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紅茶の友~皇女殿下の危険な市民

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #スパヰ甲冑 #挿絵

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●帝都、カフェーの片隅
「色々と面倒なことになって来たな」
 三つ揃いの男がトーストを片付けて口を開く。
 視線の先にはタートルネックにジャケットの男がスプーンに掬ったジャムを口に含んでいた。
「やはりレモンティーではないんだな」
「それは貴殿の愛する女王陛下だけの特別な茶葉だ。我々労働者たる市民は貴重な砂糖の代わりにジャムを含み、濃いめの紅茶を嗜むのだ」
 薄く入れた紅茶を片手に、同じ色の髪を持った三つ揃いが溜息をつく。正面に座るジャケットを羽織った銀髪の男はその様子に対して赤くなった舌を見せて答えとした。
「まあ、これも最後だと思うと残念だよ」
「ああ、残念だ。本国へ召還されると聞いた、おかげで私は証拠を消すのに苦労した」
「『皇女殿下』は用心であらせられる、私のような口の回る男は放ってはおけないのだろう」
「『女王陛下』は最後まで仕事を全うすることを望まれた。私はもう少しここにいるよ」
 互いに席を立つ。時間が来た。
「残念だ」
「ああ、残念だ」
 あとには空になった二つのティーカップ。

 紅茶を嗜む、二人の時間は終わり。ブーツとオックスフォード、それぞれの足元を泥に汚す時間が始まった。

●グリモアベース
「苦手なのよね、腹の探りあいとか、駆け引きとか。みんなはどう?」
 ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は軽く髪を弄りながら、金の瞳で問うた。
「『幻朧戦線』について、新しい動きが視えたの。あいつら、利害の一致を見た連中から支援を受けてたみたいでね」
 言葉が切れると同時に、中空にいくつもホロウインドウが展開して、さまざまな都市の映像が映し出される。
「……世界が統一されたとはいっても、国ごとの利害関係はなくならない。関係だって張りつめてる。少しでも有利な立場でいたいって思うのは、まあ――当然よね」
 元々『兵器』として、分かりやすく運用されていたミネルバからすれば、ややこしい話としか思えないのだろうか。再び首を振って、ホロウインドウを消した。
「その辺は勝手にすればいいのよ、わたしたち政治家でも何でもないんだもの――でも」
 ひときわ大きい映像を映し出せば、そこにはタートルネックにジャケットを羽織った、銀髪の男の姿があった。
「『幻朧戦線』に加担されたとなれば、話は別よね?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべて、ミネルバは集った猟兵たちを見遣った。

 スパイだなんて役回りに身を投じるくらいなのだから、それなりの固い意思があるのだろう。それは最早、信念と言っても良いだろう。
「この男については、遠い北国から派遣されたってことだけ分かってるの。けど、本国から帰還の指示が出て高飛びしようとしてる」
 それじゃあ、と誰かが言いかけるのを、ミネルバは人差し指で制止する。
「帝都の桜が、よほど気に入ったのかしらね? 幻朧桜に『約束』をしてからにしようって思ったみたい」
 バカよね、そんな感傷起こさなければわたしに見つからずに済んだでしょうに。
 ――ううん、こいつには片割れがいたから、どのみち見つけたんでしょうけど。

「みんなにはまず、幻朧桜に願掛けをしてきてもらいたいの。普通に楽しんでくれていいわ、そうすれば自然と『見えてくる』と思うから」
 他人の約束や誓いを覗き見るなんて無粋かも知れないけれど、どこかに紛れ込んでいるスパイの痕跡や証拠を掴んで突き付けてやれば、正体を暴くことも叶うだろう。
「その後は映画とかみたいなスパイアクションよ、スカッと追い詰めてやって頂戴」
 ただ、とミネルバは顎に手を添えて考え込む仕草をする。
「……追い詰められたネズミが、どんな行動に出るかはわからない。気をつけてね」
 真剣な眼差しを頼もしい猟兵たちに向けて、六花のグリモアを輝かせる。

「もし、余裕があったら、片割れのスパイも何とかしてくれると嬉しいわ」
 あちらは英国紳士なんですって――そう言って、ミネルバはぺこりと頭を下げた。


かやぬま
●ごあいさつ
 幻朧戦線にも新展開が!
 という訳で、みなさわMSとのコラボシナリオ、第2弾です。
 かやぬまは皇女殿下の、みなさわMSは女王陛下のスパヰをそれぞれ担当します。
 同時参加も全然問題ございませんので、是非よろしくお願い致します!

●お話の流れ
 第1章「やくそくの櫻路」(日常)
 第2章「暗躍する幻朧戦線」(冒険)
 第3章「?????」(ボス戦)

 まず、幻朧桜咲き乱れる公園にて日常を謳歌して頂きます。
 桜の和紙に願いを綴って、誓いなり決意なりと共に『約束』を桜の木に巻き付ければ、いつしか願いが叶うというささやかな風習があるそうです。
 普通に桜小径を散策してもいいですし、折角なので何かを約束してもいいでしょう。
 そのついでに、スパヰらしき輩を証拠と共に言い当てればクリアとなります。
 (なお、言ったもの勝ちなので色々楽しく考えてみて下さいませ)
 正体を見破られたスパヰとのアレソレは、断章で追ってご案内致します。

●スパヰの人
 コードネーム『バーバチカ』、『皇女殿下』に篤い忠誠を誓った男。
 外見年齢だけで言えば三十路近く、予知で視えたのはタートルネックにジャケット、ブーツ姿。よくある格好すぎて、これだけでは特定は難しいでしょう。

●プレイング受付期間
 MSページとツイッターでお知らせ致します、ご確認頂ければ幸いです。
 同時に、MSページの記載もひと通りお目通し下さいますと嬉しいです。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
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第1章 日常 『やくそくの櫻路』

POW   :    桜の杜を花逍遥

SPD   :    自分との約束を結ぶ

WIZ   :    誰かとの約束を結ぶ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ほんの僅かな願いと綻び
 ここ帝都に来て以来世話になっていた情報屋の協力を得ながら、『バーバチカ』の二つ名で呼ばれる銀髪の男は、己の活動の痕跡のことごとくを『なかったことにした』。
 こんな商売をしているのだからお手の物、そして基本中の基本。尻尾を掴まれるようなことがあればそれでお終い、奥歯で毒薬を噛んで殉じるまで。

「……ああ、残念だ」
 銀髪の男は、幻朧桜が咲き乱れる公園に足を踏み入れながら呟く。抱えた幾ばくかの書類も処分せねばならないのに、桜の花弁に酔ったのだろうか。
 気がつけば、祖国の言葉で『蝶』を意味するコードネームを持つ男は、かっちり三つ揃えでいつも固めていたビジネスパートナーの姿を思い浮かべていた。
 堅物で何かと苦労したが、仕事は驚くほど良く出来る男だった。
 ――自分ほどではないけれど、とほくそ笑みながら、そう思う。

 願いが叶うというのならば、いつか叶って欲しい願いが、一つだけある。
 ああ――それくらいは、許してはくれまいか。
 銀髪の男は、桜の和紙に何やら文字を綴り、器用に桜の枝に結びつけた。
 
 ――『友よ、また紅茶を飲もう。時間はまだ雄大にある』

 今はひとたび別れの時だが、またいつか会える日も来るだろう。
 そう信じて疑わず、皇女殿下の危険な市民たる男は、周囲を見渡す。
 幸せそうな人々の姿、それをいずれ『幻朧戦線』は蹂躙するだろう。

(「猟兵たちよ、止められるものなら止めてみせよ――お手並み拝見と行こう」)

 ジャケットの襟元を一度引っ張って直し、銀髪の男は不敵に笑った。
 その背中が、桜吹雪の向こうに消えていく――。
灰神楽・綾
【不死蝶】
グリードオーシャンで夏を満喫した後に
桜が咲き乱れるこの世界に来ると
なんだか不思議な感じがするねぇ

なんだっけ、UDCアースやサムライエンパイアの
初詣でおみくじを木に結びつける風習と似てるかも?
梓はいつも俺の事を気にかけてくれるのは嬉しいけど
自分自身の為の願いは無いのかな?とも思う

それじゃあ俺のお願い事はー
『激辛担々麺食べたい』
今回のお仕事頑張って終えたら梓に奢ってもらうんだ…
という強い決意と共に木に結びつけ
よしこれでバッチリ

で、スパイだけど…
例えば万引き犯ってのは動きや目線が不自然で
保安員はその仕草だけである程度見破れるだとか
この美しい桜の中で訝しく周りを
気にするような人が怪しいかもね


乱獅子・梓
【不死蝶】
ああ、グリードオーシャンが常夏ならば
この世界は常春って雰囲気だよな

願掛けか…以前星を眺めた島で
綾に「星に願いごとをするなら?」と
聞かれたことを思い出す
『故郷が平和になりますように』
ついでに『綾が早死にしませんように』
2つ目の願いは
『俺の目が届く内は綾は死なせない』
という『約束』と共に木に結んでおこう

で、綾は何書いたんだ
いやいやお前、それただ単に
今食いたいものを書いただけだよな??
今回もはぐらかされてしまった
それなりに長い付き合いだが
未だにこいつの真意は見えない

綾の推理だけでは証拠としては弱いが
方向性は当たっているかもな
少なくとも「全力で桜を楽しみにきました」
という感じでは無い筈だろう



●本当の願いを
 桜が、はらはらと舞っている。
 ここサクラミラージュでは当たり前の景色ながら、それが『季節を問わず』と言われると、人によっては奇妙な感覚を拭いきれないかも知れない。
「グリードオーシャンで夏を満喫した後に桜が咲き乱れるこの世界に来ると、なんだか不思議な感じがするねぇ」
 赤いレンズのサングラス越しに見ても、幻朧桜は美しいけれど。灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、そう隣に立つ乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)へ声を掛ける。
「ああ、グリードオーシャンが常夏ならば……この世界は常春って雰囲気だよな」
 暦の上では夏真っ盛りと言われる時期に、梓は綾と連れ立ってありとあらゆる海辺で楽しめるアクティビティを堪能し尽くしたことを思い出す。あれは正直、楽しかった。

 さて今回は常春の世界で大捕物をと頼まれたが、一先ずは願掛けでもして来いという。
 公園は想像していた以上の広い敷地を持っており、桜の木に約束を立てるのもまた立派な催し物として周知されているのか、用意されたイベントテントでは願いを綴る桜の和紙が無料で配布されていた。
「なんだっけ、UDCアースやサムライエンパイアの初詣でさ」
 配布前提で大量生産されたと思しき短い鉛筆と共に桜の和紙を受け取って、綾が言う。
「初詣でおみくじを木に結びつける風習と似てるかも?」
「ああー……」
 確かに似ているな、と思って同意の声を梓が上げる。あるいは絵馬にも近いだろうか。
 そんなことを考えつつ、鉛筆片手に和紙とのにらめっこを始める。
「願掛け、か……」
 夏のひと幕、どこかの無人島で星を眺めた時のこと。

 ――流れ星に願い事をするとしたら、梓だったらどんなのがいい?

 そう、問われたことを思い出す。
 その時に願ったことは、今も変わらない。だから、梓は筆を走らせた。

『故郷が平和になりますように』

 書いてみて気付いたが、和紙に少しばかり余白が出来た。
 そう、もう一つくらいは何か書けそうなくらいの余白が。

「……ついでだ、ついで」
 誰に言い訳をしているのか、敢えてそう声に出してもう一筆綴る。

『俺の目が届く内は、綾は死なせない』

 それは、己との約束にして誓い。幻朧桜に託して、折り畳んで木の枝に括った。
「梓はさ」
 何食わぬ顔で綾が呼び掛けるものだから、梓の肩が跳ねた。
「な、何」
「……や、何でもない」
 丸眼鏡の向こうの糸目は揺るがない。その向こうでは、こう思っていた。
(「いつも俺の事を気にかけてくれるのは嬉しいけど、自分自身の為の願いは無いのかな?」)
 それを問うたら、困らせてしまうだろうか。
 それを聞くのを、どこかで恐れているのか。
「……で、綾は何書いたんだ」
 逆にそう問われて、綾はいつもの飄々とした姿を取り戻す。
「それじゃあ俺のお願い事はー」
 ぺらり。

『激辛担々麺食べたい』

 そう、花椒がこれでもかと乗った、真っ赤で風味高い担々麺……!
「今回のお仕事頑張って終えたら、梓に奢ってもらうんだ……」
「いやいやお前、それただ単に今食いたいものを書いただけだよな???」
 うっとりと思いを馳せる綾に、梓はちょっと待てとツッコミを入れるも。
「何言ってんの、この上なく強い決意と共にこうやって……よし、これでバッチリ」
 何やかやで担々麺食べたいの願いをそのままに、桜の木に託す綾。
 自分は真面目な願いごとを書いたのに、綾と来たらこれだと軽く額に手を当てる梓。
(「今回も、はぐらかされてしまった」)
 お互いそれなりに長い付き合いではあるが、梓からすれば未だに綾の真意は見えず。
 綾もまた梓に問えない問いを抱いていることには、気付いているのだろうか。

「で、スパイだけど……」
 立派な桜の木に背を向けながら、綾が本来帯びた任務について触れる。
 梓もまた同じ方を向いて、頷きだけで返す。
「例えば、万引き犯ってのは動きや目線が不自然で、保安員はその仕草だけである程度『それ』だって見破れるだとか」
「……証拠としては弱いが、推理としては当たっているかもな」
 綾の推理におおむねの同意をしつつ、梓は周囲の人々を見回してみる。
「少なくとも、『全力で桜を楽しみにきました』という感じでは無い筈だろう」
「この美しい桜の中で訝しく周りを気にするような人が、怪しいかもね」
 そう囁きあって意思の疎通を図る二人を、主にうら若き女学生たちが、遠巻きに見ては密やかに盛り上がっていたのはここだけの話。
 何で盛り上がっていたかって? やだなあ察して下さいよ!

 広大な敷地の公園のどこかで、男が一人舞い散る桜を見上げて立ち尽くしていた。
 背の高い銀髪の男は、確かにどこかしら場の雰囲気からは浮いていたかも知れない。
 けれども、何やら物思いに耽る姿を幻朧桜が包み込んでしまったものだから――今はまだ、この男を異質なものとして明かしてはくれなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

満月・双葉
桜を眺め、桜を楽しむ人を観察する
人間観察が『世界を広く見よ』の言葉に込められたものなのだから
蝶々、蝶々、桜にとまれ

長年の習慣というものは捨てきれないもの
日常に溶け込む仕事であったとしても
そう日常を楽しむ人と日常を楽しむふりをする責務がある人は違う
そして処分される前提で動いている人というのは…
やれやれ悲しいものです
再会を約束した、したい人はいませんか、それが影朧でも構わぬと
理解できなくもない

自分がそうなっても構いませんか
組織としてはそれを望まれているのでしょう
目立たぬ処分法
【医術】の知識は語る『毒も量によっては薬である』
その逆もしかり
怪しい動きは腕を切り落としてでも止めますよ?
大丈夫、僕は医者だ


木常野・都月
今回、俺の特技が活かせる手掛かりがない。
せめてスパヰ?が影朧を連れていれば、人以外の匂いを追えたのに。
服とブーツ付けてる人…。
ちょっと……俺には無理かも。

任務の説明では、桜を楽しんでいれば自然と見えてくるらしいけど、何が見えるんだろう。

まあ他の猟兵もいるだろうし、俺は普通に桜を楽しむか!
折角の幻朧桜だし!

幻朧桜の精霊様に挨拶して……っと。
ん?そうか!
幻朧桜の精霊様に聞けばいいんだ!
幻朧桜の精霊様なら、帝都の事ならお見通しだろうし。

幻朧桜の精霊様、スパヰの人、知ってたら教えて欲しいです。
今なら精気も付けますから…ね?

無理なら仕方ない。
何か見えて?くるまで[野生の勘、第六感]で手がかりを探したい。



●見るもの、追うもの
 桜舞う公園を行き交う人々は、誰もが心を弾ませ見るからに楽しそう。
 そんな中、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は一人この世の終わりのような顔で頭を抱えていた。
「……今回、俺の特技が活かせる手掛かりがない」
 ああ、せめて件のスパヰが影朧を連れていたならば、人ならざるものの匂いを追うこともできたのに。
 それどころか相手は潜入隠密に長けた人間と来ては、途方に暮れても仕方がない。
(「服と、ブーツ着けてる人……」)
 それでも周囲をゆっくりと、精一杯心を落ち着けて、見回してみるけれど。
「ちょっと……俺には無理かも」
 あまりにも手掛かりがなさ過ぎて、がっくりと肩を落としてしまう都月であった。

 そんな様子を見かねたかのようなタイミングで、一人の翼あるひとが現れた。
「桜を眺め、桜を楽しむ人を観察する」
 満月・双葉(時に紡がれた星の欠片・f01681)は、まるで迷える子羊を導くように言葉を紡ぐ。
「人間観察が『世界を広く見よ』の言葉に込められたものなのだから」
 双葉自身は、人間が嫌いだ。
 けれども、それを害するものを捨て置けば大切な人たちの未来まで蝕まれる。
 だから、仕方なく護るのだ。
 この場所は、とりわけ幸せな気配に満ちている。人々も、笑顔を浮かべてばかり。

 ――蝶々、蝶々、桜にとまれ。

「こちらから見つけに行かなくても構いません、向こうから尻尾を出すのを待つのも手でしょう」
「そうか……! 任務の説明では、桜を楽しんでいれば自然と見えてくるって」
 でも、何が見えるんだろう? そう首を傾げた都月を、改めて微笑ましく見遣る双葉。
 物理的に見えるものだけを指したのではないと、それは敢えて告げずに。
(「せっかく満月さんも来てくれたことだし、俺は普通に桜を楽しむか!」)
 ならばと都月は気持ちを切り替えて、折角の幻朧桜を堪能することにする。
 手近な桜の木に駆け寄ると、ペコリと一礼。そうして見上げれば、満開の桜が。
(「ん? ……そうか! 幻朧桜の精霊様に聞けばいいんだ!」)
 精霊術士らしい視点から、手掛かりとなりそうな存在を見出す都月。
 確かに、幻朧桜に宿る精霊であれば、あまねく帝都のこともお見通しであろうと。

「幻朧桜の精霊様、スパヰの人、知ってたら教えて欲しいです」
 直球で、用件から入るのはとても分かりやすくて良いと思います。
『――』
 決して守秘義務とかそういう訳ではないけれど、単純に漠然と『スパヰを教えて』と言われても答えようがないだけで、幻朧桜はただ黙するのみで。
「今なら精気も付けますから……ね?」
『……』
 魅力的な提案ではあったが、いかんせん帝都にスパヰはぶっちゃけた話山ほどいるものだから――やはり答えに困ってしまった。
 返事が返ってこないことこそが返事だと察した都月は、それでも一度頭を下げると、グッと拳を握って公園内を再び歩き回り始めた。
 足で探すことで、いつか己の研ぎ澄まされた直感に何かが引っ掛かるまで。

 桜の花弁が舞い踊るのに合わせて、羽織った着物も揺れる。
 予想以上に公園に集った人の数は多いが、双葉にはある確信があった。
(「長年の習慣というものは捨てきれないもの」)
 そう、それがたとえ『日常に溶け込む仕事』であったとしても。
(「日常を楽しむ人と、日常を楽しむふりをする『責務がある』人は、違う」)
 そこにはどうしても僅かな齟齬があり、決して繕えぬ綻びがある。
 ジャケット姿、タートルネック、ブーツを履いた男――どこかしら合致する特徴を見るたび魔眼が追う。けれども流石は訓練された者というべきか、簡単には見つからない。
(「そして、『処分される』前提で動いている人というのは……」)
 スパヰなどという商売をしているのだから、立場的にはどうしても『そうなる』。
「……やれやれ、悲しいものです」
 だからといって、見逃してやる道理もないけれど。思いを馳せるくらいは、許されよう。

 ――再会を約束した、したい人はいませんか。
 ――それが影朧でも構わぬと、理解できなくもない。

 二度とは会えないだろう人だっている。それを周囲が許さぬという人だっている。
 括られた願いや約束、誓いには、どう足掻いても果たせぬものだってあるだろう。
 果たして件のスパヰの『約束』とは、どういったものなのだろうかと双葉は思う。

 視線を避けるように、銀髪の男が木々の間を縫うように移動していく。
 ジャケットの胸元には眼鏡が突っ込まれていた。
 一件何の変哲もない眼鏡だが、知識があるものが見れば、モダンが少し膨らんでいることに気付くだろう。
 そして、その中にカプセルが仕込まれているということにも。
(「自分が『そう』なっても、構いませんか」)
 万が一拘束された時に、尋問を受ける前に自決するための毒薬。
(「『組織』としてはそれを望まれているのでしょう――目立たぬ処分法」)
 双葉が豊富に持つ医術の知識は、『毒も量によっては薬である』ことを語る。
 ――逆もまた然りであるということも。

「……死なれては困りますので」
 怪しい動きをしようものなら、その腕を切り落としてでも止めてみせる。
 その時に言う台詞も、もう決めてある。

 ――大丈夫、僕は医者だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
幻朧戦線が無辜の人々を蹂躙すると認識しておきながら
自分だけ友との再会を赦されると考えるなど
「それくらい」と表現するには幾分身勝手すぎやしませんかね

皇女、バーバチカ、北、とくれば帝政ロシアでしょうか
該当する服装と髪色のロシア人男性、という外見特徴だけでは
特定は難しいとのことですが…

…そう言えば、蝶は復活のシンボルでしたか
ならば彼が仕える皇女はアナスタシアという名前なのでは
とは言えこれだけでは特定するに至らないでしょうね
大人しく『犯人の尻尾を掴ませて欲しい』と桜に結んでおきましょう

ただ、何かしら感ずるものがあったロシア人男性には
一応式神をつけて追わせておきましょう
第六感も馬鹿にはできませんから



●理想と血にまみれた手
 幻朧桜と、人々の笑顔が咲き誇る公園に於いて、しかし水衛・巽(鬼祓・f01428)の表情は険しさを隠しきれずにいた。
(「幻朧戦線が無辜の人々を蹂躙すると認識しておきながら――」)
 スパヰは確かに、己の所業を『理解』していた。
 予知からそれを、巽は知らされていた。
(「自分だけ友との再会を赦されると考えるなど」)
 流した血と築いた屍の上で忠義を果たすものどもに、道理など通じようがなくとも。
「『それくらい』と表現するには、幾分身勝手すぎやしませんかね」
 そう、声に出して告げた。決して、赦さぬと言わんばかりに。

 イベントテントで手渡された鉛筆と桜の和紙を無意識に揺らしながら、巽は本職の探偵さながらの思考を巡らせる。
(「皇女、バーバチカ、北……とくれば、帝政ロシアでしょうか」)
 世界が『帝都』の元に統一されてなお、国のありようは変わったかも知れないが帝室まで失われた訳ではあるまい。
 そうした勢力が、裏から帝都への取り入りや独立を狙って暗躍している可能性だって否定は出来ない。
 さておき、露西亜の人間という推測が立てられたとしても。
「該当する服装と髪色のロシア人男性、という外見特徴だけでは……」
 ふむ、と顎に軽く手を当てて、それだけでは特定は困難ということに嘆息する。
 とはいえ、人種に目星がついただけでも大きな前進と言えよう。

 ――ひらり、ひらり。

 ふと、沈思黙考する巽の視界に、いかなる偶然か小さな蝶が横切っていった。
「……そう言えば」
 蝶。かのスパヰのコードネームが意味するもの。
 そして――。
(「『復活』のシンボルでしたか、ならば『彼』が仕える皇女の名前は」)
 もしも巽が至ったひとつの結論を、かのスパヰが聞いたならば、喝采を送ったことだろう。『復活の女』を意味するものの名こそ伏せられているが、『皇女殿下』の呼び名こそが組織のトップのコードネームなれば、その女にはまさしく相応しかろうと。
「とは言え、これだけでは特定するに至らないでしょうね」
 思考の筋道は正しかった、惜しむらくは『早すぎた』ことだろうか。
 まずはスパヰの男を見つけ出すところから始めなければならないのだから。
 巽もそのことを承知している故に、すらすらと和紙に鉛筆を走らせた。

 ――『犯人の尻尾を掴ませて欲しい』

 率直な願いを綺麗な文字で綴ると、桜の木に結んでひと息つく。
「……?」
 流石は帝都というべきか、驚くほど色々な人種を持つ人々が行き交う中。
 銀髪の露西亜人男性と思しき人物が、雑踏の合間に、確かに見えたのだ。
「急急如律令――!」
 それを決して見逃さず、巽は式神を召喚してその背中を追跡させる。

 桜に願えば、それは近からず遠からず、必ず叶う。
 だからこそ、これだけの人を魅了して止まないのだ。
 巽の願いも、幻朧桜が早速聞き届けてくれたのかも知れない。

(「追いましょう、第六感も馬鹿にはできませんから」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
願いごとなら沢山ありますよ。
『タダでご馳走が食べたい』
『不労所得が欲しい』『人妻にモテたい』……

桜の和紙が一枚しかない。足りません。
どれにしようかな。そうだ、約束が必要なら――、
『仕事が早く終わりますように』
さぁて、ささやかな願いを叶える為に男を見つけるとしましょうか。

