲り受けた奪還者の仕事と十字架を誇りに思っていたらしい。手違いで人手に渡ってしまった十字架を買い戻しにブラックマーケットへ立ち寄り、その帰りに“異端審問官”に襲われてしまう。
「まず最初におまえらにやってもらうことは、『狙われる奪還者の支援』だ」
 ホワイトボードに任務内容をリストアップしながら、アレクサンドラは話を続けた。
 彼の予知によれば、奪還者はブラックマーケットに寄ったまではいいものの、一人では目当ての品を見つけ出すのにかなり時間がかかってしまう。そしてまだ若い身故に足元を見られて値段もだいぶ吹っかけられてしまうようだ。これを猟兵たちで手伝ってスムーズに帰還できるようにしてやってほしいという。
「それから、『異端審問官を誘き出すための準備』をここでやってもいい。連中は信仰に関わる品を持っている人間を狙うから、そういうものをここで買って身につけておけば誘い出せる」
 ブラックマーケットを散策しながら、“身につけていると信心深そうに見えるもの”を探すといいだろう。いくつもの拠点から様々な品が集まるマーケットで、『ブラック』と呼ばれるからにはいわくつきの品もある。掘り出し物を探すのも面白いはずだ。
「最後に、だが」
 神妙な顔をして、アレクサンドラが猟兵たちを見た。
「奪還者の護衛を頼みたい」
 異端審問官を名乗る敵は、厄介なことに複数いる。数そのものは多くはないから大乱闘のような規模の戦闘にはならないが、皆で囮になってそれぞれ誘い出しても最終的には奪還者も狙われてしまうという。彼を守るために、あらかじめブラックマーケットにいる段階で接触しておくのも方法だろう。

「さて、お祈りは済ませたか? ――冗談だ」
 小さな天使にも見えるグリモアが、アレクサンドラの掌で光を放つ。
「誰を信じようが、何を信じようが、それは自由だ。だが――」
「誰かが信じるものを踏みにじってはならない」
 アレクサンドラの言葉を、一人の猟兵が引き継いだ。
「“釈迦に説法”だったな」
 ――にやり、と笑ってアレクサンドラは荒れ果てた世界への道を開いた。


本多志信
 こんにちは、本多志信です。

■本シナリオは下記構成で進めてまいります。

第一章:冒険『闇市を訪ねて』
第二章:集団戦『異端審問官』
第三章:日常『暁に弔う』

■判定
今回は厳しめ判定で行かせていただきます。
(と言っても「プレイングが悪いから失敗ね!」なんてことは起こらないので、ご安心くださいね。すべて純粋に本多のダイス力でございます……)

■ご注意
実在する宗教や宗派への言及は避けた方がいいやつだなこれ、って途中で気づきました。
こう、なんとなく、なんとなく――ふわっと! ふわっと行きましょう!
「なんのことかわからないけどなんか聞いたことあるな~」くらいの。

■第三章
「お墓参り」的なエピソードになる予定です。
昔のことやもういない人のことを思い出したり、自分の心の中を覗いてみたり……という感じで、キャラクターさんの掘り下げにご活用ください。
※アレックスはお声がかかりましたら登場します。
「聞き役が欲しい」などのお手伝い需要がありましたらお任せください。

 それでは、皆さまのご参加を楽しみにお待ちしております。
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第1章 冒険 『闇市を訪ねて』

POW   :    水や缶詰などの保存食等を売る食材店を訪ねる

SPD   :    様々な車両や銃火器を扱う武装品店を訪ねる

WIZ   :    怪しげなパーツや怪しい医薬品を扱うなんでも屋を訪ねる

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 まったくの迂闊であった。
 あれだけ大事にしていたものを、うっかり間違えて売ってしまったとは。

 日差しの中を一人歩いている少年がいた。年の頃は14、5歳というところだろうか。緑色のマントを羽織って、大きな荷袋を背負っている。少年の背丈はそれなりに伸びているが、顔立ちは幼く、腕や足も細い。――とはいえ、この世界ではその年頃の子供はもう子供ではなく貴重な戦力として扱われることがほとんどになってしまった。彼も、例に漏れず奪還者としての仕事を祖父から引き継いだ。
「パトリック」
と、最後に祖父が名前を呼んでくれた日のことを思い出す。
 心優しいパトリックの祖父は、「皆のために」と危険を承知で物資の調達のために安全な拠点から出る生活を選んだ。何日も留守にしては、たくさんの食べ物や飲み物を持ち帰ってくれる姿は、まるでサンタクロースだった。パトリックはそれを心から誇らしく思っていた。だから、祖父が亡くなった後にその仕事を引き継ぐことは、彼にとっては当然だったのだ。
 今日もパトリックは奪還者としての仕事を果たして自分の拠点に帰るところだった。
 予め調査をし、物資を頂戴できるポイントを物色する。そしてその場所へ赴き、可能な限りの荷物を積み込んで、自分たちに不要なものはマーケットで交換する。たとえば、複雑な機能が搭載された機械だとか、豪華な宝石をあしらったアクセサリーとか。どこかに必要としている人がいるかもしれないが、自分たちの暮らしにはいらない。そういったものを、小麦やチーズ、布や革製品に変えて持ち帰るのだ。
 当然ながら、一人で行動するのは大人でも危険だし、一人で搬送できる量を考えれば無駄が多い。だから普通は数人のチームで行動するのが鉄則だった。

 しかし、パトリックはいま一人で歩いている。
 元はといえば自分の不注意であった。不要品を売るときに、首から下げていた十字架を誤って荷物に紛れさせてしまったのだ。祖父から譲り受けた古い品だったから、鎖が傷んでいたのかもしれない。
 それに気づいて慌てて引き返す際に、自分は大丈夫だからと他のメンバーに先を急ぐよう伝えたのは、祖父譲りの優しさなのだろう。なにしろ、拠点――村では、お腹を空かせた人たちがチームの帰還を待っている。大切なものとはいえ十字架を取りに戻るのは個人的な事情というやつだ、皆を巻き込むことはない。なに、古い十字架を探し出して買い戻すくらいなんてことはない、すぐに追いつけるだろう――と、パトリックはそう考えていた。

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●プレイングで行動を一つに絞ってください。

(1)ブラックマーケットで十字架を買い戻すのを助ける
 パトリックが十字架をなるべく早く買い戻せるように助けてあげください。手分けして店を探す、ぼったくりとの交渉を工夫する、などです。
 アポカリプスヘルですので、売買は基本的に物々交換です。貨幣には価値がありません。
 ただし、このマーケットの性格上、宝石などの貴重品・贅沢品、武器や機械類のような品物も流通可能です。
 パトリックに接触してもしなくても構いません。粋な演出がいろいろできるかなと思います。
 十字架を買い戻した方が複数いらっしゃった場合は、「いくつかはよく似た別の品だった」という判定にさせていただきます。

(2)異端審問官を誘き出す作戦を考える
 信仰にまつわる品物を身に着けるとか、祈りっぽい言葉を口にするといった行動で、敵を引き付けることができます。この章では敵は登場しませんが、第2章の開始状況が多少変わってくると思います。
 純粋に「ブラックマーケットでのお買い物や探索を楽しむ」こともできます。「ヤバいものを見つけてしまったー!」とか「こんな品がこんなところに…!」とかやると楽しいんじゃないかなと思います。

(3)パトリックに護衛を申し出る
 マーケットの中でパトリックに接触して、帰り道で同行できるような流れに持ち込んでください。
 登場人物にがっつり関わってみたい、という方はこちらをおすすめします。 
 この選択をした方がいらっしゃらなくても、第2章で「いきなりやられてしまった!」という展開にはなりませんのでご安心ください。

(4)その他
 上記選択肢に当てはまらない行動も歓迎します。自由に考えて、キャラクターさんの活躍の様子を教えてください。

※ご注意※
 誰も選ばなかった選択肢があっても、「致命的なミスが生じた」という判定にはなりません。展開に影響が出ることがあっても、必ず「次章のプレイングでフォローできる」ようにいたしますので、心置きなく「自分のやりたいこと」を優先していただければと思います。

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ラブリー・ラビットクロー
ヒトが沢山
ねえマザー
こんな街もあるなんな?
【都市部の人口集中は予てから問題になってますね】
らぶの街は全然ヒトいないのになんかズルいんだー

ぶらぶらしながら依頼の十字架を探してみるぞ
らぶもこー見えてしょーにんとしてのケーケンを積んできた筈なん
取引は任せるのん

十字架ってこれなんな?
これがカミサマなんだ?
ふーん?
まーいーや
それじゃあこーしょー開始!

らぶはね
セカイを旅するぎょーしょーにん
色んな所に行くのん
キンキラの国にフワフワの国
今日はステキなタカラモノを持って来たぞ
みてみて?きれいなビー玉
色んな光がクルクル
見てるとワクワクしてくる?
でもねー
らぶがトキメく物じゃないと交換はムリ
例えばそこの十字架とかなん





 ところどころに岩石が顔を覗かせる平原の一角。周囲を見渡すと緩やかな盆地になっていることがわかる。夏が終わり秋に移りつつあるとはいえ空気は既に冴え冴えとしていて、それはこの地が冷涼な気候であることを伺わせた。短く涼しい夏の間に成長する背の低い植物たちの中に突如現れるのは、巨大な石を組み合わせて建てられた謎めく遺跡だ。オブリビオン・ストームに襲われて一部が倒壊しているが、かつての面影は残っている。その遺跡の周囲に、『ブラックマーケット』は開かれていた。

 大小さまざまな露天の並ぶ広場にラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)が足を踏み入れると、涼しい空気が一変した。健全な活気で賑わう市場とは違った、ピリッとした緊張感を伴う熱気。なるほど、これがブラックマーケットか――と、ラブリーはいかついマスクの下で呟いた。
 甘いラテカラーの髪は膝の下よりも長く、左右のほんの一筋を結い上げるだけでも愛らしいシニョンの出来上がりだ。小さな耳を生やした小動物のようなシルエットで、ラブリーはぴょこぴょこと市場をぶらつく。そしておもむろに、まるで隣にいる誰かに話しかけるように声を出した。
「ねえ、マザー」
「はい」
 しかし、話しかけるべき相手がどこにも見当たらないにもかかわらず、ポン、という軽快な電子音に続いてラブリーに応える声がする。
「こんな街もあるなんな?」
 ゆるっとした独特の言葉遣いが、マスクの下で籠る。黒いラバーで覆われた口許の左右には、空気を濾過するための装置に似たパーツが付いている。フラスコチャイルドであるが故に普通の人間が普通に生活できる環境下ではこうした生命維持装置を手離せないラブリーであったが、ブラックマーケットという環境では脛に傷持つ者も少なくない。市場で店を出す者も掘り出し物を買い求める者も、大半が顔を覆い隠した姿で、ラブリーの出で立ちは何の違和感ももたらさなかった。
「都市部の人口集中は予てから問題になっていますね」
 肉声をデジタル処理したような音声が、ぎこちないイントネーションでラブリーの問いかけに答えた。音声はラブリーの掌から聞こえてくる。そこに握られていたのは一台のスマートフォン、『ビッグマザー』。板状の通信機器は、しかし本来の機能を発揮できず常にオフライン状態である。もっぱらラブリーの話し相手兼相棒として活躍しているようだ。
「としぶのじんこうしゅーちゅー……」
 小難しい言い回しを口の中で繰り返し、その意味をゆっくりと咀嚼する。
「らぶの街は全然ヒトいないのに、なんかズルいんだー」
 彼女がその自我を手に入れたときから、彼女は独りだった。今でこそ猟兵として世界から世界を渡り歩いているが、かつては散乱した絵本が彼女の家族だった。人目を避けるように草原の中で開かれたマーケットを“都市部”と呼ぶにはいささか寂しく思えるものの、それでも周辺から品々を求めて集まる人間たちの刹那的な熱気は、ラブリーにとって「賑やかな場所」であることには違いなかった。
 マスクの内側で口を尖らせたまま、ラブリーは左右の露店を物色する。
(じゅーじか、十字架……。えっと、ナナメじゃないバッテンのことなんな)
 グリモアベースで探すように依頼された、奪還者の持ち物を見つけてみせる。と、いちごキャンディーのような瞳を見開いて並べられた品をひとつひとつ確かめる。
 壊れたトラックから持ち出されたエンジンにタイヤ、何かの機械に組み込まれていたのだろう、大きく太いバネ。六角形のナットはサイズごとに仕分けられ、小さい順に並べられている。視界に入った店では“ジャンク品”と呼ばれるものが、山のように積み上げられていた。
「こーゆー店にはなさそー?」
「十字架。アクセサリーや宝飾品の店を探してみては?」
 ビッグマザーが絶妙なタイミングで助け舟を出す。
「ナルホド、きれいなモノがあるお店に行けばいいのか。やるな、マザー」
「それほどでも」
 硬い言葉遣いと音声のわりに、ビッグマザーは妙に人間臭い応答もさらりとやってのける。
 ジャンク品の露店が並ぶ小路から、ラブリーは宝飾品の露店が集まる区画へと足を向けた。ビッグマザーのアドバイス通り、そこには確かに十字架があった。――それも、たくさん。そういえば、出発前のブリーフィングでは「信心深い人の多い地域」と言われていた気がする。それならば、カミサマに関係のある品物の取り扱いが多いのも頷ける。
「これがカミサマなんだ?」
 ブロンズ色のチェーンに繋がれた十字架を手に取って、ラブリーは首を傾げる。カミサマ? カミサマってなんだろう――らぶにはむずかしい。この小さな金属が、ほんとうにさっき見かけたバネやナットよりも大事なものなんだろうか。
「まーいーや」
 考えてもわからないことを考えるのはやめよう。この十字架の価値が理解できなくても、これを手に入れるのが今の任務なのだ。ラブリーは露店の主に向かって、交渉を持ちかけることにした。

