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永久ならぬ刹那よ、せめていま一時の安息を

#アリスラビリンス #戦後 #百合 #キマシタワー #少女と黒兎

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●彼女が羽を休めるために
 残酷童話迷宮アリスラビリンス。フォーミュラであった『オウガ・オリジン』が打倒され、各地で蠕動していた猟書家もまた討ち取られるか逃亡を果たし、状況的には一区切りついたと言える。
 だが、未だ戦争の齎した余波が留まる様子は無い。それも当然だろう。捕食種たるオウガ、その首魁が突然居なくなってしまったのだ。各地で暴虐を働いていた悪鬼たちに動揺するなと言う方が無理である。
「ふむ……暫くあちらこちらを逃げ回っていたが、どうやら好機が到来したと言って良いだろうな」
 そんな揺れる世界の片隅、とある『不思議の国』の一角。決して明ける事のない夜空の下で、時計兎が金色の卵を詰まらなさそうに指先で玩んでいた。黒い両耳をゆらゆらと揺らし、バニースーツに身を包んだその姿は貧相な体躯ながらもどこか妖艶さを感じさせる。傍らにはうず高く山と積まれた金色の卵、その頂点へ手にしていた一個をそっと乗せ、時計兎は立ち上がった。
「やれやれ、こそこそと逃げ隠れながら卵を拾って歩いた甲斐が在ったと言うものだ。強化の力は失われたが、金は金だ。それだけで価値があるとも」
「また、危険なことをしていたの……?」
 そんな時計兎へ、投げ掛けられた声がある。視線を向けると、そこには一人のアリスが佇んでいた。年の頃は十代前半か。褐色の肌や顔立ちを見るに、アース系世界の中東かそれに近しい土地の出だと見て取れる。心配そうな表情を浮かべるアリスへ、時計兎は安心させるように穏やかな微笑を浮かべながら肩を竦めた。
「なに、ちょっとしたピクニックの様なモノだよ。それにかつてなら兎も角、今の私にとって何よりも価値ある存在は……ファウリーに決まっているさ。一人きりにしてしまうような無茶など、する気はないよ」
 そう言って時計兎はアリスの頬へ指を這わせ、そっと愛おしげに撫ぜてゆく。余裕ぶった、ややもすれば気障ったらしい仕草だが、逆にそれが安心感を与えてくれるのだろう。少女の相貌からは不安の色が消え、穏やかなものへと変わる。しかし、それでも疑問がまだ残っているようであった。
「これだけ卵を集めて、いったい何をするつもりですか? 持ち運ぶのにも苦労しそうですけれど……」
「はっはっは、なに単純な事だ。これまではどこもかしこもオウガだらけだったし、つい先日までは戦争の真っただ中。これじゃあ、ゆっくりと腰を落ち着けることも出来ん。だから……」
 ――ここは一つ、プレゼント代わりに国の一つでも買ってみようかと思うんだ。
 きょとんと、事情を呑み込めぬアリスの頭をそっと撫でながら、時計兎は虚空を見やる。
「とは言え、猟兵諸君らが乗って来るかどうかはまた別問題だが……まぁ、底抜けのお人好したちだ。悪い結果には転ぶまいよ。先立つモノとて用意したしな」
 そう言って、時計兎は戯けた様に肩を竦めるのであった。


「みんな、先日の迷宮災厄戦はお疲れ様だったね。無事勝利できたようで何よりだ」
 グリモアベースに集った猟兵たちを前に、ユエイン・リュンコイスはまず労いの言葉で口火を切った。また一体フォーミュラを討ち取り、世界から脅威を取り除けたのは何よりも喜ぶべき事だろう。本来であれば暫しの休息を取りたいところだが、戦争終結の直後だからこそ出来る動きというのもまたあった。
「さて、一段落ついたところで申し訳ないけれど、アリスラビリンスで早速お願いしたい仕事があってね……オウガに占領された国の奪還、それが今回の目的だ」
 アリスラビリンスに跋扈するオウガたちにとって、フォーミュラが倒されたという事実は想像以上の衝撃を以て受け止められた。国すら指先一つで容易く作り替える、あの絶対存在たる『オウガ・オリジン』ですら斃れたのである。況や、それに遠く及ばぬ己がもし猟兵と相対でもしたら。そんな不安が伝播し、彼らはいま恐慌状態に陥っているのだ。
 そして、憎々しき悪鬼たちがむざむざ隙を晒しているとあれば、この機に乗じて圧政を打ち破らんと目論む者たちも当然出てくる。だが相手も決して愚かではない。今は浮足立っていても、時間が経てば統制を取り戻してしまうだろう。だからこそ、速やかに動かなければならないのだ。

「という訳で皆には時計兎や愉快な仲間たちと協力して、ボス級オウガの討伐や『不思議の国』の復興を行って欲しいんだ」
 今回、猟兵たちが向かうのは『常夜の国』と称される世界である。名前の通り星もない夜空に覆われており、日光が射さないせいか草木も碌に生えていない。そんな荒涼とした大地の中心、巨石を組み上げて造られた岩屋の中にオウガは陣取っている様だ。
「普通に戦えば強敵だろうけど、協力してくれる時計兎が相手の死角にウサギ穴を繋げてくれる。それを利用すれば、奇襲を行うのは容易いだろう。加えてどうやら、件の時計兎はかつて或るアリス共々、猟兵によって救われていてね。相応に恩義を感じている様だ」
 詳細は長くなるので省くが、絶望したアリスは猟兵たちに助けられ、元の世界ではなくこの童話迷宮で生きる事を選んだ。紆余曲折を経て友誼を結んだ時計兎もまた、そんな少女と共に歩むことを望んだ……そんな結末で幕を閉じた事件が、過去にあったのである。
「ボス級のオウガ討伐に参戦するのは時計兎だけだけれど、その後の『不思議の国』復興にはアリスも姿を見せてくれるみたいだ。一緒にどんな国を作るのか、相談するのも良いだろうね」
 ただ残念なことに、そういった復興作業も悠長に行ってはいられない。己の主が倒された事を察知し、配下のオウガが駆けつけてくる危険性があるからだ。故に、復興案にはある程度の自衛策も入れるのが得策で在ろう。

「とまぁ、説明すべきことは以上かな? 戦争と言うのは戦いも厳しいものだけれど、戦後の復興もまた重要だ。その一歩をどうか頼んだよ」
 そう話を締めくくると、ユエインは猟兵たちを送り出すのであった。


月見月
 どうも皆様、月見月です。戦争お疲れ様でした。
 間髪入れずに恐縮ですが、もう一仕事お付き合い頂けますと幸いです。
 戦争後ですし、のんびり進行できれば良いかなと思います。
 それでは以下補足です。

●最終勝利条件
 『不思議の国』の奪還及び復興。

●戦場
 常に夜闇に覆われた国です。星明かりすら無いため草木が育たず、鬱々とした空気に満ちています。荒野の中心には巨大な岩屋があり、オウガは其処を根城としています。
 造りが荒い為、物陰や死角となる場所が多々あり、そこへウサギ穴を繋げて飛び出せばほぼ確実に奇襲を狙えるでしょう。

●オウガ
 狼のような姿をしたオウガ。通常であれば強靭な身体能力を誇る強敵ですが、現在はフォーミュラ消滅の報を受けて気もそぞろです。
 奇襲を起点に上手く立ち回れば、有利に戦闘を進めることが出来るでしょう。

●時計兎とアリス
 ふてぶてしい態度の黒兎と中東風な少女のアリスです。かつて猟兵に救われた結果、二人で手を取り合いこの世界で生きることを選びました。安全な生存圏を求めて、今回の行動を起こしたようです。
 時計兎やアリスは戦闘に参加可能ですが、戦闘力は微々たるものです。飽くまで軽い支援程度とお考え下さい。

●各章の動きについて
 1章:時計兎と協力し、ボス級オウガの討伐。
 2章:アリスや時計兎、隠れていた愉快な仲間たちと共に『不思議な国』の復興。
 3章:主の異常に気付き戻ってきた配下オウガ群の迎撃戦。
    2章で良い国に出来ていれば、戦闘にボーナスが発生します。

●プレイング受付について
 断章投下後に告知致します。

●その他
 本作は過去に運営したシナリオの要素を含みます。ですが、そちらの内容を知らずとも問題はございません。気軽にご参加ください。

 それではどうぞよろしくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『アリーチェ・ビアンカ』

POW   :    狂月招来(フルムーン・コネクト)
予め【獣の本能と己の狂気に身を任せる】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    狂気感染(パンデミック・ルナライト)
【あらゆる者を狂わせる月の光】を降らせる事で、戦場全体が【狂気に満ちた満月の下】と同じ環境に変化する。[狂気に満ちた満月の下]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    狂光軍行進曲(ルナティック・マーチ)
【人狼化し、それぞれの武器】で武装した【自身が喰い殺した者達】の幽霊をレベル×5体乗せた【狼の幽霊の群れ】を召喚する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リカルド・マスケラスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●魔狼に挑めや成金兎
「……ふむ。来てくれるとは思っていたが、こうして直接顔を見て思わず安堵するとはな。どうやら、私もそれなりに緊張していたらしい」
 夜闇に包まれた『不思議の国』。未だ夜明けを知らぬ世界へと降り立った猟兵たちを出迎えたのは、二人の少女だった。一人は黒い耳と装束に紅瞳銀髪が映える時計兎、もう一人はその背に隠れて様子を窺っている中東風のアリス。彼女たちは猟兵の姿を認めるや、アリスは安堵したように顔を綻ばせ、時計兎は皮肉気に肩を竦める。
「さて、まずは足を運んでもらった事に感謝を。私は黒兎。一応、時計兎と言う事になるだろう。出来れば茶の一杯でも供したいところだが、生憎と此処はまだ他人の軒先でね。どうか無礼は許してくれ給えよ。そして彼女が……」
「ファウリー、です。以前は黒兎さん共々、お世話になりました。そして、この世界を守ってくれて……ありがとう、ございます」
 ファウリーと名乗った少女はそう言ってぺこりと頭を下げた。彼女にとって猟兵たちは二重の意味で恩人である。一つ目は己を絶望の淵から救い出してくれたこと。そして二つ目は、この世界の破滅を食い止めたことだ。元の世界へと帰らず、敢えて留まることを選んだ彼女にとって、先の戦争は決して他人事ではなかった。当然、猟兵たちの活躍については聞き及んでいるのだろう。
「その上でこんな事を頼むのは、本当に図々しいと思われるかもしれないですけど……どうか、黒兎さんをお願いします。私のために、時々すごい無茶をしてしまうから」
「はっはっは。なに、好きでやっていることだから気にする必要はない……と言っても、説得力は無いか。まぁ、その点に関しては猟兵諸君を大いに頼らせて貰うとも。無論、私も自分の役割をきっちり果たすつもりだ」
 アリスの言葉を受けて、黒兎は悪戯っぽく猟兵たちへとウィンクを飛ばしてくる。確かに今の黒兎の戦闘力はそれこそ見た目通り、単なる少女と大差ない。しかし、この時計兎が開くウサギ穴こそが、対オウガ戦において重要な鍵を握るはずだ。尊大な態度なのもそれを理解しているが故か……いや、多分これが素の性格なのだろう。
「……ともあれ、挨拶はこの辺にしておこう。時は金なりだ。この場所もいつ見つかるやも分からんし、動くのは早ければ早いほど良いからな」
 それじゃあ、行ってくるよ。黒兎はアリスへそう何でもない様に告げた後、開通させたウサギ穴へ猟兵たちと共に身を投じてゆく。その背を、少女は祈る様に見送るのであった。


「ウゥゥ……ゥウ、ァアアッ!」
 荒野の中心、巨石を積み上げて造り上げられた巨大な岩屋。その内部には苛立たし気な唸り声が響いていた。その主はこの不思議な国を治めし、人狼のオウガである。目を血走らせながら頭を掻き毟り、或いは手近な岩壁に爪痕を刻みつけてゆく。その異様な様子に、従属を強いられている愉快な仲間たちも怯えた様に身を竦めていた。
「オウガ・オリジンが死んだ……! あの大喰らいで、巨大で、歯向かう事すら馬鹿馬鹿しくなるフォーミュラが、倒された……ぐ、ぅぅぅううっ!」
 オウガが心を乱すのは、絶対強者が倒れたという事実を聞いたが為。もっと言ってしまえば、それを成し遂げた猟兵が次なる矛先を己へ向けやしないかという恐怖である。
「折角、星も月も無い世界を手に入れたというのに……誰にも渡さない。ああそうだ、此処は、この国はワタシの物。むざむざ、くれてやるものか」
 怒りや執念、猛る本能で怯えを振り払おうというのだろう。ぶつぶつと一人呟きながらオウガは岩屋の中をうろつき回る。だが、それは自ら視野狭窄に陥るという事と同義であり……。
「狼が相手と聞いていたが、これでは目も鼻も碌々使えぬイヌではないか。喜び給え、猟兵諸君。どうやらそう苦労せずに済みそうだ」
「っ!? 猟兵、だと! 馬鹿な、周囲にはワタシの配下共が居たはずなのに……!」
 オウガの死角へ開通させたウサギ穴より次々と飛び出す猟兵たちと黒兎。彼らの奇襲を防ぐには、相手は余りにも無防備に過ぎた。斯くして彼らは先手を取るや、そのまま戦闘へと雪崩れ込んでゆくのであった。

※マスターより
 プレイング受付は4日(金)朝8:30より開始致します。
 第一章はオウガとのボス戦です。相手の死角に繋がったウサギ穴を活かすことが出来れば、プレイングにボーナスが発生します。黒兎に支援も頼めますが、戦力としては微々たるものです。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
フィーナ・ステラガーデン
あら?あんた達元気そうで何よりね!あんた(兎)の方も相変わらず偉そうね!ツンデレって奴なのかしら?

というわけで戦闘ね!
隙を見せてるなら遠慮なんてしないわ!兎穴から【属性攻撃】で後頭部目掛けて火球を叩きつけるわよ!

★以下行動
敵UCの狂気に満ちた満月ぼうっと眺めた後で擬似的に真の姿を開放(吸血鬼化)【殺気、恐怖を与える】
演出的な物で本来の真の姿の力は出せない
血の翼で飛び回り、血を周囲に撒き散らしつつ攻撃行動【怪力、空中戦】引き裂く
血液が十分に撒き散ったらUC発動【吸血、生命力吸収】
月が消えればしれっと戻る

ドS発言多
例「あはははは!ほら!服従のポーズはどうしたのよ駄犬!」

(アレンジアドリブ連携大歓迎



●月下に舞うは翼か牙か
「あら? この間まで戦争だったけど、あんた達が元気そうで何よりね!」
「そちらこそ『オウガ・オリジン』相手に大立ち回りをしたらしいが、どうやら仔細無い様だな。流石は猟兵と言った所か」
 ――オウガへと奇襲を仕掛ける、少し前。
 ウサギ穴を通過しながら、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)と黒兎は懐かしげに言葉を交わしていた。焔の魔法使いは、この黒兎とアリスに纏わる事件へ関わった猟兵の一人である。お互いに戦争と言う嵐を乗り越えた事を確かめ合い、それぞれの無事を言祝いでいるのだろう。
「ふふ、あんたの方も相変わらず偉そうでちょっと安心したわ! もしかして、これがツンデレって奴なのかしら?」
「はっはっは。これでもファウリーに対してはストレートな物言いをしているつもりなのだがね……っと、そろそろか」
 だが再会を喜んでいたのも束の間、黒兎の表情が真剣さを帯びる。ウサギ穴が敵陣まで到達したのだ。穴の先へと飛び出せば、そのまま戦闘へと雪崩れ込むだろう。そっとオウガの死角へ出口を空けつつ、黒兎は背後を見やる。
「申し訳ないが、此処から先は貴君らが頼みだ。私も一応戦えるが、戦力としては余り期待しないでくれ」
「ふっふーん、任せなさい! 相手がわざわざ隙を見せているんだもの、こっちも遠慮なくやらせて貰うわ!」
「なるほど。ではオリジンを打倒した手並み、拝見させて貰うとしよう!」
 胸を張るフィーナに微笑を浮かべる黒兎。そうして二人は一気に岩屋内へと飛び出してゆくのであった。

「全く、暗いったらありゃしないわね! お邪魔したついでに、灯りの一つでも点けてあげるわ! 尤も、燃料はアンタだけどね!」
「っ、背後から炎!? まさか猟兵が……ぐ、ぁあああっ!」
 戦場へと飛び出した瞬間、フィーナはオウガの後頭部目掛けて火球を叩き込んだ。死角からの一撃によって、瞬く間に上半身が炎に包まれる。そうして相手がのたうち回っている隙に、魔女は素早く戦闘態勢を取った。
「ほら、これで少しは明るくなったかしら?」
「余計な、世話だな……! そんなに光が欲しければくれてやる。だが、後悔しても遅いぞッ!」
 皮肉交じりの言葉に対し、転がって火を消したオウガが殺意に満ちた視線を返す。そのまま頭上を仰ぎ見る様に身体を仰け反らせるや、巨石の隙間より青白い月光が差し込み始めた。
「何故、この世界の夜空に星が無いと思う? 答えはこの月光だ。あらゆるものを狂わせる輝きの中、獣の本能だけが常と変わらぬ能力を発揮できる!」
 月は古来より狂気を齎すものとされてきた。理性を崩されれば、如何なる人も獣へと成り下がる。であれば同じ土俵で狼たる己が負ける道理など無い、そうオウガは言いたいのだろう……が。
「……私の世界じゃ、それこそが寧ろ普通なのよ。月夜が自分だけのものだなんて、思い上がりが過ぎるんじゃないかしら?」
 フィーナの出身はダークセイヴァー。百余年もの間、明けぬ夜に支配された世界である。幸か不幸かその支配種族の血を引く魔女にとって、狂気の月光など足枷にすらならない。
「そう言えば、吸血鬼と人狼って仲が悪いって言うのが相場らしいわね。なら精々、行儀の悪い駄犬を躾てあげようじゃない!」
 茫洋と月光を見つめていた彼女の姿は、今や忌まわしき怨敵のそれと化していた。紅の瞳をなお赤く輝かせ、背には黒血で形作られた一対の翼。能力は強化されておらず、単に相手を威圧する為の演出ではある。しかし、気分が荒々しくなるのはやはり月光の影響故か。フィーナは敢えて、その狂気へと意識を沈めてゆく。
「オのれ! だガ、純粋な身体能力デは、ワタシの方が上ダッ!」
「ははははっ! 空も飛べない分際でキャンキャンと良く吼えるわね!」
 人狼は地面や壁を駆け巡り、牙や爪、尾を駆使して相手を叩き落さんと攻め立てる。一方の魔女も高低差を活かした一撃離脱戦法に徹しつつ、魔力強化された膂力で応戦してゆく。翼と牙、両者の撒き散らす鮮血が岩屋内を染め上げてゆくが、それこそがフィーナの狙いでもあった。
「そろそろ頃合いね……さぁ、上下関係を刻み込んでやるわ!」
「何ヲ……っ、ガ、ふっ!?」
 魔女へ飛び掛からんとした人狼へ、突如襲い掛かった激痛。その正体は血液によって形成された無数の槍であった。頭上を飛ぶ己へと注意を惹きつけるや、フィーナは死角となった相手の足元より異能を発動させたのだ。
「あはははは! ほら! 服従のポーズはどうしたのよ駄犬!」
「オ、のれぇぇ……ッ!」
 地面へと崩れ落ちる人狼へ少女は嘲笑を浴びせてゆく。だが、これで相手の頭は逆に冷静さを取り戻す可能性もある。奇襲の効果も薄れ始める頃合いだ、そろそろ潮時だろう。
「さって、と……普段とは違う戦い方で新鮮だったし、何だかすっきりしたわね! それじゃあこの辺で下がらせて貰おうかしら!」
「ッ、待てぇっ!」
 撤退を選ぶフィーナへ追い縋るオウガだが、黒兎は阿吽の呼吸で入り口を開き、猟兵を迎え入れるとすぐまた閉じてしまった。後はもう、硬い岩肌が残るのみ。血濡れの人狼は苛立たしげに壁へ爪痕を刻み込みながら、やり場のない怒りを雄叫びへと変えるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
(ウサギ穴から●怪力大盾殴打をオウガへ、体勢整えた相手と向き合い)

ウサギ穴の力の由来など尋ねたい事もあれど

ファウリー様共々ご壮健でなによりです
再び騎士としてご助力出来る事、喜ばしく思いますよ

さて、早速やって頂きたいことがあるのですが…
(作戦書いた紙片を●操縦するワイヤーアンカー先端に持たせ渡し)
報酬はオウガへの痛打、如何です?

黒兎を●かばいつつ●盾受け●武器受けで近接戦

侵略は好む所ではありませんが
この世界の人々の安寧の為、明け渡していただきます

攻防に盾の比重傾け印象付け

やはり攻撃が重い…

物陰に退避
オウガの死角の穴へ囮として盾を投擲

迎撃で見せた隙に別のウサギ穴から背負っていたUCを構えだまし討ち



●かつての敵よ、頼れし友よ
「が、ああ……あああぁぁぁぁっ!」
 オウガが初撃で負わされた傷は決して浅くはない。しかし、人狼と言う身体面に長けたタイプのオウガである。致命に至るまではまだほど遠い。寧ろ全身に走る傷みよりも、受けた屈辱に対する怒りの方が大きいのだろうか。腹立たしげに四肢を振るい、手近な壁へと爪痕を刻んでゆく。文字通り、気が立った獣。通常であれば、近寄る事も憚られるのだが……。
「なるほど。見た目以上に鋭い一撃ですね。ですが、受け止め方を誤らなければ恐れるに足りません」
 ガキン、と。それまで抉り取っていた岩肌とは全く違う、甲高い音と感触が爪先より伝わる。そして、それと共に頭上から電子音声が投げかけられた。ハッと顔を上げたオウガの視界に飛び込んで来たのは、兜型装甲の奥に光るアイカメラ。だがそれも一瞬の事、間髪入れずに襲い掛かってきた衝撃によって、人狼の体躯は弾き飛ばされる。
「ほう、敵として相対した時はその頑強さに煮え湯を飲まされたものだが、味方になるとこうも心強いとはな」
「こちらとしても、奇襲を狙えたのは黒兎殿のウサギ穴があってこそ。能力を得た由来など尋ねたい事もあれど、ファウリー様共々ご壮健でなによりです。再び騎士としてご助力出来る事、喜ばしく思いますよ」
 岩屋の中に響く、軽重二つの足音。一つはウサギ穴を此処まで繋いだ黒兎。もう一つは奇襲を成功させたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)である。激昂していたオウガは気付かなかった様だが、先程触れた壁こそ鋼騎士が構えていた大盾だったのだ。
「さて。早速で申し訳ありませんが、ひとつやって頂きたいことがあるのですが……」
「ほう、聞かせて貰おうか」
 相手がよろよろと立ち上がる間、トリテレイアは大盾を構えて戦闘態勢を整えつつ、ワイヤーアンカーの先端へ括りつけた小さな紙片を仲間へと投擲する。それを受け取った黒兎は素早く紙面へ視線を走らせるや、ニヤリと笑みを浮かべた。
「報酬はオウガへの痛打、如何です?」
「オーケー、悪くない取引だ。ぜひ乗らせて貰うとしよう。援護だけは忘れずに頼むよ?」
「ええ、無論です。タイミングは其処へ記載のある通りに……では、参りましょう!」
 一も二も無く頷き行動を開始した黒兎を横目に、トリテレイアはオウガへと意識を切り替えた。既に相手は立ち上がっており、ゆらゆらと前傾姿勢のまま上半身を揺らしている。それが攻撃の予備動作であると察知した瞬間、鋼騎士は猛然と敵目掛けて踏み込んでゆく。
「御伽噺がめでたしめでたしで終わったのであれば、その後もまた幸福であれと願うのが人の常。ましてや、自らが関わったとあればなおさら。侵略は好む所ではありませんが
この世界の人々の安寧の為、明け渡していただきます!」
「鉄屑で身を護らねば挑めもせぬ手合いが……現実は絵空事と違う。常に猟師が狼に勝つなどと思うなッ!」
 鋼鉄と生身、冷たき理性と荒々しき本能。相反する存在が真正面よりぶつかり合う。行動の性質こそ同じだが、深さや質と言った要素は先程の比ではない。振るわれる爪、突き立てられる牙の一撃一撃がより重く、かつ鋭かった。
(やはり攻撃が重い……自然や野性というものは、往々にして数字と予測の先を行くことがあります。ここはまず、堅実に行くべきでしょうね)
 対して、トリテレイアは決して無理をするつもりは無かった。剣での応戦も勿論しているが、比重はやはり彼の代名詞たる大盾に重きが置かれている。最小限の動作で防ぎ、質量を活かして殴打を加えるその戦法は、相手にとって攻め難い事この上ないだろう。
「どうした、意気込みとは裏腹に防戦一方だぞ!」
「……返す言葉もありませんね。然らば、一度仕切り直させて頂きましょう!」
 だが、相手のスタミナは見た目通り猛獣並だ。息切れを待って勝てる相手ではない。そこで一旦状況をリセットする為、鋼騎士は後退して巨石の影へと身を隠す。無論、逃げる相手など人狼にとっては格好の得物である。すかさず追撃を試みる……が。
「っ、盾を投擲してきたか! 破れかぶれな真似、を……?」
 放り投げられたのはこれまで散々邪魔をしてきた大盾。しかし、オウガにとってそれを払い除ける事など造作も無いことだ。剛腕の一薙ぎでそれを叩き落し、更に一歩踏み込んだのだが……其処にトリテレイアの姿は無かった。
「馬鹿な、あの巨体で一体何処に……っ、匂いが後方から!?」
「おや、流石は狼。嗅覚の鋭さは侮れませんか。ですが……一手、こちらが先んじました」
 声のした方向へと振り向いた瞬間、視界に飛び込んで来たのは馬鹿げた大きさの槍だった。種を明かせば、ウサギ穴の利用である。戦闘前に出した指示により、機を見て黒兎が物陰同士を繋いでいたのだ。してやられたと相手が気づいても最早遅い。
「頼まれた仕事は果たした。ならば……」
「ええ、報酬をとくとご覧に入れて見せましょう!」
 分厚い宇宙戦艦の装甲版すらも貫徹する、機械槍による蹂躙突撃。万全な体勢なら兎も角、死角より放たれたその一撃を防ぐ手立てなどオウガは持ち合わせておらず……。
「兎とブリキ風情に、してやられるとはッ!」
 為す術も無く弾き飛ばされ、凄まじい勢いで岩壁へと叩きつけられた。トリテレイアはそれを尻目に、勢いを殺すことなく再びウサギ穴へと帰還。そのまま悠々と戦場より離脱を果たすのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エドゥアルト・ルーデル
可愛いでござるねどこ住み?兎穴やってる?

