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囚われの姉妹姫を救え(作者 骨ヶ原千寿
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 悪徳の都、ヴォーテックス・シティ。
 其処では、暴力こそが唯一絶対の理であり、弱者は全てを奪われる。

「へ、へへっ。ホントに可愛らしい顔をしてるな、コイツらは…!」
 下卑た男の言葉が、地下牢に響く。
 牢の中に捕らえられているのは、艶やかな銀髪の若い娘たちだ。その数は十二。彼女たちの肌は雪のように白く、細い肢体は壊れ物のように美しい。姉妹である彼女たちの顔はそれぞれに似通っているが、瞳の色だけが異なっている。ある者は紅玉のような赤い瞳を、ある者は瑠璃の瞳を、翡翠の瞳をそれぞれが持っている。宝石のような瞳は恐怖に揺れていて、自分たちを奴隷として売り飛ばそうとする男たちを映している。

「―――これだけ数がいるんだ。ちょっとくらい『味見』しても…」
「馬鹿野郎ッ! 『兄貴』にバレたら全員消し炭になっちまう!」
「コイツらは姉妹揃って『一式』だからなァ。遺跡から掘り出した正真正銘の『新品』だ。指一本触れるんじゃ無ぇって『兄貴』も言ってたぜ?」

 鉄格子の向こうから不躾に注がれる視線に、姉妹たちは互いを守るように体を寄せ合った。


「―――キミたちに頼みたいのは、奴隷の救出任務だよ」

 集まった猟兵たちを前に、アストリッド・サンドバック(不思議の国の星占い師・f27581)は端的に依頼の趣旨を伝えた。折角だから、とアストリッドは猟兵たちにコーヒーとビスケットを勧めながら話を進めていく。

「場所はアポカリプスヘル……オブリビオン・ストームにより人類の大半が死滅した世界だね。その世界に、悪徳の都ヴォーテックス・シティと呼ばれる街があるんだ」

 ヴォーテックス・シティは、ある意味で最もアポカリプスヘルらしく発展した場所といえるだろう。「髑髏と渦巻」の紋章を掲げるヴォーテックス一族が支配するこの街は、あらゆる悪徳と退廃、混沌の坩堝だ。かつての都市の遺構、大型機械の残骸、大洞窟などが複合して形成された巨大都市は雑然としている。そこは強者が君臨し弱者から全てを奪うという、単純極まりない暴力で動く世界だ。

「今回、救出対象となる奴隷は、フラスコチャイルドの姉妹になるよ。―――なんでも、姉妹十二人が揃って売り飛ばされる直前のようだね。あの世界らしいとは思うけれど……予知で見えてしまったからね。どうか助けてあげて欲しい」

 『姉妹』が囚われているのは、かつて軍事施設であった遺構の地下部。施設内には大勢のレイダー達が居住しており、警備にも相応の人数が割かれている。潜入して彼女たちを救出するには、それなりの『策』が必要となるだろう。

「仮に救出が成功したとしても。今度はキミたちと『姉妹』が無事にヴォーテックス・シティから脱出する必要がある…。…相手のレイダーだって必死に追いかけてくるだろうけれど、街の外までは何とかして離脱してくれ」
 手段は問わない、とアストリッドは温度の無い声で告げる。レイダーたちは車両や二輪車などを利用し、機動力を活かして猟兵たちの逃走を阻むだろう。猟兵たちも車両を強奪するなり、放置された機械を利用する等して、逃走の為の『足』を確保することが望ましい。勿論、自前の能力で逃走する自信があるのなら、それでも構わない。

「そして、最後に。レイダーたちが『兄貴』と呼ぶ男もキミたちを追ってくる筈だ。……気をつけてくれ。彼はヴォーテックス・シティにおいても強者の一角、侮れない強さの持ち主だよ。その性質は苛烈にして酷薄。逃げるキミたちを潰す為なら何だってするだろう……どうか、死なずに戻ってきてくれ」

 無事を祈っているよ、とアストリッドが呟くと、彼女のグリモアが万色に煌めいた。猟兵たちを浮遊感が包み、転移が開始される……!





