永劫回帰のその果てに(作者 長野聖夜
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「『時よ止まれ、お前は美しい』、ね……その言葉で心の動きが止まって世界が滅びる人のを見逃すことはできないな」
 グリモアベースの片隅で、とある世界が崩れ落ちていくその様を目にしながら。
 北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が静かに溜息を一つ。
 ふと、気配を感じて顔をあげ、周囲を見れば猟兵達。
 その猟兵達の姿を認めるや否や、優希斗は皆、と何処か疲れた様な表情で猟兵達に呼びかけた。
「カクリヨファンタズムで、新しい事件が予知されたよ」
 そこまで告げたところで、息を吐く優希斗。
 何処か自嘲じみているそこに含まれているその意味に気がつける者が、果たしてどれだけいるのであろうか。
「妖怪の寿命、と言うのは定命の者が推し量るにはあまりあるほど長い。故に彼女達は、時偶『骸魂』と化した既に喪われた同胞達の魂と永い時を経て出会うことがある」
 そしてそれに出会い、その骸魂達と同化した結果、永遠の過去の存在……オブリビオンと化してしまう。
「だから今回はその出会いに満足して骸魂と一体化し、オブリビオンと化してしまった竜型妖怪と対峙し、幾星霜を越えて出会った骸魂とその竜を引き裂き世界の崩壊を食い止める必要がある。残酷な話ではあるが、そうしなければより多くの者達の不幸を招いてしまうからね。つまり、止める必要があるのではなく、止めなければならない、と言う方が適切だろう」
 沈痛な表情で呟きながら軽く優希斗が頭を振る。
「それで、今回その骸魂と出会う妖怪は名を蛍火、と言うらしい」
 一方、美しき白竜を模した姿をした彼女が出会う骸魂は、清貧を旨とする人々を優しく見守り、その力を貸し与えていた妖怪の成れの果て。
 当時彼女は力弱き者の味方になることを望んだその妖怪の彼に幸運の祝福を捧げたが、不幸な事故が重なり、彼は滅んでしまった。
「或いは飢餓に敗れて存在できなくなったのかもしれないが……真相は定かではない。俺に分かっているのは、蛍火にとって大切だった彼が無念や後悔を抱いたまま消滅した、と言う事実だけだ」
 そしてそれを抱いたままに彼は骸魂と化し、それから蛍火と永き時を経て巡りあい、一つになった。
「だから、蛍火の前に辿り着く前に皆の前に現れる世界は、彼女と彼の心象風景を合わせた世界でもある。なにも抵抗しなければ、その優しく暖かい世界の中に飲まれてしまうだろう」
 ただ……逆に言えばその場を乗りきり、彼女達と出会った時。
 彼女達の思いを其々に受け止め、何らかの答えを出してやれば、蛍火から骸魂と化した彼を切り離すこともできよう。
「つまりところ彼女達と皆が対峙する時、そこに辿り着くまでの過程を活かし、蛍火と骸魂の彼を切り離すためのある種の禅問答が必要になる。どうするかは皆に任せるが、この世界が滅びるのをみすみす見逃すわけにはいかないんだ。だから皆……どうか宜しく頼む」
 優希斗の言葉と共に放たれた蒼穹の光に包まれて。
 猟兵達は、グリモアベースを後にした。


長野聖夜
 ーー懐旧と邂逅の果てにあるは、永久なる終焉か。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 と言うわけでカクリヨファンタズムのシナリオをお送りします。
 皆様のプレイング次第ですが、恐らく心情よりになるかと思います。
 以下、簡単な登場妖怪の捕捉です。
 1、蛍火。
 竜型の妖怪で、幸福を司る妖怪です。ある力の弱い妖怪を影ながら支援していましたが、様々な事情が重なり彼は消滅してしまいました。
 その後、彼の喪失を後悔と共に胸に抱きカクリヨに存在しておりましたが、最近になって彼の骸魂と出会って一体化しております。
 救出は可能です。

 2、少年妖怪。
 名前は不明ですが、あまり力の無い妖怪でしたが、それでも人々に救いの手を差しのべ続けていましたが、様々な事情が重なり無念と後悔を抱いて死亡、その後カクリヨに辿り着けず永き時を経て骸魂と化して蛍火と再会しました。
 彼が蛍火にどの様な感情を抱いていたのか、何が原因で消滅したのかの詳細は不明ですが探るヒントはOPにあります。

 第1章のプレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
 プレイング受付期間:9月3日(木)8時31分~9月5日(土)9時頃迄。
 リプレイ執筆期間:9月6日(日)~9月7日(月)一杯迄。
 第2章以降は随時ご連絡致します。
 変更がありましたらマスターページにて告知致しますので、其方をご参照ください。

 ーーそれでは、良き救済を。
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第1章 冒険 『昏い参詣道』

POWただ心を強く持って進む。
SPD惑わされる前に突破すればいい、急いで駆け抜ける。
WIZ耳を塞いで進む。
👑7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


ウィリアム・バークリー
カクリヨファンタズムにもこんなところが。サクラミラージュと見間違えました。

「優しさ」と「祈り」をもって、「礼儀作法」を過たぬようにしながら、オブリビオンの元へ向かいましょう。

思い人とせっかく一つになれたのに、引き剥がし討滅しようとするぼくたちは、彼らから見れば悪逆の徒に見えるかもしれませんね。
でも、このカクリヨファンタズムは脆い世界。オブリビオンの一体でも容易にカタストロフが起こってしまう。
それなら、『悪』の称号を甘んじて引き受けましょう。そうして世界が救えるのなら、名誉なんてどうでもいいです。

そろそろ桜並木を抜けますか? オブリビオンの居場所に近づいてる?
『スプラッシュ』抜刀。戦闘用意――。


鈴木・志乃
UC発動
いってらっしゃい。しっかり集めて来るんだよ。
後悔や無念だけじゃない、二人の間にあったはずの気持ちと、心地よさで失いそうな私自身の気持ちを。
(【第六感】の【失せ物探し】で失われた残留思念と【手をつなぐ】)

彼らの間に何があったかなんて私は知らない。もしかしたら彼ら自身も、ちゃんとは憶えていないのかもしれない。それでも、どうにも私には一体化が、彼らにとって最善の道とは思えない。

清貧を尊しとし、周囲を助けていた二人が、周囲を滅ぼす存在になることを心の底から望むはずがないよね。だったら、一時の感情に任せて後で本当に後悔しないよう、引き留めるのが猟兵の役目じゃないのかい。

何があったか見せて、鳥達。


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

永遠を願った言葉が
そのまま世界崩壊の引き金となるとは
やりきれぬ話だ

骸魂と蛍火を切り離すのは酷なこと
だが切り離さねば世界が滅びる
できるだけ納得していただいた上で切り離したいが…さて

私達の前に待ち受ける世界は
如何なる心象に満ちたものかな
優しく温かい世界だと、幸福、恋慕、愛情あたりか?

呑まれるわけにはいかんが
否定したくもない
指定UCで召喚した影のもふもふさんたちに蛍火と骸魂の居場所を探らせ
「世界知識、学習力」で心象風景から出来る限りの情報を読み取り
呑まれぬとの覚悟をもって進もう

しかしなぜ蛍火の支援が報われなかったのだろう?
…実は持つ力そのものが相容れなかったのかもしれない


森宮・陽太
【POW】
アドリブ連携大歓迎

いくら毎日カタストロフの危機に見舞われるこの世界とは言え
これは…とびきりタチの悪い状況だな、おい
世界そのものが大切な想いを持つ者同士を引き裂くってか?
相変わらずこの世界は謎が多すぎるぜ

蛍火と少年は相思相愛だったのか?
蛍火の一方的な恋慕の気配もするが
心象風景からそれを見極めたい
あとは少年が滅んだ原因も探りてえ
蛍火の幸運の祝福を打ち消す程の不幸な事故の連鎖はなぜ起こった?
…少年自身に原因があるのか?

蛍火と骸玉、双方同意の上で切り離したいぜ
だが万が一、無理やり切り離す必要が生じたら
その時は俺がやる

今は手を下す覚悟を持って
この世界に呑まれないように心を強く持ち、進むだけだ


文月・統哉
参詣道を進みながら
【読心術】で心象風景を【見切り、情報収集】
蛍火と少年…
彼らはどんな出会いをして
どんな別れをしたのだろう
彼らの過去を、互いに魅かれた訳を
抱えた無念と後悔を、そして願いを見極める

彼は何故消滅したのか
全ての鍵はきっとそこに
そっと目を閉じて事件の本質を整理する

永き時を経て巡り合う
後悔を抱える彼らにとってそれはきっと大きな救いであるに違いない
それでもやっぱり
彼らが世界の崩壊を望んでいるとは思えなくて
優しく温かなこの世界が彼らの心というのなら
再び深い悲しみと後悔を抱えてしまうその前に
俺達で力になれたらと思う