早速だが諸君らにはこの【知らない人】と一緒に兎穴に潜って貰いますぞ
一体何者なのかは拙者も知らない

じゃ、拙者は外で陽動して来るから
へいそこの!可愛い狼でござるねどこ住み?オブリビオンだからこの辺りか

【幽霊の群れ】はこの【火炎放射機】で凪払うでござるよ
古来より炎は魔を祓うと言われる
【浄化】ってついてるしイケるイケる!多分!
貰い物の火炎放射機を信じろ!

ヒャッハーしながら炎で兎穴近くへと狼を誘導、タイミングを合わせて知らない人に手榴弾をこっそりと投げさせ爆破でござるよ
兎と言えば聖なる手榴弾でござるね!まあ相手は狼でござるが
白毛なのでヨシとしてくだされ



●火力こそあらゆる問題を解決す
「バニーガールに褐色アリス? どっちも可愛いでござるね~、どこ住み? 兎穴やってる?」
「はっはっはっ。何を言いたいのかさっぱりだが、取り合えず理解しなくても良いという事だけは分かったぞ」
 岩屋を離脱し次なる猟兵と合流すべく舞い戻った黒兎を出迎えたのは、やたらと良いスマイルを浮かべたエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)であった。その余りにも胡散臭い言動と見た目から相手がどの様な手合いかを悟るや、黒兎は乾いた笑いでスルーを決め込むことにする。とは言え、不思議の国奪還へ名乗りを上げてくれた相手である事に変わりはない。
「先の発言は横に置いておくとして、こうしてやって来てくれたことは素直に感謝する。微力ではあるが、こちらも出来る限りの支援はさせて貰うつもりだ」
「オーケー。拙者、その言葉が聞きたかったでござるよ! 報酬は美少女たちの明るい未来……しかも塔が立つのは確定とあらば、俄然やる気が出ますぞ~!」
「……すまん、やっぱり不安になって来たんだが」
 折角持ち直した好感度をセルフで下げる一方、エドゥアルトのテンションは昂ぶりを見せていた。そんな様子に微妙な面持ちを浮かべながらも、黒兎はウサギ穴を開通させる。だが、振り返った先で見た光景は彼女を更なる困惑へと叩き込んだ。
「すまない、一つ聞きたいんだが……横の男はいったい誰かね?」
 視線の先では、エドゥアルドが見知らぬ男と肩を組んでいた。ターバンを巻いた、恰幅の良い中年である。男二人は暫し無言で見つめ合うと、黒兎へ仲良く揃ってサムズアップを返す。
「早速だが、貴殿にはこのターバンおじさんと一緒に兎穴に潜って貰いますぞ」
「いや、何が早速だ。誰なんだターバンおじさん」
「さぁ、一体何者なのかは拙者も知らない。気が付いたらなんか居たので」
 傭兵の衝撃発言にピシリと固まる黒兎だが、それを意に介さずエドゥアルトとおじさんはウサギ穴へと近づいてゆく。当然、その間には時計兎が立っている訳で。
「さぁ、善は急げ! お茶会に遅刻してしまうでござるよ!」
「おい、ちょっとまて! こら、やめ……やめろぉぉぉぉっ!?」
 絵面的には月とスッポンだが、三人はアリスの如く穴の中へと転がり落ちてゆくのであった。

 そんなこんなを経て、岩屋へと到達した黒兎と傭兵withターバン。エドゥアルトは顔を出して周囲を窺うや、躊躇うことなく穴の外へと身を躍らせる。
「よっし、到着したでござるな。じゃ、拙者は外で陽動して来るから、おじさんと一緒に待ってて」
「え、これと二人きり、だと……!?」
 絶句する黒兎を尻目に、傭兵は意気揚々と岩屋内を突き進んでゆく。そうして、苛立たし気に立ち尽くしていたオウガを見つけると……。
「へいそこの! 可愛い狼でござるね、どこ住み? オブリビオンだからこの辺りか。石造りの家ってワイルドで素敵よね。機能性は無いけど」
「ッ!?」
 ナンパをした。もう一度言おう。ナンパをしたのである。余りにも場違いな言動だったが、それ故に得体のしれない何かを感じ取ったのだろう。オウガは直ぐに仕掛けず、地を蹴り距離を取った。
「なんだ、なにを考えている? また何か狙っているのか……それ、ならッ!」
 直接の接触は危険と判断したのか。人狼が呼び出したのは狼騎兵の軍勢であった。怨嗟と無念に突き動かされ、亡霊たちはエドゥアルトへ一斉に襲い掛かる。
「あーら、番犬が一杯で防犯もバッチリでござるな。とは言え、拙者も三時のおやつにはなりたくないので……」
 恐ろしい光景だが、傭兵は飽くまでも飄々とした態度を崩さない。彼は背負っていた装備を腰だめに構えるや、躊躇なく引き金を引いた。
「おうちへ上がる前に手足は拭いたか? 最近物騒ですからな、きっちり消毒しなきゃダメでござるよ!」
 刹那、周囲を薙ぐように放たれるは紅蓮の焔。エドゥアルドの武器、それは火炎放射器だった。しかし、相手は霊体。物理攻撃が効くものだろうか。そんな疑問に対し、傭兵は胸を張って是と答える。
「古来より炎は魔を祓うと言われる……ほら、想定用途に浄化って書いてあるしイケるイケる! 多分! 貰い物の火炎放射機を信じろ!」
「知識が無いから何がとは言えないが、絶対に何かが間違っているだろうソレはッ!」
 余りにもふわっとした根拠に思わず叫ぶオウガだが、現に狼騎兵たちは炎へ触れた端から消滅してゆく。岩屋内は瞬く間に火が燃え広がり、逃げ場を失わせていった。
「ほーれ、とっとと観念するでござるよ。てか、あんまり長引くと酸欠で逆に拙者の命が危険で危ないと言うか」
「くっ! 言動はふざけているのに、手際だけやたらと良いぞコイツ!?」
 そうしてオウガを追い詰めてゆくエドゥアルト。相手は与り知らぬ事であったが、誘導された先にはウサギ穴が在った。という事は詰まり、そこには黒兎とターバンおじさんも待ち構えているのであり。
「よし、今でござるよ! 対首狩り兎用聖なる手榴弾、投擲ッ!」
「一、二、三……アーメン!」
「おい待てオウガあっちだ、私は飽くまで元だぞ元!?」
 おじさん渾身の投擲により、手榴弾が放物線を描いてオウガへと向かう。何故か目標にされかけた黒兎を横目に見つつ、エドゥアルトは入れ替わる様にウサギ穴へと飛び込んだ。
「兎と言えば聖なる手榴弾でござるね! まあ相手は狼でござるが、同じ白毛なのでヨシとしてくだされ。それじゃあ、また会う日まで!」
「き、貴様ぁあああああっ!?」
 怨嗟の雄叫びも、轟く爆発音に掻き消され……ぐったりと疲れ切った黒兎と、ハイタッチし合う野郎二人組は、ウサギ穴を通って岩屋より離脱してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

吉備・狐珀
オウガに占拠された『常夜の国』の奪還と復興、喜んでお手伝いします。
そこで新たな生活を始めようとする方達がいるなら尚更です。

時計兎殿の作った穴を利用させて頂くとしましょうか。
暗闇に紛れ穴から奇襲を仕掛けるのはUC【百鬼夜行】で呼び出した土蜘蛛。
人狼化する前に蜘蛛の糸で動きを封じるために(先制攻撃)を。
呼び出された幽霊はウケと共に(浄化)の(オーラ)で包まれた(結界で)身を守りましょう。

ウカ、月代、(衝撃波)でオウガと幽霊に(一斉発射)し、怯ませたところを、その(鎧を砕く)強力な爪で(薙ぎ払って)しまいましょう。
貴方達に危険が及ばぬよう、兄上の操る火炎が(援護射撃)しますから心配無用ですよ。



●個なる獣狼、友多き狐像
「ひ、酷い目にあった……なんなのだ、アイツらは」
「大丈夫、ですか? こんなに疲労して、余程の激戦だったのでしょう。縄張りをみすみす明け渡す動物など、居る訳もありませんから」
 這う這うの体で離脱してきた黒兎を出迎えたのは、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)であった。戦闘へ参加していないはずの黒兎でさえ、こうも消耗し切っているのだ。岩屋内では苛烈な戦闘が巻き起こっているに違いない。しかし、少女に怯えの色は無かった。
「ですが、猟兵として臆する事など出来ません。オウガに占拠された『常夜の国』の奪還と復興、喜んでお手伝いします。そこで新たな生活を始めようと、戦いを挑む方達がいるなら尚更です」
 狐珀自身、過去に己が祀られていた神社を失っている。故に、居場所を得んと足掻く少女たちには共感するところがあるのだろう。決意を帯びた視線と共に助力を申し出る猟兵の姿に、思わず黒兎は涙ぐんだ。
「良かった……今度はまともだ」
「はい? いまなんと……?」
「いや、何でもない。早速で悪いが、貴君の助太刀に頼らせて貰おう。こちらも道すがら、相手の能力や岩屋内の地形について情報を提供するとしようか」
 何やら聞き捨てならない台詞が聞こえた気がしたが、聞き返す間もなく黒兎はウサギ穴を開通させて狐珀を招き入れる。移動時間はほんの数分足らず。されどその間に両者は要点の擦り合わせを完了させるのであった。

「おのれ……ワタシを、どこまでも虚仮にしおってぇぇぇ……!」
 到着してまず感じたのは、むっとする焦げ臭さ。次いで響き渡る、怒気を孕んだ唸り声。先に交戦した猟兵が火を放ったらしいが、それらは既に鎮火し切っていた。全身のあちこちに火傷の痕を残すオウガは、ダンダンと地団駄を踏んでいる。どうやら焦げ臭さのせいで鼻が利かず、こちらに気付く様子はない。
「さて。それでは本格的な交戦を行う前に、時計兎殿の作った穴を利用させて頂くとしましょうか」
 すぐに仕掛けるだけが奇襲に在らず。暫しの余裕があると判断した狐珀は、一手布石を打つことを選んだ。彼女は小さく息を吸って呼吸を整えると、己の裡に霊力を練り上げてゆく。
「生と死の狭間に彷徨うものよ、我に呼応し集結せよ。人狼が率いし亡者の群れも、百鬼集えば恐れる由もなし」
 それを媒介として呼び出されしは、無数の蜘蛛の様な姿をした異形たち。彼らは召喚者の意に従い、音も無くウサギ穴より溢れ出した。微かな足音さえも立てず、土蜘蛛は壁や天井へと張り付いてオウガを取り囲んでゆく。
「さて、土蜘蛛たちは良い位置に移動できたようですね。みんなも準備は大丈夫ですか?」
 蟲たちが布陣し終えたのを確認すると、少女は傍らへ視線を向けた。白狐、黒狐、仔龍。常に狐珀へ付き従う霊獣たちは主の問い掛けに対し、小さく鳴いて問題ない旨を示す。準備は整った。ならば、後は行動するのみ。
「それでは……行きますっ!」
 そこに言葉は必要なかった。少女が三獣と共にウサギ穴を飛び出すと同時に、土蜘蛛たちは一斉にオウガ目掛けて糸を吐き出してゆく。四方八方から十重二十重と巻き付けられてしまえば、如何に強靭さを誇るオウガとて脱出するのは容易ではなかった。
「っ、新手か!? 次から次へと、よくも休みなく来るものだ……! だが、ワタシ一人を抑え込んだところでなァッ!」
 ぐるりと首を巡らせて、人狼は猟兵の姿を捉える。瞬間、怒声と共に室内を埋め尽くすほどの狼騎兵たちが出現してゆく。幾分か数が減っているにも拘らず、それでもなお数え切れぬ軍勢。それは同時に、これまで犠牲となったアリスたちの総数を示していた。
「軍勢を二手に分けろ。半数は猟兵を追い立て、残りは糸の源である蟲を叩き潰せ!」
「ウケ、結界を! 少しきついかもしれませんが、暫し持たせられれば十分です!」
 数が半減したとはいえ、敵はまだまだ多い。狐珀は岩屋の隅へ後退するや、白狐に指示を出して半球状に障壁を張らせる。頭数に差があるとはいえ、一度に全てが攻撃できる訳ではない。攻め口を狭めてしまえば、相対するのは精々数頭で済む。そうして時間を稼ぎつつ、彼女は未だ拘束されているオウガへと視線を向けた。
「どのみち、時間を掛け過ぎれば相手が自由になってしまいます……ならば、一気に押し切るしかありませんね」
 ちらりと足元へ目配せをすると、黒狐と仔龍が小さく頷く。彼らは息を吸い込みながら霊力を収束させた後、それを一気に解放する。指向性を付与された力は荒れ狂う衝撃と化し、一瞬だけだが敵の圧力を跳ね返した。
「これでオウガまでの道は開けました! 蜘蛛糸から完全に脱出される前に、一撃で多く手傷を与えましょう!」
 間髪入れずに仔龍は宙空を飛翔し、黒狐が敵の間隙を縫って疾駆してゆく。そうして瞬く間に彼我の距離を詰めるや、小さな四肢を思い切り振りかぶり……。
「ぐ、ぅうっ!? 身動きがとれぬとは言え、こんな小動物なぞに……ッ!」
 その顔面へ、強烈な爪撃を叩き込んだ。防御どころか衝撃を逃す事すらできず、ざっくりと傷を刻み込まれるオウガ。しかし、衝撃波から立ち直った狼騎兵たちが二匹を逃がすまいと周囲を取り囲む、が。
「大丈夫、決して貴方達を見捨てはしません。危険が及ばぬよう、兄上の操る火炎が援護しますから、帰路の心配は無用ですよ。さぁ、そろそろ潮時です」
 少女にはまだ、頼れる存在が残っていた。黒き装束に身を包んだ絡繰り人形が、次々と火球を放って敵陣を搔き乱してゆく。黒狐と仔龍は混乱に乗じて包囲を脱するや、そのまま無事に主たちと合流を果たす。
「っ、逃がすと思って……!」
「ええ……今回はあと一人、仲間が居ますからね」
 追撃を掛ける狼騎兵の前でぽっかりと岩肌が開くと、その中へ狐珀達の姿が消えていった。待機していた黒兎がタイミングよくウサギ穴を開通させたのである。そうしてぽつんと取り残されたオウガは、ただ激情のままに蜘蛛糸を引き千切ることしか出来ないのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

落浜・語
【路地裏】

あぁ、噂に聞いてた黒兎とアリスか。
にしても、国を買う、って発想はなかったなぁ。まぁ、それなら全力で支援するだけだ。

ある程度【視力】はいいが夜目はそこまでいいわけじゃない。だが、あまりそれに頼り切らなければ問題はないか。
【第六感】と【聞き耳】に頼りつつ、UC【誰の為の活劇譚】を使用。この世界は何度も来てるからな。語るに必要な情報はある程度そろってるさ。
「悪夢の始まりオリジン斃し、されど火種は燻り続ける。そんな世界のただなかで、国を買おうと奔走するは黒兎
助力はやぶさかではないと、集まりますは猟兵方。此度語るは、平穏求める物語でございます」

敵の攻撃は【オーラ防御】で守り、奏剣や円環で迎撃。


ファン・ティンタン
【WIZ】合縁奇縁
【路地裏】

ん、息災のようだね
大まかな経緯は把握してる、やることをやっていこう
まずは、害獣駆除から

穴開けは黒兎に任せるとして、奇襲か……ふむ
【哀怨鬼焔】
獣には火と相場が決まってる
閉鎖空間でも、怨嗟の紫炎なら周りに迷惑にはならないで済むか
酸欠で協力者がダウンなんて、洒落にもならない

【暗視】は、魔力で【視力】補助すれば何とか
【聞き耳】も立てて、目だけに頼り過ぎずいこう

基本は穴熊
死角から紫炎を操り、前衛補助や後衛援護
相手が焦れて穴に攻め手を向けるなら、しめたもの
狼じゃ、将棋は知らないかな?
攻め口が狭いとどうなるか、勉強してもらおう
来るモノ皆、魔力纏う【天華】で【串刺し】て【浄化】だよ


ペイン・フィン
【路地裏】


ファウリーに、黒兎
久しぶりだね
相変わらず仲が良いみたいで、何より

それにしても、国盗り、いや、国買いね
そう言った話は、結構好きだよ
さ、邪魔な番犬を追い払って、国造りと行こうか

兎穴を行き、コードを使用
扱うのは、猫鞭"キャット・バロニス"
死角から確実に、喉や目、手足を攻撃
暗視は自分も得意。行動に問題は無い
獣を躾けるのは、鞭と相場が決まっているよ
少々爪が立っているけど、ね

狂う月?
生憎、そんなの、効果が無いよ

自分は、拷問具"指潰し"
生けるものを傷つけ、恐怖を与える存在
そんなのが、縁とか、ロマンとか
そう言った、あたたかいモノのために、動いている


これ以上無いほど、すでに、狂っているんだよ


勘解由小路・津雲
【路地裏】4名
よう、戦場では会わなかったが、二人とも無事だったようで何よりだ。
だが鉤爪の男を逃してしまった。まだ油断は禁物、黒兎にはこの後ももうひと頑張りしてもらわないとな。

【行動】
しかし暗いな。おれは【暗視】があるから不便は感じないが。
さて、不意がつけるなら相手の攻撃に先手を打って対策を取らせてもらおう。幽霊を呼ぶなら【霊符】をばらまいたり配ったりして【破魔】の【結界術】を展開しておこうか。
うかつに近づけばそちらが痛い目を見るぜ。

そうやって相手の機動力をそいで、【歳刑神招来】で主に狼の幽霊を打ちぬき、上に載った犠牲者の霊は出来る限り【浄化】を試みる。
余力があれば敵の人狼にも攻撃を。



●これまでの道程、これからの歩み
「ほう、これまた懐かしい顔が来てくれたものだ。その節は色々と……うむ、本当に色々と世話になった。今回もどうかよろしく頼む」
「ん。ファウリーに、黒兎も久しぶりだね。相変わらず仲が良いみたいで、何より」
「そちらも息災のようだね。何をしようとしていたのか、大まかな経緯は把握している。取り急ぎ、やることをやっていこうか」
 岩屋からウサギ穴を通って一旦離脱し、少し離れた場所で後続の猟兵たちを出迎えていた黒兎。彼女は現れた面々を見て、穏やかそうに微苦笑を浮かべる。始めに姿を見せたペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)とファン・ティンタン(天津華・f07547)、そして続けて現れた勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)もまた、先に駆け付けた者たち同様、過去の事件に関わった猟兵であった。
「戦場では会わなかったが、どうやら相応に無茶をしたようだな。だが、二人とも無事だったようで安心したぞ。しかし、猟書家のうち鉤爪の男を逃してしまった。まだまだ油断は禁物、黒兎にはこの後ももうひと頑張りしてもらわないとな」
 津雲は黒兎が搔き集めていた黄金の卵を思い起こして苦笑する。あれは恐らく迷宮災厄戦の戦場『ザ・ゴールデンエッグスワールド』からくすねてきたものだろう。元来、富貴を好む性格だとは知っていたが、金の重さは一般的な金属の比ではない。強化込みとは言え、オウガの闊歩する戦場でよくもやったものである。
「あぁ、ちらほらと噂に聞いてた黒兎とアリスか。にしても、国を買う、って発想はなかったなぁ。まぁ、それなら全力で支援するだけだ。相手さんも、黄金を積まれて頷くような手合いじゃなさそうだしな」
「違いない。ただ、ざっと見た限りこの世界には何もないだろう? 色々と住みやすくする為には何かと物入りになるだろうし、無駄にはならぬさ」
 一方、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)は今回が初対面であったものの、予知情報と仲間の話から大体の事情は把握していた。世の中金が全てではないが、金さえあれば取れる選択肢というものは劇的に増えてゆく。食事、住居、健康、そして安全。どれもこれからの二人には必要不可欠なものだ。それを安定的に確保するためにも、自分たちの国と言うのは必須なのだろう。
「国盗り、いや、国買いね。そう言った話は、結構好きだよ。中々に、派手で爽快、だろうしね……さ、邪魔な番犬を追い払って、国造りと行こうか」
「まずは、害獣駆除から、と。穴開けは黒兎に任せるとして、奇襲か……ふむ」
 ともあれ、この世界を牛耳るオウガを排除しなければ全ては始まらない。猟兵たちは黒兎の開通させたウサギ穴へと身を投じ、岩屋を目指して進んでゆく。改めて気を引き締めているペインの横では、ふむとファンが思案気な表情を浮かべていた。相手はある程度手傷を負っているとは言え、手負いの獣の厄介さは今更語るまでもない。数で押せば勝てるだろうが、被害を最小限に留められればそれに越したことは無いだろう。
「さて、無事に岩屋内まで到達出来たな。相手の様子は……はっ、やはり怒り心頭か」
 ほどなくして、ぽっかりと丸い出口が開通する。そっと黒兎が小刻みに耳を動かしながら外の様子を窺うと、低い唸り声が断続的に漏れ聞こえた。恐らく、蹲って体力の回復にでも専念しているのだろう。
「……しかし、中は暗いな。かと言って、灯りをつければ悟られる。おれは暗視があるから不便は感じないが……語はどうだ?」
「俺もある程度視力は良いが、夜目はそこまで利く訳じゃない。だが、余りそれに頼り切らなければ問題はないか。職業柄、視覚以上に聴覚も重要だからな」
 一方、陰陽師と噺家は内部の明るさについて、オウガに聞かれぬよう声を潜めて耳打ちし合う。岩屋内を覆う暗闇は確かに懸案事項だが、彼等とて百戦錬磨の猟兵だ。目が使えぬ状況で在ろうと、取れる手段の一つ二つは持ち合わせている。他の仲間も問題ないことを確認するや、津雲は袖も袂より霊符を取り出した。
「なに、奇襲と言っても攻撃ばかりが能じゃないからな。まずはこちらの仕込みを進めさせて貰おう」
 そう言って彼が符を放るとそれらは音もなく暗闇を飛翔し、岩屋の壁や隙間へと滑り込み張り付いてゆく。予め準備を行い、ここぞというタイミングで発動させるのもある意味奇襲と言えよう。
「さて、と。それじゃあ、後は事前の打ち合わせ通りに。前衛役は頼んだぜ?」
「うん、任せて。初撃で出来る限り、動きを封じて見せるから」
 ともあれ、こうなれば後はもう武威を以て渡り合うだけだ。時計兎と四人の猟兵は一瞬だけ互いに目配せし合うと、一気に穴の外へと飛び出してゆくのであった。