第2章 集団戦 『ロケット・レイダー』

POW ●ガベッジボンバー
単純で重い【上空まで運んだ瓦礫やドラム缶 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD ●バラッジアタック
【上空】から【短機関銃の掃射攻撃】を放ち、【頭上から降り注ぐ激しい弾幕】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ ●永遠ヒコウ宣言
【永遠にヒコウ(飛行/非行)を続ける宣言】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*再補足です。第二章は、追いかけてくるレイダーたちとの逃走劇です。
 彼らは車両、二輪車(バイク)、そしてロケットで空を飛んで追撃してきます。『敵の機動力に対抗する』プレイングにはボーナスが入ります。また、周辺には放置車両などの機械が存在する為、それらに乗り込んで逃走する事も可能です。

 第一章で『姉妹』を救出した猟兵さんが参加された場合、そのまま引き続き描写させていただきます。陽動などで参加してくださった猟兵さん、二章から参加される猟兵さんには、未登場の『姉妹』が登場することになります。

 執筆タイミングの都合上、おそらくプレイングを再送いただく可能性が大になります。少しお時間をいただくと思います。

―――――――――――――――――――――
ミリャ・ウィズ
ドローンの偵察と情報収集によると何人かの人質は救助出来たようだがまだ残っている様だ。
混乱に乗じて【呼び出し・軍団】で道中の警備を退治し救助に向かう。牢の鍵はパチンと右手の指を鳴らし鍵開けの魔法を使って開ける。

「……優しい人がいいな。」独り言を言うと右手でスマホをタップ。軍団を召喚した。

救助出来たら逃走用の足を探す。装甲の厚そうなトラックタイプが望ましい。……乗り心地は悪いが我慢してもらおう。
逃走ルートを先程情報収集と偵察をしていたドローンに誘導してもらい運転。追手は残りの軍団を全部召喚し対処する。

逃げ切った後しんどそうだったら背中でもさすった方がいいかな……?


アドリブ連携歓迎


 『基地』地下にて。
 フラスコチャイルドの姉妹たちが次々と救出されて離脱していったその場所に、佇んでいる一人の影があった。
 その影の持ち主は、女性だ。大き目なサイズのコートを羽織り、琥珀色の瞳を猫のように細めたその猟兵は、自らが呼び出した『軍団』で情報収集と敵警備の排除をテキパキと終えると、その指をパチンと鳴らした。
 その音と同時に、かちゃりと僅かな音を立てて牢の鍵が開けられる。その女猟兵が事も無げに用いたのは、鍵開けの魔法だ。神秘と魔力で構築された、アポカリプスヘルとは別の世界に由来する不思議の技である。彼女にとっては呼吸にも等しい児戯である『それ』を終えると、彼女は独り言を呟いた。
「……優しい人がいいな」
 果たして、この牢に閉じ込められているのはどんな娘だろうか、と。
 それだけを考えながら右手でスマートフォンを軽くタップ。己の『軍団』を追加召喚しつつ、彼女は牢の扉を開けた。


 ・・・猟兵たちの逃走劇の最後尾は、一台のトラックだった。
 小型のトラックに有り合わせの装甲と銃座を取りつけたその車両は、そこそこの防御力と攻撃能力を備えた簡易戦闘車両である。軍用車両ほどの走破能力も武装も存在しないが、このヴォーテックス・シティにおいては極めてありふれた車両の一つである。
 その車両の運転席に座り、アクセルを踏み込んでいるのはミリャ・ウィズ(タブレットウィザード・f28540)だ。『魔女』である彼女が運転席に置いているのは、一枚のタブレット型端末である。その表面の液晶パネルに映し出される光の点を横目で見遣りながら、ミリャはアクセルを全開にしたまま限界速度で曲がり角に進入した。ハンドルを一気に切り、慣性とステアリング操作だけでタイヤを横滑りさせるドリフト走行。横方向に急激に引っ張られる感覚を受けながらも、ブレーキは極力踏まずにミリャはヴォーテックス・シティを駆け抜けていく。

 彼女が急いでいる理由は唯一つ。
「「「ヒャッハ―――! 俺らロケット・レイダーズは永遠に不滅だぜェェェっ!!! いつだって前のめりィぃい!!!」」」
 背後から喧しく接近してくる、暑苦しいロケット男たちの存在である。
 追跡してくる彼らの移動手段は、背に括り付けたロケットである。アレでよく操縦できるものだと感心するが、彼らは自分の脚部や臀部がロケット噴射で焼け焦げるのも何のその、その飛行能力と速度を活かしてミリャの運転するトラックを猛追してきているのだ。