世界だけでなく彼らも救いたいのだと
心を改めて強くして参詣道を抜けるよ

※アドリブ歓迎


「カクリヨファンタズムにも、こんな世界があるとは思いませんでした」
 周囲の、調えられた桜並木の列に覆われた参詣道をぐるりと見回しながら。
 ウィリアム・バークリーが何とはなしに呟くと、成程確かに、と森宮・陽太が軽く頷き返していた。
(「幾ら毎日カタストロフの危機に見舞われるこの世界とは言え、これは……とびきりタチの悪い状況だな、おい」)
 そんな事を、思いながら。
「と、言うか世界そのものが大切な想いを持つ者同士を引き裂くって……相変わらずこの世界は謎が多すぎるな」
 そう呻く様に軽く舌打ちをする陽太もまた、桜の花々からまるで漂ってくるかの様な優しく何処か甘い匂いに、軽くその鼻腔を擽られる。
 それが今の自分の故郷でもあるサクラミラージュの光景と重なり、その胸中に郷愁と深い充足感を与え、ともすればそのままその中で眠りに落ちていきたくそうになるのを、軽く唇を噛み締めて耐えていた。
「それにしても、永遠を願った言葉がそのまま世界崩壊の引金となるとは……どうにもやりきれぬ話だな」
 軽く頭を横に振りながら溜息を吐いた藤崎・美雪の、その、何気ない呟きに。
「……そうですね」
 鈴木・志乃が同意とばかりに首肯で返している。
 自らの腰に帯びた、恋人でもある彼から送られた、五色の千代紙に橙を添えて折り上げられた千羽鶴を、愛おしむ様な表情で撫でながら。
 彼の事を思い出すだけで口元を思わず緩めてしまうのは、この贈り物に籠められた想い故か。
 それとも……桜並木に彩られたこの世界を満たしている蜜の様に甘いこの空気のためだろうか。
 そんな、桜並木に覆われた参詣道を風の様に通り過ぎていく少年と、その頭部から角を生やした少女が寄り添う姿を片目を瞑り、もう片目で凝視しながら。
 文月・統哉が遠くに想いを馳せる様に、誰に共無く言葉を漏らした。
「蛍火と妖怪の少年、か……。彼等はどんな出会いをして、どんな別れをしたのだろうな?」
「さて……どうだろうな」
 零れ落ちた統哉が凝視している少女達の幻影を目で追いながら、美雪がもう一度小さく溜息を漏らす。
(「角を持った少女、か。少年の方は件の妖怪少年の方だろうが、彼女は……?」)
 その光景を見て、感じ取れるのは、柔らかい温もりに包み込まれるそんな感覚。
(「だとすれば、あの娘が……?」)
「行ってらっしゃい。しっかり集めて来るんだよ」
 美雪の脳裏を、ある考えが過ぎったその時。
 そんな美雪達が感じた想いの理由を、引き寄せようとするかの様に。
 千羽鶴に暖かな光を灯した志乃が、そっと千羽鶴を旅立たせていた。
「……黒髪のねーちゃん。その千羽鶴は……?」
 志乃の周りを飛び立っていた千羽鶴……否光の鳥達を見送りながら。
 何気なく陽太がそう問いかけると、志乃がこれは、と目尻を和らげる。
「『失せ物探し』の『祈り』を籠めた、私のとても大切な鳥達ですよ」
「『失せ物探し』、か。確かにこういう状況ではうってつけだな」
 腕を組み、その鳥達を見送りながら、志乃の返答に、陽太が口元に笑みを浮かべて首肯した。
 そんな陽太に微笑を返してあの子達なら、と志乃が続ける。
「少年と蛍火……2人が抱いていた後悔や無念だけじゃなく、2人の間にあった筈の気持ちを、見つけ出してくれると思いますから」
「……そうですね。上手くそれが見つかってくれると良いのですが……」
 志乃の口から紡がれたそれに軽く相槌を返しながら、ウィリアムが微かに眉を顰めていた。
「ウィリアムさん? 何を考えているんだ?」
 そのウィリアムの表情に、息の詰まる様な思いがしたか。
 さりげなく美雪がそう問いかけると、ウィリアムがいえ、と軽く頭を振る。
「思い人と折角一つになれたのに、それを引き剥がし討滅しようとするぼく達は、彼等から見れば悪逆の徒の様に見えるかも知れない……そう、思ってしまいまして」
 さわさわさわ……と微風に乗った桜の花弁達が、ウィリアム達の頬を優しく撫でて、まるで夢か幻であったかの様に消えゆこうとする。
 その桜の花弁に統哉がそっと触れると、暖かな光をぽぅ、と花弁が発した。
 そこに籠められた胸を温める情を感じて、統哉が改めて周囲を見回す。
(「この、桜の一つ、一つも……」)
 蛍火達の、想いなのだろうか。
(「春爛漫、そんな花々を祝福するかの様にそよぐ風」)
 志乃の放った光の鳥と化した折り鶴達がそんな細やかな幸せを享受した様に甘く囀る。
 それはまるで、この時の凍てついた世界に漂う何かに呼びかけるかの様だ。
「この心情……言葉として現すことは出来るかも知れないが、今までに私が感じた事の無い様に思えるな」
 光と化して消えていく桜の花弁から漏れたその温もりを、統哉と同じく肌で感じながらの、美雪の呟き。
「愛ってやつか」
 その美雪の呟きにそう反応したのは、陽太。
 とは言えこの並木道を歩き桜の花弁に触れるだけでは、その『愛』の形の全てを計り知ることは難しいが。
(「相思相愛だったのか? それとも、蛍火の一方的な恋慕だったのか……どうにもまだはっきりしてこねぇな」)
 とは言えこの光景は、蛍火と少年の心象風景……即ち心と心が重なり合って生み出された世界。
 となると……。
(「何処かに必ず鍵が在る筈なんだが……」)
 ――その鍵は、何処にある?
 陽太の脳裏にそんな思いが過ぎった丁度その時。
 志乃の放った光の鳥たちの内の一羽が、嘴に一本の枝を啄んでパタパタと戻ってくる。
 その光の鳥に志乃が腕を差し出すと、光の鳥がその腕の上にそっと止まり、その桜の木の枝を突き出してきた。
 細くしなやかなその枝に映し出されているのは、粗末な襤褸を纏った少年。
 映し出された少年はその体に紫の痣を作り、疲れた様に巨大な桜の木に寄り添う様に背を預けてへなへなと座り込み、そっと巨大な桜の木を見上げている。
 注連縄が巻かれたその巨大な桜の木の中央は祠の様にくりぬかれ、そこに白竜が祀られていた。
「この桜の木は……」
 それを認めて、呻く美雪に。
「多分、人々に崇められていた竜神と、その住まいとされていた桜の大樹、って所だろうな」
 統哉が頷きながらそう返し、志乃の光の鳥が持ってきてくれたその大樹を映し出している一本の枝を、片目を瞑ったままにじっと見つめている。
 大樹から発せられるそれはとても優しく人々を包み込んでくれる慈愛に満ちている様に思えたが、そこに居を構えている様にも見える白竜は、人々に祝福と畏怖を与える様な、そんな威厳に包まれていた。
(「竜型の妖怪蛍火、か……でも、もしかしたら彼女は……」)
 そんな志乃の脳裏にふと思い浮かんだ思考を裏付けるかの様に。
 別の光の鳥が周囲から姿を現し、また別の木の枝を持ってきていた。
 そこに描き出されていたのは、村人、と思しき人々が、竜の祀られたその祭壇に、捧げ物を捧げるそんな光景。
 そして……その村人達が、襤褸を纏った少年に対して向ける、瞳の光。
 そこに含まれている人々の瞳の光は、少年に対する恐怖、畏怖……少なくとも、自分達とは違う『モノ』を見る様なそれを携えている。
「おいおい、こいつは……」
 その少年達に対して村人が向けている瞳に称えられた光を認めて。
 陽太が顔を歪め、舌打ちを思わず一つ。
 そんな風に自分を見つめる村人達に対して、少年は優しく微笑み返していた。
 その姿はまるで、何かに殉じて生きていこうとするものの覚悟と、労りが籠められていた。
「彼は、彼の住んでいた村の村人達に疎まれていたのだな……」
 呟きながら、美雪がギリ、と唇を噛み締める。
 人は、自分と『異なる』ものを恐れ、排斥しようとするものだ。
 何故なら、自分達とは『違う』存在は、人々には理解出来ないから。
「それでも、清貧を尊しとしていたこの妖怪と、蛍火さんは村人達を助けていたんですよね」
 いたたまれない、と言う表情で志乃が呟くのに、そう言うことだな、と陽太がガリガリと頭を掻きながら返す。
「まあ、蛍火がこの少年を思いやりたくなるのも、当然と言えば当然だな。だとすると、やっぱり蛍火の一方的な恋慕、か……?」
 その陽太の呟きを聞きながら。
 じっと片目を瞑り、如何して彼が消えていったのか……その原因を突き止めようと、統哉が周囲に映し出される光景を凝視し続けていた。
 すると……周囲に咲き乱れる桜の木々が大きな風に揺るがされ、その花弁を散らしていく。
 散らされていく桜の花弁を掻き集める様に、1000羽の光の鳥達が次々に其れに群がっていく。
(「妖怪達は自分達に向けられていた感情を食糧としていた。となると、どんな感情であれ、少年妖怪にせよ、蛍火にせよ自分達に様々な感情を向けられること……それ自体は、幸せな事だったのだろうな……」)
 その光が、一箇所に集う光景を目の辺りにしながら。
 妖怪達の本質を思い出した美雪が荒々しく溜息を一つつく。
 だとすれば少なくとも少年妖怪も蛍火も、『食糧』が足りなくなって餓死する、と言う自体にはならなかったであろう。
 つまり、彼等が食糧以外の問題……即ち『恋慕』の様な『情』を抱く余裕は十分にあったと言う事になる。
(「だが……そうだとすると……」)
「猛烈に嫌な予感がするな、こりゃ」
 美雪の表情に苦渋が浮かんだことに気がついたか。
 ぼやく陽太にそうかも知れませんね、とウィリアムが相槌を打った。
「ですが……ぼく達は知らなくちゃいけないんですよね。このカクリヨファンタズムと言う脆い世界に生まれ落ちてしまっているオブリビオンを討滅する、その為にも」
 ――世界が、淡く光り輝く。
 慈愛に満ち満ちたその光に包まれるだけで、その心の裡を満たしていく其れに飲み込まれてしまいそうになりながら、統哉は志乃の呼び出した光の鳥が集めた、無数の桜の花弁が巨大な鏡の様な形と化していき、まるで何かを訴えかけるかの様な光を放ち始めているのを見つめていた。
 そうしながら、統哉は思う。
(「この光の向こう……その先にきっと、この事件の本質があるんだろうな」)

 ――と。


 ――パチンッ。
 突如として爆ぜる様な音が、辺り一帯に響き渡った。
 薪に火をくべた時の様な物音と共に、その者達は突如として姿を現す。
 それは見慣れぬ装備に身を包む、少年妖怪にも、蛍火の記憶の中にもいない、そんな者達。
 武装した彼等の姿を見て、村人は怯え竦み、少年妖怪は咄嗟に戦闘態勢を取った。
『蛍火』もまた、竜の姿を取ってこの地に顕現しようとするが……。
 ――ガクン。
「えっ……?!」
 神として祀られ、桜の木の洞の中で日々を過ごしていた蛍火は、急速に自分の力が衰えていくのを強く、強く感じていた。
 其れとほぼ同時に。
 悲鳴が、蛍火の鼓膜を強く打った。
 少年妖怪の苦悶の声が。
 村人達の悲哀と憤怒、恐怖の交ざった無数の叫びが。
 瞬く間に村中へと広がり、同時に村全体が炎に焼き尽くされていく光景を、蛍火は見ている事しか出来なかったのだ。
 救い、たいのに。
 守り、たいのに。
 それなのに……わたしには何も出来ない。
 自らを怖れ、多くの祈りや感情を捧げてくれた村人達。
 そして……何よりも。
 そんな村人達に疎まれつつも、その村人達が向ける感情を糧に出来るが故に皆を守り続けていた『あの子』
 あの子達を、わたしは守りたいのに。
 