タートルネックにジャケット、ブーツ姿。
高飛び前で連れは居なく、北国の出であれば恐らくは白い肌が目立つ。
この手の風習に飛び付くのは主に学生や女性が多いんですよ。
それこそ身なりの良い男が一人で歩いていれば目につくってことです。

証拠物品がないとダメですか?
ま、捕まえてから優しく訊ねればいいでしょう。
ハズレだったらちゃんと謝りますから。


ディフ・クライン
…願掛け
最奥で巡らせる想いを口にしたことは無い
問われたこともないし、口にする必要もない
だからこれは誰も見ずともよく
誰にとっても無意味なものでなければならない

「―――」

本当はしてはいけないのだろうなと思いながら
白紙のまま巻き付けるだけ

さて
桜も綺麗だけれど、生憎と感動に身を震わせるような感情もない
失せ物探しと行こうか
スパイでも願掛けするんだね

スパイならば今この場でも自分の存在を悟られぬように行動するだろう
分かっていれば探せる
灰色オコジョのneigeを走らせ、天では白狩人たる猛禽の目で探り、感情に左右されぬこの目と耳を使い
歩きつつもあらゆる痕跡を残さぬよう注意する予知の服装の男が居れば

「貴方だろう」



●たったひとつと、たくさんの願い
「……願掛け」
 想像以上に広大な敷地を持つ公園の、開けたところに設けられていたイベントテントで鉛筆と和紙を受け取って、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)はぼんやりと呟いた。
 記すべきものが、ない訳ではない。
 ただ、胸の最奥で巡らせるその想いを、口にさえしたことはないのだ。
 問われたこともなければ、口にする必要もなかった。
「……」
 桜の和紙に目を落とす。鉛筆を握ってはいるけれど。
(「だからこれは、誰も見ずともよく」)
 ディフは端正な顔立ちを揺るがすことなく、そっと鉛筆をしまい込む。
(「誰にとっても、無意味なものでなければならない」)
 何も書かれていない桜の和紙を、そっと折り畳もうとした、その時だった。

「ああ、桜の和紙が一枚しかない。足りません」
「……?」
 己に――正確には、己が持つ和紙に、視線を感じた気がした。
 ふとディフが顔を上げれば、そこには幻朧桜に負けず咲き誇る桜色の髪持つ青年の姿。
 この和紙に『何も書かれていない』ことを、知ってのことだろうかと少し身構える。
 そんなディフの僅かな警戒心を目敏く察した狭筵・桜人(不実の標・f15055)は、しかし己のペースを崩すことなく、指折り朗々と語り出す。
「願いごとなら、沢山ありますよ。まず……『タダでご馳走が食べたい』」
「……ご馳走」
「それと、『不労所得が欲しい』」
「ふろう……しょと、く」
 最初の願いなら、まだ可愛いものだ。次は一気に、リアリティあふれるものになった。
 だが、人の欲とは限りない。この程度で桜人の願いごとが収まると思ってもらっては困るのだ。
「ああ、これも外せません――『人妻にモテたい』」
「……それ、は」
 ディフが、思わずツッコミを入れそうになった。すんでの所で思いとどまったのは、人の性癖にあれこれ言うのもどうかという気がしたから。
 とりあえず、黒髪の機械人形が桜の髪の青年の裡に――いや、向こうの方から大っぴらに尽きぬ欲を明らかにしてきたことは、よく分かった。
 けれど、己の手元の和紙には『書くことがない』のではない。
 これは、『書くわけにはいかない』から、白紙なのだ。
 ディフがそう思いながら、無意識に和紙を半分に折るのを見て、聡い桜人も察する。
「いやあ、どれにしましょう――そうだ、約束が必要なら」
 器用に鉛筆を和紙に走らせて、綴った文言は、簡潔にして切実なもの。

 ――『仕事が早く終わりますように』

 ふふ、と唇に人差し指を当てて、桜色の青年は笑む。
 黒髪の青年も、その隣に折り畳んだ和紙を巻き付ける。
(「本当は、してはいけないのだろうな」)
 言葉なり文字なり、意思表示をしなければ伝わらないだろうからと、ディフはほんの少し申し訳なく思うけれど――それでも、秘めておきたいことに変わりはなく。
「さぁて、ささやかな願いを叶える為に男を見つけるとしましょうか」
 ひとつ背伸びをしてそう言う桜人に、ディフが頷く。
「失せ物探しと行こうか――スパイでも願掛けするんだね」
 そう言いながら公園を見遣るディフの瞳は驚くほどに揺らぎがなく。
(「桜も綺麗だけれど、生憎と感動に身を震わせるような感情もない」)
 感情とはディフがいまだ知らぬものにして、これから知ろうとするもの。
 いつかまた、この桜の世界を訪れる時には、何かが変わっているのだろうか。
「スパイの特徴ですが……タートルネックにジャケット、ブーツ姿」
 桜人が紙のメモ代わりに情報を保存した仕事用のスマートフォンを見ながら確認をする。予知の内容を余すことなく記録したスマホは、情報の宝庫だ。
「高飛び前で連れは居なく、北国の出であれば恐らくは白い肌が目立つ」
 常は感情を読ませぬ琥珀の瞳が、一瞬鋭く周囲を見回す。
「……この手の風習に飛び付くのは、主に学生や女性が多いんですよ」
 スマホの電源ボタンを軽く押して画面を落とすと、懐にしまいながら笑う。
「それこそ、身なりの良い男が一人で歩いていれば――普通は目につくってことです」
「……スパイならば、今この場でも自分の存在を悟られぬように行動するだろう」
 普通なら、とくつくつ笑う桜人に、スパヰだから、と言葉を受けて続けるディフ。

 行動パターンが分かっていれば、それで十分。
 ディフが「Neige.」の名を持つ灰色オコジョを地に放ちながら、天高くからは【風切る白狩人】たる超常で召喚された白鷲の猛禽の目で追跡を開始する。
「証拠物品がないとダメですかね?」
「大丈夫、証拠となるものは決して見逃さない」
 二人して、あたかも願掛けを終えて散策する一般市民を装って桜吹雪の中を歩く。
 さりげない仕草で周囲に気を配る己らの姿は、標的からもまた『浮いて』見えるのかも知れないが、それはお互いさまだ。
「ま、捕まえてから優しく訊ねればいいでしょう」
 ハズレだったら、ちゃんと謝りますからと笑う桜人。
 つられるように、ディフも口角を上げた。こういう時は、そうするものだと思って。
「見つけたら、こう言うと決めている」
 白い肌、銀髪、ジャケットにブーツ姿――タートルネックの男を、着実に追う。

「貴方だろう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フォンミィ・ナカムラ
『約束』かぁ。ステキな言い伝えだね
せっかくだから、あたしもお願い事を結んでいこうかな

「これからもずっと、仲間や友達や家族と幸せに暮らしたい」
猟兵としていろんな事件を知って、自分の住むUDCアースもただの平和な世界じゃないって知って
ふつうの日常って実は貴重なものなんだって気付いたんだ
だから、それを守りたい
あたしにはそのための力があるんだから、絶対にやってみせるよ!

すごいスパイは特殊メイクとか使って変装するんだって、映画や漫画で見たよ
この世界のホンモノのスパヰも、そういうことするのかも?
舞台メイクならちっちゃい頃から見慣れてるから、不自然になんかお化粧してる顔なら見破れると思うよ!


祓戸・多喜
うーんスパヰ…カッコいいわね!
でも普通のはともかく幻朧戦線絡みなら逃がす訳にもいかないし、高飛び阻止頑張らないと。
どれだけ完璧に取り繕っててもちょっとしたミスでひっくり返されるのもよくある事って頑張り屋さんに教えてあげちゃうわよ!

まずは願い事…これはシンプルに、大学合格!
受験生ならこれしかないっしょ!
頑張って勉強するって約束するから必勝祈願で願掛けするわ!
そして他の約束とか誓いをざっと見て…第六感で何となく怪しいのが見える、ような?
和紙に綴られた文字の癖、何となく異国風味が混ざってる…
それから歩き方、訓練されたように整い過ぎてるような気がする
…貴方スパヰね!と指摘。

※アドリブ絡み等お任せ🐘



●花咲ける女学生たち(異論は認めません)
 その日、サクラミラージュの公園に二人の女学生が降り立った。
 ひとりは、グリモアの導きによって『ごっこ遊びが本当になった』美少女モデル。
 ひとりは、凄絶な過去にもめげず華のJKライフを満喫する象の獣人……ええっ!?
「うーん、スパヰ……カッコいいわね!」
 猟兵というものは都合が良い……いや便利なもので、どんな外見をしていようとも誰にも違和感を与えることがない。
 故にちょっと(258.2cm)身体が大きい祓戸・多喜(白象の射手・f21878)だって、今この場に於いては普通の女子高生なのだ。
「でも、普通のはともかく『幻朧戦線』絡みなら逃がす訳にもいかないし」
 帝都をはじめ、このサクラミラージュ中を騒がせる『幻朧戦線』に支援をする存在とあらば、捨て置く訳にはいかぬというもの。
「高飛び阻止、頑張らないと!」
 むん、と両手を握る多喜は、気合い十分とばかりにその長い鼻をひとつ持ち上げた。

「『約束』かぁ、ステキな言い伝えだね」
 一方の美少女モデルことフォンミィ・ナカムラ(スーパー小学生・f04428)は、桜舞う公園に伝わる風習を素直に受け入れて、つぶらな紫眼を輝かせた。
 イベントテントで受け取った鉛筆と桜の和紙を交互に見てから、ひとつ頷く。
「せっかくだから、あたしもお願い事を結んでいこうかな」
 星にならぬ、桜に願いを。
 尽きることなく舞い踊る桜の奇跡を体現するこの世界だから、信じてもいいだろうと。
 ふわふわの金髪を揺らして、フォンミィは近くに設置されていた長机に向かって駆けていく。願いごとを綴って、桜の木に結びつけるために。

(「ふっふっふ……どれだけ完璧に取り繕ってても、ちょっとしたミスでひっくり返されるのもよくある事って、頑張り屋さんに教えてあげちゃうわよ!」)
 平たく言うと『わからせてやる』という多喜の不敵な宣言を、スパヰが聞いたらどんな顔をしただろうか。平然と流したか、はたまた震えを隠せないか。
 そう思いつつ、何やかやで多喜も願い事を綴った和紙を木の枝に結びにかかる。

 ――『 大 学 合 格 』

 字体、筆圧、その他諸々、あらゆる意味で力強いワードがしたためられていた。
「受験生ならこれしかないっしょ!」
 もちろん、祈って願うだけではない。多喜自身頑張って勉強をすると桜に、そして自分自身に約束をするから、この必勝祈願は『願掛け』なのだ。

 ――『これからもずっと、仲間や友達や家族と幸せに暮らしたい』

 そんな多喜の隣で、何とか自力で桜の木に鷲を結んだフォンミィもまたこれで良し、と両手を軽く打ち合わせる。
 例えば比較対象をクラスメイトとすれば、高い身長を誇るフォンミィだ。伊達に人気モデルを務めている訳ではない、所作のひとつを取っても優雅で可憐だった。
(「猟兵として、いろんな事件を知って、あたしの住むUDCアースもただの平和な世界じゃないって知って」)
 平穏の端をひとたびめくれば、すぐそこに狂気が潜んでいる世界。
 知らなければ良かったのかも知れないけれど、知らなければ守れないものもあった。
(「ふつうの日常って、実は貴重なものなんだって気付いたんだ」)
 闇を知るからこそ、光の尊さを思い知る。
(「だから――それを、守りたい」)
 手にしたこの力は、きっとそのためにある。
「あたしには、そのための力があるんだから。絶対にやってみせるよ!」
 憧れたヒーローに、なれちゃったのだから。フォンミィは、そう桜に誓うのだ。

 多喜の巨躯を見上げるようにして、フォンミィが推理を展開する。
「すごいスパイは特殊メイクとか使って変装するんだって」
 映画や漫画で見たよ、と少女がほんの少しばかり声を弾ませて言えば、雑に結ばれた和紙から垣間見えるいくつかの約束や誓いをチラ見していた多喜が返す。
「この和紙に綴られた文字の癖、何となく異国風味が混ざってる……? ああ、特殊メイクっていう線があったわね、顔ごとベリッてはがれるやつとか」
 この世界の『ホンモノのスパヰ』も、そういうことするのかも?
 もう一度フォンミィと多喜が顔を見合わせ、ふむと顎に手を当てる。
「……舞台メイクなら、ちっちゃい頃から見慣れてるから、不自然になんかお化粧してる顔なら見破れると思うよ!」
 でも、さすがに顔ごとはがれるのはどうかなあ、なんて苦笑いをするフォンミィに、多喜が陽気に笑って軽く肩に手を置いた。
「じゃあ、頼りにしてるわ! それから……歩き方、訓練されたように『整い過ぎてる』ような気がする……」
 普通であろうとして、不自然になる。
 あえて不自然であろうとして、惑わせる。
 北国を目指すスパヰを、純情可憐な女学生たちは確実に追い詰めようとしていた。

「貴方、スパヰね!」

 そう、指を突き付けて決め台詞をいってやるまで、あともう少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
……こういう頭使う仕事、正直苦手なんだけど。
まあいいわ、それならそれで「私らしく」やらせてもらおうじゃない。

よくある格好でも限りはある、なら該当者を全員潰していけばいいだけ
仕事が始まると同時に【不撓不屈】発動
現場の公園にいる「三十路近く・タートルネック・ジャケット・ブーツ姿」の人物を片っ端から職務質問(身分証確認)と所持品検査(書類確認)にかけていく
協力的なら穏便に対応、用件伝えたのに逃げようとした奴は問答無用で捕縛(怪力)し確認
この時帝都桜學府の職員に協力を依頼し、シロ(失敗)とした人物も一応遠巻きに監視をつけておいてもらう

証拠なんて無いけれど、シロなら探られて困る腹は無いわよね?


金童・秋鷹
SPD

ふむふむ
スパヰとは乱波や草の類でござるか
その筋の玄人を探すのは容易な事ではござらん

ならば、玄人である事を逆手に取る
心を落ち着かせる術は身に染み付いている筈
例えば誰かがいきなり血を吐いても、表面上は驚かぬ筈でござる
そして拙者は修練を重ね、ある程度は自在に吐血出来るようになったでござる!(ブレス攻撃)(吐血はブレスですよね?口から吐くし)

桜に和紙を結んで、辺りを散策しながら
それっぽい異人を見かける度に、気づかれる距離でごふっと吐血
これを繰り返す
顔色一つ変えない異人がスパヰでござろう!

拙者が貧血で倒れる前に、見つけられるのを祈るばかりござるな
というわけで、和紙には自分宛に書くでござる

健康第一




 今回の作戦に於いて、荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)から協力の要請を受けた帝都桜學府の職員は、他ならぬ超弩級戦力の希望とあらばと引き受けたは良いものの。

「滅茶苦茶だ」

 ――後に、そう述懐したという。

「……こういう頭使う仕事、正直苦手なんだけど」
「ふむふむ、スパヰとは『乱波(らっぱ)』や『草』の類でござるか」
 軽く眉間に手をやるつかさの隣で、金童・秋鷹(秋之血葉・f18664)が納得する。
「その筋の玄人を探すのは、容易な事ではござらん」
 さて、どう致すと秋鷹がつかさの方を向けば、ごきごきと指を鳴らす音が返る。
「まあいいわ、それならそれで『私らしく』やらせてもらおうじゃない」
 気が合うでござるな、と。秋鷹は一度目を閉じて、ゆっくりと開く。
 そこには舞い散る幻朧桜ばかりで、つかさの姿はどこにもなく。
 各々の『戦』が、幕を開けたことを意味していた。

(「よくある格好でも限りはある、なら『該当者を全員潰していけばいい』だけ」)
 その精神はまさに【不撓不屈(ネバー・ギブアップ)】、文字通りのしらみつぶしをしようというのだ。
 背負った超常は、失敗すればするほど次の一手を有利にしてくれるのだから、何も恐れることはない。
 広大な敷地の公園にいる、あらゆる『三十路近く、タートルネック、ジャケット、ブーツ姿』に該当する人物を、片っ端から身分証確認の職務質問と書類確認の所持品検査に掛けて、スパヰを洗い出そうというのだから恐ろしい。

 ――はい、良く分かりませんがどうぞ?
 そう快く応じてくれる協力的な人物であれば、相応の対応を。
 念の為『シロ』でも、前述の帝都桜學府の職員に遠巻きの監視を依頼してある。

 ――何なんだ、失敬な! そのような申し出に答える義理はない!
 用件まで丁寧に伝えても理解を示さず立ち去ろうとした輩の運命は。
「い、いたたたたた!! 関節技を決めるな、死んでしまう!!」
「ちょっと極められた程度で死ぬ訳ないでしょう、どれだけ軟弱なのよ」
 つかさに、問答無用で尋常ならざる怪力の捕縛を喰らうこととなった。
 悪い子の腕をギリギリと締め上げながら、つかさは独りごちるように呟く。

「証拠なんて無いけれど、シロなら探られて困る腹は無いわよね?」
「ないですううううう!! か、堪忍して下さいいいい!!」

 ――コードネーム『バーバチカ』。
 口が回る男と称され、一目見た限りではとてもスパヰには見えないという。
 つかさが今締め上げているこの男が、よもやその人だとは思うまい。

「本当に……死ぬかと思いましたよ、さすが超弩級戦力殿は格が違う」
「そうね、筋肉は裏切らないから。スパヰなんかと違ってね」
「はは、こんな平和な公園に、そんな輩が紛れ込んでいるだなんて思えませんな」

 ――それでは、今度こそ失礼。
 ペコリと頭を下げて立ち去る銀髪の男を、つかさが素直に見送ったのは決して落ち度があったからなどではない。
 あまりにも、その男の所作が『自然だったから』。
 探られても困る腹を、持っていないように欺かれてしまったから。

(「玄人が相手ならば、玄人である事を逆手に取る」)
 一方の秋鷹は、ある程度目星を付けて狙いを定める方針で攻めることとした。
(「心を落ち着かせる術は身に染み付いている筈――例えば『誰かがいきなり血を吐いても』、表面上は驚かぬ筈でござる」)
 待って、それは確かにそうかも知れないですけど、前提条件が凄すぎませんか!?
 けれどもお構いなしに、秋鷹は今日イチのキメ顔で、公園の人々を見据えて言った。

「そして拙者は修練を重ね、ある程度は自在に吐血出来るようになったでござる!!」

 どうしてそんな修練を重ねちゃったんですか!!!
 どこでそんな特技使うんですか!!! え!? 今!? ははーんさてはこの人バカだな!? しかもブレス攻撃判定しろって!? いいぞ!!!

 こいつ……いや、秋鷹さんは何気ない仕草で桜の木に和紙を結んで、何気ない動作で辺りを散策する。ここまではいい、普通の行動だ。
(「それっぽい異人を見かける度に、気づかれる距離で――」)

 ごふッ!!!
「オゥ!?」
 そりゃあおもむろに近くで血を吐かれたら、最低限声は上げますよね。
 介抱してくれる外国人がほとんどだったのが幸いしたが、この作戦では着実に貧血へと近づいていく。
 早く、それらしき異人――顔色一つ変えない異人を見つけなければ。

 ごふぅッ!!!
「……」
 少し足元が怪しくなってきた頃合いの、数度目かの吐血。
 タートルネックにジャケット姿をした銀髪の男は、確かに反応が一拍遅れた。
 ――まるで、取って付けたかのような反応で、男が秋鷹の身を支えに来た。
「大丈夫か、君! 医者を呼ぼうか、腕のいい心当たりがある」
「……それには、及ばぬでござるよ」
 血を拭って赤く濡れた手で、男のジャケットを掴む。
「スパヰで、ござるな」
「……」
 血を吐きすぎて、込める力が弱ってさえいなければ。
 秋鷹の手を振り払って立ち去る銀髪の男には、しかし確かな『しるし』が付けられた。
 ジャケットを脱ぐ暇さえ与えず、あとは時間との勝負。

 ――『健康第一』

 秋鷹が綴った願いごとが、どうか叶いますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パラス・アテナ
エライアと仲間はアドリブで

スパイね
こういう手合はどこにでもいるもんだ
スパイにはスパイを
初陣だよエライア
皇女殿下の危険な市民を探し出しておいで

「やったー!お仕事!みんな、いっくよー!」

元気に立ち去る少年の姿をした孫の霊達を見送って
吹き抜ける風に影朧桜を見上げる

約束か
できもしない約束は性に合わないがね
未来は分からない以上
約束なんてのは誓いみたいなもんさ
近い将来か遠い未来
必ず実現するっていうね
ならばここではひとつだけ

「必ず迎えに行く」

どんな形であれ必ず
故郷でオブリビオンとなった仲間達に
まだ故郷にいる死んだエライアの姉に
この世界からならば届くかも知れない

ただのババアの感傷だがね
これだけは約束してやるよ



●蝶と梟
 猟兵たちの地道な捜索の積み重ねが着実に効果を現しつつある中、パラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)はかっちりとした白い軍装に身を包んで、遠巻きに行き交う人々を眺めていた。
(「スパイね、こういう手合はどこにでもいるもんだ」)
 幾多の戦場を渡り歩いてきたパラスだからこそ分かるのだ、ただ武器を振るって血と泥にまみれる役回りだけが戦を動かすのではないということを。
 後方から戦局を動かす『彼ら』に、救われたし、苦しめられもした。
 知識と経験から、そういった輩に対してどう対処すべきかを知っていたのは僥倖だった。
「スパイにはスパイを――初陣だよ、『エライア』」

 すい、と指揮棒をかざすようなしぐさで腕を振ると、不思議なことに誰もいなかった空間にまだ幼い風貌の黒髪くせっ毛をした少年が、友達と思しき同年代の少年少女たちを連れて現れた。
「やったー、お仕事! みんな、いっくよー!」
「「おー!!」」
 人々の中へと文字通り『溶け込んだ』少年少女たちは、超常【私設諜報部隊ククヴァヤ(ボクラハショウネンタンテイダン)】によって召喚された――亡霊である。
 その名が示すとおり、ただの子供と侮るなかれ。追跡から情報収集、偵察にハッキングまでを容易くこなして、本職のスパイにも負けない活躍を見せてくれるのだ。
 亡霊であるからして、常人の身では捉えることが出来ない。故に、今回の作戦に於いては非常に有効な策として活きることだろう。
 そんな頼もしい孫の霊たちが元気に立ち去るのを見送ったパラスは、吹き抜けていく風に舞い散る幻朧桜を見上げた。

「『約束』、か」
 出来もしない約束、なんて性に合わないとは思う。
「未来は分からない以上、『約束』なんてのは『誓い』みたいなもんさ」
 ――近い将来か、遠い未来に、必ず実現するっていうね。
 ならば、ここでは、ひとつだけ。

 ――『必ず迎えに行く』

(「どんな形であれ、必ず」)
 かのスパヰの名が『蝶』ならば、こちらは『梟』。リンクした探偵団からの情報が続々と感覚的に届いてくるのが分かる。
 ああ、何と頼もしいことか。あとで、たっぷり褒めてあげなくては。
 血で汚れたジャケットを、腕に引っ掛けているという情報が一番有力そうだ。
 位置情報を受け取りながら、白い軍装の女史は足を踏み出した。
(「故郷でオブリビオンとなった仲間達に、まだ故郷にいる死んだエライアの姉に」)
 幻朧桜ははらはらと舞う、宿る精は過去の残滓を転生させる力を持つという。
(「この世界からならば、届くかも知れない」)

 ざぁ……っ。
 強い風が吹いて、ひときわ大きな桜吹雪が巻き起こった。

(「ただのババアの感傷だがね」)
 目を閉じて、少しして開ける。
 パラス・アテナは、穏やかな顔をしていた。
(「これだけは、約束してやるよ」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

御桜・八重
願いを綴った和紙を出来るだけ高いところに結び付ける。
「きっと、見つけるよ」
まだまだ手がかりの一つも見えて来ないけど、
いつかきっと親友の元へ辿り着く。
その日まで、一生懸命手を伸ばして背伸びして。
「頑張らなきゃ、ね!」
気合いを入れたら、勢い余って後ろへ、あわわ…!

む、そこの外人さん、何笑ってるの!
レディが転んだら手を差し伸べるのが
紳士の礼儀ってもんじゃないの?
活動写真で見たんだから!