「獣相手には火と相場が決まってる。閉鎖空間でも、怨嗟の紫炎なら周りに迷惑にはならないで済むか。これは物理現象ではなく、飽くまでも呪力によるものだ。酸欠で協力者がダウンなんて、洒落にもならないからね」
 そうして、まずいの一番に仕掛けたのはファンで在った。彼女が取り出だしたるは一枚の手鏡。その鏡面が輝いたかと思うや、紫色の炎が次々と零れ落ちてゆく。大気ではなく怨嗟を燃料とする呪いの焔は、その妖しき輝きによって岩屋内を照らし出す。
「っ、新手か! おのれ、これでは視界が……!?」
 相手も瞬時にはね起きて迎撃態勢を取ろうとするものの、思わず手で顔を覆わざるを得なかった。紫炎の放つ焦熱は元より、その光量もまた相手にとっては脅威なのである。薄闇に慣れた瞳にその光は強烈過ぎる上、暗順応を打ち消されることによって僅かな時間とは言え視界を封じられてしまうのだ。人狼はそのまま為す術も無く、炎に包み込まれてゆく。
「御伽噺らしく、こっちも噺家として語らせて貰うとしましょうかね。この世界は何度も来てるからな、語るに必要な情報はある程度そろってるさ」
 白き少女によって生み出された隙を無駄にはすまいと、語もまた大きく息を吸い込み朗々と言葉を紡ぎ始めた。彼の言葉通り、アリスラビリンスは先の戦争も含めて馴染み深い場所である。使える題材には事欠かなかった。
「悪夢の始まりオリジン斃し、されど火種は燻り続ける。そんな世界のただなかで、国を買おうと奔走するは黒兎。愛するアリスの為ならば、助力するのもやぶさかならずと、集まりますは猟兵方。此度語るは、平穏求める物語でございます!」
 大気を震わせる活劇譚は岩屋の壁に反響し、戦場全体を飲み込んでゆく。それは仲間たちを鼓舞し強化すると同時に、オウガの耳を潰すのにも一役買っていた。あちらこちらから飛び込んでくる言の葉は仲間の発する音と混ざり合い、正確な方向や距離の把握を困難にしていたのである。
「流石に嗅覚までは手が回らないが、目と耳はこれで使い物にはならないはずだ! 今の内に決めてやれ!」
 炎の消火と敵の迎撃、それらを天秤に掛けてオウガは後者を選んでいた。視界は白く塗り潰され、反響し合う音は判別し難い。それでもなお迎撃を試みようと構えを取っているが、どうしても無数の隙が生まれてしまっている。絶好の好機だと叫ぶ噺家の言葉を受け、赤髪の青年は躊躇なく敵の懐へと飛び込んでゆく。
「が、ああっ!? おのれ、どこだ! 居場所さえ分かれば、引き裂いてやるものをっ!」
「……獣を躾けるのは、鞭と相場が決まっているよ。少々爪が立っているけど、ね。猫は猫でも、この九連撃は虎の剛腕に、勝るとも劣らないはず」
 確かに命中すればただでは済まないが、盲打ちなぞに当たるペインではない。彼が此度その手へと握るのは猫鞭"キャット・バロニス"。彼が九尾の如く九条の鞭を曳きながら思い切り地面を踏み締めるや、フッとその姿が掻き消える。次の瞬間、青年はオウガの斜め後方に現れていた。手に握られた猫鞭はいつの間にか相手の体中に絡みつき、鋭い切っ先を肌へと食い込ませており、そして――。
「痛みとは、最も単純で、かつ明確な言語だと思う。だって、少なくとも……それが伝えたいことを、一発で理解させられるから、ね」
「ぎ、がっ、あああああっ!?」
 ペインがそれを一気に引いた瞬間、鉤爪が瞬時に相手の全身を引き裂いた。瞼越しに眼球を抉り、喉を締め上げ、皮膚ごと手足の腱を断ち切ってゆく。白い毛並みは一瞬にして赤黒く染め上げられ、ダメージ以上の激痛が相手の全身を駆け巡る。
「が、ぐっ、ぁあ……! 此度の、相手は、複数か。なら、ワタシも、頭数を増やそう。魔狼が率いし、死者の軍勢……貴様らも、その一部と成れっ!」
 常人であれば五回は失神してしまうほどの痛みに耐え、反撃の意志を保ち続けたという点は、敵ながら称賛に値するだろう。オウガが掠れ掠れの雄叫びを上げた途端、岩屋のあちこちから月光が差し込み始める。それら狂気を齎す輝きに照らされて浮かび上がったのは、亡霊の軍勢だ。狼の背に跨り錆付いた武具を握る彼らは、全てこの悪鬼によって食い散らかされた被害者たちのなれの果てである。
「全てがワタシと同じ人狼と化した、狼騎兵の軍勢。どれもが亡霊であり、かつ月光によって強化されている。は、はははっ! 我らが強みはこの数と連携だ。目や耳を奪おうと、初めから貴様らに勝ち目など……」
「おっと、ご満悦のところ申し訳ないが……その手は既に対策済みだ。怨霊が相手とあらば、陰陽師が前に出なければ話になるまい。さぁ、急ぎて律令の如く為せ!」
 充血によって真っ赤に染まった片目を抑えながら、獰猛に牙を剥いて嗤うオウガ。しかし、その余裕も津雲の放った一言によって瞬時に打ち崩された。彼が剣指を結び印を切るや、岩屋の各所に張り付いていた霊符が一斉に起動。あちこちに結界が展開され、障害物と化して敵の連携を寸断してゆく。
「霊体とは言え、否、だからこそこの結界を無視は出来まい。うかつに近づけばそちらが痛い目を見るぜ。だがそれを加味しても、数の差は如何ともしがたいからな。こちらも手数を増やすとしよう」
 そうして相手の機動力が低下したのを確認すると、津雲は更なる一手を打つ。周囲に浮かび上がるは、四百を優に超える鉾槍。当然、その全てに破魔の霊力が籠められている。
「霊に陰陽師なら、騎兵には槍衾が定石だろう。とは言え、上に乗る者らは本を正せばみな被害者だ。狙うのは下の狼で十分……彼らに必要なのは刃でなく、救いなのだからな」
 号令一下、鉾槍は一斉に敵群目掛けて降り注いでゆく。それらは言葉通り、幻狼の半透明な胴体へと突き立ち、次々と地面に縫い留め消滅させていった。だが一部はそれを掻い潜り、結界の障壁すらも飛び越えて猟兵へ牙を突き立てんとする。
「物語の中じゃ、狼は退治されてお終いって相場が決まっているんだ。そっから筋書きが外れたら、めでたしめでたしで終わらないっての!」
「それに、狼に飲み込まれた被害者も最後には助け出されるのが常だからね? 背中に縛り付けているアリスたちも、片端から解放するとしようか」
 しかし、仲間の創り出してくれた隙をむざむざ傍観しているほど、語もファンも甘くは無かった。
 語は猛然と迫ってくる狼騎兵に対して、深相円環を投擲。機先を制して突撃の勢いを減じさせるや、奏剣を振るう。初撃こそ相手の得物に防がれたものの、一瞬だけでも足を止められれば十二分。大きく弧を描いで戻ってきた円刃が狼へと吸い込まれ、刀身に帯びた魔力によって頚を断ち落としてゆく。
 一方、ファンは奇襲時と同じように紫炎を軸とする戦術に徹していた。今や岩屋内は狂気の月光によって照らし出され、狼騎兵は全身に燐光を纏いながら疾駆する。炎に照らすまでも無く敵の脅威は容易く一瞥でき、それらに対して次々と忌むべき熱を浴びせかけてゆく。だが、数と機動力では依然として相手に利がある。焔を突破した個体が、物陰へと身を隠したファンへ襲い掛からんと跳躍し……。
「これはいわば穴熊だ。おっと、狼じゃ将棋は知らないかな? ……攻め口が狭いとどうなるか、冥途の土産がてらに勉強してもらおう」
 その口腔深くへ、白き刀身が突き立てられた。前後の速度なら兎も角、こうも進路が狭められては左右には動けない。そのまま浄化の霊力を開放するや、上に縛り付けた亡霊ごと狼は消滅してゆくのであった。
「あー、流石に浄化手段までは持ち合わせていないからな……倒すだけ倒してあとは知らん顔するってのも、些か以上に寝覚めが悪いんだが」
「なら、それに関してもこちらが請け負うとするか。まだまだ鉾槍は残っているから、並行して作業も出来よう。語は活劇譚で引き続き全体の底上げを頼む」
「オーケー! それじゃあ、もう一節語らせて貰うとしましょうか!」
 ファンの戦いぶりを横目で見ていた語が眉を顰めると、すかさず津雲が助け舟を出す。確かに狼騎兵の亡霊群は様々な意味で脅威ではある。しかし、然るべき手段と連携を意識すれば、決して対処しきれぬ相手でもなかった。瞬く間に駆逐されてゆく己が軍勢を目の当たりにし、闘争心が一瞬萎えたのだろう。そこで初めて、オウガは怯えた様な呟きを漏らす。
「ば、かな……あの『オウガ・オリジン』を討った実力が、よもやこれ程とは……っ」
「今更学習したところで、遅すぎる、かな。ファンの言葉を借りれば、既に『詰み』だよ」
「っ!?」
 死角より聞こえてきた声に対してオウガは咄嗟に剛腕を振るうも、無数の鞭が巻き付きズタズタにされる。動脈を断たれ滂沱と鮮血が流れ落ちる腕を抑えつつ、振り返った先にはペインが佇んでいた。配下は既にその大半が討ち取られており、自らの援護に回せる余力はない。
「どいつもこいつも、ワタシの国で散々好き勝手するなど……! この月光を浴びて狂う弱者風情に、生きる資格などそもそも無いと思い知るが良いッ!」
 結局の所、最後に頼れるのは己だけ。オウガは全身に月光を集中させ、肥大化する本能と身体能力によって恐怖を打ち消してゆく。同じように、青白い輝きに飲み込まれる青年。しかし、彼の様子が変わる気配は一切なかった。
「これが、狂う月? 生憎、そんなの、自分には、効果が無いよ」
「そ、そンナ訳があルか!? 心ヲ、意志を持つ物でアレば逃れらレヌはずダ!」
 人狼は否定の言葉をぶつけるが、目の前の現実は変わらない。その声音には塗り潰しきれぬ動揺と恐怖の色が確かに滲んでいた。それを前に、一歩一歩ゆっくりとペインが歩み寄る。
「自分は、拷問具"指潰し"。生けるものを傷つけ、恐怖を与える為に造られた存在。そんなのが、縁とか、ロマンとか。そう言った、あたたかいモノのために、動いている。斯く在れかしと望まれた道具が、勝手にその意に反しているんだ」
「オ、オオオオオオオオッ!?」
 言語化不能な危機感に突き動かされ、オウガは近づいて来るペインへと襲い掛かる。対して、彼はただ静かに握り締めた猫鞭を振りかぶり……。
「――ね。これ以上無いほど、すでに、狂っているんだよ」
 一切の躊躇も、情けも、容赦もなく。指潰しは同胞による一撃を叩き込む。まるで意志を持つかの如くのたうつ鞭は、相手の全身と言う全身に傷を刻み込み、毛皮を剥ぎ取って行った。最早、死に至る事は疑いようもないダメージである。しかし、オウガはまた何処までも『獣』であった。
「ァ、アあ……がぁぁッ!」
 猟兵側にとって、誤算は二つ。一つは相手の耐久力が予想以上に高く、しぶとかったこと。もう一つはここに来て縄張り意識や闘争心よりもなお原始的な本能、つまりは『生存』を優先したことである。オウガは苦痛と言う体の発する警告に従い、死に体とは思えぬ身体能力で岩屋から逃走を計ったのだ。
「なるほど、確かに死ぬまで縄張りを守ろうとする動物はいない。敗者はただ、自発的に去るだけだ」
「だが、どこぞへ逃げられてまた暴れられては敵わん。出来ればこの場で仕留めきりたい、が……」
 ファンが逃げる相手の背中へ焔を放ち、津雲も追撃の鉾槍を差し向けるも、人狼はご丁寧に残った狼騎兵をかき集めて援護に回していた。身を挺して攻撃を防がれている間に、相手の姿は薄闇の中へと消えてしまう。
 このままでは、離れた場所で待機しているファウリーが狙われる可能性も無いとは言い切れない。そうなれば状況としては最悪だ。すぐさま追討戦へ移行しようとする仲間たちへ、寸前で待ったを掛けたのは語であった。
「どうやら、心配は要らないみたいだぜ? 話には聞いていたが、本当にアリスの事が大切らしいな……オウガが逃げを打った直後に、黒兎はウサギ穴を開通させてすっ飛んでったよ」
「一人で、かい? それは余りにも……」
「いや、俺たちとはまた別の猟兵が待機していたみたいだ。距離的にもそっちの方が近いようだし、合流しつつ追いかけるってよ。まぁ、あの傷の具合じゃどのみち逃げ切れないだろうがな」
 心配するペインに、やれやれと肩を竦めつつ応える語。ともあれ、既にオウガへ追跡の手が伸びているのであれば、そこまで差し当たり危険はないのだろう。だが念には念を、である。
「取り合えず、ファウリーと合流しておこうか。万が一、あの子に何かあったらどやされそうだ」
「まったく、違いない。黒兎の方も心配だが、奴なら自分よりもアリスを優先しろと言うだろうしな」
 周囲にもう敵が居ないことを再度確認すると、ファンや津雲は今も帰りを待っているアリスの元へと向かう事に決めた。国を買えたとしても、住むべき人間がいなければ本末転倒である。そうして四人は残されていたウサギ穴へと飛び込むや、来た道を急いで戻り始めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ロラン・ヒュッテンブレナー
●アドリブ歓迎
耳や尻尾に感情がかなり表れる

不思議の国、取り返す…
いつか、ダークセイヴァー解放の、練習なの

奇襲には、狼形態で参加するね
夜目【暗視】の良さと、音に匂い【聞き耳】で【情報収集】なの
狼の狩りは、暗闇の中、ゆっくり静かに確実に、なの
闇に紛れて、他の人たちの戦いを見て【学習力】なの

データが取れたら、【ダッシュ】【残像】で近寄って近距離から電撃の【属性攻撃】魔術を撃ち込んで闇に紛れるよ

狂気感染を使ってきたら、ぼくも【全力魔法】でUC発動なの
人狼は満月の魔力で、強くなるの
命を削る力だけど、それを今まで制御してきたから…

高速移動で音撃のヒット&アウェイを繰り返すよ

音狼はこんな事じゃ狂わないよ



●今日の勝利、いつかの勝利
「はっ、はっ、はっ……ッ!」
 埃っぽい荒野を、オウガはただ一人走り続けていた。走ると言っても、その速度はせいぜい小走り程度。だが、それも無理はない。度重なる猟兵との戦闘によって、オウガは既に半死半生と言った有様。全身を焼けるような痛みと失血による悪寒に襲われながらも、何故動き続けるのか。それは『生存』という、最も原始的な本能に突き動かされた結果であった。
「どこか……どこか、別の国に行ければ。そうすれば、再起できる。国は失っても、また取り戻せるが、命はそうも、いかない……っ!」
 生き延びる。ただそれのみを求め当てもなく進み続けるオウガ。しかし、その背後より……。
「どこか別の国で再起を、か。うん。傷だらけでちょっと同情しかけたけど……そういう事なら、手加減は無しなの」
「っ、がぁ……!?」
 紫色の疾風が音も無く肉薄したかと思うや、すれ違い様に両者の間へ白光が迸った。一時的に四肢の自由が奪われ、堪らずその場へと崩れ落ちるオウガ。歯を食いしばりながら首を巡らせると、狼の姿へと変じたロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)が油断なく視線を向けてきていた。それにより、今の輝きが彼の放った電撃魔術だと悟る。また、そのすぐ傍には黒兎の姿もあった。
「……やれやれ。岩屋から逃亡したと聞いた時は肝が冷えたが、貴君が居てくれて助かった。駆けつけてくれた事と合わせ、礼を言わせて貰おう」
 岩屋からオウガが逃げ出した瞬間、すぐさま黒兎はウサギ穴を使って追跡を開始していた。少し前に転送され攻撃の機会を伺っていたロランと合流するや、道中で相手の能力や戦術を共有。その結果、こうして奇襲を成功させたのである。
「ううん、感謝されるほどじゃないの。不思議の国を、取り返す……いつか、ダークセイヴァーを解放する為の、練習なの」
 知識を重んずる家系に生まれた少年にとって、この『不思議の国』奪還というのはある意味で試金石となり得る。吸血鬼の圧政下にあるダークセイヴァーや群雄割拠のグリードオーシャンなど、そう言った世界の攻略にも応用できるかもしれない。そんな狙いもまた、ロランの戦意を高める一助となっていた。
「狼の狩りは暗闇の中、ゆっくり静かに確実に、なの。気配も無く忍び寄れるウサギ穴に、遠くからでも分かる血の匂い……奇襲を外す方が難しいの」
「……最後の最後に現れる相手が人狼とは。まったく、忌々しい事この上ない。互いの手の内がある程度見えてしまうからな」
 対して、オウガはあからさまに不機嫌そうである。同じ種族とあって、相手の厄介さが嫌でも分かってしまうからだ。しかもその上、猟兵は無傷に対しオウガは瀕死の体。そもそもの状態が余りにも違い過ぎた。
「まずは、身体を動かせるようにならねば、話にならないか……ならばいざ仰げ、忌まわしき呪いの月明かりを!」
 体が動かなくとも、無理やり動かざるを得ない。その為にオウガは夜空に満月を生み出し、周囲一帯を月光で照らし出してゆく。理性を奪い、狂気によって本能を引きずり出す輝き。だが同じ人狼であるロランにとって、それは決して不利な要素足り得なかった。
「月下の音狼、暗き夜の森より、鬨を上げ。従う者に、命ず。汝、猟者なり」
 ――ウォォォオオオオオオンッ!
 詠唱と共に戦場へ高らかに響き渡る遠吠え。狂気を齎すはずの力を己に利する形へと変換し、ロランは全身へと纏ってゆく。首元に現れた首輪型の紋様が、彼の理性がまだ働いている事を示していた。
「人狼は満月の魔力で、強くなるの。確かに命を削る力だけど、それを今まで制御してきたから……うん、問題は無いの」
「つくづく苛立たしい同類だ。月の呪詛をものともしないとはなぁッ!」
 満月を見れば己を手放さざるを得ないオウガからすれば、少年の在り様は望んでも手に入らぬものなのだろう。湧き上がる激情へ身を任せる様に、血濡れの狼は地面を蹴って襲い掛かってくる。だが荒々しいと言えば聞こえは良いが、その動きは負傷も相まって精彩を欠いていた。
「それはきっと、貴女が諦めてしまっただけ……音狼はこんな事じゃ狂わないよ」
 故に、ロランは危なげなく身を捩って爪撃を躱し、相手の顔面目掛けて顎を開く。肺腑より押し出され、喉で増幅された雄叫びは強烈な衝撃波と化して、オウガへ叩きつけられた。たった一撃、されどギリギリで持ちこたえていた体力は音撃によって呆気なく吹き飛ばされ――。
「これでもう、月を恐れる必要も……ない、な……――」
 オウガはごろりと地面を転がり、それきり動かなくなった。同じ人狼としてロランも思うところが無い訳ではなかったが、相手の事情含めて全ては遠い過去の話だ。今優先すべきことは、明日を生きる者たちについて。
「一先ず、これで終わりなのかな?」
「の、様だな……ほう。見給え、夜が明けるぞ。どうやら、この世界が夜闇に覆われていたのは奴が原因だったようだ」
 ホッと一息ついていたロランが黒兎に促されて視線を向けると、遥か彼方の地平線よりうっすらと橙色の輝きが顔を覗かせていた。その光景は『不思議の国』がオウガの支配下より解放されたという事実を、何よりも如実に示している。
 そうして二人は陽の光に包まれながら、帰りを待つアリスの元へと足を向けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 日常 『あなただけの明日』

POW   :    強い気持ちを持って、明日への希望を抱く

SPD   :    時の流れが自然と明日へ進めてくれるはず

WIZ   :    ひとつひとつ、気持ちの整理をつけることで明日へ進む

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより
第二章断章とプレイング受付は9日夜に投下予定です。
●明日へ、その先へと至る為に
 狂気と暴力によって不思議の国を支配していたオウガは、猟兵たちの手によって討たれた。それに伴い、今まで変わる事の無かった漆黒の夜空が白み始める。地平線上より顔を覗かせる、幾年月振りかの太陽。眩いばかりの輝きは解放を言祝ぐかのように、不思議の国全体を照らし出してゆくのであった。
「おかえり、なさい。黒兎さんも、猟兵の皆さんも。本当に……無事で、良かったです」
「はっはっは、ファウリーを遺して死ねるものか。実際に一度死んでいるしな。流石に二度目は御免被るよ。少なくとも、今はまだな」
 戦闘を終え帰還した猟兵と黒兎を出迎えたアリスは、心の底から安堵したように笑みを浮かべた。信頼してはいたものの、だからと言って不安にならぬ訳ではない。思わず涙ぐむ少女の頭をポンポンと叩きながら、黒兎は猟兵たちを振り返る。
「……改めて、私からも礼を言わせて貰おう。正直、二人だけであのオウガを打倒する事は不可能だった。こうして目論見通り、不思議の国を奪還できたのは諸君らのお陰だ。重ね重ね、感謝する」
 そう言って深々と頭を下げる黒兎と、それに倣って同じようにお辞儀をするアリス。当然のことをしたまでだと返す猟兵たちに苦笑を浮かべながらも、黒兎はさてと話題を切り替えてゆく。
「さて、こうして不思議の国を購入した訳なのだが……見ての通り、現状此処には何もない。どこまでも赤茶けた荒野が広がっているだけだ。ゆくゆくは自分たちで発展させてゆくつもりとは言え、流石に最低限の生活基盤が無くては干乾びてしまう」
 永らく陽が射さなかった影響か、この世界には樹木は愚か僅かばかりの下草さえ見当たらない。川くらいであれば探せば見つかるだろうが、地面も乾燥気味であり、かつ大小入り混じった石が散らばっている。オウガの使っていた岩屋も雨風を凌げはするものの、ただの少女が寝起きするには些か以上に険しいと言わざるを得ない。
 そこで、だ。そう言って、黒兎は傍らに積まれた黄金卵の山を指し示す。
「再びの頼みで誠に恐縮だが、諸君らにはこの国の復興を頼みたい。予算についてはこの黄金卵を使ってくれ給え。単純な金子としては勿論、ある程度の魔力もあるから異能の代償にも使えるはずだ。勿論、謝礼替わりでもあるから持ち帰って貰っても構わない」
 黄金卵の数は二桁を優に超え、三桁に届いているかもしれない。よくもこれだけ集めたものだが、復興資金としては十分すぎる。しかし、何を作ればよいのかと猟兵が問いかけると、黒兎は肩を竦めた。
「何かを買うのに慣れてはいるのだが、一から創るとなると如何せん経験が無くてな」
「……私も。そう言った物事とは、元々縁が遠かったから。だから、いざこうなってもすぐには思いつかなくて……すみません」
 そう申し訳なさそうに告げてくるアリスだが、それならそれでやりようはある。土地と資金は十分にあるのだ、見方を変えれば自由度は極めて高いとも言えるだろう。それに一緒に復興作業を通じながら交流してゆけば、何か希望が出てくるかもしれない。
 ただし、国は得られてもオウガの脅威は常に付き纏う。或る程度の自衛設備なども必要だろう。
「でも、猟兵の皆さんなら素敵な国を作ってくれるって、信じられます。だからどうか、思うままにお願いします」
「とは言え、現状の人数だと手が足りなさ過ぎるが……おや、これは丁度良い」
 残るは人手だけだったが、その問題もすぐに解決した。黒兎の視線を追ってみると、その先にはこちらへと集まってくる愉快な仲間たちの姿が見える。オウガが打倒された結果、その立役者である猟兵たちを頼ってきたのだろう。人手が欲しければ、彼らに頼めば快く協力してくれるはずだ。
 斯くして、準備は整った。あとは猟兵たちのアイディアと発想力次第。

 ――さぁ、どんな国を作ろうか?