「らぶはね、セカイを旅するぎょーしょーにん。いろんなところに行くのん」
 ゴーグルで目元を覆って煙草をふかしている商人は、この“闇市”に不釣り合いな可愛らしい小娘が胸を張って商談を持ちかけてきたことに面食らったようだった。とはいえ、この世界のこのご時世である。見るからにチンピラでござい、という人間ばかりが物を買い求めにくるわけでもない。とりわけこの店の品揃えはこの年頃の女が好みそうなものばかりだ。しめしめ、これはいいカモが飛び込んできたぞ、と、商人は煙草を携帯灰皿で圧し潰して愛想笑いを浮かべた。
「その十字架がほしいのかい、お嬢ちゃん」
 あからさまに子供扱いされたことに、ラブリーはむっとした。
(ヒトを見た目で判断するのは、ダメなんだぞ)
 しかし、それはマスクの下に押し込んで、話を続ける。
「今日はステキなタカラモノを持ってきたぞ」
 そう言って、だぶっとしたパーカーのポケットから、袋を取り出す。じゃら、と鈍く硬い音がしてずっしりと垂れ下がる袋には、確かに何やら価値のあるものが詰まっていそうだ。商人は顎で「中身を見せな」と指図した。
 簡素なトレーに並べられた袋の中身は――、色とりどりの、ビー玉。赤いの、青いの、中に黄色の筋が入ったの。わざと気泡やクラックを入れてきらきらさせたものもある。
「見てるとワクワクしてくる?」
 どうだ、と得意げにラブリーが商人の顔を覗き込む。袋を開けるときに、ユーベルコード『しょーにんの心得その1』も発動させたのだ。きれいなビー玉や昔の貨幣をとびっきり魅惑的に見せる輝きを放つ、ラブリーのとっておきの技。これでどんな商売人でもらぶの差し出すタカラモノには涎が止まらないはず。
「――なんだ、ただのビー玉じゃねえか」
 だが、商人は興味を失くした様子で露店の内側へ身体を引っ込めた。
「えーっ、なんで? ナンデ?」
「ガラス玉じゃあ、うちの商品とは交換できねえよ。もっと価値のあるものを持ってきな」
 ぴょんぴょん跳ねて抗議するラブリーに、商人はつれない態度を崩さない。ラブリーは交渉が失敗してしまったことに肩を落とした。ユーベルコードの効き目だって、十分に見込めたはずなのに。たまたま運が悪いときだってあるのもわかってはいるのだが――。
「ガラス玉はイミテーションの材料に最適ですよ」
 そのとき、ラブリーの手元からぎこちない電子音声が聞こえた。
「――ん?」
 商人にもその音が届いたのか、再びラブリーへと顔を向ける。そして日に焼けた手で顎を擦りながら「そうか、その手があるか」と、感心したように呟いた。
 本物をもっともらしい値段で売り捌くだけが商売ではない。“それらしい偽物”を量産してしまえば、“本物”を探し出してくる手間も省けるではないか。しかも今、目の前にその材料がゴロゴロ転がっているのだ。
「嬢ちゃん、待て、待て」
 とぼとぼと店を離れようとしていたラブリーの背中に、商人は慌てて声をかけた。「それと同じやつ、もっと持ってるかい」
「ん? あるけど?」

 ビッグマザーのナイスアシストでリベンジの機会を拾ったラブリーは、再交渉で粘りに粘った末、予定していた倍の価格で十字架を手に入れることに成功したのだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

2
買い物をしつつ異端審問官をおびき出そうと試みる
俺は俺を造った者の信じる神…人の神は信じては居らんのだが
まあ服装や胸の十字架だけでもおびき寄せられるだろう
そう宵の言葉に笑みを返し『第六感』を使い歩くも、ふと目に留まった己の物に似た十字架を見れば足を止め缶詰や水、金貨と交換できるか交渉を

俺の導きの星は―信じる者は宵のみだが
大事な相手が健やかに日々過ごせるよう選び心を込めた何かはきっと、護りになるとそう思う故に
無事購入出来たならば宵の首へその十字架を掛けんと手を伸ばす
お前がそれに祈ってくれるのならば俺はこの胸の十字に日々宵へ沢山の幸せが注ぐ様祈れればと思う
ああ、本当に似合っている


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
2
ザッフィーロと一緒なら異端審問官も誘き出されやすいでしょう
第一印象が大事、と言うではありませんか
見た目こそ一番わかりやすいものですよ

「視力」で周囲をさりげなく観察しつつ「野生の勘」も働かせておきましょう
ザッフィーロ、どうしました?
足を止めたかれに気づけばその視線の先のものを見て
十字架、ですか?
ふふ、嬉しいです
僕のゆく道を照らし導くものはきみのみですが……
きみへ捧げる祈りの十字架としたいですね

ペンダントとなっているそれを見て微笑んだなら首にかけてもらいましょう
ありがとうございます、ザッフィーロ
これでまたひとつ、きみとお揃いが増えました
僕の幸せは、きみの幸せですよ





 通り過ぎてゆく人々の視線が、チラチラと刺さる。猟兵の特性を以て“この世界に於ける異邦人”という違和感は取り除かれているのだが、それでありながらもなお、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)の出で立ちは人の目を惹きつけた。
「ザッフィーロと一緒にいれば、異端審問官を誘き出すのも容易いでしょうね」
 くすくすと笑いの含んだ声で逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)が先刻からずっと居心地の悪そうな顔をしている連れに囁きかけた。
「うむ……」
 歯切れ悪く応えて、ザッフィーロは自分の装いに目を落とした。精緻な筆づかいの宗教画から飛び出してきたような、身形の立派な司祭。その肌は異教の地を思わせるカフェオレ色で、白い祭服の高潔さを強烈に引き立てる。視界に入れば彼を見てしまわずにはいられない。それがザッフィーロの姿だった。とはいえ――、
「俺は俺を造った者の信じる神……“人の神”は信じてはおらんのだがな」
 ため息混じりに呟く声は、僅かに愁いを帯びている。
 かつて自分の“持ち主”であった古い時代の司祭。その人の掌に永く在ったが故にザッフィーロの姿や価値観は聖職者の色合いが強い。と同時に、彼は人の闇も見続けてきた――否、目を逸らすことを許されなかったのだ。指輪の瞳は深く青く見開かれたまま、瞼を持つことも許されずに、人間の業を映し出す。果たしてそこに赦しや救いはあったか? 神はいたか? ザッフィーロは自問せずにはいられない。
「……」
 その横顔を見守る宵の瞳は、慈しみの色を湛えている。物として生まれ、人の世の光も闇も併せ呑んできたのは宵も同じだ。ザッフィーロの胸に澱積もる複雑な思いは痛いほどわかる。だからこそ、彼は何も言わず、いつもと同じように伴侶の隣を歩いた。

 誘き出すにはこのままで十分だと自分でも思うが、駄目押しに十字架の首飾りでも宵に贈ってやろうか――と、ザッフィーロが露店の間をゆっくりと歩いていたとき、一人の老婆が目に留まった。
 「なんでもあるよ!」と威勢のいい掛け声を飛ばす店主とふんだんに品を並べた左右の店に挟まれて、年老いた女は俯いて黙ったままだ。ザッフィーロの目線に気が付くと、老婆は慌てて外套の帽子を目深に被った。砂埃に塗れてボロボロになったその外套が、元は何色だったのかもよくわからない。たまたま空いた場所を手に入れた物乞いがおこぼれのついでをもらおうと目論んででもいるかのように見えた。が、よくよく観察すれば女の前には風呂敷が広げられ、その上にはいくつもの品が並べられている。美しい紋様の入った陶磁器、愛らしい顔をした人形、何冊もの本、蜀台、銀食器――。おそらく、どれもそれなりに値の張るものだっただろうということが見て取れた。そしてその端には、銀細工の十字架が置かれていた。
「どうしました?」
 ふと足を留めたザッフィーロに、宵が声をかける。何事かを考えているのか、それとも何かに心惹かれてやまないのか、と、ザッフィーロの目線を辿って宵も老婆の露店を覗き込んだ。
「十字架、ですか」
 長い間手入れをされていなかったのだろう、その銀細工の十字架は黒ずんで石のようになっている。しかし、宵はザッフィーロがなぜその十字架に足を留めたのか、すぐに理解した。
「ザッフィーロのそれと、よく似ていますね」
 目線で示した先、ザッフィーロの胸元に揺れる十字架は、確かによく似たデザインで作られているようだった。同じ時代に造られた由緒正しい品なのか、単に同じ様式で造られたものなのかはわからない。
「偶然とは、不思議なものですね。――もしかしたらこれを『神のお導き』と言うべき場面なのかもしれませんが」
「俺の導きの星は、お前だ」
「おや。では僕がここへきみを導いたことになりますか」
 唇が場違いにニヤけるのを耐えて、つらっとした顔で言ってみせる。その横で「刀自、この十字架を――」と、ザッフィーロが声をかけようとすると、老婆は目深に被った帽子を更に骨ばった手で押さえて顔を逸らした。
「どうされました」
 宵も膝を折って老婆の顔を覗き込む。すると老婆は、「申し訳ございません、申し訳ございません……!」と、拝むようにして許しを乞い始めた。狼狽した声に通りを歩く人間たちが何事かと集まってくる。
「落ち着いて。僕たちは何にも、あなたに謝っていただくようなことはありませんよ」
 胸の前で合わせた両の手を優しく包んで握り込み「大丈夫ですよ」と宵が語りかける。それを見てザッフィーロは思うのだ。彼の「大丈夫ですよ」という声に、自分も幾度救われたことだろう、と。
「……食べるものが何もなくて……」
 外套の端で目尻を押さえながら老婆が話し出した頃には、人だかりはなくなっていた。
 老婆曰く、これらの品は若い頃からずっと大切にしてきた持ち物だという。しかし食うに困って普通の市場で食べ物と交換してもらおうとしたところ、「そんなものに価値はない」と一蹴されてしまった。家族のために大事な品を手放そうとした勇気と、それを“そんなもの”と片付けられてしまった屈辱、――そして、「どんなことをしてでも生き延びる」という決意。それが彼女をこの闇市へと導いたのだ。
(確かに……、どれも本来は価値のある品でしたでしょうに)
 風呂敷の上に並んだ品をひとつひとつ見比べながら、宵は思った。例えば嫁入り道具とか。例えば赤ん坊が産まれた日の祝いであったりとか。幸せな日々の中で大切にされるような、そういうものばかりだ。この老婆が歩んできた人生が刻まれた品に違いない。それが、今日食べるパンに比べたら二束三文の価値すらないと言われてしまう世界なのだ。
「パンのために十字架を売ろうとしているところをお坊さまに見られて……、恥ずかしさのあまり取り乱してしまいました」
 深々と頭を下げる老婆に、ザッフィーロが面食らった顔になる。確かに聖職者の装いをしてはいるが――、それがこの人の罪悪感を刺激してしまうとは。
「神をも畏れぬ盗っ人ばかりが集まるのかと思っていましたが……、貴女のようなかたも、いらっしゃるのですね」
 宵は、胸を突かれる思いで老婆の瞳を見た。優しいヘーゼルナッツの色をしていた。
「顔を上げよ、刀自。貴女は家族のために持てる財をすべて差し出そうとしているだけだ。恥じることはない」
「お坊さま……」
「この十字架、俺が買い取ろう。それで貴女と貴女の家族が今日の糧を得られるのならば、それは不信心などでは決してない。俺が保証する」
 ザッフィーロは、取引のために持参していた缶詰や水をありったけ風呂敷の前に置き、「これで足りるか」と尋ねた。
「足りねば金貨もあるのだが、これがここでいかほどの価値を持つかはわからぬゆえ」
 暴食せねば数日間もつだろうと思われる量の食糧と、申し訳なさそうに添えられた革袋入りの金貨。老婆は驚いた顔でザッフィーロを見上げた。