助けてくれたら礼を言いつつよろけたフリで。
助けてくれなかったら食って掛かる勢いで。
その手に抱えた書類入れを弾き飛ばす!
散らばった書類を集めながら中身を確認。
避けられたらその体術を指摘。

「スパヰさん、見つけたー!」



●桜は誰に味方するか
 イベントテントで受け取った鉛筆と和紙を手に、御桜・八重(桜巫女・f23090)が真っ先に向かったのは願いを綴るためにと設けられた長机。
 さらさらと鉛筆を走らせると、年頃の乙女らしい文字が踊る。

 ――『きっと、見つけるよ』

 願いが天に届くようにということだろうか、折り畳んだ和紙を出来るだけ高いところに結び付けて、八重はふぅとひと息つく。
(「まだまだ手がかりの一つも見えてこないけど」)
 忽然と消えた親友、それをさも当然のように受け入れたように見える周囲の人々。
 埒外の力、超弩級戦力、なんて呼ばれる身になって、たくさん手を伸ばして掴み取ってきたけれど。
 誰より何より求めるものには、今のところは程遠く、けれど。
(「いつかきっと、親友の元へ辿り着く」)
 それを改めて、物心ついた頃にはもう親しんでいた桜に誓う。
 その日まで、一生懸命手を伸ばして、背伸びして。
「頑張らなきゃ、ね――っ!?」
 願いが届くようにと、この手を伸ばし続ける。
 その標となるようにと、高い枝に和紙を括ったのか。
 改めて気合いを入れたら、入れすぎたか、勢い余って八重の身体が後ろへ倒れ込む。
 一度バランスを崩したら、いかな超弩級戦力とはいえ容易くは持ち直せない。
 あわわわわ、と両腕を動かして必死に制御しようとするも、努力むなしく八重は地面に尻もちをついてしまった。痛い。本気で痛い。

「……っ~~~!」
「……ぷっ、く」
 声にならない呻きで悶絶する八重を見て、明らかに吹き出し笑いをしたと思しき声がした。八重が顔を上げると、タートルネックにブーツ姿をした銀髪の男が口元に手を当てて肩を震わせているではないか。
「む! そこの外人さん、何笑ってるの!」
 ぷくーと頬を膨らませて八重が抗議の声を上げれば、銀髪の男はいよいよ笑みを隠さずに片手を上げた。もう片方の腕には、ジャケットらしき衣服が。
「これは失敬、一連の流れがあまりにも愛らしかったものでね、つい」
「レディが転んだら手を差し伸べるのが、紳士の礼儀ってもんじゃないの?」
 活動写真で見たんだから! そう訴える八重に、男が飄々と返す。
「そうだね、私の友人だったら迷わずそうしただろうけれど――覚えておこう」
 それでは、と。男の大きな手が八重に差し伸べられる。
 その手を取って、立ち上がりながら八重が目を付けたのは男が小脇に抱えるドキュメントファイル。
 グッと手を引いた勢いで、逆によろめくフリをして、ファイルを弾き飛ばさんと狙いを定めるも――。
「おおっ、と」
 すかさず男は片脚を後方に引いて半身になり、巧みにファイルをかばいながらも八重を抱きとめてみせた。

「……スパヰさん、見ーつけた」
 もっと元気良く暴いてやるつもりだったけれど、こうも距離が近いと思わず小声になってしまう。
「私が? スパヰだって?」
 あくまでしらを切る男に、八重は証拠を突き付けるように告げる。
「普通の人は、こんな身のこなしは出来ないから」
 男は軽く目を見開く。色素の薄い、青い目をしていた。
「……書類を狙ったのはお見事だったよ、何ならこのまま君をスカウトして本国に連れ帰りたいくらいだ」
 なるほど確かに予知で『口が回る』と言われただけはある。
 そう思いながら、八重は油断なくスパヰの男と距離を取る。

 ひときわ強い風が吹いて、桜吹雪で一瞬視界が遮られる。
 八重が再び目を開けると、男の姿は忽然と消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アラン・サリュドュロワ
 ◎
マリー(f19286)と
この場に馴染む洋装で小路散策

折角です、我々も何か約束を交わしませんか
用意してみました、と紙片を拡げて
『マリーのおやつは1日1個まで』

ダーメーでーすー
間食ばかりで食事を少ししか召し上がらないではないですか
ひらひら避けて、主の手が届かない枝に結ぶ
とっておきの甘い菓子にしますよ
それで我慢して下さいね、愛しい君

宥めるように顔寄せて、一転声を潜め
…で、肝心の間諜は?
国は違えど君のお仲間だ、目星はつけれそうか
─剣技にも歩幅で測る技があるが、成る程
よく躾られた犬に野良犬の真似は出来ないな
さて、なるべく事を荒立てずに声をかけたいところだが…
睦まじい男女の振りして近付いてみようか


マリークロード・バトルゥール

アラン(f19285)と
サクミラらしい和装で小路散策を

まあ!それは良案だわ。どんな約束にしましょう?
嬉々と覗きこめば顔が翳る
……アランは意地悪だわ
こんな一方的な酷い約束はダメよ。破棄します
はーきーしーまーすー!

背伸びし飛び跳ね真剣に抗議するも、結ばれた紙に頬を膨らませる
ひどいわ、わたくしの楽しみを奪うなんて
とびっきりのお菓子じゃないと許しませんからね!

拗ね顔のまま「見て」と囁く
歩き方というのは無意識の癖が出易くてよ
あの殿方、歩幅がどれも寸分違わず同じなの
幾ら所作丁寧に振舞ったとしても一般人には不可能でしょう?
それに、わたくしの耳でも聞き取れない靴音なんて静か過ぎて不自然だわ
同業でない限り、ね



●スパヰvsスパヰ
 幻朧桜舞う大正の世に降り立ったアラン・サリュドュロワ(王国の鍵・f19285)とマリークロード・バトルゥール(夜啼き鶯・f19286)の二人は、それぞれ書生と女学生の装いで、一見すればこの世界に生きる若者たちと何ら変わりはなかったろう。
 良く良く見れば、衣服の仕立ての良さや本人たちの所作から、身も心も尊きものであると分かるものには分かったかも知れないけれど。
 少なくとも、見目麗しき男女が連れ立って桜舞う小径を散策しているという姿を装うことには成功している訳だから、問題はないのだ。

 ひらり、はらりと舞う桜の花弁を帽子のつばで受けながら、アランが隣を歩くマリークロードにひとつ提案を持ち掛ける。
「折角です、我々も何か約束を交わしませんか」
「まあ! それは良案だわ、どんな約束にしましょう?」
 声を弾ませてマリークロードが応じれば、袖の袂が揺れた。
「用意してみました、これを――」
 その期待に最大限応えようと、アランは笑顔で懐から紙片を取り出し、広げた。

 ――『マリーのおやつは一日一個まで』

「……」
「……」
 広げられた紙片を嬉々として覗き込んだマリークロードの表情が、みるみる翳る。
「……アランは意地悪だわ」
「意地悪だなんてとんでもない、これはひとえに殿下のためを思って」
「いいえ、こんな一方的な酷い約束はダメよ。破棄します。はーきーしーまーすー!」
「ダーメーでーすー、間食ばかりで食事を少ししか召し上がらないではないですか」
 言葉の応酬の末に、ド直球で確かに正されなければならない生活習慣に踏み込まれ、マリークロードがぐぬっと口ごもった隙に、アランは長身を活かして手早く主の手が届かぬ桜の枝に紙を結んでしまった。
「もう……!」
 ひとしきり背伸びをしたり飛び跳ねたりで抵抗を試みるも、どうにもならない現実に姫君は頬を膨らませるばかり。
「ひどいわ、わたくしの楽しみを奪うなんて」
「殿下、奪ってなどおりません。一日一個、きちんと用意致します故」
 ニッコリ笑顔で返されては敵わない、不機嫌を隠さぬ顔が少しだけ緩んだ。
「……とびっきりのお菓子じゃないと、許しませんからね!」
「とっておきの甘い菓子にしますよ。それで我慢して下さいね――愛しい君」
 ついぞ先程まで頬を膨らませていた姫君は、照れ隠しでぷいと顔を背けた。

 顔を背けた格好は、その耳元に囁きかけるのにちょうど良い。
「……で、肝心の間諜は?」
「見て」
 なだめるように顔を寄せて、しかし先程とは一転した潜めた声で問えば、拗ねた顔のままでしかし鋭く囁き返す――仕事の時間だ。
「国は違えど君の『お仲間』だ、目星はつけれそうか」
「歩き方というのは、無意識の癖が出易くてよ」
 指を指したりなどは決してせずに、あからさまな視線も向けず、最低限の仕草のみで意思の疎通を図れるのはこの二人ならではの強みだ。
 二人が意識を向けているのは、ジャケットを腕に掛けたタートルネックの男。
 ブーツを履いて、銀の髪を揺らして、小径の向こうから歩いてくる人の中に紛れている――つもりだったのだろう。
「あの殿方、歩幅がどれも寸分違わず同じなの」
 寄り添う二人を演じながら、マリークロードは的確に男の『異質さ』を見抜く。
「幾ら所作丁寧に振る舞ったとしても、そんなこと一般人には不可能でしょう?」
「――剣技にも歩幅で測る技があるが、成る程」
 騎士が素直に感心した声で返せば、それに、と姫君の声が続く。
「わたくしの耳でも聞き取れない靴音なんて、静か過ぎて不自然だわ」

 ――『同業』でない限り、ね。

 己が国のため、名と個の尊厳とを捧げて尽くす『間諜』――それが、マリークロード・バトルゥールの正体。
 だからこそ、確信を持って言えるのだ。
 あれこそが、今回のターゲット――スパヰであると。
「よく躾られた犬に、野良犬の真似は出来ないな」
 そうと決まれば、あとは接触を図るまで。アランはマリークロードの手を取って、着々と近づいてくる男に向き直った。
「さて、なるべく事を荒立てずに声をかけたいところだが……」
 アランの掌に乗せられたマリークロードの手に、少しだけ力が込められた。

「ああ、愛しいあなた。どうか『召喚状』でわたくしの前から居なくなってしまったりなさらないで」
「……」
 仲睦まじい男女を装って、しかし事情を知るものならば反応せざるを得ない単語を織り交ぜて、すれ違う瞬間を狙って囁くように言ってのけるマリークロード。
 男は立ち止まり、振り返り、色素の薄い青の目で二人を見た。
「私も、仕事の途中で故郷に帰るのは心残りが多い」
「その割には、念入りに証拠を消しているようだが」
「『嗜み』さ、其方のお嬢さんならば理解してくれるだろう」
 随分と手こずらされた、という猟兵たちの思いを代弁するようにアランが言えば、男は己もまたマリークロードの『正体』に気付いたことを伝える。

「私はね、此処でまた友と紅茶を飲みたいのさ。こうして君達に見つかる危険を冒してまで願った理由は、それだけだ」
 ――身勝手は承知だ、そう言って男は笑った。

 がたん、がたん。電車の音だろうか。
 ばさっ! 二人目がけて腕に掛けていたジャケットを投げつけ、その隙に音の方へと走り出す男。
 追おうとしたアランとマリークロードの前には、軍服姿の男たちが――首に黒鉄の輪を嵌めた男たちが、立ちふさがっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『暗躍する幻朧戦線』

POW   :    正面から敵を圧倒し、打ち倒す。

SPD   :    集団戦や周りの物を利用して戦い、確実に倒す。

WIZ   :    策略や魔術で奇襲を仕掛け、一気に倒す。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●弾丸鉄道
 猟兵たちを一瞬だけ足止め――しかし、その一瞬で十分であった。
 立ちはだかるのは黒鉄の首輪の男たち、手には拳銃や軍刀といった剣呑な物ばかり。
『バーバチカ殿。我ら『幻朧戦線』、貴殿へご恩を返せという命令です』
 返事の代わりに、少し離れたところに敷かれた鉄道のレエルを列車が駆け抜けていく。
 最後尾には、タートルネックに銀髪の男の姿――何たる早業か!

(『恩を売って、支援の継続が狙いか……かと言って、このまま容易く逃げおおせることが出来るとは思わないが』)

 遠く北国から、ここ帝都にまで続く長い長い鉄道――『シベリア超特急』は、スパヰを乗せてどんどん北へ、北へ。かの男の故郷を目指し突き進む。
 車内には一般の旅客も数多いが、紛れ込むように『幻朧戦線』の男たちも多数乗り込んでいる。いざとなれば『協力』を仰ぐ手筈だ。
 がたん、がたん。音を立てて走る列車から、過ぎゆく景色を惜しむように見遣る。
 今はこの地を去るが、何時かまた、二人で紅茶を。
 身勝手なこの『約束』を、少なくとも己は本気で果たす気でいる。

『……貴殿なくして、私の『約束』は果たされぬよ。どうか』

 ――どこまでも意地汚く、生き残ろうではないか。

●補足説明
 猟兵の皆様ならば乗り放題のチケットを所持している『シベリア超特急』で、スパヰが逃走を図ったところから場面は開始します。
 普通ならば走っている列車に追い付くなど不可能かと思われますが、そこは埒外の存在なので『できらぁ!』の精神で迫って下さい。
 走って追い付く、ダルマ自転車や原付などで爆走、空を飛ぶ……様々な方法で、まずは列車に乗り込んで下さい。
 スパヰは車両の最前列に引っ込んでいます、皆様は最後尾から乗り込む位置関係です。
 そこから前を目指して突き進んで頂きますが、途中で『幻朧戦線』の妨害が入ります。
 列車内で、一般人もいる中、どうやってそれを蹴散らして突破するか? いかにも活劇らしいプレイングを頂戴できたら、ボーナスがどんどこ入ります。
 以上二点を踏まえてさえあれば大丈夫です(スパヰの捕縛までは今は考えないでOK)、カッコよく立ち回ることを最重視で、皆様らしく頑張って下さい!

 ※運転席や列車の先頭に先回りして列車自体を止める、というプレイングは、列車の脱線転覆を起こしかねないので避けた方が良いかと!
 あくまで最後尾から最前列を目指していく方向でよろしくお願い致します。
乱獅子・梓
【不死蝶】
まずはあの列車に追いつかないとな
やはりここは焔に乗って…
は??…どわあああ!!?

意味が分からんスピードだった…
猟兵じゃなかったら即死だったな
ああ、なるほど
ヒーローショーに仕立てあげることで
一般人がパニックにならないようにするわけだな
…は??(2回目)

ああっ、綾のやつ先に行きやがった!
焔、零!お前らは綾をサポートしろ!
マスコット的存在に見えなくもないだろう

で、俺は…ええいヤケだ!
皆様!今からサプライズヒーローショーを開催します!
謎の超弩級戦士Xが
列車内に紛れ込んだ悪の手先を次々と倒し
最前列に待ち構える黒幕の元へと向かう!
なお危険ですのでショーの間は
席を立たないようにお願いします!!


灰神楽・綾
【不死蝶】
それよりももっと速い方法があるよ
UC発動し、梓を引っ掴んで超高速飛翔
振り落とされないように気を付けてね
落ちたら多分死ぬよ

さて、幻朧戦線の奴らだけを蹴散らし先に進む方法…
いいこと思いついちゃった
ヒーローごっこをするのさ
というわけで梓、ナレーション役は宜しくね

UCの紅い蝶を、一般人の周囲に飛ばす
ただのエフェクトじゃなく
もし流れ弾など予期せぬ攻撃が客席に向かったら
それを肩代わりさせ一般人に被害が行かないようにする役割
これで俺もある程度好きに暴れられる

敵が武器を取り出したら
すかさずナイフを投げつけ武器落とし
接近し、ナイフの柄、肘打ち、拳などで殴りつけ攻撃
たまに客席に手を振るサービスもね



●すべてを捧げし者たち
 かつかつと靴音も高く、タートルネックの男がブーツを鳴らして列車の通路を行く。
 目指すは最前列の車両、黒鉄の首輪の者どもの手で行く手を遮るものはなにもなく。
 運悪く巻き込まれてしまった旅客たちは、しかし何が起きているのかを問うことさえ許されず、ただ身を守るため息を潜めるばかり。

(『猟兵――いや、超弩級戦力よ』)
 蝶の二つ名を持つスパヰは、やや派手に追われることとなった現状を憂うことなく。
 むしろ、口の端を少しばかり吊り上げて嗤うほどの余裕を見せた。
(『御国のためにと身命を賭する者どもの在りようを、教えてあげよう』)
 尽くす国こそ違うけれど。心を寄せるつもりはないけれど。
 黒鉄の首輪で繋がれた烈士たちの包囲さえも突破するというのならば、その時は――。

●ショウ・マスト・ゴー・オン!
 あっという間に遠ざかっていく『シベリア超特急』を、ただ見送る猟兵たちではない。
「まずは、あの列車に追いつかないとな」
 乱獅子・梓は懐からキュッと鳴きながら顔を出した相棒の炎竜「焔」を片手で撫でながら、己が為すべきことを口に出して確認する。
 焔は基本的に仔竜の姿を取っているが、梓の一存で一時的に成竜になることも可能だ。
「やはりここは焔に乗って……」
「それよりも、もっと速い方法があるよ」
「は??」
 これしか手がないと思って言いかけた梓の台詞を、糸目に笑顔の表情を揺るがせずに灰神楽・綾が遮るものだから、思わず呆けた声が出た。
 何を言い出すのだと梓が綾を見ようとして、その首根っこがおもむろに引っ掴まれる。
「振り落とされないように気を付けてね、落ちたら多分」

 さあ、さあ、おいで。愛しの【レッド・スワロウテイル】!
 俺を害するすべてのものを受け止めて、俺の力に変えて、そしてこの身に翅をおくれ!

「――死ぬよ」
「どわああああああ――!!?」
 綾の身体は鮮血を浴びたかのような赤い蝶の群れに覆われて、超特急の名を持つ列車にも悠々追いつける超高速飛翔能力を得る。
 だから、諸共に飛ぶ梓には申し訳程度の警告を。
 己の意思で翔んでいる訳ではない梓にとっては死ぬほどおっかない状況だったが。
 翔んで、翔んで――あっという間に二人と一匹は列車の最後尾デッキに舞い降りる。
 そう、梓は無意識のうちに、焔をしっかりと小脇に抱えて守り抜いたのだ。

 ようやくまともな環境に足をつけることができた梓が、膝に手を置いて少し屈みながら呼吸を整える。
「意味が……分からんスピードだった……」
 猟兵じゃなかったら即死だったな、なんて思うのも無理はない。
 もちろん、綾も『梓なら大丈夫だろう』という信用と信頼をもとに超常で追う策に踏み切ったのだろうけれど。
 何しろ綾の表情は一貫して愉しげな笑顔のままだから、推測の域を出ないのだ。
「さて、幻朧戦線の奴らだけを蹴散らし先に進む方法……」
 顎に軽く手を当てて、車内での立ち回りについてしばし思案した綾が、ふと呟いた。
「いいこと思いついちゃった」
 ばさばさとコートの裾をはためかせて、綾が車内へと続く扉へと手を掛ける。
「ヒーローごっこをするのさ」
「ああ、なるほど……ヒーローショーに仕立てあげることで、一般人がパニックにならないようにするわけだな」
 明るい声音は賛同の証とばかりに梓が返せば、綾はひとつ頷いて扉を開け放ち、車内へと躍り込む。

「というわけで梓、ナレーション役は宜しくね」
「……は???」

 本日二回目の唐突な無茶振りに、梓は綾の背中に向けてまたしても変な声を上げた。
 上がってしまった幕は下ろせないし、一度カチンコが鳴った以上は演じ切るまでだ。
「ああっ、綾のやつ先に行きやがった!」
 しかも、打ち合わせも何もない難易度の高いアドリブを押し付けて。
「焔、零! お前らは綾をサポートしろ!」
「キュー!」
「ガウッ」
 炎と氷の仔竜たちが、綾の背中を追うように主より一足先に飛んでいく。
(「ヒーローショーなら、こう……マスコット的存在に見えなくもないだろう」)
 梓もまたデッキを蹴って車内へと駆け込む。握った拳は口元へ、マイクのように。

「皆様! 今からサプライズヒーローショーを開催します!」
 ざわっ。黒鉄の首輪の男たちが多く潜み、一般の旅客も異変を感じながら何も出来ずにいたところに、突然の出来事が起きたものだからどよめきが起きない訳がない。
「謎の超弩級戦士Xが! 列車内に紛れ込んだ悪の手先を次々と倒し、最前列に待ち構える黒幕の元へと向かう!」
 旅客たちは顔を見合わせて、少しして皆が童心に返ったかのような表情になる。
「――まぁ、素敵な蝶々!」
「これも演出かい、君!?」
 そんな旅客たちを守るように飛び交うのは、綾がその超弩級戦士Xだと示すかのように舞わせた赤い蝶たち。
(「ふふ、ただの演出だけじゃないよ」)
 赤い蝶は、攻撃を肩代わりしてくれる力を宿している。万が一交戦中――いや、ショウの最中に流れ弾などの予期せぬ攻撃が客席に向かってはいけないから。
(「これで、俺もある程度好きに暴れられる……けど」)
「なお、危険ですのでショーの間は席を立たないようにお願いします!!」
 渾身のアドリブナレーションをぶち上げた梓に、一般人たちから拍手が巻き起こり。
(「『謎の超弩級戦士X』っていうネーミング、もうちょっと何とかならなかったのかな」)
 ねえ、と左右に控えた焔と零を交互に見遣り、綾は少しだけ肩を竦めた。

『何がヒーローショウか、ふざけているのか!』
『要するに貴様等、超弩級戦力だな!』
 客席のあちこちから、軍刀や拳銃を構えた物騒な連中が顔を出して綾を見る。
 そのことごとくに、黒鉄の首輪。間違いない、幻朧戦線だ。
 そう確信してからの綾の動きは誰よりも速かった。最小限の動きだけで僅かに翻ったコートの裏側から「Jack」の銘持つナイフを鋭く投擲して、的確に敵の得物だけを打ち落とす。
『ぐ……ッ!』
『同志! おのれ!!』
「喋ってる暇、ある?」
 仲間意識が仇となろうとは。一瞬の隙を突いて、糸目の男が笑顔で迫っていた。
 ナイフの刃は使わず、反対側の柄で打ち据えて。
 死角から迫る輩へは、それを見ることもなく鋭い肘打ちをくれてやり。
 肘打ちを放った勢いのままに次いで放たれた裏拳が、『悪役』の顔面を捉えた。

「いいぞー! 粋なサービスじゃないか!」
「素敵よ貴方、感動したわ!」
 一連の事態はすっかり『ヒーローショー』というお題目なのだと信じ切った一般人たちから、喝采といくばくかのチップが飛んで来る。
 それに手を振って応じる綾がどさくさに紛れて硬貨を握りこめば、見守っていた梓が盛大にため息を吐いた。

(「まったく、本当に世話の焼けるやつだよ、お前は」)

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

満月・双葉
いやぁ、こういうときはあれに似ていて良かったと言うべきだねぇ
手段を問わぬは親譲り
地面に大根を突き刺しておいてから足止め共と一瞬接敵
闘うと見せかけて大根を爆発させ注意をそらし、その瞬間に姉に足止めを任せ羽で飛んで列車に追いつく
タイミングは【野生の勘】も合わせて図る

危ないですから伏せてくださいと静かだがよく響く声で警告し、椅子の背を飛び越えるなどの【空中戦】的に車内を追う
時間がないんですいませんね
パニックに陥る一般人は申し訳ないが手刀を後頭部に叩き込むなり鳩尾にいれるなりして大人しくしてもらう
敵は動くのに必要な部位をへし折って無力化
全て【医術】の知識を元に行う
巻き込む一般人がいる以上眼鏡は外せない



●どうして大根が爆発するんですか?
「いやぁ、こういうときは『あれ』に似ていて良かったと言うべきだねぇ」
 走り去る列車を、そして行く手を阻むように立ちはだかる黒鉄の首輪の男たちを一瞥しながら、満月・双葉は呟いた。その手には、立派な大根が握られていた。

『な、何だあいつ……大根なんか持ち出して』
『いや、気を付けろ……あの大根、何だか嫌な気配がする』
『落ち着け、大根は所詮大根だ。嫌な予感も何も』

 己らが扱う銃や剣ならまだしも、双葉が構えているそれは一般的には野菜に区分されるものではあっても、決して警戒するようなものではない――はずだ。
 だが、双葉の大根が放つ禍々しい気配を、勘の良いものは感じ取ってしまったのだろう。
(「手段を問わぬは親譲り」)
 そんな男たちの様子に双葉はほくそ笑むと、固い地面に今この場の誰もが注目している大根を突き刺した。
『大根が刺さっただと!?』
『有り得ん、こんな固い地面に! やはりあれは――』
『狼狽えるな、来るぞ!!』
 大根に気を取られるものがほとんどの中、聡いものは双葉から目を逸らさずにいた。
 だが、それこそが双葉の狙いであった。

 ――どかあぁぁぁん!!!

 己に向けて猛然と迫って来る存在があれば、当然身構えもするだろう。
 ましてやそれが明らかな敵対存在であれば、交戦に入るものと思うだろう。
 だから意識は『それ』に向く。
 そして『それ以外』のものからは、意識が逸れる。
 派手な音を立てて爆発した大根の爆風に乗るように虹色の翼を広げ、双葉は一気に黒鉄の首輪の男どもの横をすり抜けて行った。
『しまっ……! 爆弾か!?』
『大根が……?』
『もういい、大根からは離れろ! 追うぞ……ッ!?』
 ふわり、と。もう一人、虹色の翼持つものが舞い降りた。
 それは双葉の双子の姉にして、微笑みを絶やさぬもの。
 しかし目が全く笑っておらず、しかもその視線で命を削り取る恐怖の権化。

 ――あなたたちは、ここでわたしとあそびましょう?