※マスターより
 プレイング受付は11日(金)朝8:30から開始致します。
 第二章は不思議の国の復興となります。好きな物を建てるのでも良し、アリスや黒兎と話して希望を聞き出すも良し、自由に発展させてください。仮に生活に必要な施設が無くとも、復興が完了すればある程度の生活基盤が備わります。
 より良い国になれば、第三章でボーナスが発生します。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
エドゥアルト・ルーデル
ここに塔を建てよう
拙者に求められているのはそういう事だと思うんだ

現場愉快な仲間達と監督【知らない人】ヨシ!ご安全に!
実用性が大事ですぞ!Flakタワーめいて見張りと守りの要として頑丈に仕上げるでござる!
いつまでも残る塔は国の象徴に…そして建国神話になるでござるよ…


黒き兎とアリスの少女がいた
彼女達は敵同士だった立場を乗り越え手を取り合い、悪しき狼を打倒し、この地を治められた
そこで彼女らは己の資材を抛ち溢れんばかりの愛を持って流浪の民に安息を与え、最後にこの塔をお建てになられた
塔はこの地の平和と愛の象徴として愛され、やがてキマシの塔と呼ばれたのである

エドゥアルト(談)
文責:知らない人



●百合の塔を打ち立てよ
「――ここに塔を建てよう。拙者に求められているのは、きっとそういう事だと思うんだ」
「貴君は何を言っているんだ……」
 開幕一番これであった。煌々と伸びゆく朝日の輝きを全身に浴びながら、エドゥアルトはまるで天啓を受けたかのように両腕を頭上へと掲げている。零れ落ちた呟きを耳聡く拾い上げた黒兎は、そっとアリスを背の後ろへと庇っていた。
「いやいや、待つでござるよ黒兎殿。これにはしっかりと合理的な理由があるのでしてな」
「合理的な理由?」
 訝しむ黒兎に対し、エドゥアルトは然りと打って変わった真面目な表情で頷いた。
「喫緊で必要な要素、それは居住性と防御設備でござる。いきなり城だの宮殿だのは難しいでござるが、塔ならまだ手軽な上にそれらを備えているのですぞ?」
 塔。様々な用途で建てられる建造物であるが、なんと言ってもその特徴は高さにある。高ければ高いほどより遠くを見渡せ、オウガの接近をいち早く発見することが出来るだろう。また縦長の構造を支える造りは頑丈で、内部も狭く侵入は困難。利便性に難こそあるが、部屋を作れば生活拠点にもなり得る。
「先の迷宮災厄戦でも、天文台を兼ねた塔を攻略する戦場もありましたしな。構造なんかも一通りは把握済み、無論その性能も身を以て体験しておりますぞ……!」
「天文台……まだまだ、先の話かもしれないけど。でも、遠くまで見渡せるのは、素敵かもしれませんね」
 傭兵の説明に少女は期待感で顔を輝かせる。説明は確かに合理的であり、尤もらしい。黒兎もまたふむと暫し思案した後、ぽつりと口を開いた。
「なるほど、理解は出来た……で、本音は?」
「仲の良い女の子が二人居たら塔を建てる。それが拙者たちのジャスティス……!」
「済まない、却下しても良いだろうか」
 とまぁ、そんな一悶着を起こしつつもエドゥアルトは塔の建築を開始したのであった。

「はーい。という訳だけれども、拙者は飽くまでも傭兵であるからして。此処は専門の方をお呼びしたでござる……カマンッ、どっかから流れてきた工事監督!」
「何だか知らんがとにかくヨシ! 今日も一日ご安全に!」
 助っ人としてエドゥアルトが呼び出したのは、例によって出自不明の知らないであった。一応、黄色いヘルメットや蛍光色のツナギを着ているが、なんだか駄目な気配が滲み出ているのは気のせいだろうか。一抹の不安を覚えつつも、集められた愉快な仲間たちは指示に従いテキパキと作業を進めてゆく。
「実用性が大事ですぞ! Flakタワーめいて見張りと守りの要として、頑丈に仕上げるでござる! ゆくゆくはこう、レベルが上がれば近づくだけで歩兵が溶けるような、そんな難攻不落な塔を目指すでござるよ!」
 無論、傭兵も彼等に混じって建材となる岩やコンクリを運んでは積む作業を繰り返してゆく。もし仮にエドゥアルトの構想が実現すれば、赤き波濤を蹴散らし爆弾の直撃にも耐えうる拠点が聳えることになるだろう。
「いつまでも残る塔は国の象徴に……そして建国神話になるでござるよ……だからこそ、記憶を記録として刻み込まねば……っ!」
 瞬く間に塔を完成させてゆく様子を横目に、エドゥアルトはノミとハンマーを手にコソコソと何かを作業してゆく。そうして十分な高さと頑強さ、最低限の居住性を備えた塔が建てられた。
「わぁ……高くて、すごいです!」
「これはどうして、中々に……って、うん?」
 その出来栄えにアリスは感嘆の溜息を零し、さしもの黒兎も唸らざるを得ない。だがふと、塔の基部に何かが刻まれている事に気付く。なんであろうかと近づいて目を凝らすと、それは文章である。目を走らせれば、次のような内容が記されていた。

『黒き兎とアリスの少女がいた。
 彼女達は相容れぬ者同士だった立場を乗り越え、手を取り合い、悪しき狼を打倒し、この地を治められた。
 そこで彼女らは己の資材を抛ち溢れんばかりの愛を持って流浪の民に安息を与え、最後にこの塔をお建てになられた。
 塔はこの地の平和と愛の象徴として愛され、やがてキマシの塔と呼ばれたのである――』
                   エドゥアルト(談)、文責:知らない人。    

「……誰かノミかハンマーを貸してくれないかね? これを削り消したいのだが」
「HAHAHA、ナイスなジョークでござるなだからホントに削ろうとしないでお願い止めてッ!?」
 ――と、何はともあれ。国造りの第一歩はまず、塔の建設より始まるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィーナ・ステラガーデン
んー。家とか村とかじゃなくて国よね?
国っていうことはまず国民が必要よね
人が集まる為には何がいるかしら?

安心安全じゃないかしら?いや別に必要ないわね。自分達でぶっ飛ばせばいいのよ(フィーナ基準)
おいしいご飯じゃないかしら!結局作る人が必要よ
やっぱり他の国より目立つことが大事だと思うわ!!
目立つ物。お城?ピラミッド?塔?んー。別に私は欲しいとは思わないわね!
私なら彫像が欲しいわ!そうね!彫像にしましょ!

というわけで国の真ん中に大きな彫像を作るわよ!
なんかでっかい岩とかあれば私が魔法(爆破)で削り作ってもいいわ!
目立つように金箔とか貼ってもいいわね!
ファウリーと黒兎の彫像ね!恥ずかしい?誇りなさい!



●神話の隣に偶像在りき
「はっはっは。うむ、初手からこう、どうしてこうなったというかな」
「私は、とっても素敵だと思いますよ……確かに、ちょっと気恥しさはありますけど」
 トップバッターとして挑んだ猟兵によって建てられた頑丈な造りの塔(建国神話付き)を見上げ、黒兎とアリスはその出来栄えを確かめている。ともあれ、取り急ぎの防備と住居は出来上がった。
「んー。家とか村とかじゃなくて国よね? 国っていうことはまず国民が必要よね。愉快な仲間たちだってそうだし、まだまだアリスだって新しく召喚されているし……人が集まる為には何がいるかしら?」
 であれば次は何を作るべきかと、フィーナは首を捻る。やはり、今後の発展や防衛を見据えるのであれば、より多くの住人を集める事も視野に入れるべきだろう。数とは即ち力だ。様々なアリスや時計兎、愉快な仲間が集まれば、それだけで取れる選択肢が増えるというもの。
「う~ん、やっぱり一番は安心安全じゃないかしら? いや、別に必要ないわね。今回みたいに自分達でぶっ飛ばせばいいのよ」
 なお、ぶっ飛ばすの基準はフィーナ自身なので、当てになるかどうかは大分怪しかったりする。とは言え、こちらは防衛施設を整えればある程度は埋め合わせることも出来るはずだ。
「なら、おいしいご飯じゃないかしら! ……いや、これは結局作る人が必要よね。ファウリーや黒兎って、料理は出来るのかしら?」
「よ、汚れを落とすくらいなら……多少傷んでいても、なんとか耐えられるようになっていたから」
「私も自分でやった経験は余り、な。二人で旅をする道すがら多少の煮炊きは身に着けたが、料理と言うには些か大雑把に過ぎる」
 アリスは目を逸らしながら苦笑を浮かべ、黒兎は肩を竦めて首を振る。どうやら、この案も駄目らしい。これまではその日その日を生き延びることに必死だったのだ。そちら方面に関しても、ゆくゆくの成長に期待するしかないだろう。
「となると、そうねぇ。手っ取り早くかつ効果的な手段、そんな都合のいい何かだなんて……あ、そうね!」
 ああでもないこうでもないと思案しながら、うんうんと唸るフィーナ。ふと、彼女は先ほど建てられたばかりの塔と、其処に刻まれた神話(?)へと目を止める。そこで何かを閃いたのか、ポンとひとつ手を打った。
「やっぱり他の国より目立つことが大事だと思うわ!! この塔みたいに遠目からでもはっきりと分かって、何かシンボルになるようなもの!」
「シンボルになる建物、ですか……?」
 確かにそれはある種の妙案であるかもしれない。寄らば大樹の陰、なにか目を惹くような物に引き寄せられて人が集まり、発展した例は幾つもある。小首を傾げるアリスと共に、フィーナは候補を挙げ始めた。
「目立つ物。お城? ピラミッド? 宮殿? んー、面白いかもしれないけど、別に私は欲しいとは思わないわね! 私なら……彫像が欲しいわ! そうね! 彫像にしましょ!」
「貴君は何を言っているんだ……」
 黒兎、本日二回目の絶句である。彫像だけで在れば、まだ良かった。しかし、塔&神話とセットに考えたらどうだろうか。嫌な予感しかしないのである。
「創るモチーフは何にするつもりですか?」
「それは出来てからのお楽しみね! というわけで国の真ん中に大きな彫像を作るわよ!」
 期待に満ちた眼差しを向けるアリスと、得意げに胸を張るフィーナ。一方、黒兎は微妙そうな表情を浮かべるのであった。

「作り方だけど、基本は岩を魔法で削り取れば良いわね。材料は……この岩屋を流用すればいいかしら。位置的にも丁度良いし打ってつけね!」
 幸い、素材となる物には事欠かなかった。愉快な仲間たちの力を借りて岩屋を構成していた巨石を二つ運び出すと、くるりと杖を差し向ける。その先端に魔力が収束したかと思うや、大小様々な爆発が立て続けに巻き起こってゆく。始めは大きな爆発で余計な岩を吹き飛ばし、続いて小さな衝撃で細部を整える。熟達した魔法の技量により、瞬く間に彫像は輪郭を成してゆき……。
「よっし、形はこれでオッケーね! あとは目立つように金箔とか貼ってもいいわね! 幸い、材料は黒兎が用意してくれているし!」
 出来上がったのはファウリーと黒兎が手を携えている彫像であった。その巨大さや精緻さも相まって、確かに遠目からでも目を惹くだろう。アリスはその完成度に感嘆の溜息を吐く一方、黒兎は頭を抱えていた。
「予想はしていた。していた、が……!」
「なに、恥ずかしいの? 誇りなさい! アンタたちが勝ち取った国なんだからね!」
 意気揚々と黄金卵を炎で溶かし、薄く延ばして彫像を塗装してゆくフィーナ。斯くして塔と並び立つように、金色の少女像が建立されるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ペイン・フィン
【路地裏】

1つ1つ拷問具を取り出して、卵と一緒に投げる
そして、コードを使用

"クランツ"は木の皮に穴を開けただけの面をつけた山賊
"黒曜牛頭鬼"は黒曜石製の牛頭鬼
"ジョン・フット"は全身包帯の上から執事服を着た青年
"キャット・バロニス"は黒いドレスとベールの女性
"ニコラ・ライト"は無機質な仮面のメイド服サイボーグ
"煉獄夜叉"は着物姿に顔を和紙で隠した黒髪の女性
"インモラル"は顔が影になっている、にやけた笑みのピエロ

……全員一緒だと、流石に壮観
じゃ、始めよう

岩を砕き、運んで加工して、高く積む
外敵が来ても解るように
そして、これからできていく国が、よく見えるように
見晴らしの良い塔を、兄姉皆で、立てていく


落浜・語
【路地裏】

あぁ、狐珀。うん、一緒に行こ。
さて、何をしようかなぁ。

狐珀と津雲さんは水の確保、フィンさんは塔作りか……。特に俺は何かに特化したりとかそう言うのもないしなぁ。できること少ないし。
……うん、そしたら、俺は荷物とか必要なものの運搬をしようか。
UC【烏の背中】を使用。カラス、悪いが手伝ってくれな。あとでいつもより礼は奮発するからさ。払いのいいパトロンが今回はいるしな。
カラスの協力を得て必要なものを必要なところへ運ぶ。あるいたりで運ぶよりも、数は多く運べるだろうし。
いい国が作れるといいな。


勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
おっと、暗くて気づかなかったが、吉備も来ていたんだな。よろしく頼むぜ。

【行動】
さて、おれは、そうだな、堀でも作るとしようか。戦闘時には守りにもなるし、平時には灌漑施設としても使えるだろう。……ただ、愉快な仲間たちの力を借りても、なかなか大がかりな工事になるかな。ぐるりと取り囲むのは諦めて、四方のうち一方だけにしぼれば、ある程度形にはなるか? 掘った土も何かに使えるだろう。おっと、穴掘り名人とな? そいつは助かるな。

空堀より水堀にしたいところ。水は、【エレメンタル・ファンタジア】で雨を降らせるとしようか。雨乞いは古来より陰陽師の務めだしな。これで大地も多少は潤うだろう。


ファン・ティンタン
【WIZ】刻む名は、
【路地裏】

国造り、ね
平和で豊かな世なら、小さな家でもあれば二人には十分なのだろうけれど
ま、幸いにも同じ思いはこの地に多くあるようで
なら、力を借りない手はない

【如意宝刃】
あなた達が一意に安息を望むのなら
その願いは絡み、太く、大樹の如き想いに成るだろう
―――さて、汝ら、何と欲す?

国は民なり
民が同じ方を向かねば国は立たぬ
どんなに肥沃な国土を持とうと
どれだけ絢爛な街並を構えても
志揃わぬ国は、内から崩れるだろう
……まずは、みんなで名前を呼び合うところからかな?

時に、黒兎
相棒の子にあって、あなたに無いモノがあるよね
あなただけの、名前
いい機会だ、みんなに考えてもらうといいんじゃないかな?


吉備・狐珀
【路地裏】

前にファン殿達が関わった方達だと聞いて、気になりまして
ここからはご一緒させて下さい!

堀を作るなら生活用水の確保のために井戸もほしいところですね
井戸と堀、両方こさえるの愉快な仲間たちが手伝ってくれるとはいえなかなか大変そうです
UC【一獣当千】使用
呼び出すのは穴掘り名人プレーリードッグ
黒兎殿が用意して下さった金の卵を使わせて頂くことにしましょうか
あの卵であなた達の大好きな野菜や果物がたくさん用意できます
それで協力お願いできますか?

穴掘りお願いついでに、花壇や畑用に土をやわらかく耕してもらいましょう
私は報酬の餌の調達と合わせて苗木や種も仕入れてきますね
ウカとウケは運ぶお手伝いをお願いします



●水と、塔と、そして名を
 先んじて駆け付けた猟兵たちによって塔と彫像、二つの象徴的な建築物が『不思議の国』の中心部に聳え立った。であれば、次は此処を基点として復興の手を付けてゆくべきだろう。
「さて、まずは何処から手を……って、お?」
「……ああ、やっぱり。語さんたちも来ていらしたのですね」
「おっと。戦闘中は暗くて気づかなかったが、吉備もこっちに来ていたんだな」
 さてどうしようかと、語や津雲を始めとして思案する【路地裏野良同盟】の面々だったが、ふとこちらに歩み寄ってくる人影に気付く。それは同じ旅団のメンバーである狐珀であった。どうやら、彼女もまた別口で参戦していたらしい。
「前にファン殿たちが関わった方達だと聞いて、どうしても気になりまして……ここからは私もご一緒させて下さい!」
「あぁ、狐珀。うん、一緒に行こ。さて、と。こうして面子も揃った事だし、それじゃあ何をしようかなぁ」
 狐珀の申し出に、一も二も無く頷く語。ともあれ、人手が増えたことで取れる選択肢も増えた。今後、この場所で生活するという観点から何を作るべきか。後から必要な要素を付け足していってもそれはそれで良いのだが、初めから先を見据えた計画を立てるに越したことは無いだろう。
「国造り、ね。平和で豊かな世なら、小さな家でもあれば二人には十分なのだろうけれど。生憎とこの場所はそれと程遠そうだし、生活基盤を充実させないといけないかな」
「そういう事なら、そうだな……おれは堀でも作るとしようか。戦闘時には守りにもなるし、平時には灌漑施設としても使えるだろう。こうも乾き切った土地柄だ、まずは水気を行き渡らせねば始まるまい」
 ざっと周りを見渡し地形の把握に努めていたファンの横では、津雲がある意味で彼らしい案を上げていた。水は最も得意とする分野であるし、流れや地形というものは風水の分野に属する物。陰陽師たる津雲であれば、最適な形を導き出すことが出来るだろう。
「ただ、愉快な仲間たちの力を借りても、なかなか大がかりな工事になるかな。ぐるりと取り囲むのは諦めて、四方のうち一方だけにしぼれば、ある程度形にはなるか?」
「堀を作るなら、生活用水の確保のために井戸もほしいところですね。井戸と堀、両方こさえるのは愉快な仲間たちが手伝ってくれるとはいえ、大分時間が掛かりそうですが」
 水に関する事ならばと、狐珀もまた井戸を掘る事を思いつく。作業用と生活用では使える安全の基準もおのずと違ってくる。大規模な堀を作るのならば、一緒にそちらも整備出来た方が手っ取り早いだろう。とは言え、穴掘りは単純であれど中々の重労働である。尤も、初めから完璧である必要はない。
「なに、今すぐに全てを完成させなくとも良いだろう。こちらで絵図面をある程度引きさえすれば、後々彼等だけでも作業は出来るはずだ」
「ええ、そうですね。まずは最低限必要な数を、お手本になる様に作れれば……それを元にして、独力で完成させることもそう難しくはないでしょうから」
 何処に何を作れば効果的で便利か。その指針と、共に実際の作業を行った経験。それらを伝えることさえ出来れば、国造りのスタートとしては上出来だろう。
「という訳で、私と津雲殿は治水関連の作業に専念しようと思うのですが……問題ないでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ。それぞれ手分けして作業した方が、効率も良いだろうし、ね。そちらは頼んだよ?」
 仲間の問い掛けに問題ないと頷くペイン。陣頭指揮を執れる者がこれだけ居るのだ。ならば、それぞれ並行して復興を進めるべきだろう。狐珀と津雲は待機していた愉快な仲間たちへ声を掛けると、まずは水源となる小川を探すべく地下水脈の気配を辿り始めるのであった。
 そうして遠ざかる仲間の姿を見送りながら、どうやら赤髪の青年もまた造るべき建物を決めたらしい。
「自分も、案が決まったけれど。作業内容的に、人手の大部分は、あちらに割くべきだろうし……うん、それなら。黒兎、黄金卵を幾つか貰っても良いかな」
「ああ、無論だとも。まだまだ有るからな、存分に使ってくれ」
 黒兎は鷹揚に頷くと、積み上げられた山から数個を手渡してくれた。強化機能は消失しているとは言え、魔力的な触媒としては十二分である。彼は己が兄姉である拷問器具たちを取り出すや、黄金卵と共にそれらを宙空へ放り投げた。すると拷問具たちは芳醇な魔力と結びつくことにより、器物から人の形へと姿を変えてゆく。
 膝砕き“グランツ”は木の皮へ穴を空けた仮面を着けた山賊に。抱重石“黒曜牛頭鬼”はその銘の通り黒曜石で出来た牛頭鬼へ。焼き鏝“ジョン・フット”は全身包帯の上から執事服を着た青年へ変じ、猫鞭"キャット・バロニス"は黒いドレスとベールの女性と成る。
 電撃棒"ニコラ・ライト"は無機質な仮面のメイド服サイボーグとして地へと降り立ち、毒湯"煉獄夜叉"は着物姿に顔を和紙で隠した黒髪の女性の輪郭を以て佇み、多機能鋭刃"インモラル"は顔が影になっている、にやけた笑みのピエロ衣装で跳ね回る。
「……全員一緒だと、流石に壮観だね」
「おおぉ……凄いですね!」
「なるほど、これが貴君の同胞という訳か。して、彼らと共に何を作るつもりなのかね?」
 一瞬にして姿を見せた七つの人物、その個性的な姿をアリスは物珍しそうに眺め、黒兎もほうと溜息を吐く。彼らを呼び出した目的を尋ねられると、ペインは町の中心に立つ塔を指差した。
「自分も、塔を作ろうと思って、ね。中心には、これがあるから……取り合えず、津雲の造る堀とは反対側に、建ててみようと思うよ」
「成程、出城の様なものか」
 中心に立つ塔はいわば最後の砦である。万全を期すのであれば、守りは二重三重に構築すべきだ。国の外縁に塔を建てれば、警戒と防衛能力が大幅に向上するだろう。仲間の防御施設の穴を埋める様に建設出来れば、その効果も倍増である。
「狐珀と津雲さんは水の確保、フィンさんは塔作りか……特に俺は何かに特化したりとかそう言うのもないしなぁ。できることも少ないし。娯楽として落語を、なんて思ったがちょいとばかし時期尚早だろ」
 仲間たちが次々と為すべき事を見つけてゆく一方、語は未だピンと来るものを思いつけないでいた。だが、ここで発想の転換である。建物を作るには人手も重要だが、まずは資材が無ければ始まらない。
「……うん、そしたら、俺は荷物とか必要なものの運搬をしようか。堀も塔も、正反対の場所で作業するはず。なら、いちいち資材を取りに戻ってくるのも面倒だろうしな。という訳で、出番だぜ?」
 荷物の運搬役に徹すると決めた語は、空に向けてピィと小さく口笛を吹く。すると一陣の影が差したかと思うや、巨大な白首の鴉が地面へ降り立った。機動力と小回りを考えれば、まさに打ってつけであろう。しかし、重いモノを持たされる事を察知してか、カラスはグルリとやや不満げに喉を鳴らしていた。
「カラス、悪いが手伝ってくれな。あとでいつもより礼は奮発するからさ。払いのいいパトロンが今回はいるしな、好きなものは何でも頼んでいいぞ?」
 そう言いながら語がチラリと黒兎の方へ視線を向けると、肩を竦めながら苦笑を返してくる。肉でも魚でもより取り見取り。そのご褒美は中々に魅力的だったようで、カラスは任せろと言う様に翼を広げて胸を張った。
「まったく、現金なもんだぜ……取り敢えずは使えそうな石材を塔側へ運びつつ、堀側に土砂が溜まってきたらそれの移動作業。その中に使えそうな岩があれば、塔の建材に、と。こんなところで問題ないかね?」
「うん、そうだね。作業に集中できるなら、自分たちとしても助かる、から。運んできてさえ貰えれば、加工はこっちで出来るよ」
「よし、それなら俺たちも作業を始めるとしますかね!」
 やる事が決まれば、後は行動するだけだ。語はカラスの背に乗って空へと飛び立ち、ペインは兄姉と一緒に津雲たちとは反対の方向へ歩き出してゆく。後に残るは、仲間たちの動向を観察していたファン一人。
「さて、と。それじゃあ、私も動くとしようか」
「それは良いのだが……貴君はいったい、どうするつもりかね? 手が必要なら、我々も手伝うつもりだが」
 ファンの言葉に小首を傾げる黒兎。見た所、白き少女の手には工具らしい工具も無く、愉快な仲間たちも各作業へと散ってしまっている。何をするのかという問い掛けに対し、少女はそっと足元の赤茶けた渇土を掬い取った。
「なに、気持ちだけで十分だよ。文字通りね? 二人だけだったら質はともかく量に不安が在ったけど……ま、幸いにも同じ思いはこの地に多くあるようで。なら、力を借りない手はない」
 頂くよ、と。一言断りながら、ファンは黄金の卵を一つ掴み、魔力へと変換してゆく。だがそれは、着火用の火種みたいなもの。真に必要なものは彼女の言葉通り、集った者たちが抱く想いである。
「あなた達が一意に安息を望むのなら。その願いは絡み、太く、大樹の如き想いに成るだろう。降り注ぐ雨にも、吹き荒ぶ風にも、そして這い伸びる魔手にも負けぬほどに、強く」
 ―――さて、汝ら、何と欲す?
 刹那、波の如き半透明な魔力が不思議の国全体へと広がってゆく。だが決して、それは害意ある物ではない。寧ろ、その逆。こうして安全な居場所を得たアリスや黒兎、愉快な仲間たちの願いを汲み上げ、それを実現させる一種の共有奇跡である。
「国は民なり。民が同じ方を向かねば国は立たぬ。どんなに肥沃な国土を持とうと、どれだけ絢爛な街並を構えても……志揃わぬ国は、内から崩れるだろう。箱だけ作っても、中身が伴わねば、何ら意味など無いのだから」
 アリスと黒兎は言わずもがな。しかし、愉快な仲間たちとは今日が初対面だ。幾ら彼らが友好的とは言え、意志があり、望みがあり、好悪の感情がある。折角安全な場所へ逃げ延びたのに内輪揉めで自滅するなど、パニック映画の中だけで充分だ。
「確かに……最初にちょっとだけ自己紹介はしましたけど、まだきちんとお話は出来ていませんでしたね。好きな物とか、これまでどうしていたのか……全然、分かっていませんから」
 知らないことは怖い事だと、ファウリーはよくよく身に染みていた。かつて居た場所とて、無知ゆえのトラブルや災難は多々あったのだ。それを避ける為には、地道な対話以外に方法はない。
「そうだね……ならまずは、みんなで名前を呼び合うところからかな? 名前を知るのは、相互理解の第一歩だから」
「です、ね。今はまだ作業中で慌ただしいかもしれませんけど……終わったら、ちゃんとと挨拶しませんとね」
 かつて出会った頃の茫洋さは既になく、アリスには他人と打ち解けようと言う意志さが見て取れる。これまでの旅の中で、彼女も成長してきたのだろう。そんな様子を見て、ファンもまた穏やかな笑みを浮かべ……そして。
「という訳で、時に黒兎。まずは……貴女からだよ?」
 白き少女は黒き時計兎へと視線を向けるのであった。

