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アリス・イン・ザ・フォートレス―DarkSavior

#ダークセイヴァー #人類砦 #闇の救済者 #ヴェリーナ砦

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●ダークセイヴァー・人類砦『ヴェリーナ』
 ――四方を草原に囲まれた、小高い丘の上の小砦にて。

「今日の作業はここまでかしら、ズィーベン」
 少年少女たちの主導で長く厳しい冬を越すための準備が進む砦の中で。
 銀髪の少女が草紐で束ねた薪を積みながら、傍らの金髪の少女に呼びかける。
 しかし、『ズィーベン』と呼ばれた金髪の少女は、なぜか苦笑いを浮かべていた。
「もう、ライナったら……数字で呼ばなくてもいいんだってば」
「そうそう、これからは堂々と元の名前で呼んでいいんだぜ?」
「あ、そうだったわね……ごめんなさい」
 フォローを入れる少年少女たちに、恥ずかし気に顔を俯かせながら謝る銀髪の少女――ライナ。
 少年少女たちにとって、ライナはかつて組織で寝食と訓練を共にした仲であり。
 ――組織壊滅時に行方知れずとなり、つい先日奇跡の再会を果たした、仲間。
 ゆえに、少年少女たちがライナに向けるのは、心を許した者にのみ向ける、笑顔。
「ライナも少しずつ慣れていけばいいから、遠慮なく名前で呼んで、ね?」
「そうね、えっと……」
 ライナが記憶の彼方から拾い上げた彼らの名を告げようとした、その時。
「おい、あれは何だ!?」
 四方の見張り台から上がる鬼気迫る声に、ライナと少年少女たちが砦の外に目をやり、息を呑んだ。
「……これはまずい」
 少年の一人が外から迫るナニカを凝視し、顔をしかめながら呻く。

 砦に四方八方から迫りくるのは、紫がかった漆黒の雲。
 ――それは、無数の羽音とともに人類砦を覆い、喰らい尽くさんとしていた。

●グリモアベース
「あの日はぐれた仲間たちと再会したのか……よかった」
 グリモア・ムジカが奏でる音を耳にしたグリモア猟兵藤崎・美雪が零すのは、安堵の声と表情。
 しかし、その表情は、顎に手を当て考え事を始めるとともに陰りを見せる。
「だが、グリモアが察知したという事は……そういうことか」
 何かを呟く美雪を見かけ、猟兵達がまばらに集まってくる。
「ああ、皆。ダークセイヴァーの人類砦のひとつにオブリビオンの大群が襲撃し、壊滅するとの予知が齎された。まずは話を聞いてもらえないか?」
 顎から手を放し頭を下げる美雪に、猟兵達は首肯し、耳を傾ける。

「私のグリモアが壊滅を予知した人類砦――『ヴェリーナ』は、『闇の救済者』を名乗る少年少女たちの手によって築き上げられた、小さな砦だ」
 かつて対吸血鬼の組織に属していたと言う『闇の救済者』の少年少女たちが1年がかりで築いた砦は、吸血鬼の魔の手から逃れた人々の避難所の役割を果たしている。
「現在、砦の住民は『闇の救済者』含め30名ほど。このうち、戦闘能力があるのは、5人の『闇の救済者』と先日砦に姿を見せた少女のみ。到底襲撃には耐えられん」
 説明の重さとは裏腹に懐かしさからか目を細めた美雪に、猟兵達が首を傾げるが。
「砦に辿り着いた少女は、アリスラビリンスからの帰還者……『ライナ』だからな。無事でよかった、と言ったところか」
 美雪が告げた名を聞いた数名程の猟兵が、安堵したかのようにほっと一息ついていた。

「さて、話を戻そう。皆が砦に到着する頃には、既に砦の四方からオブリビオンの蝗の大群が迫っている。皆は群れが砦に辿り着かぬ様、散開して迎え撃ってほしい」
 数匹程度なら簡単に追い払える蝗も、大群となれば農作物を悉く食い荒らし、人々を脅かす存在と化す。
 それがオブリビオンと化し、さらに大群を為して砦を覆い尽くせば。
 ――食い荒らされるのは、農作物だけではあるまい。
 ゆえに、蝗の大群が砦に辿り着く前に、猟兵達が四方に散開し一斉に撃破。それが最善かと美雪は語る。
「一方、女性剣士らしきオブリビオンが砦を襲撃する光景も視えている。どうやら蝗を操っているのは彼女のようだが、強さは桁違いだ。蝗を全滅させたら大急ぎで砦に戻り、対処してほしい」
 だが、この女性剣士オブリビオンは、どうやらある『望み』を持っているようだ、と美雪は首を傾げつつ告げる。
「オブリビオンに同情する理由はないが、彼女の望みを汲み取れるのであれば、そうしてあげたほうが良いのかもしれん。だが明確に蝗をけしかけている以上、望みを聞かず撃破するのもまた正しい選択だろう」
 何れにするかの判断は皆に任せるよ、と告げる美雪の表情は……なぜか曇っていた。

「無事に襲撃を退けたら、彼らの冬ごもりの用意を手伝いつつ、交流を深めても良いかもな」
 短い夏が過ぎ、やがて厳しい冬が到来するであろう彼の地で生き抜くために、ヴェリーナ砦の人々は早くから冬支度を始めていたのだが。
 ――この襲撃で砦が壊滅したら、全てが無に帰してしまう。
「人類は着々と反撃の体制を整えつつあるが、ここで皆の心を折るわけにはいかぬのだ」
 だから頼んだよ、と頭を下げる美雪に見送られながら。
 猟兵達はグリモア・ムジカの音符で形作られた転送ゲートを潜り、人類砦へと赴いた。


北瀬沙希
 北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
 よろしくお願い致します。

 ダークセイヴァーの人類砦「ヴェリーナ」にオブリビオンの手が迫りつつあります。
 猟兵の皆様には、人類砦の防衛をお願い致します。

 本シナリオは、以下の拙作シナリオと若干の関連性を持ちますが、未読でも全く支障ございません。初の方も大歓迎です。
「アリス・イン・デスゲームーMirrors」
「アリス・イン・ナンバーズーMetals」

●本シナリオの構造
 集団戦→ボス戦→日常となります。

 第1章集団戦、第2章ボス戦は、特定の条件でプレイングボーナスが付与されます。
 詳細は各章の導入にて説明いたします。

 第3章では冬ごもりの支度をする人々のお手伝いをしながら、交流を深めることができます。
 この章に限り、お声がけがあればグリモア猟兵藤崎・美雪もお手伝いに加わりますので、気軽にお声がけくださいませ。

●ライナ
 肩まで伸ばした銀髪と黒の瞳を持つ、10代後半程度の元『アリス』の少女。
 組織壊滅時に絶望に囚われ、アリスラビリンスに召喚されデスゲームに巻き込まれていましたが、猟兵達に助けられた後『自分の扉』を見つけ、ダークセイヴァーに帰還。ふらりと足を踏み入れた砦で偶然にも組織の仲間たちと再会しました。
 得物の銀のナイフを閃かせ、【九死殺戮刃】を駆使し、集団敵となら渡り合えます。

●『闇の救済者』たち
 10代後半の少年少女5人。
 所属していた対吸血鬼組織が壊滅した際、彼らのみが幸運にも逃げ延び、築き上げた人類砦を拠点に再起を図っていたところで、死んだと思っていたライナと再会しました。
 組織で一定の訓練を受けていたため、集団敵相手ならそこそこ戦えます。
 ただし、強さの指標は「闇の救済者<ライナ<<(超えられない壁)<<猟兵」です。

●人類砦「ヴェリーナ」
 四方を草原に囲まれている、小高い丘の上に築かれた砦。
 石壁や木の柵、堀や見張り台など、最低限の防御設備は整っておりますが、戦闘能力があるのは『闇の救済者』たちとライナのみです。

●プレイング受付について
 全章、冒頭の導入文の追記後からプレイング受付を開始。
 受付締め切りはマスターページ及びTwitterで告知致します。

 全章通しての参加も、気になる章だけの参加も大歓迎です。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『暴食飛蝗の群れ』

POW   :    選択進化
戦闘中に食べた【肉】の量と質に応じて【各個体が肉を喰らう為の身体へと進化して】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    飢餓
戦闘中に食べた【動植物】の量と質に応じて【少なければ少ない程に攻撃性を増して凶暴化】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    大繁殖
戦闘中に食べた【動物の肉や植物】の量と質に応じて【群れの個体数が飛躍的に増殖して】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ヴェリーナ砦に迫る危機を排除せよ
 ゲートを潜った猟兵達が辿り着いたのは、人類砦「ヴェリーナ」の中央広場。
 淡く光るゲートの中から突然現れた猟兵達に、『闇の救済者』たちが目を見開き驚き、警戒の視線を向けてくる。
 猟兵が転送されるのを見るのは初めてなのか、曲者とみなして武器を抜こうとする者もいるが……。
「あなたたち……あの世界で私を助けてくれた人たち!」
 ライナの感極まった声で彼らとの関係性を察したか、それとも吸血鬼の支配からの解放に意を共にする者たちと察したか、『闇の救済者』たちは警戒を解き、武器を抜いた者も矛を収めてくれた。
「この人たちなら信頼できるわ。クレイ、今は彼らの手を借りたらどうかしら?」
 そのために来たのでしょう? と猟兵たちに同意を求めるライナに、猟兵達は肯定の意を返し。
「ああ、ライナの知人なら信頼できるだろう。この砦を守る為に、手を貸していただけないだろうか?」
 この砦の代表らしき緑髪の少年が丁寧に頭を下げるのを見て、猟兵たちもためらいなく頷いた。

 改めて四方に目を凝らすと、紫がかった濃い黒の雲が、広大な草原を覆いながら、明確な意思を持って砦を覆い尽くすように迫っているのがわかる。
 おそらく、オブリビオン化した大量の飛蝗が群れを成しているため、あたかも雲のように見えるのだろう。

 植物を。
 農作物を。
 動物を。
 そして……人間を。

 生きとし生ける者すべてを喰らい尽くす「生ける災害」と化した蝗の群雲は、着実にヴェリーナ砦を呑み込まんと迫る。
 討ち漏らしはそのまま砦の壊滅に直結するため、手分けして対応するしかなさそうだ。

「ちょうどいい機会ね。ヴォルたちも彼らの戦い方を見てみてはどうかしら?」
「ああ、必要とあらば僕らも同行する」
 ライナの助言を聞き入れた『闇の救済者』たちが、猟兵達に同行を申し出る。
 彼らを連れて行けば早く駆除できるだろうが、一方で砦の防衛戦力が減るため、遠目に見てもらうのも選択のひとつだろう。

 猟兵達は軽く相談した後、砦の四方に散開。
 暴食の権化と化した蝗から砦を守るべく、行動を開始した。

※マスターより補足
 第1章は砦の東西南北に分散し、暴食飛蝗の群れを駆除していただきます。
 プレイングの1行目に、向かいたい方角を記してください。

【東】【西】【北】【南】【どこでも】

【どこでも】を選んだ場合、ないしは無記入の場合は、MSが人数の足りないところに配置いたします。
 行き先が被っても構いませんが、誰も向かわなかった方角があった場合、ヴェリーナ砦に飛蝗の群れが到達致します。その場合、到達した飛蝗は砦に残った『闇の救済者』たちが全滅させますが、砦にもそれなりの人的・物的な被害が生じますので、3章の内容が変わります。
 其々の選択肢を選んだ人数はマスターページで随時公開致しますので、参考にしていただけると幸いです。

 なお、この章は『闇の救済者』5人、及びライナの手助けを得ることが可能です。もし助力を得たい場合、プレイングに記入願います。
『闇の救済者』達、及びライナのデータは以下の通り。
(ライナはレベル10、『闇の救済者』たちはレベル8相当として扱います)

 ライナ:【九死殺戮刃】※特記ない限り味方は斬りません。
 リーア:金髪碧眼の少女、『ズィーベン』。【鈴蘭の嵐】
 クレイ:緑髪緑眼の少年、『ドライ』。【ミゼリコルディア・スパーダ】
 ミルズ:黒髪黒眼の少年、『ゼクス』。【絶望の福音】
 アイラ:茶髪蒼眼の少女、『ノイン』。【生まれながらの光】
 ヴォル:銀髪銀瞳の少年、『フュンフ』。【人狼咆哮】

 ただし、飛蝗への攻撃は全員同時に行いますので、同じ人物を複数の場所に連れて行くことはできません。
 そのため、必ずしもご希望に添えないことがございます。予めご了承願います。

 暴食飛蝗は、単体では『闇の救済者』の一撃で倒せますが、群れを成して襲い来るため、とにかく数が多いです。
 そのため、1章プレイングボーナスの条件は【1度に出来るだけ多くの飛蝗を巻き込むような攻撃をする】となります。

 ――それでは、砦防衛のための最善の行動を。
馬県・義透
【東】
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第一『疾き者』のほほん忍者
一人称:私/私たち
対応武器:漆黒風

お会いするのは初めてですがー。聞いて、放っておけないと思ったのも事実なのでー。
…生きようとする人たちを、放っておけないんですよ。

…数が多いのって、本当に厄介ですよね…。
私が表に出る理由は一つ。このUCに対応した悪霊ですからねー。
私の対応武器だけでなく、普段は見えない『四天霊障』も変化しますから、何もないところから鬼蓮の花びらが出てくるでしょうねー。

オブリビオンたる飛蝗にやるものなぞ、何もないんですよー。



●生きるための道を閉ざさぬために
 お会いするのは初めてですが、と前置きした上で一礼したのは、馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)だった。
「聞いて、放っておけないと思ったのも事実なのでー」
 生きようとする人たちを放っておけないんですよ、と呟く義透の穏やかな声音は、『闇の救済者』たちの心に響いたのだろう。
 目を閉じたままの義透に向けられるのは、闇の救済者達からの感謝の視線だった。

 砦の東側に陣取った義透は、目の前だけでなく、空一面を埋め尽くさんと広がる漆黒の雲から聞こえる音に耳を澄ます。
 他の生物の気配を押しつぶさんと奏でる無数の羽音を聴き、わずかに顔をしかめながら、義透は己のみに聞こえるように呟く。
「数が多いのって、本当に厄介ですよね……」
 異常大量発生した蝗は、どの世界においても農作物を喰らい、人々の生を脅かす存在。
 だが、オブリビオン化した飛蝗は、農作物だけでなく……人の肉を含めた全てを貪欲に呑み込む生きた自然災害と化す。
 ――故に。
「オブリビオンたる飛蝗にやるものなぞ、何もないんですよー」
 あくまでも穏やかな雰囲気は崩さず、義透は手にした棒手裏剣、漆黒風を周囲一帯にばらまくように空中に投げつけた。

 投げられた漆黒風は、時折きらりと緑に光りながら、飛蝗の群れを真っ二つに裂くように空を真っ直ぐ切り裂く。
 飛蝗のごく一部を貫き、地に叩き落した漆黒風に籠められた剣呑な気配を察したか、飛蝗たちが義透に殺到しようとするが。
「これは『鬼』である私が、至った場所」
 義透が何かを呟いた、次の瞬間。

 ――ザアアアアアアアアッ!!