 まるでそう言いたげに、足止めを引き受けた姉。
 味方で良かったと心底思いつつ、双葉は翼を羽ばたかせて列車を追うのだった。

 速度、位置、その他諸々。計算が必要なところを尋常ならざる域に達した野生の勘で『多分こうすれば乗れる』という感覚ひとつ、双葉は列車に追いついた。
 既に最後尾の扉は開け放たれており、誰かがひと騒動起こした形跡が見えた。
(「妙に盛り上がっていますね……ふむ」)
 雰囲気が、何やらヒロイックなのだ。怯えているだろうと思われた一般の旅客たちが、首輪の男どもを恐れる様子がまるで感じられない。
 何はともあれ、追わなければ。そう双葉が車両に足を踏み入れると、新たなヒーローの登場だと思い込んだ一般人たちがわっと歓声を上げたではないか。
「危ないですから、伏せてください」
 淡々と、静かだがよく響く声で警告を発すれば、大人しく従う『オーディエンス』。
 前の車両から何事かと駆けつけた増援の幻朧戦線の姿を認め、双葉はおもむろに椅子の背を飛び越えて間合いを詰めた。
「おおお! 何と見事な」
「素敵、まるで鳥のよう」
 狭い通路を律儀に歩く必要はない、舞うように車両の中を進んでいく双葉。
 だが、ヒーローショウというお題目を疑ってかかるものも存在してしまった。
 お芝居にしてはあまりにも――リアルが過ぎる、そう察してしまったものだ。

「お、お前たち! その軍刀も拳銃も本物ではないか! 我々をどうするつもり――」
 双葉を、というよりは幻朧戦線の方の正体に勘付きつつあった一般人の後頭部に手刀を叩き込み、ちょっとばかり大人しくしていてもらうことにした。
「時間がないんで、すいませんね」
 その手並みがあまりにも鮮やかだったものだから、場を乱したものを黙らせた程度に捉えてもらえたのが幸いだった。
 あとは『それらしく』派手にかつ迅速に敵を無力化していくのみ。
 闇医者の面目躍如、人間が動くのに必要な部位を見極めて、死なない程度にへし折る。
 だって本当に殺してしまったら、ヒーローショウが台無しになってしまうから。

(「医術の心得があって良かったです、ここでは眼鏡を外せない」)

 魔眼の効果は無差別だ、一般人を巻き込む訳には行かないから。

成功 🔵​🔵​🔴​

金童・秋鷹
列車に追いつけでござるか?
ふふふ
こんな事もあろうかと吐血を繰り返したのでござる
……本当にござるよ?
更に追加で吐血して
楓鷹解魂!

具現化した楓鷹の分霊に騎乗して飛んで追いかける
列車はエンパイアにはない乗り物でござるが
連なった馬車と考えれば
どうしても曲がり角では速度が幾らか落ちる筈
その瞬間を狙って上空から一気に急降下
先頭車両に降りられればよし
難しければ他の車両に降り、刀に戻した楓鷹を支えに列車の屋根を移動

流石に幻朧戦線も、屋根にはいないでござろう
まあ車内の幻朧戦線には気付かれるでござろうが
動けば客に扮した意味がなくなる
車内を進む他の猟兵の一助となろう

列車はその内、ゆっくりと乗ってみたいものでござるな


荒谷・つかさ
鉄道で逃走、確かに普通だったら追いつけないけれど……『超弩級戦力』を侮りすぎじゃないかしら?

【逸鬼闘閃・鬼神咆哮】発動
真の姿に変貌しつつ、最高8700㎞/hの速度で飛翔し後部車輛へエントリー
UDCアースのリニア鉄道で500㎞/h程度なのだから、この世界の鉄道ならすぐに追いつく筈
乗り込んだらプレッシャーを放ち続けて注目を集めながらゆっくり堂々と先へ進む
これだけの圧をかければ一般人を気にするだけの余裕も無くなるでしょう
勿論、車内に居る幻朧戦線メンバーは一人残さず「怪力」で捕えて窓からポイしてお掃除
(速さは無いが、圧倒的筋力で抵抗を無力化)
普通に殴ったらほぼ間違いなく殺しちゃうし、それよりはマシよね



●マイペース・イェーガー
「鉄道で逃走、確かに普通だったら追いつけないけれど……」
 舞い散る桜吹雪と、その向こうへあっという間に霞んでいく列車を見て、荒谷・つかさが顔色一つ変えずに呟く。
『さあ、どうする超弩級戦力!』
『空でも飛んで見せるつもりか? ハハハ!』
 足止めにと残った黒鉄の首輪の男どもが、ものの見事にフラグを立てていく。
 感情の発露が見られなかったつかさに、ほんの少しだけ浮かんだのは――笑みだ。
「『超弩級戦力』を、侮りすぎじゃないかしら?」
 こうやって、埒外の存在たる己を軽んじてはすぐにひっくり返って驚愕する敵対者どもを幾度となく見てきたから、慣れたものではあるが。

「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ」
 良く通る声で朗々とつかさが告げれば、ざわりと周囲の気配が変わる。
「我こそは『ワイルドハント』『斬り込み担当』、荒谷・つかさ!」
 ざわり、ざわり。それは気配だけではなく、つかさ本人にも明らかな変化をもたらした。
 小さな角が左右に増えて、手足の先は血の色にも負けぬ赤を纏い異形化し、美しい黒髪はあっという間に反転して白銀に変わる。

「いざ尋常に、参る――【逸鬼闘閃・鬼神咆哮(ワイルドハント・ウォークライ)】!」

 禍々しいまでに鋭い爪を持った足で地を蹴り、『真の姿』を解き放ったつかさが舞う。
 空中で、まるでそこに見えない壁があるかのようにもう一度弾みをつけるように蹴る仕草をするや、つかさは猛然と飛翔しながら列車を追った。
(「今の私の飛翔速度は最高時速8700㎞、UDCアースのリニア鉄道で時速500㎞程度なのだから――この世界の鉄道なら、すぐに追いつく筈」)
 舞い散る幻朧桜を研ぎ澄まされた刃で一閃するかのように翔るつかさ。
 その視界には、程なくして標的が乗る列車の姿が入ってきた。

『な……な……ッ』
『深く考えると本当に負けるぞ、しっかりしろ!』
 目の前で何が起こったのかを理解しようとして逆に混乱を深めそうになる同志を、比較的冷静なものが引き戻そうとする。
 超弩級戦力というものがいくら出鱈目な存在であろうと、さすがに不死身ではあるまい。
 軍刀で斬りつければ、拳銃で撃ち抜けば、ちゃんと血だって流れる――!?

「列車に追いつけでござるか? ふふふ、こんな事もあろうかと吐血を繰り返したのでござる」
『ファーーーーーーーーーーーーー!!!??』

 大正の世も七百年、しかしそれよりさらに前の時代を思わせる金童・秋鷹の装いは、既に己が意思で吐いた血にまみれてそれはもう大変なことになっていた。
 こちらが手を下すまでもなく勝手に大惨事になっているものだから、これには訓練された幻朧戦線の面々も変な声を上げてしまう。
『さては貴様、阿呆だな!? こんなこともあろうかとで血を吐くだと!?』
「……本当にござるよ?」
 割と真面目に本当のことを言っているのに、信じてもらえないのは切ない。
 だから、秋鷹はそれを『身を以て』証明することにした。
 既に血に濡れた胸元を押さえ、ぐっとこみ上げるものを一瞬堪える仕草をして。

「更に追加で吐血して! かーらーのー、【楓鷹解魂(フウオウカイコン)】っ」
『ええええええええええ!!?』

 ごふっ、と追い吐血をしながらぼんやり秋鷹が思ったのは、幻朧戦線相手に離れているよう警告するのを忘れていたなあ、ということだった。
 多分、それを言われたとしても幻朧戦線の面々としては『違う、そうじゃない』と総ツッコミをしただろうけれど。
 ともあれ、吐血の代償として無事召喚された鷹の妖「楓鷹」の分霊は、悠々と秋鷹をその背に乗せて舞い上がった。
 もう何かしらのリアクションをするのにも疲れ果ててしまった黒鉄の首輪の男たちを置いて、秋鷹もまた列車を追うべく猛然と飛翔した。

 目まぐるしく変わる景色に、変わらずついて回るのは幻朧桜。
 桜には馴染みがあるけれど、列車はサムライエンパイアには存在しない。
(「……連なった馬車と考えれば、どうしても曲がり角では速度が幾らか落ちる筈」)
 そう推測を立てた秋鷹の見立ては正しく、ちょうど差し掛かった緩やかながら大きいカーブで列車は減速をした。
「今でござる!」
 秋鷹の声に応じて、楓鷹が列車の屋根に舞い降りる。先頭車両から、数両手前といったところか。この位置なら、楓鷹を刀に戻して杖代わりにすれば移動出来るだろう。
 労うように刀をひと撫でして、秋鷹は猛然と走り続ける列車の上を移動し始めた。

 一方その頃、己が身ひとつで列車の最後尾デッキに舞い降りた鬼神――が如き姿となったつかさは、おもむろに開け放たれたままの扉をくぐって車内に踏み込んだ。
『……ッ!?』
「な、何……!?」
 誰もが息を呑み、身を強張らせ、無意識のうちに通路を開ける。
 幻朧戦線も、一般人も、今のつかさの前では等しく『無力』だ。
 圧を、放っていた。つかさ自身が、弱者をものともしないプレッシャーを。
 敢えてゆるりとした足取りを見せるのは、それをことさらに強調するため。
 そして、幻朧戦線にもその『圧』の影響は確実に及んでいたというから恐ろしい。
(『この女を何とかしなければ、一般人など相手にしていられるか……!』)
 訓練を積んだ軍人でもある幻朧戦線の面々からすれば、無辜の人々は弱者にして、そのような些末な存在に関わっている場合ではないと見事思わせたのだ。
『う……うおおおおおッ!!』
「いらっしゃい、そして――」
 半ば特攻のようにつかさに斬り掛かった黒鉄の首輪の男は、ガシッと頭部を掴まれ。
「 さ よ う な ら 」
 尋常ならざる怪力で以て、窓からポイされてしまった。
(「普通に殴ったらほぼ間違いなく殺しちゃうし、それよりはマシよね」)
 猛スピードで走る列車から放り出される方が、撲殺されるよりは、ね?

『報告ッ!! 最後尾から続々とヤベーやつらが!!』
『語彙が死にかけているぞ貴様ッ! ……!? 何だ、この……』
『ひぃっ! もうこんな所には居られない! 屋根の上に……?』

 これホラーシナリオでしたっけ、という雰囲気になりつつありますが、車内でどう足掻いても逃げ場がないようにつかささんが緩やかな圧を掛ける一方で、屋根の上には秋鷹さんが進軍ついでに牽制を掛けているという構図になったのでした。
(「流石に幻朧戦線も、屋根にはいないでござろうと思ったら」)
 何となく車内で起きている事態を察して、その一助になればと進軍を続ける。
 まだつかさの魔の手が伸びていない車両で、幻朧戦線が下手な動きを出来ないようにという立派な牽制であった。

(「列車はその内、ゆっくりと乗ってみたいものでござるな」)

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マリークロード・バトルゥール
アラン(f19285)と
【WIZ】

最後尾へ飛び移ってから手を伸ばす
掴まって頂戴。振り落とされてはダメよ

この速度で野駆け山越えるなんて!
名だたる駿馬でもこうは走れないのではなくて?
感嘆するアランを手招けばその耳に囁く
不敵に嗤い返してから呪文と共に外套を翻した

威風堂々とした従者の立回りを満足に眺めた
さすが、わたくしの騎士。ですが――、
死角からアランを襲おうとする敵をナイフ一刺
戦意喪失させる為に関節の部位破壊を試み、
一体ずつ確実に無力化させ地を舐めさせる
ふふ、見える囮に釣られる方々で良かったわ
遠距離には投げナイフで牽制を

荒事が済めば姿を現し微笑と共に小言をひとつ
アラン、わたくしへの敬意が足りなくてよ


アラン・サリュドュロワ
マリー(f19286)と
【POW】

手勢を手早く畳み、すぐ男を追う
マリー、先に乗れ!
最後尾デッキに押し上げ、手伸ばし引き揚げさせる

レッシャは聞いていたが、これが国を越え走ると…?
流れる景色に驚きつつ
耳打ちに、悪いお人だ、と嗤う
─では、そのように。参りましょう我が君

さて鼠はどこへ行ったか
正面から斧槍手に一人、堂々乗り込む
目立つ目標を前に態々他は狙うまい
自身は狙われても─ジゼル、と呟けば氷刃が舞う
手足と…煩いのは迷惑だろう、口も凍らせとくか

背後からの敵の気配に肩竦め
全く、殿下のお転婆にも困ったものだ
何もない空間に微笑めば、突如現れた刃が煌めいた

まあ敬ってはいませんが
私は貴方の忠実な僕です─お忘れなく



●演目『氷の騎士と神出鬼没の姫君』
 アラン・サリュドュロワとマリークロード・バトルゥールは、顔を見合わせて肩を竦めた。行く手を阻むようにずらりと並んだ黒鉄の首輪の男たちの、何と邪魔なことか。
 最後にスパヰの男と接触した優位が、二人にはある。足止めの連中に包囲されてなお、それらをものともせずに蹴散らしさえすれば、この手はすぐに列車に届く。
 ひときわ強い風が吹いて幻朧桜が舞うのを合図に、アランとマリークロードはそれぞれ氷花舞う斧槍と高貴なる短剣とを振るって、一点突破を試みた。
「――失礼」
「ごめんあそばせ、先を急ぐの」
 口では詫びつつ、その唇が形取るのは笑み。
 超弩級戦力にかかればお手の物、二人を通すまいと敢えて人数を厚くしたのが裏目に出る形で、後方の男たちは武器も迂闊に振るえぬまま畳み込まれる。
『お、追え……ッ!』
「マリー、先に乗れ!」
 倒れ伏した男が、動ける者どもに向けて必死に告げると同時。
 アランもまたマリークロードの腰を抱え上げると、列車の最後尾デッキに押し上げた。
「掴まって頂戴」
 柵を越え、しっかりとデッキに着地したマリーがすかさず身を翻してアランに向け手を伸ばす。
『行かせるか!!』
 鋭い声と同時に銃声が、そして追うように車体に銃弾が当たる金属音が響いた。
「――アラン! 振り落とされてはダメよ!」
「ええ、何があろうとこの手は」
 差し出された繊手をしっかりと握ったアランは、引き揚げられながら思う。
(「離さない」)
 そうして、重々しい音を立てて、騎士もまた列車へと乗り込むことに成功した。

 開け放たれたままの車両内に続く扉を見遣るに、列車の後方から徐々に制圧が進んでいるようだった。
 ともあれ、スパヰがいると言われる先頭車両を目指さねば。アランとマリークロードが一歩足を踏み入れると、予想外の歓声に迎えられた。
「まあ、次のヒーローは騎士様と姫君ね?」
「君達も飽きさせないねえ、大したものだ」
 これは一体どういうことかと、思わず顔を見合わせる二人。改めて車内を見回してみると、一ヶ所に集められて見張られている黒鉄の首輪の男どもの姿があった。
(「マリー、これは」)
(「誰かが、お芝居のていで一般人を味方につけたのかしら」)
 ならば、と自然にこぼれる笑みで、二人は鷹揚に手を振って見せた。再びの歓声。
「先の車両で、わたくしたちの助けを待つ人々がいます」
「何卒、我らの武運をお祈り下さい」
 いかにもそれらしい振る舞いで先を急ぐ旨を告げれば、喝采と共に送り出された。

 若干面映ゆい心地さえする中、列車の連結部分に差し掛かろうとしたところでふとアランが呟いた。その視線は、名残惜しそうに車窓の向こうにあった。
「レッシャは聞いていたが、これが国を越え走ると……?」
 文字通り、流れるように景色が変わるさまに驚きを隠せないアラン。
「この速度で野駆け山越えるなんて!」
 外から見れば鉄の塊であるこんな重々しいものが、とマリークロードも声を弾ませる。
「名だたる駿馬でも、こうは走れないのではなくて?」
 伝令を飛ばして早駆けをしても国家間を行き来するには数日かかる。それを数時間、かかっても一日で国を跨ごうとは。
「ところで、アラン」
 いまだ『ヒーローショウ』で事件が解決していない車両に足を踏み入れる前に、マリークロードがアランを手招きして何やら耳打ちをした。
「……悪いお人だ」
「……ふふ、もっと褒めてくれて良くてよ」
 騎士が嗤えば、姫君も嗤って返す。示し合わせて悪戯をする、そんな『嗤い』だった。
「――では、そのように」
 アランの言葉に合わせて、マリークロードは外套を翻して囁いた。

 ――知らずとも、わからずとも。
 ――【le baiser de la fée(タイセツナモノニハミエナイシルシヲ)】。

 呪文は、超常を発動させる大切な触媒。紡がれた言葉は確かにマリークロードへと力を貸して、その姿を車内の景色にあっという間に溶け込ませてみせた。
(「参りましょう、我が君」)
 気配だけは確かに感じるその方へ、アランは一度頷いてから前の車両への扉を開けた。

「車内放送で聞いたぞ、ヒーローショウだそうじゃないか!」
「素敵な衣装、よく出来ていること!」
 旅客たちに見えてみるのは、異国の騎士たるアランの姿のみ。軽く手を振って応えると、周囲を見回す。
(「さて、鼠はどこへ行ったか」)
 騎士の手には立派な斧槍、刃を交える気に溢れた様子で乗り込んでいく。
(「目立つ目標を前に、態々他は狙うまい」)

 じり。じり。かかる圧に、黒鉄の首輪をした男たちが嫌な汗を垂らす。
 これ以上は潜んでいてもどうにもならない、自分たちの役目は足止めなのだから。
 先頭車両の『バーバチカ』の所まで素通りさせてしまっては、恩を売って支援の継続を目論む組織の思惑が台無しだ。

 ――やらねば。

『よ、良く来たな勇敢なる騎士!』
『あ、ああ! だが、ここまでだ!』
 口々にヒーローショウに乗ったような台詞を吐きながら、黒鉄の首輪の男たちが座席を立って通路に躍り出る。
 これもショウの演出かと信じ込んだ旅客たちは、大人しく観客席で見守っている。
 向けられた銃口と刃は、しかし本物だ。一般人に万が一があってはならない。
「――ジゼル」
 手にした斧槍に声を掛ければ、氷の刃が瞬く間に煌めいて、次々と氷刃が舞った。
(「今日は機嫌が良いな、舞台の主人公扱いがお気に召したか」)
 まだ幼い竜を思い自然と口元に笑みを浮かべるアランは、次々と幻朧戦線の面々の武器を取り上げるように手を、下手に動けないように足を、そして下手に騒いで一般人にご迷惑をお掛けしないようにと口を念入りに凍らせる。
 目に見える敵は、片付いたかに見えた。
 だが、姿を消しながら己が従者の立回りを満足げに眺めていた姫君は人知れず呟く。
(「さすが、わたくしの騎士。ですが――」)
 死角を突いて、本命の攻撃があることはよくあること。
 アランが振り返った時には時既に遅し――と、一人であればなっていただろう。
『ぐぅ……ッ!?』
「悪いお手々ですこと、躾が必要ね?」
 マリークロードが手にしたナイフを一刺しした先は、得物を握る腕の関節。
 命までは取らねど、戦意は確実に失わせるように。舞うように次々現れる幻朧戦線を相手に、鋭い一刺しで地を舐める屈辱をくれてやる。
「ふふ、見える囮に釣られる方々で良かったわ」
「全く、殿下のお転婆にも困ったものだ」
 何もない空間に向けて騎士が微笑んだと思えば、突如現れた刃が煌めいたのだから、男どもの驚きたるやいかばかりだったろう。
 出遅れたか、様子を見ていたのか、いまだ間合いが遠い相手には、鋭く投げた牽制のナイフが顔の真横を通って車両の壁にびぃぃんと突き刺さった。

「――アラン」
 ようやく姿を現したもう一人の主人公に、いかなる仕掛けかと旅客から感嘆の声が上がる。それに微笑みで返してから、マリークロードが囁いた。
「わたくしへの敬意が足りなくてよ」
「まあ、敬ってはいませんが」
 率直に返す騎士は、しかしすぐに言葉を続けた。
「私は貴方の忠実な僕です――お忘れなく」
 姫君は今日何度目になるか分からぬ肩を竦める仕草で、己の騎士を見た。

 ――忘れるものですか、あなたはわたくしの騎士なのですから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木常野・都月
列車を追いかける?
なら、空から列車を追いかけたい。

地の精霊様にお願いして、俺の足元に電磁波を発生させて電磁飛行をしたい。

加えて風の精霊様に空気抵抗を減らして貰えばそれなりに速いかも?

ある程度列車に近付いたら、電磁波の向きを変えて、磁力で列車に貼り付きたい。

外から中に入れそうな窓か車両のドアを探したい。

とはいえ、中には一般人もいるし、大立ち回りはできないかも?

手間だけど、突入前に、風の精霊様に頼んで、中の様子を伺いたい。

確か敵は例の鉄の首輪を付けてるはず。
鉄の首輪をしてる人の所に待機して貰った上で、車両に突入したい。

後は突入と同時に、風の精霊様の誘導で、雷の精霊様の[気絶攻撃]で無力化したい。


御桜・八重
「あった!」
清掃用の竹箒を見つけたら【花筏】を発動、
複製した髪飾り『八重桜』を柄に結わえ付ける。
そして念じると…
「浮いた!」
いざ、魔法の箒(仮)で追跡開始!

「つ、ついた…!」
シズちゃんのようにはなかなか上手く飛べないね~
なんとか最後尾車両に取り付いて中へ。
さて、本番はこれからだ!

車内には幻朧戦線の兵が旅客に紛れている。
不意打ちをくらうわけには行かないし、
大立ち回りに一般人を巻き込むのもご法度。

なので、一気に先頭車両へ駆け抜ける!