「きみが僧侶のふりを続けてあのかたの心を慰めるとは」
「驚いたか」
「少し」
 ふふ、と笑う宵の首からは、簡素な鎖に通された十字架が下がっている。
「俺は“人の創った神”は信じぬが――、小さな嘘が誰かを明日へと導くこともある」
 その十字架を愛しげに指で掬い、撫でてザッフィーロも微笑を浮かべる。「それに、あの品々はあの刀自にとって確かに加護の祈りを込めた大切なものだっただろう」
 大切な人が健やかに過ごせるように。幸せな瞬間をいつまでも鮮やかに思い出せるように。心を籠めて選び贈られた品は、神が介在しなくともその人にとっての護りであり、支えとなるのだ。
 愛する人のそれとよく似た十字の護符を胸に、宵は首を垂れた。
「ありがとうございます、ザッフィーロ。これでまたひとつ、きみとお揃いが増えました」
 ――この十字架も、僕にとっての護り。きみへの祈り。
 あなたが、いつまでも幸せでありますように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マガラ・オーエン
難儀だな。
こんな世界じゃ、縋りたくのも同然か。
それを利用するのは頂けないがねぇ。

宗教的なものかぁ。
十字架ってあんま馴染みないさらな。
数珠や法具みたいなモンがあったらそれにしよう。
ついでに弾薬や薬を見つけたら、手に入る時に買っときたいな。

闇市なら高いのもしょうがないが…高すぎるだろ。
頼むよぉ。少しでいいんだ。安くしてくれ。な?
一生のお願いだよ。
言いくるめつつ、銃を向けて恫喝。
安くなったら儲けってことで。

手に入れた後は聞き耳立てながら闇市を回ろう。
それらしき十字架があるか、その奪還者がいるか。
似たような十字架を見つけたら、さっきと同じように穏やかに交渉して手に入れておくか。





 背の高い女が歩いている。真朱の長いコートに毛皮の帽子。踵の高い靴が上背を更に空へと押し上げる。つるりとした艶のある丹色の髪は腰の下まで伸び、女が足を動かす度に右へ左へともったいぶって揺れている。右肩に担いだ長銃は物騒だが、ただの護身用にハッタリで持っているだけに違いない。荒れ地でヒールを履くなんて、どんな気取った女だろう――。男の一人が下卑た好奇心を剥き出しにして、マガラ・オーエン(猿女・f25093)の肩を掴んだ。
「おい、ネエちゃん。こんなところに女一人で、何の用だ?」
「――おや」
 マガラの真っ黒な瞳が背後の男へぎょろりと向けられた。
「嬉しいねェ。こんなアタシでも女扱いしてくれるのかい」
 目の動きに遅れること数秒。横顔から正面へマガラの身体と顔が男に向き直った途端、そのニヤけた表情が憎悪に変わった。
「……チッ、キズモノかよ」
 マガラの顔の右半分には大きな火傷の痕があった。肌の色は赤黒く変色し、ところどころが引き攣れているのがわかる。男は恥ずかしげもなくそう言い捨てて、マガラの視界から消えていった。その背中を見送りながらマガラは穏やかに微笑んで、
「一昨日おいで、坊や」

 冷やかしに夢中なチンピラたちを片目で黙らせながら、マガラは歩く。
(――祈り。信心……。まいったな、あんまり馴染みがない)
 今日これから異端審問官などという馬鹿げた身分を名乗るオブリビオンに鉛玉をたらふく食わせてやらねばならない。そのためには『信仰心』を強調するもので誘き出せばよいと出発前に言われたが、マガラにとって宗教、とりわけ“十字架”というやつはどうもピンと来ない。
(こんな世界じゃ、何かに縋りたくなるのも当然だけどサ)
 昨日まであったものを突然奪われて、訳も分からぬうちに弱肉強食の掟を強要された人々。ある者は生き残れず、ある者は善良さをかなぐり捨てて生にしがみついただろう。働いて貯め込んだカネは価値を失い、パンひとつに両手いっぱいの紙幣でも足りない。そんな世界で。正気を失わずに、人間らしく在るために、信じるものを求める人々も少なくなかったはずだ。そして、そこにつけ入る不届き者も。
「……難儀だな」
 比較的なじみのある、東洋のものを見つけられたらそれにしよう――マガラはそう考えていたが、地球のほぼ反対側に位置するだろうこの島にそれらがあることを期待するのはなかなか難しい。崩壊前から交易の盛んであった街であれば、もしかしたかもしれないが。
 「お」と声を弾ませて、通りすがった露店の店先にぶら下げられた、天然石の数珠に目を留める。紫水晶に柘榴石、天藍石。いかにも貴重そうな石で造られた珠をいくつも繋ぎ留めた、やけに長い数珠。石製の隣には、木製の数珠も連なっている。
 これならば己の分際にも無理なく身に着けられそうだ、と手を伸ばしたとき、マガラは違和感の正体に気が付いた。数珠の粒は隙間なく繋がれているのではなく、定められたリズムで並べられている。そしてその先には、木や金属で刻まれた十字の護符が揺れているのだった。
 ――そうか。これが、祈りのための“クルス”というやつか。
 拝む相手は違えど、『数珠』という祈具はもしかすると世界のどこでも似たようなものなのかもしれない。そう思ってみれば、多少のきまりの悪さには目を瞑って、この十字付きの数珠を腰から下げてでもみようか。いや、やはり納得できぬものを身に着けるのは我ながら落ち着かない。と、心の中でしばし葛藤していたとき、マガラは店の奥で鈍く光る水瓶の存在に気が付いた。
「あれは――」
 くびれた形の瓶から細長い注ぎ口が伸びたそのシルエットは、象が機嫌良さそうに鼻をもたげた姿にも見えるし、猫が行儀よく座って尻尾をピンと立てているようにも見える。それは、神ではなく仏に清らかな水を備えるための法具であった。繁栄と不老不死をもたらす甘露が入った瓶、と言われているが――。
(こんな場所で、こんなものに出会うとはね)
 滅びと直面した世界の片隅で、いま。“縁”というものがあるとするならば、こういうことを言うのだろう。マガラはすぐにそれを買うことに決めた。
「なあ、店主。あの水瓶はいくらだい?」
 他のチンピラ同様にマガラの顔と身体を不躾に品定めしていた男へ、その無礼を咎める素振りも見せずに声をかける。男は「お目が高いね、姐さん」と言いながらもニヤニヤしたままその場から動こうとしない。
「そいつは物好きな金持ちから分捕ってきた掘り出し物さ。奴さん、こういうわけのわからねェもんを世界中から集めるのが趣味だったらしい」
 だが、世の中がこんなことになっちゃあ、せっかく集めたお宝もただのガラクタだよな。男は肩を揺らして、水瓶の元持ち主をせせら笑った。
「なるほど。ガラクタってぇんなら、安く譲ってもらえンのかね?」
 売り手が二束三文だと思っているのなら、商談もしやすかろう。マガラが水瓶の値を尋ねた。しかし男が示してきた値は、それなりの銃を買えるほどの価値だった。
「こりゃ露骨に足下を見てきたね。出所が出所だろうし、多少の色はしょうがないと思って来てるが、それにしたって高すぎだよ」
「俺は『ほしい』と思ってる奴に『正しい価値』で売りつけるのが信条でね。姐さんがこいつをほしいんなら、正統なお代を払ってもらうよ」
 ――ご立派な“信条”だ。どんな欲でもきれいな言葉で飾り立てりゃ、なんだかマトモなものに見えてくる。いっそここで鼻でもほじってやろうか。右目を細めて、マガラは男の呼吸を計った。
「――頼むよぉ。少しでいいんだ。安くしてくれ、な?」
 猫撫で声で身を屈め、男を見上げるような視線を送る。みるみる男の鼻の下が伸びていくのが滑稽だ。お高い理想めいた言葉で飾ったところで、こいつがさっきから自分の身体を舐めるように見ていたのを知っている。所詮は闇市に出入りするようなゴロツキ、まともに交渉するだけ時間のムダだ。
「一生のお願いだよ」
 しなを作って、甘えた声を出す。そうすれば、こういう男が次に口にする言葉はたいてい決まっているのだ。
「そこまで言うんだったら、――あんたの身体で追加料金を払ってくれてもいいんだぜ」
 ほぅら、きた。
 男のカサカサの唇を開いて、黄色い歯が覗く。ヤニと垢に塗れた前歯を疱瘡だらけの舌が舐めた。生臭い息がここまで届くようだ。
「アタシの皺くちゃな身体なんかじゃ払いきれないよ」
「ご謙遜だな。さっきから野郎どもがあんたのケツに釘付けだぜ」
「やだねェ」
「――うっ」
 脂ぎった鼻の先に銃口を突き付けられ、男は押し黙った。
「一生のお願いって、言っただろ?」
 賭けるのは、アンタの一生さ。ここで終わるかい? それとも――。

 “男の好意”で破格の取引を終えたマガラは、軽い足取りで市場を歩く。夕焼け色のコートは鮮烈にその存在をゴロツキどもの記憶に刻まれた。
「さぁて、弾薬と薬も仕入れに行かないとね」
 まったく、こんな世界に生まれ直したときには途方に暮れたものだったけど。この鉄砲というやつは本当に便利な相棒だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

海藻場・猶予
【2】
はとりさん(f25213)と

この木彫りの十字架は如何で?
お手頃ですし、朽ちかけている様が何ともいじらしくって
気に入ってしまいました

信心はさておいて、ファッションの話であるなら恋する乙女にお任せくださいな
要は足し算ではなく引き算です
無用な装飾のないこと
たとえ素材が貧しくとも、肌を見せないように努力を尽くすこと
そうした基本で清廉さを演出すれば、要の品はシンプルなほうが説得力がある

わたくし?(いつも通りのドレスを摘む)
信心深いと見えて襲われでもしたら大変じゃあないですか
最早何も殺せない身ですので、戦いには期待なさらないでくださいね

――宗教ではなく、恋です
些細ながらに明確な違いなのですよ、これは


柊・はとり
もば子f24413と(2)
闇市とか戦時中かよ
ぞっとしねえな…

物々交換用の品としてはなけなしの米
学校の備品の紙や鉛筆、絶版になった図書室の本を数冊
これを何にするかだが…やべえ美術品の価値全くわからん
そんな地味なのでいいのか?随分使い込まれてるな
持ち主は何を祈って何故手放したんだか

身嗜みに突っ込まれると何も言えない…
制服着崩すのにも宗派があんだよ
襟元正してネクタイを締め上着のボタンも止め…ボタンは無いから手頃で品の良い品を現地調達
祈れば敬虔な神学生の出来上がりだ