 空を切り裂く漆黒風が、一瞬にして無数の紫色の鬼蓮の花びらに変化。
 鬼蓮の花びらは、漆黒の雲に明るい紫の色を落としながら、半径89mの球体状の空間を次々と紫に塗り替える。
 紫の花嵐の球体の中では、飛蝗の数を遥かに上回る無数の花びらが、空間を根こそぎかき乱す暴風の如く吹き荒れ、飛蝗の雲を一気に吹き散らしていた。
「キキキキキッ!!」
 鬼蓮の花びらに纏わりつかれた飛蝗は、浮力を失い次々と墜落、消滅。
 急速に減る飛蝗の気配を察しつつ、義透――否、身体を共有する4人の悪霊のひとり『疾き者』はのほほんと呟く。
「私が表に出る理由は一つ、このユーベルコードに対応した悪霊ですからねー」
 運よく鬼蓮の嵐を逃れた飛蝗が、無防備に見える義透を喰らわんと迫るが。
「ああ、そう言えばー……」

 ――ザアアアアア!!

 決して穏やかさず崩さぬ義透の周囲から、突然鬼蓮の花びらが出現。空中より濃密な花嵐が義透の周りを吹き荒れる
 その正体は、普段は目にすることすら叶わぬ、義透含めた4人の霊障――四天霊障が変化した鬼蓮の花びらだったのだけど。
「……何もないところからも鬼蓮の花びらが出てくるでしょうねー……っと、もう聞いていませんかー」
 周囲の気配に耳を澄ませた義透が飛蝗に声をかけようとするが、その頃には前触れなく濃密に吹き荒れた花嵐に巻き込まれた飛蝗たちは悉く墜落していた。

 いつの間にか、周囲から甲高い虫の羽音は消え。
 ――ただ、紫の美しい花嵐が吹き荒れる音のみが残っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
POWを選択

ライナさん仲間に会えたんですね、良かった。
私も仲間と再会できた時は嬉しくて、今度こそ絶対に守らないとって思った。だから私達もこの砦を守ります。

【白銀竜の解放】で四つ足の飛竜になり戦います。方角はどこでも。

敵に向かって青い炎を吐きます。体に引っ付こうとする奴も尻尾等で払います。
砦の方々には撃ち漏らしの排除をお願いします。

終わったら彼女等の元へ、『助けに来ましたよ!もちろん必要なら何度でも!』ライナさんとその仲間を見て『私はサフィリア、竜人です、よろしく』にこやかに挨拶します。

アドリブ協力歓迎です。



●友達や仲間との再会は嬉しいものだから
 砦に転送されたサフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は、友達たるライナを見つけると、自分から声をかけた。
「ライナさん、仲間に会えたんですね。良かった」
「その声……サフィリア!!」
 サフィリアに気づいたライナの表情は、驚きと喜びにあふれていて。
 駆け寄った2人は、抱き合って再会を喜び合う。
「でもサフィリア、どうして……ここに?」
 ライナの疑問に、サフィリアは今回も察してくれた人がいたから、と軽く説明して。
「私も仲間と再会できた時は嬉しくて、今度こそ絶対に守らないとって思ったから」
 だから、私たちもこの砦を守ります、と強く言い切るサフィリアに向けるライナの笑顔は、頼れる友に向けるそれ。
「ええ、サフィリアたちが居れば心強いわ、よろしくね」
 もしもの時はカバーするから、とさりげなく付け加えるライナに、サフィリアは頼るべき仲間を得た者としてのライナの成長を感じ取っていた。

 サフィリアは砦の北側で四つ足の飛竜に変身し、漆黒の飛蝗の雲を待ち受ける。
 薄暗い空をさらに漆黒に染め上げながら、甲高い羽音と共に飛蝗が砦に迫るのを確認したサフィリアは、大きく息を吸い込み、一気に吐き出した。

 ――ゴウッ!!

 サフィリアの口から虚空に向けて吐き出されたのは、青。
 漆黒の空に真っ直ぐ引かれた鮮やかな青の正体は……超高温の青き炎。
「キイイイイ!!」
 青き炎と知らずそのまま突っ込んだ飛蝗たちは、次々と羽根や胴を青に焼かれ、墜落し燃え尽きる。
 サフィリアは炎を吐きつつ首を上下左右に振り、出来るだけ広範囲に青をばらまき、飛蝗に吹き付け。
 漆黒の雲を次々と青に塗り替えながら、動物の肉を喰らわんとする飛蝗を駆除してゆく。
 それでも、青をかい潜った飛蝗がサフィリアの胴に取り付き、貪欲に喰らう鋭い顎で銀鱗に噛みつこうとするが。
「させませんよ!」
 サフィリアは尻尾を大きく振り回し、翼を激しく羽ばたかせて、胴に取りついた飛蝗を一気に払い落した。

 第一波を凌いだところで、サフィリアは後続の猟兵と後退し、いったん砦に戻る。
 幸い、今のところ、砦に飛蝗の侵入は許していないようだ。
「ライナ、この人……」
 砦に戻ったサフィリアの目に入ったのは、見張り台からサフィリアが竜に変じて戦う様子を見ていたミルズが、人の姿に戻ったサフィリアを指差しながらライナに質問している光景。
 ちらりとサフィリアを見るミルズの目には、微かな畏怖が含まれているようにも見えるけど。
 恐らく、今まで人が竜に変じるところを見たことがないのだろうと考えたサフィリアは、そのままミルズに歩み寄り、挨拶。
「私はサフィリア、竜人です。よろしく」
 にこやかに挨拶するサフィリアの笑顔に、ミルズが毒気を抜かれたような顔になり、ライナも微笑みを浮かべながらフォローに入る。
「ミルズ、大丈夫。あれが彼女の異能だから、怖がることはないわ」
「え、そうなんだ……」
 己を納得させるように呟くミルズをよそに、これからも助けてくれる? とウインクつきで頼むライナに、サフィリアは迷わず頷いて。
「もちろん、必要なら何度でも!」
 任せておいて! と自信たっぷりに言い切るサフィリアに注がれるミルズの視線からは、いつしか畏怖の感情は消えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

真宮・奏
【真宮家】で参加

ライナさん、お久しぶりです。ここがライナさんの大切な場所、この方達がライナさんが会いたかった仲間の皆さんですか。あれだけの試練を越えて辿り着いたライナさんの居るべき場所、護ってみせますとも。

私は北の方を抑えますかね。まず【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で防御態勢を固めて彗星の一撃を発動、高速で飛翔しながら無数の剣と【衝撃波】【二回攻撃】【範囲攻撃】で攻撃。全てを食い尽くす飛蝗の群れ、今後の為にも残らず一掃した方がいいでしょう。容赦はしません!!



●在るべき、いるべき場所を守る為
「ライナさん、お久しぶりです」
 真宮・奏(絢爛の星・f03210)は、共に転送された家族と一緒にライナに一礼した後、砦の中をざっと見渡す。
 奏たちを取り囲むように見守るのは、『闇の救済者』の子供たち。
「この方達がライナさんが会いたかった仲間の皆さんですか」
「ええ、そうよ」
 再会したのは偶然だったけど、と呟くライナの言葉を、あえて奏は聞き流す。
 ――ふと目に入った北の空を見て、急がねば、と感じたから。
「あれだけの試練を越えて辿り着いたライナさんの居るべき場所、護ってみせますとも」
「頼りにしているわよ」
「護る」と言い切った奏の実力は、ライナもアリスラビリンスで目にしている。
 だからこそ、ライナも奏を信頼して託していた。

 奏は砦の北側から襲来した第一波を退けた他の猟兵と交代し、その場に立つ。
 足元には高温の炎で焼かれたと思われる飛蝗が多数転がっていたが、上空には未だ甲高い羽音付きの漆黒の雲が垂れこめている。
 第一波に対応した猟兵もかなり撃墜したようだが、飛蝗の総数は減っているように見えない。
 ――おそらく、後続の群れが追い付いたのだろう。
 周囲に甲高く響き渡る羽音も、無力な人間らに抵抗するなと威圧するかのように、砦の中まで届かせようと大合唱するかのようで。
 しかし、奏は甲高い羽音の大合唱に臆することなく、新緑のオーラとエレメンタル・シールドでしっかりと防御態勢を整える。
「全てを食い尽くすのであれば、今後のためにも残らず一掃したほうがいいでしょう」
 故に、奏が選んだ作戦は、彼女にしては珍しい物量作戦。
「ちょっとぶっ飛ばしますよ~!! いっけ~!!」
 奏の元気な声に呼応するかのように、890本の星の光を纏った剣が、一斉に漆黒の雲の合間に現れる。
 それは現れるだけで飛蝗たちを次々と分断し、その連携を一気に断ち切り。
 さらに剣同士が奏の意を受け幾何学模様を描きつつ、接触せぬ様複雑な軌道を描きながら飛翔し始めると、飛蝗の雲は徹底的に細かく斬り裂かれてゆく。
 ――当然、雲を構成している飛蝗も、次々と斬り裂かれて。
 漆黒が新緑と薄青の光に斬り裂かれ、散り散りになる様子は、まるで星の光がサーカスを披露しているかのよう。
 思わず砦内部にいる人々もそれに見惚れているが、その攻撃は苛烈の一言だった。
 半径89mの半球内を、お互いがぶつからず、かつ予測不可能な飛び方をする890本もの剣の軌道を、無数に群れる飛蝗が全て躱すなど無理な話で。
「ギギギィ!」
「―――!!」
 飛蝗たちは剣に砕かれ、裂かれ、斬られ、力を失い次々と墜落。
 残った飛蝗たちは地上でどしりと構える奏に殺到するが、彼女が纏う眩い新緑のオーラに触れた傍から力を失い、やはりその身を地に墜とし。
 オーラを避け真正面から突撃した飛蝗たちは、新緑に覆われたエレメンタル・シールドに次々と衝突し、己が無謀さを思い知らされながらその動きを止める。
 危険を察知しシールドの手前で停止した飛蝗たちは、奏がシールドから放った衝撃波に巻き込まれ、墜落していた。

 星の光の剣が全て虚空に還る頃には、羽音はほぼ消え、漆黒の雲もほぼ晴れている。
 奏はほっと一息つくと、分散した家族の身を案じるように、砦の西と南に目をやった。

成功 🔵​🔵​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加

久し振りだね。ライナ。ここが扉の先の場所でこれがライナの護りたい場所で、この子達がライナの護りたかった仲間達だね。状況は良くないが、ライナの大切なものは護り抜いて見せるさ。任せときな。

アタシは西の方を抑えるよ。ライナと仲間の子達は砦の最後の護りに残して置く。

さて、即急に潰すか。一応【オーラ防御】しておいて赤竜飛翔を発動。【二回攻撃】【範囲攻撃】で【衝撃波】を撃ちながら、高速で飛びながら飛蝗の群れを撃ち落して行く。飛蝗はとにかく多いだろうから【残像】【見切り】で回避の構えはしておく。とにかくうざったい。早く消し飛びな!!