【花筏】で複製した『八重桜』を通路に飛ばし、
オーラの盾で座席との間に壁を作る。
座席から誰も出られないようにしておいて、
後は一気にダッシュ!
「待ってなさいよーっ!」



●翔んで猟兵
 走り去る列車、地上には足止めの男たち、これでは到底追いつけまい。
 ――そう、普通ならば思うだろう。
 しかしこちらは伊達に『超弩級戦力』と呼ばれていない、埒外の存在だ。
「列車を追いかける? なら……」
 いちいち幻朧戦線を律儀に相手にしていてはきりがない、そしていかな木常野・都月の狐の俊足でも超特急の名を持つ列車の速度には追いすがれない。
 背後で公園の倉庫を開け放って何かを探している様子の御桜・八重をその背にかばうように立ちながら、都月は一瞬思案を巡らせた。
(「地の精霊様、磁石が反発する力を活かすように俺を飛ばせることはできますか?」)
 内なる声でそう呼び掛ければ、返答の代わりとばかりに大地の力を司る精霊が、強力な電磁波を発生させるほどの磁力を都月の足元に発生させた。
「わ、っ」
『何!? 浮いただと!?』
 これまでにも様々な手法で『飛んだ』超弩級戦力を心ならずも見送る羽目になった幻朧戦線の面々だが、緩やかに浮きつつある今ならまだ眼前の狐の青年を取り押さえられるだろうと地を蹴って、手を伸ばす。

「――あった!」

 そこへ、嬉々とした八重の声が響く。その手には、何の変哲もない清掃用の竹箒。
 耳元を飾る桜の花飾り『八重桜』にそっと触れると、不思議なことに淡い光と共にその複製が掌に握りこまれる。
 それを竹箒の柄に手早く結わえ付け、袴を器用にさばいてまたがるようにすると――。「浮いた!」
 かくあれかしと念じた結果、竹箒は異国の御伽話に登場する空飛ぶ魔法の箒のように八重を乗せてふわりと浮かび上がったのだ。
「都月くん!」
「……っ!?」
 磁力の反発で、ゆるりとその身を浮かび上がらせていた都月に勢いをつけるように、後方から猛然と飛来した八重がその手を取って一気に引っ張った。
『また飛んだ! もうやだこの超弩級戦力!!』
 遂に幻朧戦線側から弱音が聞かれるまでに達してしまったが、これこそが格の違いというものなので、彼らには大人しく現実を受け入れてもらいたいと思うばかり。

 磁力と魔力とで空を翔る都月と八重は、必死に爆走する列車に追いすがる。
「わ、わ、あわわ! バランス取るのが難し……っ」
「大丈夫か!? そうだ、風の精霊様! 空気の抵抗を減らすことはできますか!?」
 可能な限り速度を出そうとすれば、それだけ無理が生じて危険も迫る。故に都月は、何とかならないかと今度は風の精霊へと助力を願ったのだ。
 すると、見えない障壁のような何かに阻まれていた感覚が、フッと軽減される。
 本来ならば物理現象からは何人たりとも逃れられないが、風の精霊がほんの少し肩入れした結果、二人は矢のように突き進み――そうして遂に、列車に追いつくことが出来た。
 竹箒で並走したところで、磁力の向きを変えて一気に鉄の馬に揃って身を寄せたのだ。
「つ、ついた……! ありがとう、都月くん」
「俺こそ、引っ張ってもらえて助かった」
 一先ず役目を終えた竹箒をそっとデッキに横たえながら、『シズちゃんのようにはなかなか上手く飛べないね~』などと笑い、八重がぱんぱんと袴の埃を払う。
 UDCアースの特撮ヒーローものならば知っている都月だが、サクラミラージュで国民的人気を誇る変身少女モノまでは守備範囲外らしく、その独り言こそ分からなかったが。
 竹箒を乗りこなす八重はとても頼もしく、素敵だったと素直に思いながら、扉を見る。
(「最後尾の扉はもう開いてて、中の気配も……何か、変だ」)

「さて、本番はこれからだ! ……で、都月くん、どう?」
 気合いを入れ直した八重が、車内を迂闊に覗き込まず先んじて風の精霊に偵察を頼んだ都月に問い掛ける。
「……最後尾と、そこから三両目くらいの車両はだいたい制圧が済んでる」
 精霊と意識をリンクさせた都月が、大きな狐耳をぴこぴこさせながら告げる。
「ええと……それと、『ヒーローショウ』のフリをして進め、だって」
「はいぃ!?」
 突拍子もない言葉に、八重が思わず変な声を出してしまうが、すぐになるほどと顎に手を添える。
「……車内には幻朧戦線の兵が旅客に紛れている」
「ああ、一般人もいるし……」
「そう、大立ち回りに巻き込むのはご法度」
 誰が仕掛人かは知らないが、一般人を守りつつスパヰを追えるのは有難い。
 ある程度車内の偵察を終えた都月が、今度は黒鉄の首輪をつけた男たちを精霊の力でマークし始める。
「三両先の車両から、まだ幻朧戦線が残ってる。一番手前のヤツを気絶させるから――」
「じゃあ、そこからは任せて!」
 都月と八重は互いに顔を見合わせると、ひとつ頷いて順に車内へと突入した。

「がんばれー!」
「こっちでもまた立ち回っていいからねー!」
 すっかり落ち着いた車両の旅客は呑気なもので、すっかり伸びている悪役こと幻朧戦線の様子さえ演技と思い込んでいるらしい。
 それはそれで幸せなことなのだろうと、二人は挨拶代わりに手を振って返し、どんどん前の車両を目指していく。
(「扉を開けたら、雷の精霊様に一人気絶させてもらう」)
 扉に手を掛けつつ、都月が八重に目で告げる。
 八重がこくりと頷き返すのを見て、いよいよ都月は引き戸を引いた。

『超弩級戦力め、此処は通さんぞ――ッ!?』
 勇ましく声を上げた首輪の男は、得体の知れぬ電撃を喰らって倒れ伏す。
「一気に、先頭車両へ駆け抜けるっ!」
 八重が髪飾りを、先程とは段違いの数で複製して、通路の両脇に飛ばす。
 それは桜色のオーラの盾となって、座席との間に障壁を作り出す。
『き、貴様ら!』
「大人しくしててね、相手なら後でしてあげるからっ」
「一般人に少しでも手を出してみろ、次はお前を気絶させてやる」
 障壁の向こう側で、下手なことをしようものなら――その懸念に都月がしっかりと念を押し、八重と共にスパヰの男がいる先頭車両へと一気に駆け抜けていく。

「待ってなさいよーっ!」
 時間さえ許せば、それこそシズちゃんばりの立ち回りを見せたかったけれど。
 今はスパヰを追うのが最優先と、八重は桜の盾を飛ばしながら駆け抜けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティオレンシア・シーディア
さぁて、やっと役に立てそうねえ。ミッドナイトレースをとばせば追いつくくらいは余裕なはず。そのまま大外まわって先頭…ってのは、さすがに厳しそうねぇ。大人しく後ろから突破しましょ。

…とはいえ。あたし屋内戦は得意なほうだけど、一般人がいるんじゃ派手なドンパチするのはちょっと難しいわねぇ。
…なら、一般人がまずいないところ――屋根の上、かしらぁ?
下からの銃撃はエオロー(結界)のルーンで外側に流すように○オーラ防御の傾斜装甲を展開。迎撃に上がってくるやつらは○クイックドロウからの●封殺で片っ端から撃ち落としちゃいましょ。
こういう限定条件なら、あたしちょっと自信あるのよぉ?



●その悉くを『迎撃』せん
「さぁて、やっと役に立てそうねえ」
 かつての戦争で鹵獲したバイク型UFO「ミッドナイトレース」に乗って、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)が線路付近にダイナミックエントリー。
 車輪がある乗り物だったら派手な音を立ててドリフトしたであろう動きに任せて、明らかにわざとだろうという素振りで立ちはだかる首輪の男どもを挨拶代わりに蹴散らした。
(「ミッドナイトレースをとばせば、追いつくくらいは余裕なはず」)
 地を這い呻く哀れな幻朧戦線の男どもを顧みることもなく、ティオレンシアは走り去る列車を見る。
「そのまま大外まわって先頭……ってのは、さすがに厳しそうねぇ」
 競走馬同士の駆け引きならばあるいは、と思わなくもないが。
 互いに鉄の馬とあっては、欲張るとかえって無駄足を踏むかも知れない。
「……大人しく、後ろから突破しましょ」
 急がば回れ、とは良く言ったものだと、大正の世からは想像も出来ないような未知の存在たるバイクのスロットルを吹かして、ティオレンシアは不敵に笑むと走り出した。

「……とはいえ」
 猛スピードで駆ける女に道を開けるように、桜が切り裂かれて左右に流れていく。
「一般人がいるんじゃ、派手なドンパチするのはちょっと難しいわねぇ」
 よもやまさか、車内ではヒーローショウを演じればどうにかなるという状況になっているだなんて思いもよらず――ええ、ええ、普通は想像だにしないでしょう!
 そんな訳で、ある程度列車と並走するまでに至ったティオレンシアと愛機ミッドナイトレース。労を労うように車体をひとつ叩いて、バーテンダーの衣装が場違いに見えてひどく似合う女が、座席にしっかりと立った。
(「なら、一般人がまずいないところ――」)
 座席を蹴って、宙返りひとつ。狙い違わず着地した先は、列車中程の屋根の上。
 主の武運を祈るように、みるみる遠ざかるミッドナイトレースのことは後できちんと回収して労を労ってやろうと思いつつ、三つ編みをなびかせて女が先頭車両の方を見る。

 ――きぃんッ!!

 聞き慣れた音だった。賢しい連中が天井の靴音に気付いたのか、銃弾が金属に当たる音。
 一撃でぶち抜けるほど柔な車体ではない、しかし放置する訳にも行かない。
(「ゴールドシーン、力を借りるわねえ」)
 愛銃「オブシディアン」を握る手とは反対に、シトリンが嵌められたペンを虚空に走らせる。描かれた文字は、人が両腕を上げる姿にも似た――『エオロー』の結界術式。
 展開した傾斜装甲で己を包み、天井を突き抜けてくる銃弾から身を守るのだ。
『やはり居たぞ!』
『排除しろ、これ以上は……ッ』
 首輪の男どもが「そうする」ことは既に予想がついていた。
 もぐら叩きのようだが、どこかしらの窓から上ってくることであるとか。
 だから、後は目視と同時に撃ち抜けるように引鉄に指を掛けておくだけ。

 ――ぱぁんっ!!

 その思惑、全てを【封殺(シールド)】する――!
「こういう限定条件なら、あたしちょっと自信あるのよぉ?」
 六発全てを撃ち尽くし、そのことごとくが敵を撃ち抜き、列車から転がり落とす。
 いかな幻朧戦線の猛者といえども、その神速の早撃ちの前では無力であろう。
 ティオレンシアのその自負は、紛れもない本物であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

狭筵・桜人
さて大正の時代には既にオートバイは輸入を主に
国内製造もされ始めていたそうで、大正が700年も続けば
必要な時にそこいらで手早くオートバイを盗……
借りることも、そう難しくはありません。知りませんけど。

ブレーキが解らなくてもアクセルさえ解れば
無免許でも走らせることも出来るんですね。
更に私は超弩級戦力様なので盗んだバイクを乗り捨てても
学府に修理費等々の責任を押し付けることが出来ます。

後部車両から乗り込みUCを発動。妨害する連中の目眩ましと無力化に努めます。
泰平の世に軍人も戦争も必要ありません。誰も殺しはしませんよ。
ただ、まあ、その首の鉄輪が非常に気に入らないんですよねえ。
強めに寝かせることにします。


ディフ・クライン
走る電車に飛び乗るなんて
まるで冒険小説みたいだ
自分が体験することになるとは思わなかったよ

「…王よ、力を貸してくれ」
UCにて王を召喚
すぐさま王の騎馬に飛び乗り、王と共に列車を追いかけよう
王の騎馬は王国で最速を誇った名馬
列車にだって追いついてみせるよ

最後尾に飛び移ったら中を駆ける前に
扉を開けて
猟兵だ、犯罪者を追ってる
今から駆け抜けるから
どうか隠れていてほしい

そう注意喚起をしたら
駆けよう
あまり近接戦は得意じゃないんだけど
襲ってくるなら怪我をしたってしらないからね
襲いくる敵を悉く【カウンター】の体術で捌き
隠れる一般人に被害が出ないよう庇う

傷を負っても
痛覚の鈍い人形の身
一般人はこの身で守りつつ、前へ



●追いつければええんや!
 幻朧桜ははらはらと舞い散り続ける。
 どんなに世が騒々しかろうと、お構いなしに。
「走る電車に飛び乗るなんて、まるで冒険小説みたいだ」
 桜の花弁越しにディフ・クラインが目を細めれば、隣にはオートバイを押しながら狭筵・桜人がやって来る。
 ディフはこの時、素直に桜人が自前で用意したオートバイなのだなと思ったものだから、普通に状況を受け入れて言葉を続けた。
「……自分が体験することになるとは思わなかったよ」
 そうでしょうとも、と桜人は一度頷いて笑んだ。
「さて、大正の時代には既にオートバイは輸入を主に、国内製造もされ始めていたそうで」
「え……?」
 にこにこ、にこにこ。あくまでも笑んだまま、桜人はオートバイのハンドルを握る。
「ですから、大正が七百年も続けば、必要な時にそこいらで手早く盗……」
 表情に乏しいディフの目が、明らかな驚愕を伴って開かれた。
「……借りることも、そう難しくはありません」
 知りませんけど、と申し訳程度に言い添えつつ、桜人は誤解しないで欲しいと言いたげにポンポンとオートバイの座席を親しげに叩いてみせた。

 色々と気掛かりはあったが、今は列車に追いついてスパヰを追うことこそが至上の命題。ディフは一度首を振って諸々の引っ掛かりを振り払うようにして、胸に手を当てた。

「……王よ、力を貸してくれ」

 その名を知る者は最早この世には存在しないのだろうか。かつて王であったことが一目で分かる偉容を持つ死霊の騎士と、その愛馬たる漆黒の騎馬と共に喚ぶ超常の名を、【淪落せし騎士王(シュヴァリエ)】と言う。
 王は黙して語らず、しかし召喚者たるディフに向けて馬上から篭手に覆われた手を差し伸べて馬上へと導く。
「先に行く、気を付けて」
 そう桜人に言い残し、ディフは引き上げられる勢いに乗って馬上へと飛び乗る。
「さあ、共に追いかけよう――オレとあなたならば、必ず届く」
 王の騎馬は、かつて王国にて最速を誇った名馬だ。鋼の馬、何するものぞ!

 乗り物の免許とは、あくまでも法律上必要なものである。
 実際に『走らせる』だけならば、知識さえあれば十分だ。
 いや、何ならブレーキが分からなくても、最悪アクセルさえ解ればいい。
「ンッフッフ、更に私は超弩級戦力様なので、盗んだバイクを乗り捨てても……」
 やっぱり盗んだバイクじゃないですかー! ヤダー!!
「學府に修理費等々の責任を押し付けることが出来ます」
 UDC組織の皆様だけでなく、帝都桜學府の皆様にも面倒押し付ける気満々だ――!
「フーフフンフフンフーフ、フフフフフー♪」
 絶妙に分かりそうで分からない鼻歌と共に、オートバイにまたがった桜人がおもむろに右のハンドルをぐいっと回す。
「フォッ!!!!???」
 しってるか、オートバイは想像以上に急発進するから気を付けるんだ!
 とはいえ既に時既に遅し、桜人を乗せたオートバイはあくまでも操縦に従って爆走。
 ディフの駿馬にも負けず劣らずの勢いで、ほぼ同時に列車の最後尾に辿り着いた。

 最後尾のデッキに飛び移ったディフと桜人は、既に開け放たれた扉と、そこから見える車内の様子に若干の訝しみを覚える。
 スパヰが乗り込み、賊が潜み、無辜の旅客は少なからず狼狽するのではなかろうか。
 そう思っていたのに、むしろ旅客たちの方がこちらを『待っている』節さえある。
「……どういうことだろう、先行した猟兵たちと何かあったんだろうか」
「ですねえ、少なくとも悪い話ではなさそうですが……行ってみますか」
 そう言いつつディフの背後にそっと回り込む桜人は、徹底してディフを先行させるつもりらしい。ヒトガタの青年は人が好いものだから、それを受け入れて車内へと顔を覗かせた。

「キャーッ! また来て下さったわーっ!」
「ショウはまだ終わらないのか、退屈させない列車だねえ、君!」

 ええ……??? という風に互いを見遣るディフと桜人。
「りょ、猟兵だ。犯罪者を追っている」
「「知ってるー!!」」
「今から駆け抜けるから、どうか隠れていてほしい」
「「戦闘シーンはもうないんですかー!?」」
 ディフが言葉を交わしている間に桜人が周囲をそれとなく確認すれば、この車両の首輪の男どもは既に『制圧』されているようだ。

(「どうやら、何かのショウと思い込まされているようですねえ」)
 そっとディフの背中を押しながら、桜人は囁いた。
(「ひとつ乗らせてもらって、先を急ぎましょう」)
 振り向いて返事をする代わりに、ディフが無邪気な旅客に向けて告げた。
「――前の車両で、オレたちを待っている人がいる」
「悪いスパヰもいますのでね、先を急がせてもらいます」
 桜人もひらひらと手を振って、激励の言葉に張り付いた笑みで応えながら背を向けた。

 大半の車両が制圧されたか、素通りされたかで、スパヰの完全な逃走は最早あるまい。
 だが、旅客の無事を確保せねばならないのも超弩級戦力の大変なところだ。
「援護しましょうか、目眩ましと無力化ならお任せを」
 ――【電子改竄(エレクトロレギオン)】で召喚された機械兵器群は眩い光体に変じ、いまだ健在なる黒鉄の首輪の男どもをその光で怯ませる。
 その間を、ディフが猛然と駆ける、駆ける。
(「あまり近接戦は得意じゃないんだけど」)
 桜人の支援で狙いが定まらない連中の攻撃は、かえって面倒な時もあり。
(「襲ってくるなら、怪我をしたってしらないからね」)
 軍刀も拳銃も使えず、身ひとつで迫る敵を華麗な体術で投げ飛ばせば、座席に身を潜めた一般人の頭上を越えて窓をぶち抜き放り出される。
 その様子に、大人しく隠れたまま喝采をくれる一般人たち。
 それを絶対に守り抜くという強い意思で、自らの身を盾にしてでもと誓うディフ。
(「傷を負っても構わない、この身は痛覚の鈍い人形なのだから」)
 着実に首輪の男どもを蹴散らしながら、前へ、前へ。

(「泰平の世に軍人も戦争も必要ありません、誰も殺しはしませんよ」)
 喚んだ機械兵に仕事を一任しながら、桜人はあくまで笑んだまま思う。
(「ただ、まあ。その首の鉄輪が非常に気に入らないんですよねえ」)
 不快を示した意思が伝わったか、機械兵から放たれた雷撃が幻朧戦線を名乗るものどもを一斉に昏倒へと誘う。

 先頭車両へ、超弩級戦力たちがたどり着くのも時間の問題。
 件のスパヰは、どのような心地でいるのだろうか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

水衛・巽
本来移動は白虎の守備範囲なんですが…まあいいでしょう
あれは人混みの中での運用には向いていない

式神使いで青龍に乗せてもらい、列車を追います
そのままでは無理があるので
大型犬ほどに縮んでもらってから内部へ

青龍には拳銃等の火器所持幻朧戦線には武器へ、
刃物所持者には顔めがけて水流を放ってもらい弱点を看破
火薬が湿ればすぐには発砲できないと思いたいところですが
まあ驚かせて隙を作れればそれはそれで
怯んだ相手を順に斬り伏せ先頭車両を目指します

一般乗客は椅子の下などに隠れているよう
コミュ力も活用しつつお願いしましょう
…まあ、見るからに異常事態なので
ぼんやり見ている見学者はいないでしょうけど
人質にされたら厄介ですし



●虚構と現実、その境界
 現代を生きる陰陽師たる水衛・巽は、その肩書きに恥じぬ幾多の式神を行使する。
 得手不得手こそあれど、状況に応じて喚びこなしてみせるのだが。
(「本来、移動は白虎の守備範囲なんですが……まあ、いいでしょう」)
 あれは、人混みの中での運用には向いていない。そんな即座の判断によって代打に選ばれたのは、吉将・青龍だった。
「疾く暴け――【青龍瑕瑾(セイリュウカキン)】」
 超常を発動させる言葉と共に顕現した青龍は、主の意図を察してすぐに身を低くしてその背を差し出す。式神使いの腕前は超一流、巽にかかれば容易いものだ。
「それでは、あの列車を追いましょう」
 すいと指先で目的地を示せば、御意とばかりに青龍は身をもたげて飛び立つ。
 速度はあっという間に人智を超えた域に達し、悠々と列車に追いついた。
 いざ列車に乗り込む段になり、巽はふと顎に手を当てて思案する。
(「……このままの大きさで青龍を伴うのは、無理がありますね」)
 軽く龍の鱗を叩き、呼び掛ける。すると、龍はたちまちその身を縮めて、最終的には大型犬程度のサイズにまで収まった。地味に便利である。
「では、行きましょう。あなたの力をもう少し借ります」
 絶妙な大きさに変化した青龍が一度首を垂れたのを見て、巽は車内へと踏み込んだ。

「今度は龍が一緒にいるぞ!」
「こうなったらもう前の車両まで見に行く!」

 旅客たちからちょっと事情がよく分からない言葉を掛けられて、巽が一瞬唖然とする。
 何とか状況を理解しようと周囲を見回せば、一纏めにされて伸びている首輪の男たち。
(「ああ、この車両は既に制圧済み、と。そして、誰かがひと芝居打ったのですね」)
 察しの良い巽には、すぐに分かった。道理で旅客たちが呑気……いや、落ち着いているのだ。不要な混乱を誘わず、良い方向に作用しているならば良いことだ。
「皆さんはもう既にご覧になった『ショウ』ですが、より前の車両の方々が見られないのは些か不公平というもの」
 ですので、ここはひとつ。拍手で送り出しては頂けませんか? そう丁寧に呼び掛ければ、旅客にして観客となった人々はそれもそうだと素直に拍手を送る。
 それに手を振って応じると、巽は先頭車両への道を急いだ。

 手法は様々だったが、あらかたの車両が何らかの形で別の猟兵たちによって制圧か一時的な抑制を受けているようだった。
 もしかすると、このままあっさりと目指すスパヰの元まで辿り着いてしまうのでは?
 そう思った時がエンカウントの時なのだろうか、数枚目かの扉を開くと同時、黒鉄の首輪をした男どもが一斉に軍刀や拳銃を構えたのが目に入った。
「猟兵――超弩級戦力です、椅子の下などにお隠れを」
 車内アナウンスなどで、旅客たちには『事情』が知らされていることと信じて、鋭く告げる。巽の人当たりの良い声音も助けたか、人々は素直に応じた。
『これ以上好きにはさせぬ、幻朧戦線に栄光あれ!』
『何が何でも此処で食い止めるぞ、絶対にバーバチカ殿の元へは通すな!』
 烈士たちと呼ぶに相応しい決意の叫びは、しかし致命的な隙でもあった。
 傍らの青龍(大型犬サイズ)に視線を向ければ、軍刀持ちには顔面へ、拳銃持ちにはその手元へ、それぞれ水流を放つ。
『ぶはッ……前が、見え……』
『しまった、銃はどこに!?』
 顔面にしたたかに水を浴びた者は視界を一瞬奪われ、手元を狙われた者はその水圧に負けて思わず武器を取り落としてしまう。
 そして、その隙があれば、巽にとっては十分だった。佩いた古太刀「川面切典定」を抜き放つと、怯んだ相手から順に斬り伏せて、文字通り道を拓いていく。

(「なるほど、『ショウ』という名目にしておけば、確かに穏やかに収まります」)
 命までは取らない程度に斬った相手が倒れ伏すのも、迫真の演技に見えたろう。
 刀を一度振って払った鮮血は、確かに本物ではあったけれど。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォンミィ・ナカムラ
あーっ、逃げちゃダメーっ!!
絶対、止めちゃわないとだよね!

【Hoppipolla】発動
「ピポちゃん、お願い! 全速力で追いかけて!」
空飛ぶぞうさんに乗って、【全力魔法】飛行で列車を追いかけるよ
後ろに向けて【高速詠唱】で風【属性攻撃】を放ってジェットにして、頑張って速く飛ぶよ!

先頭車両まで追い付いたら、かっこよく飛び降りて列車に乗り移るよ。
そのまま窓を蹴破って突入!
まだ民間人がいれば周りに【オーラ防御】を張って、幻朧戦線の人たちを魔法で迎撃するよ
杖に戻った『精霊杖ホッピポッラ』で【属性攻撃】
使う魔法は……風魔法なら、列車自体を巻き込まずに戦えるかな!


祓戸・多喜
列車はカッコいいけど逃がさないわよ!

追いつくのは只のJKにはキツイ!
ここは文明の利器の出番ね!
矢に頑丈なロープ結び逆側をいい感じに体に結び付けて。
その矢を剛弓に番え列車や線路に直撃しないよう視力で見極めて…空中浮遊しつつ放つ!
重力カット気味な所を矢に引っ張られて一気に加速、いい感じに列車の真横に付ければそこから念動力で列車に取りつく。
着地成功!あとは先頭目指すだけね!
と言っても弓は使えないし狭いし乗客いるし、か弱いJKには厳しい!
寄ってくる幻朧戦線は変態!と全力でつき飛ばしたり鼻でべしーんと引っ叩いたりして追い払う。
…気づいたら粗方叩きのめしちゃってるけど気にしない!

※アドリブ絡み等お任せ🐘



●ゾウさんが好きです
「あーっ、逃げちゃダメーっ!!」
 走り去る列車には既に他の猟兵たちが追いすがっていたが、車内にはスパヰを理由あって援護する幻朧戦線の男たちがいる。思うような追走は難しいだろう。
 だからフォンミィ・ナカムラは、背負ったランドセルを担ぎ直して列車を見るのだ。
「絶対、とめちゃわないとだよね!」
「ええ、列車はカッコいいけど……逃がさないわよ!」
 フォンミィの隣で心を合わせて意気込む祓戸・多喜の手には、愛用の巨大和弓――その名も「豪弓ハラダヌ」があった。
 多喜のそれはもう逞しい……いや、頼もしい女子高生の体躯に馴染む和弓を見て、フォンミィはあるひとつの素朴な疑問を浮かべる。

(「あんな大きな弓……追いかけるのに、どう使うんだろ?」)

 かく言うフォンミィが両手で包み込むように取り出したのは、背中に妖精の羽を思わせる翼を持った、パステルカラーの愛らしいゾウさん――そう、ゾウさんだった。
(「これは偶然、ピポちゃんは元々あたしのお供で……うん、狙ってなんかないし」)
 ぶっちゃけると己を『只のJK』と言ってはばからない多喜はどこからどう見てもゾウさんのバイオモンスターなのだが、きっとあまり触れてはならないのだろうと、そうフォンミィは大人の判断をして多喜に行動の先手を譲るように一歩下がる。
「追いつくのは、只のJKにはキツイ!」
 いいかいみんな、たとえ外見がどんな姿であろうと、本人の自認こそが優先されるべきであって、この場合多喜が己を『普通の女子高生』と定義づけるならば、それは尊重されるべきなのだ。
「ここは文明の利器の出番ね!」
 そう、多喜がおもむろに豪弓につがえるに相応しい巨大な矢を取り出して、器用に頑丈なロープを結わえて、反対側をいい感じに自身の胴に巻き付けたとしても。
「よぉく狙いを定めて……集中、集中……」
 常人であればぴくりとも弦を弾くことすらかなわないであろう剛弓に、仕掛けを施した矢をつがえて容易くギリリと引き絞り、部活で鍛えた的を狙う目で列車を――走行や旅客に被害を与えない場所を狙いすましたその姿を見ても。
「……っ!!」
 地に着いていた脚がふわりと浮き上がって、その直後放たれた矢が恐るべき勢いで列車の屋根付近に突き刺さり、ちょうど重力をカットされる形となっていた多喜をロープが猛然と引っ張っていったのを目撃してしまったとしても。

「……JKって、すごい……」

 こう、フォンミィのような、大人の対応をするのが模範解答なのだ。

 一方のスーパーJS代表とも言えるフォンミィもまた、掌に乗せた「ピポちゃん」に助力を願う。可愛いゾウさんの形をしたマジカルペットは、魔法少女のお供に相応しい。
「ピポちゃん、お願い!」
 まるで天高く放るようにピポちゃんを掲げれば、発動するのは【Hoppipolla(ホッピポッラ・ハイパーモード)】。
 フォンミィが得意とする火の強化魔法を受けてくるくると回転しながら、ピポちゃんはその身体を悠に500mにも達しそうな大きさの光輝く巨体へと変身させた。
「一緒に戦って!」
 魔法少女が助力を願えば、マジカルペットは躊躇うことなくその背中を差し出す。
 光の翼持つ今のピポちゃんとならば、列車を追うことだって可能なはず!
 もちろん、ピポちゃん任せにはしていない。フォンミィもおもむろに虹色の輝きが美しいレース模様の傘を取り出し、後方に向けて構えるとひとつ念じた。
(「風の力をジェットにして、二人で頑張って速く飛ぼうね」)

 ――ぶわ……っ!!