 ――けれども、わたしは……。


 気がつけば血と硝煙の匂いに、その場は満ち満ちていた。
 その血溜まりの池の中で、『僕』は倒れている。
(「守らなきゃ……皆を……慎ましい細やかな幸せを望んで生活しながら、きちんと僕に食事を与えてくれる皆と……何よりもあの妖怪を……」)
 常に不幸が付きまとい、何も出来ない自分を祝福してくれた、あの木の洞から力を与えてくれている妖怪……竜神であろう、彼女のことを。
 でも……。
 ――ヒュン!
 自らの頭部に鋭くて重い何かが振り下ろされる。
 振り下ろされた其れが頭部をかち割り……そこで彼の意識は完全に途絶えた。
(「僕は……彼女を……皆を、守れなかった……」)
 そんな後悔を、強く、強くその胸に掻き抱きながら。
 ……この村は、不幸にも外部の余所者に襲われた。
 不幸にもその時蛍火は、何故か他者に祝福を与えることが出来なかった。
 それによって少年妖怪は不幸にも力を得られず、村を襲った者達に対抗できるだけの力を用意できずに殺された。
 そこから更に不幸は加速し、その襲ってきた余所者達に村人達は滅ぼされた。
 その結果として、食糧となる感情の供給が無くなり、蛍火もまた餓死に至るのを避けるため、カクリヨファンタズムへと逃げることしか出来なくなってしまった。
 様々な不幸が重なりそうして蛍火と妖怪少年にとって大切だった者達の全てが。
 染まっていった。
 血の色へと、染まっていった。

 ――そうして。
 蛍火と妖怪少年にとって大切だったものは、全て消え失せた。

 『守れなかった』という後悔と無念をのみ、死せる少年の心の中に残して。


「何があったのか、見せてくれてありがとう、鳥達」
 枯れ落ちた桜の花弁を掻き集めてくれた光の鳥達に。
 小さく礼を述べながら、一部始終を見届けた志乃が俯き加減になりながらその手を光の鳥達に差し出している。
 差し出された手に光の鳥達は群がり、瞬く間に千羽鶴へとその姿を戻していった。
 そうして、志乃が一通りの後片付けをしているその横で。
「こいつが……蛍火の幸福の祝福を打ち消すほどの、不幸な事故の連鎖?」
 陽太が思わず、と言った様子で呻いている。
「そうか。これが……彼の抱える後悔の大本か」
 同じく統哉が軽く頭を振りながら、疲れた様に溜息を一つついている。
「蛍火の支援が報われなかった、と言う訳ではなく……そもそも別れの時、蛍火がその力を使うこと、それ自体が不幸にも出来なくなってしまった、と言う訳だな」
(「しかも、その原因をこの村と蛍火達に持ち込んだのは……」)
 蛍火達が愛した村人達の、外の者達……即ち、欲に駆り立てられ、その欲望の儘に蛍火達の大切な者を奪い取った人間達。
「これが真実だと言うのであれば。蛍火と彼の思いは相当に深いところにまで食い込んでいる、と思わずにはいられませんね」
 疲れた様に軽く目頭を押さえながら。
 ウィリアムがポツリと呟いた其れに、そうだな、と統哉が静かに頷いた。
「けれども……」
「少なくともこの二人が、周囲を滅ぼす存在になることを、心から望む筈が無いでしょう」
 統哉の其れを引き取る様に志乃が静かにそう呟いたのに、陽太が確かにな、と小さく頷きを返している。
「蛍火が少年に恋慕を抱いていたのは間違いない。その一方で少年が滅んだ……人間の手で殺されたって事実も否定できねぇ。それなのに……この世界はそんな憎しみや、痛みとは無縁な幸せな世界として存在している」
(「要するに大切な者を殺されたにも関わらず、その憎しみに突き動る事も無く、そんな悲劇が起きる前の幸せな時を蛍火が自然と願い続けることが出来る位に強えって事なのかもしれねぇが……な」)
「同じ後悔を痛みとして抱えて、悠久の時を経て蛍火は少年の骸魂と巡り会った……」
 その事実に、どれ程までに蛍火は救われたであろう。
 けれども、そんな悲劇に塗れても尚、こんな風に優しく温かな世界を蛍火と骸魂は作り出している。
 それがきっと、蛍火と彼にとっての、一番の幸福だから。
「でも、もし志乃の光の鳥達が見つけてくれた深い悲しみと後悔が、この幸福を上回り、この世界を侵食する程となってしまったのであれば」
「そうだな、統哉さん。蛍火が抱いている思いも、少年が抱いていた思いも……その全てが否定され、世界は間違いなく壊れてしまう」
「ならば……其れを引き留めるのは、私達猟兵の役割でしょう」
 此処に在る温かくて優しい思いと温もりは、間違いなく彼等の中に根付いている思い。
 鳥達が全ての情報を余すこと無く掻き集めてくれた、後悔と無念も勿論蛍火達にはあるのだろうけれども。
 でも……それによって蛍火と彼が愛した世界や人々への想いが蔑ろにされてはいけない。
(「だから、彼等が一体化すること……それは……」)
 二人で幸せも共有できるだろうが、そのままにしておけば彼の後悔と無念に潰されて、この優しく幸福な『愛』に包まれた世界を破壊してしまう可能性が極めて高い。
 そんな道が、『最善』であるとは志乃にはどうしても思えない。
 『最善』である筈が無いのだ、と心から思う。
「だから……もし、あなた達がそれでも尚、世界をこのまま凍てつかせ続けるというのであれば、ぼくは……」
 ウィリアムのその言葉に同意する様に。
「俺達は、俺達の意志で、其れを断ち切る。そうして手を汚す覚悟は、俺達にはとうに出来ているからな」
 そう陽太が呟くのに美雪が一つ頷き、そっと左手を胸に当て、右手をこの参詣道へと突きつけた。
「もふもふさん達、探しものをお願いしたい。頼んだよ」
 そう、美雪が告げるとほぼ同時に。
 72体の影ではあるが思わずもふりたくなって仕方なくなるであろう、愛らしいリスや猫、羊、犬等の様々な動物たちが姿を現し、参詣道一帯を嗅ぎ回り始めた。
 テテテテテ……と小走りに駆けていく彼女達の愛らしさに、くすりと志乃が微笑を零す。
 その間にもふもふさん達の一匹である仔猫がテチテチと美雪の足を軽く叩いた。  足下のもふもふさんの其れに気がつき、美雪が其方を見てみると。
 仔猫が尻尾であっちだよ、と言わんばかりに北に向かった参詣道を指差していた。
「どうやら蛍火達は、彼方にいる様だ」
 美雪の、その言の葉に。
「待っていてくれ、蛍火達。世界、だけじゃない。俺達は、必ず君達も救ってみせるから」
 統哉が小さな誓いと共にそう呟き、美雪の呼び出した仔猫達に誘導されて、参詣道を奥へ、奥へと向かっていく。
 美しき桜並木が風に揺られ、桜吹雪となって彼等を祝福する様に……或いは、その美しさに埋もれて前に進めなくするかの様に吹いていた。
 けれども、蛍火達に向けて誓いを立てた志乃達の前進を、桜吹雪が止めること能わず、前へ、前へと進んでいく。
 ――と、不意に。
「桜吹雪がやんだ? ……やはりこの先がオブリビオンの居場所、なのでしょうか?」
 周囲の桜並木が闇に溶ける様に消えていくのを見送ったウィリアムが呟きながら、ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣して両手で構える。
「どうやら、辿り着いたみたいだな」
 呟いた陽太が見たのは、洞の様な、そんな場所。
 まるで先程見せられた光景の中で蛍火のいた場所の様だな、と少しだけ思う。
 ――そして、此処で。
「フム。ワタシ達の望みを邪魔するために現れましたのね、猟兵達。でしたらワタシ達が、あなた達の幸福な一時を、調律して差し上げましょう」
 涼やかなそんな声が辺り一帯に響き渡り……程なくして其れが、竜の嘶きへと変わっていった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第2章 ボス戦 『『調律竜』フェンネル』

POW ●不運を招く黒布
【貧乏神の布切れに似た黒いオーラ】が命中した対象を切断する。
SPD ●白炎の奔流
【白炎のブレス】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ ●常時発動型UC『ホイール・オブ・フォーチュン』
【対象の肉体に不運を放ち、行動の失敗や】【ユーベルコードの不発を誘発させる。】【あらゆる行動の成功率を上げる幸運】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アイン・セラフィナイトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。下記日程でプレイングをお送り頂ければ幸甚です。
プレイング受付期間:9月10日(木)8時31分以降~9月12日(土)13:00頃迄。
リプレイ執筆期間:9月12日(土)14:00~9月13日(日)一杯迄。
何卒、宜しくお願い申し上げます*
「フム。ワタシ達の望みを邪魔するために現れましたのね、猟兵達。でしたらワタシ達が、あなた達の幸福な一時を、調律して差し上げましょう」
 涼やかな、そんな声。
 猟兵達が辿り着いたその場所にいたかの『竜』は咆哮と共に、何処か慈悲深ささえ感じさせる口調で猟兵達に語りかけてくる。
「此処にアナタ達がいると言う事は、ワタシ達がどうしてこの世界の時が止まることを望んだのか、その理由も見てきたのではありませんか? ワタシ達は、あんな悲劇をもう二度と味わいたくありません。漸く手に入れることの出来た平穏を、失いたくないのです」
 紡がれたその言の葉は、何処か哀しげで。
「……分かっています。ワタシ達の在り方は、本当は間違っているのであろうと。ですが……この子をワタシが自らの中に取り込むことで、漸くこの子の不幸をワタシが調和し、あの最悪の事件が再び起きることが無い様、あの事件が起きるよりも前の幸せな世界を……細やかな日常を、ワタシ達は感じ続ける事が出来るのだと思っています。それこそ……この子の心を静めるためにも最善なのだろう、とも」
 だから……と、蛍火と呼ばれた竜型妖怪……否、ともすれば嘗ての竜神の成れの果てかも知れぬ『彼女』は訥々と語る。
「ワタシから、この子を奪わないで下さい。この子はもう十分以上に苦しみました。もう、この子がこれ以上苦しまない……そんな世界をワタシは、この子のためにも時を止めてでも用意して上げたいのです。だから……」
 ――どうか、この幸福を止めないで下さい。
 そう嘆じる様に呟く蛍火。
 その蛍火の言の葉に対する、猟兵達の、答えは……。
ウィリアム・バークリー
『スプラッシュ』納剣。力で解決出来る話じゃない。

どこから話せばいいか分からないけど、自分達が間違ってるとは分かってるんだよね? このままだと世界が滅ぶことも。

その想いは尊いと思う。でも他の人(妖怪)達だって、平穏な日常を幸福に生きたいと願ってるんだ。
蛍火、かつての世界で村を見守ってきたなら、分かるはずだよ。

その少年だって、世界が滅ぶきっかけにはなりたくないと思う。力が無くても、村人のために懸命に駆けずり回った彼なら。
骸魂の想いを、しっかり聴いてみて。

どんな後悔があっても、過去は変えられない。骸魂の力を使ったとしても、それは二人っきりの幻影。
彼は、沢山の人と一緒にいる時こそ輝いていなかったかな?