●竜騎士は人々を護る騎士となり
「久しぶりだね、ライナ」
 家族と共に現れた真宮・響(赫灼の炎・f00434)の表情は、アリスラビリンスの一件が記憶の隅に過ったのか、ほんの少しだけ気まずげ。
 しかし、ライナが特に気にしていなさそうに見えたため、軽く頭を振り払ってその記憶を追い払い、普段通りに接する。
「ここが扉の先の場所で、これがライナの守りたい場所?」
「守りたい場所ではあるけど、ここが扉の先、というわけではないのよね」
 ライナ曰く、アリスラビリンスで潜った「自分の扉」の先にあったのは、壊滅した組織の本拠地だったとか。
 かつての拠点は全て燃え尽き、壊され、命の息吹すら存在しなかったが、それでもライナは、捜索するうちに生き残りがいる旨の伝言が記された石壁を見つけていた。
 もっとも、組織の壊滅から1年以上たっているということは、その伝言も1年前のもの。現在も生き残りが生存しているかどうかはわからない。
 それでも、わずかな望みに賭けて探してみよう。そうライナは決めて出立し。
 やがて立ち寄った村で子供たちが再建した砦の噂を聞きつけ、必死に探して足を踏み入れたら、そこにいたのは懐かしき顔ぶれだった、というわけだ。
 ライナの説明を聞き、納得したかのように頷く響の視線は、ライナの仲間達にむいていた。
「で、この子達がライナの護りたかった仲間達だね」
「ええ、そうよ」
「状況は良くないが、ライナの大切なものは守り抜いてみせるさ」
 任せときな、と胸を拳でドンと叩く響を、ライナは頼もしそうな目で見つめていた。

 ライナ達に砦の守りを託して西に向かった響は、迫りくる漆黒の雲を見て、即急に潰さねばならぬと即断。
「竜騎士の意地を見せようかね!! 容赦はしないよ!!」
 赤い竜の羽根を生やした騎士に変身した響は、ブレイズランスを構えて即座に空へ舞い上がり。
 マッハを遥かに超える速度で雲の合間を飛び交いながら、ひたすらブレイズランスで斬る、斬る、斬る。
「ギイイイイイ!!」
 響の戦意を強く受けたか灼熱を発するブレイズランスで斬られ、焼かれた飛蝗はそのまま地上へ落下し。
 避けたとしても待っているのは、響を中心に全方向に照射される赤い光線。
 それは、威力としては決して強くはないのだが、飛蝗の翼を貫くだけの威力はあり。
 翼の浮力を失った飛蝗たちは、響が乱射する紅の衝撃波で悉く散らされる。
 ――だが、次から次へと飛蝗たちが押し寄せ、響を喰らおうとする。
「ああもう、とにかくうざったい」
 尚も自身に群がろうとする飛蝗を見て、響は舌打ちひとつしつつ空中で急制動をかけ、方向転換。
 そのあまりの無茶な挙動に、身体全体に瞬時に莫大な圧力がかかり、一瞬響の意識が飛びかけるが、なんとか気力でこらえて急加速し、飛蝗たちを引き離す。
 そして、十分距離を取ったところでブレイズランスを構え。
「早く消し飛びな!!」
 再度ブレイズランスを大きく振って紅の衝撃波を生み出し、残った飛蝗を一気に蹴散らした。

 一通り駆逐した後、響は地表に降り立つが、全ては駆逐しきれなかったらしく、生き残りが再集結しつつある。
(「まあ、あとは他の猟兵に任せるかね」)
 変身を解除した響は、一息つくようにその場に座り込んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

神城・瞬
真宮家】で参加

また会えて嬉しいですよ。ライナさん。無事仲間の方達に会えたみたいですね。成程、状況は良くないようですが、最悪という訳ではない。ライナさんがやっとたどり着いた居るべき場所、護り抜いて見せますとも。

僕は南の方を抑えます。一応【オーラ防御】で防御を固めてから。【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】【魔力溜め】で最大に効果を高めたエレメンタル・ファンタジアで氷の津波を【範囲攻撃】化して使用。制御の難しさから一発が限度でしょうから、後は【衝撃波】で吹き飛ばしたり、【誘導弾】を【範囲攻撃】化して残りを撃ち落としていきましょうか。全てを食い尽くす忌々しい飛蝗の群れ、ここで残らず掃討しましょう。



●魔術師はかつての経験を応用し
「また会えて嬉しいですよ、ライナさん」
 家族と共に転送された神城・瞬(清光の月・f06558)は、ざっと砦の周囲に視線を走らせ、状況を軽く把握する。
 状況は依然良くないが、東に吹き荒れる紫の嵐と、北に広がる青き炎に飛蝗が駆逐されている様子を見れば、最悪という訳ではないようだ。
 ――ならば、後を埋めるのは瞬たち家族の役目だろう。
 瞬は家族と目配せしつつ、ライナに優しく告げる。
「ライナさんがやっとたどり着いた居るべき場所、護り抜いて見せますとも」
「ええ、よろしく頼むわね」
 ――アリスラビリンスで助けてくれたこの人たちなら、信頼できる。
 ライナの顔は、そう語っていた。

 砦の南に向かった瞬は、申し訳程度の銀のオーラで守りを固め、六花の杖を手に飛蝗を待ち構える。
 本来ならもっとしっかり守りを固めるべきだが、今回守りに魔力を回す余裕はほとんどない。
(「今回使う術は、制御の難しさから1発が限度でしょうから……」)
 ゆえに、1度で極力多くの飛蝗を巻き込むべく、瞬は六花の杖を翳しながら魔術の詠唱を始める。
 ――瞬が試みるのは、「氷」属性と「水の津波」という自然現象を合成した複合魔術。
 他の猟兵と共に氷と雷の複合魔術を即席で用いたことはあったが、今回はひとりだ。
 瞬は水の魔術の詠唱の合間に氷の魔術の術式を組み込み、同時に魔力を高めてゆく。
 地表にしみ出し始めていた水が氷の魔術の影響を受け、ゆっくりとその水温を下げてゆくが、制御に精一杯の瞬が気にする余裕はない。
「キキーーーーーッ!!」
 制御に精一杯で動かぬ瞬を格好の餌と考えたか、飛蝗の群れが一斉に瞬に殺到し始めるが。
「大いなる自然の叡智たる水よ、氷の大波となりて悪しきものを押し流せ!!」
 術の詠唱を終えた瞬は、杖を一振りし、高めた魔力と維持していた水を一気に解放した。

 ――ドシャアアアアアアア!!

 突然地面を割り噴き出した水は、たちまち津波となって飛蝗たちを一息に呑み込み押し流す。
 しかも水は飛蝗たちに触れた瞬間、瞬時に凍り付き、飛蝗たちを次々に閉じ込め始めていた。
 ――氷の魔術でゆっくり冷やされ過冷却状態に置かれた水が、衝撃で一気に凍り付いたのだ。
 氷は爆発的に体積を増しながら、第二波、第三波と津波の如く後続の飛蝗たちに襲い掛かり呑み込んでゆく。
「キキキーーーー!!」
 氷の津波の第一波に巻き込まれなかった飛蝗たちは、急速に低下する周囲の気温のせいで動きが鈍ったところに襲来した第二波以降の波に巻き込まれ、地面に叩きつけられながら凍り付いていた。

 氷の津波が水に戻る頃には、空に広がっていた飛蝗はほぼ全滅していたが、直ぐに後続の飛蝗の雲が到達しそうな気配がある。
 しかし、瞬も魔力の消耗が著しく、肩で大きく息をつきながら空を見上げるしかできない。
(「暴走しやすい術をかろうじて制御しきりましたが、やはり2度は難しいようです」)
 だが、新たな猟兵の気配が、瞬にひとりだけで無理する必要はないと告げている。
(「ひとまず後続に委ねましょうか」)
 瞬はそのお告げに従い新たな猟兵と交代するため、砦に向かって歩き出していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

メフィス・フェイスレス
【どこでも】
恥も外聞もなく喰い散らかす
ムカつくわね 一皮剥いた自分を見せられているよう

【強力要請:ノイン】
治癒力を活性って事は増血効果もあるわけ?
なら私と相性がいいわ 一緒に戦いましょ

【戦闘】
傍らに立たせたノインの光を浴びつつUC発動
腕に火炎放射器を形成
増血で燃費と攻撃範囲を向上させ焼き払う

全力で光を当て続けてちょうだい
浴びすぎは危険? 大丈夫よ 私頑丈だから
信じて
私もアンタを信じるから

火の粉や取りこぼした敵で負傷しないようノインに外套を被せ、周囲に「飢渇」の膜を張り庇う
自分よりノインの保護を優先 自身への傷は気にしない
ノインが怯えていたら抱き寄せて励ます

信じて
絶対にアンタは傷つけさせないから



●飢渇の闇と癒しの光が導く先は、未来
 空一面に群れる大量の飛蝗を見たメフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)の口から吐き出された言の葉は、憤怒のひとこと。
「恥も外聞もなく喰い散らかす……ムカつくわね」
 何もかも貪欲に喰らい尽くそうとする飛蝗の姿は、まるで一皮むいた自分を見せられているようで、気分は良くない。
 徹底的に駆除するその前に、メフィスは『闇の救済者』たちに協力を呼びかける。
「誰か、傷を癒せないかしら?」
 メフィスの呼びかけに手を上げたのは、茶髪蒼瞳の小柄な少女、アイラ。
 どうやら人の治癒力を活性し、傷を癒す力を持つようだが……。
「治癒力を活性、って事は、増血効果もあるわけ?」
「たぶん……?」
 首を傾げながら答えるアイラに、メフィスは一つ頷きながら手を差し出す。
「なら、私と相性がいいわ。一緒に戦いましょ」
 アイラは近くで猟兵たちの戦い方を学べるなら、と二つ返事で了承し、メフィスの手を取った。

 砦の西から戻ってきた猟兵と交代したメフィスとアイラが見た光景は、相変わらず空一面を埋め尽くす飛蝗の群れ。
 後続の飛蝗が生き残りに合流したのか、数は全く減っているように見えない。
「アンタ、名前は?」
「アイラよ」
「アイラ、いい名前ね」
 メフィスは骨身を火炎放射器の形状に変形させ、毒性を含む血潮を燃料として充填。
 燃料となる血液は、消費する傍からアイラの能力で補うつもり。
「アイラ、私に全力で光を当て続けてちょうだい」
 メフィスが纏う革のベルトや衣服の下から覗く皮膚の縫い目を見て、一瞬アイラが息を呑むが。
「大丈夫よ、私頑丈だから」
 メフィスは外套を脱いでアイラにそれを被せ、さらに己の身体から滲み出るタール状の膜を纏わせ、アイラをかばうように立つ。
「信じて。私もアンタを信じるから」
「あ、はい……お願いします」
 アイラは一つ頷くと、メフィスに癒しの光を当て始めた。

「焼け爛れてしまえばいい!」
 メフィスの一喝と共に骨身の火炎放射器から噴き出した業火は、飛蝗の群れを直撃。
 飛蝗の翼に引火した炎は、全ての生命力を燃料として燃え続け、命尽きるまで途絶えることのない獄炎と化す。
「ギギギギーーーッ!!」
 貪欲さを失わぬ飛蝗たちは、獄炎に徹底的に焼き尽くされ、次々と灰と化して行く。
 しかし、至近距離でまき散らされる火の粉と、炎の合間を掻い潜り迫る飛蝗の群れは、アイラの身を恐怖で縛りつけていた。
「きゃ」
 怯えたアイラの微かな悲鳴がメフィスの耳に届くが、メフィスはアイラを守るように抱き寄せ、励ます。
「信じて。絶対にアンタは傷付けさせないから」
「う、うん……」
 事実、メフィスは己が傷つくことも構わず、アイラの護りを優先しながら徹底的に炎をまき散らしている。
 万が一メフィスの目を掻い潜った飛蝗がアイラの肩や腕に乗ったとしても、外套と飢渇の膜が飢えた飛蝗の鋭い顎を決して通さず、撒かれた新たな炎によって焼き払われた。

 恐怖心を抑えたアイラは、メフィスに癒しの光を浴びせ続け。
 アイラを信頼するメフィスは、それを糧にさらに炎を四方八方に撒き続け。
 お互いを補い合うように繰り返された攻撃は、いつしか飛蝗の群れを悉く掃討していた。

 最後の飛蝗が消滅すると、西側の空はすっかり薄闇を取り戻していた。
「アイラ、ありがとう」
「こちらこそ……ありがとうございます」
 お互い感謝しあった後、メフィスが砦の周囲を見渡すと、漆黒の飛蝗の雲はほとんど払われていた。

 ――あと少しで、飛蝗は全て駆除できそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

卯乃巫・八香
【どこでも】
初めてのお仕事。蟲退治。頑張る。
(虫に嫌悪感は特に無いがオブリビオンなら遠慮も躊躇もなく殲滅するスタンス)

注意はするけど、近くの味方を上手く巻き込まず戦える自信はあまり無いから。
闇の救済者の人達やライナに、同行は求めない。
「偉天」を分割状態にして振り回して、蟲の群れを纏めて攻撃。
けど、纏まってるのはともかく分散してる敵は落とし難い。
これには悪意の霊威を発動、少ない数で纏まってる蟲を優先的に攻撃させる。
槍が当たった後、纏わりついてる霊が周囲の蟲を食っていくイメージ。
「食うのはお前達じゃない。私達」

(アドリブ絡み歓迎)



●初仕事は猛獣すら喰らう蟲の駆逐
 最後に転送された卯乃巫・八香(夢中の狗・f29763)にとって、この依頼は猟兵としての初めての仕事。
 突然現れた彼女が備える長身でグラマラスな容姿と怜悧な美貌は、『闇の救済者』や住民たちの視線を集め、中には八香に興味本位の声をかけようと近づく者も。
 だが……当の八香は、彼らには興味なし。
「蟲退治、頑張る。それだけ」
 クールを通り越し、頭の上から氷塊を落とされたかのような冷ややかな反応をされれば、住民たちも渋々伸ばした鼻や手を引っ込めるしかなく。
 住民たちの未練ある視線をあえて黙殺しつつ、八香は『闇の救済者』たちやライナにも同行を求めず、砦の外に出た。

 砦の南で息を切らしていた別の猟兵と交代し、ひとり残った八香は、南の空を見渡す。
 先の猟兵がかなり駆除をしたとはいえ、後続の飛蝗で埋め尽くされた空は、未だ漆黒のまま。
 八香自身は蟲に嫌悪感を持たず、オブリビオンであれば遠慮なく躊躇せず殲滅するつもりだが。
 それでも、ダークセイヴァー本来の薄闇の空すら全て覆い隠すような漆黒が蠢いているのを見ると、一瞬息を呑んでしまう。
 ――ピチャ。
 地面が濡れているのか、八香が足を踏み出す都度、つま先に冷たい水が触れる。恐らく、先の猟兵が水を使った術を用いたのだろうか。
 もっとも、水はほとんど地面に浸み込んだらしく、ぬかるみに足を取られる心配はなさそうだ。
 濡れた地面に確りと足をつけ、飛蝗の雲を睨みつけながら八香が取り出したのは、凶刀「偉天」。
 その真っ直ぐな刀身を引き延ばせば、魔力製のワイヤーで繋がる無数の刃に分割、蛇腹剣としての正体を現す。
 数倍の長さに伸びた剣を、八香は無造作に、かつ緩急をつけて振り回し始めた。
 ――ブンッ!
 縦に振り回された刃は、飛蝗の雲を大きく斬り裂き。
 ――ブオンッ!!
 地面に水平に、かつ頭上で大きく振り回された刃は、斬り裂かれた雲を細かく散らし、ただの飛蝗の群れに変える。
 刃に直接触れた飛蝗は、羽根を、胴を、頭を落とされ、次々と地面に墜落、消滅して行く。
 だが、密集している飛蝗は面白いように落とせても、散らされた飛蝗を狙うのはただ振り回しているだけでは難しい。
 密集するより散開するほうが生き残れる、と本能で察したか、飛蝗たちが広範囲に散らばり、八香に強靭な咢を突き立て喰らおうとするが。
「逃がさない。喰い尽くす」
 冷え切った八香の声と共に召喚されるのは、100本の怨霊が纏わりついた短槍。
 それは八香の意に沿う形で、複雑に、幾何学模様を描きながら、残った飛蝗に迫る。
「喰うのはお前達じゃない、私達」
 八香の冷徹な声とともに短槍の穂先が飛蝗に触れると、短槍に纏わりついていた怨霊たちが大きく口を開け、周囲の飛蝗に行儀悪く食らいつき、咀嚼し始めた。