殺さない殺人鬼…派手な矛盾だな
宗教上の理由ってか?
女子の語る恋愛意味わかんねえ
恋なんか偶像崇拝的なもんだろ
まあ口出しはしないぜ、下がってろ





「やべえ……。美術品の価値、全くわからん」
 宗教的名場面を描いた絵画、聖人を象った彫像、宝石をちりばめた金細工の聖杯――“芸術”を愛でる余裕のある世界であれば、こんな場所で無造作に転がされていることすら許されないような美術品の数々。その前で柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は為す術無く立ち尽くしていた。
 着崩したブレザーとネクタイは、どこかの学校の制服だろう。無造作に寛げられた襟元からは物騒な傷痕が覗いているが――それ自体は、この世界では珍しいことでもない。身長は、低くもなければ取り立てて高いということもなく、強いて言えばデートの相手にヒールの高さを口出ししなくても済むような――、いや、これは今や埃とカビに塗れた概念だ。少なくともはとりの世代の少年が重視するべき物差しではない。
「“名探偵”の名折れですね。探偵とは、計算能力のような理系知識にとどまらず、あらゆる世界の情報に精通してこそ成立する肩書なのでは」
「うるせえな」
 無表情に無慈悲な事実を突きつける少女は、海藻場・猶予(衒学恋愛脳のグラン・ギニョル・f24413)。小柄な身体にレースをたっぷりあしらったドレスを着た愛らしさははとりよりも幼く見えるが、実は彼とは同級生の間柄である。
「教養として名作を知っているのと、初めて見る物の価値を測れるかどうかは別なんだよ……」
 事件現場に残された被害者の遺体を見て「これはサモトラケのニケですね」と即座に言い当てることはできても、猶予が「こちらの十字架はいかがで?」と目の前にぶら下げる木彫りの十字架の評価はできないのだ。はとりは眼鏡の下の切れ上がった目を険しく細めて「こんなに地味なのでいいのか?」と訊き返すのが精一杯だった。
(なけなしの米をあるだけはたいても、足りなかったか……)
 彼の目の前に並んだ品々のほとんどが、彼の用意した物と交換するには高価すぎた。――というよりも、彼が用意した物の大半が、この市場で必要とされなかった、と言った方が正確かもしれない。
「絶版になった本だぞ。この上なく貴重だろう」
 はとりは物々交換のために、米と学校の美品や古い本を持ってきていた。彼自身に“財産”と呼べるような代物がほとんど残っていなかったのもある。根城にしている母校から売れそうなものをかき集めてきた、と言われてしまえばそれまでだ。しかし、それでも勉学に必要な道具や貴重な本は、世界にとって価値のあるもののはずだ、と彼は心のどこかで自負していた。
「今日の飯にも困る世の中で、紙や本などなんの役にも立たないのですよ」
 猶予の愛らしく冷たい声がはとりに突き刺さる。
「予算オーバーはしょうがないんですから、選べるものから選びましょう? ほら、この木彫りの十字架ならお手頃ですし、朽ちかけている様がなんともいじらしいですよ」
 彼女が推薦する木製の十字架は、本当に簡素だった。木片を十字に切り出したまま、何の塗装も施されていない。染み込んだ雨水が木を侵食して黒ずんでいたし、横木は不均衡に削れて角がなくなっていた。職人が作った品ではなく、誰かの手作りだったのだろうということは明らかだった。
「……持ち主は何を祈って、なぜ手放したんだか」
「さあ。大切にしていたオンリーワンの十字架を食糧のために泣く泣く差し出したのかもしれませんし、一山いくらで売り飛ばすために乱造したのかもしれません」
「辛辣だな」
「あら。人間の心は複雑ですよ。善良なだけの人間、悪辣なだけの人間なんて、この宇宙のどこにも存在しませんし」
 そんな風に言ってのける猶予の顔を、はとりはぼんやりと眺めた。一度死んで、何の因果かバラバラになった身体を繋ぎ合わせて蘇生されたと思えば世界は崩壊していた。自分がそうやって世界の移り変わりに乗り遅れている間、猶予は不思議の国だとかいうおぞましい世界に閉じ込められていたのだ。生来このような価値観の持ち主であったか、食糧として追い回されるという恐ろしい体験が彼女を変えたのかはわからないが。
「だけど、この簡素さが放つ説得力は強烈ですよ」
 猶予の言葉に、はとりは同意した。洞察力については自信がある己でも、この朽ちかけた十字架を見て「これを大切にしていた人間は信心深くて善良なのだろう。その人がこれを手離すならば、よほどの事情があったのだろう」というストーリーを一瞬でも想像した。要は、そういうことなのである。
「無用な装飾のないこと。素材が貧しくとも、肌を見せないように襟や袖に気を遣うこと。そうすれば清廉さを『演出する』ことなんて、とても簡単なのです。そして要の品はシンプルなものに限る」
 はとりの着崩した制服を直しながら、猶予が言った。襟元を正してネクタイを締め、ブレザーの前も留めようとする。
「――あら。ボタンがありませんね」
 着の身着のまま、荒れた世界をサバイバルし続ければこんなものだろう――と、はとりは思うが、
「着崩し方にも宗派があんだよ」
「殿方の第一印象で重要なのは、顔の造作よりも身嗜みの清潔さですよ」
 適当に流そうと思っても、猶予の追求は厳しい。
「信心のことはさておき、ファッションの話には“恋する乙女”はうるさいんです」
 前の閉まらないジャケットをどうしようか、と思案しながら店の中を見渡す。あの金のボタン――は、きっとまた店主が足元を見て譲ってくれないだろう。立派な聖職服一揃いは圧倒的予算不足で最初に諦めた。ならば、
「サープリスはいかが?」
 白い木綿の簡素な上衣を摘まんで、猶予が小首を傾げた。

「……うわ、ダセえ……」
 整えた制服の上から白いスモック状の衣装を着せられ、はとりは絶句している。16歳の幼稚園児です、ってか――と、眉間に皺を寄せて唇を歪めた。
「素敵、どこからどう見ても『敬虔な神学生』のできあがりです」
 首からは先程の朽ちた十字架を掛けられ、手にはボロボロの聖書。十字架とサープリスで資金(米)が尽きるところであったが、「本と本の交換なら等価だろう」と理屈で言いくるめた結果、“説得力のある小道具”を追加でひとつ手に入れることができたのだった。
「もば子もあっちのシスター服を着ればいいじゃねえか」
 剣呑な目つきではとりが示すのは、明るいグレーの修道女服。膝下丈のワンピース型で、頭の上からつま先まで真っ黒に覆い尽くしてしまうシスター服に比べれば若々しさと軽やかさがある。
「わたくし?」
 そう言いながら、猶予は自分のドレスの裾を摘まんで膝を折ってみせた。「お断りします」の意思表示である。
「信心深いと見えて襲われでもしたら大変じゃあないですか」
「俺が全部引き付ける前提なわけ」
「もはや何も殺せない身ですもの。戦いには期待なさらないでくださいね」
「不殺の誓いとか、既にシスターだろ。宗教か」
 不思議の国で得た力――殺人鬼としての能力と衝動を恋ゆえに封印したと宣うそれは、確かに信仰心に近いものがあるのではないだろうか。
「宗教ではなく、恋です」
「……女子の語る“恋愛”、意味わかんねえ」
 恋なんか偶像崇拝的なもんだろ、と零すはとりに、猶予は「些細ながらに明確な違いなのですよ」と答えた。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

インディゴ・クロワッサン
(2)POW
僕も信仰心なんてものは欠片も無いからねぇ…
「(アポヘル世界での)買い物とか初めてなんだよね…」
ウキウキ気分で見て回るぞー!
勿論売り物は、グリモアベースでUC:無限収納 を使って見繕って持ち込んだ極少量の贅沢品とかだよ!
(大魔王のお陰でまだまだ在庫はあるからねー♪)
ガラスのポットに入った甘い蜜(アルダワの夜糖蜜)とか贅沢品だろーし、何かイイ物と交換出来ないかなー?【世界知識/読心術/取引/威厳】
「…何コレ、十字架?」
まぁ、神様の存在信じてない訳じゃないから別にいいかな
同じ猟兵に神様だって居るんだし
「ま、貰えるモノは貰っとこーっと」





 高く上がった太陽に夏の名残を感じつつも、頬を撫でる風は涼しく爽やかだ。地に生える草も盛りの頃を過ぎたか、一歩踏みしめるごとに乾いた感触がする。秋の香りがする市場の中を行くインディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)の足取りは軽やかだった。
(この世界で買い物なんて、初めてなんだよね)
 未だなじみの薄い世界でいったいどんな物が売られているのだろうか。しかも、一般の市場ではなく“闇市”である。見たこともないような品がどこかにあるかもしれない。インディゴはまるで少年のように胸を膨らませて露店を物色した。
 しかし、市場の中は油や火薬、それから埃や、ろくに風呂にも入っていないだろうゴロツキどもの臭いがそこらじゅうでしていて、嗅覚においては期待外れだった。清々しい秋風の吹く季節だからよかったものの、暑い時期だったらもっと悲惨なことになっていただろう。これもアポカリプスヘルならではの物珍しさのうち――ではあるが、最初の数秒で十分に堪能した。
 インディゴが服の袖で鼻と口を覆おうとすると、男くさい戦場じみた臭いに混じって、どこかで嗅いだことのある香りが漂ってきた。
「あれっ、なんだろう。……この匂い、どこかで――」
 袖を下ろしてくんくんと鼻の感覚に集中する。
 甘い匂い。スーッとする匂い。ピリリと刺激的な匂い、それから、なんだかお腹のすくおいしそうな匂いもする。
「わかった、ハーブとスパイスだ」
 バニラにシナモン、ミント、胡椒。食欲をそそる匂いは、きっとバジルとニンニクだろう。アポカリプスヘルでもよく知った香りに出会えるとは、思ってもみなかった。インディゴは鼻を頼りに匂いのする方へと足を向けた。

「いらっしゃい、おひとつどうかね。いつもの味気ない缶詰と乾パンにひとつまみ」
 硝煙の臭いが立ち込めるマーケットの中で、この一角だけがふくよかな香りを放っている。簡素な屋台では袋詰めにされたスパイスや乾燥したまま吊るされたハーブが売られていた。
 店主が話しかけているのは、大きな鞄を背負って旅装束に身を固めた男の客だ。おそらく、これが“奪還者”と呼ばれる類の人間なのだろう。キャンプか登山へでも行くかのような荷物の量だ。
「ふむ。たまには味付けを楽しむのも悪くない。今回は、実入りもよくてね」
 そう答えて、男は荷物の中からいくらかの缶詰と飲料水を取り出した。それを店主に手渡しながら、「ローズマリーと、オレガノをもらおう。――ああ、それと、ラベンダーはあるかい?」
「あるともさ。ラベンダーは包みを分けた方がいいかね?」
「うん、頼む。かみさんが好きな花なんだ。俺たちの拠点の周りにも生えてるが、なかなかのんびりと花を摘みには行かれないからね」
 店主と客のやりとりを、インディゴは興味深そうに見守った。――なるほど。保存食に依存する生活だと調味料も貴重品になってくるのか。それに、この店は食べる用途以外の品も取り扱いがあるらしい。ざっと眺めて目に付くものは、どれもインディゴにとって取り立てて珍しいものではなかったが、何かもっと面白いものが出てきたりはしないだろうか、と、店の奥まで首を伸ばして覗いてみる。
「なにか、お探しかね?」
 取引を終えた店主がインディゴに声をかけてきた。客から受け取った食料品をしまい込みながら、珍しいものを見るようにこちらを伺ってくる。
「何を探してるってわけじゃないけど、ちょっといいものを手に入れてね。価値をわかってくれそうな取引相手を探しているとこだよ」
「ほう、……“いいもの”だって?」
 その程度のハッタリ、普段ならば歯牙にもかけないところである。しかし、若いながらも堂々とした態度のインディゴの言葉は妙に説得力がある。身形も整っているし、盗っ人崩れの物乞いにはとても見えない。店主は白髪交じりになった口髭を弄って話の続きを促した。
 インディゴは懐にしまっておいた小さな扉に手を触れ、無限収納のユーベルコードを発動させる。そうしてその中から、ころんとした愛らしい形の小瓶をひとつ取り出した。
「なんだい、兄ちゃん。今の技は……」
「まあまあ。それよりもこの瓶の中身はね――」
 小瓶の中身よりも小瓶が収められていたものに興味津々な店主を制して、インディゴは瓶に詰められた不思議な蜜の話を始めた。
「ふぅん。“見たい夢が見られる蜜”ねぇ……」
 小瓶の液体を日にかざし、店主はそれをしげしげと眺めた。疑わしげな口振りだが、それは仕方がないだろう。魔法の蜜の効き目をここでどれだけ説明しても実証はできないし、荒れた世界では聞こえの良い売り文句だけを並べ立てた詐欺も多いだろう。そういう環境で商売をしていれば警戒心が強くなるのも当たり前だ、とインディゴも思った。
「効果のほどはさておき、味は上等だよ。その小瓶はおじさんにあげるから、味見してみなよ」
 促されて、店主は小瓶の蓋を開けた。その蜜――“夜糖蜜”と蒸気と魔法の学園では呼ばれていたが、その名の通り夜空のように深い青色をした液体で、瓶を揺らすと微かにとろりと揺れる。「フム」と糖分の高さを目で確かめてから、店主は小瓶の口を鼻の近くへ寄せて、香りを確かめた。
「少し変わってるが、悪くない香りだな。スパイスとの相性も良さそうだ」
「水で割れば水分と糖分の補給にちょうどいいし、スパイスと合わせるんだったら酒で割って飲むのもいいと思う」
「酒か。なるほど。“飲んだら素敵な夢が見られる魔法のカクテル”――なんてのもできるのかな?」
「おじさんが信じるならね」
 物怖じしないインディゴに、店主は声を上げてからからと笑う。そしてひとしきり笑ったあとで、ふと寂しげな表情になった。
「今じゃどこでも養蜂なんてやってねえしよ、砂糖を作るにも畑がどうにもならねえ」
 “魔法”が本当か嘘かなんてのはどうでもいいが、と店主の言葉は続く。純度の高い甘味料は滅多に手に入らず、それこそどこかの拠点で埋もれた蜂蜜の瓶を奪還者が見つけてこないことにはお目にかかれないのだと。甘いものを味わう楽しみはハーブやスパイスと同じように食べる人の心を満たす。そして糖分の高い食べ物は栄養価も高く保存に適しているが故に、この世界でも重宝されるのだ。
「どこで手に入れたのかは聞かないが、あんた――もっとあるなら俺の店で売るのはどうだい。調味料をほしがる客なら、きっとこいつも買うはずだ」