「水源となる川がすぐに見つかって良かったですね。ただ、ちょっと水量が心許ないかもしれませんけど」
「まぁ、取り急ぎ利用できる分があるだけでも御の字だ。それに全く水気が無い訳でもない。堀を掘る過程で、地下水脈も探してみよう」
 一方、水を求めて移動していた狐珀と津雲は、程なくして一本の川を見つけていた。流れる水の量は大河とまでは言い難いが、一先ず生活するには困らないだけの量はあるので問題は無いだろう。
「さて、それじゃあ掘削開始だな。大まかな縄張りはこちらで定めるから、あとはひたすらその場所を掘ってくれ。掘った後の土は後鬼に運ばせよう。二脚とは言え戦車だ、馬力は十分だろうさ」
 式神を飛ばしてある程度の目安を示しながら、津雲は愉快な仲間たちへ指示を出して作業を開始する。地面は乾燥しているが、それ故に幾分か脆い。次々と愉快な仲間たちが土砂を掻き出す横では、後鬼がソリの様に板を曳きながら乗せられた土砂を運搬している。
「結構な人数で作業しているはずですが、まだまだ足り無さそうですね……なら、もふもふな皆さんに手伝って貰いましょう。呼び出すのは荒野の穴掘り名人さんです!」
 重機らしい重機が無い以上、物を言うのはマンパワーである。狐珀は可愛らしいイラストの描かれた辞典を取り出すと、ページを捲ってゆく。すると紙面上より、茶色い毛玉の様な生き物が群れを成して溢れ出した。彼らは乾いた大地に住まう齧歯類、プレーリードックたちだ。後ろ足で立ち上がり周囲を見渡すというお決まりの所作をしながら、キィキィと狐珀を見上げている。
「おっと、穴掘り名人とな? そいつは助かるな。彼等なら、地中にトンネルも掘れるはず」
「ええ。これで居住地まで水を引いて貰おうかと。さて、対価としては黒兎殿が用意して下さった金の卵を使わせて頂くことにしましょうか。この卵であなた達の大好きな野菜や果物がたくさん用意できます。それで協力をお願いできますか?」
 手のひらサイズの黄金卵一個だけでも、重量は相当なものだ。翻って、その金額もまた数十万円単位となろう。プレーリードッグの一群れ程度、満腹にできて余りある金額である。彼らもただの獣ではなく召喚された悪魔。その価値をすぐさま理解するや、方々へと散って地面へと潜り込んでいった。
「そうですね……堀が出来れば灌漑用にも利用できるとのことですし、ついでに土も柔らかく耕して貰いますね。プレーリードックさんの報酬と合わせて、作物やお花の種も仕入れておいた方がよいでしょうか?」
「金の価値を考えれば、栽培用だけでなく当座の食料まで用意できそうだな。一段落したら買い出しに行くのが良いだろう」
「ええ、勿論です。ウカとウケ、その際は運ぶお手伝いをお願いしますね」
 愉快な仲間たちへプレーリードックの一群が加わったことにより、作業の効率が一段と向上してゆく。
 そうして掘削を進めて、暫しの後。堀の深さは身長の高さを越え、幅と長さも要害として十分なレベルへと達していた。また、小動物たちによる水路の方も、途中で水脈を見つけることが出来、井戸として独立した水源を確保する事に成功している。
「井戸は一先ず形になりましたね。形も追って整えれば良いでしょう」
「となると、ここも空堀より水堀にしたいところだが、やはり水の勢いが些か弱いな。これでは水が溜まりきるまで、かなりの日数が掛かりそうだ……ならば、ここは一つ雨でも降らせるとするか」
 愉快な仲間たちを引き上げさせ、川から水を引き込んでいるがその量は微々たるものだ。これでは埒が明かぬと、津雲は錫杖を取り出して地面へと突き立てる。それを祭壇に見立て、霊力を乗せた祈りによって大気へと干渉してゆく。
「水の流れる場所に文明の灯火在り。雨乞いは古来より陰陽師の務めだしな、これで大地も多少は潤うだろう」
 すると俄かに空が曇り始めたかと思うや、雨粒が最初はぽつぽつと、やがて強烈な勢いを以て降り注ぎ始める。降らせる範囲もコントロールしているのか、水滴はざあざあと堀の中へ溜まり、半刻も経たぬうちに満々と水を湛えるのであった。
「ふう……これでまず一つか。だが愉快な仲間たちの作業ぶりを見る限り、残りも独力で作業できそうだな」
「……なるほど。いきなり空模様が怪しくなったんで不安になったんだが、津雲さんも仕業だったか。こいつはまた見事なもんだ」
 作業に一区切りをつけてほっと一息ついていると、頭上より大鴉と共に語が降りてきた。何か使える物資が無いか、様子を見に来たらしい。
「堀に加えて、井戸も使える様になりましたよ。後で汗を拭いがてら、使ってみるのも良いかもしれませんね」
「おっ、そいつは良いな。狐珀もお疲れ様。風があるとはいえ、空気が乾燥気味なんだよなココ……さて、その前にまずは仕事を終わらせなきゃな。何か運ぶものはあるかい?」
 どこか誇らしげな狐珀の報告に、作業後の楽しみが出来たと語は破顔する。そんな二人の様子を微笑ましく眺めつつ、津雲は運び出した大岩を指差した。
「大きめの岩が何個か見つかっている。ペインの所へもっていけば、切り出して石材に出来るだろう」
「オーケイ。残りの土砂はどうする?」
「万が一の氾濫が怖いからな、押し固めて堤にしようと思う。加えて、防塁の代わりにもなるだろう」
 陰陽師の言葉に頷くと噺家は岩へ縄を掛け、その反対端を大鴉の身体へと括りつける。ただの鳥ならば飛び立つのは至難の業だが、生憎と白首の大鴉は普通ではない。語はその背に跨ると、そっと首筋を撫ででやる。
「ちょいと重いだろうが、頑張ってくれよ? 働いた分だけ、その後に食べるメシは旨いもんさ」
 文句を言いたげな視線を宥めつつ出発の指示を出すと、大鴉は翼をはためかせて浮き上がる。そのままぐんぐんと高度を上げるや『不思議の国』の反対側、塔の建設現場へと飛翔してゆくのであった。

「……それは大きさ的に、土台に使うのが良さそう、だね。角を整えて、上下の面を平らにしておくべきかな。出来る限り同じ形の方が、あとあと不具合が起きにくいはずだから」
 他方、不思議の国の反対側。そこではペインが兄姉たちと共に塔づくりに専念していた。こちらに関しては中央の塔と違って、居住性などは考慮に入れなくて良い。ただ高く、そして頑丈に。半ばまで積み上げられたシルエットは、ほっそりとした印象を受ける。
「外敵が来ても、すぐに解るように。そして、これからできていく国が、よく見えるように……見晴らしの良い塔を、兄姉皆で、立てていこうか」
 その下で作業する面々は、堀側で作業する愉快な仲間たちに負けず劣らず個性的と言えるだろう。包帯執事服姿の焼き鏝は大きな岩を持ち前の炎で熱し、次いで着物に身を包んだ毒湯がそれに薬液を掛けて急速に冷ましている。短時間での加熱と冷却により岩石内部には亀裂が生じ、数度繰り返すうちに幾つかの破片へと割れ砕けてゆく。
 そうして、手ごろの大きさになった石くれをカットし整えるのがピエロの役割なのだが、どうにも集中力が効かないようで専ら変な彫刻を刻み込んでいた。そんな鋭刃の様子など見慣れているのか、膝砕きは黙々と加工された建材を運んでは積み上げている。また重いモノに関しては怪力自慢の抱き石が率先して担ぎ上げており、石材同士の組み合わせを計っている電撃棒の指示に従い、かっちりとはめ込むように隙間を埋めてゆく。
「繋ぎのセメントが足りない? さっき、井戸が開通したって話が聞こえてきたから、作るのもだいぶ楽になったはず、だよ」
 また、隙間へ接着剤のセメントを塗り込んでいた猫鞭が、材料の不足を弟へと告げてくる。先程までなら遠くの川へ水を汲みにいかねばならなかったが、どうやら井戸が近くまで引けたらしい。距離が大幅に短くなったと聞くや、猫鞭は上機嫌でセメントの補充へと向かうのであった。
「……みんなで戦うんじゃなくて、こうして一緒に何かを作るのも、たまにはいいかもしれない、ね。それも、誰かが生きるために繋がるなら、なおさら」
 それぞれの出自を想えば、傷つけるのではなく生きる為の標を積み上げると言う作業そのものが、ある種の奇跡と呼べるのかもしれない。薄暗い拷問部屋ではなく燦燦と輝く太陽を見上げて、青年はふとそう思う。
「こっちもこっちで、大分進んでいるみたいだな。ゆくゆくは擬宝珠が五重塔ばりの高さかね。さ、追加の石材を持ってきたぜ」
 とそんな時、遠くから黒い影が近づいて来るのに気付く。その姿は見る間に大きくなったかと思うと、大鴉の背に騎乗した語の姿であると理解する。ドスンと、重々しい音を立てて降ろされたのは一抱えもありそうな大きな岩。大きな息を吐く大鴉を労いながら、地面へ足を着けた語はペインへと歩み寄る。
「堀の方は大方出来上がりだ。今は土砂を使っての堤防作りを進めている。やっぱり、数は力かねぇ」
「それは、良い事だね。でも、それなら自分も、負けていられないかな。皆、こっちもペースアップ、いけそうかな?」
 仲間の好調を言祝ぎつつも、それはそれとして微かな対抗心が胸をくすぐる。ペインの呼びかけに兄姉たちは威勢よく答えると、まずは新たに運び込まれた大岩を加工すべくテキパキと動き始めた。
「この調子なら、こちらもそう時間も掛からずに完成するかな」
「そいつは重畳。いつオウガの残党がやって来るかも分からないし、速いに越したことは無いからな」
 いい国が作れるといいな。そう呟く噺家に、赤髪の青年は静かに頷く。だがそこで、ペインは或る事を思い出した。
「そう言えば……ファンは、どうしたのかな? ファウリーたちと一緒に、残っている様だけれど」
「ああ、それか。うーん、なんて言えばいいのかね」
 問い掛けに対し、悩まし気に腕を組む語。ただ端的に言えば、次の一言で表現できるだろう。
「……黒兎の名前決め、だってさ。ま、確かにいつまでも見た目呼びじゃあ味気ないもんな」

「……私の名前、ねぇ」
「そう。相棒の子にあって、あなたに無いモノがあるよね。それが……あなただけの、名前」
 同時刻、不思議の国中心部。そこでは噺家と同じように、黒兎が眉根を顰めながら腕を組んでいた。その様子をファウリーはどこかそわそわと、ファンは心なしか愉しげな笑みを浮かべながら見守っていた。
「いやはや全く、随分と奇特な事を思いつくものだよ。名など、識別さえ出来れば問題あるまいに」
「黒兎、だなんていうのはある意味で種族名みたいなものでしょう? そういうものは得てして被りやすいからね、咄嗟の時に判断を鈍らせる。緊急時の一瞬がどう生死を分けるか、今更説明は必要かな」
 そう言ってチラリと視線でアリスを示せば、黒兎も反論のしようがない。兎姿のオウガなど珍しくないことを、彼女は知っている。それに兎の毛色など白か黒、あとは茶色くらいだろう。被る可能性はそれなり以上に考えられた。
「いい機会だ、みんなに考えてもらうといいんじゃないかな? 自分の名前を自分で決めるだなんて、結構珍しい体験だよ」
「珍しい体験など、二度目の人生だけで十分なのだが……うーむ」
 とは言え、いきなり『自分の名前を考えろ』などと言われて、即答できる者はそう居ないだろう。黒兎はうんうんと唸り、時たま通りがかる愉快な仲間へ声を掛けるが、どうにも納得できる答えは返って来ない。
「悪いとは言わないが彼らのネーミングセンスはこう、独特だな。愉快な、とつくだけのことはある。あとラパンと答えたヤツとは、後でじっくり話し合う必要がありそうだ」
 余談ではあるが『ラパン』とは仏語で兎肉を意味する。答えた本人的には他意は無いのだろうが、黒兎の経歴を考えれば毛色以上にブラックなジョークで在った。
「と言うか、ね。貴女自身、納得できない理由には目星がついているんじゃないかな?」
 そんな様子を見かねて、ファンが一歩踏み込んだ内容を口にする。相手としても図星なのか、ピタリと動きを止めて視線を逸らした。きょとんとファウリーが疑問を浮かべ、そのまま暫し気まずい沈黙が降りる。
「……なぁ、ファウリー。キミにひとつ、頼みがあるんだ」
 だが、それでは埒が明かないと悟ったのだろう。覚悟を決めた様に黒兎は顔を上げると、アリスと向き合った。少女も何かを察したのか、真正面からその視線を受け止める。
「なに、かな。黒兎さん?」
「情けない、話ではあるのだが。私の名前を、決めて貰えないだろうか」
 意を決して告げられた内容も、半ば予想は出来ていたのだろう。ファウリーの表情には戸惑いこそなかったが、それでも不安げな色が浮かんでいる。
「私なんかで、良いんですか? 名前なんて、そんな大事な物を……」
「私なんかと、どうか言わないでくれ給え。大事だからこそ……ファウリーに決めて欲しいんだ」
 向けられるのはどこまでも真剣な眼差し。そこに籠められた想いを真っすぐに受け止めた少女からは、不安の色が退いてゆき……代わりに、穏やかな微笑が現れた。
「分かり、ました。正直に言ってしまえば私、きっと嬉しいんだと思います」
「嬉しい、とは?」
「だって私がこの世界で生きると決めた後、黒兎さんはずっと守ってくれました。危ない戦場に行って卵を集めて、この国を取り戻す為に猟兵さんと一緒に動き回って……なのに私はずっと、助けて貰ってばかりでしたから」
 だから、少しでも恩返しできる事が嬉しいんです。その一言に思わず黒兎は顔を赤くし、見守るファンの左瞳もすっと眩そうに細められる。そうして、少女は気持ちを落ち着けるように深呼吸をした後、そっと相手への贈り物を口にした。
「……アザリー。それが、黒兎さんには似合うと思うんです。故郷では私の名前と対になる意味で……どう、ですか?」
(ああ、成程……一瞬と永遠、か。もしかして口には出せなかっただけで、彼女なりに決めていたのかな)
 ファンはその名に籠められた意味を悟り、内心合点が行く。アラビア語でファウリーは刹那や瞬間を示し、一方のアザリーは永遠や永続という意味を持つ。困窮によって明日を知らず、ただ今を生きる事だけしか考えられなかった少女が、ずっと共に居たいと願った相手に送る名前。正にこれ以上ない名であろう。
「アザリー……アザリーか。ああ、どうしてだろうな。とても、しっくりくる気がする」
「語感も似ていて良いんじゃないかな。まるで家族みたいだと思うよ」
 数度、口の中で反芻して響きを確かめる黒兎にファンも忌憚のない意見を述べる。ともあれ、本人が良いと言っているのだ。ならば、それ以上の口を挟むのは野暮というものである。
「ありがとう。この送ってくれた名を今日から私自身のものとして、胸を張って名乗ろう」
「っ! 気に入ってくれたのなら、何よりです!」
 礼を述べるアザリーと、安堵するファウリー。そんな二人の元へ、それぞれの作業を終えてきたのだろう。猟兵たちが続々と戻ってきていた。
「どうやら、こっちの問題も無事解決したみたいだな。安心したぜ?」
「うん……なんだか、良い表情になった、気がするね」
 塔方向からは、大鴉に乗った語と兄姉を連れたペインが。
「名というものは音の響き以上の意味を持つ物だ。決まったのであれば言祝ぐべきだろう」
「良かったですね、黒兎殿……ああ、いえ。もう違うのでしたね」
 堀側からは津雲と狐珀、それに愉快な仲間たちと動物たちが。
 皆が二人の少女の周りへと集まってゆく。そうして仲間たちが見守る中……。
「タイミング的にも今が最適だろう。遅くなってしまったが、自己紹介だ。私の名は――」
 永遠と名付けられた少女は、胸を張って己の名を口にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
愉快な仲間たちやこの先訪れるアリス達の為にも『道』と『住居』は欠かせませんね

国土見て回り情報収集
有事の際に非戦闘員が駆け込む塔を中心に据え都市計画…と言うには小さい規模ですが雛型を立案

計画が固まり次第、道や住居を作るとして…
ファウリ―様、少々お手伝いいただけますか

愉快な仲間の皆様が欲しい施設を聞いて回って頂きたいのです
貴女の希望も盛り込んで素敵な国にしましょう

(センサーで離れたのを確認し)

さて、黒兎殿
住人に地の利を与え、外敵の行動を妨げる都市計画
『アリスを狩る者』の視点から修正を願います

褒められた出自で無いのは私も似たような物
なればこそ『出来る』ことがあります

…貴女には申し訳ないとは思いますが



●土地は富み、家が建ち、路にて繋ぐ
「……名を、変えられたのですか」
「変えたというか、名付けて貰ったというべきか……貴君は笑うかね?」
 一頻り仲間たちとの交流を終えた黒兎――いまはアザリーと名乗る少女は、トリテレイアの言葉に肩を竦めていた。だが鋼騎士は、とんでもないと首を振る。
「いいえ、どうして笑う事など出来ましょう。寧ろ言祝ぐべき事だと思います。変化する事は即ち、未来へ歩むこと。過去のままでは到底なし得ぬ進歩であると、少なくとも私はそう考えます」
 少女が自らの意志で進むべき道を決めた様に、過去の残響であったはずの時計兎もまた徐々に成長しているのだろう。朽ちぬ鋼鉄と電子基板によって構成されたトリテレイアにとって、その事実は何よりも尊いものに思えていた。
「そう大仰に言われてしまうと、なんだかこそばゆいな。だが感謝するよ、騎士殿」
「それこそ礼には及びません。さて……それでは、こちらも復興作業に着手するとしましょう。既に幾つか建造物を建てて頂いた方もおられるようですね」
 現在、『不思議の国』の中心には大きな塔と彫像が鎮座しており、そこを基点として水堀と物見塔が敷設されている。また井戸も掘られているほか、耕作用の区画も整備されているらしかった。
「なるほど、ある程度の生活基盤は構築済み、と。となれば……愉快な仲間たちやこの先訪れるアリス達の為にも、『道』と『住居』は欠かせませんね」
 中心に立つ塔はある程度の居住性を持つとはいえ、それは飽くまでも避難時のシェルターと言う意味合いが強い。快適さと言う点では十分と言い難く、きちんとした家があるに越したことは無いだろう。
 また、忘れてはいけないのは道の存在だ。国家を人体とするならば金が血液、家や施設が臓器、住民が細胞と言い換えられる。そして、それらを隅々まで行き渡らせる血管こそが道路なのだ。
「取り合えずは、国土を見て回りましょうか。地形や景観も変わっているでしょうし、再度の把握は必須かと。有事の際に非戦闘員が駆け込む塔を中心に据え都市計画……と言うには小さい規模ですが、雛型を立案したく」
「ふむ、道理だな。済まないが、一緒に同行しても?」
「ええ、勿論です。少しばかり拙いですが、エスコートはどうぞお任せを」
 申し出に快く頷いたトリテレイアは機械馬を呼び寄せると、少女たちの手を取って鞍の上へと腰かけさせる。そうして自らは手綱を取りながら、ゆっくりと連れ立って歩き始めた。
「機械仕掛けの馬、ですか。初めて見ましたけど……思ったよりも、揺れないんですね」
「ははは、その点はご安心を。脚部にサスペンションを装備していますので、振動が伝わる心配はありません。婦女子の方々が腰を痛めてしまうのは忍びないですから」
 一段高くなった視界に新鮮さを感じつつも、機械馬の首を興味深そうに撫ぜるファウリー。騎士を志す者であれば、武威ばかりでなくこうした気遣いもまた身に着けるべき礼儀作法の一つだ。これには気位の高そうなアザリーも満足げである。
「一頭欲しくなるな、これは……とは言え、維持や整備がな」
「なに、急ぐ必要はありません。流石に愛馬を譲ることは出来ませんが、国を発展させてゆけばより良いモノもいずれは創り出せましょう」
 道中で言葉を交わし合いながら、三人は新しく出来た施設や整理された区画を見て回る。大きく様変わりした景色にアリスが感嘆の溜息を漏らし、時計兎が得意そうに建物の機能を説明する横では、二人の様子を鋼騎士が微笑まし気に見守る。
 そうして、ゆっくり時間を掛けて一周し終わる。すると、トリテレイアはファウリーを機馬から降ろしつつ、ふと何かを思い出したかのように口を開いた。
「計画が固まり次第、道や住居を作るとして……ファウリ―様、申し訳ありませんが少々お手伝い頂けますか?」
「私に……? はい、なんでも言ってください!」
「ありがとうございます。実は、愉快な仲間の皆様が欲しい施設を聞いて回って頂きたいのです。此処はみんなの住む場所ですからね。もちろん、貴女の希望も盛り込んで素敵な国にしましょう」
 頼られる事自体が嬉しいのだろう。トリテレイアの頼みに頷くや、ファウリーは勢いよく走り出していった。少女が十分な距離まで離れたことをセンサーで確認すると、鋼騎士は時計兎へと向き直る。
「……さて、アザリー殿。住人に地の利を与え、外敵の行動を妨げる都市計画。この叩き台に対しアリスを狩る者……ふてぶてしい『黒兎』としての視点から、修正を願います」
「なるほど。ファウリーだけを遠ざけたかと思えば、そういう意図か」
 スッと、黒兎は目を細める。トリテレイアの要求は至極合理的だ。どんな物事にも言えるが、どれだけ完璧を期したところで必ず一つや二つは穴が開いているもの。それを埋める役目として、彼女の経験は極めて有用である。だが、その依頼がどれだけの無礼を含んでいるのか、自覚できぬ鋼騎士ではなかった。
「褒められた出自で無いのは私も似たような物。なればこそ『出来る』ことがあります……未来へ目を向け始めた貴女には、非常に申し訳ないとは思いますが」
「ああ、いや。勘違いしないでくれ給え。怒っている訳ではないさ。ただ少しばかり、昔を思い出しただけだ」
 自嘲気味に肩を竦める黒兎に対し、それでもトリテレイアは居住まいを正し続けていた。律儀な事だと苦笑しながら、彼女は口を開く。
「さて、修正点か。ならばまず、道は不便であっても多少は入り組んでいた方が良いな。要所同士が行き来しやすいという事は、即ち侵攻しやすいという事でもある。具体的には……」
「ほう。となれば、この道路をこちらへ通して……しかし、それだと少々無駄が……」
 そうしてファウリーが戻ってくるまでの間、黒兎と鋼騎士は顔を突き合わせて都市計画について話し合う。防衛力と利便性、相反する要素を主張し合いながらも、目指す場所は共に同じなのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
(「国」の状態を見渡して)
うん、やっぱり、状況、そっくりなの
だから、きっと、豊かな、いい国に、してあげるの