 ――ボリッ、パキッ。

「――――――!!」
 飛蝗たちの声なき断末魔が空間を満たすが、怨霊たちはお構いなく喰らい続け。
 飛蝗たちが怨霊から逃げるように離れても、八香の意に従う短槍と怨霊はどこまでも飛蝗を追いかけ、逃がさない。
 八香が偉天を縦横無尽に振り回し、残った飛蝗を片っ端から叩き落としている間にも、怨霊たちは際限ない空腹を満たそうとするかのように、生き残りの飛蝗を喰らっていた。

●飛蝗を呼び出せし主の登場
 八香が偉天で最後の飛蝗の群れを斬り落とすと、砦の周囲から甲高い羽音が消え、空もダークセイヴァー特有の薄闇を取り戻す。
 しかし、何処かに飛蝗を操り、群がらせた主がいるはずなのだが、猟兵達から発見報告は上がっていない。
(「主はどこにいる?」)
 八香がいぶかしんだその時、砦の内部から白い煙が立ち上る。
「これは……狼煙?」
 おそらく『闇の救済者』達からの連絡だろう。
 そう察した八香が、砦にすぐさま戻ろうと踵を返したその時。

 ――砦の内部から、刃を交える澄んだ音が周囲に響き渡った。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『『傀儡卿』ジェーン・ドウ』

POW   :    狂い哭け我が麗しの人形ジェーン・ドウ
自身の【身体を護る防具として機能する吸血鬼の幻霊】が輝く間、【射程と遮蔽を無視して飛ぶ不可視の斬撃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    妄執弄び踊れ我が愛しの魔剣ジェーン・ドウ
【魔剣を見たモノの理性と自制心】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【強烈な独占欲と執着を抱かせる魅了の魔剣】に変化させ、殺傷力を増す。
WIZ   :    己が主の名を讃えよ我が永久の隷属者ジェーン・ドウ
【かつての主“傀儡卿”コッペリア】の霊を召喚する。これは【ダークセイヴァー由来の武器】や【全ユーベルコードの連続使用】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレナ・ヴァレンタインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●主の支配から逃れられぬ奴隷が望むのは
 突如上がった狼煙を目にし、剣戟の音を耳にした猟兵たち。
 その意を察し、大急ぎで砦に戻ると、既に招かれざる客が砦の内部に侵入し、中央の広場に陣取っていた。

 猟兵達が目にしたものは、派手に破れた衣服とマントを纏った赤髪の女性剣士が己が得物を振るい、ライナと交戦している光景。
『闇の救済者』以外の住民は、猟兵達が飛蝗を掃討している間に地下に避難したらしく、その姿はない。
「恐らく彼女が飛蝗をけしかけた張本人だ!」
 クレイの叫びを耳にした猟兵達がよく目をこらすと、赤髪の剣士の周囲には飛蝗が数十匹落下している。おそらく『闇の救済者』たちが全て落としたのだろう。

 ――ギィンッ!!

 赤髪の剣士が振るう日本刀によく似た剣を、ライナは己が得物の銀のナイフでかろうじて受け止める。
 だが、実力の差は歴然としているのか、徐々に銀のナイフが押し込まれてゆく。
「ああ……戦っている時だけは、私自身の醜さを見なくて済む」
「何を言っているのよ……くっ!」
 甲高い金属音と共に銀のナイフを手元から大きくはね飛ばされたライナは、たまらず後退した。

「ああ……誰か、いないのかしら」
 後退したライナや『闇の救済者』たちを無視し。
 譫言のように、謡うように、赤髪の剣士は呼び掛ける。
「ここに私を殺しうる『英雄』は、いないのかしら」
 己が渇望を口にする彼女の瞳は、既に殺戮の色に染まっている。
「主に名をあたえられなかった私を殺してくれる『英雄』は、いないのかしら?」
 殺戮の色に染まりし瞳で砦を一瞥した彼女の瞳は、猟兵達に向けられる。
「名をあたえられなかった」との彼女の呟きを耳にし複雑な表情を浮かべる『闇の救済者』たちは、もはや彼女の眼中にない。
「彼女には到底かなわない。申し訳ないけど……彼女の相手をしてもらえないかしら」
 実際に得物を交えて勝算がないことを悟ったライナが、猟兵達に囁く。
 もちろん、猟兵達はそろって頷いた。

 とある吸血鬼に『最強の奴隷』として創造され。
 死して骸の海から蘇った今でも、創造主の支配から逃れられない女性剣士――『傀儡卿』ジェーン・ドウ。

 主から名を与えられなかったにもかかわらず、いまだ主の呪縛に囚われ、大地を殺戮のあかに染め上げ続ける己の解放を願うかのように。
「ああ……あなた方、私の望みを叶えて下さる?」
 ジェーン・ドウは猟兵達へとその魔剣を向け、戦いを促す。

 ――ジェーン・ドウの望みを叶えるために、英雄として対峙するか。
 ――それとも、砦を壊滅せんと欲したオブリビオンとして躊躇なく滅ぼすか。

 その選択は、各々の猟兵の手に委ねられた。

※マスターより補足
 第2章プレイングボーナスは「『傀儡卿』ジェーン・ドウの望みを叶えるために英雄として振る舞いながら戦う」となります。
 一方、何処にいるとも知れぬ主のために、ヴェリーナ砦を飛蝗の手を借りて滅ぼそうと目論んだオブリビオンでもありますので、叶えないのもまた、ひとつの選択でしょう。
 どうぞ皆様、御心のままに行動なさってくださいませ。

 ――それでは、最良の戦いを。
サフィリア・ラズワルド
WIZを選択

英雄を演じる、それだけでいいの?それで貴女は満足するの?なら簡単だ。

【瑠璃色の精霊竜】を召喚、精霊竜様、舞台を整えてください、この場を私達を彼女の望む姿に、はい、彼女の願いを叶えます。

彼女は“救われなかった私達”だ、何度も見てきた、何度も手にかけた、でも彼女は私がいた施設の理性を失った仲間と違って理性が残ってる、まだ人でいられてる、なら最後くらい本人の望むままに終わらせてあげよう。

ペンダントを竜騎士の槍に変えて構えます。

『私は何体もの竜を葬った、貴女は竜よりも強いのかしら?緋色の剣士さん』

アドリブ協力歓迎です。



●英雄との対峙を望む者のために
『傀儡卿』ジェーン・ドウに殺戮の色を宿す瞳を向けられた、猟兵達。
 その中から真っ先に進み出たのは、先んじてヴェリーナ砦に戻っていた、サフィリア・ラズワルド。
 首にかけているラピスラズリのペンダントを竜騎士の槍に変化させながら、サフィリアはライナをかばうように前に立ち、ジェーン・ドウに呼びかける。
「英雄を演じる、それだけでいいの?」
 それで貴女は満足するの? とサフィリアは目で訴えかけるが、ジェーン・ドウも魔剣を構えつつ、軽く頷いた。

 ――彼女の望みは「英雄に殺されること」。
 ――故に、英雄を演じる猟兵に殺されれば、それで満足するのかもしれない。

 ジェーン・ドウの意を確かめたサフィリアは、ラピスラズリの鱗を持つ四つ足の飛竜――精霊竜を召喚。
 巨大な瑠璃色の竜を見て、竜の助力を受けるのか、とジェーン・ドウが警戒を深めるが、サフィリアは意に介さず、召喚した精霊竜に丁寧に呼びかける。
「精霊竜様、舞台を整えて下さい」
 ――この場を、私たちを、彼女の望む姿に。
 精霊竜はジェーン・ドウを一瞥しつつ、本当に彼女の願いを叶えるのか、と首を傾げるが。
「はい、彼女の願いを叶えます」
 それでも、サフィリアの意は変わらない。
 なぜなら、彼女は……。

 ――“救われなかった私達”だから。

 施設にいた頃、サフィリアは何度も見てきた。
 与えられた竜の力に耐えきれず、正気を失った仲間を何度も見てきた。
 理性を失い、竜としての本能に囚われ暴走した仲間を、何度も手にかけた。

 ――己が望みすら口にできぬまま、果てるしかなかった仲間たちを幾度も見て来たのだ。

 だが、ジェーン・ドウは、理性を失ったサフィリアの仲間達と違い、まだ理性を残している。
 オブリビオンと化しても、まだ己が意志を保ち、望みを口にしている。
 ならば……。
「最後くらい、本人の望むままに終わらせてあげよう」
 サフィリアの強い意を受け、承知した、と精霊竜がその口から吐き出すのは、紫の炎。
 ただし、それはジェーン・ドウやサフィリア、ライナや『闇の救済者』たちを一切傷付けない、幻覚を見せるための炎。
 本物の炎と勘違いしたジェーン・ドウが一瞬両手で炎をかばうが、幻覚の炎は腕の隙間をするりと抜け、あかの瞳を紫の炎で塗りつぶす。
「ああ、ああ……」
 幻覚に囚われたのか、両手を下ろし、虚ろと化した視線を八方に彷徨わせるジェーン・ドウの顔に笑みが浮かび、口から感嘆が漏れ出る。
「ああ、ここは……英雄との決闘の場」
 幻惑するかのように燃え盛る紫の炎がジェーン・ドウに見せるのは、古代のコロシアムのような闘技場と、「英雄」の佇まいを見せるサフィリアの姿だった。

 ――おおおおお!!

 幻覚の大観衆に背を押されるように、ジェーン・ドウは魔剣の切っ先を天に向け、高らかに宣言する。
「コッペリア様、観衆の皆様、どうか我が戦いをご覧あれ!」
 己が隷属の対象でもある『傀儡卿』コッペリアの霊を宿し、支配者の名を叫びながら、ジェーン・ドウは真正面からサフィリアに斬りかかる。
「私は何体もの竜を葬った」
 サフィリアも竜騎士の槍の穂先で魔剣を受け止め、絡め取るように地面に刃先を落とそうとするが、ジェーン・ドウもその膂力で無理やり槍を跳ね上げ、距離を取る。
「あなたは竜よりも強いのかしら? 緋色の剣士さん?」
 跳ね上げられた槍を構え直しつつ距離を取るサフィリアの問いに、ジェーン・ドウは答えず、再度距離を詰め得物で斬りつける。
 それを槍で受け止め、払い、逆に突き返しながら、サフィリアは少しずつジェーン・ドウに手傷を負わせていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。

望みは『英雄』ですかー。私には向きませんしー。ええ、では、交代しましょう。
第一『疾き者』から人格交代。

第三『侵す者』武の天才
一人称:わし/わしら 豪快古風
対応武器:黒燭炎

こういうところが、わしらの利点よな。
ふむ、ではお相手願おうか。
相手の攻撃が不可視であることは関係ないの。戦闘知識と第六感にてかわそう。
こちらは黒燭炎でなぎ払いの2回攻撃だの。UCは極力使わんように。

…悪霊が望みを叶えようとするのが可笑しいか?
だがな、悪霊だからこそ放って置けないというのもあるのだぞ。極論、未練の塊だからの。
それに、わしらとて『名前』に思うところはあるのだ。

※『侵す者』は名字の『馬』提供者



●「名前」を持つことの意味は
「望みは『英雄』ですかー」
 頭をかきながらぼやく馬県・義透の表層に現れている『疾き者』は、私には向きませんしー……と困り顔。
 しかし、最適な場で最適な人格が現れるのが普通となっている義透にとって、不向きな状況は一時的に困りこそすれど、致命的に対応できないという程ではない。
「ええ、では交代しましょう」
 他の人格と少し相談したのか、義透は少し黙り込む。
 わずかな間を置き、再び開いた義透の口から紡がれたのは……のほほんな口調ではなく、古風な口調。
「こういうところが、わしらの利点よな」
 表出する人格は『疾き者』から『侵す者』に。
 纏う雰囲気は、のほほんとした壮年から豪快な武士のそれに。
 構える武器も、いつしか時折緑が煌めく漆黒風から、怒り湛えた黒い槍の黒燭炎に替わっていた。

 竜騎士の槍で対峙した猟兵と交代し、義透は黒燭炎を構え、立つ。
 その構えに隙を見出せないジェーン・ドウの目には、義透も「英雄」に見えているのだろうか。
「ああ、次なる相手との死闘、ご覧あれ……!」
「ふむ、ではお相手願おうか」
 先んじて放つジェーン・ドウの不可視の斬撃を、義透は彼女の腕に籠められる力の入れ方や視線の行く先を観察しつつ、第六感で察しつつ回避。
 得物の長さは槍を持つ義透が有利なのだが、ジェーン・ドウは射程も遮蔽も無視できる斬撃を飛ばせる以上、得物の長さの差による有利不利は実質ないに等しい。
 義透も強引に武器を叩きつけて魔剣や守りの霊を破壊すれば、一時的に優位に立てるかもしれないが、同時に砦の一部を破壊し、復興を妨げる可能性もある。
 故に守りを破壊し、優位に立てる術があるにもかかわらず、義透はあくまでも真正面からのなぎ払いに拘り続けた。

「あなたも霊が憑いている……?」
 魔剣で直接黒燭炎を受け止めたジェーン・ドウが、義透の纏う気配にふと首を傾げる。
 ――己も霊を纏うからこそ、義透が霊として他の人格を宿していることに気づいたのだろう。
 黒燭炎を払い除けつつ、至近距離から不可視の斬撃を飛ばすジェーン・ドウの口から洩れるのは、疑問。
「なぜ、霊が英雄に……」
「悪霊が望みを叶えようとするのが可笑しいか?」
 かかかっ! と豪快に笑いながら、義透は不可視の斬撃を斬り捨て、霧散させる。
「だがな、悪霊だからこそ放っておけないというのもあるのだぞ。極論、未練の塊だからの」
 尚も至近距離から連発される不可視の斬撃を黒燭炎で斬り払いつつ、義透はジェーン・ドウの目を真っ直ぐ見ながら、語り掛ける。
「それに、わしらとて『名前』に思うところはあるのだ」