 インディゴが睨んだ通り、夜糖蜜は貴重な甘味料として高い値で取引できることになった。
 ただ、物々交換となると相手の店の品から選ぶことになるのだが、売られていたハーブやスパイスには食指が動かない。もちろん香り豊かに調味された料理は美味だ。しかしそれは、インディゴの普段の暮らしでは珍しいものではなかった。「どれでも好きなものを選んでくれ」と言われても気乗りのしない顔で渋るインディゴに、店主は“特別な取引用の品”を見せたのだった。
 鍵のかかった箱の蓋を開けると、天然石や貴金属で造られた宝飾品が詰まっている。今日の糧にも困るような人間にとってはカネも宝石も何の意味も持たなくなってしまったが、それでもそういったものに価値を見出し、蓄えることができる者も僅かながらに存在するのだろう。その手の客人と取引するには、わかりやすく価値を示せる小道具は大事だ。一緒くたに放り込まれた美術品を丁寧に除けながらひとつひとつ手に取ってみる。すると、箱の底に大きな十字架が眠っているのが見えた。
「そいつは、俺のところに来たときにはもう出所がわからなかったが、多分どこかの教会に飾ってあったんだろう」
 どうせ、お人よしの司祭が信徒を食わせるためにあれこれ売っ払ったに違いないさ。と、ここではありきたりの美談を推理する店主の横で、インディゴは手に取った十字架をまじまじと見た。台は金属製で、幅が広く薄い造りになっている。手にした感触はちょうど小振りの剣を持っているのに似ていた。表側の面は美しく磨かれ、色のついたガラスや貝殻のかけらでモザイク画が描かれていた。
(……なるほど。たしかに壁に掛けて飾っておけば綺麗だろうな)
 天窓から光が差す小さな教会の壁に、この十字架が掛けられている姿を想像してみる。ガラスは陽を受けてきらきら輝き、見る者にささやかな幸福をもたらすだろう。
 ―― 故郷の記憶を取り戻せたら、俺にも何かを拠り所にするという感情が生まれるだろうか。
 インディゴには“信仰心”などと呼べるものは何もない。十字の形や描かれた母子の姿が何を意味するかすらも関心がない。それは彼が自らのアイデンティティを欠く存在であることが理由なのかもしれない。ただ、それを見て「美しい」と思う心は、神を信ずる人と何ひとつ変わらないものだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

加々見・久慈彦
敵を誘い出すため、信心深い愚か者を演じましょう。

狡猾そうな売り手を選び、豆の缶詰を求めます。こちらの品は安物(サクミラの百圓ショップで購入)のポケットナイフ。
取引が成立する前から「神よ! 糧を与えてくれたことに感謝します!」と大歓喜。
足下を見られても怒りません。にっこり笑って「許します。貴方のような咎人のためにこそ、天国の門は開かれるでしょう」と悪意なき傲慢さを示します。(←敵を誘い出すためと言いながら、実は自身の宗教嫌いがまんま反映されているという自覚なし)

取引が成立した場合、【早業】で缶詰をこっそり戻しておきますかね。猿芝居につきあってくれたお礼です。


※煮るな焼くなとご自由に扱ってください





 間違って売ってしまった十字架を買い戻す――。
 危険な荒野を何日も歩き通すことに比べればずっと簡単なことだと最初は思っていたが、それは誤った認識だったとパトリックは後悔した。年上の仲間が先導する中を歩くだけならば市場で迷うことなどなかったのだが、今は一人だ。奪還者の仕事を始めて日の浅い少年にとって、ブラックマーケットという場所は猥雑で巨大な迷路だった。普通の品を扱う店もあれば、出所の怪しいものをやりとりしている人相の悪い連中もいる。簡易テントの前で胡散臭い愛想笑いを浮かべた男が客引きしているのは、なんの店だろう。ほんの少しの好奇心を向けてテントの入り口を見ていると、化粧の濃い女が顔を出した。
 女はパトリックの視線に気がつくと、色っぽく笑ってこう言った。「お兄さん、どう? ちょっと休んでいかない?」
 テントから現れた女の全身を見れば、この場所に不釣り合いなほど露出が多い。露出が多い、どころではなく、これはもうほとんど下着姿なのではないかと思うほどだった。うっかり隅々まで観察してようやく女が口にした言葉の意味するところを察したパトリックは、顔を伏せて歩く速度を上げた。
「やぁだ、照れちゃって」
 かわいい、とからかう声が背中に貼り付いて剥がれない。耳が熱くなったのを自覚しながら、無意識に懐にあるはずの十字架を探して手が泳いだ。
(――そうだ。これを探しているんだった)
 大好きだった祖父からもらった、大切な十字架。荒れた大地に迷うときも、人を信じられなくなったときも、それがゆくべき道を照らしてくれる。――そう、祖父は言っていた。

「神よ! 今日の糧を与えてくださったことに感謝します!」
 露店を挟んだ奥の通路で、神への感謝と祈りを高らかに捧げる声が聞こえた。
 こんな場所にも神さまを信じる人がいるんだな――パトリックは、自分と同じ種類の人間がここにもいると知って、安堵の息を漏らした。そして、いったいどんな人が祈っているんだろう、と、にわかに湧き上がった友愛と好奇心で、声の主の姿を確かめに露店の角を曲がる。
「大袈裟だなあ、兄ちゃん」
 呆れたような苦笑いを浮かべているのは、背後に食糧の缶詰を積み上げた男だ。彼が売っている豆の缶詰は比較的どこの地域でも見かけるパッケージの品で、言ってみれば“ありきたり”の物だ。だが、“ありきたり”とは言っても、その豆の缶詰にありつけること自体が珍しい。食糧の絶対数そのものが少ないこの世界で、それを人に分けてやる人間は二種類しかいない。即ち、手前の取り分を減らしてでも他人に分け与えてやる筋金入りの善人か、どこぞから盗んで、あるいは奪い取ってきたものを法外の値で売り捌く悪人のどちらかだ。そして男がこういうマーケットで取引を行なっているということは――言わずもがなである。
 その男の足元で膝を降りてを合わせているのが、先ほど聞こえた祈りの主だろう。こんな時代に珍しく古めかしい修道服を着ているところを見ると、よほど熱心な信徒であると想像できる。
「カミサマなんかより、俺に感謝を捧げてほしいねェ。どうせそんなものは存在しないか、存在したところで俺たちを救う気なんかこれっぽっちもありゃしないロクデナシだ」
 男は言葉の端々に侮蔑を含ませて言い捨てた。
 これまでパトリックは似たような言葉を何度も聞いてきた。隣の家の優しいおばさんも「神さまなんかいやしないよ」とやつれた顔で呟いて死んだ。日曜日には欠かさず教会に行く人だったのに。信じていれば、祈り続けていれば、いつかは神さまが助けてくれるのだろうか。それとも、神さまは僕たちがどれだけ悲しみ苦しんでも「それが試練というものだ」とそっぽを向いておられるのだろうか。それとも、本当は神さまなんて――。
 恐ろしい考えが頭に浮かびそうになって、パトリックは慌てて首を振った。そんな、まさか。神を疑うなんて。不安に負けてはいけない、そのためにも早く十字架を取り戻さないと。
 男と修道士のやりとりに目を戻すと、案の定、男が相場よりも更に高い値打ちで修道士にふっかけようとしているところだった。
「こいつは俺が大変な思いをして持ち帰ってきた缶詰だからよ、生半可な値じゃ譲ってやれねェな」
 修道士が差し出しあポケットナイフをすげなくつき返して、男はもったいぶる。しょんぼりと肩を落としながらも、修道士は更に荷物を漁って手持ちの品を数え始めた。オイルのたっぷり入ったライター、未使用の乾電池、太陽光で充電できる携行タイプの電灯、そして、清潔な水の入ったペットボトル――。「お好きなものを、どうぞ」と修道士が言うと、男は無情にも「じゃあ、あんたの荷物を全部寄越しな」と要求した。
(手荷物を全部……って、缶詰ひとつに?)
 パトリックはゴーグルの下で目を見開いた。いくら食料品が貴重とはいえ、ナイフや明かり、燃料になるものは旅路の命綱だ。おまけに水まで。それらを全部取り上げられたら、缶詰を空にした後で待ち構えているのは野垂死にだ。いくらなんでもひどすぎるだろう、とパトリックが声を上げようとしたとき、
「許します」
 修道士が、穏やかに告げた。
「はァ? てめぇ、何様のつもりだ」
 男は、膝を折り惨めに糧秣を乞う人間を見下ろすのが好きだった。無理難題をふっかけて失望した顔を見るのも、諦めずに差し出されたなけなしの品をぶんどるのも、快感としか言いようがなかった。そういう“物乞い”が、腰を低くしていたかと思ったら急に上からものを言い出したのだ。しかも、よりにもよって「許します」だなどと。おまけにこの物乞いときたら、失望するでも怒り出すでもなく、満面の笑みを湛えているではないか。まるで俺を憐れんでいるかのように!
 屈辱に震えて二の句が告げずにいると、修道士は「異存がないようですから、これにて取引成立ですね」と缶詰の山からひとつを手に取った。
「貴方のような咎人のためにこそ、天国の門は開かれるでしょう」
 『咎人』の言葉に妙な棘を感じて、パトリックは修道士の顔を見た。すると修道士もパトリックを見て、慈愛とも愛想とも違う、含みのある笑みを向けてきた。
「……?」
 何か言いたいことでもあるのだろうか。もしかして、どこかであったことのある人だったろうか。呆気にとられて立ち尽くしたままなんとか思い出そうとするが、てんで記憶にない。「ちくしょう、クソ坊主め!」という悔し紛れの罵声も、パトリックの耳には入らないのだった。