 遊園地のアトラクションなど比にもならない超速で、フォンミィとピポちゃんもまた猛然と列車を追いかけていった。

 あわよくば先頭車両まで追いすがって、屋根の上に着地した上で窓を割ってダイナミック突入しようと思っていたフォンミィの視界に、列車の中程にふぬぬと念動力を使って取りついている多喜の姿が飛び込んできた。
 何だか、追いて先に行くのも気が引けたものだから、フォンミィもピポちゃんからスタイリッシュに飛び降りて列車の屋根に着地する。一拍遅れて、精霊杖に戻ったピポちゃんこと「ホッピポッラ」がその手に握られた。
 よいしょ、よいしょと車両の連結部分のデッキに足をつけた多喜が、フォンミィの姿を認めて破顔一笑。
「着地成功! あとは先頭目指すだけね!」
「うん、でもきっと車内には民間人がいるよね」
 閉ざされた扉を見て、しかし二人の脚は無意識のうちに上げられていて。
「そう、弓は使えないし狭いし乗客いるし、か弱いJKには厳しい!」
「だね――じゃあ、行こっか!」

 どかん! と盛大な音を立てて、車内に続くドアが蹴破られた。
『何奴!?』
『いやもうこの場合超弩級戦力しか居ないだろう! 通すな!』
「キャーッ! 超弩級戦力様ーっ!!」
「待ってました! お願いします!!」
 車内の幻朧戦線の男たちや旅客たちの反応に、一瞬何が起こったのか分からず目を丸くする二人ではあったが、存分に戦って良いのだなということだけは理解して。
「民間人のみんなには、指一本触れさせない!」
 フォンミィがオーラの障壁を展開させて旅客を守れば、湧き起こる歓声。
「ちょっと! いたいけなJKに何しようってのよ、変態!!」
 多喜がやや言いがかりめいた台詞と共に軍刀をかざして迫った首輪の男を突き飛ばす。
(「使う魔法は……風魔法なら、列車自体を巻き込まずに戦えるかな!」)
 杖の姿のピポちゃんをひとつ振るって、巻き起こる突風で拳銃持ちの視界を遮ったり、身体を天井まで巻き上げて打ち据えて気絶させたり、多喜のスカートがめくれたり――あれ!?
「キャーッ!! 見ちゃダメーっ!!」
『見えてない見えてなぐはぁッ!!』
 割とマジで見えてなかったので、スパッツに守られていたのか否かなどの一切は不明なのだが、女子高生のスカートがめくれるというのはそれだけで一大事。
 ご自慢の長い鼻で、多喜はべしーんと幻朧戦線の男たちを引っぱたいていく。

「……こ、この車両、だいたい片付いちゃったね?」
 おずおずと、フォンミィが多喜を見上げれば。
「ホント、粗方叩きのめしちゃってるけど……」
 聞こえるのは、旅客たちの拍手喝采。何だか、悪くない。

「「――まあ、いいか!」」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雪華・風月
【雪魚】
ロシアンティー、ジャムに紅茶
はい、とても甘そうで美味しそうですね

…ふむ、ヘスティアさんと談笑していたところに聞こえる幻朧戦線との声に
猟兵の姿
むむ、何か大事のようで…
ということで雪華・風月。ヘスティアさんと参戦です


なるほど、列車を追うのですね…ではヘスティアさんお願いします!

列車にたどり着いたら
なるほど、一般の方に幻朧戦線が紛れて…

背もたれを足場に前へ【ダッシュ】
攻撃の軌道を『見切り』、雪解雫で弾き【武器受け】
『カウンター』の一撃、峰で気絶させます

後方援護ありがとうございます、ヘスティアさん…あ痛…
むぅ、桜學府の者として大事に動かずどうしますか…


ヘスティア・イクテュス
【雪魚】
ロシアンティーね…まぁあれはあれで良いものよね…
果物の甘さと紅茶で…あれは砂糖ぽちゃぽちゃ入れる風月の好みでもあるんじゃないかしら?

と風月と話してたら、何やら騒々しいわね…
まぁ、これも成り行きね…


完全わたし頼りの風月をジト目で見つつも諦め抱え、
ティターニアで飛んで列車を追わせてもらうわ【空中戦・ダッシュ】

追いついたら風月を下ろし…って勝手に先々行かないでくれるかしら!?
タロスを使って【盾受け】一般人に被害が出ないように保護
風月への攻撃は後方からミスティルテインで武器を撃って無力化【援護射撃】

追いついた風月には勝手に先々行くなと頭を叩き
わたし學徒兵じゃないし…と返しつつも先に進むわ



●旅の終着点、そして終わりの始まり
「ロシアンティーね……まぁ、あれはあれで良いものよね……」
 幻朧桜舞うサクラミラージュに、空色の髪が良く映えるヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)が呟く。
「果物の甘さと紅茶で……あれは砂糖ぽちゃぽちゃ入れる風月の好みでもあるんじゃないかしら?」
 隣に立つ黒髪の乙女――雪華・風月(若輩侍少女・f22820)にヘスティアがそう問えば、言外の意図など一切分からぬとばかりに素直な答えが返る。
「ロシアンティー、ジャムに紅茶……はい、とても甘そうで美味しそうですね」
 その反応がまた風月らしいとヘスティアが肩を竦めたところで、二人はようやく騒ぎが起きていることを察する。間一髪、間に合ったらしい。

「……何やら騒々しいわね」
「むむ、何か大事のようで……」
 気心の知れた仲だ、顔を見なくても意思の疎通は出来る。
「まぁ、これも成り行きね……」
「ということで雪華・風月、ヘスティアさんと参戦です――!」

 足止めにと遣わされた首輪の男どもは、既にそのほとんどが制圧され地に転がるばかり。ならばスパヰが乗った『シベリア超特急』を追跡することに専念するのみだ。
「なるほど、列車を追うのですね……ではヘスティアさんお願いします!」
「……わたしがいなかったら、あなたどうするつもりだったのよ?」
 完全に己頼りでキラキラした目を向けてくる風月にヘスティアはジト目で返しつつも、はぁとひとつため息をつきながら諦めたように小脇に抱えた。
「ティターニア、フルバースト!」
 妖精の羽を象った白いジェットパックがたちまち展開され、上下二対の推進器が猛然と風月を抱えたヘスティアを矢のように突き進ませる。
 超特急を謳うだけあって列車の速度は当然速いが、しかしヘスティアが擁する武装のテクノロジーはかの大正の世が持つそれを遥かに上回る。
 故に、追いすがるのも容易く。最後尾のデッキに二人並んで舞い降りるのも容易いことだった。

「さあ着いたわよ、風月は先に降りて……ってちょっと!?」
 抱えた風月を一足先にデッキに下ろして、次いで自らも降り立ってから二人で、と思っていたら、足をつけるなり風月が開け放たれたままの扉をくぐって車内に飛び込んでいってしまったではないか。
「勝手に行かないでくれるかしら!? もう、世話の焼ける……!!」
 風月を駆り立てるものは、己が知らなかった『スパヰ』の存在。
 影朧とは異なるアプローチで、幻朧戦線に助力するという形で、帝都の平和を乱すもの。桜學府がいくら管轄外だから知らなかったとはいえ、捨て置く訳には行かない。
「超弩級戦力さん、頑張って!」
「前の方で、君達の活躍を待っている人々がいるのだ!」
 どうやら、この車両は制圧が完了しているらしい。手を振って声援に応じると、風月はずんずん前の車両へと突き進んでいく。
 ところどころで、旅客に紛れた幻朧戦線の男どもと交戦する猟兵たちを見た。
 加勢しようとすれば、しかし皆一様に先頭車両の方を指し示すのだ――『先に行け』。

 がらり、と音を立てて何枚目か知れぬ引き戸を開けば、そこにはタートルネックの男が拳銃を構え立っており、それをかばうように黒鉄の首輪の男どもが立ちはだかっていた。
『――数にモノを言わせた、というところかね? 随分と力技を使うのだな』
 スパヰの男の声音には、まだ余裕がある。
 憎き帝都の敵を前にして、風月に冷静であれというのは難しい話であった。
「お覚悟っ!!」
 座席の背もたれを足場に、一気に間合いを詰める。
「バカ、一般人巻き添えにしたらどうするのよ!!」
 そこへ、ようやく追いついたヘスティアの鋭い声と共に、咄嗟に身を潜めた旅客たちを守るように鏡面仕上げの盾型ドローン「タロス」が展開された。
 きん、きぃん。嫌な音を立てて、拳銃持ちの男たちが放った銃弾がいくつか弾かれる。
 そこでようやくハッとなった風月が振り返ろうとするも、ヘスティアが制する。
「行って!」
「……はい!!」
 軍刀が振りかざされて、風月に迫る。
 構えるは退魔刀「雪解雫」、狭い車内では斬撃の軌道も限られる――ならば!
 青い鞘に収めたままの刀で軍刀の斬りつけを弾いて、胴ががら空きになった順から男たちに一撃峰をくれてやり、次々と気絶させていった。
 拳銃持ちも黙ってはいない、狙いを風月に定めて撃ち抜こうとしたところを、しかしヘスティアの「ミスティルティン」による援護射撃で、的確に拳銃だけを弾かれる。
『……ほう、これが』
 超弩級戦力、か。そう言いたげに倒れ伏した男どもを見下ろすスパヰの男からは、余裕の笑みが消えていた。

「後方援護ありがとうございます、ヘスティアさ……あ痛っ」
 ぽかり。風月の頭をひとつ叩いて、ヘスティアがお叱りの言葉をぶつける。
「勝手に先へ先へと行くんじゃないの」
「……むぅ、桜學府の者として、大事に動かずどうしますか……」
 いや、わたし學徒兵じゃないしと言い返そうとしたヘスティアは、不穏な気配に鋭くスパヰの方を見た。

 ――窓を、拳銃で撃った音がした。

『見事だったよ、超弩級戦力の諸君。場所を変えよう』
 そう言うなり、スパヰの男は割った窓からその身を外に硝子の破片ごと投げ出す。
「――風月、追って! わたしは他のみんなに車内放送で伝えるから!」
「は、はい……!」
 ヘスティアの指示に、風月が思い切って窓から身を投げ出すと。
 受け身を取って転がったそこは――一面の草原だった。

『ようこそ、我が祖国へ』
 立ち上がり、鷹揚に両手を広げる『バーバチカ』は、確かにそう言った。
 その背後には、大きな赤いヒトガタの甲冑が立っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『スパヰ甲冑』

POW   :    モヲド・零零弐
【マントを翻して高速飛翔形態】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【目からのビーム】を放ち続ける。
SPD   :    影朧機関砲
レベル分の1秒で【両腕に装着された機関砲】を発射できる。
WIZ   :    スパヰ迷彩
自身と自身の装備、【搭乗している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●スパヰ甲冑『バーバチカ』
『ようこそ、我が祖国へ』
 一面の草原に佇んだタートルネックの男は、両手を広げてそう言った。
 ――心底、猟兵たちを歓迎するかのように。
 列車内で奮戦していた猟兵たちが事態の急変を知って次々に飛び降り集えば、それをスパヰは満足げに見遣る。
 列車は走り去り、代わりに線路からは赤い『何か』が地響きを立てて歩み寄ってくる。

『この草原は、此処に至るまで流された幾多の血を見て、そして染められてきた』
 血のような赤を纏う甲冑が、土煙を舞い上げてスパヰの背後に立つ。
『――その意味を、帝都で久遠に思える平和を享受してきた君達は理解出来まい』
 草原を渡る風は、男の短い銀髪を僅かに揺らしていく。
 そうして、背後に立つ赤いヒトガタにそっと触れた。
『影朧兵器『スパヰ甲冑』――はは、安心したまえ。乗って死のうなどとは思っていない。心身こそ損耗するが、致命は回避する改良がもたらされているのでね』

 ならば、その兵器で何をするつもりなのか?
 猟兵たちの疑問は、当然そこに収束する。

『君達は私を逃がすつもりは無いのだろう? だが私もそう易々と捕まる気は無いのでね』
 そう言うや否や、差し伸べられた『スパヰ甲冑』の掌を踏み台にして、男はあっという間に甲冑の中へと吸い込まれた。
 乗り手を得て、赤い甲冑は身体中から蒸気をひと噴き、しっかりと草原を踏みしめる。
『かつて祖国の英雄たちが草原を駆けたように、私も君達と向き合おうではないか』
 操縦席の中で、スパヰは天を仰いで良く通る声を張り上げた。

『――なあ、『バーバチカ』!』

 まるで生身の人間をベースにしたかのように細い機体。
 それに不釣り合いなほど大きな四肢のパーツは赤い。
 いかつい肩部パーツの右側には、青い蝶の意匠が添えられていた。
 甲冑の顔面はまるでデフォルメされたメカを思わせ、その視線は搭乗者のものとリンクするかのようにぎょろりと動く。

『最早、私は君達を倒すより他に無い。そうしてでも、果たしたい役目と――』
 蝶の二つ名を持つ男は、誰よりも巧みにこの草原を舞い、敵を翻弄するだろう。
『叶えたい約束があるのでね、悪いが此処で君達には血を流して貰う』

 風が吹き抜ける。かつては勇敢なる歌が響き渡ったであろう草原は、今はただスパヰの男の伝声管越しの声だけが響く静寂の地。
『来い!!』

 皇女殿下の危険な市民は、己が願いに忠実であるが故に手段を選ばない。
 対する超弩級戦力たちは、何を以て彼と対峙し、刃を交えるのか?
 どうか悔いのなきよう、互いの持てる全てをぶつけ合わんことを。
ヘスティア・イクテュス
【雪魚】
うちの世界も銀河帝国に与する存在もいるし、他所様の世界の事をあれこれ言えないけど…

同じ世界の人間同士の争う…それってとっても無益だと思うわ
…いっそ住む星が無くなればこういった争いもなくなるのかしらね?


わたしがやることは風月の支援
タロスで『盾受け』、風月を盾の内側に入れ防御しつつ
スモークミサイルを発射ね【目潰し】

更にダミーバルーンを放出【分身】
煙幕から飛び出させて敵の攻撃を『おびき寄せ』…今!


風月が飛び出したらミスティルテインを長距離砲撃モードに
盾に煙幕、そして風月を目くらましに『エネルギー充填』…
腕を切り飛ばしたのを見えたら発射!


コンビネーション・ベイオネット上手くいったわね


雪華・風月
【雪魚】
ただのスパヰであるなら政治の領域、そういうのもありましょう
しかし、幻朧戦線に助力するのであれば別です

彼らは無辜の民を傷つける、えぇ平和を乱す輩をわたしは理解できないでしょう
ただ、一心にて切り伏せる…それだけです!


ヘスティアさんに引っ掴まれて盾の内へ
煙幕により視界を封じ、敵の攻撃が囮に逸れた…今!

地を踏み込み、霊脈に乗り前へ!
硬い甲冑…断つには未だ未熟…なら…!

【切り込み・切断】

その腕一本頂くとしましょう…
あの細い腕関節部を狙い雪解雫にて



そして一言…
わたしに気を取られていて良いのでしょうか?
再度縮地にてその場を離脱


どちらかと言うと剣銃…でしたが…はい、良い狙いでした



●どうすればあらそいはなくなりますか
 スパヰ甲冑へと最初に接敵したのは、雪華・風月(若輩侍少女・f22820)とヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)となった。
「ただのスパヰであるなら政治の領域、そういうのもありましょう」
 影朧を相手取ることが主な仕事であった桜學府に賊する風月は――いや、彼女だけではなく學徒兵の大多数は、帝都を舞台に暗躍するスパヰの存在すら知らなかった。
「しかし、幻朧戦線に助力するのであれば別です」
 黒曜石の瞳を凜と光らせ、真っ直ぐに赤い甲冑を見据えて敵対の意思をあらわにする。

「うちの世界も銀河帝国に与する存在もいるし、他所様の世界の事をあれこれ言えないけど……」
 文字通り『世界』こそ異なれど、ヘスティアもこの『状況』には黙っていられない。
「同じ世界の人間同士が争う……それってとっても無益だと思うわ」
 ざあ、と風が吹いて、空色の長い髪がなびいた。
 空の果てには、ヘスティアが生まれ育った宇宙がある。
 そこは文字通り果てがなく、広大で、にも関わらず船に生きる人々は争いを選んだ。
「……いっそ、住む星が無くなればこういった争いも無くなるのかしらね?」
 故に、その言葉は皮肉めいて『バーバチカ』に投げ掛けられる。
 かの男は、ここではないどこかの世界での争乱とその顛末を知らない。
 ヘスティアの言葉に秘められた重みを、どれだけ理解できるだろうか。
『国家という境界を失って、それでもなお争いの種は尽きない』
 伝声管越しに響く男の声は、良く響く。
『ならばこの星さえ失っても、きっと人は何かしら争うのだろうな』
 その言葉を聞いて小さく肩を竦めたヘスティアの前に、風月が「雪解雫」を鞘に収めたまま握りしめて踏み出す。
「『幻朧戦線』、彼らは無辜の民を傷つける」
 風月は、今まで対峙し、退治してきた黒鉄の首輪の集団が起こした事件を思い出す。
「えぇ、平和を乱す輩をわたしは理解できないでしょう」
『真っ直ぐな言葉だ、若者らしくて実に良い』
 揶揄するような言葉にも負けず、刀の柄をぐっと握って風月が叫んだ。
「ただ、一心にて切り伏せる……それだけです!!」

 風が吹き抜け、草原がさざめく。
 男が甲冑の中で口の端を吊り上げ笑むと同時、両腕に仕込まれた機関砲が火を噴いた。
「隠れてっ!」
「ひゃっ!?」
 ヘスティアが咄嗟に複数枚展開させた盾型ドローン「タロス」が、互いに発生させるバリアで広範囲を守り、ヘスティアと、引っ掴まれて半ば強引に後方に下げられた風月とを弾丸の嵐から遠ざける。
(「わたしがやることは、風月の支援」)
 かつてヘスティアは、故郷の世界を『救われた』。
 それ故に、同じように他の世界を『救いたい』とも願うのだ。
 そのための助力ならば、ましてや知己の故郷とあらば――!
「スモークを焚くわ、あともういっこ小細工も入れるから」
「……わかりました!」
 盾の裏側で、小さく言葉を交わす二人。
 ヘスティアがバリア越しに「スモークミサイル」を発射すれば、双方の中程でそれは破裂し、もうもうと白煙を上げた。
『おのれ、目眩ましか……ッ』
 男が忌々しげに操縦席で視界の解像度を限界まで上げようとした時、『何か』が横切って行くのを確かに見た。
『そこだ!!』
 虚を突こうというのか、そうは行くかと高機動型影朧甲冑は鋭く腕を向けて再度機関砲を唸らせる。だが――。
「かかったわね」
 ヘスティアの声は心なしか喜色を孕み、かくして思惑通りに放ったヒトガタの「ダミーバルーン」は哀れ蜂の巣に。だが、それで良かった。

「――今っ!!」

 地を踏み込み、確かに感じる『霊脈』に乗って――【縮地】、前へ!
 風月は抜刀した「雪解雫」を閃かせて猛然とスパヰ甲冑へと迫る。
(「硬い甲冑……断つには未だ未熟……」)
『本命は君か、學徒兵!』
「その腕一本、頂くとしましょう!」
 ならばと、全力で切り込み叩き斬ったのは――囮につられて晒す形となっていた華奢な腕関節部。
 重々しい機械の腕、その左側がどさりと草原を押し潰すように落ちた。
 青い蝶を戴く右腕は未だ健在とはいえ、緒戦で片腕を失うのは痛かろう。

 痛みはない。だが、じわりと肉体を蝕まれる感覚が深まった気がした。
 気を逸らそうと、敵ながら見事な刀さばきを見せた少女に声を掛ける。
『良き友を持ったな』
 その連携を讃えるも、しかし返された言葉は意外なものであった。
「わたしに、気を取られていて良いのでしょうか?」
 言葉と同時に、學徒兵の少女は迫って来た時と同じ勢いで飛び退る。
 入れ違いに飛んできたのは――。

『――ッ!!』
「貫け、【ミスティルティン】っ!!」

 派手な音と共に、紙一重のところで身を翻したスパヰ甲冑の頭部装飾の一部を、ビームの砲撃が吹っ飛ばしていった。
『……はは、本気で頭ごと吹き飛ばすつもりだったな?』
「あら残念、避けられちゃったわ」
 背負った「ティターニア」と接続されてたった今火を噴いたビームライフル「ミスティルティン」の構えを解きながら、ヘスティアが隣に戻ってきた風月を見る。
「『コンビネーション・ベイオネット』、上手くいったわね」
「どちらかと言うと『銃剣』でしたが……はい、良い狙いでした」
 頭部への衝撃で、当然内部の搭乗者にも少なからずダメージが与えられただろう。
 戦果は上々、二人は反撃を受けぬうちにと再び白煙に紛れ後を味方に託したのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

水衛・巽
無辜の人間を、ひいては猟兵を踏み越えてでも
果たしたい御役目と約束ですか
いっそサバカと改名しては?
英雄より蝶よりよほどお似合いですよ

皇女への忠誠には敬意を表するのも吝かではありませんが
無辜の命に頓着しない相手に手段など選びません
コミュ力にてバーバチカのプライドを刺激し
中傷まがいの挑発で判断力を曇らせてみましょう

式神使いにて召喚した玄武の陰に隠れ
ビームはある程度結界術で防御
多少被弾しておいたほうが嗜虐心を煽りそうです

接近した瞬間に玄武の尾で薙ぎ払い拘束
怖れるべきは機動力のみ
捕まえてしまえば透明になろうが意味はありません

さあ詳しい話を聞かせてもらいましょうか
皇女アナスタシア殿下の走狗殿



●名乗るに相応しい名は
「無辜の人間を、ひいては猟兵を踏み越えてでも果たしたい御役目と約束ですか」
 既に片腕を失っているスパヰ甲冑を見て、それでも水衛・巽は油断することはない。
「――いっそ『サバーカ』と改名しては? 『英雄』より『蝶』より、よほどお似合いですよ」
 吹き抜ける風に黒髪をなびかせて、涼しい顔で言ってのけた言葉の意味を、甲冑の中の男は果たしてどう捉えただろうか。

 赤い甲冑は草原に立ち尽くす。伝声管越しに聞こえる声は、心なしか震えていた。
『は、はは――言ってくれる!』
 男の国の言葉で、それは『犬』を意味し、裏の意味では『ろくでなし』。
 端的に言えばスラングというものだ。敢えて相手の土俵に踏み込む能力の高さで、巽は敢えて中傷まがいの挑発を試みた。
 その狙いは至って明快、判断力を曇らせることにあった。
(「『皇女』への忠誠には敬意を表するのも吝かではありませんが」)
 僅かに目を細めて思うのは、ひとえにこの男が『幻朧戦線に加担した』という事実。
(「無辜の命に頓着しない相手に、手段など選びません」)
 そう、巽をはじめとして多くの猟兵たちが心を同じくしている。
 彼らの行動の先には、何の罪もない人々の血と屍こそが待っている。
 それが理解できてしまうからこそ、のうのうと理想を語る眼前の男を許すわけにはいかないのだ。

 甲冑の生々しい目が、ギョロリを巽を見た。
『良く回る口だが、逃げ回って舌を噛まぬようにな』
 そうして放たれた幾多の光線は、巽を捉える前にその前に現れ出でた凶将・玄武の大きな甲羅に防がれた。
(「……多少被弾しておいたほうが、嗜虐心を煽りそうです」)
 内心そう思いつつ、巽は玄武の陰に隠れながらも結界術でビームを受け止め、ちらと苦しげにしかめた顔を見せてみる。
 まるで懸命に抗っているかのようなその姿は、男にはさぞかし愉快に見えたろう。
 黒いマントを翻して、驚くべき機動力でその巨躯で宙を舞い、赤い甲冑が迫る。
『どうした、そのまま亀のように引っ込んでいるつもりか!』
 その無様な姿を間近で見てやろう、などと思ったのだろうか。何にせよ、巽と玄武にスパヰ甲冑は『近づきすぎた』。

 ――「【玄武捕縄(ゲンブホジョウ)】、縛り穿て」

 黒い何かが、草原を、そして風を切って猛然とスパヰ甲冑を薙ぎ払った。
『が……ッ!?』
 衝撃で一瞬制御を手放した隙を突いて、甲冑を打ち据えた玄武の黒い蛇の尾がぎりりとそのまま残った右腕ごと細い体躯を締め上げる。
「恐れるべきは機動力のみ、捕まえてしまえば透明になろうが意味はありません」
『……貴様』
 玄武の身体から、静かに巽が姿を現す。悪あがきに飛んできた忌々しげな視線代わりの光線は、手ずから結界を張って散らせてみせた。
 今や黒蛇の尾は、無数の棘と、北方七宿へ繋ぎ止める水の縄と化して甲冑を逃さない。
「さあ、詳しい話を聞かせてもらいましょうか――」
 巽の声も、表情も、あくまでも穏やかなものだから。
 男はかえって、底冷えがするような恐ろしさを覚えた。

「『皇女アナスタシア殿下』の走狗殿」
『……本物の皇女が、我々工作員に直接命令を与えると思うかね?』
 伝声管越しに、淡々とした声が響いた。
『コードネームさ、私と同じね。『皇女殿下』は、いわば我々の統括者だ』
 この世界は、不死の帝と幻朧桜のもとに全てが統治されて久しい。国家というていは失われ、しかしその残党と呼ぶべきものどもは各地に存在し、こうして暗躍している。
『たとえ私がしくじったとしよう、だがそれは些細なことだ』

 ――君が今まさに言った通り、私は『走狗』に過ぎぬのだから!