彩瑠・姫桜
蛍火さん、あなたの想いは痛いほど感じた
それでも、それは世界を壊していい理由にはならないわ

起こってしまった悲劇は、もう変えられないのよ
一時的に時を止めて、調和して、歪めても事実はなくならないし、元には戻らない

骸魂になってしまったその子は、
自分の幸せのために世界を壊すことを良しとするの?
そして、そうすることで蛍火さんの心が傷つくことを良しとするのかしら
…とても優しい子だったのでしょう?
なら、骸魂になって再会できたその子へ、想いを伝えて送ってあげて
愛しているなら、尚更

可能な限り前衛
必要なら[第六感、武器受け]で仲間を[かばう]

攻撃は射程に入れば【双竜演舞・串刺しの技】
他はドラゴンランスでの[串刺し]


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

2人に感情を向けてくれた村が、村人が
不埒者に襲われ、滅ぼされた後悔か
…さぞかし、辛かろう

私の性格上、あえて直球で行かせてもらう
蛍火さん、その望みを叶えるとこの世界が滅ぶ
時を止める代償は、この世界とあなた方の消滅だ
…かつて滅んだ村の二の舞になるが、構わないのか?

それに、不幸というのは「調律」するものなのだろうか
それこそが少年の個性に思えるのだが
…なあ、少年はどう思うのだ?

共に在ることの幸せを2人に思い出してもらうために
幸福そのものの素晴らしさを心を込めて歌い上げよう
「祈り、優しさ、歌唱」+【幸福に包まれしレクイエム】だ
UCの効果が不発になっても、歌声は届くはず


森宮・陽太
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

蛍火と少年の関係はよーくわかった
だがな、世界が滅ぶなら、ハイどうぞ時を止めて下さいとは言えねえんだよ

てめえが最善と思うのは勝手だ
だがな、少年は調律を望み、受け入れるのか?
受け入れてねえなら、てめえの独りよがりだぜ?

「高速詠唱、言いくるめ」から指定UC発動
サブナックには負傷が酷い奴を「かばう」よう命じ
攻撃は全て呑み込み、時間許す限り連射させる
俺はスパーダの短剣を封じたデビルカードを「投擲、制圧射撃」
大量の短剣の雨で竜の行動阻止

万が一強引に骸魂を滅する必要に迫られたら
獄炎を封じたデビルカードを「投擲」し牽制しつつ接近
骸魂をお守り刀で貫き「破魔、浄化」
…恨むなら俺を恨め


文月・統哉
調律竜…成程これが二人の関係性なんだね
貧しさと引き換えに不幸を肩代わりする少年と
彼に幸運を捧げ調和を保つ蛍火

慎ましやかな暮らしにはそれで十分だった筈なのに
二人の力の限界を超える不幸が村を襲った
全滅の危機
それでも蛍火が無事だったのは何故か

恐らくそれは
あの時少年が願ったから
例え自分の命が絶たれても
蛍火だけは無事でいて欲しいと

少年の最後の願い
それを蛍火の祝福が叶えた

もし少年に力を貸して共に不幸を背負っていたら
蛍火も死んでいたに違いない
故に蛍火の顕現は阻止された

不幸の連鎖を背負う事で
少年は守ったんだ
蛍火の命を

未来へと繋いだ灯
どうか消さないで

祈りの刃で骸魂を離す
互いを想う二人が
最後の言葉を交わせるように



「そう……こんな事件があったのね」
 調律竜と化した妖怪蛍火の、その目前で。
 不意に、蒼穹の光に包み込まれる様にして現れたのは、腰まで届く程の金髪を風に靡かせ、純白の槍Weißと、漆黒の槍schwarzの二槍を構えた、一人の少女。
「姫桜さん……来ていたのか?」
 その少女、彩瑠・姫桜の腕に嵌め込まれた腕輪に光る玻璃色の鏡、桜鏡の鏡面が漣立つその様子を認めながら藤崎・美雪が問いかけると、姫桜がええ、と軽く頭を縦に振った。
「蛍火さんの話は一通り見てきたわ。そこに深く刻み込まれた、深い想いもね」
「そうですね。だからこそ」
 姫桜の呟きに同意する様に、キンッ、と抜剣していたルーンソード『スプラッシュ』を納剣する。
 それは、『スプラッシュ』の主であるウィリアム・バークリーの願いであり、想いの証左。
「蛍火。ぼくは、あなた達との戦いは力で解決できない、と思っている」
『そうですか。……それがアナタの望み、なのですね』
 上擦った様に聞こえる蛍火のその声に、ウィリアムがそうだね、と静かに首肯する様を見据えながら。
(「調律竜……成程、これが2人の関係性なんだな」)
 軽く目を細めて目前の蛍火と骸魂が一体化したそれを見つめている文月・統哉がふむ、と小さく首肯した。
 蛍火達を見つめる統哉の表情には、彼女達への労りが漂っている。
「まあ、取り敢えずアンタとその少年の関係はよーく分かった」
 諦めた様に軽く頭を横に振りながらの、森宮・陽太の頷き。
『分かってくれると言うのであれば……』
「だがなぁ、蛍火よぉ? それで世界が滅ぶって言うなら、ハイどうぞ、時を止めて下さいとは言えねぇんだよ、俺達はな」
「そうだな、陽太さんの言うとおりだ。はっきり言おう、蛍火さん。あなたがその望みを叶えれば……世界は、滅ぶ」
 陽太に相槌を打ちながらも、折りたたまれた鋼鉄製ハリセンを鋭く突きつけながら、そう断言する美雪。
 刃の様に突きつけられた無常なる現実に、蛍火は何処か虚ろさを感じさせる声音でそうかも知れませんね、と軽く同意を見せつつ、ですが、と穏やかな声音で語りかけてきた。
『ですが……この子を先に否定したのは、アナタ方ヒトです。この子は、人々を不幸へと貶めましたか? この子を不幸にしてしまったのがアナタ方である事は、決して変える事の出来ない『過去』なのです。世界の滅びが、この子に一方的に傾いてしまった不幸の天秤を正しき位置に戻す事なのであれば、それは在るべきものを在るべき場所へと返すだけの事になるのではないでしょうか?』
 その彼女の問いかけに、美雪が微かに口ごもる、その間に。
「……蛍火。正直ぼくには、何処から話せば良いのか、分からないけれども」
 ウィリアムの口から、そんな言の葉が、自然と漏れ落ちた。
「でも……自分達が間違っているとは、分かってるんだよね?」
 そのウィリアムの問いかけに。
 竜がその顔を俯かせ、苦しげに頷く。
『かも知れない、とは思っています。ですが、此処に辿り着く迄、ずっとこの子の事を見つめていたワタシには、この子が世界そのものへの理不尽を背負わされた存在にしか見えませんでした。そう、それこそが不憫に思えて仕方ないのです』
 それは悲壮にも感じられる、蛍火の嗚咽。
 その様子を見ながら、統哉が自らの右目を覆う様に右手を上げる。
 ――あの光景を見つめ続けてきた、その右目を。
「貧しさと引き換えに、不幸を肩代わりする妖怪の少年の骸魂と、そんな彼に幸運を捧げ、調和を保つ妖怪蛍火……それが合わさっているのが、今の君、なんだよな」
『そうですね。今のワタシ達の在り方は、アナタ方猟兵達からは、そう見えてもおかしくありません』
 全身を覆う布切れに似た漆黒のオーラで大地を振るわす様な咆哮をあげる蛍火。
 漆黒のオーラが極自然に統哉に向かって一閃の刃となって振り下ろされ、その目前に姫桜が割り込み、Weißとschwarzを十文字に構えてその一撃を受け止める。
 ともすれば、一瞬でその身を両断されてしまいそうなそれに、その心から無意識に生まれた、何度感じても慣れ無い戦いへの恐怖を、歯を食いしばって耐えながら、姫桜が、統哉の言葉に同意した蛍火をしかと見つめて問いかけた。
「蛍火さん、一つ聞かせて。貴女は、この世界を壊したいと願っているの? それとも……世界を壊せば起こってしまった悲劇を、変えられると思っているの?」
「そうだな。蛍火さんが時を止めるというその望みを叶え、この世界を滅ぼしたとしても、その村の悲劇は変わらない……どころか、嘗て滅ぼされてしまった村と同じ痛みを、悲しみを世界に背負わせると言う事になる。そしてそれは、貴女方と、この世界……双方の消滅を意味することでもある事に、貴女は気がついていないのか?」
『それは……』
 姫桜に相槌を打ちつつ、突きつけていた鋼鉄製ハリセンを鍬の様に肩に担いで。
 グリモア・ムジカを左掌の上に乗せた美雪の糾弾に、蛍火が口元を歪める。
 その全身から漂う黒いオーラと、その腹部に溜まりつつある白炎のブレスの気配を無意識に感じ取って手に握られた汗を、制服のズボンで拭いながら。
 口元を歪めながらも静かに美雪の糾弾を受ける蛍火に、ウィリアムが話しかけた。
「蛍火、君の想いはとても尊い、と思う。でも……姫桜さんや美雪さんの言う様に、他の人(妖怪)達も平穏な日常を幸福に生きたい、生き続けたいと言う願いを持っているんだ」
『それは、そうかも知れません。ですが、ワタシは……』
「ああ、アンタがその胸に抱いた骸魂……その少年に世界が不幸を背負わせすぎている。だから、俺達の幸福も含めてアンタが其れを調律する。そう言いたいんだろう? アンタは」
 蛍火にそれ以上を言わせぬ、と言う様に。
 陽太がそう問いながら、濃紺のアリスランスの先端で魔法陣を描き出し始めた。
 その魔法陣の中央に刻み込まれていくのは、右手に剣を、左手に盾を構えた獅子頭を持つ戦士の悪魔の姿。
 それに呼応して体内に溜めていた白炎を口腔内へと集中させる蛍火に、陽太は見せつける様に、だがよぉ、と左肩を器用に竦めていた。
「その少年は、本当にその調律を望み、受け入れてくれるのか? そうでないならば、てめぇの独りよがりだぜ?」
『――っ!』
 その陽太の一言が一矢の如く、その胸に突き刺さったか。
 白炎のブレスを陽太に向けて吐き出す蛍火の表情が、大きく歪む。
(「かかったか……サブナック!」)
 その表情の変化による一瞬の隙を見逃さず。
 銃型のダイモン・デバイスを左手で抜き、アリスランスに重ねる様に乗せて、陽太がその引金を引いた。
 銃口から撃ち出された一発の弾丸が、空中に描き出されていた魔法陣をすり抜けると同時に、その中央に描かれた戦士の悪魔の姿と化して顕現、蛍火の吐き出した白炎のブレスを剣を横一文字に振るって吸収、返す刃でそのブレスを解放する。
 解放された白炎に包み込まれた蛍火が苦悶の表情を浮かべるのは、その体を焼かれる炎への痛みからか。
 ……それとも、その心の動揺故だろうか。
「蛍火さん」
 漆黒のオーラが苦悶する白竜を守る様に全面に展開されていく。
 その漆黒のオーラの動きを敏感に感じ取ったか、玻璃鏡の鏡面に一滴の雫が落ちて、湖面の揺らめきを見せるのに、姫桜がくしゃりと顔を歪め、声音を震わせた。
「貴女は……骸魂になってしまったその子が、自分の幸せのために世界を壊すことを本当に良しとする子なの?」
 傷ついた白竜を守る、漆黒のオーラ。
 それがもし、骸魂と化した少年の魂そのものなのだとすれば……?
『ぐっ……それ、は……』
 呻く蛍火に、追い打ちを掛ける様に。
「蛍火、嘗ての世界で村を見守ってきたなら、分かる筈だよ。その少年が、世界を滅ぶ切っ掛けになりたくない事は。そうで無ければ……」
 出来る筈が無いのだ。
 力が無くとも村人を守るために、懸命にその村を駆けずるなんて、『正義の味方』の様な行動など。
 ウィリアムの追撃に、蛍火の視界の中で、ぐにゃりと周囲の風景が歪む。
 まるで、何かを怖れる様に。
 そして、その怖れは……。
「蛍火、それから骸魂となって辿り着いた、名も知らぬ当時の『君』と、彼女が其々に恐れ、崇める村人達から掻き集められた喜怒哀楽。それは、君と蛍火が慎ましやかに暮らす分には十分なものだった……それで君達は、本当に幸せだった。そう言うことだったんじゃないのか?」
 統哉という猟兵の言葉として、漆黒のオーラに解き放たれ。
「そもそも『不幸』というものは、調律するものなのだろうか?」
 美雪という猟兵の疑惑として、蛍火へと突きつけられる。
 漆黒のオーラが揺らぎ、美雪の問いかけが真っ直ぐに蛍火の聴覚に響いた時。
 蛍火は初めて、その口元を無意識に緩めていた。
『幸福と不幸は、まるで天秤の両端に置かれる重石の様に等価に存在しています。誰かがある事で幸福になるのであれば、その反動で誰かが不幸になる。少なくともワタシ達はその様な形であの頃存在していました。だから……不幸に振り切られ、ずっと苦しみ続けてきたこの子を、ワタシは……』
「では、『あなた』は、どう思っているのだ? 蛍火さんの言っている『不幸』を本当に『不幸』と思っていたのか? 寧ろ『あなた』はそれも自分の個性……そう、思っていたのでは無いのか?」
(「あの過去の記憶の中。確かに私達から見れば、彼は不幸だと憐れまれる扱いだっただろう」)
 だが、そんな他人からすれば『不幸』であったその光景の中でも。
 彼は、優しく微笑んでいたのだから。
 ――ラァ、ララァァァァァー……!
 その幸福でいることの素晴らしさを称賛する、美しきメソソプラノが戦場に響く。
 グリモア・ムジカが、そんな美雪が紡ぎ始めたその歌をサポートするオルゴールの様に、音楽を奏で始めた。
 それは、美雪が披露すると決めた相手にのみ、その感情を与えて、存在そのものを無力化させる、禁断の歌。