 露店から十分に離れたところで、加々見・久慈彦(クレイジーエイト・f23516)は暑苦しい黒衣の前を緩めた。
「やれやれ。夏の盛りが過ぎたとはいえ、真昼間にこんな衣装はいつまでも着ていられませんな」
 そうぼやいて、手の中の“貴重品”を確かめる。小悪党から巻き上げた、ありきたりの、けれどもこの世界では金にも等しい豆の缶詰。奴さんは屈辱と引き換えに哀れな僧侶から身ぐるみ剥いでやったと思っているでしょうが――ところがどっこい。
「百圓ショップというのは、実に便利ですなあ。暮らしに必要なものが安く手に入る」
 久慈彦は自分の暮らす世界にある店で安物の道具を揃えて持ち込んでいたのだった。元が二束三文の品だから、まるごと持っていかれても懐はさして痛まない。それに、自分にとっては安物であっても、この世界では確かに必要で貴重な品になるだろう。そのうちアポカリプスヘルに百円ショップでも開いたらぼろ儲けできるのではないだろうか、などと考えて、そのアイデアの安易さに自分で嗤ってしまう。
 異端審問官とやらがこの辺りに出没するというのなら、今の猿芝居もきっと目に留まったことだろう。あとは獲物がかかるのを待つだけ――。
「――おっと」
 下卑た笑いと堪えて、久慈彦は独りごちた。
「この缶詰は、あとでこっそりお返ししておきますかね」

成功 🔵​🔵​🔴​

セツ・イサリビ
(1)
正面から真っ直ぐかかっても難しいだろうね
古い装飾品となれば他人にそう価値はないだろう
古道具を扱う店を探そうか

「最近、こんな出物を見かけなかったかい」
手持ちの簡素な十字架を見せる
あくまで穏やかに
何か知っていそうなら、空の上着のポケットに手を入れ
小さな宝石(模造だが気づかれまい)ひとつふたつ転がし、店主の気を引く
知らないなら他所の店へ
店の見当だけでも付けてやれるだろう

【目立たない】から【存在感】を増し威圧
気の毒だけれどね

神の存在など、まず人ありきの話
石や鏡、刀を神と奉じる世界もある事だ
人の子が心の拠り所にするならば実在、非実在など野暮なことだよ
「なあ、ポウ?」(相棒の猫)





 なぜか、「僧侶だけは疑わない」という習性が人にはあるような気がする。
 市場の奥へと歩く途中で、偽者の僧侶と本物の小悪党が演じる茶番劇を見た。さっきの店主然り、あの小悪党然り――人を欺き己を偽るのが常になった彼らであっても。まるで、口では「神などいないと」言いながらも心のどこかでは信じたがっているかのようだ。罰を恐れてなのか、救いを求めてなのかは知らないが。

「最近、こんな出物を見かけなかったかい」
 飾り気のない十文字の護符を指でつまんで見せて、セツ・イサリビ(Chat noir・f16632)は露店の店主に問いかける。古い装飾品や日用品を取り扱っている店を見つけてはパトリックの十字架を探しているのだが、思っていた通り、一筋縄ではいかないようだった。十字架をあしらったもの――ネックレスやロザリオは予想していたよりも頻繁に見るものの、そのどれもが宝石や美術品としての価値をある程度見込めるような品だった。
(小さな村の、敬虔な信者が持っていたものだ。そう派手な細工ではないはず)
 老体に鞭打って、他人のために過酷な仕事を選ぶような老人が大切にしていた十字架だ。金や身分のある人間が好むものは持たないだろうし、また持てないだろう。
 「こんなのはどうだい?」と見せられる十字架はだいたいが過剰に飾り立てられたものばかりで、セツの探し物は難航していた。小さな十字架はシンプルに見えて金無垢で作られていたし、貴重な天然石の数珠がずらりと連なったロザリオは論外だ。もちろんそれらも十分に美しかったし、「祈りのための道具に金や手間暇をかけることで、神への愛を表現しているのだ」と主張する者もあるだろう。
 ――だが、パトリックの祖父が持っていた十字架とは違う。
 確信にも似た感覚があるのは、セツ自身が“神”だからだろうか。既に世界と悠久の時間に飽いて神としての仕事は放棄気味ではあるが、かつては己を信じ奉る人の子らを眺めていたこともあった。どのような人間がどのような祈りを捧げるのか、直感的かつ経験的にセツは識っているのだ。
「もっと簡素なものを探してるんだ。たとえば、木彫りの十字架――」
「旦那、そういうのが欲しいなら自分で作った方が早いですぜ」
 セツを遮って店主が困った顔をする。確かに彼の言う通りだ、とセツも内心で頷く。わざわざ闇市などで探すよりも、適当な木の枝で作ってしまえば事足りるし、無用な危険を冒す必要も、余計な出費を重ねる必要もない。
 馬鹿正直に正面からかかっても目的のものには手が届かないと見たセツは、作戦を変更することにした。ポケットの中から小さな袋を取り出し、その中身を掌に乗せて店主の目の前に差し出す。小粒ながらきらきらと輝く貴石に、今度は店主も表情を変えて息を呑んだ。
「……あまり、稚拙な出来栄えでもね。作りたてで真新しさが目につくのも困る。“貧しくも清らかな人間が代々大切にしてきた”ような十字架が必要なんだよ」
 目立たず穏やかなごく普通の善人、といった印象だったセツの表情に、得も言われぬ凄味が混じる。身なりのいい世間知らずの坊ちゃんが冒険ついでの冷やかしにでも来たかと思っていたが、これはもしかすると只者ではないのかもしれない。その予感に気圧されながらも、「ははあ」と店主は口の橋を上げた。
「綺麗な顔して、旦那も人が悪いな。そんなのを持ち歩いて誰を騙そうってんだい」
「さてね」
 ほんの少しの言い回しで「訳は言えないが、そう見せかけるための小道具が必要なのだ」と言外に匂わせる。しかも自らはそれには決して触れずに。セツはただ探している十字架の特徴を説明しただけ――なのだが、“狙い通り”に店主は勝手に早合点して勝手に納得してくれたようだ。
 一見して価値のありそうなものしか出回らないのであれば、そもそもパトリックの十字架が間違って買い取られることもなかっただろう。買い手がつく――つまり、なんらかの需要があるということになる。そしておそらく、十字架を待ち受けているのは真っ当とはとても言えないような用途だろう。
 白い手に乗せられた赤い石を二粒ほどサッと拾うと、店主は市場の隅の方を目で指し示した。
「あっちの方に、“そういう職業用”の道具を扱ってる店があるよ」
「なるほど?」
 どんな職業かは確認しないが、どうせろくでもないことは明らかだ。適当に相槌を打っておく。
「坊主に化けりゃ、たいていのお人好しは簡単に騙されてくれるもんな」
 ベタだがここぞというときには効き目が抜群だぜ、と店主は肩を揺らした。この男も、どうやら真っ当な生き方はしていないらしい。
(だが――)
 仕方ないさ、とセツは思う。喉を潤すことも、腹を満たすことも、安心して眠ることもままならない世界だ。緊張の連続する時間がいったいいつまで続くのか、果ても見えない。人を信じられなくなる一方で神には縋りたくなるのが人間というものなのかもしれない。そうして、余所者を警戒していながらも僧侶の皮を被った悪党にはコロッと騙されてしまうのだろう。それに、人の世では“騙すこと”が悪徳であるかのように語られているが、世界を満たす生き物たちの多くは互いを騙し合いながら命を繋いでいる。進化の過程で証明されてすらいる“正しさ”を禁忌として封じる人間の方が特異なのだ。

「人の子は不思議なものだね、ポウ」
 店を後にしたセツは、肩に乗せた黒猫に語りかけた。
 神の存在など、そもそも人ありきの話なのだ。特に、祈れば助け裏切れば罰するような神は。祈りを介する道具の形も人が勝手に定めたこと。
 ポケットに収めた袋から、もう一度石を取り出して掌に乗せる。砂粒と小石の間くらいの大きさの石は、セツが息を吹きかけると溶けるように消えた。
「たとえ模造品でも、その人が“本物だ”と信じさえすれば、それは本物なんだよ」

成功 🔵​🔵​🔴​

レッグ・ワート
なるたけ健康に生きる助けになるならいいんじゃないか。とまれ支援了解、仕事しようか

(1)迷彩起こしたドローンを複製したら、マーケットに放して情報収集だ。通行や商売の邪魔にならない位置取りになるよう気を付けるぜ。そんで宗教っぽい用途や形状でざっくり探して、見つかった毎に目印がてら店や客の近場につかせる予定。
パトリックが見つかったら、奴さんが何件かまわったタイミングで何探してるんだって声かけるか。通りすがりの気まぐれじゃ不安なら、仕事先が解散して暇な支援機ってことで。冗談半分気味に次の仕事先紹介してくれるならって体で探すの手伝うよ。売った相手や物の特徴きいてみて、似たトコ候補があればそこ当たろう。


フェリリアンヌ・カステル
(3)
今の内に彼の信頼を得たほうがいいかもしれませんわ
魔眼で探し声を掛けます

「あら、あなたは……。なぜここに一人で?
「わたくし、あなたの村と何度か取引を行ったことがありますの。その節にあなたの顔も覚えちゃいましたわ
「パトリック様、というお名前でしたわよね。これも何かの縁ですわ。わたくしもここを回る予定でしたし、何より一人では危険ですわ。同行して宜しくて?
みたいに言って同行許可を得ますわ
後は共に十字架を見つけ出し、交渉へ
他の方がどう動くかを窺いつつ、長引きそうならわたくしが宝石でも出して手短に終わらせますわ

あ、取引を行ったことあるとかは全部ハッタリですわ
嘘だと知られたら嫌われちゃいますわね





 レッグ・ワート(脚・f02517)にとって、『信仰とは何か』という問いはある意味簡単で、ある意味難しい。ある思想、ある目的のもと量産された機械の身体、プログラムされた思考回路を基盤とするウォーマシンに“神”という概念は必要なかったし、また用意されなかった。あるいは彼らを造り出し絶対的な服従を強いた者たちが彼らにとっての“神”であったかもしれない。――が、旧い時代の束縛はもはや意味を持たず、彼らは自我を以て新しい一歩を既に踏み出した後だった。
「レッグ様は、“神”を信じていらっしゃいますの?」
 苔生した人骨にも似た姿のレッグの傍らで、フェリリアンヌ・カステル(怪奇人間の冒険商人・f26579)が市場の喧騒をじっと見つめながら問いかけた。艶のある紫色の髪が肩を伝って背中に落ち、毛先に向かってオレンジ色になっていく。それは大海原を染める朝焼けの色だった。そして、彼女の額には常人ならざる“第三の瞳”が、黒子ひとつない白く美しい肌を縦にぱっくりと割って輝き、先程からせわしなくキロキロと動いていた。
「いいや」と、レッグはぶっきらぼうに答えた。「だが、信じることでなるたけ健康に生きる助けになるならいいんじゃないか」
 一見大雑把なようでいて、その実シンプルかつ合理的な意見である。信じるものが何であれ、それが日々の支えになるのであれば、その人にとって必要で大切なものであることには間違いないのだ。
「至言ですわね。――あ、いましたわ!」
 淑やかで仄かな色気を纏う美女、といった外見とは裏腹に、フェリリアンヌは幼い少女のような明るい声をあげた。
「パトリック様を発見いたしました!」
 金色の瞳をきらきらさせて指す方向に見えるのは、ここから遠い区画の露店と行き交う人の群れだ。その中にパトリックがいても肉眼ではとても見つけられそうにないのだが、フェリリアンヌの第三の眼ははっきりとその姿を捉えたらしい。彼女は先程から、第三の眼――『渇望の魔眼』の能力でパトリックを探していたのだった。
「やるな。こちらも準備完了だ」
 フェリリアンヌと同じく賑わいを眺めながら立ち尽くしているかのように見えたレッグも、ゆっくりと頭部を動かす。周囲にはユーベルコードで複製した小型ドローンがいくつも浮遊し、操縦者の指示待っていた。
「探すべき十字架の情報をドローンにインプットした。マーケットの各所に配備して、取り扱ってそうな店を絞り込んでおく」
「了解ですわ。その間に、わたくしはパトリック様に声をおかけしてまいります」
「よし。支援開始だ」
 二人は頷きあって、猟兵としての任務を全うすべく動き出した。