黒兎さんに、黄金の卵を4つほど、もらうの
お家の場所、決めたかな?
その近くで、土地の力を、蘇らせる魔術を、使おうと思うの

マナや精霊力を呼び込めれば、土地の回復は早くなるの
その、依代になる土地を、蘇らせるの
ヒュッテンブレナー式結界魔術でね

土地の隅に卵を置いて魔力の【手をつなぐ】ね
そこから土地に【ハッキング】
卵とぼくの魔力を撃ち込んで土地を回復する【結界術】を使うの

「卵は誕生の象徴、その力をもって、地の命約とす」

お家の周辺くらいしか、ぼくの魔力では難しいけど、
菜園くらいはできるようになるはずなの



●未来へ向けて、ささやかな色彩を
「うん、やっぱり、状況、そっくりなの。物も、家も、なにもなくて……だから、きっと、豊かな、いい国に、してあげるの」
 先行した猟兵たちによって塔が建ち、彫像が出来、堀と井戸が作られ、通すべき道が定められた。しかし、復興はまだ始まったばかり。不思議の国全体を見て回っていたロランは、未だ暗黒に満ちる世界と目の前の情景を重ね合わせる。いつか、あの世界にも陽が射すだろう。その時のためにも、ゼロから生活基盤を発展させるという経験を積んでおく必要があった。
「黒兎さん……いまは、アザリーさん? 魔力源として、黄金の卵を四つほど、もらうの。それともう、お家の場所、決めたかな? 出来れば、案内して欲しいの」
「ああ、どちらも問題ない。住宅の建設予定地も大方決まったからな。こちらだ、着いてきてくれ」
 ロランは愉快な仲間たちへ指示を出している時計兎を見つけるや、声を掛けて二つほどお願いを告げる。猟兵の計らいによってアザリーという名を得た少女は、持ち歩いていた黄金卵を手渡しつつ、手招きをして少年を先導してくれた。
(やっぱり……お日様がなかったから、土地がやせてしまっているの)
 忙しなく作業を続ける愉快な仲間たちによって通り道は小石が取り除かれ、大きな凹凸も平らにならされている。だが乾き切った地面は未だに埃っぽく、がさがさとした感触が靴底より伝わってきた。他の猟兵が土を耕して水を引いてくれているとは言え、それらが馴染むまでには短くない時間が必要となるだろう。
「ところで、住宅地でなにをするつもりかね。気を悪くしないで欲しいのだが、力仕事に長けている様にはどうしても見えなくてな」
「お家の近くで、土地の力を、蘇らせる魔術を、使おうと思うの。大きな畑とか、全部が全部は、ちゃんと時間を掛けなきゃ、いけないけれど……お家のまわりくらい、緑があった方が、良いと思うの」
 こうも荒んだ光景では、おちおち気を休める事も出来ないだろう。かと言って、今すぐ国全体に緑を溢れさせるのは当然ながら難しい。ならばせめて、安らげる家の周りくらいには植物を蘇らせたいと、ロランは考えていた。少年の考えに、アザリーは成程と笑みを浮かべる。
「確かに、な。他の国では見飽きているが、ここでは単なる雑草でさえ貴重品だ。ささやかながらでも緑が蘇れば、この国にも草木が育つのだと希望を持てるだろう……さて、到着だ」
 そう言って時計兎が足を止めたのは、だだっぴろい空き地であった。残念ながらまだ家は影も形も無い。しかし、視点を変えれば遮蔽物が無く作業しやすいとも言える。土壌を改善出来れば、家も建てやすくなるかもしれなかった。
「さて、具体的にはどうする? すまないが、まだ肥料も何もなくてね」
「ううん、大丈夫なの……マナや精霊力を呼び込めれば、土地の回復は早くなるの。だから始めに、その、依代になる土地を、蘇らせるの」
 アザリーの問いかけに答えながら、ロランは土地の四隅に黄金卵を一つずつ置いてゆく。そうして卵を頂点として長方形に地面を区切ると、そっと前へと手を伸ばした。
「この……ヒュッテンブレナー式結界魔術でね?」
 すると少年の掌より魔力が流れ出し、霧の如く巡り始める。それは黄金卵に内包された芳醇な魔力と結びつき、そのまま大地の下へと値を伸ばし始めた。
「まずは、土地の状態を、把握するの。そうして、出来る限り、深くまで魔力を、浸透させて……楔を、打ち込むの」
 漫然と魔力をばら撒いたところで、枯渇した土壌に吸い込まれてすぐに雲散霧消してしまう。肝心なのは長く着実に、土地へ力を与え続けること。プランターなどに差すアンプルタイプの液体肥料を想像すれば、概念としては近しいかもしれない。
「卵は誕生の象徴、いずれ生まれ来る未来の証。その秘められた力をもって、この地へ根ざす命約とす」
 ぐっと掌を握り込めば、魔力と共に張り巡らされていた術式が輪郭を結ぶ。一瞬、土地全体が微かな燐光を放ったかと思うや、再び元の状態へと戻ってゆく。
「私自身、そこまで魔術の素養が無いせいもあるが……ぱっと見、変化が生じたようには見えんな」
「ちょっと待って。きっと、もうすぐなの……ほら」
 訝しむ時計兎の前でロランが地面を指差すと、それを待っていたかのように小さな葉が一つ、土を跳ね除けて芽吹いた。地面の下で眠っていた種が魔力によって目を覚ましたのだろう。その一葉を皮切りに、ぴょこぴょこと立て続けに緑が顔を出し始める。数分もすれば、黄金卵に区切られたその区画だけ、緑の絨毯に覆われるのであった。
「うわぁ……すごいですね! 青々とした草が、こんなに!」
 通りがかったファウリーもそれを見つけたのか、驚きと喜びの声を上げて駆け寄ってくる。目を輝かせる少女を前に、少年は照れくさそうに笑みを浮かべていた。
「お家の周辺くらいしか、ぼくの魔力では難しいけど……菜園くらいはできるようになるはずなの。ゆくゆくはきっと、この国全部が、こうなるはずなの」
「だとしたら……それはとても、素敵な事ですね。お花とかも、育ててみたいな」
 それは不思議の国全体から見れば、微々たる範囲かもしれない。だが瑞々しき緑は、いずれ迎えるであろう未来を想像させるには、十分すぎる鮮やかさを帯びているのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『ストローマン』

POW   :    カースバースト
自身の【身体と込められた全ての怨念】を代償に、【恐るべき呪い】を籠めた一撃を放つ。自分にとって身体と込められた全ての怨念を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    リスポーン
自身が戦闘で瀕死になると【新しいストローマン】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ   :    ネイルガン
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【五寸釘】で包囲攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより
三章断章及びプレイング受付告知は16日(水)夜に投下予定です。
引き続きよろしくお願い致します。
●災い転じて富と為せ
 猟兵たちの尽力により、赤茶けた大地に様々な施設が打ち立てられた。『不思議の国』の中心部にはがっしりと頑丈な塔と黄金に輝く少女像が建ち、そこを基点として直線と曲線の入り混じった路が外周へ向かって伸びている。試しにそれを辿ってみれば、緑の芽吹く空き地や真新しい井戸を見つけることが出来るだろう。そうして国の外周部へと至れば、来たる脅威に対する備えとして、灌漑も兼ねた水堀と背の高い物見塔が守りを固めていた。
 足りない部分を求めてしまえばキリはないが、経過時間を考えれば十分過ぎるほどの成果である。作業に専念していた猟兵と愉快な仲間たちが一区切りをつけ、そろそろ休憩でもしようかと声を掛け合っている……そんな最中であった。
 ――敵襲、敵襲! 国境付近にオウガの大群が接近しつつあり!
 突如として飛び込んで来たのは、オウガの襲来を伝える急報。どうやら、たまたま塔の上に登っていた愉快な仲間が敵影を発見したらしい。指し示された方向へ急行するや、荒野を埋め尽くす敵群が視界に飛び込んで来た。
「あれは……藁人形、ですか?」
 敵の容姿はファウリーの零した呟きに集約されている。藁を麻紐で人型に束ね、各所に五寸釘を刺したモノ。東洋の呪術である丑の刻参りにでも使われそうなソレが、群れ成すオウガの正体であった。
「恐らく、先に討ち取った人狼の配下だろうな。全く、納得の選択だ。もしヤツが生身の配下を傍に置いてみろ。狂気と本能に支配されて、自らの爪牙に掛けるのがオチだろうさ。だからこそ、あんな木偶人形を選んだのだろう」
 黒兎……先ほどアザリーと名付けられた時計兎は、傲慢さを崩すことなく相手の事情を推察し、呆れた様に鼻を鳴らす。だが背景がどうあれ、あの量が雪崩れ込んでくれば折角復興させた国が廃墟と化しかねない。各種施設を利用しつつ、水際で食い止めねば。戦闘へと意識を切り替えつつ、迎撃態勢を取る為に動き始める猟兵と愉快な仲間たちだった、が。
「しかし……あれは逆に使えるかもしれん。喜び給え、資源が向こうからやって来たぞ」
 時計兎は上機嫌そうに、そうのたまった。今度は猟兵側が『お前は何を言っているんだ』という視線を向けるが、彼女は涼しい顔をしながら肩を竦める。
「考えても見給え。この国の懐事情はお寒い限りだ。そこに藁、麻紐、釘が大挙してやって来たのだぞ? どれも使い道が広い上、有り過ぎて困る物でもなし。しかも、追い詰められる度に増えるとくれば、利用しない手は無いだろう」
 こんな状況で言う事かとも思うが、確かに一理ある。それに攻めてくる敵がそのまま復興の一助に変わると言うのも、意趣返しとしては中々痛快かもしれない。最優先課題は勿論この『不思議の国』の防衛だが、余力が在れば敵のオウガの刈り取りを狙ってみるのも良いだろう。
「先のボスオウガ戦とは違い、今度はこちらも迎撃準備が出来ている。我々も援護は惜しまんし、相手は烏合の衆だ。驕るつもりはないが、そう悲観する必要も無いはず」
「それに、猟兵さんばかりに頼ってもいられませんから。私たちの国は、私たち自身で守らなくちゃいけないから……そうだよね、みんな?」
 アリスの問い掛けに、愉快な仲間たちが鬨の声を上げて応ずる。自らの手で作った国をみすみす壊されたくなど無いに決まっている。戦いに怯えるどころか、逆に士気が燃え上がっているようだ。

 こうなれば、もはや後顧の憂いも無い。
 彼らはもう、虐げられるだけの弱者ではないのだ。
 此処は猟兵と少女と愉快な仲間たちが作り上げた、明日へと至る国。
 ――さぁ、その真価をとくと見せてやろう。

※マスターより
 第三章プレイング受付は18日(金)朝8:30~から開始致します。
 第三章は迎撃戦となります。二章で建設した防御施設を利用すれば、判定にボーナスが発生します。加えてアリスは『ガラスの迷宮』、時計兎はちょっとした時間停滞による妨害を行えるほか、愉快な仲間たちも指示に従って動いてくれます。必要に応じてお声がけください。
 また、敵オウガを効率よく倒すことが出来れば、今後の発展に役立つ物資を回収できるでしょう。なお火や水で攻撃したとしても、戦闘不能後にはちゃんと物資をドロップするので、攻撃方法に縛りなどはありません。ご自由に戦ってください。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
フィーナ・ステラガーデン
だいぶ国らしくなってきたんじゃないかしら!そして敵ね!
またよく燃えそうなのがわんさか来たわね!
とーぜん焼くわよ!【属性攻撃、制圧射撃】でがんがん焼いていくわ!
あと軽そうよね!UCにて暴風竜を呼び出して炎と敵を巻き上がらせたり
せっかく作ってくれたのだから堀に向かって風でぶっ飛ばしてもいいわ!
あらかた片付いたら竜に資源の回収に向かわせて保管ね!塔にでも入れておけばいいのかしら?
藁があればベッドとか作りたい放題よ!
ところでアザリーの名前が決まったのは良いけれど
この国の名前は何ていうのかしら?

(アレンジアドリブ大歓迎!)



●炎燃え立ち、嵐竜荒れ狂わん
「だいぶ国らしくなってきたんじゃないかしら! 私も杖を振るった甲斐があるってものよ……そして、建国早々次の敵ね! 全く、またよく燃えそうなのがわんさか来たわね!」
 猟兵たちによって作り上げられた建築物の数々。それらを背にしながらフィーナは国境付近にて仁王立ち、迎撃の構えを見せていた。赤茶けた大地を埋め尽くしながらも足音は一つとして響かず、ただ葉擦れ音のみを発して迫り来る藁人形たち。一見すれば戯画的な牧歌さがあるかもしれないが、魔力に敏感なフィーナは垂れ流される怨念の濃密さを敏感に感じ取っている。
 だが、今更その程度の脅威で動じる魔女ではない。寧ろ煌々と燃え上がる焔へと投じられた薪藁の如く、戦意は留まることなく熱量を増大させていた。
「ふふ、貴君ならそう言ってくれると思っていたよ。となれば、戦法もまた……」
「とーぜん焼くわよ! これだけ居れば狙いも何もないから、当たるを幸いにがんがん焼いていくわ!」
 クルクルと杖を回すフィーナの姿に、信頼の籠った笑みを向ける時計兎。ならばそれに応えてみせんと、魔女は杖先に魔力を収束させるや立て続けに敵陣目掛け投射を開始する。瞬間、幾つもの火球が連鎖的に爆発。敵陣先頭をごっそりと削り取ってゆく。
「見た目通り、一体一体の耐久力は大したことないわね! ただやっぱり、この手連中に共通する事だけど……正直、物量が凄まじいったらありゃしないわ!」
 己の攻撃に手応えは感じるものの、同時に暖簾を押す様な軽さも覚えていた。それを証明するかのように、もうもうと立ち昇る爆炎の中から新たな藁人形たちが姿を見せる。それらはどれも真新しい藁で構築されており、焦げ跡一つ見受けられなかった。
「資源が増えるのは良いけど、これだとキリが無いわね。攻撃の余波で散らばっちゃって、回収も大変そうだし……でも見た限り、重量は大分軽そうかしら。なら、これで行かせて貰うわよ!」
 フィーナの扱う爆炎魔法は確かに相性が良いが、効率と言う点では今一つと言った所か。延焼を狙えれば一網打尽にも出来るのだろうが、焼けた端から新品が現れるとなればそれも難しい。ではどうするのかと一瞬考えを巡らせると、彼女は敵ではなく頭上へと杖先を向ける。
「出なさい、誇り高き竜! 藁の家ならぬ藁のオウガなんて、一切合切全部ぶっ飛ばすのよ! 今度は村を潰す為じゃなく、国を守るためにね!」
 チラリと灯った焔が魔方陣を描き出せば、そこより溢れ出すは荒々しき暴風。大気を震わせる咆哮と共に姿を見せたのは、黒鱗と紅翼を備えた雄々しき竜。それは赤き瞳で雲霞の如き敵群をじろりと睥睨する。
「食らいつく顎、掻き裂く爪。爛々たる眼を燃やし、飄々と風切り飛び来たる……差し詰め、あれがこの世界のジャバウォックと言ったところかな」
「退治される側じゃなくて、する側だけどね! さぁ、こっちも全力で行くわよ!」
 嵐竜が身体を持ち上げて翼を一打ちするや、ゴォと大気がかき混ぜられる。それらが二度、三度と繰り返される度に勢いが増してゆき、徐々に指向性が与えられ……気付いた時にはもう、渦を巻く旋風が戦場のあちこちに発生していた。
「さ、これに火をつけたら……どうなるのかしらね?」
 自らの零した問い掛けの答え合わせをするかのように、フィーナは火球を旋風へと放り込んでゆく。絶えざる風の流れ、巻き上げられる藁人形、そして焔。結果は文字通り、火を見るよりも明らかだった。恐るべき火災旋風は戦場を動き回り、次々とオウガを絡め取っては消し炭に変えてゆく。例え新品を呼び出したところで、灼熱の渦より逃れは出来まい。
「おっとと、全部焼き払っちゃダメなのよね。せっかく作ってくれたのだから、有難く使わせて貰うわ!」
 全てを灰にしてしまっても良いが、それでは余りにも勿体ない。フィーナは暴竜に銘じて風の向きを操作するや、水の満ち満ちた堀へと差し向ける。吹き飛ばされたオウガたちはそのまま水の中へと叩き落され、ただの藁と釘へ戻るのであった。
「第一波は粗方片付け終わったわね! さてと、回収回収……集めたのは一先ず塔に保管しておけば良いかしら? これだけあれば、ベッドとか作り放題よ!」
 敵はまだまだ残っているが、苛烈な攻撃の甲斐もあって一時的な小康状態が訪れる。その時間を使って、フィーナは暴竜に資源を回収させては塔へと放り込んでゆく。乾草の寝床は一見簡素だが、実際は中々に寝心地が良いモノで馬鹿には出来ないのだ。
「どれ、こちらも手伝わせて貰おう。まずは乾かさねばな……」
「ありがとう、助かるわ! ところで……アザリーの名前が決まったのは良いけれど、この国の名前は何ていうのかしら?」
 水面から藁束を引き上げている時計兎へ、ふと魔女がそう問いかける。それに対し、アザリーはさてと肩を竦めた。
「まだ決まっていなくてね。この国は住まう全員のものだ、落ち着いたらみんなで考えるつもりだが……個人的な希望を言うならば」
 明日に至る国、そういう意味合いが望ましい。そう告げる時計兎の表情は、どこか誇りに満ちている様に思えた。フィーナの顔にも思わず、穏やかな笑みが浮かぶ。
「良いわね、それ。それじゃあ、今日を明日へと繋げる為に頑張りましょうか!」
 そうして敵の第二波が到達するまでの間、猟兵と住民たちは総出で資源の回収に勤しむのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
私の役割は囮と武装提供
ファウリ―様とアザリー殿を主として動いてもらいます
これからの防衛担うのは、この国の人々なのですから

…『スイッチ』の担当を決めておきましょうか

入り組んだ道…狭路にオウガ達誘導
私が持ち込んだ爆弾を予め愉快な仲間たちが偽装を施し現場には設置済み
一網打尽の期を●見切り合図

時間停滞で拘束
爆風が逃げにくい構造のガラスの迷宮生成

起爆

打撃力の確保など課題あれど、市街地での選択肢にはなるかと
(両者の目線に)…騎士の戦い方で無いのは分かっておりますので…

ファウリ―様には投石器の扱いをご教授しましたね
あの知識が永遠に日の目を見ぬような国をお作りください

宜しく頼みます、アザリー殿

どうか、お元気で



●挑め、さすれば勝ち取れん
「敵の第二波が来ましたね。ここは誘引戦術を取りましょう」
「ほう……その意図を聞かせては頂けないかな、騎士殿?」
 第一陣の掃討後、敵の次部隊が再び接近しつつあった。その布陣と総数、そして背後に広がる街並みを見比べながら、トリテレイアは誘引による殲滅を提案していた。それに対し、アザリーは企図を問い質してくる。
「敢えて敵を引き込めば、折角造り上げたばかりの街に多少なりとも被害が出る。それは承知の上かね?」
「逆です。造り上げたばかりだからこそ、例え損害が出てもまだ取り返しは付きやすい。確かにこれが十分に発展しているのであれば、水際での防衛こそが至上ですが……そうなってからでは、市街地内戦闘の経験を積む機会はなくなります」
 敵が『不思議の国』内部へと雪崩れ込み、市街地での戦闘を余儀なくされる。それは想定される中で最悪のシナリオだ。だからこそ、万が一の事態に備えて訓練を行う必要があった。翻って現状を見るに、建物や道路が存在する一方、建国直後という事でまだ受ける被害も少ない。かつ、万が一のカバーを行える猟兵たちも揃っているとくれば、実戦演習を行うには最上かつ最後の機会と言えた。
「故にこその『敢えて』、今しか出来ぬ戦い方です……それに我々が常に間に合うとは、限らないのですから」
「……なるほど。気遣い、誠に痛み入る。さて、それじゃあ我々は何をすればいいのかね?」
 トリテレイアが見据える先の先に対する備え。それを汲んだアザリーは静かに頷き、次の指示を待っていたファウリーと愉快な仲間たちを呼び集める。彼らを見渡しながら、鋼騎士の電子回路は最適な戦術を導き出してゆく。
「私の役割は囮と武装提供。攻撃については、ファウリ―様とアザリー殿を主として動いてもらいます。これからの防衛担うのは、この国の人々自身なのですから」
 『スイッチ』の担当も決めておきましょうか。そう呟きながら、トリテレイアは持ち込んだ武装の数々を取り出し、配布と使用方法の説明を行ってゆく。手短に伝えられる内容を頭へ叩き込まんと、住民たちは熱心に耳を傾けるのであった。

 ――カサ、カササ、カサ……。
 それは進軍の音としては非常にささやかであった。藁束で出来た人形の群れが、葉擦れ音を響かせて不思議の国内部へと侵入してゆく。生あるモノ以外に対する関心は薄いのだろうか。張り巡らされた道路に沿って、中心部を目指して進み続けている。
「藁は当然、鉄釘程度で傷つく装甲にはしておりませんが……やはり、爆発には注意が必要でしょうね」
 そんな敵群を待ち受けるかのように、トリテレイアは道路上で堂々と仁王立っていた。全身を覆う分厚い装甲に、身の丈もある重厚な大盾。生半な攻撃ではビクともしないが、自身を犠牲にした自爆だけは侮ってはいけないだろう。
「私が此処で食い止めても良いのですが、それでは皆様の経験にはなりません。一先ずは逃げに徹させて頂きましょう」
 猟兵の姿を見た途端、それまでとは打って変わって俊敏な動きで殺到し始める藁人形たち。鋼騎士はブースターを吹かせて後ろ向きに後退しながら、あらかじめ決められたルートを辿り始める。追いつかれず、されど引き離し過ぎず。絶妙な距離感を保ちながら誘い込んでゆくものの、どうやら相手の方がしびれを切らしたらしい。突如としてある一体が自爆するや、仲間たちを盛大に吹き飛ばした。
「なるほど。爆風で仲間をこちらへ送り届ける狙いですか……!」
 そのまま走っていては追いつけぬが、爆発の余波で加速すれば別。頭上より降り注ぐ藁人形は次々と自爆し、トリテレイアへと衝撃を届けてゆく。ビリビリと装甲が軋み、若干行き足が鈍る。その隙を突いて、敵群は猟兵を包囲せんと迫るが……。
「少々早いが、こちらも手を出させて貰おう。加えて、必要経費とは言え街が破壊されるのも愉快ではないからな……ファウリー!」
「はいっ! 目的のポイントももうすぐですし、進路も固定しておきますね!」
 投擲された小銭によってほんの一瞬だけ敵の動きが鈍り、起爆のタイミングがずれた事で仲間を巻き込み自滅していった。更にガラスの迷宮が展開されることにより、相手の動きも封じられる。待機していたアザリーとファウリーが援護を開始したのだ。
「助太刀、感謝いたします! 此処まで来れば、こちらの戦術も八割がた成ったも同然……さぁ、いまです!」
 それによって規定ポイントまで敵を誘導し終えたトリテレイアは、十分な距離を取りつつ合図を出す。すると機を伺っていた不思議な仲間が事前に設置していた貸与武器を起動させた……爆弾の起爆スイッチを、だ。
 ――ドォッ……――ッッ!
 瞬間、敵の自爆とは比べ物にならぬ衝撃波が迷宮内を駆け巡り、藁人形たちを一網打尽にしていった。閉所における爆発の恐ろしさなど、今更説明する余地も無い。爆炎が晴れた後には、遺された資源がそこら中に散らばっているのであった。
「打撃力の確保など課題あれど、市街地での選択肢にはなるかと……いえ、騎士の戦い方で無いのは重々分かっておりますので……」
 戦果は上々、なれどどちらかと言えばダーティな戦術。それを恥じる様に顔を背けるトリテレイアだが、気にするなとアザリーは苦笑を浮かべる。
「命の遣り取りにおいて、矜持や誇りを貫き通せるのは強者の特権だ。余裕のない弱者は形振り構っていられん……だから、それこそが今の我々に必要な戦法さ。寧ろ、手本を見せて貰って有難い」
「はい……かつてと同じように、勉強になりますから」
 友と同じように微笑みを浮かべるファウリー。コホンと、トリテレイアは小さく一つ咳ばらいをすると、少女たちへと向き直る。
「以前、ファウリ―様には投石器の扱いをご教授しましたね。自衛の術は必要ですが、願わくばあの知識が永遠に日の目を見ぬような国をお作りください」
 猟兵はある種、旅人だ。一期一会の稼業柄、こうして再会できたのは幸いと言う他ない。だがそれと同じく、別れもまた付き物。故に戦闘の最中ではあるが、騎士はそっとアリスと時計兎の頭を撫ぜた。
「いつまでも健やかであってください、ファウリー殿。そして彼女の道行きを宜しく頼みます、アザリー殿」
 ――どうか、お元気で。
 小さく、だが確かな力強さを以て頷く少女たち。これならば大丈夫。そう暖かな確信を胸に抱きながら、トリテレイアは災いを祓う為に再び戦線へと向かってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
タワーディフェンスはっじまるっよー

塔の天辺にアザリー氏とファウリー氏を招待!お茶でも飲むでござるよ
ここである事をすると藁人形共が爆発するんでござる
本当でござる。すごく本当でござる
本当なのでアザリー氏はある事を…恥ずかしいセリフや愛の言葉を発してくだち!
ストロベリーみたいに甘酢っぺぇセリフが必要なんだよ!ファウリー氏も聞きたいよネ!(言いくるめ)

まあ拙者がグラ…UCで爆破してるだけだが嘘は言ってないのでセーフ
嘘がバレるまで悶えるアザリー氏のセリフに合わせて藁人形に目線でスイと見得を切り爆破!
ふーむ彼奴等は拙者みたいに【リスポン】する生き物みたいでござるね!もう一回行こうか!次のセリフ頂戴!