「・・・しつこいっ!」
 トラックのタイヤがスリップするギリギリを見極めながら、ミリャは可能な限りの全速力で車を飛ばす。ミリャが唯一持つアドバンテージは、周囲に先行して飛ばしていた『軍団』・・・ドローンによる逃走ルートの把握である。車載ナビなんて便利なモノは積んでいないこのトラックだが、彼女がスマートフォンを駆使して操作する無人機群が最適な経路を選択、迷い無く道路を最高速度で突っ走る事によって追走を振り切っている。敵が道路を封鎖しようと試みれば、リアルタイムに別ルートを再計算して横道に曲がる。彼我の位置はタブレット上に表示してあり、ミラーで背後を確認するまでもなく追撃してくる敵の接近を把握することができる。アクセルは常に踏みっぱなしで、急カーブの連続でタイヤが悲鳴をあげる。

「・・・う、うぇ…」
 ミリャの座る運転席の横で、助手席に座る少女が呻き声を出した。少女―――ミリャが救出したフラスコチャイルドの少女は、ただでさえ白い肌を更に蒼白にしながら、荒っぽい逃走で生み出された嘔吐感を必死で耐えている。
「アンバー、大丈夫?」
「だ、大丈夫……でもないかもしれないかも。もうアンバーは此処で駄目かもしれないかも……」
 今にも死にそう、と声色だけで伝わってくる蚊の鳴くような声が、ミリャに答えを返す。
「・・・お、おねーさんはアンバーを置いて逃げた方がいいかもしれないかも。このままじゃ追いつかれて、おねーさんも死んじゃうかもしれないかも」
 そんなの嫌かもしれないかも、と涙ぐむ少女の目には涙が浮かんでいる。瞳に宿す輝きは、奇しくもミリャと同じ色をしていた。思わず零す涙の理由は、恐怖や疲労だけではない。先ほど、出会ったばかりの相手の身を慮って涙ぐんでいるのである。身体年齢はミリャより少し年下、という外見をしている少女は、しかし精神年齢はそれよりも幼い。もし少女一人を置き去りにしたところで彼らの追撃が止む保証も無いのだが、それにも思い至らずにミリャに自分を車から降ろすように提案してくる。

「ここで降ろしたら……またアイツらに捕まっちゃうよ?」
「うん……それは嫌かも。でも、おねーさんが捕まっちゃうほうが嫌かも」
「きっと非道いことされちゃうよ? お姉さんとか妹さんにも会えなくなるよ?」
「・・・う、うう。でも、でも……そんなの、どっちも嫌かも」

 そう、と応えるミリャは、口元を猫のようにフフンと曲げた。ぎゅんとヘアピンじみた急カーブを速度を落とさずに曲がり、隣で可愛らしく悲鳴をあげる少女へと言葉をかける。
「大丈夫。ボクが、アンバーを助ける」
 元より、猟兵であるミリャは少女たちを助ける為に来たのだ。ここで投げ出して、放り出すなんてしないし、できない。それに、横に座っている少女の性根は善性だ。それが世間を知らぬが故の、無垢として形作られたが故のモノであったとしても。それは不法と無法に溢れたアポカリプスヘルにおいては稀有な他者への優しさであろうから。
「―――絶対に、助ける」
 そして、ミリャの運転するトラックは、一本の大通りへと突入した。

「「「ヒャッハーーー! 俺らは永久不滅に飛行/非行するゼぇぇえ!!!」」」
 煩い声で叫びながら、飛行するモヒカン男たちがその眼下にミリャのトラックを捉えた。彼らの手に握られているのは短機関銃だ。それを彼らが連射すれば、その狙いは雑で滅茶苦茶だ。だが、それでも何発もの銃弾がトラックの装甲に命中する。車両後方から響くイヤな音に、アンバーが耳を塞いで身を縮める。
 トラックが疾走する大通りは、道幅こそ広いものの路面が一直線に伸びているだけだ。先ほどまでの急カーブと細道を繰り返して追撃を回避する方法はもう使えない。男たちが背負うロケットは、小回りこそ苦手とするが、直線コースではミリャのトラックよりも速度が出る。直に追いつかれ、短機関銃で蜂の巣にされてしまうのは明白だ。