「パトリック様! パトリック様じゃございません?」
 様、などと慣れない呼び方をされて、少年はしばらくのあいだ女の声が自分を呼んでいるのだということに気づけないでいた。ゴーグル越しの視界に背の高い女がずいと入ってきて、ようやくそれを理解する。
「え、あ……。すみません」
 目の前に得体の知れない人間が現れたことに戸惑いながらも、パトリックは礼儀正しく応える。相手の口ぶりから察するにどうもどこかで会ったことがあるらしいが、思い出せない。まったく、さっきから今日はこんなことばかりだ。
「どこかでお会いしましたか」と訊かれて、フェリリアンヌはにっこりと笑顔を作ってみせた。
「わたくし、パトリック様たちの奪還者チームとお取り引きさせていただいたことがありますのよ。覚えていらっしゃらない?」
「あれっ、……そうでしたっけ」
「ええ! お若いのに、おじい様の遺志を継いで大変なお仕事をなさっていると聞いて、感銘を受けましたの」
 あまりにも印象深かったので、すぐに覚えちゃいましたわ。そういって笑う女の顔は、屈託がなく愛らしい。“大人の女性”と見ていくらか構えてしまっていたが、その表情を見るとなんだか肩から力が抜けていく気がする。目元を覆うゴーグルを外し改めて会釈をするパトリックも、つられて和らいだ顔つきになっていた。
「すみません。まだ経験が浅いので、お会いした方の顔をお覚えきれていないんだと思います」
「構いませんわ。これからどうぞご贔屓にしてくださいませ。わたくし、フェリリアンヌと申します」
 大きく開かれたブラウスの胸元に手を当てて、フェリリアンヌは軽く膝を折って挨拶した。パトリックも少年らしくはにかんだ笑顔で「よろしくお願いします」と頷く。『過去にあったことがあるふりをしてパトリックに接触する』というフェリリアンヌの作戦はまずまずの滑り出しだった。
「ところで、パトリック様。こんなところにお一人で、どうなさったのですか? チームの方はご一緒でいらっしゃらないの?」
「実は……」
 パトリックは顔を曇らせて、大切な十字架を探しているのだとフェリリアンヌに打ち明けた。もちろんフェリリアンヌは全て承知しているが、パトリックの話に「まあ!」「大変でしたわね」と感情豊かに相槌をうつ。親身になって話を聞いてくれる人間の存在に緊張がほどけたのだろう、パトリックの目には涙が滲んだ。
「そうでしたの……。ここまでお一人で、よく頑張りましたわね」
 本当に、よく頑張ったものだとフェリリアンヌは思う。祖父への愛情と尊敬、自分の仕事への矜持、そして神への信仰。それがあったからこそ、パトリックはここまでやってこられたのだ。“信じる”ことがもたらす強さを、少年は見事に体現してみせた。
 マーケットを訪れている猟兵の大半と同じく、フェリリアンヌは神や信仰にこれといった頓着がない。彼女は根っからの商人であり、信ずるものはカネの力である。ただし、商人として世界を股にかけていれば、様々な文化や進行に触れる機会は普通の人よりも多い。世界に神はただ一人――ではなく、その土地その土地にそれぞれの神が息づいていることをよく知っていた。
「ここでお会いしたのも何かの縁ですわ。わたくしもご一緒させていただいてよろしくて?」
「いいんですか?」
「一人では大の大人でも危険ですもの。それに早く十字架を買い戻して、チームの皆様とも合流しなければね」
 ここは商人魂の見せどころですわ、と自信たっぷりに微笑むフェリリアンヌに、パトリックも安堵の笑みを零した。



 パトリックとフェリリアンヌが何軒かの店を回っているのをドローンから送信される映像で確認しながら、レッグは件の十字架が売られていそうな場所を捜索し続けた。
 訪れたことがあるすべての世界のデータから、アポカリプスヘルに関する情報を検索する。断片的なデータから読み取れる風土と文化、浅いながらも苛烈な歴史。それらとUDCアースの膨大な情報を重ね合わせ、更に現在地の座標を世界地図に入力することで、今現在レッグが立っている場所のおおよその文化、信仰の傾向を絞り込めている。
「十字架、ね。まったくもって不思議な――いや、当然というべきか?」
 遥か昔、この土地にもたらされた護符。横棒と縦棒を組み合わせただけの至ってシンプルなデザインが、千年以上経った今もこの地で暮らす人々の心を惹きつけ支え続けているという事実に、レッグも関心する。
 複雑すぎる機能や洗練されすぎたデザインは却って汎用性を欠く。機械の設計において見落とされがちでありながらも重要なことだが、それは機械に限った話でもないのかもしれない。多くの人が扱うものならば、どんな人でも直感的に使い方を理解できるデザインこそが優秀なのだ。何かに特化した道具も便利なものだが、尖った機能は使いこなせる者を限定する。
(俺は、俺の俺たる機能に満足しているが)
 誰かの道具としてではなく、自分の身体としての仕様。バグと揶揄する者もいるだろうが、この揺らぎ、これはこれで“人間”のようで面白いじゃないか、とレッグは思う。機械の無機質かつ正確な演算力と人間の有機的な曖昧さ、その両方を以て実行される作戦は強力なバックアップと言えた。
 七十を超えるドローンによってマーケットはほぼ隈なく捜索され、見込みのない店や区画は次々とリストから外されていく。残る候補は三箇所だが、これ以上は実際に足を運んでみる方が早そうだった。

 ドローンの映像を頼りに二人のいる場所へ向かうと、レッグは「よう」と声をかけた。
「お二人さん、何か探し物かね」
「あら、おわかりになります?」
 咄嗟に話を合わせてきたフェリリアンヌも、さすがは交渉術のプロというべきだろう。「仕事で組んでいたチームが解散になったので、次の仕事を探しているのだと支援用マシン」という体で、レッグがパトリックに自己紹介をする。パトリックは三メートル近いレッグの巨体と、一瞬ぎょっとしてしまうような見た目に驚いていたが、すぐに慣れてしまった。
「売った相手の顔を覚えているかい」
「ええと……、こういう取引だと、基本的に顔はお互いにあまり見せないので……」
「そうか。じゃあ、お前さんの十字架がどんなやつか、教えてくれ。データを入力して絞り込む」
 他の客の邪魔にならないように、三人は路地の端によって言葉を交わす。
「木製のロザリオです。昔、庭に生えてたイチイの木から作ったっておじいちゃんが言ってました」
 イチイ製――と入力したところで、フェリリアンヌが「聖なる木ですわね」と言った。パトリックもそれに頷く。
「なるほど。祈りの道具を作るのにはもってこいってことだ」
「赤みのある木材で、加工もしやすいんですの。彫刻にもよく使われていますわ」
 フェリリアンヌは前にイチイ製の品を扱ったことがあるらしい。
「おじいちゃんが生まれたときに、新しいロザリオを買うお金がなかったから、って聞きました」
 パトリックの祖父が生まれたばかりの頃。それはこの世界がまだ終焉を知らなかった無垢の時代だ。曾祖父――祖父の父も敬虔な信者で、我が子にロザリオを贈ってやりたかったのだろう。しかし平和な時代であってもあまり生活に余裕がなかったのか、庭の木から伐り出した木材を使って自ら彫ったのだという。
「美しい宝石に彩られたロザリオも素晴らしいですけれど、ひいおじい様の愛情が詰まったロザリオもかけがえのない品だと思いますわ」
「しかし、素人が作った手彫りの品だとすると、普通の装飾品としては出回らない気がするな」
 レッグは考えた。絞り込んだ三箇所のうち、ひとつが怪しげな佇まいの店だった。出入りする客も人相の悪い連中が多い。そう、まるで“悪党御用達”のような――。店を見張らせているドローンのモニターを呼び出して、入り口の様子をパトリックたちにも見えるように投影した。
「ここに、おじいちゃんの十字架があるんですか?」
 天幕で覆われて中の見えない店を訪れる客は多くはない。が、“祈り”や“信心”とは縁のなさそうな面構えの男が入り口の幕を手繰って出てきたのを見て、パトリックは不安げにレッグを見た。
「や、これは勘でしかないんだが――」と、レッグも言葉を濁す。「おそらく、変装用の小道具として売られているんじゃないかと」
 ――と、三人が見守る映像に、また一人、男が店から出てくるのが映った。肩に黒猫を乗せた、眼鏡の青年だ。青年はドローンに気づいたようで、カメラに向かってまっすぐ歩いてくる。そして、手に持っている品をじゃらりと広げて見せた。
「おじいちゃんの十字架だ!」
 パトリックが声をあげる横で、フェリリアンヌとレッグは「先を越されたな」「そのようですわね」と苦笑いを交わした。同じように十字架が売られている場所を特定した猟兵が他にもいたのだ。

 何はともあれ、パトリックの大切な十字架は戻ってきた。あとは無事におうちへ帰るだけ。道中で出会う苦難にも、パトリックと猟兵はきっと立ち向かえるはずだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『異端審問官』

POW   :    邪教徒は祝福の爪で切り裂きます
【強化筋肉化した右手に装備した超合金製の爪】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    邪教徒は聖なる炎で燃やします
【機械化した左手に内蔵の火炎放射器の炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    邪教徒に相応しい末路でしょう?
自身が【邪教徒に対する狂った憎しみ】を感じると、レベル×1体の【今まで殺した戦闘能力の高い異教徒】が召喚される。今まで殺した戦闘能力の高い異教徒は邪教徒に対する狂った憎しみを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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※トミーウォーカーからのお知らせ
 ここからはトミーウォーカーの「猫目みなも」が代筆します。完成までハイペースで執筆しますので、どうぞご参加をお願いします!
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鯉澄・ふじ江(サポート)
怪奇ゾンビメイド、16歳女子
誰かのために働くのが生きがいの働き者な少女
コイバナ好き

自身が怪物寄りの存在なので
例えどんな相手でも対話を重んじ問答無用で退治はしない主義

のんびりした喋り方をするが
これはワンテンポ間をおいて冷静な判断をする為で
そうやって自身の怪物としての凶暴な衝動を抑えている
機嫌が悪くなると短文でボソボソ喋るようになる

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し
自身の怪我は厭わず他者に積極的に協力します
また、例え依頼の成功のためでも
自身の矜持に反する行動はしません
 
何でもやります、サポート採用よろしくおねがいします!