 ――レクイエム・オブ・ハピネス。

 螺旋の如く紡がれていくその歌が、その胸中に芽生えつつあった想いへと染み込む様に響き、蛍火の心を掻き毟る。
『あうっ……。ワタシ達……ワタシ……は……』
「なあ、蛍火」
 微かに惚けた様な表情となり、美雪の歌声に耳を澄ませる蛍火に向けて。
 陽太が何時反撃されても制圧できる様に、無数の剣がカードに描かれ赤色に染まったデビルカードを構える様子を見ながら、その背に背負った『宵』に右瞼を押さえる様にしていた右手を回しつつ、統哉が囁く。
「あの村の惨劇は、君と『彼』の力の限界を越える不幸だったんじゃないのか、と俺は思う。しかもそれは……君も含めた、『村人』達全員の、全滅の危機」
 統哉の、その呼びかけに。
『……』
 蛍火は、何も答えない。
 ただ、統哉の口から紡がれる其れを打ち消そうとする様に、必死に頭を横に振っている。
 けれども、統哉は話すことを決して止めない。
 止めてしまえば……誰も、何も救えないと、信じているから。
「でも、蛍火……君『だけ』は無事だった」
 何故なら……。
「彼が、それを願ったからじゃないか? 蛍火だけには無事でいて欲しいという……少年の、最後の願い。そしてそれを、君の『祝福』が叶えた」
『……メテ……ヤメテ……下さい……!』
 両手で耳を塞ぎ、イヤイヤをする様に全身を左右に揺さぶる蛍火。
 酷く取り乱した様子を見せ、大気を焼き尽くしその音色を聞こえぬ様にするべく口から白炎のブレスを吐き出そうとするが、陽太が構えていたデビルカードをすかさず投擲。
 投擲された赤いカードに描かれていた赤き剣が雨あられと蛍火に降り注ぎ、その動きを縫い止める。
 その様子を見ながら小さく息を吐き、ウィリアムがそっと囁きかけた。
「蛍火。骸魂の想いを、しっかり聴いてみて。自分の心の中にある、姫桜さんも言った、決して拭うことの出来ない後悔……変えられない過去からの声に、耳を傾けて」
『それは……それは……!』
 まるで、甘い蜜の様に。
 美雪の歌に乗せられたウィリアムの囁きに、必死で抗う様に、我武者羅に首を横に振る蛍火。
 けれどもその周囲に発されている漆黒のオーラは、蛍火が否定を繰り返せば繰り返す程、色彩を薄れさせ、明滅していく。
 まるで、何かに葛藤するかの様に。
(「そう……そうよね。貴方はきっと、元々そう言う子、だったのよね……」)
 漆黒のオーラの明滅を目の辺りにしながら摺足で接近しつつ、schwarzを握りしめる左手を、そっと自らの胸の上に乗せる姫桜。
 一方で、Weißを握る右腕に嵌めた桜鏡は、そこに貼り付けられた玻璃鏡の鏡面をまるで波の如くゆらゆらと揺らがせている。
 だから……。
「とても、優しい子、だったのでしょう?」
 次に紡いだ言葉が震え。
「骸魂になってまで、貴女に会いに来たその子へ、想いを伝えて、送ってあげなさいよ……」
 そして……。
「……愛しているなら、尚更」
 そう告げた自分の頬が熱をおびてしまったのも、当然かも知れない。
『!!!!!!』
 姫桜のその言葉を聞いた、刹那。
 白竜……蛍火がその鋭き竜の眼孔を大きく見開き。
 同時に漆黒のオーラがまるで聴いてはいけない何かを聴いてしまったかの如く、今までに無い程に激しく明滅を繰り返していた。
 骸魂……幽世に辿り着けぬままに『死』を迎えた妖怪の魂の慣れの果てが……まるで人や今、此処に生きている妖怪達の様な感情に激しく己を揺さぶられたのだ。
 その骸魂の気配の揺らぎを感じ取った統哉が右手で握りしめた『宵』を引き抜き、中段に構え、左手を柄に添える。
「もし……もしだ。美雪の言う『君』が、蛍火が飲み込みたくて飲み込んだ『君』があの時、蛍火の力を貸りて、そうして共に不幸まで背負ってしまっていたら、蛍火も死んでいたんじゃないのか? だとすれば……」
 ――パチ、パチ。
 その、統哉の言の葉に反応するかの様に。
 光が……蛍火を覆う、明滅する漆黒のオーラが、『宵』の漆黒の刃へと集い……暗闇の中で一際淡く輝く蛍光色のオーラへと姿を変えていく。
 それは宵闇を断つ波動。彼の想いと、願いの象徴。
(「全く、随分と永くて淡い恋物語だな、こりゃ」)
 統哉の『宵』が放つ、その輝きをチラリと横目にしながら。
 スパーダの短剣の雨で蛍火の動きを縫い止めていた陽太が内心でそう呟き、軽く肩を竦めて見せた。
(「まあ……此処まで来りゃ、後は後押しするだけだよな」)
「良い加減、認めたらどうなんだ、蛍火? お前が取り込んだそいつと、お前の本当の答えを。その先の答えにあるそいつが本当に望んだ、その世界をよ」
「このまま骸魂の力を使い続けても、それは2人っきりの寂しい幻影。そんな事を彼が望んでいるとは、ぼく達には思えない。彼の本当の幸せは……輝きはきっと、沢山の人と一緒にいる時にこそ、強く輝けるものだったんじゃないかな?」
 陽太の後押しを更に勢いづける様にウィリアムがそう告げた、その瞬間。
 蛍火の両瞳から、ポツリ、ポツリと白い雫が零れ始めた。
『ワタシは……やはり……』
「そうだ。君に彼が死んで欲しくなかったから、君の顕現は阻止されたんだ」
 コクリと首を縦に振り、蛍火が辿り着いた結論を肯定する統哉。
『宵』の刃先の蛍光色の光は、そんな統哉の想いを反映する様に、また蛍火の答えを是とするかの様に、闇を切り裂く淡光を、更に強めた。
「彼は、不幸の連鎖を自ら背負うことで蛍火の命を……未来へと繋いだ灯を守った。そんな彼の想いを、君が消さないで」
 そう呟き、統哉が蛍光色の淡い輝きを刃先に伴った『宵』を大上段に振り上げる。
 パラパラと光の粒子の如く蛍光が宙で輝き、美雪の奏でる歌に合わせる様に世界を蝶の如く舞った。
「お眠り、『骸魂』。今宵はあなたに、眠れる『時』を与えるわ」
 その、呟きと共に。
 たん、と右足で大地を蹴り距離を少しずつ詰めていた姫桜が姿勢を低くして風に乗る様に一気に蛍火の懐に飛び込み、二槍を突き出す。
 姫桜の白い雫が風に乗って後方へと流れる最中、踏み込みの速度をのせた白き槍と黒き槍が、純白と漆黒の相反する光の軌跡を描き、蛍火の両脇腹を鋭く抉る。
 そのままぐい、と切り上げる様に撥ね上げた姫桜の二槍によって生み出された暴風の如き破壊力が、自分の中の『本当の答え』を見出していた蛍火を咆哮させ、その口から赤黒くも何処か暖かい輝きを放つ塊を吐き出させていた。
 その『骸魂』が概念的に具現化したそれに向けて。
『安らかに』
 統哉が、蛍光色の淡い輝きを伴った『宵』を一閃して、その魂を……蛍火と彼の後悔と無念の塊……負の象徴とも言うべき其れを切断し。
「眠れ」
 静かな祈りを籠めて陽太が呟き、懐に隠し持っていた透き通る水晶の刀身を持つ短刀……『森宮』の両親から授けられた大切なそれを突き出し、残されたその塊を貫いていく。
 少年の成れの果てとも言うべき骸魂を貫き、そこから流れ込んでくる手応えは……まるで、人々を抱擁する母親の様な、そんな優しい温もりを陽太に伝え、その姿を搔き消したのだった。