「ここで終わりだァァ! 手間かけさせやがってよォォォ!!!」
 モヒカン男の一人がトラックと横並びになるまでに接近し、その短機関銃を運転席のミリャに向け―――。
「―――そうね。ここで、終わり」
 ミリャが呟くと同時に、そのモヒカン男の姿が後ろへと吹き飛ばされた。

 モヒカン男を吹き飛ばしたのは、ミリャの『軍団』、空中を飛ぶドローン群だ。
 先行してミリャの逃走ルートをナビゲートしていたドローンは、この直線道路の地点に再集結するとモヒカン男たちを待ち構えていたのである。男たちが飛行するロケットは、速度に優れるものの急制動や減速に難がある。ならば、先に待ち構えて滞空し、彼らが突入してくると同時に罠にかければ一網打尽にできるとミリャは考えたのである。
 空中に静止するようにホバリングする小型ドローンが、ロケットで突入してくるモヒカンたちに体当たり攻撃を仕掛ける。ロケット噴射で飛行する彼らは急に止まる事はできず、その突撃を急カーブして躱す事も叶わない。結果、発生するのはロケットとドローンの空中正面衝突だ。生身で事故を起こしたモヒカン男たちは次々に墜落していき、やがて地面に激突して爆発、炎上していく。
「あ、あばばババーーッ!?」
「ぎ、ぎぎゃばぁぁぁアああ!!?」
 劈く悲鳴と爆音を後ろへと置き去りにして、ミリャのトラックが追尾を振り切り突破する。

 これで一先ずは良し、とミリャがタブレットを確認し、敵を示す光点が遠ざかっていくのを確認する。ふ、とミリャは息を吐いて、横目で助手席を確認する。そこに座るアンバーは、逃げられた事を安堵すればいいのか、さっきまでの荒い運転の混乱が戻ってきたのか、表情を百面相に変えながら身を縮ませたままだ。
 ―――これは、逃げ切った後で背中でもさすった方がいいかな、とミリャは心の中で思った。そして、ほんの少しだけアクセルを緩めた。
大成功 🔵🔵🔵

ジュリア・ホワイト
ふははははは!
囚われになっていた人達は全員救出成功!
ならば、後はさっさと撤退して涙の再会と洒落込もう!

「ところで、荒野を走る機関車というのは実に浪漫がある。そうは思わないかな?」(荒野に放置されたスクラップやらを跳ね飛ばして突き進みながら)

自身の本体たる器物、蒸気機関車の姿でコクヨウさん(と、他に居れば捕われていた人々や他の猟兵達)を載せて荒野を爆走
車両で追いかけて来ようが、空を飛んでこようがボクに追いつけるものか
なにせほら、UCの力で向こうは速度5分の1だ

「大船に乗ったつもりで居て欲しいな。レールはないけど、この道の先は希望に続いているんだから」
(コクヨウさんに希望のドリンクをサーブしつつ)


 無人の荒野を、機関車が征く。
 その黒い車体は、それが元々あった世界―――ヒーローズアースにおいては既に旧式化した車両である。だが、その艶やかな黒色の車体は見る者に重厚な印象を与え、どこかノスタルジックな浪漫を感じさせる。リズミカルなシリンダー排気のブラスト音を響かせ、煙を後方に棚引かせつつ進むその機関車は、文字通りに無人の野を疾走していた。

「ふははははは! 囚われになっていた人達は全員救出成功!」
 その車内で、朗らかに笑って見せるのはジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)である。彼女の本体である蒸気機関車の食堂車の椅子に座りながら、にこやかに隣に座る少女へと語り掛ける。対するフラスコチャイルドの少女……コクヨウは、ものすごく形容しがたい表情を浮かべながら恩人である筈のジュリアの顔を見遣っていた。

「ところで、荒野を走る機関車というのは実に浪漫がある。そうは思わないかな?」
「―――ええ、そうね。途中で、色々と撥ねたり轢いたりしなければ、だけど」

 じと、っとジュリアの顔を呆れたようにコクヨウが眺めながら呟く。車窓から見えるのは、アポカリプスヘルの荒野。そして、時折、蒸気機関車の進路上に存在した廃棄車両や機械の残骸が跳ね飛ばされ、それらが鉄屑に変わって視界の後方へと流れ去っていく光景である。