「馬県・義透」の名は、義透の宿す4人の悪霊の名から1字ずつ取り、名づけられている。
 現在表出している『侵す者』は、名字の一文字「馬」を提供した張本人。
 先ほどまで表出していた『疾き者』は、名前の一文字「義」を提供し。
 残るふたりの『静かなる者』と『不動なる者』は、それぞれ「透」と「県」を提供している。
 生前は戦友であった4人が、現在ではひとつの身体を共有し、ひとつの名を名乗っている。
 なぜ、それぞれの名を組み合わせた名を名乗ることにしたのか。
 その理由を今、この場で聞いたところで、おそらく義透は語るまい。
 だが、ひとつの身体とひとつの名前を4人で共有する者だからこそ。

 ――「名を与えられなかった者」ジェーン・ドウを放っておけないのかもしれない。

 名を知れぬ吸血鬼の亡霊に護られながら、自身のオブリビオンとしてのいのちすら削って不可視の斬撃を放ち続けるジェーン・ドウ。
 義透は、不可視の斬撃を巧みに逸らし、躱しつつ。
 あくまでも真正面からの攻めを崩さぬよう、手数を持ってジェーン・ドウの望みに応え続けた。

 ――まるで、名を持たぬ者に存在意義を与えるかのように。

成功 🔵​🔵​🔴​

メフィス・フェイスレス
最強の奴隷ね
同じような事を考える吸血鬼は何処にでもいるものか
死んで尚主人の鎖に引き摺り回されてる奴の自己満足に付き合う気はないわ
(傍目からは英雄らしく正面から戦うが、英雄ぶるつもりはなく、似た境遇で主の呪縛に縛られてる相手がムカつくから)

「微塵」を纏わせた「骨身」を飛び道具として袖から飛ばして牽制しつつ突進、爆煙で目潰しをしつつ足下への注意をそらす
鉤爪の「骨身」に加え「尾刃」で手数を増やして倍増した斬撃に対応
地面に潜行させた「飢渇」を棘状に伸ばして串刺しにし体を縫い止め
体勢を崩した隙を突きUCを叩き込む

劇的な死に様が欲しいってんなら望み通りにしてやるわよ
轢き潰れて粉々になるっていうのはどう?



●死してなお主に縛られる存在とは
「最強の奴隷ね……」
 他の猟兵が『傀儡卿』ジェーン・ドウと対峙するのを眺めつつ、メフィス・フェイスレスは想いにふけるが、どうしても己の境遇が脳裏をよぎってしまう。
 かつてこの世界の何処かで行われていた、人間を品種改良するという目的の下、死肉を繋ぎ合わせて意思なき人形を造り出す、吸血鬼たちの実験。
 その結果、メフィスは意思なき人形としてこの世に生を受けたが、猟兵に覚醒し、自我を取り戻し、己が意思で創造主に反逆の牙を剥いたのだ。
 その牙は、今でも吸血鬼たちの喉元に向いているのだけど。
「……同じようなことを考える吸血鬼は何処にでもいるものか」
 目の前にいるジェーン・ドウも、かつては「最強の奴隷」として吸血鬼たちに生み出された存在。
 その事実は、メフィスを苛立たせるに十分すぎた。

 先の猟兵と交代し前に出たメフィスは、両腕の袖口から禍々しい色の粉が付着した骨の刃を飛び道具として撃ち出しつつ、接近する。
 メフィスの血肉を削り撃ち出した骨の刃は、しかしジェーン・ドウの魔剣と不可視の斬撃で一気に切り払われた。
 だが、骨の刃に付着していた禍々しい色の粉は、空中に飛び散って魔剣に吸着し、ジェーン・ドウの顔面にも禍々しい色の文様となって付着する。
 ジェーン・ドウが魔剣を一振りし、吸着した粉を落とそうとしたその瞬間。
 ――ボンッ!!
 付着した粉が爆発すると共に、ジェーン・ドウの顔面と魔剣が禍々しき紫を帯びた爆煙に包まれ、ジェーン・ドウの視界を遮るとともに、煙に含まれる毒性が鼻や口を蹂躙した。
 禍々しい粉の正体は、「飢渇」の粘液を変じさせた爆弾――「微塵」。
 その毒性を含む煙を吸えば、オブリビオンとて無傷ではすまない。
「ゴホッ、ゴホッ……!!」
 鼻と喉の粘膜を刺激され咳き込みながらも、爆煙ごと一気にメフィスを切り払わんと、ジェーン・ドウは鎧う吸血鬼の幻霊を輝かせながら魔剣を振るい、斬撃を連発して爆煙を散らした。
 だが、その頃にはメフィスは次の得物を準備し、ジェーン・ドウの眼前に迫っている。
「劇的な死に様が欲しいってんなら望み通りにしてやるわよ」
 ぶっきらぼうに言い捨てながら、メフィスは己が血肉を鉤爪状の骨身に変化させて両手に装着し、尾骨を変異させた尻尾も刃に変化して手数を確保。
 それら全てを十二分に活用し、吸血鬼の幻霊の輝きと共に9倍に増えたジェーン・ドウの刃と不可視の斬撃を逸らし続けた。

『闇の救済者』たちの目には、メフィスは一見英雄らしく正面から戦っているように見える。
 だが、メフィスにはその気はない。
(「英雄ぶるつもりは最初からないわよ、ただ相手がムカツクだけ」)
 メフィス自身の過去の境遇は、骸の海から蘇ってもなお、何処にいるとも知れぬ吸血鬼の主に縛られるジェーン・ドウとよく似ている。
 その事実に苛立ちを覚えているゆえに、メフィスは英雄としてではなく、ひとりの飢餓衝動に苛まれる猟兵として、ジェーン・ドウを磨り潰す。

 ――そのためなら、英雄らしくない行動も、躊躇なく選ぶのだ。

 鉤爪と尻尾の刃で真正面から対峙している間に、メフィスは地面にそっと忍ばせておいた「飢渇」に念を送って棘状に変化させ、一気に地面を食い破らせる。
「!?」
 地表を穿つ無数の漆黒の棘に一気に足元を崩され、ジェーン・ドウの体勢が崩れた。
「轢き潰れて粉々になるっていうのはどう? ……轢き潰れてしまえ」
 無理な姿勢から撃ち出された不可視の斬撃を難なく避けたメフィスの右腕は、いつしか筋繊維の巨腕と化している。
 果てしない怪力を秘めるその腕を、メフィスは容赦なくジェーン・ドウの胴に叩き込んだ。

 ――ドゴォッ!!

 怪力を秘めた巨腕の一撃は、ジェーン・ドウの幻霊の護りを打ち砕き、彼女の身体を弾丸のように弾き飛ばし、そのまま壁に叩きつける。
「ガハッ……!!」
 全身を迸る痛みとともに、ジェーン・ドウの口からは悲鳴と血が吐き出されていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

卯乃巫・八香
英雄?私はそんなもの、なりたくない。
お前の願いなんか知らない。さっきの蟲共みたいに爆ぜて死ね。

そんなノリで、偉天を振るって斬りかかる。
とはいえ、相手は強い。
踏み込みのタイミングをずらした【フェイント】で攻め、【野生の勘】で致命的な攻撃を予測して回避し。
【空中浮遊】させたCavalierから【誘導弾】や【レーザー射撃】を放って少しでもダメージを積み重ね。
使える手段をフルに使って戦う。

けど、敵のユーベルコード…理性と自制心を削られれば、きっと抑えた戦い方はできなくなる。
それなら、と九死殺戮刃発動。リスクは顧みず、分割状態にした偉天を【ロープワーク】気味に振り回しながらジェーンを切り刻みにかかる。



●願いを聞き遂げないのもまた、選択のひとつ
「ああ、我が主……英雄は何処にいるのでしょうか」
 壁に叩きつけられた痛みを堪え身を起こし、虚空を仰ぎ見ながら何処とも知れぬ主に呼びかける『傀儡卿』ジェーン・ドウを見て、卯乃巫・八香はクールに言い捨てる。
「英雄? 私はそんなもの、なりたくない」
 そもそも、必要以上に相手に干渉しない八香にとって、「英雄」の称号は邪魔以外の何物でもない。
 そして、相手に干渉もされたくない以上、目の前のジェーン・ドウは骸の海に即刻叩き込む対象に過ぎない。
「私はお前の願いなんか知らない。さっきの蟲共みたいに爆ぜて死ね」
 八香にとって、ジェーン・ドウの願いはどうでもよい事だし、叶える気もない。
 それに、砦を蹂躙しようとしたオブリビオンを逃す理由はない。

 ――ただ、ここで滅するのみだ。

 八香は飛蝗を相手取った時と同様に、偉天の刃身を無数に分割し、そのままジェーンに斬りかかるが、初撃は容易く魔剣に絡め取られ、そのまま引っ張られる。
 偉天を奪われそうになるのを、八香は必死にこらえて刃身を引き戻した。
 だが、咄嗟に魔剣で払い絡め取ることを選択したジェーン・ドウとは、実力も戦闘経験も明確な差があることを、八香は実感してしまう。
 何しろ、相手は最強の奴隷がオブリビオン化した剣士。まだ実戦経験を1度積んだだけの八香には、荷が重い相手なのは確かだ。
 だが、それでもここで引くことはしないし、できないから。
 八香は意識的に相手の膂力を利用して攻撃を逸らしつつ、消耗を狙う作戦へと転じる。
 踏み込みのタイミングをわざと一拍ずらすことでフェイントをかけて居場所を惑わせ、勘も頼りに頭や四肢を狙う魔剣の軌道を予測し回避し。
 空中に浮かせているスタンド式掃除機のCavalierから、散発的に魔力光線や誘導弾を撃ち出させ、ジェーン・ドウの動きそのものを牽制、制約。
 隙を見て偉天の刃身を再度分割し、無数の刃で少しずつ四肢を傷つけていくが、その戦い方は、英雄らしい振る舞いを求めるジェーン・ドウのお眼鏡にはかなわない。
「ああ、我が望みに応えて下さらない……英雄ではないのですね」
 それなら、とジェーン・ドウの瞳が妖しく光り。
「我が妄執と共に、踊りましょう?」
 ジェーン・ドウの言の葉とともに、魔剣がギラリと妖しい光を放つ。
 人の心を容易く惑わせる魅惑的なその光に、八香の瞳が自然と吸い寄せられた。
 ――それは、見た者の理性と自制心を奪い、独占欲と執着を植え付ける魔の光。
(「これは……まずい、抑えた戦い方ができなくなる」)
 魔力に絡め取られた八香の瞳から徐々に理性と自制心が消え、精神に強烈な独占欲と執着心を叩き込まれると、徐々に八香自身の思考も感情も、ジェーン・ドウの全てを蹂躙したいとの想いに囚われる。
 もっとも、それはジェーン・ドウも同じなのだが、彼女はむしろ喜んでそれを受け入れ、八香に殺戮にぎらつかせた瞳を向けていた。
 八香とジェーン・ドウの理性と自制心を糧に封印を解かれた魔剣は、その切れ味と鋭さを増すとともに、双方の精神を『傀儡卿』の強烈な独占欲で絡め取り、お互いの姿以外を認識すらさせなくなる。
 ――放っておけば、『闇の救済者』と砦そのものを容赦なく壊し、蹂躙しかねないが。
「それなら……!」
 意識が完全に独占欲と執着に塗りつぶされる直前に漆黒の瞳を輝かせた八香は、分割状態のままの偉天をロープを操るかのように立て続けに振り回す。
 無理やり手数を増やした代償で、八香の身体の細胞のひとつひとつに強烈な負荷がかかり、全身が猛烈な痛みに襲われるが、その痛みで理性がわずかに呼び覚まされた。
(「胴や腕を狙っても斬り払われるなら、足を狙えばいい」)
 真正面から蹂躙したいとの想いを理性で無理やり押さえつけた八香は、ジェーン・ドウの足を狙い、偉天の刃身を叩きつける。
「ああ……!!」
 それは、ジェーン・ドウのタイツをズタズタに引き裂き、両脚を血まみれにするには十分すぎる一撃だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加。

アンタの事情なんて知るか。ライナ達が必死に護ろうとしている砦を飛蝗というトラウマの残す存在に襲わせただけでもアンタを倒す理由は充分だ。行くよ、奏、瞬!!

奏と瞬に前面の抑えは任せる。ただ、奏と瞬でも長くは持たないだろうから【ダッシュ】も併用して、【忍び足】【目立たない】で敵の背後を取る。【オーラ防御】【見切り】【残像】で敵の攻撃を凌いで【怪力】【グラップル】で渾身の足払いで体勢を崩し、全力の炎の拳をぶち込む。更に【二回攻撃】【グラップル】で追撃で蹴り飛ばす。まあ、骸の海で主に会えればいいね?手前の事情を押し付けるんじゃないよ!!


真宮・奏
【真宮家】で参加。

貴女にも事情があるんでしょうが、全てを食い尽くす飛蝗を砦にけしかけたのは許せません。人々の営みを脅かす輩は放ってはおけません。悪行の報い、受けて貰いましょうか。

トリニティエンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【呪詛耐性】【激痛耐性】で敵の攻撃を受ける事に専念。後ろの兄さんが危なくなったら【かばう】ことも視野に。基本的に防御に専念しますが、攻撃に回る余裕が出来たら【二回攻撃】【怪力】【グラップル】で直接拳で殴ります。もし母さんや私の攻撃で敵が吹き飛ぶことがあったら【衝撃波】で追撃。容赦はしません、ここで確実に仕留めます!!