●想い叫べや百合の花
「国の存亡を掛けたドキドキタワーディフェンス、はっじまるっよー!」
「……貴君はもう少しばかり空気を読んでいただけないだろうか」
 鋼騎士との湿っぽい別れの直後にこれである。アザリーがそう言いたくなる気持ちも無理なかろう。だがエドゥアルトのメンタルはそんな程度ではへこたれない。寧ろ、美少女の蔑みとかご褒美である。
「まぁまぁまぁ、気を張ってばかりいるのも良くはないでござるよ。適度に緩めるのも戦い続ける為の秘訣でしてな。という訳で、塔の天辺へお二人様をご招待!」
 ともあれ、先の猟兵が市街地への誘引戦術を選択した関係で、不思議の国内部へは未だに敵が侵入し続けてきていた。事前の計画通り遅滞戦闘を行っているとは言え、徐々に安全地帯は狭まりつつある。傭兵はキリの良いタイミングで切り上げさせると、彼らを率いて塔内部へと退却していった。
「ここからは塔での籠城戦を経験して貰うでござるよ。こういうのは援軍のアテが無いと悲惨な事になるでござるが、まぁ今回は猟兵が居ますからな」
 そうして塔の頂上まで移動してきたエドゥアルトは少女たちへ何処からともなく取り出した紅茶を振舞いつつ、眼下に群がる敵勢を見下ろしている。
「それで……ここからはどうしましょうか? このまま閉じ籠っているだけでは、どうにもなりませんし」
 飲み終えたカップをソーサーへ置きつつ、ファウリーがこの後の動きについて尋ねる。実際、取れる選択肢はそれなりに多い。大抵の場合、高度は優位に直結するものだ。こちらは敵を一望でき、攻撃には落下の速度を乗せることが出来る。一方で、相手は攻撃を届かせる過程で幾ばくかの威力減衰を免れない。そんな状況で如何に立ち回るのかと言う問い掛けに対し、エドゥアルトは表情を真剣なものへと変えた。
「実は拙者、この塔を作る際にちょっとした仕掛けを仕込みましてな……ここである事をすると藁人形共が爆発するんでござる。それはもうリア充の如く」
「え、本当ですか……? 凄い、全然気がつかなかったです!」
「本当でござる。すごく本当でござる。俺は正気に戻ったという宣言くらい信頼性があるでござるよ」
 それはそれで敵ではなく怪しさが大爆発なのだが、残念ながら指摘を入れられる人間は此処にいないのである。そうしてエドゥアルトは真剣な表情から一転、穏やかな笑みを浮かべつつ視線を時計兎へと向け、そして……。
「そう、本当に本当なのでアザリー氏はある事を……恥ずかしいセリフや愛の言葉を発してくだち! 塔の上から、高らかに!」
「お前は何を言っているんだ」
 とても良い笑顔で、そうのたまった。とうとう敬称すらも使われなくなったツッコミを涼やかに受け流しつつ、傭兵は尤もらしい理由をまくし立て始める。
「こう、発せられた感情を爆発エネルギーに変えて、それを敵目掛けて投射する機構が備わっているんでござるよ! これなら補給要らずで経済的! という訳でストロベリーみたいに甘酢っぺぇセリフが必要なんだよ! ファウリー氏も聞きたいよネ? ネッ!」
 勢いで押し切ろうとするエドゥアルトだが、対するアザリーの視線は冷え切っている。もう氷点下を通り越して、一足早く冬が来ちゃっているレベルだ。傭兵的にはそれもまた味わい深いのだが、これでは術式が発動できない。そこで攻め方、もといアリスの援護を得ようと水を差し向ける。
「……? アザリーさんは良く言葉を向けてくれますし、それでオウガを撃退できるなら……」
 純粋さは時として美徳だが、この時に置いては(時計兎にとって)裏目に出た。元より恋も愛も真っ当に育めなかった環境故、そこら辺の羞恥心が微妙にまだ鈍感だったのである。それを聞いたアザリーは冷や汗を、エドゥアルトは菩薩の如き笑みを浮かべた。
「は、はは……後々、その手の教育もすべきだな、うん」
「プラトニックな関係も良いモノですぞ……さぁ、という訳でどうぞお願いしまっす!」
 斯くして退路は断たれた。時計兎も腹を括ったのか、顔を赤らめつつ咳ばらいしてから口を開く。
「あー、なんだ。その。最初に出会った時の感想はこう、いじましいという印象だったな。触れれば容易く手折れるような、そんなか弱さがあった。だが逆に、それが儚さを感じさせて、こう護ってあげたく様な気持ちさせられてだな……」
「おお~、良いですぞ良いですぞ。これなら術式発動にも……はい、来たでござるよ!」
 エドゥアルトが眼下を指し示すや、何もない空間が突然爆発。ごっそりと藁人形が吹き飛ばされてゆく。これにはアリスも感心し、時計兎すら信じられないという様に目を剥いた。
「ふーむ、中々の威力で御座るな。しかし、彼奴等は拙者みたいにリスポンする生き物みたいでござるね! さ、もう一回行こうか! 次のセリフ頂戴! ハリー、ハリー!」
「に、俄かには信じられんが……ええい、ままよ!」
 目の前で実際に作動させられては、もはや逃れる術はない。アザリーは次々と歯の浮くようなセリフを連発し、その度に爆発が巻き起こる。身悶えしつつ半ばヤケクソで叫ぶ少女を微笑まし気に眺めながら、傭兵はこっそりと舌を出す。
(まあ拙者がグラ……異能で爆破してるだけでござるが、嘘は言ってないのでセーフ。ほら、やる気が出て動ける的な?)
 種明かしをすれば、恥ずかしいセリフで敵を倒す術式など存在しない。単にエドゥアルトがそれとなく異能で吹き飛ばしているだけである。なんでそんなことをしたかって? だって女の子の恥じらいって素敵やん?
(さて、と。嘘がバレるまで、恥ずかしいセリフで悶えるアザリー氏を存分に堪能させて貰うでござるよっ!」
「……ほう、随分と愉快な本音が聞こえたな?」
 ――漏れていた。思わずテンションが上がり過ぎて、後半から心の声が、バッチリと。ギギギとぎこちなく振り返る傭兵の眼前には、とてもとても綺麗な笑顔を浮かべた時計兎が立っていた。
「で、申し開きは?」
「……許してクレメンス♥」
「ダ・メ♥」
 斯くして、そのまま塔の頂上より蹴り落とされたエドゥアルト。その後、彼は死に物狂いで奮戦し敵群を撃退。奇跡の生還を成し遂げ、建国神話に百合の花を添えるのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
最後だね
しっかり、守り切るの

………、あなたは、こういうものしか、近くに居てくれなかったんだね
ぼくの、もう一つの姿…
ぼくは、人狼病には、負けないから

国造りの時に、見て回ってたからね【情報収集】
地形データは揃ってるの
他の人の戦闘状況も観察して、
できるだけ多くの相手を巻き込むよ

せっかく整備した所を乱すのはいけないの
みんな、下がってて
あの人形たちは、閉じ込めちゃうの

【高速詠唱】でUC発動
壁面は【オーラ防御】と【結界術】で補強
藁人形から、魔力を一つ残らず吸収して素材に戻すの

あなたの怨念は、消し去るけど…
あなたの残したものは、きっと、この国で一緒にいられるの
だから、おやすみなさい



●全てを携え、礎へと
「最後だね。しっかり、守り切るの……人も、建物も、そして国も」
 ロランは戦場と化した『不思議の国』を一人静かに歩きながら、そっと小さな呟きを漏らす。辺りには幾つもの爆発痕と共に、藁束や麻紐、五寸釘が散らばっている。誘引戦術による市街地戦、塔を基点とした籠城戦。二段階の戦闘によって、侵入してきた敵戦力の大半は殲滅された。とは言え、残敵がまだ愉快な仲間たちと戦闘を繰り広げているのだろう。遠くからうっすらと喧騒が聞こえてくる。
「………、あなたは、こういうものしか、近くに居てくれなかったんだね。意志も、言葉も返してくれぬ、文字通りの人形たち」
 少年はそっと足元の藁を拾い上げ、指先で感触を確かめる様に撫ぜた。緒戦で討ち取った人狼は敵である。相容れぬ過去からの脅威であることに違いはない。しかし、人狼病と言う一点において、彼は相手に共通点を見出していた。あるいは同情心とも言える感情かもしれない。
「きっとあなたは、ぼくの、もう一つの姿。在り得たかもしれない、この先で辿るかもしれない、可能性。でも……ぼくは、人狼病には、負けないから」
 風に乗って、藁が掌の中から舞い上げられてゆく。遠のくそれを視線で追いながらも、未練を断ち切る様にロランは顔を降ろした。戦闘は猟兵側優勢、なれど予断は未だ許されず。今はただ、戦う事こそが求められているのだ。
「国造りの時に、国内は一通り、見て回ってたからね。地形データは、十分に揃ってるの」
 復興作業時、一番後から作業に着手した事がここに来て有利に働いていた。急速に変貌していった街並みの最終形が彼の頭の中へ記憶されており、反響してくる音からどの区画で未だ戦闘が継続しているのか、大まかに把握することが出来る。
「他の人の戦闘状況は、大体分かったの。彼らの援護を狙いつつ、出来る限り、敵を巻き込めれば御の字、かな?」
 住民たちへの危害は勿論、これまでは必要経費として割り切っていた街並みへの被害も、もう許す理由は無い。十分な実戦経験は積むことが出来た。ならば、後は土足で踏み入ったオウガたちにお帰り願うだけだ。
「展開空間読み取り、定義完了。仮想図と現実地形の齟齬、修正終了。ラビリンスマップ、作成完了。広域錬成式、描画……ラビリンス『魔域の監獄』、錬成開始」
 少年の脳内で術式が駆け巡り始める。周辺の空間を読み取り、正確な地形を把握。記憶内のそれと擦り合わせ、差異のある個所を適宜修正。そうして最適化された地形図を作成し終えるや、ロランは練り上げた魔力を一気に放出し、それらを実体化させてゆく。
 果たして、実像を結んだのは『不思議の国』の街並みへ上から重ねられるように展開された、巨大な迷宮であった。まるで監獄を思わせる壁面は非常に頑丈そうであり、これ以上の被害を許さないという意志がありありと見て取れる。
「これで、あの人形たちは、ぜんぶ閉じ込めちゃったの……それじゃあ」
 ――行くの。瞬間、ロランは経路に従い全力で疾走し始めた。その足取りに迷いは一切感じられない。敵にとっては自らを封じ惑わせる迷い路だが、少年にとっては隅から隅まで把握し切った己の被造物だ。何を躊躇う必要が在ろう。
「っ!? 不味い、仕留めきれなかった! 反撃が来ますぞッ!」
「みんな、下がってて。せっかく整備した所を乱すのも、誰かが傷つくのも、もうお終いなの」
 彼は速やかに手近な戦闘現場へと辿り着くや、今まさに攻撃を行わんとしていた藁人形を蹴り飛ばし、愉快な仲間たちを窮地から救い出した。バラリと、弾け飛んだ藁が辺りに撒き散らされてゆく。
「すみません、助かりました……でもまだ敵が残っております、どうかお気を付けて!」
 援護に来てくれた猟兵へ礼を述べつつも、警告を発する愉快な仲間たち。それを合図とするかのように、曲がり角の向こう側から新たな一群が姿を見せる。それらはぶるりと身を振るわせるや、全身に突き刺さった五寸釘を射出。複雑な幾何学模様を描きながら、ロラン目掛けて飛翔させてきた。
「通路の幅が狭いから、軌道の自由さは少ないの。その分、攻撃自体の密度が上がって、避けるのが難しいけど……うん。これくらいなら、問題ないの」
 五寸釘はまるで剣山の如き濃密さを以て迫り来る。左右に狭く、背後には護るべき愉快な仲間たち。回避する空間的余裕はなく、本来であれば被弾覚悟で防御に徹さねば凌ぎきれない攻撃だ。しかし、少年に焦りの色は無かった。彼はこの監獄の特性を、誰よりも深く理解しているのだから。
「怨念も、魔力も、その本質自体は、そう変わらないの。数は多いかもしれないけど、一本一本に籠められる総量は、決して多くは無いの。だから、こうなるのも想定の範囲内、なの」
 この『魔域の監獄』を構成する壁は、ただの壁ではない。内部に閉じ込めた者の体力と魔力を奪い続ける呪いを帯びている。藁人形本体は勿論、飛翔し続ける五寸釘とてそれから逃れられはしない。急速に勢いを失ってポロポロと落下する凶器と、苦し気に身悶えをするオウガ群。それを確認すると、ロランは愉快な仲間たちへと振り返る。
「今の内に、倒してしまうの。みんなには、吸収効果が及ばないように、しているから、問題なく動けるはずなの」
「なるほど、コイツは効果覿面ですな! それでは皆様、行きますぞぉ!」
 こうなれば形勢逆転だ。愉快な仲間たちの突撃により、藁人形はあっけなく元の素材へと戻っていった。勝鬨を上げる彼らに回収作業を任せつつ、ロランはそのまま別の戦場へ助太刀すべくその場を後にする。
(あなたの怨念は、すべて消し去るけど……あなたの残したものは、きっと、この国で一緒にいられるの。彼らが居る限り、ずっと)
 岩屋は解体され、配下は打ち倒されてゆく。そう時間を置かず、人狼がこの国を支配していた痕跡は跡形も無く消え去るだろう。しかし岩石は彫像や塔の建材へ、藁人形は生活必需品へと姿を変えて、存在し続ける。それが果たして救いや慰めになるのかは、今の少年には分からないけれど。
「だから……おやすみなさい」
 鎮魂の祈りは迷宮の空気に溶けて消え。ほどなくして、侵入してきた敵勢力は完全に駆逐されたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ペイン・フィン
【路地裏】5人で

……ふむ
アレを資材に、ね
となると、それなりの数、必要になるよね……

さっき建てた塔の、てっぺんに移動
戦場全体を見渡せるはず

真の姿を解放
数歳程度幼くなり、周囲に赤い血霧のようなモノを纏う
コードを発動
扱うのは、抱き石"黒曜牛頭鬼"
無数に分裂させ、展開
藁人形達を1体1体、押しつぶしていこう

ギリギリまでは倒さず、仲間を呼ばせて、再度石で潰す
怨念吸収で動きも鈍らせれば、まさしく、一石二鳥だよ

戦闘が終わったら、黒兎、アズリーに花の種を渡そう
これは、アザレアの種
名前の響き、似ているでしょ
きっと、この国の象徴の花になると思う
あ、念のため、白い方だけにしておいたから
気に入ってくれれば、幸い、かな


吉備・狐珀
【路地裏】

藁は畑の畝を覆うのに使えますし、釘も建物を建てるのに必要不可欠ですけども…
確かに国造りは始まったばかりですし、使えるものは、というのも一理ありますね
何よりその身に怨念をこめるより、この国を礎を築く方がよっぽど建設的です

真の姿になりてUC【破邪顕正】使用
ですがこのまま使うのは抵抗があります
まずは(浄化)して穢れを祓うとしましょうか
塔の登り(破魔)の力を込めた御神矢を(一斉発射)しストローマンに(先制攻撃)を仕掛ける
あちらの呪いはウケの(呪詛耐性)の(結界)で凌ぎつつ、手を休めることなく矢を放ち続ける
ウカ、月代、矢の軌道を変えて翻弄させるために(衝撃波)の(援護射撃)をお願いしますね


勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
塔の上から何か……?

ふむ、藁人形とな? ならば出来たばかりの堀を川に見立てて、河臨祓(かりんのはらえ)と行こうか。(本来は形代などを川に流し清める儀式です)
かつて護国を担った勘解由小路家の結界術をお見せしよう。

【行動】
【霊符】を水路に流し、国中に行きわたったところで【八陣の迷宮】を展開。今回は迷宮というより、敵に対する防御壁といったところ。
水路がカバーできないところは、ファウリーにカバーをお願いしようか。

こちらが攻撃できる余地を残しておかないといけないが、高さを制限すれば、あの塔の上から攻撃できるだろう。
あるいはラパ……じゃなくアザリーの兎の穴で打って出るという手もあるかな。


落浜・語
【路地裏】
いや、確かに必要だけれどな?
確かに効率的合理的ではあるけれどな?
まぁ、いいや。深く考えるのはやめておこう。士気も上がってるみたいだし、さくさくやろうか。

数には数で吹っ飛ばすのが楽なんだろうが、それをやるのはちょっと今日は止めとくべきか。
なら、UC【人形神楽】だな。ある程度は自分でも制御しつつ広【範囲攻撃】でもって藁人形をはったおす。避けられると困るんだが、これだけ数がいればたいした問題じゃないだろうしな。
合間合間に仔龍やカラスにも協力してもらって牽制したり、円環を投擲して追い込みをしたり。
何をどうしようが、ちゃんと藁や釘は落とすのな…。これがまさに火事場泥棒ってか。


ファン・ティンタン
【POW】Re:さいくる
【路地裏】
※シリアルていすと

……、他にやろうと思ってたコトもあったのだけれど、あれを見てたら気が変わった
アザリー、あなたを開発しよう(意味深)

何とかタワーの上にて、アザリーに力の使い方を教えておこう
私自身なら、内在魔力で行使出来るのだけれど、あなたはまだ依代になった“アレ”を意識出来ていないだろうからね
金色卵、一つ使うよ?
アザリーの背に位置して、塔の頂から魔力光でアザリーの影を敵陣へ落とす
あなたの中には、ある刃の概念が眠っている
思い出してごらん
力のシルエットは、ほら、そこに

【影蝤蛑】

(……うさ耳、想像以上に可動域が狭くて閉じるのにも一苦労か……イケると思ったんだけどな)



●未来のために、どうか彼女らに餞別を
「……ふむ。アレを資材に、ね。となると、それなりの手数が、必要になるよね……個々は弱いけど、考え無しに挑めば、キリがなさそうだ」
「いや、確かに資源は必要だけれどな? 確かに現地調達は効率的合理的ではあるけれどな? 一応、アイツらは一種の呪物と言うか、呪いの塊みたいなもんなんだが……」
 『不思議の国』内部へ侵入したオウガ群は粗方掃討し終わり、戦線は再び国境近くにまで押し上げられていた。当初は大地を埋め尽くすほどの数だった藁人形たちも、数度の戦闘を経て大きく密度を減じさせている。ペインが敵陣を眺めて最適な戦略を練る一方、横では語が微妙な表情を浮かべていた。ちらりと背後を見やれば、手隙の愉快な仲間たちが散らばった資材の回収に勤しんでいるのが見える。
 噺家としては曰くつきの物品を扱う事に思うところがあるのだろうが、そこら辺について彼らはあまり気にしないらしい。そう言った事情を抜きにすれば確かに妙案であると頷きつつ、狐珀もまた苦笑を浮かべていた。
「藁は畑の畝を覆うのに使えますし、燃料や寝具にも有用です。釘も建物を建てるのに必要不可欠ですけども……確かに国造りは始まったばかりですし、使えるものは、というのも一理ありますね」
 何よりその身に怨念をこめるより、この国の礎を築く方がよっぽど建設的です。そう言われてしまっては是非も無し。頭を掻きつつ、語は小さく嘆息する。
「まぁ、いいや。深く考えるのはやめておこう。士気も上がってるみたいだし、さくさくやろうか。回収作業のことも考えれば、あんま時間を掛けない方が良いだろ」
「そこら辺が気になると言うのであれば、こちらにも手がある。相手が藁人形の上、お誂え向きに流れる水もあるしな。出来たばかりの堀を川に見立てて、河臨祓と行こうか」
 かりんのはらえ。人形等の形代へ災いや呪いを移し、川へ流すことによって浄める儀式である。堀を始めとするこの国の地形は、計画段階から風水を踏まえて造成されたもの。陰陽師たる津雲の技量と合わされば、怨念を孕んだ藁人形には効果覿面であろう。
「規模は違えど、国であることに変わりなし。かつて護国を担った勘解由小路家の結界術をお見せしよう」
「見る、と言えば……ファン殿は一体どちらに? 先程から姿が見えないようですけれど」
 きょろきょろと周囲を見渡す狐珀の言う通り、この場に猟兵は四人しか居ない。欠けているのは白き少女の姿。何処に行ったのかという疑問へ答えたのはペインであった。
「さっき、アザリーを連れて、塔の上に行っていたよ……集団としての戦い方は、経験を積めたから、今度は個人の力を、伸ばしたいって」
「個人の……? きっと何か考えがあるんだろうし、心配は不要かね。さぁ、こっちはこっちで始めるとしましょうか」
 仲間たちが視線を塔の頂上へ向けると、確かに点の様な人影が見えた。あれが件の二人なのだろうが、こうも距離があっては何をしているのかまでは分からない。だが、彼女たちなら問題は無いだろうと、語は意識を眼前の敵へと切り替える。彼らは互いに目配せし合うと、迫りつつある敵陣と相対するのであった。