(流血、損壊系のグロ描写やお色気系描写もOKです)


リリ・アヌーン(サポート)
アドリブ連携歓迎
ユーベルコードは指定した物を全て臨機応変に使用
いつでも積極的に行動よ
誰かに迷惑をかける行為は一切しないわ
コミカルと健全セクシーな依頼が特に好みだけど
それ以外にも挑戦したいわ
大抵の事は気合十分にノリノリで受けます

装備品のペンダントの加護により
バッドステータス全般に強いがネズミや虫が苦手

高火力な攻撃は死神創造UCと人形型爆弾のみ
歌唱UCによる猟兵仲間のパワーアップや回復サポート
人形型爆弾による爆破、バステ付与UC、
箒に乗って空中飛行、時間稼ぎ、かばう、挑発、陽動、鼓舞、
コミュ力による交渉、取引等が得意の力持ちエルフ
+取得した技能をその都度活用



 大切な十字架を取り戻し、拠点への道を駆ける少年の表情は明るい。柔らかな頬にかかる陽光を遮るように、ふとその眼前に影が落ちた。――猟兵であるなら、それは予知で語られたあの男だと分かるだろう。
「まだ人間はそのようなものに縋っているのですか」
 愚かな、と言わんばかりに肩をすくめる男の目は、憐れみと蔑みに満ちている。彼とよく似た衣装に身を包み、よく似た鉤爪を携えた他の男たちも、また。たじろいだパトリックを広げた片腕で下がらせて、リリ・アヌーン(ナイトメア・リリー・f27568)は抗議するように唇を尖らせてみせた。
「あら、いけないわ。そーんな怖い顔で若い子に迫るものじゃないわよ」
「そこをどきなさい、ご婦人。さもなくば、貴女も異端に与するものとして殺します」
「もう、嫌ねえ! 狭量な人はモテないわよ?」
 振り下ろされる凶爪を踊るようにひらりとかわし、リリは冗談めかした言葉を紡ぎながらも反撃に移っていく。パラソルを手足の延長のように操り、押し寄せる狂信者たちを次々いなす彼女に追いつき、鯉澄・ふじ江(縁の下の力任せ・f22461)もむむむと唸る。
「ふむふむ~ぅ……皆さんに言わせると、わたしたちは『異端者』なんですねぇ?」
「そうですとも。いもしない神に縋り、まやかしの神を崇め、ありえない救いを求める――どうしようもない愚か者どもだ」
「……なるほど~」
 相槌が数秒遅れたのは、疼くような衝動の熱を抑えるのに要した分だ。努めて冷静に、ふじ江はモップの柄を握り締めたままで異端審問官を名乗るオブリビオンたちに歩み寄る。
「申し訳ありませんがぁ、この場を通してほしいんですよねぇ」
「そのような言い分が通るとでも?」
「えぇ~、勿論。通しますともぉ」
 言うなり恐ろしい速度でモップが振り抜かれ、男の頸があらぬ方向へ捩られる。その言い分が全てなら、こちらは異端者で構わない。否、異端と呼ばれぬなにかに組み込まれたくない、と言うべきだろうか。猟兵とオブリビオンの視線がぶつかり、互いの目の中に光が弾ける。――この勝負、負けられない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マヤ・ウェストウッド(サポート)
「近くで"眼玉"が落っこちてたら教えておくれよ。それ、アタシのだから」
◆口調
・一人称はアタシ、二人称はアンタ。いかなる場合でも軽口と冗談を欠かさない
◆癖・習性
・獣人特有の嗅覚で危機を察知できるが、犬耳に感情がそのまま現れる
・紅茶中毒
◆行動傾向
・普段はズボラでとぼけた言動や態度をとる三枚目ながら、ここ一番では秩序や慣習には関わらず自身の義侠心の赴くままに利他主義的な行動をとる(中立/善)
・戦場では常に最前線でラフな戦い方をとるが、戦いそのものは好まない。弱者を守る事に自分の存在意義を見出している
・解放軍仕込みの生存技術を活かし、役に立つならステージのギミックやNPCを味方につけて戦う



「カミサマを崇める奴らは全員バカ、って? 随分とまあ、思い切りのいい暴論だね」
 頭上の耳をぴくぴくと動かし、冗談とも呆れともつかない声音でマヤ・ウェストウッド(フューリアス・ヒーラー・f03710)は吐き出す。神の定義はひとそれぞれだし、それがたとえ『神』と呼称されるものではなかったとしても、或いはそのひとの中にある芯は――考えかけ、やめる。目の前の集団はとうに正気を失った連中で、そして世界を切り裂き蝕む『病魔』だ。
「さ、かかっておいでよ。さもなきゃここをまかり通るために、こっちから仕掛けなきゃいけないんだから……さ!」
 叩き落とすようなヒップドロップの一撃が異端審問官のひとりをぺしゃんこに圧し潰し、ついでに周辺の乾いた地面をも深々と割る。爪を振りかざして踏み込もうとした敵のひとりが亀裂に足を取られて倒れ込むのを見逃さず、すかさずマヤはタクティカル点滴スタンドを両手で構えて。
「生憎アンタの言う祝福ってやつには用がないんだ。まとめて叩き折らせてもらうよ」
 そうして振り下ろした一撃が、また一人。オブリビオンを、違えることなく地に沈めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

六代目・松座衛門(サポート)
ヤドリガミの人形遣い×UDCメカニック。人形を用いて異形(オブリビオン)を狩る人形操術「鬼猟流」の使い手です。
 ヤドリガミの特徴である本体は、腰に付けている十字形の人形操作板です。
 普段は「自分、~君、~さん、だ、だろう、なのか?)」と砕けた口調で、戦闘中は言い捨てを多用します。

UCは全て人形を介した物で、非常に多数の敵を相手にする場合以外は、人形「暁闇」か、その場にある生物を模った物を操り戦います。

人形「暁闇」:「鬼猟流」に最適化された人形で、自律しません。操作糸を介した操作の他、ワイヤーガンやフレイルのように扱いつつ、UCを発動させます。

機械的な仕掛け(からくり等)に興味があります。


スピネル・クローバルド(サポート)
『お姉ちゃんに任せておいてね♪』
 妖狐のクレリック×アーチャーの女の子です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、兄弟姉妹には「優しい(私、~君、ね、よ、なの、なの?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

性格は温厚で人に対して友好的な態度をとります。
滅多に怒る事はなく、穏やかです。
怖そうな敵にも、勇気を持って果敢に挑む一面もあります。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「大丈夫。お姉ちゃんに任せて!」
 そう言う少女の言葉に、パトリックは目を丸くしてしばし固まった。何せ少女――スピネル・クローバルド(家族想いな女の子・f07667)は、パトリックとそう年齢も違わないあどけない姿をしていて、言うなれば荒事などとは縁遠いようにしか見えなかった。
 けれどそこは彼女も練達の猟兵、今更『怖そうな人たち』に後れを取るような腕ではない。にこりと笑って身を翻した彼女の背を眺め、六代目・松座衛門(とある人形操術の亡霊・f02931)はパトリックの肩をひとつ叩く。
「ま、信用してくれよ。自分たち、結構強いんだ」
 飄々と砕けた口調にも、弱さ故の揺らぎは毛ほども見られない。腰に大事に下げた十字の板を指先で撫でる松座衛門に、オブリビオンが眦を吊り上げた。
「異端者め……!」
「はは、こいつを何だと思ったのかは聞かないが……この『鬼猟流』が相手だ!」
 敵に向けて笑みを浮かべたのは、わずか一瞬。指先を軽く曲げれば『暁闇』と名付けたからくり人形がたちまち『指示』に応え、狂えるオブリビオンへと襲い掛かる。
「……本当は、お話が通じればそれが一番でしたけど」
 何を言ったところで、彼らとの対話は成立しないだろう。それが分かるからこそ、スピネルの覚悟も早かった。胸の前で手を組み、深く息を吸い込んで、狐の少女は澄んだ声で世界に呼びかける。
「深く広く大いなる森よ、静寂の平穏を望むのならば……」
 瞬間、荒れて割れた大地が鳴動した。見る間にオブリビオンたちの足元から緑が芽吹き、天を衝かんと伸び上がって、戦場全体を『森』が飲み込んでいく。
「――な、」
 意志を持つかのように伸ばされた蔦が異端審問官たちの手足を絡め取り、動きを縛る。その眼前に、ゆらりと人形が立ち上がった。糸を括った指先を真正面へ伸ばしたまま、そうして松座衛門はその『問い』を口にする。
「さあ答えてみな、こいつはどれくらい強い? 演目、『荒天』!」
「何を――」
 その人形が演じるのは、姿のわからぬ怪物との戦い。故に松座衛門のユーベルコードが呼び出す怪物のかたちは、技は、見た者の想像に任される。
 そして、白く醜悪な偶像めいた『怪物』が、オブリビオンの頸に手を伸ばした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

八重森・晃(サポート)
『滅び<スクイ>がほしいのかい?』
 ダンピールのウィザード×聖者、14歳の女です。
 普段の口調は「母親似(私、君、呼び捨て、だ、だね、だろう、だよね?)」、怒った時は「父親似(私、お前、言い捨て)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!




 ある者は叩き伏せられ、またある者は大地や森に呑まれ、或いはかたちなき怪物に縊られ、既にオブリビオンの軍勢はその殆どを失っていた。ただひとり残った鉤爪の異端審問官に、八重森・晃(逝きし楽園の娘・f10929)は真正面から問いかける。
「ねえ。君はすくいが欲しいのかい?」
 その三文字に、或いは『滅び』という言葉が重ねられることに、果たして男は気付いただろうか。は、と鼻で笑って、男は掌を虚空に向ける。
「誰がその救いとやらをもたらしてくれると?」
「ほしければ、私があげようか」
 一方ではいのちを尊び、また一方ではあらゆる滅びを渇望してやまない――血筋ゆえの衝動から発されたその言葉は、ある意味で晃からの祝福だ。けれどその真意を知ることなく、異端審問の男は新たな手勢を呼ぼうと腕を広げた。――詠唱を許せば、彼の手にかかった犠牲者たちがここへ来てしまう。そうはさせない、と晃は夜色の瞳に一度帳を下ろし、再びその視線を正面に向ける。
「死すら優しき最後の眠りに過ぎず」
 つと伸ばした指先が、そしてその声が導くのは、夢見る神のあえかな呼び声。その声に抗えず倒れ伏していく男へ駆け寄り、晃は血色の刀を振り上げる。
 ――そして、荒野を静かに風が撫でた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『暁に弔う』

POW   :    墓穴を掘り墓標を立てる

SPD   :    周辺の手入れをする

WIZ   :    祈りをささげる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

眞嶌・未来(サポート)
 バーチャルキャラクターのシンフォニア×聖者、外見は十代前半くらいの女です。
ものすごくリアルなラブドールですけれどね!

 基本的にサポートなので、守られながら知っている歌を歌って支援します。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 奪還者の帰還した拠点で一夜を明かした猟兵を、薔薇色の空が見下ろしていた。なんとはなしに拠点の外れへ歩を進め、ふと眞嶌・未来(センテニアル・ラブドール・f25524)は足を止める。
「……ああ、信心かあ」
 そこは、簡素な十字架の立ち並ぶ墓地らしかった。木の枝を組んだだけの墓標のたもとには、小さいがみずみずしい花束がちらほらと見受けられる。――野花を摘むにしろ、どこかで花を買ってくるにしろ、それがおいそれと成せる世界ではないだろうに、そうしたいと望む人々がここには住んでいるのだ。
「この人たち、誰とどんな人生送ってきたんだろ」
 かつての主との人生を思い返すように目を閉じ、頬全体で朝日を浴びて、未来は呟く。名も知らぬ彼らは、幸せだっただろうか。満たされていただろうか。――きっと、そうだろう。誰にともなく頷き、目を開けて、未来はぐっと両腕を天に伸ばす。
「……もう少し、フラフラしてこうかなぁ」
 そうして、彼女は鼻歌交じりに歩き出す。その旋律は、どこか懐かしげな響きを湛えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

柊・はとり
※アドリブ連携歓迎、御自由に

また事件かよ…
俺は柊はとり
歩けば事件に遭遇する呪われた体質のせいで
殺された後も嫌々高校生探偵をやっている探偵ゾンビだ
謎解きは特技だが好きじゃない
この場に居合わせたのもきっと偶然だろうが
関わっちまった以上は解決に尽力する
性格は察しろ

ちなみにこいつ(剣)はコキュートス
人工知能程度の会話ができる
『事件ですね。解決しますか? 柊 はとり』
うるせえ

●日常
アポカリプスヘルの日本出身
基本普通の男子高生並の反応をする

全くの異文化には素直に興味があるが
在りし日の故郷を思い出すような光景を見ると
ついしんみりしちまうだろうな

(お任せプレです、一章に参加したのでもし良ければお願いします)



「とりあえず、一件落着か……」
 猟兵がきっちりまとめて掃討したこともあり、異端審問官の残党が襲ってくる――などという心配ももうないとみていいだろう。ほうと朝の冷えた空気の中に息をつき、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は何とはなしに視線を巡らせた。
 等間隔でなく時折まばらに、時折やけに密集して立てられた十字の墓標は、いかにも人々がその手で墓穴を掘りましたというような風景だ。その下に眠る誰かの顔を、当然ながらはとりは知らない。
『どうかしましたか、柊 はとり』
「お前ちょっと黙ってろ」
 担いだ魔剣の問いかけをすげなく切り捨て、少年は目についた墓の前に跪く。多分、ここにいる見知らぬ誰かは今も平和に眠っているのだろう。生前がどれほど嵐と泥、銃声と血に彩られたものであったとしても。
 故国の作法で黙々と手を合わせ、くたりと転がっていた花束を十字架に立てかけ直してやって、はとりはやはり何でもないように立ち上がる。朝を告げる陽光が、やけに眩しく見えて――そのまま、少年は墓地を静かに後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月19日


挿絵イラスト