神城・瞬
【真宮家】で参加。

まあ、貴女にも深い事情があるようですが、人々が必死に生活を営む場に飛蝗をけしかけた言い訳にはなりません。こちらにも譲れないものがあります。英雄を求めるのは骸の海でどうぞ。

まず【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を仕込んだ結界術を敵に向けて展開。次手に【高速詠唱】で月蝕の呪いを発動。徹底的に敵の動きを制限することに専念。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎ、敵が弱ってきたら【誘導弾】【鎧無視攻撃】で押し切ります。ここは貴女の願望を叶える場所ではありません。退場願いましょうか、名も無き者よ。



●生活の営みの場を襲撃された怒りは、果てしなく
 ――骸の海から蘇った私は、「私を殺してくれる」英雄を求めている。
 ――名を与えられなかった私に、生きた証を刻んでくれる方を求めている。

「ああ……私の望みは……」
 徹底的に斬り裂かれた両脚を血に染めつつも、魔剣を杖代わりに立ち上がる『傀儡卿』ジェーン・ドウの前に最後に立ったのは、【真宮家】の一家3人。
 だが、一家の瞳に宿るのは――憤怒。
「貴女にも、ここを襲った事情があるのでしょう」
 真宮・奏は若干の理解を示しつつも、ジェーン・ドウに向ける視線と声はともに厳しい。
 なぜなら……。
「ですが、全てを食い尽くす飛蝗を砦にけしかけたのは許せません!」
 ……人々の生活の場を荒らし、破壊しようとした怒りが先に立つから。
 奏に同意するように頷く、真宮・響の視線は、もっと厳しいそれ。
「ああ、アンタの事情なんか知るか」
 決して理解は示さぬと一刀両断し、ジェーン・ドウを弾劾する。
「ライナ達が必死に護ろうとしている砦を、飛蝗というトラウマの残す存在に襲わせただけでもアンタを倒す理由は充分だ」
 ――それは、正義も正当性もない、ただの自己満足であると突き付けるよう。
「まあ、貴女にも深い事情があるようですが、人々が必死に生活を営む場に飛蝗をけしかけた言い訳にはなりません」
 神城・瞬はジェーン・ドウの事情を慮ろうと努めるが、他の家族と同様、許す気はない。
 ――この地で必死に生きる人々を踏み躙るような行為は、許せないから。
「ここは貴女の願望を叶える場所ではありません。退場願いましょうか、名も無き者よ」
「容赦はしません、ここで確実に仕留めます!!」
 瞬の宣告と共に、奏がエレメンタル・シールドを構え。
「行くよ、奏、瞬!!」
 響の合図とともに、奏と瞬はジェーン・ドウの真正面へ陣取った。

 ――私は今も『傀儡卿』コッペリア様の所有物。
 ――コッペリア様が死を命じない限り、死ぬことは許されない存在。
 ――それなのに、私は代理決闘で敗れ、命を奪われた。
 ――主の命に……背いてしまった。

 瞬が杖を構えて距離を取るのと同時に、炎と水、風の3属性の魔力で守りを強化した奏が、エレメンタル・シールドを構えていつでも瞬を庇えるように立つ。
 いつの間にか響は姿を消しているが、それをジェーン・ドウに気取られないようにするためか、奏と瞬の動きは無駄なく素早い。
 瞬は素早く術を編み上げて六花の杖を一振りし、ジェーン・ドウを不可視の結界で囲む。
 ジェーン・ドウも結界で囲まれたことを察し、無理やり突破しようと魔剣で斬り裂くが。
「…………っ!?」
 魔剣に一太刀浴びせたジェーン・ドウの身体が、突然雷に打たれたように硬直。
 硬直は一瞬で解けたものの、瞬たちを一時的に見失ったか視線が空を泳ぎ始め、麻痺毒を叩き込まれたかのように身体が重くなり、魔剣を握る握力すら弱まり、得物を取り落としてしまう。
 ――麻痺と目潰しで行動を制約する瞬の結界術が、魔剣を通しジェーン・ドウに施されたのだ。
「満ち欠けする月は、場合によっては呪いを齎すんですよ」
 麻痺毒で動けぬジェーン・ドウに対し、瞬が何気ない呟きとともに投げた石礫は、ジェーン・ドウの額に命中。
 それは痛みはさほどないが、傷痕とともに月蝕の呪いを額に刻み込む。
「まじないや呪いなど、私に……!」
 効かない、と口にしようとしたジェーン・ドウの後頭部を、突然石つぶてが直撃。
 咄嗟に後ろに振り向いたジェーン・ドウの視線の先には、なぜか誰もいない。
 するど、誰もいないはずの眼前から、今度は枯れた草が顔面に吹き付けられ、視界を妨げる。
「くっ……これは何?」
 瞬が施した月蝕の呪いは、どこからともなく飛んでくる飛来物をジェーン・ドウの頭に吸い寄せ、気力と集中力を奪い続ける。もちろん、先ほどの石つぶても枯草も、呪いが引き寄せたものだ。
 だが、その間にジェーン・ドウを護っていた吸血鬼の幻霊が、瞬が施した麻痺毒を緩和していた。
 握力が戻り、魔剣を拾い上げ手にしたジェーン・ドウは、徹底的に動きを制約し続けている瞬に不可視の斬撃を放つ。
 吸血鬼の幻霊が輝く間、不可視かつ遮蔽を透過する斬撃は、その手数と軌道の見切りの難しさから、割り込んだ奏も全てを受け切ることはできない。
「瞬兄さん!」
「奏、大丈夫ですから!」
 奏が受け切れなかった、もしくは奏をすり抜けた斬撃を、瞬は纏う銀のオーラのわずかな動きから軌道を見切り、避けようとする。
 だが、手数の多さに、瞬や奏の服や手足に、少しずつ切り傷が蓄積していった。

 ――吸血鬼たる主に「最強の奴隷」として創造された私は、主の命に背いて命を落とした。
 ――しかし、主の命に背いた未練があったのか、骸の海から蘇った。
 ――だから、私は望んだ。
 ――私を殺してくれる英雄を、私を止めてくれる名を持つ人々を。

「貴女にも事情があれども、こちらにも譲れないものがあるのです」
 ジェーン・ドウの動きを少しでも鈍らせるため、瞬は徹底的に行動を制約するための結界を再構築しつつ、誘導弾で牽制を続ける。
 月蝕の呪いの効果で何処からともなく石つぶてや枝が飛来し、ジェーン・ドウの動きを妨げるが、彼女も慣れたのか、魔剣で真正面から飛来する石や枝を叩き落としながら、不可視の斬撃で奏の護りを崩そうとする。
 だが、何度も見れば目が慣れるのは、奏も同じ。
 不可視の斬撃の軌道を、奏も少しずつ予測し、エレメンタル・シールドで受け流し、逸らすようになっていた。
 双方決定打に欠ける状態だが、焦りが濃いのはジェーン・ドウのほう。
「ああ、コッペリア様、私は……」
 諦めがちに嘆いたその時、ジェーン・ドウの目の前に立ったのは……吸血鬼の霊。
 ――無意識に呼び出した『傀儡卿』コッペリアの霊。
「コッペリア様……!!」
 ジェーン・ドウの感嘆の声に共鳴した霊が力を与えたか、魔剣が妖しく輝き始める。
 その輝きを至近距離で見てしまったのは……奏。
 不可視の斬撃をジェーン・ドウにできるだけ撃たせないようにするため、危険を承知で接近していたのだが、至近距離で魔剣を受け止め続けている以上、魔剣の輝きは嫌でも目に入ってしまう。
 魅惑的な輝きに吸い寄せられた奏の瞳から、己が役割を定義づけていた自制心と理性の光が薄れ始める。
(「あ……」)
 目を逸らすより先に理性と自制心を魔剣に喰らわれ、ジェーン・ドウへの独占欲と執着を植え付けられた奏は、瞬の護りよりジェーン・ドウへの執着を優先し、エレメンタル・シールドを地面に投げ捨てる。
 投げ捨てられたシールドは、重く鈍い音を立てて地面に落下した。
「さあ、いらっしゃい?」
「ああ……あなたは私が、私がこの手で!!」
 ジェーン・ドウへの執着心に囚われた奏が、重い盾で常に敵の攻撃を受け止められるだけの膂力でジェーン・ドウに直接殴りかかろうとした、その時。
「とっておきの一撃だ!! 存分に味わいな!!」
 ジェーン・ドウの背後から突然浴びせられかけたのは……響の怒声。
「――――!!」
 目の前の奏に対する執着に囚われかけていたジェーン・ドウが、迫る灼熱と殺気を察して振りむこうとするが。
 ――ドンッ!!
 それよりはるかに早く、ジェーン・ドウの背から拳が穿たれ、腹から灼熱の拳がその姿を現した。

 ――私は、名もなき者。名を与えられなかった者。
 ――ジェーン・ドウ……名もなき女性としてしか、皆の記憶に残らない者。
 ――だから私は、手懐けた飛蝗にヒトが生きる砦を襲わせた。
 ――そうすれば、英雄が私を殺しに来てくれるだろうから。
 ――名を持たない私でも、ヒトの記憶に存在を刻み付けることはできるから。

「あああああああ!!」
 灼熱の拳で穴を開けられ、灼熱の炎で直接体内を炙られたジェーン・ドウが、激痛に耐え兼ねて魔剣を落とし、悶える。
 取り落とされた魔剣からは妖しい光が消え、奏の瞳に理性が戻った。
 響が灼熱の拳を胴から引き抜くと、体勢を立て直すより先に渾身の足払いをかけ、ジェーン・ドウの体勢を一気に崩した。
 本当は背後から忍び寄り、足払いで体勢を崩してから灼熱の拳で穴をあけるつもりだったのだが、奏が魔剣の光に囚われたのを見て方針を変えていた。
「くっ……!」
「奏!」
 前につんのめりながらもかろうじて転倒を免れたジェーン・ドウに、響の一喝で完全に理性を取り戻した奏の拳が迫る。
「悪行の報い、受けて貰いましょうか!」
 ジェーン・ドウへの執着ではなく、奏の純粋な怒りそのものが握りこまれた拳が、1発、2発と頬に叩き込まれ、さらに気力を削いでゆく。
「手前の事情を押し付けているんじゃないよ!!」
 さらに響の灼熱の拳が、追撃の如く肩に叩き込まれ。
「押し付けているのは……お互い様、でしょう!」
 それでも、ジェーン・ドウは全身を苛む激痛をこらえつつ、魔剣を拾って当てずっぽうに斬り上げる。
 我武者羅な斬り上げを寸前で見切った響は、バックステップでいったん後退したが、容赦のない真宮家の攻撃を糾弾するかのように、不可視の斬撃が響に何度も何度も浴びせられる。
 響も残像を囮にしながら斬撃の軌道を見切るが、全ては躱せない。
 ――これ以上長引かせたら、3人がかりでも持たない。
 そう判断した響は、再度拳を灼熱化し、身体を前に倒しながら駆け出す。
「アンタの事情は知らないと言った!」
 斬撃に被弾せぬように一気に駆け抜けた響は、至近距離から灼熱の拳で胴を殴り、蹴りで追撃。
「ぐあ………っ!」
 蹴られた勢いで、ジェーン・ドウの肢体が虚空に舞い上がった。
「人々の営みを脅かす輩は放ってはおけません!」
「英雄を求めるのは骸の海でどうぞ」
 虚空を泳ぐジェーン・ドウに、間髪入れず奏と瞬が衝撃波と誘導弾で追撃、地に叩き落とし。
 そして、立ち上がろうとしたジェーン・ドウに、三度響の灼熱の拳が迫った。

 ――ドゴッ!!

 既に致命傷に近い傷を受けているジェーン・ドウに、その拳を躱すだけの余力は残されておらず。
 腹ではなく胸を撃ち抜いた灼熱の拳は、響の怒りとともに、一気にジェーン・ドウの心の臓を焼き尽くした。
「あ、ああ……コッペリア様……」
 それが致命傷となったか、ジェーン・ドウの身体から一気に力が抜け、項垂れる。
「私の望みは……叶えられませんでした……」
 そして、彼女の身体は胸から上がった炎に巻かれて一気に燃え尽き、灰となって地に落ちた。

 こうして、奴隷ゆえに名を与えられなかった女性オブリビオン「ジェーン・ドウ」は、己が望みを完全に叶えられることなく、ヴェリーナ砦の広場で果てた。
 ――それは、ヴェリーナ砦がオブリビオンの脅威から救われたことを、意味していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『冬支度』

POW   :    家を改築しよう。

SPD   :    食料を手に入れよう。

WIZ   :    冬季の計画を立てよう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●冬の足音はすぐ近くまで来たりて
 人類砦「ヴェリーナ」は、オブリビオンの飛蝗と剣士の脅威から解放された。
 地下に避難していた住民たちは、オブリビオンの脅威を排除してくれた猟兵達に手厚い礼を述べ、しばらくこの砦で休むよう計らってくれた。

 だが、解放された喜びもつかの間。
『闇の救済者』や砦の住人達は、総出である作業に取り掛かった。

 ――ヒュゥゥゥゥ……。

 突如砦に吹き込んだ一筋の寒風は、冬の到来の合図。
 短い夏は過ぎ、既に冬の足音が忍び寄っている今、冬を越すための支度は急を要していた。

 先ほどの戦いで石壁の一部が破損したが、これは住民たちが補修してくれるだろう。
 広場や畑も一部荒れてしまったが、土を耕し直し、固く踏みしめれば、あっという間に元通りになるはずだ。

 そのほかにも、冬ごもりのための塩漬け肉や保存食の仕込みも必要そうだ。
 もし肉や木の実が足りなければ、砦の外に採集や狩猟に出かけても良いだろう。
 大雪に見舞われても家屋が耐えきれるよう、家屋の補修も必要かもしれない。
 オブリビオンの襲撃に備え、石壁や柵を強化すれば、『闇の救済者』達にも喜ばれるかもしれない。

 ――なんせ、冬を越すための準備は、住民総出の作業なのだから。

 猟兵達にも、ライナにも、『闇の救済者』たちにも、思うところはあるだろう。
 少し意見交流をするのも良いだろうし、『闇の救済者』たちの訓練に付き合うのもひとつかもしれない。