「さて、と。わざわざこんな場所へ連れ出して、いったい何をするつもりなのかね?」
 一方で『不思議の国』中心、塔の頂上。そこではファンとアザリーの二人が佇んでいた。風に舞う髪を抑えながら、少女は此処まで連れてきた猟兵へと問いを投げる。戦場は遥か下、国境付近がメインだ。いかな遠距離攻撃とて、この距離では有効打は望めまい。意図は何かと尋ねる時計兎に対し、白き少女は仲間たちが戦闘を開始したのを確認してから振り返った。
「……正直言って、他にやろうと思ってたコトもあったのだけれど。コレを見てたら気が変わった。貴女の『いま』の在り様に関わった者としては、負けていられなくてね」
 コンコン、とファンは爪先で床を叩く。話に出た『コレ』とは、トンチキな傭兵によって建造されたキマシの塔(タワー)である。これを見て白刀の心境がどの様に変化したのか、それは定かではない。しかし、彼女はどこまでも真剣な表情で時計兎を見つめていた。そうして数瞬の静寂の後、重々しく口を開く。
「という訳で……アザリー、あなたを開発しよう」
「やっぱこの塔は壊した方が良いのではないかね???」
 ふらりと、眩暈を覚えたかのように頭を抱える時計兎。甘酸っぱい台詞で爆発を起こすなどと言うふざけた仕掛けこそなかったが、もしや意図せぬ何かでもあるのだろうかと本気で訝しむ。作り主が作り主だ、怨念とはまた違った何かが籠められていたとしても不思議ではなかった。
「狂気の月光とはまた違った、感染性の呪詛でも染み付いていないか、此処……?」
「何を誤解しているのかは分からないが、こちらも些か言葉が足りなかったね。ねぇ、あなたが蘇った時の事は覚えているかな?」
 そんな時計兎の懊悩をさらりと流しながら、ファンはかつての一件について言及する。二十四時間しか持たなかった、仮初の蘇生。それを居合わせた猟兵と共に力を合わせ、永続的な存在として再定義を行ったのだ。アザリーとしても、忘れようがない出来事である。
「ああ、その点に関しては深く感謝しているが……今の状況と何の関係が?」
「あなたはまだ依代になった“アレ”を意識出来ていないようだからね。私自身なら、内在魔力で行使出来るのだけれど……最期の餞別がてらに、力の使い方を教えておこうと思ったんだ」
 或る猟兵は魔力で形作られた四肢の代わりに、瓜二つの肉体を用意し。そして白き少女は、霧散しかかった魂の依り代として鋏を鍛造していた。肉体に由来する時間停止能力はすぐまた使えるようになった様だが、鋏に関してはこれまで観察してきた限り、霊核としての機能以上は引き出せていないらしい。ファンはヤドリガミとして、それが些か以上に勿体ないと考えたのである。
「なんだ、そういう事か。わざわざ手解きしてくれると言うのであれば、非常にありがたいが……良いのかね? 一から練習するなど相応に時間が掛かりそうだが、仲間たちの援護をしなくても」
「なに、心配はしていないさ。いや、ある意味で不安はあるけれども」
 金色卵、一つ貰うよ? 術式の魔力源として黄金の卵を取り込みつつ、ファンは視線を再び国境付近の戦場へと向ける。
「あんまり時間を掛け過ぎると……練習台が無くなりそうだからね?」
 そう言って、悪戯っぽく笑みを浮かべるのであった。

「さて、まずはこっちも、準備しようか……全力で行こう」
「ええ、そうですね。数が減じているとは言え、最後まで気は抜けませんから」
 敵群と本格的な戦闘へと入る前、先んじて動いたのはペインと狐珀の二人で在った。一方は真紅の霧を纏い、幼い少年の姿へ。もう一方は相貌を白い狐面で覆い、装束が動きやすい形状へと。それぞれ己の真の姿を開放、全力を投じる姿勢を見せる。両者が向かうのは敵陣ではなく、それを迎え撃つ為に建てられた塔の元。
「自分はこのまま、物見塔に登って、その上から敵を攻撃するつもりだよ。複製した抱き石なら、射程も関係ないから、ね」
「私もお供します! 塔の上からなら、弓の射線も取り易いはずです。ですがこのまま使うのは抵抗があります……まずは浄化を優先したいところですが」
 ペインは周囲へ複製した抱き石を展開し、狐珀は矢を番えた弓に破魔の霊力を注ぎ込んでゆく。塔の最上部より攻撃を行えば、相手は眼前と頭上の双方向から攻撃に対応しなければならず、より優勢に戦闘を進められるだろう。敵の怨念を祓うことが出来れば更に効率を上げられるが、狐像の少女は弓射で対応し切れるのだろうかと懸念を示す。
「それについては俺にも任せてくれ。霊符を水路に流して、国中へと行き渡らせる。その後に結界を、いや、今回の場合は敵に対する防御壁といったところか。兎も角、それを展開する。ただ、発動には暫しの時間が必要だ」
 津雲が先にも述べていた河臨祓を行えば、オウガたちを一網打尽に出来るだろう。だが、各所へ基点となる霊符を行き渡らせるのは水の流れ任せだ。当然、準備が完了するまでに短くない時間が掛かる。逆説的に言えば、それさえ凌げれば形勢は一気に猟兵側へと傾くはず。
「なら、その為の時間はこっちで稼ぐとしますか。ただ、数には数で吹っ飛ばすのが楽なんだろうが、それをやるのはちょっと今日は止めとくべきか。後々、資源を回収しなくちゃならないしな」
 そこで前へと出たのは語であった。彼は肩を回すと、糸を手繰り寄せて文楽人形を前へと歩ませる。言葉通り、噺家の十八番は人形を大量展開させてからの一斉爆破だ。だが、それだと折角の資源を傷め散らしてしまいかねない。故に、彼は普段とは異なる戦い方を取る事に決めていた。そうして敵の眼前へ身を晒した青年へ、藁人形が殺到してゆく。
「早速おいでなすったか。手を出して貰わなきゃこっちも動けないのが玉に瑕だが……藁と木製、どっちの人形が強いかなんて語るまでもないだろ?」
 だが、敵の攻撃が語へ届くことは無かった。突如として自律稼働し始めた人形が、それまでとは打って変わった機敏な動きによって、迫る敵を蹴散らしたのである。此度の人形に仕込まれているのは爆薬ではない。危害を加えた者へ自動的に反撃する、カウンター術式だ。
「ま、完全に術式任せだと流石に討ち漏らしが出る。こっちでもある程度は操作して、出来る限り纏めて相手をするつもりだ。基本は全自動なんで避けられると困るんだが、これだけ数がいればたいした問題じゃないだろうしな」
 という訳で、援護は頼んだぜ? そう言って語がちらりと頭上へ視線を向ければ、ペインと狐珀の両名もまた敵戦力の漸減を開始したところであった。
「さて、と。それじゃあ、こっちも始めていこうか。語が食い止めてくれているから、まずは一体一体確実に潰していこう」
 赤髪の少年は一瞥して戦力の濃淡を見極めると、敵が密集している個所を狙って石塊による圧し潰しを叩き込んでゆく。位置エネルギーも転化された一撃は、オウガを呆気なくぺしゃんこにしていった。だが藁人形は硬さが無い一方、植物由来の柔軟さがある。ぎりぎり絶命を免れた個体が複数存在しており、それらは次々と新たなオウガを召喚してしまう……が。
「うん、予想通り、新品の個体を、吐き出したね。それじゃあ、残りのトドメは、任せても良いかな?」
「はい! これなら、呪詛を祓うだけでそのまま消滅するでしょう。ウカ、月代。矢の軌道補正を兼ねた援護射撃もお願いしますね?」
 それは回収できる資源を出来る限り増やす為、ペインが敢えて狙ってのことであった。彼自身は呼び出された新個体へ再度攻撃を仕掛けつつ、瀕死の敵に対するトドメを狐珀へと任せる。巫女はよろよろと揺らめく藁人形の位置と数を把握しながら、矢を番えて引き絞ってゆく。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。布留部、由良由良止、布留部……霊の祓」
 口遊まれしはひふみの祓詞。それは即ち、十種の神器瑞宝を揺らし涼やかなる玉響を示す、力ある一節である。正しく扱えば死者の蘇生すらも成し得るとされるが、此度の目的は寧ろ逆だ。
「邪悪を破り、正しきを顕す……故に破邪顕正。藁は藁へ、釘は釘へ。怨嗟を浄め、あるべき姿へと還りなさい!」
 現世へこびりついた執念を、在るべき場所へと還し導く。それこそが此度発揮される神威の御業。ひょうと放たれた弓矢は大気を切り裂きながら、瀕死の藁人形へと吸い込まれてゆく。しかし、多数の目標を狙っているのだ。どうしても幾つかの狙いは僅かながらにずれてしまう。だが、その点にも抜かりはない。黒狐と仔龍が牽制を兼ねた衝撃波を放つと、その余波によってズレ掛けた軌道が修正され、全ての矢がオウガへ見事に命中してゆく。内部へと注ぎ込まれた霊力により麻紐が弾け飛んだ藁人形はもう、ただの藁束へと変じているのであった。
(戦況的にはやや優勢ながらも拮抗と言った所か……霊符が行き渡るには、今暫くの時間が掛かりそうだが、さて)
 仲間へ攻撃を一任しつつ、結界の準備を着々と進めている津雲は現状をそう分析していた。語の自動反撃によって敵の進軍速度を減じさせ、塔上からの攻撃が着実に数を減らす。その戦術自体は上手く効果を発揮している。しかし、戦場とは常に想定外が付き纏うものだ。
(語が捌き切れなくなる、または漸減の火力に衰えが生じれば、すぐさま天秤は逆方向へと傾くだろう。待たざるを得ない身としては歯痒い限りだが……っ、あれは!?)
 そして最悪な事に、その危惧はすぐさま現実のものとなった。噺家が足止めしていた戦力の一部が進路を変え、物見塔を包囲し取り付き始めたのである。どうやら、ある程度の戦力で逆に語を拘束しながら、残りで塔側を攻め落とさんと言う狙いらしい。ペインや狐珀の攻撃が防衛へと割かれてしまえば、いずれ文楽人形は藁人形に飲み込まれてしまうだろう。
(不味いな。あと、ほんの少し。それだけあれば、術が成ると言うのに……!)
 勝利への道筋は見えている。だがあと一手、あと数瞬だけ足りない。計画を変更し、効果が薄まるのを承知でファウリーや愉快な仲間たちを動かすべきか。そう逡巡する陰陽師の視界へと……。
「……うん? なんだ、中央側の塔の上から何かが……これは影、か?」
 ――大きな漆黒の影が、音も無く姿を現すのであった。

「こ、こんなので良いのかね……ただ影を投影しているだけにしか見えないのだが」
「いや、これで問題ないよ。魔術や呪術と言ったものは、物質よりも観念的な領域へ重きを置いているからね。影だろうと虚像だろうと、其処に『在る』という事実が何よりも重要だ」
 投影された影を辿れば、それは二人の少女へと行きつく。黄金卵の魔力を燃焼させて強烈な光源を確保しているファンと、その前に出て影を生み出しているアザリー。術理の解説と見本を見せた後、彼女らは実践へと段階を進めていた。
「あなたの中には、ある刃の概念が眠っている。思い出してごらん、挟み断ち切る為の姿を。力のシルエットは、ほら、そこにもう在るのだから」
「ああ、いや、確かに何となく分かるのだが、その……」
 光源の位置や距離を調整しつつそう諭す白き少女だが、一方で時計兎の反応は芳しくない。彼女は前を向いたまま、恐る恐るといった様子で口を開く。
「相似と言う考え方は理解したのだが……兎耳を鋏に見立てるのは、どうなのかね?」
「大丈夫だよ、いけるいける…………多分ね」
 ぼそりと付け加えられた一言は、兎耳でも捉えきれず。後頭部から照射される後光と、それによって投影された一対の縦長の耳。ファンはそれを鋏の刃へ見立てる事によって、時計兎の異能を引き出さんとしていたのである。
「魔力自体は既に影の中を巡っている。さぁ、後はそのまま耳を閉じて。タイミング的にも今がベストだって第六感が囁いているから。ハリーハリー」
「何だかさっきも見た気がするのだがね、この流れ……だが、そう言うのであれば!」
 耳を畳んだり前後に動かすのは慣れているだろうが、ぴったりとくっつけるのはまた違った筋肉を使うのだろう。ぷるぷると力を籠めながら、ゆっくりと耳と耳の隙間を閉じてゆき、そして……。
 ――ジョキンッ!
 遥か遠方、影の下。閉じられた隙間に居た藁人形たちが、纏めて元になった材料へと戻された。影はこの世の物ならず。ならば、断ち切るモノもまた物質を対象とはしない。相手の怨念のみを寸断する事により、資源を傷めることなく撃破を成し遂げたのである。
「お、おぉ。今度はちゃんと作動したな……」
「影追い蝤蛑の挟み閉じ、ちょきりちょきりと太刀で裁ちて、ってね。さて、これで危急は凌げたかな?」
 影の大きさは光源と被写体、投射地点との距離によって左右される。今回に関しては相応に距離が在ったため、影もまた巨大なものとなっていた。その為、敵群もごっそりと消え去り、大分圧力が減じているはずだ。それだけの余裕があれば、仲間たちは必ずや反撃へ転じられると、ファンは信頼しており――。

「なるほどな、影絵とは考えたものだ。ともあれ、これで一手埋められた」
 ――そして津雲もまた、その意味を瞬時に汲み取った。
 影絵による攻撃によって、戦場に数瞬の空白が生まれる。陰陽師はそれを決して見逃さず、素早く剣指を結びながら語へと警告を飛ばした。
「今の内に物見塔へ移動してくれ! 攻撃が出来る様に高さは調整するつもりだが、術式を発動させれば一気に『沈む』ぞ!」
「オーケイ、それじゃあここら辺で切り上げるとしますかね! ただ、津雲さんはどうする?」
「術者が残らねば話になるまい。こちらの心配はするな、己の術中に嵌まる様な間抜けは晒さんよ。あるいはラパ……じゃなくアザリーの兎の穴で打って出るという手もあるが、それは最後の手段だな」
 文楽人形と共に塔へと退却してゆく語が十分な距離を取ったことを確認するや、津雲は軽口と共に虚空へ印を切る。その意は国中を伝う水路を駆け巡り、各所へ流された霊符同士を繋ぎ合わせてゆく。
「休・生・傷・杜・景・死・驚・開。今や三吉門は閉ざされ、汝に開かれたるは死門のみ。風を排し、水を招く。護国を担いし風水五行、その神髄をとくと味わうが良い!」
 瞬間、国一つを覆いたる大結界が像を結ぶ。霊符は水と言う水をその支配下におさめ、強固な壁を形成すると同時に内部へ水流を導き入れる。狭い通路内へ流入したそれらは必然、濁流と化して藁人形たちを呑み込み、押し流してゆく。
 しかし、未だ水路が整備されていない箇所は津雲の術では覆いきれない。そのため範囲外へ水が、或いは藁人形が流出する危険がある。だが、その程度は織り込み済みだ。
「っ、流石に量と範囲が凄まじい。俺一人ではカバーしきれんが……ファウリー、頼めるか?」
「はい! 封じ切れていない箇所の穴を、塞げれば良いんですよね。それくらいなら!」
 ここに来て、遂に温存していた予備戦力の投入が決断される。待機していたファウリーの硝子迷宮によって生じた穴は塞がれ、漏れ出てた敵も愉快な仲間によって瞬く間に討伐されていった。
 せめてもの抵抗として藁人形たちも五寸釘を周囲にばら撒くが、地の利を得た結界を突破するには余りにも弱々しい。流れる水によって攪拌されるうちに、怨念を浄められた人形たちはバラリと解け崩れてゆくのであった。
「これにて敵戦力の大部分は殲滅完了だ。残るはあれらだけだが……なに、問題はあるまい」
 陰陽師が視線を向けた先では、水を逃れようとした藁人形たちがわらわらと塔をよじ登っている様子が見えた。草花にたかるアブラムシと言った様相だが、もはやその総数は非常にささやかなもの。現に眺めている傍から、塔内部の三人によってそれらは駆逐されつつあった。
「そういう物だとは言え、兄姉と一緒に作ったものが、すぐに壊されるのはいい気分じゃないから、ね……退いて、貰うよ?」
 下を見下ろしたペインは、壁面を滑らせるように四角い抱き石を操作してゆく。落下してくる大重量に巻き込まれ、壁面と石塊によって磨り潰された藁人形が無残な姿となって舞い落ちる。一方、数に任せて頂上へと辿り着いた個体も僅かながらに居り、それらは猟兵の姿を見るやすぐさま自爆特攻を試みる、が……。
「ウケ、呪詛祓いの結界をお願いします! ここまで辿り着いた数はそう多くはありません、手早く片付けてしまいましょう!」
 捨て身の自爆は白狐による結界に阻まれ、返す刀で放たれた狐珀の破魔矢によって、呆気なく消滅していった。そうして頂上部分の安全を確保すると、少女もまた青年と共に、壁面側の掃討へと加わってゆく。
 塔外部からの侵入はほぼ望み薄。であれば、入り口や窓から入り込めばまだ可能性があるかと問われれば、答えは否だ。
「流れに乗ってそのまま入り込もうって魂胆なんだろうが、幾ら何でも見え透いてるぜ。てか、水に浮かんだままじゃ身動きも碌に出来ないって、少し考えれば分かりそうなんもんだけどな……」
 塔の下部にまで浸水した濁流に乗じ、内部へ到達しようとする藁人形を迎え撃ったのは語である。彼は相手が階段部分へ到達する前に、円環や仔龍のブレスによって次々と沈めてゆく。文字通りの水際防衛、水面を迸る雷撃によって藁人形はただの乾いた草へと戻されていった。
「何をどうしようが、ちゃんと藁や釘は落とすのな……これがまさに火事場泥棒ってか。さて、敵の姿も見えなくなってきたし、水も退き始めてる。そろそろ頃合いかね?」
 水面に浮かぶのはバラバラになった藁のみ。後続の敵が流れ着く気配も無かった為、語はその場を後にして頂上へと向かう。上に着くと他の二人も戦闘を止めており、噺家の姿に気付いた少女が笑顔で出迎えてくれた。
「あ、語さん! 下の方は大丈夫でしたか?」
「ああ、なんとかな。二人も無事なようで何よりだ。で、戦闘は終わったのかい?」
「……うん。いま、終わるところだよ」
 語の問い掛けに、ペインは眼下を指で示した。それにつられて視線を向けると、丁度最後の藁人形を影鋏が分断したところであった。はらりと、弾けた藁屑が舞い散ってゆく。それを津雲も見ていたのだろう、満々と満ちていた水もまた急速に水位を下げ始める。
 ――そうして水が完全に引き、地面が顕わになる頃には。大量に残された藁束、麻紐、鉄釘の山が、戦いの勝利と終結を示すのであった。

「いやはや……防衛戦、誠にお疲れさまだ。諸君らのお陰で、致命的な被害を出すことなく無事にこの国を守り切ることが出来た。何度目かになるやも分からんが、礼を言わせて貰おう」
「はい。本当にありがとうございます。今回の一件で、皆さんからは多くの事を学べせて頂きました。とても……貴重な事を、たくさん」
 戦闘終了後、水が引き切った『不思議の国』外周部にて。愉快な仲間たちが膨大な物資の回収作業に奔走する傍ら、アザリーとファウリーは猟兵たちへ感謝する様に頭を下げていた。だが、時計兎の方は思わず下げた頭を押さえ、眉根を寄せている。
「やはり、慣れないことはするべきでないな。なんだか、変な筋肉が張っている気がするぞ……」
(……うさ耳、想像以上に可動域が狭くて閉じるのにも一苦労か。形も似ているし、イケると思ったんだけどな。やっぱり、手とかで代用するのが無難かもしれないね)
 筋肉痛に悩むアザリーへ内心手を合わせつつも、実行させた手前ファンはそれをおくびに出さなかった。取り合えず、埋め合わせとして手を使った発動方法も教えておくべきだろう。
「水に関しては水路へ完全に戻したから、数日もすれば乾くだろう。元より水気が足りなかった土地柄だしな、多少の土壌改善にもなるはずだ」
 洪水などの災害は農家にとって悪夢以外の何物でもないが、齎されるのは決して被害だけではない。大地の奥底にまで水を染み渡らせ、肥沃な土を運び良い土壌を生み出してくれる。その点に関しては津雲も考えて術を行使しているので、効果は期待できるはずだ。
「つまり、草花や作物を育てるのに、良い環境になった、って事で良いんだよね? なら……アザリーに、これを」
 仲間の話を聞いて、ふとペインは懐より小袋を取り出して時計兎へと手渡した。口を開いて中を覗いてみれば、入っていたのは花の種である。
「貴君を疑うつもりはないが……百合の花だとか言わんよな?」
「ううん。花は花だけど、種類はアザレアだよ。名前の響き、似ているでしょ? きっと、この国を象徴する花になると思う」
 アザレア。春から梅雨頃にかけて白やピンク、紫色の花を咲かせる常緑性の低木である。暖かい地方発祥でそこまで寒さに強くはないが、一方で冬に花を咲かせることもあるなど、一種で二度楽しめるのが魅力の花だ。
「あ、念のため、花の色は白い方だけにしておいたから。ちょっとした餞別だけど、気に入ってくれれば、幸い、かな」
「白のみ……? ああ、いや。元より緑の少ない土地だからな。皆の安らぎになるだろうさ。ファウリーも好きだろう?」
「ええ。これまではゆっくりと眺める時間もありませんでしたからね。大切に育てます!」
 荒れ果てた大地が、白い花の咲き誇る国と成る。それはまさに、平和と豊かさの象徴と言えるだろう。そんな未来を想像して笑い合う二人に、ペインは仮面越しに目を細める。白いアザレア、それが示す花言葉は――充足、満ち足りた心、そして『あなたに愛されて幸せ』。二人にとって、これ以上ないくらい相応しい意味で在ろう。
「……さて、と。ちょいとばかり名残惜しいが、あんま長居もしていられないか。そろそろお別れの時間だな」
 周囲を見渡しながら、未練を断ち切るように語はそう少女と仲間たちへ告げる。豊富な物資の回収に成功し、被害を受けた建物の修繕も並行して進行中。土壌は作物を育てる準備が整い、苦難を乗り越えた事で住民たちの結束も固くなった。
 ここから先は彼ら自身で歩まなければいけない。これ以上の手助けは、逆にこの国の為にはならないだろう。
「俺たちは今回が初めての顔合わせだったけど、こうして一緒に作業出来て楽しかったぜ。いつかもっと発展したら、お祝いに一席噺をさせてくれよな」
「この先は楽しい事だけではなく、きっと苦しいことや辛いことも待っているでしょう。ですが、どうか決して諦めないでくださいね。一度得たモノを失うのは……何よりも、辛い事ですから」
 狐像の少女は未だ幼き想い人たちの頭をそっと撫ぜ、か細い肩を抱き締める。故郷然り、共に歩んでくれる者然り。代わりとなるモノは手に入っても、失ってしまった何かには絶対になり得ない。だからこそ『掛け替えのない』モノと人は言うのだ。
「ま、二度と会えなくなるという訳でもない。もし何かが起これば、今回の様に皆で駆け付けるさ。そうでなくても、機を見て遊びに来るくらいは出来よう」
「フォーミュラは居なくなっても、まだ猟書家は、残っているからね。自分たちも、警戒はしているから、どうか安心して?」
 世界が滅んだわけでも、行き来が出来なくなった訳でもない。ただ、それぞれの日常へと帰ってゆくだけだ。加えて津雲やペインの言う通り、脅威が完全に取り除かれたわけでもない。異変があり次第、救援の手がすぐさま差し伸べられるだろう。
「せっかく教えたんだ。次また会う時まで、鋏の使い方に慣れておいてね? 使いこなせれば、中々便利なはずだから」
 それじゃあ、また。交わされる言葉は離別ではなく、次の再会を願うもの。そうして猟兵たちは踵を返し、帰還用に開かれたグリモアへと足を向ける。そんな背へ少女たちの、そして作業の手を止めた愉快な仲間たちの声が届く。
「もし次に訪れた時には、貴君らが驚くほど豊かな国にして見せよう。物や金の管理運用は知っての通り得意だからな、期待してくれ給え」
「その時は、私たちも精一杯歓迎させて頂きますね! ずっとずっと、助けて貰ってばかりだったんです。お礼をするまで、どうか皆さんも無事でいて下さい!」
 ――本当にありがとうございましたっ!!
 そんな、大きくも暖かな声援を一身に浴びながら。
 猟兵たちも安堵と共に『不思議の国』を後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月22日


挿絵イラスト