「どうやら、終わった様ですね」
 掻き消えていった骸魂と共に。
 白竜の周りに漂っていた漆黒のオーラが消えていくのを見つめていたウィリアムが強張っていた両肩から力を抜き、安堵の息をそっと漏らす。
「ああ……その様だ」
(「あの子が蛍火さんの本当の想いを知り、その幸福に包まれた儘に、骸の海へと還れます様に……」)
 ウィリアムに生返事をしつつ、グリモア・ムジカに鎮魂曲を奏でさせ続けながら、胸中で静かに祈りを切る美雪。
 一方、白竜たる蛍火にも、異変が起き始めていた。
「蛍火さん、どうしたの?」
 戦いが終わったと言う安堵と共に、二槍をそっと下ろした姫桜がそう問いかけるその間にも、蛍火がしゅうしゅうという音を立てて……。
「小さくなってきてやがる!?」
 短刀であの骸魂を貫いた時の感触に腕を摩りつつ、目を丸くする陽太の言葉通り。
 白竜であった蛍火が瞬く間に小さくなっていき、やがてその頭頂部から二本の角を生やした、白地ベースの、竜の鱗の様な紋様の入った装束を纏った幼い少女の姿へと変貌する。
 そのままよろよろとその場に両膝と両手を突いて俯きハラハラと涙を流す幼き少女の姿は、さながら生まれたての赤ん坊の様に愛らしく無力で、何処か庇護欲をそそらされた。
「蛍火、もしかしてその姿が君の……?」
「うう……ふぅぅぅぅぅぅぅ……!」
 統哉の問いかけには答えず。
 哀しくて、哀しくて仕方なかったのであろう。
 今にも消えてしまいそうな儚さを伴った少女形態と化した蛍火が、只ひたすらに嗚咽を漏らし、その場に完全に蹲ってしまっている。
「説得は上手くいった様ですが、これは……」
 明らかに意気消沈している様子の蛍火の姿を見てウィリアムが戸惑いを隠せぬ表情でそう呟くと。
「心の整理が追いついていないのね、きっと」
 蛍火のその姿を見て、思わずすん、と軽く鼻を鳴らした姫桜が同意する様に其れに頷いた。
「まあ世界の危機は去ったかも知れないが、このままにしておいたら、さぞ気分が悪いだろうな……」
 これ以上、鎮魂曲の効果は見込めないと判断したのであろう。
 美雪がグリモア・ムジカの演奏を止め、空を仰ぐと。
 参詣道に咲き乱れていた無数の桜達が再び周囲に姿を現し、そんな蛍火の心を代弁する様に風に揺られて、ヒラヒラと無数の桜の花弁を散らせていた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第3章 日常 『忘れられた神域』

POW神社に参拝する
SPD御神籤を引く、桜を愛でる
WIZ花より団子、飲食を楽しむ
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
プレイング受付期間:9月17日(木)8時31分以降~9月19日(土)16:00頃迄。
リプレイ執筆期間:9月19日(土)17:00頃~9月20日(日)一杯迄。
何卒、宜しくお願い申し上げます*

 ――ヒラヒラ、ヒラヒラ。
 桜の花弁が舞い散る、不意に姿を現した鳥居と、小さな神社の様な場所の縁側で。
「うう……ふぅぅぅぅぅぅぅ……!」
 幼い少女の姿と化した蛍火が、蹲って、只ひたすらに泣いている。
 自らの未練と後悔。そして、何よりも『彼』に対する惜別の念を誰よりも強く掻き抱いて。
 蛍火は、納得はしているのだろう。
 だが……納得できたからと言って、それだけで湧き上がってくる無限の感情を抑えきることなど出来る筈も無い。
 それで今は良くとも。
 また、何時かはその心の瑕疵が癒えたとしても。
 このままでは其れが何時になるのかは決して分からず。
 最悪、その悲嘆に絶望して再び世界崩壊の引金を引いてしまうかも知れない。
 そうせぬ、させぬ、その為にも。
 蛍火の痛みを少しでも柔らげるために、猟兵達は行動を開始する。

 ――束の間の自分達への休息も兼ねての行動を。
ウィリアム・バークリー
こんにちは、蛍火。戦ってる間の、いや『彼』と一つになっていた時の記憶は残ってるのかな?
まあ、この様子じゃ覚えてて当たり前か。
辛い思いを二度もさせてごめん。でも、君たちを止めなければ、全ての妖怪ごと、この世界が骸の海に沈むところだったんだ。

なんて言っても、納得は出来ても感情が付いてこないよね。
ただ一緒にいたかった。たったそれだけのことが、今を生きるものと過去になったものの間では出来ない。

ここは君の土地なのかな? だったら、『彼』のお墓を作ろう。毎朝洗い清めて、『彼』のことを忘れないようにしよう。本当に亡骸を入れる必要は無い。これが彼のお墓だと決めれば、そうなる。
心なんてそんなもの。一緒に作ろう。


彩瑠・姫桜
SPD
蛍火さんと一緒に過ごしたいわ
花を愛でながら『彼』の話を聞いてみたいの

泣くならそれを止めずに
手をつないで、可能なら頭を撫でながら

ね、蛍火さん
『彼』の話を聞かせて?
一緒には居られなくなってしまったけれど
貴女の中には、彼と過ごした時間も、たくさんの想いもあるでしょう?
離れてしまっても
貴女が彼のことを覚えていて、話をしてくれたら
貴女や私達の中で、彼は生き続けることができるわ

死は2回訪れると聞いたことがあるの
1回目の死は、肉体の死
2回めの死は、彼が居たという存在の、記憶の死

もう触れることはできないけれど
できることなら、貴女の記憶の中の彼が
私や皆の中にもずっと生きていられるように
彼の事、聞かせて?


藤崎・美雪
【一応WIZ】
他者絡み、アドリブ大歓迎

理性で納得するのと感情で納得するのはまた別だ
別れが惜しいのは誰だって同じ
それが愛する者なら、なおさらな

桜の花の塩漬けを浮かべた緑茶と団子を持参

蛍火さんが泣き止み落ち着いたら茶を勧めよう
周りの猟兵たちにも、同じ茶を勧めるよ

基本は茶を飲み、団子を勧めながら話の聞き役に徹するが
頃合い見て蛍火さんに話しかける

皆の不幸を背負い、なお微笑んでいた少年のこと、決して忘れないでほしい
哀しい思い出だけでなく、嬉しい思い出も、幸せだったことも、全て
本当に辛いのは「忘れ去られる」ほうだからな

…この世界の妖怪達は、皆それぞれの想いを胸に生きている
蛍火さん、あなたも同じだからな


文月・統哉
お花見をしよう
お団子と甘酒もここに

妖怪が向けられた感情を糧にするのなら
彼への想いを語る事が
きっと何よりのお供えだ
人数分と少年の杯に甘酒を注ぎ献杯し
ゆっくりと語り合う

思い出を沢山聞かせて欲しい
渦巻く感情の塊を一つ一つ解いて
想いを言葉にしていこう
どんなことでもいいよ
蛍火の想いに寄り添って
そして共に祈りたい

二人の出会いを
交わした言葉を
共に見た風景を
少年のどんな所が好きだった?