 猟兵達はつかの間の休息を兼ね、ヴェリーナ砦で思い思いの時間を過ごすことにした。

※マスターより補足
 第3章は、ヴェリーナ砦の冬支度のお手伝いをお願い致します。
 POW/SPD/WIZは一例ですので、ご自由にプレイングをおかけくださいませ。

 なお、ライナや『闇の救済者』たちとの会話も可能です。
 もし会話をご希望でしたら、プレイングでご指名くださいませ。
(第1章と異なり、希望が被っても問題ございません)

 また、グリモア猟兵藤崎・美雪も砦におります。
 もしご用がございましたら、プレイングでご指名お願い致します。

 それでは、人類砦で思い思いのひと時を。
メフィス・フェイスレス
バップロー狩りや木の実の採取をしながら情報を交わす

…寒い
他の世界の気候を知ると、尚更此処は寒々しいわ
陽光がなければ作物も育たない 獣も肉付きが悪いしで
本当、人には生きづらい世界よね
今度他の世界の作物とか土産に持ってくるわね

今回の土産は……これくらいしかないわね(UC)
作れるだけ作っておいていくから
そんな微妙そうな顔しないでよ、別に危ないモンじゃないから

あと地底の事は聞いてる?
出来ればそこから逃げてきた人も受け入れてあげて

作物を持ってくるって言ったけど
その種も持ってくるわ 今後のためにね
…状況は間違いなく、私達にとって良い方向に進んでるから
この世界にも陽は昇る もうすぐよ 希望を持ち続けて



●希望の種を芽吹かせるために
 冬が近いヴェリーナ砦にとって、食糧の確保は急を要する大切な作業。
 メフィス・フェイスレスは、狩りや採集のために砦の外に出る住人らの護衛を兼ね、付き添っていた。

 ――ぴゅぅぅぅぅぅ……。

 薄闇に覆われているこの世界では、寒風が差し込むだけで一気に気温が下がる。
「他の世界の気候を知ると、尚更ここは寒々しいわ」
『反旗を纏う』を確りと着込みながら、メフィスは軽くため息をついた。
 アリスラビリンスやグリードオーシャン等、メフィスが見聞してきた陽光眩しい他の世界と比べると、この世界はどうしても陽の光がない分、寒々しい印象。
 植物も育ちづらいのか、砦の周囲に広がる草原も草丈は低く、生育は決して良いとは言えない。
 先程、バップローを数頭、住民たちと協力して仕留めたのだが、いずれも肉づきはあまり良くなかった。
「本当、人には生きづらい世界よね」
 オブリビオンでない人や生き物にとって、決してやさしいとは言えないこの世界。
 ――それでも、圧政に抗い、生き抜いている人々もいるから。
「今度、他の世界の作物とか土産に持ってくるわね」
 そのメフィスの言に、砦の住人達は期待の眼差しを向けていた。

 狩ったバップローを砦まで持ち帰れるよう、木の棒にくくりつけ。
 メフィスと狩りに従事した住民たちは、木の実の採集に出かけた住民たちが戻ってくるまでの間、小休止も兼ねて草原に座り込む。
「今回の土産は……これくらいしかないわね」
 メフィスが振舞ったのは、タール状の『飢渇を喘ぐ』の生命力を凝縮し、饅頭にしたもの。
 一口サイズの漆黒の饅頭に小さな瞳のような飾りがあしらわれているのを見た住民たちが、思わず微妙な表情を浮かべるが。
「別に危ないモンじゃないから」
 敵意さえ持たなければ危なくないわよ、とぱくりと食らいつくメフィスに釣られるように、住民たちは恐る恐る手を伸ばしていた。
 ちなみにメフィスは、砦に戻ってからも同じ饅頭を作れるだけ作り、置いていったことを付け加えておこう。

 やがて、木の実を採集していた住人たちが、木の実を詰め込んだ袋を片手に戻ってきて。
 メフィスは戻ってきた住人にも饅頭を振舞い、情報交換を行う。
「地底の事は聞いている?」
「地底……この土の下?」
 地面を指し示す男性に、そうよ、と頷くメフィス。
『闇の救済者』や猟兵らの活動が実を結び、少しずつ反抗の機運は高まっているとはいえ、まだまだ圧政に虐げられている民衆も数多い。
 ――地上の存在を知らない地下都市の住民たちなら、なおさらだ。
 メフィスはつい先日、祖先の罪を償うために地下都市で長年祈り続けていた民衆たちを、他の猟兵と協力してアクアマリンと言う名の人類砦へと誘い、受け入れてもらっている。
 ヴェリーナ砦も、既に数名程他の村から逃れてきた避難者を受け入れてはいるが、今後は地下都市からの避難者の受け入れを打診されるかもしれない。
「出来れば、そこから逃げてきた人も受け入れてあげて」
「わかった、可能な限り善処するよう、クレイたちに伝えておく」
 頷く壮年の男性に、メフィスは内心胸をなでおろしていた。

 ああそうそう、とさらに付け加えるメフィス。
「作物を持ってくるって言ったけど、その種も持ってくるわ」
 今後のためにね、とそつなく付け加えられたその一言に希望を見出した住人たちが、少しだけ目を輝かせた。
 今はまだ、薄闇に覆われ、陽の光を拝むことは叶わない。
 しかし、降り止まない雨はないように。
 ――陽光を遮る薄闇も、いつかは晴れる日が来るはず。
 だから、メフィスが今度持ってくる作物の種は、ヴェリーナ砦の命を繋ぐ種であると同時に、陽の光を呼び込むための道標にもなり得る。
「状況は間違いなく、私たちにとって良い方向に進んでるから」

 ――いつか、この世界にも陽は昇るから。

「もうすぐよ、希望を持ち続けて」
 やや粗野な声音に希望を含めながら、メフィスは吸血鬼に反抗の狼煙を上げた住民らに呼び掛ける。
 住人達には、メフィスの金の瞳が、まだ見たことのない太陽に見えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

まあ、秋でも結構風は冷たいしね。しっかりと砦で冬を過ごすのもいいだろう。この世界の希望でもある砦だ。皆が何事もなく過ごせるように手を貸すよ。

飛蝗の被害もあって畑も大分荒れてるだろう。冬越しをしっかりすれば畑はいずれ種を撒けるようになる。こうみても力仕事は得意だ。人が生きて行くのには豊かな実りは必須だ。心を込めて耕し直し、しっかりと足で固く踏みしめる。砦の皆の美味しい食事の為に。ひと頑張りするか。


真宮・奏
【真宮家】で参加

これで砦の脅威は無くなりましたね!!でも砦が所々壊れてしまってますね・・・このままでは冷たい風が入ってきたり、雪で潰れてしまうので無事に冬を越せるようにばっちり補修しましょう!!

はりきって壁を直したり、屋根を修復したり・・・私になんでもいってください!!この砦の補修をする事は砦の皆様の生活を護る事に繋がりますから!!あちこち走り回って働きますよ~!!壁の補強もして置きます!!

ああ、人の為に働くのがこんなに楽しいとは!!思いがけない発見ですね。


神城・瞬
【真宮家】で参加

随分手間が掛りましたが。脅威は去りました。ただでさえ人類が生きてくのに苦労するこの世界で、厳しい冬を乗り切る為の万全の準備は必要でしょうね。僕も、お手伝いします。

僕は食糧の準備を手伝いますかね。野外生活が長いのでこういう作業は得意です。せっせと塩漬け肉を仕込んだり、保存食を作ったり、積極的に働きます。ええ、何でもお手伝いしますよ。大変な所での生活は僕にも覚えがありますので、皆様が無事に生活できるように、少しでも手助けがしたいのです。



●長い長い冬を越すために
 狩りのために外に出る猟兵もいれば、あえて砦の中に残る猟兵もいる。
【真宮家】の3人は、あえて砦の中に残ることを選んでいた。
「まあ、秋でも結構風は冷たいしね。しっかりと砦で冬を過ごすのもいいだろう」
 真宮・響が砦に吹き込む寒風に軽く身を震わせ、神城・瞬がそれを横目に同意するように頷く。
「ただでさえ人類が生きていくのに苦労するこの世界ですから、厳しい冬を乗り切る為の万全の準備は必要でしょう」
 手間はかかったが、ヒトや土地を食い荒らす脅威は、猟兵の尽力により去った。
 しかし、脅威を取り除いたとしても、手抜かりなく冬支度をすませなければ、砦の住人が軒並み飢えかねない。
 一方、真宮・奏は凹んでいる石壁や荒らされた畑、部分的に吹き飛んだ屋根などを重点的に確認し、大きく溜息をつく。
「砦が所々壊れてしまっていますね……」
 飛蝗の大群に食い荒らされなかったとはいえ、猟兵とジェーン・ドウとの戦いで、砦内の建物には多少の被害が生じている。
 このままでは家屋の隙間から冷たい風が入ってきたり、降り積もる雪で潰れるかもしれない。たとえ簡単に終わらせられるとしても、家屋や石壁の補修は急を要する作業だ。
「無事に冬を越せるようにばっちり補修しましょう!」
「ああ、この世界の希望でもある砦だ。皆が何事もなく過ごせるように手を貸すよ」
 希望を潰えさせぬために、響と奏、瞬は頷き合って砦内に散開した。

●冬こそ次なる実りへの下地慣らし
 響が鍬を片手に向かったのは、畑。
 おそらく、つい最近まで実りの秋の象徴だったと思われる畑は、ジェーン・ドウと共に侵入した飛蝗に土を食い荒らされ、さらに激しい戦闘で徹底的に踏み荒らされていた。
「ああ、畑が……」
 派手に踏み荒らされ、土を掘り返された挙句、まき散らされた畑を見た住人らは、明らかに落胆し、肩を落としていた。
 土から苦労して作り上げ、今年の出来を見て来年以降の収穫も望める、会心の出来の畑となったはずだったのに、戦闘で徹底的に荒らされたとしたら、来年以降も作物は育ってくれるのだろうか。
「せっかく土も作物も育てて来たのに……」
 これではもう、おしまいだと落胆する住人たち。
 しかし、響は決して悲嘆せず、むしろ笑顔すら浮かべていた。
「なあに、冬越しをしっかりすれば、畑はいずれ種を蒔けるようになるさ」
 そのための土づくりも手伝うよ、と意気込む響は、遠目で見物していた子供たちに頼んで砦の外の草を集めてきてもらいつつ、鍬を片手に畑に入る。
 そして、おもむろに土に鍬を振るい、耕し始めた。
「こう見えても力仕事は得意だ……よ!」
 驚く住民らをよそに、響は畑の外に散らばった土も集めて畑に戻しながら、鍬で土に空気を含ませながらほぐし、起こしてゆく。
「おねーさん、草持ってきたよー」
「お、ありがとう。いい子達だ」
 子供たちが集めてきた草は、肥料の代わりとして土に混ぜ、ひと冬かけてしっかりと土づくりができるように計らって。
 最後にもう1度心を込めて土を耕し、土への敬意をこめてしっかりと足で固く踏みしめる。
 ただ無暗に、荒らす悪意を持って踏みしめるのではなく。
 次の年に豊かな土となり、新たな作物に命を与えてほしいとの願いを込めて、踏みしめる。
 ただ一人、黙々と鍬を振るい続ける響に、真意を測りかねた住人らがようやく声をかける。
「あんた、なぜここまで……」
 響も彼らの心を汲み取りつつ、あえて続きの言葉を遮る。
「人が生きていくのには、豊かな実りは必須だからさ」

 ――食が、作物が繋ぐのは、人のいのちだけではないのだから。

「さ、砦の皆の美味しい食事のために、もうひと頑張りするか」
 最後のひと仕上げ、とばかりに鍬を振るう響の姿に、住人たちは少しずつ畑の未来と希望が取り戻されていく気がしていた。

●冬の訪れを前に手直しを
 砦内の被害を具に確認していた奏は、力自慢の男性たちとともに、家屋や壁の修繕に走り回っていた。

 砦の修繕のためには重い資材を持ち運ばなければならないのだが、若い男性ならともかく、壮年や老年の男性にとっては厳しい作業。
 だからこそ、奏は厳しい作業を率先して引き受けていた。
「私が運びますよ!」
 明るく声をかけると同時に、男性が2人がかりで持ち上げられるような重い木板をひとりで軽々と持ち上げる奏に、男性たちが思わず目を丸くする。
「お嬢ちゃん、大丈夫か!?」
「大丈夫です!」
 本気で心配する男性たちをよそに、奏は笑顔のまま次々と木板や角材を運んでゆく。
 そもそも、これはこれでいい鍛錬になるし、それに……。
「この砦の補修をする事は、砦の皆様の生活を護ることに繋がりますから!!」
 ……奏にとっては、得意とする「護り」のバリエーションを増やすことにつながるから。

 あらかじめ損害を確認していた奏の動きは、その後も素早い。
 砦の北で家屋の壁の修繕を頼まれれば、金槌片手にすぐに向かい、重い板を打ちつけ。
 東側で石壁の修繕を頼まれれば、崩さないように石を積み上げて穴を埋めつつ、角材でさらに補強を図り。
 西側で屋根の修復を頼まれたら、率先して屋根に昇り、木板で屋根をならし。
 南側に新たな柵を置くと聞けば、張り切って組み立てて設置して。

 砦じゅうを走り回り、修繕をこなす奏の姿に、子供たちのために衣服を縫っていた老婆たちは、孫を見るかのように目を細めている。
「良く働くお嬢ちゃんだの……」
「力持ちで頼りがいがあるわい」
 できればずっとこの砦にいてほしいのぅ、と内心思う老婆もいたが、あえて口には出さない。

 ――奏たち猟兵を引き留めておくわけには、いかないのだから。

 砦の修繕と補強を終えた奏に向けられるのは、ただただひたすら感謝の言葉。
 奏にとっては、感謝されるだけで嬉しいのだけど、
 それ以上に、自分自身で思いがけない発見をしたことが嬉しかった。
「ああ、人の為に働くのがこんなに楽しいとは!!」
 労働の楽しさを知った奏の胸中に、新たな想いが刻み込まれる。