「……」
 初めて、巽が端正な顔立ちを僅かばかり険しいものにした。
 それに呼応するように、玄武の拘束は一層強まった。

成功 🔵​🔵​🔴​

狭筵・桜人
平和ボケを嘆く気持ちは解らなくもないですけどね、戦争バカよりはマシってもんです。

あなたを捕まえて、犯した罪を償わせるために私はここに来ました。
スパイ?そっちじゃなくて。そう……ついさっきのことです。
とある男性が愛車のオートバイを盗まれた挙げ句に、線路に乗り捨てられて大破された悼ましい事故……。
はい。あなたのせいです。弁償して貰いますよ。

知らない?まあまあ、今更罪科のひとつやふたつ増えたって変わりませんって。ついでと思って受け取ってくださいよ!

エレクトロレギオンを展開。砲撃準備。
ねえあなた。亜米利加式をご存知ですか?
【制圧射撃】。“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”。たとえ的が見えなくてもね。


ティオレンシア・シーディア
あたしこっちの世界の出身じゃないから帝都の平和ってのもいまいち実感薄いし。祖国がどうの使命がどうの、って感覚も正直縁遠いのよねぇ…

ミッドナイトレースに◯騎乗して機動力を確保、エオロー(結界)のルーンで○オーラ防御の傾斜装甲を展開。相手は「蒸気機関」、排気は必要なはず。音を頼りに「だいたいあのへん」で接近して遅延のルーン三種をメインに●黙殺バラ撒くわぁ。
スモークとかスタングレネードの◯投擲も織り混ぜればより有効かしらぁ?

まあ、対処する側からすれば。
「何余計なことしてくれてんのよ莫ァ迦」くらいは言わせてもらいたいけどねぇ。
組む相手はもうちょっと選んだ方がよかったんじゃないかしらぁ?



●責任の所在と使命の在処
 式神の戒めから解放されたスパヰ甲冑と乗り手の男は、目に見えて消耗していた。
 初手から片腕一本を奪われ、精神的にも揺さぶりを掛けられた影響は大きい。
 それ以上に、影朧の呪いが軽減されているとはいえ、それでもやはり乗り手の身体を蝕むことに変わりはないのだ。

(『まだだ』)

 眼前には、桜色の髪がどこか忌々しい青年と、今にも酒を振る舞ってくれそうな女。

(『まだ、動けるうちは足掻いてみせる、なあ――』)

 ――貴殿も、今まさに、そうしているのだろう?

「あたしこっちの世界の出身じゃないから、帝都の平和ってのもいまいち実感薄いし」
 女――ティオレンシア・シーディアが糸目の笑顔でそう言った。
「祖国がどうの使命がどうの、って感覚も、正直縁遠いのよねぇ……」
 頬に手を当てため息ひとつ、すると隣の青年――狭筵・桜人もまた笑う。
「いいんですよ、分からなくたって」
 風が吹けば、草原が揺れ、二人の髪がなびき、甲冑のマントが翻った。
「平和ボケを嘆く気持ちは解らなくもないですけどね」
 ザッと音を立てて、先に一歩前に踏み込んだのは桜人だった。
「戦争バカよりはマシってもんです」
 デフォルメされた人の顔を思わせる甲冑の顔面が、その言葉に笑んだ気がした。

 桜人は草原のただ中で、スパヰ甲冑を指さして凜々しく告げる。
「あなたを捕まえて、犯した罪を償わせるために私はここに来ました」
『ほう? 罪とはまた異なことを。確かに私は間諜ではあるが』
「スパイ? そっちじゃなくて。そう……ついさっきのことです」
 うんうんと頷きながら言葉を紡ぐ桜人に、甲冑の中で男は思わず困惑した顔になってしまう。つい先刻と言えばシベリア超特急に乗っていたはずだが、はてそれがどうしたか。
「とある男性が愛車のオートバイを盗まれた挙げ句に、線路に乗り捨てられて大破させられた悼ましい事故……」
『ん?』
「はい。あなたのせいです。弁償して貰いますよ」
『待って???』
 それはどう考えても追走してきた超弩級戦力たちの方がやらかした案件としか思えないのに、それを償えとは。
 いやまあ、追わせることになったきっかけは己の逃走なのだから、まあ百歩譲って若干の責任があってもおかしくはないかも知れないが。それにしても。

『知るか――!!!』
「まあまあ、今更罪科のひとつやふたつ増えたって変わりませんって」
 伝声管が目一杯震えて、やはり納得が行かぬとスパヰが咆えた。
 それを意にも介さず手をひらひらとやり過ごして、桜人はウインクひとつ。
「ついでと思って、受け取ってくださいよ!」
 草原を裂くように、桜人の後ろから飛び出す影がひとつ――ティオレンシアが乗った「ミッドナイトレース」だ。
『……ッ、付き合っていられるか!』
 不意に、スパヰ甲冑の姿が景色に溶け込むようにかき消える。
 だが、予知という名のアドバンテージを得ている超弩級戦力にはすべてお見通し。
 ――『エオロー』の名を持つ結界のルーンを描けば、硬度の高い傾斜装甲と化す。
 戦車もかくやの防御を得た「ミッドナイトレース」を駆りながら、ティオレンシアは思考を巡らせた。
(「相手は『蒸気機関』、排気は必要なはず」)
 果たしてその予想は的中し、姿こそ見えぬものの、耳を澄ませば確かに聞こえる蒸気が噴き出す独特の音。

 音を頼りにティオレンシアが目指すのは――『だいたいあのへん』的な場所!
(『馬鹿な……何故、近寄って来る!?』)
 むしろ何故バレないと思ったのか、その辺りを詳しく聞きたい。
 そうティオレンシアが思ったかどうかは定かではないが、手にしたペン形鉱物生命体の名は「ゴールドシーン」。今や手放すことの出来ぬ、大事な相棒だ。
(「あたし、魔道の才能は本気で絶無だもの」)
 だから、頼るのだ。
(「お願いねぇ、ゴールドシーン」)

 中空にペン先が走り、ルーンの文字が次々と描かれる。
 示すは『遅延』、光り輝くそれは力と意思を持った矢と刃を無数に生み出して、まさにスパヰ甲冑が潜む場所を包囲するように幾何学模様を描いた。
『……クッ!』
 思わず声が漏れ出て、姿なきものが『そこにいる』ことを示す。
 ティオレンシアが思い切りドリフトをキメてバイクを止めると、入れ替わるように桜人が大勢の小型戦闘兵器を従えて草原を進んでいく。
「ねえあなた。亜米利加式をご存じですか?」
 ――エレクトロレギオン、砲撃準備。

「『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』、たとえ的が見えなくてもね」
『随分と……乱暴なものだ!』
 行動をことごとく『遅延』させる術式に囚われた甲冑は、一斉砲火を逃れられない。
 これは敵わないと姿を見せたスパヰ甲冑の姿は、見るからに損傷していた。
 それでもまだ、戦うのだろうとティオレンシアは嘆息しながら思う。
(「まあ、対処する側からすれば」)
 微笑みを絶やさぬ唇が、動いていた。
「『何余計なことしてくれてんのよ莫ァ迦』くらいは言わせてもらいたいけどねぇ」
『思い切り言ってくれたな!』
 甘ったるい声で辛辣なことを言われて、思わず男が甲冑の中で顔をしかめながら返す。
 あらやだと軽く笑って、しかし悪びれず、女はついでだからと言ってやった。

「組む相手は、もうちょっと選んだ方がよかったんじゃないかしらぁ?」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御桜・八重
あの人が語る歴史への憤りを、
それを体験していないわたしが正しく理解するのは難しいんだろう。

でも、わかることもある。
桜に託した、叶えたい願い。
ささやかなおまじないだからこそ、込められた想いは本物。

上空のスパヰ甲冑を見上げ、大きく息を吸って声を張り上げる。
「わたしには絶対に叶えたい願いがある!」
「あなたもまた桜に願いを託した!」
「その願いは、本物なの?」
あの人はわたしが願うところを見ている。
だから自分の願いが本物なら、きっと無視できない。

降り立ったスパヰ甲冑を前に静かに刀を抜く。
あの人は止めなければならないけど、その願いは叶って欲しい。
無茶言ってるのは承知の上。
正面から必殺の一撃で、想いを伝える!


祓戸・多喜
…なんか違う!
スパヰで秘密道具と言ったらこう隠し拳銃とかそういうのでしょ!
いや技術的には凄いのかもしれないけどジャンル違いって言うか!
ともかくぶっ潰すわよ!こっちの刑務所とかそういうとこで再会楽しみなさい!

基本は支援。どっしり構え弓矢の速射連射で甲冑を狙い続けてやるわ!
向こうのビームには念動力で通連操り盾にしたり弾いたりして対処、焦れて甲冑が突っ込んでくるのを待つ。
突っ込んで来たら多少のダメージ覚悟でマント越しに足を掴んでUC発動!
そのままジャンプして頭から草原に叩きつけ沈めてやるわ!
この草原を(甲冑の)残骸で紅く染めてやる位の勢いで!
…生きてる程度には加減するわよ!

※アドリブ絡み等お任せ🐘



●スパヰらしくないことをした結果
(『ある程度覚悟はしていたが、伊達に超弩級戦力の名を冠されている訳ではないということか……』)
 スパヰ甲冑の操縦席内部には、機体損傷や出力低下などを示す警告表示がそこかしこに浮かぶ。加えて繰者をじわりと蝕む影朧の呪いは、銀髪の男に脂汗を浮かべさせていた。
(『機関砲を片方失ったのは痛手だが、ならば残っている手札で回していくのみ』)
 蒸気機関をフル稼働させてふわりと宙に浮いた赤い甲冑は、あっという間に黒いマントを翻して草原の遥か上を舞う。
 その視線の先には、白い象獣人の乙女こと祓戸・多喜と、桜の乙女こと御桜・八重の姿があった。
 甲冑の眼部より照射されるビームの威力は弱いが、動きを阻害することなどの弱体効果を狙うには十分だろうと、そうスパヰの男がボタンを押そうとした時だった。

「……なんか違う!!」
『な……何がだッ!?』

 多喜がその長い鼻を天高く持ち上げながら、スパヰ甲冑を見据えて異を唱えたものだから、バッチリ目が合った男は思わず何だ何だと返してしまう。
 自分は何か問題ある行動を取っただろうか? いやまあ敵対して戦闘行為に突入している以上は問題しかないのだろうが、それにしても何が『違う』と言うのか。気になる。
 ならば教えてあげましょうと、多喜は両の拳をググッと握り、ぶんぶんと数度上下に振って己の裡のモヤモヤをぶちまけた。
「スパヰで秘密道具と言ったら、こう、隠し拳銃とかそういうのでしょ!」
『いや、その手のモノもあるといえばあるが! 君達相手では通じなかろう!?』
 そう、多喜は内心でとってもウッキウキしていたのだ。杖や鞄や傘に仕込まれた銃火器が火を噴く様だとか、見事な体術で披露されるバトルアクションだとか、そういうのを。
 だが蓋を開いてみればどうだ、相手はこともあろうに高機動型影朧甲冑などという時代の最先端を突っ走ってしまったではないか。違う、そうじゃない。故の叫びだった。
「……いや技術的には凄いのかもしれないけど、ジャンル違いって言うか!!」
『何と言えば良いのか分からないが、何となく傷付くのはどうしてかなあ!?』
 ぶんぶんと多喜が首を振りながらやるせなさを叫べば、伝声管越しにスパヰも返す。
(「うーん、これはきっと『解釈違いを指摘されて傷ついている』っていうヤツかな」)
 多喜とスパヰの応酬をそっと見守っていた八重の推測は、多分だいたい合っていた。
 そんな八重をおもむろに振り返り、多喜が力強く頷く。
「ともかくぶっ潰すわよ! あっちが空を飛ぶなら、とことん援護するから!」
 多喜の視線は八重が佩いた二刀へ。一目で攻撃の間合いを見抜いたか、剛弓を掲げてウインクひとつ。
「行くわよ、こっちの刑務所とかそういうとこで再会楽しみなさい!!」
『それはご勘弁願おうか――行くぞ!』
 ひときわ大きな音を立てて、赤い甲冑から蒸気が吐き出された。

(「あの人が語る歴史への憤りを、それを体験していないわたしが正しく理解するのは難しいんだろう」)
 交戦直前に、銀髪の男が語った言葉を八重は思い出す。
 ――大正七百年の泰平は、かつて流された大量の血と無数の屍の上にある。
 ――そして、その戦乱こそが人を進化させると嘯き暗躍する『幻朧戦線』。
 猟兵たちの多くは理解そのものを拒んだ。
 八重にとっても、理解の範疇を超えている思想だと思った。
(「でも、わかることもある」)
 青い瞳は誠実さを孕んで、赤い甲冑を映す。
 思い出すのは幻朧桜舞うあの公園で、ほんの少しだけ言葉を交わした男のこと。
(「桜に託した、叶えたい願い」)
 そもそもあんな感傷ひとつ起こしさえしなければ、この男は今頃悠々祖国へと舞い戻っていたことだろうに、ほんの少しの綻びから今や窮地に立たされている。
(「ささやかなおまじないだからこそ、込められた想いは本物」)
 ――それでも構うまいと、そう思ったのだろうから。

「わたしには、絶対に叶えたい願いがある!」
 八重は草原を駆けながら、上空のスパヰ甲冑を見上げ、大きく息を吸って声を張り上げた。一瞥と共に飛来するビームは、勢いに任せて前転して躱す。
 そこを後方でどっしり構えた多喜が、剛弓ハラダヌを引き絞って巨大な矢を放つ、放つ――何という怪力か、かの巨大な弓矢を乱れ撃ちするとは!
 赤い甲冑は、右肩の青い蝶の意匠そのままに宙を舞い矢を躱す。お互い、隙を見て飛び道具を放つ状態となっていた。
 八重は叫び続ける、甲冑の中の男に呼び掛け続ける。
「あなたもまた、桜に願いを託した!」
『……君は、あの公園で』
 張り切って桜の木の高みに願いを結んだ末に、バランスを崩して尻もちをついた少女。
 その様子があまりにも愛らしかったものだから、つい見ているばかりになってしまったことを咎められたか。
(「あの人は、わたしが願うところを見ている」)
『ッ、くそ! 鬱陶しい!』
 鬼の形相とでも言うべきか、速射連射で猛然と槍めいた矢を撃ち込んでくる多喜の方をスパヰが見れば、しかし放ったビームは不思議な三本一組の日本刀「通連」が盾となりそのことごとくを防がれる。
「矢を放ちながら念動力で防御もこなす! JKはホント大忙し!!」
『こ、の……!!』
 向こうがこちらをジャンル違いと言うならば、そちらはこう、攻守共に色々と常軌を逸してはいないか。それこそズルくはないか。そう男が思ってしまうのも無理はない。
「『超弩級戦力』、ナメてもらっちゃ困るわねっ!!」
 焦れて思わず矢の雨を躱しながら多喜に迫ったのがいけなかった。
 それこそが、多喜の狙いだったのだから。
 多少のダメージは覚悟の上だ、ちりと掠めたビームにひりつきを覚えながら、多喜は黒いマント越しに甲冑の足をおもむろに掴むと――。

「よいっ、しょおぉぉぉ!!!」
『あぁぁぁぁあ!!?』

 両腕に加えて、長い鼻でもしっかりと抱えた足を思い切り持ち上げて跳躍。
 そのまま重力に任せて、装飾が一部破損した頭部から草原に叩きつけた!!
 すごい勢いだった。多喜的には『この草原を(甲冑の)残骸で紅く染めてやる位の勢いだった。実際これで大破しなかったのは不思議なくらいだった。地味にしぶとい。
「……生きてる程度には加減したからね、感謝なさい!」
『いや……いや、死ぬ……』
 割とマジで死にそうな男の声が、伝声管越しに聞こえた。
 そこへ駆けつけた八重が、確認を兼ねて声を掛ける。
「……生きてる?」
『済まないが、まだ生きている』
 不思議な答えが返ってきて、そしてこの光景にどこか既視感を覚える。
 ああ、そうだ――これは、あの時と逆の光景。
 違うのは、今は手を差し伸べていい相手ではないということ。

「あの時、あなたが桜に託した願いは、本物なの?」
 問いながら、静かに二刀を抜き放つ八重。
 スパヰ甲冑は蒸気を噴き出しながら、しかし動けずにいる。
『……』
 言葉は返ってこない。だが、それこそが答えだったのだろう。
(「この人は止めなければならないけど、その願いは叶って欲しい」)
 欲張りだろうか。無茶を言っているだろうか。でも、それは承知の上。

「きっと、また会える――あなたも、わたしも!!」

 幻朧桜が、願いを叶える人を選ぶなんてあるものか。
 あの木に括られた願いは、等しく叶うべきであると。
 草原を切り裂いて放たれる一撃の名は【花旋風(ハナツムジ)】。
 それは八重の願いと共に、スパヰ甲冑の腹部に大きな十字の傷を刻み込んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

金童・秋鷹
血が流された
その意味を拙者たちの誰も理解できないと
本気で言っているのでござるか?
あの列車に追いつくために自らの血に塗れた拙者の姿を見ても、言えるでござるか?
(と言いつつ吐血丸薬服用)

よし、楓流斬舞の仕込みは十分

機関砲相手に、刀が撃ち合いで勝てるとは思わない
故に回避は考えない
弾丸を浴びても構わず、ただ一太刀振り切る

こんな身体になった愚行は
戦場に立つ力を求めての事
流すを惜しむ血など、この身体にはない

血を流す事など
戦場に身を置く者であれば当然でござる
それを知らぬ者がいて何が悪い
久遠の平和を享受する者がいる時代
大いに結構ではござらんか
お主も本当はそう思っているから
そんな約束を交わしたのではござらぬか?



●血を流すことの意味と価値
 草原に散らばる赤い甲冑の破片は、なるほど確かに血の色のようにも見えたろう。
 生身を晒さず戦に臨んだ己が流す、これが血の代わりということか。
 そんなことを思いながら、スパヰは対峙する超弩級戦力たちを見た。

「『血が流された』、その意味を拙者たちの誰も理解できないと」
 眼前に立つのは金童・秋鷹。その身は既に鮮やかな血に塗れていた。
『な……』
「本気で、言っているのでござるか?」
 古風な男の、金の瞳が凄絶な圧を伴ってスパヰ甲冑を射抜く。
 声音も低く、片手は胸へ。赤く染まった着物の上へ。
「あの列車に追いつくために自らの血に塗れた拙者の姿を見ても――」
 もう片方の手で小さな丸薬を口に放り込みながら、秋鷹は告げた。
「言えるで、ござるか?」
『その血は……君が勝手に吐いたものでは』
「必要経費でござる!!」
 この期に及んで口答えをする悪いスパヰには、理論武装で挑むまで。
 秋鷹は随分と長い付き合いになった妖刀「楓鷹」の柄に手を掛ける。
 既に満身創痍にも見えるスパヰ甲冑だが、油断はならない。

(「――よし、仕込みは十分」)

 必要経費、という言葉に嘘はなかった。実際、これから秋鷹が繰り出そうとしている超常は、予知のあらゆる場面で隙を見ては血を吐かねば発動しないものなのだから。
『……それだけの血を吐けば、戦う前より消耗しているだろうな』
「かくいうお主こそ、ここまでに相当『蝕まれている』のでは?」
 血を吐く呪いと、影朧の呪い。
 代償に得た力のどちらが勝るのか、それが今証明されようとしていた。

(『相手は一人、片方残っていれば十分ッ!』)
 男は即座に判断して、残された右腕の機関砲を秋鷹に向けて唸らせた。
 それを秋鷹は――回避、しない!
(「機関砲相手に、刀が撃ち合いで勝てるとは思わない」)
 故に、回避は最初から頭にはなかったのだ。
 致命こそ免れるも、腕や脚や頬を弾丸が掠め、赤い筋を描いていく。
『良かろう、ならば蜂の巣だ!』
 男の声が伝声管越しに響き、いよいよ迫る秋鷹を捉えようとした時だった。
 ザザッと踏みとどまり、勢いのまま妖刀の柄を握れば、こみ上げる鉄の味。

 かはっ、という声と共に草原が赤く濡れた時。
 スパヰの男は勝利を確信し、妖刀使いの男はその慢心を突いた。
(「血は十分でござるな」)
 斬られた草が舞い、不可視の斬撃が文字通り音速で赤い甲冑を打ち据えた。
「ならば断ち斬れ――【楓流斬舞(フウリュウザンマイ)】」
『が……は、ッ』
 激しい衝撃で、まるで己が斬られたかのような錯覚さえ覚える。
 男は思わず操縦席の中で呻きながら、それでも必死に何が起きたかを考えた。
(『居合い、というものか……しかし、刀を振るっただけで、このような』)
 ぶん、と刀をひと振りして払われるのは他ならぬ秋鷹が流した血のみ。
 ちん、と音を立てて納刀した秋鷹は、金の瞳で赤い甲冑を見据えた。

「こんな身体になった『愚行』は、戦場に立つ力を求めての事」
『……君、は』
「流すを惜しむ血など、この身体にはない」

 風が吹き抜ける。甲冑の黒いマントがなびき、秋鷹の結った黒髪も揺れた。
「血を流す事など、戦場に身を置く者であれば当然でござる」
 ――それを知らぬ者がいて、何が悪い。
『……』
 無言を肯定と受け止めて、秋鷹は血に濡れた口元を拭いながら続ける。
「久遠の平和を享受する者がいる時代、大いに結構ではござらんか」
 ――どこに行っても舞う幻朧桜は、支配の証のようで忌々しくさえ思えた。
 幻朧戦線の連中の思想や理念には興味はなかったが、『指令』とあらば動く他ない。
 何より、仕事半分に紅茶を嗜むひと時は、悪いものではなかった。
「お主も、本当はそう思っているから、そんな『約束』を交わしたのではござらぬか?」
『……は、は』
 どこかで。
 あのひと時を、惜しんだ。
 故に、綻びが生じて、今こうして己は窮地に立っている。
 なのに――。

『そうかも、知れないな』
 声音は震えて、しかし確かにそう告げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォンミィ・ナカムラ
あなたにも大切なものがあることは、よく分かったよ
でも、ここで捕まえなきゃ帝都を脅かすようなことをするってことも分かるから!
ごめんね、全力で戦わせてもらうよ!

【全力魔法】で【エレメンタルファンタジア】使用
属性は火、現象は稲妻
炎だけど雷だから、大きな甲冑には落ちやすいはず!
迷彩で見えなくなっちゃっても【高速詠唱】で炎の稲妻をいっぱい落として、ホンモノの雷みたいに大きな敵を追いかけてくれないか試してみるよ
うっかり仲間に当たらないように【オーラ防御】も張っとかなきゃ!

あなたがスパヰをしてる理由も、自分にとっての正義なんだよね
何が善で何が悪か…あたしまだ子供だから分かんない!でも今は帝都のために戦う!