少年もまた君の事を…
村人達とは違う君からの想いは彼にとっても特別で
蛍火と出会えた事は彼の幸せでもあったと思う

大切な人を守った
少年の意志と心の強さを俺は尊敬するよ

蛍火の幸せを願う
今もずっと君と共に在る
少年の想いと共に

※アドリブ歓迎


森宮・陽太
他者との絡み、アドリブ歓迎

蛍火は、感情的には俺に怒りや悲しみをぶつけたいかもな
だから、俺に何かぶつけるなら抵抗しねえ
それで気が済めばそれでいい
いつまでも蛍火を恨みや憎しみに囚われたままにはしておけねえよ
…それこそ己が身ごと世界を滅ぼす炎になりかねねえからな

一通り蛍火の気が済んだら
骸魂を貫いたお守り刀を握らせる
これは俺の今の両親が送ってくれた刀だ
記憶を失くしてサクミラに辿り着き、彷徨っていた俺を保護し
我が子同然に愛情を注いで育ててくれた親がな

この刀で骸魂を貫いた時
感じたのは誰かを包み込むような優しい温もりだった
なあ、蛍火は何か感じるか?
もし感じたなら、その想いを大事にしろ
そして、忘れるんじゃねえ



 ――ヒラヒラと桜の花弁が、天から零れ落ちる様に宙を舞う。
 郷愁を思い起こさせる其れに埋もれる様に。
「ううっ……ふぅぅぅぅぅぅ……ひっく、ひっく」
 神社の様な場所の縁側で幼い少女の姿と化した蛍火が、蹲って泣き続けている。
 今にもダクダクと滴り落ちる様な血の音が地面を叩く……そんな情景が繰り返されている様な、そんな感覚を覚えながら。
 その、蛍火に向けて。
「こんにちは、蛍火」
 柔らかな声音でウィリアム・バークリーがそう呼びかけたのは、ある種自然な成り行きであったかも知れない。
 その、ウィリアムの呼びかけに。
 目から溢れ出る白い雫を誤魔化す様に、ゴシゴシと着物の裾で両の瞼を擦りながら、蛍火がウィリアムを見つめた。
「あなた……」 
 そんな、蛍火の呼びかけに。
 ウィリアムが小さく息をつき、軽く頭を横に振る。
「その様子だと、覚えているんだよね。あの時、ぼく達と戦っている間……いや、『彼』と一つになっていた時の記憶を」
 周囲の風景を、軽く目を細めながら見つめながらのウィリアムの呼びかけに。
 ぴたりと袖で涙を拭う仕草を止め、わっ、と両手で顔を覆って、再び背を猫の様に丸くして泣き出す蛍火。
「まあ、当然か」
「それはそうだろう、ウィリアムさん」
 何処か、少し咎める様な口調で。
 再び泣きじゃくり始めた蛍火の様子に軽く頭を抑えながら、呆れた様に藤崎・美雪が溜息をつく。
「別れが惜しいのは、誰だって同じだ。それが愛する者ならば、なおさらの話だ」
(「しかも、彼女は……」)
「1度ならず、2度までも、って話だからな」
 美雪の胸中の呟きに答える様に。
 森宮・陽太が、蛍火に敢えて聞かせる様な声音で告げている。
(「2度目のあいつとの別れを決定付けたのは、俺だ」)
 だからこそ。
 只、我武者羅に泣くのではなく。
 彼を悼んで流す涙……怒りや悲しみ、或いはその憎悪をぶつけられて、其れで蛍火の気が済むのであれば、それで良い、と心から陽太は思っている。
 いるのだが……。
 蹲る蛍火にそっと近づき。
 ――トン。
 と、噎び泣く蛍火の頭を優しく右手で撫でる様にしながら、その青い瞳に労りを籠めて蛍火を見つめる彩瑠・姫桜と、その姫桜をしゃくり上げながら真っ赤に充血した目で見つめる蛍火の姿には、意外さを禁じ得なかった。
 涙を零す蛍火に、姫桜が良いのよ、と微笑み静かに告げる。
「泣いていいの。そうする事で、貴女の心が少しでも癒されるならね」
 姫桜の、その何気ない一言に。
 其れまで両手を覆っていた蛍火の手が辿々しく、まるで、何かを求めるかの様に宙を彷徨う。
 そんな蛍火のしなやかな真っ白な肌をしたその手を、姫桜が優しく包み込む様に握り込むと。
 右腕の玻璃鏡の鏡面に一枚の桜の花弁が舞い落ち、その鏡面を淡く揺らめかせた。
 穏やかな波の様に広がっていく水の波紋は、まるで姫桜自身の心を現すかの様。
 その様子を何処か茫洋と見つめている蛍火に穏やかな視線と微笑みを向けていた文月・統哉が、美雪へと目配せ。
 そんな統哉の目配せの意味を読み取ったか、美雪が静かに頷いて自らの懐を弄るその間に、なあ、と統哉が桜吹雪を散らす美しき桜を見つめながら問いかけた。
「お花見をしよう。こういうの、俺達持ってきているからさ」
 そう言ってごそごそと統哉が取り出したのは、お団子と甘酒。
 甘やかな香りを発しているそれらに気を取られる様に其方へと真っ赤に腫らした目を向ける蛍火に、きっと、と統哉が笑ってみせた。
「飲み食いしながら、蛍火が皆に彼への想いを語る。それが彼への何よりのお供えになるからさ」
「ふふっ……そうね。私も統哉さんの言う通りだと思うわ」
 姫桜が自分の台詞を取られたと思ったか、ちょっとむくれる様に頬を赤らめつつ、けれども微笑みを浮かべて蛍火に小さくそう囁きかけると。
 幼き少女の姿と化した白竜は、ほんの少しだけ微笑んだ。


「私が持ってきたのは緑茶と桜団子。統哉さんが持ってきたのは甘酒と月見団子か。花見にはうってつけだな」
 フワフワと茶柱の様に桜の花の塩漬けを浮かべた緑茶を、蛍火と陽太達に勧めながらの美雪の呟きに、そうだな、と苦笑交じりに陽太が頷く。
「先ずは、彼のためにも献杯といかないか? その方がきっと、彼も喜んでくれるからな」
「そうですね。ぼく達も、そうして一度気持ちに区切りを付けた方が良いかもしれません」
 統哉のその提案に、その口元に軽く手を当てて、考え込む様に眉を顰めながらそう頷いたのはウィリアム。
(「確かに、仕切り直しみたいな事は必要かもな」)
 陽太が内心でそう思いつつ同意する様に頷くと、ぎこちない仕草で統哉の甘酒を受け取った蛍火が首を縦に振ったので、誰から共無く献杯、と言う声があがり、甘酒の入った杯が何時の間にか宙に向かって掲げられていた。
 そのまま甘酒に口を付け、統哉達は軽く喉を湿らせていたが、不意にキャッ、と驚いた様な、可愛らしい悲鳴を蛍火が上げる。
「……大丈夫?」
 ウィリアムが気遣う様にそう呟くと、蛍火がそれに首を縦に振り、それから両手で甘酒の入ったお椀を包み込む様に握って、フー、フー、と息を吹きかけている。
「えっ? 蛍火さん、猫舌なの?」
 適度な温度に温められた甘酒に口を付け、美雪が用意してくれた桜団子に手を伸ばしながら姫桜がさりげなく問いかけると、蛍火が頬を恥ずかしそうに桜色に染めつつ小さく頷いた。
(「炎を吐く白竜が猫舌って……意外ですね」)
 ふと、そんな考えがウィリアムの脳裏を掠めていったが、それは口に出すこと無く、代わりにウィリアムが告げたのは、さりげない謝罪。
「ごめんね。君には、二度も辛い思いを……」
 ウィリアムのそれに、冷ました甘酒を口に運んでいた手を止めて、蛍火が軽く首を横に振った。
「良いんです。だって、皆さんがしてくれたことは……」
「別に俺のことは恨んでくれて良いんだぜ?」
 か細く囁きかける様な蛍火のそれに、献杯用の甘酒を飲み干し、美雪が用意してくれた緑茶へと手を伸ばしながら陽太が軽く肩を竦めてそう告げる。
 其れは如何にも戯けて言っている様にも見えるが、放たれた声音と瞳に称えられた光は、何処までも真剣だった。
「それで蛍火の気が済めば、俺は其れで別に良いんだ。……アンタが憎しみや恨みに囚われたままでいるよりは、ずっとな」
 それは、陽太なりの気遣いなのであろう。
 けれども、蛍火は陽太のそれに軽く頭を振った。
 両手で大切そうに握りしめていた甘酒の入った器は、震えていたけれども。
「わたしの我儘をそのままにしておけば、この世界がどうなってしまうのか。それは一応、分かっていたつもりです……。だから、皆さんのした事に対する納得は……」
 それ以上を言葉にすることは出来なかったのだろう。
 全身を身震いさせながら辿々しく紡がれる蛍火の言葉。
 何処か無理をしてそう言っている様にも見えるのが、とても痛々しい。
「納得は、本当に出来ているんだね。でも、感情が如何しても付いてこない」
 震える蛍火の様子を認めながら、ウィリアムが確認する様に呟き、それから美雪が注いでくれた緑茶を手に取り、その器の中の緑の液体と、そこに浮かぶ桜の花の塩漬けをじっと見つめる。
 じわり、じわりと緑茶の上を漂うその桜の花の塩漬けは、まるで蛍火の心情を映し出す鏡の様だった。
 暫し、美雪達が其々に飲み物を飲み、団子を咀嚼する音がシン、と辺り一帯に響き渡っていく。
 ――まるで、天使が通り過ぎ去っていく様に。
 その時間は、何十分、何時間にも感じられる様な、そんな静寂だったが。
「でも……」
 不意に蛍火が、ポツリと、その沈黙を打ち破る様に呟いた。
「でも?」
 話したくなる機会を静かに伺っていた美雪が続きを促す様にそう問い返すと、蛍火がこくり、と冷めた緑茶を一口口に含んでから、言葉を紡いだ。
「こうしていると、思い出すんです。あの人と一緒に、村人の皆が、私に供えてくれたお供え物をこっそり分け合って飲んだり食べたりした時の事を」
「そっか。蛍火さん、『彼』とそんな事をしていたりしたのね」
 穏やかに微笑みそう呟く姫桜に、はい、と蛍火が頷き返した。
「そう言えば、蛍火が彼と初めて出会ったのは、何時だったんだ?」
 独り言の様に、けれども極自然と水を向ける様に。
 そう呟く統哉に蛍火が口元を桜の花の様に綻ばせ、静かに月見団子へと手を伸ばし、それをそっと左手で包み込む様に握り、空へと向ける。
 それはまるで、桜の森の向こうから微かに差し込んでくる光を、覗き込もうとしているかの様だった。
「あの人は元々、人間界を放浪している妖怪でした。だから、わたしと初めて会った時、とてもお腹が空いていたんだと思います」
 それに気が付いた蛍火は、今の人型になって『彼』にお供えされていた月見団子をお裾分けした。
 それが、あの運命の出会いの切欠だった。
「ふふっ……素敵なお話ね」
 小さく姫桜が微笑を零しながら、優しく梳く様に蛍火の頭を撫で、それから美雪が用意してくれた桜団子へと手を伸ばし、もぐり、と一口頬張っている。
 そんな姫桜の何気ない仕草に勇気づけられたか、そのまま粛々と話を続ける蛍火。
 コポコポコポ……と美雪が何時の間にか空になっていた蛍火の緑茶の椀の中におかわりを注ぐと、緑茶の芳醇な香りが、風に乗って蛍火の鼻腔を擽っていった。
「あの時、彼は嬉しそうに、わたしに『ありがとう、美味しかったよ』って言ってくれたんですよね。『この村は君が安心して過ごすことが出来る位、豊富な感情に恵まれているんだね』、とも」
 あの時彼は、自分がお裾分けした供え物に含まれていた村人たちの多くの感情を感じ取ったのだろうか。
 だから、自分と一緒にあの村にいようとしてくれていたのだろうか。
「春はこんな風に一緒に咲いた桜の下でお花見をしながらお供え物を食べて。その食べ物は、四季の変化によっていつも変わっていって。村人達は、子供から大人へと成長して、そしてまた新しい命を生み落として。そんな幸せを叶えて下さい、ってわたしにお願いしてくれて。そんなありふれた幸せを、あの人はとても幸せそうに見つめていた……」
 透き通る様な、愛らしさを伴った表情を浮かべ。
 とても懐かしそうなそんな光を、その瞳に宿してこの桜に取り囲まれた『世界』を見つめながら。
 深い親愛を籠めて訥々と語る蛍火に、統哉が優しく微笑んで問いかける。
「そんな風に、暖かく村人達を見守っていく『彼』の姿……。そこが、君は好きだったのかな?」
 その統哉の問いかけに、羞恥から赤らめていた頬を更に朱色に染めながら、はい、と首を一つ蛍火が縦に振った。
「そうです。彼はとても優しい人(ようかい)でした。誰にでも優しく出来て、村人達にどんな目で見られても、この人達を守りたい、と本当に願っていて。きっと皆さんの言う通り、多分彼は、そんな自分の想いを最期まで貫いていた……だから、沢山の後悔や無念を抱いたんじゃないか……そう、思っています」
 蛍火の言葉を聞きながら。
(「蛍火はきっと、ただ彼と一緒にいたかった」)
 そんな思いが、ウィリアムの脳裏を掠めていく。
(「でも……」)
「ただ一緒に居たいと言う事、それだけの事であっても、今を生きるものと過去になったものの間では出来ないんだ……」
 ウィリアムのその呟きは、淡々としている。
 それは、単に事実を確認しようとしているだけの行為にも思えるが、何処か悄然としている様にも聞こえた。
「他には、どんな話があるのかしら?」
 そんなウィリアムの様子を、チラリと横目で見やりながらの姫桜の問いかけに。
 蛍火は微笑みを浮かべたままに、訥々と数多くの昔話をしてくれた。
 