 ――自分の為ではなく、誰かを護る為に。
 ――戦うのではなく、働くことで誰かを護れる。

 奏は、新たな「護り方」をしっかりと心に、記憶に刻み付けていた。

●冬の楽しみを増やすために
 一方、瞬は保存食の準備をする女性や子供たちに混ざり、下準備をしていた。
 冬になると採集や狩猟もままならなくなるため、砦の十人全員がひと冬越せるだけの保存食を用意する必要があるのだが、30人程度がひと冬越せるだけの食糧となると、どうしても仕込む量が多くなる。
 男性は力仕事に従事しているため、必然的に女性や子供総出の作業となってしまうが、だからこそ瞬は自ら手伝いを名乗り出ていた。
「皆様が無事に生活できるように、少しでも手助けがしたいのです」

 瞬たちが下準備をしていると、ちょうど狩りに出ていた住人たちが戻ってくる。
 彼らが抱えて戻ってきた獲物は、全体的な肉付きがあまり良くないとはいえ、一冬越すための貴重な栄養源であることに変わりはない。
 それでも、狩人たちが手慣れた手つきで獲物を解体し始めるのを、瞬はじっと目を凝らし観察しながら、解体後の作業手順の説明に耳をすます。
 解体された新鮮な肉は、塩と香辛料を擦り込み塩漬け肉に。
 解体後に残った毛皮は、狩人たちが丁寧に水洗いして血と汚れを洗い流し、しっかり乾燥させ防寒具に加工するとか。
 残った骨も、家屋の建材や砦の柵や見張り台の強化素材として、余すところなく再利用。
 人が生きていくには厳しい地だからこそ、使えるものはとにかく使い、極力無駄にはしない。
 その姿勢は今度どこかで見習わなければ……と、瞬は心のメモに書き留めていた。

 やがて、獲物の解体処理が終わり、肉と内臓、毛皮、骨に分別された獲物が並べられる。
 瞬はその中から肉の塊を預かり、塩と香辛料をブレンドして丁寧に肉にすり込み始める。
 この砦には冷蔵庫がないため、保存食には多くの塩を用いて痛みにくくしている。
 しかし、それでは住人の健康も心配だから、できるだけ塩を減らしつつも適切な量を見極め、擦り込んでゆく。
 手慣れた手つきで作業を行う瞬に、いつしか若い女性たちから羨望の目が注がれていた。
 中には、このまま砦にとどまってほしい、という期待の視線も含まれていたが……。
「野外生活が長いので、こういう作業は得意ですから」
 瞬は微笑みながら視線を受け流し、香辛料を擦り込んだ肉を煙で燻し始めた。

 燻製肉が仕上がるのを待つ間、瞬は木の実の加工も手伝う。
 集められた木の実は、種別ごとに丁寧に選り分けられ、そのまま保存できる実は麻の袋に詰め、日持ちしない実は油に漬けて保存したり、すり潰して調味料にしたり。
 瞬も預かった木の実を手慣れた手つきですり潰し、チーズや香辛料を加えて調味料へと加工する。
 その手慣れた手つきを見た、壮年の女性たちが感嘆のため息を漏らす。
「手慣れていますね……」
「大変なところでの生活は、僕にも覚えがありますので」
 瞬は真宮母子と共に3人で世界各地を放浪する傍ら、響から野外生活のノウハウを叩き込まれていた。
 その経験から、食は生活を彩る大切な要素であることを、身を持って痛感している。

 ――苦しい状況を乗り越えるために。
 ――ハレの日を祝うために。
 ――大切な時を迎える前に、気合を入れるために。

 大切な時に口にする食べ物は、大切な時を乗り切るための栄養になると同時に、食という行為そのものを思い出として記憶に刻む。
 長い冬を過ごす間も、食は生活に必要であり、また楽しみのひとつ。
 だからこそ、瞬は願う。

 ――この保存食が、長き冬の間、砦の住人たちの楽しみとなってほしい、と。

 ちなみに、一通り保存食の仕込が済んで一息ついたところで、さらに別の猟兵から追加の木の実と大型の獣を委ねられ、再度瞬も含めて全員で保存食の仕込み作業に追われることになるのだが……それはまた、別の話。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『侵す者』をメインに。

ふむ、冬ごもりで必要になる保存食…その素材が不足しそうだの。
というわけで、外に出て【オルタナティブ・ダブル】。
手数が多い方が良いだろう。手伝ってくれ。
採りすぎないように注意しつつ。
…そうだの、守れてよかった。あやつらは、わしらより若いのだしの。
名前…ああ、そうだの。


第一『疾き者』

そうですねー、冬の厳しさ、身に沁みてますしー。手伝いましょう。
守れてよかったですよねー。
そう、『死が分かつ』には、まだまだ早いんですよねー。
…たくさん名前呼べるといいですよね。

※故郷は内陸部豪雪地帯
『馬県義透』は、『数多に認識させることで、対等な四悪霊を一人として確立する』ための補助術式



●名前を持って存在の証に
 ――少し、時は遡る。

 他の猟兵達が砦内部の修繕と保存食作りに奔走している頃、馬県・義透はひとりで砦の外に足を運んでいた。
「ふむ、冬ごもりで必要になる保存食……その素材が不足しそうだの」
 外に出た義透の現在の人格――『侵す者』は少し考え、徐にもうひとりの自分を呼び出す。
 呼び出したのは、飛蝗を相手にした『疾き者』。
「集めるには手数が多い方が良いだろう。手伝ってくれ」
「そうですねー、冬の厳しさ、身に沁みてますしー」
 手伝いましょう、とのほほんと穏やかな口調で呟く『疾き者』も、内心は急を要すると認識している。
 義透たち『4人』の故郷は、内陸部の豪雪地帯。
 ――冬になると雪に閉ざされ、周囲の生の営みから完全に隔絶される地。
 それゆえに、冬ごもりの準備がいかにヴェリーナ砦の住人にとって切実で重大な問題なのか、身をもって理解している。
 特に食の問題は切実だ。
 貯蔵庫に詰め込めるだけ詰め込んでも、決して過剰すぎとはいえまい。
 
『侵す者』と『疾き者』は、手分けして木の実やキノコなど、食用かつ保存に適した植物を探し、採集して籠に入れる。
 木の実はそのまま保存するも、加工して保存しても良し。
 キノコも乾燥させれば立派に保存食になる上、栄養価も増す。
 採り過ぎて植物そのものが枯渇せぬ様注意しつつ、必要と思われる量を確保しながら、『疾き者』が口を開く。
「守れてよかったですよねー」
「……そうだの、守れてよかった」
 名もなき女性剣士を相手にした『侵す者』は、『疾き者』に相槌を打ちつつ、ちらりとヴェリーナ砦に目をやり、呟く。
「あやつらは、わしらより若いしの」
「そう、『死が分かつ』には、まだまだ早いんですよねー」
 のほほんと呟く『疾き者』の脳裏に過るのは、オブリビオンに故郷を滅ぼされ、戦友たちと離れた時の記憶なのだろうか。
 ――それとも、過去に別れた「誰か」の存在なのだろうか。

 しばし黙々と採集を続けながら、ふたりとも名前について思いを馳せる。
『侵す者』にも『疾き者』にも、生前からの名前がある。『静かなる者』『不動なる者』も、同様だ。
 現在の名『馬県義透』は、その名を、その存在を『名前を通して』数多に認識させることで、立場上対等な四悪霊をひとりの人間として確立するための補助術式。
 ――この名があるからこそ、悪霊と化したかつての戦友同士でひとつの身体を共有し、存在できる。
 だからこそ……名前に対する思い入れ、名を持つこと自体への想いは一段と深いのかもしれない。

『闇の救済者』たちも、過去には大人達から数字で呼ばれ、本来の名を黙殺されていた。
 その意図は最早わからぬが、彼らは自分たちでこっそり本来の名を呼び合う事で、お互いの名前を、個の証を守っていたのは、確か。

 一方、名を与えられず、個の証を立てられなかったジェーン・ドウは、己が仕える主への忠誠と、己が作られた存在意義そのものを存在証明として用いるしかなかった。
 ――彼女の主であろう「コッペリア様」が、生前の彼女を如何に扱っていたかはわからないけど。
 それでも、造られた彼女は……己が忠誠に、己が願いに縋らないと身の証を立てられなかったのかもしれない。

 名を与えられなかった者の行く末を見届けたからこそ、『疾き者』は願う。
「……たくさん名前呼べるといいですよね」
 ……と。
「名前……ああ、そうだの」
『侵す者』は同意するように頷き、砦を守る若い『闇の救済者』たちに末永い未来があらんことを願っていた。

 ――彼らの絆が、直ぐに死で分かたれることがないように、と祈りながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
POWを選択

四つ足の飛竜になりライナさんを狩りへ誘います。

大型の獣を中心に狩りましょう、冬の間に餌を求めて砦に来るかもしれませんし、あとマーキングも少々、竜が潜んでいると知れば大型の獣も魔物も寄り付かないはずです。

あとやるべき事は、目立たない所に簡単なお墓を作ります。
どうかさっきの敵の事を忘れないでほしい、忘れた方がいい事もあるのはわかってる、でも彼女の様な存在がいた事を忘れてしまっては駄目。

抜け落ちた自分の鱗を墓に供えて『貴女は竜騎士を相手に引かなかった勇敢な剣士でした』と言ってからライナさんにも鱗を渡します。

『どうぞお守りにでも、そしてどうか……忘れないで…』

アドリブ歓迎です。



●名もなき剣士の生きた証を刻みこみ
 他の猟兵達が砦内の補修と保存食仕込に駆り出されていた、その頃。
「ライナさん、狩りに行きませんか?」
 サフィリア・ラズワルドは、手持無沙汰にしているライナを誘い、砦の外へ出ていた。

 四つ足の飛竜に変身したサフィリアの背にライナが乗り、空高く舞い上がると、眼下に広がるのは弱々しい光が点在する闇。
「……この世界は、こんなにも暗かったのね」
 空から改めて世界を眺め、改めてこの世界の闇の深さに息を呑む、ライナ。
 地上から見上げても一面薄闇に包まれているこの世界だが、空から見下ろせば地上を包むさらなる深い闇が否応にも認識できる。
 地上に点在している希望の光は、まだ弱々しく、儚い。
 ヴェリーナ砦から発せられる希望の光も、まだまだ道標としては弱々しいけど。
 希望の光の数が増え、輝きが強くなれば、この常闇の世界に光を取り戻すための道標になるかもしれない。

 冬は雪に閉ざされるとはいえ、雪をものともしない大型の獣が砦を襲うかもしれない。
 そう考えたサフィリアは、ライナとともに空から大型の獣を探し、見つけ次第狩る。
 食用に耐えうる獲物は、後々砦に持ち帰り、塩漬け肉などに加工されることになるのだが、それは後の話。
 さらにサフィリアは、砦から視認でき、かつ近づいても目印として認識できそうな大木や河川の畔を探し、マーキングを行う。
『竜が潜んでいると知れば、大型の獣も魔物も寄り付かないはずよ』
「助かるわ。ありがとう。」
 吸血鬼には恐らく効果はないが、餌を求めて彷徨う獣や魔物には幾分か効果が見込めるはず。砦の安全はさらに確保されたと言えるだろう。

 砦に戻ったサフィリアは、ライナに砦内で最も目立たない、食糧庫の裏手へと案内してもらう。
「サフィリア、ここで何を?」
 意図を測り兼ねたライナがサフィリアに尋ねた。
「ここにね、簡単なお墓を作るの」
「誰の?」
「……名もなき剣士の墓」
「――――!!」
 ライナが息を呑むのを横目に、サフィリアは土を盛り、木の墓標を立てて簡単な墓を作り始める。
 然程時間もかからず完成した墓を背に、サフィリアはライナに向き直る。
「ライナ、お願いがあるの」
「何かしら?」
「どうか、さっきの敵の事を忘れないでほしい」
「敵の……ことを?」
 敵は敵、そう認識しているライナは首を傾げるが。
 猟兵として数多くのオブリビオンを見てきたサフィリアは、首を横に振る。
「忘れたほうがいいこともあるのはわかってる、でも……」
「でも?」
「彼女のような存在がいた事を忘れてしまっては、駄目」
「彼女……」

 ――名を持たぬ故に、英雄に討ち取られることを望み。
 ――名を奪われた故に、存在そのものの証を残すことを望んだ、オブリビオン。

 剣士が求めた証はかつての主に向けたものではあるが、彼女が生きた証は砦にいた者が見届けている。
 彼女の願いこそ叶わなかったけれど、彼女が願った記憶は皆に残る。

 ――名もなき者であっても、生きた証は確かに残る。

 だからこそ、英雄に討ち取られ、英雄に生きた証を伝えてもらうことを望んだ彼女――ジェーン・ドウのような存在を忘れてはならぬ。
 サフィリアはその想いを込めながら、抜け落ちた銀の鱗を墓の前に備え、祈る。
「貴女は、竜騎士を相手に引かなかった勇敢な剣士でした」
 敵である名もなき剣士のために、墓碑に刻む代わりに言の葉を捧げる、サフィリア。
 祈った後、サフィリアは同じような輝きを持つ鱗を、ライナにも手渡す。
「どうぞお守りにでも、そして――」

 ――どうか……忘れないで……。

 その願いの言の葉は、消えるように虚空に溶け込むが、ライナの耳には確かに届いていた。
「サフィリア……」
 呆然と呟くライナの脳裏に過ったのは、アリスラビリンスで幸福な幻影に囚われかけた時に、彼女からかけられた言葉。

 ――私はいつかこの姿から戻れなくなる。
 ――その時に記憶が残るのか理性がなくなるのかわからない。

 いつか、『サフィリア・ラズワルド』という猟兵の自我はなくなり、完全な竜になってしまうのかもしれないけど。
 それでも、生きた証たる鱗と絆を深めたライナがいれば、サフィリアという猟兵がいた証は確かに残る。

「ええ、忘れないわ」
 強く頷いたライナは、サフィリアから受け取った鱗をぎゅっと握り締める。
 絆を深め、生きた証を心に刻んだふたりを、薄闇に包まれた空は静かに見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月12日


挿絵イラスト