●それは、誰がための戦いであるか
 すらりとした長身が、草原に映える。
 フォンミィ・ナカムラが、スパヰ甲冑の前に立ちはだかった。
「あなたにも大切なものがあることは、よく分かったよ」
『そうか……ならば』
 見逃してもらえるとは思っていないけれど、それでも口をつくのは縋るような言葉。
 そうして返されるのは、ある意味予想通りの、真っ直ぐな言葉。
「でも、ここで捕まえなきゃ、帝都を脅かすようなことをするってことも分かるから!」
 このまま己が逃げおおせれば、何らかの形でまたスパヰとして活動することは明らか。
 今更別の生き方など出来ない、それは誰よりも自分自身が分かっていた。
『……その、通りだ。君達にとって、私は他ならぬ『敵』だ』
 傷だらけの赤い甲冑が、蒸気をひとつ噴き出す。
「ごめんね、全力で戦わせてもらうよ!」
 フォンミィが右腕をバッと振り払うように広げたと同時に、スパヰ甲冑は草原の緑に溶け込んだ。

(「来た、迷彩で姿を消す『ユーベルコヲド』……でも!」)
 フォンミィは迷わず、両手を天にかざしてイメージする。
 荒れ狂う炎、それが天より降り注ぐ稲妻のように唸り落ちるさまを。
「これがあたしのすべて……【エレメンタル・ファンタジア】!!」
 ぶんっと両腕を振り下ろせば、背負ったランドセルが反動で少し浮いて跳ねた。
 確かな手応えと共に発動した超常が巻き起こすのは、鋭く落ちてくる矢のような炎!
(「炎だけど雷だから、大きな甲冑には落ちやすいはず!」)
 どん、どぉん、轟音を立てて草原に落ちる炎の稲妻は、局地的に草を焼けども無為な延焼は起こさない。何故なら狙いはスパヰ甲冑ただひとつなのだから。
(『また……数で攻めて来るか……!』)
 見えないならば、当たるまで攻撃を続ければいい。
 強引ながら確実な方法であり、実質無尽蔵に攻撃を放てる超弩級戦力だからこそなし得る手段であった。
「迷彩で見えなくなっちゃっても、ホンモノの雷みたいに……」
 フォンミィの紫瞳が輝いて、荒れ狂う自然現象を半ば強引にねじ伏せる。
 むしろ行使する勢いを加速させるように、その目で天を見据えるのだ。
(「大きな敵を追いかけてくれないか、試してみるよ」)
 自然現象にとって、見えるか見えないかは関係ない。己に反応するか否かだけが関わってくる。そしてそれは、どんなに人間の目を眩ましても消せはしない。

 どん! どかぁん!
 徐々に迫って来る炎の稲妻は、まるで甲冑の逃げ場を奪うように包囲を狭める。
(『……くそ、このままでは』)
 スパヰが甲冑の中で拳を握る。自分でも驚くくらいに汗をかいていた。
 その時、少女の声が凜と草原に響いた。

「あなたがスパヰをしている理由も、自分にとっての『正義』なんだよね」
『……ッ』

 ここまで散々詰られてきたし、それはごくごく当たり前のことだと思っていた。
 だから、驚いた。薄い水色の瞳を開いて、自分の『正義』を認められたことを。
 理解を求めてなどいない、けれど理解を示され心を揺さぶられぬ者がいようか。

「何が善で何が悪か……あたしまだ子供だから分かんない!」
 最初と変わらない、真っ直ぐな言葉だった。
 それ故に、あまりにも深く、一筋縄では行かない世界で生きてきた男に刺さる。
「でも今は、帝都のために戦う……!」
 信じたもののために。
 それだけで、いいと。
『……それが、答えか』
 男は笑う。そこには何の侮蔑も嘲笑もなく、ただ敬意だけがあった。

 大きな音を立てて、巨大な炎が落ちてきた。
 姿を見せた赤い甲冑は、黒いマントを焦がしながら間一髪直撃を躱す。

『ならば、私は――己の誓いを押し通させてもらおう!』
 満身創痍と言ってもいいその甲冑は、しかし残された右の腕で胸の辺りを叩いた。
 フォンミィは、その姿を目に焼き付けるように見据えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

木常野・都月
この人。
やってる事は人間同士の縄張り争いだし、約束の為に戦ってる。
多分、悪い人じゃないんだろうな。

でも俺は猟兵で、猟兵の仕事は人と世界を守る事。

幻朧戦線と、悪巧みしなければ良かったのに。

今回の任務はスパヰ追い詰める事。
生死は問われてない。
殺してもいいんだろうけど。
でも、今を生きる人だから。

可能なら捕縛。
無理なら殺す。

草原の精霊様の[属性攻撃]で、機械の足や隙間に潜り込んで機械を飲み込んで欲しい。

加えて氷の精霊様のUC【精霊の矢】で攻撃したい。

植物と氷で弱ったら、装甲を剥がしたい。

植物が入り込んでる隙間にダガーを突き立てて剥がせたら、スパヰを捕まえたい。

[野生の勘、第六感]で奇襲に注意したい。


満月・双葉
見えなければ何とかなりますか?
『見えない戦い』のやり方は、目隠しのあの人に教わりました
音、匂い、空気の動き
探知する術は幾らもあるのです

姿を消されて視界に入らなければ『眼』は使えませんが、それに頼らぬ戦い方は心得ているつもりです
その上で【暗殺】の知識から見えぬ敵がどこに来るか予測も立て、【野生の勘】も使って捕捉

光弓の首飾りから矢を放ち【弾幕】を貼り、誘導した先に大根による【爆撃】を放つ
【読心術】で僅かな心の揺れを見逃さず

師匠に怒られないようきちんと働きましょうか

一番大事にしたいことは何ですか
後悔しませんか
茶を嗜むのに必要な腕が残っているうちに
まぁ、僕は医者なんでくっつけてますけど
大根は万能なので



●許されざるもの、そして
 草原を渡る風はいまだ止まず、辺りに散らばるのは血のように赤い甲冑の破片のみ。
 損傷していない部位を探す方が難しい程ボロボロになった『スパヰ甲冑』は、それでもなお戦う意思を持つ搭乗者を抱いて、猟兵たちの前に立ちはだかっていた。
 銀髪の男を突き動かすのは身勝手な『誓い』と『約束』、そして『誇り』。
 男――『バーバチカ』なりの正義を、意地を、最後まで貫くことをこそよしとした。

 草原に立つ赤い甲冑を見て、木常野・都月は少しばかり困ったような顔になる。
(「この人」)
 ダガーを逆手に握りながら、立派な狐の耳と尻尾を風に揺らす。
(「やってる事は人間同士の縄張り争いだし、約束の為に戦ってる」)
 国という概念を失った人々は、奪った側が想像も出来ぬほどに喪失感を覚える。
 国家という枠組みやその土地を守ろうと必死になるし、形骸化させられたとあらば少しでも優位な立場でありたいと願う。
 その結果が、帝都を『スパヰ大国』たらしめたのならば。
(「……多分、悪い人じゃないんだろうな」)
 獣たちの縄張り争いに置き換えてみればすぐ分かる、そこに悪意はないのだと。
 けれど。
 誰もが指摘する、たった一つの、しかしとてつもなく大きな過ち。

「でも、俺は猟兵で、猟兵の仕事は人と世界を守る事」
 ざあ、と草原が揺れる。都月は、凜とした眼差しでスパヰ甲冑を見据えた。
「幻朧戦線と、悪巧みしなければ良かったのに」
 甲冑から、蒸気が噴き出す。
『やはり――あの連中とは、関わり合いになるべきではなかったな』
 伝声管越しに聞こえた男の声音は、まるで苦笑いでもしているかのようだった。

 あと何度、発動出来るだろうか。
 出来たとして、果たして超弩級戦力たちに通じるものだろうか。
 そう思いながらも、男はパネルを操作して透明化の迷彩を展開する。
「消え……!?」
「見えなければ、何とかなりますか?」
 明らかに困惑の声を上げた都月の隣に立つのは、満月・双葉。まるで動じる気配もなく、眼鏡の奥の魔眼を細めて髪を風になびかせる。
「大丈夫、『見えない戦い』のやり方は、目隠しのあの人に教わりました」
 まさか、このような場面で役に立つ日が来ようとは思わなかったけれど。
 双葉は唇に指を当てて、都月にしばし音を立てぬように請う。
 ざあざあと草が揺れる音ばかりが聞こえるが、その中に混ざる異質な音が、確かに。
(「音、匂い、空気の動き……探知する術は幾らもあるのです」)
 鬼ごっこか隠れんぼか何かをしているような、不思議な緊迫感が辺りを包む。
 甲冑を纏った男は駆動音を最小限に絞ろうと必死になり、双葉はそれでも隠しきれない微かな蒸気の音を、都月は同じく漏れ出る油の匂いを、それぞれ捉えていた。

(「姿を消されて視界に入らなければ『眼』は使えませんが」)
 それにばかり頼って戦って来た訳ではない、別の戦い方も心得ているつもりだ。
 草原が揺れるのに合わせて、紛れるように甲冑が動き、迫る。
 蒸気の音がする。
 油の匂いがする。
 どこから来るか、己であればどこから殺しにかかるかと思案する双葉の横で、都月はおもむろにダガーの刃を口に咥えて鋭く虚空を見た。

(「今回の任務は、スパヰを追い詰める事」)
 口の端から、吐息が漏れる。
(「生死は問われていない」)
 情報を扱う輩なのだから、生かして捕らえれば大きな収穫になるだろうけれど。
(「殺してもいいんだろうけど、でも――今を生きる人だから」)
 可能なら捕縛を、無理なら殺そう。
 人間としての穏やかな『木常野・都月』はそこにはなく、命のやり取りをするものとしての妖狐こそが、今の都月の本性だった。

 匂う。自然の中には不似合いな、鉄と油の匂いがする。
「草原の精霊様――」
 それはとても、不快なものではありませんか?
『……何ッ!?』
 不可視の存在である甲冑の全身を、都月の呼び掛けに応じてあっという間に伸びた草の一本一本が、強靱な縄のように縛り上げてその身の自由を奪ったのだ。
「――お見事」
 勘のみで位置を特定しようとしていた双葉が、都月の見事な手腕に賛辞を送る。
 同時に、首にさげた「光弓の首飾り」に手を触れると、縦横無尽に駆け巡る光の矢で反撃を許さぬ弾幕を構築した。
(「師匠に怒られないよう、きちんと働きましょうか」)
 面倒くさいと言いながら、何やかやで決める時は決める師匠を思う。

「片腕が、もげているではないですか」
『まさか、最初の交戦で持って行かれるとは思わなんだ』
 ぎちり、と音を立てて蔦に拘束される甲冑は、今やその姿を露わにしていた。
 ――心が、折れかかっている。
 伝声管を通しても、声音を隠しきることはできない。
 双葉は、男の揺らぐ胸中を的確に見抜いてみせた。
「一番大事にしたいことは何ですか」
 静かに問えば、返される言葉はある程度予想が出来ていたもの。
『請け負った『仕事』を、完遂することだとも』
「後悔しませんか」
 それにぴしゃりと叩きつけるようにさらに返す双葉。
『……そのような感情を少しでも抱いた時点で、私はスパヰ失格だ』
 本来ならば生け捕りにされる前に自決すべきなのだろうし、そのための道具だって持っているだろうに、こうして無茶な正面対決を挑んでいるだなんて、嗚呼。
「茶を嗜むのに必要な腕が残っているうちに――まぁ、僕は医者なんでくっつけてますけど」
 たとえ生身の腕が千切れたとしても、何とかする。それこそが双葉の信条。
 だって――大根は万能なのだから。

 ――ひゅんっ!

 双葉の後方から、氷で出来た矢が猛然とスパヰ甲冑に迫る。
 それは恐るべき強度で赤い甲冑の左腿にあたる部分を強かに打ち据えた。
「今……っ!」
「待って下さい」
 ダガーを咥えて、スパヰ甲冑に自らも迫ろうとした都月を双葉が制する。
「なっ」
「もう少しだけ、考える時間をあげましょう」

 一番大事にしたいことは、何ですか?
 本当の答えを、まだ聞いていないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
やぁ、ようやくご対面だねバーバチカ
悪いけど、はいそうですかって
大人しく倒されてあげるつもりは無いよ
なんてったって、俺もこの仕事を終えたら
梓に激辛担々麺をご馳走してもらうっていう
大事な約束があるからね

君の『叶えたい約束』も、案外そういう
ささやかなものなんじゃないかなって思ったんだよ
最後に自分の背中を押すのは
御国の為だなんて大義名分よりも
ごくごく個人的な想いだったりするものだよ

どこに隠れようともこの子たちからは逃げられない
闇夜を舞う蝶に紛れ込むように
UCの紅い蝶を放ち、敵の位置を特定
闇に紛れながら梓たちとは反対方向から接敵し
その装甲を砕くほどに
力溜めたEmperorの一撃を叩きつける


乱獅子・梓
【不死蝶】
猟兵でもオブリビオンでもない奴が
こんな規格外なブツを持っているだなんて
この兵器を提供した黒幕は一体何なんだ…
まぁ今はそれを考えている場合じゃないが

えっ、今ここでその話を出すのか…!?
しかもいつの間にか約束になってる…!?
心の中だけでツッコミを入れつつ

お前は俺たちと戦うことを決め
綾はそれを受け入れた
なら、俺はこいつが無茶しないように付き添うまでだ

スパイなら姿を消すのもお手の物か
ならばこっちも消えてやろうじゃないか
UC発動し、辺り一帯を闇夜へと変化
綾に敵の位置を教えてもらい
焔のブレス攻撃を浴びせる
だがこれの真の狙いは陽動
暗闇の中での強烈な炎の光に注目させ
死角から迫る綾に気付かせない為のな



●蝶よ、蝶よ
 ――そもそも何故、あのような戯れの約束を結んでしまったのか。
 互いが『仕事』を請け負い、故に明日をも知れぬ身だというのに。
 それさえなければ、全てが上手く行っていたかも知れないのに――いや、かの『幻朧戦線』と関わった時点で、この猟兵たちの手からは逃れられなかったかも知れないけれど。

 草原に、蝶が舞った。
 己の証でもある青とは反対の、赤い紅い蝶が。
 蝶の名を背負いながら、本当に蝶を纏うことはなかった己とは違う、これこそが超常の使い手たる証なのだろうか。
 警告だらけの操縦席で『バーバチカ』は眼前に立つ二人の男を見た。

(「猟兵でもオブリビオンでもない奴が、こんな規格外なブツを持っているだなんて」)
 乱獅子・梓は、既に満身創痍と言えどもなお驚異的な技術で生み出されたと思われるスパヰ甲冑を見て、素直に思う。
 影朧甲冑の原理に、改良が施されているなど――かの呪いをも制御しつつあるなど。
(「この兵器を提供した『黒幕』は一体何なんだ……」)
 だから、考えずにはいられなかった。この事件のもっと深いところにある闇のことを。
 けれど、それはきっと文字通り深淵の崖っぷちに足を掛けるようなものなのだろうと。
「……まぁ、今はそれを考えている場合はないが」
 ゆるりとひとつかぶりを振れば、赤い蝶が付き従うようにひらりと舞った。

 赤い蝶の数は、ゆっくりと増えていく。
 ひらり、ひらり。それをあやすように指先に止まらせながら、灰神楽・綾は笑った。
「やぁ、ようやくご対面だね『バーバチカ』」
 赤眼鏡越しに糸目のまま呼び掛ければ、赤い甲冑が蒸気を吐く。
『私としては、もうこれ以上超弩級戦力の諸君とは会いたくなかったがね』
 左腕は既になく、残された右腕で軽く竦めるジェスチャーを取った肩には、傷だらけの青い蝶の意匠があった。
『だが、私もこのままでは帰れないというもの。どうかね、諸君等の首のひとつでも持ち帰れば何とか許して貰えそうなのだが』
 もう片方の機関砲はまだ動く、そう言わんばかりにごきりとその手を鳴らすスパヰ甲冑の声に、綾はますます愉快げに笑ってみせた。
「悪いけど、はいそうですかって大人しく倒されてあげるつもりは無いよ」
 赤い蝶が舞うさまはあまりにも美しく、それと戯れる黒髪の男もまた妖しげな美しさを湛えるように。
「なんてったって、俺もこの『仕事』を終えたら、梓に激辛担々麺をご馳走してもらうっていう大事な『約束』があるからね」
(「えっ」)
 徐々に数を増やしつつあった赤い蝶の正体は、梓の超常【胡蝶之夢(バタフライナイトメア)】によって降り注ぎしモノ。
 赤い紅い蝶が舞う闇夜を再現し、誰よりその世界に相応しいものをこそ王者たらしめるユーベルコヲド。
 それを真面目にじわじわと発動させていた梓が、内心でツッコミを入れた。
(「今!? 今ここでその話を出すのか……!?」)
 あんな戯れに結んだと思っていた適当な他愛ない約束を、真面目に持ち出すなんて。
(「冗談じゃなかったのか!? いつの間にか『約束』になってる……!?」)
 梓は真面目で苦労人なものだから、そう言われると真剣に考えてしまうのだ。
 そもそもどの世界のどの店が美味しいのか、そこから調べなくてはならない。
 最近は簡単にそういった情報も集められるようになったから良いものの――。

 背後の梓がぐるぐる目になっている気配を僅かに感じながら、ああ楽しいと言わんばかりに声を弾ませて綾は両手を広げてみせた。
「君の『叶えたい約束』も、案外そういうささやかなものなんじゃないかな、って思ったんだよ」
 自分のように、片方がもう片方を死んでも守り抜くなどという間柄ではなくとも。
 あくまで仕事上の付き合いから始まった関係性であったとしても。
『……私は、どうかしていたとしか思えんな』
 自嘲気味に返ってくる言葉に、綾は「そうかな」と呟く。
「最後に自分の背中を押すのは、御国の為だなんて大義名分よりも――」
 糸目が、ほんの少しだけ開いた。サングラスの赤に負けないくらいの、赤い瞳だった。

「――ごくごく、個人的な『想い』だったりするものだよ」

 ハルバードの刃が宙を斬るように回り、綾の手に収まる。
「お前は俺たちと戦うことを決め、綾はそれを受け入れた」
 紅い蝶を操る梓の傍らには、炎竜「焔」が付き従う。
「なら、俺はこいつが無茶しないように付き添うまでだ」
 焔をひと撫でしながら、軽くサングラスを直した梓もまた、甲冑を見据える。
『舞台に立ったならば、演じきらなければならない――ということか』
 甲冑が震え、男の声が草原に響いた。
 すぅっと、その姿が景色に溶け込んでいく。

『ならば、押し通させてもらおう……!』

「スパイなら、姿を消すのもお手の物か」
 十分な数の紅い蝶を喚んだ梓が、言葉とはうらはらに笑う。
「ならば、こっちも消えてやろうじゃないか」
 ――奇跡の発動は成った、辺り一面が途端に闇夜へと化していく!
 紅い紅い蝶が舞う、そしてそれを従えて誰よりも強く美しく舞う者の名は。
「――綾!!」
「ん」
 軽やかな返事と共に、闇夜を舞う蝶に紛れ込むように、綾が駆けた。
(「行ってらっしゃい――【サイレント・スカーレット】」)
 さらに数を増す紅い蝶は、索敵の役目を負って舞い踊る。
 周囲を突如闇夜に変えられ、それに追いつくことが出来ないスパヰを追い詰めるのは容易いことだった。みるみるうちに紅い蝶が群がってくる。
「見ぃつけた」
「そこかっ!」
 二人はわざとらしく声を上げ、そして先に梓が動いた。
 焔がかぱっと口を開き、轟々と燃え盛る炎のブレスを浴びせた。
『くッ……だが、その程度!』
「いいんだ、それで」
 愛しの焔をあしらわれたのは些か不満だが、いいのだ。これは――陽動なのだから。
 暗闇の中で煌々と光る炎は、眩い光だったろう。目を奪われたことだろう。

 真反対から猛然と迫る、綾の気配にも気付かなかったことだろう。

『が……ッ!!』
 凄まじい衝撃が甲冑を揺らした。背部の装甲が酷く破損したという表示が増える。
 事実、スパヰ甲冑の背には綾の「Emperor」の一撃が直撃したのだから。
「もう、無事な場所とかないんじゃないかな、君」
 すとんと軽やかに草原に降り立てば、闇夜はたちまち光差す世界へと戻る。
『……そう、だな……』
 草原を風が吹き抜ける。増えた破片は流された血のごとく赤い。

 ――最後に自分の背中を押すものは。

『……私、は』

 何が、今の己を突き動かしているのかを思う。
 かちゃり、とティーカップがソーサーに当たる音が聞こえた気がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ディフ・クライン
なるほど
貴方はただのスパイではなくて、戦士なのだね
貴方には既に覚悟がある
ならばその覚悟に相応しい礼節を持って挑めるのは
……矢張り、王だろうね

虚空の闇より出づる王
淪落したとはいえ彼は騎士王だ
戦士との相対に彼程相応しい人も居ない
王よ、共に

雪精neigeを氷杖として
辺りに振りまくのは真白な淡雪
ほんの少しの温度でも溶けるそれは
透明であっても熱は消せぬ蝶を浮かび上がらせてくれるだろう
王の助けはそれで充分

この身への傷は王のマントで防ぎ
あとは王の傍らに添うだけ
影朧だろうと甲冑だろうと、忠誠の蝶だろうと、王の剣に斬れぬものはないさ

――バーバチカ
オレは流せる血もないけれど、その代わり
貴方の約束まで奪う気はないよ



●草原は全てを見届ける
 操縦席は警告と警報で満ちている。
 損傷していない場所を探すのが難しいほどに傷付いた甲冑。
 投降すべきか。自死のための毒薬は迂闊にもジャケットと共に放り投げてしまった。

 何のために此処に居る。
 何のために戦っている。

「――なるほど」
 艶やかな黒髪をなびかせて、ディフ・クラインが草原に立った。
「貴方はただのスパイではなくて、『戦士』なのだね」
 ディフは淡々と、しかし確かにそう男へと告げた。
『私、が……戦士、だと』
「そう、貴方には既に『覚悟』がある」

 祖国のためにと此の身を走狗へとやつした。
 人並の幸せなど得ることもないだろうと思っていたのに、それを知ってしまった。
 他人を踏みにじってでも望むものを得ようとする己を、ささやかな約束で塗りつぶしたいと願う己が確かにいる。
『あってないような命だ、既に祖国へと捧げた身命』
 ならば今、こうして最後の悪あがきをしようとする己を突き動かすものは。
『――『約束』があるのでね、お手合わせを願おうか』
 表情に乏しい眼前の青年が、ほんの少しだけ口元を緩めた気がした。
「ならば、その覚悟に相応しい礼節を以て挑めるのは――」

 風が吹いた。黒い風が。
 それはたちまち旋風となって、やがて去った後には雄々しきものの姿があった。
「【淪落せし騎士王(シュヴァリエ)】……やはり、『王』だろうね」
 ディフを護るように佇む漆黒の死霊騎馬に騎乗した、かつて王であった死霊騎士。
 髑髏の兜は王冠を戴き、そこから覗く瞳は人外なるものを示す緋色にて。

『……些か、本気を出しすぎではないかね』
 男は笑って軽口を叩く――そうでもしなければ、圧に負けてしまいそうだったから。
「虚空の闇より出づる王、淪落したとはいえ彼は『騎士王』だ」
 ディフは静かに己が喚んだ頼もしき騎士を紹介する。
(「戦士との相対に、彼程相応しい人も居ない」)
 蒼い瞳が、赤い甲冑を映す。中の男は見えないけれど、こんなになるまで、男は逃げなかった。戦うと決めた意志を、貫き通したのだ。
 ならば彼はやはり間違いなく誇り高き『戦士』であり、相応の敬意を払うべきだろう。

「王よ、共に」
 ディフが囁くように語り掛けると、騎士王は甲冑を鳴らして馬の腹を蹴る。
『良かろう、ならば――捕まえてみせよ』
 その声を共にスパヰ甲冑はどこまでも続く草原に溶け込んだ。

 雪の精が杖のカタチを取ったもの――「Neige.」をそっと手に取れば、はらはらと六花が舞う。
 それを宙に向けてひと振りすることで、振りまかれるのは真っ白な淡雪であった。
(「ほんの少しの温度でも溶けるそれは、透明であっても熱は消せぬ『蝶』を――」)
 目眩ましも所詮は時間稼ぎに過ぎず、最早反撃の手立てを持たないスパヰ甲冑の居場所を特定するのも容易いことであった。
 降り積もる雪が不自然に溶けるさまこそが、甲冑の居場所を示す何よりの証。
(『雪、か……皮肉なものだ、親しんだものに暴かれるとは』)
 季節によっては、この草原も白く覆われたのだろうか。
 北の寒い土地だから、その可能性だって十分有り得る。
(「王への助けは、これで十分」)
 気付けば騎士王が、ディフを巨大な馬上へと招いていた。
 その手を取って騎士王の前に収まると、ディフは王の外套に包まれて共に駆けだした。

 申し訳程度の機関砲が放たれるも、騎士王の外套は全く意にも介さない。
 護られるディフは、絶大なる信頼を以て王の傍らへと寄り添うのみだ。
「影朧だろうと、甲冑だろうと、忠誠の『蝶』だろうと」
 草原を駆ける騎士が、漆黒の剣を振りかざすさまは、まさに戦士への敬意の一撃。
「王の剣に、斬れぬものはないさ」
 青年が微笑むと同時に、スパヰ甲冑が致命的な袈裟斬りを受けて――倒れ込んだ。

『……スパヰが生き恥を晒すなど、あってはならないのだがね』
 操縦席に頭を打ったのだろうか、頭部から僅かに血を流しながら、『バーバチカ』の二つ名を持つタートルネック姿の男が甲冑から顔を出した。
「――『バーバチカ』」
 馬上から、ディフが呼び掛けた。
「オレは流せる血もないけれど、その代わり」
 魔導蒸気文明の愛し子にして、人型機械人形。
 ミレナリィドールのディフは、草原に流す血を持たず。
 けれど――。

「貴方の『約束』まで、奪う気はないよ」
『……まず、先方が生きていなければな』
 それは、きっと大丈夫。他の猟兵たちが、上手くやってくれているはず。
 ディフはそう信じて、馬上から降りると男に手を差し伸べた。
「生きてさえいれば、きっと」

 罪だって償えるし、約束だって果たせるだろうから。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年10月04日


挿絵イラスト