 ――喜怒哀楽……沢山の情と愛を籠めながら。


 ――他愛のない、思い出という名の、惚気の様にも聞こえる話が、一頻り終わったところで。
 蛍火の蹲り泣きじゃくっていた幼い少女の影はなりを潜め、生き生きとし始めてきた。
 それなりに気が晴れてきたのであろう。
 その様子を見て取った陽太が不意に声を上げた。
「……蛍火」
 その、陽太の問いかけに。
 それまで、生き生きしていた蛍火の表情が微かに強張る。
「何でしょうか?」
 納得はしている。
 此方を憎むことも、恨むこともしていない。
 だからと言って、何もかもを水に流すことが出来る程の聖人君子には、如何に嘗て神として祀られていた妖怪にとっても難しく。
 蛍火の中にある複雑な心境をその表情に垣間見ながら、陽太が、其れまでずっと懐に納めていた一本のお守り刀……それは、『彼』の骸魂に止めの一撃を放った透き通る水晶の刀身を持つ短刀……を懐から引き抜いた。
 あの時に感じた優しく暖かな温もりは、今も尚余韻の様に陽太の腕とその水晶の刀身に残されている。
 そのお守り刀を蛍火の手に、すっ、と滑り込ませる様に握らせる陽太。
 そこから発せられる『それ』を肌で認識した蛍火が、はっ、と思わず息を呑む。
「……これはな、蛍火」
 そのままお守り刀を大事に握りしめ、その温もりをその体に刻もうとする蛍火に、陽太が粛々と語り続けた。
「『今』の俺の両親が送ってくれた、大切な『刀』だ」
「……今、ですか?」
 何気ない陽太のその呟きに、引っ掛かりを覚えたのだろう。
 陽太を見上げる様に顔を上げ、首を傾げて問いかける蛍火に、そうだ、と陽太が頷き返した。
「俺は、記憶を失くしてサクミラ……」
 そこまで告げたところで。
 あれ、とある事に気がつき、蛍火になあ、と陽太が質問を一つ。
「サクミラって言って、お前、分かるか?」
 その陽太の言葉には、軽く頭を横に振る蛍火。
 ――閑話休題。
「……もとい。ああ~、要するにお前が此処に来るよりも前にいた世界から、此処に来たのと同じ様に、俺も異世界から異世界に辿り着いてだ。訳が分からないままにその世界を彷徨っていた俺を保護して、我が子同然の愛情を注いでくれた親がくれた大切な物なんだよ。で、そいつであの骸弾を貫いた時、今、お前が正に感じている誰かを包み込む様な優しい温もりが俺の中に伝わってきたんだ。だから、もし……もし、お前が其れを感じるならば、其れを大事にして決して忘れるんじゃねぇ、と言いたい訳だ、俺は」
 わしゃわしゃと自分の頭を掻き回す陽太に軽く頷きながら、頃合いと見て取ったか、其れまで聞き役に徹していた美雪が、蛍火さん、とやや口調を柔らかくして呼びかけた。
「あなたには、皆の不幸を背負い、尚微笑んでいた彼の事を、決して忘れないで欲しい。彼が喪われた時の哀しい思い出だけで無く、先程までずっと話してくれていた嬉しい思い出も、幸せだった時のことも、全て」
「どうして、ですか?」
 美雪のその呼びかけに、陽太にお守り刀を返しながら、じっとその視線を美雪へと移して見つめて問いかける蛍火。
 その蛍火に向けて美雪がそれは、と言の葉を続けた。
「本当に辛いのは、『忘れ去られる』事の方だからな」
「ええ、そうね」
 美雪のその言葉に同意しながら、右腕に嵌めた『桜鏡』をそっとなぞる姫桜。
 嵌め込まれた玻璃鏡は、美雪の言葉を肯定する様に淡い漣を立てている。
「貴女は、私達に彼の事を沢山話してくれたわ。それは、貴女にとって何よりも彼が大切だった人の証だと、私は思うの」
 そして……その想いがあり続ける、その限り。
「骸魂でなんか無くなっても、彼は貴女や私達の心の中で、何時までも生き続けることが出来るわ」
「心の中で生き続ける、ですか……」
 姫桜のその呼びかけを反芻する蛍火に、統哉がきっと、と話を続けた。
「君が彼の事を愛しているのと同じ様に。彼もきっと、君の事を想い続けていたんだと、そう思うよ。村人達が彼に向けていたのとは違う君からの想いはきっと、彼にとってもとても、とても特別で、幸せな事だったんだろうとも」
 ――だから彼は、命を賭して戦った。
 そして、彼女のことを守り通した。
 守れなかったと嘆いていた少年は、けれどもこの世界に蛍火が逃げ込むことが出来た時点で、全てを守り抜けなかったわけでは無いのだ。
「彼にその自覚があったのかどうかは分からないけれどね。でも……彼のその意志と心の強さ……そして、蛍火の幸せを願う純粋なその想い、俺も見習わなきゃなと思う位に素直に尊敬できる。でも、其れを本当の意味で伝えていくことが出来るのは、君だけなんだ」
「わたしだけ……ですか?」
 その、統哉の呟きに。
 微かに驚いた様に息を呑む蛍火にそう、と統哉が微笑んで頷き返した。
「彼の思いは今も……これからもずっと、君と共に在るものだから。だから、君は其れを他の皆にも伝えることが出来る筈だ」
 そんな確信を抱いた統哉のその頷きに。
 美雪がそうだな、と軽く相槌を打ちつつ、小さく其れを口にした。
「貴女の中に、彼の想いがずっとあるのと同じ様に。この世界の妖怪達も、皆、其々の思いを胸に生きている。だから、貴女が其れを伝えれば他の皆も分かってくれる可能性は十分あるだろう」
 美雪のその言葉を引き取る様に。
 続けて姫桜が私はね、と小さく囁きかける様に其れを紡いだ。
「死は、2回訪れると聞いた事があるの」
「死が2回……ですか?」
 姫桜の其れに茫洋とした表情で問いかける蛍火にええ、と姫桜が強く頷き返した。
「1回目の死は、肉体の死。そして2回目が、統哉さんや美雪さんが言ってくれた、彼が居たという存在の、記憶の死。でも彼の記憶の死は、貴女がその思い出を胸に抱き続ける限り、訪れることは無いわ。だから……」
 ねっ? と軽く首を傾げてウインクを一つしながら。
 姫桜のその想いを受け取った蛍火がこくり、と力強く頷く。
 けれども、彼女の胸の中にある痼りの一つが如何しても取れない。
 その痼りの様な何かが憂いとなって、蛍火を俯き加減にさせているのに気がついたウィリアムが、蛍火、と彼女に呼びかけた。
「此処は君の土地であっているかな?」
 その、ウィリアムの問いかけに。
 パチパチと瞬きを繰り返しつつ、こくりと蛍火が小さく頷く。
 その蛍火の頷きに満足げに頷き返した後、それなら、とウィリアムが話を続けた。
「『彼』のお墓を、此処に作ろう。そうして毎朝、洗い清めて『彼』との思い出を大切に残し続けよう。そうすればきっと、君にとっても良い慰めになる」
 そのウィリアムの提案に。
 微かに驚いた表情になりながら、でも、と軽く蛍火が頭を横に振った。
「あの人の遺品なんて、此処には……」
「大丈夫。遺品も亡骸も、本当にそのお墓に入れる必要なんて無い。それが彼のお墓だと決めれば、そうなる。心なんてそんなものだ。だから……」
 ――ぼく達と一緒に作ろう。
 そう言う想いを込めて、ウィリアムが差し出したその手を握り返すのに。
 躊躇う様な表情を見せた蛍火に、姫桜と統哉が微笑みを浮かべてその背を促し、美雪が仕方ない、と言う様に肩を竦め、陽太が先程までとは打って変わってにっかりと太陽の様に朗らかに笑いかけた。
 そんな陽太の笑顔、姫桜や統哉、そして美雪に支えられる様にして。
 蛍火はウィリアムの差し出した手を受け止めて、そうして彼等と共に一つの墓を、石を積み上げて作り上げ、『彼』の名前を刻んで墓碑とした。
 その墓碑が完成した様を見て、蛍火は不思議と胸のつかえが下りた様な想いを、その胸にはっきりと抱いたのだった。

 かくて自らの心に整理を付けた蛍火に見送られ、猟兵達はその世界を後にする。

 ――次の戦場へと、向かうために。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年09月20日
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