「はぁ…。あなた、破天荒だとは思っていたけれど。ここまで無茶苦茶だとは思わなかったわ…」
 頭が痛い、とばかりにコクヨウが額に手を当てても、ジュリアは何処吹く風だ。そもそも、無人の荒野にレールは存在しないのだ。つまり、この機関車は軌道も枕木もない道なき道を突き進んでいるのである。当然ながら車内は相応に揺れる。地下を掘り進むという予想外の方法を採る時点で、この命の恩人が突拍子もない存在だとは思ってはいたものの、それであっても機関車で逃走するなんて方法はコクヨウの想像を超えていた。

 加えて、当然ながら蒸気機関車には自発的に曲がって進路変更をする能力は存在しない。・・・つまり、その進路上に存在する物は全て『跳ね飛ばす』『轢き潰す』というダイナミックにもほどがある解決策を採用しているのである。出発地点が街から離れた位置であったからよかったものの、そうでなければ途中で人身事故が発生していた事は想像に難くない。・・・いや、車やスクラップを跳ね飛ばす事が決して良い訳ではないのだが、人を轢殺することがなかっただけマシだろう。

 こほん、と誤魔化すように咳払いするジュリアと、ジト目のコクヨウは数秒互いの顔を見合わせる。やがて、溜息と共に、まぁいいわ、とコクヨウが諦めたように呟いた。口調こそ『姉妹』の中では珍しく捻くれた物言いをするコクヨウだが、命の恩人を邪険にするほど性根が歪んでいる訳ではないのである。

「―――それで、あいつらは追いかけてきてる…のよね?」
 窓を開けて、コクヨウは後方を見遣る。機関車の後方に見えるのは、『基地』から追いかけるように出てきたとおぼしき複数の車両とロケットだ。荒野を走る蒸気機関車なんてあまりに目立つ代物、てっきり直ぐに捕捉されて追撃を受けるとコクヨウは思っていたのだが、追いかけてくる敵影は近づいてくる様子は無く、むしろ遠ざかって点のように小さくなっていく一方だ。
 ふふん、と自慢気に微笑むジュリアの姿に、コクヨウは『・・・また碌でもない事でもしたのかしら』と失礼な感想を抱いた。茶菓子に、と出されたクッキーを指で摘まんで食べながら、この目の前の猟兵の不思議な力に思いを馳せる。きっと、このヒーロー様が何かしてくれたのだろう。

「ま、大船に乗ったつもりで居て欲しいな。レールはないけど、この道の先は希望に続いているんだから」
「汽車だけどね。それに、レールが無いのが不安なんだけど」

 憎まれ口を叩きつつも、コクヨウは表情を緩ませる。もう一口、とクッキーを口の中に放り込むと、その甘い味に蕩かされたように幸せそうな顔になる。
 その様子を、ジュリアは微笑ましく眺めていた。試しに食堂車のメニューを手渡してみれば、黒曜石の瞳をキラキラとさせて興味深そうに読む少女の姿がある。

「・・・こ、このミルクセーキ、って…?」
「ミルクと卵黄、砂糖とバニラエッセンスを混ぜ合わせた飲み物だね。甘いよ?」
 ジュリアの言葉に、コクヨウの表情がぱぁっと明るくなる。それから、ふと我に返ったように口を尖らせて、
「じゃ、じゃあ、それで良いわ」
 ―――などと、冷静さを取り繕ったように宣うのだった。

 ・・・無論。ミルクセーキを飲んだコクヨウの表情は、花が綻んだような笑顔で。
 美味しい菓子と飲み物に舌鼓を打ちながら、二人の奇妙な旅路は進んでいく。車窓から見えるのは、見渡す限りの荒野だ。だが、その先には必ず希望がある。アポカリプスヘルの大地に賢明に生きる人々にも、この『姉妹』たちにも。生きている限りは希望と未来が必ずあるのだ。差し当たっては、この姉妹たちが感動の再会を果たして安堵の涙を流せるように、蒸気機関車は一直線に道を切り開いて進んでいくのだった。
大成功 🔵🔵🔵